310001 - 十二神官たちの再会 (十二迷宮と呼ばれる、ポルタ島の地下深く。 この場所はワタシにとって終わりの場所であり、そして始まりの場所でもある。) (ペローがライブラの命を受けて動いていたのは、 この地に封印された十二神官の解放、すなわちグランド・リヴィジョンの終焉――) (ペローもキャロルも人間さんとの戦いに向かった。 デュプリは入り口で待たせている。ここにはいま、あの日の神官達だけが存在していた。) レグルス: ……っ! (濃密なイマジュマイトは空気の奔流となって、ワタシの髪をなびかせる。 間もなく、歴史が動く――) アンタレス: ……っ? ルクバト: 何が……起きたのですか……? ポルックス: も、もしかして……本当に封印が、解かれて……? アルデバラン: そうみたいね。あのペローとかいうの、成功させたみたい (等間隔に並んだ台座から、次々とかつての仲間が姿を現す。 ライブラの崇高な理念のもと集結し、その身を犠牲にしてでも世界を変えんとした 崇高な精神の持ち主たち――) (彼女たちを神官と呼んだのは、ライブラの指示によってワタシが主導した 物語の一環であり、本人たちに自覚はない。 しかし、その在りようは呼称に恥じないとワタシは確信している。) レグルス: 皆さん、どうぞ落ち着いてください。詳しい経緯をワタシから説明させていただきます (広間に、等間隔に出現した彼女たちは呼びかけに応じて中央にいたワタシの元へと 歩みを進める。その中にライブラの姿はなかった。) ハマル: なるほどな……ではグランド・リヴィジョンの目的は達成され、 消えゆく物語は維持されていたのか サマカ: よかったべ、師匠。みんな救われたんだべ (ワタシの状況説明を聞き終えた彼女は、安堵の笑みを浮かべる。しかし――) スピカ: でも成功とは言えないんじゃないでしょうか……? ルクバト: 術式は成立し、狙い通りの成果を得られたと言えるでしょう。 ただ運用面で課題があった…… アンタレス: 結局こうしてやめることにしたんだから、グランド・リヴィジョンは 失敗なんじゃないの? レグルス: …… アルデバラン: 人知れず世界を作り変えるのが趣旨だったんだもの。存在をグリムに知られた上、 作家にこうして解放されるなんて失敗したようなものじゃない? レグルス: それは…… (ワタシは言葉に詰まる。封印後に起きた全てのことは神官長を名乗り運用してきた、 ワタシが責任を負うことは明白だ。) (そのとき、静かに声が響いた。) ライブラ: いいえ、失敗ではないわ アルゲディ: ライブラ…… アンタレス: ん?あれ?なんかライブラ、変な感じじゃない? ルクバト: あなた……実体を伴っていませんね。これは思念による幻影…… ライブラ: ええ。諸事情あって、私は本来の肉体をまだ取り戻せていないのよ (諸事情とは、ペロー達が油断していたせいで、ニーチェの狙いを読みきれず、 ブラーマというμに魔力の遮断を許してしまったことだ。) (ブラーマの狙いは、人間さんと対決するライブラの思念体を抑制するために、 本体との魔力のルートを遮断することにあった。) (ただ結果として、遮断する魔力の防御壁の中で、充満したライブラの強力な魔力が 暴発してしまったことで、彼女の身体にも深刻なダメージが生じてしまったのだ。) ライブラ: 今回の事態は、グランド・リヴィジョンの発展的解消よ。失敗ではないわ ハマル: ふむ…… レグルス: (ライブラ……) (これは失敗ではない。ワタシは失敗していない。ライブラの優しい言葉が、 ささくれだったワタシの心に染み入ってくる。) ライブラ: 次の段階、つまり『深淵の闇』計画を実行に移すための準備段階よ。 これには、あなたたち全員の力が必要になる (ライブラから計画の全容が語られる。各地に既に設置している魔法陣が6つあること、 これを手分けして定着を早めさせ、敵方の妨害を排除すること。) (成った暁には、人間界から自由にイマジュマイトを回収し、 世界のために役立てられること――) タルフ: なるほど…… サマカ: で、でも、それまでの間に、消えゆく物語のみんなは、 消えちまう人も出てくるんじゃ…… ライブラ: 世界を作り変える前の尊い犠牲よ。それを減らすのは、 みんながどれだけ迅速に進められるか アルデバラン: ……尊い犠牲、ね アルゲディ: この計画で、またわたくし達は封印されるのでしょうか? ライブラ: いいえ。安心して、大丈夫よ アンタレス: んー…… (その後もいくつか質疑があったが、やがて仲間達は一斉に迷宮の外へと出発していった。 きっとかつてのように、ライブラのために一丸となって戦うことだろう。) レグルス: ……ライブラ ライブラ: まだ何かある? レグルス: さっきは、ありがとう…… (ワタシは失敗していない。そう肯定してくれたことに、どうしてもお礼を言いたかった。 照れくさいのか、ライブラはそっけなく頷いた。) ライブラ: それより、あの反逆したまがい物はどう管理しているの? レグルス: ……大人しくしています。この封印の解放も手伝っていましたし ライブラ: そう。ならいいわ。きちんと見ておくことね。さあ、あなたも魔法陣に向かって レグルス: ……ええ (まがい物。それがデュプリを示しているのは明らかだった。 何故か、ワタシは小さな胸の痛みをおぼえる。) デュプリ: あーっ!おかえりなさい、神官長!お友達と話せて楽しかったッスか? (迷宮の外に出ると、デュプリが満面の笑みを向けてきた。) レグルス: 遊びに行ったわけじゃないのですよ (たしなめながらも、ワタシはまだ胸の疼きを感じていた。どうしたというのだろう。) (ただ、それよりも気がかりなことが目の前にあった。) レグルス: それよりデュプリ、両隣にいるのは……? デュプリ: え?革命軍の仲間じゃないんスか? ポラリス: レグたん、ひさしぶりっ☆ポラリスだよ~っ。元気そうでよかったぁ! カノープス: カノープスだ。まさか忘れたんじゃないよな? レグルス: ま、まさか。ふたりとも、これからよろしくお願いしますね (覚えているような、いないような。 正直、さっき見た連中も顔と名前が一致していない。 ワタシは愛想笑いでその場を乗り切ったのだった。) 310002 - 予期せぬ対決 (その場の空気は重かった。もちろん個人差はあって、 ハマルあたりは楽観的に捉えているようだったけど。) レグルス: まさか……造反者が、それもあんなに…… ポルックス: ど、どうするんですか……? ルクバト: 戦うしかないでしょう。他に選択肢はありませんからねぇ。 歯向かうなら叩くしかありません ポルックス: そ、それはルクバトさんはそうでしょうけど、あの、ほら、サダルスウドさんは…… サダルスウド: 私のことならお気になさらずとも結構です。 主人の過ちを諫めるのも従者の務めと理解しております ハマル: あはは、みんな仲間割れにショックを受けるかと思ったが、意外と元気そうじゃないか ポルックス: そ、そうですね……まあ、アルデバランさんはわたしから見て、 特に仲間という感じでもないので…… ハマル: 冷たいこと言うなぁ ポルックス: 一緒に遊んだりしたこともないんですよ……。アカデミーの同期なのに…… カノープス: バカだな。仲間と友達は別物だろ ポルックス: そうなんですか……?というか、ポラリスさんのことは…… カノープス: なんで裏切ったのかは分かんないな (そう、裏切り。これから星の革命軍――あらため天空神殿メンバーで、 オトギノクニに関する重大な作戦を遂行する、という時だった。) (それが突如として、アンタレスやサマカといったメンバー5名が反旗を翻した。 現在、ワタシ達は真っ二つに割れてしまったのだ。) ルクバト: 理由など、どうでもいいですよ。 私達にとって重要なのは、目的……レダクツィオンの完遂です (オトギノクニ各地には、ペローに命じて設置した魔法陣がある。 ライブラの開発した【ヴェルト・レダクツィオン】を実現するための重要なものだ。) (魔法陣にワタシ達μの力を注ぎ、この世界に完全に根差したとき ヴェルト・レダクツィオンは成り、人間界との接続が可能となる。) レグルス: (実現のためには……天空神殿が一丸となって 戦わないといけないというのに……どうして……) レグルス: (確かに個性の強いメンバーだし、必ずしも常に一致団結して 行動してきたわけじゃない。でも、チームという意識はあったはず。 なのにライブラ不在で、ワタシが仕切った途端に……) カノープス: スピカはどうしたんだ? レグルス: 彼女もどうやら裏切ったようです。身を挺して魔法陣の侵蝕を堰き止めたようで レグルス: 逆に、タルフが向かった魔法陣は無防備でしたので、 侵蝕進行に専念してもらっているところです ハマル: アスクレピオスはどうしてる レグルス: 彼女は既に造反の意志を明確にしていますから……どこかを狙ってくるかもしれませんね サダルスウド: 封印が解けていないライブラ様を除けば、7対7の同数、ということになりますね ルクバト: でもいざ戦うとなれば、レグルスさんがいますから。 同じ『1』としてカウントできる強さじゃないでしょう ハマル: まあな。ライブラが復活すれば、魔法面でも最強カードになるし 戦況が押し込まれることはないだろう サダルスウド: それにしても……ここでライブラ様の理念に異を唱えるとは、 お嬢様は一体どうされてしまったのか……理解に苦しみます ルクバト: そうですねぇ。理由など、どうでもいいとは言いましたが……不可解ではあります。 何か洗脳系の術でもかけられているのなら対策も変わりますねぇ ポルックス: でも……あの感じ、とても洗脳状態には見えませんでしたが…… 特定の魔力反応もなかったような…… ポルックス: あっ、あっ、でもっ、疑いがないかチェックできるように、 あの、この、ど、道具をっ…… ハマル: ほう。