3 - ティンカーベルを救え! シンデレラ: それにしても、本当に何もない島ね ピュルテ: 辺境の島ですからね シンデレラ: それで? ヴェルメリオちゃん、ここで何するの ヴェルメリオ: ……ここで……ティンカー・ベルと待ち合わせ…… ピュルテ: そうなんですか? でもティンカちゃんはいないみたいだから……先に着いちゃったのかな シンデレラ: それより人間さん、顔色が良くないみたいだけど大丈夫? ヴェルメリオ: 急に……違う世界来たから……? ピュルテ: そうだったんですか!? ごめんなさい、気付かなくて ピュルテ: 気にするなって…、そんなの無理です。だって私のせいなのに…… シンデレラ: 人間さんのためにも、別の場所に移動して休まなくちゃ シンデレラ: ところでティンカちゃんと会ってどうするの? ヴェルメリオ: これ……ティンカに渡す…… ピュルテ: わあ、アップルパイですね! 美味しそう! シンデレラ: やだ、人間さん。お腹が鳴ってるわよ ピュルテ: ティンカちゃんが好きなんですか? ヴェルメリオ: ていうか……ペトラが……好きみたい…… ピュルテ: ペトラさんって、あのネバーランドのペトラ・パン? へえー、そうなんですね シンデレラ: リンゴの香りがすごくいいわね ヴェルメリオ: 白雪さんの……リンゴ園で…… シンデレラ: 白雪の? 最高級品じゃない。それだけ素材が良ければ美味しいはずね ヴェルメリオ: わたしも……一生懸命作ったんだから…… ピュルテ: そうですよ、シンデレラさん。ヴェルメリオさんが作ったからこそ、ですよ シンデレラ: 分かってるわよ。あなたが焼くパイはいつも美味しいものね ヴェルメリオ: でも……ティンカー・ベル、こない…… ピュルテ: まさか何かあったんでしょうか…? シンデレラ: ちょっと待って。あそこにいるの、あれってティンカちゃんじゃない? ピュルテ: ホントだ! でもあれ、魔物に囲まれてるんじゃ!? ヴェルメリオ: 早く……助けなきゃ……! ピュルテ: 大丈夫!? ティンカちゃん ティンカー・ベル: 恐かったー! 島に着いたら魔物わっさわっさ出るし! ヴェルメリオ: ……大変だったね ティンカー・ベル: ずっと待ってたけど、ずきんが全然来ないから何かあったのか心配したわ! ヴェルメリオ: ……う……ご、ごめん シンデレラ: それは私達が巻き込んだからなの。遅くなってごめんね ティンカー・ベル: シンデレラ姐さん。久しぶり。こんなところまで珍しいね、姐さん ティンカー・ベル: それより、ピュルテの隣のあんた、何者? ピュルテ: この人はものすごく強い“エルマイト”を持っているんです。このオトギノクニの世界を救ってくれるかもしれませんよ! ティンカー・ベル: へーえ、救世主さま…ねぇ シンデレラ: ティンカちゃんだって分かってるでしょ。ここ最近の魔物が現れる頻度……異常よ ティンカー・ベル: 言われなくたって、ついさっき襲われたところ ヴェルメリオ: はい、これ……いつもの…… ピュルテ: いつもの? 何度もパイをもらってるんですか? ティンカー・ベル: ペトラが大好きだからね、1ヶ月に1回くらいはずきんに作ってもらうの。これで姿を見せてくれればいいけど… シンデレラ: 姿を見せて、って…何かあったの? ティンカー・ベル: ここ最近、姿を見せないんだ。ネバーランドのみんなも行き先を聞いてないって ヴェルメリオ: 心配…… ティンカー・ベル: でしょ。悪いことが起きてなければいいけど。あんた、救世主ならなんとかしてよ ピュルテ: 人間さんに分かりやすく言うと、魔物は世界の悪いエネルギーで生まれるんです シンデレラ: だから魔物が増えるってことは、世界が持っているパワーバランスが崩れてきていることを意味するの ティンカー・ベル: ちょっと!そんなこと言ってるそばから敵が出てきてるわ! ヴェルメリオ: やるしか……ない…… ピュルテ: なんとか片付きましたね ティンカー・ベル: ふうん。あんたのエルマイトの量、確かに相当なレベルみたいね。救世主を名乗るのもダテじゃない、か ピュルテ: ね。私がみつけてきた人間さん、すごいでしょ シンデレラ: にしても、本当にバランスがおかしいわね ヴェルメリオ: ……この人、よく分かってないみたい ピュルテ: あ、そうですよね! ピュルテ: えっと……この世界にはエルマイトとディマイトという2つの力が存在します。 シンデレラ: どちらも人間界の想像力を元にしたエネルギーだけど、“エルマイト”はポジティブな想像力なのに対して“ディマイト”はネガティブな空想をエネルギー源としているの ピュルテ: 人間さんがたくさん持っているのは、エルマイトの方ですね ティンカー・ベル: んで、さっき戦った魔物なんかはディマイトの力で生まれてくるわけ ピュルテ: じゃあ、そのディマイトをなくせばいいのかって? そういうわけでもないんですよ シンデレラ: バランスと言ったでしょ。偏り過ぎると必ず世界にひずみが生まれるわ ヴェルメリオ: ……何事も……ほどほどに ピュルテ: でもここ最近は、急激にディマイトが強くなりすぎてるんです。だからこそエルマイトを持っている人間さんの助けが必要なんです ティンカー・ベル: 2つの力のバランスはティンカたちにも影響するかもしれないの。だからペトラのことも心配なんだけど…… ヴェルメリオ: ……姿が見えないままなんだもんね ピュルテ: それでアップルパイ作戦なんですね ヴェルメリオ: ……きっと……うまくいく ティンカー・ベル: そう願ってるけどね…… ピュルテ: っ!! ティンカちゃん、危ないっ! ティンカー・ベル: あっ、アップルパイが! ヴェルメリオ: ……魔物が……持っていった ティンカー・ベル: ま、待てーっ! シンデレラ: ティンカちゃん! ……くっ、私達も追うわよ! 4 - 岩場の洞窟へ ティンカー・ベル: ああー、もう! 逃げ足早すぎ! ピュルテ: もうティンカちゃんてば、一人で追いかけるなんて ティンカー・ベル: だってペトラに渡す大切なパイなのに! あんな奴らに盗まれるなんて! シンデレラ: 魔物達はどこに行ったのかしら? ピュルテ: 人間さん?ああ、何故魔物がパイなんて盗むのか気になりますか? ヴェルメリオ: ……ただのパイじゃない。わたしの力作 ピュルテ: ヴェルメリオさんの作るアップルパイは、味だけじゃないんです。強い魔力が宿ってますから…… ティンカー・ベル: あった! ほら、足跡だよ! シンデレラ: これは……あの洞窟に続いてるみたいね ティンカー・ベル: よーし、突入してボッコボコにしてやる! ピュルテ: ティンカちゃん、落ち着いて ティンカー・ベル: だって、これで盗んだ奴らを追い詰めたんだよ! シンデレラ: たぶん魔物の巣ね ヴェルメリオ: ……一人で突っ込むのは……危険 ピュルテ: そうです。一旦冷静になりましょう! ヴェルメリオ: ……わたしの作ったパイ……絶対に取り戻す……! シンデレラ: 最高級の白雪のリンゴなんて、魔物になんかもったいなさすぎるわ! ヴェルメリオ: ……わたしも一緒に行く シンデレラ: 当然、私も行くわ! ティンカー・ベル: みんな!ありがとう!行くよっ! ピュルテ: どうします、人間さん……? ピュルテ: そうですよね、行くしかないですよね ティンカー・ベル: やった♪ パイを取り戻した! シンデレラ: これで一件落着かしらね ヴェルメリオ: ……ねえ、さっきの洞窟でこれ拾った ピュルテ: 洞窟で? ヴェルメリオ: ……一番奥の部屋に落ちてた シンデレラ: これは、長靴…… ティンカー・ベル: しかも、片方だけ? ピュルテ: 待ってください。私、これ誰のか知ってます シンデレラ: ほんとに? ピュルテ: はい……リルっていう友達なんです。こんなところに長靴だけ、しかも片方だけ落ちて…… ヴェルメリオ: ……何か……あったのかな ピュルテ: リルちゃん…… ティンカー・ベル: まあ、考えても仕方ないよ。落としただけかもしれないし ヴェルメリオ: ……え、そう? ティンカー・ベル: 早くこの島を出よう。急いでペトラにパイを届けなきゃ ピュルテ: で、でも……リルちゃんは剣の達人なんです。何も起きていないのに、靴を片方だけ置いていくなんて ティンカー・ベル: 靴が壊れたんじゃないの? シンデレラ: でも心配よね。そのリルって子、この島に今もいるんじゃない? ヴェルメリオ: ……みんなで探す? ピュルテ: ありがとうございます、皆さん! ティンカー・ベル: えー? もう、しょうがないなあ シンデレラ: 魔物とやりあったのは間違いないと思うのよね ピュルテ: この周辺に何か痕跡が残っているかもしれません シンデレラ: じゃあみんなで探しましょう ティンカー・ベル: あーあ、早くネバーランドに戻りたいのに…… ティンカー・ベル: えっ、何よあんた。人間のくせに何か言いたいことでもあるの? ティンカー・ベル: もしペトラが靴を落として消えたら? それはまあ、心配だけど…… ティンカー・ベル: ……分かったわよ。協力するってば。 ピュルテ: 皆さん、あれを見て! あの木の枝に帽子が シンデレラ: 次の手がかりを見つけたわね…… シンデレラ: この帽子、確かにそのリルって子のものなのね? ピュルテ: ええ、間違いありません ヴェルメリオ: ……付き合いの長い友達なの? ピュルテ: うん。すごく仲良くしてたの。最近は私が人間界に行き来してて会えなかったけど ヴェルメリオ: ……でも、リルは何してたんだろう? ピュルテ: リルちゃんは正義感が強い子だったから……今のこの状況の原因を突き止めようとしてるのかも シンデレラ: エルマイトとディマイトのバランスが崩れてること? ティンカー・ベル: 人間界がみんなネガティブ思考になっちゃってるんじゃないの? ピュルテ: 私も最初はそう思ってました。でも、実際に私は人間界に行ったんです ヴェルメリオ: ……違ったの? ピュルテ: 特別、偏っているようには思えなかったんです シンデレラ: エネルギーのもとになる人間界が、自然に変化したわけじゃないのね ティンカー・ベル: 自然じゃないってことは、その反対は、えーっと? ヴェルメリオ: ……人為的 シンデレラ: そんなの……ありえないわ ピュルテ: 真相が何なのかは、私にもまだ分かりません。でもきっと何かヒントがあるはずなんです ヴェルメリオ: ……気になる シンデレラ: 魔物が増えるくらいならどうにかなるけど、もっとひどいことになったりしたら…… ティンカー・ベル: そしたらペトラにも会えなくなっちゃう? そんなの困るよ! ピュルテ: ええ……こうして人間さんと出会えたことも、ちゃんとリルちゃんに報告したいんですが シンデレラ: 伝えたら、何か分かるかもしれない? ティンカー・ベル: ねえ、あの白い手袋は? その子のものかなあ? ピュルテ: え、どこですか!? ティンカー・ベル: ほら、あそこ。枝に引っかかって、風で飛んでいきそうな ピュルテ: ああっ、リルちゃんのです! シンデレラ: 飛んでいく前につかまえないと! 5 - 手袋!? リル発見!!Ⅰ ピュルテ: やっぱりリルちゃんの手袋だ ヴェルメリオ: ……ということは シンデレラ: こっちの方向で間違いないのね ティンカー・ベル: どこまで行っちゃったのかなあ シンデレラ: あそこにも手袋があるわ! (背景切換...) ピュルテ: 手袋を辿ってきたら…… シンデレラ: いかにも、って感じの洞窟が出てきたわね ヴェルメリオ: ……さっきの洞窟に似てる ティンカー・ベル: ほんとだ。同じような魔物の群れかなあ ヴェルメリオ: ……同じなら……楽勝 ティンカー・ベル: もっと強いのが出てきたら? ヴェルメリオ: ……えっ ティンカー・ベル: そんなときは姐さんの出番だよね! シンデレラ: なんで私なのよ! ティンカー・ベル: 貧乏くじ引くのは姐さんの役割でしょ シンデレラ: 誰が貧乏ですって!? ヴェルメリオ: ……中の魔物に気付かれる……落ち着いて ピュルテ: 皆さん、ありがとうございます……! ティンカー・ベル: いいって、いいって! さくっとやっつけて、そのリルって子を助けないと! ピュルテ: 人間さんも……いきなり違う世界に来たのに、人助けに一生懸命になってくれて…… ピュルテ: 本当にありがとうございます。この御礼はちゃんと……え、ええ、そうですね。まずは助け出してからですよね! シンデレラ: ふう……これで片付いたわね ヴェルメリオ: ……リルは? ティンカー・ベル: そこの陰に誰か倒れてるよ! ピュルテ: リルちゃん! シンデレラ: あちこちに傷があるわ。特に……右腕の傷が深そうね ピュルテ: リルちゃん、しっかりして! リル: んん……君は、ピュルテ……? これは一体…… ピュルテ: よかった……! もう大丈夫よ シンデレラ: 怪我はしてるけど、それでも無事で何よりね ティンカー・ベル: さ、あとは島から出るだけだね! ピュルテ: それじゃ、やっぱりディマイトが増えているのを調べるために? リル: ああ……だが、結果は空振りだった上に、こんな怪我までしてしまった シンデレラ: でも、ディマイトが増えてるのは、何か原因がありそうなの? リル: そうだと小生はにらんでいる。が、推測の域を出ないがね ティンカー・ベル: ふーん。でもネコは剣の達人なんでしょ リル: ネコ、というのは小生のことを呼んでいるのかな、ティンカ殿 ティンカー・ベル: 他にいないでしょ? リル: 大した腕ではないよ。現にこうして負傷して、貴殿らの世話になっているのだからね ピュルテ: 仕方ないよ、大勢できたんでしょ リル: ところで貴殿が……エルマイトをもたらす人間界からの…… ピュルテ: そうなの! 人間さんならきっと、世界を救ってくれる! シンデレラ: それより、もう島を出たほうがいいんじゃない? リルの治療も必要でしょ ティンカー・ベル: さんせーい。これ以上、ここにいる理由もないもんね ヴェルメリオ: ……わたしとティンカ……ボートで来た シンデレラ: えーっと、1、2……6人。2艘あれば、充分乗っていけるかしら ヴェルメリオ: ……往復するの……辛い ティンカー・ベル: 平気、平気。3人ずつくらい乗れるって ピュルテ: ボートはどこに? ティンカー・ベル: 島の端にある波止場だよ。ここから少し歩いたとこ シンデレラ: 分かったわ。急ぎましょ ピュルテ: リルちゃん。そこまで歩いていける? 大丈夫? リル: 心配ない。負傷しているのは主に腕だから移動は大丈夫だ シンデレラ: でも、その様子じゃバトルは厳しそうね リル: 足手まといになってしまってすまない ヴェルメリオ: ……いいの……気にしないで ティンカー・ベル: ティンカたちだけで大丈夫ってとこ、見せてあげるよ! シンデレラ: ふう、なんとかなったわね リル: この傷さえなければ戦えたものを…… ティンカー・ベル: しょうがないって。だってほら、人間のあんたも言ってたよね。助け合い、って リル: すまない。今は貴殿の言葉に甘えさせてもらう ピュルテ: 私も戦闘向きの能力じゃないので、魔物に襲われたときは何のお役にも立てなくて ティンカー・ベル: そんなこと気にしなくていいんだよ! 姐さんがひと暴れしてくれたら万事解決! シンデレラ: なんで私なのよ! ピュルテ: あ、でも確かにシンデレラさんは急にエルマイトの量が増えましたよね シンデレラ: え……? そ、そうかしら? ピュルテ: そうですよ! たぶん人間さんとクロスしてからなんじゃ? シンデレラ: ちょ、ちょっと! みんなの前で! ピュルテ: え? それって内緒にしておくものなんですか? ヴェルメリオ: ……クロス シンデレラ: 内緒ってわけじゃないけど…… ティンカー・ベル: ははん、ピュルテはクロスが具体的にどんなことするのか知らないのね シンデレラ: いいのよ、教えないで! ピュルテちゃんを汚さないで! ピュルテ: そんなに……? なんかシンデレラさん、ごめんなさい リル: まあ戦闘向きでないピュルテがクロスすることはないだろうし、敢えて知らなくてもいいんじゃないか ピュルテ: 人間さんは当然、シンデレラさんとクロスしてるから中身も知ってるんですよね? シンデレラ: 人間さん、言うんじゃないわよ! ティンカー・ベル: でもさ。ってことはさ、今のシンデレラの強さがあるのは、この人のおかげとも言えるんじゃない? ヴェルメリオ: ……じゃあ……連れてきたピュルテも シンデレラ: そっか、そうね。ピュルテちゃんが人間さんを連れてきたおかげね リル: ん、あそこに見えるのは灯台じゃないか ヴェルメリオ: ……波止場まであと少し 6 - 乗ってきたボート…Ⅰ ピュルテ: ようやく波止場まで着きましたね シンデレラ: それで? ボートはどこなの? ヴェルメリオ: ……この門の……向こう ティンカー・ベル: 門が閉じているせいで船着き場まで行けなくなってる! リル: 門の操作は……こういう場合は大抵、あそこにあるんじゃないか シンデレラ: 灯台? 確かにすぐ近くに立ってるわね ヴェルメリオ: ……灯台……魔物だらけ リル: 確かに外から見るだけでも、魔物が陣取ってるようだけど シンデレラ: だからって逃げるわけにはいかないじゃない ティンカー・ベル: 3階建てだから、とりあえず全員魔物をぶちのめした後、ワンフロアずつチェックが必要だね ピュルテ: よーし、それじゃ行きますよ! ティンカー・ベル: これで魔物は全滅だね! リル: あった、これが門を開く装置だな。よし、行くぞ…… ヴェルメリオ: ……待って ティンカー・ベル: どうしたの、ずきん。早いとこ門を開けて、みんなボートに…… ヴェルメリオ: ……あれを見て……あれ、私の乗ってきたボート ピュルテ: そんな! ボートが壊されてる!? ティンカー・ベル: ずきんの乗ってきたボートだけじゃない! ティンカが乗ってきたボートもだよ! シンデレラ: 妙ね……魔物がボートを壊したの? 私たちの行動を先読みして……? そんな知能が奴らにあるのかしら リル: いずれにしても、他の手段を考える必要があるようだな 7 - いざボート修理へ! ティンカー・ベル: これじゃ島から出られないじゃん! シンデレラ: 壊されたボートを修理できないかしら ヴェルメリオ: ……ティンカ、魔法……使える ティンカー・ベル: このボートは魔法で壊されてる。魔法で壊されたものは魔法で直せないの ピュルテ: え、人間さん? …ああ、この世界では船以外の移動手段はないのかってことですね? ピュルテ: この小さな島には、みんなボートで来たんです。オトギノクニは他にもいくつかの国や島があって、それぞれ移動手段が異なります シンデレラ: 私たち、それぞれ別の国に住んでるの。私は大きなお城のある国 ヴェルメリオ: ……私は森 ティンカー・ベル: ティンカはネバーランド。すっごくいいトコ。ぺトラと一緒だしね ピュルテ: 人間さんの住んでる人間界も、とてもいいところなんですよ。色々便利な物があって、特に私はコンビニという所が好きで… ピュルテ: はっ!……人間さん、本当は人間界に戻りたいですよね。こんな大変なことに巻き込んでしまってごめんなさい!! リル: 小生も早く国に戻らなくては。王を守るのが小生の役目。ボートの修理を…っう! ピュルテ: 無理しちゃだめ、リルちゃん! ひどい怪我をしてるんだから シンデレラ: 人間さんが修理を手伝ってくれるっていうけど、道具もないしね ヴェルメリオ: ……修理する材料もない ティンカー・ベル: そうだ!みんなで手分けして道具や材料になるものを探そうよ!! ピュルテ: そうですね!そうしましょう シンデレラ: でもバラバラになったら危ないわ。全員で行動した方がいいわね ヴェルメリオ: ……それじゃ……さっそく行こう シンデレラ: ふぅ、本当に魔物だらけね ヴェルメリオ: ……キリがない ティンカー・ベル: ティンカ、ペトラが心配!ペトラは強いけど、こんなに魔物が多くちゃ危ないよ! ピュルテ: 人間さん、なんですか?え?魔物はどこからどうやってこの島に来たのか?……は!そ、それは確かにそうですね! ティンカー・ベル: 地面から湧いてるんじゃない? ヴェルメリオ: …‥魔法で生まれてる? ピュルテ: 羽があって飛んでくるとか?! シンデレラ: 地面に穴があいてる形跡はないし、魔物みんなに羽が生えてるわけじゃない。魔法っていうのが一番有力な説だけど…… シンデレラ: ええ、そうね。人間さんの言うとおり。この島には魔法が使える魔物はいなかったわ ピュルテ: 私たちと同じように、ボートか何かで渡ってきているのかも リル: ちょっと待ってくれ。そういえば……この島に地下通路があるという話を聞いたことがある ピュルテ: リルちゃん、それ本当?! リル: すっかり失念していたが、前に我が王に聞いたことがある。小さな島に、オズの国へ続く地下道があると ヴェルメリオ: ……オズの国……そこに行けば……船もある ティンカー・ベル: それならすぐにその地下道に行こう! ネコ、場所はどこ? リル: 小生も場所までは分からないんだ ティンカー・ベル: なぁんだ。ガッカリ~ リル: ただ、そのオズの国へと続く地下道には門があり、2つの鍵が必要らしい ヴェルメリオ: ……鍵?……2つも シンデレラ: でもその地下道を魔物も通ってきているのかも ティンカー・ベル: 多少危険でも、行く価値あるよ! シンデレラ: 念のために確認するけど、その鍵のありかをリルちゃんは知らないわよね? リル: 残念ながら ピュルテ: 探すしかないですね!2つの鍵 ティンカー・ベル: よーし、それじゃ出発! 8 - パイ争奪戦っ!? シンデレラ: もう魔物ばっかり。鍵を見つけるまで、ずっとこんな調子なのかしら ティンカー・ベル: そう言えば鍵ってどこにあるんだろ リル: 1つめはあの丘を越えたあたりのはず ピュルテ: もうちょっとかかりそうですね…… リル: 皆すまない。小生も戦いに参加できればよいのだが…… ヴェルメリオ: ……怪我治すほうが先……気にしない ((グウゥゥゥ〜〜〜)) ヴェルメリオ: ……お腹すいた ((グウゥゥゥ〜〜〜)) リル: ……すまない。小生も3日前から何も食べていなくて シンデレラ: まさか島から出られないと思ってなかったから、食糧も持ってこなかったのよね ピュルテ: 人間さんもお腹すきましたよね。私何か食べられる木の実とか探してきます! ヴェルメリオ: ……私の作ったパイ……ある ティンカー・ベル: え!? シンデレラ: ヴェルメリオちゃんの作ったパイ? でも、それってペトラに持って帰るものでしょ? ピュルテ: ええ、人間さん。ヴェルちゃんのパイは本当においしいんです。でもティンカちゃんも持って帰らないといけないですから ピュルテ: でも本当に……おいしいんです…… ティンカー・ベル: な、何見てるのよっ! ヴェルメリオ: ……また作るから……ティンカ、ちょうだい ティンカー・ベル: えぇっ?! ヴェルメリオ: ……みんなずっと何も食べてない ティンカー・ベル: ダメ! ティンカー・ベル: ダメダメダメダメダメっ! ティンカー・ベル: 絶対にダメ! これはペトラに渡すパイだもん! 誰にもあげないんだから! ヴェルメリオ: ……緊急事態なのに ティンカー・ベル: 知らない! そんなのティンカには関係ない! ピュルテが食べ物探しに行くって言ったじゃん。行けばいいんだよ ピュルテ: そ、……それじゃ、やっぱり私、木の実を……え、人間さん? どうしたんですか ティンカー・ベル: 何よ、言いたいことって ティンカー・ベル: なっ、ぺトラをバカにするの!? ぺトラは自分だけ良ければなんてことしない、いつだって弱い子の味方なんだから! ティンカー・ベル: そ、それは……みんなを困らせてまで守ったパイなんて、ぺトラならきっと喜ばない……とは思うけど…… ティンカー・ベル: ……分かったよ ピュルテ: ティンカちゃん…… リル: ……っと、この気配は シンデレラ: ゆっくりさせてもらえそうにないわね! シンデレラ: リンゴの自然な甘さね リル: 素晴らしい出来栄えだ ヴェルメリオ: ……当然 ティンカー・ベル: あんたに、あそこまで言われたらね ティンカー・ベル: ……別にお礼なんて要らないってば ピュルテ: ティンカちゃんも一緒に食べよ ティンカー・ベル: ……あんた、何者なの。異世界から来たんでしょ ピュルテ: 人間さんは強力なエルマイトを持っているんです。強いディマイトでバランスが崩れている今の世界を救えるかもしれないんです ティンカー・ベル: どのくらい旅してるの? ヴェルメリオ: ……まだ……数日 ティンカー・ベル: なにそれマジで? あんた、適応力高すぎじゃない? シンデレラ: 確かに。しかも元の世界に戻れなくなったわけだし リル: なんと。それでは、これからどうするんだ ピュルテ: それはリルちゃんにも相談したかったの リル: いま、世界のあちこちで妙な出来事ばかり起きている。おそらく強すぎるディマイトの影響だ シンデレラ: それを1つずつ抑え込んでいこうってわけ? リル: 今の時点では、他に手がない。だが、各地のディマイトを封じるうちに、必ず世界のバランスが崩れた原因が見つかるはずだ ヴェルメリオ: ……気の長い話だけど リル: いつ終わるとも分からない長い旅になるだろう。だから貴殿には改めて聞く リル: この世界を巡る旅に、共についてきてくれるか? ピュルテ: ……人間さん。そう言っていただけて、本当にありがたいです ティンカー・ベル: あ、あんた、バカじゃないの? こんな重要で、しかも責任重大なこと、即答でイエスなんて…… シンデレラ: なーんだ、旅を断ったら私の街で面倒見ようと思ってたのに。仕方ないからお供するわ ヴェルメリオ: ……わたしも……ついてくから ティンカー・ベル: あんた……自分の世界に帰れないっていうのに、どうして…… ティンカー・ベル: 決めた。ティンカも一緒に行く。あんたもそれで、いいでしょ? リル: では決まりだな。このメンバーで旅をすることになりそうだ ピュルテ: 改めて、よろしくお願いします! ヴェルメリオ: ……暗くなってきた シンデレラ: 今から無理に進むのは危険ね ピュルテ: 人間さんも疲れましたよね。このあたりで休んだほうがいいと思います ティンカー・ベル: ネコは……傷、どうなの? リル: 大丈夫。思うようには動かないが痛みは少しマシになってきた ピュルテ: 夜は魔物も活発になるって聞いたことがあります シンデレラ: そうね、魔物は夜に活動するものが多い。夜のダンジョンに入るのは自殺行為よ リル: 明るいうちに夜営できる場所を探しておいた方がいいな ヴェルメリオ: ……森の奥……きっと洞穴とかある ティンカー・ベル: ねえ、ちょっとあんた。歩きながらでいいから話さない? ティンカー・ベル: ……聞いておきたかったんだ。ティンカが旅についていくって勝手に言ったこと ティンカー・ベル: 嫌じゃ……なかった? ティンカー・ベル: そ、そっか。ならいいんだけどさ ピュルテ: なに2人で話してるんですか? ティンカー・ベル: なんでもないよ! ピュルテ: でも、こうしてみんなで外で寝泊まりするの、なんだか楽しいですね シンデレラ: のんきでいいわね。これから、それが当たり前の生活になっていくのよ ピュルテ: だから楽しめるのは今のうち、ですよ シンデレラ: ふふ、ピュルテちゃんのそういうポジティブな感じ、嫌いじゃないわ ヴェルメリオ: ……でも、わたし……外で眠れるかな ティンカー・ベル: ティンカ、あったかいココア飲まないと眠れないんだよね シンデレラ: あ~寝る前に一杯やりたいわ~ ピュルテ: えっ、人間さんも!? 女の子と添い寝じゃないと眠れない!? わ、分かりました、私で良ければ…… シンデレラ: 落ち着いて。人間さんにからかわれてるのよ、ピュルテちゃん リル: 見てみろ。あの洞穴、夜営にちょうどいいと思わないか ティンカー・ベル: あ、いいかも! って、魔物がたむろしてるんですけど!? ヴェルメリオ: ……仕方ない……叩き出す 9 - なんでも気になるティンカーベルⅠ ピュルテ: さてと、それじゃ場所も確保できましたし リル: 夜営の準備に取り掛かろう シンデレラ: 手分けした方が早いかもね。行きましょう、人間さん (背景切換...) シンデレラ: うん、だいぶ薪も集まったわね シンデレラ: え……? 何か話があるんじゃないかって? 何よ、たまには2人になりたいって思うのはいけないこと? ティンカー・ベル: おーい! シンデレラ: ティンカちゃん。どうしたのよ ティンカー・ベル: へへ、実は……姐さんに聞きたいことがあって シンデレラ: 私に聞きたいこと? ティンカー・ベル: 姐さん、前よりもエルマイトが強くなってるって聞いて。どうやったの? シンデレラ: それは人間さんのおかげなの。強いエルマイトを持ってて、私に分けてくれたのよ ティンカー・ベル: どうやって!? シンデレラ: クロスよ。人間さんの体の中にあるものを、私の体の中に注ぎこんだの ティンカー・ベル: 中に注ぐって、え、まさか シンデレラ: ティンカちゃんには早かったかしら ティンカー・ベル: ばっ、バカにしないでよ! ティンカ、妖精だから子供っぽく見えるけど、立派な大人なんだからね! ティンカー・ベル: てことは、じゃあ姐さんとあんたは、そういう……ふうん シンデレラ: い、いいじゃないの。さあ、戻りましょう ティンカー・ベル: そっか……クロスか…… (背景切換...) ティンカー・ベル: やっと戻ってきた~…って、洞穴に魔物が集まってる! シンデレラ: どういうこと!? ピュルテ: さっき倒した魔物の仲間が戻ってきたんです! 合流してくださいっ! ティンカー・ベル: あそこに見えるのが目的地!? リル: ああ、そうだ。2つある砦のうちの1つ。あそこに鍵があるはずだ ティンカー・ベル: よーし、行くぞー! ピュルテ: ティンカちゃん、元気いっぱいですね ヴェルメリオ: ……何か……あったんじゃない? ピュルテ: えっ、ヴェルちゃん、どうして人間さんを見て……何か知ってるんですか、人間さん? シンデレラ: 嘘が下手ね、人間さん。何か知ってる顔 ティンカー・ベル: みんな、早く早くー! シンデレラ: ねえ人間さん、まさかティンカちゃんと……クロスしたの? ピュルテ: 人間さん、大丈夫ですか!? 急に咳き込んだりして! 待ってください、いま水筒から水を…… シンデレラ: ふうん。じゃあ、私だけの人間さんじゃなくなった、ってわけね ピュルテ: クロスでエルマイトを上げれば、みんな強くなれるんですから、シンデレラさんだけなんてもったいないですよ ヴェルメリオ: ……ピュルテ……クロスのこと、よく知らないから (背景切換...) ティンカー・ベル: この砦に鍵があるんだね! ヴェルメリオ: ……魔物がうようよいるけど シンデレラ: ずっと島に閉じ込められてるよりはマシよ リル: そのとおり。しかしティンカ殿、ずいぶん強気だな シンデレラ: 強くなったはずだから、腕試ししたくて仕方ないんじゃないかしら リル: ほう、昨日の今日で急に強くなったのか ピュルテ: ええ、ティンカちゃん、人間さんとクロスしたんですよね! ティンカー・ベル: ちょ、ちょっと、ピュルテ!? ヴェルメリオ: ……言っちゃった リル: なるほど、クロスか ティンカー・ベル: 信じらんない! みんなの前で大声で言うなんて! ティンカー・ベル: あんたもあんたよ! どうしてピュルテが知ってるのよ! こういうのは、2人だけの秘密なんじゃないの!? シンデレラ: へーえ、2人だけの秘密ねえ ティンカー・ベル: も、もういいっ! さくっと倒して、早く鍵をゲットするよ! ヴェルメリオ: ……はいはい 10 - 1つ目の鍵GET! ティンカー・ベル: 鍵ゲットー! シンデレラ: これで一歩、島の脱出に近づいたわね ピュルテ: 本当にティンカちゃん、強くなってましたね! ヴェルメリオ: ……大活躍 リル: 見違えるようだな。これから鍛錬を積めば、さらに期待できる ティンカー・ベル: 鍛錬はやだなあ…… ヴェルメリオ: ……クロスの効果? シンデレラ: そのとおりよ。自分でもびっくりするくらい変わるんだから ヴェルメリオ: ……ふうん……そんなにすごいの ティンカー・ベル: あっ、ずきんもクロスしようとか考えてる!? ヴェルメリオ: ……別に……ちょっと興味があるだけ ピュルテ: どんどん、した方がいいですよ! ね、人間さん! ……どうして顔が引きつってるんですか? ヴェルメリオ: ……どんどんって リル: しかし、これから旅を続けていけば、自然とそうなるのでは? シンデレラ: 確かにそうね。旅先でたくさんの仲間と出会って、その仲間の力を解放することになるわよね ピュルテ: そうです! そしたらバランスももとに戻って、世界は救われるんじゃないでしょうか! ヴェルメリオ: ……そうだね……一理あるかも ピュルテ: だから人間さんには、世界中でクロスしてほしいんです! ねっ! リル: 貴殿が戸惑うのも分かるが、まあ、ピュルテの言っていることは的外れということもない ティンカー・ベル: 世界を救うのは大事だけどさ。そのための旅なんだし。でもなあ…… リル: どうしたんだ、ティンカ殿 ティンカー・ベル: あんたが、いろんな人と……って、なんかやだなあ シンデレラ: 分かるわ。まあ私は、実際にそれ味わってるんだけど ティンカー・ベル: それに、強くなるのだけが目的じゃなかったしさ シンデレラ: 私だって、キッカケはエルマイトの強化だけど…… ピュルテ: そういうものなんですか? リル: まあ、今からそんな心配をしていても仕方ない ピュルテ: 人間さん、たくさんクロスしてくださいね! ティンカー・ベル: これ、意味知ったらどんな反応するんだろ…… 11 - 2つ目の鍵 シンデレラ: もう1つの鍵がある砦は、どのあたりなの? リル: もうすぐだよ。あと少し歩いて、森を抜けた先だ ティンカー・ベル: で、その鍵を使って地下通路から抜け出したら、どこにつながってるんだっけ? リル: オズの国だよ。以前、少し立ち寄ったことがあるんだが、自然が豊かでいい国だ ピュルテ: そこでリルちゃんの傷の治療もできそう? ヴェルメリオ: ……また、こんなド田舎だったら シンデレラ: 街くらいあるでしょ。ああ、早くベッドで眠りたいわ ピュルテ: 街があれば、新しく仲間も増やせるかもしれませんね! ティンカー・ベル: そりゃそうでしょ、人がいるんだから。ティンカ、この島で木しか見てないもの ピュルテ: あっ、何か見えてきた! あれが第2の砦ですね! (背景切換...) ピュルテ: 到着しましたね! ティンカー・ベル: よーし、今度も蹴散らしてやるっ! って……あれっ ヴェルメリオ: ……なんかさっきより……大きくない? シンデレラ: そう言われてみれば、ちょっと大きいような リル: 当然、魔物の数も多いだろうね ヴェルメリオ: ……死んじゃうかも ティンカー・ベル: いやいや、そこまでじゃないでしょ! ちょっと数が多いくらいで、どうってことないよ! シンデレラ: 頼もしいわね。じゃあ、任せちゃうわ ティンカー・ベル: どうして人任せなワケ!? 協力して倒せばいいじゃん! シンデレラ: あらあ、ティンカちゃんの口から協力なんて言葉が出てくるなんて ティンカー・ベル: こないだのパイのことなら、ティンカが悪かったってばー! ピュルテ: ちょ、ちょっとシンデレラさん! シンデレラ: 大丈夫よ、ちょっとからかっただけ ヴェルメリオ: ……ほんとに……入るの? ピュルテ: 大丈夫ですよ! 2人もクロスしてる人がいるんですから! ヴェルメリオ: ……じゃあわたしだけ死ぬ? ティンカー・ベル: 大丈夫! ずきんは心配しすぎ! ティンカがまとめて守ってあげるって! シンデレラ: さあ、行くわよ! ピュルテ: やりましたね! これで鍵が2つ揃いました! ヴェルメリオ: ……島から……出られる リル: ここから地下通路までは、そう遠くないはずだよ ティンカー・ベル: もう疲れたよー。さっさと街に行って休みたい~ シンデレラ: 私も、ゆっくりお風呂に入りたいわ ピュルテ: ごはんも、まともなものが食べられますね リル: まともな食事と言えば、ヴェル殿のアップルパイくらいだからな シンデレラ: ねえ、そう言えば切実な問題なのだけど ピュルテ: なんです、急に改まって シンデレラ: この島を出て一息ついたら、人間さんと一緒に世界を巡る旅に出るのよね? ピュルテ: そうです。そして世界中のディマイトを抑え込んで平和を…… シンデレラ: うん、それはいいの。でね、行く先々で宿にも泊まれば食事もするわけよね ティンカー・ベル: 知らない国の、珍しいものも食べられるんだ! たっのしみ~! シンデレラ: そうじゃなくて。そういうお金って、どこの誰が出してくれるの? ピュルテ: ……世界を救うので シンデレラ: 世界を救ってます!って旗とか持ってるとタダでごはん食べられるの? ヴェルメリオ: ……それはないよね リル: 安心してくれ。我が主から当面の資金は預かっている ピュルテ: そ、そうなんだ! ですって、安心して下さい! ティンカー・ベル: ですって、じゃないでしょ、ピュルテ…… ヴェルメリオ: ……そう言えば……オズの国 シンデレラ: なあに、まだ何かあるの? ヴェルメリオ: ……最近、おかしなことが続くって ピュルテ: えっ、じゃあもうディマイトの影響を受けはじめているんでしょうか ティンカー・ベル: いいじゃない。そういうの直しに旅するんでしょ? 早速ティンカたちが活躍できるじゃん! リル: しかし、不穏ですね。一体、何が起きているんでしょうか…… ティンカー・ベル: ここが地下道に繋がってるんだね ヴェルメリオ: ……鍵は……もう少し先? リル: 通路の手前に扉があるはずだよ ピュルテ: そこで鍵を使って通路に入れば、無事に島を出てオズの国へたどり着けるんですね シンデレラ: やっと、この島ともお別れね ティンカー・ベル: うわあ、なんかジメジメしてるし……気持ち悪いなあ ヴェルメリオ: ……それに……くさい ピュルテ: そうですね。なんかカビ臭いような、なんていうか シンデレラ: 空気が淀んでるのね。ほとんど風も入らないから ティンカー・ベル: あっ、扉だ! ピュルテ: ここに鍵を挿すみたいです シンデレラ: ということは、この先が地下通路ね ティンカー・ベル: すぐにオズにつながるの? リル: いや、この扉を超えたら更に地下へと降りていかなくてはならない。その途中には…… ヴェルメリオ: ……魔物……いっぱい? リル: おそらくは ピュルテ: まだまだ危険がいっぱいなんですね シンデレラ: ここが踏ん張りどころね リル: でも通路を抜ければ、もうオズの国だ ティンカー・ベル: 大丈夫かな……なんか暗いし、湿っぽいし、なんか不安 ヴェルメリオ: ……大丈夫……一人じゃない ピュルテ: そうですよ。何より、私たちには人間さんがついてるんですから ティンカー・ベル: そうだよね。あんた、私から離れないでよね! シンデレラ: だいたいティンカちゃん、あなたクロスまでしてるくせにそんなに弱気ってどういうこと? ティンカー・ベル: べ、別にちょっと怖いって思うくらい、いいじゃん! ピュルテ: 人間さん、私ももう少し傍にいていいですか? シンデレラ: さあ、扉を開けるわよ!構えて! 12 - 地下通路を抜けて ピュルテ: 出口です! みなさん、出口ですよ! ティンカー・ベル: やったー! 出口だ! シンデレラ: ……ってことは、ここはオズの国? (背景切換...) ヴェルメリオ: ……黄色い道。……確かにオズの国 ピュルテ: リルちゃん、大丈夫?顔色が悪いわ リル: 問題ない。少し貧血気味なだけだ。……すまない、貴殿に支えてもらってしまって シンデレラ: リルの事も休ませなくてはいけないし、どこか近くに町や村がないかしら ヴェルメリオ: オズの国には……いくつか町があったはず ピュルテ: えっと、一番大きな町がエメラルドの都で確かそこにはオズって魔法使いがいるんです。ほかには賢いかかしが仕切ってるマンチキンの町、勇敢なライオンがいる森、優しいブリキのきこりがいるウインキーの町があります シンデレラ: 詳しいのね、さすがピュルテちゃん ピュルテ: ここがどこかまではわからないのですが、この黄色い道は必ずどこかの町につながっているはずです ティンカー・ベル: とりあえず進むしかないよね。 猫、もうちょっとだけ歩ける? リル: 問題ない。……っつ! シンデレラ: あ、危ない! 無理しちゃダメよ! ピュルテ: え? 人間さん、リルちゃんを背負ってくれるのですか? シンデレラ: さすが人間さん!優しいのね リル: いや、そういうわけにはいかない!地下道の中もずっと小生を支えて歩いてきたのだ。貴殿も疲労が激しいはず リル: う、うむ。心配するなと言われても…… ヴェルメリオ: ……好意に今は甘えるべき ティンカー・ベル: そうだよ。遠慮してるとわたしがおんぶされちゃうぞ~ リル: ……本当に申し訳ない。今は貴殿の好意に甘えさせてもらう ピュルテ: よかったですね! リルちゃん。……人間さん、私からもお礼を言わせてください。ありがとうございます。本当に人間さんがいてくれてよかった シンデレラ: 苦しいときは助け合い。あまり気にしすぎないようにしましょ シンデレラ: 街だわ!  ピュルテ: ここは……マンチキンの街ですね ティンカー・ベル: マンチキン? マンチキンって? ピュルテ: この街に住む人たちです ヴェルメリオ: ……ここでリルの手当て出来る ピュルテ: そうですね! よかったね、リルちゃん シンデレラ: 私たちも休憩させてもらいましょう (背景切換...) ティンカー・ベル: へえ、街全体が赤で統一されてるんだね ピュルテ: 私、ちょっとマンチキンの方たちに休憩場所と怪我の手当てを頼んできます ヴェルメリオ: ……オズの国……ドロシーに会えるかな ティンカー・ベル: 友達がいるの? ヴェルメリオ: ……うん、エメラルドの都ってとこに ティンカー・ベル: へー! じゃあ会いに行こうよ! ピュルテ: みなさーん! マンチキンの方が家を一軒貸してくださいました。リルちゃんの怪我も手当してくれるそうです マンチキン1: 先ほど、魔物を退治してくれたと聞きました。ありがとうございます。どうぞみなさんもこちらで休んでいってください リル: もう大丈夫だ、降ろしてくれ。貴殿には感謝でいっぱいだ、ありがとう ティンカー・ベル: ねぇ、エメラルドの都ってここから遠いの? マンチキン1: そうですね……少し遠いです。ただ、黄色いレンガの道をまっすぐ進めば着きます ティンカー・ベル: ずきんの友達がいるんだって。えっと、誰だっけ?ドロシー? マンチキン1: あなたはドロシーのお友達ですか。……でも最近、ドロシーの姿を見ないのです ヴェルメリオ: え?…… マンチキン1: 自分の世界に戻っているのかも。ドロシーは魔法の靴があるので、簡単に遠くに行けますから ヴェルメリオ: ……あ、そっか……ドロシーも人間 ピュルテ: ま、待ってください! その魔法の靴、人間界にまで行けるんですか!? シンデレラ: どうしたの、そんなにあわてて ピュルテ: それがあれば、人間さんを元の世界に戻せるじゃないですか! マンチキン1: わああ、大変だ! 町の入口に魔物が! シンデレラ: 大丈夫、ここは私たちに任せて! 13 - リルは休んでて マンチキン1: 魔物を退治してくださって、ありがとうございました!!! ティンカー・ベル: ティンカ様にかかれば、魔物なんてちょちょいのちょーいだよ☆ ヴェルメリオ: 魔物がいっぱい……ドロシー、心配 シンデレラ: 魔法の靴で人間界に行ってるのかもしれないんでしょ? マンチキン2: かかしならドロシーの行方を知っているかもしれません。聞いてみては? ピュルテ: この街のリーダー、かかしさんですね マンチキン1: かかしは今、街の者と一緒に畑へ出かけています ティンカー・ベル: 私たちも畑に行ってみようよ ヴェルメリオ: ……うん。かかしに会って、ドロシーの行方を知りたい ピュルテ: ドロシーさんに会って魔法の靴を借りられれば、人間さんも人間界とオトギノクニを自由に行き来することができますよ! リル: 小生もお供する ピュルテ: ダメです! リルちゃんはこの街で怪我の手当をしてもらって休養しないと ヴェルメリオ: ……無理したら良くない シンデレラ: そうよ。ドロシーと魔法の靴は、私たちに任せて ティンカー・ベル: もしかして、また人間さんにおんぶしてもらいたいのかな~ リル: な、何を言うか!しょ、小生はそんな……そ、そんなつもりはない! ティンカー・ベル: ちょー焦ってる。わかる、わかる。人間さんは頼りがいがあるもんね♪ リル: だ、だから! 違うと言っているであろう! シンデレラ: あらあら、そんなにムキにならないで。でもこのまま出掛ければ、人間さんに頼らざるを得なくなるのは現実よ リル: …… リル: 貴殿もここで休めというのか?……わかった。貴殿やみんなにこれ以上迷惑はかけたくない。ここで休ませでもらう ピュルテ: 迷惑だなんてそんな。私たちはリルちゃんに早く元気になってもらいたいんです リル: わかっている。ありがとう。一刻も早く怪我を治し、合流する ティンカー・ベル: ほら、人間さんが元気な時でも、いつでもおんぶはしてやるってさ。よかったね リル: っ……! は、恥ずかしいではないか マンチキン2: まだ街の入り口に魔物がいるかもしれません。気を付けてください ヴェルメリオ: ……大丈夫。みんな……やっつける シンデレラ: すごく広い畑みたい ピュルテ: この畑のどこかに、かかしさんがいるんでしょうけど…… ティンカー・ベル: とうもろこしのせいでぜんっぜん先がみえない! ヴェルメリオ: ……進む ピュルテ: そうですね! ゴーゴーです! ティンカー・ベル: ずきんもピュルテも張り切ってるね シンデレラ: お友達が無事なのか、心配なのよヴェルメリオちゃん。ディマイトの影響で何が起こっているのかわからないから……そしてピュルテちゃんはあなたの為に必死なのよ、人間さん ティンカー・ベル: 私も、あんたが人間界に戻れるように協力する。それが……私にできる恩返しだから シンデレラ: あら、私だって人間さんのためなら協力を惜しまないわ。だって……ね♪ ティンカー・ベル: ちょっちょっと姐さん…!! シンデレラ: ティンカちゃんウブで可愛いわねぇ… ティンカー・ベル: !!も、もうからかわないでよ!は、早く行こう! 2人を見失っちゃうじゃん シンデレラ: 私としたことが大人気なかったかしらね ピュルテ: 3人で何を話してたんですか? ティンカー・ベル: なんでもない! 早くかかしを探そう! ヴェルメリオ: あ!あそこにいる……かかし ピュルテ: え!? あ、本当ですね! ティンカー・ベル: やった! もう見つけちゃった☆ ピュルテ: あの~! かかしさん! ちょっとお話があるのですが! チューチラ: 誰だ?! 僕に何の用だ! ヴェルメリオ: ……わたしたち、ドロシーを探してる。ドロシーはどこ? チューチラ: ドロシー?……そんな奴は知らない ヴェルメリオ: ……知らないはずない。ドロシーは親友でしょ チューチラ: うるさい! うるさい! うるさい! シンデレラ: ねえ、何か様子がおかしいわよ ティンカー・ベル: ちょ、ちょっと! かかしの足元を見て! マンチキンの人が倒れてるよ! マンチキン3: た……助けて……かかしにやられた…… ピュルテ: かかしさんに?! なぜ?! マンチキンさんとかかしさんは仲間でしょ! チューチラ: お前たちもこうなるんだよ! 14 - トウモロコシ畑の事件2 ヴェルメリオ: かかしに逃げられた……! シンデレラ: でも、あのままじゃ勝てなかったかも ピュルテ: 大丈夫ですか? マンチキンさん マンチキン3: うう……だ、大丈夫です。急にかかしが襲ってきたんですが、助かりました シンデレラ: ディマイト……の影響なのよね。かかしが仲間を襲うなんて ティンカー・ベル: ねぇ、これはディマイトのせいなの?! こんな恐ろしい影響もあるの? ヴェルメリオ: ……私も知りたい。この人間の人も知らないんでしょ? ピュルテ: ディマイトのことは、人間さんにもちゃんと説明していなかったですね。私が調べた範囲でわかってることをお話ししますね ヴェルメリオ: ……ヴィランズが存在するための負の力 ピュルテ: ディマイトは、エルマイトとバランスを取って共存していました。それがある日突然バランスが崩れ、エルマイトが極端に減ってしまい、強力で邪悪なディマイトがこの世界に蔓延し始めたのです シンデレラ: ディマイトの影響は、今わかっているだけで魔物を狂暴にしたり、豊かな自然を枯らしたりだったんだけど…… ピュルテ: かかしさんを見て、新たにわかったことがあります。オトギノクニの良い住人にも、悪い影響が出るのだと ティンカー・ベル: それってめちゃくちゃヤバいよね? 増えたディマイトをどうにかできないの? シンデレラ: 今現在、ディマイトを減らす方法は残念ながらわかっていないの ピュルテ: だから私とシンデレラさんは、エルマイトの量を元に戻そうと思ったんです。そして強力なエルマイトを持つ人間さんを見つけた…… ヴェルメリオ: ……でも、かかしを早く元に戻さないと、マンチキンのみんなが危ない シンデレラ: そうね。……ただ、方法がわからない マンチキン3: この先の洞窟にすんでいる、マンチキバアさんなら何か知っているかも。物知りな長生きバアさんなんです ピュルテ: そのおばあさんの所に行ってみましょう! 何かヒントが得られるかもしれない ピュルテ: ここではないですか? おばあさんが住んでいる洞窟 ティンカー・ベル: おばーさーん! 洞窟に住んでるおばーさーん! いるのー?! マンチキばあさん: これこれ、そんな大声出したら魔物が起きるじゃろ! せっかく私の秘薬で眠らせてるのに シンデレラ: あなたが、マンチキばあさん? マンチキばあさん: そうだけど……あんたたちは? シンデレラ: 私たちは……なんて説明すればいいのか マンチキばあさん: おや、アンタ。アンタ正真正銘、人間界の人間だね。ドロシー以外の人間は、久しぶりに見たよ シンデレラ: 私たち、この人間さんの力を借りてオトギノクニを元の平和なクニに戻すために戦っているんです ピュルテ: 魔物に人間界への扉を壊されてしまって…、人間さんは人間界に戻れなくなってしまいました ピュルテ: それでドロシーさんに魔法の靴を借りにこの国にきたんですけど、行方がわからなくて ヴェルメリオ: ……かかしに聞こうとしたら襲われた マンチキばあさん: ほぇ!? あの温厚なかかしにかい? ピュルテ: きっと、ディマイトのせいだと思うんです マンチキばあさん: ……“感染者”がでちまったんだね シンデレラ: 感染者? マンチキばあさん: ディマイトにふれると“感染”する者がいるのさ。それが感染者 ティンカー・ベル: 感染すると……どうなるの? マンチキばあさん: 善人でも狂暴な悪者になる。その者の大切なものが破壊されたり、コンプレックスが増幅する。そして攻撃的になる。それがディマイトの力さ ヴェルメリオ: ……治す方法はないの? マンチキばあさん: かかしはきっと、大事なものが破壊された ティンカー・ベル: かかしの大切なもの? ヴェルメリオ: ……藁の脳みそ。オズがつくった ティンカー・ベル: の、脳みそ…… マンチキばあさん: ディマイトに破壊されたものは、エルマイトを使って作ってやるといい。……この人間の男は、随分良質なエルマイトを持っているようだねぇ ピュルテ: ! そうか! 藁を集めて、そこに人間さんのエルマイトを注入して脳みそを作れば! ヴェルメリオ: ……かかしは元に戻る シンデレラ: 藁を探しに行かなきゃ! 15 - よく晴れた小麦畑で一仕事!? ティンカー・ベル: うーん、いい天気だね! このままそのへんで昼寝したいなー シンデレラ: カカシのチューチラがあんなことになってるんだから、早く戻さないとダメよ ティンカー・ベル: 分かってるけどさ、よく晴れた小麦畑なんて、のどかでいいじゃん ピュルテ: もう、ティンカちゃんてば。チューチラさんに使う藁をもらいに行くのが目的ですよ ヴェルメリオ: ……あ、小屋があったよ (背景切換...) ピュルテ: すみませーん! ちょっと藁をいただけませんかー? 農夫1: 藁? どうぞ、そんなのいくらでも持って行きな シンデレラ: なんだか、タダでもらうのも悪いわね ティンカー・ベル: お金払うの? シンデレラ: ちょっと、作業を手伝っていくわ。ほら、みんなも ピュルテ: そうですよね! お返しはしないと! よーし、がんばるぞ ヴェルメリオ: ……うん、そうだね ティンカー・ベル: えっ、ちょ、働くの!? 農夫1: すまないね。ありがとう、助かるよ ティンカー・ベル: あ、うん……もうー、しょうがないな! ピュルテ: よし、この大きいフォークみたいなので藁をより分ければいいんですね! ヴェルメリオ: ……け、結構重い ティンカー・ベル: ティンカの細い腕じゃ無理だよー! 全部男のあんたがやればいいんだよ! ピュルテ: さすが人間さん! どんどん片付いていきます! シンデレラ: やるじゃない、人間さん。でも力に頼ると疲れちゃうわよ。腰を入れて、腰を ヴェルメリオ: ……え、シンデレラ、すごい ティンカー・ベル: 手際も良いし、すごい手慣れてる! シンデレラ: 元々、私は働くのに慣れてるからね ピュルテ: そっか! さすが灰かぶりの異名はダテじゃないですね! シンデレラ: そう、私はこう見えて庶民派なのよ ヴェルメリオ: ……こう見えてっていうか、どう見ても庶民派 ティンカー・ベル: 肉体労働と言えば姐さん! ってことだよね! シンデレラ: あんたたち……その言い方は色々と引っ掛かるわね…… ティンカー・ベル: ピュルテだって似たようなこと言ってるのに! シンデレラ: 魔法の国に行くことがあれば、私のプリンセスらしいとこ、見せてあげるわよ! ティンカー・ベル: はいはい シンデレラ: もう……私だって女子なのよ。変にガテン系みたいなイメージ植え付けないでよね ティンカー・ベル: はあい、気をつけまーす シンデレラ: にしても、なんか変なところに入り込んじゃったわね。洞窟……? ピュルテ: 足元滑りやすいので気をつけてくださいね ヴェルメリオ: ……それでこの藁、どうする? ピュルテ: エルマイトを込めて、脳みそにしてチューチラさんに…… ヴェルメリオ: ……どうやってエルマイト入れるの? シンデレラ: 人間さん、気合い入れて藁を握ってもエルマイトは入ってないみたいよ ティンカー・ベル: ねえ、クロスのときのこと考えると……つまり、藁にそういう…… シンデレラ: そうなるわよね…… ヴェルメリオ: ……どういうこと? シンデレラ: ねえ人間さん、藁相手じゃ辛いわよね。私が手伝う? ピュルテ: えっ? 手伝うってどんなふうに? シンデレラ: それは……そうね、とりあえず脱ぐとか ヴェルメリオ: ……脱ぐって!? ティンカー・ベル: ずるい! ティンカも手伝うよ! ピュルテ: よく分からないですけど、大丈夫ですよ シンデレラ: いくら強力なエルマイトの持ち主だからって、藁で想像を膨らませるのは無理があるんじゃないの? ピュルテ: 藁にエルマイトを注入するのは、私が媒介になれるんです ティンカー・ベル: えっ、何それ! ピュルテ: もちろんクロスには劣るみたいですけど シンデレラ: どうやるの……? ピュルテ: 私はエルマイトを人間以外に込められるんです。ただ量が少ないので人間さんに手伝ってもらうんです ヴェルメリオ: ……そんなことできるんだ ピュルテ: さあ人間さん、手のひらで私の胸に触れて下さい シンデレラ: 藁が光りだしたわ! ピュルテ: 成功です! さあ、これで……あっ シンデレラ: ピュルテちゃん、大丈夫!? ティンカー・ベル: うわあ、今の転び方、お尻にアザできちゃうやつだよ! ピュルテ: いたた…… シンデレラ: 自分で足元に気をつけろって言ったのに ヴェルメリオ: ……あ、藁 ピュルテ: どうしよう! 岩場の隙間からあんな下に落ちて…… ヴェルメリオ: ……でも行くしかない ティンカー・ベル: いっちょあがり! シンデレラ: 良かった、藁を回収できて ティンカー・ベル: それで!? これからどうするの? ピュルテ: 『東の魔女の塔』が、ここから少し行ったところにあるんです シンデレラ: 昔は魔女の根城だったところよね ピュルテ: 今はこのマンチキンの指導者であるチューチラさんが住んでいます ヴェルメリオ: ……あの後……自分の塔に帰ったってこと? ピュルテ: ……リルちゃん、大丈夫かな ヴェルメリオ: ……大丈夫。ちゃんと治療してる ティンカー・ベル: ピュルテは昔からの友達なんでしょ? 前からあんなに無茶する子なの? シンデレラ: 確かに一人でダンジョンに突撃するなんて、冷静に考えるとすごいわね ピュルテ: 自分が正しいと思ったことは絶対に曲げない子なんです ヴェルメリオ: ……でもリルも何かつかんでるわけじゃないんだよね ピュルテ: だと思います。責任感だけで動いてるんだと…… シンデレラ: でもリルは賢い子よ。何か気がついてるんじゃないかしらね ピュルテ: それなら、どうして言ってくれないんでしょうか…… シンデレラ: 仮説の段階では言えないんでしょ ピュルテ: そっか……でも私にだけは言ってほしいな シンデレラ: でもピュルテちゃんは隠し事できない性格だし ピュルテ: えぅ? それがどう関係するんですか? シンデレラ: リルは貴方だけに言ったつもりなのに、私たちと話すうちに顔に出たり態度に出たり ティンカー・ベル: あー、確かに。普段は長所なんだけど、こういう時はね~ ピュルテ: そっか……こういう旅だから、どうしても世界に何が起きてるか話すことになって…… シンデレラ: そのときピュルテちゃんは悪気なく表に出ちゃうだろうから ヴェルメリオ: ……きっとリルも本当は、ピュルテにだけは言いたかったんだよ シンデレラ: 私たちは、私たちにできることをする。それしかないでしょ? 16 - 東の魔女の塔 ピュルテ: これが魔女の塔…… ティンカー・ベル: 悪い魔女が住んでたんだよね。確かになんか、怖そうな建物だね…… ヴェルメリオ: ……大丈夫、一人じゃないから シンデレラ: ちょっと待ちなさいよ。なに人間さんの腕つかんでるの ヴェルメリオ: ……別に ティンカー・ベル: ティンカもー! ティンカも腕つかむ! シンデレラ: やめなさい、人間さんが動けないでしょ チューチラ: ヴアア……キタナ…… ピュルテ: チューチラさん! チューチラ: デテケ……ココ……カラデテケ…… シンデレラ: やっぱり歓迎されてないみたいね ティンカー・ベル: アポなしだったからじゃない? ピュルテ: さあ、このエルマイトを込めた脳みそを…… ヴェルメリオ: ……脳みそを? ピュルテ: どうしましょうか……? チューチラ: アグアアアア……ツブス…ツブス!ツブス!! ピュルテ: 最初に会った時よりも様子がひどくなってますね シンデレラ: ここは戦いながら、隙を作るしかないんじゃない? チューチラ: ヴァアアアアアア……! ヴェルメリオ: ……あっ、逃げる? ピュルテ: 塔の上に行くみたいです シンデレラ: 追いかけましょう! ティンカー・ベル: ティンカたちが戦ってる間に、あいつの頭にその脳みそをぶち込むんだよ! ヴェルメリオ: ……ピュルテ、がんばって ピュルテ: は、はい。わかりました! こんな時こそ、私がしっかりしないとですね! ピュルテ: えっ……人間さん、急に手なんて握って……そうですね。私一人じゃないですよね。大丈夫です、ありがとう人間さん シンデレラ: ちょっと、そこ! イチャついてんじゃないわよ! ティンカー・ベル: そうだよ、ここから最上階まで、きっと敵だらけなんだから気を抜いてらんないよ! ピュルテ: は、はい! すみません! もう大丈夫です、行きましょう! シンデレラ: どうやら目が覚めたみたいね、かかしのチューチラ チューチラ: 僕はいったい……あんなふうに理性を失うなんて…… ティンカー・ベル: ”感染”してるときの記憶はあるの? チューチラ: うん。でも自分で自分を止められなくて……自分の意思とは関係なく体が動いちゃったんだぁ ヴェルメリオ: ディマイト……恐ろしい ピュルテ: どうしてチューチラさんが感染してしまったのでしょう? シンデレラ: こんな風になってしまう前に、何かいつもと変わったことをした? チューチラ チューチラ: ううん、いつも通り。……あ!でもそういえば ヴェルメリオ: ……そういえば? チューチラ: 数日前、旅人に見たことも食べたこともない食べ物をもらって……。でも……、ああ、ダメだぁ。その食べ物がどんなだったか……思い出せないや… ピュルテ: 旅人からですか チューチラ: うん、オトギノクニをあちこち旅しているって言ってたよぉ。畑のとうもろこしを僕があげたら、代わりにめずらしい食べ物を…… チューチラ: それを今朝出かける前に食べました。とても甘くておいしかった シンデレラ: もらったのはあなただけ? 街の人たちは? チューチラ: うん、僕だけ〜。旅人に出会った時はひとりだったから シンデレラ: ……その食べ物が感染源で間違いなさそう チューチラ: えっと〜…、さっきから皆が言ってる“感染”って、僕がその……おかしくなっちゃったことと関係が? シンデレラ: あなたがおかしくなったのは、ディマイトに感染したからなの チューチラ: 感染するものなの?! ピュルテ: チューチラさん、今オトギノクニでは何か悪いことが起こっています。私たちはこの人間さん……人間界の方と一緒に、その悪いことを止めようとしています ヴェルメリオ: ……そのためにもドロシーに会いたいの。ドロシーはどこ? チューチラ: 僕も最近、ドロシーには会ってないんだぁ。ブリキのきこりならわかるかも。この先のウィンキーの街にいるよぉ ピュルテ: じゃあウィンキーの街に行きましょう! 17 - 感染源の食べ物… ピュルテ: ウィンキーの街はもうすぐのはずです シンデレラ: 気になるわね。チューチラに感染源である食べ物を渡した旅人…… ティンカー・ベル: そいつがディマイトをばら撒いてる悪者でしょ?! 追いかけた方がよくない? ピュルテ: え?ええ、人間さん。確かに私たちは小さな島から地下道を通ってマンチキンの街にたどり着きましたね ピュルテ: ! そ、そうですね! その間、誰とも会っていません。きっとその旅人も…… シンデレラ: 私たちと同じ方向、つまりこれから向かう方向に進んだ可能性が高いわね ヴェルメリオ: ……ドロシーが心配。早く会わなくちゃ (背景切換...) ティンカー・ベル: ウィンキーの街に着いたけど… シンデレラ: なんだか様子がおかしいわね。みんなソワソワしているみたい ピュルテ: あの! ブリキのきこりさんはどこにいますか? ウィンキー1: あ、あなたたちは? ヴェルメリオ: ……ドロシーの友だち。きこりに、ドロシーの居場所を聞きにきたの ウィンキー1: なんと! ドロシーさんのご友人ですか。……しかし、あの実は……き、きこりさんは今この街にはいないのです ティンカー・ベル: どこに行ったの? ウィンキー1: そ、それが…… ティンカー・ベル: ……? ウィンキー1: た、助けてください! ドロシーのご友人! きこりさんが、きこりさんがおかしくなってしまったのです! ティンカー・ベル: え?! まさかもう?! ピュルテ: きこりさんまで“感染者”に?! シンデレラ: ……遅かったのね ヴェルメリオ: ……きこりはどこ?! ウィンキー1: 街の者を連れて街を飛び出してしまったのです! お願いです! きこりさんと仲間を助けてください! ヴェルメリオ: ……私からもお願い! きこりを助けてドロシーの居場所を聞きたいの! みんな協力して! ピュルテ: はい、もちろんです! みんなできこりさんを探しましょう! ウィンキー1: 街の外は魔物がうろついています! 気を付けてください シンデレラ: ……望むところよ! シンデレラ: ここがウィンキーの言っていた洞窟ね ティンカー・ベル: 本当に感染者なら凶暴なんだよね? みんな気をつけよう! ヴェルメリオ: ……感染したらみんな凶暴になるの? ピュルテ: わかりません。チューチラさんが初めて出会った感染者ですから…… ヴェルメリオ: ……ドロシーも感染してたら? ピュルテ: ヴェルちゃん…… ティンカー・ベル: 元気だしなさいよ! ずきん。あんたらしくない ヴェルメリオ: ……だって! かかしに続いてきこりまで! みんなドロシーの友だちなの! ティンカー・ベル: あんただってドロシーの友だちでしょ! 早くきこりを見つけて、感染してるなら治してドロシーの居場所を聞くの! ヴェルメリオ: …… ティンカー・ベル: ……私は信じてる。ぺトラも行方不明だけど、ディマイトに感染なんかしてないって ティンカー・ベル: 感染してたって、私が絶対治してみせる ヴェルメリオ: ……ごめん、ティンカ ティンカー・ベル: やめてよ~、湿っぽいのはキライなの シンデレラ: 強くなったわね、ティンカちゃん ピュルテ: 感動しちゃいました、私 ティンカー・ベル: 私が強くなれたのは……あんたのおかげかもね、人間さん。お礼なんて言わないけど! ヴェルメリオ: ありがとう、ティンカ。私も……この人から力をもらったんだから強くならなくちゃ ピュルテ: 人間さんのおかげで、みんな元気になったみたいですよ? 人間さんがいてくれて、やっぱりよかったです☆ ピュルテ: でも…… ピュルテ: なんだかちょっぴり……みんながうらやましいです ウィンキー2: た、助けてくれーーーー! ティンカー・ベル: 奥から聞こえる! シンデレラ: 急ぐわよ! ((タッタッタッタッ)) ピュルテ: あ! あそこに! ヴェルメリオ: ……きこり! ウィンキー2: あああ! そこの人! た、助けてください! きこりさんが斧を振り回して暴れてるんです! コル: ガァアアッ! ヴゥゥヴッ! シンデレラ: チューチラの時と様子が一緒! 感染してるわね ティンカー・ベル: あ! きこりが逃げた! 18 - まさかコルまでも ウィンキー2: 助けていただいてありがとうございました ティンカー・ベル: きこりには逃げられちゃったけどね ウィンキー2: きこりさんが……あの心優しいきこりさんが襲ってくるなんて……うわーん! ピュルテ: 泣かないでください、ウィンキーさん シンデレラ: きこりは突然……あんな風に凶暴になったのかしら? ウィンキー2: はい。いつもは本当にお優しい方なんです。それが突然街で暴れだし、私をさらってあの洞窟に籠ったんです シンデレラ: きこりが暴れだす前、何か食べてなかったかしら? 何かめずらしい食べ物を ウィンキー2: さあ……。きこりさんは働き者で、いつも森で仕事をしていましたから。街に戻ってくるのは夜なんです ヴェルメリオ: ……森で例の旅人に会ったのかも ティンカー・ベル: ねぇ、まずはきこりを元の優しいきこりに戻さないとじゃない? ウィンキー2: え?! みなさん、きこりさんを治すことができるのですか?! ピュルテ: ええ、きこりさんの大切にしているものがわかれば治せるかもしれません ウィンキー2: きこりさんの大切なものですか? ……私たちウィンキーの街の者、仕事で使う斧、それから…… ヴェルメリオ: オズに貰った……心? ウィンキー2: はい、その通りです! きこりさんは元からお優しい人ですが、オズ様がそれを心という形にしてきこりさんにさし上げたのです ティンカー・ベル: オズってエメラルドの都の? ピュルテ: はい、大魔法使いと言われているオズさんです シンデレラ: でも、心を形にするって難しいわ ウィンキー2: いいえ、それなら簡単です。オズ様が作った心は、スポンジと布でできています ティンカー・ベル: なんだ。だったら楽勝♪だね ウィンキー2: ただ、それだけでは…… ヴェルメリオ: ……他にも何かあるの? ウィンキー2: みなさん、お強いんですね シンデレラ: 魔物も片付いたことだし、さっそくスポンジと布で心を…… ウィンキー2: でも……それだけでは足りないような気もします ティンカー・ベル: え? どういうこと? ウィンキー2: オズさんがくれたのは心の形なんです。でもきこりさんが本当に大切にしていたのは形じゃなくて ヴェルメリオ: ……ドロシーたちと旅をする中で見つけた優しさ……本物の優しい心…… ピュルテ: なかなか難しいですね。本物の優しい心って、どうやって手に入れるのでしょう? シンデレラ: スポンジの心を、優しさを持った本当の心にする、ってことよね ピュルテ: 人間さん、わかりますか?……あ、なるほど。元々きこりさんは優しかったんですよね。だから、その時のきこりさんを呼び覚ますことができればいいんですね! ティンカー・ベル: 呼び覚ますってどうやって!? ウィンキー2: それなら野ネズミの女王に聞いてみては? 今お城に魔物が入り込んで困っているんです。魔物を倒せば何か教えてくれるかも ヴェルメリオ: 野ネズミの女王のお城……どこ? ウィンキー2: 助けていただいたお礼に、私がご案内します! (背景切換...) ウィンキー2: ここが野ネズミの女王のお城です。魔物に乗っ取られ、今女王は私たちの街に避難しています。女王はとても物知りです。お城を取り戻すことができれば、きっとあなたたちに役に立つ助言をくれるはずです シンデレラ: 案内をありがとう。あなたは危ないから、私たちが戻るまでどこかに隠れていて ウィンキー2: わかりました。どうかお気をつけて! 19 - ハッキリしない謎の旅人 ピュルテ: 野ネズミさんたちの情報によれば、森へ行けばいいってことですよね ヴェルメリオ: ……うん、そこにきこりの優しさを呼び覚ます何かが…… シンデレラ: それにしても、かかしのチューチラに続いて木こりまで…… ティンカー・ベル: 感染しちゃうの、珍しくないってことだよね ヴェルメリオ: ……ディマイトの影響? ピュルテ: それはまだハッキリしませんね。謎の旅人のこともありますし シンデレラ: そうね。まだ全容が見えないわね ティンカー・ベル: でもディマイトが増えてるのも影響出てるって! やっぱりどうにかしなきゃ ピュルテ: ディマイトは魔物の数を増やすだけじゃないんですね シンデレラ: 実際、植物とか気候にも影響出てる地方があるみたいよ ヴェルメリオ: ……じゃあわたしたちに影響してもおかしくない ピュルテ: とにかく、まずは森に行く準備を整えましょう ヴェルメリオ: ……色々……買い揃えなきゃ ティンカー・ベル: おやつも買おうね! シンデレラ: そこ、無駄遣いしない! 人間さんもニコニコして頷いちゃダメでしょ! ピュルテ: シンデレラさん、厳しいなあ ヴェルメリオ: ……お金のことはね ピュルテ: さあ、まずは今日の宿に…… 町民: 助けてくれっ! ティンカー・ベル: ど、どうしたの!? 町民: そこの路地から魔物が出てきたんだ! シンデレラ: こんな町中にまで現れるなんて……! ピュルテ: どうやらやるしかないみたいですね ヴェルメリオ: ……それで、肝心の魔物はどこ? 町民: いま、私の店を占拠してしまってるんです ティンカー・ベル: お店? どこにあるのよ 町民: そこの角を曲がって3軒目の、お菓子の店です ティンカー・ベル: えっ、お菓子!? あんた、お菓子屋さんなの!? 町民: え、ええ、まあ ティンカー・ベル: じゃあ、魔物をやっつけたらお礼にお菓子、少し分けてくれたりする!? ピュルテ: ちょ、ちょっとティンカちゃん 町民: もちろん、お店を救ってくれたお礼はいくらでもします! ティンカー・ベル: やった! それじゃ全力で行くよ! ティンカー・ベル: やったー! おやつ、おやつ! ピュルテ: もう、ティンカちゃんてば シンデレラ: いいんじゃないの。私達、なんでもかんでも無償で戦う義務なんてないんだから ティンカー・ベル: さ、買い出しに行くんでしょ。さっさと行こうよ! ピュルテ: えっと、それじゃこれが買い物リストなんですけど ヴェルメリオ: ……多い……手分けしたら? ピュルテ: こっちのメモは私と人間さんで、残りはシンデレラさんたちにお願いします ヴェルメリオ: ……そっちは二人きりで? シンデレラ: ……ふうん? まあいいわ ティンカー・ベル: えー、良くないよ! ティンカ、あんたと一緒に買い物行きたいのに シンデレラ: いいから。ほら、行くわよ ピュルテ: さあ人間さん、私達も行きましょう (背景切換...) ピュルテ: さてと、あとこれを買えば終わりですね ピュルテ: 人間さん、だいぶ皆さんと馴染みましたよね。それなりに一緒にいますもんね ピュルテ: え、クロス? クロスすると距離が縮まるんですか? そういうものなんですね…… ピュルテ: じゃあ、私だけ遠いままなんだ…… ピュルテ: ご、ごめんなさい! 思わず口に出ちゃったけど、本当にそんな、気にしないで下さい ピュルテ: 謝るのは私の方ですから…… ピュルテ: 私、必ず人間さんが人間界に帰れるようにしますから! こんなふうに巻き込んでしまって、本当に申し訳ないです ピュルテ: いえ! 確かに世界に入ってきたのは人間さんの意志ですけど、すぐに帰さなかったのは私です。エルマイトが高いからって…… ピュルテ: だから私……えっ ピュルテ: あ、頭なでなでするなんて私、子供じゃないんですよ。……でも人間さんの言うとおり、思い詰めすぎても良くないですよね ピュルテ: さあ、ここで残りを買ってみんなのところに戻りましょう 20 - ハートに響くもの シンデレラ: 深い森ね ヴェルメリオ: ……あんまり人も入ってないみたい ピュルテ: 昼間だっていうのに薄暗いですね ティンカー・ベル: ここに木こりのハートに響くものがあるんだよね シンデレラ: 野ネズミたちによればね ヴェルメリオ: ……嘘は言ってないはず シンデレラ: 嘘とは思わないけど、ハートに響くものって一体なんのことだか ティンカー・ベル: まあ、見てみれば分かるんじゃない? ヴェルメリオ: ……心臓入れるだけじゃダメなの ティンカー・ベル: そうだよね。かかしはそれでうまくいったし ピュルテ: かかしさんは感染してから日数が浅かった。でも木こりさんは シンデレラ: 既に感染が進行してしまってる、ってことね。だからエルマイトを込めた心臓に交換するだけじゃ足りないんだわ ピュルテ: 野ネズミさんによれば、この奥にある城に隠してあるそうですね ティンカー・ベル: 城って…勝手に入っちゃって大丈夫なの? ヴェルメリオ: ……ううん……あれ見て シンデレラ: うわぁ…ずいぶんと古い城ね… ヴェルメリオ: ……誰もいないみたい ピュルテ: 行ってみましょう! (背景切換...) ティンカー・ベル: 誰も住まなくなってからどのくらい経つのかな? ピュルテ: あちこちが脆くなっているみたいなので気を付けてくださいね シンデレラ: どんどん上へ登っていけるのね。どこまで続いてるのかしら ヴェルメリオ: ……大事なものは最上階がお約束 ピュルテ: ですよね。登ってみましょう シンデレラ: 待って。何か聞こえるわ ヴェルメリオ: ……これ……魔物の声 ティンカー・ベル: いるよー!? これ、確実に魔物いるよー!? ピュルテ: だからってもう引き返せません。進むしかなさそうですね。皆さん注意して! ヴェルメリオ: ……なんとか手に入れたけど ティンカー・ベル: これなに? 丸めた羊皮紙だよね ピュルテ: 綴じてある紐を解いてみましょう シンデレラ: これは……絵だわ……! ティンカー・ベル: かかしと、木こりと……それにライオン。てことは、真ん中にいるのは…… ヴェルメリオ: ……ドロシー……間違いない ピュルテ: サインがあります。これは……オズと書いてあるんじゃないですか シンデレラ: かつて一緒に旅をしていた時に、オズが描いたもの……ハートに響くものって、つまり楽しかった思い出のことだったのね ティンカー・ベル: これで正気に戻ってくれればいいね ピュルテ: ウィンキー宮殿に向かいましょう。たぶん、木こりさんはそこにいるはず (背景切換...) ピュルテ: この道をまっすぐ行けばウィンキー宮殿です シンデレラ: いつも住んでいる宮殿に必ず帰るでしょうね。私達の裏をかくほど理性的な状態とも思えないし ティンカー・ベル: あの似顔絵ってさ、記念に描いたのかな ヴェルメリオ: ……たぶん ティンカー・ベル: いいね、そういうの ピュルテ: そう言えば、人間界にはカメラというのがありますね シンデレラ: カメラ? ピュルテ: 記念に残したいと思ったら、目に見えるものを一瞬で紙に移せるんです シンデレラ: 便利なのね、人間界って。でも、考えること自体は同じなんだわ ティンカー・ベル: ねえ、私達も残しておかない!? ヴェルメリオ: ……絵を描くの? ティンカー・ベル: そうだよ! こうしてみんなで旅したってことを、形に残したいじゃん ピュルテ: そうですね。こうやって時間が経っても見返せますしね ティンカー・ベル: オズに描いてもらえばいいんだよ。エメラルドの都に着く頃には、ネコのケガだって治ってるだろうし シンデレラ: 悪くないわ。そうすれば、もし旅が終わって離れ離れになっても、それを見れば思い出せるもの ヴェルメリオ: ……うん、ほしい ピュルテ: 人間さんも賛成してくれるんですね シンデレラ: そうと決まったら、宮殿に急ぐわよ! 21 - ウィンキー宮殿 シンデレラ: もうすぐ宮殿ね ティンカー・ベル: これで木こりのコルを正気に戻したら、ドロシーの居場所も分かるかな ヴェルメリオ: ……早く治さなきゃ ピュルテ: 見えてきましたよ、ウィンキー宮殿です (背景切換...) ヴェルメリオ: ……立派な宮殿 シンデレラ: さて、コルはいるかしらね ピュルテ: あっ、あそこに! コル: シュウウウウ……デテ…ケ…… ティンカー・ベル: やっばい、めっちゃ怒ってるけど! まだ何もしてないのに! ピュルテ: コルさん! 聞いて下さい! 今あなたはディマイトの影響を受けて…… コル: ウグアアアアッ! シンデレラ: 危ない、ピュルテちゃん! ピュルテ: やっぱりまともに説得するのは無理みたいですね シンデレラ: ヴェルメリオちゃん、あれを出して ヴェルメリオ: コル! こっち見て! コル: ウウウ……!? ド、ドロシ……ミンナ……! ティンカー・ベル: 効果あるみたいだよ! しゃがみこんでる今なら! ピュルテ: コルさん! 思い出してください! ディマイトに感染していても、あなたの心には仲間がいるはずです! コル: ウウッ、ウウウウウ…… ピュルテ: 思い出して下さい、何を大切にしていたか。あなたが正気を取り戻さないと、ドロシーさんが危ないんです! コル: ド……ドロシ……グウウウッッ! ピュルテ: あなたの助けが必要なんです! 大切な仲間を守るんです! コル: アアアア……! ウアアア! シンデレラ: 宮殿の奥に逃げていくわ! 追いかけましょう! ヴェルメリオ: ……今、コルはすごく不安定 ティンカー・ベル: みんなで取り押さえて心臓を入れてあげれば元に戻れるはず! コル: ……みなさん、ありがとうございました ティンカー・ベル: けっこう大変だったよ~! 元に戻ってよかったけど。ね、ずきん ヴェルメリオ: うん。……コル、ドロシーが今どこにいるか知ってる? コル: ドロシーですか? いいえ、最近仕事が忙しくて会えていないのです ヴェルメリオ: ……そう コル: 自分の意思ではないとはいえ、みなさんを傷つけるような真似をして申し訳ありません。なぜあんな風になってしまったのか自分でもわからないのです ピュルテ: 気にしないでください! 悪いのはディマイトなんですから! シンデレラ: あなたはディマイトに感染したのよ コル: 感染? ピュルテ: ディマイトの悪い影響を受けて、一番大切にしてるものを壊されてしまうんです コル: ……なるほど ピュルテ: 私たちドロシーさんを探して、かかしのチューチラさんにも会ったのですが、彼女も感染していました コル: チューチラもですか…… シンデレラ: 彼女は旅人からもらった食べ物を食べて感染してしまったらしいんだけど…… コル: 旅人!……実は私も森で旅人に出会って食べ物をもらいました ヴェルメリオ: ……同じ旅人かな ティンカー・ベル: 同じでしょ?! そんな危険な食べ物配って歩いてる旅人が何人もいたらヤバいよ シンデレラ: どんな旅人だったか覚えていない? 顔とか恰好とか コル: 深くコートのフードを被っていたので、顔は見えませんでした。服装もコートで見えなかったし ピュルテ: もらった食べ物はどうですか? コル: 小さくて硬いとても甘い食べ物です。それから……カラフルでした ヴェルメリオ: ……キャンディ? コル: 似ています。でもそうだとしても、今まで食べたことのないキャンディです ピュルテ: もう残っていませんか? コル: ええ、残念ながら。自分の分は昨日全部食べてしまいました シンデレラ: 自分の分? コル: 半分は友人のライオン、レーウにあげたのです ティンカー・ベル: それって、レーウまでそのお菓子食べちゃったらヤバいよね?! コル: ……食べてるかもしれない。あげたのは数日前なんです シンデレラ: 感染しているのなら元に戻すまでよ! ピュルテ: レーウさんを探しましょう! 22 - 謎の旅人と謎のお菓子 ピュルテ: コルさんによると、ライオンのレーウさんはこの先の森によくいるそうです ティンカー・ベル: その森って、コルが旅人に会った森だよね。まだ旅人がウロウロしてる……なんて都合のいいことはないか ヴェルメリオ: 謎の旅人、謎のお菓子……そして行方不明のドロシー……何が起こってるの? シンデレラ: さっぱりよ! いったい誰が何の目的でディマイトの感染者を増やしてるのかしら ティンカー・ベル: ペトラがいなくなっちゃったことにもやっぱり関係あるんだよね?! もう、絶対ゆるさないんだから! ピュルテ: ディマイトに感染させ、その人の大切なものを破壊してコンプレックスやネガティブな思考を増幅させる……そんな恐ろしい事を考える者がこのオトギノクニにいるなんて ヴェルメリオ: ……旅人を捕まえて、正体を暴く シンデレラ: そうすれば、オトギノクニの住人をディマイトに感染させている理由もわかるはず! ティンカー・ベル: ライオンのレーウは感染してると思う? シンデレラ: 可能性は高いと思うわ。コルがお菓子を渡してから時間が経っているし ピュルテ: え? 人間さんは3人が意図的に狙われたと、そう思うんですか? ティンカー・ベル: まぁ、たしかに、マンチキンとかウィンキーの街の人はみんな無事だったよね シンデレラ: でも感染したチューチラやコルがあのまま暴れ続ければ、街も人も大変なことになる ヴェルメリオ: ……お菓子を街の人全員に配るのはリスクがある。食べない人もいるだろうし ピュルテ: 信頼されてるチューチラさんたちが凶暴になって、みんな未だに混乱しているはず。ダメージはとても大きいです ティンカー・ベル: 旅人の狙いはそこだね! 街の外は魔物だらけ、さらに街の有名人まで魔物化しちゃったら悪夢どころじゃないもん ヴェルメリオ: ……人間の言う通りなら、ドロシーも危ない ヴェルメリオ: ……ライオンのレーウ、見つからない シンデレラ: 広すぎる森ね。もっと奥まで行かないとダメみたいね ティンカー・ベル: こんなに広いなら、まだ旅人って奴もこの森にいるかもしれない ピュルテ: あの……、ちょっと私思ったんですけど ティンカー・ベル: どしたのピュルテ? なんか深刻な顔しちゃって ピュルテ: もし……もし私たちがディマイトに感染したら、どうなってしまうのかなって ヴェルメリオ: …… シンデレラ: …… ティンカー・ベル: …… シンデレラ: 私が大切にしているのは向上心。また前のようにお城で暮らすことを励みに頑張っているから ピュルテ: そうですね。シンデレラさんは事情があって、今お城を出ていますもんね シンデレラ: 向上心を破壊されてしまったら、こうしてみんなと戦ってる意味がなくなってしまう ティンカー・ベル: コンプレックスも増長されるんだよね? 私が感染したら、みんなの役に立ちたいけど空回りしてしまってるダメな自分が強く出てきちゃったりするのかな、たぶん ピュルテ: 空回りだなんて! ティンカちゃん、いつもがんばってますよ ティンカー・ベル: がんばってたのもさ、それが誰かのためじゃなく、自己満足のためだったんだって最近やっと気づいたんだ ヴェルメリオ: ……私はもっと他人が苦手になって、もう誰も信用できなくなる……気がする ピュルテ: ヴェルちゃんはオオカミに騙されて、食べられちゃったトラウマがありますもんね ヴェルメリオ: ……だけど、みんなや人間さんのことは信頼してる。だから ピュルテ: だから? ヴェルメリオ: ……感染しても、きっと助けてくれるって思ってる シンデレラ: ヴェルの言うとおりね! この中の誰が感染しても、絶対にみんなが助けてくれる ティンカー・ベル: だよね! 心配するだけ損だよ、ピュルテ。私たちには仲間とこの人間さんがいるんだから! ピュルテ: みなさん……。ごめんなさい、変なこといって。そうでした。私たちには仲間と人間さんがいます! 何があっても大丈夫ですね! 23 - レーウの足跡 ティンカー・ベル: 谷だ! シンデレラ: みんな! ちょっとここ見て! これってライオン、レーウの足跡じゃない?! ヴェルメリオ: ……レーウの足跡、間違いないと思う ピュルテ: この谷を降りていったのですね。私たちも追いかけましょう 森番1: そ、そこに誰かいますかぁ~…… ティンカー・ベル: ん? なんか言った? ヴェルメリオ: ……言ってない 森番1: 助けてくださいぃ~……誰か…… ティンカー・ベル: やっぱりなんか言った? ヴェルメリオ: ……言ってない 森番1: こっちです! 早く助けて! ティンカー・ベル: うひゃっ?! びっくりした ピュルテ: あ、あの草の上、誰か倒れています シンデレラ: 大変! ちょっと大丈夫? 森番1: 草の罠に足がかかって動けないのです。外していただけませんか? ヴェルメリオ: ……私こういうの得意、まかせて ヴェルメリオ: ……外れた 森番1: わ! 早い! ありがとうございます シンデレラ: なぜ罠がこんなところに? 森番1: あ、この罠は自分が仕掛けた罠なんです ティンカー・ベル: え? 自分が仕掛けた罠に自分でハマったってこと? 森番1: 面目ありません。……あ、私は森の番をしてる森番です。実はライオンのレーウさんが突然…… ピュルテ: レーウさん?! 私たち、レーウさんを探してここまで来たんです! 森番1: そうなんですか。いや、そのレーウさんが突然何かに怯えだし、逃げ回りだしたんです。ものすごく暴れながら シンデレラ: ……感染してしまったのね 森番1: みんなで追いかけて落ち着かせようとしたのですが、なにせ力が強くて。そこで罠を仕掛けて捕まえようと…… ティンカー・ベル: それで、罠を逃れてレーウはどこに行っちゃったわけ? レーウ: ヴヴゥゥゥ! ……ヴヴゥゥゥ! 森番1: はっ! レ、レーウさんの声です! シンデレラ: 見てっ! あの木の陰!! ヴェルメリオ: ……レーウ……! ピュルテ: レーウさん! 私たちっ……あ! 谷の下へ逃げちゃいました! ティンカー・ベル: 追いかけよう! ピュルテ: さすがライオンさんです。 素早い! ティンカー・ベル: 感心してる場合じゃないよ! 早く捕まえて感染を治さないと シンデレラ: チューチラやコルの時と同じで、治すための道具が必要よ ヴェルメリオ: ……レーウは勇気あるライオン。なのに……今は怯えて逃げてる弱いライオン ピュルテ: そっか。レーウさんは『勇気』を失ってしまったのですね 森番1: あ、あの。みなさんはレーウさんがあんな風になってしまったことに詳しいようですが一体……? ヴェルメリオ: ……私たちはドロシーの友だち ピュルテ: ドロシーさんの行方を聞くために、かかしのチューチラさんときこりのコルさんにも会ったのですが、レーウさんと同じような状況になってしまっていて 森番1: なんと! あの2人まで! シンデレラ: ディマイトに感染すると、凶暴に変化してしまうの。レーウもきっと感染してる 森番1: 最近、この森や街の周辺にも魔物が増えてきてるのと関係があるんですね ティンカー・ベル: ディマイトとエルマイトのバランスが崩れてるの。なんでそうなっちゃったかはわからないんだけどね 森番1: レーウさんはいつも勇敢で、私たち森番や動物たちにとってかけがえのない方なんです。なぜそんな方がこんなひどい目に…… ピュルテ: チューチラさんもコルさんも、なんとか2人は元に戻せたんです。だから、レーウさんも私たちが元にもどしてみせます! 森番1: それは本当ですか?! ぜひお願いします! レーウさんの感染を治してあげてください シンデレラ: 今回は『勇気』の象徴が必要なのよね。まずはそれを探さないと ピュルテ: レーウさんの勇気の象徴……森番さん、何か知りませんか? 森番1: そうですね……あ! 森の動物たちなら何か知っているかもしれません。レーウさんととても仲良しですから ヴェルメリオ: ……あなたは先に動物たちのところに行って。ここは危ない 24 - レーウの足跡を追って ピュルテ: あっ、あそこにも足跡がありますよ ヴェルメリオ: ……枝に毛も引っかかってる。こっちで間違いなさそう ティンカー・ベル: 森番の人、無事に行けたかな ヴェルメリオ: ……地元だし シンデレラ: ずいぶん小枝が折れてるわ。木を避けないで走り抜けていったのね ピュルテ: それだけ余裕がない状態ってことですね ティンカー・ベル: でもライオンって森の動物たちのリーダーなのに ヴェルメリオ: ……ディマイトの影響って怖い シンデレラ: ええ、そうね。人間さんの言うとおり、彼女は擦り傷だらけになってるでしょうね ピュルテ: ライオンさんのこと心配してるんですか。優しいですね、人間さん ティンカー・ベル: 確かにあんたの言うとおり、女の子だもんね。傷だらけなんてかわいそう ピュルテ: そのためにも早く見つけないと! ヴェルメリオ: ……あれは? シンデレラ: レーウの足跡ね。この洞窟の中に入っていったみたい。行きましょう (背景切換...) ティンカー・ベル: なんかジメジメして、薄暗くて、気持ち悪い~! シンデレラ: 苔が生えて滑りやすいわ。気をつけて ピュルテ: そうですね……って、きゃああっ! ピュルテ: す、すみません人間さん! 下敷きにしちゃって! シンデレラ: 人間さんは、わざわざピュルテちゃんを庇ってクッション役になったのよ ピュルテ: そうなんですか!? 怪我してませんか!? ティンカー・ベル: 庇ったのはさすがだけど、いつまでピュルテのパンツ見てんのよ! ヴェルメリオ: ……だいなし シンデレラ: ピュルテちゃん、持ってる薬は大丈夫ね? ピュルテ: 勇気が出る薬ですね。大丈夫、無事です ティンカー・ベル: エルマイトは込められてるけど、これ効果あるのかなあ ヴェルメリオ: ……オズがレーウにくれた薬に似せてはある シンデレラ: あとは勇気を思い出してくれるかどうかね ティンカー・ベル: 今は勇気ゼロ、怖がって逃げてるんだもんね ピュルテ: 大丈夫ですよ。きっと思い出してくれます! ピュルテ: やっと洞窟を抜けられましたね! ティンカー・ベル: いきなり明るくて目がチカチカする~ ピュルテ: さて、ここからどう進みましょうか…… ヴェルメリオ: 危ない! ((ザクッ)) ピュルテ: 危なかった……ヴェルちゃん、ありがとうございます! シンデレラ: クマが攻撃してきた……!? ヴェルメリオ: ……クマだけじゃない、動物たちが集まって ティンカー・ベル: そんな、まさかディマイトにみんな感染したとか……? ピュルテ: 完全に囲まれてる。これじゃ突破するしか…… 森番1: みんな待て、攻撃をやめるんだ! この人達はさっき言った人達だよ ピュルテ: あ、あなたはさっきの 森番1: すみません、レーウさんがおかしくなってから、みんな気が立っていて シンデレラ: いいのよ。こんな時だから仕方ないでしょう ピュルテ: そう言えば、おかしくなる直前に変わったことはありましたか? ヴェルメリオ: ……例えば何か食べたり 森番1: ああ、確かに何か小さな粒のようなものを……色とりどりの ピュルテ: じゃあ、やっぱりコルさんにもらった例の食べ物を……! ティンカー・ベル: 勇気を思い出せる何か、心当たりはあった? 森番1: それなんですが、みんなにも聞いてみたところ、かつて戦った大蜘蛛の住む森に何かあるかもしれません ティンカー・ベル: 大蜘蛛の森ね。よし、行ってみよう! ヴェルメリオ: ……今まで2回成功したからって、うまくいくとは限らないけど ティンカー・ベル: ネガティブなこと言わないの! 25 - 薄暗い森を抜けて ティンカー・ベル: 昼間なのに暗いね シンデレラ: 鬱蒼とした森ね。この奥にある大蜘蛛の巣に、何か残ってるかも、ってことよね ピュルテ: 皆さん、周りに気をつけて下さいね ヴェルメリオ: ……この後どうしたらいい? ピュルテ: あそこに小屋がありますよ。行ってみましょう (背景切換...) ピュルテ: 失礼します。誰かいませんか? 森番2: どうしました、こんなところへ シンデレラ: 実はね…… (…………。) 森番2: なるほど、そういう事情でしたか。ならきっと、爪のことでしょうね ティンカー・ベル: 爪? 森番2: かつてこの森に住んでいた大蜘蛛と、レーウさんは勇敢に戦い勝利しました。その時、割れて落ちた爪があるのです シンデレラ: それを見れば、勇敢に戦った記憶が蘇るかもしれない、ってわけね ピュルテ: それが、この森にあるんですか? 森番2: ええ。大蜘蛛の住処に残されています。ここに住む者は、それを魔除け代わりにしていたのです ヴェルメリオ: していた……過去形? 森番2: 大蜘蛛はもういないのですが、今は住処を魔物に占拠されてしまっていて……どうすることもできないのです ピュルテ: やるべきことが明確になってきましたね ティンカー・ベル: よし、全員叩き出してやろう! (背景切換...) シンデレラ: それで、ここが住処なのね ティンカー・ベル: 思ったより魔物がわさわさいるんだけど…… ヴェルメリオ: ……さっきの威勢は? ピュルテ: ここまで来たんですから! ティンカー・ベル: 分かってるよ! さあ、行くよ! シンデレラ: これが……爪ね ヴェルメリオ: ……思ったより大きい ティンカー・ベル: 獣の爪、って感じだね ピュルテ: これでレーウさんも思い出してくれればいいですね 森番2: ありがとうございます、皆さん! ピュルテ: ひっ!? ど、どこにいたんですか 森番2: 皆さんの戦いを陰で見守ってました ピュルテ: そ、そうですか……それより、レーウさんの行き先、分かりませんか 森番2: この先の川を渡ったかもしれません。川で匂いを消すのが森の住民のセオリーですから シンデレラ: ありがとう。それじゃ、急ぎましょう (背景切換...) シンデレラ: あれを見て! 向こう岸に足跡があるわ ピュルテ: 泳いで渡ったんですね。でも、あの足跡の濡れ方だと、まだ時間は経っていないですよ ティンカー・ベル: 匂い消すのに川に入っても足跡残してたら意味ないじゃんね シンデレラ: ディマイトに感染してる彼女に、まともな判断力なんてないのよ ヴェルメリオ: ……わたしたちも泳ぐの? ティンカー・ベル: ティンカは飛べるけど……みんな、泳ぐの無理じゃない? ピュルテ: あそこにボロボロの筏がありますよ ティンカー・ベル: いやいや、ティンカ抜きでも4人だよ!? こんなボロ、沈むって! ピュルテ: 人間さんも心配なんですか? でも私、最近ちょっとハードな旅のおかげでスリムになったんですよ シンデレラ: わ、私だって! 見なさいよ、このくびれ! ヴェルメリオ: ……わたしも ティンカー・ベル: ちょっとあんた、助けを求めるような目で見ないでよ! 男らしくあんたがびしっと……え、乗るの? 筏乗っちゃうの!? ピュルテ: さあ、出発ですよ! (背景切換...) ティンカー・ベル: 俺には何も言えないって……分かるけど、この場であんたしか言う人いないのに ピュルテ: 大丈夫ですよ、あと半分……あっ、沈み始めてる! シンデレラ: もう、ヴェルが見栄を張るから! ヴェルメリオ: ……ピュルテだよ ピュルテ: 泳ぎますよ! 人間さんもしっかり! (背景切換...) ピュルテ: な、なんとか着いた…… ティンカー・ベル: みんな倒れてる場合じゃないよ、早く追いかけないと シンデレラ: もう勘弁してよね…… 26 - 赤い死の花畑 シンデレラ: ひどい目にあったわ。ちゃんとダイエットしときなさいよね、ヴェル ヴェルメリオ: ……だからピュルテが ティンカー・ベル: もうやめなってば! アレに4人乗るのが無理あったんだって ピュルテ: まあ、これもいい思い出ということで…… ヴェルメリオ: ……ごまかされた シンデレラ: でも、そうね。せっかく一緒に旅してるんだもの、思い出は残しておきたいわ ティンカー・ベル: コルの絵も、レーウの爪も、前の旅のときの記憶だもんね ピュルテ: この旅も終わるとき、記憶が刻まれた何かが残されるんでしょうか ヴェルメリオ: ……きっと……残るよ (背景切換...) ピュルテ: どうやらここに逃げ込んだみたいですけど ティンカー・ベル: うわ、やばい! みんな鼻を押さえて! ヴェルメリオ: ……えっ、何 ティンカー・ベル: ここは通称『赤い死の花畑』、匂いを長時間嗅ぐと強烈な眠気に襲われる、特殊なポピーがたくさん咲いてるんだよ! シンデレラ: そうなのね! みんなこのハンカチを使って! ピュルテ: ありがとうございます! レーウ: ウグウウウ…… ヴェルメリオ: いた……! ピュルテ: 待って下さい! ほら、これを見て! レーウ: グウウッ!? ピュルテ: これは貴方が、勇気を振り絞って大蜘蛛と戦ったときのものです! ティンカー・ベル: すっごい怖くても、強い相手でも、あんたは戦った! 森のみんなのためだったからでしょ! シンデレラ: その森のみんなは、また困ってるの! 貴方が守らなくてどうするの! ヴェルメリオ: ……目を覚まして……! レーウ: ウ、ウウウウウ……! ティンカー・ベル: 花畑の奥に逃げていくよ! シンデレラ: 効果はあったはず……! ピュルテ: 皆さん、追いかけましょう! 27 - 他の国にも異変が‼︎ ピュルテ: 気分はどうですか、レーウさん レーウ: …気分は最悪。けど、あんたたちが救ってくれたんだよな シンデレラ: ディマイトに感染していたのよ。そのせいで、あなたは我を失っていたの レーウ: ディマイトにそんな影響があるなんて…。なんにしても、お礼を言…うぜ。誰かを傷つけて手遅れになる前でよかった… ピュルテ: それで、1つお聞きしたいんですが……ドロシーさんがどこにいるかご存知ないですか レーウ: ドロシー? やっぱり、あいつの身に何かあったの!? シンデレラ: やっぱり、って……何かつかんでるのね レーウ: …動物たちの話じゃ、近頃はオズ以外の他の国でも失踪事件が起きてるらしくて… ヴェルメリオ: ……オズの国以外でも!? レーウ: うん。そんな時にドロシーの姿が見えないってんで、あいつも失踪したんじゃないかと思って探してたんだ ティンカー・ベル: 他の国って、ネバーランドでもそうなの!? ねえ、ペトラ・パンって知ってる!? レーウ: い、いや、それはわかんな…わかんねえけど…… シンデレラ: 落ち着きなさい、ティンカちゃん ティンカー・ベル: だって、ねえ、どうしよう シンデレラ: あなたがネバーランドを出発する前から、もう姿が見えなかったんじゃないの? ティンカー・ベル: 動物たちが言ってる他の国の失踪は、ペトラのことじゃない!? シンデレラ: 焦らないで、今は落ち着いて情報を集めるべきよ ピュルテ: ドロシーさんのことも、失踪と決まったわけじゃないんですよね レーウ: あいつは魔法の靴を持ってるから、なんとも言えなくて ピュルテ: チューチラさんもコルさんも知らないみたいなんです レーウ: だとしたら後は……西の魔女、エルファバなら何か知ってるかも ティンカー・ベル: オズの国の西の魔女? それって…… レーウ: ああ、いわゆる悪い魔女さ。でも案外、根はいい奴なんだよ…なんだぜ ピュルテ: 分かりました。行ってみます レーウ: すまない。本当はわた…俺も行きたいんだが シンデレラ: ダメよ。まだ元に戻ったばかりで万全じゃないでしょ ピュルテ: さあ、先へ急ぎましょう ピュルテ: 西の魔女、エルファバさんは……ここを真っ直ぐ西に行ったところに住んでるんですね ティンカー・ベル: カドリングって町の先にある城に、一人で住んでるんだってね シンデレラ: ピュルテちゃん、あまり気が進まないみたいね ピュルテ: 噂でも聞きますし、リルちゃんからもあまり良い話は聞いてなくて ヴェルメリオ: ……例えば? ピュルテ: 誰も人を寄せ付けなくて、城で一人で怪しい魔術の研究をしてるとか ティンカー・ベル: そいつが今回の事件の原因かもしれないよね? シンデレラ: 今の段階で決めつけるのは危険よ ヴェルメリオ: ……それとも、エルファバも感染してるとか? シンデレラ: それも可能性あるわね。だとしても、治すまでよ ヴェルメリオ: ……それはそうだけど ピュルテ: 何が治すキッカケ……つまりコンプレックスが何か、ですか ティンカー・ベル: えー、会ったこともないのにわかんないよ~! シンデレラ: 例えば……孤独、かもしれないわね ヴェルメリオ: ……勝手に一人で城にこもってるのに? シンデレラ: 望んでるかどうかは分からないでしょ? ピュルテ: そしたら、後は人間不信とか……? ティンカー・ベル: そんなの、どうやって治したらいいんだろ ピュルテ: 人間さんなら、もしかして ティンカー・ベル: え、こいつが!? ていうか、本人も動揺しちゃってんじゃん ピュルテ: 人間さんなら、エルファバさんの心に入り込めるかもしれません シンデレラ: そうかもね。私達がいい例だわ ヴェルメリオ: ……どういうこと? シンデレラ: 確かに人間さんは強力なエルマイトを持ってた。けど、異世界からいきなり現れて、今こうして旅の仲間として溶け込んでるのは ヴェルメリオ: ……この人の持つ何か ティンカー・ベル: 分かるけど、ちょっと過大評価じゃないのー? ピュルテ: 行ってみれば分かることですよ! さあ、もうすぐセトモノの町に着くみたいです ヴェルメリオ: ……どんな町なんだろ 28 - セトモノの町 シンデレラ: これはすごいわ……全部セトモノなのね ヴェルメリオ: ……うっかり転んだら大変 ティンカー・ベル: ちょっとずきん! 変なフラグ立てるのやめて! ピュルテ: ティンカちゃんは飛んでるからいいけど……私、もう割っちゃうんじゃないかって、緊張で汗かいてきて セトモノ1: セトモノの町へようこそ! ピュルテ: ひっ! び、びっくりした シンデレラ: あなた、ここに住んでるの? 住民もセトモノっていうのは都市伝説だったのね セトモノ1: いいえ、セトモノですよ。どうぞ、触ってみて下さい ヴェルメリオ: ……セトモノだ! ティンカー・ベル: すごい、見ただけじゃわかんない! セトモノ2: 森の動物たちから連絡をもらっていたんです。皆さんがここを通るはずだと ピュルテ: 連絡? どうやってですか? セトモノ1: こいつです! ヴェルメリオ: ……鳩 セトモノ1: 私たちはこいつの言葉が分かりますが、手紙を持たせれば誰とでも連絡がとれます セトモノ2: 旅のお供にも、きっとお役に立ちますよ。近くにいて、呼べばすぐに来ます ティンカー・ベル: えー、でもティンカのアイデンティティが侵されそうだしなあ シンデレラ: ありがとう、連れて行くわ ティンカー・ベル: え、ちょ、姐さん!? シンデレラ: うるさいわね。貰えるものは貰っておくのよ セトモノ2: 実は皆さんにお願いがあるんです シンデレラ: まあ、なんとなく予想はしてたけど。何事かしら? セトモノ1: この町の外れに、教会があるんです ヴェルメリオ: ……教会? セトモノ2: 以前、ライオンさんが壊しちゃったので、建て直したんですけど セトモノ1: ここからでも見えますよ、ほら ティンカー・ベル: でかっ! 思った以上にでかい! セトモノ2: 魔物が占拠してしまって困ってるんです。もちろんお礼はします! シンデレラ: お礼……いいわ、やりましょう! ヴェルメリオ: ……中もすべてセトモノ ティンカー・ベル: すごくキレイだね! ピュルテ: でも魔物に占拠されてしまってるなんて…… シンデレラ: そうね、早く取り戻しましょう! 町のみんなのために! ヴェルメリオ: ……シンデレラ、お礼でやる気になってる シンデレラ: な、なに言ってるのよ! 困ってる人を助けるのが私たちの役目よ! ねえ、人間さん ティンカー・ベル: 苦笑いされてんじゃん シンデレラ: お礼なんて気持ちよ。気持ち ピュルテ: それにしても、ずいぶん大きい教会なんですね ヴェルメリオ: ……3階建てみたい ティンカー・ベル: 見ただけで分かるの!? ヴェルメリオ: ……ここにフロアマップがある ピュルテ: 礼拝堂の横は資料室になってるんですね シンデレラ: ここね……入ってみましょうか ティンカー・ベル: 街の郷土史とか置いてあるんだね ヴェルメリオ: ……セトモノの町の歴史……読んでみたい シンデレラ: 日が暮れるわよ。それは後でゆっくりね ピュルテ: こっちは何かの記録ですね ティンカー・ベル: 役に立つこと、書いてある? ピュルテ: チャリティー集会の参加名簿みたいですね。あまり意味は……あれっ? ヴェルメリオ: なに……? ピュルテ: エルファバ……って、例の西の魔女の名前でしたよね? ティンカー・ベル: それがどうかしたの? ピュルテ: ここに名前があります。ここにも シンデレラ: ほぼ毎回、集会に参加してるじゃない ピュルテ: なんかイメージと違いますね ティンカー・ベル: でもレーウも根はいい奴って言ってたじゃん ヴェルメリオ: ……参加して何を手伝ってたの? ピュルテ: 売り子はやらずに、裏方に徹してたみたいですけど……特に多かったのがクッキーを焼く係みたいです ティンカー・ベル: クッキー? お菓子作りが得意なんだね ヴェルメリオ: ……待って。お菓子……? シンデレラ: 旅人が持ってたのもお菓子よね ティンカー・ベル: でもクッキーなんかじゃなかったよ ピュルテ: 奥に進めば他にも何か分かるかもしれません! セトモノ1: ありがとうございます! 助かりました ピュルテ: 無事に教会が取り戻せて良かったです セトモノ2: お礼と言ってはなんですが シンデレラ: ああー、いいの、いいの。気持ちだけで充分なんだから セトモノ2: そういうわけにはいきません。受け取ってください シンデレラ: なんだか悪いわね……って、え、これは セトモノ2: 商店街の割引券です ヴェルメリオ: ……割引券も陶器だ、すごい……! シンデレラ: ど、どうもありがとう…… ピュルテ: そう言えば、西の魔女・エルファバさんはこの町に何度か来ていたんですか セトモノ1: ええ、時々来てました。やっぱり誰かと話したりしたかったみたいです ティンカー・ベル: へえー、どんな感じの人? セトモノ2: 無口な人で、来てもあまりみんなに溶け込む感じではなかったですね シンデレラ: やっぱり……それじゃ、何か他に目的があって来てたってことはない? セトモノ1: いいえ、それはありません。話はしませんでしたが、真面目な人でした ピュルテ: そうなんですか。やっぱり、例の旅人のお菓子とは無関係なんでしょうか シンデレラ: そうね。例のお菓子はもっと見たことのない何かだし ヴェルメリオ: ……作れるだけで疑わしいなら、わたしだって ティンカー・ベル: どっちにしてもエルファバには話を聞かないとね ピュルテ: ですね。エルファバさんの城の場所を、教えてもらえませんか? セトモノ1: カトリングという町です。いま地図を書きますね セトモノ2: エルファバさんに会いに行かれるんですか? ティンカー・ベル: そうだけど……それは何? セトモノ2: 参加賞のバッジです。ここ1年、毎回参加してくれたので、その証に ヴェルメリオ: ……バッジも陶器……! シンデレラ: 手作りみたいね セトモノ2: ええ。この町のみんなから、とお伝え下さい ピュルテ: これがエルファバさんの孤独を癒やすキッカケになりそうですね ティンカー・ベル: いいね。それじゃカドリングに行こう! 29 - シーバックソーン シンデレラ: ちょ、ちょっと……はぁはぁ……やす、休まない? はぁ……ふぅ ティンカー・ベル: これくらいの岩山で息切れ? 姐さんもう若くないのね~ シンデレラ: あんたは飛んでるから楽ちんでしょうねっ! ピュルテ: ちょっと休憩しましょうか。さすがに人間さんも疲れちゃいましたよね シンデレラ: あ~、座れて生き返ったわ~! もう足がパンパンで ティンカー・ベル: 岩ってゴツゴツしてて座りにくい。お尻が痛くなっちゃう シンデレラ: あら、ずっと飛んでたらいいのに ティンカー・ベル: 羽だって休めなきゃ疲れちゃうの! ピュルテ: 山登りってけっこう疲れますね。人間さん、人間界にも山がありますよね? ヴェルメリオ: ……フジサン?面白い名前 シンデレラ: ピュルテちゃんが紛れ込んでいた大学?っていうんだっけ。そこはどんな感じなの? ピュルテ: 私が通っていた大学は大きな建物ですよ。都会にあったので周りも高い建物やお店だらけでにぎやかなんです ティンカー・ベル: 都会? ピュルテ: 都会っていうのはですね、人間さんがたくさーんいて、ネバーランドみたいに賑やかなところなんですよ ティンカー・ベル: へ~、ネバーランドみたいに賑やかなら人間界も楽しそう ピュルテ: きっとティンカちゃんも気に入りますよ シンデレラ: あら、この植物なにかしら? かわいい実がなってる ヴェルメリオ: あ! シーバックソーン…… ヴェルメリオ: …‥これ、ジャムにしてパイを作ると……おいしいの ティンカー・ベル: へぇ! じゃあ作ってよ♪ ヴェルのパイ美味しいから大好き ピュルテ: 本当にヴェルちゃんのパイは美味しいですよね。人間さんもいっぱい食べてましたよね ヴェルメリオ: ……あ、あなたもまた食べたい?人間さん ヴェルメリオ: そ、そう……食べたいなら、作ってあげても……いいけど ティンカー・ベル: ちょっとぉ! 食べたいって最初に言ったのはティンカなんですけど ヴェルメリオ: あ、あ、あそこに魔物…… ティンカー・ベル: え?! また? ……って、どこにも魔物なんていないけど…… ヴェルメリオ: に……逃げちゃったみたい シンデレラ: 休憩は終わりにして、逃げた魔物を追いかけましょう ティンカー・ベル: やっぱり旅人いないね! なんとか追いつけないかな?! シンデレラ: 追いつくのは無理だけど……なんとか捕まえたいわね。旅人のやり方は卑怯よ。騙して感染させるなんて ピュルテ: 許せないです! 感染した状態で長くいれば、仲間を襲ってしまう危険性もあります ヴェルメリオ: ……それが旅人の狙いだったのかも ティンカー・ベル: 仲間同士で戦わせるのが目的?! 最っ低! シンデレラ: オトギノクニを混乱させたいのよ。どうしてそんな酷い事をしているのかわからないけど……お城や魔法の国のみんなも心配だわ ピュルテ: 止めましょう! 私たちと人間さんで! シンデレラ: 旅人がどこに行ったのかもわからないのよ? これからだってたくさんの魔物が出てくるだろうし、感染者も増えてるかもしれない。私たちで止められるの?! ピュルテ: シンデレラさん……。確かに、そうですけど……そうですけど…… ヴェルメリオ: ……それでも、オズの国も、オトギノクニも私たちで守る。それしかできないから ティンカー・ベル: 姐さんが弱気になるなんて、ディマイトより怖いよ。……私は絶対ペトラを見つけて、オトギノクニを元の平和で楽しい国に戻すの! 悪者なんかみんなやっつけてやるんだから! ピュルテ: 私も……私も力は弱いですが、みなさんと一緒に戦います! そして人間さんを守ってみせます シンデレラ: …そうね…。私らしくなかった。 魔法の国だって私が守らないとよね! ディマイトなんかに負けないわよ! ティンカー・ベル: そうそう! それでこそ姐さんよ シンデレラ: ごめん、山登りの疲れで弱気になっちゃったみたい ヴェルメリオ: ……わたしのパイがあったら元気になるのにね シンデレラ: やめてよ~。お腹空いちゃうじゃない ティンカー・ベル: 魔物って焼いて食べれないのかな? シンデレラ: ……やめてよ。食欲なくなった ピュルテ: この洞窟を抜ければ、カドリングの町のはずです! シンデレラ: 岩山キツかった…… ティンカー・ベル: まだ言ってるよ……姐さん ヴェルメリオ: ……たくさん休憩したのに ピュルテ: マンチキンの街で休んでいる、リルちゃんはどうしてますかね ティンカー・ベル: あんなに具合悪そうだったもん。おとなしく寝てると思うよ~ ヴェルメリオ: ……退屈、とかいって剣の練習してたりして ピュルテ: けっこう深い傷だったから、そんな無茶したら大変です! シンデレラ: リルが無茶する性格だっていうのはわかってるわ。だからマンチキンの人たちにもよく見ていてほしいと頼んでおいたのよ ピュルテ: オトギノクニでもスマホが使えたらいいんですけど ヴェルメリオ: ……スマホ? ピュルテ: あ、人間界にある道具です。遠くの人と話をすることができるんですよ ティンカー・ベル: なにそれ~?! 全然よくわかんないんだけだど シンデレラ: その、人間さんが持ってる……黒いのがそうなの? ピュルテ: そうです! 考えたら、人間界ってすごく便利なものがいっぱいですね ヴェルメリオ: これで遠くの人とどうやって連絡を? ピュルテ: 相手も同じ道具を持っていないとダメなんです。それから電波っていう目に見えない力というか、そういうのが必要で…… ティンカー・ベル: どっちにしてもオトギノクニでは使えないってことね ピュルテ: ドロシーさんが見つかったら、私、マンチキンの街まで戻って様子を見てきます! ヴェルメリオ: ……ひとりでなんて無理 シンデレラ: そうよ、またあの岩山を通るのよ?! ティンカー・ベル: 姐さん、よっぽど岩山がトラウマなんだね。……そうだ! あの鳩に様子を見に行ってもらおうよ! シンデレラ: セトモノの町でもらった鳩ね! ティンカちゃん、ナイスアイディア! ティンカー・ベル: この洞窟から出たら、鳩を飛ばすよ。これで安心でしょ? ピュルテ: はい! ありがとうございます! 30 - カドリングの町 シンデレラ: ここがカドリングの町ね! カドリング1: あ、あなたたちは誰ですか?! 見かけない顔だけども ピュルテ: あ、町の方ですね。私たちは…… カドリング2: ま! まさか! 西の魔女の手下?! ティンカー・ベル: はぁ? あのね、私たちは…… カドリング1: 西の魔女の手下よ! 西の魔女の手下よ! ピュルテ: 違います! 私たちは西の魔女さんの手下ではありません! カドリング1: ウソ! だって見たことのない顔だもの。西の魔女の手下に違いない! ヴェルメリオ: ……見たことないのになんで西の魔女の手下ってわかるの? カドリング1: そ、それは……見たことのない顔だから……きっと手下だと……思う ヴェルメリオ: ……私たちはドロシーの友だちだよ カドリング1: ! ドロシーさんの友だち?! カドリング1: な、なんと失礼な事を……! 申し訳ありません! カドリング2: 申し訳ありません! てっきり西の魔女の手下がやってきたのかと シンデレラ: なぜそんなに西の魔女におびえているの? カドリング1: なぜって! 西の魔女はとても恐ろしいのです ティンカー・ベル: そんなに西の魔女って怖いの? やだ、会いに行って大丈夫かなぁ? カドリング2: 西の魔女に会いに行くのですか?! 危険ですよ! 危険です! ピュルテ: 一体カドリングのみなさんは、西の魔女さんにどんな酷い事をされたのですか?! カドリング1: それは……それは……特に、何をされたっていうことではないのですが……ね カドリング2: ……うん。酷い事とかは特に……ただ、なんとなく恐いというか……ね カドリング1: そう、怖いんですよ……なんとなくですけど ティンカー・ベル: え……っていうことは、逆を返せば何もされてないってことじゃん ヴェルメリオ: ……ただ“なんとなく”で西の魔女を避けてるの?そうやって、偏見だけで怖がってみんなで仲間外れにして……怖いのはこの町の住人の方だよ カドリング1: そんな!私たちはただ…… シンデレラ: 西の魔女の城はどこ? 本当に怖い魔女なのか、私たちが確かめてくるわ ティンカー・ベル: うわあ……なんか薄暗くて気味の悪い城だね ピュルテ: エルファバさんはどこにいるんでしょう ヴェルメリオ: しっ……奥に誰かいる エルファバ: …… シンデレラ: あなたがエルファバ? 聞きたいことがあるの。話をさせて エルファバ: ウ……ウウウウ…… ピュルテ: エルファバさん……? エルファバ: ウアアアーッ! ピュルテ: いけません! エルファバさんも感染しています! エルファバ: グアアアア……! ヴェルメリオ: エルファバ!これを見て! エルファバ: グウウ……!? ヴェルメリオ: ……これはセトモノの町の人がくれたもの シンデレラ: チャリティー集会に毎回来てくれたからって言ってたわ。あなたのことを見てくれてる人はいるの エルファバ: ……グウウ…… ティンカー・ベル: カドリングの町の町の人たちだって、受け入れてくれるよ! ピュルテ: ちゃんと話せば大丈夫ですよ! ヴェルメリオ: ……あなたは一人じゃない! このバッジ、手作りなの……あなたのために、セトモノの町の人が作ってくれたの エルファバ: ウウウ……ウグアアア! ティンカー・ベル: あっ、奥に逃げて行っちゃう! ヴェルメリオ: ……追わなきゃ! シンデレラ: ふう……なんとかなったわね ピュルテ: まだ気を失っているようですが、しばらくすれば目を覚ますでしょう ティンカー・ベル: エルファバ、なんか持ってるよ。これは……鍵? ヴェルメリオ: ……奥から何か聞こえる? ピュルテ: このドアの奥からみたいです。でも鍵がかかって…… ティンカー・ベル: そっか、この鍵がそこに使えるってことか ピュルテ: 開きました! シンデレラ: 誰かいるの? ドロシー: ここよ! 早く出して! ヴェルメリオ: ……ドロシー!? ティンカー・ベル: よかった、無事だったんだね ヴェルメリオ: ……今すぐ開ける ドロシー: ヴェル……久しぶりね。あなたが助けてくれたの? ヴェルメリオ: ……うん、無事で本当によかった ドロシー: そして……そっちの貴方は見かけない顔ね。貴方もありがとう ヴェルメリオ: ……早くここから出よう 31 - エルファバとドロシー ピュルテ: まだエルファバさんは気を失ってるようです ティンカー・ベル: 男のあんたがいてくれてよかったよ。運ぶの大変だったもんね ヴェルメリオ: それで……何があったの、ドロシー ドロシー: オズの様子がおかしいから、エルファバに相談しようと思ったの ピュルテ: どんな状態なんですか? ドロシー: ぶつぶつ言いながら部屋にこもりがちになって シンデレラ: それもエルファバと同じ感染かしら? ドロシー: ハッキリとは分からない。けど、ディマイトの気配を少し感じた。エルファバはディマイトにも少し詳しいから、それで ピュルテ: あっ、エルファバさんが目を覚ましたようです! エルファバ: ……私、急に自分を抑えられなくなって シンデレラ: 仕方ないわ。ディマイトのせいなんだから エルファバ: ドロシーもごめん…… ドロシー: もう、冗談じゃないわよ。訪ねていったら、いきなり有無を言わさず監禁なんて エルファバ: う……うん…… シンデレラ: 心当たりはあるの? どうしてこうなったか エルファバ: 旅の人からプレゼントされたの。小さな粒のようなお菓子 ピュルテ: やっぱり例の旅人に会ってたんですね エルファバ: 人とうまく話せない私に対して、旅の人は本当に優しかった。ちゃんと話を聞いてくれて、沈黙も苦痛じゃなくて…… ドロシー: バカみたい。そんなことでダマされて、結局は感染しちゃってんだもん。周りはいい迷惑だわ ティンカー・ベル: ちょっと、そこの三つ編み! エルファバだって反省してるんだから、言い方ってもんが ドロシー: 私、あなたの友達だと思ってたんだけど? 違ったわけ? エルファバ: ドロシーは一番の友達……! ドロシー: だったらそんな変なのに付け込まれないでよね。寂しかったら私を呼びなさいよ エルファバ: ドロシー…… ドロシー: だいたい、私が友達になった人がみんなから嫌われるわけないでしょ。もう少し自信持ちなさいよ! エルファバ: あ、ありがと…… ヴェルメリオ: ドロシーは、こういう子なの…… ティンカー・ベル: めんどくさいやつだなあ シンデレラ: あんたが言う? ドロシー: それじゃ、町の外れまで見送るわ。行きましょう ドロシー: それじゃ、私の魔法の靴を貸してほしかったわけ? ピュルテ: それも目的の1つだったんです。どうでしょうか? エルファバ: この方、人間界から来られたのね…… ピュルテ: ドロシーさんの靴があれば、自由に行き来できると思うんです ティンカー・ベル: ケチケチしないで貸してよ! ドロシー: 落ち着いてよ、妖精さん。靴は持ち歩いてるわけじゃないの。エメラルドの都にあるわ ピュルテ: そうなんですか! じゃあ、エメラルドの都に向かうしかないですね シンデレラ: オズの様子も気になるし、いいんじゃない ドロシー: 分かった。エルファバ、それじゃここらでお別れね エルファバ: えっ、ドロシーは? ドロシー: この人達を案内しなくちゃでしょ。でもあんたはダメージ大きいんだから、ここまで ピュルテ: ありがとうございます、ドロシーさん! 靴が手に入れば、人間さんも戻れますね! ピュルテ: だって……人間さんだけに無理させたくないですから シンデレラ: 最後に1つだけ。ディマイトのバランスがおかしいのはいつからかしら エルファバ: ある日を境に急に上昇したのよ。理由は分からないけど、でもあの急激な増え方は自然のものじゃない ヴェルメリオ: 自然じゃないって、人為的なものってこと? エルファバ: おそらく。だから……気をつけて シンデレラ: 近かったわね! ピュルテ: 都からすぐなんですね。町はどんな様子なんでしょうか ドロシー: 私が出るまでは普通だったけど…… ティンカー・ベル: 感染じゃなくても、オズが引きこもってたら、みんな混乱してるんじゃない? ドロシー: どうかな。普段から宮殿で読書ばかりで、実務は私が取り仕切ってたから ヴェルメリオ: それでも、ドロシーはしばらくいなかったんじゃない…… ドロシー: あ、そうね。ヴェルの言うとおりだわ ティンカー・ベル: ま、三つ編みの存在感がどんなもんか、行ってみれば分かるでしょ ドロシー: ちょっと、その三つ編みって私のこと? 32 - 館は閉鎖 シンデレラ: さすが都、賑わってるわね。だけど…… ピュルテ: 大混乱ってわけでもないですけど、どことなく皆さん、不安げですよね ドロシー: 冗談じゃないわ。私の都の賑わいは、こんなもんじゃないのよ ヴェルメリオ: ドロシー、町の人が心配なのね…… ティンカー・ベル: ねえねえ、エメラルドの館ってある? そこがなんか閉鎖されてるって、さっき噂を聞いたよ ドロシー: エメラルドの館が閉鎖…… ピュルテ: そこは、どんなところなんですか? ドロシー: 本館は役所みたいなもので、別館は住民がいろんな集まりで自由に使えるスペースよ シンデレラ: そんなもの閉鎖してしまうなんて ヴェルメリオ: やっぱりオズも感染……? ピュルテ: けど、感染後の行動が少しバラつきがありますよね ティンカー・ベル: エルファバは引きこもったけど、チューチラは違ったよね シンデレラ: コンプレックスを増幅させるからかしら。知性を失ったチューチラはむやみに暴れたけど ヴェルメリオ: 人が怖いエルファバは引きこもったってこと……? ドロシー: あいつの引きこもりは元からよ。でも、悪くない予測かもしれないわね ピュルテ: オズさんのコンプレックスって、何だと思いますか? ドロシー: オズは……平凡すぎること、かな シンデレラ: 平凡過ぎる? ドロシー: 国の代表なのに、国民を団結させるようなカリスマ性や能力は自分にない、とオズは思ってんじゃない シンデレラ: なるほどね。じゃあ引きこもりそうよね ドロシー: 都の下町の方に酒場があるの。そのあたりで情報収集するのはどう? ピュルテ: えっ、酒場ですか!? で、でも私たち…… ドロシー: お子様すぎて叩き出されないかって? 大丈夫よ、私がいれば ティンカー・ベル: 姐さんもいるし! シンデレラ: 余計なこと言ってんじゃないわよ! 33 - 強がりドロシー ピュルテ: じゃあオズさんは、やっぱり宮殿にいるんですね 客1: よそで見かけたって話も聞かねえしなあ ティンカー・ベル: 話、ありがとね。まあ、酌してあげるから飲みなよ。おっとっと…… 客1: おおう、妖精の姉ちゃん、悪いねえ ドロシー: どこかに隠れてるんじゃなければ、話は早いわね。この私が出向いて話をつけてやるわ 客2: ああ、ドロシーさん。そりゃ無理ですよ ドロシー: なんでよ 客2: 宮殿に続く跳ね橋は、ずっと上がったままなんですよ ヴェルメリオ: 本当に閉じこもってるんだ…… ピュルテ: 他に宮殿に入る方法はないんでしょうか ヴェルメリオ: 靴があれば飛んでいける……? ドロシー: 確かにそうね。靴はオズの宮殿じゃなくて、エメラルドの館にあるはずだし 客2: あそこも閉鎖されてますよ ドロシー: 別館だけじゃなくて、本館も? どうなってんのよ…… 客1: ああ、でも別館の裏口は鍵が壊れてるから、入ろうと思えば入れるはずだぜ ティンカー・ベル: んじゃ、とりあえず明日やることは決まったね! 客1: でも魔物がうろついているって噂もあるんだ。気をつけなよ ドロシー: 誰に言ってんのよ。任せときなさいって ピュルテ: あれっ、そう言えばシンデレラさんは? ヴェルメリオ: それが…… 客3: おおっ、いい飲みっぷりだね、姉ちゃん! シンデレラ: どんどん持ってきなさいっ! 朝まで飲むわよ! ティンカー・ベル: どうすんの、あれ…… (背景切換...) ドロシー: ねえ、人間のあなた。まだ起きてるんでしょ? ちょっと部屋、入るわね ドロシー: 私もオトギノクニの暮らしが長いからね、なんとなく分かるの。エルマイトが強いかどうか、なんてことはね ドロシー: あなたが強力なのはもちろんだけど……ヴェルは短期間で急激に増えてる。それって、話に聞くクロスの効果、でしょ? ドロシー: やっぱり。他のみんなもそうなんでしょ。でも、これからのことを考えたら、私のエルマイトも上げておいた方が得策じゃない? ドロシー: 私は構わないわよ。強力なエルマイトは私にもメリットだから。後はあなたが望むかどうか、だけど……聞くまでもないわよね? ドロシー: はあ? ちょっとあなた、断るですって? どういうつもり? 正気なの? ドロシー: なっ……私とじゃそんな気になれない、ですって!? ああそう、いいわ。私だって、あなたなんか願い下げよ! (ドッカーーーン) ドロシー: 外で何かあったみたいね……ふん、あなたの力なんて必要ないってとこ、見せてあげるわ! ピュルテ: ここがエメラルドの館ですね…… ヴェルメリオ: ドロシー、どうしたの……? 朝からずっと怒ってる気がする…… ドロシー: 怒ってる!? 冗談でしょ、この私が? あんなことで? ヴェルメリオ: 何があったかは知らないけど…… ティンカー・ベル: きっと朝ごはんにヨーグルトがなくて怒ってるんだよ ドロシー: わ、私をなんだと……! シンデレラ: お願いだから大声出さないで……頭に響くから…… ピュルテ: シンデレラさん、大丈夫ですか? シンデレラ: ねえ人間さん、昨日の私のこと、幻滅しちゃったわよね? お願い、忘れて…… シンデレラ: え、そんな……ありのままの私が素敵、だなんて、そんな ティンカー・ベル: 素敵とは言ってないよね。ありのままでいいとは言ったけど ヴェルメリオ: まあ、大体あってる…… ドロシー: ふん、さっさと行くわよ (背景切換...) ピュルテ: 皆さん、足元気をつけてください。薄暗いですからね ティンカー・ベル: ティンカは飛んでるから足元平気だも……痛っ! こんなとこにシャンデリアが~ シンデレラ: それで? これはどこへ続いているの? ドロシー: この別館と本館は地下で繋がってるの。まずは地下に降りるわよ ピュルテ: ドロシーさんがいてくれたおかげで、迷わずにすみましたね ヴェルメリオ: でも魔物はいる……? ドロシー: でしょうね。でも関係ない、全部蹴散らしてやるわ ティンカー・ベル: あ、やっぱり三つ編みは怒ってるんだね ヴェルメリオ: こんなふうになってしまったことに? ドロシー: 当然でしょ。私の都の誇るべきエメラルドの館が、こんな廃墟みたいな扱いを受けるなんて! 許せないわ! シンデレラ: ああー、だから大声はやめて~… 34 - エメラルドの館・中庭 ティンカー・ベル: やっと出たー! って、ここどこ? どうなってんの? ドロシー: 別館の地下道を抜けると、本館の中庭に出るのよ。つまり、ここを取り囲んで建ってる建物は ピュルテ: エメラルドの館の本館、ってことですね! シンデレラ: なんか喉が乾いてしょうがないのよね ティンカー・ベル: それは飲みすぎたからでしょ。ああ、でもティンカもおなかすいてきちゃった ヴェルメリオ: ちょうどよかった、休憩しよ……? ピュルテ: えっ、ヴェルちゃん、それお弁当ですか!? ティンカー・ベル: うわああ、マジで!? 早く食べよう! シンデレラ: うわ、ヤバい。これは美味しそうだわ……! ピュルテ: これを一人で作ったんですか!? ドロシー: さすがヴェル、相変わらず女子力高いわね ピュルテ: じゃあ、そこの真ん中のベンチに座りましょうか ヴェルメリオ: えへへ……美味しいかな……? シンデレラ: ちょっと人間さん、嫁にしたいって、それストレートすぎない!? ヴェルメリオ: ……! ピュルテ: 魔物の真っ只中とは思えないくらい、のどかないい天気ですね ティンカー・ベル: ねえ、三つ編み! この銅像って、これがオズ? ドロシー: そうよ、妖精さん。それがオズ。何もできない、ただの手品師よ ピュルテ: ドロシーさん……? ドロシー: だけど、みんなに好かれてた。国中のみんなから愛されてたの。能力なんて何もなくていい、ううん、愛されること自体が1つの才能なのに シンデレラ: そうね。得難い才能だわ ドロシー: だから私はオズのこと、尊敬してたわ。この私がかなわないものを持ってるなら、充分尊敬に値するもの ヴェルメリオ: ドロシー……涙…… ドロシー: 泣いてなんかないわよ。ただ、情けないの。そんな才能を持ってるのに、感染するほどのコンプレックスだなんて ティンカー・ベル: まだ感染って決まったわけじゃ…… ドロシー: 実務なんて私や魔女にやらせておけばいいじゃない。それなのに……バカなオズ ドロシー: な、なによ急に頭ポンポンするとか! あなた、私を子供扱いしてるわけ!? ピュルテ: 人間さん……そうですね。どういう状況か分かりませんが、とにかくオズさんを助け出しましょうね ドロシー: も、もう頭撫でなくていいから! あなたの言いたいことは……充分伝わったから。さ、行こう ドロシー: こんなに館の中が荒れ果てて…… シンデレラ: オズがディマイトに感染しているのは間違いないようね ドロシー: 様子がおかしいことはわかっていたのに! オズの元を離れなければ、私が一緒にいればこんなことにはっ…… ピュルテ: ドロシーさん、落ち着いてください! ドロシー: あ、ちょ、ちょっとあなた! な、何するのっ……後ろから抱きつくなんて、びっくりするじゃない シンデレラ: でも、落ち着いたみたいね ヴェルメリオ: 自分を責めないでドロシー、-……感染してしまったら誰にも止められない ティンカー・ベル: それに三つ編みは、西の魔女に監禁されてたんだから仕方ないよー ドロシー: あなたも……みんなもありがとう。取り乱してごめんなさい。落ち着いたわ ピュルテ: きっとオズさんも例の旅人さんに会ったんでしょうね……。どこで会ったかわかりませんか?ドロシーさん ドロシー: オズのところには色々なお客さんがたくさんくるから。言ったでしょ? 人気者なのよ ヴェルメリオ: ……エルファバが言ってた小さいお菓子は? ドロシー: プレゼントや差し入れも、オズには日常茶飯事なの。あ、でも…… ヴェルメリオ: ……でも? ドロシー: 懐かしいお菓子をもらったって、喜んでたことがあった! シンデレラ: 懐かしいお菓子? ドロシー、あなたはそのお菓子がどんなものか覚えてる? ドロシー: それが……その時とても忙しくて。オズが半分くれると言ったのを断ったの。だからどんなお菓子か見てない。嬉しそうにオズが一人で食べてたのは覚えてる ティンカー・ベル: 懐かしいお菓子ってことは……昔からある伝統的なお菓子なのかなぁ ドロシー: とりあえず、まずは館の最上階にある執務室に行きましょう。靴はそこにあるの ピュルテ: わかりました! 人間さん、これで人間界に戻れますね ヴェルメリオ: ……ここが執務室? ティンカー・ベル: 本やら紙やら散乱して、すごいことになってるね ドロシー: 魔法の靴は奥の鍵のかかる棚にあるから、無事だといいけど……あ! あった! ピュルテ: わ! かわいい赤い靴。ドロシーさんの履いてる靴とソックリ ドロシー: でしょ?! 私の今履いている靴は、この魔法の靴のレプリカなの ティンカー・ベル: じゃあさ、さっそくあんた履いてみなよ! ピュルテ: はい……確かにちょっと人間さんが履くにはラブリーな靴ですけどね シンデレラ: サイズも全然違うけど、つま先だけでも入っていればOK? ……なんだか昔の自分を思い出すわ ドロシー: 履けた? ……壊滅的に似合わないけど、仕方ないわね ドロシー: 行きたい場所を思い浮かべて、両足のかかとを3回ぶつけるの。それだけ。簡単でしょ? ティンカー・ベル: まって! あの……ちゃんと、戻ってきてくれるよね? 人間界に帰っても シンデレラ: 人間さんたら、そんなに強くうなずかなくても ヴェルメリオ: ……パイ作って待ってる ピュルテ: 私も信じて待っています。さぁ、かかとを3回ぶつけてみてください! (トン トン トン) (……) ティンカー・ベル: え? 何も起こらないけど…… ドロシー: おかしいわね……いつもこれでカンザスの家に帰れるのに ヴェルメリオ: ……魔法の力が失われてる? シンデレラ: あり得るわね。ディマイトの影響が善い魔法にも及んでいるのかも ピュルテ: 魔法の靴なら人間界に戻れると思ったのに…… ドロシー: 役に立たなくて申し訳なかったわ。さあ、あなたたちは先を急いで。他にもこの人が人間界に戻れる方法がきっとある ピュルテ: え? いえ、その前にオズさんを元に戻しましょう! ですよね? 人間さん☆ ドロシー: え、でも……。オズはあなたたちとは何の関係もないのよ? ヴェルメリオ: ドロシーの友だちは、私の友だち。……みんな仲間だから ドロシー: ヴェル……みんな……それに人間のあなたも……ありがとう! ありがとう! 35 - 高所恐怖症ヴェルメリオⅠ ドロシー: 跳ね橋が上がったままだから、オズの宮殿には空から行くしかないわ シンデレラ: なるほど、だから気球なのね ヴェルメリオ: 空を飛ぶって……大丈夫?この大きな風船 ティンカー・ベル: ずきんは気球が怖いの? へー、意外 ヴェルメリオ: だってこんな風船で空を飛ぶって…… ピュルテ: 気球は風船じゃないから大丈夫ですよ ヴェルメリオ: 地面に足がついてない状態が苦手というか…… シンデレラ: 要するに高所恐怖症ってワケね ヴェルメリオ: 怖いなら、俺につかまってれば大丈夫?……うん、そうさせてもらう ドロシー: いいな。私も……あなたをもっと頼りたい…… ピュルテ: え? 今なんて言ったんですか? ドロシーさん ドロシー: あ、ううん! なんでもない! ピュルテ: 人間さん、ヴェルちゃんの手をしっかり握っていてあげてくださいね ドロシー: 苦手なことにまで付き合わせてごめんね ヴェルメリオ: ……私はドロシーの力になりたいの ドロシー: うん、ありがとう。それにしてもヴェルも本当に強くなったわね。……誰かさんのおかげかな ヴェルメリオ: ! …… ピュルテ: 人間さんが仲間になってくれてから、私も含めみなさんとっても心強いんですよ ドロシー: そうね。私にもこの人間さんの存在の大きさが今はわかる……あなたも、ありがとう シンデレラ: 昨日、なにかあったのかしら? 人間さんとドロシーは ティンカー・ベル: ……もう! 人間さん、あんたはホント優しすぎるんだから ドロシー: それじゃ、出発するわ! 準備はいい? ティンカー・ベル: こっちはOKだよ。みんな乗って シンデレラ: 待って! どうやら準備している間に囲まれたみたいね……! ピュルテ: 仕方ありません! まずは戦ってから乗り込みましょう! ドロシー: もう……邪魔が入ったわね。それじゃあ、今度こそ上にあがるわね! (背景切換...) ティンカー・ベル: すっごーい! どんどん高くなっていく~! 最高☆ シンデレラ: 風が気持ちいいわね~ ティンカー・ベル: あれっ? なんか、後ろの方からシューシュー音がしてるよ 36 - 着陸成功!? ドロシー: た、大変! さっきの戦いで気球に穴があいちゃったみたい ティンカー・ベル: ちょっとぉ! それってヤバくない?! ヴェルメリオ: お、落ちる……! シンデレラ: このまま着陸するしかない! みんな何かにつかまって! ピュルテ: 人間さん! みんな俺に捕まれって……わかりました! みなさん、人間さんにしっかりつかまりましょう! (きゃーーーーー) (ドスン) (背景切換...) シンデレラ: み……みんな無事? ティンカー・ベル: は、は~い……ティンカは無事だよ。なんとか、ね ドロシー: わ、私も ピュルテ: 私も無事です ヴェルメリオ: だから! だから空を飛ぶのは嫌だったの! シンデレラ: ……ヴェルも無事みたいね。って、みんな!人間さんをつぶしちゃってるわよ ピュルテ: 大変! ご、ごめんなさい人間さん! お尻で体に乗っちゃってました ティンカー・ベル: ちょ、ちょっと! 人間さん、あんたの手がスカートに入ってるんだけど! ドロシー: 目の前にあるコレって、あなたの下半身…… ヴェルメリオ: ……あたしのお尻の上に何かある シンデレラ: 人間さんの顔。……で、私の胸をしっかりつかんでるのも人間さんの手 ピュルテ: みなさんで人間さんを助け起こしましょう! シンデレラ: ここは……? ドロシー: オズの宮殿の庭よ! よかった、ちゃんと目的地に降りられて ピュルテ: ここが宮殿ですか! すごく大きいです! ヴェルメリオ: もう絶対……気球には乗らない ティンカー・ベル: いい加減元気だしてよ~。みんな無事だったんだからよかったじゃん☆ ドロシー: オズが元に戻れば、跳ね橋が使えるからもう気球に乗らなくて済むわね シンデレラ: オズの感染を治して、ヴェルにも機嫌を直してもらわなくちゃね ピュルテ: みなさん、人間さん、準備はいいですか!? オズさんの宮殿に突入です! ティンカー・ベル: やっぱりものすごぉく散らかってる ドロシー: それに暗くてなんだか空気が冷たい……。いつもは明るく笑い声が溢れている賑やかなところなのに ヴェルメリオ: ……オズが好きなんだね ドロシー: うん。偉大な魔法使いじゃなくただの手品師だけど、オズはいつもみんなをあっと驚かせるアイディアでこの国を守ってきたの。明るくてユーモアのセンスも抜群。大切な友達よ ピュルテ: そんな素敵な人をディマイトに感染させるなんて! 必ず元に戻しましょう ドロシー: ええ。私、オズのためなら何でもする。……ヴェルやみんなが、私のためにそうしてくれたように ヴェルメリオ: ……そうだね! ドロシー シンデレラ: 気配がしないけど、オズはここにいるのかしら ドロシー: オズはきっとこの奥にいる。わかるの、私には ヴェルメリオ: 感染してから時間がたっているから狂暴化しているかも……気を付けて ドロシー: 感染したエルファバを見てたから大丈夫。気を付けるわ オズ: ググググウゥゥゥ……グ ピュルテ: ! あの柱の陰から声が! ドロシー: オズ! いるんでしょ! 私、ドロシーよ! 出てきて ティンカー・ベル: 出てきた……あれがオズね…… ドロシー: オズ…… オズ: ド…ドロジィ……?ウグゥ……グッ ヴェルメリオ: ドロシーの言葉に反応してる…… シンデレラ: ディマイトはコンプレックスに強く影響するわ。それを取り除いてあげれば…… ドロシー: コンプレックスになんか感じることないのに! オズ、あなたは最高の友だちよ。そして、この国の王よ! なぜそれをわかってくれないの? ヴェルメリオ: ドロシー…… ドロシー: ……私はこの人たちと旅にでる。しばらくオズの国には戻れない。だからあなたにこれを託すわ (キンッッ) ピュルテ: 何を投げたのですか? ドロシー: 執務室の鍵よ。……オズ、あなたにはひとりでこの国を統治してもらう、私が戻るまで。任せられるのはあなたしかいない! だからお願い! ディマイトになんて負けないで! オズ: ウグゥ……ウゥっ! ……ウワァアアっ! シンデレラ: 混乱……してる、みたい ドロシー: オズ! 元のあなたに戻って! オズ: キェエエエエエエーーーー! ティンカー・ベル: オズの叫び声で魔物が集まってきたよ! ヴェルメリオ: ……囲まれた ティンカー・ベル: ちょ、ちょっと。大丈夫かな? オズって人、倒れたままだけど…… シンデレラ: 私たちとの戦いでまさか……! ドロシー: そんな! っ! ……オズ! 起きて! 目を開けて! オズ! オズ: う……うぅ…… ドロシー: オズ! よかった! 気が付いたわ オズ: ……ドロシー……私は、自分が自分ではなくなって…… ドロシー: 私の友だちが、みんなが協力して、あなたを助けてくれたの オズ: ドロシーの友人のみなさん、攻撃してしまって……本当に申し訳ありません。お怪我はなかったですか? ピュルテ: 気にしないでください。元のオズさんに戻ってよかったです オズ: みなさんのおかげです ヴェルメリオ: ……ドロシーの、あなたを思う気持ちが思いが通じたの オズ: ドロシー、キミの声は聞こえていたよ。……本当にありがとう ドロシー: オズ、あなたに言ったのは私の本音よ。あなたはとても立派で素敵な人。私の最高の友だちよ。これからも、それは忘れないで オズ: ……旅に出るというのも、本当なんだね ドロシー: ええ。あなたやオズの国の者たちをディマイトに感染させた奴を……私の手でやっつけてやりたいの! オズ: キミらしいね、ドロシー。……この鍵、確かに預かったよ! ドロシー: あ、そうだ! ねぇ、オズ。魔法の靴が壊れちゃったみたいなの オズ: 魔法の靴が壊れた? ドロシー: そこの人間さんを人間界に帰してあげたいんだけど……魔法の靴が反応しないの ティンカー・ベル: これじゃただの靴だよねぇ オズ: この方は人間の方でしたか ドロシー: 魔法の靴、直せない? オズ: 忘れたの? ドロシー。私もキミやその方と同じ、人間界の人間だよ。魔法の靴を直すのはちょっと無理かな ドロシー: ご、ごめん、つい。あなたは何でもできる人だから…… ヴェルメリオ: ……それだけ、ドロシーはオズを頼りにしてるってこと オズ: ありがとう。……そうだ、北の魔女のグリンダなら、魔法の靴の魔法を取り戻せるかも ピュルテ: 北の魔女さん……ですか オズ: グリンダはギリキンの町のそばにある城に住んでいます。とても優しい魔女ですよ シンデレラ: 行ってみましょう、ギリキンの町へ 37 - 魔法の靴の修理へ ヴェルメリオ: ……北の魔女とは仲が良いの? ドロシー: ええ。グリンダのところにも例の旅人が行ってないといいんだけど シンデレラ: 無事だといいわね ピュルテ: ティンカちゃん? なんだか元気がないみたい ティンカー・ベル: え? あ、うん…… シンデレラ: ペトラちゃんが心配なのよね? ティンカー・ベル: ねえ……ディマイトに感染したままだとどうなるの? シンデレラ: 感染したまま放置したらってこと? 想像したことなかったけど…… ヴェルメリオ: ……元に戻りにくくなる? ピュルテ: より凶暴になるのでしょうか シンデレラ: 何にしても、早く元に戻してあげたほうが良策だと思うわ ティンカー・ベル: やっぱり! ピュルテ: ティンカちゃん! 落ち着いてください ティンカー・ベル: だって! だって! ペトラがもし感染したまま姿を消したなら、時間が経っちゃってるもん! ピュルテ: 人間さん……魔法の靴はいいからって……なんて優しい…… ヴェルメリオ: ……やっぱりこの人すごい、かも ティンカー・ベル: ありがとう…!あんたも帰りたいはずなのに… ドロシー: 大切な人を想う気持ちを理解してくれてるのよ、この人は シンデレラ: 人間さんもそう言ってくれてることだし、先にネバーランドに急ぎましょう! ティンカー・ベル: 待ってみんな! ……大丈夫、予定通り北の魔女のところに行こう! シンデレラ: 遠慮することないのよ! ね、人間さん。人間さんもみんなも、ティンカちゃんの心配事を早く解決してあげたいのよ ティンカー・ベル: みんなと……人間さん、あんたが魔法の靴よりペトラを優先してくれるって言ってくれて、本当に本当に嬉しかった ヴェルメリオ: ……だったら早くネバーランドに ティンカー・ベル: だからティンカのわがままで、魔法の靴を後回しにするなんてできない。……ペトラの事も大切だけど、ティンカはみんなやあんたのことも大切なんだもん! ピュルテ: ティンカちゃん…… シンデレラ: 何よ、急にいい子になっちゃって ティンカー・ベル: 悔しいけど……人間さん、あんたのおかげってことにしとく ドロシー: グリンダに魔法の靴を直してもらって、一刻も早くネバーランド目指すわよ! ピュルテ: 大きい小屋ですね? ドロシー: ここは木挽き小屋よ ティンカー・ベル: 木挽き小屋って? ドロシー: 木で物を作ったりする作業小屋なの ヴェルメリオ: ……私のおばあちゃんが住んでる森にもある シンデレラ: おばあさま、元気? ヴェルメリオ: うん。……パイの食べすぎで太った ティンカー・ベル: ちょ! またオオカミに襲われちゃうじゃないの? ヴェルメリオ: 大丈夫・・・今はオオカミとおばあちゃん、仲良しだから。オオカミも私のパイが好きで太った ピュルテ: ヴェルちゃんのパイは美味しくて、みなさんを幸せにしてくれますね ドロシー: 私も久しぶりにヴェルのパイ食べたいな ヴェルメリオ: ……岩山でシーバックソーンを見つけたから、今度作る。……この人も食べたいって言ってるし ティンカー・ベル: 私が食べたいって最初に言ったの、忘れないでよね ドロシー: あなた、好きな食べ物はなに?私の手料理だったりして! シンデレラ: 無視していいわよ、人間さん ピュルテ: おにぎり?……ああ!あの三角のですね! 私も好きです シンデレラ: お、おに……ぎり?不思議な名前 ヴェルメリオ: ……知ってる? ドロシー ドロシー: 知らないわ。カンザスにはそんな変てこな名前の食べ物ないもの (ガタンッ) ティンカー・ベル: !びっくりした!この小屋、だれかいるの? ドロシー: この小屋には木挽き台の馬が住んでるの ティンカー・ベル: 馬がいるの?!見たーい! ドロシー: 馬って言っても、木でできた木挽き台の馬だけど シンデレラ: 木の馬なのね! 私も興味あるわ ドロシー: そう? 私も久しぶりだし、挨拶ついでにみんなを紹介するわ (コン !コン! コン!) ドロシー: 木挽き台の馬! 私よ! ドロシーよ! (ガタガタガタガタガタガタッ) ピュルテ: 裏手の方から聞こえますね…なんだか様子が変ではないですか?! ティンカー・ベル: うん……なんかヤバい予感しかしない ドロシー: 木挽き台の馬?!何処にいるの!返事をして!  38 - 北の魔女グルグル!? シンデレラ: 魔物がまた増えてきてるわね ピュルテ: 木挽き台の馬さんは小屋にいませんでしたけど、無事でしょうか ドロシー: あの子ならきっと大丈夫。危険を察知してさっさと逃げたんだわ ティンカー・ベル: 北の魔女の……グルグルって人は無事かな~?! ヴェルメリオ: ……グリンダ ティンカー・ベル: 間違えちゃった、テヘッ☆ ドロシー: ディマイトはコンプレックスを増幅させるんだったわよね? ヴェルメリオ: ……うん。マンチキばあさんはそう言ってた ドロシー: コンプレックスがない場合はどうなるの? グリンダは完璧な魔女だから、コンプレックスなんてないと思う ティンカー・ベル: コンプレックスがない奴なんている?! ヴェルメリオ: ……ティンカにコンプレックス?へえ……意外 ティンカー・ベル: なによー!私だって色々思うことはあるの! ピュルテ: 考えたこともなかったです。コンプレックスがない方に、ディマイトがどう影響するのか シンデレラ: ディマイトは自然環境にも影響が少なからず出ているから、何かしらの症状は出ると思うんだけどね ピュルテ: まだまだディマイトについて、勉強不足ですね私たち……。もっと調べておかないとですね (カキンッ!) ドロシー: 敵?!……かと思ったらハトね ティンカー・ベル: あ!マンチキンの街に行ってたハトが帰ってきたよ! ドロシー: あらこのハト、セトモノの町の子じゃない? ピュルテ: 住人さんから貰ったのです。……ハトさん、おかえりなさい。お疲れ様でした シンデレラ: マンチキンの街で休養している仲間がいるから、様子を見に行ってもらったの ドロシー: 賢いハトね ヴェルメリオ: ……足に手紙がついてる ピュルテ: えっ、なんて書いてあるんですか!?リルちゃんに何か……! シンデレラ: 待って。いま手紙を外すから ドロシー: でも、手紙を読むのは……敵を倒して落ち着いてからね! ティンカー・ベル: いつの間に!? ピュルテ: ハトさんの手紙を読みますね。……“リルさんは怪我がよくなり、街を出ていきました。行先はおっしゃっていなかったのですが、港で魔法の国行きの船に乗るのを見た者がいます” ティンカー・ベル: は!? 出て行った? ひとりで? シンデレラ: しかもなぜ魔法の国に? ヴェルメリオ: ……きっと遅れを取り戻そうとか、そういう理由。魔法の国はシンデレラの故郷だから、いずれ行くって思ったんだよ ティンカー・ベル: あー、ネコならあり得る。すぐひとりでかっこつけるんだよね ドロシー: え、ええ。あなたが言うとおり、マンチキンの街から魔法の国までは船で行けば近いわ ピュルテ: 人間さんは、私たちを追うより、魔法の国に行くほうが早いとリルさんが判断したと思うのですね? ドロシー: 確かに今、私たちは魔法の国とは反対方向に向かってるものね シンデレラ: もう! リルったら勝手な行動するんだから。怪我が治ったとしてもオトギノクニが依然危険な事には変わりないのに ピュルテ: リルちゃん、無茶するから心配です。追いかけないとですね ヴェルメリオ: でも……北の魔女の所に行った後はネバーランドに行く予定 ティンカー・ベル: ネバーランドにも船はあるよ。……フックっていう嫌な奴のだけど、勝手に借りちゃえばいいし シンデレラ: フックって確か海賊の……。それじゃあ船って海賊船?! ティンカー・ベル: そう。でも早いよ。魔法の国なんてあっという間についちゃうんだから ピュルテ: 海賊船かっこいいって……人間さんがはしゃいでます シンデレラ: 海賊船を使うかどうかは後で考えるとして、魔法の靴を直してネバーランドに行ったら、次は魔法の国に決まりね! 39 - 山道はおんぶに限る! ピュルテ: この山を超えたところがギリキンの町ですね シンデレラ: 着いたらちょっと休みましょうね…… ティンカー・ベル: ねえ、ずきん。また何か変わったの生えてないの? ヴェルメリオ: ……ううん。普通の草木しかないみたい ティンカー・ベル: そっかー、つまんないね ドロシー: ああ、疲れた。ねえ、あなた。おぶってくれてもいいのよ シンデレラ: みんなの人間さんなのに、軽々しく利用しないでちょうだい ドロシー: へえ、そういう感じ? 私は、私だけの彼にしたいと思ってるんだけど ティンカー・ベル: そういう自分勝手は良くないよ! ドロシー: 今すぐどうにかするつもりはないけど、でも…… ヴェルメリオ: ……あそこ! 何かいる! ピュルテ: 襲ってきます! (カキンッ!) 町民1: ここから先は通さないぞ! シンデレラ: い、いきなり斬りつけてくるなんて、どういうつもり!? ヴェルメリオ: ……この人たち、感染者? 町民2: ディマイトから町を守るんだ! 町民1: 操られてる奴らは通せねえ! ピュルテ: なんか違うみたいです、普通の人たちですよ! ドロシー: 逆に、私達を感染者だと疑ってるみたいね! ティンカー・ベル: でも、そんな人達を攻撃できないよ! シンデレラ: 仕方ない、一旦ここは退くわよ! 町民1: あっ、奥に逃げるぞ! 町民2: 見失うなよ! ピュルテ: 今までとは雰囲気が違いますね ヴェルメリオ: ……感染のことも知ってるみたい ドロシー: 知った上で町を守ってるのね。私たちが感染者じゃないことを伝えられれば、戦わなくても済みそうだけど 町民1: いたぞ、あそこだ! ティンカー・ベル: ええーっ!? まだ来るの? ピュルテ: そこの洞窟に逃げ込みましょう! (背景切換...) シンデレラ: はあはあ……とりあえず、ここでやり過ごすしかないわね ヴェルメリオ: ……ちょ、ちょっと待って……何か聞こえる ピュルテ: ここってもしかして、魔物の巣窟なんじゃないですか!? 町民1: ありがとうございました! てっきり皆さんもおかしくなってしまっているものだと ピュルテ: いいえ、いいんです! ドロシー: 洞穴の魔物を倒したことで、どうにか誤解は解けたみたいね 町民2: ギリキンまでご案内します。ついてきて下さい (…………) (背景切換...) 町民1: 門を開けろ! (ギーーーーン!) シンデレラ: まさに厳戒態勢ってやつね ティンカー・ベル: この人達と会わないで町に入ってたら、ボコボコにされてたんじゃない? ヴェルメリオ: ……普通の人だから攻撃もできないもんね ドロシー: それにしたって、この私まで疑うなんてどうなってるのよ 町民1: すみません。あのオズさんまで……、と聞いていたものですから ドロシー: もうオズも元通りに戻ったわ。オズの国全体が徐々に普通になっているのよ 町民1: そうなんですか! ドロシー: この私がいる限り、勝手なことはさせないわ ヴェルメリオ: ……元に戻したの、ほとんどわたしたち ティンカー・ベル: 三つ編みはずっと捕まってたじゃんね ピュルテ: それで、北の魔女グリンダさんには会えるんでしょうか? 町民: それが…… (背景切換...) ティンカー・ベル: ピュルテ、これって…… ピュルテ: 城への道が完全に封鎖されてますね……! シンデレラ: このままじゃ城に入れないわね ドロシー: 普通の町の人は通行証を作ってもらって入れるみたい。でも、私達は…… ヴェルメリオ: ……魔法の通行証だから偽造は難しいね ピュルテ: どうすればいいんでしょう…… ドロシー: 大丈夫。あの城には秘密の地下通路があるの ティンカー・ベル: すごい、そんなのあるの!? ドロシー: 任せときなさい! さ、こっちこっち シンデレラ: ドロシーがいてくれて助かったわ! ティンカー・ベル: すごい獣道みたいなところだね ドロシー: ……こんな道だったかしら? ティンカー・ベル: えっ、まさか迷子!? 40 - 一休み一休み ティンカー・ベル: もうー、ひどい目にあったよ! シンデレラ: 結局、こんな時間になっちゃったわね ドロシー: 今日はもう疲れたし、明日また行きましょ ヴェルメリオ: ……道を間違えた人がそれ言う? ドロシー: 明るければ間違えなかったわよ! ピュルテ: ま、まあまあ……今日のところは、そこの宿屋で休んで、出直しましょう シンデレラ: にしても、あんな結界を張るなんて……グリンダも相当警戒してるわね ティンカー・ベル: でもさ、逆に言えば感染はしてないってことでしょ? ちゃんと会えれば万事解決だね! (背景切換...) ティンカー・ベル: ……ねえ、起きてる? ティンカー・ベル: しーっ、静かに! みんなの部屋に聞こえたら起きちゃうよ……! ティンカー・ベル: うん、あのね。2人で話すタイミングが無かったから……ちゃんと言っておきたかったんだ。ありがとう、って ティンカー・ベル: 靴はいいから、ネバーランドに行こうって言ってくれたでしょ。あんたにとって、魔法の靴は家に帰るための大事なことなのに ティンカー・ベル: そんなことない、誰にでも言えることじゃないよ。ほんと……嬉しかったんだ ティンカー・ベル: だから、ね。ティンカ……ちゃんとお礼したいの。ほら、横になって。なんで脱ぐのかって? そんなの、分かってるくせに。ねえ、いいでしょ…… (ガチャーン) ティンカー・ベル: な、なに!? 魔物!? シンデレラ: 今の音は!? 何事なの!? ピュルテ: 人間さん、大丈夫ですか! ヴェルメリオ: ……って、ティンカ? ドロシー: なーんで、あんたがこの人の部屋にいるのよ ティンカー・ベル: えと、ちょっと、話があって シンデレラ: 服を脱ぎかけて話すことってのは、何なのかしらね!? ドロシー: そんな妖精さんみたいな色気のない相手でいいわけ、あなたは ティンカー・ベル: ちょっと、どういう意味!? ピュルテ: み、皆さん! 言い争ってる場合じゃないですよ! 人間さんがちょっと魔物にかじられてます! ピュルテ: じゃあ、こっちが地下通路に続く道なんですね ヴェルメリオ: ……今度こそ間違いない? ドロシー: 大丈夫だって言ってるでしょ。ほら、こっちよ シンデレラ: あまりのんびりしてられないからね。……って、ティンカちゃん。いつまで怒ってるのよ ティンカー・ベル: だってさ、せっかく昨日はいい雰囲気だったのに シンデレラ: 一人で抜け駆けするからバチが当たったのよ ヴェルメリオ: ……シンデレラも怪しいけど ドロシー: ほらっ、ここが地下通路よ。ちゃんと存在してたでしょ! (背景切換...) ピュルテ: この先がグリンダさんの城に通じてるんですね! ドロシー: みんな慎重に…… ヴェルメリオ: きゃああっ! 何!? ピュルテ: ヴェルちゃんが逆さ吊りに! ティンカー・ベル: パンツ丸見えだ! ヴェルメリオ: ……う、うるさいティンカ……あなたもじろじろ見ないで! ピュルテ: いえいえ、人間さんは降ろそうとしてくれてるんですよ シンデレラ: まったく、そんな初歩の罠にかかるなんて。ほら、さっさと行くわよ……って、きゃああっ! ((ザクッ!)) シンデレラ: か、壁から矢が飛んできたわよっ!? ドロシー: この地下通路は非常用だけど、念のために罠があちこちに仕掛けられてるのよ シンデレラ: 早く言いなさいよ! ああ、ありがと、人間さん。