180001 - 敵の輪郭 ???: 私たちはいつも一緒だった (彼女には今でも見る夢がある。 場面は違えど共通しているのは、マオリンで仲間たちと過ごした時間ということ。) ???: みんな勝手で、人の話は聞かないし、何かと手がかかる…… でもどこかで何かが繋がっていて、ほっと落ち着けるようなそんな関係だった ???: 何の根拠もなく、私はそれがずっと続くものだと思っていた ???: ねえねえ。これって食べられると思う?なんていうんだっけ、これ ???: うーん、そうねぇ~。火は通したほうがいいと思うけど。 あ、もし食べるなら残しちゃだめよ? ???: そういう問題じゃなくて……やめたほうがいい……。 それ、たぶん魔物だし……ネバネバしてる…… ???: ネバネバしておるのなら食べるよりも身体にくっつけてはどうじゃ? きっと新たな扉が開くぞ ???: 変なこと言うのはやめなさいよ。本気にするわよ、この子 ???: わかった!どこに付ければいい? ???: それはもちろん……こふふふっ ???: ああもう、言ってるそばから! ???: なんてことのない日常。それが続く根拠なんて本当になかったのだと私は思い知る (背景切換...) ???: ある日、すべてが狂ってしまった。歪んだ『正しさ』によって―― (背景切換...) (--) (背景切換...) ジャコヴァ: ふむ…… (インペリウム・コミッティ議長、ジャコヴァは報告書を手に唸った。 いくつかあるが、そのうちのひとつは一連のμ世界との接触について。 俺がひいひい言いながら取りまとめたものだ。) (ただ何が起きたかよりもこれから何が起こり得るかが重要で、 ジャコヴァが唸っているのもシェイクスピアによる魔法陣の解析が主なものだった。) シェイクスピア: わたしからの報告は以上よ。さて、どう考える? シンデレラ: ポセイドンも、シェイクスピアの研究に協力してくれたのね。 ドロシーがうまく口添えしてくれたの? ドロシー: 私は別に、ごはん奢るからお願い、って言っただけよ クラース: 人徳よねぇ ジョカ: 感心するなら、お前も人徳を身に着けたほうがいいぞ ヴィルヘルミナ: とにかく、これで魔法陣の解析がかなり進んだことになるわ。 少なくとも転移の履歴はしっかりと確認できた エミリー: リルが飛んで行っちゃった世界の座標がわかったし、 まだあの魔法陣が有効期間だってことも確認済みだもんねぇ フアナ: つまり……追いかけることができる ヴィルヘルミナ: ただし戻って来れる保証はないわね。 これまで戻れたから今回も、なんていうのは根拠とは呼べない ジョカ: 根拠がないと言えば、敵の動向も同じくではあるが…… ただ、これまでの情報から考えると、μ世界で何か企んでいると考えたほうがいいだろう フック: 創造の聖母、とやらですね 人間さん: 明確な意図まではわかっていない。ただ、これまで俺が渡り歩いた三つの世界ではいずれも、聖母に利用された雨依やガイアたちによって危機が訪れていた シンデレラ: リルが飛ばされた世界もμの世界であるとすれば、 同じように何か画策しているかもしれないわね ドロシー: リルのことだもの。そんなの見逃せないでしょ。 ってなると、あの子ひとりで戦うことになる。私も仲間のピンチは放っておけないわ ラヴクラフト: リルは、ひとりプレイ中かぁ。でも人数が増えたら気持ちいいとは限らないよね 人間さん: リルを助けるためだけじゃない。 創造の聖母がオトギノクニを標的にしない理由はないんだ。 相手の意図や動向を探って備える必要がある 人間さん: 何より……あれだけ好き勝手してくれたんだ。落とし前はつけさせないと終われないだろ ジャコヴァ: ふふん。いいだろう、人間さん。お前が行ってこい 人間さん: 指名されるまでもなく、そのつもりだ シンデレラ: 誰を連れていくつもり?また、ピュルテちゃん? シェイクスピア: それはお勧めできないわねぇ。一度行った者は、その世界のμと既に縁を結んでいるわ ラヴクラフト: 二股禁止ってことだね。寝取られ、ゾクゾクするのにもったいない シェイクスピア: 禁止なのかどうか、まずルールがわからないのよ。 だから安全策をとったほうがいいってこと ヴィルヘルミナ: 前例がいくつかある以上、踏襲するのが安全策よね。となると…… シンデレラ: いつものメンバーのうち、ヴェル、ピュルテ、ドロシー以外の誰かってことになるかしら ドロシー: 私は行けないのね……。殴りたかったのに トリル: 発言が穏やかじゃありませんね…… ドロシー: だって、目の当たりにしたら黙ってられないわよ。 あんな純真なテュポーンやタルタロスにひどいことして! トリルだって聖母を殴りたくなるわ 人間さん: それなんだけど、いつものメンバーにはオトギノクニに残ってもらおうかと思ってる シンデレラ: あら、どうして? エミリー: エミリーとシンデレラはコミッティで忙しいから、っていう気遣い? 大丈夫だよぅ。クレアだってまだバイトのシフト出す前だと思うし フアナ: あたしも!いつでも行く準備はできてるからね! 人間さん: 敵はオトギノクニの存在を認識している。 そして俺と雨依を、おそらく意図的にμ世界に誘導した。となると―― ジャコヴァ: 本命はここ、かもしれないな シンデレラ: 戦力は残しておきたい、ってことね 人間さん: そういうことだ。それに、ドロシーも言ってただろ ドロシー: 殴りたい? 人間さん: そう。この一連の事件で、一番聖母を殴りたいのは俺たち以上にμ世界の住人だろうから 180002 - 華夏の邂逅 (会議を終えた俺はレオナの、直轄領にある別邸へと向かう。 オトギノクニに来ているμたちはいま、ここで生活していた。) (なので、俺も気にかけて頻繁に顔を出しているのだが――) ヴェルメリオ: ……あっ、お帰りなさい。お風呂にする?ごはんにする?それとも―― 雨依: びっくりするくらいベタなことやるのね ヴェルメリオ: ……ベタが一番 (面識のあるピュルテやドロシーもよく顔を出しているらしい。 この日はヴェルメリオが出迎えてくれた。 レオナは料理をしないので、μたちの食生活を支えるために来てくれたのだろう。) レオナ: 一番だろうと二番だろうと、人んちでおっぱじめないでよ 人間さん: μのみんなはどうしてる? レオナ: いま、またちょっと散歩に出てるわよ。異世界に来たはいいけど、 さしあたって何かすることもないし束の間の休息ってところじゃない? レオナ: まあこうして顔を出してくれるのは助かるわ。 異世界に来て、あの子たちも不安だろうから 雨依: オーディンはともかく、あのニートがそんな繊細なわけないでしょ。 人間さんが来てくれるのは嬉しいけど アヌ: いないと思って好き放題言ってくれてるね ヴェルメリオ: ……アヌ、戻ったの?なら、ごはんにする?おふろにする?それとも…… 雨依: botなの?人間さん以外にやっちゃだめでしょ アヌ: ちょっとμ同士、三人で親交を温めてたんだよ。違う世界とはいえ、同じμなんだし テュポーン: しんこ、あったまったよ。ほかほか、むんむん アヌ: テュポーン、なんか際どい感じに聞こえるから言い方変えよう オーディン: 色々ありすぎて、テュポーンさんとはゆっくり話す時間もありませんでしたから…… ちょうどいい機会かと思いまして 人間さん: ちょうどよかった。話しておきたいことがあるんだ (背景切換...) パイフー: これ、食べもの…… リル: あ、ああ。申し訳ないが、昨日から何も食べていなくてな。遠慮なくいただく 信民: あんた、すごいねぇ リル: ん?いや、あれしきの剣技、小生の実力はあの程度では―― 信民: そっちもだけど、そうじゃなくて。パイフー様に食べ物を分けてもらえるなんて リル: というと……? パイフー: やめて。その言い方だと、わたしがケチみたい 信民: あっと、これは失礼しました。いえね、パイフー様はめったに人に心を開かないんですよ パイフー: 信民を救ってもらった。当然のお礼 リル: こちらこそ当然のことをしたまでだ。 騎士である以上、どの国であれ民が困っていれば手を差し伸べる パイフー: どこの国でも? リル: パイフー殿の言わんとすることはわかる。 騎士として仕官する以上、その国の利益を第一に考えるべきだろうな リル: しかし小生の騎士道というのは職務の規則ではないんだ。 どちらかというと、小生という個人の生きる指針みたいなものでな パイフー: へえ…… リル: 褒められるようなものではない。全てを完璧に実践しているわけでもないしな パイフー: これ リル: ひぁっ!?な、何をする パイフー: 耳、わたしと同じ リル: ああ……そういえばパイフー殿も獣人の血が入っているのか。 いや、μだから小生とはまた違うのかもしれないが…… リル: というか、聞かせてほしい。ここはμのいる世界なんだな?そしてパイフー殿はμだと パイフー: そう……わたしは、リルみたいにはなれない。自分の所領と信民を守るので精一杯 リル: 詳しい事情はわからないが、それは責められることではない。 責任を持って守るべきものをきちんと守る、素晴らしいことだろう リル: しかし、そうか……やはりμの世界に来てはいるのだな。 あとはレオナ殿か人間さん殿と合流を果たすだけだが リル: 最近、見慣れない者を見かけなかったか?実は小生は、仲間とはぐれてしまったんだ パイフー: ……っ! リル: パイフー殿……?何か気に障ることを言ったか パイフー: リルは、あれの仲間……!? リル: あれとは? パイフー: 急に現れた変な女。あいつのせいで、全部おかしくなった。もし仲間なら、容赦は……! パイフー: ん……?あいつの仲間なら、信民を助けるのはどうして……? リル: おそらく別人だろうな。何か特徴はあるのか? パイフー: ひらひらした服を着て、髪をこう頭の上で2つに結んでて リル: 髪や服などどうにでもなるものではあるが……おそらく、小生の仲間とは別人だな リル: 人間さん殿はそもそも男だし、レオナ殿は小生と同時にここに来たはずだ。 悪さをする時間などないだろう パイフー: そう……リルは悪いやつじゃないか…… パイフー: でも、だとしたら仲間に心当たりはない。人の多い町で聞いたほうがいいかも リル: なるほどな。では、世話になりついでに町までの道案内を頼めないだろうか パイフー: うん、いいよ。仲間は……仲間でいるうちに、大事にしないとね リル: ……? 180003 - 次の世界へ 人間さん: ――というわけなんだ アヌ: 次のμ世界ねぇ。ま、3つあるんだから、もういくつあっても不思議じゃないけど テュポーン: そこ、ガアがつくった? 雨依: ガイアじゃない誰かが作った世界なのよ ヴェルメリオ: ……待って、それじゃあ人間さんはまたμの世界に行くの?せっかく戻ってこれたのに? 人間さん: もちろん、ある程度の安全は担保しておきたいから……雨依にも来てもらいたい 雨依: えっ……わ、私も?いいの!? 人間さん: 雨依の力が必要になると思う 雨依: なに、これ……信じられない……。私がこんなふうに必要とされるなんて…… ヴェルメリオ: ……うん、よかったね。雨依、必要とされたかったんだもんね 雨依: 人間さん、すき…… ヴェルメリオ: ……あ、好きにはならないで レオナ: 例の現象を再現できないか、ってことよね? テュポーンたちの世界からこっちに戻って来たときの テュポーン: あな、しまりそうだった。人間さん、かんがえた。 テュポのこと、ひつようって。ういとおなじだよ。きてほしいって。えへへ アヌ: そうだね。血の涙が出そうな勢いで悩んでたけどね 雨依: う……私だけじゃないんだと思うとモヤモヤしてきたわ…… 深呼吸しよ……ディマイト静まって~。すぅー、はぁー 人間さん: 悩みまくったのは事実だけど、後悔はしてないよ。よろしく頼む、テュポーン テュポーン: テュポ、さいきょうですから アヌ: ここでゼウスのパクリなの? レオナ: 正直ね、あのこっちへ続く穴が開いた現象は科学じゃないんだよね。 だからわたしの専門外というか 人間さん: えっ……レオナって多彩なジャンルを手当たり次第に履修しているイメージだったな。 専門外とかあるんだ レオナ: そんなイメージ持たれるほど、わたし人間さんくんの前でいろいろ披露してたっけ? 人間さん: いやまあ、人間界の記憶というか、創造期というか レオナ: もちろんわたしも、てんでダメなわけじゃないよ。 でも、もっと詳しいやつがいるなら、そいつに任せようかなって 雨依: もしかして、それって…… レオナ: そろそろ来るはず―― (誰か来たよ、追い返しちゃえ。誰か来たよ、追い返しちゃえ) レオナ: 来たみたいだね 人間さん: インターフォンの音が更新されてる…… 雨依: 追い返さないでよ!? レオナ: まあまあ、素敵な家だけど遠慮なく中へどうぞ パラケルスス: こういうとき、汚いとか狭いって謙遜するものだろ 雨依: パラケルスス! パラケルスス: やあ。久しぶりだね、雨依。なんだか顔色もいいみたいだし、安心したよ 雨依: パラケルススが私のこと心配してたの? パラケルスス: 意外かい?一応これでもハートフルな錬金術師だと思ってるんだけど レオナ: なーにがハートフルなんだか。 お腹いっぱいハツ刺し食べてハートフル、なんて言ってんじゃないの 人間さん: それシンデレラがこの前言ってた レオナ: こんなくだらないのでネタ被りとかショックすぎるわ パラケルスス: さて……事前にレオナから概要は聞いているけど。 オトギノクニ史上最大の錬金術師にして大賢者である、このぼくにふさわしい難問だね 雨依: パラケルススにも難問なの? パラケルスス: そりゃあ、異世界に飛ぼうっていうんだから オーディン: こ、これが再現できないと、リルさんって方を追いかけられないんですよね……? アヌ: 正確には片道切符なんだよね。行くのはいいけど、戻ってこれる保証がない テュポーン: テュポ、しらないせかいで、まいごになる? パラケルスス: 勘違いしないでほしいな。難問とは言ったけど、解決できないとは言ってないよ テュポーン: じゃあ……! パラケルスス: 状況からして、おそらく人間さんくんのエルマイトと 雨依のディマイトがぶつかりあった結果だと思う パラケルスス: 相反する力が強く衝突した際に、その反応として何かしら特定の現象が発生する、 なんていうのはままあることだからね 雨依: 相反してるんだ…… レオナ: めんどくさいから、そこでいちいちヘコまないように オーディン: そ、それは具体的にはどういう行動で……? 雨依: あ、わかったわ パラケルスス: 聞こうか 雨依: ぶつかりあう、つまり……その……。レオナ、寝室を借りるわね レオナ: うわぁ、はしたない子ね、本当に 雨依: 何よ!だってそうでしょ!人間さんは手当たり次第にクロスして仲間を強くしてるし 人間さん: 手当たり次第って……いや、反論できないけど…… パラケルスス: それはぶつかりあうんじゃなくて、繋がってるわけだから違うね 雨依: あ……そうよね。えへへ、繋がってるなんて…… 雨依: 痛い!お尻つねったの誰!? ヴェルメリオ: ……ちょっと調子に乗ってるからお仕置き アヌ: 雨依は反省期間なの忘れないように 雨依: わ、わかってるわよ…… ピュルテ: ぶつかる……ぶつかり稽古…… テュポーン: ピュルテがなんかいってる。たぶん、まちがい パラケルスス: 物理的な衝突も試してみたいところだけど、 レオナの話だと特にそんなことはしてなかったんだろう? パラケルスス: ということで、ふたりとも各々エルマイトとディマイトを高めてもらえるかな。 とりあえず、例のリルが消えた魔法陣のところまで行こうか 180004 - 力と力のぶつかり合い 人間さん: やれやれ。女子は準備に時間がかかるっていうけど アヌ: 異世界に飛ぶかもしれないんだし仕方ないでしょ オーディン: わたしたちは着の身着のまま、ここに来ていますから身支度も何もありませんけど…… テュポーン: うまれたままのすがた? オーディン: そ、それは裸です……っ!! 人間さん: しかし、μ3人とオトギノクニを歩くことになるとはなぁ テュポーン: ふんふんふーん♪ アヌ: ごきげんだね、テュポーン テュポーン: 見て!肉が落ちてる オーディン: あ、あれは落ちてるんじゃなくて並べてるんですよ!屋台で売ってるんです。 勝手に食べちゃだめですからね……! 衛兵: もしもし 人間さん: え?あ、はい 衛兵: その幼女たちをどこへ連れ去るつもりかね 人間さん: えっ 住民1: ひそひそ…… 住民2: ざわ……ざわ…… 人間さん: しまった……ここくらい文化レベルが高いと、このメンバーは事案扱い……!? 人間さん: あ、あの、幼く見えますけど、この子たちは全然幼女とかではなくて テュポーン: テュポ、よーじょ! オーディン: ようじょってなんですか?わたしもですか? アヌ: 養女か……うん、いいね。私はそのつもりだよ 人間さん: あああああああああ 衛兵: 詳しい話は詰所で…… レオナ: あー、まってまって!その人は大丈夫だから! わたしたちオトナのレディと待ち合わせてるところだから! 衛兵: あっ、お母さんたちですか 雨依: 誰が母親ですって?私そんな歳に見える? ピュルテ: 雨依さん!ディマイトが漏れてます! (背景切換...) 人間さん: ああ……改めて考えても危ないところだった……。みんなが遅いから…… 雨依: だってレオナが作ってくれたヘアアイロンの調子がいまいちだったんだもん パラケルスス: まあまあ。じゃあ気を取り直して始めようか (背景切換...) ピュルテ: それじゃあサイコロを振りますよ!一番、出目が弱かった人がショットをぐいっと! オーディン: え……あの、な、なにこれ…… アヌ: ピュルテが人間界ってところにいたとき、しょっちゅうやってた遊びらしいよ テュポーン: ヴェルが、ただれたあそび、っていってた (パラケルススによれば、俺はエルマイトを雨依はそれに対して ディマイトを出力して対抗しろということだった。 その趣旨を踏まえてピュルテが台本を書いてくれたのだが……。) レオナ: ね、どう?人間さんくん、この中で狙ってる子とかいる? (レオナは幹事を務める友人役だ。) 人間さん: そうだな……あの金髪の子とか…… 雨依: は?なに見てるの?キモ 人間さん: ねえ、このあと二人で抜けない? 雨依: 無理なんだけど。普通に始発で帰るから ピュルテ: はい、雨依さんの番ですよー!サイコロっ 雨依: はいはい ピュルテ: 2の目。じゃあ、雨依さん飲んでください 雨依: ルールよくわかんないんだけど……まあ、いいわ。んっ、ぷはっ ピュルテ: では雨依さんから 雨依: なんなのよ、これ ピュルテ: あっ、ヒフミです!2杯飲んでください 雨依: はあ!? 人間さん: ほら、ルールだからさ 雨依: わかったわよ……ぷはぁっ、あー、これやば 人間さん: やばい!?あ、じゃあ肩貸そうか?横になる?ベッドあった方がいいんじゃないかな? 雨依: ほんと、そういうの無理だから 人間さん: いや、足元ふらついてるよ。捕まって 雨依: あ……うん…… パラケルスス: ストップ、ストップ (やっと止めてもらえた。地獄かと思った……。) パラケルスス: だめだよ、雨依。ディマイトを出し続けないと 雨依: 無理よ、こんなの!演技だし嘘だもん! 人間さんになら今すぐホテルに連れて行かれたい! ヴェルメリオ: ……これはお芝居。これはお芝居。動揺しちゃだめ、ヴェル レオナ: ねえ、パラケルスス。 こんな茶番じゃエルマイトもディマイトも全然出ないと思うんだけど 人間さん: 正直、この台本の俺の役、くっそキモいし……こっちがディマイト出そうだった…… ピュルテ: いいシチュエーションだと思ったんですけど テュポーン: ねえねえ、なんでういばっかり負けたの?サイコロって運じゃないの? ピュルテ: あ、これイカサマサイコロなので テュポーン: ずるっこだ! レオナ: μ世界で空間が開いたときは確か、息ぴったりで真逆のこと言ってたんだよね。 ああいうのを再現すればいいんじゃないかな パラケルスス: 理屈はわかるけど、そんな都合のいい議論ってあるかな ピュルテ: やはりここはぶつかり稽古しかないのでは パラケルスス: 物理か……ま、試してみようか。それじゃそれぞれ力を溜めてみて 人間さん: ……といきなり言われても。戦闘民族が気を高めるみたいなことじゃないんだよ (はああああ!とか叫んだだけで出て来るなら苦労はしない。) 雨依: じゃあ、私はとりあえず―― 雨依: これでよし、と 人間さん: 戦闘民族みたいな人がここにいた……え、じゃあ俺はどうすれば…… ヴェルメリオ: ……手伝おうか、人間さん 人間さん: 頼もうかな…… 雨依: は!? パラケルスス: 魔法陣がちょっと光った……!いいぞ、その調子…… 雨依: だったら私に頼めばいいじゃない! ヴェルメリオ: ……それだと雨依のディマイトが高まらないでしょ 雨依: くっ……! レオナ: 今だ、人間さんくん。空気の読めない一言を! 人間さん: 三人でっていうのはどうかな 雨依&ヴェルメリオ: 最低! (パァン) ピュルテ: 出ました、ダブルビンタです! アヌ: ピュルテはちょっと楽しんでるよね 雨依: あっ……! オーディン: 光が……!? 人間さん: なんだ……っ!?身体が何かに引っ張られるような……っ!? 雨依: きゃああぁぁっ!! (背景切換...) ピュルテ: あっ……み、皆さんの姿がありません!これって、もしかして パラケルスス: どうやら転移が完了したようだね。 てっきり空間に穴が開いて、向こうの様子が見えるのだと思ったけど レオナ: これだと行き先が確認できないから不安だわ。でもどうして、前回と違ったのかしら パラケルスス: まだまだ研究の余地があるというわけだね。 気軽に実験できないのが悩ましいところだけど レオナ: それにしても、わたしやピュルテを置いて、 ちゃんと行く予定だった子たちだけ消えるのも不思議ね ヴェルメリオ: ……うっかり巻き込んでくれればよかったのに オーディン: あ、あの…… レオナ: ん、なに? レオナ: って、え、あれっ!? オーディン: わ、わたし、残っちゃったんですけど……? (背景切換...) カロラ: うーん……目撃情報は結構集まったんだけどな フェルディナ: 話によると、ニーチェを連れ回していた女はかなり目立つ格好をしていたみたいだし シャルロッテ: 問題は、どこへ消えたかですわ カロラ: 派手な格好で印象付けておくことで、 肝心の町から出るときにちょっと変装すれば見つかりにくい……ってところか フェルディナ: そういうものかしら カロラ: よく知らない相手のことは記号的に記憶しがちだからな。 黒いローブでも着こんで髪をおろしたらわかんないだろ フェルディナ: 知り合いでもなんでもない相手なんだものね シャルロッテ: なかなかの策士なのですわ カロラ: しょうがねーな。一旦ここいらで姉ちゃんたちに報告するか フェルディナ: まだ成果を上げていないのに!? カロラ: 報連相ってやつだよ。あたしらは今、手足なんだからさ。 頭脳に判断を仰ぐのは別にへなちょこなことじゃないぞ フェルディナ: ……わかったわよ シャルロッテ: いろいろと状況も変わってるようですし。戻る方がいいのですわ カロラ: (こいつ……人間さんが戻ってきたって聞いてから、ずっとそわそわしてたもんな……) シャルロッテ: うふふふふふっ フェルディナ: なんなのよ、ニヤニヤして。気持ち悪いわね シャルロッテ: なんですって! カロラ: (そしてフェルディナは、 なんでそういう妹の心の機微にまったくもって無頓着なんだか……) 180005 - 地理と事前知識 (パイフーに案内されて、リルは森を進んでいた。目指すは最寄りの町だ。) パイフー: このまま真っすぐ行けば町…… リル: 助かった。礼を言う パイフー: ここからひとりで行く……? リル: ああ。小生の当面の目的は仲間との合流だ。 それを果たした後は、おそらく強敵と対決することになる リル: いずれもパイフー殿を気軽に巻き込んでいいものではない。 ここまで世話になったことすら、小生がしたことへの対価としては過ぎたものだ パイフー: そう……なら気を付けて…… リル: ……そうだ。最後にもうひとつ、世話になりたいのだが パイフー: なに? リル: 妙なことを言うと思うだろうが、小生はこの世界のことをまるで把握していない。 できれば、大まかな地理を教えてもらえないだろうか パイフー: なにそれ……変なの…… パイフー: でも、いいか……別に……。地図、ある? 信民: はい、こちらに。それではご説明しましょう。 パイフー様は説明がド下手……いえ、寡黙な方なので リル: 口が悪いな、貴君は 信民: このあたりはパイフー様の所領。西方に位置する地域となります。 世界は大きく、東西南北の4つに分かれておりまして 信民: その中央に位置するのがあれです リル: む……ずっと気になっていたが、あそこにそびえる山は、かなり高い山なのだろうな 信民: クンルンの山です。この世界のどこにいても見えると言われていますからね (山頂付近は雲に隠れており全体像が見えないが、 かなり大きな山であることは間違いなかった。) リル: 西方から中央を見る、つまりあちらが東側にあたるわけか パイフー: 賢いね、リルは リル: そ、そうか……? 信民: ただ、このパイフー様の西方領域の境界は越えないことをおすすめします リル: それは、どういうことだ? パイフー: 危険だから……。 お札を貼った背の低い木が等間隔に並んでるから、境界線は見ればすぐわかる リル: どう危険なんだ。魔物でも出るのか パイフー: ……治安 信民: それぞれの所領を治めるμの方々をはじめ、 信民たちもすべてかつてと様子が変わってしまっているのです 信民: 我々のように友好的ではありません。どうか、くれぐれもご注意を リル: ……なるほど。心得ておこう (背景切換...) (気が付くと、そこは魔法陣が描かれた洞窟ではなかった。ただただ、だだっ広い野原だ。) (気候は穏やかで、どちらかというとオリンポスに似ている。 だが、オリンポスそのものではないと、自分のカンが告げていた。) 雨依: はっ……?え、なに、待って!?ここどこ!? アヌ: たぶん……リルが飛ばされたっていう世界、じゃないかな。 そうじゃなかったら結構やばい状況かも 雨依: だって前回はちゃんと入り口が開いて、心の準備もしてから移動できたのに……! テュポーン: テュポ、よくわかんないや 人間さん: というかオーディンは? テュポーン: あれ?いない アヌ: 別の場所に飛んで行っちゃったとか? 雨依: レオナとリルみたいに? 人間さん: だとしたら変化があったはずだ。ヴェルの話だと魔法陣の光の色が変わったとか 雨依: レオナたちが気づいて、対策を考えてくれるかな? でも、あの子たちまで飛んじゃってたりは…… アヌ: ……可能性を考えても仕方ないよ、雨依。 もちろん町で目撃情報を聞いたりとかはするべきだけど、 ここであれこれ考えても仕方がない アヌ: 私たちは、私たちにできることをやらないとね 雨依: アヌ……。ええ、そうね。『かもしれない』に囚われて怖がるの、私の悪いクセだわ アヌ: そうそう。だから私もできることが少ないだけなんだよ。 エンリルは、できることが多い。それだけ テュポーン: だから1日、ぐーたらしてるの? アヌ: ぐーたらって言わないで!ていうかテュポーンは私の生活知らないでしょ テュポーン: みんなからきいたよ アヌ: ぐぬ…… (ここでとどまっていても仕方がない。 ひとまず人のいる場所に向かわなくては情報が少なすぎる。) (――と、ふと上を見上げて。) テュポーン: なあに、これ (すぐ近くに、大きな岩が宙に浮かんでいた。 岩と呼んでいいのだろうか、その表面は確かに岩肌のようだったが、 あまりにも巨大で――) ???: あんたたち、そこで何をしてるんだい 雨依: 助かった……あの、私たちこの近くの町に行きたくて ???: なんだ、道に迷ったのか。まあクンルンの山を目印にしようにも、ここまで近いとね アヌ: クンルン? ???: すぐそこにあるだろ (通りかかった彼が指したのは、宙に浮いている岩だった。) 人間さん: これが……山……? ???: さ、それじゃ案内するよ (背景切換...) (案内されたのは、そこそこ賑わっている町だった。 そこかしこに、煌びやかな装飾が施されている。) 雨依: ねえ、人間さん。μ世界って、要するに神話世界よね (雨依が小声で俺に話しかける。 人間界出身の彼女とは、こうした視点で情報共有もできるので話が早い。) 雨依: なんか中華街みたいな雰囲気だけど、もしかして中国神話の世界なのかな? 人間さん: ……だとしたらまずいことになったな 雨依: え、なんで? 人間さん: 俺……中国神話、よく知らないんだ…… 180006 - 働かざる者も食べ放題? 信民: さあさあ。腹が減っただろう。好きなだけ食べるといい (テーブルには所狭しと料理が並ぶ。レオナの家を出発する前に軽食を口にしていたので そこまで飢えてはいなかったものの、食欲をそそる匂いについ手が伸びる。) (だが、無償の善意を簡単に信じていいのか、と理性がそれを止めた。) 人間さん: あの、俺たちお金持ってなくて 雨依: こんなに用意してもらっても払えないわ 信民: なに言ってるんだ。食べ物にお金なんか払わなくていいんだよ テュポーン: えっ?だってガアが、ごはんはおかねかかるって教えてくれたよ アヌ: タダってこと?この料理が? 信民: もしかしてよその地方から来たのかい? チンロン様の領内では、食べ物はすべて無料なんだよ 雨依: ええっ!?なにその夢みたいな話 店主: 本当だから安心して食べなされ。わしが畑から直接仕入れた、最高の食材じゃよ アヌ: え……じゃあ、いただいちゃおうかな 人間さん: そうだな……。 簡単には信じられない話だけど、ここで疑って手を付けないのも失礼な気がするし…… (何より美味そうな匂いの誘惑に、これ以上は勝てそうにない。) 雨依: あっ、美味しい!なにこれ、甘辛い味がクセになりそう。 ヤンニョムチキンとも違うし、なんていうんだろ 人間さん: 本格中華にも詳しくないんだよな。朱雀にもっと教えてもらっておけばよかった (オトギノクニにいる四神のひとり、朱雀はよく俺の直轄領の家にもときどき 顔を出しては料理を作ってくれた。どこか、その味付けに似ている気がする。) (というエピソードを披露すると 雨依がどう反応するか怖いので口に出すのはやめておいた。) アヌ: うわあ、ほんとだね!美味しいよ、これ 店主: そうじゃろう、そうじゃろう テュポーン: おいしい!もう森に生えたきのこなんか食べないよ 雨依: これって、何? 店主: 大豆をすり潰してぎゅっと固めたものじゃよ。 豆そのままだと食べ応えが物足りなくなるんでね 人間さん: (大豆ミートみたいなものか。ヘルシー志向の店なのかな) (となると若い女性客が多いのかとも思ったが、 店内を見回すと老若男女の偏りなく賑わっているようだ。) 雨依: ねえ、私たちすごく田舎者で、何も知らないんだけど…… さっきのあのクンルンって山はどうなってるの?浮いているように見えたけど 信民: あはは、辺境から来たのかい。遠くだと山が浮いているようには見えないからねえ 店主: あれはファンロン様がおわす聖なる山なのじゃよ。 実際に宙に浮いておって、ふもとの大地から階段が伸びておる アヌ: すごい魔法だなぁ。山を浮かせるなんて テュポーン: ふぁんろん?それ、μ? 信民: もちろんそうだ。中央にあるクンルンの山に住む信民たちを守ると同時に、 この世界全体にも目を光らせておられる アヌ: ふうん……キに近いのかな。 雨依: ねえ、食べ終わったらちょっと町をぶらついてみましょうよ。 どんな世界なのか知っておかなくちゃ アヌ: そうだね。 少なくともこのあたりは平和そうだけど、もしかすると聖母の手が伸びてるかもだし テュポーン: 聖母……! アヌ: こらこら。落ち着いて 人間さん: ファンロン様ってどんな人なのか知ってるか? 信民: ファンロン様は素晴らしい方でね。 五獣の長として、チンロン様を始めとするμの皆さんにもとても慕われているんだよ 店主: あんたたちは誰の領地から来たんだい 雨依: えっ?え、えーと……北の方、かな 信民: ああ、シェンウー様の領地からか。 どうりであんた、ちょっとエッチな雰囲気だと思ったよ 雨依: エッチな、って……セクハラ……!? テュポーン: えっちなふいんき?うい、えっちなんだ アヌ: 私からも出てる? 信民: ………… 信民: どんな人でも分け隔てなく参画させてくれるのが シェンウー様だと聞いていたけど、実際そうなんだなぁ アヌ: なんか嫌な間があったんだけど。 しかも回答もすごくふわふわして引っかかるとこだらけだし…… 雨依: アヌはエッチな雰囲気が出てるって言われたいわけ? アヌ: ちょっとくらいは出ててほしい (背景切換...) (食後、案内してくれた信民や店主に丁重に礼を言って、 俺たちは町に出てみることにした。) 雨依: 今のところ、異変らしい異変は起きていないみたいね アヌ: 私の世界みたいに、明確に争いが起きている感じでもないし 人間さん: オーディンたちの世界のように、危機が迫ってもいないし テュポーン: おひるねできそうなくらい、何もないね 雨依: それはそれとして……。すごく美味しかったんだけどさ、 あのお店って健康食みたいなコンセプトのお店だったのかな? 人間さん: 俺もそれは思った。野菜とか雑穀とか豆とか…… それを濃い味付けでいかに美味しく食べるか、みたいな感じだったよな アヌ: それ、健康?あの味付けで健康っていうイメージはないけど 人間さん: 人間界にはわりとあるんだよ。健康食というか、たぶん思想的な…… テュポーン: あれ見て! (テュポーンが指したのは日雇いの仕事に就ける人を探す張り紙だった。 食事は無料なのだとしても、宿代はかかる。当面の現金が手に入るのはありがたい。) テュポーン: これしってる。ガアがおしえてくれた。お仕事くださいってやつだよ 雨依: えー……なんか倉庫の片づけとかしんどそう…… これだったら、私がアレで稼いだ方が手っ取り早い…… 雨依: ――と思ったけど、私はもう人間さんのものだし、 そういうのやめるって決めたんだった 人間さん: そういうの? 雨依: なんでもない!ほら、行ってみよう。すみませーん、張り紙をみたんですけど! アヌ: 働くのかぁ…… 180007 - グリムの選択 ヴィルヘルミナ: シェイクスピアの証言を信じるなら、コードの書き換えは彼女の就任の時期。つまり…… ジャコヴァ: 現役コミッティ13人のほか…… ジャコヴァ: ほか……。ん……ほか……?……。……ヴィル ヴィルヘルミナ: 8名よ。収監されていたペローを除外すると7名 ヴィルヘルミナ: アイソーポス、キャロル、ダンテ、ゲーテ。それに紫式部とフアナ、マロリーね ジャコヴァ: うんうん ヴィルヘルミナ: まさかあの監獄を使うことになるとも思ってなかったとはいえ、 セキュリティがこんなにザルだなんて ジャコヴァ: 紫式部も入るのか? ヴィルヘルミナ: 退任したのはシェイクスピアが入った後だもの ジャコヴァ: よく覚えてるな ヴィルヘルミナ: 記録が残ってるのよ。正確に覚えてるわけないでしょ。 資料を読めば、ああこんなこともあったっけ、とは思い出すけど ジャコヴァ: ふむ…… ヴィルヘルミナ: そんなことはいいの。問題は、誰がペローの脱獄を手引きしたのか ジャコヴァ: 人間さんは、ほぼアリバイがあるな ヴィルヘルミナ: ワタシたち、それに可愛いエミリーは除外できるわね ジャコヴァ: 後は推測でしかないか ヴィルヘルミナ: 心情的に、シンデレラとドロシー、それにフアナも外していいとは思うけど…… ジャコヴァ: 推測でしかない カロラ: おー、姉ちゃんたち、帰ったぞー ジャコヴァ: うるさい カロラ: うわっと! フェルディナ: 痛い!! カロラ: おい、ジャー姉ちゃん!?いきなり資料の束を投げるのはやめろよ! あたしに当たったらどうすんだよ! シャルロッテ: さすがカロラ姉さま、反射神経がいいですわ フェルディナ: ねえ、私の心配は!? ヴィルヘルミナ: そんな茶番より、成果はどうだったのかしら。 帰って来たということは多少の進展はあるのよね? カロラ: ああ、一応な フェルディナ: 進めないでよ! ジャコヴァ: フェルディナ フェルディナ: な、何? ジャコヴァ: 痛かったか? フェルディナ: うん…… ジャコヴァ: そうか ジャコヴァ: カロラ、続けろ フェルディナ: それ姉さんの中で心配したことになるわけ!? シャルロッテ: 私たちはなんとか足取りをつかめましたわ。ただ、気になることが…… (背景切換...) ヴィルヘルミナ: なるほどね…… カロラ: 一緒に目撃されてるやつが、どういう立ち位置なのかまではわかんねーんだけどな シャルロッテ: 友好的なのか、誘拐したのか、脅して連れて行ったのか…… いろいろと考えられますけども ジャコヴァ: だが、その特徴…… ヴィルヘルミナ: ええ。ということは、脱獄の件も カロラ: 脱獄? ジャコヴァ: ペローが脱獄した。何者かの手引きで フェルディナ: ええええええええ!? ジャコヴァ: うるさい フェルディナ: 今度は見切った! シャルロッテ: はっ! フェルディナ: 痛い! フェルディナ: ちょっとシャル!なんで避けようとしたのに、私のこと押さえつけたのよ!? 当たったじゃない! シャルロッテ: 姉さまが避けたら私に当たりますわ フェルディナ: ひどい! フェルディナ: って、そんなことはいいのよ。ペローが脱獄ですって? ヴィルヘルミナ: 自分で軌道修正したわね カロラ: ジャー姉ちゃんが次を構えてたからな フェルディナ: じゃあまさか、ニー……あの人と一緒にいたのって…… ジャコヴァ: ペローを捕まえるなら、目撃された地域を中心に特務機関で 一斉捜索し手引きした者を捕縛、尋問するのが最善だな ヴィルヘルミナ: ただし情報の出どころは必ず聞かれるわよ。 そうなると、ワタシたちがあの作家を追いかけていたことも明らかにしないと不自然だわ ジャコヴァ: ……厄介だな シャルロッテ: どうしますの……? ジャコヴァ: フェルディナ、どう思う フェルディナ: えっ……!?ジャコヴァ姉さんが私の意見を!? フェルディナ: う、うう……ずっとのけ者にされてきたと思ったけど、 ジャコヴァ姉さんもやっと私のことを認めてくれたのね ジャコヴァ: いいから聞かれたことに答えろ。あと3秒 フェルディナ: ききき決まってるわ!ペローを捕まえるのが最優先よ! ジャコヴァ: そうか ジャコヴァ: ヴィル、ペローは一旦泳がせるぞ ヴィルヘルミナ: わかったわ。 カロラたちは引き続きその足取りを探って。くれぐれも誰にも気取られないように カロラ: おう、わかった フェルディナ: ちょ、ちょっと!?私の意見は!? ジャコヴァ: 真逆の選択をした方が正しいだろ フェルディナ: ひどいわ!! 180008 - ヘルシー志向 テュポーン: ふぅ。テュポ、ねむくなってきた 雨依: そうね。疲れもあるし、地道な仕事だったから確かに後半眠かったわね……。 でもこれで、いくらかまとまった現金が手に入ったわ…… アヌ: 労働って大変だよね 人間さん: 身体を動かしたら腹が減ったな。昼間にあんなに食べたのに…… 雨依: ヘルシーメニューだったからね。夜はがっつり食べましょ テュポーン: ごはん! 雨依: 本当は、美容のためには夜は少なめがいいんだけどね アヌ: こういうときは気にしちゃだめだよ。私は夜でもがっつりいくよ 人間さん: こういうとき食費ゼロなのは本当にありがたいな。チンロンってμさまさまだな テュポーン: あそこから、いいにおいする 雨依: あの店?いいわね!じゃあ早く行きましょ (背景切換...) 店員: 当店ではサービス料を頂戴していますがよろしいですか 雨依: うっ……そっか、サービス料は食費じゃないから…… 人間さん: あ、でも料金はここに書いてあるぞ。そんなに高いわけじゃないし、いいんじゃないか? アヌ: がんばったご褒美だよね 店員: では、メニューはこちらになります。お決まりになりましたらお呼びください 雨依: えーと……焼き野菜のマリネ、豆腐ハンバーグ、 きのこと雑穀のピーマン詰め、ビーツあえパスタ、ゴボウごはん…… アヌ: え……また、野菜ばっかり? 雨依: 肉とか魚が何もないなんてことある?さっきの店だけならまだしも、二軒目もなんて…… 人間さん: だいぶ身体も動かしたし、ちょっとボリュームあるものが食べたいよな…… 雨依: ちょっと聞くだけ聞いてみない? テュポーン: うん、きいてみて 雨依: すみませーん! (背景切換...) (辿り着いた町で、リルはひとり聞き込みをしていた。町で見慣れない人物がいなかったか、挙動の不審な者はいなかったか。しかし答えはどれも芳しくないものだった。) リル: ようやく手がかりが見つかったと思えば、これだ 悪い信民: ひいいい、お助けを…… (不審な人物がいると聞いて駆け付けたリルが出会ったのは、 女性の洗濯物を盗むチンケな信民だった。) リル: お前ごとき、この剣の錆となる資格すらない。とっとと衛兵のところに行くぞ リル: ふう……それにしても聞き方が悪かったようだな。 不審な人物というのはあまりにもざっくりしていたか…… 悪い信民: なあ、あんた リル: しかし、慣れない世界に飛び込む以上、そう簡単に溶け込めるはずは…… いや、だが人間さん殿も既に3回目の転移か 悪い信民: 聞いてるか? リル: ヴェル殿が戻って来た頃に次の場所へ向かったのだとすれば、それなりに時間も…… 悪い信民: おい! リル: 斬り捨てられたいか! 悪い信民: ひいいいいい! リル: なんだ、さっきから。言っておくが交渉しようなどと思うな。 小生はこれでも正義感が強い方でな。悪者のように見えるかもしれないが、 それはお前の気のせいだ 悪い信民: ち、違う違う。誰か人探しをしてるのかと思ったから リル: む……? 悪い信民: あれだろ、お尋ね者を探してるんだろ?それで間違って俺に行き当たった……だよな? リル: まあ、そんなところだが 悪い信民: だったら東方に行ってみろよ。チンロン様の領内で近頃、噂になってるぜ リル: (東方か……危険だと言われてはいるが、しかし虎穴に入らずんば虎子を得ず……) リル: どんな噂だ 悪い信民: 猟奇犯罪集団が逃走してるらしい。既に領内全域に指名手配がかかってるんだとさ リル: 猟奇犯罪……?いったい、何をやらかしたんだ。しかも集団なのか? 悪い信民: 国境を越えてすぐの町だ。 ここからならクンルンの山を越えて最初に見えてくるから、分かりやすいはずだぜ リル: なるほど…… リル: (確かにリスクをとらなくては成果は期待できないが、 この男の話が事実かどうかの裏付けは必要だな。 場合によっては、逆恨みして小生を危地に追い込むのが目的かもしれない) 悪い信民: あ、信用してないな? リル: 逆に、どうして信じてもらえると思ったか聞きたいな 悪い信民: 案内したら見逃してくれよ。なっ? リル: 結局それか リル: (しかし……見返りを求めるということは、やはり情報は確かなのか?) リル: (もし案内先にこいつの仲間が大挙して待ち受けていたら…… いや、そのときは全員斬り捨てれば済むことか) リル: いいだろう。東方の、その町まで案内してもらおうじゃないか 悪い信民: 話がわかるね、ネコ騎士ちゃん! リル: ん? 悪い信民: うぇっ!? (男の鼻先にリルの剣が突き付けられる。硬直する男に、リルは静かに告げた。) リル: 妙な動きをしたり、情報が嘘であったり、 その他、小生の機嫌を少しでも損ねたら首と胴が泣き別れになるぞ 悪い信民: ひゃ、ひゃいっ…… 180009 - フアナの職務 (――コミッティ議場外廊下――) フアナ: うーん…… (フアナは思案顔で廊下をとぼとぼと歩いていた。 コミッティ統合司令たる彼女に下された任務は多岐にわたる。) (もちろん司令であると同時に副議長でもあり、 意見を唱えることは可能な立場だったのだがーー 彼女は議会の決断をひとまず受け入れた。) (受け入れてはみたものの、やはりしっくりこない。 どう立ち回るべきなのか、彼女は頭を悩ませていた。) エミリー: あ、フアナ。どうしたのぉ、こんなところでひとりで フアナ: エミリー…… エミリー: あ、ひとりなのは普段からそうだっけ フアナ: うん…… エミリー: あれ、いつもならツッコんでくれるのに。もしかして、元気ない? フアナ: 元気ないというか、考えごとをちょっとね エミリー: さっきの話?特務機関の人たちにいろいろ任務ができたもんねぇ フアナ: あたしは、ペローの追跡に傾注するべきだと思うんだ。 こうして脱獄した以上、今回の事件のいろんなことを知っているはずだし エミリー: あー……。でも実際は、いろんな任務ができちゃったもんねぇ フアナ: ポセイドンと同じ様にμの世界から来た人がいないか探せって、そんなの無茶だよ。 針山から針を探すのと同じだよ エミリー: それ、藁じゃなかったぁ? フアナ: 細かいことはいいの! エミリー: フアナって友達探しに夢中なのかと思ったら、意外と仕事熱心なんだよねぇ。 根が真面目なのかなぁ フアナ: それよく言われる……だから面白味がないんだって…… エミリー: 凹んじゃったぁ。エミリーはフアナのこと、面白お姉さんだと思ってるよぅ フアナ: エミリーは優しいね エミリー: いまの悪口なんだけどねぇ フアナ: いや、面白お姉さんのとこじゃなくて、こうして気にして話しかけてくれるところとか エミリー: まあねぇ。実は自由に見えて気遣いの子だから フアナ: え、待って。面白お姉さんって悪口だったの!? エミリー: それよりエミリーはあっちの任務が気になったなぁ。 ほら、海がなんか変になってるんでしょ? フアナ: 海が黒くなってる、って噂ね。そんなの、この忙しいのに調べてる暇なんてないよ エミリー: でもほら、海と言えばポセイドンだし フアナ: あの子が何か悪いことしてるって?それはないと思うな エミリー: わざとじゃないかもよぅ?ドロシーに力をあげたんでしょぉ? フアナ: あれは縁を結んだだけで、別に分け与えてるわけじゃないって聞いたよ アイソーポス: ああ、フアナ。ここにいたのか。エミリーも、久しぶりだね エミリー: アイソーポスだぁ。フアナに用事なのぉ?エミリー遠慮しよっか アイソーポス: いや…… 青龍: あーっ、フアナ司令!こんなところにいた! あたしたち何すればいいか指示してくれないと! (各部隊に所属する新生特務機関のメンバーたちが、フアナを取り囲む。 彼女が複数の人に囲まれることなど、かつてあっただろうか。) ルドルフィン: そうだよ、それぞれ役割分担を伝えるからって言ってたのに ナイトゴーント: フアナ司令!ミルズさんが体調不良で欠席だって! なんかすっごい吐き気とかあるらしいんだけど妊娠かな? フアナ: ま、待って待って。いっぺんに喋らないで! あたし、人に話しかけられるだけでも慣れてないのに! フアナ: ごめん、エミリー。アイソーポスさんも。あたしちょっと行かなくちゃいけなくて…… アイソーポス: ああ、私のほうは気にしないでくれ。また折を見て出なおすよ エミリー: エミリーもただのお話だから気にしなくて大丈夫だよぅ フアナ: ごめんねー! 青龍: ほら行くよ! ナイトゴーント: みんな待ってるんだから! フアナ: えへへぇ……人に必要とされるって最高だなぁ…… エミリー: 浮かれて失敗しなきゃいいけどねぇ アイソーポス: ちょっとくらいは失敗もあるだろう。 それを乗り越えて人は成長するんだから、それでいい エミリー: 相変わらず達観してるねぇ。でも本当に良かったのぉ?フアナとお話しないで アイソーポス: 大したことじゃない…… というか、大したことかもしれないが、その確証がまだ得られないのでね エミリー: ふぅん? アイソーポス: エミリーは知ってるかな。元コミッティの現在の居場所を エミリー: 元コミッティって…… アイソーポス: 私を筆頭とするOp7の7名だよ。 ああ、もちろんペローの居場所は知らないだろうけどね エミリー: えーとぉ?ウィラは普通に今もここにいるし。 ダンテは確か修行のために雪の国に行くって…… ティーミアは、なんか乗り物を作りたいって黒鉄の国に相談に行ったねぇ エミリー: あとは……わかんないや。あ、キャロルのことならミルズたちが知ってるかもよぅ? アイソーポス: そうか。いや、いいんだ。私が知りたいのはキャロルではないから。 ではフアナに、いまを楽しんで、と伝えておいてくれ エミリー: ……ふうん? 180010 - 正しいお留守番 オーディン: ぼー…… (――コミッティ直轄領レオナ別邸――) (オーディンはソファに座ったまま、ぼんやりと宙を見つめていた。 一目見て、覇気がないのがわかる。) (ピュルテたちは顔を見合わせる。例の『セレスティアル』が保有していた洞窟内の施設から、このレオナの家に戻ってきて、既に一時間以上が経過している。) (しかし彼女は、ずっとこの調子だった。) ピュルテ: レオナさん、あれは人をダメにするソファですか? レオナ: ううん、違うよ。でも今の状況を見るにダメな人が座るソファではあるよね ヴェルメリオ: ……ダメとか言わないであげて。オーディンはショックを受けてるんだから パラケルスス: 一緒に冒険に行くと意気込んでいたのに、まさか自分だけ取り残されるとは…… オーディン: ぼー…… ピュルテ: お、オーディンさん!たまたまですから。誰が悪いって話じゃないんですよ ヴェルメリオ: ……そうそう。人間さんがおいていったわけでもないし、 魔法陣との組み合わせとか、相性とか、なんかそんな感じ オーディン: いいんです……わたし、要らない子ですから…… そんなゴミに気なんて遣わないでください…… ヴェルメリオ: ……自己肯定感が底辺まで落ちてる レオナ: 元々そんなに高くなさそうな子だったもんねぇ パラケルスス: みんな、根拠もなく甘いことを言うのはやめたらどうだい ピュルテ: そんな、根拠ってほどのものはないですけど、でも パラケルスス: オーディンは選ばれなかった。これは厳然たる事実だ オーディン: はぅっ…… ヴェルメリオ: ……や、やめてあげて パラケルスス: 考えるべきは、何故選ばれなかったのか。誰が選ばなかったのか。 この二点に尽きるとぼくは思う レオナ: まあね。ロジカルだし共感するけど、オーディンの気持ちにも寄り添ってあげないと パラケルスス: 寄り添う?ぼくにはできないよ。選ばれなかったことなんてないからね ピュルテ: パラケルススさん……以前から思ってましたけど、もうちょっとこう優しさ みたいなものはないんですか!?オーディンさん、泣いちゃいますよ パラケルスス: オーディン。きみはどうしたい。ただ呆けて時間を無為に過ごすのもきみの自由だ。 連れてきた以上、レオナには扶養する義務があるし レオナ: え、そうなの!? パラケルスス: 誰に選ばれなかったのか。人間さんくんが意識的に外したわけではないのは明らかだ。 無意識でどう思ってたかはともかく オーディン: あぅ…… パラケルスス: でも人間さんくんも、そして雨依も、きみのことが仮に嫌いでもあの一瞬で意図的にメンバーを選抜できるか?雨依は術者としては粗削りで、細やかな操作なんてできないよ パラケルスス: 人間さんくんに至っては言わずもがな、ド素人だ。 つまり、他の誰か……というか、何かが選抜したんだ オーディン: 他の……何か……?アヌさんとか、テュポーンさんとか? パラケルスス: あれは人間さんくんと雨依の力で起きた事象だ。彼女たちは選ばれる側でしかない オーディン: それじゃあ……? パラケルスス: ぼくにもわからないよ。でもそれを知りたいとは思わないか? 知って、その謎を解き明かせばきみはまた人間さんくんと旅ができるかもしれない ヴェルメリオ: ……え、わたしも知りたい パラケルスス: ひいては複数ある世界のためにもなるかもしれない。 どうだ、ついていくより壮大な可能性が広がっているだろう オーディン: 一緒にいなくても、お役に立てる……ってことですか……? パラケルスス: ぼくなら、その手伝いができる。きみさえ立ち上がればね オーディン: あ……うぅ……わ、わたしっ、やってみます! ピュルテ: オーディンさんの目に光が……! レオナ: うんうん。なんとか立ち直ってくれたかな オーディン: やりますっ! わたしが、世界を渡り歩くあの魔法陣の謎を解き明かすカギを見つけてみせます! ピュルテ: パラケルススさん、ごめんなさい。私、失礼なこと言って…… うわべだけじゃなくて、パラケルススさんは本当の優しさを―― パラケルスス: ふふっ……おもしろそうな実験台が手に入ったね……これから忙しくなりそうだ…… ピュルテ: 優しさ……。……って、なんだっけ…… (背景切換...) (信民の案内で、リルは東方チンロン領を目指していた。 だがその道中で、彼女は確かに自分の身体に異変を感じていた。) 悪い信民: もう少しだぜ、騎士さんよ。って、どうした。なんか顔色が悪くないか リル: なに、ちょっと疲れが出ただけだ。 もしかすると、昨日食べた魚に当たったのかもしれない 悪い信民: そりゃあ大変だなぁ…… リル: 言っておくが、この程度で小生から逃げられると思うなよ 悪い信民: わ、わかってるよ! (魚に当たった、というのは冗談半分の虚勢だ。実際にはもう少し明確に感覚があった。) リル: (体力の消耗が激しい……普段なら考えられないことだ。 ヴェル殿の体験談を踏まえるなら、これはもしかすると……) リル: (μの力を借りずに戦い続けた結果、か……?) (背景切換...) (――クンルンの山玉翠宮――) ???: チンロン。東方領で何やら騒ぎが起きているようね チンロン: そうみたいねぇ。報告では、とんでもない野蛮人が町で暴れているんだとか…… ???: そんなの、とっととぶっ飛ばしなよ ???: これこれ、そうはやるでない。