洗脳を確認できるのか? ポルックス: は、はい……わ、わたしの研究で、その、思考パターンに関与するには 独自の魔力の波形というのがあって、あ、その前に魔力っていうのは、 実は効果ごとに波形があるんじゃないかという説が ハマル: ……? ポルックス: と、とにかく確認できる……はず……たぶん…… (造反組の意図がどこにあるにせよ、 魔法陣の定着を急がなくてはワタシはライブラに合わせる顔がない。) レグルス: それぞれ手分けして対応しましょう。狙いを絞らせない方がいいかと ハマル: 悪くない考え方だ レグルス: では、皆さんに準備などは任せます。支援が必要なら声をかけてください (それぞれ、各地へ向けて出発していく。 ワタシは最後に残っていたルクバトの姿を見つけ、声をかけた。) レグルス: ルクバト……実の妹との対決ですが、心の準備はよろしいですか ルクバト: 妹だろうと関係ありませんよ。目的を達せられるかどうか、それだけが基準ですから レグルス: ……心当たりはないのですか? ルクバト: どうでしょう。オトギノクニに来てからずっと、アンタレスとは一緒でしたが―― 310003 - ルクバトとアンタレス (ルクバトたちμがオトギノクニに移住して間もない頃。 妹のアンタレスとふたりで、傭兵稼業をして食い繋いでいた。) 村長: おお、討伐してくださったのですね アンタレス: あんなの余裕、余裕! ルクバト: それでは約束通り―― 村長: もちろんですじゃ。この通り (受け取った麻袋の中の金貨を確認し、ルクバトは満足げにうなずく。) ルクバト: 確かに。それでは私達はこれで失礼しますね 村長: よかったら宴を開こうと思うのですが アンタレス: えっ♪ ルクバト: いえ、遠慮しておきます。報酬は十分にいただきましたし アンタレス: 姉ちゃん、どうして断ったの?ごちそう食べたかったのに ルクバト: 得がないでしょう。宴となれば拘束時間も長いですし、 あの村で人脈つくりをしても仕方ありませんし アンタレス: そう……?姉ちゃんはドライだなぁ (決して楽な生活ではなかったが、苦でもなかった。世界を追われた彼女たちにとって、 存在できる場所がある、というだけでも大きな支えとなっていたのだった。) (しかし、そんな傭兵暮らしで最もルクバトが手を焼いたのが――) アンタレス: うああああぁぁぁぁああああぁぁぁぁ!! ルクバト: ――っ!? (冷静さを失ったアンタレスの暴走だった。) アンタレス: 次々に出て来てっ……キリがないっ!!こうなったらわたしが全部っ……! (暴走した彼女は、周囲の状況を確認することもなく、目の前の敵を倒すために 過剰な力を振るう。結果、周辺の集落にも被害を及ぼすことがしばしばあった。) 住民: ひいいぃぃっ! ルクバト: まずい……村に被害が出てしまいます……!補償金でも要求されたら大赤字…… ルクバト: ……っ、アンタレスっ!! (ルクバトは弓に魔力を矢のように番い、引き絞る。 そしてアンタレスに向けて躊躇なく放った。) アンタレス: はうっ! (矢は的確にアンタレスを貫く。 といっても、魔力で構成された矢はアンタレスを傷つけることはなく、 ルクバトが込めた鎮静化効果が広がっていくのみだ。) アンタレス: わ……わたし…… ルクバト: 落ち着いたのなら構いません。残りを片づけますよ。もちろん、冷静に アンタレス: う、うん……! (拠点にしている小さな小屋で、ルクバトはアンタレスを前に 力をどうコントロールすべきかを説いていた。) ルクバト: いいですか?魔力というのは感情に大きく左右されます。落ち着いて、 まずは魔力そのものの波動を身体で感じながら、シンクロさせていくように…… アンタレス: んー?うん、わかった! ルクバト: (……分かってないんでしょうねぇ) ルクバト: (……まあ、魔力の制御は本来かなり高度な技術。 誰もがおいそれとできるものではありません) ルクバト: (アンタレスが技術で劣るのではなく、持っている魔力が桁違いなので被害が出る…… それだけのこと。仕方ありませんね、私がどうにかするしかないようです) アンタレス: 姉ちゃん、どうしたの?なんか難しい顔してる ルクバト: いいえ。いま言ったことを、忘れてはいけませんよ アンタレス: うん!絶対忘れないよ! (結局、その後もアンタレスの暴走は続いた。 その都度、ルクバトが止めに入るというパターンだった。) (ただ、ルクバトは失望していなかった。 持っている感情は諦念――最初から期待していなかったのだ。) アンタレス: 次の町までもう少しだね。あーあ、お腹すいたなぁ ルクバト: のんきですね、まったく アンタレス: このあたりも、なんか忘れられちゃうかもしれない場所らしいね。 さっき畑にいたおじさんとか、どうなっちゃうんだろ ルクバト: さあ……私達には関係のないことでしょう アンタレス: あっ、姉ちゃん。すっごい花が咲いてる ルクバト: ん……? ルクバト: …… アンタレス: 姉ちゃん? ルクバト: ……綺麗ですね アンタレス: …… ルクバト: …… ルクバト: (さて、さっさと次の町に行かなくては。 日が暮れると魔物が出て来て面倒ですし、宿の相場が上がってしまいますからね) ルクバト: 行きますよ、アンタレス アンタレス: …… ルクバト: 何をぼんやりしているのです。さっさと行きますよ アンタレス: あ、うん……姉ちゃん、いま…… ルクバト: 何か? アンタレス: ……。……ううん、なんでもない! ルクバト: なんですか。情緒不安定になるのはやめてくださいね、面倒なんですから アンタレス: ~~♪ 310004 - 自立 (それからしばらくして、彼女たちはとある町で依頼を受けた。 町から少し離れた小さな村が魔物に取り囲まれ、襲撃を受けているという。) (一刻を争う事態だが、辺境の土地であり 正規軍が到着するまでにまだ数日はかかるという状況だった。) アンタレス: 早く助けなくちゃ……! ルクバト: そうですね。私達が到着する前に村が壊滅してしまっては意味がありませんから (ルクバトは頭の中で、町長から出された条件を反芻する。 かなり高額な報酬を約束された一方、村の救出が大前提の成功報酬となっていた。) (もっとも、損得勘定を中心に考えるルクバトではあるが、 人の心がまったくないわけではない。 目の前で誰かが襲われていれば助けるし、傷つけば心も痛む。) (ただ、救出した後に正当な報酬を要求するだけだ。) アンタレス: 姉ちゃん、あれ! ルクバト: いましたね……この規模の村で、この数の魔物…… 到底、太刀打ちできるものではないでしょう ルクバト: いきますよ、アンタレス。まずは前衛の雑魚を一掃しなさい。 私は逃げ遅れた人がいないかを確認します アンタレス: わかっ…… アンタレス: あそこ!誰か襲われてる!! (アンタレスは言うなり飛び出す。その方向をルクバトが目で追うと、 子どもが魔物に睨まれていた。) ルクバト: (まずい……アンタレスが暴走するパターン……!?) (アンタレスも毎回、暴走するわけではない。 しかし、こうした感情を揺さぶられる状況は危険だ。 ルクバトは周辺を探知する魔法を中断し、制御魔法を備える。) (だが――) アンタレス: はあああぁぁぁっ!! (アンタレスは冷静に敵を屠る。) ルクバト: ……? (その後もアンタレスが暴走することはなく、 ふたりは無事に村の救出に成功したのだった。) アンタレス: ふう……みんな無事でよかったね、姉ちゃん! ルクバト: ……あなた アンタレス: ん?なに? ルクバト: 暴走しなかったわね、今回 アンタレス: んー…… アンタレス: なんか、気付いたんだよね ルクバト: 制御の方法? アンタレス: というか、自分にとってどうでもいいものだとしても、 大事な人の、大事なものかもしれない…… アンタレス: そう思えるようになったんだ。 そしたら、もう少し周りを見て無理な戦い方はやめようって思えて ルクバト: ……? (アンタレスの話すことが要領を得ないのは、今に始まったことではない。 ルクバトは引っかかりをおぼえつつも、そのまま受け流したのだった。) ルクバト: その後すぐにライブラから誘いを受けて、星の革命軍に入ったわ。 そして間もなくグランド・リヴィジョンを迎えた…… ルクバト: 思えば、あのときアンタレスが言っていたこと…… もしかしたら今回の裏切りの前兆だったのかも、なんて思うんです レグルス: 今の話にそんな要素がありましたか? ルクバト: 根拠のない、ただのカンにすぎませんよ。 でも、ある時からアンタレスは暴走しなくなったのです ルクバト: 星の革命軍に入って傭兵稼業を辞めたからにすぎない……と、つい先日まで 確信していたのですが、もしかしたら何らかの心情の変化があったのかもしれません レグルス: それで裏切るんですか? (どうにもルクバトの話はよく分からない。人が裏切るときは、 利害関係とか、恨みだとか、そういうことが理由になるのではないか。) (弱点を克服したからといって裏切ることにはならない、とワタシは首を傾げた。) ルクバト: あの子には、私の制御魔法が欠かせませんでした。 でもそれを必要としなくなるのなら……必ずしも私と同じ道を進む必要はなくなります (ルクバトはどこか寂しそうに、小さく笑った。でも、やっぱり分からない。) (ライブラの理念に共感し、一丸となってGRも成し遂げた。 それを反故にするからには、やはり何か理由があるはずだ。) レグルス: (ルクバトは何か隠しているのでしょうか……? アンタレスの恨みを買うようなことを何かしたのでは……?) ルクバト: まあ、時間をかけても分かりませんね。 あの子の考えることなんて私には理解できませんし レグルス: 姉のアナタなら説得できるのではありませんか?一度はアンタレスも、 ライブラの理念に共感しているのですし、説得すればあの頃の想いを取り戻せるかも―― ルクバト: 何を言っているんです? ルクバト: アンタレスはライブラの理念なんて理解してないでしょう。というか、 私も理解はしていますが、説得材料にするほど共感しているわけでもありませんし レグルス: え……?では、どうして参加しているんです? ルクバト: 利用価値があるからです レグルス: !? 310005 - 利害関係 レグルス: 利用……価値……? ルクバト: ええ。