ケガはないわ…… ヴェルメリオ: ……グリンダはそれだけ用心深いんだね ピュルテ: そんな人が、ここも封鎖しなかったのは何故なんでしょう? ドロシー: グリンダはこの通路、知らないわよ。私が設計したんだもの ティンカー・ベル: はああ? どういう意味!? ドロシー: この通路は私が設計して、私と一部の住民で作ったの。ほら、私ってば多才だから シンデレラ: そういうこと言ってんじゃないわよ! ドロシー: 私の後ろに続いて。こんなのちゃんと目印があるんだから……きゃあああっ! ピュルテ: あ、落とし穴…… 41 - グリンダの城内 ティンカー・ベル: んもうー! 超大変だったんだけど!? ピュルテ: でもなんとか、城の内側には入れましたね ドロシー: すべて私の計画通りね。さあ、グリンダを探すわよ ドロシー: 確かあっちの塔がグリンダの研究室よ シンデレラ: 計算通りなんだとしたら、色々言いたいことはあるんだけど ヴェルメリオ: ……今回は感染はしてないんだよね ピュルテ: ということになっていたかと思います ヴェルメリオ: ……もし感染してたら、わたしたちノープラン ティンカー・ベル: ずきん…それ今頃言わないでよ。もうあの通路戻るの、ティンカ嫌だからね ヴェルメリオ: ……ごめん、ちょっと不安になっただけ シンデレラ: グリンダは完璧だって言ってたけど、ちょっとくらい心当たりないの? ドロシー: グリンダのコンプレックスねえ。うーん、そうねえ…… ティンカー・ベル: うんうん ドロシー: うん、やっぱり無いと思うわ ティンカー・ベル: ちゃんと考えなさいよ! ドロシー: 私の次くらいに完璧だと思うの ティンカー・ベル: 三つ編みの話は今してないから ドロシー: まあ、いざとなったらそこの彼にがんばってもらいましょうよ ヴェルメリオ: ……どうがんばるの ドロシー: 強制的にクロスを何回かしてもらえれば正気に戻るんじゃない? ピュルテ: ですよね、人間さん。それは犯罪ですよね ドロシー: 大丈夫だって。ショック療法ってやつよ。 シンデレラ: あんた本当にグリンダと友達なの……? ドロシー: やあね、ものの例えよ。ほら、置いてくわよ ドロシー: ああっ、やっと見つけた! グリンダ! グリンダ: ドロシー……? 何故ここへ ドロシー: 頼みたいことがあるのよ。私の靴なんだけど…… グリンダ: 何故ここへ来ることができたのです? 私は道を封鎖していたのに ドロシー: ああ、それは秘密の地下通路が…… グリンダ: ディマイトの影響を受けているのですね!? そして私を襲うため城へ侵入してきた……! ドロシー: えっ、ちょ、違っ グリンダ: まさかドロシー、貴方までおかしくなってしまうなんて ピュルテ: ちょっと、これ良くない流れですよね シンデレラ: すんなり事が進むとは思えないわね グリンダ: あなたのような傲慢で自分大好き人間でもコンプレックスがあったのですね…… ドロシー: ちょっとグリンダ…… ティンカー・ベル: すっごい言われようなんだけど ヴェルメリオ: ……共通見解 グリンダ: いいでしょう。ゆっくり治療してあげますからね。そのためにも、まずは大人しく捕まって下さい! (ゴロゴロゴロゴロ) ドロシー: あぶなっ! 弱めとは言え、私に攻撃魔法を……!? ピュルテ: 聞いて下さい! 私たちは感染していません! 安全です! グリンダ: 感染? ヴェルメリオ: ……ディマイトでおかしくなる状態のこと グリンダ: 確かに意識はしっかりしているようですが、しかし別の方法でドロシーが操られているかもしれない シンデレラ: 疑いだしたらキリがないわよ! ドロシー: 見なさい! 操られているような状態で、私の力が100%出せると思う!? グリンダ: てえいっ! (ゴロゴロゴロゴロ) ドロシー: 痛いっ! グリンダ: この程度でやられるとは、やはり操られて…… ティンカー・ベル: ちょっと、しっかりしてよ! 意味ないじゃん! ドロシー: ちょっと心の準備ができてなかっただけよ ピュルテ: でもこれで、力を見せて納得してもらうしかないってことが分かりましたね ヴェルメリオ: ……そうと決まれば グリンダ: さあ、魔物ども! あいつらを叩きのめしてやりな! ティンカー・ベル: えっ、魔物? ドロシー: 襲ってきた魔物を捕らえて、魔法で言うことを聞かせてるのよ。さすがグリンダね…… ピュルテ: 感心してる場合じゃないですよー! ドロシー: どう、これで分かった? グリンダ: ごめんなさいね。色々聞いていて不安だったから、つい臆病になってしまったの ピュルテ: いいえ、いいんです。それより、お願いがあるんですけど…… ドロシー: ね、グリンダって本当に人間ができてるでしょ ティンカー・ベル: どういう意味? ドロシー: 私だったら、久々だから力試しをしたんだとか適当に言って非を認めないけど ヴェルメリオ: ……それはドロシーだけだと思う グリンダ: この魔法の靴ね……残念だけど、エルマイトが足りない。動かせないわ シンデレラ: それじゃ、人間さんは帰れないってこと? グリンダ: 今のままではね。壊れてはいないから、状況が変われば使えるわよ シンデレラ: そういうことね。さ、人間さん、ズボンを脱いで ピュルテ: そうじゃなくて、私の胸を触らないと ドロシー: なに言ってんの、この人達 ヴェルメリオ: ……当然の反応 グリンダ: どちらの方法でもダメよ。靴にエルマイトが必要なんじゃない。通るための空間、つまりこのオトギノクニの世界全体で不足しているの ピュルテ: それじゃ人間さんは…… ティンカー・ベル: 世界のディマイトが元に戻らないと、帰れないってこと!? ピュルテ: 人間さん……いいんですか。私達の世界を優先って、本当に……? ヴェルメリオ: ……この人、どうかしてる。どうしてそこまで ティンカー・ベル: そんなことよりネバーランドへ行こうって……あんた、自分が帰れるかどうかなのに、ティンカの心配してくれるの!? ドロシー: 分かった。じゃあグリンダ、この靴はあなたが預かっておいて シンデレラ: 決まったなら早く行きましょう。それが人間さんを早く家に帰すことにもなるんだから グリンダ: ギリキンからネバーランドはわりと近いわ。港に船を用意しておくから (背景切換...) ピュルテ: 私、あんな大きな事言ったのに、こんな結果になってしまって ドロシー: そうね、彼の言うとおりよ。もう覆らないんだから、次を見ないと シンデレラ: それじゃあネバーランドまで一直線ね! 42 - ふるさと自慢 ヴェルメリオ: ……ネバーランドって行ったことない ティンカー・ベル: あれ、ずきんも未体験? すっごい素敵なところなんだよ! 緑がいっぱい、水もきれいで、花も咲き乱れて、あちこちで鳥がさえずってるの! ドロシー: なんだ、オズの国と変わらないじゃない ティンカー・ベル: あっ、ふるさと自慢対決!? ドロシー: 私、そもそもカンザス出身よ。オズの国もまあ、第二の故郷だとは思ってるけど ピュルテ: そのカンザスってどんなとこなんです? シンデレラ: あら、人間さんは知ってるの? ドロシー: ちょっとあなた、変に言葉を濁さないでよ! うるさいわね、田舎だって言いたいんでしょ! ピュルテ: 怖いところはないんですか? ティンカー・ベル: そりゃまあ、人魚は気難しいし、荒っぽい動物もいるし、何より海賊が威張ってるし ヴェルメリオ: ……普通に危険 シンデレラ: でも確かに海もキレイよね。ほら、魚が泳いでるわ ピュルテ: そう言えば船の奥に釣り道具がしまってありましたよ ティンカー・ベル: ちょっと借りて釣りでもしようよ ヴェルメリオ: ……うん、着くまで暇だし ドロシー: 私はパスかな。そういうの、興味ないから ティンカー・ベル: ふうん、三つ編みは釣りが苦手なんだ ドロシー: 苦手とは言ってないでしょ。興味がないって言ったの シンデレラ: 自信がないだけでしょ ドロシー: 分かったわよ、やってやろうじゃない! 後で泣きを見たって知らないんだから! 誰がたくさん釣れるか対決よ! (……。) ピュルテ: お魚、美味しいですね! 人間さん ティンカー・ベル: にしても姐さん、すごい釣ったよね。ティンカも自信あったのに シンデレラ: こういうの、得意なのよ ヴェルメリオ: ……わたし、釣れなかった ティンカー・ベル: でも、あんなにキレイにさばけるの、ずきんだけだよ! 手際すごい良かった! ピュルテ: そうですよ。私なんて作るの手伝えないし、釣ったのも1匹だけだし……あっ ドロシー: 何もできなくて悪かったわね…… 43 - 険しい岩山 シンデレラ: ず、ずいぶん険しい場所なのね ティンカー・ベル: 人魚とか海賊を避けて船を停めるってなると、こういう変な場所になっちゃってさ ドロシー: これを超えたところが、妖精さんの故郷ってわけね ピュルテ: 里帰りってわけですね! ティンカー・ベル: そこまで久々ってわけじゃないけど、まあ、そういうことだね ヴェルメリオ: ……あ、先が見えてきた (背景切換...) ティンカー・ベル: え、なに……? ドロシー: 緑がいっぱい、水もきれい……だっけ? だいぶ聞いてた話と違うわね シンデレラ: 木々は枯れてるし、周りの動物も元気がなさそうだわ ヴェルメリオ: ……水も濁ってる ピュルテ: 本来の姿じゃないってことですよね!? ティンカー・ベル: ね、ねえ! どうなってるの、これ 妖精1: ああ……少し前から、おかしくなって…… ピュルテ: 少し前って!? 妖精1: そうだね、いつもの谷の祭が終わった後くらいから…… ピュルテ: それって、私たちがここを出発するのと同時くらいだ……! ドロシー: ずいぶんきな臭くなってきたわね ピュルテ: これもディマイトの影響なんでしょうか シンデレラ: 確かにディマイトが強くなりすぎれば、自然環境にまず影響すると思うわ ヴェルメリオ: ……大丈夫かな、ティンカ ピュルテ: そうですよね。ペトラさんのことも心配なのに、故郷がこんなことに…… ティンカー・ベル: 誰もまだ原因も分かってないみたい。ちょっと妖精の谷に住む、妖精の女王と話してみる シンデレラ: 簡単に会えるの? ティンカー・ベル: 大丈夫よ。そんな堅苦しいものじゃないから 妖精2: 大変だ、女王様が……! ピュルテ: な、何かあったんですか! 妖精2: 女王様が魔物にさらわれてしまったんだ! シンデレラ: タイミングがいいんだか、悪いんだか、わかんないわね ティンカー・ベル: ごめん、みんな。もうちょっと時間かかっちゃいそうなんだけど ドロシー: らしくないわよ、妖精さん。行くに決まってるじゃない ティンカー・ベル: 他の妖精の話だと、この谷の奥に連れて行かれたみたい ピュルテ: ここでも魔物が増えてきてるんですね ティンカー・ベル: 本当はこんなじゃないんだ。もっとすごくキレイな景色がいっぱいあるんだ ヴェルメリオ: ……ディマイトのせいで ティンカー・ベル: みんなに、そんな風景を見てほしかったのに ドロシー: そうね、聞いてた話と全然違うものね ピュルテ: ちょ、ど、ドロシーさん!? ドロシー: だからこそ、取り戻さなきゃいけないんだってのは、よく分かるわ。しょげてる場合じゃないのよ ティンカー・ベル: 三つ編み……ありがとう ドロシー: お礼なんて言わないで。励ましたんじゃないの、目的を整理しただけよ ヴェルメリオ: ……素直じゃない シンデレラ: でもオズの国よりも、自然への影響が強いみたいじゃない? ピュルテ: 確かに人は変わってましたけど、自然への影響は特に…… ヴェルメリオ: ……何か理由があるのかな シンデレラ: 異常が始まってからの日数も違うから、なんとも言えないわね ドロシー: どういうこと? シンデレラ: ティンカちゃんが出発する前後で異常が始まったんでしょ? オズの国で最初にあったチューチラは、感染してすぐだったから…… ドロシー: ふうん、そうだったの……じゃあ世界中で同時ってわけじゃないのね ピュルテ: それに、オズの国では謎の旅人が原因だったじゃないですか! 今回は自然のことだし、旅人とは別なのかも ティンカー・ベル: オズの国で起きてることとは、まったく別ってこと? シンデレラ: そっか、そうかもね。でも、旅人はじゃあ、どこへ行ったのかしらね ヴェルメリオ: ……ギリキンにも来てなかったみたいだった ドロシー: エメラルドの都とネバーランドの定期便もあるけど、そいつが来てるかどうかは分からないわよね ティンカー・ベル: 見えた……あれが、谷の奥の洞窟なの。たぶん、あそこに連れて行かれたはず ピュルテ: 少なくとも、今の感じだと女王様が感染してる可能性は低そうです。それは不幸中の幸いでしたね 44 - 異変にいち早く気づいたペトラ ティンカー・ベル: みんな、本当にありがとね。女王様を助けてくれて ピュルテ: お安い御用です。それより、せっかくの里帰りだったのに、すぐ出発してよかったんですか? ティンカー・ベル: いいの。早く解決しなきゃいけないし、調子の悪いみんなを見ながら、ゆっくりなんてできないもん シンデレラ: それはそうかもね。でも、女王様もあまり詳しく知らなかったみたいね ヴェルメリオ: ……わかったのは、異常が始まった頃にペトラが心配して様子を見に来てくれたことくらい ドロシー: でも、この状況では貴重な手がかりの1つよ。ペトラは、この異常にかなり早く気付いていたってことだから ティンカー・ベル: ペトラはいつも遊んでばかりだけど、みんなのことは大好きでいつも気にかけてるの ピュルテ: ペトラさんの家は、この森の奥なんですよね? ティンカー・ベル: うん、森のずっと奥。ティンカとペトラの、2人の家だよ ドロシー: 妖精さんの言うとおり、念のために家を見に行くのは有効なようね。何かヒントがあるかもしれないし ピュルテ: 行ったら普通にペトラさんがいて、お茶でも飲んでてくれるのが一番いいですけどね シンデレラ: ティンカちゃんには可哀想だけど、それはないでしょ。だってこれだけ、おかしなことが起きてるんだから ティンカー・ベル: うん、分かってる。ティンカだって、この状況でペトラが家で寝てるのなんて嫌だもん ドロシー: にしても、妖精さんはペトラと一緒に住んでたのね ティンカー・ベル: まだペトラが赤ん坊だった頃、ティンカが拾ってきて育てたんだもん。ずっと、ティンカと一緒だったの シンデレラ: そういうことだったのね……それってもう、家族だものね ピュルテ: 家族かあ…… ヴェルメリオ: ……おばあちゃん、元気かな シンデレラ: 私も、城のみんなに会いたくなってきちゃった ドロシー: はん、バカじゃないの!? こんな時に感傷的になってもどうしようもないわよ。……ぐすっ ピュルテ: ドロシーさん……? ドロシー: うるさい、早く行くわよ! ピュルテ: 確かにちょっと森の木々も萎れてるのが目立ちますね ドロシー: 妖精の谷ほどじゃないにしろ、やっぱり影響は受けてるのね シンデレラ: あそこの湧き水も泥が混じってる。普段はきれいなのよね? ティンカー・ベル: うん……この森にまで影響が出てるなんて ヴェルメリオ: ……それに少し肌寒いかも ドロシー: それって異常? ヴェルメリオ: ……だって、生えてる植物はあったかいところのものだから ティンカー・ベル: うん、ずきんの言うとおり。ここらへんは1年中あったかいはずなの ピュルテ: ディマイトが強くなったら、気温とかまで影響しちゃうんですか…… シンデレラ: 人がおかしくなる、くらいの認識だったわ ピュルテ: 思ってた以上に、大変なことが起きてるのかもしれないですね ドロシー: その旅人ってやつをとっ捕まえて解決、ってわけでもなさそうね (背景切換...) ティンカー・ベル: これがハングマンツリー、我が家だよ シンデレラ: 予想以上の立派なおうちだわ ティンカー・ベル: でしょ? ティンカが、ペトラのために一生懸命作ったんだもん ドロシー: 妖精さんが作ったの? 大したものね ティンカー・ベル: 元は枯れてる大きい木だったんだけどね ピュルテ: あそこの窓から、中の様子が見えますよ ヴェルメリオ: ……やっぱり誰もいないみたい ティンカー・ベル: ……あっ! あれ、タディだ……! ドロシー: え? 誰かいるの? 私には見えないけど。すっごい小さい妖精さんとか? ティンカー・ベル: 違うの、ほら、あのベッドの上にいるクマ ヴェルメリオ: ……クマのぬいぐるみ? ティンカー・ベル: すごくペトラが大事にしてるの。なのに、置いていっちゃうなんて…… ピュルテ: すっごく急いでたんでしょうか ティンカー・ベル: それか、誰かにさらわれたとか!? シンデレラ: 憶測の域を出ないわ。まず、中に入って確かめないと! 45 - ドロシーの洞察力 シンデレラ: ティンカちゃん、これ、ペトラからあなたに宛てた置手紙じゃない? ティンカー・ベル: え、ペトラの手紙?! 貸して! ヴェルメリオ: ……何て書いてある? ティンカー・ベル: “すぐ帰るから心配しないで”……それだけ。これだけじゃ何もわかんないよ! ティンカに内緒でどこに行ったの、ペトラ!! ピュルテ: ペトラさんが大切にしていたクマのぬいぐるみを置いていくくらいですから、よほど急いでいたのではないですか? ティンカー・ベル: ティンカはクマのぬいぐるみと同じ扱いってこと?! その程度だから、黙っていなくなったって言うの? ピュルテ: そういう意味ではないんです! ごめんなさい……余計な事言ってしまいました シンデレラ: ティンカちゃん、落ち着いて。ピュルテちゃんが言ってるのはそういうことじゃないでしょ ティンカー・ベル: ……わかってる。八つ当たりしてごめんね、ピュルテ シンデレラ: こんなこと考えたくないけど……誘拐、ってことはない? ティンカー・ベル: ティンカも真っ先にそう思った。でも……置手紙の字、間違いなくペトラの字なの ドロシー: いいえ、誘拐じゃないわ ティンカー・ベル: え? ドロシー: きっとね、ペトラは本当にすぐ帰るつもりで出かけたんだと思うわ。だからクマのぬいぐるみも置いて行ったのよ ヴェルメリオ: ……断言できるの?ドロシー ドロシー: だって妖精さんの感情的になりやすい性格は、おとぎ話じゃ有名よ? それに“すぐ帰る”なんて置手紙書いて帰ってこなかったら、大騒ぎするの目に見えてるじゃない。ペトラ本人だろうが第三者だろうが、そんなバカな事しないわよ ヴェルメリオ: ……なるほど シンデレラ: 言いえて妙ね ピュルテ: 置手紙でそこまで察するなんて! さすがすごい洞察力です、ドロシーさん☆ 人間さんも関心しきりですよ ドロシー: あらみんな、もっと褒めてもいいのよ ティンカー・ベル: ペトラ誘拐説の可能性が低いってことはうれしいけど、ちょっとティンカ的に複雑なんですけど…… シンデレラ: ティンカちゃん、ペトラの行先を知ってそうな人は他にいない? ティンカー・ベル: いるにはいるけど……。嫌いなんだよね、アイツ! ヴェルメリオ: ……そんなこと言ってる場合? ティンカー・ベル: フックっていう海賊だよ。……はぁ、行ってみるしかないか 46 - 下っ端はバカにされる ティンカー・ベル: ここが、アイツの船が止まってる港だよ ピュルテ: 大きい船がいっぱい止まっていますね シンデレラ: 柄の悪い連中が多いわね。さすが海賊の港町 ピュルテ: みんな気を付けて行動するように? はい、人間さん! 海賊さんに怒られないように気を付けますね シンデレラ: いつも私たちを心配してくれて、嬉しいわ。人間さん。安心して、危ない事はしないわ ドロシー: それで? フックはどこにいるの? ティンカー・ベル: 知らな~い。興味ないもん、あんな奴 ヴェルメリオ: ……ペトラの事聞けない ドロシー: 探すしかないわね。酒場や宿屋とか、片っ端から見てみる? シンデレラ: 酒場なら私にまかせて! ヴェルメリオ: ……シンデレラ、さっき危ない事はしないって言ったのに ピュルテ: そうですよ。酒場に海賊さんがいっぱいいたら、危ないです ヴェルメリオ: ……海賊の方が……だけどね ティンカー・ベル: めんどくさいから、そこにいる海賊の下っ端に聞いてみよう! ちょっとそこの海賊、フックはどこにいるの? 海賊1: あ? なんだ? 俺になんか用か? シンデレラ: ちょ! ティンカちゃん! いくらなんでも聞き方ってもんがあるんでしょーに…… ティンカー・ベル: そうよ、フックはどこにいるのかってアンタに聞いてるの! 早く教えて。急いでるの 海賊1: フック船長の居場所? なぜお前などに教えなければいけないのだ ティンカー・ベル: いいから教えなさいよ! それともアンタみたいな下っ端じゃ知らないってこと? 海賊1: な! なんだとー! 海賊2: なんだ?! 喧嘩か?! やる気か! ピュルテ: ティ、ティンカちゃん! 海賊さんを怒らせちゃダメですよ ドロシー: やる気よ! 悔しかったらさっさとフックの居場所を教えなさいよ! 下っ端! ヴェルメリオ: ……ドロシーまで 海賊2: 下っ端、下っ端ってバカにするな! 海賊1: そうだ! 私たちは下っ端は下っ端でも偉い下っ端だ! その証拠にフック船長が町の奥の高級宿屋にいるって知ってるんだ ティンカー・ベル: だって、みんな シンデレラ: 結構あっさりだったわね。……酒場に行けなくて残念 フック: これはこれは。麗しのティンカー・ベル嬢ではございませんか。このようなむさ苦しい所にようこそお出でくださいました ティンカー・ベル: やめてよ、そういうのムカツクから フック: ご気分を害し申し訳ありません。……おや、そちらの方々は? シンデレラ: 私たちはティンカちゃんの友人です。以後お見知りおきを フック: 私は海賊王、フックと申します。そこの男性の方は……人間界の方ですね ピュルテ: あ、はい!人間さんは人間界から来て、私たちに協力してくれているんです。でもどうして人間さんが人間だってわかったのですか? フック: 勘……でしょうか ドロシー: 私も人間界の人間よ ヴェルメリオ: ……無視して、みんな ピュルテ: 今、オトギノクニに異変が起こっていることはご存じですか? 私たちは人間さんと一緒に増えたディマイトの原因を探って旅をしているのです フック: そうですか…… ティンカー・ベル: ねえ、ペトラがどこに行ったか知らない? フック: ペトラ? ペトラがいないのですか? 私は存知あげませんが、彼女がフラッとどこかに出かけるのはいつものことでしょう ティンカー・ベル: もう何日も姿を見てないの!こんなこと今までなかった! フック: そう言われましても…… ティンカー・ベル: アンタ、なんでそんなに冷静なわけ?! 気に入らないけどアンタだってペトラの友だちでしょ!心配じゃないの? フック: 先ほども言いましたが、ペトラが出かけていくのは日常茶飯事です。彼女は好奇心旺盛で行動範囲が広い。何を心配しろと? ティンカー・ベル: ディマイトっていう悪いエネルギーが増えてネバーランドにも異変が起きてるの! 魔物が増えたり、妖精の谷だって荒れ果てちゃって……ペトラも危ない目にあってるかもしれないの! フック: ティンカ嬢、少し落ち着いて。ペトラがいないのであれば尚更、あなたは冷静に対処しなくてはならいでしょう ティンカー・ベル: 落ち着けるわけないでしょ! ……もういい! アンタに聞いても無駄みたい フック: 力になれなくて申し訳ない ティンカー・ベル: みんな、ペトラの仲良しはまだいるから。タイガーリリー、彼女に会いに行く! ピュルテ: 残念でしたね。フックさんもペトラさんの行方を知らないなんて ティンカー・ベル: アイツ……何か隠してると思う ドロシー: え!? 本当はフックはペトラの行方を知っているとでも? ティンカー・ベル: それはわからないけど、何か隠してる。それはわかるの。確かにいつもあんな感じで嫌味なヤツなんだけど……冷静すぎるというか シンデレラ: 確かにすごく冷静だったけど、いくつも危ない目にあってきた海賊王だもの。滅多なことじゃ動揺しないんじゃない? ティンカー・ベル: 悔しいけど、ペトラはアイツを姉のように慕ってるの。いつもなんでもアイツには報告するの。今日は居場所を知らない上に心配もしてないなんて……絶対変だと思う ピュルテ: 人間さんは、なぜ自分が人間だと瞬時にわかったのかが気になると言うんですね? ヴェルメリオ: ……私もそこは気になる ドロシー: 私の事は何も言わなかったのに変よね ピュルテ: そ、そうですね…… ティンカー・ベル: とにかくアイツは何か隠してる! ペトラのことも、もしかしたらディマイトのことも ヴェルメリオ: ……問い詰めなくていいの? ティンカー・ベル: 問い詰めても今は無駄だと思う。だからタイガーリリーの所に先に行ってみたい。勝手に決めて飛び出しちゃったけど…… シンデレラ: ここはティンカちゃんの故郷だもの。私たちはあなたに合わせるわ ティンカー・ベル: ありがとう! タイガーリリーはこの先にあるインディアンキャンプに住んでるの (背景切換...) ティンカー・ベル: タイガーリリー! ティンカだよー! いるー?! インディアン1: ペトラ・パンのところの妖精さんじゃない?! 久しぶりね ティンカー・ベル: お久しぶり~! ねぇ、タイガーリリーに会いに来たんだけど インディアン1: タイガーリリーなら、岩山の洞窟に魔物を倒しに行ったわ! 最近魔物たちが洞窟に住み着いて大変なの ティンカー・ベル: え! そんな危ない所に? シンデレラ: 私たちも加勢した方がよさそうね 47 - タイガーリリー タイガーリリー: っつ……痛たたたた…… ティンカー・ベル: タイガーリリー! 怪我してる! タイガーリリー: ティンカちゃん! これくらい、大丈夫。助けてくれてありがとう! ティンカー・ベル: ううん! でも無茶だよ! ひとりで魔物と戦うなんて タイガーリリー: うん……。どうしても、キャンプのみんなを脅かす魔物が許せなかったの ティンカー・ベル: タイガーリリーらしいけどさ! あ、みんな、この子がタイガーリリーよ タイガーリリー: 初めまして。タイガーリリーです ピュルテ: 初めまして、ピュルテです。こちらはシンデレラさん、ヴェルメリオさん、ドロシーさん、そして人間界から来てくれた人間さんです タイガーリリー: わぁ! 人間界の方もいるのですか ドロシー: 私も人間よ♪よろし…… ティンカー・ベル: ねえタイガーリリー、最近ここにペトラが来なかった? タイガーリリー: ペトラ? いいえ、来てないけど ティンカー・ベル: そう……。そっか タイガーリリー: どうかしたの? シンデレラ: ペトラが置手紙を残して行方不明になってしまって、ティンカちゃんが心配しているの タイガーリリー: ペトラが行方不明? フックには聞いた? ヴェルメリオ: ……知らないって言われた タイガーリリー: そうですか……。あ! でも ティンカー・ベル: でも?! タイガーリリー: この辺りに魔物が増える前に、ペトラに会ったの。ネバーランドの草木や動物の様子がおかしくなっているって。とても心配していたわ ティンカー・ベル: ペトラ……ネバーランドの異変にいち早く気が付いてたんだ…… ドロシー: なるほどね。きっとペトラは、ひとりでこのネバーランドの危機を救おうとして出かけたんじゃないかしら? 私たちと同じように ティンカー・ベル: !ペトラなら……あり得る……。だったらスリルム山に行ったのかも! あそこには動物たちがたくさん住んでるの タイガーリリー: スリルム山に行くの? この魔物いっぱいの洞窟を通らないと行けないよ? ティンカー・ベル: 大丈夫! 魔物なんかバッキバキにしてペトラの後を追いかけるんだから タイガーリリー: この先の道をずっと進んでいけばスリルム山です ピュルテ: ありがとう、タイガーリリーさん! タイガーリリー: ここでお別れです。すみません、山までお供できなくて ティンカー・ベル: なに言ってるの、キャンプのみんなを守らないとでしょ! タイガーリリー: うん……ティンカちゃん、気をつけてね! ペトラを無事に見つけて! ティンカー・ベル: まかせといて! (背景切換...) ピュルテ: あっ、山のシルエットが見えてきましたね シンデレラ: 高い山だから遠くでも見渡せるだけで、あれ実はまだまだ遠いんじゃない? ティンカー・ベル: うん、まだちょっと歩かないといけないと思う ドロシー: あーもう、魔法でびゅーんって飛んでいけないかしらね ヴェルメリオ: ……でも山の動物はどうなってる? ピュルテ: 心配ですね。一部だけ凶暴化してたら、本当に大変なことになりますよ シンデレラ: まさに血で血を洗う戦いね ティンカー・ベル: そんなの、一部でもなってほしくないよ ヴェルメリオ: ……今回は感染とは違うみたい ピュルテ: そうですよね。じゃあ、特定の誰かじゃなくて、全体的に広がってるんでしょうか ドロシー: でも妖精の谷では、元気はなかったけど特に誰にも変化はなかったわ ティンカー・ベル: それって、どういうこと? ドロシー: 範囲が広いと、その代わり変化のレベルが小さいんじゃないかしら シンデレラ: なるほどね。だとしたら、旅人が渡してるっていう例のお菓子も、なんとなく見えてくるわね…… ピュルテ: シンデレラさん? どうしたんですか、ぶつぶつ言って シンデレラ: ううん、なんでもないの。それよりティンカ、さっきのタイガーリリーって子とは仲がいいみたいね ティンカー・ベル: まあね。フックとは昔から折り合いが悪いんだけど、あの子とは妙に気が合うっていうか ピュルテ: ペトラさんとも? ティンカー・ベル: うん、そうだよ! ……まあペトラは、誰とでも仲良くなれるんだけどさ 48 - ヴェルメリオの女子力 ピュルテ: 森の先がスリルム山の麓ですね シンデレラ: まだ結構、道のりはあるのかしら ヴェルメリオ: ……そこの山にも変わった植物あるかな? ドロシー: お菓子の材料に使えるような実とかなってるといいわね ヴェルメリオ: ……ドロシー、そんなことばっかり考えて ドロシー: な、なによ失礼な! ピュルテ: あはは、ドロシーさんらしいですね! ティンカー・ベル: ………… ヴェルメリオ: ……ティンカ? ティンカー・ベル: えっ、あ、呼んだ? なになに、どうしたの シンデレラ: ねえ、ティンカちゃん。ペトラが心配なのはわかるけど、少し思いつめすぎなんじゃない? ティンカー・ベル: べ、別にティンカはそんな ドロシー: 張りつめてるのは傍目にもわかるわよ ティンカー・ベル: う…… ヴェルメリオ: ……わたし、今日は美味しいごはん作る。だから、元気出して ピュルテ: それはいい考えです! 美味しいごはんを食べると元気が出ますよね! シンデレラ: それはそうだけど、こんな森の奥でまともな料理なんてできないわよ ヴェルメリオ: ……大丈夫。私に任せて ピュルテ: さすがヴェルちゃんです! ティンカー・ベル: ずきん……ありがとう…… ピュルテ: そうですね、人間さんの言うとおりヴェルちゃんの女子力はナンバーワンですね! ドロシー: 待ちなさいよ。ヴェルのことは友達だけど、簡単にナンバーワンを明け渡すわけにはいかないわ シンデレラ: 女子力なんて単語出されたら、指くわえて見てるわけにはいかないわね! ティンカー・ベル: なんか変な対抗心出してきた! ヴェルメリオ: ……うん、いいね。みんなで作ろう ドロシー: そうと決まったら戦いの始まりね! まずは森で食材探しからよ! ティンカー・ベル: 戦いなんだ ピュルテ: 森の中には魔物もいるかもしれないですから、気を付けてくださいね シンデレラ: そんなの全然問題ないわよ! ティンカー・ベル: そうだよね。むしろ、その後の料理がハードル高そうだよね ヴェルメリオ: ……どうかな ティンカー・ベル: 口の中で旨味が一気にほぐれるようにして広がっていく! シンデレラ: 森で調達した材料で、こんなのができるなんて……! ピュルテ: 宝石箱ですか? ええ、そうですね、人間さん ヴェルメリオ: ……この人のその例え、どういう意味? ドロシー: くっ……悔しいけど、私の料理よりほんの少し上をいってるわね シンデレラ: 少しって、この消し炭みたいなのと比べてるのよね? ドロシー: な、なによ。私のありったけの愛情と女子力が込められてるんだから シンデレラ: 私だって込めてるわ! ティンカー・ベル: 姐さんのは美味しいんだけど、女子力っていう意味では…… ピュルテ: 豪快な男の料理って感じですよね シンデレラ: 人間さんもこういうの好きだって言ってるわ! ティンカー・ベル: あはは、味じゃなくて女子力の話だってば! ヴェルメリオ: ……よかった、ティンカが笑ってくれた シンデレラ: あなたが暗い顔してると調子狂うのよ ティンカー・ベル: みんな……ごめん、心配かけて。ありがとう ドロシー: 慣れないことしたら疲れちゃった。もう日も暮れてきたし、ここにテントかな (背景切換...) ヴェルメリオ: ……元気になってよかった ティンカー・ベル: みんなが励ましてくれたのに、いつまでも考え込んでちゃダメだもん ピュルテ: それじゃ、水汲みお願いしていいですか。ありがとうございます シンデレラ: あら、人間さんどこ行ったの ピュルテ: 川まで水汲みをお願いしたんです (背景切換...) ドロシー: ふう、慣れないことしたら汚れちゃったわ。料理はやっぱり作るより作ってもらうのが一番ね ((ガサガサ)) ドロシー: 誰……!? なんだ、あなた。そう、水汲みにね……って、なに覗いてんのよ! ドロシー: 私は水浴びに来たの! ちゃんと確かめてから来なさいよっ! ドロシー: きゃっ!? 足が滑っ……! ((バシャーンッ)) ドロシー: 転んだ私を庇ってくれたの……? だ、大丈夫だけど、そんな耳元で息なんか……やああっ ピュルテ: すみません、人間さん、ドロシーさん! 私、うっかりしてて…… ドロシー: 大丈夫よ ティンカー・ベル: なんだ、服着てたの。てっきり裸で遭遇したかと思ったよ シンデレラ: どうかしらね……? ヴェルメリオ: ……なんか甘い空気 49 - オトギ登山部 シンデレラ: また登山することになるなんて ピュルテ: たぶん、今後も定期的に登山はありますよ ヴェルメリオ: ……分かってたけど聞きたくなかった ティンカー・ベル: でもさ、ここに動物たちがいっぱいいるはずだよね? 未だに誰とも出会わないなんて、おかしくない? ドロシー: 一か所に集まってるんだとしたら、通りすがることもないんじゃない? ピュルテ: 1か所に集まるって……どこにですか? ドロシー: その答えは、目の前にあるみたいよ ピュルテ: 囲まれてる!? シンデレラ: しまった……さすが野生の本能、気配を完全に殺していたのね ヴェルメリオ: ……どうする ティンカー・ベル: ま、待って! 私から話してみるから! シンデレラ: 話し合いで解決できそうな雰囲気じゃないけど…… ピュルテ: ここはティンカちゃんの慣れ親しんだ故郷ですから。任せましょう ヴェルメリオ: ……ティンカに交渉とかできるかな? ティンカー・ベル: なにそれ、全然知らないよ! ドロシー: 早くも不穏な空気じゃない。何かあったの? ティンカー・ベル: みんな体調が悪いんだって。たぶんディマイトの影響で ヴェルメリオ: ……やっぱり。この山も例外じゃないんだ ティンカー・ベル: けど、それが町に住む人たちのせいだって思ってるみたい ピュルテ: そんな! ひどい誤解です。世界のディマイトを増やすなんて私たちにできるはずがないのに ティンカー・ベル: うん、そっか。それで困ってるんだね シンデレラ: 今度は何かしら? ティンカー・ベル: 山の頂上近くにある洞窟を魔物が占拠してるんだって ドロシー: まさかそれも、町の人の差し金だなんて言わないわよね? ティンカー・ベル: そのまさかみたいなんだ ピュルテ: そんな! どうやったら誤解がとけるでしょうか ドロシー: そんなの1つしかないわ。自分たちが差し向けた魔物を、自分の手で倒すはずがないじゃない ピュルテ: 無事に誤解が解けて良かったですね シンデレラ: 魔物に占拠されて不安になってたところに、こうなった原因の情報が入ってきたってわけね ドロシー: つまり、人間が全部悪い……っていうシンプルで分かりやすい答えよね ヴェルメリオ: ……その情報源が、ワニ ティンカー・ベル: あの時計ワニが、そんなガセネタを言って回るなんて シンデレラ: 他にも誤解している動物たちがいるかもしれないわね ティンカー・ベル: 時計ワニはネバーランドの動物たちに、かなり大きな影響力があるの ピュルテ: でもワニさんは、どうしてそんなことを……前から町の人と仲が悪かったんですか? ティンカー・ベル: 良くはないよ。困ったときに助けてくれるような関係じゃない。けど、嘘を言って煽るほど悪くもない ドロシー: じゃあ、答えは1つよね ヴェルメリオ: ……どういうこと? ドロシー: ワニも、それが事実だと信じてる、ってことよ シンデレラ: 一番厄介なパターンね ピュルテ: でも動物さんたちにペトラさんの足取りも聞けて良かったですね! シンデレラ: 人魚の入江に向かうって言ってたわね。山を降りたら、どこへ行けばいいか分かる? ティンカー・ベル: もちろん。でも、何しに……人魚たちにも異変が起きてるか確かめに行ったのかな ヴェルメリオ: ……たぶん、そんなところじゃない? ティンカー・ベル: でも、わっかんないなあ。時計ワニも町の人より自然に近いから、異変は早めに気付いたと思うけど…… シンデレラ: どうして、そんな誤解をしてしまったか、ってことでしょ? ドロシー: 普段、町の人の行いが相当悪かったか、或いは……誰かに吹き込まれたか ティンカー・ベル: 誰に……まさか、フック? ドロシー: さあ? 可能性はありそうなの? ティンカー・ベル: フックの左手を食べちゃったのは、あの時計ワニだから……仲は普通に良くないの ヴェルメリオ: ……だったら、フックが言うことを鵜呑みにしないんじゃない? ティンカー・ベル: ……それで人魚なのかも 50 - 人魚の入江 シンデレラ: ここが人魚の入江…… ティンカー・ベル: ここも普段はすごくキレイな場所なんだよ。でも今は…… ヴェルメリオ: ……水が濁ってる ピュルテ: 植物も萎れてますし、妖精の谷で見たのと同じような光景ですね…… ドロシー: ここも漏れ無くディマイトの影響を受けてるってわけね シンデレラ: どうする? まず人魚に話を聞きたいわよね ティンカー・ベル: うん……ワニはフックの言うこと鵜呑みにするほど仲良くない。けど、人魚の話なら、同じ水の仲間だし聞くと思うの ドロシー: そして人魚は、フックから話を吹き込まれてる、ってわけね ピュルテ: けど、人魚さんに聞いて答えてくれるでしょうか シンデレラ: ティンカちゃんの仮説が正しいなら、人魚も悪気なく話してるだけだから ヴェルメリオ: ……でも、さっきから人魚の泳いでるとこ見てないけど、そういうもの? ティンカー・ベル: そう言えば……様子がおかしいかも。ちょっと周りの人に聞いてみよう! (背景切換...) ティンカー・ベル: それじゃ、入江にも魔物が増えてきてるんだね シンデレラ: そのせいで、人魚は姿を見せなくなってしまってる…… 住民1: ええ。しばらく私たちも見かけてません ピュルテ: 人魚さんたちと話さないことには先に進めないですよね ドロシー: 分かりやすくていいじゃない。魔物を叩き出せば全て解決! でしょ? 住民2: 本当ですか! 助かります! それではこれを ピュルテ: なんですか、これ 住民1: 水中戦になっても大丈夫なように、水着を用意しました ヴェルメリオ: ……え、なにこれ、布面積少なっ 住民2: 水の抵抗を受けない方が素早く動けると思いまして シンデレラ: ねえ人間さん、これ似合うと思う? あ、そうよね、胸元がきついかも ドロシー: 私もきついと思うの。ねえ、ちょっと試着してみようかな ティンカー・ベル: ちょっと本気!? こんな恥ずかしい水着 ドロシー: 妖精さんのは胸元が開いちゃうから作り直さないとかしらね ティンカー・ベル: なぁーんですってーっ!? ピュルテ: はいはい、せっかくですけど水着は無しです! シンデレラ: どうやら、川に着いたみたいね ピュルテ: さっき人魚さんが言っていた、この海に流れ込んでいる川ですね ティンカー・ベル: 結局、人魚はフックから何も聞いてないし、ワニにも何も言ってない……ってことだったもんね ドロシー: ほぼ無関係、ってことよね ヴェルメリオ: ……フックは関わってないのかも ティンカー・ベル: でも、人魚の話じゃ、ペトラはこの川沿いに川上へ進んで行ったんでしょ ドロシー: 途中で別の川との分岐点にぶつかるのよね? そこで、もう片方の川下に進んで…… ティンカー・ベル: 方角的に、この川は港町に流れ着くはず。つまり、フックの居場所だよ ピュルテ: ペトラさんがフックさんのところへ行った可能性はありますね シンデレラ: いずれにしても、今日はこのあたりで夜営の準備をした方が良さそうね ヴェルメリオ: ……もう日が落ちてきてる ピュルテ: たくさん歩いたので人間さんも疲れましたよね ティンカー・ベル: ティンカがマッサージしてあげようか!? ヴェルメリオ: ……疲れの取れる飲み物、作るから シンデレラ: はいはい、さっさと準備する! (背景切換...) ピュルテ: そこにいるのは……人間さんですか? ピュルテ: やっぱり。誰かいるから、敵かと思ってドキドキしちゃいました。まだ夜明けですけど……眠れなかったんですか? ピュルテ: いえ、たまたま目が覚めただけならいいんです。この世界に来てからずっと休まる時もないので、人間さんが疲れてしまってないかと心配になって ピュルテ: わ、私は大丈夫です。人間さんがいてくれるし、みんなも……。えっ、寂しそう、ですか? リルちゃんが心配だからかな。1人で行っちゃったみたいだから ピュルテ: ほら、海の向こうから太陽が出てきましたよ。すごく……キレイですね ピュルテ: ね、人間さん。みんなで旅するのは楽しいし心強いですけど、たまには……こうやって人間さんと2人で話せると嬉しいです。また、お話してくださいね ドロシー: ねえ、ピュルテ? それからあなたも! ちょっと来てちょうだい! ピュルテ: ふふ……それじゃ、行きましょうか 51 - 雨の河原 シンデレラ: すごい雨ね ティンカー・ベル: も~! 羽までずぶ濡れだよぉ ピュルテ: 人間さん、風邪をひかないように私がくっついて温めますね! ヴェルメリオ: ……わ、わたしも温めてあげ ドロシー: そうね! みんなでくっつけばもっとあったかいわよ! ホラ! ヴェルメリオ: うっ! ……く、苦しい ピュルテ: そんなに押したらみんながつぶれちゃいます! ドロシーさん! シンデレラ: みんな、ふざけてないでペトラの足取りを追わないと ティンカー・ベル: それなんだけど……ペトラは時計ワニのところに行ったのかも。フックが何か企んでるかも、って考えて ドロシー: フックがワニに何か吹き込んだっていうのは、妖精さんの思い込みだったじゃない ティンカー・ベル: それでも、フックが悪巧みしてるのは間違いないもん! それを知らせに行ったのよ ヴェルメリオ: ……フックは何故そんな事をするの? ティンカー・ベル: あいつはそういう嫌なヤツなの! シンデレラ: そんな悪そうな人に見えなかったわよ ドロシー: ペトラと仲がいいから嫉妬してるのね ティンカー・ベル: 違うって! みんなは昔のアイツを知らないからそんなこと言うんだよ! 昔のアイツとペトラは敵同士だったんだから ピュルテ: フックさんとペトラさんが?! ティンカー・ベル: フックは悪い海賊だったんだから。いつもペトラの邪魔ばっかりしてきてさ! シンデレラ: それって……創造期の時の話ね ヴェルメリオ: ……わたしもオオカミに食べられた ピュルテ: そうです、人間さん。創造期は人間さんも知ってるオトギノクニの話、人間界で言う“おとぎ話”の事です シンデレラ: このオトギノクニが始まったとされる創造期……その時にディマイトの影響を強く受けたのが、いわゆるヴィランズ ドロシー: エルファバが悪い魔女だったのも、その創造期ってやつなのね ピュルテ: シンデレラさん、人間さんにももう少し説明したほうがいいかもしれません ヴェルメリオ: ……姐さん? 顔色が悪い シンデレラ: え? ああ、大丈夫よ。……そうね、人間さんにももう少し、このオトギノクニの事を詳しく知ってもらう必要があるわね ティンカー・ベル: じゃあ、フックがペトラと敵対していたのも、ディマイトのせいなの? シンデレラ: ええ、ヴィランズはディマイトの影響で生まれたとされてるの。フックもエルファバもオオカミもみんなそう ヴェルメリオ: ……でも、感染者とは違ってた ピュルテ: ディマイトの強さや、種類が違うのではないかとシンデレラさんと私は思ってます ドロシー: ディマイトが変化しているっていうの? シンデレラ: ええ……より邪悪にね。創造期とは比べものにならない程、今のディマイトはオトギノクニに影響を及ぼしてる ティンカー・ベル: じゃあやっぱり今のディマイトの影響で、フックが悪さしてるんだよ! シンデレラ: 落ち着いて、ティンカちゃん。結論を出すのはペトラを見つけてからよ ティンカー・ベル: だって……人魚がペトラは川に行ったって言うけど、どこにもいないじゃん! ティンカー・ベル: ……あそこに誰かいる?! もしかしてペトラ?! おーい! ペトラ! 住人: え? オラのこと? ティンカー・ベル: ちっ……ペトラじゃないじゃん。 ヴェルメリオ: …少し落ち着いて ピュルテ: あ、あの、私たちペトラさんを探しているのですが、見かけませんでしたか? 住人: ペトラ? ああ、見たよ ティンカー・ベル: マジ!? どこ行った?! ねえ! 住人: うぅ!く、苦しいから離してけろ! ペトラなら、フック船長のところさ行っただよ ティンカー・ベル: え……フックの……ところ? 住人: 何かフック船長に相談するって言ってたべ ドロシー: やっぱり、悪い人じゃないのよ、フック ティンカー・ベル: で、でも……アイツは信用できないもん 住人: もういいべか? この大雨で川が増水しとるから、オラ防波堤の様子を見に行か…… ((バシャーンッ)) 住人: ぎゃー! 防波堤が決壊したー! シンデレラ: 大変! みんな、あの高台に逃げるわよ! 住人: ひー! あそこは魔物の巣だっぺよ! ドロシー: 魔物ならやっつけちゃえばいいのよ。魔物と戦うか濁流に飲まれるか、選びなさい! ヴェルメリオ: ……そこにしびれる、あこがれる 52 - 防波堤の謎 ドロシー: あー! 防波堤が決壊したときは焦ったわ ピュルテ: さっきのドロシーさん、かっこよかったですよ☆村人さんも無事に村へ帰っていきましたし、みんなも無事でよかったですね ティンカー・ベル: タイミング悪すぎじゃない?! あんな時に防波堤が決壊するなんて シンデレラ: そうよね……。あのタイミングで防波堤が壊れるなんて……え? 人間さんもそう思う? やっぱり! ヴェルメリオ: ……わたしも思った。狙ってた?って ピュルテ: そうですね、人間さん。まずは壊れた場所に行ってみましょう! (背景切換...) ピュルテ: ここの防波堤が壊れたんですね ヴェルメリオ: ……派手に壊れてる ドロシー: やっぱり誰かが意図的に壊したみたいね ティンカー・ベル: やっぱりフックが! ドロシー: 裏で誰かが糸を引いてるかは知らないけど、実行犯のサインはここにあるわ シンデレラ: サイン? ……これは爪痕!? ヴェルメリオ: ……大きな爪痕。まさか時計ワニ? ドロシー: だと思うけど。どうかしら? シンデレラ: 今回は人間さんが勘を働かせたけど、普通はこんなとこに見に来ないから……証拠もそのままにしたのかしら ティンカー・ベル: 壊したら水が一気に溢れるから、証拠隠滅する余裕もなかったんじゃない? ピュルテ: でもどうして、時計ワニさんが…… ヴェルメリオ: ……本人と話さなきゃ ドロシー: それがいいでしょうね。また狙われてもたまらないし ティンカー・ベル: きっとフックが裏で何かしてるんだ! シンデレラ: それも含めて直接問いただしましょう ヴェルメリオ: ……フックに会う前にね ティンカー・ベル: んんーっ、本当はペトラとフックのことが気になるけど、みんなの言ってることが正しいと思う! 時計ワニのチクタルに会いに行こう! ピュルテ: どこにいるか、わかりますか? ティンカー・ベル: クロコダイルクリークってところ。ここから少し歩いたところだよ。案内するね シンデレラ: 話し合いで解決できればいいんだけど…… ピュルテ: なんだか蒸し暑いような シンデレラ: それでいてジメジメするような ドロシー: 終わったら絶対シャワー浴びるわ。これは絶対よ ヴェルメリオ: ……どこにあるの、そんなもの チクタル: おまえら……何しに来やがった! ティンカー・ベル: で、出たっ! チクタル: ここが、この時計ワニのチクタル様の住処だって知ってて入ってきたんだろうな!? ピュルテ: チクタルさん! お話があって来たんです! シンデレラ: どうして私達を狙うの!? チクタル: このあたり嗅ぎ回って怪しかったからだっ! おまえら、これ以上あたしらをどうするつもりだ! ドロシー: どうするも何も、最初から何もしてないわよ チクタル: おまえらのせいで、どんどんネバーランドがおかしくなってるんだ! ドロシー: だから、その『おまえら』ってのは具体的に何を指してるのよ チクタル: だから、おまえらだよ! 陸に住んでる奴ら全員だっ! ピュルテ: 待ってください、陸に住む人たちが何をしたって言うんですか チクタル: おまえら陸の住人のせいで、水も植物も空気だっておかしくなって、この沼地の仲間も弱ってきてるんだ! 許せない! ヴェルメリオ: ……誤解してるみたい ティンカー・ベル: ねえ! フックに何か言われたの!? チクタル: あいつとはずっと会ってない。手、食ったの根に持ってるだろうし シンデレラ: フックとは話してないのね。じゃあ、どうして陸の住人のせいで、ネバーランドがおかしくなったと思うの? チクタル: そんなことするの、おまえらくらいだろ! ドロシー: ねえ、私もうこの子と話すのめんどくさくなってきたんだけど ピュルテ: ちょ、ちょっとドロシーさん ドロシー: こういう頭の悪い会話、苦手なのよね ティンカー・ベル: だ、だめだよ、そんな煽り方したら チクタル: 頭が悪いってのは、あたしのことか!? もう許せないっ! ドロシー: さっきから許してないくせに。さっさとやってやろうじゃないの シンデレラ: あーあ、やっぱり話し合いじゃ解決しなかったわね 53 - クロコダイルクリーク チクタル: そうか……。ネバーランドの異変は、おまえらのせいじゃなかったのか ドロシー: だから何度も言ったじゃない! 話を聞かないんだから ヴェルメリオ: ……いちばんに戦いを挑んだくせに シンデレラ: 異変が起きているのは、ネバーランドだけじゃないの。オトギノクニ全体に、なの ピュルテ: ディマイトが……悪い気が、影響をおよぼしているんです。陸に住む私たちにも チクタル: どうしたら沼のみんなは元気になる? 水や花たちは? あたし、みんなを元の元気な姿にもどしてやりたいんだ ピュルテ: その方法を探すために、私たち旅をしているんです。オトギノクニを元の平和で美しい国に戻したい…… チクタル: 陸の住人……あんたたち、いい奴なんだな ティンカー・ベル: フックが悪い奴だからって、ティンカたちまで一緒にしないでよね チクタル: フックは昔は悪い奴だったけど、今はちがうだろ? あたしがコテンパンにしてやったし、今はぺトラの仲間だ ティンカー・ベル: あんな奴仲間じゃないってば! チクタル: またフックが悪さしてるなら、あたしがもう片方の手も喰ってやるよ。……邪魔して悪かったな、陸の住人たち ドロシー: わかればいいのよ チクタル: 早くこのネバーランドを、オトギノクニを元に戻してくれ! 頼んだぞ ピュルテ: はい! 人間さんと私たちに任せてください シンデレラ: 戦いにはなっちゃったけど、チクタルの誤解は解けて一件落着ね ヴェルメリオ: ……ティンカは納得してないみたい ティンカー・ベル: だって! まだぺトラは行方不明のままだし、やっぱりフックが怪しいと思う ドロシー: ちょっとフックにこだわりすぎじゃない? ワニはフックには会ってないって言ってたじゃないの シンデレラ: ティンカちゃんがフックを信用していないのはわかるけど、フックが悪さしている証拠もないのよ? ティンカー・ベル: いいから、反論はティンカの話を聞いてからにして ティンカー・ベル: ネバーランドに来てから、ディマイトの感染者を見ていないと思わない? ピュルテ: そういえばそうですね! ティンカー・ベル: きっとディマイトを感染させてる旅人っていうのは、フックの手下なんだと思う。フックが手下をオズの国に仕向けたんだよ! ドロシー: なんですって!? フックのやつ、ゆるせないわ! ヴェルメリオ: ……そうと決まったわけじゃないから、落ち着いてドロシー ティンカー・ベル: ネバーランドでは、ペトラの抵抗にあって感染者を作ることができなかった。だから手下を他の国に行かせたんだよ! だけどペトラは結局フックにつかまっちゃって、今もどこかに監禁されてるんだと思うの! シンデレラ: すっごく乱暴な推理だけど……なくはないかもしれないわね ティンカー・ベル: ほら! やっぱりフックが黒幕で間違いないよ! ドロシー: フックを倒して、ペトラの居場所を吐かせてやるわ! みんな、行くわよ! シンデレラ: もう! ティンカちゃんもドロシーも落ち着きなさいって! まだ仮定の段階なんだから ティンカー・ベル: でもさ、人間さんのことを人間って見抜いたのだって事情を知ってる黒幕だからだよ ピュルテ: ティンカちゃんの推理はすごいですが、まずはフックさんに真実を確かめないとですよ! ドロシー: フックに聞きに行くの? 『あんた、ディマイトを撒いてる黒幕でしょ』って? Yesなんて素直にいうわけないじゃないの! ピュルテ: それはそうですけど……。え、証拠を見つけるのが先?人間さん、なるほどです シンデレラ: そうよね、証拠よね。それをどうやって手に入れるか…… ヴェルメリオ: ……海賊船に忍び込む ティンカー・ベル: え!フックの海賊船に?! ピュルテ: ヴェルちゃん!大胆! シンデレラ: 手下もいっぱいいそうだし、そう簡単にはいかないわよ? 作戦を立てないと ドロシー: ふん、面白そうじゃない。海賊なんてボッコボコにしてやるわ シンデレラ: ……そうならないように、まずは港町でフックの様子を聞き込みしましょう 54 - ベトラとフックは仲良し ドロシー: どうやってフックの船に侵入する? 強行突破? ヴェルメリオ: ……だから落ち着いて ティンカー・ベル: 酒場でフックの様子を聞いてみない? アイツが船にいない時間を探ってみよう シンデレラ: 酒場!? そうね! それがいいわ! ピュルテ: シンデレラさん、飲む気満々ですね……。大丈夫でしょうか、人間さん (背景切換...) シンデレラ: ねえ、海賊さん。こんなところで油売ってて、船長に怒られないの? 海賊3: あぁ? 船長は今いないからいいんだよ ティンカー・ベル: いないってどういうこと? 海賊4: さあね。なんだか慌ててたけどね ヴェルメリオ: ……慌ててた? なぜ? 海賊3: すぐ近くのオズって国で、何やら厄介な事が起ったって騒いでたぜ。ネバーランドがおかしいのと関係があるとかないとか ピュルテ: ディマイトの事ですね…… ドロシー: 船長はオズの国に行ったのかしら 海賊4: いや、船はそのまま港に止まったままだからね。きっとペトラのところでしょ ティンカー・ベル: ペトラ?! ペトラはどこなの?! 海賊4: 知らないね ティンカー・ベル: だって今、フックはペトラのところだって 海賊3: 船長はペトラにご執心さ。出かけるとすればたいていペトラのところに決まってる 海賊4: ペトラだってしょっちゅう船長に会いに来てたしね。相思相愛ってやつさ ティンカー・ベル: …… ドロシー: ちょっと! 妖精さんがショックを受けて顔面蒼白になってるわよ ピュルテ: はい、人間さん! 私がティンカちゃんを向こうにつれていきますね。……ティンカちゃん、向こうに行ってましょう 海賊3: あいつ、ペトラにくっついてる妖精だろ。船長はあいつのことも心配してたぜ。ここ数日姿が見えないって シンデレラ: ティンカちゃんの事を? フック船長が? ヴェルメリオ: ……仲悪いんでしょ? 海賊4: 遠い昔の話さ。今も妖精の方は船長を嫌っているがな シンデレラ: そう……邪魔したわね。ありがとう ドロシー: どういうこと? 私たち、フックのこと誤解してる? シンデレラ: さあ。……でも海賊たちはフックの仲間だから、まだ真実がどこにあるのか判断するのは早いと思うわ ヴェルメリオ: ……まずは船に行ってみよう ドロシー: でっかい船ね! 船長室はどこかしら シンデレラ: 手下の海賊に見つからないようにしないと。ドロシー、あんまり足音をたてないで ピュルテ: ティンカちゃん、元気出してください ティンカー・ベル: うん……平気。だってフックとペトラが仲良しなのは……知ってたもん ピュルテ: ティンカちゃんの方が仲良しじゃないですか。一緒に住んでたんだし ティンカー・ベル: うん…… ヴェルメリオ: ……今はペトラの行方を探すことに集中 ティンカー・ベル: そうだね。……ごめん ドロシー: ちょっと! グズグズしてるとフックが帰ってきちゃうわよ ティンカー・ベル: わかってるよ! 船長室は下のフロアの右舷側にあるの シンデレラ: さすがティンカちゃん ティンカー・ベル: なんども来たことあるからね。……地下に閉じ込められたこともある ドロシー: 場所がわかればこっちのもんよ! さっさと船長室に行って証拠を探しましょ! シンデレラ: あ! ドロシー! だからもっと静かに 海賊1: 誰だぁ! うるさいぞ、もっと静かに……あ! お、お前らはこの間の! 海賊2: フック船長の船で何してる?! ヴェルメリオ: ……見つかった シンデレラ: だから言ったのに…… ドロシー: あらぁ、この間の下っ端さんじゃない。お元気だった? 海賊1: くぅ! また下っ端って言いやがった ドロシー: うるさいわね! 下っ端と遊んでる暇はないのよ! 私たちは船長室に用があるの ピュルテ: あ、目的までバラしちゃいましたね…… 海賊2: 船長室に忍び込もうとしていたのかっ! この侵入者め! ドロシー: バレちゃ仕方ないわね。そこを通してもらうわよ ヴェルメリオ: ……自分で何言ってるかわかってる? 海賊2: おーい! 侵入者だ! みんな出てこい! ティンカー・ベル: げ……仲間呼ばれたし! 海賊1: ヘヘヘ、ここは海賊船だぞ?! 無事に出られると思うなよ! ドロシー: ふん! 何人いようが下っ端は下っ端よ! かかっておいで! ドロシー: ふ、ふぅ。なんとかなったわね シンデレラ: もう! ドロシーはおとなしくしていて!話がややこしくなるわ! ヴェルメリオ: ……船長室にも侵入できなかった ドロシー: ま、まあ、誰にでも失敗はあるでしょ ピュルテ: 海賊さんたち、必死で私たちを探しているみたいですよ シンデレラ: 見つからないように港から逃げないと ティンカー・ベル: きっと全部フックの作戦だよ! ティンカたちの行動はアイツに読まれてるんだって シンデレラ: え、でも……侵入がバレたのは、ドロシーが大きな足音をたてたからで ドロシー: 私は常に堂々と生きていたいのよ ヴェルメリオ: ……そのせいで逃げ回ることになってるんだけど ピュルテ: はっ、向こうからまた海賊が! シンデレラ: そこの樽の陰に隠れるわよ! 海賊1: 町を全部調べ尽くせっ! 海賊2: 1軒ずつくまなく見ていくんだ! ドロシー: 向こうは人海戦術でくるつもりよ。一刻も早くこの港町から出ないと (背景切換...) ピュルテ: ここならきっと大丈夫です。町の様子もなんとなく分かりますし ティンカー・ベル: フックのやつ……先回りして手を打ってたなんて! シンデレラ: ねえ、ティンカちゃん。フックが黒幕じゃないって可能性もゼロじゃないのよ ティンカー・ベル: それは姐さんがフックを知らないから! シンデレラ: 仮に、フックが嫌な奴で、悪いことしか考えない最低の海賊だとするわ。でも、それとディマイトを操ることは別物でしょう? ティンカー・ベル: でもっ…… シンデレラ: そこまでこだわる理由が何かあるの? ティンカー・ベル: フックは嫌な奴だけど、頭はいいの。だからペトラを利用してるんだと思う シンデレラ: ふー……そこまで言うなら、早くペトラを見つけないとね ヴェルメリオ: ……ペトラに会わないと解決しない ピュルテ: でも海賊船には戻れないし、フックさんがどこに行ったのかも検討がつきません ドロシー: ねえ妖精さん、あなたの地元でしょ。フックが行きそうな怪しい場所、ほかに思い当たらないの? ティンカー・ベル: あ……スカルロック!スカルロックが怪しいかも! 55 - お尋ね者になっちゃったⅠ ティンカー・ベル: ここまでくれば、海賊たちも追ってこない…… ピュルテ: みなさん、ちょっとこれ見てください! シンデレラ: どうしたの? ピュルテちゃんがそんな大声だして……。『お尋ね者』のポスター? やだ、これ私たちのことじゃないの! ドロシー: 向こうさんもやってくれるわね ヴェルメリオ: ……理性を失っていて非常に危険、だって ドロシー: なるほど。感染者扱いでみんなの恐怖心をあおり、早く捕まえようって魂胆ね ティンカー・ベル: ほら、フックって嫌なやつでしょ! シンデレラ: ただ単に、ドロシーの行動が海賊たちには理性を欠いて見えただけじゃ…… ピュルテ: あっちにもこっちにも、お尋ね者のポスターが貼ってあります。このままじゃ移動するのも一苦労ですね ドロシー: 剥がしてくるわ! シンデレラ: あ! ちょっと、ドロシー! ヴェルメリオ: ……一緒に行って、無茶しないか見張ってくる シンデレラ: ええ、お願い ティンカー・ベル: フックの奴……邪魔ばっかりしてくれて、本当に腹が立つ! お尋ね者のポスターなんて、ああいうことだけは素早くて! ピュルテ: でも、海賊船に忍び込んだ時にフックさんはいなかったですよ? 手下の海賊さんが作ってばら撒いたのかも…… ティンカー・ベル: フックの指示に決まってる! シンデレラ: それも含めて、色々確認するためにも早くフックに会わないと ドロシー: みんな聞いて! この町の近くの古城に、ディマイトの感染者がいるみたいなの シンデレラ: なんですって! ドロシー: あっちでポスターを貼ってた海賊が話してたのよ! 早く行って元に戻さないと ピュルテ: 海賊さんと話たんですか?! ドロシー: まさか! 小耳にはさんだだけよ ヴェルメリオ: ……ごめん。ドロシーが海賊たちにとびかかるの、止められなかった ティンカー・ベル: 見つかっちゃったの? 早く逃げなきゃヤバいじゃん! ドロシー: 大丈夫よ、みんな寝てるわ。今のうちに古城へ行ってみましょうよ! シンデレラ: ここがその、感染者がいる古城ってわけ? ピュルテ: 確かに嫌な空気は漂ってますね…… ティンカー・ベル: ねえ、あんたさ。昨日はありがと。おかげで……ちょっと自信回復したかなって感じ ヴェルメリオ: ……なんの話? ティンカー・ベル: ううん、こっちの話。それより、中には誰がいるって? シンデレラ: 話によれば、中には町の少年が数人、閉じ込められてるみたいね ティンカー・ベル: その子たちが感染者ってわけだね ヴェルメリオ: ……どうやって感染者を治す? ドロシー: オズの時みたいに、増徴されてるコンプレックスを解消してあげればいいじゃない シンデレラ: どんな人かもわからないのよ ピュルテ: 初めてですね。……ネバーランドで感染者に会うのは ドロシー: 例の旅人が、ネバーランドにまで来ていたのね ティンカー・ベル: それか、オズから戻ってきたのかも ヴェルメリオ: ……フックの手先? 否定はしないけど ティンカー・ベル: 何よ、人間さん。そこは譲れないんだってば ピュルテ: うわっ、なんか埃っぽいですね 少年: 助けてー! ドロシー: えっ、なに今の声 ティンカー・ベル: なんか子供の声がしたような…… ドロシー: ちょっとやめてよ、怖いじゃない ヴェルメリオ: ……あっ、あそこ 少年: 誰か! いるんだろ!? 俺たち魔物に捕まってるんだ! シンデレラ: 屋根裏に少年が捕まってる? ピュルテ: どうして、こんなところに来たんですかー!? 少年: いたずらで入り込んだら魔物に……うわ、やべ、見つかった! ティンカー・ベル: なるほど。そういうわけね ピュルテ: とにかく、急いで助け出さないと! シンデレラ: そうね! でも結局、感染者ではなかったってことよね ヴェルメリオ: ……これだけ自然には影響が出てるのに ドロシー: 妙な話よね。たぶん本質的に何かが違うのよ…… 56 - 手がかりのないまま シンデレラ: 結局、何の手がかりにもならなかったわね ピュルテ: でも、あの子達は無事に家に帰れて良かったですよ ティンカー・ベル: 人助けだもんね。両親にお礼だって言ってお弁当作ってもらったし ヴェルメリオ: ……手配中のわたしたちには、貴重な食料 ドロシー: 店で食べ物頼めないのも辛いけど、シャワー浴びれないのも辛いわぁ シンデレラ: でもまあ、感染者がいなかったんなら、引き続きティンカちゃんが思いついた、あそこに行くしかないわね ティンカー・ベル: スカルロックだね ドロシー: そのスカルロックっていうのは、なんなの ティンカー・ベル: ネバーランドの外れにあってね、海賊どもの宝の隠し場所になってるの ヴェルメリオ: ……大事な人もついでに隠せるね ピュルテ: どんなところにあるんですか? ティンカー・ベル: 場所は任せて。ただね、スカルロックは島なの ドロシー: ネバーランドも島じゃないの ティンカー・ベル: もっと小さい島ってこと! だから海を渡るための船が必要なんだ シンデレラ: 船なんか、どうすんのよ。お尋ね者の私たちに貸してくれる人なんていないわよ ティンカー・ベル: 貸してもらえないなら、無理やり奪っちゃえばいいんじゃない? ピュルテ: ダメですよ! 本当にお尋ね者になっちゃうじゃないですか! ティンカー・ベル: 普通の漁師さんの船とか奪っちゃダメだよもちろん。けど…… ドロシー: 分かった! 海賊ね ティンカー・ベル: さっすが三つ編み! もう少し進んだ先に、フックの部下が守る砦があるんだ シンデレラ: そこから船を奪っちゃえばいいのね ピュルテ: だ、大丈夫なんですか。その計画は ドロシー: バカね。奪うんじゃないの、お借りするのよ ピュルテ: そういう問題じゃなくて……1回、潜入作戦が失敗してるのに ドロシー: だからよ。私は同じ失敗は二度しない。つまり次は成功するってこと ヴェルメリオ: ……不安しかない シンデレラ: どう? だいぶ港町からは離れたと思うんだけど ヴェルメリオ: ……ダメ。そこら中に指名手配の張り紙が出されてる シンデレラ: そっか。仕方ないわね、撤収しましょう (背景切換...) シンデレラ: ということで、町には入れそうにないわ ドロシー: えーっ!? じゃあまた野宿!? お風呂入りたい! ピュルテ: 仕方ないですね。きれいな池が見つかったら、水浴びできますよ! ドロシー: ああ、私の女子力がどんどん下がってく ティンカー・ベル: しょうがないじゃん。もうちょっとだよ (…………。) ヴェルメリオ: ……なんか、足元のぬかるみがすごい シンデレラ: もう、靴がドロドロよ ピュルテ: 雨上がりなんでしょうか、このあたり一帯がぬかるんでますね ドロシー: だんだん下り坂になってるわ。うっかり滑らないようにしなくちゃ ティンカー・ベル: 飛べない人は大変だね……なんか申し訳ないよ (わうっ、わうっ、わうーっ!) シンデレラ: きゃあっ!? ピュルテ: お、大きい犬が走ってきますっ!? ドロシー: ちょっと、押さないでよ……って、ああああああ! ティンカー・ベル: ちょっと三つ編み! なんで私の足をつかむのよっ!? ヴェルメリオ: ……ダメ。転がってく (わああああああ………!) ((ドンッ)) シンデレラ: ど、どうなったの……? ピュルテ: 犬はどっか行っちゃったみたいです ティンカー・ベル: んもー、全身ドロドロになっちゃったじゃん! ピュルテ: 人間さん、大丈夫ですか? えっ、あそこに池がある? 本当だ! ドロシー: ちょうどよかったわ! あそこできれいに流しましょう! ヴェルメリオ: ……え? 俺も一緒に池で洗いっこしたい? この人、なに言ってんの シンデレラ: 人間さん、覗いたら承知しないわよ。ここで池に背中向けて大人しく荷物番してて ティンカー・ベル: わーい、水浴びだっ! さっぱりするー! ドロシー: もう、本当にひどい目に遭ったわ…… シンデレラ: ピュルテちゃん、ちょっと揉ませなさいよ ピュルテ: きゃっ、ちょっと!? ヴェルメリオ: ……たまにはこういうのも楽しい ピュルテ: ふー、人間さんお待たせしました。どうぞ人間さんも入って……って、どうしたんですか!? エルマイトが急上昇してます! ティンカー・ベル: あ、なんか向こうから魔物が来てる シンデレラ: 人間さんが戦えたら、今のそのパワーなら一瞬で吹きとばせそうなのにねぇ 57 - スパイ大作戦 ティンカー・ベル: みんな静かに! 海賊の砦はもうすぐだよ ヴェルメリオ: ……海賊がいっぱいウロウロしてる シンデレラ: 砦に近づくのも困難ね ドロシー: 強行突破といこうじゃないの! ヴェルメリオ: ……やめて。ややこしくなるだけ ピュルテ: 敵に見つからないように隠れながら近づきましょう。……スパイみたいに? スパイってなんですか? 人間さん ドロシー: クッキーに入れると美味しいのよね。祖母から習ったわ ヴェルメリオ: ……それはスパイス ティンカー・ベル: 秘密で動くエージェント? は? シンデレラ: ニ、ニンジャ? オンミツ?  ドロシー: とにかく静かにそっと、敵に見つからずに目的を達成する? 何よ、スパイって簡単じゃない ピュルテ: なんだか人間さん、すごく楽しそうですね シンデレラ: スパイはよくわからないけど、私もなんだか楽しくなってきたわ ヴェルメリオ: ……気配を消すの、得意 ティンカー・ベル: みんなはしゃいじゃってこどもみたい ドロシー: あら、あなたは楽しくないの? 妖精さん。これから海賊の船を奪うのよ。わくわくするじゃない シンデレラ: 海賊船で海賊の隠れ家に乗り込むのね! こんな経験そうはないわよ ヴェルメリオ: ……フックとも直接対決できる ピュルテ: ぺトラさんの手掛かりを見つけましょう! ティンカー・ベル: みんな……自分のことみたいに……ティンカのために…… ピュルテ: だって、ティンカちゃんは私たちの大切な仲間ですから。ね、人間さん シンデレラ: みんなで立ち向かえば、海賊にもディマイトにも負けないわよ ティンカー・ベル: みんな、ティンカを助けてくれてありがとう ヴェルメリオ: ……わたしもいっぱい助けてもらった ドロシー: いやだわ、物語の最終回みたい。湿っぽいのは苦手よ。いつもの生意気な妖精さんに戻ってちょうだい ティンカー・ベル: だよね! ティンカらしくないのはもうおしまい! ……みんな、準備はいい? あの一番デッカイ船をいただいちゃうよ! ティンカー・ベル: 面舵いっぱーい! ピュルテ: 人間さん、シンデレラさん、ティンカちゃん元気になりましたね。良かったです☆ シンデレラ: あとはぺトラを無事に発見するだけね ティンカー・ベル: ちょっとぉ! ちゃんとスカルロックの方向に向かってる? 海賊1: ちっ、なんだよ偉そうに ドロシー: 立場をわきまえなさい、下っ端さん。あんたたちのキャプテンは、今は私たちなのよ 海賊1: いててて! わかったから蹴らないで 海賊2: おい、なんだか雲行きが怪しいぞ 海賊1: ああ、こりゃ一雨くるかもだな。帆を下したほうがいいかもしれない ドロシー: 何言ってるの、こんなに青空じゃない ヴェルメリオ: ……いい加減な事言って邪魔するつもり? 海賊2: ちがうよ! 本当に向こうの空の雲行きが怪しいんだ ティンカー・ベル: いいから船を進めないさーい! 早くスカルロックに行かなきゃいけないんだから 海賊1: で、でも嵐になったら大変だぞ。ここらの天気は変わりやすいんだ シンデレラ: そうなの? ねぇ、ティンカちゃん。この人たち曲がりなりにもプロの海賊なのよ。少しは言うこと聞いてみても…… ティンカー・ベル: フックの手下なんか信用できない! ドロシー: 下っ端でも海賊でしょ!? 嵐が怖くて海賊が務まるかってのよ! ピュルテ: 人間さんもですか? はい、なんだか嫌な予感がします…… (…………) ((ゴロゴロゴロ)) ドロシー: きゃー! この大雨に大揺れ、な、なんとかしなさいよぉ! 下っ端ども! ティンカー・ベル: 波に飲まれるぅ! たすけてぇー! 海賊1: だから言ったじゃないかぁ! ヴェルメリオ: ……うぅっ、ギモヂワルイ ピュルテ: 人間さん、私につかまって! 海賊2: 舵がまったくきかないんだ! このままじゃっ……船が沈むっ!! シンデレラ: あ! みんな! 船よ! 別の海賊船がすぐそばに! ティンカー・ベル: あれはっ…… 海賊1: フック船長の船だ! フック: やれやれ、無謀な御嬢さんたちだ ティンカー・ベル: フック……! 笑いに来たの? 私たちの船が沈むのを ???: そうじゃない、助けにきたんだよ! ティンカ ティンカー・ベル: !!! ……その声は!!! ペトラ: さあ早く! こっちの船にうつって! ティンカー・ベル: ペトラ! 無事だったのね! ペトラ! 58 - フックの策略 ティンカー・ベル: 探したんだよ、ペトラ。……今までどこに行ってたの? なぜフックの船に? ペトラ: 心配をかけたね、ティンカ。黙っていなくなって……ごめん ティンカー・ベル: ううん、無事だったからそれはもういい。でも…… フック: 私が説明したほうがよいでしょう。……ティンカ嬢、私はあなたに嘘をつきました。ペトラは私がかくまっていたのです ティンカー・ベル: やっぱり! あんたがペトラをさらってたんだ! 最低で卑怯なフック! シンデレラ: 落ち着きなさい、ティンカちゃん。フックはペトラを『かくまっていた』と言ったわ フック: ネバーランドに異変が起き、私はディマイトの力が増長していることを感じました。ディマイトの影響が及ぶ前に、私はペトラを隠したのです ドロシー: オズの国の感染者の事も、知っているのね。それでペトラが感染者になるのを恐れて ヴェルメリオ: ……ペトラをディマイトから守るため フック: はい、ペトラがディマイトに感染すれば、ネバーランドは終わりだと思ったのです ティンカー・ベル: そんな……フックはペトラを守っていたっていうの……? フック: 旅人のフリをしてディマイトの感染者を増やしている者がいると聞き、どんなに小さくてもペトラの居場所が漏れる可能性を残したくなかったのです。申し訳ありません ペトラ: フックは悪くない。僕の身を、このネバーランドを案じての行動なんだ ティンカー・ベル: それじゃティンカは……1人で怒って、騒いで……バカみたいだ ペトラ: ううん。君がなりふり構わず僕を心配してくれたことは、本当に嬉しかった。バカみたいだなんて言わないで ピュルテ: ティンカちゃん……想いは伝わってる。そうですよね、人間さん ティンカー・ベル: あんたたち……うん、ありがとう ペトラ: ねえフック、このまま隠れていても事態は良くならないよ フック: 危険です。貴方を失ったネバーランドは、ネバーランドたり得ない ペトラ: でも、自分の力で守り抜いてこそじゃないか ティンカー・ベル: そうだよ、フック。危険はあるかもしれない、けどこんなのペトラらしくない フック: らしくない、か……ティンカ嬢の言うとおりです。しかし、ティンカ嬢のお仲間が信頼に足る実力をお持ちかどうか ドロシー: この私の実力を疑うっていうの? フック: 試させていただく ヴェルメリオ: ……試す? フック: このフックと手合わせ願いたい。こういう時は決闘でハッキリさせるべきでしょう。海賊らしくね フック: 勝負あり、ですね。さすがはティンカ嬢、いいお仲間をお持ちだ ティンカー・ベル: フックがティンカのこと褒めた……? フック: 賞賛に値するならば誰が相手でも褒めますよ ティンカー・ベル: それじゃ今までダメダメだったみたいじゃん! やっぱり嫌な奴! ピュルテ: よかった、一件落着ですね シンデレラ: ティンカちゃんとフックの関係も少しは良くなったみたいだし ドロシー: 私の実力、分かってもらえたかしらね!? 言うに事欠いて誰に対してあんな口の利き方を ヴェルメリオ: ……空気読んで、ドロシー ティンカー・ベル: でも本当にペトラが無事でよかった。安心したら力が抜けちゃったよ ペトラ: はは、ティンカは心配性だなあ。でも……ありがとね ティンカー・ベル: ペトラ…… ペトラ: それじゃあフック。僕は今度こそ、逃げも隠れもせずに自分の手でネバーランドやオトギノクニを守り抜いてみせる フック: 貴方ならできる。信じていますよ、ペトラ ペトラ: 君は僕の大事な仲間だ。だから、傍で見ていてほしい フック: ……、ふふっ、承知しました ティンカー・ベル: ティンカは!? ペトラ: ティンカは家族だよ ティンカー・ベル: ……ティンカもね、このまま旅を続けようと思う ピュルテ: ティンカちゃん! ティンカー・ベル: ずっとペトラが心配でここまで来たけど、これからはティンカもオトギノクニを救うために旅する シンデレラ: 私たちは大歓迎よ。すごく助かるし ティンカー・ベル: 家族でもあり、仲間でもある……別にそれ、無理なことじゃないと思う。ペトラに、仲間としても認められたい ペトラ: ティンカ…… ティンカー・ベル: オトギノクニを取り戻すのは、ペトラとフックだけじゃないってところ、見せてあげるんだから ペトラ: ……うん、分かった。ティンカが決めたんなら、僕はそれを応援する シンデレラ: ねえ、みんな。もし問題なければだけど……私の国、魔法の国に行ってもいいかしら ヴェルメリオ: ……うん、わたしも行きたい。おばあちゃんも心配 ピュルテ: ヴェルちゃんの家は、魔法の国にある森でしたね ドロシー: 問題なんてないわ。それに例の旅人を追うんでしょう? ピュルテ: そうなると思いますけど、どういうことです? ドロシー: 結局、ネバーランドで感染者は出なかった。ここには来ていないのよ。グリンダのところにも来なかったし、オズの国から違う方へ海を渡ったんだわ フック: では我々の船へどうぞ。行き先は魔法の国でよろしいですね ピュルテ: はいっ。それじゃ出発進行~! 59 - ついに魔法の国へ ピュルテ: 魔法の国が見えてきました! 早いですね、さすがフックさんの海賊船 シンデレラ: いよいよ着くわね…… ヴェルメリオ: ……姐さん? 大丈夫? シンデレラ: 故郷にあの旅人が入り込んでるかもしれないと思ったら、なんだか緊張しちゃってね。……って、あなたも同じだったわね、ヴェル ヴェルメリオ: ……ピュルテも、ちょっと元気ないよね ピュルテ: なに言ってるんですか。私は元気! ドロシー: 私たちに虚勢張ってどうすんの。見れば分かるわよ ティンカー・ベル: 今度はティンカが励ます番だからね! ピュルテ: ありがとうございます。そうですね、私はリルちゃんのことが気がかりで ドロシー: 先に魔法の国に入ったんだったわね 海賊1: おい、あそこに停めるぞ ドロシー: ちょっと、魔法の国にはあんな崖みたいな港しかないの!? シンデレラ: もっと先に都に近い港があるはずよ! 海賊1: 勘弁してくれ。俺らは海賊だ。ガラスの騎士団が港に通してくれるわけねえだろ ティンカー・ベル: 強くて有名だもんね ピュルテ: 仕方ありません。止められるところから上がりましょう (背景切換...) シンデレラ: こっちに細い道があるわね ヴェルメリオ: ……あ、ここって (背景切換...) ヴェルメリオ: やっぱり。わたしの家の近くの森だ ティンカー・ベル: え、なんだぁ。じゃあ、ずきんのおばあちゃんの様子を見に行けるね ドロシー: 良かった、それじゃあ道案内も任せられるわね シンデレラ: そうね。正直、私もこのあたりは数回しか来たことなかったのよ ピュルテ: それじゃあヴェルちゃん、お願いします ヴェルメリオ: えっ ピュルテ: えっ? ヴェルメリオ: う、ううん。じゃあついてきて ティンカー・ベル: わあ、変わった果物。これもお菓子になるのかなあ。1個もらっちゃおうっと (…………) ドロシー: まだあ? 結構歩いたと思うんだけど ティンカー・ベル: ねえ、ずきん。この木、果物をもいだ跡が……これ、ティンカが取ったのじゃない? ピュルテ: それって同じところをぐるぐる回ってるんじゃ…… シンデレラ: ヴェル、あなたまさか ヴェルメリオ: ……迷子 60 - 森の狼アドルファ ティンカー・ベル: あのさあ、ずきん。ここ地元なんだよね? シンデレラ: 間違いないわよ。ここはヴェルが住んでる森だわ。道順はわからないけど ヴェルメリオ: ……ごめん。実はこういうの苦手で ピュルテ: こういうのって……道案内がですか? ドロシー: ああ、いわゆる方向オンチってやつね ティンカー・ベル: ここまで致命的なものなんだね…… 住民: あれっ、ヴェルちゃんじゃないか。帰ってきてたのかい ヴェルメリオ: ……あっ、お久しぶりです 住民: そちらはお友達かい? ヴェルメリオ: ……はい。これからおばあちゃんの家に行こうと思って 住民: そっか。お友達もゆっくりしていってね。それじゃ ヴェルメリオ: ……はい、また今度 ピュルテ: 今のは? ヴェルメリオ: ……近所のおじさん ドロシー: だったら道案内してもらいなさいよっ!? ヴェルメリオ: ……あっ (…………) 住民: そう言えばヴェルちゃんはよく迷子になってたね ドロシー: 森の中で行き倒れになってなかったのが奇跡だわ ピュルテ: パイの受け渡しで待ち合わせしてた時は、ちゃんと来れていたような ヴェルメリオ: ……それはこれがあったから シンデレラ: 行き方メモね。こういうふうに書いてあれば大丈夫なわけね ヴェルメリオ: ……ううん、これを行く先々の人に見せるの ティンカー・ベル: 子供か! ヴェルメリオ: ……ねえ、おばあちゃんは変わりない? 住民: もちろん元気だよ シンデレラ: 長いこと留守にしてたものね ティンカー・ベル: 2人で住んでるんだっけ ヴェルメリオ: ……じゃあ、アドルファはどうしてる? 住民: そう言えば、ここのところ見てないな ピュルテ: アドルファさんて、どんな方ですか? ヴェルメリオ: ……この森に住む狼なの シンデレラ: それってあの時、あなた達を食べようとした…… ヴェルメリオ: ……そう。でも今は仲良し。ちょっと冷たそうに見えるけど、いい子だから ティンカー・ベル: それで、その子は何かおかしなことはなかった? 住民: 最後に会ったのは10日前くらいだけど、特に何も…… シンデレラ: ここに旅人が来てなければいいけどね…… ヴェルメリオ: ……着いたよ。ここが私とおばあちゃんの家 ピュルテ: わあ、可愛いおうちですね! ティンカー・ベル: めっちゃ近い! ドロシー: 近所をぐるぐる回ってたってことじゃない! シンデレラ: さっきのおじさんも、すぐ仕事に戻れて良かったわね…… ティンカー・ベル: ずきんのおばあちゃんって、ずきんにお菓子作りを教えてくれたおばあちゃんだよね!? ヴェルメリオ: ……そう、わたしのお菓子はおばあちゃん直伝 ティンカー・ベル: ってことは、ずきん以上の腕前ってことになるよね ドロシー: 確かに! そういうことよね! ピュルテ: 美味しい作り方を教えてもらうんですか? ティンカー・ベル: えっ…… ドロシー: そ、それは シンデレラ: あなたたち、ただ食べさせてもらうだけのつもりだったわね? そんなじゃヴェルの女子力には一生追いつけないわよ ヴェルメリオ: ……人間さんも引いてる ドロシー: 引いてはないよ、って言ってくれてるわよ! ティンカー・ベル: や、三つ編み。引いて『は』ないって、あんまりフォローされてないって ヴェルメリオ: ……とりあえず立ち話もなんだから、中に入ったら? ピュルテ: リルちゃんも、この森を通ったんでしょうか。1人で大丈夫かな…… ヴェルメリオ: ……おばあちゃんが見かけてないか、聞いてみ…… ピュルテ: 今のは!? ティンカー・ベル: 家の中からだ! これって…… ヴェルメリオ: おばあちゃん!? ドロシー: 窓を割って魔物が飛び出してきたわ! ピュルテ: ああっ、あれってヴェルちゃんのおばあちゃんですよね!? シンデレラ: 魔物がおばあちゃんをさらっていくわ! ティンカー・ベル: あの魔物、どっか飛んで行っちゃう! ティンカが追いかけるよ! シンデレラ: 危ないわ、ティンカちゃん! 次々に魔物が飛び出してくる! ドロシー: まずはこいつらをどうにかしないと、追いかけようがないわ ヴェルメリオ: ……おばあちゃんっ……! ピュルテ: ……なんとか片付きましたね ヴェルメリオ: ……おばあちゃん シンデレラ: 大丈夫、きっと無事に取り返すわ ティンカー・ベル: そうだよ! ティンカたちに任せて! アドルファ: グウウウ……! ドロシー: あれは、あそこにいるのはっ! ヴェルメリオ: アドルファ!? アドルファ: グアアア…… シンデレラ: あれがアドルファ? ヴェルのお友達の狼ね ピュルテ: 感染してる……! ヴェルメリオ: アドルファ、わたしよ! 目を覚まして! アドルファ: グウウウウ…… ティンカー・ベル: ああっ、逃げた! 追いかけなきゃ! ヴェルメリオ: ……アドルファ 住民: た、助けてくれーっ ピュルテ: さっきの、近所のおじさん! シンデレラ: いけない、魔物に捕まってるわ! ドロシー: 先におじさんを助けるしかないわね ヴェルメリオ: ……アドルファが逃げた先は分かる。たぶん自分の家 ピュルテ: 遅れてもすぐに追いつけそうなら、安心しておじさんを助けられますね シンデレラ: 早く追わないと、ヴェルのおばあちゃんも危険だからね ヴェルメリオ: ……みんな、ありがとう ドロシー: この私が本気を出せば一瞬で終わるわ。それよりヴェルは、アドルファの感染を解くカギになるものが何かを考えておいて ヴェルメリオ: ……カギ ティンカー・ベル: んもう、せっかく美味しいパイが食べられると思ったのに! ドロシー: まったくだわ! その旅人だっけ? こんなタチの悪いディマイトをバラばいてるやつ、見つけたらタダじゃおかないんだから! シンデレラ: 食べ物の恨みは恐ろしい、ってね ピュルテ: さあ、さっさと片付けましょう! 61 - ヴェルメリオの初めての友達 ヴェルメリオ: ……ネバーランドで話の出た、創造期の話 ティンカー・ベル: ぺトラとフックが敵同士だった時の事だよね? ヴィランズがディマイトの影響を受けたってやつ ピュルテ: アドルファさんと出会ったのはその時なんですね ヴェルメリオ: ……うん、道に迷っていたときにアドルファに出会った。嘘の道を教えられた ドロシー: 確かあなた、食べられちゃったのよね? アドルファに ヴェルメリオ: ……うん、おばあちゃんも一緒に。猟師さんが助けてくれた シンデレラ: その後アドルファに影響していたディマイトが弱まって、普通のオオカミに戻ったのね ヴェルメリオ: ……確かこのチェストに、おばあちゃんが仕舞っておいたはず ピュルテ: 何を探しているんですか? ヴェルちゃん ヴェルメリオ: ……アドルファからの手紙。おばあちゃんの宝物 ピュルテ: おばあちゃんと仲良しなんですね、アドルファさん ヴェルメリオ: ……おばあちゃんとわたしは、アドルファの初めてできた友だちなの。……手紙、あった ピュルテ: 読んでもいいのですか? えっと……“あの時は食べたりして本当にごめんなさい。おばあさんとヴェルメリオさんと、仲よくなりたいです。 アドルファ” ティンカー・ベル: 健気じゃ〜ん! ヴェルメリオ: ……また道に迷ってるところでアドルファに会ったの。警戒して避けるわたしに、アドルファは申し訳なさそうに手紙をくれた ヴェルメリオ: ……その後も道に迷ってると、アドルファが必ず道案内してくれたの。何度目かで和解して、それからずっと仲良し ドロシー: アドルファには一度に友だちが2人できたのね。あなたにとっても、アドルファは初めてできた友だちなんじゃないの? ヴェルメリオ: ……うん ドロシー: 友だちは大切にしないとよね! 彼女を元にもどせるのは、友だちのヴェルだけよ ヴェルメリオ: ……うん! ティンカー・ベル: ほんと、たまーに、たまーになんだけど良いこというよね。三つ編み ヴェルメリオ: ……アドルファのコンプレックスは孤独だと思うから、この手紙を使う ティンカー・ベル: なるほど〜! おばあちゃんとずきんが友だちだったって事を思い出させるんだね ドロシー: それだけじゃ弱いわね ティンカー・ベル: え、そうなの? ドロシー: この手紙は友だちになる前に、アドルファが2人に送ったんだもの。まだ孤独な時期に書いた手紙じゃない ヴェルメリオ: ……そうか ピュルテ: アドルファさんとの思い出の物は他になにかないですか? ヴェルメリオ: ……助けてくれた時、猟師が使ったナイフ シンデレラ: だめだめ! そんなのアドルファのトラウマじゃない ヴェルメリオ: ……おばあちゃんがアドルファに食べられた時に来ていたパジャマは? ティンカー・ベル: そんな物とっておくかな普通…… ヴェルメリオ: ……アドルファがわたしを騙した時 ドロシー: はい、次〜! ピュルテ: あの……こう、もっとポジティブな思い出の物が良いかと思うんです。……え?人間さん ヴェルメリオ: ……パイ? シンデレラ: ああ! それよ! ヴェルはパイ作りが得意だもの。アドルファにも食べさせたことがあるでしょ? ヴェルメリオ: ……うん。アドルファはわたしが作るダブルベリーパイが大好きだって言ってた ティンカー・ベル: ポジティブな思い出! 最高! ヴェルメリオ: ……最近作ってない ドロシー: 作るわよ! 思い出のダブルベリーパイ ヴェルメリオ: ……材料のベリーを採りに行かないと ピュルテ: さっそくみんなで採りに行きましょう! (背景切換...) ヴェルメリオ: ……ダブルベリーパイの材料、グランドベリーはこの洞窟にはえてる ティンカー・ベル: この洞窟の壁のマークなんだろ? まさか魔物がつけた呪いの紋章?! ヴェルメリオ: ……アドルファがつけた。わたしが迷わないように ティンカー・ベル: 優しい友だちじゃん! シンデレラ: 呪いの紋章って……すごい発想よね ドロシー: あながち妖精さんも間違っていないみたい ピュルテ: はい、魔物の気配がしますね ティンカー・ベル: うーん、いい香り! グランドベリー ドロシー: ものすごく美味しいパイが出来そうね ピュルテ: ドロシーさん、よだれが出てます ヴェルメリオ: ……アドルファもよく、よだれ垂らしてパイができるの待ってた ドロシー: よだれって単語をしみじみ言わないでよ。なんか私が恥ずかしくなるじゃない! シンデレラ: ダブルベリーパイっていうなら、もう一種類ベリーが必要なのよね? ヴェルメリオ: ……さすが姐さん。もうひとつ、ラブベリーが必要 ティンカー・ベル: ラブベリー?! ちょーかわいい名前 ヴェルメリオ: ……ラブベリーはこの森の奥、丘の上。目印のリボンをたどっていけばある シンデレラ: 道に迷わないように、こっちもちゃんと目印つけてるのね ヴェルメリオ: ……わたしがよく迷うからって、アドルファが考えてくれたの ピュルテ: 優しいんですね、アドルファさん ティンカー・ベル: そういえば、2つのベリーは離れた場所にはえてるね ヴェルメリオ: ……グランドベリーはアドルファが、ラブベリーはわたしが見つけたベリーだから ヴェルメリオ: ……手紙をもらってすぐの頃はまだアドルファが怖くて、森で会っても逃げたりしてた シンデレラ: まぁ、正しい反応だわ。一度は食べられちゃったんだし ヴェルメリオ: ……ある日アドルファがグランドベリーをくれたの。わたしはお礼に、ラブベリーをあげたの ヴェルメリオ: アドルファはとても喜んでくれて、グランドベリーの生えている場所を教えてくれた。だからわたしも、ラブベリーの生えてる場所にアドルファを案内した ヴェルメリオ: ……ベリーの生えている場所は、お互いが誰にも内緒にしていた秘密の場所だったの。大切な場所を共有したことで、わたしたちは打ち解けることができたんだ ピュルテ: 素敵なエピソードですね ヴェルメリオ: ……アドルファの感染、ダブルベリーパイで治ってくれたらいいな 62 - ラブベリーを探そう ドロシー: まさに友情のパイじゃない! ……泣いてないわよ。空の青さがまぶしいだけ ティンカー・ベル: 空、木で見えないけど シンデレラ: ティンカちゃん、しー! 空気読みなさい ピュルテ: 人間さんも泣いてますよ シンデレラ: ほらほら、感動するのはアドルファを元に戻してからにしてちょうだい。パイの材料、ラブベリーを採りに行くわよ! (…………) ティンカー・ベル: うわ! なにこれぇ! 草とか花とかぐちゃぐちゃに荒らされてるよ?! シンデレラ: ひどいわ。きっと魔物の仕業ね ドロシー: 魔物ですって?! ゆるせない! ピュルテ: ヴェルちゃんの大切な場所が…… ヴェルメリオ: ……ラブベリー、踏みつぶされてる シンデレラ: 他にラブベリーが生えている場所はないの? ヴェル ヴェルメリオ: ……わたしが知ってるのはここだけ ティンカー・ベル: ラブベリーがないと、ダブルベリーパイが作れないじゃん! ドロシー: ここを荒らした魔物をとっつかまえて、みんなでぶん殴ってやるわ! ヴェルメリオ: ……まずはアドルファを元に戻す、他の方法を考える ドロシー: ヴェル……。あなたがそう言うなら、ぶん殴るのは我慢するけど ピュルテ: そうですね! みんなで別の方法を考えましょう ティンカー・ベル: あれ? ……ねえ、ずきん。目印のリボンがこの先にも続いてるみたいだよ ヴェルメリオ: え?! ティンカー・ベル: ほら、あの木に結んであるのそうでしょ? ピュルテ: 本当ですね。リボンがあります! シンデレラ: この先にも……続いてるみたいよ! ヴェルメリオ: ……リボン、追いかけてみる ティンカー・ベル: リボン、この洞窟の入り口でとぎれてるね ドロシー: ねえ、この洞窟、グランドベリーが生えてた洞窟と環境が似てるわね ピュルテ: もしかしたら、ここにも生えてるんじゃないですか!? ラブベリー ヴェルメリオ: ……アドルファがリボンをここまで結んだ理由はベリーかもしれない! 奥に行ってみる! シンデレラ: あ、待って! ヴェル! ピュルテ: 採れてよかったですね、ラブベリー シンデレラ: アドルファはあの洞窟にラブベリーが生えてるのを見つけて、ヴェルに教えるためにリボンを結んだのね ティンカー・ベル: ちょっとだけだったけど、生えててよかったね ヴェルメリオ: ……少ないけど、この量ならダブルベリーパイを作れる ドロシー: アドルファの思いを無駄にしちゃだめよ、ヴェル。とびっきり美味しいパイを焼いてよね! ヴェルメリオ: ……うん! 頑張る ティンカー・ベル: ティンカも手伝う! この粉を混ぜればいいんでしょ? ピュルテ: 私も手伝います。ベリーを洗いますね! シンデレラ: ティンカちゃん、そんな混ぜ方じゃダメよ。私にちょっと貸してみて ティンカー・ベル: あ! 姐さん、ひっぱらないでよぉ! ドロシー: ラブベリーはジャムにするのね? それなら私が…… ヴェルメリオ: あ、ちょ、みんな……粉はそんなに……! 強く洗ったらベリーがつぶれっ……。ドロシー、砂糖を入れすぎ……! ピュルテ: わ! びっくりした! 人間さん、急に止めないでください シンデレラ: ヴェルの邪魔をしちゃダメ?! ……人間さん、私たちは手伝おうと…… ティンカー・ベル: これはアドルファとヴェルの思い出のパイだから、ヴェルに任せるのがいい? まぁ、確かにそうだけどぉ…… ドロシー: そうね、この人の言うとおりね。私たちはパイが出来上がるのを待ちましょう ヴェルメリオ: ……ありがとう、人間さん。みんな。わたし頑張ってアドルファのために美味しいパイ作る (………………) ティンカー・ベル: ちょっと暇だから変なこと聞くけど。やっぱりさ……その、料理が上手な人とかがさ、好きなわけ? あんた ピュルテ: そうなんですか、人間さん!?……料理上手な子は尊敬するけど、それだけで好きになったりしない?そうですかぁ、よかったです! ティンカー・ベル: だよね! 料理できなくてもいいよね♪ シンデレラ: うまくはぐらかしたわね ドロシー: 結局、私が好きってことでしょ? ティンカ・ピュルテ・シンデレラ: 違います! ドロシー: 甘〜い良い香りがするわね ティンカー・ベル: ダブルベリーパイ、ティンカも食べたい シンデレラ: ダブルベリーパイはアドルファを元に戻すための大切なパイだから、今回は我慢してね ティンカー・ベル: はぁい。今度絶対作ってもらおうっと シンデレラ: アドルファの感染を治したら、私が何か作るから食事にしましょう ドロシー: 今回は何を作ってくれるの? シンデレラ: うーん、そうねぇ……。メニューを考えるのって意外とストレスなのよね。そうだ!人間さん、何が食べたい? ピュルテ: 人間さんの食べたい料理を作ってあげるんですね? さすがシンデレラさん! シンデレラ: ピュルテちゃん、一緒に作らない? 大切な誰かのために料理を作ってあげるって素敵なことなのよ ピュルテ: そうですね! 教えてもらえますか? シンデレラさん! ティンカー・ベル: ティンカも……って言いたいけど、やっぱり料理って苦手なんだよなぁ シンデレラ: 料理じゃなくてもいいのよ。ティンカちゃんが好きな人を想って、一生懸命することなら ティンカー・ベル: そっか! ティンカにできることをすればいいんだよね! シンデレラ: そうよ。ティンカちゃんはぺトラのためにネバーランドで色々頑張ったでしょ? 素敵だったわよ。ドロシーもオズを感染から治す時、かっこよかったじゃない ドロシー: 私がその人にしてあげられることをすればいいのよね ティンカー・ベル: 姐さんは大切な人って言ったの。別に、その人間のためなんて言ってないじゃん ドロシー: あら、あなたはあの人が大切じゃないの? ティンカー・ベル: 大切じゃないとは言ってないでしょ! ピュルテ: 私にとって人間さんは大切な人ですよ! シンデレラ: ピュルテちゃんは大胆ね。人間さん、赤くなってるじゃない ピュルテ: 大胆? そうなんでしょうか ティンカー・ベル: その天然っぷりがうらやましい! シンデレラ: で? 何が食べたいのかしら? 人間さん ピュルテ: 何でもいい? ……はぁ、そうですか シンデレラ: でたー! 何でもいい。一番困るのよね ドロシー: そうよ! 何でもいいとか言って、あとで文句言うパターン、よくあるのよ 63 - 正気に戻れアドルファ! ヴェルメリオ: ……できた! ピュルテ: お疲れ様です、ヴェルちゃん! うわー! とっても美味しそうです! ドロシー: めちゃくちゃ良い香りね! アドルファがうらやましい! ティンカー・ベル: 三つ編み、またよだれ出てる シンデレラ: ドロシーに食べられないうちに、アドルファを探しましょう! ヴェルメリオ: ……狼たちの住処に行ってみよう ドロシー: 狼がいっぱい。ここなら隠れるのに最適ね シンデレラ: ヴェル、パイの香りを広めて ヴェルメリオ: ……うん! アドルファ: ヴヴッ……パ……パイ、パイの匂い…… ピュルテ: あ! あそこに! ヴェルメリオ: アドルファっ!! ドロシー: パイの香りにつられて出てきたわ! パイを食べさせるチャンスよ ティンカー・ベル: でも、まだ距離があるし理性を失ってるから危ないよ シンデレラ: ヴェル、もっとパイの香りを嗅がせて、近くまでおびき寄せて ヴェルメリオ: ……わかった アドルファ: グッ……グゥ……パ、パイ! パイ! ピュルテ: 動揺しているようですが、こっちに近づいてきています! アドルファ: ベリー……のパイ! ……グルルル……ウルルルゥ! パ……イィィィ シンデレラ: 今よ! パイを口の中に投げて! ヴェルメリオ: アドルファ! ダブルベリーパイだよ! わたしとアドルファの大切なベリーで作った、あなたの大好物のパイだよ! ティンカー・ベル: 口に入った! 食べた! アドルファ: アグッ! ……パイ……ヴェルの……ベリーパイ…… ヴェルメリオ: ……そう! そうだよ、アドルファ! ドロシー: やった! 成功よ! 感染が治って…… アドルファ: グアアアアアアアア! ギャアアアア! ドロシー: ない! 治ってないわー! シンデレラ: そんな! 一切れじゃ足りないってこと?! ヴェルメリオ: ……だったら全部食べさせる! ヴェルメリオ: ……アドルファ? 気分はどう? アドルファ: 最悪。何が最悪って、こんなに大勢に見られてる中で正気を取り戻すキッカケが、ヴェルお手製のパイって ティンカー・ベル: 大丈夫だよ! 別に食い意地張ってるなんて誰も思わないよ! シンデレラ: そうよ、ヴェルとの思い出でしょ? アドルファ: だからです。ヴェルのことが大好きだと、人前で宣言したようなものでしょう ヴェルメリオ: ……へへっ。すごく嬉しいよ、アドルファ アドルファ: くっ……だ、だからやめなさい! そんな目で私を見ないで! ドロシー: なんなの、この人 ピュルテ: よく分かりませんが、可愛らしいですね アドルファ: あーもう! こんなの私のキャラじゃないわ! 早くおばあちゃんを連れて帰って ヴェルメリオ: ……そうだ、おばあちゃんは アドルファ: 奥の部屋のベッドで寝てるわ。気絶したままよ ヴェルメリオ: ……よかった。ちょっと見てくる シンデレラ: ねえ、アドルファ。教えてほしいんだけど アドルファ: 何かしら ピュルテ: 今回のことが起きる前、変わったことはありませんでしたか? 誰かが訪ねてきたとか アドルファ: ああ、見慣れない人たちが森にいたので道案内をしてあげましたね ピュルテ: な、何かもらいませんでしたか? アドルファ: そう言えば別れ際に、小さなお菓子をくれて。甘くて美味しいんだけど、小さいからあまり食べごたえは無かったです ドロシー: 間違いなさそうね。例の旅人は、既にこの国に入ってる アドルファ: え、まさか、あいつが今回のコレの原因だって言うんですか ティンカー・ベル: そうだよ! ティンカたちはそいつを追ってるんだ アドルファ: …‥確か、森を抜け街道を西へ向かうのを見ました。必ず捕まえて下さい ドロシー: 言われるまでもないわ アドルファ: いつでも声をかけて下さい。何かあれば必ず力になりますから ピュルテ: ありがとうございます、心強いです。あと、もう1つ……こーんな帽子で、長靴を履いた猫の子を見かけませんでしたか アドルファ: それはあなたたちの仲間ですか? ピュルテ: 大切な友達なんです アドルファ: だとすると見覚えはないですね ピュルテ: ……そうですか シンデレラ: ピュルテちゃん…… ピュルテ: いえ、きっとリルちゃんは大丈夫。さあ出発しましょう。ヴェルちゃん呼んできます 64 - ライメント・タウンへ ピュルテ: 看板があります。えーっと、西に進んだって話でしたから、こっちかな ティンカー・ベル: んんー、いい天気。やっぱり魔法の国は広いんだなあ ドロシー: どういうこと? ティンカー・ベル: だってさ、ネバーランドと比べると道幅からして全然違うじゃん ピュルテ: そうですね。きっと街も広くて大きいんでしょうね シンデレラ: …… ヴェルメリオ: ……姐さん? シンデレラ: えっ? なに!? ピュルテ: 大丈夫ですか、シンデレラさん。何か考え事ですか? ヴェルメリオ: ……ごめんね。わたしのおばあちゃん助けるの優先してて。姐さんの大切な人だって危ないかもしれないのに シンデレラ: いいのよ! そんなこと問題じゃないわ ティンカー・ベル: でも家族とか、友達とか、気になるよね。急いで行かないとね シンデレラ: それなんだけど、逆に寄り道してもいいかしら ドロシー: もちろん。ここは貴方の国なんだから、リードしてちょうだい シンデレラ: ここから少し行ったところにあるライメント・タウンという町に、お義母様とお義姉様が住んでいる屋敷があるの ティンカー・ベル: そっか。無事を確かめに行くんだね ピュルテ: えっ、なんですか人間さん。家族と仲はいいのかって、当たり前じゃないですか シンデレラ: 人間さんは創造期のことを言ってるのね ティンカー・ベル: え、姐さんは家族と仲良くないの? シンデレラ: 創造期には色々あったけど、今は普通に仲良いわよ ドロシー: でも城に一緒に住んでるわけじゃないのね シンデレラ: 都にいると遊び暮らしちゃうからって、お義母様がね ヴェルメリオ: ……それで屋敷が、この近くにあるのね シンデレラ: お義母様とお義姉様が2人の3人で住んでいるの。森から近いこともあるし、もしかしたら旅人が向かってるかもしれないわ ピュルテ: 心配ですよね。行ってみましょう! ピュルテ: 少し日が傾いてきましたね ティンカー・ベル: そろそろテントを張る場所を探しながら進まないとだね シンデレラ: この先に近道があるの。そこを通れば日暮れまでに町にたどり着けると思う ドロシー: 当然、行くわよ。もうシャワー浴びたいし、ベッドで寝たいし ヴェルメリオ: ……よく知ってるね。地元って言ってもこんな広い国なのに シンデレラ: ずっと以前から国の色々なところを見てきたから。都だけ見ていてもプリンセスの仕事は務まらないから ピュルテ: 国中を見て回ったんですか? ティンカー・ベル: その間のプリンセスの仕事は止まっちゃうんじゃないの? シンデレラ: それは城の魔法使い、マザー・ティターニアに留守番を頼んだの。魔法で私そっくりに変身してなりすましてもらってね ティンカー・ベル: 自分そっくりに変身されるって怖くない? ドロシー: それだけ信頼してる、ってことでしょうね シンデレラ: うん。誰よりも信頼してるわ。彼女なしじゃ、今の私はありえないんだから ピュルテ: 人間さん、すごい頷いてますけど、そのあたりも知ってるんですか? シンデレラ: だから今も、私がここにいる間の代わりは彼女に頼んであるの ティンカー・ベル: あ、そっか! ずっとティンカたちと一緒にいたんだから、その間は城にいないんだもんね ヴェルメリオ: ……言われてみれば シンデレラ: その間、私はお忍びで旅をするってわけ。私とティターニア以外は知らない秘密 ドロシー: それで? 見て回った結果、何かあったの? シンデレラ: 何もないわ。この国はマザー・ティターニアの魔法を中心に繁栄していて、魔法を失ったら何も残らない ティンカー・ベル: ええっ、そうなの? シンデレラ: だから私は、国のみんなが自信を持てる何かを探さなくちゃならないのよね ドロシー: 意外とちゃんとプリンセスしてんじゃないの。ただの酒飲みじゃないってわけね シンデレラ: ちょっと、そんなに飲んでないわよ。あっ、ほら、あそこに通路が見えるでしょ (背景切換...) ピュルテ: この地下通路が近道なんですね ヴェルメリオ: ……本当に安全? シンデレラ: さあ、夜になる前に町に入って、お風呂入って1杯ひっかけましょ! ティンカー・ベル: 近道の目的はそれだったか…… ドロシー: 褒めたらこれだからね 65 - ライメント邸の異変 ドロシー: それじゃあ、そのまま町を出ていったのね 住民1: ええ、普通じゃなかったですよ、あれは ドロシー: ありがと。助かったわ ピュルテ: ドロシーさん! ドロシー: みんな来たわね。情報収集してきた? シンデレラ: ええ。それじゃあみんなの聞いてきた情報をまとめましょう ティンカー・ベル: 屋敷からものすごい勢いで飛び出してきたらしいよ ピュルテ: 出てきたのは2人。シンデレラさんのお母さんであるライメント夫人 ドロシー: それに長女のアデリーナ。2人は髪を振り乱して飛び出したとか ヴェルメリオ: ……ロバに乗ってね ティンカー・ベル: お義母さん、すごいね。町と同じ名前なんだね シンデレラ: 名前もない町だったここに、自分の名前を付けたのよ ティンカー・ベル: すごいメンタル……ティンカには真似できない ピュルテ: 飛び出した時は。何か叫んでいたようですが、内容は聞き取れなかったそうです ヴェルメリオ: ……フライパンとトングで、なんか打ち鳴らしてたらしいよ ティンカー・ベル: それがつい3〜4日前の出来事 シンデレラ: だいたい聞いてきた話はみんな同じみたいね ピュルテ: 行動が普通じゃありませんし、おそらく2人は感染していたかと思います ドロシー: 元からだいぶイカレてるご家族だったら別だけど、そんなことはないわよね? シンデレラ: 間に合わなかったのね……! ピュルテ: 屋敷の中がどうなってるかは怖くて、まだ誰も見に行ってないみたいです ドロシー: けど次女のプリシラが飛び出してきたところは誰も見ていないみたい ヴェルメリオ: ……まだ屋敷に残ってる可能性が高い ティンカー・ベル: まあでも、飛び出してきてないからって、状況的に1人だけ感染してないとは思えないけど シンデレラ: そうね。プリシラが正気なら、助けを求めて外に出てくるはず ピュルテ: どうしますか? ヴェルメリオ: ……まず屋敷の中を確かめるしかないんじゃない シンデレラ: 今から屋敷に行ってみるわ ピュルテ: 1人で行こうとしないで下さいよ! ドロシー: 私達だって付き合うわよ ドロシー: ずいぶん立派なお屋敷ね ピュルテ: お二人が窓を突き破ってなかったら、侵入するのも大変そうですよね シンデレラ: プリシラ! いるの……!? 返事をしてちょうだい! ヴェルメリオ: ……いるんだよね? ティンカー・ベル: 町を出たところは誰も見ていないけど シンデレラ: ……感染してようとしてなかろうと、プリシラが1人で生きていけるはずないわ ピュルテ: どういうことなんです? シンデレラ: 身の回りのことがきちんとできるタイプじゃないし、それに寂しがりなの。心細いはずなのよ…… ピュルテ: 人間さんは知ってるみたいですけど、創造期に何があったんですか? シンデレラ: お義母様もお義姉様も、私に辛くあたったわ。元々家もすごく裕福なわけじゃなかったし、家事は全部私の仕事 ヴェルメリオ: ……だからプリンセスなのに生活力あるんだ ティンカー・ベル: なんか、前に庶民派とか言ってバカにしてごめん シンデレラ: いいのよ……って、えっ、あれってバカにしてたの? ティンカー・ベル: う、ううん! してないよ! ドロシー: マザー・ティターニアの協力もあって解決したし、その後は和解したのよね。でも、私が一番気になるのはそこ シンデレラ: そこ、って? ドロシー: いくらディマイトの影響といっても、数日の出来事じゃないわ。しこりが残ってもおかしくない ピュルテ: そんな、元は家族なのに ティンカー・ベル: でも、簡単に割り切れないよね。フックのこともそうだったけど ドロシー: 未だにエルファバも、元々の性格もあって苦労してるじゃない。どうなのかな、って シンデレラ: それは…… プリシラ: グフウウウッ!? ウアアアッ! ヴェルメリオ: ……あっ、いた ティンカー・ベル: 明らかに感染してるよね…… シンデレラ: プリシラ…… ヴェルメリオ: ……大丈夫? 震えてる シンデレラ: プリシラ! ここを開けて! ピュルテ: 部屋にこもってしまいましたね ティンカー・ベル: ここはプリシラの部屋? シンデレラ: ええ。ちょっと人見知りなところがあって ティンカー・ベル: ちょっとってレベルじゃないよ! って、あれはディマイトのせいなのかな ドロシー: 無から何かを生み出すんじゃなくて、コンプレックスを増幅させてるのよね ヴェルメリオ: ……部屋から出して治すには、やっぱりコンプレックスを和らげないと ピュルテ: 何か心当たりはありますか? シンデレラ: 普段は強気に振る舞ってるけど、コンプレックスだらけだと思うの。心当たりなんてありすぎて ドロシー: 何かヒントになりそうなことは シンデレラ: ……昔、住んでいた家があるわ ティンカー・ベル: それって創造期の頃に住んでた、ってことだよね ピュルテ: シンデレラさんたち家族のルーツとも言えますもんね ヴェルメリオ: ……さっそく行ってみよう シンデレラ: 町に戻って、少し休みましょう。ごめんね、夜まで付き合ってもらって ティンカー・ベル: なに言ってるの、すぐにでも出ようよ! ティンカも助けてもらったんだし、これくらい何でもないから! シンデレラ: ありがとう、ティンカちゃん。でも気持ちだけで充分よ ドロシー: 本当にいいのね、シンデレラ シンデレラ: ええ。ごめんなさい、先に戻るわね ティンカー・ベル: そんな、姐さん ピュルテ: ティンカちゃん。ここはシンデレラさんの言うとおりにしましょう ヴェルメリオ: ……姐さんが、誰よりも早く出発したいんだよ。でも、抑えてる ドロシー: 道中、魔物も出るわ。疲労が溜まって本来の力が出せなければ危険も増す。みんなの安全のために、感情を抑えてるのよ (背景切換...) ピュルテ: お待たせしました! それじゃあ出発ですね ティンカー・ベル: 早く、その昔の家に行って、プリシラを元に戻そう! ねっ シンデレラ: なによ人間さん。……そんな顔しないで、私なら大丈夫よ 66 - 『エラ』の故郷 ピュルテ: ここがシンデレラさんの昔の家がある村ですね ティンカー・ベル: 里帰りって感じ? ドロシー: うっわあ、何もない村ね。退屈すぎて3日もいられないわ ヴェルメリオ: ……ドロシー、姐さんの前でそんな言い方。故郷なんだから シンデレラ: いいのよ。私にとっては辛い思い出ばかりだし、お義母様たちも寄り付かないわ。故郷と言えるほどじゃない ティンカー・ベル: そうなんだ。ライメント・タウンからそこまで遠くもないけど、夫人たちも来てないんだね 住民1: あ、あんたは、エラちゃん!? 住民2: おおい、みんな! エラちゃんが戻ってきたでよー! ヴェルメリオ: ……エラちゃん? シンデレラ: 本名、っていうのかしらね。ここに住んでたころは、そう呼ばれてたの ピュルテ: そう言えば都にはマザー・ティターニアさんが変身したシンデレラさんがいるんですよね ティンカー・ベル: あっ、お忍びの旅なのに堂々と入って大丈夫なの!? シンデレラ: この村は田舎すぎて情報が入ってこないのよ。今の屋敷がある町にも逆に村の外に漏れることもないし ドロシー: ある意味、恐ろしい村ね ティンカー・ベル: って、気がついたら村の人がいっぱい集まってきた! 住民1: いやー、エラちゃん、べっぴんになって! 住民2: うちの村からプリンセスになるなんて、俺達の誇りだでよお! 住民3: おんめ、エラちゃんなんて気安く呼ぶでねえ。陛下だべ、陛下 シンデレラ: そんなこと気にしなくていいのよ。ねえ、私が住んでいた家はまだある? 住民1: もちろんだべ。誰も住んでねえけど、掃除だけはしてあるでなあ シンデレラ: ありがとう。さっそく見に行ってみるわ 住民2: でも、あの家がある村外れは時々魔物さ出るから気をつけるんだど ティンカー・ベル: そんなの、ちゃっちゃっと片付けちゃうから平気、平気 住民2: この人らはお付きの召使かい? ドロシー: なぁんですってえぇ!? この私が召使!? 漂う気品を感じられないの、このイナ……むぐっ ピュルテ: あ、あはは、違うんですよ。お友達なんです シンデレラ: さ、行きましょう ヴェルメリオ: ……姐さん、ちょっと顔色悪い? ヴェルメリオ: ……ここが姐さんの昔の家? ティンカー・ベル: 掃除はしてるけど壊れてるの補修はしてないんだね。屋根に穴が空いてる シンデレラ: 懐かしいわね。そこが炊事場でね、よく火を起こすのに苦労して灰だらけになったわ ピュルテ: 人間さん? シンデレラさんが辛そう? ヴェルメリオ: ……あなたも気付いたのね シンデレラ: 人間さんにはお見通しね。正直、辛い思い出なのよね ティンカー・ベル: 思い出したくない、ってこと? シンデレラ: 村の人はみんな、私が働き者でえらかったね、なんて当時のことを言うわ。でも、寝ずに働いてるのを黙って見てたのもあの人達 ティンカー・ベル: 姐さん…… シンデレラ: それもディマイトのせいだったのは分かってる。責めるつもりはないわ。けど、完全に無かったことにできるほど、まだ自分で消化できてない ドロシー: それでもプリシラを救うために、ここまで来たんじゃないの? シンデレラ: ドロシー…… ドロシー: まあ、あんたの感情はあんたが決めることだけどね。私は早く町に戻ってココアが飲みたいだけ シンデレラ: そうね。早くヒントを探しましょう ティンカー・ベル: でもポイントを絞らないと大変だよ ピュルテ: どうして、プリシラさんだけが屋敷に残っていたんでしょう ヴェルメリオ: ……人見知りだから? それとも屋敷に何かあるの? シンデレラ: プリシラは……あまり物事を深く考えないわ。創造期でも、お義母様の言いなりで動いていて ドロシー: シンデレラへの態度も少し緩かった? シンデレラ: そうなの。アデリーナやお義母様よりも……これってヒントになるのかしら ピュルテ: 心の奥に家族を大事にする思いがあるからじゃないですか? ヴェルメリオ: ……それってコンプレックス? シンデレラ: コンプレックスではないけど、大事にしているものは時として弱味になることがあるわ ティンカー・ベル: じゃあプリシラの家族への愛情を呼び起こすものを見つければいいんだね ピュルテ: 昔住んでいた家ならきっと何かあるはずです! ヴェルメリオ: ……宝箱を見つけたと思ったのに ドロシー: あんな屋根裏の奥に隠してあるから、すごく大事なものだと思ったけど、おもちゃ箱だなんて シンデレラ: ……でもいいのよ、これがカギになるはず ピュルテ: 本当ですか!? じゃあこれでプリシラさんも元通りになるんですね! この……えっと、これ、ティアラですか? ティンカー・ベル: オモチャのティアラだね。すごく古くなってる ドロシー: こっちの2つは、昔は豪華なおもちゃだったんだろうけど、残りの1つだけ妙に安っぽいわね シンデレラ: それが私のティアラね ヴェルメリオ: ……もしかして、子供の頃の シンデレラ: アデリーナも含めて3人がお揃いで持ってるの。もちろん、まったく同じものではないんだけど ピュルテ: この子供の頃の思い出を呼び起こすことができれば、ディマイトの影響が和らぐかも、ですね ドロシー: でも、シンデレラだけ粗末なもの……つまりディマイトの影響下にあった時期の思い出よね。効くかしら? シンデレラ: 私のことはどうか分からないけど、お義母様やアデリーナのことは家族だと思ってるでしょう? ピュルテ: 大丈夫ですよ。シンデレラさんのことだって家族だと思ってるに決まってます ティンカー・ベル: ……みんな、大人なんだね。姐さんも、ずきんもさ ヴェルメリオ: ……どういうこと? ティンカー・ベル: だって創造期に色々あったわけじゃん。なのに相手を思いやってる。ずきんのアドルファにしたってそうだし、姐さんも シンデレラ: 言ったでしょ。完全に無かったことにできてるわけじゃないのよ ティンカー・ベル: けど、もしこれがフックだったら、ティンカは同じようにできるかなって シンデレラ: 私が正しいとは限らないわ ドロシー: 妖精さんとフックの関係を同じように比較はできないわよ。悩むだけムダ ティンカー・ベル: ……そうなのかな シンデレラ: さあ、戻りましょう 67 - プリシラのもとへ!! ピュルテ: 町の人に確認しましたが、まだプリシラさんは町を出た形跡がないようです ティンカー・ベル: それどころか屋敷からも出てないみたいだね ドロシー: だとしたら、あの部屋からも出てないんでしょうね、きっと シンデレラ: 問題は感染経路ね。また旅人が何か渡したのかどうか ピュルテ: 町の人に話を聞いてみましょう (背景切換...) 住民1: いやあ、わかんないですよ シンデレラ: わかんないって、どういうこと 住民1: しょっちゅう商人が出入りしてましたからね。家具とか、絵画とか ティンカー・ベル: 都にいると遊び暮らしちゃうから、って引っ越してきたんだよね、継母さん ヴェルメリオ: ……ここでも遊び暮らしてるんじゃない? シンデレラ: まあ、浪費癖がすぐに治るとは思ってなかったけど ピュルテ: その中にお菓子を配り歩いてる人はいませんでしたか? 住民1: さあ、商品の中身までは知らないな ピュルテ: それはそうですよね…… ドロシー: でも、高い確率でいたでしょうね。現にプリシラは感染していたわけだし、それだけ商人がいたなら紛れ込むことは難しくない ヴェルメリオ: ……まだ追いつける距離にいればいいんだけど ピュルテ: そう言えば長靴を履いた猫のことは、どうですか。見かけませんでしたか? 住民1: 屋敷じゃなくて、普通に町の中でなら見かけた気がするよ ピュルテ: 本当ですか!? ティンカー・ベル: よかったね、ピュルテ。ネコにはもうすぐ合流できそうな気がするね ピュルテ: 無事なんだ……本当に良かった シンデレラ: そうと決まれば、いずれにしてもここでゆっくりしているヒマはないってことになるわね ドロシー: そのティアラを持って、このまま勝負といきましょうか! 68 - プリシラを正気に!! ティンカー・ベル: なんだかんだで、また夜に来ることになっちゃったね ヴェルメリオ: ……怖い? ティンカー・ベル: そ、そんなわけないでしょ! ドロシー: でもぶち破られた窓が不気味な空気を醸し出してるわね ピュルテ: しかも、この広い屋敷で1人なんて、部屋に籠もりたくなるのも当然かもしれませんね ヴェルメリオ: ……やっぱり怖いんだ ティンカー・ベル: うるさいよ、ずきん! シンデレラ: ……プリシラ! 見てほしいものがあるのっ! シンデレラ: プリシラ、お願い! ここを開けて! そして話を聞いてちょうだい! ティンカー・ベル: 気配はするから部屋にはいそうなんだけど ヴェルメリオ: ……開けてくれない シンデレラ: ねえ、これ覚えてない? アデリーナと私、3人お揃いのティアラよ! よく、これでお姫様ごっこして遊んだでしょう!? ドロシー: 続けて。扉のすぐ向こうにいる気配がするわ シンデレラ: 今、プリシラは心細いでしょう? 1人ぼっちだと思ってるんでしょう? そんなことないの、私はここにいるわ プリシラ: ウウウ…… シンデレラ: このティアラを見て。例え今は離れていたとしても、家族なの。ずっと一緒なのよ! プリシラ: ウウ……エラ……ティアラ…… ティンカー・ベル: 扉が開いたっ! プリシラ: グウウッ!? ピュルテ: やった、人間さん! ドアの間に身体を挟んで閉じるのを阻止しました! ティンカー・ベル: そのままこじ開けちゃって! プリシラ: ウグウウウッ!? ヴェルメリオ: ……ドア、壊れた シンデレラ: やるじゃない、人間さん! ドロシー: 動揺してるわ! ディマイトの力が弱まってる今がチャン…… プリシラ: ウグアアア! ピュルテ: 襲ってきた!? って、あれ……? ティンカー・ベル: どこかに走り去っていくけど ドロシー: 引きこもれる部屋を探しに行ってるんじゃないの!? ピュルテ: 徹底して引きこもるんですね ヴェルメリオ: ……追いかけないと シンデレラ: 今がチャンスなことには変わりないわ。追いかけてプリシラを開放するわよ! ティンカー・ベル: ちょっと!なんで逃げるのよ プリシラ: やだー!!あんたたち誰?!離して!私は何も悪くないわよー! ドロシー: 私たちはあなたを助けてあげたのよ!お礼くらい言いなさいよ ピュルテ: まだ混乱されてるんですよ。ね?シンデレラさん プリシラ: あ!シンデレラ!シンデレラじゃない! 私一体どうなっちゃったの?!ものすごく怖かったのよぉ〜 シンデレラ: !!やめて!さわらないで! プリシラ: 何よ〜!ひどいじゃない! ヴェルメリオ: ……びっくりした。何怒ってるの?姐さん シンデレラ: あ……ご、ごめんなさい。まだ感染が治っていなかったらと思っちゃって……。プリシラ、もう大丈夫よ プリシラ: あ〜ん!シンデレラ、私怖かったのよ〜!自分が自分じゃなくなって…… シンデレラ: プリシラ、あなたはディマイトに感染してしまったの プリシラ: ディマイト!?だって、ディマイトって創造期の頃の話じゃない。それに感染ってどういう事なの? シンデレラ: 詳しいことはまだわかっていないのだけど、このオトギノクニに異変が起きてるの。……何か変わった物を食べなかった? プリシラ: 変わった物ぉ?そういえば……数日前、お母様がお茶の時、めずらしいお菓子を出してきたの。甘くて小さいお菓子よ。初めて見たの。みんなでそれを食べたわ シンデレラ: それは誰からもらったの? プリシラ: 都に行く途中の旅人にもらったって言ってたわ ドロシー: 旅人ですって! ヴェルメリオ: ……やっぱり シンデレラ: ……プリシラ、お義母様とアデリーナはがどこに行ったかわかる? プリシラ: いいえ。あ、でも……。これ、アデリーナの大切な指輪、これが落ちていたわ。アデリーナたちも感染……してるの?大切な指輪を落としていくなんて シンデレラ: たぶん。でも私に任せて。お義母様たちも元にもどして見せるわ ピュルテ: 大丈夫でしょうか、人間さん? シンデレラさん……手が震えてますよ ティンカー・ベル: 顔色も悪い? ホントだ。……なんだか魔法の国に来てから、姐さんの様子が変だよね 69 - リルと再び ドロシー: 旅人は都に行くと言っていたそうだから、私たちも後を追いましょう! ティンカー・ベル: うん!急げばまだ都あたりをウロウロしてる旅人に追いつけるかも ピュルテ: シンデレラさん、これ、プリシラさんから預かってきました。アデリーナさんの指輪 シンデレラ: ………… ピュルテ: シンデレラさん? シンデレラ: え?あ、なに?ピュルテちゃん ティンカー・ベル: やっぱり姐さんおかしいよ ヴェルメリオ: ……旅の疲れが出てるのかも ドロシー: なんだか前方に人だかりができてるわよ。まさか感染者じゃないでしょうね! シンデレラ: 急いで行ってみましょう! (背景切換...) ティンカー・ベル: みんな集まって、なにがあったの?! 住人1: 岩山が崩れて通行止めですって ドロシー: え!急いで都に行きたいのに! 住人1: 無理ね。都へ行く道はここしかないもの ピュルテ: 通行止めなら仕方ないですね。近くで復旧するのを待ちましょう (背景切換...) ティンカー・ベル: はあ、疲れた〜。チェックインするのにも行列ができてるんだもん ヴェルメリオ: ……ここを通る人がみんな来てるからね ピュルテ: ライメント・タウンと違って、あまり大きな町じゃないので宿も少ないですし ドロシー: ねえ、ここって何か名物とかあるの?綺麗な風景とか ティンカー・ベル: ちょっと三つ編み!遊びに来てるんじゃないんだからね! ドロシー: だって通行止めが解除されるまで暇でしょ? ティンカー・ベル: それはそうだけど……って、あ、あれっ!? ピュルテ: リルちゃん!? リル: え……ピュルテ!?皆さんも! シンデレラ: 良かったわね、ピュルテちゃん。追いつけたわね リル: え、小生を追いかけて……? ピュルテ: 町を出たって聞いて心配してたんだよ リル: そ、そうだったのか……心配かけたみたいだな。すまない ピュルテ: ううん、無事で本当によかった ドロシー: 初めましてよね。私、ドロシー リル: 初めまして。ところで皆さんは小生の後を追うために…… 住民1: 大変だ、子供が裏山の洞窟に入っちまったぞ! 住民2: 通行止めを抜けようとしたみたい! ヴェルメリオ: ……何かあったみたい ティンカー・ベル: 積もる話はその後だね! シンデレラ: つまり、この岩山にある洞窟に子供が入り込んでしまったわけね ピュルテ: 宿の人の話だと10歳くらいの男の子だそうです ティンカー・ベル: 通行止めが待ちきれなくて、抜け道になるって噂の洞窟に入っちゃったんだって リル: 小生はまだ腕が本調子ではない。もし洞窟に魔物が出たら…… シンデレラ: 大丈夫、任せておきなさい リル: かたじけない…… ドロシー: まったく。人に迷惑かかるって分からないのかしら ヴェルメリオ: ……あ、あの洞窟? (背景切換...) ピュルテ: 地下に空間が広がってるんですね リル: 足元の岩の隙間から下が見えているな。崩れないよう気を付けて、皆さん ティンカー・ベル: あっ、あそこ! ピュルテ: 倒れてる人がいます!たぶん例の男の子ですよ! シンデレラ: ちょっと!大丈夫!? 少年: 足をひねったみたいで…… ドロシー: さっさと起きなさいよ!宿でおとなしく待ってればいいのに 少年: だって山の向こうにお母さんが ピュルテ: お母さん……? 少年: お母さん、病気なんだ。この薬を早く届けないと ティンカー・ベル: 三つ編み…… ドロシー: ……何よ。私を悪者みたいに見ないでよ。事情は分かったけど、結局あんなふうに倒れてるんだから,,, リル: そんな言い方はないだろう! ピュルテ: リルちゃん、落ち着いて 少年: もう通行止めになって10日は経つんだ。早くしないとお母さんが! シンデレラ: 私達は今日来たところなんだけど……通行止めになって10日?長すぎないかしら、妙な話ね ヴェルメリオ: ……でも、この洞窟は危険 ピュルテ: とにかく助けに行かないとですよね。でも、この岩の隙間からじゃ顔を出すのが精いっぱいです シンデレラ: それに高さがかなりあるわ。遠回りでも道を探さないと ヴェルメリオ: ……洞窟の奥から魔物の気配 ドロシー: ああ、もう!さっさと助けに行くわよ!魔物なんかこの私が蹴散らしてやるんだから! 70 - クタクタの晩餐 住民1: さあさあ、これも食べて!俺のおごりだよ 住民2: あの洞窟から子供を救い出してくるなんて、あんたたちすげえよ、最高だよ ピュルテ: なんか、すごい持ち上げられようですね ドロシー: ただでさえ何もない町で、しかも通行止めで退屈してる人もいっぱいいるんだもん。私達なんて最高の娯楽でしょ ティンカー・ベル: ねえ、あそこの兵士の人が睨んでくるよ シンデレラ: まあ、あっちは悪役みたいになってるからね。面白くはないでしょうね ヴェルメリオ: ……わたし、もう部屋に帰る リル: そうだな、小生も休ませてもらう ティンカー・ベル: あっ、ずるい ピュルテ: 私たちは残らなきゃダメな雰囲気ですよね シンデレラ: 通行止めはまだ解除されそうにないし、仕方ないわね。あら、ドロシーまで逃げた? ピュルテ: 人間さんは傍にいて下さいね!? (背景切換...) ティンカー・ベル: ああ、昨日は疲れたなあ シンデレラ: タダで飲み食いできたのは良かったけど ピュルテ: しかも今日は、流れで見回りに行くことになっちゃいましたし ヴェルメリオ: ……なんでわたしとリルまで リル: 皆さんに同行するのに不満はありませんが、見回ってどうしろと? ドロシー: こないだ洞窟で騒いだから、魔物が寄ってきちゃってるらしいのよ シンデレラ: あら、あんなところにも見張りの兵士が ドロシー: そうだ!ちょっと待ってて ヴェルメリオ: ……え、どこ行くの。まさか、ドロシー ピュルテ: なんか兵士の人と話してますね リル: 打ち解けている様子だぞ ティンカー・ベル: あ、戻ってきた! ドロシー: 今色々聞いてきたけど、ちょっと怪しいわよ シンデレラ: どういうこと? ドロシー: 通行止めがいつになったら解除されるか聞いたんだけどね ピュルテ: 目途が立ってるんですか? ドロシー: 心付け次第では、通れるタイミングを教えてやることができる、だって リル: なるほど ピュルテ: えっ、どういうことです? ドロシー: 詳しい話は宿でゆっくり。まずは見回りを終わらせちゃいましょ ティンカー・ベル: えっ、ワイロ!? ドロシー: 声が大きいわよ、妖精さん リル: つまり通行止め自体が偽りということですな シンデレラ: ワイロさえ渡せば通してくれる、そうやって関守の役人が私腹を肥やしてるってわけね ヴェルメリオ: ……せこい ピュルテ: お母さんに薬を届けたい子だっているのに、ひどいですね シンデレラ: もちろん許さないわよ。けど、証拠もなしには動けないわ ドロシー: 証拠探しをするつもりなの? シンデレラ: ワイロ渡せば通れるけど、私がそんなことできるはずないでしょ リル: 当然ですな ヴェルメリオ: ……でも、どこを探すの? ティンカー・ベル: 町の人に聞いた話だと、兵士が山の上にある小屋によく出入りしてるって シンデレラ: 何かあるかもしれないわね ピュルテ: それにしても、いつ頃から魔法の国に来たの? リル: そうだね、2週間くらいかな。この国の都に腕のいい医者がいると聞いたから ピュルテ: 医者って……腕、だいぶ悪いの? リル: 念のためだよ。オズの国では応急処置をしてもらったけど、本格的な治療が必要そうなんだ ドロシー: そんなに深い傷なのね。移動も気をつけないと リル: ああ、いや。あまり深刻に捉えすぎないで下さい。足手まといにはなりたくない シンデレラ: 相変わらずね 住民1(声): 大変だっ、町の近くまで魔物が襲ってきたぞ! シンデレラ: 外が騒がしいみたいね ティンカー・ベル: また武勇伝作っちゃう? ヴェルメリオ: ……もう、あんまり注目されたくないなあ ティンカー・ベル: みんな寝ちゃったのに、なんか変に目が冴えちゃったな〜 ティンカー・ベル: あれ?あんなところで、あの人は何してるんだろう。あ、隅の一番立派な荷馬車の人なのかな ティンカー・ベル: 荷馬車の袋に……箱を入れてる。荷物の整理かな。こんな夜中なのに……。あれっ、あの荷馬車に荷物を入れてるのは、あれは…… 71 - 山小屋の異物 ピュルテ: 山小屋は、この先にあるんですか? ドロシー: っていう話だけどね ティンカー・ベル: 小屋の中に何か役に立つものあるのかなあ ヴェルメリオ: ……山の向こうに行ける抜け道でもあればいいのに リル: まあ、そう都合良くはいかないでしょうね ティンカー・ベル: ねえねえ、ところでさ。宿の傍に荷馬車が並んでたでしょ。あの一番豪華な荷馬車はどこに行くの? リル: さあ?何か書いてあれば分かるでしょうが ドロシー: ああ、あれなら都と、あとその先のカイ……なんとかって町へ運ぶ荷物だって聞いたわよ ティンカー・ベル: 乗せてってくれたらいいのになー シンデレラ: 乗せてくれたって通行止めは同じでしょ。本当に嫌になるわ ティンカー・ベル: 早くアデリーナも夫人も助けたいのに、落ち着かないよね ピュルテ: あれ?あそこにあるのはなんでしょう ドロシー: 何か見つけたの!? ヴェルメリオ: ……これは、土嚢? シンデレラ: こんなもの、どうしようっていうのかしら リル: でも積上げてあるのは人為的なもの。何か意味があるんでしょう ドロシー: ははーん、見てよこれ ティンカー・ベル: 岩だ!これが落ちてきて道を塞いでるんだよ ドロシー: と、みんなが思ってるやつね ヴェルメリオ: ……岩みたいな見た目の、ハリボテ ティンカー・ベル: えっ、なにこれ! シンデレラ: このハリボテが飛んでいかないための土嚢ってわけね ピュルテ: 近くで手に取れば偽物だってわかりますけど、遠くから見ただけじゃ本物だと思いこんでしまいますね リル: 小銭稼ぎにしては、ずいぶん凝った仕掛けですね ヴェルメリオ: ……あれ、例の小屋じゃない? ティンカー・ベル: 中に何か手がかりがあるかも! ドロシー: 当然、調べるしかないわね リル: ただ……小屋の中から、既に邪悪な気配が漏れている。皆さん、気をつけて ティンカー・ベル: 明らかに土砂崩れなんて嘘だよ!こらしめてやろうよ! シンデレラ: そうね。朝になったら、関守の役人がいる詰所に乗り込みましょ ピュルテ: どうして、こんなこと……これもディマイトの影響なんでしょうか シンデレラ: そう信じたいわ ドロシー: これで明日にはここともお別れね 住民1: 大変だ!山火事だ! ヴェルメリオ: ……えっ? リル: 山から火が出ています! ピュルテ: あれは……あの山小屋があった方向ですよ シンデレラ: やってくれるじゃない……! (背景切換...) リル: 昨日、見つけた証拠になるものはすべて灰になったわけですか…… ドロシー: 私としたことが、詰めが甘かったわ 兵士1: おい、焼け跡の片付けを手分けしてやるんだ ティンカー・ベル: ええっ、ティンカたちも!? 兵士2: どうせ通行止めですることもないだろう ピュルテ: 仕方ないですね。地元の人は困ってるでしょうし、手伝いましょうか?…… (背景切換...) ヴェルメリオ: ……ひどい。全部燃えてる シンデレラ: 徹底して証拠隠滅したってわけね 住民1: 証拠隠滅って、なんのことです? シンデレラ: ああ、いえ。こっちの話よ。それより人間さん、他のみんなは大丈夫そうだった? ヴェルメリオ: ……ピュルテはリルと同じ組になって、反対側を回ってるはず シンデレラ: ずいぶん仲がいいわよね、あの2人 ヴェルメリオ: ……ていうか、ピュルテがすごくリルのこと大事にしてる シンデレラ: あら、リルだって私たちとは接し方が違う気がするわ ヴェルメリオ: ……人間さんはそっちより、ドロシーとティンカのペアが心配?うん、わたしも 住民1: そんじゃ、このあたりで作業すっか シンデレラ: 待って。何か聞こえない? ヴェルメリオ: ……魔物の気配 住民1: ひえええ、ど、どうしよう シンデレラ: 大丈夫。下がっていて。それより……この魔物、まさかとは思うけど 72 - 積もる焦燥感 ドロシー: つまりヴェルの方にも魔物が出たわけね ティンカー・ベル: ピュルテの方にも!なんとか逃げてきたから、ティンカたちが倒せたけど ピュルテ: 助かりました、ありがとうございます リル: 3組に分かれて、すべてが魔物に遭遇したとは……ずいぶん都合のいい話だ ティンカー・ベル: もう許せない、あいつら!とっちめてやる! ピュルテ: ああっ、待ってティンカちゃん! リル: 1人で突っ込むのは危ない! ヴェルメリオ: ……ピュルテ、落ち着いて! ドロシー: あーあ、行っちゃったわ。熱い子ね シンデレラ: 怒るのも当然よ。私達だけじゃない、何の秘密も知らない一般の住民まで巻き込もうとしたのよ ドロシー: ええ、汚いやり口だわ。でも、あなたは妖精さんを止めに行かないの? シンデレラ: みんながいれば大丈夫。それより…… ドロシー: 手鏡?化粧でも直そうっていうの? シンデレラ: これは魔法の鏡よ。話したい相手を念じれば、その相手の近くにある鏡に繋がって話すことができるの ドロシー: なにそれ!すっごい便利! シンデレラ: お互いが魔法の国にいれば繋がるの。けど……私が魔法の国に入ってから、ずっとこんな感じ ドロシー: 鏡の中は真っ暗で何も映らないわ シンデレラ: 城で何か起きていなければいいんだけど…… (背景切換...) ティンカー・ベル: もうっ!何も知らない、しか言わないんだから!話にならないよ! リル: それで、この後どうするつもりなんだ シンデレラ: 通行止めを強行突破するしかないわ。バリケードが弱いところを見定めて、足止め食らってる人全員で押しかける ドロシー: それで、この場所ってわけね ピュルテ: ここって……古い見張り台みたいですね シンデレラ: ここからなら、通行止めになってる場所も見渡せる ティンカー・ベル: あ、本当だ!ねえ、あれ!全然崩れてないよ! ドロシー: やっぱりね。それじゃ上に登って、突破できそうなところを探してみましょ ヴェルメリオ: ……配置もだいたい分かったし ピュルテ: 後は町に戻って、皆さんに伝えるだけですね ドロシー: それで、みんなでバリケードに向けて行進しようっていうわけ? シンデレラ: いくら悪どくても役人で、盗賊じゃないもの。正面から一般市民が歩いてきたら、いきなり襲ったりはしないわ リル: すっかり足止めを喰ってしまったな ティンカー・ベル: 姐さんも家族が心配なのにね シンデレラ: 大丈夫。すぐに追いかければ間に合うわよ ピュルテ: 都の様子はどうなんでしょうか。マザー・ティターニアさんがシンデレラさんの代わりを務めてるんですよね ドロシー: ああ、それならさっき…… ティンカー・ベル: ちょっと待って ドロシー: なによ、もう町の入口が見えてるっていうのに ティンカー・ベル: そうだよ。もう町が目と鼻の先なのに…… リル: ……っ!背後から魔物の気配、だと? ピュルテ: あそこ!檻の中に魔物が入ってます。カギは……かかってません! ドロシー: 飛び出してくるのは時間の問題だわ! シンデレラ: 檻ですって…… ヴェルメリオ: ……くるっ! ピュルテ: シンデレラさん…… シンデレラ: 私達がどうにかしたから良いようなものの……一歩間違えれば、町も大惨事になるところだわ ティンカー・ベル: う、うわ、ヤバい。姐さんマジギレだ ドロシー: 当然よ。自分の小銭稼ぎの不正のために人に迷惑かけまくった挙句、秘密を守るために町を危険に晒すなんて リル: 言語道断だな。まして、ここは魔法の国。シンデレラ殿が信頼して役目を任せた役人たちだ シンデレラ: なに、人間さん。え、ガラスの靴?悪いけど、今はそんなことをゆっくり話してる場合じゃ…… ドロシー: ふうん。あなたには何か考えがあるわけね? ピュルテ: えっ、私とヴェルちゃんも? シンデレラ: いいわ。人間さんに任せるわよ 73 - 正面突破 兵士1: こ、これは何の騒ぎだ 兵士2: 足止めを喰ってた連中が、一気に押し寄せています! 兵士1: ど、どうしましょう 役人: バカめ、動揺するでない。ただの貧しい民ではないか 少年: もうバレてるんだぞ!通行止めは嘘なんだろ! 住民1: ワイロ渡したやつだけ通しやがって! 役人: ええい、なんだお前ら!戻れ、戻らんか!全員まとめてしょっぴくぞ! ティンカー・ベル: へえー?やれるもんならやってみな 役人: お、おまえら!どうしてここに ドロシー: それは魔物をけしかけたのに、っていう意味かしらね? リル: 期待に沿えずに悪かったね 役人: ぐぬっ……と、とにかく下がれ! シンデレラ: 下がるのはそちらでしょうね ピュルテ: 山の上の見張り台からはよく見えましたよ。通行止めが起きていないこともまるわかりです ヴェルメリオ: ……偽装するための小道具も見つけた 役人: はん、旅の行商人だかなんだか知らんが、おまえたち風情が思い上がるな!おい、おまえたち。ひっ捕らえろ! 兵士1・2: はっ! シンデレラ: 皆さん、もういいでしょう! ピュルテ: 静まれ、静まれーい!このガラスの靴が目に入らぬか! ヴェルメリオ: ……すごい。ピュルテ、完璧。人間の言ったとおりにできてる 兵士1: そ、その靴は……! 兵士2: ああっ、履いた!ぴったりだぞ! ピュルテ: 今度はヴェルちゃんの番ですよ ヴェルメリオ: ……こちらにおわす御方をどなたと心得る! ピュルテ: おそれおおくも魔法の国のプリンセス、シンデレラ姫にあらせられるぞ! 少年: ま、マジかよ…… 住民1: あの酒飲みの姉ちゃんがプリンセスだって…… ヴェルメリオ: ……一同!プリンセスの御前である!頭が高い!控えおろう! 住民1: へ、へへーっ! シンデレラ: 関守の役人。そのほうの悪事、しかと見届けたぞ。市民の安全を守るべきそなたが、魔物を解き放つとは言語道断 役人: ひ、ひいっ! シンデレラ: 早急に道を開けて、この場の全員を通せ。その後は……追って沙汰する 役人: は、ははは、はいーっ! シンデレラ: 人間さん。これ、クセになりそうね シンデレラ: まったく。この国の役人はどうなってしまったの!今はお母様とアデリーナを探すのが先だけど、私が戻ったら只じゃおかないわ リル: 誰か探しているのか? ピュルテ: シンデレラさんのお母様とお姉様を探してるの ティンカー・ベル: ディマイトに感染してるっぽいんだよね。だから早く探さないと リル: ディマイトに感染?それは一体…… ドロシー: 謎の旅人が、食べ物にディマイトを混ぜてアチコチ配って歩いてるのよ。オズの国でも被害者が出て大変だったの リル: オズの国の感染者はどうなったのだ? ドロシー: 私がちょちょいと治したわよ ヴェルメリオ: ……みんなで治した。ディマイトはコンプレックスを増長させるから、そこをキーに元に戻せた リル: コンプレックスを……なるほど ドロシー: 無視?私は無視なわけ? リル: 小生が養生してる間に、皆は大変な目にあっていたのだな ピュルテ: リルちゃんが無事でよかった。魔法の国に謎の旅人さんがいるとわかったときは、すごく心配したんだよ リル: その上心配までかけてすまなかった シンデレラ: こちらこそ、私の家族の事にみんなを巻き込んでしまってごめんなさい ティンカー・ベル: 何言ってるの!姐さんはティンカの家族も同然でしょ。っていうか、ここにいるみんなも人間も家族同然の仲間じゃん ピュルテ: ティンカちゃん素敵!とっても素敵! ドロシー: 家族……素敵な言葉ね。ちょっとだけカンザスに帰りたくなっちゃったわ リル: ところで、シンデレラ殿のご家族の行方は見当がついておるのか? シンデレラ: アデリーナが行きそうな場所なら見当がつくわ。姉はたぶん、宝物庫だと思う ヴェルメリオ: ……宝物庫? シンデレラ: この先には国の宝物庫として使用している洞窟があるの シンデレラ: アデリーナは宝石やら金貨やらが大好きなの。感染して理性を失ってるならなおさら執着してると思う 74 - メンバーの信頼関係 ピュルテ: リルちゃんも一緒で、うれしいです♪ あ、でも無理はしないでね リル: ああ、もう皆さんに迷惑はかけない ティンカー・ベル: ねぇ、姐さんのお姉ちゃん、アデリーナってどんな人なの? シンデレラ: とてもクールな姉よ。……私との関係も、正直プリシラ程良くはないの ドロシー: それで元気がなかったのかしら ヴェルメリオ: ……かも。創造期はいじめられてたんだし シンデレラ: マザー・ティターニアともう一度連絡を取ってみるわ。今度はつながるかも リル: それは魔法の鏡か? シンデレラ: ええ。白雪姫のところにいるスペクルムからもらった特殊な鏡よ リル: スペクルム? シンデレラ: 魔法の鏡よ。どんなことでも見通せる魔力を持ってるの ティンカー・ベル: これでマザー・ティターニアと会話ができるんだって。でも、魔法の国なら使えるはずなのに、調子悪いんだよねー シンデレラ: やっぱりダメだわ…… ドロシー: 直接会いに行くしかないわね シンデレラ: そうね。……お母様とアデリーナの事も相談したかったけど、解決したら会いに行くわ リル: シンデレラ殿が助言を求める相手とは、それは高尚な方なのであろう シンデレラ: みんなにも言ったけど、マザー・ティターニアなくして、今の私は存在しないのよ ピュルテ: 私にとっての人間さん的存在なのですよね。シンデレラさんにとってのマザー・ティターニアさんは ヴェルメリオ: ……こっちが恥ずかしい。でもうらやましい ティンカー・ベル: だね。なんかむかつくけどうらやましい ドロシー: ピュルテのその天然っぷり、本当は養殖なんじゃないかしらと疑う自分がいるわ ピュルテ: え? みなさんなぜ、睨んでるような呆れてるような、それでいてうらやましいような目で私を見てるのですか リル: 貴殿はすっかり皆から信頼される存在になっているのだな シンデレラ: 信頼だけじゃないわよ。ガッチリみんなの心をつかんじゃったみたいよ、人間さんは。……私もつかまれちゃったひとり、なのかもだけど ピュルテ: この村で休憩しませんか? リルちゃんの怪我が悪化しても大変ですし リル: 小生なら平気だ シンデレラ: 丁度いいわ。もう暗くなるし、今日はこの村で一泊しましょう リル: 急がなくていいのか? シンデレラ: 暗い中を移動するのは、魔物が増えてる今得策じゃないわ。みんなを危険にさらしたくないの (背景切換...) シンデレラ: さー! ガンガン飲みましょ! ドロシー: まさか飲みたくて泊まろうっていったんじゃないわよね シンデレラ: 違うわよ。せっかくだから、みんなで楽しく飲みたいと思ったの ピュルテ: リルちゃんとの再会とこれからの旅の安全を願って、改めてみんなで乾杯しましょうか! シンデレラ: いいわね! せーの、カンパーイ! みんな: かんぱーい! (…………) ヴェルメリオ: ……眠い。先に宿に帰る ティンカー・ベル: ティンカも〜。目が勝手に閉じちゃう ドロシー: 私も先に失礼させていただくわ シンデレラ: あらら……。仕方ないか、みんな戦いやら移動で疲れてるものね ピュルテ: 私も休ませてもらってもいいですか? リル: 小生もこれで失礼するが、シンデレラ殿はまだ残るのか? シンデレラ: ええ、私はもう少しひとりで飲んでるわ ピュルテ: あ、人間さんも残るんですね シンデレラ: 人間さんもまだ飲み足りない? それじゃあもう少し付き合ってもらおうかな ピュルテ: 人間さん、シンデレラさんをよろしくお願いしますね。あんまり飲みすぎちゃダメですよ、2人とも シンデレラ: 気を使って残ってくれたんでしょ? 無理しなくてもいいのに…… シンデレラ: 本当に飲み足りなかっただけ? まあいいわ、今夜はそういう事にしておいてくれたら嬉しいわ シンデレラ: あなたはお見通しみたいね、人間さん。そうよ、今だいぶ私は弱ってるわ。でも弱音を吐くことに慣れていないの……プリンセスとして国を守っている立場ですもの シンデレラ: 俺には本音を聞かせてほしい? ……そんな事あなたに言われたら、甘えたくなっちゃうじゃない シンデレラ: いやだわ、そんなつもりじゃなかったのに……泣くつもりなんて……。今夜だけ、人間さん。あなたの胸で涙を流すことを、許してちょうだい 75 - 窃盗事件 ピュルテ: んん……。何だか騒がしいですね ティンカー・ベル: え〜、もう朝? まだ眠いよぉ〜 ヴェルメリオ: ……あと5分 ドロシー: あー! なんなのよ、もう! 人がいい気持ちで眠ってるのに! シンデレラ: うぅ……何かあったのかしら リル: ん〜……小生が見てこよう 宿の客: 大変だ! 大変だ! リル: 何を騒いでいる?! 他の客に迷惑だろう 宿の客: 大変なんです! 宿屋を出ようと部屋の前に置いておいた荷物を盗まれたんです! リル: なに?!盗まれただと! シンデレラ: 何かあったの? リル リル: この宿で窃盗事件が起こったらしい シンデレラ: なんですって?! 宿の客: 部屋の前に置いて目を離してすぐ盗まれたんです! シンデレラ: まだ外に犯人がいるかもしれないわ! (背景切換...) 宿の客: あ! 私の荷物! 盗賊: やべぇ! 見つかった! リル: 待て! 逃がさんぞ! 盗賊: つかまってたまるか……うわぁ! シンデレラ: 転んだわ! チャンス! (…………) ドロシー: 逃げ切れると思ったら大間違いよ! この盗人が! ティンカー・ベル: 最後まで寝てたくせによく言うよ…… 村長: こいつ、最近この辺りで旅人を襲ってる盗賊団の一味ですよ。まさか村の宿屋の客まで狙うなんて ヴェルメリオ: ……これもディマイトの影響? ピュルテ: そうかもしれません 村長: こいつらのせいで村の住人も旅人も、みんな困ってるんです 泥棒: 盗んだ荷物は返しただろ。離してくれ! シンデレラ: だめよ! 都の役人に引き渡すわ 泥棒: わー! やめてくれ! 仲間の居場所を言うから、見逃してくれ! ドロシー: いっちょまえに交渉しようっての?! シンデレラ: まってドロシー、本当に居場所を教えるなら考えなくもないわ。アジトがわかればのりこんで盗賊団をやっつけられる リル: 役人に引き渡したほうがいい! 小生たちには先を急ぐ用事が…… シンデレラ: 困ってる人がいるのに見過ごせない。……ここは私が守るべき領地だもの リル: 窃盗団の討伐を自ら言い出すとは。シンデレラ殿の家族を探すのが先だろう! シンデレラ: わかってるわよ。……でも放っておけないじゃない ティンカー・ベル: 村長のお礼も断っちゃうしね ヴェルメリオ: ……オズの国での対応と随分違う (背景切換...) ドロシー: ここなの? あんたたちのアジト 泥棒: そうだよ! もういいだろ? 逃がしてくれよ ヴェルメリオ: ……ダメ。本当か確かめてから 泥棒: 本当だって! ほら、あそこにいるのがお頭だよ! ティンカー・ベル: 盗賊のリーダー? アジトの入り口ウロウロして、なにやってんだろ ピュルテ: あのぉ! 盗賊のお頭さんですか? お頭: な、なんだお前らは! あの女の仲間か?! リル: 女とは誰のことだ? 泥棒: お、お頭! こいつらはあの女とは関係ないです。そこの村にいた旅人っす お頭: お前、まさかドジ踏んで捕まったのか? シンデレラ: お頭さん、旅人や村から金品を盗むのはやめてくれない? みんな困ってるの お頭: こっちだって困ってんだ。変な若い女がアジトを荒らして、アタイらのお宝をみんなかっさらっちまったんだ。蓄えを取り戻そうとしてただけだよ! シンデレラ: 変な女? それってまさか…… ピュルテ: 感染したアデリーナさん……でしょうか ティンカー・ベル: その女の人、どんなカンジだった? 泥棒: 若い女とは思えないほど、すごい力で大暴れしてたよ。みんな吹っ飛ばされて、あっという間にお宝を持って逃げてった リル: 本当にその女はシンデレラ殿の姉上なのか? なぜ暴れた上に盗賊の物を盗むなどという奇行を…… ドロシー: ディマイトに感染すると、みんな理性を失っちゃうのよ リル: そんな…… お頭: おまけにアジトに魔物が入り込んで、手下が奥に閉じ込められちまったんだ シンデレラ: アジトの魔物は私たちが退治するわ。手下を助けたら、もう二度と盗みや悪さはしないと約束して! お頭: 約束する! だから手下を助けてくれ! お頭: 痛ててて! 乱暴にするな! シンデレラ: 村長さん、盗賊団を捕まえたわ。この村の労働力として、これからいっぱい働いてもらってちょうだい お頭: 勝手に決めるな! シンデレラ: お頭さん、さっき約束したわよね? 二度と悪さはしないって。もしも約束を破ったら…… お頭: わ、わかってるよ。この村でおとなしく働かせてもらうよ…… ヴェルメリオ: ……さすがの貫録 リル: シンデレラ殿、先ほどの姉上の話だが ドロシー: 感染がどんどん進んでるわよね。早く元に戻してあげないと ティンカー・ベル: アデリーナは何で盗賊の宝を盗んだのかな? シンデレラ: アデリーナは創造期の贅沢な暮らしが忘れられず、お金にとっても執着しているの。今もそれなりの生活をしているのに、お金がなくなることにとても不安を感じているのよ ピュルテ: ディマイトのせいで、その不安が増長されてしまっているんですね ティンカー・ベル: そっか。ディマイトはコンプレックスだけじゃなく、不安なんかのネガティブな感情も強くしちゃうんだっけ リル: 理性を失うほどに? シンデレラ: ええ、今までの感染者も皆、理性を失ってしまっていたわ ドロシー: 例の旅人は、ディマイトを食べさせて感染させてるの。そうするとより症状が強くでるみたい。許せないでしょ? 卑怯よ リル: ディマイトにそんな恐ろしい力があるなんて……信じられない シンデレラ: 私たちもオズの国で感染者を目の当たりにしたとき、その恐ろしい力に恐怖したわ ピュルテ: そして絶対、ディマイトをばら撒いている敵を捕まえようと決心したんです! ティンカー・ベル: もうこれ以上、みんなの大切な人が被害に合うのを黙って見てられないよ ヴェルメリオ: ……リルがまた仲間に加わってくれて心強い ピュルテ: そうですね! みんなで力を合わせて、必ず敵を倒しましょう! リル: ……そうだな シンデレラ: アデリーナは必ず宝物庫に行くはずよ。もう行った後かもしれないけど、なにかしら手がかりが残っていると思う。宝物庫に急ぎましょう 76 - シンデレラの動揺 ドロシー: ただの洞窟じゃない! シンデレラ: 世を忍ぶ仮の姿よ。いかにも“宝物庫”ってカンジだったら、やばいでしょ ドロシー: なるほど。今のあなたと一緒ね、プリンセス ティンカー・ベル: たまーに忘れちゃうんだよね、姐さんがプリンセスだってこと シンデレラ: 自分でもそうよ。……私はプリンセスより今の方が似合ってると思わない? ピュルテ: どっちも素敵なシンデレラさんですよ ヴェルメリオ: ……うん。って、人間さんもめちゃくちゃ頷いてる リル: ん? 今何か物音がしなかったか? ドロシー: あら、私だってそれなりに…… ティンカー・ベル: もう! 三つ編みの話はいいってば リル: やはり何か聞こえたぞ! アデリーナ: ……カ、金、金……カカカ、金 リル: !! あ、あ、ああああっ! ティンカー・ベル: ちょっとネコ、うるさい……! っ!! みんな! あれ! あれ見て! シンデレラ: アデリーナ! ……やっぱり来たのね アデリーナ: ギィヤーーー! ヵネェェェ! リル: っ……あれが……あれが、感染者 シンデレラ: ア、アデリーナ……早く元に戻してあげないと……。あなたが大切にしてる指輪、指輪をあずかって……た、たしかここに…… ティンカー・ベル: 姐さん、大丈夫?! すごい動揺してる ヴェルメリオ: ……こんなに震えてちゃ指輪なんて持てないよ ピュルテ: 指輪を貸してください、シンデレラさん。私がアデリーナさんに渡します! ドロシー: ピュルテじゃ無理よ! 危険だわ! 私がやる! アデリーナ: ヵネヲヨコセーーー!! ドロシー: アデリーナ、こっちよ! こっちを見て! あなたが大切にしている指輪よ! 今あなたに返すわ リル: ……ディマイトの感染者が……こんなふうになってしまうなんて……! ティンカー・ベル: あぶない! ネコと三つ編みがぶつかる! ドロシー: ! ちょっ! リル! ピュルテ: あ! ゆ、指輪が! 転がっていく! ヴェルメリオ: ……外に落ちちゃった アデリーナ: ギャアアアアアアアー! ドロシー: 余計刺激しちゃったみたい。ひとまず奥に逃げましょう! 77 - リルの影 ドロシー: どうしたのよ、リル! ぼーっとしてると思ったら、予測不可能な動きして! リル: す、すまない。動揺してしまって……大切な指輪を ティンカー・ベル: 動揺といえば……姐さん、大丈夫? シンデレラ: ごめんなさい。私、どうかしてるわね ヴェルメリオ: ……家族だから、仕方ない ピュルテ: シンデレラさんも、リルちゃんも動揺して当たり前? そうですよね、人間さん ドロシー: リルは感染者を見るのは初めてだったものね。……ごめんなさい、責めるような言い方をしたわ リル: いや……いいのだ。しかし、ディマイトに感染するというのは……想像を超えていた ティンカー・ベル: まさかあんな風に理性を失うなんてね。なんだか怖いを通り越して、悲しくなってくる ヴェルメリオ: ……直接体に取り入れたからなのか、ディマイトの量が増えたからなのかはわからないけど ピュルテ: 創造期以来の嫌な世界ですね ドロシー: 誰が何の目的でばら撒いているのか知らないけど、卑怯なのは確かよ シンデレラ: 創造期…… ティンカー・ベル: そうだ! 