190001 - 平和なひととき (町の中央に位置する広場は、様々な装飾に彩られ、多くの人々でごった返していた。 みんな笑顔で、鳴らされる打楽器のリズムに身を委ねながら、 中央で手を振る女性たちに歓声を送る。) (中央の女性は三名。みな、穏やかな笑顔で人々の声に応える。 ここ、大都市トリプ-レアでは、収穫を祝う祭りが執り行われていた。) 信民1: ヴィジュー様~っ! 中央の女性: ……♪ (呼びかけに応え、微笑みながら手を振る。 ひっきりなしに人々から名を呼ばれるその三人が、 愛されていることは疑いようがなかった。) ???: …… 信民2: ヴィジュー様は本当にいつ見てもお優しい笑顔でいらっしゃる 信民3: 俺はジーヴァ様に憧れるなぁ。魔物を追い払うあの勇姿 信民4: それを言うならブラーマ様のあの神秘的な雰囲気こそ魅力だろう (口々に賞賛の言葉が相次ぐ。そんな街の様子を裏路地からじっと見つめる瞳があった。) ???: ……いい気なものね。μの何たるかも知らないくせに ???: でも、あと少しよ。必ずあいつらを引きずり降ろしてやるんだから (背景切換...) (部屋に漂う香ばしい匂いに、食欲がそそられる。 さすがにヴェルの手料理には遠く及ばないが、俺ひとりでこの出来栄えは なかなか大したものじゃないか、と自画自賛する。) アヌ: へえ、すごい。これ人間さんが? 人間さん: 大したもんだろ テュポーン: ごはんだ ジューチャオ: え?人間さんが作ったんじゃないよね。そこの四角い人が作ったんでしょ? 人間さん: いや、これは人じゃなくて道具だから (コミッティの活動報酬というのは在籍しているだけで一定額が支給される。 途中、一時的に帰ってきた時期もあったとは言え、 ほぼμ世界に行っていた俺は無事に帰還してこれを満額受け取った。) (その報酬の一部でちょっぴり高額な魔道具、 人間界でいうところの家電的なものを購入したのだ。 エルマイトを動力として、いろいろな料理が作れる優れものだ。) (不在の間の生活費は、この家の家賃くらいなものだったので、収支は大幅にプラス。 もちろん滞在中の衣食住はμのみんなに面倒を見てもらっていたわけで、 本来なら全員に還元すべきところなのだが……。) オーディン: 代表してわたしが頂いてしまっていい、ということなんですよね。 わたしはあまり人間さんに何もしてあげられていないので なんだか気が引けてしまいますが 雨依: それを言ったらアヌなんて、もっとひどいじゃない テュポーン: テュポは人間さんにきのこあげたよ ジューチャオ: あたしは肩もんであげた。ね、人間さん 人間さん: いや、俺がマッサージしてあげたんだけど 雨依: で……アヌは何もない、と アヌ: なんだよ、みんなして。私がいたからあの世界があるんだからね 雨依: だったらキにも感謝するってことでヴェルを呼ぶべきだったかもね。 そう言えば人間さん、ヴェルは? 人間さん: 今日はおばあちゃんの家に行く予定があったみたいで 雨依: ふうん。ちゃんと家族との時間は確保するんだ。 何がなんでも人間さんのとこに来ちゃうかと思った 人間さん: まあ、もう事態も一応は解決したし、 しばらくは家にいるからヴェルも安心してるんじゃないかな (ジューチャオたちの世界で、 すべての黒幕と思しき相手創造の聖母を相手に戦った俺達は――) (背景切換...) チャイム: くっ……かはっ……! (刹那、チャイムの口から小さな光の玉がこぼれ出た。俺はとっさに叫ぶ。) 人間さん: それだ!それを逃すな! 雨依: 分かってる……! (辛うじて動く指先を向けた雨依が闇の弾丸を放つ。 射貫かれた球は光を失い、地面にぽとりと落ちた。) 雨依: 聖母は!? (俺は球が落ちた場所へと駆け寄る。足元には、元は黄金だったのだろうと察せられる煤けた金属製の小さな女性像が落ちていた。大きさにして10センチもない。) 人間さん: これが聖母……? (背景切換...) (あの瞬間、長らく続いたμ世界の問題も解決をみた。 ただ、すべてが終わりを迎えたわけではない。) 人間さん: (ペローは相変わらず行方が分からない。 彼女は何かを計画しているようだがその全容も分からないままだ……) 雨依: なに、難しい顔して 人間さん: いや…… アヌ: 私が帰ることになって泣きそうなんだね。そうだろうとも、うんうん 人間さん: まあ、寂しいのは確かにそうだけど (オトギノクニとμ世界の行き来も魔法陣の解析がほぼ完了し自由にできるようになった。 当面の問題も解決したので、アヌは一度自分の世界に帰ることにしたのだ。) (今日のこの俺の力作も、彼女の送別会のために用意したものだ。) アヌ: 何かあれば、また戻ってくるし テュポーン: ほんと? 雨依: 怪しいのよねー。 引きこもりって、一度家に帰したら滅多なことじゃ出てきそうにないから アヌ: 別に引きこもりじゃないから。出不精なだけだよ テュポーン: それで、もうごはん食べていい? ジューチャオ: 食べよう食べようー 190002 - 深淵の闇について (コミッティ議場の証人席について、俺は一部始終を報告した。 ジューチャオたちの世界で何が起きたのか、聖母との戦いの結末、そして――) ジャコヴァ: キャロルは逃げおおせた、か…… ヴィルヘルミナ: 相手は幻術の使い手。もとより拘束は困難だったわ。仕方ないわね (ヴィルヘルミナならもっと苛烈に叱責しそうなものだが、 特に咎めるでもなく、嘆息とともに首を小さく横に振った。 俺に情をかけたというより、それだけキャロルが厄介な相手ということだろう。) (実際、その手口はあまりに鮮やかで――) (背景切換...) シェンウー: 少々きつく縛っておるが、悪く思わんでくれよ (うっすらと光る魔力の鎖で、チャイムとキャロルを縛り上げたシェンウーは、 彼女たちを引きながらそう気遣った。) (魔法陣を使ってオトギノクニに戻るため、クンルンの山にある城に向かう道中のことだ。 俺も、他の誰もが戦いは終わったと、どこか気が緩んでいたのかもしれない。) キャロル: …… チャイム: …… (憔悴しきった様子のチャイムと、不貞腐れたキャロル。 二人とも言葉を発さず、素直に従っていた。) ジューチャオ: あっ、流れ星だ! チンロン: あら、こんなに明るいのに珍しいですね (ふいに流れた一筋の光。俺達はほんの一瞬だけ、注意を完全にそちらに逸らした。 次の瞬間――) ファンロン: っと、こうしていられないわね。信民たちも心配し―― ファンロン: 待って。このキャロル、なんだか様子がおかしいわ パイフー: そんな、バカな…… (確かにキャロルの姿をしているが、目は虚ろ。 まさかと思って雨依が再び幻を否定すると、 その姿は消え失せて魔力の鎖が地面にぽとりと落ちたのだった――) (背景切換...) 人間さん: (正直、油断はあったと思うけど……あれだけ人数がいたのに、大胆なやつだ……) トリル: では、今後はペローさん、そしてキャロルさんの行方を追跡する、 という方針になるのでしょうか ラヴクラフト: やみくもに突っ込んでも気持ちよくないよ? やっぱりすこーしずつ、さわさわしていかないと。 そしたら自然とびっちょびちょに迎え入れちゃうものだから フアナ: ええ……?話、聞いてた? ジョカ: ……つまり、ただ追跡しても結局、今回の二の舞になるだけ。 外堀を埋めて追いつめる必要がある、ということだな ラヴクラフト: わかってるねぇ、テクニシャン♡ フアナ: 聞いてたんだ…… シンデレラ: そのためには、相手の狙い……つまり、しんえ、うっ!? ドロシー: どうしたの?大丈夫? シンデレラ: いえ、ごめんなさい。ちょっと頭痛がひどくて エミリー: 二日酔いじゃないのぉ? シンデレラ: うーん……昨日はワイン1本しか空けてないのよ? ドロシー: ボトル1本って、『しか』って量じゃないのよ シンデレラ: って、ごめんなさい。そうじゃなくて ジャコヴァ: 『深淵の闇』とは何か……だろう 人間さん: それは俺も気になっていた。その名前は、ピュルテがペローに干渉されていた頃から ずっと、分からないままここまで来てる ヴィルヘルミナ: 別に隠しているわけじゃあないのよ。 ただ、もう過去のことだし関係ないと思っていただけ 人間さん: 何者なんだ、深淵の闇って…… ヴィルヘルミナ: 誤解しているみたいね。『深淵の闇』は人物を指す言葉ではないわ 人間さん: えっ?でもピュルテは昔『すべては深淵の闇のために』って―― ジャコヴァ: 『深淵の闇』とはライブラが画策した、計画の名称だ フアナ: ああ……なるほど…… ヴィルヘルミナ: オトギノクニに住まう全ての者を平等に―― その理想のために、ライブラがグランド・リヴィジョン、 通称GRを実行したことはあなたたちもよく知っているでしょう? ドロシー: ええ……人間界から流入するエルマイト、そしてディマイトを堰き止めて、 本来なら知名度に比例するはずの配分を、全員に平等に行き渡るようにした ジャコヴァ: うんうん ヴィルヘルミナ: この計画の問題点は、早々に明らかになったわ。 流入量が変わらない中で、本来なら消えてしまう存在も含めて平等に扱えば、 いつか破綻する ヴィルヘルミナ: レグルスは自覚があったのか分からないけど……ライブラは当然、この問題点も理解していた。そこで模索した結果、行き着いたエネルギー確保の手段こそが―― エミリー: 『深淵の闇』ってことぉ……? ヴィルヘルミナ: その通りよ、エミリー!なんて賢いの! 可愛いし賢いし自慢の妹だからほっぺすりすりしちゃうわね! エミリー: こっちこないでぇ! クラース: エネルギーの確保って簡単に言うけど、どうやって? ジャコヴァ: 詳しいことは分かっていない。 どこから入手するのか、その方法は、そして名称の意味は。 疑問は尽きないが、何ひとつ分かっていない ドロシー: それじゃあ、こっちだって対策のしようがないじゃない ヴィルヘルミナ: ヒントはあるわ。エネルギー、つまりイマジュマイトを扱う以上、 いくらライブラでも、やはり本職の手助けは欲しいのよ。 そこで彼女が目を付けたのが、ニーチェ ジャコヴァ: フェルディナとシャルロッテが調査を続けている。 その中で、以前にキャロルが接触していたという目撃情報も出た ヴィルヘルミナ: ライブラが志半ばで途絶していた計画を、ペローやキャロルが引き継いで そのためにニーチェの身柄を押さえた、と考えられるわ 人間さん: なら、俺達が次にやることはニーチェを確保することだな ジャコヴァ: その通り。だが、人間さん。お前は行くな 人間さん: えっ? ジャコヴァ: お前と雨依、どちらか或いは両方に、何かあれば世界が不安定になる シェイクスピア: この前のμ世界行きでそれが明らかになったわ。さすがにリスキーなのよ ヴィルヘルミナ: あの子たちだけで不安なのは分かるわ。 でも、増援も用意するから……あなたたちは動かないで。いいわね? 人間さん: (じっと答えが出るのを待つことしかできないのは歯がゆいけど……仕方ないか) 190003 - まるで夢のような (そんなコミッティの会議から、また数日が経った頃――) ヴェルメリオ: ……美味しい? 人間さん: ああ。やっぱりヴェルの料理は絶品だな ジューチャオ: 四角い人の料理は飽きちゃったの? ヴェルメリオ: ……四角い人? 人間さん: こ、これのことだよ。料理魔道具! ヴェルメリオ: ……なんだ。四角い顔の女と浮気してるのかと思った 人間さん: 便利だし、新しいから嬉しくなって毎日使ってたんだけどな。 おかげで自炊マインドも高まったし。 でもやっぱり、こうして食べるとヴェルの料理はすごい ヴェルメリオ: ……よかった。噛み締めて食べてね オーディン: ……?よく噛んで食べてとは言いますが、噛み締めるって聞きなれませんね ヴェルメリオ: ……これから一生、かわいい奥さんが 毎日美味しいご飯を作ってくれる幸せを噛み締めてね、ってこと ジューチャオ: あれ?まだ結婚してないんだっけ ヴェルメリオ: ……してるよ 人間さん: 吹き込んでも明日には忘れてるから意味ないぞ テュポーン: テュポもヴェルとけっこんする ジューチャオ: 結婚すると美味しいごはんが食べられるんだね! クレア: じゃあ私も (この日は、食事を作りに来てくれたヴェルと、居候しているオーディン、テュポーン、ジューチャオのμ三人、それにおそらくヴェルの手料理に釣られてきたクレアの六人で食卓を囲んでいた。) テュポーン: アヌ。げんきかな ヴェルメリオ: ……どこにいても変わらない気がする ジューチャオ: 人間さん、後でマッサージしてあげる 人間さん: え、なんでまた急に ジューチャオ: いつもよりたくさん食べてるでしょ。 だから胃腸が元気になるツボ、押してあげようと思って 人間さん: へえ、そんなのがあるのか。確かに今日は美味いもんだから食べ過ぎてるかもな ジューチャオ: まかせといて ヴェルメリオ: ……いま、何の話してた? ジューチャオ: えっとね、えーと……えーと?たぶん、まんじゅうの話 ヴェルメリオ: ……ふうん? 甘いものが食べたいなら後でデザートにと思ってアップルパイも用意してあるよ ジューチャオ: やったー!デザートだって!あたし、まんじゅうがいいな ヴェルメリオ: ……アップルパイでもいい? ジューチャオ: それも好き! 人間さん: (まあ、わざわざヴェルに言って不安にさせる必要もないか……) (背景切換...) (その夜、ベッドで眠りにつくと――) (背景切換...) 人間さん: あれ…… (俺は、夢を見ていた。) 人間さん: だってさっきまでベッドの中だったのに、 いきなりこんな、わけのわからない場所にいるんだもんな。夢に決まってる ジューチャオ: これって夢、だよね? 人間さん: ジューチャオ!?なんでジューチャオまで夢の中にいるんだ ジューチャオ: たぶん……自分のと間違えて人間さんのベッドにもぐりこんだら、 そのまま寝ちゃったのかも 人間さん: 何やってんだ…… (足元は裸足で、服装も部屋着のままだ。もちろん手ぶら。 眠りについたときの状態そのままだ。 一方、ジューチャオは普段通りの格好だが、やはりなんだか心細いようだ。) 人間さん: とりあえず進んでみるか ジューチャオ: そうだね。こういう夢は前に進むと醒めるってじっちゃんが言ってたし 人間さん: しかし、ここはどこなんだろうな……見覚えがあるような、ないような ジューチャオ: それ普通じゃない?あたし、いつもそう思ってるよ 人間さん: そ、そうか…… 人間さん: (まあでも、夢って記憶の継ぎ接ぎでできてるんだろうからなぁ) (床面は石づくりだからか、ひどく冷たい。 足元から冷えてくると、なんだか身体全体の体温が奪われるようで、 俺は思わず身震いした。) ジューチャオ: 怖いの? 人間さん: 怖いというより不安かな ジューチャオ: そうなの?じゃあ手を握っててあげるね 人間さん: ……。……そうしようか (俺も心細いのは事実で、進むごとに独りじゃなくてよかったと思えたし、 きっと提案した彼女の方が、手を繋ぎたかったんだろうと察せられたので きゅっと手を握ることにした。) ジューチャオ: …… (さりげなく恋人繋ぎにされる。) (ベッドにもぐりこんだのも事実のようだし、一体どういうつもりなのか。 きっと深い意味はないのだろうが、それでも夢から醒めたら 隣の彼女に対して理性を保てそうにない。) ジューチャオ: ねえ、長くない? (薄々俺も思っていたことを言葉にするジューチャオ。 なかなか醒めない夢というのも、もちろん存在するだろうが…… こんなにも変化に乏しいのに長いのは、いささか違和感がある。) (ただひたすら、真っすぐな通路を進むだけ。この先、何があるというのか――) ジューチャオ: あっ見て人間さん。あれ…… (ジューチャオが指した先は行き止まりになっており、壁面に図形が描かれている。) 人間さん: 魔法陣か……? (ジューチャオのいた世界からオトギノクニに戻るときに使用したそれとは、 だいぶ図形が違う気がする。でも、どこかで見たような気も……。) (いや、これも過去の記憶の継ぎ接ぎなのだろう。) 人間さん: これに触れると戻れる、とか? ジューチャオ: 人間さんが言うならきっとそうなんじゃない? (俺達は不安を払しょくするように、互いに顔を見合わせて せーのと掛け声をかけて魔法陣に触れた――) (背景切換...) ふたり: ……!? (次の瞬間、空間が開ける。) (背景切換...) (そこは、見覚えのない場所だった。) 190004 - 迷い込んだ世界 (周囲には一切の建物が見当たらない。少し離れた場所に深い森があるくらいだ。) 人間さん: これは…… ジューチャオ: なにこれ、どうなってるの!? (だが、直感的に俺は悟っていた。ここはオトギノクニではないと。) (空気の質感とでも言おうか。だが、もし本当にそうなら何故、そして誰の意図で。 これが偶発的な事故だとは到底思えない。) ジューチャオ: ど、どうする? 人間さん: ここでじっとしていて元に戻れる保証はない。ひとまず町とか、 最低でも山小屋とか洞窟とか、雨露をしのげる場所を確保しないと ジューチャオ: なんか慣れてる?初めてじゃないんだ、こういうの 人間さん: まあな。最初にμの世界に迷い込んだときもひとりだったし ジューチャオ: シェンウーが言ってた。慣れてる男には気を付けろって。人間さん、触らないで (恋人繋ぎを突然振りほどかれた。俺が何をしたというのか。) 人間さん: それたぶん、シェンウーは違う意味で言ってるぞ ジューチャオ: そうなの?じゃあシェンウーが言ってる意味だと人間さんは不慣れ? 人間さん: ……。あー、それより (ヘルと出会った前後の出来事を思い返しながら、 俺はジューチャオにうなずいてみせる。 先ほどまで以上に、ジューチャオがそばにいてくれるのが心強かった。) ジューチャオ: どんな場所なんだろ……特に変わったところはなさそう 人間さん: 確かにな…… (ここがμ世界だとして、俺はそれが神話の世界だと知っている。 まだ経験していない神話というと、何があっただろうか。 候補を思い浮かべながら、またしばらく進んだところで行く手を阻む者がいた。) 盗賊1: よう。こんなところをフラフラして、迷子か? 盗賊2: 道を教えてやってもいいぜ ジューチャオ: え、ほんと?あのね、あたしたち絶賛迷子中なの。 教えてくれたらお礼に焚き火つけてあげるよ 人間さん: よせ、ジューチャオ。こいつらはそんな、親切な連中じゃあない。 どうせ情報料をよこせと言って、身ぐるみ剥がすつもりなんだろう 盗賊1: 兄ちゃん、俺達みたいなのに慣れてるみたいだなぁ? 盗賊2: なら分かるな。次に自分がどうするべきか。 怪我しないうちに大人しく金目のモンとそこの姉ちゃんを置いていきな ジューチャオ: えっ、あたしは残らなきゃいけないの?なんで? 盗賊1: こんな美人、見過ごせないだろうがよ ジューチャオ: 美人だって!聞いた?えっへん!でもあたし、よく言われるからね。残念な美人って 人間さん: うん、とりあえず喜ぶ場面じゃないから 盗賊1: 残念なのか……。いやお楽しみできりゃいいから別に構わないが、 そうか……残念なんだな…… 人間さん: だが、分かりやすいクズで安心した。心置きなくやり合えそうだ (俺は剣の柄に手をかけようとして――) 人間さん: (あっ……剣とかないんだった……パジャマ状態じゃん、俺……) ジューチャオ: え、なに?戦うの?じゃあ、あたしに任せて! 人間さん: いや……迂闊に動くな。ジューチャオは最終手段だ。 俺が殺されそうになってからにしてくれ ジューチャオ: なんで!? 人間さん: μが信民に手を出すのはご法度だと聞いた。 ここもそうなのかは分からないが、無用なトラブルは避けたい (見たところ、相手の装備は手入れされていない片手剣。 甲冑の類はなし。そして人数は三人。) 人間さん: (不意打ちが決まればなんとか……!) (俺は相手がまだ油断しているうちにと、 素早く賊のひとりの懐に飛び込んで顎めがけて拳を振り抜く。) 盗賊1: んがっ!? (続いて、よろめいた相手の手首と二の腕をつかむと、肘を狙って膝蹴りを食らわせる。) 盗賊1: うがああぁぁっ! 盗賊2: こ、こいつ……!! 盗賊3: んのやろぉっ! (さすがに折れてはいないだろうが、狙い通り剣を取り落とす。 それを素早く拾って身構えた。) 盗賊2: どらああぁっ! (賊が大きく振りかぶって攻撃を仕掛けてくる。手加減したリルの数倍は遅い。 俺は相手の攻撃をいなし、体勢を崩した相手の腕に向かって剣を振るう。) 盗賊2: うがっ!?いっでぇぇぇっ! 人間さん: (うーん……俺も賊とはいえ人を殺したくはないし、鋭すぎても困るんだが…… 思いっきり攻撃が当たって服すら破けないって、この剣、手入れされなさすぎだろ) 盗賊3: ふん……どうやら腕に覚えがあるようだな 人間さん: 陰の国の武芸者に手ほどきを受けて、長靴の騎士に ちょくちょく稽古をつけてもらってる身だからな。賊ごときに後れは取らない ジューチャオ: か、かっこいい…… 人間さん: (俺もそう思う。今のは決まった) 盗賊3: 怪我で済んだってのに、こうなったら死んでもらうしかないな。おい、野郎ども! 人間さん: ……え?野郎ども? 人間さん: ど、どうも…… ジューチャオ: やっぱりあたしも戦った方がよくない? 人間さん: そうだね…… ???: そこまでだっ! 盗賊たち: !? (声のしたほうへハッと視線を向けると、何故か木の枝の上に立つ一人の少女の姿。 どうして木の上に?) 太陽仮面?: 悪事はこの太陽仮面が見逃さない!成敗! 盗賊1: どわああっ!? (鮮やかな身のこなしで次々に盗賊をぶちのめしていく少女。 見慣れない形状の武器だが、打撃系のようだ。) 太陽仮面?: それぇっ!やっ、とうっ!! (次々に昏倒する盗賊たち。あっという間の出来事で、 気が付けば誰も立ってはいなかった。) 太陽仮面?: えっへん!正義は勝ぁっつ! 人間さん: た、助かった ???: 危ないところだったわね。間に合ってよかったわ (もうひとりの女性が笑顔で近づく。太陽仮面の相棒だろうか。 じゃあ月光……そんなわけないか。) ???: ん (彼女は満面の笑みで手のひらをこちらに差し出した。) ジューチャオ: ん?握手? ???: 助けたでしょ。お代 人間さん: 有料サービス!?!? 190005 - 確信犯の居候 人間さん: あの……わりと見て分かると思うんだけど、お金を持ってなくて…… ???: えっ、こいつらにひん剥かれた結果のこれじゃなくて、 最初からこんな格好でこの辺りをうろうろしてたってこと? ジューチャオ: あたしはちゃんとした格好してるってば。お金はないけど 人間さん: そう言えばジューチャオ、俺のベッドにそんな格好で潜りこんできてたのか…… 太陽仮面?: ダメだよ、ガナさん。人助けなのにお金とっちゃ ガナさん: 甘いわね。きれいごとだけじゃお腹はいっぱいにならないのよ (ふたりのやり取りを眺めながら、ふとピンときた。 さっきまでの絶望的な状況から起死回生の一手を打てる。) 人間さん: いや、お礼はするべきだと思う。でも先立つものがない。 だから何か仕事を手伝わせてくれないか。住み込みで! ジューチャオ: え?あれ?そっか、あたしたちって無職でふらふらしてたんだっけ。 え、ほんとにそうだった? (これまでの経験からして、どうせすぐには戻れないだろう。 この条件なら衣食住を確保できるはずだ。 人助けをするくらいだから、反社会的な仕事を紹介されることもないだろうし。) (ふたりは顔を見合わせていたが、 やがてガナと呼ばれた女性が肩をすくめて溜息をついた。) ガナさん: 最近、多いのよね。こういう人たち……。仕方ないわ、ついてきて ヴィジュー: じゃ、自己紹介しとくね。ヴィーの名前はヴィジュー。人呼んで太陽仮面! ジューチャオ: ??? ヴィジュー: え、なんでそんな微妙な反応なの?悲しくなっちゃうよ ジューチャオ: 結局、名前はヴィーなの?ヴィジューなの?太陽なの?面なの? 人間さん: 太陽もしくは面、て意味じゃなくて太陽仮面だと思うぞ ヴィジュー: ……ヴィジューって呼んで ジューチャオ: なんかごめん、太陽仮面 人間さん: ヴィジューって呼んでやれよ ジューチャオ: ガナさんは何仮面? ガナ・イーシャ: あたしはガナ・イーシャ。仮面はないわよ! (背景切換...) (ふたりに連れられ、俺達はとある町にたどり着いた。 なかなかの賑わいを見せ、遠くには城のような建物も見える。 もしかすると、この世界の首都のような町なのかもしれない。) (ふたりの名前の印象、そして町の雰囲気から、やはりここがμ世界だと俺は察した。) 人間さん: (そしておそらく……あのへんの神話、かな……) ガナ・イーシャ: ここよ。入って (などと考えているうちに、どうやら目的地に着いたようだ。 町の目抜き通りからだいぶ入り組んだ裏路地にある小さな小屋。 周囲と比べると立派とは言い難いが、ぜいたくを言える身分ではない。) (背景切換...) ガナ・イーシャ: ここで仕事をしてもらうわ。細かいことは周りの人に教えてもらって ジューチャオ: うわあ、思ったよりたくさん人がいるね 人間さん: 新人の人間さんです。よろしくお願いします おじちゃん: おうおう、よろしくなぁ おばちゃん: お仕事はね、そんなに難しくないからね 女の子: ふわふわをくるくる~ってするの 人間さん: なるほど、綿花から糸を紡ぐのか ジューチャオ: ホコリをくるくるする仕事?お掃除かぁ ガナ・イーシャ: これ商品だから!ホコリとか絶対言っちゃだめなやつよ! ヴィジュー: 花の綿毛みたいなものなんだよ ジューチャオ: あ、タンポポなんだ 人間さん: タンポポではない (数名の男女が仲良く並んで糸を紡いでいる姿は牧歌的で、 なんだか心が安らぐ。しかし……。) 人間さん: (どういう事情があるにせよ、俺がこの世界に飛ばされたからには 何かトラブルが起きるのかもしれないな……) (まるで自分が疫病神のように思えて、少々暗澹たる気持ちになる。) ヴィジュー: ちゃんとご飯も用意するし、着替えもあるからね。 それにお仕事も、別にそこそこやってくれればいいから おじちゃん: ってヴィジューさんは言うんだけどね。 やっぱり命を救ってもらったら適当な仕事はできんのよなぁ ジューチャオ: わかる!やれ!って言われると嫌だけど、 こうやって優しくされると頑張ろうって気持ちになるよね ガナ・イーシャ: ま、あたしも利益はちょっと出ればいいかな、くらいに考えてるし。 いまは大々的に商売やるわけにもいかないからね 人間さん: いまは? ガナ・イーシャ: あー……そんなことより、とりあえずあんたは着替えたら? 人間さん: それもそうか……。じゃあ、悪いけど服を借りてもいいかな ヴィジュー: そこの突き当りを右に入ったところが更衣室だよー (俺は言われた通りに更衣室に向かい、扉を開けて――) (背景切換...) ???: きゃああああぁぁぁっ!? (目の前に、天国があった。) (張りのある豊かな膨らみ、引き締まったウェスト、健康的な太もも。 それらが絶妙に均整の取れたバランスで構成されている。) (そして、朱に染まった美しい顔立ちと、鮮やかな赤い髪。俺は目を奪われていた。) ???: な、な、何突っ立ってんのよ!出て行きなさい!! 人間さん: んがっ! (何かを投げつけられたのか、頭部に強い衝撃を受けたかと思うと そこで俺の意識は暗転した――) (背景切換...) 人間さん: んん…… (意識が戻ると、俺はベッドに横たわっていた。) ヴィジュー: あ、よかった~。気が付いたみたい! ジューチャオ: 死んじゃったかと思った ガナ・イーシャ: ちょっとは手加減しなさいよね。相手は信民なのよ、ジーヴァ ジーヴァ: 分かってるわよ。とっさに動いちゃったんだからしょうがないでしょ。 それよりこの男、普通は慌てて出ていくとか目を逸らすとか、するでしょ。 思いっきりじろじろ見てたんだから 人間さん: 見惚れちゃって…… ジューチャオ: おっぱいが大きいから? ジーヴァ: ば、バカじゃないの!?ヴィジュー、こんな男はいますぐ叩き出しなさい! ヴィジュー: そんなのひどいよー!着替えを覗いたからって野垂れ死になんて ジューチャオ: そっか……大きい方がいいのか……。あたし、膨らみは大きくないもんな……。 部分的に大きいところはあるけど…… 人間さん: 何を言い出してるんだ、やめろやめろ!そ、それより、あの、さっき信民って―― (俺が言いかけた、そのとき。) 全員: ――っ!? (けたたましい鐘の音が外から鳴り響いてきた。) 190006 - 「μ」という存在 (鳴り響く鐘が何らかの警報を担っていることは明らかだった。 町の人々は怯え、逃げ惑う。 その様子を横目に、俺達もまた避難経路を急いでいた。) 人間さん: この警報は? ガナ・イーシャ: 魔物よ。それも、衛兵じゃ対応しきれない強力なヤツ ジューチャオ: あれ?だったら…… (ジューチャオが言いたいことは分かる。俺も同じ疑問を持っていた。 少なくともヴィジューの、あの盗賊相手の立ち回りは μの持つ能力が活かされているのではないか。) ヴィジュー: ……っ (だがそのヴィジューも、何やら思うところはありそうな様子だが 唇を噛み締めて歩き続ける。) (どの程度の魔物なのか分からないが緊急事態だ。俺は思い切って3人に聞いた。) 人間さん: ……ヴィジューたちは、μじゃないのか? 3人: ………… (糸紡ぎの同僚たちがきょとんとしている中、3人は揃って俯いた。) ジーヴァ: …………違うわ 人間さん: そうか。いや、それならいいんだ ジューチャオ: えー!あたし勘違いしてた!μじゃないんだ! 信民: 助けてくれぇっ! (俺達の進行方向から、ひとりの信民が血相を変えて走って来る。 つまづき体勢を崩しかける彼をとっさに支えた。) 人間さん: 大丈夫か?何があった 信民: 避難所にも魔物が……っ ジーヴァ: なんですって!? ヴィジュー: そんな……! (そう、彼は俺達の進行方向から来た。 襲撃された避難所から危機を知らせるために町に急ぐところだったのだろう。) 人間さん: ……立てるか 信民: あ、ああ。すまない ジューチャオ: あたしが行く! 人間さん: あっ待て、ジューチャオ!? ジューチャオ: 待てないよ。だってこうしている間にも誰かが襲われてる。 じっちゃんが教えてくれた。信民あってのμなんだって ガナ・イーシャ: ……!? ジューチャオ: だから行く! 人間さん: 一人で行くのは危ないかもしれないだろ!くそっ、仕方ない! ジーヴァ: 人間さん!? (背景切換...) (避難所と思しき小屋の周辺を魔物が取り囲んでいる。 幸い、信民たちは立てこもって、なんとか人的被害は出ていないようだ。) ジューチャオ: よーし、あたしの炎でやっつける!いいよね? 人間さん: ああ。相手は魔物、信民じゃない。 それに……あの人たちを救えるのはジューチャオしかいないんだからな。 ただ、くれぐれも小屋に燃え移らないように加減しろよ (おそらくヴィジューたちは、μだ。俺の問いに対する反応からして、 μなのだが何らかの事情でμとして振る舞えないのではないか。 そもそも、彼女たちの名前からしてμとしか思えない。) (しかし3人がμとして動けないのなら、目の前の人々は一体誰が救うのか。) ジューチャオ: わかった!はあっ!! (気合一閃、周辺の魔物に炎の波が襲い掛かる。 包囲網の外側から不意打ちとはいえ、その一瞬で半数近くの魔物が霧と消えた。) ジューチャオ: まだまだ!燃やすときは全部燃やす! (魔物たちが異常に気付き身構える頃には、更に半数が消滅していた。 残りは当初の4分の1。既に勝負あった、と俺は確信する。) (もちろん未知のμ世界、何があるか分からないので、周辺に注意を払ってはいたが…… 予想通り、ほどなくして彼女はすべての魔物を殲滅した。) ジューチャオ: よしっ、やっつけた! 信民1: わあああっ!ありがとうございます!命の恩人です! (避難所の小屋から、立てこもっていた信民たちが一斉に飛び出す。) ジューチャオ: えっへん!すごいでしょ!かっこいいよね?ところで、あなたたちは誰? 信民2: すごいや!初めて見たけど、あなたもμなのっ? ジューチャオ: そうだよ!信民のために全力で戦うかっこいいμなんだから! (ふと見ると、ヴィジューたち3人は視線を合わせ、頷き合うと 連れて来ていた他の同僚たちを誘導し、そっと森の中に姿を消そうとしていた。) 人間さん: (……信民たちからの信頼は得たが、μがあんな状態なことには 何かしら事情があるはず。それも把握しないうちに別れるわけにはいかない…… そもそも生活もまだ確立していないし……) 人間さん: 皆さん、彼女はまだ次の人々を救うために、すぐに出発しなくてはいけません 信民3: おお、そうか……そうだよな……! 信民2: がんばってね! ジューチャオ: えっ、そうなの人間さん?よーし、やるぞ! 人間さん: まだ安全とは言い切れないので、皆さんは避難所から出ないように。それでは ジューチャオ: ちょ、ちょっと、人間さん。押さないでよっ (俺はジューチャオを追い立てるようにして、その場から立ち去るように促す。 そして避難所に戻る信民に手を振ると、森の木々の中へ身を隠した。) (背景切換...) ジューチャオ: なになに?次のあたしの活躍するとこはどこ? 人間さん: ヴィジュー!すまない、何か事情があるんだとは思う。 でも俺達も、多少魔物を倒せたからといって生活できるわけじゃないんだ。 どうか連れて行ってほしい ジーヴァ: ……っ、でも、あれはまずいのよ ヴィジュー: やっぱりジーヴァ、ヴィジューはここで見捨てちゃうのは反対だよ ガナ・イーシャ: 損切りのタイミングだと思ったんだけど…… ヴィジューがそういうなら、あたしはまあ、今回だけはいいかなって ジーヴァ: ……なら、約束して。今後、誰かの前で戦わないこと ジューチャオ: えー…… 人間さん: いや、わかった。まずはその条件を飲もう ガナ・イーシャ: なかなか気持ちのいい取引をしてくれるじゃん?なら、話は決まりだね (背景切換...) (そうして、また町に舞い戻る。ヴィジューたちは出発地よりも郊外の、 その代わり少し広い古びた家の扉に手をかけた。) (背景切換...) ジーヴァ: みんな、悪いけど……しばらく、こっちの拠点にいさせてちょうだい ???: あら、ジーヴァってば何か下手を打ったのかしら ジーヴァ: あたしじゃないわよ!その、色々あったのよ! ???: ふうん……? 190007 - 行方不明者 (次々に捜査員が出入りし、ものものしい雰囲気が漂う人間さんの自宅。 その居間で、ヴェルメリオは憔悴した様子でシングルソファに腰かけていた。) フアナ: ヴェル、大丈夫? ヴェルメリオ: ……フアナ (何か動きがあったと思ったのか、ヴェルメリオが素早く立ち上がる。 フアナはそれを宥めながら、優しく肩を抱く。) フアナ: 落ち着いて。人間さんくんは無事だよ。もちろん、他のみんなも ヴェルメリオ: ……わたしが一緒にいたのに、どうして フアナ: もう何度も聞かれたと思うけど、念のため聞かせて。 いないことに気が付いたのは朝なんだね ヴェルメリオ: ……朝ごはんの用意ができたから、起こしに行ったの。 そしたら人間さんがいなくて ヴェルメリオ: ……最初は、誰かの部屋にいると思ったの。 わたしが泊まりに来てるのにひどいってちょっと怒りながら…… オーディン: そ、その流れで……わたしたちも起き出してきて、だんだん状況が分かってきて テュポーン: いないの、人間さんだけじゃなかった ヴェルメリオ: ……それでも最初は朝の散歩にでも行ったと思ったの。 ドロシーかリルがいると走り込みに行くけど、散歩はひとりで行くことが多いから おかしいなとは思ったけど オーディン: で、でも……お昼近くなっても帰ってこないし、これは変だと思って ヴェルメリオ: ……そこでやっと、わたしがスホマにメッセージを送ったの。 あまりうるさく言うと重いって避けられるかもしれないから怖くて、 ぎりぎりまで送らなかった…… テュポーン: そしたら人間さんの『スホマ』?ってやつがへやにあった ヴェルメリオ: ……彼の部屋でメッセージを送ったの。そしたら、枕元でブブッって振動音がして…… フアナ: 散歩に行くのにスホマを置いていくのはおかしい、ってことだね。 確かに、あたしたちに比べても人間さんくんはスホマを常に持ち歩いてたし ヴェルメリオ: ……いよいよ居場所が分からなくなって、それで心配になって、 みんなのグループチャットで相談したの。 そしたら姐さんが、フアナに通報しようって フアナ: 現役コミッティの失踪事件だし、オーディンの世界に行ったときの前例もあるからね。 適切な判断だと思う オーディン: わたしたちの世界に来たときも、こちらではこんな騒ぎになっていたんですね 捜査員: 司令、本部から連絡が フアナ: わかった。じゃあヴェル、あまり気落ちしないようにね。 ヴェルが悪いわけじゃないんだから ヴェルメリオ: ……うん オーディン: ヴェルさん…… テュポーン: げんきだそ 雨依: 大変なことになったみたいね テュポーン: あ、ういだ。いつきたの? 雨依: ついさっきよ。 コミッティをうろうろしてたら噂が聞こえたから、気になって来ちゃった ヴェルメリオ: ……雨依、わたし 雨依: バカね。なんて顔してんのよ。こういうとき、地の果てまでおいかけていくのが ヴェルじゃないの?自称、妻なんでしょ? ヴェルメリオ: ……! 雨依: なによ ヴェルメリオ: ……そんなふうに励ましてくれると思わなかったから 雨依: え?私って、こういうときに追い討ちかけて傷つけるような子だと思われてた? 性格良くはないけど、そこまで腐ってもないからね ヴェルメリオ: ……ありがとう。そうだよね、わたしは妻なんだから。 あの人のこと信じて、ちゃんと待ってないと 雨依: 自称ね。自称、妻。客観的に見て、危ない奴よね オーディン: なんか雨依さんの励まし方って独特ですよね テュポーン: すなおじゃないんだって、人間さんが言ってた 雨依: 人間さん、そんなこと言ってたの? 私、彼の前ではわりと素直にしてるつもりなんだけど 雨依: って、そんなことどうでもいいわ。行くわよ、ヴェル ヴェルメリオ: ……え、行くってどこに 雨依: 人間さんを探しによ。 コミッティに任せきりになんてしてる場合じゃないでしょ。 ああいう大きな組織ってしがらみも多いし オーディン: で、でも、勝手なことをして怒られませんか? 雨依: だから、勝手なことをするな、って言われる前に動くのよ。 方針が決まったら動きづらくなるわ。チャンスはその前 オーディン: な、なんかすごくグレーな雰囲気ですけど、ど、どうします……? ヴェルメリオ: …… ヴェルメリオ: ……行こう。待ってるだけじゃだめだよね。だってわたし、妻だし 雨依: 自称ね 雨依: あんたたちも来るでしょ? オーディン: うっ……わ、わかりました。そうですね、人間さんだけじゃなく ジューチャオさんも、そしてクレアさんも……心配ですから テュポーン: うん、いこっ (こうして、てんやわんやの現場を抜け出し、彼女たちは独自に調査を開始したのだった。) (背景切換...) (吹き抜ける風に髪をなびかせながら、アイソーポスは目を細めた。 そこは一面に瓦礫が折り重なっている場所で、 彼女は足元に気を配りながら少しずつ歩みを進める。) アイソーポス: (深淵の闇とは何か……どのような計画なのか…… もし手がかりがあるとすれば、きっとここだ) (かつて存在した天空神殿が文字通り地に落ちた場所。 いまもまだ、再利用のめどが立たないまま、かつて神殿だったものが散らばっている。) アイソーポス: ん?あれは…… (目を止めたアイソーポスは、隙間に転がる傷ついた球体を手に取る。 それは映像スフィアのようだった。) アイソーポス: ……何が記録されているんだ 190008 - 始まった日常 (もうひとつの拠点だという場所で寝起きをするようになって、数日が経過していた。 俺もジューチャオも、そして同僚だった信民たちも、特に変わりはない。) (もともと、新拠点にも別の信民たちがいて、こちらでは織物を作っていた。 どうやら俺達の拠点で糸を紡ぎ、こちらで織物へ加工していたらしい。) ガナ・イーシャ: 糸として売る分もあるけどね。せっかく糸の在庫があるなら、 自分たちで付加価値を付けて売った方がお金になるってもんでしょ (というのは、ガナ・イーシャの意見だ。現代日本なら商売の基礎だが、 高等教育が用意されているわけでもないこのμ世界で 自ら突き詰めてその思考に至っているのは、なかなかのことだと思う。) (また、新拠点を管理していたヴィジューたちの仲間とも知り合った。 彼女たちはそれぞれ、スラワーティー、ラシュミ、ブラーマという。 その名前からしても、やはりμなのではと思うのだが……。) ラシュミ: 持って来たよ。これでいいのかい? ジューチャオ: あっ、向こうにあったホコ……綿毛をねりねりする道具 ヴィジュー: 糸を紡ぐっていうんだよ ガナ・イーシャ: 助かったわ、ラシュミ。あたしたちは迂闊に向こうに行けないからね ジューチャオ: う……ごめんね。あたしがなんか失敗したからだよね ヴィジュー: いいんだよ、済んだことなんだから。 そのうち、ほとぼりが冷めたらなんてことないと思うし (詳しい事情までは話してくれなかったが、 どうやらヴィジューたちはその身を隠して過ごしているらしい。) (そのため、ジューチャオの魔物討伐はあまりに目立ちすぎたのだという。 その事情は知らなかったし、そもそも信民を救う手立ては他になかったので ジューチャオが責められる筋はないし、実際に誰も何も言わなかったが……) (こうして全員で移動し、面の割れていないラシュミたちが道具を取りに行ったり、 周辺の様子を探ったりしているのだった。) ラシュミ: 特に怪しい動きはなかったね。実際、ジューチャオは目立ってしまったけど ジーヴァたちとの繋がりまではバレていないんだろう? ジーヴァ: そのはずよ。ま、念には念を入れて、ってところね ガナ・イーシャ: 大丈夫そうなら、そろそろみんなが作った商品をお金に換えてくるかな スラワーティー: 蓄えはありますけど、早めに換金しておくに越したことはありませんものね ブラーマ: でも……ずっとこんな生活を続けていくつもり? (ふいに、ブラーマが漏らした言葉に、ヴィジューたちの空気が凍り付く。 俺や信民たちは事情が分からないので、きょとんとして顔を見合わせる。) (このブラーマは、あまり共同生活に乗り気でないのかもしれない。 実際、数日一緒にいてもあまり協力的には見えず、 我が道を行くという印象があった。) ジーヴァ: じゃあどうしろっていうわけ? ブラーマ: どうしろ、なんて言ってないわ。続けるのか、聞いただけでしょ ジーヴァ: またそうやって屁理屈を言って ブラーマ: 聞いただけなのに過剰に反応するあたり、ジーヴァも迷いがあるんでしょ。 このままでいいのか、って ジーヴァ: あたしは別に……! ヴィジュー: もう~!またふたりともケンカするー! 落ち着いて。小さい子もいるんだから怖がらせちゃうでしょ (作業に従事する信民は老若男女の偏りがなく、子どもも混じっていた。 合間に交わした雑談からすると、みんな魔物に襲われたり、 あるいは路頭に迷っているところをヴィジューが助け、連れ帰ってくれたらしい。) ヴィジュー: ほら見て。震えてるし!ふたりとも見た目怖いんだから、 もっと優しくにこにこしてなきゃだめっ ジーヴァ: えっ、あたしって怖い!? 人間さん: いきなり気絶させられたしなぁ ジーヴァ: あんたは、ややこしくなるから黙ってなさいよ ブラーマ: ワタシも心外だわ。ねえ、君。お姉さんのこと怖い? 少年: うぅ……どきどきするぅ…… ブラーマ: ほら、怖がってなんか…… ブラーマ: ……でも、確かに震えてるし汗もすごいわね。 ワタシの色気に興奮してるわけでもなさそうだけど…… ラシュミ: まだ子どもとは言え男の子なんだ。物理的に確かめてみればいいんじゃないかい? さあ、ちょっと脱がせてみよう スラワーティー: ラシュミさま、何を仰ってるんですの ブラーマ: ねえ、この子……もしかして熱を出してるんじゃないの? ヴィジュー: ええっ!?そうなの? 少年: わかんない……今朝からどきどきしてて、身体が熱くて…… ラシュミ: やはり興奮してるんじゃないのかな? 少年: 汗がたくさん出て、でもゾクゾクする感じで寒くて、あと関節が痛くて、 喉が腫れて声が出しづらいんだ 人間さん: いや熱出てるんだよそれは! ヴィジュー: た、大変だっ、どうしようっ。大変だっ! 190009 - μ?たちの事情 ヴィジュー: わわわ、わわわ、わわわわー!どうしよう、どうしよう。 熱なんか出たら死んじゃうかも! 少年: ぼく……死んじゃうのか…… スラワーティー: 落ち着いてくださいまし、ヴィジューさま。 わたくしたちが慌てると、この子も不安になりますわ ヴィジュー: あうっ……そ、そうだよね ジーヴァ: ラシュミ、ちょっと薬を買いに行ける? ラシュミ: もちろんだよ。けど、どんな薬を買えばいいのかな? ジューチャオ: なんかこう、元気になる薬じゃないかな? ラシュミ: 元気になる……ああ、なるほど。それなら心当たりがあるよ。行ってくる 人間さん: 今の超アバウトな助言が役に立ったのか……? ガナ・イーシャ: 待って待って。絶対ラシュミは別の薬を買ってくる気がするから一旦、 スラワーティーの話を聞いて スラワーティー: お熱以外には……喉はどうですか?お鼻は? (優しく少年に症状を確認しながら、さらさらとメモを取るスラワーティー。 そして完成したのか、それをラシュミに手渡した。) スラワーティー: これ以外のお薬は買ってきちゃだめですよ ラシュミ: ああ、わかったよ スラワーティー: 温かくしましょう。汗はかくでしょうが、その方が早く元気になりますからね 少年: そうなの……? ラシュミ: ああ、そうだよ。身体から汁が出るのは元気な証拠なんだ。 ん?でもいまは、元気になるために汁を出せという話だね。 私が知っているのは、元気だから汁が ジーヴァ: もういいから!あんたはさっさと薬を買ってきなさいよ! (背景切換...) (その後、ラシュミが買ってきた薬が効いたのか、少年の症状も少し落ち着きを見せ、 いまはゆっくり休んでいる。) おじちゃん: いやあ昼間はびっくりしたねえ 人間さん: やっぱり情に厚いんだよなぁ…… おばちゃん: ここの人たちのことかい?本当にいい人たちだよねぇ 人間さん: (でも……どういう事情があるのかは、やっぱり気になるな。 もしかしたらペローやキャロルが何か関係しているかもしれない) (込み入った事情を聞くには誰がいいだろうか。 同僚たちと談笑していた部屋を出ようとしたところで――) ジューチャオ: あれ、人間さん 人間さん: ん?出かけるのか? ジューチャオ: なんかヴィーに呼ばれて 人間さん: (なんだかんだ交流を持てているみたいでよかった。 ジューチャオはコミュ力も高いし引き続き仲良くしてもらおう) 人間さん: そうか、楽しんでくるといい ジューチャオ: うん! (背景切換...) ジューチャオ: おまたせ ヴィジュー: あ、来てくれたんだ。よかったー! ジューチャオ: もちろん来るよ。忘れてると思ったんでしょ。 あたし、そんなに毎回忘れるわけじゃないんだから。それで、大事な用って何? ヴィジュー: 実はね……ジューチャオにみんながあんなこと言った後なんだけどさ、 やっぱり信み……町の人たちのことは守りたいんだ ジューチャオ: もしかして『太陽仮面』になるってこと? ヴィジュー: うん。それがヴィーの責任だと思うんだ ジューチャオ: 魔物が出たの? ヴィジュー: 今夜はすごく静かだよ。だけど何があるか分からないから見回りに出かけるの ヴィジュー: それで……あなたはすごく強い力を持ってるでしょ。 たぶん、ジューチャオも人間さんも、 どこか遠い世界のμなんじゃないかなって ジューチャオ: わかるんだ。すごーい! 人間さんは違ったような気がするけど、あれ?μだったかも ヴィジュー: やっぱりね。だから、その力を見込んで…… あなたにも、一緒に見回りに来て欲しいと思って ジューチャオ: お安い御用だよ! (背景切換...) ブラーマ: もういいって ジーヴァ: なんなのよ、その言い方 ガナ・イーシャ: あーあ、また始まった (廊下に聞こえてきた声を辿ると、部屋にジーヴァたちμが集まっていた。 さっきジューチャオが呼び出されたと言っていたが、そちらに行ったのだろう、 ヴィジューの姿だけはない。) ジーヴァ: 別にあんたにも考えがあるのはいいわよ。 でも、もう少し協力してもいいんじゃないの? ブラーマ: 糸を売り歩いて、解決するなら喜んでやるわ ジーヴァ: 仕方ないじゃない。あたしたちはもう、μとは呼べな…… 人間さん: あ、ごめん……廊下まで声が聞こえてたから…… (扉を開けた瞬間、全員の視線が俺に注がれる。) スラワーティー: おふたりとも、声が大きすぎるのですわ ブラーマ: ジーヴァがね 人間さん: いや、両方 ブラーマ: …… 人間さん: なあ、それより……何があったか聞かせてくれないか。きっと何か力になれる ジーヴァ: 覗き魔に何ができるっていうのよ 人間さん: (根に持たれてる……) 人間さん: もう気づいているだろうけど、ジューチャオはこことは違う世界のμだ。 俺もμではないけど、エルマイトという力を豊富に持っている。だから―― ブラーマ: エルマイト……? ラシュミ: それは確か 人間さん: え? ガナ・イーシャ: あいつが言ってたわね……『エルマイトを持たないあなた達には何もできない』って 人間さん: 何だ、それ……誰に言われたんだ (それぞれが顔を見合わせ、意思確認をする。 そして覚悟を決めたように、ジーヴァが溜息をついた。) ジーヴァ: そう、あたしたちはμよ。けど、ある日突然、何かがおかしくなった―― (背景切換...) ???: くすくすっ……♪ ジーヴァ: なんなのよ、あんた!いつからそこに ???: 力が使えないんですよね?ふふっ、残念でした。 あなたたちの力はもう何の意味もなくなってしまったんですよ ???: 今日から、あなたたちの代わりにμとなる子たちです。 ああ、引継ぎとかはいらないですよ。わたくしで勝手にやりますから ジーヴァ: 何をふざけたこと言ってるのよ! つまり、これはあんたの仕業ね。いますぐ元に戻しなさい! ???: ふうん?力を失ったと自覚しているのに? よくそれで、わたくしに指図なんてできますね。 あまり可愛らしい声で鳴かれると、食べ散らかしてしまいますわよ? ガナ・イーシャ: なんなのよ、あんた。何が狙いなの ???: もはや関係のないことですわ。 エルマイトを持たないあなた達には何もできませんもの。 創造の聖母がそう望んだのですから (背景切換...) 人間さん: え……ま、待ってくれ、創造の聖母、だと!? 190010 - あなたに伝えたい言葉 人間さん: 確かにそいつは『創造の聖母』と言ったんだな……!? ガナ・イーシャ: 聞き慣れない言葉だったけど、妙に印象的だったからね。間違いないわ ジーヴァ: ……人間さん、何か知ってるのね 人間さん: ああ……そいつは、俺と仲間達とで倒したはずなんだ。 でも、そんなことが起きているということは…… (どうしてジーヴァたちがμの力を失ったのか、そのからくりはまだ分からない。 だが、これまでの世界で、世界の理を書き変えようとした聖母の行動を思い起こせば、 繋がっていることは想像できる。) 人間さん: ……その、謎の女の素性は分からないが、言い方からして聖母の手下なんだろう スラワーティー: まさか、偶然出会った人間さんさまと、こんな形で繋がりがあっただなんて…… びっくりですわ (偶然とは言い切れないだろう。俺がこのμ世界に足を踏み入れたのは おそらく誰かの意図が働いているはずだ。 もちろん、ヴィジューに見つけてもらえたのは偶然だろうが……。) 人間さん: では、やはりジーヴァたちはμなんだよな? ジーヴァ: 正確には、μ『だった』のよ 人間さん: (聖母の手先が現れ、力を奪い、傀儡となるμに置き換える…… ジューチャオがいた世界とはまた別の形で、乗っ取り支配しようとしているのか) 人間さん: (しかも、エルマイトを持たないから無力、というからにはおそらく、その女、 或いは傀儡のμが力の源としているのは……) 人間さん: ディマイト、か…… (背景切換...) ???: はぁ…… (彼女は、用意された椅子に深々と腰かけ、大きなため息をついた。) ???: ため息をつくと幸せが逃げる、なんて誰かが言ってたっけ……。あんなの迷信だね。 じゃなきゃとっくに幸福がゼロになって私は死んでると思うし (指先を宙に泳がせる。それは何らかの図を描いているようだった。) ???: ライブラが深淵の闇計画を作って、ペローがそれに乗って、 だからここは一応、協力関係で…… ???: で、ここに聖母がいるんだよね。 たぶんだけど、聖母は昔のアレだからたぶんいろいろ…… 計画っていうより、わりと感情…… ???: それをコミッティの人たちがどうのこうので…… そもそもGRなんて十二神官の犠牲の上に……ん、あれ? ???: GR2も結局、神官の犠牲を流用してるんだっけ。 