レグルスがライブラを信奉しているのは承知していますが、 全員が同じだと思わないでくださいね レグルス: え…… ルクバト: 少なくとも私は、ライブラの計画が実現すれば、 莫大なイマジュマイトを確保できると考えての決断です ルクバト: 『深淵の闇』が実現すれば、人間界からイマジュマイトを直接取り込むことができます。 それは私にとって大きな魅力です。自分の研究も自由にできますし レグルス: 利益があるから、ですか…… (ワタシは頭を思いっきりハンマーで殴られたような思いで、 ルクバトの紡ぐ言葉を受け止めていた。) (ワタシが誰よりもライブラの理念を理解し、信じている。 それは自分でも理解していたが、あくまでも誰よりも一番だと考えていた。) (最初から、同じ土俵にすら乗っていなかったとは。 そんなメンバーが天空神殿にいたとは。) ルクバト: もっとも、こういう事態にならずにライブラの計画通りなら、 果たして私の立場はどうなっていたのか…… その点で不信感がないわけではありませんが レグルス: 不信って、何を言っているんです ルクバト: 私達をグランド・リヴィジョンから解放する意図が、果たしてあったのかと……ね。 いえ、結果的に自由は取り戻したので、気にしても仕方ありませんが レグルス: …… (思わず胸が、どきりと跳ねた。) (ライブラから明確に、そこまでの計画を聞いたわけではない。 しかし、グランド・リヴィジョンに最初から設計されていた、 『ライブラだけのバックドア』は彼女の推測を裏付けるように思えた。) (それはワタシが目を背け続けてきた事実でもある。ライブラへの忠誠を 神官たちに求める一方で、ライブラがそれを利用し裏切っている可能性は見ずにきた。) レグルス: (グランド・リヴィジョンが消滅した今、その痕跡はもうない。 秘密を知るのはワタシとペローくらいのはず……) ルクバト: 大丈夫ですよ。私は裏切るつもりはありません。 十分に利用価値も、そして勝機もありますから レグルス: アンタレスに勝てると? ルクバト: 疑わしいですか? レグルス: いえ……しかしアンタレスは『全天一等星』の実力を持っています。 その才能を生かし切れていないとは言え―― ルクバト: 地力ならあの子の方が上でしょうね。 それでも、あの子はその実力をコントロールできないでしょう ルクバト: 追い込まれれば暴走し、収拾がつかなくなり自滅します。 GR前は暴走が収まっていたとはいえ、実の姉である私との戦いで 揺さぶられる感情の幅は、これまでの比ではないでしょうから レグルス: ……あなたは、暴走まではしなくとも感情的に、妹と戦うことに抵抗はないのですか ルクバト: …… カノープス: おーい、そろそろ出発じゃないのか?確かルクバトは魔法の国に行くんだろぃ? カノープス: ……っと。取り込み中だったか? ルクバト: ……いえ、もう出発するところです (流石に話し込みすぎたのだろうか。様子を見に来たカノープスによって会話は途絶える。) (ワタシはまだ胸に広がった靄のような感覚を味わったまま、彼女を見送る。) (――と、ルクバトが足を止めた。) ルクバト: 最後の質問にだけ答えておきましょう。 私は……妹と戦うことに抵抗はありません。殺すわけではないのですから。 これが最終的に私達にとって利を生む選択なら、問題ありません (どこまでもドライに割り切った答えを残し、彼女は立ち去る。 ワタシはふうっと息をついた。) デュプリ: 浮かない顔ですね、神官長 (ふと顔を上げるとデュプリが目の前にいた。一方で、カノープスは ルクバトについていくのか、ふわふわと浮かびながら立ち去る背中が見えた。) デュプリ: ルクバトさんは、昔からあんな感じだったじゃないスか。 まあボクの記憶はコピーしたものなんで、あんまり肌感では分かんないですけど レグルス: ……利用価値だなんて、考えたこともありませんでした デュプリ: 言葉がちょっと強いんスよね。実際のところ、 ルクバトさんからオリジナルにも利益を提供してるんで、お互い助け合いなんスよ? レグルス: 利用し合っている、とも言えますよね デュプリ: 神官長は潔癖だからなあ レグルス: そんなんじゃありません。でも、ワタシには彼女のような利害関係が ライブラとの間にあるのだろうか、とふと考えてしまっただけです デュプリ: なくもないと思いますけど、神官長にとっての利益ってなんスか? レグルス: ……ワタシにとっての、利益? デュプリ: わかんないでしょ?たぶん神官長は、 自分が何をしたいのかも分かってないのかもしれませんね 310006 - 侍従の主張 (コミッティ直轄領――) (オトギノクニは、創造期の頃にカテゴライズされた『物語』に沿って 国家あるいは自治体が構成されている。 それ故に本来、異なる『物語』の交流は限定されていた。) レグルス: 相変わらず……不思議な場所ですね…… (グランド・リヴィジョンによってその垣根が取り払われ、 積極的に『他物語間交流』が進んだ現在でも、 土地の配置や国家の在り方だけは変わっていない。) (そんなオトギノクニでもとりわけ異質なのが、ここ――コミッティ直轄領だ。) デュプリ: ここは国になりきれない小さな物語を集めてきたグリムが、 不毛の土地を開拓してできた場所ッスからね。他とはちょっと雰囲気が違うんスよね レグルス: 魔法陣のひとつが、ここにあるなんて……皮肉なものです デュプリ: 魔法陣の場所は、オトギノクニに流れるイマジュマイトの流れを見て 決めたらしいッスから……政治的な意図は別にないみたいッスけどね レグルス: もちろんワタシも、これがライブラのグリムに対する嫌がらせだとは思っていませんよ。 ただ、運命とは皮肉だなと レグルス: サダルスウドはもう現地に入ってしばらく経ちますが うまくやってくれているでしょうか デュプリ: あの人、クッソ優秀みたいッスからね。神官長は人となりも知ってるんでしょ? レグルス: いえ……あまり覚えてはいませんね。アルゲディに忠実、ということくらいでしょうか デュプリ: あー。神官長ってライブラにしか興味なかったんスね。分かる気がするッス レグルス: そんなことは……!と、とにかく、そういう人ですから利害関係がどうこう、 という見方はしていないはずです デュプリ: ふうん、そうッスか? レグルス: いいから、行きますよ サダルスウド: ようこそいらっしゃいました、レグルス様。 それに……デュプリ様、とおっしゃるのですね? デュプリ: そうッス。皆さんからしたら不思議な存在でしょうけど。 通称『まがいもの』ッス レグルス: 絡みづらい自虐はおやめなさい カノープス: まあ、いいんじゃないか…… 最初は自虐から入ったほうがみんなも『そこ触れていいんだ』ってなるだろ カノープス: そのツラじゃ、遠慮するだろ色々。 だからその入りはコミュニケーションとしては、悪くない レグルス: はあ……そうですか。ところでカノープスはここでなにを? カノープス: 決まってるだろ。みんなの応援だよ レグルス: はあ…… サダルスウド: そう言って訪ねて来られたのですが、本当に応援してくれました レグルス: というと? サダルスウド: 私が何か行動する度に『がんばれ!』とお声がけを デュプリ: こういうときの応援って、もっと色々するんスよ!? 言葉通り応援だけするってどういうことッスか!? レグルス: そもそも『応援』という言葉は―― カノープス: 長い話はやめろ レグルス: そうですか……いえ、長いと何故分かったのです カノープス: 顔だよ。お前、話が長そうな顔してるんだよ レグルス: はあ…… デュプリ: んで、状況はどうなんスか サダルスウド: まず、この土地そのものから発現した精霊と遭遇しました。 その名をシュティフトと言います レグルス: やはり出たのですか……! サダルスウド: 何せ土地そのものの精霊です。 魔法陣が根ざす過程において障害になるのは間違いありません レグルス: ええ。これをどう処理するかもカギとなります。 ワタシたちが精霊を抑え込みますので、アナタは魔法陣の促進に専念を―― サダルスウド: 必要ありません レグルス: えっ……? サダルスウド: では、少々お待ちください レグルス: 必要、ない……と言われてしまいましたね…… デュプリ: まあまあ カノープス: 面倒くさいやつだな。大丈夫だ、安心しろ。悪い意味じゃない レグルス: ……? (ワタシが首を傾げていると、間もなく部屋の扉が開きサダルスウドが戻ってきた。 彼女は魔法の鎖を手にし、その先には――) シュティフト: あ……あうう…… サダルスウド: これが直轄領の土地精霊、シュティフトです。ご覧の通り、既に拘束しています (優秀な人物――デュプリが評した言葉がワタシの頭を巡る。 評判通り、いやそれ以上の働きぶりだ。) (既に土地精霊さえも押さえているのなら、ここでの戦いはかなり有利に進むだろう。) レグルス: さすがですね、サダルスウド サダルスウド: すべてはお嬢様のため。このサダルスウド、身を粉にして働きます レグルス: お嬢様?アルゲディのことですよね?ライブラのため、ではなく……? サダルスウド: 私が従うのはお嬢様、ただおひとりです。 他の方はあくまでもお嬢様に利する存在かどうか、その一点のみですから 310007 - 誇りを与えて (まただ。) (サダルスウドはアルゲディに絶対の忠誠を誓い、 ライブラのことはアルゲディの利になるから従っているだけだという――) レグルス: (あんなにも素晴らしいライブラのことを、おまけのように扱うだなんて……) サダルスウド: 何か? レグルス: いえ……ワタシたちにとっては助かっているのですが、そこまで言うのなら何故、 アルゲディが反旗を翻した際に向こうについていかなかったのだろうか、と サダルスウド: ……私達の間にある絆というものは、そのような生ぬるいものではありませんから サダルスウド: 私はお嬢様に拾っていただいた身。 あのときから私は、永遠の忠誠をお誓い申し上げているのです―― (それはまだ、μ世界にふたりがいた頃のこと。 