指輪……どうしようか シンデレラ: 気にしないで。他の方法を考える ドロシー: ダメよ! 私が探すわ。絶対に見つけてみせる リル: 小生も探す! 見つける! ピュルテ: 人間さんも探すってはりきってますよ! もちろん、私も手伝います! ヴェルメリオ: ……結構視力はいいの、あたし ティンカー・ベル: みんなで探せば見つかるよ! シンデレラ: みんな、ありがとう! (…………) ドロシー: いててて。ずっと中腰で指輪探してたら、腰が痛くなっちゃったわ リル: ……違うでは……いや小生は…… ドロシー: あれ? リル、あんなところに…… リル: 言った!……しかしそれでは ドロシー: リル? リル: ! ド、ドロシー殿 ドロシー: あら? 今誰かと話してなかった? リル: いや、小生はひとりだ。その、少々催してだな…… ドロシー: ごめんなさい。向こうに行ってるわ リル: …… ピュルテ: 見つからないですね シンデレラ: もう十分よ。指輪探しはあきらめましょう ドロシー: ダメよ。アデリーナが指輪を大切にしている、それなりの理由があるんでしょ? シンデレラ: あの指輪は……アデリーナがたったひとりの友人から貰った指輪なの。友人は貧しい家の子で、お母様が身分が違いすぎるとその友人との交友を禁止してしまったの ティンカー・ベル: ひっどーい! 友だちに身分もなにも関係ないじゃん シンデレラ: 私もそう思う。アデリーナと友人は友情の証として髪飾りと指輪を交換したの。会えなくても、いつまでも友人だと ヴェルメリオ: ……本当の、友情 シンデレラ: プリシラも言っていたけど、本当におもちゃみたいな指輪よ。あのお金大好きなアデリーナが、普段なら鼻にもかけない物。でも ピュルテ: アデリーナさんにとって、一番の宝物 リル: すまない、ちょっと外していた ドロシー: ああ、リル。トイレ長かったわね リル: ……。あ、あの洞窟の入り口はずいぶん上なのだな……ん? ティンカー・ベル: ネコ、どうしたの? 空なんか凝視して リル: あそこで……あの木の枝の先で光っているのは、指輪ではないか? みんな: えっ!? ピュルテ: ど、どこですか?! あ! 本当だ! 何か光ってます! ドロシー: みんな私を持ち上げて! 手が届くかもしれない (…………) シンデレラ: き、気を付けてね、ドロシー ヴェルメリオ: ……お、重い ドロシー: 失礼ね! 私は女子の平均体重よ! ティンカー・ベル: ティンカの方が軽いよ! ティンカが ドロシー: 私がとるの! 私が……落としちゃったんだから。私が取らなくちゃ……よし、届く! リル: お、おい! そんなに動くとバランスが! ピュルテ: あ! 落ちます! きゃ、きゃああ! (背景切換...) ティンカー・ベル: ったーい! めっちゃ体打ったー! シンデレラ: みんな、無事? ピュルテ: なんとか無事です。……ここは、別の洞窟の入り口みたいですね リル: ドロシー殿、指輪は? ドロシー: 取ったわよ! 体を張って守ったわよ! シンデレラ: ありがとう、ドロシー! ドロシー: さて、どうやらこの洞窟に入るしか他に道はなさそうね 78 - ドロシーの不信感 シンデレラ: この国も魔物だらけになってきてるわね……早くディマイトをなんとかしないと ドロシー: 指輪も見つかったし、アデリーナを追いかけましょう! シンデレラ: さっき私たちに邪魔されたから、まだ宝物庫にいるかもしれない ヴェルメリオ: ……そんなにお金が好きなら、生活も派手だったの? シンデレラ: それがね、お金が好きすぎて普段はケチなの。生活は質素よ。お母様が浪費家だから、丁度よいバランスなの ピュルテ: 日頃の倹約もあって、ディマイトがお金への執着心に強く影響してるのかもですね リル: 野鳥がやけに騒いでいるな ティンカー・ベル: なんか嫌な予感しない? ヴェルメリオ: ……嫌な予感しかしない アデリーナ: ウゥーー! カネェェー! ドロシー: ぎゃー!!! でたー!!! ピュルテ: な、なんだか様子が……。全身、すごい金ぴかに輝いてますっ! ティンカー・ベル: 集めた宝で着飾ってるんだよ。……かなり悪趣味だけど アデリーナ: カネ! カネ! カネェェェェェ! シンデレラ: ……だ、だめ…… ピュルテ: シンデレラさん、また……! 大丈夫、私たちに任せてください! ヴェルメリオ: ……ドロシー! 指輪! ドロシー: そ、そうだったわね! ほら! アデリーナ、あなたの大切な指輪よ! アデリーナ: ……ユビ……ユビ……ユビギャァ! ティンカー・ベル: めっちゃ反応してる! いいカンジ! アデリーナ: ウギャーーーー! リル: ああっ! や、野鳥がアデリーナ殿を!! ティンカー・ベル: つれてっちゃったよー!!! ヴェルメリオ: ……あんなに金ぴかにしてるから ピュルテ: どうしましょう! シンデレラさん! シンデレラ: あ……ど、どうしよう…… リル: 追いかけるしかあるまい! ティンカー・ベル: 待って! ネコ! ティンカたちも追いかけよう! ドロシー: ねえ、人間さん! ……ちょっと待って ドロシー: 実は気になることがあって、あなただけにお話ししておきたいことがあるの ドロシー: ……リル、何か隠してるわ ピュルテ: アデリーナさん、もうあんな高いところに! ティンカー・ベル: いくらティンカでもあそこまで飛べない! ヴェルメリオ: ……山の頂上に野鳥の巣があるのかも リル: 巣があるのであれば、そこに助けに行くまでだ! 小生は行くぞ! ティンカー・ベル: めっちゃ燃えてる、ネコ シンデレラ: アデリーナのために、これ以上みんなに迷惑をかけるわけにいかないわよ ドロシー: あなたらしくないわ、シンデレラ。感染者は必ず治す、そうしないとディマイトに負けたことになるわよ? シンデレラ: でも…… ドロシー: オズの国では私の仲間を助けてくれたじゃない。自分だけヒロイン気取りで、私たちには助けさせないつもり? ティンカー・ベル: だよね。ティンカだって姐さんの役に立ちたい! ピュルテ: 人間さんが俺じゃ役不足かもしれないけどってしょげてますよ。みんな、シンデレラさんの仲間なんですから、頼ってください! シンデレラ: ……ドロシー、人間さん、みんな、ありがとう! リル: 決まりだな。野鳥の巣に乗り込むぞ! (背景切換...) アデリーナ: イダイーっ! ウギャー! ピュルテ: 大変です! アデリーナさんが怪我をしています! リル: 野鳥の爪で怪我をしたんだ ティンカー・ベル: 早く助けてあげないとヤバいよ シンデレラ: そうね……そうなんだけど…… ドロシー: 親しい人の感染がショックなのは私が一番よくわかるわ。ほら! アデリーナ! あなたの指輪はまだ私が持ってるのよ! アデリーナ: ユビギャァ! ユビギャァ! シンデレラ: シンデレラ! みんなにばかり頼ってちゃダメよ! ……よし! ア、アデリーナ! 私の持っている宝石もあげるわ! アデリーナ: ウギィィー!! ホウゼギー! アデリーナ: ウギャーーーー! シンデレラ: アデリーナッ! ティンカー・ベル: あーっ!!! また鳥に巣の奥に連れて行かれちゃったよぉ!!! ドロシー: あの金ぴか状態をなんとかしないと、鳥が邪魔でこの指輪を渡せないわよ! シンデレラ: アデリーナ…… ティンカー・ベル: 元に戻ったんだよね!? アデリーナ: 何が起こったんだ ピュルテ: えっ、えっと、ディマイトに感染してしまったんです アデリーナ: ディマイトは世界に満ちる力の名称であって、伝染病とは違う。感染とは何のことか ドロシー: この人、これで元に戻ってるのよね? シンデレラ: アデリーナは、元からこんな喋り方なのよ。よかった アデリーナ: 意識はあるのに自分をコントロールできなかった。不愉快な感覚だった…… シンデレラ: そうよね。でも、もう大丈夫よ アデリーナ: シンデレラ。意識はあったから、おまえの声も聞こえていたよ ヴェルメリオ: ……姉妹愛 ピュルテ: ね、いいですね、こういうの アデリーナ: シンデレラの持っている宝石もくれると言っていた。期待しておく シンデレラ: あ、あれは、あの場の作戦で アデリーナ: 期待しておく シンデレラ: もう、アデリーナにはまいったわね…… リル: なにはともあれ一件落着だな。本当に、もとに戻って何よりだ…… ピュルテ: 次はライメント夫人を元に戻さないとですね アデリーナ: 母上も私と同じ状況なのか ドロシー: ちなみにプリシラさんもよ。もう既に、この私が華麗に解決したけどね ヴェルメリオ: ……はいはい ティンカー・ベル: ねえ、何か心当たりない? 夫人のコンプレックスになりそうなこと ドロシー: だんだん受け流される場面が増えてきたような…… アデリーナ: 母上のコンプレックス? そんなもの1つしかない ピュルテ: ええっ、それはなんですか? アデリーナ: シンデレラの持つ美しさへの、羨望や妬みだ シンデレラ: えっ、お義母様が……? アデリーナ: 私が見た限りでは、この先の街道を進んでいったはずだ ピュルテ: ありがとうございます! ティンカー・ベル: お姉さんは、どうやってお屋敷まで戻るの? 馬車とか呼ぶ? アデリーナ: 金が勿体無いので歩いて帰る ドロシー: 徹底してるわね…… リル: ではここでお別れか。道中、気をつけて ピュルテ: 私たちはこっちですね。では行きましょう 79 - あなたの一番 ヴェルメリオ: ……どうしたの、姐さん。元気ない シンデレラ: うん……義理とは言え、母親に妬まれているとは思ってなくて、ちょっとね ティンカー・ベル: いいじゃん! 妬むってことは、姐さんっていいな、美人だなって思われてるんだよ ピュルテ: 確かにティンカちゃんの言うとおりですね! ある意味、褒め言葉ですよ ティンカー・ベル: 見下されてるより、よっぽどいいよ…… ピュルテ: えっ、ペトラさんもティンカちゃんのこと見下してないと思いますよ ティンカー・ベル: なんでペトラのことが出てくるの! 別にそんなふうに思ってないし! シンデレラ: 2人の言いたいことも分かるけど、やっぱり妬まれたくはないわよ…… リル: 妬みを受けるのも美人の宿命。とは言え、身内からでは少々きついかもな ドロシー: そもそも、そんなにシンデレラって美人? ヴェルメリオ: ……えっ、いきなり何を言い出すの ドロシー: もうちょっと直球で言うと、私とシンデレラ、どっちが美人? ティンカー・ベル: 三つ編みは顔以外の色んなことに問題多いから、フィルターがかかっちゃうというか ピュルテ: 2人とも可愛いと思いますよ ドロシー: 当たり前でしょ。可愛いか、可愛くないかで言ったら可愛いわよ。そうじゃなくて ティンカー・ベル: うわー、三つ編みって生きてて楽しいんだろうなあ ドロシー: そうよ、そんなの男に聞けばいいのよね ピュルテ: えっ。それって、人間さんですか? ドロシー: ずばり聞くわ。あなた、この中で一番美しいのは誰だと思う? ハッキリ言ってちょうだい ティンカー・ベル: あんた1人で選ぶなら、ティンカの可能性もちょっとある? ヴェルメリオ: ……わたしも、少しは可能性ある? リル: 彼も困っているじゃないか。無理するな ピュルテ: 人間さん……そうですよね、この場で決められないですよね シンデレラ: えっ、いつか魔法の鏡に聞いてみる? 人間さんが言っているのは白雪姫のところのスペクルムのことかしら ドロシー: それって結局、あなた自身の答えは聞いてないけど……ま、いいか シンデレラ: で、結局お義母様はどこへ行ったのかしら…… リル: 美しさが原因だとしたら、当然キレイになろうとするはずでは ティンカー・ベル: 何か心当たりないの、姐さん シンデレラ: 最近、お義母様は太ったことを気にしてたわ。何かヒントにならないかしら ヴェルメリオ: ……アドルファから前に、このあたりの森に海につながる洞窟があるって聞いたことある シンデレラ: ええ、確かにあるわ。少し街道を行ったところに ピュルテ: 海につながるって、どういうことなんですか? シンデレラ: 洞窟の奥は、巨大な池になってるの。その水は海水なのよ リル: なるほど。洞窟から海へ行き来できる状態か シンデレラ: 地下トンネルから海水が入ってきてるの。海の魚が泳いでたりもするのよ ヴェルメリオ: ……それだよ ピュルテ: 海と繋がってる洞窟は不思議ですけど、どうしてライメント夫人と関係があるんですか? ヴェルメリオ: 海藻には脂肪を分解する働きがあるの。太ったことを気にしてるライメント夫人は…… ドロシー: その海藻を求めて洞窟に向かった、ってわけね! (背景切換...) ヴェルメリオ: ……ここだね ピュルテ: 確かに潮の匂いがちょっとしますよ リル: なるほど。この洞窟の奥に海藻があるのか ティンカー・ベル: でも海藻ならどこにでも生えてるんじゃないの? どうしてわざわざこんなとこに ヴェルメリオ: ……このあたりから海岸までは遠いから、真っ先に来るとしたらここだと思うの ドロシー: ねえ、夫人を救い出したら、私もその海藻で脂肪がどうとかっていうの、試していい? ピュルテ: そう言えば海藻をどうするんですか? ヴェルメリオ: ……塗る ティンカー・ベル: 塗る!? シンデレラ: お義母様! いますか!? リル: さて……奥に進んでみるか ピュルテ: ライメント夫人はいませんでしたね シンデレラ: 仕方ないわ。気持ちを切り替えて、次に行きましょう リル: だが日も暮れてきた。今日はこのあたりで夜営かな ドロシー: それで……これはどうなるの? ティンカー・ベル: なんか、ずきんが海藻をぐつぐつ煮込んでるんだけど ヴェルメリオ: ……そこに冷めたのがある ティンカー・ベル: なにこれ、なんかヌルヌルしたものになってるよ ヴェルメリオ: ……気になる部分に塗ってみて ピュルテ: なんか不思議な感触ですね ドロシー: 最近、ちょっと太ももがね〜 シンデレラ: 人間さんまで試してみるの? リル: んっ? これは脂肪を分解するんじゃなかったか? ヴェルメリオ: ……そうだけど リル: ティンカ殿、そこに塗ってはいけないんじゃないか ティンカー・ベル: えっ、気になるところに塗るんじゃないの? ヴェルメリオ: ……あっ、胸に塗ってるの!? シンデレラ: 脂肪を分解するってヴェルが言ってたじゃない! ティンカー・ベル: シボウをブンカイってどういうこと!? ピュルテ: お肉が減るんですよ ティンカー・ベル: えーっ、だ、ダメだよーっ! (背景切換...) ピュルテ: さて、そろそろ出発しましょうか! ドロシー: 結局、海藻の効果はあったのかしら…… ピュルテ: あっ、人間さんが! ティンカー・ベル: ちょっと、しゅっとしてる!? ドロシー: なんであんたが一番効果出てるのよ!なんかすごい腹立つ! シンデレラ: そうよね、そんな怒られ方は理不尽よね、人間さん ティンカー・ベル: そ、そっか……これ、効果あるんだ…… リル: それで、ライメント夫人の行き先について、他に心当たりは? シンデレラ: そうね……そう言えば、肌のことで悩んでいたわ ヴェルメリオ: ……どんな悩み? シンデレラ: 乾燥肌なんですって ヴェルメリオ: ……分かった。この先にある町に行くよ 80 - しっとり肌になってみよう ティンカー・ベル: あっ、なんかいい匂いがしてくるよ! ドロシー: 見渡す限りのぶどう畑、それに囲まれるようにして作られた町……もう名産が何かは見当がつくわね ピュルテ: ワインで有名な町なんですね、シンデレラさん シンデレラ: ええ。ここの白ワインは魔法の国でもすごく有名よ リル: なるほど。しかし、それが乾燥肌に効果があるのか? シンデレラ: 知らなかったわ。さっそく今夜から、白ワインをたくさん飲むわね ティンカー・ベル: 姐さん、それ飲みたいだけなんじゃ ヴェルメリオ: ……白ワインに使うシャルドネを発酵させてできる、発酵液が必要 ドロシー: それがいい効果を持ってるのね? ヴェルメリオ: ……保湿作用がある。それに皮膚柔軟化作用も ピュルテ: そうなんですね! それなら、その発酵液がふんだんにあるこの町に、ライメント夫人が保湿を求めてやってくるかもです! ティンカー・ベル: もう間違えたくないから聞くけど、それはつまり簡単に言うと何? ピュルテ: お肌がしっとり、ぷるぷるになるってことですよ ティンカー・ベル: ずきんは、なんでそんなことにいちいち詳しいわけ? ヴェルメリオ: ……おばあちゃんに教えてもらった ドロシー: あなどれないわね、知恵袋 リル: 年長者の知恵とはすごいものだな。ぜひヴェル殿のお祖母様とも話してみたい シンデレラ: じゃああとは、お義母様がどこにいるか情報収集ね 住民1: いやあ、聞かないねえ 住民2: 狭い町だから、知らない人が来れば目立つんだがなあ (背景切換...) ティンカー・ベル: うーん、おかしいなあ ピュルテ: 町に寄らずに、直接ぶどう畑に行ってしまったのかもしれませんよ ドロシー: 発酵液が目的なんだから、畑じゃなくて加工する町に来るんじゃないの? リル: ディマイトによって、アデリーナ殿のように理性を失っているのなら、ぶどうのことだけを考えて畑に行ってしまうかもしれない シンデレラ: 畑に行ってみたいんだけど、案内してくれない? 住民1: 構いませんが、だいぶ広いですよ。それじゃ、荷馬車の後ろに乗って ピュルテ: ありがとうございます! それじゃ出発ですね! 住民1: あんたたちの話はさっぱりわかんないな。肌が乾いた奥さんがぶどうを盗みに畑に来る? なんだい、そりゃ ティンカー・ベル: おじさん、知らないの〜? ワインのもとになるぶどうのハッコーエキって、お肌がきれいになるんだよ! ドロシー: 付け焼き刃の知識でドヤ顔って 住民1: ぶどうはワイン作る以外に使ったことないからなあ。そんな効果があるのか ピュルテ: 実際、ヴェルちゃんのお肌って赤ちゃんみたいですよね シンデレラ: 本当だ! なにこれ! ヴェルメリオ: ……ちょ、みんなでほっぺつっつかないで リル: 日頃の手入れの賜物だな ヴェルメリオ: ……別に、自然にこうなっただけだから ドロシー: とか言って、実は自慢のお肌なんでしょ〜 住民1: そう言えば旅の人、都の様子はどうなんだい リル: 我々は都に向かう所なので、詳しい事情は分からないな シンデレラ: 様子がどうかなんてわざわざ聞くなんて、何か噂があるの? 住民1: 最近、都も物騒になってるって噂だ。強盗だのひったくりだの シンデレラ: 都がそんなことに!? ピュルテ: 私が前に行ったときは、穏やかで平和な町でしたよね ヴェルメリオ: ……まさか、都にもディマイトの影響が 住民1: もうすぐ大きな舞踏会があるらしくてね。それまでに治安を取り戻すってんで、騎士団も大忙しらしい ティンカー・ベル: そうなんだ。大丈夫かなあ 住民1: おっと、ここで荷馬車は降りてくんな。歩いて畑まで行くぞ ドロシー: やだ、坂道になってる。これ、登るの? ピュルテ: 大丈夫、そんなに急な坂じゃありませんよ ヴェルメリオ: ……なんか聞こえない? ティンカー・ベル: げっ、畑に魔物がうろついてる! 住民1: ひええええっ! ドロシー: ヴェル、危ない! ヴェルメリオ: ……くっ!? ピュルテ: 間一髪でしたね。あっ、ちょっとかすっちゃたみたいですね。顔から血が出てます ティンカー・ベル: ずきんのほっぺに傷が…… ヴェルメリオ: ……許さない! ドロシー: やっぱり自慢のほっぺだったのね 住民1: ひゃあ、助かったよ。ありがとうな シンデレラ: 礼には及ばないわ。当然のことよ ティンカー・ベル: けど、ぜんぶ見て回ったけど、いたのは魔物だけだったね ヴェルメリオ: ……ライメント夫人はどこに ドロシー: まあ人助けはしたんだから、無駄足ではなかったけど…… リル: しかし急いで都に行かないと、何が起きているのか心配だ ピュルテ: それじゃあ次の心当たりに向かいましょうか 住民1: ああ、あんたたち! これがほしいんじゃないのかい。お礼にあげるよ ティンカー・ベル: え、なにこれ ヴェルメリオ: ……発酵液 (背景切換...) ヴェルメリオ: ……できたよ ピュルテ: これがシャルドネの発酵液をもとに作った、ぷるぷるお肌のお水なんですね ドロシー: これを塗ってみればいいの? ティンカー・ベル: そうするとお肌が、ずきんみたいにぷるんぷるんになるんだね リル: それで? ライメント夫人はどこへ行ったんだ。他に心当たりはあるのか、シンデレラ殿 シンデレラ: 他に……そうね、お義母様は最近、髪が傷み気味だとぼやいてたわね ドロシー: 髪は女の命ですもんね ティンカー・ベル: 三つ編みはさ、毎日編んでて傷まないの? ドロシー: バカね。風で髪どうしが擦れない分、編んでた方が傷まないのよ ヴェルメリオ: ……へえ、知らなかった ドロシー: そうそう。彼の言うとおり、寝る時も編んでるのはそういう理由で シンデレラ: なんで人間さん、ドロシーのそんなこと知ってるのよ。ああ、やだやだ リル: それで、髪の傷みをヒントに何か思いつかないのか? ヴェルメリオ: ……えっ、えっと、うーん ピュルテ: あっ、あの、羊毛で髪をケアできるって聞いたことあります ティンカー・ベル: ようもう? って、羊の毛のことだよね? シンデレラ: このあたりを羊飼いの遊牧民が移動しているはずだわ ピュルテ: 行ってみましょう! 81 - 傷んだ髪をケアしてみようⅠ ドロシー: ねえねえ、ぷるんぷるんになってる? ティンカー・ベル: えー? どうなんだろう。よくわかんないよ ドロシー: 私は彼に聞いてるの。ねえ、触ってみて? ティンカー・ベル: ちょっと待ってよ! ティンカだって塗ったんだから、ほらここ! 触ってみて! ヴェルメリオ: ……わたしも塗ったけど シンデレラ: 私はどうかしら、人間さん リル: ああもう、よさないか。彼も困ってるじゃないか ピュルテ: あれっ、人間さん。なんかすべすべしてませんか? ティンカー・ベル: え、あんたも塗ったの? ヴェルメリオ: ……一番効果が出てるの、この人なんだけど ドロシー: ムダすぎるわ…… シンデレラ: 見てちょうだい、あのテント リル: あれが遊牧民たちか ヴェルメリオ: ……ライメント夫人、来てるかな ピュルテ: 見たところ平和そうですよ。夫人が来てたら、大変なことになってるはずです (背景切換...) 住民1: 髪の傷みを気にした女の人が来てないかって? さあ……知らないな ピュルテ: そうですか……おかしいですね リル: いや、ピュルテ。その聞き方は正確には伝わらないんじゃ シンデレラ: でも、感染したお義母様が来たら、こんなに静かなはずないわよ ヴェルメリオ: ……他に何か、変わったことは ティンカー・ベル: ここに来て、どれくらい経つ? 住民1: 2週間くらいだよ。ああ、そう言えば向こうに小高い丘があるだろう? ドロシー: ええ、見えるわね 住民1: あそこに何か棲みついたみたいでさ。本当は羊を連れていきたいんだけど、怖くて ドロシー: 夫人とはちょっと違う気もするけど シンデレラ: 怪しいなら確かめないと、でしょ シンデレラ: …… ピュルテ: どうしたんですか、シンデレラさん。 シンデレラ: ピュルテちゃん! それに人間さんも ピュルテ: 何か聞こえたので、人間さんについてきてもらったんです シンデレラ: ……これよ ピュルテ: 鏡? お城に繋がったんですか? シンデレラ: いいえ。断片的な通信が入ったんだけど、誰から、どういう内容なのかはさっぱり ピュルテ: そうなんですか…… シンデレラ: 本当に、都はどうなってるのかしら…… ドロシー: 例の丘っていうのは、もう少し先? ピュルテ: みたいですね。でもやっぱりライメント夫人ではなさそうですよね ティンカー・ベル: 叫び声とかも全然聞こえないし リル: 感染した人というのは、みんなアデリーナ殿のような言動なのか? シンデレラ: 多少の個人差はあるけど、まあ大体は同じよ ヴェルメリオ: ……1人でワケの分からない奇声を上げたり、暴れまわって周りの物を壊したり ティンカー・ベル: あれさあ、記憶があるっていうのが逆に辛いよね。いっそ知らないでいたいかも リル: ……そうなんだな シンデレラ: あのクールなアデリーナでさえ、あんなふうになるんだもの…… リル: しかし、本当にこれが狙いなんだろうか ピュルテ: どういう意味? リル: そんな制御不能の奴をどんどん増やして、どうするつもりなんだ ティンカー・ベル: だから、暴れさせて世界中を混乱させようってことなんじゃないの? リル: もっと目的があるんじゃないのか。混乱させるにしては回りくどい シンデレラ: 確かにそうかもね。ってことは、犯人にとってこれは想定外ってこと? ドロシー: ディマイトがうまくコントロールできてないってわけね ヴェルメリオ: ……確かに、創造期はあんなことなかった リル: そう、そうなんだ。それを小生は言いたかったんだ。創造期にディマイトの影響を受けていた人たちは、あんなじゃなかった シンデレラ: そうよね。もっとちゃんと考えて、ちゃんと目的をもって行動していたわ。お義母様も、お義姉様たちも…… ピュルテ: 大丈夫ですか、シンデレラさん。また顔色が悪いみたいですけど ティンカー・ベル: 早く片付けて、休んだ方がいいよね ヴェルメリオ: ……ずっと無理してたんじゃない? シンデレラ: 大丈夫。弱音なんて吐いてられないわ ドロシー: なに言ってんの、この私がいればシンデレラは寝てたって解決するわよ! ティンカー・ベル: やっぱり、丘にいたのはただの魔物だったね ヴェルメリオ: ……またハズレ シンデレラ: お義母様……いったいどこにいるのかしら ピュルテ: そう言えば、お礼ということで遊牧民の方々から羊毛をいただいてきましたよ ドロシー: 髪の傷みに効果あるんだっけ? どうやって使うのよ。ピュルテ ピュルテ: えっ? さ、さあ……人間界のテレビで見ただけで、使い方はよく分かってなくて ティンカー・ベル: テレビって何?あ、でも人間界で知ったんなら、あんたも知ってるってこと? シンデレラ: そんなメジャーな情報じゃないって言ってるけど ピュルテ: 同じ毛ですから、何かいいことあるんですよ、きっと! ドロシー: 急に大雑把になったわね ヴェルメリオ: ……クッションなら作ってあげられる ティンカー・ベル: ええっ、本当!? ずきんって、本当に器用だね! ドロシー: なんで妖精さんが使う前提なのかしら リル: しかし、もう美しさに関連する場所は行き尽くしたんじゃないか? シンデレラ: アデリーナは美しさへの妬みって言ってたけど、違うのかしら ピュルテ: 他には悩みはなかったんでしょうか ティンカー・ベル: だいたいさあ、そのライメント夫人がどんな人か知らないけど無理があるじゃん ヴェルメリオ: ……無理って何が ティンカー・ベル: そんな髪とか肌のパーツだけキレイにしても、すごく美人になるってもんじゃないし シンデレラ: そうか……それよ! リル: 何か思いついたのか? シンデレラ: 魔法の国のこの地方には、伝説の湖があるのよ ピュルテ: 伝説の湖……? シンデレラ: 願いを叶えてくれるという、伝説の湖よ ドロシー: なるほどね、それなら丸ごと自分の思うがままの美しさが手に入るってことになるわね ティンカー・ベル: そんなのがあるなら早く思い出してよー! シンデレラ: だって、そんなの本当に迷信だから……まさか信じる人がいたなんて リル: よし、夫人の行き先はきっとそこだ! 82 - 願いの行方 ピュルテ: 見てください、皆さん! あれ ライメント夫人: ウアアア………! ドロシー: どうやら当たりだったみたいね ヴェルメリオ: ……でも、湖の伝説は迷信なの? シンデレラ: ええ。一応、悪用されてはいけないと思って、調査をしてるの ピュルテ: どんな調査ですか? シンデレラ: 実際に願い事を伝説通りにしてみたり。あとは、マザー・ティターニアにも協力してもらって一切の魔力がないことを確認済みよ リル: ただ、ライメント夫人は信じているんだな。だから自然とここに向かってしまった ドロシー: これ、湖は嘘でしたなんて言ったら、アデリーナみたいに怒って暴れだすんじゃない? ピュルテ: 可能性はありますよね ライメント夫人: ウウウ……!? ダ、ダレ……! ピュルテ: はっ、見つかってしまいました! シンデレラ: お義母様…… ティンカー・ベル: 大丈夫、姐さん!?また震えてるよ シンデレラ: 大丈夫……昔はどうであっても、今は私の家族なんだからっ…! ライメント夫人: ウウ……シン……レラァ……ワタクシヲミジメニスル…… シンデレラ: 違う、違うのよ、お義母様…… ライメント夫人: ウウウウ……! ピュルテ: ライメント夫人、湖なんて必要ないです! おきれいじゃないですか! ライメント夫人: グウウッ!? ティンカー・ベル: そ、そうか! 褒めまくって気分を良くすればスキが生まれるってことだね! ピュルテ: 肌もつるつるじゃないですか! ティンカー・ベル: そ、そうだよ! スタイルだってティンカよりずっといいじゃん! ライメント夫人: ヤ、ヤメロォォッ! ミ、ミミエ、ミエミエ! ピュルテ: みえ? ライメント夫人: ミエミエ、ノ、オセジ! ティンカー・ベル: ダメだ、バレてんじゃん! ドロシー: 夫人!! ライメント夫人: グウッ!? ドロシー: 今よ、湖に願いを叫ぶの! そうすれば願いは叶うわ! ライメント夫人: ……! グ、ググウウウウゥッッ!! シンデレラ: えっ、湖が、光った!? そんなバカな! ピュルテ: 今の光はなんでしょうか…… ライメント夫人: ウグ……ワァ…… ドロシー: 夫人は放心状態よ! ここで一気に畳み掛けるわよ、みんな! ライメント夫人: わ……わたくしは……いったい? ピュルテ: やった! ライメント夫人が元に戻ったようです! シンデレラ: お、お義母様……? ライメント夫人: ああ、シンデレラ。そうだわ、私はこの湖で願いを叫んで、そして…… ティンカー・ベル: あの叫びは願い事だったんだ ライメント夫人: おかしいわ、湖に願い事を叫んで光ったのよ。けど、願いは叶っていないわ ドロシー: 夫人、そんなに悲観なさらないで。充分、夫人はお美しいわ ライメント夫人: あなたは……。どなただったかしら ドロシー: 私はドロシー。他のみんなも、シンデレラの友人です リル: 我を失ったあなたを元に戻すため、奔走していたのです ライメント夫人: そうそう、私は急に自分が抑えきれなくなって、屋敷を飛び出したのよ。ずいぶん迷惑をかけてしまったわ ヴェルメリオ: ……ディマイトのせいだから、仕方ない ライメント夫人: そうだ! 娘達は無事かしら! シンデレラ: 大丈夫です。お義姉様は2人とも先に助け出していますから ライメント夫人: そうだったの。ありがとうシンデレラ、苦労をかけてしまったわね リル: しかし、初めてお目にかかったが、おきれいなご婦人でいらっしゃる。とてもシンデレラ殿を妬んでいるとは…… ティンカー・ベル: あ、ちょっと、ネコ! リル: あっ、し、失礼した。今の言葉は忘れて…… ライメント夫人: やだ、わたくしがシンデレラに妬みですって? 自慢こそすれ、妬むはずがありませんわ シンデレラ: 自慢って……お義母様? ライメント夫人: そりゃあ血のつながりはありませんけど、わたくしの娘ですもの ドロシー: では湖に、先ほど何を願われたのです? ライメント夫人: ご覧になって、これ。腕のホクロから毛が生えているの。みっともないったらありゃしないわ ヴェルメリオ: ……………………えっ? リル: 美の基準とは人それぞれとは言うが…… ピュルテ: 腕の毛1本ですか…… ドロシー: 大丈夫ですわ。さっき湖が光ったのをご覧になったでしょう? そのうち抜けますわ ライメント夫人: そうね。舞踏会に間に合えばいいのだけど シンデレラ: そ、そうだわ、舞踏会! リル: 日取りはいつなんです? ライメント夫人: 明後日よ シンデレラ: 急がなきゃ……! 83 - 伝説の湖の秘密 ティンカー・ベル: にしてもさあ、あの湖はガチだったんだね ピュルテ: 普段は魔力を隠していて、いざという時だけ発動するのかもしれませんよ ティンカー・ベル: あ、そっか。だからマザー・ティターニアの目も欺けたんだね……って、三つ編み! なに笑ってんの! ドロシー: いえいえ、純粋なんだなと思ってね。良く言えばね ティンカー・ベル: どういう意味だよっ! あれを見ても湖は偽物だって言うわけ!? ヴェルメリオ: ……あのね、ティンカ。あれはリルの魔法なの ピュルテ: えっ、リルちゃん、腕の毛が抜け落ちる魔法が使えるの!? リル: いや、そういうピンポイントな魔法ではなくてだな シンデレラ: 光を放つだけの簡単な魔法ね リル: そう。夜道を歩くときに使うような、簡易魔法。湖全体を光らせる必要があるので、少し力は強めだったが ティンカー・ベル: そっか。それで夫人を信じ込ませて、願いが叶うと思わせたんだ ピュルテ: 願いが叶う、つまりコンプレックスが解消されると思ったから隙ができたんですね ドロシー: 彼の発案なのよ シンデレラ: 人間さんが!? ヴェルメリオ: ……人間界にある、『プラシーボ』っていう魔法の応用だって ドロシー: あの切迫した状況下で、そんな機転を利かせられるなんて、さすが私が認めた男だけはあるわ ピュルテ: さすが人間さんです! ティンカー・ベル: てことは、あの腕の毛は抜け落ちないってことだね ヴェルメリオ: ……いつか、何か方法がないか探してみる シンデレラ: いいのよ、そんなこと気にしなくても……それより都の舞踏会よね リル: それは定期的にあるイベントなのか シンデレラ: 1年に1回のお祭りの季節にはあるけど、今はその時期じゃない ドロシー: それ、気になってたのよ。あくまで代理にすぎないマザー・ティターニアが、自分の判断で舞踏会を開催する? ヴェルメリオ: ……それも治安が良くないって言われ出してるのに ピュルテ: 都の治安もディマイトのせいでしょうか シンデレラ: ネバーランドであったような、感染とは違う緩やかなディマイトの影響かもしれないわよね リル: いずれにしても、この目で都の状況を確かめるほかあるまい シンデレラ: やれやれ。無理して急いだおかげで、なんとか早くたどり着けたわね ピュルテ: 移動に2日かかりましたから……舞踏会はもう明日です! ティンカー・ベル: な、なにこれ! これが魔法の国の都…… ドロシー: なかなかの街じゃない……まあ、エメラルドの方が落ち着いてるけど ピュルテ: 何度来ても緊張しちゃいますね。人もいっぱいいるし シンデレラ: ピュルテちゃんは私に今回のディマイトの話をしに来て以来よね リル: 小生も何度かは来ている ヴェルメリオ: 私もおばあちゃんと、年に1回くらいは…… ピュルテ: シンデレラさん……以前よりも、町に漂うディマイトの強さが増しているように思えます シンデレラ: なんですって……? ピュルテちゃんの感覚能力がそう感じるってことよね ティンカー・ベル: 何が起きてるの……? (背景切換...) リル: つまり、発端はピュルテが世界の変化を感じ取ったことから始まったのか ピュルテ: はい。私の感知能力で、世界のディマイトのバランスが崩れ始めていることに気がついたんです ティンカー・ベル: そんで、姐さんのところに相談に行ったんだね ピュルテ: このあたり一帯で強いエルマイトがあるのは、この魔法の国でしたから ドロシー: ここってエルマイト中心の国なの? シンデレラ: 違うの。比率が高いってことじゃなくて、エルマイトもディマイトもそれぞれ強いの リル: 絶対量が多い、つまり世界全体への影響力が強い。ここで対策が打てれば効果的だという判断か ピュルテ: ……ええ。そしてシンデレラさんはちゃんと話を聞いてくれました シンデレラ: まだ確証もない段階だったから正式には動けないけど、でも見逃すことはできなかった ヴェルメリオ: ……それが2人の旅の始まり ピュルテ: あとは人間さんも知ってる通りです。人間界に強いエルマイトを持つ人を探しに来て…… シンデレラ: ピュルテちゃんの話を聞いたとき、私は創造期の再来になるんじゃないかと思ったわ ティンカー・ベル: 姐さん…… シンデレラ: 絶対にあれを繰り返してはいけない。それが今を生きる私達の義務と言ってもいいわ ヴェルメリオ: ……明日、城でマザー・ティターニアと会わないと シンデレラ: ええ、そうね ドロシー: ひとまず手近なところで、治安の悪い町の見回りでも行くか ティンカー・ベル: う、うん。みんなで行こう 84 - 私がシンデレラ? ドロシー: これが有名なシンデレラのお城…… ティンカー・ベル: すごい、立派なお城だね! シンデレラ: ああ、ちょっと兵隊さん。お願いがあります 衛兵1: なんだ、おまえたちは シンデレラ: マザー・ティターニアにお会いしたいのです。取り次いでいただけませんか 衛兵1: なんだ、不審な奴 ヴェルメリオ: ……無理もない ティンカー・ベル: 姐さん、もう少し着飾らないと…… 闇シンデレラ: あら、どうかしたの? 衛兵1: シンデレラ姫 シンデレラ: ああっ、ちょうどよかったわ。私、戻ってきたのよ 闇シンデレラ: ……どなただったかしら? シンデレラ: えっ!? マザー・ティターニア、私よ、シンデレラよ 闇シンデレラ: 何を言ってるの、この人。私がシンデレラよ。どう見てもマザー・ティターニアではないでしょう ヴェルメリオ: ……これ、ヤバい展開 衛兵1: やはり不審者だな! 闇シンデレラ: 今は舞踏会前の大事な時期。かわいそうだけど、その情緒不安定な方を保護してさしあげなさい ティンカー・ベル: ここで言う保護って…… リル: 友好的な意味ではないだろうな ピュルテ: に、逃げましょう! (背景切換...) リル: どうやら衛兵は行ってしまったようだ ティンカー・ベル: ピュルテが逃げるなんて珍しいね ピュルテ: ディマイトの気配を感じて……怖くなったんです ヴェルメリオ: ……怖くなるほどの力だったの? ティンカー・ベル: やっぱりマザー・ティターニアも感染してるのかな ピュルテ: 今までの魔物とか、感染した人たちとは違った気配で……すごく怖かったです リル: ……それで、これからどうする シンデレラ: この先はね、地下通路になってるの。城の内部に通じているはずよ ドロシー: ただやみくもに逃げ回ってたわけじゃなかったのね。やるじゃない リル: 確かに、こうなった以上は城の内部の状況をつかんでおきたいところだ ティンカー・ベル: 何か解決のヒントがあるかもしれないし シンデレラ: ただ、かなり長いこと使ってないから、どうなってるか リル: もとより楽な作戦とは思っていない。行くしかあるまい ピュルテ: 通路を抜けたみたいですよ ドロシー: でも格子窓がはまってるわね。外れるのかしら ティンカー・ベル: やった、よかったー! もうどこまで続くのかと思ってたよ ヴェルメリオ: ……しっ、静かに。誰かいる (背景切換...) 闇シンデレラ: 準備は順調に進んでいますわ ???: そうか 闇シンデレラ: 舞踏会もいよいよ今夜。例の積荷も無事に届いておりますのでご安心ください (背景切換...) シンデレラ: これは、謁見の間に通じてるんだわ。玉座の裏にある大きな額縁に隠されてるのよ ティンカー・ベル: ……積荷? ドロシー: 1人はシンデレラに変身したマザー・ティターニアね。相手は誰かしら ヴェルメリオ: ……隠れたままだと、声しか聞こえない (背景切換...) 闇シンデレラ: 計画通り、万事抜かりはありませんわ。まもなくこの都は理想の都市へと生まれ変わります ???: ならいい。後は任せる 闇シンデレラ: 例の裏切り者も早々に処分致します ???: 期待している 闇シンデレラ: すべては深淵の闇のために ???: すべては深淵の闇のために。そうそう、城の掃除も忘れるなよ 闇シンデレラ: ええ、ネズミが出ますものね。承知しております (背景切換...) ティンカー・ベル: 掃除の話? あいつら何言って…… ドロシー: これはまずいパターンだわ リル: 急いで逃げ…… 闇シンデレラ: ほら、こんなところに ピュルテ: み、見つかった! 闇シンデレラ: 衛兵!曲者です、捕まえなさい! 衛兵1: 貴様ら!このようなところに通路を作って…… 衛兵2: それ、あいつらを捕まえろ! シンデレラ: 魔物を解き放った!?あのガラスの騎士団が、そのようなことを…… ピュルテ: もう正気とは言えません!油断しないで下さい! ティンカー・ベル: ひー、もうひどい目にあったよ〜! シンデレラ: 誇り高いガラスの騎士団が、魔物を使役するなんて……情けないわ ドロシー: あれは完全にディマイトに毒されてるわね。騎士団もだけど、マザー・ティターニアは普通じゃなかったわ ピュルテ: けど、今までの感染者とはまったく違いますよ。まともに会話もできますし…… ヴェルメリオ: ……まるで創造期みたいな シンデレラ: ……っ!! リル: だとすれば、言っていた『計画』というものもあなどれないな ドロシー: ディマイトを拡大する計画だってことは簡単に予想がつくんだけどね シンデレラ: 二度と、そんなことさせない……! 私の国で、そんな恐ろしいことはっ……! ピュルテ: シンデレラさん……。あっ、人間さん シンデレラ: 手を握っていてくれるの? ごめんなさい、大丈夫よ。怯えてなんかいられない ドロシー: 問題は方法ね。それが分からなければ阻止できない リル: 今夜の舞踏会が計画の一部であるかのような話しぶりだった。舞踏会に使う何かが重要なんじゃないか ヴェルメリオ: ……その何かが重要でしょ シンデレラ: 城の裏手にある倉庫に、いつも舞踏会とかイベントに使う資材を保管してあるわ ティンカー・ベル: そこに入ってるかもしれないってことだね! (背景切換...) ピュルテ: でも、お城の敷地の中なんですよね ドロシー: リスクは有るけど、時間が無いからね シンデレラ: 合鍵を持ち出したままで良かったわ。カギ、開きそうよ ティンカー・ベル: うわ、すごい。テーブルが大量に積み重なってるよ シンデレラ: 普段は大広間にテーブルなんて置かないからね。パーティの時以外は、ここにしまってあるの リル: この中に、感染者を大量に出す何かがあるはずだ…… ピュルテ: なんだか良い匂いがします ドロシー: 敷物に香を焚き染めてあるのね。もしかして、この香水がディマイトを含んでるとか!? ピュルテ: いえ、ディマイトは感じられません リル: 食材は別の倉庫か? ヴェルメリオ: ……えっ。食材? 衛兵1: おい、貴様らそこで何をしている! ティンカー・ベル: あちゃー、また面倒なことになったよ 85 - 片っ端からつまみ食い作戦 リル: 既に日が落ちてしまった…… ピュルテ: もう時間がありません…‥他にどこを調べればいいんでしょう ヴェルメリオ: ‥‥情報が少なすぎる ティンカー・ベル: ねえ、さっきネコが食材って言ってなかったっけ シンデレラ: そうか、小さいお菓子ね! 例の旅人が配り歩いていたという…… ドロシー: そう言えばそんな話があったわね。小さくて甘い、見たこともないお菓子 ヴェルメリオ: ……でも、そんなお菓子を舞踏会に出す? リル: 小さなお菓子にしたのは、食べさせやすいというだけなんじゃないか ドロシー: 確かに、重要なのは形じゃなくて成分よね。そのお菓子を砕いて料理に混ぜても、結果は同じになるでしょうね ティンカー・ベル: じゃあ食べ物は全部怪しいってこと? ピュルテ: 食べ物を扱うのは、どこですか? シンデレラ: 舞踏会の食事は城の厨房で作るわ。量が多すぎるときは、一部だけ町の食堂にも仕事を頼むことがあるけど…… ドロシー: そんなところまで探しに行くヒマはないわ。それに、こんな重要なことなら目の届きやすい城の中で完結させるはず シンデレラ: そうね……分かったわ、厨房に案内する。みんな、こっちに来て! ティンカー・ベル: けど、厨房に入ったら、どの料理がディマイトの原因になってるか分かるの? ピュルテ: さすがにそれは難しいです。物なら触ったり、食べ物の場合は口に含んでみないことには…… ヴェルメリオ: ……片っ端からつまみ食い シンデレラ: 口に含んで危ないと思ったらどうするの? ピュルテ: すぐに吐き出して、エルマイトを口に含めば大丈夫です ティンカー・ベル: エルマイトを口に含むってどうしたらいいんだろ ドロシー: 何よ、あんた……あ、そうか。彼とキスすれば平気ってことね。濃厚なやつをね シンデレラ: なるほどね。人間さんが自己申告するのはどうかと思ったけど リル: ではピュルテ、小生らは全力でサポートする! リル: よし、こっちは問題ない。急いで入れ ティンカー・ベル: うっわあ、すごい量の料理! ヴェルメリオ: ……これ、どこまで試食するの? ドロシー: ひとくちで充分なんじゃないの? ピュルテ: ええ、それで充分分かります シンデレラ: ただ……鍋が違えば、同じ料理でも確認する必要が出てくるわ。ピュルテちゃんの負担を無視して勝手なことを言えばだけど ティンカー・ベル: 鍋1つにつき一口なら平気なんじゃないの? リル: いや、この鍋の数だ。全部合わせればどれほどの量になるか ピュルテ: 大丈夫です!ここで迷っていても、何も解決しませんから! シンデレラ: ピュルテちゃん…… ピュルテ: 時間がありません、さっそく食べ始めます。そこの小皿を取って下さい! (…………) ピュルテ: ……うぷっ、あ、あとすこし ティンカー・ベル: 想像以上にきついよね、これ…… ヴェルメリオ: ……見てるだけで胸焼けする リル: よし、こっちも大丈夫。入ってくるんだ ドロシー: どれだけ皿があるのよっ!何人のパーティなんだか! シンデレラ: ごめんね、ピュルテちゃん。私も手伝えたら…… ピュルテ: 大丈夫です。普段、魔物との戦闘にはお役に立てませんから。私にしかできないことがあるなら、そんな時こそ力の限りっ……! リル: あと鍋50個くらいで終わりそうだぞ! ドロシー: でも、脂こってりの肉料理だわ……ラストスパート、いける!? ピュルテ: がんばります! 料理長: おい、そこで何してるんだ! シンデレラ: あ、あなたは料理長! 料理長: 誰だキサマは! おい、衛兵! こいつらをひっ捕らえてくれ! ティンカー・ベル: ヤバい、見つかっちゃったよ! リル: あと少し、なんとか時間を稼がなくては ピュルテ: もう少しなんです、すみません! 料理長: おまえら、全部の鍋から味見してるのか! なんと卑しい連中だ! ヴェルメリオ: ……正論 シンデレラ: なんとか持ちこたえるわよ! 私たちには私たちにできることをする、でしょ!? シンデレラ: 料理はすべて問題なかったなんて…… ピュルテ: でもムダじゃなかったです。料理がゲストに出されても、安心して見ていられます ティンカー・ベル: そうだよね。被害がでないように1つずつ潰していくしかないもんね ドロシー: その間に他の方法を探すしかないわね ヴェルメリオ: ……でも、何に仕込まれてるんだろう リル: 料理はメインやスープだけでなく、前菜やデザートに至るまでピュルテがチェック済みだ ドロシー: でも舞踏会はもう始まったわ。なのに何の騒ぎも起きてないってことは、まだ摂取前なんじゃないかしら ティンカー・ベル: 香水とかキャンドルみたいな道具でもなく、食べ物でもなく……この後、何があるんだっけ? シンデレラ: 普通の流れだったら、もう何も新たには出ないはずよ リル: 妙な記念日でもでっちあげて、記念のワインボトルを開けるとか ドロシー: なるほどね。じゃあワインセラーに急ぎましょう。場所は分かる? ヴェルメリオ: ……え、なに? 人間さん シンデレラ: 西棟の地下にあるわ。ここからなら走ればそれほどかからない。急ぎましょう ヴェルメリオ: ……ま、待って! この人が何か思いついたって ピュルテ: えっ、プチギフト? ドロシー: 前に親戚の結婚式に出た時に、帰りがけに小袋に入ったお菓子をもらった……? シンデレラ: そうか! 確かに終了後に、帰るゲスト1人1人におみやげを渡すわ。そんな大げさなものじゃないんだけど ティンカー・ベル: それは、お菓子なんだね シンデレラ: ええ、ゲストが遠慮しないように小さな袋に少量だけ…… ヴェルメリオ: ……中身は? シンデレラ: クッキーとか、キャンディとか……たぶん、話に聞く『旅人のお菓子』も、ちょうどいいと思うわ! ドロシー: 保管場所の検討はつく!? シンデレラ: こっちよ! リル: それはいつ配られるんだ! シンデレラ: 0時ちょうど、舞踏会が終わる頃よ。もう……あと少しだわ 86 - 『時間よ、お願い、止まって』 ドロシー: たぶん、あの倉庫にあったってことよね ピュルテ: 台車しか残ってなかったです ヴェルメリオ: ……でもメモが落ちてた リル: おみやげ用、1箱500袋入り……ものすごい量じゃないか ティンカー・ベル: どこに運ばれちゃったの!? シンデレラ: 時間は……!? ドロシー: こっちの窓から時計塔が見えるわよ。えっと……11時よ! シンデレラ: おそらく、もう会場に持ち込まれて、配布する準備に入ってるわ ドロシー: 倉庫に無いんだし、おそらくそうでしょうね。いよいよ、舞踏会の会場に突っ込むってわけね! ピュルテ: そ、そんな、会場に乗り込むんですか!? シンデレラ: それしかない! 急ぐわよ! ティンカー・ベル: 0時までに会場に行かなきゃいけないんだよねっ!? リル: 騎士団がしたがえている魔物が続々と出てきてキリがないっ! ヴェルメリオ: ……邪魔っ! シンデレラ: なんなの、この城! ムダに廊下が長いんだから! ドロシー: あんたの城よ! どうにかしなさいよね! ピュルテ: それにしても、マザー・ティターニアさんはどうなってしまったんでしょう ティンカー・ベル: 感染じゃない、けど普通じゃないって何!? ヴェルメリオ: ……でも、ディマイトのせい? ピュルテ: それは間違いないと思います。短時間ですが話していて、ディマイトの気配を強く感じました シンデレラ: それにしても、昔と真逆になったわね リル: 真逆とは? シンデレラ: かつて私が姫になるキッカケになった舞踏会……あの時は、0時になる前に会場から逃げ出そうと必死だったのに ドロシー: 今は、0時になる前に会場にたどり着こうって必死ってわけね。皮肉なもんね ピュルテ: シンデレラさん! 人間さんが、当時の君はただのエラ、今はプリンセス・シンデレラだろうって言ってますが シンデレラ: ふふ……そうね、そのとおりだわ。私はもうプリンセス、自分のためじゃなく国家、国民のために、必ず止める! ティンカー・ベル: あれ、会場じゃない!? リル: 扉が見えてきた! シンデレラ: それでも共通してるわね。今も昔も、『時間よ、お願い、止まって』! 87 - ケタ違いのディマイト シンデレラ: 待ちなさいっ! 衛兵1: な、なんだ!? 曲者っ!? 衛兵2: これはもうすぐお客様に配るお菓子だ! 貴様らにやるようなものじゃない! リル: こっちだって、こんなもの頼まれたって要らん ティンカー・ベル: たああっ! 衛兵1: ぐはあっ!? ピュルテ: まだ台車ごと動かせます!運びますよ! ヴェルメリオ: ……分かった! でも、どこへ ドロシー: そこの暖炉の中へ放り込んでしまいなさい! 闇シンデレラ: な、なんと……貴方たち、なんということを ティンカー・ベル: へっへーん! 計画通りにはいかなかったね、ざまあみろ! シンデレラ: 貴方の企みもここまでよ! 闇シンデレラ: わ……私の計画は完璧だったのですよ…… ピュルテ: いけない、ディマイトの力が増幅されてきています! 闇シンデレラ: もう計画など関係ありません。こうなったら、すべてを……都市ごとすべてを吹き飛ばしてあげますわ シンデレラ: なんですって!? ドロシー: ヤケになって無茶するパターンよ!気をつけて、みんな! シンデレラ: ……鐘の音ね。ふふ、懐かしいわ ティンカー・ベル: 姐さん、プレッシャーでおかしくなったの!?どうしてここでニヤニヤできるかな!? ピュルテ: そ、そんなっ……!?ものすごいディマイトの量です!これまでの魔物や感染者なんて比べ物になりません! ドロシー: 妖精さんもピュルテも落ち着きなさい。相手が誰だろうと、この私が負けるはずがないでしょう? ヴェルメリオ: ……来るよ。気をつけて 闇シンデレラ: はあああああ……! 覚悟なさい、皆さん。あの御方より頂いた力で、すべてを、すべてをっ……! リル: まずい……力技を仕掛けてくるぞ! 闇シンデレラ: 全てを、消し飛ばしてくれるわっ!! シンデレラ: 来なさい! これで舞踏会はお開きよ! ティンカー・ベル: マザー・ティターニアが倒れちゃった! ドロシー: しーっ! 舞踏会のゲストはシンデレラだと思ってるんだから! ティンカー・ベル: あ、そっか! シンデレラ: 自分の姿が倒れるのを見るのって、変な気分ね…… ピュルテ: あ、でも……外見もマザー・ティターニアさんに戻っていきます リル: ディマイトの力から解放されたのか?! ドロシー: 舞踏会の客が騒ぎ出してる! なんとか誤魔化さないと シンデレラ: ドロシー、マザー・ティターニアを謁見の間に運ぶから手を貸して。私も着替えてくる。みんなと人間さんは時間稼ぎをお願い! リル: え?! 時間稼ぎってどうすればよいのだ ヴェルメリオ: ……ティンカ、なんか言って ティンカー・ベル: え?! あ、あの、えっと、えっと……みなさぁん、シンデレラ姫は、ちょっとドレスが苦しくって貧血になっちゃったんです ピュルテ: で、ですです! なので今着替えておりますのでしばらくお待ちくださいね〜 ティンカー・ベル: も〜、姫ったら無理してきっついドレス着ちゃうんだもん。ここだけの話、最近姫は5キロも体重が増えたんだから ヴェルメリオ: ……それ本当? ティンカー・ベル: 適当よ、適当 シンデレラ: 5キロじゃないわよ! 増えたのは3キロよ! ピュルテ: わ♪ シンデレラさんのドレス姿です! ヴェルメリオ: ……すごく綺麗 ティンカー・ベル: あららぁ、どっかの人間さんがものすごぉく見とれちゃってるんですけど シンデレラ: 舞踏会にお越しの皆様、お見苦しいところをお見せして、申し訳ありませんでした。本日はこれでお開きとさせてください ドロシー: 本物のプリンセスは、やっぱり貫禄が違うわね。お客が黙って帰っていくわ シンデレラ: マザー・ティターニアの目がまだ覚めないの。みんなも謁見の間に来てちょうだい (背景切換...) シンデレラ: 私がお城を留守にしたばっかりに、マザー・ティターニアを危険に晒してしまった ティンカー・ベル: これも例の憎っくき旅人のせいだよ! ヴェルメリオ: ……ディマイトは人も操れるのね リル: マザー・ティターニア殿はいつ目が覚める…… ピュルテ: きゃー! な、何事ですか?! シンデレラ: 魔物が攻めてきたのよ! みんな、マザー・ティターニアを守って! 88 - マザー・ティターニアの目覚め シンデレラ: 魔物が攻めてきたからには、このお城も安全ではないわね ピュルテ: マザー・ティターニアさんを、別の安全な場所に移した方がよくないですか? ドロシー: ディマイトにまた操られる可能性もあるかもしれないし、お城から移すのに賛成だわ ヴェルメリオ: ……おばあちゃん家に移せばいい シンデレラ: そうね。マザー・ティターニアが気を失っているうちに…… リル: 小生は例の旅人を追う。このまま逃がすわけにはいかないであろう ティンカー・ベル: ティンカもネコと一緒に旅人を追うよ! ここは二手に分かれて…… リル: ティンカは皆と共に旅をしてきた仲ではないか。今は皆のそばにいるべきだ ティンカー・ベル: でも、ネコひとりなんて危ないし リル: 小生にはこの剣がある、ひとりでも大丈夫だ。それでは…… マザー・ティターニア: う……ううっ…… ドロシー: みんな! マザー・ティターニアが目を覚ましたわ! ティンカー・ベル: ネコ、旅人のことは後ね! リル: …… シンデレラ: マザー・ティターニア マザー・ティターニア: ……シンデレラ……ここは……? シンデレラ: 謁見の間よ。あなたは舞踏会の最中に倒れたのよ マザー・ティターニア: うう……頭がクラクラする。私は、私は……なんだか悪夢の中にいたような気分 シンデレラ: あなたはディマイトに操られていたの。ごめんなさい、私がお城をあなたに任せたばかりに危険な目に合わせて ティンカー・ベル: 姐さんは悪くないの! ディマイトをばら撒いてる悪い奴がいるの ヴェルメリオ: ……小さな甘い砂糖菓子を食べなかった? マザー・ティターニア: ティンカー・ベルに赤ずきんのヴェルメリオ、シンデレラのご友人たちですね。……いいえ、最近ダイエットで甘い物は食べないようにしているの ドロシー: 私はオズの国のドロシーです。どこかでディマイトに接触した記憶は? マザー・ティターニア: 今はまだ、頭がぼーっとしてて記憶が曖昧なのです。でも何か思い出せそう…… ピュルテ: 大変、シンデレラさん! 窓の外! また魔物が襲ってきました! ティンカー・ベル: やっぱりお城は危険だよ。マザー・ティターニアも気が付いたし、早くずきんのおばあちゃん家に移動しよう シンデレラ: そうしましょう。マザー・ティターニア、動ける? マザー・ティターニア: 大丈夫です、シンデレラ ヴェルメリオ: ……リルも一緒に行こう リル: いや、小生は先に旅人を…… ピュルテ: 旅人さんは後でみんなで追いかけましょう マザー・ティターニア: ……あの方は? ティンカー・ベル: ネコ、後ろ向いてないでマザー・ティターニアにちゃんと挨拶しなよ! ほら! リル: あ、やめてっ…… マザー・ティターニア: !……あ、あなたは……ああ! 頭の奥が痛い……私は、私はあなたを覚えている…! シンデレラ: リルもこのお城に来たことがあったかも。私の友人よ マザー・ティターニア: 違う! ……違います! この方は、私をディマイトで操っていた者の仲間! みんな: え?! ええっ?! リル: な、何を言うのですか! シンデレラ: そうよ! きっと記憶が混乱しているのよ マザー・ティターニア: いいえ! ……この方の顔を声を、私は覚えています。操られていた私と口論していた ドロシー: ちょっと待って! ……私、リルが誰かと口論しているのを聞いたわ。聞き間違いかと思っていたけど……そうだったのね リル: 小生は口論など……! ドロシー: ……そうよ、そうだったんだわ。ああ、何で気が付かなかったのかしら。オズの国で気付くべきだったのに! ティンカー・ベル: ひとりで納得してないで、説明してよ! ドロシー: 私たちは初めから間違っていたのよ! チューチラが始まりじゃない、オズが最初だったのよ。……ディマイトに感染したのは ヴェルメリオ: !……どういう、こと? ドロシー: 旅人は、あなたたちとは逆方向からオズの国を渡っていたの。オズ、コルとレーウ、そしてチューチラの順番で感染させ、小さな島に渡った。だからあなたたちがいくら追いかけても旅人に出会わなかった ピュルテ: そんな……それじゃあ私たちが小さな島で会ったリルちゃんが…… シンデレラ: 例の旅人、ということなのね リル: な、何を言っているんだ。少し冷静になった方がいい シンデレラ: 魔法の国に入ってからは、アドルファ、そしてお義母様たち3人に例のお菓子を与えた ドロシー: 本当なら貴方はまっすぐ都に向かうはずだったんでしょう? けど、思わぬ崖崩れで足止めを食らってしまった ヴェルメリオ: ……それでわたしたちが追いついた ティンカー・ベル: あっ!? そう言えばあの崖崩れの時、都に運ぶ荷馬車に何か入れていたよね! ピュルテ: そんな! この舞踏会でディマイトを仕込んでいたのはリルちゃんなの!? 一緒に止めようとがんばっていたと思ったのに、全部演技だったの!? リル: 違う! 本当に止めようとしたんだ! あんなふうになるなんて、小生も知らなかったのだ! ピュルテ: ……旅人は、やっぱりリルちゃんなのね リル: ……ああ。ああ、そうだ! だが、もう奴に与するつもりはない! あのような酷い仕打ちに手を貸すものか! ヴェルメリオ: ……感染者を見て、本気で驚いてた ドロシー: あなたは自分が何をしてるか、分かってなかったってわけね リル: 奴とは袂を分かつ。しかし、貴君らともまた相容れない ピュルテ: どうしてなの!? リル: ……彼だよ ピュルテ: えっ……人間さん……? リル: 貴君らはいつまで、人間さんに頼りきりでいるつもりだ。この世界は、オトギノクニは、我々の世界なんだぞ! シンデレラ: ……リル、貴方の目的は、もしかして リル: オトギノクニの独立だ。エルマイトでもディマイトでもいい、人間の意志に左右されずに真に独立することを目指す ドロシー: どうやってエルマイトを調達するつもりなの。私たちは、それがなければ…… リル: 人間から調達するんだよ。奴らの気分などお構いなしに、小生らが必要な時に必要なだけいただく。人間を完全に管理下におくんだ ピュルテ: そんな……人間さんたちだって、意志を持つ存在ですよ。私達と同じです。それなのに リル: 議論するつもりはない ティンカー・ベル: 何で玉座の裏の額縁なんか斬りつけ……ああっ! しまった! シンデレラ: 地下通路……! リル: それでは失敬する ピュルテ: ま、待って! 89 - 旅人はリル ドロシー: 魔物とやりあっている間に、完全に見失ってしまったわね ティンカー・ベル: ネコ……あいつが、旅人だったなんて ピュルテ: リルちゃん…… シンデレラ: 大丈夫、ピュルテちゃん ピュルテ: 私、ずっとリルちゃんのこと大切な友達だと思ってました。けど…… ドロシー: 思ってたでしょうよ、向こうだって ピュルテ: えっ? ドロシー: じゃなきゃ、あんなに動揺なんかしないわ ピュルテ: そう……でしょうか。だとしても、あんな形じゃなくて、もっとちゃんと……話をしたかったです ティンカー・ベル: ピュルテ……ネコのやつ、どういうつもりなんだろ ピュルテ: もし意見が合わなかったとしても、友達に戻れなくなるとしても、それでも最後は向き合って話したかった…… シンデレラ: 諦めるんじゃないわよ、ピュルテちゃん。相手は生きてんの。追いかけて問いただせば間に合うわ ピュルテ: シンデレラさん…… ヴェルメリオ: ……でも、どこに行ったの ドロシー: リルが言っていた、『奴』とは誰なのかしらね ティンカー・ベル: そいつが、ネコにお菓子をばらまかせてたんだよね! ヴェルメリオ: ……どうなっちゃうのかも、ちゃんと教えてなかったみたい シンデレラ: 卑劣な奴よ。けど、あの口ぶりじゃリルはそいつのところには戻らないでしょうね ピュルテ: リルちゃんは操られてたんじゃないでしょうか!? さっきの、マザー・ティターニアさんみたいに! シンデレラ: かわいそうだけど、それは希望的観測すぎるんじゃないかしら。ピュルテちゃんの感覚能力で察知できなかったんでしょう? ピュルテ: そうでした…… ドロシー: でも都に戻るとは思えないわ。かと言って、あのまま何の準備もなしに長旅もできない ヴェルメリオ: ……近くの小さな町とかに シンデレラ: きっとそうね。私、騎士団たちにマザー・ティターニアを護ってヴェルの森へ行くように命じておくわ。ついでに都の警備も怠らないように ドロシー: その後は、町まで行くことになるわね ティンカー・ベル: 夜が明けてきたよ ヴェルメリオ: ……夜通し歩いてきたね ドロシー: 町はもうすぐね。リルに追いつければいいけど ピュルテ: …… シンデレラ: 大丈夫。きっと追いつくわよ ドロシー: そう言えば、どうして元のボロ服に戻ったのよ シンデレラ: 騎士団への命令が終わったら、もうドレスである必要もないじゃない。動きづらいし ティンカー・ベル: それもそうか。あれでずっと歩けないもんね シンデレラ: そうなのよ。だから……ってドロシー、ボロ服とは何よ!失礼ね! ドロシー: 反応、遅っ! ヴェルメリオ: ……ピュルテ ピュルテ: …… ドロシー: ダメね、聞こえてないわ (背景切換...) シンデレラ: 城からほど近い小さな町、ここならリルにとって都合がいいわ。必ずここで何かしているはず ドロシー: 手分けして探索しましょう! ティンカー・ベル: 了解っ! ヴェルメリオ: ……ちょっと人間さん。人間さんしか、ピュルテを励ませないんだからね シンデレラ: そうよ! 同じ組にしておいたから、頼んだわよ! ピュルテ: あ、人間さん、すみません。それじゃ聞き込みからしましょうか ピュルテ: えっ、それはみんなに任せて……? でも ピュルテ: 人間からエルマイトだけを思い通りに絞り出すなんて、良くないと思ってます ピュルテ: けど、リルちゃんが言っていることも分からなくはないんです。人間界に行ってみて、みんなが人間さんみたいじゃなかったです ピュルテ: けど人間さんみたいな人だっているんです。そしたら、もっと他の方法を考えるべきだと思うんです ピュルテ: リルちゃんは大事な友達。人間さんも私にとって大事な人です。だから本当は、分かり合えたらいいんですけどね…… ティンカー・ベル: 見つけたよ! そこの角で馬を買っていったんだって! ピュルテ: 大丈夫。気持ち、切り替えていきますから。ありがとうございます、人間さん シンデレラ: みんな集合! そうと決まれば、私たちも馬を調達して追いかけるわよ! ドロシー: まったく、いい年の男が馬にも乗れないなんて ヴェルメリオ: ……クルマノメンキョ? それなら持ってるって言ったって、それ何かの役に立つの? ピュルテ: 人間界では馬にあまり乗らないんですよね シンデレラ: そうなの!? じゃあ長距離移動はしないのね。出不精なのかしら、人間って ティンカー・ベル: お尻が痛いとか、文句ばっかり言わないの。ピュルテの後ろにしがみついてる立場なんだから ドロシー: それで? 馬を売った人は、何か言ってなかったの ティンカー・ベル: 南の方へ向かうって ドロシー: それはさっき聞いたし、だから私たちも今、南に向かってるんでしょ ティンカー・ベル: ああ、そっか。えっとね、他には……カイテイに急がなきゃ、って呟いてたって ヴェルメリオ: ……意味がよく分からない シンデレラ: まさか。カイテイって……海底の国のことじゃないでしょうね ティンカー・ベル: なんだっけ、それ。聞いたことあるよ シンデレラ: 海の底にある国よ。人魚たちが治めているの ピュルテ: 海の底って、人魚さんはいいですけど、リルちゃんはそんなとこに逃げてどうするんですか? ヴェルメリオ: ……そっか、息できない シンデレラ: そのために何か道具があったはず。ちょっと待って、聞いてみる ドロシー: あ、手鏡。もうそれ、回復してるの? シンデレラ: ディマイトの支配を解いたんだから、復旧してるはず。あっ、繋がったわ ティンカー・ベル: すっごい不思議な道具だけど……急に離れた相手から、空気も読まずに呼びかけられるのはちょっと嫌かも シンデレラ: うん、そう。海底よ。ほら、何か息ができるようなものがあったじゃない マザー・ティターニア: それなら、少し街道から東にそれたあたりに洞窟がありますわ。その奥にある七色に光る貝殻を砕いて飲み込みなさい シンデレラ: 東の洞窟ね。分かった、ありがとう。まだ本調子じゃないんだから、無理しないでね マザー・ティターニア: ええ、道中気をつけるのですよ シンデレラ: うん、そっちも気をつけて。それじゃ ドロシー: 洞窟ね。さあ、急いで向かうわよ! 90 - 笑顔が一番 ヴェルメリオ: ……飲んだけど ドロシー: これで水の中でも呼吸できるっていうの? シンデレラ: 効力は1回で3ヶ月くらいらしいけど ピュルテ: 余った粉はどうしますか? シンデレラ: もったいないから袋に入れて持っていきましょ ティンカー・ベル: さすが姐さん、プリンセスなのにもったいない精神を忘れないね シンデレラ: ティンカちゃん、今ちょっとバカにしたでしょ ティンカー・ベル: ちょ、いたたた、痛い〜! ほっぺつねらないでっ! ピュルテ: ふふっ、ティンカちゃんてば ティンカー・ベル: あ、やっと笑った ピュルテ: えっ? シンデレラ: ピュルテちゃんはね、そうやってニコニコしてるのが一番よ。みんなの元気になってるんだから ドロシー: みんなの癒やしがピュルテなのよ。ちなみにみんなの憧れが私 ヴェルメリオ: ……そういうの、要らないから ドロシー: でもマジメな話、既に洞窟には誰か来た形跡があったわ。たぶんリルよね シンデレラ: てことは、海底の国に行こうとしてるっていう推理は正しいのよね ティンカー・ベル: 今から馬を走らせても、間に合うかな? シンデレラ: ギリギリってとこでしょうね ピュルテ: でも……リルちゃんにお菓子を渡したのは、一体何者なんでしょうか ヴェルメリオ: ……目的が分からない ドロシー: このオトギノクニをディマイトだけで牛耳ろうっていうのかしらね シンデレラ: 人間からの独立を目指すリルにとって、感染状態はとても独立とは呼べないわよね ティンカー・ベル: だから怒って離れたんだよね ドロシー: 私が見た口論は、そういうことだったのよ ピュルテ: 自分がオトギノクニを支配したいんですね。そのためにディマイトを使おうとしてる シンデレラ: リルは人間に左右されなくなりさえすれば、自分が支配しようっていう意識はないんでしょうね、きっと ドロシー: そういう意味では、話し合いの余地がリルの方にはまだありそうだけど ピュルテ: そうですよね、なんとか追いついて説得しなくちゃ! ピュルテ: ここから山道になってきましたね ドロシー: 困ったわね。馬でバーッと飛ばしたかったんだけど、山じゃそうもいかないわ シンデレラ: 大丈夫よ。大きな街道はガラスの騎士団が検問を敷いてる。裏道を抜けて海底の国方面に行こうと思ったら、リルもこの山を超えなきゃいけない ヴェルメリオ: ……条件は一緒 ドロシー: それじゃ焦らず行きますか……って、危ないっ! 盗賊1: ちっ、俺のナイフを避けやがったか ティンカー・ベル: ちょっと! 危ないじゃん、なんなのあんたたち! 盗賊2: てめえら……俺達の大事なお宝を盗みやがったな ピュルテ: えっ、何を言ってるんですか。私達、この山に入ったばかりですよ 盗賊1: 口先ではなんとでも言える! 盗賊から宝を盗むとはふてえ野郎だ! シンデレラ: ピュルさん、ヴェルさん、こらしめてやりなさい! ヴェルメリオ: ……えっ、またやるの? ピュルテ: こちらの方は、えっと、シンデレラさんですよ! み、都のお姫様です! ティンカー・ベル: 突然だから、前よりセリフがおぼつかない! 盗賊2: えっ、ひ、姫さんだって!? シンデレラ: そうよ。私に手を出せば騎士団があなた達を殲滅するわよ 盗賊1: ひ、ひいいっ、お助け! 盗賊2: 長靴はいた奴が、宝を盗んだのはあんたたちみたいな5人組だって言うから! ドロシー: この短時間で、アホばっかりとは言え盗賊たちを騙して足止めに使ったのね ティンカー・ベル: なんだよ。ネコー! そこまでする!? ドロシー: さすがね……敵ながらやるじゃない ピュルテ: あのっ、その子はどっちへ行きましたか!? 盗賊2: 山越えした後は南西に向かって行ったよ シンデレラ: じゃあ、先を急ぎましょう 盗賊1: お、おい、山道は危ないから気をつけろよ! ドロシー: ずいぶん優しい盗賊ね……調子狂うわ ティンカー・ベル: これがプリンセスのご威光、ってやつ? シンデレラ: またバカにして ティンカー・ベル: してないってば! 91 - リルの覚悟 ピュルテ: あそこにある洞窟が、海底への入り口なんですか!? シンデレラ: ええ。以前、マザー・ティターニアに教えてもらったわ。洞窟の通路は実は海の中を通っていて、一番下まで降りたら、もうそこは海底なんですって ティンカー・ベル: とんでもないところまで来ちゃったなあ ヴェルメリオ: ……リルは、もう着いてる? ドロシー: あの木陰に隠してある馬。たぶん、そうでしょ シンデレラ: さあ、さっそく中に入るわよ (背景切換...) ティンカー・ベル: 確かに潮の匂いがする……どこかから海水が入ってきてるのかな ピュルテ: ……っ! リルちゃん、そこにいるんでしょ!? シンデレラ: ついに追いついたわね リル: さすが……ずいぶん早い追手じゃないか ドロシー: 観念して、私達と一緒に都まで戻るわよ。話はそれからね リル: 何の冗談かな。小生はつかまるつもりなど毛頭ない ティンカー・ベル: この状況で逃げられると思ってんの!? ピュルテ: ねえ、リルちゃん。どうして……私たち、友達じゃなかったの!? リル: ピュルテ…… ピュルテ: リルちゃんは、私の本当に大事な友達なんだよ。ずっと逃げ続ける生活なんて、リルちゃんにさせたくないよ! リル: ……ピュルテは本当に優しいな。その優しさが仇にならないかと、小生はいつも心配していたのだ ピュルテ: 心配してくれるんなら、離れていかないでよ! 私は、リルちゃんが傍に…… リル: ダメなんだ! 小生は……自分の理想を諦めない。自分が信じる理想に殉じる ピュルテ: 海底の国に何があるっていうの!? リル: 今回使われた例のお菓子……海底の国にも運ぶよう指示された。誰かが小生の代わりにばらまくはずだ シンデレラ: なんですって!? リル: これは小生の信じる理想に反する。騙されていたとは言え自分のしたこと、自分で解決する ピュルテ: 1人で行くことないじゃない! リル: これは小生の戦いだ。貴殿らがどう動こうと勝手だが、もはや行動を共にすることはない ヴェルメリオ: ……意志、固そう リル: オトギノクニを変える、その理想のために小生はすべてを捨てる。その覚悟は、とうにできている! ティンカー・ベル: あ、奥に逃げた! ドロシー: 追うわよ! これ以上、話をややこしくさせてたまるもんですか! ピュルテ: リルちゃん、待って! ティンカー・ベル: もうあいつ、振り返りもしないでどんどん奥に逃げていくよ シンデレラ: さっきの言葉に偽りはないようね ドロシー: なんか、だんだん息が苦しくなってきたような ヴェルメリオ: もしかして、空気が薄い? シンデレラ: 条件はリルも一緒! あと少し……あっ! ティンカー・ベル: 扉だ! あれが海底の国への入り口!? リル: ピュルテ ピュルテ: リルちゃん! リル: 小生を友人と呼んでくれて、本当に嬉しかった。小生にとっても、ピュルテはかけがえのない友人だ ピュルテ: 戻ってきて、お願い! リル: 二度と交わらぬ別の道を歩んでいくとしても、ピュルテが小生にとって友人である事実は変わらない。それだけは覚えておいてくれ ヴェルメリオ: ……あっ、扉の向こうに行く! シンデレラ: 待ちなさいっ! ドロシー: すぐに私達も向こうへ……って、え、ちょっとこれ! ティンカー・ベル: 扉の取手が壊れてる! 手前に引く扉なのに、取手が無かったら開けられないよ! ヴェルメリオ: ……最後の最後でやってくれた ドロシー: 盗賊と言い、本当に頭の回転が早い子ね。私の次くらいに ピュルテ: これ、どうしたら…… シンデレラ: 取手は直せるわ。騎士団に連絡して職人を呼べばね。けど、その頃にはもうリルは、海底の国のどこか目立たないところに隠れてるでしょうね ドロシー: ああ、やられたわ ピュルテ: それでも……行きましょう ティンカー・ベル: ピュルテ? ピュルテ: だって、また感染する人が増えるかもしれないです。リルちゃん1人に任せるわけには ヴェルメリオ: ……確かに ピュルテ: それに、海底の国へ行かずに諦める、なんて選択肢はないですよね? ドロシー: その通りよ。よく言った! シンデレラ: いま連絡したから、最寄りの町から職人が来るはずよ ティンカー・ベル: んじゃ、後はそれまでここで持ちこたえておくだけだねっ! 住民: へえ、これで扉は直りましたんで シンデレラ: ありがとう。騎士団に守らせるけど、気をつけて町まで戻ってちょうだい ピュルテ: じゃあ扉、開けますね ヴェルメリオ: ……潮の匂いが強くなった ドロシー: よし、それじゃ進んで……って、きゃああああっ! ティンカー・ベル: みんな!? 足場が崩れたの!? シンデレラ: 崩れたっていうか、足場が途切れ…… ティンカー・ベル: だ、ダメだ! みんなを追いかけなきゃ! ピュルテ: まだ落ちてますよ! これ、どこまで落ちるんでしょうかっ!? ヴェルメリオ: ……海底しかない ドロシー: そりゃそうね。って、こんなとこに落ちたら溺れ死ぬんじゃないの!? シンデレラ: そのために魔法の粉を飲んで……って、きゃああっ! シンデレラ: 大丈夫、みんな! ティンカー・ベル: おーい、だいじょうぶ〜!? ドロシー: なんとかね。それで? この池みたいになってるところを、奥へ泳いでいったら、いつのまにか海底ってわけね? ピュルテ: そっか、もう海底の高さなんですね、ここは シンデレラ: さっきの魔法の粉を飲んでるから、呼吸は問題ないわ。それに水中でも会話は普通にできるの ピュルテ: 人間さんが、どういう原理なんだってすごく気にしてます ティンカー・ベル: どういうも何も、魔法でしょ。他に何を求めてるの? ヴェルメリオ: ……それじゃ先に進む? ティンカー・ベル: 息できるって分かってても、だんだん深くなるところに入るのって怖いなあ シンデレラ: 完全に入水自殺よね、見た感じ ドロシー: なんかだんだん服に水が染みてくる感覚が気持ち悪い…… ピュルテ: 1回入っちゃえば慣れなんでしょうけどね ティンカー・ベル: もっとスムーズに行けるとこないのかな シンデレラ: 海底の国への入り口は1箇所だけじゃなく、オトギノクニに何箇所かあるらしいわ ドロシー: じゃあ、リルの代わりの配布役は、そのどこからか入ってくるんでしょうね ピュルテ: 私、その人たちこそ本当に許しません。リルちゃんを騙して、いいように利用するなんて シンデレラ: そうね。とっ捕まえてやりましょう! 92 - 序奏:海底へ ピュルテ: 光が見えてきました……ああ、洞窟を抜けました。海底です ドロシー: すごく広いわ。ここからリルを見つけるなんて気が遠くなりそう ヴェルメリオ: ……時間稼ぎされちゃったし ティンカー・ベル: ネコ、どこ行ったんだろ。お菓子のばらまきを止めるとか言ってたけど シンデレラ: とにかく、海底に来た以上、あの子達に協力を頼むのが一番だわ ヴェルメリオ: ……あの子達? (背景切換...) トリル: わああ……お久しぶりです、皆さん ドロシー: 久しぶりね、トリル! 海底の魔女、ダル・セーニャが暴走して以来ね トリル: セーニャさん、また私の一番のファンに戻って応援してくれてますよ〜 スタッカータ: トリルったら海底の国では、もうナンバーワンアイドルなのよ。アイドルやろうって言ったの私なのに トリル: そんな、スタ姉様、からかわないでください スラー: スタッカータもトリルもそのへんにしなさい。陛下、事情は伺いました ティンカー・ベル: なんか面倒なことに巻き込んじゃってごめんね トリル: いいんです〜。以前、助けていただいたことのご恩返しだと思えば ヴェルメリオ: ……人探しなんだけど スタッカータ: あたしらだけじゃ大変だけど、みんなもいるからね! ピュルテ: お魚さんたちも手伝ってくれるなら心強いですね! ティンカー・ベル: だよね! みんなで探せばネコも……って、んんっ!? 今なんか、小さい魚に混ざって変なの泳いでたけど! シンデレラ: 小さいおじさんだわ! まさか、またダル・セーニャが……? スタッカータ: なんかこの外見が気に入ったって言って戻らない子がいてさあ ドロシー: まあいいんじゃない? おじさんだって人探しはできるわ ヴェルメリオ: ……お菓子ばらまく人も探さないと ティンカー・ベル: ネコが言ってた、ネコの後釜だよね。よーし、好きにはさせないよ! シンデレラ: おじさんが視界に入ると、緊張感がなくなるわね…… シンデレラ: あら、これからコンサートなの? スラー: すみません、陛下。準備でバタバタしてお見苦しいところを…… ティンカー・ベル: あ! これはティンカが直した……何だっけ? ピュルテ: マイクとスピーカーです。コンサートで使うのにはもってこいですね☆ トリル: ええ、とても役に立っています。ティンカちゃんが一生懸命直してくれたおかげです ティンカー・ベル: えへ、えへへへ。誰かさんがボッコボコに壊してくれたおかげで、結構大変だったんだよね〜 ドロシー: 妖精さん、あなたが壊せって言ったのよ? ティンカー・ベル: あれ? そうだったっけ? スタッカータ: ねえ、せっかく海底に来たんだから、あたしたちのコンサート聞いてってよ スラー: 何言ってるの! 陛下たちは、人を探しておられる身、忙しいのですよ トリル: 私も人間さんたちに、ぜひコンサートを聞いてもらいたいです! ドロシー: 私も歌の師匠、トリルのコンサートを聴きたいわ。それくらいいいでしょ? シンデレラ シンデレラ: ええ、私も戦いっぱなしの毎日で、人魚たちの歌で癒されたい気分よ スラー: 本当によいのですか? 陛下。わたくしたちは光栄ですが…… ピュルテ: すごい歓声ですね! スラー: いけない! そろそろ出番ですわ トリル: 人間さん、みなさん、私たちの歌、楽しんでくださいね♪ (…………) ティンカー・ベル: 客席、盛り上がってるね〜! ダル・セーニャ: あ! あなたたちは…… ヴェルメリオ: ……ダル・セーニャ! 久しぶり ダル・セーニャ: あなたたちも人魚のコンサートを聴きに? ドロシー: 人を探しにきたんだけどね。今はトリルたちの歌を堪能するわ! ピュルテ: トリルさんたち、まさにアイドルですね!人間さん ヴェルメリオ: ……人魚たち、キラキラしてる シンデレラ: 早くリルを見つけてディマイトを倒して、こんな風にみんながキラキラしているオトギノクニを取り戻したいわね スラー: 陛下、続々と目撃情報が集まっています シンデレラ: やっぱりこういう時は数にモノを言わせるのがベストよね ティンカー・ベル: でもネコのこと知ってるのティンカたちだけだから、確かめには行かないとね ドロシー: じゃあまず、ここから行きましょうか! (背景切換...) ヴェルメリオ: ……ここにいるの? ピュルテ: 帽子を被っている見慣れない何かがうろついているそうです ティンカー・ベル: 見慣れない何か……まあ、海底のみんなからしたら、陸の生き物なんてそんな扱いなのかな シンデレラ: しっ、来たわ! あのシルエット……って、あら? ヴェルメリオ: ……ウツボの頭にクラゲが (…………。) ドロシー: 今度は大丈夫なんでしょうね? ピュルテ: 耳がピンと立っている、という特徴が一致するそうです ティンカー・ベル: 不安だなあ シンデレラ: でも陸と違って、耳がある生き物自体が少ないわよ。きっと今回こそ……あっ、来たわ! ヴェルメリオ: ……ウミウシ ピュルテ: 確かに耳みたいなのがピンと立っていますが…… ドロシー: 協力してもらってなんだけどさ、目撃情報のクオリティがあまりにも…… シンデレラ: 仕方ないわよ。特徴を口で伝えただけだもの ティンカー・ベル: そうだ、似顔絵書けばいいんじゃないの!? ドロシー: じゃあみんなで書いて、一番上手い人を採用しましょうよ (…………。) シンデレラ: 人間さん含め6人もいて、このていたらくなんて…… ヴェルメリオ: ……わたしもだけど、みんなもひどい ピュルテ: じ、地道に聞き込み続けましょうか! ドロシー: それこそ6人いるんだし、ちょっと手分けしない? ってことで、くじ引き! ティンカー・ベル: あ、三つ編みとか…… ドロシー: えっ!? おかしいわね、イカサマ仕込んだはずなのに…… シンデレラ: じゃ、行きましょうか。人間さん、ピュルテちゃんのことよろしくね 93 - 提示部 第二主題 ピュルテ: 人間さん……気付いてたんですか? さっきのくじ引きで、私がちょっとズルしちゃったの ピュルテ: あれも人間界で覚えたんですよ。握り込みっていうんですよね。どうしてそんなことって……それは、だって、2人で少しお話したかったから ピュルテ: 必ず人間界に戻すって約束したのに、海底にまで連れてきちゃって……でも、お願いです。もう少しだけ力を貸してください。リルちゃんを連れ戻すまで…… ピュルテ: え、人間さん!? 急に抱きしめられたら、その、私……えっ、あ、あの、顔が近っ…… (ガシャーン) ピュルテ: きゃああっ! ま、魔物っ!? 人間さん、だいじょ……。……っ!? ドロシー: 大丈夫!? なんか悲鳴が聞こえたけど シンデレラ: こんな海底の国の生活圏内にも魔物が出るなんて……ディマイトの影響かしら ヴェルメリオ: ……人間さん、ケガしてる ピュルテ: あ、ああっ……私を庇って、それで、人間さん…… ティンカー・ベル: とにかく、さっさと片付けて一旦戻ろう! (背景切換...) シンデレラ: 人間さんだけど、2〜3日は熱が出たり痛みがあるだろうけど命に別状はないそうよ ティンカー・ベル: よかったぁ。けっこう血が出たからびっくりしちゃったよ ドロシー: 水の中だと血が止まりにくいんですって。傷の深さの割には、水中だと出血するって ヴェルメリオ: ……すごく痛がってたのも、海水がシミたからみたい ピュルテ: 私の……私のせいで人間さんが…… ドロシー: そんな顔しないの。軽傷で済んだんだから ピュルテ: でもそれは、偶然ですよね……もし当たりどころが悪かったら? 私、何もできなかった ティンカー・ベル: そ、それはだって、人間さんもピュルテも戦闘向きじゃないんだしさ ピュルテ: 私とリルちゃんの事情で連れ回してるのに、守ることもできないなんて、私っ…… シンデレラ: 他にも事情とか理由はあるでしょ……って、あっ ピュルテ: 部屋で休みます…… ドロシー: ピュルテ…… ヴェルメリオ: ……ピュルテ、部屋から出てこないね シンデレラ: 昨日のこと、ずいぶん自分を責めていたものね……心配だわ ティンカー・ベル: ちょっとティンカ、様子見てくるよ (背景切換...) ティンカー・ベル: ピュルテ、入るよ? ピュルテ: あ、ティンカちゃん……あの、昨日のことなら今は…… ティンカー・ベル: え? 何? ティンカ、踊りに来ただけなんだけど。いぇーい! レッツダンシング! ピュルテ: え、あの…… ティンカー・ベル: うぇい、うぇい、ふーっ!うぇい、ふーっ!うぇぇぇいっ☆ (背景切換...) ドロシー: で、静かにしてほしいと部屋を追い出されたってわけね ティンカー・ベル: おっかしいなぁ〜、一緒に踊りたくなるようなダンスだったのになぁ シンデレラ: 今度は私が。経験上、落ち込んでるときはね、アレが一番なのよ (背景切換...) シンデレラ: ピュルテちゃん、ちょっといい? ピュルテ: シンデレラさん……ごめんなさい、私いまはひとりでいたいんです シンデレラ: お酒、持ってきたの。一緒に飲みましょう? 気分よくなるわよ ピュルテ: 私、お酒は…… シンデレラ: あら、そう? じゃあ私がいただいちゃおっかな (背景切換...) ヴェルメリオ: ……それって、姐さんがただ飲みたかっただけだよね? ティンカー・ベル: しかも自分だけベロベロになって…… シンデレラ: 反省してます…… ドロシー: 私に任せて! いい考えがあるの (背景切換...) ドロシー: ピュルテ、入るわよ! ピュルテ: 今度はドロシーさんですか…… ドロシー: 私が直々に、護身術を教えてあげる ピュルテ: 護身術? そうですね。私も何か武術ができれば、人間さんを守れる…… ドロシー: そうよ! さっそく始めるわね。まずは私のお手本から。気合を入れて……とぉっ! うりゃああ! ピュルテ: ああっ!棚が!ベッドが!窓が! (背景切換...) ティンカー・ベル: ピュルテの部屋、めちゃくちゃにしてどうすんのよ! ドロシー: つい気合が入っちゃって…… ヴェルメリオ: ……わたしがいく (背景切換...) ピュルテ: あ、ヴェルちゃん。割れた窓の破片気を付けてくださいね ヴェルメリオ: ……戦うことだけが,人間さんを守ることじゃないよ ピュルテ: え? ヴェルメリオ: ……ピュルテにしかできない、人間さんの守り方、あると思う ピュルテ: ヴェルちゃん…… ヴェルメリオ: ……元気なピュルテに早く戻ってね。待ってる ピュルテ: うん……ありがとう、ヴェルちゃん ピュルテ: みなさん、おはようございます! ティンカー・ベル: あ、ピュルテ! シンデレラ: よかった、部屋から出てきてくれて ピュルテ: ご心配をおかけしました。もう元気いっぱい、いつもの私です! ヴェルメリオ: ……いつも以上に元気みたい ピュルテ: さっそくですがドロシーさん、私に護身術を教えてください! ドロシー: あら、やる気になったのね。私は厳しいわよ? ピュルテ: はい! 覚悟しています! ティンカー・ベル: ピュルテが三つ編みみたいにガサツになっちゃうの、嫌だな シンデレラ: でもよかったじゃない、ピュルテちゃんが元気になって ヴェルメリオ: ……あ、人間さん。もう起きて大丈夫なの? シンデレラ: 無理しちゃだめよ、人間さん。え、ピュルテちゃんとドロシーが何してるのか? ふふ、護身術よ ティンカー・ベル: 人間さんを怪我させたって落ち込んでたピュルテをみんなで励ましたんだけど、三つ編みの励ましが一番効いたみたい ヴェルメリオ: ……励ましっていうか、ティンカは妙な踊りを踊っただけだし、姐さんはお酒が飲みたかっただけだし ティンカー・ベル: そういうずきんはどうやってピュルテを励ましたのよ! ヴェルメリオ: ……内緒 シンデレラ: ピュルテちゃんも人間さんも元気になったことだし、またリル探しを再開しないとね ドロシー: ちょ、ちょっと! みんな、大変なの! シンデレラ: どうしたの?! ドロシー: あ、人間さん! もう回復したのね。よかった、人間さんも一緒なら……ピュルテが大変なことになっちゃって ヴェルメリオ: ……まさか怪我? ドロシー: ううん、怪我じゃないんだけど…… ピュルテ: うぇい〜うぇい〜、どろふぃーさぁん、ど〜こいったのらのれすかぁ〜 ティンカー・ベル: え……まさか、酔っ払ってる? ドロシー: 自分らしく人間さんを守るには、みんなの意見を取り入れるって言って、急にお酒を飲みだして奇妙な踊りを…… ピュルテ: ふわぁ!人間さんら! うぇい、うぇい! ヴェルメリオ: ……間違ってる 94 - 展開部 シンデレラ: 地上からやってきた旅人…… ドロシー: 今度の目撃情報はかなりイケそうな気がするわね! ヴェルメリオ: ……地上から来る人なんて、少ないはず 住民: あっ、みなさんこっちです。2人は、あの小屋に寝泊まりしてるんです ピュルテ: えっ、2人いるんですか? ティンカー・ベル: もうネコは仲間のとこには戻らないって言ってたはずだけど…… シンデレラ: 裏切ったリルをさらったのかもしれないわ。みんな、気をつけて ドロシー: じゃあ扉を蹴破るわよ。準備はいい? 1、2の……3! (ガシャーン) (背景切換...) ドロシー: 動かないで! そこまでよ! シンデレラ: リル、もう逃げないで話し合いましょ……って、あら? エミリー: な、なに? 怖いよぅ、あなたたち何なの……? ティンカー・ベル: あれっ……これ、もしかして人違い? エミリー: こ、殺される? エミリー、この人達に何されるのっ? シンデレラ: ごめんなさい。私たち、あなたに危害を加えたりは……ひっ!? クレア: この状況で信じろと? ドロシー: い、いつのまに……! ちょっと、その武器を下ろしなさいよ! ピュルテ: すみません、誤解だったんです。何もしませんから、どうかそちらも クレア: 虫が良すぎるんじゃないの エミリー: ク、クレア〜! ダメだよぉ、ケンカよくないよっ。エミリーなら大丈夫だから クレア: ……エミリーがそう言うなら ティンカー・ベル: ふああ……危ない子だなあ ヴェルメリオ: ……言ってることは正論だけどね ティンカー・ベル: 三つ編み、ドア直そう ドロシー: あ、そうよね。よいしょっと エミリー: あ、ありがとう。良かったらお茶でもしない? クレア: 客扱いする必要ある? エミリー: も、もう、クレアってば ピュルテ: 実は人探しをしていて、地上から来たリルって子なんですけど シンデレラ: ディマイトの手に落ちる前に助けたいのよ エミリー: そ、そうなの。お友達なのね。離れ離れは辛いよね…… エミリー: えと、あらためて自己紹介するね、エミリーよ。こっちはクレア クレア: ………… シンデレラ: 私はシンデレラ、ピュルテちゃん、ティンカちゃん、ドロシー、それから人間さんよ。みんなで旅をしているの エミリー: 探しているお友達は……喧嘩でもしたの? ティンカー・ベル: うーん……まあ、そんなカンジかな クレア: あなたたちみたいに乱暴だと、争い事がたえなそう エミリー: も、もう、クレアってば。ごめんなさい……悪い子じゃないんだけど ドロシー: 言っておくけど私たち、こう見えて正義の味方なんだから。悪を倒すために時には乱暴にもなっちゃうの クレア: 正義がいつも正しいわけじゃあないわ エミリー: もういい加減にして、クレア クレア: ……わかった ヴェルメリオ: ……あなたたちも旅の途中? エミリー: ええ、実家に戻る途中なの。エミリーもクレアも兄弟が多いから、お土産調達に手間取っちゃって ピュルテ: この海底の国では、サンゴや貝の、キラキラステキなアクセサリーが買えますよ エミリー: ステキね! クレア、後で見に行こう クレア: うん……キラキラ…… エミリー: あ、あの……さっき、ディマイトって言っていたけど、今オトギノクニに起きてる異変って…… シンデレラ: ええ、ディマイトの影響よ。どんどん蝕まれてる エミリー: そっか……エミリー、怖い クレア: エミリーは私が守る ティンカー・ベル: ディマイトなんて、人間さんとティンカたちがやっつけちゃうけどね エミリー: み、みんなはそんなに強いの? ヴェルメリオ: ……まあまあ、強い ピュルテ: 人間さんの強力なエルマイトがあれば百人力です! エミリー: み、みんなと知り合えて心強いよ クレア: エミリー、キラキラのアクセサリー、買いに行こう シンデレラ: あ、長居してごめんなさい。お暇しましょう エミリー: それじゃあ見かけたら教えるね クレア: 早く見つかるといい ドロシー: ありがと。クレアだっけ、言い方アレだけど優しいのね クレア: 長引くと、間違ってドアを壊される人が増えるから ドロシー: まだ根に持ってるのね……! (背景切換...) ピュルテ: 見事に空振りでしたね…… ティンカー・ベル: 仕方ないよ。地道に探してこ? ヴェルメリオ: ……えっ、人間さんどうしたの、急に声あげて シンデレラ: 忘れてた? って何を? エミリーとクレアの小屋に忘れ物でもしたの? ピュルテ: トリルさんのソロライブ? そっか、今日でしたね! ティンカー・ベル: いつも3姉妹だけど、今日は初のソロ…ってポスターもあちこち貼ってあったっけ シンデレラ: やっぱり1番人気だものね。ああ、それを見に行きたいってこと? ドロシー: ちゃんと準備してきた? あっ、なにこれ、荷物の中にうちわとか入ってるわ ピュルテ: 人間さんてば……そんなにトリルさんのこと好きなんですか? ちょっと妬けちゃいます…… ティンカー・ベル: まあアイドルって特別だもんね。人間さんも、ティンカがアイドルだったら毎回ライブは最前列に来てくれるでしょ? ドロシー: そりゃあガラガラの会場なんだから、後ろにわざわざ座らないんじゃないの ティンカー・ベル: なんでガラガラって決めつけるの! ヴェルメリオ: ……アイドルになったら、人間さんの特別になれるってこと? シンデレラ: そういうことじゃないし、そもそもヴェルには向いてないと思うわ…… ピュルテ: でも、せっかくですし……みんなで見に行きましょうよ! (背景切換...) ティンカー・ベル: うわー、すっごい満員だね ヴェルメリオ: ……迷子になっちゃう。手を繋いでてね ドロシー: ええ、いいわよ ヴェルメリオ: ……えっ、ちが…… シンデレラ: せっかくだから楽屋に挨拶しときましょうか ピュルテ: ……っ!? ティンカー・ベル: どうしたの、ピュルテ ピュルテ: い、いえ、ちょっと悪寒が……風邪かな? さ、行きましょう! 95 - 再現部 第一主題 シンデレラ: はあい、調子はどう? スラー: 陛下! こんなむさ苦しいところに ティンカー・ベル: いいんだよ、そんなに固くならなくて。ただの酒飲み姐さんなんだから シンデレラ: そういうことを言いたいんだけど、なんか引っかかるわね……! ドロシー: これ、差し入れよ。なんか喉にいい飲み物なんですって ピュルテ: 人間さんがトリルさんのために選んだんですって トリル: えっ、私のためにわざわざ? ありがとうございます〜 ヴェルメリオ: ……いいな。わたしも自分のためだけのプレゼントとかほしい ティンカー・ベル: そういうの、自分で言わない方がいいよ ピュルテ: 敢えて言うのもテクニックですよ。って人間界で聞きましたよ シンデレラ: このメンバーでそんな駆け引きいらないでしょ、めんどくさい トリル: ふふっ、本当に仲が良くて素敵ですね、みなさん ドロシー: 今の会話を見てその感想が出てくることに驚きだわ トリル: だって、信頼してるからこそ色々言い合えるんでしょう?楽しそうです ティンカー・ベル: トリルだって、もうティンカたちの仲間じゃん! どんどん言い合ってこ スラー: 良かったですわ。この子ったら、さっきまですごく緊張してたんですよ シンデレラ: あら、そうだったの? スラー: でも、皆さんが来てくれたおかげで、だいぶ緊張がとけたみたいです トリル: スラー姉様ったら……そんなの恥ずかしいから、わざわざ言わないで ティンカー・ベル: あれ、そう言えばスタッカータは来てないの? スラー: そう言えば遅いわね。朝、王宮を出る時はいたのだけど トリル: スタ姉様はすぐ町に出て買い物したりするから、よく見失うんです ドロシー: 妹の晴れ舞台だっていうのに、しょうがないなあ スタッフ: トリルさん、そろそろ本番お願いします トリル: あ、はいっ ティンカー・ベル: あ、また硬くなってる。リラックスだよ! ねっ ピュルテ: いよいよ始まりますよ! うわあ、トリルさんの歌声すっごくキレイですね…… ドロシー: 明るくてワクワクする曲ね! ティンカー・ベル: え、人間さん、なに? せとり? え、ティンカの背中になんかついてるの? (キーーーーン) シンデレラ: きゃっ、な、なに!? 変な甲高い音がっ!? ヴェルメリオ: ……それにこの、うがいみたいな声 トリル: な、なに、どうしたの? スタ姉様!? スタッカータ: ふふん、ずいぶん楽しそうじゃない。トリルも、お客さんたちも、楽しんでる? トリル: ど、どうしちゃったの、スタね……きゃああっ!? (ブウーン) ドロシー: な、なにこの音圧! ティンカー・ベル: どんよりした曲を高速、大音量で……! ピュルテ: 楽器に魔法をかけてるみたいです!それで勝手に演奏されるようになってます! シンデレラ: 確かにこのスピード、それにメロディの転換……耳障りではあるけど、技術的に高度なのも事実ね ヴェルメリオ: ……魔法じゃないと演奏なんてできなさそう ティンカー・ベル: 人間さんが、これはデスみたいだって言ってる。意味はよくわかんないけど ドロシー: スタッカータも歌ってるみたいだけど、なに言ってるのかさっぱりだわ ピュルテ: シンデレラさん、強いディマイトの波動を感じます。これ、ディマイトの影響ですよ! シンデレラ: そうみたいね。ステージに急ぎましょう、みんな! ドロシー: でも、確かにスタッカータはコンプレックスはあったかもしれないけど、ディマイト落ちするほどだったかしら シンデレラ: それにお菓子の感染みたいじゃない、マザーティターニアみたいにしっかり会話できてるわ トリル: もうやめて、スタ姉様! ティンカー・ベル: そこまでだよ! どういうつもり、スタッカータ! スタッカータ: うるさい! (ガシャーン) ドロシー: 楽器を叩き壊した! 会話はできるけど、凶暴性が増してるのは確かなようね…… ピュルテ: スタッカータさん! 落ち着いてください! スタッカータ: 落ち着く? ええ、あたしは落ち着いてるわ ドロシー: これのどこが落ち着いてるのよ! 楽器まで叩き壊して! ヴェルメリオ: ……でもちゃんと話せてる スタッカータ: ちゃーんと冷静に、このステージをどうやったらめちゃくちゃにできるか、考えて行動してるけど トリル: スタ姉様……いったい、どうしてこんなことを スタッカータ: どうして? そんなの、気に入らないからに決まってんでしょ トリル: このステージが決まったとき、自分のことのように喜んでくれたのに…… スタッカータ: あんなの嘘。演技に決まってんじゃないの シンデレラ: ダメよ、トリル! 耳を貸しちゃだめ。こんなの、スタッカータの本心じゃないわ トリル: スタ姉様……! スタッカータ: あたしは、あんたのその可愛い顔が涙でぐちゃぐちゃになるのを見たくてしょうがないってわけ! ピュルテ: やっぱり強いディマイトを感じます。けど、今までとは明らかに違う…… ドロシー: これまでディマイトが暴走したときは、その人のコンプレックスとか心配事とか、本人の感情がベースになってた ティンカー・ベル: けど、スタッカータがトリルにここまで思ってるはずないよ! ヴェルメリオ: ……まるで別人 シンデレラ: この感じ、今までに1回だけ見たことがあるわ ピュルテ: はい……! マザーティターニアさんですね シンデレラ: 知性は維持され、本人の感情とは関係ないところで人を傷つけるために操られ……ひどいわ、こんなの ドロシー: まさか、リルが新しい方法でこの海底をどうにかしようと……? ピュルテ: リルちゃんが……そんなっ……! スタッカータ: ほらっ、あんたたちはこの魔物とでも遊んでな! トリル: スタ姉様が魔物をけしかけて……! ドロシー: こんなの秒で解決してあげるわよ! 96 - 再現部 第二主題 ピュルテ: だとしたら、どうすれば元に戻るんでしょう。まずはいつもどおりに試しますか ドロシー: スタッカータ! 安心して、あなたのソロライブは来週開催するわ! スタッカータ: はあ? あたし、そんなことしたいなんて、一言でも言ったっけ? ピュルテ: 今度からセンターはスタッカータさんですよ! スタッカータ: あのさあ……そんなこと、あんたたちにどうにかしてもらおうとなんて、1ミリも思ってないの ピュルテ: ディマイトが……強くなってきてる!? スタッカータ: どうしてかって? 今ここで、あたしがトリルを潰してしまえば、どうにかなっちゃうからよ! はああっ! シンデレラ: これは……ディトルパ! ドロシー: 暴走とは違う、ちゃんと自分でコントロールしてるわ スタッカータ: それで?このあたしと勝負してみる? ほら、トリル!踊ってごらん! ダル・セーニャ: あぶないっ トリル: セーニャさん!客席にいたんですね ダル・セーニャ: 当然だよ。1番のファンだもん。だからこそ、ピンチならステージにも上がっちゃう トリル: セーニャさん……ありがとう ダル・セーニャ: だ、だだだ、だめだめ! アイドルがファンを抱きしめたりしちゃ、わ、わわわ シンデレラ: ねえ、スタッカータ。あなた、こうなる前に『お菓子』を食べなかった? ティンカー・ベル: 甘くて、小さくて、ちょっと固いらしいよ スタッカータ: さあ? なんの話だか分からないね ヴェルメリオ: ……食べてても、今のスタッカータじゃ素直に認めないんじゃないかな ピュルテ: 本当に、リルちゃんがこんなことを……? ティンカー・ベル: ピュルテ! 感知能力で、なんか弱点とか見えてこないかな!? ピュルテ: リルちゃん……はっ、あ、はい! 探ってみます! ヴェルメリオ: ……他の誰かならともかく、スタッカータ相手にどんな術使ったんだろう シンデレラ: そうね。混乱系の魔法を防ぐのは得意なはずなのに…… トリル: 今朝まで普通だったのに……お願い、スタ姉様! 元の優しいスタ姉様に戻って! スタッカータ: もうおしまい? じゃあ後は、あたしのステージってことで文句ないね? ティンカー・ベル: あのさあ、客席の反応わかる? これみんなドン引きしてるやつだからね スタッカータ: あたしが歌えば、ついてくるわよ シンデレラ: 今までと違うのは、本人が自信満々だってこともあるわね ピュルテ: 本来、ディマイトはネガティブな感情のはずなんですが ヴェルメリオ: ……ネガティブではあるんだよ。ただ、自分を責めるより相手を攻撃する方にシフトしてるだけ ドロシー: 確かに、トリルを追い落としてステージやろうっていう思考が、ポジティブとは言えないわよね トリル: スタ姉様……そんなに思いつめていらしたのなら、このステージはもうお譲りします! ティンカー・ベル: あ、いや、それはまずいよトリル! スタッカータ: このあたしに恵んであげる、ってわけ? ずいぶん上から物を言うのね、トリル トリル: そんな、私、そんなつもりじゃ シンデレラ: 言われたことの解釈もネガティブになるのね! ティンカー・ベル: 今のは天然の怖さって気もするけど ピュルテ: トリルさんはみんなで楽しくステージを作りたいだけなんですよ! スタッカータ: あたしを引き立て役にしたいんでしょう!? ヴェルメリオ: ……なに言ってもネガティブに返ってくるんだけど ドロシー: もう、めんどくさいわね! これだったら、アーとかウーとか言ってる感染者の方がよっぽど楽だわ ピュルテ: つまり、それだけディマイトが進化してるってことですよね……! トリル: 私、知らないうちに、こんなにスタ姉様を傷つけてたなんて シンデレラ: 大丈夫よ。ディマイトに囚われてしまうとね、本来の自分の意志とは別に動いてしまうのよ トリル: そうなんですか!えっと、つまり? ピュルテ: いま言ってること、スタッカータさんの本心じゃないってことです ドロシー: そんなに心配なら本人に聞いてみればいいじゃない。元に戻した後でね! シンデレラ: ぐうっ……!? やっぱり、操っている術自体をなんとかしないと ドロシー: そうね、このままじゃジリ貧だわ スタッカータ: そろそろステージを終わらせるよ! せぇいっ! ティンカー・ベル: あっ、ピュルテ! 危ない! ピュルテ: えっ!? あ、きゃ、きゃあっ…… (キィン) ヴェルメリオ: ……弾いた? あ、あのサーベルは リル: 貴君らにピュルテを預けるのは不安だな シンデレラ: リル!? ピュルテ: リルちゃん、助けてくれたの……? リル: 言っただろ。道は違えど友人だと。今この場は……力を貸そう ドロシー: おいしいとこ持ってくじゃないの ティンカー・ベル: それでネコ! これどうなってんの!? リル: 彼女の内ももを見るんだ。右脚のほう ヴェルメリオ: ……別に変わったところはないよね トリル: あ、いえ……なんか模様がありますよ。スタ姉様、あんなところにタトゥーなんて入れてませんし シンデレラ: あれが原因!? って人間さん、鼻息荒くしてじっくり見るのやめて! リル: いや……強いエルマイトを持つ貴君でしか消せないんだ。場所をよく見ておけ ピュルテ: でも、あんなところ……近寄って消せますか、人間さん ドロシー: そのために私たちが引き付けるってことでしょ。合点承知の助! ピュルテ: 元に……戻ったんですよね? ヴェルメリオ: とりあえずディトルパは消えたけど シンデレラ: 人間さんはいつまでスタッカータの太もも撫でてるのよ。そんなに触りたければ私のにしなさいよ ティンカー・ベル: それでネコ! これ、あんたがまたお菓子あげて感染させたの? リル: 言ったはずだ。小生はもう奴らとは袂を分かったと ピュルテ: ありがとう……リルちゃん リル: これっきりだからな。ちゃんと貴君らがピュルテを守れ スタッカータ: ん……あ、あたし…… トリル: よかった! 気がついたんですね! 皆さん、ありがとうございます! ドロシー: まあ、何はともあれ一件落着、かな 97 - 序奏:リルの真意 スタッカータ: あれ、私……どうしてたんだっけ。確かトリルの楽屋に差し入れを…… トリル: よかった!スタ姉様、元に戻ったんですね リル: 解決のようだな。では小生はこれで ドロシー: 待ちなさいよ。仲間割れしたっていうわりには、色々事情を知ってるじゃない? リル: 例のお菓子が失敗作だということは小生が報告したんだ ティンカー・ベル: 失敗作? リル: あんなふうに誰かを狂わせるもの、あっていいはずがない。だから小生も、持っていた例のお菓子はすべて捨てた ヴェルメリオ: ……でもディマイトは続いてる リル: 小生の報告を聞いた奴らは、次の作戦に移った。奴らの元を離れる直前まで、小生もその内容を聞いていたから、今のように助けられた ピュルテ: ねえ、もう仲間じゃなくなったんだよね。それなら、私たちと一緒に戦うのじゃ……ダメなの? リル: 人間に左右されない、オトギノクニの真の独立。それが小生の最終目的だ ティンカー・ベル: だから、人間さんの力を借りてるティンカたちとは仲間になれないってこと? リル: 理解が早いじゃないか。そのとおりだよ シンデレラ: 人間さんはいい人よ。強い力はあるけど、それでオトギノクニをどうにかしようなんて、考えてないわ リル: 彼個人の資質を疑ってるわけじゃない。では仮に、彼ではない悪い人間がこの世界に迷い込んできていたら? ドロシー: この人が偶然にも善人だっただけ……いつ何があってもおかしくないのが現状。そう言いたいわけね ヴェルメリオ: ……リルは、1人で旅して、どうするつもりなの リル: 探し当てる。きっとどこかにあるんだ。人間界に頼らなくても世界を維持できる方法が ドロシー: 孤独な旅ね。でも覚悟は、できてるってわけね…… リル: おしゃべりが過ぎたな。では、小生はこれで失敬する ピュルテ: リルちゃん!……また、会えるよね? リル: ……。……かもな ティンカー・ベル: 行っちゃったね ドロシー: 人間界に依存しないオトギノクニだなんて……ずっと共存してきたのに ヴェルメリオ: ……2つの世界は表裏一体 シンデレラ: みんなそう落ち込まないで。リルともいつか分かり合える日が来ると信じましょう ピュルテ: リルちゃん…… スタッカータ: あっ……うぅっ…… トリル: スタ姉様?!大丈夫?! シンデレラ: どうしたの?! トリル: スタ姉様が急に苦しみだしたのです スタッカータ: あううっ……はうっ! ティンカー・ベル: 見て!スタッカータの口からなんか出てきた スタッカータ: ふぅ、苦しかった〜!なんなの、あのヒラヒラしたの ヴェルメリオ: ……アゲハ蝶。きれい トリル: アゲハ蝶?それは一体…… シンデレラ: 地上の生き物よ。どうしてスタッカータの体内から出てきたのかしら ドロシー: 人間界にもいるわよ。ね、人間さん ティンカー・ベル: ねえねえ、アゲハ蝶がトリルに寄っていくよ トリル: 本当にきれいですね〜。あら、私の髪に止まるの?うふふ ヴェルメリオ: ……あ、消えた スタッカータ: 見た?!トリルの髪飾りに吸い込まれちゃったよね?! トリル: え、私の髪飾りに?! シンデレラ: その髪飾りの、宝石の部分に吸い込まれたように見えたわ。何で出来てるのかしら? トリル: 父からの贈り物で、貝殻やパール……それから地上の宝石で出来ていると聞きました スタッカータ: 確か……ヴェルザームっていう宝石 シンデレラ: ヴェルザーム!とてもめずらしい宝石よ ヴェルメリオ: ……あのアゲハ蝶はもしかして、ディマイトの残像かも ドロシー: それをヴェルザームっていう宝石が吸い込んだっていうの? ティンカー・ベル: なんかよくわかんないけど、これってすごい発見じゃない?!ワクワクしてきた! シンデレラ: とりあえず、トリルのソロライブを再開しましょう!お客さんが待ってるわ スタッカータ: ほんとごめんね、トリル! トリル: 気にしないで、スタ姉様。私、一生懸命歌ってきます! ピュルテ: え?あ、はい、私は大丈夫です……人間さん。リルちゃん、いつかきっと戻ってきてくれますよね…… トリル: さあ、皆さん。たくさん召し上がってくださいね! ティンカー・ベル: すっごいごちそう!やったあ! スタッカータ: トリルのソロライブの打ち上げも兼ねてるけど、みんなへのお詫びも入ってるの シンデレラ: 気にしなくていいのよ。あれはスタッカータが悪いわけじゃないんだから ヴェルメリオ: ……勝手にディマイトを増幅しちゃうだけ スタッカータ: でも、増幅でしょ?発生じゃないんだよね ピュルテ: どういうことです? スタッカータ: ゼロになに掛けてもゼロじゃん。あたしがトリルに少しでも妬みを持っていたから…… トリル: スタ姉様……あ、あの、私はそこは譲りません!負けないように一生懸命やりますから! スタッカータ: 当たり前じゃない。手を抜いたら許さないんだからね ドロシー: うんうん。そういう勝負、いいと思う スラー: 大変よ、みんな! トリル: あ、スラー姉様。遅かったですね。どうしたんですか? スラー: ……スタッカータにディマイトを仕込んだ犯人、見つかったみたいよ ピュルテ: ええっ!?本当ですか!? (背景切換...) 衛兵: 皆さん、おそろいですね。こちらです エミリー: ふえええんっ、エミリーは何もしてないよぅ〜! ティンカー・ベル: あれっ、あそこにいるのって…… 衛兵: 妙な道具を持っていたので怪しいと思い、ひっ捕らえました トリル: 妙な道具って? クレア: よせ、それに触るな エミリー: それ、エミリーのだよぉ!とっちゃやだぁ! 衛兵: この筆記具のような形の道具を携帯していたんです スラー: 筆記具……スタッカータには文字か記号のようなものが書かれていたのよね エミリー: あ、そこの人たち!エミリーのこと信じてって、兵隊さんに言ってよー! スラー: あら……お知り合いですか? ピュルテ: 知り合いというか、まあ…… ドロシー: 庇うほどの友達でもないんだけどね エミリー: そんなー! 98 - 主部:状況証拠 衛兵: 白状しろ!この怪しいペンでスタッカータに魔法をかけたのだろう! エミリー: それはただのペンだよぉ!エミリーは絵を描くのが大好きなだけなのぉ! ドロシー: へえ、あなた絵を描くのが趣味なの? エミリー: うん。小さいころからずっとだよ。魔法のペンなんかじゃないって〜 ティンカー・ベル: でもなぁ……スタッカータの体には実際何か書かれてたわけで、それを書くにはペンが必要だし…… クレア: ペンなど誰でも持っている ティンカー・ベル: ティンカ持ってないよ? ドロシー: あら、でも妖精さんは多少の魔法が使えるわよね? ティンカー・ベル: はぁ?!どっちの味方なわけ? シンデレラ: ドロシーの言ってることにも一理あるわね。要はペンを持っているだけじゃ、証拠としては弱いってこと エミリー: そうでしょ!はあ、よかった。あなたたちなら分かってくれると思ってたの〜 スラー: でも陛下、この2人が海底に現れて、スタッカータに異変が起きたのも事実ですわ ヴェルメリオ: ……確かに時期的には合致してる エミリー: どうしてそうなるの?もう!エミリーは何もしてないよぉ トリル: エミリーさんがウソをついているようには見えないのですが…… スタッカータ: でも無口な方は感じ悪くない?いかにも悪い奴って感じもするけど エミリー: クレアは悪人なんかじゃないもん!エミリーの友だちだもん! クレア: ………… ピュルテ: これは難しい状況ですね。人間さんはどう思いますか? シンデレラ: 2人を拘束するには状況証拠だけではやはり弱いと思う?そうなのよね。どうやってスタッカータに文字を書いたのか、あの文字にはどういう効果があるのか、それを証明しないとなんとも…… ピュルテ: すごい、人間さんもシンデレラさんも名探偵みたいです! エミリー: じゃあ実際にエミリーのペンで、なにか書いてみればいいんじゃないの? ピュルテ: え?書くって、そのペンで……あ、ああっ ティンカー・ベル: あは、あはは、くすぐったいよ、なに? ヴェルメリオ: ……書かれてるよ ティンカー・ベル: え、うそ!?ディマイト暴走まったなし! ドロシー: 大丈夫よ。おっぱいが大きくなる薬って言って水でも飲ませれば、すぐに解除されるわ ティンカー・ベル: 三つ編みはティンカをなんだと思ってるの!? シンデレラ: でも、何も起きないわね スタッカータ: あたし、楽屋の入り口くらいで記憶がないの。ってことは、書かれて暴走するまで、そんなに時間かからない気がする ピュルテ: そんなところも、地上であったお菓子の感染とは違いますね ドロシー: 身体に行き渡るまでに時間かかってたもんね トリル: ということは、やっぱりこの方たちは スラー: ただ書けばいいのではなくて、何か呪文とか魔法陣を書いていた可能性はない? ピュルテ: スタッカータさんにあったのは、確かに何か記号っぽい感じでしたね エミリー: だって、どんなのかエミリーわかんないもん クレア: その記号だか呪文を知らないという証明ができれば良いけど…… シンデレラ: 知らないことを証明することはできないわよね。いわゆる悪魔の証明だわ トリル: これ以上、捕まえておくには証拠が弱い気がします 衛兵: では、釈放としましょうか クレア: 当然ね スラー: いえ。釈放するのは、そちらの無口な方だけです クレア: なんだと? エミリー: ええっ!?エミリー、まだ捕まったままなの?どうして、どうしてっ スラー: 完全に疑惑は消えたわけではありませんから。とりあえずペンを持っていなかったあなたは釈放します クレア: 私はエミリーとここにいる エミリー: いいよ、クレア。先にここを出て、エミリーの無実を証明して! クレア: ……わかった スタッカータ: え〜、いいの?そんな簡単に釈放しちゃって。もしこのクレアって子が真犯人だったら…… シンデレラ: クレアはエミリーが解放されるまで、私たちと一緒にいてもらうわ。それなら万が一クレアが真犯人でも安心でしょ? クレア: 私もエミリーも、犯人ではない シンデレラ: それをあなたが証明するんでしょ?だったら私たちと一緒に来て エミリー: お願い、クレア。早くエミリーをここから出して! クレア: わかった。エミリーのために、あなたたちと一緒にいく (背景切換...) ドロシー: 成り行き上ではあるけど、一緒に行動するんだから仲良くしましょう クレア: ………… ピュルテ: 見事なまでに無口無表情……まるで能面のようですね ティンカー・ベル: 能面?じゃああんたのあだ名は能面ちゃんで決まり! クレア: ………… トリル: エミリーさんのことが心配なのですよね。早く真犯人を見つけましょう スタッカータ: トリル、あのエミリーって子が犯人の可能性もまだ十分残ってるんだからね クレア: エミリーは犯人じゃない。真犯人は私が捕まえる ヴェルメリオ: ……仮に真犯人が他にいたとして、大勢で動くのは得策じゃあないと思う シンデレラ: 確かに。これからは二手に分かれて、普段通りに行動しましょう。エミリーが犯人として捕まっているのを利用して、敵を油断させるの クレア: そういうことなら協力する ドロシー: グループ分けは、平等にくじ引きよ! ティンカー・ベル: がってんしょうちのすけ!人間さんと同じグループになってもなれなくても恨みっこなしだからね! 99 - Trio:竜宮城へ ヴェルメリオ: ……ついてきて邪魔じゃなかった? トリル: 全然です、気にしないでください。ずっと宮殿にいてもつまらないでしょうし ティンカー・ベル: ダンスレッスンでしょ!ティンカ、ネバーランドでは動ける妖精ってことで名前が通ってるんだから ヴェルメリオ: ……ほんとかな スタッカータ: あっ、人間さんも意外と身体動くじゃん クレア: ふん、くだらない ティンカー・ベル: そんなこと言わないで、着いたら一緒にやろうよ! クレア: 私が?冗談はほどほどにして ヴェルメリオ: ……これから行く場所に、ダンスの先生がいるの? トリル: そうなんです。海底では踊りや歌で有名なんですよ。竜宮城って (背景切換...) 乙姫: は〜い、いらっしゃ〜い、トリルちゃん、スタッカータちゃん。今日はずいぶん大勢で…… ヴェルメリオ: ……ここが竜宮城。すごくキレイだね ティンカー・ベル: それに広いよ!ここでなら、思う存分踊れそうだね! 乙姫: は〜い、ではさっそく始めましょうね〜 浦島みずえ: あっ、乙姫!楽しそうなことしてるね。あたしも混ぜてよ! 乙姫: いいですよ〜。それじゃまずは基本のステップから〜。尾びれをピンと伸ばしてくださいね ティンカー・ベル: えっ、ど、どこを伸ばせばいいの!? (…………。) スタッカータ: ふああー、終わったあ!乙姫先生、口調は柔らかいんだけど要求してくることがエグいー! トリル: 明日はきっと身体じゅうが筋肉痛ですね ティンカー・ベル: でも楽しかった! ヴェルメリオ: ……う、うん。しばらく立ち上がれそうにないけど 乙姫: 楽しんでもらえてよかったです〜。落ち着いたらお風呂をどうぞ〜 浦島みずえ: 人間さんも上手だったじゃん。そこの子も参加すればよかったのに クレア: 私はいいの 浦島みずえ: でもお風呂はみんなで行こうよ!ねっ クレア: いいけど…… 浦島みずえ: ほらほら、こっちが大浴場だよ! ティンカー・ベル: わー、大きいお風呂、楽しみ〜! トリル: あ、あの、人間さん。男湯はそちらですので…… ヴェルメリオ: ……そっか、1人になっちゃうんだね スタッカータ: またあとでね〜 (背景切換...) (…………。) ティンカー・ベル: うわあー、広いねー! 乙姫: あら、走ると滑って危ないですよ 浦島みずえ: こらティンカ、流してから入るのがマナーだよ! (……!!) (竹で編んだ衝立の向こうから、楽しげな声が聞こえてくる。) (どうやら男女を隔てるのは、この衝立1枚だけのようだ。) (耳を押し当てて様子を伺う。) クレア: 全員で入るの? トリル: はい!クレアさんも一緒ですよ スタッカータ: 丸腰で一緒にいれば安心でしょ。って、クレア……意外と大きいわね クレア: え?ああ、胸。そうなの? 浦島みずえ: ヴェルとかすっごいよね。乙姫も大きいけど (衝立の向こうから聞こえる会話にエルマイトが高まり、身体が火照ってくる。) スタッカータ: 大きければいいってもんじゃないんだからね! トリル: そうなんですね。何が大事なんですか? 浦島みずえ: 無邪気な顔して……意味分かって聞いてんのかな ティンカー・ベル: あんたたち……これ以上ティンカの前で、おっぱいのこと話したらタダじゃすまないよ! 乙姫: まあまあ。落ち着いて…… (ガシャーン) スタッカータ: えっ、なに、敵!? ヴェルメリオ: ……人間さん。えっ、柵にもたれてたら壊れちゃった? 浦島みずえ: なんでガードしてるの?え、あたしたちに桶を投げつけられる?なんで? クレア: 女湯を覗いた時のお約束?なるほど、そういうものか (カコーン) スタッカータ: わざわざ投げなくてもいいでしょ! 乙姫: せっかくだから一緒に入りましょうよ、人間さん 浦島みずえ: そうそう!最初から混浴にすればよかったね! トリル: えっ、そんな、恥ずかしいです ティンカー・ベル: ティンカだって、見せられないよ……あっ、ちょっと、乙姫とみずえに挟まれて人間さんがのぼせちゃってるよ! スタッカータ: 顔真っ赤にして浮いちゃってる!早く助けてあげて! クレア: あ、気がついた ティンカー・ベル: もう、心配したよ。あのね、人間さんはお風呂でのぼせちゃったの。覚えてる? クレア: 情けない ティンカー・ベル: しょうがないよね。ティンカのお色気にあてられちゃったんだもんね ヴェルメリオ: ……はいはい、そうだね 乙姫: は〜い、みなさん。お食事の支度ができましたよ〜。あら、人間さんもお目覚めですね。ちょうどよかったです〜 トリル: わああ、美味しそうです。人間さんも起きて、みんなで食べましょう スタッカータ: え?ああ、心配しないで。最初から泊まりの予定なの。人間さんが倒れたせいで泊まりになったとかじゃないから 浦島みずえ: 細かいことは気にしないで、何泊でもしていけばいいよ!ねっ♪ ヴェルメリオ: ……明日もレッスンなの トリル: もちろんです。せっかく来たんですから、みっちりレッスンしてもらわなきゃ スタッカータ: あたし、歌はトリルに負けるけど、ダンスは結構張り合えるんだよね ティンカー・ベル: そんなこと言って、またディマイト暴走させないでよ? 浦島みずえ: なになに、何かあったの? ヴェルメリオ: ……うん、実は (…………。) ヴェルメリオ: ……ってことがあったの ティンカー・ベル: いま、ずきんめっちゃ喋ったね 浦島みずえ: でも犯人は見つかってないんだ。怖いね ティンカー・ベル: あ、うん、まあね…… クレア: ……。まだ疑ってるのね ティンカー・ベル: い、いやっ、そういうわけじゃないんだけどさ クレア: だからこうして監視するために連れてきたんでしょう ヴェルメリオ: ……残ったあの子が心配なの? クレア: そうね。エミリーのことは、確かに心配 スタッカータ: 子供っぽい子だったし、寂しくて泣いてるかしら クレア: エミリーはあれで、意外としっかりしてるわ。私よりよっぽど ヴェルメリオ: ……ピュルテたちとはうまくやれてるかな 100 - 主部:囚われのエミリー エミリー: あなたたち!真犯人が見つかったの?エミリーは釈放だよね?ね? ピュルテ: いえ真犯人はまだ……。エミリーさんの様子を見に来たんです エミリー: なーんだ……しょんぼりだなぁ シンデレラ: そんなこと言わないで。私たちの仲間と、クレアが頑張ってるから エミリー: どうせまだエミリーを疑ってるんでしょ?特にその人魚さんは スラー: 私?私は……確かに、まだあなたを疑っているわ。怪しい人物は今のところ、ペンを持っていたあなただけだもの ドロシー: そうだ!差し入れを持って来たのよ。ヴェル特製のシーフードパイ エミリー: いらない……食欲ないもん ドロシー: そうなの?じゃあ私がいただきま……あ、シンデレラ、ちょっと! シンデレラ: 衛兵さんに預けておくから、お腹がすいたら食べてね。きっと元気がでるわ エミリー: あの……なんでエミリーに優しくするの?犯人かもしれないと思ってるのに ピュルテ: 疑わしきは罰せず、です エミリー: 難しい言葉なんてわかんないよ……ここから出たい。早くお家に帰りたい…… スラー: なんだか……エミリーが可哀想になってきました、陛下。彼女は犯人ではないのかも ピュルテ: 私も、やっぱりエミリーさんは犯人ではない……と思います シンデレラ: そうね。スラーから衛兵さんに頼んでもらえば、エミリーを釈放することができるわよね? スラー: ええ、さっそく頼んで…… エミリー: ううん、エミリーはここからまだ出ない ピュルテ: え?!どうしてですか?!さっき早く出たいって言ってたじゃないですか エミリー: クレアが真犯人を捕まえてくれなくちゃ、エミリーのこと、心の底から信じてくれないんでしょ?そんなの……嫌だもん ドロシー: エミリー……。わかったわ、必ず私たちがあなたの無実を証明してみせるわ! シンデレラ: みんな静かに!……何か音がしない? ピュルテ: あ、あそこを見てください!魔物が現れています! スラー: まさか!この海底監獄に魔物が進入してくるなんて! ドロシー: まずい、牢屋の中に現れてる。このままじゃエミリーが エミリー: え、うそ!助けて!襲われちゃうぅ! スラー: 早く!牢を開けて! 衛兵: はい!……、開けました! シンデレラ: 早くこっちに!魔物がすぐそこまで来てるわよ エミリー: こわかったぁ……どうして急に魔物が出てきたんだろ ドロシー: それじゃ、後は私が片付けてあげるわ ピュルテ: た、大変です!こっちからも! ドロシー: ええっ!?いくら私が強くてもおっつかないわよ! エミリー: エミリーの武器、返して!エミリーも戦う! シンデレラ: 緊急事態よね。もしあなたが敵だったらっていうリスクもあるけど…… スラー: 陛下……私のセイレーンロウも単体攻撃、数で押される今は少しでも手がほしいところです ピュルテ: 私は……戦えないですし…… シンデレラ: わかったわ!あなたを信じるわよ、エミリー! エミリー: ありがと!信じてくれたからには、がんばって倒しちゃうよ!ええいっ! ドロシー: エミリー!なかなかやるじゃない! シンデレラ: 頼りにしてるわよ、エミリー! エミリー: おっけー♪エミリーね、ずっと牢屋に閉じ込められてて、動きたくて仕方ないんだっ! (…………。) ドロシー: ふう、なんとかなったわね スラー: 助かったわ。それと……この状況を考えると、やっぱりエミリーは犯人ではないと考えるべきですわね シンデレラ: そうね。魔物を呼び出したのもエミリーだとしたら、その機に乗じて脱獄しないのは不自然だし ドロシー: 最後まできっちり戦ってくれたし エミリー: やっと信じてもらえた?よかったぁ! シンデレラ: ピュルテちゃん、表情が暗いけど……どこか怪我でもした? ピュルテ: あ、いえっ、突然魔物が襲ってきたのでびっくりしてしまって シンデレラ: そう? それならいいんだけど ピュルテ: やっぱり…………やっぱり、私…… ドロシー: エミリーの疑いも晴れたことだし、竜宮城に行ってる連中は呼び戻す? シンデレラ: いえ、真犯人探しは二手に分かれたまま、引き続き続けましょう スラー: そうですわね、陛下。第二の被害者が出ないうちに捕まえないと! エミリー: クレア、みんなと仲良くできてるかなぁ……ま、大丈夫かな ピュルテ: ………… ドロシー: 人間さんなら大丈夫よ、ピュルテ。誰かに手を出してたら、私がお仕置きしてあげるわ! ピュルテ: あ、いえ……は、はい。そうですね…… (背景切換...) ティンカー・ベル: 明日は一緒にダンスしよーね、人間さん クレア: 人間界の人間、見た目は私たちと変わらないのね ヴェルメリオ: ……オトギノクニは、元は人間界の想像力でできた世界だから スタッカータ: 人間界の想像力かぁ。あたしたちが魚と人型のダブルなのも、竜や魔女や魔物も、人間界が創り出したってことだよね? トリル: 人間界には人魚も魔女もいないから、いてほしいと思うものを想像して創り出したと……想像力って素敵です! クレア: 私は何? ティンカー・ベル: え?能面は……女の子、でしょ? ヴェルメリオ: ……創造期のこと? クレア: 創造期? スタッカータ: 昔の時代のこと。例えば、妹のトリルは人間の男に恋して、大失恋したっていう悲しい時代があったの トリル: スタ姉様、悲しくなんかないですわ。今となれば素敵な思い出ですもの ティンカー・ベル: 能面はどうだったの?創造期 クレア: 私?私は…… ティンカー・ベル: ティンカはね〜、ペトラっていう赤ちゃんを…… ヴェルメリオ: ……長くなるからストップ 乙姫: あらあら、まだ起きていたのですか〜?早く寝ないと、明日にさわりますよ 浦島みずえ: 朝ごはんはあたしが作るよ!人間さんのために、特製のおかゆをね♪ ティンカー・ベル: みんなもう寝よう! 乙姫: は〜い、みなさんおやすみなさい クレア: ………… 101 - Coda:みずえの暴走 ティンカー・ベル: 朝ごはんだ、楽しみだなー! スタッカータ: あのみずえちゃんって子が、特製のおかゆ作ってくれるって言ってたのよね トリル: 朝から美味しいごはんが食べられると、元気になりますよね! ヴェルメリオ: ……味を覚えて、レパートリー増やさなきゃ クレア: でも一向に来ないわね 乙姫: あら〜、みなさん、おはようございます〜。あの、みずえちゃん見ませんでした〜? ティンカー・ベル: へ?台所にいないの?どうしたんだろ、寝坊かな スタッカータ: えー?楽しみにしてたのに、おかゆ トリル: 朝ごはんのことはいいとしても、ちょっと様子を見に行ってみますか? ヴェルメリオ: ……そうだね (背景切換...) トリル: お留守のようですね。どこに行ってしまったんでしょう スタッカータ: どうしたの、人間さん。え、まだ布団があったかい? クレア: なら、まだ近くにいるということね ティンカー・ベル: それは分かったけど、なんで人間さんは布団に入ったり、あちこち嗅いだりしてるの ヴェルメリオ: ……匂いで探し当てるの? クレア: ただの変態ね 乙姫: でも、みずえちゃんたら、どうしたのかしら (ズガアアン) スタッカータ: い、今の音は!? トリル: 外から聞こえましたよ! ティンカー・ベル: うっそ、まさか……!? (背景切換...) ティンカー・ベル: やっぱり!ずきん、あれどう見ても ヴェルメリオ: ……ディマイト暴走状態だよね クレア: あれがディマイトに操られている状態ってことなのね 乙姫: やめて、みずえちゃん!どうして〜?どうして暴れて、私の城を壊そうとするの〜? 浦島みずえ: この城は人をダメにする、悪い城なんだよ!だからあたしが、みんなを代表して壊しちゃうんだ! トリル: あんなに元気でいい子だったみずえさんが……!みずえさんのこともスタ姉様みたいに元に戻せますか、人間さん!? ヴェルメリオ: ……きっとどこかにあの記号があるはず スタッカータ: みずえもあたしと同じ奴にやられたってこと?!じゃあ、牢屋に入れられてるエミリーは…… クレア: エミリーは犯人じゃないと言った ティンカー・ベル: 誰が犯人でもいいから!とにかく記号を探して! 浦島みずえ: 竜宮城なんてぐちゃぐちゃにしてやる!う、ううっ、あああっ! 乙姫: やめてぇ!みずえちゃん!本当に城が壊れちゃう! トリル: みずえさんの動きが激しすぎて、なかなか見えませんね ティンカー・ベル: 人間さん、どう?!俺の動体視力じゃ追いつかないって、情けないこと言わないで! ヴェルメリオ: ……もっとブルーベリーを普段から食べておけばよかった 浦島みずえ: 竜宮城を壊したら、次はお前たちの番なんだからね! スタッカータ: あ、見て!二の腕のとこ! ティンカー・ベル: あれは海藻が絡まってるだけだよ! クレア: 胸……胸の谷間にある、記号 乙姫: あらぁ〜、ほんとです!みずえちゃんの谷間に何か文字のような…… トリル: あ!人間さんが! ティンカー・ベル: みずえの胸の谷間めがけて飛び込んだーっ! 浦島みずえ: な、なにするの!うぅっ!!このっ!このっ!やめて!胸の谷間に顔を入れないでっ! クレア: ゲスの極み ティンカー・ベル: 人間さん!いい加減にしなさーいっ! ヴェルメリオ: ……人間さんが変態として捕まる前に記号を消す! スタッカータ: 今だよ!トリル、みんなで抑えるから記号を消して! 浦島みずえ: うっ……うう…… ティンカー・ベル: やっとおとなしくなった 乙姫: 竜宮城もみなさんも無事で、本当によかったです トリル: 記号を見つけたクレアさんと、人間さんのおかげですね〜、うふふ ヴェルメリオ: ……人間さん、舐めて記号を消そうとしたよね?次は……許さない ティンカー・ベル: にしても、クレア。あんたもなかなかやるじゃん。手伝ってくれて助かったよ クレア: 大した働きはしていないわ 浦島みずえ: あ、ううっ、がふっ…… トリル: ああっ、スタ姉様と同じように口から美しいアゲハ蝶が! ヴェルメリオ: ……またトリルの髪飾りに引き寄せられてる 乙姫: 口から出たアゲハ蝶が吸い込まれていきます〜 クレア: あのアゲハ蝶は一体なんなの? スタッカータ: たぶん……ディマイトの残像ってやつ? 浦島みずえ: ……はっ、あたし、何してたんだっけ……? 乙姫: よかったわ〜、みずえちゃん無事なのね〜? 浦島みずえ: えっと、確か……そうだ、おかゆを作らなきゃと思って布団から起きて、それで…… ティンカー・ベル: ディマイトに操られてたんだよ。例の記号みたいなのを書かれてね 浦島みずえ: うん……だんだん記憶が戻ってきた。そうだ、あたし暴れてた。みんな、ごめんね、ほんとに スタッカータ: なんとかなったんだから大丈夫よ。気にしすぎないで トリル: スラー姉様たちのいる海底宮殿は大丈夫でしょうか ティンカー・ベル: 三つ編みがいれば大抵のことは大丈夫だと思うけど……でも心配だね スタッカータ: 乙姫先生。申し訳ないんですが、今回はもうレッスンを切り上げて、戻らせて下さい 乙姫: ええ、もちろんですよ〜。落ち着いたらまた連絡くださいな〜 浦島みずえ: あ、あの、みんな!……その、手遅れになる前に、止めてくれてありがとう ティンカー・ベル: お安い御用だよ! クレア: エミリーが心配 ヴェルメリオ: ……みんなもついてるから。きっとだいじょうぶ 102 - 第一主部:迷い込むピュルテ スラー: 真犯人を探すにはまず何をすべきですか?陛下 ドロシー: ペンをもった怪しいやつ、手当たり次第に殴って白状させましょう! エミリー: 乱暴なのはエミリー怖いよぉ シンデレラ: 普段見かけない誰かがいれば、スラーたちの耳にもはいると思うんだけど ピュルテ: そうですね。エミリーさんとクレアさんもそれで誤解されてしまったのですし スラー: もしかして、海底の住人が真犯人でしょうか。ディマイトに操られて…… シンデレラ: ディマイトに操られている、というより、犯人はディマイトを操っているわ。とても強敵よ エミリー: ディマイトを操るって、そんなことができるの? シンデレラ: 前回はお菓子で、今回はペンで記号を書いてディマイトに感染させてる。認めたくないけど、敵はディマイトに関しての相当の知識を持っているのね ピュルテ: そしてリルちゃんを騙して仲間に引き入れたんです。なにか特別な魅力も持ち合わせているのかもしれません ドロシー: どんなに強くたって、どんなに魅力あるイケメンだって、私がぶっ飛ばすまで! エミリー: ドロシーって究極のバカか、頼もしい仲間なのか、判断が難しいなぁ スラー: ひとまず宮殿に戻って、トリルたちの帰りを待つことにしましょうか シンデレラ: ええ、そうし……ピュルテちゃん!よけて!魔物がっ! ピュルテ: え? あっ、きゃああああ ドロシー: ちょっとあんた!ピュルテを離せ!離しなさいっ! エミリー: ま、魔物にさらわれちゃったよぉ〜!ど、どうするの〜?! (背景切換...) ピュルテ: ん……んん……うぅっ…… ピュルテ: 私……魔物に襲われて…… ピュルテ: ここはどこ?真っ暗で……何も見えない…… ピュルテ: シンデレラさん!ドロシーさん!スラーさん!エミリーさん! ピュルテ: 誰も……いない……私だけ?私……ひとり…… ピュルテ: 人間さん!人間さん……人間さん……さん ピュルテ: きっとみなさん、私を探してくれて……また迷惑をかけてしまいました ピュルテ: どうして私……こんなにダメなんでしょう ピュルテ: こんなに役に立たなくて……私は、私なんか…… ピュルテ: みんなや……人間さんのそばにいる資格、ない…… ???: ねえ、力がほしい? ピュルテ: 誰?!誰かいるのですか?! ???: 戦う力がほしい?愛する人を守れる力を ピュルテ: 戦う……力?愛する人を守る…力。それは、それは何なのですか?! ???: お前が望むなら力を授ける。ほしい? ピュルテ: ほ、ほしいです!私、守りたい人たちがいるんです!守りたい……人が ???: お前が望むなら ピュルテ: これはっ……赤い宝石?キレイ……です ピュルテ: あっ……宝石が私の体の中にっ!……す、吸い込まれちゃいました…… ???: 準備は整った。その時がきたらお前は力を得られる ピュルテ: え、今ので終わり? ???: 戦う能力は秘密の言葉で発動する。一度しか言わぬ、覚えておけ ピュルテ: は、はいっ! ???: その前に。この力をお前が発動するとき、お前はもうひとつの力を失う ピュルテ: もうひとつの……力? ???: お前は人間界へ行く能力を失う。二度と人間界へは行くことが出来ない ピュルテ: えっ……二度と人間界へ……行けない?そ、それじゃあ私は人間さんと…… ???: 戦う力を使うのかは、お前次第。それでは秘密の言葉を伝える。言葉は…… (…………) ドロシー: 見つけた!ピュルテは無事よ! スラー: ああ、ピュルテさん。無事でよかった ピュルテ: みなさん……私…… シンデレラ: 魔物にさらわれて怖かったでしょ。すぐに助けてあげられなくてごめんなさいね ピュルテ: いえ、そんな……私がぼーっとしてたから エミリー: ピュルテ、大丈夫?なんだか元気がないみたいだけどぉ、怪我とかしてない? ピュルテ: はい、私は大丈夫です。大丈夫……です トリル: スラー姉さま!みなさん!おかえりなさい スラー: 戻っていたのね、トリル スタッカータ: ちょっと竜宮城で事件があって、早めに切り上げてきたの シンデレラ: 事件? ヴェルメリオ: ……みずえがディマイトに感染した ドロシー: なんですって!?みんな無事?みずえは? ティンカー・ベル: 体にあった記号を消したら、もとに戻ったよ。乙姫もみずえも無事 シンデレラ: 記号……でもこれではっきりしたわ。エミリーはやっぱり、犯人じゃない エミリー: ふぅ、ちょっと喜ぶには複雑な心境だけど、疑いが晴れたのはよかった〜 クレア: エミリー、無事でよかった エミリー: うん!みんなが助けてくれたし、エミリーも魔物と戦ったんだから〜 ヴェルメリオ: ……ピュルテ、元気ない?人間さんが心配してる ピュルテ: え、あ、いえ、大丈夫です エミリー: ピュルテは、さっき魔物に襲われちゃったんだよ。それで元気がないの ティンカー・ベル: ぜんっぜん大丈夫じゃないじゃん! ピュルテ: あ、いえ、何もされていませんし、怪我もしてないし、みなさんがすぐ……助けにきてくれましたから スタッカータ: ったく、平和だった海底がなんだか物騒になってきちゃったわね。早く真犯人を見つけて、やっつけなくっちゃ クレア: エミリーに濡れ衣を着せた犯人、私も許せない ドロシー: あら、気が合うじゃない スラー: 危ないことはやめてよ、スタッカータもみんなも シンデレラ: そうよ。相手は正体不明の強敵よ。絶対に無理しないこと! ティンカー・ベル: 人間さんもね!みずえの時は暴走しちゃってさ ピュルテ: 人間さんが?! ヴェルメリオ: ……みずえの体の記号、消そうとしてた ドロシー: もう、人間さんは戦えないんだから無理しちゃだめよ ピュルテ: 人間さんも……みんなの力になりたいってがんばってるんですよね クレア: ただの下心だと思うけど 103 - レラティブキー:旅の仲間 ピュルテ: あ、人間さん。私のこと、心配して見に来てくれたんですか?……すみません、ぼーっとしちゃってて ピュルテ: 大丈夫です。ちょっと、ちょっとだけ考え事をしていただけなんです。悩みがあるなら聞く?人間さん…… ピュルテ: 人間さんって本当に優しいんですね。私なら大丈夫です!今、元気でました。ありがとうございます! シンデレラ: ピュルテちゃん、人間さん、ちょっと来てもらえる? (背景切換...) スラー: エミリーとクレアの疑いは晴れました。しかし、真犯人が捕まっていない状態で海底は不安定です。見慣れない2人に怯える住人がいます エミリー: え〜、エミリーたちが嫌われてるってことぉ? スタッカータ: みんなナーバスになってるの。2人には悪いけど、海底にいる間は見張りをつけさせてもらうから スラー: それと、近日中に海底の国から出ることも条件ね ヴェルメリオ: ……それって国外追放ってこと? シンデレラ: じゃなくて、たぶんお互いのためよ。無実になったとは言え一度は最有力被疑者だったんだもの。この子たちだって海底にこれ以上滞在するのは辛いでしょ ドロシー: 海底の国も、一度は捕まえた相手を釈放するのに、あまりフラフラされると体裁が悪いってわけね トリル: ……そうだ!人間さんたちと一緒に行動していただければ良いではないですか!スラー姉さま、スタ姉さま ドロシー: え?私たちが? クレア: 待って。この人たちと一緒に旅? エミリー: いいと思うよぉ。楽しい人たちだし、それが解放される条件なんだもん クレア: エミリーがそういうなら ピュルテ: 人間さんも大賛成だそうです。やっぱり2人だけで旅するのは心配なんですって ヴェルメリオ: ……そうなると、すぐには海底を出て行かなくなるけどいいの? スラー: 皆さんと一緒なら私達も安心ですから。問題ありませんわ ティンカー・ベル: じゃあ、決まりだねっ ドロシー: じゃあエミリーとクレアは一緒に来るってことでいいとして……肝心の私たちが、これからどうするべきかってことよ シンデレラ: そうね。スタッカータやみずえを元に戻したとは言っても、完全に後手に回ってるのは確かだわ ピュルテ: そうですね。情報が足りないです。新たなディマイトの拡大方法に対応できる何かがほしいですよね トリル: あの……それって、私の髪飾りについてる宝石のこと、手がかりになりませんか? ティンカー・ベル: そうだ、言い忘れてた!みずえのときもね、文字を消したら口から黒いアゲハ蝶みたいなのが出てきたんだよ ヴェルメリオ: ……そのあと、トリルの髪飾りに吸い込まれたの ドロシー: だとしたら……その髪飾りの秘密を解き明かせば、ディマイトに対抗する手段が見つかるかもしれないわよね スラー: トリルの髪飾りは我が家に代々受け継がれてきたものよ。中でもその宝石、ヴェルザームは大昔に海底王国の長老・クラーケン様から戴いたそうよ。もしかしたら、何かご存知かもしれないわ ピュルテ: さっそくその長老さんのところに話を聞きに行きましょう!あの、道案内をお願いできないでしょうか スタッカータ: トリル、ご案内して。場所は分かるでしょ? トリル: はい〜。でもスタ姉様は来ないんですか?あっ、方向音痴だからですか? スタッカータ: こんの……これだから天然はっ…… ヴェルメリオ: ……同志! ピュルテ: それじゃあ、さっそく出発ですね! エミリー: あ、あの。これからしばらく一緒に旅することになるけど……よろしくねっ シンデレラ: ええ、こちらこそ。私達の仲間はおかしな人ばっかりだけど、みんな根はいい子たちだから クレア: 確かに強烈だった ドロシー: ほんとに、おかしな人達ばっかりよね。これで意外とチームワークはあるって不思議よね ティンカー・ベル: 三つ編み。おかしな人の筆頭は三つ編みだよ。分かる、筆頭って言葉の意味 ピュルテ: わざわざ道案内いただいてありがとうございます、トリルさん トリル: スラー姉様はお忙しいし、スタ姉様は方向音痴みたいですから。でも……大事なことをみんな忘れているみたいで ティンカー・ベル: なに、大事なことって トリル: 私も方向音痴なんです ティンカー・ベル: それ、早く言ってよ〜!もう海底宮殿を出発してから1時間くらい経ってるんだからね! シンデレラ: えっ、じゃあ今こうして歩いてるのもムダかもしれないってこと? ドロシー: ストーップ!正しい道を歩いてるって分かるまではストップしましょ! ヴェルメリオ: ……仲間 エミリー: エミリーたちに土地勘があればよかったんだけどねぇ ダル・セーニャ: そんなことだろうと思ったわ。ここからは私が案内します トリル: セーニャさん!どうしてここへ ダル・セーニャ: ファンの第六感ってことで。べ、別にずっと陰から見守ってたとかではないのよ ティンカー・ベル: う、うん。せめてリアルに張り付いてるんじゃなくて魔法だったらいいなとは思う ピュルテ: でも助かりました……永久にたどり着けずに海の藻屑になるところでした ドロシー: これで安心ね!でも長老のクラーケンってどんな人なの? トリル: クラーケン様は〜、人っていうかビジュアルはイカ型なので シンデレラ: それって時々出てくる、イカの魔物とは違うのよね? ヴェルメリオ: ……あれ、イカっぽいけどタコだよ エミリー: ねえねえ、それってあいつらのこと? ティンカー・ベル: げっ!魔物の群れなんだけど!みんな、準備準備! (…………。) トリル: 突然だったから焦りましたね〜 シンデレラ: でも、エミリーがなかなかやるのは知ってたけど、クレアもすごいじゃない クレア: 普通では? エミリー: 一緒に連れて行ってもらうんだから、脚は引っ張らないようにしないとねっ クレア: お荷物とは言われたくない ピュルテ: ……お荷物、か…… 104 - 展開部:おかしだいすき ダル・セーニャ: クラーケン様の住む海底洞窟までは数日かかるから、町で食べ物など準備していきましょう エミリー: はいはーい!エミリー、お菓子いーっぱい買いた〜い クレア: 野菜も食べないと、エミリー エミリー: ぶぅ!野菜は甘くないから嫌! シンデレラ: 私はお酒を……重さがネックなのよね ヴェルメリオ: ……念のため、海底の地図を ドロシー: パワーアンクルとかないのかしら。もっと鍛えたいのよ ティンカー・ベル: ねえ人間さん、ペアルックでも買う? ピュルテ: …… トリル: ピュルテさんは何も買わないのですか? ピュルテ: あ、いえ、何を買うか迷ってしまって……トリルさんは? トリル: クラーケン様へのお土産を。……あの、差し出がましいようですが、何かお悩みでもあるのですか? ピュルテ: え?! トリル: 最近、ふさぎ込んでずっと元気がないみたいですので ピュルテ: す、すみません。ご心配をおかけしてしまって。ちょっと長旅の疲れが出てきていて トリル: あまり無理しないでくださいね。ピュルテさんはもっと、人間さんやみなさんを頼っていいとおもいます ピュルテ: 逆です……私、みなさんを、人間さんを頼ってばっかりで…… ティンカー・ベル: そんなにお菓子ばっかり買ってどうすんの?!子どもじゃないのに エミリー: エミリーは頭を使うから糖分が必要なの。うーん、ティンカには理解できないかな? ティンカー・ベル: ちょ!ティンカだって甘いものが必要だよ!チョコとかクッキーとか好きだもん! クレア: 理解できないようだね シンデレラ: 前に人間さんが言ってたわ。脳に必要な栄養素は糖分だって エミリー: エミリーは、あれこれ考えたりするのが大好きなの。そうするとお腹が空くより、甘いものが欲しくなるの。お菓子はエミリーにとって大切なエネルギーなんだよ ヴェルメリオ: ……太らない体質?うらやましい トリル: こんなに大勢での夕食、楽しいですね♪ シンデレラ: 明日からの旅に備えて、みんなたくさん食べて、くつろいでね (…………) ダル・セーニャ: え!?地上にはアイドル大好きなオオカミが? ティンカー・ベル: うん。海底に来たらトリルのことも追っかけまわすと思うよ トリル: まあ☆お会いしたいです ダル・セーニャ: ま、負けられないっ……! ピュルテ: 本当にこの旅で、たくさんの方に出会ってきましたね ティンカー・ベル: だね!人間さんにも出会えたし。始まりは小さな島だったよね ヴェルメリオ: ……私は作ったパイをティンカに渡すはずが、姐さんたちに無理やり仲間にされた シンデレラ: そうだったわね〜 ティンカー・ベル: そこからオズの国に行って、三つ編みと出会って ヴェルメリオ: ……初めてディマイトに感染した住人と遭遇したのもオズの国 シンデレラ: みんなで団結して必死に戦って、感染者を元に戻せて本当によかった ドロシー: あの時はオズや仲間を助けてもらって感謝してるわ ティンカー・ベル: ティンカ大活躍! ドロシー: ネバーランドでは妖精さん、フックと喧嘩ばっかりしてたわね ティンカー・ベル: 喧嘩じゃないもん! シンデレラ: 魔法の国でも人間さんやみんなに助けられたわね。リルのことはまだ解決していないけれど、きっと良い方向に向かっていると信じてる エミリー: いいな、なんだか思い出いっぱいで楽しそう クレア: ………… ヴェルメリオ: ……大変なこともいっぱいあったけど、人間さんと、みんながいたから乗り越えられた ドロシー: そうね。これからもみんなで力を合わせて、ディマイトと戦いましょう! シンデレラ: エミリーとクレアとも、これからは思い出を作っていきたいわ エミリー: うん♪ 思い出素敵〜! クレア: ……。ちょっと失礼する。外の空気にあたりたい クレア: お前……人間さん。なんだ、後を追ってきたのか?私?別に何も。外の空気にあたると言ったはず ドロシー: クレア、人間さん、私もまぜてよ クレア: ドロシーまで…… ドロシー: 私だって外の空気を吸いにきただけよ。ん?海底で空気を吸うっていうのもなんだか矛盾してる気がするけど、まあいいわ クレア: 好きにすれば ドロシー: なんだか寂しそうな顔。もしかして、ホームシックだったりしない? クレア: ホームシック? ドロシー: 私は、よく故郷カンザスのことを考えて寂しくなるわ。急に発作みたいにくるのよ。ねえ聞かせてよ、クレア。あなたの故郷はどんなところ? クレア: ………… ドロシー: あ、ごめん。急にずけずけ入りすぎだよね。嫌なら無理しなくても クレア: 嫌ではない。ただ……私には記憶がないの ドロシー: 記憶がない?故郷の? クレア: 全部。エミリーと出会う前の記憶が、私にはない ドロシー: 記憶が……それって、すごく孤独よね クレア: 自分が何者なのかもわからない。それが普通なのかと思っていたが、お前たちと出会って違うのだとわかった ドロシー: エミリーは何か知らないの? クレア: エミリーも出会う前の私は知らないと言っている ドロシー: そう。それは辛いわね クレア: なぜ?記憶がなくても、私にはエミリーがいる。辛いと思ったことはない ドロシー: そうね。確かに、私がホームシックになるのは、家族と過ごした記憶があるからだわ。最初から無ければ、寂しくなって1人で泣くこともない クレア: そのとおり ドロシー: でも辛いとき支えてくれるのも、思い出なのよ。幸せな思い出が、記憶が残っているから苦しい時のあと一歩を踏み出せるの クレア: そういうものか。なら私は欠けているんだな ドロシー: でもエミリーと過ごした時間は大切な思い出でしょ?エミリーのために頑張れるでしょ クレア: エミリーは特別だから ドロシー: そういうことよ。私も人間さんも、早くクレアの特別になれるといいな。ね? 105 - 果てなき海の底 ダル・セーニャ: ここから先が海底洞窟に続く道よ ティンカー・ベル: な、なんかすっごい一本道がひたすら続いてるんだけど!?これ歩いて……っていうか泳いで、どれくらいかかるの? ダル・セーニャ: 今からだと明日の夕方くらいには着くと思う エミリー: ええ〜っ、遠いよぉ!エミリー、脚パンパンになっちゃうよ クレア: でも洞窟は近づいてこない シンデレラ: 大変だけど、クレアの言うとおりね。進まなきゃしょうがないわ ドロシー: こういうだだっぴろい場所に一本道って、わりとカンザスにもあったから気にならないわ トリル: 辛い時は歌を歌って進みましょう♪ エミリー: あーあ、地上だったら船があるのにな。それで一気にびゅーんっていけるでしょ ヴェルメリオ: ……船でも、そこまで早くはないんじゃない エミリー: それでも寝てるうちに進んでるんだから楽ちんだよぉ。海底でも、なんか石炭とか燃やしてスクリューが回せたら、そういうの作れそうな気がするのになあ ドロシー: あら、ちょっと頭脳派アピール?確かに今、そんなのがあったら便利だけどね エミリー: アピールじゃなくて、本当に頭脳派なのっ!溢れ出る知性! ティンカー・ベル: はいはい、ちびっこは黙っててね シンデレラ: 完全な地上なら馬車とかもあるんだけどね ピュルテ: やっぱり楽を覚えちゃうと、ついつい楽な方にいっちゃいますね ダル・セーニャ: 大丈夫。トリルの歌を聞きながら進んでたら、時間の感覚なんて無くなるよ トリル: あ、じゃあそろそろ歌ってもいいですか? ヴェルメリオ: ……この人たち、歌いたいのと歌聴きたいだけなんじゃ トリル: そろそろ歌は休憩しますね…… ダル・セーニャ: そうだよね。無理して喉を痛めちゃいけないからね シンデレラ: 歌が無くなると景色の単調さが気になってくるわね ティンカー・ベル: 人間さん、なんか面白い話でもしてよ。……ん、人間さん?あ、ああっ、なんか魔物の触手が出てる! ピュルテ: 人間さんがつかまってます! エミリー: ええいっ、放せーっ!あ、ああっ、人間さん、引きずられていっちゃった! (背景切換...) (大きな道から外れて一気にサンゴの森に引きずり込まれてしまう。) (もがいていると、急にふっと力が弱まった。) リル: まったく……手のかかる (リルの剣で斬られ、すごすごと退散していく触手の魔物。) (それを見送っていると、リルはふうっと呆れた顔で刀を鞘に収めた。) リル: 貴君も少しは学ぶなり鍛えるなりしたらどうだ。いつまでも足手まといというわけにもいかないだろう (戦闘に参加できないのは今、ピュルテと自分だけだ。こういう役割だと割り切っているつもりだが、面と向かって指摘されると居心地は悪い。) リル: 何故、助けたか?ふん、貴君の身に何かあればピュルテが悲しむからな。小生も、それは本意ではない。……ずっと後からついてきていたのかだと?ば、バカ言うな。たまたまだ。ただの偶然に決まっているだろう ピュルテ: 人間さんさーん、どこですかー?無事ですかーっ? リル: では小生はこれで。ピュルテのことは頼んだぞ (軽いフットワークでその場から立ち去るリル。見送っているうちに、仲間たちが追いついてきた。) シンデレラ: ああ、よかった!無事だったのね、人間さん クレア: リルに助けられた?それは誰だ ドロシー: かつて仲間だった子よ。色々あって今は別行動なんだけど…… ピュルテ: リルちゃん。傍にいるのかな…… ドロシー: ようやく着いたけど、海底洞窟って予想どおりのジメジメ薄暗い感じなのね ティンカー・ベル: 長老さんちだから悪く言いたくないけど、住みたい環境ではないよね〜 エミリー: な、なんかおばけが出そうで怖いよ〜! クレア: 出るとしたら魔物でしょ エミリー: みんなと一緒だから歩けるけど、こんなとこ1人だったら絶対無理っ ヴェルメリオ: ……それは同感。迷子になって二度と出られない トリル: そんな怖いこと言わないでください〜! ダル・セーニャ: 方向音痴じゃなくても、うっかり脇道に入ったら簡単には出られない。はぐれないようにしてね シンデレラ: って、さっそく分かれ道よ。ダル・セーニャ、これはどっち? ダル・セーニャ: えっ……こんなところに分かれ道なんかなかったはずだけど……わ、わかんない…… ティンカー・ベル: それヤバいでしょ!どうすんの ドロシー: 2手に分かれるしかないでしょうね。この人数だから、そんなに手薄になるわけじゃないし シンデレラ: え?ああ、そうね。人間さんとピュルテちゃんは別々になった方がいいでしょうね ピュルテ: 人間さん、どうしてそんなこと……私と一緒じゃ嫌なんですか?あ、そっか、戦えない人は分散した方がいいって、そういう…… ティンカー・ベル: 俺はおまえを守れないから、って……人間さんってばそんなに気にしなくていいのに ヴェルメリオ: ……人間さんは、人間さんにしかできないことがあるんだから エミリー: エルマイトがすっごいんでしょ?それって、でもどうなるとみんなが強くなるのぉ? シンデレラ: えっ?そ、それはまあ、おいおいね。それよりほら、組分けしないと エミリー: なんか仲間はずれにされたっ!? クレア: それは何 ドロシー: 組分けするくじよ。満を持しての二度目……さあ、みんな引いて (…………。) ドロシー: あっれー?おっかしいなー? ティンカー・ベル: じゃあずきんと人間さん、それにダル・セーニャとエミリーだね。