敵の正体もまだわからんのだぞ ???: その野蛮人の討伐もだけど、どうやら領内に別の何者かが侵入しているみたいよ チンロン: あれはただの旅人らしいわよ? ???: いいえ。調べたところ、パイフーと繋がりがあるとわかったわ。 これで大義名分もできた。チンロン、あなたは―― ???: パイフーを討伐しなさい。それが、あのお方の望みよ 180011 - 野蛮な食生活 (時は、リルが西方領の町に到着する少し前まで遡る。) (人間さんたちは、食べ放題と知って、とある店で料理を堪能していたのだが、用意されたメニューがすべて野菜や雑穀を使用したものばかりで、やや飽き始めていた。) (背景切換...) 人間さん: 本当に聞くのか? 雨依: だって肉も魚もなしなんて物足りなさすぎるわよ テュポーン: おにく! アヌ: じゃあ雨依、お願いするよ 雨依: すみませーん!あの 店主: なんですかな? 雨依: あの、お料理とっても美味しくて、感動しました 店主: ほほ、それは何よりですな 人間さん: (いきなり聞かないで褒めから入るのか…… これまでの言動がアレだから誤解しがちだけど、実は結構コミュ力高いんだな……) 雨依: 特にこの豆腐バーグとか、すごくジューシーで 店主: ええ、ええ。大豆から厳選してるんですよ 雨依: それでその、相談なんですけど……。 私達、今日は身体を動かす仕事をしてきたせいで、 とても疲れているし栄養を欲してるんです アヌ: (そういう角度からもっていくのか……。あくまで私達に原因があるテイで……) 店主: それでしたら冬瓜のスープなどがありましてな…… テュポーン: とーがんって、なに? アヌ: まあ野菜だね 雨依: それもすごく素敵なんですけど、ほら、ちょっとボリュームのある メニューがいいなぁなんて思って。お肉とか、お魚とか? 店主: ……え? アヌ: (顔色が変わった!) 雨依: もしかしたらメニューにないのかな?なんて思ったので念のために聞いておこうと 思ったんです。でも、違いますよね。普通にないんですよね、ごめんなさい 人間さん: (やるな、雨依……顔色が変わったのを見逃さずに、すぐに逃げに切り替えた。 あくまでも落ち度は自分たち、という形は崩さずに……) 雨依: それじゃあ冬瓜のスープを―― 店主: お前に飲ませる冬瓜はねぇ! 雨依: !? アヌ: ちょ、ちょっとそんなに怒らなくても。聞いただけなんだから 店主: 肉だって?魚だって?命あるものを無慈悲に殺し、むさぼり食うというのか……! 店主: お前たち、さては野蛮人だな!おい、みんな!手伝ってくれ、ここに野蛮人がいる! 信民: なんだって、野蛮人!? 信民: 誰か衛兵を呼んできてー! 雨依: え、衛兵!?どういうこと!? アヌ: よくわかんないけど、これはまずい事態だね……。仕方ない。逃げるよ 人間さん: うおっ!?いきなり壁をぶち壊したっ!?な、何してるんだテュポーン! テュポーン: 逃げるんでしょ? アヌ: 背に腹は代えられない。よくわかんないけど、このままだと私たち牢獄行きだよ 人間さん: うっ……牢獄はもう勘弁だな……。仕方ない、行くぞ! (背景切換...) 衛兵: すぐに検問を!まだ遠くには行っていないはずだ!町から出すな! (裏路地に隠れている俺達のすぐそばを、衛兵が多数、駆け回っている。 かなりまずい事態だ。) アヌ: でも今の言い方だと、まだ検問は始まってない。町から出るならいまのうちだね 雨依: 土地勘もない町で、無事に追手をかわして町から出られる? テュポーン: でも、つかまりたくないよ 人間さん: よし、今だ!行くぞ! (まだ通報直後とあってか包囲網は完全ではない。 隙を見ながら、俺たちは路地を駆け抜けていった。) (土地勘はないが、はるか遠くに見える巨大な山が方向感覚を助けてくれる。 あの山が見える方向に進めば町からは出られるはずだ。) アヌ: それにしても、何で私たちは追われてるんだろ 雨依: そうよね。メニューにない商品を注文しようっていうのは、 確かに失礼なのかもしれないけど…… テュポーン: おこりすぎ 人間さん: たぶん、この町独自の何かがあると思う。 肉や魚を飲食店で出さないのも、それが理由なんじゃないか (人間界でもその土地独自の文化的な制約で、 食事や生活様式にルールがある場合は多い。 そして外国人など文化を知らない者が無自覚に踏み荒らしてしまうことも。) 雨依: 野蛮人、って言ってたもんね……。 肉とか魚を食べるようなやつは、人としてアウト、ってこと? アヌ: しっ、そっちの通りに衛兵がいるよ 衛兵1: そっちはどうだ? 衛兵2: いや、いない。すばしっこい奴らめ 衛兵1: しかし、野蛮人の集団数人のために、ここまで大掛かりな捕り物になるなんてなぁ 衛兵2: おまえ、知らないのか?あれはただの野蛮人じゃないぞ。これを見ろ 衛兵1: これは……! 雨依: 何か紙を見てる。あれって、私たちのこと……? アヌ: ふうん。もしかすると肉食だけが追われる理由じゃないのかもね 人間さん: とにかく……いまのうちだ。あっちから迂回しよう 180012 - 手配犯 (町の物々しい様子を敏感に察し、リルは顔に困惑の色を浮かべた。) リル: どうも衛兵が騒がしいようだが…… 悪い信民: 騎士の姉さん。申し訳ないが、俺はここまでにさせてくれないか。 こうも衛兵がうろうろしてたんじゃ、 姉さんに見逃してもらってもすぐに捕まっちまう リル: ……この町でも余罪があるのか、お前は。 仕方ないな、この町にいる以上の情報は持っていないのだろう? 悪い信民: ああ。後は悪いが、自分で当たってみてくれ。もっとも……この騒ぎ、 姉さんが探してる連中を追って動いてる、って可能性が高そうだがな (そう言い残して信民はさっと裏路地に姿を消す。リルは周囲に目を配る。) リル: (その予想は当たらずとも遠からずといったところか。 しかし、どうしてこんなことに……) 衛兵: おい、そこのお前。こいつらを見なかったか? リル: ん?これは……似顔絵?手配書か 衛兵: どうなんだ? リル: いや、見ていないな。力になれず申し訳ない。 ところで、こいつらは一体何をやらかしたんだ? 衛兵: 知ってどうする リル: 決まっているだろう。もし殺人犯なら、早々に町を立ち去る。 ただの盗人なら、取り押さえて懸賞金でもいただこうかと思ってな リル: 流浪の剣士などやっていると生活も苦しい。切実なんだ、こっちは 衛兵: なるほど。容疑は明らかになっていないが、 ファンロン様が直々に指名手配されていると聞く。 懸賞金は期待していいだろうからぜひとも協力してもらいたいものだな リル: 容疑は分からないのか。 人数も4人とあってはリスクも大きいが、報酬が期待できるなら考えておこう 衛兵: 頼んだぞ。何か見つけたら中央区画の衛兵詰所まで連絡してくれ (衛兵はそう言い残して足早に立ち去っていく。 それを見送りながら、リルはますます困惑していた。) リル: 4人のうち2人は見覚えがなかった……おそらくμだろう。 残る2人は人間さん殿と、そしてあれは雨依殿……? いったい、どういう状況なんだ…… リル: 伝え聞いたところだと雨依殿は事情があって対立しているはず。 和解できたのか……? リル: そうだとしてレオナ殿はどこで何をしている。 そもそもファンロンとやらは何故、指名手配など…… (リルはふと顔を上げ、遠くにそびえる巨大な山に視線を移す。) リル: (人間さん殿もきっと、ファンロンを問いただそうとするはず。 町から脱出し、あの山へ向かうのでは……) リル: (一刻も早く人間さん殿に合流する必要がありそうだ) (リルは町に背を向け、クンルンの山へ向かう道に進み始めた。) (背景切換...) アヌ: はぁっ、はぁっ、も、もう、走れないよ 人間さん: 捕まったら何をされるか分からないぞ! どこか身を隠せる場所を探すから、それまでがんばれ! 雨依: 人間さん、あれ見て!あの洞窟でやり過ごせるかも! テュポーン: かくれんぼだ アヌ: はぁっ、ひぃっ、はふぅっ 雨依: あとちょっとよ、アヌ! (背景切換...) (必死に木々をかきわけて、俺たちはなんとか洞窟にたどり着いた。 追手の声は聞こえるが、姿は見えない。) 人間さん: 町の入り口で見つかったのは迂闊だったな……なんとか逃げきれたようだけど (町の中を隠れながら進むまではよかった。しかし町の出入り口は見晴らしが良すぎて、遮蔽物がなかったのだ。仕方なく、タイミングを測って一気に走りだしたのだが。) テュポーン: 見えたら追いかけられちゃうもんね 雨依: はぁ、はぁ、肺が痛い…… 人間さん: そういえば雨依って人間界でタバコ吸ってたりした? 雨依: そ、そんなこと、いま聞くことじゃっ、な、ない、でしょっ…… はぁっ、ふぅっ、普通にっ、はぁっ、あの匂いとか、 苦手でっ、吸って、ないっ……はぁっ、はぁっ 人間さん: いや、すごく息が切れてるからもしかしてと思って。別にどっちでも気にしないけど 雨依: 普通っ、現代の人間界に生きてたらっ、こんなに走ることっ、 な、ないでしょっ、はぁっ、はぁっ アヌ: μだってそうだよ…… はぁ、はひぃ、ふぅ、肺どころか、全身が痛い、からねっ、はひ、ふひぃ テュポーン: テュポ、へいき!つよいこ! 雨依: テュポーンはともかく、なんで人間さんは、そんなに、平気なのよっ…… 人間さん: リルやドロシーと一緒に毎朝走り込みやってた成果が、こんなところで出るとはなぁ テュポーン: しーってして!なんかきた (テュポーンの声にはっとして、洞窟の入り口で身体を小さくする。 ほどなくして、衛兵たちの足音が聞こえてきた。) (背景切換...) 衛兵1: くそ、どこに行ったんだ……! 衛兵2: 確かにこの手配書の人相通りの連中だった。 取り逃がしたとあってはファンロン様にお叱りを受けてしまうぞ 衛兵1: だが……このあたりはもう、西方領との境界線だ。これ以上の深追いはできない 衛兵2: そうだな……。それにこのエリアは、残虐な連中が跋扈する危険地帯だ。 うかつに散らばると俺たちが危ない 衛兵1: 残虐な、殺しては食い散らかすあいつらか…… 案外、逃げた連中も既に食い殺されてるかもな (そんな言葉を交わしながら、衛兵たちは他の場所へと立ち去る。 幸い、洞窟の中までは捜索しようとしなかったが……。) 雨依: 人間さん、聞いた……? テュポーン: テュポたちが食べられるお肉になっちゃう! 180013 - 追われる側 雨依: はあ…… テュポーン: ういー?まだどっかいたい? 雨依: 違うの、身体はもう落ち着いてきたわ。 そうじゃなくて……またこれか、って思っちゃって アヌ: また? 雨依: やっと優しく、親切にしてもらえるようになったと思ったのに、 やっぱりこうして追いかけ回されるんだ、と思って 雨依: きっと私が大量に抱えてるディマイトのせいよね。 みんなのことも巻き込んで……全部、私のせいなのよ 人間さん: そんなことないって 雨依: いいの!自分でわかってるから!結局、誰にも必要とされないし愛されないの。 要らない存在なのよ 人間さん: 俺は雨依を必要としてる。アヌもテュポーンも同じだよ 雨依: 人間さんは優しいから アヌ: 私も必要としてるよ。優しくないのに 雨依: アヌ……? アヌ: 私の代わりに働いてほしいから 雨依: ほらぁ!利用しようとするだけなのよ! 人間さん: アヌ…… アヌ: えー?なにもう、めんどくさいなぁ。 だいたい、今回のこれは雨依のせいじゃないの明らかでしょ 雨依: なんでそんなこと言えるのよ アヌ: 手配書。あいつらが持ってたやつ 雨依: え……?あ、なんか持ってたのよね。そうだったわ。でもあれが、何? アヌ: たぶん、敵は創造の聖母だよ 人間さん: ああ、おそらくな テュポーン: え、なんで? 人間さん: 俺たちがこの世界に来てまだ数日だ。ファンロンはここの高位のμみたいだけど、 いくらなんでもこんなに早く指名手配なんてできないはずだ テュポーン: テュポたちのことまってたのかな アヌ: 方法はわからないけど、異世界にある程度は干渉できるんだろうね。 だからガイアも操れたし、雨依に声を届けられた 雨依: じゃあ、あのおばさんは私たちのことずっと見張ってて…… そっか。手配書はちょうどこの4人…… オーディンがいないことも、テュポーンが一緒なことも把握してる 人間さん: そして、これまでと違うのは、 この世界は既に創造の聖母が一定以上は浸蝕してるってことだな アヌ: もうファンロンとやらは聖母の手に落ちてると見ていいだろうからね テュポーン: ガアも人間さんが来たときはまだふつうだったんでしょ? 雨依: 既に言うこと聞いちゃってるんだもんね。でもそっか、私のせいじゃないんだ…… アヌ: はいはい、そうだよ。もう次は構ってあげないからね 雨依: ……別に私、構ってちゃんじゃないわ 人間さん: まずは世界の状況を把握しないとな。そのためには協力してくれるμを探さないと…… 人間さん: ただ、当面の問題は 雨依: うん……さっきのあれ、よね?なんなの、殺して食べ散らかす種族って…… テュポーン: こわい。食べられたくないよ (背景切換...) リル: …… (町からクンルンの山に向かって、周囲の状況を見ながら進んでいたリルは、 衛兵たちが次々に引き上げてくるのを目撃する。) リル: (諦めたのか……?捕まえたという感じではなさそうだが……) (引き上げてはくるが、すぐ近くの森を囲むように陣形を整えている。) リル: (やはり人間さん殿は捕まっていないな。 何らかの理由で森の中の捜索は断念し、出てきたところを捕まえようという算段か) リル: 好都合だ。どんな事情があるか知らないが、衛兵を出し抜いて合流するチャンスだな (獰猛な野生動物か、あるいは魔物でもいる森なのかもしれない。 しかし、そんなことは衛兵にとってはリスクでも、 リルからすれば造作もなく倒せる――) リル: ……と思っているが、調子はどんどん悪くなっている。 やけに身体が重いし、やはりμ世界だからか…… (背景切換...) リル: 森の中も、特に異状はなさそうだが……衛兵たちは何を避けていたんだ? リル: まあいい。小生の身体がまだ持つうちに合流しよう。 しかし、縁を結ぶというのは具体的にどうすればいいのか…… リル: この様子だと、パイフー殿は縁を結ぶ相手ではなかったわけだな。 相手に条件があるとなると、簡単には見つかりそうにないが…… ???: あら……誰かと思ったら、懐かしい顔ですね リル: …… (ふいに背後からかけられた声に、リルはぴたりと足を止める。 忘れようはずもない。その声は彼女のよく知る相手のものだった。) リル: ……何の用だ ???: つれないですね。もう少し感情の振れ幅が見られるかと思っていましたが リル: あいにく、作家と言えども全て思う通りに動かせるわけではない。 お前も知っているだろう、ペロー ペロー: ふふっ……その通りです。登場人物が勝手に動き出してからが、作家の本領ですから ペロー: ただし、もちろんあまり勝手をするようなら、 リライトが必要になるでしょうけどね……? 180014 - ペローとリルの再会 リル: それで?小生に何か用でもあるのか ペロー: 久しぶりの再会だというのに、本当につれないですね。 ゆっくりお互いの近況でも話そうとは思わないのですか? リル: 小生もこれで、なかなか多忙なんだ。 それに近況というなら……お前は収監されていたはずだが ペロー: そうなんですよ。最近までずっと閉じ込められていて…… 知っていますか?あの監獄内ではイマジュマイトが遮断されてしまうんです リル: それは初耳だが、何が言いたい ペロー: 私はいま、とってもエルマイトが不足しているんです。だから…… ペロー: 作家権限で、作品から頂こうかと考えているんですよ リル: ……っ、そういうことか (身構えたリルは、腰の剣に手を伸ばす。) リル: ならば、偶然ではあるまい。小生がこの世界に来ていることも、 どこにいるのかも、把握したうえで姿を現したのか ペロー: もちろんです。作家ですからね。μの世界で勝手は違えども、ある程度は把握できます リル: 人間さん殿に倒されて、少しは反省したかと思ったのだがな ペロー: もちろん思うところはありましたよ。 でも、それが大義を揺るがすわけではありません リル: 大義、だと? ペロー: すべては深淵の闇のために…… リル: ……以前から何度も聞いたフレーズだ。深淵の闇とは、いったい何なんだ? ペロー: 理想的かつ合理的な計画ですよ。凡人は『闇』と聞くとすぐ邪悪なものだと 思い込みますが、決してそうではありません ペロー: 闇は、いつだってどこにでもあるものなのですから。全てを知り、全てを把握する、 まさに神のごとき存在でなければ必ず世界のどこかは闇となるのです ペロー: 自分たちだけが圧倒的優位に立ったまま、何の考えも無しにただ垂れ流す 無責任な連中が、ある日突然、知ることになる。一方通行などではなかったことを リル: それが深淵の闇?お前たちの標的は一体、どこの誰なんだ ペロー: あなたはもう知っているはずですよ。なにせ私の可愛い作品なのですから リル: (小生も、知っている……?) ペロー: さあ、お喋りもしたことだし、そろそろいただきましょうか リル: 喋りたいと言ったのはそちらなのに、ずいぶんと勝手だな。 まあ、小生も急がねばならない。ちょうどよかった ペロー: ふふっ……ためらいもなく、私に武器を向けるのですね リル: そうだな。小生はお前の作品だ。 だから自分の作家に刃を向けるような真似もしたくない リル: だが利害は一致しない。小生にはやり遂げるべき使命があり、 お前がエルマイトを欲するなら抵抗しなくてはならない ペロー: いいでしょう。言っておきますが、あなたでは私に勝てませんよ リル: それはどうだかな (剣を抜き放つと同時に素早く踏み込み切り付ける。 そんなリルの初撃を、ペローはやすやすと身をかわして避けた。) (今度はペローがペンを向ける。ペン先からは魔力の塊が鋭い弾道で放たれるが、 リルもまたこれを細かなサイドステップでかわす。) リル: エルマイト不足と聞いていたが、なかなか動けるじゃないか ペロー: やっぱりあなた、勘違いしているみたいですね リル: なんだと? (ペローは微笑むと、空中に次々とペンを走らせる。 その軌道にそって、魔力の刃が無数に降り注いだ。) リル: くっ……これはっ……! (ギリギリのところでかわすリル。しかし、避けた先へとペローは先回りしていて――) ペロー: はい、おしまいです リル: うああぁぁぁぁああぁぁっ!! (くるりとペンで円を描くと、その直径そのまま球状の魔力塊がリルを吹き飛ばした。 その身体は、近くの樹木に叩きつけられてしまう。) リル: ぐっ……う、くううっ…… (なんとか起き上がろうとするが、既に目の前にはペローが迫る。) ペロー: 動かないで (容赦のない蹴りが飛び、ペローの踵がリルのみぞおちを突く。) リル: っ、はぁっ……!?どう、なっている……っ、はぁっ、ぐふっ…… ペロー: 確かに私は言いました。エルマイト不足だと。 いろいろと不都合があるので補給はしておきたいんです ペロー: でも戦えないなんて言っていませんよ。 ここはμの世界、エルマイトなんてあっても戦えませんから リル: まさか、お前はμの誰かと縁を結んで……? ペロー: いいえ、そんなのはごめんです。 ただ、あなたたちのような泥臭いやり方をしなくても、 あれの権能を使えばこの世界の力を一時的に借り受けることはできる…… リル: あれの、権能……? ペロー: もうお喋りはやめですよ。覚悟してください (ペローが再び宙にペンを走らせる。すぐに魔力の塊が具現化し、リルを襲った。) リル: (もはや、これまで……か……!) ???: させない! ペロー: なっ……!? (しかし、標的に届く前に魔力の塊は弾き飛ばされる。 リルとペローの間に立ちはだかったのは――) 180015 - パイフーとの縁 パイフー: 好きにはさせない ペロー: あなたは……μですね……? リル: パイフー殿……!? (ペローの前に立ちふさがったのは、 リルがこの世界に来て間もない頃に交流のあったμ、パイフーだった。) リル: どうしてここに……いや、それよりもそいつは危険だ。 貴君を巻き込むわけにはいかない パイフー: 巻き込まれたんじゃない。わたしが自分の意志で、ここに来た パイフー: リルはわたしの信民を救った。哲学を持った立派な騎士だ。 ここで死なせるわけにはいかない ペロー: 誤解があるようですが、私はなにも殺そうとしてはいませんよ。 死なない程度にエルマイトをいただくだけです パイフー: それでも、リルに危害を加えることに変わりはない。リルには立派な使命がある パイフー: 邪魔は、させない…… リル: パイフー殿……! ペロー: いいでしょう。この私とやり合うというのなら、 あなたも一蓮托生ということになりますね ペロー: 消えなさい (ペローのペンから迸る魔力の刃。 しかし、空を切って迫るそれを、パイフーは正面から拳ではねのける。) ペロー: あら…… リル: あの攻撃を、拳で!? パイフー: この力……こいつ、μなのか……? (パイフーは、すん……と鼻をひくつかせる。そして目を見開いた。) パイフー: お前から、ファンロンの匂いがする……?このμの力はあいつから吸い取った……? ペロー: ファンロンさんのお友達でしたか。 ということは、あなたが五獣のはぐれ者、パイフーですね パイフー: そう……お前が、みんなを……! ペロー: なんのことでしょう? パイフー: はぁっ!! (首を傾げて微笑むペローに、問答無用で飛び掛かるパイフー。 だが、その拳は届かない。ペンで描き出した障壁に、次々と阻まれてしまう。) リル: パイフー殿!危ない!! (当たらない攻撃に躍起になったパイフーは、つい前のめりになって間合いを 詰めすぎてしまう。そこを見逃さなかったペローが、魔法攻撃を繰り出す。) パイフー: くううぅぅっ!! (攻撃を食らい吹っ飛ぶパイフー。リルは、彼女の身体をとっさに受け止める。) パイフー: ありがとう…… リル: 冷静さを失うな。足元をすくわれる パイフー: でも……あいつは仲間の仇……!許せない……! リル: 許せとは言わない……小生も、同じ思いだ! (語気を強めるリル。そのとき、二人の身体からうっすらと白い光が発せられる。) リル: なんだ、これは!? パイフー: わからない……あいつの攻撃……? ペロー: あら……何か仕掛けるつもりですか?でも、私には通用しませんよ リル: (ペローの仕掛けではない……? だとしたら、これはまさか……だが、試してみる価値はある……) リル: (今のタイミングで発生したのなら、トリガーはきっと……) リル: パイフー殿。仲間を思う気持ちを高めてくれ。 あいつへの怒りでも、楽しかった思い出でも、なんでもいい。 そして小生から離れるな パイフー: え……?わからないけど、わかった (パイフーがうなずいて目を閉じる。次の瞬間――) ペロー: ……っ!? パイフー: うわっ!? ペロー: な……なんなの、これは……!? リル: これは……なるほど、これがヴェル殿が得たという、μの力というわけか パイフー: リルも、μだった? リル: いいや。パイフー殿のおかげで仮初の力を手にしたにすぎない。だが…… リル: これで戦える パイフー: うん……! ペロー: バカな……どうしてリルがμの力を……!? ペロー: そうか、そういうことですね。 μとシンクロすることで、そのμが持つ力の特性を継承し、 エルマイトを置き換えて発現することができる…… ペロー: これがイマジュマイト・アディション……! 力の交換法則……やはりライブラの読み通り…… リル: さて、そろそろお仕置きの時間のようだ。覚悟してもらおうか、ペロー ペロー: ふん……いいでしょう、見せてごらんなさい。新しく手に入れた力を……! リル: 行くぞ、パイフー殿! パイフー: うん……!! 180015 - ストーリー用 Ⅰ 180016 - 敵であり身内であり リル: はぁ、はぁ……これで、どうだ……! ペロー: ……っ、まさか、イマジュマイト・アディションで 手に入れた力がこれほどまでとは……っ (足元をふらつかせながら、ペローは奥歯を噛み締める。 リルもまた消耗してはいたが、どちらが優勢であるかは明らかだった。) パイフー: リル、とどめを リル: ああ……!覚悟してもらおう、ペロー! ペロー: ……仕方ありませんね。目的を達することはできませんでしたが、 まだ無理をする段階ではない (ペローは懐から小瓶を取り出し、蓋を口で引き抜く。 既に片腕が上がらなくなっていたためだ。) リル: !! (開栓した小瓶の中身を、ペローが自分の周囲にまき散らす。 途端に、彼女の周囲を白い煙が覆い尽くした。) リル: まずい、逃げるつもりか! ペロー: また会いましょう、私の可愛い作品 (もうもうと煙る視界の中、リルは手にした剣を振り下ろすが――) (手ごたえはなく、煙が晴れる頃にはペローの影も形もなかった。 リルは思わず、地面を蹴りつけた。) リル: くそっ、小生としたことが……! パイフー: 仕方ない。わたしが来るまでに、リルも傷ついていた。さっきのあれは……敵? リル: 敵であり、身内とも言える。本来なら一番近しい関係なのだが パイフー: ……わかる。そして近いからこそ、自分が止めなきゃって思う リル: ……ああ、まさにそうだな リル: (パイフー殿も何か事情を抱えているのだろうか…… だが、こちらから詮索するように聞き出すのも違う気がするな) リル: ……すまない。まずはパイフー殿に礼を言うのが先だった。 危ないところを助けてもらった恩、感謝してもしきれない パイフー: ううん。先にわたしの信民を助けてもらった。これでおあいこ リル: ふふ……恩の返し合いか。まるでセプテム殿たちのようだな パイフー: ? リル: いや、こっちの話だ。それより…… (リルは周囲を見回しながら、考えを巡らせる。 突然のペローの襲撃で思考が中断していたが、本来の彼女の目的は他にある。) リル: 人間さん殿に合流せねば…… パイフー: 探してる仲間?見つかった? リル: どうやら、この森のどこかにいるらしい。4人組なのだが、見かけてはいないか? パイフー: ……ううん。知らない (パイフーはしばし考えてから、鼻をすん、と鳴らした。) パイフー: その4人は異世界から来た? リル: ああ。小生と同じ世界から2名、残る2名はよく分からないのだが パイフー: なら、嗅ぎ慣れない匂いを辿れば場所が分かるかも リル: 匂い、だと? パイフー: わたしの嗅覚は鋭い。遠く離れていても嗅ぎ分けられる パイフー: ただ……森は匂いがこもりやすい。いろいろな匂いがして、追跡が難しい リル: おおよその見当だけでも付くなら、かなり助かる。もし無理なくできることなら―― パイフー: やってみる (パイフーはリルの言葉を継ぐようにうなずくと、 すんすん、と鼻を鳴らして嗅ぎまわる。が、すぐに首を傾げてしまった。) リル: やはり、難しいか パイフー: リルの匂いと混ざる リル: ああ、そうか…… 小生がこんなに近くにいたのでは、異世界の匂いとやらを嗅ぎつけにくいのか パイフー: 別世界の匂いでも、個人差は必ずある。リルじゃないものを選べばいい。だから…… (パイフーはおもむろにリルの首筋に鼻先を近づけた。) リル: お、おい、パイフー殿っ!? パイフー: じっとして。リルの匂いを覚える リル: そ、そうか…… リル: んんっ……! リル: あ、やめっ……小生は、その、首は弱くて……っ、あっ パイフー: 変な声、出さないで。集中できない リル: す、すまない。しかし、パイフー殿の吐息が首筋にかかって……ひゃんっ……! パイフー: すんすんすん リル: んぁ、あっ、はぁんっ……! パイフー: うん、おぼえた リル: そ、そうか……よかった……ふぅ……思ったより早くて助かった…… パイフー: リル、匂い濃いから覚えやすい リル: こ、濃いのか?小生はあまり体臭を気にしたことがなかったのだが、一緒に旅した仲間たちは大丈夫だっただろうか……。もしかして、実はクサいと思われていた……? パイフー: 不快な匂いじゃない。落ち着く匂い パイフー: こっちは、あまり濃くなると不快になるかも。でも今はいい匂い リル: あ、頭?そうだな、この羽根帽子で頭の中が蒸れて…… リル: な、なんだ!? ???: ふわふわ~ リル: だ、誰だ! エグレット: うちはエグレット。ご主人の羽根帽子に宿った精霊だよ~ リル: え……コレの精霊? パイフー: な、なに?リル、どこから出て来たの、この人 リル: 小生も説明してほしいくらいだ…… 180017 - ラームスの記憶 ティンカー・ベル: ふう……今日も遊んだねぇ トルテ: 楽しかったー! (時刻は夕暮れ。このところ毎日のようにティンカー・ベルは ラームス世界の出身者と遊び惚けて過ごしていた。) ピオン: ティンち、いつも遊んでくれてありがとう ティンカー・ベル: いやいや。ていうかピオンのその『ティンち』って呼び方、未だに慣れないんだけど シュネー: 私たちが知ったことではないのだけど…… 毎日こうしてただ遊んでいるだけで、貴方の立場は大丈夫なの? メルヴェ: そうよね。一応、あたしたちの過去についても、時々話を聞いてるときはあるけど…… ティンカー・ベル: え?だって結構、みんなから話を聞かせてもらってるよ トルテ: そうだっけ? ティンカー・ベル: クーヘンがどうして火を怖がるのか、とか クーヘン: それは……っ ティンカー・ベル: 他にもシュネーは城から森に移り住んで何をしていたのか、とか。 ピオンにとっての鏡の国はなんだったのか、とか シュネー: …… ピオン: そういえば……話したかも…… (各々、自分とティンカー・ベルが過ごした時間を振り返り、俯く。 知らず知らずのうちに、彼女たちは自身の事情を口にしていた。 もちろん、記憶が戻っている範囲でのことだが。) チシャ: えっ、気が付かないうちにみんな自分のことを話しちゃってたってこと? メルヴェ: もしかして、実はティンカってすごいんじゃ…… ティンカー・ベル: ふふん、恐れ入ったか! ティンカー・ベル: けど、結局どうして記憶が改変されちゃったのかは分かんないの。 だからティンカはみんなで考えたい トルテ: みんなで……? ティンカー・ベル: とりあえず部屋に戻ろっ。そろそろ暗くなっちゃうから。 夜にうろうろしてると特務機関の人に怒られちゃうよ (背景切換...) (滞在しているコミッティ施設の廊下で、 ティンカー・ベルは特務機関に属するアルブス・ツークツワンクとすれ違う。) ティンカー・ベル: おっつー アルブス・ツークツワンク: お疲れ様です。お戻りになりましたか ティンカー・ベル: そうだ、ミルズの体調はどう? アルブス・ツークツワンク: このところずっと不調でいらっしゃるようです ティンカー・ベル: そっか。心配だね アルブス・ツークツワンク: それより調査の方は進捗いかがですか ティンカー・ベル: 個別に聞いてはみたけど、ティンカの頭じゃパンクしちゃうね。 だから……これから第二段階に進もうとしてるところ アルブス・ツークツワンク: 第二段階、ですか ティンカー・ベル: 超絶フレンドリーで話しやすいティンカになら、 過去のいろんなことも話せるはず……これが第一段階 ティンカー・ベル: 第二段階は、どうせ一人に話したなら他にも話してもいいか、 ってなって同じ境遇の人には共有するの アルブス・ツークツワンク: ラームス出身者同士でなら、話せるはずだと? ティンカー・ベル: やっぱり本人たちじゃないと心当たりも出てこないかなって アルブス・ツークツワンク: なかなか策士ですね ティンカー・ベル: そんなんじゃないよ。あのラームスのみんなはこれからもちゃんと包み隠さず 話して相談できる関係でいてほしいんだ。任務はまあ、ついでかな ティンカー・ベル: (……ってウソっぽく聞こえちゃうかなぁ。 わりとこれ、ティンカにとっては本音なんだけど) (情報を聞き出すという役割をまっとうするために近づいたものの、 共に過ごすうちにティンカは彼女たちが抱えているものを察し始めていた。) (あくまでも彼女たちは異世界からの来訪者。 オトギノクニの誰か、特に『同じ創造期』を抱えている可能性のある相手とこそ、 その背景から分かり合えることはないかもしれない。) ティンカー・ベル: (ってなっちゃうと、みんなひとりぼっちになっちゃうかもしれない。 話せる相手って、絶対必要になるはずなんだよね) ティンカー・ベル: 頼れるのはきっと……同じ世界の仲間、だろうから (背景切換...) ティンカー・ベル: てなわけで、みんなで過去の心の傷とかガンガン掘り返しちゃおう~! メルヴェ: どんな始め方なのよ…… ハンプ: しかし心の傷といっても、わたくしは特にこれといって ティンカー・ベル: そうなんだよね。ハンプとオーフェンは、 心の傷ってほどの何かを抱えてるわけじゃなさそうなんだよ ティンカー・ベル: ……たぶん、精霊だから オーフェン: 精霊だって心はあるのよぉ ティンカー・ベル: もちろんだよ。でもたぶん『物語』の中心にいないんじゃないかな クーヘン: あたしの過ちは『物語』の中心にあったってこと? ティンカー・ベル: たぶんね クーヘン: ……そうね。それじゃあみんな、聞いてくれる? あたしの過ち……両親をこの手で殺めたこと オーフェン: クーヘン……! メルヴェ: ……!? トルテ: やっぱり……そうだったんだね クーヘン: ……っ!?姉さん、知って……? 180018 - 正しさとは ハンプ: つまり……義父がトルテさまに、その…… 傷つけるようなことをしていたというのですね メルヴェ: クソだね。クソ親父 (一通り、クーヘンそしてトルテの話を聞き終えた一同に、しばしの沈黙が落ちる。 それをかき消すようにメルヴェは言い放った。) チシャ: それで、手にかけちゃった…… クーヘン: でも、姉さんは関係ないの。あたしひとりの判断 ティンカー・ベル: 判断っていうか、とっさの行動じゃん。 トルテを守りたいって気持ちで、動いちゃったんだよね クーヘン: (義理の父だったあの男と、そして母を手にかけたことは後悔してない。それは姉さんを守るための行動だった。それでもきっと、姉さんの心に傷は残っただろうけど) クーヘン: あたしは隠ぺいしようとした。オーフェンのかまどを使って…… シュネー: それで火も苦手だし、肉の焼ける音や匂いもダメなのね。 そのときの記憶が呼び覚まされてしまうから オーフェン: で、でも……そんな凄絶な出来事があったら、記憶を封印するのは 当然のことじゃないの!?人の心ってそういうふうにできてるはずよ クーヘン: そうね。でもティンカと話すうちに、あたしも違和感をおぼえたの。 もしトラウマを封じようと心が働いたのなら…… クーヘン: あまりに『物語』として出来過ぎている メルヴェ: ……どういうこと? クーヘン: 仲のいい4人家族。森で平和に暮らしていた。 森の中にあるお菓子の家に住む魔女とも仲良くなって、一緒に楽しくお菓子を食べた。 両親も一緒に交流するようになって…… クーヘン: それで終わり。それがあたしの、真実を思い出す前の記憶 (本当の記憶が戻ってからは、徐々に薄れつつある元あった記憶。 クーヘンも、それは願望だったのだろうか、とも迷ったことがある。) (だが、違うと心の奥が叫んでいた。 あの過酷な家庭環境、そして森の奥という孤立した状況で 幸せな家庭を思い描くことなどできないはずだと。) トルテ: トルテも、おなじ。父さんは、トルテにひどいことをしなかった。 ううん、血のつながった実の父さんだと思ってたし チシャ: ……っ ピオン: チシャちは……どんな記憶だったの……? チシャ: 私は、洪水で両親と生き別れになって、魔女に拾われるの。 そして普通に育てられたんです ハンプ: 魔女、ですか チシャ: それが私のママ。でも、記憶が変わる前も後も、 ママが私のことを大事に育ててくれたのは変わらないんです! チシャ: ただ……私がママに育てられることになった理由は、洪水なんかじゃなかった。 不慮の事故で実の両親と離れ離れになったわけじゃなかったんです (チシャは訥々と、身の上を語った。その内容に、各々は聞き入る。) (若さゆえの、性への興味と目の前の情熱的な恋、そして本能の赴くままに 逢瀬を重ねたチシャの両親。命が宿るまでに時間はそれほど必要なかった。) (しかし二人は若く、家庭を持つことなど許されなかった。 慌てた実母は、近くの畑に足を踏み入れ――) チシャ: パセリを食べようとしたんです シュネー: パセリ?なんでまた ハンプ: ……妊婦が口にすると流産する可能性があると言われています。 実際のところ、相当量を食べなければ安全なのですが クーヘン: でも、チシャの母さんは…… チシャ: 畑はママのものでした。それで、実の母をママは止めてくれて、産みなさいって。 産んだら、私が育てるからって…… (全員が押し黙る。) シュネー: 確かに衝撃的な内容ではあるのだろうけど、 でも瞬間的なショックとは違う気がするわ。 反射的に、心を守るために記憶が改ざんされることがあるかしら ティンカー・ベル: ティンカもよくわかんなくなってきた…… メルヴェ: 共通しているのは、少なくとも何か悪いところがある、ってことかな。 そういう悪い部分の記憶が修正されてる ピオン: じゃあ、ぴおんたちを守るために記憶が書き換えられたのかな? メルヴェ: どうだろう。例えばあたしは、町の悪い連中とつるんでたとき、 警察に追われて逃げた先が不思議の世界だった メルヴェ: でもそれが……読書大好きな夢想家に修正されていた。 あたしも、他の誰も傷つかないはずだ ティンカー・ベル: メルヴェ……あんた、なかなかハードな創造期やってるね メルヴェ: どうも シュネー: メルヴェの意見に私も賛成だわ。私の創造期も、倫理的に問題があることは 大いに理解してるけど、誰も傷ついてはいない。なのに改ざんされていた ハンプ: ということは、つまり シュネー: 『正しくないこと』を『正しいこと』に置き換えた、と考えられるんじゃない? ティンカー・ベル: なるほどね。でも、そうだとしたら誰が何のために……って謎が新たにできちゃうね ティンカー・ベル: (人間さんだったらみんなの創造期にも詳しいだろうし、 何かヒントを見つけられたのかな……) 180019 - 合流地点 リル: つまり、さっきのパイフー殿と小生の力が共鳴したときに、 エグレットの本体、この羽根帽子にも力が流れ込んだわけか エグレット: そうなの~。ご主人のために、うちがんばるね~ リル: 小生の持ち物から生まれた精霊とは思えないほど、なんだか頼りない感じだな…… エグレット: えー?スティヴァーリちゃんだってあんなだし、 きりっとしてるのご主人だけじゃない? リル: 言われてみると、まあ…… エグレット: うちとスティヴァーリちゃんの共通点は湿ってることかな? ご主人、ちょっと汗っかきなのかも。だからパイフーちゃんも匂いがキツいって リル: き、キツいとは言ってないだろう! パイフー: うん。かぐわしいよ リル: ひゃうっ!? (改めてリルのうなじに鼻先を近づけて深呼吸するパイフー。) パイフー: うん リル: うん、ってなんだ……とりあえず悪臭ではないと思っていいのか……? エグレット: それでパイフーちゃん、人間さんちゃんは見つかりそう? パイフー: ちょっと待って。すんすんすん パイフー: うん、わかった。ついてきて (背景切換...) (衛兵たちが去った後、俺達が隠れている洞窟は静寂が支配していた。) テュポーン: ……どうぶつかな? 雨依: 何が? テュポーン: テュポたちのこと食べようとするやつ 雨依: じゃないの?なんかこう、ライオンとかヒグマとか 雨依: あ、ここって中国神話なんだっけ。 じゃあトラとか……ヒグマの中国版?パンダかな 人間さん: パンダが人を襲うのは想像つかないな…… (そもそもヒグマも、身を守る意味で人を攻撃することはあるだろうが、 本来の生態としては肉食ではなかったはずだ。) アヌ: くだらないこと言ってないで、これからどうするか考えないと 雨依: やっぱりファンロンのところへ行って目を覚まさせるしかないんじゃないの? 聖母の計画も邪魔できるし、指名手配も解除されるし アヌ: クンルン山だっけ?相手の本拠地だよ。 この程度で息が上がってる私たちが突破できるとは思えない 雨依: それは確かに…… アヌ: 突破できたところで、どうやって目を覚まさせるかだし 雨依: それは人間さんのエルマイトでどうにかなるんじゃない? 人間さん: ファンロンか…… (エルマイトを行使するとなると、やはりクロスが最も効率的だ。 そのことを考え、ふと本音が口をついて出た。) 人間さん: 可愛いのかな…… 雨依: やっぱやだ アヌ: ほらね (しまった。失言だった。) テュポーン: じゃあテュポがパンチする 雨依: やはり暴力……!暴力はすべてを解決する……!! アヌ: いやいや、解決しないから 雨依: じゃあアヌはどうするべきだと思うのよ アヌ: ファンロンが、ガイアみたいに聖母に操られてるんだとしたら この世界のゼウス的なμもいると思うんだよね 雨依: なるほど? アヌ: きっとその子が解決してくれるよ 雨依: 他力本願すぎるでしょ!! (アヌも創造の聖母に対しては怒りをもっていたはずだが、 この世界に来てからの一連の騒動で疲弊してしまったのだろうか。 すっかり元の手抜き体質になってしまっている。) (と、そのとき――) ???: う゛に゛ゃに゛ゃーっ!! アヌ: !? (洞窟の外から、激しい獣の声が聞こえた。獣というか、これは……。) テュポーン: テュポたちを食べるどうぶつ!? 雨依: あんた最強クラスのμなのに、なんで隠れてるのよ テュポーン: だって食べられるのこわい リル: はぁ、はぁ……見つけた……ここだったか…… パイフー: ごめん、リル 人間さん: リル!? (姿を見せたのはリル、そして見慣れない人物が2名。もしかすると彼女たちは――?) リル: 虎の尾を踏むとは言うが、 まさか小生の匂いを参考に辿って野良猫のしっぽを踏んでしまうとは…… パイフー: 途中から異世界の匂いと混ざっちゃって エグレット: まあまあ、無事に人間さんちゃんを発見できたんだし、これでよしってことで~ 雨依: ねえ、もしかして…… リル: ああ。助けに来たんだ。貴君らは本当に世話が焼けるな (続いて、リルと共にいたふたりも自己紹介する。 ひとりは羽根帽子の精霊エグレットと名乗った。そしてもうひとりは――) リル: パイフー殿だ。この世界のμでもある アヌ: やった!ゼウス的な人だ! テュポーン: テュポ、パイフーとなかよくしたい パイフー: え?あ、うん (待望の、この世界のμだった。アヌのようにすべてを押し付けるつもりはないが、 戦力的にも、そして情報源としても貴重な存在であることは間違いない。) リル: 早速だが、おかれている状況について説明してもらおうか 180020 - 東方領の異変 リル: なるほど…… (改めて、合流したリルたちに事情を説明する。リルは低くうなってうなずいた。) リル: しかし、レオナ殿とは別世界に来ていたとは…… 小生が貴君らを助けに来たつもりだったが、実は助けに来てもらっていたのか 人間さん: そういうことになる。ピュルテも心配していたよ リル: すまない。世話が焼けるのは小生の方だったな 雨依: どっちにしろ創造の聖母のことは放っておけなかったんだから、 気にするようなことじゃないわよ アヌ: そういうこと。で、次はこの世界で何が起きているかを聞いておきたいんだけど パイフー: ん…… パイフー: 本当に、みんな変わった。今の、人間さんたちの話を聞いて実感した…… テュポーン: 普通じゃないんだ パイフー: 東方領、つまり人間さんたちがいた町。あれはチンロンが治めてる パイフー: なんでもよく食べるやつだった。 でも『あのとき』からチンロンは……肉を食べることを拒否した 雨依: やっぱり……!野菜ばっかりだったのには理由があったのね! パイフー: わたしと信民は、狩りをして暮らす。だから肉が食べ物の中心 パイフー: チンロンと、その信民は…… わたしたちを野蛮人だと言って、武器を振るって攻撃する…… テュポーン: んん? テュポーン: もしかして、テュポのこと食べるのって、パイフー? パイフー: 食べないよ テュポーン: でもチンロンの手下は食べるって 人間さん: 肉食を主とする人たちのことを、人食い部族のように呼んで恐れているんだろうな。 それが歪んで伝わっているんだ。そしてその恐怖は―― 雨依: チンロンが信民に植え付けているのね。そしてチンロンには、創造の聖母が…… パイフー: その創造の聖母って、なに? 雨依: 世界を侵略して、好き放題にしようっていう悪党よ。 たぶん、チンロンが変わってしまったのも、そいつが原因 パイフー: ……戻る? アヌ: 方法はあるはずだよ。少なくともガイアって前例があるし リル: ……そうか。さっきペローのことでパイフー殿が言っていたのは そのことだったのだな。チンロンとやらは、かつての仲間だったのだろう? (パイフーは、リルの言葉に力なく頷き返した。) パイフー: みんな、変わった テュポーン: ほかにもいるの? パイフー: 北方のシェンウー、南方のジューチャオ、中央のファンロン…… みんな、もうわたしの知ってるあいつらじゃない (パイフーの言葉に、俺は思わずうめき声を漏らしそうになった。 てっきりファンロン、ないしチンロンが聖母の手に落ちたと考えていた。) (しかし、彼女が言うにはあとふたりのμも既に支配されていると見たほうがいいだろう。) (そしてパイフーの言い方から察するに、正気を保っているのはおそらく彼女だけ、 と察せられる。つまり、ここにいるのが聖母に対抗する全戦力だ。) 雨依: 人間さん……こっちの世界のほうが、 聖母の影響が強い、ってことよね……? (俺と同じ考えに至ったらしい雨依が、同意を求めてくる。 どうやら、かなり不利な状況になっているようだ――) (背景切換...) (――インペリウム・コミッティ職員棟――) (背景切換...) チューチラ: ドロシー! ドロシー: わざわざ出迎えてくれたの?チューチラ チューチラ: うん!早く会いたかったし、それに……新しい部屋、わかんないかと思って ドロシー: 部屋? (背景切換...) ドロシー: へえ、ここが特務機関8番隊の部屋なのね ダークマター: う、うん……そうみたい…… コル: 元8番隊が使っていた部屋をそのまま譲り受ける形になった レーウ: 元8番隊はどこ行ったんだ? ピエドゥラ: 確かフアナさん直属ってことで、別室を用意されたって聞きましたよ ドロシー: あのフアナが、なんだか偉くなっちゃったわね。あとでちょっと顔を出そうかしら ドロシー: ううん、会うと長くなりそうだから今度もっと時間に余裕があるときがいいわね ピエドゥラ: 師匠、それちょっと前にも同じようなこと言ってましたよ ドロシー: そうだった? トーコツ: うん。調査に出る前だな ダークマター: ていうか本当にほっとした…… ルビー: ね!ドロシーちゃん、急に異世界に行っちゃうなんて。 戻ってこないんじゃないかと心配だったよ~! ドロシー: バカね。この私が、戻ってこれないはずないでしょ。 どんな場所だってやることやって帰ってくるわよ ドロシー: カンザスにだって、戻ってみせたんだから トーコツ: 頼りになる師匠、いやボスだよな!病気もケガも全然しないし ドロシー: さすがにケガはしたわよ。 病気だって、わりと風邪とか引きやすいほうだし。表に出さないだけ トーコツ: そうだったのか……すごい、気づかなかった……! レーウ: トーコツが鈍いだけじゃないか……? コル: 筋トレを極めると抵抗力が弱くなるという説もあるし ピエドゥラ: 病気と言えば……元8番隊のアリス・ミルズさん。 ここのところずっと体調が悪かったみたいなんですけど、 ついに入院されたみたいですよ ドロシー: ミルズが、入院……? 180021 - パイフーの距離感 (静かな森を進む。俺達は、パイフーの案内で道なき道を西に向かっていた。) (チンロン領内からひっそりと抜け出し、追手に悟られることなくパイフー領に入って、 彼女の拠点へと案内してもらう。そういった手筈になっていた。) リル: すまないな、パイフー殿。何から何まで世話になって パイフー: ううん。リルの仲間なら 人間さん: 本当に助かったよ。ありがとう パイフー: ん…… 人間さん: (あ、あれ?なんかリルのときと対応が違う…… 俺、なんか嫌われるようなことしたっけ?) アヌ: しかし、元々は食べるのが大好きだった子が、野菜しか食べない…… 闇を感じなくもないけど、正直これまでに比べると、ちょっと小粒な感じしない? エグレット: そんなに、今までは大変だったの~? アヌ: そりゃもう。世界をぶっ壊せるくらいの実力を兼ね備えた恐怖のちびっこが大暴れだよ テュポーン: ええ?ちびっこ、こわいね アヌ: いやテュポーンのことだから 雨依: 小粒っていうけど、現に私たちはこうして追われてるのよ アヌ: そりゃ信民までまきこんで数で来られたらさぁ 雨依: そこなのよ。私たちはまだチンロンと直接、顔を合わせてもいない。 エンリルのときも、ティアマトとの戦いに軍を巻き込んでたけど…… また意味合いが違うわ 雨依: テュポーンのときだって、いくら鬼強くたって個人の話だった。でも今回は…… 雨依: ねえ、待って。チンロン以外はどんなふうに変化したのかしら パイフー: …… リル: パイフー殿?雨依殿の質問が聞こえてないのか?チンロン以外はどうなっているんだ パイフー: みんな、正反対の性格になったわけじゃない。 でもちょっとずつ変になって、信民もそれに影響されている アヌ: 信民も、か…… 雨依: それって、なんていうんだろ、えーと 人間さん: 社会全体の変容…… 雨依: そう、それ!人間さん賢い♪ 人間さん: ギリシャ神話のときは世界を壊そうとしていると感じたけど、 今回は目的が違うのか……? パイフー: ついた。わたしの拠点。入って 雨依: よかった、無事に着いて。それじゃあお邪魔しま―― (背景切換...) 雨依: え??? パイフー: 適当に座って アヌ: そりゃまあ。椅子も何もないんだから適当に座るしか リル: ここがパイフー殿の拠点なのか? パイフー: そう。信民でも本当に一部しか入れない。 でもリルは特別。本当は初対面なんて絶対に入れないけど 人間さん: (うっ、刺すような視線…… やっぱりリルにだけ心を許していて俺たちのことはあまり……?) 雨依: 他の子たちは来たことあるの? パイフー: 五獣のこと? 雨依: ごじゅう? パイフー: ファンロン、チンロン、ジューチャオ、シェンウー、それにわたし。 偉大なる古のμに仕える、5人のμ 雨依: あ、そうそう。その五人のこと。 ほら、チンロンに場所知られてるなら危ないかなって パイフー: 大丈夫。チンロンは来たことない 雨依: え、意外。そうなんだ アヌ: いやー、仲良くても家とか部屋に入れるのって結構、抵抗あることない? 私はあんまり好きじゃないな テュポーン: ういは?いっぱいおうちにともだち呼んだ? 雨依: んー……私は、家に呼ぶと叔母が嫌な顔するからやめちゃった。 大きくなってからは、都会で朝まで飲んだりホテル生活だったから 雨依: そもそも友達と呼べる人なんて限られてたし テュポーン: 人間さん、どうしよう。テュポ、きっとだめなこといった 人間さん: 大丈夫、大丈夫。内容はアレでも本人は意外と気にしてないぞ テュポーン: ほんと? パイフー: そもそも仲良かったかわからない 雨依: ええー?そうなの?だって仲間……なのよね? パイフー: 付き合いが長かった。それに……距離感がみんな近すぎて、 わたしにお構いなしにずいずい入り込んでくる感じ リル: 確かにパイフー殿は距離が遠いタイプのようだからな。 あまり自分の領域にむやみに触れてほしくなさそうな印象を受ける パイフー: 常識人はファンロンくらい 雨依: ファンロンが一番苦労してそうね パイフー: うん、そうかも……いつもファンロンが振り回されてた…… (仲が良かったと言えるかどうか明言は避けながらも、 パイフーはどこか懐かしそうに目を細める。 その瞳には、かつての仲間たちとの時間が映っているのだろうか――) (背景切換...) チンロン: ほーら、お弁当よ~。たくさん作ってきましたからね~ シェンウー: ありがたい……と言いたいところだが、 どうせチンロンひとりでほとんどを平らげてしまうのじゃろ チンロン: そ、そんなことないですってば~! (それはかつて、五獣と呼ばれたμたちが揃って行動していたときのこと。 彼女たちが少し遠出するとなれば、大抵はこの場所だった。) ファンロン: やれやれ、いつも騒がしいですね…… 180022 - 思い出の場所 ジューチャオ: ねえねえ。これって食べられると思う?なんていうんだっけ、これ チンロン: うーん、そうねぇ~。火は通したほうがいいと思うけど。 あ、もし食べるなら残しちゃだめよ? パイフー: そういう問題じゃなくて……やめたほうがいい……。 それ、たぶん魔物だし……ネバネバしてる…… シェンウー: ネバネバしておるのなら食べるよりも身体にくっつけてはどうじゃ? きっと新たな扉が開くぞ ファンロン: 変なこと言うのはやめなさいよ。本気にするわよ、この子 ジューチャオ: わかった!どこに付ければいい? シェンウー: それはもちろん……こふふふっ ファンロン: ああもう、言ってるそばから! パイフー: こんなところで股開いて恥ずかしくないの ジューチャオ: ん?だって誰もいないでしょ。ここにはあたしたちだけ パイフー: わたしがいるんだけど ジューチャオ: 知ってるわよ。でもパイフーになに見られても別に気にしないし。 あたしとパイフーの仲じゃん? パイフー: どんな仲? シェンウー: おお、おお。これはまたいい色付きをした弁当じゃの。 