名家と呼ばれたアルゲディの家では、連日のようにパーティーが開かれ、 社交界でも著名な貴族や高級官僚が顔を出していた。) アルゲディ: 疲れたのではなくて?無理しなくていいのですわよ サダルスウド: いえ、問題ありません。 これまで経験したことのない世界ですので、少々気圧されているだけです イヤミな貴族: お? アルゲディ: あら、ごきげんよう。ようこそおいでくださいました イヤミな貴族: アルゲディ様。この者はいったい? アルゲディ: 最近、私の侍従として召し抱えることにしたのですわ。 とても優秀で、気がついてくれて…… イヤミな貴族: いやいや!こんな卑しい身分の者を召し抱えるだなんて! (男は声を上げた。周りに聞こえるほどの音量だ。当然、それは意図したものだろう。) (早々に察し、サダルスウドは不快感に顔をしかめる。 が、すぐに思い直して平静を保とうとした。) イヤミな貴族: この女の顔には覚えがありますよ!貧民街にうろついていた物乞いです。 娼婦のような女ですよ サダルスウド: あ…… (それにしても貴族の男がどうして自分の身分をすぐに見抜いたのか。 その疑問は彼のその言葉で解消された。 サダルスウドが貧民街を歩いていたときに交渉してきたのだ。) (彼女はかなり厳しい口調で、その打診をはねつけた。おそらくそのとき、 彼の記憶にサダルスウドの顔が不愉快な記憶とともに刻みつけられたのだろう。) アルゲディ: まあ、そのようなことをわたくしの侍従に仰るのはおやめになって。 確かに貧民街の出身ですが、この子はとても優秀ですわ イヤミな貴族: 品格というものがあるでしょう? このような下賤の者を取り立て、この場に置くなどとは サダルスウド: ご不快な思いをさせて申し訳ございません。すぐにこの場からーー アルゲディ: 必要ありませんわ (アルゲディは毅然と、退出しようとするサダルスウドを制した。 そして顔色を変えずに微笑みながら男に向き直る。) アルゲディ: つまり、あなた様は当家の人を見る目がないと、そう仰るのですね? イヤミな貴族: こんな女を我々の社交の場に入れるなんて、考えられませんよ アルゲディ: 身分は高くていらっしゃるのでしょうが、あなた様の品性はいかほどでしょう? さっそく家の者に徹底的に調べさせましょう。 このような場で堂々と当家を批判されるからには、相応の覚悟をお持ちでしょうね? イヤミな貴族: そ、それは当家と全面対決されるということですか? いくらなんでもそれは無謀でしょう。しかも、たかが貧民ひとりのために―― アルゲディ: 当家は一向に構いませんわ アルゲディ: というより、そろそろお気づきになったらいかがでしょう イヤミな貴族: な、何がです アルゲディ: 当家はあなた様との対決を辞さない。 つまり、臆して配慮するほどの価値はないと解釈することもできますわ。 それを耳目の集まる場所でつまびらかにされている…… アルゲディ: 声は低くされるべきではないかと思いますわ (はっとして周囲を見回す男。 そもそもは彼が意図的に、注目を集めるべく大きな声を出したのだ。 誰もが遠巻きにやり取りを観察していた。) (貴族の資本は権威と領土。 サダルスウドに対する評価という意見が合致する貴族は一定数いるだろうが 彼の行いに追随する者は出てこないだろう。) イヤミな貴族: ……っ (男は視線から逃げるようにして、足早にその場から立ち去る。 アルゲディは、呆然とその一部始終を見守っていた サダルスウドににっこりと微笑みかけた。) サダルスウド: お嬢様……私は…… アルゲディ: あなたは腕に覚えがあると言っていましたわね。 でもわたくしも、なかなかケンカには自信がありましてよ サダルスウド: ……ありがとうございます アルゲディ: 堂々と前を向きなさい。あなたは当家の一員なのですから サダルスウド: ……はい、お嬢様 (サダルスウドは一礼し、アルゲディの傍らに立つ。 再び頭を上げたとき、彼女はこれまでになく自身の視界を広く感じた。) サダルスウド: (これが……お嬢様のいう、貴族の誇り) 310008 - あなたこそが人生 (オトギノクニに移住を果たしてからしばらくが経っていた。) (サダルスウドは、名もなき移住者だったアルゲディを、 再びこのオトギノクニで、貴族と呼ばれるほどの立場へと盛り立てた。) サダルスウド: (高潔なお嬢様は、然るべき立場にいなくてはならない…… その一心でここまで来た……) (そして今、アルゲディはグランド・リヴィジョンなる計画に参画することを決意し、 この場に臨んでいた。) ライブラ: 既に名を連ねる構成員すべてから、参加の意志を確認したわ ハマル: ふふ、なんだかんだ言っても、みんな熱い奴らだな ポルックス: こ、怖くないといったら、嘘になりますけど……っ アルゲディ: え、すべて? (アルゲディはハッとしてサダルスウドに視線を向ける。 彼女は凛とした佇まいのまま、頷き返した。) サダルスウド: お嬢様の向かうところ、私あり。どこまでもお供させていただきます アルゲディ: サダルスウド……!? サダルスウド: (民のために尽くすお嬢様の高潔なる理想に、 私も華々しく殉じることができる……これ以上の幸せがあるだろうか) サダルスウド: (お嬢様とて人の子……この計画に参加することへの恐怖は、少なからずあるでしょう。 でもご安心ください……お嬢様を、おひとりになどしませんから……!) サダルスウド: (――なのに) アルゲディ: 聞いていませんでしてよ! サダルスウド: 失礼しました。ご報告申し上げるまでもないことかと (アルゲディの剣幕に、サダルスウドは驚いていた。 きっと主人は、自分の忠誠にいたく感激し、貧民の出自でありながら 誇り高い最期を覚悟したことを賞賛するに違いないと確信していた。) アルゲディ: ……いえ、報告がなかったことを問題にしたいのではありませんわ。 本質は、あなたも参加するという事実 アルゲディ: 侍従として仕えてくれているのは、あくまでもあなたの人生の一部にすぎませんのよ。 でもこのグランド・リヴィジョンへの参加は人生のすべてを左右するもの…… サダルスウド: (どうしてですか、お嬢様) サダルスウド: (オトギノクニに来てからも、 私はずっとお嬢様のためにと働いて来たではありませんか。 どうしていまになって、私をお嬢様から切り離すのです) (いつかのパーティーの夜。アルゲディは、サダルスウドを当家の一員と呼んだ。) (その日から彼女は、家名に恥じない誇りを持とうと決意したのだ。 この侍従にしてこの主人あり、と言われるほどに アルゲディの代名詞になろうと、自分を律してきた。) (貧民街でその日暮らしをしていた彼女にとって、 それは初めての、未来の自分への約束だったのだ。) サダルスウド: (そしてライブラ様は、そんな私を受け入れて、 この重要な計画に加えてくださった……) (もちろん結果論でしかない。数多の有象無象を目にしてきたサダルスウドからすれば、 あなたの誇りを尊重するわというライブラの言葉はどこか空虚だった。) (それでも受け入れてくれたのは事実。 この理想を追い求める誇り高い計画に、名を連ねることを認めたのだ。) サダルスウド: (私から……誇りを奪わないでください……) アルゲディ: わたくしが参加するからといって、あなたに付き合わせる謂れはありませんことよ。 ちゃんと自分のことを考えて―― サダルスウド: いいえ、問題ありません アルゲディ: えっ? サダルスウド: 私の人生は、お嬢様そのものです アルゲディ: ――っ!? (そうして半ば強引に、サダルスウドはグランド・リヴィジョンに参加した。 本心でアルゲディがどこまで納得していたのかは、いまでも彼女には分からない。) サダルスウド: (でも、きっと…… お嬢様は私を、ご自身と同じ理想を抱く同胞として、認めてくださっていない) (GRから解放されて間もなく、思念体となったライブラから深淵の闇計画が明かされた。) (各地へ旅立とうという直前、サダルスウドはアルゲディの傍らでひざまずいた。) サダルスウド: お嬢様。今度こそ、お嬢様の理想についていくことをお許しください アルゲディ: ……サダルスウド。わたくしは、この理想を追い求める行いに、疑問を持っています サダルスウド: なんですって? アルゲディ: ライブラ様は言葉を濁しましたが…… またしても、わたくしたちが犠牲になる可能性を否定できません。 少なくとも一部の民は犠牲になることが前提とされていますわ アルゲディ: 本質的に、目的のために犠牲を厭わないのがライブラ様の方針。 もしサダルスウドがまた犠牲になるようなことは、わたくしには耐えられないのですわ サダルスウド: 私の……犠牲を避けるために……? アルゲディ: ええ。わたくしはライブラ様と袂を分かつ覚悟ですわ 310009 - 忠義の証 サダルスウド: お嬢様……!?そんなことのために、理想を捨てるのですか? アルゲディ: そんなこと?いいえ、わたくしにとって何が一番大事なものか、 やっと気づくことができたのですわ アルゲディ: 最も身近な人を犠牲にしてでも守り抜く理想など、なんのためになるというのでしょう サダルスウド: お嬢様…… (サダルスウドは悟った。侍従たる自分が主人と同格などというのはおこがましい。 だが、彼女の理想に連れていってほしいとずっと思っていた。) (しかし、彼女は自分を庇護するべき存在だと見ている。 だから、自分のために理想を曲げるなどと言い出すのだ。――とサダルスウドは捉えた。) サダルスウド: いけません、お嬢様。貴族として、民のために尽くす…… その理想を、こんな個人的な、ごく限られた関係のために曲げるなどと アルゲディ: わたくしは決めましたわ。あなたを二度と失いたくない。苦しませたくもない サダルスウド: …… サダルスウド: (……そうか。私はいま、運命に試されているのですね。 お嬢様のために、誠の忠義を捧げるにはどうするべきかと) サダルスウド: (主人がときに道を誤ることもある。それを正してこそ、本当の忠臣) アルゲディ: まだ間に合いますわ。この計画を挫くのです サダルスウド: ……恐れながら (サダルスウドは決意をもって、主人を見つめた。 