さっそく行こうー! ピュルテ: 人間さん……。あ、いえ、なんでもないです。気をつけてくださいね 106 - クラーケンとの対峙 ダル・セーニャ: あれっ、トリル トリル: セーニャさん!?人間さんたちも……どこから来たんです? ピュルテ: そっか、2手に分かれた道は、結局ここでまた合流してるんですね シンデレラ: なあんだ。別に手分けする必要もなかったわね ティンカー・ベル: でも、知らずにゴールに来ちゃうと、分かれ道の先に宝箱があったんじゃないかって心配になるだろ、って人間さんが言ってるけど エミリー: よくわかんないけど、手分けしたのもムダじゃなかったって言いたいのかな? クレア: となると、この三叉路の残る1つが目的地 ピュルテ: この奥にクラーケンさんがいるんですね ダル・セーニャ: ええ、なんか見覚えがあります ティンカー・ベル: 見覚えとか曖昧なのじゃ困るなぁ。まあ、行くしかないか。ね、ずき……。……、あ、えっと、とにかく行こう! ヴェルメリオ: ……そ、そうだね。早く行こう ドロシー: ん?妖精さんとヴェル、なんだか変な空気ね。ケンカでもしたのかしら (…………。) (背景切換...) エミリー: わあああ、すっごくキレイなお部屋! トリル: クラーケン様……あら、お留守かしら ダル・セーニャ: おかしいな、そんなはずは シンデレラ: どんな方か分からないけど、由緒正しい海の王様よね。不躾に大声でお呼びしていいのかしら クラーケン: 何者だ……このわしの部屋に入ってくるとは…… ダル・セーニャ: 失礼致しました、クラーケン様。私、海底の魔女、ダル・セーニャです。ご無沙汰しております トリル: トリートーン王家の末娘、トリルです。お伺いしたいことがございます クラーケン: 貴様ら、陸の者か。このクラーケンの前にのこのこ現れるとは……藻屑としてくれようか エミリー: ふえええんっ、全然友好的じゃないけど! クレア: 我々の疑惑を聞いたのでは ピュルテ: いえ、クラーケンさんから強いディマイトを感じます!既に先回りされていたんです! シンデレラ: 仕方ないわ……こうなったら、選択肢は1つしかない。みんな、準備して! クラーケン: ああ、わしは一体……ああ、ディマイトに操られてしまっていたのか。お客人、申し訳ない。陸の方々に恨みなど何一つないので誤解なきよう ダル・セーニャ: おかしいと思いました。誰よりも陸地に興味があるクラーケン様が、あんなふうに トリル: でも、クラーケン様ほどの方が簡単にディマイトに…… クラーケン: それなんだが、実はそなたたちがこの部屋に来る少し前に、うっ!?ぐっ、ぐふっ!? トリル: だ、大丈夫ですか!あっ、クラーケン様からもアゲハが……! クラーケン: ごほごほっ、ふう……これはディマイトの。そうか、トリルのその髪飾りはヴェルザームだったな トリル: ええ、クラーケン様からいただいたヴェルザームを父が髪飾りにして私に シンデレラ: お願いです、クラーケン様。このヴェルザームについて教えていただけませんか ドロシー: 私たちは、オトギノクニに蔓延するディマイトに対抗するために旅をしているんです ピュルテ: 何か、少しでもヒントが必要なんです。ディマイトは常に手を変え品を変え、侵蝕しようとしています クラーケン: このわしが堕とされたように、ということか シンデレラ: おそれながら、そのとおりです クラーケン: ヴェルザームは遙かなる古の時代、『原初の創造期』に天空よりオトギノクニ各地に飛来した秘石だ ティンカー・ベル: え?ゲンショってなに?ゲンショの創造期って? クラーケン: 創造期は1つではないだろう?まあいい、今はその話ではないな。要するに、すごく昔にお空から落ちてきたんだよ、お嬢ちゃん ティンカー・ベル: すっごい子供扱いされてるっ…… エミリー: あはは、ティンカうける〜 ヴェルメリオ: ……しかも、もっと子供みたいな人にバカにされて クレア: クラーケン様。先ほどオトギノクニ各地と仰られましたか ダル・セーニャ: えっ、じゃあヴェルザームって、もしかして クラーケン: そう、1つではない。わしが知る限り、現存するのはあと2つ。その3つが揃えば、ディマイトを封じこめることも可能かもしれん ピュルテ: ディマイトを封じ込める……!?それができれば、一気に解決ですよ! 107 - ルフラン:次の目的地 シンデレラ: クラーケン様、その残る2つのヴェルザームの在り処をご存知ないでしょうか ティンカー・ベル: そっか!この宝石を集めればディマイトを封印できるなら、これがある場所が次のティンカたちの目的地だね! クラーケン: 2つとも地上だ。1つは氷雪に閉ざされているという『雪の国』、もう1つは謎だらけだという国、『ワンダーランド』だ ピュルテ: 雪の国、それにワンダーランド……私たちはそこを目指せばいいんですね! クラーケン: 残念ながら、その国のどこに保管されているかまでは、わしも把握していない ドロシー: いえ、そこまで分かれば十分です!ね、そうでしょ、みんな トリル: ありがとうございます、クラーケン様 クラーケン: いや、わしの方こそディマイトから救ってくれて感謝している。そなたらの旅に幸あらんことを ダル・セーニャ: あ、あの、差し出がましいことを申し上げるようですが、クラーケン様にディマイトを刻んだ曲者が戻ってくるかも…… ドロシー: 大丈夫なんじゃない?実はさっきから、すっごい厳重な結界張ってますよね、クラーケン様 ダル・セーニャ: ほ、ほんとだ。言われるまで気づかなかったわ トリル: さすがはオトギノクニ随一の大魔法使いですね ティンカー・ベル: ねえ、三つ編みって本当にすごい魔法使いなの?それとも、それっぽいこと言うだけの物理アタッカーなの? エミリー: ねえねえ、それじゃあクラーケンさんとさよならしても、もう悪い人入れないから大丈夫ってことぉ? シンデレラ: そういうことね。じゃあ一旦、お城に戻りましょうか。少し身体を休めたら、いよいよ出発ね クレア: 海底ともお別れか ヴェルメリオ: ……いよいよ新しい国だね。迷子にならないか心配 エミリー: え?ヴェルは家の近所の森でも迷子になるって聞いたんだけど、違うの? ヴェルメリオ: ……誰。エミリーに余計な情報与えたの スラー: なるほど、ヴェルザームにはそんな秘密があったのですね ティンカー・ベル: ねえねえ、天空から落ちてきたとか言ってたけどさ、もしかしてまたグロリアがやらかしたパターンかな? ドロシー: かもしれないわね。今回は、そのドジに感謝すべきなんだろうけど ピュルテ: なので、名残惜しいですけど、そろそろ海底を出発しないといけないんです スタッカータ: そっかぁ、旅立つのね。遊びじゃないんだから仕方ないけど、もっとゆっくりできればよかったのにね トリル: そうだ!せっかくですから、パーティをしませんか。皆さんの門出を祝って スタッカータ: 大賛成よ。むしろあたしが提案しろって感じよね。ディマイト暴走させて迷惑かけちゃったんだから ヴェルメリオ: ……気にしなくていいってば。でも、パーティは嬉しいな エミリー: わーい!みんなでパーティ楽しいねっ! クレア: エミリー、私達は遠慮したほうが スラー: なに言ってるの。ぜひ参加してね クレア: いいのか ダル・セーニャ: わ、私もいいのかな?せっかくなんだからトリルもドロシーも歌うでしょ? ティンカー・ベル: 若干、動機が不純な人が…… ドロシー: いいわよ!トリルに練習の成果を見せてあげるんだから ピュルテ: 練習なんて、いつしてたんです? シンデレラ: ねえ、パーティって単語が出たあたりから、周りに小さいおじさんが増えてきてるんだけど トリル: お祭り好きなんですよ。さあ、小さいおじさんのみんなも、準備を手伝ってね ピュルテ: うふふ、すごく張り切ってますね、おじさんたち ヴェルメリオ: ……また思い出が1つできるね クレア: 思い出…… エミリー: どうしたの、クレア。なんだかぼんやりしてるみたいだけど。体調でも悪い? クレア: ううん、なんでもない ティンカー・ベル: パーティ楽しみだな〜。みんな演奏も上手で、ティンカ踊りだしたくなっちゃうよ ピュルテ: えっ、またあの変な踊りを!? ティンカー・ベル: 変じゃないよ!あれは盛り上がる楽しい踊りだよ! エミリー: スラーさん、色々あったけど仲直りできてよかったぁ!ありがとうね! スラー: ううん。私も悪かったわ。ずいぶんひどいことをしたわよね クレア: 牢屋に数日入っていただけ エミリー: 普通にごはんも美味しかったし、よく考えたら宿代もごはん代も払ってないんだし〜。ねっ、クレア! シンデレラ: あー、この海底ならではの料理やお酒の数々ともお別れかー。寂しくなっちゃうなぁ。また絶対来るからね スタッカータ: ずいぶん気に入ったんだね。なんならお土産に持ってく?って、さすがに重いかあ トリル: えっ、人間さん、観光地を知りたい?せっかく海底の国に来たんだから、ですか ヴェルメリオ: ……今度いつ来れるかわかんないし、外せないスポットは見ておきたいよね ドロシー: すごく急ぐ旅でもないもんね。せっかくだしさ ダル・セーニャ: それなら、いい場所があるよ スラー: 陛下。ちょっとよろしいですか スラー: こちらを陛下にお預けします シンデレラ: これは……カギ? スラー: 地上へ続く扉のカギです。いつもは開いているのですが、スタッカータの騒ぎ以降は施錠していました。扉は、再び閉じれば施錠される仕組みです シンデレラ: じゃあカギは、開けた後に誰かに返せばいいのかしら。持って行っちゃうと困るわよね スラー: そのカギは呪文を唱えれば溶けます。父と私なら、半年あればカギは再び作れます シンデレラ: スタッカータ、みずえ、クラーケン様。一連の事件の犯人は、自動的に施錠される扉のおかげで私たちを追跡できなくなる スラー: さすが陛下。ご明察のとおりです シンデレラ: ありがとう、スラー。お言葉に甘えるわ。このカギは預かっておく 108 - クープレ:願いを叶える岩 シンデレラ: それで、人間さんの希望で、今日は海底観光地巡りになったってわけ?緊張感のない人ね。まあ、そこに救われることもあるんだけど ドロシー: それで、今から行くのが願いが叶う岩ですって?本当かしら ダル・セーニャ: 別名『結び岩』なんて言われてるの。望んだ縁を結ぶって言われてるのよ ピュルテ: 道案内までお願いしちゃってすみません ダル・セーニャ: いいの。パーティの準備でトリルたちは忙しいし クレア: そもそも方向音痴だからな エミリー: ねえねえ、今日はお遊びなんでしょぉ?じゃあね、エミリーね、この本に載ってるお店に行きたい! ティンカー・ベル: どれどれ……へえ、レストランかぁ。お昼はここでいいじゃん エミリー: おやつはここがいいの!ほら、この42ページにある…… ヴェルメリオ: ……わあ、かわいいカフェ。よく知ってるね クレア: エミリーは色々調べていたから エミリー: けど、よし遊ぶぞってときにつかまっちゃったから、全然行きたいとこに行けてないの〜! ドロシー: エミリーとクレアのためにも、今日は1日観光するってことにして正解だったかもね シンデレラ: もう、みんな本当にお気楽……ピュルテちゃん?どうしたの、気分でも悪い? ピュルテ: えっ、あっ、いえ。ちょっとだけ考え事を シンデレラ: ならいいけど。人間さんも心配してるわよ ピュルテ: 人間さん……私、人間さんが人間界に戻ったら……そのとき、私が ティンカー・ベル: あーっ、ピュルテ抜け駆けだ!変な約束しようとしてる! ヴェルメリオ: ……負けないよ ピュルテ: あ、いえ、そういうんじゃ……。そ、そうですよっ、人間界でも私が人間さんの色々なお手伝いをしないと! ドロシー: もう、どうせみんな人間さんとラブラブになるとか、そんな願いばっかりなんでしょ? ヴェルメリオ: ……えっ、それってダメなこと? ティンカー・ベル: ティンカはまあ、ペトラのこととかも色々願ったりするよ エミリー: でもこういう願い事系って、基本的に1つだけとかだったりしない? ティンカー・ベル: はぁうっ!?そ、そうだね、その時はえっと、ううっ、決められないっ! ダル・セーニャ: あ、『結び岩』は何かを結びつけるものですから、オトギノクニを救う、みたいな願いはあまり通じないと思いますよ シンデレラ: 世界を救う願いを考えつきもしてなかった人は、とりあえず今ここでダル・セーニャに謝ったほうがいいわね ピュルテ: すみませんでした ドロシー: えっ、ピュルテまで煩悩にまみれてたの!? ティンカー・ベル: そういう姐さんはどうなんだよー! シンデレラ: すみませんでした エミリー: それでいいの、みんな…… クレア: 煩悩というのはつまり、彼のこと? ヴェルメリオ: ……改めて聞かれると照れるけど、そう。人間さんとみんな、ラブラブになりたいの クレア: 理解できないな ヴェルメリオ: ……ライバル1人減った エミリー: エミリーもピンとこないよ〜。そんなに特別な人なの、人間さんて ヴェルメリオ: ……ムリに分からなくていいんだよ。マイナス2人…… ドロシー: まあ、まだ一緒に旅を始めたばかりだもんね。そのうち、人間さんの魅力ってやつに気づくわよ ダル・セーニャ: あ、あの、この先です ティンカー・ベル: おーっ、ついに伝説の奇岩『結び岩』に到着だねっ!たっのしみ〜!って、あれ? エミリー: お土産屋さんがいっぱい並んでるよ〜!わあい、楽しそう! シンデレラ: The・観光地じゃないの、これ クレア: ご利益なさそう ダル・セーニャ: ここのちょっとした洞窟の奥に、岩があります ピュルテ: わああ、なんだか神秘的ですね クレア: 観光地だけどね シンデレラ: まあいいんじゃない?確かに風景もキレイなとこだし、このあたりはちょっと変わった岩とかあって面白いし ティンカー・ベル: なにより人間さんがこんなにはしゃいでくれるなら、まあ来たかいもあるってもんだよ ヴェルメリオ: ……洞窟の外に芝生のとこがあったから、お弁当食べない? エミリー: わーい、おべんと、おべんと♪ ドロシー: こんな海底に芝生なんてあるのかしら ダル・セーニャ: あ、たぶんヴェルメリオさんは苔のことを言ってるんだと思います…… ドロシー: あ、なるほど。似てるけどだいぶ違うけどね…… ピュルテ: とってもいい記念になりましたね、人間さん。さ、お弁当にしましょう〜! クレア: ん、人間さん?なに クレア: 今日ここに来たこと、これが思い出?……人間さんは、私に思い出を教えようと、ここに? ピュルテ: あれ、人間さんとクレアさん。2人で何をお話されてたんですか? クレア: 思い出について ピュルテ: あ、そっか……うん、思い出ですね。私たちと、クレアさんもエミリーさんも、みんな揃って遊びに来た思い出です クレア: さっきの、あのくだらない会話も? ピュルテ: もちろんですよ。思い出って、それ自体は大した意味がないものです。相手への思いがあるから意味があるんだと思います クレア: 相手への、思い ピュルテ: 大切な人と過ごす時間は……1つ1つが宝物ですよ。それがずっと続かないとわかっていれば、なおさら…… ティンカー・ベル: あーっ、三つ編みがハンバーグ1個多く食べたっ! ドロシー: え、なによ、いちいち数えてるの?みみっちい妖精さんね! ピュルテ: ふふ、ドロシーさんに全部お弁当食べられちゃう前に、私たちも行きましょう クレア: 人間さんはピュルテが気になる?私はハンバーグが気になる 109 - ルフラン:パーティタイム ティンカー・ベル: うわああ、いろんな楽器がいーっぱい並んでるね! ピュルテ: これを私たちのために!?皆さん、ありがとうございます! スラー: 私たちにできることって、これくらいなのよ。地上に戻ってからも、厳しい旅が続くんだと思うけど、せめて今日は何もかも忘れて楽しんでいってくださいね スタッカータ: トリル、準備はいい? ダル・セーニャ: は、始まる。トリルの歌が。手汗がすごいことになってきた トリル: はいっ、お願いします! ドロシー: えっ、激しいイントロ!トリルってば、静かな歌以外も歌えるのね! ダル・セーニャ: 幅が広いんだから、トリルは シンデレラ: 本当に色々お世話になったわね。おかげでとても楽しく過ごせたわ スラー: いいえ、陛下。このくらい、なんでもありませんわ シンデレラ: 人気者の妹の陰で、あなたが縁の下の力持ちなのね ティンカー・ベル: 楽しくなってきたっ!エミリー、一緒に踊る? エミリー: いいねっ、ティンカ!踊ろう、踊ろう〜 ティンカー・ベル: いぇーい!レッツダンシング!うぇい、うぇい、ふーっ! エミリー: ダンシーング!うぇい、うぇい、ふーっ!うぇぇぇいっ☆ クレア: エミリーが妖精に壊された ヴェルメリオ: ……意外と、あの2人仲良くなってるよね ピュルテ: え?あ、人間さん……いえっ、そんなことないです、楽しんでますよ!うぇい、うぇい、ふーっ♪ ピュルテ: 分かっちゃいますよね。カラ元気だって……私、ダメだなあ。こんな心配、人間さんにさせちゃって ピュルテ: あ、あのっ、私がもし……もし、人間界に、もう……二度と…… ティンカー・ベル: なになに、暗い顔してちゃだめだよ!ティンカと一緒にダンシング! スタッカータ: いいね、あんたたち!楽しくなってきたね! エミリー: みんなでおどろーっ! ピュルテ: あ、人間さん……行っちゃった……。ちゃんと、聞きたかったけど…… ダル・セーニャ: あ、ああ……涙が止まらない……トリルの歌声……尊い…… ティンカー・ベル: これでパーティもおしまいかぁ。寂しくなるね エミリー: 海底のみんな、元気でね。うん、小さいおじさんもだよ スタッカータ: あーあ、あんたたちがいると退屈しなかったんだけどな トリル: ありがとうございました! ダル・セーニャ: 最高っ!トリル最高だよ! トリル: うふふ、人間さんにそんなふうに褒められると照れちゃいます。じゃあ、ちょっと片付けてきますね ピュルテ: 本当に、素敵なパーティでしたね ヴェルメリオ: ……明日には出発だね ドロシー: 朝イチでは出られなそうだけどね。昼前くらいかしら クレア: どうして ドロシー: あれよ、あれ シンデレラ: だからねぇ、あたぁしはぁ、言ったわけぇ スラー: あ、あの陛下、恐れながらお酒はもう シンデレラ: だめだめぇ、もうちょっ! スラー: ……?陛下? シンデレラ: っとだけぇ、飲み足りないのよぉ。ねえ、人間さんさぁん、もう立てないのぉ ティンカー・ベル: あれ、素かな? ヴェルメリオ: ……五分五分 シンデレラ: 人間さんしゃあん、お部屋のベッドまでぇ、送り届けてぇ、くれ……りゅ? ドロシー: 演技だとしたら引くほどあざといわね ピュルテ: なんだかんだ言いながら部屋に連れて行ってあげる人間さん、優しいですね。あと、あの足取りは本当に酔ってるときのやつですね ティンカー・ベル: さすがピュルテ、ちゃんと見てるね クレア: それが分かるようになるのが思い出? シンデレラ: あらぁ?これなんだろぉ……ねえ、人間さんしゃ……。……人間さん、危ない! (ドガアアン) ピュルテ: な、何事ですか!? ヴェルメリオ: ……やっぱり演技だったの シンデレラ: 酔いなんか一瞬で醒めたわよ……!みんな気をつけて、これ、ディトルパよ! ピュルテ: えっ、ディトルパ!?誰の!? スタッカータ: 冗談でしょ、なんであんたがこんなっ……!?あ、危ない! (ドガアアン) トリル: 甘いです、スタ姉様……!エルマイトとディマイトは常に表裏一体。どちらかしかない存在など、ありえない スタッカータ: だとしても、あんたが暴走させるなんて!あんたは歌で、海底のみんなにエルマイトを振りまくべき存在でしょ!? ダル・セーニャ: そんな、トリルが……ああ、私の天使 トリル: 天使ぃ?都合よく利用するだけのくせに、勝手なこと言ってくれるわ……。私のことなんて、誰も何も考えて無いのよっ! (ドゴオオン) ドロシー: そんな、トリル…… ティンカー・ベル: いつもみたいに、また文字探ししないとだよね!っとにもう、いつの間に書かれたんだろっ? スラー: 全軍、配置につけ!これ以上の攻撃を許すな! 衛兵: う、うう、トリル様……!ああ、私には無理です!トリル様に刃を向けるなんて! シンデレラ: 仕方ないわよ、スラー。トリルは海底のアイドルだもの。海底に住んでいて、あの子に攻撃なんてできるはずがない ヴェルメリオ: ……できるのはわたしたちだけ、ってこと?わたしも正直、気が進まない エミリー: でも、このままにするのはもっと気が進まないよね!助けてあげなきゃ! クレア: 私が引き付ける。その間に文字を ドロシー: 分かったわ!クレアは右に、私は左から注意を引く!エミリーとヴェル、文字を探して! トリル: 甘いのよ。トリトンスレアっ! クレア: くうっ!?な、なんて魔力 エミリー: クレア!?ど、どうしよう、すっごく強いみたいだよ! ピュルテ: なんとかして文字を探したいんですが、服の裾もヒラヒラしてるし、なかなか見つけづらいです……! シンデレラ: ピュルテちゃん!不用意に近づいたら危ないわ! ピュルテ: えっ?あ、きゃあっ! (キィン) リル: 本当に貴君らは世話が焼ける 110 - トリルの実力 ティンカー・ベル: ネコ!また助けにきてくれたんだね! リル: 見ていられなかったので、つい手を出してしまっただけだ エミリー: ふええ?この人だあれ? リル: 見慣れない顔が増えているようだな。小生の名はリル。オトギノクニの真の独立のために戦っている クレア: 真の独立? ドロシー: ああっ、喋ってる場合じゃないわよ! トリル: う、ううっ……歌を、私の歌を聞きなさい! リル: くうっ!なんて魔力だ!小生の理念を語るのは次の機会に譲るしかないようだな ヴェルメリオ: ……いつものトリルじゃない シンデレラ: そんなの、改めて言われなくても見るからに違うわよっ! ヴェルメリオ: ……そうじゃない。スキルを繰り出すスピードが トリル: これ以上、私をバカにするのは許さないわよっ!トリトンスレアっ! ドロシー: うああっ、や、やばいっ! トリルってこんなに強かったのね! シンデレラ: ヴェルの言うとおりだわ……!ヴェルの『赤のプレリュード』を超えるペースで連打できるはずない クレア: 何かがトリルの能力を強化している エミリー: トリトンスレアを連打されて、エミリーたちの攻撃がよわよわになっちゃってるよー! ティンカー・ベル: 早く文字を探そう!じゃないとジリ貧だよ、これ! ピュルテ: でも見つかりません!胸の谷間にも太ももにも見当たらないんです トリル: いつも、いつも私のこと見て笑って!私だって一生懸命やってるのっ! ティンカー・ベル: どわああ!またきたあ! シンデレラ: リル、背後に回って!これだけ見てないなら、おそらく文字は背中だわ! リル: 分かった、シンデレラ殿! ドロシー: 1人相手にこれだけ振り回されて、まさに猫の手も借りたい状況だなんて……ディマイトって、なんなのよ! リル: うなじだ!文字はうなじに……うあああっ!? ピュルテ: リルちゃん!? ティンカー・ベル: ネコっ、大丈夫!? リル: 心配ない。だが、身体がマヒして…… トリル: もう、もうっ、ほんとにっ……!歌をバカにしないでっ!! ドロシー: くうっ!?な、なんとかこらえたけど……わ、私も身体がマヒして言うことをきかないわ! シンデレラ: 私もよ……ていうか、全員かしら。人間さんまでマヒしちゃってたら、精霊さえ呼べないわ ヴェルメリオ: ……これ大ピンチじゃない? クレア: このまま嬲り殺されるのか エミリー: やだあああ、誰かなんとかしてよぉ! ティンカー・ベル: そんなこと言ったって全員マヒしてるんだからしょうがないよね!? ヴェルメリオ: ……待って。ピュルテ動けるんじゃない? ピュルテ: はい……私はマヒしてません…… ティンカー・ベル: よかったぁ!じゃあ万能薬をつかって……え、ちょ、ピュルテ!? ピュルテ: アイテムを使って回復しても、このペースでマヒ攻撃されたら、また同じ状況になります…… ドロシー: それはそうだけど、でもどうするつもり!? ピュルテ: 私は何故かマヒを防げました。なら、私がなんとかするしかないんです! エミリー: む、無茶しちゃだめだよぉ!ピュルテは戦えない人だよねっ!早く下がって! ピュルテ: ずっと悩んでたんです。私だけ、1人だけ戦えなくていいのかって。みんなと同じように、みんなの役に立ちたいって……そう願ってたんです リル: ピュルテ……!?よ、よすんだ、何を考えてる!ピュルテはピュルテにしかできないことがあるだろう! ピュルテ: そう、私にしかできないこと。人間界に行って、救世主を探し出すこと。でももう、人間さんはそこにいる。私に、その能力は必要ですか? ドロシー: な、なにこの気配……感じたことのない気配が、このあたりを渦巻いてる トリル: う、うう……!?いったい、何のつもり……!?私をバカにしてるの……!? ピュルテ: さよなら、人間さん。さあ、見ててください。みんなのために、私は戦います! ピュルテ: 『すべては深淵の闇のために』 トリル: う、ううっ、うああっ!?な、なに、この力はっ……!?私が押し負けてるなんて! ティンカー・ベル: ど、どういうこと!?ピュルテが戦ってるんだけど! ドロシー: しかも、いきなりフルスロットルで……あれ、私より強いかもしれないわ……! リル: パスコード…… ヴェルメリオ: ……え、なに? リル: ピュルテは既に戦闘能力を手に入れていたんだ。でも、封印されていた クレア: それが何かの呪文で封印が解除されたと? シンデレラ: さっき何か言っていたわ。あれが封印を解除する呪文……つまり、パスコードだったのね エミリー: ええ?じゃあ誰かがピュルテに…… ドロシー: そうね、人間さんの言うとおりだわ。今はそんなの後、トリルをなんとかしないと シンデレラ: 人間さん、もう動けるの?わ、私も、動けそうだわ! エミリー: エミリーも動ける!ねえ、人間さんはうなじの文字を狙って!シンデレラとエミリーで援護するよっ! トリル: う、うああっ、ちょこまかとっ…! ティンカー・ベル: よし、ティンカも動ける!って、でもティンカもみんなも、トリトンスレアで攻撃力削られまくって、全然効いてないよ! ピュルテ: 私が時間を稼ぎます!その間にみんな、ラジテンションかけ続けてください! ドロシー: 了解!ガンガンかけてあげるわよ! トリル: みんな……みんな歌を、私をっ、バカにしてっ! ピュルテ: はあっ、はあっ……こ、これが戦いっ……!これが戦うってことなんですね。みんなが今まで経験してきたっ……! リル: ピュルテ、無理するんじゃない! トリル: うああああ! クレア: はあっ!どうやら間に合ったな ヴェルメリオ: ……攻撃力ならね、わたしのこと忘れてもらっちゃ困るから シンデレラ: 役者が揃ったようね!さあみんな、決めるわよ! 111 - ポストリュード:宴のあと トリル: 皆さん、本当にごめんなさい。私、何がなんだか分からないうちに意識を乗っ取られてしまって ピュルテ: 仕方ありませんよ、文字を書かれてしまったらディマイトに対抗するのは至難の業ですから スタッカータ: このあたしだってお手上げだったんだから、仕方ないのよ スラー: スタッカータよりトリルの方が魔力は上じゃないの スタッカータ: 姉様ったら、余計なこと言わないで! シンデレラ: やっぱり、どこで書かれたかは覚えてないのよね? トリル: ごめんなさい。最後の一曲を歌ったところまではしっかり覚えてるんですが ティンカー・ベル: 大勢いたから、変なの1人混じってても気づかないかもなぁ トリル: う、うぐっ!?けほっ、ごほごほっ エミリー: ああーっ、黒いアゲハ蝶が出てきたよ! ドロシー: そのままトリルの髪飾りに吸い込まれたわ ピュルテ: そっか。ディマイトを吸い込む髪飾りが傍にあったから、トリルさんから放たれるディマイトに気づくのが遅れたのかもしれません トリル: けほっ……そうですよね、これ、皆さんにお渡ししなくてはいけませんでした ヴェルメリオ: ……ありがとね。必ず返しにくるからね シンデレラ: 結局、真相は分からずじまいだったけど……ワンダーランド、そして雪の国でヴェルザームを集めて、必ずディマイトを封じるわ スラー: ええ、陛下。ご武運をお祈りしております トリル: せっかくのパーティ、私のせいで台無しにしてごめんなさい。せめて今夜はゆっくり休んでください…… ダル・セーニャ: トリル。気にしすぎちゃダメ。今度は私があなたを支える番だからね トリル: ありがと、セーニャさん シンデレラ: じゃあ、みんなもう部屋で休みましょう。あ、スラー。酔いが醒めちゃったから、飲み直してもいい? スラー: 陛下…… ティンカー・ベル: でも、ほんとびっくりしたよ!ピュルテ、すっごいカッコよかったよね! エミリー: だよね、だよねっ!すごかったもん ヴェルメリオ: ……いつのまに戦えるようになってたの ピュルテ: あ、えっとそれは……じ、実は結び岩で エミリー: あ〜、そっかぁ!あのときに、実は人間さんとかじゃなくて、そういうお願いしてたんだね! クレア: ……ん? ティンカー・ベル: ピュルテってば、ほんとマジメだなぁ ドロシー: あんなに気に病んでたのね。海底に来たあたりから気にはなってたんだけど……。結果オーライだからいいけど、もっと肩の力を抜いていいのよ ヴェルメリオ: ……これでピュルテも、戦いに参加することになっちゃったね ピュルテ: いえ、参加したかったんです。私も、みなさんと同じようになりたくて ティンカー・ベル: 人間さんとラブラブ〜ってお願いしなくてよかったの?って思ったけどさ、よく考えたらピュルテは人間界に行けるんだもんね ピュルテ: えっ。あ、えっと、はい エミリー: ええーっ、そんなことできるの!?いいなあ、エミリーも人間界とか 見てみたいなぁ〜 ヴェルメリオ: ……そっか、追いかけていくつもりなんだ。ずるい ピュルテ: え、えっと、あの、そ、そうなんです!だから人間さんのことは楽勝かなって ドロシー: はいはい、もう寝るわよ (背景切換...) スラー: 陛下。この度は妹がとんだご迷惑を シンデレラ: やだもう、いいんだってば。みんなも言ってたでしょ。あれはどうしようもないのよ スラー: しかし、ピュルテさんのこと シンデレラ: ……、スラー。あなた何か知ってるの? スラー: いいえ。でも陛下のご様子から、ピュルテさんが戦闘能力を手に入れたことは、手放しで喜ぶべきことではないのかと シンデレラ: ピュルテちゃんの才能が開花したことは。喜ぶべきことよ。ただ……あの子が言った言葉が気になるのよ。聞き覚えがあったものだから…… ピュルテ: 皆さん、本当にお世話になりました スタッカータ: いつでもまた遊びに来なさいよ!あんたたちみたいな騒がしいのがいなくなると、海底も寂しくなるんだから トリル: ふふ、スタ姉様くらいですものね、騒がしいのって スタッカータ: 言うわね、トリル……あんたまだ、ディマイト残ってんじゃないの!? ティンカー・ベル: あぁ〜、海底っていいとこだったなぁ。ごはんも美味しいし ドロシー: 音楽も楽しいし。それに小さいおじさんもね ヴェルメリオ: ……絶対、また来るからね ダル・セーニャ: うん、みんなのこと待ってるね エミリー: 色々あったけどさ、みんなと出会えて良かったよね クレア: うん、これも運命かも シンデレラ: それじゃ、鍵を使わせてもらうわね スラー: お気をつけて、陛下 ティンカー・ベル: みんなっ、ばいばーい! (背景切換...) ドロシー: この洞窟を進んでいけば、地上に出るのよね クレア: 地上のどこに出るかは分からない? ピュルテ: そうなんですよね。ワンダーランドに近いといいんですが エミリー: ワンダーランドってどんなとこなんだろーなっ。え、人間さんは知ってるの?どうして、どうして? ピュルテ: 創造期のことはご存知なんですよね。でも、今どんな状態になってるかは……誰にもわかりませんね シンデレラ: ああ、そうだ。申し訳ないんだけどエミリーとクレア。本当は2人を故郷に送り届けてからワンダーランドに行きたいんだけど エミリー: そんな時間の余裕がないって言うんでしょ。そうだよねって思ってたの。エミリーたちは全然オッケーだよ クレア: 問題ない。それに旅の行方も気になる ドロシー: じゃあ、エミリーとクレアも、新しい仲間ってことよね! ティンカー・ベル: この流れで、どうして仲間にならないかな、ネコは リル: 小生はあくまで別行動だ!ただ、地上へ向かう通路がここしかないんだから、一緒に来るしかないじゃないかっ……! ピュルテ: リルちゃん。いつでも待ってるからね ドロシー: 見えたわ、地上よ! 112 - ワンダーランドへのアップカード ヴェルメリオ: ……この道をまっすぐ、あと2日くらい進めばワンダーランド、エルザの城だね シンデレラ: 海底の国を出発してから、けっこう経っちゃったわね ティンカー・ベル: 色々あったし、普通に遠いもん。でもピュルテもすっかり戦力になってくれたから クレア: ここまで来る途中でも何回も助けられた ピュルテ: えへへっ、そう言ってもらえると嬉しいです リル: 身体の不調などはないか。急な変化は負担がかかるというのがセオリーだぞ ピュルテ: あ、うん、大丈夫だよ、リルちゃん リル: どこか痛いとか、だるいとか、何かあったらすぐ言うんだぞ ティンカー・ベル: ちょっと、ちょっと。過保護すぎない?どんだけ大切な友達だか知らないけどさあ リル: うっ……いや、そうだな。小生が守らないと、という意識がいつまでも抜けないな エミリー: そういうティンカだって、ペトラのことになると別人だよねぇ ティンカー・ベル: ぺっ、ペトラはしょうがないの!あんな可愛く育っちゃったんだから!それにフックとつるんだりして ドロシー: はいはい。エミリーも妖精さんにペトラの話を振らないの。長くなってめんどくさいでしょ クレア: エミリーの悪いくせ エミリー: ごめんね、ついからかいたくなっちゃうんだよねぇ。ティンカって反応がわかりやすくて〜 シンデレラ: それじゃ野営の準備しましょ。早めに準備して早めに飲み始めないと、寝る時間が少なくなってお肌が荒れちゃうわ ティンカー・ベル: 姐さん、もうそれティンカは突っ込まないからね ヴェルメリオ: ……あっ、ねえ見て、あれ ピュルテ: わああ、すごい。地平線に夕日が沈んでいくところです リル: 人間界ではなかなか見られない光景?そういうものなのか。皮肉だな、人間界のエネルギーありきの世界だというのにな クレア: これも、みんなとの思い出 エミリー: クレアってば、ずいぶん変わったねぇ ドロシー: さあ、完全に陽が沈む前に野営の準備しなくちゃね! シンデレラ: 今さらだけど……私のかすかな記憶が手がかりでしかないから、間違ってたらごめんね、みんな ティンカー・ベル: しょうがないよ。クラーケンは、ヴェルザームがワンダーランドにあるとは言ったけど、細かい場所までは分からないみたいだったし ドロシー: ハートの女王・エルザが持ってるっていう、シンデレラが昔聞いた情報しか今は手がかりがないんだもの エミリー: だよねっ。ノーヒントで行くよりずっといいし、誰も責めたりしないよぉ クレア: ディマイトを吸収できる宝石、ヴェルザーム リル: ただ、問題はそんな貴重なアイテムを、悪名高いエルザ殿が簡単に手放すかどうか ヴェルメリオ: ……オトギノクニ全体が大変なときだから、って言っても通じないのかな リル: 容易い相手ではないだろうな ピュルテ: それでも、お願いするしかありません。それに、宝物が大切だから渡せないなら、きっと何かと交換って話になると思うんです シンデレラ: そうね。ディマイトを広めたいって思想じゃないんだし、お金とか別の宝石で手を打ってくれるとは思う ドロシー: そんなの会って話してから考えれば……って、しっ。何かいるわ! エミリー: 魔物だね。お話中なんだよ、もう〜! ピュルテ: 任せてください!ええいっ! ティンカー・ベル: いい感じだね、ピュルテ!ティンカだって負けないぞっ! (…………。) シンデレラ: ふー、まったく油断ならないわね クレア: でもピュルテ、すっかり板についた ピュルテ: そうですか?えへへ、お役に立てて良かったです リル: そうだな。すっかり馴染んだようだ。それが見届けられれば、小生も同行する理由もないな ピュルテ: えっ、リルちゃん!?まさか別々になるつもりなの リル: ピュルテのことは貴君に託すぞ。必ず、守ってやってくれ ピュルテ: リルちゃんてば、私が人間さんを守るんだよ。それより待って、リルちゃん1人じゃ危ないよ リル: さすがに最近は馴れ合いすぎた。小生には、やらなくてはならないことがあるんだ。じゃあな ドロシー: たのもー!たのもー! エミリー: びっくりしたぁ。それ、なんの言葉? シンデレラ: またピュルテちゃんに、おかしな言葉を教えてって頼んだのね 門番: なんだ、お前たち。どいつもこいつも胡散臭い顔だな ティンカー・ベル: むきーっ!目玉取り出してよーく洗ってあげようか?! クレア: 私、否定できない ヴェルメリオ: ……わたしも ピュルテ: そんなことないです!ヴェルちゃんも、クレアさんもキラキラ美少女です! ドロシー: 私たち、女王に用事があるの。お城の中に入れさせてもらうわね 門番: そうか、はいどーぞ……って、そんな簡単に城内へ入れるわけがないだろう!胡散臭い上に、ずうずうしい エミリー: えぇ?!それじゃあ困るんだけどぉ シンデレラ: 門番さんの対応は正しいわね。やっぱり正面突破は難しいか ピュルテ: 他の手を考えますか? アリス: 何か困ってるみたいね ヴェルメリオ: ……あなた、アリス アリス: 聞こえちゃったんだけど、女王に会いたいんでしょ。私、女王に用事があって来たの。一緒に行きましょ! ティンカー・ベル: でも、この門番がティンカたちは胡散臭いからダメだって アリス: 門番さん、胡散臭いかもしれないけどみんな私の友だちなの。お城に入れて頂戴 門番: アリスの友だちなら了解した (背景切換...) クレア: 広い。迷子になりそう アリス: 確かに。何度来ても迷っちゃうのよね ソルダ・スート: アリス?それに、シンデレラ殿とお仲間ではないか アリス: ソルダ・スート!よかった。女王の部屋に案内して。私もみんなも、女王に用事がある ソルダ・スート: また迷子か?アリス。いい加減、この城に慣れてほしいものだが ヴェルメリオ: ……理解されない宿命、方向音痴 シンデレラ: わかるわよ、私のお酒好きもなかなか理解されないもの クレア: 何事にも限度がある。そういうことでは? エミリー: クレアの思ったことをはっきり言う性格も、理解されないと思うよぉ。エミリーは好きだけどね 113 - クイーン・エルザ エルザ: おまえたちのことは、色々と噂は聞いているわよ ヴェルメリオ: ……えっ、噂ってどんな ソルダ・スート: 各地で暴走するディマイトを鎮圧しているとか ドロシー: けっこう知られてるのね、私たちがやってること ティンカー・ベル: 変な噂じゃなくてよかったー!えっ、ってことはわりと好印象な感じ? エルザ: そこの小娘のことは気に入らないけど、おまえたちのことは評価しているの。まあ、協力しないでもないわよ アリス: 別に私のことが気に入らないのはいいけど、素直にがんばってね、って言えばいいのに エミリー: 協力してくれるなら、それでいいんじゃない?っていうか、ヴェルザームはこの城の中にあるのぉ? エルザ: 私の宝物庫に保管されている秘宝中の秘宝よ。どうしてもというなら、貸してあげてもいいわ シンデレラ: よかった、記憶違いじゃなくて。じゃあ、エルザ。必ず返しにくるから、ちょっとの間貸してちょうだい エルザ: ただし、条件がある ティンカー・ベル: げっ、やっぱり。気持ちよくぽーんと貸してくれりゃいいのにさ! ソルダ・スート: エルザ様に無礼な口をきくんじゃない!首を刎ねられたいのか! エルザ: やめなさい、スート。おまえがそうやってすぐ脅すから、私の評判が落ちるのよ ソルダ・スート: 実際、すぐ首を刎ねよっておっしゃってますけどね クレア: ソルダ・スートがなんか言ってる ソルダ・スート: それよりエルザ様、条件というのは例の件を指しておられるので アリス: そうだ、なんか困ってるのよね?私もそれで呼ばれたんでしょ?優秀なトランプ兵がいっぱいいるのに エルザ: 私の兵士も、万能ではないわ。でも、そこの人間さんが持つエルマイトがあればと思ってね ヴェルメリオ: ……えっ、人間さんのことは渡さないよ エミリー: いいじゃん、ちょっと貸すだけなら ピュルテ: 人間さんが、俺の意志は無視かよ!って怒ってますよ エルザ: このワンダーランドにも魔物が急増していてね。トランプ兵でも手に負えず、正直困っているの シンデレラ: ワンダーランドにもディマイトの影響が出ているのね ソルダ・スート: 別に、我々の手に負えないというほどではありませんが…… エルザ: ディマイトに関しては、この人間さんたちのほうが役に立つのは言うまでもないわ ドロシー: まあ、そこまで言われちゃ力を貸さないこともないわよ ヴェルメリオ: ……ドロシー、シャドウボクシングやめて エルザ: スート、この者たちの力を借りるのよ ソルダ・スート: エルザ様のご命令であれば アリス: おもしろそーね!私もみんなと一緒に行く エルザ: ふん、小娘が……足手まといにならなければいいけど エミリー: いっぱいいたほうが魔物もじゃんじゃん倒せるからいいと思う。ね、クレア クレア: ええ。その分エミリーが危ない目にあう確率が減る ピュルテ: 私も頑張っちゃいます!人間さん、安心してくださいね☆ エルザ: 魔物さえ倒してくれれば、誰でもなんでもいい。まずは1番怪しい場所へ向かってほしいの アリス: 怪しい場所? エルザ: 魔物はある場所からよく現れるという情報があり、トランプ兵を派遣したが戻ってこないの ティンカー・ベル: マジ?!ちょー危険じゃん! エルザ: お前たちも、我が城下で十分に準備していくがいいわ エミリー: 女王、いい人だねぇ〜 シンデレラ: お言葉に甘えて、準備させていただくわ。で、その怪しい場所って? エルザ: その場所は、特に奇妙な場所なのよ。魔物に関わっていてもおかしくはないわ ソルダ・スート: 魔物がいなくてもあまり近寄りたくない危険な場所だ アリス: そんな場所、ワンダーランドにあったっけ? ヴェルメリオ: ……そういう奇妙な場所だらけな気がしないでもないけど ドロシー: 奇妙でもなんでもいいわ。乗り込んで魔物も悪い奴も叩きのめす! エルザ: 奴らを甘く見ないことね。毎日奇妙なお茶会を開催し、怪しさこの上ない奴らよ アリス: え!!それってリラたちのことじゃない?! アリス: 絶対おかしいよ!お茶会メンバーのみんなが、そんな変なこと企んだりするはずない! シンデレラ: 私もそう思うわよ、アリス。あの子たちが、悪意をもって何か企んだりなんて、想像もつかない アリス: だよね!魔物相手に自分の兵士が負けこんでて、適当に理由をつけないと気がすまないんだよ! ドロシー: でも、悪意なくうっかり何かやらかすことは、ものすごく可能性がありそうなメンツよね アリス: うっ……ま、まあ、そのへんは完全否定できないけど エミリー: ってことなら、まずは調査くらいはしてみないとねぇ ピュルテ: 魔物が大量に出て困ってるのは事実ですし。ね、ソルダ・スートさん ソルダ・スート: ふん……ハッキリ言って、今回の件は非常に気に入らない。エルザ様の決定にも納得いっていない クレア: 何が気に入らないの ソルダ・スート: トランプ兵団の師団長たる私ではなく、外部のあなたたちにお命じになるということがだ ティンカー・ベル: あ、兵士としてのプライドってやつか。仕事を横取りされたー!みたいな ソルダ・スート: しかしエルザ様がお決めになった以上、私は全力でサポートする。その点は安心してほしい シンデレラ: そう言ってもらえると助かるわ。私たち、土地勘も全然ないし、あなたの協力が無かったら大変なのよ ソルダ・スート: 任せて。旅の準備は城下町でするといい。案内役に部下をつけよう ピュルテ: あっ、ソルダ・スートさんは来ないんですか? ソルダ・スート: 私は皆さんの旅の警護にあたる兵の選抜をする。では、失礼 ヴェルメリオ: ……やっぱり悔しいのかな ティンカー・ベル: そりゃそうだよ。例えば人間さんがさ、自分の誕生日パーティするけど、ごちそうはずきんじゃなくてエミリーに任せる、って言ったら悔しいでしょ ヴェルメリオ: ……悲しくて立ち直れない エミリー: お料理上手はヴェルが一番だよぉ。エミリーは絵を描く以外にそんなに得意なものないし。だから安心して ピュルテ: それじゃあ城下町に、買い物に行きましょう! 114 - テンションはトリックテイキング エミリー: お買い物楽しかったぁ〜♪ ティンカー・ベル: エミリーと姐さんは買いすぎだからね! シンデレラ: 安心して。このお酒たちは出発前に飲むやつだから。さすがにお酒を持ち歩くのは重いものね〜 ヴェルメリオ: ……え、この量を出発前に?え? ピュルテ: よかったです。人間さんがずっと今日みたいにひいひい言って運ぶのかと心配していました クレア: 前から思っていたけど、ピュルテは何かズレてる ピュルテ: えっ…… ドロシー: わぁ……薄々気が付いていたけど、誰も突っ込まなかったことをクレアってば堂々と アリス: ちょっと、ちょっと。いっつもこんなに緊張感ない感じ?これから魔物退治に行くのに ティンカー・ベル: うーん、だいたいこんな感じ アリス: でも、なんか目的があって女王に手を貸すんだよね?そっちは平気なの シンデレラ: そうね、今一度整理しましょう。女王の持っているヴェルザームを譲ってもらうことが、私たちのワンダーランドに来た目的よ ドロシー: そのために、急増している魔物をぶっ飛ばしに行くの!それが女王の出した交換条件 クレア: 女王は、奇妙なお茶会の開かれている場所が怪しいと言ってる ティンカー・ベル: お茶会メンバーは確かに奇妙だけど、ディマイトを操るとかそんな悪さをするメンバーじゃないよね〜 エミリー: だったらお茶会のメンバーの誰かが、ディマイトに感染しちゃってる可能性、高いってことぉ? ヴェルメリオ: ……うん。そうなるとやっぱり危険度は高い。十分気を付けないと ピュルテ: そうですね!ディマイトの影響の出方も様々になってきましたし、強さも増していますから アリス: なんだ、やれば真面目にできるんじゃん! ティンカー・ベル: 当たり前じゃん!真面目、時々おふざけってのがティンカたちチームのモットーだから クレア: 私はふざけたりしない ティンカー・ベル: まあまあ、そう言わずに。そうだ!ティンカが気持ちを盛り上げるために、得意のダンスを披露しちゃうよ〜 ドロシー: あ、いや、それはやめたほうが ティンカー・ベル: うぇいうぇい、ふー!うぇいうぇい、ふー!魔物なんて、うぇいうぇい、ふーっ!! シンデレラ: 人間さん?ああ、目が覚めちゃったから朝の散歩に行くの? エミリー: いってらっしゃーい。エミリーは起きてたのかって?だってシンデレラが朝までだって シンデレラ: エミリーてば優しいのよ。みんな、とっとと寝ちゃって薄情なんだから…… エミリー: 昨日のティンカの強烈な踊りを見ちゃったら、眠気なんか飛んじゃったけどね シンデレラ: あれ、どこで覚えてくるのかしらね。あ、じゃあね、人間さん。戻る頃には寝てるわ (背景切換...) ピュルテ: あっ、人間さん。早起きですね。お散歩ですか?じゃあ私も一緒に行きます♪ (朝の澄んだ空気は、やはり人間界とは別格。人間界でも空気がキレイな場所はあるが、町から簡単に行ける距離ではない。) ピュルテ: なんか、こうして人間さんとお散歩なんて、久しぶりですね。あの……私、新しい能力が使えるようになりましたけど、その…… クレア: 2人ともどうしたの ピュルテ: あっ、クレアさん。朝のお散歩ですよ。クレアさんも一緒にどうですか? クレア: うん、じゃあ行く ピュルテ: それで……えっと。あ、さっきのはなんでもないので気にしないでくださいね、人間さん クレア: お邪魔だった? ピュルテ: 全然そんなことないです!あっ、なんかいい匂いがしてますね クレア: パン ピュルテ: パン屋さんて早起きなんですよね。あと、人間界にはお豆腐屋さんってお店もあって、そこも早起きなんですよ クレア: 朝はヒマ。エミリーが朝弱いから ピュルテ: わああ、確かに寝起き悪そう! クレア: うん。寝起き悪い ピュルテ: ですよね、イメージもそんな感じでした クレア: よく言われる ピュルテ: そ、そうですねー。えーっと、えー…… クレア: あっ、羽根。これカラスの羽根…… ピュルテ: え?そう、ですね。あっ、拾うんですか。それ、集めてるんです? クレア: カラスの羽根を見ると……どうしてだろう。なんだか懐かしい感じがするの ピュルテ: もしかして、クレアさんが失くした記憶に関係してるとか!? クレア: かもしれない。そうじゃないかもしれない。でも、ハトとかじゃないの。カラスの羽根が…… ピュルテ: きっと何か意味があるんですよ。それじゃあ、その羽根は持って帰りましょう ピュルテ: 人間さん?クレアさんの創造期のことが気になるんですか クレア: でも、カラスの羽根が懐かしいって気持ちだけ ピュルテ: 俺もおとといの晩ごはん覚えてないよ、ってそれは……慰めになってないかと…… クレア: 優しいね、人間さん。でも、みんなと思い出増えてるから ピュルテ: そうですよ。ちゃんと今、大切な人がそばにいるんですから、気にしなくて大丈夫です クレア: 大切な……。うん、そうだね、大切な……大切な人。守りたい人…… ピュルテ: 俺もみんなを守りたい、って……ふふっ、ちゃんと守ってくれてるんですよ。みんなと同じ立場になって、私もよく分かりました。人間さんのおかげで戦えるって意味 クレア: たい……せつな……ひと…… ピュルテ: 辛い時に助けてくれるのは人間さんの存在なんですよ クレア: たす、助ける……助けなきゃ……? ピュルテ: えっ、クレアさん?どうしたんですか、なんか顔色が悪いような クレア: 大切な……誰?誰か分からない、けど助けなきゃ…… ピュルテ: 誰かを助けなきゃ?どうしたんですか、誰か襲われて……?あっ、もしかして過去の記憶が クレア: 助けなきゃ、早く。じゃないと……。………うっ ピュルテ: クレアさん!?大変、クレアさんが倒れてしまいました!急いで町に運ばないと! (…………。) (背景切換...) シンデレラ: 大丈夫、落ち着いたみたいよ ヴェルメリオ: ……倒れたときにも、頭を打ったりはしてなかったみたいだし エミリー: 2人ともクレアに何したの!一緒にいて、どうしてこんなことになるのっ!? ピュルテ: ごめんなさい…私、気が付かなくてっ…… ドロシー: ちょっとエミリー。ピュルテも人間も、こうなるのが分かってたわけじゃないのよ エミリー: ごめん、分かってる……けどっ、けどクレアは…… アリス: お医者さんも、一晩寝れば大丈夫だって言ってたし、心配しすぎたら今度はエミリーが倒れちゃうよ ティンカー・ベル: 人間さんもさ、俺が過去のこと聞こうとしたからだ、ってさぁ。そんなの原因かどうか分かんないし、気にしすぎないの。ね? 115 - スプリット エルザ: 準備は整ったそうね。明日の朝に出発ですって? アリス: まあね。人間さんたちがいれば、魔物なんてチョチョイのチョイなんだから エルザ: ずいぶん評価が高いみたいね、人間さん ソルダ・スート: そのわりには、おまえたち……士気が低いように感じるのは気のせいか? ティンカー・ベル: あー、いや、ちょっと色々あって ソルダ・スート: それにフードの無口なやつが見当たらないな エミリー: クレアはちょっとおやすみしてるけど、明日には元気になるから大丈夫だよぉ シンデレラ: ねえ、明日はソルダ・スートも来るんでしょ?大丈夫なの、城を空けて ドロシー: そうね、ソルダ・スート不在の間に攻め込まれて、ヴェルザーム奪われましたなんてシャレにならないわ エルザ: このハートの城の守りは鉄壁よ。簡単に外部から入れるような作りにはなってないの ヴェルメリオ: ……そうなんだ。すごい エルザ: この私の城ですもの。これまでに誰一人として侵入に成功した者はいないの ピュルテ: そんなにすごいんですね。じゃあ安心して留守にできますね アリス: ねえティンカ。なんだか雰囲気が暗いからさ、ここは一発、昨日のやつ ティンカー・ベル: あっ、そうだよね。よーし、それじゃあみんな注目!ちょっと元気がなさそうだから、ティンカがみんなが元気になるように…… シンデレラ: え、ちょっと、まさかまた例のアレを ティンカー・ベル: うぇい、うぇい、ふーっ!うぇい、うぇい!いつもよりたくさん回しちゃうよ!うぇーい、ふーっ! エルザ: な、なんなの、これは……正直ちょっとキモい… ソルダ・スート: エルザ様の前で、なんだその人をバカにしたような珍妙な動きは!無礼だろう! ティンカー・ベル: えっ、ティンカはそんなつもりじゃ ソルダ・スート: 今すぐ非礼を詫びるんだ!でなければ首を アリス: まあまあまあ、ソルダ・スートも落ち着いて。悪気がないのは分かるでしょ? ピュルテ: んもう、ティンカちゃんてば…… ピュルテ: アリスさん!ソルダ・スートさん、すっごい怒ってましたが大丈夫でしたか? アリス: 部屋で頭を冷やしてくるって ヴェルメリオ: ……それなら、少しそっとしておいたほうがいいね ドロシー: ふざけすぎよ、妖精さん。ソルダ・スートは私たちと違って、妖精さんのテンションに慣れていないんだから ティンカー・ベル: ソルダ・スートの頭が固すぎるんだよ シンデレラ: ティンカちゃん、ちょっとは反省しましょうね ティンカー・ベル: うぅ……姐さんまで アリス: ソルダ・スートは真面目が服着て歩いてるようなものだから。ティンカとは水と油なのかもね クレア: 私はソルダ・スートの気持ちが少しわかる気がする ティンカー・ベル: そ、そんなにみんなで責めなくたっていいじゃ〜ん! エミリー: 誰にでも失敗はあるよぉ。ティンカだって盛り上げようとして、ちょっとふざけちゃったんだし。どんまーい! ティンカー・ベル: エミリー……いい奴じゃーん! ヴェルメリオ: ……お気楽なところがティンカの長所でもある ピュルテ: そうです、そうです!ティンカちゃんはふざけてなんぼですよ! ティンカー・ベル: でしょ、でしょ! ドロシー: そうやって調子に乗るから失敗するのよ ティンカー・ベル: ちっ、反省してまーす アリス: ソルダ・スートのことも大目に見てあげて。融通あんまり利かないけどさ シンデレラ: ソルダ・スートは立派な兵士だわ。私の騎士団に入ってほしいくらいよ アリス: それ聞いたらソルダ・スートも喜ぶよ。ガラスの騎士団かぁ……それもいいかもね クレア: そんなことしたらエルザ女王に怒られて、ヴェルザームがもらえない エミリー: あは、クレアも融通利かない子だからぁ ピュルテ: クレアさんとティンカちゃんをまぜまぜしたら、丁度いいのかもしれない?なるほど、人間さんの言うとおりかもですね ヴェルメリオ: ……わたし、人間さんとまぜまぜされたい (ドガアアアアン) シンデレラ: きゃあっ、なに、今の音は!? ティンカー・ベル: 城の中だったよね!?まさか魔物? ドロシー: 鉄壁の守りとか言ってたのに?冗談じゃないわよ、こんな夜中に……! (背景切換...) ピュルテ: 音のする方向からすると、たぶんこっちです!きゃあっ、また爆発! ソルダ・スート: う、ううっ……貴様らぁ……私をなめるのもいい加減にしろ…… エミリー: あっ、ソルダ・スートだ!ちょうどよかった、城の中で何かが起きてるみたいなのぉ! クレア: ソルダ・スートなら気付いてたよね。この異変 ソルダ・スート: 黙れ……平民どもめ…… ピュルテ: 待ってください、これ……まさかディマイトが暴走してるんじゃ エルザ: ああ、よかった。ここにいたのね、スート。それに人間さんたちも。いったいこれは何の騒ぎなのよ ソルダ・スート: はあ?偉そうに、何様のつもり? エルザ: えっ?スート?いったい何を言って……きゃああっ!? ヴェルメリオ: ……エルザに攻撃した!? ソルダ・スート: 気安く触るんじゃあない……私こそ、この城の主にふさわしい存在。支配者になるべき存在なのだ! エルザ: スート、そんなどうして。あなたほどの忠臣はいないのよ。そもそも、私の部下で忠臣といえるの、あなただけじゃないの ティンカー・ベル: みんな!ソルダ・スートの太もも見て!例の文字が書いてあるんじゃない!? クレア: 太もも。また、いつものやつ シンデレラ: やっかいね。ソルダ・スートほどの達人を相手に、あんな懐に潜り込めるかしら ピュルテ: しかも人間さんじゃないと消せないですし ドロシー: なんとかする?そうね、してもらうしかないわ。私たちが足止めしておくから! エミリー: しっかりして、エルザ。ソルダ・スートはディマイトに操られているの。だから落ち込んじゃダメだよぉ エルザ: これが……ディマイト…… 116 - ここぞというときのレイズ クレア: 今、チャンス ピュルテ: 人間さん、お願いします!ソルダ・スートさんの太ももの文字を……って、危ないっ! ソルダ・スート: 甘い、甘い、甘いッ! ドロシー: 任せて!くはあっ!?庇ったのはいいけど、こっちもダメージがっ……! シンデレラ: 大丈夫!?ドロシー! ドロシー: 平気、かすり傷よ。でも、何度もこのパターンやってるけど、本当に勝てるの、これ エミリー: エミリーたちが攻撃して注意を引いて、そのスキに人間さんが太ももの文字を消しに飛び込むんだよね クレア: 人間さんがやられそうになったら、私たちが盾になる ヴェルメリオ: ……少しずつ消えてはいるよ シンデレラ: そうね。何度もトライすればいつかは消せそうね。問題は、こっちの体力がそれまで保つかどうかだけど ピュルテ: こんなとき……リルちゃんはいつも助けに来てくれたけど…… ティンカー・ベル: 今度はこっちだよ、ソルダ・スート!ティンカのこと怒ってたじゃん、ほらほら! ソルダ・スート: ううっ……!バカにして!おまえなんか、こうだっ! ティンカー・ベル: 今だよ、人間さん! ピュルテ: ……いつまでもリルちゃんに甘えてばっかりなんて、ダメだよね。だって私、戦えるんだから ヴェルメリオ: ……人間さんがあぶない! ピュルテ: 任せてください!ええいっ! エミリー: ピュルテ〜!ファインプレーだよぉ! シンデレラ: やるじゃない。うん、なんとかなりそうね! ピュルテ: はい、あとちょっとです!……そう、リルちゃんに甘えてばっかりじゃあダメなんだ。私が人間さんを守るんだもん ソルダ・スート: うっ、うぐっ……うぬううっ!おまえたち、ちょこまかと……私の本気を見せてやろう!ジャックポットジョーカーッ!! シンデレラ: 大丈夫、人間さん。何度も飛び込んでは弾かれて、もうぼろぼろよ ドロシー: みんなが庇ってくれるから平気?だからってノーダメージじゃないでしょ。強がっちゃって…… ティンカー・ベル: けど、もう少しだよ。だいぶソルダ・スートの動きも鈍くなってきた気がする! ソルダ・スート: う、うぐう……うあああっ!身体が、思うようにっ…… ピュルテ: 完全には消せてないですけど、人間さんの手がかすったりしてるので、文字が完全じゃなくなってるんです ヴェルメリオ: ……それでディマイトの影響も弱まってきてるんだね クレア: ここで、たたみかける エルザ: 待って!よってたかって、スートを攻撃するのはもうやめてあげて! エミリー: エルザ?違うよぅ、これはみんなでいじめてるわけじゃないの。分かるでしょ? エルザ: だって、こんな……私の大事な部下なの。唯一の忠臣なの。それを、ボコボコにされるのを守れないなんて!私はこれでも君主なのよ シンデレラ: 言いたいことは分かるわ。けど大丈夫だから黙ってみてて。約束する、絶対にソルダ・スートを無事にエルザのところへ返すから エルザ: 本当ね?お願いよ、私はスートを失ったら終わりなのよ ソルダ・スート: える……ざ……様ぁ……う、うぐっ……頭がっ、あぐううっ ティンカー・ベル: エルザが庇ってくれたことで、ソルダ・スートの感情が動いたんだ!ディマイトの支配から抜け出せそうなんだよ! エルザ: え……?よく分からないけど、私も役に立ったってこと? シンデレラ: そうよ。だからもっと、呼びかけてあげて ドロシー: さーて、それじゃあ勝負といきましょうか。ここらで決着、つけないとね! クレア: 人間さん、用意はいい?いくよ ソルダ・スート: 申し訳ございません!エルザ様。このソルダ・スート、どんな罰でも受け入れます!どうか私に重い罰を! エルザ: 当然ね、この女王エルザの城をめちゃくちゃにした罪は重いわ! シンデレラ: ちょっと待って!ソルダ・スートはディマイトに操られていたのよ。自分の意思じゃない ソルダ・スート: お控えください、シンデレラ殿。私はいついかなる時でも状態でも、エルザ様の忠実な兵士。ディマイトなどに負けた自分が許せない エルザ: ええい!この者の、ソルダ・スートの首をっ……首をっ……刎ねられるとでも思うたか。お前を赦す、ソルダ・スートよ ソルダ・スート: え、エルザ様?! エルザ: 私の気が変わらぬうちに、さっさと頭を上げるがいい アリス: へえ、あの女王がねぇ……。え、人間さんも驚いた?そうだよね。創造期からは想像もできない変化だよ エミリー: ああ、よかったぁ。どうなることかとハラハラしちゃったよぉ エルザ: しかし……ディマイト。改めて恐ろしい力だと実感した。あの文字はなんなのよ! ドロシー: ディマイトに操られてしまう、不思議な文字よ エルザ: この城に何者かが侵入し、あまつさえソルダ・スートほどの達人の太ももに文字を書いたと? ティンカー・ベル: ぶっちゃけ、いつ書かれたかはわかんないけど ピュルテ: そうですね。お城の外に出たときに、書かれてしまったのかもしれませんね ヴェルメリオ: ……人間さんが、常にソルダ・スートの太ももは見てたけど、あんな文字は昨日までなかったって。……人間さんてば、そんなに見てたの? ソルダ・スート: 文字を書かれたなんて、まったく気が付かなかった エルザ: ディマイトの文字を書き込む魔物とは、恐ろしい敵だ クレア: ディマイトを文字にして相手を操れるのだから、そうとう強い敵…… アリス: ひとまずソルダ・スートが元に戻って、みんなが無事でよかった! 兵士: 女王陛下!陛下に会いたいと申す者たちが来ております。なんでも緊急の用だそうでございます! エルザ: こんな時に客とは……。くだらぬ用だったら首をはねてやる! 117 - お茶会のデッキ エルザ: スートの様子は アリス: 今は落ち着いて眠ってるわ。少し休ませたほうがいいと思う シンデレラ: それより来客があったのよね。なかなか来ないけど…… エルザ: まったく何をしているのかしら!さっさと来ないと首を刎ねるわよ! リラ: ぴょーんぴょーん!お集まりの皆さん、今日も一緒にぴょんぴょんするよー! ルース: だ、ダメだよ、リラ。静かにしないと首を刎ねられるよ ティンカー・ベル: リラっ!?それにルースも! ヴェルメリオ: ……来客ってもしかして リラ: はーい!本日のゲストはリラさんとルースさんです!それではさっそくお話を聞いてみましょう! エルザ: お茶会メンバーがわざわざ来るとは、確かに話を聞いてみたいわね クレア: ギリギリの人と、一応会話が繋がってる ルース: 実はわたくしたちがお茶会をしている森のあたりに、魔物が急に増えてしまってるんです エルザ: 知っているわ。貴様らがなにかやらかしたのでしょう? ルース: そんなっ、わたくしたちは何も…… アリス: ねえ、ルース。みんなが、わざと何かしたとは思ってないよ。けど、悪意なくうっかり、っていうのはあり得るかなって ルース: あ、えっと、そうですよね!じゃあみんなに何かしてないか聞いてきます! ティンカー・ベル: 待ったぁ!いきなり走り出さないの!どうするか決まってから動き出そうよ エミリー: ティンカがこれ以上ないくらい正論を言ってる! ティンカー・ベル: いやいや、ティンカはこう見えて良識ある大人だからね? エルザ: それで?仮におまえたちが原因でないとして、何を言いにわざわざここへ ルース: えっと、あの、なんだっけ、その リラ: ルース選手、もうタイムリミットは目の前です!果たして答えは出るのでしょーかっ、ち、ち、ち、ち、ぶっぶー! ルース: あーっ、そんな!時間切れになっちゃった! ドロシー: 時間切れとかないから落ち着いて考えて!それとギリウサちゃんは1分だけ黙ってて リラ: はぁーい!じゃあ1分数えて待ちましょう!いーち、にーぃ、さー……むぐぐっ ヴェルメリオ: ……カウントダウンなんかしたら、またルースがテンパっちゃうから ルース: あっ、あの、お手紙をもってきてたんでした! ピュルテ: それなら話が早いですね! エルザ: あの2人は長旅の疲れを癒やしてもらうという名目で、別室を用意して休ませた シンデレラ: エルザ……その言い方、あの子たちをまったく信用していないようね エルザ: 先にお前たちに頼もうとしていたとおり、確かにあの辺りは魔物が増えている ドロシー: 助けを呼びにきたリラとルースが、実は罠を仕掛けていて、魔物が増えた原因もお茶会メンバーにある……そういうこと? ピュルテ: 可能性は分かりますけど、リラさんもルースちゃんも、とても騙しているようには見えませんでしたよ エミリー: けどぉ、誰かにいいように利用されちゃうってことはあるんじゃない? クレア: いい子なら、なおのこと騙されやすい ティンカー・ベル: でもさ、お茶会メンバーってあの2人だけじゃないよね ヴェルメリオ: ……チェシャ—に、タリー、マウラ、それにアゾソレムも アリス: それだけいて、みんな揃って騙されるはずないってことだよね ピュルテ: アゾソレムさんなんて手強いでしょうし エルザ: 人間さん、おまえはどう思う ピュルテ: 慎重に行動した方がいいと思う?そうですよね、お茶会のみなさんが悪い人だとは思えないですが、誰かに操られてたら大変です アリス: だとしたら……お茶会のみんなが心配だよ ティンカー・ベル: ん?大丈夫じゃん?だって操られているうちは元気じゃないと敵にとっても意味ないから アリス: だって罠に誘うために操るのは、リラとルースで十分でしょ。敵にとって、アゾソレムたちは邪魔でしかない…… エミリー: ええっ、そんなあ!でも、言われてみればそうなのかも シンデレラ: ここで悩んでたって仕方ないわ。ねえ、そのお茶会が開かれてるって森は、ここから遠いの? アリス: ちょっと距離はあるけど…みんな、助けに来てくれるの!? ピュルテ: もともとソルダ・スートさんと一緒に様子を見に行く予定でしたし、助けに行きましょうよ シンデレラ: 真相はどうあれ魔物の増加はディマイトが関係してるはずだものね エミリー: それでもし向こうで何かあったら、やっつける方向にシフトすればいいんだもんね ドロシー: そうそう。エミリーもだいぶ私たちの旅の方向性に慣れてきたみたいね クレア: 馴染んできたのかな、うれしい ティンカー・ベル: でもソルダ・スートは、この感じだと一緒に行くのは無理そうだよね ピュルテ: そうですね。一応、ソルダ・スートさんの様子を見てきます。きゃっ、ルースちゃん!?ずっとドアの前に立ってたんですか!? ルース: あ、あの……すみません、立ち聞きなんかしちゃって。お話に来たら聞こえてきちゃって エミリー: 大丈夫、聞かれて困ることじゃないよぉ クレア: 安心して。助けるから ティンカー・ベル: あれ、わりと静かだと思ったらリラは? ルース: たぶん部屋にいると思います。珍しくおとなしくしているので ヴェルメリオ: ……大丈夫かな。リラってトランプ兵にいじめられたトラウマがあるんじゃないの シンデレラ: そっか。そういう記憶って、平気なつもりでも抜けきらないからね。あのリラだって、やっぱり…… ルース: 見た感じは普通でしたよ!あ、でも様子を見たほうがいいですよね、わたくし、いま走って見てきます! エミリー: ああーっ、だから急いで動かなくていいってば! クレア: あれで見た感じは普通?普通ってなに ピュルテ: 戻りました!って、えっ、ルースちゃん、どうしたんです? ティンカー・ベル: ちょうどよかった、ピュルテ。とりあえずルースが走り出さないように捕まえておいて ピュルテ: ソルダ・スートさんは、本人は行くと言ってましたが大事を取って城で待機になりそうでしたよ ドロシー: 当然よね。あ、それでピュルテ、行き帰りでリラのこと見かけなかった? ヴェルメリオ: ……実はほら、創造期のことがあったからリラのこと心配してて ピュルテ: ああ、それだったらアリスさんが同じように心配して様子を見に行ってましたよ ルース: なんだあ、わたくしが慌てることはなかったんですね ティンカー・ベル: だいたいいつも、そうだと思うよ…… 118 - シャッフルの結果 ソルダ・スート: この城は4つの城郭で構成されている。エルザさまがおられるハート棟、我々兵士のいるスペード棟など ピュルテ: それぞれは、あの渡り廊下で繋がってるんですね ティンカー・ベル: あ、ほんとだ、建物の外に廊下がある!あんな高いところにあって崩れないのかな ソルダ・スート: 各棟の行き来は地上の中庭もしくは、13階にある渡り廊下に限られる。侵入を許しても被害を最小限に食い止めるための構造だ ドロシー: 屋根はついてるけど、側面は外に面してるのね。嵐の日はずぶ濡れになりそうだわ アリス: あんまり風が強いと通行禁止になるんだよね ソルダ・スート: ああ。それに見てのとおり、外部から侵入も可能だから、夜間も施錠して通行不可となる エミリー: 侵入って、13階だよぉ?そんなの無理じゃないかなぁ? クレア: ううん、飛ぶ能力は、そんなに珍しいものじゃない ヴェルメリオ: ……それで、わたしたちはこのクローバー棟に泊めてもらえるんだね アリス: 1人1部屋でいいの?豪華だね! 兵士: 師団長。実は1部屋だけ水回りが壊れてしまっていて ソルダ・スート: なんだと。じゃあ部屋が足りないじゃないか ティンカー・ベル: え、じゃあ人間さんはティンカと同じ部屋にすればいいじゃん! シンデレラ: あら、ティンカちゃんの歯ぎしりで眠れなくなっちゃうわよ ティンカー・ベル: また変な風評被害を増やさないで! シンデレラ: 私が抱っこしてあげた方がよく眠れるでしょ。ねえ? ドロシー: どうせ朝まで飲まされて結局眠れなくなるんじゃないの? ピュルテ: じゃ、じゃあっ!わ、わた、私……その…… エミリー: みんな本当に人間さん大好きだねぇ。人間さんも困ってるんだか、にやついてるんだか、よくわからない顔してるし クレア: 理解に苦しむ ソルダ・スート: すまない、人間さん殿のために隣のダイヤ棟に部屋を用意した ティンカー・ベル: そんなの要らなかったのに! ヴェルメリオ: ……人間さんだけ別棟……そっか…… 兵士: 敵襲っ!敵襲だ、魔物が出たぞ! ティンカー・ベル: んもう、こんな夜中になんの騒ぎ!? クレア: 魔物!?みんな早く起きて エミリー: うう……エミリー、眠くて動けないよぅ 兵士: ぐわあああっ、やられたっ! ドロシー: 思った以上に数が多いわ。早く私たちも参戦しないと。って、あれ、人間さんは アリス: ダイヤ棟だよ!いま兵士に呼びに行かせてるけど、待ってたら間に合わないよ シンデレラ: 仕方ないわ。私たちの力だけで戦うのよ ピュルテ: 普段から分けてもらってるエルマイトが身体に残ってるはずです。まったく戦えないってことはないですよ! ヴェルメリオ: ……でも数が多くて、あっ!? エミリー: あっちはハートの……エルザがあぶないよ! ティンカー・ベル: あーっ、人間さん!やっと来たの!?遅いよ、一気に畳み掛けるよ! (背景切換...) (…………。) エルザ: ふん、魔物ふぜいが……この私の首を刎ねようなどと、思い上がるな!サタンズクイーンっ! (ズガアアアン!) エルザ: とは言ったものの……数が多すぎる。覚悟を決めなくちゃいけないわね……! ドロシー: よかった、間に合った!いま行くわよ、エルザ! エルザ: おまえたち……遅いわ、何をやってたの! ピュルテ: いけません!エルザさんが私たちに注意を向けたスキにっ! エルザ: なっ、しまっ…… ソルダ・スート: エルザ様!伏せてっ! ティンカー・ベル: ソルダ・スート!やった、守った……けど、攻撃を庇ってダメージ受けてる! クレア: シンデレラ、早く行って エミリー: 後の魔物はエミリーたちが、ばばぁん!って倒しちゃうよぉ! シンデレラ: 大丈夫、ソルダ・スート!?うん、そんなに傷は深くないわ。けど…… エルザ: 馬鹿者。けが人は休んでおけと言っただろうが…… ソルダ・スート: 無様な姿ばかり見せていては、師団長の沽券に関わりますゆえ…… エルザ: 馬鹿者……大馬鹿者だ、おまえは エルザ: 一度ならず二度までも……鉄壁の守りを誇っていたのではなかったのか!この役立たずども! 兵士: ひいいいいっ! エルザ: 今すぐ貴様らの首を刎ねたいところだが、原因を調査した結果を聞こう 兵士: はい、実は…… シンデレラ: 渡り廊下のカギが開いてた!? エミリー: じゃあやっぱり空を飛んできて、廊下から入ってきたんだねっ ヴェルメリオ: ……っ!!か、カギが開いてたせいで……?そ、それ本当? ドロシー: カギかかってたって言ったって、思い切りドアを蹴破ったら入れるでしょ ティンカー・ベル: あれは魔法のカギだから、そんなに簡単には開かない? ふうん……まあ確かに、ドアは壊れてなかったもんね クレア: だとしたら誰かが開けたとしか ヴェルメリオ: ……っ!?そ、そんなこと、誰もしてないと思うよ エミリー: そうだよぉ。だって裏切り者ってことになっちゃうよぅ ヴェルメリオ: ……!う、うっかり掛け忘れてただけじゃないかな? エルザ: なるほど。なら昨日の巡回担当をここに呼ぶのよ。3秒で首を刎ねてあげるわ! ヴェルメリオ: ……そ、そこまでしなくても。うっかりしてただけなんだし エルザ: うっかりで済むと思う?これだけ騒ぎになって、スートも負傷して……一歩間違えれば、もっとひどいことだって ヴェルメリオ: ……う、うう、ごめんなさい シンデレラ: 別にヴェルが謝ることじゃないわよ。それより本当に、どうしてカギが開いてたのか突き止めないと アリス: ヴェル。大丈夫、私は黙っておくから ヴェルメリオ: ……アリス、やっぱりあの時、わたしのこと見てたの 兵士: エルザ様!城内の監視スフィアが届きました ティンカー・ベル: なにそのオーブ。えっ、映像が映るの? ピュルテ: 人間界の監視カメラの映像みたいなものですね ドロシー: あっ、例の扉が映ってるわ。ここのカギが開けられてたのよね。誰か近づくかしら…… シンデレラ: 時間はみんなが寝静まった夜中ね。あっ、誰か来るわ クレア: えっ、これ……赤い頭巾……? 119 - 遅すぎたビッド シンデレラ: ヴェル。これはどういうことなの ヴェルメリオ: ……ちがうの。わたし、こんなつもりじゃ ドロシー: それはみんな分かってるわよ。カギを開けたから魔物が入ってくるなんて思わないもの ピュルテ: そうですよね。ただカギを開けただけなんですから ドロシー: けど。問題はそこじゃないわ ティンカー・ベル: 誰がカギを開けたんだ、って話になってたよね。でも……ずきん、黙ってたよね アリス: だ、だって、言えないよ!そういう空気じゃなかったもん! エミリー: どうして?間違って開けちゃいました、てへぺろ★っていうんじゃダメかなあ? クレア: てへぺろはともかく、謝ればいい。そんなに悪いことしたわけじゃないのに ヴェルメリオ: ……だって。どうして開けたのって聞かれたら…… シンデレラ: 予想はできてるけど、私の考えで間違いないのかしら? ピュルテ: あ……もしかして、人間さんのお部屋に行くために……? アリス: あ、あのね、ヴェルは人間さんのお部屋に遊びに行きたかっただけなんだよ ヴェルメリオ: ……だって、人間さんに嫌われたくなくて。だから言えなかったの。魔物も倒せたし、このまま無かったことにしたくてっ ドロシー: あのね、ヴェル……って、え、ちょっと!? ピュルテ: 人間さん、急にどうしたんですか (パァン) ヴェルメリオ: ……っ!! ティンカー・ベル: 人間さんが……ずきんを……ビンタした…… エミリー: あっ!ヴェルが走ってどっか行っちゃったよ!ど、どうしよう〜 シンデレラ: 今すぐ誰か追いかけてくれ?人間さんたら…… ドロシー: 分かった、私が行くわ! クレア: びっくりした ピュルテ: やりすぎたかな、って人間さんてば目がすっごい泳いでますよ!ヒザもガクガクしてるし! エミリー: さっきは毅然としてて、ちょっとカッコよかったのにねぇ ティンカー・ベル: いなくなったらどうしよう、って。大丈夫だよ。でも叱るのも勇気いるよねえ。ペトラのおやつ抜きにしたこと思い出すなあ ドロシー: ちょっと、待って!ヴェルったら! ヴェルメリオ: ……いいのっ。わたし、もう人間さんに嫌われたんだっ ドロシー: いいから落ち着いて!話を聞きなさいって! リラ: ぴょんぴょん、ぴょーん! ドロシー: えっ、リラ!?どこから出てきたのよ!これからちょっとマジメな話をするんだけど リラ: はあい。どうぞっ! ドロシー: どうぞって、えっと、だからね リラ: マジメなおはなし、どうぞっ! ドロシー: うん、まあいいわ。ヴェル、こっちに来て (背景切換...) ドロシー: ちょっと落ち着いた?とりあえず、泣きやんだわね ヴェルメリオ: ……自分でも悪いことしたって分かってたの。けど、謝る勇気が出なくて…… ドロシー: 好きな人に会いたい気持ちは、私だって分かるわ。それに、ライバルがいっぱいいて焦る気持ちもね リラ: 私もライバルには気持ちがぴょんぴょんするんだよね。そんなときは私の耳を触って。もっふもふです ドロシー: 何よ、その顔。私だってね、ヴェルと同じ状況なんだからね。つまり……んああっ、こっ恥ずかしいから言わないけど! リラ: じゃあ私が代わりに言うね。ドロシーは3日に1回はTバックです! ドロシー: 勝手に嘘言わないでよ! ヴェルメリオ: ……ふふっ、なんなの、それ ドロシー: あ、やっと笑ったわね。リラもなかなか役に立つじゃない。たぶん偶然でしょうけど リラ: 偶然の出会いを期待して、私は明日の朝から食パンを食べます! ヴェルメリオ: ……それ、人間さんから教わったやつでしょ。聞いたことある ドロシー: 人間さんのこと、好きなのよね ヴェルメリオ: ……うん。すごく辛くて、苦しいの。けど、それはドロシーも同じだし、姐さんも、みんな…… ドロシー: ヴェルだけじゃないよ。だから気持ちを楽に持って ドロシー: そろそろみんなのところに戻れそう? ヴェルメリオ: ……うん。ごめん、うじうじしてるとこ、つきあわせて ドロシー: バカね。謝る必要なんてないでしょ。私たち、友達じゃなかったっけ? リラ: 美しいゆーじょーだね。わたしの心も洗われちゃうよ。じょばばばー ヴェルメリオ: ……好きになるのって難しい。その気持ちで行動してるのに、気がついたら逆に行っちゃう ドロシー: 魔物騒ぎになるなんて、あれは誰にも予想できないわよ ヴェルメリオ: ……ううん、今回だけじゃなくて。わたしが一生懸命になるほど、人間さんの心が離れてるような気がするの ドロシー: それは被害妄想よ。好きが伝わらないことはあるかもしれないけど、心が離れてなんかないわよ! リラ: 被害妄想は怖いよね!わたしも家に帰って部屋がぐちゃぐちゃだとドロボーが入ったと思っちゃう ドロシー: え、それは本当に泥棒なんじゃないの リラ: お片付けがめんどくさくてね、お洋服とかポイポイってしちゃうの。でもドロボーだと思うと気持ちが楽になるよね! ヴェルメリオ: ……ほんと、わたしもそうかも。誰かのせいにしたいだけ。他の子が近づいたら嫉妬して ドロシー: うん……嫉妬することは、別に悪いってもんでもないけど。でもヴェルは最近、ちょっと過敏だったかな? ヴェルメリオ: ……人間さんとわたしの2人きりでも、好きになってもらえるか分からないのに。こんな子じゃ、人間さんのこと好きになる資格だってない ドロシー: ヴェル…… リラ: 自分の気持ちまで否定することないです。誰かを好きって気持ちは、本来はキラキラしたものなんですよ ドロシー: えっ、リラ!?また毒キノコでも食べたの? リラ: いいえ。この城に来ると、時々胸がすごく苦しくなって……様子がおかしくなることがあるんです ドロシー: つまり今はおかしい状態ってことなのよね。この城にいるだけで毒状態って ヴェルメリオ: ……やっぱりトラウマ? リラ: でしょうか。今日は一段と様子がおかしいのですが 120 - ソリティアじゃいられない ヴェルメリオ: ……ドロシー、大丈夫なのかな。リラの様子がおかしいって、誰かに教えた方がいい? ドロシー: い、いえ、大丈夫よ。とりあえず様子を見ましょう リラ: 大丈夫です。いきなり倒れたり暴れたりするわけではありませんから ドロシー: な、ならいいんだけど、身体は平気? リラ: 毒とは違うんですよ。ただね、一生懸命に悩んでるヴェルちゃんを見ていたら……あの頃を思い出したんです ヴェルメリオ: ……あの頃って? リラ: まだ私が、誰かを純粋に愛せたあの頃 ドロシー: えっ、リラが!?いえ、ごめんなさい。そうよね、リラだって最初からこうだったわけじゃないわよね リラ: ふふ、こう見えても私……わた……し……う、ううっ!? ヴェルメリオ: ……リラ!?大丈夫!? リラ: なんちってー!ぴょんぴょんぴょーん!私ってばアダルティだね!心がぴょんぴょんしちゃうよっ! ドロシー: あっ、戻った……ホッとしたような、残念なような リラ: それでは私はそろそろ夜のねむねむツアーに出発します!しゅっしゅ、ぽっぽ、しゅっしゅ、ぽっぽ ヴェルメリオ: ……行っちゃったよ。なんだったんだろ ドロシー: 要するに眠いから部屋に戻って寝るってことよね。なんだか、拍子抜けして疲れちゃったわ ヴェルメリオ: ……ドロシー、ありがとう。わたし、ちゃんとみんなに謝る。謝って済むことじゃないけど、でもわたしにできるの、それだけだし ドロシー: できることから始めないとね。信頼を失ったのは事実だし、そんなの悩んでも戻ってこないわ。じゃあ何ができるのか、ってことよ ヴェルメリオ: ……そうだね。考えてみる ドロシー: おっけぃ!なんとなくスッキリしたわね!おもに私が! ヴェルメリオ: ……ありがと、ドロシー ドロシー: ほら、ヴェル。決めたんだからちゃんとして ヴェルメリオ: ……う、うん。あの、人間さん。みんな。本当にごめんなさい ティンカー・ベル: ふう……っとにもう、ずきんは!人間さんのことばっかり考えすぎ!そりゃあ初恋なんだろうし、視野が狭くなるのは分かるけど ヴェルメリオ: ……えっ、なんで初恋って ティンカー・ベル: ティンカは妖精だからなんでもお見通しなんだよ!とにかく、もう暴走しないこと!はい、言いたいこと言ったからティンカはもう気が済んだ!終了! ピュルテ: ふふっ、ティンカちゃんらしいですね エミリー: ティンカが好き放題言ったから、みんなも気が済んじゃったって。ほら、ちょっと早いけど朝ごはん食べよう! クレア: 今から寝たら朝起きられないし。もう出発しなきゃだから ヴェルメリオ: ……みんな、本当にありがとう。ごめん シンデレラ: じゃあ丸く収まったところでかんぱーい★ ピュルテ: えっ、朝ごはんですよ!? (…………。) アリス: ねえねえ、人間界のお酒もこんな感じ? ピュルテ: ワインとかエール酒はありますよね。でも人間界はすごくおしゃれで可愛いカクテルとかあるんですよ シンデレラ: えー、飲んでみたぁい♪……ちょっと人間さん、カクテルなんてガラじゃないだろって何よ。樽からいけばいいって、ひっどい! ルース: あっ、グラスが空いてますね!新しい樽持ってきます!走って持ってきます! ヴェルメリオ: ……ルース、落ち着いて シンデレラ: それに今の会話の流れでそれ、本当にやめて……私の女子力を疑われてるところなんだから ドロシー: 女子力!?いま女子力の話をした!? ピュルテ: そもそも、食べ終わって一休みしたら出発なのに、おかわり飲ませちゃダメですよ…… ティンカー・ベル: あれ、エミリーってばこれ残してどこ行っちゃったの? クレア: トイレ ティンカー・ベル: じゃあ今のうちに食べちゃおーっと☆ クレア: エミリーは偏食だから シンデレラ: 人間界にまた行き来できるようになったら、素敵なお店を紹介してよね、ピュルテちゃん♥ ピュルテ: あ、えっと、はい!もちろんですよ〜! 滞在中に色々なお店に行きましたから。 私のお気に入りは六本木にある隠れ家的なお店で ヴェルメリオ: ……やっぱりわたし、人間さんも好きだけど…… みんなといるこの時間が好き ティンカー・ベル: ふー、すっきりしたっと。あれ、ティンカ…いま、どっちから来たんだっけ……? エミリー: ……だいじょうぶ。うん……それは……わからない……誰…… ティンカー・ベル: ん?誰かいるの?ねえ! エミリー: あっ、ティンカだ!よかったぁ! ティンカー・ベル: エミリー!あんた、こんなとこで何やってんの エミリー: 迷子になっちゃったのぉ。ふええん、怖かったよぅ ティンカー・ベル: なんかぼそぼそ話し声が聞こえてきて怖かったんだけど、誰かいたんじゃなかったの? エミリー: エミリーね、自分で自分を励ましてたの ティンカー・ベル: なにそれ、怖いからやめてよ (ズガアアアン!) エミリー: な、なに、なんの音ぉ! ティンカー・ベル: あっ、リラ! どうしたの、そっちで何かあったの!? リラ: う、うう……何かあったか?ふふん、そりゃあ私が目覚めたって大事件が起きたねぇ エミリー: えっ……まさか、リラがディマイトに……?うそ、なんでそんな リラ: あははははは!!これからお祭りの始まりだよぉ!? まずは、そこのきゃんきゃんうるさい小娘からっ……! ティンカー・ベル: あっ、危ない、エミリー! エミリー: きゃああっ!?あ、あうっ……うそ、でしょ……なんで、こんなっ……? ティンカー・ベル: エミリーっ!?そ、そんな、ひどいケガっ…… リラ: いい音がしたねぇ。お肉がみちみちする音だよぉ? これがお祭りってことなんだよねぇ ティンカー・ベル: や、やばい、これはやばいっ……みんなを呼ばなくちゃ。ううん、エミリー置いていけないし、さっきの音でみんな気づくはず リラ: なんなのぉ……? さっきから、ぶんぶん、ぶんぶん、うるさいんだよっ! ティンカー・ベル: うわあっ!?痛ぁっ……こ、この子、ディマイト感染して一番やばいっ…… リラ: まだまだお祭り、始まったばかりでしょお? 121 - デクレアラーは3月うさぎ リラ: くくっ……くふふっ……もっとイイ声聞かせてよぉ……ねえ?手伝ってあげるからさあ! エミリー: うっ、うぐうっ、やめっ……かはっ!もうやめて、血が出てるの…… リラ: ああっ、いいねえ!その光を失った瞳、弱々しい声……ぞくぞくするよ。身体の中にぞくぞくさせる虫が這い回ってるみたいだよ ティンカー・ベル: エミリーを放せっ!ええいっ! リラ: はあっ!なあに、今のって攻撃だったの、妖精さぁん。 私には蚊が飛んでたようにしか思えなかったんだけど? ティンカー・ベル: 気合一つでティンカの攻撃を吹き飛ばした!? なんなの、これ… シンデレラ: 大丈夫、二人とも! 何があったの……って、リラ!? ピュルテ: ディマイトです! またディマイトに操られています! クレア: エミリー!しっかりして ドロシー: まさか!いつのまに……だって、私たちと話して別れてから、そんなに時間は…… エルザ: また侵入されたということか。ええい、役立たずのトランプ兵ども!名誉挽回は今だぞ!リラを取り押さえろ! リラ: トランプ……トランプの兵隊さん……あ、あぐうっ、うあああっ! エルザ: ひるんだぞ!今だ! リラ: 私、私は嫌だって……あ、ああっ、大事な、私の、ああっ! 兵士: うわあああっ! ピュルテ: ディマイトが増幅しています! さっきよりも更に激しく! シンデレラ: トランプ兵は逆効果ね。トラウマがディマイトを呼び込んでるわ ティンカー・ベル: ティンカ……エミリーのこと守れなかったっ……! ドロシー: 過去のトラウマをなんとかリラなりに乗り越えようとしてるっていうのに、どうしてこんな…… アリス: とにかく、なんとかしなきゃ!リラを傷つけたくないけど、でもこの場は…… ルース: …っ!そんな、アリス!! リラに剣を向けられないでしょう!? クレア: 人間さん、リラの足のとこ。また文字を書かれてる ピュルテ: いえ、クレアさん……あれはラクガキです。 リラさんはいじめられた時に、身体に消えないラクガキをされてるんです クレア: なにそれ。ひどい ピュルテ: でもどこかに文字を書かれて操られてるのは、事実だと思います。どれが、その文字なのかが分かれば…… シンデレラ: 全部まとめて消してやる、ですって? そうね、そうこなくちゃ。頼んだわよ、人間さん! リラ: 私に攻撃なんてねぇ、ちーっとも効かないのよぉ? エルザ: なんだあいつは……攻撃しても、すぐさま回復してくるっ……これではキリがないわ シンデレラ: こっちが先に消耗する……流れを変えないとジリ貧よ リラ: トランプの兵隊さん、みーんなやっつけてあげる!ほぉら、お祭りだって言ってるでしょお! 兵士A: わああああ! 兵士B: ひいい、逃げろぉ! エルザ: き、貴様、武器を捨てて逃げるとは、それでもトランプ兵団の一員か! (ガツン) クレア: あっ。兵士が投げ捨てた武器がリラの頭に直撃した リラ: 痛っ……やったねっ!? このっ、このこの、このぉ! 兵士B: ぎゃあああ! ピュルテ: あれ……待ってください。なんで今の攻撃、回復しないんでしょう リラ: ふん、こんな傷、なんでもないわ ティンカー・ベル: ううん、回復してるじゃん、ほら ドロシー: 違うわ。ピュルテが言うとおり、今までは攻撃を受けたと同時に回復してたのに、どうして今のだけ…… ピュルテ: たぶん、リラさんが攻撃している間は、即回復できないんじゃないでしょうか シンデレラ: なるほどね。つまり攻撃を受け止めて引きつけておけば、その間はリラの即回復を無効化できるのね ヴェルメリオ: ……じゃあ、わたしがいく。わたしが囮になる ドロシー: ちょっとヴェル!?ムチャしないの! ヴェルメリオ: ……リラは、リラなりにわたしを元気づけてくれたんだもん アリス: だからって、危ないよ!やられちゃったらどうするの! ヴェルメリオ: ……誰かがやらなきゃいけない。じゃあ、わたししかいない。今できることは何か、そうでしょ、ドロシー ドロシー: そうだけどっ……!ううん、分かった。任せたわよ、ヴェル! リラ: 何をごちゃごちゃ言ってるのぉ?お祭りはまだ始まったばかりだよっ、はあっ! ヴェルメリオ: ……くうっ、すごい攻撃っ……でも、耐えなきゃっ…… クレア: 作ってくれたチャンス、ムダにしない ドロシー: ヴェル!大丈夫、しっかりして ヴェルメリオ: ……わたし、ちゃんと役に立てたよね?みんなの仲間として、ちゃんと…… ドロシー: やめなさいよ、そんな不吉な言い回し!ヴェルってば! ヴェルメリオ: ……大丈夫だよ、ドロシー。ちょっと疲れたけど、死んじゃうわけじゃないんだから ピュルテ: あっ、人間さん?頭なでなでしてあげるんですか ヴェルメリオ: ……がんばった、って言ってくれるの?よかったぁ……。ううん、いいの。こうして褒めてくれるだけで、わたしは嬉しいから ティンカー・ベル: キスの方がよかったかな、なんてさ。人間さんがひとりでずきんにチューしたいだけなんじゃないの? アリス: リラ!大丈夫!? ルース: どうしよう、あっ、なんかクスリとか持ってきますね! ダッシュで持ってきますから! リラ: ふわあ、なんだかふわっふわしちゃうよ?わたし、ブレないスタイルだと思ったのに、今すっごい揺れてる〜 ルース: よかった……!いつものリラです!あっ、じゃあお茶会のみんなに急いで無事を知らせに アリス: 待ちなさいってば!遠すぎるでしょ! シンデレラ: やれやれ、一件落着ね エルザ: それで済むものか。我が城は何度、侵入を許した……! 全員、首を刎ねてやるぞ! 兵士: ひいいっ! シンデレラ: それなんだけどね、エルザ。ちょっと後で相談したいことがあるから、首を刎ねるのはやめてちょうだい エルザ: ふむ……まあいいけど。何かしら エミリー: いたた……でも解決してよかったぁ クレア: エミリー、まだ無理しないで エミリー: でも、エミリーが1人でいた時にリラが暴走しちゃったから……また疑われちゃうかな ティンカー・ベル: バカっ!あんたのこと疑うわけないじゃん! ごめん、ごめんね、守れなくて エミリー: 別に、ティンカに守ってもらう約束なんかないよぅ。 エミリーが守ってあげる側じゃないのぉ? ティンカー・ベル: へへっ……ほんとに口が減らないんだから 122 - やり場のない怒り ドロシー: リラの様子は? アリス: すっかり元気だよ。人間さんが文字を消してくれたおかげだね。ルースと一足先にお茶会に戻ったよ ドロシー: 実際、あれはたぶんもっと前に書かれてたんだと思う。私とヴェルが会った時点で様子がおかしかったもの ピュルテ: 時限式のディマイト……まだ文字のこともよくわからないですから、そういうのもアリなのかもですね…… (ガンッ) シンデレラ: えっ、人間さんっ……? ヴェルメリオ: ……どうしたの、壁を殴って。大変、血が出てる ティンカー・ベル: 城を壊したらエルザが怒っちゃうよ……って、人間さん……すっごい怒ってるんだね…… エミリー: 許せないって……このディマイトを操ってる人たちのこと? シンデレラ: そうよね。リラの心の傷を抉るようなマネして、私も不愉快よ ピュルテ: リラさんの過去の傷のこと、知った上で文字を書いてるんでしょうね。ディマイトが強力だという予想で クレア: それが許せないんだ。私も同感 エミリー: えっ、クレアが怒るなんて……すごいことだよ シンデレラ: それに、いつも深刻にならないように和ませてくれる人間さんが、こんなに本気で怒るのも初めてよ ピュルテ: さあ、森に行きましょう。きっと答えがそこにあるはずです (背景切換...) アリス: この道をずっと行った先に森はあるの。みんな無事でいてくれるといいけど ピュルテ: こうして歩いている間も、ディマイトを感じます。たぶん、森から強い気配がにじみ出てるんじゃないでしょうか エミリー: 相手がなに考えてるんだか、さっぱりわかんないよぉ クレア: エミリー、傷は大丈夫なの エミリー: まだ本調子じゃないけど、そんなこと言ってお荷物になりたくないもん ティンカー・ベル: 無理しちゃだめだよ。辛かったら言ってね マウラ: はわわああ、やっとアリスが来た。待ちくたびれちゃったよ アリス: マウラ!よかった、無事だね。迎えにきてくれたの? マウラ: アゾソレムが非常時に寝るなってうるさいから、森の外で待ってるって口実で……ふわああ アリス: マウラ、起きて! マウラ: はっ!お茶会はこの奥でやってるよ。アリスは知ってるよね。今のは人間さんたちに言ったんだよ ドロシー: すごいわ!一瞬で寝て、起こされてすぐに自分の状況を把握してる クレア: 感心すること?まず寝ちゃダメだと思う シンデレラ: どうしたの?人間さん。お茶会が緊張する?めずらしいわね、そんなこと言うの エミリー: エミリーはお茶会大好きだから楽しみ~♪ ティンカー・ベル: 怪我が治ってないんだから、あんまりはしゃいじゃだめだよ、エミリー エミリー: はぁ~い アリス: 人間さんは創造期を知ってるんだもんね。ふふ、想像以上のお茶会にようこそ (背景切換...) アゾソレム: やっと来たか、アリス アリス: お待たせ、アゾソレム。人間さんたちも一緒に来てもらったよ! アゾソレム: おお、人間さん、それにシンデレラたち。よく来てくれた リラ: 時間ぴったり、遅刻です!お仕置とご褒美とどっちを用意してきたのかな? クレア: 何?意味がわからないんだけど ティンカー・ベル: ルースはどこ行ったの? アゾソレム: 行かなきゃ、と言って走り出したきり……まあ、いつものことじゃ マウラ: みんなのお茶を用意するね。ふあああ……眠い、眠…… ヴェルメリオ: ……立ったまま寝てる ピュルテ: 満員電車で、立ったまま寝てる人よくいますね、人間さん。途中でガクっと膝が落ちたりすると恥ずかしいんですよね。え?わ、私はそんな経験ないっ……ないですっ! リラ: 寝ても覚めても世界は逆立ちしたままだよ! エミリー: すごーい!よく意味はわからないけど、奥が深い気がする~ ヴェルメリオ: ……リラは何も考えてないと思うよ? アゾソレム: ただ、ここに着いたとき服がボロボロだったのが気がかりなんじゃが シンデレラ: それが……リラがディマイトに感染しちゃって大変だったのよ アゾソレム: 何じゃと?! アリス: みんなのおかげで元に戻ったけどね。それもあって、人間さんたちにもお茶会に来てもらったんだ アゾソレム: なるほどな。2人ともよく無事で戻ったな ヴェルメリオ: ……うん。すごく激しい戦いだったけど、無事でよかった ドロシー: ディマイトに操られると消耗するって聞くけど エミリー: わりとリラは元気そうに見えるけど、この子の普通の状態ってよくわかんないよね マウラ: ディマイトって怖いなあぁ、ふわああ リラ: お茶をどうぞ、お嬢さん クレア: あ、ありがとう。えっ、これカップにどんぐり入ってるけど…… シンデレラ: このあたりで魔物が急増してるって聞いたんだけど、それは本当なの? マウラ: あー、魔物はねえ、たくさん……むにゃむにゃ……食べられないよ…… アゾソレム: あー、そうじゃな。急激に増えとる ティンカー・ベル: この場面でそんなベタな寝言ってある!? アゾソレム: どうも森の奥の方から湧いて出てくるようなんじゃ。原因はチェシャーとタリーが調べてくれとるようじゃが エミリー: その感じだと、今のところ魔物が湧いてくる原因まで分かってないみたいだね リラ: 私は口から金貨が湧いてくるよ ドロシー: とにかく原因を……え、なに、金貨ですって!? ティンカー・ベル: 三つ編み~。リラの言うこと真に受けてどうすんの リラ: でも金貨は一皮剥くと美味しいチョコなんだよ シンデレラ: それは金の包装紙で包んだ金貨型のチョコでしょ!ああっ、突っ込まずにはいられないわ エミリー: さすがオトギノクニ屈指の……マンツーマンでお茶とか無理っぽい…… クレア: エミリー。怖がってるの。大丈夫 リラ: 私を誰だと思ってるんですか。怖くなんかないですよ。怖いのはヌルヌルしたあいつです、ぴょんぴょんぴょーん エミリー: えっ、ごめん。正直よく知らなくて リラ: お茶をどうぞ、おばあさん エミリー: あ、ありがと……って、おばあさんって! リラ: BとBが重なってビビィ! ティンカー・ベル: ちょっとアゾソレム、あんた中心で喋ってくれる?頭痛がしてきた リラ: おつむぺいん! 123 - 砦エリア マウラ: そういえば、もっともっと森の奥に建物がたくさんあるよね……ふぅ、むにゃむにゃ アゾソレム: ああ、その昔、エルザが兵士を駐在させるために建てた砦エリアじゃな。今じゃ誰も近寄らないが アリス: あの砦、不気味なんだよね。早く壊してって女王に頼んだのに面倒だって言われてさ シンデレラ: なるほど、魔物が好みそうな場所ね リラ: 私の好みはそのカップの、そのまた奥のカップの輝きに似ていますね! ヴェルメリオ: ……ね!って、わたしだけカップ足りなくて、スープ皿でお茶飲んでるんだけど クレア: みんなこうやって、突っ込むところもおかしくなっていく アゾソレム: 確かにあの砦エリアは盲点だった。魔物の出てくる方向とも一致しているしな ティンカー・ベル: とりあえず砦エリアとやらに行ってみればいーじゃん ドロシー: そうね!その砦エリアが魔物の巣なら、ぶっ壊してやるわ。エルザの手間も省けるし、手間賃も請求できるわ エミリー: でもリラをディマイトに感染させた犯人もいるかもしれないよぉ?油断したら危険だよぉ ドロシー: その時は手間賃の金額を増額して請求するわ ティンカー・ベル: いつから三つ編みは金銭至上主義キャラになったの? ドロシー: 妖精さんたら何も知らないのね。人間界での生活資金がいかにかかるか。やっぱり不動産は手堅いのよ シンデレラ: またピュルテちゃんが何か教えたの? ピュルテ: 今回は人間さんが東京の不動産事情をドロシーさんに話してしまって…… アリス: 砦エリアに行ってみるに賛成だよ。ディマイトの黒幕は、魔物を生み出してる敵とは別かもしれないし アゾソレム: 危険な敵が複数いると言うのか?! アリス: まだはっきりしたわけじゃあないけどね クレア: ………… シンデレラ: ここでお茶会をしていてもらちが明かないわ。手がかりは今のところ砦だけなら、行ってみる価値はある アゾソレム: そうじゃな。明日、砦エリアに行ってみることにしよう リラ: 明日は今日の鏡。左右が逆になったループの未来。もう寝て起きて寝なくちゃ! マウラ: はっ!みんなを宿に案内するよ エミリー: あっ……人間さん。ううん、ちょっと急に目が覚めちゃって。だからついでにお花摘みにきたんだよ クレア: 私はただ、エミリーが心配だっただけ エミリー: あ、あのねえ……お花摘みっていうのは……んもう、1から説明したくないよぅ。創造期には詳しいくせに、変なとこで人間さんは…… クレア: エミリー、大丈夫?顔が赤いけど傷が開いたの エミリー: 大丈夫だよ。クレアったら心配性なんだから~ クレア: だって夜の森が怖いからって、おしっこ限界までガマンしたりするし エミリー: クレアも!お花摘みって言ってるのに!みんなひどすぎるよぅ クレア: 人間さんは困らない?男の人は人間さんだけだから エミリー: 大丈夫って言うけど、顔が大丈夫じゃないよぉ?エミリーたちに話してみてよ クレア: みんないい子だし楽しいけど、男一人って時々疲れるときがある? エミリー: 女の子に囲まれるのも楽じゃない?えへへ、世の中の男の人に刺されちゃうよぉ? クレア: たまには男どうしで、くっだらないエロい話とかしたい?別にみんなにもすればいい エミリー: えー?みんな引かないと思うよ。でも、やっぱり男の人どうしとは違うのかな クレア: ケガの具合?なに、話題そらすの エミリー: うん、リラにやられたケガだね。もう大丈夫だよ。エミリー、こう見えても強いんだよっ。それにシンデレラがすぐ回復してくれたし…… クレア: あ、噂をすれば エミリー: シンデレラだ。それにアリスも。なんだかマジメな顔してるねぇ クレア: 珍しい。えっ、珍しいとか言っちゃだめなの? シンデレラ: だってエミリーはケガまでしたのよ アリス: だからって疑惑が晴れるわけじゃないんじゃない? エミリー: エミリーの話……? クレア: しっ。ちょっと様子を見よう、エミリー アリス: リラがおかしくなったとき、エミリーはひとりで行動してたんだよ?アリバイがないのはエミリーだけなんだよ?怪しんで当然だよ! シンデレラ: 落ち着いて、アリス。エミリーはリラと戦って怪我をしているのよ?犯人だったらそんな危険を冒すかしら アリス: でもエミリーはペンだって持ってる。新参者だし、シンデレラたちみたいにまだ信用できないよ! シンデレラ: アリスとリラは仲がいいから、犯人に憤りを感じるのは当然だわ。だからその怒りもわかるのだけど…… アリス: どうしてエミリーやクレアと一緒に行動しているの? シンデレラ: 彼女たちを故郷に無事、送り届けるためよ アリス: 海底の国で何があったの? シンデレラ: エミリーは海底の国でもペンを持っていることで疑われて、投獄までされてしまったの。でも疑いは晴れて解放されたわ アリス: それならさっさと故郷に帰ればいいのに。なぜシンデレラや人間さんたちが一緒に行動しているの? シンデレラ: それは…… アリス: シンデレラたちも実は、エミリーを疑っているんじゃあないの? シンデレラ: それはっ、それは……0パーセントというわけではないのかもしれないけど…… アリス: とにかく、私はエミリーを信用していないから。注意深く見張ることにする シンデレラ: 待って、アリス! クレア: エミリーを疑うなんて。文句言ってくる エミリー: やめて、クレア。いいよ、仕方ないもん。人間さんもそんな顔しないで~。うん、人間さんは信じてくれてるんだよね。うん……ありがとね。ごめん クレア: 怪我までしたのに。エミリーが犯人なわけない エミリー: クレアと人間さんが信じてくれてるなら、エミリーそれで十分だよ。だから、もう部屋に戻ろ! クレア: わかった。何があっても、エミリーのことは私が守るから エミリー: うん、ありがとうクレア!おやすみなさい、人間さん!また明日ね☆ 124 - ラクガキ アゾソレム: 砦はいくつもある。じゃが、絞り込む方法もないからのう ドロシー: しらみつぶしに探索していくしかないってことね ティンカー・ベル: いくつもあるっていうけど、実際どれくらいあるのかなあ エミリー: 場所もさ、すっごい広いエリアだったら大変だよねぇ シンデレラ: 砦の配置は知りたいわね。何か資料はないの? マウラ: あれー?そう言えば地図がなかったっけ リラ: 心の地図は今、書き換えたばかりだよ マウラ: 探してくるね~。リラ、手伝ってよ リラ: ちなみに今のところ白地図です! ピュルテ: リラさん、何かよく分からないことを口走ってますが、一応は手伝いに行ったんでしょうか クレア: 砦の数が分からないけど、絞り込む要素がもう少しほしい エミリー: もう崩れそうなのとかあったら、そこは違うとは思うんだけどね シンデレラ: むしろ崩れかけた砦こそ怪しいんじゃないの? アリス: 時間もったいないよ!もう片っ端から全部見ていくしかないんじゃない? ドロシー: そうよね!この時間で1つくらい制圧できてるわよね! アゾソレム: バカモン。一番遠い砦は、ここから歩いて4日はかかるんじゃぞ。3時間かけてでも、それが除外できたら時間効率はどっちがいいと思う アリス: うっ!それは確かに。だってさ、この時間を遊んで過ごせたら、って考えちゃわない? ティンカー・ベル: あっ!アリスはまた、人間さんにちょっかい出すつもりだね! ピュルテ: アリスさんも、人間さんが大好きですもんね アリス: えっ、やめてよ、そんなの…… マウラ: おまたせ~。やっと地図を見つけたよ リラ: 地図を見つけるのと引き換えに、大切な何かを見失ったかもしれないね! クレア: 意味不明なのになんか嫌なこと言う…… ピュルテ: ではさっそくこれを見ながら、絞り込んでいきましょう!まず……って、ええっ!?なんですか、この地図! ヴェルメリオ: ……子供のラクガキ? ドロシー: どう見てもこれは地図っていうよりラクガキでしょ! ティンカー・ベル: これで調査はちょっと無理があるんじゃないかなぁ マウラ: マウラが地図を新しくかくよ!そうすればすべて解決だよね?ふあああ エミリー: 地図かいてる間に絶対寝るよね~? リラ: 点と線が交われば不可能はないんだよ。道はすべて終点があるんです! ヴェルメリオ: ……それっぽいこと言ってるけど、地図と関係ないし マウラ: それじゃあ、砦エリアを隅々まで歩いて地図をかくね! ティンカー・ベル: ねえ、また寝てて聞いてなかったの?頭が痛い…… リラ: おつむぺいん! クレア: 実はすべて理解した上で、象徴的な言葉で何かを伝えたいの? ドロシー: クレア、そんな哲学的なこと絶対考えてないから。気にしたら負けなの シンデレラ: みんなで一緒に探索しましょう。そうすれば二度手間にならないし、マウラにまかせるより安心だわ ピュルテ: ええ、人間さん。さらっと酷いこと言ってますけど、シンデレラさん正論ですね アリス: あー、でも地図がないのは痛いよね。できれば急ぎたいのに アゾソレム: わしの頭の中に、大まかな砦の場所は入っている。まずはそれを地図にするが、あとは実際に行ってみるしかない ピュルテ: さすがアゾソレムさん! マウラ: えっと、えっと、まずは今の場所を地図に書く……くぅ~、くぅ~ ヴェルメリオ: ……あ、寝た。そっとしとくべき? アゾソレム: 確か南の方向に大きな砦があったな。それから東には…… エミリー: よぉし!いちばん近くの砦から行ってみよ~! クレア: エミリー、傷が悪化するから無理しないで エミリー: 大丈夫だよ、クレア!エミリー、悪い奴をやっつけるんだもん! ティンカー・ベル: なんかエミリーやたらはりきってるけど、どうしたんだろ。人間さん、複雑な顔してどうしたの? ティンカー・ベル: また虫に刺された! ピュルテ: この森、虫が多いですよね。私もさっきここ刺されちゃいました アリス: え、ほんと?私は全然平気なのに エミリー: あるよねぇ。1人だけやたら刺されたり、まったく刺されなかったり アゾソレム: まったく、緊張感がないのぉ。さて……そろそろ次の砦が見えてくる頃かのう アリス: あっ、あそこに見えるのって砦じゃない!? リラ: そうかな。私には砦にしか見えないよ ピュルテ: えっ?いえ、だから マウラ: 眠くてフラフラしてきたよ~? アリス: あれっ?中に何かいる!? ドロシー: どうやら当たりのようね シンデレラ: みんな、気をつけて。慎重に…… アリス: いっくぞー!ええーいっ! ドロシー: 私だって負けられないわ!せええいっ! シンデレラ: アリス!ドロシー!いきなり突撃なんて危険すぎるわよ! 触手魔物: キシャーーッ! アリス: きゃあっ!?や、やったわねっ! クレア: 泥仕合になった アゾソレム: やれやれ、作戦もなにもあったもんじゃないのう リラ: 私の作戦はね、まず私が突撃して私が私にバフをかけて、たくさんの私で取り囲んで敵を追い詰める、そんな妄想をすることなの マウラ: ねえ、もうマウラは帰ってもいいかな? ピュルテ: のんびり見てる場合じゃないですよね!お二人の援護に回ります! ヴェルメリオ: ……そうだね。わたしも行かなきゃ シンデレラ: ピュルテちゃんたら、すっかり戦うのも板についてきたわね エミリー: 人間さんは何か素直に喜べないって感じなの? (…………。) ドロシー: 結局、一番奥まで制圧したけど、普通の魔物しかいなかったわね アゾソレム: これといった手がかりも無しか。仕方あるまい、今回はスカじゃ アリス: まあ、魔物は減らせたんだから丸損じゃないよね。あ、痛っ……いつのまにこんな傷 ピュルテ: 最初に触手の魔物にやられたところですよ。無茶するから…… アリス: ううっ……意識がっ…… シンデレラ: アリス!? 125 - ポエム ピュルテ: アリスさんの様子は?! アゾソレム: 解毒の治療をしておいた。休めば回復するじゃろ ドロシー: よかった!安心したわ ピュルテ: 少しだけ、アリスさんの様子を見に行っても大丈夫でしょうか? アゾソレム: そうじゃな。マウラがずっと看病してるから、誰か交代してやってくれ ティンカー・ベル: そもそもマウラに任せて良かったの?絶対寝てるでしょ (背景切換...) ヴェルメリオ: ……アリス、眠ってるんだね マウラ: はっ、あ、アリスが夢の中で退屈してたからね、お話をしにいってたんだよ~ ドロシー: 大丈夫よ。もう、そんなことで誰もマウラを責めないから リラ: アリスの精神は起きていて、ずっとおしゃべりしているんだね エミリー: 看病交代するよぉ?寝ちゃうのはいつものことだけど、でもマウラだって疲れてるでしょ リラ: 昔、ポットで踊る茶葉が言ったの。疲れは疲れたと思ったところからが本番だって クレア: 哲学…… リラ: なので、茶葉は3回まで使うことにしたよ ドロシー: だから深く考えちゃダメなのよ、クレア シンデレラ: アリス、よく眠ってるわ。これなら明日は元気になってくれそうね マウラ: しっ!アリスが何か言ってるよ〜 ピュルテ: え?アリスさん、熟睡しているようですけど マウラ: 聞こえる、聞こえる、魂が語りかける、あの世から ティンカー・ベル: ちょっと、アリス生きてるから! ドロシー: マウラの背後でリラがなんか言ってるけど、あれを真に受けてるんじゃないでしょうね……? マウラ: 私、アリス。ポエムを日記帳に綴るのが趣味よ。私のポエム、聞いてね アリス: ん……う、うーん…… ヴェルメリオ: ……アリス、起きたみたい マウラ: 恋に破れた夜、マイブロークンハート。キミ以外、愛せない ピュルテ: え、なんですかそのベタベタな失恋ソングみたいな詩…… アリス: みんな、心配してきてくれたの?私ならもう大丈夫だから! マウラ: その唇、誰に愛をささやくの?ほしい、ほしい、キミのすべて アリス: 何言ってるの?マウラ シンデレラ: アリスの書いたポエムだって。アリスの魂の声が聞こえるとか アリス: え、私ポエムなんて書いたこともないよ ドロシー: 人間さん、顔が真っ赤になったり真っ青になったりしてるけど? ピュルテ: 今のは人間さんが高校生の時に書いた詩?!ま、まさか聞こえたのは人間さんの魂の声?! クレア: リラ、本物なの ピュルテ: もうアリスさんは大丈夫みたいですね ティンカー・ベル: そこまで強い毒じゃなかったみたいだし シンデレラ: これにこりて、あんな無茶な突撃はしないでほしいわね ドロシー: そうね。反省を生かしてほしいわね ヴェルメリオ: ……ドロシーもだよ エミリー: じゃあ、明日はじっとガマンだよぉ? クレア: たぶん無理 アゾソレム: ふふん、おまえさんたちもだいぶ馴染んでるようじゃのう クレア: 馴染んでる?うん、そうだといいな ティンカー・ベル: 健気じゃーん! ドロシー: 海底の新たなディマイト感染にも一緒に立ち向かったんだもの。ねっ? エミリー: ふえっ?あ、うん、そうだよね アゾソレム: 文字を身体に書かれるんじゃったな。その新たなディマイト感染というやつは ピュルテ: そうなんです。まだ謎が多くて シンデレラ: 前のお菓子を食べる方法に比べると、わりと頭がしゃんとしてるわよね リラ: マウラの頭がしゃんとしていないかのような言い方はやめてあげて! ティンカー・ベル: 言ってないから!そして実際、あんまりしゃんとしてないから! マウラ: マウラはしゃんとしてるんじゃないかなぁ……ふわあ…… ドロシー: そう言えば、書かれてからどのくらいでおかしくなるのかしら。ほら、お菓子の場合は時間差があったじゃない エミリー: 食べてから時間が経つほど感染が悪化するの?でも文字の人たちは、みんな同じようにみえるけど ヴェルメリオ: ……オズの国では、お菓子を配ってたリルのルートをわたしたちは逆に進んだから ティンカー・ベル: チューチラよりオズの方が感染が悪化してたりしたよね アゾソレム: ワシが思うに、その文字とやらは呪文の一種ではないかのう。ある魔法のようなものでコントロールされているんじゃ ピュルテ: 魔法、ですか? アゾソレム: 『ようなもの』じゃよ。じゃが、文字の方が対象者に知性があることから黒幕の指示に従って、細やかな動きができるのではないかのう マウラ: ふえー、じゃあこの中にも知らないうちに紛れてるかもしれないんだ ドロシー: ちょっと、怖いこと言わないでよ アゾソレム: 発動も、書いてすぐとか何時間とかではなく、いつ発動するかコントロールできるのかもしれん シンデレラ: そんなのに太刀打ちできるのかしら…… アリス: ねえ、もっと人間界のゲームを教えて! マウラ: 寝てなくていいの~?アリス……くぅ~、くぅ~、ぐぅっ シンデレラ: 毒が抜けて復活したからって、あんまり夜更かしはだめよ。明日は砦エリアの探索再開するんだから ティンカー・ベル: お酒を浴びるように飲んでる姐さんの言葉じゃ説得力ないじゃーん ピュルテ: 次はベタですけど、山手線ゲームにしましょうか。お題に沿った答えを、リズミカルに答えていくんです。たとえば……果物の名前とか シンデレラ: 面白いじゃない!間違えたら罰としてモノマネよ! エミリー: はーい!はい、はい!エミリーからはじめるよっ♪せーの、リンゴ! クレア: イチゴ ティンカー・ベル: ブドウ! アゾソレム: 桃じゃな マウラ: はっ!オレンジ! ヴェルメリオ: ……メ、メロ、メロン ピュルテ: ぶっぶー!ヴェルちゃんリズムにのれていません。アウトです! アリス: モノマネ!モノマネ! ヴェルメリオ: ……モノマネなんて……やったことないのに。……じゃあ、ティンカのモノマネ。健気じゃ~ん! エミリー: ヴェルうまーい!似てる~!! シンデレラ: ほんと、上手じゃない! ティンカー・ベル: え~、ティンカあんなしゃべり方してないじゃ~ん! アリス: してるよ、そっくり。あはは リラ: 私もモノマネする! ドロシー: え、罰ゲームでもないのに?! リラ: ほ~ら、この動き、なーんだ? アリス: ゲーム変わってるし。自分のモノマネをクイズにしてきたよ リラ: 正解はパン屋のスミスさんが作った、クロワッサンが焼けるところでした ティンカー・ベル: モノマネって言っていいの、それ!しかもスミスって誰!? ピュルテ: マニアックすぎて似てるかどうかもわかりません クレア: リラ、あなどれない 126 - 書に宿る マウラ: 今日こそ当たりだといいけどね~。そしたら帰って寝よう~ ヴェルメリオ: ……マウラ、立ち寝しないで アリス: でもマウラのいうとおり、砦を1つずつ当たっていくのも、そろそろ疲れたよね ティンカー・ベル: でも、これまたずいぶん古い砦だね リラ: 古いものにも良さがあるものです シンデレラ: 分かるけど、今それ言う? リラ: だから人間さんはもっとおばあさんをナンパするべきだよ ヴェルメリオ: ……えっ、わたし自分のおばあちゃんのこともライバル視するべき? ティンカー・ベル: ずきんもリラのいうこと真に受けないの ドロシー: 見て、こっちに部屋があるわ (背景切換...) シンデレラ: これは……書斎、かしら ピュルテ: ずっと使われていないような感じですね アゾソレム: これは小説か?書き散らした原稿が何枚もあるが ドロシー: どうでもいいけど、つまんない小説ね。ちらっと読んだだけで、もう退屈になったわ ティンカー・ベル: こういうのって才能がいるんだろうね~ エミリー: 一生懸命書いたんだろうけどね シンデレラ: うーん、わかりやすい文章なんだけどね。娯楽としての小説なのに、資料みたいに書いちゃってるのが良くないのよ ピュルテ: こっちは日記帳みたいです。申し訳ないですけど、読ませてもらいましょうか。……ひっ マウラ: どうしたの~?って。うわあ!恨むとか殺すとか、不穏な言葉が細かい字でびっしり! アリス: 几帳面な文字で余白無しに埋められてる。ちょっと壊れちゃってるのかな アゾソレム: 姉がいるのか。その姉への嫉妬や恨み言ばかりじゃな。ということは、これはその姉かのう クレア: 肖像画?でもなんか破られてる シンデレラ: 4人……いえ、たぶん6人いたのね。隅の2人のとこは破り取られて、足のとこしか残ってないけど リラ: 残った4人も顔のとこ、ぐちゃぐちゃに塗りつぶされてガリガリ削られてる エミリー: それだけ心が追い詰められてるってことだよね…… アリス: 全員姉妹なのかな?この6人 シンデレラ: そうじゃないかしら。でも……あまり仲は良くなさそうね ヴェルメリオ: ……姉妹いっぱい、うらやましい。それなのに仲悪いなんて悲しい クレア: 姉妹……たくさんの姉妹…… ドロシー: クレア?大丈夫? クレア: わからない。でも、体なら大丈夫 アゾソレム: 家族や姉妹、色々あるのが普通じゃよ。さあ、この砦ではなかったようじゃし次の砦に向かうとしよう エミリー: ここに……そっか、ここで……でも ティンカー・ベル: エミリー?怪我したとこがいたいの? エミリー: あ、う、ううん。ちょっと日記の内容にびっくりしちゃって…… ティンカー・ベル: 負のオーラに満ちてるもんねぇ。こっちのメンタルまでやられちゃいそうだよね マウラ: あはははははは!メンタルだって!おっかしいよね~!笑っちゃうよ~! ティンカー・ベル: びっくりしたぁ! アゾソレム: なんじゃ急に。マウラが騒ぐなど珍しい マウラ: メンタルがやられちゃったら、肉体もあっという間だよ~。光陰矢の如し!人間界の言葉だよね、あははは シンデレラ: マウラ?なんか……様子が違うような ピュルテ: !!!さっきの日記や肖像画から漂う負のオーラかと思っていましたが、これはディマイトっ……まさか、マウラさん?! アリス: え?!今度はマウラがディマイトに感染したの?! ヴェルメリオ: ……いつ、どこで…… マウラ: いつといえばいつだっていいし、どこだといえばどこだっていいよ~。ボクはボク、最強のボクなんだよ アゾソレム: ずいぶん長くはっきり喋るが、これもディマイトの影響なんじゃな マウラ: みんな、覚悟はいいかなー?ボクの狂喜の世界へ、さあ、おいで! ピュルテ: みなさん、戦闘の準備をっ! マウラ: そう、ディマイトは力!そして力はパワーなんだよ! アゾソレム: くっ……これが文字を書かれた者か。確かに桁違いのパワーじゃ ピュルテ: 見て下さい!マウラさんの太もも! ティンカー・ベル: 文字が書いてある! アリス: じゃあまた、引きつけて人間さんにおしりの文字を消してもらうしかないね クレア: けど剣を振り回してるから近寄れない ドロシー: 剣の心得があるというよりは、振り回してるだけだもの。動きを読みようがないわ エミリー: 人間さん、どうしたの。うん、これを鳴らせばいいんだね。分かった シンデレラ: 用意はいい、人間さん! ヴェルメリオ: ……毎回、人間さんかわいそう。わたしたち、結局は人間さんの援護しかできない アゾソレム: でも、少しは役に立てて嬉しいとも言ってたがのう ドロシー: やった!マウラの太ももに手が触れ……ああっ、掴まれたわ! マウラ: この人、痴漢です! クレア: 確かに画はそうだけど アゾソレム: いかん、マウラのやつ、……あのまま腕を折るつもりか! マウラ: 骨折り損のくたびれ儲けっていうよね?人間さんには儲かってほしいんだ ヴェルメリオ: ……どうしよう、とりあえず攻撃しないと ピュルテ: 人間さんに当たっちゃいますよ! ドロシー: でも……腕を掴まれて逃げられないのに、どうしてあんなに余裕なの? マウラ: さあ、踊ろうか!ちょっぴり痛いけど……って、え、なに?時間? (ジリリリリ……!) アゾソレム: な、なんじゃ、この音は。目覚まし時計!? マウラ: あ、ああ、この音は……!?だ、だめだよ、やめて、起きる時間だ!ボクから睡眠を奪わないで! エミリー: そっかぁ、言われたとおりに鳴らしたけど、こういうことだったんだねぇ アゾソレム: ディマイトに染まろうがどうなろうが、マウラにとっては眠りは生命線。無理に起こせばスキは生まれるのう ピュルテ: ディマイトが激減しています!今です、皆さん! 127 - 目が覚めたマウラ マウラ: 人間さんは頭がおかしいと思う~ ティンカー・ベル: もとに戻って最初にいうことがそれかいっ! マウラ: 腕が折られそうなのに、早く起きて、朝ごはん食べちゃいなさい、なんて…… シンデレラ: まあ、そうやって切り取ると普通の会話ではないけど ドロシー: ねえ、文字を書かれたときの記憶はないの? マウラ: あるよ。刻み込まれた記憶。玉ねぎ並に刻まれた記憶 ヴェルメリオ: ……それみじん切りになってる アリス: 記憶が……あるの……!? リラ: そうだね、泣けてくるね。玉ねぎみじんぎりだと涙が止まらないね アゾソレム: どんな記憶……いや、誰が書いたんじゃ マウラ: ハッキリしてはいないんだよね ティンカー・ベル: 刻み込まれてるんじゃないんかい! アリス: なんだぁ……それじゃ手がかりゼロだよね ピュルテ: ですね。この謎の部屋も結局、よくわかりませんし シンデレラ: でも、間違いなく重度のディマイトを抱えているでしょうね ヴェルメリオ: ……禍々しい感じ ドロシー: とにかく戻って、マウラを休ませない? アゾソレム: それは賛成じゃな。さあ行くぞ、マウラ リラ: マウラは働きすぎだよね。たまには休まないと。だって最後に休んだのは昨日でしょ ティンカー・ベル: もう絶対に突っ込まないよ!突っ込むもんか! リラ: でも特別休暇は今日1日だけ。明日は夏休み、明後日は冬休み、その次は雨が降るからお休みだよ ティンカー・ベル: ずっと休んでんじゃん! クレア: あー、突っ込んだ ピュルテ: シンデレラさん、念のためにこの日記帳は持っていきましょう。ちょっと気持ち悪くて触りたくないですが シンデレラ: そうね、今回の件と直接はつながらないかもしれないけど、今後のヒントになるわよね エミリー: うん……もう早く、この部屋を出よう?怖いよぅ アゾソレム: ああ、本当に疲れた。リラ、お茶をもらえんか チェシャー: お茶ならミーが用意しておいたにゃ アリス: チェシャー!来てたの? チェシャー: いろいろと情報は聞いたにゃ。ミーの助けがいるんじゃないかと思ったのにゃあ マウラ: うれしい!チェシャーまで来てくれたら心強いね~。あれ、でもタリーは? チェシャー: 魔物との戦いで負傷したにゃ。と言いたいとこだけど、ふざけて踊ってたら捻挫して アゾソレム: この大事なときに、くだらん理由で負傷するとは。まあ、あいつらしいかのう チェシャー: マウラやリラを元に戻してくれてありがとうにゃ、人間さん、みんな シンデレラ: ディマイトの専門家だもの、私たち。何度戦っても慣れないけど、仲間を元に戻すためなら何でもするわ アゾソレム: 親しい仲間のディマイト感染を目の当たりにするとやはりショックじゃな。まさかマウラまでもが…… ドロシー: アゾソレムの気持ち、すごくよくわかるわ。黒幕はぜったいに私がコテンパンにしてやるんだから! アリス: ほんと、ディマイトって怖いね。負の感情が原因なんだよね? チェシャー: でも、マウラは負の感情とは無縁だにゃ。リラは……封印されてるし ピュルテ: 世界にディマイトが高まっているので、負の感情の揺さぶりでもディマイトは暴走します。けど、今回のこの文字を書かれるパターンは別なんです エミリー: リラなんかは、普通になることで心のバランスが崩れちゃうんだよね、きっと。根本的な原因も、ディマイトみたいに消せたらいいのにね クレア: エミリーは優しい エミリー: ううん、全然。だって思うだけでできないもん。役に立たない。誰かの負の感情を消すことなんて無理 ティンカー・ベル: そんなことないっしょ。感情や記憶なんて上書きしちゃえばいいんだよ チェシャー: いいこと言うにゃ~!そうそう、普段は目につかないように、幸せでかぶせちゃうんだにゃ マウラ: マウラも眠いとき、お家で眠ることを考えるともう、幸せ……ぐぅ クレア: マウラを見ていると、色々と考えてることがばかばかしくなる。これが上書き… ヴェルメリオ: ……それは呆れてるっていうんだよ、クレア チェシャー: ねえ、何かディマイトに関する手がかりは見つかってにゃいのかにゃ? シンデレラ: ピュルテちゃん、例の日記帳を持ってきてくれる? ピュルテ: はい、これですね。うう、ページを開いただけでディマイト感染しそうです クレア: 時々筆圧が強すぎてページに穴が開いてる ティンカー・ベル: 『あいつらばかり成功する。私の血と汗と涙がにじんだ名作を理解できないバカばかりだ。世界が腐っている』……名作って三つ編みが読んで寝そうになったアレのこと? ドロシー: たぶんそうよね。あれを名作って過大評価すぎない?『きっと歴史は私を評価する。だけど今日のお金がなくて何も買えない。おなかすいた。ごはん、おかね、ごはん、おかね』 ヴェルメリオ: ……音読しないで。なんか怖い アリス: 魔物の発生原因は探さないとダメだから、砦の探索は続けないとだよね アゾソレム: この日記の持ち主が原因だとしても、すぐに居場所が見つかるものでもないしのう マウラ: でもヒントにはなるんじゃないかな~? アゾソレム: そのとおり。だから、これを読みこんでヒントがないか探してほしい。頼んだぞ、チェシャー チェシャー: ええっ、ミーが!?う、うう……仕方ないニャ~。でもミーひとりじゃ心細いにゃあ アゾソレム: リラと、しばらく戦闘に出れないタリーにも協力してもらえばいいじゃろ リラ: はーい!リラは真実を常に追い求めます! ヴェルメリオ: ……すごいメンバー アゾソレム: ワシが見たとこ、マウラ以上にリラのダメージが大きい。こういうヤツじゃから自分でリタイアしないからな エミリー: そういうことかあ。でもヒント、見つかるかなぁ? アゾソレム: 該当する人物が見つかるかもしれん。どんな人物かはわりと分かりやすいからな。たぶん、これだけ屈折していれば顔にも出るじゃろうて エミリー: ああ、うん……屈折してるよね。そうだね…… ティンカー・ベル: ……エミリー?大丈夫? エミリー: え?ううん、大丈夫だよ ティンカー・ベル: うん……そっか…… アリス: 大変だよ、みんな!また不審者が出たって情報が入ってきたよ! シンデレラ: 出たわね! ドロシー: 今度こそとっ捕まえてやりましょ! 128 - 作戦 シンデレラ: あそこって、崩れてるからスルーした砦よね アゾソレム: ああ、そうじゃ。まさか崩れた砦に敵が潜んでいるとは アリス: こんなに大勢でいったら、敵に気づかれちゃうかもしれない。砦の中に入るのは限られた人数にしない? エミリー: じゃあエミリーが行く! クレア: エミリーが行くなら当然私も行く ティンカー・ベル: はいはーい!ティンカも行きたい! ピュルテ: え、人間さんも志願するんですか?!自分のエルマイトが役に立つ?それなら私も着いていきます! ヴェルメリオ: ……わたしも。わたしも絶対 シンデレラ: ストップ、ストップ!このまま全員になっちゃうじゃない アリス: エミリーとクレア、ティンカ、人間さんまで!この4人にお願いしよう! ドロシー: バックアップは任せなさい!何かあったらすぐに助けを呼ぶのよ クレア: うん、わかった アゾソレム: 十二分に気を付けるのじゃぞ アリス: エミリー エミリー: うん、分かってる (背景切換...) ティンカー・ベル: ほぼ正面は崩壊してるじゃん、この砦。これじゃあ中には入れないよ クレア: 裏口があるって聞いた。不審者もそこから入ったと思う エミリー: 裏で出てくるところを待ち伏せる作戦だね~! クレア: 本当に敵は、こんな崩れた砦にいるの? エミリー: この砦に入っていくのを見たっていう村人がいたらしいよ ティンカー・ベル: うん!こんな所に出入りしてるやつは、絶対に悪い奴! エミリー: 早く裏に回らないと、クレア。敵が出てきちゃうかもしれないよ! クレア: うん……でも、何か不安 ティンカー・ベル: 静かに。あの茂みに隠れて不審者が出てくるのを…… (ヴァーン!!!) エミリー: はうっ……っ!!! クレア: エミリーっ! ティンカー・ベル: 何?!エミリー!クレア!何があったの?! エミリー: 攻撃されてるっ!早くみんな、逃げてーっ!!! ティンカー・ベル: エミリー!大丈夫、しっかりして! エミリー: だめ、来ちゃだめ!ティンカまでやられちゃうよ! クレア: エミリー、またケガしちゃう エミリー: クレアも、無理しないで。お願い、ティンカは逃げて。そしてみんなに伝えて。この状況を ティンカー・ベル: すっごい冷静に考えたら、きっとそれが正しいんだと思う。けど、ティンカは逃げない! クレア: ティンカ……エミリーのために…… ティンカー・ベル: ティンカは両方やるよ。エミリーも助けるし、みんなにも伝える。全体のためにエミリーだけ犠牲にするなんて、そんなのディマイトじゃん! エミリー: ティンカ…くっ、また撃ってきた! クレア: 物陰からずっと遠距離攻撃してきて近づけない ティンカー・ベル: え、なに、人間さん。これって銃撃戦だよなって、ティンカに言われてもよくわかんないよ クレア: 物陰にお互い隠れながら遠距離攻撃すること?うん、そうだね ティンカー・ベル: 手榴弾放り込むイメージで?よくわかんないけど、相手を見ないで適当に攻撃すればいいんだね クレア: 牽制してスキを作る?分かった ティンカー・ベル: いっけー!緑のワルツ! クレア: うん、攻撃が止まった。エミリー、今行くよ エミリー: クレア!ティンカも…… ティンカー・ベル: まだ怯んでるだけだから、早くこっちの物陰に クレア: あっ、危ない! ティンカー・ベル: させるもんかっ! エミリー: 外れた……?よかった……って、ティンカが!エミリーのこと、庇ったの!? ティンカー・ベル: う、ううっ……ティンカ、三つ編みみたいに丈夫にできてないからなぁ……ちょっと、無理しちゃった…… エミリー: どうして……どうしてそこまでするの ティンカー・ベル: そんなの1つしかないじゃん?恥ずかしいから言わせないでよね クレア: 待って。足元が揺れてる エミリー: 地盤が弱い?まさか今の攻撃の衝撃で ティンカー・ベル: うわああっ、崩れたっ! エミリー: うぅっ……ここ、どこぉ? クレア: エミリー、ティンカ、しっかりして。なにか、洞窟みたいなところに落ちてしまったみたい ティンカー・ベル: 痛てて……ティンカは、ティンカは大丈夫、人間さん。早く助けを……うっ! クレア: ケガしたの ティンカー・ベル: みたいだね。でも、まずはここの出口を探さないとだよ エミリー: あの、ティンカ……ごめんね ティンカー・ベル: はぁ?何謝ってんの。別にティンカ、怒ってもいないんだけど エミリー: うん、そうだよね。なんでもない! クレア: エミリーもティンカも怪我してるから、動けるのは私と人間さんだけ ティンカー・ベル: 手分けして治療できるものと出口を探す?ダメだよ、人間さんは戦えないんだから。魔物が出てきたらやられちゃうじゃん クレア: 私と一緒に行動して、人間さん。人間さんまでやられたら、エミリーを助けられない エミリー: けっこう広そうな洞窟だね~。今のところ、魔物の気配はしないみたい ティンカー・ベル: くっそー!敵のやつ、奇襲とは卑怯な! クレア: 砦は囮だったみたい。最初からおびき寄せて攻撃するつもりだった エミリー: そうだよね。最初から攻撃するつもりで、小説とか日記とか手がかりを残してたんだよね ティンカー・ベル: うん!エサってやつだよ。やっぱり悪い奴って卑怯だよね クレア: !みんな静かにして。何か……気配がする ティンカー・ベル: マジ?!魔物?!魔物だよね!それとも黒幕のお出まし?! クレア: もはやどっちでも同じ。……戦えるとこまで戦うだけ エミリー: 何か飛んできた!みんな、気を付けて! ティンカー・ベル: 人間さん、ダメ!よけて!って……何キャッチしてんの!ナイフとか槍だったら怪我するじゃん! エミリー: え?薬?これ、傷薬のビンだよね~?! 129 - 信頼関係 クレア: この傷薬、どこから? ティンカー・ベル: このタイミング、1人しかいないでしょ! リル: まったく貴君らは本当に世話が焼けるな ティンカー・ベル: ネコってば。見てたんなら、さっさと助けなよね リル: なかなかカッコつけてたじゃあないか。ああいうところ、小生は嫌いじゃない エミリー: とりあえず、ありがたく傷薬飲ませてもらお。んっ、んくっ、ぷはっ……落ち着いてきた クレア: 待って。でも、さっきの攻撃してきた不審者って エミリー: リルは違う!って……人間さん、きっぱり言い切ったね クレア: そこまでいうなら ティンカー・ベル: たぶん不審者の目撃情報のうちのいくつかはネコかもしれないけど、攻撃してきたのは違う?うん、人間さんのいうとおりだと思う リル: 貴君にそこまで信頼されていたとはな。もちろん、小生は物陰から隠れて攻撃など、まったく性に合わないが ティンカー・ベル: ネコ、喜んでるでしょ リル: はあ?なんのことだ ティンカー・ベル: リルはそんなことしない!なんて人間さんがしっかり庇ったとこから、ちょっと顔が赤くなってるよね リル: なっ、ななっ、なってないぞ!小生が、こ、この男にどう思われていようが、どうでもいいことだからな! エミリー: 生真面目そうだけど、可愛いんだね リル: ああもうっ、さっさと出口を探すぞ!こんな地下の洞窟にいつまでもいられないだろう。貴君らの傷も、こんな傷薬程度じゃ全快しないんだし クレア: それは確かに エミリー: えっ、人間さん。背負ってくれるの ティンカー・ベル: あっ、ずるい!人間さんにおんぶしてもらうなんて!ティンカだってケガしてるよ! リル: さっきは身を挺して庇ったくせに、そこは譲らないのか?まあ今は小生の背中でガマンしておけ クレア: やっぱりリルはご機嫌 リル: ご機嫌ではないっ。悪い気はしないという、ただそれだけのことだっ エミリー: 重くない?人間さん エミリー: 綿のように軽いから気にしないで?うん、ありがとう…… リル: 怪我した女子なら堂々と背負える。役得だな ティンカー・ベル: ティンカも人間さんにおんぶしてほしかったなぁ~! クレア: エミリーの方がより重傷だし、ティンカの羽根は無事だったのだから今は我慢してほしい ティンカー・ベル: 冗談なんだからそんな真面目に…… エミリー: あなたは、なんで助けてくれたの?えっと……リル、だっけ リル: 理由が必要か? エミリー: そういうわけじゃないけど、でもやっぱり理由が何かあるでしょ?だっていつも一緒にいないのだから、仲間ではないんだろうし リル: 確かに、考え方が違うから仲間ではないな。行動はともにできないし、時にはぶつかるときもある クレア: 不思議。それでも助ける理由、私も知りたい リル: 友だち、だからだよ。考え方が違えど、喧嘩せど、それでもそこに友情があれば友だちだ。仲間よりもっと重い絆だ エミリー: 友だち…… リル: エミリー殿にとっても、友だちだろう?クレア殿はもちろん、人間さん殿やこの生意気で口の減らない妖精殿も ティンカー・ベル: 生意気って何?!かっこつけちゃってさ、またピュルテが心配で後でもつけてたんでしょ?それとも人間さん目当てかな~? リル: どちらも違う!小生は小生で調べ物をして、ワンダーランドにたどり着いたんだ! ティンカー・ベル: ムキになるところがちょーアヤシイ リル: 勝手に言ってるがいい。どうやらこのオトギノクニに、ディマイトをエルマイトに変換できる装置が存在するかもしれないとの情報を手に入れたんだ ティンカー・ベル: なにそれ!マジ神の装置じゃん!! クレア: もしそれが本当なら、オトギノクニのバランス…… アリス: みんな!すごい音を聞いて、みんなで探しに来たんだよ エミリー: たぶん地面が崩れたときだよね。でもね、敵が待ち伏せてたんだ アリス: じゃあ私が聞いた情報はエサだったってこと!?ごめん、みんな。こんなことになるなんて ティンカー・ベル: アリスのせいじゃないよ!さあ、急いでみんなにところに戻ろう!きっと心配しまくってるよ シンデレラ: これでよし、と。今夜はゆっくりこのままベッドで休んでちょうだい ピュルテ: きっと明日には全快ですよ ティンカー・ベル: ありがと、姐さん シンデレラ: それじゃあね。おやすみなさい (バタン) (背景切換...) (……。) (…………。) (……………………。) エミリー: ティンカ……まだ起きてる? ティンカー・ベル: ん……?うん、起きてるよ エミリー: 今日はほんと、ありがとね。エミリーのことなんか、置いてくればよかったのに ティンカー・ベル: あ、またその話を蒸し返しちゃう? エミリー: だってさ、あんなに本気でかばってくれるなんて、正直言って考えてなかった ティンカー・ベル: 仲間だと思われてないんじゃないかってこと? エミリー: だって、やっぱり出会いも印象悪かっただろうしさ ティンカー・ベル: 最初は犯人候補だもんね。けど、あんたたちがいいヤツってことは、一緒に旅してりゃ分かるじゃん エミリー: ……そっか。そう思ってくれてるんだね ティンカー・ベル: ティンカはさ、ペトラにも小さい頃から教えてきたの。仲間は絶対に大切にしなきゃいけないんだって エミリー: いいお母さんじゃん ティンカー・ベル: なのに、自分が実践しなかったら嘘になっちゃうじゃん?だから、あの場面で見捨てるなんて、ありえなかったよ エミリー: あれあれー?でもフックのことは助けないんでしょ? ティンカー・ベル: フックは仲間じゃないからね! エミリー: えへへ、そういう理屈なんだぁ ティンカー・ベル: だって仲間でも家族でもないんだから。むしろ敵!ほんとフックは悪いヤツなんだからね エミリー: じゃあ、さ……例えばね。これはエミリーの友達の話なんだけど。大切な人どうしがケンカになっちゃうことって、ありえるわけだよね エミリー: どっちも、その子にとっては大切な存在なの。大事な家族と、大切な仲間。どっちも、その子のことはすごく大事にしてくれてるのね エミリー: どっちかなんて選べない。けど、選べないってずっと言い続けられないの。そんなとき、ティンカだったらどうする……? ティンカー・ベル: ぐう……すうすう…… エミリー: えっ、寝たの!?んもう、肝心なときに、ティンカは……。ふふっ、おやすみ 130 - トップシークレット ティンカー・ベル: でも不審者の情報は、ティンカたちをおびき寄せるニセ情報だったじゃん! チェシャー: ミーがつかんできた情報は、確かな筋からにゃ。アリスたちを攻撃した敵は、北にある大きな砦にいるにゃ ヴェルメリオ: ……確かな筋って? チェシャー: それは企業秘密にゃ。提供元は明かさない、トップシークレットってやつにゃにゃ マウラ: さすがチェシャーだねぇ!自分で見てきたんだよね! チェシャー: ………… アリス: よし!さっそく北の砦に向かうよ! チェシャー: 待って待って。もういっこ情報だにゃ。その砦から、どうも魔物も沸いてるみたいにゃ ドロシー: ふん、一石二鳥じゃない。黒幕も魔物も、一気に潰せて手間もはぶける アゾソレム: 魔物の巣で黒幕もいるとなると危険極まりないが、突入するしかもう手はあるまい。これ以上敵の好きにはさせんのじゃ! ピュルテ: いよいよ対決の時ですね!人間さん シンデレラ: みんな準備はいい?!敵の本拠地に乗り込むわよ! (背景切換...) クレア: 魔物の数がすごい。ここから湧き出てるのは間違いない チェシャー: 敵の姿がないにゃ。さっき見たときは砦を出たり入ったりしてたにゃ ヴェルメリオ: ……チェシャーが自分で見たのは本当だったんだ エミリー: この砦になにかあるのはもう確実だよね!もっと奥に進んでみようよ~! ティンカー・ベル: そうだよ!敵だって奥にかくれてるかもしれないじゃん シンデレラ: あなたたち2人は怪我が完治してないのだから、絶対に無理しちゃだめよ マウラ: ねえ、地下に降りる階段があるよ~!地下って好きなんだよね。暗くてよく眠れるから ピュルテ: 降りてみましょう。何か邪悪な空気を感じるので、油断はしないようにしましょう アリス: 今度は半分に分かれたりしないで、みんなでね! ピュルテ: だいぶ奥に来ましたよ アリス: あれ見て!何か装置みたいなのがあるよ (ヴーン) ティンカー・ベル: なんか、嫌な音がする! シンデレラ: 音と同時に黒い霧みたいなものが……待って、霧が魔物に変わってくわ! アゾソレム: なるほど、ビンゴじゃな。ここが魔物を量産している元凶となってる場所じゃ マウラ: じゃあ、この装置を壊しちゃえばゆっくり眠れるってことかな~ チェシャー: でも、うかつに触っても、これ大丈夫なのかにゃ~? ヴェルメリオ: ……確かに。知らないものをいきなり触るのは危険 ドロシー: でも、ここで魔物が生まれるのを指くわえて見てたってしょうがないじゃない エミリー: 突撃は反省するんじゃなかったのぉ? ドロシー: 反省はしてるけど!放置ってわけにもいかないでしょ クレア: リルの言ってた変換アイテムって、これのことじゃないの エミリー: あっ、そうかも!あのね、これはディマイトをエルマイトに変換できるかも……って、ああっ、人間さんが! ピュルテ: 人間さん!?大変です、人間さんが装置にすごい勢いで吸い寄せられてます! アゾソレム: あやつ、ヒザから崩れ落ちて脱力しているぞ。かなり自分のエネルギーを、つまりエルマイトを吸い取られたんじゃ! マウラ: 大変、助けに行かなきゃ~って、うわあ チェシャー: なんか大きい、黒い球体が出てきたにゃっ!?こんなのミーは見たことないにゃあ アゾソレム: じゃが、すさまじい波動を感じる。早くあやつを助けに行きたいが、しかし ピュルテ: くっ……ち、近づけません ヴェルメリオ: ……あっ、人間さん!倒れちゃった!しっかりして ティンカー・ベル: ねえ、人間さんが倒れて黒い玉がどんどん膨らんでくるって、これ ドロシー: 最初は手のひらサイズだったのが、もう直径が私の身長と変わらなくなってるわ! シンデレラ: ええ、どうやらエルマイトをディマイトに変換する装置みたいね ピュルテ: この巨大な黒い球体、これ自体がディマイトです!す、すさまじいパワーです! ティンカー・ベル: やばいって!どんどん大きくなってるじゃん! シンデレラ: こんなディマイトが存在するなんてっ……!敵は、敵はなんて恐ろしいことを考え出すの!! エミリー: どうすればいいの?!早くなんとかしないと、人間さんを助けられないよぉ! ドロシー: わかってるわよ!焦らせないで!今ものすごい脳を回転させて考えてるから! アゾソレム: くっ……!いくら人間さんをひっぱっても機械から離れん! マウラ: わーん!人間さん、キミも頑張って!起きて!目を覚まして! チェシャー: マウラが起こす側になるなんてすごくシュールだにゃ。いや、そんなこと感心してる場合じゃないにゃ!アリス、何かいい案はないにゃ?! アリス: この巨大なディマイトを吸収したら、どれだけ強くなっちゃうのかな? ヴェルメリオ: ……そういえば前に、強大なディマイトの力をコントロールできなくなって自滅したパターンがあった! ピュルテ: そうですね!これだけのディマイトなら、また敵を倒せると思います! クレア: 敵にこのディマイトを吸収させることできれば、人間さんは助かるかもしれない アリス: そんなにうまくいくかな? ドロシー: 当たり前じゃない!だって前もうまくいったもの。あとは敵が現れればっ…… アリス: あなたたちの探している敵なら、目の前にいるよ アゾソレム: どこじゃ!…アリス?! アリス: 敵はね、あのジャバウォックを倒した伝説の勇者…それでもこの巨大なディマイトで自滅すると思う? チェシャー: ウ、ウソだにゃ……そんな、まさか クレア: アリスがディマイト感染の黒幕? ティンカー・ベル: で、でも、今まで全然普通だったじゃん! アリス: 今夜、巨大なディマイトを吸収して、最強の勇者が誕生するのよ!あははははは!あはははは! 131 - 真相 ピュルテ: アリスさん!?ま、まさかそれはディマイトの暴走ですか?どうして急に…… アリス: 急に?暴走?色々認識が違うみたいね ティンカー・ベル: アリスの右腕に文字が書かれてる!あんなとこ、気が付かなかった…… アリス: 人間さんをここまで連れてきてくれてありがとう。おかげで私は最強になれるわ シンデレラ: 人間さんを?そうか、それが目的だったの。あなたは文字を書かれて、ディマイトに操られてしまっていたのね アゾソレム: なんだと……それじゃあ、やはり時限式で発動したのか ドロシー: 例の、ここ!っていうタイミングでディマイトになっちゃうやつね ヴェルメリオ: ……じゃあ、この砦に入ることになった時に発動したってこと? エミリー: ……違うんじゃないかなぁ シンデレラ: 同意見よ。たぶんアリスは、高度なコントロールに成功したパターンなんだわ。たぶんディマイトに操られていたのは……最初からよ ヴェルメリオ: ……最初って、どういうこと シンデレラ: 私達がワンダーランドに来て、エルザの城に入る手助けをしてくれたときから クレア: じゃあリラやマウラに文字を書いたのも? マウラ: そんなあ、じゃあずっと話してたのはみんなのアリスじゃなかったってこと~? チェシャー: こんなに自然にディマイトに操られるなんて、予想外だにゃ~ ピュルテ: 考えてみれば、ソルダ・スートさんをなだめたり、リラさんと話したり……必ず2人きりの時間がありました ヴェルメリオ: ……わたしに城のカギを開けちゃえって言ったりもしてた アリス: ふふん、今頃になってようやく分かったの?さすがに手遅れでしょ ピュルテ: そのディマイトの塊……まさか取り込むつもりですか!? マウラ: 大きすぎる力はコントロールできないってよく聞くけど~?アリスどうなっちゃうの アゾソレム: あのアリスなら、コントロールしてしまうだろう。だからこそ、黒幕に操られる対象に選ばれたんじゃ…… ピュルテ: それじゃあ、取り込んでしまったアリスさんは本当に手に負えない強さになってしまうんですか!? アリス: ふふ、楽しみだね。人間さん…… ティンカー・ベル: このままじゃ、ディマイトに感染したアリスにやられちゃう! アリス: さあ、みんな。人間さんにさよならを言う時間をあげる。ハグでもキスでも好きにして ヴェルメリオ: ……嫌!ハグとキスはいいけど、さよならなんて絶対言わない ピュルテ: 私に、私にもっと力があれば!人間さんを助けたいのにっ! アゾソレム: こうなれば……あやつを解放するしかない チェシャー: 本気、アゾソレム?!あいつはディマイトと同じくらいヤバいにゃ! ドロシー: なんでもいいから!人間さんを助けられる方法があるなら早くやって! アゾソレム: 方法はひとつ、封印されたジャバウォックを召喚するしかない。ただし、あやつはエルマイトでもディマイトでもない存在。暴力性だけを備えた究極の純粋な存在じゃ。我々もタダではすまないかもしれないぞ シンデレラ: お願い!アゾソレム!方法がそれしかないなら迷ってるヒマはないわ!人間さんを、オトギノクニを助けて! マウラ: アゾソレム、マウラからもお願いだよ!ジャバウォック召喚して! アゾソレム: よし、わかった!いでよジャバウォック!今こそ封印の縄を解き、ここに参上するのじゃっ!! アリス: ジャバウォックを召喚したですって!!なに……なにしてくれてんのよーっ!! (クエーッ!!!!) チェシャー: 来た!ジャバウォックが来たにゃーっ! クレア: くうっ……ジャバウォックの羽ばたきで飛ばされてしまいそう!エミリー、私につかまって! エミリー: 見て!ジャバウォックが、ジャバウォックがディマイトの球体を食べてるよぉ! アリス: ジャバウォック!!いつもいつも私の邪魔をしやがって!! ティンカー・ベル: はっ!今なら、今ならアリスの腕の字を消せる!倒れてる人間さんの手を勝手に借りてもいけるかな!? ドロシー: やった!アリスの腕の文字が消えたわ! (クエーッ!!!!) アゾソレム: ジャバウォックが自ら去っていくではないか!! マウラ: あんなに大きなディマイトを食べたんだもんね、眠くなっちゃうんだよ~。ふあああ チェシャー: もう、マウラは緊張感ないにゃぁ~ ヴェルメリオ: ……人間さんも息してる!無事だよ シンデレラ: 今回はどうなることかと思ったけど、みんな無事で済みそうね アリス: うう……私ってば、何やってたんだろう…… マウラ: しょうがないよ~。文字を書かれちゃったら、どうしようもないらしいし~ エミリー: 操られてたときの記憶は、やっぱりあるの? アリス: ううん、ところどころ覚えてるけど、あんまりハッキリしないんだ ピュルテ: 装置が壊れて、魔物の出現も止まりました。まずはお茶会の会場に戻りませんか? (背景切換...) アリス: ほんっとにごめん!たぶん、ひどいこといっぱいしたんだよね!ゴメンね! シンデレラ: しょうがないのよ。文字を書かれたら終わりだし、誰もそのことで怒ったりしてないわ ドロシー: でも、アリスほどの達人の利き腕に文字を書くなんて、どういうことなのかしら クレア: 誰だってスキはある。それこそクスリで眠らせることもあるだろうし マウラ: でも魔物大量発生は解決したし、一件落着だよ~ リラ: 今度はアゾソレムが大量発生するよ アゾソレム: 悪いことのように言うな!可愛いワシがいっぱいいたら嬉しいじゃろ? ヴェルメリオ: ……人間さんが、そういう問題じゃないって アゾソレム: あの装置は惜しいことをしたな。研究すれば、ディマイトをエルマイトにする装置が作れたかもしれないのにな ティンカー・ベル: あんな戦いのど真ん中に置かれてるんだもん、壊れないようになんて無理だったでしょ アリス: でも、ディマイトを吸収しちゃうのはできるかもなんでしょ。そのヴェルザームっていうので エミリー: 魔物問題を解決したから、あの女王もヴェルザームって宝石もすんなり貸してくれるよねぇ アゾソレム: その後はどうする?まだその宝石を集めるのか? シンデレラ: もう1つが雪の国にあるらしいの。それを探しに行くわ アゾソレム: あんな、人の行き来もろくにない辺境の国にか。気をつけていくのじゃぞ チェシャー: でも、最近になって2人くらい通ったみたいだよ。剣士風のカッコしたやつと、もう1人はボロボロのマントだったらしいにゃ ティンカー・ベル: 1人はネコかな。もう1人は…… ピュルテ: 例の不審人物でしょうね。すぐに追いかけましょう! 132 - 雪山のヴェルザーム ティンカー・ベル: うぅ、寒い〜!羽根が凍って動かなくなっちゃうじゃん ドロシー: 飛ぶのやめて歩けばいいじゃない、私たちみたいに。体を動かせばあたたかいわよ ティンカー・ベル: 今度は足が凍っちゃうよ! エミリー: え?!人間さん、手袋を落としちゃったの?手がすごく冷たくなってるよぉ〜 ヴェルメリオ: ……わ、わたしがっ。握ってあげる、手 クレア: ヴェル、素早い。いちばん後ろにいたはずなのに シンデレラ: 目指すは雪山の頂上……さすがの私もこの寒さに心が折れそうだわ ピュルテ: 最後のヴェルザームを手に入れた後に飲むお酒は格別でしょうね、シンデレラさん シンデレラ: そうよね!寒い雪山でヴェルザームを眺めながら熱燗で一杯……さっさと仕事を終わらせましょう! ティンカー・ベル: なにもこんな雪山の頂上に、ヴェルザームを置く必要なんかないよね!取りに行くのちょー大変じゃん エミリー: だからだよねぇ?簡単に取れるところにあったら意味ないと思うよぉ ドロシー: そうよ。妖精さんみたいな単細胞が来れないように、試練を与えてるのよ ティンカー・ベル: 単細胞なのは三つ編みでしょ!頭じゃなくて拳で考えるタイプじゃん シンデレラ: 欲望に素直なティンカちゃんと、思考が筋肉に直結してるドロシー。よく言えば純粋なのよね、2人とも ヴェルメリオ: ……ふふ、手を繋いでるとあったかいね クレア: ヴェル、強く握りすぎじゃない?人間さんの手、うっ血してる ピュルテ: みなさん!頂上です!ヴェルザームがあるのはあの祠です! (背景切換...) エミリー: あったよぉ!青いヴェルザーム! ティンカー・ベル: もう、苦労させやがって、このこの!それじゃ、いただきまー…… クラース: はーい、お疲れ様でーす☆ ティンカー・ベル: あ、ちょ、それティンカが先に……! シンデレラ: あなた……クラース!もしかして、あなたもヴェルザームを探してくれていたの? ピュルテ: クラースさんが仲間に加わってくれるなんて、心強いですね! クラース: はぁ?あはは、昼間っから寝ぼけちゃってるわけ?お嬢さんたち ヴェルメリオ: ……見て、クラースの胸元! ドロシー: あの文字!?ディマイトじゃない! クラース: あなたたちのおかげで、寒い雪山をうろうろしてヴェルザームを探す手間が省けたわ ドロシー: まさか、あのクラースまでディマイトに支配されてるっていうの!? クラース: うふふっ、それじゃあコレは持って帰っちゃうわね ティンカー・ベル: こら待てぇ!そう簡単に持って行かせないんだから……って、うわわっ!? ヴェルメリオ: ……魔物!?気をつけて! エミリー: たぶん、クラースが呼び出した魔物だよ! クラース: あなたたちに追いかけられるのも、なかなか不愉快なの。だから、このコたちと遊んでいてもらうわ ピュルテ: ああっ、逃げられちゃいます! クレア: でも、これだけ囲まれたら追いかける余裕なんてない シンデレラ: 仕方ないわ。一旦、目の前に集中するわよ! ドロシー: けどっ、数が多すぎて……くうっ! ティンカー・ベル: ちょっとずつ撤退しながら戦うしかないよ!けど、このまま下山するのは無理っぽくない!? クレア: どこかに抜け道とかないかな ピュルテ: そんな都合よく……って、ああっ!あなたは!? ココロニ: こっちおいで シンデレラ: ココロニ!そっか、この雪の国にはココロニがいたんだったわ! ココロニ: 早く早く。危ない ピュルテ: まだまだ魔物が湧いてきます!キリがありませんよ。ドロシーさん、ここは撤退しましょう! ドロシー: 仕方ないわね。覚えときなさいよ! (背景切換...) ココロニ: こっち エミリー: やっとひと息つけたよぉ。大変だったぁ クレア: エミリー。ケガはない? ティンカー・ベル: クラースのやつ、普段は余裕ぶってるのに大事なとこでディマイト落ちしちゃって! ピュルテ: 仕方ありませんよ。文字を書かれてしまってましたから シンデレラ: それにしても、胸の谷間に書かれてたわよね。クラースほどの相手に、正面から書いたってこと……? ココロニ: 通路、終わり。外に出るよ ピュルテ: ココロニさんのおかげで、なんとか魔物から逃げ切れました ココロニ: よかった ドロシー: あんなにたくさんの魔物、さすがの私でもさばききれないわよ! シンデレラ: 早く山を下りて、町に身を隠しましょう。クラースのこともなんとかしないと…… クラース: 私がなあに?ふふふ ティンカー・ベル: クラース!先回りして待ち伏せとか、ストーカーじゃん! クラース: もう一度チャンスをあげようかと思ったのよ。私に勝てたらコレをあ・げ・る♪ ヴェルメリオ: ……何をたくらんでるの? クラース: たくらんでるだなんて。そうだ、暇つぶしにクイズで遊びましょ。答えられたらなあんにもしないけど…… クレア: 間違えたら? クラース: もちろん、攻撃しちゃう♪ エミリー: なっ……あんなに楽しそうに…… ココロニ: クラース、おかしい シンデレラ: ええ、人間さん。隙を見て、ディマイトの文字を消さないと クラース: じゃあ第1問、触れなくても破れるものはなーんだ?そこの黒いやつ、答えて クレア: 触れずに破るもの……約束 クラース: 大正解!ふふ、できる子ね。それじゃあ第2問、簡単よ。最初は黒、使うときは赤、最後は灰色、なんでしょ〜?ティンカ、答えて ティンカー・ベル: えぇ?!ティンカ?!え、えっと……えっと ピュルテ: ティンカちゃん、それは…… クラース: ズルしたら攻撃よ!ほーらほらほら、早く答えないと時間切れよ! ティンカー・ベル: えっと……えっとぉ……ああ、もうわかんないよっ! クラース: ぶぶぅー!時間切れ!おしおきターイム! (ドカーン!) ティンカー・ベル: ぎゃああ! エミリー: ティンカっ!やめて!やめてよぉ! ココロニ: ひどい ドロシー: 本当に攻撃するなんて! シンデレラ: 誰なの?!