でもオトギノクニのいまの根幹ってGR2なわけでしょ。 ってことは、えーと ???: あー、めんどくさいな。ややこしいよ。 善と悪の戦いなんて、分かりやすい構図は現実には存在しないよね ???: 誰なんだよ、善とか悪とかで偉そうにいろいろ書いたのは ???: って、私かそれ。フヒッ…… (自嘲だけが、部屋に響く。 やがて彼女は、ふと何か思い当たったように身体を起こした。) ???: そういえば人間さんって、どんな人なんだろう……。 ペローたちから聞いた話とか、集めた情報を盗み見た感じだと、なんかこう…… ???: ちょっと……カッコいいよね……。救世主っぽい感じする…… 着替えを覗くような下世話な男とは、なんか違うっていうか…… (彼女はデスクにあったペンと便箋を取り出した。) ???: 手紙、書いてみようかな。このまま監禁されていても、たぶん私は死ぬし…… ???: 利用価値が無くなったら、私はきっと消される。いろいろ知りすぎているから ???: だったら、その前に……助けを呼ばないと (ペンにインクをつけると、さらさらと走らせていく。) ???: 世界はまさに混迷を極めている。 これを打破するには強い決意と覚悟、そして知識が伴わねばならない。 すなわち、貴殿の覚悟に対し私の知識は剣となり、盾となって―― ???: ………… ???: 違うかな……偉そうで嫌われそう……。 こんなの送られてきたら、ふざけるな、って破り捨てちゃうか…… ???: もっと下からいこうか ???: どうか助けてください。私のような無力で頭でっかちの無能でも きっとあなた様のお役に立ちます。好きなように利用してくださいませ。 都合のいい性欲処理係でも構いませんから―― ???: まってまって。おかしい。これはこれで気持ち悪いよね。破り捨てられちゃう ???: 適度なバランス……助けたいと思ってもらうには……あ、そうか ???: 私は、ずっとここに囚われています。おそらく、長くはないでしょう。 彼女たちは利用価値を見出せなくなれば、邪魔な私を必ず切り捨てる ???: でもきっとあなたなら、私を救いだしてくれると信じています。 そんな予感がするのです ???: 会ったこともないのにおかしいと思いますか? でも人の気持ちというのは顔を合わせることがなくても、むしろ合わせない時こそ育っていくもの。私をどうか迎えに来ていただけませんか ???: 寝ても覚めても、あなたのことばかり考えています。 あなたのことを思う度に身を焦がしているのです。 この感情になんと名前を付ければいいのでしょうか ニーチェ: あなたに会える日を夢見て。フリードリーケ・ニーチェ 190011 - アディションの後遺症 エミリー: やっほー。元気ぃ? ティンカー・ベル: んー、昨日よりはマシかな! エミリー: なんかティンカがベッドに寝たままって、すっごい違和感あるねぇ ティンカー・ベル: 踊ってなんぼだからね エミリー: そんなことは思ったことないけど。あ、お花換えるねぇ ティンカー・ベル: エミリーがティンカの代わりに、うぇいうぇいやってよ エミリー: お断りでぇす ティンカー・ベル: えー。入院生活が暇すぎてティンカもう限界なんだけど。楽しませてよ エミリー: じゃあ昨日声かけたイケメンの話するぅ? ティンカー・ベル: それどんな感情で聞けばいいわけ? エミリー: ……早くさ、ティンカと一緒にお出かけしたいなぁ ティンカー・ベル: イケメンは別に興味ないよ エミリー: またまたぁ。好きなくせにぃ。 でもま、病み上がりならお買い物とかごはんが無難かなぁ ティンカー・ベル: そうしとこ。病み上がりっていっても病気じゃないけどね。 μ世界から帰ってきた人はみんな、一回ぐったりしちゃうからさ エミリー: うん…… ティンカー・ベル: ずきんもピュルテも、あの三つ編みだって休養期間が必要だったんだもん。 しょうがないよね エミリー: けど……長すぎるよぅ。やっぱりエルマイトの供給が十分じゃないから…… ティンカー・ベル: ネコもね、ティンカよりいた期間が長かったし、大変なんじゃない? エミリーから見てどう? エミリー: いまのところリルも元気だし、たぶんティンカと同じ感じ ティンカー・ベル: ん、そっか。ティンカも会って話してて、そうかなとは思ってたけど ネコは無理するところあるじゃん? エミリー: だね。それ差し引いても、とりあえず大丈夫だと思うよぅ ティンカー・ベル: ……人間さんは?この流れで聞くのもアレだけど エミリー: …… エミリー: 元気にしてるよぅ。でもなんか、いろいろ忙しいみたい ティンカー・ベル: そっかー。まあ、そうだよね。エルマイト、世界的に足りないんでしょ? 人間さんもいろいろ求められることが多そうだもんね エミリー: だねぇ。モテる男は辛いってやつぅ? ティンカー・ベル: 大丈夫なのかなぁ、オトギノクニは……ティンカは心配だよ エミリー: 心配性になるのはおばさんの証拠だよぅ ティンカー・ベル: なにおう! エミリー: あはは、それくらい勢いがなくちゃ、ティンカらしくないからねぇ ティンカー・ベル: いやあ、なーんかずっとベッドに転がってるとネガティブになっちゃうの。 歯がゆいっていうかさぁ ティンカー・ベル: もし……いま、例えばめっちゃ強い魔物とか出てきてもさ、 ティンカは戦えないわけじゃん。ここで見てるだけ ティンカー・ベル: そういうの考えるとむずむずするんだよね。 ティンカ、ヤバいじゃん!どうすんの、って エミリー: どうもしなくていいの。ティンカは自分の身体を元気にすることだけ考えてて。 ティンカとリルが弱ってても、他のみんながいるでしょ エミリー: 仲間のこと、信じなくちゃ ティンカー・ベル: ん……そうだね エミリー: じゃ、エミリーはそろそろ行くねぇ。リルの顔も見ていきたいし ティンカー・ベル: はいよ。みんなによろしく伝えといて。 人間さんにも……すっごい高い果物とか待ってるからって エミリー: …… エミリー: はぁい♪伝えとくねぇ ティンカー・ベル: …… (背景切換...) リル: ああ、エミリー殿か エミリー: あ、やっぱりピュルテ来てた?お花、エミリーは買ってこなくて正解だねぇ リル: そりゃあ花の妖精だからな。病室の花はこまめに世話してくれるだろう エミリー: それもそっか。どう、調子は リル: まあまあ、だな。ただ…… エミリー: ただ? リル: なんだか胸騒ぎがするんだ エミリー: 人間さんのことを考えると? リル: ばっ……バカを言うな! 小生がなんであの男のことを考えて胸騒ぎなんか……胸焼けの間違いだろう! エミリー: じゃあなぁに? リル: 分からない……これはただの小生のカンにすぎない。 だが、何か良くないことが起きようとしている―― いや、もう起きているのかもしれない。そんな予感がするんだ エミリー: イマジュマイト供給量は減ってるんだって。それかなぁ リル: 小生やティンカ殿の治療が思うように進んでいないのも、 それが原因だと医師から聞いた。 確かにそれも、間接的な不安につながっているとは思う リル: だが……もっと重大なことが起きているんじゃないか、などと考えてしまうんだ エミリー: ……もし何かあってもリルは休んでなきゃだめだよぅ? リル: 分かっている。いまの小生は足手まといにしかなるまい。もどかしいが、な…… 190012 - 大事なことは自分で トリル: ――以上のように、イマジュマイト供給量には明確に変化が起きています。 タイミングとしては、ここ最近の出来事ですが ヴィルヘルミナ: 15%以上の減少は過去に一例しかないわね シンデレラ: グランド・リヴィジョン……ライブラが完成させたときね? クラース: あれはライブラ、というか天空神殿が供給過程でプールしていたのよね? でも今回はまだ原因が分かってない…… ジャコヴァ: うんうん シェイクスピア: GR2完成直後なら、何らかの不備があった可能性も否めないけど、 しばらく時間も経っているし…… ジョカ: 何らかの外的要因があったと考えるべきか ドロシー: でも人間界で何かあった可能性もあるかもしれないわよ ラヴクラフト: でも調べようがないもんね。あたしたちができるのは、 GR2の術式に本当に問題がないかくぱぁして確認することくらいでしょ シェイクスピア: 術式の調査は既に進めているわ。いまのところ異常は見つかっていないけど ラヴクラフト: もう、くぱぁしてるんだ シェイクスピア: ま、まあ……あなたの表現に合わせるなら、そういうことになるわ ヴィルヘルミナ: ひとまずイマジュマイトの運用計画は早急に見直しをかけるとして、 原因調査は進めてちょうだい。 人間界に原因があるにせよ、術式の調査で分かるでしょう? シェイクスピア: ええ。流入量に変化があればすぐに分かるわ。 それに、出力側も動きがあればすぐ分かるから…… フアナ: じゃあ、例えば誰かが忍び込んで盗んだりしても シェイクスピア: もちろん分かるわ。ただ、術式に干渉することになるから、 かなりの高度な技術が必要になるけど ドロシー: そう言えば……フックはまだ体調が戻ってないとして、エミリーは? ヴィルヘルミナ: μ世界から来た子たちのお見舞いに行っているわ。 あのあたりは道が混むから遅れているのかもね シンデレラ: そう……ティンカちゃんもリルもまだ完全には回復してないのよね。 私達もあとでお見舞いに行きましょう ドロシー: そうね!妖精さんの元気がないなんて調子狂うわ シンデレラ: ただ……人間さんが行方不明になったことは、まだ言わない方がいいわ ドロシー: うん。回復が遅れても良くないし、場合によっては治ってないのに 無理して探そうとするかもしれないものね ジャコヴァ: そっちは動きはまだないんだな フアナ: うん……何らかの魔法干渉があったのは間違いないんだけど、 詳しいことは調査中なんだ ジョカ: 今回のイマジュマイト不足とは関係ないのか? シェイクスピア: 影響がゼロとは言えないけど、そもそも人間さんから直接、 コミッティの施設にエルマイトを徴収したことはないから 別問題だと思ってもらっていいわ シンデレラ: でも人為的な干渉があった…… つまり、人間さんはさらわれた可能性が高いのよね……一体、誰が…… ドロシー: ……犯人を見つけ出してぶっ飛ばしてやらなきゃ ヴィルヘルミナ: 勝手な行動は慎んでちょうだい。 人間さん個人を狙ったのか、コミッティを狙ったのかもまだ分からないし フアナ: みんなの警備も当面は強化するから ヴィルヘルミナ: フェルディナとシャルロッテからの報告が途絶えているのも気がかりだわ。 あんな子たちでもグリム家の一員だし。 仕事を忘れて遊び歩いてるならいいんだけど…… (背景切換...) レオナ: しかし……人間さんくんが行方不明とはね パラケルスス: コミッティが何らかの決定を下す前に動こうってわけか。 なかなか大胆だね。嫌いじゃないよ 雨依: それで、レオナたちにはこの人間さんの家に、 何か手がかりがないか見てほしいの パラケルスス: それこそ特務機関の捜査班が調査してるんじゃないのかい ヴェルメリオ: ……それで分かったところで、わたしたちには何も教えてくれない レオナ: 自分たちの手で見つけ出したい? テュポーン: それがいいって、ういが 雨依: コミッティも特務機関も信用してないわけじゃないわ。 でも……大事な人のことだから。誰かに任せっぱなしにしておいて 後悔するようなことになったら、ね ヴェルメリオ: ……それに特務機関は他にもいろんな仕事がある。 わたしたちは人間さんにだけ集中もできるし レオナ: ん、いいじゃん。実際、組織の理論は置いとくとして、正しい判断って気がするよ。 じゃあ、ちょっと調べてみよっか (背景切換...) 雨依: 偉そうなこと言ったけど、結局こういう魔法系の調査って レオナやパラケルススの手を借りなきゃいけないんだけどね ヴェルメリオ: ……人間さんが言ってた。助けてくれる人がいるかどうか、 どんな人が助けてくれるか、っていうのもその人の能力だって 雨依: へえ……あの人、そんなこと言うんだ レオナ: お待たせ、みんな テュポーン: どうだった? パラケルスス: 結論から言おう。寝室に何らかの魔法干渉があった痕跡があった。 具体的に、魔法陣があったと思しきものも見つけたよ 雨依: 魔法陣?じゃあ、やっぱり…… レオナ: ただ、これまで見てきたμ世界へ行くための魔法陣とは違うのよ ヴェルメリオ: ……じゃあ、何の魔法? パラケルスス: ごくシンプルな、ぼくらがよく知るものだった レオナ: 単なる転移魔法、だね 190013 - 自分にできること ジーヴァ: あんた……『創造の聖母』のこと、知ってるの? 人間さん: ああ……どこから説明すればいいかな。ずっと戦ってきた相手なんだ (創造の聖母という、おそらくは共通の敵を持っていると分かった以上、 こちらも情報は伝えるべきだろう。俺は事のあらましをかいつまんで説明した。) (俺がオトギノクニという世界から来たこと、こことは違うμの世界があること、 それらを俺が渡り歩いてきたこと、 そして世界を乗っ取ろうと創造の聖母が画策していたこと――) ジーヴァ: …… スラワーティー: そんなことが起きていたのですね…… (にわかに信じがたい話だろうし、実際に彼女たちは まだどこか半信半疑といった様子で俺の話に耳を傾けていた。 そんな中、スラワーティーが口火を切った。) スラワーティー: 驚きました。 でも、わたくし達が経験していることと、ぴったり当てはまると思うのです ブラーマ: 確かに、筋は通ってる ガナ・イーシャ: 人間さんのことをずっと見てたけど、嘘を言っているようにも見えなかったわ。 悪くても、たぶんひどい妄想にとらわれてるとか 人間さん: こんな細かい設定の妄想、中二病すぎるだろ…… どこぞのアケローン川の死神じゃあるまいし ラシュミ: 何の話だ? 人間さん: いや、こっちの話 ジーヴァ: 人間さんの言っていることが本当だとして、あたしたちはどうすればいいのかしら ガナ・イーシャ: 大きくは変わらないんじゃない?変なやつらから、本来の立場を取り返すっていうか ラシュミ: そうだな。信民のことも魔物からきっちり守っているとは言い難い。 あの偽物たちを放置してはおけないな スラワーティー: そうですね。人知れず太陽仮面としてヴィーさまが…… あら?そう言えば姿が見えませんけど 人間さん: ああ、ヴィジューならジューチャオと待ち合わせて―― (そのとき、突然爆音が響く。全員が顔色を変え、互いに見合う。) ジーヴァ: 外からよ!行きましょう! (背景切換...) (少し時は遡って、人間さんが事情を説明し始めた頃―― ヴィジューとジューチャオは並んで町を巡回していた。) ジューチャオ: ね、ヴィジューはさ ヴィジュー: なーに? ジューチャオ: 何でμなのに隠れて過ごしてるの? ヴィジュー: !? ヴィジュー: な、なんでヴィーがμだってこと…… ジューチャオ: え?あれ?人間さんが絶対そうだと思うって言ってたよ。 でも時期が来るまでは、黙って様子を見ようって ヴィジュー: ……来たの?時期 ジューチャオ: え?どういうこと? ヴィジュー: 人間さんに口止めされてたんじゃないの?ヴィーたちがμだってこと ジューチャオ: んん?口止めってないしょってことだよね? 黙って様子を見ようとしか言われてないから、大丈夫じゃない? ヴィジュー: たぶんダメな気がするけど…… ヴィジュー: まあでも、いっか。ヴィーなんて太陽仮面とかいって、 残った力を使いまくってるし、隠し通せるわけないよね ジューチャオ: んー?わかんないけど、きっとそうだよ ヴィジュー: そう。ヴィーたちはμなの。ただし力を失っちゃったんだ。 あの変なやつに奪われて…… ジューチャオ: そうだったんだね…… ヴィジュー: 奪われたっていっても全部ってわけじゃない。 信民のみんなよりは戦える。だからヴィーはこうして巡回してるの。 いまの自分にできることはやらないと、きっと後悔するから ジューチャオ: …… ヴィジュー: ブラーマはあんまり、いい顔しないけどね。 まあ、しょうがない。あいつらに居場所がバレる危険があるのは事実だし ジューチャオ: ヴィーはすごいと思うよ! ヴィジュー: えへへ、ありがとう! 信民: うわあああぁぁ! ヴィジュー: !! ヴィジュー: 大変だ、ジューチャオあれ見て! ジューチャオ: おじさんだ! ヴィジュー: そう、その人のことを襲ってるの、あれ……魔物だよ!急ごう! ジューチャオ: あいつをぶっ飛ばすんだね!了解! (背景切換...) (町並みが途切れたあたりから火の手が上がる。 間違いない、あれはジューチャオの炎だろう。 一瞬燃え上がってすぐに炎は消えた。火災ならそうはならない。) ブラーマ: また派手にやってるわね ジーヴァ: ヴィジューのやつっ、あれほど静かに活動しろって言っといたのに! (俺達は火の手が上がったほうへと急ぐ。やがて町を出たところで――) (背景切換...) ジューチャオ: くううっ……!何こいつ、強くない!? ヴィジュー: 弱まったとはいえ、魔物にここまでヴィーの力が通用しないなんて…… ジーヴァ: ちょっと!あんたたち、何やってんのよ! 信民: ああ……すみません、私を助けるためにおふたりが…… ガナ・イーシャ: まったくもう。高くつくからね 信民: あっ、有料……? スラワーティー: 言葉のあやですわ。お気になさらず ジーヴァ: なんなの、こいつ……ヴィジューがまったく相手にならないなんて…… 人間さん: (ジューチャオもヴィジューもμだ…… まさかこの魔物は、ディマイトで動いているのか……?) 190014 - ヘッドハンティング ヴィジュー: みんな……! (俺達が近づいたことを察してヴィジューが振り返る。 その表情には希望が灯っていて、 裏を返せばいかにこの魔物を相手に苦戦していたかが窺えた。) (しかし、それは同時に集中力の欠如、気の緩みを招いて――) ジューチャオ: ヴィー!危ない!! (敵を挟んで対角にいたジューチャオが声を上げる。) ヴィジュー: !! (魔物がヴィジューに向かって攻撃態勢に入っていた。 きっとジーヴァたちは息を飲んだに違いない。) (何故、推量で表現するのかというと―― 俺はその時点で、ヴィジューに向かって駆け出していたからだ。) 人間さん: ヴィジュー!伏せろ!! 人間さん: ぐううっ……!! (抜き放った剣で敵の攻撃を受け流そうとする。 が、とっさのことでもあり、圧力をすべて逸らすことはできず、 俺の身体は弾き飛ばされ、地面に打ち付けられる。) ヴィジュー: 人間さんっ……!? (だが、ヴィジューは無事だ。 ジューチャオが叫ぶと同時に動いていたおかげで、なんとか間に合った。) ジューチャオ: 人間さんっ、大丈夫!? 人間さん: ああ、なんとか…… (ジューチャオ、そしてヴィジューが駆け寄る。) ヴィジュー: ありがとう!助かったよ スラワーティー: 皆さん、無事ですか……! (あとからジーヴァたちも俺に追いついたようだ。 俺は身体を起こし、こちらを睨む魔物を見据える。) 人間さん: こいつはディマイト……オトギノクニ由来のエネルギーで動いてる。 だからμの力では対抗しきれないんだ 人間さん: (以前、ピュルテたちが来たとき、μと共鳴するまでは力が通用しなかったと聞いた…… あの逆が、いま起きているようなものだな) 人間さん: 問題は……こんな魔物がμ世界にいるはずがない。誰が背後にいるか、だが…… ???: へえ……なかなか、あなたも身体を張るんですね。 てっきり女の子に守ってもらうだけの優男かと思っていました ジーヴァ: ……っ、あんたは!! ロート: あんただなんて。ロートっていう、可愛らしい名前があるんですよ ブラーマ: …… ガナ・イーシャ: のこのこ、あたしたちの前に出てくるなんて、どういうつもり?倒されにきたわけ? ロート: 倒す自信があるんですか?まず、この子たちにも勝てないのに? ラシュミ: この子、『たち』……? (夜の闇に紛れていたのか、ぬっと数体の魔物が姿を現す。) (なるほど、確かにディマイト由来というハンデはあったが、 ジューチャオもヴィジューもその戦いぶりは俺も目の当たりにしている。 ここまで手も足も出ないことに違和感はあったが、最初から魔物は複数体いたのか。) ジューチャオ: くっ……こいつら、すごく強いから!みんな気を付けて! ロート: 勘違いしないでください。わたくしはお話をしに来ただけです ジーヴァ: お話ですって!?いきなり好き勝手しておいて、話し合う余地なんか ロート: あなた方ではありません ジーヴァ: ――っ!? (ロートと名乗った少女は、微笑みを浮かべながら俺に歩み寄る。 そして、顔を覗き込むような上目遣いで語りかけてきた。) ロート: 人間さん。実は、あなたと戦う理由はないんです。 むしろ、その力をこちらは必要としているくらい…… (ロートは俺の手をとり、そして指を絡めてくる。 細く華奢な指が、手のひらの表面をすーっとなぞった。 単に手を握っているだけ――なのにひどく、性的に感じられる。) ロート: しばらく様子を見させてもらうことになりますが…… 信頼に値すると確信すれば、あなたは筆頭幹部のポストが用意されるでしょう ロート: いくつかある世界のひとつはあなたの思うがまま。 望む通りの世界になります。富も名誉も、そしてあらゆる欲望も…… (既にロートと俺の間に距離はなかった。 密着し、とった腕を自らの腰に回させ、妖艶に微笑む。) ロート: よかったらわたくしも、おそばに置いてください。 こう見えて意外と……満足させる自信はあるんですよ? 人間さん: …… ジューチャオ: え、なんで黙ってんの。人間さん……? ジーヴァ: ちょっとあんた……? 人間さん: 悪いな (俺はロートに向かってきっぱり言うと、その肩をつかんで引き離す。) 人間さん: お前の背後にいるのは創造の聖母だろう? どんな待遇だろうと、俺は聖母と手を組むつもりはない。断じて ロート: ……っ ガナ・イーシャ: おっ……一瞬焦ったけど、きっぱり断ったね 人間さん: (出会ったばかりのジーヴァたちはともかく ジューチャオはもうちょい俺のこと信じてほしいぞ……) 人間さん: 聖母に伝えてくれ。俺は必ずお前を完全に倒す、って ロート: ……そうですか 190015 - 力を奪われたμ (ディマイトをエネルギー源として活動する魔物に、 μたちは力の種類の違いから苦戦を強いられていた。 そして、その魔物を率いて姿を見せたのはロートと名乗る少女――) (彼女の、聖母側につかないかという誘いを俺がきっぱり断ると、 明らかに不機嫌な様子で俺を見据えた。) ロート: ずいぶん強気なんですね。相手は世界を創り変えることすらできる存在だというのに ジーヴァ: 世界を創り変える、ですって……!? じゃあ、あたしたちを追い出して新しいμを連れてきたのも ロート: もちろん、その一環です ガナ・イーシャ: 勝手なことしてくれるわね……。そういうときは使用料を払うのが筋ってもんでしょ 人間さん: それでまた歪んだ正義を押し付けるわけか ロート: 歪んでいる?果たしてそうでしょうか。それはあなたの価値観ですよ。 歪んでいるのはどちらなのか、それは誰にも分かりません 人間さん: …… 人間さん: (チャイムよりも聖母のやり方を把握しているな……。 これは聖母勢力内の立ち位置の問題か、個人の問題か、どっちだろう) ロート: まあ、いいでしょう。 あなたは今のこの選択を後悔するでしょうがそのときには手遅れです ロート: せいぜい残された時間を楽しむことですね…… ジーヴァ: あっ!?待ちなさいよ!! ラシュミ: 消えてしまったか…… (魔物たちと共にロートが姿を消す。 どうやら今回のこの襲撃は、俺を誘い出すためのものだったらしい。) ブラーマ: ……ふう。退いてくれてよかったわね スラワーティー: あら、ブラーマさまにしては珍しく弱気ですのね ブラーマ: ワタシ達の力が通用しない魔物よ。戦わずに済むなら、それが一番でしょ ヴィジュー: ほんとだよ~。全然、戦えなかった…… 人間さん: (……?そう言えばそうだよな。俺がどう出るにしろ、 ヴィジューたちは邪魔だったんじゃないのか……?) ラシュミ: 世界を創り変えると言っていたな スラワーティー: その能力でわたくしたちのμとしての力も、抑制されてしまったんでしょうね ジーヴァ: 汚いやり口ね ヴィジュー: あの、みんな……本当にごめん。迷惑かけて (ふいにヴィジューが頭を下げた。仲間達は困惑した表情でそれを見つめる。) ヴィジュー: 何が太陽仮面だ……ヴィーは、ひとりで戦えもしないのに、 信民を救うとかなんとかって…… ヴィジュー: 結局、こうしてみんなに迷惑かけちゃって……本当にごめん ジューチャオ: あっ……ヴィーだけが悪いんじゃないよ! あたしもなんか、ノリでいけると思っちゃったから! (続いてジューチャオも並んで頭を下げる。 その姿に、ますます他のμたちは困惑を深めているようだった。) (ヴィジューの謝罪は今日のことに限らず、これまでずっと続けてきた 太陽仮面としての活動が、見通しが甘すぎたことを反省してのことだ。 なのでジューチャオが追随するのは少々的外れとも言える。) (それでも静観をよしとしないジューチャオは、やはり根がいい子なのだ。 彼女のそういうところは素直に魅力だと感じる。) スラワーティー: 謝るのはよしましょう?ね? ガナ・イーシャ: 儲かりもしないのにあんなことやってたのは、純粋に善意なんだし。 誰もヴィジューたちのことを責められないって 人間さん: ロートが連れてきたっていう偽物は、魔物討伐はしないのか? μを名乗る以上、何もしないと信民も黙っていない気がするんだが (これまでのμ世界を観察する限り、信民は決してμに支配されているわけではない。 あくまでも共助関係、一方が義務を果たさなければ彼らも不満を持つはずだ。) ブラーマ: それが絶妙なのよね。たまに討伐するのよ。でも毎回じゃない ジーヴァ: もちろん、あたしたちのときは毎回必ず討伐してたけどね ヴィジュー: はあ……ヴィーが本来の力を出せてたらなぁ ジューチャオ: あたしも、本来の力があったらなぁ 人間さん: いやジューチャオは奪われてないから ジューチャオ: あれ?そうだっけ?でもなんか、地元にいたときより力が減ってるよ 人間さん: 他のμ世界に行くと、自分の世界よりも力が発揮できないらしいぞ ガナ・イーシャ: ジューチャオの世界も聖母に侵略されたんでしょ? そのときに奪われた力は元に戻ったの? ジューチャオ: うん、たぶん! 人間さん: いや、だから奪われてないって ヴィジュー: そうなんだ?じゃあジューチャオのときより聖母は過激になってるってことかな 人間さん: ん?ああ、そうか。前にやらなかったことをやり始めてるんだもんな ブラーマ: …… ラシュミ: 久々に会った恋人がテクニシャンになっているとショック、ということだな ジーヴァ: 何の話!? ラシュミ: えっ、違うのか? 190016 - 地続きの世界 ヴィジュー: ただいま! おじちゃん: ああ、よかった!何かあった雰囲気だったので心配していましたよ スラワーティー: ごめんなさい、何も言わずに出て行ってしまったから……心配しますよね ブラーマ: …… (多くの同僚が出迎えてくれたが、その輪が完成する前に ブラーマはふらりとどこかへ姿を消す。ふと追いかけようかとも思ったが……。) おばちゃん: 人間さんも無事でよかったよぉ 人間さん: あ、うん、ありがとう (μと同じく同僚に囲まれているうちに、彼女の姿を見失ってしまった。) ヴィジュー: そうそう、人間さんはカッコよかったんだよ。 悪い奴から仲間にならないか誘われたけど、ビシッと断ったんだから (へぇー!と同僚たちから声が上がり、なんだか気恥ずかしい。 格好をつけたわけでもなく、本当に聖母には思うところがあったので 感情のままに気持ちを言葉にしただけなのだが。) ラシュミ: ああ。ロートとかいう女に、きっぱり言っていたな。 俺は必ずお前を完全に押し倒す、と (場の空気が変わる。) 人間さん: 待って待って。押し倒しちゃだめだろう。倒すとだけ言ったんだよ 同僚たち: …… 人間さん: 本当だって! ジーヴァ: 日頃の行いね スラワーティー: あら、そんなことを言ってジーヴァさまったら。 あのとき『やるじゃん……』とか言ってらしたのに ジーヴァ: 言ってないわよ!! おじちゃん: しかし、皆さんが太刀打ちできない魔物がねぇ ジューチャオ: あ、そっか。おっちゃんもヴィーに助けてもらったから強いの知ってるんだね。 でもあれは、数が多すぎたせいもあるよ! ヴィジュー: ジューチャオってば、そんなフォローしなくても大丈夫だってば おじちゃん: 数か……ガラスの騎士団みたいなのが、ここにもいればねぇ 人間さん: そうだな。μ世界全般に言えるけど、組織でどうにかする感じはどこもないというか…… 人間さん: え?いや、待って。おじちゃん、いまなんて?ガラスの騎士団!? おじちゃん: ああ、そういう愛称なんだよ。俺の故郷の国にある騎士団でね。 別に鎧がガラスでできているわけじゃないよ。 美人だけどひどい酒飲みのプリンセスが輿入れしたとき、ガラスの靴を―― 人間さん: おじちゃん、魔法の国から来たのか!? おじちゃん: なんだい、知ってるのかい!?いや待てよ、人間さん……? 確かその名前……まさか、あ、あ、ああああ、あんた……! ガナ・イーシャ: なに、知り合い? ヴィジュー: もしかして同じ国から来たの?すごい偶然だね! ラシュミ: 確かに。他のみんなは、違う国から来たと言っていたな おばちゃん: そうだねぇ。あたしゃオズの国からだよ。海に出たら船が流されてね 少年: ぼくはレグルス教国の郊外に住んでたんだよ。 暴れ馬が勝手にここまで連れてきちゃったんだ ジューチャオ: えー乗りたい!馬乗りたい! 少年: もう暴れてどっか行っちゃったよ 人間さん: ま、待ってくれ。海はともかく暴れ馬……つまり地続き……? 気を失ったり、妙な魔法陣に触れたりとかは? 少年: 全然 ジーヴァ: なによ人間さん、そんなに慌てて スラワーティー: あら……?そう言えばさっき、人間さんさまは オトギノクニを別世界と仰ってませんでした? 少年: 別世界!?いつの間に! ガナ・イーシャ: 別の世界に飛んだ感覚もなく、地続きで移動してきた人がいる……ってことは 人間さん: ここは、どこなんだ……!? (背景切換...) ジャコヴァ: ふむ シンデレラ: 未知の領域ですって……? ドロシー: そんなことがあり得るの!? ヴィルヘルミナ: それ自体は珍しくないのよ。ただし、発見される当初は 『光のヴェール』と呼ばれる白い霧に包まれていて立ち入ることができないの シェイクスピア: 一定期間が経つと霧が晴れて、自由に交流できるようになるわ ドロシー: へえ……そんなことがあるのね シェイクスピア: GR2によって時間が失われていた期間があるから正確なことは言えないけど、 発見から『ヴェール』が晴れるまで、およそ50年から70年といったところね ジャコヴァ: うんうん ラヴクラフト: あたしはあんまり見たことないんだよね。 キラキラしてて綺麗らしいから気になってるの。 とろっとろのネバネバが光に反射してるのはエロいけどね フアナ: ただし今回発見された場所は、これまで何もなかったことが確認されている領域で 光のヴェールもまったく観測されていない…… ヴィルヘルミナ: つまり、突然現れた場所 トリル: それも、このコミッティ直轄領からそう遠くない場所ですよね ジョカ: 解せないな フアナ: いま調査隊を派遣してる。どんな場所なのか……分かり次第、また報告するよ 190017 - 次への一歩 (今回の、ジーヴァたちがいるμ世界には、 俺自身もこれまでとは少し違う方法で来ている。) (陸路でいつの間にか紛れ込んでしまうような、 特殊なルートも存在するのかもしれない……と俺は頭を悩ませていた。 ルートが違うなら、戻る方法も変わるのかもしれない……。) ジーヴァ: ちょっとあんた (部屋の隅でひとり悶々と考えていると、ジーヴァが目の前に立っていた。) ジーヴァ: 話があるの。ちょっと来なさい (背景切換...) (口調や雰囲気から、何かの理由で殴られでもするのかと思ったが、 部屋に入るとμが勢ぞろいしていた。ジューチャオの姿もある。 そして、普段は一緒にあまり行動しないブラーマも。) ガナ・イーシャ: 悪いね、呼び出して。でも、あんたの意見も聞きたくてさ。手当は出ないけど ジューチャオ: え、なに?人間さん、ケガしてるの? 人間さん: この場合の手当っていうのはお金のことだぞ ジューチャオ: なにそれ。お金で傷が治るとか人間さんは強欲すぎるよ 人間さん: どんなびっくり体質なんだよ。いや、そんなことはいい。意見って、何に対してのだ? ジーヴァ: 今後、あたしたちがどうするかよ ラシュミ: やはり、このままというわけにはいくまい ヴィジュー: つまり、戦うってことだね! ブラーマ: 力もないのに? ジーヴァ: だから人間さんを呼んだのよ。 あんた、エルマイトっていうのをたくさん持ってるって言ってたわよね ガナ・イーシャ: 聞いた話だと、あの魔物を操っていたディマイトは エルマイトで対抗できるらしいじゃない (エルマイトとディマイトの相関関係については、 おそらく保護した同僚の誰かから聞いたのだろう。) 人間さん: つまり……ロート、ひいては背後で糸を引く聖母を倒すため、 俺のエルマイトを分けてほしい、ってことだな ガナ・イーシャ: 話が早くて助かるよ ジーヴァ: どうなの?できるんでしょ? 人間さん: ああ…… (言いかけて、ジーヴァの胸元に視線をついつい向けてしまう。 そして先日の『事故』で見た光景――) (うん。やはりエルマイトを受け渡すために、 クロスという方法が最大効率を図れるという話をするべきだな。) ラシュミ: なんだ……!?きみから何か、卑猥な気配を感じる ジーヴァ: あんた、手を貸す代わりにエロいことさせろ、なんて言うつもりじゃないでしょうね 人間さん: ははははは、まさかそんな (手を握るだけでも受け渡せることを正直に話そう。) ブラーマ: ……本当にやるのね ジーヴァ: だからそう言ってるじゃない!こんな生活、ずっとは続けられないんだし ヴィジュー: いまの状況に不満そうだったのは、ブラーマの方だよ? ブラーマ: ワタシは元々、どこか遠いところで のんびり過ごす方がいいんじゃないかと思ってたのよ ブラーマ: この状況に不満なのは、反撃の機会をうかがうとか言いながら こそこそ隠れ住んでるのが嫌だっただけ ジーヴァ: あの連中に好き放題させとくってわけ!? ヴィジュー: あー!またケンカするー! スラワーティー: 落ち着いてくださいまし、ジーヴァさま。煮え切らない行動をしていたのは事実ですし スラワーティー: でもブラーマさまも。何もかも諦めてしまえばいいなんて、あなたらしくありませんわ ブラーマ: ……ワタシの何を知ってるのよ スラワーティー: まあ……! ラシュミ: それはお互い様だ。だから相互に理解するためにコミュニケーションがある 人間さん: (お、いいこと言うなぁ) ラシュミ: 私はブラーマの色や形は把握している。 だが、触れるとどうなるか、どこを触れられると最も変化があるのか、 それは実際に交わってみないと分からない ラシュミ: そういうことだ 人間さん: (……ん?いい話、だよな……? なんかいま、エロいこと言ったような気がしたけど俺の心が汚れてるだけだよな?) ブラーマ: はあ……別に好きにしなさいよ。ワタシは反対するつもりもないわ ジーヴァ: いちいち引っかかる言い方するわね ヴィジュー: もうやめなってばー!一応まとまったじゃん! ガナ・イーシャ: なら、あとは行動に移すだけだね (背景切換...) (その後、俺の同僚たちが集められた。みな少しばかり緊張している様子だ。) ジーヴァ: あんたたちは、ここで静かに暮らして待っていてちょうだい。 必ずいろいろ成功させて戻ってくる。 それから、元に戻る方法を探すなり、引き綴き暮らしていくなりするの スラワーティー: 当面、どう暮らしていくかご心配ですよね。でもそれも考えてありますわ ガナ・イーシャ: あたしがずっと貯め込んできたアイテムがあるの。 このあたりで作ったり採れたりしたものもあるし、 たぶんあんたたちの世界から流れてきたっぽいものもある ガナ・イーシャ: それを売り払えばまとまったお金になるわ。これで当座の生活資金にはなるはずよ ジューチャオ: ええー!楽しそう!お店屋さんだ! 人間さん: (ジューチャオに会計は任せたくないな……) 190018 - ガナの闇市、開店! テュポーン: ねえ、うい。それなに? 雨依: エルマイトレーダーよ。一定以上の強いエルマイトに反応するの ヴェルメリオ: ……レオナの発明品 テュポーン: それで、人間さんさがせる? 雨依: 人間さんのエルマイトは相当強いらしいから。 ディマイトも計測できるけど、それはスイッチを切ってるわ ヴェルメリオ: ……雨依が持った瞬間に爆発しそうだもんね 雨依: なんか若干、私のことバカにしたニュアンスを感じるんだけど ヴェルメリオ: ……被害妄想だよ テュポーン: きのこは?きのこはさがせる? 雨依: エルマイトが強いキノコがあるなら探せるんじゃない? テュポーン: そうなんだ!みつかるといいな ヴェルメリオ: ……適当にあしらっちゃだめだよ。かわいそうでしょ 雨依: 別に嘘は言ってないわよ。……エルマイトが強いキノコか。なんか、アレよね ヴェルメリオ: ……最低 雨依: まだ何も言ってないでしょ!! 雨依: とにかく、ただの転移魔法なら特別なことをしなくても 痕跡を追いかければきっと見つかるはずよ ヴェルメリオ: ……待っててね、人間さん。見つけたらまずぎゅってしたい 雨依: あ……ねえちょっと、エロい妄想するのやめてよ。レーダーが反応しちゃうでしょ ヴェルメリオ: ……別にエッチなことなんて考えてないもん テュポーン: ヴェルはえっちなんだ ヴェルメリオ: ……違うから (背景切換...) (山のように積み上げられた品々に、俺は圧倒されていた。) 人間さん: 売るほどあるって慣用句があるけど、まさにだな ジューチャオ: すごーい!これ全部、ガナが集めたの? ガナ・イーシャ: 現金払いできない取引も多いからね。こういう品物で交換することも少なくないってわけ 人間さん: しかし、それを全部売ってしまうって……いいのか? それも、おじちゃんたちの生活費のためって ガナ・イーシャ: 商売っていうのはね、損得よりも大切なことがあるのよ。 お金はこういうときに使わなきゃ。貯めるためのものじゃないんだから ジューチャオ: でも、こんな適当なテントみたいなとこでいいの? もっと立派なお店のほうがお客さんも集まりそう ジーヴァ: ロートたちに見つかったら厄介でしょ。ひっそりとやるしかないのよ ガナ・イーシャ: それに、こういうのはクチコミで集めた方がいいのよ。 どうせ品揃えは雑多で、高級感なんて求められてないんだし スラワーティー: 皆さん、お疲れ様です~。飲み物を用意しましたわ ジーヴァ: あんた、考えが違っても協力はちゃんとしなさいよ。仲間でしょ ブラーマ: 別に考えが違うから手伝わないわけじゃないわ。面倒だからサボってるだけよ ジーヴァ: そっちの方がタチ悪いんだけど!? ヴィジュー: もー!休憩してるときくらい黙って飲みなよ~! ラシュミ: これは何に使うものなんだ? 人間さん: こりゃオトギノクニから流れてきたのかな。 こう、スイッチを入れると振動するんだ。肩こりに効くよ ラシュミ: おお……!肩以外にも使えそうな…… 人間さん: なんかもう思考が読めてきたな…… いや、人間界でもそういう間違った使い方は鉄板だけども…… ジューチャオ: んしょんしょ ヴィジュー: ジューチャオもがんばってくれてるね! ジューチャオ: うん!たくさん稼いで、みんなで美味しいものいっぱい食べようね! あと町で見かけた服、可愛いからほしいなーって! ヴィジュー: えっ、あ、うん。待っててくれる人の生活費なんだけど…… スラワーティー: まあ、多少の美味しいものくらいは…… ガナ・イーシャ: さあさあ!みんな見てってよ!お買い得品が目白押し! お金を使うならここしかない!『ガナ・イーシャの闇市』開店だよ!! (背景切換...) (賑わい始めた闇市を背に、彼女はそっと裏路地へと入った。 今度ばかりは人間さんも気付かなかったようだ。) ブラーマ: …… (薄暗い路地でブラーマを待ち構えていたのは――) ロート: 準備はできていますか? ブラーマ: ……いつでも (背景切換...) ニーチェ: …… ニーチェ: ……来ないな、助け ニーチェ: お手紙がよくなかった?いやいや、あれは私の最高傑作だし。 あんなのコロッといくでしょ。私、文才の塊だし。フヒッ…… ニーチェ: まあ天才の私が書いても1通じゃだめか。こういうのは続けないと。 とりあえず助けは求めたから今回は…… すきすき大好き愛してるレターに特化して人間さんの心をメロメロに ニーチェ: やだもう!溢れる才能がこわーい!あひゃひゃひゃひゃ (ドォン!!) ニーチェ: ひぃっ!? ニーチェ: お隣さんに怒られちゃった……顔を合わせたときも感じ悪かったもんな。 もう一人は可愛らしい感じだったのに…… ニーチェ: でも……お隣さんも人間さんのこと知ってたっけ。 フヒッ、有名人にお手紙書いちゃってる……♪ ニーチェ: 『閉ざされた世界にいても、あなたの噂はいつも耳にします。 きっと優しくて、聡明で、勇気のある素晴らしい方なのでしょう。 もしかしたらもう、私の心は奪われているのかもしれません』 ニーチェ: 『だって気が付いたらいつもあなたのこと考えているんだもの』 ニーチェ: だもの、だって。キモいなぁ。そんな喋り方する女いないって。 でもいつも考えてるのは本当なんだよなぁ。 ……えっと、伝えなきゃいけないことも書かないと ニーチェ: 『もしかしたらGR2に異変が起き始めているかもしれません。 それほどに現在のオトギノクニはイマジュマイトのバランスが 不安定になっています』 ニーチェ: 『術式に異変があれば、封印にも何か起きるでしょう。 どうかあなただけは無事でいてくださいね。あなたのフリードリケ・ニーチェより』 (背景切換...) ???: みんな、どこ……?どうして私ひとりなの……? (背景切換...) クレア: ここは……どこなの……? 190019 - 姉妹の行方 フェルディナ: あぁ……何もすることがないわ…… シャルロッテ: はあ?このピンチに言うことがそれ?もっと考えたりしてくださる? ここからどうやって脱出するか?とか! フェルディナ: 考えてるわよ!でも、答えなんか見つからないじゃない。 ここに連れて来られてもう3日くらい経ってるけど どこに逃げだす隙があるっていうわけ? シャルロッテ: ……そうですわね。ごめんなさい、八つ当たりしてしまいましたわ フェルディナ: ううん……私の方こそ シャルロッテ: ニーチェの足跡を追いかけるうちに、 まさか捕まってしまうなんて思ってもいませんでしたわ フェルディナ: おそらく、私達が後を追っていることに気付いていたのね。 だから人のいない路地に入った瞬間に、後ろから…… フェルディナ: そうだ、身体はどう?私はだいぶまともに動けるようになってきたけど シャルロッテ: 同じくですわ。後ろから打たれた変なクスリ……あれ、なんだったのかしら。 目覚めてからも身体が怠くて仕方ありませんでしたけど フェルディナ: 大人を一瞬で昏倒させるんだもの、強烈な効き目よね シャルロッテ: でも、こうして私達が捕まったということは、 おそらくニーチェに近づいていたんですわ フェルディナ: 確かに。見当違いのことをしていたのなら放っておくはずね。 ふたり揃ってさらって監禁するなんて、相手にとってもリスクになるんだし シャルロッテ: ニーチェを連れ歩いていたツインテールは誰なのか、 目的は何なのか、現在はどうしているのか…… フェルディナ: 日記を読む限り、ニーチェも積極的に何かに関わろうとはしない気がするわ。 意志に反して利用されているのかも シャルロッテ: だとしたら、私達と同じ様に監禁されているのかもしれませんわ フェルディナ: 案外、隣の部屋にいたりして シャルロッテ: くだらない冗談を言っている場合ではありませんわよ フェルディナ: 魔力遮断されてるのが厄介なのよね……。私達の緊急通信用の端末ですら 遮断できるって、相当に強固な術式なんだと思うわ シャルロッテ: スホマが通じないくらいは想定できますけど、ここまでだなんて……あら? シャルロッテ: 待ってくださいまし!フェル姉さま、これ! フェルディナ: 緊急端末の魔力波が……届いている……!?こ、これはチャンスよ!すぐ通信を! (背景切換...) トリル: 続いての第二号議案はこちらです ラヴクラフト: 未開の新発見エリア調査報告……いいよねえ、未開発の場所を徹底的に調べ尽くす…… そしたら言うんだよ、『こんなの知らない』って♪ ラヴクラフト: ……って、なにこれ。調査隊が重傷?茶化したらいけないやつだ ドロシー: 報告書を読むと、かなり魔物の数が多かったみたいね?何でそんなに…… ヴィルヘルミナ: この新発見エリアはまだ何も詳細が分かっていないわ。 魔物も、見慣れないものばかりだったみたいね フアナ: 調査は必要だけど危険を伴う。だから、この後も調査を継続するかどうかの判断は 一旦、コミッティに委ねられてるんだ クラース: 自分たちが安全圏にいるのに、他人に危険な場所に行けって命令しろってこと? なんだか感じが悪いわねぇ ジョカ: だが、誰かが判断してやらねばな。上に立つというのは、そういうことだ トリル: ぜ、ぜひ最新鋭の、万全な装備で行ってほしいです…… ジャコヴァ: フェルディナたちから連絡は? ヴィルヘルミナ: 途絶えたままなのよ。さすがに連絡のひとつくらい、あってもおかしくないのだけど ジャコヴァ: …… フアナ: 人間さんくんの行方も、結局まだ手がかりを得られてないからね。 分かっているのは魔力干渉があったことくらい シェイクスピア: 魔法陣は見つかったのよね? フアナ: うん。いま解析しているところだよ シンデレラ: 少なくとも、何者かの意図があったのは明白ということね…… エミリー: 誘拐事件、ってことだねぇ。でも誰が? シェイクスピア: 未だに逃走しているペロー、あるいはキャロル…… ジョカ: キャロルはぺローと繋がっていそうだし、 やっつけられたから単独でも恨みを持ってそうだな ヴィルヘルミナ: それも解析が進めば見えてくるはずよ。 でもまずは、3人を無事に保護することが最優先。いいわね、フアナ フアナ: もちろん。人間さんくんもクレアも大切な友達だし、 ジューチャオだって友達になる予定だからね ラヴクラフト: セのつく友達? フアナ: つ、つつつ、つかないよっ! ラヴクラフト: 青春時代の友達だよ? フアナ: ぐぬ…… ジャコヴァ: ではオチもついたし今日は散会。異論はないな ジャコヴァ: (……何か胸騒ぎがする。この私に見落としがあるとでも……?) 190020 - 融け合う世界 ユピテル: ……またです。レーダーに反応あり ヴィーナス: なんだこれ? メルクリウス: エネルギー反応がばっこーん!ってたくさん出ちゃってるね アリア: 目視できないの? ユピテル: 先ほど遠隔偵察機を飛ばしました。まもなく映像が届きます……来ました、これです (背景切換...) 白虎: フアナ!かなり前線は押し込まれているわ フアナ: これだけの部隊を用意しているのに!?想定していたよりも数が多いってこと? 白虎: 違うのよ。数は決して少なくないけど、報告通り。 問題は、こちらの攻撃がまるで通じていないってこと フアナ: そんな…… 応龍: なんだか嫌な予感がするよ…… アンナマリア: それと気になる報告があるの フアナ: 他にもまだあるの!? アンナマリア: ここからでも分かるわ。あまり気にしていなかったのだけど……あの、空の色 フアナ: ……?ほんの少し、色が違う……? アンナマリア: 改めて注意深く観察すると、魔物と戦っている最前線近くに はっきりと色が違うところがあるの、分かるでしょう? フアナ: うん……微妙な差だけど、なんとなく違うね……。 まるでこっちと、向こうの境界線を引かれているみたいな…… フアナ: はっ!もしかして、何か魔法障壁が展開されてる!? 霊亀: あり得るわね。だからこちらの攻撃が通じない、とか? 白虎: その境界線、空だけじゃない。地面にもあったわ フアナ: じゃあ、やっぱり魔法の防御障壁……! 白虎: ただ、その線を超えてくる魔物もそれなりにいるし、そいつらも攻撃は 通用しなかったから……私は別物なんじゃないかって気がするけど アンナマリア: そもそも、あんな魔物は見たことないの フアナ: ええ……?あたしたちは何と戦ってるの……? フアナ: (どうしよう……早く対策を考えないと仲間が……あたしの大事な友達が……!) アンナマリア: どうする?フアナ フアナ: 霊亀、コミッティ本部に回線を繋いで 霊亀: 応援要請?でも数の問題じゃ―― フアナ: 奥の手を使わせてもらう (背景切換...) アリア: これは…… ポステリオル: エルマイトでも、ディマイトでもない……この魔物が持っているのはμの力…… ヴィーナス: なんで!?ここ、オトギノクニだよね!? アリア: まさかとは思いますが、ポステリオル様。 これは世界が融合しようとしているのでは…… ポステリオル: おそらく、そう メルクリウス: 融合って……そんなこと、あり得るの? アリア: オトギノクニも、μの世界も、人間界も……すべては隣り合った別の空間。 だから、ふとしたときに繋がって行き来できるのよ ユピテル: それはもちろん、私達も理解しています。 実際に『アルカ計画』で体験していますからね ポステリオル: 一時的、かつ狭小な間口であっても、異なる世界は繋がると実証されている ポステリオル: なら、それが恒久的、かつ広範囲に及ぶ接続となるのは 特異なことではないと気づけるはず ヴィーナス: ちょっと部屋を見に行くだけ、とか言うから家に上げたら 3年くらい居候してる、みたいなことか アルテミス: それ例えに上げるほどメジャーな事例? ポステリオル: 理屈は同じ。でも使い分ける意味で、私はこれを『融合』と呼んでいる ユピテル: しかし、μ世界とオトギノクニではイマジュマイトを始め様々な違いがあります。 融合など、スムーズにできるでしょうか ポステリオル: できない アルテミス: えっ? ポステリオル: だから世界は形を変えようとしている。どちらの世界でもない、新たな世界に―― (背景切換...) ドロシー: 散会したばかりだっていうのに、数日ですぐにまた招集だなんて シンデレラ: フアナたちの戦いで何かあったのね エミリー: ちょうど昨日あたり、フアナたちが例の領域に到達したはずだから間違いないよねぇ ヴィルヘルミナ: その通りよ。さすがエミリー、聡明ね シンデレラ: 私達も同じこと言ってると思うんだけど…… ヴィルヘルミナ: くだらないことを言っている時間はないわ。トリル、報告を トリル: フアナ統合司令より30分前に報告、そして要請がありました。 現場には未知の魔物が多数出現、かなり苦戦していると トリル: そして、敵集団はこのコミッティ本部方向に向けて、 陣形を維持しながら進軍しているそうです シェイクスピア: すなわち、組織的な攻撃だと? ジョカ: たぶんにフアナの主観も入っているように思うが トリル: そこでフアナさんからの要請は次のとおりです。 敵軍勢の背面に指揮官あるいは、それに相当する存在がいるはず。 それを周り込んで叩いてほしい、と クラース: その間、自分たちが引きつけておく、ということね。 なかなか覚悟が決まってるけど…… エミリー: じゃあ別働隊を派遣するってことぉ? トリル: はい。ただ、それにあたっては相手の防御が高いことを鑑み『ルンペル』を…… 『KHM55:ルンペルシュティルツヒェン』を出動させてほしいと ジャコヴァ: ……賭け、だな 190021 - 攻守の選択 ジャコヴァ: ルンペルは本部の守りの要。 それを動かすということは、リスクを取って相手を叩きに行く、ということだ ドロシー: あいつのパワーは私も身をもって体験してる。当時はいろいろあったけど、 万全な状態なら相手にとってもかなりの脅威になるはずだわ シンデレラ: それを攻めに使うか、守りに使うか…… エミリー: 迷ってる暇なんてないよぅ!? ヴィルヘルミナ: エミリー……! エミリー: フアナや、前線で戦ってるみんなを助けなくちゃ。 それに敵はここを目指してるんでしょ? 後ろから叩いて足止めすることが守りにもなると思う ラヴクラフト: 守りのための攻め……そうだよね。ずっと受け身だと、 結局マグロって言われて終わりなんだから。発展する未来はないかも エミリー: ……同意してくれてると思っていいのかなぁ クラース: 未知の強敵がいると分かっているのなら最大戦力をもって叩くというのは合理的だわ。 