かつて彼女に言われたように、下を向くことなく堂々と。) サダルスウド: 私はお嬢様と、ここでお別れします サダルスウド: ……つまり、これは私にとって変わらぬお嬢様への忠義の形。 盲目的に付き従うだけが正しい部下のありようではないのです レグルス: 間違っていたら正す…… サダルスウド: 他に誰がお嬢様を説得できるでしょう (堂々としたサダルスウドの態度に、ワタシは感じ入った。 こうまで大切に思い続けることの尊さは、誰よりも知っているつもりだ。) (もっとも、ワタシの場合はライブラが道を誤ることなどないから、 サダルスウドのように振る舞う機会もないのだけれど。) レグルス: 素晴らしいですね。そのように誰かを大切に思う気持ち、ワタシも共感します デュプリ: …… サダルスウド: 共感? レグルス: ええ。ワタシもライブラに、あなたと同じ様な思いで接しています。 何よりも大切に、彼女のためならどんな行いもする―― サダルスウド: 一緒にしないでください。あなたはただ何も考えずに言われた通りにするだけ…… 実を伴わない忠義と考えます レグルス: え……? サダルスウド: ライブラ様に忠誠を誓っているというのなら、 まずご自身の頭で何をすべきなのかを考えてみるべきでしょう レグルス: だ、だからそれをいま実行しているところで―― サダルスウド: そう命じられたから、では? レグルス: ……っ サダルスウド: レグルス様からは、理想に対する熱意を感じないのです。 お嬢様が離反したのは、そこにも原因があるのかもしれません レグルス: ワ、ワタシのせいで離反者が出たというのですか? サダルスウド: 可能性ですよ。でも笑い飛ばすことができない程度には、説得力はありますね レグルス: ……っ サダルスウド: では、私はこれで失礼します。いろいろと準備がございますので レグルス: …… デュプリ: 神官長 レグルス: デュプリ…… デュプリ: たぶん計画のこと、神官長はよく分かってないですよね。 ライブラが言うなら、きっといいことなんだ……って レグルス: それは…… デュプリ: 前は神官長ひとりだったんで、それでも良かったんですが…… こうしてメンバーが増えたことですし、 ちゃんとわかっておかないと後々になって大変になるかもですよ レグルス: ……分かってます (結局、計画の全容を理解できていない。 ライブラの理念に共感していない、と嘆く彼女だが、 レグルスもライブラだから従っており、理念とは別に行動軸があった。) (それを見透かされ、レグルスは気まずそうに顔を逸らす。 そこで、はたと気づいた。) レグルス: (相手の意のままに従うだけではない、 耳が痛いこともきちんと進言し、正しい方向へ向かわせようとする……) レグルス: (サダルスウドに近く、共感する資格があるのは、 ワタシではなくデュプリなのでは……?) 310010 - 芽吹き (いつだっただろうか。ライブラが体調を崩したときにワタシがつきっきりで看病をした。 熱にうなされていた彼女はきっと、このときの記憶はおぼろげだろう。) (それはワタシにとって彼女を大切に思う気持ちが試されている瞬間だと感じていた。 相手は功績を認めてくれないけど、それでも尽くしたい、という――) ライブラ: 状況はまずまずといったところね レグルス: ええ、魔法の国は落としましたが、こちらが有利に進めていると言っていいでしょう ライブラ: 私にはそうは思えないのだけど…… (身動きできない彼女のために、自分が手足となって動く。 その構図が、いつかも思い出せないほど昔の看病をワタシに想起させる。) レグルス: (もっとも……グランド・リヴィジョン以降、 神官長として働き続けてきた期間も、ある意味では同じですが) (それでも今の彼女は、身体は動かせなくても意識ははっきりしている。 ワタシの働きぶりをちゃんと見ていてくれるのだ。 その事実がモチベーションになっているのは言うまでもない。) レグルス: 本当なら、ライブラも一緒に復活しているはずだったのに、 ペロー達が下手を打ったせいで……アナタが不憫です ライブラ: 仕方ないでしょ。あれは予測できない事態だわ。 それより、あれはどうしているの?あなたが作った、コピーは レグルス: デュプリのことですか?今は入り口に待たせています。 やはり、この迷宮に立ち入るのは十二神官であるべきだと思いますし、 ワタシとアナタの―― ライブラ: 健康状態は? レグルス: あ、はい。特に問題ないと思います。 メンタルもすっかり安定しているように見えますし ライブラ: ならいいわ レグルス: デュプリが、何か? ライブラ: いいのよ。健康ならそれで ライブラ: それよりも、状況はかなり厳しいわ。 レグルスには離反組の背後も探っておいてほしいのよ レグルス: 厳しいでしょうか?魔法の国は落としましたが、 要衝のコミッティ直轄領は押さえていますし、 次はワタシの作った国での戦いですから…… ライブラ: 陣取り合戦の勝敗に一喜一憂してどうするのよ。 そもそも、同志がこうして刃を交える事態こそが大問題でしょう? ライブラ: ヴェルト・レダクツィオンが成ったとして、深淵の闇計画はその次の段階…… 人間界のコントロールという課題があるのよ。十二神官という手札は貴重なの ライブラ: 身内同士の戦いで消耗するなんて、絶対に避けなければいけない事態なのだから レグルス: あ……そ、そうですよね (このヴェルト・レダクツィオンを巡る戦いが始まって既に二戦。 ワタシもどこか麻痺していたのかもしれない。) (ライブラの言うとおり、本来なら誰ひとり欠けることなく この術式は完遂されているはずだったのだ。) レグルス: でも安心してください。 ワタシは現地に赴き、個別にヒアリングをしていますから ライブラ: するのはいいけど、結果何が見えたの? レグルス: それはまだ…… ライブラ: そうでしょう? ライブラ: もちろん個別の事情はあると思うわ。離反した彼女たちの視野が狭く、 全体が見えていないという点も原因には違いないでしょう ライブラ: けど、一斉蜂起なんて何者かの意図が働いているとしか思えない レグルス: ……視野が狭い、ですか ライブラ: どんな理由があるか知らないけど、 世界を救うという大義よりも優先されるべきものなんて、本来ないのよ ライブラ: それを見誤っている能力の低さは確かにあると思わない? この大事な時期に、個人の事情を持ち出すなんて (そうだろうか。) (自分の頭に浮かんだその言葉に、ワタシ自身が驚いていた。 ライブラはいつだって先を見据え、他者のために動く素晴らしい人。 その言葉を疑ったことなど一度もない。) (だが、このときワタシは違和感を抱いた。 ルクバトも、サダルスウドも、ライブラの理念に心から共感していたわけではなく、 それぞれの思惑があると知っているからだ。) レグルス: (きっと離反組はもっと……その傾向が強いはず……) (もしかしたら、ライブラはそんなことは織り込み済みで、 それでも計画の実現に必要だからと割り切っているものと思っていた。 でも、これではまるで……。) レグルス: (いえ……ワタシのことを気遣って、信じているフリをしているのかも。 ライブラならそれくらいする……) ライブラ: なに?どうしたの? レグルス: いえ、それではワタシはこれからレグルス教国に向かいます。 ハマルとカノープスに合流し、魔法陣定着を実現させましょう ライブラ: え? レグルス: え? ライブラ: ああ、いえ。そうね、お願いするわ レグルス: ……? レグルス: 久しぶりに来ましたね。神殿崩壊以来でしょうか デュプリ: その後も、ここに住む人達は信仰を捨ててないらしいッスよ。 もちろん例外はいると思いますけど レグルス: ねえ、デュプリ。アナタ…… デュプリ: はい? レグルス: いえ、なんでもないわ 310011 - 未来を創るイメージ レグルス: 状況はどうですか ハマル: なかなかだよ。ここはレグルスのお膝元だからと、少し油断をしていたけど…… 土地精霊はやはり抵抗するみたいだね カノープス: プレイント、とか名乗ってたな。なかなか厄介な相手だぞ レグルス: ワタシの国とはいえ、土地精霊の本質から考えれば仕方ないかもしれませんね。 自分の存在を否定されるような術式ですから デュプリ: へえ…… レグルス: なんです? デュプリ: いえ、神官長がそういうの理解してくれると思わなかったんで レグルス: ワタシの理解力が低いとでも?失礼なことを言わないでください デュプリ: そういうわけじゃないんスけど ハマル: いずれにせよ、土地精霊の抵抗をかわしつつ、サマカを仕留めないといけないようだ レグルス: 仕留める……あなたに、それができるのですか?一番弟子でしょう? ハマル: だからこそだよ。手出しも無用だ。サマカと一騎打ちをさせてくれ カノープス: そこまでこだわるのには、何か理由があるんだよな? ハマル: ああ…… ハマル: 新人? ライブラ: ええ。有望な新人よ。サマカ、という子で ハマル: サマカ……ああ、同じ世界から来た子か? 私にわざわざ面倒を見てほしいなんて、よほど買ってるんだな ライブラ: 会えば分かるわ サマカ: ども、お世話になるんだべ ハマル: (この子は……!) ハマル: どうかな、アカデミーでの生活は サマカ: 毎日、楽しいんだべ。ここで勉強するようになって、 今までなんとなくやってきた魔法が、すっごく理解できるようになって ハマル: そうかい。それはよかった ハマル: (この内包された魔力量……そしておそらく無意識だろうが、 完全にコントロールして、波がいっさい起きていない…… 訓練してどうにかなるレベルじゃないな。これは、才能だ) ハマル: (面白い……この子を私の手で伸ばしてあげられるなんて、最高じゃないか) サマカ: 師匠、ここは? ハマル: 私の研究室だよ。 アカデミーから予算をもらって、自分の興味がある分野を研究しているんだ。 助教はあくまでも日々の仕事。これが本来の私のやりたいことだよ サマカ: へえー!