クラース、あなたにディマイトの文字を書いたのは! クラース: ………… ヴェルメリオ: ……敵の、あなたたちの狙いは何なの? クラース: ふふ、もう待っていられないんですって ピュルテ: えっ?エミリーさんに目線を……どういう……? エミリー: ………… クラース: ねえ、フェルディナ様 133 - 解放され始める記憶 ヴェルメリオ: ……クラースが持ってるスフィアに、誰か映ってる!? フェルディナ: 私は……失望した……。信じていた相手に裏切られるのは、もうたくさん…… エミリー: ……っ、裏切り、じゃないけどっ… ティンカー・ベル: くーっ、普段からちょっとカチンとくる言い方するクラースが、完全に敵になるとか!ティンカのストレスがマッハだよ! シンデレラ: 落ち着いて、ティンカちゃん。冷静さを失くしたら、相手の思うツボよ クレア: ううっ!?あ、頭が…… エミリー: クレア!?どうしたのっ、何があったのっ クラース: ふふ、どうやら反応があったようね。クレアは記憶を取り戻しかけてるのよ シンデレラ: 記憶を……!?まさか、何か思い出しかけてるの?でも、なんで急に クレア: うっ、うああっ……! エミリー: クレア!しっかりして! クラース: 情けないわねぇ。手下もロクに使いこなせないなんて エミリー: 手下……?クレアのこと?クレアは手下なんかじゃないよっ! クラース: じゃあ何?まさか友達だなんて言うんじゃないわよねぇ? エミリー: …………っ! ドロシー: え?友達じゃないの クラース: ふふっ、そろそろちゃんとしなきゃいけないんじゃないかしら、エミリー ピュルテ: エミリーさん……!? ティンカー・ベル: ぐだぐだ言ってんじゃないよっ!ティンカたちときちっと勝負して、そのヴェルザームを渡しなよ! クラース: ふふん、かわいい妖精さん。よく考えることね。この雪の国は既に、フェルディナ様の監視下にあるのよ シンデレラ: 既にここは敵地ってことね ココロニ: 故郷を勝手に! クラース: さて、フェルディナ様相手にあくまで戦うっていうなら、それもまた一興。あなた達の挑戦、待ってるわよ ドロシー: ああっ、クラースが逃げる! ココロニ: クレアが辛そう。今は無理しない シンデレラ: 悔しいけど、ココロニの言うとおり。今はやり過ごしましょう…… ココロニ: ここ安全 シンデレラ: 色々ありがとう、ココロニ エミリー: クレア……大丈夫かな ティンカー・ベル: 大丈夫。クレアは強いもん。それはエミリー、あんたが一番分かってるじゃん エミリー: でも、クレアの目が覚めなかったら…… ピュルテ: クレアさんは激しい頭痛で気を失ってしまったようですから、頭痛が治ればきっと目を覚ましますよ ヴェルメリオ: ……頭痛に効く薬草をさっき煎じて飲ませたから ドロシー: さすがヴェルね!私、薬草なんてさっぱり。全部同じ草に見えるわ ティンカー・ベル: 三つ編みは草も食べられるか、食べられないかで判断してるんでしょ ココロニ: 危ない、毒の草、ある ドロシー: やめてよ!ココロニが信じちゃったじゃない! エミリー: ぷっ……くすっ……あははっ…… シンデレラ: ちょっとは笑ってくれたわね、エミリー エミリー: うん……。みんな、ありがとう ココロニ: 元気、だして エミリー: ココりんも、ありがとう! ピュルテ: クレアさんの頭痛、どうして起きたんでしょうか ヴェルメリオ: ……記憶が、戻りそうだったんだと思う。それで頭痛が起きたんだよ、きっと ピュルテ: あのスフィアの中の誰かを見て……? ドロシー: あのフェルディナってやつが、クレアの記憶に関係あるってこと? シンデレラ: もしかしたら、クレアの家族かもしれないわね エミリー: ………… ティンカー・ベル: なんにせよ、フェルディナってやつにはまた会うことになると思うけど、あいつが黒幕ならやっつけるまで! ドロシー: いつになくやる気満々ね!いいじゃない!いつもそのくらいの情熱でお願いしたいわ ヴェルメリオ: ……なんで若干上から目線なの ティンカー・ベル: だから心配しないでいいよ、エミリー エミリー: え? ティンカー・ベル: クレアのことは、心配しないでいいってこと エミリー: あ、う、うん…… ココロニ: ティンカ、優しい ピュルテ: けど、あのクラースさんまでもがやすやすとディマイトに支配されてしまうなんて ヴェルメリオ: ……あの人だけは、ディマイトとは無縁だと思ってたのに ドロシー: なっちゃったもんはしょうがないわ。ガツンと私たちの本気ってやつを分からせてあげましょ! ティンカー・ベル: でもさ、どこに行けばあいつからヴェルザームを取り返せるんだろ ココロニ: お城 エミリー: お城って、どこのお城のこと? ココロニ: エリーネアの城。最近様子が変 シンデレラ: 様子が変?何が起きてるの? ココロニ: エリーネア見かけない ピュルテ: まさかエリーネアさん、捕まっちゃってるんでしょうか ココロニ: 魔物もいっぱい出る ドロシー: ディマイトの副作用とも言えるわね ココロニ: エリーネア大丈夫かな ヴェルメリオ: ……心配だね。でも簡単にやられるエリーネアじゃない シンデレラ: いずれにしても、あいつらだって拠点は必要。状況から見て、そのエリーネアの居城を乗っ取られた可能性が高そうね ティンカー・ベル: あれ、でもさ。そのエリーネアの城って場所わかんなくない!? ココロニ: 案内する シンデレラ: もう、何から何まで頼り切りね。ありがとう、ココロニ ココロニ: へへ…… ドロシー: さすが、おとなしそうな顔してタトゥーなんて入れてるファンキーなココロニ ココロニ: 違う、これエルマイトの入口 ドロシー: 分かってるわよ。冗談 ティンカー・ベル: 三つ編みはココロニみたいな子と仲良くなるよね。ずきんといい ココロニ: えっ、ヴェルと同じ系統 ヴェルメリオ: ……ちょっと。なんか嫌そうな顔した ココロニ: 気のせい エミリー: ココりんってば、おとなしいけど言うところは言うねぇ ココロニ: ごはんにしよう ティンカー・ベル: やったー!腹が減ってはなんとやら、だよね! 134 - 魔法のケープ シンデレラ: でも、この雪の国全体が、すでに敵の監視下なら……どう動いたらいいかしらね ティンカー・ベル: やばっ、これ美味しいよ、ココロニ! ピュルテ: 魔物も確かに増えていますよね。雪に慣れていない私たちにとっては不利な状況ではあります ドロシー: ヴェルこれ、作り方覚えてよ。しばらくヘビロテで食べたいわ エミリー: 迂闊に今はこの小屋から出ないほうがいいと思う ヴェルメリオ: ……ティンカとドロシー、話し合いにちゃんと参加しよう? ココロニ: おつう!おつう! ドロシー: え、なに?ココロニが興奮しだしたわ ココロニ: おつう!おつう! ピュルテ: おつう……?人間さん、これ、おつうさんのことでしょうか シンデレラ: ああ!おつうちゃん、そういえば雪の国にいるんだったわね ティンカー・ベル: おつうがどうしたの?ココロニ ココロニ: おつう、織る。透明! エミリー: オル、トウメイってどういう意味? ヴェルメリオ: ……おつうは織物の名人だから、なにか透明な織物を織るってことじゃない? ココロニ: そう!透明の、ケープ! シンデレラ: なるほど!その透明のケープがあれば、隠れて外を移動できるってことね。さすがココロニ、よく覚えていたわね ココロニ: 役に立つ、うれしい ティンカー・ベル: ココロニがいい子すぎて泣けてくる ドロシー: おつうの居場所はわかる?ココロニ ココロニ: 案内する エミリー: 待って、クレアを置いていけない ティンカー・ベル: うん、もちろん。クレアの目が覚めたら出発しよー! ヴェルメリオ: ……おつうの家まで、魔物になるべく会わないように気を付けないと ココロニ: おつう、遠くない ドロシー: 魔物よりクラースよ。またどこかで待ち伏せしていないといいけど エミリー: クレア…… ピュルテ: エミリーさん、元気出してください。クレアさんの目が覚めたとき、エミリーさんの元気がないと、クレアさんが心配しますよ エミリー: うん、そうだね、そうだよね…… エミリー: クレア……ごめん、ごめんね。エミリーがクレアを巻き込んじゃったね…… クレア: ……んっ……えみ、りー……? エミリー: 大丈夫、そばにいるよ クレア: ……エミリーの手、あったかい…… エミリー: ねえ、クレア。エミリーはどうしたらいいんだろ。なんて、クレアが元気でも答えられないだろうけど クレア: うう……エミリー、そばにいて…… エミリー: ……ごめんね。そろそろ行く時間だ ティンカー・ベル: やっほー!クレアの調子はどう? エミリー: ティンカっ!?あ、うん、少し落ち着いたみたい。まだちょっと熱があって、今は眠ってるよ ティンカー・ベル: ずっとついてたらエミリーも倒れちゃうよ。ちょっと休みな エミリー: そうだ、薪拾いに行ってくるねぇ。寒いけど、気分転換になると思うんだ! ティンカー・ベル: ありがと!でもマジで寒いからちゃんと着込んでいくんだよ! (背景切換...) (…………。) エミリー: さむ……ティンカの言うとおり、着込んできてよかったなぁ…… (ガサッ) エミリー: もう、遅いよ。エミリー、凍死しちゃうかと…………っ!! リル: 伝令なら遅れているようだ エミリー: リル!?な、なあに、また人間さんのストーキングかな? リル: またと聞かれると困るのだが エミリー: なにがなにが? リル: 小生はもう知っている。貴君がディマイト側の手先であることを エミリー: なんの話かなぁ? リル: 正直言って、最初からさほど信用はしていなかったがな エミリー: ひどぉい!エミリーのこと、なんの証拠もなく敵だって言うのぉ? リル: ムダな会話をするつもりはない エミリー: 剣先を人に向けちゃいけないんだよぉ リル: 気付いているのは敵の手先だということだけではない エミリー: 何に気付いてるっていうのぉ? リル: 貴君の心の揺れ動きに、だよ。エミリー リル: どうするのかは貴君の心次第。小生は口出しはするまい エミリー: え?……言わないの? リル: 何? エミリー: みんなに、言わないの? リル: 理由がない エミリー: 理由がない?リルはみんなの仲間でしょ?だったら…… リル: 世界は、そう単純ではない。そんなことはとっくに貴君はわかっていると思うが エミリー: ………… リル: 貴君はもう、答えを決めているのでは? エミリー: そんなに……単純じゃあないよ リル: 小生は貴君の決断を尊重する。その結果、剣を交えるかどうかは、また別の話だ。では、これで エミリー: ………… 伝令: エミリー様 エミリー: はっ!い、いつからいたの? 伝令: 今着いたばかりですが。それで奴らの動きは エミリー: クレアが倒れちゃったから。もうすぐ回復するから、そうしたら動き出す 伝令: 目的地は? エミリー: それは…… 伝令: エミリー様?早くフェルディナ様に伝えなくては エミリー: ……フェルディナっ……!ううっ、次の目的地は…… (…………) ティンカー・ベル: エミリー!エミリー! エミリー: ………… ティンカー・ベル: いた!エミリー!もう、こんなとこに座り込んで! エミリー: え?あ、ティンカ…… ティンカー・ベル: ずっとひとりでぼーっとしてたの?体が冷えちゃってるじゃーん! エミリー: ああ……うん、ちょっと考え事してたから ティンカー・ベル: あのね、クレアの目が覚めたよ! エミリー: クレア……そう、よかった ティンカー・ベル: 何か、あったの?心配事?ティンカには何でも話してよね エミリー: ううん……大丈夫。クレアに会いたい ティンカー・ベル: うん!クレアも待ってるよ! (背景切換...) クレア: エミリー!心配かけてごめん エミリー: よかった、クレア。……あの、エミリーね……あの、あの ピュルテ: いや〜、よかったですねクレアさんが元気になって。これでまた、みんなでディマイトに立ち向かえますね!さあ、おつうさんの所に出発しましょう! 135 - 寒さの中の行軍 ティンカー・ベル: ううーっ、やっぱり外は寒い! シンデレラ: なに言ってるの。こうして歩いていれば身体も暖まってくるわ ヴェルメリオ: ……姐さん。その水筒の中、熱々に燗したやつだよね シンデレラ: しーっ、みんなには内緒なんだから ピュルテ: 全員知ってると思いますよ ドロシー: 周りが真っ白すぎて、どの道をどっちに向かってるか、まったく感覚がないんだけど……道、こっちでいいのよね? ヴェルメリオ: ……わたしに聞かないで。風景が見えてたってちっとも分からないんだから ココロニ: 大丈夫、あってる クレア: この感じ……空気の匂い…… エミリー: クレア、平気?まだ本調子じゃないんだから、無理しないで。辛かったら言って ココロニ: ペースはやい? クレア: ううん、平気 ピュルテ: でも、この道ってあまり魔物が出てきませんね ドロシー: そうよね。こっちの動きを察知して、大量に魔物を配置してるかと思ったのに エミリー: そうだね……。きっと、向こうも油断してるんだよ! シンデレラ: そんなこと言ってたら伏兵がいるかもしれないわ。油断はしないようにね ティンカー・ベル: ちょっとくらい出てきてもいいんだけどね。身体動かしてあったかくなるから ドロシー: こんな寒い中でいきなり動いたら肉離れになりそうだわ ティンカー・ベル: え?なに、人間さん。こんな装備でも防御力が上がるんだから、寒くないんじゃないか?はああ?なに言ってんの ヴェルメリオ: ……これがクラースの氷魔法なら防御力UPで対抗できるけど ピュルテ: 自然現象は攻撃じゃありませんから、普通に寒いですよ。さて、日も暮れてきたし野営しましょうか クレア: あっ、あの洞穴。キャンプするにはちょうどよさそう シンデレラ: さーてと、じゃあお疲れ様の一杯かな ココロニ: 歩いてる間、ずっと飲んでた ピュルテ: クレアさん! クレア: ピュルテ……どうして ピュルテ: ひとりで森の方へ行くのが見えたから追いかけてきたんです!魔物が出てきたら危ないし、風邪ひいちゃいますよ クレア: 大丈夫。ピュルテこそ、風邪ひく。みんなのところに戻って ピュルテ: クレアさんも一緒じゃないなら戻りませんよ! クレア: ピュルテ、意外と頑固 ピュルテ: 何か、あったんですか? クレア: 記憶が……戻りかけてる ピュルテ: え?!それってすごいことじゃあないですか! クレア: そう。自分が何者なのか、わかるって不思議な気分。なぜ忘れていたのかも不思議 ピュルテ: クレアさんの記憶が戻れば、エミリーさんもきっと喜びますよ! クレア: それは……。きっと逆。誰も喜んだりしない。エミリーも ピュルテ: なぜそんな事を? クレア: 私の記憶が戻れば、傷つけ合うことになる。私の大切な人たちが……なぜこんなことに… ピュルテ: 何を思い出したのですか? クレア: 思い出したくなんて、なかった。記憶なんて、ずっと消えたままでよかった ピュルテ: そうでしょうか。私は、クレアさんが自分自身のことを思い出せたことはポジティブにしか考えられませんよ クレア: 知らない方が幸せなことだってある! ピュルテ: 知らないことではないです。忘れていたことです。どんなに辛い記憶でも、その記憶がクレアさんを創っているんです。過去があるから、未来があるんです クレア: そう、そうかもしれない。記憶を失くしたままの私には、未来を生きる意味はない…… ピュルテ: 大切な人が傷つけ合ってしまうことを思い出したのなら、クレアさんが止めればいいんです。傷つけ合わないように。記憶が戻ったクレアさんには、それができるんです! クレア: ピュルテ……あなたの言う通りかもしれない。私はそのために、記憶を取り戻したのかもしれない ピュルテ: さあ、戻らないと凍死しちゃいます。記憶がどうこうなんて、生きてこそですからね ココロニ: おつうの家 ヴェルメリオ: ……やっと着いたね。おつう、元気かな ドロシー: 待って!この気配 ティンカー・ベル: げっ!大量の魔物に取り囲まれてる!? クラース: はぁい♪寒い中、お疲れ様〜 シンデレラ: クラース!先回りされてたなんて。やっぱりこちらの動きは監視されていたのね エミリー: どうして!?そんなはず……! ピュルテ: えっ?エミリーさん? クラース: そんなはず、ない。そう言いたいのかしら?そんな情報を流していないから? ドロシー: 情報を流す、って……なによ、どういう意味よ!エミリー、こいつは何を言ってんの? フェルディナ: くくっ、おひとよしどもめ シンデレラ: クラースが持つスフィアの中から……フェルディナとかいうやつね! フェルディナ: 裏切りに気付いていないなんて、間抜けとしか言いようがない クラース: ほんとよねー。こっちは、そのエミリーがさらに裏切って偽の情報を流すところまで見切ってるっていうのに エミリー: じゃあ、エミリーが伝令に預けたニセ情報は クラース: とーぜん、ぽーいっ、ってしちゃったわよ。あなたが揺れてるのなんてフェルディナ様はお見通しなんだから ピュルテ: えっ、それじゃあエミリーさんから私たちの情報が漏れていて……今回だけはエミリーさんが嘘の情報を……えっ、えっ? ドロシー: どういうこと……、エミリー? エミリー: ごめんなさいっ!エミリー、みんなを裏切ってたの! クラース: あらら、これから始まる懺悔タイム、みんなどんな反応するのかしらねぇ エミリー: 待って、みんな。でも、クレアは本当に記憶がないの。だから、クレアは何も知らないまま、エミリーについてきただけなの! クレア: エミリー、私は 136 - ティンカー・ベルは知っている ピュルテ: エミリーさん、どういうことですか?! ヴェルメリオ: ……エミリーが、敵の仲間ってこと? シンデレラ: そうじゃなきゃいいってずっと思っていたけど…… ドロシー: ウソよ!敵に操られてるのよ! エミリー: だったら良かったかもしれない。けど本当に、エミリーの意思で、みんなを裏切っていたの! クレア: エミリー…… シンデレラ: 何か、理由があるのよね?エミリー クラース: やだぁ、ここまで来てもエミリーを信じたいの?こいつはね、病める時も、健やかなる時も、あんたたちを陥れるために一緒に旅してきたのよ エミリー: 違う!そうじゃない! クラース: エミリーもさぁ。もうそんなお芝居しなくていいのよ? エミリー: お芝居なんかじゃっ…… フェルディナ: やめて、エミリー。吐き気がする エミリー: フェルディナ……! フェルディナ: そんなバカな奴らに肩入れするなんてどうかしてるわ。だって、エミリー。あなたの裏切りにも気付いてなかったのよ ティンカー・ベル: 知ってたよ フェルディナ: はぁ? ティンカー・ベル: 知ってたよ。エミリーがあんたたちの仲間だってこと。それで悩んでたってこと エミリー: ティンカ、うそ……だって、ティンカはいつもエミリーに優しくて…… ティンカー・ベル: エミリーはエミリーで、ティンカの友達じゃん。どっち側かなんて関係ない。友達になりたいって思えたことに嘘はないから エミリー: ティンカ…… フェルディナ: くだらない。茶番だわ。信頼とか友達とか。あなたたちの関係性なんて、簡単に崩れるのよ シンデレラ: じゃあ、やってみなさい。簡単かどうか、試してみればいいわ ピュルテ: そうです!私たち、ものすごい絆で結ばれてるんですから!ね、人間さん! フェルディナ: 頭わいてるんじゃないの。率直に言って反吐が出るわ。クラース、後は分かるわね クラース: ということで、フェルディナ様はたいそうご立腹よ ピュルテ: 今のフェルディナって人が、このディマイト拡散事件の黒幕ってことですか!? ドロシー: あいつを倒せばオトギノクニに平和が戻るってわけね! エミリー: たぶん、そうだと思うよ…… ティンカー・ベル: エミリー?どした、大丈夫だよ。ティンカたちはエミリーを信じるから エミリー: 裏切ったのに……? ティンカー・ベル: 裏切ってた、でしょ。今は違うってことが、逆に証明されたようなもんじゃん ココロニ: 気をつけて。何か来る シンデレラ: そうね、今は眼の前のクラースとの戦いに集中しなきゃ クラース: うふふ、ご指名いただいて光栄だけど、私は戦わないわよ?戦うのは、このコ♪ ココロニ: おつう! おつう: 汚い、汚いのよ……私の身体が、汚いのよ…… ピュルテ: そんな、おつうさんがディマイトに! シンデレラ: また文字を書いたってわけね?おつうちゃんみたいな純粋な子まで、こんなふうに クラース: さあ、おつう。あなたの出番よ。じゃあ、私はこれで。ばいば〜い ティンカー・ベル: あっ、クラース!待てっ! ヴェルメリオ: ……今はおつうに集中しないと おつう: キレイにするためには、洗わないといけませんわ。そう、皆さんの血で エミリー: そんなこと……!みんなには、エミリーが手出しさせない! クレア: エミリー エミリー: もちろんクレアのこともだよ クレア: 私もみんなに謝る。ごめん ココロニ: クレア記憶喪失。仕方ない クレア: この前の頭痛の後から、少しだけ戻ってたの。エミリーがスパイ役をやってることも、ぼんやりだけど思い出した ピュルテ: 思い出したくなかった記憶って、そのことですか!? クレア: だから同罪。黙ってたんだから。でもエミリーは……えっ。人間さん、しーってジェスチャー。なに? ピュルテ: 慌てて今言う必要ない、すべて終わってからでいい、ってことですね。人間さん おつう: 血で、血を洗いますの!皆さん、覚悟はよろしいですね! ピュルテ: おつうさん!しっかりしてください! おつう: あぅ……、まだまだ、戦えますの……うぅ シンデレラ: 今のうちに、ふくらはぎの文字を消しましょう! おつう: はうっ! ドロシー: おつうが気を失っちゃったわ! クレア: 文字が消えて、ディマイトも消滅したから おつう: んん……頭が、ぼーっとしますの ヴェルメリオ: ……気が付いたね。他に痛いところない? おつう: うぅ……ふくらはぎが、ちょっとヒリヒリしますの クラース: あーあ、元にもどっちゃった。意外と早かったなぁ ドロシー: クラース!あんたのことは、絶対お仕置きしてやるから! クラース: こわーい!もっと女の子らしくしないと、人間さんに嫌われるわよ、ドロシー。あはははは シンデレラ: クラースも早く元に戻さないと クラース: おかまいなく♡ ヴェルメリオ: ……でも今は、おつうを安全な場所で休ませないと ティンカー・ベル: でもクラースが厄介で逃げられないよ! ピュルテ: 人間さんが気をそらすから、その隙に別の道から逃げろ?!危険すぎます! エミリー: 後ろの森に、一か八か走って逃げ込むのはどうかなぁ? シンデレラ: そうね、それしかないわね。みんなでせーので走るわよ!せーの! クレア: え?……なんだか、地面が揺れてる (ドゴッ!!!) ドロシー: あれ?地面が……ない?! ピュルテ: え、あっ!きゃああああ! クラース: あららららぁ、あいつらみーんな谷底に落っこちちゃいましたね フェルディナ: ふふ、ふふふっ。くだらないこと、ぐちゃぐちゃ言ってるからよ。さあクラース、城に戻りなさい クラース: はぁい。じゃあ、最後にとどめってことで、1発ぶっこんどこうかな☆クロスフレアっ! (ドカーン) クラース: ふふん、よく燃えてるわね。じゃあ、また会いましょ♪ 137 - 雪に閉ざされて ティンカー・ベル: 大丈夫?人間さん、いま掘り起こしてあげるからね。可哀想に、こんなに震えて ティンカー・ベル: ティンカは平気だよ。それよりみんなを探さないと。まだ人間さんしか見つけられてないんだ。もし人間さんと同じように雪に埋もれてたら…… シンデレラ: ティンカちゃん!人間さんも!無事だったのね、よかった ティンカー・ベル: 姐さん!他のみんなは? シンデレラ: いいえ。吹雪いてきちゃったから、視界も悪くて……。待って。そこに倒れてるの、エミリーじゃない? ティンカー・ベル: 本当だ!姐さん掘り起こせる? シンデレラ: うん、大丈夫そうよ。でも、身を隠せる洞窟とか小屋がないと、休ませられないわね ティンカー・ベル: よし、ティンカが飛んで上から探してみる シンデレラ: 気をつけて。まだクラースがうろうろしてるかも ティンカー・ベル: あっ、あっちに山小屋と……なんか明かりが見えるよ。そんなに遠くない シンデレラ: 明かり?もしかしたら他のみんながいるかもしれないわね。急ぎましょう (背景切換...) (…………。) シンデレラ: 人間さん、そこにエミリーを降ろしましょう。そっとね ティンカー・ベル: 明かりだと思ったのは、隣の倉庫が燃えてたからだったよ。みんなはいなかった シンデレラ: そう……。でもどうして倉庫が火事に? ティンカー・ベル: 人間さんも見たよね。最後にクラースが魔法撃ち込んできたの シンデレラ: それで燃えたってこと?延焼しないわよね ティンカー・ベル: ちょっと離れてるし、この吹雪だから。にしてもクラースのやつ、結局攻撃は大ハズレだし、こうして小屋の暖炉の種火になってるなんて、間抜けなやつ! エミリー: んっ……あ、あれ、ここは……?エミリー、どうして ティンカー・ベル: エミリー!よかった、気がついたんだね シンデレラ: 暖炉のおかげで、だいぶ暖まってきたわね ティンカー・ベル: 見た目はボロだけど、案外しっかりした小屋なのも助かったね エミリー: でも、みんなは…… ティンカー・ベル: うん、早く探しに行かないとね シンデレラ: ただし吹雪がおさまらないと二次被害を生むわ。この天候での捜索は許可できない ティンカー・ベル: おおっ、姐さんてばプリンセスモードじゃん!?かぁっこいいー! シンデレラ: えっ?あ……ごめんなさい。つい。『許可できない』なんて、家臣じゃないのに失礼な言い方しちゃったわ ティンカー・ベル: いいの、いいの!頼りにしてるよ、プリンセス! シンデレラ: んもう、絶対バカにしてるでしょ ティンカー・ベル: 心配してるんだよ。お酒が切れちゃって頭が働くのかな?って シンデレラ: 失礼ね!ちゃんとポケットにスキットルが入ってるのよ。そんな抜かりはないわ エミリー: ぷっ!シンデレラってば、反応それでいいのぉ? ティンカー・ベル: あー、やっと笑った!エミリーってば、全然普段の元気がないんだもん シンデレラ: まだちょっとツッコミのキレが鈍いけどね エミリー: 2人とも……も、もう。普段の元気なんて、この状況で出るわけないよぉ (…………。) シンデレラ: じゃあ、正直なところ人間さんは気付いてなかったのね エミリー: ごめん、人間さん。ずっと騙してて シンデレラ: 恥ずかしがることないわよ。私を含め他のみんなも疑ってなかったわ。私は、あらゆる可能性を常に考える習慣があるから ティンカー・ベル: すごい習慣だなあ! シンデレラ: そんな大したものじゃなくて、ネガティブ思考なだけよ ティンカー・ベル: ティンカは、なんだろうな。カンとしか言いようがないんだけどね エミリー: じゃあ、どうして何も言わなかったの? ティンカー・ベル: そんな気がしただけじゃあ、騒ぐわけにはいかないでしょ。それに……悪い子には思えなかったんだもん エミリー: そんなことない!だって、こうしてみんなを危険に晒してっ……! ティンカー・ベル: でもワンダーランドで、地下に落ちちゃう前。エミリーは必死でティンカのこと守ってくれたじゃん エミリー: 地下に落ちちゃう前……砦探しをしてたあのときのこと? ティンカー・ベル: あれってさ、どうして攻撃してきたのかな?ティンカがいたから? エミリー: 襲われて、エミリーたちだけ逃げ遅れた、っていう設定で離脱するはずだったの シンデレラ: あのタイミングで一旦、私たちから離れるつもりだったのね エミリー: でも、あのときエミリーがティンカのこと守ったって?そんな記憶ないよ ティンカー・ベル: あのとき、必死に『逃げて』って言ってたでしょ。状況を伝えるならクレアだけ残しておけばいいんだし、ティンカのことは見捨てられたのに エミリー: そんなの、助けたなんて言ってもらえるようなことじゃないよ。ただの偶然だよ ティンカー・ベル: あのときの必死な感じ、そうは思えなかった。だから違和感もあったんだけどね。ただの敵襲で、どうしてこんなに逃がそうとするのかなって シンデレラ: 確証が得られるまでは言えないし、ティンカちゃんも辛かったでしょ ティンカー・ベル: だからさ、エミリー。ティンカがエミリーを信じるのって、それなりに根拠があるんだよ エミリー: ティンカぁ……ぐずっ、ごめんっ、ごめんねっ…… (…………。) エミリー: ……はっ!エミリーってば、寝ちゃってた!もう朝になって……あ、吹雪やんでる!みんな起きて! ティンカー・ベル: んん……?あ、もう朝!?って、待って。声が聞こえない?外に出てみよう! (背景切換...) シンデレラ: みんな!無事だったのね! ピュルテ: 良かった!これで全員が揃いましたね ココロニ: ほっとした ヴェルメリオ: ……みんな無事で本当に良かったね ドロシー: 一時はどうなることかと思ったわ おつう: すみません。わけがわからないうちに、ご迷惑をおかけして クレア: 無事だった…心配した、エミリー… エミリー: みんな揃ったところで、ちゃんと言わせて。本当にごめんなさい。けど、もし許されるのなら……また一緒に戦わせてほしい クレア: 私も。今度こそ本当の仲間として 138 - エミリーとフェルディナ ココロニ: おつう、足元に気をつけてね おつう: ありがとう、ココロニちゃん。ところで、未だによく分かっていないのですが、私はどうなってしまったんですの? ピュルテ: 身体に文字を書かれることでディマイトに操られてしまっていたんです シンデレラ: たぶんおつうちゃんはよく分からなかっただろうけど、そいつが同じ手でクラースのことも操ってるの おつう: クラースさんまで!?それってすごいことですよね ドロシー: クラースが持っていたスフィアの映像に、人影が映っていたわ。あれが黒幕よね。確か名前は エミリー: フェルディナ。エミリーの、お姉ちゃんだよ ティンカー・ベル: なるほどね。お姉ちゃんか。……って、ええええーーっ!!?お姉ちゃん!?お姉ちゃんって、姉と妹の姉の方? ピュルテ: 教科書どおりのノリツッコミですね。でも、じゃあ黒幕は身内ってことですか シンデレラ: なるほどね。それじゃあ私たちに味方するのも葛藤して当然ね ヴェルメリオ: ……待って。姉妹?もしかして、古い砦にあったあの部屋は エミリー: エミリーも初めて入ったんだ。でも、たぶん……お姉ちゃんの書斎だったんだと思う ドロシー: そっか、6人姉妹の集合肖像画、あれはエミリーとフェルディナも含めた6人だったのね シンデレラ: だとすると千切られて持って行かれていたのは、フェルディナ自身とエミリーの部分ってことかしら ティンカー・ベル: じゃあ、あの怨念のこもった日記みたいなノートは? エミリー: 上のお姉ちゃん2人のことだね。すごく作家として成功した2人だから。対するフェルディナは、何をやってもうまくいかなくて ドロシー: それで恨むようになっちゃったってこと? エミリー: コンプレックスだったんだよね。お姉ちゃんはずっと作家になりたかったんだ シンデレラ: ふうん。作家って? ピュルテ: 作家というのは、一般的にはお話を考えたり、それを書き記す人のことですね エミリー: エミリーたちは6人姉妹でね。上のお姉ちゃん2人は作家として成功したの。もとは学者だったんだけど シンデレラ: 本当に作家になりたかったフェルディナは、結局なれずじまいだった……ってわけね エミリー: 自分にもイライラしたみたいだし。周りからの扱いとか評価も気に入らなかったんだと思う。それがずっと積み重なってて…… ドロシー: だからってどうして、こんな大それたことしちゃうの エミリー: それもお姉ちゃんたちへの当てつけだと思う。このオトギノクニの創造期を支えたのは、お姉ちゃんたちの『作家』としての魔力が影響してたから ピュルテ: そう言えば聞いたことがあります。人間界からのエルマイトを効率的に還元するためには、『作家』の魔力が大きく影響するって ティンカー・ベル: じゃあティンカたちがこうして生きてるのも、その人達の影響ってこと? ピュルテ: いえ、作り出すのはあくまで人間界のエルマイトでありディマイトですよ シンデレラ: 世界を形作る手助けをする存在ってわけね。でも、私たちは自分の『作家』が誰なのか分からないし、まして強いのかどうかも分からないわ ヴェルメリオ: ……守護霊みたいなものかな ドロシー: 分からないなら考えても仕方ないわよね ココロニ: 話それてる ピュルテ: そうでした!じゃあ『作家』として魔力の強いお姉さんに、魔力の弱いフェルディナさんが嫉妬したから、そういうことなんですね エミリー: うん。だからフェルディナはディマイトを拡大してオトギノクニを壊そうとしたんだと思う ティンカー・ベル: 思う?そのへんはあんまり聞いてないの? エミリー: エミリーはただ、フェルディナがかわいそうで言うこと聞いてたんだ。いま考えると、それがまず間違ってたんだよね…… エミリー: 誰もフェルディナのことを気にしなかった。評価しなかった。だからフェルディナが話すことを誰も聞かなかった ピュルテ: 承認欲求、っていうことでしょうか エミリー: 放って置くとすぐ『もう死ぬ』って言い出すの。だからエミリーは、そうだね……かわいそうにって思ってたし、それに ドロシー: ちょっとめんどくさくなってきた? エミリー: あはは……ぶっちゃけ、そうなのかな。とにかくやりたいっていうこと、全部手伝ってあげようと思ってたんだ ヴェルメリオ: ……それでディマイト拡大にも手を貸しちゃったんだね エミリー: これは言い訳だけど、最初はことの重大さがあまり分かってなかったんだ。それに相談しようにも姉妹の中じゃフェルディナは、グリム家の鼻つまみ者になってたし (ガシャン) ココロニ: 人間さん。大事な話の途中。静かに ピュルテ: 人間界の感覚で言えば、その『作家』の中でもグリムは名門中の名門ですからね。人間さんも驚きますよ ティンカー・ベル: へー、そうなんだ。ティンカの守護霊、そのグリムっていうエミリーのお姉ちゃんたちだといいなあ。強そう! おつう: それで……エミリーさんはお姉さんに言われるがままに動いてしまったんですね エミリー: リルは完全に騙されてたんだと思う。あの子が目指す理想郷を作れるとかなんとか ピュルテ: 人間さん、大事な質問ですか?2つも? エミリー: 文字を書いたのはエミリーか?ううん、違うよ。エミリーたちは人間さんたちに近づくのが目的だから、それは別の誰か クレア: もう1つの質問は、私? エミリー: クレアのことはわからないの。フェルディナが連れてきてエミリーに引き合わせたときから記憶喪失だった クレア: もし文字を、特にリラに文字を書いたのがエミリーだったら、許せなかったかもって…… ヴェルメリオ: ……あのとき、すごく怒ってたもんね、人間さん 139 - ひとときのやすらぎ おつう: ここは古い砦なんですの。エリーネアさんが雪の国のそこかしこに作ってくれてて ココロニ: 避難所。こういうときのための ピュルテ: 雪の国は移動も大変ですから、こういう休憩できる場所がいくつも必要なんですね ココロニ: エリーネア、心配 (背景切換...) ティンカー・ベル: けっこう中は立派じゃーん! ヴェルメリオ: ……入るなり飛び回ったら床が濡れちゃうよ。こういうとこ子供っぽいよね ティンカー・ベル: ティンカは子供心を忘れない無邪気な妖精だからね ドロシー: なんかいい感じの表現でごまかしてるけど、ペトラが恥ずかしい思いするんだからね ティンカー・ベル: うぐっ!? ピュルテ: エミリーさんの話で今回の一連の事件の事情も、なんとなく見えてきました。けど、ヴェルザームを取り返さなくちゃいけないことには変わりありません ドロシー: そのためには城に乗り込んで敵をぶっ飛ばす以外に方法はないわけよね おつう: そして、そのためには私が織る透明のケープが必須なんですね。がんばりますの! ココロニ: この砦で作れる? おつう: ええ、大丈夫ですの。一晩下さい。今から急ピッチで作るので、絶対に覗かないで下さい クレア: 人間さんが露骨にそわそわしてる。絶対覗くよこれ おつう: 特に人間さんはダメですからね!それじゃあ行ってきますの シンデレラ: ありがとう、おつうちゃん エミリー: 特に、って何か理由あるのかな。人間さん、軽く落ち込んでるけど シンデレラ: 手伝いたいのはやまやまだけど、おつうちゃんに任せるしかないわよね。裁縫は得意なんだけど ヴェルメリオ: ……魔法のケープだからね。今は少し休んだほうがいいかもよ ピュルテ: そうですね。色々なことが起きて、皆さん消耗してるでしょうし ドロシー: 美味しいごはんでも作って元気出しましょうよ。ヴェル、お願いできない?もちろん私も手伝うから! ヴェルメリオ: ……うん、いいよ。任せといて。あと手伝いは気持ちだけでいい シンデレラ: ここから外の景色がよく見えるわよ ティンカー・ベル: うひゃああ、また吹雪いてきちゃってんじゃん ココロニ: 明日にはやむ エミリー: えっ、ココりん、天気が分かるの? ココロニ: 2〜3日後までなら エミリー: すごーい!やっぱり長く住んでると分かるものなのかな ドロシー: もう、おつうといいヴェルといい、どうして自分一人でやろうとするのかしら。手伝いたいのに手持ち無沙汰になっちゃう ティンカー・ベル: ずきんの手伝いを三つ編みが?それパーティ全滅じゃん…… ドロシー: 暇だから……そうだ!人間さん。この姿勢できる?これをね、このまま100数えるまでキープ クレア: 真っ白な景色を見てると、なんだか寂しくなる ココロニ: 雪の国にも春は来るよ クレア: そう。また来てみたい エミリー: ちょっと、人間さんがぷるぷる震えてる!顔も真っ赤だし、そんなにキツいの? ティンカー・ベル: 三つ編みは涼しい顔してるのに ヴェルメリオ: ……お待たせ。美味しくできてるといいけど ドロシー: わああ、美味しそうな匂いだわ! ティンカー・ベル: 人間さんがぐったりしてる。ずきんのごはんで元気出して シンデレラ: すごく色鮮やかね ヴェルメリオ: ……ボルシチっていうんだって。前にスネグラチカが教えてくれたの ピュルテ: うわあ、美味しい!人間さんも感動してます ヴェルメリオ: ……よかったぁ。初めて作ったからちょっと心配だったの シンデレラ: これ赤ワインが合いそう! ヴェルメリオ: ……と思ってこれ エミリー: もう準備してあるとかさすがだね!あうんの呼吸ってやつ ココロニ: スネグラチカってことは雪の国の料理 ヴェルメリオ: ……そう。この雪景色を見て思い出したの ドロシー: 身体の中からあったまるわ。なんか、久しぶりに落ち着いた感じね クレア: うん。うまくいえないけど、すごく嬉しい エミリー: どうしたの、人間さん。こんな夜に呼び出したりして ピュルテ: クレアさんはもう休まれたんですか? エミリー: クレアもずっと気が張ってたんだと思う。今日は安心したのか、すぐ寝ちゃったよぉ ドロシー: ここ座りなさいよ。お茶飲む?そんな顔しなくても、お茶くらい普通に淹れられるわよ ピュルテ: ふふ、なんだか変わった4人ですね エミリー: 人間さん、聞きたいことって?ああ……上の2人のお姉ちゃん?ううん、もうずっと会ってないよ ピュルテ: フェルディナさんの目もありますもんね エミリー: そだね。それもあって疎遠になっちゃった。今どこにいるのか知らないもん ドロシー: 結局、フェルディナの目的って、この世界をぶち壊すことって理解でいいのかしら エミリー: だと思うよ。お姉ちゃんたちを貶めたい、それだけだと思う ピュルテ: そうですね、人間さん。確かにフェルディナさんにも同情すべきところはありますね エミリー: 上のお姉ちゃんたちはもともと学者さんだったの。作家にこだわってたわけじゃなくて、研究の延長線上っていうか ドロシー: それで成功しちゃって、本当に作家を目指してたフェルディナは……ってことね ピュルテ: ええ、人間さんの言うとおりですね。同情すべきところはあるけど、だからといって世界を壊すことを許すわけにはいきません エミリー: おつうのケープで城に入り込めたとして、その後はどうすればいいんだろ ドロシー: まずはクラースよね。ボッコボコにしてやるんだから! ピュルテ: クラースさんのことが気になってる?えっ、それは恋愛対象的な意味で……!? エミリー: ピュルテ、文脈を読もうよぉ ピュルテ: あ、真面目な話ですね。すみません エミリー: でもクラースだけじゃないよ。フェルディナもすごく強いディマイトを持ってる 140 - 突破口? ドロシー: そりゃあ売れない作家なんだから、ディマイトの塊になってそうだけど エミリー: そうなんだけどね。でも謎なんだよねぇ。そのディマイト、どこから来てるんだろう ピュルテ: どういうことです? エミリー: クラースは元の能力も高いし、文字を書かれて持ってたエルマイトがディマイトに変換されてる可能性があるよねぇ ドロシー: そうよね。簡単にディマイト落ちしてること自体が驚きなくらい強いんだもの エミリー: じゃあ、フェルディナは?確かに感情的にはディマイトにつけこまれる要素があるけど ピュルテ: そうか!フェルディナさんは文字を書く方ですもんね。書かれてるはずはないです ドロシー: あ、なるほど。じゃあその能力はどこから来たのかってことになるのね エミリー: そうなんだよねぇ。でも確実に高いディマイト能力はあるの。それは実際に会って分かってるの ピュルテ: それってクラースさんと比べて…… エミリー: ピュルテみたいな正確な感知能力がないから断言はできないんだけど、たぶんクラースより上だよ ドロシー: えっ、少なくともクラースが2人いるようなものってこと?それさすがにヤバいわね エミリー: え?ううん、本当にクレアのことはエミリーにもわからないの。人間さん、何を考えて…… ピュルテ: 考えがあるんですね。えっ、人間界にはそういう話が……いえ、私が知らないだけだと思います ドロシー: 少なくとも、そのカタビラ?がどうとかっていうのがあるのね エミリー: そっか。経緯から推理すると、ありえるかもね。クレアがカギになるかもしれないのかなぁ ピュルテ: 確かに、今までのディマイトとの戦い方に倣うなら、フェルディナさんの作家としての承認欲求が満たされれば、ディマイトは軽減するはずです ドロシー: 突破口が少しは見えたかしらね。針の穴程度かもしれないけど ココロニ: おつう大丈夫かな シンデレラ: この奥の作業部屋でがんばってるのね。おとなしく待ってましょう おつう: あー、終わりましたぁ。今そっちに持っていきますのー ティンカー・ベル: あっ、声が聞こえたよ!ティンカが運ぶの手伝ってあげる! おつう: あっ、だめですの!まだ扉は開けちゃだめっ…… クレア: 開けちゃった おつう: やだっ、ひどいですの!あんなに覗かないでって言ったのに! ティンカー・ベル: ご、ごめん。もう終わったっぽかったからいいのかなって おつう: 徹夜明けのボロボロの顔なんて人間さんに見せられないですのー! ピュルテ: ああ、そういう意味で…… ココロニ: 確かにボロボロ。お疲れ様 おつう: ココロニちゃん、さらっとひどいこと言ってますの!髪もバサバサだしっ、目も腫れて……えっ ヴェルメリオ: ……人間さんが後ろから抱きしめた シンデレラ: こうすれば恥ずかしくないだろ、ありがとう……ですって。人間さん、そんなお芝居みたいなセリフ、よく出てくるわね ピュルテ: おつうさん、顔真っ赤ですよ おつう: お、お、お風呂に行ってきますの! クレア: そしてこれが魔法のケープ。こうやって着るのかな ティンカー・ベル: ああっ!すごい、本当に透明だ! クレア: 消えた? シンデレラ: 完璧だわ。これでエリーネアの城の内部に入り込んで、中枢を直接叩くのね ココロニ: おつうのケープはクラース知らない ピュルテ: そうなんですか!?じゃあ完全に出し抜けるかもしれませんね エミリー: 先回りしてはいたけど、ケープの存在は知らないってこと? ドロシー: もし知ってたとしても、透明で見えないんだから防ぎようがないはずよ ピュルテ: じゃあさっそく出発準備ですね ティンカー・ベル: おつうにメモだけ残しておこう。『ありがとう。そしてマジでごめん』っと…… ピュルテ: いよいよエリーネアさんのお城まで到着しましたね! シンデレラ: おつうちゃんのケープのおかげで、ここまで誰にも気づかれずに来れたわ ドロシー: 体力もほぼ温存できたし、いい感じね ココロニ: これから、どうするの エミリー: うん、それが問題なんだよね クレア: 透明だから気づかれないけど、だからって門扉が勝手に開くわけじゃあないから ピュルテ: このお城の構造に詳しい人がいればいいんですが ココロニ: ごめんね ティンカー・ベル: いいんだよ。ここまでココロニにはすっごく助けてもらったんだから! エミリー: そのエリーネアって人は……ダメだよね。城の主なんだから、文字を書かれてなくても牢屋に入れられたりとかしてるよね ピュルテ: 逃げ出せていればいいんですが、あまり期待できないでしょうね…… ヴェルメリオ: ……あれ?あそこにいるのってアンナマリアじゃない!? ドロシー: 本当だわ。あんなところウロウロして何してるのかしら シンデレラ: アンナマリアだって雪の国の住人よね。もしかしたら、この城の構造も知ってるかもしれないわ ピュルテ: ちょっと話しかけてみましょう。アンナマリアさん! アンナマリア: ……!?な、なに?どこかから誰かの声が ティンカー・ベル: ピュルテ、おつうケープ外さないと、ただの心霊現象だよ ピュルテ: あ、そうでしたね。はい、これでお分かりいただけたでしょうか! アンナマリア: ピュルテ!それに、あっ、あなたたちも……! ドロシー: ひさしぶりね。あのね、いきなりで悪いけど聞きたいことがあ……ってぇ!?な、なに、槍!? クレア: いきなりなに、危ない ヴェルメリオ: ……まさかこの展開は アンナマリア: 侵入者ね!私が燃やし尽くしてあげる! エミリー: 見て!足の甲に文字が書かれてるよぉ!っていうか、なんで裸足!? シンデレラ: やるしか無いみたいね! 141 - 裸足のアンナマリア アンナマリア: ごめんなさい、みんな。気がついたら、この城を守るために巡回させられてたの ピュルテ: わりと消しやすい場所に文字があってよかったですね エミリー: その命令を出してたのって…… アンナマリア: フェルディナ様、ってみんなに呼ばれてたわ ドロシー: フェルディナ自ら書いたわけね。まったく……って、人間さん?文字はもう消えたのよ アンナマリア: そうよ。どうして私の足をそんなにこすって……あっ、寒そうだから暖めてくれてるの? ティンカー・ベル: ほんとだ、なんか赤くなっちゃってるよ クレア: 文字を書かれたときに、たまたま裸足だったんだね エミリー: なのに外の巡回させるとか、フェルディナってばひどすぎるよぉ! アンナマリア: あ、ありがと。でも、そんなことしたら人間さんの手が汚れちゃうよ。汚くなんか無いって、そんな シンデレラ: どこかに温泉でもあればいいんだけどね ココロニ: 近くにあるから後で案内する ピュルテ: そうですね。カイロって偉大ですね、人間さん シンデレラ: ねえ、アンナマリア。この城の中に入るためのルートって、どこかないかしら アンナマリア: それなら地下通路があるの。その入口も私の守備範囲だから、今ならがら空きになってるはずだわ クレア: 良かった。じゃあ中に入るルートも確保できた ピュルテ: 中にどれくらい敵がいるか……までは知らないですよね アンナマリア: ごめんなさい。元々城の外でつかまって、それからずっと外を巡回しているから…… ピュルテ: いえ、大丈夫です。どのみち手薄だとは思えないですし、覚悟してきてますから ドロシー: そのためのおつうのケープだもんね アンナマリア: ありがとう、人間さん。もう大丈夫よ。みんなを案内しなくちゃ ヴェルメリオ: ……人間さんのこういう優しいとこ、ほんと好き ドロシー: ヴェルってば、ずいぶん直球ね ヴェルメリオ: ……えっ、いま声に出てた!? ピュルテ: この通路をたどっていけばお城の中に入れるんですか アンナマリア: ええ。でも、すごく迷いやすいから、私が案内するわ ティンカー・ベル: って言ったって、真っ暗で危ないよ アンナマリア: 大丈夫。マッチをこするから エミリー: うわあ、一斉に壁についた燭台に火が灯ったよ! アンナマリア: こんなふうにマッチで火を付けられるのも、人間さんのおかげだもの。あなたに会えたから変われたの エミリー: そっかぁ、そうなんだぁ…… ドロシー: たぶん魔物はいないと思うけど、注意して進むのよ ヴェルメリオ: ……空気がひんやりしてるけど、外より寒くない シンデレラ: 決してあったかくはないけど、寒くもないわね。風が吹き込まないからでしょうね クレア: 雪もないし エミリー: ねえ、人間さん。エミリーがこんなこと言えた義理じゃないの分かってるんだけど ティンカー・ベル: そんなふうに卑屈にならなくていいの。もう仲間なんだから遠慮しないでさ エミリー: ありがと。エミリーのことっていうか、フェルディナのことなんだけどね。アンナマリアが人間さんと出会って救われたみたいに…… シンデレラ: フェルディナも人間さんとちゃんと出会えたら、救われるんじゃないかってこと? ドロシー: 当然それはフェルディナ次第でしょ。でも、可能性はあると思うわ ピュルテ: そうですね。ずっとお姉さんへのコンプレックスに囚われてきた心が、少しは解放されるといいですね エミリー: そんなこと言う資格は無いと思うけど、でもやっぱり……エミリーにとっては身内だから、そんなこと考えちゃう ヴェルメリオ: ……自然なことだよ。それに、わたしだってそんな人は救われてほしいと思うし ティンカー・ベル: 期待に応えられるかは分からないけど、少なくともバカにしたりしない?うんうん、人間さんも受け入れてくれるつもりなんだね エミリー: ありがとね、人間さん…… シンデレラ: そうね。夢を追いかけ続けたことは素敵なことだもの。それをバカにするのは良くないわ ピュルテ: バカにされても、自分が納得していれば平気って人もいますけど……みんながそんなふうに強いわけじゃないですからね ドロシー: 本当はね、そんなの夢を諦めた人の妬みでしかないと思うんだけどね クレア: それ、みんな直接言ってあげればいい ヴェルメリオ: ……そうだね。きっと自分一人じゃ気がつけないことだよね アンナマリア: 見えた。あの黒い扉の先が城の中に通じてるわ シンデレラ: じゃあここまでね。ありがとう、アンナマリア。それにココロニも ココロニ: えっ?まだついていく ドロシー: ううん。ココロニはアンナマリアについてあげてほしいの。ほら、温泉があるんでしょう? ココロニ: でも心配 エミリー: 優しいね、ココりん。でも、大丈夫だよぉ。みんな強いもん クレア: 色々とありがとう、ココロニ ココロニ: ううん。何かあったら言って。いつでも手伝う アンナマリア: 気をつけてね、みんな ピュルテ: さあ、皆さんケープを忘れずに ティンカー・ベル: あ、そうだった!忘れるところだったよ アンナマリア: 人間さん、応援してるからね ヴェルメリオ: ……あっ。ほっぺにキス シンデレラ: うーん、アンナマリアは行動がピュアで、なんだか心が洗われるわね ドロシー: それじゃあ扉を開くわよ。ゆっくりね エミリー: 待ってて、フェルディナ……。心の鉄格子を外してあげるから…… 142 - フェルディナの苛立ち フェルディナ: ……ええ、わかってる。問題ないわ。エミリーだって『ユース』の1人よ フェルディナ: 今はそうかもしれないけど!『Op7』のあなたには分からないのよ フェルディナ: だって血のつながった姉妹よ。ああもうジャコヴァのことは別よ、うるさいわね!もう切るわ! フェルディナ: ふうっ……大丈夫。うん、大丈夫なんだから…… クラース: 失礼します。地下牢に監禁しているエリーネアですが、ようやく食事にも手をつけるようになりました フェルディナ: あいつ、意地を張るのをやめたのね クラース: エリーネアが倒れて魔力が失われたら、城が維持できなくなってしまいますからね〜 フェルディナ: あんたみたいな腹黒の説得を聞いたっていうのが、ピンとこないけどね クラース: あら?それってお褒めの言葉ですか? フェルディナ: ディマイトに堕としても食えない女ね クラース: あら、お手元のそれは、通信スフィアですか〜? フェルディナ: 白々しい。どうせ会話、聞いてたんじゃないの クラース: 盗み聞きだなんてそんな、お行儀の悪いこと フェルディナ: エミリーが血迷って、あんな奴らに肩入れするなんて。でも、どうせ一時の気の迷い。絶対そうよ クラース: 奴らの動きですが、砦に退避して以降は目立った動きがないようです フェルディナ: 奴らも打ち手がなくて困ってるのでしょうね。もう、この雪の国は私の監視下にあるというのに クラース: ただ、この国は組織らしい組織も少なく、くわえて吹雪も頻繁に起こるという天候もあり、国の全てを監視し続けるのは難しいですね フェルディナ: それをなんとかするのがあなたの仕事。そうでしょう、クラース クラース: ……。努めてまいります フェルディナ: とにかく、奴らをこのままで済ますことはできないわ…… クラース: おそれながらフェルディナ様。既にヴェルザームの1つはこちらにございます フェルディナ: それがなんだというの クラース: 全てを集める必要のある彼らに対し、私たちは1つ持って妨害できさえすればいい。これ以上の深追いにどのような意味が フェルディナ: 私はエミリーをかわいがってきたわ。もともとコミッティにも積極的じゃなくて、アーティスト気質だったあの子のことをね クラース: それは伺っております フェルディナ: その可愛いエミリーを、奴らはそそのかして私を裏切らせた…その罪は万死に値するわ…! クラース: つまり、彼らが許せない。そうおっしゃるのですね フェルディナ: そうよ。可愛いエミリーを私から奪った奴らの苦しむ顔が見たいの。そして、そのときエミリーは自分の行動を顧みるはずだわ クラース: その結果、フェルディナ様のもとに帰ってくる、そういうお考えなのですね フェルディナ: そのために、どんな罠でもいいわ。奴らを罠にはめて、そしてなぶり殺すのよ クラース: 手段は問わないと フェルディナ: 絶対にっ、絶対に奴らを許しはしないわっ、私の可愛いエミリーをっ! クラース: 美しい姉妹の絆、ですね フェルディナ: そうよ!奴らに騙されてしまったかわいそうなエミリーを、私はこの手で救うの! クラース: しかし、その対決の場はどこだとお考えですか フェルディナ: クラース、あなたほどの人が分からないはずないでしょう。この城に決まってるじゃない クラース: この城に、ですか? フェルディナ: 意外かしら クラース: ヴェルザームを集めるのも目的でしょうけど、返り討ちにあって全部とられるようなマネ、しますー? フェルディナ: 冷静な戦術としてはクラースが正しいわ。でも奴らはエミリーに、あの子に感情的に肩入れしてる。身内の私を放置できないはず クラース: へええ、なるほど。では迎撃の準備をした方が良さそうですね フェルディナ: そういうこと。今すぐ部下たちに指示を、あっ…… クラース: ……っと、フェルディナ様。だいぶお疲れなのでは フェルディナ: そのようね。ここのところ、ディマイトを消費しすぎたわ。少し補給が必要ね。補給隊を呼んでちょうだい (背景切換...) クラース: ってことだから、用意してくれる? 兵士1: はっ、もうこちらの部屋に準備は整えてありますので、すぐにでも クラース: あらぁ、それはよかったわ〜。ちょっとお部屋、覗いちゃおっと 兵士1: いずれも丈夫で豊富なディマイト貯蔵庫です クラース: へええ……なるほどねえ。これが城にもあって、緊急用の洞窟にも完備。なかなか楽しそうだわ 兵士2: クラース様!南南西の空から、こちらに向かってくる者が クラース: んー、どれどれ?ちょっと水晶玉で見てみるわね。ああ、ズワルテちゃんね。思ったより早かったわね。あんな真剣な顔して可愛い子 兵士2: どうされますか クラース: 大切なお客様よ。きっちり歓待してあげなさい。殺しちゃだめよ。まあ、あんたたちには無理でしょうけど 兵士2: 了解しました! フェルディナ: ねえ、クラース。準備は出来たの? クラース: ああ、こちらに用意できております、フェルディナ様 フェルディナ: ふふ、いい感じね。私はしばらく席を外すから、あとのことは任せたわよ、クラース クラース: はぁい、かしこまりました♪……はっ。どうぞ、ごゆっくり 143 - 悪夢がやってきた ピュルテ: こっちです!今なら見張りも少ないみたいですよ シンデレラ: 透明ケープがあるとは言え、ど真ん中に突っ込むわけにはいかないものね エミリー: ねえ、でも……なにか騒ぐ声が聞こえない? クレア: まさか侵入がバレた? ティンカー・ベル: いや、それはないでしょ。でも、確かに兵士がなにか警戒してるっぽいね ヴェルメリオ: ……あっちの方だね。ちょっと見に行ってみない? ドロシー: そうね。もしかしたら仲間かもしれないし ピュルテ: こっちの方向ですね!急ぎましょう! (背景切換...) ナイトメア: なんだよ、この魔物の数!こんなとこに来て、クラースは本当に無事なわけっ!? ピュルテ: あれは……ナイトメアさん!? ヴェルメリオ: ……ナイトメアもディマイトに操られてるの? ドロシー: いえ、あれは魔物に取り囲まれてる。ディマイト側じゃなさそうよ ナイトメア: くっそ、こっち来んなっ!デュアルパージっ!! エミリー: 助けに入る? クレア: 敵側にこっちの動きもバレちゃうかもだけど ティンカー・ベル: だからって助けないわけにはいかないよ! シンデレラ: 当然よ!でもバレないに越したことはないわ。みんな、ケープを脱いだら一気に畳み掛けるわよ! ドロシー: 私たちの存在を伝達する奴を出さないように、でしょ?了解、行くわよ! エミリー: 次元の違いってやつを見せてあげるっ!てええいっ! ティンカー・ベル: はは……さすがエミリー。確かに次元が違うんだろうね エミリー: エミリーだってオトギノクニに13人しかいないコミッティの一員なんだからね!ほぼ欠席してたけど…… ナイトメア: な、なんなの、あんたたち!急に出てきて、何!? ピュルテ: 安心して下さい、ナイトメアさん。私たちは味方ですよ ドロシー: じゃあクラースがディマイトに感染したかも、って聞いて飛んできたのね ピュルテ: なんだかんだ言っても、師匠のクラースさんが心配だったんですね ナイトメア: べ、別に。クラースなんて、師匠だなんて思ってないし、心配でもないし エミリー: クラースはクリスマスに願いをかなえてくれるんだっけ。じゃあ弟子のナイトメアも願いをかなえられるの? ナイトメア: もちろん!まだクラースみたいにコンスタントにはできないけど…… ヴェルメリオ: ……あれ?悪夢を見せるんじゃなかったっけ ナイトメア: 似たようなもんだから!それに秘術を使えばあたしだって夢を叶えられるし クレア: 夢をかなえる秘術。気になる ナイトメア: 全裸でソザイン民謡を……そんなのはいいの。今は関係ないでしょ シンデレラ: 飛んできたってことは、もしかしてクラースのディマイト感染を戻す方法を知ってるの? ナイトメア: えっ。えっと、その ティンカー・ベル: あーあ。これ、居ても立ってもいられなくて飛び出してきただけのパターンだね ナイトメア: ちょ、残念な子みたいな言い方しないでよね!あたしはただ、クラースがディマイト化したところ指さして笑いに来ただけなんだから! ドロシー: でもズワルテが見つかったのは、無防備に空飛んで正面から突っ込んだからよね エミリー: ズワルテ?あっ、ナイトメアなんて名乗ってるけど本名はズワルテなんだねぇ ナイトメア: ぐぎぎ、クラースの奴のせいで、気にしてる本名がどんどん広まってく! シンデレラ: ドロシーが言いたいのは、私たちはまだ見つかってないから奇襲は続けて大丈夫ってことでしょ? ドロシー: ええ。だから先に……えっ?確かに、エリーネアの救出が先よね ティンカー・ベル: うん、人間さんの言うとおりだね。ひどい目にあってるかもしれないんだから エミリー: でも牢屋の場所、どこだろ?あっ、ドロシーが敵の兵士を…… クレア: エミリー、見ちゃダメ クレア: ここが地下牢に続く道 ピュルテ: ああっ、エリーネアさんがいました!大丈夫ですか、しっかり ナイトメア: ひどい……これがクラースの仕業だっての? シンデレラ: 衰弱がひどいわ。ヴェル、なにか飲み物、できれば少し塩辛いものがない? ヴェルメリオ: ……水筒にコンソメスープが残ってる ドロシー: なんとか命に別状はないみたいだけど、とても一緒に戦って、なんて言える状態じゃないわね エミリー: 待って、エリーネアがなにか伝えようとしてる クレア: ……うん、クラースとフェルディナの居場所 ティンカー・ベル: 玉座の間!ふん、分かりやすいところにいるじゃん!さっさと乗り込んでボッコボコにしてやろう! ナイトメア: ねえ、クラースは……うん、そっか。やっぱりディマイトに操られてるんだね ピュルテ: 心配ですよね、ナイトメアさん ナイトメア: はっ、心配?あたしはね、あいつがその程度だったかって笑っちゃってるだけだし ドロシー: つまんない嘘つくなら、せめて涙目にならないようにしなさいよ ナイトメア: えっ!?そ、そんなことないし! ドロシー: 大切な人を心配するのは、恥ずかしいことじゃないわよ ナイトメア: そんなんじゃないってば!ただ……あたしの師匠を名乗るからには、簡単に操られてもらっちゃ困る……そんだけだよ クレア: ツンデレ?人間さん、その言葉の意味はよく分からない。教えて エミリー: クレア、なんでも知ろうとしなくていいと思うよ ドロシー: とにかく玉座の間ってとこに急ぐしかないわね。エリーネア、1人で大丈夫? ヴェルメリオ: ……お弁当と、お水。それから回復薬と魔法のスープも置いていくから シンデレラ: そうね。ひとまず、それで逃げるなり隠れるなりして。私たちが取り戻すまでは、出てこないほうがいいわ ナイトメア: そうと決まったらとっとと行こうよ。この手でクラースのやつをブン殴らないと気が済まなくなってきた! 144 - 姉妹の鎖 ドロシー: いたわ、クラースよ!それにあの奥の大きい椅子に座ってるの ナイトメア: あんなところに余裕な顔して立ってる場合っ……!?ギリギリ道は踏み外さないのがあんたでしょーが エミリー: フェルディナっ……! フェルディナ: ああ、エミリー。なんて顔で私を見るの。あんなに私に懐いてた可愛いエミリーが クレア: もうエミリーは、あなたの言いなりにはならない エミリー: クレア……。ありがと。うん、そうだね。大丈夫。エミリーは、独りじゃない フェルディナ: 独りじゃない?ああそう。そうやって私を仲間はずれにするわけね エミリー: うっ……で、でもっ、自分のことは自分で決める!エミリーは自分で決めて仲間を見つけたの。フェルディナもそうすればいい! フェルディナ: いいわ。じゃあ、私のことはゴミのようにポイ捨てする、それで一旦いいとしましょう ドロシー: なんなのあいつ、いちいち、ねちねち!暴れたくなるわね ヴェルメリオ: ……変なパワー溜めないで フェルディナ: けど、あなたのこの行動を『コミッティ』が歓迎するかしらね? エミリー: ……っ!!そ、それは、お姉ちゃんたちにはエミリーがちゃんと フェルディナ: あなたは私たちを裏切って、神殿側についたってことよ エミリー: そ、そうだけど、でもっ……うう…… ティンカー・ベル: エミリー。正直言って、今の2人の会話1ミリも理解できない。けど、これだけは言える。エミリー、あんたにはティンカたちがついてる シンデレラ: ティンカちゃん……!ええそうよ、怖がることはないわよ エミリー: ティンカ、シンデレラ、人間さんも……!うん、ありがとう クラース: さーてさて?いい場面も見られたし、決着つけちゃっていいですか、フェルディナ様 フェルディナ: ええ、そうね。ただし、お前らが持っているヴェルザームを渡すというなら、見逃してやってもいいけど ピュルテ: そんなの、お断りです! フェルディナ: 言うじゃあないか。おまえだって仲間に後ろ暗いところはあるのにねえ ヴェルメリオ: ……今度は何を言ってるの フェルディナ: ずいぶん仲間ヅラしてると思ってね。言えない後ろ暗いこと、あるだろう? ピュルテ: な、なんのことですか……! フェルディナ: おまえのその、能力のことだよ ピュルテ: ……っ!!ど、どうしてそれを シンデレラ: 能力……?ピュルテちゃんが戦えるようになったときのこと? ドロシー: 海底の国にある岩に願いをかなえてもらったんじゃなかった? ティンカー・ベル: それが嘘、って言いたいんだろうね フェルディナ: ただ能力を手に入れたわけじゃないのよ。引き換えに失ったものがあるの。それは…… ピュルテ: 待ってくださいっ!! クレア: ピュルテ…… ピュルテ: 私が、自分で話します。私は、守られるだけの無力な存在でいることに耐えられなかったんです ヴェルメリオ: ……そう言えばあの頃、ピュルテ悩んでたね ピュルテ: だから、私は戦う能力がほしかった。人間界に行き来できる能力を失ってでも ティンカー・ベル: そっか、ピュルテ……って、ええっ!?じゃ、じゃあ人間界に行けない!? エミリー: つまり、人間さんはもう、自分の世界には戻れないってこと? ドロシー: だ、大丈夫よ。私の魔法の靴だってあるじゃない。世界のエルマイトさえ戻れば使えるわ クレア: ピュルテが気にしてるのはそこじゃないと思う エミリー: クレア?どういうこと? クレア: ドロシーがいるからいいとかじゃない。その瞬間、ピュルテは選んでしまった ピュルテ: そうです。私は、人間さんと一緒に戦えるようになる方を選んだんです。戦える人は他にもいる、人間界に行けるのは私だけ、分かっていたのに、私は! ピュルテ: 人間さんに認めてほしい、誰かに迷惑をかけたくない、それは全部、私のエゴなのにっ…… シンデレラ: それでも、選んでしまったのね クラース: 醜いわね。本当に求められていることも見失って、自己満足のために間違った選択をするなんて、本当に醜いわ ナイトメア: くっ、クラースっ!そんな言い方! クラース: そんなピュルテを、仲間だと言えるのかしら? (…………。) ピュルテ: ……!人間さん…… シンデレラ: ピュルテは俺の大切な仲間だ!って……ふふ、力強く言い切ってくれたわね ドロシー: 人間界にも、戻るつもりはない!?二度と戻れなくていいって、あなた、それ本気なの ヴェルメリオ: ……そうだね。あのとき、ピュルテが戦えなかったら、暴走したトリルにやられてたかもしれない ティンカー・ベル: 人間さんの言うとおりだね。戦うのはみんなできるかもだけど、あのピンチにピュルテが戦えたから今があるんだよね クレア: 記憶がなかったクレアだってやってこれた、俺がこの世界で生きてくのに弱音なんか言えない……そっか、意外と私たち似てる エミリー: だからピュルテの決断は間違いじゃない。少なくともこの世界を救うまで、戻るつもりなんて最初からなかった……人間さん、そこまで覚悟してたの クラース: いい顔、するじゃない ピュルテ: あ、あう、ううっ、人間さんさぁん……!私、ぐすっ、こんな私のこと、庇ってくれてっ、ううっ フェルディナ: なんなの、あんたたち。特にそこの男、頭おかしいんじゃないの。そこまでする意味が、義理が、どこにあるっていうのよ ピュルテ: 女の子が泣いていて、自分が力になれるなら喜んで協力する?もうほんと、人間さんってば……人格者すぎます フェルディナ: 偽善者どもがっ……吐き気がするっ……! 145 - 戦う理由は1つでいい ティンカー・ベル: 人格者なんて言いすぎ?でも、誰かのためにそこまでするって、すごいよ? シンデレラ: ピュルテのことや魔法の靴のことがなくても、そんなに戻りたいってわけじゃない?それ、本当?だって家族にも…… ドロシー: 私たちが家族みたいなもの、だなんて……。ピュルテを励ますためだと分かっていても、照れちゃうわね エミリー: いいの?人間さん…それでも人間さんの居場所がここにあるって保証は…どこにもないのに… クレア: これだけの人が自分を必要としてるなら、十分何かをする動機になる?そっか、すごく分かる エミリー: 分かるの、クレア クレア: 必要とされたい。私も同じ エミリー: ルーツがないからこそ、誰かから必要とされることで自己の価値を再認識する。そういうことだね ティンカー・ベル: んん?エミリーってば、なんか頭いいフリするのやめてよ。もっとシンプルにお願い! エミリー: フリって……エミリーがおバカみたいに言うのやめてくれる…… ピュルテ: 人間さんてば……本当に、優しいんだから。私、ここに誓います ヴェルメリオ: ……えっ、なに。結婚の誓い!? ピュルテ: この先なにかあったとき、私がどんなに辛い思いをしても、人間さんのためになる選択をします。約束です!それが恩返しです! シンデレラ: 本当に思い残すことはないのね。だとしたら、私も人間さんのこっちでの生活に全力で協力するからね ピュルテ: 家のパソコンのパスワードさえ突破されなければいい?ふふっ、もう人間さんてば……あっ! クレア: 人間さんがピュルテを、ぎゅって ドロシー: 熱い抱擁ね。いいわ、今はその女子力高そうなポジション、ピュルテに譲るわよ ピュルテ: 人間さんっ……! フェルディナ: 思い残すことはない、だと?くそっ、こんなもの!クラース、やってしまいなさい! クラース: かしこまりました。さあみんな、私と踊りましょ♪come into partyよ♪ ティンカー・ベル: うあああっ!?な、なにこれ、すごい魔法 クラース: あらぁ、まだまだこんなものじゃないのよ (ドゴオオオン) ドロシー: くううっ!!う、受け止めきれないっ!うああ! ヴェルメリオ: ……ドロシー!吹き飛ばされたドロシーの身体が、壁を突き破って廊下に クラース: それで大魔法使いですって?何かの間違いなんじゃないの フェルディナ: あははは、いい気味だわ!私をバカにした罰よ!思い知らせてやりなさい、クラース! ピュルテ: こちらも攻撃しているのに、まるでダメージを負っている様子がありません! ナイトメア: クラースのギャラクシーギフトは魔法攻撃と回復を同時にできるの。一旦ここは、あたしが引き付ける! エミリー: たぶんディマイト堕ちさせられたから、魔力の許容量が普段よりもずっと多くなってるんだと思う クレア: あの魔法を連発されたら太刀打ちできない シンデレラ: これだけの人数を相手に……!さすがクラースとしか言えないわね ナイトメア: あたしが時間を稼ぐ間に、人間さんからありったけのエルマイトを借りて! ピュルテ: わかりました!皆さん、人間さんのところに集まってください! クラース: やあね、ナイトメア。あなた1人で私の足止めができるですって? ナイトメア: 力不足だって言いたいわけ?ふん、それはやってみないとわかんないんじゃない?いっけぇ、夢魔たち! シンデレラ: ナイトメアのあれ、小さいディトルパよ。あれを自在に操れるようになってたのね! クラース: 成長してるみたいで師匠としては安心だわ。でも……詰めが甘いのよね! ナイトメア: えっ、どこに魔法を撃って……?はっ、しまった!避けてっ! クレア: え?……っ、がふっ…… エミリー: クレア!?クレアっ!? クラース: ふふ、直撃ね。これでおしまいよ ナイトメア: クラース、あんた……! エミリー: クレアっ、しっかりして!クレア! ピュルテ: そんな……クレアさんが、そんな フェルディナ: ふん、できそこないが真っ先にやられたね。エミリーも、これで自分の間違いに気づくかしら ドロシー: どいて、エミリー。意識がないけど、頭を強く打ったかしら。脈拍は……弱いけど、あるわ ヴェルメリオ: ……ひどい、こんなの エミリー: うっ、ううっ……エミリーは、あんたを許さないよ、クラース! クラース: 可愛いわね、エミリー。お友達のために、そんなに熱くなれるところもあるのね エミリー: クレアは、ずっとエミリーを頼って……いつも、いつもエミリーが言うならいいよって、優しくて……! クラース: そうね。でもそれ以前のクレアを、あなたも知らないんでしょ? エミリー: 関係ない!記憶がどうだろうと、過去に何があろうと、クレアはクレアだもん!ここで怒らなかったら、エミリーはどこで怒るの! クラース: ふふ、それ聞いて安心したわ。それで、どうするの? エミリー: 決まってる!クレアのカタキを討つんだっ、てえええええいっっ! ナイトメア: エミリー!あたしも手伝う! クラース: ナイトメア。あなたまで熱くなっちゃった? ナイトメア: あたし、あんたのことは大っキライだけどね!軽蔑してたわけじゃなかった。認めるべきとこは、認めてきたんだよ! クラース: へえ、そんなの初めて聞いたわ ナイトメア: けどっ、けどっ!今のあんたは!あたしの尊敬してた師匠じゃないっ! ドロシー: ああ、エミリーが危ない!早く私たちも援護にいかないと! ヴェルメリオ: ……待って、まだ人間さんからのエルマイト補給が ピュルテ: きました!今、フルチャージされました!皆さん、いきましょう! シンデレラ: ヴェルとドロシーはエミリーたちの援護に、その後でティンカちゃん、ピュルテちゃん、私の順番で連携攻撃するわよ ヴェルメリオ: ……了解。援護の後、私たちも連携をつなぐ ドロシー: さあて、ここで勝負を決めようじゃないの、クラース!! 146 - 反旗 クラース: くっ、くはっ……さすがに、やるじゃないっ……! シンデレラ: 今よ!誰か勝負を決める一撃を! ナイトメア: うああああっ!覚悟しろっ、クラース!! (バキィッ) ティンカー・ベル: えっ、ナイトメア!?素手!? ヴェルメリオ: ……素手で殴った。しかもそれがキレイに入った ドロシー: 私じゃないんだから、何よその攻撃…… ナイトメア: 物理攻撃が入った……あんたはもう魔力を使い果たしてるね クラース: いいパンチ、持ってるじゃないの…… ナイトメア: とどめだよ!臨界!極光幻夢っ!! (ドゴオオオン) ナイトメア: クラース……あんたの思いはあたしが引き継ぐから クラース: ちょっとぉ、勝手に殺さないでくれる? ドロシー: 嘘でしょ、まだ立ってられるなんて フェルディナ: あははは、誰だと思ってんの。相手はクラースよ?あんたたちにいいようにされるもんですか! クラース: そのとおりね、フェルディナ フェルディナ: はっ? ピュルテ: こ、これは急激なエルマイトの上昇、どこから……クレアさん!? ドロシー: 意識は無いままみたいだけど…… クラース: 夢でも見てるんじゃないかしらね。私の魔法で全身を強く刺激されて、おそらくもう……曖昧だった記憶はすべて復元されているはず ナイトメア: え、なんでそんなこと。っていうか、あんたディマイトは…… クラース: ズワルテちゃんたら、ほんと根っから素直でいい子なのよね〜 エミリー: え……ちょ、自分で胸の谷間にあったディマイトの文字を消したっ!? フェルディナ: なっ……嘘でしょ、これはどういうことよ クラース: 自分で言ったでしょ、フェルディナ。私を誰だと思ってるの。あなたにいいようにされるわけないでしょ フェルディナ: な、なんですって……! エミリー: それじゃあクラース、最初から シンデレラ: まったく、本当に一筋縄じゃいかない人ね フェルディナ: まさか、最初からクラース、あなたは…… クラース: やだやだ。私が簡単に操られるなんて、誰も疑ってないの?地味にショックだわ〜 ティンカー・ベル: だったらそれ、早く言ってくれないかな!?ティンカたち、あんたにすっごい苦戦したんだけど! クラース: フェルディナに怪しまれずにクレアの記憶を戻すためには、必要だったの ドロシー: だって、最初からすっごい攻撃してきたじゃない! ティンカー・ベル: あ、でも、待って……おつうのディマイトを解消した後、クラースはクロスフレアをぶっ放した……あれって クラース: あんな雪の中で火がないと辛いでしょ?目印にもなるし便利だったはずよ? ピュルテ: 敵対しているフリをしながら、ギリギリのところで私たちを助けてくれていたんですね ヴェルメリオ: ……同時にそっちの情報も探ってた、ってこと? ナイトメア: ふ、ふざけんなよっ!どんだけあたしがしんぱ……えっと、怒ってたか!分かってんの!? クラース: 分かってるわよ。この私を殴った代償は、後でちゃーんと払ってもらいますからね ナイトメア: ぐぎぎっ……完全に遊ばれてる!だああっ、むかつくーっ!! クレア: に……にいさま……? エミリー: クレア!?しっかりして! クレア: 兄さま……カラスに、なってしまった兄さまを……たすけ…… エミリー: なにか思い出したんだね、クレア フェルディナ: そんなバカな。このままじゃ私はっ……くっ! ドロシー: ああっ、フェルディナが逃げるわよ! ピュルテ: ヴェルザームも持って行かれてしまいました! シンデレラ: 焦る必要はないわ。追い込まれてるのは向こうの方なんだから。それより、クレアの体調は大丈夫? エミリー: うん、クレアは少し落ち着いたみたい クラース: もう少し休ませたほうがいいわ。身体は無事でも、まだ意識が混濁としているはずだから シンデレラ: けど、あまりゆっくりもしていられないわ。クレアは休ませるとしても、私たちはフェルディナを追いかけないと ピュルテ: 結局、青のヴェルザームはフェルディナさんが持って行ったままですからね ドロシー: でも、あと少しよ。これでフェルディナを見つけ出してヴェルザームを揃えれば、世界のディマイトはぐっと減るはず ティンカー・ベル: それにフェルディナをやっつけたら、もうディマイトを増やそうなんて悪いやつもいないもんね! クラース: それは少し見通しが甘いかな〜 ナイトメア: あんた何か知ってんなら、さっさと白状しなさいよ! クラース: フェルディナの通信を盗み聞きしたわ。まだ裏に誰かいると思う エミリー: お姉ちゃんたちのこと?でも、通信してやり取りなんてしてないと思うよ クラース: エミリーは知ってる?コミッティのこと エミリー: まさか、コミッティが招集されてるっていうの……エミリーも知らない間に……? クラース: フェルディナも蚊帳の外だったんじゃないかしら。でも、コミッティの誰かがフェルディナに何か吹き込んだのかも エミリー: フェルディナも、誰かにいいようにされてたのかもしれない……? ドロシー: とにかく!行ってみなきゃわかんないんでしょ!ばーっと行って、フェルディナをとっ捕まえて聞き出せばいいじゃない! ピュルテ: ふふ、ドロシーさんらしいですね。でも、そのとおりです。まずは追いかけなくちゃ クラース: 北西にある氷の洞窟に向かったはずよ。そこにディマイトを補給する貯蔵庫があるはずだから ティンカー・ベル: エミリー。ほら、見て エミリー: 吹雪が……晴れた…… ティンカー・ベル: 前に進めって言われてんだよ。ねっ? 147 - クレアの身元 エミリー: クレア! クレア: あ、エミリー。どうしたの、走ってきたの? エミリー: だって、目を覚ましたって聞いたから ピュルテ: ふふ、もう大丈夫ですよ。そんなに慌てなくても、クレアさんはここにいます ティンカー・ベル: よかったね、エミリー。それにしてもクラース!もう少し手加減できなかったわけ!? クラース: したわよ〜。気絶しちゃったのは、それだけ記憶回復が身体に負担だったってこと クレア: うん、もう大丈夫だし、すごく痛いとかでもない ヴェルメリオ: ……じゃあ、はっきり思い出したんだね クレア: うん。私は、創造期にお兄ちゃんがいたの。7人も シンデレラ: 7人も?みんなお兄さんだったら、クレアは可愛がられたでしょうね クレア: 優しいお兄ちゃんたちだった。それがカラスに変えられちゃって エミリー: 助けなきゃ……って時々寝言を言ってたのは、その時の記憶だったんだね クレア: そんなこと言ってたの ドロシー: 創造期の後はどうしてたのよ クレア: 家族みんなで暮らしてた ピュルテ: 創造期から特に変わりはなかったんですね クレア: もともとすごく貧しくて。あ、でも創造期が終わった頃には少しだけ良くなったかも エミリー: そこにフェルディナが来たんだね クレア: おまえは私の道具だ。そう言ってた ドロシー: ひどいわ。平和に暮らしてたのに、勝手に連れ去って、そんなこと クレア: でも私は寂しくて、帰りたくて、何もできなかった。 それで クラース: 記憶を封印する魔法をかけたのね。記憶がなければ寂しがって泣くこともないから ティンカー・ベル: エミリーには悪いけど、ティンカはフェルディナのこと許せないよ エミリー: エミリーもだよ。クレアは友達、その友達にそんな身勝手なことして、身内でも許せない クレア: エミリー…… エミリー: でも、これで確信が持てたね ピュルテ: KHM25『七羽のからす』がクレアさんの創造期ですね、人間さん ティンカー・ベル: えっ、なにその七羽のからすって エミリー: 前に、ココりんが案内してくれた砦にいたとき、何人かで話してたの。そのとき人間さんが教えてくれたんだ ピュルテ: 創造期のことは伝説として人間界にも伝わっています シンデレラ: そうね。だから人間さんも初対面なのに色々背景を知ってたりすることもあるし ヴェルメリオ: ……クレアの創造期のことも知ってたの? エミリー: 確信したのは、今ここでクレアからヒントを聞いたからだけどね ティンカー・ベル: そっかぁ。でも良かったね、記憶も戻ってルーツもはっきりして クレア: うん、ありがとう ドロシー: でも、待って。確かあの時に4人で話した内容を整理すると、これって! ピュルテ: 道具という表現からも、おそらくフェルディナはクレアさんの『作家』です。そして、クレアさんの創造期は人間界に伝わっている エミリー: それに『経帷子』ってお話もあって、ちゃんとフェルディナは作家として名前が残ってるんだって クラース: なるほどね。そこに勝機を見出そうってわけ エミリー: 自分がちゃんと『作家』だって知ったら、承認欲求が少しは満たされるはずだからね ピュルテ: そうすればディマイトにも綻びが出るはずです エミリー: あの無限に出てきてるみたいなディマイトをどうしたのか知らないけど、使うフェルディナに迷いがあればチャンスは必ずあるはず クラース: 無限じゃないのよ。あれは貯蔵庫から取り出しているだけ ヴェルメリオ: ……そんなのがあるの。怖い クラース: この城と、そして北西の氷の洞窟にもあるわ。そこに向かったのは補給のためよ エミリー: 氷の洞窟……確か『コミッティ』の施設だったはず ティンカー・ベル: ねえ、無理に聞くつもりはないけど、その『コミッティ』ってなんなの? エミリー: お姉ちゃんたちを中心にした『作家』の集まりだよ。エミリーも、その一員 クレア: エミリー、偉い人だったんだ ナイトメア: とにかく急ごう!補給させる前に戦ったほうが絶対いいし クラース: そのとおりだけど、あなたはここに残りなさい、ズワルテちゃん ナイトメア: はあ、なんで!? クラース: 万一に備えて、この城を誰かが守るべきよ。それにエリーネアを回復してあげなきゃいけないし ナイトメア: クラースがやればいいじゃん。どうせ寒いから行かないとか言うんでしょ クラース: ズワルテちゃん。さっき私のこと殴ったでしょう ナイトメア: まだ根に持ってるの!?あれはだって……えっ?あれもクラースの演技、だよね? クラース: 私がどれだけ魔法使ったと思ってるのよ。今、ここで私の代わりができるのは、一番弟子のあなただけよ ナイトメア: あ……わ、分かった。ま、まあねっ、まさかクラースがあたしを頼るなんてねっ! ヴェルメリオ: ……うわあ、すごく嬉しそう シンデレラ: じゃあエリーネアと、この城のことは任せるわね。後は私たちがなんとかするわ ドロシー: あとちょっとだもの。ちゃんと解決してみせる クラース: たぶん馬が繋がれてるはずよ。人数分いるか分からないけど クレア: 急ごう。氷の洞窟だっけ ピュルテ: ええ、その洞窟がある方角から、強いディマイトが感じられます! ナイトメア: 補給が間に合ったとして、どれくらい回復しちゃうのかな。とにかく気をつけて ティンカー・ベル: よーし!じゃあその氷のなんとかってとこに エミリー: 洞窟だよ ティンカー・ベル: ナントカの洞窟ってとこに一気に行くよ! エミリー: 嘘でしょ。ティンカ、そんなに長くないし普通の単語なのに、絶望的な記憶力だよぉ ティンカー・ベル: わ、笑いを取りにいっただけだよ!みんなが明るくなるように! ドロシー: 妖精さん、身体はそのままで、脳みそのサイズだけ小さくしちゃったんじゃ ピュルテ: ふふっ、そうですね、人間さん。大事な場面の前なのに、本当にみんないつもどおりですね 148 - ディマイト貯蔵庫の謎 フェルディナ: はあっ、はあっ……この私が、ここまで追い詰められるとはっ……くっ 自動応答: この扉から先の区画は管理範囲Cです。権限認証コードもしくは臨時通行許可コードのご提示をお願いします フェルディナ: くっ、分かってるわよ、クズ鉄っ…… 自動応答: 権限コードを確認しました。おかえりなさい、フェルディナ フェルディナ: 相手側にはエミリーがいる。この場所はすぐに見つかるわ。それまでにコミッティに連絡を…… 自動応答: 通信スフィアを接続中です。しばらくお待ち下さい フェルディナ: 早く、繋ぎなさいよっ……! 自動応答: 接続がタイムアウトしました フェルディナ: なっ……そんなはずっ……まさか、もう状況を知っていて、私を見捨てるつもりとか……!? (背景切換...) ピュルテ: ここが氷の洞窟ですね ドロシー: さっさと乗り込んで、フェルディナを見つけ出してボコボコにしたら、ヴェルザームを取り返す。それでいいわね シンデレラ: 言い方はアレだけど、まあ、間違いではないわね…… ドロシー: エミリー、それにクレアも。それで、いいのよね クレア: うん。私はそうすべきだと思う エミリー: エミリーもだよ。お姉ちゃんだからとか、関係ない。間違ってたら、誰かが正さなきゃいけないんだから ティンカー・ベル: うん。じゃあ、行こう! ヴェルメリオ: ……それにしてもこの洞窟、全部氷でできてるの? シンデレラ: そうみたいね。よく通路とか作れたわよね ピュルテ: クラースさんが、あまりに寒いとディマイト貯蔵庫も効率的に補給できないはず、って言ってましたね クレア: ディマイトも保管する適温とかあるのかな エミリー: エミリーもディマイト貯蔵庫なんて知らなかったし、よくわかんない ティンカー・ベル: この場所は知ってたんでしょ?フェルディナが後から勝手に作ったのかな エミリー: なのかなぁ……? ティンカー・ベル: エミリー、顔が固くなってるよ。大丈夫? エミリー: えっ?そ、そうかな。ごめん。ちょっと色々考えちゃって…… ドロシー: フェルディナのことよね。身内だもの、複雑よね エミリー: けど、間違ってるのは分かってたはずなのに。こんなことになる前に、もっと早く止めなきゃいけなかった ピュルテ: 早いほうが良いのは事実だと思います。けど、今まだ遅すぎるわけじゃありません。十分、間に合いますよ エミリー: ありがとね、ピュルテ。エミリーがもっと強かったら、なんて。そんなふうに考えちゃって クレア: 心の強さ、ってこと? シンデレラ: それは正論かもしれないけど。でも、私たちみんな、全部が理想どおりになんて無理なのよ ヴェルメリオ: ……そうだよ。失敗ばっかりしちゃうんだよ シンデレラ: そのときどうするか、そっちの方が大事。エミリーは最初、止められなかった。でも今、こうして私たちと止めに行く。それで十分じゃない? ティンカー・ベル: それにさ、エミリーがそうやって変われたのってさ、ティンカや人間さんたちと出会ってからだよね エミリー: そうだね。最初はスパイしろって言われてたんだもんね…… ティンカー・ベル: ってことは、ティンカたちと出会って変わったんだよね。それって、ティンカはすごく嬉しいけどなあ エミリー: ティンカ……うん、ありがとう。エミリーは必ずフェルディナを止めるよ シンデレラ: ところでエミリー、さっき話してた『コミッティ』は、他のお姉さんも所属してるの? エミリー: うん。それと、オトギノクニの力である『作家』たちの集まりだよ ピュルテ: 集まって何をする会なんですか? エミリー: んー、なんかエルマイトとディマイトの配分とか、よくわかんない難しい書類にサインしたり ドロシー: よくわかんないけどサインしちゃうの!? エミリー: どうしてもの時以外は、エミリーはサボってたから……でも、フェルディナも仲悪くて出てないから、今回のこととは関係ないはずだよ ドロシー: エリーネアの城の地下通路でも思ったけど、意外とこういうところに入ると外ほど寒くないわよね シンデレラ: そうね、風がないからね。けど、レンガの地下通路と比べてこっちは氷だから、やっぱり底冷えするわ クレア: 何か聞こえない?ブブブ、って ピュルテ: あっ、人間さん。ヴェルザームが エミリー: 光ってる。それに細かく震えてるみたい ティンカー・ベル: 海底と、それからエルザから借りてきたやつと、2つとも同じように光ってる ピュルテ: もしかしたら共鳴してるのかもしれませんよ シンデレラ: 3つ揃ったら何が起きるのか、具体的に聞いてなかったわね ドロシー: ディマイトをいっぱい吸収するんでしょ?他に何かあるのかしら (ガコン) ティンカー・ベル: あ、ちょ、三つ編み!なんかいま踏まなかった!? ドロシー: えっ?うわ、ちょ、矢が飛んでくる!罠だわ! (カキィン) リル: まったく貴君らは本当に世話が焼けるな ピュルテ: リルちゃん!やっぱりピンチには来てくれるって信じてた! ヴェルメリオ: ……今、ピンチってほどピンチじゃなかったよね ドロシー: リルはきっと、登場するタイミング見計らってたのよ リル: 普通は、そんなに分かりやすい罠が仕掛けられた床を、全力で踏み抜いたりはしないだろう! ティンカー・ベル: うん、三つ編み以外にいないよね…… ヴェルメリオ: ……でもこれで仲間が、みんな揃ったね リル: 重ねて言うが、小生は貴君らの仲間ではないんだぞ。あまり期待されても困る クレア: でも助けてくれるんでしょ。人間さんも、頼りにしてるって言ってる ティンカー・ベル: あーっ!ネコが顔赤くしてそらしたよ! シンデレラ: そのへんにしとかないと、本当に斬られちゃうわよ ピュルテ: ふふっ。じゃあ時間も遅くなってきましたし、このあたりで一旦野営しましょうか 149 - 今だから言える クレア: 思った以上に深くて広い洞窟 シンデレラ: そうね。でもナイトメアによれば、出入り口は一箇所しかないそうよ。慎重に進めば逃げられることはないはず ピュルテ: 大丈夫ですよ。ヴェルザームの振動は、どんどん強くなってるみたいですし クレア: それが震えているうちは近くにいるってこと ティンカー・ベル: さ、火起こせたよ。ずきんがごはんの用意してくれてるし、みんなで輪になって! ヴェルメリオ: ……うん、美味しくできたかな (…………。) シンデレラ: ねえ、人間さん。今まで、ありがとうね。あなたがこうして一緒に旅してくれたこと、本当に感謝しかないわ ティンカー・ベル: な、なに、どうしたの、姐さん。急だね シンデレラ: だって……もう旅も終点でしょ。色々あったなぁ、って思って ヴェルメリオ: ……あ、そっか。そうだよね ピュルテ: 私は無理ですけど、ドロシーさんの魔法の靴がありますもんね ドロシー: ルビーが実体化できるまでになったんだから、もう少しよね クレア: 私たちは途中からだけど、長旅だったんだよね シンデレラ: 魔法の国に入ってからは、私も色々と辛いこともあったんだけど、でも人間さんがそばにいてくれたからがんばれたんだと思う ティンカー・ベル: ティンカもさ、フックが悪い、フックが悪いってうるさかったでしょ? リル: ほう…小生はその場にいなくてラッキーだったかな ティンカー・ベル: ちょっと!ネコは混ぜっ返さないでよね! ティンカー・ベル: それでも、人間さんは放り出さないでついてきてくれた。自分のことより人のこと優先してくれてさ ヴェルメリオ: ……今だから正直に言うけど、最初はわたし、人間さんのこと苦手だった エミリー: え、ヴェルって最初から人間さんラブじゃなかったんだ ヴェルメリオ: ……いつからかな。人間さんのこと、こんなに大切になったの ドロシー: 私も最初はどんな人だろうって思ってた。もちろん、感謝はしてたわよ。出会った時にはもう、仲間を助けてくれてたし ピュルテ: あの時は大変でした。ドロシーさんに会うまでに紆余曲折がありすぎて ドロシー: でも心が弱ってると、そっとそばにいてくれるのよね クレア: それは、私も分かる。私の記憶のこととか、気を遣ってくれてたと思う エミリー: 海底からで付き合いも短いし、ましてやエミリーなんて裏切り者だったのにさ……人間さんはちゃんと仲間として扱ってくれたよね クレア: エミリーと私、まとめて消されててもおかしくなかった シンデレラ: 消されるって、クレアはまた物騒なんだから リル: 言っておくが、小生は今でも貴君のことは気に食わないんだ。ハッキリ言って、小生の理想を実現するために貴君は邪魔ですらある ピュルテ: リルちゃん…… ティンカー・ベル: ちょっとネコ!あんたねえ! リル: けど、認めるべきところもあるのは事実だ。なにより……立場や能力を横におけば、貴君はなかなかいいヤツだからな ドロシー: あら、リルが人間さんを認めたってこと? リル: 1対1の関係で言えば、まあ付き合ってもいいと思える相手だと思っているよ ヴェルメリオ: ……えっ、付き合うって、そういう リル: ばっ、ち、ちがっ、友達づきあいだ! ティンカー・ベル: まったくネコは素直じゃないなあ ピュルテ: 私も、本当に感謝してます。断っても文句言う人なんていないのに、過酷な旅にずっとついてきてくれて ピュルテ: だから私、ずっと苦しかった。フェルディナが言ったとおり、私は人間さんより自分のエゴを優先しちゃいました。なのに人間さんは、責めたりしなくて シンデレラ: あらっ、頭ぽんぽんしてもらって!ピュルテちゃん、ずるいわ ピュルテ: 人間さん……今まで本当にありがとうございます ドロシー: あはは、人間さんが真っ赤になってやめろ!って照れてるわよ クレア: 死亡フラグになるからやめろ?それ、なに? エミリー: よく分からないけど、照れ隠しじゃないかな、きっと シンデレラ: ふふっ、さあ人間さんの言うように、まだ終わりじゃないわ。明日に備えて休みましょう 150 - コミッティ定例会議 ゲーテ: では次の議題。フェルディナからの緊急動議。エルマイト勢力が接近中につき、援軍派遣の決裁を フェルディナ: エミリーが向こうについている以上、数で勝る相手が有利だわ。お願い、まずは私を助けて ジャコヴァ: 浅慮、という言葉がお似合いだな キャロル: これさー、まずいでしょー?グリム一門の恥なんじゃないのかなー?きゃははっ ジャコヴァ: 私はとっくに、フェルディナを我が家の一員だとは見ていないがね キャロル: へー。エミリーのことは気にしてるみたいだけど、ジャコヴァさん? カロラ: けどさー、本当にフェルディナ、あいつらにやられちゃうかもだよ。姉貴はそれでいいの? ジャコヴァ: 力無き者は淘汰される。シンプルな理屈だ。 ペロー: 6人のグリムのうち、1人はあえなく倒れ、もう1人はあろうことかエルマイト勢力に……さてさて、これはなかなかのスキャンダルですねえ ジャコヴァ: エミリーなら使い道はある。それに、フェルディナの暴走のおかげで、重要な情報も得られた ゲーテ: 重要な情報?それはグリム家にとって?それとも我々インペリウム・コミッティ全員にとって? ジャコヴァ: あのお方に対抗するエルマイト勢力がいることは分かっていた。しかし、その全容は明らかになっていなかった ゲーテ: 確かに。今回の一連の流れで、勢力規模は分かったわね。個人レベルで数名、その程度の単位だった キャロル: でも油断はできないよねー?あのジャバウォックをコントロールしたって噂だし。いま、あたしの部下に調べさせてるけどー ゲーテ: もちろん油断はできない。でも方針は決められるわ。個人が相手なら、我々は数や体制で支配すればいい。我々にはそれが可能 キャロル: あーあ、早く血が見たいなぁー。でも、ちゃんと順を追ったほうが興奮するもんねっ。きゃはっ ジャコヴァ: まずは出方を見るか。あの人間界の男がどういう存在になるか…… フェルディナ: ってことは、じゃあ援軍を出してくれるのね!? ゲーテ: それでは採決を行います。……賛成0、反対11、欠席2。よって本件はコミッティの名のもとに否決されました フェルディナ: な、なんですって、そんな!私はグリムよ! ジャコヴァ: 散々反抗してきたおまえが、今さらグリムを名乗るとはな フェルディナ: 『ユース』として拒否権を発動するわ!その決議は無効よ! ジャコヴァ: 確かに我々『ユース』は拒否権を行使できることになっている。ただし キャロル: 会議に出席してなくちゃだめー、ぶっぶー! 残念でしたー、フェルディナ今、欠席してるよねー? カロラ: 規則は規則、だもんな フェルディナ: うそでしょ……Op7(オーパスセブン)の連中はまだしも、あなたたちは妹を見殺しにするっていうの!? (背景切換...) フェルディナ: 通信が切れた……私はグリムよ……こんなことって (背景切換...) 自動応答: この扉から左記の区画は管理範囲Cです。権限認証コードもしくは臨時通行許可コードのご提示をお願いします フェルディナ: くっ、もう来たか……! 自動応答: 権限コードを確認しました。おかえりなさい、エミリー ティンカー・ベル: やっと追い詰めた!もう逃げられないからね! エミリー: フェルディナ、もうやめよう フェルディナ: エミリー、あなたは知らないわよね。コミッティだけに許された能力『リプリント』のこと…… ピュルテ: すごいディマイトです! シンデレラ: もう補給は済ませてしまったみたいね。仕方ないわ、みんな気を付けて フェルディナ: 私だってコミッティの一員だってこと、分からせてあげるわ……! リル: これがディマイト……!お菓子でも文字でもない、自分の意志で発現するディマイトとは、これほどのものだったか ピュルテ: 本人もいないのにディトルパだけが現れるなんてそんな! フェルディナ: 私が関わったディトルパは、原版は私の中にある……コピーはいくらでも量産できるわ。私のディマイトが尽きるまでね…! ヴェルメリオ: ……でもフェルディナ、悲しそう……? ドロシー: ディマイトは負の感情だもの。どう補給したのか知らないけど、楽しくなることはないでしょうね クレア: みんな、待って。ここは私が エミリー: クレア!?危ないよ クレア: 大丈夫、エミリー フェルディナ: ……おまえか。失敗作め クレア: ……っ! ドロシー: 失敗作だなんて、そんな言い方ひどいわ、あんまりよ! クレア: 私、記憶が戻ったの フェルディナ: 記憶が……?ふん、だからなんだというの クレア: 私は、七羽のからす。人間界で言うところのKHM25 フェルディナ: えっ……その、番号は……? ピュルテ: そうです。あなたが失敗作だなんて言い切る、あなたを作家としてルーツに持つクレアさんの存在は、人間界に確実に刻まれています シンデレラ: れっきとしたグリムの名のもとに記録されてるそうよ フェルディナ: そんなこと、どうして……はっ、人間界から来たおまえが……? ドロシー: もう1つあるわよね。言ってあげなさいよ フェルディナ: 『きょうかたびら』って、それ本当に…… ヴェルメリオ: ……フェルディナの作品なんだって、人間さんが言ってた フェルディナ: 私の、作品が……伝え続けられている……? リル: フェルディナが明らかに動揺しているぞ。人間界の情報とやらも、悪影響だけではないということか ティンカー・ベル: ねえ、フェルディナ。もう暴れなくていいんだよ。そんな理由、もうないよね エミリー: そうだよ。もうお姉ちゃんたちのことどうこう考える必要ないよ。だってフェルディナだって、立派な『作家』なんだよ フェルディナ: 私はっ、あっ、ああ……私が作家だなんてっ……ああっ…… ピュルテ: これは……非常に強力なディマイト!それに、エルマイトも……!? エミリー: フェルディナの中でせめぎあってるんだよ。きっとね フェルディナ: ディトルパども!手を緩めるな!一気に叩き潰せ! 151 - 一件落着……? フェルディナ: 私は……グリムなのにっ……くっ、こんなところでディマイトが尽きるなんてっ……! エミリー: フェルディナ! ティンカー・ベル: エミリー、ナイスキャッチじゃーん! ドロシー: 大丈夫?一人でキャッチって、けっこう腰にきたんじゃない? エミリー: ううん、大丈夫。それに、フェルディナも。気を失っているだけみたいだね クレア: 起きたらまたディマイト暴走しちゃう? ピュルテ: 今は、エルマイトもディマイトもどちらも感じられません シンデレラ: すべてを出し尽くしたってことね。まだ油断はできないけど エミリー: 今度こそ、エミリーがしっかり見張っておくよ リル: これでオトギノクニも一旦は平和になるということか ヴェルメリオ: ……わたしたちの旅もひと段落だね シンデレラ: そうね。ディマイトをまき散らしていたフェルディナをこうして捕まえたんだもの ティンカー・ベル: じゃあネバーランドに戻ってぺトラとのんびりしようっと。人間さんも来るでしょ? ヴェルメリオ: ……わたしと森でお店やるんだってば ドロシー: ちょっと待って。なんか腑に落ちないわ ヴェルメリオ: ……そんなことない。いいお嫁さんになるもん ドロシー: そこじゃないわよ!あのさ、世界全体のディマイトが増えてたんでしょ?それって結局、どうやってたの? ピュルテ: 確かに。何かの装置とかがあるんでしょうか クレア: ワンダーランドにもあったような、あんな感じのやつかな ドロシー: それにピュルテ。フェルディナは何かいろいろ知っているようだったけど、力をくれたのはフェルディナなの? ピュルテ: えっ?えっと……はっきりとは分かりませんが、なんとなく違うような気がします ティンカー・ベル: ピュルテに力をくれたのって、悪い奴ってこと? ドロシー: ピュルテにあんな辛い決断をさせた奴が善人とは思えないわ エミリー: お姉ちゃんたちに聞いてみるよ。コミッティはオトギノクニのいろいろを決めたりするから、きっと情報も集まってるはず シンデレラ: そうよね。そうしてもらえると助かるわ ドロシー: え、ちょっと、ヴェルザームが!? シンデレラ: フェルディナの持っていた青いヴェルザームが宙に浮いているわ ヴェルメリオ: ……あっ、人間さんの持ってた2つも ティンカー・ベル: ちょっと人間さん、ちゃんと持ってないとだめだよ!えっ、勝手に手からすごい勢いで飛び出してった? エミリー: 何か、強い意志が……?まさか、このヴェルザームって リル: 気をつけろ。かなり強い力が渦巻いているぞ! ピュルテ: リルちゃんの言うとおりです!エルマイトも、ディマイトも混在して、竜巻みたいになって、混ぜ合わされています! ドロシー: くうっ、何なのよ、これ!世界が平和に戻る前兆ならいいんだけど、ちょっとそうは思えないわよっ!? リル: 3つのヴェルザームが重なり合っていく……! シンデレラ: 3つのヴェルザームが重なったら、いったいどうなるの!? フェルディナ: う、うう……エミリー、逃げて…… エミリー: フェルディナ!?気がついたの!? フェルディナ: 私の心の鍵が外れたことで、一気にディマイトが外へ放流されてしまったの。ヴェルザームはそれを吸収している ティンカー・ベル: それってつまり……どういうこと? フェルディナ: キャパシティオーバーよ…… ピュルテ: そんな!だってヴェルザームはディマイトを封じ込める秘宝なんですよね!? フェルディナ: 7つ揃えばの話よ。不完全な状態であれだけの量のディマイトは、くううっ!? ヴェルメリオ: ……不完全って、まさか ティンカー・ベル: 7つ!?聞いてないんだけど!? ドロシー: 今までは吸収できてたわよ。でも、フェルディナの強力なディマイトじゃあ、処理しきれなかったってこと!? シンデレラ: いけない……私でも分かる強い波動。みんな、気をつけて! シンデレラ: 危ない、爆発するっ!? リル: 伏せろ、ピュルテ! (ドガアン!) (背景切換...) ティンカー・ベル: うそ、洞窟が吹っ飛んじゃったよ! クレア: 気をつけて、みんな。今のは第一波、まだ次がある ドロシー: さっきより強い波動っ!? シンデレラ: みんな!身を守って! ヴェルメリオ: ……来る! (ズガアアアアアン!!) (背景切換...) (地面に叩きつけられた衝撃。) (でも、それよりも耳をやられてしまったかもしれない。) (いや、視界も真っ白だ。) (視覚も聴覚も無いなんて、むしろこれは死んでしまったのか。) (背景切換...) (あのとき、ほんの気まぐれでピュルテを追ったんだった。) (死にたくはない。) (でも、これで死んだからって、あのときの選択を後悔はしない。) (退屈な生活から一転、こんな刺激的な時間を過ごせて、) (そして。) (代えがたい仲間を得ることができたのだから) (——) (背景切換...) ピュルテ: 人間さん!ああ、良かった。気がついた エミリー: 俺は死んだんじゃないのか?なに言ってるの、ちゃんと生きてるよぉ!よかったぁ! リル: 無事だったか、ピュルテ。クレア殿もケガはないようだな クレア: うん。すごい衝撃だった。また記憶喪失になるかと思った エミリー: フェルディナはまた気を失っちゃったみたい クレア: エルマイトもディマイトもなくなっちゃったのかな リル: 待て、これで全員なのか ピュルテ: えっ!?リルちゃん何言って……シンデレラさん!?ヴェルちゃん!? エミリー: そんな、嘘だよ、ティンカ!返事してよ! クレア: はっ!みんな、これ ピュルテ: そ、それは……ドロシーさんの……リボン…… クレア: 焼け焦げてボロボロだけど、間違いない……じゃあ、ドロシーは リル: まさか、そんな……!あいつらだぞ。そんなに簡単にやられるはずがない ピュルテ: 嘘です、こんなの!返事をして下さい!みんなどこかで聞いてるんでしょう!?隠れてるだけでしょう!?ねえ、返事をしてくださいっ! 152 - 穏やかな日常 ピュルテ: 人間さんさーん?お昼ごはんですよ。どこに……あっ、いたいた!ごはんの時間ですよ クレア: くんくん。なんだか不思議な匂い ピュルテ: なんと!今日はピュルテ特製牛丼ですよ!できるだけ人間界の、人間さんが好きなあのチェーン店の味を再現してみたんです (背景切換...) クレア: 午後からは、北西の湖近くの魔物を討伐する予定 ピュルテ: 了解です。がんばりましょうね、人間さん クレア: でも、この小屋の周りは魔物もだいぶ減った ピュルテ: はい、お待たせしました。大盛りつゆだくですよ クレア: 言葉の意味は分からないけど美味しそう ピュルテ: ふふ、人間さん、美味しいですか?よかったぁ クレア: これ、えっ、なに。すごく美味しい。どんどん食べちゃう。こんなにお米食べたら糖質が多いってドロシーに怒られ……あっ ピュルテ: あ…… クレア: ううん、人間さん。私こそごめん ピュルテ: 人間さん……。え、卵ですか?もちろんです、新鮮なのがありますよ! クレア: エミリーは元気かな ピュルテ: そろそろ、また戻ってくるかもしれませんね クレア: 私たちがこの小屋に住んでどれくらい? ピュルテ: もう……そろそろ3ヶ月くらいになるでしょうか クレア: エミリーは、ほとんどいないけど ピュルテ: フェルディナさんを探しに出ては、少し戻って休んで、また出かけて……の繰り返しですもんね クレア: 卵、美味しかった?よかったね、人間さん ピュルテ: じゃあ魔物退治に行きましょう。北西の湖でしたっけ クレア: 行って退治して帰って、順調に行けば日没までに戻って来られる ピュルテ: あっ、クレアさん。人間さんは……今日もあの丘の上ですか クレア: うん。また、あれ……持って、遠くをずっと眺めてた ピュルテ: ドロシーさんのリボンと、ヴェルちゃんの頭巾ですか クレア: ボロボロで、血まみれになったやつ ピュルテ: 私、ドロシーさんたちも心配ですけど、人間さんが本当に心配です クレア: 人間さんは自分を責めてる。大切な仲間を守れなかった、って ピュルテ: 自分が戦えない辛さも、ありますもんね。すごく、分かります…… クレア: ピュルテ自身がそうだったから? ピュルテ: たぶん、エミリーさんやクレアさんも、罪悪感があるんでしょう?それも、分かります クレア: もしかしたら、行方をくらましたフェルディナも、罪悪感に耐えられなかったのかも ピュルテ: フェルディナさん、この小屋に来て3日目でしたね。朝起きたらいなくなってて クレア: 色々ありすぎて、ちょっと疲れたね ピュルテ: クレアさんは、記憶が戻ってすぐでしたし。そう言えば、体調とか何か変化はありませんか? クレア: それが、今までと何も変わらない ピュルテ: そうなんですね。それは体調だけに限った話じゃなくですか? クレア: うん。私って、もともとこんな性格だったみたい 近所の少女: こんにちはー。あっ、ピュルテさん。お母さんからこれ ピュルテ: わあ、ポトフですね。嬉しい、ありがとう 近所の少女: あっ、クレアさんも。こんにちは クレア: こんにちは。おつかい? 近所の少女: これから町に行ってね、うちで取れた綿毛を届けに行くの クレア: ふうん。えらいね 近所の少女: あれ、人間さんは? ピュルテ: いつもの丘だよ。ポトフ、ごちそうさま。お母さんにお礼を言っておいて 近所の少女: はーい! クレア: こんな辺境でも、元気に生きてる人がたくさんいるんだね ピュルテ: そうですね。それに、あの子を見ると人間さん、少しホッとしたような顔をするんです。懐かしい感じ、するのかな…… ピュルテ: わあ、すごい!本当に畑になってます クレア: これ、人間さんが一人で耕したの? ピュルテ: 森の片隅を畑にしちゃうなんて、さすが人間さんですね。ほんと、いろいろできて尊敬します クレア: 畑では何を育てるの?ベリートマト? ピュルテ: オトギノクニでもこのあたりでよく取れるトマトの一種ですね。ああ、いつものポトフの女の子が好物なんですか クレア: いつの間にそんな話までして仲良くなったの ピュルテ: お返しをしようと思ったんですね。やさしいですね、人間さん…… クレア: がんばって。暗くなる前には戻ってね (背景切換...) (…………。) クレア: ピュルテ。人間さん、あれでいいの ピュルテ: あのヴェルザームの暴発からしばらくは、必死で皆さんのこと探し回ってたんですけどね クレア: ヴェルの頭巾が血まみれで見つかったあたりで、心が折れちゃったみたい ピュルテ: 正直、私もこたえましたし……人間さんはすごく責任を感じているから クレア: だけど、あんな畑仕事をしてる場合なの ピュルテ: もう少し時間が必要なんだと思います クレア: エミリーから連絡あった? ピュルテ: いいえ。まだフェルディナさん探しの途中なんでしょうね クレア: そっか…… ピュルテ: エミリーさんならきっと大丈夫ですよ クレア: フェルディナをコミッティに連れて行ってごめんなさいしないと、って言ってた ピュルテ: コミッティっていうところと連絡がつけられれば、もしかしたら皆さんの消息情報もわかるかもしれないですが クレア: 連絡手段も移動手段も無かったから、どうしようもない ピュルテ: エミリーさんは、コミッティにも何かあったのかもしれない、って言ってましたね クレア: 今、何が起きてるんだろう ピュルテ: リルちゃんもあの後すぐどこかへ……何か知ってたのかなぁ…… 153 - 消えない不安 ピュルテ: ふんふーん♪うん、いい感じにできました♪ クレア: ピュルテ! ピュルテ: おはようございます、クレアさん。今日の朝ごはんは和食ですよ クレア: ああ……よかった、ピュルテ ピュルテ: どうしたんですか?すごく顔色が悪いですよ クレア: 嫌な夢、見たの。ふふ、子供みたいで笑っちゃうよね ピュルテ: 笑いませんよ。こんな状況ですし、それにクレアさんは3ヶ月前まで記憶喪失だったじゃないですか クレア: 大切な人がみんな、黒い何かに飲み込まれていく夢。エミリーも、ピュルテも、人間さんも ピュルテ: 大丈夫です、私も人間さんも今朝ここでちゃんと和食の朝ごはんを食べるんです。エミリーさんだって絶対に元気です クレア: うん……ありがと、ピュルテ。ねえ、フェルディナが力を失った今、世界はどうなってるんだろう ピュルテ: リルちゃんをそそのかしてお菓子をばらまいたり、文字を書き込んだり、あのフェルディナさんの活動は終わったはずです クレア: 誰かが引き継いでたりするかもしれない ピュルテ: 最後の洞窟の、あの感じだと……たぶんフェルディナさんに、もう仲間はいなかったと思います。いるとしたら、模倣犯でしょう クレア: 模倣犯はいるかもしれないの?同じようなことする奴が ピュルテ: 不安を煽りたくはないのですが、私はエルマイトもディマイトも感知する能力があります クレア: そうだった。えっ、じゃあ、もしかして ピュルテ: この3ヶ月ほどで、世界のディマイトはさらに濃くなっていると思います クレア: じゃあ、フェルディナみたいな奴が他にもいるか、ディマイトが増えていたのはフェルディナが原因じゃなかったか ピュルテ: フェルディナさんが増やしていたのは事実だと思います。でも、根っこはもっと別にあるのかもしれません クレア: そんな…… ピュルテ: フェルディナさんが姿をくらます前に言っていたことも、気になります クレア: 『コミッティ』のこと? ピュルテ: エミリーさんに言ってたじゃないですか。『コミッティ』を信じるなって クレア: フェルディナはお姉さんと仲が悪いみたいだから ピュルテ: ええ、私もそう思ってました。でも、もしかしたら違うのかも…… クレア: 本当に信じちゃいけないってこと? ピュルテ: 少なくともフェルディナさんの裏に誰かいた、そんな気がするんです クレア: 何か理由があるの ピュルテ: まず、ディマイトに感染させるお菓子です。結局、あのフェルディナさんが逃げた洞窟にそれらしいものはありませんでした クレア: エリーネアの城にもなかったみたいだね ピュルテ: 他にも拠点があるのかもしれませんし、あの時点では旧式アイテムでしたから無くて当然なのかもしれませんが クレア: でも違和感は感じたってことだね ピュルテ: そしてクラースさんの文字が効いていなかったときです クレア: あれはクラースがすごいって話じゃないの ピュルテ: あのときのフェルディナさんの言い方。誰か他にも書いてる人がいるような表現でした クレア: そっか、クラースはフェルディナが書いたけど、アリスは別の人、みたいなこと言ってた ピュルテ: エミリーさんやクレアさん以外に、フェルディナさんには協力者がいたと思うんです クレア: でも、あのとき助けには来なかったよ ピュルテ: ええ。ということは、おそらくフェルディナさんは切り捨てられたのではないでしょうか クレア: 直後に音信不通になる『コミッティ』かあ。何かあったんじゃなく、エミリーもフェルディナと同じように切り捨てられたのかも ピュルテ: 不安は尽きません。だからこそ人間さんには、また立ち上がって世界のために……とは思うんですが クレア: 今の人間さんにはちょっと言えない… ピュルテ: ええ、もう少し時間が……あっ!?人間さん!おはようございます! クレア: 今の、聞かれた? ピュルテ: いえ、大丈夫そうです。はい、これお弁当ですよ。今日も畑仕事がんばってください (オトギノクニのトマトは成長が早い。) (先月、種を植えたトマトは、まだ少し青さがあるものの、もう実をつけている。) ピュルテ: 人間さん。お弁当ですよ~。あれ……それは何をしてるんですか? ピュルテ: 畑を耕しているのは分かりますけど……えっ、種を町で買ってきた? オトギ菜ですね。人間界の小松菜に似た…… ピュルテ: あの……オトギ菜って収穫までに60日くらいかかるんですよ。知ってるよ、って……人間さん…… 近所の少女: 人間さんさーん、ピュルテさーん、こんにちは!今日は畑仕事なの? ピュルテ: え、うん、そうなの。まだちょっとトマトが青いけど、熟したらおすそ分けするね 近所の少女: わーい、やったぁ! ピュルテ: あの、人間さん。私、お弁当を届けに来ただけなので、もう戻りますね 近所の少女: ピュルテさんのお弁当、可愛いね!いいなあ、愛妻弁当じゃん! (小屋へ戻っていくピュルテの後ろ姿と、手元で開いた弁当箱を交互に見比べる。) (思えば、このオトギノクニに来て、どれだけ彼女に支えられただろうか。) 近所の少女: クレアさんと、ピュルテさん、どっちが奥さんなの?えー、どっちも友だち?ほんと? (嘘ではない。) 近所の少女: ピュルテさんが奥さんだと思ってた。だってピュルテさん、人間さんのこと好きって気がするよ (女の子というのは本当にマセているというか。) (でも、それは的外れではないだろう。) 近所の少女: 人間さんは時々、悲しそうな顔するよね (子供だからと侮るなかれ。よく観察されているものなのだ。) 近所の少女: 大事な友だちを守れなかったの…そっかぁ。でもさ、先生が言ってたよ。できなかったことを悔やむより、いま何ができるかを考えることの方が100倍大事だって (その先生は、人間界にいれば新書を3冊は出版できたに違いない。) 近所の少女: 決めた?うん、何を?大事なこと? (今の自分に何ができるか。) (仲間を守れなくても、世界を救えなくても、まだできることはあるはずだ。) 154 - 男の選択 ピュルテ: この集落って、いつも来てくれるあの子が住んでいるところですよね。今日は出かけてるのかな? 住民1: おっ、ピュルテちゃんに人間さん、クレアちゃんも。いつもありがとうね 住民2: あんたたちのおかげで、魔物の被害もめっきり減って、本当に助かってるよ クレア: 気にしないで。呼吸するみたいに魔物倒してるだけ ピュルテ: 今日は何がお買い得なんですか? 住民1: 新鮮なオトギ菜が入ってるよ!ん?ああ野菜がとれたらもちろん買い取るよ ピュルテ: 人間さん、もう販路を確保してるんですか 近所の少女: あー!人間さんたちだ。こっちに来てたんだね クレア: うん、お買い物 近所の少女: 本当は一緒に遊びたいところだけど、これから勉強しなくちゃなんだあ ピュルテ: お勉強がんばってるんですね。何か目標があるのかな? 近所の少女: あのね、私は……先生になりたいんだ! クレア: 人間さんがすっごい目を細めてる 近所の少女: 今でも小さい子の面倒見たりとか好きなんだ。それにすごく、今の先生が大好き。だから私も先生みたいになりたい ピュルテ: ふふ、きっといい先生になれますよ (…………。) (背景切換...) クレア: ふう。この荷物、どうすればいい? ピュルテ: それじゃあ、このあたりの日持ちするものは地下室に持って行っていただけますか クレア: うん、分かった ピュルテ: 今すぐ使うのはこっちの棚に……え、なんですか、人間さん。急に改まって ピュルテ: えっ、大事な話……?明日の夜ですか、は、はい、分かりました クレア: この先の大木で右に曲がろう。そうしたら森を一巡だから ピュルテ: そ、そうですね。早めに戻った方がいいですし クレア: ねえ、どうしたの ピュルテ: ふぁっ、ふぁいっ? クレア: 今日のピュルテ、変。朝からずっとそわそわしてる ピュルテ: え、えっと、実はですね。昨日、人間さんに呼ばれまして クレア: 人間さんに?告白でもされたの ピュルテ: 違いますよ!そんなんじゃなくて。明日の……つまり今日の夜に、時間がほしいって言われたんです クレア: 時間?なんだろうね ピュルテ: このまま、ずるずる続けていくんじゃダメだ、って言ってました。ふふっ。きっと人間さんまた旅に出ようって思ってくれたんですよ クレア: 人間さんが……?どうして急にそんなこと ピュルテ: 人間さん、ずっと考えてたんだと思います。いつまでも、ここにとどまってちゃだめだって クレア: そっかぁ。でも再出発するなら、エミリーが戻ってくるの待たないと ピュルテ: 通信用スフィアに連絡があって、明後日にはエミリーさん戻るそうですよ クレア: そうなんだ。じゃあ、出発はそれより後だね ピュルテ: こんな時代だからこそ、人間さんができることっていっぱいあると思うんです クレア: そうだね。それに……ドロシーたちだって、まだ分かんない ピュルテ: あれからしばらくは、人間さんも躍起になって探しましたけど……途中で1回、心が折れちゃいましたからね クレア: でも、もう1回がんばってみれば違う結果が出るかもしれない。うん、なんか元気が出てきたかも ピュルテ: さあ、早く戻りましょう! ピュルテ: 戻りましたよ、人間さん!あれっ、なんかいい匂い クレア: えっ、人間さんが作ったの。すごい ピュルテ: テーブルクロスまで用意して、まるでレストランです クレア: 特別な日だから?そっか ピュルテ: 旅立つ話をするのに、ずいぶん大げさですね クレア: でも豪華なごはん、嬉しいよ ピュルテ: えっ、ワインですか?あっ、じゃあせっかくですから……それ、けっこう高いワインじゃありませんでした? クレア: 今日のために奮発した?うん、すごく深い味わい ピュルテ: このお肉も、すごく高いお肉ですよね。食べただけで分かります クレア: 奮発っていいね。私、奮発大好き (…………。) ピュルテ: クレアさん、先に寝ちゃいましたね。もしかしたら、気を使ってくれたんでしょうか (ピュルテのワイングラスに、この日のためのワインを注ぐ。) ピュルテ: 出会ってから今まで?ふふっ、そうですね、本当にあっという間でしたね。ええ、私もですよ。何もかも一瞬のようで (いつだって、ピュルテは隣で笑みを絶やさずにいてくれた。) ピュルテ: その間、ずっと私が支えてきた?そ、そんな、私だけじゃないです。けど……そんなふうに思ってもらえるのは、素直に嬉しいです (彼女が向ける明確な好意は、異世界で心細い自分にとって、間違いなく価値あるものだった。) ピュルテ: 人間さんにとって、私は必要不可欠?う、嬉しいです。そんなふうに面と向かって、こんなこと言われるなんて思ってなくて、その、あんまり顔を見ないで下さい (だから、決意した。) (よく分からない曖昧な状態はやめて、はっきりさせよう。) ピュルテ: これ、なんですか? 小さい箱…… (ピュルテは箱を開けた。) (中にはプラチナのリング。サイズは、たぶん合うはずだ。) ピュルテ: 結婚、してほしい……? ピュルテ: 私と、この土地で温かな家庭を築きたい……?人間さん、それって…… 155 - 望んだ幸せと手の中の何か ピュルテ: 私と、人間さんが、結婚…… (ケースから取り出した指輪を、そっとピュルテの左薬指にはめる。) (人生初の求婚に心臓がうるさい。) ピュルテ: 結婚……私が奥さん。ずっと、一緒に…… (ふっ、とピュルテがうつむき表情が陰る。) ピュルテ: 旅は、いいんですか……? ピュルテ: 世界のディマイトが、解決したわけじゃないのは……なんとなくご存知ですよね ピュルテ: 自分にそんな実力はない……?でも、それじゃあ誰が……俺じゃなくても、誰かがいるはず、って…… ピュルテ: それじゃあ、みんなは!?シンデレラさんも、ティンカちゃんも、ドロシーさんも、ヴェルちゃんも! ピュルテ: 私だって、もう……分かってます!でも最悪の結末でも見届けるのが、仲間じゃあないんですか (答えられなかった。) (理解していなかったわけじゃない。それでも。) ピュルテ: そのために、こんな料理やワインまで用意したんですか。もっと他に考えることがあるんじゃないですか!? (ピュルテの大きな身振りで、グラスが落ちる。) (残っていたワインと共にガラスが砕け散った。) ピュルテ: こんなの、逃げじゃないですか。辛いから逃げようって、もうやめようって、それだけです ピュルテ: 逃げる口実に私を使わないでください!私は、私は人間さんと、結婚なんてしたくありません! (急に、ピュルテが窓を開ける。) ピュルテ: こんなものっ! (そして、指から抜き取った指輪を、木々の向こうへ放り捨てた。) ピュルテ: ここでウジウジしてたいんなら、どうぞ1人でご自由に!私を巻き込まないでください! (小屋を出て行くピュルテ。) (呆然とその場に立ちつくし、そして足元の割れたワイングラスを見つめる。) クレア: ピュルテは (ふいに声をかけられ頭を上げると、クレアが見つめていた。) (小屋の入り口を無言で指し示すと、クレアも外に出ていこうとする。) クレア: 自分が何したのか、よく考えたほうがいい (逃げ、なんだと思う。) (自分の残された価値を守りたかっただけ……。) (なにやってんだよ、と口の中で呟いた。) クレア: ピュルテ。よかった、ここにいたの ピュルテ: クレ……ア……さん……ぐすっ クレア: とりあえず、全部聞いてた ピュルテ: うっ、ぐすっ……人間さんは……?どうしてましたか…… クレア: ショック受けてた。でも、自己嫌悪もあったかな。そんな顔 ピュルテ: 私、ひどいですよね。分かってるんです。勝手に役割押し付けといて、逃げるな、だなんて クレア: その経緯は私は知らないけど、引き受けたんだし ピュルテ: すごく、嬉しかったんです クレア: プロポーズされたこと? ピュルテ: 一瞬、本当に夢みたいだって。大好きな人間さんと、ずっとここで静かに仲良く暮らしていく…… ピュルテ: 思いましたよ、私だって。もうそれでいい、って クレア: でも、断ったんだよね ピュルテ: だってっ、こんなのみんなに顔向けできないですっ……!だからっ、ううっ……だからっ…… ピュルテ: 結婚したくないなんて嘘に決まってるのにっ!私っ、人間さんにあんなこと……! クレア: 大丈夫。人間さんは、分かってくれる。本心じゃないことくらい ピュルテ: そう、かなっ、ぐすっ、そうですよねっ。じゃないと私 クレア: ピュルテはベストの選択をしたよ ピュルテ: 私、人間さんが大好きですっ!本当に、嬉しかったんです!子供は何人かなとか、どこに住むのがいいかなとか クレア: 分かってる、大丈夫 ピュルテ: いっぱい妄想してました。でも、そこではみんなに祝福されてる場面だって妄想しててっ……うっ、ぐすっ クレア: がんばったね。よしよし ピュルテ: クレアさん、お願いがあって…… クレア: なに? ピュルテ: 私が投げ捨てちゃった指輪。あれはやっぱり持っておきたくて。だってあれ、人間さんが私のために…… クレア: しょうがない。どっちに投げたの ピュルテ: こっちの方です。後先考えてなくて、ごめんなさい…… ピュルテ: あっ、おはようございます、人間さん……。あの クレア: いきなり人間さんから謝った ピュルテ: い、いえ、そんな。頭を上げてください。分かってます、本気じゃないですよね クレア: 畑仕事に行くの?うん、いってらっしゃい ピュルテ: いってらっしゃい (…………。) ピュルテ: 結局、逃げでしかなかった、って人間さん自身が言っちゃいましたね クレア: 結婚のことだね。でも、さっきの言葉には嘘はないと思うよ ピュルテ: あんな態度取っておいて、勝手なのは分かってます。けど、結婚したいのは本当なんだって言ってほしかったなって…… クレア: 人間さんは、そういうところそこまで器用じゃない。嘘つかなかっただけいい ピュルテ: そうですよね。もう1回、今度こそプロポーズしてくれますよね クレア: 指輪だってちゃんと見つけたんだし ピュルテ: 昨晩はご迷惑をおかけしました…… クレア: 全然。思ったより早く見つかってよかった ピュルテ: ちゃんと、平和になった世界でもう1度、人間さんにプロポーズしてもらえますよね。その時を、待とうと……うっ、ぐすっ クレア: うんうん。ピュルテはがんばった。よしよし ピュルテ: ふふ、クレアさんが頭撫でてくれるなんて クレア: エミリーがよくしてくれた。だから覚えてる。元気がちょっと出る エミリー: ただいまー。って、え?何してるのぉ? クレア: よしよし エミリー: いや、そういうことじゃなくて……。それより色々分かったことがあったよ! ピュルテ: 分かったこと……ですか? エミリー: あれっ、ピュルテ泣いてるの?それでクレアがよしよししてたのかな ピュルテ: な、泣いてなんかいませんよ! エミリー: えっとね、とにかく。もしかしたらみんなも無事かもしれないよ! 156 - 新たな情報 エミリー: でね、それはあのヴェルザームが暴走したときのことなの。日付は一致してる ピュルテ: 雪の国の方から光がいくつも飛んでいった……ですか クレア: 人間さん、ちゃんと聞いてる?ぼんやりしてる エミリー: クレア、それは呆然としてるっていうんだよ。急なことだから驚くのは無理ないけどね ピュルテ: 遠くへ飛んでいった光……。もし、それがシンデレラさんやドロシーさん、ティンカちゃんにヴェルちゃんだったら…… エミリー: あ、それでね。リルには会ったよ。ピュルテによろしく、って ピュルテ: えっ、どういうことですか!? エミリー: 実は……ちょっとだけ、一緒に旅もした。何か目的があるみたいで、すぐお別れしちゃったけどね ピュルテ: そうですか……。でもリルちゃんも皆さんのこと探してくれてるかも!あ、それでその光って? エミリー: 正確な数は分からないの。でも1つや2つじゃなかったって クレア: どっちに飛んでいったか分かる? エミリー: うん。方向だけなんだけど、それでも手がかりがないよりはいいでしょ? ピュルテ: やりましたよ、人間さん!希望が見えてきたんです! エミリー: きっと、何らかの力で飛ばされたんじゃないかな。ヴェルザームとかさ ピュルテ: きっとそうですよ。なら、皆さん無事ですよ!ね、人間さん! (…………。) エミリー: 人間さんは? クレア: 部屋に戻って寝ちゃったみたい ピュルテ: まだ迷ってるんだと思います。もし希望を持ってしまったら、打ち砕かれたときの絶望……今度こそ立ち直れないって思ってるんでしょう クレア: でも希望にすがらなかったら可能性はゼロ エミリー: うん、クレアの言うとおり。それでも気持ちを整理できないものなんだよ ピュルテ: でも、私たちが諦めちゃダメですよ。探しに行かなくちゃ エミリー: 人間さんはここのところ、何してる感じ? クレア: 畑仕事かな エミリー: 土いじりかあ。それは心がだいぶ疲れてるって感じするねぇ ピュルテ: フェルディナさんの手がかりはなかったんですか エミリー: そっちはお手上げだったねぇ。でもいいよ、まずはみんなを助けに行かなくちゃ エミリー: へええ、これが人間さんが作った畑なのぉ?すごいね、本格的に畑だぁ 近所の少女: あっ、人間さん、こんにちはー。あれ、そのお姉ちゃんは確か エミリー: エミリーだよぉ。よろしくねぇ 近所の少女: えっ、この畑は私に?どうして、人間さん畑やめちゃうの エミリー: 遠くに旅に出るんだよ。あのね、人間さんの、とっても大切な人に会いに行くの 近所の少女: そっかぁ。でも、やっと分かったかも エミリー: んー?何がぁ? 近所の少女: 人間さん、いつも寂しそうにしてたから。それって、その大切な人がいなかったからなんだね エミリー: そっかぁ……うん、そうだねぇ 近所の少女: 私はすごく寂しいけど、でも人間さんは寂しくなくなるなら、私ガマンするよ エミリー: いつになるか分からないけど、きっとまた遊びに来るよ。ね、人間さん 近所の少女: じゃあお守りにしよう! エミリー: んん?話が唐突だねぇ。なんのことぉ? 近所の少女: 人間さんが寂しそうだから、お友達にってお人形を作ってたの。ほら、これ エミリー: このぬいぐるみ、あなたが作ったのぉ?すごい、器用なんだねぇ 近所の少女: まだ途中だけどねっ。あのね、村の裏山にね、守り神って言われてる大きい樹があるの エミリー: あ、知ってる。見たよ、すっごい大きな樹だよねぇ 近所の少女: その葉っぱはお守りがわりになるの。だからお人形のお腹に入れておこっと エミリー: ちゃんと無事に再会できて、また戻ってこられますように、だね 近所の少女: 人間さんが戻ってくる頃には、私はもうオトナかもよ エミリー: ピュルテに聞いたよ。学校の先生になりたいんだって? 近所の少女: ピュルテさんみたいに優しくて、クレアさんみたいに落ち着いた先生だよ! エミリー: あれー、エミリーのいいとこはぁ? 近所の少女: 会ったばかりだけど……あっ、これ、この畑の絵!?すごい上手! エミリー: ふふ、すごいでしょぉ?はい、この絵はあげる エミリー: ふー、夜ごはん美味しかった!やっぱり外食より、こういうのが落ち着くなぁ ピュルテ: お口にあってよかったです クレア: それで?本当にエミリー1人でいくの エミリー: 今度の情報はけっこう信憑性が高いと思ってる。だから、しっかり準備して、次は長い旅になるかもね ピュルテ: 光が飛んでいった方向も見当がついてるんですよね エミリー: だから……クレアも一緒に連れて行きたいと思ってる クレア: エミリー エミリー: ただ、もしディマイトとの戦いも含めて、人間さんとピュルテが動くなら、そっちに合わせるつもり ピュルテ: あ……あの、人間さん。どう思いますか クレア: えっ、いま『行く』って……旅に出るってこと? エミリー: やっぱり4人のことは探したいんだよね。手がかりゼロで心が折れてたけど ピュルテ: 人間さん……!そうですよ、まだ望みはあります! クレア: ボロボロのリボンや頭巾も、遠くに飛ばされた時に落としただけだよ エミリー: じゃあ決まりだね。1番有力なのは、ここから南東に向かった砂漠を超えて飛んでいった目撃情報だよ ピュルテ: 砂漠超えですか。準備は念入りにした方が良さそうですね エミリー: 善は急げだよ。近くの集落で物資を揃えたら出発しよう。目安は……2日てとこかな クレア: 了解。明日からすぐ準備しよう 住民: た、助けてくれーっ! ピュルテ: 何事ですか!?どうしたんです。ひどい傷ですよ クレア: エミリー、傷薬の残りを 住民: 俺のことはいい、それより集落をッ! ピュルテ: 何があったんですか!? 住民: わかんねえ!突然、たくさんの魔物と、すごく強いやつがきて! ピュルテ: 魔物!?人間さん、皆さん、集落に急ぎましょう! 157 - 腕の中のぬくもり エミリー: ひどい……なにこれ…… クレア: 誰か助かってる人はいるの……? ピュルテ: こんなのひどすぎます……どうして…… クレア: 人間さん、大丈夫。顔色悪い 住民: なんてことだ……村が…… エミリー: あなたは襲ってきた魔物を見たの? 住民: ああ。村に迷い込んだにしちゃ、数が多すぎた。それに、真ん中にいたあいつ…… ピュルテ: エミリーさん。それって エミリー: これは偶発的な事故じゃない。誰かが意図して、この村を襲ったんだ クレア: 誰が、こんなこと エミリー: フェルディナじゃないって信じたいけど ピュルテ: 大丈夫ですよ。今までだって、こんなことはしなかったじゃないですか クレア: それに魔物を使役するなんて、フェルディナのやり方とは違う エミリー: ねえ、待って。今、声が聞こえなかった? クレア: え……あっ、こっち ピュルテ: 瓦礫の下ですね!んっ、お、重っ……あっ、人間さん クレア: こんな時にしか役に立たないって、人間さん…… エミリー: あっ、女の子だ!大丈夫!?って、この子は…… 近所の少女: あ、あれ……エミリー、さん……?それに……人間さん ピュルテ: しっかりして下さい、いま瓦礫をどけて傷薬を! 近所の少女: お見送り……できなくて、ごめん……ね…… エミリー: うそっ……しっかりして!ダメだよ、死んじゃダメ! ピュルテ: 先生になる夢があるんだよね!?こんなところで、ダメだよっ……! 近所の少女: お友だち……会えると、い、いね…… クレア: ……そんな エミリー: まだ可能性はあるよ!早くお医者さんのところに運ぼう! ピュルテ: あ、人間さんっ!? クレア: 力仕事は自分の役目って……人間さん、泣いてるの……? エミリー: お医者さんに運んではきたけど、正直厳しいかもって…… クレア: 厳しいって……死んじゃうかもしれない……? エミリー: くっ……!こんないい子が、どうしてっ! ピュルテ: 人間さんっ!? クレア: 泣いてるの?まるで、叫んでるみたいに エミリー: ……今は、そっとしておいてあげよう。ずっと仲良くしてたんでしょ…… ピュルテ: 人間さん……こんなに感情に任せて泣き叫んでる人間さん、初めて見ました…… ピュルテ: でも人間さん、落ち着いてください。そんなふうに怒りの感情に振り回されては、ディマイトに飲み込まれてしまいます! クレア: ピュルテの言うとおりだよ、人間さん エミリー: エルマイトとディマイトは表裏一体って聞いたことあるけど、強い感情ってとこでは同じなんだね…… クレア: 分かるよ。何もできなくて悔しいよね エミリー: でもそれは、エミリーたちも同じだよ ピュルテ: だから人間さん、あなただけじゃないですから! クレア: ピュルテ…… エミリー: 熱い抱擁だね……! ピュルテ: 私の体温、伝わりますよね。いつだって私、そばにいますから。辛いことがあったら私にぶつけてください。抱え込む前に エミリー: この女の子が元気に、自分の夢を叶えられる……本来あったはずの世界だよ。それを守れるのは人間さんだけじゃん クレア: 時間は巻き戻せないから。この子のことは誰にもどうにもできない。けど ピュルテ: 他にも同じ境遇の子はいるかもしれません。それを守ることは、まだ間に合うはずなんです ピュルテ: 誰かを守りたい、まだ守れるはず……そういう思いに置き換えれば、きっとそれはエルマイトになるんです クレア: ……っ、なんか人間さんから強い何かを感じる エミリー: すごいエルマイトが、人間さんから湧き出てるんだよ。エミリーたちも、傍にいるだけでなんだか強くなりそう ピュルテ: すごい衝撃ですっ、きゃあっ!? クレア: 収まった……ピュルテ、大丈夫? ピュルテ: ええ、なんとか。あ、人間さん……ありがとうございます。衝撃で転んだだけですから、大したことないです エミリー: とにかく……何が起きたのか、村の人にヒアリングしなきゃだよね クレア: みんな、お茶が入った ピュルテ: わあ、ありがとうございます。人間さんも、はいどうぞ エミリー: でもさっきの人間さん、すごかったよねぇ。ピュルテのこと転ばせちゃうほどの衝撃波なんて ピュルテ: すりむいただけですよ。大丈夫です クレア: でも、あれがコントロールできたら、私たちは更に強くなれるかもしれない エミリー: でもあれは、強い感情が原因だから。そんなのコントロールできないよぅ ピュルテ: あの女の子を守りきれなかった罪滅ぼし……そうですね。人間さんのせいじゃないですけど、でも エミリー: 同じ悲劇を繰り返したくないのは、エミリーたちも同じだよ クレア: 村の長老の話だと、数日前に怪しい商人が来たんだって エミリー: なんか取引の交渉に来たみたいだね。断ったら帰っていったみたいだけど、その数日後が今夜の魔物の襲撃だったって ピュルテ: タイミング的に疑っていいとは思います。それくらいしか変化がない、本当に平穏な村でしたから…… クレア: 誰かの、例えばその商人の意図で魔物が来たってこと? ピュルテ: その商人さんは、何の取引を持ちかけてきたんでしょうか エミリー: 妖精の羽だよ ピュルテ: えっ、妖精の羽って…… エミリー: 羽を素材として仕入れて、加工して工業製品にして出荷する、っていうビジネススキームだったみたい ピュルテ: 加工するほどの羽があるってことは、たくさんの妖精が商人のところにいるんでしょうか クレア: たぶん、ひどい方法で集められてるんだろうね エミリー: 妖精って聞くたびにティンカのこと思い出しちゃう ピュルテ: エミリーさん…… エミリー: 知らない妖精だったらどうでもいいとか、そういうわけじゃないよ。けどティンカは……エミリーに優しくしてくれた、大切な友達だから クレア: それは当然の気持ち。私だって、ずっとこのリボンが手放せない。ドロシーのこと、すごく心配…… 158 - ドロシーの行方 ???: ……て!し……っさい!……してください!大丈夫ですか?! ドロシー: う……。うーん………、んん……う、あ、私……ここは……?みんな、それに人間さん…… 三蔵法師: ふぅ、よかった。意識が戻ったみたいですね ドロシー: はっ!誰?!敵?!私に触らないで! 三蔵法師: 安心してください。ここに敵はいません。と言っても、さっき倒れているあなたを見つけたばかりですが ドロシー: 私、気を失って……たのね?何がどうなって…… ミスバーファ: 法師様、お水…… 三蔵法師: ああ、ありがとうございます。さあ、この水を飲んで ドロシー: んっ、んっく……ふぅ、ありがとう 三蔵法師: 一体何があったのですか? ドロシー: 何があったか……?はっ、そうよ!人間さんは?!みんなは?!どこ?! 三蔵法師: あなたはおひとりで倒れていましたよ。そばには誰も…… ドロシー: そんな!早くみんなを探さなくちゃ!うっ……痛っ! 三蔵法師: 怪我をしているようですね。近くの町で手当してもらいましょう ドロシー: そんな悠長なこと言ってられないわ!どういう状況かも分からないのに!くっ、痛っ……!? ミスバーファ: その傷で動くのは無理……。町で休んだほうがいいよ 三蔵法師: 心配なのは分かります。でもまず手当が優先ですよ。でないと、お仲間を探す体力すら確保できません ドロシー: で、でも…! 三蔵法師: これ以上ガタガタ言うならもう1回眠らせるぞ?あぁん? ドロシー: は、はい……。わかりました 三蔵法師: まずは町に向かいましょう。ミスバーファ、この方を馬に乗せるのを手伝っていただけますか? ドロシー: あ、あの……私はドロシーよ。ほんとにありがとう 三蔵法師: 私は三蔵法師、この方は一緒に旅をすることになった、ミスバーファです ミスバーファ: あの、よろしく……。あたしも数日前に法師様に出会ったばかりなの…… 三蔵法師: 不思議なランプを拾ったと思ったら、行き倒れの人まで発見なんて、何があるか分かりませんね。うふふ ドロシー: ケガもだいぶ良くなってきたわ。これなら普通に戦える。法師様に従って、治療してよかったわ 三蔵法師: 傷跡も残らないそうで何よりです。この町のお医者様は腕がいいのですね。でも、まだしばらくは通院が必要と言われてますからね ドロシー: わかってるわよ。やみくもに探しても仕方ないし、まずは自分の身に何が起きたのか、それが重要よね ミスバーファ: ここ、大きな町……。人がいっぱい ドロシー: すごく栄えているわよね。カンザスとは大違いだわ 三蔵法師: ここは経済の中心みたいですね。ええと、なんでしたっけ。アリババ商会という大きな企業の本拠地とか ドロシー: 人が多ければ、それだけ情報も得られるかもね。さてと、お腹もすいたし、あのレストランに入るのはどう? ミスバーファ: うっ……。なんか、お、おしゃれなレストラン。緊張する…… (背景切換...) OL1: でね、こないだ知り合ったハイスペ男子とごはん行ったら、もう面接みたいな会話でさあ OL2: こないだの年収1,200万ゴールドの人ぉ?お店どこだったの? OL1: 新しく出来たジェミズ・カフェってとこー。店チョイスは悪くなかったんだけどね OL2: あたしも今からアリババ商会のチーフやってる男子とごはん〜 OL1: どうせ終わった後、1人で飲みに行っちゃうんでしょ?仕事、あたしに回さないでよね〜 OL2: 回すほどの仕事ないけどねー ドロシー: なにあれ。聞いてるだけでイライラするわ ミスバーファ: あの方たちがなにを言ってるのか……ちょっとあたしには理解できない…… 三蔵法師: でもあれって、いざとなったら女子力は高いんですよ。男を喜ばせる会話の受け答えを熟知してるんですから ドロシー: 女子力!?な、なるほど。あれが女子力高い女子ってやつなのね?えー、どこらへん鍛えてるんだろう…… ミスバーファ: じょしりょく……? ドロシー: 女子としての能力よ!女子力次第で人生が地獄にも天国にもなるって言われている代物よ! 三蔵法師: 大げさに聞こえますが、実はだいたい合ってるから怖いですね ドロシー: でも女子力を高くするのって、どこを鍛えるとそうなるのかしら ミスバーファ: まず鍛えるって発想が違う気がしない……? 三蔵法師: 女子力も色々あるのですが……大事なのはコミュニケーションです。たぶんさっきの女性たちはそれができるのです ドロシー: えっ、あんなくだらない会話してたくせに? 三蔵法師: ここで知性は関係ないのです。むしろ本能に近い分野ですから 男: 楽しそうだね、俺もまぜてよ♪ 三蔵法師: えー、女子ばっかりですけどぉ、いいですかぁ? 男: 全然OKでーす。ね、アリババ商会知ってる?俺、そこで仕入担当やっててさあ 三蔵法師: えーっ、アリババ!?すっごぉーい!ていうか、マジですごくないですかぁー? 男: へへへ……いやあ、そうかなあ。どうかな、この後ふたりで 三蔵法師: と、このように男を褒めていい気にさせる。彼女たちの手段はこれです 男: あ、あのう 三蔵法師: うるせえ、てめえの出番は終わりだ。隅で1人で飲んでろ ミスバーファ: さすが法師様…… ドロシー: けど、私には無理だと思う。そんな風にできない…… 三蔵法師: これはあくまで一例。こういう女性もいるし、わりと多いというだけです。ドロシーさんには、ドロシーさんだからこそ持つ女子力がありますよ ドロシー: 私に女子力なんてあるのかしら。カケラでもあればいいんだけど ミスバーファ: 女子力以前の問題かも……あたしの場合。もっとコミュニケーションを…… 三蔵法師: でも、お仲間を探すって張り切ってらっしゃいましたよね ドロシー: ええ、仲間は探すわ!絶対に!けど……今のままの私じゃだめ。変わらなきゃ 三蔵法師: 何か思い出したのですね? ドロシー: ええ、思い出したわ。強敵との戦闘中に吹っ飛ばされたの。みんなが何処に飛ばされたかはわからないけど…… ミスバーファ: ドロシーが無事なら条件は同じだから、仲間の人たちも無事だよ、きっと…… ドロシー: 私、もっと強くなりたい。どんな敵にも負けないくらい強くなりたい。あの人を……守りたいから 159 - ゲートの情報 ドロシー: ずいぶんこの町に長居しちゃったわ。ケガもだいぶいいし、今度こそ出発ね 三蔵法師: それなんですがドロシーさん。変わりたいのなら、ロゼッタ・ゲートに向かってはいかがでしょうか ドロシー: ロゼッタ・ゲート?! 三蔵法師: 旅の間に聞いた話です。ロゼッタ・ゲートは、足を踏み入れる者の理想を叶えてくれる場所だと…… ミスバーファ: そこは危なくないの? 三蔵法師: ノーリスクなら、ノーリターンと知るべきでしょう。もちろん、行ってみて空振りというリスクもあるのですが ドロシー: ……行くわ、私。そのロゼッタ・ゲートへ! 三蔵法師: ドロシーさん、あなたは戦い続けるんですね?このオトギノクニのために ドロシー: そう決めたときから、意志は変わらないわ。だから私、変わらなきゃ。もっと強くなって、女子力も高めて、仲間を守れるように ミスバーファ: あの……女子力もやっぱり、敵と戦うために必要なの……? ドロシー: あーえっと、それはっ…… 三蔵法師: 敵と戦うなら高い女子力はいらないですわね。何か別の、理由があるのですよね? ドロシー: それは………その、えっと…… 三蔵法師: ロゼッタ・ゲートは、自分の内なる声に向き合い真理を見るとも聞きました。そんな時に、心の中に余計な悩みや不安を抱えているのは得策ではありませんよ ミスバーファ: あの……。あたしも話を聞くくらいはできるよ?ドロシー ドロシー: 2人とも……。ありがとう。でも……私が悩んでいることって、ものすごくくだらなくて情けない話なの 三蔵法師: 真剣に悩んでいるのにくだらないも情けないもないでしょう ドロシー: うっ……あ、あのね。笑わないで聞いてほしいんだけど、その……一緒に旅している仲間の中に、その、す、すすす ミスバーファ: 恋……。素敵……だなぁ ドロシー: えっ、まだ言ってないのに!?どうして!? 三蔵法師: 分かりますよ。もう顔に書いてありますもの 三蔵法師: そのお仲間の彼のことが好きで、だから女子力を上げたいのですね? ドロシー: だ、だって、やっぱり魅力的って思われたいし!それには女子力が高い方がいいって聞いたの ミスバーファ: ドロシー、魅力的だと思うけどなあ ドロシー: それに……人間さんの周りには、いつも魅力的な女の子がいっぱいいるのよ 三蔵法師: ドロシーさんが好きになるくらいの人ですものね ドロシー: 私、みんなにコンプレックスを持ってる。私のこと、人間さんが女子として意識してくれているのか不安だし ミスバーファ: そんなの不安になるの……当然だと思う…… ドロシー: けど、そんなの気にしてない風を装ったりしちゃってて。可愛げがないって思われてるかも 三蔵法師: それもまた、一周して可愛い要素なんですけどね ミスバーファ: 切ない……恋心って切ない…… ドロシー: 気がついたら、なんでもパワーで解決するとか思われてそうな雰囲気だし 三蔵法師: それは……まあ……。でもドロシーさん、彼を好きになったこと、後悔してます? ドロシー: 後悔なんてこれっぽっちもしていないわ!だって、辛い気持ちにもなるけど、それ以上に彼のことを考えたら……その…… 三蔵法師: なら、それはいい恋でしょう。好きになったことを後悔しないなら、成就するかどうかに関わらず、必ずドロシーさんの糧になります ドロシー: 成就しないかな……? ミスバーファ: ドロシーってば……ちゃんと乙女してるよ…… 三蔵法師: ミスバーファの言うとおりですね。自分で気づいていないだけで、本質的な女子力はちゃんと持ってるんですから。自信持ってください! ドロシー: う、うん。そうよね。よし!次にみんなに会うときは、すっごく強くて、そしてすっごい魅力的な女子になるわ! ミスバーファ: 応援してる!……ドロシーの恋と、ディマイトとの戦いの勝利を 三蔵法師: 私が保証します。きっとドロシーさんは、今よりもっと輝きますよ ドロシー: ありがとう、法師様!私、絶対にこのオトギノクニと人間さんを守ってみせるわ!! ヴェルメリオ: ……はっ!?こ、ここは シェヘラザード: ああ、気がつかれましたか。大丈夫です、揺れがひどいですが馬車の中です ヴェルメリオ: ……え、馬車? シェヘラザード: 正確には、引いてるのはラクダですけど ヴェルメリオ: ……わたし、一体どうなってたの シェヘラザード: この砂漠の真ん中で倒れてらしたのです。恩着せがましく言うわけではないですが、私が通りかかって本当に良かったです ヴェルメリオ: ……わたし1人!?周りに他にもいたはず シェヘラザード: いいえ。おひとりでしたよ ヴェルメリオ: ……そんな。みんなはどうなってるの。それに砂漠って、わたし確か雪の国にいたはずなのに シェヘラザード: あの山脈を超えさえすれば、直線距離では雪の国とこの砂漠は、案外近いのですよ ヴェルメリオ: ……みんなも砂漠にいるのかな…… シェヘラザード: いったい何があったのです ヴェルメリオ: ……詳しいことはよく分かってないの。ただ、戦いの途中で爆発が起きて シェヘラザード: ここまで吹き飛ばされた、ということですか ヴェルメリオ: ……ヴェルザームっていう宝石が暴走したの。確か、そう。3つじゃ足りないとか、なんとか シェヘラザード: ……実は私、これから図書館へ向かうところなのです ヴェルメリオ: ……え?図書館?それが何? シェヘラザード: そのヴェルザームですとか、色々と込み入った事情に加えて、分かっていないことも多いのではと思いましたので ヴェルメリオ: ……図書館で調べるってこと?でも、図書館とかで何か分かるかな シェヘラザード: ふふ、これから行くのはオトギノクニ最大の書物の宝庫……ビブリオ・アンティークですよ シェヘラザード: 蔵書されていない書物などない、と言われています 160 - 巨大な図書館 ヴェルメリオ: ……すごい。こんなに大きな図書館だなんて シェヘラザード: ね、バカにできないでしょう?きっとここになら手がかりがあると思いますよ 司書: こんにちは。お久しぶりです、シェヘラザードさん。あれ、今日はお連れさんがいるんですね シェヘラザード: ええ、連れと言うか拾い物というか ヴェルメリオ: ……ちょっと、拾い物って 司書: ……!!あ、あの、お連れさんのお名前は ヴェルメリオ: ……え?ヴェルメリオだけど 司書: ヴェルメリオさん……。あ、ああ、ではこちらに貸出カードを作りますね ヴェルメリオ: ……あ、そういうこと……ありがとう シェヘラザード: さあ、それでは何から調べましょう (…………。) ヴェルメリオ: ……本当に、色々ちょっと分かってきたね シェヘラザード: ええ。ずいぶん大事になっているようですね ヴェルメリオ: ……ヴェルザームはオトギノクニが生まれた時から存在する宝石 シェヘラザード: 7つあるという記載がいくつかの書物にありますね。3つという記述はありません ヴェルメリオ: ……本当は7つ揃えなきゃいけなかったんだ。だからあんなことに…… シェヘラザード: ヴェルザームについては古文書中心ですが、こっちは比較的新しいですね ヴェルメリオ: ……インペリウム・コミッティ シェヘラザード: かつて、オトギノクニの全てを司っていた意思決定機関……13人で構成される ヴェルメリオ: ……エミリーの名前が載ってる。あの子、すごかったんだ シェヘラザード: でも、この記述が本当なら気をつけた方がいいかもしれませんね ヴェルメリオ: ……エミリーは本当にいい子だけど、他のメンバーは分からないよね シェヘラザード: あなたたちが天空神殿の指示で動いているなら、敵視されている可能性は高いでしょうね ヴェルメリオ: ……早くこのことを、人間さんやみんなに伝えなきゃ ヴェルメリオ: ……宿舎? シェヘラザード: ええ。そもそもアクセスが良くないですし、この膨大な蔵書ですから 司書: この図書館に併設されているんです ヴェルメリオ: ……すごいね。誰が作ったんだろ 司書: インペリウム・コミッティのアイソーポス副議長ですよ ヴェルメリオ: ……えっ、コミッティ 司書: お話は聞きました。ご安心下さい シェヘラザード: 創設はアイソーポス副議長だけど、今は独立した非営利団体なんですって。各地の王族から寄付を募ってるみたい ヴェルメリオ: ……そうなんだ。よかった 司書: 無理もないのでしょうが、少し息抜きしてはいかがです ヴェルメリオ: ……でも、早く会いたいの シェヘラザード: へえ?それってなんだか使命感っていうより、恋……って感じかな? ヴェルメリオ: ……うっ、しまった。バレた 司書: 好きな男性がいるんですか……? ヴェルメリオ: ……うん。すごく大切な人 司書: 恋人なんですね ヴェルメリオ: ……違うんだ。片思いだよ シェヘラザード: ふふっ、詳しく聞かせてください ヴェルメリオ: ……やだよ。王様に聞かせる気でしょ シェヘラザード: そんな野暮はしませんよ (…………。) シェヘラザード: なるほどね。それで、ヴェルさんは彼と結婚したいんですね ヴェルメリオ: ……うん。おばあちゃんが住む森でね、2人で小さなお店を開くの シェヘラザード: 可愛らしい夢ですね。自分が忘れた何かを思い出すような気がします 司書: でも彼は、あなた1人に絞らないんですよね ヴェルメリオ: ……仕方ないよ。みんな人間さんのこと好きだから シェヘラザード: 今、誰かに絞っては旅の仲間の争いの種……すべて解決する日まで決断しないということですね ヴェルメリオ: ……それでいいんだと思う 司書: でもそれで、ヴェルメリオさんは幸せですか? ヴェルメリオ: ……し、幸せ……だと思う…… 司書: おはようございます。ヴェルメリオさん、何を ヴェルメリオ: ……朝ごはん作ろうと思って 司書: 私の仕事ですから、遠慮なさらず ヴェルメリオ: ……いいの。しばらく作ってないし、腕がなまっちゃう シェヘラザード: あら、なんだかいい匂い……お料理してるんですか? ヴェルメリオ: ……朝ごはん、期待しててね (背景切換...) 司書: これは美味しい!明日から自分の仕事を全うする自信が無くなります シェヘラザード: 本当に美味しいわ。きっといい奥さんになりますね ヴェルメリオ: ……お、奥さん。えへっ 司書: ……ええ、きっといい奥さんになりますよ (背景切換...) 司書: もう遅いですし、そろそろお休みになられた方が ヴェルメリオ: ……えっ、もうそんな時間? シェヘラザード: ずっと建物の中だと、時間の感覚がなくなっちゃいますね ヴェルメリオ: ……でも、だいぶ情報が整理できたね ヴェルメリオ: ……あとは、わたし自身が強くならなくちゃ。人間さんを守れるように 司書: あの……ヴェルメリオさん。ちょっとお時間いいですか? ヴェルメリオ: ……えっ、うん シェヘラザード: じゃあ私は先に寝室に戻りますね。おやすみなさい ヴェルメリオ: ……えっと、ど、どうしたの 司書: 突然のことで驚かれると思いますが 司書: 僕はあなたに恋をしてしまった。結婚を前提にお付き合いいただけませんか ヴェルメリオ: ……えっ?……ええっ!? 司書: 一目惚れなんです ヴェルメリオ: ……で、でも、わたしには人間さんが 司書: 分かっています。でも彼氏ではない ヴェルメリオ: ……そ、それは 司書: 失礼ですが、今のヴェルメリオさんは恋に恋しているだけなのでは?初恋なんでしょう? ヴェルメリオ: ……それじゃ、ダメ、かな 司書: 僕は、あなたのすぐ傍でありったけの愛情を伝えます。寂しい思いなんてさせない 司書: あなただけに、です ヴェルメリオ: ……わたし、どうしたら 司書: 答えは急ぎません。ここを旅立つ前に、聞かせてもらえたら嬉しいですけど 161 - 報いるために立つ シェヘラザード: いきなり泣いてるから何かと思えば……そう、告白されたんですね ヴェルメリオ: ……告白なんて、されたの初めてで シェヘラザード: 調べ物も一通り終わったし、頃合いかもしれません。にしても、このタイミングで告白しましたか ヴェルメリオ: ……もしかしてシェヘラザード、司書さんの気持ちに気づいてたり? シェヘラザード: ええ、もちろん。それで、どうするつもりです? ヴェルメリオ: ……だって、わたしには人間さんがいるから シェヘラザード: 振り向いてくれない彼に義理立てするんですか? ヴェルメリオ: ……初恋だから。恋に恋してるなんて言われちゃうのも分かる。けど シェヘラザード: 好意を拒絶する。それは自分が一番されたくないこと。