きれいなサーモンピンクをしておる……♡ チンロン: もちろんです♪だってサーモンですから、それ ジューチャオ: いつもチンロンの弁当は見たことない魚とかいっぱいだね チンロン: 東方領には海がありますからね~ シェンウー: 羨ましいのう。海があれば半裸の男女がくんずほぐれつする様を 心ゆくまで鑑賞できるというのに ファンロン: 海はそんないかがわしい場所じゃないわよ! ジューチャオ: 海なら南方領にだってあるんだからね パイフー: そうだった? ジューチャオ: いつも焼きハマグリを持ってきてるでしょ。 信民の中に賢い子がいて、上手な採り方を教えてくれるのよ ファンロン: ジューチャオは本当に、いつも信民に頼りっぱなしね ジューチャオ: そんなことないわよ。 魔物が出たら一瞬で飛んでいって、ぶわぁーって焼き尽くしちゃうんだから ファンロン: それはμとしての役割でしょ。領主としての仕事はしてるの? 神農様のことをちゃんとサポートできているのか心配だわ ジューチャオ: あーあーあー。聞こえなーい チンロン: ジューチャオさん、肉春巻き何本食べます? ジューチャオ: 3本! ファンロン: 聞こえてるじゃないの! ジューチャオ: あっ パイフー: バカ…… ジューチャオ: あーっ、パイフーがバカって言った!バカって言った! バカって言われた方がバカなんだぞ! パイフー: うん、わかってるね ファンロン: それを言うなら、バカって『言った方が』バカでしょう…… ジューチャオ: あれ? シェンウー: やれやれ、騒がしい連中じゃな。しかし、たまにはこうしてμだけで集まって のんびりするのもいいものじゃな。そうじゃろ、ファンロン ファンロン: ま、まあ……こういう時間そのものは、嫌いではありませんが シェンウー: 男と絡んでばかりではいかん。わらわも反省せねば。 たまにはXXXを休ませてやることも肝要。なあ、ファンロン ファンロン: そっちに同意を求めないでちょうだい!私はXXXなんか休ませなくても チンロン: まあっ。ファンロンさんたら、そんな大きな声で ファンロン: はっ!?い、今のは無し!忘れなさい! パイフー: しっかりしてるようで抜けてるよね ファンロン: し、失礼な!誰が抜けてるんですか! シェンウー: そうじゃな、抜いてるの間違いじゃな ファンロン: シェンウー!!そっちも間違いよ!! ジューチャオ: もー、ファンロン。ごはんのときは騒がないでよ ファンロン: ぐぬ……! (背景切換...) ???: 目を閉じれば、あのマオリンでの出来事が昨日のように思い返される。 私はただ、そんな風景を―― (背景切換...) ファンロン: …… 兵士: ファンロン様 (瞑目していたファンロンは、配下の兵士に名前を呼ばれ、意識を目の前へと戻す。) ファンロン: 何? 兵士: あの……広間に来るようにと仰せで…… ファンロン: ふん……大方、取り逃がしたことを叱責されるんでしょう。 いいわ、すぐに行くと伝えてちょうだい 兵士: はっ! ファンロン: ……私は (ファンロンはその拳を強く握る。瞳は決意に満ちていた。) (ただし、未来に希望を見出すようなものではなく、 諦念と悲壮な覚悟の入り混じった、物悲しい決意に。) ファンロン: 私は、この世界を守り抜いてみせる 180023 - 立ち上がる勇気 雨依: で……結局まずは、クンルンの山を目指すってことでいいの? アヌ: 何せ、文字通り四方にいるわけだからね。どうするべきか絞り切れないなぁ リル: それこそパイフー殿に意見を求めてはどうだ? (一同の視線がパイフーに注がれる。 何せ俺たちは他のμについての情報を何も持っていない。) パイフー: え?意見って、なんの? 雨依: 五獣だっけ。仲間の誰から正気に戻すのがいいか、って話よ。 パイフーは相手のこともよく知ってるし、地形なんかも把握してるでしょ パイフー: ……待って。正気に戻すって? せっかく逃げて来たのに、また本拠地に乗り込もうっていうつもりなの? 人間さん: 危険は承知だよ。でもこのまま待っていても、何も事態は好転しないだろ? パイフー: わたしは……少昊様から預かった、この西方領を守らないと。それが、与えられた役割 (答えるパイフーは、固い決意を表すようにそれだけ言うと 唇を一文字にきゅっと結んだ。) 雨依: それは分かるけど、守るためにも打って出ないとジリ貧よ? テュポーン: テュポ、待ってるの苦手だよ パイフー: だって、何もできない。あの子たちに会ってみればわかる。話なんて通じない。 自分たちが信じ込まされてる何かに衝き動かされてる パイフー: だから、わたしはここで西方領を守り続ける 人間さん: ……そうか (パイフーのどこか頑なな態度に、俺はなんとなく背景を察した。 彼女とて全く何もせず手をこまねいたわけではないのだろう。) (かつての盟友に自分の声が届かない……その状況に彼女は絶望したのだろうか。 或いは、それを恐れて前に踏み出せないのか。) 雨依: 人間さん、納得してる場合じゃないわ。 μであるパイフーがいないと、私達も戦えないわ パイフー: ほら。自分たちの戦いのためにわたしを巻き込もうとしてる。 わたしのためなんかじゃない。利用しようとしてるだけ リル: いや、パイフー殿…… 雨依: そうよ。それが何か? リル: 雨依殿っ!? (フォローしようとしていたリルが顔色を変える。無理もない……。) 雨依: 私は自分の目的がある。 パイフーはそのために都合がいい。だから利用したいと思ってる パイフー: ……っ? 雨依: 助けてもらった恩は感じてるわ。でも今日出会ったばかりの相手のために、 心から助言なんてするわけないでしょ。利用とか打算とか当たり前なの 雨依: いいじゃない、利用されるんなら。 利用価値がないって言われるよりよっぽどいいと思うけど パイフー: …… (いかにも雨依らしい語り方だったが、 果たして初対面に近いパイフーにどこまで彼女の意図が伝わっただろうか。) リル: 雨依殿……言わんとすることは小生も理解はするが、 その、なんというか、言い方というか、手心というか 雨依: だってガタガタうるさいから アヌ: 本当に雨依は感情的というか、よく今まで生きてこれたよね 雨依: 周りにクズが多かったから何とかなってたのかも テュポーン: パイフー、おちこんじゃったよ パイフー: 落ち込んでない。考えてるだけ 雨依: そうね、よく考えて。私たちは利用してやろうとしてるけど、 一方的に巻き込むだけでは交渉にならないこともわかってる 雨依: でもパイフーにもメリットがある。仲間を取り戻せる可能性がある。それをよく考えて (それだけ言い残すと、雨依はパイフーに背を向けてどこかへ立ち去ろうとする。 といっても、ここは洞窟内で一本道なのだが……?) テュポーン: あっ、うい。どこいくの。まって 雨依: 洞窟の入り口まで出るだけよ。外をフラフラ出歩くほどバカじゃないわ テュポーン: うい~!テュポもいっしょにいく! 人間さん: ちょっと俺も雨依の様子を見てくる。リル、パイフーを リル: 心得た アヌ: …… アヌ: ……また私だけ何の役割も与えられてない! そうやってみんなで働かないやつ扱いするんだ アヌ: ……ま、いいか (背景切換...) 雨依: …… テュポーン: うい……? 人間さん: ああ、いた。よかった。最近はご機嫌だったのに珍しいじゃないか 雨依: なんか途中で腹が立ってきちゃったのよ 雨依: 利用されてる『かもしれない』……?ほんと、甘ちゃんだわ (憤る雨依。彼女は、俺なんかと比較にならないほど苦労を重ねていまの状態がある。 だからパイフーの保守的な態度も、甘えに見えるのだろうか。) 雨依: 人が近づいてきたら、それは『必ず』利用するためなのよ。 『かもしれない』なんてどこかで期待している証拠よ 雨依: ……それだけ、恵まれた環境だったんでしょうけどね。 五獣とかいう仲間も、なんだかんだ大切にしてたんでしょ。 だったら命がけで助けろって思うけど 人間さん: 雨依の言ってることは間違ってないと思うよ。でもパイフーも心の整理が必要なんだよ 雨依: ………… 信民: あ、あのー 雨依: え、誰? 信民: パイフーさまの信民です。パイフー様にお手紙を届けに (背景切換...) パイフー: うん、その信民は信用して大丈夫。それで手紙って、誰から? 信民: それが差出人が書いていませんでして (パイフーは信民に渡された手紙を手に取り、広げる。途端に、その目が見開かれた。) パイフー: ……『マオリンを再び』 180024 - 浸蝕する異変 亀姫: よいしょ、よいしょ (ヤマトの国の、とある海岸。 亀姫は大きなつづらを半ば引きずるようにして運んでいた。 通りかかったみずえは、小走りに駆け寄った。) 浦島みずえ: おっ、亀姫~!どうしたの、ずいぶん重そうなつづらだね 亀姫: 実は最近、乙姫様が新しいお仕事を始められまして 浦島みずえ: あの乙姫が仕事?へえ、まあ働くのはいいことなんじゃない?で、どんな仕事なの? 亀姫: 地上に住む一部のマニアなお客さんに、 乙姫様が入ったお風呂の残り湯を販売しているんです 浦島みずえ: げっ……なに考えてるんだか…… 亀姫: ということで、このつづらの中にはボトリングされた残り湯が たくさん詰まってまして。海の中を移動する分には大してつらくもないのですが 浦島みずえ: そりゃあ地上に出たら水なんてくっそ重いでしょ…… 亀姫もそんなのに付き合わされて大変だね 浦島みずえ: でも儲かってるんでしょ。どうせすごい値段で売り付けて―― 亀姫: 小瓶1本100ゴールドです 浦島みずえ: 意外とお手頃価格!飲み水のボトルが1本150ゴールドだからそれより普通に安い! 浦島みずえ: いやまあ、そもそも飲み物にしちゃだめなやつだから比べるのもおかしいけど 亀姫: 内容物にバラつきがあるのが、ガチャ要素とかで人気なんです。 くねっとした毛が混入してるとSSRだそうです 浦島みずえ: きんも……狂ってるわね、世の中…… 亀姫: やっぱりそういう人ってディマイトに染まってるんでしょうか。 最近、なんだか身体の調子が悪くて 浦島みずえ: えー?ちょっと大丈夫?ディマイト堕ちなんてしないでよ 亀姫: はい……地上に出ると少し楽なんですよね。 その代わりボトルの重さが食い込んできますけど 浦島みずえ: ん?ってことは、お客さんたちは関係ないんじゃない?海に原因があるんじゃ? 亀姫: あ、それもそうですね。すみません、意識がなんだか…… (言いかけたところで、亀姫はその場で気を失う。 幸い、砂浜だったこともあってケガはしていないようだ。) 浦島みずえ: あっ、ちょっと亀姫!?大丈夫!?そんなに海で疲れちゃったの? 浦島みずえ: ……ん?なんか、海の様子が (亀姫を助け起こそうとしたみずえは、ふいに海の方へと視線を移した。 そして、その先に広がる光景に、思わず息を飲む。) 浦島みずえ: な、なにこれ…… 浦島みずえ: 海が……黒い……!? (背景切換...) トリル: ……現地の衛兵からの報告では、汚染海域は潮流に乗って拡大しており ヤマトの国の西海岸から南下しているそうです…… トリル: この汚染によって既に、相当量の魚類……が……っ、う、ううっ。ひどい……っ シンデレラ: 無理しなくていいのよ、トリル。そんな報告、読み上げるのも辛いわよね ヴィルヘルミナ: 黒い海……ね シェイクスピア: 海洋生物への影響等を考えても、 おそらく高濃度ディマイトが海に流れているのだと思うわ ラヴクラフト: 濃いのは白いアレだけにしてほしいね エミリー: 真剣な顔で何言ってんの…… ラヴクラフト: これでもあたしは怒ってるんだよ ドロシー: 調査したほうがいいでしょうね。私が行く? ジャコヴァ: いや。こういうときのための役職だ。そうだな、フアナ フアナ: あっ……わ、わかった!あたしと特務機関の仲間たちが必ず解明してみせるよ! ジョカ: けど、こんなディマイトを海の真ん中に発生させるってどうやったんだ? シェイクスピア: 現場海域でディマイト堕ちした者の報告はないわ。 それにこれほどの濃度に、普通の肉体はついていけない。 つまり……ディマイト単体で遺棄された可能性が高いわ シェイクスピア: こんなもの……悲劇ではないわ。ただの蛮行よ ジョカ: んー?でもどうやって運んだんだ。捨てた瞬間に、自分も汚染されちゃわないか? クラース: 簡単な方法があるでしょ。……空よ (背景切換...) ???: あはっ、あははははははっ (ただひたすら海面が広がる風景を見渡しながら、彼女は愉しそうに笑った。) ???: ディマイトがいーっぱい広がっていってるねぇ……♪ ???: まだまだ、これからだよぉ。穢れた世界の連中に、思い知らせてやらなきゃねぇ~ ???: それこそが、聖母様の望みなのだからねぇ……さあっ、もっと広がっちゃえ~っ (彼女の眼下に広がった黒い液体は、 まるで繊維に付着したインクのように、じんわりと広がっていくのだった。) 180025 - 交錯する思いと悪意 (呼び出しを受けたファンロンは、廊下を重い足取りで進む。 その両脇から、ふたりがそっと近づいた。) ジューチャオ: 大丈夫?ファンロン、顔色が良くないよ シェンウー: これからお説教じゃな? ファンロン: 東方領から、例のお尋ね者が逃げおおせたらしいわ。まだチンロンを派遣する 前だったし……このあと、あの子が仕留めればそれで済むことなのだけど ジューチャオ: 思い通りにいかないと騒ぎ出すからね、あの人 シェンウー: ファンロンも苦労が絶えないのじゃ。わらわたちが代わってあげたいところじゃが…… ジューチャオ: あたし、たぶん殴っちゃうし シェンウー: わらわも言葉攻めをしてしまいそうじゃ ファンロン: いいのよ。気持ちだけもらっておくわ ジューチャオ: それにしてもさぁ、あの女はちょっと生意気よね シェンウー: わらわたちが忠誠を誓ったのはあくまでも創造の聖母様。 どこから来たかもわからんあやつに、好き放題言われるのもなかなかに癪なのじゃ ファンロン: …… (口々に不平を漏らすふたりを、ファンロンは静かに見つめる。 その瞳には、哀しみの気配が漂っていた。) (だが、それを振り払うように、 すぐにファンロンは切り替えてふたりの僚友をたしなめる。) ファンロン: あまりそういうことを大きな声で言うものではないわ シェンウー: そうじゃな。誰が聞いておるやもわからん ジューチャオ: あたし声でかいから気を付けないと! それよりさ、チンロンのこと手伝わなくて平気かな? ファンロン: ……そうね ファンロン: あのチンロンだもの。信じていいんじゃないかしら。 もちろん救援要請があれば動いてあげて ジューチャオ: それもそっか!了解!! (ふたりは、扉の前までファンロンを見送る。 手を振って送り出すジューチャオに小さく返しつつ、 ファンロンは重たい気分で扉を開いた。) (背景切換...) (部屋に入るなり、ファンロンは片膝をついて頭を垂れた。 自身の頭頂部に、鋭い視線が向けられているのを感じて、 彼女は深く呼吸をして気持ちを整える。) ???: ねーぇ、ファンロン。逃げられたって聞いたけど? ファンロン: ……申し訳ありません (ひらひらした服の裾が視界に入り、ファンロンは顔を上げる。 一見すると純真無垢な少女のように見える。 だがそれは、相手を欺く罠でしかないと彼女は知っていた。) ???: 謝ってもらってもね?あたしが何を求めてるのか全然わかってないのに、 頭だけ下げられても腹立つってゆーか? ファンロン: …… ???: ほら。クイズだよ。あたしは何を求めているでしょーかっ ファンロン: 奴らの首、かと ???: えーそれファイナルアンサー? ファンロン: ファイナル……? ???: あーもういいや。とにかく…… ???: ぶっぶぅー! (少女は胸の前で腕を交差させてバツを作ると、至近距離でファンロンの顔に向けて 唇を震わせながら否定した。唾液が顔にかかるが、ファンロンは身動ぎせず耐える。) ???: あたしのこと、なーんもわかってない。なんでか?知ろうとしてないからだよねぇー? ???: 主人の好みを把握するとか、使いっぱの一番大事なことじゃない?え?違う~? ファンロン: 仰せのとおりです。私が至らないばかりに申し訳ありません ???: つまんな。さめる ファンロン: ……っ!? (少女は、ファンロンがついている片膝に、思い切り足を乗せた。 ヒールが膝に食い込み、ファンロンは顔をしかめる。) ???: 生け捕りにして連れてきなさい。手を下すのはあたしがやるから ファンロン: かしこまりました ???: 本当に?わかってる? (頭を再び下げたファンロン。その顔を覗き込み、彼女はじっと見つめる。) ???: 失敗したら……どうなるか、わかってるんだよね?もっかい説明する? ファンロン: いえ……じゅうぶん心得ております ???: あの子もオトギノクニでうまいことやってるみたいだしさぁ。差がついちゃうよ~? (上体を起こした少女は元のように椅子に座ると、顎で扉を指し示す。) ???: もう行って。あたし、もう我慢できないからね ファンロン: …… (再び頭を深々と下げるファンロン。同時に、彼女は奥歯を強く噛み締めていた。) 180026 - 立ち上がるパイフー (『マオリンを再び』――) (それはパイフーに届いた、差出人不明の手紙に書かれた一文だ。 俺にとっては意味のわからない文章だが、彼女は違ったらしい。 顔色を変え、そしてきゅっと唇を噛んだ。) パイフー: マオリン…… 雨依: 誰なのよ、それは パイフー: 人の名前じゃない。場所 リル: 何か大きな意味がある場所なのだな テュポーン: どんなとこ?たのしい? パイフー: わたしたち五獣が、よく出かけていた場所。 穏やかで、日当たりも良くて、花の咲き乱れるキレイな アヌ: 再び、ってことは……また行こう、って解釈できるけど リル: その場所のことを知っているのは五獣だけなのか? パイフー: ううん、それぞれの側近というか、近いところにいた信民なら普通に知ってると思う リル: では、これだけで差出人を特定することは難しいか…… パイフー: うん…… (パイフーは手紙を見つめ、言葉少なにうつむく。) 人間さん: でも、少なくとも誰かが聖母の手に完全に落ちていないってことだ。 マオリンを再び――つまり、昔のように五獣で集まれる、 そんな世界をもう一度見たい、ってことだろう? アヌ: その人がうまく立ち回ってくれたらありがたいよね 人間さん: そのつもりだろう。 じゃなかったら、パイフーにわざわざこんな手紙なんて送ってこない リル: 何らかの理由で、手紙の主は直接的に行動を起こせない。 だからパイフーに立ち上がってもらおう、ということだな 雨依: それで?こんな手紙まで来て、パイフーはどうするの? パイフー: ……考える (それだけ言い残すと、パイフーは洞窟の奥へと姿を消す。) テュポーン: パイフー、行っちゃった。おいかける? 雨依: ううん、ひとりにしてあげましょ リル: そうだな。小生たちも少し休むか アヌ: ……パイフーに言うかどうかは迷ったんだけど 雨依: 何よ? アヌ: 信民は、自分のμは絶対。別に規則とかあるわけじゃないけど、 まずμのことを疑わない。そういう習性なんだよね リル: ……! 雨依: わかりやすく言ってよ アヌ: 例えばチンロンが、聖母のせいで昔と全然違うことを言い出しても、 信民はそこに疑問を持つことができない。だから……これは、μが書いた手紙だと思う 雨依: だとしたら、残りの4人の誰かってこと!? リル: あの中の誰かは、聖母の影響を受けていない……? (背景切換...) チンロン: まだ見つからないんですか~?困りますねぇ 信民: 申し訳ありません、チンロン様 チンロン: 肉を食べさせろだなんて言ってくる野蛮人は人の心を持たないんですから。 野放しにしていたら危険ですよ~ 信民: それが……あの野蛮の森に入ってしまいまして…… チンロン: あら……ということは、やはり (チンロンは、背後に控えていたファンロンに視線を送る。 その姿に、信民はさっと頭を下げて畏まった。) ファンロン: パイフーが関わっているのは間違いないようね チンロン: すぐに軍勢を差し向けましょう ファンロン: 配下に任せるなどとぬるいことを言っている場合ではないわ。 チンロン。あなた自ら現場に出るのよ チンロン: あら……そこまでしなくとも、 わたくしの信民たちは頼りになる方々ばかりですから―― ファンロン: 成果を気にされているのよ チンロン: ……それは、あのお方が?それともあのヒラヒラの ファンロン: 正式に遣わされているのだから、あのお方の意志と同じと捉えるべきよ。 あなたも、わかるでしょう? チンロン: 承知しましたわ。では、わたくしも向かいましょう。 パイフーが治める、あの野蛮な森へ。準備してくださる? 信民: 承知しました!すぐに準備します! チンロン: それにしても…… (すぐに準備に向かった信民を見送りながら、チンロンはふとつぶやいた。) チンロン: パイフーだけが何故、未だに間違った道を進み続けるのでしょうね? ファンロン: あの子は昔から、ちょっと頑固なところがあったから チンロン: それで、あのお方の意志にも反していると? 確かにわたくしたちに歯向かうでもなく、ただ自分の領地に引きこもって…… 正しさに気づけずにいるだけなのかもしれませんね チンロン: なら、わたくしが力を尽くさなくては。 パイフーの……『正しさへの目覚め』を促すことができるように (背景切換...) (入口のほうから淡い光が差し込んでくる。俺はふと目を覚まし、上体を起こした。) (洞窟内と言えども、多少は昼夜の区別はつくのだなと思う。 どうやら外は、夜が明け始めたところのようだ。) 雨依: 起きたの?人間さん。おはよ 人間さん: 朝か……ずっと起きていたのか? 雨依: ううん、ちゃんと寝たよ。オトギノクニに来てからわりと健康的だし。 夜に寝て、朝に起きてるの。レオナがうるさいからね パイフー: …… (雨依と他愛もない会話を交わしていると、洞窟の奥からパイフーが姿を見せる。 その顔には、決意が浮かんでいた。) パイフー: わたし、みんなを元に戻したい 180027 - 自身の使命とは パイフー: わたしは、みんなを元に戻す。それが使命なんだと思う リル: 心は決まったのだな パイフー: 今回の異変が起きた、きっかけに心当たりがある。 お祝い事があって、五帝や五獣みんなで集まるときがあった パイフー: でも、わたしは……面倒で、出たくなくて、西方領にこもったままだった 雨依: ひとりで別行動をとってたのが、結果的に良かったわけね パイフー: そう。良い結果になってしまった。どうして、わたしだけが残ってしまったのか アヌ: 結果論でしかないけど、手放しに幸運だったと喜べる状況ではないかもねぇ パイフー: 主である少昊様もいなくなってしまった。 なら、西方領をなんとしても守り抜くことこそが 使命だと自分に言い聞かせてきたけど…… パイフー: リルたちと出会って考えるようになった。 もし少昊様がこの場にいらしたら、わたしに何て言うか 雨依: その答えが、さっきの決意ね パイフー: うん。わたしは、戦う テュポーン: パイフー、かっこいい パイフー: ん…… (パイフーが決意してくれたことは、正直ありがたい。 そう思ってしまう自分に気付き、雨依の言う利用するのは 当然という言葉が頭の中で反芻される。) (相手のことを思いやりたいという気持ちは嘘ではないのに、 どうしても利己的な発想からは抜け出せないのだろうか。) エグレット: じゃあ朝になったら出発ですか~? リル: 夜討ちも選択肢に入るが、どうだ? パイフー: あり アヌ: いまから移動するの~?もう疲れた、誰かおぶっていって~ テュポーン: テュポ、おねむ 人間さん: くっ……こんな場面で小柄な子ばかり連れて来た弊害が アヌ: 私はいつも眠いけどね 雨依: 威張っていうことじゃないでしょ アヌ: 雨依は何でそんなに元気なの 雨依: レオナに矯正されたとは言え、夜型生活は染みついてるから。なんとなく暗い方が テンションも上がるのよ。夏場とか路上で倒れるまで飲んでたりしたし アヌ: それも威張っていうことじゃなくない? エグレット: じゃあ、おねむな人はうちが魔法をかけてあげるね~。はい、ふわふわ~ テュポーン: ふわぁ!テュポ、ういてる エグレット: はい、ふわふわ~ アヌ: おお!これは楽ちん 雨依: なにそれ、いいわね。私もやってよ エグレット: あー…… 雨依: 何よ エグレット: ちょっと重すぎるとふわふわの魔法が負けちゃって…… 雨依: 重すぎる!?ちょっとあんた、ぶっ飛ばすわよ リル: す、すまない。こんな頼りないふわふわでも小生の精霊なんだ。 ここは小生の顔に免じて許してやってくれ 雨依: 気持ちは分かったけど、顔に免じるほどリルと私って関係性あった? リル: それを言われると痛い…… 人間さん: まあまあ…… 人間さん: (――待てよ!?) 人間さん: (▼選択肢A:ちょっとぽっちゃりしてるくらいが俺は好きだな B:全然太ってなんかないから気にする必要ないよ) 人間さん: (どっちだ……!正解がわからない……!) 雨依: 人間さん、何も言わなくていいからね。 たぶんいま、頭の中で二択が浮かんでると思うけど、どっちも不正解だから 人間さん: どっちも!?ていうか、なんで俺の頭の中が分かったんだ 雨依: 女のカンよ リル: あー、こほん。まあ、そういうわけで夜討ちも可能になった パイフー: うん。茶番をやっているうちに、信民にも指示を出しておいた。 すぐに軍勢の準備を整える パイフー: いまならこっちが有利。チンロンは反撃を予測していない アヌ: 確かにね。たぶんパイフーと私たちが結託している可能性は 多少なりとも予想しているだろうけど…… ずっと沈黙を守ってきたパイフーが立ち上がることは予想外だよね パイフー: ふわふわしてる人に大真面目に言われても アヌ: 気にしないで。エグレットの魔法がなくても、 私は基本ふわふわした立ち位置からしかものを言わないから 雨依: なんて無責任な…… パイフー: でも、アヌのいうとおり。それに、向こうは人間さんたちを 探すために捜索活動をしてる。つまり、守りが薄いはず リル: 人探しなら、薄く広く人員を配置するだろうからな。 不測の事態に急ぎ軍勢を集めようとしても、時間差があるだろう テュポーン: そこを、人間さんがどかーんってするんだ。ふわふわ 人間さん: どかーん? パイフー: エルマイトを注入するんだよね? 人間さん: あ、そういうことか。確かにどかーんだな。爆発しちゃう的な……いてっ! 雨依: ……別に他の方法でもいいんじゃないの 人間さん: いやでもほら、効率が 雨依: ふーん?ふーん?ふーん? 人間さん: (うーん……雨依ってこんな感じの子だったのか……うかつな行動はできないぞ……) 180028 - 谷間の決戦 信民1: 二番隊、接敵。既に撃破しております 信民2: 七番隊、敵部隊を撃破しました パイフー: 順調……これでいい…… (洞窟を出た俺たちを待っていたのは、パイフー領を守る兵士たちだった。 急な指示だったというのに数は十分に揃っている。 そればかりか練度も高く、次々と成果を挙げていた。) 雨依: すごいじゃない。今のところ負けなしでしょ? パイフー: わたしたちは主に狩猟で生活している。戦いには自信がある リル: なるほどな。チンロン領の信民たちが『野蛮人』などと蔑みながらも、 どこか恐れているように感じられたのはこのためか 雨依: 実際にやり合ったら勝てる気がしないと。偉そうに言ってる割に、って感じね 信民: しかしパイフー様。 指示通りに深追い厳禁としておりますが、本当によろしかったので? パイフー: うん、いい リル: 深追いは危険を伴うからな パイフー: それもある。でも逃げた兵は放っておけば、いろいろと情報を向こうに渡してくれる 雨依: 情報って? パイフー: ひとつは、わたしたちの圧倒的戦力。 恐れをなして、兵がひとりでも逃げてくれればそれに越したことはない エグレット: できるだけ相手のことも倒したくないってこと~?優しいねぇ パイフー: そして二つ目。これが本命だけど、チンロンを引きずり出す アヌ: なるほど。チンロンの目を覚まさせれば事態は解決。 いたずらに戦う必要はないってわけだね テュポーン: いたずら?テュポがいたずらしたのバレたの?ごめんなさい アヌ: そういういたずらじゃ……待って。テュポーン、何したの テュポーン: う、うう、アヌのお茶に……エグレットの持ってた草しぼって汁入れた アヌ: なんてことを!! アヌ: うっ、なんかお腹の調子が エグレット: うちの薬草にそんな変なのないってば~ 雨依: ガイアがいないと、こういう面で制御できる人がいないのよね…… リル: ここまで計画しているということは、迎え撃つ場所も想定しているな? パイフー: うん。向かうのはこの先。チンロン領との境界線に近い、ジェリの谷 (背景切換...) パイフー: やっぱりここに陣取って来た (パイフーに案内されるがまま到着した俺たち。 谷間を挟んで反対側には、チンロン軍と思しき兵の姿が見える。) (にらみ合う形となった両軍。 緊張感を保ちながら、パイフー軍は敵方の様子を注視するが――) リル: ……何やらずいぶんと楽しげじゃないか? パイフー: チンロン……? (背景切換...) (――チンロン陣営――) チンロン: さあさあ、どんどん持ってきてくださいね。 これから戦いになるのですから、たくさん食べて体力をつけないと チンロン兵1: そうですなぁ!もぐもぐもぐ チンロン兵2: これも美味ですぞ、チンロン様。もぐもぐもぐ チンロン: まあ、なんて味わい深いんでしょう。もぐもぐもぐ。 ちょっと普段以上に食べちゃってますけど、 まあこれから身体を動かすのでまったく問題ありませんよね。もぐもぐもぐ チンロン: 大豆を具材にした麻婆豆腐、お豆腐の入った餃子、はるさめや高野豆腐を入れた シュウマイ……ああ、この厚揚げをテンメンジャンで味付けした炒め物も美味しい♪ チンロン: 箸が止まりません、もぐもぐもぐ (陣内には多くの料理が運び込まれ、チンロンをはじめとして将官クラスから 末端の兵士まで腹を十分に満たす。それはさながら、宴のような盛り上がりだった。) チンロン: ああ、美味しい。ああ、楽しい。こんな幸せを受け入れず、 野蛮な殺し合いに明け暮れるパイフー……なんて哀れなんでしょう チンロン: あの子の目を覚まさせることこそ、わたくしの義務…… この幸せを教えてあげなくてはいけませんね チンロン兵1: まったくです!我々は攻撃がしたいのではありませんからね。 正しさを知らない未開の人々に、何が正しく、 何が幸せであるかを教えなくてはならない チンロン: ああ、素晴らしい。その通りです。幸せや真実といったものは、 わたくしたちだけで留めていてはいけないものですからね チンロン: もっともっと広めていかないと……ふふっ (背景切換...) (――パイフー陣営――) エグレット: なんかお腹いっぱい食べてるみたい。いいなぁ~ リル: エグレット。そのようなこと、軽はずみに口にするものではないぞ パイフー兵: しかし、実際にあの宴の様子を見ていて、我が軍の兵たちも士気が 下がり始めているようです。これも相手の策なのでしょうか パイフー: ……わたしたちは、携行用の干し肉くらいしかない。羨ましく思うのは当然 アヌ: よーし、私たちもなんかお祭り騒ぎして対抗しようよ テュポーン: アヌはごちそう食べたいだけ アヌ: 変なところで鋭いな、テュポーンは 人間さん: …… 雨依: 人間さん?何か考え込んでるけど、どうしたの? 食べたいものを考えたところで、たぶん実現しないわよ。 私は無性に豚骨ラーメンが食べたいけど 人間さん: いや、ちょっと気になってることがあるんだ。いいかな、パイフー 180029 - 妄信のリスク パイフー: 始めるよ パイフー兵: はっ!全軍、進めぇ! (パイフーの合図――正確にはそれを受けた将官の合図――で、信民の兵士たちが 一斉に敵陣目がけてなだれ込む。対するチンロン軍も、それに応じて身構えた。) パイフー兵: おおおおおお! チンロン兵: 来いっ!! (激しい剣戟の音が谷に響く。 ひとまずの戦況としては、ほぼ互角の勝負といった様子だ。) (谷間ではあるが、普段から人の行き来はあるのだろう。 いくつもの坂道が、両端から谷底に続いており、 兵士たちの攻防はその谷間で行われていた。) パイフー: ……リルが信じるっていうから、わたしも信じたけど (やや不安げな様子で戦場を見つめるパイフー。 彼女が言っているのは、先ほど俺が提案した作戦だ。) 人間さん: たぶん、うまくいくはず……。 チンロンの様子がおかしくなって以降、ずっとあの食生活なんだろ? パイフー: うん、野菜しか食べない 雨依: それって健康的なんじゃないの?私もダイエットするとき野菜だけにしたりするよ 人間さん: そう、ダイエットなんだよ。可愛くなりたい女の子ならともかく、 剣を持って戦う兵士がそんなことしたらどうなるか―― 人間さん: よし、そろそろだろう (戦いの行方を見守っていた俺は、 頃合いと判断してパイフーたちを経由して合図を送る。) パイフー兵: 下がれぇっ! チンロン: ……っ? チンロン兵: ん?なんだ、もう引くのか? チンロン: 構いません、追撃してください! 敵はわたくしたちの正しさの前に怯んでいるにすぎません (パイフー軍が下がるのを見て、チンロン軍は容赦なく追撃する。 それもまた、狙い通りだった。) アヌ: へえ。人間さんの言う通りになってる。これは面白いね エグレット: 人間さんちゃんは予言者なの~? 人間さん: ああいう『自分たちは良いことをしている』と考えている集団は 自分たちが有利だと判断すれば、畳みかけてくるものなんだよ テュポーン: のぼりざか、たいへんそうだよ (視線を移すと、今まさにパイフー軍が谷底からの斜面を登り切り、 チンロン軍を迎え撃とうというところだった。) パイフー: いまっ……! (今度は下り坂を駆けおりていく。勢いに乗るチンロン軍は、それもまた追撃する。) (変化が現れたのは、そんな行き来が数往復された頃だった。) エグレット: あっ……見て、ご主人。 チンロン軍の兵士たちがだんだん足元ふわふわしてきちゃってるよ アヌ: パイフー軍にも疲労はあるが、明らかにチンロン側の疲弊が早い…… 人間さんの言ったとおりだね 人間さん: 完全菜食主義にしてしまうと、どうしても栄養失調になりがちだ。 特に筋肉が減少してしまう テュポーン: えーよーしっちょーってなに? 雨依: 身体を動かすためのエネルギーが足りなくなっちゃう、ってこと。 μはどうか分からないけど、生身の私たちに近い信民は 栄養が足りなければ動きも鈍くなるでしょうね 雨依: でも、見た感じみんな瘦せ細ってる感じはしないわよ? チンロンもだし、兵士たちもどちらかというとぽっちゃりしてない? 人間さん: 野菜だけ食べていると太る可能性があるんだ 雨依: えっ!?嘘でしょ!? 人間さん: さっき言ったように筋肉を維持できなくなってくる。 そうすると基礎代謝が落ちて、エネルギーを消費できなくなってしまう 人間さん: 一方で、野菜といっても根菜類とか糖質を含むものは多い。 基礎代謝、つまり消費カロリーは落ちているのに エネルギーはむしろ増えてしまうこともある。満腹感も得にくいだろうし アヌ: 言ってることの半分くらいしか理解できないけど、でもなんとなく分かるよ パイフー: わたしの信民たちは、狩りをして肉を食べる。 釣りをして魚も食べる。でも野菜も食べる リル: バランスがとれている、ということか エグレット: だからチンロン側の人たちは、みんなへばってきちゃってるんだね (斜面の上り下りを繰り返した結果、 スタミナを大きく削られたチンロン軍はいまや完全に足が止まっていた。 ここで攻撃されては、本来の実力の半分も出せないだろう。) パイフー: 合図、出す? 人間さん: ああ、頼む パイフー兵: 突撃っ!! (突然、転進したパイフー軍に、チンロン軍は露骨に浮足立つ。 慌てて対応しようにも、既に体力を失っていた彼らは、 為す術もなくパイフー軍の猛攻に晒された。) チンロン: なっ……な、何が起こっているのです……!? 180030 - それぞれの正しさ ファンロン: そう…… (ファンロンは配下の兵士から報告を受けると、ふうっと深く息をついた。) ファンロン兵: いかがいたしましょうか ファンロン: いまから迂闊に動くのは悪手よ。様子を見ましょう。状況は逐一、報告して ファンロン兵: はっ! ファンロン: …… (ファンロンは廊下の窓の外を眺める。) ファンロン: (あれから、どれほどの時間が経っただろうか……。いえ、実際にはそう長くは ないのよね。体感として長い気がするだけ。分かってはいるけど、でも――) ファンロン: ……やっと、この時が来た (背景切換...) チンロン: バカな……わたくしの信民たちが、手も足も出ないだなんて……!? (本来、チンロンとパイフーの実力は拮抗しているらしい。 だがそれは、正常だった当時を語るパイフーの証言だ。 現在は聖母によって、何かしら付加されている可能性が高かった。) (出来る限り戦力をチンロンに集中させたい。そのためには信民の軍勢同士の戦いで 圧倒しておきたかった。一連の作戦は全て、チンロンを確実に仕留めるためだ。) パイフー: チンロン チンロン: パイフー……! (満を持して、パイフーはチンロンの前に進み出る。もちろんμの力を得たリル、 そしてアヌ、テュポーンも、戦いが始まれば援護に回ろうと身構えている。) 雨依: 近くに来ると分かるわね。チンロンの中に、ディマイトっぽい力が渦巻いてるわ 人間さん: これまで通りなら、μ世界にディマイトは自然発生しない。 やはり聖母が何かしているのか パイフー: もうやめよう、チンロン チンロン: やめる……?何をです。やめるのはあなたの方でしょう、パイフー パイフー: わたしは何も変わっていない。チンロンは、変わってしまった チンロン: 何が変わったというのです。わたくしは正しい道に目覚めただけ。 命を奪い、血を流して得るものなどに価値を見出してはいけないのです パイフー: そうじゃない。前のチンロンは、肉も魚も区別なくもりもり食べていたけど パイフー: 食べていたものは何でもいい。でもチンロンは、わたしに…… 他の五獣のみんなに絶対に言わない言葉があった チンロン: ……? パイフー: 『もっと食べなさい』 (パイフーの真意をつかみかねて、 チンロンだけでなくその場の全員が彼女の次の言葉を待つ。) パイフー: チンロンは大食い。たくさん食べる。でもそれを、その量を、他者に強要したりは しなかった。だからみんなも、チンロンの大食いという個性を認めていた パイフー: 今は違う。わたしを変えるために軍勢まで差し向けている。 そして遠くから来た人間さんたちを異物扱いして追いかけ回す パイフー: それは、間違ってる チンロン: 間違ってる、ですって……!? いいえ、そんなことはないわ。わたくしは正しさに目覚めたのです! (穏やかな印象だったチンロンの語調が、徐々に威圧を伴う。 俺は雨依に目配せする。彼女もまたうなずき返してきた。) チンロン: わたくしは、あのお方に正しい道へと導いていただいたのですよ。 だから友人であるあなたにも伝えたい。それの何がいけないと―― リル: 正しさとは、人の数だけある。自分の正義を相手に押し付けるのは、傲慢にすぎるな (黙っていられなかったのか、リルが口を開く。チンロンはきっと彼女を睨んだ。) チンロン: 愚かな誤りを指摘することの、何が傲慢だというのです パイフー: そもそもチンロンは正しくない チンロン: なんですって? パイフー: だって、負けてる (ハッとしたチンロンは周囲を見回す。 もはや残っているチンロン兵などごくわずかだ。) (この戦いが正義を決するものだというのは、俺もさすがに極端だと思うが 少なくとも健康的な食生活なら、この結果にはなっていないわけで。) チンロン: では……わ、わたくしは……間違って……? チンロン: ハァッ!?あ、あぁうっ、あ、頭が!う、うあぁああっ!! 人間さん: 雨依!? 雨依: ディマイトが急上昇してるわ! 抑え込もうとしてるけど、それでも追いつかない勢いよ 雨依: だけど、これ……私たちに向けられてない……? チンロンを傷つけるために使われてるような…… 人間さん: まさか……『正義を疑った』から……? パイフー: チンロン! チンロン: うああああぁぁぁっ!! アヌ: 暴走してる!? 雨依: 苦痛のあまり我を失っているのよ……。 私がディマイトをできるだけ押さえるから、みんなでチンロンを止めて! 180030 - ストーリー用 Ⅰ 180031 - バランス チンロン: う、うう……わた、くしは…… リル: ふう……。さすがにもう動く元気はないようだな テュポーン: テュポたちの、勝ち!やった! テュポーン: じゃあ、はい チンロン: あ……お水……? パイフー: 喉、乾いてるでしょ。テュポーンの優しさ、受け取ったらいい リル: 敗者にも情けを忘れず、気遣いを見せるか。 テュポーン殿は、これでなかなかの武人というわけだな テュポーン: ぶじん?テュポ、びじんのほうがいい リル: ふふ、それは両立できるから安心しろ 雨依: 小生のように? リル: そ、そんなことは言ってないだろう! チンロン: こく……。ふう……ありがとうございます アヌ: でもなんで、そんなちっちゃいグラスなの? ていうか、それどこから出してきたの? テュポーン: ピュルテにもらったよ。負けた人は、このちっちゃいのに入れた飲み物を くいって一気に飲むものなんだって 雨依: 情けとかじゃなかったんですけど……!? リル: ピュルテは何を教えているんだ…… 人間さん: 完全に飲みサーじゃないか チンロン: いえ、でも少し頭も冷えた気がします。 わたくしは……負けてしまったのですね……。 たとえ正しくても、力が足りなければ負けてしまう…… 人間さん: 雨依? 雨依: 弱まっているだけで、まだ完全にディマイトが抜けきっているわけじゃないみたいよ チンロン: わたくしが至らないばかりに、あのお方の崇高なる理念に 泥を塗ってしまいました……。もう生きてはいけない…… パイフー: バカなこと言わないで、チンロン。生きなきゃだめ。 それに、チンロンが悪いわけじゃない 人間さん: その通り。その誰かさんの崇高な理念とやらが、そもそも間違っているんだよ 人間さん: 肉や動物性たんぱく質を摂らなければ、体力も落ちるし、何よりも太りやすくなる チンロン: えっ!? チンロン: そんな!だってお野菜ですよ!? (俺はさっきみんなに説明した理屈を、改めて披露する。 チンロンの顔色は、明らかに変わっていった。) チンロン: 痩せられると思って信じたのに、そんなっ……!? (がっくりとうなだれるチンロンの姿に、誰もがいたたまれない視線を送る。) 雨依: 人を操ったりするときに、何かしら心に空いた穴を 利用することが多いってよく聞くけど…… チンロンにとってそれが何だったのかは、もう明らかになったわね リル: コンプレックスを利用するとは、その聖母とやらはずいぶん卑劣な手を使うじゃないか チンロン: じゃあ、わたくしのこのわがままボディは、 ずっとこのままだということなのですね……!? 人間さん: ずっと、というわけじゃないって。 とりあえず今の方法じゃうまくいかないっていうだけで―― (ぷんっ!!) アヌ: ……ん? チンロン: ああっ、やだぁっ!?ウェストのところの紐が切れちゃったわ! アヌ: このタイミングで……間が悪すぎる…… 人間さん: でも、エロいよな…… リル: 何を言ってるんだ、貴君は チンロン: えっ?あの、そこの方、いまなんと? 人間さん: えっ?いや、その チンロン: エロい、とおっしゃいましたよね? パイフー: 聞こえてるのに何で聞き返してる? チンロン: それはつまり、性的魅力にあふれている、ということですよね? そうなんですか?わたくし、エロいですか? 人間さん: お、落ち着いて 人間さん: 間違いない。エロいよ。魅力的だと思う チンロン: 本当ですか!?そ、それは口から出まかせではないんですか? 人間さん: 本当だって。ほら チンロン: まあ! リル: 貴君というやつは…… パイフー: 最低だ 雨依: キモいんですけど…… 人間さん: みんなして責めなくてもいいじゃないか! チンロン: あ……ああ……わたくしは大丈夫なのですね……! 正しい道を探さなくても、わたくしはっ……! リル: な、なんだ?いまの光は パイフー: チンロン!大丈夫? チンロン: え……?あ、わ、わたくしはいったい……? パイフー: これって、もしかして 雨依: ディマイトが完全に消えているわ。おそらく、洗脳状態が解けたのよ! パイフー: 気分は悪くない?自分がどうなってたか、わかる? チンロン: ええ、大丈夫です。わたくしは、確か…… そう、あの杖を一振りされて、急に何か道が開けたような気持ちになって…… パイフー: 杖……?それが洗脳の道具……? チンロン: 確か、『正しさの杖』と呼ばれていた気がします リル: 『正しさの杖』……それがやつの武器というわけか アヌ: つまり聖母の『正しさの杖』と人間さんの杖が張り合って、勝てたってことかな 雨依: 人間さん、本当にキモいから。杖とか言うのやめれる? 人間さん: それ俺が言ったんじゃないぞ!? 180032 - 失われたμ (弱っているチンロンをいつまでも谷底に置いておけない。 チンロン軍の負傷者も含め、領内に移送した。) (不思議なことに、町にとどまっていた信民兵士たちは、一様に俺たちをにこやかに 出迎えてくれる。おそらくチンロンの呪縛が解けたことと関係があるのだろう。) パイフー: どう、気分は チンロン: 気分は悪くありません。むしろ人間さんに エロい目で見られてちょっと気分がいいくらいです 雨依: ………… 人間さん: もう、そんな目で見ないでくれよ テュポーン: うい、おこりんぼ チンロン: おかげで、だんだんとわたくしが変わってしまう直前のことも思い出してきました パイフー: ……!じゃあ、あの日何があったのかも チンロン: ええ。わたくしたち五獣はあの日、黄帝様に呼び出されていました。 そんなことは珍しいので、何があったのだろうと思っていたのですが―― (背景切換...) ファンロン: あなたは?いえ、それより黄帝様はどこです ???: ざーんねん。もう黄帝さんはいないよぉ? ジューチャオ: はあ!?いないってどういうことよ!それって、つまり、いないってこと!? シェンウー: 言ってる意味がわからんぞ、ジューチャオ。冷静になるのじゃ ジューチャオ: あたしは落ち着いてるわよ。普段通りだってば! シェンウー: それもそうか チンロン: 黄帝様がいらっしゃらないのなら、わたくしたちはここに集まる理由もありません。 帰らせていただきます ???: そうはいかないんだよねぇ。ほら、あれ持ってきて ???: はいはぁい。人使いが荒いなぁ、もう ファンロン: 何をするつもり……!?その棒は一体 ???: これはねぇ、『正しさの杖』っていうんだけどぉ……♪ ある人が見つけた、正しい道に導いてもらえるっていう ありがたーいアイテムなんだって。きゃはははっ ファンロン: な、なに……?何をするつもり……!? ???: このありがたーい杖が決めた、この世界の正しい道にはね…… 黄帝なんて要らないって結論になったみたいだよぉ? ファンロン: い、要らない……!? チンロン: あなたたちが何かしたんですか!?それじゃあまさか、伏犠様のことも!? ???: だとしたら、どうする?みーんな、この正しさに抵抗できるのかなぁー? チンロン: く……うう、意識が……!ごめんなさい、伏犠様……!! (背景切換...) チンロン: 気が付いたときにはもう、自分の身体を思うようには動かせなくなっていました。 そして、まるでもうひとりのわたくしが頭の中にいるかのように…… パイフー: 野菜ばかり食べる生活を始めた? チンロン: ええ。本当はお肉もお魚も食べたかったのに。でももうひとりのわたくしが言うのです。 欲望に忠実だから、そんな身体になってしまうのだと 雨依: 何が『正しさ』なんだか。人の弱みにつけこんで パイフー: 待って……。伏犠様も、いなくなったの? チンロン: ええ。パイフーさんは会合に来られないのでご存じなかったでしょうが、 既に顓頊様も神農様も、姿を消しておられて―― チンロン: 『も』……?パイフーさん、その言い方だとまさか少昊様も パイフー: 少し前に、消えちゃった。ちょっとずつ薄くなっていって、会話もできなくなっていって パイフー: だから、わたしは西方領から出られなくなった。 少昊様がいなくなったら、わたしが西方を守るしかないから チンロン: どうしてそんな大事なことを黙っていたんです!? パイフー: ……っ チンロン: ……ごめんなさい。過ぎたことに声を荒げても仕方ないのですけど アヌ: えっと……さっきから出てる名前は、誰? チンロン: わたくしたち五獣の主とも言うべき、偉大なμです。 古くからこの世界を作られていた方々なので、信民の数こそそれほど多くありませんが…… パイフー: μとしての力は、わたしたちの方が強かった。だから代わりに働いた パイフー: でも……μの力がなくても少昊様は偉大。 だからわたしは、いつもお話を聞いて、行動してた リル: その主とも言うべき存在が、次々に姿を消したというのか。 そのμたちはやはり、五獣それぞれにいるのだろうな チンロン: ええ。少昊様もお姿が見えなくなったのであれば、4人の…… いえ、先ほどのあの場面が事実なら、黄帝様でさえおそらくは 雨依: それも創造の聖母の仕業かもしれないわね 人間さん: 古くからいる主人たちを消し、五獣を『正しさの杖』で狂わせる…… 一体何が目的なんだ…… パイフー: 今さらかもしれない。でも、わたしはみんなを救いたい。 そのために、まずチンロンのところに来た パイフー: チンロン。お願いがある チンロン: 協力しろというのでしょう?もちろん、お願いされるまでもありません。 きっと伏犠様もそれを望んでおられますから チンロン: 消えてしまう、その最後の瞬間まで、あの方はこの世界の 行く末を憂いておられた……。ご自身の存在が消えることなど二の次で アヌ: やっぱり、私は腹が立ってきたよ テュポーン: テュポも。おこりんぼになる チンロン: そこで……ひとつ、思い出したことがあります 180033 - ファンロンの苦悩 (目の前の相手は明らかに不機嫌で、 ファンロンはただじっとひざまずいてやり過ごしていた。) ???: ほんっと、協調性がないやつって困るよねぇ~。 あのパイフーとかいうのがぐだぐだ言って来ないから、 杖も使えないままだったしさぁ ファンロン: はっ…… ???: は、じゃないんだよ。ファンロンはさぁ、五獣のまとめ役でしょ? まとめられてないじゃん! つまり、あんたは無能ってことなんだけど~? ファンロン: 申し訳ありません ???: 生け捕りにして (不機嫌ながらも普段のふざけた口調を保っていた彼女が、ふいに冷たい声で言い放つ。) ???: あたしに逆らったんだもん。この手で八つ裂きにしないと気が済まないんだよね~。 ぶしゅぶしゅ刺して、どばどば血が出てさぁ ???: ファンロン、知ってる?生きてないと血って刺してもどばーって出ないんだよ~? ファンロン: 心得ております ???: だったらもう行って。まともな報告してくれないんだったら、 その陰気な顔見てもなーんにもおもしろくないもん ファンロン: かしこまりました (ファンロンは一礼して、退出しようとする。と、その背中に向けて。) ???: そうそうー。チンロンが向こうに落ちちゃったんだけどさ、 その後なんか森の中に入って行ったみたいなの。東の端っこのほう ???: 次はジューチャオかシェンウーのところに行くと思ったんだけど、 なんか寄り道してるみたい ファンロン: …… ???: 何しに行ったのか、なんか知らなーい? ファンロン: さあ……私にはなんとも ???: ふーん……? ファンロン: …… ???: …… ファンロン: ……!? (振り向いたファンロンの頬を、素早く何かがかすめていく。 カンッ、という乾いた音が耳元で聞こえた。) (見れば、ナイフが壁に突き立っており、ファンロンの片頬は薄く切られ、 血がつーっと滴った。) ファンロン: ……っ? (慌てて頬の血を拭うファンロン。そんな彼女を愉快そうに、冷たい目で見据えて。) ???: あんたって、ほーんと無能♪ (背景切換...) (部屋を出たファンロンは、足早に先を急ぐ。 目的地に急ぎたいわけではない。早くこの部屋から離れたかったのだ。) ファンロン: (見えなかった……この私が……) ファンロン: (ナイフを投げる動作など、まるでなかったように見えた。 宙から突然ナイフが現れたかのような…… あれは、ヤツの権能なのか……?) ファンロン: (いずれにしても……あいつの前に長時間いるのは厳しい…… どこかでボロが出てしまいそうで……) ジューチャオ: ファンロン! (名前を呼ばれてハッと顔を上げるファンロン。 足早に進む彼女を両脇から挟むようにして、ジューチャオとシェンウーの ふたりが隣に立った。) ジューチャオ: どうしたのよ。なんか難しい顔してたわよ。トイレ我慢してるの? ファンロン: そうじゃない。ちょっと困ったことが起きただけ シェンウー: チンロンのことか?パイフーのやつにたぶらかされてしまったとかなんとか ファンロン: ええ、そうなの。寄り道しているようだけど、 おそらく次はふたりのどちらかの領内に現れるはずよ ジューチャオ: わかった!じゃあ、なんか準備しとくわ。うちの信民たち、みんな頼りになるから! シェンウー: 役割分担を見直したのだったか? ジューチャオ: そうなの。誰でも、好きなことができるように、とっても自由にしたのよ シェンウー: ふむふむ。おぬしのやることじゃ、不安は大いにあるが…… まあ、うまいことやってみせよ。こふふふっ ジューチャオ: はあー?