さすが師匠、アカデミーから予算をもらえるってことは やっぱり実績とかいろいろ積み重なってのことだべ? ハマル: 一応それなりにね サマカ: 今度、わたすの研究も師匠に見てもらいたいんだべ。 それじゃあ失礼するんだべ ハマル: (……私のこの研究は、サマカのような有望な…… 将来ある存在に未来を残すためにあるんだな……) ライブラ: 失礼するわね。どう?グランド・リヴィジョンの研究は ハマル: ああ、少しずつ進展しているよ。課題はやはり発動後の安定性だな。 長く運用するための方法がまだ見えていないんだ ライブラ: そうね……発動できたとしても、その後も世界のルールとして定着させるためには、 半永久的な運用がなされなければ、意味がないわ…… ライブラ: 高度なイマジュマイトを扱えるだけのキャパシティはもちろんだけど、 エネルギーに同化しすぎてもいけない ハマル: その点については私なりに考えていることがある。 おそらく、私達自身にヒントがあるはずなんだ ライブラ: 私達? ハマル: つまり、私やライブラ……元はμだったが、 現在はこのオトギノクニでイマジュマイト受容体として活動している―― この存在こそが、同化しすぎない仕組みのヒントだと思う ライブラ: なるほどね。いいわ、私もその方向でもう一度考えてみる。 この世界の未来のため、平等な社会の実現のため……手を尽くさないと ハマル: (ライブラは本気で、不特定多数の幸福がモチベーションになっているのだろうな…… 私には理解できないが) ハマル: (だが……サマカという具体的なイメージが生まれたおかげで、 私も今まで以上に研究に熱を入れられそうだ) ライブラ: やっぱりこの方式しかないと思うの。 グランド・リヴィジョンはこれで完成するわ ハマル: …… ライブラ: 不本意なのは分かってる。 でも、アイソーポスがグリムにおもねって作ったインペリウム・コミッティ…… あの体制はすっかり世界に浸透しつつあるわ ライブラ: このままでは正義は声を上げることすら許されなくなる ハマル: (……私達『星の革命軍』が拘束されるかもしれない、という情報が出回っている…… おそらくライブラは、そのことを危惧しているんだろう) ライブラ: よく考えて ハマル: グランド・リヴィジョンか…… 何度、シミュレーションしてもやはり犠牲なくして術式は成り立たない…… ハマル: だが……12人も要らない 310012 - 身を捧げる数 サマカ: 師匠、お疲れ様だべ ハマル: サマカか……なんだい、それは何を持ってきたのかな? サマカ: お弁当だべ。最近、師匠はここにこもりきりで ちゃんとごはんを食べられてないって聞いて…… ハマル: ……ありがとう サマカ: ライブラさんからみんなに、グランド・リヴィジョン計画はもう共有されたんだべ。 完成したんじゃないんだべか? ハマル: いや、しているよ。だが私は他のやり方がないかをもう少しだけ模索したいんだ サマカ: 犠牲が出るから、だべな…… ハマル: …… サマカ: ずっとがんばってきた仲間が、12人も犠牲になるなんて…… わたすもショックだったべ…… ハマル: ……そう、だな ハマル: (サマカには言わないでおくべきだろうな……) ハマル: (私の試算では12人も犠牲になる必要はない。 魔力のキャパシティと制御性を考慮しても……) ハマル: (“ライブラひとりで事足りる”なんていうことは……) サマカ: わたす、怖いけど……でも、これで世界が変えられるなら、 腹、括んなきゃだめだべ ハマル: サマカ……!?君はアレに参加するつもりなのか!? サマカ: 当たり前だべ。12人っていったら、星の革命軍のほとんどだべ。 1万人のうちの12人なら少し考えるかもしれねけど…… サマカ: 自分だけが生き残ろうとする、なんてカッコ悪いべ ハマル: 恰好がいいとか悪いとか、そんなことで決めるべきじゃない。 実際、残ってその後を運用する人も必要なんだ。誰かがそれを担うんだぞ サマカ: あ……そうだったべ。失言だったべな。 残る人も大切な役割があるのに、カッコ悪いなんて ハマル: いや、そうじゃなくて……もちろん、カッコ悪いという言い方も不適切なんだが、 そうじゃなく……サマカが残れば、いいと私は思っている サマカ: いんや。わたすは参加すると決めたんだべ。 だって師匠は参加するんだべ? ハマル: …… ハマル: (結局、時間切れか……) ハマル: (もう明日には計画が始動する。そうなれば止めようがない。 今日までに犠牲を『ゼロ』にする方策が見つかればと思ったが……) ハマル: (犠牲者の数を減らしても、既に12人犠牲案をライブラが提示した以上、 それは諍いの種にしかならないだろう……) ハマル: (ゼロにできないなら、私が見つけた方式を採用するのは 愚策と言うしかないだろうな……) ハマル: 私は……師匠として、一番弟子の意志を尊重したい。 だが、計画を止めきれなかった責任もある ハマル: 推進派として戦いに臨み、弟子の思いを受け止める。 これが、すべて中途半端に終わってしまっていた私の、 中途半端な落としどころ、というわけだ ハマル: だから……土地精霊の方は任せるが、サマカについては…… カノープス: 自分でなんとかしたい、ってわけか デュプリ: 気持ちは分かるッス レグルス: ……アナタの決意は分かりました。もう何も言いません。 ほかならぬ、ライブラの良き相談相手であったハマルですから レグルス: ですが、術式のことはワタシは初耳です。 犠牲は12人も必要なかった、と? ハマル: ライブラひとりで賄えたよ レグルス: しかし、そんなはずはないでしょう? だったらライブラは自ら犠牲にならなくても、例えばワタシを指名すれば―― ハマル: これは扱える魔力のキャパシティの問題で戦闘力と直ちに直結するものではないんだよ。 君は戦闘力はずば抜けているが、また別の問題なんだ カノープス: ライブラはそこがすごく高いってことだな。 でも、ひとりで解決したのに他に11人も参加させたってのはどういう意図なんだろうな ハマル: いや、私の辿り着いた結論はライブラに伝えていないんだ。 だから彼女の見つけた方式だと12人必要だったのかもしれない ハマル: それに、私の方式でもライブラひとりでギリギリだった。 最悪、私がカバーに入れば賄える計算ではあったが…… より確実性を求めたのかもしれない カノープス: ま、始めた後にやっぱり足りませんでした、 なんて言ってもその段階から参加者を募るのは現実的じゃないもんな ハマル: もっとも……すべて気付いた上で、 自分ひとりが犠牲になるのは嫌だと考えていたとしても、理解はできるけどね。 彼女だって感情を持ったひとりの人なんだ レグルス: ……どれくらい、ライブラはその魔力キャパシティが大きかったのでしょうか ハマル: あくまでも私が試算した概算だが、 メンバー7~8人でやっとライブラと同等、というところじゃないかな レグルス: ……なるほど デュプリ: どうかしたんスか、神官長 レグルス: いえ……なんでもありません…… (ワタシは少なからず動揺していた。 あの高潔なライブラに限って、そんなはずはない。) 310013 - 対立の背景 デュプリ: 神官長、顔が怖いですよ レグルス: あ、いえ……少し頭が痛かっただけで (適当にごまかしたが、デュプリは疑う様子はない。 もちろん、慣用句として頭は痛かった。) (もしライブラ単独で術式が完成するなら、 それはすなわちハマルの試算によると他の神官7~8名で完成するとも言い換えられる。) (デュプリは気づいていないようだ。 或いはワタシは彼女に共有をしていなかったかもしれない。) (グランド・リヴィジョンには『バックドア』が存在していた―― つまりライブラは、最初から……?) ハマル: さて、そろそろサマカと対決する頃合いだろう。私も準備しておかないとね カノープス: なんか楽しそうだな? ハマル: 不謹慎かもしれないが、少し楽しみにしているのは事実だ。 師匠としてはやはり、弟子の成長を肌で実感したいものだからね デュプリ: そんなもんスか?ボク、誰かを弟子にしたこともないし、何かを教えたこともないもんで ハマル: 体験すれば分かる。実際、サマカは優秀だからね。 もう私を上回っているかもしれない カノープス: じゃあ負けちまうじゃないか ハマル: それはそれでいいんだよ。今回の私達の分裂そのものが思想的なズレでしかない。 どちらかが絶対に正義というものじゃないんだから ハマル: どちらかに決めなくてはならない。その方法が戦うことしかないだけのことだ レグルス: …… (ハマルの言っていることは正論に聞こえる。 しかし、それは彼女が漂わせる空気感のせいかもしれない。) (それぞれの思惑もありつつ、 グランド・リヴィジョン実行の際は全員が一致してことを進めた。 あのとき、ワタシの把握していないところで反発はあったのだろうか。) ハマル: では、私は失礼するよ カノープス: んじゃ、ちょっとプレイントの様子を見てくる (ふたりがその場から去って、ワタシは重々しい息をついた。) デュプリ: 神官長、ちょっと気にしてます? レグルス: 何がです? デュプリ: グランド・リヴィジョンのときは揉めなかったのに、 今回うまくいってないのは、自分のせいなんじゃないか、って レグルス: ……当然、多少なりとも責任を感じますよ。 ライブラが外には出て来れない今、現場を任されているのはワタシなのですし (変なところでデュプリは鋭い。ただ、彼女が指摘するような懸念も当然あるにはあるが、 ワタシが気になっていたのは、もう少し別の観点だ。) レグルス: ワタシが不甲斐ないから今、こうして分裂している可能性はあります。 でも現状が『健全な姿』であって、当時こそ『ライブラが歪めていた』という 可能性もあるのかも…… レグルス: そんなふうに、考えてしまうのです (ともすればライブラの批判にも聞こえかねない考えを、 ワタシは気が付くとデュプリにこぼしていた。 彼女なら告げ口することはないと考えていたからだ。) デュプリ: まあ、それはあるかもしれませんね。 