守りといっても、どれほどの戦力がここまで来るかは分からないし ジョカ: そもそも、我らコミッティが待ち構えているんだぞ。そう簡単にやられるものか ジャコヴァ: 敵を侮るな。こういうときこそ、慎重であるべきだ ジャコヴァ: ――とは言え、お前たちの意見ももっともだな。 ヴィル、ルンペルの出撃にどれくらいの時間が必要だ ヴィルヘルミナ: 整備は終わっているから、15分もあれば出撃可能よ ジャコヴァ: いいだろう。ではトリル、決を採れ。 『KHM55:ルンペルシュティルツヒェン』の稼働可否について、だ (背景切換...) エミリー: シェイクスピア! シェイクスピア: あら、エミリー。わたしに何か用? エミリー: 聞きたいことがあるの シェイクスピア: わたしで答えられることなら エミリー: 未知の魔物……フアナたちの攻撃が通じないって言ってた。 それってもしかして、どこかでまた魔法陣が悪用されて、 μの世界の魔物がこっちに来た、って可能性はあるかなぁ? シェイクスピア: ……あると思うわ。確証がないから議会では発言を控えたけど、 わたし個人としてもその疑いは持っている エミリー: だとしたらμの力で対抗しなくちゃいけないよねぇ? シェイクスピア: μの力はまだ研究途中、イマジュマイトとの互換性についても 分かっていないことが多いわ。 エルマイトで絶対に対抗できない、とは言い切れない シェイクスピア: ただ……μの力で対抗するのが効率的だとは言えそうね エミリー: だとしたら……μの子にも協力してもらったらどうかなぁ シェイクスピア: そうね。とは言え現状、μであると確信が得られているのは ポセイドン、オケアノスのふたりだけ。 後は人間さんが連れて来た子たちくらいだけど エミリー: アヌは帰っちゃったし、テュポーンも雨依と一緒にどこかに行っちゃったみたい…… ジューチャオも人間さんと一緒に行方不明だし シェイクスピア: 残るはオーディンだけ、ということになるわね エミリー: ……オーディンは、レオナのところにいるんだっけ シェイクスピア: そう聞いているわ。 テュポーンのように、どこかにふらりと出かけてしまっているかもしれないけど エミリー: ……うん、ありがとう。考えがまとまった気がする シェイクスピア: ……あまり無茶をしないことね。 悲劇はいつだって、あなたのすぐそばで手ぐすね引いて待ってるわ (背景切換...) ニーチェ: はあ……あ、やばい。私、なんかいつも溜息ついてる気がする。 幸せが逃げちゃうっていうのにね ニーチェ: それにしても人間さんが一向に助けに来ないんだけど。 全無視はひどくない?あんなに好き好き言ったのに ニーチェ: 嘘っぽかったのかな。でも気持ちは本当なんだけどな。 人間さんについていっぱい調べてみたけど、 やっぱり有名人だからか記録も多くて…… ニーチェ: 仲間のために身体を張ったり、有名な武闘家に修行してもらったり、かと思えば オタク文化にも理解があったり、アイドルをプロデュースしてみたり…… ニーチェ: いやスパダリすぎない? こういう記録だから2割増しで誇張されてるとしたって、カッコよすぎるでしょ ニーチェ: あ~……助けに来てほしい…… もっと興味を引くような内容でお手紙書かなきゃかなぁ~ ニーチェ: そうだよね。好きとか言われ慣れてるんだよね。ここはもっとまじめに…… ニーチェ: 『いま、私は世界の変態を裸で感じていま』 ニーチェ: いけない、間違えた ニーチェ: 『いま、私は世界の変化を肌で感じています。きっと世界の形が変わりつつある。 これはおそらく、オトギノクニにμが混じってしまったことによるものでしょう』 ニーチェ: 『μのことを特異な存在だと思っているでしょうか。 根源はオトギノクニと同じなのです。ただ、力の種類が違う。 こう書きましたが、もしかしたら、あなたは気づいているかもしれませんね』 ニーチェ: 『μもまた人間界の力から生み出された世界。あなたなら心当たりがあるのでは? 想像力と似て非なる力。そう、μとは人間界の――』 ニーチェ: 『いえ、限られた紙面で多くを語ることはできませんね。 この続きはお会いしたときに』 ニーチェ: ほら、気になって会いに来てくれるはず (ガチャリ) ニーチェ: ほあああぁぁぁぁ!? ペロー: なんですか、騒がしい ニーチェ: いえっ、あ、あの、その……び、びっくり……したから…… ペロー: まあ、そんなことはどうでもいいことです。 あなたの力を少しばかり貸してもらいます ニーチェ: は、はひっ…… 190022 - 未知との接触 フアナ: はぁっ、はぁっ……ま、まずいよ、 気が付いたらもう、直轄領まで押し込まれてる……! (新たに発見されたエリアは直轄領からもそれなりに距離はあったはずだが、 既にフアナたち特務機関の調査部隊は領内まで押し戻されていた。) アンナマリア: もう、みんな疲れ果ててるんだよ……倒しても、倒しても、キリがないんだから…… (敵襲も予想し備えていたとは言っても、本来の目的は調査。 本格的な戦闘に移行してからは、フアナたちは苦戦を強いられていた。 未知の魔物は次々にその数を増やし、圧倒されてしまう。) (逆に言えば、もしもフアナたちが出動していなければ、 とっくに境界線を超えてコミッティ本部への攻撃が始まっていただろう。) アンナマリア: もう、ここで終わってしまう運命なのかもね…… フアナ: そんな弱気になっちゃダメだって!あたしのエルマイト、分けてあげるから! アンナマリア: だめだよ、フアナだってもうギリギリでしょ フアナ: じゃあ、いまこそあたしがアンナマリアのためにしたためた直筆の手紙を アンナマリア: ううん、大丈夫。それ読んだら余計に疲れちゃうから フアナ: そ、そう? 白虎: フアナ!そっちに敵がいったよ! フアナ: はっ……し、しまっ……! ドロシー: ぼーっとしてちゃだめよ、フアナ! フアナ: ドロシー!! (ドロシーの攻撃に魔物が怯む。 そして、その後ろからは次々にコミッティのメンバーが姿を現した。) ジョカ: ふん、我がこうして前線に出ることになるとはな ラヴクラフト: 見てるだけじゃ我慢できなくなってたくせに♡ ジョカ: 言い方! クラース: ま、私達がいる場所を狙っている敵なのに、 フアナたちに任せっぱなしっていうのも良くないわよね~ シンデレラ: シャイニングハレーションっ!! フアナ: みんなも……! シンデレラ: 待たせたわね。ここからは私達の出番よ。 コミッティの肩書に恥じない戦いぶりを見せてやろうじゃない フアナ: ありがとう……!やっぱり持つべきものは友達だね トリル: えっ?あ、はい……そうですね……? シンデレラ: それにしても……私のシャイニングハレーションを食らってもまだ倒れないなんて…… エルマイトが通じない相手っていうのは本当みたいね (シンデレラの魔法攻撃をまともに受けたはずの魔物は、よろめきながらも立ち上がる。) (長い旅を通じて培われたシンデレラの魔力は、誰もが認めるところ。 人間さんの仲間でも随一の戦闘力と評される。 その攻撃を受けて倒れないなど、通常では考えられないことだった。) フアナ: そうなんだよ。その代わり、向こうの攻撃もそこまで致命傷にはならずに済んでる。 ただ、そうなると数の論理で押し込まれちゃって…… ジャコヴァ: なら、より強い力でねじ伏せるしかないだろう (高火力の攻撃魔法が土煙を巻き上げる。 ダムナート・レイ――どんな防御障壁も、ものともせずに 敵にダメージを与えるジャコヴァの攻撃だった。) ジャコヴァ: 私に本気を出させたこと、誇りに思うがいい ドロシー: 美味しいところ、持って行くじゃないの シンデレラ: 人間さんとかクレアが聞いたら喜んではしゃぎそうなセリフね (ジャコヴァの攻撃でいくばくかは数を減らした敵勢力だが、 依然として数的優位性は変わりない。) ジャコヴァ: ここから、ちまちま倒していかなくてはいけないのか……面倒だな シンデレラ: 贅沢は言ってられないでしょ。生きるか死ぬかの瀬戸際かもしれないのよ トリル: 右前方、新手です!! ドロシー: 確かにこれ、面倒なことになりそうだわ…… (背景切換...) オーディン: わ、わたしと、ですか……? エミリー: そう。μの力を貸してほしいの。 ヴェルがキと、ピュルテがエロースと縁を結んで戦えるようになったみたいに ヴィルヘルミナ: エミリー……本気なの? そんなものを手に入れたら、一番危険な仕事をすることになるじゃないの エミリー: エミリーがやるしかないでしょ オーディン: あの、でも、具体的に何をすれば エミリー: え……なんだろう…… レオナ: とりあえず手を触れてみたら?実体がなかったキはともかく、 他はみんなそういう接触があったらしいって聞いてるし エミリー: じゃあ、はい。手を出して オーディン: は、はい……あっ!? (背景切換...) (その頃、未知の領域を目指して進軍していたのは――) 特務機関兵: シェイクスピア様!前方に正体不明の事象を発見しました! シェイクスピア: 何かしら……?あれは、線……? (地面にくっきりと、光る線が刻まれている。) シェイクスピア: ……おそらく境界線ね。ここから先は敵地、未開エリアということになるわ シェイクスピア: ここまで来て迷う理由はないわね。ルンペル、進軍開始。あの境界線を超えるわよ (重々しい地響きを立て、『ルンペル』はその一歩を踏み出した。) 190023 - 防衛戦 ドロシー: 本当にキリがないわ……! 無線音声: 西3ブロック、敵襲を受け弾薬庫が炎上……! トリル: ――っ!至急、消火に向かいます! 無線音声: 北12ブロック、敵勢力に制圧されました!守備隊、当ブロックを放棄します! ジャコヴァ: ちっ……囲まれているのか…… (正面から押し寄せる魔物に対応していたコミッティだが、 ぞくぞくと数を増やした敵は、徐々に直轄領の町を囲むように進出していたようだ。) (正面の主力を抑えるだけでも骨なのだが、 側面から襲ってくる敵を放置することもできない。) シンデレラ: 私が北ブロックに行くわ ジャコヴァ: ……やむを得ないな エミリー: 待って! ジャコヴァ: ん……エミリー? (エミリーは宙を舞い、ペンを何もない空間に走らせる。 その軌跡は光を帯び、小さな魔法陣を描き出した。) シンデレラ: エミリー……!その姿は? ドロシー: もしかして オーディン: は、はい……わたしの力と無事、共鳴できたみたいで シンデレラ: オーディンが……?じゃあやっぱり、この魔物って エミリー: それは……これで証明できるよぅ! (エミリーが描き出した魔法陣から光線が放たれる。 それは群がる魔物を簡単に吹き飛ばした。) ドロシー: 威力がまるで違う…… ジャコヴァ: つまり、こいつらはμ世界の魔物ということか…… エミリー: 効いてるねぇ。オーディンのおかげだよぅ オーディン: は、はい……!お役に立ててよかったです……! オーディン: (人間さんと一緒に行けなかったときはショックでしたけど…… いつか来る、この事態のためにわたしは残っていたのかも……) オーディン: (置いていかれた理由ではなく、残った理由を考えるべき…… パラケルスス先生の言った通りです……) エミリー: オーディンも手伝ってねぇ?すっごく強いって聞いてるし オーディン: そ、そんなことはないですけど……でも、お手伝いします! (再び空中に、ペンで魔法陣を描くエミリー。今度はそれは紫の軌跡を描き出した。) エミリー: この魔物たちはエミリーが引き付けるよぅ。 ちょっと本部からも離れた場所に行くからねぇ ジャコヴァ: なんだと? エミリー: 全部は無理かもしれないから、 残ったのはみんなでがんばって倒してくれるとうれしいなぁ シンデレラ: 引き付けるって……あっ!? (紫の魔法陣が光った途端、魔物たちは一斉にエミリーに注意を向ける。 そして、ジャコヴァたちから離れていくエミリーを追い始めた。) エミリー: エミリーの魅力に、みんなくっついてきちゃうんだよぅ。可愛いから仕方ないねぇ オーディン: 誘引の魔法なんです。 μ世界の魔物は、よりμの力の方に強く反応する特性もあって―― エミリー: もう!可愛いから、ってことでいいのにぃ オーディン: え、あっ、すみません (飛び去るエミリーを、大半の魔物が追いかけていく。 その側面にシンデレラが魔法攻撃を撃ち込んだ。) シンデレラ: 向こうに注意が逸れている隙に攻撃するわよ! 全部、エミリーに押し付けるわけにはいかないわ ドロシー: 了解!全部が全部、エミリーの方に行くわけじゃないみたいだし ジャコヴァ: 残った連中はまとめて片づけるか。私にしては地味な仕事だな ヴィルヘルミナ: ああ……エミリー、大丈夫かしら。あんな危険な役割を自ら買って出るなんて ヴィルヘルミナ: すごく立派でワタシも鼻が高いけど、でもでもっ…… エミリーに万一のことがあったら ジャコヴァ: ヴィル。お前もこっちに集中しろ。エミリーの意図を汲め ヴィルヘルミナ: うう……分かってるわよ……! (背景切換...) エミリー: ありゃ……町の外まで引き付けたかったけど、ちょっと追いついてきちゃったね オーディン: 仕方ありませんね。このあたりで迎撃しましょう (引き付けるタイミングを見誤れば、取り囲まれてしまう。 もっと悪い事態になれば背後から攻撃される恐れもある。) (速度を上げれば追いつかれる心配もないが、 上げすぎれば追跡を諦めた魔物が本部方面に戻ってしまう可能性もあった。) エミリー: まだ新しい力に馴染んでないからねぇ。そのへんの微調整は難しいんだよなぁ オーディン: エミリーさん、来ます……! エミリー: うん、おっけー♪ (再び白い光を帯びた魔法陣を、次々に描き出す。 その速度は、日頃デッサンで鍛えているからなのか、 それとも新しい力によるものなのか。) (矢継ぎ早に生み出された魔法陣が、次々に光線を発射して魔物を消し飛ばしていく。) オーディン: さすがですね。わたしも、負けていられません! (オーディンもまた、武器を手に魔物の群れに斬り込んでいく。 当然ながら、その圧倒的な力で敵は吹き飛んでいった。) エミリー: (ティンカ……人間さん……エミリーも、戦ってるよぅ。 みんなが大事に守って来たオトギノクニだもん) エミリー: (やるときはやるってところ、見せちゃうんだから……。 その代わり、終わったときはちゃんと褒めてよね、ふたりとも) 190024 - 見知らぬ怪物 ジーヴァ: この道の先が、あたしが元々使っていた城よ 人間さん: いよいよ奪還作戦の開始か ガナ・イーシャ: 他人の家を勝手に乗っ取るなんて許されないでしょ。賃料払ってきたってお断りよ スラワーティー: 頼みの綱は人間さんさま、ですね ジーヴァ: 別にこの人がいなくたって、やれるわよ。 乗っ取られたときは不意打ちだったし、この全員が揃ってたわけじゃなかったし ヴィジュ―: うん!みんなで力を合わせればきっと大丈夫! ブラーマ: みんなで力を、ね…… ジーヴァ: またそうやって水を差すようなことを言うんだから! ヴィジュ―: ああもう~!ケンカしちゃだめだってば ジューチャオ: モテモテだね、人間さん 人間さん: いや、俺を巡ってケンカしてるわけじゃないぞ!? ジューチャオ: でもあたしだってモテるんだからね! 人間さん: 何の対抗心なんだよ 人間さん: って、えっ、そうなんだ……?ちょっと意外というか…… ああでも、放っておけない的な感じかな…… ヴィジュ―: なんで?ジューチャオかわいいじゃん ジーヴァ: ……自分の恋人をそうやって下げる言い方、良くないわよ 人間さん: 待ってくれ。かわいいとは俺も思うけど、モテってそれだけじゃないだろ。 あとわりと大事なことだけど、俺とジューチャオは恋人同士じゃない ジューチャオ: わー!遊びの関係だ! 人間さん: そうも言ってない! 大事な仲間だし、女性としても魅力的だけど恋人同士ではないだろ! ジューチャオ: 言われてみればそうかも ジーヴァ: え、そうなの……?ふうん、そう……そうなの…… ラシュミ: ……感じる ガナ・イーシャ: なんでよ。ジーヴァのリアクションもちょっと気になるけど、 あんたはなんでそこでエクスタシーなのよ ラシュミ: いや、この気配だ ガナ・イーシャ: え、待って。いつもの変態トークじゃなくて、真面目な話!? ブラーマ: 確かに、何か妙な気配を感じるわね 信民: はあ、はあ、た、助けて…… スラワーティー: 大変です!どなたか魔物に襲われていますわ! ブラーマ: ここは慎重に―― ジューチャオ: いっけえええぇぇ!! 信民: ひいいいいい!? 人間さん: あっぶねえ!信民ごと焼き尽くす勢いじゃないか! ジューチャオ: 勢い余って可愛さ百倍っていうでしょ ジーヴァ: あんたたちの世界、どうなってんのよ 人間さん: 俺も聞いたことない言葉だよ!あとジューチャオと俺は別世界の出身だしな!? ヴィジュー: でも無事に魔物は倒せたし、助けられてよかったよ!大丈夫? スラワーティー: 向こうの方から逃げてきたようでしたが…… 信民: は、はい……実はずっと逃げ続けてきたんです ブラーマ: 魔物が出たのね? 信民: あ、いえ、今のはたまたま出くわした魔物です。 実は、地平線の彼方から見たこともない化物が近づいてきて…… そこから逃げ出してきたところで ガナ・イーシャ: 見たこともない魔物……? 信民: ええ。あんなやつ、初めて見ました ジーヴァ: ……ねえ、みんな ヴィジュー: たぶんヴィーも、ジーヴァと同じこと考えてる気がする ブラーマ: 珍しいわね。ワタシもたぶん同じ意見よ スラワーティー: その新たな魔物とやらの正体を見極め、信民の皆さまをお救いする……ですわね? ジーヴァ: みんな…… ジューチャオ: んじゃ、方向転換だね!そっちに行くんでしょ? ラシュミ: ロートとかいう女の方は一旦、寸止めということだな ガナ・イーシャ: 間違いってほどでもないけど絶対他にもっといい言い回しあるでしょ…… ヴィジュー: じゃあヴィーが先にちょっと偵察に行ってくるよ!みんなはあとから追いかけてきて ジーヴァ: ちょっと!?ひとりで突出するのは危険だってば! ヴィジュー: あ、そっか…… ラシュミ: なら私が一緒にイこう 人間さん: ……? ラシュミ: どうした? 人間さん: そこはかとなく卑猥な気配を感じたんだが、気のせいか…… ヴィジュー: じゃあラシュミ、用意はいい? ラシュミ: ああ。それじゃあみんな、イッてくる トリル: これが各ブロックの被害状況です。 まだ全貌が明らかになっていない部分もあり、あくまでも速報値ですが ヴィルヘルミナ: かなりの痛手を被っているわね フアナ: でもエミリーたちのおかげで、なんとかヤマは越えたよね シンデレラ: 引き続き、残っている魔物の掃討にあたりましょう ドロシー: エミリーばかりに押し付けてられないものね! ジャコヴァ: うんうん フアナ: よし、あともうひと踏ん張りだよ、みんな! ヴィルヘルミナ: 姉さんは大丈夫?久しぶりに暴れて疲れたんじゃない? ジャコヴァ: 誰にものを言ってる。私は……ん? ヴィルヘルミナ: どうしたの? ジャコヴァ: ……これは救援信号?シャルからだ 190025 - 救援信号 (先行してヴィジューとラシュミのふたりが、 信民が証言する謎の敵が現れた方向へと先を急いだ。 俺達はその後を追いかけているのだが……。) ガナ・イーシャ: ……遅いわね スラワーティー: 様子を見るだけ、戦ってはいけないと念入りにお伝えしたのですが (あくまでも偵察、そろそろ戻ってきて報告がほしい。 しかし一向にふたりは姿を現さなかった。 見通しのいい平原で、一直線に歩いているので見逃すはずもない。) ジーヴァ: 誰か追加で様子を見に行く? ブラーマ: そんなの被害が増えるだけでしょ ジーヴァ: な、何よっ! (仲間のことを心配しての発言だろうが、 確かに状況によってはミイラ取りがミイラになる可能性もある。) スラワーティー: ブラーマさまの言う通りですわ。様子を見に行くならこれ以上、 散らばらない方がいいので全員で先を急ぐ、というのが最善です ジーヴァ: う……そうね、わかったわ。急ぎましょう スラワーティー: 大丈夫、ジーヴァさまが仲間想いだということは、 みんな知っていますし、伝わっていますからね 人間さん: もし俺のせいで遅くなってるなら、 ジューチャオに運んでもらうことにするから言ってくれ スラワーティー: いえいえ、大丈夫ですよ ジューチャオ: なんで人間さんはあたしに運んでほしいの? あ、だっこが好きなんだ。お子様だなぁ 人間さん: えっ……いや、今の話の流れ…… ジューチャオ: じゃあ、はい。ぎゅー 人間さん: うん…… ジーヴァ: こんなときに何イチャイチャしてんのよ ガナ・イーシャ: ちょっとあれ!ヴィジューとラシュミが戻ってきたんじゃない!? (ガナの声にはっと注意を向けると、こちらに戻って来るふたりの姿があった。 しかし、その足取りはふらついており、傷だらけになっていた。 慌ててジーヴァたちが駆け寄る。) ジーヴァ: 何があったのよ、ふたりとも!しっかりしなさい! ブラーマ: ひどい傷だわ…… ヴィジュー: ごめん……油断した…… ラシュミ: 交戦は避けるつもりだったのだが、いとも簡単にこちらに気づかれてしまった。 適当に応戦して退却するつもりだったのだが…… ヴィジュー: 牽制が牽制にならないくらい、こっちの攻撃が通じないんだ。 そして、一発でも当たればこの通り…… スラワーティー: そんな敵が……!? ブラーマ: どうするの? ジーヴァ: ……どうするも何も、ますます見逃せないでしょ。全員で立ち向かうしかないのよ 人間さん: ……ロートみたいに、エルマイトみたいな力で攻撃してくるのか? ラシュミ: いや……こちらの攻撃が通用しないのは、 おそらくその理屈に近いように思えたが……相手の攻撃は別だ ヴィジュー: 完全な物理攻撃だよ。すごい力で岩とか持ち上げてぶつける感じ (持ち上げるためのエネルギーは、エルマイトなのかもしれない。 しかし攻撃方法は物理……それでは俺の力が、どこまで通用するかも未知数だ。 一体、どんな相手なのか……。) ジャコヴァ: ……何か、あったのか ヴィルヘルミナ: シャルロッテから、救援信号ですって?誤作動という可能性は? ジャコヴァ: ある。この一度だけだ ヴィルヘルミナ: 救援信号は誤作動の可能性を排除するため、連続して数度の発報を行うのが原則…… 同行してる出来損ないはともかく、シャルが知らないはずないわ ジャコヴァ: フェルディナだってそれくらいは分かっているだろう ヴィルヘルミナ: じゃあ誤作動なんじゃ……いえ、その顔。姉さんは違うと思っているのね ジャコヴァ: 根拠はない。だが、確認すべきだ ヴィルヘルミナ: でも、この状況よ。部隊を動かすにも―― ジャコヴァ: 私ひとりで行く。最初からそのつもりだ。 根拠も示せず、この混乱の中から人員を割くことはできない。 かつてのグリム家独裁時代ならいざ知らず、な ジャコヴァ: 幸い、私は強い。何かあっても対処できる ヴィルヘルミナ: ワタシも行くわ ジャコヴァ: ……そうか ジャコヴァ: なら、行くぞ。いますぐにだ (ヴィジューとラシュミをいとも簡単に追い込んだ未知の敵。 それを見過ごせはしない。たとえ苦戦することになったとしても。) (その理念に反対する理由を、俺は持たなかった。 何ら勝機を見いだせないままだとしても。) ジーヴァ: とにかく敵の情報が欲しいわね。他に何か気が付いたことは? ラシュミ: とにかく大きかった。鉄の塊のように見えた。 しかし……目があり、意志を持った生き物のようで…… ヴィジュー: 筒みたいなところから、すっごい強烈な光の線みたいなのが出てきたんだ。 でも魔法とも違ってて…… ラシュミ: ああ、そうだ。こんな記号が書かれていたのを見た (ラシュミは地面に指で図形を描き出す。それは見覚えのある文字だった。) 人間さん: 『KHM:25』……!?まさかルンペル……それじゃあコミッティが、 オトギノクニが攻め込んできているっていうのか……!? 190026 - 誰のために戦うか (思わず口をついて、考えていたことが漏れてしまう。 小説やマンガで目にしては、そんなバカなことがあるかと鼻で笑っていたのに、 本当に自分が体現してしまうなんて。) ジーヴァ: なんですって……? (案の定、μたちの視線は俺に一気に注がれた。 ジューチャオだけは例外で、きょとんとしているのがなんだか救いに思えた。) ガナ・イーシャ: オトギノクニ……つまり、あんたとジューチャオがここに来るまでいた場所…… ブラーマ: ほぼ、君たちの世界といってもいい……だよね? 人間さん: あ、ああ…… (この期に及んで、俺は逡巡した。どこまで事実を語るべきなのか。保身を考えたのだ。) (しばし考えを巡らせ、俺は自分を恥じた。 彼女たちは危険を承知で、勝算もないまま、信民を救うという 自分の使命のために戦いに赴こうとしているのに、俺ときたら。) スラワーティー: オトギノクニが……わたくしたちの世界を侵略しようとしている、 そう考えていいのですか? ジーヴァ: 人間さんは……あたしたちの、敵? ジューチャオ: え、そうなの!?あたしたちって……えっと、何しにここに来たんだっけ? 人間さん: ……信じてもらえるかは分からない。これから、ありのままを話すよ。 その上で、もっと不信感が増すかもしれないけど…… (俺は自分がコミッティという統治機関の一員であることも 『ルンペル』という巨大兵器のことも知っている限りを話した。) (客観的に見れば、侵略するオトギノクニのスパイと捉えられかねない立場だ。 それを救ったのは俺の誠意ある説明というよりは――) スラワーティー: ……なるほど。お話は分かりましたわ ジーヴァ: 完全に頭から信用するかといったら噓になる。 けど……あんたが、あたしたちに敵意を持ってるとは思えない ガナ・イーシャ: 本気でどうにかするつもりなら、唯一の手下が ジューチャオってことはないわよね……悪いけど ジューチャオ: え、なになに?あたし? ヴィジュー: だよね。ジューチャオみたいないい子を、 そんな侵略みたいなことに巻き込むわけないよ ジューチャオ: あたし、いい子ってよく言われるよ!この前も誰だっけ?なんか言われた気がするし ラシュミ: ふっ……そうだな。侵略目的ならあまりにリスクだが、 友としてなら癒しをくれる、絶妙な存在だ。例えるなら、フェザータッチのような ブラーマ: まったく意味わかんないし、その例え必要だった? ジーヴァ: いいわ。敵意はないものとして考える。 でも、事実としてオトギノクニの勢力が攻め込んできてる。 あたしたちはそれと戦わなくちゃいけない ガナ・イーシャ: そうね。そこは変わらないよね ジーヴァ: ……人間さん。あんたはどうする?このまま一緒に来れば対峙することになる。 そのとき、オトギノクニと戦えるの? 人間さん: ……! ジーヴァ: どういう選択をしても、あたしたちはあんたに危害を加えたりしないし、 恨んだりもしないわ。生活面も、みんなの待ってる家で過ごして構わない 人間さん: …… (俺にとってオトギノクニは、第二の故郷と言っていい。 仲間たちと共に戦い、手に入れた平和な世界だ。) (ルンペルの稼働はコミッティの総意のはず。 以前ならまだしも、現在のコミッティは共に戦った仲間ばかりだ。 それと戦うということは仲間への裏切りになるだろうか。) スラワーティー: 人間さんさま…… ラシュミ: スラワーティー。今は待て。彼には一人で考える時間が必要だ (でも、ジーヴァたちだって仲間じゃないか。 何者かも分からない俺たちに手を差し伸べてくれた。 彼女たちの想いに、さっきまで共感していたんだ。) (彼女たちが果敢に戦い散っていくのを、ただ指をくわえて見過ごす―― そんなの、許されない。俺が、俺を許せない。) ジューチャオ: どしたの?人間さん、お腹痛いの? (心配そうにジューチャオが俺の手を握る。) (そうだ。俺はこれまでも五獣の橋渡しもしたし、オーディンの孤立も、 ゼウスとガイア、エンリルとティアマトといった対立だって―― 周りの手を借りながらなんとか収めて来れたじゃないか。) (片方がオトギノクニだからといって、やるべきことは同じだ。) ジューチャオ: あたしは痛いよ、お腹。 昨日の夜に食べたカレーが予想以上に辛いしスパイスたっぷりで 人間さん: えっ、大丈夫か!?い、いやそれよりも (俺はジーヴァの手を握った。そしてありったけのエルマイトを流し込む。 彼女も、その意図にすぐ気づいたようだった。) ジーヴァ: 人間さん……! 人間さん: 俺も戦うよ。ジーヴァと一緒に 190027 - 本来の力を取り戻して ジーヴァ: あたしたちと戦う……本当にそれでいいのね、人間さん 人間さん: ああ。正確には、俺はジーヴァたちと、オトギノクニの橋渡しをする。 むやみに暴力で支配しようなんて奴らじゃないから必ず何か事情があるはずなんだ (そもそもμ世界と地続きになっていることもおかしい。 俺とジューチャオがここにいることもおかしい。 それらを糺せばきっと争いは避けられる。) 人間さん: でも、まずは戦う。ジーヴァたちのために。 そうじゃなきゃ、意図がどうであれこの世界は傷つくし禍根も残るからな スラワーティー: 人間さんさま…… ジーヴァ: そ、それは分かったけど……さっきから、その、何よ…… あたしの手をずっと握ってるのは、どういうつもり……? ジーヴァ: もしかして……こっちの味方をしてくれたのって…… 理由のひとつは、あ、あ、あたしの……ことっ…… 人間さん: エルマイトっていう力を送っているんだ。 ロートに奪われた力の補完になるはずだし、 エルマイトならルンペルにも攻撃が通りやすくなる ジーヴァ: ………… 人間さん: あ、ルンペルっていうのは、たぶんヴィジューたちが遭遇したでかいやつのことな ブラーマ: ねえジーヴァ。あたしのこと、の続きは? ジーヴァ: ~~~~っ! 人間さん: ああん (顔を真っ赤にしてぶつぶつ言っていたと思ったら、急に手を振り払われてしまった。 まあ、結構エルマイトを送り込めたし、いいか。) ジューチャオ: あー、これなんだっけ。人間さんに手を握られると変な元気が出るんだよ ヴィジュー: 変な元気って……え、なんか、えっちなやつ? (ジューチャオの曖昧な言い方が良くなくて誤解を招いている…… と言いたいところだが、言うほど誤解でもないので、どう弁解したものやら。 ジーヴァの顔がどんどん怖くなってるし。) 人間さん: えっと、じゃあ次の人 ガナ・イーシャ: はいはい。じゃ、あたしもらっておくわ ジューチャオ: ヴィジューとラシュミは無理しちゃだめだよ。怪我してるんだから (ガナの後に続こうとするヴィジューを押しとどめるジューチャオ。 確かに、いくらエルマイトを渡したからといって、 これほどの傷だと即座に治すというわけにはいかない。) ラシュミ: そうか。私にはもっと過激な方法で供給してもらおうかと待っていたんだが 人間さん: (ラシュミはどこまで知っていてこんなこと言ってるんだ…… いや人間界だとわりと、あるある設定だし予想できるのかもな) スラワーティー: では、次はわたくしですわね (ガナに続いてスラワーティーの手を取った瞬間――) ヴィジュー: あっ……あいつだ! ラシュミ: まさか私達を追ってきたのか!? (予想は間違いなかった。かつてコミッティ直轄領で、ドロシーとクレアが操る ディ・マキナで激闘を繰り広げ、ペローの謀略もあって大破した、 あの巨大な機体――『KHM:25ルンペルシュティルツヒェン』だ。) ジーヴァ: 人間さんとヴィジュー、ラシュミは下がっていて! ここは……あたしとガナで戦う! スラワーティー: 分かりましたわ。わたくしは人間さんさまをお守りします ジューチャオ: じゃあ、あたしはヴィジューとラシュミを! ガナ・イーシャ: 任せなさいって。いくよ、アン! (ガナの号令に従って、肩に乗ったアン――確か正式には アンクーシャという名前だったはず――が元気よく飛び跳ねる。) (途端に、同じ姿をした巨大なアンクーシャが姿を現した。 そしてルンペルの巨体に果敢に挑み、その牙で相手の砲台をがっちりと固定した。) ガナ・イーシャ: あの細長いのから攻撃してきたんだよね? ヴィジュー: そう!あれだよ! ガナ・イーシャ: だったら固定して……狙いを付けさせない……! アン、そのまま好きにさせないようにね! ジーヴァ: ガナのアンが、本来の力を出せてる……これがエルマイトってこと……!? ガナ・イーシャ: そうみたいね……あたしも、アンに『いけそう』って言われるまで ここまで本来の力を出せるなんて思ってなかったけど…… ジーヴァ: なら……あたしも……? ジーヴァ: 声に応えて!トリシューラ!! (ジーヴァの手に三又の巨大な槍が現れる。その先端には青い炎が宿っていた。) ジーヴァ: あたしのトリシューラが……戻って来た……! ジーヴァ: これなら、戦える! 最強と呼ばれたあたしの力、思いっきり見せてやろうじゃないの!! (迸る青い炎は渦を巻き始め、まるで嵐のような勢いとなる。) (ヴィジューやラシュミが苦しめられたのは、力の種類の違いもさることながら、 ロートに大半を奪われていたからだろう。 でなければ、相手からの攻撃が効いた説明がつかない。) (もちろん今のジーヴァとガナはエルマイトを帯びてもいる。 そして本来の力もほぼ取り戻している。ふたりに、隙はないはずだ。) ジーヴァ: 行くわよ、ガナ! ガナ・イーシャ: いつでも来なさい! (アンクーシャが飛び退った直後、炎の嵐がルンペルの機体を襲う。 周辺にはすさまじい爆音が響き渡ったのだった。) 190028 - 罠 ジャコヴァ: …… (人間さんたちがルンペルと激闘を繰り広げている頃、 ジャコヴァとヴィルヘルミナは直轄領から離れた、とある地点にたどり着いていた。) ヴィルヘルミナ: 信号の出どころを探った結果、ここを示していたわけだけど…… ふたりは本当にいるのかしら ジャコヴァ: いる、とは思う ヴィルヘルミナ: 引っかかる言い方ね。無事じゃないかもしれない、ってこと? ジャコヴァ: 分からんが……すでに世界はおかしなことになっているな (ジャコヴァが示したところには、足元に線が引かれている。) ヴィルヘルミナ: 異なる世界が融合している……?まさか、そんなことって ジャコヴァ: 聖母とやらが何者かは知らないが、ずいぶんと器用な真似をする。 もっとも、オトギノクニでもこんなことができるのは せいぜいライブラくらいだろうがな…… ヴィルヘルミナ: 姉さん!あれを! (地面に打ち立てられた太い杭のようなものに、ふたりは縛り付けられていた。 何か薬でも盛られているのか、どこか茫洋としている。) ジャコヴァ: シャルロッテ!フェルディナ! シャルロッテ: ……っ? (鋭く名前を呼ぶと、ジャコヴァはふたりにずかずかと近づく。 それに気づいたシャルロッテは、はっとして声を上げた。) シャルロッテ: いけませんっ、ジャコヴァ姉さま!来ちゃダメです!! ジャコヴァ: これがあるからか? (堂々とジャコヴァが何かの装置を踏み抜く。途端に、四方から矢が飛ぶが、 ジャコヴァは手にした武器をくるりと一周し、すべて弾いた。) ジャコヴァ: こんな子供だましに怯えて、ゆっくり歩くなど私には我慢ならない フェルディナ: ふ……ふふっ……さすが、姉さんたちだわ…… ヴィルヘルミナ: こんなところで捕まって……本当に使えない子ね フェルディナ: それが第一声なわけ……?ひどすぎるでしょ…… (理不尽に聞こえるヴィルヘルミナの言葉に、 いつものように反論するフェルディナだが、その声には覇気がない。 まだ薬が効いているのだろう。) (拘束していた縄をほどこうと手を伸ばす――) ジャコヴァ: ちっ! (背後から飛来した複数の攻撃を、身体を捻ってかわすジャコヴァとヴィルヘルミナ。) ロート: 意外と動けるんですね。ふんぞり返っていると聞いたので 現場には弱いものと思っていました ジャコヴァ: 私を知っているようだが、情報不足だな、小娘 (武器を向けるジャコヴァ。しかし、出方を待たずにロートは 手にした猟銃の引き金を何度も引く。 その度に虹色の弾丸がジャコヴァたちを襲った。) ジャコヴァ: くっ……銃か ヴィルヘルミナ: 無造作に撃っているように見えてこれ、 ワタシたちの動きを予測している軌道だわ……! ロート: あら、避けるだけなんですか?もっと反撃してくるかと思っていました ジャコヴァ: そう焦るな。言われずとも潰してやる (武器をロートに向け狙いを定めるジャコヴァ。 その隙を埋めるために防御のフォローに入るヴィルヘルミナ。 その動作は僅かな一瞬だった。長年のコンビネーションだ。) (だがしかし――) ロート: 妹 (銃口は瞬時に、まだ身体の自由を取り戻しきれないふたりに向けられた。) ロート: 忘れちゃだめですよ (猟銃が火を噴く。) フェルディナ: ……っ! (迫る弾丸。フェルディナが息を飲んだ瞬間、彼女の身体は吹き飛ばされた。 『真横』に。) (地面に身体を打ち付け、痛みに顔をしかめるフェルディナ。 何が起きたのかと身を起こすと、そこには。) ヴィルヘルミナ: ぐっ…… フェルディナ: ヴィル姉さん! ジャコヴァ: ヴィル! (フェルディナを庇い、突き飛ばしたヴィルヘルミナ。 その腹から流れる夥しい量の血液に、さしものジャコヴァも目をみはる。 それが次の僅かな隙だった。) ロート: よそ見 (続く銃声。さすがにジャコヴァは直撃は回避するも――) ジャコヴァ: ぐっ……!?この、小娘が……! (傷を負い、動きが鈍る。そこをロートは見逃さず、次々に銃弾を放った。 最初はかわせても、すぐに連撃がジャコヴァを捉える。) ジャコヴァ: ぐあぁっ!! シャルロッテ: ジャコヴァ姉さま……っ、く、ううっ……! そんな、姉さまたちがふたりとも地面に…… (いうことを聞かない身体を引きずるようにしながら、シャルロッテは呻く。 このグリムたちが地に伏すなど考えられない光景だった。) (ロートは歩み寄り、ジャコヴァの頭に銃口をごりっ、と突き付ける。) ロート: さて、これで私も一歩また―― ロート: !! (その場から飛び退るロート。彼女が先ほどまでいた地点を魔法の光線が狙っていた。) エミリー: そこまでだよ!みんなから離れて! ロート: ……っ、その力……ここはやり合うわけにはいきませんね エミリー: あっ! (その場からロートは姿を消す。一瞬、その行方を探そうとするも、 すぐに切り替えてエミリーはジャコヴァを抱き起こす。) エミリー: ジャコヴァ!しっかりして! (ひとまずはこの場の脅威は去った。 それを確かめたジャコヴァは、エミリーを見上げて何か伝えようと口を開いた。) (だが、言葉の代わりに泡の混じった血が垂れるばかりで、 そのまま彼女の瞳はすうっと閉じられたのだった。) 190029 - 煽られる不安 (ジーヴァの一撃を最後に、ルンペルは完全に動作停止した。 しばらく様子を見守るが動く気配はない。) ジーヴァ: やった……のよね……? ヴィジュー: すごいすごい!本当に勝っちゃったよ! ブラーマ: まさか本来の力を取り戻せるなんて…… ガナ・イーシャ: アンも久しぶりに暴れられてすっきりしたみたい。ストレス溜めやすいのよ、この子 ジーヴァ: これでひとまず、信民たちは安全になったと思っていいのよね ジューチャオ: だね!じゃあみんなでごはんでも食べよう! スラワーティー: い、いえ、わたくしたちには行くところがあるのですよ。 忘れてしまわれましたか……? ジューチャオ: なんだっけ? ラシュミ: ジューチャオにとっては毎回ワンナイトになるのだろうか ブラーマ: ラシュミも何を言ってるの スラワーティー: わたくしたちは、居座っている偽物を追い出して、 本来のμとして返り咲こうとしているのですよ ジーヴァ: そうね。休んでいる暇は……っと 人間さん: 大丈夫か?足元がふらついてるぞ ジーヴァ: ばっ……ばかっ、女の子に不用意に触るんじゃないわよ! 人間さん: 転びそうだから抱き止めただけじゃないか。 女の子だからとか、そういう意識はまったくないって ジーヴァ: まったく……? ジーヴァ: あっそ!いいから先を急ぐわよ ブラーマ: どこかの町で食料くらいは調達したほうがいいわね。 真っすぐ向かっても、今日のうちに着く距離ではないし ジューチャオ: そんなに遠いんだ?えーと、偽物がいるところ? ジーヴァ: そうね。けが人もいるんだし、町で治療もしないとね ラシュミ: 治療か…… ジーヴァ: なによ。必要ない、とか言うんじゃないでしょうね ラシュミ: 治療と称して何をされるのだろうと考えてしまってな スラワーティー: え……何って、治療ではないんでしょうか……? レオナ: ねえねえ、オーディン。あれも買って行こうよ オーディン: えっ、ま、まだ手土産が必要なんですか……? いえ、そうですよね。先生に感謝を伝えるためなんですから、 惜しむようなことがあってはいけません……買いましょう! レオナ: 何ぶつぶつ言ってるの?別にわたしが食べたいだけよ オーディン: そ、そうなんですか……? レオナ: 魔物の波も落ち着いたところでしょ?また戻らなくちゃいけないんだし いまのうちにオーディンものんびりしておいたら? オーディン: は、はい……別行動になったエミリーさんとも合流しないとですから あまりゆっくりはできないですが…… パラケルスス: 何だ、待ち合わせになかなか来ないと思ったら、こんなところで油売ってたのかい? オーディン: ああっ、先生! パラケルスス: やあ、久しぶりだね。ずいぶんご活躍だったようじゃないか レオナ: オーディンのおかげでエミリーも強くなれたし、コミッティ本部も無事だったらしいよ パラケルスス: そりゃよかった。レオナの別宅も無事だといいけど オーディン: あ、あの……見てきたけど屋根がちょっと穴開いて…… レオナ: げっ…… パラケルスス: 直轄領に残ってちゃんと魔物討伐を手伝っていれば、防げた事態なんじゃないかなぁ レオナ: 可愛そうな住民が避難して何が悪いのよ! もうコミッティでもなんでもない、一般市民なんだからね? パラケルスス: 面倒だしリベルタリブロに借りてるアトリエでやり過ごそうかなぁ~。 ――というのが避難っていうなら、まあそうなんだろうね レオナ: パラケルススは人のメッセージ一言一句覚えてるわけ?ちょっと気持ち悪いわよ パラケルスス: それだけインパクトがあったんだよ。なんて非道なやつなんだって オーディン: せ、先生は本当に遠慮がないですね…… リチェンダ: 号外、号外~! パラケルスス: ん、号外? リチェンダ: コミッティ直轄領周辺に現れた未知の敵!その正体とは!明かされる謎の存在μ! さあ、隠された全容を知りたければ読んでみてよね! オーディン: えっ……μのことが……? リチェンダ: はい!号外、号外~ レオナ: 行っちゃった……どんな記事なの? パラケルスス: 『コミッティ直轄領北西部に突如として現れ、本部周辺を襲撃した未知の魔物。 それは新たに発見された大陸に住む<μ>という謎の存在が主導していた!』 パラケルスス: ……これ、事実なのかい? オーディン: ちょ、ちょっと大げさですけど…… 襲ってきた魔物がμの世界から来たっていうのは間違いなさそうです…… レオナ: 『世界が今、融合しつつある…… 脅かされるオトギノクニの平穏、境界線では激しい戦闘が勃発』 オーディン: 新たに発見された土地との境界線では、 確かにフアナさんや特務機関の皆さんが戦っていました…… パラケルスス: 事実無根ではない、か。 多少の推測が混じっているにしても誤報だと非難は難しいだろうね レオナ: でもなんか……こういう書き方だと、 まるでμが悪者、侵略者だ、みたいにみえちゃうね…… オーディン: μが……侵略……?でも確かに、μ世界が融合し始めている…… オトギノクニ側の視点からすれば浸食されているのは確かですね…… オーディン: μは自分の世界の理をある程度コントロールできる存在。 その理屈で言えば、μが侵略者だというのも…… そういった誤解が生まれるのは仕方ないのかも…… オーディン: (だとしたら……わたしはどうすれば……) レオナ: それにしてもこんな記事が出るなんて、ジャコヴァはブチギレだろうなぁ 190030 - 大事なものが失われて ドロシー: ………… ドロシー: むんっ!! トリル: きゃっ!! ジョカ: おお……新聞を真っ二つにしたぞ…… ドロシー: 誰よ、こんな情報をリークしたのは! トリル: 人の口には戸が立てられないと言いますから…… ラヴクラフト: 戸は立てられないけど、アレで塞ぐことはできるのにね シェイクスピア: それ実際にやったら普通に犯罪よ? クラース: 攻撃してきたのがμ世界の存在だってことは事実だし、 コミッティとしてどう声明を出すべきか、難しいわね フアナ: このままだとオーディンはもちろん、 ポセイドンまでμだってことが暴かれて、変な詮索を受けてしまうかもしれないよ シンデレラ: あくまでも敵は今回のμ世界であって、μ全体ではないわ。 そういうメッセージを早めに打ち出すべきね ドロシー: 今回のμ世界だって、μが主導してるのかは分からないじゃない シンデレラ: それは楽観的すぎると思うわ。魔物はこの本部を真っすぐ目指して攻撃してきたのよ。 自然発生したものだとは思えない フック: 世論も、身を守るためには戦うべき、という流れですからね ドロシー: フック!もう身体は大丈夫なの? フック: ええ。かなり時間はかかってしまいましたが、もう自由に動いても構わないと ドクターからお墨付きをもらいました フック: 何より、この非常事態に寝ていられないでしょう。 外敵が現れ、そして……ジャコヴァとヴィルヘルミナが シェイクスピア: ええ……そうね…… フック: 二人の容体は? ドロシー: ……意識が戻らないわ。かなりの深手みたいだし、 それに……フックも分かってるでしょうけど フック: オトギノクニ全域のエルマイト不足、ですね シェイクスピア: GR2周辺の調査はまだ完了していないけど…… 何かしらの仕掛けがあるのは間違いないとにらんでいるわ シェイクスピア: 悲劇は数奇な運命に踊らされてこそ…… 誰かの意図に沿って進行していく事態は悲劇と呼びたくないわね シンデレラ: こういう有事にこそジャコヴァのカリスマが発揮されるし、 それを実現するための実務のトップがヴィルヘルミナ…… シンデレラ: 分かっていたつもりだけど、やっぱりあのふたりの存在感は大きいわね…… ドロシー: 嘆いても仕方がないわ。戦うと決めたのなら……フアナ、体勢を整えておいて フアナ: うん、もちろんだよ スラワーティー: よかったですわ、すぐに治療してもらえて ヴィジュー: うん!これでいつでも戦えるよ! ジーヴァ: 油断しちゃだめよ。手当をしたからって傷が一瞬で塞がるわけじゃないんだから ブラーマ: そうだね。ラシュミも分かってる? ラシュミ: もちろん心得ているよ。最初から激しくしないで、徐々に馴染ませながらだね ガナ・イーシャ: まっとうな返事なのに、なんだか妙に卑猥に聞こえるのよね…… ジューチャオ: えー?なんかだめなの?賑やかなのはいいことだよ 人間さん: ヒワイっていうのは、別にワイワイしてることじゃないからな? ジューチャオ: そうなの!? スラワーティー: 人間さんさまもよく気づきましたわね。 ジューチャオさまが何を仰ってるのか、わたくしさっぱりでしたわ…… 信民1: おい聞いたか、ジーヴァさまが来られるらしいぞ 信民2: 広場だろ?早めに行ってお迎えしなくちゃな! ジーヴァ: ジーヴァ……あたしの偽物がこの町に……!? スラワーティー: 落ち着いてくださいませ、ジーヴァさま。 あくまでも信民の誰かが操られているにすぎませんわ。 本命はあくまでもロートです ジーヴァ: 分かってる。でもその顔、拝みにいってやろうじゃない 偽ジーヴァ: 皆さん!既にご存じでしょうが、この町の近くにまで 恐ろしい敵の手が届こうとしているのです! ジーヴァ: ……信民が不安がるようなこと言わないでほしいわね。 仮にもあたしの名前を騙っておきながら、下手くそね ガナ・イーシャ: あれはわざと不安を煽ってるんじゃないかしら。 もちろん、あの子本人じゃなくて裏で糸を引いてるやつがね 偽ジーヴァ: 今回は私たちが討伐しました。 しかし、外からの脅威に備えるには皆さんひとりひとりの意識が重要です 偽ジーヴァ: この敵は……オトギノクニと呼ばれる、異世界からの侵略です! 見慣れない者がいれば、即座に攻撃を仕掛けること。情けは無用です! ヴィジュー: 信民のみんなまで戦いに巻き込もうとしてる……! もし脅威があったとして、戦うべきはμなのに! 人間さん: 異世界からの侵略者、か…… スラワーティー: 人間さんさま…… 人間さん: 大丈夫だよ、スラワーティー。ロートを押さえて、 それからすぐにオトギノクニ側とも話をつける。誰の血も流させやしない スラワーティー: ……ご無理なさらないでくださいね 190031 - 最善の選択 (ヴィジューとラシュミの応急手当も終えて、 俺達は立ち寄った町を出ると元来た道を戻り始めていた。) (ロート攻略は避けて通れない最重要課題だ。だが、ルンペルを差し向けてきたこと、 偽ジーヴァがあのように信民をも煽っていることを考えると、 急がねばならないのは和解だと判断した。) ジーヴァ: あのルンペルっていうのを、あたしたちが倒し切っちゃったからね ガナ・イーシャ: でもあれって、交渉とかできるような相手じゃなかったんじゃない? 暴れるのを止めたからって、話し合えそうになかったけど 人間さん: ガナの言う通り、あれはロボ……操り人形みたいなものなんだ。交渉する相手じゃない (修復ついでに友人に改修されてはいないかと念のために確認したが、 やはり無人機のままだった。なのでパイロットに親書を託すこともできない。) スラワーティー: 残してきた皆さんのことも心配ですわね。 たぶん、あの町でも同じような状況でしょうから、 周りの声を聞いて恐ろしくて震えているに違いありませんわ ヴィジュー: だよね……あの人たちみんな、オトギノクニから来たんだもんね。 もしそれが周りにバレたら…… ジューチャオ: うん…… ブラーマ: ……ジューチャオは状況、本当に分かってるの? ジューチャオ: 当然だよ。オトギノクニ出身だってバレたら、 田舎者だって思われていじめられちゃうってことでしょ? 人間さん: このやろ ジューチャオ: いたいいたい! (理解していないのはもういいとして、田舎呼ばわりとはなんだ。 俺はジューチャオに梅干しを食らわせた。) スラワーティー: まあまあ、いけませんわ。ジューチャオさまは場を和ませてくれているのですから (和ませようとしてとは言わないあたり、 スラワーティーも諸々分かった上での優しさらしい。) ラシュミ: しかし、あのルンペルとかいうやつが来た方向に向かったとして、 果たしてまた新手と会えるのか? それにまた、ああいう操り人形が来たのでは…… 人間さん: ルンペル自体は1機しかないはずだし、 あれが稼働停止したことは司令部で必ず把握しているはず。 様子を見るために、本隊じゃないにしろ誰かしら来るはずだ 人間さん: そもそも大破はさせてないから、機体は回収したいはず。 コミッティの予算も青天井じゃないからな ヴィジュー: もしかして町に一旦戻ったの、結構ロスだったかな? ジーヴァ: 手当は必要だったし、どう行動するべきか定まってなかったでしょ。 あたしたちが態度を決めたのは、あたしの偽物が言ってた内容を受けてだし ラシュミ: ……待て。何か来る ジーヴァ: 魔物!? (前方に姿を見せたのは、野犬――いやオオカミだろうか? 明らかにディマイトをまとった異常個体で、魔物化してしまっている。) (オトギノクニでもそれなりに見かける魔物ではあるが、その数がかなり多い。 それも、気が付けば側面、そして後方からもわいてきていた。) スラワーティー: 囲まれましたわね ラシュミ: 獣相手に、かわるがわる……か。さすがに私も趣味ではないな (またよく分からないことを言いながらも武器を構えるラシュミ。 顔とスタイル、おまけに声までいいので、 深く考えなければなかなかにサマになっている。) ガナ・イーシャ: 来た道を戻ってるだけなのに、こんなに完璧に待ち伏せてるなんて…… あたしたちが何をしようとしてるのか、把握してるんじゃないでしょうね? ラシュミ: ……っ!?な、なんだ、緊縛されて……っ!? ジーヴァ: 身体が、動かないっ……! (突然、俺達の身体から自由が奪われる。動かそうとしても鉛のように重い。 まさか、こんな魔物が何かの術を使ったのか……?) ジューチャオ: これ……魔法とかだよね……っ? ジーヴァ: ええ……でも、本来の力を取り戻したあたしとガナまで拘束できるなんて、そんなの…… ブラーマ: そうね。ワタシしかいないでしょうね (魔導書なのだろう、手にしている本をぱらぱらとめくりながら淡々と答えるブラーマ。 一体、何が起きているのか。) ブラーマ: これが最善の選択なの ジーヴァ: ブラーマっ!!どういうつもりよ!早く解きなさい!! ヴィジュー: やる気ないならないで、ヴィーたちの邪魔はしないでよ! ブラーマ: やる気?