なんで不安なのよ!そっちこそよく分かんないことやってんじゃないの? シェンウー: ほう?例えばどんなじゃ? ジューチャオ: 例えば……えーと、なんかよく分かんないことよ! シェンウー: おぬしからすれば、大抵のことはよく分からんじゃろうて ジューチャオ: そうだよ!ん?いま、バカにされてた? ファンロン: くだらないことを言い合っていないで、さっさと準備に取り掛かかりなさい ジューチャオ: はぁい ???: おや……待ちの姿勢なのですね ファンロン: あなたは確か、ペロー…… ペロー: ふふっ、ご無沙汰しています。ファンロン、あなたに少々またお願いがありまして ファンロン: μの力が必要、ということですか ペロー: 察しが良くて助かります。これも大義のため、さあ場所を移しましょうか…… シェンウー: ファンロン…… ファンロン: 大丈夫よ。あなたたちはチンロンとパイフーを討ち取ることだけ考えておいてちょうだい 180034 - 海の異変を追って (その日も、海は穏やかだった。 フックは自らの船の舳先に立ち、周囲の様子をうかがう。) フック: 不審な点は見当たりませんね。しかし…… (視線を足元、つまり海面へと向ける。そこには、濃い黒が浸蝕していた。) (海面は穏やかだが、美しい青は損なわれている。) フック: 嵐の後などは海の水も汚れることがある。 しかし、これだけ凪いでいるのに色が変わるとは…… フック: そもそも、自然の色味ではないでしょう。 この真っ黒に海を染めているのは一体、何なのか…… (既に海水サンプルはエイヴォン研究所に送られている。 詳細な検査結果も間もなく出るだろうが、シェイクスピアからの速報では 高濃度ディマイトの可能性が高いとのことだった。) 海賊: 船長 フック: 何か見つかりましたか? 海賊: こんなものが フック: ……これは? フアナ: なになに?なんか見つかった? フック: 見てください。漂っている黒い海水を濾したものです。 何やら、きらきらと光る粉のようなものが混じっています フアナ: へぇ?なんだろ フック: これが海を汚す原因かどうかも分かりませんが (同時多発的に複数の海域で起きた、海水汚染現象。 まだ手がかりは少なく、捜索に指名されたフアナとフックも、 対応に苦慮していた。) フック: まだ汚染は沖合が中心ですから、そこまで市民の生活に影響は出ていない……。 ただし、それもいつまで維持されるかは原因が分からない以上、 誰にも断言できませんね フアナ: 海ってさ、川から水が流れ込むものでしょ?海のど真ん中から汚れることってあるのかな フック: ご指摘の通り、そこも不可思議な点ですね。海には潮の流れというものがある。 しかし汚染の広がり方はそれを無視しているように見えます。 これではまるで―― フアナ: まるで? フック: いえ、この段階で推論は避けたほうがいいでしょう フアナ: いやいや、海といえばフックなんだからさ。 ちょっと思いついたことがあるなら共有してほしいな フック: ……そうですか。では、あくまで私個人の、感覚的な 意見として聞いておいてほしいのですが…… まるで、沖合の上空から垂れ流したかのように思えるのですよ (背景切換...) (フックたちの船は最寄りの港町に停泊していた。) (汚染が報告された中で、最も近い陸地がこの町だと言われているため、 何か手がかりがあるのではないかと推測されていた。) フック: まずは目撃者から話を聞きましょうか フアナ: いるの?目撃者 フック: 第一発見者というべきでしょうか。この海域の汚染を最初に見つけた人物です 浦島みずえ: あ、やっほー フアナ: みずえ~!久しぶりだね! フアナ: え、もしかして今回の目撃者って 浦島みずえ: そ、あたし。正確に言うと亀姫なんだけど、 いまちょっと乙姫のところに戻っちゃってるからさ フック: 乙姫さんというと、海底に城を構えているのでしたね。 今回のこの事件で、何か影響が出ているのですか? 浦島みずえ: なんか黒いのがどんどん海底に落ちてきてるんだって。 だから色んなところにくっついちゃって大変みたい フック: となると、トリルさんのところも無事では済まないかもしれませんね…… フアナ: それで、黒いのを見つけたときって、どんな感じだったの? 浦島みずえ: えー!珍しい!フアナが自叙伝配ったりとか、 勝手に近況を語り出したりとかしないでいきなり本題に入った! フアナ: えへへ……最近のあたし、ちょっと仕事に燃えてるんだよね フック: 仕事に燃えてなくても、勝手に近況を語るのはやめたほうが良いかと 浦島みずえ: あー、それで黒いのを見つけたときだけど……別に大したものは見てないんだよね。 沖合の方からぶわぁーって黒いのが広がってきてさ 浦島みずえ: 波に乗って、どんどんこっちにも近づいてきてて、うわぁーってなって フアナ: ふむふむ…… 浦島みずえ: あれってディマイトなんでしょ? だからかなぁ。普段は飛んでる海鳥もほとんど見当たらなくて フック: 生き物にも既に影響が出ているのですね 浦島みずえ: だと思うよ。なんかでかいのが一羽だけ、ふわふわ飛んでたけど。 でもあれ、鳥じゃなさそうだったな フアナ: ふーん。まあ、一羽だけじゃ、たまたま強い個体だったのかな。 大きいっていうんならボス格だったり フック: ……?鳥じゃなさそう、というのは? 浦島みずえ: なんかね、羽が鳥じゃないっぽかったの。こういう細長い感じのシルエットで 、左右2枚ずつ、合わせて4枚あった気がするし 浦島みずえ: こういう形の……なんかちょっと虫っぽくない? でもかなり大きかったんだよね。ほんと、あたしくらいありそうな フック: ……!? フアナ: あはは、そんな大きい虫がいるわけないでしょ! フック: この羽根の形……まさか……? 180035 - 脅威! ジューチャオ軍 (中央ファンロン領、 クンルン山から戻ったジューチャオは、さっそく信民を集めていた。) ジューチャオ: よーし!みんな、話は聞いたよね! 信民: 聞いてないです ジューチャオ: とにかく大変なことになってる!もうすごいよ! ここは、あたしたちがびしっといいところを見せよう! ジューチャオ: 絶対に負けないぞ!あたしたちはチームワークがすごいんだから!ねっ、みんな! 信民たち: お、おーっ!! 信民1: (何が起きてるんだろう……大変なことって……) ジューチャオ: まず作戦を考えようと思うんだけど、意見ある人は? 信民2: えっ……あの、ど、どういう状況なんでしょうか ジューチャオ: チンロンがやられちゃったの!パイフーがなんかおかしくなってる! 信民1: あのチンロン様が!?そして敵はパイフー様の軍勢…… 信民2: こりゃ確かに大変なことになってるな ジューチャオ: あたしは挟み撃ちがいいと思う!どう、すごい作戦でしょ! 信民1: (どこと、どこからの挟み撃ちなんだろう……) 信民2: (だめだ、ジューチャオ様にお任せしっぱなしでは。 ここは我らが妙案を考えなくては) ジューチャオ: でも、あたしのことは気にしないでどんどん意見を出して。 あたしたちは自由で、組織とかに縛られない感じで戦おうよ! 信民1: えっと、じゃあ落とし穴とか ジューチャオ: いいね! 信民2: えーと、天井からタライを落とすとか ジューチャオ: 天才! (ジューチャオ軍はとても自由で、全員が参加意識を持って 活発に意見を出し合う組織だった。) (上下関係などはなく、誰もが自分のこととして意識を高く持って問題に臨む―― それがジューチャオの方針なのだ。) (ただ問題なのは――現在のジューチャオ軍は、ジューチャオのみならず 配下の信民兵士に至るまで、全員がちょっと残念なことだ。) 信民1: そうだ、ジューチャオ様 ジューチャオ: なになに? 信民1: 西に流れる川の、治水工事に関してなんですが ジューチャオ: あっ、なんか色々起きるところだよね。何が起きてるんだっけ 信民1: 水不足になったり洪水になったりします ジューチャオ: そっか。それでなんだっけ 信民1: 治水工事です ジューチャオ: ちすい?血を吸うの?誰が? 信民1: いえ、治水はそういう意味ではなくて ジューチャオ: どんな意味? 信民1: ……?なんだろう? 技師: 私が工事をやりました ジューチャオ: えーっ!よくわかんないけど、がんばってくれたんだ?ありがとう!大好きだよ! 技師: 褒めて貰えて嬉しいです。 ずっと技師とかカッコいいな、と思ってやってみたかったんです ジューチャオ: じゃあ今回が初めて?デビュー戦? 技師: はい!カッコ良さそうなことをいっぱいやりました ジューチャオ: すごいじゃん! (言うまでもないが、専門的な知識を必要とする仕事であり、 何も知らない素人が感覚で対応していい種類のものではない。) (だが、ジューチャオをはじめ、その場の全員が拍手を送る。 ジューチャオに対して恐怖を抱いて、無理に拍手をしている―― という方が、まだ救いがあるかもしれない。誰もが本心だった。) ジューチャオ: どんなことしたの? 技師: なんか土とかコネコネしました ジューチャオ: すごーい! 信民3: 大変です、ジューチャオさま~! ジューチャオ: どうしたの? 信民3: 西の川が氾濫しました!! ジューチャオ: えーっ!大変だー!西の川ってどこ? 信民3: 西です! ジューチャオ: わかった! (背景切換...) (すさまじい勢いで押し寄せる水流。 近隣住民は自分の家を守ろうと、竹槍を握って立ち向かおうとしている。 そう、軍人に限らず一般市民も残念なのだ。) (この残念な集団が、そう簡単ではない南方領の自然を相手にどう生き抜いてきたのか。 その答えが、次の瞬間に示された。) ジューチャオ: はああああああぁぁぁぁぁっ!!焼き尽くせぇえええぇぇっ!! (ジューチャオが放つ炎が、町の手前までを覆い尽くす。 その高熱で、押し寄せた川の水はあっという間に蒸発してしまった。) ジューチャオ: よーっし!やっつけたわ! (もちろん川の水は生き物ではない。) ジューチャオ: これでみんな安心ね。よかった、よかった 信民1: さすがジューチャオ様だ! 信民2: ジューチャオ様、ばんざーい! 技師: ばんざーい! (こうして川の氾濫を無事に解決したジューチャオは、信民たちとお祝いの宴を始める。 もちろん、対パイフーの作戦など忘却の彼方だ。) (彼女が翌日の午前、唐突に思い出す頃に、ジューチャオ軍の作戦会議は再び始まる。 なお、全員が本日出された案をきれいに忘れているのだった。) 180036 - 武道会 (一方、ジューチャオ同様に中央ファンロン領、 クンルン山から戻ったシェンウーはというと――) シェンウー: ということが起きているのじゃ 信民1: なるほど。それは備えが必要かもしれませんな シェンウー: なに、今さら慌てて策を練ったところで時すでに遅し。 戦の勝敗を分けるは士気にあり、じゃ 信民1: ということは、シェンウー様 シェンウー: うむ。やはりここは大会を開催するのじゃ。 ともに汗を流し、切磋琢磨することでそれぞれの向上心を促す。 仲間のことを知り、心身を充実させる…… シェンウー: 良いことずくめじゃろう? 信民1: 間違いありません。私も滾ってまいりました シェンウー: ほほう……なかなか立派じゃのう。では準備ができ次第、わらわを呼ぶと良いぞ。 それまで、わらわは一人で瞑想しておるでな (シェンウーの言う大会は、何も今に始まったことではない。 彼女が正しさの杖に影響されて以降、定期的に開催されている、 北方領全土を上げた一大イベントだ。) (小手先の戦略よりも、十分に用意された兵站と練られた連携に高まった士気こそ 戦いの真髄である、というのがシェンウーの方針だった。) (かくして――) (背景切換...) シェンウー: それでは皆の者、準備はできておるか!ただいまより―― シェンウー: 『エロイチ武道会』を開催する!! 側近信民: シェンウー様、今回も選りすぐりの精鋭が集まっております。 男女ともに、心技体揃った達人ばかりです シェンウー: うむ。やはり我が北方領は男女の交流について積極的に推進しておるがゆえ、 こうした大会が行われるも必然 シェンウー: 男女の交わり、それすなわち武術に通ずる。というか武術そのもの シェンウー: 剣の道が心を研ぎ澄まし、高度な精神性を実現するように、 目先の欲望を率先して解消することで心の安寧を図るまぐわい シェンウー: 厳しい鍛錬の末に針の穴を通すかのような精緻な技術を会得するように、 相手の身体を熟知し的確な刺激を与えることで絶頂へいざなうまぐわい シェンウー: そして言わずもがな身体――筋力も持久力も兼ね備えた強靭な肉体こそが 武術もまぐわいもより良いものへと変えていく シェンウー: さあ存分に欲望をぶつけ合うのじゃ。観客席で盛り上がってきたら、 勝手に個人的に始めても問題なし!皆、まぐわいを楽しんでいけ!! 観客信民たち: おおおおおーっ!! 側近信民: さっそく1回戦が始まりますな シェンウー: ふむう……なんというちょうどよい女。 こういうヤツが分かりやすく下品なことをしてくれるのが、一番燃えるのじゃ シェンウー: 対する相手の男は、見た目がこざっぱりしすぎてはいるが、対戦相手に恵まれたな。 この手の下品な女が率先して食いそうな見た目で生々しい現実を想起させられるのう シェンウー: おおっ!始まったな!いい間合いじゃ……! (中央のリングでは男女が対戦している。それを見守る観客たちも大盛り上がりだ。) (対戦が終わると、また次の選手が登場する。) シェンウー: ほうほう、今度は大ベテランの登場か。 一方、対戦相手はまだかなり若いようじゃのう。 良い良い、こういう対戦こそ大会の醍醐味じゃ シェンウー: これほど年齢に開きがある対戦を、間近で拝むことができる機会など こういう場でなくてはないからのう! 側近信民: 私も盛り上がってまいりました シェンウー: この戦いを見届けたら、わらわたちも練習試合といくか。 ふふ、ベテラン選手のあのだらしない身体に、ぴちぴちの若手が挑む…… 見ているだけで滾ってくるのう シェンウー: この競技に年齢は関係ない。 いくつであろうとも双方が満足いくまで存分に戦うべきなのじゃ! (大歓声が上がる中、シェンウーはそっと一枚の布を自らの身体から離し、 側近に目線を送る。) シェンウー: ほれほれ、どうじゃ? 側近信民: よろしくおねがいします! (傍に控えていた信民に一旦は主導権を委ねながら、シェンウーは満足気に試合を、 そして盛り上がる観客席を眺める。) シェンウー: (年齢にとらわれることなく、思うがままに暮らす信民たち…… これこそが、わらわが導かれた正しき道なのじゃ) シェンウー: (……しかし、こうして愉しむのは元々わらわの趣味であったが、 他人にここまで開放的にさせていたかというと……) シェンウー: (やはり、あの方の導きがあってのこと、じゃなぁ……) 180037 - 遺されたもの チンロン: この先にあるはずです パイフー: あるっていうのは、伏犠様が残したっていう……? チンロン: 伏犠様は、姿を消される直前にわたくしに託されました。 きっと困ったときに力になってくれるものだから、と リル: 今際の際の言葉か…… アヌ: 話を聞く限り、この世界を創った古のμ…… つまり、私やキと似たような立場なんだよね。なんだか人ごとじゃないよ テュポーン: アヌも消えちゃう? アヌ: 心配しなくても大丈夫。 ……と言いたいところだけど、伏犠とやらが消えた理由は分かっているの? チンロン: もともと伏犠様を始め、古のμの方々……五帝と呼ばれていますが、 皆様ともにμとしての力はそれほど残っていませんでした チンロン: 皆様の偉大さはμの力ではなく、その経験、知識、判断力、 そして何よりもお人柄です。それが権威として世界にも浸透していたのです パイフー: だからこそ、自然に消えるとは思えない 人間さん: 直接の信民は少ないとしても、欠かせない存在として認識されていたのなら…… 確かに消えることはないよな 雨依: μの力の源は、信民たちの『信じる力』なのよね。 だとしたら、いきなり消えるのは不自然だわ 雨依: だとしたら、やっぱり聖母…… そういう外部から入ってきた敵の存在が決め手だったんでしょうね テュポーン: ひどいやつ。ガアも消されてたかも アヌ: あー、確かにガイアも近い存在なのかな。 テュポーンにとっても人ごととは言えないか チンロン: さて、そろそろお弁当にしましょうか リル: さっき食べたばかりではないか!? チンロン: もうかれこれ1時間は歩いていますよ パイフー: 昔より間隔が短くなってない? チンロン: だって……最近までお肉やお魚を摂っていなかったので、身体が栄養不足なんです 雨依: あとちょっとなんでしょ!?伏犠の遺したものを手に入れるまでは我慢したらどう? 雨依: 我慢したほうが美味しく感じるものなんだし。 空腹は最高のスパイスって、よく言うじゃない チンロン: それもそうですね……。では干し肉でもかじりながら進みましょう アヌ: 何か口にはしておきたいんだね…… 雨依: ねえ、人間さん。ひとつ気になってることがあるんだけど 人間さん: ん?チンロンにムラムラした話なら、もう―― 雨依: そっちじゃなくて。あの、伏犠たちのことなの。なんとなく、似ている気がして 人間さん: ……雨依も、あの話を知っているのか 雨依: うん……もちろん直接は見たことがないけどね。 でも、すごく印象的な話だったからよく覚えてる。 パラケルススやレオナから聞いて、人間界の出身として思うところもあったから 人間さん: 『消えゆく物語』と獏のこと、だよな 雨依: そう。アイソーポスが一番詳しいとは聞くけど、私はあんまり接点ないから。 でも人間さんも、口からそれが出てくるってことは 人間さん: ちょっと考えてはいたよ。 パイフーやチンロンに比べると、彼らは圧倒的に知名度が足りない。 だから信民も少なく、μの原動力である『信じる力』も多くなかった…… 雨依: パイフーたちの話を聞いていると、『消えゆく物語』の条件に ぴったり当てはまりはしないけど……近い状態だったんじゃないかとも思うの 人間さん: それを聖母が何か利用した可能性があるか…… でも、一体なんのためにこんなことをするんだろうな 雨依: それなのよね。ちょっと後でみんなで考えてみない? この世界のことは、やっぱりパイフーやチンロンが一番詳しいし 人間さん: そうだな…… アヌ: おーい、ふたりとも何イチャついてんの。置いていくよ 雨依: イチャついてなんかないから!! チンロン: ありました。きっと、あの洞窟です アヌ: 見た目にはなんの変哲もない洞窟だけど テュポーン: パイフーんちとかわんないよね パイフー: えっ?全然違うけど。わたしの家は立派 雨依: 全然、違いがわかんないわ…… リル: それに伏犠殿が用意した洞窟なんだぞ。悪くいうべきじゃないだろう チンロン: いえ、大切なものを隠す場所ですから、敢えて粗末な洞窟を用意したのだと思います。 わたくしにも、洞窟の良し悪しはさっぱりわかりませんけど パイフー: ごめん。粗末とは思ってない。渋みがある アヌ: だからわかんないって (背景切換...) チンロン: 内部は一本道ですね、迷わせるつもりはなかったのでしょうか パイフー: 木箱がある。あれかな…… アヌ: 中身は? チンロン: これは……ひょうたん……! 雨依: ひょうたん?って何? 人間さん: 昔の水筒だよ 雨依: へー。初めて見たかも 人間さん: え……ジェネレーションギャップ……?いやいや、俺だって普通に若いし! 雨依: ひとりで何を騒いでるの? チンロン: 伏犠様……これをわたくしに授けてくださるなんて…… アヌ: その感じからすると、特別なものなのかな? チンロン: これは、わたくしの水を操る能力を極限まで引き上げてくれる、 究極の魔道具なのです 180038 - 孤軍奮闘 信民: ファンロン様、報告がまとまっております ファンロン: ああ、ありがとう (ファンロンは手渡された報告書に視線を落とす。 それはジューチャオ、シェンウーのそれぞれの動向に関するものだった。) (各自の領内に戻したふたりが、対パイフーに対して どのような態勢を整えて迎え撃とうとしているのか。 管理監督する彼女の立場として、把握しておく必要がある。) (というのが、建前だった。) ファンロン: 予想の範疇、といったところね (記載されている内容は、彼女を驚かせることはなかった。) ファンロン: というか、これで防衛態勢を整えているとも言いづらいわね。 うまく報告の仕方を考えないと 信民: おふたりに何か指示をされますか? ファンロン: ああ、ううん。いいのよ、彼女たちはこのままで 信民: そうなのですか?しかし、お世辞にも万全であるとは…… ファンロン: ……それでいいのよ 信民: えっ?いま、なんと? ファンロン: いいえ。彼女たちは言って聞くような相手じゃないから。 思うようにさせておくほうが力を発揮できるのよ 信民: なるほど。まあ確かに、素直に聞き入れるような方々ではありませんからな…… ファンロン: これから私はまた報告に行ってくるわ。その後、少し出かけるつもりだから…… 馬の用意だけ頼める? 信民: 承知しました (下がる信民を横目に見ながら、ファンロンはため息をついた。) ファンロン: (もともと私はこういう立ち回りは得意ではない…… 彼に指示を出すだけで、胃が痛くなりそうだわ) ファンロン: (でも、やるしかない……他に誰がいるというの……) (背景切換...) (室内に入ると、いつもの彼女がニヤニヤと笑みを浮かべながら待ち構えていた。 傍らにいるのは――) ファンロン: (ペロー……異世界から来た、『作家』とかいう属性の存在。彼女と同じ……) ファンロン: (オトギノクニの作家とかいう存在は、彼女たち二人しか会ったことはないけど…… ろくな相手じゃないわね) ???: それで~?みんなチンロンもやっつける準備はできてるぅ? ファンロン: はい。ジューチャオは地形を利用した罠を考えているらしく、 大規模な工事を完了させたようです。実際に、地図に記載された地形から 変化が確認できました ファンロン: シェンウーは、兵たちの選抜を始めています。 少数精鋭で突破する作戦のようです。数で圧倒するよりも効率的かと ???: ふーん ???: それでファンロンは? ファンロン: は…… ???: ここにいきなり来ることだって考えられるでしょ?まさかなーんも準備してないの? ???: あたしはそれでもいいけど~。自分で手を下して血を見るの、楽しみだもん♪ ファンロン: (この狂った女に……好きにさせるわけにはいかないわ…… でも、もし本当にパイフーがここに来たら?私は戦える……? 自然に、戦って、倒されることができる?) ファンロン: (ううん、やるしかないわ……) ファンロン: 備えは常に万全です。戦況に左右されることなく、私は戦う準備をしています ???: ていうかさぁ、なんで協力しないわけ?あんたたち、なかよしなんじゃないの? ファンロン: 私はあのお方のおかげで目覚めましたので。 導かれし正義の道、私は『自己責任』です。 自分のことはすべて自分で片付け、誰も信じず手も借りません ペロー: ふふっ…… (ふいにペローが笑みを漏らした。) ペロー: 前から思っていましたけど、あなたの正しさって 他の3人とは少しばかり毛色が違いますよね ファンロン: (……っ!?) (ファンロンは内心、動揺する。 だがそれを顔に出すことなく、なんとか呼吸を整えやり過ごした。) ファンロン: そうでしょうか?導いていただいた正しさですから、 私にそのように言われても困りますが ペロー: 気を悪くしたならごめんなさいね。ちょっと気になっただけ。ただの感想よ ???: ま、どうでもいいけど、あまり好き放題させないようにね。 いま結構、大事なところなの。だから聖母のヤツもピリピリしてるし ???: あの子もオトギノクニの方に来てくれて、結構いろいろやってんのよ。 そういうの台無しになっちゃうと聖母がうるさいから ファンロン: ……心得ております ???: で、ペローはなにするの? ペロー: 何も。私は今回、見守るだけですから。 この世界に来たのも、追手から逃れるのが最優先事項でしたし ペロー: まあ……かわいい作品とまた遊んでみるのも一興、ですけどね ???: とかいって、また負けるんじゃないの?ま、あたしはどっちでもいいけど ペロー: ふふっ、好戦的なタイプじゃないんですよ、私は。 あなたは昔から血が大好きでしたけどね、キャロル…… キャロル: それがあたしのアイデンティティーだからね~?きゃははははっ (キャロルと呼ばれた少女の甲高い笑いが響く。 ファンロンは俯いたまま、その居心地の悪い時間をやり過ごすのだった。) 180043 - いざ、南へ (この世界における古のμ、 五帝のひとりとされる伏犠がチンロンのためにと残したひょうたん。 それは彼女の水を操る能力を極限まで高めるものだという。) チンロン: 水、そして樹木の生長を司るのがわたくしなのです。 そうして命を育み、土地を豊かにし、大地の恵みをいっぱいにして―― チンロン: 料理にして、たらふくいただくまでが権能です 雨依: いや最後はただの欲求でしょ チンロン: そうとも言います。わたくし、他の欲求も強めなので。 睡眠はしっかりとりたいですし、えっちなことも、その…… アヌ: 聞いてないから、言わなくていいって 人間さん: くうう、エロいなぁ 雨依: ちっ リル: それで、今これはどこへ向かっているんだ? テュポーン: ねえ、ういがしたうちした パイフー: 南方。ジューチャオのところへ行く テュポーン: ねえ、ういが アヌ: ここは受け流すんだよ、テュポーン リル: それは何か狙いがあってのことか? テュポーン: でも パイフー: ジューチャオは頭が良くない アヌ: そっとしとくのが一番なの チンロン: 良くないって言い方はちょっと。仲間なんですから 雨依: 気のせいでしょ。舌打ちなんかしないわよ リル: つまり与しやすいということか? テュポーン: したもん! リル: あああああぁぁぁっ!!静かにしないか! さっきから話が頭に入ってこないだろう!! テュポーン: うわぁん!リルがおこった! アヌ: 小さい子を泣かせた。最低だね 雨依: 普段は騎士とか言ってカッコつけてるくせに リル: 何なんだ貴君らのその団結力は アヌ: テュポーン、おいで。二手に分かれてお話しよう 雨依: もう話すことなんてないけど テュポーン: したうち、したもん パイフー: 作戦とかまるでないはずだから チンロン: ただμとしての力はかなりあります リル: ふむ…… 人間さん: やはり炎を扱うのか? 雨依: 人間さん、何そっちの真面目チームに行こうとしてるのよ 人間さん: だってそっち何か不穏な感じだし、内容は不毛だし…… エグレット: ふわふわ~ リル: ここにエグレットまで……作戦会議どころではないな…… エグレット: ご主人、ご主人。ちょっと偵察に行ってきたんだよ リル: む、そうなのか?邪険にしてすまなかったな。何があったんだ エグレット: 邪険にされてたの?ショック…… リル: いや、すまない。小生が悪かった。それで何か見つけたのか? エグレット: ショック…… リル: ……どうしたら機嫌が直るんだ エグレット: うちの本体を脱いで、顔をうずめて深呼吸して。匂いを嗅いでほしいの リル: 何故そんなことを……いや、わかった。話を先に進めなくては リル: すはぁー、すはぁー エグレット: あぁん♪きゃっきゃ パイフー: なんか混沌としてきた テュポーン: リルはおこりんぼで、へんなこだ アヌ: そうだねぇ リル: これで満足か…… エグレット: うんっ!あのね、もうすぐジューチャオ領に入るんだけどね パイフー: うん。1時間もかからないで着く エグレット: めっちゃ大火事 パイフー: えっ (背景切換...) 人間さん: これはひどい 雨依: 焦げ臭い……確かに火事があったみたいね。鎮火した直後かしら リル: ジューチャオは炎を操ると言っていたな。まさかディマイト暴走…… つまり、敵方に操られてこのような暴挙に出たかもしれないのか パイフー: そんな、まさか。誰よりも信民を大事にしてたのに チンロン: 『正しさの杖』でわたくしがコントロールされていたときも、 信民に対する接し方は変わっていなかったはずです アヌ: でも、ふとしたことで急に変わることもある テュポーン: ガアもそうだったんでしょ? 雨依: 許せないわね……創造の聖母…… エグレット: ご主人。風に乗って焦げる匂いが流れて来たよ。たぶん、あっちではまだ燃えてる リル: なんだと!だから人がこのあたりにいないのか。 よし、ジューチャオのことは二の次、まずは消火作業と人命救助だ パイフー: わかった! (背景切換...) 信民1: うわぁー!火事だぁ! 信民2: 森で火事よ!早く消さないと家に燃え移っちゃうわ! リル: 怪我はないか!?火元はどこだ、すぐ消し止めなくては エグレット: 燃えてる匂いがあっちからするよ~!ほら、灰がふわふわって~ リル: 消火設備はあるのか? 信民1: しょうか……せつび……? リル: 火を消す手段のことだ 信民2: え……?火って、どうやって消すんですか……? リル: え、いや…… 信民1: うわぁー!もう終わりだ―!火は消せない! 信民2: どうしよう~!どうしよう~! アヌ: なんなの、この人たち…… 雨依: 緊急事態で冷静に判断できなくなってるのかしら パイフー: ……なんかジューチャオがいっぱいいるみたい 180044 - 共闘作戦? チンロン: とにかくまず火を消し止めましょう。 わたくしの水があればきっと、火を消すことができます 雨依: そうね!チンロンの出番だわ。行きましょう アヌ: いやぁ……それにしても、さっきパイフーが 『ジューチャオがいっぱい』って言ってたけどさぁ……。 ジューチャオってこのレベルでアホ……じゃない、えーと、残念なの? テュポーン: ざんねんなの? パイフー: 残念だよ 人間さん: 命がけで救い出そうとしてるパイフーがこういうなら、相当なんだろうな…… リル: あった!あのあたりが燃えているぞ!くっ、かなり火勢が強いな……! チンロン: わたくしにおまかせください チンロン: あっ、あれは!? ジューチャオ: んもうー!なんで消えないのよーっ!!ていやあああぁぁぁぁ!! あたしの炎を食らえっ、火事め!! アヌ: えええええええええ 雨依: 燃えてる森に向かって炎をぶっ放してるわ…… テュポーン: テュポ、かしこいからわかるよ。火に火をぶつけたらもっともえる アヌ: 賢いよ、テュポーン。少なくともあのお姉さんよりは絶対 パイフー: ジューチャオ!ストップ、ストップ ジューチャオ: あぁーっ!!パイフーじゃないの! くうっ、あたしたちが火事に困ってるところに不意打ちだなんて! パイフー: 攻撃するつもりはないよ。とりあえず一緒に火事をなんとかしないと ジューチャオ: えっ、なに、手伝ってくれるの?敵なんでしょ? チンロン: 違いますよ。でもその前に、まず炎を放つのをやめてください! ジューチャオ: なんでよ!あたしが止めないと信民のみんなが大変なことになっちゃう! 家とか燃えたらとにかく大変でしょ! パイフー: よかった。信民を大事にする気持ちは変わってない アヌ: いまそのリアクションで合ってる? リル: ディマイト暴走で暴れているわけではなさそうだな。 火事を消すために火を放つという暴挙だが、あくまでも心根は善意のもの…… 雨依: なんか善意でやってるほうがタチ悪い気がするけどね チンロン: いいですか、ジューチャオ!火を火で消すことはできません! ジューチャオ: はあー!? ジューチャオ: はっ、そうやってあたしを騙して、このあたりを焼け野原にするつもりなのね! なんて小賢しい作戦! パイフー: 違うってば ジューチャオ: だって前はあたしの炎で火事を消せたもん!国境近くの砦が大変だったんだから! 雨依: なに言ってんの、あの人…… 人間さん: ……その砦は、どんなところにあるんだ? ジューチャオ: 砂漠の真ん中にぽつんと 人間さん: あー、それだ。そういう場所なら可能性はあるけどここは森だからだめなんだよ ジューチャオ: どうして!? 人間さん: 木は火をつけると燃えるだろ リル: 貴君のその説得は意味があるのか? ジューチャオ: なるほど!本当だ!木って燃えるもんね! 人間さん: 意味はあったぞ リル: 嘘だろう……?言われないと木が燃えることを失念するものなのか……? チンロン: ということで、わたくしの出番!ジューチャオ、下がっていてください! チンロン: 水を司りし龍の名において命ずる、 迸る命の輝きをうねりに変え、彼の地を覆い尽くさん―― チンロン: 龍旋秘連波流! (背景切換...) ジューチャオ: うわぁ!消えた! パイフー: すごいね、チンロン。こんな力があったんだ。あ、ひょうたんの影響? チンロン: ええ。さっそく役に立って良かったです 雨依: 火で火を消すって、無謀すぎたわね……。 でもなんか成功体験があったみたいだけど、人間さんは何か気づいたの? ジューチャオ: そうだ!あんた、なんでここだとダメってすぐ気づいたの? 人間さん: 精霊が教えてくれたんだよ ジューチャオ: なるほどー! 雨依: 適当なこと言って 人間さん: いや……絶対、理解してもらえない気がして 雨依: じゃあ私に説明してよ 人間さん: 周囲に何もない環境なら、確かに炎で火事を消し止められる可能性はあるんだよ アヌ: そんなことある? 人間さん: 火は酸素を消費して燃える。すさまじい炎で覆い尽くせば、 対象周辺の酸素が欠乏して、火事の対象は鎮火するはずなんだ。 まあジューチャオのパワーとコントロールが大前提だろうけど 人間さん: ……って雨依しか理解できないか 雨依: なんか理科の授業でやったような、やってないような テュポーン: ういだけわかる?ういってかしこいの?ほんとう? 雨依: なんで疑ってくるのよ ジューチャオ: 本当に助かったよ!チンロン、パイフー、あとなんかくっついてきてる人たち! アヌ: 言い方 ジューチャオ: みんな仲間だね!歓迎するよ! パイフー: えっ、いいの? チンロン: 正しさの杖は、影響していないのでしょうか ジューチャオ: ん?なんか正しい道がどうとか言われたけど、よくわからなかったから。 それより助けてくれた人には、ちゃんとお礼するべきでしょ! アヌ: アホなおかげで、争いを回避できたね…… 180045 - シェンウーの襲撃 ジューチャオ: よーし、じゃあ一足先に城に行って、 宴の準備をしておいて、って伝えておいてくれる? 信民: かしこまりました! アヌ: いや、五分前にも同じこと言って別の部下を走らせてたけど ジューチャオ: え、そうだった? リル: もはやジューチャオ殿は、こういう個性の人なのだと理解するが、恐ろしいのは今の信民も、五分前に同僚が走って行くのを見ていたはず、ということだな…… 雨依: ツッコミ役が不在…… ???: そこまでじゃ リル: ――っ!? (ふいに聞こえた声に、全員が身構える。 茂みの陰から現れたのは、ひとりの少女と黒っぽい装飾の軍勢だった。) ジューチャオ: シェンウー! シェンウー: おぬし、あっさりと寝返るでない ジューチャオ: 何言ってんの、シェンウー。あたしは起きてるよ。バカなの? シェンウー: ぐぬ……おぬしには言われとうない…… チンロン: シェンウー、聞いてください。わたくしたちは操られていたのです。 目を覚ましてください シェンウー: 嘆かわしいのう……。おまえたち、みな正しさを忘れたか 雨依: 聖母に押し付けられた正しさを頭から信じてるなんて、哀れね…… シェンウー: さあ行くのじゃ。我が精鋭たちよ 雨依: !? 信民1: ぱーりらっ、ぱりら、ぱーりらっ♪ 信民2: ぱーりら、ぱりら、高感度♪ リル: な、なんだ?いきなり踊り出したぞ パイフー: 率直に、怖い エグレット: えー?うちは一緒に踊りたくなっちゃうけどな。ふーふわ、ふわわ、ふーふわっ♪ リル: 取り込まれてどうする! テュポーン: ねえ、ちょっとずつ、こっちきてる!テュポ、なんかやだ! アヌ: む……手に何か持っている。あれが武器か リル: ずいぶんリーチが短いようだが……ん? 雨依: えっ、あれって…… 人間さん: こけし、だよな…… シェンウー: ふふん、ただのこけしではないぞ。我が魔力を解放せよ! (ぶいんぶいんぶいん) アヌ: こけしが振動し始めた! 人間さん: ……あの動きって 雨依: あ、あれよね?その……人間界でもよく見かける、いわゆる、アレだよね? チンロン: ちょ、ちょっと、来ないでください。 わたくしはシェンウーの信民であっても、傷つけたくはないのです 信民1: 装備はひとつだけじゃないぞ チンロン: それは! チンロン: ……羽? 信民1: ●●ナガドリという鳥の羽を加工したものだ チンロン: そ、そんな言葉を堂々と言わないでください! 信民1: それぇっ!こちょこちょこちょ チンロン: あぁん!や、やめてくださいっ、くすぐったい……! だ、だめっ、はぁっ、ん、あっ…… 人間さん: …… 雨依: …… 人間さん: でっ!?無言で蹴るな! チンロン: な、なんて恐ろしい技なんでしょう シェンウー: 名付けて!爆乳こちょラーじゃ! 雨依: 何言ってんの、あの子。ラーって、何よラーって シェンウー: とある異世界では、何かをする人、という意味らしい 雨依: ああ。マヨラーとか、そういう?って、そんなの誰から聞いたのよ シェンウー: もちろん聖母じゃ。その手下を通じて、じゃが 雨依: なに吹き込んでるんだか…… チンロン: 気を付けてください、皆さん。二刀流の相手もいるようですよ 人間さん: こけしと羽の二刀流って…… 信民2: 二刀流?ふん、それはこういうのを言うのよ! アヌ: うわっ!?上下どっちにも頭の生えてるこけし!?気持ち悪いなぁもう! 雨依: あれって……いわゆる双頭……さすがに私も使ったことないわ…… 人間さん: まるで片方だけの普通のやつは使ったことあるみたいな言い方なんだけど 雨依: ない!ないけど!ないからね!? 人間さん: …… 雨依: ほんのりエルマイト出すのやめれる!? リル: しかし、やり方を間違えていたり、偏っていたりと問題はあったにせよ…… チンロン殿の正しさは、一理あった リル: しかし、これは一体どこに正しさが…… シェンウー: わらわの正しさは……これを誰しもが実践していることじゃ パイフー: どういうこと? 信民3: ぱーりらっ、ぱりら、ぱーりらっ 信民4: ぱーりら、ぱりら、高齢者♪ アヌ: 子どもからお年寄りまで……!? シェンウー: その通り。こうしたことは、誰もが興味を持ち実践してよいのじゃ。 事実、わらわもそれなりに年齢を重ねておるが……まだまだ現役じゃからな シェンウー: そして男女の別もないのじゃ。女であろうともオープンに、望むことを口にできる! それがわらわの実現させる正しさ 雨依: 部分的に賛同できそうな気もしてくるのが怖いけど、 でも今のこの状況を見るとやっぱり異常だわ テュポーン: どうしたらやっつけられる?テュポはこわいから、だれかがんばって アヌ: 人任せにしない! 人間さん: アヌがそれを言うのか…… 180046 - せいきの決戦 シェンウー: とはいえ、数で押し切るのもわらわの主義に反する。 もちろん合意があれば別じゃが、大勢で取り囲むのは何か違うからな 雨依: これ、今の戦いの話をしてるのよね?別のことじゃないわよね? シェンウー: そこでじゃ。わらわと1対1で対決しようではないか。 それでこの戦いを決着させようぞ テュポーン: こわい リル: 安心しろ。いまの小生はパイフー殿のおかげで新たな力を手に入れている。 相手は五獣、油断ならないが……必ず勝利に導こう シェンウー: その意気や、よし。では早速、来てもらおうか (背景切換...) パイフー: こんなところまで連れてこられた チンロン: いったい何が始まるんでしょう アヌ: えっ、それよりあれ ジューチャオ: はっはっは!あたしたちの正しさをもう一度教えてあげるわ! そしてチンロンとパイフーを取り戻すのよ! アヌ: ちょっと移動しただけで、また寝返ってるー!? ジューチャオ: あたしは起きてるぞ。バカなのか? アヌ: 返しも似たようなこと言ってくるし! パイフー: チンロンが森の火事を消してくれたこと忘れたの? ジューチャオ: ……? チンロン: 忘れてますね…… パイフー: きっと『正しさの杖』のせい 雨依: 元々ああいう子だってわけじゃないの? パイフー: 杖のせい……! 雨依: そうよね……仲間がそのレベルでポンコツだなんて認めたくないわよね…… シェンウー: それではさっそく対決といくのじゃ。 正しさに目覚めし五獣軍対物わかりの悪い反乱軍! アヌ: 言われたい放題だね シェンウー: せいきの絶頂決戦!ここに開幕なのじゃ! リル: ふん、大船に乗ったつもりで待ってい…… リル: なんて? シェンウー: ここに開幕なのじゃ! リル: いや、その前。頂上決戦と言ったのだったか? シェンウー: いや。絶頂決戦じゃ。説明するまでもないが、勝負の内容は―― リル: あー、待った待った。ちょっとこちらも作戦会議をする パイフー: どうした、リル リル: 小生は降りる 雨依: それはずるいわよ!!勝負の内容が明らかにアレな感じだからって ここで勝負を降りるなんて騎士道に反するでしょ! リル: 嫌な予感しかしないからだ!小生向きの勝負じゃないだろう! テュポーン: どういうこと? アヌ: あー、つまり……テュポーン、ちょっと耳貸して テュポーン: ふんふん テュポーン: ふんふんふん テュポーン: ふーん。テュポにはむりそう パイフー: 急にみんな弱気…… テュポーン: だってテュポ、そういうの慣れてないし。 人間さんにクソザコ(バキューン)って言われた 雨依: こんな子にそんなこと言ったの……?最低…… 人間さん: 言ってない、言ってない!嘘つくなよ、テュポーン! テュポーン: ごめん。レオナの家でよんだほんにあった チンロン: え、えっと、どうしましょう…… 人間さん: いや、そういうことなら俺の出番だ。 俺の聖剣エクスカリバーをヌク……抜く時がきたな 雨依: 人間さん。私、あなたのこと好きだけど今はドン引きしてるからね? リル: エクスカリバーに怒られるぞ。 アタシの名前そんなことに使わないでほしいっす!って シェンウー: ほう……ずいぶんと自信があるようじゃの。ではさっそくお手並み拝見といくか。 わらわの妙技にいろんな意味で震えるがいい! (背景切換...) 人間さん: うおおおおおおおおおおっ!! シェンウー: ふぬうううぅぅぅぅうううぅぅ! シェンウー: これはどうじゃあああぁぁぁ! 人間さん: うああああぁぁぁぁ!?そ、そんなところをっ!! 人間さん: だったらこうだぁぁぁあああぁぁ!! シェンウー: んぎいいいぃぃぃいいいぃぃ!!なんじゃとぉおおぉっ! (背景切換...) 全員: ………………………… リル: 最低な戦いだな…… 雨依: ほんとに…… ジューチャオ: うおおおおっ!負けるなシェンウー!そこだーっ!相手は弱ってるぞ!がんばれーっ! (背景切換...) 人間さん: つ、次の一手で勝負が決まるっ…… シェンウー: ここまでわらわを追い込むとは……っ! 二人: でやああああぁぁぁぁあああぁぁぁっ!! 二人: んほおおぉおおおおおぉぉぉぉぉっ!! (背景切換...) 信民審判: そこまで!人間さん選手の勝利! 人間さん: あ、あぶなかった…… ジューチャオ: シェンウー! ジューチャオ: ああ……こんなに血だらけ……じゃない、汁だらけになるまで戦うなんて…… シェンウー: うぐ……わらわは、いったい……? シェンウー: んん……そうじゃ、わらわは確か、呼び出された先でいきなり…… あれは、罠じゃった……気を付けろ、みんな…… ジューチャオ: シェンウーっ!! 180047 - 大火事と洪水 ジューチャオ: くっ……あんたたち……!あたしはシェンウーの死を無駄にしないわ! パイフー: 気を失っただけ。死んでない ジューチャオ: だって脈止まってるもん チンロン: 手首の骨を持っちゃってるので……。 あの、首のところ、頸動脈のあたりのほうが分かりやすいですよ ジューチャオ: こう? シェンウー: うげぼっ チンロン: もっと優しく触ってあげてください!そんな力で押したら普通に苦しいでしょう! アヌ: ていうか、今もう死んでたらしない反応してたし ジューチャオ: とにかく……あたしはシェンウーの仇をとる! リル: あんな下品な対決の後に、よくこんなに熱くなれるな…… 雨依: 本当に……私、さっき人間さんが負けて搾り取られても こんなテンションになれないわよ 人間さん: 薄情だな、みんな パイフー: でも……見た?チンロン。さっきのシェンウー チンロン: 吐きそうになってたところ? パイフー: その前。たぶん、ちょっと正気に戻ってた テュポーン: 人間さんが、がんばったから? リル: 認めたくないが、おそらくそうだ。 大量のエルマイトを浴びたことで、正しさの杖の影響から抜け出せたのかもしれない チンロン: じゃあジューチャオも…… ジューチャオ: あたしの炎、受け止めてみなさーいっ!!はあああぁぁぁっ!! リル: くっ……!?すごい勢いの炎だぞ!! パイフー: まず、これを何とかしないと、人間さんが近づけない チンロン: まかせてください!ひょうたんを伏犠様から いただいた今のわたくしなら……っ!はあああぁぁぁっ!! テュポーン: すごい。大火事と洪水がいっぺんに チンロン: でも……くっ、すごい勢いです……!仲間を失った悲しみが ジューチャオに力を与えてるのでしょう……!勘違いですけど……! 人間さん: それなら俺のエルマイトで、チンロンに力を与えられるかもしれない。 これまでも、そうやっていろんなμと一緒に戦ってきたんだ チンロン: ……っ、では、お願いしてもいいですか……! このままだと押し切られてしまいかねません! 人間さん: ああ、わかった! 人間さん: (チンロンの勝利を信じるんだ。 そうすれば、俺のエルマイトはμの力に変わるはずだ) 人間さん: (チンロンは必ず勝つ……!) チンロン: あっ、わたくしの水の力が勢いを増して……!? これが、あなた様の力なのですね!? 人間さん: あ、ちょ、近い チンロン: 手のひらで触れているだけよりも、 接する面積が大きいほうがより効果が出るのではないですか!? 人間さん: いや、それは…… (むにん) 人間さん: うん、そうだと思う チンロン: あっ、また水の勢いが……!やはり、そうなのですね 人間さん: (いかん、勝利を信じることに集中しないと) 人間さん: くっ、でも…… リル: どうした、何か様子がおかしいぞ テュポーン: さっきのたたかいで、ケガしてたのかな アヌ: そんな要素なかった気がするけど 人間さん: う、ううっ…… 人間さん: (まずい、まずいぞ……さっきシェンウーとの戦いで散々妙技を 食らいながらも耐えていたから……このタイミングでのチンロンの密着は……っ) 雨依: え、ちょっと待って。嘘でしょ。まさか…… (ざっぱぁああああん!) チンロン: ああっ、すごい!荒れ狂う波のような水流が!こんなの出したことありません! ジューチャオ: そんなっ!あたしの炎がかき消されたっ!! パイフー: やった。チンロンの勝ち チンロン: って、ああっ!?制御できませーん! リル: なっ……ま、まずい、何かにつかまれ!洪水になるぞ!! 人間さん: うッ!! (背景切換...) (しばらくお待ちください) (背景切換...) アヌ: はあ、はあ……溺れるかと思った…… テュポーン: 海みたいだった。ちょっと、おさかなのにおいもした 雨依: それ、たぶん……いえ。なんでもないわ リル: まったく貴君というやつは…… 人間さん: なんのこと? リル: くっ……すっきりした顔をして、この男は…… パイフー: ジューチャオ、大丈夫? ジューチャオ: うう……あたし、いったい何やって…… チンロン: そう言えばジューチャオは、どんな正しさを植え付けられていたのか よくわかりませんね……。どうやって確かめましょう パイフー: ジューチャオが信じる正しいことって何? ジューチャオ: え?質問の意味がよくわかんない パイフー: たぶん大丈夫 チンロン: 本当ですか? 信民: ジューチャオ様!大丈夫ですか! ジューチャオ: あーうん。ありがと。どうしたの、慌てて 信民: いえ、突然ふと気づきまして。やはりカッコイイからという理由だけで 素人を技術責任者に据えるのはやめたほうがいいのではと ジューチャオ: そうなの?まあ、そっか 信民: 適材適所を最優先に、もう一度、役割分担を見直しますね ジューチャオ: うん。何言ってるかわかんないけど、任せるね パイフー: チンロン、これは チンロン: ジューチャオは変わったかよく分かりませんが、 信民の皆さんがまともになっている気がしますね! パイフー: つまり…… チンロン: 正気に戻ったんですよ! パイフー: リル、他のみんな。本当にありがとう。これで仲間が4人になった チンロン: 残すはファンロンだけです! リル: そうか。よかった、これは大きく前進したな リル: したのだが…… 雨依: この4人が仲間になっても、あんまり心強くないわね……大丈夫なの、この人たち…… アヌ: さあ…… 人間さん: 大丈夫だよ。個々では頼りない面があるかもしれない。 でも、仲間の絆が、何倍も可能性を広げてくれるはずだ 雨依: ……いいこと言ったふうな顔しないでくれる? 180039 - 正しさの杖 パイフー: とにかく、これでジューチャオもシェンウーも元に戻った ジューチャオ: えー?なんか、あたし変わったかな? パイフー: 唐辛子を萎びたトマトだと思ってた人には分からないことがある ジューチャオ: なんだとー! シェンウー: よさんか。ジューチャオ ジューチャオ: 知らなかった……唐辛子とトマトって違うんだ……なん、だと…… チンロン: そっち? シェンウー: しかもその違いは以前に経験したはずのこと……まさか忘れておるのか……? パイフー: これで残すはファンロンだけ。何か覚えていることはある? ジューチャオ: うーん…… パイフー: ジューチャオには期待してない シェンウー: 残念ながら、杖の効果が効いている間はどうにも意識がぼやけて はっきりしたことはわからんのじゃ チンロン: でも、ファンロン以外に誰かいましたよね?あのひらひらした服を着た…… シェンウー: ああ、確かに。だが見覚えはなかったように思う。 あれが創造の聖母の手先か 雨依: 創造の聖母の顔は見ていないの? シェンウー: うむ。皆も見ておらぬだろう? ジューチャオ: 見てないと思うよ チンロン: ええ。声を聞いたようには思いますが パイフー: 姿も見せずに、こそこそ工作するなんて。イライラする リル: 怒りはもっともだが、あまり感情的になってしまうと相手に付け込まれるぞ パイフー: うん……さすがリル、冷静だね アヌ: 相変わらず正体が見えないね。本当に存在するのかな? 雨依: テュポーンを通じて明確に意思表示していたわ。 少なくとも意識は存在するはず テュポーン: いるの?いないの? 雨依: 幽霊かもしれないけどね テュポーン: やだこわい。かえりたい 雨依: あんためちゃくちゃ強いくせに、意外とそういうのダメなのね 人間さん: 雨依は霊とか平気なのか? 雨依: 無理無理無理。そういう話やめてね? 人間さん: そう言われても、おとぎ話の中には……ねえ? 雨依: やめてってば リル: ではやはり、クンルンの山に向かいファンロン殿も直接、 元に戻す方針に変わりはなさそうだな パイフー: でも少し休ませてあげたい エグレット: さっき正気に戻ったばっかりだもんね。ちょっとふわふわしとこ~ ジューチャオ: それなら、あたしの城が近くにあるからどう? リル: ん?あ、ああ、では頼もうか…… 雨依: さっきまで、そういう話になってたんだけどね、一応…… ジューチャオ: ねえ、ちょっといい? ひとっ走り城まで行って、先に宴の準備をしておくように頼んでもらえるかな 信民: もう既に連絡はしていますが ジューチャオ: えー!さすが仕事が早い! 信民: いえ……ちょっと前のジューチャオ様が……げふんげふん。 なんでもありません アヌ: なるほど。これが通常運転かぁ (背景切換...) ジューチャオ: まあ、のんびりしていってよ チンロン: まあ、ごちそうですね!いただいていいんですか? 大丈夫、あの、皆さんの分まで食べたりしませんから 雨依: まだ何も言ってないのに悲しい自己申告…… テュポーン: ただめし!ただめし! リル: テュポーン殿、その言い方はあまりにも品がないぞ テュポーン: 違うの? アヌ: ぶっちゃけ、私もテュポーンも大して活躍してないからね。 タダメシっていうのは的確かも アヌ: あー、働かないで食べるごはん美味しい 人間さん: もうちょっとがんばろう アヌ: ねえ!?こういうときはさ 『そんなことないよ、アヌがいてくれるから俺は頑張れるんだよ』 とか言うべき場面なんじゃないの!? テュポーン: アヌがいてくれるから、テュポは特に何もしなくてもげんきだよ 雨依: 絶対、悪い影響を与えてるじゃない アヌ: ぐぬぬ シェンウー: ジューチャオよ、酒は用意されてないのか? ジューチャオ: あ、そっか。シェンウーはお酒大好きだもんね シェンウー: 酒ほど素晴らしいものはないぞ。 酔って欲望を隠しきれなくなる男、普段のガードがユルユルになる女…… 見てて飽きないのう パイフー: 相変わらず品のない趣味 シェンウー: パイフーとは昔から分かりあえず寂しいものじゃ パイフー: わたしのものになったら、もう離さないから。誰にも渡さない シェンウー: もちろん、その倫理観はとても大事じゃ。 倫理を大切にするからこそ浮気や寝取られが映えるのであってな アヌ: なかなかエグいこと言うなぁ。