でもこの現状が健全、って決めつけるのも危ないッスよ デュプリ: 誰かの思惑で、対立させられてしまっている…… ってことだってまだ完全には否定できないじゃないスか レグルス: ……? レグルス: ワタシたちに干渉している存在がいる? デュプリ: ていうか、それ二択じゃないですし デュプリ: 当時、ライブラさんが圧をかけて黙らせていた可能性は全然あるッス。 でもそれが、今誰も干渉していないって証明にはなりませんよね レグルス: ……! デュプリ: でも神官長、やっぱりちょっと変わりましたね。そんなふうに考えるなんて レグルス: …… オーディン: この音、近いです……! ゼウス: どうやらテュポーンのカンは正しかったみたいですね! テュポーン: えっへん トール: 威張るのは倒してからにしなさいよね!急ぐわよ! アシェンプテル: うーん、だいぶ馴染んできたのよ。 でも、やっぱり実戦に勝るものはないっていうか…… ゼウス: 見つけましたよ!あなたがアシェンプテルですね! アシェンプテル: だあれ? トール: 忘れたとは言わせないわよ!今度こそ、叩きのめしてあげるわ! アシェンプテル: あー、ちょっと前にボコボコにした人たち。人数を増やしたんだ。 そうね、負けた相手と再戦するのに仲間を連れてくるっていうのは正しいのよ アシェンプテル: ひとりを相手に4人がかりっていうのも合ってると思うし トール: くっ…… オーディン: トール、挑発に乗ってはいけませんよ。 正々堂々とか考えるよりまず、わたしたちは自分の使命を果たさないと トール: ……分かってるわ。だからこそ、あたしは……考えてることがある オーディン: な……何をするつもりです……? トール: 逆も考えたけど、やっぱりオトギノクニにも順応しつつある オーディンが適役だと思うから…… トール: あたしを、オーディンに預けるわ オーディン: え……? 310014 - 立ち位置 (十二迷宮に並んだ顔ぶれを眺め、 ワタシはなんだか自分が遠いところに来てしまったような感覚をおぼえる。) ペロー: 現状の戦況としては、魔法の国は落としたものの直轄領は制圧、 そしてレグルス教国では条件付きながらほぼ制圧…… (このメンバーが顔を揃えるのは久しぶりなように思う。 今回のこのヴェルト・レダクツィオンを開始したとき以来だろうか。) (期間としてはそれほどでもないのだが、ずいぶん長かったような気がする。 もしかしたらそれは、ワタシの心境に影響しているのかもしれない。) アシェンプテル: 向こうの新戦力も見つけたのよ。 でも、わたしがコテンパンにしてやったんだから ゲーテ: 嘘はいけませんよ。追い込まれていたではありませんか アシェンプテル: 途中までは押してたんだから、嘘じゃないのよ。 あのままゲーテさんが割り込んでこなくても、わたしが勝ったかもしれないし キャロル: どっちが勝ったとか負けたとか、どうでもいいでしょ。 もっと血で血を洗う争いが見たいんだけど? ペロー: キャロルは今回、あまり現場に出ていませんからね デュプリ: この前、人間さんたちにやられたダメージが、 完全に回復してるわけじゃないんスよね? キャロル: それが歯がゆいんだよね~ ペロー: とにかく、予断は許さないものの悪くない状況と言えます。 ただ、ここからは…… ペロー: レグルス?聞いてますか? レグルス: え、ええ。もちろん (嘘ではない。意識が逸れていただけで、会話の内容はちゃんと耳に入っていた。 なのにペローは、鼻先で笑った。気のせいだろうか?) ペロー: ここから行く末を決定づけるのは、ライブラの復活です。 ただそれも、あと1つの要素が確保できれば実現できるでしょう キャロル: あと1つ? ペロー: ええ。でもそちらは見込みが立っています。どちらかというと、汎用的な要素…… 大量のイマジュマイトが必要になるのですが、それが不足している状況です ゲーテ: イマジュマイトは魔法陣が吸収してしまうので、 かき集めようにも限界がありますからね キャロル: それがたくさんあるなら、あたしだってもっと早く回復してるし アシェンプテル: どこかにないの?地面を掘ったらざっくざく、みたいな デュプリ: イマジュマイトが金貨か何かだと思ってんスか? ゲーテ: わたしに、心当たりがあります ペロー: 心当たり? ゲーテ: 直轄領にはまだ貯蔵があるはずです。 コミッティ管理施設はもう出しきっていると思われますが、 グリム家の私設貯蔵庫があるはず ペロー: なるほど……グリムの…… ゲーテ: わたしがそこに向かいましょう ペロー: …… (少し迷う表情を見せるペロー。グリム家の施設に打撃を与える、 という響きは彼女にとって魅惑的なのだろう。) (普段は冷静に判断できる彼女だが、 グリム家のこととなると異常なほど執着を見せるときがある。 その偏執的な憎悪から、よほどの仕打ちを受けたのだろうとは思うが。) ペロー: ……そうですね。ではゲーテにお任せします (しかし、踏みとどまったようだ。やはりペローは理性的なのだと感心する。) ゲーテ: 分かりました。お任せを レグルス: ではワタシたちは次の魔法陣の場所へ向かうとしましょう ペロー: そうですね。実戦に出るならレグルスが適任でしょうから (適任、という響きはなんだかワタシを認められたようで少しばかり心地がいい。) アシェンプテル: わたし、あのブタさんのことがちょっと気になってるのよ ゲーテ: ブタさん?どのブタさんですか? アシェンプテル: みんなが人間さんとか呼んでるでしょ? レグルス: ああ……気になるとは? アシェンプテル: 知らない。なんか気になるの レグルス: はあ……? キャロル: 異質な存在だからね。 興味を持つのは分かるけど、あまり期待しない方がいいよ?つまんない男なんだから アシェンプテル: そうなの? ペロー: キャロルが評価するような頭のおかしい男なら、 あんなにたくさん仲間はいないでしょうけどね キャロル: 何よ!あたしに仲間がいなさそうじゃん ペロー: そんなことは言っていませんが アシェンプテル: どうせブタさんも魔法陣の近くにいるんでしょ? あとでレグルスたちのところに顔を出すかも (そんな、後から飲み会に参加するみたいな言い方されても。) レグルス: そんな、後から飲み会に参加するみたいな言い方されても デュプリ: 神官長、たぶん心の声が出ちゃってるッス レグルス: あ……ま、まあ、好きにしてください。邪魔だけはしないように アシェンプテル: そんなことしないし、今までにしたこともないのよ! レグルス: では行きますよ、デュプリ デュプリ: はいッス。砂の国から少し行ったとこでしたね。 貴重な時間なんで大切にしたいッス レグルス: 貴重な時間……? デュプリ: あのへんコシャリって名物があるんスよ。食べたいッス! 310015 - 近づきたくて デュプリ: 神官長、あれ (融合点からμ世界に入ってしばらくして。 魔法陣の座標近くに来たところでデュプリが声を上げる。 視線を移せば、茂みに隠れて何やらもじもじしているポルックスの姿があった。) レグルス: 何をやっているんですか ポルックス: あっ……レグルスさん……っ、よ、よかった…… レグルス: よかった、ではありませんよ。何をしていたのか聞いているんです ポルックス: 魔法陣に近づいてヴェルト・レダクツィオンの作業を始めようと思ったんですけど、 なんか精霊の人がいて (ポルックスの言うとおり、魔法陣近くには精霊の姿があった。 おそらく土地精霊だろう。 しかし、これまで以上に強い力を感じる。ただものではなさそうだ。) レグルス: あの精霊が強そうなので怖がっていたのですか? ポルックス: いえ、最初になんて声をかけたらいいか分からなくて…… デュプリ: ちっす!じゃダメなんスか? ポルックス: わ、わたしがそんな愉快なおふざけ舐めプ女に見えますか……? 無理に決まってますっ…… デュプリ: え、ボクって愉快なおふざけ舐めプ女なんスか レグルス: そうですね デュプリ: そうですね!? レグルス: 声掛けは後で考えるとして、どうなんです。 対決する相手はアルデバランですが……この戦いの勝算は? ポルックス: アルデバランさんはすごい人なので……簡単じゃないと思いますよ……? なんか楽勝みたいな答えを期待されてるかもしれませんが…… レグルス: 楽勝だとは思っていませんよ。アルデバランも優秀ですから。 でもアナタは、例のあのライブラ主催のアカデミーコンクールで、 事実上の優勝をしたではありませんか ポルックス: ……っ、あ、あのときは (事実上。そう、実際には優勝トロフィーを手にしたのはアルデバランだ。 だが、一定以上の実力を持っている者ならすぐに分かる。 あの決勝戦で、ポルックスは手を抜いた。) ポルックス: ……本当は、あんなことになるはずじゃなかったんです 学生1: 期末テストの結果が出たらしいよ! 学生2: 1位は……やっぱり、ポルックスだって! ポルックス: はぁ…… ポルックス: (一応、見に来たけど、予想通りの結果だったな……) ポルックス: (結果は分かってたんだし、 これ以上、ここにいても無駄な注目を集めるだけだよね……) ポルックス: (同じμ世界出身のよしみで、 ライブラさんに推薦してもらって入ったアカデミーだけど…… やっぱりこういう人と関わる場所は苦手……いろいろと煩わしいし……) ポルックス: (研究だけしてればいいって聞いてたのに、 意外となんかコミュ力を求められる場面も多いし、陽キャも多いし……はあ……) アルデバラン: ポル! ポルックス: あ……アルデバランさん…… アルデバラン: なに、これからお昼?一緒に食べる? ポルックス: わ、わたしなんかと? アルデバラン: なんで?『なんかと』ってどういう意味?あ、私あれなの、クチャラーはNG ポルックス: いえ、クチャってはないかと思います…… アルデバラン: えー?じゃあいいじゃん。行こっ ポルックス: (アルデバランさんはゼミでも中心にいるような、まさに一軍女子…… なのに、わたしなんかに声をかけてくれる……) ポルックス: (きっと何かの気まぐれだけど、それでも……この人が気にかけている、 その事実だけでわたしは、ぼっちではあっても虐げられてはいない) ポルックス: (ちょっと嘘ついた。