なんの? ヴィジュー: だからっ、この世界を救いたいっていう―― ブラーマ: ワタシはずっと考えていたの。どうすればこの世界を救えるか ブラーマ: だからさっき言ったでしょう 人間さん: 『これが最善の選択』って――なんでそうなるんだ!? 俺が信じられないなら、そう言って……! ブラーマ: 君の問題じゃないの。これは生存戦略…… (ブラーマは最後にそれだけ言い残すと、俺達に背を向け歩き去っていく。) ジーヴァ: ブラーマっ!! (ジーヴァたちの必死の声にも、小さくなっていく彼女はついに振り返ることはなかった。) 190032 - 復活の布石 (ついに俺達の視界からブラーマが消える。 その間、魔物は黙って待っていてくれたわけではなかった。) ガナ・イーシャ: がんばってよ、アン……! ジーヴァ: 人間さんっ、無理するんじゃないわよ! (次々に襲い来る魔物。 それをアンクーシャが展開する魔法障壁で、なんとか凌いでいた。 防ぎきれずに侵入してくる魔物もいるが、俺が借りた剣で対抗する。) (ブラーマが使った魔法の原理は不明だが、純然たるμでないアンクーシャは 制限を受けながらもいくばくか能力が使えたらしい。 もちろん俺も同じく、μたちに比べれば動けるのだが……。) 人間さん: もともと大して強くもない上に、やっぱり多少は制限を受けてる……身体が重い……っ ヴィジュー: うう、さすがにこのままずっと我慢してるわけには……! ラシュミ: 私は我慢が嫌いだ。スラワーティー、解呪の準備は スラワーティー: していますわ。でも思うように身体が動かないので…… ジューチャオ: 人間さん…… ジューチャオ: どうして戦ってるのっ!! 人間さん: え…… 人間さん: いや、この局面でマジか……ジューチャオ…… ジューチャオ: どうして……逃げないで戦ってるの!? それだけ動けるなら、人間さんだけでも逃げなよ!! 人間さん: ……! (まさかの、重度の物忘れかと思ってしまったが、彼女は真剣な目で訴えていた。) ジーヴァ: そうだわ!あんたは逃げればいいのよっ……ここであたしたちと心中する必要なんて (そう。確かに俺は、応戦しながらもこの場から逃げる、 という選択肢があるくらいには身体が動く。でも――) 人間さん: 命は助かるかもしれない。だけど、心が死ぬんだよ ジーヴァ: ……っ! スラワーティー: 人間さんさま……! (少々、格好はつけてしまったと自覚がある。でも嘘ではない。 ここで生き延びて、後悔を抱えて生きていくなんてまっぴらだ。) 人間さん: (とは言え死にたいわけではない……どうすれば……!) ガナ・イーシャ: くうっ! ヴィジュー: うわぁっ! (アンクーシャが防ぎきれず、俺もカバーできない魔物の攻撃が徐々に増えていき、 μたちの傷が増えていく。このまま嬲り殺しにされるのか――) ジーヴァ: !? ???: ふせて!! (聞こえた声にとっさに反応し、身を伏せる。 刹那、強烈な光弾が次々に飛来し魔物を消し飛ばしていく。 その中には見覚えのある黒い弾丸も混じっていた。) 人間さん: これは……! 雨依: もしかして、いまの私ってめちゃくちゃカッコよかったりする? テュポーン: え、テュポもカッコよくなりたい! ヴェルメリオ: ……人間さん。よかった、無事で ニーチェ: 気持ちばっかり押し付けるのもいい加減、鬱陶しいかもしれないよね。 なんかこう、こいつは助けたほうがいいな、 みたいな打算的に考えてもメリットがあったほうが ニーチェ: だとしたらやっぱり私の強みは……情報、かなぁ。 でも致命的なのは、人間さんが何を知りたいか、 っていう『情報』が手元にないんだよね ニーチェ: うーん……美味しいパスタを作るコツ、とかどうかな。 『こんにちは人間さん。私はとても家庭的で良い奥さんになれるのでパスタも作れます。 ゆで汁をソースに少し加えて乳化させることで』 ニーチェ: ……急に家庭的アピールは重いか。 あと私、パスタくらいしか作れないしボロが早々に出そう ニーチェ: 早々に出そう。なんか韻踏んだ?フヒッ…… ニーチェ: あー、ライブラと因縁あるんだっけ。じゃあ、えっと…… ニーチェ: 『ライブラの動きには気を付けてください。彼女は必ず復活を目論見ます。 方法はいくつかあります。もっとも確度が高いのは グランド・リヴィジョンに設置してあるバックドアを使う方法』 ニーチェ: 『でもこれはもう、人間さんが潰したと風の噂で聞きました。 すごいです。さすが私の理想の彼』 ニーチェ: おっと先走っちゃった。フヒッ。これは、くしゃくしゃ、ぽいっと ニーチェ: 『すごいです。さすがです。でも実は方法は他にもあるのです。 おそらく次に考えられるのは、他人の身体を借りるという方法……』 ニーチェ: 『あらかじめ用意されたバックドア以外から封印を緩めてしまうと、他の神官が 先に復活する可能性があります。ライブラはそれを何より恐れているはず。 彼女たちもまた一枚岩ではありませんから』 ニーチェ: これなぁ。本当に復活したら離反するかは分かんないけど、 少なくともライブラは絶対心配してるはずなんだよね ニーチェ: だいたいあの子だって本当は…… (コンコン) ニーチェ: ふぇっ!?えひゃ、あ、ひゃいっ ペロー: ちょっと聞きたいことがありまして ニーチェ: え……あぅ……な、なんですか…… ペロー: あなたも、お入りなさい ブラーマ: …… 190033 - 遺された手がかり キャロル: きゃはっ♪ほんと、面白いくらい筋書き通りだよっ。 どっちも憎しみあって、恐れあって、そして殺し合おうとしてる♪ ペロー: なんとも愚かな連中ですね。哀れみを禁じえません。 しかし、これで事は進めやすくなるでしょう ペロー: μの連中はそもそもロートが骨抜きにしている…… これでコミッティのリソースも奪うことでオトギノクニもまた無防備になる キャロル: その間に一気に、ってことだね ペロー: 両者共倒れ。それが理想ですね。残されるのは広い、無法地帯と化した世界…… キャロル: あたしたちが法になればいいわけだし♪ ペロー: もっとも……表向きの支配は聖母に握らせてやらなくてはならないでしょうがね キャロル: 自分の世界がほしいんだもんね? ペロー: そう。そして彼女の復讐はμ世界にとどまらない。 本丸は、自分を現在の姿たらしめている人間界…… ペロー: 深淵の闇には絶対に乗るしかないわけです キャロル: でも、世界を渡り歩いたり、世界そのものをつなげたり…… そのためにはあたしたちも、聖母を切れない ペロー: そのとおり。でも、それは永遠ではない…… ペロー: おっと、来たようですね ロート: 戻りました。手筈通り、ブラーマも合流しています ブラーマ: …… ペロー: ああ、あなたがブラーマですか。ロートから話は聞いています ペロー: 私は元インペリウム・コミッティ13号委員にして、神官代理、ペローと申します キャロル: あたしはキャロル。一緒に血が流れるのを見届けようねっ、きゃはっ♪ ペロー: さて……揃ったようですし、そろそろ行きましょうか。 『先生』にご意見を伺いに、ね。ふふっ…… レオナ: ふう、美味しかったぁ オーディン: あ、あの……わたし、そろそろ戻らないと…… レオナ: ごめんごめん。頭脳労働をすると身体が糖分を欲するんだよね パラケルスス: と言い訳して摂取し続けた結果が今のわがままボディなんだね レオナ: なん、だと……? オーディン: あわわわわわ レオナ: ま、いいわ。それどころじゃないし。 というか、オーディンもまたそろそろ戻らなくちゃいけないでしょ? オーディン: ええ……魔物を追って、ちょうどこの近くまで来たとき、 先生も近くにいると聞いたので、ご挨拶に来ただけですし…… パラケルスス: 律儀なことだね。僕に挨拶したところで、何も得られないのに オーディン: これは、わ、わたしの気持ちですから……先生の言葉があったからこそ、 今回のエミリーさんの手助けもできたわけで…… パラケルスス: でも、まだ終わってないんだろう?気を抜かないようにね オーディン: そ、そうですね パラケルスス: もっとも、無害な相手など誰ひとりいないから、 常に脅威に晒されているとも言えるけど。 問題は、どの程度その相手が害を及ぼす存在なのかどうか オーディン: ……? パラケルスス: いいや、なんでもないよ オーディン: ……では、そろそろ行きます。本当にありがとうございました レオナ: ……最後に皮肉をいうって、師匠としてどうなんだろうね? パラケルスス: 皮肉なんかじゃない。僕なりのエールだよ。 例え世界にとって異質な存在でなにかの影響を与えているとしても、 人々のために戦ったという実績は揺るがし難いものなんだ、ってね パラケルスス: ……μがオトギノクニに、いるだけで作用してしまう可能性は 完全には否定できないんだ。彼女の価値は、彼女自身が作るしかない レオナ: 皮肉っぽいパラケルススらしい考え方だよね。昔からよく言ってたことだけど パラケルスス: さて……僕たちも行こうか。そろそろ彼女も来ている頃だ アイソーポス: ああ……遠いところを悪かったね パラケルスス: 遠くなんかないよ。最近の僕は悪魔の森から外に出て、ずいぶん精力的に動いてるんだ レオナ: 宿で昼前まで寝ていた人が精力的? パラケルスス: 僕のことはいいから。本題は? アイソーポス: これを レオナ: スフィア?これって映像記録用のものよね アイソーポス: ああ。なんとかこれを解析して、記録されているであろう映像を復元したいんだ パラケルスス: つまり、現時点では再生できない……破損したスフィア、ということか アイソーポス: 稀代の錬金術師、パラケルススなら可能なんじゃないかと思ってね パラケルスス: 君にしちゃずいぶん煽るね。いいさ、乗ってやるよ。で、こいつの出どころは? アイソーポス: 天空神殿跡地だ レオナ: 天空神殿……?ということは アイソーポス: 墜落し、瓦礫と化した神殿の中に埋もれていた。もし当たりなら中身は―― パラケルスス: 十二神官たちの姿、か 190034 - 裏切りの理由 ヴェルメリオ: ……よかった、本当に。人間さんも、ジューチャオも無事で ジューチャオ: あたしたち、心配されるような状況だったんだね (ヴェルメリオから一通り事情を聞いた。 つまり、寝ている間に忽然と俺達の姿が消えた、 コミッティ本部も大騒ぎで行方を追っていると。) 雨依: でも……痕跡を追いかけたら、こうして見つけられたの テュポーン: えっへん。テュポ、すごい? 人間さん: ああ、すごいぞテュポーン。ありがとう、助かったよ テュポーン: ふふん 人間さん: だが、それはつまり…… 雨依: そう。ここはオトギノクニと地続きよ ジーヴァ: 本来は別世界だったはずの2つの世界が、何かの事情で繋がっている…… ラシュミ: だとすれば、戦いになってしまったのも、 お互いに未知のものと遭遇した警戒感から、ということかもしれないな (おそらくラシュミの推測は近しいだろう。 だが、コミッティがルンペルの起動を決めるということは、相当なレベルの警戒だ。) 人間さん: おそらくμ世界から先に、なにか仕掛けたのかもしれないな ヴィジュ―: あっ……ロートと、その手下の偽物たち……? スラワーティー: だとしたら、ブラーマさまの行動も説明がつくのでしょうか (場に重い沈黙が落ちる。協調性がないとは言え、大切な仲間だと誰もが思っていた。 その彼女が反旗を翻すからには、なにか理由があるはずだ。) ヴィジュ―: 最善の選択、って言ってた。たぶん、騙されてるんだよ。 あのロートか、その裏の聖母とかいうのに ラシュミ: ふたつの世界を戦乱に導くロート……それを肯定するのが最善、か。 なにか私達の知らない情報を、彼女は手に入れているのだろうな ジーヴァ: それならそれで……どうして、あたしたちに相談しないのよ……! ラシュミ: ジーヴァ…… ジーヴァ: ひとりで勝手に考えて、ひとりで勝手に決めて!あいつはいつもそう……! ガナ・イーシャ: それは本人と話すしかないわね。とにかく今は、あの子を探し出さないと スラワーティー: 当然ながらブラーマさまは、わたくしたちがジーヴァさまの城を目指していたことを 知っていますわ。だとしたら、ロートのところに戻ったとき…… ガナ・イーシャ: 場所を移すように進言するかしら 人間さん: というか、軌道修正をしようとしてこなかったから、 最初からそこには誰もいなかったのかもしれないな ヴィジュ―: そっか。行くのやめようとか言わなかったもんね 雨依: じゃ、そのブラーマって子を探すのがひとまずの目標、ってことでいいの? ジューチャオ: そうなの? ヴェルメリオ: ……ジューチャオは把握してないの? ジューチャオ: みんなの話はさっぱりだよ 人間さん: お、おう…… ジーヴァ: でも、その前にまず、オトギノクニの攻め込んできてる人たちと 話をつけないといけないでしょ? ヴェルメリオ: ……まさか、戦争みたいになってるなんて思わなかった 雨依: 私達が知らない間にずいぶん物騒なことになっていたみたいね…… エミリー: ………… ティンカー・ベル: エミリー! エミリー: ティンカ……?それに、リルも…… だめだよぅ、まだ安静にしてなくちゃなんじゃないのぉ? リル: 同じ病院内を移動するくらいの自由はあるさ。それより、エミリー殿 エミリー: うん…… リル: その様子だと、小生たちが聞き及んだ情報に間違いはないようだな ティンカー・ベル: フェルディナとシャルロッテは? エミリー: ふたりは麻痺させられてたから……治療を受けてるところ。 まだ目が覚めてないかもだけど、 そっちは命に別状はないだろうってお医者さんが リル: そっちは、か…… エミリー: そうそう。そのお医者さんがねぇ、イケメンだったんだぁ。 お医者さんだから頭もいいし、お金持ちだし、 それでイケメンっていわゆるハイスペってやつぅ? ティンカー・ベル: やんなくていい エミリー: え……ティンカ……? ティンカー・ベル: ティンカたち、仲間でしょ。友達でしょ。……元気なふりとか、やんなくていいから エミリー: う…… エミリー: うぅっ……う、あああぁぁぁっ……! リル: !! ティンカー・ベル: …… エミリー: エミリー……っ、助けられなかった……っ! 新しい力とかっ、オーディンにもらって、それでっ……う、ううっ…… エミリー: なんか、予感がしたのっ、だから行って…… だけどっ、ひぐっ、何もっ、できなかったっ、 目の前でっ、えぐっ、ジャコヴァもっ、もう……ヴィルもっ…… エミリー: なんにも間に合わなくて、できなくて、エミリーっ、 う、ひっく、だからっ、えっ、うっ、えぇうっ…… ティンカー・ベル: でも力を手に入れたんでしょ。コミッティ本部、守ったんでしょ ティンカー・ベル: まだ何も解決してない。エミリーがここにいても、何もできないよ。 でもやるべきことはあるし、エミリーはやれるんだよね エミリー: でもぉ……っ、う、あぅっ…… ティンカー・ベル: 戦いに行きなよ。それしかないじゃん エミリー: うえええ……っ、う、あっ、だって、エミリーっ…… ティンカー・ベル: うるさい!行け!! エミリー: ……っ!う、うぅっ…… リル: ずいぶん厳しいじゃないか ティンカー・ベル: ……ね。ティンカもびっくりだよ ティンカー・ベル: でも、ここにいちゃだめだから 190035 - 必要とされるもの フアナ: 各国から部隊を派遣してもらっているところ。続々と集まって来てくれてるよ。 μ世界との境界線を囲むように防衛戦を作り始めてる ラヴクラフト: きゅっと締めちゃうんだね ドロシー: さしずめオトギノクニ連合軍、ってところね。 ……え、ラヴクラフトはいまなんて?きゅっと? トリル: そこ拾わなくて大丈夫です シンデレラ: 敵の攻撃、第二波がどの程度の規模になるか分からないけど…… 守りをある程度固められたら、打って出たほうがいいかもしれないわね ジョカ: 先手を打つか。リスクは伴うが、いたずらに待ち続けるのも消耗してしまうからな トリル: いよいよ全面戦争になってしまいますね…… シェイクスピア: みんな、ちょっとこれを見て ドロシー: どうしたのよ、そんなに慌てて。しばらく席を外していたからトイレかと思ってたわ ラヴクラフト: あたしは部屋ですっきりしてきたのかと思ったよ シェイクスピア: くだらないことを言ってる場合じゃないの。これよ フアナ: オトギノクニの地図……? シェイクスピア: 現在、各地で空間の歪みが観測されているわ。 この歪みが何を意味するのか……過去のデータと照合したの クラース: 何かとマッチしたのね?まさか…… シェイクスピア: 例のあの魔法陣、そして今回の侵食領域……いずれも同じ種類の波形データだったわ シンデレラ: つまり、μ世界ね……!? シェイクスピア: まだ確実なことは言えない。 でももし、今回の侵食領域のようなことが各地で起きたら…… ドロシー: オトギノクニがμ世界と融合しようとしている……? シェイクスピア: まったく異なる世界と複数箇所で同時多発的に融合すれば、 当然だけど世界の理も影響を受けるでしょう フアナ: 世界の形すら変わるかもしれない…… シェイクスピア: そう、それはすなわち……第三次グランド・リヴィジョン、GR3ともいうべきものよ 全員: ……! シェイクスピア: まだ全容はわからないわ。これを解き明かすには、相応の専門知識が必要だから シンデレラ: でもシェイクスピアでも分からないなら……パラケルススを頼るしかないわよね シェイクスピア: あるいは……この分野の第一人者と言えば、あの人ね ドロシー: フリードリーケ・ニーチェ……! デュプリ: お久しぶりですね、神官長 レグルス: これは…… デュプリ: この場所なら神官長の肉体の一部があるんで、 一時的に実体を取り戻すことができるんすよ デュプリ: ずっと前からわかってはいたんすけど、 ボクの気持ちに整理をなかなかつけられなかったんで…… レグルス: デュプリ……アナタには色々と言いたいことがたくさんあります デュプリ: ですよね…… レグルス: でもまず、これだけは言わせてください デュプリ: はいっす レグルス: 微精霊になっているワタシを谷間に挟んで持ち歩くのはやめてください!! デュプリ: あ、やっぱり苦しかったっすか? レグルス: 息苦しいのもそうですし、なんかすごく微妙な気持ちになるんです! デュプリ: いやー、少しでも近くにいたいなって思ったんすよ。 パンツの中に入れるか迷ったんすけど レグルス: 絶対やめてくださいね!? デュプリ: でも……こうしてまた、神官長の肌に直接触れ合えて……ボクはそれだけで幸せっす レグルス: デュプリ…… レグルス: でも、そのためにここへ来たのではないのでしょう? デュプリ: あ、わかってたんすね レグルス: ここへ来るまでの間も、ワタシに語りかけていたじゃないですか。 微精霊でも、アナタの声は聞こえているんですよ レグルス: ……世界の様々な場所に連れ出しては風景を見せ、 毎晩のようにアナタが語りかけてくれましたね。 おかげで、ようやく気が付きましたよ レグルス: ワタシがいかに、これまでアナタの声に耳を傾けてこなかったのか…… デュプリ: そんなことより レグルス: ちょっと!ここは感動するところでしょう!?何あっさり受け流してるんですか!? デュプリ: いやあ時間あんまりないんで。送り込んだ人間さんは がんばってくれてますけど、相手もなかなかのやり手なんすよ レグルス: ……そうですね。では始めましょうか。 オトギノクニに何が起きているのか、それをこのGR2から辿って…… レグルス: その前に、ライブラの祭壇だけ見ても? あなたは嫌かもしれませんが、やはり祈りを捧げたいのです デュプリ: 大丈夫っすよ。そうやって一言あるだけで、前と全然違いますし レグルス: ライブラ……ワタシは、アナタが残してくれたこの世界を……守れるでしょうか…… レグルス: …… レグルス: ……? デュプリ: 神官長? レグルス: 気配が……ない…… デュプリ: ライブラの? レグルス: ワタシには分かるんです。 寂しくてここでしばらく寝泊まりしたり祭壇を抱きしめて過ごしたとき…… デュプリ: 気持ち悪いっすねぇ レグルス: 確かに、ライブラの温もりがあったんです。妄想じゃありません。 ライブラの……魂の気配があったんです デュプリ: それが、ない? レグルス: まさか……ライブラが、復活している……? デュプリ: ………… 190036 - 世界の融合 ペロー: ……現在は、魔物は一旦掃討されました。 ただ、二の矢、三の矢はすでに用意していますから 創造の聖母: もはや……手段はこれしかありません……。 世界を正義に染め直しても、思うように進まないというのなら 邪魔をする相手を直接、叩くしかないでしょう 創造の聖母: そのために、私の能力で世界をつなげたのです。 始めたからには徹底的に蹂躙し、なんとしてもオトギノクニを手に入れる…… キャロル: わかってるってばぁ。いま、やってるとこ 創造の聖母: 成果が上がっていないと申し上げているのです! キャロル: わぁお。おこっちゃった ペロー: 時間の問題です。先の攻撃で、かなり消耗しています。 しかもロートが、あのグリムの筆頭ふたりを潰したとも聞いていますし 創造の聖母: グリムが何者かも知りませんが、 抵抗する意志すら持たないよう完全なる支配をもたらすのです。 現状、拮抗している、勝機がまだあると思われているでしょう? 創造の聖母: あの身勝手な者たちが生み出した、戯れの世界…… 徹底的に潰し、穢し、跡形もない別物に塗り替える…… 創造の聖母: これは復讐なんです。人間界への……! ペロー: ええ、承知しております。次は必ず良い成果を報告しましょう 創造の聖母: 待っていますよ。それが貴方達の主、私の盟友も望むことなのですから…… キャロル: いなくなった? ペロー: ええ。しかし、本当に病的ですね…… 復讐心だけで、あそこまで衝き動かされるものだとは ペロー: さて、みなさんを待たせています。戻りましょう ペロー: お待たせしました。いろいろ忙しくて ロート: いいえ。聖母はなんと? ペロー: 特に。現在の作戦を続けるようにと ロート: そうですか…… ブラーマ: …… キャロル: んで?ニーチェに聞かないとでしょ?融合のこと ニーチェ: ゆ、ゆゆ、融合、ですか?私、あの、物理とかはちょっと ペロー: 世界の融合です ニーチェ: ……!? ペロー: 異なる世界の融合……現在、創造の聖母の能力として、部分的に実現しています。 これについて、あなたの見解をお伺いしたいのです ペロー: 3つ以上の複数の世界が同時に融合することは可能なのか。 融合すれば何が起きて、世界はどのように形作られるのか。 その対象に人間界を含めることもできるのか…… ニーチェ: え、え、えっと、その、あの ペロー: 失礼しました。ひとつずつどうぞ ニーチェ: 融合は、できなくないと思う。いっぱい融合することも、理論上はできる キャロル: へー!じゃあいまの計画って本当になっちゃうんだ ニーチェ: で、でも……融合したら何が起きるのかは、その…… 正直やってみないと、わかんないっていうか……フヒッ…… ブラーマ: 分からない……じゃあ、ワタシのこの世界も変わってしまうかもしれない? ニーチェ: そ、そうかもしれないし、違うかも…… ロート: 最初からそれは覚悟の上でしょう?このまま消えてしまうくらいなら、 形が少し変わったとしても仲間が生きられる場所があったほうがいい…… ロート: あなたも、そう納得していたのでは? ブラーマ: ええ、もちろん分かってる。確認しただけよ ニーチェ: (……) ニーチェ: (このブラーマって人……何か隠しているような……) ニーチェ: (そう……会話から推察される状況からすれば、 彼女はこのμ世界の住人で世界が消えると吹聴され、 仲間のためにやむなくロートたちに協力……そんなふうに思えるけど……) ニーチェ: (何か足りない……そう、たぶんこれは悲壮感が……) (静かな草原で、彼女たちは立ち尽くして空を見上げていた。空には輝きが瞬いている。) ライブラ: 星、か…… レグルス: 綺麗ですね サダルスウド: そして神々の物語がありました スピカ: 思い出語り? サダルスウド: そんなつもりじゃございません アスクレピオス: 夢想…… ポルックス: 計画は……本当に……? ハマル: ああ、今となっては…… ルクバト: もう止まれませんねぇ ライブラ: そう。もう動き出しているから。すべて、思い描いたとおりに (それは色褪せた、誰かの記憶。彼女たちはかつて、そうして語り合ったのだった。) (進む道が、どこに続くのか。それは誰にも分からないままで。) クレア: …… クレア: お腹すいた。どんぐりだけ食べ続けるのは辛い クレア: 人間さん…… ロート: あら? クレア: こんにちは。もしかしたら人間さんのいう第一村人かも ロート: ……あなた、お腹がすいているの?名前は? クレア: 私は、クレア 190037 - 立派な仕事 クレア: 家だ。文化的生活の気配がする ロート: ただの管理小屋ですよ。わたくしが住んでいる家ではありませんからね? クレア: そうなの? ロート: こんな古くて埃っぽい小屋に住んでいると思われるのは、ちょっと不本意です。 ただ、休むには問題ないですよ クレア: …… ロート: そんなにきょろきょろしなくても、誰も隠れていませんよ。 いきなり出会ったわたくしを警戒するのは当然ですけど クレア: ……ごめん ロート: 謝る必要はありません。出会った瞬間に襲われるなんて、よくあることなんですから。 逆の立場なら、わたくしも同じように警戒します ロート: そうだ、お名前は?なんと呼べばいいですか? クレア: クレアだよ ロート: クレアさんですね。わたくしはロート。よろしく ロート: じゃあさっそく、食事の準備をしましょう。といっても、大したものはできませんが クレア: えっ、ロートが作るの? ロート: まさか。わたくし、料理は嫌いなので。この携帯食を温めるだけですよ クレア: でもあったかい食べ物、うれしい ロート: ……それで?あなたはどこから来たんです? クレア: 友達の家に泊まりに行ったの。それで、気が付いたら、このへんの森にいた ロート: よく分かりませんけど、寝ている間に移動した、ということなんですか クレア: たぶん……そう、なのかな?私も全然わかってないんだ。ここがどこなのかも ロート: 難しいことは後にしましょう。さあ、どうぞ クレア: 久しぶりのごはんだ……! クレア: ふう……ごちそうさま ロート: よほどお腹がすいていたんですね。いい食べっぷりでした クレア: よく言われるよ ロート: あら、では空腹ではなく、元からこんなに食べっぷりのいい子だということですね クレア: 見てて気持ちいいって。ロートはどう?よかったら、もっと見せてあげてもいいよ ロート: ふふっ、そんなことを言っておかわりがしたいだけでしょう? クレア: バレたか ロート: 回りくどいことをしなくても、食べさせてあげます。 でも、どうせなら携帯食なんかじゃなくて、 もっと美味しいものを用意してあげたいですね クレア: 神なの? ロート: 神……ああ、そんなものよりも、わたくしはずっとすごいんですよ クレア: つまり美味しいものを知り尽くしてる? ロート: 自分で料理はしませんが、味覚には自信があります。 いい店も知っていますから……一緒に、町に行きましょうか クレア: ついていきます ロート: 素直な人ですね クレア: ロートは何してる人なの? ロート: 一言で言い表すのは難しいですね。ふたつの世界をひとつにするというか クレア: よく分からないけど立派そう ロート: いいえ。わたくしはその手伝いをしているにすぎません。 言われたことを仕方なくこなしているだけです クレア: 嫌々なの? ロート: 仕事そのものは嫌というほどではありません。人間関係はちょっと疲れますけどね クレア: ……でも我慢してるんだ。お給料がいいのかな ロート: 我慢している理由ですか?そうですね……人を探しているんですよ。そのために、です ヴェルメリオ: ……そんなに遠くないはずだよ。 コミッティの軍勢がどこにいるかは把握してないけど…… (俺はジーヴァたちμ、そしてヴェルメリオたちと共に オトギノクニ方面へと向かっていた。) (ブラーマのことはもちろん気になる。 だが、まずはふたつの世界で争いが起きていることを止めなくてはならない。) スラワーティー: 人間さんさまにとっては……辛い役割ではないのですか? 人間さん: 一筋縄ではいかないかもしれないが、どちらかに立って戦うよりはずっと気が楽だよ スラワーティー: それならばいいのですが…… ラシュミ: ところで一筋縄というのは、つまり筋に沿ってぎゅっと縛る縄のことなのだろうな 人間さん: ちげーよ 雨依: ツッコミが速い。そこそこ一緒に過ごしたみたいね ヴェルメリオ: ……判断するポイント、そこ? 人間さん: それで、他に何か気づいたことはあるか? ヴェルメリオ: ……えっと、この辺りの建物。急にオトギノクニにわいてきたのと似てるかも ヴィジュー: わいてきた?建物が? (ヴェルメリオの話ではこの周辺、つまりジーヴァたちμ世界と同じ様な建物が オトギノクニの各所に突然、出現しているという。) (μの力でないと抵抗できないような魔物も出現しているというが、 おそらくμ世界の魔物なのだろう。 そこからも、ロートによる侵略という筋書きが見えてくる。) 人間さん: このμ世界とオトギノクニは、やはり地続きに、それもただ繋がるだけじゃなく…… 雨依: 強引に混ざり合ってる、って感じなのかもね…… 190038 - 合理的でない選択 テュポーン: へんだよね、まざってるなんて 人間さん: 世界の融合、か……。まったく確証はないが、この裏には創造の聖母がいる気がするな 雨依: あいつ、まだ健在なんでしょ?そっちのμにちょっかいをかけてるってことは…… ジューチャオ: あたしたちにしたのと、同じようなことしてるんだと思う! テュポーン: ジューチャオが、よくおぼえてる ジューチャオ: ものすごく大事なことなんだから、忘れるわけないでしょ ジューチャオ: ていうか、あたし別に物忘れそんなにしてなくない? テュポーン: おお……? ガナ・イーシャ: この子、忘れたことを忘れてるの……? ラシュミ: 忘却は最も手軽な防御とも言う。私も忘れたい夜のひとつやふたつはあるからな スラワーティー: ジューチャオさまの記憶力は心配していましたので、 大事なことは覚えていらっしゃると聞いて安心しましたわ ジューチャオ: 聖母のこととか、それに人間さんのことは覚えてるよ ヴェルメリオ: ……どんな? ジューチャオ: 可愛いよ、って抱きしめてくれたりとか 人間さん: げほげほげほげほげほ スラワーティー: あら、わたくしたちが知らないうちに、そんな大胆なことを? 雨依: ふーん……調子に乗ってるわね ヴェルメリオ: ……その口を塞ぎたい ジーヴァ: まったく、同意だわ ヴェルメリオ: ……キスでね ジーヴァ: いっ!? 雨依: 言っておくけど、目の前でキスなんかしたら水ぶっかけるだけじゃ済まないからね? ヴェルメリオ: ……冗談だよ ラシュミ: 開かれた関係性というのは、 新たな気づきと自省を促すこともあり有用な面も少なくない ヴィジュー: なんの話? ラシュミ: 私は見るのも見られるのも好きだ ガナ・イーシャ: ただの性癖語りだった…… スラワーティー: まあまあ。冗談だとヴェルメリオさまもおっしゃってますし。 一旦このことは皆さん忘れましょ? 人間さん: そ、そんなことより!なんでルンペルが派遣された? 偵察部隊とか、そういう規模じゃないだろ ヴェルメリオ: ……それはわたしもわかんない テュポーン: 乗ってた人たちも逃げちゃったし 雨依: コミッティとはわりと初期から別行動してたから、 内部の細かい事情はわかんないのよね…… フェルディナ: ……姉さん (無機質な室内に、エルマイト機器が発する音が単調に続く。 ピコン、ピコン、と間の抜けた音がどうにも、 偉大な姉たちには不釣り合いだとフェルディナは思った。) フェルディナ: あのとき……ヴィル姉さんは…… (脳裏に浮かぶのは、銃声と、そして倒れるヴィルヘルミナの背中。そう、背中だった。) フェルディナ: どうして私なんかを庇ったりしたの……。 いつも私にイライラして、顔を合わせれば恥さらしだって フェルディナ: 今も現役の2号委員、世界が難局を迎えていて…… 私なんて何の役にも立たないのに……事実、私は動けなくて、何もできなかった フェルディナ: 姉さんはいつも合理的に判断する人だったじゃない。 私を庇わず、敵にカウンターを食らわせるのが合理的ってものじゃないの? (ヴィルヘルミナが横たわるベッドのシーツを強く握り、 傍らに立ちながらフェルディナは肩を震わせた。) フェルディナ: 愛してた、なんていうんじゃないでしょうね……。ふざけないでよ……っ フェルディナ: …………っ (背後で扉の開く音が聞こえる。フェルディナは振り向かなかった。) (誰が入って来たのかは予想できたし、彼女に今の自分の顔を見られたくはなかった。) シャルロッテ: フェル姉さま フェルディナ: ……事情聴取ね シャルロッテ: ええ。コミッティから招集された時間が迫っていますわ。そろそろ出発しないと フェルディナ: …… シャルロッテ: 姉さま…… フェルディナ: 分かってる。ここでウジウジしていたら、今度こそヴィル姉さんに見限られちゃうわね シャルロッテ: 私も不甲斐ない思いですわ。敵が誘い込む道具に利用され、現場でも何もできず、 ただ転がって見ていただけ…… フェルディナ: ええ。だから……遅すぎるかもしれないけど、私は後悔しないように行動するわ。 ……行きましょう、シャル (証言台に立つフェルディナ。自分がこんなふうに、 コミッティメンバーに囲まれて発言を求められたのは、いつ以来だろうか。) フェルディナ: (ああ、そうだ……雪の国で、私の暴走が発覚し、見捨てられたときだわ……) フェルディナ: (あのときは誰もが敵だと思っていた……。 ヴィル姉さんが私のことを身を挺して庇うなんて、 微塵も想像できなかったわね……) フェルディナ: 私とシャルは、ニーチェとキャロルのふたりが目撃された場所を中心に 聞き込みをしていたわ。 そこで、ふたりの足取りを知るという馬車の御者と出会った フェルディナ: 何の変哲もない小屋だったわ。 そこに案内されて、そして――背後から罠にかけられたの フアナ: なるほど……大変だったね、それは ドロシー: 二人は、ヴィルヘルミナの指示でニーチェを探していたのよね フェルディナ: ええ、そうよ。本当になかなか居所がつかめなくて…… やっと見つけたと思ったのに…… シンデレラ: 犯人は分かってるの? フェルディナ: ええ。でも私もシャルも知らない女だったわ。『ロート』と名乗ってた…… 190039 - 混乱の議場 ドロシー: まず確かなのは、敵はフェルディナたちがニーチェを追っていることを知っていた ジョカ: そうだな。動きは把握した上で罠をかけた シンデレラ: つまり、ロートと名乗る女は、侵攻勢力に属する人物ということね トリル: 最初から計画されていたんでしょうか。リーダーであるジャコヴァさんを狙って…… シェイクスピア: ニーチェを追う動きは予想できないでしょう。 ただ調査が長期化していたことで、敵に勘付かれたことはあるかも フェルディナ: 少なくともタイミングは測っていたと思うわ。 このコミッティ本部も襲撃を受けていたんでしょう? フェルディナ: 私達はずっと救援信号を送り続けていた。 送れる環境においたこと、でも信号を妨害していたこと、 絶妙なタイミングで一瞬だけ妨害が止まっていたこと…… フェルディナ: それはすべて、この混乱の中で手薄になることを予想して動いていたことの証だと思う (すべて仕組まれていた。襲撃の混乱でジャコヴァたちが 独自に配下も連れずに行動する――そうでなくては、あの襲撃は完成しない。) シンデレラ: ……事情は分かったわ。ありがとう、ふたりとも。 また呼び出すこともあるかもしれないけど フェルディナ: …… フアナ: いまはジャコヴァとヴィルヘルミナについてあげて フェルディナ: ……ええ (ふいに議場へ続く自動扉が開く。一同の視線が集まる先には――) エミリー: フェルディナ……! フェルディナ: エミリー…… エミリー: もう、いいの? フェルディナ: ええ……軽傷で済んだから。姉さんたちのおかげで、ね エミリー: …… エミリー: ……話は後でゆっくりしよっか。それより、コミッティ各位に報告があります (聞き慣れないエミリーの口調に、議場に僅かに緊張が走る。) エミリー: 防衛前線基地に報告があったの (本部襲撃事件以降、新たな力を得たエミリーは 未知の魔物に対抗するための先鋒として、基地に常駐していた。 それは彼女自身の希望でもあったのだが。) エミリー: 『ルンペル』が撃破されたそうです シェイクスピア: なんですって!? (さざ波のように議場に広がる動揺。トリルとジョカは不安げに顔を見合わせる。) (元々のオリジナル『ルンペル』を知る者も少なくないが、 現在の改良型はこのメンバーになってから予算を組まれたものだ。 詳細なデータは全員の頭に入っている。) (そう簡単に撃破できるような代物ではない。 だからこそ、動揺は収まることはなかった。) エミリー: 正確には機能停止。ただし敵勢力と相対していたため、 搭乗員はやむを得ず機体を諦め、撤退したとのことです ドロシー: あのデカブツをどうにかできるのが、私とクレア以外にいるなんて エミリー: そう、撃破したのは誰なのか。撤収した搭乗員から……人間さんの、 いえ、人間さん第13号委員の姿があったと報告を受けました シンデレラ: 人間さんが!? フアナ: な、なんでそんなところに!行方不明だったはずじゃ クラース: まさか、どうして? エミリー: しかも……っ (必死で平静を装うために取り繕っていたエミリーだが、彼女もまた心を乱されていた。 その感情が、唇を震わせ、声を細くする。) エミリー: 雨依の姿も見た、って……! シェイクスピア: まさか……とは思うけど ラヴクラフト: ははぁん。つまり雨依と人間さんはデキてた?もっというと、デキちゃった? ドロシー: ど、どういう意味よ シェイクスピア: 人間さんの行方不明からして、狂言の可能性があるわ。 雨依と共謀しコミッティの管理下から逃れ、 独自の勢力と結託してこの本部を襲う―― トリル: クーデターだっていうんですか!?そんなはずありません! クラース: ……雨依には動機があるんじゃない?彼はそれに丸め込まれた、とか フアナ: そんなっ、友達を裏切るような真似、するはずないよ! ジョカ: でも事実、目撃証言があるんだろ!? エミリー: 斥候からの報告だと、見慣れない配下を連れてこっちに近づいてきてるみたいで……! ドロシー: ルンペルもいなくなって、私達だってまだ本部襲撃で エルマイトをかなり消費したのよ!いま攻め込まれたら―― シンデレラ: それこそ人間さんにエルマイトをもらいたいくらいなのに、 その人間さんが敵になるなんて……? エミリー: て、敵って決まったわけじゃないよぅ! (彼女たちにとってジャコヴァに次ぐ精神的な支柱。それは苦楽を共にした 人間さんの存在だった。議場が騒然となるのも当然だった。) (そのとき――) フェルディナ: 落ち着きなさい! (騒然となる議場に鋭い声が響く。) フェルディナ: この後、伝えるつもりだったから……後出しのようになって申し訳ないのだけど シャルロッテ: ……? フェルディナ: ジャコヴァ姉さんはほんのわずかな時間だけ、意識を取り戻したわ。 その際に言付けられたの フェルディナ: ……私、フェルディナ・グリムはジャコヴァ議長から、後のことを一任されたわ! この瞬間からコミッティ議長代行として私が指揮する! 190040 - ふたつの世界の激突 (しばらく進むうちに、正面から何か近づいてくるのが見える。 間違いない、コミッティの軍勢だ。) ヴィジュー: ど、どうする……? スラワーティー: まずはお相手の出方を見る方がいいですわ。戦いという意味でも、交渉という意味でも ガナ・イーシャ: そうね。ケンカ前提で来たわけじゃないんだし 雨依: 私が表に出るとややこしいかも。ちょっと後ろで静かにしてるわ ヴェルメリオ: ……ディマイトだから? 雨依: 端的に言えばね。あまりコミッティともグリム家とも健全な関係って感じじゃないし ヴェルメリオ: ……?待って、人間さん。先頭に立ってるの、あれ 人間さん: フェルディナ……? フェルディナ: 目標を捕捉!攻撃、開始!姉さんたちの仇を討つのよ! (姿を見せるなり、フェルディナはそう叫んだ。飛び出してきたのは――) トリル: 参ります……お覚悟を! ドロシー: 人間さん……っ、目を覚まさせてあげるわ! フアナ: 友達だからこそ、戦う! ラヴクラフト: きもちよくなろ? (いずれもコミッティ委員、折り紙付きの実力者たちだ。 とっさのことで、俺は助言ひとつするので精一杯だった。) 人間さん: ドロシーにはっ、あの三つ編みには二人がかりで対応するんだ!並の相手じゃない! (突然の攻勢に、こちらはそれぞれの意思確認もままならず、乱戦になってしまう。 かく言う俺も――) フェルディナ: はああぁぁっ!! 人間さん: くっ……!? (猛然と攻撃を繰り出すフェルディナの前に、ただ圧倒されるしかなかった。) フェルディナ: 姉さんたちの仇……っ! (両陣営の接触から遡ること数時間――) フェルディナ: 人間さんは洗脳されている可能性があるわ ドロシー: せ、洗脳……? フェルディナ: 或いは偽物、良くても騙されている―― フェルディナ: 相手が人間さんだからといって怯む必要はないってこと。 彼をみんな信じてるんでしょう? だったら信じ抜きなさい。これは彼の意図じゃない トリル: そ、そうですよね……。人間さんがジャコヴァさんたちを、 明確に意図して攻撃したなんて、そんなのあり得ません…… ドロシー: 確かに……そうよね、あの人間さんが私達を攻撃なんて シンデレラ: 人間さんをいいように操って、 おそらくエルマイトも不当に搾取している誰かがいる……。 そこから救い出すための戦いということね フェルディナ: ええ。そのために打って出る シャルロッテ: フェル姉さま……!?ど、どうするつもりなのです? フェルディナ: エミリーはこの本部を守ることに専念して エミリー: わ、わかった フェルディナ: シェイクスピア、クラース、このふたりは魔法力が強み。 μ世界から戻って来たメンバーも含めて治療に注力して クラース: そうね。分かったわ フェルディナ: フックは病み上がりだから今回は待機。シンデレラ、ジョカは 万一のときに本国が危うくなりかねない立場だから本部に残っていなさい ジョカ: む……そうだな。了解した トリル: ということは…… フェルディナ: ラヴクラフト、トリル、ドロシー、フアナで現場に向かう。私についてきなさい シャルロッテ: フェル姉さまが先頭に……!? フェルディナ: シャルもここで姉さんたちのそばにいてあげて シャルロッテ: はい……あ、あの、お気をつけて……! ドロシー: 青のレクイエムっ!! ジーヴァ: こ、この子……なんなの!?魔法使いなの、それとも……? ガナ・イーシャ: ものすごいフィジカルなんだけど! なのにどうしてこんなに魔法を使いこなしてるわけ……!? ドロシー: 私は魔法使いじゃないわ。大魔法使いよ! (ドロシー独自の、フィジカルと魔法をかけ合わせた戦い方に、 俺のエルマイトを得て実力を取り戻したジーヴァとガナも さすがに苦戦を強いられている。) フアナ: 友達のために戦う……!最高の舞台だね! ヴィジュー: それはヴィーだって同じことだよ!みんなのために負けられない! (別の場所では、フアナとヴィジューが相対しているようだ。 ある意味で、こちらは互角の拮抗した戦いになっている。) トリル: はああぁっ!! スラワーティー: まあっ……優しそうなお顔ですのに、こんな攻撃を……! トリル: 私だって……人間さんのために戦います……っ! スラワーティー: 人間さんさまのため?なのに、どうしてこんな…… (トリルとスラワーティーは互いに水を操る能力で、技の応酬となっていた。) (スラワーティーの戦いをしっかり見るのは初めてだが、 その穏やかさとは裏腹に、激しい水流がトリルに向けられる。) (しかし、この戦いで激しさを増しているのは――) ラヴクラフト: 名状しがたいあたしの触手に、どこまで耐えられるかな~? ラシュミ: くうっ……!ぬるぬるの粘液が、あっ、はぁっ……んぁ、んんっ! 私の、口では言えない、いろんなところに……っ、あ、あぁっ! ラヴクラフト: ふふん。どうやらあたしとの相性は悪かったかな? (ある意味では相性抜群のふたりの戦いだった――) 190041 - 融合の論理 ラシュミ: んんぅっ!んっ、あっ、はぁんっ……! た、確かに、この感覚はあまりにも刺激が強い…… だが……相性が悪いというのはどうかな……ん、ふぅっ! ラヴクラフト: んんぅぉっ!な、なに、この固いの……っ! ラシュミ: これは私の、とある感情の波によって固さを増す愛用の武器だ。 これで……きみを貫く! ラヴクラフト: んんぉおおおおぉぉっ!!んぉっ、んっ、んお゛ぅっ! や、やめっ、そんなっ、あ゛あ゛っ!こっちだって……! ラシュミ: おほぉっ!そんな吸い付いて来るなんて……ぇっ! 人間さん: (なんか、こういうの最近も見た記憶があるぞ……) (脳裏にシェンウーの顔が思い浮かぶ。元気なのだろうか。) ジューチャオ: 人間さんっ!危ないよっ フェルディナ: 私の前でよそ見とは、ずいぶんじゃない! 人間さん: うわっと……!お、落ち着け、なんで攻撃してくるんだ! 姉さんの仇って、いったい何が…… フェルディナ: 黙りなさい!私は……姉さんの分まで戦わなきゃいけないのよ……! スラワーティー: ……っ (視界の隅でスラワーティーが俺達を気にしているのが分かった。 こちらは、ジューチャオと俺でフェルディナを抑え込んでいる状態だ。 スラワーティーの援護があれば嬉しいが、彼女もそんな余力はないだろう。) ヴェルメリオ: ……ドロシーと、戦うの……? 雨依: これ、どうなってんのよ。私達が割り込んで、いいのかな……? 余計にややこしくなるような テュポーン: うい、テュポどうしたらいい? 雨依: ちょっと様子を見るしかないわね…… (ヴェルや雨依もすぐに介入することは躊躇しているようだ。 俺も、堂々と援護を頼みづらい。 何が起きているのか、まだ把握しきれていないのだ。) スラワーティー: 人間さんさま…… (またスラワーティーが何か気にしている。どうするつもりなのか……?) トリル: はぁっ、はぁっ、人間さんの方を気にしてる……? もしかして、あなたが人間さんを操ってる!? スラワーティー: 操る……?いいえ、あの方は覚悟をもって、 わたくしたちと共に戦ってくれているのですよ トリル: ……っ!?そ、そんなはず……っ スラワーティー: ああ、やはりいろいろと誤解が生じているのですね。 これはいけません。皆さん、ケンカはやめましょう (突然スラワーティーが説得を始める。だが、そんな言葉に耳を貸してくれるなら、 この状況は最初からあり得ないだろう。) スラワーティー: まあっ、皆さん聞いてくださらないんですね ドロシー: こちとら、大量の魔物にコミッティ本部を襲撃されてんのよ。 それに……リーダーも闇討ちされて……! フアナ: 人間さんくん!そんな悪い友達とは縁を切らないと!騙されてるんだよ! 人間さん: (本部を襲撃……?それを、ジーヴァたちが主導したと思ってるのか……?) 人間さん: (聖母やロートとμたちの対立なんて、コミッティが知る由もない…… 誤解して当然と言えば当然なのか……) スラワーティー: 詳しい事情は分かりませんが……何か大きな誤解が生まれているようですね……? スラワーティー: わたくし、悲しいですわ。こうなったら皆さんの頭を冷やしてさしあげなくては…… トリル: な、何を……? (スラワーティーから強烈な、エルマイトに似た気配を感じる。 はっと視線を向けたそのとき――) スラワーティー: 皆さま!すべて洗い流してさしあげますわ!! 人間さん: お、おい――!? (次の瞬間、突如として出現したすさまじい水流に、俺の全身が飲み込まれる。 そして、意識が遠のいていったのだった――) テュポーン: へくちっ ドロシー: うう……私も水魔法を扱う魔法使いだけど、自分がびしょ濡れにさせられるのが、 こんな感覚だなんて知らなかったかも…… スラワーティー: 皆さん、少し落ち着きましたわね? スラワーティー: もうケンカは終わりですよ。みんな、めっ フェルディナ: はい…… フアナ: ママだぁ…… ガナ・イーシャ: 助かったよ、スラワーティー。あのまま戦いが続いてたらどうなってたか…… トリル: いえ、こちらも勢いにまかせて勝てると見込んでいたのに、 思ったよりも手強くて焦っていましたから ヴィジュー: うんうん。なんかお互いに健闘を称え合うって、いいライバル感あるね ラシュミ: ラヴクラフトといったか。久々に熱く、興奮してしまった……よかったよ…… ラヴクラフト: うん……すごく、激しかった…… ラシュミ: 事後にこんなことを言うのは趣味ではないんだが、また次もあると思っていいか? ラヴクラフト: あたしも次の約束なんてしたくないけど、ラシュミとは……またシたいかも…… ヴィジュー: いい……ライバル……? 雨依: アダルトな会話に聞こえなくもないっていう…… ジーヴァ: 実際やってたことがアレだしね…… スラワーティー: さ、ちゃんとお話をしましょう? ダメなときはダメですけど、今回はきっと話せば分かると思いますわ スラワーティー: また暴れたりする子は、わたくしが、めっ!ってしますからね 190042 - 融合の論理 フェルディナ: つまり……そのロートという女は、あなたたちの世界でも好き勝手に侵略して 混乱をきたしていたと…… スラワーティー: そういうことになりますわね フェルディナ: じゃあ、何……?私はひとりで舞い上がって、 敵の見極めもできずに突き進んでただけだったの……? ドロシー: 顔を上げなさいよ、フェルディナ フェルディナ: …… ドロシー: あのときの、あなたの振る舞い。 コミッティのあの場に必要なものだったと確信してるわ フアナ: そうだよ。あの行動力がなかったら、あたしたちはここにいなかったと思うし ラヴクラフト: それで……問題は、あたしたちの濃厚な絡みを演出して、 悠々と見物だけしてる盗撮魔みたいなやつのことだけど ラシュミ: トーサツという言葉はよく分からないが、何かゾクゾクさせられるものがあるな ラシュミ: そして、指摘の通りだ。筋書きを書いた者をどうするか、 双方の動き方も含めて検討すべきだろう ガナ・イーシャ: 急に真面目になるのよね、この人…… ジューチャオ: ねえ、結局何がどうなったの? ヴェルメリオ: ……ジューチャオだけじゃない。みんな、全体をまだ把握しきれてないよね 人間さん: ああ。ここは情報共有と、ロートという女、 それに裏にいるだろう創造の聖母への対抗策を考えなくちゃな ライブラ: 今日の総会では、来たる『革命の日』に予想される 『問題』について話しておこうと思う サダルスウド: 問題でございますか? ライブラ: 我々が目指す『深淵の闇』によって『革命』が実現したとき、一番の問題は…… ルクバト、なんだと思う? ルクバト: さぁ?たくさんあると思いますけどねぇ アンタレス: ねーちゃんが分からないなら、誰にも分かんないね! ルクバト: 分からないとは言っていませんよ?たくさんある、絞り切れないと言ったのですよ ハマル: 文脈からすると術式の問題や、目的を阻害する物理的な課題、 といったものではないのだろう?となると――『文化』ではないかな ライブラ: その通り。さすがだね、ハマル ライブラ: 遠くあるものを結びつける、それはもちろん術式としても 非常に難易度が高いことだけど……問題はその後なんだ ハマル: 仮に安定して、我々の目指す世界が物理的に実現したとして、 異なる背景、文化を有する同士が真の意味で融合するのは容易ではないだろうね レグルス: で、でも……ライブラは解決する案を持ってるんですよね? ライブラ: これはシンプルでいいと思っているよ アルデバラン: なに?どうするの? ライブラ: 争う二者がいたら、どちらにも与さない立場の者から諫めるんだよ アスクレピオス: 当然の帰結。議題として不適格 サダルスウド: で、でも……諫めた程度で収まるのでしょうか? ライブラ: 争ってはいけない、という空気を作るんだよ。 争うことは恥ずべきことで、情けないことなのだと。争いを放棄させるんだ サマカ: で、でも……そったらことしたらば、わたすみたいな気の弱い人は なんにも言えなくなってしまうべ…… ライブラ: あはは、サマカは『こちら側』なんだから誰にも意見なんてされないよ。 それは安心して ライブラ: それに『こちら側』でなくても、みんなが相手をそれぞれ尊重して 一緒に暮らしていければいいんだから。 