一理あるとは思うけど リル: というかシェンウー殿の、いわゆるこういった性的な発言は 正しさの杖の影響ではなかったのか シェンウー: わらわの、えっち大好き趣味が正しさになるわけがなかろう パイフー: 結局、正しさって何だったの? チンロン: わたくしは生き物の命を奪わないこと、でした。 正気に戻った今となっては、おかしなところだらけですが…… あのときは、それが素晴らしい考えだと信じ込んでいたのです ジューチャオ: あたしは、経歴とか資格、経験とかに関係なく、 やる気さえあれば何をやってもいいってことだったよ。 別に勉強とかできなくてもいいじゃん、みたいな シェンウー: わらわは、年齢や性別で制限しない、ということじゃな。 それがえっち方向に振り切ったのは、単純にわらわの個性じゃ リル: ということは、ファンロン殿も シェンウー: うむ。何らかの正しさに捕らわれているはずじゃ 180040 - 目撃情報 フアナ: ふう……いろんな町を回ってみたけど、結構あったね。目撃情報 フック: ええ……そうですね フアナ: 大抵は海に黒いのが広がってるところを見たって話だけど…… いくつか共通してるのが、この羽が生えた何か フック: …… フアナ: たまたま大きい海鳥がいたのかと思ってたけど、別の海域でも 共通して目撃されてるってことは……事件に関わってる可能性が高いよね フアナ: この羽の人が意図的に濃縮ディマイトを流した…… つまり、事件の犯人ってことかな フック: それは早計かもしれません。 そもそもこの事件が人為的なものかどうかも定かではありませんし フアナ: えっ、でもフックも言ってたじゃん。 広がり方的に、海の真ん中で上空から流したんじゃないかって フック: そうですが、しかし フアナ: まあ。本人に話を聞いてみれば解決するけど フック: 本人?どうやって見つけるんです フアナ: 実は現場から不審な粉が発見されて フック: ……。そう言えば、あったような フアナ: 羽の特徴と、粉から検出されたエルマイトの特徴を データベースをあたって調べてるんだ。 何人か候補が抽出されて、それを目撃者の人に見てもらってるの フック: そんなことが可能なのですか……!? フアナ: フローレ・アカデミーに依頼したって聞いたけど フック: ……そんなデータベースがあるとは知りませんでしたね フアナ: あたしもどれくらい絞れたのか詳しくは知らないけど。 チームのみんなに任せちゃってるから フック: あまりそういったテクノロジーに頼りすぎないほうが良いとは思いますがね。 目撃者だって、シルエット程度しか見ていないでしょう フアナ: まあね。だから、いきなり最初から犯人扱いするというより、 詳しい事情とかを聞く、って姿勢が大事かなって フック: そう、ですが…… フアナ: おっと!噂をすればスホマに着信だ。はいはい、こちらフアナ フアナ: えっ?待って、あたしまだ何も聞いてな…… もう突入に向かったって、誰がそんな許可を出したの!? フック: !? (背景切換...) ティンカー・ベル: ふいー。シャワー浴びてさっぱりしたぁ。 最近はダッちゃんの本体、魔法の粉もたくさん出るようになったから 毎日お風呂に入らないとなんだか……ん? ティンカー・ベル: フックから着信? メッセージも届いてるし。あいつから連絡なんて珍しすぎなんだけど ティンカー・ベル: えーと……『今すぐそこを出て』? なんだあいつ、ティンカが宿屋に泊まってるのがそんなに不満か ティンカー・ベル: どうせあれでしょ。 『その宿に泊まるにはティンカ嬢は品格が伴っていませんね』とかいうんでしょ。 大した宿でもないっつーの ティンカー・ベル: ……足音?甲冑が擦れ合うような音も…… 兵士1: おい、何号室だった 兵士2: 待て、あまり騒がしくするな。気取られるぞ ティンカー・ベル: ……!? (背景切換...) アリス・ミルズ: …… アルブス・ツークツワンク: 失礼します アルブス・ツークツワンク: お加減いかがですか アリス・ミルズ: 今日は少しマシよ。アルブスこそ、大丈夫なの? アルブス・ツークツワンク: ええ。私は大丈夫です ルーフス・サクリファイス: ミルズ様……これってやっぱり、その アリス・ミルズ: 思い当たる理由もなく、私たち三人が揃って異常をきたす…… 考えられる可能性はひとつね アルブス・ツークツワンク: キャロル様、ですか アリス・ミルズ: コミッティ解散後、あのお方がどう行動されていたのか。 そして再招集されなかった経緯がどのようなものなのか。 私達には知るよしもないけれど アリス・ミルズ: 現体制に友好的でないだろうことは想像できるわね。 もともと、あのお方は安定を望まなかったし…… ルーフス・サクリファイス: どうします?あたしも白いのもまだ動けなくはない、って程度の消耗ですが アリス・ミルズ: ……狙いが分からない以上、うかつに動けないわ ???: それでいいわけ? アリス・ミルズ: あなた…… アリス: 止められるのは、私たちだけだよ アリス・ミルズ: ……私はコミッティ特務機関の別働隊。動くためにはフアナ統合司令の許可が―― アリス: 私たち、アリスでしょ。 アリスはね、誰にも縛られずに自由に冒険するのよ。組織にも、作家にもね アリス・ミルズ: アリス…… アリス: ほら アリス: 伸ばした私のこの手を取るも取らないもあなたの自由。 でも……私はひとりでも行くわよ アリス・ミルズ: …… 180041 - 逃亡幇助 ティンカー・ベル: おわああああぁぁぁぁ!? フック: かなり時化てきました。さすが、ツイてますね。ティンカ嬢は ティンカー・ベル: どんなイヤミだー! ティンカー・ベル: でもイヤミも言いたくなるか。いまのティンカは不幸まっしぐらだもんね。 この嵐も誰のせいかって言われたら……否定しきれないや フック: 何をしょぼくれているんですか。この嵐のおかげで並の船は追ってこれない。 つまり完全に追手を撒くことができるということです ティンカー・ベル: でも…… フック: そしてこの船を操るのは他ならぬ私と、その部下たちです。 嵐くらいで船をひっくり返すような真似はしませんよ フック: そうだろう、みんな!! フックの部下: アイアーイ!キャプテーン!! ティンカー・ベル: みんな歯を食いしばって返事してるけど……言わせてる感が半端ない フック: それにもうひとつ。 いまのティンカ嬢が不幸まっしぐらだというのは、追われている件のことですか? ティンカー・ベル: そうだよ。いきなり衛兵みたいなのがドカドカ押し寄せてさぁ。 フックが連絡くれたから、間一髪まにあったけど…… ティンカー・ベル: あ、言っとくけどティンカは何もしてないからね!? 罪がバレてツイてない!っていう不幸じゃなくて 何もしてないのに犯罪者扱いされてる!っていう不幸だから! フック: 分かっていますよ。ティンカ嬢は潔白だ ティンカー・ベル: ありゃ?フックのことだから、どうせ下着ドロでもやったんでしょう、 なんてバカにしてくるかと思ったのに フック: だったら助けませんよ。それから…… 第三者の意図的な行動によって罪を着せられることは一般的に不幸とは呼びません。 運の問題ではありませんから ティンカー・ベル: え……?罪を、着せられる?ティンカが!? フック: もっとも、どこまで意図していたのかも現時点では不明ですが。 私個人の所見では、ティンカ嬢を狙ったように思います ティンカー・ベル: どこの誰が……!? フック: それが分かっていたら、あなたを匿うよりも先に真犯人を捕まえていますよ。 私もコミッティ、海賊でありながらも行政側の立場です ティンカー・ベル: いやそれな。誰がこんな奴を選出したわけ? フック: こんなやつとはご挨拶ですね。一応、助けたつもりなのですが ティンカー・ベル: あー、ごめん。 こんなやつっていうのはフック個人の人格じゃなくて立場っていうか フック: 海賊船の船長なんか、という意味ですか。それは私も同感です ティンカー・ベル: ……で、何の容疑がかかってんの? ここまでしてくれるくらいだから、結構な重い犯罪だよね フック: さすがティンカ嬢、カンが良いですね。 容疑は……世界各地の海を飛び回り、高濃度ディマイトを垂れ流した罪、です ティンカー・ベル: はああ!?ティンカ、そんなことしてないんだけど! フック: 分かってますから。大きな声を出さないでください ティンカー・ベル: え、でも待ってよ。 逃げちゃったら怪しく思われない?ちゃんと正直に説明したら…… フック: まだ情報が不足しています。 治安当局はあなたを何が何でも犯人に仕立て上げようとしますよ ティンカー・ベル: マジか…… ティンカー・ベル: でもさぁ、こういうこと自分で言いたくないんだけど、 ティンカってエミリーとも仲良しで、姐さんとか三つ編みとか 人間さんだって仲間で……まあ一応フックもいて ティンカー・ベル: 言ってみれば結構コネとかガンガン使えちゃう立場じゃん。 なのに、そんな標的にされちゃう? フック: さすがはティンカ嬢。そうなのです。あなたは体制側の存在です ティンカー・ベル: だから、いちいち思ってもないのに、さすが!とか言わなくていいっての! ティンカー・ベル: ……じゃない、ケンカしてる場合じゃなかった。 え、でもさ。捕まえようとしてる人たちもその、タイセイの方じゃないの? フック: つまり、そういうことですよ ティンカー・ベル: どういうことだってばよ!? フック: なんですか、その口調は ティンカー・ベル: 人間さんに前、教えてもらったやつ。いまこそ使うときだと思って フック: いまじゃなかったでしょうねぇ ティンカー・ベル: まあいいや。そんで、どこに逃がしてくれるの?スカルロック? フック: 残念ですが……私が逃亡に関与したことは早晩、露見してしまうでしょう。 私の支配下にある拠点は見つかってしまう可能性が高い ティンカー・ベル: じゃあ、どこに…… フック: あるでしょう。手が届かない場所が 180042 - 転移の条件 雨依: あー、やらかした チンロン: どうかされました? 雨依: せっかくオトギノクニに一時的に戻れたのに忘れ物しちゃったと思って アヌ: こっちの世界にはないものなの? 雨依: 化粧水ってある? チンロン: えーと……? 雨依: だよね。レオナ特製の化粧水がないと、もう顔が乾燥しちゃって 人間さん: 確かにここはわりと空気が乾燥してるもんなぁ。 ゼウスたちのところは海も近いし、それほどじゃなかったけど チンロン: 確かに雨依さんはお肌がぷるぷるですよね。 何を食べてるんだろうと思ってましたが シェンウー: 潤いは大事じゃからのう。こふふ ジューチャオ: シェンウーが言うと違う潤いに聞こえるんだよなぁ パイフー: 普段は分からないことばかりなのに、そんなところだけジューチャオは話が通じる ジューチャオ: ちょっと!?なんかあたしが色情魔みたいに聞こえるんだけど! パイフー: 一言でいうとそう ジューチャオ: あ、あたしはエッチなことなんて全然興味ないし! シェンウー: なんともったいない。人間さんのエルマイトは極上じゃというのに 人間さん: 恐縮です テュポーン: 人間さん、ひかえめ。えらい アヌ: このタイミングでの今の発言は全然控えめじゃないと思う シェンウー: 実際、五獣の連中はみな潤いが足りんと思うのじゃ。 人間さんよ、もっとこやつらに楽しみを教えてやってくれんか 人間さん: 喜んで 雨依: ちょっと 人間さん: ほ、ほら、エルマイトをね チンロン: あの、雨依さんとあなた様は恋人同士なのですか? 雨依&人間さん: そうよ 違うよ 雨依: は?やることやっといて? 人間さん: だからほら、エルマイト…… 雨依: 私は人間界の出身だから、人間界の価値観で話してるのよ 人間さん: 俺はもうオトギノクニの住人になったし…… アヌ: ていうか、いま危なくなかった!? こっちの世界に飛んだときも、なんかこんな感じだったような テュポーン: うん。ういと人間さん、いきぴったりだった アヌ: いや、ぴったりだったのはヴェルと雨依じゃなかったっけ 雨依: タイミングだけ揃っても仕方ないんじゃない? 心が思いっきりずれてたし、いまのなんて リル: 何の話なんだ? 雨依: ほら、オトギノクニとμ世界を行き来する方法のことよ リル: そんなまだるっこしいやり方でこっちに来たのか? 小生は普通に魔法陣の力で飛ばされたが…… 雨依: ……? 雨依: 考えたらそうよね。 魔法陣がないμ世界からオトギノクニに戻るときに、あの現象が起きたわけでしょ 人間さん: あ、そっか。じゃあ俺たちがこの世界に来たのって…… 単に魔法陣の力を借りただけってことか……? 雨依: パラケルススのやつ、いい加減なこと言って…… 人間さん: そうだよな。 あの実験をするなら、魔法陣が存在しない場所で試すべきだったんだな チンロン: あの、さっきからお話されていることが今ひとつ飲み込めていないのですが…… シェンウー: おぬしらが別世界から来たことは何となく理解しておる。 そして、世界を渡り歩くための術式があるのだということもな。 その魔法陣とは、どんなものなのじゃ? 雨依: えーとね、こんな感じ アヌ: そんな丸ちょっと描いただけじゃ伝わんないでしょ。 私も来るときちらっと見ただけだけど、もうちょっと複雑だったよ シェンウー: ……例えば、模様のようなものがあった、とか? 雨依: え……? シェンウー: 覚えておるか、チンロン チンロン: おぼろげだけど、記憶にあるわ シェンウー: ふむ…… ジューチャオ: なんであたしには聞かないわけ!? シェンウー: では覚えておるのか? ジューチャオ: 全然…… アヌ: なんで口を挟んだの リル: 待て。ふたりが記憶にある、しかもうっすらということは シェンウー: さよう。クンルンの山にある、ファンロンの城で見たのじゃ テュポーン: んん?あのまるいやつ、だいにんき!ってこと? リル: あの魔法陣は、創造の聖母が放った手先が作ったものだ。 だとすれば、導き出される答えは二つ パイフー: 二つ……? リル: まず、手先はファンロン殿のすぐ近くにいるであろうこと。 そしてその敵は、オトギノクニと行き来することができるはず、ということだ 雨依: これまでμ世界で魔法陣を見たことはなかったけど…… 聖母がここまで侵蝕してるなら、あり得ることだわ シェンウー: ふむ……敵は複数の世界を自在に行き来できるとなれば、かなり厄介じゃな…… (背景切換...) ファンロン: …… 信民: ファンロン様 ファンロン: ……シェンウーとジューチャオが敵の手に落ちたのね 信民: いかがされますか ファンロン: いかがも何も、次は私が直接手を下すしかないでしょう。 そう命令されるでしょうから 信民: 命令は命令です。ファンロン様はどのようにお考えですか ファンロン: ……まだ、大きく動くときではないわ 180048 - 逃亡先 フック: ……どうやら、まだここにまで追手は来ていないようですね。 ティンカ嬢、急いでください ティンカー・ベル: ここって……?洞窟?もしかしてお宝の隠し場所? フック: だとしても、宝をあなたに渡すわけではないですよ ティンカー・ベル: 分かってるよ! 匿ってもらってるのに、宝まで頂こうなんてあさましすぎるでしょ フック: ここは……魔法陣がある場所、です ティンカー・ベル: えっ、魔法陣?それってもしかして、あの……? フック: そう。報告書によれば、間もなく稼働時期に入るはず。 魔力を注ぎ込めば転移も可能になる……と思われます ティンカー・ベル: ま、待ってよ! まさかティンカが逃げるのって、μとかいう子たちのいる世界!? フック: そこならば、治安当局は追ってこれません。そして、行った先には彼もいます ティンカー・ベル: そ、そりゃあ、人間さんに会えたら心強いけど……! ???: そんなのダメだよぉ~? フック: !? ティンカー・ベル: や、やばっ!追手!? ???: 逃げようったって、そんなのチャイムが許さないもん♪ ティンカー・ベル: チャイム……?それがあんたの名前? チャイム: せっかくヒラヒラ飛んで、みんなに見てもらったのに~。 あれって大変だったんだからねぇ? チャイム: 夜の海なんて真っ暗でしょぉ? 見てもらうためには昼間のお天気のいい日じゃなきゃだめなんだもん。 チャイムのお肌が焼けちゃう フック: 見て、もらう……? そうか、確かに目撃情報があったときの天候データは晴れ、そして日中……! フック: 敢えて目撃させていた……! その姿を見せることで、ティンカ嬢に罪をなすりつけようと……? そして、真犯人は――あなたか チャイム: わぁ♪さっすが。 こっちのクローも頭いいんだぁ。ピンポン、ピンポン♪大せいかぁい ティンカー・ベル: なんでそんなことしたわけ!? あーっと、そんなことっていうのはディマイトもそうだけど チャイム: なーんであんたに罪をなすりつけようとしたか ティンカー・ベル: それ!わざわざそんな付け羽までして!ティンカになんの恨みがあるの? チャイム: フックだっけ?あんたならもう気づいてるんじゃない? そっちのアンポンタンとは違うだろうから ティンカー・ベル: アンポンタンってまた古臭い悪口だな!! フック: そういうことですか…… ティンカー・ベル: えっ、わかったの!? やめてよ、そこで即答されると本当にティンカがアンポンタンみたいじゃん! フック: これは付け羽ではない、あなた自身のものですね? そしてデータベースに照合しても同一性検証をくぐり抜けた。 見た目がこれだけ違うのにも関わらず フック: ……あなたは、ラームス世界から来たティンカ嬢。違いますか? ティンカー・ベル: ええーっ!? チャイム: あはっ。やっぱり冴えてる。 そう、チャイムはこっちの世界でいう、こいつなんだって。 自分でもピンと来ないけど……聖母が言ってた ティンカー・ベル: だ、だってだって!見た目が違うとかいうレべルじゃない! そりゃあグレーテルとクーヘンもまるで違ったけど、でもっ…… ティンカー・ベル: 妖精がそんなにデカいわけないだろーっ!! チャイム: それはこっちの台詞。なにその、妖精の谷みたいな急斜面 ティンカー・ベル: なにをーっ! ティンカー・ベル: でも、わざわざ来てくれて助かっちゃった。 これであんたをぶちのめせば、ティンカの無実も晴れるね チャイム: そう、うまくいくかなぁ~? フック: ……待ってください、ティンカ嬢。まだ彼女はカードを隠し持っている ティンカー・ベル: はあ?どう見ても手品師じゃないでしょ フック: そういう比喩ですよ。いえ、今はそれはいい。 おそらく彼女をここで倒したとしても、ティンカ嬢の容疑は晴れない可能性がある ティンカー・ベル: なんで!? フック: これは私の推測ですが…… 何故ティンカ嬢を狙ったのか、その答えでもあると思います フック: これだけ見た目が違うのに、目撃者が見間違えるはずがない。 いくら遠くても、スイカと野イチゴの違いはわかるでしょう ティンカー・ベル: 確かに……って、おい。フック。この場面でそのディス必要だった? フック: おそらく何か相手の認知を歪める手段を持っている。 しかし、当局の科学捜査までは欺けない。 だから自分と近い――いえ、ほぼ同一存在であるティンカ嬢を狙ったのです チャイム: んんー。90%くらいせいかーい♪ でもね……こっちの船長は正義感が強いかわりに 他人の感情を読み解ききれないのかなぁ? チャイム: チャイムがこいつを狙った理由…… それはね、こいつに成り代わってやるためだよ!! フック: くっ!?こ、このディマイトの波動は……! 180049 - ティンカの行く末 チャイム: 垂れ流すだけじゃないんだよ? いーっぱいディマイト預かってきたんだもん。 この力で、こっちの世界のチャイムをこの場で叩き潰したっていい……! フック: まずい……! ティンカ嬢、ここで戦うのは危険だし不利だ。今すぐ逃げてください! ティンカー・ベル: はあ!?どこに逃げるって!? フック: ですから、そこですよ ティンカー・ベル: 魔法陣……?あっ、光り始めてる!? フック: 所定の時間になって魔力が満ちて来たのでしょう。さあ、早く! ティンカー・ベル: わかった……。ほら、フックも早く チャイム: 行かせないよぉ! ティンカー・ベル: ちょっとフック、早く!何やってんの! フック: ここで食い止める者がいなければ魔法陣を破壊されて今度こそ逃げ場を失います ティンカー・ベル: は!?食い止めるって、ちょっとフック! フック: これでも自力でディトルパを制御できるくらいの実力者なんですよ、私 チャイム: 逃がさないんだからぁ! フック: さあ行って! (フックに押されたティンカー・ベルの身体が、魔法陣の中に入る。 途端に、魔法陣は黄金の光を放ち始めた。) チャイム: チャイムがこの世界で成り代わるんだから…… そうすれば、みんなの居場所だって…… フック: 申し訳ありませんが、あなたの相手は私です (魔法陣の光は一気に強くなり、ティンカー・ベルは 自分の身体が既に透け始めていることに気が付く。) ティンカー・ベル: これ、もう転移しちゃうっ……!ねえ、フック!!まだ間に合うって! フック: ……ティンカ嬢。どうぞご無事で (ティンカー・ベルに背を向けたフックは、肩越しに振り返り微笑んだ。) フック: 私は、あなたのことは最初から嫌いではありませんでしたよ ティンカー・ベル: フックーーーーーーーーーーーっ!! (背景切換...) (……。) (…………。) (………………。) (背景切換...) ティンカー・ベル: ―――っ!! (ほんの一瞬前まで名前を叫んでいたはず。 しかし、周囲は洞窟ではなくだだっ広い野原だった。) ティンカー・ベル: えっ?あ、あれ? ティンカー・ベル: もしかして、転移したってこと……? ティンカー・ベル: ……フックのやつ。ひとりであんなふうにカッコつけて、バッカじゃないの ティンカー・ベル: ほんっと、バカみたい…… なんでティンカを逃がすために、あんなことまでするかな……。 さんざんケンカし続けてきた相手なのにさぁ ティンカー・ベル: ずっと、悪い奴だって言い続けてきたじゃん……なのに、なんで―― ???: 異界の者よ…… ティンカー・ベル: !? (ふいに聞こえた声に、ティンカー・ベルはハッとして周囲を見回す。 だが、姿は見えない。遮蔽物の少ない開けた場所であるにもかかわらず。) ???: どうか、聞いてほしい ティンカー・ベル: だ、誰? ???: もう、儂の力もほとんど残っていない……どうか、あやつを…… ファンロンを助けてやってくれ…… ティンカー・ベル: だから誰!? (しかし、もう声は聞こえなかった。 ティンカー・ベルは呆然とその場に立ち尽くす。) ティンカー・ベル: なに、今の…… ティンカー・ベル: あ、そういえばずきんがμの世界に行ったときに キとかいう見えない人に力をもらったとかなんとか言ってたっけ ティンカー・ベル: じゃあ、ティンカも今ので…… ティンカー・ベル: ………… ティンカー・ベル: 全然、力を感じないけど…… でも、ティンカもμの子と縁をどうたらとか経験したことないしなぁ。 こんなもんなのかな ティンカー・ベル: ていうか、μの『子』って感じじゃなかったし…… 声が完全におじいちゃんだった…… ???: そこの人、こんなところでどうしたの?道に迷った? ティンカー・ベル: うえっ!? ファンロン: もし迷っているのなら案内するわ ティンカー・ベル: ほんとっ?たすかるー。一文無しだし、お弁当も水筒もないから、 たぶんあと数時間でティンカは干からびて死ぬとこだったよ ファンロン: ティンカさん、というのかしら? ティンカー・ベル: あ、うん。呼び捨てで全然いいよん。謎の美人さんは、名前聞いてもいい? ファンロン: ファンロンよ。よろしく ティンカー・ベル: ファンロン……? ファンロン: え? ティンカー・ベル: あ、ううん。なんでもないよ ファンロン: それにしても美人だなんて……私を褒めても何も出ないわよ。 こんなどこにでもいる地味な女 ティンカー・ベル: おうおう、新鮮な反応。謙虚って素晴らしいよね。ティンカの周りは 『可愛いから仕方ないねぇ』とか『六本木のギャラ飲みでは一番人気でしたから』 とかいうのばっかりで ファンロン: 何の話? ティンカー・ベル: ううん、気にしないで ファンロン: そう……?それより、このあたりは魔物も出るわ。 近くに私の別宅があるから、避難しましょう 180050 - 孤軍 ファンロン: 適当にくつろいでいて。遠慮しなくていいから ティンカー・ベル: おっけー!うわぁ、このソファすっごいフカフカ! ばいんばいん!座ったら押し返される弾力!! ファンロン: ……遠慮しなくていい、とは言ったけど ティンカー・ベル: なに、ここに一人暮らしなの? ファンロン: そうだけど ティンカー・ベル: いいおうちに住んでるなぁ。やっぱりティンカも引っ越そうかな。 でもツリーハウスにも愛着あるんだよなぁ ファンロン: そう言えば食べ物も飲み物もないって言ってたわね。 とりあえずお茶でも飲む? ティンカー・ベル: 助かるー!実は喉カラカラだったんだよね。ほら美声がもうかすれてきちゃってて ファンロン: ふふっ……そうね、じゃあしっかり潤してもらわないと ティンカー・ベル: お、笑った ファンロン: え? ティンカー・ベル: いやー、なんか雰囲気的にファンロンって 結構マジメな方かなって思ってたんだよね。勝手に決めつけてごめん ファンロン: いえ……どちらかというと、その通りだと思うわ。でも笑ったりはするわよ ティンカー・ベル: いいじゃん。話の分かるマジメって感じで ファンロン: そもそも、私が以前から真面目な性格だったかどうかは自分でもよく分からないけど ティンカー・ベル: あー、なんか立場的にってやつ? ファンロン: そうね。立場というか……いつも一緒にいる四人の仲間がいるの。 その子達がわりと、こう…… ティンカー・ベル: 不真面目?やんちゃな感じか ファンロン: 不真面目ってこともないのよ。 彼女たちなりに一生懸命なんだけど、でも私みたいなのが仕切っていかないと 進まないというか ティンカー・ベル: わかった。ポンコツ集団だ ファンロン: そう、とは答えづらいから濁しておくけど ティンカー・ベル: 言ったも同然じゃん、それ ファンロン: でもね、愛すべき存在なのよ。 無口で好き勝手して何考えてるか分かりにくいけど責任感のあるパイフー。 食べ過ぎでさすがに目に見えて心配だけど誰より優しいチンロン ファンロン: 致命的におバカだけど、いつも一生懸命でムードメーカーなジューチャオ、 ひどい変態だけど知識と経験で導いてくれるシェンウー ファンロン: みんな……愛すべき、そして守るべき仲間なのよ ティンカー・ベル: ん……大好きなんだね、その子達のこと ファンロン: …… ティンカー・ベル: いやでも前段の、ナントカだけど~の部分、まあまあエグい悪口だったけどね ファンロン: ふふ、そうだった? ティンカー・ベル: 分かる、分かる。ティンカもいるもん。 いつも一緒だったメンツは、大体そんな感じだし、それに…… ファンロン: それに? ティンカー・ベル: ここ来る直前まで一緒だった……ケンカ友達みたいなやつ。 心配だけど、でもあいつなら大丈夫って、ティンカは信じることにしてて ファンロン: そうね……信じるしかないのよね。きっと大丈夫だ、って ティンカー・ベル: 心配ばっかりしてても始まらないし ファンロン: その通りだわ ティンカー・ベル: 意気投合したところで相談なんだけどさ。 ティンカお金もないからさ……とりあえず今日、泊まっていい? ファンロン: あははっ、本当に図々しいのね。でも、最初からそのつもりよ。 この別宅は人里から離れてるし、夜までに宿屋になんて行けないわ ティンカー・ベル: そか。んじゃ、お世話になりまーす (背景切換...) (到着した町は、ジューチャオ領の最後の町、境界にあるらしい。) (どこか町の人々の活気がなく、こちらを品定めするような視線を感じ また指名手配されているのではと警戒してしまったが――) ジューチャオ: 縄張りは、杖で操られてからもきちんと分けてたから平気でしょ。 ファンロンはこの町に手出しはしないわ パイフー: ファンロン、しっかりしてたから シェンウー: あのきっちり具合は価値観ではなく本能なのじゃろうな。 だから杖でも矯正されることはなかったのじゃろうて チンロン: ここで一泊して、明日からはファンロン領ですね。 それこそ指名手配されているかもしれないし、英気を養いましょう シェンウー: という建前で、たらふく食べようという算段か チンロン: だってぇ…… テュポーン: うん、チンロンにさんせい。テュポもおなかへった アヌ: 食べさせてあげて、お願いだから。 ほっとくとまた落ちてるモノを食べようとするんだよ テュポーン: アヌも食べればいいのに アヌ: やだよ…… 雨依: そんなの食べるくらいなら働く? アヌ: それもやだ…… 人間さん: まあまあ。それよりまずは宿を確保しよう 住民: あんたたち、ファンロン領から来たんじゃないのかい? チンロン: いえ、ジューチャオ領の中心から来ましたよ シェンウー: ……何か知っておるのか? 住民: それが……ファンロン領の町が壊滅させられたらしいんだよ。 見たことのない女が笑いながら壊して回ったとか…… テュポーン: なんだ、そいつ。頭おかしい ジューチャオ: でも、そんなのファンロンも黙ってないでしょ 住民: それが……その女の近くにファンロン様もいたとか、いないとか…… ジューチャオ: え……!? 180051 - 心にはいつも フアナ: 違うんだよ!ティンカが犯人なわけない!これは何かの間違いなんだって! ジャコヴァ: むう…… ヴィルヘルミナ: フアナ統合司令。落ち着いてちょうだい。ここはコミッティの本会議場よ フアナ: だけど! シェイクスピア: 私のイマジュマイトパターン鑑定は完璧な出来よ。狂いはないわ。 狂っているとしたらそれは、技術ではなく扱う者の心かもしれないわねぇ…… シェイクスピア: ああ……大切な友人がとんでもない悪行に手を染めて…… これを悲劇と言わずとして、なんというのかしら フアナ: ウィラ!?なんでそんなに悠長に構えてるの!? ティンカがそんな悪いことするわけないじゃん! ドロシー: あったりまえよ!あの子は本当にいい子なんだから! シンデレラ: でも……操られているという可能性はあると思うわ。 だからこそ早急に保護して事情を聞かないと フアナ: うう…… クラース: シンデレラが正論でしょうね。 捕まえることイコール断罪ではないわ。まずは情報を集めたいでしょう? エミリー: ……ティンカが関係してるのは間違いないと思う フアナ: エミリーまで……? エミリー: 姐さんが言うみたいに操られてるのかもしれない。 それか、ティンカからイマジュマイトの痕跡が残る何かを取って、 見せかけるために使ってるとか シェイクスピア: もちろんそれも可能性よねぇ ラヴクラフト: おつゆを取るだけでも偽装できちゃう? シェイクスピア: ええ、もちろん フアナ: でも、ティンカは自分の意志で逃げたみたいなんだ。 特務機関が突入する直前に、宿の裏口から抜け出して…… ジョカ: と聞くと、クロみたいに聞こえるけどな ヴィルヘルミナ: 問題はそこじゃないでしょう。情報が漏れてたということよ フアナ: それは…… ジャコヴァ: フックは、どこに行った フアナ: ………… トリル: まさか、フックさんが共犯だっていうんですか? シェイクスピア: フックなら、ワタシの作ったパターン照合のことは 知っていてもおかしくないでしょう? ティンカとグルなら、その情報も伝わっているはず ラヴクラフト: わざわざお汁垂らして悪いことするのは変態だし、変だよね シェイクスピア: 一応、混乱するから訂正しておくけど、汁じゃなくて粉よ ラヴクラフト: どこから出た粉なんだか ジョカ: 普通に羽だろ…… 兵士: 失礼します。こちらの報告が トリル: あ、はいっ トリル: えっ……? シンデレラ: どうしたの? トリル: 新たに高濃度ディマイトの散布が確認されました。…… 同時に、その近海で……フックさんが、発見されました ドロシー: なんですって! エミリー: 発見された、って…… トリル: 重傷を負っており、現在意識はありません (背景切換...) ティンカー・ベル: お茶飲みすぎたかな……トイレが近いや……。 あれ、ファンロン?こんな時間なのにまだ起きてたの? ファンロン: ああ、ティンカ。もう寝るところよ ティンカー・ベル: あ、なんか隠した。いま、その本みたいなの読んでたでしょ。さてはエロ本だな! ファンロン: ち、ちがっ……こ、これはその、思い出の記録で ティンカー・ベル: 冗談に決まってるじゃん。その動揺ぶり、本当にエロ本がどこかにあるとみた ファンロン: この時間から出ていってもらっても構わないのだけど ティンカー・ベル: うそうそ!ファンロンがエロ本なんか読まないよね! ティンカー・ベル: それで?仲間とうまくいってないの? ファンロン: え…… ティンカー・ベル: 思い出の記録を見てたにしては、ずいぶん悲しそうな顔してた。 ……いまは、前みたいに仲間と遊べないのかなって ファンロン: 仕方ないのよ。 大きな目的のためには、私個人の感情なんて二の次にするしかないんだから ティンカー・ベル: 大きな目的って? ファンロン: ……世界を、守ること ティンカー・ベル: いつか、前みたいに笑いあえるように、だね ファンロン: ……。それは、かなわないかもね ティンカー・ベル: 詳しい事情とか全然知らないけど、 また仲間と楽しく遊ぶためにいろいろ我慢してるんじゃないの? ファンロン: そのつもりよ。でも完全に欺くためには…… 私だけは、仲間の輪から欠けてしまうかもしれない ティンカー・ベル: …… ティンカー・ベル: (マオリンがどうとか……なんだろあれ、手紙……?) ファンロン: 今のところ、順調なのよ。私が覚悟しきれずに失敗するわけにはいかないの ティンカー・ベル: だめだよ ファンロン: ……っ!? ファンロン: ちょ、ちょっと、どうしていきなり抱きしめたりなんて…… ティンカー・ベル: ファンロンはひとりじゃない。そのことは、忘れちゃだめ。 そんな顔でアルバム見るくらい、未練があるんでしょ ファンロン: ティンカ…… ティンカー・ベル: ん?あれ、なんだろ。急に体が熱くなってきた ファンロン: え? ティンカー・ベル: おわあああぁぁ!? (背景切換...) ???: もしもーし ???: 何か余計なことをしているようですね ???: あー、なんかエルマイトで偽装したこと? しょうがないじゃん、あの子の希望なんだから ???: 計画に忠実にしたがってもらわなくては困りますよ。 これは正しさを証明する戦いなのですから ???: はいはーい。分かってるってば ???: ふう、やれやれだよ チャイム: チャイムのせいで、怒られちゃった? ???: 別に気にしなくていいよ。 勝手に産廃処理を押し付けてきたくせに、なーにが正しさなんだか。 まあチャイムのおかげで面白い活用方法ができたからいいけどさ ???: それより、どう?こっちの生活は慣れた? チャイム: うん。ニセモノは取り逃がしちゃったけど ???: きゃはっ、あっちをニセモノ扱い?なかなか神経太くておもしろいね (背景切換...) チャイム: それより、あの人は閉じ込めたままでいいの? なんか壁にずっとぶつぶつ言ってて気持ち悪いよぉ チャイム: エルマイトのこととか研究してるんだっけ?あの人のこと、どうするんだろ ???: 聖母だのライブラだのはいろいろ考えてんじゃないのー? あたしは興味ないや。血を見るほうが何倍も楽しいし (背景切換...) チャイム: すごい作家なんだよねぇ? ???: ……べっつに、大したことないでしょ。 目を見て話さないし、ゲーテの腰巾着やってる小物 キャロル: このあたし、ルイーザ・キャロル以上の作家なんて、 オトギノクニにはいないんだから 180052 - 侵略の一瞬 ファンロン: ………… 衛兵: ファンロン様!見回りですか ファンロン: ええ、散歩も兼ねてね。気を使わなくていいわよ 衛兵: はっ ファンロン: (この牢には、やはりいらっしゃらない……気配がまるで感じられないわ) ファンロン: (カギになるのは、やはりあのときの……あの魔物) (背景切換...) (それはしばらく前のこと――) ファンロン: 黄帝様!この気配はいったい……!?私から離れないでください! 黄帝: この気配……まさか…… 創造の聖母: 私は創造の聖母……あなたたちの世界を是正するために来ました。 これからは、より正しく、規範となるよう導きましょう ファンロン: 是正? ファンロン: 何をするつもりか知らないけど、 こちらが間違っていると頭から決めつけないでもらいたいわ! 黄帝: よせ、ファンロン! ファンロン: ぐああああああっ!? ファンロン: バカなっ……私を上回る雷撃、だと……? 創造の聖母: 敵を討とうと欲するならば世界の理を把握せよ―― もう既にこの世界は、私の手が及んでいるのですよ 黄帝: 先ごろ、神農のやつが言っておった『外からの干渉』もお前の仕業か…… ファンロン: いけません、黄帝様!おさがりください!くっ……身体が、痺れて……っ 創造の聖母: ここは新たに作り替える。正しき世界へと。 その世界に、あなたのような『名もなき』存在は不要…… 黄帝: 『名もなき』か…… 確かに近年、この老いぼれは急速に力を失いつつある役立たず……。 しかし、それをそのように表すとは…… 黄帝: お前、『同じ』だな? 創造の聖母: ……。…不要な存在には消えてもらいましょう ファンロン: な、何なの、あの魔物……!?見たこともない……! 創造の聖母: 広い世界には便利なものがあるものです ファンロン: 黄帝様! 黄帝: 獏、か……お前のような者がそれを使役するとは、何とも皮肉なものだな 黄帝: いずれ消えゆく運命(さだめ)にあることは、儂もとうに覚悟しておる。 しかし……残された世が賊の手で歪められるは我慢ならん 黄帝: 抗ってやろうではないか……『根無し』よ…… 創造の聖母: ……っ、消えなさい! ファンロン: 黄帝様ぁっ!! キャロル: あんたの相手はこっち ファンロン: ――っ!?お前は!? キャロル: この杖、分かる?これであんたは新たに『正しさ』ってやつに目覚めて…… あたしの言うことには絶対服従になる キャロル: もう消えちゃった爺さんのことも、どうでもよくなるのよ。きゃはははっ ファンロン: やめろぉおおおぉぉぉっ!! (背景切換...) ファンロン: …… ファンロン: (あの後、杖を振るわれた私は意識が途絶えた……。 気が付くと、五獣の他の者たちが集められていて……) ファンロン: (それ以来、黄帝様のお姿は見ていない。でも、どこかに気配を感じる…… きっとどこかに囚われているはずよ) (背景切換...) ティンカー・ベル: あ、おかえりー ファンロン: あ…… ティンカー・ベル: あー。その顔、家にティンカがいること忘れてたでしょ ファンロン: いえ……そんなことは…… ファンロン: いいえ。ふふっ、正直に言えばその通りよ。お見通しなのね ファンロン: けど、それも今日で終わりね。もう出発するのでしょう? ティンカー・ベル: うん。信じてるとは言っても、やっぱり早めにみんなに合流してフックの…… 仲間の状況とか、いろいろ伝えて相談したいし ファンロン: ……気を付けて行くのよ。 その姿になって、明らかに力が増しているみたいだけど…… それでも慎重に行動すべきだわ ティンカー・ベル: わかってるって。 これでもティンカも、昔ほど無鉄砲な感じじゃなくなってるんだから ティンカー・ベル: ――って、ファンロンが昔のティンカのことなんか知るわけないか ファンロン: ふふっ。なんとなく想像はできるわね ティンカー・ベル: ……何か、あった? ファンロン: ……何かとは? ティンカー・ベル: なんとなく、沈んでる感じがする。悩んでるのかな ファンロン: ……そうね。どこまでいっても私の心は弱いみたい ティンカー・ベル: 1ミリも悩まずに行動するやつなんてヤバいって。 いいじゃん、ファンロンが完璧じゃないと周りは安心するよ ファンロン: そういうもの? ティンカー・ベル: そ。ファンロンの可愛いとこ出してこ ファンロン: ふふっ、本当にティンカは面白いわね。 私に可愛いところなんてあるわけないでしょう ティンカー・ベル: ほら可愛い ファンロン: よく分からないわね 180053 - ファンロンの決意 ティンカー・ベル: ファンロンからはさぁ、何か全部自分が被ればいい、 みたいな雰囲気を感じるんだよね ファンロン: ……っ ティンカー・ベル: なんで?他のみんなは頼れない?信用できない感じなの? ファンロン: 信用してないわけじゃないわ。ただ…… ティンカー・ベル: うん。ただ? ファンロン: 事実を知る者は少ないに越したことはないのよ。敵は、かなりの曲者だから ティンカー・ベル: 気づかれちゃう? ファンロン: 私の立場でやらなくてはいけないことがあるの。 それを達成するまでは気づかれるわけにはいかないわ ファンロン: ……なんて、話しすぎたわね。ティンカの前では、つい口が滑ってしまうわ ティンカー・ベル: ティンカのせいにしないでくださーい ティンカー・ベル: まあよく言われるけどね。話しやすいんだって ファンロン: ふふっ。でしょうね ティンカー・ベル: とりあえず素直になればうまくいくと思うから!友達のこと大事にね ティンカー・ベル: んじゃティンカはそろそろ行くよ。いろいろ本当にありがとう! いつか恩返しに来るから ファンロン: ええ。期待しないで待ってるわ ファンロン: …… ファンロン: 友達を大事に、か…… ファンロン: もちろんそのつもりよ。たとえ私がどうなっても…… (背景切換...) パイフー: ファンロンが信民の町を壊されるのを黙って見てるなんて…… チンロン: 信じられません。あのファンロンが、そんな シェンウー: 何か事情があったに違いない…… ジューチャオ: そうだよ。杖でおかしくなってても、信民のことは大事にし続けるはずだもんね? アヌ: ……って言っても、杖の影響を受けてたの、チンロンたち3人だけだから……。 どう影響するか、言い切るにはまだ情報が足りないよね リル: 情報というなら、ファンロン殿のことも小生たちは何も知らない。 事前に教えておいてはもらえないか ジューチャオ: いいよ!あのね、おっぱいが大きい! シェンウー: チンロンほどではないがな 人間さん: なるほど。できれば具体的なサイズを―― 雨依: ちっ テュポーン: 人間さん、ういがおこだよ 雨依: 別に。私はいつでも冷静よ アヌ: すがすがしいほどの嘘だね リル: 身体的特徴も軽視はできないが、どちらかというと人となりだな パイフー: 人となり…… エグレット: ご主人は、またエロエロ対決をさせられないか心配なんだね~ リル: そういうことではなく……!いや、それも知っておきたいところではあるが……! パイフー: しっかり者 チンロン: 実質、わたくしたち五獣のリーダーですわ シェンウー: わらわたちが暴走しても、諫めてくれるのは大抵ファンロンじゃ。 見てのとおり、四人は協調性の欠片もないからのう アヌ: 自覚あるんだ…… シェンウー: とにかく、彼奴の現状を把握しなくては始まらん。 このままクンルン山へ向かってファンロンの顔を拝むしかあるまい 雨依: ちなみに、強いの? パイフー: 五獣では最強。わたしよりも 雨依: マジか…… リル: みんなで協力するしかないだろう パイフー: それって、寄ってたかって取り囲んでボコボコにするってこと? なんか、よくない気がする テュポーン: リル、騎士なのに。騎士ってせーせーどーどーじゃないの? リル: うぐっ……わ、わかった!まずは小生が一騎打ちを挑む! 人間さん: 変に意地にならなくていいから リル: 意地などではない!ちょうど一騎打ちしたかったんだ! 雨依: ちょうどしたくなるものじゃないでしょ、一騎打ち リル: とにかく、まずは―― 人間さん: どうどう。落ち着いて リル: 貴君は小生を動物だとでも思ってるのか 人間さん: リルにいなくなられたら困るんだよ。そばにいてくれないと…… リル: !! リル: し、仕方ないな。少しは考慮しておいてやろう 雨依: ちょろい…… テュポーン: 初めちょろちょろ、中ぱっぱだ (背景切換...) パイフー: そろそろ日が暮れる。野営の準備をしよう アヌ: 足がぱんぱんだよ~。あとどれくらいでクンルン山なの? ジューチャオ: まって。いま、計算するから。うーんと…… チンロン: 計算とかはパイフーにまかせましょ? パイフー: この先にある谷を越えたら、そんなにかからない。たぶん、明日には―― ファンロン: 考える必要はないわ。私なら、ここにいる 全員: !? チンロン: い、いつの間にっ!? パイフー: さすがファンロン……わたしにまったく気付かれないでここまで近づくなんて リル: 同感だ。これは相当な手練れと見える ファンロン: あなたたちを取り戻しに来たわ。正しい道へとね 180054 - ファンロンの実力 (突如、姿を見せた美女。それがファンロンその人であることは、 他の五獣たちの反応で容易に想像がついた。) ファンロン: 異世界から来た侵略者――この先の谷をあなたたちが超えることはないわ。 この世界は、私が守る リル: なるほど。彼女に小生たちはそう見えているわけか (強い決意をたたえたその瞳から、揺るぎない覚悟がうかがえた。 正しさの杖の影響とはこれほど強いものなのか。) パイフー: ファンロン、待って ファンロン: あなたには本当に手を焼かされるわね。 集合の連絡も無視して、正しさに気付く機会を逃しただけでなく こうして敵の手に落ちてしまうだなんて ファンロン: あまつさえ、チンロンたちをも取り込むだなんて言語道断 チンロン: 違うんです!あなたの方こそ目を覚まさなくては―― ファンロン: 問答無用よ。でも、こうして対面できたのは幸運だったわ。 本当に……この機会を待っていた…… アヌ: ……? (ファンロンが両手を広げた瞬間、稲光のようなものが現れ、その身を包む。 そして微かに揺れ始めた地面からは、岩がいくつも浮き上がった。) (背景切換...) ファンロン: さあ……倒せるものなら倒してみなさい……! 仲間だったからといって手を抜けるほど器用じゃないのは知っているわよね……? (俺が乏しい中国神話の知識を手繰り寄せるまでもなく、ファンロン―― つまり黄龍の能力は明らかだった。 激しく光る稲妻、そして周囲を漂う岩や土塊――) 人間さん: 雷と、岩か…… チンロン、ひょうたん効果で強化されてる水流でどこまで対抗できると思う チンロン: 本気のファンロンがこんなに強いとは思ってなくて…… あなた様の力をお借りしても、対抗できるかどうか…… チンロン: それに、あの岩はわたくしの水流で押し流せるとしても、雷撃は…… 人間さん: 相性が悪いか…… (神話の知識が足りなくともファンタジー世界の知識は それなりに人間界でも蓄えてきたつもりだ。 水と雷の相関関係は、なんとなく覚えがある。) シェンウー: ファンロンっ……!話を聞くのじゃ! これらすべての行動、おぬしの意志とは呼べぬ! ファンロン: 引くわけにはいかない……悪いわね ファンロン: 殺すつもりはないの。シェンウーたちのことはね。ただ…… ファンロン: 少し眠っていてもらうわ (作戦を立てる時間を与えてくれるはずもなく、容赦のない雷撃が俺たちを襲う。 最初に狙われたパイフーはなんとかその身体能力でかわしきった。) パイフー: ……っ!! ファンロン: 手を抜くつもりはないわ パイフー: わたしも、本気でいく (かわした身体を起こすと同時に距離を詰め、パイフーの拳がうなる。 しかし、周辺を漂う土塊が一瞬にして密集し、土の壁を作り出した。) (パイフーの攻撃を受けて壁は砕け散ったが、 ファンロンには何もダメージが届いていない。 すぐさま次の攻撃動作に移るパイフーだが――) ファンロン: 相変わらず甘いわね パイフー: ……っ!! (一度は砕け散った土壁の、その破片が再び密集する。 質量を少し減らしてはいるが、盾と呼べるサイズにはなった。 当然、ファンロンは無傷のまま。そして――) ファンロン: これが受け止められるかしら? パイフー: うあああぁぁぁっ!! (間合いを詰めてしまっていたパイフー目がけて雷撃が飛ぶ。 かわしようのない距離だ。とっさに防御態勢をとるも防ぎきれるものではない。) (跳ね飛ばされるようにして地面に転がるパイフー。) ジューチャオ: パイフー! パイフー: 大丈夫 (なんとか起き上がる姿にひとまず安堵するが、 ファンロンの圧倒的な実力は明らかだった。) チンロン: これまで魔物と戦うところは何度か見てきましたが…… 本気になったらこんなに強いだなんて ジューチャオ: 操られてるから、手加減ってもんができなくなってるんでしょ アヌ: …… 雨依: あの力の源はμの力よ。ディマイトじゃない。 私が抑え込めるような類のものじゃないわ テュポーン: じゃあテュポのでばんだ! 人間さん: ああ。実際そうなってくるな。騎士道がどうとか言ってる場合じゃなさそうだ リル: そのようだな。行くぞ、テュポーン殿 テュポーン: やああああ!! (作戦どころか、おそらく何も考えずにテュポーンが突撃する。 しかし、合図を出したリルはそれを見越していたらしく、 傍らに控える羽根帽子の精霊に視線を送った。) リル: エグレット、風を! エグレット: はぁい。とんでけ、ご主人~ 雨依: うわ、飛んだっ!? (エグレットが風を巻き起こすと、 リルはそれに身を任せて空中へと浮かび上がる。 そして風の流れのまま、上空からファンロンを狙った。) テュポーン: どどどどど! (空中からの攻撃は無防備になりがちだが、 テュポーンと、そしてパイフーも地上から接近戦を仕掛けている。 雷撃で狙い撃ちする余裕はないはずだ。) シェンウー: チンロン! チンロン: はい! (近接攻撃が届こうというタイミングでシェンウーの指示が飛ぶ。 そして水流が巻き起こり、ファンロンを襲った。) 180055 - 本気度の推定 (ファンロンの土壁を水流が押し流す。 もちろん、崩された壁はまた再構成されるのだが、 それまでの僅かなタイムラグを突いてリルの剣が突き出された。) リル: はあああぁぁっ!! ファンロン: ――っ! (剣先がファンロンの顔を掠めるが、寸前でかわす。 しかしその先に待ち受けていたのは、燃え盛る炎だった。) ジューチャオ: 狙い撃ちよ!! (炎がファンロンを飲み込んだ。 ジューチャオのそれが強烈であることは俺も目の当たりにしている。) 人間さん: さすがパワーはダントツだな……。これなら、もしかして 雨依: そんなに簡単じゃなさそうよ 人間さん: だよなぁ…… (炎が収まると、そこにはドーム状の土塊があった。 表面を高温で焼かれ乾燥している。それにヒビが入り、 真っ二つに割れると中からファンロンが飛び出した。) ファンロン: ではこちらもいくわよ (雷撃が次々と飛び交う。 テュポーンもパイフーも、その高い身体能力でかわしはするものの 防御に手一杯になってしまっていた。) シェンウー: いまので方向性は間違っておらん! パイフーとテュポーンで近接攻撃、ジューチャオは援護するのじゃ。 リルはいまの変則攻撃を交えて隙を生み出せ アヌ: シェンウーが急にイキイキしてきた チンロン: 得意なんです。五獣の中でも、経験も抱負で頭も実はいいんです シェンウー: くふふ、任せておけ シェンウー: しかし相手がファンロンとなれば……わらわの毒も使わねば勝てないか。 とは言え、仲間に毒など…… ファンロン: ずいぶん余裕みたいね、シェンウー。私は、迷いなんてないわよ……! シェンウー: くっ、こっちにも雷撃を!? (近接攻撃を繰り出すパイフー、テュポーン、そしてリルをもいなしながら ファンロンはこちらの気配を察したのか、遠距離の雷撃を仕掛けてくる。) アヌ: おっと (しかし、目の前に現れた魔法障壁がそれを弾き返す。 得意げにこちらに視線を送るアヌ。誰が展開した障壁なのかは、 それだけですぐに分かった。) シェンウー: 助かった……礼を言うぞ、アヌ チンロン: けど……本当に操られてしまってるんですね。まったく攻撃に迷いがない…… アヌ: そうかな チンロン: えっ? アヌ: 私には迷いまくってるように見えるんだよね 雨依: だってすごい攻撃を何発もぶちかましてきてるわよ。これで迷ってるの? アヌ: でも殺意までは感じないんだ。これもう、感覚の話なんだけど 雨依: ……そう言われると、ちょっと分かるかも 雨依: 確かに威力は高いし、防ぐのだって簡単じゃない。 でも殺そうとしてるかと言われると……なんていうんだろう、 格闘技の試合みたいな? アヌ: うん。雨依なら分かるような気がしてた 雨依: 相手を殺すって、もっとおぞましい迫力みたいなのがあるのよね。 でも、五獣のことは洗脳し直そうとしてるんじゃない? アヌ: だとしても、私たちのことは殺していいでしょ (さっきから物騒な会話が飛び交っている。 正直、俺にはそのあたりの感覚はピンと来なかった。 理解している雨依は、これまでにどんな経験を……いや、今はいい。) 人間さん: だとしたら、ファンロンはどういうつもりなんだ? 怖がらせて、追い払いたいのか? シェンウー: もしかすると、本来のファンロンの意識がまだあるのかもしれん。 わらわたちの前で、誰かを殺す姿など見せたくない…… そんな意識が働いているとしたら 雨依: それが一番有力かも…… アヌ: んー。なんかさ私が前にエンリルに 『少しは働いてください』みたいなこと言われたときに雰囲気が似てるんだよね。 やっぱり派手な方が分かりやすい的な…… (言わんとすることを理解しきれずにいると、 ふとアヌが視線を別方向へとさっと向けた。) アヌ: 何かくるよ チンロン: 空を飛んできますね。