それを敢えて他人にする。それって相当な覚悟が必要ですよね ヴェルメリオ: ……うん。人間さんにそんなふうに断られたら本当に辛いから シェヘラザード: そうやって他の誰かの痛みを自分のことのように実感して、人は優しくなれるんですよ ヴェルメリオ: ……辛いよ。好きな人に断られるなんて、絶対辛いのに、けどわたしっ…… シェヘラザード: いいんですよ。今夜は思い切り泣きなさい。それが彼の思いへの餞です シェヘラザード: そして明日は、涙を見せることなく意思表示をするのです。それが彼の覚悟への誠意です (背景切換...) 司書: そうですか……。いえ、予想はしていたので、そんなに気にしなくても大丈夫ですよ ヴェルメリオ: ……応えられないけど、でも素直に嬉しかったよ。ありがとう 司書: そろそろ旅立つのでしょう?なら、これを ヴェルメリオ: ……地図?えっ、ロゼッタ・ゲートって……なに? 司書: 今までの自分とは違う何かを与えてくれるそうです。きっと強くなれる シェヘラザード: 強くなって、愛する彼を守りなさい、ってことね 司書: どうか、お幸せに ヴェルメリオ: ……ありがとう。わたし、あなたのこと忘れないから。あなたのためにも、人間さんのこと絶対…… ピュルテ: 人間さん!あの女の子が……意識が戻ったそうですっ! エミリー: それ、ほんとっ!?よかったぁ、ほんとによかったよぅ…… クレア: お見舞い、行けるかな (背景切換...) 近所の少女: 人間さん、みんな……ありがとう、助けてくれたって聞いて…… エミリー: よかったよぅ、ほんと…… クレア: これ、お見舞い。お母さんに料理してもらって ピュルテ: 人間さんたら、はい、ハンカチどうぞ 近所の少女: 泣いてるの?ごめんね、心配かけて ピュルテ: 謝らなくていいの。何も悪くないんだからね エミリー: エミリーたち、少し予定より遅れたけど旅に出る。戻ってきたら素敵な先生になっててよね クレア: いっぱい勉強して 近所の少女: うん!でも、人間さんにお願いされた畑は……この足だから…… ピュルテ: あ……そ、そうです。人間さんの言うとおり、畑なんて他の誰かでも!ねっ (…………。) (背景切換...) クレア: 本当に良かった エミリー: でも、あの足……あれじゃあ、もう ピュルテ: しばらく安静にして、落ち着いたらリハビリを始めるそうですよ エミリー: これもフェルディナの仕業だったら、エミリーはもうどうしていいか分かんないや クレア: きっと違う ピュルテ: 私もそう思います。フェルディナさんは、むしろ回りくどいくらいでしたよ エミリー: そう、だよね。うん……ありがと、みんな。人間さんも ピュルテ: 誰の意志もないような気がします。だって、それくらい何もない平和な村ですから クレア: じゃあ、もう私たちが旅立っても、大丈夫だよね ピュルテ: あの、エミリーさん エミリー: どしたの、ピュルテ。深刻な顔して ピュルテ: 魔物の襲撃があった夜も感じたんですが、エミリーさんは人間さんが旅立つ決意をしてるって、私たちより先に知ってました? エミリー: ん……まあ、ね。けど、人間さんの口から宣言するべきだと思ったの ピュルテ: エミリーさんと人間さんは、その エミリー: あはは、ないない!全然そんなんじゃないから。ただちょっと、エミリーはピンときちゃうだけ。ね、人間さん クレア: そんなに否定しなくても……って、そういう態度がピュルテを不安にさせる エミリー: ふええ、あっついよぅ クレア: 砂漠だから ピュルテ: 町と町の移動中は砂漠しかありませんからね……辛いですけど、仕方ないです エミリー: 例の商人が向かったのはこっちなんだよね クレア: この先は砂漠の国でも一番大きい町 エミリー: 商業都市、アリババシティ。飛んでいった光の1つも、こっちの方向だっていうし……何か手がかりも見つかるといいんだけど ピュルテ: その商人が魔物を使役したっていう証拠はないですが……今の手がかりはそれしかありませんからね エミリー: 妖精の羽なんて、妖精の種類によっては条約違反だもん。そんなビジネス持ってくる時点で、マトモな商人じゃないよ クレア: 村の人も、断ったこと自体は正解だったんだ エミリー: 報復に魔物呼んで襲われるなんて思わないからね。判断自体は正しかったと思うよ ピュルテ: あの時にいた魔物ですけど、もしかすると遠隔操作型のディトルパが混じっていたんじゃないかと思うんです エミリー: 魔物とディトルパじゃ、ディマイトの種類が違うの? ピュルテ: 感覚なんですけどね。私の感知能力で見たときに、そんな気がするってだけで クレア: だとしたら、そのディトルパの本体に、こっちの動きも気付かれてるかな エミリー: どっちにしても、村の人に聞き込みして商人の存在にたどり着くのは織り込み済みでしょ ピュルテ: 手の中で踊ってるんだとしても、行くしかありませんからね クレア: あっ、あれって……オアシス? エミリー: やったぁ〜! エミリー: こっちに飛んできた光……ティンカなのかな。それで他の妖精と一緒に捕まってたり クレア: 想像だけでネガティブになっても仕方ないよ、エミリー エミリー: うん、そうだね。へへっ、クレアは記憶が戻ってから少し頼りがいが出てきたね クレア: 頼りがい?私の背中、大きい?ねえ、大きい? エミリー: なんで大きい背中に憧れてるの……それ女子が喜ぶワードじゃないから…… ピュルテ: 大変です!みなさん、大変! クレア: どうしたの ピュルテ: 今、オアシスで行商のおじさんとお話をしていたら……私たちが田舎にこもっている間に、た、大変なことが エミリー: 落ち着いてよぅ。何があったの? ピュルテ: 魔法の国が、シンデレラさんの帝国が……解体されたって……! 162 - 帝国の崩壊 エミリー: じゃあ整理すると、魔法の国に限らずいろんな国のあり方が変わり始めてるってことなんだね ピュルテ: ええ、そうなんです クレア: ずっと田舎に引きこもってたから、そういう情報とか全然だった ピュルテ: あの集落がどこの国の所属なのかも、よく分かってなかったですし…… エミリー: その一連の動きの一環で、魔法の国の体制が崩壊したってことだね ピュルテ: シンデレラさんがいなかったことも大きかったと思います エミリー: 魔法の国は帝国の中枢。全部のバランスが崩れちゃう。これって、すごーくヤバい状態かもしれないねぇ クレア: ん?魔法の国ってシンデレラ帝国のことじゃないの? エミリー: えっとね、シンデレラ帝国っていうのは一つの組織によって制御される国の集合体ってことなの。魔法の国はその1つだけど、シンデレラの元々の国だから クレア: 眠くなってきた エミリー: 早すぎない!? クレア: エミリー、なんか頭いい人みたいに見える エミリー: あのさ、みんな。エミリーのこと、どうしておバカちゃんだと思ってるのかなぁ? これでも一応コミッティの一員なんだからね? ピュルテ: お姉さんたちの受け売りじゃないでしょうか クレア: あ、その説に一票 エミリー: そこっ、聞こえてるからね!? エミリー: とにかく。創造期の後、単独じゃ立ち行かない小さい国とかの面倒をまるごと見るよ、っていうシンデレラの心意気が結果的に帝国になったわけ ピュルテ: じゃあシンデレラさんが行方不明の今 エミリー: いないだけで自然崩壊するなら、旅してた今まででとっくになってた。でも、壊したい誰かにとっては今こそチャンスだっただろうねぇ ピュルテ: そして今、世の中では……全ての国を統一するという機運が高まっているそうです クレア: ん?でもそれって、みんな一緒に仲良くがんばろうってことだよね。いいことじゃない? ピュルテ: 色々な考え方がありますけど、オトギノクニでそれは……危険だと思います クレア: オトギノクニでは?だって、困ったみんなが1つになるって、いいことっぽい エミリー: あのね、クレア。オトギノクニって小さな国がいっぱいあるの。例えば魔法の国の隅にはヴェルの故郷の森があるけど、あれだって本当は別の国 クレア: またエミリーが頭良さそうになってきた エミリー: んもーっ、記憶が戻ってきてからクレアがちょっと意地悪だぞっ クレア: あばばばば ピュルテ: エミリーさん、クレアさんのほっぺをぷるぷるしてる場合じゃないですよ エミリー: 小さな国々は、独自の文化を持ってる。統一されるってことは、長期的にはその文化は失われるってこと クレア: シンデレラ帝国とは違うの ピュルテ: シンデレラさんの帝国って、各国の自治権が強いんです。言うことを聞け、っていうんじゃなくて……困ったときは助けてあげる、くらいの エミリー: 個性って価値なんだよ。何の価値かって、それはエルマイトの拠り所……このへん、人間さんは分かるんじゃない? ピュルテ: そうなんです。人間界に伝わっているおとぎ話、いろんな世界のいろんな人の話だから魅力的なんです エミリー: 個性を失ったらエルマイトは集まらない……伝承だけど、そう言われてる クレア: エルマイトが無くなったら大変 エミリー: お互いにリスペクトしながら、干渉は避けるのがベストなの。エミリーは世界中を旅してきて、それがよく分かった クレア: でも、統一しようっていう人がいるんじゃないの? ピュルテ: そうなんですよね。誰かがリードしてると思うんですが、それは誰で、一体何のために エミリー: それはエミリー、ちょっと心当たりがあるんだ クレア: 知ってる人? エミリー: うん……まだ推測でしかないけどね。統一を企んでるのは、コミッティかもしれない ピュルテ: コミッティがオトギノクニの統一を!? クレア: ねえ、記憶が戻ってもコミッティが何なのか、ピンとこないんだけど ピュルテ: いえ、たぶんそれは私も人間さんも同じだと思います。エミリーさん エミリー: うん、そうだよね。エミリーたち13人のことを、インペリウム・コミッティっていうの。それはかつて、オトギノクニを支配してた クレア: えっ!すごくえらいんだ。おバカっぽいって言ってごめん エミリー: ダイレクトには言われてなかったのに…… ピュルテ: かつて……ってことは、今は? エミリー: だって今は天空神殿が支配してるでしょ クレア: あの天使たちに私たち支配されてたんだ ピュルテ: 自覚なかったですね…… クレア: なんか腹立つ エミリー: エミリーたちグリム家が6人、その他の作家が7人。グリムは議題の拒否権があったり、永遠に交代しないとか、色々優遇されてる ピュルテ: 永遠に……あ、だから旅に出てサボってるエミリーさんもクビにならないんですね エミリー: あ、うん……そ、そうだね……ピュルテも当たりきついねぇ…… エミリー: とにかく、ちょっと頭おかしい人ばっかりの会議でさ。そこでエルマイトの分配とか色々決めてた クレア: それがどうして、統一したがるの? エミリー: 統一が目的っていうか、今の世界を弱らせたいんじゃないかな。個性を失った世界のエルマイトが減っていく。そしたら…… ピュルテ: 天空神殿の力も弱まっていきますね! エミリー: それにあの、ディマイト貯蔵庫。本来のコミッティはエルマイトもディマイトも両方管理していたはずだけど クレア: 今は神殿に対抗するために、ディマイトに偏ってるかもしれないんだ ピュルテ: でも、だとしたら エミリー: ……そうだね。フェルディナだけじゃない。姉妹まとめて敵になっちゃう…… クレア: エミリー。私はずっと友達だから。それに……きっとティンカたちも、そう言う エミリー: ありがと、クレア。そうだね、ティンカ……ほんと、無事でいて、お願い…… 163 - ロゼッタ・ゲート? ティンカー・ベル: ロゼッタ・ゲート?誰、それ ピン: 誰、ではなく場所だな。そこに行けば強さを得られるという特殊な場所だ ティンカー・ベル: へえ、そんな場所があるんだ?行ってみてもいいけど、遠い? ピン: 緊張感のない奴め。ロゼッタ・ゲートは遠いとか近いとか、そんな気軽な場所ではない ティンカー・ベル: え〜!すごく遠いってこと?じゃあいいよ、行かなくて ピン: 気軽な場所ではないというのは、距離の話ではない!ロゼッタ・ゲートに行くならば、相応の覚悟が必要だということだ ティンカー・ベル: 覚悟って、何すれば覚悟したことになるの? ピン: ふむ。偶然だろうが、なかなか深い言葉だ。今回の場合は、変化したい自分の具体的なイメージを強く持っているかどうかだ ティンカー・ベル: 変化したい自分?うーん……巨乳になりたい! ピン: 人が真剣に話しているというのに…… ティンカー・ベル: 違う違う!別にふざけてないけど、ピンが言ってる具体的なイメージってそういうことかなって ピン: 例えが突飛すぎて答えようがないが、概ねその理解であっているだろう ティンカー・ベル: そこに行けば……みんなとも再会できるかな ピン: 確かに、情報を得ていれば仲間も強さを求めて向かう可能性は高いな ティンカー・ベル: へ?あ、そっか。ティンカは強くなったら、みんなを探す特殊能力とかもゲットできるかなって意味で言ったんだけど ピン: 行ってみるか?ただ……厳しい場所だぞ ティンカー・ベル: もしかして、ピンは行ったことあるの? ピン: ……ある。思い出したくもないが ティンカー・ベル: ちょっと!そんな場所へティンカを送り込むつもり!? ピン: 強くなりたい、と言ったのはおまえだろう。あの場所は……それはもう過酷で、過酷で。余とチーはすぐに引き返した ティンカー・ベル: え、じゃあティンカもダメだよ、きっと。うん。やめておこ。みんなが来るかもしれないから入り口で待っとくとか ピン: あっさり諦めるな!まったく、どこまで本気なのかよく分からないな、おまえは ティンカー・ベル: まあちょっと今はふざけたけど、でもティンカは……本気だよ。みんなを守れる力がほしい ピン: だったらロゼッタ・ゲートに行くべきだな ピン: なりたい自分のイメージは、持たなければ危険ですらある。しかし、距離もそこそこあるからな。ロゼッタ・ゲートへの道中で考えればいいだろう ティンカー・ベル: それがいちばん大事みたいに言ってたのに!超いい加減じゃん!? 金角: 大変です、ピン様! ピン: なんだ金角、騒々しい 金角: 今夜、宿泊予定だった町が魔物の襲撃を受けてしまい…… (背景切換...) ピン: これは……ひどいな。被害者は 町民1: はい、怪我人はおりますが幸い死者はおりません。ただ、家や店がめちゃくちゃに ティンカー・ベル: ひどい!町が壊滅しちゃってるじゃん! ピン: 襲ってきた魔物はどうした!? 金角: ウチが宿屋の予約に来たときにはもう逃げた後でして ピン: これも何かの縁だ。魔物の討伐、それに町の再建……可能な限り、手を貸そう ティンカー・ベル: そうだよ!ティンカも手伝うからね! 金角: でも、いくらピン様でも町を元通りにするなんて、かなり長期間の仕事になりますよ ピン: ここを立ち去ったからといって、何かすべきことが他にあるわけでもあるまい 金角: ですよね!ここでがんばりましょう! ティンカー・ベル: 調子いいなぁ、ったく ピン: ティンカは、もし先を急ぐのなら無理して付き合わなくていいぞ ティンカー・ベル: なに言ってんの!急いだってみんなに会える保証もないんだし、ここで見捨てる方が嫌だよ! ピン: そうか。うん、率直に助かる ティンカー・ベル: そうだ!ティンカの励ましの舞を見れば、町のみんなも元気が出るよ!ティンカ踊るね! 金角: 励ましの舞ぃ!? ティンカー・ベル: すー、はー!せーのっ!うぇいうぇいふーっ!うぇいうぇいふーっ!ドコドコドコドコ、ズンズンズンズン…… ピン: これはまた……奇妙な…… ティンカー・ベル: ガレキをまずはなんとかしないとね……こんなとき三つ編みがいたら、私に任せなさい!って言ってぶっ壊してくれるのに 子ども: うぇーん!パパぁ!パパぁ!うぇーん! 金角: あんなに小さい子どもがひとりで……親を探してるのかな? ティンカー・ベル: どした〜?パパとはぐれちゃたのかな? 子ども: ……うん、パパがいなくなっちゃったの ティンカー・ベル: パパ、どこへいったかわかる? 子ども: お家を壊した魔物が連れて行っちゃったのぉ!うぇーん! ピン: 誘拐されていた者がいたのか……! 金角: 早く魔物を捕まえて、とっちめてやりましょう!!ピン様 子ども: うわーん!このお姉ちゃんたちも怖いよぉ! ティンカー・ベル: もう!あんたたちが大きな声だすから!大丈夫だよ、このお姉ちゃんたちがパパを探してくれるって 子ども: ほんとぉ!?でも、怖い魔物…… ティンカー・ベル: うん、ティンカも一緒に探してあげるからね。ティンカはね、魔物なんかちーっとも怖くないんだから! 子ども: ティンカお姉ちゃん、すごいね! ピン: さすが、子どもの扱いが上手いな ティンカー・ベル: まあね。子育て経験は伊達じゃあないから 金角: うんうん、ティンカってオカンって感じでなんか安心感があるというか。色気はないけどねー! ティンカー・ベル: なっ!あのね、母性と色気は共存できるっていうのがティンカの持論だから! 金角: それ根拠あるかな? ティンカー・ベル: 持論だからいいんだよ!ティンカはそう信じてる!母性こそ女の魅力じゃん! 子ども: ティンカお姉ちゃん? ティンカー・ベル: え、あ、うん?早くパパを探しに行かないとね!ねえ、ピン ピン: そうだな。町の復興はひとまず町の者たちに任せて、まずは魔物討伐に出かけるとするか 164 - ティンカの本心 子ども: ティンカお姉ちゃん、ありがとう!! 父親: 本当にありがとうございました!何か御礼を…… 金角: え〜、なんか悪いねぇ。けどけっこう大変だったし、お言葉に甘えちゃおっかな ピン: 礼など要らない。そんなことができるなら、町の復興に役立ててくれ 金角: ですよね!無償の愛をばらまきますッ! ティンカー・ベル: 元気でね。魔物なんかに負けちゃだめだよ 子ども: うん!バイバイ、お姉ちゃんたち! ティンカー・ベル: ばいばーい!ちゃんと励ましの舞は練習して、パパに見せてあげるんだよー! 金角: あんた子供相手に何教えてんの ティンカー・ベル: 家族ってさぁ、いいよね ピン: ふん、どうした急に ティンカー・ベル: ペトラにも、あの子と同じくらい小さい時があったなって思い出して。最初はもっともっと小さい、赤ちゃんだったんだなって 金角: 最初は赤ちゃんだったなんて、そんなの当たり前じゃないの ティンカー・ベル: でも今じゃすっかり大きくなっちゃてさ。ティンカの言うことなんてぜーんぜん聞かなくなっちゃって ピン: それが成長というものだ。お前が立派に育てた証だぞ ティンカー・ベル: そう、ペトラは立派なオトナになった。永遠の宿敵だと思ってたフックと仲良くするのだって自由!けど…… 金角: けど?フックと友だちになったらいけないってこと? ティンカー・ベル: 仲良すぎでしょ!一緒に旅行とか行ってるらしいし!ティンカのことおいて2人でだよ!? 金角: なんだ、ただの嫉妬じゃん ティンカー・ベル: そうだよ、嫉妬だよ!しかもさ、フックは悪い奴なのに、ペトラのことはちゃんと大事にしてるっぽいのが、また腹立つ! ピン: ティンカは寂しいんだな。ペトラが自分から離れていってしまうことが ティンカー・ベル: 今までさ、なんでフックにイライラするのか分かんなかったんだけど……。そうだね、ティンカは寂しかったのかな 金角: でもさ、ティンカには仲間がいるじゃん!そう、ウチにはピン様がいるみたいに…… ピン: 金角 金角: ナマイキ言ってすみません!嘘です、そんな対等な関係じゃ…… ピン: そう言ってくれるのは、素直に嬉しいぞ 金角: う、うはああ!言ってみるもんですね! ティンカー・ベル: 仲間か……うん、確かにみんなはティンカのそばにいてくれるけど ピン: 仲間は大切だが、永遠にそばにいるわけではない。戦いが終わればそれぞれの道を往くからな ティンカー・ベル: それなんだよね。でも戦いを終わらせるために戦ってるんだけど 金角: でもペトラも永遠じゃないってなったら……あっ、それで恋人ってこと? ティンカー・ベル: こいび……あ、人間さんのこと!?う、いや、人間さんは絶対ティンカのことそういう目で見てないと思う…… ピン: では、おまえはどうなのだ。人間さんに対して ティンカー・ベル: ……ティンカが、マジメに恋愛トークしたら絶対笑うでしょ 金角: そりゃ爆笑するよ。だってティンカだよ ピン: 金角 金角: ですよね!はい、もう縫い閉じてるかのごとく無言で! ピン: 人間さんが好きか ティンカー・ベル: い、いや、それを明らかにすると困ったことがいっぱい起きるんだよね ピン: そうやって先延ばしにしても何も起きないぞ。永遠なんて、どこにもない ティンカー・ベル: ……そう、永遠なんて、ない。そうだよね、人間さんだっていつかいなくなっちゃう ピン: ならせめて、後悔しないことだな ティンカー・ベル: ……うん。もし誰かが人間さんのそばにいられるなら、それはティンカであってほしい ピン: ふん、やっと本音が出たようだな ティンカー・ベル: ティンカは、みんなの潤滑油だけど、でも……最後はきちんと我を通したい。女の子でいたいんだ ピン: それが、ロゼッタ・ゲートに込めるなりたい自分像、なのかもな ティンカー・ベル: え、こんな欲まみれで平気なの? ピン: さあ、仲間を助けるために、ロゼッタ・ゲートへ行くのであろう? ティンカー・ベル: そう、だけど……この町も放っておけないしなぁ ピン: ティンカ、お前の使命はこの町の再建ではない。まずは仲間を探し、見つけ出すことだ。そのためのロゼッタ・ゲートだ 金角: 町の再建はウチらに任せて! ティンカー・ベル: ありがとう!ロゼッタ・ゲートに行ってくる! シンデレラ: ふー、なかなか険しい道ね。ねえ八戒さん、休憩しない? 猪八戒: そうね。ゆうべはだいぶ飲んだから元から体力少ないし シンデレラ: お互いにね 猪八戒: それにしても、シンデレラが1人旅してるの見かけたときはびっくりだったわよ シンデレラ: 大事故だったのよね。あまりハッキリ覚えてないんだけど 猪八戒: 仲間ともはぐれてしまったんでしょう? シンデレラ: こうして旅していれば情報が入ってくるかと期待していたんだけどね 猪八戒: って言いつつ、合間に村人の依頼を受けて魔物退治に来ちゃうんだから。ほんと、お人好しね シンデレラ: だって、ほっとけないじゃない。困ってる人に差し伸べる手を持つ。君主が君臨する根拠はその一点のみ……って教わったんだもの 猪八戒: そんなこと、誰が教えてくれるのよ シンデレラ: ……んー……、えっと、元夫がね 猪八戒: あ……ダンナさんとは死に別れたんだっけ シンデレラ: そう! ここ、テストに出るわよ。ちゃんと覚えときなさい 猪八戒: 別に茶化さなくたっていいのに シンデレラ: 八戒さんも、バツイチだったわよね 猪八戒: あたしはほら、愛想尽かされて捨てられただけだから シンデレラ: ねえ、八戒さんは元ダンナさんにみれ…… 猪八戒: シンデレラ!危ない! シンデレラ: くうっ!?矢がっ…… 猪八戒: 洞窟にいる魔物が先手を打って出てきたのね! シンデレラ: くっ……!ホーリーレインっ! 猪八戒: 大丈夫?やだ、ちょっと傷が深いんじゃないの シンデレラ: 大したことないわ。それより他に魔物はいない!? 猪八戒: そうね、ここまで来たんだし。しっかり退治しとかなきゃよね シンデレラ: いくわよっ! 165 - プリンセスの責任 猪八戒: シンデレラ?やだ、まだ起きてたの シンデレラ: ん……ちょっとね。眠れなくなっちゃって 猪八戒: 考え事、かしら シンデレラ: ほら、傷が治るまではお酒は禁止!ってお医者さんに言われちゃったでしょ。お酒飲んでないと眠れないのよね〜 猪八戒: もう。だから茶化さなくていいんだってば シンデレラ: ……半分は、ほんとよ 猪八戒: お姉さんが聞いてあげよっか〜? シンデレラ: ……ちょっとね。あの人に会いたいなあ、って……考えてたの 猪八戒: どっち? シンデレラ: ……。今は、人間さん 猪八戒: 事故って、なんだったのか、聞いてもいい? シンデレラ: 強敵との最終決戦だったわ。ヴェルザームっていう秘石が暴走して、そして……みんな、吹き飛ばされた 猪八戒: みんな無事かどうかも分からないのね シンデレラ: 本当は今すぐ、何もかも投げ捨てて、あの人を、そして仲間を探しに行きたい 猪八戒: けど、そうしない……ううん、できないのかな シンデレラ: 帝国は解体、魔法の国の王都はクーデターによって政権をひっくり返されてる……何が起きてるのか、正確な情報も入ってこないわ 猪八戒: その手鏡で、信頼できる人とは繋がってるんだっけ シンデレラ: マザー・ティターニアとはね、ときどきだけど通信がつながるわ。けど……彼女もまた、地方に身を潜めているから 猪八戒: そんな中で魔法の国に入って大丈夫なの?捕まっちゃうじゃない シンデレラ: もちろん正面から乗り込んだりしないわよ 猪八戒: 仲間と一緒に入った方が、戦力にもなると思うけど シンデレラ: ……これ以上、巻き込めないわ 猪八戒: それって今更じゃない? シンデレラ: 違うわ。だって今のこれ、ディマイトとの戦いじゃない、私の国を守るための戦いだもの。人間さんを、みんなを巻き込めないでしょう!? 猪八戒: シンデレラ…… シンデレラ: そして私は、もう選んでしまったの。プリンセスとしての自分を シンデレラ: さてと、この別れ道を左に進んでいけば港に出るはずよね。そこで船に乗り換えれば、魔法の国に渡れるはず 猪八戒: まだ道のりは長いけどね シンデレラ: 八戒さん、無理しないでね。ここまで一緒に来てくれて心強かったけど、ずっとつきあってもらうわけにもいかないし 猪八戒: そうやってまた、1人になろうとする シンデレラ: ……だって 猪八戒: 末っ子のくせに、甘え下手ねぇ シンデレラ: それ、プリシラにも言われたことあるわ。義姉さん自身が、甘えさせてくれるような人じゃないくせに 猪八戒: 王子にも、甘えたらいいんじゃないの シンデレラ: え……?王子って…… 猪八戒: 元ダンナ。魔法の国は、あなた1代で隆盛を極めたわ。充分、がんばったじゃない シンデレラ: そんなことないわ。王子様が敷いてくれたレールの上を、必死で走っていただけ 猪八戒: 小さい、困っていた国に手を差し伸べて、みんなで協力しようって……それはいつしか、シンデレラ帝国と呼ばれて シンデレラ: そう、私には、私を待っている国があるの。だから、行かなくちゃいけないのよ 猪八戒: 甘えさせてあげてばかりじゃない。みんなのお姉さん。じゃあ、あなたは誰に甘えるの? シンデレラ: いいのよ……私は彼が生きてた頃に、たっぷり甘えさせてもらったんだから 猪八戒: いいじゃない、もっと甘えなさいよ。ね?1人の女の子で、いいじゃない。ずっとプリンセスでいなくたって シンデレラ: そんなこと、許されないわ! 猪八戒: 誰が責めるの?国民が?王子が?ねえ、見捨てるってことじゃないわよ。優先順位を変えるだけでしょ シンデレラ: そうよ……分かってるわ!優先順位を変えるってこと。彼より、人間さんを優先するって……そういう…… 猪八戒: ねえ、もう1晩だけ私に付き合いなさいよ。あそこに町が見えるでしょ シンデレラ: 八戒さん、私 猪八戒: 二人の男で迷うなら、抱きしめてくれる方を優先するのよ。そうしたら、少なくともそのぬくもりで元気が出るわ 猪八戒: ねえ、シンデレラ シンデレラ: んー?なによぉ…… 猪八戒: さすがに飲み過ぎたわね。あったま痛い シンデレラ: どれくらい飲んだっけ…… 猪八戒: それを覚えてないのよ…… シンデレラ: 夜の砂漠って……なんだか幻想的ね 猪八戒: 砂漠の幻は昼間に見えるものだけどね シンデレラ: マザー・ティターニアも、八戒さんも、本当のお姉ちゃんみたいに私を甘えさせてくれる 猪八戒: 実際のお姉さんたちだって、甘えたら甘えさせてくれるわよ シンデレラ: どうかなあ…… 猪八戒: マザー・ティターニアは、戻ってくるなって言ったんでしょ シンデレラ: 帝都はクーデター政権に掌握されたって。焦ってもメリットは低いから、人間さんを見つけて戦力を立て直すべき……そう進言されたわ シンデレラ: きっとね、彼も……王子様も、いいよって言ってくれる気がする 猪八戒: そういう人なのね シンデレラ: ええ。そういう人だったわ 猪八戒: ……シンデレラがお酒飲み始めたのって、結婚してからだっけ シンデレラ: だって創造期のお義母様の家で、お酒なんてとてもとても。だから、初めて飲んだワインが本当に美味しくて、次々に飲んで 猪八戒: やだ、王族なのにみっともない シンデレラ: ほんと。けど彼はね、べろんべろんになった私をベッドまで運んでくれて。文字通りお姫様抱っこで 猪八戒: 素敵な王子様ね シンデレラ: ほんとにね、私なんて何もできなくて、何も知らなくて……こんな女、どこが良かったのかしらね。ガラスの靴が履けたくらいで 猪八戒: それ聞いたらきっとね、俺の嫁を悪く言うな、って言われるわよ シンデレラ: ふふっ……そうなのかな。私、未亡人だけど……恋愛経験って言うほどないのよね。気がついたら結婚してたし 猪八戒: そっか、恋人期間って経験ないのね シンデレラ: だから正直、人間さんのこともね。どうしたら好きになってもらえるか、よくわかんないの 猪八戒: そんなの、あたしだって分かんないわよ シンデレラ: そっか、そんなものなのかなぁ…… シンデレラ: ねえ王子様……今夜はあなたにたくさん好きを送るから、明日はあの人を好きでも、いいかなぁ…… 166 - よくばりエラ シンデレラ: 昨日の分かれ道ね。左に行けば港、右に行けば…… 猪八戒: ロゼッタ・ゲート。情報が本当なら、だけど シンデレラ: なりたい自分を叶えることができる、なんていう噂よね。私も聞いたことあるわ 猪八戒: 人間さんを探し出す上でも、いずれ帝国を取り返すためにも、きっと必要になるはずよ シンデレラ: ありがとう、八戒さん。私が知らないうちに、ずっと調べてくれてたのね 猪八戒: 何ヶ月も一緒に旅して、毎晩のように飲み明かした仲、でしょ シンデレラ: 必ずロゼッタ・ゲートで、私は更に力を手に入れる。そして……人間さんのことも、国のことも、守り抜いてみせるわ 猪八戒: ものすごく苦痛だって話よ。それに、なりたい自分をイメージできないと、ゲートに取り込まれてしまうとも聞くけど 猪八戒: 今のシンデレラなら、大丈夫よね シンデレラ: ええ、もう決めた。私はもともと強欲なのよ 猪八戒: やだ、そんな言い方 シンデレラ: 私は、王子様の妻として恥じないように、かつ、人間さんの心を射止められるような、そういう存在になるわ 猪八戒: 選ばない、ってことよね シンデレラ: 一個人の幸せも、プリンセスとしての立場も、どちらも手に入れてみせる。選ばなければ迷う必要はないわ 猪八戒: やれやれだわね。まあでも、とりあえずはいいんじゃない。いずれまた選択を迫られたら、その時に悩めばいいし…… 猪八戒: ううん、悩まなくていいだけの力をつけてるのよね シンデレラ: そういうこと シンデレラ: 人間さんだけじゃない。あの子たちといると、本当に毎日が楽しいんだもん。誰にも奪わせはしないわ 猪八戒: ふふ……やっと、いい顔になったわね シンデレラ: 八戒さん、次に会うときは 猪八戒: また朝まで飲み明かしましょ シンデレラ: ふふっ、さすが分かってる♪楽しみにしてるわ。それじゃ……ありがと クレア: 暑い……アリババシティまで、あと少し ピュルテ: あ、あそこに誰か……あなたは!? ジャーファル: あ、ああ……どうか、助けて…… (背景切換...) (…………。) ピュルテ: 大丈夫ですか、ジャーファルさん ジャーファル: 大丈夫、というより私に時間を割いてる場合じゃないんだ クレア: でも、もう夜になっちゃったし エミリー: あなたの……ジャーファルの雇い主、アリババが怪しい連中と取引しようとしてるってことだよね ジャーファル: アリババ様があんな裏のありそうな取引に応じるなんて、何かおかしい……でも、私にはもう、どうしようもなくて クレア: その取引……魔法化合物の加工だっけ ジャーファル: 妖精の羽、っていう単語だけ聞こえてきて……妖精なんて種類によっては エミリー: 条約違反、だよね。その話、ちょっと前にも聞き覚えはある ピュルテ: まさか例の商人ですか!? エミリー: 夜が明けたら……アリババの屋敷に行ってみるしかないね (背景切換...) (…………。) エミリー: あ、人間さん。なぁに、目が覚めちゃったのぉ?んー、エミリーも……そうだね、ちょっと寝付けなくて エミリー: え?エミリーの元気がない?そんなことないよ。元気もりもりっ! エミリー: なーんて……カラ元気やっても見抜かれちゃうよね エミリー: 結局さ……フェルディナも、コミッティも、エミリーの手の中にあったものだからさ。こうなる前に何かできたんじゃないかって…… エミリー: あーあ、らしくないなぁ。最近のエミリー、パッとしないよねぇ。え、人間さんもつい最近までダメダメだったの? エミリー: みんなのことも諦めちゃって、ピュルテのことも傷つけちゃった?本当はもっと違う場面で言うべきことだった……?ん、まあ詳しくは聞かないけど エミリー: しょうがないよ、いつも完璧なんてお話の世界じゃないんだから エミリー: カラ元気でも、がんばってくしかないかな。じゃあ、明日も早いしもう寝ようか。え、眠れないなら添い寝してくれるって? エミリー: 結構でーす。はいはい、触らないの、エッチなんだから!……ありがとね、人間さん ジャーファル: ここがアリババ様のお屋敷です。さあ、皆さん。お願いします ピュルテ: その商人との取引がどこまで進んでいるか、ですね クレア: でも、なんのために妖精の羽なんて ジャーファル: それは相手に直接聞くとしましょう。さあ、こちらです 衛兵: おっと、ここは通せない ジャーファル: えっ、ちょっと。この身分証が見えないの? 衛兵: 今日は誰も通すなって命令なんだよ ジャーファル: 私まで入れないっていうの?そんなバカな! ピュルテ: あ、あの、私たちが身分証がないからでしょうか? ジャーファル: ううん、この上級職員の身分証があれば、同行者も台帳にサインすれば通れるんだよ 衛兵: 皆さんもですけど、あなたも通せません。誰も通すなって命令なんですって ジャーファル: 待ってよ、私は会社の役員だよ!?通せないってどんな事情なの。アリババ様と話をさせてよ 衛兵: 役員?すんません、新人なもので ジャーファル: 会計・管理担当の取締役だよ。先輩たちに確認してみて クレア: 人間さんがびっくりしてるけど、すごいのそれ ピュルテ: 人間さんって意外と、わかりやすい肩書に弱いですよね 衛兵: あの……こちらでお待ちいただいていいですか ジャーファル: 良かった。やっと中に通してもらえるんだね エミリー: ちょっと待って。なんか空気がおかしくない? 衛兵: おとなしく入ってください。あなたには特別背任の疑いが…… ピュルテ: えっ、こ、これって!? ジャーファル: 背任!?私が!?一体何を…… エミリー: ここは逃げるよ!クレア、時間を稼いで! クレア: 合点承知の助 (ドガアアアン) 衛兵: うわああっ!?お、おまえらっ、何をっ!? クレア: 今のうち ジャーファル: そ、そんな……アリババ様っ……! エミリー: その商人だかディマイトだかに、手を回されてると考えるべきだよねぇ。どうする、ピュルテ ピュルテ: ここまで来て引き下がるわけにはいきません! エミリー: そう言うと思ってた。じゃあ、なんとしても屋敷の中に入るよぅ! 167 - 屋敷の中の不穏 ピュルテ: さすが砂漠の国でもトップクラスのお金持ち、アリババさんのお屋敷…… クレア: 裏口でも装飾が豪華 ジャーファル: 裏口の警備がゆるくて助かりましたね。さあ、こっちです (背景切換...) ピュルテ: ここは……? エミリー: 気をつけて。たぶん、ここって クレア: ……っ!!妖精が エミリー: やっぱり。たくさんの妖精が捕まってる ピュルテ: ということは、もう取引は始まってしまってるということですか ジャーファル: まだ書面を交わしているかは微妙なタイミングのはずです。急ぎましょう クレア: でも、いつからアリババはおかしくなっちゃったんだろ ジャーファル: さあ……この1ヶ月くらいではないかと思うのですが クレア: 何か心当たりはない?誰か来たとか エミリー: 確か2〜3週間前に、各国の政財界トップが集まる会合があったはず。もしかして、そのときかも ピュルテ: だとしたら、被害はアリババさんだけじゃないかもしれませんよね ジャーファル: おそらく契約はこの上の部屋のはず。急ぎましょう (背景切換...) エミリー: ここはアリババの執務室かな? クレア: 小国の王様よりよっぽど豪華 ピュルテ: ここにはいないみたいですね エミリー: これ、手帳かな……? ジャーファル: いつも大事に持っている手帳を手放すなんて不自然ですね。やはり普通じゃない エミリー: ………… ピュルテ: ここにいないとしたら、どこですか?ジャーファルさん ジャーファル: こっちに応接間があります! (背景切換...) ジャーファル: 話し声が聞こえます!どうやら、この部屋で間違いないようですね。合図したら、突入しますよ! クレア: 3、2、1…… ジャーファル: オルパラリス!アリババ様、しばしお待ちくださいっ! アリババ: くっ……ううっ……! ピュルテ: アリババさん?そっか、いまジャーファルさんが麻痺をかけたから…… ジャーファル: さあ、今のうちに印璽を! クレア: いんじ? ジャーファル: アリババ様が認めたという証拠になる印です。黄金の、胡麻の花の装飾がされている印璽を持っているはずですよ クレア: 引き出しかな? ピュルテ: ありました!これですね アリババ: んっ、くうっ、くっ…… ピュルテ: ごめんなさい、アリババさん。焦るあまりつい手荒なことを…… ジャーファル: アリババ様も正気に戻れば分かってくださるはずです。さあ、印璽を エミリー: それじゃあ、案内してもらおっか。取引の相手がいる場所に ピュルテ: えっ?そ、そう言えばこの応接室にはアリババさん1人ですね クレア: 取引相手はまだ来てないのかも ジャーファル: 確かに。では、これを持って身を隠すのが最善策かもしれませんね エミリー: ううん、来てないんだとしても行けばよくない?それで、相手をやっつけるの ジャーファル: この人数で、ですか?危険だと思いますし、まずアリババ様にかけた麻痺が解けるまでに時間が エミリー: 平気。案内するのはジャーファル、あなただから クレア: エミリー?どうしてペン先をジャーファルに ジャーファル: な、なんですか、急に。一体どうしたというんです エミリー: アリババの手帳を見たよ。3週間前、確かに政財界トップの会合があったみたい。スケジュールに書き込まれてた ピュルテ: じゃあ、やはりその時にアリババさんは エミリー: 同じ日……モルジアナとの夕食予定も書かれてた。内容は『モルジアナ 相談』ってだけ…… クレア: そっちに行ったから会合は行ってないってこと? エミリー: 代役を立てるとしたらジャーファル、あなたじゃないかなぁ? ジャーファル: ははは、何の証拠にもならないですよ、そんなことは エミリー: 当たり前だけど、国際的な重要会議だから、参加者は全員チェックされるよねぇ。調べれば分かるの。時間がかかるだけでね ジャーファル: …… エミリー: そしてここ、取引相手はいない。話し声が聞こえたって言って麻痺スキルを撃ったの、誰だっけ ジャーファル: ちっ……仕方ありませんねっ!出てきなさい、あなたたち! ピュルテ: 魔物!? ジャーファル: はっ、わ、私は…… アリババ: よかった、正気に戻ったんだね ジャーファル: アリババ様!よかった……たぶん私、操られてたよね ピュルテ: やっぱり文字を書かれていても意識はあるんですね ジャーファル: ほんと、ごめんなさい。私がしっかり警戒していれば、こんなことにはならなかったのに アリババ: やっぱり、そのディマイトの文字は例の会議で? ジャーファル: だと思う。記憶も判然としなくて、書いた相手のことも覚えてないんだけど クレア: ジャーファル、口調も変わってるね エミリー: もう少し落ち着いたら詳しい状況も思い出してくれるかなぁ 貴族: おっ、おまえらはいったい!? アリババ: ん?だれ? ジャーファル: はっ、まずい。こいつは例の取引相手だ! 貴族: ジャーファルさん、そんなところで何をしているんです。印璽は見つかったので? 兵士: 見てください、あれを! 貴族: アリババ!?くっ、しくじったか、ジャーファル。かくなる上は口封じだ、であえ、であえーいっ ジャーファル: まずいっ!みんな、まずはここから逃げるよ! アリババ: この裏が隠し扉になってるから!みんな、あたしについてきて! 貴族: 逃すな、追えーっ! (背景切換...) アリババ: 厩舎にラクダがいっぱい繋がれててよかったね。ひとまず屋敷から遠ざかろう エミリー: ここのとこ移動が続いてて、エミリーはもうへこたれそうだよぅ クレア: しっかり、エミリー ピュルテ: 人間さん、大丈夫ですか。ラクダといっても、かなりスピード出てますが ジャーファル: はは、こんなときに歌を口ずさむなんて アリババ: 人間さん様ってばずいぶん余裕だね エミリー: 盗んだラクダで走り……?盗んでないよぅ、ちゃんとアリババに借りてるよねぇ クレア: でも、行き先が分からないのは確かにそうかも アリババ: 実際に夜の砂漠はほとんど視界がきかない真っ暗闇。それを今の自分の状況にかけたってわけ? ピュルテ: あっ……あそこ、ぽつんと光が エミリー: オアシスだ〜! 168 - コミッティの意図 ピュルテ: 今回のこと、まだ全容が分からないですよね ジャーファル: たぶん、あの会合で文字を書かれたのは私だけじゃないはず エミリー: エミリーもそう思う。ジャーファルには悪いけど、言っても代役だもん ジャーファル: ううん、エミリーの言うとおり。アリババ様ならともかく、私をピンポイントで狙うのは効果が薄い クレア: じゃあ、その会議に出てた人、みんな? アリババ: 代役だったジャーファルを外すのが手間に感じるくらい、参加者全員を無差別に対象にしたんだろうね ピュルテ: そして、あの取引に来た人から……ディマイトの気配を感じませんでした クレア: えっ、じゃあ操られてないってこと? ピュルテ: 少なくともディマイトによっては アリババ: あいつがどんなヤツかもわかんないけどね。カネのためなら悪どいこと平気でするヤツも世の中にはいるから クレア: 素で悪い人なんだ ジャーファル: まあ、悪なんて定義は難しいから、自分がしていることが正しいと信じている人、が正確かもね エミリー: だとしたら、やっぱり…… クレア: エミリー?何か心当たりがあるの ピュルテ: まさかその心当たりって エミリー: インペリウム・コミッティ。あの規模の組織なら人を動かすことも難しくない ピュルテ: つまり、操らなくても命令できるってことですか エミリー: なんだかんだ言っても、今回のあいつの仕事って書類に穏便にサインさせるだけ。書類の中身を問わなければ、普通の商人だもん クレア: 国際会議にも? エミリー: コミッティなら関与できるはずだよ ピュルテ: でも、その考え方だと…… エミリー: そう。相手はインペリウム・コミッティそのもの。フェルディナ1人の暴走とは違う アリババ: ずいぶんな大物を相手にしてるんだね。わくわくしてくるよ クレア: けど、エミリーはお姉ちゃん全員と戦うってことになるの……? ジャーファル: この先に小さな町があるから、一旦腰を落ち着けて体勢を立て直したほうがいいと思う アリババ: そうだね。敵の姿が見えてきたのなら、動き方も考えなくちゃいけないだろうし ピュルテ: 何から何までありがとうございます アリババ: ただ……申し訳ないけど、あたしたちは一旦ここまで。町に到着したら、準備してからアリババシティに引き返すことになるよ クレア: えっ、そうなの エミリー: だよねぇ。だって、会社があるんだもん。社員を放り出して逃げるわけにはいかないよねぇ ピュルテ: そうですよね。いえ、ここまでしてもらっただけでも、本当にありがたいことですから ジャーファル: もちろん協力は惜しまない。何かあったら言って。ね、アリババ様 アリババ: いいとこをジャーファルに言われちゃったなぁ。うん、でもそのとおり。特に、経済的に何か困ったことがあれば力になるから ピュルテ: 情けないですけど、本当に助かります。帝国も崩壊したと言われる今、私たちの組織的な後ろ盾はなくなってしまっていて エミリー: スポンサーがいてくれるなら、助かるんだよねぇ クレア: でも、戻ったらなんか色々言われない? ピュルテ: そうですよね、私たちの仲間だと認識されてしまったら、狙われてしまったり アリババ: ありえるだろうね。だから、そのときは申し訳ないけど、みんなに拉致されたことにするよ ジャーファル: そして、スキを見て命からがら逃げてきた……と言えば、まあ信用されると思っています エミリー: そだね。大丈夫だと思うけど……もし何かあったら、すぐ逃げるんだよぅ アリババ: うん、分かった。そのときは……って、なに、この音!? ピュルテ: 魔物っ!?かなりの数ですけど、これって エミリー: ……追手だねぇ クレア: なんとかっ、やっつけたっ……? アリババ: 待って、まだ第二陣がいるよっ! ジャーファル: 魔物と言えども砂漠出身の魔物以外は、この砂の中を進軍するのは厳しい。それが分かっていて、あれを使ってるわけね クレア: 魔物の馬車……ううん、牛型の魔物だから牛車? アリババ: ねえ、ジャーファル。あの車体部分、見てよ ジャーファル: 砂地でもしっかり地面を噛むように工夫されている。いい車輪を使ってるね アリババ: あれ、うちの会社の商品だよ。まったくもう、商品が広く支持されるのも考えもんだね! ジャーファル: 皮肉なものだね。いい商品作ったら自分の首を締めることになるなんて ピュルテ: 車体の上にはあれだけの数の魔物が乗っているのに、危なげなく走ってますし……確かにすごいですね アリババ: あっ、あれは何!? クレア: まさか……あれって、リラのディトルパ ピュルテ: どうして!? もう元に戻ったはずですよね!? エミリー: リプリント……! アリババ: え、なに?なんて言ったの、エミリー エミリー: リプリント。フェルディナも氷の洞窟で使ってきたでしょ。自分が関わったディトルパは、術者のディマイトがある限りコピーできるって ジャーファル: なるほど。あれはコピーってわけね。だから弱いってことになればいいけど アリババ: そうは問屋が卸さないかな? ピュルテ: うっ、くっ……!?な、なに……?私の身体の奥が、急に重くっ……この不快な感じ、なんだろう…… クレア: どうしたの、ピュルテ ピュルテ: い、いえ、大丈夫です。気合を入れ直せばこれくらい! アリババ: よっし、ディトルパが一瞬、ちょっと動きを止めてる! エミリー: クレア、ピュルテ。準備はいい? クレア: アリババ、ジャーファル。悪いけど、ここまでつきあって アリババ: もちろんだよ。今こそ門を開く時!開けっ、ゴマっ!! 169 - アリババ商会の新商品 ピュルテ: なんとかディトルパを倒したおかげで、魔物の統率もバラバラになってきましたね クレア: けど、数が多すぎる。全部倒すなんて無理 エミリー: だね、ここは一旦退いて体勢を整えたいとこ アリババ: 確かに、それが得策かな。ジャーファル、用意はできた? ジャーファル: できてまーす!いっくよー! ピュルテ: えっ、これは……風船? ジャーファル: うちの最新鋭の護身用アイテムだよ。『オルパラモア・バルーン』! アリババ: さあみんな、今のうちに逃げるよ! ジャーファル: スイッチ、オーン! (バアアアアアン) クレア: 風船、破裂した! (背景切換...) アリババ: ふー、なんとか町にたどり着けたね。でも、できるだけ早く移動した方がいいと思うよ ジャーファル: この町も、もう普通じゃないみたいだし クレア: どうしてそう思うの ピュルテ: 見て下さい、これ クレア: 立て看板?『新しく何かを開始する際には、領主の許可を必ず取ること』 エミリー: どういうつもりなんだろう。でも、確かに普通じゃないよね ジャーファル: 私たちは商人だからよく分かる。本当に怖いのは、大軍で剣を振りかざして城壁を乗り越えてくる敵じゃないんだよ アリババ: にこやかにビジネスとして、契約書1枚で踏み込んでくる相手。そして交渉、折衝の末にルールを変えさせる エミリー: このルールにどういう意味があるのか分からないけど、アリババたちの言うことはすごく分かる。分かりすぎるくらい…… クレア: エミリー大丈夫? ピュルテ: アリババさん、ジャーファルさん。ここまでありがとうございました。これ以上は、もう無理なさらないでください アリババ: ジャーファル、後のことを頼める? ジャーファル: アリババ様なら、そういうと思ってた。私が戻って会社はなんとかしておきます クレア: えっ、アリババ? アリババ: もう少しだけ、付き合うことにするよ。だってこのままなんて、家に戻ったってぐっすり眠れないよ クレア: これからどうしよう エミリー: とりあえず情報収集だねぇ。光がこっちに飛んできた情報はあるわけだし アリババ: ろくに調査もできないうちに町を出ることになっちゃって、申し訳ないよ クレア: アリババのせいじゃないよ ピュルテ: じゃあさっそく明日から、聞き込み開始ですね! (背景切換...) (…………。) エミリー: 人間さんてば、こんな夜更けに女の子を呼び出すなんて……そういう話だと思っていいのかな エミリー: ごめんねぇ、エミリーは特定の誰かのものになるつもりは……。くすっ、分かってるよぅ。ちょっとした冗談 クレア: エミリー? エミリー: えっ、クレア?それにピュルテも クレア: エミリーが人間さんにイジメられないか心配で ピュルテ: 私はその、いい雰囲気かと思って心配で エミリー: あはは、人間さんがわざわざ呼び出した意味ないじゃんね。いいよ、みんなで話そう。 クレア: ん、なんの話? ピュルテ: 砂漠で遭遇したディトルパのこと、ですか?あっ、そう言えば人間さん、何かに気付いたようでしたね クレア: えっ……別の、誰か? ピュルテ: そっか。リプリントは自分が関わったディトルパを呼び出す能力でしたね。砂漠で出てきたのはリラさん、アリスさんのディトルパ エミリー: そう……あのエリーネアの城でのクラースとの会話からしても、操ることに成功したアリスはフェルディナが文字を書いてない クレア: 氷の洞窟でも、おつう、アンナ・マリア、クラースが出てきた ピュルテ: ワンダーランドの文字は、フェルディナさんの共犯者の仕業、ということですね クレア: なるほど。でも、なんでそれで内緒話なの? ピュルテ: そうですよね。フェルディナさんに協力者がいたって話は……あ、でも、そっか エミリー: リプリントを使ってる時点で、協力者はコミッティの中にいることが確定してるんだよ エミリー: まあ、元々コミッティと通じてるって情報はクラースからもあったんだけどね クレア: でも、そっか。確定だよね。エミリーのお姉ちゃんや、友達なのに エミリー: 言うほど仲良くないよ。お姉ちゃんたち含めてね。ヴィルくらいかな、面倒見てもらってたの ピュルテ: 人間さんがエミリーさんだけを呼び出して話そうとしたのは、そのことに気を遣って……? エミリー: もう、エミリーなら大丈夫なのに ピュルテ: ご、ごめんなさい。私ったら、つまらない考えで…… クレア: 人間さんはなんで謝るの?え?エミリーに? エミリー: そうだね。その、フェルディナじゃないコミッティメンバーが、リラとアリスをディマイトに落としたんだね ピュルテ: もしエミリーのお姉さんでも、人間さんはその人のことは許せないって…… クレア: リラのとき、すごく怒ってたもんね エミリー: 気にしないで。エミリーだって許せないから。でも……もうコミッティに連絡はとれないね クレア: どういうこと? ピュルテ: 今も取れないままの状態が続いているんですよね エミリー: うん。けど、どうにか連絡取れないか試行錯誤してたの。それももう、やめたほうがいいと思って ピュルテ: 残る11人の誰が、フェルディナさんの『協力者』なのか分からないから、ですね エミリー: もしかすると、連絡がつかないのはエミリーがシャットアウトされてるからかもしれない クレア: えっ。それって、だって エミリー: 『協力者』は1人なのか。コミッティ全員が敵に回っている可能性も考えるべきだよ ピュルテ: そんな、全員だなんて。そんなこと、あるんでしょうか エミリー: アリババと話してて、気付いたんだよね。軍隊じゃない、ビジネスとして踏み込んでくる……そのやり方、いかにも『あの人たち』らしいと思う クレア: エミリーは、1人じゃないからね エミリー: うん、分かってる。ありがとね、人間さんも 170 - 手がかり ピュルテ: 皆さん、聞いてください!金髪の、ボロを着た女の人がここを通ったみたいです! クレア: その人はお酒を? ピュルテ: 浴びるように飲んでいたそうです! エミリー: シンデレラだぁ! ピュルテ: もうひとり、誰かと一緒だったみたいです。ドロシーさんたちの誰かでしょうか エミリー: 分からないけど……うん、追いかけよう クレア: フェルディナのことは、平気? エミリー: 今は確実な情報がある方を取るべきだと思う 店の主人: はい、おまたせ……定食です…… エミリー: な、なんかずいぶん暗い店員さんだねぇ ピュルテ: いえ、いま人間さんと一回りしてきましたけど、街全体がこんな感じでした クレア: 何かあったの? 宿の主人: ……新メニューを考えたんです。領主様の許可が必要になったので、申請したのですが全部ボツにされて アリババ: ええっ!?許可をとるって、ダメ出しくらうことも込みなわけ!? 宿の主人: 一生懸命考えたのに、採算が合わないだろうと言われて。ひどいときは、需要がないなんて言い切られて エミリー: そんなの、やってみなきゃわからないのに! ピュルテ: 人間さんの言うとおり、メニュー1つくらい失敗したとしても、経営に大打撃ってことはないですよね 宿の主人: 町のみんな、そうだよ。鍛冶屋のダンナもこだわりの1品を作ろうとしたら仕事は効率化しろって言われたらしいし アリババ: これが、この支配のやり方ってわけ…… ピュルテ: ずいぶんひどいですね。けど、なんのために? エミリー: ちょっと町に出てみようか (背景切換...) アリババ: 新しいことをするな、現状維持でいろ。それがこの町に与えられた使命ってわけ? クレア: つまらないよね、そんなの ピュルテ: 仕立て屋のご主人の話なんて、もう言いがかりですよね アリババ: エルフ族の尖った耳を活かした帽子をデザインしたら、差別だからやめろって言われたんだっけ。頭おかしいでしょ クレア: エルフだってよろこぶはず エミリー: 1つ言えることは……この町、エルマイトが極端に低いんじゃない? ピュルテ: エルマイトが低い?はっ、確かに……改めて注意を向けてみると、すごくエルマイトが低いです クレア: じゃあこの町は敵の支配下にあるってこと? エミリー: エルマイトは生まれない。それに、こうしてアイディアを封じられると、気力もわかない。つまり…… ピュルテ: 支配に反発する気力も、ってことですか アリババ: 何もかも否定されると反発心が湧いてくる。けど、今のままでいいと言われてるんだからね クレア: いいわけない。だってみんな顔が暗い エミリー: だね。楽しそうなら文句言うつもりもないけど、こんな暗い顔させるなら、領主失格だよ ピュルテ: 人間さんもそう思いますか。やっぱり立ち上がるべき……ふふ、人間さんてば頼もしいです 住民: あ、あんたたち。あまり町の中で物騒なことは言わないでくれ エミリー: えー、なんでぇ?別に新しいことはしてないんだから、勝手でしょぉ? 住民: そうもいかないだろ。あんたたち、知らないのか。南の町がひどい目にあったこと クレア: 何かあったの 住民: あのおふれを出すように言われて、南の町の領主様は拒否したんだと。そうしたら、数日前から軍勢が攻めてきたっていうんだ アリババ: 最後は武力にモノ言わせるってわけね。それは、どこの軍勢だったの? 住民: それが、旗印も何もない見たこともない連中だったらしい クレア: なんなの、それ 住民: ただ、魔物が混ざっていたって話もあるくらいだ。敵に回しちゃだめだ アリババ: 魔物……!?そんなのと手を組むなんて、ますますできないでしょ! ピュルテ: その軍勢が来た方向だけでも分からないんですか? 住民: スティヴァーリ・シティから来たって話だ。もう、あの町も乗っ取られてるんだろう エミリー: スティ、えっ、それって……リルの故郷だよ!? ピュルテ: ええ、そうです。私も行ったことはありませんが、聞いたことはあります エミリー: ヴェルザームが暴走した直後くらいに、リルとしばらく旅してたことがあるんだ。その時にエミリーは立ち寄ったの クレア: 意外。ピュルテ、リルの家に遊びに行ったことないの ピュルテ: ……、リルちゃん、おうちに呼ぶの嫌みたいだったので。ちょっと寂しかったんですけどね クレア: 人間さんが、自宅に人を入れたくないタイプの人はわりといるから、元気出せって言ってる アリババ: いや、そういうことじゃないと思うよ。もちろんピュルテが原因ってことでもなくてね ピュルテ: どういうことですか? アリババ: スティヴァーリ・シティってテルツォ公国の、だよね。あそこは……本当に貧しい国なんだよね エミリー: うん、見たけど正直ほんと……。創造期の頃はまあ普通だったみたいだけど、急に国土が荒れ始めたんだって クレア: そういう大変なとこ、見せたくなかったのかな エミリー: リルはプライド高いし、そうかもね。エミリーとは大して仲良くないから、逆に見せてもいいと思ったのかも。あと、勢いでついていったとこもあるし ピュルテ: それでも友達なら……呼んでほしかったな……私の家には来てくれたのに アリババ: でも待って。そこから攻撃の軍勢が来たってことは、スティヴァーリ・シティはとっくに制圧されてるってことだよね エミリー: そっか!まずいよぅ、リルはバイバイしたとき、しばらく故郷にいるって言ってたんだよぅ! ピュルテ: 大事にしてる故郷がそんな一方的な支配を受けて、リルちゃんが黙って見てるはずありません! クレア: なのに軍勢が普通に進軍してるってことは ピュルテ: リルちゃんが捕まっちゃってるのかも! アリババ: 捕まってるだけならまだしも、だよね。どんな連中かも分からないし ピュルテ: 人間さん、皆さん……あ、あの エミリー: 分かってる。行こう、スティヴァーリ・シティに 171 - 救援道中 ピュルテ: 皆さん、本当にすみません。私のワガママを聞いていただいて クレア: こんなの、別にワガママでもなんでもない アリババ: ここからスティヴァーリ・シティまで、ラクダを走らせて2日ってとこ。できるだけ急ぎたいけど、この暑さだからね クレア: 無理するとラクダが倒れちゃう エミリー: ピュルテは気にしなくていいよ。確かに、シンデレラの情報は気になるけど、明確なリルのピンチなんだから クレア: リルを助けたらすぐ行く?うん、そうだね。人間さんのプランでいいと思う ピュルテ: ……いざ着いて、敵と戦いになって、そのとき私…… クレア: どうしたの、ピュルテ。まだ何か気になることがあるの ピュルテ: あ、いえ……ちゃんと戦えるかなって、それだけです クレア: ん?戦えるかな、って? ピュルテ: 私は元々戦う能力がなかったので、いつ能力が消えてもおかしくないような気がして、不安なんです エミリー: ……エリーネアの城で、結局うやむやになって、そのままにしてたけどさ ピュルテ: はい、なんでしょうか エミリー: ピュルテはその能力、どこで手に入れたの? クレア: えっ、どこで?うん、そっか。どこなの? エミリー: もしくは、誰から? ピュルテ: それは、わかりません…… ピュルテ: いえ、当然ですよね。後から付け足されたんですから、なくす可能性はあると思います。それが大事な場面だったら…… アリババ: いま、可能性の話をしてもしょうがないよ。やれることをやる、それだけでしょ クレア: 経営者はやっぱり言うことが違う?人間さんがなんかはしゃいでるよ アリババ: なに、本なんか出さないってば!『アリババの40のルール』?そんな本、売れないよ エミリー: もー、人間さんは緊張感がないなぁ ピュルテ: 人間さん……ふふ、ありがとうございます エミリー: ここが、スティヴァーリ・シティだよ クレア: この国の首都なんだよね? ピュルテ: ディマイトの影響でこうなってるとか…… アリババ: 私の知ってる町は、ずっとこうだよ。それがディマイトのせいかは分からないけど クレア: 本当に、貧しいんだね ピュルテ: 私を呼ばなかった理由が分かる気がする?ええ、そうですね……人間さん。気後れしてしまったのかもしれません…… エミリー: 現状がこれなんだもんね。何か改革しようって思うのは当然かもね…… ピュルテ: その答えが、人間界からの独立…… クレア: 極端になるのも分かる気がする アリババ: でも、今はぼーっと見てる場合じゃないでしょ ピュルテ: そうでした、リルちゃんが捕まってるとしたら……お城でしょうか? クレア: 行ってみよう (背景切換...) クレア: お城もまた、王様が住んでるお城とは思えないね アリババ: さすがに正面からは入れないけど、誰もこの城に詳しくないんだよね。どうやって入ろうか クレア: はっ、危ない (ズガアアアン) 魔物: アウアアアアア……!! エミリー: な、なにこいつ!?大型の魔物!? アリババ: 冗談じゃないよ、てぇえええいっ! 魔物: ブハアアアア……!! ピュルテ: なんでしょう、この禍々しさ アリババ: うっそ、あたしのサイクロンアタックがまるで効いてないっ!? クレア: これって……フルアーマーで武装したオーガ? アリババ: しかも、これ中身アンデッドなんじゃないの!? エミリー: 誰だか知らないけど、ここを根城にしてる敵はずいぶんいい趣味してるみたいだねぇ ピュルテ: リルちゃん……やっぱり捕まってるんですね。こんなのリルちゃん1人じゃ戦えない エミリー: だよねぇ……なんせ多勢に無勢だもん クレア: え、どういう……。はっ!! アリババ: 奥から、まだオーガが出てくる!? アリババ: こいつ、なんか特殊な強化を受けてると思う。じゃないと、1体でこの強さって……! クレア: なのに、1、2、3……全部で4体も エミリー: 1人1体ってこと?次元の違いを見せてあげたいとこだけど…… アリババ: ぶっちゃけ、あたしたちみんなで1体倒せれば上出来って感じだよね ピュルテ: こんなのが門番なんて!早くリルちゃんを助けに行かないとなのに クレア: 人間さんも、いいアイディアは浮かびそうにない? ピュルテ: でも、この魔物を使役してる人が、この町も支配してるってことですよね。ちょっと話し合いが通じそうにはないですね、人間さん 魔物: グウウアアアアアアア!! エミリー: うああっ、す、すごいパワーっ!ふっとばされちゃうよぅ! クレア: エミリー、私の後ろに (ガキイィィン) アリババ: オーガの斬撃を受け止めた!?すごい、クレア クレア: ドロシーがいなくても、私がっ……ドロシーの分までっ、くっ 魔物: グフッ、グフウウウッ ピュルテ: くうっ、こんなところで止まってるわけにはいかないのに!リルちゃんを、助けなくちゃ…… リル: やれやれ…… エミリー: えっ、そ、その声は……!? ピュルテ: リルちゃん! リル: 寄るな! (キィン) ピュルテ: きゃっ!?リルちゃんっ、私だよっ、ピュルテだよ!どうして剣をっ…… エミリー: ピュルテ!よく見て。ううん、ピュルテなら感知だってできるはず リル: 小生の手下と楽しく遊んでくれていたようだな ピュルテ: えっ……手下……? クレア: オーガを使役してるのは、リル? ピュルテ: まさか……リルちゃんが、ディマイトに……!? アリババ: さて、どうしようか。これ、大ピンチだよね? ピュルテ: そんな……どうして、リルちゃん! リル: まったく貴君らは本当に世話が焼けるな (立ちはだかるのは、リル。) (その暗躍を追って始まった旅はついに直接対決で完結を迎える。) (リルは何のために戦い、) (そして何故ディマイトに侵されてしまったのか。) (次回「猫が長靴をはいた日」) (今、ページがめくられるーー) 172 - 相反する力 (オトギノクニ。) (それは人々の想像力で形作られた世界。) (ポジティブな想像力――エルマイトと、) (ネガティブな想像力――ディマイト。) (その二つが相反しながらもバランスを取る世界。) (それが今、ディマイトに偏りつつあるという。) (原因はきっと――) ジャコヴァ: 『あの御方』は今日も姿をお見せにならないそうだな ゲーテ: これで、かれこれ5日となります キャロル: いいんじゃないの?そんなの自由でしょ ジャコヴァ: まあ、そうだな。いずれにせよ……強大なディマイトさえあれば、我らインペリウム・コミッティの悲願は達成される ゲーテ: 計画は予定通り進行しています。タワーも、既に…… ジャコヴァ: いいだろう。ところで、ウィラとペローの姿が見えないな ヴィルヘルミナ: ウィラはあの調子だから。ペローは……確か飼い猫と遊ぶって言ってたわね (背景切換...) ピュルテ: リルちゃん!リルちゃんの故郷が大変なことになってるって聞いて、助けに来たんだよ。よかった、無事だったんだね リル: まったく貴君らは、本当に世話が焼けるな エミリー: うわあああっ!?な、何するの! クレア: まさか、リル。ディマイト暴走してるの? フォルミーカ: アリババさん!?よかった、気を失っているだけですね フォルミーカ: ディマイト暴走……負の力であるディマイトが高まりすぎて制御不能になるっていう、これが例の……!? リル: 暴走ではない、使いこなしているんだ。はぁああっ! (ガキィンッ!) ピュルテ: ……っ!!あ、あれ……なんともない……? エミリー: なにかが飛んできてピュルテのことを守ったみたいだよ! ティンカー・ベル: もー。ネコは本当に世話が焼けるなあ シンデレラ: ずいぶん予想外の展開になってるわね ヴェルメリオ: ……けど、これ以上は人間さんに手出しさせないから ドロシー: 覚悟しなさい。すぐに正気を取り戻してあげるわ ピュルテ: み、皆さんっ!?ほ、ほんとに、本物の皆さんですか!?シンデレラさん、ですよね?ヴェルちゃんですよね? エミリー: ティンカぁ……ぐすっ、えへへ、生きてるって信じてたよ クレア: ドロシーも、無事だった。本当に良かった フォルミーカ: この方々は、人間さんのお仲間なんですか? ピュルテ: ええ、ですよね、人間さんっ。無事に、誰一人欠けることなく再会できてっ……、ほんと、泣けてきちゃいます ドロシー: ちょ、ちょちょっと、人間さんてば本当に泣いてるじゃないの! ヴェルメリオ: ……ふふ、かわいい シンデレラ: ちょっと、まだ何も解決してないんだから。みんな、気を抜かないでよね リル: ふん、その通りだな。貴君らの合流は予想外だが、本気になった小生の敵ではない クレア: そ、そうはさせないっ…… ドロシー: 無理しなくていいのよ。エミリーもクレアも、それにピュルテも……さっきの戦いで傷ついてるでしょ ティンカー・ベル: ネコが本気で怒ったって、強くなったティンカたちは怖くないんだからね! リル: ふん、言うじゃあないか。なら、こいつと遊んでもらおうか。いでよ!モルス・オーガ! ヴェルメリオ: ……オーガを召喚した?しかも鎧を付けて武装してる ピュルテ: 創造期にリルちゃんに負けたオーガだろうって、人間さんが…… リル: さすがよく知ってるな。だが、その知識が今ここで何の役に立つ! (グオオオオオオ……!) ドロシー: 4体同時召喚……? リル: まさか4対1で戦うつもりだったのか?小生は手段を選ぶつもりはない エミリー: あ、あんなバケモノみたいな強い敵が、4体もっ……こんなの、無理だよっ!? ドロシー: さーてと。いくわよ、みんな! ピュルテ: ああっ、無防備に突っ込んじゃダメですっ! ドロシー: ヴェルっ!! ヴェルメリオ: ……届いて。めいっぱいの、わたしの気持ち ドロシー: 道がないなら自分で作る!立ちふさがるなら、この手でぶち抜く! (ドガアアアアン) モルス・オーガA: グアアア!? ヴェルメリオ: ……よそ見してる場合? モルス・オーガB: グガガガガガッ!? ヴェルメリオ: ……倒れるまで、打ち込む ピュルテ: オーガが一瞬にして灰に……! モルス・オーガC: グウアアアアア! クレア: 剣に魔力を込めてる? ティンカー・ベル: あれれ、まさかティンカと魔力勝負するつもり? エミリー: 魔法陣でオーガを捕らえた……吸いつくされて、オーガが萎びていく…… モルス・オーガD: グガアアア! シンデレラ: これで終わり……午前0時、時計を止めて モルス・オーガD: !! クレア: オーガが……動かない シンデレラ: 貴方のキスで……針は再び動き出す (パァン) エミリー: オーガが……一瞬で弾け飛んだ……?い、いま、何が起きたの……? フォルミーカ: 強いディマイトを、より強力なエルマイトで……!これが皆さんが続けてきた戦いなんですね ピュルテ: はい。強力なエルマイトを持った人間さんが人間界から来てくれたことで、ようやくこうして戦えるようになったんです ティンカー・ベル: ちょっと姐さん、最後のあれ何!?貴方のキスとか言いながら、人間さんに流し目送ったでしょ! ドロシー: そうよ!あのセリフ、別に無くても戦えるのに!戦いに集中しなさいってば! シンデレラ: い、いいじゃない!久々に会えたんだから、ちょっと色っぽいって思われたいの! ヴェルメリオ: ……わたしだって久々なのに! ピュルテ: あはは、すっごく強いけど、でも……いつもの皆さんです。私たちが知ってる4人ですよ エミリー: そうだね。けど、本当に次元の違う強さだね。みんな、何をしてあんなふうに リル: あはははは、たかがオーガを屠った程度で、ずいぶんとご機嫌じゃあないか ドロシー: ……真打ち登場ってとこね 173 - リルッテ ヴェルメリオ: ……すごいディマイトの量だよ、今なら、わたしにも分かる シンデレラ: あなたがディマイトに支配されてしまうなんてね。事情があったんだとは思うけど…… ティンカー・ベル: ピュルテに剣を向けるようなネコは、ティンカの知ってるネコじゃない ピュルテ: ……リルちゃん リル: 小生はもはや、手段は選ばない。この意味が、分かるか? ティンカー・ベル: うっ!?は、早いっ! リル: そこまでだ。人間さんさえ始末すればエルマイトの供給源を断たれ、ピュルテたちも力を失う……! ピュルテ: させないよ、リルちゃんっ!てぇぇええいっ! リル: 甘いっ!! (キィン) リル: ピュルテ、君が小生に攻撃を仕掛けてくるなんてな ピュルテ: ごめん、リルちゃん。でも友達だからこそ、間違ってるときはハッキリ言うよ。リルちゃんは今、絶対間違ってる! リル: あははは、すごいじゃないか、ピュルテ。君が人間さんをかばって盾になろうとするなんて。見ない間に、成長したんだな ピュルテ: させないんだから!今度こそっ、暗黒のカデンツァ! リル: ムダだよ。はああっ! ピュルテ: えっ……吸収されたっ……? エミリー: まさか……リル、ただのディマイト堕ちじゃない!? クレア: 攻撃を吸収されちゃうなんて エミリー: 吸収してるのは攻撃じゃない。ピュルテのエルマイトそのものだよ フォルミーカ: そんな……って、あっ、あれ!リルさんの見た目がっ……!? リルッテ: くく……ふはは……これは!ピュルテの能力さえも小生の中に取り込まれていく!もはや小生は従来のリルではない。言うなれば、そう……リルッテとでもするか クレア: ピュルテ、しっかり。どうしよう、意識が ドロシー: ピュルテの能力だけじゃなく、意識まで取り込んでる……!? リルッテ: さあ、いくぞ!これが小生の本気だっ! (バシュウウウウ) リルッテ: な、なんだっ!小生の身体にエルマイトがあふれる! リルッテ: これは貴君からの……!? シンデレラ: 人間さんのエルマイトは、ピュルテちゃんの中に取り込まれてる。その意識を吸収して共有したリルは今、人間さんと繋がってるんだわ ドロシー: そしてそれは今、ピュルテの思いになって、私たちを強化してくれてるのね ヴェルメリオ: ……つまり、リルは今、目の前の敵であるわたしたちを支援してる リルッテ: な、なんだと!? リルッテ: リルちゃん……感じるでしょ、これが人間さんのエルマイト……優しい気持ちなんだよ……これは、リルちゃんにだって向けられてるんだから…… リルッテ: しょ、小生の口を借りて勝手にピュルテが!?くっ、くううっ……! リルッテ: 小生の野望は終わらないっ……! シンデレラ: 今よ!みんな準備はいい? ティンカー・ベル: え、人間さん……?心配してるの? ヴェルメリオ: ……わたしたちなら大丈夫。なりたい自分、どうして旅しているのか、ちゃんと考えてから、ここに来てる ティンカー・ベル: ずきん、人間さんがなんの話か分かんないって顔してるよ。まあでも、ロゼッタ・ゲートってそういう場所なんだよね シンデレラ: 私たちが成長するキッカケになった場所よ。そこをくぐり抜けて、今の私たちがあるの ドロシー: もう誰も迷わないわ。あなたを、このオトギノクニを守る。その気持ちはブレない! リルッテ: 変わった場所に少し行った程度で、本質的に何かが変わるわけではない。劇的に強くなるはずないだろう! シンデレラ: そのとおりよ。そんな都合のいいものはないわ。私たちの強さは、元々持っていたものでしかない ドロシー: けど、使い方が分かったってこと。ただ能力があるってだけで振り回しても効果的じゃないのよ。今のあなたみたいにね、リル リルッテ: 小生の能力を過小評価しているようだな……ならば、味わうがいいっ……! リル: くっ……小生はっ……! ピュルテ: う、うう……私は……? フォルミーカ: ピュルテさんの意識が戻りましたよ! ドロシー: 勝負ありね。少しは気持ちも落ち着いたかしら リル: ……!そこっ!はあああっ! ティンカー・ベル: うあっ、サーベルを投げたっ!? (キィン) ヴェルメリオ: ……誰かいる!?でも、消えちゃった リル: 逃がしたか、くそっ…… ティンカー・ベル: えっ、なに……?誰かを狙ってたの?まさかそいつって リル: 分からない。だが、この状況を陰で見ていて、こそこそ逃げるような奴だ……味方とは思えないな ヴェルメリオ: ……リルがディマイト暴走したのも? リル: 闇は覗いている、そう小生の意識に語りかけてそそのかしたんだ…… ピュルテ: 闇に……!?それって、まさか深淵の……!? リル: わからない。ハッキリと覚えているわけじゃないが、深淵とは言っていなかったような シンデレラ: でも、ピュルテちゃんと一瞬でも意識がつながって……リルッテ、だっけ。あれを見たら関連がありそうな気がするけど リル: ……小生はいいように使われていたのか。情けない。今にして思えば、ここを魔物に襲わせたのも、そもそも奴の仕業だろうな…… リル: すまない……ピュルテ、それに貴君らも……ぐっ シンデレラ: リル!?そうよね、さっきまで戦ってたんだもの。今は……休みましょう クレア: エミリー、なんか顔が怖いよ エミリー: えっ?あ、ううん……大丈夫 ドロシー: 町の状況もひどいもんだわ。リルやピュルテだけじゃなくて、たくさんの人の治療が必要よ フォルミーカ: まずは目の前のケガした人たちを助けなくちゃですね!アリババさんもまだ気を失ってますし ヴェルメリオ: ……つもる話はそれから、だね。いこう、人間さん 174 - 集合 リル: みんな、改めて今回は迷惑をかけた。本当にすまない ティンカー・ベル: いいってことよー!だってティンカとネコの仲じゃん? リル: え?ああ、うん……とにかく、フェルディナを倒して以降、世界に変化が生じている ピュルテ: ディマイト勢力によるオトギノクニの支配……ということですね ドロシー: かつてオトギノクニを支配していた組織、インペリウム・コミッティが裏にいるかもしれないのよね シンデレラ: 私たちはコミッティの一員であるフェルディナを倒したわ。彼女のディマイト拡大作戦は独断だったみたいだけど…… ヴェルメリオ: ……フェルディナを倒して、わたしたちがバラバラになってから世界が変わり始めた エミリー: うん……フェルディナを倒したことが、コミッティの今の動きにつながってる可能性は高そうだよね ティンカー・ベル: フクザツだよね、エミリー的にはさ。お姉ちゃん全員、コミッティのメンバーなんでしょ クレア: 全員てすごいよね。私も最近、エミリーはえらい人なんだって知った エミリー: 偉くもなんともないよ。名門って言われてるグリム家に籍があるだけ。それに……エミリーなら大丈夫。もう戦う覚悟は出来てる フォルミーカ: なるほど。皆さん、なかなか過酷な旅をしてるんですね。けど、これからどうするんです? リル: それなんだが……シンデレラ帝国の解体という話は聞いたか? ピュルテ: うん。リルちゃんも聞いたんだね シンデレラ: 魔法の国で起きたクーデターが発端でしょうね。帝国の本体をなす魔法の国が崩れれば、帝国体制も同様に―― ドロシー: シンデレラは自分の国だものね。残してきたマザー・ティターニアのことも心配よね シンデレラ: 大丈夫、無事は確認できてるの リル: それに関連してだが……シンデレラ殿はサミットの開催について聞いているか? シンデレラ: なんですって……? ティンカー・ベル: なにそれ?開催って、お祭りか何か? シンデレラ: オトギノクニ主要国首脳会談、通称オトギサミットよ クレア: それってコミッティみたいな感じ? シンデレラ: 本来はそういう役割なのかもしれないけど……王族関係のみんなが集まる飲み会って感じ ピュルテ: シンデレラさんが言うと、本当にただの飲み会なんじゃないかって思っちゃいますけど……たぶんそんなことはないかと…… シンデレラ: だって本当よ!1日ずっとみんなで飲み食いしたり、お芝居みたり、音楽の生演奏聞いたり ドロシー: なんですって!何その優雅な感じ!オズのやつ! ティンカー・ベル: あれ、三つ編みは行ったことないの? ドロシー: ないわよ!こういうときくらい代表者らしくさせて、とかしおらしいこと言って出かけてたのよ!? ヴェルメリオ: ……おいしいとこだけ持っていかれた シンデレラ: で、時々あの国は大変そうだから助けてあげなきゃね、とか……あのあたりは魔物が増えてるからみんなで協力してやっつけたいね、とか……そういう雑談を交えて ピュルテ: それ雑談じゃありません!めちゃくちゃ政治的な決定じゃないですか! クレア: 酔っ払って忘れちゃわないの シンデレラ: あ、そのためにちゃんと書記官を連れて行くのよ、全員ね。その場ですっごい勢いでメモしていくの ピュルテ: 酔っ払いの会話を全力で記録とか、なんて気の毒な…… リル: あー、まあとにかくだ。普段はどうあれ、この情勢下で、かつ、このタイミングでの開催だ。何かあると思わないか シンデレラ: そうね。ここからリベルタリブロまではどれくらい? リル: ここから3日ほどのところに港がある。そこから定期船が出ている ティンカー・ベル: リベルタ……なんとかっていうのが、その飲み屋の名前? シンデレラ: 地名よ。飲み会の待ち合わせ場所 ピュルテ: 緊張感がなくなるので飲み会って単語は禁止です! クレア: 町がこんな大変なときに、買い物していいの フォルミーカ: こういうときこそ、お金を落としていくべき……って、これはアリババさんの受け売りですけど ピュルテ: リルちゃんによれば港町もそこそこの規模らしいので、船旅の荷物はそこで調達しましょう エミリー: そうだね。えーっと、そうしたら何人いるんだっけ。いっぱいになって……うれしいね アリババ: ただ……申し訳ないけど、あたしたちは一旦ここまで フォルミーカ: アリババさんと話したんです。私たちは町に残って復興の手伝いをしようって ピュルテ: あ、そ、そうですよね!ここまでずっと無理させてしまって エミリー: そっか……うん、戦うだけが世界を守る手段じゃないもんね クレア: リルもしばらくここにいるんだよね。じゃあ、えっと8人 ピュルテ: リルちゃん……。あの、リルちゃんは、どうしてディマイト暴走したんでしょう…… フォルミーカ: あの状況を考えると、普通に暴走してもおかしくないと思いますけどね クレア: でも誰かが、頭の中に話しかけてきたって エミリー: それについては、エミリーに心当たりがあるんだよね ピュルテ: そうなんですか!?え、でもそれって…… エミリー: 人の弱みに付け込む……ていうか、弱るまで待ってる感じ。それに、もしピュルテに力を与えたのも同じ相手なら ピュルテ: 人間界に行く能力と引き換えに……という条件でした エミリー: 戦えない辛さが募って決断したんでしょ。待ってたんだよ、その辛さでピュルテが弱るのを。そういうイヤミなやり口は……あいつだと思う クレア: コミッティ エミリー: コミッティ13号委員、ペロー。単独か組織かわからないけど、実行犯はペローだと思う フォルミーカ: なるほど……ていうか、エミリーさん、そのペローって人のこと嫌いなんですか? エミリー: うん、大っ嫌い!喋ってるとビンタしたくなるの! クレア: 思い出しおこだ 175 - BBQ クレア: もうすぐこっち焼けるよ ティンカー・ベル: うぇーい、お肉もーらいっ! ドロシー: あ、ちょ、まだそっちの手にも持ってるくせに!お行儀悪いわよ! ピュルテ: 良かったの?お城の中庭でバーベキューなんて リル: 公王殿下がお礼にぜひ、とのことだ。もともと殿下は庶民派のお方だから、あまり堅苦しいことも気にされないしな シンデレラ: はー、お酒が美味しい!明日には出発だもんね。旅の途中ってたくさん持ち歩けないし、今のうちっと♪ ヴェルメリオ: ……え、なんか光ってるのが降りてきたよ ピュルテ: あれは……きゃっ、まぶしっ!? デュプリ・ライブラ: 我が名はデュプリ・ライブラ。この世界を統べる天空神殿の御使いである!……ッス ドロシー: 出た出た、天空神殿。今こっちはバーベキューの最中なのよ フォルミーカ: え、えっ?この人はいったい? ピュルテ: コミッティが支配していたのは昔のこと。現在は天空神殿というところが、人間界から流れ込む想像を、エルマイトに変換して世界に供給しているんです ヴェルメリオ: ……今はディマイトが強いからエルマイトばかりだけど、ディマイトのバランスもちゃんと見てるらしいよ ティンカー・ベル: ディマイトが強くなってるから、バランス取るためになんとかしろー、ってティンカたちに注文つけてくるのがこいつら デュプリ・ライブラ: ちょっと!一応はこの世界を管理監督する存在のボクたちに、あんまりな言い方じゃないスか ティンカー・ベル: いやあ……だってねえ シンデレラ: そう言えば合体したままなのね フォルミーカ: えっ、合体!?合体ってこの人、ロボ的な何かなんです!? エミリー: あのね、元は五人いたの。それがなんか色々あって一人に合体しちゃったの フォルミーカ: その説明じゃまったく分かんないです! ドロシー: んで、何の用よ クレア: お肉食べたいの? デュプリ・ライブラ: 神官長様からお預かりしたものを届けにきたのよ。まったく感謝が足りないッス…… ティンカー・ベル: 神官長からの届け物? ドロシー: その神官長って人には、会ったことないのよね ヴェルメリオ: ……でも、きっとすごく強い武器とか魔法とかもらえるはずって人間さんが ピュルテ: 確かにそうですね!新たな戦いに向けて味方の偉い人が何かくれるって言ったら、伝説の剣とか最終呪文とか クレア: え、これ?えっと、なんかの板切れ デュプリ・ライブラ: サミットに潜入するつもりなのよね。天空神殿はすべてお見通しッス シンデレラ: あ、これってセキュリティパスだわ エミリー: あー、うちにも付いてるよ。確かに、会場に入るには必要だよね。今回、シンデレラは呼ばれてないっぽいし ピュルテ: ええ、人間さん。そうですよね。とても大事ですし、とても助かるアイテムなんですが……なんというか…… クレア: 地味…… ドロシー: そうね、ちょっと期待していた感じではないわよね…… デュプリ・ライブラ: 人がせっかく用意して持ってきてあげてるのに! ティンカー・ベル: いや、感謝はしてるんだよ。ちょっとがっかりしただけで デュプリ・ライブラ: とにかく!こっちの調べでも、やっぱりコミッティは何らかの動きがあるみたいだから、それをなんとしても止めること!いいッスね! シンデレラ: はいはい、言われなくてもやるわよ デュプリ・ライブラ: 例の計画が実現したら、みんなもただじゃすまないんだから、緊張感持ってほしいッス。なんとしてもコミッティを止めること!いいっスね! ティンカー・ベル: やるって言ってんでしょ~。やろうと思ってるのに言われるとやる気なくすんだよね ピュルテ: 人間界でも、お母さんに宿題やったのか聞かれるとやりたくなくなるって言いますよね デュプリ・ライブラ: オトギノクニの命運、かかってンスからね。そこんとこ、よろしく!んじゃ失礼するッス! エミリー: あー、飛んでっちゃった クレア: お肉いらなかったのかな シンデレラ: あー、昼からお肉食べてお酒飲んで幸せ~♪よーっし、明日からまたがんばるぞっと ティンカー・ベル: ったく、久々に人間さんに会ったのに、そんなとこばっか見せてたら引かれちゃうよ ドロシー : と思うでしょ?それが昨日の夜、シンデレラと人間さんがすっごいラブラブで話してるとこ見ちゃったのよ! ティンカー・ベル: はああ?人間さんとラブラブ!? ヴェルメリオ: ……っ!いま何か聞こえた ドロシー : ちょ、ば、妖精さん!ヴェルに聞こえるから! ティンカー・ベル : ご、ごめん。でもそっかー、意外とそういうところ抜け目ないんだなぁ、姐さん ドロシー: まあでも久々の再会だし、やっぱり2人きりになると盛り上がるわよね ティンカー・ベル: ん……?え、なに、えっ?盛り上がるって、つまりそれは、なにが……? ドロシー: 気持ちが盛り上がるってことよ!やっぱりその、す、すす、好きなわけだし?会えたら嬉しいじゃない ティンカー・ベル: まさか三つ編みも既に……ティンカ、ほとんどまだ人間さんと2人きりで話してないんだけど、これは出遅れているのか……!? ヴェルメリオ: ……ふふん ティンカー・ベル: ほわぁー!?ずきんになんかドヤ顔されたんですけど! ピュルテ: ふふっ、本当ににぎやかになりましたね クレア: うん。やっぱりにぎやかがいい ピュルテ: これからも楽ではないでしょうけど (背景切換...) リル: 下が騒がしいようだが……ああ、中庭か エミリー: ふふ、みんな喜んでたよ。クレアも、お肉もりもり食べて リル: すまないな、呼び出して。貴君とエミリー殿で話したかったのだ エミリー: 珍しいメンバーだよね、人間さん。それで……なんのお話? リル: まず貴君に断っておくが、今回のことで恩義は感じているが、かと言って小生の理想を諦めるつもりはない エミリー: 人間界からの独立、だよね リル: ああ。その実現のために、エミリー殿に聞きたかった エミリー: なんだろ?エミリーでわかることぉ? リル: コミッティはかつて……エルマイトを生み出すことができたのかどうか 176 - リルの疑問 エミリー: エルマイトを、生み出すぅ? リル: かつて支配していたとき、コミッティはエルマイトもディマイトも、その手に掌握していたのではないか エミリー: その仕組みが分かれば、独立できるかもってことぉ?だとしたら……うん、残念賞だねぇ リル: 教えられない、ということか エミリー: そうじゃないの。コミッティは、エルマイトもディマイトも生み出してないの エミリー: エミリーたち『作家』はエルマイトやディマイトを誰かに分け与えることができるの。人間さんみたいにクロスじゃなくてね リル: 分け与える……?自分が持っているエルマイトを? エミリー: 人間さんの場合、自分の中からエルマイトを作っちゃうからすごいんだけどね。『作家』はあくまでも自分の割り当ての範囲だから リル: そういうことか……それが『作家』やコミッティの異能…… エミリー: 人間さんからも質問?どうしてそんなにグリムは偉そうなのか……あはは、エミリーもグリムなのに率直だねぇ エミリー: そんなの1つしかないよ。ねぇ、リル リル: エルマイト、ということか?小生もエミリー殿たち『作家』については詳しくないのだが…… エミリー: ピンポン、ピンポーン♪ 天空神殿に取って代わられるまではすごかったらしいからね リル: それなのにエミリー殿は神殿側につくのか?家勢を失った原因だろう、遺恨はないのか エミリー: もともと放浪の旅してたし、グリムの権力とか恩恵受けてないからねぇ。別に神殿の味方してるつもりもないけど リル: いずれにしても……また、旅は再開するほかないか。いい方法を見つけるしかないな…… ピュルテ: あ、人間さん。もうそろそろ寝ないと、明日も早いですよ ピュルテ: ちょっとだけお話?ええ、もちろん。おつきあいしますね (背景切換...) ピュルテ: 夜でも、あまり寒くないですよね。砂の国は寒暖差が激しいところが多かったですが、この町は気候の変化が少ないそうですよ ピュルテ: うふふ、リルちゃんに聞いたんです。私、そんなに色々物知りじゃありませんから ピュルテ: でも、そんな気候だから、あまり作物もとれなくて大変らしいですけど……。今回の襲撃から立ち直るのも大変ですよね ピュルテ: 自分が正しいことをしているのかわからなくなる……?何かあったんですか、人間さん ピュルテ: 正しいとか、間違ってるとか……私も正直、よくわからないんです。だから自分の感性を一番大事にしようと思ってます ピュルテ: この町みたいに……魔物に誰かが襲われて悲しい思いをするなら、魔物の原因のディマイトを抑えたい。私、難しいことはわからないし、それだけなんですよ ピュルテ: そうやって信じた行動を続けたら、結果的にですけど、皆さんともこうして再会できたじゃないですか!だから……きっと間違ってなかったんだ、って思ってます ピュルテ: えっ!?ちょ、人間さん!? やめてください、なんで急に頭なんて下げて…… ピュルテ: あり、がとう……? ピュルテ: 私が支えだった……いてくれてありがとうって……うん、そう言ってもらえるだけで、私はもう…… クレア: まだ寝ないの、ピュルテ。あっ クレア: ごめん、ラブラブ中だったね ピュルテ: いえっ、その、そういうわけじゃなくて……ないのかな、ど、どうかな? クレア: 人間さん。ピュルテを大事に。いい奥さんになるよ ピュルテ: クレアさん~っ!や、やめてくださいっ、もうっ! リル: じゃあな。貴君らの旅の無事を、心より祈っている ティンカー・ベル: いつでもストーキングに戻ってきていいんだからね! リル: ち、違う!小生は本当にたまたま近くにいるだけなんだ! ピュルテ: 無理しすぎちゃダメだよ、リルちゃん リル: それはピュルテの方だ。背負い込みすぎるんじゃないぞ。辛いことはその男に押し付ければいい ドロシー: いよいよ次の町ね。その、なんだっけ?飲み屋の場所よね エミリー: リベルタリブロ。もう、みんな固有名詞に弱すぎない? ヴェルメリオ: ……なんか、こうしてみんなで旅ができるの、なんだか不思議な感じ シンデレラ: そうよね。もう二度と会えないんじゃないかって、本当に思ったわよね ヴェルメリオ: ……うん。だから、不思議だけど、嬉しい シンデレラ: さあ、それじゃあ行きましょう。アリババもフォルミーカも、本当にありがとうね ピュルテ: あっ、あれ! クレア: どうしたの……あっ、虹 ティンカー・ベル: ティンカたちが行くほう、丘の向こうに虹がかかってるよ! ヴェルメリオ: ……なんか門出を祝ってもらってるみたい ティンカー・ベル: ずきんの場合、人間さんと夫婦の門出って意味で言ってそうだからなー ヴェルメリオ: ……そ、そんなこと!ちょっとしか考えてないもん ティンカー・ベル: ちょっとは考えたんかい ドロシー: 虹がかかるっていうのは縁起がいいわよ!テンション上がってきたわ! エミリー: そうだねぇ。やっぱり旅は明るい気持ちで進まなくちゃねぇ クレア: じゃあ、出発…… クレア: ……っ!? ピュルテ: どうしました? クレア: いま……誰かに見られてたような…… ピュルテ: 見られてって……ここに潜んでたってことですか。いったい誰が…… クレア: ううん、気のせいだよ。みんな楽しい気分だし、やめよう ピュルテ: え、ええ……そうですね 177 - サミット開幕 プリンセス・シンデレラ: 最初に開会宣言があって、その後に資源運用に関するパネルディスカッション。そこで休憩が入って昼食会になるわ ドロシー: さすがシンデレラ、慣れてるわね ピュルテ: 開会宣言は一番偉い人がするんですか? プリンセス・シンデレラ: 各国のトップだから、上下の差はないわ。持ち回りで今回は……、あ、ほら パレンディアス: それでは!今回はわらわが開会宣言をさせてもらおう!こうして見慣れたメンツが集まったこと、わらわは嬉しく思う パレンディアス: 特に、シンデレラ……国が大変な中、招待状も届かなかったかと危惧しておったが、無事に顔を見られてわらわは嬉しい ピュルテ: いくら大変って言っても、こんな場面で触れてくれるものなんですね プリンセス・シンデレラ: さっき挨拶しといたの。ここで言及することで、やんわりとサミットとしてクーデターを否定してもらうってわけ ドロシー: よくわかんないけど、シンデレラの思惑どおりってわけね パレンディアス: えー、であるからして……なんかこう……なんやかんやでサミットの開会を、ここに宣言する! ピュルテ: でもスピーチの最後は適当でしたね!? ドロシー: 私は初めてのサミットだし、ここはシンデレラがリードしてよね プリンセス・シンデレラ: 分かってるわ。作戦はある程度立ててある ピュルテ: 私は外交官って顔をしておけばいいんですね ドロシー: 私はまずオズを見つけて一言文句言ってやるわ。見てよ、お昼ごはんのメニュー!こんなに豪華だなんて ピュルテ: 荷物を宿に運んでくれている人間さんたちも、後から合流してくれる予定です ドロシー: あまり大勢でぞろぞろ来てもしょうがないだろうけど、人間さんにはいてもらった方がよさそうね プリンセス・シンデレラ: ひとまず会場にはみんな来てもらいましょう。今回のサミットは雰囲気もどこか違う……いつもみたいな飲み会では終わりそうにないわ ティンカー・ベル: うっひゃあー!すっごいキレイな町だね。なんか都会だし、洗練されてるって感じ ヴェルメリオ: ……これが、リベルタリブロ クレア: たぶん初めてくると思う エミリー: 自由中立都市、リベルタリブロ。元は商人たちが作ったギルドが発祥の港町だけど、それ以来、誰にも支配されない中立地帯として確立されていったの クレア: またエミリーが頭いいふりしてる ティンカー・ベル: うける!ほんとだね! エミリー: ひどいよ、ふたりとも!あっ、人間さんまで笑って! ヴェルメリオ: ……ねえ、なんか空を飛んでる。あれって、もしかして エミリー: 飛空艇だねぇ。このリベルタリブロは、商業都市だから新しい技術とかもいっぱいあるんだよぉ ティンカー・ベル: すごいよね!さっきお店の前通ったらさ、ドアが勝手にあいたし! クレア: ティンカってば。反対側に誰かいただけだよ エミリー: ああ、自動ドアとか普通にあると思うよ クレア: 自動!? エミリー: 氷の洞窟のコミッティ施設にもあったでしょ。まあ、あの時はフェルディナのことで、みんないっぱいいっぱいだったかな…… ヴェルメリオ: ……そう言えばフェルディナ エミリー: うん。この町なら人もたくさんいるし、なにか手がかりがあるかもしれない ティンカー・ベル: でもさ……あの後、逃げちゃったんだよね。コミッティに戻ってはいないのかな エミリー: コミッティの関連施設とも連絡がつかないんだよね。最初はコミッティにもなにかあったと思ったんだけど ヴェルメリオ: ……エミリーが、締め出されてる? エミリー: たぶんね…… クレア: 大丈夫。ひとりじゃないよ、エミリー エミリー: うん……ごめん、変なテンションにしちゃったね! さ、早く宿に荷物置いて、サミット会場の方に合流しよう ティンカー・ベル: さてと、荷物も部屋に置いたし……会場の方に行こうか クレア: ちょっとおなかすいた。ごはん食べられるかな エミリー: うーん、普通に食事会はあると思うけど、エミリーたちの分まであるかはわかんないねぇ ヴェルメリオ: ……キッチンとかあれば、わたしがちゃちゃっと作れるんだけど ティンカー・ベル: そんなに急いで合流しなきゃいけないわけでもないし、なんかお弁当でも買ってこようか? エミリー: そうだね。サミットは、まずは魔法の国のクーデター対策だけど、これはシンデレラの領域だし ヴェルメリオ: ……わたしたちは、情報収集が役割だもんね ティンカー・ベル: いま世界がどうなってんの、とか。コミッティはなにやってんの、みたいなね クレア: うん、じゃあ行こっか エミリー: エミリーとヴェルがお留守番?オッケー、じゃあよろしくね クレア: エミリー、なに弁当がいい? エミリー: んー、美味しいのがいい クレア: それは、なに弁当? エミリー: 美味しいやつ (背景切換...) ティンカー・ベル: まあ、適当に何か買ってくればいいよ クレア: ああいうの困る ティンカー・ベル: ちょっと怒ってるの?クレアってば クレア: 怒ってはない (ゴーンゴーン) クレア: この音、なんだろう ティンカー・ベル: あの塔みたいなやつじゃん?上にほら、鐘が付いてる クレア: とけいとう?人間さんもエミリーに負けないくらい物知りだね ティンカー・ベル: とけい?ああ、フックがなんか、あれのちっちゃいやつ持ってた! クレア: あれなんなのかは分からないけど ティンカー・ベル: へー、時間をねー。昼とか夜以外にも細かくなってんだね。あっ、あそこのお店美味しそうだよ クレア: お肉がいい ???: 冗談じゃないわ! ティンカー・ベル: ん?なんかプリプリ怒ってるお姉さんがいるね 178 - 500ゴールドのサンダル ???: もう、本当に!どういうつもりで、町じゅう石畳にしてるのかしら!? ティンカー・ベル: 何と戦ってるのかな、あの人は クレア: 石畳、おしゃれなのに ???: こんな石畳、隙間にヒールが挟まって歩きづらいったら! 考えたら分かるじゃないのっ! ティンカー・ベル: ありゃりゃ、ハイヒールが折れちゃったのか クレア: あっ、人間さん?どこ行くの?え、そこに靴屋があるから……? ???: こんなときに限って、部下が誰もいないしっ……この私を誰だと思って…… ???: えっ?あなたは……誰なのよ。そのサンダルがなんだっていうの……えっ ティンカー・ベル: あ、そこの靴屋で買ったの? ???: そんな、見ず知らずの相手にどうしてそんな……い、いえ、お代は払いますわ。500ゴールドだからって、はいそうですかとは ティンカー・ベル: しかも履かせてあげちゃうんだ!あ、ヒールが折れてて立てないから? ???: そ、その……ちゃんと御礼をさせていただかないと…… ティンカー・ベル: 礼なんていい、とかカッコつけすぎでしょ、人間さん! クレア: 好みだったのかな ティンカー・ベル: 人間さんてば、こういう時の行動力すごいよね クレア: 好みだったんだよね ティンカー・ベル: ずきんが見たら、そわそわしながら自分のヒールへし折ってそうだよね クレア: ヴェルってそんなになの? ???: あ……何かしら、なんだか急に胸が……あの方の遠ざかる背中を見ているだけで、私……もしかして、これって お姉さんの付き人?: お待たせしましたー。いやあ、パストラミサンド探すのに手間取っちゃって ???: それに引き換え私の部下ときたら……この役立たず! お姉さんの付き人?: あれ、そのダサいサンダルどうしたんですか (パァン) お姉さんの付き人?: 痛い!なぜビンタ!? ???: はあ……また……会えるかしら…… ティンカー・ベル: よーし、お弁当が冷めちゃう前に急いで帰ろう! クレア: あ、もうさっきのお姉さんいないね ティンカー・ベル: ずっと立ってるわけないじゃん。人間さんがサンダルくれて、歩けるようになったんだし クレア: 人間さんのこと待ってたりするかと思って ティンカー・ベル: ああ、その可能性はあったね クレア: 残念だったね、人間さん ティンカー・ベル: そんなんじゃないとか、まーたまた強がっちゃって♪ (背景切換...) ティンカー・ベル: お待たせー、美味しそうなのがいっぱいあったよ! ティンカー・ベル: ……って、どしたの?なんかちょっと変な空気じゃない? ヴェルメリオ: ……さっき、わたし、宿のバルコニーから外を見てたの。そしたら……フェルディナに似た人がいて ティンカー・ベル: ええっ、マジで!? ヴェルメリオ: ……すぐ降りたんだけど、3階だったから下まで行くのに時間かかっちゃって クレア: それで見失っちゃったんだ ヴェルメリオ: ……もしかしたら人違いかもしれないけど エミリー: ううん、本人だと思う。やっぱりサミットみたいな、こういう場には来るんじゃないかって思ってた ティンカー・ベル: ねえ、人間さん。ティンカとエミリーは、町の情報収集に行ってもいいかな エミリー: えっ、ティンカ? ティンカー・ベル: だってエミリー、もうフェルディナのこと気になっちゃうでしょ?それに全員でサミット行かなきゃいけないもんでもないしさ クレア: 人間さんも、それがいいって言ってる エミリー: 人間さん……。うん、ありがとう。ティンカも、一緒にお願いしちゃっていいかな ティンカー・ベル: 全然いいよ!ほら、すぐ行こう。お弁当は持って行けば、どこかで食べられるからさ ヴェルメリオ: ……見つかるといいね クレア: でも、見つけたあとどうするかも難しい。エミリーは、どうするのか決めてるのかな ピュルテ: ようやく……何が起こってたのか、分かり始めましたね プリンセス・シンデレラ: 自分の国の情報なのに……何も分かってないなんて、もどかしいし、情けないわ ドロシー: しょうがないわよ。マザー・ティターニアだって、当事者すぎて何が起こったかなんて把握できなかったでしょうし ピュルテ: 事件が起こったのは、魔法の国の北東部沿岸で魔物出現騒ぎがあったときです ドロシー: 大型の魔物が出現って報せを受けて、ガラスの騎士団の主力が向かったのね ピュルテ: そのタイミングで反乱勢力が帝都中心部で一斉蜂起。議会も、王城、各省庁に至るまで制圧されました ドロシー: 残っていた騎士団の半数近くがその勢力に加わったそうよ。でもこれは、裏切りというより元々スパイとして入り込んでいたと見るべきじゃないかしら ピュルテ: そうなんですか? ドロシー: 手際が良すぎる。かなり前から計画していたはずよ。ってことは、帝都の治安部隊にスパイを送り込むぐらい、やると思うわ プリンセス・シンデレラ: 可能性は高いわね。まあ、それとドロシーの、私への気遣いでしょうけど ドロシー: ……ほんとに、そう思うわよ。裏切りなんかじゃないわ ピュルテ: 首謀者は元枢密院議長。現在は、魔法の共和国と改めて大統領に…… プリンセス・シンデレラ: あんのっ……クソジジイっ……! ピュルテ: シ、シンデレラさん! プリンセス・シンデレラ: あ、えっと、ごめん。つい熱くなっちゃって ドロシー: 人間さん、早く来ないかしら。彼がいれば、シンデレラだって少しは落ち着くでしょ ピュルテ: 少なくともあんな顔はしませんね プリンセス・シンデレラ: やだっ、そんなひどい顔だった!? プリンセス・シンデレラ: とにかく……まだ元議長の背後に誰がいるかは分からないわけね ドロシー: 議長の爺さんだけじゃ、この規模のクーデターは起こせない気がするし、誰かがいるはずなんだけどね プリンセス・シンデレラ: まあいいわ。私の飲み友ネットワーク、甘く見るんじゃないわよ……! 179 - 王族の飲み会 プリンセス・シンデレラ: 最初にまず申し上げておきます。これは元枢密院議長という立場の者が主導し、国軍内部から呼応して軍事的に制圧したもの ピュルテ: サミットで、オトギ連合軍を形成してクーデター勢力を一掃する……実現すれば、私たちも安心ですけど、そんなにうまくいくんでしょうか ドロシー: そのために来たんだから。なんとかするのよ クレオパトラ: クーデターって、大体みんなそんな感じじゃないの? パレンディアス: うむ。シンデレラよ、まだるっこしいのはなしじゃ。何がいいたいのか、なんかこう……うまいことまとめよ プリンセス・シンデレラ: そうね。では一言、これは人民による、人民のための行動ではない。革命ではなく、外敵からの侵略よ! クレオパトラ: それで、連合軍を作って反乱分子を叩くっていうの? ナード: しかし、それでは帝都は焦土となってしまいます プリンセス・シンデレラ: 圧倒的物量を持って外郭拠点を叩き、本隊を威圧するのよ。敵は信念を持って動いているわけじゃないんだから パレンディアス: 脅せば散る、烏合の衆……というわけか。なるほど ナード: 我が国のような小国は、これまで何度も帝国に助けられてきました。もし力添えできるのなら、参加しましょう クレオパトラ: ドラゴニュートは早々に参戦を決めるのね。ふうん。メリットあるかな。レーヌさんはどうするー? プリンセス・シンデレラ: 首謀者は私を恨んでるヤツだけど、焚き付けた黒幕がいるはず。でも、その正体は分からない パレンディアス: だーかーら、なんかこう、もっと分かりやすくならんのか プリンセス・シンデレラ: そいつが次に狙うのは、クレオパトラ……あなたのとこかもしれないわよ クレオパトラ: とっ捕まえて縛り上げて吐かせれば、みんな安心して飲めるってわけね パレンディアス: むー、わらわが議長の回に限って、なんだってこんなマジメな話題が出てくるんじゃ プリンセス・シンデレラ: みんな、お願い。私は、またみんなで、楽しく飲みたいだけなの ピュルテ: 参加してくれる人が増えてきましたよ ドロシー: 早々にナードとスラーが賛成してくれたのは大きいわね ピュルテ: エルザさんやエリーネアさん、それに乙姫さんは借りを返すって感じみたいですね クレオパトラ: 玉環も参加しとくの?んー、じゃあみんなでやっとくかー パレンディアス: もう、みんなやるって言ってるんじゃ。なんやかんやうまいこと空気読んで、さっさと飲み始めんか? プリンセス・シンデレラ: お願い。助けてもらった恩は、必ず返すわ ピュルテ: ヴィルデローゼさんとマルガレータさんも、賛成してくれましたよ……! ドロシー: この超大国2つが賛成しちゃえば、あとはもう全会一致になるわよ。よかったわ、これで魔法の国はなんとかなりそうね! パレンディアス: よぉし!これで可決、可決!近日中に連合軍を結成して作戦を開始する。指揮官をどこから出すかは、後ほどアミダで決めよう! プリンセス・シンデレラ: 皆さん、ありがとうございます ドロシー: ふー、だいぶ根回しはしてたと聞いてたけど、やっぱり結果が出るまでは怖いものよね クレオパトラ: みんな賛成してあげたんだからさー、分かってるよねー、エラちゃーん プリンセス・シンデレラ: 分かってまーす。ちょっとピュルテちゃん、人間さんまだ来ないわよね? ピュルテ: ええ、まだ来る気配はありませんが…… プリンセス・シンデレラ: はーい!じゃあ皆さん、ご協力いただいた御礼に!エラちゃんの宴会芸、10連発いきまーす! (背景切換...) ???: なんですって!?私抜きで始めてるっていうの!? お姉さんの付き人?: ええ、なんか本会議じゃないからって声がかからなかったみたいで ???: この私を仲間外れにして会議を進めようだなんて……シンデレラの陰謀ね!ふざけた真似してくれるわ! クレア: あれっ、お姉さんは ???: ……っ!あ、あなた! ???: あなたはさっきの……っていうことは、えっ? クレア: 人間さん、さっきのお姉さんだよ ???: あ、あなたとまたこんなふうに会えるなんて……! ヴェルメリオ: ……そして、わたしがこの人の妻です ???: えっ!?結婚してたの!? クレア: ヴェル、嘘はよくない ヴェルメリオ: ……だって ???: やだ、驚かせないでよ……!でも、本当にこんな再会って、運命感じちゃう……! クレア: ほら、挨拶もしたんだから、もう行こう ヴェルメリオ: ……でも、場所どこだろ ???: あら、場所が分からなくて困ってるの?ふふ、恩返しにもならないけど協力するわ。どこへ行くんですの? ???: ほら、あんたが調べるんだから、ちゃんと聞いてなさいよ お姉さんの付き人?: はっ、はいいっ! クレア: シンデレラって人がお酒飲んでる場所が知りたいです ???: ……!?シンデレラ?あなたたち、シンデレラの関係者なの……? クレア: 友達なの? ???: あ、いえ……有名だから、ほら ヴェルメリオ: ……これが部屋の場所?地図まで書いてくれて、ありがとう ???: いいのよ、それじゃあね お姉さんの付き人?: まさか……こんなところでシンデレラ陣営と遭遇するとは、驚きましたね ???: これもまた運命なのかしらね……結ばれない運命とでもいうのかしら お姉さんの付き人?: あのまま行かせてよろしかったんですか、シャルロッテ様 シャルロッテ: 構わないわ。あの子たちには何もできないでしょ。それよりも……明日の会議に向けて準備よ。今日の遅れた分、必ず取り戻すわ 180 - 役目 シャルロッテ: 簡単に見えるけど、そんなことができる人ってなかなかいないと思わない? ペロー: 運命の出会い、ですか……なるほど、なるほど シャルロッテ: あなたも会えば分かるわよ、ペロー。こんな、通信で話すだけじゃ、彼の魅力は伝わらないわ シャルロッテ部下: 運命の出会いも結構ですが、シャルロッテ様。彼らのうち数名はロゼッタ・ゲートを通過しています。油断は禁物です シャルロッテ: それ、本当なの?1人ならまだしも複数だなんて、ありえる? シャルロッテ部下: ログデータによれば間違いなく4名が通過しています シャルロッテ: 天空神殿の支配する世界で、意味あるのかしらね ペロー: まずは器が必要なのですよ。あとはいかようにでも使えましょう。それよりも問題は シャルロッテ: 鍵……ってことね。誰がゲートの鍵を開けたのか…… シャルロッテ部下: あの、シャルロッテ様。それで今からの作戦ですが シャルロッテ: 作戦はペローが考えてくれた完璧なものがあるわ。そのとおりに進めるのよ シャルロッテ部下: で、ですから、それを完璧に遂行するための準備というかですね シャルロッテ: あなたがやるのよ、そんなことは シャルロッテ部下: も、もちろん酒は仕込んでおきます!ただ、その後の二段構えの方をですね シャルロッテ: 分かってるわよ。私は名門グリムだもの。フェル姉さまの『意見聴取』だけじゃない、ちゃんとペローの用意してくれたおみやげもいただいていくわ (背景切換...) ピュルテ: シンデレラさん……正直、今の芸というか、ええ。ちょっと……いえ、かなりびっくりしましたけど…… ドロシー: 最高!シンデレラ、あなた最高だわ!もう笑いすぎて腹筋が割れるかと思ったわよ プリンセス・シンデレラ: 人間さんには絶対この話はしないでよね。約束して ピュルテ: シンデレラさん、目が怖い ドロシー: 言わない……っていうか言えないわよ!王族勢揃いの中であれって、もうやだ、最高だけどサイテーだわ! ピュルテ: そうですね……王族とか以前に、あの、女の子ですし、ね? プリンセス・シンデレラ: うっさい!分かってる!それより、会場内に妙なやつはいなかった? ピュルテ: 妙なやつ、ですか? ドロシー: 今の爆笑芸に反応しないで、どこかに連絡取るようなやつ、ってことよね。私が見る限りいなかったわよ ピュルテ: ふざけてるようで、意味があったんですね! ドロシー: あそこまでやる必要はなかったけどね、ぷっ、ぷくくっ、あはははっ! プリンセス・シンデレラ: 明日は本会議ね。たぶんコミッティの連中も出てくると思うわ ピュルテ: え?どういうことですか? プリンセス・シンデレラ: オトギサミットにはコミッティも出席が可能らしいの。私は見たことないんだけど ドロシー: 今日のこれにはいないわよね? プリンセス・シンデレラ: これは安全保障分科会だから。国家を持たない出席者は呼ばれないわ ピュルテ: だからこの場で、クーデター鎮圧の話をしたんですか! プリンセス・シンデレラ: 議長の背後にコミッティがもし関与してるなら、連合軍の話も潰しにくる可能性があったわ。だから、今日のこれが勝負だったの パレンディアス: おぉい、飲んでるか?わらわの今度の新作、見てみろ! セクシーじゃろう! ピュルテ: パンツ一枚じゃないですか!?もう、みんなして、なんて品のないサミットなんですか! ドロシー: 明日か……この連合軍のこと、向こうの耳にも入ってるでしょうね。果たして、どう動くかしら…… (背景切換...) シャルロッテ: それで?フェル姉さまたちの居場所はまだ分からないの? シャルロッテ部下: 申し訳ございません、シャルロッテ様。このリベルタリブロにいることは間違いないとのことなのですが…… シャルロッテ: くっ……ここで実績を作るのもいいけど、本来の『意見聴取』に失敗したんじゃ本末転倒だわ シャルロッテ部下: 実績、ですか シャルロッテ: 私だって名門グリムの一員。けど、実績が足りないのよ。だから、このサミットでも私の功績を積み上げるの シャルロッテ部下: ジャコヴァ様に認めていただくため、ですね シャルロッテ: でも……サミットの作戦って、これ……あの人を悲しませてしまうかしら シャルロッテ部下: 例の男性ですか? シャルロッテ: シンデレラ陣営の一員みたいなんだもの。陣営の中でどういう役割なのか分からないけど、もし私のせいで彼がシンデレラに粛清でもされたら…… シャルロッテ部下: そもそも、サミットの件も進めてしまって良いのでしょうか シャルロッテ: ペローの作戦は元々あったんでしょ。私が引き継いだだけよ。いちいちお伺い立てるなんて、子供の使いじゃないんだから ピュルテ: あっ、人間さん。ヴェルちゃんとクレアさんも。 遅かったじゃないですか ヴェルメリオ: ……ごめん、建物の中で迷っちゃって クレア: もう辿り着けないかと思った ドロシー: ヴェルはともかく、あんたたちもついていながら何やってんのよ ピュルテ: まあ、複雜な作りですからね。あ、皆さん、首尾は上々ですよ パレンディアス: おお、なんだ、増えたのか?みんなで盛り上がるぞ クレオパトラ: もー、パレンディアスってば飲みすぎよ プリンセス・シンデレラ: そんな固いこと言わないでぇ~ほらほらぁ~。クレオパトラもさ、みんなでバカになっちゃお~よ~ プリンセス・シンデレラ: って、人間さん!?あ、えっと、こほん。大丈夫、すべてうまくいってるわ ナード: シンデレラ姉様、さすがでした。とってもカッコよかったですわ プリンセス・シンデレラ: ナードこそ、いち早く手を挙げてくれて……ほんと、助かったわ ウェイター: おかわりいかがですか プリンセス・シンデレラ: あら、ありがと…… パレンディアス: おおーっ、気が利くのぅ! クレオパトラ: あーっ、横から取ったりして! パレンディアス: んっ……んんっ、な、なんだ、か、身体が熱いっ……!? クレオパトラ: ちょっと、ちょっと!いくら暑くても、これ以上は脱ぐものないんだからね!? ピュルテ: ま、待ってください!この気配、まさか!? パレンディアス: んぐぅ……ああっ、あああっ!? ドロシー: まさかディマイト暴走!? パレンディアス: わらわの、わらわの服を見ろぉおおっ!! ナード: ディマイト暴走ですって……こんな厳重な警備の中で……? プリンセス・シンデレラ: はっ!?さっきのウェイター!誰か、あいつを…… クレオパトラ: 今は犯人探しよりも……目の前のこっちに集中しないと! パレンディアス: ちぎっては投げ、ちぎっては投げぇえっ! 181 - 鎮圧の罠 プリンセス・シンデレラ: ふう……なんとかなったわね クレオパトラ: 相変わらず人間さんのエルマイトもすごかったわね ピュルテ: 無事に抑え込めて良かったです。パレンディアスさん、大丈夫ですか? パレンディアス: んんっ、ううっ……す、すまない。意識はあったのだが、わらわの身体が勝手に…… ドロシー: 立てる?大丈夫? パレンディアス: ああっ、服が破れてしまってる。よ、よせ、人間さん!じろじろ見るでない! ヴェルメリオ: ……えっ、最初から裸だったよね……? クレア: 正直者にしか見えない服らしいよ パレンディアス: 待っておれ、いま新しい服に着替えるからな クレア: って着る新しいのも透明 ドロシー: もはや、ただのパントマイムだわ ナード: さすがです、シンデレラ姉様!やはりディマイトはこの方たちにお任せするのが一番です! ピュルテ: えっ、あっ……会場から拍手が! ドロシー: みんなが今ので認めてくれたみたいね シャルロッテ: あの人……人間界から来た人だったのね……あんなに強いエルマイトを使いこなして……素敵…… シャルロッテ部下: シャルロッテ様、出番ですよ シャルロッテ: だって素敵なんだもの。ああ、私のこの胸の高鳴り……これは本物だわ……はぁっ…… プリンセス・シンデレラ: それじゃあ飲み直しましょ!え、なに、人間さん。やだ、こんなとこにお酒こぼれてるなんて プリンセス・シンデレラ: ふふっ、今回もまた、あなたのエルマイトに助けられたわね。ううん、エルマイトだけじゃない。あなたがいてくれるから私…… シャルロッテ部下: おー、なんかイチャついて。いいなあ、あれってやっぱり付き合ってんのかな シャルロッテ: ………… プリンセス・シンデレラ: やんっ♪もう、こぼしたの拭くとか言って、変なとこさわんないの。もう、エッチ♪ シャルロッテ: …………っ! シャルロッテ部下: シャルロッテ様? シャルロッテ: あれは一体どういうことなんですの? クレオパトラ: どういうって?ああ、人間さんとエラちゃん?んー、なんか微妙な関係なんじゃないかな シャルロッテ: 微妙な関係って、どういうことです!? パレンディアス: んー、まあ、だから……なんとなくあるじゃろう。なんやかんやでラブラブだったりするのではないか? クレオパトラ: エラちゃんも未亡人なわけで、まあ落ち着いたら再婚しちゃうかもしれないし ナード: あれ?人間さんってシンデレラ姉様ともう婚約されたのでは? ヴェルメリオ: ……そんな根も葉もない噂を誰が流すの クレア: どうしたの、お姉さん。ぷるぷるしてるけど クレオパトラ: そう言えば、あなたは……どなただったかしら?あまり見ない顔だけど シャルロッテ: 私は……インペリウム・コミッティ、第六号委員、シャルロッテ・グリムよ クレオパトラ: え……えぇっ、コミッティ!? クレア: えっ、そうだったの! シャルロッテ: あの方が……シンデレラと再婚ですって……!冗談じゃないわっ パレンディアス: お、おい、コミッティが何故この場に…… シャルロッテ: おだまりなさい!皆さん、よくお聞きになって!まやかしに騙されてはいけませんわ! ドロシー: ん、なになに。どしたの。あのヒスっぽく騒いでるのは誰? ヴェルメリオ: ……それがコミッティの人だって ピュルテ: ええっ!?ど、どういうことなんです シャルロッテ: 表面上、ディマイト騒ぎをおさめたように見えますけどね、そもそもこれ自体がマッチポンプの可能性だってあるのですわ! パレンディアス: わらわのディマイト堕ちが、シンデレラたちの企みだと?バカな…… シャルロッテ: そもそも…… シャルロッテ: ……ごめんなさい、愛しい人…… クレオパトラ: え、なに、人間さんの方見て、何があるっていうの? シャルロッテ: 『あれ』は皆さんも今ご覧になった通り!強力なエルマイトを有し、その気になれば山1つ吹き飛ばせるシロモノ! シャルロッテ: 世界の脅威となりうるものですわ! シャルロッテ: 『これ』の威力は皆さん、ご覧になったとおりですわ。使い方を誤ればどうなるか……想像に難くありませんわ ヴェルメリオ: ……そんな、人間さんをモノみたいに言わないで ピュルテ: そうです!人間さんはちゃんと自分の意志を持って行動する人です。変なことにエルマイトを使ったりしません! シャルロッテ: そうだとして、悪意ある者に絶対に騙されない保障は? ピュルテ: えっ、そ、それは……人間さんは、しっかりした人ですから…… シャルロッテ: お話にならないわ!それこそモノではないというのなら、感情に左右されたり、誰かに騙されたり、判断を間違うことなど……大いにありえるでしょう プリンセス・シンデレラ: 可能性は否定しないわ。そうだとして……どうするべきだと言いたいのかしら シャルロッテ: 少なくとも、ある一国の管理下で独占されている状態は、望ましい状況とは言えないわね ドロシー: 人間さんをどうしようって言うのよ! シャルロッテ: 公益のために、この力を使うというのであれば、ここ中立都市リベルタリブロに留め置くべきだわ クレア: それじゃ、旅は…… シャルロッテ: エルマイトが必要なら、このサミット参加者の承認を経て出動させる。それが正しい運用なのではなくて? プリンセス・シンデレラ: くっ……! ドロシー: シンデレラ!なんとか言ってよ!私じゃもう、言い返せないわ! クレオパトラ: 人間さんを実力のある『誰か』ではなく、強大なエネルギーを持つ『何か』として扱う……彼女が言ってるのは危険物の管理方法なのよ パレンディアス: 屁理屈じゃ。だが、それでも反論できなければ負け…… シャルロッテ: 異論は、ないかしら? シャルロッテ: ないなら、連行しなさい!エルマイトが流出しないよう、勾留するのよ! ピュルテ: そ、そんな……!人間さん!人間さんが連れて行かれちゃいます! プリンセス・シンデレラ: 大丈夫よ……!このままでは終わらせない……終わらせるもんですか……! 182 - 救出への決意 シャルロッテ: 強大なエルマイトを持つ『これ』は、このリベルタリブロに留め置きます。運用は、サミットの総意を以て行う。いいですね クレオパトラ: 人間さんの人格を否定してモノと扱うなら、確かに脅威の最終兵器なのよ パレンディアス: わらわとて、これでも一国の王……助けたくとも、むやみやたらには動けん ヴェルメリオ: ……人間さん!そんな、人間さんが連れて行かれちゃう ピュルテ: このままじゃずっと、このリベルタリブロに閉じ込められちゃいます! ドロシー: こうなったら、力ずくで…… プリンセスシンデレラ: ダメよ、ドロシー。今は待って。ここで動けば全員、騒乱罪で勾留されるわよ ヴェルメリオ: ……じゃあ、どうしたら プリンセスシンデレラ: 今は耐えるの。ここで暴れたら相手の思うつぼなのよ ピュルテ: 人間さんのこと、助けられますよね? プリンセスシンデレラ: 当たり前でしょ。必ず助け出すわ (背景切換...) ティンカー・ベル: むぐむぐ……お弁当、美味しいじゃん。サミットは豪華なごはん出てるんだろうけど、これはこれで…… エミリー: ごめんね、ティンカ。付き合わせて ティンカー・ベル: お弁当、美味しいって言ってるじゃーん エミリー: ううん、付き合わせて……っていうより、先回りして気を遣ってもらったんだよね ティンカー・ベル: エミリーは気にしすぎ。ティンカがエミリーに何かするのは、もう息をするのと同じなの。だからそうやって気にしない! エミリー: うん……ありがとう ティンカー・ベル: どんとこいだよ!ティンカだって、あのなんとかゲート行って、かなり頼れる感じになったはずだしさ エミリー: ロゼッタ・ゲートだよね。エミリーも詳しくは知らないけど、怖い話しか聞かないのに…… ティンカー・ベル: マジで!? 結構カジュアルに行っちゃったよ! ティンカー・ベル: にしてもさー、やっぱり見失っちゃったね。どこ行ったんだろ、フェルディナ エミリー: ……それなら、心当たりがあるんだよね ティンカー・ベル: あ、まただ……! エミリー: 衛兵隊が走ってく……サミット会場の方だね。何かあったのかな ティンカー・ベル: 大イベントだから警備が厳重なんだよ。それよりフェルディナの心当たりって、ここ? エミリー: フェルディナが必ず泊まる宿があるの ティンカー・ベル: この町、初めてじゃないの?エミリーも、フェルディナも エミリー: ここはいろんな国際機関があるから、コミッティはみんな何度か来てるよ。エミリーは来ても、時計台とかスケッチして遊んでたけど ティンカー・ベル: でも、すごい高い宿なんじゃないの。そんとき泊まってた宿なんてさ。今のフェルディナ、お金あるかな? エミリー: ううん、1泊7000ゴールドだよ。物価の高いこの町では、かなり安い宿 ティンカー・ベル: おおっ、確かに親しみやすい見た目! エミリー: 当時からグリム家って身分を隠して、みんなと別の宿に泊まってたの。ほら、ひねくれてるから ティンカー・ベル: あーでも、姐さんも身分を隠して旅してるし……そういうものなのかもね エミリー: あっ、あれ!思ったとおりだよ! ティンカー・ベル: フェルディナだ! フェルディナ: エミリーっ!? え、ちょ、なんでここに……!? ティンカー・ベル: あっ、逃げたっ! エミリー: フェルディナっ、なんで逃げるの! (背景切換...) ピュルテ: 人間さん……だ、大丈夫ですよね?ひどいことされたり、しないですよね? シンデレラ: 種類による、かしらね ヴェルメリオ: ……種類って、えっ、どういうこと ドロシー: ケガさせられたり、ましてや命の危険なんていうのは、心配いらないのよ クレア: ん?じゃあいいんじゃないの ドロシー: どうして心配いらないかっていうと、この後どうするかはサミットが決める、みんなの財産だから ピュルテ: 財産……あっ、そういうことですね。モノとしては大事にされるけど、気持ちとかは尊重してもらえないかもしれないっていう…… シンデレラ: それは、あのシャルロッテとかいうコミッティの小娘次第、ってところでしょうね ドロシー: 小娘って。シンデレラってば最近、口が悪いわね ティンカー・ベル: はぁっ、はぁっ、どこいったの、フェルディナ……意外と足が速いっ…… エミリー: もうっ……はぁ、はぁ、人の気も知らないで…… (きゃああっ、は、放してよっ!) エミリー: 今の声! こっちだ! フェルディナ: 放してっ、や、やめてっ! 兵士1: お願いします、フェルディナ様。我々もコミッティの方に手荒な真似はしたくありません フェルディナ: 私を、んっ、どうしようっていうのよっ……!はぁっ、はぁっ、放してっ、くうっ…… 兵士2: シャルロッテ様による『意見聴取』が発令されているのです フェルディナ: なっ……『意見聴取』っ……!? ティンカー・ベル: ちょーっと待ったぁ! 兵士1: むっ、誰だ!? ティンカー・ベル: まったく貴君らは本当に世話が焼けるなあ フェルディナ: あ、あんた…… ティンカー・ベル: 最近、ティンカ似たようなこと言ったなー。やっぱりカッコいいヒーローなところ、隠しきれないみたい 兵士2: なんか頭のおかしいのが出てきたぞ エミリー: 頭はおかしいかもしれないけど、実力もヤバいから気をつけてねぇ 兵士1: えっ、あ、あなたは……まさか ティンカー・ベル: ちょっと、エミリー!ティンカは頭おかしくないからね!かもとか、可能性を感じさせないでよ! 兵士1: エミリー……ま、間違いない。コミッティ第5号委員のエミリー様ですか! エミリー: ここはエミリーの顔に免じて、一旦退いてくれないかなぁ? 兵士1: し、しかし『意見聴取』は議決されていて エミリー: なぁに?免じられないのぉ?エミリーのお顔、免じるほど可愛くないってことぉ? 兵士1: ひっ……し、失礼しました。おい、行くぞ フェルディナ: エミリー…… 183 - 私の姉 フェルディナ: エミリー、その……あ、ありがと…… エミリー: フェルディナっ!やっと見つけたっ……! エミリー: もう……今まで何やってたの……?エミリー、本当に心配してたんだよ フェルディナ: そんなことより町を抜け出さないといけないの。大変なことになるかもしれないから。とりあえず荷物今すぐまとめて エミリー: ねえ、勝手に抜け出したら不安になるんだよ。せめてお手紙でもあればエミリーだって……ねえ、聞いてる? フェルディナ: えっと、それは分かったけど、今はそれどころじゃないの。 エミリー: フェルディナは助けられて居心地悪かったかもしれないけど……。やっぱり、敵どうしだったし エミリー: でもピュルテもクレアも人間さんも、心配してたんだよ。エミリーだって……大事なお姉ちゃん、家族なんだから フェルディナ: うるさいわね、さっきから!私はエミリーを守るために全部やってあげるの!わかる、エミリーのためなの! ティンカー・ベル: ねえ、ちょっとこれ、エミリーさぁ エミリー: 守るって、何からってことぉ……? フェルディナ: 人間さんのあの男もそう!それにペローだって!あのメス猫だってペローの差し金よ! エミリー: えっ……?リルのこと……?あれが、ペローの仕業って……? フェルディナ: 当然でしょ!そりゃあ今はコミッティ本部からは離れてるけど、私はグリムなのよ?こいつらがロゼッタゲート通過したのも把握してるわ エミリー: ま、待って……。フェルディナは、リルのこともティンカたちのことも、全部知ってたってことぉ……? フェルディナ: だからそう言ってるでしょ!? エミリー: なのにエミリーたちに、何も教えてくれなくて……ただ見てただけだったの……? エミリー: エミリーがいっぱい、すごくたくさん泣いてたのに……? 黙って見てたってこと……? フェルディナ: いいじゃない、こいつらがどうなったって!あなたこそ目を覚ましなさいよっ!私はエミリーのために! (パァン) フェルディナ: なっ……何するのよっ……!? ティンカー・ベル: あちゃあ……ビンタいっちゃったか…… エミリー: ……エミリーのことは忘れて。もう妹じゃないから。エミリーもお姉ちゃんだと思わない フェルディナ: ……っ!? エミリー: フェルディナなんて大っ嫌い! フェルディナ: う、ううっ、うあああああっ……!! ティンカー・ベル: あ、ちょ、フェルディナ!?ねえ、エミリー、どっか行っちゃったけど追わないと…… エミリー: いいっ……あんな人っ……! ティンカー・ベル: エミリー……。ふう……。身内のことになると熱くなっちゃう気持ち、もうすっごい分かるけどさぁ… エミリー: あんな人、身内でもない!だって、エミリーがどれだけティンカたちのこと心配したか…… ティンカー・ベル: いいじゃん、それはさ。だってティンカ、もうここにいるでしょ。めっちゃ元気でさ エミリー: ティンカぁ……。うぅ、ぎゅってされるの……落ち着く…… ティンカー・ベル: エミリーは妹って感じだね。甘えん坊でさ。なのにあのお姉ちゃんは、ちっとも甘えさせてくれないね エミリー: ふふっ、ほんとだよね……。ティンカの方がよっぽどお姉ちゃんだよ ティンカー・ベル: 寂しくて、優しくされたいんだよね。ぎゅってされたいんだよね。分かるよ エミリー: そうやって見透かしてくるの反則だよぅ……ティンカがイケメンだったら、エミリーもう落ちちゃう ティンカー・ベル: あっれー?ティンカ、自分でイケメンだと思ってたのにな? エミリー: もう……ティンカってば。ありがと エミリー: 落ち着いた……。本当はエミリー、あんなふうに言うつもりじゃなかったのに ティンカー・ベル: 無事だったのが分かったんだから、とりあえず1個いいことあったじゃん。ってことでさ、とりあえず戻ろっか ティンカー・ベル: ただいまー。おっ、サミット組も帰ってきてたんだね エミリー: 遅くなってごめんねぇ。今日の夜は、人間さんが行きたいって言ってたエミリーの行きつけの……って、あれ?人間さんは? ティンカー・ベル: ……?どしたの、なんか変な空気だけど ピュルテ: 人間さんが……捕まってしまったんです ティンカー・ベル: ええっ!?なにそれ、どうなってんの!? (背景切換...) 秘書官: シャルロッテ様、お茶をお持ちしました シャルロッテ: ……このままでは本末転倒だわ 秘書官: フェルディナ様は取り逃したと報告があったとか シャルロッテ: エミリー姉様が余計な手出しをしたみたいね。本当に、余計なことばかり…… 秘書官: しかしサミットの首尾は完璧ではありませんか シャルロッテ: あの人を……愛しい、優しいお方の心を傷つけた代償にね…… 秘書官: ………… (背景切換...) ティンカー・ベル: そんな……それじゃ、人間さんはいま一人ぼっちで捕まってるわけ? ヴェルメリオ: ……どんな扱い受けてるかもわかんないの シンデレラ: 正直言って、理屈の上では一理あると言えばあるの。一緒に旅しなきゃいけないって主張が、どこまで認められるか ピュルテ: そんな…エルマイトがあればいいってわけじゃないのに!人間さんは……ああいう人だから、私もすっ…… クレア: す ピュルテ: すっ、素敵だと思ってるんです ドロシー: でもあのシャルロッテとかいう女、そんなに頭良さそうに見えなかったけど エミリー: そうだね。あの子、勉強はできる方だけど……そういう策略とかに頭が回るタイプじゃないねぇ クレア: でも部下で賢い人がいるのかも エミリー: 部下っていうより……ペローかもしれない ヴェルメリオ: ……ペローって、確かコミッティの エミリー: フェルディナから聞いたの。リルの一件も裏でペローが一枚噛んでたっぽい ピュルテ: リルちゃんのディマイト堕ちも!? 184 - 不自由な夜 シャルロッテ: ああ、愛しい人。こんなふうに拘束しなきゃいけないなんて…… 秘書官: 口答えするんじゃない、ヒモ男め。シャルロッテ様だって好きで拘束してるわけじゃない シャルロッテ: いいのよ。この方の立場なら当然の反応だわ (いきなり危険な兵器呼ばわりされて勾留、という最悪のコンボ。) (そのわりに、シャルロッテというこの女が、こちらに対して友好的で意外だった。) シャルロッテ: 私……こういう荒ごとは向いてませんの。今までも、ずっと偉大なお姉さまたちの後をついてきただけで…… (姉、という単語に、こちらが訝しむリアクションをみせると、ドレスの裾をつまむカーテシーで一礼するシャルロッテ。) シャルロッテ: そうでしたわ。申し遅れました。私、グリム家の末妹にして、インペリウム・コミッティ第6号委員、シャルロッテ・グリムですの 秘書官: ふふん、コミッティの栄光に、おまえもさすがに恐れ入ったようだな (勘違いした様子の側近の言葉を聞き流し、じっとシャルロッテを見つめる。) (エミリーを除いて、こんなに近くでコミッティメンバーと会話する機会など、そうあるものではない。) シャルロッテ: 本当にあなたには申し訳ないことをしていると思っています。まるでモノみたいな言い方をしたのも……あなたの心を傷つけてしまったと (何気ない会話の、何がヒントになるか分からない。神経を研ぎ澄ませる。) シャルロッテ: ちゃんと、あなたの人格というものを、私は認めているのですよ。むしろ、その人格に惹かれて……こほん 秘書官: 光栄に思えよ。シャルロッテ様に認めていただくなんて、本当に名誉なんだぞ シャルロッテ: よけいなことはいいのよ!それよりも……ここから、ご提案があるのですが、聞いていただけますか? シャルロッテ: このままですと……あなたはずっと『兵器』扱いになってしまいます (それを主張したのは、当のシャルロッテではなかったか。) (指摘すると素直に認めるシャルロッテ。) シャルロッテ: サミットのあの場は、そう主張するほかなかったんです。…私が心からそう思ってるわけではありませんわ シャルロッテ: でも、表向きは確かに『兵器』としています。別室に隔離されて、暗く狭い部屋で一生を過ごす…… シャルロッテ: 私だって、これからのあなたの人生がそんなものになっていいとは、カケラも思っておりません シャルロッテ: 人間界から来たというあなたも、エミリー姉様や他の皆さんから聞いておいででしょう?我が名門グリム家の名を シャルロッテ: 私はグリムの一員でありながら、偉大なお姉様たちやエミリー姉様のようにエルマイトを稼ぎ出せてはいませんでした シャルロッテ: 割り切って遊び暮らせば良かったのでしょうけど……それは私のプライドが許しませんの シャルロッテ: ですから、敵勢力から主力を奪ったという功績が必要なのです。私だってやれるってところ、見せたいのです シャルロッテ: こんな話……するつもりではなかったのですけど。でも、あなたといると、つい……正直に話してしまいますわね シャルロッテ: もちろん、これまで続けてきた旅を再開させるわけにはいきません。でも、ちゃんと人格を認めて、自由に過ごす権利は手にできる (彼女の指が、こちらの頬に触れた。) シャルロッテ: ですから、ご提案したいのです。あなたが自由に過ごすためのプランを (シャルロッテの提示する条件とは――) シャルロッテ: 私の愛に、応えてくださいませ。唐突だとお思いでしょうが、私は……あなたに会ったそのときから……心奪われてしまったのです シャルロッテ: 自由になる条件はただ1つ。私と恋仲になること……ん……ちゅっ…… (唐突に唇が奪われた。) シャルロッテ: んっ、ちゅっ……。……っ!? (首を横に振って、彼女を振り払うように拒絶する。) (後ろ手に拘束されている自分には、意思表示は首の動きでしかできなかった。) シャルロッテ: 拒否する、とおっしゃるのね……?この私に恥をかかせると、そういうことですわね (自分の保身のために、仲間との絆を裏切り旅をやめることなどできない。) (彼女たちの愛情を捨てて、横暴な欲求を受け入れることなど考えられない。) (お荷物かもしれない自分がプライドまで捨ててしまったら、本当にどうしようもないじゃないか。) シャルロッテ: ……あなたの答えは、よく分かりました。でしたら、結構。生涯、暗く冷たい牢獄でお過ごしくださいませ シャルロッテ: 衛兵っ!引っ立てなさい! (背景切換...) 秘書官: シャルロッテ様! シャルロッテ: 今すぐペローに通信スフィアを開く準備をしなさい。次の作戦を打ち合わせます 秘書官: 大丈夫ですか、シャルロッテ様…… シャルロッテ: 大丈夫か、ですって?決まってるでしょう、私を誰だと……あっ…… 秘書官: 涙…… シャルロッテ: だって……だってぇっ……初めて本気で好きになったのにぃっ……! 秘書官: 出会いの形さえ違えばなぁ…… シャルロッテ: つらいの、つらいよぉっ……好きな人に、拒否されるのがこんなにつらいなんてぇっ……グリムだから、私がグリムだからなのっ……!? 秘書官: ……間接的には、そうかもしれませんね シャルロッテ: えぐっ、ぐすっ……だって好きなんだもんっ、グリムでもっ……好きになっちゃったんだもん…… 秘書官: お嬢、それでいいんです。あ、いえ、シャルロッテ様。いいんですよ、『好き』を曲げることはできない シャルロッテ: ……そうよね。でも、グリムであることも曲げられない。私は、せめてグリムとしての役割は果たすわ……! (背景切換...) ペロー: おやぁー?目が赤いようですが シャルロッテ: 結膜炎よ。ぐすっ、それより作戦を ペロー: 任せてください、シャルロッテ。あなたの友人として最大限の策を講じましょう 185 - 奪還作戦 ピュルテ: やっぱり……強硬手段しかないでしょうか ドロシー: だって捕まってるのを助けるんでしょ? ヴェルメリオ: ……サミット会場ではガマンしてたのに ドロシー: あの場で堂々とやったら私達も捕まっちゃうじゃない。それくらい分かってるのよ ティンカー・ベル: じゃあどうすんの ドロシー: そーっといって、こっそりガツンといくのよ シンデレラ: 表現方法はアレだけど……でも、大筋では私もドロシーに賛成だわ ティンカー・ベル: えっ、マジで!? ドロシー: ほらねっ!私は頭脳派なんだから エミリー: でも、せっかく魔法の国のクーデターを鎮圧する連合軍が可決されたのに、変な動きしちゃったらまずくないかなぁ? シンデレラ: エミリーの言うとおり。マザー・ティターニアやメリンダ、お義母様たちが今も危険にさらされてる クレア: 家族は大事 ピュルテ: こういうのはどうでしょうか。シンデレラさんも被害者になっていただくんです ヴェルメリオ: ……どういうこと? ピュルテ: シンデレラさんは普通にサミットに出席するんです。けど、謎の悪いやつ……を演じる私達に誘拐されちゃうんです ドロシー: そんなのバレバレじゃない!顔が割れてないの、妖精さんとエミリーしかいないのよ ピュルテ: バレててもいいんです。私達がシンデレラさんを裏切った設定でもいいですし ピュルテ: ああいう場では、体裁が大事だと思うんです。シンデレラさんだけだと露骨なので、ちょっとだけナードさんたちも誘拐したり シンデレラ: ピュルテちゃんの作戦、ありだと思うわ。確かに、『そういう体』にする、っていうのが私たち王族のセオリーだもの ティンカー・ベル: でも、それって殴り込んでも魔法の国とは関係ないよってだけだよね クレア: 殴り込みが成功するかどうかは別の話 ドロシー: 確かに問題はそこよ。あの厳重な警備をかいくぐって人間さんを助け出すのは、なかなか大変そうだわ ドロシー: 課題は2つ。入り口の警備がとにかく厳重。セキュリティチェックで武器はとられちゃう クレア: 素手で戦えるのはドロシーくらいだし ドロシー: それと、人間さんが捕まってる場所がわかんない エミリー: エミリーも、会場は入ったことあるけど、捕まってそうな場所まではわかんないんだよねぇ シンデレラ: それに救出後の逃走手段も確保しないと。ピュルテちゃんたちが私をさらって遠くまで逃げないと、捕まったら演技がムダになるわ ピュルテ: まだ今すぐ何かされることはないはずです。焦らずに進めましょう。まずは情報収集です ヴェルメリオ: ……そんな、人間さんは今だって、辛い目にあってるかもしれないのに ピュルテ: 私だって分かってます!けど、焦って失敗したら元も子もないじゃないですか! ティンカー・ベル: ピュルテ…… ピュルテ: あっ……ご、ごめんなさい。私ってば、つい ヴェルメリオ: ……ううん、私こそ。ピュルテだって、不安なのガマンしてるんだよね ドロシー: そう言えばフェルディナも連れて行かれそうだったんでしょう? ティンカー・ベル: うん。そこはティンカがかっこよく、ばしっと助けたよ!貴君らは本当に世話が焼けるな!ってね シンデレラ: ディマイトを拡散していたフェルディナを捕まえようとしてる……っていうことは、実は私たちと目標は同じなのかしら ドロシー: ディマイト拡大を防ぎたいってこと? ヴェルメリオ: ……わたしたちの代わりに、コミッティが人間さんと旅をしようとしてるとか? エミリー: どうかな。アリババに仕掛けた罠のことがあるからね ピュルテ: ジャーファルさんが操られたアレですね エミリー: フェルディナとちゃんと話せば、そういうことも分かったかもしれなかったよね…… ティンカー・ベル: エミリー……。過ぎたことはしょうがない!フェルディナとも、きっとまた会えるって! ヴェルメリオ: ……とにかく情報収集だね パレンディアス: 本日の本会議では、昨日のシャルロッテからの発議を引き続き検討するものとする。さっさと終わらせて飲んで騒ごうぞ クレオパトラ: パレンディアスってば、もう少し本音を隠さないと…… プリンセスシンデレラ: 昨日のシャルロッテ委員からのご指摘は、納得性の高いものであると認識しております ピュルテ: やっぱりシンデレラさんって、こういうときはプリンセスって感じですね、ドロシーさん ドロシー: ほんとよね。昨日、同じ会場でお尻使ってあんなことしてた人とは思えないわね プリンセスシンデレラ: 我が国は、サミット加盟国を始めとする国際社会において、守るべき秩序には従うことを大前提と考えております パレンディアス: むう……だから、もう少しちゃっちゃとたのむぞ、シンデレラ プリンセスシンデレラ: 彼の存在が、世界の脅威となる大量破壊兵器であるという主張には一定の理解を示しますが、運用方法には議論の余地があるでしょう クレオパトラ: へー、彼にも人格がある、みたいな泣き落としは使わないのね ナード: ご本人は人情に厚いですが、プリンセスとしてのシンデレラ姉様は意外と理詰めで対応されますからね シャルロッテ: では、その運用方法とやら……どのようにお考えなのかしら? プリンセスシンデレラ: まずは第一のご提案として、我が国および我が国の指名する管理者に、その管理を委任いただく方法 シャルロッテ: ……なに言ってるのかしら 秘書官: や、現状維持って言ってんですよ シャルロッテ: お話になりませんわ!それは見せ方を変えただけの詭弁にすぎません。本質の解決ではありませんわ 秘書官: 理解してないのにこの切り返し、ある意味すげえな、お嬢…… プリンセスシンデレラ: では、管理者の選定は、このサミットにおいて取り決めましょう。いずれにしても、管理者に委託して権限を与えなくては迅速な運用ができません シャルロッテ: ……なんて? 秘書官: やれやれ…… 秘書官: しかし、意外と余裕だな。もっと焦れてくるかと思ったが…… 186 - 再入場スタンプ ドロシー: ひとまずお昼休憩ね。じゃあ交代しましょう ピュルテ: 私とクレアさんが、会場の外の下見。ドロシーさんたちは会場内部の調査。ティンカちゃんたちがシンデレラさんのところですね ドロシー: 了解!行くわよ、ヴェル ヴェルメリオ: ……うん! (背景切換...) ドロシー: 人間さんがどこに閉じ込められてるか、それと突入から撤収までのルートの確認ね ヴェルメリオ: ……つかまってる場所がわからないと、ルートも決められないよね ドロシー: そうなのよね。まあ、ルートどうこうはヴェルには無理だけど、場所は探し出さなきゃ ヴェルメリオ: ……む、無理じゃないかもしれない ドロシー: だって、さっきの場所まで一人で戻れる? ヴェルメリオ: ………………ごめん ドロシー: いいの、役割分担。それぞれ得意なことでがんばりましょ クレオパトラ: あら、2人とも。会場から抜けてきたの? ドロシー: 私たちはおまけだからね。あなたこそ、いいの、こんなところでサボってて クレオパトラ: ちょっとだけ息抜きしてきたの。せっかく、こんなきれいな町にいるんだし、少しくらい、ね ヴェルメリオ: ……その、左手の、手の甲で光ってるの何? クレオパトラ: ああ、これは会場を一旦出て戻るときの再入場スタンプよ。魔法が刻まれてて、これがあればセキュリティゲートを…… クレオパトラ: あ、ちょっと!? ドロシー: ヴェルったら、なんでクレオパトラの手を拭いちゃったの?スタンプが消えちゃったじゃない ヴェルメリオ: ……また、出る時つけてもらえばいいよ クレオパトラ: 変な子ね。まあいいわ、あなたたちも楽しんで ドロシー: うん、またね ドロシー: ……どうしたの、ヴェル ヴェルメリオ: ……もしかしたら、あれって文字を書いた状態なのかも。と思って ドロシー: はっ……!参加者にディマイトを拡散する方法ね!?確かに、ありえるわ ドロシー: でも……再入場スタンプがディマイトを発動させる『文字』なんだとしたら、サミットが黒幕? ヴェルメリオ: ……ううん、誰かが魔法インクをすり替えたとか ドロシー: なるほどね。だとしたら……ん、あれは シャルロッテ: あら、ごきげんよう……。こんなところで何をしてるのかしら ドロシー: そっちこそ会議じゃないの シャルロッテ: 休憩くらいありますわ。あなたたち、あまりうろついて妙な疑いをかけられないように、お気をつけくださいね ヴェルメリオ: ……人間さんは、必ず取り返す。あなたの好きにはさせない シャルロッテ: ……っ!言ってなさい、今のうちよ……っ! ドロシー: あ、行っちゃった。やるじゃない、ヴェル。迫力で勝ってたわよ ヴェルメリオ: ……ねえ、ドロシー。あの人、たぶん人間さんのこと好きなんだと思う ドロシー: はあ?好きって、その、恋愛ってこと? ヴェルメリオ: ……妻の勘ってやつ。ちょっと探ってみよう (背景切換...) ピュルテ: うーん、やっぱり抜け道なんてないですよね クレア: 追われることになっても奪い返すって、みんな言ってたけど ピュルテ: ええ。みなさん、人間さんのためなら覚悟はできてるんです。ただ……覚悟だけでは クレア: 正面入り口から逃げるわけにはいかない ピュルテ: この頑丈な会場では、どうしたらいいのか……地下トンネルでも掘るしかありません フェルディナ: だったら……私が手を貸してあげてもいいのよ ピュルテ: えっ……!?あ、あなたは、フェルディナさんっ!? クレア: ピュルテ、気をつけて フォーゲルバイン: ふふっ、大丈夫ですよ。私もいますからね。クレアちゃんが困ったときは、必ず私が助けてあげます クレア: えっ……明け星のフォーゲルバインさん?どうしてあなたまで、ここに フェルディナ: のんびり昔話をしてる猶予はないわ。さあ、私たちと手を組む?どうする? ピュルテ: そちらの狙いは……なんですか フェルディナ: 私は……ただエミリーの助けになりたいだけ クレア: うそだ! フェルディナ: えっ……!? シンデレラ: まず、本当にみんなお疲れ様。やっぱりこのメンバーが揃えば、怖いものなんてないわね ドロシー: やっぱり私たちってば最強で最高ね! ピュルテ: まだ油断できませんよ。計画ができただけです ヴェルメリオ: ……人間さんの居場所は分かった。シャルロッテの滞在してる部屋から地下に繋がってる ティンカー・ベル: ずきんの謎の勘がはたらいたおかげだね エミリー: それで……突入方法は、空から……ってことだね ピュルテ: フェルディナさんが飛空艇を提供してくれるそうです ドロシー: それ、本当に信用して平気なの?罠じゃないの? シンデレラ: シャルロッテの手下に捕まりかけてたのよね?それにあの氷の洞窟でも、フェルディナの助けはないみたいだった ピュルテ: シャルロッテさんとフェルディナさんは、分けて考えていいと思います ティンカー・ベル: それにさ、エミリーを守りたいっていうフェルディナの気持ちに……嘘はないんじゃないかな エミリー: ティンカ…… ティンカー・ベル: ティンカはそう思う。信じていいと思う エミリー: ……エミリーも…………信じる。フェルディナのことを信じる エミリー: だから、みんなにも信じてほしい。あの人のこと……エミリーのお姉ちゃんのことを、信じてほしい クレア: うん。エミリーがそう言うなら シンデレラ: ふふ、そうね。クレアの言うとおり。大事な仲間がそういうんだもの。賭けてみようじゃない ピュルテ: これ、町で買ったものですが ヴェルメリオ: ……小型の通信用スフィア?こんなの売ってるなんて、ほんと都会だね ピュルテ: セキュリティは弱いので傍受される可能性はあります。けど、相手はそもそもこちらの動きに気付いてないでしょうから クレア: ピュルテって、こういうところは本当に頼りになる ティンカー・ベル: 意外と策士だからねー。人間さんのことだって、案外ちゃっかりしてたり ピュルテ: そ、そんなことないですよ! ドロシー: そのへん、本人に聞いてみましょうか。助け出した後でゆっくりね シンデレラ: 作戦は明日、時計塔の鐘が12回鳴ったときに決行よ。必ず……取り戻しましょう! 187 - ひとりのために パレンディアス: では、昼食休憩じゃ。今日はテラスで昼食会にするぞ!メニューは豊富だから、なんやかんや食べてるうちに満腹になるぞ プリンセスシンデレラ: わあ、美味しそうね。ランチビールも最高だわ ナード: あ、あの、シンデレラ姉様?大丈夫なんですか? プリンセスシンデレラ: ふふっ、何がかしら? (背景切換...) ピュルテ: これがフェルディナさんの飛空艇ですか ドロシー: なかなかゴツいわね。これなら突っ込んでも大丈夫そう ヴェルメリオ: ……飛空艇でサミット会場に突っ込むなんて フェルディナ: ふふっ……私の大胆かつ勇気あふれる作戦に、ぐうの音も出ないでしょう フォーゲルバイン: 立案したのは私ですけどね フェルディナ: ちょっとあなたね!上司に花を持たせるとか考えたらどう!? フォーゲルバイン: 上司だったら花を持たせてもいいですけど トーテンヘム: 変な、うるさい、女 フェルディナ: 失礼しちゃうわ! フェルディナ: さあ、みんな乗って!出発するわよ ピュルテ: はい!えー、クレアさん、クレアさん。聞こえますか。今から出発します (背景切換...) クレア: 了解。ティンカ、ピュルテたちが出発するって ティンカー・ベル: おっけー!もうすぐ鍵が開くからね クレア: 鍵開けなんてできるんだ ティンカー・ベル: 簡単な鍵だったからね。はい、開いた!どう、人間さん。これで動けるでしょ? クレア: 辛かったの?よしよし ティンカー・ベル: 思ったとおり、油断しまくりでガードが甘くて助かったよ クレア: 警備も敵じゃなかったし 兵士: く、くそう…… ティンカー・ベル: もうちょっと寝ててよね! 兵士: ぐはぁっ!? ティンカー・ベル: 気付かれる前にテラスに急ごう。大丈夫、人間さん。準備はバッチリしてあるからね! (ガシャアアアアアアン!!!) シャルロッテ: 飛空艇が突っ込んできたわ!?ま、まさかこれっ…… ドロシー: 全員動くなっ! ティンカー・ベル: 動いたら撃つよー!さあ、そこのお姫様たち、人質になってもらうからね! プリンセスシンデレラ: どういうつもりです!? ティンカー・ベル: うるさーい、人質は黙ってこっちに来―い! ヴェルメリオ: ……えいっ! 秘書官: くっ、これは煙幕弾!シャルロッテ様、敵襲があるかもしれません、私から離れずに シャルロッテ: この襲撃……プリンセスたちをさらっても何の意味もないわ。人間さんがどうなってるのか、確かめるのよ! パレンディアス: 落ち着くのじゃー!なんやかんやでうまいこと収まるから、まず慌てずじっとするのじゃー! シャルロッテ: 議長!これはシンデレラの陰謀かもしれませんわ!今すぐ追手を! パレンディアス: いやいや、それは拙速に過ぎよう。相手には人質がいる、うかつに追いかけては危険じゃ 秘書官: シャルロッテ様、これは シャルロッテ: 賭けてもいいわ。人間さんは既に連れ去られたと見るべきですわね 秘書官: いかがなさいますか シャルロッテ: 私の飛空艇『アマーリエ』を用意なさい。今すぐに!それと……対応策を相談したいわ。ペローとの通信も開いておいて 秘書官: すぐに連絡します シャルロッテ: おそらくシンデレラは、あらかじめパレンディアスも抱きこんだ上で、この騒ぎを……すべて計算ずくってわけ、あの女狐……! (背景切換...) ドロシー: 作戦成功よ!シンデレラたちも人質として連れてきたし、人間さんも無事よ! ヴェルメリオ: ……ほんとに、よかった。人間さんも無事で クレオパトラ: 私達まで巻き込んだのは、シンデレラ一人じゃ露骨すぎるって配慮かしら? ピュルテ: そのとおりです。ごめんなさい、巻き込んでしまって……クレオパトラさんも、ナードさんも ナード: 私はいいのよ。少しでも役に立てたのなら プリンセスシンデレラ: 2人とも悪いわね。すぐ下ろすから フォーゲルバイン: 申し訳ありませんが、すぐというわけにはいかないようですね。南西から飛来する敵機確認。追手です プリンセスシンデレラ: このタイミングでの追っ手……間違いない、シャルロッテの独断でしょうね。私、戦闘に備えて着替えてくるわ トーテンヘム: 飛空艇は、えっと、5機 ピュルテ: そ、そんなにですか!? エミリー: この短時間で5機も動かすなんて……まさか、こっちの作戦を読まれてた!? フェルディナ: 人間さんをこうも簡単に救出させておいて、読んでたってことはないんじゃないかしら (ガガガガガガガン) フォーゲルバイン: 敵機、撃ってきました! トーテンヘム: 揺れるよ、つかまって ナード: う、うぷっ、気持ち悪いっ……! シンデレラ: 大丈夫、ナード。クレオパトラも、転ばないようにどこかに座っていたほうがいいわ ナード: シンデレラ姉様……着替えられたんですね。プリンセスのときもおきれいですけど、その感じ、とても落ち着きます ドロシー: 庶民派って感じよね! トーテンヘム: あの、ピンク、シャルロッテの、飛空艇? フェルディナ: あれはシャルロッテ専用機『アマーリエ』よ!私のよりはるかに高額の……って、あ、あれは? エミリー: ディトルパ……!?シャルのディトルパだよぅ!あれ、飛空艇と一体になって……! (背景切換...) シャルロッテ: 逃がすもんですかっ……!絶対に、逃がさないんだからっ……! 秘書官: シャルロッテ様、本当によろしいんですか。まだこれは試作段階のもの、うかつに服用しては…… シャルロッテ: 今!ここで使わなくてどうするの。それにこれは、ペローのアドバイスよ 秘書官: しかし作ったのは、あのシェイクスピア様です シャルロッテ: だから何!今の私に必要なのは強力なディマイト!私の高めたディマイトを飛空艇の機能に代えて、追撃するのよ! シャルロッテ: 私の失敗で、名門グリム家の名を汚すわけにはいかないのよ!これ以上、これ以上っ……お荷物扱いなんてごめんだわ! 188 - 裏切り トーテンヘム: 敵機、撃墜 フォーゲルバイン: 残るは『アマーリエ』だけですね。しかし……この高い性能は、異常としか…… シンデレラ: 待って!何か様子がおかしいわ ピュルテ: ディトルパが変形しはじめてる……? ドロシー: 飛空艇に送っていたディマイトが逆流してる……!? エミリー: シャル!!今すぐ、ディマイトを解放して!そのままじゃ、シャルの身体が! (背景切換...) シャルロッテ: くっ、ああうっ……!?な、何が起きてるのっ……!?んうああああああっ! シャルロッテの部下: シャルロッテ様!当機はアンコントローラブルです!このままでは……! シャルロッテ: な、なぜっ……何が起きてるのっ……!?そうだわ、どうすればいいか、ペローに通信を開くのよ! ペロー: いやーぁ、シャルロッテ。薬の効果はてきめん、というところでしょうか シャルロッテ: ……っ!?ペロー!?これはどういうことなの!?私はどうすれば…… ペロー: キミは実に可愛い子だったんだけど……素直すぎたかなぁー? シャルロッテ: そ、それはどういう……まさか、あなた ペロー: 恨むなら、グリムの名を恨みなさい!アハハハハハハハ………! シャルロッテ: なっ……ペローっ!?くっ、まさか……この私が、謀られたっ……!? シャルロッテの部下: シャルロッテ様、まだ間に合う!緊急脱出ポッドでお逃げください! シャルロッテ: ……それは1人しか使えないわ シャルロッテの部下: ですからシャルロッテ様がお使いください シャルロッテ: はぁあああっ!! シャルロッテの部下: ぐっ!?