そのために……私たちは『力』を行使するんだよ アスクレピオス: …… ニーチェ: はぁ……どうしよう…… ニーチェ: やばい、どうしよう。めっちゃ会いたい。すっごい好き。はあああぁぁぁ…… ニーチェ: 良くないとは思ったんだよね。私の性格からして、 ひとりの人に思いを馳せ続けるのって。絶対好きになっちゃうもん ニーチェ: だめだ、とりあえず手紙を書こう。それしかない…… ニーチェ: このお手紙が届いているか、分かりません。 でも……あなたへの溢れる思いを便せんにしたためなければ、 私の胸はもう募る思いで張り裂けてしまいそうなのです ニーチェ: 好きです。好き、好きなんです。大好き ニーチェ: だああああっ、キモい!キモすぎる!びりびりびりびりびり ニーチェ: はぁ……今日はちょっと休もうかな ニーチェ: だいたい……私なんて、あの人を好きになる資格さえないんだから。 犯した罪の大きさを考えたらさ…… ニーチェ: こうしてずっと孤独に囚われたままでいるのが当然の存在…… そう、罰を受けなくちゃいけない…… ニーチェ: 私の罪は、消えないから…… 190043 - 共同戦線 (改めて俺達は互いが持つ情報を共有し合う。μ側の事情については、 多少は予想できたことなのか、フェルディナ達も黙って頷いていたが――) 雨依: あのジャコヴァたちが揃ってやられた!? フェルディナ: もちろん私を庇ったり、不意打ちだったりしたせいよ。 本来の姉さんたちの実力なら、あんなやつに後れを取るはずないんだから ヴィジュー: ひどいやり方だね…… (μたちからすれば身びいきに聞こえたかもしれないが、 あのジャコヴァとヴィルヘルミナがどれほどの実力者で、 冷徹なまでに判断を下せるのかは俺も重々承知だ。) ヴェルメリオ: ……それで、フェルディナもあんなに フェルディナ: 結果的に相手の思う壺だったのかもしれないけどね 人間さん: ただ……聞く限り、ロートはジャコヴァ達の行動を予期した上での待ち伏せだよな フェルディナ: おそらくね。ただ、捕まっていたときのあいつらの会話で そういう内容は聞いていないけど 雨依: あいつら……ってことは、複数犯ではあるわけね フェルディナ: 知らない女がいたわ。確か……ブラーマと呼ばれていた ジーヴァ: ブラーマ……!? ラシュミ: ……ロートに与していた時点で、驚くことでもないだろう。非常に残念ではあるが ジーヴァ: そう、よね……。あいつは、そういう決断をしたのよね (沈鬱な表情で俯くジーヴァたち。) (彼女たちに気を遣ったわけではないが、俺は話題を少しずらして質問する。) 人間さん: そもそもフェルディナとシャルロッテが罠にかかったのも ニーチェを探していたことを先回りされていたからだな 人間さん: ニーチェって何者なんだ?イマジュマイトについてのエキスパート、とは聞いてるが ドロシー: そのあたりは私達も議会で詳しく説明を受けたわ。彼女は…… イマジュマイトが、エルマイトとディマイトの2種類あることを発見した張本人よ トリル: どんな人物なのかを知る人は現役コミッティには少ないのですが…… 『深淵の闇』計画に深く関わっていることは間違いないはずです (どうやらニーチェという人物は、あくまでもいち作家であり、 コミッティに名を連ねたこともないらしい。) (初代委員のどれくらいが面識を持っているかは分からないが、 正式な議事録では、ニーチェが証人喚問されたこともないようで 場合によっては誰も親しくない可能性もある。) (ただ、行方の捜索を命じた経緯からもジャコヴァとヴィルヘルミナは おそらく面識があるだろうとは予想できる。) 雨依: でも、そのふたりは…… フェルディナ: ええ。意識がないのよ。だから行方が見つかったとしても 何らかの交渉ができるほどのパイプを、現コミッティ体制では用意できないのよね ジーヴァ: そのニーチェって人なら、この状況が説明できるの? この……ふたつの世界が地続きになっている、なんて異常な状況を トリル: おそらくは、ですけど ドロシー: 正確には、彼女以外に説明ができそうで、 かつ私達に好意的な人物がいない、ってところね (ニーチェが絶対に解決法を持っているとは限らない。 だが、他にいないのだ。俺達に選択肢はない。ニーチェを探すしかないだろう。) (そしてニーチェを探すということは――) ヴィジュー: ニーチェさんのところには、ブラーマもいるよね ラシュミ: 十中八九、そうだろうな。確率で言えば危険日にナ―― ガナ・イーシャ: ストップストップ。その例え、絶対いらないから スラワーティー: だとすれば、わたくしたちとも目的は一致しそうですわね。 世界がくっついてしまうなんて大それたことは、一旦横に置くとしても 雨依: 打倒ロート、そして背後にいる聖母も倒す ヴェルメリオ: ……ニーチェのいるところに、たぶんロートもブラーマもいる テュポーン: こんなにたくさんいたら、やっつけるのかんたんだよ フェルディナ: そうね。私が熱くなってここに来てしまったから、 全員がニーチェの捜索にあたれるかは考え直さないといけないだろうけど…… ドロシー: まあでも、本部防衛はエミリーだけじゃなくて、シンデレラやジョカもいることだし フアナ: それにしても……仲良くなれる可能性がある相手なのに、 あと少しで傷つけ合うところだったなんて…… スラワーティー: それすらも敵の狙いだったかもしれませんわね。恐ろしいことです ヴィジュー: そういうの、許せないな……! ジューチャオ: ヴィー、怒ってるの?そういうときは60分深呼吸するといいってじっちゃんが 人間さん: それ6秒だろ。60分も深呼吸してたら意識が遠のくぞ ヴィジュー: うん、ちょっと深呼吸はしてみ―― (空を見上げて大きく息を吸い込みかけたヴィジューが、ぴたりと視線を止めた。) ヴィジュー: なんか、またでっかいのが飛んできたけど!? ドロシー: 今度は何!? フェルディナ: いえ、あれは……シェイクスピアの飛空艇だわ 190044 - 森の中の暮らし ロート: 悪いですね、こんなことさせて クレア: ううん、全然 (森の中で、ロートとクレアのふたりは薪を拾っていた。) ロート: 怒ってないんです? クレア: なんで? ロート: だって……町で美味しいご飯を食べさせるって言ったのに 結局、森でグダグダやってるんですよ クレア: でもごはんは、町から届けてくれた ロート: 馴染みの店が融通を利かせてくれただけですから (ロートが森から動けなくなったのには事情がある。 詳細は明かされなかったが、周辺動向が予定外の方向にシフトしたので その場で待機するようにと連絡があったのだった。) (もちろんそんな事情を部外者のクレアに伝えるわけにもいかず、 ロートはただただ理由があってと弁明するほかなかった。) (ロートからすれば、それは理不尽な物言いだと感じていたのだが、 クレアは一切、気にした様子もなくけろりとした顔で答える。) クレア: 美味しかったから、いい。薪拾いくらい手伝うよ ロート: そう言えば、あなた薪拾いなんて作業にも、案外慣れているみたいですね クレア: 私の実家も森に囲まれてたから ロート: ああ……そう言えば クレア: ん? ロート: お腹も少し落ち着いただろうし、明日にはあなたを家に帰さないといけませんね。 ご家族が心配するでしょう? (あくまでも森に迷い込んでしまった不幸な少女として、 ロートはクレアを保護すべき対象だと考えていた。) クレア: 家族…… ロート: 何か? (ふいにクレアの表情が曇る。) クレア: 家族はいないよ ロート: え、でも実家って…… クレア: 今はいない。仲間はいるけどね (いない、という表現にロートはハッとした。 これは踏み込んではいけないことだったのではと思い当たったのだ。) ロート: ごめんなさい。もしかして……ご不幸があって? クレア: ん?うーん、そうだね。私にとっては不幸なのかな。向こうはどうだろう ロート: え、あっ、ご不幸っていうのはつまり……お亡くなりになってるのか、 っていう意味ですよ クレア: ああ、そういうこと。生きてるよ、たぶん。 あんな人たちに限って生命力が強かったりする ロート: あんな……?何があったんです……? クレア: ちょっと長くなるけど、いい? ロート: そんな……血を分けた家族が、そんなことを…… (クレアは自分の過去を包み隠さず話した。 もちろん全て余すことなく、とすると長くなってしまうので 割愛した部分はあったが、彼女にそれを隠す意図はなかった。) (淡々としたクレアの語り口が、かえって内容の凄絶さを引き立たせて、 彼女が受けてきた虐待の歴史がロートにはひときわ重たく感じられた。) ロート: そう、ですか…… クレア: もう、終わったことだけど ロート: では、今はその仲間の方と一緒なんですね クレア: わりと近所に住んでるよ。でも私は美味しいものを探す旅によく出てるし、 近くにいる仲間のみんなも忙しいからね ロート: 血は繋がらなくとも、その方々は家族同然……なのでしょうね クレア: そうだね。考えてみたら仲間の間でも、私は妹みたいな立ち位置かも。性分なのかな? クレア: ロートの家族は、いい人たちなんだろうね。きっと ロート: ええ、ただ…… (ロートが言いかけたとき、ぽつり、と頬を水滴が濡らした。 反射的に見上げると、大粒の雨が落ち始めていた。) ロート: スコールです!クレアさん、走りますよ クレア: がってん ロート: 雨、やみそうにないですね (窓の外は、まるで夜のように暗くなっていた。 降り続く雨が、窓や屋根を叩く音が響く。 ロートはぼんやりと外の風景を眺めて嘆息した。) クレア: 森ってこういうところあるよね。急に天気が変わったりとか クレア: ロートがいいなら、私は全然いいんだ。 ごはんが食べられたら、急いで戻らなくても大丈夫 ロート: 本当に? クレア: あー……もしかしたらみんな、心配してるのかな。 よく考えたら、なんで私が突然ここにいるのか、分かってないし ロート: 家族ならきっと心配します。大丈夫。ちゃんと送り届けますから クレア: ロートは結構、家族とかに思い入れがあるの? ロート: ……そう見えます? クレア: 話してると、なんとなく ロート: わたくしは……大好きな祖母がいるんです。優しくて、おおらかで、面倒見が良くて クレア: いいおばあちゃんだ ロート: ただ……ある日、狼に襲われて……それ以降、行方不明なんです クレア: 行方不明…… ロート: なんとしても見つけ出したい。そしてまた、元のような平和な暮らしを取り戻したい。 そのために、今いろんなことをやっています クレア: すごくつらそう ロート: ごめんなさい。疲れているのかも。 どこを探しても見つからなくて、わらにもすがる思いで危ない橋も渡って…… クレア: よしよし (クレアはロートの頭を優しく撫でる。驚いて目を見開くロート。) クレア: ロートはがんばってる ロート: クレアさん…… ロート: ふふっ、妹みたいな性分だなんて言って。しっかりお姉さんもできるじゃないですか クレア: そう?じゃあ今度からそっちもアピールしていく (淡々と、でもどこか温もりを感じるクレアの言動に、ロートは思わず目を細めた。) レグルス: ライブラ…… (その頃――レグルスは魔法陣に触れ、封印の中に眠るライブラの気配はやはり、ない。) レグルス: 肉体は確かにここにある、のに……? ライブラ: ………… 190045 - 曖昧になる境界 キャロル: きゃはっ、やっぱりくっついちゃったみたいだね ペロー: 非常に興味深い試み、そして結果ですね。なるほど…… キャロル: このコミッティの『ペン』にこんな効力があるとか、知ってるようで知らなかったな~ (キャロルは手にしたペンを指先で器用にくるくると回しながら おもちゃを手に入れた子供のように笑う。) ペロー: 何も、ゼロベースでの新発見があったわけではありませんよ ペロー: 新たな土地が発見された際に、何度も使ってきたではないですか。 どこまでが、どの背景を有する土地なのか――と (例えば、ヴェルニゲローデとトランシャの関係のように。 どこまでが、どの物語で構成される場所なのか。その線引をペンで確定させる。) (それはコミッティがオトギノクニを管理する上で必要な、基本的な業務だった。) キャロル: まーね。邪道な使い方だって前例あるし、今更っちゃ今更なんだけどね ペロー: 邪道、というと?物語の境界線を引く以外に何かありましたか? キャロル: ほら、特級管理ディマイトとかさ ペロー: ああ…… ペロー: 確かにあれはペンの、本来の使い道とは異なる応用でしたね。 誰が考案したのだったか…… キャロル: 境界線は、引くだけ引いて別に普段は放置なんだけどね。 やろうと思えば、ああやって移動できなくしたり キャロル: でもさぁ、閉じ込めたってつまんないよね。血が流れないんだから ペロー: あなたは相変わらずですね。 しかし、そういう意味では今回の使用方法は満足したのでは? キャロル: きゃははははっ!そうなのっ、サイコーだよね。 全然違う世界がくっついちゃったら、あんな戦いになるなんて♪ キャロル: ちょっとロートが煽っただけなのに、 コミッティの連中も本気でヤリにいってておもしろすぎるんだけど♪ ペロー: コミッティなどと名乗っていても、所詮は人ですからね。 未知への恐怖に抗うのは難しいのですよ ペロー: ましてや現在のコミッティは、半数が作家ですらありません。 この世界を俯瞰して見る視座など持ち合わせてはいない人たちですから キャロル: ペローの話はいちいち面倒な言い方だなぁ。 もっと殺し合えー!ばーか!でいいんじゃないの? ペロー: そこまで単純な話でないことはあなたも承知でしょうに。 キャロルこそ、バカのフリをするのはやめた方がいいですよ キャロル: きゃはははっ、間接的に褒めてくれてるよね ペロー: しかし、これで実験は成功に終わったと言えます。 ペンは使い方次第で、オトギノクニ内部の線引きのみならず 『外との境界線』を超えることができる…… ペロー: その証明は既に完了しました。深淵の闇計画は大きく前進したと言えるでしょう キャロル: 気づかれないかな? ペロー: 誰にです?聖母に? キャロル: じゃなくて、コミッティとか ペロー: 時間の問題でしょう。μ世界との融合は既に1箇所ではありません ペロー: 複数箇所で起きているなら必ず、その傾向がないかと調査するはずですからね キャロル: 使ったペンはその場に残さなきゃいけないし、もうバレてもいいや!ってこと? ペロー: 同時多発的に事態が動けば時間は稼げますから キャロル: そのために、あちこちで一斉に仕掛けたんだもんね ペロー: もちろんポーズもありますがね。一気に動くと、やっている感が出るでしょう キャロル: 聖母ねぇ……。あの『なり損ない』をいつまで泳がせておくの? ペロー: キャロル、私達は作家なのですから言葉には気をつけましょう ペロー: なり損なってはいません。かつて、そうだったのですから キャロル: 自分で言ってるだけだから怪しいけどね~。でも、信じるとして、なんて言えばいい ペロー: ふふっ……『成れの果て』ではないでしょうか? キャロル: きゃはははっ、ペローってば辛辣ぅ ペロー: まだ……彼女には利用価値があります。 どうせ、あなたの趣味に貢献することも叶わないのですし? ゆっくり見守ろうではありませんか キャロル: それもそっか。ペローってば落ち着いてるね ペロー: きっとそうしたはずだと思ったまでです。ライブラなら、ね 190046 - ペンにはペンを シェイクスピア: やだわ、空気が乾燥すると肌のバリアがなくなっちゃうのに ドロシー: えっ、そうなの!?それって女子力としては由々しき事態よね フェルディナ: あなた、そんな乙女な発言する人じゃないでしょうが。 そんなことより大事なことがあるんじゃないの? シェイクスピア: あら、ご明察 フェルディナ: 分かるわよ!こんな飛空艇でわざわざ乗り付けるくらいだもの ガナ・イーシャ: これ、ヒクーテーっていうの?すごいわね、どれくらい価値があるのかしら…… 人間さん: コミッティに配備されてる標準艇だからな。たぶん7億くらいじゃないか? ヴィジュー: なっ……ななっ……! ラシュミ: と言われても貨幣価値が私達には分からないからな。 連れ込み宿でいうと何泊できるんだ? ジーヴァ: いや単位!それで計算されても、あたしは分かんないわよ! 人間さん: なんで? ジーヴァ: 行ったことないからに決まってるでしょ! 人間さん: へえ ジーヴァ: なんで意外そうなのよ! 雨依: いいからウィラはさっさと話を進めなさいよ。 通信で済むのにわざわざ来たからには、理由があるんじゃないの? シェイクスピア: そうだったわね。といっても、通信しなかった理由は、 かなり通信状況が不安定だからなのだけど フアナ: そうなの? シェイクスピア: 現在、μ世界と思しき空間との融合が、同時多発的に複数箇所で始まっているわ。 通信が不安定なのも、その影響だと予想できる シェイクスピア: 問題は……世界の融合が起きている地点から、 共通して『ペン』の痕跡が見られたことにあるの フェルディナ: ペン……?ペンって、この、コミッティの? シェイクスピア: そう。わたしがわざわざこうして来た理由のひとつは、 μが侵略者じゃないってことを伝えるためだったのよ。 ……もっとも、いい意味で既に事態は終わっていたようだけど ドロシー: そっか……ペンが使われているなら犯人は作家……。 μ世界からの侵略なんかじゃなかったってことね スラワーティー: よかったですわ。皆さんにはご理解いただけてはいましたけど、 これで正式に疑いが晴れたと言えますし ガナ・イーシャ: そのペンっていうのは、持ってる人が限られてる……限定品ってことね? ジーヴァ: 儲けようとするんじゃないわよ ガナ・イーシャ: 聞いただけでしょ! フアナ: 正確に言うと、使える人が限られてる、かな ドロシー: 作家って言われるやつしか、ペンは使えないのよ。いろいろ機能はあるらしいけど 雨依: ってことは犯人は作家、おそらくは…… ヴェルメリオ: ……ペロー 人間さん: それにキャロルも加わるだろうな シェイクスピア: そこで、わたしがここに来た理由その3よ ドロシー: まだあったの? シェイクスピア: ペンが何らかの影響をもたらしているのは間違いないとして、 その効能を打ち消すことは、同じくペンでしかできない。つまり…… ラヴクラフト: あたしたちの、この固いのがほしい♡ってわけね フアナ: わかった。それじゃあ、あたしとラヴクラフト、それにフェルディナも……だよね フェルディナ: 一応、持ってるわよ。シャルは? シェイクスピア: もう場所に向かってもらってるわ ドロシー: わかったわ。それじゃあ、こっちはニーチェと…… それにブラーマのことも探すことにする フェルディナ: 頼んだわ ヴィジュー: なんか一気に人が増えてきて、ちょっと心強いよね フェルディナ: ……人間さん 人間さん: ん? フェルディナ: ……悪かったわね。その、さっきのこと 人間さん: いやまあ、無理もないし ヴェルメリオ: ……妻じゃないなら仕方ない 雨依: フォローするフリしてマウント取るのみっともないからやめな ヴェルメリオ: ……言ってからわたしも反省した テュポーン: 反省できるのはいいこだってガアがいってた ジーヴァ: 反省、ね……。果たして、あたしたちのお仲間は、素直に反省してくれるのかしら ヴィジュー: 大丈夫だよ。ブラーマなら……大丈夫 ラシュミ: そうだな。私はよく反芻はするのだがな。いい経験を思い出しながら―― ガナ・イーシャ: ストップ。聞きたくない フェルディナ: ふふっ……やっぱり人間さん、あなたの周りには面白い子が集まるのね フェルディナ: さあ、急ぎましょう。どこへだって行ってやるわよ (フェルディナたち作家陣は足早に飛空艇に乗り込んでいく。 それを見送りながら、残った俺達はいよいよ、 ニーチェとブラーマを探し出すことにするのだった。) 190047 - 神官長としての責務 レグルス: ………… (レグルスは迷宮内でじっと、グランド・リヴィジョンの陣に触れ、 呼吸をゆっくりと整えていた。) デュプリ: 良かったッスね。神官長が知ってる術式のバックドアが残ってて レグルス: ほんのごくわずかな、小さな隙間みたいなものですから。 漏れ出るエルマイトも、総量からすればごくわずかなものですし 気づいても見逃されるとは思っていました デュプリ: ごくわずかですけど、でも……神官長が元の姿に戻るには十分な量ッスよね レグルス: そういうことです デュプリ: ……そんなに戻りたいんですか? レグルス: そりゃあ、そうでしょう デュプリ: だって……神官長は、やっと解放されたんじゃないスか。 わけわかんなくなって、ひとりぼっちで苦しんでて…… そんな生活やめて、どうでした? デュプリ: ボクと一緒に気ままな微精霊としてオトギノクニのいろんなところ旅して、 遊んで回って……そういうの、楽しくなかったですか? レグルス: ワタシを微精霊にした張本人がそんなことを聞きますか デュプリ: だって……せっかく楽になれたのに…… レグルス: 楽しかったですよ デュプリ: え…… レグルス: 楽しい日々でした。それにとても刺激的で……。神官長のときには見えていなかった、 広い世界のいろんな面を肌で感じられて、とても充実していました デュプリ: 神官長…… レグルス: でも、だからこそ……考えてしまったのです。重圧から解放され、 そしてあなたの思いに触れて、ようやく少し冷静さを取り戻したからこそ、です レグルス: ワタシが責任をもってライブラを世界に戻す。 それが神官長としての責務ではないかと…… デュプリ: 神官長は結局……オリジナルのライブラから離れられないんですね レグルス: ……これはケジメなんですよ デュプリ: なんスか、それ。小指でも詰めるんですか レグルス: 確かめたいことが、あるんです デュプリ: ……? レグルス: ただ、ワタシが復活しライブラを解き放とうにも、あの人の魂はここにはいませんがね デュプリ: さっきも言ってましたけど、じゃあライブラは何してるんですか レグルス: 『器』を探しているのではないでしょうか…… ドロシー: せっかく人数も多いんだし、二手に分かれた方がいいんじゃないかしら 雨依: 確かに。普段だと、その手の提案ってフラグになりそうだけど、 これだけいるなら大丈夫よね ジーヴァ: どう分ける? 人間さん: いずれ同じところに行き着くような気はするが……ブラーマの行方と、 ニーチェの手がかり、それぞれの方向で探すのがいいんじゃないか? ガナ・イーシャ: そうね。それならあたしたちがブラーマを探す? スラワーティー: せっかくですから、混合チームにした方がいいかもしれません ジーヴァ: じゃあ、あたしとガナ、それにヴィジューがブラーマを追いかける? ラシュミ: ああ。私達はそのニーチェとやらを追いかけよう スラワーティー: オトギノクニの皆さんの道案内役も必要ですわよね。お任せ下さい 人間さん: シェイクスピアたちはペンの見つかった場所に直接向かったんだよな。 じゃあトリルはフアナの代わりに本部に戻って 一応、みんなに報告してもらえると助かる トリル: そうですね。 飛空艇から連絡はしていると思いますが、通信が不安定という話もありましたし 人間さん: 俺はブラーマ捜索のほうに回ろう。彼女を多少なりとも知る立場なわけだし 雨依: なら、私はニーチェの方を担当するわ ヴェルメリオ: ……え、そうなの? 雨依: この世界にとって、私と人間さんは特別な立場だから…… こういう事態では、二人が同じ場所にいない方がいいと思って 人間さん: なるほど。リスク分散ってことだな ヴェルメリオ: ……いいの? 雨依: 私も成長してるから。好きな男に依存してばっかりじゃどうしようもないでしょ ヴェルメリオ: ……大人だ 雨依: だから、人間さんのことはヴェルに託すわ。絶対に守りなさいよね ヴェルメリオ: ……わかってる テュポーン: テュポは?どうしたらいい? 雨依: あんたは人間さんと一緒に行きなさい ジューチャオ: あたしは?ていうか今、これ何を決める相談? 雨依: ……ジューチャオは私と来て。テュポーンとセットにしちゃいけない気がする ドロシー: ブラーマの顔はジューチャオも知ってるんじゃないの? ヴィジュー: 覚えていてくれてるかな? ジューチャオ: 覚えてるよ!この世界に来てから会ったんだもん! ジーヴァ: じゃあ特徴を言ってみて ジューチャオ: えーと……?うーんと…… ジューチャオ: おっぱい! ラシュミ: よし、私達と来てくれ ドロシー: じゃあ私もニーチェを探す方に入るわね。 これで人数的にもちょうど半々くらいになるわ 人間さん: よし。それじゃ日没ごろに待ち合わせるか。場所は土地勘のあるμたちで決めてくれ スラワーティー: 分かりましたわ。では皆さん、ご検討をお祈りしております 190048 - 再び鳴動する脅威 システム音声: ここは黒鉄の国、防空識別圏です。ただいまチェックを行っています。 その場で待機してください。繰り返します―― (強制的に受信させられる機械音声が飛空艇内に流れる。 ポステリオルは興味深そうに、スピーカーのある天井を見上げた。) ポステリオル: 疑問……どうしてわざわざ黒鉄の国へ? メルクリウス: 見ての通りだよ。ここが一番、安全そうな場所だから ユピテル: この国の防御は、その名の通り鉄壁でね。 入る際にはこうして時間がかかるが、外敵はまず受け付けない アリア: 敵って誰よ ヴィーナス: そりゃまあ、なんかいろいろいるだろ ポステリオル: ライブラを警戒してる? ヴィーナス: どう思われてるか分かんないだろ。われは友達でいたいと思っているが…… アルテミス: 『星の革命戦線』には参加しなかったもん。 だから嫌われてるか……もしかしたらアブない奴らだと思われちゃってるかも アリア: そうなんです? ポステリオル: どうだろうな。私達が自らの世界からオトギノクニに来てから、 星の革命戦線を結成するまでにかなりの時間が空く ポステリオル: 結成時、同郷のμには声をかけたが……無回答だからとライブラが逆恨みした記憶は―― ポステリオル: いや ヴィーナス: わあああ!やっぱり嫌われてるのか!友達がひとり減った!! システム音声: 武装解除を確認しました。兵装ロック完了、着陸を許可します ユピテル: さ、いつまでも嘆いていないで降りますよ ヴィーナス: ほんとにライブラはわれのこと、嫌いになってたのか? オトギノクニに来てまだエルマイトもすごく少ない頃、 肉まんを半分こしてあげた仲なんだぞ ユピテル: 半分の肉まんで恨みを避けようとしている…… メルクリウス: ちっっっさ ヴィーナス: 恩を売ろうとしてるわけじゃないぞ!思い出ってことだ、思い出! ポステリオル: 本当に言及はなかった。良くも悪くも。 私はライブラからヴィーナスたちのことは聞いてない ヴィーナス: そ、そっか。寂しいけど嫌われるよりはいいな、うん アリア: でもさっき言いよどんだのは――? ポステリオル: 当時、何も思っていなかったとしても、 いま復活したらあいつがどう考えるかは分からない ヴィーナス: えええ……?情緒不安定な奴だな ポステリオル: 目的のために何をするか分からないからな。 グランド・リヴィジョンに傾倒し始めてから、 能天気で明るかったライブラは……影をひそめてしまった アリア: 良くも悪くも、人は変わるということですね メルクリウス: まーね。実際、こんな……深淵の闇計画なんてものを、本気で実行しちゃうくらいだし ユピテル: なあ、ポステリオル。この一連の、様々なμの世界との融合はやはり、 計画の一環とみて間違いないのだろう? ポステリオル: その通り。理屈はほぼ同じ アリア: 実現するとは思っていませんでしたけどね。机上の空論にすぎない、と…… ヴィーナス: どうにかして止めるべきなんじゃないのか? われらは事情を知っているのに、見て見ぬふりなんて…… ポステリオル: 否定。これは、私達が関与すべき問題ではない アリア: 事情を知っているといっても、 止めるための具体的な手だてを把握しているわけでもありませんからね ポステリオル: この世界の危機は、この世界の者が解決するべき。私達は部外者 ポステリオル: ライブラが復活しているならともかく、今は計画を推進しているのはオトギノクニの住人 ヴィーナス: それは、そう……だが…… ???: なら、協力はしていただけるんですか? メルクリウス: えっ、誰!? ヴィネ: 主体的に動くことはしないとしても、皆さんの協力は必要なんです アスモデウス: ペローたちだって、ライブラの遺したいろんなもので その計画とかを進めてるんだもんな。ずるじゃないだろ? ポステリオル: ……誰? ヴィネ: 申し遅れました。私はナインスアルバのひとり、ヴィネです アスモデウス: ヴィネはな、すごいんだぞ。未来が見通せちゃうんだ メルクリウス: えええええっ!? アルテミス: かっこいい…… ヴィーナス: すごくいい能力だな!われもやってみたい! ヴィネ: そ、そんな見通すというほどのものではなくて、 断片的にちょっと見えちゃうだけなんですが ユピテル: パンチラくらい、ということ? ヴィネ: えっ……ま、まあ、そんな感じ、でしょうか……? アリア: 協力してほしい、というのは具体的に何か起きてるのかしら? ヴィネ: あれが……動き始めようとしているんです……! パラケルスス: まだやるのかい? アイソーポス: きっと他にも映像スフィアがあるはずなんだ。何かヒントが隠されているかもしれない パラケルスス: ぼくはね、肉体労働には向かないタチなんだよ アイソーポス: まあ、そう言わずに―― アイソーポス: なんだ……この気配は……? パラケルスス: あーあ。言わんこっちゃない。だから外出は嫌なんだ アイソーポス: あ、あれは…… パラケルスス: 古の脅威、獣聖騎兵だね 190049 - 罪へ向き合う覚悟 ニーチェ: ふんふん、ふふん♪ (一見、上機嫌な様子の彼女。 だが机に向かいペンをとったところで、急に顔を曇らせて顔を覆った。) ニーチェ: だめだ……やっぱり怖い…… ニーチェ: これが私自身の罪へ向き合うこと、償いの形だと自分に言い聞かせても やっぱり怖いものは怖いんだ…… ニーチェ: これは私が自分の罪へ向き合う覚悟ができていないからなのか。 それとも抗いがたい本能なのか ニーチェ: もし後者なら……恐怖は決して悪ではないということになるのか? いや、だが恐怖が生む悪というのは一定…… ニーチェ: わああああっ!! (ニーチェは目の前の便せんを1枚、びりっと破り取って丸めてゴミ箱に投げた。 その便せんにはまだ何も書かれていないにも関わらず。) ニーチェ: 私の悪い癖だね。もう善とか悪とか考えるのはやめようって決めたのに ニーチェ: ……この気持ちも軽く、センチメンタルに綴ってみよう。 そうしたら儚げで可愛い守ってあげたい女子になるかも ニーチェ: そろそろお別れが近づいているかもしれません。 所詮は囚われの身、生殺与奪の権は奴らに握られています ニーチェ: 計画途中までは、生かされているでしょう。何故なら、利用価値があるからです。 例え保険であったとしても。でも完遂されたとき、きっと消される ニーチェ: 価値が無くなるだけではありません。軌道に乗れば、私は邪魔なのです。 止めたり、元に戻したり……そういったことができる者は限られます ニーチェ: 計画を安定運用するためには、私の存在は消さなくてはいけない。 分かっているつもりですが、でも目の前に死が迫ると、怖くて仕方ない…… 指が震えてしまうのです…… (文末の文字は本当に震えていた。 守ってあげたい女子を演出したのではない。本当に震えたのだ。) ニーチェ: ……っ (いつものように自分の文章を読み返してみる。 普段よりも生々しく感じられるのは錯覚だろうか。) ニーチェ: きっと……いつもより本音に近いから、かな (これで完成としていいものか、と迷う。だが、最終的にニーチェはそれを封筒に収めた。) ニーチェ: (別に嫌われるような文章じゃないし、それに……) ニーチェ: (今更、好感度を稼いだところで……私が人間さんに会うことはない……。 もし彼がここに来ることがあったとしても、その時にはもう……) (ふと思い立ち、ニーチェはクローゼットを開ける。そして即座に絶望した。) ニーチェ: あ、ここ自分の家じゃないし。 クローゼット開けても、私の服なんて入ってるはずないか…… ニーチェ: せめて死体で発見されるにしても可愛い服にしようと思ったのに。 考えたらジュエリーボックスだって持ってない ニーチェ: なんて、私の手持ちなんて大したことないんだけど…… (服も、宝飾品も、さほど華美なものは持ち合わせていない。 友人のパーティーに招かれたときのために、最低限を揃えただけだ。 そして、そんなパーティーなどに招待されたことはついぞなかった。) ニーチェ: というか、そんな外側のことより大事なのは中身だよね ニーチェ: ドロドロの状態で見つかるのが一番やだな。 さっさと白骨化してたい。部屋を乾燥させた方がいいのかな ニーチェ: 白骨……化…… (自分の口から出た言葉に、また改めて死の近さを感じる。 ニーチェはふと、先ほど自分で収めたのとは別の封筒を手に取り、 そして中の便せんを取り出して広げた。) ニーチェ: ニーチェさん、手紙をありがとう。人間さんです ニーチェ: 僕はとてもきみが心配だよ。きっとひとりで寂しい思いをしているよね。 大丈夫、必ず迎えに行くから ニーチェ: まだ会ってもいないのに、こんなに気持ちを寄せていることに きみは驚くかもしれないね。 でも、僕にとってきみは、見た目なんて関係ないんだ ニーチェ: きみのその知性に、きっと僕は恋してる。 一日でも早く君を迎えに行って、そして……一晩中、愛について論じたい。 その日までどうか無事でいて。人間さん ニーチェ: フヒッ……フヒィ……やっばぁ……♪ ロート: 雨、上がったみたいですね。よかった クレア: どこか行くの? ロート: ええ。仕事なんです。やらなくちゃいけないことがあって クレア: 手伝おうか ロート: えっ? クレア: いろいろお世話になってるし。働かないと食うべからずっていうし ロート: いえ、大丈夫ですよ。危ないですから、クレアさんはここにいてください クレア: そう?私、強いよ ロート: 危険なだけじゃありませんし…… クレア: ん……そっか、無理にってことじゃないんだ。ごめん ロート: いいえ、わたくしこそ。では、行ってきますね クレア: いってらっしゃい クレア: さて、と……じゃあ掃除でもしよっかな。働かないなら餓死してしまえ、っていうし クレア: 掃除……よくわかんないんだよね。 エミリーの部屋って小綺麗に見えるけど髪の毛とかわりと落ちてるし クレア: ピュルテんちもいつ買ったかわかんない服とかそのまま放り出してあるし クレア: リルんちは何も無さすぎて参考にならないし……。 もっとヴェルが人間さんの部屋きれいにしてるとこ観察しとけばよかった クレア: とりあえず掃除道具を探そう。どこかな…… クレア: ――っ!? (突然、クレアは頭を抱えてその場にうずくまる。口元が苦悶に歪んだ。) クレア: なに、これ……っ、頭が……痛い……っ クレア: お腹に、急に何かが……く、ううぅっ……!! 190050 - 謎のお届けもの (二手に分かれ、俺達はブラーマの行方を追うことにした。 融合しつつあるとは言え、ここはブラーマがもともと住んでいた世界。 信民たちの目撃情報も集まるかと思われたのだが――) ヴェルメリオ: ……あまり情報が入ってこないね ヴィジュー: 顔を知られているのはブラーマも分かってるし、慎重に行動してるのかも ジーヴァ: 本当に、あいつ……どういうつもりなのよ (近くの町で聞き込みをしてみたものの、成果は芳しくない。) テュポーン: こまった、くまった ジーヴァ: この子はマイペースね…… 人間さん: そう言えば……さっき、こんなものを渡されたんだよな ジーヴァ: なによそれ (聞き込みの途中、奇妙な少年と出会った。首から 『人間さん見かけたら声をかけてください』 と書いた札を首から下げていたのだ。) (彼は、俺の素性を知ると顔をほころばせて、一冊のノートを手渡してきた。 聞くところによれば1週間は待っていたのだという。) ジーヴァ: ふうん……なんか怪しくない?大丈夫なの?開いた瞬間に爆発するとか 人間さん: もう開いたけど大丈夫だった ジーヴァ: もう開いた!?あんた、不用心すぎない!? テュポーン: テュポもみてた。だいじょうぶ ヴェルメリオ: ……テュポーンが見てたから安全って理屈もよくわかんないけどね ヴィジュー: 表紙には『人間さんへ』って書いてある…… 人間さんが受け取ることを見越してるんだ ヴェルメリオ: ……こんなややこしい受け渡し方法なのに ジーヴァ: それで?何か書いてあったの? 人間さん: うん、これだ ジーヴァ: 『ペンで書け』……?は? ヴェルメリオ: ……ノートなんだから、それはそうだねとしか 人間さん: ってことで謎はまったく解けてないんだが、とりあえず持っておこうかとは ヴィジュー: 何が役に立つか分かんないもんね ガナ・イーシャ: ねえねえ、みんな! (集合場所にだいぶ遅れて最後に現れたガナが息せき切って駆け込んできたかと思うと、 町の外を指す。) ガナ・イーシャ: ついさっき、見慣れない女があっちに向かったって ジーヴァ: 見慣れない女? ヴィジュー: それじゃあブラーマとは違うんじゃないの? ガナ・イーシャ: それが……赤い服を着て、頭に動物の耳がついている、 細長いものを持ち歩いていたって…… 人間さん: 細長いもの……銃か!? ヴェルメリオ: ……ロートとかいう子? (ブラーマがロートと結託したことを考えれば、 ロートを追うことはブラーマに続く道とも言える。 他にめぼしい情報もない現状、追いかける選択肢しかないだろう。) 人間さん: よし、行こう (ガナの情報はまだ鮮度が高かったらしく、しばらく進むと遠くに赤い影が見えた。) ヴィジュー: あれは……! ジーヴァ: 間違いなさそうね……いえ、こっちに来る! (向こうも俺達の存在に気が付いたらしく、猛スピードで逆走してくる。 同時に、移動しながら何か腕を動かしたかと思うと、 両脇から魔物が大量に出現した。) テュポーン: みぎ、テュポがたおす! ヴィジュー: じゃあヴィーは左ね! ヴェルメリオ: ……ジーヴァは人間さんをお願い (うなずくジーヴァの前に立ち、ヴェルはロートに向かって矢をつがえた。 そして狙いすました三連撃を放つ。) ロート: ちっ…… (ロートは難なく矢を弾く。が、そのおかげで迫る勢いが弱まった。 その僅かな時間で、ヴェルが二の矢を放った。) ロート: 邪魔しないでもらえますか! (銃身で矢を叩き落とすと、彼女は袖から素早く取り出したナイフを投げた。 ヴェルもまたそれを斧で受け止め、弾き返す。) ヴェルメリオ: ……動かないで ロート: ……そちらも (弓と銃、それぞれを互いに向けて構えたまま、睨み合うロートとヴェル。) (改めてこうしてふたりが対峙する場面を見ると、印象が似ていることに気付く。) ロート: なんでしょうね。あなたの顔を見ていると、 理由もわからないのに何故だかイライラさせられます ヴェルメリオ: ……少し落ち着いたら? 人間さん: ロート……お前、創造期は覚えてるのか? ロート: なんです急に。覚えているに決まってるじゃないですか (チャイムの例もある。その姿からしてもおそらく彼女は、 ラームスエディションの赤ずきんなのではないか。 俺はそんな疑いを持ち始めていた。) (だとすると、その記憶は果たして――) 人間さん: その記憶は、本物か? ロート: は……?な、なに言ってるんですか。本物に決まってるでしょう! (カッとなった様子のロートがこちらに銃口を向け、躊躇なく発射する。) ジーヴァ: させないわよ! (即座に、ジーヴァが魔法障壁を展開して俺を守る。 青い炎のような壁が銃弾を吸収した。) ヴェルメリオ: ……あなたの相手は、わたし ロート: いいでしょう。本当に腹が立ってきましたし 190051 - 赤ずきんの激闘 (ヴェルとロートの激しい応酬。互いに次々と攻撃を繰り出しては、素早くそれをかわす。) (テュポーンとヴィジューは魔物の群れに釘付けにさせられ、 時折、思い出したように俺へ向けられる攻撃のせいで ジーヴァもうかつに動けない。) ヴェルメリオ: ……この子、強い ロート: 聖母に強化されているというのに……わたくしの攻撃を、ここまでかわしきれるなんて (やはりロートも、チャイムと同じく創造の聖母による強化を受けているようだ。 一方でヴェルも、以前キの加護を受けて以降、力を上げているが……。) ヴェルメリオ: ……人間さんを守るのが、わたしの使命だから。絶対、あなたになんて渡さない ロート: 別に、その男にこだわりはありませんけどね。 ただそちらの集団で重要な意味を持つと想像できるだけで (ロートの言葉はどこまで真実だろうか。 聖母は既に、雨依やチャイムのことを通じて俺を警戒しているだろう。 実際の実力はさておき、結果を見れば真っ先に潰しにくる対象のはずだ。) ロート: 仕方ありませんね。あまり聖母の力を借りたくはないのですが 背に腹は代えられません…… ジーヴァ: ――っ!?ヴェル、気を付けて! ヴェルメリオ: ……これ、μの力!? 人間さん: まずいっ……! (イマジュマイトをベースとした勝負では拮抗していた。 ここは現在、世界が融合してオトギノクニの一部でもあるらしい。 その比較では彼女たちはほぼ互角だった。) (同時にμ世界でもあり、μの力も有効だ。 しかし、あくまでもジーヴァたちの世界であり、キの影響は限定的となることを、 過去の例が表している。) (一方でロートは、この世界に向かうよう聖母に派遣されているはず。 なら当然、聖母から与えられたμの力は――) ヴェルメリオ: ……わたしの、キからもらった力よりもずっと……! ジーヴァ: ヴェル!! (ロートの放ったいくつもの銃弾が、ヴェルの身体を貫いた。) 人間さん: ヴェル!! ジーヴァ: あ、ちょっと、人間さんっ! ロート: はぁっ、はぁっ……手こずらせてくれましたね……。 わたくしも消耗が大きい……ここは退かせていただきます…… (ロートはそう言い残すと、ひらりとそのまま立ち去ってしまう。 俺は一瞬躊躇するも、彼女を追いかけることを諦め、倒れたヴェルを抱き起こした。) 人間さん: ヴェル……!しっかり…… (夥しい出血。血の気が引いて冷たくなる身体。 俺は必死の思いでエルマイトを込め、彼女を抱きしめた。) ロート: ――ってことがあって (人間さんたちとの戦いから撤退したロートは、 予定通りに拠点に戻り、ペロー達と合流していた。 本来の時刻に遅れた理由として接敵したことを説明したのだが――) ロート: 思ったより、あの人に手こずってしまって……あの男を仕留めきれませんでした…… (歯噛みするロートだが、ペローは意に介した様子もなく、微笑みを浮かべる。) ペロー: 構いませんよ。むしろ変に相手陣営を刺激してしまうかもしれませんし。 私達の現在の最大の目的は時間稼ぎですから ブラーマ: ねえ…… (ペロー、キャロル、ロートと並ぶ中、 ロートよりも少し早く合流していたブラーマが切り出す。) ブラーマ: この世界の融合が済めば、不安定になっているって話だった私達の世界も…… 無事に平和になるってことで、いいんだよね ペロー: もちろんです。それより、お渡しした護符は肌身離さずお持ちですか? ブラーマ: ああ、この小さい巾着袋のことね。持っているわ ブラーマ: そう言えば、これ……ちょっと前に、やたら熱を持っていたけどどんな効果があるの? ペロー: そうですか、なるほど。いえ、危険から身を守ってくれるものですよ。 あなたはイマジュマイトに対抗できないでしょうし ブラーマ: はあ、なるほど…… ブラーマ: ――っ!? ???: ……てよっ ???: やめて、おね……にいちゃ……やだ……! ブラーマ: (……なに、いまの。覚えのない光景が……誰の声だった……?) ロート: この世界の行く末も結構だけど、聖母との約束も守られるんですよね? わたくし、このところ聖母と話せていないのですが ペロー: おばあ様の情報でしたね キャロル: この後、聖母に報告もあるし、直接話せば? ロート: ……そうさせてもらいます ブラーマ: 今さらだけど……君たち、何者なの? ペロー: 私もキャロルもただの、いち作家ですよ。 彼女のことは私もあまり把握していませんが…… ペロー: ただ、ある意味では縁がある関係、でしょう ロート: はあ。勝手に縁を結ばれても困りますけど ブラーマ: 創造の聖母、っていうのは……? ペロー: あの方は……『いにしえのμ』ですよ 190052 - 世界の融合と侵蝕 (ほぼ同じころ。ニーチェの行方を追っていた雨依たちもまた、 人間さんたちと同じように聞き込み調査を行っていた。) 雨依: なーんか手がかりらしきものは全然ないわね スラワーティー: ブラーマさまを探す向こうの組とは違って、わたくしたちは ニーチェさまを存じ上げないので……余計に事態を難しくしている気がしますわ ラシュミ: ただ気になるのは、見慣れない魔物が頻繁に出現している、という情報だな ラシュミ: 見たこともないようなモノが出たり入ったりしている……見過ごせない事態だ…… ドロシー: 出現って、入ることはないでしょ? ジューチャオ: それあたしも聞いた!どこだか忘れたけど、 なんか突然、森ができて知らない木の実がとれたんだって 雨依: 場所を忘れてたら意味なくない……? ドロシー: 大丈夫よ、似た話は私も聞いたわ。もちろん場所も把握してる 雨依: さすがドロシーね スラワーティー: それにしても……このあたりに森とか木の実とか、あまり聞かないのですが…… ラシュミ: そうだな。近辺は乾燥地帯のはずだが…… やはり、世界がどろっどろのぐっちょぐちょに融合した影響だろうか ジューチャオ: なんかえっちな話をしてる? スラワーティー: してませんので、速やかに記憶から消し去ってくださいまし 雨依: なんにしても、自分たちの目で確かめてみるしかないわね ヴィネ: うう……気持ち悪い……。倒れそう…… メルクリウス: 大丈夫ですか?かなり揺れましたからね アスモデウス: すっごく揺れておもしろかったな!アスモ様は大満足だぞ! ヴィーナス: アスモはタフだな! ユピテル: 目標地点まであと30分ほどです ポステリオル: 場所は、間違いない? ヴィネ: ええ……私はよく知らない場所ですが、特徴は間違いありません。 たくさんの台座が囲むように…… アリア: 十二迷宮に違いないわ ヴィネ: そこで人間さんたちは襲われていたんです……獣装騎兵に……!! シェイクスピア: こんなところにも融合地点が発生しているなんて…… テリトリーを浸食するような悲劇は不愉快だわ…… 特務機関兵: シェイクスピア委員!フアナ司令より連絡です シェイクスピア: 何かしら。オトギッターのアカウントをブロックしているのがバレたとか…… ジュリエット: ふふふふふ ジュリエット: これで、この世界は私のもの…… ハムレット: え、なに?どういうこと? ジュリエット: 私、μなんです ハムレット: ねー、変な役に入っちゃった シェイクスピア: 放っておきなさい。そのうち飽きるわ フアナ: こちらフアナ。やっぱりペンのある場所は融合地点で間違いないみたいだね フアナ: こまめに連絡をとって、状況を共有しよう。 解決したら他の人の応援に入ってあげて。なにせ手が足りないからね ナイトゴーント: ――って連絡が入ってるよ ラヴクラフト: んー……ここもヤラれちゃってるし、やっぱりペン…… ペローかキャロルの仕業ってことになっちゃうなぁ ショゴス: なんて返すの?ラヴクラフトさん ラヴクラフト: え?了解、とかでいいんじゃないの ショゴス: 一言だけじゃかわいそうだよ ナイトゴーント: 逆にめっちゃ追いメッセージくるパターンなんだよね ラヴクラフト: えー。でも長文を考えるのはなぁ。 じゃあ『ラヴクラフトなら俺の隣で寝てるよ』って言っといて ナイトゴーント: 反応が怖すぎるんだけど ショゴス: ねえねえ、ラヴクラフトさん。あれ見て。誰かいるよ ラヴクラフト: んんー? ノストラダムス: え、なに?どした?てか、何の騒ぎ? (――コミッティ直轄領――) (コミッティ本部から徒歩圏内。当然、すぐそこは大都会という立地なのだが――) フェルディナ: 何よ、この荒地は…… シャルロッテ: ひどい……確かここにはおしゃれなカフェがあったはずですわ フェルディナ: 融合なんて言っているけど、これは侵蝕だわ。 失われた空間があるってことじゃない……! フェルディナ: ……何が出て来るか分からないわ。シャル、十分に注意して シャルロッテ: なんだか、フェル姉さま…… フェルディナ: 何よ シャルロッテ: いいえ、なんでもありませんわ シャルロッテ: (ほんのちょっぴり、頼りになる姉さまになったかも…… なんて口に出したら、間違いなく調子に乗るでしょうし) 190053 - クレアの変化 ペロー: 以上が現状の報告となります。 オトギノクニ各地は順調にμ世界と融合していますから…… 創造の聖母: いいでしょう。融合がそこまで進んでいるのなら、 あれをライブラからお借りする頃合いですね キャロル: あんなレトロなやつ、どうすんの? 創造の聖母: 力で支配するにあたり、分かりやすい脅威が必要です。 それに……苦い思い出を持つ者もたくさんいるのでしょう? ライブラから、そう聞いていますよ ブラーマ: (これが……創造の聖母……) (声だけが頭に響く。だが、それだけでブラーマは重圧を感じた。) ブラーマ: (世界を繋ぎ合わせることさえできる相手……そんなのワタシとは次元が……) ロート: 飲まれないでください ブラーマ: え? ロート: 後でニーチェさんとお話するといいです。ラーメンという食べ物について ブラーマ: は……?え……なに……? ロート: とにかく今は、堂々としていてください。飲まれてはいけません ブラーマ: ……! (少し落ち着きを取り戻したブラーマは、一度深呼吸をする。 その間にロートは、一歩前に出て床に描かれた魔法陣に近づいた。) ロート: 聖母、おばあちゃんの約束、忘れてないですよね 創造の聖母: ええ、もちろん…… ロート: 世界の融合が完成したら、おばあちゃんの情報を教えてもらう。 アシェンプテルさんだって、ルイズさんだって…… あなたのことを信じているんですからね ロート: 約束ですよ 創造の聖母: もちろんです (聖母との接続が切れると、ロートはすぐに部屋の出口へと向かう。) ロート: 気になることがありますので、わたくしはこれで ペロー: ええ、どうぞ。時間稼ぎは引き続きお忘れなきよう ロート: 分かってます ペロー: さて、私たちも自分の役割をまっとうしましょうか キャロル: バカみたい (ペローが、そして続いてブラーマが出て行こうというところで ふいにキャロルが何事かつぶやいた。ブラーマの耳はそれを僅かに聞き取る。) キャロル: 復讐に狂うなんて……バカげてる。 無関係の世界を支配したって、自分の信民は帰ってきやしないのに ブラーマ: ……? (拠点を出たロートは急ぎ足で、例の山小屋を目指していた。 本当はセキュリティという意味では、拠点に連れて行く方が安心だったが、 本能的に彼女はそれを拒絶していた。) (せっかく見つけた、心安らげる相手をペローやキャロル、 ましてや聖母などと引き合わせたくはない。) ロート: クレアさん…… ロート: ただいま戻りました クレア: おかえり ロート: !? (ロートが出かけたときから変わらない笑顔。しかし、その装いはまるで変わっていた。) ロート: どうしたんです、それ…… クレア: あの後ちょっと頭痛くて。お昼寝しちゃってたんだ クレア: それで起きたら、こんなになってた ロート: そんなことある……? クレア: だから掃除とか、全然できてないんだ。ごめん ロート: いいんですよ、掃除なんて。もともと汚い小屋なんだし (言った後で、小屋が汚いせいで異常事態になったのでは、という考えが ロートの脳裏をよぎるが、まさかそんなことはないだろう、と打ち消す。) (たかが積もった埃で、くしゃみや咳、皮膚の赤みくらいは出ても ここまで姿かたちが変わるはずがない。) ロート: とにかくクレアさんは休んでいてください。 見た目はともかく、頭痛もするんでしょう? クレア: いまは平気。なんか波があるんだよね ロート: 頭痛ってそういうものですから。ええと、確か痛み止めの薬草がこのあたりに…… クレア: あっ、怪我してる ロート: えっ、どこですか? クレア: ううん。私じゃなくて、ロートが。ほら、そこ ロート: あ…… (それはヴェルメリオとの激闘で受けた傷だった。どうやら攻撃がかすめていたらしい。) ロート: (危ない。毒矢とかじゃなくてよかった……) クレア: じゃあ私が治癒魔法をかけるね。