嫌なことはたくさんあったっけ…… でも、ゼミの中では平和なのは事実……) アルデバラン: ねえ、辛いのいける人? ポルックス: ほ、ほどほどなら…… ハマル: へえ。じゃあアルデバランとはそれなりに言葉を交わす感じか ポルックス: あ、あの人だけは……普通に話せるというか…… ハマル: 同じ世界から来た縁もあるからねえ ポルックス: 向こうでは特に関わりなかったんですけど……こういうことも、あるんですね ハマル: いろんな出会いがあるものだよ ポルックス: そ、それで……ハマルさん。 わ、わたし……アルデバランさんと、もっと仲良くなりたくて…… ハマル: 大丈夫。きっとなれるよ ポルックス: は、はいっ…… 310016 - 貴重な接点 アルデバラン: ポル! ポルックス: は、はひっ!? アルデバラン: 今回はトップの座を譲ったけど……次はそうはいかないわ ポルックス: (あ……成績表のことかな……。 最近、あの順位のこと、アルデバランさんはすごく気にしてたから……) アルデバラン: 私はポルのライバルとして、必ずトップを奪ってみせる! ポルックス: (ライバルと、して……?) アルデバラン: 次の機会では絶対に負けない!見てなさい! ハマル: こりゃまたひどい顔だね ポルックス: 分かってます……わたし、ブスなんで…… ハマル: 違う違う、そういう意味じゃなくて……何か、あったのかい? ハマル: 人と関わるのを面倒だと避けている君のことだ。 そこまで感情を揺さぶられるのは……アルデバランのことだね? ポルックス: はい……わたし、アルデバランさんとは友達になれるかも、なんて考えていたんです ハマル: うん、そうだったね ポルックス: でも……ライバルだって言われちゃいました。 今度のコンクール、負けないからって…… ポルックス: 以前から気になってたんです……成績表のこと、よく気にしてるし、 ライバルって単語も前から言ってた気がするし…… ポルックス: 友達と争うなんて、わたし……む、無理です……っ。 でも、話しかけてくれるキッカケでもあるし、と思って…… ハマル: まあまあ、落ち着いて。 まず大前提として、アルデバランは負けても禍根を残す子じゃないよ ポルックス: う、うう……だとしても、わたしは…… ハマル: 争うこと自体が嫌なんだね。ふうむ、困ったな。 しかも通常の定期試験ならまだしも、コンクールなんて…… ハマル: これ、ライブラの発案だったよね。 彼女も競い合うことはあまり、好まなかったはずだけど…… ポルックス: なのに、どうしてこんなコンクールなんて……? ハマル: どうも彼女は最近、何かを準備しているようでね。 実力のある者を見定める機会にしようという意図もありそうだ ポルックス: はあ……なんか優遇されたりとかなら、 アルデバランさんが権利を受け取ればいいと思います…… アルデバラン: あっ、ポル! ポルックス: はひっ!?あ……アルデバランさんですか…… アルデバラン: 例のあのコンクール、あなたもエントリーしたのよね? ポルックス: あ…… ポルックス: (本当は決心がつかなくて、まだしてないけど…… でもやっぱり、共通の話題がなくなっちゃうし、やるべき……?) ポルックス: は、はい……まあ一応…… 学生: おい、ライバル関係のふたりが鉢合わせしたぞ! 学生: こりゃ見逃せない! アルデバラン: 今度のコンクール、必ず私が勝ってみせる!覚悟しておくのね!! ポルックス: あの、それはいいんですけど、えっと……声をもう少し小さく…… アルデバラン: 落ち着いてるわね。さすがだわ ポルックス: (わたしがエントリーしてないことを誰かが把握してるかもしれないし……! 大きな声で話して、アルデバランさんとの会話に割り込まれたら、 嘘つきだと思われちゃいます……っ) ポルックス: (あ、待って……これってもしかして、 関係を進めるためのいい機会だったりするんじゃ……) アルデバラン: ポル?ぼーっとしてどうしたのよ ポルックス: ……あの、アルデバランさん。 今度のコンクールが終わったら……そ、その、おね、お願いが、ありまして…… アルデバラン: お願い……? ポルックス: (おそらくアルデバランさんなら、わたしとぶつかるまで勝ち上がるはず……) ポルックス: (そこでライバルのわたしに快勝、気分がいいところに、 わたしから友達になってとお願いしたら……きっとOKしてくれる……!) アルデバラン: いいわ。私も言いたいことを言わせてもらうわよ! ポルックス: え……アルデバランさんも……? アルデバラン: 当たり前でしょ ポルックス: そっか、そうですよね!もちろんです! ポルックス: (もしかして……アルデバランさんも…… わたしと友達になりたいと思ってくれてるとか……!?) ポルックス: ふんふんふーん♪ ハマル: ずいぶんごきげんじゃないか ポルックス: なんか、いいことが起きそうな予感なんです。ハマルさんのおかげですよ ハマル: んん?私は特に何もしてない気がするが…… まあ、うまくいってるなら、言うことはないがね 310017 - 決別 職員: おめでとう!優勝はアルデバラン! 学生: おめでとう~! ポルックス: (よかった……無事にアルデバランさんは優勝できたし、 これでわたしは満を持してお友達に……) ポルックス: (花を持たせたこと、ライブラさんにバレたら怒られそうだけど、 かなり注意したつもりだし大丈夫なはず……) ポルックス: あっ……あの、アルデバランさんっ、ゆ、優勝……おめ、おめで……と…… アルデバラン: ポル……ありがとう ポルックス: そ、それでですね……あの、コンクールが終わったらお話を、 ってことになってましたけど……え、あの、えっと ポルックス: (勇気を出して言わなきゃ……っ、もう陰気で人付き合いできない、 社会不適合者なわたしともお別れする……!) アルデバラン: ポル……さっき最終局面で、失速したわよね ポルックス: え……? アルデバラン: 私が気づかないと思った?ずっとライバルとして競ってきたのよ。 全力かどうかくらい、見極められるわ ポルックス: な、なんのことですか……? アルデバラン: このコンクールが終わったら……なんて話していたわよね。 でも、私からは何も言うことなんてない ポルックス: えっ……? アルデバラン: 悪いけど、私はもう……ポルと話せないわ ポルックス: アルデバランさん……!? ポルックス: うああああああああああああああああ ハマル: 大体、想像はつくよ。 うまくやったつもりなんだろうが、あれは見る者が見れば分かる ポルックス: そ、そうだったんですか……?じゃあハマルさんも……いえ、ライブラさんも……!? ライブラ: ええ、気づいていたわ ポルックス: ひっ!ライブラさん!? ポルックス: ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい ライブラ: 別に責めるつもりはないわ。 厳密に優勝だのなんだの、事細かに決めることに興味もないし ポルックス: え……? ライブラ: 実力を見極めたかっただけよ。その上で……ポルックスに話があるの ライブラ: 私が立ち上げる組織『星の革命軍』に参加してほしい。 歪んだ社会を是正するための、正義の組織よ ポルックス: 星の……革命軍…… ポルックス: ……アルデバランさんは? ライブラ: もちろん声をかけるわ ポルックス: あの人が入るなら、わたしも入ります…… ポルックス: ……そんな経緯で、わたしはライブラさんからスカウトされました。 でも、同じ組織にいてもアルデバランさんとはほとんど会話もなく…… レグルス: 待ってください。 それじゃあ星の革命軍に入ったのも、アルデバランとの接点を持つために? ポルックス: 気持ち悪いですよね。別に執着するつもりはなかったんです。 でも……初めて、友達になれる気がしたから…… デュプリ: いやあ、別に気持ち悪くはないんじゃないスか? 世の中には、大事な人のそばに髪の毛を置いてきて 一緒にいる気分を味わうようなおかしな人もいますから レグルス: …… (ワタシの思いも知らないくせに、変態扱いは不本意だ。 ただ、その例を出されるとワタシはポルックスを責められなかった。) (責めるといっても気持ち悪いなどと罵倒するつもりはない。 星の革命軍に入るにあたって、 理念への共感はなかったのか、とモヤモヤしてしまったのだ。) デュプリ: でも、それなら向こうのグループに行ったほうがよかったんじゃないスか? ポルックス: そ、それなんですよぉ…… てっきり、アルデバランさんは、普段からいろいろ前のめりですし、 ヴェルト・レダクツィオンにも乗り気なんだとばかり…… ポルックス: だからわたしもこっちに来たのに、知らないうちに離反組へ行ってしまっていて…… レグルス: そもそも計算外だった、ということですか ポルックス: あっ、あっ、でも、ここまで来て裏切るとかは、しませんよっ。 そんな度胸ないので…… (ポルックスは徹頭徹尾、自分の友達作りが行動基準だ。 そこにライブラの唱える理想の世界は、ほぼ干渉していない。) (ワタシたち星の革命軍、いや十二神官とは一体なんなのだろうか。 ここまで誰も賛同していない、そんな理想のために、血を流す必要があるのだろうか。) レグルス: (いけない……変なことを考えてしまいました…… ワタシまでもが揺らいでどうするんです。一番の忠臣であるべきなのに) レグルス: ……それにしても。アカデミーでコンクールを開催したという話は、 噂で聞いていましたが、仲間を見出す選抜試験だったとは…… デュプリ: ま、そういうことッスよ レグルス: 何がです デュプリ: ライブラも理念への共感ではなく実力で選んだ。 じゃあ、ポルックスさんが理想に共感してないのも当然の流れっていうか レグルス: ……ワタシはそんなこと、気にしていませんよ レグルス: それより……ポルックス。確実に勝ってください。今度は手を抜かないように