か、身体の自由がっ……!痺れて、動けないっ……!? シャルロッテ: 最後くらい、私のワガママ聞きなさいよ シャルロッテの部下: シャル……お嬢っ!年がら年中聞いてやっただろうが!最後くらい素直に言うこと聞きやがれ! シャルロッテ: お願い……間抜けな私から、グリムの誇りまで奪わないで トーテンヘム: 敵機、加速。こっち、突っ込んでくる フェルディナ: デッキでシャルロッテがしゃがみこんでるわ! 何かあったのね! ドロシー: けど、これまっすぐ突っ込んできてるわよね!? フェルディナ: まさか、捨て身の体当たり……!? ピュルテ: あっ!? 飛空艇から何か飛び出しましたよ! フォーゲルバイン: 緊急脱出装置ですね。誰かが脱出したのか、あるいは誤作動か…… シンデレラ: 飛空艇ごと突っ込んでくるわ!このままじゃ正面衝突しちゃうっ……! フェルディナ: フォーゲルバインっ!銃座射撃の用意よ! エミリー: フェルディナ!? まさか エミリー: あの緊急脱出装置……あれが、シャルだって確証はないんだよ!? フェルディナ: 私だって……辛いわよ!シャルロッテだって、妹だもの! フェルディナ: けどっ、このままじゃエミリーも、エミリーの大切な仲間も、犠牲になっちゃうじゃない! エミリー: フェルディナ……!どちらか選ばなきゃいけない……そうだね。フェルディナだけに汚れ仕事はさせない クレア: エミリー、どうするつもり エミリー: フォーゲルバインさん、燃料タンクを避けて駆動部分を狙える? ヴェルメリオ: ……それ、どういうこと? ドロシー: 少しでもシャルロッテが助かる確率を上げるのよ。脱出してなかったとしても、燃料に引火して炎上しなければ、まだ…… エミリー: フェルディナ……。エミリーはね、やっぱりフェルディナのことが信じられないままだったの フェルディナ: えっ、今そんなこと言う……!? エミリー: けど、覚悟を見たから。だからエミリーも、発射ボタンを一緒に押すね。フェルディナだけの責任には、しないから フェルディナ: エミリー……! エミリー: いくよっ! フェルディナ: うん……。発射ぁっ!! (ズガアアアアン) トーテンヘム: 敵機、撃墜 シンデレラ: ひとまず脅威は去って……作戦成功、ってとこかしらね。後味はあまり……良くないけど ピュルテ: 成功ではありますけど、あまりのんびりはしてられませんね ヴェルメリオ: ……サミットに飛空艇で突っ込んじゃったもんね ドロシー: それにVIPも誘拐しちゃったし ピュルテ: せめてシャルロッテさんが助かっていてくれれば…… フェルディナ: トーテンヘム! 墜落現場に向かって。もしかするかもしれないわ トーテンヘム: 了解、向かう フェルディナ: これで完全にコミッティと……そしてグリム家に敵対することになったわね エミリー: エミリーはとっくに覚悟してたつもり。でもフェルディナは…… フェルディナ: 言ったでしょ。私はエミリーを守る。だって、お姉ちゃんだもの フェルディナ: シャルロッテ!あぁ……よかった、生きていたのね エミリー: 早く治療しなきゃ フェルディナ: 私がどこかの町で治療させるわ。あなたたちは、もっと遠くに逃げたほうがいい シンデレラ: いくらパレンディアスが押さえていても、まったく追っ手を出さないわけにはいかないでしょうからね ピュルテ: 体裁は保ったんですし、魔法の国のクーデターはなんとかなりますよね ドロシー: たぶんね。そっちは大丈夫だと思うけど クレオパトラ: 私たちも、戻ったらそれっぽい証言をしておいてあげるわ。安心して ナード: 私達をさらったのがクーデター勢力側ってことにすればいいのよ。大義名分さえあれば、なんとでもなるわ ピュルテ: 助かります!でも、もう表立って支援は受けられないかもしれませんね ヴェルメリオ: ……じゃあ、姐さんにはお酒を少し減らしてもらおう シンデレラ: ちょっと!そんなこと気にするほどお酒にお金使ってないから! ティンカー・ベル: あ、よかった。これってさ、なんかいつもの雰囲気だよね クレア: 無事に人間さんも戻ってきたし エミリー: うん……ほんと、よかった フォーゲルバイン: さあ、もう少し距離を稼ぎましょう。こんな平原の真ん中じゃプリンセスの方々も下ろせませんし (背景切換...) トーテンヘム: この先、小さい町、あるみたい シンデレラ: そこでクレオパトラとナードを解放しましょう フェルディナ: 町の規模にもよるけど、ちゃんと治療が受けられそうなら、そこで私たちとシャルロッテも降りるわ エミリー: ……気をつけてね フェルディナ: エミリー……!心配してくれるのね エミリー: 別にそういうんじゃないよ。フォーゲルバインたちに見捨てられないように気をつけて、ってこと ティンカー・ベル: もー、エミリーってば クレオパトラ: でも、その先はあなたたち、どうするの? ドロシー: 逃げ続けるしかないわね。逆転のチャンスをつかむまでは 189 - 救うべきは ヴェルメリオ: ……お医者さん、いるみたいだよ フェルディナ: 良かったわ。じゃあ運ぶわよ。トーテンヘム、そっち持って エミリー: エミリーも手伝う。お姉ちゃんだし トーテンヘム: じゃあ、そっち、持って フォーゲルバイン: 急ぎましょう。でも揺らさないように気をつけて ティンカー・ベル: いってらっしゃい。良くなるといいね ピュルテ: じゃあここでお二人も……本当にすみませんでした。ありがとうございます クレオパトラ: いいの、いいの。ねえ、ナード。たまには羽根を伸ばして遊びに行かない? ナード: え、遊びにですか? クレオパトラ: そう。命からがら逃げ出したはいいけど、道に迷ってしまった……ってことにしてね ナード: そうですね。ここ最近、サミット関連で忙しかったですし ティンカー・ベル: あはは、転んでもただでは起きないねー シンデレラ: ありがとう、2人とも クレオパトラ: ふふっ、いいのよ♪遊びたいのは本当だもの クレア: え、どういうこと ドロシー: 遊び歩くことで、関係ない町で目撃情報を流すのよ。私達が逃げるのとは別の方角でね ヴェルメリオ: ……あっ、そういうこと。協力してくれてるんだね クレオパトラ: でもほんと、行きがかり上って部分もあるだろうけど……よくやるわね ナード: こんなふうにお尋ね者になったり、自分を犠牲にしてまで……世界を救うって決意は、すごいと思います クレオパトラ: っていうか、そうまでして世界って救うべきなの?って思っちゃう ナード: 世界を救うつもりはない?えっ、人間さん? ピュルテ: 世界じゃなくて、目の前の誰かを救いたい……。人間さん、それって クレオパトラ: ふふん、いいんじゃない?私たちみたいな立場だと、かえって忘れがちだけどね。視座は常に高くあるべきとは限らないわ ヴェルメリオ: ……人間さん、かっこいいね。え、誰かの受け売りなの? クレオパトラ: それじゃあ、もう行くわ。何かあったら相談してちょうだい。できる限りの支援はする ナード: 旅のご無事をお祈りしてます! シャルロッテ: ……っ、こ、ここは……私…… エミリー: シャル!よかった、目が覚めたんだねぇ! フェルディナ: どうなるかと思ったけど……無事で、本当によかったわ シャルロッテ: エミリー姉様?それにフェル姉様も……確か私は『アマーリエ』に乗って……くっ ドロシー: 目が覚めたんですって? ティンカー・ベル: おおーっ、よかったじゃーん! シャルロッテ: あ、あなたたちは……! シンデレラ: まだ無理をしない方がいいわよ。墜落した飛空艇から救助されたなんて、それだけで奇跡に近いわ シャルロッテ: あなたは……初対面ね シンデレラ: 何度もやりあってるでしょ!シンデレラよ! シャルロッテ: ……?私、事故で、目が エミリー: あ、うん、シャルは大丈夫。あっちがおかしいの シンデレラ: おかしくないわよ!ちょっとメイクがナチュラルなだけでしょ! ピュルテ: 私たちを追跡中に、急にシャルロッテさんの飛空艇が体当たりしてきたんです。それでやむを得ず エミリー: エミリーが撃墜したの フェルディナ: それと、私がね。仲間を守るためにあなたを犠牲にした。恨むなら恨んでくれて構わないわ シャルロッテ: そうだわ……思い出しましたわ。そう、許せない……! フェルディナ: えっ シャルロッテ: ペローに謀られたんですわ。いざというときは飲めと、ディマイトブースト薬を ピュルテ: ディマイトブースト薬!? シンデレラ: そんなものが開発されてるの……!? ドロシー: その薬がうまくいかなくて、暴走しちゃったのね フェルディナ: ペローが……!?あなたのこともたらしこんでいたというの!? エミリー: 『も』、って……?フェルディナも何かされたの? フェルディナ: 私に、あのディマイト拡散の話を持ちかけたのは、奴よ…… シャルロッテ: ペローは言ってましたわ……恨むならグリムの名を恨めと エミリー: ペローが、あるいはOp7が……グリムを出し抜こうとしている……!? シャルロッテ: そうだわ、秘書は、脱出できたかしら!?ポッドに乗せたとこまでは覚えてるのですけど ティンカー・ベル: なんか、ぶばって出てたよ シャルロッテ: よかった…… フェルディナ: シャルロッテ……あなたも、私と同じようにそそのかされたのね。姉を見返したくはないか、って…… シャルロッテ: 私のときは、実績がほしいだろうと。姉にいいところを見せたくはないかと、そう言われましたわ エミリー: フェルディナはジャコヴァやヴィルが嫌いだからね。アプローチの仕方を変えたんだ ピュルテ: でも、どちらも……似たようなことを言ってますよね クレア: エミリーのお姉ちゃんは、上のお姉ちゃん2人がすごいんだよね エミリー: そう。グリム家はオトギノクニ屈指の名門として知られてるけど、実態はジャコヴァとヴィルの2人の功績が大きいから ドロシー: そのコンプレックスを刺激して、いいように操ってたってわけ…… ヴェルメリオ: ……嫌なやり方 シャルロッテ: 私は、実績がほしかった。グリムの名に恥じない活躍で、コミッティでも堂々と…… フェルディナ: 違うようで、私たちは似てるのね。結局はグリムであるという重圧に苦しみ続けたの…… シャルロッテ: お姉様たちにお荷物だと思われたくなくて……それでっ……あなたのことも傷つけてしまったわ…… ピュルテ: えっ、人間さん、何かされたんですか?特に何もない? エミリー: もういいんだよ、シャル。シャルロッテ・グリムはもう、いないんだよ フェルディナ: 飛空艇に乗ったまま、名誉の戦死を遂げたんだわ。今ここにいるあなたは、グリムじゃない。ただの、シャルロッテよ シャルロッテ: フェル姉様……エミリー姉様…… エミリー: もう大丈夫。辛かったね クレア: うん、結果よければすべてよし。ね、ドロシー ドロシー: うっ、ぐすっ、よかったわねっ……! ティンカー・ベル: えええ、三つ編みってば泣いてんの!? シンデレラ: でもこれで、ちょっと的は絞れてきたわね。ペローってやつの目的は何なのかしら…… 190 - 姉妹との別れ ティンカー・ベル: ふー、晴れてくれて良かったね!やっぱりさ、また新しい旅の出発なわけだし ドロシー: スティヴァーリ・シティを出るときも晴れたものね。あのときは虹までかかったし ピュルテ: あの……フェルディナさんとシャルロッテさんのお2人は、あのまま置いてきてしまってよかったんですか? エミリー: シャルの傷が治るのを、この人数でおとなしく待ってるのは危ないでしょ シンデレラ: それは……まあ、そうだけど。でも心配でしょう? エミリー: シャルひとりじゃないし。フェルディナがちゃんと、お姉ちゃんらしくしてくれるよ ヴェルメリオ: ……フェルディナと2人だけなら、目立たないから追手にも見つかりにくいよね シンデレラ: きっとまた、会えるわよ。私たちがみんなと合流できたみたいに クレア: あのときと違って、無事だってことはわかってるもんね ピュルテ: 次に会うときは、お互いに協力しあえるはずです! エミリー: うん……そうだね。エミリーなら、大丈夫だよ。みんな、ありがとう ティンカー・ベル: 無理しないで、何かあったら言いなよ?エミリーはすぐ大人ぶって無理するから エミリー: 大人ぶって、って!大人だよぅ! クレア: あと頭いいふりもする エミリー: んもう! ヴェルメリオ: ……でも、ここからの旅って、わたしたちお尋ね者だよね ドロシー: そうよ。ムダなトラブルを起こさないようにね。頭にきても、まずは深呼吸して落ち着くの ティンカー・ベル: そんな話を三つ編みにされたくないんだけど シンデレラ: とにかくまず、リベルタリブロの中心地から離れたほうがいいわ。どうしても8人もうろうろしてたら目立つからね ピュルテ: 地図を見てみましょうか。んー、たぶん中心街からこっち側、東の海の方へ向かってますよね クレア: ピュルテ、地図が読めるんだ ドロシー: それくらい普通でしょ? クレア: 人間さんが、女の子は地図が読めないって ドロシー: やだーっ、ここってどこなのー?全然わかんなーい ドロシー: ちょっと!地図が読めないことが多い、っていうだけの話だったのね!早く言いなさいよ! ティンカー・ベル: 地図が読めないと女子力が高いなんて、誰も言ってなかったけどね…… ヴェルメリオ: ……ねえ、エミリー。聞きたかったんだけど エミリー: エミリーで分かることならどうぞ~ ヴェルメリオ: ……グリム家ってなに?わたし、世間知らずだからよくわかってないの シンデレラ: いいえ、それはみんなピンときてないんじゃないかしら。グリムの家名を聞いて一番リアクションが大きかったのは人間さんだもの ドロシー: そうよね。あそこまでシャルロッテが、家名にこだわってたんだもの。それだけ重要なことなのよね エミリー: オトギノクニきっての名門って言われてるねぇ。でもそれはね、みんなから尊敬されてるとか、そういうんじゃないの クレア: じゃあ、何されてるの? エミリー: 何されてる……うーん、利用、かな クレア: えっ、それだめなやつじゃない? エミリー: オトギノクニにあるエルマイトのほとんどを、グリム家が管理してて貯め込んでたの シンデレラ: 慢性的にエルマイトが足りてない国や人は、グリムを頼るしかない。つまりグリムはエルマイトを切り売りしていた……ってこと? エミリー: 『作家』はエルマイトを自由に譲渡できる。それを利用して、困ってるひとたちに恩を売ったのが始まり ティンカー・ベル: ネコんちも助けてもらったのかな エミリー: それについては納得いかないところもあるけど、創造期からあんな状態なら、そうかもね ピュルテ: でも、シャルロッテさんはどうしてあんなに焦ってたんです?それだけ影響の大きいグリムなら、成果を焦る必要はないんじゃ エミリー: グリム家とは言うけど、そのエルマイトのほとんどは上のお姉ちゃん2人によるものなの。エミリーは、まあ自分で困らない程度は持ってたけど ドロシー: エルマイトってそんなに個人差が生まれるものなのね……? シンデレラ: 名門グリムと言いながら、実態は上の姉2人に頼りきり……確かにそれじゃあ、焦る気持ちも分からなくはないわね エミリー: それも今では、変わっちゃったけどねぇ。もう名前負けしてる感じ ドロシー: そのグリムが揃って牛耳ってんのが、コミッティってわけね ティンカー・ベル: 三つ編み。エミリーもグリムなんだよ エミリー: 気にしないで。エミリーも、もう自分がグリムって意識、ほとんど持ってないから ヴェルメリオ: ……でも、名前負けってことないよね。いろいろ仕掛けてきてるよ エミリー: これまで貯めた分があるんだよぅ ティンカー・ベル: 聞いた?三つ編み!ちゃんと日頃から貯めておくと、いざというとき困らないんだよ。ちょっと儲かったからってすぐ…… ドロシー: なによ、もう!妖精さんは私のお母さんじゃないんだから、お説教しないで! エミリー: それに、モノや施設なんかは変わらず持ってるわけだし ピュルテ: つまり現金の資産化みたいなことですね クレア: ピュルテ、その話くわしく エミリー: みんな脱線しすぎじゃない!? シンデレラ: まったく、本当にみんな緊張感がないわね エミリー: あはは……だから、一緒にいて楽しいんだけどねぇ (背景切換...) ゲーテ: これよりインペリウム・コミッティ定例閣議を開始します ジャコヴァ: この部屋も、ずいぶん寂しくなったものだな ????: シャルロッテ委員の殉職、謹んでお見舞い申し上げる ヴィルヘルミナ: それはどうも、副議長 カロラ: 冗談じゃねぇぜ!今すぐ人間さん共を血祭りに上げるしかねぇだろぉ!? ゲーテ: 2号議案から先に話し合うなら、そのように提案して カロラ: ゲーテぇ、てめぇ……スカしたツラしてんじゃねえよ!こっちは妹が死んでるんだぜ!? キャロル: あれれー?フェルディナのときとは、ずいぶん態度が違うんじゃないのー? カロラ: あんな出来損ないとシャルを同列に語れるかよ! ジャコヴァ: いいだろう。2号議案、さっさと採決を取れ 191 - 紛糾する委員会 ゲーテ: 第2号議案『人間さん一行の捕獲および追撃作戦の継続』は賛成1、反対7、欠席4、欠員1。よってインペリウム・コミッティの名のもとに否決されました カロラ: 姉貴ぃ!なんでだよ!あたしは拒否権を使うぞ! ヴィルヘルミナ: 控えなさい、カロラ。今はそのときではない ペロー: 心中、お察し致します。最愛の妹君を失ってお辛い気持ち、痛いほど分かります カロラ: ペローっ……元はと言えばてめえの作戦だっただろうが! ヴィルヘルミナ: やめなさい。シャル自ら志願したのよ。もっとも……作戦不履行に関する処罰は受けてもらうけれど ペロー: もちろん。甘んじてお受けするつもりです キャロル: じゃあ、さっさと次いこー。今日はウィラいなくてつまんないよー。副議長、ウィラはどこいったの? ????: さあな キャロル: こっちの隣は仮面かぶったまま何もしゃべんないしさぁー ????: ………… ゲーテ: では順番が入れ替わりましたが第1号議案『第11号委員改選についての承認』です ????: ……よろしく、お願いします…… キャロル: んもぉー!またネクラなのがきたぁ!もっとここは、みんなで明るく楽しく血みどろな話をする会にしようよー! ジャコヴァ: 副議長の推薦だったな。採決するまでもないだろう。承認でいいな ゲーテ: では第3号議案に進みます。『GRⅡ計画の進捗報告について』 ペロー: こちらに関しては、おかげさまで順調に進捗しております。遺跡は落ち、針は進んでいる…… カロラ: サミット対策をシャルに押し付けた結果な ペロー: ご指摘のとおりです。シャルロッテ委員に報いるためにも、必ず成功させましょう…… シンデレラ: ようやく港に着いたわね。ここから先は海を渡ることになるけど…… ティンカー・ベル: ねえねえ、この先どうするかって決まってなくない? ドロシー: 表立って魔法の国の支援も受けられなくなったし、今まで以上に計画的に旅を進めないと ヴェルメリオ: ……ドロシーが計画的なんて ドロシー: ヴェルまでそんなこと言う!私だって考えなしじゃないのよ ピュルテ: それなんですが、私に考えがあるんです。この先……忍びの里を目指しませんか エミリー: 忍びの里ぉ……? ピュルテ: ちょうど東の海ですから、そう遠くありませんよ ドロシー: そうね。ヤマト海峡を超えたら、もうそこがヤマトの国だものね ドロシー: って、しまった!地図が読めない女子を演じなきゃいけなかったのに! ティンカー・ベル: いやいや、もうそれ関係ないってことになったじゃん ヴェルメリオ: ……うらやましいよ。ちゃんと地図が読めたり、地理が頭に入ってるって シンデレラ: 聞かせてくれる?忍びの里に行く狙いは何かしら ピュルテ: 私たちに圧倒的に足りないのは情報だと思うんです。敵の狙いも、それに対抗する手段も、何もわかっていません クレア: うん。人間さんのエルマイトはすごいけど、それだけで力押しなんて、無理がある ピュルテ: なので、そういった情報収集を忍びの里の忍者さんたちに協力してもらうんですよ! ドロシー: いきなり行って平気かしら シンデレラ: 先に、里の長のしのぶに伝書鳩を飛ばしておきましょう。こんな人数で行って警戒させてもいけないわ クレア: じゃあ次は、私も忍術を覚えられるかな。明日から、麻を植えて飛ぶ エミリー: それは気の長い話だねぇ…… (背景切換...) シンデレラ: ……そう、うん。わかったわ。気をつけるのよ。自分の身を第一に考えて。それじゃあね ピュルテ: あれ、シンデレラさん? シンデレラ: ああ……ピュルテちゃんと人間さん。こんな時間に2人きりでデート?妬けるわね ピュルテ: そ、そそそ、そんなんじゃ!それよりシンデレラさん、今のは? シンデレラ: マザーティターニアよ。ひとまずクーデターは鎮圧される見込みがついたみたい ピュルテ: よかった……! ピュルテ: じゃあ魔法の国は正常化するんですね シンデレラ: そうね。本当に、うまくいってよかったわ ピュルテ: サミットのシンデレラさん、すごかったんですよ!人間さんにも見せたかったです♪ シンデレラ: ピュルテちゃん ピュルテ: あ、ち、違いますよ!あの、プリンセスとしての政治的な立ち回りのことです! ピュルテ: そ、そうだ。さっきあったかい飲み物を売ってたので、お二人の分も買ってきますね! シンデレラ: 逃げたわね……まったくもう。え?人間さんは気にしなくていいのよ。なんでもないんだから♪ シンデレラ: でも……ほんと、プレッシャーだったわ。吐きそうだった シンデレラ: 飲みすぎたから!?もうっ、人間さんってばひどい!私はほんとに……あっ シンデレラ: ……人間さんの胸の中、あったかい…… シンデレラ: そうよ。本当に……国民みんなの安全が、私の一挙手一投足にかかってたんだもの。それでも前に進めたのは……ロゼッタゲートのおかげなのかしらね シンデレラ: でも、こうしてあなたに抱きしめられたら……そんな苦労なんて吹っ飛んだわ シンデレラ: 無事に再興する国を見るまでは終わりじゃない?そうよね。ふふ、あなたってばちっとも甘やかしてくれないんだから シンデレラ: 甘やかしてくれるの?ご褒美?ふふっ、じゃあ期待しちゃおっかな シンデレラ: 具体的には……ん ピュルテ: ふー、皆さんホットココアでよかっ…… ピュルテ: はぁうっ!ラブラブな現場でした……そ、そうだよね。シンデレラさんがんばったし、人間さんにちゅ、ちゅーくらい……うん シンデレラ: ん……ふぁ……ふふっ。すごく、元気出たわ。ねぇ、人間さん、今夜って……って、ちょ、ピュルテちゃん!いつから見てたの!? ピュルテ: あ、あはは……すみません。お邪魔しちゃって…… シンデレラ: いいのよ!ごめんね、持たせたままにしちゃって……あら、ココアね♪いただきましょ (――我が物にしたくはないのか。) ピュルテ: うっ……!? シンデレラ: ピュルテちゃん?どうしたの? (――我が物にしたくはないのか。) (――愛は、1つしかない。) ピュルテ: やめてぇっ!ううっ、やああっ!? シンデレラ: ピュルテちゃん! 192 - 逃亡の果て ドロシー: さすが港町ね。いろいろな珍しいものもお店に並んでて活気があるわ クレア: 海の匂いがする ドロシー: そうね、もうすぐそこが海だから、潮風が届くのよ。でも気をつけないと、潮風は髪を傷めるの クレア: ばっさばさになるんだ ドロシー: 髪は女の命って言うでしょ。傷んだら、かなり女子力がダウンするはずよ クレア: なるほど。いいね、人間さんは気楽で ティンカー・ベル: いやいや、人間さんだって髪が傷むのはやだって言ってるよ。人間さんは、意外と肌とかもキレイなんだから クレア: ほんとだ。ムダに…… ヴェルメリオ: ……前に、シャルドネの発酵液使ったときも、一番効果が出てたよね ティンカー・ベル: あっ、あれ見てよ。ティンカたちがお尋ね者になってるよ エミリー: えっ、なにこれ。エミリーってもっと可愛いよねぇ クレア: 賞金は妥当なのかな ティンカー・ベル: いやいや、2人とも気にするところ、そこ!?だいぶ大物だね! エミリー: みんなが冷静だから、エミリーたちも落ち着いてられるんだよぅ ドロシー: 私たち、これが初めてじゃないもの。フックの部下に懸賞かけられたことだってあったし ヴェルメリオ: ……でも、油断して見つかっても大変だよ。旅の物資も買い集めたし、早く行こう (背景切換...) シンデレラ: みんな、お疲れ様!もう忍びの里からは迎えが来てるわよ ピュルテ: ええ、後は船の調達だけですよ 服部あおい: ああっ、お館様!お久しゅうございます。こうしてお目にかかれることを、拙者がどれほど夢見ていたか エミリー: まーた愛されてる。ちゃんとうまいことやってよね、人間さん 服部あおい: 大丈夫です。お館様ともなれば側室の1人や2人、当然でございます。そのくらいは心得ておりますので ヴェルメリオ: …………がまん、がまん ティンカー・ベル: それはそうとピュルテ、体調は大丈夫なの? ピュルテ: ええ、もうすっかり元気です!きっと昨日は、疲れが溜まっていたんだと思います シンデレラ: ……。ピュルテちゃん、くれぐれも無理はしないでね ピュルテ: 大丈夫ですって!さあ、忍びの里に向けて出発ですよ! ティンカー・ベル: いーやっほーぅ!やっぱり海の上って開放的で、すっごく気分がいい! クレア: そんなに海が好きなら、フックの船に乗せてもらえばいいのに ティンカー・ベル: それはやだっ! ピュルテ: 船の調達で指名手配のことがバレちゃうなんて、ヒヤヒヤしましたね エミリー: ドロシーのおかげだねぇ。もう1回やってよぅ! ドロシー: えー? ドロシー: 今あなたには2つ選択肢があるの。船を売ったお金で家族と楽しく旅行に行くか、多額の遺産を遺してあなたは住まない家を建て替えるか 服部あおい: きゃーっ、忍びでもなかなか言えませんよ!素敵です! シンデレラ: うん、そうね……普通に脅迫なんだけど、まあやむを得ない事態だったわよね…… ヴェルメリオ: ……でも、あの後やっぱり通報したんじゃない? シンデレラ: あれだけ脅されたら怖くて通報できない気もするけど……できるだけ急いだほうがいいわね 服部あおい: そうですね。幸い、風もありますし順調に進めそうです ピュルテ: いざとなればエルマイト駆動機もついてる船ですから……人間さんにちょっとがんばってもらって エミリー: おーっ、どんとこい、なんて頼もしいねぇ 服部あおい: お館様、拙者にできることがあれば何でも致します。エルマイトを高められるよう、最大限のお手伝いを…… ヴェルメリオ: ……あおいには情報収集してもらわないといけないから 服部あおい: もちろん心得ております。コミッティなる組織の目的、状況の把握ですね 服部あおい: しのぶ様も、拙者にお館様のお迎えを命じられた時点では、ご存じないようでした シンデレラ: それと気になっているのは、ヴェルザームね。敵の狙い次第とは言え、有力な対抗手段になるはずよ ピュルテ: せっかく集めた3個も、どこかへ飛んでいっちゃいましたからね 服部あおい: 承知致しました。まずは……風のあるうちに、船を急ぎ進めましょう エミリー: ちょ、こ、これどうなってるのぉ!? シンデレラ: ひどい嵐になっちゃったわね。あおい、大丈夫!? 服部あおい: はっ!帆は全て畳みましてございます ヴェルメリオ: ……ありがとう、あおい。全部やってもらっちゃって 服部あおい: 鍛錬していない方に、この嵐の中での高所作業は危のうございますから クレア: これ、風も波もすごい。船、どっかいっちゃわない? ピュルテ: 一応、繋留していますので……多少はずれてしまうでしょうが、大きくは流されないはずです ドロシー: 大変よ!下から水がせり上がってきてる! ティンカー・ベル: 穴が開いてるみたいなんだけど!? シンデレラ: なんですって!?この嵐の中、浸水なんてしたら……! ピュルテ: バランスを崩して転覆しちゃいます! エミリー: わあああ、すっごい揺れるよぉ! 服部あおい: 皆さん、近くの何かにおつかまりください! (背景切換...) 珠絵: 人間さん!しっかりするんだっぺ! (背景切換...) 珠絵: よかったっぺ……目を覚ましたんだっぺ。浜辺に打ち上げられてたんだっぺ 珠絵: あっ!?急に起き上がっちゃダメ……え、仲間?みんな一緒に打ち上げられてたっぺ ピュルテ: あっ、人間さん!よかった、皆さんも全員無事だったんですよ 珠絵: すごく必死な顔してたっぺ。仲間のこと、大事なんだっぺ ピュルテ: 最近、色々ありましたからね。人間さんも、はぐれたりすることに過敏になってるんですね 珠絵: うん、わっちが散歩してたら見つけたんだっぺ。お、お礼なんて、そんな……! 珠絵: と、とにかくみんな、わっちの小屋に案内するから、起きてほしいんだっぺ。わっち一人じゃ運ぶのは無理だし ピュルテ: 珠絵さんがいるということは、ここはヤマトの国……なんですよね? 珠絵: そう、ヤマトの国の、妖怪村だっぺ。せっかく来てもらったのに、おもてなしはできそうにないけど…… 193 - 妖怪村 ティンカー・ベル: やー、しっぽが助けてくれて本当に良かったよね 珠絵: 感謝されることに慣れてないから、お尻がむずむずするんだっぺ~ ヴェルメリオ: ……これを機に、いたずらやめて感謝されることばかりするようになるかな 珠絵: や、それはないんだっぺ ティンカー・ベル: ないんかい 服部あおい: でも、あの嵐は偶然にしても船に穴が空いているとは…… ドロシー: あの船を売ったおっさんが、何か仕掛けてたのかしら。ぶっ飛ばしてやるわ シンデレラ: 私たちが悪人だと思いこんでたにしても、下手すれば死んでたかもしれないのよ。あの人に、そこまでの意図があるかしら エミリー: 過ぎたことはしょうがないよぅ。それより、この妖怪村って忍びの里から遠いの? 珠絵: 忍びの里の場所を知らないんだっぺ 服部あおい: 少し遠いですね。同じヤマトの国ですが、この妖怪村自治領からはそれなりに離れています クレア: でも行かなきゃしょうがないもんね 珠絵: それなら……気をつけて行くんだっぺ。ここから妖怪村を出るには、村の中心街を通ることになるんだっぺ ピュルテ: ここは村の外れのほうなんですね? ティンカー・ベル: そうだよね。なんか誰もいなくて寂しい場所だし シンデレラ: でも、中心を通るのに何を気をつけるっていうの? 珠絵: 最近、変なおふれが出て様子がおかしいんだっぺ ドロシー: 変なおふれですって? エミリー: うん、人間さん。それって……スティヴァーリシティの前に立ち寄った町でも、似たようなことが起きてたよぅ クレア: それってもしかして、新しいこと禁止とかいうおふれ? 珠絵: そうだっぺ!新しいことだけじゃない、おもしろおかしくふざけるのも、いたずらなんてもってのほかなんだっぺ ヴェルメリオ: ……だから珠絵は、村外れに隠れてたんだね 珠絵: だって、そんなルール……破らずにいられないんだっぺ 服部あおい: 破ったらどうなってしまうんです? 珠絵: 衛兵にとっ捕まるんだっぺ…… ドロシー: そもそも妖怪村なんて、妖怪たちが集まって好き勝手暮らしてるイメージなんだけど ピュルテ: ええ、そうですね。ルールなんて、あってないようなものだったかと…… 珠絵: そうなんだっぺ。本当は村の中なら、自由でお気楽に過ごして良かったはずなんだっぺ。ヤマトの国の代官がおふれを持ってくるなんて初めてなんだっぺ エミリー: これは……キナ臭いねぇ シンデレラ: そうね。妖怪村は自治領扱い、一方的に兵士を駐屯させて法律を押し付けるっていうのは、ちょっとありえないわ 服部あおい: とすると、何者かの意図があるということですか? ヴェルメリオ: ……それって、何が目的なの ピュルテ: 以前の町では、新しいことを禁止されて、なにかする意欲を失っていました エミリー: それはエルマイトが減っていくことになるんだよねぇ クレア: 今回の妖怪村では、おもしろおかしくするのも禁止なんでしょ シンデレラ: 前よりも露骨に動いてるって感じなのね 珠絵: 村のエルマイトが……!?そ、そんな大事だったっぺ…… ティンカー・ベル: ねえ、しっぽ。あんた、このまま終わらせるつもりじゃないんでしょ 珠絵: もちろんだっぺ。なんとかして、変なお触れはやめさせる。じゃないとみんな、安心して暮らせないんだっぺ ティンカー・ベル: だろうと思った。ねえみんな、せっかく立ち寄ったんだし、助けてもらった恩もあるしさ ドロシー: 珠絵に手を貸そうっていうのね。そうこなくっちゃだわ! 珠絵: え……いいんだっぺ?だってみんな、急いでるって…… ピュルテ: ディマイトが関わってる可能性があると聞いたら、放ってはおけませんよ ヴェルメリオ: ……それに、友達でしょ 服部あおい: 決まりのようですね。もちろん、拙者も助太刀致しましょう 珠絵: みんな……!うん、本当は一人で、ちょっと心細かったんだっぺ……!ありがとだっぺ……! 珠絵: この森を抜ければ村の中心街だっぺ ドロシー: まずは様子見なんて、シンデレラってば慎重よね ヴェルメリオ: ……いきなり殴り込むよりは、普通の感性だと思うけど エミリー: エミリー達は偵察隊なんだから、あんまり騒いじゃだめなんだよぅ? ドロシー: わ、わかってるわよ! 服部あおい: ええ。はい。想定外ですが……ええ、継続ですね。承知致しました。そちらは、ええ、はい エミリー: あっ、ちょっとドロシー。あおいがスホマで通信してるから静かに 服部あおい: 失礼しました、いま終わりましたので ヴェルメリオ: ……忍者もスホマでやり取りするの 服部あおい: 便利ですからね ドロシー: 情緒もへったくれもないわね (背景切換...) 服部あおい: ここが村の中心街ですか?ずいぶん寂しい雰囲気ですね…… 珠絵: みんな、怖がって家の中に引きこもってるんだっぺ。こんなの、本来の妖怪村じゃないんだっぺ ヴェルメリオ: ……あっ、あそこ、クマーラ!? 衛兵: 逃がすかっ、いいからこっちに来い! クマーラ: くっ、は、放しなさいっ! 珠絵: クマーラ!捕まっちゃうんだっぺ! ドロシー: 偵察だから騒ぐな、なんて誰も言わないわよね!? エミリー: うん!こんなの見過ごせないよ! (…………。) (背景切換...) ドロシー: 大丈夫?クマーラ、ケガはない? クマーラ: ありがとうございます、皆さん……。しかし、衛兵にはまだ多くの仲間が捕まっています 珠絵: そんな……! クマーラ: なんとか私は逃げ出してきましたが……それも、どうにかみんなを救い出すためです 服部あおい: そのご様子……何か策をお持ちなのですね クマーラ: 同じ牢に捕まっていた旅人から策を授けられたのです。いわく、エルマイトを高めるのだと 珠絵: エルマイトを?あ、でも、それなら雲外鏡が使えるんだっぺ! クマーラ: 残念だけど、雲外鏡は使えないのよ、珠絵 珠絵: そんな、どうしてだっぺ!? 194 - 歌い、踊れ クマーラ: 例の衛兵たちが拠点にしているのは、雲外鏡を封印している古寺なのです 服部あおい: 切り札は敵の本拠地にあり、ということですか。確かに厳しい状況ですね ドロシー: そうね。殴り込んで奪えるものなら、最初から雲外鏡なんて要らないわけだし クマーラ: しかし、この村全体のエルマイトを高めていけば、勝機はあるとのことでした 珠絵: その旅人ってのは何者なんだっぺ ヴェルメリオ: ……旅人って聞くと、わたしたちはあまりいいイメージがないんだけど ドロシー: リルがディマイト側にいたときのことを思い出すものね クマーラ: 宝探しを生業にしているとか。気ままな旅の様子でしたが ヴェルメリオ: ……ただ、相手はエルマイトを下げるためにおふれを出してる エミリー: うん!相手の嫌がることをすれば効果があるっていうのは、シンプルでわかりやすいねぇ 服部あおい: そのような怪しい女の言うことに、どこまで信憑性があるのでしょう エミリー: え? ドロシー: 聞くだけ聞いてみるけど、どうやってエルマイトを高めろっていうのよ クマーラ: 楽しく、歌い踊れと ドロシー: はあああ?なにそれ、嘘くさいわね クマーラ: 仲間が捕まり、自由を制限されて……それで落ち込んでいたら、相手の思うつぼだと言うのです エミリー: まあ、一理あるっちゃあるけどねぇ 珠絵: とにかく、まずはわっちの小屋にクマーラをかくまうんだっぺ ドロシー: そうね。その後でみんなで相談ね (…………。) (背景切換...) シンデレラ: なるほどね、エルマイトを…… ピュルテ: ふざけてるようですが、理には適ってます。人間さんは強いエルマイトがありますが、効果範囲はどうしても限られます クレア: そうだね。強くても、一人なんだから シンデレラ: 戦略も広がるわ。1対1の決闘ではない以上、考えておくべきことね ドロシー: ただねえ、歌って踊るって言われても、どうしたもんだか ティンカー・ベル: やるよ! クレア: ティンカ? ティンカー・ベル: ティンカはやる!歌って、踊る!みんなでやれば大丈夫だよ! 住民1: 夕方6時……南の寺、地下だ 住民2: 南の寺……衛兵の詰め所とは真逆の方じゃな クレア: これチケット。無いと入れない 住民3: よかった。どうやって手に入れるか困ってたの (…………。) (背景切換...) エミリー: こっち、こっち。もう始まっちゃうよ 住民1: こっち? 服部あおい: まさか……こんなに人が集まるなんて ピュルテ: 娯楽を求める人達の抑圧された感情……それが一気に集まるっていう人間さんの読みどおりです 服部あおい: さすがはお館様。ご賢察、恐れ入りましてございます 珠絵: ざっと見ても千人くらいはいるんだっぺ ピュルテ: あとはティンカちゃんたち次第ですね (背景切換...) ティンカー・ベル: それじゃ、いくよ。3、2、1…… (背景切換...) ティンカー・ベル: みんな、おまたせーっ! (ワアアアアアア……!!) ドロシー: 今日はめいっぱい楽しんでいってよね! シンデレラ: さあっ、盛り上がっていくわよ!みんな、二次会のテンションで! ヴェルメリオ: ……それじゃあいくよ (ワアアアアアア……!!) クレア: はじまった エミリー: 一人でノリノリだったから心配してたけど、きちんと形にしてくるところがティンカはすごいよねぇ 珠絵: みんな大盛りあがりだっぺ!村のみんながこんなに楽しんでる笑顔、久しぶりに見たんだっぺ 服部あおい: すごい……感知できなくても分かります、このエルマイトの奔流……これがお館様の目指す世界…… クレア: あおい、泣いてる? 服部あおい: あっ、な、なんででしょう エミリー: きっとね、内側に閉じ込められてるあおいの本当の気持ちが溢れてきたんだろうねぇ (ワアアアアアア……!!) ティンカー・ベル: みんなも踊ろうっ!うぇい、うぇい、ふーっ☆ ドロシー: あ、妖精さん。こんなところにいたのね ティンカー・ベル: んー、さすがに疲れちゃってさ。みんな、揃ってどうしたの クレア: みんなも休憩したくて海に来た ヴェルメリオ: ……本番だけじゃなくて、準備から大忙しだったもんね ピュルテ: エミリーさんが褒めてましたよ。形にするのはすごいって ドロシー: イベントでも妖精さんが一番人気だったんですって? シンデレラ: 盛り上げるし、踊りもキレッキレだものね ヴェルメリオ: ……わたしも踊り練習しなくちゃ。あんまり得意じゃない エミリー: 実際、アイディアくれた例の旅人さんが、どういうつもりで言ったかは知らないけど……あ、こういう方法があるんだって気付かされたよ ティンカー・ベル: みんなで元気に楽しく、でしょ。一応ティンカたち、アイドルなんだしと思って! シンデレラ: もう追加公演のチケットもバンバン出回ってるそうよ!大成功ね 珠絵: ただ、敵さんも色々嗅ぎつけてるみたいだっぺ。みんな秘密は漏らさないでいてくれるけど ピュルテ: 普段の様子からして色々違っちゃうでしょうからね。多少は勘付かれるのも仕方ないです クレア: 滲み出ちゃうほど楽しかったってこと ヴェルメリオ: ……人間さんもお疲れ様。色々応援してくれて嬉しかった。うん、お茶?はい、どうぞ ピュルテ: はっ!?気がついたら隣にいて、すかさずお茶を……! ヴェルメリオ: ……うん、疲れたよね。これが終わったら温泉でも入りたいね。2人で…… ピュルテ: 2人でって付け加えましたよ!? 珠絵: ふ、ふふん。やりたいようにやらせておけばいいんだっぺ クレア: 珠絵。言ってる内容のわりに、うろうろして落ち着かないみたいだけど 珠絵: 人間さんは、ちゃんと本質がわかってる人だとお、思うんだっぺ 服部あおい: やれやれですね。お館様はさすが、大人気です エミリー: …………。……そうだね 195 - 地下から地上へ ティンカー・ベル: 今日もありがとーっ!またステージで会おうねーっ! シンデレラ: 今夜は、私の夢を見てよねっ♪ 珠絵: みんなもアイドルが板についてきたんだっぺ クマーラ: チケットも連日完売、物販も売り切れ続出で嬉しい悲鳴ですね クレア: 一気に波がきた 珠絵: ねえ、クマーラ。別に商売が目的じゃないんだから、売らなくてもあげればいいんだっぺ クマーラ: 人は、ただで配布されるより、お金を出して手に入れた方が価値を感じるわ クレア: それはそうかも クマーラ: これはエルマイトを高める作戦。価値が高いものを持っている満足感、それがエルマイトになるのよ クレア: なるほど 珠絵: 言われてみればクマーラの言うとおりなんだっぺ。でも、妙に詳しいような……? クマーラ: えっ!?い、いえ、別に詳しいわけじゃないわよ。ちょっと聞いたことがあるだけ エミリー: 意外とアイドル追っかけたりしてるんじゃないのぉ? クマーラ: も、もう、そういうのはしてませんから! クレア: もう (背景切換...) ティンカー・ベル: えっ、地上の会場で!? クマーラ: ええ。今までは地下の隠し通路を使ったステージで、文字通り地下アイドルだったわけですが…… 珠絵: 村のみんなもエルマイトが高まってきてるんだっぺ。それはピュルテも確認してくれてるし間違いないんだっぺ エミリー: ここで一気に反転攻勢するんだよぅ。そろそろ勝負どころだと思うなぁ シンデレラ: そうね。アイドル活動が主題じゃない以上、見極めは必要ね クマーラ: 問題は当局の捜査です。衛兵たちがそこらじゅうを警戒してる状況ですから、移動1つとっても慎重にいかなくては 服部あおい: 相手の警備状況は、拙者も微力ながらお役に立てるかと ヴェルメリオ: ……ステージに立つわたしたちだけじゃない。みんなで成功させなきゃね 服部あおい: では、計画どおりに クレア: 消えた。うーん、さすが忍者 ティンカー・ベル: クレア、あれを目指そうとか考えないでね。無理だから クレア: 無理かな ピュルテ: ……人間さん。私が心配性なだけかもですが、なんか嫌な予感がします ピュルテ: 今回の計画、大丈夫でしょうか…… ドロシー: ねえ、人間さん!ステージでの動線、ちょっと確認してもいい? ピュルテ: あっ、人間さんさ……ううん、人間さんだって今は忙しいんだもん。私だけにかまってられない…… (――我が物にしたくはないのか。) ピュルテ: うっ……!?ま、またっ……!? (――我が物にしたくはないのか。) (――愛は、1つしかない。) ピュルテ: こ、こんなときにっ……バカなこと考えちゃだめっ…… クマーラ: んっ……ピュルテさん?どうかしたんですか? ピュルテ: い、いいえっ、大丈夫です。これくらい、なんでもありませんから……! クマーラ: そうですか?無理はしないでくださいね シンデレラ: 隠れ家へのルートって、こっちをまっすぐでいいのよね?今のところ、特に妙な気配はなさそうだけど エミリー: ううん、そこ右に曲がって迂回しよう ティンカー・ベル: えっ!?それ、計画とは違うんじゃない? エミリー: わかってる。でも、今ここにいるメンバーだけ、こっちから回ろう 珠絵: ……どういうことなんだっぺ シンデレラ: まあいいわ、エミリーがそう言うなら、そっちから回りましょう (背景切換...) ドロシー: いい匂い!あっ、今日のおやつはミートパイだわ! ヴェルメリオ: ……毎日、小屋にいると飽きるでしょ。パイも、アップルパイだけじゃつまらないかと思って 服部あおい: 素晴らしい気配りですね シンデレラ: ん~、ナツメグが効いてるわね♪ クマーラ: み、皆さんはご無事ですか? 珠絵: あれ、クマーラ。どうしたんだっぺ ピュルテ: なんだか慌ててるみたいですが、何かあったんですか クマーラ: さっき情報が入ったんです。仲間が数名、当局に逮捕されました クレア: 逮捕って、え、どこで クマーラ: 移動ルートの安全確保に配置していた仲間が3名です。場所からすると……さっきの分かれ道、あれをまっすぐ進んだ場所です ピュルテ: それってつまり……当局サイドに、私たちの移動ルート情報が漏れている……? シンデレラ: そこまで断定するのは早計だけど……でも、可能性は考えるべきね 珠絵: 待ってほしいんだっぺ。さっきルートを変えるとか、急に言い出したのはエミリーだっぺ エミリー: なんとなく、胸騒ぎがしたんだよねぇ 珠絵: そんなの都合が良すぎるんだっぺ。人間さん、この子は信用できるんだっぺか? ティンカー・ベル: 当然じゃん!いくらしっぽでも、エミリーを疑うのは許さないよ! ドロシー: もしエミリーが敵側と通じてるんなら、ルートを変えるように言ったこととの辻褄が合わないでしょ 珠絵: そ、それは……うん、そうだっぺ。ごめんだっぺ… エミリー: ううん、疑うのも無理ないよぅ。でも大丈夫、逮捕された仲間はすぐ救出できるよ 珠絵: うん……!次の野外ライブ、村じゅうのみんなが集まってくれれば、すごい力になるんだっぺ ドロシー: そのまま一気に反転攻勢すれば、捕まった人たちもすぐ助けられるわよね 服部あおい: ライブの後は、そのまま古寺に向かうんですよね クマーラ: 十分な戦力があれば、古寺から雲外鏡の奪取も可能でしょう。雲外鏡さえ手に入れれば、もはや勝負は決まったと言ってもいいはずです シンデレラ: レジスタンス集会なんて言うと抵抗ある人も少なくないでしょうけど、アイドルのライブって言えばみんな来やすいわよね ピュルテ: 皆さんを集めてエルマイトを極限まで高めれば、相手にとってもかなりの脅威になります 珠絵: よーし、特別公演の最終チェックをするんだっぺ! 196 - 妖精さんのカラ元気 シンデレラ: え、ティンカちゃん?そう言えばいないわね 服部あおい: 拙者も見ていませんが…… ドロシー: 海の方に行くって言ってたわよ ヴェルメリオ: ……こんな夜に? ドロシー: 何か思うところがあるんじゃないの?海が好きだって言ってたし ピュルテ: あ、人間さん。海の方に行くんですか?あ、あの、気をつけてくださいね (背景切換...) ティンカー・ベル: あ……人間さん。やー、ほら明日はおっきいイベントだから、ちょっとこう好きな海でも眺めて集中しようと思ってね ティンカー・ベル: え、心配した?なんでー? ティンカー・ベル: ティンカが元気なさそう?そんなことないってば。ほらほら、元気いっぱい、うぇいうぇい……あっ ティンカー・ベル: な、なんで……急に抱きしめたりするの。そんなことされたら…… ティンカー・ベル: 人間さんにはお見通しってこと……?そうだよ、めっちゃ不安なんだもん。うまくいくか、不安にもなるよ……! ティンカー・ベル: 元は、その旅人さんのアイディアだけどさ、具体的に進めてきたのはティンカだもん ティンカー・ベル: みんなはそんなこと言わないけど……やっぱり責任っていうか、プレッシャーみたいなのは……いくらティンカでも、感じるよ ティンカー・ベル: うん……そうだね。一人で溜め込むのは良くないよね。人間さんになら、こうやって話せる……うん ティンカー・ベル: 人間さんと2人のときだけは、カラ元気するのはやめとく。だから人間さんは、ちゃんとティンカのこと受け止めてくれなきゃダメなんだからね? ティンカー・ベル: ずっと気にかけてくれてたんだね、ティンカのこと……。それだけでも、嬉しいんだよ。人間さんはさ、自分で思ってる以上に、ティンカに元気くれるんだから ティンカー・ベル: うん、ティンカたちはステージがんばる。ステージの外のことは、人間さんたちに任せるから。……信じてるから ティンカー・ベル: あ、ちょ、もう戻るの?も、もうちょっとだけ……ぎゅってしてくれてても……いいんだよ? 指揮官: この先の広場に会場設営しているということだな 衛兵1: 斥候からの報告で、内偵からの情報の裏付けはとれています 指揮官: となると、奴らの狙いはやはり住民を一同に集めての一斉蜂起か 衛兵1: 一般市民にできることなど、たかが知れてると思いますが 指揮官: それがエルマイトの怖いところだ。ここ最近の一帯のエルマイト増加量は看過できるものではない 衛兵2: しかし、会場を制圧すればこちらのものです。幸い、奴らも手が足りないと見え、警備網に穴ができている 指揮官: こちらもリソースは限られるからな。奴らの守りのほころびを一点集中で突破する! エミリー: 残念だけど、そういうわけにはいかないんだよねぇ 衛兵1: えっ、おまえは!? クレア: みんなのステージ、邪魔させない クマーラ: 貴様らは、ここで足止めさせてもらう! 衛兵2: バカな!情報と違うぞ!? 珠絵: 妖狐のわっちを出し抜こうなんて、甘すぎるんだっぺ! 指揮官: ば、ばかな……くっ、応戦しろっ! ピュルテ: 一人たりとも、この先は通しませんよ! 指揮官: お、おい、これはどういうことなんだ! 服部あおい: どうやら……いっぱい食わされたのはこちらだったようですね エミリー: ……ようやく尻尾を出したみたいだね 珠絵: 妖狐相手に化かし合いしかけるとは、なかなかだっぺ 服部あおい: 内通者がいる可能性を考えるところまでは、まあ予測の範疇でした。しかし、完全に拙者を狙い撃ちにしていますね エミリー: いろいろ分かっちゃったんだよねぇ。本来のあおいじゃないなー、って 服部あおい: さすが、というべきでしょうか。第5号委員、エミリー・グリム。なら、こちらも手加減はしません……! 服部あおい: あぁ……っ、くっ、くぅ……っ クレア: あそこ、文字があった ピュルテ: 胸元の横のとこですね!見えますか、人間さん 珠絵: ほんとだ、文字がある!え、あれをどうするんだっぺ……って人間さん!? クレア: 援護! 服部あおい: あ、ああっ……ふぁあああっ!? ピュルテ: 黒い蝶です!もうこれであおいさんのディマイトは完全に浄化できています! 指揮官: くううっ、これは完全にやばい!撤退だ! クレア: あっ、逃げた 珠絵: 逃がさないんだっぺ! エミリー: 待って。今は深追いしなくていいよ。それよりイベントは…… クマーラ: どうやら無事に始まってるようですよ。ステージの方角から、ほら…… ピュルテ: 強いエルマイトの波動……! 服部あおい: はっ……!ああ、お館様。申し開きの使用もございませぬ。拙者としたことが、お館様に刃を向けるなど…… ピュルテ: 人間さん、もう文字は消えたんですから!くっつきすぎですよ! 服部あおい: ああ、お館様っ!またしてもお救いくださるなんてっ、やはり拙者になくてはならない愛しい人っ……! エミリー: ね、これこれ 珠絵: へ?これこれって、何が? エミリー: どうも反応が醒めてると思ってたの。本来のあおいは、これくらいべったりじゃなくちゃねぇ 珠絵: エミリーが、あおいは操られてると思った理由って、まさかこのことだっぺか!? エミリー: 最初に旅人が女だって言い切ったときから、おかしいとは思ってたよ。クマーラはまだ何も言ってないのにおかしいな、って クマーラ: 私はまったく気にしていませんでしたが……そうだったのですね クレア: 気にしないで。エミリーはすぐ頭いいフリするから エミリー: え、ちょ、今回はエミリー、がんばったよねぇ!? エミリー: でも……みんなが信じてくれたから、作戦は成功したんだよ。一度は裏切ってたエミリーのことを……ありがとうね ピュルテ: ふふっ、もうそんなこと、みんな忘れてますよ 珠絵: さあっ、わっちたちもイベント会場に急ぐんだっぺ! エミリー: それにしても、この段階でもまだ文字……やっぱりペローが噛んでるの……? 197 - ライブはクライマックス 衛兵: な、なんだありゃあ!? ティンカー・ベル: さあみんな、いよいよライブもクライマックスだよーっ! ヴェルメリオ: ……わたし達のステージ、最後まで楽しんで行ってね ドロシー: 全力で、歌いきるわよ! シンデレラ: ちょっとセクシーなとこも見せちゃおっかな♪ (ワァアアアアア……!) ピュルテ: すごいです!どんどんエルマイトが観客の皆さんから溢れ出て……もう、人間さんから出てる量よりも多いかもしれません! 珠絵: へっへーん、どうだーっ!これがこっちの秘密兵器、移動型アイドルステージだっぺ! クレア: ステージがごろごろ動いてる エミリー: ファンのみんなも、盛り上がりながらついてきてくれてるよ! クマーラ: このまま、この強いエルマイトを敵本拠地にぶつければ、もはや戦いにもならないはずです! 指揮官: も、もうだめだ!この拠点も捨て、撤退する! 服部あおい: 逃がしませんよ!拙者を謀ってお館様に刃を向けさせた罪……きっちり贖っていただきましょう! 衛兵: ひぃーっ!?縄が勝手に身体をっ! 服部あおい: 忍法・自縄自縛の術! 珠絵: よしっ、こっちがみんなが捕まってるとこだっぺ!クマーラ、早く助けに行こう! クマーラ: 言われるまでもないわ ピュルテ: 皆さん!お疲れさまでした! ティンカー・ベル: やー、楽しいステージだった! ヴェルメリオ: ……捕まってた妖怪のみんなも、無事に助け出せてよかったね ドロシー: 代わりに、牢屋には衛兵の連中を放り込んであるのよね 服部あおい: 申し訳ございません、お館様。数名、取り逃してしまったようで…… シンデレラ: 大丈夫でしょ。むしろ報告する兵士を残しておいた方が、恐れられて当分は何も手出しされないんじゃないの クレア: アンコール、見たかった 珠絵: でも本当に、みんなのおかげだっぺ。ありがとうだっぺ クマーラ: 今夜は、みんなで宴を開く予定です。最近、村に出来た美味しいお店があるんですが、今日はそこを貸し切りにしようと思います シンデレラ: いいのよ、そんな!私たちはただ、助けたいってだけなの。そんなふうに接待してもらうんじゃ、申し訳ないわ クマーラ: いえ、店の主人もぜひ皆さんにお礼をしたいということでしたし、ここは気持ちだと思って エミリー: まあ、そこまで言ってもらっちゃ仕方ないよね。素直におよばれしとこう? 珠絵: じゃあさっそく、店に移動するんだっぺ~♪ ティンカー・ベル: あ、人間さん。ちょっといい? (背景切換...) ティンカー・ベル: あー、えっとね。一言、お礼を言おうと思って。励ましてくれたでしょ、砂浜で。人間さんが思ってる以上に、ティンカは元気出たんだよ ティンカー・ベル: お礼っていうか、その、うまくいったご褒美かもだけどさ、えっとさ、あの ティンカー・ベル: んっ……!?ん、ちゅっ……ん、はぁっ、ど、どうしてティンカがちゅーしようとしてたの、分かったの……え、バレバレ? ティンカー・ベル: え、えへへっ、みんなには内緒だよ ドロシー: 何が内緒なのよ ティンカー・ベル: どわあぁぁーっ!?み、三つ編みっ!?なんで見てんのっ! ドロシー: 見たくなんかなかったわよ。ただ、どうしたのかな、大丈夫かなって様子を見に来たんでしょ ティンカー・ベル: ふぇっ、まさかみんなも ドロシー: 私だけよ。ああ、道案内が必要だろうからって、向こうでクマーラが待ってるけど ティンカー・ベル: あ、そっか、道案内……悪いことしちゃったかな。とにかく、三つ編み!今のは内緒だからね、いい!? ドロシー: はいはい、まったくもう……意外と、こういうところで抜け駆けするのね (背景切換...) ドロシー: ごめんなさいね、誰かさんが欲にまみれたせいで待たせちゃって クマーラ: 欲に? ティンカー・ベル: だああっ、なんでもないの! クマーラ: あれ、あそこにいるのは……旅人さん! ???: おぉ?あんたは確かクマーラ。お互い、助かったみたいだね ドロシー: 待って、クマーラ。旅人って、例のあの歌って踊ればいいってアイディアをくれた…… ティンカー・ベル: ああっ、ありがとね!あのアイディアのおかげで、みんなを助け出せたんだよ ???: あれを本当に実行したって?それでみんなを助け出せたってわけか クマーラ: 私たちだけでは。あの計画は作れなかったと思います。これから会食なんですが、ぜひあなたもどうぞ ???: ははっ、ご馳走にはちょっと目がくらむけどね、あたしは大したことはしてない ティンカー・ベル: そんなことないよ!あのアイディアがあったから、全部始まったんだよ ???: 言うは易し、アイディアだけならいくらでも出るけど、実行したのは素直にすごいと思うよ ドロシー: 私はドロシーよ。あなた、旅人だって聞いたけど、何の旅をしているの? フアナ: ああ、悪いね。あたしの名前はフアナ。まあ、トレジャーハンターって感じね ティンカー・ベル: あっ、ティンカだよ。よろしくね!ねえ、ありがとうついでに図々しく聞いてもいいかな フアナ: あはは、なんだいそりゃ。別に構わないけどね ティンカー・ベル: ヴェルザーム、っていうお宝知ってる?トレジャーハンターなら、と思って フアナ: ヴェルザーム……はて……? ドロシー: 原初の創造期って時期からある石よ。強いディマイトを打ち消せるんですって フアナ: ふうん、なるほどねぇ。ってことは、あんたたちはディマイトを消すために旅してるってことかい ドロシー: どうして私たちが旅人だって分かるのよ フアナ: そりゃあ身なりで分かるだろ。どう見ても、妖怪村の住民じゃない ドロシー: あ、そっか…… フアナ: ん……でも、そうだね。ディマイトを打ち消す石か。ヤマトの国の北の果てに、そんな話を聞いたことがあるような気がするね ティンカー・ベル: ええっ、ほんとに!?さっすがトレジャーハンターじゃーん! フアナ: 北の大賢者って人がいるから話を聞きに行くといいよ。じゃ、あたしはもう出発するから クマーラ: ああ、本当にありがとうございました! フアナ: こっちこそ、助け出してくれてありがとね。じゃあ、またどこかで ドロシー: ずいぶん重そうな荷物ね。中身はお宝がいっぱい詰まってるのかしら 198 - 晩餐は小槌亭 珠絵: 遅いんだっぺ!もうお腹ぺこぺこなんだっぺ~ シンデレラ: 私は手が震えてきちゃったわ ピュルテ: それ本当に中毒なやつじゃないですか! シンデレラ: やだ、ちょっとした冗談よ。そんなわけないでしょ ドロシー: ちょっと誰かさんが裏切り行為をしてたせいなのよ ティンカー・ベル: さーっ、今日はみんなで楽しく飲んで食べて騒ごうーっ! ドロシー: ずいぶん大きな馬車ね。これ、どうしたの クマーラ: ああ、それは店の主人から…… 三羽: 少しでも皆さまの旅の助けになればと思いまして、ささやかながら用意させていただきました ティンカー・ベル: あれっ、三羽じゃん!どうしたの!? 三羽: 実はわたくしの経営する小槌亭、その支店を妖怪村にオープンしたばかりでして 珠絵: その準備に来てたところを、あいつらにとっ捕まったんだっぺ 三羽: しかし、それを人間さんさまが助け出してくださる……運命を感じずにはいられませんね。さあ、どうぞ中へ ヴェルメリオ: ……これは大変なことになる予感 服部あおい: 奇遇ですね。拙者も同感にございます (背景切換...) 三羽: ふふっ、さぁさ、人間さんさま。もっと召し上がってくださいね。お酌いたします ヴェルメリオ: ……ごはん、美味しいよ。ほら、あーん 服部あおい: ここのところの激務でお疲れでしょう。肩のコリをほぐします 三羽: ちょっと、あおいさま。人間さんさまに気安く触らないでくださいまし 服部あおい: って言いながら、膝に手を置いているのはどなたでしょうね? ヴェルメリオ: ……みんな離れて。人間さんが落ち着いてごはん食べられないでしょ 三羽: って、なんで人間さんさまのごはんをヴェルさまがもぐもぐしているんです。はっ、まさか口移しで!? クレア: ねえねえ、エミリー。あれ、見苦しい 珠絵: まったくだっぺ。あんなことしなくても、確かな絆を感じられればいいんだっぺ クレア: 珠絵、しっぽあんまり振らないで。ホコリが立つ エミリー: あはは、珠絵ってば落ち着かない気持ちを隠しきれてないねぇ ピュルテ: ……はぁ…… シンデレラ: 久しぶりに自分がハーレム状態だって思いだした?まあ、そうね。私たち、そこまでベタベタしないものね ドロシー: ふん、よかったわね。可愛い女の子に囲まれて ティンカー・ベル: え、胃が痛い? エミリー: 普段の距離感がいかに楽か痛感してるんだ?えへへ、モテる男は大変だねぇ クレア: エミリーが完全に他人事 ピュルテ: それより。ドロシーさんたちが出会った、その旅人さんの話ですよ クマーラ: 北の大賢者、ですね。ヤマトの国の北の果て、ということでしたら……おそらく絶港海峡を越えた先、極北島のエンチュの町のことかもしれません 三羽: 絶港海峡ですか。そう言えば、北に向かう大きな街道が封鎖されているという噂を聞きますね 服部あおい: その話、拙者も耳にしました。なんでも門番のように立ちふさがって、無理難題をふっかけてくるとか 珠絵: クリアできないと通さないとか、そういうやつなんだっぺ?面倒なことするんだっぺ ドロシー: ここを通りたくば俺を倒せ、とかそういう連中でしょ。まったく……脳みそが筋肉でできてるんじゃないの 三羽: いずれにしても、わたくしの用意した馬車なら、絶港海峡まではお送りできますよ ヴェルメリオ: ……うん、わかってるよ、人間さん。悔しいけど、ここは甘えさせてもらうべきだよね。みんなのためだもん 三羽: あら、ヴェルさま。なかなか堂々とした振る舞い、感心致しました。であるならば、ここは公平に、上等車にはわたくしと人間さんさま、それにヴェルさまもご乗車ください シンデレラ: え、待って。上等車ってなに エミリー: エミリー、何もしてないのに問答無用で上等じゃないほうに回されてるんだけど ティンカー・ベル: その通せんぼしてるやつはさ、回り道で避けらんないの?めんどくさい予感しかしないんだけど 三羽: 情報が確かなら、門番が現れるのは山間の隘路。回り道はかなりのロスになると思います ドロシー: 大丈夫よ!私がなんとかするわ クレア: ドロシー。たのもしい ティンカー・ベル: それがめんどくさいって言ってんのに ヴェルメリオ: ……でも三羽。公平ってことなら、あおいも上等車に乗せないと エミリー: ねえ、だからエミリーも上等車がいいんだけど。今から人間さんラブって言えばいいの? 服部あおい: 残念ながら、拙者はここでお館様とはしばしのお別れをせねばなりません クレア: えっ、そうなの。忍びの技、学びたかったのに 服部あおい: 忍びの里に戻り、しのぶ様にこの事態をご報告する必要があります。もちろんお館様が求められているものの調査も進めてまいります シンデレラ: 詳しくは教えてもらえないでしょうけど、忍びの里は、北の方角じゃないのね? 服部あおい: さようでございます。ほぼ逆方向と言ってよいかと 珠絵: 妖怪村も、ヤマトの国の中ではちょっと北の方だし、予想はしてたっぺ。でも、人間さんたちは、もともと忍びの里に用があったんだっぺ? ピュルテ: ええ。ですから……ここで二手に分かれるべきだと思うんです ティンカー・ベル: えっ、そんな!せっかくみんな一緒で楽しかったのに エミリー: うん。エミリーもみんな一緒は楽しかった。けど……そんな、のんびりした旅でもないもんね ドロシー: そういうことね。私たち、お尋ね者なんだから シンデレラ: 大丈夫よ、人間さん。今回は前のときみたいに事故で離ればなれになるんじゃないわ。意図的に、作戦として分かれるんだもの。安心して エミリー: じゃあ、北の大賢者に会いに行くチームと、忍びの里で情報収集を進めるチーム クレア: じゃあ、あみだで決めよう ピュルテ: いえ、私とエミリーさん、それにティンカちゃんの3人で忍びの里に向かいましょう ティンカー・ベル: ほえ?ティンカ? ピュルテ: 人間さんと、ほかの皆さんは北の大賢者さんにお話を聞きに行っていただけませんか シンデレラ: ピュルテちゃん……?いいの……? ピュルテ: お願いします ヴェルメリオ: ……ピュルテ?なんか変だよ クレア: あみだ、作っちゃった。使わない? 199 - 人選の理由 エミリー: ふええ、険しい山道でつらいよぅ。どうしてこっち側は馬車じゃないのぉ? 服部あおい: 忍びの里を御者に知られるわけにはいきません。それに、天然の要害と言われる場所にあるため、必然、険しい道のりになるのです ティンカー・ベル: 昨日も遅くまで飲みすぎたからじゃないの?ティンカはすっきり軽快だよ ピュルテ: シンデレラさんと一緒だったんですよね? エミリー: 朝まで放してくれないんだもん。出発前におふろ入れただけでも良かったくらいだよぅ。マンツーマンになっちゃうと、寝るって言いづらいし ピュルテ: ああ、サシ飲みでリタイアは難しいですね…… ティンカー・ベル: でもエミリーに、言いづらいなんて感性があったなんて驚きだよ エミリー: 待って、待って。エミリーはとっても大人なんだからね 服部あおい: それにしても……この人選には何かわけがあるのでしょう? エミリー: それ、エミリーも聞きたいところだったんだよねぇ。ピュルテ? ピュルテ: 忍びの里に情報収集に行くという言い出しっぺは私ですし、人間界経験があるほうが何かと役に立つかと思ったんです ピュルテ: コミッティの動向を探るなら、エミリーさんもいてもらった方がいいですし……飛べるティンカちゃんは何かを探ったりするときに活躍できそうだったので ティンカー・ベル: まあ、よかったんじゃない?実際こうして山道も飛べるから楽ちんだし。ずきんとか姐さんは辛いでしょ エミリー: エミリーも辛いよぅ! 服部あおい: ただ……差し出がましいようですが、それだけではないようでした。ピュルテさんは、何か決意をされたような…… ピュルテ: あは……あおいさんにはお見通しなんですね。もしかして、みんなにもバレバレかなぁ…… エミリー: エミリーはなんとなく気づいてた。ちょっと、なんかの調子が良くないんだよね? ティンカー・ベル: え、なに、体調が悪いの!? ピュルテ: 違うんです。ただ……私の能力のことで 服部あおい: ピュルテさんの能力、ですか? ピュルテ: あおいさんはご存じないですよね。私って、もともと皆さんと同じように戦ったり、できなかったんです ティンカー・ベル: そうだったね。それが海底の国で覚醒して……あれ、でも、待って。確か雪の国のエリーネアの城で、フェルディナが何か言って…… ピュルテ: そうなんです。私の戦う力は、人間界に行き来できる能力と引き換えに、誰かから得た力です。その誰かは……フェルディナさんだと思ってたんですが エミリー: 違うかもしれない? ピュルテ: もしかしたら、と思ってます。少し、異変を感じてるんです 服部あおい: それと今回のことにどのようなかかわりがあるんです? ピュルテ: 人間さんなんです エミリー: 人間さん……? ピュルテ: 確証はないんですけど、でも……人間さんのそばにいると、その異変が起こりやすいような、そんな気がして ティンカー・ベル: 人間さんのエルマイトに関係があるってこと? ピュルテ: わからないんですけどね。でも、だから怖くて。それで少し離れていた方がいいんじゃないかって ティンカー・ベル: そうだったんだ、ピュルテ……。それ、みんなの前で言えばよかったのに。って、言えないか エミリー: 人間さんも気にしちゃうだろうしね 服部あおい: 単純に、戦力を分断することに不安はなかったのですか?ほぼ迷いはなかったようでしたが ピュルテ: ロゼッタ・ゲートを超えてきた皆さんの強さは、やっぱり段違いだと思います。だからそこは、安心してるんです エミリー: ねえ、ロゼッタ・ゲートってどんな場所なの? ティンカー・ベル: 本当にゲートがあってさ。それをくぐるんだけど……本当に、ぐったりするんだよ。体力も必要だけど、精神力がすり減る感じ エミリー: ええっ、怖いよぅ! ティンカー・ベル: 自分が、自分のようで、自分じゃないっていうのかな……すごく不安になる感覚だった 服部あおい: 精神を試される場所、ですか。興味はありますけど、恐ろしい場所なのでしょうね エミリー: 今頃、人間さんたちは例の門番みたいな人のとこくらいまでは着いてるかなぁ ティンカー・ベル: 馬車だし、早そうだよね ピュルテ: ええ、そう……ですね (――我が物にしたくはないのか。) ピュルテ: うっ……!?なっ、どうして……!? (――我が物にしたくはないのか。) (――愛は、1つしかない。) ピュルテ: くっ、くううっ! エミリー: ピュルテ!?しっかりして、ピュルテ! (背景切換...) クレア: あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ ドロシー: あぐっ、あうっ、すっごい揺れるんだけど!なんなの、これ シンデレラ: うう……酔うのはお酒だけでいいのに……き、気持ち悪い…… クレア: あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ 三羽: も、もうすぐっ、例の関所にさしかかるかとっ、はうっ ヴェルメリオ: ……上等車が壊れてるなんて、ついてなかったね、人間さん シンデレラ: あなたたちと違って、私たちはこの揺れがデフォルトだったんだからね!? 三羽: まあ、みんな仲良く同じ馬車で、結果的には良かったじゃな……あいたっ!お尻打っちゃいましたぁっ 珠絵: 人間さん。大丈夫、とか言いながらお尻を撫でるのはセクハラだっぺ クレア: あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ ドロシー: もう!クレアはさっきからなんなのよ!うるさいわよ! クレア: あー、っていうと変な声になる。おもしろい シンデレラ: たくましい子ね…… (背景切換...) 三羽: ここが例の問題になっている場所ですか シンデレラ: って、ちょっとあれ! カグヤ: あなたたち……!どうしたのよ、こんなところで ドロシー: カグヤ!それはこっちのセリフよ。何やってんの カグヤ: 友達オーディション、出張版よ ヴェルメリオ: ……まだ、そんなことやってるの カグヤ: だって、誰も友達になってくれないのよ! シンデレラ: そうだわ!通せんぼしてる奴がいるらしいから、そいつを倒せば人気者になれるかもしれないわよ! カグヤ: え……それ、たぶん私……友達になってくれないと通さないぞって…… ドロシー: ほんと、何やってんのよ…… フアナ: よう、あんたたち。また会ったね ドロシー: あっ、フアナ!なんでこんなとこに!? シンデレラ: え、ドロシー、こちらは? ドロシー: お宝さがしの旅人、フアナよ 200 - 検問突破? ヴェルメリオ: ……じゃあ、この人が妖怪村の一件で、歌って踊るっていうアイディアくれた人 ドロシー: そういうこと。でも、こんなところで何してるの? フアナ: もし会えたら……と思って、あんたたちを追いかけて、北に向かってたんだ ドロシー: 追いかけて?何のためによ フアナ: 気になったから、っていうんじゃ理由にならないかい? カグヤ: ね、ねえ、私も会話に混ぜてよ。ぼっちみたいで嫌よ 珠絵: なんかめんどくさい子だっぺ…… 三羽: あの、カグヤさま。実は、人間さんさまたちはこの先の絶港海峡に向かいたいそうなんです カグヤ: それで、ここを通りたいってわけね。大丈夫、ここは友達じゃないと通さない……つまり、あなたたちはフリーパスよ ドロシー: えっ? カグヤ: えっ 珠絵: えっ ドロシー: あ、あーあー、そうよね!私たち、友達よね! カグヤ: まさか、私のこと友達だと思ってなかった、とかじゃないでしょうね……!? 珠絵: 本音はどうあれ、そこは大人の対応をするとこだっぺ!? フアナ: あっははははっ!あんたたち、おもしろいねぇ! シンデレラ: 笑い事じゃないわよ、んもう…… カグヤ: そうなのね、本当に私のこと……友達だと思ってなかったって、そういうことなんでしょう!? 三羽: あああっ、お、落ち着いてください! カグヤ: 信じられない……!私は友達だと思ってたのに! ドロシー: お、思ってる!すごく思ってる!ベストオブフレンドよ! クレア: 待って、これディマイト感染してる? ヴェルメリオ: ……まさか フアナ: へえ、これがディマイト感染ってやつなのか。あたしも、初めて見るね カグヤ: う、ううっ、うううっ……! ドロシー: ど、どうなのかしらね……?これ、ディマイト感染なの? シンデレラ: 違うんじゃない。だって…… 珠絵: ガチ泣きしてるんだっぺ…… カグヤ: 友達ってなに、なんなの…… クレア: 大丈夫、私も友達少ない ドロシー: だってクレアは記憶喪失だから シンデレラ: ディマイト感染っていうのは、こうやってネガティブな感情が高まっていって、本当にコントロールできなくなった状態よ フアナ: なるほどねぇ。あんたたちは、それをどうにかしようっていうわけだ ヴェルメリオ: ……放っておくと世界が大変なことになっちゃうの フアナ: 大変に、ねぇ カグヤ: あああっ、もうこれを飲むしかないわ! 珠絵: ちょ、ちょっと待つんだっぺ!その見るからに怪しい茶色の小瓶はなんなんだっぺ!? カグヤ: 町の裏路地で買った『幸せになれる薬』よ! 三羽: 見た目だけじゃなくて名前とか入手経路まで怪しさ満点です! ドロシー: だめよ、カグヤ!絶対飲んじゃだめ!ね!?絶対飲まないで! カグヤ: ああ、私、知ってるわ。これはフリというやつでしょう。こういうところで空気を読まないと友達は増えないんだわ 珠絵: 変なところで協調性を発揮しないでほしいんだっぺ! ヴェルメリオ: ……カグヤ、ほら。美味しいパイをあげるから カグヤ: ああっ、友達だと思ってたのに、まるで拾ってきた子犬みたいな扱い! クレア: もうどうしてほしいの、このひと ドロシー: クレアがちょっともう、めんどくさくなっちゃってるわ!気持ちは分かるけど、ついてきてほしい! シンデレラ: 友達だって言ってるのに、まるで聞く耳を持ってくれないわ。どうしたら…… フアナ: なるほどね。じゃあ、ここはあたしに任せといてよ シンデレラ: えっ、フアナ……!? フアナ: なあ、カグヤって言った?ちょっとディマイト高まりすぎなんじゃないの カグヤ: あ、あなたなんかに、私の気持ちが分かるもんですか フアナ: それが分かっちゃうんだよねぇ。あたしの話、ちょっとばかり聞いてくれるかい? ドロシー: フアナ……どうするつもりなのかしら ヴェルメリオ: ……もしかしたら、今度こそ自分で歌って踊るつもりなのかも フアナ: すごく相手のことを思ってる、大切で、宝物みたいに……けど、その気持が通じない。あたしには痛いほど分かるの カグヤ: 嘘よ、あなたはどっちかっていうと友達が多そうな気配がするわ フアナ: そんなことはないよ。宝探しの仲間は確かにいるけどね、それは友達じゃない フアナ: 仲間って言えば聞こえはいいけどね。利害が一致して、共同事業を運営しているだけなんだ。こう言うと、一気に冷たく感じるでしょ? カグヤ: うっ、確かに……すごくドライで、損得でしか繋がってない印象になるわね フアナ: 仲間のピンチに身体を張って助けるのは、自分の利益になるから。友達って、そうじゃない。それは知ってるよね? カグヤ: そんなの、友達についての基礎知識よ。初級編だわ ドロシー: ドヤ顔してるけど、出会った当初は分かってなかった気がするわ ヴェルメリオ: ……しーっ フアナ: これ、分かる? カグヤ: え……?本……?何の本よ フアナ: これはね、本に仕立て直した、あたしのラブレターだ クレア: 魔物を殴って倒せそうなくらい分厚いけど シンデレラ: フアナは恋多き人なの? フアナ: そんなに多くないけど……。ああ、言っておくけど、これは一人の相手にあてたラブレターだよ ドロシー: ええっ!?その分厚さを、一人の相手に?でも、そこまで愛されてたら相手も本望かしら フアナ: この中身は、相手は1回も読んでくれなかったよ ヴェルメリオ: ……そんなのつらすぎる 珠絵: い、いやあ、さすがにこれは、カグヤのために話を盛ってるんだっぺ? 三羽: そうですよね!こんなヘビーな愛、引いてしまうのも無理からぬことですし カグヤ: ……ったわね ドロシー: なに?カグヤ、元気になったの? カグヤ: 悪かったわね―っ!!つらすぎて、盛りすぎて、無理からぬことでしょうけど!私も同じ経験したことあるわ! クレア: えっ、この分厚さ? シンデレラ: い、いけない!ディマイトが最高潮に達してるわ!みんな臨戦態勢を! フアナ: あっれー?逆効果だったかな 201 - 愛のバランス シンデレラ: ふぅ……なんとか落ち着きを取り戻してくれたわね ドロシー: さ、その変な薬は渡しなさい カグヤ: うう、ごめんなさい。ここでずっと友達オーディションしてるのに、一向に集まらないこともあって、ディマイトが蓄積されていたみたい…… フアナ: ディマイトはね、悪いことだけじゃないんだよ。何事もバランスってやつ 三羽: それは時折、小耳に挟む話でございますね。ディマイトを一方的にゼロにするのは、かえって世界のためにならないと ドロシー: ええっ、そうなの!?ディマイトはぶっとばせばいい!って思い込んでたわ 珠絵: ドロシーたちはプロじゃないんだっぺか…… シンデレラ: ドロシーだけだから!私たちまでそんな目で見ないで、珠絵! ヴェルメリオ: ……でも今回は、ディマイト落ち寸前でなんとかなった感じかな クレア: ディトルパ、はみ出てたけど フアナ: でも、あたしの説得……あんまり効果的じゃなかったみたいね シンデレラ: カグヤを説得するために、友達いなくてモテないフリしたわけ?なかなかやるじゃない フアナ: ん?いや、フリじゃあないよ。あたしは本当に、よく愛が重すぎるって言われんのよ 三羽: えっ、その分厚い本は、じゃあ フアナ: 何か文句あるのかい?あたしはね、好きになったら一筋なんだよ 珠絵: 一筋であることと、一撃がやたら重いこととは、似てるようでまったく別の話なんだっぺ ヴェルメリオ: ……客観的に見て、ちょっと思うところというか、うん……反省しようと思う カグヤ: 私も反省するわ。愛してるから、愛されて嬉しいんだもんね。最初から全開にするのはやめるわ クレア: それで、ここで募集続けて友達はできた? ドロシー: クレアは、なんでそこで塩を塗り込むのよ!? カグヤ: 一人も……できなかったわよ……っ!でも、いいのっ!新しい友達はいなくても、昔からの友達がこんなにいるんだから 珠絵: えっ 三羽: 珠絵さま!ひとコマめに戻るおつもりですか! カグヤ: ほら、入って、入って。今、晩ご飯を準備するからね クレア: 結局、断りきれなくて泊まることになっちゃった フアナ: まあ、いいんじゃないの?急ぐ旅でも……って、あんたたちは急いでるんだっけ? シンデレラ: のんびりしてるわけじゃないけど、一刻を争うってほどでもないわ 三羽: シンデレラさまは、お酒が飲みたいのでそんな悠長なことを言っているんでしょう? シンデレラ: ほ、ほほ、本当に一刻を争ってないのよ!ねえ、争ってないわよね!? 珠絵: 人間さん、笑いすぎだっぺ。あれでシンデレラは必死なんだっぺ カグヤ: 部屋はみんな1部屋ずつ用意できるわ。私の屋敷は部屋がいっぱいあるから クレア: そんなお屋敷に一人で…… ドロシー: だからもうやめなさいってば! クレア: でこぴん痛いよ、ドロシー フアナ: そうだ!なあ、みんなとは友達なんだろうけど、あたしとははじめましてでしょ?自己紹介させてよ、カグヤ カグヤ: あ……!そうだ、やったっ……私、今回、新しい友達ができたんだ! 珠絵: この人達はなんなんだっぺ…… フアナ: じゃあ、お近づきの印として、はいこれ 三羽: また分厚い本が出てきましたよ。まさか、もうカグヤへの思いを綴ったとでも……? フアナ: あはは、まさか。さすがに知り合ったばかりじゃ、ここまでの量は書けないよ。これは自叙伝 シンデレラ: はあ!? クレア: 自叙伝って? 三羽: 自分がこれまで経験してきたことの事実や、それに対する自身の感想などを書き記したものです シンデレラ: 率直に言って、初対面の人にいきなり渡すものではないわね 珠絵: まあ、自己紹介がわりっていうのは、正しいと言えばそうなんだっぺ…… ドロシー: まさか、重そうな荷物の中身って…… フアナ: そう!何冊か常に持ち歩いてるよ。だってこうして、予期せぬ出会いがあったりするわけだし ドロシー: こんな分厚い本って、気持ちもそうだけど、物理的にも重すぎるでしょ! カグヤ: でも……貴重なお友達からもらった大切なものだし、しっかり読ませてもらうわね フアナ: ほらー、喜んでるー ドロシー: これはレアケース!超レアケース!たぶん何あげても喜ぶわよ! シンデレラ: やれやれね。でも、ここから絶港海峡まではもう、近いのかしら? 三羽: 明朝、日の出とともに出発すればお昼過ぎには波止場に到着すると思います カグヤ: えっ、一泊しかしないの!? ヴェルメリオ: ……これはもうエンドレスになっちゃう。一泊で切り上げなきゃ フアナ: んじゃ、その先の極北島に渡ったら、大賢者のとこに行くってわけか。なあ、道案内してやろうか? シンデレラ: えっ、いいの!?知ってる人が案内してくれるのは心強いわ! クレア: でもフアナの旅はいいの? フアナ: もちろんタダってわけにはいかないけどね シンデレラ: お金なら払うわよ フアナ: あたしもお金は別に要らない。案内した後も、しばらく一緒に旅ができればいいよ ドロシー: それでいいの?ははーん、さてはフアナも友達がいないさびしんぼなのね フアナ: じゃあさっそく、これ自己紹介ってことで1人1冊もらって 珠絵: せめて代表して人間さんに1冊だっぺ。一人ずつって重すぎるんだっぺ 三羽: 手書きじゃなくて活版印刷な分、まだしもですけどね クレア: 手書きとか怖すぎる フアナ: あはは、そっかー。そんなに重かった?自分じゃ気づかないな。あたしは『作家』だからさ、本を書くってこと自体がすごく自然なことなんだよね シンデレラ: え?フアナって『作家』なのね カグヤ: 私、『作家』の人に初めて会ったわ。人にそもそも、あんまり会わないけど…… フアナ: あぁ、そうだった。あたしってば、肝心なこと言い忘れてた ヴェルメリオ: ……自叙伝に載ってるからって省略したんじゃないの フアナ: 確かに本にも書いてあるよ!でもまあ、これから一緒に旅することにもなったし、改めて自己紹介しとこっか! フアナ: あたしはOp7所属、インペリウム・コミッティ第11号委員、フアナ・アンデルセン。よろしく! ドロシー: は…… ドロシー: はあああああ!? 202 - 雪中待機 シンデレラ: さ、寒すぎるわ……本当に大丈夫なんでしょうね……このままだと凍死しちゃうわよ…… フアナ: 気が遠くなってきた……場所がピンポイントで正確に予測できるのに、どうして時間は予測できないんだよ セプテム: 自分は全地理座標測位システム搭載型だから フアナ: ダメだ、何言ってるかわからない シンデレラ: 信じて待つことしかできないわね。実際、セプテムの予測コースが的中するの、この目で見てるわけだし フアナ: まあ、騒いでも仕方ないか……んっ、んっ、ぷはーっ。こうして酒でも飲んで内側からあっためるしかないな シンデレラ: あら、フアナもスキットルを……って、それ! 私のじゃないの! フアナ: ちょっと借りただけだよ。町に戻ったら酒買って返すから シンデレラ: 今この場で必要なのに……。だいたい、なんだか馴れ合ってるけど、私はあなたのことを完全に信用したわけじゃないのよ フアナ: なんだよ、本当に買って返すってば シンデレラ: そこじゃなくて! ……あなたがコミッティだってことよ フアナ: インペリウム・コミッティのメンバーだからって、敵だって決めつけるのかい シンデレラ: 決めつけるってわけじゃないけど…… フアナ: ひどい話じゃないか。あたし自身を見てくれてない。どう思う、セプテム セプテム: 自分にとってのフアナは恩返しすべき対象だから フアナ: あたしがどんな奴でも恩は返すってわけだね セプテム: それが恩返しというものだから フアナ: くーっ、健気で可愛いねえ。よしよしよし セプテム: やめて、髪がぐちゃぐちゃになるから、乱暴に撫でないで フアナ: いいだろ、返してもらう恩の何%かを先取りしたことにしてよ セプテム: なるほど、分割形式…… シンデレラ: はぁ……。もう、どうしてこんなことになったのかしら シンデレラ: そもそも、フアナのあの告白が衝撃だったのよね。かぐやの屋敷でフアナが自分のことをコミッティだって言い出して…… フアナ: 改めて自己紹介しとこっか! フアナ: あたしはOp7所属、インペリウム・コミッティ第11号委員、フアナ・アンデルセン。よろしく! ドロシー: はあああ!? コミッティですって!? ヴェルメリオ: ……まさか、敵がこんなに堂々と乗り込んでくるなんて 珠絵: えっ、て、敵って!? フアナは悪いやつなんだっぺか? カグヤ: そんな……せっかく友達になれたと思ったのに!? 三羽: 人間さんさま、わたくしの後ろへ! この三羽、命に変えてもあなたさまをお守りします……! フアナ: 待った、待った! あたしはただ、自己紹介しただけだよ。なんで今すぐ最終決戦みたいな顔するのさ シンデレラ: どういうつもり? この場は多勢に無勢だから一旦退いて、改めて戦おうってこと? フアナ: コミッティってだけで敵だっていうなら、エミリーはどうなんだよ クレア: エミリーのことも知ってる……! フアナ: そりゃ知ってるよ。ほぼ出席しないから、別に仲良くはないけどさ ドロシー: 今すぐ戦うつもりがないなら、何が狙いなの? フアナ: そう、それ。みんなさ、まずそれを最初に聞くべきだと思わない? もちろん、これが偶然の再会なはずはない ヴェルメリオ: ……再会したときから、わたしたちを追いかけてきたって言ってたね フアナ: あたしの目的は、グリムだよ。グリムの鼻をへし折ってやる。それだけだ シンデレラ: グリムを……? クレア: 痛そう 珠絵: いや、あれは比喩ってやつなんだっぺ。本当に鼻はへし折らないんだっぺ クレア: 珠絵はものしり 珠絵: えっ、うっ、なんだっぺ、これ。可愛いっぺ フアナ: グリムに痛い目を見せられるとしたら、現状……あんたたち以上に適任者はいない。それはなんとなく分かるよね? シンデレラ: つまり……あなたはコミッティに対してクーデターを起こそうとしているってこと? フアナ: 惜しい。ちょっと違うな。コミッティは……グリムだけのものじゃないってこと フアナ: ほぇー、もう既に寒いな! 三羽: この絶港海峡を連絡船で渡れば、もうそこは極寒の地と言われる極北島ですから 珠絵: わっちたちはここまでだっぺ。心配だけど……気をつけるんだっぺ ドロシー: ありがとう。珠絵も、三羽も、いっぱいお世話になったわ カグヤ: わ、私は!? 私だってこうしてついてきたのよ! ヴェルメリオ: ……うん、かぐやもだよ。ありがとう クレア: ごはんとお布団のお礼 カグヤ: いいのよ! 当然だわ! とっ、友達のためなんだから! ドロシー: シンデレラ。本当にこのまま海を渡るの?フアナを連れたまま? フアナ: 拒否されても尾行はするんだよ。だったら道案内させちゃった方が、そっちも合理的なんじゃないの シンデレラ: フアナの言うとおりよ。私だってまだ受け入れたわけじゃないけど、ここは利用できるならするべきだと思う フアナ: 利用ときたか。あんなに仲良くしてたのに、冷たいねぇ。ま、そんだけのことをされてきたってわけだね シンデレラ: ええ。分かってるわ、人間さん。あくまで今だけの協力関係よ (背景切換...) (…………。) ドロシー: さすがに寒いわね! 吹雪いてなくてよかったけど シンデレラ: それで? 道はこっちなのね フアナ: たぶんね。あたしの管轄じゃないけど、何度か来たから覚えてるつもり ヴェルメリオ: ……たぶんとか、つもりとか、怖いワードが入ってくる……でもきっと、わたしが前に立つよりはいいはずだからね シンデレラ: 管轄っていうのは? フアナ: ここいらは原初にかなり近いからね。本来の担当者は、もう……ん? 誰か雪に埋まってる! あれはまずいでしょ、掘り起こすよ! セプテム: あ、動けた…… フアナ: あんた、こんな雪の真ん中で突っ立ってたら死ぬよ!? セプテム: 自分はHo-on!プロジェクトの任務中。恩返しをするために、ここで待機してた クレア: 恩返しはほどほどにしないとダメ 203 - 報恩拉致 セプテム: 自分はHo-on!プロジェクトのために開発されたアンドロイド フアナ: アンドロイド!? へぇ……じゃあ、色々あたしらとは違う能力も持ってそうだね セプテム: たぶん。この能力で恩を返していくのが役目 フアナ: 恩を受けたら必ず返す……当たり前のようだけど、それをミッションと言い切ってるのはすごいね シンデレラ: セプテムは7姉妹で、他の子たちも同じように日々、恩返しをしているのよね ドロシー: そのプロジェクトは一体なんのためにあるのよ セプテム: 詳しいことは分からない。自分はミッションを遂行するだけ フアナ: これだから面白いんだよね。この世界には、あたしの知らない変なことがいっぱいあるんだから ドロシー: それで今回は、その恩人に恩を返すためにここで待ってたのね。まる3日も……! シンデレラ: 本当に危ないのよ!? もう、無茶しないで、セプテム フアナ: 自分の安全なんか二の次で恩返しって、すごいプロジェクトだね セプテム: フアナ・アンデルセン。あなたは自分の恩人として登録された。必ず恩は返す ドロシー: えっ、フアナの本名を言い当てたわ!? セプテム: データベースにアクセスした シンデレラ: そのデータベースがどこにあるのよ…… フアナ: あははは、なかなかおもしろいやつだね。じゃあ、その恩返しとやらは、あんまり期待しないで楽しみに待っておくよ セプテム: 必ず返す。でも、まずはクルプンから シンデレラ: えっ? セプテムが待ってる恩人はクルプンなの? あの、ココロニの妹の? セプテム: 自分の予測システムから、必ずここを通ることは分かってる ドロシー: いつ来るのよ セプテム: それは分からない ヴェルメリオ: ……そんな微妙な予測システム、つらすぎる クレア: あれ? なんか来たよ ウーヌム: 危ないデース! ちょっとどいてくだサーイ! ドロシー: あ、あれは……ソリだわ! 誰かがものすごい勢いでソリを引いてこっちに……危ない、突っ込んでくるわ! ウーヌム: ソリは急には止まれまセーン! 皆さん道を空けてくだサーイ! セプテム: かさ……じゃない、ウーヌム! それは任務中なの!? ウーヌム: イエース! これはミッションなのでゆっくりお話してる時間がないのデース! シンデレラ: まったく減速する気配がないわよ!? クレア: ひかれる クルプン: うああああっ!? 助けてー! セプテム: あっ ドロシー: あっ クルプン: 助けてーっ! フアナ: 行ったか……、なんだったの…… ドロシー: 今、通過したソリに、すまきにされたクルプンがのってたわ! セプテム: しかも助けを求めてた ヴェルメリオ: ……えっ、ほんとに? 早すぎて全然わかんなかった シンデレラ: どういう動体視力してんのよ。でも、それが事実なら大変よ フアナ: 確かにセプテムの予測は当たってて、ここに来たってことだね。恩返しどころじゃなかったけど セプテム: 助けて、って言ってた。それに応えて助け出すことが一番の恩返し クレア: でも今から追いかけて間に合う? セプテム: ウーヌムの駆動系統には追いつくのは無理。目的地を割り出して救出した方が得策 フアナ: あ、一応そういう計算はするんだね。あたしはてっきり、がむしゃらに追いかけちゃうかと思ったよ ヴェルメリオ: ……エンチュの町はもうすぐなんだよね? 一回、町に行ってクルプンに何があったのか、聞いてみたほうがいいかも (…………。) (背景切換...) シンデレラ: それじゃあ、いきなりテンションの高い女の子が、クルプンの家の扉を蹴破ったのね フアナ: それで、数秒後にはすまきにされたクルプンを抱えて、そいつが走り去っていった、と ヴェルメリオ: ……本当にすまきだったんだね ドロシー: だから言ったじゃない クレア: でも、あんまり情報が集まらなかった セプテム: 一瞬の出来事で、ほとんど目撃情報がない。ウーヌム、いい仕事する ドロシー: ねえ、その大賢者って人は何者なの? もし占い師の類なら、ついでにクルプンのことも聞けるんじゃないかしら フアナ: じゃあ、行ってみる? その角を曲がったところだけど ウーヌム: 大賢者さんのおうち、どこデスカー? 住民: あの角を曲がったところだよ ヴェルメリオ: ……あっ!? ちょ、これ、やばくない? ウーヌム: オウ! いけまセーン! ハリアップデース! ドロシー: あっ、ちょっと待ちなさいよ! クレア: 早い! (ズガアアン!) ドロシー: ドアを蹴破る音だわ! 急いで止めなきゃ……あっ! ウーヌム: 一緒に来てもらうデース! 大賢者: ノオオオオオオウ! クレア: おじいさんがすまきにされて連れて行かれたよ ドロシー: もしかしなくても、今のおじいさんが…… セプテム: 村の長老、オプケクル。通称『大賢者』。完全に一致 シンデレラ: ウーヌムは一体何をやってるのよ……! 行く先々で私たちの先回りをしてるなんて…… ドロシー: とにかく追いかけなくちゃ! クルプンも放っておけないし、大賢者にも聞きたいことがあるのに ヴェルメリオ: ……でも行き先が分からないとどうしようもないよ ドロシー: むむ……ねえ、フアナ。あなたも黙ってないで何か案を……って、あれ?フアナは? クレア: いなくなった (…………。) (背景切換...) フアナ: ぷはーっ、この羊肉の鉄板焼き、うまっ! 肉汁と野菜が絶妙に絡んで ドロシー: 見つけた! 何やってんのよ! フアナ: え? 何って、何がよ シンデレラ: いきなり何も言わないでいなくなるから、どうしたのかと思ったわよ ヴェルメリオ: ……ごはん食べてる場合じゃないでしょ フアナ: なんで? だってしばらく移動しないでしょ ドロシー: 大賢者の行方を追わなくちゃいけないでしょ!フアナも少し考えてよ フアナ: それはずいぶん勝手な物言いだね。あたしのことは信用できないって言ってるくせに、知恵を貸してくれっていうわけ? ドロシー: そ、それはそうだけど……信用を勝ち取るチャンスって見方もあるじゃない フアナ: みんなのことは嫌いじゃないし、グリムを潰す手段でもあるから、元気でいてほしいよ フアナ: でもなんでもかんでも協力する必要はないと思ってる。あたしは、みんなとグリムが戦って、みんなが勝ってくれたらいいだけ シンデレラ: クルプンや大賢者のことは知ったこっちゃないってわけ? フアナ: ろくに会話もしたことない女の子と、おじいちゃんでしょ? ヴェルザームだって、あたしは別に必要ないし シンデレラ: グリムに対抗するためには必要なんじゃないの? フアナ: あたしがここまで興味ないんだから、必要ないんだろうなって思わない? ドロシー: くっ……もういいわ! 204 - 対立構造 ピュルテ: やっと到着しましたね エミリー: もう脚がぱんぱんだよぅ! 服部あおい: 長旅お疲れ様でございました。里の裏山には温泉が湧いていて、足湯の用意もありますから存分にお疲れを癒やしてください エミリー: うわあ、嬉しい! 足湯もいいけど、もう今は全身どぼーんってお風呂入りたい! ティンカー・ベル: ティンカも疲れたぁ! さすがにずっと飛ぶの辛くて、途中から歩きに切り替えたし エミリー: 羽って背筋が辛いんでしょ? あとで背中流してあげるね 服部あおい: エミリー様、マッサージ師も手配しておきますよ ピュルテ: あおいさん、エミリーさんには特にいたれりつくせりな感じですね 服部あおい: お館様に一切興味を持たれていないので、つい好感が漏れてしまうのでしょうね ピュルテ: それ、そんなにはっきり言います? 服部あおい: さて。戯れはここまでにして……既に拙者からの連絡を受けて、忍びたちが集めていた情報をご報告しましょう ティンカー・ベル: わざわざ来なくても聞けたら便利なのにね 服部あおい: 聞くだけなら可能ですよ。スホマを使えば。ただし傍受される危険がございます ピュルテ: 技術が進歩したから、遠くにメッセージを届けられるんですが……だからこそ傍受されるリスクも増える。悩ましいですね エミリー: 特にエミリーたちはお尋ね者だから、居場所を知られるわけにはいかないし。仕方ないよねぇ 服部あおい: インペリウム・コミッティの現在の指針ですが、やはり天空神殿と対立構造にあるのは間違いありません ティンカー・ベル: むー、なんとなく分かってはいたけど、やっぱりそうなんだね。でも何で仲が悪いんだろ 服部あおい: 当然それは、エルマイトとディマイト……このオトギノクニを左右する強大なエネルギーでしょう エミリー: 神殿に奪われたといっても、まだまだグリム家にはエルマイトが大量にあるはず。ディマイトもね 服部あおい: 引き続き調査をしてまいりますが、気になるキーワードがありまして ピュルテ: なんですか? 服部あおい: 時計の針を、進めよ……と ピュルテ: 時計の針を……ですか ティンカー・ベル: 時計って、リベルタリブロにあった、あのでかいやつだっけ 服部あおい: そんなものがあるのですか? 拙者も、それがどういったものなのかは把握していないのですが エミリー: 時計の、針……。なんか、聞いたことあるような気がするんだけどな ティンカー・ベル: え、それ思い出せば解決じゃん! エミリー: エミリーはサボってたから、思い出したところで全容は聞いてないと思うよ ティンカー・ベル: もー、ほんと働かないよね、エミリーは エミリー: ひどいよぅ! マジメにコミッティ出てたら、みんなと仲間にもなってないんだからね! ティンカー・ベル: あはは、そりゃそうだね エミリー: 頭ぽんぽんとか、子供扱いじゃん……もう ピュルテ: でも、だとするとずっと以前からコミッティの中にあった計画ってことですよね エミリー: そうだね。今回のみんなとの戦いを受けて……ってわけじゃないよね ピュルテ: 私たちが色々動いても……計画を止めるには至らなかった、という見方もできますね…… (…………。) (背景切換...) ピュルテ: …… ピュルテ: あれから、もうあの頭痛は来ない……やっぱり人間さんから離れて時間が経ったから……? ピュルテ: 人間さん……元気かな。こんなふうに考えることだけでも怖いよ…… エミリー: 何が怖いの? ピュルテ: あっ……エミリーさん。やだ、独り言なんて聞かれて エミリー: いいの、いいの。エミリーもわりと独り言とか言っちゃう方だし ピュルテ: 温泉、行ってきたんですか? エミリー: うん、そうだよ。ティンカに背中流してもらっちゃった ピュルテ: ふふっ、楽しそうですね エミリー: ねえ、ピュルテ ピュルテ: はい? エミリー: ピュルテが辛い決断をしたってことは、みんな分かってるからね。エミリーも、ティンカも……人間さんもね ピュルテ: ……はい。ありがとうございます ピュルテ: でも、人間さんと離れて辛い思いをするのは私だけじゃないのに、巻き込んでしまって エミリー: エミリーはともかくティンカは、まあね。まったく感じさせないけどさ エミリー: でも……自分から距離をとったわけじゃん。迷惑かけるかもしれないって。そういうの、すごく……大人な対応だったなって思うよ ピュルテ: 怖いだけなんです。もし何か私がしちゃって、それで人間さんに嫌われたら……って エミリー: それでも偉いと思う。なんだかんだ言い訳して問題を引き伸ばすよりも、ずっとね ピュルテ: エミリーさん…… エミリー: グリムが、コミッティが、間違った方向に行く……そんな違和感はあったんだ エミリー: でもエミリーは何もしなかった。自分がしたいようにしてただけ ピュルテ: でも加担してたわけじゃないですし…… エミリー: でもエミリーが自由に旅してたのは、グリムのエルマイトのおかげだもん。こうなる前に止められたかもしれないのに…… ピュルテ: でも昼間、ティンカちゃんにエミリーさん、自分で同じようなこと言ってたじゃないですか エミリー: え? エミリーが、なんて? ピュルテ: もしエミリーさんが事前に止めていたら、私はお友達になる機会がなかったじゃないですか エミリー: ……もう、ピュルテは可愛いこと言うんだから ピュルテ: ふふっ、本当ですよ エミリー: 励ますつもりだったのに、励まされちゃったね。ピュルテはほんと、強いなぁ ピュルテ: 強くなんか……ないですよ。今だって、人間さんにすごく会いたいのに……考えるのも怖いんです エミリー: さっきも独り言で言ってたね。何が怖いの? ピュルテ: 会えない、寂しい、会いたい……そんな気持ちだけで、あの変な声につけこまれちゃう気がして エミリー: 変な声……声が聞こえるんだね ピュルテ: はい。愛は1つしかない、って エミリー: ピュルテに能力を与えたのは、やっぱり……大丈夫だよ。ピュルテのことも、エミリーが守るからね 205 - 真相探求 ティンカー・ベル: 忍具・囁囁信? 服部あおい: はい。拙者たち忍びの者が、仲間どうしで連絡を取り合う道具です。こちら人数分お渡ししておきます エミリー: これなら傍受されないってことだね! でもこれ、エミリーたちが受け取っていいのぉ? 忍びじゃないのに 服部あおい: 正直申し上げて、皆様がどこにおられるか把握し続けるのは非常に困難です。しかも、馳せ参じるとなれば更に ピュルテ: どんな場所に行くことになるかも分かりませんからね 服部あおい: ただし通信中はかなりのエルマイトをお互いに消費します。また、これはスホマのように同時中継ではありません。距離に応じて時間差が生じますので、予めご承知おきを エミリー: スホマ……あ、そっか 服部あおい: ふふ、お気づきになられましたか。さすがはエミリー様 ティンカー・ベル: なになに? エミリー: 妖怪村であおいがスホマで誰かと話してたの。あれは操られてたからこそだったんだなって 服部あおい: 操られ我を失っていたため、忍具は使えなかったのでございます。しかし、あのときのことはお恥ずかしい限りです ティンカー・ベル: ま、過ぎたことはいいじゃん ピュルテ: でも、あおいさん。これを渡すということは、私たちが旅立つとお考えなんですか 服部あおい: 順番が前後してしまい申し訳ありません。実はコミッティ配下、特務部隊と呼ばれる一段が大量の資材を輸送している事実をつかみました エミリー: そこにヒントがあるってことだねぇ……! それでこのしょ、しょう……なんだっけ ティンカー・ベル: 分かりづらいから、ひそひそピアスで良くない? ピュルテ: また謎のネーミングを…… ティンカー・ベル: 長いから、ひそピ! いい? 服部あおい: は、はあ。通じれば、拙者たちはいかようにでも呼んでいただいて構いませんが ピュルテ: と、ともかく、連絡を取り合いながらも、私たちはそこに向かった方がいいってことですね ティンカー・ベル: んで、それはどこなの? 服部あおい: 神聖レグルス教国、でございます ドロシー: もう、なんなのあれ! 信じらんない! ヴェルメリオ: ……フアナも怒ってるのかも。最初にわたしたちが信じてあげなかったから ドロシー: それにしたって! シンデレラ: フアナに怒ったってしょうがないわ。それより方法を考えなくちゃ セプテム: 自分の地理測位システムで、クルプンが通る場所を分析する クレア: それはすごいんだけど、いつになるか分からないんだよね? ヴェルメリオ: ……そこまで待てないと思う 住民1: よう、聞いたか? 極北島の領主が、エルマイトのことで規制を厳しくしてんだって 住民2: エルマイト拡大に繋がることは禁止だって言ってるらしいな ヴェルメリオ: ……ねえ、あの人達の話って、もしかして ドロシー: ああもう、どうしたらいいのよ! いい案がまったく浮かばないわ! 住民1: エンチュの町には、ときどき一般市民に食料を分けるかわりに、エルマイトをもらうやつがいるんだってなー 住民2: そうそう、タトゥーに吸わせたりするんだってな。俺もこの前、クルプンちゃんって子にお世話になったよ ヴェルメリオ: ……え、なに、なんか近づいてくるんだけど クレア: 声も大きい ドロシー: どうしたのよ、ぼさっとしてないで人間さんも考えてよ! 住民1: じゃあクルプンちゃん、領主に目をつけられるかもしれないなー! 住民2: ついでに賢者のジジイも危ないなー! シンデレラ: なんなの、この人達……一体何を知ってるのよ! ドロシー: えっ、な、なに? 私がうなって考えてる間に、知らない人たちがすぐ目の前に立ってるわ!? 住民1: え、俺達に話しかけてる? 何も知らないよ 住民2: ただ、領主の屋敷はこの街道を北に進んだ先ってことくらいしか知らないよ シンデレラ: え、ええ、そうね、人間さん。罠の可能性も感じるけど、ここまで聞いたからには行ってみましょう! セプテム: 座標反応確認。この近くにクルプンが通過するポイントを探知 ヴェルメリオ: ……えっ、ほんとに? でもまだ、領主の屋敷は先みたいだよ ドロシー: やっぱりクルプンは、領主の屋敷にさらわれたわけじゃないとか? セプテム: 自分はクルプンに恩返しをしなきゃいけない。それが任務 シンデレラ: あ、そっか……セプテムも、大賢者のことに付き合わせるわけにはいかないわよね セプテム: でも本当はウーヌムのことも心配。恩返しは、エルマイトを生み出すことが多い クレア: ウーヌムも領主に目を付けられてるかも ドロシー: 分かったわ。私たちは領主の屋敷に行って、状況を確認する。そこにクルプン、大賢者、ウーヌムがいれば保護するわ クレア: ウーヌム込みで守るってこと セプテム: ありがとう。恩は、必ず返す シンデレラ: 私もセプテムと一緒にいるわ。クルプンが来たとき、敵も一緒かもしれない。一人じゃ心配よ ヴェルメリオ: ……うん、分かった。気をつけて (…………。) シンデレラ: うう、それにしても寒い……いつ来るかわかんないんだもんね。早くも後悔してきたわ セプテム: でも、必ず来る シンデレラ: 分かってるわよ……ん? フアナ: じゃあクルプンは支城に捕まってたんだね 住民1: みてえだな。んで、今から領主の屋敷に移送されるらしい フアナ: そこで人間さんたちが迎撃すれば済む話だろうけど、道中何があるかわかんないし、やっぱり待ち伏せした方が確実よね 住民2: 確実に救出するならな。でもフアナよぉ、タダでそこまでやるってのかい? フアナ: タダってわけじゃないわ。報酬は現金とは限らないのよ 住民1: そういうもんかい。まあいいさ、フアナが儲かると思うならそれで。……って、あっ!? シンデレラ: フアナ!? どうしてここへ? それに、その人達ってさっきの…… フアナ: あっちゃあ……なんでこんなとこにいるかな セプテム: クルプン通過ポイントを探知した フアナ: あ、はは……そっか、そういうことか…… 206 - 狂乱少女 シンデレラ: いろいろあって……この状態ってことなのよね。はぁ……早くあったかいところで飲みたいわ シンデレラ: で、結局あの人達はなんだったわけ? フアナ: はあ……まあ、こうなりゃ言うか。隠し事は得意じゃないし フアナ: あの二人は、あたしが主宰するトレジャーハントギルドのメンバー。ちょっと情報収集に動いてもらってたんだ シンデレラ: ここの領主の一件とか、エルマイトがどうこうとか……フアナは全部知ってたの? フアナ: 知るわけ無いでしょ。こんな辺境の村の領主が何考えてるかなんて シンデレラ: じゃあ……私たちのために調べてくれた、ってこと……? 仲間に頼んで…… フアナ: ……別に。あんたたちのためじゃない。巡り巡って、あたしの利益になるってだけだよ。あたしは利益にならないことはしない シンデレラ: ……ありがとう フアナ: だから、あんたたちのためじゃないって……っと、どうやら来なすったな セプテム: 探知。クルプン接近 シンデレラ: 間違いなさそうね。そこの輸送馬車、止まりなさい! 中の子を返してもらうわよ! セプテム: あれ。馬車置いて、あっさり逃げちゃった シンデレラ: 私の威厳に恐れをなしたようね。さあ、早く助けなくちゃ。クルプン、大丈夫!? クルプン(ディマイト): う、うう……殺す! (ズガアアアン!) フアナ: おおっと!? こいつは……どうやら噂のディマイト暴走って奴か? シンデレラ: クルプン!? どうして!? セプテム: ディマイト、急上昇中。危険水域。でもディマイト状態からの解放、最大の恩返し シンデレラ: セプテムは引かないつもりね? もちろん、私もよ! フアナ: あはは、あんたたち本当におもしろいね! いいよ、ここまで来たんだ。あたしもちょっとは仕事しようじゃないか! クルプン: はっ! ここどこ!? シンデレラ: よかった……もとに戻ったみたいね フアナ: ははっ、まったく手間かけさせやがって クルプン: ごめん! あっち、暴れちゃった! 変だったの! セプテム: ううん、平気。ちゃんと恩を返せた。よかった フアナ: そうだな。それに、あたしの戦いに手を貸してくれたわけだよな セプテム: フアナにも恩を返せた……!? 一度に2つも恩を返した。これは快挙 シンデレラ: でも、一体何があったの? クルプン: いきなり誘拐! 牢屋で薬! フアナ: 薬でディマイト暴走……例のアレか。シェイクスピアが遊んでるっていう……。あのイカレ女、とんでもないもの作ってんだな シンデレラ: 何? 作ってる? フアナ: それより屋敷に急いで合流するよ。ウーヌムが暴走してる可能性もあるからな セプテム: はっ! 現場に急行する (背景切換...) シンデレラ: ドロシー! ヴェル! クレア! それに人間さんも……無事なの!? ドロシー: シンデレラ! クルプンを見つけられたのね! よかったわ ヴェルメリオ: ……大賢者とウーヌムは見つけたんだけど、クルプンが見つからなくて焦ってたとこだったの ウーヌム: ああーっ、セプテム! 無事だったんですネー! セプテム: 自分は問題ない。ウーヌムは ウーヌム: ノープロブレムデース! 領主さんに恩を受けたので、恩返しのために誘拐したんデース。バット、ところが…… ドロシー: 結局、役目を終えたらウーヌムまで牢屋に捕まっちゃったんですって シンデレラ: エルマイトを遮断する牢獄? 辺境の領主がこんな設備を用意してるなんて…… クレア: 領主は逃げちゃった ドロシー: まあいいわよ、もう悪さは出来ないだろうし、みんなは助けられたんだから。……って、え、フアナ!? 何してるの!? フアナ: ちょっとばかり様子を見にね ドロシー: もしかして……あんたが助けてくれたの? フアナ: 助けてなんかないよ。あたしは、あたしのためだけに行動してるんだってば ドロシー: ……ありがとう フアナ: もう! シンデレラといい、ドロシーといい、なんなんだよ! 助けてないって言ってるでしょ! シンデレラ: それじゃ改めて、かんぱーい! この一杯が本当に楽しみだったのよね♪ ヴェルメリオ: ……良かったね、手の震えが止まって シンデレラ: 寒かったから震えてたのよ!? このタイミングで言うと人間さんに誤解されるじゃないの ドロシー: それで大賢者さん。ヴェルザームのこと、聞いてもいいかしら 大賢者: ふごほごふごほご ヴェルメリオ: ……食べながら話すのやめてね セプテム: 年配なのに食欲が旺盛 大賢者: おほん。えー、ワシが知る限り紫の石が竜の渓谷という場所にあると聞く クレア: 竜の渓谷? なんか危なそうな雰囲気 フアナ: 伝説の宝があるって噂は聞いたことあったけど、ヴェルザームのことだったんだね ドロシー: フアナ、前に聞いたとき、ヴェルザームなんて知らないって…… フアナ: あれ、そうだったっけ? ドロシー: そういうところが、まだ信用ならないのよ ヴェルメリオ: ……でも、助けてくれたんだから フアナ: けど、トレジャーハンターなら名前はともかく存在は有名だよ クレア: そんなにメジャーな存在なの? フアナ: 少し前、3つの流れ星が落ちた。それは空を平行に飛んでて、流れ星にしては妙な軌道で……そして、赤、緑、青の三色だった ヴェルメリオ: ……それ、あの暴発したときの フアナ: ヴェルザームが何かを知ってる奴は少ない。でも、宝の臭いを感じて探してるやつは、案外いるってこと 207 - 出港を待つピュルテ エミリー: うぅー、このあたりの潮風は、湿度も高いし、あったかいんだけど、べとべとするねぇ ティンカー・ベル: あったかいっていうより、ぬるい、ってカンジだよね。なんか髪もべたべたしそう エミリー: ほんとだよぅ。エミリーちょっとくせっ毛だから、湿気が多いとぶわってなっちゃう ティンカー・ベル: そーなの?普通にストレートかと思ってた エミリー: あ、うん、そうなんだけど、ほら髪が細いでしょ?ちょっとぶわってなりやすいっていうか ティンカー・ベル: へー。三つ編みといい、やっぱり髪の毛は大事にしてるんだね エミリー: なに、ティンカは大事にしてないの? ティンカー・ベル: してるけど!でも、けっこう髪は丈夫っていうか、あんまりケアしなくても平気なんだよね エミリー: ピュルテは?ちょっとウェーブかかってるかなぁ ピュルテ: ……えっ?あ、はい、そうですね!がんばりましょう! ティンカー・ベル: 何をだよ……。こりゃ聞いてなかったな。心ここにあらず? ピュルテ: わ、私、変なこと言いました?すみません……その、ちょっと考えごとをしていて エミリー: …… ティンカー・ベル: なあに、人間さんがいなくて寂しいとか、そういう話? ピュルテ: あ、えっと、そんなところです ティンカー・ベル: もー、自分から別行動するって言い出したくせに。ティンカなんて巻き添えなんだよ~!? ピュルテ: ご、ごめんなさい ティンカー・ベル: え、ちょ、ガチで謝んないでよ。ほら、今から船に乗って、島で宝探しなんだよ ティンカー・ベル: 過酷な旅になりそうなんだしさ、今からしょぼくれてたら後々まで持たないよ! ピュルテ: そ、そうですよね。すみません!でも、こんな島で宝探しなんて大丈夫でしょうか エミリー: そこはエミリーに抜かりはないんだよ!ちゃーんと、プロの人を呼んでおいたから ピュルテ: プロ? エミリー: 先生、よろしくお願いしまぁす♪ キッド: 宝って言えばこの俺、キャプテン・キッドの出番だぜ!どーんと大船に乗ったつもりで任せときな! キッド: よぉーっし!それじゃさっそく出航!やっぱり海賊は宝探しやってなきゃ、嘘だよなぁ ティンカー・ベル: いやー、助かるね。船動かすのだって大変だなーって思ってたとこだったから キッド: きっちり報酬分の仕事はするぜ。任せときな エミリー: エミリーたちはさ、もう今となってはお尋ね者でしょぉ?こういう裏社会の人に協力してもらわないといけないんだよねぇ ピュルテ: そうですよね。正規の調査団とかに、堂々と頼むわけにはいかないですもんね ティンカー・ベル: まあ今回は、モノがヴェルザームなんていう特殊なやつだし エミリー: どっちにしろ海賊さんたちに頼むのがベストだったかなー、とは思うけどね キッド: おまえらが探してるヴェルザームとかってやつの噂は、ここらの海域一帯の噂になってるぜ ティンカー・ベル: あー、やっぱりそうなんだ。伝書鳩からの連絡でも、知ってる人はいるって書き方だったもんね ピュルテ: 誰かの手に落ちる前に手に入れないとですよね。悪用されたら大変です ティンカー・ベル: あおいがくれた情報も気になるけどね。神聖レグルス教国、だっけ エミリー: どっちにしろ、この辺りを通って行かなきゃだったからねぇ。でも、ヴェルザームの調査があまり長引くと、そうも言ってられないけど キッド: なに言ってんだ。このキッド様がやるからには、ぐだぐだ待たせたりしないって ティンカー・ベル: ほんとー?いや、それが本当ならめっちゃありがたいんだけどさ ピュルテ: 向こうの皆さんからの連絡では、あちらでも新たなヴェルザームが手に入りそうなんですよね ティンカー・ベル: そうそう、クラーケン様がボケかましてくれちゃって、全部で7つあるんだもんね エミリー: でも4つも揃えば、いい感じだよぅ。7つなんてすぐじゃないかなぁ ティンカー・ベル: エミリーはお気楽なんだから……って、あれ?エミリー、そのアンクレット…… エミリー: ん、なあに? ティンカー・ベル: プラチナ、だったよね。でもいま、それってイミテーションじゃない……? エミリー: えーっ、ティンカってそんなの見て分かるタイプだったんだぁ ティンカー・ベル: バカにしないでよ!ティンカは貴金属には強いんだから! ティンカー・ベル: って、違う、そうじゃなくて。ねえ、もしかしてキッドたちの契約…… エミリー: しーっ、ないしょだよ。可愛くしてたってさ、イケメン捕まる状況じゃないんだし、意味ないじゃん? ピュルテ: …… ティンカー・ベル: やっほー!こんな夜の海でなーにしてんの! エミリー: たぶんね、いい女のふりしてんだよ ピュルテ: あ、お二人とも……!すみません、またなにか心配かけちゃいましたか? ティンカー・ベル: ううん。ただほら、夜の海でいきなり落っこちても誰も気づかないじゃん? エミリー: だから一人でいないほうがいいよ、っていいにきたの ティンカー・ベル: で?人間さんと再会したときにドキッとさせるために、いい女のふりする練習してたの? ピュルテ: そ、そんなんじゃありませんよ!というか、海をぼーっと見てたらいい女のふりってことになるんですか? エミリー: なるよ。これが結構、引っかかるんだから ティンカー・ベル: ほんと?ちょっとやってみてよ エミリー: …… ティンカー・ベル: いやー、船酔いしてるようにしか見えないけどなあ エミリー: ひどいよぅ!それじゃ魅力で惹きつけたんじゃなくて、ただ親切で介抱してもらってただけってことぉ!? ピュルテ: あはは……なんか、いつまでも悩んじゃって、私、良くないですよね。おふたり見てたら、だんだん元気になってきました エミリー: よかったー。イケメンが空振りなら、せめてピュルテの好感度は稼ぎたいもんねぇ ティンカー・ベル: でも、怖いよね。もし自分が、大切な人を傷つけたら、って…… ピュルテ: ……っ エミリー: でも、やるならとっくにやってると思うんだよねぇ。相手がペローだか誰だか知らないけど ピュルテ: 確かに……チャンスはあったはず、ですよね エミリー: 何か狙いがあるのか、それとも何かうまくいってないのか…… ピュルテ: あおいさんに、別れ際にこれ、もらったんです エミリー: お守り? ピュルテ: 私の話を聞いて、心配してくれたんでしょうね。私のためにわざわざ……。お館様をお頼み申します、って言われちゃいました ティンカー・ベル: 大丈夫。一人じゃないんだから。何かあればティンカたちがなんとかする。ピュルテも人間さんも傷つけさせない ティンカー・ベル: あ、でもそのためには、合流しても人間さんと二人っきりになるのは禁止だなー ピュルテ: えっ、そ、そうですよね。うう、それちょっと寂しいなあ ティンカー・ベル: ぜーたく言うな!ていっ! ピュルテ: あたっ!あは、はは……ですよね。あの、ありがとうございます エミリー: ん、明日も朝から宝探しだよ!がんばろっ! 208 - 龍の渓谷 ヴェルメリオ: ……もしかすると、もしかする? シンデレラ: ええ。これ、道に迷ったわよね…… ドロシー: なんでよーっ!?ウーヌムが恩返しにって地図を書いてくれたんじゃないの!? フアナ: 全方位測位システムとか自慢げに言うから、ついつい信用しちゃったけど、あれが間違ってたってこと? クレア: ヴェルじゃないから、地図を読み間違えたわけじゃない ドロシー: やっぱり遠慮しないで、ウーヌムにもついてきてもらえばよかったわ! シンデレラ: 地図が間違ってるんなら、付いてきてもらっても結果は同じだったんじゃないの ヴェルメリオ: ……どっちにしても、もう日が暮れるよ フアナ: まあ、もともと1日でたどり着ける距離ってわけでもないんだし、ここは割り切って夜営の準備をしようか (…………。) (背景切換...) シンデレラ: なんか、このあたりって……嫌な気配があるわよね ヴェルメリオ: ……それって、ディマイト? ドロシー: わかるわ。ピュルテがいないから、確実なことは言えないけど クレア: 伝書鳩さん、着いたかな フアナ: もうさすがに着いてると思うよ。ただ、飛んでいった方向の情報だけで、探し当てられるかは話は別だろうけど シンデレラ: いまだにわかんないんだけど。フアナが、ここまで私達に手を貸してくれる理由 フアナ: 言ったでしょ。グリムをなんとかしたいのよ ドロシー: コミッティはグリムが親玉なんじゃないの?自分の親分をやっつけるの? フアナ: 親分、子分の関係じゃないよ。選ばれた13人はみんな対等 クレア: 誰がコミッティなのか知りたい?人間さん、そんなこと聞いてどうするの。こっちに知り合い、私達以外にいないでしょ フアナ: グリム家の6人以外は改選されるし、あんまり意味はないかもね ドロシー: でも、それも半分になっちゃったわね。エミリーが私達の仲間になって ヴェルメリオ: ……フェルディナもシャルロッテもいないはずだもんね フアナ: ふふ、確かに……定例会議はおもしろいことになってるかもね フアナ: ……これくらい離れればいいか (ピッ、ピッ、ピーッ) ??????: 首尾は フアナ: ちょっとぉ、お疲れ様の一言くらいあってもいいんじゃないの? ??????: すまない。気が急いてしまった フアナ: とりあえずヴェルザームの収集中。本隊が1個、別働隊が3個、手に入りそうね ??????: どうだ、原初の空気は フアナ: さすが、って感じ。残り2つも回るの、気が重くなりそうだよ ??????: だが、最後の1つの所在は不明なまま……気がかりだな フアナ: あたしはどうでもいいんだよ。ヴェルザームなんて ??????: おまえがGRⅡに乗り気でないのは知っているが、少なくとも選択肢として成立させる必要がある フアナ: 今さら原理主義的にこだわったところで、意味はないよ ??????: おまえと政策論争をしたこともなかったな。今度じっくり話し合おうではないか フアナ: さすが穏健派筆頭の副議長だね。ま、そのあたりは今度ゆっくり、かな。定例会議は変わらず? ??????: ああ。新入りのティーミアもうまくやってくれてる フアナ: あたしのこと、誰も疑問に思ってない?たとえば……。……っ!?悪いね、また後日連絡する フアナ: ……そこにいるのは分かってるよ クレア: フアナ……誰と話してたの フアナ: クレアか。まあ、ちょっとね クレア: フアナは、みんなのこと裏切ってるの フアナ: ……! フアナ: 裏切るっていうのはね、仲間のふりして騙したりすることだよ。もしくは仲間なのに、それを勝手に黙ってやめること クレア: うん、知ってる フアナ: あたしはあんたたちに、仲間じゃないって繰り返し言ってるだろ。つまり、何をしようが裏切りではないんだよ クレア: ……それで、いいの? フアナ: さあ、戻ろう。こんな場所の夜なんて、どんな魔物が出るかわからないよ クレア: ごまかさないで、フアナ フアナ: ごまかす?あたしが何をごまかしてるって? クレア: 私、最近まで記憶がなかった。知ってる? フアナ: ……報告で聞いた程度には知ってるよ クレア: でもエミリーは優しくしてくれた。それで、ピュルテたちもみんな、優しくしてくれた クレア: だから、私もみんなに優しくしたい フアナ: それはクレアのスタンスでしょ。別にそれはそれでいいんじゃないの。あたしには関係ない クレア: 私は、フアナにも優しくしたい フアナ: ……あたしに? クレア: 私はフアナのこと、もう仲間だと思ってるよ フアナ: ははっ、それは危ないね。手の内は見せない、隠れてこそこそ通信する、狙いがなにかもわからない……あたし、そんなやつだよ フアナ: 簡単に信じちゃうのは、さすがにまずいんじゃないの? クレア: わかる。フアナは悪いやつじゃない フアナ: ……、バカだね。簡単に誰かを信じると、ろくな目に遭わないのに クレア: 私、怖くないよ フアナ: んん?あたし、クレアのこと怖いなんて言った? クレア: 怖がってるように見えたから フアナ: あたしが怖がってる? クレア: それに、寂しそう フアナ: それ、重たい自叙伝を受け取ってもらえないって話を聞いたからでしょ? クレア: そうじゃ、ないんだけど……うまくいえないな フアナ: まあ、とにかく。あたしが誰かと通信してたことは、言ってくれても構わないよ。みんなも、驚きはしないでしょ クレア: 特に今は言うつもりないよ。よく聞こえなかったし フアナ: 構わないって言ってるんだから、恩を売ったことにはならないんだよ クレア: 売るとか買うじゃない。私は、そうしたいだけ フアナ: ……好きにしな。話はこれで終わり。戻るよ クレア: …… フアナ: なに、まだ何かある? クレア: おしっこしたい 209 - 有能な海賊 キッド: よーっし!見つかったか!でかしたな! ティンカー・ベル: う、うそでしょ!?もう緑のやつも見つかったの!? エミリー: これで、この海域にあるヴェルザームはあと1つ……。すごいペースだねぇ キッド: 言ったはずだぜ。このキッドがやるからには、ぐだぐだやって待たせたりはしねーってな! ピュルテ: さすがです!これなら3つ目もすぐ見つかりそうですね、人間さん! エミリー: え……? ティンカー・ベル: ちょっと、ピュルテー? ピュルテ: あ、やだ、私ってば…… ティンカー・ベル: これは重症だね。早く合流しないと、ピュルテが寂しんぼ病になっちゃうよ ピュルテ: そ、そんなんじゃないです!ちょっと、その、普段のクセでつい エミリー: じゃあ、よけいに3つ目はがんばって探してもらわなきゃねぇ エミリー: はーい、みんな。お昼ごはんの準備ができたよぅ、休憩しようねぇ 海賊1: いやあ、ありがてえっす、エミリーさん エミリー: あとちょっとだから、一緒にがんばろうねぇ 海賊2: はは、そっすね。ま、キャプテンは働けばきちんとご褒美くださる方なんで、うちらもがんばりますよ ティンカー・ベル: へー、ご褒美とかあるんだ 海賊1: こういう仕事のとき、いつも1つ見つけるごとにご褒美なんだけどな。今回はないよな。3つ揃うまでお預けなんかな 海賊2: あんまり、こういうことないんだけどな。ま、揃ったときを楽しみにしとこうぜ ティンカー・ベル: さて、と。3つ目が見つかった後は、どう動く?みんなとも合流したいけど ピュルテ: けど、コミッティ特務機関の不穏な動きも気になりますよね エミリー: レグルス教国で、何をするつもりなのか……だよね。それにしても、ふざけた名前 ティンカー・ベル: ん?誰の名前がふざけてるって? エミリー: ううん。それよりさ、みんなに、こっちの南の方に来てもらった方がいいよね ピュルテ: そうですね。レグルス教国に入るなら南の海からのルートが良さそうですし ティンカー・ベル: ちょっと待った!ねぇ、エミリーはコミッティのお金使い込んで旅して、いろいろ知ってるんだろうけど エミリー: ちょっとティンカ、言い方~! ピュルテ: あ……私もレグルス教国を知ってるのか、ってことですよね。ええ、行ったことありますよ ティンカー・ベル: へー、そうなんだ。どんなとこなの? エミリー: 神聖レグルス教国は、天空神殿の真下にある町なの。小さな都市国家で、町じゅうに教会がいっぱいあるんだよぅ ピュルテ: すごく厳かな雰囲気ですね。各地から巡礼に来る人もたくさんいるので、賑わってはいるのですが、みんな静かに祈っているのであまり騒がしい印象はありません ティンカー・ベル: へー。巡礼って、なに、わざわざお祈りしに来るの? エミリー: エミリーも教会とか興味ないからよくわかんないんだけど、やっぱり自分が信じてる大切なものだから、特別みたいだよ ピュルテ: オトギノクニの教会というのは、基本的には天空神殿から派生しているので、いわゆる聖地として巡礼に来る人も多いんですよ ティンカー・ベル: あはは、それこそ人間さんに聞かせなきゃいけない話だね。つか、オトギノクニの住人なのに、よく知らないティンカってヤバい? エミリー: ネバーランドはあまり、そういう文化が広がってないだけだよ ティンカー・ベル: そういうもんか エミリー: うん。ほら、田舎だし ティンカー・ベル: 待てぇい!田舎呼ばわりしたな!自然が多くてきれいなところなんだぞ! ピュルテ: つまりそれが田舎なのでは……? ティンカー・ベル: でもさ、なんでピュルテはそんなとこ行ったの? ピュルテ: え?いえ普通に、大学の友達と旅行で…… ティンカー・ベル: 違う、違う!キソとかタカチホの話じゃなくて、レグルス教国のこと! ピュルテ: あっ、そ、そうですよね。まあ、なんで行ったというか、そこから始まったんです。私の、この旅は…… ピュルテ: いえ、田舎って悪い意味じゃないですよ、本当に!人間界でも、都会でいろいろ疲れたとき、木曽とか高千穂とか、本当に心が洗われるというか エミリー: 見て、ほら。隣の船も帆をたたんでるよぅ ティンカー・ベル: ほんとだ、一斉に作業してる。キッドの部下たちだけで、何隻あるんだろうね ピュルテ: 急に風が強くなってきましたからね。デッキにいたら、作業の邪魔だって追い払われちゃいました エミリー: それこそ髪ぼっさぼさになっちゃうし、あんな風なら船の中にいた方がいいよぅ ティンカー・ベル: で、なんだっけ。そう、旅の始まりって、どういうこと? ピュルテ: 私が故郷を出て最初に向かったのがレグルス教国なんです エミリー: それは神殿に呼ばれて? ピュルテ: はい。故郷で、長老が神官長様の託宣を受けて、それで……。レグルス教国まで、リルちゃんが送り届けてくれたんですよ ティンカー・ベル: そう言えば、この旅の始まりって、ちゃんと聞いたことなかったなー。なんかアップルパイ取りに来ただけなのに、気付いたらこんなことになってた エミリー: ええ……!?ティンカ、それはいい加減すぎない……? ティンカー・ベル: で、呼ばれて挨拶して、旅スタート!って感じだったの? ピュルテ: それが意外と、いろいろと待たされたりして……けっこう長いこと町にいたんですよ。総裁選を見たり、お店もいろいろ行ったりして、案内できると思います! エミリー: そっか、じゃあ心配だよね。それなりに愛着のある町なのに、なんだか不穏なことになって…… ピュルテ: ええ、そうなんです……。住んでる皆さんも、本当に優しくて穏やかな人たちばかりで…… ピュルテ: だからやっぱり、何か良くないことが起きてるなら、助けに行きたいって思うんです エミリー: うんうん、そりゃそうだよねぇ ピュルテ: ヴェルザーム集めを中断しても、です エミリー: あ……そっか、そういうことね。うん、エミリーは賛成だよ ティンカー・ベル: ん、どういうこと? エミリー: 世界を救うためのヴェルザーム集めよりも、目の前の知ってる町を救いたい、ってこと ティンカー・ベル: あ、そっか。なるほど ピュルテ: この世界を救うためのスタート地点だからこそ、本当はそんな甘いこと言ってちゃいけないのかも……と思ったりもしました。でも ティンカー・ベル: 人間さんだってさ、賛成するんじゃない? ピュルテ: そ、そうですよね。目の前の誰かを救うのをあきらめたら、それこそ世界なんて…… エミリー: よし、それじゃあこっちからも、みんなに伝書鳩飛ばそうか。ちゃんとピュルテの考え、伝えようねぇ 210 - ベヒモス登場 シンデレラ: ふぅ、なんだか押しつぶされそうな感じね。きっとこれ、ディマイトなんでしょ ヴェルメリオ: ……圧力がすごいよね。息苦しい ドロシー: 今度こそ、こっちの道で合ってるのよね?なんだか、似たような風景だから自信がなくなるわ フアナ: ……まさか、これ。迷宮幻夢陣? クレア: なにそれ? フアナ: その名のとおり、迷宮の幻を出現させるんだよ。その陣内に入った時点で、出口は見つからずに永遠にさまよい続けることになる シンデレラ: なんですって!?それは、魔法なの? フアナ: 厳密に言えば、幻術の類だね。まあ、幸いこっちはエネルギーには困らないからね。人間さんくん、ちょっといい? ヴェルメリオ: ……はっ、人間さんに何するつもり?近い、近いよ、距離が クレア: ほぼ、ハグだね フアナ: 大丈夫、ちょっとエルマイトをもらうだけ。人間さんくんは大人の男だから、これくらいの接触でドキドキしたりなんて、しないよね? シンデレラ: だいぶ怪しいリアクションだけど…… フアナ: かなり強い幻術だけど、この解呪アイテムに人間さんくんのエルマイトを込めれば…… クレア: どうしたの?使わないの フアナ: これ……めちゃくちゃ高かったんだよな、って思って…… ドロシー: 変なところでケチケチすんじゃないわよ!このままだと行き倒れちゃうでしょ! シンデレラ: も、もちろん後でみんなで割り勘にするから、ね? フアナ: それ聞いて安心した!よし、使うよ! ドロシー: ああっ、何かが割れる音がしたわ! ベヒモス: おー、すごいなー。わたしの幻術、こんな簡単に破ったのかー ヴェルメリオ: ……えっ、あなたは、ベヒモス! ベヒモス: やぁ。げんきー? シンデレラ: どうしてベヒモスがここに……?あ、えっと、フアナ。この子はベヒモス。こう見えても原初の三獣って言われてる、ものすごく強い子なの ドロシー: ベヒモスの封印が解けて、うっかり出てきちゃった騒ぎのときに、ひと悶着あったんだけど…… クレア: ディマイトすごいけど、根はいい子なんだよ ベヒモス: んー、紹介ありがとー。でも、おまえはわたしのこと知ってるだろー? フアナ: もちろん。初めまして、ベヒモス ベヒモス: ふーん、じゃあヴェルザーム探しにきたのかー。うちにあるから、一緒にきなよー シンデレラ: え、うちって、あなた今ここに住んでるの? ベヒモス: んー、うちはいくつかあるよー。いまはここがいいって、どうぶつがいうからー どうぶつ: …… フアナ: はは、どうぶつは、あたしのこと嫌いなのかな ヴェルメリオ: ……ベヒモスは、フアナのこと知ってるの? ベヒモス: まあねー。特級管理ディマイトなんていって、わたしを封印したのはコミッティだしなー フアナ: あたしが決めたわけじゃないのよ?会議でそういうことになっただけで クレア: あれ、コミッティが?封印したの、天空神殿じゃないんだ ベヒモス: コミッティの封印を引き継いだんだよー。でも、どうしてコミッティがおまえらといっしょにいるんだー? ドロシー: なんか、コミッティもいろいろ内部でモメてるみたいよ フアナ: あたしはグリムとは違うんだ ドロシー: そうそう、グリムはなんかディマイト撒き散らしたりとか、なんか悪いことを計画してるみたいなの シンデレラ: ねえ、ベヒモスは何か聞いてたりしない?そういうグリムの計画のこと ヴェルメリオ: ……ベヒモスって、実はすごいから、いろいろ知ってそう ベヒモス: んー。グリムの計画とかは知らないかなー。でもさー、ディマイト自体は別に悪いものじゃないんだよー シンデレラ: え……?どういうこと? ベヒモス: いまさー、ディマイト撒き散らす悪い計画、って言ってたからー。わたしディマイトの塊だし、ちょっと悲しいかなー ドロシー: あ、ご、ごめんね。そんなつもりじゃないの。グリムはバランスが崩れるくらい撒き散らそうとしてるのよ ヴェルメリオ: ……そういう意味で悪い計画ってこと ベヒモス: あー、そっかー。それは悪いよなー。なー、コミッティ フアナ: あ、ああ。まあね (背景切換...) ベヒモス: なか、ちょっと毒素が強いから、わたしが持ってくるよー シンデレラ: 毒素? ベヒモス: 今朝、どうぶつがオナラしたのが抜けないんだー。たとえじゃなくて死んじゃうよ どうぶつ: ……っ クレア: どうぶつ、恥ずかしがってるの? ベヒモス: おまたせー。これだろー、ヴェルザームって シンデレラ: 本当に、紫のヴェルザームだわ……!やっぱり7個あったのね ベヒモス: ヴェルザームは7個って、常識だぞー? ドロシー: クラーケン様は3個だって言ってたのよ ベヒモス: ふーん。ボケちゃったのかなー。あ、そうだ、これ。地図 ヴェルメリオ: ……地図?あ、わたしが持ってても仕方ないから、姐さん、はい シンデレラ: 何の地図なの? ベヒモス: ジズんちとレヴィアんち フアナ: やっぱり残る2体が、ヴェルザームを持ってるってわけ ベヒモス: なくしてなければねー クレア: こんな大事なものを ベヒモス: わたしたちは大事だと思ってないからなー。わたしは見た目がきれいだから、わりと気に入ってたけど シンデレラ: なんにしても助かったわ。ありがとね、ベヒモス ベヒモス: ううん。なんか大変そうだけど、がんばれよ ヴェルメリオ: ……やっぱりベヒモス、いい子だね。最初、変な幻術かけられたときはびっくりしたけど ベヒモス: あれは鍵だからなー。ほら、おまえらも家には鍵かけるだろー?わたしのここの家、洞窟だから鍵とかないんだー シンデレラ: ずいぶん物騒な鍵ね……人死にがでるわよ、あんなもの ドロシー: でもほんと、ベヒモス見てるとディマイトって何かわからなくなるわ。こんなにいい子なのに、ディマイトの塊だなんて ベヒモス: だって原初の創造期はディマイトしかないぞー。しょうがないよー ドロシー: それよ。前にクラーケン様も言ってたような気がするけど、原初の創造期ってなんなの? クレア: ベヒモスの二つ名も、原初の三獣っていうよね ベヒモス: あー。そのへんはさ、コミッティがくわしんじゃないかなー フアナ: ……そりゃあ、あたしも一応コミッティの一員だからね。原初が何かくらいは知ってるつもりだけど 211 - 集まり始めた秘石 キッド: ってことで、揃ったぜ!ヴェルザーム! エミリー: すっごいよぅ!本当に3つ揃ったんだね!こんな短期間で集めるなんて、さすがキッドだねぇ キッド: ま、俺らはお宝探しのプロだからな。これくらいお安いご用……と言いたいとこだけど、今回はそっちのお嬢ちゃんにも助けられたぜ ピュルテ: 私、ですか? ティンカー・ベル: あー、確かに。ピュルテが感知能力つかって、エリアを絞り込んでくれたもんね キッド: あれでだいぶ範囲が絞られたからな。このだだっ広い海の隅から隅まで調べるってなってたら、もうちょっと骨が折れたろうな エミリー: ヴェルザームは船のなか? キッド: ああ。あそこにある輸送船、あれに運び込んでおいた キッド: どうせ、ここからまた旅に出るんだろ?あの船、貸しといてやるからよ ティンカー・ベル: おおっ、船を貸してくれちゃうの!?太っ腹だね! エミリー: 今度こそ、どっか飛んでっちゃわないように、ちゃんと見とかなくちゃね ピュルテ: あと4つ……きちんと7つ集めれば、きっと飛んでいったりしませんよね ティンカー・ベル: あれ?なんか飛んできて……あっ、また伝書鳩だよ! エミリー: こっちから出すはずだったのに、先にきちゃったねぇ。えーと、なになに…… ピュルテ: わぁっ、新しいヴェルザーム、ゲットできたんですね! ティンカー・ベル: えっ、ベヒモスと会ったんだ。へぇー キッド: なんだか知らねーけど、順調に進んでるっぽくてよかったな エミリー: あ、ごめんね、置いてっちゃって。そう、別で動いてる仲間がね、順調みたいなんだ ティンカー・ベル: そうだ!その別働隊とね、合流したいんだけどさ。ほら、ティンカたちって追われてるじゃん キッド: あー、落ち合う場所をどうするかってことか?確かに、追われてるんなら気を遣うような ピュルテ: そうなんです。いい場所、ありますか? キッド: 合流した後はどうすんだよ ピュルテ: まだ合流してから決めなきゃなので未定なんですが……予定では、レグルス教国に行こうかと思ってるんです キッド: なるほどな。それじゃ、いい場所があるぜ キッド: 追われてるおまえらが合流するのに、一番いいのは……ヌルズブ島だな ピュルテ: ヌルズブ島……えっ、そこはリゾート地ですよ!?観光客でいっぱいの場所じゃないですか! キッド: そう。木を隠すなら森に、人を隠すなら…… エミリー: 人混みに、ってことかぁ。うん、たしかにそうかもしれないねぇ キッド: 俺自身、お尋ね者だからな。そのへんはよく心得てるつもりだぜ。なんなら、ヌルズブ島まで送って行ってやろうか ティンカー・ベル: 海賊に送ってもらったら目立っちゃうじゃん! キッド: ばーか、そういう港に行くときは船も乗組員も偽装すんだよ、ちゃんと。あったりまえだろーが ティンカー・ベル: あ、まあ、そりゃそうか…… キッド: そういや、なんでフックに頼まなかったんだ?俺より長い付き合いなんじゃないのか? ティンカー・ベル: あんな悪いやつに頼み事なんか絶対無理! エミリー: っていうと思って、最初から選択肢にいれてなかったんだぁ キッド: あ、仲悪いんだ。まあ、俺は儲かったから何の問題もないんだけどよ。そういうことなら、フックに義理立てする必要もなさそうだな ティンカー・ベル: じゃあ、もうさっさと移動しちゃお。行き先がヌルズブ島なら、けっこう快適に過ごせそうだし…… (ドオオオオォォン) ピュルテ: え……?い、いまの爆音は……? エミリー: ……っ!輸送船が! キッド: な、なんだとっ!?このキッド様の輸送船を爆破!?いったい、どこの誰だ! ティーチ: あっははははぁぁっ!わざわざ宝“集め“おつかれさーん!あとはあたしがいただいてくよ! キッド: な……っ!?ティーチっ!てっめぇ、待てっ! ティーチ: しょうがないよねぇ。名うての海賊がうようよしてる、このドミング諸島海域で、お宝放り出したままにしてるんだからさぁ? ティンカー・ベル: こ、これだから海賊ってのは~!逃がさないんだからね! ピュルテ: つ、強い……ディトルパを自在に出せる、フックさんと同レベルの相手です……っ! ティンカー・ベル: しかも、大勢いる部下もひとりひとりがめっちゃ強いし……! エミリー: ああっ、ティーチが行っちゃう! ティーチ: はいはい、もうめんどくさいから、ここらで撤退させてもらうよ。どうしても取り返したいんなら、好きなだけ追いかけてきな ティーチ: あたしがことごとく、返り討ちにしてあげるけどねぇー? キッド: く、くそっ、やられた……!俺のミスだ、必ず取り戻す! ティンカー・ベル: 大丈夫だよ、責任感じないで。取り返すときはティンカたちも一緒に行く! エミリー: でも……ここまで圧倒的に強いのに、なんで追いかけさせるんだろ。どうしてトドメ、ささないのかな (背景切換...) 神官長: コミッティは完全に分裂しましたね。まだ表面化してはいませんが、時間の問題…… (報告書に目を通した神官長は、浮かない表情だった。) (敵勢力の分裂はこちらに有利な要素だというのに。) 神官長: ワタシは争いは好まないのです。たとえそれが敵勢力の中のことであってもです 神官長: しかしインペリウム・コミッティは、たとえ割れていても脅威となる存在――決して侮ってはいけません 神官長: 下界では、この真下の都市に持ち込まれたのでしょう?『あれ』が――ええ、それもすべて、しのぶから聞いています (精霊である彼女は、服部あおいを擁する忍の里の頭領であると同時に、天空神殿の配下だ。) 神官長: 再び、時計の針が動き出そうとしているのですね。ワタシがかつてしたことは間違っていたと……そういうことなのでしょうか (すべて知っていると言いつつ、神官長は慌てた様子はない。) (すべて読みどおりなのか。) (それとも。) 神官長: ああ、ライブラ。答えて下さい。ワタシは、ワタシたちは、なすべきことをした……そうではなかったのですか 神官長: いいえ、正しい。ワタシも、ライブラも、間違っていない…… (既に『時計の針』は足元に届いた。) (針が動き出すのはいつなのか――) 212 - オトギノクニの夜明け ベヒモス: 同じものなのに、こんなに美味しく感じるものなんだな ヴェルメリオ: ……よかった、喜んでもらえて ドロシー: 料理って重要よ。同じ食材でも美味しくもなるし、その逆もあるの。とっても奥が深いの シンデレラ: そうね……。ドロシーが言うと重みがあるわ フアナ: ん?ドロシーも料理が得意なのか? ドロシー: ヴェルほどじゃないけど、いろいろ勉強してるわ! フアナ: じゃあ今度、ドロシーの手料理も食べさせてよ ドロシー: もちろんいいわよ シンデレラ: あーあ。しーらないっと…… クレア: ねえ、フアナ。私、原初の話、聞きたい ヴェルメリオ: ……そう言えば途中だったよね フアナ: ……そうだね。じゃあ、少し……話しておこうか フアナ: このオトギノクニが誕生したとき……そこは、誰の創造期でもなかった クレア: いまだって誰かのものじゃない。みんなのものだよ フアナ: 違うんだ。誰もいなかったと言ってもいい。そう、最初にこのオトギノクニに住んでいたのは……黒い影だったって言われてる シンデレラ: 黒い……影……? フアナ: 音のない静寂が支配する世界。聞こえるのは時々響く、獣のような雄叫び。光の射さない世界でうごめくのは黒い影だけ―― フアナ: コミッティに伝えられてきた門外不出の歴史書には、そうあるよ。今も本はビブリオ・アンティークの立入禁止エリアに保管されてるから、いつか行く機会があれば確かめればいい ヴェルメリオ: ……あそこに、そんな本があったなんて フアナ: そんな原初の創造期で、ただの影ではなく自我を持つに至った存在が現れ始めた。それが……ベヒモスたちなんだ ベヒモス: 懐かしいなー。あの影みたいなの、今ほとんど見ないもんな フアナ: その頃、人間界からオトギノクニに供給されていたのは、ディマイトだけだったんだ。エルマイトはまだ……存在していなかった ドロシー: え……存在、してない?少ないとかじゃなくて……? ベヒモス: だからわたしは、ディマイトだけがいっぱいなんだ。しょうがないよねー シンデレラ: エルマイトが存在しなかった、って……そんなことがあったの フアナ: どうしてなのか……それはたぶん、人間さんくんの方が詳しいだろうけど。とにかく、そういう事情でベヒモスたちはディマイトしか持ってないってわけ ドロシー: え?どうして人間さんが詳しいのよ。それにその、未知への恐怖って……? フアナ: 人間界での想像力っていうのは、まず未知のものに対する恐怖から始まったと言われてる。つまり……ネガティブな、ディマイトだね ベヒモス: みんな知らないものは怖いんだよねー。だから、どうぶつもよく初対面だと怖がられちゃうんだよねー フアナ: そんな恐怖に対抗するために、人間界は別の想像力で打ち消すことを考えた。恐怖の対象を打ち負かすヒーローだったり、力ではかなわなくとも知恵と勇気で対抗する筋書きだったり シンデレラ: それが……エルマイト…… クレア: 難しい話だね。でも、エルマイトかディマイトかっていうのが、善悪じゃないのはわかった気がする フアナ: 一方的な悪なんて、そんなものは……ないんだよ シンデレラ: でもディマイトが悪じゃないとしたら、私たちは一体何と戦ってることになるのよ フアナ: ディマイトが悪なんじゃない。強いて言うなら、ディマイトを利用しようとしてる連中が悪ってことになるんじゃないの ドロシー: そうね。力そのものじゃない、どう利用するかが大事ってことね フアナ: それだって善悪で騙るのはナンセンスだけど。あたしに言わせればそれは利害の不一致、ってやつにしか見えないな シンデレラ: ……利害、ね。そうよね。それぞれ思惑があって、何が正しいのかなんて誰にもわからない…… ヴェルメリオ: ……あれ?何か飛んできたよ。あれって、伝書鳩? クレア: もしかしたらエミリーたちから何か伝言かも ドロシー: 待って、いま読んでみるわ。……うん、やっぱりそうみたいね。やった、向こうもヴェルザームを回収できたみたいよ! ヴェルメリオ: ……よかった、これでひとつ前進だね ドロシー: そろそろ一度、合流しないかって話みたいね。ヌルズブ島で合流するのがいいんじゃないかって ヴェルメリオ: ……うん、こっちも目的は果たしたし、明日にでも出発だね クレア: 戻ってきた フアナ: クレア……なんだ、あたしが出ていったの、気づいてたわけ? クレア: うん。気になるようになっちゃって フアナ: でもなんで、こんな洞窟の入り口で待ってるのよ クレア: だって心配でしょ。フアナ、一人で森に行っちゃうんだから フアナ: あのねぇ、あたしは一応コミッティだからね。クレアこそ、こんなところで一人で座って待って…… クレア: ひとりじゃないよ フアナ: 人間さんくん……!ああ、なるほど。きみはクレアの動きに気がついたわけか。とすると、もう事情はクレアから聞いた? フアナ: そう……。それでどうする?あたしを放り出すなら、それも仕方ない。あたしの目的はまた別の方法で……って、え? クレア: みんなを不安にさせたくないから、誰にも言わない?うん、そうだね フアナ: それに……コミッティの誰かと連絡を取り合ってるからって、それが自分たちにとって悪いこととは限らない? フアナ: そうだね。人間さんくんが予想してるとおり。コミッティと一口に言ってもいろんな考えがある。少なくとも今は、あたしにとって人間さんくんは利用価値があるんだ クレア: 利用価値って、すごく冷たく聞こえる フアナ: そうだね。でも事実だから クレア: でもそれ、わざと冷たく聞こえる言葉を選んでるんじゃない? フアナ: ……。……内情を詳しく語るつもりもないけど、少なくともあたしともうひとりは確実に反グリム派だから。今はみんなに手を貸す クレア: 同じ作家でも、仲は良くないものなんだね フアナ: 肩書が同じだからって思想は共有されないよ。それに……グリムの連中は本来、作家じゃない。ただの蒐集家だよ クレア: それって違うの? フアナ: 作家と蒐集家のどっちが偉い、ってわけじゃない。蒐集家でも優秀な人はいる。でも、それとは別に、あたしはグリムの汚い手口を認められない……! フアナ: っと、ガラにもなく熱くなったな。さて、明日も早いんだっけ。そろそろ休もうか クレア: 人間さん?どしたの? フアナ: なっ、さ、さわるなっ! クレア: だめだよ、人間さん。急に手を握ったりしたら。びっくりするよ フアナ: やめろ、あたしに触るんじゃない。もう二度と、こんな真似はするなよ クレア: あーあ、怒らせちゃった 213 - ティーチを追え! ピュルテ: まさか、あの大海賊と名高いティーチさんに狙われて、せっかくのヴェルザームを奪われてしまうだなんて…… キッド: とにかく、ここは俺が責任持って追いかけるからな。このキッド様を出し抜こうなんて、絶対にこのままにはできねーし ティンカー・ベル: んもーっ、これだから海賊ってのは! 頼むよ、キッド!ティーチをぎゃふんと言わせてやって! エミリー: あのねティンカ、一応キッドも海賊っての覚えておいてね ピュルテ: でも、ヴェルザームなんて盗んでどうするんでしょうか。どんな効果があるかも分からないアイテムに値段がつくと思えないのですが キッド: 珍しいものはとにかく手元に置いておきたいっていうのが、海賊稼業の性ってもんじゃないか? エミリー: ならいいんだけど、ピュルテが心配してるのはそこじゃないんでしょ? ピュルテ: ええ。もしティーチさんが、誰かの依頼で動いてるんだとしたら…… キッド: そいつは、ヴェルザームの価値を正しく理解してる。場合によっては、エミリーたちよりも ティンカー・ベル: そっか……じゃあ、キッド。大変だとは思うんだけどさ キッド: 分かったよ。最低でもお宝を奪い返す、できればティーチをふんづかまえて誰に頼まれたかを確認する、ってことだな ピュルテ: どうしよう……人間さんがいなくても、うまく進んでるはずだったのに、こんなことになっちゃって…… エミリー: ピュルテ?どうしたのぉ? ピュルテ: みんなに迷惑をかけてしまうと思って……どうしようって ティンカー・ベル: なーに言ってんの!ピュルテの失敗ですらないし、そうだとしても誰も責めたりしないでしょ!ティンカたち、もうそういう関係じゃないと思ってんだけど エミリー: ティンカの言うとおりだよ。前向きに行こう、ピュルテ ピュルテ: そ、そうですよね。私、なんでこんなこと……すみません エミリー: ……周りに気を使う子ではあるけど、こんなに気に病むタイプじゃなかったと思ったのにな…… キッド: よーし、見えた!やっと追いついたぞ!あれがティーチの船だ! ティンカー・ベル: ん……ちょっと待って!?あそこ! リル: ………… ティンカー・ベル: ちょっと、ネコ!そんなとこで何やってんの! リル: ふん。貴君らに答える義理はないな キッド: くっ、また加速した!?逃がすか! エミリー: なんか急に空も暗くなって……まさか嵐が来るんじゃ!?ん?違う、これ……上に何か…… ピュルテ: きゃあっ!あ、あれは!? ドロシー: はあああっ! ティンカー・ベル: 空から三つ編みが落ちてきた! ドロシー: 落ちてきたんじゃなくて、華麗に降り立ったのよ!ほら、みんなも早く! ヴェルメリオ: ……む、むり。怖くて心臓が止まりそう ベヒモス: よーし、どうぶつ。もうちょっと下にいこう。船を壊さないようにゆっくりだぞー どうぶつ: …… キッド: お、おいおい、こりゃいったいどうなってんだ ベヒモス: わたしは原初の三獣、ベヒモスだよー。よろしくなー。あ、こいつは眷属で、どうぶつっていうんだ。かわいいだろー キッド: お、おう……よろしく…… シンデレラ: ふう、やっと降りられたわ…… ティンカー・ベル: あっ!?なんか今のどさくさに紛れてティーチとネコに逃げられてる! キッド: なにっ!よしっ、とりあえず全速力で追いかける! ピュルテ: えっと……そちらの方は……? フアナ: あたしはフアナだよ。よろしく。さて……すり合わせるべき情報が、お互いに多いようだね。ちょっと落ち着いて話そうか (…………。) (背景切換...) シンデレラ: なるほどね。集めたヴェルザームは、いま3つ全部ティーチの手元にあるってわけね ピュルテ: 申し訳ありません…… クレア: ん?なんでピュルテは謝ってるの? エミリー: で、そっちは原初の三獣のひとり、ベヒモスと会って、無事にヴェルザームもゲットできたんだね ティンカー・ベル: んで、そこの人がその…… フアナ: そう。コミッティの一員ってわけ。エミリーはサボり常習犯だからあたしの顔なんて覚えてないだろうけど エミリー: そんなことないよ!ちゃんと顔と名前は一致してるよ! ティンカー・ベル: ええ……それほぼ他人じゃん ピュルテ: コミッティなのに協力してくれるって……それ、本当に信じていいんですよね? シンデレラ: ピュルテちゃんの心配はもっともだわ。正直言って、私もまだ完全に信用しきってるってわけじゃないの フアナ: 本人を前に辛辣だね クレア: フアナ自身が、信じてほしいって感じしないから フアナ: あたしは、きみたちにグリムを倒してほしいだけだから クレア: でもそのためには、信頼関係があった方がいい ドロシー: まあ確かに、信頼できる相手の助言ならすんなり聞くわよね ティンカー・ベル: じゃあフアナは対人関係がヘタクソ、コミュ障ってこと? フアナ: 一応、世界的なギルドのリーダーやってるんだけど…… エミリー: えっ、ちゃんとコミッティの集まり出てるのに、別の仕事もやってるの? フアナ: じゃなきゃ、コミッティの報酬だけじゃ全員を養えないし エミリー: え……そうなの? フアナ: あたしは、自分ちの子が多いのもあるけど。でもコミッティの報酬なんて大した量じゃないんだから エミリー: そうなんだ……エミリー、あんまり意識してなかったからなぁ フアナ: なに不自由なく実家からの仕送りで遊び歩いてたお嬢様じゃ、実感がないのも無理ないだろうね エミリー: む……!ちょっとトゲのある言い方…… フアナ: ああ、ごめん。別にエミリー個人をどうこうってつもりじゃないよ。本当に何も知らないんだから……責めても仕方ない フアナ: エミリーのことは、こう見えてもきちんとしてるって、あたしは評価してるよ ヴェルメリオ: ……こう見えてもって フアナ: 遊び歩いてるけど、公私はきちんと分けてるとこがあったりね エミリー: 当然だよぅ。エミリーは責任感が強いんだからね フアナ: イケメンには目がないけど、自分の部署にいた事務官が金髪イケメンなのに一切手を出さなかったんだよ エミリー: あ、待って、その話は フアナ: で、彼が一身上の都合で退職したら、その翌日に食事に誘ったの。荷物を取りにきたとこ狙って ドロシー: がっつきすぎじゃないの……? シンデレラ: だからモテないのよ…… エミリー: ちょっと!エミリー、普通にモテるから! 214 - リルの真意は… ピュルテ: あ、あの、ほかに何か変わったことはありませんでしたか? シンデレラ: 別行動中に?そうねえ、いま話した極北島での出来事とかベヒモスとの一件以外に……何か言い忘れてるかしら ベヒモス: わたしはわかんないなー。まあ、途中から合流だったしなー ピュルテ: そうですか、いえ、ならいいんです シンデレラ: クルプンを解放するときに、人間さんの手つきがいやらしかったけど ヴェルメリオ: ……でもそれ、通常運転だからね。もう、恥ずかしい ティンカー・ベル: あはは、気をつけないと人間さん、頭巾にまでそこまで言われちゃやばいよ~? ピュルテ: あ、あはは……そうですか、人間さんもいつもどおり……元気いっぱいだったみたいで…… ヴェルメリオ: …… ティンカー・ベル: でもさ、こうしてみんなが揃うと、やっぱり気合が入るね!ティーチにも全然、負ける気がしないよ! キッド: おーい、みんな!ちょっと甲板まで来てくれ! (背景切換...) ドロシー: なに、どうしたのよ。って、あっ、あれ、さっきの! シンデレラ: ティーチの船だわ。あの岩だらけの島が、今のティーチの根城ってこと? ティンカー・ベル: ネコも一緒かな……?ネコってば、何やってんだろ シンデレラ: リルはもともと、完全に仲間ってわけじゃない、ってスタンスだからね。あの子の計画とティーチが何か通じるものがあったのかもしれないわ エミリー: 人間界をエルマイト牧場にしようっていう、あの計画だねぇ。まだあれ継続なのかなぁ フアナ: へえ、なかなか尖った考えの子がいるんだね。一つの考え方だろうとは思うけど クレア: フアナは賛成なの、牧場 フアナ: 管理方法の思想自体は否定しないよ。今のオトギノクニって天空神殿が一元管理してるし、川上のどこで管理するかって違いでしかないからね フアナ: ただ……それでエルマイトの質が担保できるのか。あたしが気になるのはそこかなぁ シンデレラ: 質、ねぇ…… ベヒモス: エルマイトってめんどくさいんだな。ディマイトに質とかあるのかなー キッド: なんにしても、もう日が暮れる。