痛いの、痛いの、しゅびどぅばー ロート: …… ロート: ……はい? クレア: 魔法 ロート: ……あはっ。あははははっ、なんですか、それ クレア: やった、うけた ロート: クレアさんって、そんな変なことも言うんですね。知らなかったです クレア: ロートの知らない私が、これからもっとダダ漏れてくるよ ロート: これから…… クレア: うん。もう友達になったでしょ。 だからこれからも一緒にいて、いろんなところ出て来るよ ロート: クレアさん…… (ロートは一度だけ鼻をすすると、そっぽを向いた。そして努めて明るい声で告げる。) ロート: お腹がすきましたね。町でお弁当を買ってきたので一緒に食べましょうか クレア: やった (それから数日して。 クレアの頭痛は相変わらず断続的に続くし、見た目もそのままだ。 でもその他は何も事件のない、穏やかな日々が続いていた。) ロート: 行きたくない…… クレア: お仕事でしょ? ロート: ええ、分かってます。分かってるんですけど。はあ……仕方ない、出かけますか クレア: 気を付けてね ロート: 大丈夫ですか?頭痛の方は…… クレア: うん、ごめんね。迷惑かけて ロート: そんなことは気にしなくていいんです。誰しも体調が悪いことくらいあります ロート: 頭痛のほかに、何か症状はありますか?出かけるついでに町で薬を買ってきますよ クレア: ううん、大丈夫 ロート: では、行ってきますね。できるだけ早く戻るようにしますから クレア: ふふっ、へんなの ロート: なんです? クレア: この会話、なんか夫婦みたいじゃない? ロート: バカなこと言ってないで、おとなしく寝ていてくださいよ (拠点に呼び出されたロートはニーチェの見張りを言い渡された。 キャロルが留守にする間の代役だということだったが――) ロート: (あんなの、そこらの傭兵で事足りるでしょう。 まったく……クレアさんが心配だっていうのに) (クレアが気に入っている弁当を買い込むと、 ロートはいそいそと彼女が待つであろう小屋に向かった。) ロート: ……? ロート: なんでしょう……なんだか、悪寒が……。禍々しい気配……? (胸騒ぎを覚えたロートは小屋に駆け寄る。窓ガラスが無残に割られていた。 入口の扉は半開きで、力なく揺れている。) ロート: クレアさん! (扉を開けた瞬間、ロートは息を飲んだ。) (おびただしい量の赤黒い液体に浸かった小屋の中。 その中央にクレアはぽつんと立っていた。) (周辺に散らばった『何か』をちらりと見やりながら、ロートは恐る恐る声を振り絞った。) ロート: ク、クレアさん……あなた……? クレア: おかえり (赤い液体の飛沫を拭いながら、クレアは笑みを浮かべた。 それは彼女のよく知るクレアの表情ではなく――) 190056 - グランド・リヴィジョンの現在 (地下深くにあるその空間に、声がうっすらと漏れ聞こえる。 魔法陣の地下、そこには『トゥルム・ランツェ』と呼ばれる円錐状の構造物に 肉体を繋ぎ止められた者たちがいた。) スピカ: う、うう…… ハマル: もう、どれほどの時が経ったのか…… アルゲディ: この世界の民のためですわ…… わたくしたちには、苦痛に耐える責務がありますのよ…… ルクバト: そうは言いますけど、もはやグランド・リヴィジョンはその形も、 意義すらも変容していますからねぇ…… アンタレス: そうなのか? アルデバラン: 変わったのは事実よ。でも、一番根っこにある…… オトギノクニに住むみんなのため、ってところは変わらないでしょ ポルックス: だったら、違う方法もあるんじゃないかと……あ、いえ、なんでもありません ハマル: ポルックスの言うことも一理ある。私達がこうして現状維持を甘受することが 本当に正しいのか。考えるべき時機ではないだろうか サマカ: でも師匠、そったらこと言っても…… わたすたちは、自分でグランド・リヴィジョンさ、どうにかするのは無理だべ タルフ: うーん…… ルクバト: 方法はあるんじゃないですか? アスクレピオスさんは、うまく実体化して抜け出したのですし アルゲディ: 外からの協力が必要ということですわね。スウド、何か案はございませんこと? サダルスウド: 恐れながらお嬢様。あのライブラ様が簡単に私達を外に出すとは思えません。 かなり強固な封印だと考えられます ポルックス: 何度も試してきたことですからね…… アルデバラン: そうやって諦めたら終わりよ。試したといっても全員が本気を出したわけじゃないし アンタレス: みんなで力を合わせればうまくいくってことだな!うん、絶対いける! ハマル: その意思統一ができていない、という話なのだがな。 そもそも現状維持でもいいと思っている者もいるだろう? タルフ: 待って。誰か来た (ぽつりぽつり、と各々の意見をかわしていた十二神官たちだったが、 気配を察した瞬間に静まり返った。 その空間に、階段を下りてきたペローが姿を現す。) ペロー: お初にお目にかかる方も少なくないかと存じます。 私は元インペリウム・コミッティ13号委員、ペローと申します。 どうぞ、お見知りおきを…… スピカ: はあ…… サマカ: 何の用だべ…… ペロー: 単刀直入に申し上げます。私はライブラの計画に基づき、行動しています。 つきましては、皆様を封印から解き放ちたいと考えています タルフ: え……ライブラの……? アルデバラン: ライブラが私達の封印を解く?どうしてそんなことをするのよ。理由がないわ ペロー: 当初からグランド・リヴィジョンは完成形ではありませんでした。 それは皆様もご存じのはず タルフ: それは確かに…… ペロー: グランド・リヴィジョンは、『深淵の闇』計画のために礎とすべく実現させた術式…… 今こそ、これを前に進めるときがきたのです ポルックス: つまり……発展的解消…… アルデバラン: 発展、ね…… ペロー: 現コミッティ体制によって歪められたこの術式は、 既に役目を終えたと言っていい……そこで ペロー: グランド・リヴィジョンの破棄を行います スピカ: 破棄……! アルデバラン: どうすればできるのか、ペローは知ってるのね? ペロー: ええ、もちろん ペロー: 破棄が成った暁には……神官の皆様にはぜひとも、ご協力を賜りたく…… アルゲディ: ……変革は必要ですわね。皆様、異論のある方は? サダルスウド: …… (アルゲディの呼びかけに、声は上がらなかった。 ひとまずこの局面では、意思統一がされたと言える。) (ペローは口元に薄く笑みを浮かべた。) ロート: クレアさん……っ。一体、どこに……! (飛び去ったクレアを追いかけようとしたロートだが、その速度はあまりにも圧倒的で、 彼女が動揺している僅かな隙に、視界からも消えてしまった。) (とにかく早く見つけなくては、何か取り返しのつかない事態につながるのではないか。 まるで根拠はないが、ロートはそう直感していた。) ロート: どうしてなんですか、クレアさん…… ロート: 最初からこういうつもりで……? いいえ、利用する素振りもなく、実際にわたくしを利用したとも言えない……。 せいぜい多少の食事を提供した程度なんですから…… ロート: ただの戯れ、だったんでしょうか……。わたくしは……とても短かったですが、 あの時間が……大事なものだと感じていたのに…… (ふと、視線を落とした拍子に自身の太ももが目に入る。 その内側には、先日のヴェルメリオとの戦いで受けた傷を クレアが手当してくれた形跡が残っていた。) ロート: …… ロート: ……クレアさんがどう思っていようと、関係ありません。 わたくしにとってクレアさんが大事なら、最善の選択をするだけ…… ロート: きっと、救いが必要なはず……! 190057 - 獣聖騎兵の脅威 (地上に出たペローを、キャロルが出迎えた。) キャロル: お疲れ~ ペロー: ええ、本当に。いったい、この階段は何段あるんでしょうね キャロル: どう? ペロー: 首尾は上々、ひとまずの同意は得られました キャロル: これで一気に世界の融合が進むってことだね ペロー: ええ。異なる世界が一気に押し寄せれば、イマジュマイトが 絶対的な指標ではなくなる……相対的にコミッティの弱体化は避けられません ペロー: このとき、誰がイニシアティブをとることができるか。 深淵の闇計画を進めている私達が有利であるのは間違いないでしょう キャロル: 難しいことはどうでもいいけど、争いは増えるって聞いたよ ペロー: 昨日までまったくの異世界に存在していた者が、強制的に隣り合うのですから…… 軋轢が発生しないはずはありませんね……ふふっ キャロル: そしたら血がたくさん見れちゃうってことだね。きゃはっ ペロー: ところで聖母の様子はどうですか? キャロル: んー…… ペロー: 問題が? キャロル: あたしは個人的に嫌いじゃないんだけどね。 獣聖騎兵を使って、かなり暴れてるんだよね ペロー: ……あれは時間稼ぎのための道具ですよ キャロル: って話だったじゃん?いま、かなり町とかぶっ壊してるよ。 あたしは血を見るの大好きだし、他人事だと思って見てる分には すっごく楽しいんだけどさ キャロル: でも、ね? ペロー: ええ……μ世界の町がどうなろうと知ったことではありませんが そもそも、恐怖はライブラがコントロールする話ですからね。 こちらの指示を聞けないようでは…… ペロー: パートナーとして信頼はできませんね キャロル: だよね ペロー: 遅かれ早かれ、ライブラが動くかとは思いますが、一応、止めておきますか キャロル: 器は、どうなの? ペロー: ライブラから先ほど声が届きましたよ。はっきりと言っていました ペロー: 器はもう、目覚めている――と ヴィジュー: はぁっ、はぁっ……な、なんなの、こいつ。全然、攻撃が通用しない……っ ジーヴァ: 人間さんの話では、あれはオトギノクニ由来の、特殊な魔物らしいわ。 だから、たぶん…… ヴィジュー: μの力が通じない、ってやつかぁ。だからこんなに苦戦するんだね テュポーン: テュポも、エルマイトっていうの、ほしい ジーヴァ: 一応、あたしたちも人間さんからエルマイトは受け取ってるから まったく持っていないわけじゃないのよ ヴィジュー: だから多少は戦えてるんだもんね ジーヴァ: でも……このままじゃ…… 人間さん: (俺が供給するエルマイトじゃ足りないのか……? ナインスアルバのみんなと戦ったときは何が決定打だった……?) 人間さん: (そもそも……別のエネルギーとは言われているが、 イマジュマイトとμの力、根っこは同じだとも……何が正解なんだ……) ヴィジュー: テュポーン!そっちにいったよ! テュポーン: うああああっ! ジーヴァ: テュポーンはあたしがフォローするわ!ヴィジューは敵を牽制して! ヴィジュー: わかった! ヴィジュー: うう……こんな町中で戦ったら、町に被害が……。 場所を移したいけど、でも……それどころじゃない…… (ギリギリのところで獣聖騎兵の攻撃を食い止めるヴィジューたち。 人間さんのエルマイトを受けて対抗しているが、決定打には至っていない。) (そんな戦況を、少し離れた物陰から見ている者がいた。) ブラーマ: なによ、これ…… (戦いは現状、拮抗している。 しかし、そんなきわどい戦いが市街地で行われればどうなるか。) (事あるごとに建物が損壊し、爆音が起きるたびに 遠く離れた避難所からは信民たちの悲鳴が上がる。) ブラーマ: この世界を守る……そう言っていたじゃない…… ブラーマ: 何を犠牲にしてもいい。ワタシがどうなろうとも、構わない。 だけど、この世界だけは…… (そのとき、彼女の視界にふと動くものがあった。建物の中に人影がある。) ブラーマ: 子供……!? (逃げるタイミングを何かの事情で逸してしまったのか。 壊れた窓から外の様子を、震えながら窺っている少年の姿。) ブラーマ: 危ない……! (その近くに、ヴィジューの弾いた獣聖騎兵の攻撃が着弾する。) (抉られる地面。破壊された石畳が破片となり飛び散る。 窓は既に割れ、少年との間に遮るものは何もない――) ブラーマ: させない! (とっさに飛び込んだブラーマは、少年のいる建物を背にして魔法障壁を展開する。 石つぶてはブラーマの目の前で霧散した。) 少年: おねえちゃん……? ブラーマ: いまのうちに逃げるのよ。避難所まで、ひとりで走れる? 少年: う、うん……!ありがとう! (少年を走らせながらも、彼と避難所を繋ぐルートに危険がないかを目配りしながら、 ブラーマは奥歯を噛み締めた。) ブラーマ: これが結果だというなら……ワタシは…… 190058 - 旧き時代の脅威 (目の前で町を蹂躙しようと襲い来る敵。それをヴィジューたちは必死で防いでいた。) ヴィジュー: くうううっ……!こいつら、なんなの本当にっ……! ジーヴァ: 単に力の種類が違うだけじゃないわ……。こいつら、強い…… (旧き時代の敵――獣聖騎兵。 それはかつてレグルスが、相対的に天空神殿の影響力を強めるために、 名だたる存在を滅ぼし精霊化する際に使役したもの。) 人間さん: (あの当時、ナインスアルバたちがそのほとんどを討伐したはずだ…… この時代に残っているとしたら、それは) 人間さん: (たまたま活動を停止して眠っていた存在を、誰かが掘り起こした……) テュポーン: テュポがいく! ジーヴァ: 援護するわ! (果敢に突撃するテュポーン。その勢いに迷いはない。 ジーヴァの援護もあり獣聖騎兵の懐深くまで潜り込んだ。) テュポーン: やあああぁぁぁ!! (テュポーンの攻撃が敵を捉える。獣聖騎兵がバランスを崩した。) ヴィジュー: よしっ、いまだ! (好機と見て、ヴィジューが畳みかける。 しかし獣聖騎兵はバランスを崩しながらも反撃を繰り出した。) ヴィジュー: うあっ……!? (すんでのところでヴィジューがかわす。 しかし回避のために体勢を崩され、突撃の勢いは失われた。 その間に獣聖騎兵は持ち直してしまう。) (まさに一進一退の攻防。そう、敵は圧倒的に強いが、彼女たちも負けてはいないのだ。) 人間さん: レグルスはいない…… これを操っているのはおそらく、状況的に創造の聖母だろうが…… 人間さん: ライブラが作り、レグルスが管理していたものを、 果たしてそう簡単に乗っ取ることができるのか……? ジーヴァ: だったら、あいつを調べれば分かるのかもしれないわね! テュポーン: まってて。いま、テュポがたおすから! ブラーマ: ……っ (ブラーマは目の前で繰り広げられる戦いを目の当たりにして思わず下唇を噛んだ。) (かつて志を同じくしたはずの仲間が、 必死に強大な敵に立ち向かい町を守ろうとしている。 いや、現在でもその志はブラーマと何も変わらないはずなのに。) ブラーマ: ワタシは……ここで何をやって…… (周囲には、既に被害が及んだ町の風景。 意図しないことであったとしても、この状況は自分が招いた―― ブラーマは自身の行動を呪うほかなかった。) ブラーマ: 話が違うわ……この世界を守るために、ワタシは……。なのに、こんな……! ブラーマ: ワタシは騙されていた……? ブラーマ: ……違うわ。もしかしたら騙されていたのかもしれないけど、 ワタシがそもそも甘かったのだわ (これまで接してきた創造の聖母やペローといった、相手陣営の言動を思い浮かべる。) ブラーマ: もし約束を守る気があったとしても、あの人たちは……こんなことを気に留めないのよ ブラーマ: 大事の前の小事――世界を救うという目的のためなら、 こんな小さな町ひとつ消し飛んでも、『仕方のない犠牲』だと考える…… そういう人たちだわ (これが机上の空論なら、議論の余地はあったに違いない。 ブラーマもどちらかと言えば理論派だ。) (しかし自分を慕う信民たちが逃げ惑い、彼らの暮らしてきた家々が 瓦礫となる風景に心を動かされないほど非情ではない。) ブラーマ: ワタシは……ワタシの成すべきことは…… (自らの手のひらを見つめる。この手は、一体何のためにあるのか。) ブラーマ: 信民を守るために、ここで戦う…… (見つめていた手のひらをぎゅっと握り、ブラーマは前を向く。 その視線の先には、獣聖騎兵と戦うヴィジューとジーヴァ。) (そこでふと、ブラーマは思い当たった。) (そして、握った拳をゆっくりと開き、闘志をみなぎらせた顔を緩める。) ブラーマ: ……違う ブラーマ: もう手遅れだわ。ワタシが成すべきことは…… ブラーマ: ――毒を食らわば皿まで ジーヴァ: なんとかこいつを倒せば……何か手がかりがあるはず……そうよね、人間さん! 人間さん: ああ……おそらくな! (戦いの合間を縫って俺のそばに来たジーヴァに、エルマイトを送る。) (強く想うだけでも俺のエルマイトは影響するのだが、 やはり直接触れるに越したことはない。) ジーヴァ: 聞いたわね。とにかくまず、敵の狙いを明らかにするわよ! テュポーン: よくわかんないけど、わかった! ヴィジュー: 了解だよっ! ヴィジュー: (……でも、そんなのがなくたってヴィーは戦わなきゃ。 こいつを倒さなきゃいけないんだ) ヴィジュー: (それがμってものだから――) 190059 - 盟友と信民と ジーヴァ: テュポーン、縦にばかり移動すると危険よ! テュポーン: たて? ジーヴァ: 相手に向かっていく動きだけじゃなく、左右にも移動して。 それで敵の注意を逸らすことができるわ テュポーン: なるほど ジーヴァ: 相手がテュポーンに釣られればヴィジューが、釣られなければあんたが攻撃して! テュポーン: わかった! ジーヴァ: あたしはここから援護する!いいわね、ヴィジュー! ヴィジュー: うん!頼りにしてるよ、ジーヴァ! ジーヴァ: ……こんなときに、変なこと言うんじゃないの ヴィジュー: (そうだよね……ヴィーたちは、協力すればこれくらい戦えるんだ…… けど、あのときは……) (それはロートが偽のμを伴い彼女らに迫った直後。) (危ういところで難を逃れ城を出たジーヴァ、ブラーマ、そしてヴィジューは、 ここからの方針で意見を異にしていた。) ジーヴァ: 逃げるですって!? ヴィジュー: ここで戦い続けるのは危険だよ! ブラーマ: …… ジーヴァ: 冗談じゃないわ!敵に背を見せて逃げるなんて! しかもあたしたちの城を奪われてるのよ!? ヴィジュー: なんでか分かんないけど、ヴィーたちは力を失ってる。 いま無理しても勝てないかもしれない ジーヴァ: 勝てなきゃ戦わないってわけ!? ブラーマ: そりゃそうでしょ。何言ってるの、ジーヴァは ジーヴァ: プライドってもんがあるでしょうが! ヴィジュー: いま無理に戦えば信民のみんなを巻き込んじゃう ジーヴァ: 逃げれば、その信民を見捨てていくことになるのよ! ヴィジュー: ……っ!! ブラーマ: 奴らは信民に手出しする様子はなかったわよ ブラーマ: それにスラワーティーやラシュミ、それにガナがどう考えてるか、 ちゃんと相談してからにしないと ジーヴァ: みんな戦うに決まってるでしょ ブラーマ: 決めつけるんじゃないわよ。ワタシは戦うべきじゃないと思ってるわ ジーヴァ: ……っ、分かったわよ!この場は退いてあげる!! ヴィジュー: (あのときの判断は……正しかったのかな……) ヴィジュー: (ヴィーは……あのとき、信民のみんなを巻き込みたくなくて 逃げようって思ってた。けど、みんなは……見捨てられたと思ったのかな……) ジーヴァ: テュポーン!かわして!! テュポーン: うわぁっ!あぶないっ ジーヴァ: ふう……なんとかギリギリでかわせたわね…… ヴィジュー: お前の相手はこっちだっ! (ヴィジューは懸命に敵を引き付けようとするが、 獣聖騎兵はテュポーンにむけてさらに追撃しようとする。) (今度はジーヴァの魔法障壁がテュポーンを救った。 そんな中でも、ヴィジューは何か考えている様子だ。) ヴィジュー: (……見捨てたわけじゃない。でも罪悪感はずっとあって……) ヴィジュー: (ヴィーが太陽仮面なんてやっていたのも、きっとその償いだったのかも) ヴィジュー: やああぁぁ!! ヴィジュー: 大丈夫だった!? 信民: ありがとうございます!命の恩人です。ええと…… ヴィジュー: 人呼んで太陽仮面!この町の平和は守る!! 信民: 頼りになります……。 μの皆さんたちが不在となったいま、あなたしか頼れる人はいません…… ヴィジュー: え……?だってほら城に―― 信民: あの方々は私どもの事なんて見ていません。 魔物が出ようとなんだろうと戦ってはくれないのです ヴィジュー: ……っ! ヴィジュー: (信民が、ヴィーのことを『μのヴィジューだ』と認識しないと あの人たちから力はもらえない) ヴィジュー: (だから太陽仮面は、完全な無償奉仕だった) ガナ・イーシャ: 無償ぉ?よくやるわね。あたしは無理よ、やらないわ ヴィジュー: うん……でも、そうでもしないとヴィーは…… ガナ・イーシャ: 後悔する気持ちに押しつぶされそう、ってわけね。 いいんじゃないの、それがあんたにとっての報酬なのよ ガナ・イーシャ: ……共感はしないし手伝いもしないけど、理解はするわ。止めたりもしない ヴィジュー: ありがと、ガナ…… ヴィジュー: (そんなこと言ってたガナも、時々手伝ってくれたけどね。 人間さんを助けた時も一緒だったっけ) ヴィジュー: だから……あんな後悔はもうしたくないから…… ここまで来て、この戦いで負けるわけにはいかない……! 190060 - 3人の関係性 ヴィジュー: テュポーン、そっち行ったよ!! テュポーン: うんっ!! (獣聖騎兵の身体が発光したかと思うと、 エネルギーの塊のような帯状の光がテュポーンに向かう。) (テュポーンはそれを寸前でかわしたが――) テュポーン: あっ、おうちが! ヴィジュー: ……っ ジーヴァ: 仕方ない、とは言いたくないけど……場所を移すのは難しいわ。 かといって町を守りながら戦えるほど余裕もない…… 人間さん: 俺は道を間違えたな……。剣や体術だけじゃなく、魔法も習得しておくべきだったか…… (後方にいる俺が防御魔法を使えれば、 気兼ねなく彼女たちも獣聖騎兵に専念できるというのに。 まさに後悔先に立たずだが、俺は自分に舌打ちした。) ヴィジュー: できるだけ、町の反対側から攻撃しよう。 そうすれば反撃してきたときにかわしても、町に飛んでいかないから ヴィジュー: 全部が全部ってわけにはいかないけど…… ジーヴァ: そうね……心がけるようにはしましょ テュポーン: あっ、ヴィジュー!また!! 人間さん: チャージが早い……! (再び獣聖騎兵の身体が光る。そして次の瞬間には攻撃が放たれていた。) ヴィジュー: ――っ!? (方針について話し合ったばかり。配置の変更などできているはずもない。 ヴィジューの背後には町の中心部があった。) ヴィジュー: このままじゃ……っ ジーヴァ: 避けて!その距離で受け止められる攻撃じゃないわよ! ヴィジュー: ……っ ブラーマ: ヴィジュー!避けて!こっちで引き受けるわ!! ヴィジュー: !? (唐突に響く声に、ヴィジューは戸惑いつつも身を翻す。 彼女を掠めて町に飛んだ攻撃は、既に展開されていた魔法障壁に弾き飛ばされた。) ヴィジュー: いまの声って……!? ジーヴァ: それにその、強力な防御魔法は……! ブラーマ: …… 人間さん: ブラーマ……! ジーヴァ: あんた……どのツラ下げてきたのよ! ヴィジュー: 戻ってきてくれたんだから、そういう言い方しちゃだめだよ! ブラーマ: というか相手は次の行動に出るわよ! ワタシのことを気にしてる場合じゃないでしょ! (ここはブラーマが正論で、ジーヴァとヴィジューは獣聖騎兵に向き合うと、 再び激しい攻撃の応酬を始める。) (ついさっき決まったばかりの方針は、暗黙の了解で破棄され ジーヴァもヴィジューも位置関係を気にすることなく 縦横無尽に攻撃をしかけていた。) 人間さん: (テュポーンもなんとなく合わせているだけだろうが、 意識しなくてよくなったとは理解しているみたいだな……) ジーヴァ: なんでよっ、ブラーマ! ブラーマ: 何が (そして時折、獣聖騎兵の攻撃が町に飛ぶたびに ブラーマは的確に防御魔法を発動して弾いていた。) (互いに自分の役割に意識を向けながらも、声だけは相手に投げつけ合う。) ジーヴァ: 何がじゃないでしょ!あんた、あたしたちを裏切ったのよ ブラーマ: 必要なことだったのよ! ジーヴァ: 最善だとかなんだとか言ってたけど、意味わかんないし! ひとりで決めないで相談しなさいよ! ブラーマ: それじゃ意味がないのよ ジーヴァ: あーもう、まだ何か秘密にしてるわね!? 何か、最善だのなんだの言ってた気がするけど、 あんた本当にそう思う?この状況で! ブラーマ: ……っ ジーヴァ: 常にあんたが正しいとは限らないんだから!少しは考えなさいよ! ブラーマ: でも!こうでもしないと世界は維持できないのよ……! ジーヴァ: ふざけんじゃないわよ!そんなこと、誰が決めた!? ジーヴァ: ここは……この世界は、あんたひとりのものじゃない! ブラーマ: ……っ ヴィジュー: うるっさああああぁぁぁいっ!! 人間さん: !? (突然、ヴィジューがキレた。 大声を上げたかと思うと、獣聖騎兵を放って全速力でジーヴァの元へ向かい――) ヴィジュー: うるさい! ジーヴァ: んぐぅ!? (ジーヴァを殴った。) テュポーン: えっ (さらに、その反動を利用して身体を回転させると、今度はブラーマへと――) ブラーマ: ちょっとヴィジュ―― ブラーマ: ごふっ!? (ブラーマも殴った。) 人間さん: あ、あの……? ヴィジュー: ふたりともいい加減にして!いつもいつも……ケンカはやめてって言ってるでしょ!! テュポーン: …… 人間さん: …… (俺とテュポーンは言葉を失う。) (心など持たないはずの獣聖騎兵も、まったく予期せぬ行動だからか、 次の一手を考えられずに立ち尽くしていたのだった。) 190061 - いにしえのμ ニーチェ: あ、あのっ……う、うぁ…… キャロル: まさか一人二役とはねー。そっか、お返事くれる人がいないんだよね ニーチェ: べ、別にっ……い、ぃぃ、いいじゃない…… キャロル: ていうかこれ、何?人間さんに手紙書いてんの?あんたたち、面識あるんだっけ? ニーチェ: ぁぅ…… キャロル: ないよね?ていうかこの手紙にも、会ったことない、ってはっきり書かれてるもんね キャロル: 顔も知らない、会ったこともない男に、 こんなに熱が入るってすごいことなんだけど。引くわ ニーチェ: そ、そんなにっ、じっくり読まないで…… キャロル: ていうかさ、指輪のサイズお知らせしてるのはなんなの? ニーチェ: ふぁあああぁぁ!?そっちはボツだから!完全にこの世から抹消するやつ! 絶対見ちゃだめ! キャロル: って言われると気になるじゃん キャロル: 『好きな下着の色やデザインはどんなものですか?』 ニーチェ: あああああああああ キャロル: ニーチェさぁ、欲求不満なの? ニーチェ: そ、そんなんじゃ……! キャロル: まあ、こんなところに監禁してたら、欲求不満にもなるかぁ ニーチェ: ち、ちがっ…… キャロル: あ、家と同じように過ごしてもらっていいからね。 いろんな意味で。あたしたち見なかったことにするし ニーチェ: 違うって言ってるのにぃぃぃ…… (ガタガタガタガタッ) ニーチェ: ひいっ!何!? キャロル: あー、窓枠が揺れたんでしょ。風が強くなってきたから ニーチェ: 嵐が来てるの……? キャロル: 怖いの? ニーチェ: 人間さんが心配…… キャロル: 想像上の人は、現実の嵐で怪我したりしないよ ニーチェ: 実在はしてるから……!人間さん自体は……! キャロル: これはね……世界が融合する影響なんじゃないかな ニーチェ: え……? キャロル: 融合が始まってからずっと、イマジュマイトとか、μの力とかが渦を巻いて、 混ざり合ってるんだって キャロル: それが実際の天気とかにも影響しちゃってるみたい。 世界が壊れていってるんだね。きゃはっ♪ ニーチェ: そんな…… キャロル: ほら、見て。あれ ニーチェ: あっ、こんな強風で窓を開けたら―― (ビョオオオォォォ!) キャロル: きゃははははっ!すごいでしょっ、空の雲が渦巻いてる! 世界が壊れて、くっついて、知らない形になる……! キャロル: これが人体だったら……そう考えると、わくわくしちゃうよね。きゃはははっ ニーチェ: 窓閉めてぇ!吹き込んだ風が手紙を巻き上げちゃ――あぁっ!? キャロル: あ、手紙 ニーチェ: ああああ!? キャロル: 風に乗ってどっか行っちゃったね。どこか適当に届くんじゃん? (バタン) キャロル: 言っとくけどこの窓、ニーチェには開けられないからね。封印されてるから ニーチェ: 手紙ぃ……人間さんへのお手紙がぁ…… キャロル: あ、そっち?この窓から逃げようとかじゃなくて? キャロル: そんな気がないならもう1回開けてみる? ニーチェ: また飛んでっちゃうから!! キャロル: 必死過ぎて気持ち悪いなぁ。ま、いいや。じゃあね ニーチェ: うううう……遠い、知らない誰かに読まれるかも…… ニーチェ: 恥ずかしすぎて死にたいぃぃぃぃいいいぃぃぃ ペロー: ニーチェの部屋で何を騒いでいたんです? キャロル: なんかキモい手紙書いてた。あと窓ちょっと開けて換気した ペロー: 臭かったということで? キャロル: や、世界が融合して、イマジュマイトとかが渦巻いてるの単純に見せたかっただけ ペロー: ああ……確かにあれは壮観ですからね。 ましてや、エルマイトとディマイトの提唱者たるニーチェが あの雲の渦を見るのは思うところもあるでしょう キャロル: んー、たぶん?なんか違うこと思ってたかもだけど ペロー: しかし、これで計画もだいぶ前進しましたね。ライブラも満足でしょう キャロル: 創造の聖母もね ペロー: ……いにしえのμというのも、恐ろしいものですね。 自分が世界を失った恨みを、どれほどの長きにわたり抱き続けているのか…… キャロル: 復讐したいんだもんね ペロー: オトギノクニ同様、μの世界も人間界とは密接に繋がっていると聞きます ペロー: かつての人間界で、どのような事態が起きたらμの世界が失われるのか…… その因果関係までは知りませんが…… ペロー: 自らの世界を再び持ち、そして人間界を我がものとして蹂躙するという 彼女の目的は、非常に利己的ですが計画にはぴったりです キャロル: でもさ、ライブラは復讐なんかで動いてないよ? ペロー: そうですね。それも個性ということなんでしょう。 現在の聖母は力の源泉を人間界から得ているはずですが…… ペロー: そんなことは度外視できるほど、恨みが強いということなのでしょうね 190062 - 友の決断と幻影と結束と ジーヴァ: ヴィジュー……? ブラーマ: アナタ、何を…… ヴィジュー: ふたりがケンカばっかりしてるからだよっ!! (ふたりを次々に殴ったヴィジューは、 悪びれないどころか更に怒りを募らせているようだった。) (とは言っても温和な彼女の性格がベースなのだが。) ヴィジュー: ヴィーたちμが本当にやるべきなのは…… ヴィジュー: こういうこと!! (突如、ヴィジューは地を蹴り全速力で獣聖騎兵に向かう。 敵も完全に虚を突かれていた。) ヴィジュー: やあああああっ!! (ヴィジューの渾身の一撃が敵を貫く。) (断末魔の咆哮を上げ、獣聖騎兵はその身体から紫色の霧を大量に吹き出しながら、 崩れ落ちていく。) (そう、文字通り崩れていった。 次々に身体は霧と化し、元の形を保てなくなったパーツが崩落していく。 落ちたパーツもまた霧になっていった。) 人間さん: (結局こいつは、どういう存在なんだろうな……) ブラーマ: …… ジーヴァ: ちょっとブラーマ!どこ行くのよ! (ジーヴァの声にはっとすると、ブラーマが背を向け、立ち去ろうとしていた。) ブラーマ: 戦いは終わったでしょう? ジーヴァ: あたしの話は終わってないわよ ブラーマ: ワタシは町に迫る脅威をなんとかしたかっただけ。聞いてた話と違ったから ブラーマ: それじゃ (言うなり、ブラーマはその場から飛び立ってしまった。 残された俺とヴィジュー、ジーヴァは顔を見合わせる。) ジーヴァ: なんなの……まさか、あいつがあの獣聖騎兵とかってやつを 操ってたんじゃないでしょうね ヴィジュー: だったら防御魔法を使う意味が分かんないじゃん ジーヴァ: そうだけど……! (完全には納得できていない様子のジーヴァだが、 ブラーマが完全に敵、あるいは信民に対する悪だとは俺にも思えなかった。) ヴィジュー: とりあえず、あいつはなんとか倒せたし、ヴェルのところに―― テュポーン: あれ?ブラーマだ ジーヴァ: え?戻ってきたの? (ふいに声を上げるテュポーン。 視線を移すと、確かにそこにはブラーマの姿があったが――) 人間さん: 離れろ!テュポーン!! テュポーン: うわぁっ!! (ブラーマが放った紫色の球体が直撃し、テュポーンは吹き飛ばされてしまう。) (目の前のそれは、明らかにブラーマではなかった。何故なら、その隣には――) ジーヴァ: あたし……? 人間さん: 幻影だ。おそらくキャロルが何か関わってるんだと思う ヴィジュー: まさか、強さも同じとか言わないよね? ジーヴァ: さすがにないでしょ……? 人間さん: テュポーンは無事だ!だが…… (吹き飛ばされた衝撃のせいか、気を失っている。 すぐに戦力とすることはできないだろう。) ???: どうやらお困りのようね~? (背後から聞こえた声に振り向くと、そこにはガナとヴェルの姿があった。) 人間さん: ふたりとも!? ヴェルメリオ: ……動けるようにはなったから ガナ・イーシャ: どうしても近くに行きたいっていうからさ。 でも結果的にベストタイミングで援軍が来た感じ? ヴェルメリオ: ……わたしはさすがに、戦うのはやめておくけど ガナ・イーシャ: このガナ様が参戦するなら、十分でしょ? ジーヴァ: 助かるわ……!たぶん有料サービスなんでしょうけど ガナ・イーシャ: 当たり前でしょ ヴィジュー: でも……友達の姿をした相手を手にかけるなんて……ヴィーにできるかな…… ジーヴァ: ヴィジューなら大丈夫。できるわ。自信を持って ジーヴァ: ただの幻影よ、あんなの。あたしじゃない。友達ならそれくらいちゃんと見定めて ヴィジュー: うん……! ジーヴァ: あと、あんたさっき、あたし本人を殴ったわよね?なに言ってんの? ヴィジュー: そうだった! ガナ・イーシャ: 殴ったの……?なんで??? ガナ・イーシャ: まあいいや。さっそくいくよ! ヴィジュー: うん……!幻影なんて怖くない! ヴィジュー: (でも、いつか……またブラーマも一緒に戦えるといいな……) 190054 - クレアの変貌 (ブラーマの行方を捜していた俺達は、ロートと遭遇。 激闘の末に深手を負ってしまったヴェルだが、 なんとか応急処置によって最悪の事態は免れた。) ジーヴァ: あんたのエルマイトのおかげ、ってわけね…… ヴェルメリオ: ……ありがとう、人間さん 人間さん: お礼を言うのはこっちだろ。ヴェルがいなかったらどうなっていたか…… ヴェルメリオ: ……でも、わたしのことならいいから。ロートって子、早く追いかけて ガナ・イーシャ: 何言ってるのよ。放っておけるわけないでしょ? ヴィジュー: 人間さんのおかげで少し回復してはいるけど、 あんなひどいケガしてたんだから ヴェルメリオ: ……でも、向こうだって今ならダメージがあると思うから 人間さん: みんなの言うとおりだ。ここでヴェルに万一のことがあったら取り返しがつかない。 ロートのことは、また機会を改めて戦うことだってできる 人間さん: 俺からヴェルを奪わないでくれ。いまは、休むんだ ヴェルメリオ: ……人間さん ジーヴァ: とはいえ、こんな何もないところじゃ休ませるっていってもどうすんのって話よね ヴィジュー: ヴィーがちょっと、この辺りを探索してくるよ! ガナ・イーシャ: そうね、頼める? テュポーン: テュポもおてつだいする ヴィジュー: ありがと!じゃあ一緒にいこ! 人間さん: (それにしても……別世界だから本来の力を完全に出せてないとは言え、 キの力を受けたヴェルメリオがここまでやられるなんて……) 人間さん: (それだけロートの……ひいては聖母の力が強いってことか……) (ロートは、目の前に立つ彼女の存在に戦慄していた。) (もちろん彼女の放つ邪気と言おうか、狂気と言おうか、 禍々しい気配と圧倒的な力にも恐れは抱いていたが、 最も慄いていたのは、人はこうまで変わるものなのか、ということだった。) ロート: クレアさん…… クレア: どうしたの?顔が固いよ クレア: ああ……これ?そうだね、汚いよね。掃除しなくちゃ…… ロート: ……場所を移りましょうか。もうこの小屋は諦めて…… クレア: 私……やらなくちゃ…… ロート: 何を……あ、ちょっと、クレアさん!? (クレアはまるでロートのことなど視界に入っていないかのように、 ふらふらと小屋の出口を目指す。 当然、そこには入って来たばかりのロートが立っているのだが。) ロート: あっ!? (ロートを無視したクレアは、彼女に身体をぶつけて強引に通ると、 そのまま外へ出て行く。) ロート: クレアさん! ロート: 待ってください!どこへ行くんですか! クレア: 私ね、やらなきゃいけないことがあるから ロート: ……? クレア: 世界を、ひとつにするの ロート: ……!?そ、それならいま、わたくしやペローさんが (内心、どうして現在、進行していることについて クレアが知っているのだろうという驚きはあった。 しかしそれ以上に、ロートはクレアを計画の輪に加えまいとする。) クレア: それは、物理的なことでしょ ロート: それは……たぶん、そうです…… (世界の融合などという非常識な事態が果たして、 物理法則に則ったものなのか、ロートは迷った。 ただ、目に見える形という意味なら確かに彼女の言う通りだ。) クレア: 私は……気持ちをひとつにしなくちゃいけない ロート: 気持ちを……? クレア: いろんな人がいるでしょ。その人たちが気持ちをひとつにするためには…… クレア: 圧倒的な恐怖が必要 ロート: ……!? クレア: だれもが怖いと思い、逆らえないとあきらめる…… そうすれば世界の気持ちはひとつになる…… クレア: 生きている以上、死にたくないという生存本能だけは全員共通なはずだから (クレアは笑みを浮かべる。それはロートが癒された柔らかな笑みとは程遠い。) (ロートが呆然とする中、クレアは翼を大きく広げると、空に羽ばたいていったのだった。) (ヴィジューとテュポーンが探し出してくれた小屋で、 なんとかヴェルをベッドに寝かせることができた。) (俺はヴェルの手をとり、エルマイトを懸命に送り続ける。) ヴェルメリオ: ……そんなにがんばらなくても、わたしはもう大丈夫だよ ジーヴァ: なに言ってんのよ。休めるときに休んで、甘えられるときに甘えなさい ガナ・イーシャ: ここにまたロートとか、その仲間が襲ってきたらさすがにまずいわね テュポーン: ヴィジューが、まわり、見にいってるよ ガナ・イーシャ: そうね。もし見つかりそうなら、また別の場所を探さないと―― ヴィジュー: みんな! (噂をすれば、ではないがヴィジューが駆け込んできた。 それまでの会話の経緯から、まさか敵襲かと誰もが身構えた――) 190055 - 襲い来る旧き脅威 ヴィジュー: ヴィーね、近くに町があったから見に行ったんだ。 そしたら見たこともないやつが襲ってて……! ジーヴァ: 見たこともない……?また例のオトギノクニにしかいない魔物とか? 人間さん: 前に遭遇した、ルンペルとは違うんだな? ヴィジュー: うん、あいつじゃない。もっと、魔物!って感じの ガナ・イーシャ: ……正直、リスクのあるタイミングだけど、 μとして信民のピンチを見過ごすわけにはいかないわね ヴィジュー: うん!助けに行こう! ジーヴァ: でも……ヴェルは連れて行くわけにはいかないし、ひとりにもできないわね。 ……ガナ、残ってくれる? ガナ・イーシャ: あたし?わかったわ テュポーン: テュポはわるいやつ、ボコボコにするかかり? ジーヴァ: そっち向きでしょ テュポーン: うん、むき!むいてる! 人間さん: 俺は…… ヴェルメリオ: ……行って 人間さん: ……ヴェル ヴェルメリオ: ……わたしは万全じゃないけど、持ち直したし。きっとみんなの力になるだろうから 人間さん: ……分かった。ガナ、ヴェルを頼む ガナ・イーシャ: 任せといて 人間さん: よし、急ごう。ヴィジュー、道案内を ヴィジュー: うん、こっちだよ! ニーチェ: フヒッ……これはいいかも…… ニーチェ: 『ニーチェさんへ』 ニーチェ: ううっ……呼び捨てでいいのにぃ! さん付けなんて、そんなっ、他人行儀すぎるってぇ! ニーチェ: はぁっ、はぁっ、とりあえず一旦おちつこ…… ニーチェ: ニーチェさんへ。こんにちは、人間さんです。 いつもお手紙ありがとう。とても楽しく読ませてもらっています ニーチェ: 不思議なもので、ニーチェさんから届く手紙は いつしか僕の中で必要不可欠なものになっていたようです。 間隔が空くと、何かあったか、あるいは飽きてしまったのかと心配です ニーチェ: 笑ってくれていいですよ。会ったこともないのに、 こんなふうにまるで自分の一部かのように考えてしまうなんて、滑稽ですよね。 でも、これが事実なんです ニーチェ: お会いしたことはないですが、文章からは貴方の繊細さ、優しさ、 そして知性が感じられます。きっと僕たちは相性がいいはずです。 まだそちらには行けませんが、必ず会いに行きます ニーチェ: はぁっ、はぁっ、いい…… こうやって奥ゆかしい感じで、少しずつ距離を詰めて気持ちを高めていく……フヒッ ニーチェ: ああ、早く来て……ここであなたをずっと待ってますぅ……! キャロル: ひとりで何やってんの ニーチェ: あばばぼげげんががが! キャロル: 驚きすぎだし。ねえ、手紙ばらまいちゃったけど大丈夫? ニーチェ: ……ぁっ、そ、それっ……ぁぅ…… キャロル: 何これ、変なの。『ニーチェさんへ』って…… 自分宛の手紙なのにニーチェの筆跡じゃん ニーチェ: ぁぅぁぅ…… キャロル: え、もしかして一人二役とか?きゃはははっ ニーチェ: ぅぅ…… キャロル: え キャロル: 待って。あたしいま、冗談で言ったんだけど……本気で一人二役だったりするの……? ニーチェ: …… キャロル: うわ…… ニーチェ: い、いいい、いいじゃないですか……誰にも迷惑とか、か、かけてないですしっ…… キャロル: 別に迷惑とは言ってないよ。うわ、って思っただけ ニーチェ: くうう…… ニーチェ: (ああ……こんなのにバカにされるなんて屈辱すぎる…… 早く助けに来てよ、人間さん……) (ヴィジューの報告を受けた俺達は、とある町に急いだ。 世界の融合が進む中だが、そこは見るからに ヴィジューたちの世界だと分かる町並みだった。) ヴィジュー: あれだよ!信民のみんな、避難は終わった!? 信民: はい……!で、でも、俺達の家が…… ヴィジュー: 大丈夫。ヴィーたちに任せて! ジーヴァ: そう言えば、ロートとも正面からやり合うようになったし、 もう前みたいに信民の前で身分を偽る必要もないのね ヴィジュー: そうだよ。堂々と戦えるの ジーヴァ: ふっ……やっと、戻ってきた感じがするわね テュポーン: あれが、わるいやつ? ヴィジュー: そう。見た目で判断しちゃいけないけど、たぶん会話はできない。 一応やめてよって伝えたけど、全然聞かないし 人間さん: あれは……!? (目の前に迫る敵の姿に、俺は古い記憶を呼び覚ます。 そう、それはある意味で最も古い――) 人間さん: 獣聖騎兵……!? ヴィジュー: いっくよー!はああぁぁっ!! テュポーン: やあああぁぁ! (ヴィジュー、テュポーンが次々に飛びかかる。 だが敵はそれを、難なく弾き返すどころか――) テュポーン: うわぁっ!? ヴィジュー: なに、いまの……?エネルギーの、衝撃波みたいな…… テュポーン: あうっ!?なんか、ちからが、ぬけるっ…… ジーヴァ: どいて!あたしがやるわ! 190063 - 幻影を打ち払って ヴィジュー: はぁっ、はぁっ…… (ヴィジューの手によって、ジーヴァ、そしてブラーマを模した幻影は膝をついた。) ガナ・イーシャ: あんた……こんなに強かったのね。普段は手を抜いてたの? ヴィジュー: ここまで本気で戦う必要なかったから…… でも幻影とは言えジーヴァとブラーマ相手じゃ、そんなわけにもいかないでしょ ジーヴァ: 褒められてると思っていいのかしらね (しかし激しい戦いを経て、既に誰もが疲弊している。 俺からもエルマイトを供給するが、休息も必要だろう。) ジーヴァ: そうね。テュポーンもまだ気を失ったままでしょ? ヴェルメリオ: ……うん、そうなん―― ヴェルメリオ: ヴィジュー! (ヴェルの叫びにハッと注意を向けると、 ヴィジューの背後で幻影が再び立ち上がり、武器を振りかぶっていた。) 人間さん: ヴィジュー!! ヴィジュー: うそっ―― (もう間に合わない――そう思った次の瞬間、幻影は爆音と共に吹き飛ばされる。) (とどめとばかりに連続して砲撃が放たれ、今度こそ幻影は霧散した。) ヴィジュー: た、助かった……。でも、誰が? ジーヴァ: 上だわ!船が、空を飛んでる……!? 人間さん: 飛空艇だな。でもコミッティの機体じゃない。あれはいったい……? 雨依: 手がかりらしい手がかりはないわね…… スラワーティー: 世界が融合しつつある現状ですと、見慣れない人がいた、なんて目撃情報も あまりあてになりませんものね ラシュミ: 一応それもしらみつぶしに当たってはいるが……成果には繋がっていないな ラシュミ: 何事も、やみくもに手を出しても成果は上がらない。 やはり感度の高いところを局所的に責めなくては 雨依: 何の話? ジューチャオ: えっちな話じゃない? ドロシー: なんでそういうところだけカンが鋭いのよ ラシュミ: そう言えば私達は合流してからすぐに、こうして情報収集に明け暮れていて…… お互いのことを、あまり知らないように思う 雨依: お断りよ ラシュミ: まだ何も言ってないじゃないか 雨依: どうせ自分の性感帯とか好きな体位を教え合おう、とか言い出すんでしょ ラシュミ: 何故分かったんだ……そうか、雨依は人の心を読む特殊能力を持っているんだな 雨依: 言っておくけどラシュミは、こうして話している間も ずっと自己紹介してるようなものだからね? スラワーティー: 恐縮ですわ ジューチャオ: あ!じゃあ、あたしからね! ドロシー: いま雨依が拒否したばかりでしょ ジューチャオ: 大丈夫。あたし、すぐ忘れちゃうらしいから。ぶっちゃけても恥ずかしくないよ ドロシー: そんなことで開き直るのやめなさいよ スラワーティー: あら?何か飛んできましたわ ドロシー: え? ジューチャオ: 紙切れ? 雨依: ううん、あれは……便箋じゃないかな。誰かの手紙が飛ばされちゃったのかも ジューチャオ: とうっ! 雨依: 飛んだ!? ジューチャオ: だって気になるでしょ。 名前とか書いてあったら聞き込みのついでに届けてあげてもいいし ドロシー: 根はいい子なのよね ジューチャオ: あ、ほんとだ。お手紙みたいだね。えーと、なになに? ジューチャオ: 『本当ならもっとデートのプランを立てたり――いえ、あなたのことをまず知りたい。 だけど、そんな場合じゃないんですよね』 ラシュミ: ラブレターか……! スラワーティー: 前のめりになるのはおやめになって、ラシュミ様。 まだ初々しい時期のカップルの気配がしますわよ ラシュミ: こういう過程があった上でのアレコレだからこそ興奮するんじゃないか ジューチャオ: 『とにかく今は、あなたに会いたい。目の前の扉を開けて、 あなたが助けに来てくれる瞬間をいつも目覚めるたびに思い描いてしまうんです』 雨依: 助けに来る、ね……何か辛いことがあるのかしら ジューチャオ: 『人間さんは小さな島と呼ばれる場所を知っていますか? 私はその灯台にある部屋に監禁されています』 雨依: 人間さん!? ドロシー: 監禁!? スラワーティー: お、お待ちください、その手紙の差出人は―― ジューチャオ: フリード……ちぎれて読めないや 雨依: フリードリヒ……いえ、フリードリーケ・ニーチェ……! スラワーティー: えっ?ニーチェ様のフルネーム、ですの!? 雨依: ええ、確かね。私、哲学書とか人文系は読んでこなかったから あんまりピンときてないけど…… 雨依: ジューチャオ!人間さんにこのことを伝えて!手紙も持って行きなさい ジューチャオ: わ、わかった!どこにいるんだろう 雨依: そんなに遠くではないはずよ。上から観察して ジューチャオ: 了解! 190064 - 星の彼方から ドロシー: とりあえず人間さんのことはジューチャオに任せるとして、 ニーチェの居場所は本当にここなのかしら スラワーティー: 小さな島の灯台?これまた手がかりの少ない…… ドロシー: いえ、オトギノクニで小さな島といったら、あそこよ。 昔はポルタ島と呼ばれていたらしい、あの島 ラシュミ: ただの名もなき小さな島とは違うのか。 ニーチェもオトギノクニの住民だから、分かった上で伝えているということだな スラワーティー: こんなところで手紙を拾うなんて幸運でしたわ ドロシー: ……罠の可能性は? 雨依: 情報の出し方があまりにも不確かでしょ。スラワーティーが気付かなくて、 ジューチャオがキャッチしなければそのまま遠くに飛んで行っていたんだもん ドロシー: それもそうね。ちょっと場所が場所だけに、過敏に考えすぎたかも ラシュミ: 小さな島の灯台が、そんなに意味がある場所なのか? ドロシー: 灯台はともかく、島がね 雨依: あそこには……十二迷宮があるから…… (砲撃で俺達を助けてくれた飛空艇が、ゆっくりと着陸する。 そこから降りてきたのは――) ヴィネ: 人間さん!よかった、無事で! 人間さん: おわっ!?ヴィネ……!? アスモデウス: なんだ、いきなり抱きつくなんてヴィネらしくないな。実は甘えたがりだったのか? ヴィネ: あっ……ご、ごめんなさい。顔を見たらつい 人間さん: いや、いいけど…… ヴェルメリオ: ……むう ヴィーナス: どうだ、我のおかげで助かっただろ?的確な射撃で援護……うん、頼りになる友達だな 人間さん: ヴィーナスたちも……な、なんだこのメンツ ユピテル: いろいろあったんだ メルクリウス: 本当にいろいろありすぎて、どこから説明したらいいのかわかんないんだけど ポステリオル: まず私たちのこと アリア: 順を追ってたらキリがありませんって ポステリオル: 人間さんは何をしてる? (俺はこれまでの一部始終をかいつまんで説明した。 そして、ブラーマというμを追っていることを話すと――) アリア: そのブラーマとかいう子に直接繋がるかは分からないけど、 獣聖騎兵には『コントロール・ライン』があるはずよ ジーヴァ: なによ、それ ポステリオル: あった。これ (動かなくなった獣聖騎兵を調べていたポステリオルが声を上げ、 何か小さな装置のようなものを掲げてみせる。) ヴィーナス: 動いてそうか? ポステリオル: 作動 (ポステリオルが何やら操作すると、うっすらと細い光の線が 装置から真っすぐにどこかへ伸びている。) ユピテル: これは操作者と獣聖騎兵とを結ぶエネルギーの糸だ ヴェルメリオ: ……ポステリオルたちはともかく、 どうしてヴィーナスやユピテルまで獣聖騎兵に詳しいの? ヴィネ: そ、そうですよね…… ヴィーナス: どうして?知ってるからだろ 人間さん: いや、だから ユピテル: 私達もライブラと同じ……星のμ世界からオトギノクニに来たから 人間さん: えっ、μ……!? ヴェルメリオ: ……じゃあヴィーナスたちもポセイドンみたいに、μ世界から来たオトギノクニの住人? メルクリウス: ポセイドンさんのことは知らないけど、そういうこと アリア: 昔ね。世界が消えてしまったのよ ヴィーナス: だからみんなで……船に乗って旅に出たんだ。 μじゃなくなってもいい、静かに暮らせるところを探そうって 人間さん: そうか……ポセイドンとはまた事情が違うんだな。 世界そのものが消えて、集団で移り住んだのか ガナ・イーシャ: 世界が消えるなんてことが、本当にあり得るの……!? ジーヴァ: だとしたら、ブラーマが言ってたことも少し分かるわ。 あたしたちの世界がどうなのかは分からないけど、 可能性はあるということだものね…… ヴィジュー: 世界を守るための選択……ブラーマは、ヴィーたちを裏切った理由を、そう表現してた ヴェルメリオ: ……じゃあオトギノクニも消えてしまうかもしれない? 人間さん: なんでそんなことが起きるのか、知ってるのか? ヴィーナス達は把握してないかもしれないが、実はいま―― ポステリオル: μ世界とオトギノクニの融合が始まってる 人間さん: ……! ポステリオル: 理論上、これは可能 アリア: ライブラの遺した研究資料を、ポステリオル様はずっと分析、研究なさっていたのよ ポステリオル: ……世界の境界はとても曖昧。でも消失はまた、別次元の話 人間さん: そうなのか。じゃあ融合が始まっているけど、 それがただちに消滅に繋がるわけじゃないんだな ポステリオル: そう。