敵の新手でしょうか (背景切換...) (近距離で戦っているパイフーやテュポーンたちは、気づく余裕はないはず。 代わりに引き受けようとシェンウーたちは一斉に身構えた。) (背景切換...) (そうして近づいてきたシルエットは――) 人間さん: あの羽……あの髪型、まさか ティンカー・ベル: ちょっとまったぁ!! ファンロン: !? ティンカー・ベル: そこまでだよ! まさかこんなに早く恩返しするときが来るなんて思ってなかったけど ファンロン: 待って、ティンカ。これは―― (ファンロンの前に立ちふさがるように着地した彼女は、 取り囲む俺たちを前に堂々と言い放った。) ティンカー・ベル: 恩人のファンロンを寄ってたかっていじめるなんて、どこぞの神様は許しても、 この可愛さ大爆発の妖精ティンカが許さないんだからね!! リル: 可愛さ……大爆発……? ティンカー・ベル: は?こんな美少女を前にして、なんの文句が―― ティンカー・ベル: ネコ!?え、じゃあ 人間さん: ティンカ……どうしてここに!? 180056 - 妖精の乱入 (突然の乱入者のおかげで、ファンロンとの戦いは 自然と一時休戦の様相を呈していた。) (俺やリルはもちろん、テュポーンやアヌといった 面識のある者が手を止めるので、パイフー達もそれに倣う。 そして何故かファンロンも困惑した表情で立ち尽くしていた。) (一方で、当のティンカはと言えば――) ティンカー・ベル: 最悪……最悪だよ、こんなの…… (先ほどまでの威勢はどこへやら、頭を抱えて何かつぶやいている。) 雨依: どうしたのよ、急に元気がなくなったみたいだけど ティンカー・ベル: だ、だって 雨依: いいじゃない。可愛さ大爆発の妖精さん、だっけ? 独特のセンスすぎて、一周回ってアリなんじゃない? ティンカー・ベル: おわあああああああああ リル: ま、まあ、なんだ。知り合いがいるからどうこう、という問題でもなかったぞ ティンカー・ベル: 雨依もネコもフォローしてよぉ! なんか優しい口調だけど言ってることは全然煽りとか追い討ちだよ!? 雨依: ごめん、面白すぎて 人間さん: ティンカは可愛いと思うよ、うん ティンカー・ベル: 人間さんもさぁ……自分で可愛いとか言ったところまで掘らなくていいんだよ ティンカー・ベル: 変な登場したところだけでもイタイのにさぁ…… アヌ: その自覚があって何でやったかねぇ シェンウー: 旅の恥はかき捨てというやつかのう。良いことじゃがな。 その感性がなくては旅先ワンナイトという情緒あふれる シチュエーションは成立せんのだから ティンカー・ベル: そ、そうだっ! ティンカのことはいいから、何であんたたちファンロンをいじめてたわけ!? 見損なったよ! ファンロン: あのね、ティンカ。私はいじめられてたわけではないのよ テュポーン: おおぜいで、こらーってしても、ぜんぜんつよい ティンカー・ベル: そんな強かったんだ、ファンロンって。 いや、だとしても!戦うなよ!平和にいこうよ、平和に! パイフー: それはわたしたちも望んでる ファンロン: ……っ ティンカー・ベル: あ!わかった! ファンロン: な、なに!? ティンカー・ベル: 結局、ちゃんと言わないで抱えたままなんでしょ。 仲間を大事にしなきゃだめって言ったのに! ファンロン: あっ……ティンカ、その話は (真っ先にファンロンを庇ったときから違和感はあったのだが、 やはり彼女たちは面識があるのだろう。だとしたら――) (彼女の姿が、俺の見知ったものと違うのは ファンロンと縁を結んだからなのかもしれない。) ティンカー・ベル: もしかして仲間ってこの人たち? ファンロン: それは……っ ティンカー・ベル: 誰よりも仲間のこと考えてるくせに!素直になりなよ。 変な意地張ってケンカになったんでしょ ティンカー・ベル: 本当は夜中に目が覚めたらみんなとの思い出見返したり、 マオリンがどうたらとか手紙に何度も書き直してたりとか ジューチャオ: えっ……? シェンウー: なんじゃと……? パイフー: マオリンって書いた手紙……? ティンカー・ベル: ティンカの前では仲間が大切って言い切ってたじゃん。 それをちゃんと伝えれば仲直りできると思うよ チンロン: そんな行動をとるって、もしかして…… シェンウー: おぬし、まさか最初から――…… ファンロン: ……っ、ここは一旦ひくわ。 次に会ったときはこうはいかないから覚悟しておくことね! ティンカー・ベル: えっ、ファンロン!? (言い捨てるなり、ファンロンは身体を浮かせ クンルン山のほうへと猛スピードで飛び去る。) パイフー: ファンロン、待って!! リル: 今の話を総合すると……どうなるんだ? アヌ: どうやら私の言ったとおりだったみたいだね 雨依: なんか言ってたっけ? アヌ: 言ってたでしょ! チンロン: 追いかけたほうがいいんじゃないでしょうか シェンウー: うむ、そうじゃな。急ぐぞ (ワンテンポ遅れて五獣の4人が、そして俺たちが続いて走り出す。 ジューチャオがいち早く、飛び出していったが――) ジューチャオ: ファンローン!!待ってよー!ちゃんと話をさせて―― 全員: ――!? (遠く、小さくなっていたファンロンの影。それをめがけて、どこからか光線が貫いた。) (そして先程の爆発――) シェンウー: ジューチャオ!急ぐのじゃ! (爆発を起こした影は、そのまま墜落していく。 それを見たシェンウーが声を上げるが、指名されたジューチャオよりも速く、 落ちていく影を目指して飛んだのは……。) ティンカー・ベル: ティンカがいく!! (言うやいなや、ティンカは全速力で爆発が起きた方へと向かっていった。) 180057 - 10束の花束 (ふいの攻撃で墜落したファンロンと、その救出に向かったティンカ。 おそらくこのあたりに、いると思われたのだが――) テュポーン: いない。かくれんぼ、あきた。もうでてきて パイフー: 結構探してるけど、いない。これは…… リル: 本当にいない、と考えたほうがいいかもしれないな シェンウー: 自力で移動したか、それとも攻撃した何者かの仲間が回収したか…… アヌ: 後者だとファンロンの身が危ないね 雨依: ティンカもいないってことは、そっちなんじゃないの? チンロン: ……さっきのティンカさんが言っていたことは、本当なんでしょうか ジューチャオ: 可愛さが爆発するかどうか、ってこと? あたしは可愛さってそういうものじゃないと思うな チンロン: そこじゃないです シェンウー: うむ……ファンロンがわらわたちを心配しているとか言っていたな パイフー: マオリンがどうとか書いた手紙。たぶん、これ シェンウー: パイフーに届いたという手紙か。 その書き損じを、ティンカとやらは見たのかもしれんな アヌ: それが届いたのって、私達と出会った頃だよね リル: ……五獣たち以外には分からない表現だが、これはパイフーに 蜂起を促しているものだろう。その時点でファンロン殿は…… 人間さん: 正しさの杖の呪縛から逃れていたわけか。いや……もしかしたら最初からかもな シェンウー: そうじゃな。パイフーが動かないのであれば自分で解決すればいい。 そうしなかったのは、何か思惑がある チンロン: 内部から情報を得て、本当に操られているわたくしたちを コントロールしようとしていた、とか…… ジューチャオ: もうちょっと簡単にお願い テュポーン: おねがい アヌ: ファンロンは実は味方。敵のフリをしてる ジューチャオ: ほほぉー!なるほどぉー! テュポーン: ほほー! リル: だとすれば最後に攻撃したのは敵側の手の者か。裏切りがバレたのだろうな…… アヌ: そこまで断定するのは早計かもしれないけどね テュポーン: アヌせんせい。そーけーって? ジューチャオ: うわー、なんだっけ。ここまで出てるのに。なんだっけなー シェンウー: 嘘をつくな。何も思い浮かんどらんじゃろ。 テュポーンの前だからと見栄を張りおって パイフー: ファンロンが正気ならなおさら、早く助けないと リル: ああ。おそらくクンルンに連れ去られたのだろう。 もし違ったとしても、居場所の手がかりはそこにあるはずだ 人間さん: でもティンカがついていたのに、一緒にさらわれるかな…… (背景切換...) アリア: 晴れてよかったですね ポステリオル: 天候は不問 アリア: それはそうですけど ポステリオル: 日付も不問。それがいつだったのか、記憶は曖昧 アリア: それでも定期的に……こうして花束を用意されるんですね ポステリオル: 10束 アリア: ええ……ちゃんと10束あります ポステリオル: ……来たか プリオル: あ…… ポステリオル: お前も同行すべき。記憶はあるはず。かつての……同胞たちの プリオル: 本当はまだ怖いんです。ここに封印されていたこともありますから。 でも……来なきゃいけないと思っていました ポステリオル: 出発 (背景切換...) ポステリオル: その袋は? プリオル: お供え物です。ポステリオルさんは花束を持参されると聞いて私はお菓子にしました アリア: 供え物なんて言うものじゃないわよ。縁起でもないわねぇ。 あの人たちは死んじゃいないんだから プリオル: あ、はい……でも ポステリオル: 供物という表現は正しい。私たちは本来、そういう存在 アリア: 忘れてしまいましたねぇ、そんな昔の話は…… プリオル: これ、可愛いと思って。お花の形のお菓子なんです ポステリオル: ……12個? プリオル: 魔人さんって、私が封印されていたときにお世話になった方がいて…… ポステリオル: それは前に聞いた。差し引いても11個 プリオル: ポステリオルさんは……レグルスさんが微精霊になって、 復讐のことは忘れたんですよね? ポステリオル: その通り。でもレグルスを裏で動かしていたライブラも、私は許せない。 元はと言えばこのグランド・リヴィジョンだって―― プリオル: 終わらないじゃないですか。 もうライブラさんだって封印されて何もできなくなっているのに ポステリオル: 感情の問題。何か行動を起こすつもりはない (背景切換...) ポステリオル: 久しぶり プリオル: お久しぶりです アリア: 皆様どうか……心安らかに…… ポステリオル: 自然のまま朽ちていくより、伐採され家屋の礎となる。 気高き同胞は、それを望んだ。そう、思っていた ポステリオル: お前の心は……本当はどこにあった。私は見抜くことができなかった ポステリオル: 教えてくれ、アルデバラン―― 180058 - 役に立ちたくて (――コミッティ直轄領・レオナ別邸――) (背景切換...) レオナ: 例えばだよ。 内気な女の子を毎日口説き続けてたら、やがて恋に落ちる確率は高いと思うの。 男への耐性も低いし ヴェルメリオ: ……わたしの人間さんへの気持ちは本物だよ レオナ: うん、それは知ってるけど。例えばって言ったでしょ ヴェルメリオ: ……悪意を感じる レオナ: でね、いざ恋に落ちてお付き合いできると思って告白したら 『別に可愛いって言っただけで付き合うつもりはない』 って男が返したらどう思う? ピュルテ: 確かに理屈では合ってるんでしょうけど…… なんだか、無責任に感じてしまいますね レオナ: だよね?手を離すくらいなら、最初から差し伸べないでほしいと思うよね パラケルスス: 回りくどいな、レオナは。ぼくのことを批判したいんだろうけどさ レオナ: 分かってるならどうにかしたら? パラケルスス: 生みの苦しみってやつかもしれない。もうしばらく放っておこう オーディン: うむむ…… オーディン: (未来視そのものは、オトギノクニでもできることが分かった…… けど、いい未来が見えません……) (背景切換...) オーディン: 何故かまたムスペルヘイムが噴火してるとか (背景切換...) オーディン: 知らない誰かがめためたに怒られてるとか (背景切換...) オーディン: これは……なんでしょう。邪悪な気配に満ちた場所…… ろくな未来じゃないでしょう…… (背景切換...) オーディン: そしてしょっちゅう見るのは、路地裏に急に引き込まれてあんな―― (背景切換...) オーディン: はあ……これは本当に未来視なのでしょうか……。 それともただの、わたしの欲求不満……? ヴェルメリオ: ……なんかほっぺ赤くしてハァハァしてるけど ピュルテ: 何か激しい戦闘の場面などを見てしまったのかもしれませんね レオナ: あまり根を詰めすぎないで気楽に構えたほうがいいわよ オーディン: は、はい……すみません、何だかあまり役に立てなくて レオナ: いいの、いいの。差し迫って何か起きてるわけじゃないんだし 気楽にぼーっとしてたほうが、ピピッときたりするものでしょ パラケルスス: それは、きみの発明スタンスじゃないか。 なんでもかんでも応用できると思わない方がいいよ レオナ: うるっさいなー。無責任ヤリチ●マインドのくせに パラケルスス: 口が悪いね、レオナは ヴェルメリオ: ……ケンカ?ケンカなの? ピュルテ: 見ていてハラハラしますね オーディン: 気楽に……ぼーっと…… オーディン: ぼーっ…… ピュルテ: 何かパラケルススさんに煽られる前…… 1コマ目に戻っちゃった感じがしますが…… オーディン: ぼーっ……ん、あれ…… (背景切換...) オーディン: (なんだろ……) (背景切換...) オーディン: (……?) (背景切換...) オーディン: (何か、いる……?) オーディン: (誰……?) オーディン: あっ……!? (背景切換...) オーディン: うあっ!? レオナ: どうしたの!? オーディン: い、いまのは……? パラケルスス: 何か見えたんだね。どんなものだったんだい オーディン: 知らないツインテールの女の子がいて、それで何かぐわって感じの人がいて…… 場所は森みたいだったけど、なんか白黒のところに変な馬が レオナ: ストップ、ストップ レオナ: さすがにその説明じゃよくわかんないよ。ほら、これに絵を描いてみて オーディン: わ、わかりました……! ピュルテ: そうですね。絵で説明してもらえれば分かる気がします! オーディン: かきかき…… オーディン: こんな感じです! レオナ: どれどれ レオナ: って、あの、これは…… オーディン: え?それは森の木ですよ。こっちがその女の子です ヴェルメリオ: ……エンテ以来の画伯だ (背景切換...) ファンロン: ここ、は…… 衛兵: ファンロン様!いきなり立ち上がられてはお体にさわります ファンロン: ごめんなさい。でも、私なら大丈夫よ。それより一体何が…… キャロル: やっとお目覚め?無様な負け犬がのんびり寝ていていいと思ってんのぉ? ファンロン: ……っ! キャロル: さっさと起きて働くのね。あたしは優しくて寛大だから、 負け犬にもできる仕事を見繕ってあげようじゃないの。きゃはははっ 180059 - ファンロンの真意 ファンロン: あの攻撃は、キャロル様……ですか……? キャロル: そ。あたしが撃ち落としてやった ファンロン: どうして―― キャロル: そんなことするかって?決まってんじゃん。敵前逃亡は大罪である!なーんてね キャロル: あと前から真面目すぎて腹立つから、ぶちのめしてみたかったんだよねー。 きゃははははっ ファンロン: そ、そうですか…… ファンロン: (大丈夫……まだ、バレてはいないみたいね……) (背景切換...) ファンロン: はあ…… ファンロン: なんとか切り抜けられたようね…… 攻撃を受けたときは、私の思惑を見抜かれたのではと焦ったけど…… ティンカー・ベル: あ、おかえり~ ファンロン: ええ、ただいま…… ファンロン: ――って、ティンカ!?どうしてここに! 信民: ファンロン様のご友人を門前払いするわけにはいきませんから ファンロン: 勝手なことを……! ティンカー・ベル: それはファンロンでしょ。 仲間のことも信じないで、本気でやられるつもりで戦ったりなんかして ファンロン: ティンカはどこまで知ってるの ティンカー・ベル: 全然、あの子たちとは話してないよ。そんな時間なかったし。 急いでファンロンを助けに行ったからね ファンロン: 私が攻撃を受けたとき……意識がもうろうとしていたけど、 ティンカが助けてくれたの……? ティンカー・ベル: 真っ逆さまに墜落してるから、これヤバい!ってなって 慌てて追いかけてキャッチしたの ティンカー・ベル: でもすぐ、怪しいやつらが来たから隠れちゃったんだ。 そしたらファンロンが連れて行かれて……そのとき、この人とたまたま会って 信民: キャロル様の命令で一部の兵が捜索に駆り出されました。 それに私も参加していたのです ファンロン: そうだったの……なら、ティンカは命の恩人ね。 到底、こんなことで恩返しが足りるとは思っていないけど 何か食事を用意させるわ ティンカー・ベル: お、叩き出されなかった。いぇーい、ハイタッチ 信民: い、いぇーい? ティンカー・ベル: んでさぁ、そろそろティンカにも教えてくれてよくない? なんでそんな、ややこしいことやってんの? ファンロン: ……そうね。話しておいても……いいのかもしれないわね ティンカー・ベル: 何ならもう、ティンカが伝書鳩になってあっちの子たちに伝えたっていいし。 分かってるとは思うけど、あっちの子たちと一緒にいる変なのは、 ティンカの仲間だから ファンロン: キャロルに気付かれずに橋渡しを頼める……というわけね 信民: ファンロン様……! ファンロン: あなただって、信用できると思ったからティンカを招き入れたのでしょう? 信民: ………… ティンカー・ベル: このおじさんは信用できるんだね? 信民: お兄さんだ ティンカー・ベル: 話の腰を折らない 信民: ぐぬ…… ファンロン: そうね、まず……私達、五獣には主人と呼ぶべき、偉大なμがひとりずついるの。 私には黄帝様という方がいらして…… (背景切換...) シンデレラ: フックはまだ目を覚まさないのね トリル: ええ……かなり深手を負っていたとのことですから、 見通しは立てられないのではないかと ドロシー: 現役コミッティが襲われるなんて一大事なんじゃないの!? いますぐ特務機関総出で犯人を捜し出してぶちのめさなきゃ ヴィルヘルミナ: 落ち着きなさい、ドロシー。 確かに……コミッティに正面からケンカを売った以上、 このまま見過ごすことはできないわ。でも―― ジャコヴァ: フックはティンカー・ベルを隠避した エミリー: 待ってよぅ!そもそも、ティンカが悪いって決めつけるのがおかしくない? エミリー: エルマイトの、なんか新しいやつ…… パターン照合?あれだってまだ新しいし、絶対だなんてわかんないじゃん エミリー: それにティンカはラームスのみんなからのヒアリングも引き受けてくれて、 一生懸命がんばって…… ヴィルヘルミナ: 指名したのはシンデレラだったわね エミリー: ヴィル!? シンデレラ: 私が何かを画策していると言いたいのかしら? ヴィルヘルミナ: そこまでは言わないわ。でも、任命責任というものはあるのではなくて? ラヴクラフト: んん~ クラース: ラヴクラフトが難しい顔でうなってる…… ラヴクラフト: 下ネタが思いつかないんだけどね。内輪でモメる前に考えないといけなくない? ジョカ: ついに普通にまともなことを言ったぞ…… フアナ: 確かにラヴクラフトの言うとおり。責任がどうとかは、後でいいと思う フアナ: でも……今のままじゃお互いを信頼できないのも事実だよ。 現に、あたしがそうだから エミリー: どういうことぉ……? フアナ: あたしに無断で特務機関が動いた。 そんなことができるのは、この場にいる誰かしか考えられない 180060 - 覚醒 フアナ: わざわざ統合司令なんて役職を与えたのにもかかわらず、 誰かがあたしを飛び越して指示をしたんだ フアナ: 現場の部隊に確認したけど、専用の端末に暗号コードが届いただけ。 つまり、差出人はわからない ドロシー: 出どころも分からない連絡で動いちゃうものなの? フアナ: まだ、あたしが司令になった体制になって間もないから 現場も混乱していたんだと思う。 それ自体は、あたしの不徳の致すところだけど―― ジョカ: 新体制になって混乱したところに乗じた、というのなら…… 内部の事情を知っている、ということか…… エミリー: 盗聴器でも仕掛けられてるんじゃないのぉ? シェイクスピア: 可能性はあるわね。或いは、何らかの方法で通信を傍受したか ヴィルヘルミナ: そもそも体制変更なんて、フアナの辞令は公示されているんだし 混乱は想像できる範疇とも言えるわ ジョカ: 暗号コードは……その、坊主とやらか シェイクスピア: 傍受ね ラヴクラフト: 坊主かぁ。じょりじょりした感触がたまらないよねぇ。剃毛プレイ…… トリル: 下ネタが復活した…… シンデレラ: 問題は、どうしてティンカが狙われたのか、でもあるわね エミリー: そうだよぅ!どうしてティンカが疑われるように仕向けたりしたのぉ!? シンデレラ: それこそ、私が頼んだラームスの子たちからの聞き取り…… これ以上のヒアリングを阻止したいか、 あるいは何か知ってしまったティンカを消したかったのか ヴィルヘルミナ: ……すべて状況証拠でしかないわ。 いずれにしてもティンカー・ベルの身柄確保を急がないと 青龍: たいへんたいへん!たいへんだよー! ジョカ: なんだ、また青龍か。前もこんなことがあったな 青龍: たいへんなんだよ! ラヴクラフト: へんたいなんだよ 青龍: フックさんが目を覚ましたって! ジャコヴァ: ……事態がやっと動きそうだな (背景切換...) ファンロン: ……ということがあって、放たれた見たことのない魔物に 黄帝様をはじめ古のμの皆様は…… ティンカー・ベル: 喰われて、消えた……? ファンロン: でも私は、まだ完全に消えてしまってはいないと思うの。 その復活のカギを握るのはやはり、あのキャロルのはず ファンロン: だから私は操られたフリをして、ヒントがないか探っていたのよ。 でも、私の裏切りがバレれば、今度こそ黄帝様は…… ティンカー・ベル: だから、仲間たちに本当に倒されようとしたわけ? ファンロン: 残されたパイフーがどう動くか、チンロンたちを戻せるのか、 未知数だったから私が内部で動いていたの。 でも、ここまでくれば私の力は必要な―― ティンカー・ベル: 必要でしょ!事情を知ってるやつに仲間になって助けてもらったら最強じゃん。 ファンロン、ちょっと自分を犠牲にしようとしすぎ! ファンロン: ……っ、そうね。もともと、そういうタイプではあるけど…… 最近は、追い込まれていたせいか、自己犠牲を考えすぎていたかも ティンカー・ベル: ……あとね、その魔物のことティンカは知ってるかもしんない。 だとしたら、まだギリギリ黄帝様も復活できるかもよ ファンロン: 本当に!? ティンカー・ベル: でも、あれって狙って誰かを消滅させるとか、 そんな便利なやつじゃなかった気がするけど…… ティンカー・ベル: ……ちなみにさ、黄帝様ってめっちゃおじいちゃん? ファンロン: え?まあ、そうね ティンカー・ベル: あ、たぶん絶対、まだギリ残ってるよ。ティンカ、たぶんちょっと話したかも ファンロン: 本当に!? ファンロン: よかった……本当に、よかった……! ティンカー・ベル: か、確定じゃないからね……?もし違くてもティンカのこと怒らないでよ……? (背景切換...) ???: ふんふんふふーん♪ふんふふーん♪ (背景切換...) ヴィーナス: 行くぞ星空の彼方まで~♪世界征服、全速前進~♪ オトギノクニは快適別荘♪我らの旅はもう幾星霜♪ たららった、らったらー♪じゃじゃん! メルクリウス: バッコーン!カッコいい歌だね! アルテミス: すごく楽しそうだけど…… ユピテル: 賑やかな時間は永遠ではない……いつか必ず雨が降るように…… アルテミス: なんか、アルまで船に乗せてもらっちゃってよかったんですかぁ~? メルクリウス: なに言ってんの!仲間なんだから気にしないで。水臭いなー ヴィーナス: そうだぞ。何なら2番の歌詞はアルが考えてもいいぞ アルテミス: 遠慮しま~す ユピテル: ……? ユピテル: 何か前方に見えないか……?人が、いるような…… ヴィーナス: はっはっは!ユピテルはバカだな!こんな空の真ん中に人がいるはず―― 全員: いる~~~~っ!? ヴィーナス: まずいぞー!?全速前進しちゃってる!! アルテミス: ブレーキ!ブレーキはどこですか~!? ユピテル: 羽が生えてる。だから空にいるのですね アルテミス: 冷静に分析してる場合じゃないですよ~! ヴィーナス: うわぁー!羽の人~っ!飛べるなら避けてくれー!だめだ、間に合わなーい! (背景切換...) メルクリウス: バッコーン!! 180061 - 拾われたチャイム フック: やあ、皆さん。お揃いで ドロシー: フック!もう起き上がって大丈夫なの? フック: コミッティのお歴々がお越しになるというのに、ベッドで横になったまま、 というわけにはいかないでしょう フック: それに用件も察しがついていますから。のんびり寝ている場合ではない ジャコヴァ: 単刀直入に聞こう。ディマイトをばらまく犯人を、お前は知っているか フック: ええ。しかしその前に、ひとつ条件があります ヴィルヘルミナ: 緊急事態なのよ。海賊の取引につきあっている場合ではないわ ジャコヴァ: 構わない。どうせ自分とティンカー・ベルの免責とか、その類だろう フック: さすがは議長殿。ご明察ですね ジャコヴァ: ふふん フック: ではまず……特務機関の空挺部隊を至急、手配してください。 犯人の名はチャイム――ラームス世界から来たティンカ嬢です (背景切換...) チャイム: んん……? ヴィーナス: おおー!気がついたか! ユピテル: よかったですね。死んでしまったらどうしようかと チャイム: え?チャイム、死にそうだったの? ユピテル: いえいえ、まったくもって元気そうでしたよ アルテミス: うわあ、さらっと嘘ついてる…… メルクリウス: ねえ、ケガの具合はどう?けっこうがんばって治療したんだけど チャイム: え?あ、これ……あんたたちが治療したの? なんで?チャイムなんて通りすがりの知らない人なのに ヴィーナス: ま、まあな。あれだ、キューゴそちギムとかなんとかいうやつだ チャイム: チャイムはむずかしいこと、よく分からないけど……あんたたちって変だね。 けが人を見かけたら治すなんて ユピテル: 目覚めが悪くなりますからね…… チャイム: ……でも、助かった。ケガして、弱って、ふらふらして…… 飛ぶのがやっとだったから メルクリウス: え?あれ? チャイム: たぶんチャイムは、力尽きて海に落ちちゃったんでしょ? それをあんたたちが助けてくれて…… チャイム: 一応、お礼だけは言っとく。ありがとう ヴィーナス: えーと…… メルクリウス: あのー、ケガは、どこでしたの? チャイム: 場所は……わかんない。 海が見える、洞窟みたいなところ。そこで悪いやつと戦ったの 全員: …………!! ヴィーナス: (飛空艇に轢かれてケガしたんじゃなかったのか) メルクリウス: (そのケガはあるんじゃない?元からケガしててわかりにくいだけで) ユピテル: (飛空艇と衝突したことも覚えていないようですからね) アルテミス: (元気そうだし、さっさと帰ろ?) チャイム: そう言えば、あんたたちはここで何をしてたの? ヴィーナス: えっ!!えっと、なんだ、海釣りに チャイム: このあたりの海にはもう、近づかないほうがいいよ。ディマイト濃度が急上昇してる ユピテル: ……! ヴィーナス: わ、わかった ユピテル: それ、ニュースで見ましたよ。まさかあなた…… チャイム: そういうこと。まだ終わってないから ヴィーナス: そ、それはだめだ!ディマイトをばらまくなんて、さすがに見過ごせないぞ! チャイム: ……っ、助けてもらったから見逃すつもりだったけど、 邪魔するならチャイムの力で……! メルクリウス: えええ!?お、落ち着いて!そんな乱暴なことしたらきっと後悔するよっ チャイム: もう……ラームス・エディションにはチャイムの居場所は…… ネバーランドはないんだもん……!これ以上、失うことなんて…… チャイム: う、くうっ……!? アルテミス: えっ……倒れ、ちゃった……? ユピテル: やはり傷が深かったのでは メルクリウス: それより…… ヴィーナス: ラームス・エディションとか言ってたな。なんだ、それ メルクリウス: とりあえず飛空艇の中に運ぶ……? ユピテル: このまま捨て置くわけにはいかないですからね…… (背景切換...) キャロル: ねーちょっとー 信民: はっ! キャロル: ありったけの軍勢を集めておいて 信民: かしこまりました キャロル: それとー。ファンロンをここに呼んで 信民: はっ! キャロル: そろそろ人間さんもここを目指してくるだろうし。 パーティーの準備をしなくちゃね♪ キャロル: 嘘のド下手なファンロンがどこまでがんばるのかなぁ。 あいつが正しさの杖の効果を受けてないことなんて、 もうとーっくに分かってるんだけど。きゃはっ 180062 - 故郷を取り戻すために レオナ: なんとか断片的な情報から推測してみるんだけど パラケルスス: なかなかの労力だったね…… オーディン: す、すみません……わたしに絵心があれば…… レオナ: オーディンが見たのはたぶん、ワンダーランドだと思うの ヴェルメリオ: ……それはなんとなく、風景の特徴でわたしもわかった パラケルスス: そしてツインテールの女。 ワンダーランドという前提から、おそらく……この子だね? オーディン: あっ!そ、そうです!この人です! レオナ: やっぱりキャロルか。 でもさぁ、ワンダーランド近くの森に誰かとキャロルが一緒にいるなんて…… 普通の風景だよね オーディン: そうなんですか? パラケルスス: そりゃあ、キャロルの作品世界だからね ピュルテ: 問題は誰と一緒にいたか、なんですけど レオナ: そこまではちょっと特定に時間がかかるかなぁ。 あの子の作品世界に詳しいわけじゃないし…… 人間さんくんがいてくれれば心強いんだけど オーディン: すみません…… パラケルスス: なに、この情報をくれるまではぼくたちはゼロだったんだ。大きな進歩だと思うよ オーディン: パラケルスス先生…… ヴェルメリオ: ……もうオーディンが先生って呼び始めてる オーディン: ところで、その『作品世界』という言葉…… 聞き慣れないのですが、どういう意味なんですか? パラケルスス: それは少々ややこしい話でね。オトギノクニ独特のものなんだ。 道中、ゆっくり説明するとしよう ヴェルメリオ: ……道中? パラケルスス: なんだい、これで話を終わりにするつもりなのか?せっかくの手がかりなんだよ レオナ: えー?ワンダーランドまで行くつもり?ここからだと、結構遠いわよ パラケルスス: レオナの飛空艇『エルメリーノ』を使っても? レオナ: まーた人の持ち物をアテにして! レオナ: ま、いいや。このまま何もなかったことにはできないし。 実際に現地まで行ってみるとしようか オーディン: ええっ!?あ、あの、なんか的外れだったりしたら……その、も、申し訳なくて…… ピュルテ: ダメでもともと!ってやつですよ。気にせず行きましょう、オーディンさん ヴェルメリオ: ……ちょっと長旅になるの?お弁当、用意する? パラケルスス: ぜひお願いしたいね。楽しい旅になりそうだ (背景切換...) チャイム: ん……?あ、ここは…… メルクリウス: バッコーン! チャイム: ふぁっ!? メルクリウス: お目覚めだね!よかった、よかった! なんかやっぱり傷のせいか、いきなり倒れちゃったんだよ チャイム: ……何度も助けられちゃったね。しかも、さっきはともかく…… 今回はあんたたちのことを傷つけようとした相手だっていうのに アルテミス: いろいろ事情があるんでしょ?気にしなくていいんだよ チャイム: ありがと…… ヴィーナス: いいんだ。分かってくれれば チャイム: でも、ディマイトのことはやめられない ヴィーナス: 分かってなかった! チャイム: どうしてもやらなきゃいけないの。 そうしないと、故郷が……消えてなくなっちゃうんだって ユピテル: 故郷が……? チャイム: だから……チャイムはもう最後までやるしかないの……! μの世界を……ネバーランドにしてもらうって、約束なんだから……! ヴィーナス: ……! ユピテル: あなたの故郷は消えてしまいそうなのですね チャイム: うん……気がついたら、大事な友達の姿も見えなくなって…… おかしなことがたくさん起き始めたの チャイム: チャイムがどうしていいか分からなくて泣いてたとき……あの人が教えてくれたんだ。 この世界はもう消えてしまう、代わりの場所を作れば友達もみんな無事だって…… ヴィーナス: それでμの世界を代わりにしようとしたのか チャイム: うん。難しいことは分からないけど、不安定にさせて乗っ取れば あとはチャイムに使わせてくれるって…… アルテミス: そんな……だってそんなことしたら、その世界の人たちは……! チャイム: 死んじゃったりしないって言ってたよ。 力を失ったμと、信じるものを失った民が残るだけ……そう言ってた。 その人達とチャイム達は仲良くできるはずだって メルクリウス: ぱこーん…… ヴィーナス: 大切な故郷を失うことの辛さは痛いほど分かる…… だから、誰かの故郷を奪うも同然のチャイムの行動は擁護できない。 形を変えた時点でそれは侵略と同じだからな ヴィーナス: でも、目の前の消えゆく故郷を目の当たりにして、どんな悪辣な手段であっても すがろうというチャイムの気持ち、これもまたよーく分かる ヴィーナス: だから、われらはこれ以上チャイムの手助けはしない。 この船からはすぐに出ていってもらう。 でも……攻撃したり、捕まえたりもしない チャイム: あんたたちも……色々あったの……? ユピテル: ……どうでしょうね。もうよく覚えていません。 雨がすべて洗い流してしまいましたから 180063 - 立場変われば チャイム: ……あの子たち、たぶんみんないい子なんだよな チャイム: ……やめなよ、とは言っても、チャイムを責めたりはしなかった チャイム: チャイムはずっとこっちにいるけど、あのμ世界はどうなってるんだろう ペロー: 探しましたよ チャイム: あ、ペロー……!いつ、こっちの世界に ペロー: そろそろ次の段階に移行するので、お手伝いいただこうと思いましてね チャイム: ディマイトをばらまくのは、もういいの……? ペロー: ただの産廃処理ですから。計画も何もありません チャイム: え……? ペロー: いえいえ。それより先を急ぎましょうか。見つかってしまう可能性もありますから チャイム: あのさ……ペロー?いまからやることは、あの人の指示なんだよね? ちゃんと言う通りにすれば、チャイムの世界は守られるんだよね? ペロー: ………… ペロー: ええ、もちろん (背景切換...) パイフー: 驚くほど静か リル: そうだな。もうファンロン領に入ってからそれなりに経つ。 敵兵とまったく遭遇しないというのは…… 雨依: 罠? アヌ: よくあるのは一点に集中させてるってパターンだよね。 強敵と戦うときの守り重視の作戦 シェンウー: しかし、そんな縮こまったやり方をするかのう ティンカー・ベル: お~~~い! 雨依: ん?あの羽は…… ティンカー・ベル: やっと見つけたー!いやこの世界って、やったら広くない!? 人間さん: そりゃあ元が元だから、今までで一番広いかもしれないな ティンカー・ベル: とにかく見つかってよかった。みんなと合流したくて チンロン: よかった、無事だったのですね テュポーン: いなくなったから、しんぱいしてたよ ティンカー・ベル: そうなの?いい子じゃーん!なでくりなでくり テュポーン: ほわあああああ ティンカー・ベル: ちっこいのにがんばってて、えらいねテュポーンは テュポーン: テュポのおなまえ、おぼえてたの ティンカー・ベル: もちろん テュポーン: テュポ、初めてガア以外の人にこんなにほんわかした 人間さん: いいか、テュポーン。それがバブみだ アヌ: 人間さんは何を教えてるんだよ ティンカー・ベル: それより!やっぱりファンロンは操られてなんかなかったんだよ! シェンウー: やはりそうじゃったか アヌ: だから私が先に気付いたんだってば。知性派ポジションとらないでよ。 一番、身体動かさなくて楽だから独占したいんだよ 雨依: もうちょっと本音を隠しなさいよ リル: しかし、ファンロン殿は何故あんな芝居を? ティンカー・ベル: それがね……ファンロンは黄帝たちを守ろうとしてるんだ チンロン: えっ……?黄帝様を? ティンカー・ベル: 黄帝だけじゃない。他の、みんなのご主人も無事かもしれないんだよ。 名前、忘れちゃったけど ジューチャオ: ほんと!?神農のじっちゃんも元気なの!? ティンカー・ベル: うんうん、そんな感じの名前も聞いたよ。 元気ではないけど、また元通りになるかもしれないんだって シェンウー: なんと……完全に消えてしまってはいなかったのか パイフー: 少昊様と……また、会える…… ティンカー・ベル: でもファンロンまで手下じゃなくなってると知ったら、 敵側が何するかわかんないでしょ シェンウー: だから偽っておったのか ティンカー・ベル: 黄帝たちを戻す方法を内部で探りつつ、世界の浸蝕を進ませないために パイフーたちに立ち上がってもらって……いよいよみんながイイ感じだから、 自分はやられちゃおうと思ってたみたい ティンカー・ベル: ポッケにこれを入れたままね ジューチャオ: ゴミ? ティンカー・ベル: メモだよ! チンロン: これはわたくしたちを襲った魔物の図解……それに、これは シェンウー: 元に戻すためのヒントか。信民たちが現存するなら、 彼らの力で戻すことはできるはず、と…… 人間さん: やはり獏か。黄帝たちを襲ったのは チンロン: あなた様はご存知なのですか? 人間さん: 本来、忘れ去られた物語を淘汰する、オトギノクニの自然の摂理を担う生き物だ。 もたらす結果は悲しいけど、こいつ自体に悪意はない 雨依: けど、それを利用している聖母は……悪意マシマシよね リル: 本来の役割とも違う、まして小生たちオトギノクニの住民でもない、 古のμを喰らうとなれば……聖母のその悪意をもって、 何かしら操作されていると考えるべきだろうな リル: つまり、獏の亜種―― パイフー: ――っ!?リル、危ない! リル: なっ……!? リル: すまない、助かったパイフー殿 雨依: 何か来るわ。それこそ悪意の……ディマイトの塊みたいなやつが キャロル: はぁい♪みんな元気~? 180064 - キャロルのかばん 雨依: あんたは……! 人間さん: 知り合いか?ということはオトギノクニの……!? 雨依: あいつはインペリウム・コミッティ、元第9号委員……ルイーザ・キャロルよ 人間さん: キャロル……! (もうその名前を聞いた時点で、彼女の作品群であろう知り合った仲間の顔が 思い浮かびまともではないことが察っせられる。) キャロル: きゃははははっ♪どしたの、みんなすごい顔しちゃってるよ?そんなにあたしが怖い? シェンウー: どれほど記憶があやふやになろうとも、おぬしの顔だけは忘れてはおらぬ…… キャロル、だったな ジューチャオ: あたしですら覚えてるよ。神農のじっちゃんを返せ!! キャロル: 悪いけどさぁ、あたしここにお話をしに来たわけじゃなくて (キャロルは持っているカバンに手を突っ込む。) リル: 気をつけろ、何か仕掛けて―― (リルが言い終わらないうちに、地面から無数のキノコが生えてきた。 そのいずれもが、直径30センチはあろうかという巨大キノコだ。) テュポーン: きのこだ! 雨依: くうっ……!?テュポーン、食べちゃだめだからね!! (全員がとっさに飛び退りキノコをかわす。しかし、次の瞬間には――) リル: ぐっ!? パイフー: 足元にツタが……っ! キャロル: はいはーい♪パーティーだよ♡ (キャロルがカバンから何かを取り出してばらまく。 それは色とりどりの包装紙に包まれたキャンディだった。) ジューチャオ: うわぁっ!? テュポーン: アメがばくはつした! キャロル: まだまだいくよっ♪ (極彩色の巨大な鳥がどこからともなく飛来する。そして大きく羽ばたいた。) (巻き起こる風。それに乗って無数の羽が辺りを舞い散るのだが。) ティンカー・ベル: いたぁっ!?なにこれっ!! アヌ: 羽が……刃物になってるっ…… キャロル: のんのん。刃物じゃなくて、羽物ね。だって鳥の羽根なんだから チンロン: きゃああああっ!! (再び鳥が羽ばたき、次々に裂傷を負う仲間たち。 かく言う俺も、すべてはかわせず切り傷を受ける。 なんとか深手には至っていないが……いつまでもかわしきれないだろう。) 雨依: ずいぶん余裕かましてくれるじゃない。 私のディマイト量、元コミッティのキャロルが知らないはずないでしょ キャロル: もちろん。あのジャコヴァですら、扱いには神経を使ってたし。 なーに?ちやほやされて気持ちよかった? 雨依: ……挑発になんか乗らないわよ キャロル: あたし、あんたみたいなスレたアバズレには興味ないんだよ。 やっぱり女の子はぴゅあぴゅあで、ちっちゃくて、可愛くなくちゃ♪ 雨依: 言いたい放題ね……っ! (雨依が黒い球体を発生させキャロルに向けて放つ。 雨依が使う、ディマイトを凝縮したいわば魔法攻撃のようなものだが、 キャロルはカバンからまた赤いハンカチーフを取り出した。) キャロル: はーい、わん、つー、すりー♪ 雨依: !? アヌ: 雨依の攻撃が、消えた……!? テュポーン: なにあれ、すごい!てじなだ! キャロル: そー。手品だよ。タネも仕掛けもある、不思議な不思議な手品 テュポーン: じゃあテュポのことも……けしてみなよっ! シェンウー: テュポーンっ!迂闊に近づくでない! (シェンウーが叫ぶが、間に合わない。テュポーンは一気に間合いを詰める。) キャロル: きゃはっ♪あんたはかわいいね。そっちのナマケモノも好みだけど アヌ: 誰がナマケモノだって!? キャロル: かわいくって、閉じ込めてずーっと観察してたい♡ テュポーン: いだっ! (見えない壁にぶつかったかのように急停止するテュポーン。 いや、実際に見えない壁があるのだ。わずかに光を反射している。 そして、その壁はテュポーンの前方だけでなく四方から迫っていた。) パイフー: テュポーン!逃げて! テュポーン: ふわぁっ!? チンロン: あ、あれは……巨大な、ガラス瓶っ……!? キャロル: かわいい女の子は、かわいい小瓶に閉じ込めちゃお♪ ま、小瓶っていうにはだいぶでかくなっちゃったけど…… (にやにやと笑いを浮かべながら、 キャロルは瓶に向けてかざした手のひらをゆっくりと閉じていく。 それに比例して瓶、そして中のテュポーンまでもが……。) 雨依: 縮んでるっ!? キャロル: 小瓶が大きすぎるなら、小瓶にすればいいんだよ、ってね テュポーン: でれないっ ジューチャオ: だったらっ、あたしの炎で溶かしちゃえばいいんでしょっ! (強烈な炎が瓶を包む。だが、瓶はびくともしない。その代わり――) テュポーン: あっつい!あついよっ! シェンウー: いかん、溶けないくせに熱は伝わるようじゃ! ジューチャオ、やめいっ。このままではテュポーンが蒸し焼きになる! テュポーン: だしてっ、だしてっ! (ガンガンと瓶を叩くテュポーン。 と、その甲斐あってか瓶の一面が外れ、テュポーンが飛び出してくる。) テュポーン: でれた! チンロン: よかった……!でも、どうして急に……あっ!? (ふとキャロルに視線を向けた俺達は息を呑む。その腹からは細剣が飛び出していた。) (そして俺達が目をやった次の瞬間には、剣はするりと引き抜かれる。) リル: 油断したな。悪く思うな (いつの間にか背後に回っていたリルが、憮然とした表情で告げる。 背後からの不意打ちなど、騎士として不本意なのだろう。 だが、これは致命傷のはず――) キャロル: きゃはっ。いいねぇ、そのみなぎる殺意♪ぞくぞくしちゃう リル: ――っ!? キャロル: ここまで近づいたってことは、覚悟はできてるんだよね? リル: ぐううっ!? (キャロルはかばんから鉄球を取り出し、 すばやくそれをリルのみぞおちにめりこませる。 だが、鉄球で殴りつけたくらいなら、リルも耐えられるはずだ。) キャロル: ばいばーい♪ ティンカー・ベル: ……っ!?ネコっ、逃げて!! (鉄球から無数のトゲが瞬時にして生える。当然、それはリルの身体を貫いた。) リル: ぐぁっ……!?か、はっ…… 人間さん: リルーっ!! 180065 - 現れた伏兵 キャロル: はい、ざんねーん。ひとり片づけたーっと (腹部に受けた鉄球から、突如として生えた金属の棘。 それに貫かれふらつくリルの身体を、キャロルは容赦なく魔法で吹き飛ばす。) (俺は懸命に走った。 少なくとも、吹き飛ばされた彼女が頭を打つようなことは避けなくては。 俺には、それくらいしかできない。) 人間さん: リルっ!! (なんとか間に合い、放物線を描いていた彼女の身体を受け止める。 しかし、リルは気を失っているようで、呼びかけには反応しない。) 雨依: 人間さんっ、リルは!? 人間さん: 生きてはいる。けど、かなりの重傷だ 雨依: えげつないことするわね…… キャロル: えげつない?背後から剣をお腹にぶっ刺されたんですけど シェンウー: 確かにおぬしは強い……だが、いつまでも通用はせんぞ。 戦いにおいて、数的有利とはかなりの影響を持つものじゃ キャロル: きゃはっ。そんなこと、あんたに言われるまでもなく分かってるよん。だから―― (ふいにキャロルが片手を上げた。 その瞬間、周囲の茂みからガサガサと音がしたかと思うと――) 兵士: …… シェンウー: 伏兵かっ……! ティンカー・ベル: やばっ……何人いるか数えきれないんだけど!? チンロン: この甲冑、ファンロンの信民です! キャロル: ファンロンから借りてきた兵隊だよ。 トランプの兵隊ほど言いなりじゃないかもだけど…… キャロル: あんたたち全員捕まえるのには十分でしょ!! 兵士: 突撃! ジューチャオ: うわわわわっ!? ど、どうしよう、ファンロンの信民相手に本気で攻撃するわけには…… アヌ: そもそも別のμの信民であっても、私たちが手にかけるのは禁忌…… 雨依: そうなの? アヌ: 別に誰かがルール化してるわけじゃないけど。信民のおかげで 私たちはμでいられるんだもん。他人の信民に危害を加えるってなったら―― シェンウー: 全面戦争じゃな。本能的にわらわたちは、信民への攻撃を躊躇してしまう チンロン: ましてやファンロンの信民なんて…… 雨依: そんなこと言ってたって、やられたらどうしようもないでしょ!? シェンウー: ゆえに……信民には信民をぶつけるが定石 雨依: えっ? シェンウー: かかれ! (シェンウーの合図に呼応し、背後の茂みからも兵士が出現する。 しかし彼らの装束は――) アヌ: シェンウーの信民!?いつの間に! シェンウー: こんなこともあろうかと用意しておいたのじゃよ。こふふ キャロル: ふん……小賢しいやつ…… シェンウー: 討ちきる必要はない。後退するまでの時間をかせぐのじゃ! シェンウー軍兵士: はっ! (背景切換...) (シェンウーの狙いは明らかだった。 俺たちが後退しリルの応急処置を速やかに行うこと。そのための時間稼ぎだ。) (近くの古い小屋を見つけ、そこにひとまず腰を落ち着ける。 いつキャロルが追ってくるかと警戒していたが、幸い、彼女はこちらに あまり興味を持っていないようだった。) 雨依: キャロルは遊んでる感覚だからね。 私たちを必ず倒す、っていう目的意識はないんじゃない? 誰かに命令されていたとしても テュポーン: ういはキャロルにくわしい? 雨依: それなりに一緒にいたからね 人間さん: リル…… チンロン: できる治療はしました。命に関わる状況は脱したと思いますが…… 人間さん: そうか……。ありがとう、チンロン。シェンウー シェンウー: 礼には及ばん。むしろ、わらわたちの世界の揉め事に巻き込んだ結果じゃ。 こちらが詫びるべきところじゃ ティンカー・ベル: ううん。ティンカたちは、ここに自分の意志で来たんだからお詫びなんて要らないよ。 ネコだってそう言うと思う パイフー: わたし、あいつを許せないよ ジューチャオ: パイフーがこんなに怒るなんて パイフー: だってあいつ、嗤ってた。真剣勝負の結果なら分かる。でも、あいつは……! シェンウー: はやるでない、パイフー。まずは策を練るのじゃ。 まずは数の不利をどうにかせねばならん パイフー: わたしの信民も呼び寄せるよ シェンウー: そうじゃな。それぞれの領土から兵を集めなくては 雨依: ねえ。さっきμが信民に手を出したら全面戦争になる、とか言ってたけど…… 信民いっぱい巻き込んで戦ったりしたらそれこそ戦争じゃない?大丈夫? シェンウー: 信民同士でやりあう分には問題ない。例えμが裏で焚きつけていたとしてもな 雨依: それがOKになる感覚が理解できないけど…… あなたたちの世界なんだし、本人たちが問題ないのなら私は何も言わないでおくわ ジューチャオ: そんなに戦いたくないもんか? パイフー: 急いで呼び寄せる。みんなも チンロン: ええ。分かっていますわ。シェンウーさん、その間に シェンウー: うむ。ここからが策士シェンウーの出番じゃな 180066 - 二元論 チャイム: この先に何があるの? ペロー: ふふっ……何もありませんよ。これから設置するんです チャイム: 設置……? ペロー: オトギノクニとラームス世界、そしてμ世界までもが繋がった。残すは、あそこだけ…… ペロー: それも、聖母は繋がりを既に持っているのですからね。 うまく利用すれば、大きく前進できるでしょう…… チャイム: あの人を、利用? ペロー: あなたは聖母をそんなに敬愛していたのですか? チャイム: ……別に。でも、チャイムのネバーランドを実現するためにはあの人の力が必要なの ペロー: ネバーランド、ねえ…… ペロー: いずれにしても安心してください。 私がいま、利用するといったのは聖母の『力』を、ですよ。 悪い意味ではありませんからね チャイム: うん…… (背景切換...) ペロー: このあたりでいいでしょう チャイム: それ、何?大きな棒?ううん、ペンみたいな形…… ペロー: 本来これは、私達作家が担当しているという証なのです。 つまりそれは存在証明であり、自我同一性である…… チャイム: 難しいことはよく分からないよ ペロー: 私が、私でいるためのもの、と言えば分かりますか? チャイム: なんとなく……。ペローにとって大事なもの、なんだよね。 でも、それをこんな変な場所に刺しちゃっていいの? ペロー: ええ。このことが私が、私を取り戻すことにもなります。 もっとも、本来の使い方とは少々異なりますがね ペロー: では、ここにあなたが持っているディマイトの塊を注ぎ込んでもらえますか? チャイム: これは海に流すためのやつ、って聞いたよ ペロー: 海に流すのは手段でしょう? 目的はラームスで抱えきれなくなったディマイトの処分と、 オトギノクニを窮地に追い込んで混乱を誘うこと…… ペロー: これに流し込んでも、同じような結果を得ることができる。 聖母も納得すると思いますよ チャイム: え、そっか。なんか、言われるとそんな気がしてきた ペロー: 仮に意図した結果が得られなかったとしても、 ラームス世界からはディマイトなどいくらでも溢れてきます チャイム: ラームス世界って言うのは……チャイムたちが住んでいた世界、のことだよね? そしてディマイトっていうのは悪い感情…… ペロー: …… チャイム: ペロー?どうかした?チャイム、間違ってる? ペロー: ディマイトの源は決して、悪い感情ではありません。 感情、あるいは誰かの行いに良いも悪いもない チャイム: そうなの? ペロー: たとえば人を殺したとします。これはディマイトを伴いますが悪いことでしょうか チャイム: そりゃあ悪いことなんじゃないの。殺すだなんて ペロー: では、殺されたのは次々と幼い子供をさらっては 内臓を引きずり出すことに夢中になっていた異常者だとしたら? そして手にかけたのが、被害に遭った子供の父親だったら? チャイム: そ、そんなヤバいやつ絶対野放しにしちゃだめだよ!殺してでも――あっ ペロー: そう。そして異常者が内臓を引きずりだすことに性的快楽を得ていたら そいつの感情はエルマイトも含んでいる チャイム: そ、そうなの? ペロー: 厳密にいうとエルマイトだけではないですがね。人を傷つけたいという加虐性と、 得られる快楽ではそれぞれ別のイマジュマイトが生じる チャイム: すごく難しい…… ペロー: その通り。とても難しいのです。ですから単純な二元論に落ち着くのは危険を伴う チャイム: ペロー……なんか、悲しそう…… ペロー: 私が?気のせいでしょう。悲しいとか怒り、寂しさ、そんなものはとうに…… ペロー: おや、キャロルではないですか チャイム: えっ? キャロル: やほー。なんかおセンチさんだったから見守っちゃった。ペローってば乙女だねぇ ペロー: 冗談はよしてください。それで?進捗を見に来たのですか? キャロル: んー。それもあるけどね。ちょっと報告しとこうと思って ペロー: ……報告? キャロル: あんたのとこのリルって子、結構ヤバいかも。わりと重傷 ペロー: ああ……なるほど キャロル: 進捗は順調そうね。とりあえずディマイトを打ち込むんでしょ? ペロー: ええ。ではチャイム、後はお願いしますよ。 キャロルは彼女を見ていてあげてください キャロル: なに、どこ行くの ペロー: お花摘みですよ (背景切換...) ペロー: …… (木々の生い茂る森に足を踏み入れると、ペローはそっと懐から本を取り出し、 ペンを走らせた。) ペロー: もう……潮時でしょうね 180067 - フアナの自主的緘口令 フアナ: みんな、よく集まってくれたね。 聞いてると思うけど、ターゲットはチャイムという妖精。 相手は大量のディマイトを保有してる フアナ: 第一目標は捕獲だけど、かなり危険な相手だ。 無理をせず、発見したら速やかに報告ののち、待機することも選択肢に入れておいて 白虎: 相手は空を飛べるってことだったけど フアナ: その通り。だから捜索は基本的に特務機関の飛空艇を使って行うよ ハムレット: それってもしかして、大砲をぶっ放したりも? フアナ: 攻撃は許可する。あのフックと渡り合った相手だもん。 一撃でどうにかなったりはしないでしょ ハムレット: ひいい……シンプルに悲劇が起きそうなんだけど!? 朱雀: あの、そう言えばなんですけど…… フアナ: なになに? 朱雀: 最近、ミルズさんたちを見かけない気がしまして。 体調も悪いという話を小耳に挟んだのですが、大丈夫なのでしょうか フアナ: ああ……大丈夫、元気にしているよ。 ただちょっと、今回も任務に参加するにはまだ本調子じゃないんだ 朱雀: そうですか。それならいいんですけど……心配でしたので フアナ: …… フアナ: (うう……嘘つくなんてやだよぉ!でもここは正直に言ってしまうと みんなの不安を煽ることになるかもしれないし……!!) フアナ: (言えないよね……まさか行方不明、だなんて……) (背景切換...) ピュルテ: わあ……久しぶりに来ましたね、ワンダーランド ヴェルメリオ: ……人間さんにビンタされた、いい思い出 レオナ: どういうことよ…… ヴェルメリオ: ……わたしもまだ、若かったってこと レオナ: いまでも若いでしょーが オーディン: うわあ……本当にここ、わたしが未来視で見た通りの風景です! パラケルスス: どうやら場所に間違いはなかったようだね。 では、ここから更に場所を絞り込んでいくとしようか レオナ: 手がかりが見つかるといいんだけど。えーと、なんだっけ。森があるんだよね? オーディン: ごめんなさい、貴重な情報がこんなわたしの絵心のない下手くそな絵しかなくて…… ???: 絵心を身につけたいのですか? オーディン: えっ? タリー: こんにちは。そしてさようなら オーディン: えっ……あ、あの、さようなら…… タリー: 別れ際に私からこちらをプレゼント オーディン: 帽子? リラ: ウゥー! リラ: こちらはハット警察です。それはハットですか、キャップですか オーディン: えっ、えっ ヴェルメリオ: ……出た ピュルテ: ワンダーランドに住む知り合いといえば、ですよね。 お話を聞かなきゃですし、ここで出会えて良かったです……が ヴェルメリオ: ……もう頭痛がしてきそう リラ: あっ、おつむぺいんだね? レオナ: なんなの、この子たちは…… パラケルスス: キャロルの作品ってことか。さすがキャロル、と言うべきなのかな。 僕には真似できそうにないよ。ま、僕は創作系の作家じゃないんだけど リラ: リラも創作系の作家じゃないよ。倒錯系のマッパかもしれないけど ピュルテ: 絶対だめなやつじゃないですか ヴェルメリオ: ……マッパって何? ピュルテ: 真っ裸の略です オーディン: え、ええ?お姉さん、落ち着いてください リラ: ごめんね。リラはオチのない話しかできないの レオナ: え、えっとね。ちょっと行きたい場所があって タリー: もちろんだとも。ついてきてくれ レオナ: え?行きたい場所が分かっちゃうの……? (背景切換...) チェシャー: いらっしゃいニャ~ アゾソレム: ほう、見慣れない顔がいくつもあるのう レオナ: えっと、ここは…… タリー: 森のお茶会だよ ピュルテ: 話を聞いてませんよ、この人は! リラ: 森を探してるって聞こえたよ ヴェルメリオ: ……一応、断片的には聞いてくれてたんだ リラ: 木を見て森を見ずっていう言葉を知っていますか? パラケルスス: なるほど……?つまり全体像が見えていない僕たちは、目的地にたどり着けないと リラ: 血を見てもっと傷という言葉もあります パラケルスス: なんだって? ピュルテ: まともに会話しようとしちゃだめですよ チェシャー: ほらほら、席について。 お茶会なのに椅子に座らニャいなんて礼儀作法がなってないニャ ヴェルメリオ: ……木の枝にぶら下がってる人に言われても レオナ: そもそもお茶会に参加するなんて言ってないけど!? タリー: では今日の出会いや別れやふたりの門出と永遠の別れを記念して リラ: 永遠なんてないんだよ アゾソレム: 常に人の心は移ろうものじゃ チェシャー: ルースがいないニャ ピュルテ: どうしよう……もう収拾がつかない…… リラ: 蒐集?これくちょんだね タリー: コレクティブ! アゾソレム: つまり共同作業ということか? チェシャー: みんな今日から仲間ニャ タリー: では、何でもない日、おめでとう! 180068 - ワンダーなお茶会と自治 レオナ: ちっともなんでもない日じゃないよ……わたしにとっては、衝撃の連続なんだけど…… パラケルスス: しかし、紅茶が美味しいのがまたなんとも リラ: そうでしょう、そうでしょう。自慢のお茶なんだよ パラケルスス: 興味深いよ リラ: それはドクハナミソウの葉っぱで作ったお茶だよ パラケルスス: え、いま毒って言ったか? アゾソレム: 安心せい。毒があるのは根っこだけじゃ パラケルスス: そ、そうか…… オーディン: こっちは何だか黄色っぽい色合いですね。別の茶葉なんですか? タリー: 失礼な人だな、きみは。誰のパンツが黄ばんでるって? オーディン: そ、そんなこと言ってません! タリー: まあそのお茶を飲んで漏らせば黄ばむんだけどね。ようこそ黄ばみ王女 オーディン: 漏らす前提で話を進められてる……!?あと、わたし王女じゃないです チェシャー: すごく王女っぽいのに オーディン: えっ……そんなこと初めて言われました。でもちょっと悪い気はしません…… ヴェルメリオ: ……オーディンが取り込まれそうになってる ピュルテ: あ、あの!実は私、皆さんに聞きたいことがあって タリー: 90、90、90だよ ピュルテ: 何がですか? タリー: アゾソレムのスリーサイズだよ パラケルスス: それじゃ筒じゃないか アゾソレム: 創造期のことを思えばあながちハズレでもないか ヴェルメリオ: ……どんな創造期だったの……? ピュルテ: 私たちは、あの、キャロルさんを探してるんです。最近、見かけませんでしたか? チェシャー: キャロル? オーディン: あの……爪がすごいことになっていて、翼が生えている、 ちょっと青い感じの髪の人と一緒で アゾソレム: ああ…… タリー: なるほど オーディン: 伝わったのでしょうか……。 急に普通のリアクションが来るとなんだか不安になります…… タリー: その答えは、私たちは持っていたり持っていなかったりするよ レオナ: どっちなの。ていうか、その感じ知ってるでしょ! タリー: 決めるのはきみだ! ヴェルメリオ: ……なんかカッコいい雰囲気で言われても ルース: すみません、遅刻しました! タリー: まったく気にしていないよ。時を巻き戻してくれれば、それでいい ピュルテ: めちゃくちゃ怒ってる人の反応じゃないですか ルース: ちょっとお見送りしていたもので アゾソレム: ああ。無事に着けたか ルース: それはもう。ですよね? ルーフス・サクリファイス: 後は……ミルズ様たちにお任せするしかないわね ピュルテ: えっ……!?ルーフスさん?それにアルブスさんも。どうしてここに……! アルブス・ツークツワンク: ミルズ様をお送りしてきたのです ヴェルメリオ: ……ミルズを?ミルズも、ここにいるの? ルーフス・サクリファイス: もうひとりのアリスと一緒にね (背景切換...) シェンウー: ふむ…… アヌ: ねえ、作戦を考えるんでしょ?私も手伝おうか? 雨依: アヌが自主的に働こうとしている……? ティンカー・ベル: 危機感を持ったんじゃないの。知的ポジションが脅かされてるから シェンウー: 確かにわらわは五獣の中でも戦略などを担うことが多いが…… アヌ: 危機感?べ、別にそんなことはないよ?ナイヨ? 雨依: 目が泳いでる…… 人間さん: どうなんだ?もうすぐにでも集まりそうなのか? パイフー: わたしの軍は、機動力が売りだから。すぐに来る チンロン: わたくしのところはご承知の通り、体力がなくて……。 だいぶ到着が遅くなってしまいそうなんです 雨依: そうだったわね…… ジューチャオ: あたしのところも、すぐ来るみたい。なんか心配だから近くで待機してたんだって。 何が心配だったんだろう? アヌ: どう考えても、ジューチャオの挙動が心配だったとしか 人間さん: 杖の影響から解放された信民たちからすれば、 何をしでかすか分からないのが怖いんだろうな ジューチャオ: しでかすって、誰が? ティンカー・ベル: この子、話をちゃんと聞いてないよね シェンウー: しかし、チンロン軍以外は揃うとなれば、数では上回ることができそうじゃな。 後は…… アヌ: わ、私も手伝うってば 雨依: さっきから口を挟んでるけど、アヌって軍略とか得意なんだっけ? アヌ: ……本で読んだことが ティンカー・ベル: それシロウトって言わない? テュポーン: テュポも、やりたい。ちてきなやつ ティンカー・ベル: ほらー。アヌが軽々しくやるから、テュポーンが真似しようとしてる アヌ: え、それも私のせいなの……? パイフー: ――っ! パイフー: みんな……大変。リルが…… 人間さん: えっ?どうした!? 雨依: リルの姿が……薄くなってる……? 180069 - 打ち手はすべて揃う リル: これ……は……? ティンカー・ベル: ネコっ!?起き上がって大丈夫なの!? リル: ああ。まだ身体は痛むが、動けるようだ。 誰かが治療してくれたのだろう、助かった。礼を言う チンロン: そんな、こちらこそ―― シェンウー: 今は礼を言っている場合ではない。治療できているのに、これはどうしたことじゃ チンロン: そもそも、傷が深いからといって姿が薄くなっていってしまうなんて アヌ: 人間さん、これって 人間さん: ああ……たぶん、リルは元の世界、オトギノクニに戻るところなんだ リル: なるほど、そういうことか。確か、ずっとはいられないのだったな。 小生にもついにタイムリミットが来てしまったわけか ティンカー・ベル: じゃあ無事なんだよね!?ネコが、このままいなくなっちゃったり、しないよね? アヌ: そのはずだよ。ピュルテは元気だったし 雨依: 期限があるっていうのは、こういうことなのね。不思議だわ。 私と人間さんはなんともないのに…… パイフー: そんな……じゃあ、もうリルとはお別れ……? リル: すまない、パイフー殿。 結局、中途半端なまま、これといって役にも立てずに別れを迎えてしまったな パイフー: そんなことないっ……リルがいてくれたから、わたし……っ リル: そんな顔をするな。今生の別れではない。また再会することもできると聞く パイフー: 本当に……?また、リルに会える……? リル: ああ。約束する。だから……笑って見送ってくれ。 貴君にも、力になれずすまなかった 人間さん: 何を言ってるんだ。リルがいてくれて、心強かった。 あえて言うなら、シェンウーとの対決は戦うところを見たかったけど リル: ……まったく、どうしようもない男だな (その一言を最後に、リルの声は聞こえなくなった。 一気に姿が薄くなっていって、そして消えてしまう。) ティンカー・ベル: 大丈夫かな……。向こうに戻って、いきなり海の真ん中に出たりしないよね? いまの身体じゃ泳げないよ アヌ: ピュルテの話だと、入って来た魔法陣に戻るらしいよ 人間さん: ってことは、レオナたちが入ったのと同じところか。アクセスは悪いけど…… コミッティの管理下にあるから、すぐに見つけてはもらえるだろう ティンカー・ベル: ん……なら、いいんだけどさ 人間さん: それにしても、ずいぶん唐突だったな。 これまで来たみんなは、帰っていく前に何かしら予兆があったりしたものなんだけど 雨依: タイミング的には良かったのかもしれないけどね。 これ以上、無理させられなかったし…… これからもっと、危険になるかもしれなかったから パイフー: ……わたし、戦う。リルにまた会ったときに恥ずかしくないように シェンウー: ふうむ、あのパイフーがここまで感情的になるとはな。よほど気に入ったと見える ジューチャオ: あたしも好きだよ、リル。かっこいいよね テュポーン: テュポもかっこいいっていわれたい シェンウー: では、栄えある切り込み隊長を任せよう テュポーン: よくわかんないけど、かっこよさそう! チンロン: 作戦は決まったのですか? シェンウー: うむ。今回の作戦のキモは、ファンロンが寝返るタイミングじゃ。 キャロルが動かしている兵はすべてファンロンの信民…… ジューチャオ: 正気に戻せば全員味方になるんだね! シェンウー: 理解が早くて驚きじゃな。だが、ファンロンは既に正気だという話をしたじゃろ ティンカー・ベル: 向こうについてるのは、黄帝たちを守るため…… 雨依: 消えないって保証ができれば、いつでも動けるんじゃない? チンロン: 保証って……どうやって? 雨依: 私と人間さんが覚えておくのよ 人間さん: (確かに獏は、人間界で忘れ去られた物語を喰う……。 でも黄帝たちはμだし、獏も聖母に改造されているのかも…… 事情は違うのに同じ手が通用するのか……) (不安がつきまとう。だが、この局面を打開する貴重な案だ。 一瞬迷った後、俺は力強くうなずいた。) 人間さん: 人間界から来た俺たちが記憶しているのは、大きな意味がある。 ファンロンにそれを伝えるんだ シェンウー: ふむ。では本隊に雨依と人間さんを組み込むとしよう。 既に敵の陣容は兵たちに偵察させておる。進軍経路も決めておいた アヌ: 早い…… テュポーン: でばんない。かわいそう アヌ: ぐぬ…… パイフー: わたしはどうすればいい。なんでも言って シェンウー: パイフー、テュポーンはこの地点で陽動じゃ。 チンロンとわらわが、この側面から急襲して混乱を誘う。 アヌはわらわの兵を連れて散発的に動いてくれ アヌ: 私にも役割が……!? 雨依: よかったわね アヌ: よかったのかな…… 人間さん: よし、じゃあ出発だ! 180070 - 敵本陣への進軍 (日が暮れ始めるのを待って、俺達はゆっくりと進み始めた。 既に各所ではパイフー、チンロン、シェンウー、 それにテュポーンやアヌたちが動き出してくれているはずだ。) ティンカー・ベル: ファンロンも、状況は分かってるはずだし……たぶん、うまくやってくれるはず…… 雨依: 問題は伝え方ね。 シェンウーの手下が偵察してきた情報だと、キャロルと一緒にいるんでしょ? ティンカー・ベル: ……裏切りを疑われてるのかもね 人間さん: だとすると、キャロルも何か対策を打っている可能性があるな ジューチャオ: そうだね ティンカー・ベル: それが何か分からないと、ファンロンを安心させてあげられないよね 雨依: こっちから伝えるのはまだしも、ファンロンから聞き出すのはちょっと難しいわよね ジューチャオ: うーん 三人: ………… ジューチャオ: なに? 雨依: ううん……いいのよ、ジューチャオは。 無理しないでいいから、そのままのあなたでいて ティンカー・ベル: 勝手に突撃とかしなければいいから ジューチャオ: 大丈夫。いざとなったらあたしの炎で焼き尽くすから ティンカー・ベル: 心配すぎる…… パイフー軍兵士: 人間さん様。間もなく敵本陣が見えてくる距離かと 人間さん: ありがとう。こっちから見えるということは、向こうからも見えるってことだ。 より慎重に進もう パイフー軍兵士: はっ! 雨依: でも、人間さん。ファンロンを味方につけたとして、 あのキャロルとどうやり合う? 人間さん: それが課題なんだよな。ファンロンがどれくらい強いか分からないけど、 キャロルに敵うのかどうか…… ティンカー・ベル: すごい攻撃いっぱい仕掛けてきたもんね 人間さん: 確かに攻撃は脅威だった。でも初見だったから苦戦した部分もあるし、 多彩だったけど俺達も致命傷ではなかった。それよりも怖いのは―― 雨依: リルに刺されてもノーダメージだったこと、よね ティンカー・ベル: 確かに……!だって貫通してたよね?なんでピンピンしてんの? 雨依: 微妙にディマイトのゆらぎはあったわ。でも、それだけ。なんか、おかしいのよね ティンカー・ベル: その、ゆらぎ?ってやつがあったのは、どういう意味があるの? 雨依: わかんないわよ。私だってこんなふうに戦ったりとかあんまり経験ないんだから ティンカー・ベル: それもそっか…… 人間さん: あの調子で、いくら攻撃しても平気な顔をされていたら…… こっちが先に疲弊してしまう ジューチャオ: キャロルのことでしょ?あたしの攻撃が効かないなんて、幽霊じゃないんだから 雨依: でものんびり現場で分析してる余裕はなさそうだわ 人間さん: 俺は戦いではあまり役に立てないからな…… なんとかキャロルの弱点を見つけてみせるよ (背景切換...) パイフー: はあああぁぁぁっ!! ファンロン軍兵士: うわああぁぁっ!? パイフー軍兵士: すごいぞ、こんなに気合いが入ってるパイフー様を初めて見るかもしれない……! パイフー: シェンウーが偵察してくれてた通り。かなりの軍勢がここに集まっている パイフー: こいつらを足止めするのがわたしの仕事……しっかり全うしてみせる。 リルと会ったとき、恥ずかしくないように……! パイフー: みんな、行くよ パイフー軍兵士: はい!! (背景切換...) シェンウー: よし……狙い通りじゃな。ここにも兵が集まっておる。 ファンロン軍の規模はわらわも把握しておるからな…… シェンウー: 掴んでいる配置通りであれば、本陣はさほど大きな規模ではない。 頼んだぞ、人間さんたちよ…… シェンウー: さあ、ここが踏ん張りどころじゃ! 最後まで戦い抜いた者には、わらわから褒美をやろう。もちろんアレな褒美じゃぞ! シェンウー軍兵士: うおおおおおお! (背景切換...) (じっと森の中に潜むことしばらく。陽は沈み、辺りはすっかり暗くなっていた。) (計画通りに事が運んでいれば、目の前の敵本陣には軍勢の数はさほどではないはず。) 人間さん: (なんとか周りの兵士を抑え込んでファンロンに接触すること…… キャロルの弱点云々は、それからだ) ティンカー・ベル: そろそろかな? 雨依: そうね……奇襲をかけるにしても、あまり暗いと こっちも相手が見えなくなっちゃいそうだし ジューチャオ: ねえ ティンカー・ベル: どしたの、ジューチャオ ジューチャオ: みんなどこ行ったか知らない?さっきから姿が見えなくて ティンカー・ベル: 嘘でしょ…… 雨依: あなた絶対に仲間を大切にしなきゃだめよ ジューチャオ: するけど、なんで? ティンカー・ベル: ――っ!? ティンカー・ベル: い、痛っ……!?頭が、痛い……! 人間さん: 気持ちは分かるけど、あんまりリアクションしてやるなよ。 もうジューチャオがこういう子なのは知って―― ティンカー・ベル: 違うの、本当に頭が…… ???: すまぬ……お前さんの負担なしには、 こうして語りかけることもかなわんようになってしまってな…… 雨依: え、なに?頭の中に声が……!? ティンカー・ベル: これ、黄帝……? 180071 - 旧きμの加護 ジューチャオ: えっ、黄帝様?本当に黄帝様なの? 黄帝: ああ。もう姿を現すことすらできなくなってしまったがな…… ジューチャオ: よかった!じゃあ神農のじっちゃんも 神農: ひょっひょっひょ……相変わらずういやつじゃのう、ジューチャオは ジューチャオ: じっちゃん! 神農: よう頑張っておったのう。儂はちゃあんと見ておったぞ ジューチャオ: ほんとっ? 雨依: 感動的な場面なんでしょうけど…… この爺さんが甘やかしすぎて、ジューチャオがこうなったんじゃないかって疑惑が 私の中に渦巻いてるわ 人間さん: 声しか分からないけど、優しそうな感じだもんなぁ。 ジューチャオが何やらかしても『ひょっひょっひょ』で終わらせてそうだ…… ジューチャオ: じっちゃんに食べてほしくて、おまんじゅう持ち歩いてたんだよ。 再会したら絶対最初に渡すんだって。えっと、えっと…… ジューチャオ: なんか失くしちゃったけど、でも見つけたらすぐ渡す!食べて! 神農: ひょひょ……良いのじゃよ、ジューチャオ。 まんじゅうは見つけたら自分でお食べ。酸っぱかったらおやめ ジューチャオ: どうして……? 神農: 酸っぱいまんじゅうは腐っておるからのう。 これを教えるのは1万とんで3852回目なのだがのう 雨依: 根気強さがすごいわ 人間さん: 桁が飛んでないのに『とんで』って言ったのが気になって仕方ない…… ジューチャオ: そうじゃないよ、じっちゃん。 まんじゅう大好きなくせに、どうしてあたしに食べろっていうの? 神農: …… 黄帝: 我らは未知なる魔物に喰われ、その存在を脅かされた。既に力も失った旧きμだ。 このまま消えゆく運命かとも思ったが…… 黄帝: お前達五獣のことは気がかりだった。このまま残してはいけん。 だから我らは……最後の秘術を使ったのだ 雨依: ……そのせいで、実体を失った……とか? 黄帝: さすがだな、人間界の娘よ。 そう、我らはμとしての存在を捨て、この世界そのものとなった。 そうなれば、世界のどこでも目が行き届く 神農: しかし干渉するほどには力が戻っておらぬのじゃよ。 行き届くといってもまだまだ限界があるしのう……頼りないジジイばかりですまん ティンカー・ベル: やっぱりあんたが、黄帝だったんだね…… ファンロンを頼むって、ティンカに伝えたのも…… ファンロンが正気で、キャロルを裏切ろうとしてるのを知ったから……! 黄帝: お前さんには本当に世話になった。おかげでファンロンの孤独も癒えただろう。 あと少し……最後に、力添えをしてやりたい…… その思いで、こうして皆に語りかけている 人間さん: (世界と一体化……キみたいな状態になったということか……それなら) 人間さん: キャロルの力を無効化してほしい……! 黄帝: 残念ながらそれは無理な相談だ 人間さん: えっ 神農: あやつのような強大な力を抑え込むほどの力は戻っておらぬのじゃ。すまんのう ジューチャオ: なんかじっちゃんが悲しそうな声出してる。 人間さん、ひどいこと言うのやめてよ! 人間さん: 俺が悪いの……? 雨依: じゃあ知識ならどう?あいつの弱点とか! 黄帝: それも難しいな 神農: すまんのう ジューチャオ: じっちゃんが悲しそう!雨依、ひどいこと言うのやめてよ! 雨依: ええ……? 黄帝: 儂らも、お前さんたちとの戦いで初めてあやつの戦うところを見たのでな…… 神農: 刺されても平気だからびっくりしたのう 黄帝: さあ、何をしてほしいか言ってみろ。ひとつくらいならなんとかなる 雨依: 範囲めちゃくちゃ狭そうな上に、ひとつ限定になってる…… ティンカー・ベル: 黄帝が自分で考えて、できそうなこと提案してよ 黄帝: ……周りを照らすことができるぞ。だいぶ暗くなってきたからな 雨依: ……わあ、便利。これから闇に紛れて奇襲かけようとしてるんだけど 黄帝: そうじゃ、世界と一体化したことで、短時間なら別世界と連絡を取り合うこともできるぞ 雨依: 短時間ってどれくらい? 神農: 100数えるくらいかのう ジューチャオ: じっちゃん、よくお風呂で100まで数え終わるまで入って倒れてたよね 雨依: 危ないわね!年寄りの長風呂は身体に負担かかるわよ! 神農: もうその身体もないんじゃがのう ティンカー・ベル: ど、どうする?人間さん…… 人間さん: ……わかった。呼びかけたらいつでも応えてくれるんだな? 黄帝: ああ。これよりしばらく、お前さんたちを見守っているからな。では武運を…… ティンカー・ベル: いたた……やっと頭痛が引いたよ。で、何か思いついたの? 人間さん: 全っ然。でも何に役立つか分からないし、慎重に考えてみる…… 考えた結果、出番がないかもしれないけど…… 黄帝: そんな悲しいことを言うな ティンカー・ベル: ったぁ!?あんた出て来るたびにティンカが頭痛になるんだから! 軽い気持ちで喋んないで!! 180072 - 裏切りの決断 ???: …… (彼女は時折、何かを思い出すようなしぐさをしながらペンを走らせていた。) ???: 今日の食事はホワイトシチューだった。 だが生クリームも牛乳もケチったのか、ほとんどお湯みたいなもの。 捕虜とはかくも扱いが悪いものなのか ???: そもそも私は捕虜なのだろうか。いや、客人とは思えない。 枷こそついていないが、ここに来て以来、自由に部屋の出入りもできないのだ。 そんな客人があるものか ???: 何か有益な情報をつかめるのではないか。そしてそれが、私の気高い目的に 繋がるのではないか。そんな甘い考えに囚われ、私は誘いに乗った。 もちろんそれが、すべての間違いの始まりだったのだろう ???: しかし私がいかに罪を背負っているとしても、囚人ではない。 なのに、このような扱いは不当であり、 ひとえにこれはあの女の不見識によるものと―― (コンコン) ???: はひぃっ!? (彼女は筆を止め、椅子から跳ね上がりながら声を上げた。) ???: 入りますよ (ドアから聞こえる声。そして、すぐ後に入って来たのは――) ペロー: あら、思ったよりお元気そうではないですか ???: あ、あぅっ ペロー: ずいぶん久しぶりですね。どうです、ここでの暮らしは。不自由はありませんか? ???: う……ぁぅ……べ、別に…… ペロー: 食事に問題は? ???: ぉ……ぉぃ……しぃ……よ……? ペロー: そうですか。何かあれば私から意見しておこうと思いましたが、 どうやら取り越し苦労だったようですね ???: ぇっ……そ、そうなの……? ペロー: それより……本題に入りましょうか。 私は一度、あなたとはゆっくりお話をしたいと思っていたのですよ ???: 私と……? ペロー: ええ。あなたが、この現状をどう捉えているのかをお聞きしたくてですね ???: ……っ、私は…… ペロー: 歪んでいると思いませんか。私たちはありのままを描き、 そしてありのまま心と感情に従って行動する作品たち…… ペロー: 一体誰が、何の権利があって、彼らを称賛し、弾劾できるというのか ???: ……! ペロー: 奴らは神にでもなったつもりなのでしょうかね。私はそれが気に食わない。 だから……『深淵の闇』に興味を抱いたのですよ ???: ………… (背景切換...) (頃合いだろう、と俺たちは動き始めていた。もう視界には本陣の明かりが見えている。) ジューチャオ: 突撃~っ!! ジューチャオ軍兵士: おおおおおおっ!! (ようやく出番を得たとばかりにジューチャオが号令を発する。 一気呵成に、ジューチャオ軍を中心とした混成軍が本陣へと襲い掛かった。) 雨依: 急ごう!キャロルに気付かれる前にファンロンと接触するわよ! ティンカー・ベル: 最悪、誘拐ってことにして連れてきちゃってもいいし! (俺とティンカ、雨依の三人でファンロンの姿を探す。 だが、なかなか見当たらない――と焦りを感じ始めたときだった。) ジューチャオ軍兵士: うわああぁぁっ!? ジューチャオ: どしたのっ!?え、うわっ (兵士と、続いてジューチャオも驚きの声を上げる。はっとして周囲を見回すと――) 雨依: うそ……陽動作戦は失敗ってこと……? (俺たちは何倍もの規模のファンロン軍に取り囲まれていた。作戦は読まれていたのか――) (人間さんたちを取り囲む大軍勢。 最初の勢いは影を潜め、混成軍はたじろいでいるようだった。) (背景切換...) (そんな状況を見つめながらファンロンは言葉を失っていた。) ファンロン: (そんな……どうすればいいの、この状況……) キャロル: あーあ。まんまとハマっちゃったね ファンロン: キャロル……様…… キャロル: そーれーで? (キャロルはにやにやしながらファンロンに近づき、そっと尻を撫でた。) ファンロン: (……?私はキャロルの好みではないはずだが……) キャロル: いつ裏切るの? ファンロン: ……っ!? キャロル: 楽しませてもらったよー? どうしよう、いつ裏切ろう、味方のフリするために友達にも攻撃しなきゃ…… いっぱい迷って悩んでたよね? キャロル: あたし、そういう葛藤する顔が見たくて泳がせてたんだよ? え、なに、騙し通せてるとでも思ったの?バカなの? ファンロン: そ、それを何故ここで…… キャロル: だってもう、性格的に今しか動くとこなくない? このまま仲間がやられるのを見届けて、あたしの配下に収まるつもりだった? 絶対そんなことしないじゃん キャロル: だったら……お見通しだと知って、絶望する顔も見たいなって♪きゃははははっ ファンロン: キャロル……っ! キャロル: でもどうする? いま裏切っても、動かせる兵士はごく少数。戦況、変わるかな? 結局うだうだ悩んで……機を逸した、ってやつじゃない? (ファンロンは戦場に視線を送る。ファンロン軍の意匠を付けた、大軍勢。) ファンロン: (キャロルの……言う通りだ……ならば、もうこれしかない……) ファンロン: ティンカっ!! (ありったけの声で、ファンロンは叫んだ。) ファンロン: 人間さん!!聞け!!これは現実じゃない!! 180073 - 見せかけの軍勢 (ファンロン軍の戦力を分散させることで、ファンロン本人と対話する機会を生み出す。 それが俺達の作戦だった。) (ファンロンが安心して寝返ることができれば、 いかにキャロルの能力が高いといってもある程度は抑え込めるのではないか。 またキャロルの弱点についての情報も手に入るかもしれない。) (だが――) 雨依: 陽動作戦は失敗みたいね…… ジューチャオ: なんで!?こんなに大軍がいるなんておかしいよね? みんなが騒いで引き付けてくれてたんじゃないの? それともあたしが理解できてなかった、とか…… 人間さん: いや、今回ばかりはジューチャオは間違ってない。 ここは手薄になっているはずなんだ…… ジューチャオ: 今回ばかりは?いつもは間違ってるみたいなんだけど 雨依: 間違ってないとでも…… ティンカー・ベル: やっぱり読まれてたってこと……? ジューチャオ軍兵士: ど、どうしましょう。既に囲まれています!退却も難しそうです 人間さん: この人たちまで巻き込んで玉砕作戦をやるわけにはいかない。 なんとか突破する方法を考えないと―― ファンロン: 人間さん!!聞け!!これは現実じゃない!! (ふいに聞こえた叫びに、俺はハッとした。) ジューチャオ: いまの……ファンロンの声だよ! ティンカー・ベル: 間違いないよ。ファンロンとは思えないくらい乱暴な言い方だけど、 でも確かにティンカも聞き覚えがある声だもん 雨依: 現実じゃ、ない? 人間さん: まさか…… (背景切換...) (俺は目を閉じて、そしていまのファンロンの声を反芻しながら、深呼吸をする。) (そう、目の前の大軍はすべて現実ではなく幻。 再び目を開ければ誰もいなくなっている――) (背景切換...) 人間さん: ……!! 雨依: 人間さん?何やってんの? 人間さん: 兵士たちが……消えた……! ジューチャオ: はあ? (俺達を取り囲んでいたはずのあれだけの大軍が、一瞬にして視界から消えてしまった。 つまり、これは。) 人間さん: 幻術……!? みんな、騙されたと思って目を閉じて、 目の前の兵士なんていないものだと信じるんだ! 雨依: えっ? ティンカー・ベル: 人間さん、どうしたの?おかしくなっちゃった? ジューチャオ: わかった!やってみる!! (早速、言われた通りに実践するジューチャオ。 その姿に他のふたりも、まだ半信半疑ながら続く。 こういうときジューチャオの素直さはありがたい。) ジューチャオ: えっ?あ、うそ、ほんとだ!ほとんどいない! 雨依: 何これ……!? 人間さん: 相手の認知を歪める魔法だ。たぶん、キャロルの仕業じゃないかな キャロル: きゃははははははっ! (癪に障る笑い声が響く。 困惑した様子のファンロン軍兵士をかきわけるようにして姿を現したのは――) 人間さん: キャロル……! キャロル: そう。あたしの能力は幻術。あり得ないものを相手に見せることができちゃうの。 で?それを見破ったから何? ティンカー・ベル: ファンロンはどこ!? キャロル: ファンロンならあそこ♪ (キャロルが後方を指し示す。 そこには鉄格子のようなカゴに閉じ込められたファンロンの姿があった。) ジューチャオ: ファンロンっ!! ファンロン: ごめんなさい、ジューチャオ。 私の決断が遅かったから……みんなを危険にさらしてしまったわ ファンロン軍兵士: ファンロン様……!おのれ、キャロル。ファンロン様になんてことを―― ファンロン: ダメよ! (あくまでもファンロンがキャロルに従うと決めていたから こうして対峙していたにすぎないのだろう。 捕らわれの身となった彼女を目の当たりにして兵士が武器を構える。) (しかし、それをファンロンが鋭く静止した。) ファンロン: あなたたちでは敵わないわ。下手に仕掛けても犠牲をいたずらに増やすだけよ キャロル: あたしはいいんだよー? 攻撃してくれた方が堂々と血を見られるんだし♪もっとも…… (キャロルがカバンに手を突っ込む。まずい、と俺は反射的に叫んでいた。) 人間さん: 伏せろ!! (どんな攻撃が飛んでくるか予想していたわけではない。 だが、結果的にそれは奏功した。 キャロルのカバンからは黒い刃のようなものが無数に現れ、周囲を旋回する。) ファンロン軍兵士: ぐあああっ!! (反応の遅れた兵士の数名が旋回する刃を身に受け、倒れ伏す。 その返り血を浴びたキャロルは口元を歪めた。) キャロル: きゃはっ♪いい声♪ 雨依: そう好きにはさせないわ! (雨依が素早く手のひらに黒い球を生み出し、キャロルめがけて飛ばす。 それは相手の頭部に直撃したかに見えたが――) 雨依: 効いて……ない……? キャロル: さーて、もう打つ手はないのかな?じゃあひとりずつ嬲り殺しちゃおーっと♪ シェンウー: そこまでじゃ!! 180074 - キャロルの幻術 (声のした方に視線を向けると、別動隊の面々が揃っていた。 そして背後には、五獣に従う信民兵士たち。 五獣すべてが揃ったいま、その軍勢もかなりの規模だった。) シェンウー: 待たせたのう ジューチャオ: みんなっ! チンロン: ファンロンがこちらに寝返ってくれたからでしょう。 すぐに信民の兵士たちとも和解できたので、急いで駆け付けたのです パイフー: ファンロン……捕まってるんだね。すぐに助ける キャロル: えー?なんかひどくなーい? あたしひとりなのに、こんなに大勢で取り囲むなんてさぁ。 ちょっとは良心が痛まないの? 人間さん: 見ての通り、チェックメイトだ。 お前の言うとおり、大勢でいたぶるのはさすがに抵抗があるからな。 さっさと投降してくれ キャロル: きゃはっ。なんか勘違いしてるみたい。 画ヅラがひどすぎるってだけで、あたしが負けるとは言ってないよ? シェンウー: 幻術とは相手の意識に訴えるもの。 これだけ大勢を相手に、揃って同じ幻を見せるなど容易なことではない キャロル: だーかーら。なんであたしが、ヨーイなことしかできないって思うの? 舐めすぎじゃない? (キャロルがカバンを探ると同時に、その背後に巨大な闇が広がる。 そして、闇は形を成していく。) ファンロン軍兵士: でやあああ! シューチャオ軍兵士: どりゃあああ! (しかし信民兵士たちも、隙だらけのキャロルを、 ただ指をくわえて見ているだけではなかった。 果敢に剣で切りつけ、槍を繰り出す。) キャロル: きゃはっ。すっごい勇敢だよねっ。かっこいい (だが、武器を身に受けてもまったく意に介した様子はない。 そして闇だったものは、いまやハッキリとその姿を明らかにしていた。 俺は、それに驚愕する。) 人間さん: ジャバウォック……!? 雨依: えっ、あの『アリス』に出てくる怪物!? (ジャバウォックは無言のまま、その凶悪な爪で キャロルに攻撃を仕掛けた兵士たちに向けて襲い掛かる。) ファンロン軍兵士: ぐわあああぁぁぁっ!! シェンウー: なんじゃ、あいつは…… パイフー: でも……どんな攻撃を仕掛けてくるか、分かる気がする。かわせるよ! (鋭い爪で引き裂こうとし、あるいは長い尾を振り回して薙ぎ払う。 そんな彼女の攻撃を、五獣たちはギリギリのところでかわす。) 雨依: なんでよ! ジャバウォックは人間さんの仲間になってるんじゃなかったの!? アヌ: なるほど。ということはつまり、これも幻なんだろうね 人間さん: そうだ……μの世界にいきなり精霊を召喚できるわけがない。これは幻……! (俺は目を閉じて再びジャバウォックの姿を消そうとする。 だが、先ほどの兵士たちの幻とは違い、やたらめったら暴れ回っていて 気が抜けない。危険を前に目を閉じる余裕はなかった。) ティンカー・ベル: だめだよっ、人間さん!攻撃されたら危なすぎるって。 相手を無かったことにするためには、集中力が要るのにっ シェンウー: 目を閉じなくても幻なのだと意識を変えれば、打ち破ることが―― シェンウー: おおっと!? (シェンウー目がけて繰り出される攻撃を、きわどいところでかわす。 かわされたジャバウォックは、その場で大きく息を吸い込んだ。) パイフー: これ、まずい……! (ジャバウォックは大きく口を開けて何かを叫んだ――ように見えた。 しかし、実際には何も音は聞こえない。そのかわり、周囲の空気が激しく振動する。) チンロン軍兵士: うわあああぁぁ!? シェンウー軍兵士: なんだっ!? (それは衝撃波となって周囲の者たちを吹き飛ばした。) キャロル: はいはい、休んでる暇はないよー? テュポーン: なんかでたっ! (敵はジャバウォックだけではない。 キャロルがカバンにまたしても手を突っ込むと、今度は奇怪な植物が現れる。 生えてきたかと思うとあっという間に成長し――) 人間さん: 種を吐き出してくるぞ! (大きく膨らんだ蕾は、大砲のように種を飛ばして攻撃してくる。 そんな描写が実際にあったかは覚えていないが、 いかにもアリスの世界に出てきそうな奇妙な植物だ。) アヌ: ……もしかしたら、そういうことか。雨依、ちょっと 雨依: え、なに? アヌ: さっきから気になってたんだけど……雨依、攻撃があまり効いてない? 雨依: 一応かわしてるからね。それに、ジャバウォックはまだしも、 あんなふざけた植物なんてあり得ないじゃない 雨依: さすがに姿を消せるほど集中はさせてもらえないけど、大したことないわ ティンカー・ベル: なになに、ふたりして悪だくみ? アヌ: ちょっとね。試してみたいんだ 180075 - エルマイトの誤算 人間さん: くそっ……どうすればいいんだ…… (気が付けば、不思議な植物に続いて巨大な蜂、ぜんまい仕掛けの人形、 チェスの駒までもが出現して次々に襲い掛かってくる。) キャロル: さあ、次はお楽しみ!びっくり箱だよっ、ワン、ツー、スリー♪ (出現した巨大な箱から、バネのついたピエロの顔がキャロルの合図で飛び出してくる。 同時に、黒い鉄球が降り注いだ。それには火の付いた導火線が付いている。 そう、絵に描いたような――) ティンカー・ベル: 爆弾~っ!? (相次ぐ爆発に友軍は大混乱に陥る。 相手はキャロルひとりなのだが、まったく手も足も出ない。) キャロル: さーて、次はどんなの出して遊ぼっかな~? (キャロルが再びカバンに手を突っ込もうとして――) キャロル: ――っ!? (顔色を変えて振り返る。その視線を追うと、 囚われていたファンロンが雨依の手を借りて立ち上がるところだった。 鉄格子のカゴはひん曲がって転がっている。) 人間さん: いつの間に……!よくやった、雨依! 雨依: 人間さんてば、惚れ直したみたいね ファンロン: 助かったわ、ありがとう。でも私が加わってもキャロルの幻術は―― 人間さん: !? (何を思ったのか、雨依は突然ファンロンを抱きしめる。 俺達はもちろん、ファンロンも硬直しているところからして 前触れはなかったのだろう。) (さらに強張ったファンロンの顔に手を添えると、そのままキスをする。) テュポーン: テュポ、しってる!あれ、べろちゅーだ! シェンウー: 戦いの場で突然あのようなことを始めるとは……!才能に満ち溢れておるな チンロン: なんの才能ですか パイフー: アヌがさっき、雨依に何か言ってた。あれのこと? アヌ: あそこまでやれとは言ってないけど、でもまあそう 人間さん: ファンロンの身体から……あれは、ディマイト!? (ファンロンの全身から黒いオーラが立ち昇り始める。 そしてやや長めのキスを終えて雨依が解放すると、 ファンロンは身体の変化に驚き自らの手のひらを見つめている。) キャロル: ちっ……くだらない!これでも食らいなよっ 雨依: ファンロン!いまよ!声に出して思いを込めて! ファンロン: わかったわ……! ファンロン: そんなものは存在しない!! キャロル: !? (キャロルの背後から出現した巨大なドラゴンが、 ファンロンと雨依を目がけてまさに飛び立とうとした瞬間、霧のように消え失せた。) キャロル: なっ…… ファンロン: そんな花も!虫も!箱も、駒も、全部!ふざけたものはすべて、存在しないわ!! (ファンロンに指された奇怪な存在は、ことごとく黒い霧となって その姿を消していく。あっという間に、場を支配していた混乱が収まっていく。) ファンロン: そして――ジャバウォック?そんなのも、存在しない!! (そして最後にはジャバウォックまでも姿を消した。) パイフー: なにこれ。どういうこと? アヌ: 前に人間さんから聞いたんだよね。エルマイトって、想像力でもあるんだって 人間さん: まさか…… アヌ: あんなことが起きたらどうなるんだろう? そういう想像力は本来ポジティブなものだけど…… キャロルの操る幻術は、その想像力を利用していたんだよ シェンウー: わらわたちも、想像力を刺激されていたと……? アヌ: みんなは人間さんからエルマイトをもらっていたでしょ。 たぶん、その影響も大きかったんだと思う ティンカー・ベル: そっか。みんな人間さんから…… ティンカー・ベル: ふーん。みんなにあげたんだ。ふーん、ふーん 人間さん: い、いや、別に受け渡し方は色々あるだろ。握手とか、な? ジューチャオ: じゃあ人間さんがエロいせいであたしたちはピンチだったの? 人間さん: 空気を読めジューチャオ! アヌ: 本来はそのおかげで戦えてたんだけど、この場面においてはそう言えるね。 だから雨依のディマイトを利用しようと思ったの 雨依: でも私はμじゃない。できればこの世界により影響を与えられる、 地元のμにディマイトを流したかった、ってわけ。 ファンロンはまだ人間さんに何もされてないからちょうどよかったのよ 人間さん: 何もされてないって言い方よ…… ファンロン: 結構、絶望的な気分に支配されるんだけど……でも、役に立てたみたいでよかった ティンカー・ベル: 雨依は想像力がないってことなの? 雨依: んー。良くないことが起きるんじゃないか、みたいな不安な想像はするけどね。 巨大な花がいきなり成長するとかは、割と醒めるっていうか キャロル: はああああああ?つっまんない女! 雨依: うるさいわね。それの何が面白いのよ キャロル: ふん、さすがディマイトの塊ってわけね。 あたしの楽しい世界観がまったく理解できないみたいで何よりだけど! キャロル: でも……勝った気になってるなら大間違いだよ。 あたしはまだ、あんたたちに傷ひとつ付けられてないんだからね…… 180076 - 未来への対策 アリス・ミルズ: ……相変わらず暗い場所だわ アリス: 結構、足にきてるみたいだけど大丈夫? アリス・ミルズ: これでも特務機関の8番隊を長らく率いてきたのよ。 この程度で音を上げるような私じゃないわ アリス: けど……本当にここにいるのかな。ちょっと自信なくなってきちゃった アリス・ミルズ: あの方は……自分の世界で生きている人だから。 どこかに身を隠すならこのワンダーランドで間違いないし、 その中でも人目につかない場所といったら―― アリス: この森が一番怪しい、よね アリス・ミルズ: 問題は見つけた後どうするかだけど アリス: 何か関わってるなら止めなきゃでしょ。私たちはあの人の作品なんだから アリス・ミルズ: だからよ。キャロル様は私達を理解している。 正面からぶつかっても何もできないわ。 かと言って説得が通じるような方ではないのも明らかだし アリス: なるようになるわよ アリス・ミルズ: 適当ね…… ルーフス・サクリファイス: あっ!ミルズ様!! アリス・ミルズ: ルーフス?それにアルブスも。あなたたちは外で待機してなさいと言ったでしょう アルブス・ツークツワンク: それが……ミルズ様たちに協力したいと アリス・ミルズ: 協力? リラ: 協力するとなかよしポイントがもらえます。 100ポイント集めると抽選で3名様に友情の証メダルが当たるよ タリー: メダルを100枚集めると抽選で1名様にぺらっぺらのエコバッグを進呈するんだ ルース: 大変です大変です!急いで集めないと! タリー: エコバッグにお菓子を詰め込んで友達にあげるとなかよしポイントがもらえるよ チェシャ―: それ無間地獄だニャ アリス: え……みんな、どうしたの!? リラ: 知らない美少女が来て、アリス達にどうしても大事なところを見せたいって オーディン: そ、そんなこと言ってません! タリー: おや、じゃあさっきの話は嘘だったのかい アゾソレム: 大事なところを見せたいのではなく、大事なことを伝えたいそうじゃ ピュルテ: そうなんです。オーディンさんは未来を見通せる力があって アリス: 未来を? オーディン: は、はい……!それで、その、キャロルって人らしき相手なんですが、 どうやらこのあたりにいるみたいなんです アリス・ミルズ: やっぱりそうなのね オーディン: わ、わたしは土地勘がないんですけど…… 皆さんにお話を伺ったところ、どうやらこの森ではないかと…… アリス: それが分かれば十分よ。みんなは戻らないと危ないから―― オーディン: い、いえっ。だめなんですっ アリス: え? オーディン: おふたりだけで行ってしまうと返り討ちに遭う可能性が…… ご、ごめんなさい。ふたりとも強いとは聞いてるんですが、 その、強いとか弱いの次元じゃなくて、なんだかこう…… アリス・ミルズ: 『作品理解』の壁を超えられないってことね。予想していた通りだわ アリス: でも、これは私達の作家の問題なのよ。他の人に委ねるわけには パラケルスス: そこでやっと僕の出番というわけだね ピュルテ: ここにいるパラケルススさん、そしてレオナさんは作家なんです ヴェルメリオ: ……前にペローと戦ったとき、『作品理解』で操られたの。 でもギリギリで打ち破れた ピュルテ: その理由は『リメイク』にあったんです アリス: つまり、私たちをリメイクしようってわけね?そこの作家たちの手で アリス・ミルズ: 話には聞いていたけど、まさか私たちもそれを受けるとは予想していなかったわ…… リラ: 痛くないよ タリー: すぐ終わるから アリス: あ、あんたたちが迫ってくると変な感じになるからやめなさいよ! チェシャ―: ちなみにアリスは、リメイクされるとしたらどんな感じがいいニャ? アリス: え…… リラ: なりたい理想の自分になっちゃおう! リラは全身サイボーグになって腕を飛ばしたりしたいな タリー: じゃあルースはそれを拾う係だね ルース: は、はいっ!急がなきゃ!リラさんの腕、なくなっちゃう! ピュルテ: あっ、ルースさん!?リラさんが腕を飛ばすのは未来の話で―― ああ、行ってしまいました…… ヴェルメリオ: ……ありもしない腕を探しに? アリス: あ、あの、そしたら……私は巨乳になれたらいいかな。できればヴェルくらい ヴェルメリオ: ……肩こるよ? アリス: うわあ、言ってみたい……! アリス・ミルズ: それじゃあ私は太ももがもうちょっと細くなると嬉しいのだけど レオナ: あのね、美容整形じゃないんだよ パラケルスス: それはそれで僕個人では受け付けてるんだけど、 いまは、そういうことじゃないんだよね アリス: そっか…… オーディン: すごく残念そう。とても気持ちは分かります。 大きな胸には希望が詰まってるんですよね 180077 - 根無し草 アリス・ミルズ: えっと……それじゃあ私はどんなふうにリメイクされるのかしら ピュルテ: 正直、見た目の変化はあまり。 私も気になるところを部分痩せできたら最高だったんですが ヴェルメリオ: ……みんなコンプレックスはそれぞれだよね アリス: 高身長にもなりたいし。170cmくらいドーンと レオナ: というかね、時間もあまりないわけよ。 だから私とパラケルススで考えたことがあって パラケルスス: 今回の目的はキャロルの『作品理解』を無効化することなんだ。 つまり……後は分かるね? アリス: いや分かんないんだけど レオナ: ま、わたしたちに任せといて。そのために全員で来たんだし アリス・ミルズ: え……? (背景切換...) チャイム: …… キャロル: ねー。ペロー?あいつ、なんか辛気臭い顔して気分が滅入るんだけど ペロー: いろいろ悩みもあるんでしょう キャロル: あたし、これからちょっと用事があるから。あとよろしく ペロー: どうしました? チャイム: あ……戻って来たの?話は終わった? ペロー: ええ。未来に向けて有意義なお話ができましたよ チャイム: 未来か……チャイムには何が残るんだろう チャイム: あのμ世界をワンダーランドにしたとして、パネースは戻って来てくれるのかな チャイム: パネースさえいてくれればいいんだ。後はどうだって。でも寂しがるだろうから…… 仕方ないし、あの性悪ディーネもクローも戻してあげなくもないけど ペロー: …… チャイム: 計画はうまくいくかな ペロー: 物事には100%確実なものというのは存在しません チャイム: もうちょっと希望を持たせてよ ペロー: そんなときは保険をかけておくんです チャイム: 保険? ペロー: この計画がすべてうまくいくとは限らない。 でも最低限、担保しておきたいものはあるでしょう ペロー: 貴方の場合、それはネバーランドの復活。 そして一番の近道は、あのμ世界をネバーランドにすること チャイム: そうだよ。そのために聖母が―― ペロー: 聖母は交換条件として貴方に協力を求めたにすぎません。 貴方が関わるこの計画が破綻したとしても、聖母と心中する必要はないのですよ ペロー: オトギノクニへの侵略は、μ世界をネバーランドにすることと、 実は直接的な関連はありません。 あくまでも聖母の力を借りるための条件にすぎない チャイム: なるほど……?チャイムはあまり頭が良くないからピンと来ないけど なんとなくペローの言いたいことは分かるよ ペロー: 聖母はあれで、まったくの嘘をつくほど悪辣な存在ではない。 ネバーランド化に向けて、準備は進めてくれています チャイム: そうなんだ。やっぱりあの人は、いい人なんだね ペロー: だから、もしこのオトギノクニで何か予期せぬ事態があったら、 貴方が取るべき行動は…… チャイム: 行動は? ペロー: 退却です チャイム: 逃げるってこと? ペロー: あのμ世界に戻り、ネバーランド化を進めるのです。 あと少しエネルギーがあれば十分ですから チャイム: そうなの!? ペロー: もしものときのためにお渡ししておきましょう。これは高濃度エネルギー薬です。 貴方の身体に入れれば強い力を使うことができる チャイム: じゃあ、これですぐにでも…… ペロー: ただし、一気に使うと身体の負担が大きい。 少しずつ服用して、少しずつ世界を変化させるのです チャイム: あー、そっかぁ。少しずつってどれくらい? ペロー: 三滴ほど舐めて、力を使う……それを繰り返して2年ほどでしょうか チャイム: ええ~!?2年って長すぎるよぉ! ペロー: 仕方ありません。聖母なら使いこなせるでしょうが、貴方の身体ではそれが限界です。 もちろん一気に飲んで使えばすぐにでも世界は変わります。 ただ相応の犠牲は払う必要がある ペロー: 3ヵ月は身動きできないでしょう。 もっとも、そのパネースさんとやらが面倒を見てくれるかもしれませんが…… チャイム: なるほどぉ ペロー: それに、これは義理の問題でもあります。他に手段のない非常時ならともかく、 いまこの時点で、それを使って協力関係を破棄するのは、 聖母に対しても筋が通らないですからね チャイム: う……そうだよね……。 せっかく準備してくれてるのに、裏切るようなことはしちゃだめだよね ペロー: 聖母が先に裏切っていたようなことでもない限り、 ご友人にも呆れられてしまうかもしれません チャイム: や……やだやだっ! パネースに嫌われたらチャイムはもう、終わりだもんっ!死んじゃうっ! ペロー: では、どうすべきかお分かりですね チャイム: でもどうしてペローはこれをくれるの? ペロー: 私からも条件があるんです。実は私も行き場のない存在でして。 ネバーランドが完成したら、私の家を建てさせてくれませんか? チャイム: そういうことかぁ!お安い御用だよ~! ペロー: ふふ……先ほどまでとは違い、だいぶ元気が出たようですね チャイム: うんっ……!ネバーランドが本当に復活するか心配だったから。 いざというときの保険って、心が安定するんだね ペロー: μ世界に戻る魔法陣の場所、 経路もちゃんと確認しておいた方がいいかもしれませんね。 すぐ近くなんですし チャイム: わかった、そうする! ペロー: …… ペロー: ふふっ……あははっ…… ペロー: 本当に素直でいい子ですね。実に、優しい貴方の作品らしい子です。 『デイム』バリー…… 180078 - 不死身の狂気 キャロル: きゃははははははっ! あたしの幻術をちょっと封じたからって敵うと思ってもらっちゃ困るんだけど~? (次々に繰り出される魔法攻撃を、 なんとかシェンウー、チンロンのふたりで防ぎながら好機を窺う。) (ファンロンと雨依のおかげでなんとか幻術を封じることはできたが キャロルの魔法使いとしての能力もかなり高く、切り崩すのは容易ではなかった。) (とは言っても数的有利はこちらにある。 