ただ、違う世界が入り混じれば、弊害は多発 ヴェルメリオ: ……どうして、そんなことに ポステリオル: おそらく実験 190065 - 動き出す二人 ヴェルメリオ: ……実験? ポステリオル: 急務。ユピテル、座標確認 ユピテル: 予想はしていたが、やはりそうか。ポルタ島だな ジーヴァ: えっ、何の話よ。実験の話は? アリア: 獣聖騎兵から出ている『コントロール・ライン』が、どこに続いているか…… その座標を確認したのよ ユピテル: ポルタ島北部……おそらく十二迷宮の内部あるいは付近だ 人間さん: また、十二迷宮か…… ポステリオル: 侵蝕、止めるには時間がない アリア: ワタシたちの詳しい事情は、また今度ゆっくり語ってあげるわ ユピテル: あなたたちは急いで向かったほうがいい ジーヴァ: ……!そういうことね ヴィジュー: いろんな事情、めちゃくちゃ気になるけど…… そうだね、優先するべきことは他にあるもんね ガナ・イーシャ: その迷宮ってところには、獣聖騎兵を操ってたやつがいるってことよね。 ブラーマも……多分、近くにいるはず 人間さん: だが、十二迷宮までどうやって行くか……飛空艇に乗せてもらえたりするか? ヴィーナス: いいぞ!我の超絶フライングテクニックを見せてやろう メルクリウス: あれ本当に吐きそうになるからやめて アリア: でもここは魔法の国西部の森近くよ。 飛空艇でうかつに近づいて相手にバレるのも得策じゃないわ ヴェルメリオ: ……えっ、わたしの家の近く? ポステリオル: 融合の影響。座標がずれる 人間さん: なるほど……世界の融合のせいで、もう地理関係がむちゃくちゃになってるんだな ヴェルメリオ: ……確かにその距離なら、バレないように近づいた方がいいのかもね ニーチェ: うう…… ニーチェ: 手紙が飛ばされちゃうなんて……力作だったのに…… もうやだ、何もする気が起きない…… (コンコン) ニーチェ: はーい、もう好きにしてー。勝手に入って、何でもしてー ブラーマ: ……どうしたのよ。ずいぶん無気力になっているけど ニーチェ: 私なんて、てんでダメなやつなのよ ブラーマ: ダメそうな気配はしていたけど…… ニーチェ: ろくに面識がない人にまでそんなふうに思われてたなんて! ブラーマ: でも自暴自棄になるものじゃないわよ ニーチェ: ……生きていてもいいかな? ブラーマ: 当たり前でしょ ニーチェ: 全肯定……!好きになりそう ブラーマ: 落ち着きなさいよ。こっちには来ないで ニーチェ: ひどい…… ブラーマ: それより聞きたいことがあったのよ。 ここまで詳しい事情は聞かされてこなかったけど…… 君はどうして、囚われているの? ニーチェ: そんなことはペローに聞いてよ…… ニーチェ: と言いたいところだけどね。たぶん私は実験成功までの保険なんだよ ニーチェ: 世界が融合しつつある……これがうまくいって、更に計画を進める。 次の段階も成功すれば、きっと私は用済み ブラーマ: 世界の融合に詳しいということ? ニーチェ: んー、それ自体に詳しいわけじゃないんだけどね。 イマジュマイト周りのこととか、そのへん? ブラーマ: ……ワタシに、世界のことについてもう少し、教えてもらえないかしら ニーチェ: んー…… ニーチェ: じゃあ交換条件 ブラーマ: いいわ。言ってみて ニーチェ: この手紙を……人間さんに渡してほしいんだよね ブラーマ: そんなの、ここの場所を書いて助けを求める手紙だったらどうするのよ ブラーマ: わざわざここに隠れて活動しているのに、急襲されてしまうじゃないの ニーチェ: そうだね。でもあなたは……ここがどうなろうと、 というかペロー達の計画がどうなろうと、興味ないんじゃない? ブラーマ: …… ニーチェ: なーんとなく、そんな感じがしてる ブラーマ: いいわ。約束はしないけど、手紙は預かっておく ニーチェ: よろしくね ブラーマ: …… ニーチェ: うえっ!?ちょちょちょっと!本人の目の前で手紙を読み始めないで!? ブラーマ: あっ、ごめん。つい ドロシー: 十二迷宮はこっちの方向で合ってるの? 雨依: たぶんね。町の人の証言だと、あっちに突然、灯台のある島ができたって噂らしいから スラワーティー: 噂、というのが少々不安ですけど、仕方ありませんわね 雨依: たぶん、この森を抜ければ―― ロート: !? 雨依: あ、あんたは――! ロート: な、なんであなたたちが、こんなところにいるんですか!? ドロシー: こっちが聞きたいわよ。でも、仕方ないわね。 ここで出会ってしまったのも何かの運命、今度こそ決着をつけましょ ロート: ……わたくしは、急いでいるのですが。 でも邪魔するというのなら、仕方ありませんね 190066 - 哀しきマリオネット ロート: わたくしは忙しいのですけどね。仕方ありません、お相手してあげます 雨依: ねえ。あなたも何か事情があるんでしょう?チャイムみたいに ロート: ……あの子は、どうしてるんです 雨依: 身柄は拘束されているけど…… ちゃんとした施設で、三食昼寝付きで過ごしているはずよ ロート: …… 雨依: 私が力になるわ。私も前に聖母には―― ロート: あなたのことは聞いています。使命を遂行できなかった落ちこぼれだと 雨依: ……言ってくれるわね ロート: わたくしは使命がどうとか興味はありませんが、 両方をふらふらするような相手のことは信用なりません 雨依: 痛いところ突いてくるわね ロート: 協力など結構。さっさとあなたたちを倒して、自分の用件に戻れば済むことです ラシュミ: 勝てるか……?相手は相当やるようだぞ スラワーティー: わたくしもラシュミ様も本来の力には程遠いですわ。 ジューチャオ様も不在ですし、頼みの綱は―― ドロシー: 私ってわけね。大丈夫、私の女子力なら弾丸くらいはかわせるわ。問題はむしろ…… 雨依: 攻撃ね。体術や魔法と違って、 実は銃って一番、向こうが攻撃した後の隙ができにくいらしいじゃない ドロシー: ……そうなの? 雨依: んー、たぶん? ロート: 何をごちゃごちゃ言ってるんです。今さら怖気づいたんですか? ロート: それなら、こちらから―― ロート: ――っ!? ドロシー: な、なに、いまの スラワーティー: 向こうの方から煙が上がってますわ!紫の……煙……? ロート: あなたたちの相手をしている場合ではないようですね。失礼します ドロシー: あ、逃げた! スラワーティー: というか、あの煙の方に向かったようですわ ラシュミ: いったい何が起きているんだ……? ドロシー: どうする、雨依 雨依: 確かめに行くしかないでしょ ペロー: 始まったようですね キャロル: あれって、ライブラってこと? ペロー: あくまでも器ですが キャロル: 意識はライブラなんじゃないの? ペロー: 完全に乗っ取っているわけではないのですよ。 あくまでも身体を取り戻すまでの仮初の姿…… ペロー: ただ、目的意識や行動原理などは ライブラの意図が反映されていると考えていいでしょう キャロル: あー。喋り方とか、そういうのは器の子が主体ってこと? ペロー: そうですね。戦い方なども蓄積された経験を活かしたほうが効率的ですから キャロル: 完全に別人ってほどでもないのか ペロー: どうでしょう。視点によるかもしれません ペロー: ふふっ……そういう意味では惜しかったですね。 ジャコヴァとヴィルヘルミナはまだ目を覚まさないとか ペロー: 自分の作品が別物に塗り替えられていく様を、 あの人たちも目の当たりにすればよかったのに…… キャロル: おお、いいねえ。珍しく、分かりやすく狂ってる キャロル: とはいえ、ライブラが自分で時間稼ぎに行くなんてね ペロー: この拠点は現時点では最重要拠点です。 グランド・リヴィジョンの破棄が完遂されるまではね ペロー: それまで魔法陣には誰も近づけたくないですし、加えてニーチェのことも…… キャロル: 確保しておきたいもんねぇ。イマジュマイトの供給が安定するか分からないし ペロー: ライブラをもってして、イマジュマイトの特性というのは 完全に解明されてはいませんから。 やはり、ニーチェの存在は大きいです キャロル: でも、あたしたちは撤退の準備だけはしとかないとでしょ? ペロー: この拠点にはそれなりに長くいましたからね。 どうしても意図しない痕跡が残ってしまう可能性がある ペロー: 用が済めば、速やかに廃棄しなくてはなりません キャロル: あの子は?ロート ペロー: 彼女はなかなか役に立ってくれました。 おかげでμ世界の実権を握った上で、世界の融合もできた ペロー: 弱体化させておいたおかげで、世界の境界も破りやすくなっていましたからね キャロル: その後の時間稼ぎもがんばってくれたよ ペロー: ……ヴェルメリオを撃ったのは計算外でしたが キャロル: でも用済みなんだよね? ペロー: ライブラが器を確保し、十二神官の復活も目前…… 従順に働いてくれるなら置いておく価値もありますが…… ペロー: 捨てどき、でしょうね (雨粒が葉を叩く音だけが響く、静かな暗い森。 彼女は濡れるのも厭わずたたずんでいた。) クレア: 私……私は…… (はっと顔を上げる。その頬に雨粒が落ちた。) (少しずつ迫るその気配は濃密なエルマイト。間違いない。『彼』だ。) クレア: だめ……止めなくちゃ…… クレア: そう、止める……近づけさせない…… クレア: 違うよ……傷つけたりなんて、う、あっ (その背から生えた大きな翼が漆黒に染まる。 比例して彼女の意識も侵蝕されていって――) クレア: だめだよ……だめ、なのに…… (やがて黒く染まった羽。それを背負い、クレアはぽつりと哀しげにつぶやいた。) クレア: ――殺さなくちゃ、だめ 190067 - 星の記憶 (町中に突如として出現した獣聖騎兵。 それを操っていたと思しき存在は十二迷宮にいる――) (窮地を救ってくれたヴィーナスたちの解析により、 その事実が明らかになったところで、俺達の行き先は決まった。) 人間さん: (獣聖騎兵を操っているのが誰なのかはわからないし、 ブラーマの居場所に繋がるとも言い切れないが…… きっと何かヒントをつかむことはできるはずだ) ヴィーナス: それじゃあ我らとはここでお別れか? メルクリウス: 露骨に寂しそうな顔しないの 人間さん: まあ、でもそうなるか……見つかるリスクを考えると、 飛空艇で乗り付けるわけにもいかないしな 人間さん: 久しぶりに会えて嬉しかったし、助けてくれたことは本当に感謝してるよ。ありがとう ユピテル: 獣聖騎兵はこの1体だけじゃない。各地に出没していることが観測されている アスモデウス: アスモ様たちは、そっちをどうにかするのだ。 だからポチは安心して自分のやることをやるんだぞ 人間さん: はい、アスモ様。お願いします ジーヴァ: ポチと様付け……あのちみっこいのと、どういう関係なのかしら…… ヴィジュー: あんまり踏み込んじゃダメだよジーヴァ。いつかきっと話してくれる日がくるよ 人間さん: (そんなにセンシティブな事情じゃないんだけどな……) ヴェルメリオ: ……ねえ、ヴィーナス。わたしもこの船に乗せてもらえないかな ガナ・イーシャ: えっ、ヴェル? ヴィーナス: なんだ、カッコいい我の船に興味津々か?今度ゆっくり案内してやるぞ ヴェルメリオ: ……ううん、カッコいいけど、今はそういう話じゃなくて。 わたし、まだ回復しきってないから。 ヴィーナスたちと一緒のほうがいいのかなって ヴィネ: ヴェルさん……! 人間さん: 確かに回復しきってないのは事実だし俺も心配だけど…… (でもヴェルはいつも俺と一緒にいようとしてきた。 それが極まって、昔からの仲間で最初にμ世界に転移してきたほどだ。 その彼女が自ら引くとは――) ヴェルメリオ: ……わたしは、あなたの力になりたい。逆に言うと、足手まといになりたくない 人間さん: 足手まといだなんて ヴェルメリオ: ……ううん。きっとそうなる。わたしも、さすがに分かるよ メルクリウス: 船にはまだ何人も乗れるから問題ないよ!歓迎する。ゆっくり休んで 人間さん: …… 人間さん: ……分かった。必ず、戻るから ヴェルメリオ: ……うん。それと、あのロートって子。 あれがもしラームスエディションのわたしなら…… ヴェルメリオ: ……きっとあの子は寂しいんだと思う。救ってあげて 人間さん: ……ああ ヴィネ: アスモが言ったとおり、各地の獣聖騎兵はまだたくさんいます。 でもナインスアルバの他のメンバーも動いてくれていますから、 そっちは任せてください ヴィネ: 辛いかもしれませんが、道中で見かけたとしても 皆さんの目的にまっすぐ向かってください ジーヴァ: ……!そうね、これは見捨てるとか、 大事の前の小事とか、そういうんじゃなくて…… あんたたちを信じる、ってことよね ヴィジュー: いざ目の前にしたら心が揺れそうだけど……わかったよ (こうしてヴェルメリオを乗せたヴィーナスの飛空艇は、 再び上空に浮上すると、瞬く間に飛び去っていった。) 人間さん: さて、俺達も十二迷宮に急ごう ポステリオル: 急行 人間さん: って、ポステリオル!?アリアも!?乗ってなかったのか!? ポステリオル: 私達は十二迷宮の案内人として適役 アリア: ありがたく思いなさい 人間さん: いやありがたいけども……強引だなぁ (十二迷宮へと俺達は向かう。気持ちは急くが、移動速度は飛空艇と比べるまでもない。) ガナ・イーシャ: 途中まで乗せてもらった方が良かったんじゃない? アリア: 相手の警戒態勢が分からないからなんとも言えないのよ。 まあ、徒歩でもそこまで距離があるわけじゃないわ ジーヴァ: ならいいんだけど…… (せっかくアリアとポステリオルが同行してくれるので、 俺は十二神官、ひいては星のμ世界のことについて話題を振った。) 人間さん: ヴィーナスたちも、ライブラたち十二神官も、元は同じ世界から来たってことか ポステリオル: そう アリア: 消滅の可能性が囁かれ始めたとき、調査をしたことがあった。 あの当時のオトギノクニは、影のような実体を持たない魔物が 跋扈するだけの……本当に原始的な世界だったわね ポステリオル: この世界に来たときも苦労した アリア: 頼れるのはお互いだけ。μの力も通用しない――日々を過ごすだけでも大変だったわ ガナ・イーシャ: それはもしかしたら、あたしたちも辿ることになったかもしれない道なのよね ヴィジュー: なんで消滅しちゃったの? ポステリオル: ライブラは知りたいと思った。どうして自分たちの世界が消滅するに至ったのか アリア: そのためにフローレ・アカデミーに入ったのよ。 あそこで研究を続けて、真相を究明する……それが当初の目的だったのよね ポステリオル: ライブラは詳しくは語らなかった。でも結論は見つけたようだ アリア: その直後ね。彼女が『星の革命軍』を組織したのは―― 190068 - かなわない相手 アリア: 当初は消えゆく物語のために何かできることはないか、 グリム家の契約志向に異を唱えるべきじゃないか、そんなコンセプトだったわ ポステリオル: ヴィーナスたちは『星の革命団』に入らなかった アリア: 同郷だからといって思想まで強制的に同じになるわけじゃないのよ ポステリオル: 少なくとも当時のライブラは、そういう柔軟さはあった ジーヴァ: あたしたちだって、いつもケンカしてるわよね ガナ・イーシャ: 普通は全員が同じ意見になるはずないわ 人間さん: でも星の革命軍は……グランド・リヴィジョンを実行に移したんだよな 人間さん: 自分たちを犠牲にするという大きな代償を伴う術式に十二人が全員、賛同した ポステリオル: 否 アリア: それも意見は割れたわ。そもそも自分の身に何が起きるか、 正しく理解していなかったメンバーもいたでしょうし ポステリオル: 十二神官は必ずしも一枚岩ではない。 ただ、あの時期は多少の疑問に目を瞑っても結束すべき、という空気感があった アリア: それだけグリム家の勢いもあった時期なのよ 人間さん: なるほど…… 人間さん: (μ世界とは、神話の世界だと思っていたが…… じゃあ、ライブラ達の世界とはどんなものなんだろう……) 人間さん: (そもそも神話の世界が消滅するなんて、一体どうして……) ジューチャオ: おおおおおい! ジーヴァ: ジューチャオ!? ジューチャオ: やっと見つけた!大変だったよ~! ガナ・イーシャ: あたしたちを探してたの? ジューチャオ: そうだよ! ヴィジュー: 何かあったの!? ジューチャオ: うん! ジューチャオ: …… ジューチャオ: ……なんだっけ? フェルディナ: 力の使い方は慣れたの? エミリー: うん。そこまで特殊って感じでもないかも フェルディナ: そう。……私にも、そんなふうに使える力があればね フェルディナ: ううん……単純に力があればいいというものでもないわね。 判断力、分析力、カリスマ……何をとっても姉さん達には遠く及ばない…… エミリー: でも昔のフェルディナとはもう違うよねぇ フェルディナ: ……そう? エミリー: 昔はもっと自分は評価されるべきなんだって言って、ずっと拗ねてたじゃん フェルディナ: そ……そんなだった……?子供じゃあるまいし エミリー: でも今は、ちゃんと差を受け入れてる。前向きだと思うよぅ? フェルディナ: 変われたのかしら。そうね、一度は死んだようなものだし。 ヴィル姉さんが庇ってくれなかったら私は今頃…… エミリー: (もっと前から変わってきてたと思うけどなぁ) フェルディナ: なんとかしようとしたけど、私じゃやっぱり姉さん達の代わりは務まらない。 それをまざまざと見せつけられた。認めるしかないでしょ エミリー: 自分にやれることをやるしかないよぅ。 ジャコヴァやヴィルができることって、経験からくることも多いだろうし フェルディナ: ……そうね。落ち込んでいても世界は変わらない。やれることを、か…… フェルディナ: 分かった。ひとまず行ってくるわ。 いち作家として、ペンが発見された地域の治安維持を担当することになってるの エミリー: 気をつけてね。エミリーはここでみんなのこと待ってるから フェルディナ: ええ。ありがとう、エミリー ラヴクラフト: わー……この島はもうだいぶ侵食が進んでる感じだね。 いろんな世界の人がごちゃごちゃしてる ラヴクラフト: これはまさに…… ノストラダムス: 公衆の面前でなんてこと叫んでんのよ ラヴクラフト: うわ、あなた確か……ノストラダムス? ノストラダムス: ちょっとのんびりするつもりで、 このドミング諸島の島々でバカンスするつもりだったの。 それが、なんか変なことが起きちゃってさ ラヴクラフト: へー?別に作家として来たわけじゃないの? ノストラダムス: よく分かってないんだけど、何が起きてんの? 一応、なーんとなくは自分の予言とか、町の話で把握してるけど ラヴクラフト: えっとね―― ラヴクラフト: ――って感じなんだ ノストラダムス: なるほどね。途中に挟まれる卑猥ワードを省略すれば、 もっと早く理解が進んだ気がするけど、とりあえず分かった ラヴクラフト: んでミシェルはさ ノストラダムス: 急に距離詰めてきたな ラヴクラフト: 他に何か予言で見えてたりする? ノストラダムス: んー…… ノストラダムス: 『地が揺れ溶ける終末のとき星の瞬きが六芒星を描き出し、原初の風景へと遡る。 鎖に繋がれた苦しみはやがて未来への道を巡り、せめぎあうだろう』 ラヴクラフト: あたしのえっちワードと同レベルで分かりにくいね ノストラダムス: 一緒にするな!! ラヴクラフト: でも多少はやっぱり見えてるんだ?それ、誰かに共有したの? ノストラダムス: んー……情報としては不確かだからね。 でもとりあえず、予言をがんばって、必要そうなものを なんとか届きそうなルートで送っといたけど…… 190069 - まだ間に合う ニーチェ: それで、知りたいことって……フヒッ…… ブラーマ: ワタシは……自分の世界がまもなく消滅するかもしれない、と聞かされたわ ニーチェ: ……なるほど? ブラーマ: もう単独では維持できない。だから他の活発な世界を土台にしなくてはならないと…… ブラーマ: 当初は本気で信じていた。 でも事態が進むにつれ、ワタシの中の違和感はどんどん膨らんでいって…… ニーチェ: 自分の世界を守るために、別世界を侵略する…… そこまでは理解して行動してたわけだね。罪深いなあ ブラーマ: ……強いて挙げるなら、想像できていなかったのよ。 土台にするといった世界にも、ワタシたちと同じように そこで暮らす人々がいるってことを ブラーマ: でも、そんなものは言い訳にならない。 ワタシは分かった上で侵略の手助けをした……この罪が消えることはないわ ニーチェ: それで? ブラーマ: 違和感を晴らしたいの。倫理上の是非はおくとして、ワタシの行いは正しいの? この方法で……自分の世界を救えるの? ニーチェ: 結論から言う。救うことはできない ブラーマ: ……っ、やっぱりそうなのね ニーチェ: 完全にあなたは騙されてる。 そもそも、本当にブラーマの世界は消滅の危機にあったかどうか…… ブラーマ: そこから……!?でも確かに異変は少しずつ起きていて―― ブラーマ: ……それも、マッチポンプ? ニーチェ: 何が起きてたのか知らないけど、そうだろうね。 そもそも世界の融合自体が人為的なものだから、 それによる副次的な事象なのかもしれないけど ブラーマ: ワタシは……何のために…… ニーチェ: ねえ、私を逃がしてよ ブラーマ: え……? ニーチェ: まだ終わりじゃない。このままにしておくの、嫌でしょ……? ブラーマ: ……っ ニーチェ: どうせもうお手紙も飛んでいっちゃったし王子様が現れて助けてくれるなんて 夢みたいなこと言ってたら本当にこのまま殺されかねないし ブラーマ: 逃がした後は、どうするつもり? ニーチェ: やれることをやるよ。このまま逃げたら、今度こそ私、本当に自己嫌悪で人生終了だし ブラーマ: ……いいわ。ついてきて ブラーマ: こっちよ。奴らがいるかもしれないから、静かに ニーチェ: 本当にうまくいっちゃった……やば……こんなハッタリかましたの初めてかも…… ブラーマ: 何か言った? ニーチェ: ううん、なんにもっ……フヒッ…… ブラーマ: ねえ……あいつらの目的は何なの?世界を融合させて、どうなるってわけ? ニーチェ: 融合させて、争いが起きて、混乱する…… 落ち着いてる状態より、混乱状態の方が支配しやすいからね ブラーマ: 世界を乗っ取る……ってこと? ニーチェ: それと同時に進んでいるのが『深淵の闇計画』だよ ブラーマ: ……? ニーチェ: オトギノクニを形作るエネルギー、イマジュマイト…… これを掌握することが支配への一番の条件だから ニーチェ: グランド・リヴィジョンはオトギノクニに流入する蛇口を 支配下におくことが目的だった。でもそれだと問題は解決しない ニーチェ: オトギノクニに流入する全体量のコントロールはできない。 理想の実現のためには、全体量の底上げが必須…… ニーチェ: そのために、さらなる源泉である人間界に接続して、 イマジュマイトの湧出量をコントロールする…… 世界の融合はそのための布石、実験という側面もあるね ブラーマ: ……? ブラーマ: 君の話はどうにも難しくて、理解が追いつかないわ。 でも、これで終わりじゃない…… まだ先があるんだということはなんとなくわかった ニーチェ: ええ?理解できないのかあ。かなり丁寧に解説したつもりだったんだけどな。 私の話、よくまとまっていて分かりやすいのに ブラーマ: しっ ブラーマ: そこの扉の向こう、ペローたちがいるわ ニーチェ: ふひっ!? ペロー: なるほど……ポステリオルが介入しましたか キャロル: 人間さんたちは、こっちに向かってるみたいだよ ニーチェ: き、聞いたっ……?ほ、本当に助けに来てくれてる……!? これってもう運命?運命だよね?ねっ? ブラーマ: しーっ!! ペロー: 天空神殿の関係者なら、獣聖騎兵から痕跡を辿ることは容易にできてしまう…… キャロル: 多少は予想できた事態ではあるもんねぇ ロート: 今、来られたら困るんじゃないんですか? ペロー: ええ。でも簡単にはおそらく来られないでしょう。もうしばらく時間がかかりそうです ロート: どういうことです? ペロー: 偵察用スフィアの映像です クレア: ………… ロート: クレアさん!?どうしてあの人がここに!? ペロー: おや、お知り合いですか? ロート: ええ…… ペロー: かなり強い敵意を持っているようです。 まもなく接触しますが、おそらく戦闘になるでしょう ロート: そんなのだめ!! ペロー・キャロル: …… ロート: あ…… ロート: とにかく、わたくしも行きます! ペロー: なら、こちらをお持ちください。力を与えてくれる秘薬です ロート: ……分かりました、いただいていきます ペロー: ふふっ……可愛らしいことですね…… 190070 - 黒い翼 ブラーマ: まずい、そこの角に隠れて ニーチェ: はひぃっ!? ロート: くっ……急がなくちゃ……!クレアさんを戦いになんて……っ! ブラーマ: 行ったようね……。クレアって誰かしら ニーチェ: さあ ペロー: さて、見ものですね キャロル: 相変わらずペローは悪いこと考えるなぁ ペロー: ライブラの器となったクレアは、必ず人間さんと戦闘になる。 そのときロートもまたクレアに加勢するでしょう キャロル: 器の話はしなかったもんね。たぶん個人的にクレアが恨みを持ってるとか考えてそう ペロー: もはや人間さんも雨依も、こちらに取り込むのは不可能と見ていい…… そうなれば計画の邪魔でしかありません ペロー: 一方で、ロートも既に聖母への忠誠が揺らぎ始めている…… 捨てどきを見極めないといけませんからね ペロー: いい具合に潰しあってくれればいいですが (十二迷宮に向けて進んでいた俺達だったが、思わぬ相手の登場に歩みを止めた。) 人間さん: クレア……!? ジーヴァ: あ、ちょっと人間さん!? (気がつくと彼女に向かって駆け出していた。 雨依たちから、クレアも行方不明だとは聞いていた。 大丈夫だと信じてはいたが、やはり無事が分かれば安堵する。) 人間さん: よかった!無事だったんだな、クレア…… (立ち尽くす彼女を抱きしめようとして――) ジーヴァ: 危ないっ!! (脇腹に強い衝撃を受けたかと思うと、自分の身体が吹っ飛ぶ。 地面に叩きつけられた衝撃で、思わず声が漏れた。) 人間さん: ……っ!? (何が起きたのかと身体を起こすと、 俺にしがみつくようにしてジーヴァが倒れ込んでいた。 そして、さっきまで俺の立っていた場所は地面が抉られている。) ジーヴァ: あの子……仲間なんだろうけど、気を付けて。様子が変だわ クレア: …… (無表情のままこちらに視線を移すクレア。そしてゆっくりと武器を構える。) ジューチャオ: クレアっ!?どうしたの!? クレア: …… (ジューチャオの呼びかけにも応じない。 そして彼女自身から放たれる強く禍々しい気配……。) 人間さん: まさかディマイト暴走……? ジーヴァ: それってオトギノクニのエネルギーよね? でもあたしは……あの子から強いμの力を感じるわ クレア: 終わらせなきゃ…… (ふいにクレアがつぶやく。同時に、彼女の手のひらから青黒い光球が放たれた。) 人間さん: 魔法!?クレアが――? ジューチャオ: うわぁっ!?クレア、落ち着いて!どうしちゃったの!? もしかして、あたしのこと忘れちゃった? ガナ・イーシャ: くうっ!?なんてエネルギーなの……! クレア: 終わらせる…… (ギリギリのところで防御するジューチャオとガナ。 その衝撃で巻き上がった土煙に、クレアの姿が消える。) ガナ・イーシャ: ――っ!?どこに……! ヴィジュー: はあっ!! (視界の遮られる中、ヴィジューの声が上がる。 やがて土煙が落ち着いた頃に目に映ったのは、 クレアの鎌による連続攻撃をかわし続けるヴィジューの姿だった。) クレア: 理想のため……古いものはすべて……終わらせる…… ジーヴァ: あんたはここにいて! (言い残し、ジーヴァがクレアに向かっていく。 ヴィジューに次々と連続攻撃をかけていたクレアは、 ふいに上空に鎌を放り投げた。) ヴィジュー: !? (素早い上段蹴りを繰り出すクレア。 それをヴィジューはとっさにスウェーバックでかわす。) (蹴りの勢いのまま身体を回転させたクレアは、 いつの間にか発生させていた光球をジーヴァに向けて放つ。) ジーヴァ: くうっ!? (その頃には自由落下してきた鎌がクレアの手元に戻るが、 それをすぐさまジューチャオに向けて投げつけた。) (牽制の炎を放とうとしていたジューチャオは、 やむなく攻撃を中断して、横っ飛びで鎌をかわすしかない。 鎌はブーメランのように回転し、再びクレアの元へ戻る。) ガナ・イーシャ: なんなの、この子……!これだけの人数を相手に、まったく隙が無い……! 人間さん: 元々、鎌はクレアの得意とする武器だが…… (ドロシーに弟子入りして会得した体術だけでなく、 何故か操れるようになった魔法も備えた彼女は、 まさにハイブリッド型と言っていい。) 人間さん: ずっと物理攻撃一筋だったクレアがどうして魔法まで…… ジューチャオ: もしかしたら、魔法が得意な人と縁を結んだのかも? (確かにμと縁を結ぶと、その影響を受けるケースも考えられる。 しかし、敵対する理由にはならない。 一体、何が彼女を衝き動かしているのか――) クレア: みんな、ここで終わりにするよ 190071 - 黒鴉の涙 (ジーヴァ、ヴィジュー、そしてテュポーンも参加して、 クレアを囲むように次々と攻撃を繰り出す。) (だがクレアはことごとくをかわし、あるいは受け流す。 一方で彼女のカウンターは的確に仲間を捉えた。) ジーヴァ: くうっ!? ヴィジュー: つ、強いっ…… (俺が助太刀してどうにかなるレベルの戦いではない。 だが、できることはあるはずだ。 そう考え、何か取っ掛かりがないかと戦況を見つめる。) ガナ・イーシャ: ……せめてラシュミやスラワーティーがいてくれたらね ガナ・イーシャ: いえ……あのふたりが合流していても、かなわないかも (隣で同じく見守るガナがぽつりとつぶやいた。) (クレアの戦い方は圧倒的で、数で押せばなんとかなる…… といった次元ではないと、素人の俺から見ても感じられる。 きっとガナの読みは、そう間違ってはいないだろう。) ガナ・イーシャ: けど、援護しなくちゃね (ガナも果敢に、後方から支援攻撃を放つ。だが、およそ効果的でないことは明らかだ。) テュポーン: クレア、しっかりして! ジューチャオ: 悪い子には、怖いお化けがお仕置きにくるんだよ!じっちゃんが言ってた! (少なからずクレアと交流のあった面々も、手を抜いて戦えるような状況ではなく、 全力で立ち向かう。それでも今のクレアには通用しそうにない。) クレア: うるさい…… ジューチャオ: あたしの炎が……っ!? (ジューチャオの炎はクレアの魔法障壁の前に霧散し、テュポーンの触手も、 ひらりとかわされ空を切る。) ジーヴァ: まさか…… ガナ・イーシャ: 何か気づいたの? ジーヴァ: この戦い方……特に魔法の構成…… ヴィジュー: うん……ヴィーも思った。これ、ブラーマに似てる……! ガナ・イーシャ: どういうこと!? ジーヴァ: 人間さんたちが言ってたでしょ…… オトギノクニの子があたしたちμと繋がることで、新たな力を得る、って…… ガナ・イーシャ: それじゃあ、やっぱりブラーマはあたしたちを敵に…… ヴィジュー: それはまだ分かんないよ!決めつけちゃだめ! 人間さん: (縁を結ぶことと、相手のμの思想に影響されることは、 必ずしも一致するわけじゃない……たぶん) (結果としてまだ、敵味方に分かれた例はない。 だが、あくまでも力の種類や能力に多少影響があったとしても、 ここまで人が変わったように行動したことはなかったはずだ。) (何か他の要素があるはずだ。) クレア: 終わらせないと……全部、消してしまわなくちゃ…… ゼロからもう一度、作り直さないと…… (ひときわ巨大な青い光球を発生させ、クレアは虚ろな瞳でジーヴァたちを見下ろす。) クレア: 消えて…… ヴィジュー: くるっ!みんな、伏せて!! (ヴィジューが鋭く声を上げるが、既にクレアの魔法攻撃は放たれた後だった。 俺もとっさにその場で身を伏せるが――) テュポーン: うわああぁぁぁっ!! (強烈な衝撃波が、伏せた背中をものすごい勢いで通過した。 吹き飛ばされた枝や石が当たり、痛みに顔を歪める。) (なんとか収まったことを察し、顔を上げると――) 人間さん: (クレア……?) (表情は変わらず、冷酷なままだ。だが、その頬を一筋の涙が伝い落ちた。) クレア: もう……やだよ…… (そして、続いて聞こえたのはか細いつぶやき。) クレア: 助けて……人間さん…… 人間さん: ――っ!! 人間さん: (間違いない……!これは本来のクレアじゃない。 何かの影響を受けて、強迫観念のように戦っているだけだ) 人間さん: (チャイムの前例もある。意志に反して、動かされている。 そしてクレア本人の意識もわずかながら残っている……) (救うなら今しかない。俺は決意を固めた。) ヴィジュー: ううっ……み、みんな、大丈夫……? テュポーン: テュポは、へいきっ…… ジューチャオ: でもさ、このままだとやられちゃうよ……!どうしたらいい……? 人間さん: みんな、とりあえず隙を見て順番に俺のところに。 エルマイトで多少はカバーできるはずだ ヴィジュー: ありがと。でも―― 人間さん: 分かってる。根本的な解決にはなっていない。でも糸口はイメージできているんだ 人間さん: だから……もう少しだけ時間をくれ (ガイアが聖母に操られていたときは、雨依がいた。 それにガイアも聖母も、俺が戦えるものと思い込んでいた。) (だがもし聖母が操っているなら、既に手の内は晒しているし クレアの意識としても、俺が大して戦えないことは分かっているはず。) 人間さん: (それでも……どうにか隙をついて、例えば俺のエルマイトを クレアに直接ぶち込めば状況が変わるんじゃないか……) ジーヴァ: ……無理はしないで 人間さん: え? ジーヴァ: 今のあんた、無理してでも何とかする、って顔してるから 190072 - 大義のために ライブラ: みんな、ここまでついてきてくれてありがとう スピカ: ううん…… ポルックス: ほ、本当に始まるんですね……グランド・リヴィジョンが…… レグルス: (グランド・リヴィジョン……どんな術式なんでしょう……。 詳しい説明は日を改めてということでしたが……) ライブラ: 私達がこのオトギノクニに来てから、長い年月が過ぎた…… 少なくとも私達の身体や、イマジュマイトへの適合は完璧になったわ ライブラ: 元は、自分達の世界を持つμだった。 でも……オトギノクニの住民だと、胸を張っていいはずよ アルゲディ: その通りですわ。でも、気になっていることがありますの ライブラ: 気になっていること? アルゲディ: わたくしたちは一貫して、μ世界から来たことを隠していますわ。 ここにいる者はみな、オトギノクニに定着しようと、 積極的に住民と交流してきたと思います アルゲディ: わたくしは時折、自問するのです。この事実を隠し続ける限り、 彼らと本当に心を通わせることができているのだろうか、と ライブラ: わざわざ言う必要はないわ。前にもその議論はしたはずよ サダルスウド: お嬢様の精神が高潔であられることは間違いありません。 しかし誰もが高いステージにいるわけではない…… サダルスウド: いたずらに事実のみを公表して、どのように受け取られるか。 お嬢様への恩も忘れて糾弾する者が現れるやもしれません。 私はお嬢様の御身をお守りするのが使命 アルゲディ: あなたの立場は分かりますわ。でも、本当にこれで良いのでしょうか アルゲディ: まして今回のグランド・リヴィジョンなる秘術…… ライブラによれば世界の理に干渉するものでしょう ルクバト: 外様の私達が、世界を作り替えることに正当性はあるのか、と言いたいわけですね? ルクバト: でも、アルゲディさん。現に私達はこの世界に暮らしているんですよ。 自分達のために行動するのは必然だと思いませんか? アンタレス: 姉ちゃんが言うなら間違いないよ! ハマル: アルゲディが悩む気持ちも分かる。 だが、我々12人だけで、今のまま活動を続けるのには限界があるのも事実だ タルフ: 確かに…… ライブラ: ハマルが言った通りよ。 この広い世界を12人だけで、今のまま現場で対応していても追いつかないわ ライブラ: イマジュマイト不足を盾に契約を迫り、駒として扱う…… グリムの横暴を止めるには、世界そのものを作り替えないと ポルックス: あ、あの……ひとつ、いいですか? ポルックス: 前の説明では、グランド・リヴィジョンにはわたしたち全員、 12人の献身が必要だと聞きました。自由を奪われ、封印されてしまうと…… ライブラ: ええ。尊い犠牲よ ポルックス: では、作り替えられた後の世界を誰が導くのでしょう……? ライブラ: そのために、アスクレピオスを呼んだわ アルデバラン: あの子は今、へき地で病気してる人たちの治療に忙しいんじゃないの? レグルス: ワタシから連絡を取りました。趣旨を説明して、参加をとりつけています ライブラ: 彼女を迎え入れるタイミングで、私達は星の革命軍から改称するわ。 すなわち――天空神殿の十二神官、として サマカ: わ、わたすたちが神官? アルデバラン: μ世界を追われた私たちが、神に仕える神官になるなんて皮肉ね ライブラ: ここにいるみんなは分かってるでしょ? 人は、目に見えない絶対的な存在に畏怖してこそ、規律を守れるのよ。 この世界の混沌は、そこに遠因がある ライブラ: 神に忠誠を誓った尊い神官が、その身を犠牲にして世界の礎を作り、 残されたアスクレピオスは神官長として統治する―― アルゲディ: もう、あなたが作った物語は固まっているのですわね ライブラ: ふふっ……そういうことになるわね。物語だなんて洒落た言い回しだけど。 それじゃあまるで、私が『作家』になったみたい ルクバト: その意味でも、アルゲディさんの表現は適切ですねぇ。 ライブラさんが『作家』なら、この物語に出てくる『作品』は オトギノクニのすべての命あるものたち、ということになりますから ライブラ: ……この『星の革命軍』に参加しなかったヴィーナスたちも含め、 私はみんなのことを、かけがえのない同志だと思ってる ポルックス: ライブラさん…… ライブラ: 私達が封印された後も、アスクレピオスはきっと意志を継いで、 理想を実現してくれる……私はそう信じています レグルス: (それから数日が経った。 詳しい術式の説明がなされ、そしてアスクレピオスが合流して――) ライブラ: レグルス。大丈夫? レグルス: あ……ライブラ。あ、あの、ワタシ…… ライブラ: 少し、いいかしら。耳を貸して 190073 - ライブラの真意 ライブラ: 急にごめんね。でも……レグルスには話しておきたかったの レグルス: わ、ワタシだけにっ……!? ライブラ: ええ。あなたになら、私は本当の気持ちも隠さず言えるから レグルス: はあ、はあ……そ、そうなんですね……!? ど、どど、どんなことでも、いつでもどうぞ! ライブラ: ……みんなの前ではああ言ったけど、やっぱり後を託すなら しばらく別行動だったアスクレピオスより、私はレグルスにお願いしたいの レグルス: え……?で、でも、グランド・リヴィジョンが…… ライブラ: ……あなたに、残ってほしいの レグルス: ……! ライブラ: もし、あなたが残ったら……お願いしたいことがあるの。 詳しいことは、書物にまとめてあるわ レグルス: 書物に……? ライブラ: アスクレピオスに渡してある。それをあなたが受け取って レグルス: …… ライブラ: ただ、書き忘れたことがあって……『器』を用意しておいてほしいの レグルス: 器? ライブラ: 復活したときに、肉体が疲弊してイマジュマイトが枯渇している可能性があるのよ。 だから…… パラケルスス: ――映像はここまでのようだね レオナ: グランド・リヴィジョン前夜か。なーんか生々しいなぁ パラケルスス: 同感だよ。表向きの理念は崇高でも、 やっぱり誰しもが己の欲に抗い切れないものなんだね パラケルスス: しかし重要な事実も示唆している。ライブラは…… 一時的な復活のために『器』を必要としているわけだ パラケルスス: でも『器』って便利なようでリスクもあるからね。特に最大のリスクは―― 雨依: あいつ、素早いわね……もう影も見えないじゃない ドロシー: かなり手強そうでもあったし、やっぱり聖母から強化されてるのかしら スラワーティー: さっきのあの爆音と煙……彼女は何か、心当たりがあるようでしたわね ラシュミ: だが、どこか慌てた様子でもあった。 彼女の味方が攻撃を受けて援軍に向かったと考えるべきかもな スラワーティー: だとしたら、人間さんさまたちがいらっしゃるのかもしれませんわ ドロシー: さっきの爆音のときの波動……あれって……いえ、でも 雨依: ドロシー?何か心当たりがあるの? ドロシー: いえ、気のせいだわ スラワーティー: でも、あの方は創造の聖母に心から服従している様子ではありませんでしたわね。 それが少し気になりましたわ 雨依: ……私が聖母側にいたときも、あの人の言う理想だか正義だかに 全く興味はなかったわ。そういうものに心酔してる人って 案外少ないんじゃないかしら 雨依: だって人は感情で動くものでしょ。自分にとって大事な人を助けたいとか、 自分の欲を満たしたいとか ラシュミ: 理念についてくる者などいない、と? 雨依: んー……私があまり他人を信用してないのもあるけど。 理念ってさ、結局それ、言い出した人の感情とか欲望じゃない? 雨依: それをもっともらしく見せかけたのが理念だと思うの。 他人の欲望に共感して尻尾振ってついていくなんて、頭が弱いだけじゃないかな ドロシー: だいぶ過激だけど、言いたいことは分からなくもないわね ラシュミ: 手厳しいな。私としては、仲間達とは想いに共感して 手を取り合う関係だと信じているのだが…… 必ずしもそうとは言い切れない現実があるのは理解する 雨依: でも、その方が平和的よ。聞く耳を持たないわけじゃないから。 きっとあの子が聖母に従うのも何か事情があるんじゃないかしら スラワーティー: その事情を解決できれば、味方にならないまでも、 敵対することはないかもしれませんわね…… ニーチェ: こっちでいいの? ブラーマ: たぶんね ニーチェ: たぶん……!? ブラーマ: 正面の出入り口しか知らないのよ。でも、そこはさすがに監視されているはずだから ニーチェ: 大丈夫かなぁ…… ブラーマ: それより、さっきのペロー達のやり取り…… ロートも、あのクレアっていう子のところに行ったみたいだった ブラーマ: つまりジーヴァやヴィジュー……人間さんくんがいる場所よね?大丈夫なのかしら ニーチェ: 大丈夫って? ブラーマ: あのロートはかなり強いのよ。聖母の影響だと思うけど。 このままだとピンチになるかもしれないわ ニーチェ: そうだね……ロートが行くまでもなく、ピンチだろうけど。 あのクレアって子、たぶん…… ニーチェ: 『器』にされてると思う ブラーマ: ……!?それって、何のよ ニーチェ: ライブラの、だね 190074 - 届いたメッセージ ブラーマ: ライブラって、確かペローたちの親玉でしょう!? そんなヤツの器って……クレアは確か、人間さんくんの仲間よね ニーチェ: かつての仲間が操られて襲ってくる……それも、恐ろしいほどの実力を伴って ニーチェ: さらにイマジュマイト・アディションを起こしてる。 強いだけじゃなくて、戦い方の幅が広がってるはずだよ ブラーマ: イマジュマイト・アディション……? ニーチェ: どうやったか分からないけど、おそらくリンクしているのはブラーマだと思うよ ブラーマ: ワタシ!?だって、クレアって子と会ったこともないのに ニーチェ: だから、どうやったか分からないって言ってるでしょ。 でもイマジュマイトの現状のタイプからすると、たぶんそう ブラーマ: ……早く、助けに行かないとだわ。急いで出口を探さないと ニーチェ: や……急いで助けに行くより、私達にできることをした方がいいよ。 人間さんならきっと、元に戻せるはず ニーチェ: だから私達は、その先を見据えて行動するべきだと思う ブラーマ: 人間さんくんなら戻せるって、何を根拠に……? ニーチェ: 根拠……うーん…… ブラーマ: えっ ブラーマ: 君ってすごく論理的なタイプだと思ったんだけど。特に根拠とかないの……? ニーチェ: あ、あるよ!人間さんはすごいみたいだから! いろいろ今までも困難をひっくり返してきたらしいし! ブラーマ: それ全部伝聞でしょ?会ったこともないのに…… ニーチェ: わ、私くらいになると、分かるの。色んな男を見てきたしっ……! ブラーマ: …… ジーヴァ: まったく攻撃が通じない……全部、かわされるか、弾かれるか…… これじゃあジリ貧だわ ヴィジュー: ヴィーたちも致命傷は今のところ受けてないけど……消耗し続けちゃってる……っ 人間さん: (どうにか近づければ……でも、ジーヴァたちに 犠牲を強いるようなやり方はできない……) クレア: どうして抵抗するの……早く消えて…… (クレアが再び魔法の光球を生み出し、テュポーンに向けて3発連続で放つ。) テュポーン: くっ! (危ういところでテュポーンがかわす。と、そのうちの1発が俺の方へと飛んできた。) 人間さん: 流れ弾っ!?くっそぉおおおぉぉっ!! (必死に横っ飛びでかわす。 僅かにわき腹をかすめたが、幸い服を少し裂いただけで済んだ。) クレア: ……っ!? (受け身を取り、身体を起こすとクレアの視線が こちらに向けられていることに気が付く。 彼女の顔には、僅かに動揺が浮かんでいた。) 人間さん: (やはりクレアの意識はまだ残っている……。聖母に操られているのか…… いや、ペローに『作品理解』で書き換えられている可能性も……) ガナ・イーシャ: 大丈夫!? 人間さん: ああ、大丈夫……だ…… (裂けた部分はポケットを掠めており、中身がちらりと見えていた。 それは以前、正体不明の誰かから人づてに渡されたノートだった。 メモ帳と言ってもいい、小さなもの。) 人間さん: 『ペンで書け』……? (ノートに添えられていたメッセージを思い起こす。) ガナ・イーシャ: ちょっと……何ぼんやりしているのよ。 もしかして、今の攻撃で深手を負ったんじゃ…… 人間さん: いや、そうじゃなくて…… (ペンで書け。当たり前のことをわざわざメッセージにしたのは、 それに特殊な意味があるからではないか。) (俺はペンを持っている。 インペリウム・コミッティ第13号委員に就任した際に、受け取ったものだ。) 人間さん: 俺は作家じゃない……が、コミッティのペンはある……。 何かの罠かもしれないし、クレア相手にこんなこともしたくないが…… 背に腹は代えられないからな ガナ・イーシャ: こんなときにノートをとってどうするつもり?相手の戦い方の分析でもするの? 人間さん: 有効かどうかも分からないが試してみる。 俺の手で……『作品理解』によってクレアの『設定』を書き換える……! ラヴクラフト: 必要なものを送ったとか言ってたけど、誰に何を送ったのか教えてよ~。 たとえブルブル震える謎のマッサージ器を送ってたとしても、 誰にも言わないから~ ノストラダムス: そんなもん送ってないってば!! ノストラダムス: ……ちょこっと未来が見えたからさ。 たぶん、おにーさんなら……使いこなせるはずなんだよね。 付き合いは長いんだし、たぶん理解度は高いはず…… ラヴクラフト: だから、分かるように言ってよ~ ノストラダムス: 作品理解で仲間のことを書き換えちゃえって、メッセージを送ったの。 ぜんぶ、予言通りならもう届いているはずなんだよね ラヴクラフト: えちえち淫乱女王に書き換えて、ってこと? ノストラダムス: ちがーう!!ノートだよ! 190075 - 『作品理解』 ガナ・イーシャ: 何をしようっていうの……? 人間さん: 俺に『作家』の資格があるのかは分からない。 でも以前にペローに書き換えられたシンデレラたちを元に戻せた…… (俺は『作家』たり得るのかは分からない。 だが純粋な『作品』ではないし、一応の前例もある。) ヴィジュー: 人間さんが何か始めてるみたい……なんだろ? ジーヴァ: 分からないけど、あの顔……無理して頑張ってるんじゃなくて、 何か希望を見つけた顔だわ。あんたたち、時間を稼ぐわよ! テュポーン: わかった! ジューチャオ: すごいね、ジーヴァ。人の顔を見て心が読めちゃうんだ! ジーヴァ: ま、まあね……あんたの方が楽に生きられそうだけど…… 人間さん: 問題は……どう書き換えるか……。クレアのいまの状態が何なのか分からないから、 迂闊に強引な設定に書き換えるとクレアの内側にどんな影響があるか…… (例えば、端的に俺の言うことをなんでも聞くと書き換えた場合…… もし聖母に同じようなニュアンスで操られていたら、俺と聖母の力勝負になる。) (クレアの身体に負担がかかるかもしれないし、正規の作家でない以上、 俺が押し負ける可能性だってある。確実にクレアを取り戻すためには――) 人間さん: よし、これだ…… 『強い光を受けると、1分間だけ外側から影響する何らかの力を遮断する。 このとき本来の人格で対話でき、攻撃の手も止める』―― ガナ・イーシャ: なんなの、それ……? 人間さん: ジューチャオ!上空に、お前の強烈な炎で光を作ってくれ! ジューチャオ: なにそれ!?あたしが理解できてないだけかな!? ジーヴァ: あたしも意味わかんないけど、でも言う通りにして! ジューチャオ: わ、わかった!ええええいいいっ!! クレア: ……!! 人間さん: 今だ!1分経ったらどうなるか分からないから援護してくれ! ジーヴァ: 1分!?ちょ、ちょっと人間さん! (俺は真っすぐクレアに向かって突進する。だが――) クレア: う……ああっ、ああああっ!! (何らかの影響は与えられたようだが、 書き換えた通りに大人しくはしてくれていない。 攻撃を周囲に、無造作に放っている。) クレア: ああっ!やめて!こないで!助けて!いやだ! ジューチャオ: なんかおかしくなっちゃったよ!?あたしのせい!? ヴィジュー: きっと……悪いやつと人間さんの力が、せめぎ合ってるんじゃないかな……? ジーヴァ: でも、まだ攻撃は止まってないのよ!危ないわ、下がって人間さん! 人間さん: 1分のカウントダウンがいつから始まるか分からないからな! そんなこと言ってられるか……! (追い込まれた状況で、素人が自分に完璧に都合よく設定を生み出すなんて、 なかなか難易度が高い。そう実感させられた。) (しかし設定の詰めの甘さは、自分の覚悟で補うしかない。 俺は暴れ回るクレアに向けて距離を詰める。) クレア: 来ちゃだめ!来るな!傷つけちゃう!消してやる! クレア: ああぁっ……ああああっ! 人間さん: (さっきまでの冷徹な攻撃とは違う…… これなら、神経を研ぎ澄ませれば一撃くらいは……!) クレア: ああああぁぁっ!! 人間さん: やあああっ!! (クレアの雑な近接攻撃が飛ぶ。俺は剣を抜いて、その軌道に全神経を集中させた。) (俺が攻撃を弾き飛ばすと、クレアの体勢が揺らぐ。その隙をついて、俺は――) クレア: !! (クレアの身体を強く抱きしめた。) パラケルスス: でも『器』って便利なようでリスクもあるからね。特に最大のリスクは―― レオナ: 『自我』、でしょ? パラケルスス: さすが。ご名答 (強く抱きしめる俺の腕の中で、クレアは動かなかった。) 人間さん: もう、大丈夫だ……俺が、そばにいる。お兄ちゃんがいるからな クレア: あ……あぅ……う、ううっ……おにい、ちゃん…… (もちろん抱きしめながら、全身を通じてエルマイトを送り続けている。 送りすぎると俺にも危険が及ぶのかもしれないが、構わなかった。 それに、こうしているとエルマイトは次々に湧いてくる気もした。) クレア: う……あぁっ……おにいちゃん……わたし……っ。誰のことも、傷つけたくない…… (気が付くと、涙声になっているクレア。 ふと顔を向けると、大粒の涙が頬を伝っていた。) クレア: いや……だよ……。こわい……っ (言うなり、クレアの身体から力が抜ける。崩れ落ちそうになる彼女を慌てて支えた。) 人間さん: 気を失ったのか…… (しかし、クレアの攻撃が停止したことには違いないし、 彼女の意識もおそらく戻ってくるだろう。作戦は成功したと言っていい――) ???: あなた……!クレアさんに何をしたんですか! (安堵した矢先、怒気に満ちた声が響く。顔を上げると、そこには――) (これまで会ったときの余裕のある態度は微塵もない、 切羽詰まった様子のロートがそこにいた。) 190076 - ロートの怒り ロート: あなた……クレアさんに何をしたんですか……! 人間さん: いや、俺は―― (俺が言い終わるよりも早く、ロートは素早く銃口をこちらに向けた。) ヴィジュー: 人間さん! (俺の前に立ちはだかったヴィジューが、手にした武器を構え銃弾を弾く。) ロート: よってたかってクレアさんひとりを……なんて卑劣な人たち……! ジューチャオ: ち、違うよっ! ロート: どう違うというんですか! ジューチャオ: あれ?