普通なら、時間がかかってもいずれは仕留められるものなのだが――) ジューチャオ: はあああぁぁぁっ!! (ジューチャオが炎でできた弾丸を放つ。 それは不意を突き、キャロルの肩口を貫いた。 だが、相手は涼しい顔でジューチャオを見やる。) キャロル: で? ジューチャオ: なんで……傷ひとつ負ってないわけ……? アヌ: あいつの防御力はなんなの?イライラするんだけど 雨依: ねえ、人間さん。 何か人間界のキャロルの情報で、不死身の伝説とかあったっけ? 人間さん: そんなの聞いたことないんだけどな パイフー: 人間界…… (テュポーン、ジューチャオがリスクを冒してチンロンたちの防御壁から飛び出しては 攻撃を加えるが、一向にダメージが届かない。 そんな様子を見ながら、パイフーはふと口を開いた。) パイフー: 待って。いま気づいた 雨依: 何か弱点があったの!? パイフー: ううん、そうじゃないんだけど……キャロルはどうして戦えてるんだろう 雨依: どうしてって……意味がよく分からないんだけど パイフー: リルが言ってた。ここに来たばかりのとき、自分の作家…… ペローに、力を奪われそうになったって (その話は俺達もリルから聞いていた。 このμ世界に来て間もない頃にペローと遭遇し、際どい戦いを繰り広げたと。 その窮地を救ったのがパイフーだったはずだ。) パイフー: 力を奪うということは、必要だったということ。 つまりペローもリルも十分な力で戦えていなかった。何故ならμじゃないから 雨依: そうね……あっ? パイフー: ティンカがファンロンと、リルがわたしと繋がって影響したように、 この世界のμがいれば戦えるようになることはある。でも、あいつとは…… シェンウー: わらわは、そんなことになった記憶はないな チンロン: わたくしもです ファンロン: もちろん私もよ。ジューチャオが忘れてる可能性はあるけど…… ううん、ふたりきりになることなんて、なかったはず アヌ: ……じゃあ、聖母から力をもらってる? (消去法でいえば、現状はそれしかない。いや、或いは――) 人間さん: 黄帝たちが獏に喰われたときのことを聞いてもいいか? ファンロン: ……っ、ええ……もちろん (心の傷を抉りたくはないが、いまは思い出してもらわないといけない。) 人間さん: キャロルはそのとき、黄帝たちからエネルギーを吸い取ったりは? ファンロン: え……?ああ、そういうことね。 いえ、私が見る限りは、そういった動きはしていなかったと思うわ。 たぶん、触れてもいなかったはず ファンロン: でも黄帝様たちは皆さま、それほどμの力は持ち合わせては…… 人間さん: たとえわずかでも、五人もいるんだ。 少しでもほしいと思えばどうにかしたんじゃないか? (それに、この世界でμと縁を結ぶことはキッカケにすぎない。 μ自身の能力の高さと、縁を結んだ結果は正比例しないはずだ。) (あるいはドロシーとポセイドンのように、オトギノクニにいるμと 何らかの形で接触したのか。 しかし自身の作品にμになり得そうな者はいないし――) アヌ: でも、そのあたりに何かヒントがある気がするよね 雨依: そうね。もしかしたら、そのエネルギー源をどうにかできれば ダメージだって通るかもしれない 人間さん: ……黄帝、聞こえるか 黄帝: ああ、聞こえるとも。だが、言っておくが儂にも、 あの女がどうやって力を振るっているかは見当もつかんぞ ファンロン: ああっ、黄帝様……!?やはりご無事で……! 黄帝: この状態を無事と言っていいかは分からんがな。 ファンロン、よくぞ世界のために働いてくれたな。 陰ながら見守っておったのだぞ ファンロン: もったいないお言葉…… 黄帝: いや、再会を喜ぶときではなかったな。とにかく、あの力はμの力とは異なるようだ 人間さん: そうか……では、約束通りひとつ頼まれてほしいんだ 黄帝: おお!儂が活躍するところだな。何でも言うてみよ 人間さん: 人間界の、ピュルテという子と話がしたい。できるか? 黄帝: この儂に、できるか、じゃと? 人間さん: 割とできないことあったじゃないか…… 黄帝: 任せておけ。すぐに繋いでやろう 180079 - 鏡の中の幻想 レオナ: よし、完璧でしょ パラケルスス: これならうまくいきそうだね アリス: ちょっと……本気で言ってるわけ……? アリス・ミルズ: 動きを模倣すること自体は得意というか、身体能力で乗り切れるけど 果たして本当にそれっぽくできるかしら…… ヴェルメリオ: ……ねえ、ピュルテ。やっぱり作家ってどこかおかしいのかな ピュルテ: しっ、聞こえますよ パラケルスス: うん、聞こえてるよ ヴェルメリオ: ……わ、わたしは無理だよ リラ: 無理だなんて言われたら寂しいな。みんなで盛り上がろうよ ヴェルメリオ: ……まともな感じで言われると、わたしが嫌な子みたいに見える ルーフス・サクリファイス: 作品理解への対策はできたとして、本人に会えなきゃどうしようもないわよ。 白いの、これってあたしたち迷子よね? アルブス・ツークツワンク: ええ、赤いの。私達はどうやら同じところをぐるぐる回っているようです。 この森は、そういう恐ろしいところだと分かってはいましたが 黄帝: 聞こえるか……そこにピュルテとやらはいるか…… ピュルテ: えっ?こ、この声は? タリー: 私の腹話術だよ。すごいだろう 黄帝: ち、違う! リラ: あなたはだーれ?わたしはピュルテ タリー: そして私もピュルテ ピュルテ: 私がピュルテです。本物です!あの、どなたでしょうか?まさか深淵の闇……? 黄帝: 儂は黄帝。実は人間さんに頼まれて、こうして声を届けておる。 すまないが儂のこの能力は100数えるうちが限界。 ちなみに残り70ほどじゃ ピュルテ: 人間さんが……!? 皆さん、本当に静かにしてください!時間が限られてるので! 黄帝: キャロルの直近の行動について大至急調べてほしいとのことだ。 一体、どうやってμ世界で戦えているのか知るヒントになればと 黄帝: 特に誰と接触したかがカギなのだが…… ピュルテ: え? オーディン: キャロルが、そっちにいるんですか? 黄帝: ……?どういう意味じゃ。ふざけている場合では…… アリス: 違うのよ!本当に、未来を見通せるオーディンが、この森にいる風景を見たの アリス・ミルズ: 私たちも別の考えからこの場所にたどり着いたわ。確度は高いはず 黄帝: なんじゃと……? (背景切換...) 雨依: 人間さん、どういうこと? 人間さん: つまり……アリスたちはいま、森で迷っているわけだな。たぶんそれも…… 人間さん: よし、黄帝。もうひとつ頼まれてほしい。光を照らす能力を使ってくれ 黄帝: ……なるほど。承知した アヌ: なんとなく状況は分かった気がするけど、どうするの? 人間さん: ……時間を稼ぐ。雨依、何かあったら守ってくれ 雨依: え……何それキュンとした……! 雨依: って、ちょっと、人間さんっ!?どこ行くのよ! 人間さん: キャロル! キャロル: んんー? キャロル: なぁに。これまでずっと、女の子の後ろでビクビクしてたくせに、 急に前に出てきて変なの。何か企んでるでしょ 人間さん: (さすが鋭いな……こういうタイプほど勘が冴えてたりする) 人間さん: なに、新旧コミッティが顔を合わせたんだ。少しくらい話をしたいと思っただけだよ キャロル: きゃはっ。あたしはあんたと話すことなんてないし、さっさと殺しちゃうね? 人間さん: やってみろよ 雨依: ひぃ……人間さん、なんでそんな急に煽り始めるのよ!? 人間さん: パイフーが気づいてくれたんだ。お前がどうしてこのμ世界で戦えるのか。 どこからその魔力を調達しているのか……。まさか二段構えだったとはな キャロル: 何の話? 人間さん: リアリストの雨依が、ファンロンを通じてファンタジー的な存在を否定した。 これで俺たちは、幻術をすべて封じたと思い込んでしまったんだ キャロル: ……! (背景切換...) アリス: 見て!森に光が射しているわ! ピュルテ: まるで光の道……じゃあ、ここを辿れば……!? アリス・ミルズ: 行くわよ! アリス: ええ! (背景切換...) 人間さん: わけのわからないものは想像力によって膨れ上がる。 だが、目の前にずっといるものを否定するのは、逆に想像力が必要だ。 雨依ひとりでは気付けなかったかもしれない 人間さん: キャロル……お前は、このμ世界に『いなかった』んだ。 最初から、存在していない キャロル: きゃはっ……それで?どうするっていうの?あたしを消滅させられる? 人間さん: いや……そろそろのはずだ (背景切換...) アリス: キャロル!! キャロル: ――っ!? アリス・ミルズ: キャロル様の最も得意とされる秘術…… 鏡映しの幻術『ファンタズマ・イン・ザ・ミラー』…… アリス: 人間さんを助けるために、あんたの作品として―― アリス&アリス・ミルズ: 私たちがここで止める キャロル: ……っ!! 180080 - 逆転の兆し キャロル: ちっ……ミルズ……。 あんたからは、さんざんエルマイトを搾り取ったはずだけど…… アリス・ミルズ: 鍛え方が違うので キャロル: どうしてここが……ううん、それより人間さんにどうやって 『ファンタズマ・イン・ザ・ミラー』のことを…… アリス・ミルズ: 私からは何もお伝えしていません。というか人間さん殿は術を看破されたのですか アリス: さっすが人間さん!頼りになるわね! キャロル: 本体のあたしを叩こうって腹なんだろうけど、あんたたち、誰が作家なのか忘れたわけじゃないよねぇ?『作品理解』で操り人形にしてあげる……きゃはっ アリス・ミルズ: そうはいきません。私たちは既にリメイクされていますから キャロル: リメイクなんてそう簡単じゃないんだよ。適当なことを言ってると―― アリス: たいへん、たいへん!私のお尻から花が咲いちゃった! キャロル: !? (背景切換...) キャロル: …………………… パイフー: 動かなくなった……? 雨依: アリスたちがキャロルを倒したってこと? 人間さん: いや、倒したら消滅するんじゃないか?たぶん幻影を操作する余裕がないんだろう (ぴたりと動きを止めて虚ろな表情で宙を見つめるキャロル。もっと原始的な生物ならいざ知らず、さすがに知的生命体を自動で操作できるほどの術ではないらしい。) シェンウー: では、いまのうちに倒してしまうか? 人間さん: いや―― ジューチャオ: てぇええええぇぇぇい!! ジューチャオ: ねえ攻撃効かないよ!?人間さんの嘘つき! 人間さん: 『いや』って言いかけてただろ!!話を最後までちゃんと聞け!! パイフー: 拙速…… 人間さん: あくまでも幻影には違いないんだから、物理攻撃は効かないだろう。 さっきと同じ様にファンロンに消してもらえばいい アヌ: 雨依も、もうキャロルがいないことは理解できたもんね? 雨依: ええ。私もファンロンも納得済みよ ファンロン: キャロルなんて……最初から、いない……!! (ファンロンの声と共に、目の前のキャロルの輪郭がぼやけていく。 まさか、これが幻影だとは誰も疑わないだろう。 疑われなければ存在し続けられる幻……。) パイフー: そんなものと戦ってたなんて チンロン: なんだか虚しくなってくるわ テュポーン: でも、むこうはこうげきした!いたかった!なんで? 人間さん: そこは断言は難しいけど……おそらくノーシーボ効果だと思う 雨依: また難しい話をドヤ顔で始めたわね 人間さん: 人は思い込むことで心身に影響が出る。 毒だと思って飲めば、体調が悪くなったりはするものなんだ テュポーン: もっとかんたんに 人間さん: 心配性の人は生牡蠣を食べない方がいい テュポーン: じゃあテュポはきのこひろってたべてもへいきだね アヌ: それはそれでダメ チンロン: 思い込み……とてもシンプルだけど、 そんなことでわたくしたちは傷を負ったり、痛みを感じたりするんですね 人間さん: 普通は思い込みにも限度がある。でも、あそこまでリアルな幻影が目の前にあれば…… 人間さん: でもまあ魔法攻撃が中心だったし、本当に魔力を纏っていた可能性は十分あるけどな 雨依: そういう話、普通は人間界から来たあなたがすることじゃないのよ? 人間さん: もうオトギノクニの住民になって結構経つし? パイフー: でもこれで……世界は元通りになるんだよね ファンロン: では黄帝様は……!? 黄帝: 落ち着くのだ、ファンロンよ ファンロン: ……!! 黄帝: 儂らを襲った、見慣れぬ魔物……人間さんによれば『獏』というらしい。 あれは幻影などではなかったのだ ファンロン: そんな……それでは…… ジューチャオ: じっちゃんも!? チンロン: どなたも助からないのですか……! 黄帝: 喰われる前に世界と一体化することを選んだ。その選択は取り戻せん シェンウー: そんな…… パイフー: でも完全に消えてしまったわけではない? 黄帝: こうして会話をすることも、ままならなくなる。 それでも世界の形が残り、お前たちが存在していることが……儂らがここにいた証 (五獣は揃って俯く。それぞれの主人を、共に過ごした時間を噛み締めているのだろうか。) (キャロルの幻術は見破れても、彼女たちの思いは計り知れない。 俺は黙って見守っていた。) 雨依: 私たちが覚えているわ チンロン: え……? 雨依: あなたたちの主人を、私も人間さんも覚えている。だから獏に喰われることも、消えてしまうこともない。形を変えただけで、すぐそばに存在しているのよ 雨依: 会話はできなくても、いつも見守っていてくれるのよ。むしろ世界の一部ってことは、 どこにいたって見られてるってこと。気を引き締めたほうがいいかもね? ジューチャオ: い、言われなくたって、あたしはしっかりしてるし! シェンウー: ふむ。顓頊様に見られながらのアレコレか……それはそれで興奮するのじゃ……こふふ (いくらか空気が和らいだ。性差別と言われてしまえばそれまでだが、 やはりこういう場面では俺より女性の方が気持ちに寄り添える気がする。) アヌ: 一応これで一件落着、なのかな。もう私はゆっくり休みたいよ テュポーン: アヌ、あんまりはたらいてないのに―― (言いかけたテュポーンが、はっと振り返って宙を見つめる。) テュポーン: みんな、あれ (視線の先には、黒い闇が渦を巻き始めていた。) 180081 - 擬態リメイク キャロル: アリス……? アリス: そうだお茶会にしましょー アリス・ミルズ: キャロル様もごいっしょにどうぞ。これはエア茶です アリス: こぽこぽこぽ アリス・ミルズ: 熱くもなく冷たくもない、 それでいて香りはそのときによって変わるとっても不思議なお茶です アリス: 私がここで餃子を食べると、なんと餃子の香りがするんですよ キャロル: ……まさか、お茶会メンバーふうにリメイクされたの!? あんたたちがそうなったら、もう歯止めは効かないのに! キャロル: こんなの……理解できるわけない……! リラ: エア茶は空気をたくさんかき混ぜると香りが高くなります タリー: まぜごはんだね アリス: まぜまぜ アリス・ミルズ: なぜなぜ? リラ: 疑問は大事!疑問から疑問が生まれるの タリー: 人生は探求の旅だからね アリス: 私は旅人なのね アリス・ミルズ: 私はナニビト? アリス: 恋人だよ♡ アリス・ミルズ: えへへぇ♡ キャロル: う、ううっ……いったい誰なのよ! あたしの傑作をこんなふうに面白半分でむちゃくちゃにしたやつは!! キャロル: こんなのちっとも笑えな―― キャロル: ぐ……ぁっ…… アリス・ミルズ: 強烈な麻痺魔法を纏わせています。 刀身の腹で叩いただけですが、これでしばらくは動けないはず アリス: 私達、ふたりとも剣には自信あるの。この至近距離なら急所を狙い撃ちできるわ キャロル: ……ぁっ、はぁっ、ぐ……あたしを騙したわけ……? お茶会めいたフリをして、リメイクされたんだと…… アリス: そうよ。そこまでしてでも、私達は自分の手であなたを捕まえたかった。 止めたかったの アリス・ミルズ: これ以上、罪を重ねないでください キャロル: あんたたちは……何も、わかっちゃ……いない……っ。 何が起きてる、かもっ……はぁっ、くっ……あたしの、ことも……! アルブス・ツークツワンク: さあ、連行しましょう。これだけの人数に囲まれて 逃げられるとはさすがに思っていませんよね ピュルテ: よかった……きっとこれで、人間さんも無事ですよね ヴェルメリオ: ……うん、きっとそう チャイム: ねー、キャロル。魔法陣の使い方がわかんないの。教えてほし…… アリス: え?誰? チャイム: キャロル!? アリス・ミルズ: 待って、あの羽に髪型……例の濃縮ディマイト散布事件の被疑者に似ているような…… ヴェルメリオ: ……言われてみればティンカにちょっとだけ見た目の雰囲気近いかも オーディン: じゃあ、この人がティンカさんに罪を……? チャイム: え?え?何……? キャロル: チャイムっ!逃げるよ!! (背景切換...) アリス: うあっ!目が!? アリス・ミルズ: しまった……閃光魔法……!! ルーフス・サクリファイス: 白いの、追うわよ! (背景切換...) チャイム: はぁ、はぁ……も、もう追いかけてきてないかな……? ねえキャロル、どうすればいい? キャロル: う、うう……身体が……動かない……なんなの、もうっ……! あたしがなんで、こんな目に……っ チャイム: ねえ、この魔法陣でμの世界に行こう? そしたらネバーランドにチャイムが変えて、すごくいい世界にするから キャロル: そんなことでき……ない……。向こうには……人間さんたち、だって…… チャイム: チャイムにまかせて。これを飲めば人間さんだかなんだか知らないけど きっと、あっという間にやっつけられるよ チャイム: 三滴……ずつだと間に合わない……。いますぐ必要なのに……! チャイム: ………… (背景切換...) (渦を巻く闇の中から姿を現したのは、先ほどまで見ていたキャロルを抱えた 見慣れない少女だった。しかし、その背にある羽はどこか見覚えが――) ティンカー・ベル: あんた……ここまで追いかけてくるなんて相当だね…… パイフー: 知り合い? ティンカー・ベル: チャイム……。ティンカの偽物だよ! (謎の少女――チャイムは虚ろな瞳で、抱えていたキャロルを下ろす。 その全身から放たれる黒いオーラが、 ディマイト由来であることは容易に想像がついた。) (念のために雨依に視線を送ると、無言でうなずき返してくる。) チャイム: 力がどんどん湧いて来るんだ……これが、あの薬の力…… 雨依: 薬……? チャイム: これならきっと実現できる……この世界をネバーランドにするんだよ ティンカー・ベル: はあ!?なに言ってんの! オトギノクニで会ったときも、なんかそんなこと口走ってたけどさぁ! チャイム: うるっさいなぁ…… さっきからキンキンわめいて、チャイムの頭が痛くなっちゃうよ…… キャロル: ん……ここ、は……? (気を失っていたらしいキャロルが身体を起こす。 アリスとやり合った末にダメージを負ったが、 チャイムによって救い出された――といったところだろう。) チャイム: ここは……新しいネバーランドだよ。キャロルも力を貸して? 180082 - 避けられない戦い (チャイムがキャロルに手をかざすと、途端に黒いオーラが流れ込んでいく。 自身から溢れるディマイトをキャロルに受け渡しているのだろう。 だが、それでもなお、チャイムからはとめどなく闇が溢れていた。) 雨依: 何このディマイト……私でも、こんなに漏れ出てないわよ アヌ: 薬がどうとか言ってたね。つまり人工的に操作されたってことかな シェンウー: 雨依は天然モノか 雨依: 人をお魚みたいに言わないで テュポーン: すごく、よくないかんじ。テュポも、あんなだった? 人間さん: そうだな。近いかもしれない (テュポーンは聖母に乗っ取られたガイアによって操作されたのだが、 チャイムの場合は一体誰の意志が働いているのか。 異世界から来た彼女が、自力でオトギノクニから調達したとは思えない。) チャイム: どう……?キャロル、元気出た?チャイムに協力してくれる……? キャロル: きゃはっ……あんた、何をどうしたらこんなにディマイトが手に入るの? 面白過ぎるんだけど キャロル: いいよ。舐めた真似してくれたこいつらには仕返しもしたかったし、 協力してあげちゃおっかな チャイム: ふふ……じゃあ決まりだね (背景切換...) (ゆらりとこちらに歩み寄るチャイムとキャロル。 気が付けば上がっていた月が、赤々と輝いていた。) チャイム: 別にあんたたちに恨みはないんだけどさ…… どうせチャイムの邪魔しようとするんでしょ? ファンロン: 何をするかにもよるわ。私たちだって、意味もなく戦いたくはない チャイム: この世界を……ネバーランドにするの……。 パネースとチャイムが仲良く暮らすための優しい世界…… チャイム: そのために全部、作り替えちゃうんだ……!あんたたちμは邪魔なだけ……っ! ティンカー・ベル: 勝手なこと言うなっ!何でわざわざ、人の世界を奪おうとするのっ!? チャイム: だって……もうネバーランドはなくなってしまったんだよ……? チャイムが取り戻すしかないじゃん! ティンカー・ベル: なく……なった……? キャロル: きゃははははっ!もう、そんな事情とかどうでもいいじゃん。 あたしたちと戦う以外に道はないんだからさぁ キャロル: 戦いたくないとか言ってるけど、負けるって分かってるからでしょぉ? 結局、あたしにちゃんと勝ったわけじゃないし キャロル: さーて……虐殺ショーの始まりだよ、チャイム チャイム: うん……これは必要な犠牲…… (背景切換...) ファンロン: くっ……奴の言うとおり、戦う以外に道はなさそうね 雨依: 今度こそ、明らかなディマイトが相手だし人間さんの出番なんじゃない? 人間さん: ああ…… (俺はまずそばにいたシェンウーとパイフーの手をとる。) 人間さん: 五獣のみんななら、必ず勝てる。俺はそう信じてるから シェンウー: こふふ……こんなところで、わらわの指をしゃぶろうなどと……んっ? パイフー: 力が……流れ込んでくる……?これがエルマイト?まるでμの力みたい…… 人間さん: μの力だよ。エルマイトとは微妙に違うと思う (仲間を信じることで生まれる力。 4つの世界を旅するうちに少しずつコントロールできるようになっていた。) 雨依: それ……エルマイトじゃないんだ? 人間さん: まだ俺の中でも仮説だけど、 たぶん誰かに信じられることがμの力になるんじゃないかな (ゼウスたちと知り合ったあたりからμとは何か?はもう答えが見えていた。 つまり、人間界でいうところの神話世界であり、彼女たちは神だ。) (神は、その存在を信じ崇める信仰心によって力を得ている、としたら。 各国の文化には精通していないが、日本人的な思考からすると信仰心を 多く集めた神が力を持つのは自然なことのように思える。) (きっと信民との共存関係も、そうした民の信仰心と神が起こす奇跡のバランスによって 成立しているのではないだろうか。) チンロン: あなた様の温もりが伝わってきますわ…… ジューチャオ: 誰かから、こうして力をもらうなんて初めてかも (人間界では神とは畏れ敬うものという印象が強い。 でもμ世界での信民との関係はあくまでも主従ではなく共存。 だから俺の、仲間として勝利を信じる思いも力になり得るのだろう。) ファンロン: 簡単ではないだろうけど……私たちは勝つわ。 黄帝様たちから託された世界を失うわけにはいかない ファンロン: それに、あなたたちのことも無事に帰さないといけないわ ティンカー・ベル: たのむよ~?ティンカは戻って無実を晴らさなきゃいけないんだから。 借りを作ったままにしておけないやつもいるし ファンロン: ふふっ、わかってるわよ キャロル: なーに?もう準備はいいのかな?律儀に待ってあげてたんだけどぉ? キャロル: さあ、血を見せてよ!! 180083 - 伯仲する戦い アリス・ミルズ: キャロルに逃げられるなんて…… ルーフス・サクリファイス: いま、部下たちに探させてるけど…… あの羽が生えたやつがディマイトをばらまいてた犯人かもしれませんね アルブス・ツークツワンク: ええ。手配書の情報にかなり一致する点が多いですから ピュルテ: それじゃあやっぱり ヴェルメリオ: ……ティンカがが疑われたのは無実だったんだね。まあ当たり前だけど レオナ: あの子がティンカに罪を着せようと思ってたのかもね。 何にしても、捕まえて聞き出さないと始まらないんだけど アリス: でも、私達もやれることはやったわ。胸を張っていいんじゃないの、ミルズ アリス・ミルズ: そうね。少なくとも人間さん殿の役には立てたようだし ピュルテ: もう黄帝さんの声も聞こえなくなってしまいましたから、向こうの状況がどうなってるのか分かりませんけど……でもきっと人間さんなら大丈夫ですよね オーディン: わたしも……なんとか、残った意味を見つけられた気がします パラケルスス: ほらね。僕の言ったとおりになっただろう? オーディン: はい、先生……! レオナ: 絶対騙されてるんだけどなー。こいつ、そこまで考えて喋ってないって パラケルスス: いずれにしてもコミッティ本部に連絡を入れたほうがいいだろうね。 キャロルの関与は決定的なんだし ピュルテ: そうですよね!ドロシーさんかシンデレラさんに…… いえ、エミリーさんに連絡したほうがいいかな ヴェルメリオ: ……ティンカのことで心配してるだろうからね レオナ: そこはフアナに連絡してあげなよ…… ピュルテ: あっ!そ、そうですね!?別に忘れてたわけじゃないんですよ。 ほらフアナさん、忙しいかなって (背景切換...) (――コミッティ本部――) フアナ: へぇっくし! エミリー: はいティッシュ フアナ: あーごめん。なんか噂されちゃってるのかな。人気者は辛いなぁ エミリー: 噂が原因だとして良い噂だと確信できるメンタルが、 エミリーはちょっとうらやましいよぅ フアナ: えーと、それで……ティンカのことだけど エミリー: もうほぼ疑いは晴れたんだよねぇ? フアナ: もちろん。真犯人が捕まらない限りは監視がついちゃうだろうし 戻ってきたら事情聴取はしなきゃいけないけど…… エミリー: ……なんでティンカなんだろう フアナ: そこも含めて詳しく聞かなきゃだけど…… フックの話だと、おそらくラームス世界から来たティンカ……って感じかな エミリー: ラームスってなんなんだろ フアナ: 単純に異世界……というだけじゃなさそうだよね。 気になるのはエルマイトもディマイトも存在するってこと エミリー: 人間界にも、μの世界にも、エルマイトとかはないんだもんねぇ フアナ: そういう意味ではオトギノクニにすごく似てるんだと思う。ほんとは、一番詳しいのはティンカなんだけどね。ほら、トルテたちと交流して話を聞こうとしてたし エミリー: ティンカは誰かと仲良くなるの上手だから フアナ: その辺も含めて狙われたのかな…… エミリー: それ、ラームスの子たちの前で言っちゃだめだよぅ? 責任を感じちゃう子がいるかもしれないから エミリー: たぶん……そんなのティンカも気を使うだろうし。 ティンカはただ、本当にみんなと仲良くしたかっただけなんだよ (背景切換...) (チャイムと名乗る彼女は、いわゆるディマイト暴走状態に近い。 ディマイトの塊を自身の攻撃として次々に繰り出す姿からは、 おそらくペース配分など何も考えていないだろうことが窺えた。) (一方のキャロルは、彼女に比べると理性的で チャイムの攻撃を回避した誰かをピンポイントで狙っている。 とは言っても、キャロルのその言動を理性的と呼ぶには些か無理があるが。) 雨依: かなり押し込まれてる……やっぱり、あのディマイト量が半端じゃないのよね テュポーン: テュポも負けないよ! (果敢に飛び込んでは攻撃を繰り出すテュポーン。魔法攻撃を主とするキャロルとはあまり相性が良くないのだが本人も自覚しているのか、主にチャイムを狙っている。) (しかしそのチャイムも、羽で自在に飛び回りながら短剣で隙を突く戦い方で、 あまりテュポーンにハマっているとは言い難かった。) ジューチャオ: いっけええええ! チンロン: 逃がしません! (五獣に、テュポーンとティンカが加わっての戦い。数的には明らかにこちらが有利なのだが、戦況はほぼ五分だった。やはりチャイムのディマイト量の影響が大きい。) 雨依: 私がここで抑え込もうとしてるのに、まだまだ溢れてくるからね (雨依は戦いには直接加わらず、チャイムのディマイトを何とかコントロールしようと試みていた。それでこの状況なのだから、チャイムは一体どんな方法で強化されたのか……。) 雨依: かなり負荷がかかってるわ。きっと身体が持たないはず。 それを待つのも手ではあるけど…… アヌ: いつになるか分からないし、いくら敵とは言っても自滅するのを待つのもなんだかね 人間さん: できればその前に解放したいところだな。お互いのためにも 180084 - 黒幕 ティンカー・ベル: ねえ、こんな戦い……もう無意味だよ。やめた方がいいって (お互いに消耗し始めたところで、 ティンカが間合いを取りながらもチャイムに語りかけた。) チャイム: 意味……?そんなもの、あんたに分かるわけないでしょっ…… ティンカー・ベル: あんた言ってたよね。ネバーランドを作りたいんだって。それが目的なんだよね? ティンカー・ベル: この戦いでティンカたちを倒したら、ネバーランドができるの? 誰が、どうやって?世界を創り変えるってさ、すんごいことなんだよ チャイム: チャイムにはこの力があるもん……!まだまだ溢れてくる、この強い力で…… たとえチャイムがダメになっちゃってもっ…… (この会話のおかげでインターバルが生まれ 俺から五獣たちに再びエルマイトを供給する機会が生まれた。 だがティンカの性格からして、そんな狙いがあっての行動ではないだろう。) ティンカー・ベル: それ、ディマイトだよ。知らない?ディマイト チャイム: ディマイト……?それは、チャイムがオトギノクニで海にばらまいたやつでしょ……? そんなの関係ないからっ! ティンカー・ベル: ううん。あんたが使ってるのはディマイトだし…… ディマイトだけでは世界を創り変えることなんかできないよ ティンカー・ベル: オトギノクニでも前に、そういうことがあったんだ。すっごい賢い術者の人がじっくり準備して、エルマイトとディマイトをものすごい量で使って、やっと実現したんだから (ティンカが言っているのは『グランド・リヴィジョン』のことだろう。 かつて起きた世界の理すら塗り替える秘術だ。) 人間さん: (確かに、チャイムのディマイト量はすごいけど……あくまでも個人で扱う前提の話だ。 あれと同じことをやるにはまったく足りないし、それに) (術式と呼べるものも見当たらない。 キャロルが用意している可能性も考えたがそんな素振りはなかった。 そもそも、できるならやってしまえばいい。全員がμの資格を失うはずなのだから。) 雨依: あの子、もしかして……騙されてる……? 人間さん: ネバーランドへの想いを利用されたんだろうな。この状況を作り出すために、ディマイトを濃縮した薬か何かを渡して、これがあれば世界を変えられるとか唆して ファンロン: 無知につけこんで利用する……汚いやり方ね…… シェンウー: しかし、それを指摘したところで、あやつは翻意するかのう? ただでさえ己の過ちを認めるのは容易ではない。ましてやティンカは敵方…… ファンロン: キャロルの方がまだ、話が通じるかもしれないわよ シェンウー: それはどうじゃろうなぁ。あれは血を見たいだけの快楽主義者…… まともな駆け引きが通じるかは疑問じゃ 雨依: でも……プライドは高いのよ。さっきも、幻術を打ち破ってやり込めた私達に 仕返しをする、みたいなこと言ってたし シェンウー: ふむ、確かに。そこに付け入る隙があるか? 雨依: ……この状況を誰が作ったのか、ってこと 人間さん: チャイムの言い方からしても、キャロルではなさそうだよな (この場にいるキャロルから受け取ったのなら、 ティンカの言葉にもキャロルの助け舟を求めるように思う。) (もっともキャロルは現在、パイフー、ジューチャオ、テュポーンといった近接戦闘を得意とする三人に囲まれているので、会話に参加するどころではないかもしれないが。) 雨依: ちょっと揺さぶってみてもいい? 人間さん: どのみち打つ手はないし、やれることはやってみよう 雨依: うん。じゃあファンロンはチャイムに注意を向けておいて。 いつティンカとの会話をやめちゃうか分からないから (雨依はそう言い残すと返答も聞かずに駆け出し、キャロルとの戦いで後方支援をしているチンロンのもとへ向かった。おそらく近づくための援護を頼むのだろう。) ファンロン: 出た話を総合すると……いま、ここで私たちが戦っている相手の後ろに黒幕がいるということよね。それが創造の聖母を名乗る相手か、別の誰かなのかは分からないけど…… ファンロン: ……まだチャイムもキャロルも倒していないうちから気が早いけど、 私はその者たちも倒さないと気が済まないわ。 だって……黄帝様たちをあんな目に遭わせた連中なのよね? 人間さん: ああ……俺もそろそろ本当に我慢できなくなっていたところだ。 確かに気が早いが、協力してほしい シェンウー: こふふ……男女が未来を誓い合う、か。この後は当然アレじゃな 人間さん: 何を期待してるんだ…… チャイム: だってチャイムは!! (チャイムの声が周囲に響き、俺はハッとして注意を向けた。 ファンロンは雨依に頼まれた通り、チャイムから視線を動かしてはいなかったようだ。) ティンカー・ベル: 大丈夫だよ、チャイム。一緒に探そう? きっとネバーランドを元に戻す方法があるから。だから、こんなことやめよう? ここであんたが無理したら、本当に誰も故郷を救えなくなるよ チャイム: でもっ……でもっ……! 180085 - 絶望の余韻 ティンカー・ベル: あんたが無事でいなきゃ。 その大事な友達はさ、ネバーランドが戻ったとき自分だけになってどう思う? 取り戻すためにあんたが犠牲になったって聞いて……悲しむと思わないの? チャイム: 何が分かるのっ!あんたにだけは言われたくない! 故郷を追われたこともないくせに、知った顔しないでよ! ティンカー・ベル: 故郷を追われた経験は関係なくない?友達がいるかどうかだよ チャイム: 屁理屈言わないでよ!チャイムのこと、何も知らないくせに! ティンカー・ベル: 知らないよ。知らないけど、友達を悲しませたくないって、 ほとんどの人に共通するんじゃないの チャイム: チャイムは……っ、う、ううっ……!! チャイム: もう話したくないっ!!あんたなんか、消えちゃえばいいんだ!! (ついに限界が来たのか、チャイムは腕を振り上げる。 そしてティンカ目がけてディマイトの塊を投げつけ――) ティンカー・ベル: いい加減にしな!! チャイム: !? (だが、ディマイトの塊はティンカの気合一閃、その目前で消失する。 防御魔法を展開したシェンウーは唖然としてその光景を見つめている。) ティンカー・ベル: こちとら、ディマイトとは何度もやり合ってんの! ファンロン: ふっ……さすがティンカね。本当に面倒見がいいんだから シェンウー: そういうことなのか、あれは ファンロン: あんなことができるなら、そのまま攻撃すればいいのよ。 でも自分で気づくチャンスを与えようとしてる チャイム: う、ううっ……まだできる!チャイムは戦える!! (またしてもチャイムからディマイトが湧きだす。だが、今度はファンロンが動いた。) ファンロン: でも……私はそこまで我慢強くないし、何より…… 友達が目の前で危地に陥っていて見過ごすことなんてできないわ (いうなり、ファンロンは素早く飛び出しチャイムとの間合いを詰める。 そして武器を構え――) ファンロン: そこまでよ!! (鋭い稲妻がチャイムの身体を貫いた。) チャイム: あ……ぅあ……っ!? ティンカー・ベル: ファンロン! ファンロン: 大丈夫よ。しばらく痺れて動けないでしょうけど、命までは取っていないわ ティンカー・ベル: そうじゃなくて……あの、ありがとう。ティンカのこと助けてくれたんだよね ファンロン: お礼を言うのはこっちだわ。ティンカが説得を続けてくれたおかげで、 彼女の注意力も散っていたし、おそらくそのディマイトとやらも乱れていた…… ティンカー・ベル: あーうん……この子もさ、迷ってるんだよ。 自分が正しいかどうかなんて確信できることのほうが少ないだろうしさ ティンカー・ベル: 本当にこれでいいのかな、って悩んでたから……ディマイトを本気で全部は解放できなかったんだ。まあ、してたら身体が持たなかった気もするけど (背景切換...) (そして視線を映せば――キャロルの方でも爆炎が上がっていた。) ジューチャオ: 最大出力よ! これ以上やるなら、範囲を一気に縮めてあんたを焼き尽くしちゃうんだから! キャロル: きゃはっ。こんな炎であたしがどうにかなるとでも? もうさっき、チャイムからはたっぷりディマイトをもらってんの! 雨依: キャロルはそれでいいわけ!? キャロル: 何がよ 雨依: この状況は誰かが意図して作り出したのかもしれないわ。 ディマイト薬をチャイムに渡したのは誰?この状況を予見できなかったと思う? 雨依: あんたはそいつに、切り捨てられたのかもしれないわよ キャロル: ……!? キャロル: ふん……くだらない。そんなことであたしが動揺すると思ってんの? 黙ってあたしにやられちゃいなよっ!! (キャロルがカバンに手を突っ込むと同時に、巨大なドラゴンが姿を現す。 その翼の羽ばたきだけで、ジューチャオの炎がかき消える。) キャロル: あたしは……誰にも利用されたりしないし、従ったりもしないの。 ひれ伏すのはあんたたちよ パイフー: くうううっ!? テュポーン: うああああっ!! (ドラゴンの鋭い爪による攻撃が襲う。 辛うじてパイフー達は直撃を免れるが、その威容に圧倒されていた。) 人間さん: 雨依、あれは…… 雨依: チャイムのディマイト、実はほとんどキャロルが吸い取ってたのかもね。 かなりの高濃度ディマイトよ 人間さん: だったらもう、μの力で対抗するのは限界があるよな 雨依: そういうことね。 人間さんのエルマイトが流れ込んでるとしても濃度が違いすぎる 人間さん: 行くか 雨依: ええ シェンウー: おぬしら、あの巨大な龍を相手に本気か!? 人間さん: ああ、もちろん。行くぞ、雨依! (俺と雨依はドラゴンに向かって武器を構え、間合いを詰める。 これだけの術を使った以上、キャロルとて余力はそう多くないはず。 そう考え、俺達は目で合図を送り合い、途中で方向転換する。) キャロル: ――っ!?こっちに来る気!? 雨依・人間さん: 幻術なんてものは…… 雨依・人間さん: 存在しないのよ!! 必ず打ち破れる!! (またしても、俺と雨依は意見が合わない。しかし、それでいい。) キャロル: なっ……!? (背景切換...) キャロル: うああああぁぁぁぁっ!! 180086 - いつまでもそばに (倒れ伏したキャロルを見下ろし、俺はふうっと息をついた。 もうドラゴンなんて影も形もない。) 雨依: やっぱり……また起きたのね、これ (そして目の前には、空間がぽっかり空いていて、 こことは違うどこか別の景色を映し出していた。おそらく――) 人間さん: オトギノクニに戻れる穴、だろうな ティンカー・ベル: すごっ……ていうか、最初からこれで倒してよ!なんでこんな時間かけたわけ? 雨依: そう言わないでよ。私も人間さんもエルマイトとか ディマイトを高めていくのに集中しなきゃいけないのよ 雨依: それに……今回のキャロルは、隙をなかなか見せてくれなかったし パイフー: わたしたちの戦いも意味があった? 人間さん: もちろん。単純にエネルギー量で上回らなきゃこうはならない。 パイフーたちの戦いのおかげで消耗させたおかげなんだよ (ただまあ、ティンカの言うことには理がある。 最初からこれを繰り出せれば話が早いのは確かだ。) 人間さん: (どうにかコントロールできるといいんだけど……) (帰ったらパラケルススあたりに相談してみるか。) シェンウー: 今度こそ、すべて終わったか…… パイフー: 人間さん!危ない!! (パイフーに突き飛ばされ、俺は地面に倒れ伏した。 背中は痛んだが、何かが起きたという危機感が勝る。) 人間さん: パイフー!? (身を起こすと、そこには背中に傷を負ったパイフーが顔をしかめ、 そして血に濡れた短剣を手にしたチャイムが立っていた。) チャイム: 仕損じたか…… ティンカー・ベル: チャイム!もうやめなって! 人間さん: いや……そいつはチャイムじゃない ティンカー・ベル: え? 人間さん: きっと今回もどこかで見ているはずだと思ったよ……創造の聖母 雨依: 聖母!?まさか、また乗っ取られて……!? 人間さん: 必ず見ているとは思った。だが、チャイムの身体か、キャロルの身体か、 あるいは別の方法でなのか……特定できなかったんだ 人間さん: 溢れ出るディマイトは……薬のせいだと思っていたが、 お前がチャイムの身体にずっと寄生していたんだな チャイム: 寄生とは聞こえの悪い チャイム: まったく……あと少しだったというのに、本当にあなたたちは邪魔をしてくれますね ティンカー・ベル: あと少しって……あんたは本当にここをネバーランドにするつもりだったの!? チャイム: なんのことです? チャイム: 私はここを、誰もが良心と道徳を兼ね備えた正しい世界にしたいと、 それだけを願って行動してきたのです。その世界をどう呼ぶかは、まあ勝手ですが ティンカー・ベル: でも、あんたがチャイムにネバーランドを創るって…… チャイム: この女は正しくない。嫉妬にかられ、人を騙し、自己肯定感を守るために醜い感情を愛だとうそぶく――とても『悪い子』です。彼女に新世界の住人たる資格はない ティンカー・ベル: それじゃ話が違うじゃん! だってチャイムは、あんたの約束のために汚いことにも手を染めて―― チャイム: 私はディマイトを廃棄しろと言っただけ。方法は任せていました。 その手段が汚いというのなら、それはこの女が汚かっただけのこと 雨依: 私には……あんたのそのやり口の方が汚いと思うけど チャイム: お黙りなさい 人間さん: ぐあああぁぁぁっ!? (チャイム――いや聖母が一言放っただけで、身体が一気に重くなり 地面にめりこみそうになる。いや、これは身体が重いというよりも重力が増したのか。) チャイム: 私が直接、こうして手を下すのは不本意ですが…… これも世界の理を司る神の意志。諦めて―― ???: そこまでだ チャイム: !? ファンロン: その声は……黄帝様!? 黄帝: 世界とひとつになった我ら古のμの力……侮るでない 人間さん: (え……でもほぼ何もできないんじゃ……?) 黄帝: 古のμとはこの世界を形作った存在。 ならば、この世界において、この世界のμだけは、我らの力が及ぶ 黄帝: 我らを信じ、立ち上がるのだ五獣よ――! ファンロン: そうよ……ここは私達の世界、好きにはさせない! シェンウー: くだらぬ正しさなど……打ち捨ててくれよう ジューチャオ: あんたなんか、お呼びじゃないんだから! チンロン: 見ていてください、伏犠様。わたくし、やってみせます! パイフー: わたしたち、五獣が……おまえを倒す! (ふらつきながらも立ち上がる五獣。そして――) ファンロン: いけえええぇぇっ!! (炎と水流がチャイムを包み、シェンウーが呼び出す蛇がチャイムを拘束する。 そしてその身体をパイフーの拳が捉えた。) チャイム: ぐふぅうううぅぅっ!?バカ、な……っ、既にこの世界はっ、私の支配下に……っ ファンロン: 思い上がらないことね。あなたはただの……侵略者よ (そして雷が貫く。) チャイム: くっ……かはっ……! (刹那、チャイムの口から小さな光の玉がこぼれ出た。俺はとっさに叫ぶ。) 人間さん: それだ!それを逃すな! 雨依: 分かってる……! (辛うじて動く指先を向けた雨依が闇の弾丸を放つ。 射貫かれた球は光を失い、地面にぽとりと落ちた。 同時にチャイムは、ぐったりとして意識を失う。それをティンカが慌てて支えた。) テュポーン: あっ……からだがかるくなった アヌ: どうやら今度こそやったみたいだね 雨依: 聖母は!? (俺は球が落ちた場所へと駆け寄る。足元には、元は黄金だったのだろうと察せられる煤けた金属製の小さな女性像が落ちていた。大きさにして10センチもない。) 人間さん: これが聖母……? 雨依: ずいぶんあっけなかったけど……でも、黄帝たちが協力してくれたおかげね ファンロン: ありがとうございます、皆様方。助力なくしては、私達は―― 黄帝: いいや。信じる者は救われる。それだけのことじゃよ。 さて……さすがに頑張り過ぎた。儂らは少し休むとしよう――― ジューチャオ: ありがとう、じっちゃんたち…… (五獣たちの姿を眺めながら、俺はふと思う。 黄帝たちは本当にもう力など残っていなかったのではないだろうか、と。) (だが、あの言葉で五獣たちは主人を信じ自分を信じて立ち上がれた。 それは紛れもなく信じることで生まれるμの力――) 人間さん: (信じることが力の源なら、言葉ひとつであれほどの力を出せる……語りかけるだけの能力が実は重要な局面では最強の能力だった……だからこそ信じる者は救われる――か) 人間さん: (さすが老獪だなぁ。俺なんかじゃかなわない。 もっとも真相を確かめる方法はないんだけど……) ティンカー・ベル: それで?この後どうする? 人間さん: チャイムとキャロルは目を覚まさないうちに拘束しておきたいな。 そしてオトギノクニに連れ帰ろう 雨依: ティンカの無実を晴らさなきゃいけないもんね ファンロン: この穴はまた閉じてしまうのかしら 雨依: たぶん ファンロン: そう……なら、この場でお祝いしましょうか。ねえ、みんな シェンウー: よかろう。宴の準備をすぐさせよう。 今宵はもう乱痴気騒ぎじゃな。楽しみじゃのう、こふふ 雨依: それ、飲み食いしてる最中に閉じそうになったら、慌てて通るってこと? ティンカー・ベル: めっちゃ落ち着かない……けど、このままバイバイも寂しいし、それしかないかもね! ジューチャオ: じゃあ宴会だー!あ、ねえ。ところでこの穴、何? チンロン: いま説明してましたけど……? 180087 - 同郷の朋友 ヴィーナス: よーっし、とうちゃーく! メルクリウス: ばっこーん! ユピテル: 一時はどうなることかと思いましたが アルテミス: 無事に着いてよかったね~ メルクリウス: 何せ人身ばっこんだからね。人生終わったかと思ったよ アルテミス: チャイムはどうなったんだろ ユピテル: 気になりますか アルテミス: どことなく、アルたちに似た感じ……あるでしょ? メルクリウス: 故郷のこと?そうだね……みんなはどう思うかな ヴィーナス: 湿っぽいのはナシだぞ。 いつも通り賑やかに、我らがこの世界に根を下ろしていることを――ん? ユピテル: 入口の雑草が抜かれていますね。先客があったのでしょうか (背景切換...) ヴィーナス: なんだ、来ていたのか ポステリオル: あ。邂逅 アリア: こんなところで会うなんてね。 いや、こんなところくらいでしか会う機会もないのだろうけど ヴィーナス: 久しぶりだな、アスクレピオス ポステリオル: 私はもうポステリオルとなった。こいつがいるから、アスクレピオスはコンビ名だ プリオル: え、私たちコンビだったんですか ヴィーナス: そう言えばそうだったな。久しぶりだから忘れていた アリア: それにしても、アナタたちは相変わらずそんな目立つ格好をしてるのね ヴィーナス: アイデンティティってやつだ。自分たちのルーツを忘れないようにな ユピテル: サンタ服に着替えてたりしませんでしたか? ヴィーナス: そんな日もあるだろ アルテミス: ……なんか、ここに来るといろいろ考えちゃうね。 あのときアルたちが全力で止めていたら、結果は違ったのかな、なんて ユピテル: どうでしょうか。あのとき、誰もがナーバスだったと思いますよ。 理想という名の毒を疑いもなく飲み干す程度には ポステリオル: ……私は、後悔している。でもアルたちが責任を感じる必要はない メルクリウス: あたしはもっと前のことを思い出しちゃうな。 まだ間もない頃に、みんなで湖にピクニック行ったりさ ヴィーナス: 楽しかったな…… プリオル: 私、なんだか予感がするんです プリオル: いつかまた、みんなで顔を合わせてお出かけできる日が来るんじゃないか―― アリア: 神官となった彼女たちが、このグランド・リヴィジョンの封印から解放されるとでも? ポステリオル: それよりも、仮に復活したとして 全員で仲良くピクニックに行く可能性の方が低いだろう アルテミス: 別に全員が仲良しだったわけじゃないもんねぇ プリオル: でもでも、私は巫女なんですよっ ポステリオル: ……そうだな。何も知らない者どもに祭り上げられただけの巫女だ プリオル: もうっ ヴィーナス: まあ、そんな優しい想像を楽しむくらいはいいだろ。今日くらいはな…… (背景切換...) ジューチャオ: お~い!みんな、こっちこっち パイフー: ジューチャオ、はしゃぎすぎ チンロン: はぁ、ふぅ、はぁ、ふぅ シェンウー: 頬を赤くして汗を流しながら、吐息でリズムを刻む……なんと卑猥なことか チンロン: そ、そんな目で見ないでくださいっ…… ここに来るまでが結構な上り坂だから辛いだけで……っ ファンロン: こんなこと言いたくないけど、もうちょっと運動したら? チンロン: し、してますよっ ファンロン: だって身体が重そうだから…… チンロン: 重いだなんてひどいです! ファンロン: ち、違うのよ。そういう意味の重いじゃなくて! チンロン: ふふ、分かってますよ。ちょっとからかっただけです パイフー: このあたりでお弁当にする? ジューチャオ: やったー!ねえねえ、タコさんソーセージ入ってる? パイフー: 入ってるし、それ聞いてくるの3回目だから。そろそろ面倒くさい シェンウー: それでは、わらわも酒を出そうかの。 見よ、思ったとおり満開の花畑じゃ。花見酒と洒落こもうぞ ファンロン: ふふ、いいわね。私もたまには飲もうかしら シェンウー: おぬしは隠れ酒豪だからのう ファンロン: 逃げも隠れもしないわよ。普段、家でひとりで飲む習慣がないだけ チンロン: えっと、あの、蒸留酒とかあります? シェンウー: こんなところでヘルシー志向を中途半端に出しても無意味じゃ。 今日くらいは好きなだけ食べて、好きなだけ飲むべきじゃろ パイフー: そうだね。我慢は身体によくないし、 チンロンが食べる前提でお弁当の量も考えてきたから チンロン: そうですよね!じゃあ、遠慮なく シェンウー: そして明日からは絶食、と チンロン: ええっ!そんなぁ! (…………。) ファンロン: それじゃあ……みんな、両手に杯を持った? ジューチャオ: うん。右手はあたしの分。左手は……じっちゃんの分 ファンロン: こうしてまた思い出の場所に来れたことに。 そして身を賭して世界を守った古のμに、感謝を パイフー: 感謝を シェンウー: わらわたちを、見守っていてくれ チンロン: 頂いた瓢箪は……いえ、目に見えないものも含めて、大切にしていきます ジューチャオ: ずっと大好きだよ、じっちゃん ファンロン: それでは、献杯 (背景切換...) ???: ずいぶんと長距離を移動したようだ。目隠しをされ、よく分からない場所へ案内されて……イマジュマイトのような波動を感じたが、詳しくは分からない。 確かなのは、私には相変わらず自由が保障されていないことくらいか ???: そう言えば出発前にも、どこかでイマジュマイトの揺れを感じた。遠すぎて、詳しくは何も分からないが、あれほどの衝撃波があるというのはかなりの量だったに違いない ???: しかし、彼女は私に何を求めているのだろうか。 このまま殺されるというのならそれもまた人生かもしれない。 だが、長々と連れ回すのだから、きっとそんな意図はないのだろう ???: これ以上、私の才能が世界を浸食するようなことは避け―― (背景切換...) ペロー: ああ、起きていましたか ???: ひゃうぅ!? ペロー: あなたには少し仕事をしてもらわないといけなくて ???: 悪いけど、私はもう…… ペロー: なんですか?声が小さくてよく聞こえませんでしたが ???: ぁぅ…… ペロー: あなたほど世界を変えた存在はいませんよ。もっと堂々とされればいいのに ???: だって……罪深いし……私のせいで……みんな……なのに、仕事って……何を…… ペロー: そろそろ聖母も焦れてきたようですからね。分かりやすい餌を用意しなくては ???: せいぼ?なにそれ ペロー: いいえ、こちらの話です ペロー: あと少し……焦ってはいけない、ペロー……。すべては深淵の闇のために…… (背景切換...) (かつて、とある国の片隅に小さな集落があった。 いつも陽気な彼らだったが、一日に一度だけ静けさに包まれるときがあった。 日没を迎え、水平線に沈む夕日に向かって、その日の恵みを感謝するのだ。) (牧歌的な暮らしは、もしかしたら正しくなかったかもしれない。 いや、それは『時代』だから、と彼女は思い浮かんだ思考を打ち消した。) (そもそも彼女は正しさなど追い求めてはいない。力をくれるから、ただそれだけだ。) (久しぶりに思い起こした過去の風景を振り払い、彼女は為すべきことに集中した――) (背景切換...) おばあさん: あら、見ない顔ね。こんなところに旅行? 女の子の一人旅なんて危ないんだから気を付けるのよ デュプリ: いやいや、二人旅ッスよ おばあさん: ……? デュプリ: ね、神官長。桜がきれいに咲いてますよ。お花、好きでしたっけ? たぶん大して好きじゃなかったですよね。今日から好きになってください レグルス: …… デュプリ: せっかくなんでお団子くらい食べま…… デュプリ: ……っ!?う、あっ……胸、が……っ、ううっ……! おばあさん: ちょ、ちょっと!?大丈夫!?だ、誰かお医者さんを! デュプリ: これ……まさか……っ レグルス: ……