確かにあたしたちいっぱいいるけど、クレアはひとりか…… テュポーン: クレアはともだち。でも、なんかおかしくなってて ロート: 友達ですって!?大人数で取り囲んで、あまつさえ命まで奪うのが友達!? 人間さん: いや、クレアは死んでな――うわっ!? (ロートが銃を乱射する。俺達は必死にその銃弾をかわし、弾く。) (いや、乱射という表現は間違っている。 続けざまに発射しつつも、その一発ごとは正確に俺達を狙っていた。 冷静でないのは確かだが、その攻撃は研ぎ澄まされていた。) ロート: わたくしの……せっかく見つけた……っ! ロート: 絶対に、許しません!! 人間さん: (そもそも……ロートとクレアに面識があったのか……? しかも、誤解がありそうだとはいえ、こんなに感情的になるほどの……) ペロー: どうやら狙い通りになりそうですね キャロル: きゃはっ♪いよいよ血の雨が降りそう……♪あんな誤解で潰し合うとかマヌケだよねー ペロー: どう転んでも、双方ともにかなり消耗するはずです。 この戦いの後に我々が仕掛ければ、どちらもひとたまりもない キャロル: いいねぇ。あたし、血を見るのは好きだけど…… 必死になって戦うより、手も足も出ない相手をなぶり殺すほうが好きだし ペロー: まったく……いい趣味をしていますね ペロー: もっとも、私もそちらの方が性に合いますけども キャロル: でもさぁ、聖母から力をもらってるけど、 それでもロートひとりじゃさすがにあの人数相手に苦しいんじゃない? キャロル: 潰し合うってほど、人間さんたちのこと削りきれるのかな? ペロー: そんなときのために、あの薬を渡してあるのです ペロー: あれが何か、私から明確に説明はしていない…… ですが、彼女はどんな薬なのか把握はしているでしょうから キャロル: 飲んじゃうのかな? ペロー: 手にしている以上、彼女はいずれ飲みますよ。まあ、見ていてください…… ブラーマ: ここは……? ニーチェ: そう言えば前に、連れて来られたことがあるのを思い出したの。 確か裏口があったはず ブラーマ: まるで迷宮みたいだけど…… ニーチェ: まあ見ててよ。私の人生、ずっと迷宮みたいなものだったし ブラーマ: それは比喩でしょ……?本当の迷路を突破できることとは別の話なんじゃないの……? ニーチェ: ……私がただのネガティブ陰キャ女なら、それまでのこと。 でも……私の読みは間違っていないはず…… ブラーマ: ……何をぶつぶつ言ってるのよ ニーチェ: だいたい、さっき聞いたでしょ。私には人間さんがいるの ブラーマ: 確かに彼はこちらに向かってるし、たぶんあなたのことも探してると思うけど ニーチェ: ほら!なにこれ、もう運命だよ本当に ブラーマ: でもそれは、あなたがカギを握ってるからで―― ニーチェ: 私にカギを握らせたい!?同棲ってこと!? ブラーマ: ……ワタシ、もしかして選択を間違ったんじゃ ロート: クレアさんを……わたくしの大切な人を、返して……!! ヴィジュー: どうしよう、全然話を聞いてくれない! ジーヴァ: 聞いてくれたところで、どのみち敵よ!抑え込むしかないわ 人間さん: クレアほど絶望的な戦力差じゃない……この人数ならなんとか抑え込めるか……? ロート: あなたたちのような卑怯な連中を、わたくしは許しませんっ……! ジューチャオ: なんか……あたしたちって悪者? テュポーン: ん……なんかつらい…… ガナ・イーシャ: 迷ってる暇はないわよ!まずは無力化して、そこから考えなさい! (クレアほどの差がないのも事実だが、 ロートが冷静さを失っていることも戦況に少なからず影響しているようだった。) (激昂しながら的確な攻撃を繰り出してはいるものの、 どこか勢い任せに戦っているようでもある。 少なくともヴェルを倒したあの時とは違う。) ロート: また……一緒に笑って過ごしたい…… ただそれだけの、わたくしのささやかな願いを…… ロート: あなた達は踏みにじった……!純粋なクレアさんのことも……! (そのときだった。複数の陰が木陰から飛び出してくる。) 雨依: なに、ずいぶん派手にやってるじゃない ラシュミ: 間に合った、とは言い難い状況のようだが ロート: 増援……っ!? (別行動していた雨依たちが合流してくれたのだ。これで戦況は一気に決定的になる。) (追い込まれたロートは、自らの懐をちらりと見やる。) ロート: ……こうなったら 190077 - 堕ちる道 ロート: 増援……!こうなったら、もう…… (ロートは懐から小瓶を取り出す。 反射的に俺は、それがどういった性質のものなのか察した。) 人間さん: やめろ!ロート!! ロート: んくっ……んく、ぷはっ…… (だが、俺の制止など聞くはずもなく、ロートは一息に飲み干す。 不安げに見つめるジーヴァたち。 雨依とは、視線が合って深刻な表情で頷き合う。) ヴィジュー: 一体あれは何を飲んだの……? ロート: ……っ ロート: あはっ……あははははっ!力が……湧いてくる……あなたたちを壊すための力が……! ロート: すべて壊し尽くしてあげましょう…… クレアさんの無念を、あなたたちは思い知るのです……っ! (そして、俺の直感がほぼ正しかったことが証明される。 彼女の顔は憎しみを色濃く滲ませた嘲りに変わり、 その瞳には狂気が宿っていた。) ロート: わたくしの大切な人を奪った愚かさを……地獄で悔いるがいいのです! ペロー: どうやら筋書き通りに動いてくれたようですね、ロート ロート: ペロー……? (ロートには直接聞こえているのか、彼女はペローの名前を口にした。 この隙に先制攻撃を仕掛けるべきかもしれない。 だが、ロートから沸き起こる闇のオーラに、誰しもが躊躇していた。) ペロー: あなたは所詮、駒に過ぎないということです。 聖母は目をかけていたのかもしれませんが、私達にとってはもはや用済み…… ペロー: せいぜい、潰し合っていただきましょう ロート: ……はっ、自分が盤面を意のままに操っているつもりですか? わたくしが、あなた達の思惑に気づいていなかったとでも? ロート: 笑わせますね。人の感情を利用し、自分の利益を追求する…… あなたの姿勢は明らかでしたし、自分を利用する算段だとも容易に想像がつきます ロート: それでもわたくしは敢えて乗ったのです。 あなた方の駒に成り果てようとも、大切な友人の仇を取る…… これは、わたくしの決断です ペロー: ……過程など、取るに足らないこと。結果がすべてですよ ペロー: そうまで言うなら、存分に仇を取ってください。期待しています ロート: 言われなくても……そのつもりですよ……! (ペローとの会話が終わったのか、ロートは俺を睨みつけ、 より一層、闇のオーラが濃くなる。) 雨依: 人間さん、下がって! ドロシー: ……この子も、ペローに利用されていたのね。 いえ、さっきの雰囲気だと、彼女もまたペローを利用していたようだけど 人間さん: 深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗き込んでいる、か…… まさにこの状況を象徴しているな…… ニーチェ: 聞いた!?あれ、私の作品にある言葉なの! 人間さんってば、私のこと知ろうとしてくれてるんだ…… これってもう愛以外に説明つかないよね? ブラーマ: ……君、今の状況分かってる? ニーチェ: 分かってるよ ニーチェ: 逃げ出そうとしたら普通にバレてて捕まりそうな上、 遠隔投影スフィアで愛する人のピンチな映像を見せられて、 色々と詰みでござるの巻 ブラーマ: 一言でまとめると? ニーチェ: ニーチェ・ジ・エンド ペロー: ……あなた、何か企んでますね? ニーチェ: ソンナコトナイヨ キャロル: 普段、あんだけオドオドしてるド陰キャのくせにさ、 急にこの場面でペラペラ喋るの不自然すぎるから ニーチェ: ド陰キャって言わないでよ ブラーマ: 嘘が下手すぎない……? ニーチェ: 人間さんに、ニーチェは嘘をつかない正直な女、って 吹き込んでおいてくれる? ブラーマ: 自分で言いなさいよ。死ぬつもり? ニーチェ: いいこと言うね、ブラーマ。確かに愛は直接伝えなきゃ ペロー: 問題は……何かを企んでいると分かった上で、一体何をするつもりなのか…… ブラーマ: ……結局、君達はロートと同じようにワタシのことも、 最初から使い捨てにするつもりだったのね ブラーマ: だからこうして、ワタシがニーチェを逃がそうとすることにも何の驚きもない…… キャロル: 手のひらの上で踊ってた、ってことだよねー。ばっかみたい、きゃははははっ ニーチェ: ブラーマは優秀な魔法使いなんだよね? ブラーマ: ……自負はしてるわ ニーチェ: よし……なら説明不要っ、私の真の狙いはこれだ! キャロル: こいつ、奥の十二迷宮に行こうと――!? ペロー: させません。いずれ発動するつもりのものが、早くなるだけのこと…… ブラーマ: え……!?3人が、消えた……!? 190078 - 憎しみの行き先 ロート: まずはあなたからですよ、人間さん…… 直接、クレアさんに手を下したのですから……! (ロートが真っ直ぐ俺に銃口を向ける。 闇のオーラに覆われた片目が、昏い笑みに歪む。) (しかし、次の瞬間――ロートはハッとして動きを止めた。) クレア: やめて……ロート…… ロート: クレアさん!? (その声に俺も驚き、振り返る。 そこにはふらつく足取りで身体を起こしたクレアがいた。) クレア: おにい……人間さんは、おかしくなった私のことを 止めようとしてくれただけ…… ロート: よかった……生きていたんですね、クレアさん! (ロートはクレアに駆け寄る。その場の全員が彼女を警戒し囲む中、 俺の横を通り過ぎてクレアに一直線に向かった。) (どう考えても狙い撃ちにされる構図だというのに、まったく意に介さない様子で。) ロート: よかった……本当によかった……!ケガはありませんか?お腹が痛かったりは? クレア: 聞いて、ロート ロート: ……っ クレア: 私は何かに乗っ取られて、操られてた。人間さんたちはそれを止めた クレア: 悪いのは、そいつ。操ってたやつ ロート: それは一体……誰が…… クレア: わかんない。でも、もうやめて クレア: 意味ないのに、大切な人どうしが戦うの……私はやだよ ロート: 大切な…… (闇のオーラが揺らぐ。彼女の精神状態をそのまま表しているようだった。) ロート: じゃあ……わたくしの、この憎しみはどこへ…… (その瞬間、迸る光がロートの身体を貫く。) ロート: え…… ペロー: 自ら策に乗ったと豪語したわりには、ずいぶんお粗末ですね 雨依: ペロー……!! (いつの間に現れたのか、ペローが指先をこちらに向けていた。 俺は、今の閃光がペローから放たれた魔力だと悟る。) 人間さん: お前……! ペロー: おっと、動かないでください (ペローの制止する声にハッとする。傍らにはキャロル、 そしてキャロルに刃物を突きつけられた見慣れない女性の姿があった。) ニーチェ: ああっ……!人間さんっ、やっぱり来てくれたんだね! 人間さん: (誰だろう……) (心当たりはまるでないが、俺のことを呼ぶ女性。 ちらりと仲間達に視線を向けるが、みんな小さく首を横に振った。 雨依に至っては、何か疑惑の眼差しすら向けてきている。) ニーチェ: あのお手紙を読んで、本当に助けに来てくれるなんて…… やっぱり運命の人なんだ…… 人間さん: 手紙……? ドロシー: あ、まさかあなたがニーチェ!? キャロル: 正解、正解、だいせいかーい♪きゃはははっ ペロー: 私達にとっても、そこのロートと違いまだ利用価値があります。 ただ、あなたたちの比ではないはず ペロー: ロートが失敗したときのプランBとして、彼女を人質にとらせてもらいます クレア: ロート……っ、しっかりしてっ……! (彼女自身もダメージが大きいのだろう、弱々しい手つきで ロートを抱き起こそうとするクレア。そこにジーヴァも駆け寄る。) ジーヴァ: 落ち着いて。あたしに見せて クレア: ロート……っ ロート: 心配しないでください、クレアさん……ちょっとバチが当たっただけです…… 人間さん: ふざけるな。お前が悪いことをしていたとしても、バチを当てるのは神様だ。 ペローなんかじゃない ラシュミ: だが、どうするつもりだ?人質がいようが、私達全員とたったふたりで戦うのか? ヴィジュー: 人質を抱えながら戦うのって、結構きついと思うよ? (μたちがじわじわと距離を詰める。だが、ペロー達は余裕の笑みを崩さない。 その理由を察し、俺は声を上げた。) 人間さん: みんな離れろ!あいつらの足元、何かいる! スラワーティー: あれはっ……! (そこは先ほどまでクレアが倒れていた場所だった。 血溜まりのように地面に広がっていた黒いシミが、 徐々に立体的になり、そして形をなしていく。) ドロシー: な、なんなの、こいつ……! 雨依: もしかして、チャイムから出てきた女神像みたいな…… 人間さん: ああ、たぶんな。『これ』がクレアを内側から蝕んでいた張本人だろう ???: 理想のために……ここで死んでもらうわ…… (どこか聞き覚えのある声にも思えた。 形を成していく何者かが、突如として魔力の刃を複数出現させ、四方に飛ばす。) ヴィジュー: くうっ!? テュポーン: なにこれ!? ジーヴァ: うぁっ……! (必死で刃をかわす仲間達。だが、ロートの手当をしていたジーヴァは、 逃げることができず、その肩口を切り裂かれる。) ヴィジュー: ジーヴァ! ジーヴァ: 助けてみせるわ……敵だったけど、でも……こんなのって、あんまりだから……っ ジーヴァ: そう……人間さんがあたしにしてくれたようなこと、 きっとあたしなら……できる、はずっ…… 人間さん: ……? (ジーヴァが懸命にロートの傷口に手を当て、念を込めている。すると――) ロート: く、かはっ……!! (咳き込むようにして身体を起こすロート。) クレア: 大丈夫なの……? ロート: え、ええ……なんとか……でも、なんだか体の内側が、 く、ごふっ、軋むように痛くて……う、げふっ!! (ロートが吐血する。 いや、よく見るとそれは真っ赤な鮮血ではなく、漆黒の塊だった。そして――) (--) ロート: なんだか……淀んでいたものが洗い流されていくような…… 透明になっていくみたいに感じます…… ロート: これは……いったい、何……? 190079 - つかみどころのない相手 (目の前に出現した霧のようなものは、徐々にその輪郭を現していった。) 人間さん: これは……! ドロシー: まさか、ライブラ……!? (しかし、形は彼女を象っていても、その姿はどこかゆらゆらと不安定だ。) 人間さん: 幻影なのか……? ニーチェ: 思念体だよ (ふいに、ニーチェと思しき知らない女性がこちらに向けてそう伝えてきた。) ニーチェ: おそらく本体から、グランド・リヴィジョンの隙間を縫って 思念体だけを飛ばしているの。イマジュマイトは本体から供給を受けてる ニーチェ: 物理的な実体は持たないけど、彼女が使う魔法の類は変わらず使ってくるはず。 気を付けてね、人間さん 人間さん: なるほど……。ありがとうございます ニーチェ: 距離が遠い…… ドロシー: ということは、私の拳ではダメージを与えられないのかしら ニーチェ: そうだね。物理的な攻撃は意味がない。 イマジュマイトを纏った攻撃でないと通用しないんだ 人間さん: じゃあドロシーの拳は大丈夫だな ニーチェ: えっ? 人間さん: 他のみんなも、俺からエルマイトを送ってるから、 武器にはエルマイトが含まれているはずだ (俺はちらりと後方を見やる。 ジューチャオやテュポーンが頷き返す中、俺の視線は更に後方、 負傷しながらも治療に当たっていたジーヴァと、そして――) ロート: ………… クレア: ごめん、人間さん……私はもう…… 人間さん: 分かってる。そこで待ってろ (視線の意味を誤解したのか、ロートの隣のクレアが申し訳なさそうに目を伏せる。) 人間さん: (ロートが立ち上がった……変わらず敵対するつもりなのか?それとも……) ラシュミ: 相手はたった一体、こちらはこれだけ揃っている。勝てないはずはないだろう ラシュミ: ――と言いたいところだが、みんなの顔を見る限り、 どうやらそう楽にはいかないようだな ドロシー: 私が知る限り、ライブラはオトギノクニでも最強格とされてるわ。 簡単な相手じゃない…… 雨依: 思念体っていうのが、どこまで本人と変わるのかは分からないけどね ライブラ思念体: すべて……やり直さないと…… ジューチャオ: なんて?声ちっちゃいよ ライブラ思念体: やり直す……作り替える……私の思い描く世界のため…… 雨依: ……少なくとも本人よりも話は通じなさそうね ライブラ思念体: 邪魔するものは……消す……! (思念体が魔法攻撃を放つ。 魔力を凝固させたものをぶつける、シンプルな魔法だ。だが――) ガナ・イーシャ: くううっ!? スラワーティー: 何ですか、この威力は……! ドロシー: ……とんでもないわね。でも大丈夫よ。こんなペースでいつまでも戦えないはず。 そのうち息切れするわ テュポーン: テュポ、まけない! 人間さん: 俺はまずジーヴァの回復に向かう! ガナ・イーシャ: 了解!援護するわ! (ガナが応じてくれたが、ジーヴァに駆け寄る間に ライブラからの攻撃は飛んでこなかった。) 人間さん: (回復役を叩く、なんていう思考は持ち合わせていないのか? あるいは、回復させても押し切る自信があるだけか……) 人間さん: ジーヴァ、傷を見せてくれ ジーヴァ: 人間さん……うん、お願い (思ったよりも軽傷で済んでいたようで良かった。しかし、クレアの方は消耗が大きい。) (先ほどまでの戦闘が影響していることもあるだろうが、 自分の内部に異物が混入していたのが消耗している主要因ではないだろうか。) クレア: 私は……放っておいてくれてもいいよ。みんなも今から戦って、傷つくだろうし 人間さん: そういうわけにはいかないだろ ロート: …… (クレアの手を取ってエルマイトを送ろうとすると、 横からロートが鋭い視線を向けてくる。しかし攻撃する意図はないようだ。) 人間さん: クレアはロートとどこで…… クレア: ロートは、私のことを助けてくれた (二人の出会いの経緯をかいつまんで説明するクレア。 それを聞きながら、やはりロートもチャイムと同様、 聖母に利用されていただけで生粋の悪ではないのだと感じる。) ロート: ……なんですか (俺の視線を感じたのか、ロートが不満そうに漏らした。) 人間さん: 聖母にいいようにされたままでいいのか? ロート: そういうの気持ち悪いです 人間さん: えっ ロート: 協力してほしいなら素直にそう言って頭を下げましょう。 そうやってわたくしの事情ということにすり替えるの、すごくカッコ悪いです 人間さん: うぐ…… (この手の台詞は、物語ではありがちなものだと思うが、 こうして正面から反論されると、確かに正論ではある。) 人間さん: そうだな……。じゃあずばり言う。あれは強敵だ。ロートの力も貸してほしい ロート: お断りです 人間さん: ええ…… ロート: あなたの頼みなら、ですが。 クレアさんはきっと、わたくしが一緒に戦うことを望むのでしょう? クレア: うん ロート: なら、答えはひとつです 190080 - チート構造 ヴィジュー: なんなの、こいつ……!まったく攻撃が通らない……? ガナ・イーシャ: 通っていないわけじゃないわ。 ただ、あまりにも防御が高くてダメージを与えている実感がわかないのよ ペロー: ふふっ……無駄ですよ。思念体とは言えライブラですからね キャロル: へー。ライブラってこんなに強かったんだね ペロー: 戦闘能力という意味ではレグルスが特化していますが…… ライブラは戦い方が巧みなのです ペロー: エルマイトとディマイト、双方を使い分けながら戦う…… これはイマジュマイトの特性を深く理解しているからこそできる業です ペロー: あなたのおかげですね、ニーチェ ニーチェ: …… ペロー: そしてあの残留思念には、まだ強さの理由がある…… あれを攻略するのは生半可なことではありませんよ キャロル: あの思念も、かなり強烈だよね。 だってやっぱり、ずっとグランド・リヴィジョンに繋ぎ止められて 苦しんでる気持ちとか、すごく入ってるでしょ? キャロル: あーあ、みーんなライブラに嬲り殺されちゃうんだね。ざーんねん♪きゃはははっ ヴィジュー: そう簡単にやられないよっ……! スラワーティー: もちろんですわ。ここで止めなければ、 それこそ、わたくしたちの世界は失われてしまうかも……! (ヴィジューをはじめとするμたちが一斉に攻撃を仕掛ける。 だがライブラの思念体はまったく意に介した様子もなく、 かわそうとさえしない。) ラシュミ: くっ、バカな……この私の一撃を受けて、微動だにしないだなんて……っ! ライブラ思念体: 排除……しなくては……! ラシュミ: しまった……! ラシュミ: うああああっ!! ガナ・イーシャ: ラシュミ! ニーチェ: ……っ ドロシー: これだけの高出力を連続で……いくら思念体とはいっても、 あまりに後先考えない戦い方……何か裏があるの……? ジーヴァ: 待たせたわね!ここからはあたしも参戦するわ! ジューチャオ: やった!強そうな人が来た! ジーヴァ: あら、そんなふうに評価してくれてたの? ジューチャオ: おっぱいと態度が大きい人は強いってじっちゃんが言ってた! ジーヴァ: あたし、態度大きいかしら!? クレア: 私も、戻ってきた。みんな、ごめんね ヴィジュー: よかった、正気に戻って、しかも元気になったんだね! クレア: それから、この子も ロート: ………… ガナ・イーシャ: こいつが? ジーヴァ: 言いたいことは分かるわ。でも、彼女も利用されてたのよ ロート: 違います ヴィジュー: 違うって言ってるけど ロート: わたくしは、自分の目的のために協力していただけです。 しかし……約束が守られない可能性が高いので、方針転換をしたのです ラシュミ: 信用できるのか……? ペロー: ああ、皆さん。信用してあげてくださいね ヴィジュー: ??? ペロー: 彼女は強がっているだけですから。 本当は、用済みになって切り捨てられ、行き場を失った…… 哀れな使い捨ての駒なのです ロート: ペロー……あなた……っ! ペロー: 事実ですよ。あなたがどこまで自覚しているか知りませんが、 もう役目は終えたので捨てるだけだったのです キャロル: 哀れだねぇ、きゃはははっ! ロート: そのうち、あなた達も聖母には捨てられるんじゃないですか? 他人事だと思って笑っていられるのも今のうちでしょうね ロート: そもそも切り捨てるも何も、彼女は誰かを味方だなんて 思っていないフシがありますし ペロー: 鋭いですねぇ。私も同感です。ま、お互い様ですし 人間さん: (……聖母とペロー、いやライブラは……利害の一致で協力しているだけで、 気持ちは離れているのか……?) ペロー: さて、ライブラ。時間ももったいないですし、 標的が揃ったところでまとめて片づけてはどうですか? ライブラ思念体: …… 雨依: イマジュマイトが集中してる……!何か仕掛けてくるわ! ドロシー: まだパワーを温存してたっていうの!? スラワーティー: 待ってくださいまし……この力は、μの力ですわ……! ガナ・イーシャ: オトギノクニの力だけじゃなく、μの力まで!? ドロシー: 両方使える、つまり私みたいってことね。 言っておくけど無断で真似するのはマナー違反よ! ニーチェ: みんな、だめ……!逃げて! 人間さん: ……!? ライブラ思念体: ……消す 雨依: うそっ……なにこれ……っ! (周辺一帯が光に包まれ、その直後――すさまじい衝撃波が俺達を襲った。) 190081 - ニーチェの狙い (おそらく樹木だろう。吹き飛ばされた俺は、背中をしたたかに打ち付け、 息苦しさに激しく咳き込む。) (そうこうするうちに、光が収まっていき――) 人間さん: みんな……! ラシュミ: くうっ……なんてパワーだ……! スラワーティー: 防御魔法もまったく間に合いませんでしたわ……ごふっ…… (誰もが地に伏していた。そして、痛みにうめく声が交差する。) テュポーン: あううっ……たて、ないっ…… (すぐにエルマイトを――と立ち上がろうとするも、俺自身、足が思うように動かない。) クレア: みんな……大丈夫……!? ジーヴァ: くっ……とんでもない相手だわ…… (ダメージを負ってはいるものの、ジーヴァとヴィジューはなんとか動けそうだ。 そしてクレアとロート。) (おそらくライブラが使ったのは 自分を中心に放射状に拡がるタイプの魔法攻撃だったのだろう。 相手に近いほど、ダメージを強く受けているようだ。) 人間さん: (テュポーンやスラワーティーほど近くなかった俺が、 ここまでダメージを受けてるのは……単に地力の差だろうな……) クレア: 人間さん、大丈夫……!? 人間さん: なんとか、な……立てそうにないが…… ペロー: これは驚きましたね。さすがにここまでの出力があるとは ニーチェ: ああ……っ、人間さんっ……! (見慣れない女性――いや、ニーチェか。彼女もこちらの状態を案じているようだ。 何故か、初対面から好感度は高いようだが、人質に協力は期待できない。) ロート: もう一度来たら……防ぎきれるでしょうか…… クレア: やるしかないよ ロート: クレアさん…… ライブラ思念体: 消す……すべて…… (再びライブラにイマジュマイト、あるいはμの力が集中し始める。 感知能力がなくとも、その異様な気配と空気の流れで、簡単に予想できた。) 雨依: まずいわ……また来る……! (雨依が魔法障壁を展開するが、果たしてどこまで防げるのか。 俺達が緊張して身構える中――) ニーチェ: もう、無理……! (ニーチェが隙をついて、俺達とライブラとの間に飛び出した。 ペローとキャロルも油断していたのか、あっさりとその行動を許してしまう。 それどころか、予想外だったのだろう、目を見開いて固まっていた。) キャロル: な、何してんの!? ペロー: 死ぬ気ですか!?あなたにライブラの術式をどうにかできる力はないでしょう!! ニーチェ: 私はもう後悔したくないの! ペロー: ……っ!? ニーチェ: グランド・リヴィジョンを止められなかった…… そして世界はエルマイトとディマイト、善と悪に分かたれた…… ニーチェ: ずっとずっとずっとずっと後悔してた! ここで、やっと見つけた大切な愛する人を…… 人間さんを見殺しになんかできない! キャロル: 犬死にだって!自己満だよ、そんなの! (必死に声をかけるキャロルだが、ニーチェは意に介さない。) ニーチェ: いいよ、それで!後悔しながら生きるの、本当に辛いから! (どうして彼女が俺をそこまで思ってくれているのかは分からない。 だが、その覚悟は本物――) (――かと思われた。) ニーチェ: なーんてね 雨依: は……? ニーチェ: やっぱりそうだったんだね ペロー: ……何を言っているのです ニーチェ: そんな気はしたんだよね。そこに気付けるなんてやっぱり私って優秀? でもこれで気持ちのアピールも万全だし作戦も完璧で 頭いいアピールもできて文武両道?みたいな?フヒッ……フヒヒッ…… 雨依: なんか早口ですごい喋ってるけど……? ジューチャオ: なに言ってるか全然わかんないよ ニーチェ: 後はもう待つだけだね ライブラ思念体: 消さなきゃ……! ニーチェ: 待つだけ…… ライブラ思念体: ゼロにする……! ニーチェ: え、あれ?まだ!? ドロシー: 何を言ってるのかしら…… (時は少し遡り――) ブラーマ: どういうつもりなのよ……あっさり捕まったのよね、あれ…… (ニーチェが、ペローやキャロルと共に姿を消した後。 ブラーマは何が起きたのかを調べようと、通路内を調べてみたのだったが。) ブラーマ: これ、転移魔法の形跡だわ……。姿を消したのは、どこかに転移したから…… ブラーマ: 転移先は魔法陣を調べれば分かるはず。 でも、ニーチェはワタシに何をしてほしかった……? ブラーマ: ニーチェは余裕そうだった。 たぶん、ペロー達が動くことは織り込み済みだったはず……なのに、 わざわざ捕まって転移したのは…… (可能性に思い当たったブラーマは、はっと顔色を変える。) ブラーマ: ペロー達をこの場から引き離すつもりだった……? ワタシを自由に動き回らせるためね! 190082 - 逆転の狼煙 ブラーマ: ペロー達がいない間、ワタシは咎められることもなく自由に行動できる…… でもそれは、何をしろってこと……? ブラーマ: ……消える直前、ニーチェはどこかに行こうとした。 それでキャロルが慌てて、ペローが転移魔法を…… ブラーマ: 奥に……何かある……? ブラーマ: これは……!?ものすごい力の渦……っ!! たぶん、オトギノクニ由来の……イマジュマイトとかいう力…… (扉をいくつか抜けた先にあったのは、エネルギーに満ちた空間。 その奔流にブラーマは目を細めつつ、周囲の様子を窺う。) ブラーマ: これって……魔法陣だわ! こんな巨大な、しかも複雑な……どんな人が作ったっていうの…… ブラーマ: まさか、これをワタシに壊せとか言うんじゃないでしょうね。 無理よ、こんなもの。ワタシひとりの力でどうにかなるシロモノじゃないわ (誰も見ていないというのに、呆れたように肩をすくめてみせるブラーマ。 ふと、うめき声のような声が聞こえてきた。 それもひとつではなく、いくつか重なって。) ブラーマ: ……これ、まさか (魔法陣に慎重に近づくブラーマ。見た目には、変わったところはないが。 墓石のようなものが魔法陣を囲むようにぽつぽつと並んでいた。) ブラーマ: まさか……誰かを人身御供にしているの……?悪趣味すぎるわ…… (不快感に顔をしかめるブラーマだが、またしても、はっと思い当たる。) ブラーマ: ライブラの器……確かにニーチェはそう言っていたわ。 器が必要というのは一般的に、本人に肉体がないとき。 あるいは自由に動かせないとき…… ブラーマ: 連中の黒幕、ライブラは……この魔法陣のどこかに眠っている? ブラーマ: ニーチェは言ったわ。クレアって子を、人間さんくんなら戻せる。 ワタシたちはその先を行かなければと…… ブラーマ: 器にされていたクレアが正気に戻る。 となると器を失ったライブラは宙に浮いてしまう。 もしライブラがそのリスクを認識していたら? (ブラーマは走り出し、数メートル先の隣の墓石を確認する。 よくよく見れば、墓石というより封印を留め置く、 いわば要石のようなものらしい。) (石には何か文字が刻まれている。もしかしたら名前かもしれないが、 彼女にこの世界の文字は読めなかった。) ブラーマ: でも……ワタシのカンが正しければ、 そこからはエネルギーが大量にあふれ出ているはず! (ブラーマは走った。何も起きない静かな石、怨嗟の声が漏れ聞こえる石、 そして破壊された形跡があるものの、現在は静かな石――) ブラーマ: ……っ!あれだわ! (ひとつだけ、うっすらと帯状の光となったエネルギーが 輝きを放ちながら上方へと伸びている石があった。) ブラーマ: 器を失っても、これだけのエネルギーがあれば 実体は伴わなくても魔力を行使できるはず。 つまり、人間さんくんたちの新たな脅威になり得る…… ブラーマ: この魔法陣が何であるにせよ、 これだけのすさまじいエネルギーが渦巻いている場所と繋がっている…… そんな思念体と戦えば勝てるはずないわよね ブラーマ: つまり……ワタシの役割は……! (ブラーマは両手をかざし、薄い紫色をした半透明の魔力の壁を出現させる。 防御魔法の一種だが、それを彼女なりにアレンジしたものだ。 普段は呪術に使われた道具などを安全に運ぶために使っている。) (漏れた呪力が周囲の人々に悪い影響を及ぼさないためだ。 つまり、この魔法の主要な効能は魔力の遮断となる。) ブラーマ: これを何重にも重ね掛けして……あぁっ!? (あえなく砕け散る魔力障壁。) ブラーマ: だめだわ。この勢いにすぐ負けてしまう。 まず何重にもした魔法障壁を作り上げてから重ねないと…… (おそらく、これは急いだほうがいいとブラーマのカンが告げる。 しかし、だからこそ急がば回れ、半端にトライして割れてしまっては 魔力も時間も無駄になる。) (絶対に遮断できると断言できるレベルになるまで、 ブラーマは根気強く、魔力の壁を重ねていく。 その脇では、石の隙間からずっとエネルギーが迸り続けていた。) ブラーマ: 焦っちゃだめ……確実に一発で成功させないと…… (どれほどの時間が経っただろうか。慎重にまた一枚重ね、 そしてブラーマはふうっと息をついた。) ブラーマ: これで……絶対に魔力は通さないはずよ (ブラーマが作り上げた魔法の壁を展開し、 墓石のようなものごと、包み込むようにして遮断した。 迸るエネルギーは壁に遮られ、行き場をなくして内部で膨張している。) ブラーマ: これで……お願い、成功して……! (ガタガタと激しい振動がブラーマの身体に伝わる。 魔法の壁の中で、エネルギーはなんとか外に出ようと暴れ回るかのように 奔流の行き先を探していた。) (石の隙間から流れるエネルギーは止めないつもりか、 あるいは意志に従っているものではないのか、 内部で膨れ上がり続け、そして――) (ズン、という鈍い音と共にブラーマの魔法障壁の中で、 墓石が砕け散り、深々とその場に穴が開いた。 暴発したエネルギーがその空間を消し飛ばしたのだ。) ブラーマ: ……っ (既にエネルギーの奔流は止まっていた。 ブラーマの壁はまったく破損することなく維持されている。) ブラーマ: やったわ……これで良かったんでしょ、ニーチェ…… (彼女が安堵のため息をついた、そのとき。) ブラーマ: !? (彼女の姿は、迷宮内から消えていた。) 190083 - ロートの禊 ニーチェ: さすがにもう……え、まさかあの子、気づいてないとか……? 雨依: あんなに威勢がよかったのに ニーチェ: 他人の理解度に左右される計画なんてゴミだって分かってたのに、 どうして私っ……ああああ……! いやでも普通、ちょっと考えたら分かることだし……! ライブラ思念体: これですべて……消し去る…… ジーヴァ: 来るわ!みんな伏せて!! ニーチェ: 嘘でしょ絶対大丈夫だと思ったのに何で 人間さん: 危ない!いいから来るんだ! ニーチェ: わっ!? (俺はとっさにニーチェに手を伸ばし、 彼女に覆いかぶさるようにしながら身を伏せる。) ライブラ思念体: ……!? (だが、短く光っただけで、何か頭上を通過した気配はなかった。 恐る恐る顔を上げると、ライブラは硬直している。) 人間さん: なんだ……? ニーチェ: あ、あの、人間さん……? 人間さん: あっ、すまない。つい (俺は組み敷いていた彼女を慌てて解放する。彼女は顔を赤らめながら立ち上がる。) ニーチェ: フヒッ……身体を張って守られるなんて、私初めて…… 人間さん: そんなことより、あれは ニーチェ: そんなことより? 人間さん: い、いやほら、いまは緊急事態なわけで。 ライブラがどうなってるのか、分かるのかなと ニーチェ: ああ……たぶんブラーマが間に合ったんだと思う ジーヴァ: ブラーマが? ニーチェ: ぁう……そ、そう……ブラーマ…… (ブラーマの名前を聞いたジーヴァが声を上げると、 ニーチェは途端に声が小さくなってしまった。) ニーチェ: 私を……そ、その……助け出してくれて…… ジーヴァ: ブラーマが……あんたを……? ヴィジュー: やっぱりヴィーたちのこと、裏切ったりなんてしてなかったんだよ! ジーヴァ: ……そう (そっけない態度ではあるが、どこか安堵しているように見えた。) ニーチェ: うまくやってくれたみたいだから……無限だった思念体のエルマイトは 供給が途切れてる。やり方次第で倒せるはず…… ロート: それはいいことを聞きましたわ。後は……わたくしが! (背後から声が聞こえたかと思うと、ロートは一直線にライブラの思念体へと向かった。) ロート: はあああぁぁぁっ!! (向かうといっても彼女の得物は銃。距離を詰めすぎることなく、 縦横無尽に動き回りながら弾丸を放つ。 エルマイトを纏った弾丸が思念体を貫いた。) (思念体が相手では、どれほどダメージを与えられているのか 見た目では判断が難しい。しかし、ロートはそんなことを 気にする様子もなく連続攻撃を止めない。) クレア: ロート! ロート: クレアさん……?危ないです、下がってください クレア: 私の身体を乗っ取って好き勝手された。黙って見てるなんて嫌だ ロート: クレアさん……! クレア: ロートが怒ってるのも、だからでしょ? ロート: そうです。クレアさんを、ひどい目に遭わせた元凶ですから クレア: ロートが私のために怒ってる。じゃあ、私も一緒に戦うのは当然 ロート: ……ふふっ、クレアさんって意外と頑固ですよね クレア: そうかな ロート: いいですよ。一緒に戦いましょう (ロートは直接的にライブラの思念体を狙うだけではなく、 クレアの援護にも回るようになった。 結果、攻撃のパターンが増え、敵は対応しきれなくなっていく。) ペロー: ちっ……計画ではここで人間さんと雨依、 どちらかは消すはずだったのに……何も成果が上がっていません…… キャロル: どうするっ? ペロー: ライブラの思念体がカギです……グランド・リヴィジョンからの供給が 断たれたのなら、新たな供給を確保すればいい……! (ペローが指を鳴らすと、森の木々に紛れて何かが組み上がっていく。それはやがて――) ドロシー: 獣聖騎兵だわ! ペロー: もしものために潜ませていたものが役に立ちましたね (起動した2体の獣聖騎兵は、俺達を無視してどこかへ歩き出してしまう。 が、すぐにその狙いにヴィジューが気付いた。) ヴィジュー: 町に向かうつもりだよ! ドロシー: 町を襲ってディマイトを回収しようってわけ!?なんて汚いやり方なのよ! 雨依: 止めるわよ! (雨依がいち早く動き出し、それにドロシーが続く。) ジーヴァ: ヴィジュー!あたし達も行くわよ! 雨依: 来なくていいわ!あなた達は……元を断って ヴィジュー: 元を…… (ラシュミとスラワーティーは傷が深そうだ。俺とガナで助け起こし、 戦いに巻き込まれないようにと移動させているところだ。) テュポーン: あっちはテュポがとめる! ジューチャオ: うんっ!あたしも手伝う! ペロー: なるほど……では、私達のお相手は……お二人ですか (ジーヴァとヴィジューは、ペロー達に対峙した。) 190084 - 3人のμ ペロー: 私は、直接こうして刃を交えるのは好まないのですが……仕方ありません。 獣聖騎兵がディマイトを回収し、ライブラの思念体が人間さん、 あるいは雨依を討つまでの時間稼ぎです キャロル: あたしは好きだけどなー?ボッコボコにしてあげるよ♡ ジーヴァ: そう簡単にいくと思わないでもらいたいわね! (手のひらほどの大きさの青い炎をいくつも出現させたジーヴァは、 キャロルめがけて振り下ろす。) キャロル: そんなの効くと思ってんのー?笑っちゃうんですけど ジーヴァ: くっ……! (キャロルはあっさり攻撃をかわすと、色とりどりのボールを ジーヴァに向けて投げつける。次々とそれは小爆発を起こした。) ジーヴァ: ごほっ……ごほごほっ、なにこれっ……! キャロル: きゃははははっ♪特製のカラーボールだよっ (中には何らかの刺激物が仕込まれていたらしく、 ジーヴァは目元を潤ませながら咳き込む。 その隙を見逃すことなく、キャロルがナイフを投げる。) ジーヴァ: ぐうっ……! (刃はジーヴァの皮膚を薄く裂き、血が滲んだ。 痛みに顔を歪める彼女の姿に、キャロルは口角を上げ、邪悪な笑みを浮かべる。) キャロル: いいねえ……♡もっと鳴いてみせてよ! 人間さん: ジーヴァ!相手の動きに惑わされるな!不思議なことなど存在しないと信じるんだ! ジーヴァ: 分かってるわ……!こいつ、幻術の使い手なんでしょう!? キャロル: ほーら。あたしの手下にこんなのもいるよ? ブラーマの幻影: …… ジーヴァ: どこまでも嫌な戦い方をするわね……!でも、あたしはブラーマには怒ってるし! こんなことで手を緩めたりはしないわ! (ジーヴァはブラーマを相手に怯むことなく戦いを挑む。 一方、ヴィジューはペローに立ち向かっていた。) ヴィジュー: やああぁぁっ! ペロー: 自信のある人の戦い方ですね……でも…… (ペローが剣でヴィジューの攻撃をいなしながら、魔法を発動する。) ヴィジュー: うっ……!?なに、力が……っ (一時的に腕力を弱めるような魔法なのだろうか。 ヴィジューが武器を振るう速度が唐突に緩くなる。 そこで生まれた隙をペローは見逃さない。) ペロー: 甘いですね (鋭い突きをヴィジューはなんとか寸前でかわすが、 それも先読みしていたのか、くるりと身体を回転させながら ペローはヴィジューの脇腹に蹴りを食らわせる。) ヴィジュー: うあああっ!! 人間さん: しばらくペローと戦う場面なんてなかったが、強いんだよな、こいつ…… ラシュミ: くっ……すまない、人間さん。急いで回復させてくれ。 私がここで寝ているわけにはいかない…… 人間さん: 無理はするな。それよりガナ ガナ・イーシャ: 分かってるって。あたしが援護するしかないでしょ! (ガナが、魔道具を取り出してふたりに向けてかざす。 青白い光が身体を包み、μの力が増したように見えた。) ヴィジュー: ありがと、ガナ!これで―― ペロー: そうくると思っていましたよ (不敵に笑うペロー。そして手のひらをヴィジューに向けた。) ヴィジュー: え……う、ああっ!?なにこれっ!? (彼女の身体を包み始めていた青白い光は、ペローの手のひらに吸い取られていく。) ガナ・イーシャ: はあ!? ペロー: ふふ……なかなかいい道具をお持ちですね。助かりました ジーヴァ: ガナ!そいつ、吸収するみたいだわ! 効果が出ないどころか、相手を強くしちゃうみたい! ガナ・イーシャ: 何よそれ!?今のアイテム高かったのに!! ヴィジュー: ガナに強化してもらっても、吸い取られちゃう……!? じゃあ、自力でなんとかするしか……! ジーヴァ: 待ってて、ヴィジュー!あたしがこっちを早く片付けてそっちのフォローに回るわ! キャロル: へえ?言ってくれるじゃん? ブラーマの幻影: …… ジーヴァ: こんな偽物に惑わされたりなんかしないっ! (宣言通り、ジーヴァは容赦なく幻影を攻撃する。そこには迷いはなかった。しかし。) ブラーマの幻影: うあああああっ!! ジーヴァ: !? ブラーマの幻影: 痛いっ、ああっ、痛いよぉ……!う、ううっ、ワタシが何をしたのっ、 こんなふうに友達を痛めつけるなんて……っ ジーヴァ: そ、そんな、あたしはっ……! キャロル: なーんだ。惑わされてんじゃん♪ ジーヴァ: はっ!? (悲鳴を上げる幻影に動揺したジーヴァ。その背後に一瞬で近づいたキャロルは、 手のひらに集めた魔力を彼女の横っ腹に叩きつけた。) ジーヴァ: うああああっ!! キャロル: あはっ……♡ (笑みを浮かべたキャロルは、更に追撃しようと 倒れたジーヴァに向け魔力を放とうとして――) (次の瞬間、爆音とともにキャロルが吹き飛ばされた。) キャロル: きゃああぁぁっ! 人間さん: 今の攻撃は…… スラワーティー: この魔力の気配……まさか (魔法が飛んできた方向に視線を移すと、見覚えのある姿があった。) ブラーマ: ワタシの幻影……ずいぶんブサイクじゃない?失礼しちゃうわね 190085 - 戦いの行方 ブラーマ: ワタシってもっと美人だと思ってたんだけど キャロル: くっ…… (ブラーマの幻影が消滅する。本人が登場した以上、 この策は無意味で魔力のムダと悟ったのだろう。) ヴィジュー: ブラーマ! ジーヴァ: ……あんた、何やってたのよ ブラーマ: ちょっと地下の魔法陣で仕事をね。そこの不親切な人のおかげで苦労させられたけど ニーチェ: はあー!?あんなのいちいち言わなくても、状況で理解できるものでしょ? ブラーマ: 本気で言ってるなら、日頃から周りを困らせてるんじゃないの? ニーチェ: 日頃は周りに人がいないから…… ブラーマ: あっ…… キャロル: こんの……腹立つなぁ!あたしが気持ちよく切り刻んで痛めつけて、 嬲り殺しにしようと思ってたのに! ブラーマ: ワタシの仲間に、これ以上手を出させないわ ジーヴァ: あんた……どのツラ下げて戻って来てんのよ!都合良く仲間とか言わないで! ヴィジュー: ちょっとジーヴァ!!こんなときにまで―― ブラーマ: ……ごめん ヴィジュー: えっ…… ジーヴァ: ブラーマ……? ブラーマ: ワタシなりに考えた結果の行動だったわ。でも、何も結果に繋がらなかったし、 君たちみんなを不安にさせて、ピンチを招いただけだった ブラーマ: だから……ごめん ジーヴァ: あんた…… ニーチェ: 事情はよく知らないけど、ブラーマがあそこにいてくれたから 私は助けてもらえたんだし、結果的にはよかったんじゃない? 人間さん: 静かに。いま、ちょっといい場面だから ニーチェ: あ……もしかして、俺が助けるつもりだったのに、ってちょっと嫉妬してたり……? 人間さん: ええ……?いやもう、それでいいや…… ニーチェ: でもブラーマ、なんでこんなところに? ブラーマ: 力を遮断した瞬間、ぶっ飛ばされたのよ。で、遠くに獣聖騎兵が見えたから、 誰か襲われてるかもと思って来てみたら……ってわけ ペロー: 獣聖騎兵を召喚したのが裏目に出たわけですか…… こういうときは、何をやってもうまくいかないものですね キャロル: どうでもいいよ!ひとり増えたくらい関係ないし! あたしがまとめて切り刻んであげるっ! ブラーマ: そうはいかないわよ。ふたりとも、準備はいい? ヴィジュー: う、うん! ジーヴァ: 何するつもりよ ブラーマ: ……昔はこうして3人で戦ったじゃない。 まだ……世界が混沌としていて、他の3人とも知り合う前…… ジーヴァ: 昔語りは年寄くさいわよ ブラーマ: 経験豊富といってちょうだい ヴィジュー: うん……やろうよ。ヴィーたち、本当はやれるじゃん (ブラーマもジーヴァもそれほど乗り気ではなさそうに見えたが、 3人は互いに頷き合う。そして一斉にキャロルへと飛びかかる。) ブラーマ: ヴィジュー! ヴィジュー: うん! (ブラーマが魔法を放ち、その魔力をヴィジューの武器が絡め取る。 ヴィジュー自体を強化するのではなく、武器に魔力をまとわせたのだ。) 人間さん: (これなら……ペローの吸収能力は無視できる……!) (ジーヴァの攻撃がペローを足止めし、同時にキャロルも牽制する。 かと思えば、ブラーマが今度は魔法攻撃をペローに繰り出し、 その間にヴィジューがキャロルを強襲した。) キャロル: うああっ!? ペロー: くうっ……! (これまで俺が見てきた彼女たちの姿から想像できないほど、鮮やかな連携だった。 そこに俺は、3人が積み重ねてきた時間を感じる。) ペロー: こんな、はずではっ……! キャロル: あたしが、負けるなんてっ!認めないっ! (キャロルとペローも必死に抵抗するものの、戦況は明らかに傾いていた。 徐々に押し込まれ、ふたりのダメージが蓄積していく。) キャロル: なんなの、こいつらっ!! ペロー: キャロル! (押し込まれる展開に焦れたか、キャロルが突出する。 バランスが崩れたその瞬間を、3人は見逃さなかった。) ブラーマ: 今よ! ジーヴァ: 分かってる! ヴィジュー: いっけええええぇぇぇっ!! (3人の攻撃が重なり、ペローとキャロルを襲う。 激しい爆風と共に、吹き飛ばされるのが見えた。) ガナ・イーシャ: やった……!? (かろうじてペローもキャロルも立ち上がるが、 さすがにペローは見切りを付けたようで――) ペロー: 仕方ありません……ここは退きますよ キャロル: なんでっ!? ペロー: 間もなく彼女も合流します……あの悪魔使いが加われば すぐに雪辱はなされるでしょう…… (キャロルは食い下がろうとしたようだったが、 ふたりの姿は一瞬にしてかき消える。転移魔法だろう。) ジーヴァ: 逃げた!? ブラーマ: 深追いは禁物よ。それより―― (ブラーマが視線を向けた先では、今まさにロートがライブラの思念体に向けて 魔力を集中させている姿があった。) 190086 - 世界の異変 クレア: ロート……!?そんな強い力を使ったら危ない ロート: ここで勝負を決めるんです……っ! ニーチェ: あの子は正しい……供給を断たれても戦い方の幅は、本人並だから…… 早めに力で押し切ってしまう方がいい 人間さん: あんなに強かったんだな、ロート……! ニーチェ: μの力が混じってる。たぶん、最近目覚めたんじゃないかな ジーヴァ: ……それって、あたしかも ニーチェ: あ……そ、そうなんだ……でも、あの、そうすると、扱いがちょっと難しくて、 使いすぎると、なんか命に関わったり…… ブラーマ: え!?それ早く言ってよ ヴィジュー: だめだよっ、もう全力でいこうとしてるっ! ロート: これで……終わらせます……っ! 二度と、クレアさんに近づかないでください……っ!! ライブラ思念体: ……! (俺達が止める間もなく、ロートは最大出力と思しき一撃を思念体に向けて放った。) (周囲は強烈な光に包まれ――) ヴィジュー: う、うわ……嘘でしょ、森が消し飛んでる……!? ラシュミ: こんなことを言ってはいけないのかもしれないが、 敵に回らなくて本当に良かったな…… (光が収まったとき、周囲にあったはずの森は消し飛んでいた。 ライブラの思念体は辛うじて輪郭だけが漂っていたが……。) クレア: はあっ!! (クレアが一刀両断し、その場で霧散した。) クレア: ロート! (そう言えば当のロートの姿が見えない。 と思いきや、クレアが屈み込んで、ロートの身体を抱き起こしていた。 どうやら倒れてしまったらしい。) クレア: 誰か来て! 人間さん: どうした、クレア! (俺たちが駆け寄ると、クレアの腕の中でロートは口元から血を流し、 呼吸も弱々しかった。) (それでも俺達の前では意地があるのか、無理に身体を起こすロート。) ジーヴァ: あんた、寝てなさいよ! ロート: いえ……こんな情けない姿を見せたくはないので…… クレア: どうしてあんな無茶したの。だめだよ。時間をかけたら倒せたよ ニーチェ: それはどうかな。長期戦になると、思念体とはいえ頭の回る相手だから どこかからまたイマジュマイトを調達していたかも ブラーマ: 君は空気を読みなさい ロート: いえ……ニーチェさんの言うとおりです。 早く勝負を決めたかった。またクレアさんが傷つく前に…… クレア: 私なら平気なのに ロート: これは……わたくしなりの、贖罪でもあるんですよ。 いいんじゃないですか……自分の目的のために手段を選ばなかった、 そんな女の最期にふさわしい…… クレア: 最期って!だめ! (ロートは目を閉じ、その場で崩れ落ちる。慌ててクレアが身体を支えた。) スラワーティー: ま、まさか…… クレア: ううん、息はある 人間さん: ……コミッティ特務機関を呼ぶ。 あそこの附属病院なら最高の医療を受けられるはずだ クレア: 人間さん……! 人間さん: みんなは雨依たちを手伝ってくれ。たぶん、もう終わるだろうけど (予想した通り、雨依やドロシーがこちらに戻ってくる姿が見えた。 どうやら獣聖騎兵も鎮圧できたようだ。 そうとなれば、後はロートを救うことができれば万事解決。) (俺はスホマを操作し、コミッティ専用直通番号を呼び出したのだった。) 人間さん: ――という経緯で、ここに入院してるってわけだ ロート: やめてくださいよ。完全アウェイじゃないですか。 わたくしの作戦指揮で傷ついた人たちも入院してるんでしょうし ジーヴァ: 案外、気が小さいのね ロート: 居心地が悪いという話をしているんです。大体、助けてくれなんて頼んでませんから クレア: ロート、そういうのよくない ロート: …… ロート: ……頼んでませんが、助けてもらったのは事実です。ありがとうございました クレア: えらいね ニーチェ: えらいって言ってもらえるような御礼だったかな、いまの ニーチェ: それより人間さん 人間さん: えっ 人間さん: (急に呼び捨てにされた) ニーチェ: いろいろ落ち着いたことだし、そろそろ家を案内してよ 人間さん: どうしてそうなるんだ ニーチェ: どうしてって、恋人の家を見に行くのにそんなに理由が必要? 人間さん: いつ恋人になったんだよ ニーチェ: え……あんなにラブラブなお手紙のやり取りをしていて、 実際にピンチに私のことを助けに来てくれもして、 可愛い嫉妬もしたりしてるのに ニーチェ: そっか……私って遊ばれてたんだ……しにたい…… 人間さん: 落ち着けって!大体それどころじゃないだろ、今は ニーチェ: ……それは、確かに クレア: 人間さんはまた、今から会議だもんね 雨依: 会議をしてどうにかなる問題でもない気がするけど…… 人間さん: …… 雨依: だってグランド・リヴィジョンが消滅した、なんて…… レグルス: いよいよ時は熟しました レグルス: 今こそ立ち上がりましょう レグルス: ライブラの悲願を実現するのです レグルス: オトギノクニに再び革命を――