このあたりで様子見といて翌朝、仕掛けることにしようか ピュルテ: ……私、どうしちゃったんだろう。まさかもう、あの声の誰かに身体を乗っ取られてるのかな ヴェルメリオ: ……ピュルテ ピュルテ: あ……ヴェルちゃん ヴェルメリオ: ……寂しがってたら良かったのにね ピュルテ: え……!? ヴェルメリオ: ……ピュルテと離れ離れで、不安で、寂しくて、会いたくて。いつもの元気なんて見せられなくて、再会した瞬間に泣きそうになって ヴェルメリオ: ……人間さんが、そんなふうになってたら良かった、だよね ピュルテ: 私は、その…… ヴェルメリオ: ……わたしはそう思ってた。ロゼッタゲート行ってて離れてる間。わたしがこんなに辛いんだから、あのひとにも同じであってほしいって ヴェルメリオ: ……最低だよね。こんなんじゃ、奥さん失格かなって思う。でも考えたのは事実なんだ ピュルテ: ……はい。私も、ヴェルちゃんみたいに考えてて……だから、普段通りの様子に少し寂しくなって……私なんていらないんじゃないかって ヴェルメリオ: ……男の人はね、女の子の前では強くありたいのかなって、思うんだ。頼りがいがあるとこ見せたいんだって ヴェルメリオ: ……本当は泣き出したいだろうなって、そんなときでもカッコよく、相手のことを思って行動する……たとえそれが、フリだとしても ピュルテ: そう、かもですよね。うん……。砂の国のはずれで一緒に過ごしたときに、そういうとこ見せちゃったから、余計に……もう見せないぞって ヴェルメリオ: ……ふふ、ピュルテも分かってるんだ。なら、もう安心だよね ピュルテ: でも、胸にずっと黒い気持ちが残ったままで、これ……どうしてなんでしょう…… ヴェルメリオ: ……誰かを好きでいるって、綺麗事じゃないから。それだけで他の誰かを傷つける ピュルテ: ヴェルちゃん、なんか大人っぽくなった気がします…… ヴェルメリオ: ……えへへ、そうかな?だからさ、あまり考えるのやめとこ。ピュルテはライバルだけど……一番、気持ちわかるつもりだから ピュルテ: はい……ありがとうございます キッド: ある程度の配下は集めてるだろうけど、そいつらは俺たちが抑え込む。おまえらはティーチと、あとそのリルってやつをなんとかしてくれ ベヒモス: なー、あのあたりから強い魔力を感じるよー。ディマイトとは違うけど、何か罠とかかなー? ヴェルメリオ: ……うかつに飛び込むのは危ないかな ドロシー: けど行かなきゃどうにもなんないわよ! フアナ: そのとおり。ここは進むしかないね ティーチ: やあやあ、皆さん。お集まりだねぇー? ドロシー: あんたは……ティーチ! ティンカー・ベル: それにネコまで!もう、なにやってんの、そんなところで!お金がないならティンカたちに相談しなよ リル: カネ欲しさにここにいるわけではない。小生は……貴君らのためにわざわざ来たのだ ヴェルメリオ: ……わたしたちのために? ティーチ: さーて、それじゃあ魔法陣発動といこっか。ピュルテはリルにまかせていい? リル: 承知した ピュルテ: えっ、リルちゃん!?どういうこと? シンデレラ: 魔法陣って、やっぱり何かの罠だわ。気をつけて! ピュルテ: う、ううっ……はぁっ、あぁうっ、頭が……っ!? シンデレラ: えっ、ちょっと、ピュルテちゃん!?どうしたのよ! ピュルテ: あ、あぁっ、この気配……っ、ディマイトですっ、私はいま、ディマイトに支配されそうになって、いて……っ!? ドロシー: なんですって!? ピュルテ: そんな、どうしてっ、昨日、ヴェルちゃんにも、励ましてもらったのに……っ!? ピュルテ: あ、ああうっ、胸のなかっ、嫌な感情が渦巻いてっ、はぁっ、止められなくなっちゃう……! キッド: う……くっ、くはぁ……っ! ティンカー・ベル: キッドまで!? ティーチ: はーい、見ぃつけたぁ♪キッド!おまえがディマイトの手先だね フアナ: そうか……この魔法陣、ディマイトを炙り出すためのもの。ということは、ピュルテは…… ドロシー: えっ、じゃあベヒモスも!? ベヒモス: んー?あ、わたしもなんか偏頭痛がするなー。やだなー シンデレラ: ひとりだけレベル感が違うけど……でもやっぱりディマイトが反応するのね! リル: ピュルテ。そう言えば、まだ借りがあったと思ってね。これは、そのお返しだ。これで貸し借りなし。いいな ピュルテ: リルちゃんっ、な、なんのこと……?んぅっ、んむっ!? クレア: えっ、なんでここでリルがピュルテとちゅーするの 215 - リルの秘策 ピュルテ: んっ、んむっ、んんっ……はぁっ、ふぁっ、リル、ちゃんっ……!?どうして、こん……な……はぁっ クレア: 知らなかった。リルは友情じゃなくて恋愛感情だったの エミリー: ううん、そうじゃないよ。ピュルテを見て フアナ: ディマイトの汚染が抑えられている。蛇毒を傷口から吸い出すようなものだね。それでピュルテのディマイトを抜き出したんだ シンデレラ: え、でもそんなことしたらリルが今度は……!? リル: 心配するな。事前に術式はかけてある。ダメージがないわけではないが……ディマイト落ちすることはない ピュルテ: そんな、リルちゃん…… リル: 何を悩んでる。大切な、あの男が傍にいて何を抱えている。いいんだ、ピュルテはありのままで……くっ、くはぁっ ピュルテ: あ、ああ、私のせいで、リルちゃんが…… リル: だから。そうやって気に病むから付け込まれるのがわからないのか ピュルテ: う、うう、リルちゃん…… リル: いつまで泣いてる。小生のぶんまで旅を、してくるんだ フアナ: 待てよ。となるとキッドはなんだ!? ティーチ: こいつは最初からディマイトに染まってたんだろうな。じゃないと、不自然だと思わないかい。いつも手下を可愛がるこいつが、まだ一度も手下にごほうびをあげてないらしいぞ? キッドの部下: そうなんです!俺もう寂しくて……って、えっ キッドの部下: どうしてボスのごほうびをティーチが…… ティーチ: オトギノクニの海で起きたことで、このティーチ様が知らないことはない!一流の海賊は情報網からして違うんだ。わかる? (キィン) キッド: くうっ!何しやがったんだ、ティーチ! ドロシー: あ……ティーチの攻撃で、キッドの服が…… クレア: キッドのお尻に文字が書いてある ヴェルメリオ: ……人間さん、まじまじと見すぎ ティーチ: ヴェルザームを輸送船に積んで、ピュルテたちを浜に下ろしてた。あんとき、あたしが奪わなかったらどうなってたか……。こいつが輸送船の漂流事故を演出しただけのことさ エミリー: 確かに……なんでわざわざ船から下りだんだろうとは思ったけど、まさかそんな キッド: ちっ……あと少しだったのに キッド: 全部バレちまった以上は仕方ない。おまえら全員片づけて、ヴェルザームを4つまとめていただく! ティンカー・ベル: うわっ、マジでキッドがディマイトなの!? フアナ: 話には聞いていたけど、本当に何の気配も感じさせないで、突然ディマイトを発動させるのか……!それも、本人の意識を完全に支配下においてる エミリー: たぶん、少しずつだけど改良されてる気がする。誰かが継続して研究してるのかもねぇ フアナ: ちっ……こんなふうに狂わせて、黒幕はどこかで高みの見物ってわけ?気に入らないね……そういうやり方は! キッド: こいつはね……おまえらが知ってるペンとは違うって話だよ。インクに特殊な薬品を使ってるとかなんとか フアナ: 薬品、か。やっぱりあいつが一枚噛んでるのか……? キッド: これでディマイトはさらに増幅っ、俺は最強の力を手に入れられる! クレア: でもベヒモスのほうが強いんじゃない? ベヒモス: 頭痛いからなー。ちょっと動けないんだよなー エミリー: これ、ベヒモスが強くて効いてないんじゃなくて、効いてるけどベヒモス本人の緊張感がないだけなんじゃ…… シンデレラ: 大丈夫よ。すごいディマイトの量だけど、でも私たちなら ドロシー: ええ、いくわよ! ティーチ: 甘いんだよなぁ ヴェルメリオ: ……え? ティーチ: キッド!だからおまえはいつまでたっても、甘ちゃんなんだよ!魔方陣がどうこう言ってたの聞いてなかったのか!? キッド: なんだと!? ティーチ: 野郎ども!魔導士先生たちの出番だぞ! 海賊: さあ、さっさと呪文を唱えろ 魔導士: ひいい……今やりますから! キッド: おおうっ!?な、なんだ、力が抜けてっ、くっ、き、きたねぇぞ!正々堂々の戦いに水を差すんじゃ……くっ、あぁうっ ティーチ: ばーか、あたしら海賊だぞ?正々堂々とかやりたきゃ騎士になれって キッドの部下: ボスをバカにしやがって!あ、でも、元に戻してもらった方がいいよな。こんなのボスじゃないし…… ティーチ: さあ、おまえら!今がチャンスなの見りゃわかるね?さっさと片づけちまいな! ティンカー・ベル: えっらそーで腹立つけど!でも、助かった……お礼は言わないけどね! シンデレラ: なんとか、落ち着いたわね。キッドもだし、ピュルテちゃんも…… ピュルテ: はい、もう大丈夫です……! ベヒモス: あー、頭痛かったー。どうぶつもつかれちゃってるよー リル: まったくピュルテは、世話が焼けるな。やっぱり本当は、一緒に旅に出て守ってやりたいが…… ピュルテ: ダメなの? リル: 小生には、なすべきことがあるからな クレア: ね、人間さんも思った?かっこいいよね リル: 貴君にかっこいいなどと言われたくないな クレア: あ、かわいいって言われたいんだ リル: ち、ちちち、ちがっ、違う!貴君も真に受けて連発するな!やめろ! ティンカー・ベル: で、ティーチはなんで助けてくれたわけ? ティーチ: もちろん仕事だよ。なあ、ヴェルザーム1個、いくら出す?まさかタダだとは思ってないよね? シンデレラ: いくらよ ティーチ: 5億 シンデレラ: ……いいわ ティーチ: 1個あたり、ね シンデレラ: く、くうっ……!ぶ、分割で! ティンカー・ベル: 分割なら払えるのがやばい。でも、どこで今回のこと嗅ぎつけてきたの ティーチ: そこのアホが、妙な女と意気投合してるのを見て、ちょっとばかりカンが働いたんだ キッド: 妙な女……あっ、あのときか……酒場で近づいてきた…… エミリー: 心当たりがあるの? キッド: あぁ……自分で、世界最高の魔女だと名乗ってやがった。どことなくおかしな雰囲気の奴だったから、本当に実力があるかは知らないが ヴェルメリオ: ……けど、キッドをディマイト化させたんでしょ キッド: 文字を書かれたとしたら、そいつしかいないと思う フアナ: 待って、キッドの文字はお尻にあったけど……あなた、酒場で魔女の前でお尻を丸出しにしたの?どれだけ酔っ払ってたわけ キッド: 違う、違う!そいつが、デザインした服を試着してほしいとか言われて、それでちょっと俺の宿の部屋に呼んで…… キッドの部下: そんな、ずるい!俺たちのボスの部屋に! ティンカー・ベル: よくわかんないけど、なにその服を試着って キッド: だって世界最高のファッションデザイナーだっていうから、ちょっと気になったんだよ キッドの部下: ボスのわずかに残った女の子な一面が! キッド: 誰がほぼ男だ!殺すぞ! ドロシー: ファッションデザイナー?魔女はどこいったのよ。兼業? キッド: それは……なんだっけな。まあその、酒がだいぶ進んでて…… エミリー: やっぱり酔っ払いじゃん! シンデレラ: まあ酔ってたなら仕方ないわよ。それより次のことを決めないと ティンカー・ベル: 急に謎の擁護が入ったぞ フアナ: 次のことってのは行き先、ってこと? ピュルテ: それについては……提案があるんです 216 - 向かうはヌルズブ島 ドロシー: それじゃ、その神聖レグルス教国って場所に、コミッティの特務部隊が何かを持ち込もうとしてるっていうのね ピュルテ: 詳細はわかりませんし、無駄足かもしれません。でも、なんだか嫌な予感がするのと、それに…… ヴェルメリオ: ……ピュルテにとって、思い出深い場所なんだよね ピュルテ: 今回もあんなふうにご迷惑をおかけした私が、言える立場じゃないって分かってるんですけど…… フアナ: 別に自分の利益にしようってわけじゃない。遠慮する必要なんてないよ ティーチ: だけど、あそこは唯一の港は普段、閉じてるはずだな キッド: ああ、確か決まったタイミングでしか開かないんだよな ピュルテ: ええ。私もその影響もあって長く滞在してましたから、よくわかってます ドロシー: けど、残りの原初の三獣……ジズとレヴィアの住んでいる場所も、ベヒモスに教えてもらったはいいけど、簡単な旅じゃないはずよ ベヒモス: あー、みんなけっこう不便なとこに住んでるからねー ドロシー: レグルス教国が開くまでの合間にちょっと寄って……なんて無理だと思うの ティーチ: うっかり次を逃せば、だいぶ時間が空くしな。だいたい、その追っかけてる誰かがいるんだろ? キッド: じゃあ、その誰かもまだ入れてないわけだし、ここはちょっと待機でもいいんじゃねーの? シンデレラ: そうね、どこかに身を隠して…… クレア: キッドが、ヌルズブ島がおすすめだって言ってた キッド: よし、お詫びがてら案内するぜ ピュルテ: ありがとうございます!それじゃあさっそく……。……リルちゃんは、ここでお別れ、なんだよね リル: ああ。達者でな クレア: ベヒモスとどうぶつともお別れ? ベヒモス: まだちょっと頭痛いし、どうぶつが帰りたがってるからなー ティーチ: あたしと別れを惜しむやつはいないわけ?かーっ、冷たいねぇ。あたしは命の恩人じゃないのか? シンデレラ: はいはい、寂しいですー。はぁ……お金、またマザーティターニアに怒られちゃうなぁ…… ドロシー: じゃあね、みんな!またねー! ティーチ: やれやれ騒がしいのが行ったな。リル、もう大丈夫だぞ リル: くっ……くはぁっ、はぁっ、はぁっ。なんとか、やり通せたか…… ベヒモス: うわ、ディマイトで身体ボロボロだな ティーチ: ったく、弱みを見せたくないなんて、つまんないプライドで無理しちゃうんだからねえ リル: やかましい……心配、かけたくない、だけだ……っ ティーチ: そういうの、嫌いじゃないけどね。どう、町まで乗せてやるよ。大丈夫、タダでいいからさ ???: すーっとね……染み込んでいくみたいなの。この石畳の冷ややかさに。わたしの体温が融けあって……ああ、わたしはこのまま空を見上げたまま一つになっていくのねって ???: たくさんの人に踏まれて、馬車の車輪に轢かれて、そうしてできたわたしの身体だったものは輪郭を失くしていく。ふふっ、だって花も、その色を散らせば果ては土だわ…… 子供: ねぇねぇ、ママ。あのお姉ちゃん、どうして道路でねんねして誰もいないのにお話してるの? 母親: しっ、見ちゃいけません! ???: 星が……重なっていくみたい……。光が滲んで…… 特務部隊: ああ、こんなところにおられましたか。出立の準備が整いました ???: ねえ、あなた……わたしを殺して 特務部隊: はっ!?い、いえ、あの、何をおっしゃっておいでなのか…… ???: わたしは恋をしてしまったのかもしれないの。そう、それは甘くて耳に優しくてね、けど…… 特務部隊: は、はぁ…… ???: それで出発はいつ?レグルス教国は入れる時期が決まっているでしょう 特務部隊: うえっ?あ、は、はいっ、こちらの予定となっています ???: 針はもう、かの国に持ち込まれたのよね。それが何かも知らずに、みんな当たり前のようにすぐそばに置いて……そして何も知らずに、死んでいく ???: ああ、悲しいわ。悲しいほど滑稽で、狂おしいほど愛しい。忌まわしきグランド・リヴィジョン――それが世界の運命なのかしら ???: さあ行きましょう。運命は、最も血が流れる場所へ私を誘ってくれるわ。あは、あはは、あはははははは…… キッド: ここからヌルズブ島までは、わりと近いんだ。俺のこの船なら、2日もあれば着くと思うよ シンデレラ: ヌルズブ島なんてリゾート地じゃないの、って思ったけど、確かにキッドの意見は納得できるわね ドロシー: 人がいっぱいいれば、目立たない、ってやつね ピュルテ: リルちゃん、大丈夫かな…… ヴェルメリオ: ……リルが身体を張ってくれたんだから。ね、ピュルテ ピュルテ: そうですよね。もう、怖くても前を向かなくちゃ…… エミリー: それで、バタバタしててゆっくり話せてなかったけど、フアナ フアナ: ん?なになに エミリー: うちの上のお姉ちゃんたちに対抗するために、みんなを利用しようってわけ フアナ: 利用ってフレーズに悪意を感じるけど、まあ、そういうこと エミリー: これだけ張り付いてるってことは、コミッティの定例会議もずっと欠席しなきゃいけないよねぇ エミリー: そんなことしたら、上のお姉ちゃんたちなら確実に気付く。何か工作が必要になるはずだよぅ。てことは フアナ: てことは? エミリー: コミッティのなかで、最低でもあと1人は、だれかが協力してなきゃこれは実現できない エミリー: おそらく……アイソーポス副議長が主導で進めてるんでしょ フアナ: さあ、どうだろうね クレア: エミリーがまた頭いいフリしてる ドロシー: しーっ、茶化しちゃだめよ エミリー: もう、みんなして……!と、とにかく、みんなに何かしたらエミリーが許さないんだからね! フアナ: ふふっ、意外だね エミリー: なにが フアナ: あの自由人で協調性ゼロのエミリーが、こんなにみんなとうまくやっていけてるなんて、と思ってさ エミリー: 大して仲良くないのに、エミリーのことわかったふうなこと言わないでよね ティンカー・ベル: あ。よく知ってるね。そう、意外と協調性がない エミリー: ちょっとティンカ……ひどいよぅ エミリー: けど……そうなると、レグルス教国で動いてるのは、誰?アイソーポスでもフアナでもなくて…… フアナ: さあね。それはあたしもまだ断言できない。ただ、一つ言えるのは、その目的が『例の計画』だろうってこと、くらいかな―― 217 - ヌルズブ島到着! ティンカー・ベル: 着いたぁー!ヌルズブ島! シンデレラ: このヌルズブ島はオトギノクニ屈指の人気リゾート地よ。大小さまざまなリゾートホテルが建ち並んで、お店も観光客向けがメインなの ピュルテ: やっぱり憧れのリゾートなんですよね!来るまでの旅費も高いからそうそう気軽に来れないですし ヴェルメリオ: ……一応、今回は純粋に遊びに来た、ってわけじゃないけど ドロシー: でも、レグルス教国行きの船が出るまでの数日の間、どう過ごしたって何も変わらないわ。せっかくだから、このタイミングでリフレッシュしましょ フアナ: 確かにそうだな。焦ったところで、船が早く出るわけじゃないからね エミリー: そうと決まったら早速、なにしよっかー? クレア: お昼ごはんは船で食べちゃったし シンデレラ: そうよねー。こんな時間から飲むのも微妙だし ピュルテ: え、いつも昼間でもお酒飲んでますよね シンデレラ: や、やめてよ、大きな声で!人間さんにあまり変なところ見せたくないの ドロシー: 今さら何言ってんだか…… エミリー: あッ!ねぇねぇ、あれなんてどうかなぁ? クレア: エステ? フアナ: オイルマッサージの店か。旅の疲れを癒やすって意味では趣旨に合ってると思うけど ドロシー: そうねぇ、酷使してきた筋肉の張りが治せるんなら…… ティンカー・ベル: いや、それは治んないと思うけど ティンカー・ベル: でも!女子力は確実に上がるね! ドロシー: 行くわ!! ピュルテ: みんな、嬉しそうですよね、人間さん。やっぱり旅の間はずっと緊張感があったんでしょうね ピュルテ: 人間さんも、この島にいる間はリラックスして、羽根を伸ばしてくださいね エミリー: あ、でもエステだと人間さん入れないかな……? シンデレラ: ねえ、ここなら男の人も一緒に入って大丈夫ですって ティンカー・ベル: お、ラッキー!んじゃ早く入っちゃおうよ! ヴェルメリオ: ……え、マッサージ担当の人を指名したい?人間さん、変なリクエストするね シンデレラ: ふぁああぁぁ……癒やされるわぁ…… ドロシー: そうね。体に残ってた緊張がほぐれていく感じ…… エミリー: いい匂いだし……なんかこう、女子力が上がってる感じ、するでしょぉ? ドロシー: うん、する……! ヴェルメリオ: ……こんな人数なのに、同じ部屋に入れてよかったね ピュルテ: こんな大部屋があるんですね。みんなで並んでマッサージされてるって、なんか笑っちゃう画面ですけど クレア: 人間さんは別室になっちゃったけどね シンデレラ: 男の人はしょうがないのよ。だってほら、みんなこうして脱いじゃうんだし エミリー: お店自体に入れないことも多いもんね ティンカー・ベル: でもなんで、あのヒゲもじゃのおじさんを指名したんだろ。知ってる人なのかな ピュルテ: そう言えばフアナさん、髪きれいですよね フアナ: えっ?そ、そう……? ヴェルメリオ: ……それ、わたしも思ってた。何かケアしてるの? フアナ: べ、別に、特別なことは何もしてないけど ドロシー: 私は内側からキレイに、を意識してるのよ クレア: インナーマッスルの話?聞きたい エミリー: うん、それ聞きたいのはクレアだけだから、後でゆっくりね (背景切換...) ピュルテ: 人間さん!お待たせしました。ふふっ、どうですか? シンデレラ: どうって言ったって、ピュルテちゃん。見た目には特に変わってないんだから、人間さんだってコメントのしようがないわよ ヴェルメリオ: ……ううん!待って、これ。よく見て エミリー: え、なに、人間さんの肌がとぅるんとぅるんになってる…… クレア: 無駄に…… ティンカー・ベル: またか!またあんたは一人で、女子たちを差し置いてキレイになろうとしてんのか!このやろ! ピュルテ: お、落ち着いて下さい。結果的にそうなっただけですから! エミリー: じゃあ、ここからは自由時間にしよっか。みんなで固まって行動しなくてもいいよね シンデレラ: そうね。それじゃ日没頃に『ヌルズブリゾートホテル』に集合ね ヴェルメリオ: ……なんか、ずっといろんな何かと戦ってきたから、急にこんな自由時間って逆に困っちゃうね エミリー: あー、ヴェルたちは特にそうかもね。雪の国でバラバラになった後も、ずっと一人で旅してたんだし クレア: そっか、その間は私たちは田舎でしばらくダラダラして……あ、ごめん。様子を見てたの。ね、そうだよね ドロシー: ごく自然に人間さんの傷を抉っていったわ……! フアナ: そう言えばそうだったんだよね。報告書ベースでは聞いてたけど ティンカー・ベル: えー、やっぱそういう情報ってバレちゃってるもんなんだ フアナ: コミッティの情報収集能力は高いからね。たぶん、あたしたちがここにいることも、あたしが報告しなくたって把握してるはずだよ エミリー: そうだね。コミッティメンバーというよりは、その下の特務機関が優秀なんだけど シンデレラ: そうよね。コミッティメンバーってエミリーとかフェルディナとかでしょ? エミリー: なんかフェルディナと同列にされるの、やだな…… ピュルテ: いいお姉さんじゃないですか エミリー: そうだけどさー…… ヴェルメリオ: ……人間さんはどうするの。適当に町をぶらつく?そ、そっか ドロシー: ついていきたいって顔に書いてあるわよ ティンカー・ベル: じゃあティンカはどうしよっかなー。あっ、あれ見て!海のアクティビティだって。なんか楽しそうじゃん ドロシー: へー、いいじゃない。行ってみましょうよ シンデレラ: じゃあ、私はこっちに行くわ。また後でね! クレア: 私もアクティビティしたい。フアナは? フアナ: あたしは……遠慮しとくよ。一緒に遊んではしゃぐような関係じゃ、ないと思うし クレア: ……そう 218 - 油断しちゃダメ ヴェルメリオ: ……ねえ、これどうかな。似合うと思う? エミリー: わぁ、かわいいねぇ!ヴェルって、意外と大人っぽいアクセサリーも似合うんだね ヴェルメリオ: ……人間さんも、似合うと思ってくれるんだ。そっか、えへへっ エミリー: あそこにある服も可愛くない?えー、エミリーほしいなぁ ヴェルメリオ: ……うん、エミリーに似合いそう エミリー: やっぱり可愛いお洋服とかアクセサリーって、見てるだけでも楽しくなってきちゃうねぇ ヴェルメリオ: ……エミリー、おしゃれさんだよね エミリー: え、そうかなぁ? ヴェルメリオ: ……うん。わたしじゃ、どう着ていいかわからない服とかも着こなせそう エミリー: そっかな。まあねっ、エミリーはこれでもアーティストだからね! エミリー: 人間さん、なんで『これでも』を強調して言い直したの ヴェルメリオ: ……エミリーと人間さんって、なんかわりと思ったことを言い合えてる感じがする。親友っぽい エミリー: あはは、案外そういう感じあるかもね シンデレラ: あら、見た顔だと思ったら人間さんたちじゃない。三人でお買い物? エミリー: うん。シンデレラはどうしたの、我慢できなくなっちゃったの? シンデレラ: ううん、ここのガラス製品が有名だって聞いて、ちょっと工房を見てみようかと…… シンデレラ: って、ちょっと!私、別に我慢できなくて手が震えるとかじゃないから! シンデレラ: 人間さんまで!笑いすぎだから!言っとくけど私、さっきナンパされたのよっ エミリー: ええっ、いいなー!イケメンだった? シンデレラ: うん、けっこうイケメンだったわよ。よかったらお食事でも、なんて紳士的な感じでね、ほらこれ エミリー: あ、連絡先のメモ?泊まってるホテルと部屋番号だねぇ。って、グランビブリオ!?超高級リゾートホテルだよぅ! シンデレラ: そうよ。お値段は、私たちのホテルの10倍弱ってとこよね。やっぱりセレブには私の魅力が伝わっちゃうみたいね~ ヴェルメリオ: ……あれ。人間さん、ちょっと不機嫌? シンデレラ: あらぁ?もしかして妬いてるの?ふふっ、そうよね、そんなわけないわよね。酒浸りってバカにして笑った相手だもんねー? エミリー: シンデレラが人間さんを煽り始めちゃった。さっき笑われたの、根に持ってるんだね…… シンデレラ: じゃあね、人間さん。ちゃんとつかまえとかないと、本当についてっちゃうかもしれないんだからね! エミリー: あはは……意外とシンデレラって寂しがりっていうか、構ってほしがるときあるよね ヴェルメリオ: ……人間さんってば、そんなに悔しかったの? エミリー: 別に彼氏じゃないし、って。またそうやって変な意地張るー エミリー: あー、でもなんかいいなぁ。何気ない日常、って感じ。信じられないくらい穏やかでさ。こういう時間に価値ってあるんだよねぇ ヴェルメリオ: ……今まではそうじゃなかったの? エミリー: 昔の旅はさ、ひとりだったから。誰かと何かするって言ったら、コミッティに出席してるときになっちゃうし エミリー: コミッティにはやっぱり、エミリーは戻りたくないからさぁ。会議に出るのも、やだったし……あ、あれ、噂をすれば フアナ: あぁ、人間さんくんたちか ヴェルメリオ: ……ねえ、フアナ、大丈夫? フアナ: 大丈夫、とは? ヴェルメリオ: ……いま、ものすごくつまらなさそうな顔、してたけど フアナ: そ、そんなことないし!気のせいじゃないかな? エミリー: 別に普通にしてればいいのに。エミリーはフアナのこと、嫌いじゃないよ フアナ: えっ……? エミリー: 好きでもないけど フアナ: あっ、うん ヴェルメリオ: ……もしかして、一緒に来たいんじゃない?いいよ、お買い物しよう フアナ: そ、それは、別に……そういうのじゃないから ヴェルメリオ: ……寂しくはない? フアナ: あたし、別にひとりで行動するのとか苦じゃないタイプだから ヴェルメリオ: ……わたしたちと一緒に行くの、嫌? フアナ: 嫌なんて言ってない! エミリー: いろいろ考えないで来たらいいのに。ナンパ待ちってわけじゃないんでしょ? ヴェルメリオ: ……あっ、ナンパってワード出しちゃうと、人間さんがほら フアナ: えっ、なんかすごく険しい顔してるけど エミリー: 思い出してひとりで不機嫌にならないでよ、めんどくさいな! ピュルテ: あれっ、フアナさん!お一人ですか? フアナ: 別にあたし、一人で行動するのは慣れてるし……って、さっきも同じようなこと言わされたな ピュルテ: 誰かに会ったんですか? フアナ: 人間さんくんと、エミリー、ヴェルがいたよ。そっちこそ、ピュルテひとり?確かアクティビティに参加したんじゃなかった? ピュルテ: そうなんですが、ちょっと疲れたので先にホテルに戻ろうかと フアナ: 一人で先にホテルに……!?みんなを待ったりしないで? ピュルテ: え?だって、そばで眺めていても仕方ないですよね フアナ: そ、そうだね…… ピュルテ: じゃあ、私はこれで。フアナさんも楽しんでくださいね フアナ: え、待って。ピュルテのそれって、体調が悪いってこと? ピュルテ: え?それはどういう意味ですか? フアナ: また、声が聞こえるようになったりとか、そういうことじゃないんだよね? ピュルテ: あ……フアナさん、私のこと気遣ってくれて…… フアナ: い、いやっ、ほら、つい最近、目の前であんなことがあったわけだし。普通にこう、連想しちゃうっていうか ピュルテ: 大丈夫ですよ。本当にただ、疲れちゃっただけです フアナ: なら、いいんだけどね ピュルテ: あれから声も聞こえてないですし、きっと良くなったんです。リルちゃんのおかげです フアナ: あ……。あのね、ピュルテ。水を差すつもりじゃないんだけどね、完全に解決したわけじゃないってことは覚えといて ピュルテ: え?どういうことですか? フアナ: リルがやったのは表面的な解決なんだ。葉をむしって茎を切っても、地面の中に根が残っていれば、また生えてくる ピュルテ: えっ……そんな!それじゃリルちゃんは フアナ: あのリルって子もわかってたと思うよ。それに、根が残ってるからって無意味なんかじゃない フアナ: こうしてピュルテは苦痛から逃れて、快適に過ごせてるんだからね ピュルテ: そう、ですよね……。うん、根っこを植え替えたんじゃないなら、リルちゃんだって症状は重くならないですよね フアナ: 確かに、その通りだ。つまり、悪いことばかりじゃない、ってことだね 219 - クレアのおもいで ティンカー・ベル: ふーっ、遊んだ、遊んだ!楽しかったね! ドロシー: あら?あそこにいるのは人間さんだわ。ちょっと、なに、一人なの? クレア: え、裏切り? ドロシー: さっきまでエミリーとヴェルと一緒だったのね。それでどうしたの。え、女子限定スイーツの看板が…… ティンカー・ベル: あははは、置いてかれちゃったんだ!しょうがないよね! クレア: エステは入れたんだし、がまんだね ティンカー・ベル: え、こっち?うん、すっごく楽しかったよ。人間さんも来ればよかったのに クレア: 明日もやりたい ティンカー・ベル: 他にも違うアクティビティがあるかもよ。色々試してみればいいじゃん クレア: あれがやりたい ドロシー: わかった、わかった。まだ時間はたっぷりあるんだから、あれもやるし、別のもやればいいわよ クレア: うん。あ、ねえ人間さん、フアナは見かけた? ティンカー・ベル: あ、すれ違ったの?ひとりでぶらぶらしてた?ふーん クレア: そっか…… ドロシー: さーて、この後どうする? ティンカー・ベル: さすがに疲れたから、ちょっと休憩かなー。でも日没までにおみやげの店もちょっと見たい ドロシー: おみやげって、妖精さん。私たちは観光で遊びに来たわけじゃないんだからこの後まっすぐ家に帰れないのよ ティンカー・ベル: わかってるってば!かさばるものとかは買わないから! クレア: 見てるだけでも楽しい ドロシー: まあね。じゃあ、私はちょっと散歩でもしてから戻るわ ティンカー・ベル: ほーい。迷子にならないようにね クレア: 人間さんもおみやげの店行く?あ、もう見てきたんだっけ ドロシー: ピュルテ?ああ、ピュルテは先にホテルに戻ったはずよ。ちょっと疲れたって言ってたけど ティンカー・ベル: あー、うん。そんな深刻なやつじゃないと思うから、それは安心していいと思うよ、人間さん クレア: じゃあ、また後で ???: あぁ……燃えるような夕日ね。わたしの体も、この夕日に真っ赤にされてしまいそうだわ。焼けて、爛れて…… ???: そう、腐り落ちていくの。死んでしまうのよ。でもそのなかに……。あら?あなたは…… ???: はじめまして。何をしてたのかって、わたしはただ、夕日を眺めてただけ。え……誰かと話してるみたいだった……? ???: あはははははははははは ???: 気のせいでしょう。だってわたし、一人よ。誰か他に見えるかしら ???: わたし、ウィラ ウィラ?: わたし、あなたに強い運命を感じてしまったの。本当よ。あなたも、わたしと同じように運命を感じているんじゃないかしら ウィラ?: これ……受け取って。待ってるから ウィラ?: それじゃ、わたしはこれで失礼するわ。お待ちしてますね。ふふっ、楽しい夢を エミリー: 人間さん♪ シンデレラ: 見てたわよー?ナンパなんてされちゃって エミリー: うん、エミリーとシンデレラで、ちょっとそこのお店で飲んでたの エミリー: にしても、キレイな子だったねぇ。そのわりに、人間さんデレデレじゃないねぇ。え?ちょっと怖かった? シンデレラ: とかいいながら、ずいぶん嬉しそうじゃない。私がナンパされたって言ったときは不機嫌だったのに シンデレラ: で、何かもらってたみたいだけど、なんだったの? エミリー: ……え、カギ? エミリー: って、これぇ!グランビブリオって書いてある!ホテルのカギだよぉ!ずいぶんストレートなお誘い…… エミリー: っていうか、これ人間さんが行かなかったらどうするつもりなんだろ。普通に部屋に入れないんじゃないの シンデレラ: それだけ来るって自信があるってことよね。で、どうするの?可愛かったし、どうせ行っちゃうんでしょ エミリー: ちょ、ちょっと、喧嘩腰なのやめよっ、ねっ クレア: すごく楽しい エミリー: そっか、クレアはだいぶお気に入りなんだね。そのアクティビティ ティンカー・ベル: もう、終わってからもずっとこの調子なんだから。絶対に明日もやるって言って聞かないの ヴェルメリオ: ……どんなやつなの クレア: えっと、速く走ってく船があって ドロシー: その船につながったロープを、自分の体に固定するのよ ティンカー・ベル: んで、板に乗って船に引っ張られて引きずられてく感じ ヴェルメリオ: ……え、ごめん。明日もわたしはパスする クレア: どうして ヴェルメリオ: ……それ、拷問にしか思えない ピュルテ: 違うんですよ、人間界にあるジェットスキーという遊びに近いもので、引っ張られている間は海面に立ってる感じになるんです ヴェルメリオ: ……ほんと?痛かったり苦しかったりしない? ティンカー・ベル: 当たり前でしょ!ティンカたち、今日ほとんどそれやってたんだから。苦しいのに続けてたら頭おかしいじゃん! ピュルテ: 大丈夫、安全ですし楽しいですよ シンデレラ: じゃあ決まりね。こんな大人数でも平気なのかしら フアナ: あ……あたしのことは、人数に入れなくていいから ドロシー: え、なによ。行かないの? フアナ: だから、あたしをカウントに入れなくていいんだって クレア: フアナ…… (背景切換...) シンデレラ: もう……人間さんなんてっ、知らないんだからぁっ! ティンカー・ベル: エミリー。どしたの?だいぶ悪酔いしてるけど エミリー: んー、今日、人間さんとちょっと色々あってね ティンカー・ベル: 夜ごはんのときも一切、目を合わせなかったもんね エミリー: あ、それ気付いた? ティンカー・ベル: それでエミリー、自分ひとりで抱えるのが嫌だからティンカ呼んだわけ? エミリー: ぎくっ シンデレラ: だぁってぇ~!人間さんってば、あんなどこの誰だかわからない女の子の誘いに、ほいほい乗って! シンデレラ: 私がナンパされたの聞いて、嫉妬してくれたのは嬉しかったのにぃ…… ティンカー・ベル: はいはい、ティンカとエミリーが聞いてあげるから 220 - 距離 シンデレラ: くう……すう…… ティンカー・ベル: あーあ、酔いつぶれて寝ちゃったよ。すみませーん、なにかブランケットみたいなのあります? エミリー: 優しいねぇ、ティンカ ティンカー・ベル: こんなとこで寝たら風邪ひいちゃうよ エミリー: ティンカのその服装で言われてもねぇ…… ティンカー・ベル: 結局、姐さんがナンパされてヤキモチ妬いた人間さんが、姐さん煽るために乗っかるフリしたってだけでしょ? エミリー: そういうこと。いちいち本気にしなくていいのに ティンカー・ベル: 姐さん、意外と駆け引きとか得意じゃないからなー。政治と恋愛は別、ってよく自分で言ってるもん エミリー: なのに煽っちゃうんだねぇ ティンカー・ベル: 姐さん、とか呼んでるけど、経験豊富ってわけじゃないからね エミリー: その姐さん、っていうの、なんかいいよねぇ。距離が近い感じ ティンカー・ベル: エミリーも呼べばいいじゃん。ぬるっと エミリー: え、い、いいのかなぁ ティンカー・ベル: 姐さんとエミリーって距離遠いの? エミリー: そんなことない……つもり ティンカー・ベル: じゃ、いいんじゃん?たぶん誰も違和感持たないと思うけど エミリー: そっか……えへへっ ティンカー・ベル: なにニヤニヤしてんの。気持ち悪いな エミリー: ひどいよぅ! (背景切換...) フアナ: ん……?人間さんくんか?そこで何してるんだ フアナ: ホテルの入り口でうろうろして……これから出かけるつもりなのかい?え、迷ってる?って、それホテルのカギ?どうしたの…………。 フアナ: なるほど、それで受け取ってしまったんだね。強引な相手だな。でも、フロントに返せば問題ないんじゃない? フアナ: そんな怪しい女のところに行くかどうかで迷ってる!?おいおい、それはいくらなんでも危なすぎるって フアナ: シンデレラに強く出た手前、その子に会いもしないのは負けた感じがする?あのねぇ……もうちょっと自分の立場を考えなって フアナ: まあいいや、心配だし一緒にグランビブリオのフロントまで行こう。嫌とは言わせないよ フアナ: 無事にフロントに返せてよかったな。しっかし、あのカギで部屋に入って、相手の女が戻ってくるまで待つつもりだったのかい? フアナ: 美人局かもしれないとか考えないの?ちょっとは用心してよね。人間さんくんは結構、重要な立場なんだから フアナ: まあ、だいぶ反省しているようだから、これ以上は言わないけどね。そんなにシンデレラと張り合いたかったの フアナ: それだけ……シンデレラのことが好き、ってことでもあるわけか フアナ: だから、そこで変に否定しようとしなくていいんだって。いいでしょ、好きってことで。他の子も、みんな好き。今はそれでいいんでしょ クレア: おお フアナ: あ……あれ、クレア クレア: デート? フアナ: ち、違う違う!色々あって、ちょっと人間さんくんの用事につきあってあげてただけ クレア: なんだ。仲良くなったんだと思ったのに フアナ: クレアはどうしたの?こんな夜に出歩いて クレア: これ。すっごく美味しい。はい、おすそわけ フアナ: コロッケ?んっ、はむっ、んぐ……うあっ!?これ、美味っ!? クレア: ジェットスキーのインストラクターさんから聞いた店 フアナ: これはいい買い物だね クレア: コロッケ食べたから、もう嘘はつけないんだよ フアナ: そんな意味があったの、このコロッケ。でも、嘘なんてついてないよ クレア: じゃあやっぱりデートじゃないんだ フアナ: なんでそっちに持ってくの!?ていうか、人間さんくんはさ、この旅の仲間の誰かとつきあってるわけじゃないの? クレア: 特に誰かに絞ったりはしてないよ。誰でもいいんだよ フアナ: そういう言い方はやめろって、必死だね、人間さんくん クレア: つきあっちゃうとおかしくなる?何が? フアナ: あー、確かに。変な空気になって、気まずくなりそう。じゃあ、この旅が終わるまでは人間さんくんは誰とも付き合わないってこと? クレア: じゃあ付き合うとしたら誰?え、この質問もダメなんだ フアナ: そりゃあ、明日から修羅場になるわけだからね…… クレア: ねえ、フアナは恋愛経験、豊富なの? フアナ: えっ!?あ、あたし?そ、そうだね…… フアナ: も、もちろん、数々の浮き名を流してきたよ。人はみな、あたしのことを恋愛マスターと呼ぶからね クレア: 無理してる…… フアナ: そ、そんなことっ、な、ないから クレア: 無理する必要ない。ありのままで、別に誰も笑わないし フアナ: クレア…… フアナ: うん……正直に言うと、わりと苦手なほう、かな。どうしても、なんのために、って考えちゃう クレア: 目的? フアナ: 関係を構築するとどんなメリットがあるのか、とかね。これはどうしようもないのかも クレア: 私にも、人間さんにも、そんな感じ? フアナ: 心のどこかで、だよ。それが表に思いっきり出てくることはないし クレア: だから、みんなとも距離をとるの? フアナ: それは、また別の問題。だって、あたしはみんなとは仲間になったわけじゃ クレア: 仲間だよ フアナ: ……え? クレア: 困ってるときに、フアナは助けてくれた。極北島もそう フアナ: あ、あれは……助けたっていうより、その、利害の一致というか クレア: 強い敵でも力を合わせた。それって、仲間じゃないの? フアナ: クレア…… クレア: 私もつい最近まで記憶喪失だったし、難しいことはよく分からない。でも、フアナのことは仲間だって、私は自信を持って言えるよ フアナ: そ、そう、かな…… クレア: みんなもね、敵とか味方とか、そういう感じでフアナのこと見てないと思う クレア: フアナひとりで遠ざかってる。だから、もうちょっと近くに来て。それだけ フアナ: うん…… 221 - 最後まで遊ぼう ティンカー・ベル: よーっし、じゃあ今日も張り切って遊んでこー! シンデレラ: あ、ちょ……大きな声、やめて……うぅ…… ティンカー・ベル: 勝手に悪酔いして頭が痛いんでしょ。知らないからね! シンデレラ: あ、あの、人間さん……私、昨日、その、ごめんなさい…… シンデレラ: 可愛くないことばっかり言って……あなたのこと、困らせちゃった。え……?私のこと、誰にも取られたくない……?や、やだもう シンデレラ: うん、大丈夫。わかってるから。私も……うん、好き…… ドロシー: ちょっとー!朝っぱらからイチャつかないでくれる!?なんなの、もう!シンデレラだけの人間さんじゃないのよ! ティンカー・ベル: あー、これは今夜の人間さんは姐さんとだなー エミリー: ティンカも明るいうちからそういうこと言わないの ピュルテ: あれっ、フアナさん……? フアナ: あ、あのっ、昨日は、な、仲間じゃないとか言ったけど……。仲間に入って、あ、あげても、いいけどっ……! ピュルテ: なんかずいぶん上から来ましたけど…… フアナ: あっ!?ち、違うんだ、えっと、つまり ヴェルメリオ: ……この人、本当に不器用なんだね。わたしが言うのもなんだけど クレア: ほんと、寂しいくせにね フアナ: なっ!?ちょ、ちょっと、クレア! ティンカー・ベル: うんうん、そんな感じだよね シンデレラ: ちゃんと、気持ちは素直に言わなきゃダメなんだからね エミリー: いまそれ、姐さんには言われたくないと思うけど シンデレラ: わかってるわよ!自分の経験を教訓にしてほしいってこと! ティンカー・ベル: お、エミリー エミリー: えへへ……ティンカの言うとおりだったね ピュルテ: なんだかよくわからない話になってますけど……それじゃ、フアナさんも一緒に、船に乗りましょう! ヴェルメリオ: ……で、このロープを体に付けて引っ張られるの?やっぱり拷問なんじゃ クレア: ちょっと疲れちゃった ピュルテ: クレアさん、こっちにビーチチェアがありますよ クレア: ピュルテと人間さんは、みんなが船で引きずられてるときに、砂浜でふたりでイチャついてたの? ピュルテ: ものすごく肯定しづらい言い方ですけど、でもその通りですね……! ピュルテ: あ、で、でもっ、そのっ、イチャついては……ないですよね、人間さん? フアナ: みんな、おつかれ。休憩するなら、これ クレア: 飲み物? ピュルテ: あっ、これ気になってたやつです!美味しそうなレモネードだと思ってたんですが…… クレア: どうしたの?ワイロ? フアナ: 昨日の夜、クレアと人間さんが背中を押してくれたから……あたしは、さっき輪の中に飛び込めた フアナ: だからこれは、そのことへのささやかなお礼 ピュルテ: え、なんか私までいただいてしまって……便乗したみたいで、すみません フアナ: ううん、いいんだよ フアナ: そ、それに、ちゃんと損得勘定も成り立ってるんだから。あんたたちと仲間になっといた方が何かと有利だ、ってね クレア: はいはい ドロシー: ちょっと、こんなところで休憩してたの? ティンカー・ベル: クレアってば、あんなにもう一回やるって言ってたのに クレア: やるよ。今から、倒れるまで ドロシー: そんなに自分を追い込まなくていいわよ…… ピュルテ: いよいよ明日には出発ですね シンデレラ: そうね。あっという間だったわね、この数日間 ティンカー・ベル: 楽しかった!やっぱりたまには、こうやって何もかも忘れてのんびりする時間がないとね! クレア: ただ遊んでただけじゃないし。ちゃんと、関係ができた。ね、フアナ フアナ: そ、そう……だね。そうともいう、かな ヴェルメリオ: ……今日の夜は、ヌルズブ最後だから、ちょっと高級なお店を予約したんだって シンデレラ: ふふっ、最後まで楽しまないとね! ヴェルメリオ: ……この道をまっすぐだって ドロシー: はいはい、大丈夫よ。地図は私が見てるから クレア: 高級レストランって、キャビアは出る ピュルテ: 聞いてる感じだと、出そうな気がしますね! クレア: やった!ダッシュする ティンカー・ベル: あ、ちょっとクレア、待ちなってば! (背景切換...) ウィラ?: あっ……! クレア: うあっ ティンカー・ベル: ちょっとクレア、何やってんの クレア: ごめんなさい。前、ちゃんと見てなかった お兄さん: おい、気をつけろ。お怪我はありませんか ウィラ?: わたしも前を見ていなかったの。こちらこそ、ごめんなさいね ティンカー・ベル: ごめんね。ちょっとはしゃいじゃって ウィラ?: お気になさらないで。そうやって楽しく夢中になれる夢があるなら、ふふっ、ふふふふっ、あははははっ…… ティンカー・ベル: えええ、な、なんだろう。行っちゃったけど……いい人っぽいのに、ちょっとヤバい雰囲気だった…… クレア: ごめん、気をつける エミリー: あれぇ?どうしたの、ふたりとも クレア: 私がちょっとはしゃぎすぎて反省してたところ (背景切換...) 特務部隊: 明日には出発です。そろそろ任務に集中していただかないと ウィラ?: もちろん。だってこんなに楽しい演奏会なんだから。一瞬たりとも見逃せないわ。ふふっ、だって、見た?今の顔 特務部隊: え?いえ……顔、ですか?誰の? ウィラ?: ぶつかったでしょう。あれ、例の一行のメンバーよ。あなた、相手の顔も把握してないの?任務に集中なさい 特務部隊: えっ!?さ、さっきの小娘たちですか。これは失礼致しました、申し訳ございません、シェイクスピア様 シェイクスピア: あの楽しそうな顔……希望に満ちて……ふふ、あははっ、明日以降、あの顔がどんなふうに苦痛に歪むか、考えてみて? シェイクスピア: あぁっ、んんっ、もう我慢できないわ……!早く、見たいっ……。もっと、もっとたくさんの日常を感じたい、あぁっ、それは絶望への食前酒…… 特務部隊: シェイクスピア様、ここは街の真ん中です!そ、そんなところを触って、人の目がありますから。どうかホテルまでお待ちを…… 特務部隊: そう言えば先日のホテルのキー、あれはどうされたんですか シェイクスピア: 運命の人に出会ってしまったの。彼こそ運命の相手。恋の運命とは違うのよ。そう、彼には悲劇の運命を感じるの……! 222 - ある朝 (その日も太陽は当たり前のように昇った。) 住民: あらま、警部さん。おはようさん ジャヴェール警部: おはよう。今日もよく晴れそうだね (ごく当たり前に存在する日常。) シャルル: おはようございます、警部さん。今日も朝早くからお仕事なんですね ジャヴェール警部: シャルルも元気そうだな。まさか出向先で顔を合わせるとは思わなかったが シャルル: わたくしは巡礼で来てるだけですけど、警部さんは長くなる予定なんでしょう? ジャヴェール警部: この国を守る大聖堂警護隊に出向だからね。しばらくは帰れそうにない。まあ、うまくやるさ (何気ない朝、何気ない日々。) (穏やかに過ぎていく『時間』――) 警護兵: おはようございます、警部。コーヒーでも淹れますか ジャヴェール警部: いや、結構だ。最近、私はノンカフェインにハマってるんだ 警護兵: 意識高いっすねー。さっすがオシャレな町の警察署から出向してきたって感じっすね ジャヴェール警部: うるさい、上司をからかうもんじゃないぞ (そこにあることに何の疑問も持たず、) (毎日のように顔を見ることが当然だと考え、) (いくばくかの安堵、それと同時に感じる物足りなさ――) (日常の定義とは、そのようなものだろうか。) 警護兵: 今朝までの緊急通報リストです。酔っ払いのケンカがあり南区7エリアの馬車保護フェンス等が破損 ジャヴェール警部: まったく、罰当たりだな。天下の神聖レグルス教国で泥酔し器物破損とは (いや、もうひとつだけ、追加すべき定義があるかもしれない。) 警護兵: あれ、東区の乗合馬車が運行停止してるな。あのあたり、ゴミのポイ捨てが多いから、馬が何か踏んで驚いたか ジャヴェール警部: やれやれ……本官の、今日の最初の仕事はゴミ拾いか? (日常、それは。) (失って初めて価値に気付くもの。) 通信兵: 管制<コントロール>より東区。3エリア乗合馬車停留所付近、男が暴れていると通報。近くのGM派遣願いたい ジャヴェール警部: ……やれやれ、酔っぱらいがもう一人いたようだな (毎日見ていた『きみ』の笑顔。) (その意味に、この日――気付くことになるなんて。) ピュルテ: ほら、見えてきましたよ!あれが神聖レグルス教国です! クレア: へぇー。落ち着いた、きれいな感じの町だね フアナ: 海沿いの小さな平野部を切り開いて作った、比較的新しい町だよ。ほぼ円形に整地された街は東西南北の4エリアと、中央区の5つに分割されてる エミリー: 中央には天空神殿の直轄になる、レグルス大聖堂があるんだよ。たぶんピュルテが前にいたのも、そのあたりだよね ピュルテ: ええ。大聖堂から少し離れたところに宿舎があるんです。巡礼する聖職者の人のための施設なんですけど、私は特別に泊めてもらいました クレア: 名産は? フアナ: 残念だが、これといった名産はないんだ。歴史もあまりないし、気候風土も特徴がないからね クレア: そんな……! エミリー: でも巡礼者がたくさん来るってこともあって、いろんな文化が入り混じってる街だって聞いたことあるよ クレア: 聞いたことある……って、エミリーは行ったことないの エミリー: エミリーはないねぇ。フアナは? フアナ: あたしも実は、ちゃんと入るのは初めてなんだよね。どんな街か、ちょっと楽しみだね クレア: どうかな。美味しいごはんもなくて教会だけだったら辛い ピュルテ: あ、ごはんは美味しいですよ!エミリーさんが言ったとおりいろんな文化が入り混じって、あちこちの国のごはんが食べられて楽しいです クレア: 私、ここに骨を埋めるかもしれない エミリー: クレア……いつからそんなに食いしん坊になったんだろうね…… フアナ: ということは、世界のお酒も揃ってるってこと? ピュルテ: そうですね。色々ありますよ! クレア: シンデレラが大喜びだね。あれ? エミリー: ティンカたちは、あっちの船だよ。大きい船が無かったから分かれて乗ったでしょ クレア: あ、そっか。でも……あれ、なんであっちの船は、あそこで停まってるの? フアナ: あれは……まさか、検問か ピュルテ: そんな、助け出さないと エミリー: ダメだよ、ピュルテ、人間さん。全員捕まったらどうしようもなくなっちゃう。ここは様子を見よう ピュルテ: あ……よかった、なんとかうまく積荷に隠れて、検問はやり過ごせたようです エミリー: なら良かったけど……ほんと、どきどきしちゃうねぇ クレア: なんでこっちには来なかったんだろ フアナ: 抜き打ち検査だよ。全部の船に検問かけてたんじゃ、色々と時間がかかりすぎて滞るからね クレア: じゃあ、みんなは運が悪かったってこと? フアナ: 端的に言えばね ピュルテ: 無事だとわかってホッとしましたね。でも、しばらく様子を見てから合流したほうがいいかも、という連絡が フアナ: 確かにそれが安全かもね。それじゃあ、先に目的地に行って待ってようか エミリー: 目的地?そう言えば、この街でなんかアテがあるんだっけ ピュルテ: ええ。私が以前お世話になった教会です (背景切換...) ピュルテ: 懐かしいなぁ。この街から、全部が始まったんですよね。人間界に行って、救ってくれる人を探しに行って…… エミリー: すべての始まり……ってことだね フアナ: そうか、この旅は人間さんくんがオトギノクニにやってきたときから始まったような気がしていたけど、実際には『それ以前』もあったんだね クレア: 周りの建物、みんな立派。ここが天空神殿の街なんだね エミリー: レグルス教会はいくつか分派して戒律が微妙に違ったりはするけど、みんな元をたどればここにつながるからね フアナ: オトギノクニ共通の聖地、ってカンジなのかな ピュルテ: 意外と文明というか、技術も発達してるんですよ。特に今は、もうすぐ大事な儀式がある時期なので、通る人も多いですし クレア: うん、確かに人がいっぱいだね エミリー: ほらクレア、迷子にならないように手つなご クレア: うん、エミリーの手、冷たいね エミリー: しょうがないでしょ、冷え性なの フアナ: そこらじゅうに馬車が走っていたり、まだ朝だからわかりにくいけど、街灯もたくさんありそうだね ピュルテ: こういうの、全部エルマイトを動力源にしてるんですよ。 ピュルテ: いつか人間さんと……ここに来たいなって思ってたので、予想外の形でしたけど、希望が叶って嬉しいです ピュルテ: あ、人間さん……。私も迷子になるといけないから?ふふっ、そうですね。しっかり……握っていてくださいね 223 - 異変の始まり 通信: 東区1より管制、エリア7現着。暴れている男を現認、これより確保に向かう 通信: なお被疑者の瞳に赤い光、赤い光を確認。うめき声のような言動あり ジャヴェール警部: おかしい……朝からこれで暴行事件は何件目だ。本官の地元でもこうはならない……。なんだ、何が起きている……? ジャヴェール警部: だが少なくとも、これに似た状況を私は知っている。かつてファンティーヌがそうだったように…… 警護兵: 警部。これら、関係ありと見たほうが良いでしょうか ジャヴェール警部: ……そうだな。貸してくれ ジャヴェール警部: 管制より各局。現在、東管内において一連の事案が発生している ジャヴェール警部: 詳細は不明なるも、赤い瞳と酩酊したような言動、暴力性等が認められる。これはディマイトに関連の疑いありと思料される ジャヴェール警部: よって現時点を以って一連の事案をディマイト事案と認定しD警戒体勢とする。該事案について最優先で解明にあたれ。他の事案は本官預かりにて規制、各局了解願いたい。以上、管制 警護兵: ディマイト……ですか?いやしかし、既に7件は発生してます。これが全部ディマイトって、そんなことありますか? ジャヴェール警部: 被疑者の言動には覚えがある。これはディマイトだ。しかし7人もの、それも離れた場所にいる者が何故、同時に…… 通信: こちら東4。負傷者の救護中、負傷した市民より不審な女が ジャヴェール警部: 管制より東4。その女の動向は判明しているのか、どうぞ 通信: 東4より管制。女は環状水瓶線外回りを北上する馬車に乗車、そのまま立ち去ったとの言あり ジャヴェール警部: 管制より東4。つまり、馬車に乗ったまま、何かの道具を噴霧し降車することなく立ち去った。間違いないか、どうぞ 通信: そのとおり。どうぞ ジャヴェール警部: くっ……乗合馬車は運行停止しているんだったか? 警護兵: は、はい。現在、環状各線は該事案により東側エリアの運行は全線停止中 ジャヴェール警部: 緊急配備だ!これは自然発生でも魔物でもない、極めて人為的に、この町を狙って引き起こされたディマイト事案だ!被疑者は……町を一周するつもりだぞ! シェイクスピア: ああ、不幸にも本能に支配されてしまった血なまぐさい彼らのために、祈りましょう…… シェイクスピア: その罪を、愛すべき罪を思えば、私の胸は締め付けられます。でも、それが彼らの本心、さらけ出すのもまた幸せ…… 住民: あのう、わしゃあ急いでるんですがのう。何故、道の真ん中で祈ってるんで? シェイクスピア: うふふ、シスターの気持ちになったのよ。それに、ほら血の匂い。もうすぐ時計の針が動き出すわ 住民: はあ……?あなた、どう見てもシスターじゃないでしょう?それに、なんですかトケイって シェイクスピア: 血の匂い。ふふ、血はね、とっても気持ちをざわざわさせる 住民: あっ!なんでわしのクレープを勝手に食べるんですかな!? シェイクスピア: んぐ、んぐ、ごくん……。ふふ、血の味がするわ 住民: しませんよ! 特務機関兵: ああ、シェイクスピア様。また勝手に移動されて……困ります シェイクスピア: どうせ馬車は動かないんだもの。あなたも、そしてあなたも。急いだって仕方ないわ 住民: そうです、こちとら乗合馬車が動いてなくてイライラしとるのに。お連れさん、どうかされてるんですかな 特務機関兵: や、その、申し訳ない シェイクスピア: あの子が予定通り行動していれば、東側の乗合馬車は全線が停止しているはずよ 住民: あんた、何線が止まってるか知っとるのかね。わしゃ東区の4エリアに行きたいんじゃが 特務機関兵: シェイクスピア様。何故、時間差なのです。一気に勝負した方が捜査当局も混乱するのでは シェイクスピア: 同時に起こせば、交通手段はないものと思って屋内から出てこないかもしれないじゃない。できるだけ行き来する人が多い状態じゃないと シェイクスピア: それに……東側が停まって、何が起きているかの情報がハッキリするまでは、必然的に西側に人が集まるのよ。このクレープをくれたおじさんみたいにね♪ 住民: わしはクレープをあげた覚えはありませんぞ! シェイクスピア: ありがとう、おじさん。しゅっ♪ 住民: ぷあっ、何を!?を……おお……?クレ、クレェ……プ……? 住民: アア、アアアア、アヴァアアアア! シェイクスピア: さあ、馬車が来たわ。装置の準備をしてちょうだい 特務機関兵: はっ……! ピュルテ: シャルルさん! シャルル: あら、偶然ですね。人間さんたちも、このレグルス教国にいらしてたんですか フアナ: えーと、こちらのシスターとは知り合いか?以前、滞在したときに世話になったとかいう…… ピュルテ: あ、いえ!こちらはシャルルさん、私や人間さんがたまたま居合わせたディマイト事件を解決したときに知り合ったんです シャルル: あのときはお世話になりました。そうそう、ジャヴェール警部もこの町にいるんですよ ピュルテ: えっ、そうなんですか!?うわあ、お会いしたいです シャルル: よかったら顔を出してあげてください フアナ: なるほど。少しでも知り合いがいるのは心強いな エミリー: しかも治安を守る警護隊の人だもんね。味方につけたいもん クレア: それより、情報収集だよ エミリー: まーた、美味しいごはんのお店とか探そうとして~ クレア: 違うよ。エミリーじゃないんだから エミリー: 待って、待って。エミリー、わりと少食だからね? クレア: そして偏食 エミリー: いまエミリーの食生活なんて関係ないよね!?んもう、クレアがエミリーのこと、いじめるよぅ クレア: ふふっ、勝った ピュルテ: ま、まあ実際、本当に情報収集はしなきゃいけないとこでして シャルル: 情報?どんなお話ですか? ピュルテ: 今日なんですが、港に大きな物資が持ち込まれたはずなんです。中身はわからないんですが…… フアナ: そう聞いて、何か思い当たることはないかな。例えば、どこかで大きな建築工事をしているとか シャルル: 建築工事、ですか。特に今は、どこの聖堂も改修工事などはしていなかったと思いますが フアナ: そうか……いや、ありがとう クレア: 改修工事ってどんなことするの? シャルル: 大きく2つあって、汚れを落とす作業と、欠けたところを継ぎ足す作業があるんですよ シャルル: 特に欠けたところを継ぎ足すのは、実際、いまはないものを作るわけなので、なかなか技量が求められます クレア: へぇ……削るか、足すか、なんだね 224 - 聖なる?ジュリエット シャルル: 言われてみれば、常に相反する2つのもの、と見ることもできますね クレア: どういうこと? シャルル: 汚れを落とすというのは、汚れに洗剤を吹き付けて浮かせる、つまり真逆の力によって排除するわけです シャルル: 一方の補修というのは、できるだけ周辺と同じように違和感のないよう、同じような力を使ってもとに戻す…… クレア: シスターの話は、深い エミリー: 美しい聖堂っていう同じような結果でも、いろんな要因次第で真逆のアプローチがあるんだねぇ クレア: エミリーの話は、軽い エミリー: さっきからひどくない!?エミリーのこと、嫌いなのぅ? クレア: ううん、大好き。そんなところも含めて ピュルテ: ええ、人間さんと同意見です。これが男の人に向けられ始めたらとんでもない小悪魔の誕生ですね シャルル: あ、そう言えば……朝、港を通りかかったら大きな輸送船が到着してましたね。あれが皆さんのお目当ての船でしょうか フアナ: おそらくそうだね。その船で何か気づいたことはないかな。たとえば荷物を下ろしてどこに運んだかとか…… シャルル: あぁ……大きな荷車が用意されていたのは見ました。でも、まだ下ろす前だったみたいで、そのまま私は帰ってきてしまって フアナ: いや、ありがとう。それだけでも充分だよ ピュルテ: つまり……港で別の船に載せ替えたのではなく、やはりこのレグルス教国が目的地と見て良さそうってことですね エミリー: 飛空艇じゃなくて陸路……そう遠くじゃない。この町のどこかにあるはずだね。でも、そんなの目立って隠せないよねぇ クレア: あれ……お祈りしてるのって…… フアナ: そりゃあ教会なんだ、みんな祈りにくる場所だよ クレア: じゃなくて、ほら、あの人 ジュリエット: ああ……神よ。あなたはどうして神様なの ピュルテ: ジュリエットさん!? ジュリエット: あら、皆さんごきげんよう。私、先週からシスターになったのよ フアナ: つまり、彼女もこれまでの旅で知り合ったわけか ピュルテ: ええ。ただちょっと、その……変わった人でして ジュリエット: 今日もたっぷり祈ったわ。シスターはね、祈るのが仕事。だからずっといろんなことを祈ってるの エミリー: でもシスターの服じゃないよぉ? ジュリエット: なんて悲しい人なの!ああ、神よ。この哀れな小娘、じゃない、哀れな子羊をお許しください! エミリー: いま聞こえたからね。小娘って言ったよね ジュリエット: この私のこれ、これは聖なる衣なのです。わかりますか。ああ、哀れなあなたのためにも祈りますね エミリー: あー、ごめん。そうだね、なに着てたってシスター、心のもちようではあるもんね。これはエミリーがいけなかった ジュリエット: 一緒に祈りましょう。あなたのお昼ごはんが大盛り無料になりますように…… エミリー: そんな祈りはいらないんだけど! クレア: じゃあジュリエットは、シスターだから、お祈りしに来たの? ジュリエット: ふふっ、それは正解なようでいて間違いね クレア: 違うんだ ジュリエット: シスターだから祈りに来たんじゃないわ。ここに来る用事があったからシスターになって、だから祈ってたのよ ピュルテ: え?後半ちょっとよくわかりませんでしたけど、要するに何か用事があったんですね ジュリエット: そう、ハムレットと待ち合わせなの。でもシスターになった私はこの町に来たら、ハムレットよりもまず祈らなきゃいけないから フアナ: えっ、待ち合わせの約束してるのに、祈ってて遅刻ってこと?それ、あたしらについてきてる場合じゃないんじゃ エミリー: そもそも、なんでついてきてるのかも疑問だけど ジュリエット: そうよね。いまから行ってみるわ フアナ: もう昼近い。早く行ってやらないとお腹をすかせてるよ ジュリエット: そうよね!待ち合わせは昨日だけど、餓死してないかしら クレア: 悲劇だ ピュルテ: とにかく、早く行ったほうがいいんじゃないですか? ジュリエット: そうね! クレア: 返事だけで行く気配がないんだけど ジュリエット: 思い出せないのよね。どうして待ち合わせなんかしたのかしら フアナ: そ、そう……でもとりあえず、行ってあげたら……? ジュリエット: 神の声を聞いたほうがいいんじゃない? エミリー: いらない、いらない。ていうか聞こえないと思うよ ジュリエット: どれくらい強く信じているかで結果は変わると思うの ピュルテ: その点に関してはジュリエットさんはナンバーワンだとは思いますが…… 住民1: ウ、ウウ……ウウッ!? クレア: 大丈夫?なんか、このおじさん、突然転んじゃったよ フアナ: どうしたんだ。ケガはしてないか? フアナ: ……っ!?クレア、離れるんだ! クレア: えっ? 住民2: ウ、ウウウ……ウヴァアアァァッ! ピュルテ: なっ、こ、これはディマイト!ディマイト状態ですよ! ジュリエット: なんてこと……私の祈りが足りなかったばっかりに フアナ: くっ、ジュリエットも!いまは祈りのことはいいから! 住民3: ウアア……アアアアア……! 住民2: クレェプゥウウウゥゥ……!! フアナ: まさか、囲まれている!? エミリー: 事情もわからないのに攻撃するわけにもいかないし、みんな、ここは逃げるよ! クレア: でも、逃げるってどこに ピュルテ: 中央区……ジャヴェール警部のいる、警護隊詰め所に行きましょう。そこならきっと、まだ安全なはずです! ピュルテ: それにしても……ええ、人間さん……そうですよね。これって最初の、あのリルちゃんがお菓子を配っていた時みたいな…… ピュルテ: ……人数が増えたとはいえ、どうして急にこんな質の落ちたディマイトを使ってきてるんでしょうか…… エミリー: 正面にもいるよ!一気に駆け抜けるから、はぐれないようにして! 225 - 溢れるディマイト フアナ: ひどい……。これ、どれだけの人がディマイトに汚染されて……ううん、もしかして倒れてる人も エミリー: たぶん、そうだね。何かされた後、ディマイト汚染が始まる人と気を失って倒れる人に分かれるっぽい ピュルテ: 最近の、文字を書かれるパターンとは違って、なんというか クレア: 粗製乱造 ピュルテ: ええ、まさにそんな言葉がぴったりです。とにかくディマイトに汚染さえすればいい、という感じです ジュリエット: 私の祈りが足りなかったのに、このまま逃げてもいいのかしら。私、これでも聖職者なのよ。犠牲にならなくていいの? エミリー: エミリーの個人の意見だけどね、犠牲とかにならないで解決するのが一番すごい人だと思うよぅ! ジュリエット: その解釈、とてもいいわね! エミリー: 賛同してくれるなら、しっかりエミリーの手を離さないでついてきて! ピュルテ: こんなに多くの人が……ひとり、またひとり、倒れたり、ディマイトに汚染されたり…… ピュルテ: 私は結局、また何もできずに見ているしかできない…… クレア: ねえねえ、とにかく汚染すればいいってことはさ、私たちのことこの人たちに襲わせるつもりはないってこと? フアナ: そうなるだろうね クレア: じゃあ何がしたいの? フアナ: 何が……そうだよね。コミッティの誰かがグリムの意向にしたがって行動してるはずなんだよね ピュルテ: 何か持ち込まれたのとも当然、関係があるはずですね。私たちがここに来ていることには感づかれてるんでしょうか エミリー: 情報を整理しなくちゃ……たぶんいま、エミリーたちはかなり後手に回ってる気がするよ ジュリエット: ああ、見てください。私の祈りが通じました。あそこが聖堂警護隊の詰め所です! 通信: 至急、至急。西3より管制。さきの教会内、汚染者の男3名、これにあってはGMにて対応するも、危険と判断、応援を要請 ジャヴェール警部: 管制より西3。応援、了解。なお、近くに民間人は何名いるか、どうぞ 通信: 現場の民間人はいずれも負傷、気を失った者が22名。意識あるものはゼロ ジャヴェール警部: 西3に応援を。とは言っても、もうどこも余力はないだろうが 警護兵: なんとか、戦線が広がらないように努めます フアナ: あたしたちが想像してた以上に、これは……ヤバいことになってんじゃないの クレア: 雰囲気が、すごくものものしい ジャヴェール警部: 待たせてすまない。ご覧のとおり、もはや町全体でディマイト汚染が発生してしまっている エミリー: ってことは、東側もやばいってことぉ!? ジャヴェール警部: そもそもは東側から始まったんだ。だが、徐々に西側からもディマイト汚染の報告が上がるようになっている クレア: 私たちは西側から来たよね ジュリエット: 私は天界から来たの ピュルテ: しーっ、ジュリエットさん。いまは大事なお話なので ジャヴェール警部: 怪しい女が、スプレー状の道具で撒いていたという証言がいくつかとれている。ただ、女の正体も足取りもつかめてない ピュルテ: そのスプレーで、ディマイトを吹き付けたってことですか フアナ: ……スプレー、ね。もしかして、これ…… 通信: 至急、至急。南1より管制。現場に薬品のようなものを散布する装置を確認。調査班の出動を要請願いたい。どうぞ ジャヴェール警部: 管制より南1。調査班出動要請、了解。なお、薬品等についてはディマイト汚染の原因である可能性が高く、近づかないよう注意されたし。以上、管制 ジャヴェール警部: ……装置?持ち歩いてるんじゃないのか? フアナ: 持ち歩いていたけど、途中で置いてきた……ってこと? ピュルテ: どうしてそんな……?警護隊が動き始めたので、持っているとそれを理由に逮捕されるから、でしょうか エミリー: 一理あるね。でも、これだけ短期間で町じゅうにディマイトを広げられたのは…… クレア: みんなでばらまいたから? エミリー: だと思ってた。けどこれ、持ち歩きじゃなくて据え置きだから、じゃないかなぁ フアナ: だとすると、その装置を探し出して止めるしかないよ ジャヴェール警部: そういうことか……! ジャヴェール警部: 管制より各局。情報によれば南1において不審物件を発見したとの情報あり。よってディマイト発生濃度の高いエリアのGMにあっては周辺の捜索を徹底、発見等に努めよ。以上、管制 ピュルテ: 警部!一般の人が触れたら、それこそ危険です!ディマイト汚染する前に、報告だけするように徹底してもらってください! ジャヴェール警部: む……そのとおりだな フアナ: けど、あたしたちだってただじゃすまないかもしれないよ。どんな装置で、どれくらいのディマイト濃度かもわからないんだ クレア: 人間さんがいれば大丈夫じゃない? エミリー: 人間さんはひとりしかいないから。同時にあちこちで発生してるなら、町を一周することになっちゃう フアナ: これだけの範囲だ。持ち歩き部隊がいるにしても、発生装置は1つじゃないだろう ピュルテ: 今のうちに、人間さんの手を握っていてください。エルマイトを譲ってもらうんです フアナ: それで私たちを強化して現場に行くわけだね。わかった ジュリエット: 私は祈っていればいいですか? クレア: 手を握って祈って。ね、いっしょに ピュルテ: そうです。みんなで人間さんからエルマイトを分けてもらってディマイトと戦うんです。必ず、勝てますから 通信: 東6より管制。既報の不審物件と思料される、装置らしきものを発見。薄紫色の円筒状の装置より、黒っぽい煙が放出 通信: 西8より管制。こちらも不審物件らしき装置を発見。ただし汚染者の数が多く、近くで確認が……うわっ? ジャヴェール警部: 管制より西8。どうした、音声が途切れている。応答されたし ティンカー・ベル: ふいーっ、焦ったー。大丈夫だって、怖がらなくて。ティンカたちは悪いやつじゃないから。で、これどう使うの? エミリー: ティンカ!! 226 - 西8に現れた一団 ティンカー・ベル: ここ押すのかな?んー、ねえ、どうやるの、これ 警護兵: なんで使い方も知らないのに、強引にとっちゃうんですか! ドロシー: 私、こういう、ちまちました機械みたいなの、苦手なのよね。ほら、魔法使いだから ヴェルメリオ: ……わたしは魔法使いじゃないけど、苦手 ドロシー: やっぱりこういうのはシンデレラじゃない? シンデレラ: もう、みんなアナログなんだから!えー、西8から管制。応答してくださーい、どうぞー ピュルテ: シンデレラさん!? シンデレラ: あら、その声はピュルテちゃん。さすが、この事態を知ってもうそんなところにいるのね シンデレラ: なんとか入管ちょろまかして入ったはいいけど、町がこんな状態なんだもの。びっくりしたわよ ピュルテ: どうやらディマイト発生装置みたいなものが、町のあちこちに仕掛けられてるみたいなんです ジャヴェール警部: 治安当局者として、聞き捨てならない台詞が耳に入ったが…… シンデレラ: えっ!?や、やばっ、私ってば余計なこと言った!? ドロシー: 聞こえますかー!超正当!まとも!正面玄関からちゃんと入国したわよ!ほんとよ!どうぞ! ヴェルメリオ: ……ドロシー。勢いだけで相手を説得できるわけじゃないよ ドロシー: 必死さをアピールしてるのよ! ティンカー・ベル: それは向こうからしたら、却って怪しいってことになるんじゃ? ジャヴェール警部: あー……詳しい話は後で聞く。今はとにかく、非常事態だ。ちょろまかした、のところは聞かなかったことにしよう シンデレラ: さっすがわかってる!って、聞いたことある声ね ピュルテ: あのジャヴェール警部ですよ。ちゃんと話せばわかってくれます シンデレラ: あ、な、なんだ、ジャヴェールだったの…… フアナ: とにかく、今は発生装置の場所を特定しようとしている。ただ、見つかったところで装置周辺は濃度が高いはず ドロシー: たどりつくのには苦労しそうね ヴェルメリオ: ……相手は一般市民の人たちだから、あまり無茶もできないし ドロシー: えっ、あ、そ、そうよね ティンカー・ベル: あっぶなー。ずきんが言わなかったら全力で殴ったでしょ ドロシー: そんなことないわよ! ジャヴェール警部: 現在のところ、判明しているのは6箇所。うち1箇所、西8の装置は既にドロシーたちが無効化している ピュルテ: 残り5箇所ですね クレア: まだあるかもしれないけどね エミリー: 可能性はあるけど、地図で見るとほぼ等間隔に見えるし、たぶんここまでなんじゃないかな フアナ: この西区の南部1箇所と、南区の装置はシンデレラたちに頼もう ピュルテ: シンデレラさんたちに2手に分かれてもらうんですね エミリー: 残り3箇所か……。ジャヴェール警部は、ここに残ってもらった方がいいよね フアナ: そうだな。指揮系統として機能してもらうのが最善だろう ジュリエット: 私、私も行くわ!行ってたくさん祈らないといけないの エミリー: おかしな子だけど……正義感はある、ってことなのかな クレア: ジュリエットだって、がんばるんだよね ジュリエット: 私が祈れば装置だってきっとどうにかなるわ ピュルテ: 人数も限られますし、ジュリエットさんにも協力してもらいましょう フアナ: それでも5人か。人間さんくんを、頭数に入れるのはちょっと違うよね ピュルテ: でも、それだと誰かがひとりになってしまいます クレア: もうひとり、誰かがいれば ジュリエット: 祈ったら私が増えるかもしれませんね。ふんっ! シャルル: ジャ……ベール……警部……さん…… ジャヴェール警部: シャルル!?よかった、無事か ピュルテ: そうでした、シャルルさんがいてくれましたね!ナイスタイミングですよ!手を貸していただき……大丈夫ですか? エミリー: もしかしてケガでもしちゃったのぅ? シャルル: わ、わたくし、わたくしは…… シャルル: アアア……!アア、アアウアアァァ……!! シャルル: ミンナ、ミンナ……でぃまいとニソメテヤルゥッ! ピュルテ: いけませんっ!シャルルさん、汚染しています! シャルル: わ、わたくし……ごめんなさい!気が付いたら意識がディマイトに乗っ取られていて ピュルテ: 仕方ありませんよ。これだけ高濃度のディマイトが街中に拡がってるんですから エミリー: 本人の意志とかでどうにかなるレベルを超えてるからね クレア: 怖くなってきた。人間さん、もうちょっと手を握って。エルマイト、持っていかなきゃ シャルル: 調査に人数が必要なんですよね。それは支配されかけながらも聞こえてました。わたくしにも協力させてください エミリー: 大丈夫なのぉ!?さっきまでディマイト汚染してたんだよ シャルル: それでも、こういったときこそ、誰かの力になるのがわたくしの仕事ではありませんか ジュリエット: そのとおりです!私も同じ聖職者として、同じ思いです! フアナ: だから、同じではないと思う……って、もういいか ジャヴェール警部: では、これが地図だ。どうか、頼む。この町を救ってくれ ピュルテ: もちろんです。さあ、みなさん。行きましょう! (背景切換...) ティンカー・ベル: ふぅー、なんとか片付いてきたね。装置がある場所って、まだ遠いんだっけ ドロシー: そうみたいね。ヴェルとシンデレラも、まだ向こうの目的地に到着しないみたい ドロシー: 小さな国だと思ってたけど、こういう事態になって徒歩移動だとやっぱり広いって思わせられるわね ティンカー・ベル: あれ……?あそこに座ってるのって、もしかして…… ドロシー: ハムレットじゃない!どうしたのよ、こんなところで。何か悲劇でもあったの? ハムレット: ………… ドロシー: ハムレット?なによ、おとなしくて気持ち悪いわね ティンカー・ベル: 待って、三つ編み。ハムレットなんだけど、でも……雰囲気がなんか違うよ。いつものハムレットじゃない……! 227 - 狂気の悲劇 ドロシー: なによ、これ……そこらじゅう、ディマイトに感染した人たちばかりだわ ティンカー・ベル: ディマイト教国の間違いなんじゃないの!? 入国するのにもなんかチェックみたいなの入ったしさー ドロシー: そうね。あれをやり過ごすために時間がかかって、あっちの船のみんなとも離れ離れになって…… ティンカー・ベル: あれ……? あそこに座ってるのって、もしかして…… ドロシー: ハムレットじゃない! どうしたのよ、こんなところで。何か悲劇でもあったの? ティンカー・ベル: 待って、三つ編み。ハムレットなんだけど、でも……雰囲気がなんか違うよ。いつものハムレットじゃない……! ハムレット: ふ、ふふ……聞こえる。ほら、耳をすませば人の悲鳴、鳴き声、そう、聞こえるんだよ、悲劇が! ティンカー・ベル: ハムレット!? なんでここにいるのか知らないけど、完全にディマイト落ちしちゃってるじゃん! ドロシー: でも一般市民は初期の、理性を失うだけのディマイトなのに比べて、ハムレットは意識がしっかりしてるわ ティンカー・ベル: 確かに。街の人らは、前にネコが飴玉配ってたときのディマイト落ち状態に近いけど、ハムレットは言葉も話せてる ハムレット: ふふ……悲劇はどんどん拡がっちゃうんだよね、これが!あはは、あははは、悲劇研究部の晴れ舞台だよ! ドロシー: な、なにその装置! まさか、それ! ハムレット: そのとーり! これが悲劇の源、ディマイト散布装置だよ。中に入った液体を、装置が霧状にして噴き出してくれる…… ティンカー・ベル: こんだけディマイトに汚染された人を作っておいて、まだ増やすつもりなわけ!? ハムレット: 悲劇はいくつあっても足りないからね! さあ、発射っ! ドロシー: 装置を射ち出した!? あっちに飛んでいったわよ! ハムレット: あはは、目の前にいるのにあたしを見逃さなきゃいけない悲劇!それとも、見捨てられて汚染者続出の悲劇を選ぶ? ティンカー・ベル: くっ……そんなこと言われて選べるわけないじゃん!三つ編み、飛んでいった方に行くよ! ドロシー: 合点承知! ジャヴェール警部: では、シャルルも含めて6名を2名ずつの3班に分けて、現在確認されているディマイト散布装置を無効化する作戦を開始する ピュルテ: な、なんかドキドキしてきました エミリー: エミリーも。こういう固いきちんとした組織に所属したことがなかったからかな フアナ: 所属はしてるでしょ。まじめにやってないだけで。コミッティなんて世界最大のきちんとした組織なんだから クレア: 私は、ジュリエットとだね。よろしく ジュリエット: 安心してください。何か不測の事態が起きても、私は必ず祈りますから エミリー: 祈ることを約束されてもね…… シャルル: わたくしもあまり役に立たないかもしれませんが、よろしくお願いします エミリー: あ、シャルルのこと言ったんじゃないよ。それにディマイトの汚染から回復して間もないんだし、無理せずいこう ジャヴェール警部: 待て。人間さん、きみはこの管制室に残るんだ ピュルテ: 私たちだけを行かせて、安全な部屋で待っているなんて嫌?人間さん……その気持ちだけでも嬉しいですから ジャヴェール警部: 心意気は買うが、戦略として容認できない。この管制室から都市の各所へエルマイト動力のインフラにアクセスできるんだ ジャヴェール警部: つまり、きみは移動しなくても、そのエネルギーを都市の各所に行き渡らせることができるということだ フアナ: 一緒に行けば、その組の支援は充実するが、どうしても偏る。均等にバックアップするなら、それが最善ということだね ジャヴェール警部: もどかしい気持ちはよくわかる。本官自身、こうして管制室でマイクを握ることしかできないのだからな。だが、それも役割だ ピュルテ: 大丈夫ですよ、人間さん。離れていても、ちゃんと応援してくれてる気持ち、エルマイトを通じて伝わりますから クレア: じゃあ出発だね ジュリエット: 祈りの旅です。さあ、クレアさんも祈りを捧げましょう。ふんっ! クレア: ふんっ! エミリー: クレア、真似しなくていいから ピュルテ: こちら1班。南8エリアに到達しました。どうぞ ジャヴェール警部: 管制より1班。到達了解。引き続きディマイト装置の検索にあたれ。汚染者の人数等はどうか フアナ: 目視できる範囲では5~6名。ただ、みんな弱っているのか、襲ってくる様子もなく、壁にもたれかかって動かなかったりするね ジャヴェール警部: 了解。管制より各局、汚染者の活動は一定時間を超過すると弱体化する傾向との報告あり。鎮圧に際しては過剰防衛にならないよう、装備の選定には十分に留意されたし ピュルテ: 元は何の訓練も受けていない一般市民の皆さんですからね。弱ってるのにやりすぎたらケガしちゃいます フアナ: 警護兵も自分が襲われるとなれば恐怖で、つい力が入ってしまうかもしれない。早く解決しないと、事故がいつ起きてもおかしくないよ ピュルテ: ……っ、くっ、ううっ!? フアナ: ピュルテ!? 大丈夫? まさか、まだ例の声が聞こえているの? ピュルテ: いえ、声は……大丈夫です。リルちゃんが助けてくれたときから聞こえなくなっています フアナ: とりあえず落ち着いてるんだね、よかった ピュルテ: ただ、すごい濃度のディマイトで……ちょっと頭痛がしちゃって フアナ: 元々ピュルテはエルマイトにかなり偏っている体質みたいだし、感知能力なんかもあるから、ディマイトとは相性が悪いのかもね ピュルテ: そういう、ものなん、ですか……くっ、ふうっ…… ピュルテ: よしっ、もう大丈夫です。すみませんでした フアナ: 大丈夫なの? 無理はしないでよ。焦らず休みながらでいいんだからね。綺麗事じゃなくて、あたしの安全のために言ってんだから ピュルテ: 大丈夫です。ちょっと頭が痛いだけですから フアナ: ならいいけど…… 住民: ウヴァアアァァァアァ……! ピュルテ: ……っ!? フアナ: たぶん、こっちが発生源みたいだね。行くよ! 228 - 第8号委員 ピュルテ: フアナさん! あれを見てください! フアナ: 黒い霧を噴射する装置……あれが、ディマイトを撒き散らしてる原因ってことだね ピュルテ: 1班、装置を発見しました! これから、えっと、壊します! フアナ: 確かに、ピュルテみたいな感知能力がなくても、何か禍々しい気配は感じるよ。かなりの濃度だろうね ピュルテ: はい。汚染された人の状態は、前に遭遇した飴玉のときに似てますけど、そのときとは格段に違います フアナ: ディマイトの濃さが、ってこと? ピュルテ: というか、影響範囲と汚染の速さです。飴玉を食べたひとりだけが、数日かけて汚染されていたのが前の状況なんです フアナ: それが今は、おそらく半日程度で町全体が汚染されてる。人口の何%が汚染されたかはわからないけど、ひとりってレベルじゃないよね フアナ: 感情をコントロールして操ろうなんて、生易しいもんじゃない。単に人を兵器に変えるって発想で作られてるよね、これは ピュルテ: どこから、こんなディマイトを持ってきたんでしょうか フアナ: ディマイト自体は、コミッティには大量に保管されてるからね。天空神殿にエルマイトを握られた今、コミッティが自由に使えるエネルギーはディマイトだけだから、乱用はできないんだけど ピュルテ: そうなんですか!? え、だからコミッティはディマイトを使って……あれ、だとしたら……? んん……? フアナ: ただ、保管されている場所からディマイトだけ抽出したり、持ち運んだり、こうして拡散したり……っていう技術は最近になって開発されたものだよ フアナ: だから、今回のこの事態を引き起こしたやつも、あたしにはなんとなく目星はついてる ピュルテ: えっ!? そ、そうなんですか!? それはやっぱり、コミッティの…… シェイクスピア: あらぁ? わたしのこと、呼んだかしら? ピュルテ: ……っ!? ピュルテ: こ、この人は……フアナさん、もしかして シェイクスピア: はじめましてよね、ピュルテちゃん。ふふ、ふふふ…… ピュルテ: 私の名前を、知ってるんですか……? シェイクスピア: そりゃもう。私の中ではものすごく有名人よ。ふふっ……。かわいくって、穢れのない、アンノウン…… フアナ: シェイクスピア。やっぱりあんただったのね。絶対、現場に出てるのはあんただと思ったよ シェイクスピア: ふふっ、それは褒めてもらってるのかしら? フアナ: 両方、かな。飴玉レベルだった初期のディマイト化合物から、そう長い時間をかけずにここまで技術的に昇華させられるのは、あんただけだと思うよ シェイクスピア: あはっ、フアナからそんなふうに褒められるなんて、今日はとってもいい日ね。悲劇もたくさん見ることができたし…… フアナ: そう、この胸糞悪いえげつないやりかたも、あんたしかいないと思った理由だよ シェイクスピア: 両方って言ってたから、それは貶してるってことなのかしら。でも、わたしには褒めてるようにしか聞こえないわ シェイクスピア: だってそれ、わたしが奏でる悲劇の旋律が美しいって、そう言ってくれてるのよね? 今だって、ほら、聞いて。どこかでまた誰かの悲鳴が聞こえるの フアナ: ったく、イカレ女め。キャロルほどダイレクトじゃないけど、ろくなもんじゃないね シェイクスピア: ふふっ、久しぶりにフアナとお話できて楽しいけど、そのために来たわけじゃないの。アイソーポス副議長からの伝言 フアナ: 伝言……? 副議長から、あんたを通じて? シェイクスピア: 撤退、この町から離れること フアナ: な……!? フアナ: ふん、それは嘘だね、副議長からそんな伝言があるはずがない シェイクスピア: そうかしら? 副議長はGR2推進派よ? そしてもう、時計の針は動き出してる。まもなく時刻は1時を迎えるわ シェイクスピア: 確かに、伝えたわよ。ふふっ、直前までこの悲劇を観劇するのは構わないけど……あは、あはは、あはははっ ピュルテ: はっ!? き、消えた…… ピュルテ: それよりフアナさん、今の伝言って…… フアナ: …… ピュルテ: 言ってましたよね。グリム家に対抗するために、私たちに協力してくれるって ピュルテ: 今の伝言、副議長さんって人はもしかして、その、グリム家に対抗するチームのリーダーさんなんじゃないですか……? フアナ: それより、気になることがあるんだ ピュルテ: それよりって! 私には話せないことなんですか フアナ: クレアが危ないかも知れないんだ ピュルテ: えっ、クレアさんが!? フアナ: ピュルテが知ってるかどうかわからないけど、作家は自分の作品に強い影響を与えられる。そしてクレアと同行してるジュリエットは…… ピュルテ: ……っ! まさか、シェイクスピアの、作品……? (背景切換...) クレア: うん、もう屋敷の中には誰もいないみたい。装置も壊したし、安心だね ジュリエット: では、祈りを捧げましょう クレア: 誰もいないのに祈るの? ジュリエット: 私はシスターなので、一定時間ごとに祈るようにできています クレア: へえ、大変なんだね ジュリエット: 食事をするのと似たようなものです。私は常に祈りを忘れません クレア: シスターって大変? ジュリエット: 私はシスター、神に祈りを捧げて聖なる魔法で邪を打ち払うの クレア: もう1回言うの? うん、なんかかっこいいね ジュリエット: さっきダメージを受けたでしょう。さあ、私が回復するわ クレア: うん、なんかよくなった気がする。手のとこ、あったかい ジュリエット: ところで、私は何を忘れているのかしら クレア: えっ、忘れ物しちゃったの? 取りに戻る? ジュリエット: 忘れたことを忘れているのだけど、心にぽっかり穴が空いたようだわ。どうしたらいいかわからないのだけど クレア: 落ち着いて。順番に戻ってみようね。忘れ物って、どんなのか、ヒントはある? ジュリエット: 悲劇、ってことだけ…… 229 - ジュリエットの覚醒 ジャヴェール警部: 管制より3班 シャルル: はい、シャルルですー。何かありましたか? ジャヴェール警部: 1班から報告あり、該事案においてコミッティ・シェイクスピア委員が関与しているとのこと エミリー: シェイクスピア? うん、確かにそれっぽい雰囲気かもね ジャヴェール警部: 本官も詳細を把握していないが、作家と作品の関係性の問題でジュリエットが危険因子かもしれない、とのこと エミリー: え……? それって、えっ、ジュリエットってシェイクスピアのとこの子なの……!? シャルル: どういうことなんですか? エミリー: もしかしたらジュリエットがクレアを襲うかも! シャルル: そんな! ジュリエットさんは裏切るような人ではないと思います! エミリー: 違うの。相手に操られちゃうってこと シャルル: 操られて……? さっきのわたくしみたいにってことですね。細かいことはよくわかりませんが、わかりました シャルル: 装置はまだ見つけられてませんが……クレアさんおひとりでは危険ですもんね エミリー: うん! 急ごう! (背景切換...) クレア: どうしたの、ジュリエット。固まっちゃって ジュリエット: 私、なんでしょう。胸がざわざわして、ああ、祈らないと フアナ: クレア! 無事!? クレア: あ、フアナ。ジュリエットが落とし物しちゃって困ってたとこ ピュルテ: よかった、おふたりとも無事でしたね クレア: 無事って? 何かあった? フアナ: でも、まだ発動していないだけかもしれない。ジュリエットの作家はシェイクスピアであることには変わりないんだから ジュリエット: そうだわ! そう、シェイクスピアよ! クレア: え、なに? どうしたの急に フアナ: まさか、今のあたしの一言で何か呼び覚ましたとか言わないよね!? ジュリエット: そう……私は、どうしてこの町に来たのか思い出したわ。私はシスターなんかじゃない クレア: えっ!? シスターじゃない!? ジュリエット: ええ、そうよ。私はシスターを演じていただけの、天才女優なの。すべての存在を演じることができる、それが私 クレア: そうだったんだ……! ジュリエット: ええ。たとえば…… ジュリエット: ………… フアナ: なんだ……急に固まったぞ ジュリエット: はい、いま私は女神像を完璧に演じました フアナ: なんだそりゃ! クレア: 完璧だった ジュリエット: そして私はこの町に呼び出されていたの。シェイクスピア様に ハムレット: やーっと思い出した? そうだよ、ジュリエット。あたしとの待ち合わせもすっぽかして、ほんと悲劇だったんだからね ピュルテ: ハムレットさん!? で、でも……もうあの目は!既にディマイトに汚染されてしまっているようです ハムレット: さあ、あたしとシェイクスピアさんのところに一緒に行こう ジュリエット: ええ。でもどうして呼ばれていたんだったかしら? ハムレット: それは、これが教えてくれるよ。くすすっ フアナ: あれは……ディマイト散布装置! まずいっ ジュリエット: はうっ!? ピュルテ: スプレーされたディマイトがジュリエットさんに! これで本当に操られた状態になってしまうのでは……! ジュリエット: ふ、ふふ……私が、私こそがシェイクスピア様の最側近、煉獄のジュリエットよ! ふふっ、焼き尽くしてあげるわ! ピュルテ: ああっ、操られてしまった……んですよね……? フアナ: 普段が普段だから、決め手に欠けるけど……たぶんね ピュルテ: 普段から、本来の正しいジュリエットさんがどんな人なのか、私たちもいまひとつ自信がないんですよね…… エミリー: クレア! 無事!? シャルル: ああ、よかった。ピュルテさんたちも到着しているようですよ クレア: 私は無事。でもジュリエットが ジュリエット: ふふっ、お仲間が来たようね。では、私たちはこれで失礼するわ。このディマイトに呑み込まれた町で、せいぜいあがくといいわ。おーっほっほっほ! エミリー: ん? シスターから何役に変わったの? ピュルテ: シェイクスピアに操られたんです! たぶん! エミリー: そんな……これは操られてる状態だっていうのぉ!? シャルル: なんてこと……ジュリエットさんだけでなくハムレットさんも、同様に操られているということですね ハムレット: 操られているなんて、ずいぶんな言い方だね。あたしたちの作者様だよ? まあいいや、みんなここで終わりにしてあげる ジュリエット: うふふ、おもしろい余興を用意したわ。ぜひ遊んで行って♪ エミリー: ジュリエット……あのポジション、似合うなぁ…… ピュルテ: ……っ!? 何か、下から来ます! 気をつけてください! クレア: うわっ! これ……え? 腕? シャルル: 巨大な腕が床から生えていますが……? ハムレット: この町全体がいま、ディマイトに染まりきっているんだ。その結果、都市自体をディマイト汚染させ、ディトルパを生み出すまでになっている フアナ: 都市自体を!? ばかな、そんなことが ジュリエット: バカなことかどうかは、あなた自身の目で確かめればいいのよ。あなたがどう思おうと、シェイクスピア様の功績には違いないわ エミリー: シェイクスピア……! らしいと言えば、らしいんだけどねぇ ジュリエット: では、ごゆっくり クレア: 消えちゃった フアナ: 奴らを追うのは後回し、まずはこれをなんとかしないと……! シャルル: 援護します! クレア: よし、私に任せて フアナ: 無茶しすぎないでよ、クレア クレア: 大丈夫 フアナ: けど……今はまだ戦えてるけど、都市全体のディトルパなんて、どれくらいの規模なんだよ……! ピュルテ: 腕の形のディトルパなんじゃなくて、都市全体に埋まってる人型のディトルパってことなんでしょうか エミリー: そいつの腕だけがいま、ここにあるってこと? ありそうだし、だとしたら本格的に発動したら町は壊滅だよぅ…… 230 - 合流! ジャヴェール警部: 都市全体のディトルパ……とんでもない規模の事案になってしまったな ピュルテ: ええ。ジュリエットさんも、相手陣営に取り込まれてしまって ジャヴェール警部: だが、ひとまず散布装置はすべて無効化できたわけだな。西側のシンデレラたちも無効化を完了し、こちらに向かっている エミリー: まず、みんなと合流してからだねぇ フアナ: そうだね。少し時間が空くなら……ちょっと身体を休めておくのもいいかもね ジャヴェール警部: 共用スペースでよければ、仮眠室はいくつかあるから、使ってくれて構わない ピュルテ: ありがとうございます! じゃあ、少しだけ休みましょうか (背景切換...) ティンカー・ベル: ふいー、ただいまー! って、この建物にティンカは初めて入るんだけどね ドロシー: みんな、無事だったのね! よかったわ クレア: それはこっちのセリフ。みんな揃って、よかった シンデレラ: 心配かけちゃったわよね。でも、案外なんともなかったのよ ヴェルメリオ: ……チェックをやり過ごすのにじっと待ってたり、回り道したり、それくらいだもんね ドロシー: むしろ、町に入ってからのほうが大変だったわよね。もう、そこらじゅうがディマイトなんだもの ピュルテ: ふふっ……よかった、よかったです シンデレラ: だから大したことないって……やだ、ピュルテちゃん。ちょっと涙ぐんでるじゃない ティンカー・ベル: そんなに寂しかったの? ん、じゅあ人間さんは? ティンカに会いたかったかな? んん? エミリー: 人間さん、そこは嘘でもティンカに会いたくておかしくなりそうだった、とか言っておくんだよぅ? ティンカー・ベル: そうだよ、人間さんは気が利かないんだから。……って、嘘でもって何! エミリー!? フアナ: 相変わらず賑やかな人たちだね、まったく ドロシー: それが楽しくてついてきてるとこもあるでしょ ヴェルメリオ: ……それで、この町の状況、誰が何のためにやってるの ピュルテ: 誰、はともかく、何のためかは…… フアナ: そうだね。そろそろ、あたしが知ってること、伝えておかないといけないね クレア: フアナ? フアナ: シェイクスピア――というより、インペリウム・コミッティの狙い、それは…… クレア: それは フアナ: それは…… ドロシー: は、早く言いなさいよ。ドキドキして心臓が筋肉痛になりそうよ フアナ: GR2計画、だよ ピュルテ: じ、じーあ……? シンデレラ: それ、いったい何なの フアナ: この名称はコミッティ内部だけで使われてるし、その詳細は特務機関でさえも知らないのがほとんどだからね ヴェルメリオ: ……エミリーは、知ってるの エミリー: コミッティの、お姉ちゃんたちの悲願だよ フアナ: GR2、つまり第二次グランド・リヴィジョン計画。それは、この世界の理を変える禁断の秘術―― シンデレラ: 世界の理を変える、ですって? フアナ: すべてを創造期に戻す、と言えばわかりやすいかな クレア: 創造期に? それ、私はあんまり変わらないかも シンデレラ: 創造期に……戻すって、何を、戻すっていうの……? ティンカー・ベル: そりゃティンカも、フックとはずっと仲悪いし、あんまり変化無い気もするけどさ。でも……どう戻るわけ? フアナ: わからないんだ。グランド・リヴィジョンについては正直、不確定要素が多すぎる ピュルテ: 戻す、っていうと……なんとなく、今までのことがなかったことになるって感じに聞こえますけど…… エミリー: ピュルテの解釈でいいと思うよ。諸説あるけど、どっちにしても今こうしてみんなと話してたって記憶は消えちゃうの クレア: えっ……だったら、私も、関係ある ドロシー: 出会ってもいない、ってこと!? エミリー: ドロシーなら、オズやコル、チューチラやレーウとは友達だよ ドロシー: え、じゃあ、ヴェル、とは? フアナ: いいや。知り合ってもいない。思い出も、何一つ残らない ヴェルメリオ: ……そんな! そんなの、ひどすぎる ジャヴェール警部: まさか、そんな世界を変えるような出来事が、この町で起きてたなんて……。この一連の事案も、氷山の一角というわけか シャルル: それは、記憶を失ってしまうということなんですか? お友達がお友達でなくなってしまう、というのは…… フアナ: そうだね。そう思ってもらっていいと思う ピュルテ: じゃあまさか、人間さんのことも……? エミリー: 当然、そうだね ヴェルメリオ: ……そんなの、やだ エミリー: わかってるよぅ。だから止めようって話でしょぉ? ヴェルメリオ: ……う、うん。絶対止める エミリー: 人間さんだって、一気にみんなに知らんぷりされたら、心が折れちゃうもんねぇ? シンデレラ: そう、そうよね。今さら無かったことになんて……できない。じゃあ、今までのこの私たちが旅してきたことがまるで無駄になっちゃうじゃないの ドロシー: そうよ! そんなの許されないでしょ! どんだけ苦労してここまで来たと思ってんのよ。なかったことになんて、させない! ティンカー・ベル: そうと決まれば、諸悪の根源、シェイクスピアをぶっ飛ばしに行くしかないじゃーん! クレア: でも、どこにいるかわかんないよ ピュルテ: それなんですが、実は私たちが捜索しているときに、そのシェイクスピアと遭遇したんです……! ドロシー: シェイクスピア? ピュルテ: コミッティのメンバーで、おそらく今回の黒幕です シャルル: そんな人と会ったんですか!? それで、えっと、でもご無事だったんですね ピュルテ: ええ。ただ、シェイクスピアが言ったことで気になるフレーズがあって ピュルテ: 時刻はまもなく1時になる――って エミリー: 1時……それってさ、円形のこの町のことかな。まんまるな町を時計に見立てて、1時の場所がそのまま、方角になるってこと ティンカー・ベル: で、それはどっちなの? ピュルテ: そこなんですよね。円形なので、どっちを時計の12時として見るべきなのかわからなくて エミリー: どっちにしても、出発する前に少し休憩したほうがいいよ。エミリーたちは休んでたけど、ティンカたちは連戦だったでしょ ティンカー・ベル: だね。じゃあちょっとだけ休んだら出発かな 231 - ピュルテの愛情 シンデレラ: あれ、ピュルテちゃん? どうしたの、うろうろして ピュルテ: あ、いえ、人間さん見かけませんでしたか? シンデレラ: 向こうのサロンみたいなとこにいたわよ。珍しく、なんか緊張した顔してたけど。気を引き締めないと、なんて言って ピュルテ: そ、そうなんですね。ありがとうございます シンデレラ: ピュルテちゃんまで、そんな固い表情しちゃって。せっかくの可愛い顔が台無しよ ピュルテ: 可愛いなんて、そんな……あ、ありがとうございます ピュルテ: こんな、辛いときばかり頼るのもどうかなって思うんですけど、でもなんだか……人間さんの顔、見たいなって シンデレラ: いいじゃない。こんなときだからこそ、しっかり甘えてきなさいよ (背景切換...) ピュルテ: あの……人間さん。えっと、その。ちょっと元気、もらいにきちゃいました ピュルテ: またきっと、大きな戦いになるし、だから、かな。不安なのかな。ちゃんと、あなたの顔を見たいって……思ったんです ピュルテ: 隣……座っても、いいですか? ピュルテ: リルちゃんが助けてくれたときのこと、覚えてますか?ちょっと前から、頭の中に声が響いて……話しかけてきて ピュルテ: きっと、ディマイトなんです。その声に耳を貸したら、今度こそディマイトに支配されてしまう気がしてます ピュルテ: けど、人間さんのこと、大好きになって……その気持ちがどんどん大きくなって……ディマイトの声の言ってること、わかるようになってきちゃって ピュルテ: 声が言ってることって、シンプルなんですよ。嫉妬だったり、独占欲だったり……結局、私の中にそういう感情が、あるんです ピュルテ: ただ好き、傍にいたい、それだけじゃもう満足できなくなってて。そんな私が、自分でもすごく醜いと思ってしまって……きゃっ!? ピュルテ: 人間さん……? ど、どうして急に抱きしめたりなんか……えっ。嫉妬しても、いい、ですか……? 嫌いになったり、しませんか? ピュルテ: う、うん……嬉しい、です……大好きです…… ピュルテ: すみません、急に。でも、なんだか元気が出ました。それに、ディマイトもエルマイトも同じエネルギーですもんね ピュルテ: ってベヒモスさんが言ってたって、聞きましたよ ピュルテ: 人間さんが……私のこんな、ちょっと嫌な面を見ても、それさえも受け入れてくれるなら……私はもう、怖いものなんてありません ピュルテ: 一番大事なことは、大切な人に嫌われないことじゃなくて、大切な人を守ること、なのかなって ピュルテ: あ、えっと、ちょっとカッコつけすぎちゃいました、よね……わ、忘れてください! エミリー: あれぇー? おふたりさん、こんなところでイチャついて、どうしたのかなぁ? ピュルテ: エミリーさん!? え、えっと、な、なんでもないです! エミリー: なんでもないってこと、ないよねぇ~ ピュルテ: ほ、ほんとに、そのっ! ティンカー・ベル: およ? なに、どしたのピュルテ。テンション高いね エミリー: あーあ。エミリーは黙っておいてあげるつもりだったのに、自分で騒いじゃうんだもんなぁ ピュルテ: え、えっと、あの ティンカー・ベル: ほら、さっきの作戦会議の部屋に行くんでしょ? 早くしないと置いてっちゃうよ (背景切換...) ジャヴェール警部: 情報を洗ってはいるが、シェイクスピアの居場所はいまだつかめていない ドロシー: 片っ端から調べて回るってことね ジャヴェール警部: まあ、平たく言えばそういうことになるね エミリー: それなんだけどぉ……円形のこの町を時計に見立ててるってのは合ってると思うんだよね ピュルテ: それは、私も間違いないと思います エミリー: この町は周りを山に囲まれてて、港だけが入口でしょ?ってことは、港がすごく重要だよね ティンカー・ベル: それは、うん、普通にそうだよね エミリー: 港のある場所か、港と反対側、町の一番奥……このどっちかが『12時』だと思うんだけど ピュルテ: 確かに……! 可能性、ありそうですね ティンカー・ベル: でも、その読みが外れてたら? すっごい回り道になっちゃわない? ジャヴェール警部: どっちにしろ、ノーヒントでくまなく探す予定だったんだ。賭けてみる価値は十分あると思う シャルル: それじゃ、二手に分かれて捜索ですね フアナ: 組み合わせは……どうする? またさっきの組み合わせで、シンデレラたちとあたしたちで…… エミリー: 待って クレア: ん? いいんじゃない? だめなの? エミリー: 組み合わせのことは別にそれでいい。そうじゃなくて エミリー: フアナは参加するつもりなの? 本当にそれでいいの? フアナ: え? な、なに? なんのこと? エミリー: フアナは、エミリーたちになにか言うことがあるんじゃない? フアナ: 言うことって、え、なにが…… エミリー: シェイクスピアと会ったんでしょ。ピュルテとフアナのふたりでいるときに。シェイクスピアは、何しに来たの? フアナ: …… エミリー: まさか挨拶しに来たわけじゃないでしょ。あったとしたら、たぶんアイソーポスからの指令とか クレア: フアナは、その人とも繋がってる。けど、裏切ったりは、しない エミリー: エミリーは正直、それも信用してないけど……でも、じゃあエミリーたちのことを裏切らないとしても、アイソーポスのことは裏切るの? フアナ: それは……っ エミリー: ここでフアナを責めたいわけじゃないの。でも、アイソーポスはGR2推進派だから。ここでついてきちゃって、フアナは本当に大丈夫なのか、ってこと シンデレラ: 私たちにとっては普通に出撃するだけなんだけど、フアナにとっては意味合いが違うってことね ヴェルメリオ: ……後戻りできなくなる道なんだね ティンカー・ベル: フアナ。あんたがついてこなくても、ティンカたちは責めたりしない。十分、ここまで助けてもらったもん ドロシー: 仲間ってわけじゃない、とは最初から言われてたんだし仕方ない……わよね ピュルテ: フアナさん…… フアナ: ……あ、あたしは。あた、しは……どっちも、うらぎ…… クレア: 私はきてほしいな フアナ: クレア……!? クレア: みんな裏切って、私と一緒にきてよ フアナ: あたしは……! 232 - 決戦の舞台へ エミリー: ジャヴェール警部が教えてくれた道って、この角のとこだよね。この道を抜けていけば、たぶん最短距離だって ピュルテ: 予想してたよりもひどいって……あ、そうでしたね。人間さんは詰め所に到着してから外に出てなかったんでした クレア: そうだね。始まったときより、ずっとひどい エミリー: ディマイト汚染されちゃった人たちが、だいぶ暴れてるからねぇ ピュルテ: 気をつけてくださいね、人間さん。でも……一緒にいてくれて、心強いです クレア: やっぱりピュルテの元気のもとは、人間さんだね ピュルテ: や、やめてください、クレアさん。そんな、恥ずかしいですから クレア: だってもう、けっこむぐぐぐ ピュルテ: ほ、ほんとに、それ以上は2人だけの内緒って言ったじゃないですか! エミリー: あれれ、エミリーにも内緒なんて寂しいなぁ クレア: むぐぐ ピュルテ: あ、ごめんなさい。私ったらつい クレア: もし私が鼻水詰まってたら死んでたよ エミリー: ほんっと、このメンバーは緊張感がないんだよねぇ ピュルテ: す、すみません。気を引き締めていかないといけないのに エミリー: ……シェイクスピアに会ったんだっけ ピュルテ: 今までにないくらいの、なんていうか、圧力を感じました。本物の、危険な人なんだって クレア: ジュリエットの作家なんだもんね エミリー: そういう言動の危なさも確かにあるけどね。でも、シェイクスピアはね、錯覚しがちなんだけど、実は暴走するタイプじゃない エミリー: 不安定な言動から、好き放題に思ったまま行動するような気がするでしょ。でも、ちゃんと見るべきところは見るし、冷静に判断してる ピュルテ: そうなんですね……。私はもう、突き刺さるような気配というか、同じディマイトでも、ここまで危険な感触って味わったことなくて クレア: そんなのと戦うのに、フアナはなんでこないの エミリー: いやあ、クレア。あれは……仕方ないよ クレア: 私は怒ってるよ ピュルテ: 来てくれたら心強かったですけど……フアナさんにも立場があるんですよ。私たちを騙していたわけじゃ、ありませんから ピュルテ: 今回のこの、レグルス教国がこうまでディマイト汚染してしまったのもあのシェイクスピアの研究結果で生まれた何かなんですよね? エミリー: うん。シェイクスピアはとにかく無茶苦茶にしたいの。それだけが唯一の目的 クレア: それって目的って言えるの エミリー: 政治的な思想もない、自己顕示欲や物欲もない、ただ混沌だけを愛してる。すごく純粋な子だと思うよ ピュルテ: 純粋、ですか エミリー: 純粋な悪意、ってこと。好きに研究しては悲劇を起こして、それを観察する。それが最大の喜びなんだよねぇ ピュルテ: じゃあ今回のこれも、その一環ってことですか エミリー: シェイクスピア自身はGR2計画に、そんなに興味ないはず。ただ、こうやって社会が混乱するから協力してるんだろうねぇ エミリー: 条件さえ合えば、あの子は天空神殿にも協力すると思うよ クレア: 見境ないってやつだ ピュルテ: 今回のディマイト散布型のアイテムですが、あれもやっぱりシェイクスピアの研究によるものなんでしょうか? エミリー: エミリーは見覚えないけど、たぶんそうだと思うよぅ クレア: あんなの作っちゃうとか、頭はいいのかな エミリー: 方向性はともかく、技術力は高いって評判みたい。コミッティを追い出されても、いくらでも裏社会みたいなとこから声がかかるはず (背景切換...) ピュルテ: そんな人、野放しにできません……! エミリー: だねぇ。だから今回は、GR2を止めるだけじゃなくて、できればシェイクスピアの身柄も確保したいところだけど クレア: 逃したら、また新しいアイテム作っちゃうもんね ピュルテ: ディマイトアイテム……そうだ、初期のあの、リルちゃんが配ってたお菓子も、シェイクスピアが作ってたって聞きました エミリー: リルが配ってた……ああ、フェルディナが持ち出したアレだよね。今と比べればクオリティは低かったけど エミリー: でも、初めてディマイトを拡散させる方法を確立させたって意味では評価されてたんだよねぇ。あのこんぺ…… シェイクスピア: 来たのね。人間界から来た救世主気取りのあなた…… ピュルテ: シェイクスピア!? シェイクスピア: また会えたわね、ピュルテちゃん。ふふっ、相変わらず貴方の魂はふらふらと揺れ動いて、まるで海月のようだわ シェイクスピア: きっと自分でもわからないんでしょう。そう、あなたもまた、自身に対してアンノウンなのよね ピュルテ: 出ましたね、シェイクスピア……! クレア: 負けないよ シェイクスピア: ふふふふっ、なんて可愛らしいのかしら。あのフェルディナの担当とは思えない愛らしさね エミリー: え……ま、待って、みんな。これが、この子が、シェイクスピアだって言うの……? ピュルテ: え? ええ、そうですけど…… エミリー: だって……エミリーが知ってるシェイクスピアは、もっと…… エミリー: それに、そうだよね。この子、ヌルズブ島で人間さんのことナンパして…… クレア: そう言えば、人間さんが話してたね ピュルテ: あの話に出てきた、ホテルのキーをいきなり押し付けてきたっていう、あの女の人が、このシェイクスピア…… シェイクスピア: あのときは部屋に来てくれなくて寂しかったのよ。もし会えていたら、今日だってもっと違った出会い方をしていたはずなのに…… エミリー: ずいぶんイメチェンしたんじゃない、シェイクスピア シェイクスピア: そうかしら。あなたはめったに本部に来ないから、研究所にいるわたしのことしか知らないだけじゃない? エミリー: ……シェイクスピア。どれだけ、ディマイトを吸収したの シェイクスピア: うふふふふっ、それじゃあとっておきの場所にご招待よ (背景切換...) クレア: な、なにこれ、どうなってるの エミリー: シェイクスピアが作り出した空間だよぅ。でも、場所を移動したわけじゃなくて、一種の結界だと思う ピュルテ: で、でももう、あなたの計画はここまでです! あなたを倒して、レグルス教国をもとに戻してみせます! シェイクスピア: それは不可能よ。ディマイトを除去できたとしても、正確な意味では絶対にもとに戻らない。汚染されて暴れた人は、その烙印を背負ってこの町で暮らすのよ シェイクスピア: 原因がどうあれ暴力や略奪を、した人、された人、お互いの禍根は残る。それこそが混沌の結果であり、わたしの爪痕なの……あは、あはははっ シェイクスピア: 起きたことは、なかったことにはならないわ ピュルテ: くっ……なんて、ひどいことを……! 233 - 悲劇の作品 ティンカー・ベル: んー、こっちはハズレだったかなー。普通に汚染しちゃった人しか出てこないね ドロシー: そうね。向こうに合流した方がいいかしら ヴェルメリオ: ……でも確証を持てないでしょ シンデレラ: もう一度、ジャヴェール警部に連絡とってみましょうか。警部、聞こえる?こちらB班よ ヴェルメリオ: ……応答がない ティンカー・ベル: なんで? 姐さん、壊しちゃったの? シンデレラ: え、うそ、どうしよう……でも、本当に何の応答もないわ ドロシー: こういうアイテムがあるってことは、別に秘密でもなんでもないのよね シンデレラ: ええ。私の国でも使ってると思うし、レグルス教国くらい技術が高くて警備体勢も整っているところなら、あるのが当然というか ドロシー: なら、敵が対策していてもおかしくないわ。使えないように妨害する何かの方法を用意してたのよ ティンカー・ベル: それ、やばいじゃーん!? ヴェルメリオ: ……でも出発してたときは使えてたのに ドロシー: ええ。つまりタイミングを測ってるんだわ。情報を遮断することが一番効果的なタイミングをね シンデレラ: 早く遮断してしまうと、私たちも何か工夫を考えたかもしれないものね。でも、なんとかしないと相手の思うつぼよ ティンカー・ベル: でも、シェイクスピアどころかジュリエットとかハムレットも出てこないよ? ドロシー: それよね。複数いるなら手分けしてるかと思ったのに (背景切換...) エミリー: うそ……。シェイクスピア、この子たちみんな……? マクベス: …… シーザー: さて……わたしたちの実力、思い知っていただきましょうか ジュリエット: ふふっ、うふふっ、あは、あははははっ!さあ、幕が上がりますよ! ハムレット: 悲劇の舞台のね! ピュルテ: 皆さん、気をつけてください! シェイクスピア: この子たちは、わたしの可愛い作品たちよ。じっくり磨き上げた悲劇の塊…… ピュルテ: っ!? シェイクスピアの後ろ、もう一人誰かいま…… ピュルテ: え……そんな…… フアナ: ここに、グランド・リヴィジョンは再び成る。遊びは、終わりだよ クレア: フアナ……! ピュルテ: そんな……フアナさん……!? エミリー: どういうつもり!? フアナ: 見てのとおり、じゃないかな シェイクスピア: ふふ、あは、あははははは……!裏切りと絶望、こんな表情、なかなか見られないわ……ああ、そんな顔を見せられたらわたし……っ! シェイクスピア: んんんん――っ! ピュルテ: きゃあっ!? 自分の腕に傷をっ!? エミリー: あれはディマイトをまとわせたペンで自分を刻み付けてるの。ああいう自傷行為、昔からやってるんだけど……ほんと、悪い意味で変わらないね、ウィラ シェイクスピア: あぁっ、はぁっ、これはね、あなたたちの心の痛みを、体の傷でわたしも分かち合っているのよ……! クレア: フアナ。……フアナは私と戦うの。それがフアナの答え? フアナ: アイソーポスさんは、あたしを救ってくれた人なんだ。貧しくて、底辺の生活をしていたときに……引き上げてくれた、人なんだよ クレア: わかった。じゃあ私は手加減しない。フアナも、しなくていい ピュルテ: でもこの人数では、単純に不利です……! シンデレラさんたちに早く応援を頼んでください! エミリー: さっきからずっとやってるって……うそ、通信機みたいなやつ、壊れちゃったの!? ハムレット: そんな、衛兵の標準装備なんかに頼りきりで行動するなんて、悲劇だね シーザー: おそらく、ノーヒントであれば分散するリスクを犯すことはなかったでしょう。でもシェイクスピア様から『1時』というフレーズを聞いてしまった ジュリエット: うふふふふっ、そうよね、私が貴方たちの役を演じても、きっと同じことをするわ。だってヒントのおかげで選択肢は2つになったんだもの シーザー: これが5つも6つもあれば話は変わる。けど……2つ。2つなら分割しても大丈夫じゃないかと思ってしまったんだよね ハムレット: 自分たちの浅はかさを悲劇だと思って諦めるといいよ……たああっ! ピュルテ: きゃあああっ! ハムレット: 針の先ほどのゴミでもね、純白の布につけば目立っちゃうんだよね。なら、選択肢は1つ……消すしかない ハムレット: いくよっ、トラジェディ・グラヴィテーション! ピュルテ: んんっくううううっ!? か、身体が、重い……っ、はぁっ、くうっ、それに、この気持ち……なにひとつ、うまくいく気がしない……っ! ジュリエット: 愛はすべてを超越するのよ。今! 行くわ! ゲート・オブ・アロー! クレア: うっ、速い ジュリエット: そして、カーテンコール! エミリー: クレア! 大丈夫、しっかりして! クレア: 平気、これくらい……。人間さん? どうしたの、それなに? ピアス? ピュルテ: あっ、それは! エミリー: あおいからもらった……えっと、そう、ひそピ! クレア: え、なに? ふざけてるの? こんなときに エミリー: クレアにも渡してあるでしょ。これを付けている人どうしで、離れていても会話できるはずだよ! (背景切換...) シンデレラ: 確かに聞こえたわ。人間さんの声だった ティンカー・ベル: この、あおいからもらった、ひそピが役に立つなんて思わなかったよ。よく思い出したよね、さすが人間さんじゃーん ヴェルメリオ: ……で、このひそピってなんなの ティンカー・ベル: ひそひそピアスっていって、エルマイトすっごい使うけど、遠くに離れた相手に連絡できるんだって ティンカー・ベル: 正式な名前はなんかあったと思うけど、忘れちゃった ドロシー: だとしたら、急がないと危険よね。人間さんはエルマイトをかなり消費してるってことでしょ シンデレラ: けど、簡単には通してくれなさそうよ ヴェルメリオ: ……汚染された人が、道いっぱいになって壁を作っちゃってる シンデレラ: これを通り抜けるのはなかなか苦労しそうね ジャヴェール警部: みんな! こっちだ! 早く! ドロシー: ジャヴェール警部!? 234 - 都市型ディトルパの真価 ジャヴェール警部: この地下道は普段は閉鎖されている。つまり、ディマイトが蔓延しても汚染される市民が最初からいないわけだ ドロシー: 結果、誰にも邪魔されずに反対側まで行けるってことね ヴェルメリオ: ……ジャヴェールはどうしてあそこに ジャヴェール警部: 通信機は妨害されてしまったが、レーダーは生きていたんだ。だから、ピュルテたちが向かった方向に強いディマイトを感知できた シンデレラ: けど、それを私たちに伝えようにも手段がなかった、ってことね ジャヴェール警部: 考えられるルートを辿って、なんとか出会えればと思っていたんだ。よかったよ、行き違いにならなくて。正直、賭けだったからね ティンカー・ベル: 向こう側はそんなにディマイト、すごいことになってんの? ジャヴェール警部: おそらく全ての戦力をあそこに集めていると思われる。注意していくんだぞ (背景切換...) エミリー: くっ、はぁっ、うう……さすがに、強すぎるでしょ……! マクベス: …… シーザー: そろそろ終わりになりそうですね ピュルテ: シンデレラさんたちの応援が間に合えばいいのですが……! どうしてこんなにも強いんですか…… クレア: みんな理性が飛んじゃってるからかな エミリー: それもあるけど……この下、都市型ディトルパがいたでしょ。あれが吸い上げてるディマイトを、あの子たちみんな好きなだけ使ってるんだよ ピュルテ: そんな! 人間さんだって、応援連絡のためにエルマイトを消費してしまってるのに、それじゃあ私たちに打つ手はないってことですか エミリー: ううん、付け入る隙はあると思うの。そもそもGR2はシェイクスピアの術式ってわけじゃないし。ただ最後のパーツをはめただけだもん ピュルテ: 自分で組んだ術式じゃない、だから隙があるはず、ってことですか エミリー: 具体的に、その隙をどう突けばいいかは思いつかないけどねぇ…… クレア: ねえ、GR2がシェイクスピアのものじゃないなら、誰が作ったの? エミリー: 誰ってわけじゃなくてコミッティみんなって感じかな。でも、元を正せばあれはてんく……きゃあっ! ジュリエット: 舞台の上でよそ見なんて、女優失格ですよ? ハムレット: そうそう、幕が下りるまでが舞台だよ? 悲劇のね! シーザー: ダイス・ディサイド! エミリー: あ、ああうっ、何これぇ……っ、前が、見えないっ! クレア: エミリー、しっかり! ピュルテ: いけません、エミリーさん! 右に避けて! エミリー: ふわあああっ! マクベス: …… クレア: 人間さん! 無茶しちゃだめだよ エミリー: 人間さん、さん……? エミリーのこと、かばって、くれたの……? ピュルテ: 人間さん、大丈夫ですか!? 無茶、しないでください…… (――我が物にしたくはないのか。) ピュルテ: ……っ!? な、なに……? (――我が物にしたくはないのか。) (――愛は、1つしかない。) ピュルテ: こ、こんなときに……! エミリー: ピュルテ? まさか、また例の声が聞こえてるの!? ピュルテ: だ、大丈夫ですっ、今はそれどころじゃ……う、ううっ! (――求められたくはないのか。) (――愛が、救いを求めている。) ピュルテ: うぁああああっ! あ、頭がっ、割れるようにっ……! エミリー: ……待って。これって、明らかにディマイトだよね……。ってことは、もしかして……? シェイクスピア: ふふ……また少し違う色味の絶望が見えてきたわね。圧倒的な戦力差、諦念、そして次はどうなるかしら……? シェイクスピア: 恐怖に打ち震えるのも素敵だけど、やぶれかぶれになって無謀にも刺し違えにくるのも、本当に美しいわよね クレア: 私は、諦めないよ シェイクスピア: ……っ、いいわ、簡単に崩れてしまわないからこそ、『滅美』には価値があるというもの…… ピュルテ: こ、このまま私たち……ここで……? だったらいっそ…… シェイクスピア: さあ、最後の輝きをわたしに見せて……んぐふぅっ!? エミリー: え、なに……? シェイクスピア: ん、んぐぅ、な、な、何、を……っ、はぁっ、くはぁっ フアナ: あたしは作家。ペンで書くのは文字しかないんじゃない? シェイクスピア: そ、そのペンは……っ、くっ、ぁっ、フアナぁ……っ!! シェイクスピア: この感覚……っ!? そのペン先、エルマイトが仕込まれてるのね……! フアナ: 人間さんくんにちょっと手伝ってもらってね。ペンにエルマイトをたっぷりと浸してあるんだ ピュルテ: いつの間に、そんなこと……? フアナ: え、えっと、ちょっと休憩してたときに頼んでさ…… ピュルテ: そう、ですか…… クレア: フアナ フアナ: 待たせたね。本当は……すぐクレアたちと一緒に クレア: 作戦だったんでしょ フアナ: え……? クレア: シェイクスピアのこと、油断させて後ろから攻撃する。そういう作戦 フアナ: あ、いや、あたしは…… クレア: だから、作戦成功。ね? フアナ: クレア…… エミリー: フアナ、本当にこっちにつくってことでいいの?これで、この後クレアの敵になったら……そのときは、裏切り者だよ。エミリーは、許さないよ フアナ: ……大丈夫。もう、心は決まったんだ シェイクスピア: アイソーポスの言うことは何でも従ってきたフアナが、本当に裏切るの!? フアナ: アイソーポスさんには、一言くらいは言いたかったけどね シェイクスピア: ああ、なんて悲劇……! わかるかしら、ハムレット ハムレット: 愛弟子に裏切られたアイソーポスの悲劇、重要な局面で手札を失ったシェイクスピアさんの悲劇、それと……茨の道を行くフアナの悲劇! シェイクスピア: そのとおりよ。そこに、形勢逆転できるとでも思い込んでいる哀れなアンノウンたちの悲劇も追加しておいて エミリー: 悔しいけど、シェイクスピアの言うとおり。フアナが来てくれたからって、まだ勝てる見込みがあるわけじゃないよ フアナ: そうだね。エルマイトのペンで術式を書き込んだから、いくらかはシェイクスピアは弱体化できたと思うけど……それだけにすぎない フアナ: だから……賭けてみようと思うんだ。たぶん、エミリーも同じこと考えたんじゃない? エミリー: ……ピュルテの、ディマイト? 235 - 邪装という選択 ピュルテ: え、わ、私の……ディマイト? どういうことですか? フアナ: ディマイトを使う相手には、エルマイトによる攻撃しか効かない……そう思い込んでるんじゃない? ピュルテ: 違うんですか? エミリー: 今までの旅でも何度かあったでしょ。エルマイトもディマイトも表裏一体、種類が違うだけで、エネルギーであることには変わりないんだよ ピュルテ: で、でも、同じエネルギーでぶつかりあっても打ち消せないんじゃ クレア: シャルルが言ってた。真逆の力で排除もできるけど、同じような力で違和感ないようにもとに戻すこともあるって フアナ: うん、そんな感じだね エミリー: ディマイトは目の前に有り余ってる。これはシェイクスピアが町じゅうをディマイト汚染させた結果だけど…… フアナ: でも、別にシェイクスピアのものってわけじゃない。ただ、漂ってるだけのもの ピュルテ: 私たちが使おうと思えば使えるってことですか! クレア: 大きい温泉から、お湯をどっちが早くたくさんくみ取れるか競争 エミリー: でも、エネルギー源はあってもコントロールする方法なんて…… フアナ: これを使う ピュルテ: 安全、ピン……? フアナ: 邪装<アビス・コントロール>、あいつの発明品のひとつだよ シェイクスピア: フアナ、あなた……わたしのラボから、かすめとったのね……。いいわ、使ってみればいい……付け焼刃で使いこなせると思うならね フアナ: リスクは承知だ。でも、他に方法が無い ピュルテ: やります……可能性が、あるなら……! フアナ: ただ、これはあたしたち『作家』には使えない。リスクを背負わせるだけであたしも嫌なんだけど…… クレア: ううん、いい。私、やるよ シェイクスピア: いいわ、やってみせて。邪装<アビス・コントロール>を使いこなせるものならね フアナ: いくよ……二人とも クレア: んんんぅうううぅぅぅっ!! ピュルテ: あああああっ!! クレア: はぁっ、はぁっ、みんなを傷つけるやつは……絶対に、許さないんだ……! フアナ: クレア……! やっぱり攻撃性が増してるみたい。ピュルテはどう? ピュルテ: ……っ、ふふっ、くふふ……っ エミリー: あっ!? 人間さんに密着っ!? ピュルテ: ひどいですよ、人間さん……? 私の気持ちを知っていながら、ちっとも振り向いてくれないんですからぁ…… ピュルテ: で・も。もう離さない……こうして心の奥底にある黒い部分を解放したからには、もう何も遠慮しませんし、迷いません ピュルテ: ほらぁ、人間さんさぁん。こっち、向いて? エミリー: 誰これ? ってレベルでお色気出し始めたよ! ねえフアナ、大丈夫!? フアナ: あたしだって初めて使うんだからわかんないよ! ピュルテ: 任せておいてください。ぜーんぶ、片付けてあげますからぁ……♪ ジュリエット: シェイクスピア様をお守りするわよ! ハムレット: くっ、こいつら……! さっきまでとはパワーが全然違う……っ!? エミリー: ねえ、フアナ。これでもようやく勝負になるかどうか……エミリーたちも何もしないわけにはいかないよね? フアナ: もちろん。エミリーも例のアレ、考えてるんだよね エミリー: このディマイト量なら、エミリーたちのこのペンも耐えられるはず フアナ: もし失敗すれば、あたしたちが『向こう側』に引きずり込まれちゃうかもしれないけど…… エミリー: どうなるかわかんない賭けに、ピュルテとクレアだけ参加させたままじゃ、エミリーも気持ち悪いよぅ フアナ: それに、こうまで場にディマイトが高まってるのは危険だからね エミリー: バランス取らないとだねぇ フアナ: それじゃ、いくよ……っ フアナ: 『今宵の悪夢よ 未だ見ぬ世界の幻想よ創造られし想像の理に従いて 我が想念を顕さん』 フアナ: 『彼の者を存在たらしめる青き歯の如き凍れる巨石の爪痕よ我が伽への誓いに応え 滅美を捧げよ イェリング・ルーン!』 シェイクスピア: なんですって……まさか、幻召<プリマグラフィティ>―― シーザー: あ、ああ、ああああ……!? クレア: やった、シーザーが正気に戻っていくよ シーザー: あ、わたし……ずっと、身体が自分のじゃないみたいに…… フアナ: よーし、よくやったね、ルーン ルーン: ……♪ ピュルテ: 私たちも負けてられませんよ、クレアさん。誰よりも活躍して目立って、人間さんの愛情を独り占めしなくちゃいけないんですから……! ハムレット: ひっ、や、やめて、こないで! うああああっ!? ハムレット: あ、あれ……なんかイキった発言しまくって、みんなの視線がものすごく厳しくなってる悲劇!? シェイクスピア: くっ……まさか幻召<プリマグラフィティ>まで使うとは予想外だったわ。でも、それでこそよ。やるか、やられるか。このしのぎを削る緊張感こそ至高 シンデレラ: いたわ、あそこよ! シェイクスピア: なっ!? 通信妨害はしてあるはず、一体なぜここに!? ドロシー: ちゃーんと人間さんの声は私たちに届いてるのよ! ヴェルメリオ: ……ハムレットに、ジュリエット、シーザーまで? どうなってるの ティンカー・ベル: でも、このなかで知らないの、一人しかいないし! そいつがシェイクスピアで確定じゃーん! エミリー: ティンカ! みんな! やった♪ これでもう、勝負ありだよぉ フアナ: しのぎを削る戦いには、ならなさそうね? シェイクスピア: ふ、ふふ……あはははは! 美しい、完璧な構成よ!なら、私も最後まで抗うまで。残る全てのディマイトを、この都市に漂う全てのディマイトを、あなたたちにぶつけてあげる! フアナ: ディマイトのバランスが崩れる……! みんな、エルマイトを ドロシー: がってん! 暴れたりなくてうずうずしてんのよ! エミリー: それなら、今度はエミリーも、やっちゃうよ! エミリー: 『今宵の悪夢よ 未だ見ぬ世界の幻想よ創造られし想像の理に従いて 我が想念を顕さん』 エミリー: 『彼の者を存在たらしめる虚ろの骨に十二の煌く艶恋の海よ我が伽への誓いに応え 滅美を捧げよ デュオデキム・コロル!』 シェイクスピア: まさか、エミリー、あなたまで……っ!? (背景切換...) エミリー: 大改訂<グランド・リヴィジョン>なんて、させないっ……! 236 - 仇討ち ローザ: いらっしゃいませー ルクスーズ: おひとりさま? じゃ、カウンターにどうぞ♪ ローザ: 初めてのご来店だよね。うちは結構、品揃え豊富だから、ご希望のお酒があれば、お気軽にどうぞ♪ 秘書官: モヒートを…… ルクスーズ: うちの店はね、ダーツもあるんだよ。それに今日はおやすみだけど、楽器演奏なんかもあったりなかったり ローザ: お姉ちゃんってば。静かに飲みたいお客さんだっているんだから ルクスーズ: はいはーい 秘書官: いや、いいんだ。こんな時間が、久しぶりすぎて……うまく話せないだけだ ルクスーズ: お客さんはぁ、何してる人? 行商って感じでもないし~。ね、お金持ち? ローザ: お姉ちゃんってば、もう! 恥ずかしいからやめてよ! ローザ: でも、よかったら……お話、聞かせてね 秘書官: 残念ながら金はさっぱりだが……そうだな。漁夫の利、って言葉を知ってるか? ローザ: えーと……? ぎょふ? 秘書官: 東の方に伝わる例えだ。敵対する両者が争ってる間に、いいとこ取りする卑怯なヤツのことを言うんだよ ルクスーズ: それがお客さんの旅の目的? 秘書官: 俺は、俺の大切な人を奪ったヤツを許せないんだ ローザ: え……な、なんか物騒な気配がするんだけど…… 秘書官: はは、すまんな。酔いが回ったみたいだ。もう1杯 ルクスーズ: いや、回ってんならおかわりしちゃダメじゃないの? 大丈夫? 秘書官: 喉が乾いてしょうがないんだよ。だから、モヒートだ ローザ: ふふっ、モヒートが満たしてくれるのは喉じゃなくて、心だよ 秘書官: ……表向き共闘してるが、もうグリムはGR2にはこだわってないはずだ 秘書官: レグルス教国の情勢次第で、またあいつが動くだろう…… ローザ: どうしたの、難しい顔して。やっぱり酔いが回っちゃった? 秘書官: いや……なんでもない。もう1杯 ローザ: 大丈夫!? ペース早すぎない!? 秘書官: ……お嬢の仇は必ず……討つ……! クレア: けほけほっ、すごい爆風だった フアナ: すべて……終わったみたいだね ハムレット: ジュリエット! 大丈夫、元に戻った? ジュリエット: うふ、うふふ、うふふふふっ……私は、ディマイトなのよ!この、この闇の力が、なんか、すごいことになっているのよ! ハムレット: ひいい! ジュリエットはまだ戻ってなかった! 悲劇ーっ! ティンカー・ベル: や、それジュリエットのいつものアレだから。大丈夫、戻ってるって ハムレット: ほんと!? 触っても大丈夫なの? ジュリエット: ディマイトなのよぉー! がうがうがうー! ハムレット: うわああ、なんかあたしの腕食べようとしてくるんだけど! ヴェルメリオ: ……変な結界も、なくなったみたい シェイクスピア: ああ……こんな、予想外の結末……。でも、そう。結末は誰にも確約できない、作家にさえも……。だからこそ、物語は美しく輝くのよ…… シェイクスピア: わたしが敗れることが美だというのなら、本望だわ……。だって、輝いてるでしょう、わたし……ふふっ フアナ: 全てのディマイトは消失した。おそらく、汚染されていた町の人たちも元に戻ったはずだよ エミリー: 都市型ディトルパのディマイトを、全部この戦いで使い切っちゃった、ってことだねぇ フアナ: あたしとエミリー以外は、みんなディマイトを使ってたからね。あれだけ使い手が何人もうようよしてれば、枯渇するのも当然だよ シンデレラ: あっ、人間さん。さっきの衝撃で少し気を失ってたのね。大丈夫? ティンカー・ベル: 今回は人間さんもだいぶ疲れたんじゃない? エルマイトすごい消費するんでしょ、あれ クレア: さてと。じゃあ、シェイクスピアはこの鎌でずぶっとすぱっと ドロシー: ちょっと!? なんかすごい過激なんだけど、どうしたのよ! フアナ: 色々あってピュルテとクレアはちょっと性格がね。すぐに戻るとは思うけど エミリー: え……? なぁに、人間さん。ピュルテが、いない……?そう言えば、あれっ? でも、さっきまでそこに…… フアナ: 人間さんくん……大丈夫だろうか シンデレラ: あんなに激しい感情を見せた人間さんは、初めて……いえ、ワンダーランド以来ね ティンカー・ベル: そのとき以上でしょ。だって、当然だよ……ピュルテがいなくなっちゃうなんて ヴェルメリオ: ……シェイクスピアを尋問する、なんて言ってたけど……わざわざ自分だけでやるなんて ドロシー: たぶん……見せたくないのよ。それくらい激しくて、厳しい尋問をやってるのね エミリー: ウィラは……シェイクスピアは、事情を知ってると思う? フアナ: 何か知っていそうな素振りだったけど、本当に知っていてもおかしくないし、ただのいつもの雰囲気作りなだけかもしれない クレア: もし、何も知らなかったら ドロシー: そのときは手がかりなし、ってことよ。……っ、何もできないなんて、歯がゆくてしょうがないわ ヴェルメリオ: ……わたしたちが到着したときは、ピュルテいたよね? シンデレラ: ええ、邪装とかって状態になっていて、様子はおかしかったけど…… フアナ: ……あたしのせいだ。リスクは分かっていたのに エミリー: あの場は選択肢がなかったんだよ。自分を責めちゃだめ、フアナ クレア: それに私はなんともない。きっと他に原因がある シンデレラ: あ……戻ってきたわ。シェイクスピアは……それ、気絶してる……のよね? ドロシー: い、いえ、それならいいのよ。さっきの勢いだとほら、殺しちゃったんじゃないかって一瞬…… ヴェルメリオ: ……それより、何か手がかりはあった? エミリー: 光が飛んだ……方向……? フアナ: 方向がわかったんだね。よし、急ごう! (背景切換...) ティンカー・ベル: そっち、いた!? (ごく当たり前に存在する日常。) クレア: ううん、こっちじゃないみたい (何気ない朝、何気ない日々。) (穏やかに過ぎていく『時間』――) フアナ: だいたいのエリアは見当がついてるんだけど、まだ見つからないね…… (そこにあることに何の疑問も持たず、毎日のように顔を見ることが当然だと考え、 いくばくかの安堵、それと同時に感じる物足りなさ――) シンデレラ: みんな! これ……これ、見てちょうだい! (日常の定義とは、そのようなものだろうか。) ドロシー: え……これ、どういうこと ヴェルメリオ: ……ガーベラ? でも、これ……もしかして (日常、それは。) (失って初めて価値に気付くもの。) エミリー: ピュルテ……? ピュルテが、花に、なっ……ちゃった…… (毎日見ていた『きみ』の笑顔。) (その意味に、この日――気付くことになるなんて。) 237 - 喪失感 ヴェルメリオ: ……みんな、新作のパイが焼けたよ シンデレラ: へえ、今度のは何のパイなの? ヴェルメリオ: ……ラムレーズンだよ。干しぶどうをラム酒に漬け込んで シンデレラ: ラム酒!? お酒が入ってるのね ティンカー・ベル: ちょっと、姐さん。香り付けにちょっと使ってるだけでしょ。そんなに食いつかないでよ シンデレラ: べ、別に、食いついてなんかないわよ フアナ: うん、いい香りだね。じゃあ、紅茶でも淹れる? クレア: いただきます ドロシー: クレアってば早いわね! フアナ: いまお茶を淹れようかって話してたとこなのに クレア: あ、美味しい ヴェルメリオ: ……よかった クレア: でも、ちょっと甘味が強いかな。ぶどうの甘みもあるし、もう少しお砂糖は控えてもいいかも ヴェルメリオ: ……うん、参考になる エミリー: ただの食いしん坊じゃなくて、ちょっと舌が肥えてきてるねぇ ティンカー・ベル: これはいずれ、大物になっちゃうかもしれないよ ヴェルメリオ: ……人間さんも気に入ってくれたの? ふふっ、嬉しいな ドロシー: まーた、そうやってヴェルってば人間さん相手に得点稼ぐんだから フアナ: 人間さんくんはみんなにモテモテだね エミリー: いいよねぇ。エミリーも、イケメンに愛されたいなぁ クレア: がんばってね エミリー: クレア……心がまったくこもってないんだけど フアナ: 後で、ちょっと商店街に買い物に行くけど、何か必要なものある? クレア: なに買うの? 私もついていきたい フアナ: 袋が傷んじゃったから新しいのにしようと思って。すぐ傷んじゃうんだよね ティンカー・ベル: 分厚い自叙伝を何冊も入れとくからでしょ。もうちょっと冊数抑えたら? フアナ: これでも抑えてるほうだよ ドロシー: 偶然の出会いなんて、そんなに簡単に転がってないんだから エミリー: ほんとだよぅ。転がってたらエミリーに教えてほしい クレア: エミリーがまた出会いを求めてる ティンカー・ベル: あはは、エミリーってば相変わらずなんだから…… ティンカー・ベル: はは、あはは…… エミリー: …… シンデレラ: …… ドロシー: こういうなんでもない無駄話をしてると、実感するわね。もう、ここにあの子がいないんだってこと フアナ: この鉢植えがピュルテだなんてね クレア: 急にそんなこと言われても、どうしたらいいかわかんない フアナ: あたしが……邪装<アビス・コントロール>なんて使わせたから エミリー: あの場は緊急事態だったと思う。それにフアナひとりの責任じゃないよ。エミリーも、あのとき賛成したんだから フアナ: エミリー…… ドロシー: そうよ、ひとりで抱え込むべきことじゃないわ。だいたい、同じように邪装<アビス・コントロール>を使ったクレアは、なんともないじゃない ヴェルメリオ: ……そこだよね。ピュルテとクレアの差は、なんだろう クレア: ただの運だったら、私が花になってた可能性もある? フアナ: 何が起きているかわからない以上、可能性はあるのかもしれない ヴェルメリオ: ……これからも、うかつに使わないほうがいいかも フアナ: ただ、確実ではないけど明らかに違うことがある。ピュルテは、例の妙な声を聞いていた エミリー: 最初からディマイトが侵食していたとしたら、それがどう影響したのかわかんないし ティンカー・ベル: それで……これからどうする? シンデレラ: とにかく情報を集めるのが先決よね。ピュルテちゃんの身に何が起きたのか、それを解明しないことには元に戻しようもないと思うの エミリー: そうだねぇ……って、え、人間さん? ティンカー・ベル: 本当に、戻すべきなのか、って……そ、そりゃそうでしょ!? ドロシー: 人間さん!? あなた、なに言ってるのよ! 散々これまでピュルテに助けられて来たでしょう!? まさか見捨てるっていうの!? ヴェルメリオ: ……え? そうじゃ、ない……? フアナ: 人間さんくん……泣いてるのか……? ティンカー・ベル: ……人間さん、あんなふうに考えてたんだね ヴェルメリオ: ……だいじょうぶかな、人間さん。だいぶまいってるよね。言うだけ言って、出て行っちゃったし フアナ: 無理もないけどね。とりあえずエミリーが追いかけたから、任せよう シンデレラ: 確かに人間さんの言うとおり、このところのピュルテちゃんはずいぶん、苦しんでいたわ クレア: 聞こえてくるんだよね、声が ティンカー・ベル: ネコがなんか助けてくれたりもしたけど、完全に消せたわけじゃなかったみたいだし フアナ: ピュルテ自身の心の中にある、暗い部分、嫉妬、独占欲……そんなものが徐々に範囲を広げていってたんだよね ヴェルメリオ: ……それは、人間さんがいたから シンデレラ: 人間さんと出会ったことで、幸せなことはいっぱいあったはずよ。けど確かに、辛い経験もあったのは事実よね ドロシー: それまでピュルテは嫉妬なんてしたことなかったのよね、きっと フアナ: 人間さんくんと出会って生まれた感情は、差し引きではプラスだったかもしれない。嬉しいこと、楽しいことの方が多かったかも知れない フアナ: でも、それが問題じゃないんだよね。初めて、嫉妬や独占欲を覚えてしまった、それが大きいんじゃないかな クレア: ……ピュルテは人間さんのことで、いっぱい泣いたからね ティンカー・ベル: クレアは、何か知ってるの? クレア: ピュルテと内緒の約束したから言えない シンデレラ: 内容は言わなくていいわよ。でも、そう。いっぱい泣いてたのね クレア: 好きだから、辛いって シンデレラ: うん……それは、痛いほどわかるわ。でも、だからって元に戻らないことが幸せだなんて ティンカー・ベル: 戻らないで、お花のままでいれば、嫉妬も独占欲もなくて、穏やかな気持ちのままでいられる…… ドロシー: そんなことない、戻りたいはずよ! ドロシー: って、私は思うけど、自分のことで心がディマイトに毒されてしまったなんて考えたらね。人間さんの気持ちも分かるわ フアナ: ピュルテの故郷に持って帰って、見晴らしのいい丘に植えてあげたい……さっきのアレが人間さんくんの、いまの本音なんだろうね フアナ: こんなときだけど、買い物には行くよ。ちょっと気分転換しないと、あたしまでまいっちゃうし クレア: ん、行こう 238 - 友達だから エミリー: ねぇ、人間さん。ちょっと待ってよぅ エミリー: ちょっと、落ち着こ? それで、エミリーとちょっとだけ、お話して エミリー: …… エミリー: さっきの人間さんが言ったこと、あれ聞いてね、エミリーちょっと思い出しちゃったんだぁ エミリー: 『僕といても、きみは幸せになれない。だから、別れてくれ』 エミリー: ――元カレにね、言われたの エミリー: けっこう本気だったんだよねぇ。これってもう、結婚しちゃうぅ!?くらい、エミリーのなかでは盛り上がってんだけどねぇ エミリー: あーっ、なにその顔。エミリーだってねぇ、ちゃんとおつきあいしたこと、あるんだからねぇ!? エミリー: エミリーを本気にさせちゃうくらい、素敵なイケメンがなかなかいないっていう、それだけなんだよぉ? エミリー: 本気になったら意外と一途だったりするんだからぁ。あー、信じてない顔。ひどいよぅ エミリー: ……ん、やーっと笑ったねぇ。人間さんてば、渋い顔してても、幸せが逃げてっちゃうだけだよぉ? エミリー: じゃあここで問題です。元カレにそんなこと言われて、エミリーはなんて思ったでしょう? エミリー: ちっちっちっちっ エミリー: ぶぶーっ。ちょっと違うかなぁ。正解はねぇ…… エミリー: エミリーの……エミリーの幸せの定義、あなた知ってるの? 幸せになれないって、何を根拠に決めつけてるわけ? エミリー: 別れてくれって、自分ひとりで結論づけないで。それでも幸せにしてみせる、くらい言ってよ。勝手にあきらめちゃわないでよ エミリー: …… エミリー: さっきの人間さんの話を聞いて、ピュルテはどう思ったかなぁ エミリー: それこそ勝手に決めつけるわけにはいかないけどねぇ。でも、忘れないで。お花になっても、意識がどうなってるかわからないんだよぉ? エミリー: さっき人間さんは、お花とは言えピュルテの目の前で、あんなこと口に出したんだからね。花にさせちゃったかも、なんてことより、そこ反省して エミリー: じゃあ戻ろっか。きっとみんな、心配してるよぅ エミリー: はーい、人間さんが戻りましたぁ ティンカー・ベル: あ、うん、いきなり謝ってきたね、人間さん シンデレラ: 気持ちはわかるけど、いきなり出ていっちゃうとみんなも心配するわ ドロシー: ん、そうね。人間さんの言う通りね。戻すのがベストかはさておき、方法は見つけたほうがいいわ ティンカー・ベル: 方法を見つけた上で、どうするか改めて考えるんだね。『できない』と『やらない』じゃ全然違うもんね ヴェルメリオ: ……あ、フアナとクレアは買い物に出かけたよ シンデレラ: ふたりが戻ってきたら、改めて今後の対策を話し合いましょ フアナ: みんな! ドロシー: ああ、噂をすれば クレア: ピンチだよ エミリー: なになに、どうしたのぉ? フアナ: いま町でジャベール警部と会ったんだ。それで、こっそり教えてくれて クレア: もうすぐ、ここに衛兵が来る ドロシー: 衛兵が? 騒動を解決した御礼に、ってわけじゃなさそうね フアナ: 例のシェイクスピアとの一件、あの騒動についての嫌疑が、あたしたちにかけられてるらしい シンデレラ: 嫌疑って、だって、解決したのは私たちじゃないの! フアナ: ディマイトを使ったのがいけなかったのかも…… ヴェルメリオ: ……ううん、そうじゃない気がする。前にも、こういう感じになったし クレア: サミットのときのことだね ドロシー: 今回のことで私たちの素性が割れた可能性はあるわね。だとしたら、捕まえようっていうのもわかる シンデレラ: このシェイクスピアとの対決だって、変な歪んだ解釈をされてるかもしれないわけだし ティンカー・ベル: 逃げよう! ここにいたら、何されるかわかんないよ! フアナ: ……今のところ、追手が来る様子はないね シンデレラ: 今後の方針をゆっくり話し合っている場合じゃなくなったわね。すぐにでも次の行動に移らないと エミリー: それなんだけど、ちょっと探りたいことがあるんだよねぇ ドロシー: 探りたいこと? エミリー: グランド・リヴィジョンのこともそうだし、他にも何か進んでる計画があるかもしれない。だから1回、コミッティに行ってみたい ティンカー・ベル: そんなの、敵の本拠地の真っ只中じゃん! やばいって! エミリー: 行くのはエミリーと、フアナ。他のみんなは危険すぎる シンデレラ: 行ってどうするつもりなの? エミリー: 内々に、委員の誰かに接触できたらいいけど、それはかなり危険だから慎重に進めるね。でも、情報にはアクセスできると思うんだぁ フアナ: 邪装<アビス・コントロール>だって、シェイクスピアの研究情報が残されてると思う。うん、行ってみるのはいいかもね ドロシー: わかった。確かに、大勢で行くのは得策じゃなさそうね ティンカー・ベル: えー……大丈夫なの? 心配なんだけど クレア: ……それが一番いいの? エミリー: うん。エミリーはそう思う シンデレラ: 私たちは陸路で抜け出しましょう。港はおそらく警戒が厳しいわ。あまり整備されてないから道のりは険しいかも知れないけど ヴェルメリオ: ……捕まるよりはいいよね。まず安全な場所に隠れなきゃ ティンカー・ベル: え、ちょっと、人間さん!? あんたもコミッティに行くって、そんな、なに言ってんの!? ドロシー: ピュルテのことで責任を感じてるのはわかるけど、無茶よ シンデレラ: エルマイトが役に立つときが必ず来る……うん、それは、そうかもしれないわ。避難する私たちより、敵地に潜入するふたりの方が、エルマイトを必要とする機会はあると思う ヴェルメリオ: ……でも、姐さん。そんなの危ないの、わかってるでしょ 239 - 覚悟を問う シンデレラ: わかった。人間さんも、コミッティに行ってきて ティンカー・ベル: ちょっと、姐さん!? シンデレラ: それだけ覚悟ができた目をされたらね、私はもう止められないわよ シンデレラ: ただ……最後に確認するわ。その覚悟、本物なのね?確かにあなたはこの世界の救世主よ。でも、ハッキリ言っておくと シンデレラ: 私たちにいま、最も必要なのは情報よ。その意味で、コミッティのふたり、エミリーとフアナの存在価値はとても大きい シンデレラ: あなたに決定的な危機があったとしても、私はふたりに、身を挺してでも守れとは絶対に言わない。それでも、行くのね? ティンカー・ベル: おお、うなずいたぞ、人間さん……この謎の圧のなかで…… ヴェルメリオ: ……プリンセスのスイッチが入った姐さんは、迫力あるからね クレア: たまにしか入らないスイッチだけどね シンデレラ: ちょっと~、クレアってば、せっかくいまキメたとこだったのに フアナ: さすがは大国の君主だね。身を挺して守るかどうかは、あたしが決めることのはずだけど、なんだか言うこと聞きそうになる雰囲気だったよ フアナ: まあ、安心して。あたしが一緒なんだから、みんな無事に戻ってくるよ エミリー: フアナってば、エミリーまでお荷物みたいに言わないでよぅ フアナ: あはは、人間さんくんまで流れでツッコんでるけど、きみは本当にお荷物だよ?持っていると、とても勇気をくれるお荷物だけど ヴェルメリオ: ……本当に、気をつけてね、人間さん ドロシー: それと、さすがにピュルテは私たちが預かるわね。何かあっても大変だし ティンカー・ベル: だいぶ日も傾いてきたけど……どうする? エミリー: 郊外に、小さな漁港があるの。エミリーたちはそこから船に乗って、移動するつもり フアナ: ずいぶん手際がいいんだね エミリー: 今回のことがどうなるにしても、コミッティのことは考えてたからねぇ。だから、下調べしてもらってたんだぁ ドロシー: お互いに、町を抜けるなら夜の方がいいわ。深夜になるまでどこかで隠れてましょう ティンカー・ベル: 人間さん、調子はどう……って、うわっ。明かりくらいつけなよ ヴェルメリオ: ……人間さん。せっかくシャルルの教会にかくまってもらえたんだから、ちょっと休まないと ティンカー・ベル: まあ、寝らんないけどね。こんなテンションじゃ。なに、ピュルテと話してたの? あー、いろいろ案内してくれるとか言ってたよね ヴェルメリオ: ……ピュルテにとっては懐かしい場所だもんね。こんなことがなければ、本当にいい町なんだけど ティンカー・ベル: 人間さんと新婚生活するなら、こんな町がいいなー、とか思っちゃってたり? ヴェルメリオ: ……や、やめてよ。ティンカってば ヴェルメリオ: ……ピュルテだって、聞いてるのに ティンカー・ベル: それもそっか。ん? なに、人間さん。結婚がどうしたって? ヴェルメリオ: ……なんでもないとか言われても、気になるよ ティンカー・ベル: さっきね、みんなと話してたんだ。まずやっぱり、ピュルテのこと、みんなで守るのが最優先だよねって ヴェルメリオ: ……ヴェルザームの残りを集めるのも大事だけど ティンカー・ベル: それはピュルテのことに、ちょっと答えとか出てからでもいいかなって ヴェルメリオ: ……いまのピュルテが、お花として、だとしても元気でいてほしいでしょ ティンカー・ベル: だからお花の専門家に見てもらおうって……え、なに、どしたの ヴェルメリオ: ……そっか。オトギノクニに来てから、ずっと一緒だったんだよね ティンカー・ベル: なんなら人間界から、って感じだもんね。それからずっと一緒で……今回、初めて別行動になるわけだし、まあ感傷的にもなるか ヴェルメリオ: ……ちょっと妬けるけど ヴェルメリオ: ……え、わたしたちと離れてたとき? ティンカー・ベル: 雪の国で暴発した後ね。へー、そんなにヘコんでたんだ ヴェルメリオ: ……そ、そっか。うん、やっぱり離れるのは寂しい ヴェルメリオ: ……どうしよう、わたしまでなんだか、寂しくなって、ちょっと、泣きそうになっちゃう ティンカー・ベル: ずーきーん。またすぐ会える。だから笑顔でいいの。ね? ドロシー: それじゃあみんな、準備はいいわね クレア: シャルルにお別れ、言えなかった エミリー: また来ればいいんだよぅ。いまは、できるだけシャルルを巻きみたくないし フアナ: じゃあまず、あたしたちから出ていく。みんなも、時間差で行動するんだよ シンデレラ: ええ。大勢で一斉に動くと目立つからね。ヴェル、迷子にならないでよ ドロシー: 大丈夫。私が一緒にいるわ フアナ: じゃあ行こうか、人間さんくん (背景切換...) ティンカー・ベル: ん、こっちの道を右だったよね。さすがにこれだけ夜中だと、明かりはちょっとついてても、町に人の気配がしないね クレア: 人間さん、大丈夫かな ティンカー・ベル: 情緒不安定気味だって話? そりゃ、ピュルテのことは、ティンカだって胸がざわざわしちゃうもんね ティンカー・ベル: 自分がなんとかしたいって思いが強いのは、当然だし……必ずしも、悪いことじゃないと思うから クレア: うん。エミリーとフアナも一緒だもんね ティンカー・ベル: そういうこと。けど、人間さんが言ってたことも考えさせられちゃうなぁ クレア: 戻さないほうがいいとかって話? ティンカー・ベル: ピュルテのことに限らずさ、良かれと思ってやったこと、正しいと信じてやったことが、裏目に出ちゃうっていうかさ ティンカー・ベル: 実は最初っから間違いでしたー、なんてことはあるわけじゃん? ティンカー・ベル: いいことしてるつもりで、すごく悪いことしちゃってて、それに気づけないとしたら……怖いなって クレア: 相手がそうだったら、それもまた怖いね ティンカー・ベル: そうだね。間違ってるのに、全然、説得しても聞いてくれないとかね クレア: でも、考えだしたらキリがないから クレア: 私は、ワガママでいることにする ティンカー・ベル: ワガママ? クレア: ピュルテが戻りたくなくても関係ない。私がピュルテに会いたい。だから絶対、元に戻すよ ティンカー・ベル: ん、そうだね。ワガママって自覚してさえいれば、ティンカもそれでいい気がする 240 - 動き出す政局 ゲーテ: 以上で、本日の定例会議の議題はすべて審議終了となりました。次回の定例会議は来週水曜日、15日の13時より開始となります。アジェンダは前々日の21時までに事務方よりお送りします アイソーポス副議長: どうかな、この後。もし都合が合えば食事など ジャコヴァ議長: ……。……構わない ヴィルヘルミナ副議長: いいお店があるのよ。いま、秘書に押さえさせるわ ヴィルヘルミナ副議長: ちょっと。いつものところ、個室で3名。至急ね カロラ: あ、あたしも行く! ちゃんとグリムの代表としてっ ヴィルヘルミナ副議長: あなたは警戒する部隊の指揮という仕事があるでしょう カロラ: で、でもっ、ヴィル姉ちゃんっ ヴィルヘルミナ副議長: カロラ。ここは議場よ。控えなさい カロラ: わ、わかったよ…… ペロー: ……政局が、動き出しそうな気配だね ???: ………… ペロー: GR2はこのタイミングしかなかった。グリムはもう手を変えるよ。アイソーポスは見事に失敗したわけだけど……どう見る、この局面 ???: ………… ペロー: ふん、無視か。相変わらず何を考えてるんだか ペロー: とにかく、準備は進めておかないとね。何が起きても対応できるように…… (背景切換...) エミリー: ふぅ。追手は、来てないみたいだねぇ フアナ: 漁港の存在は当局も把握しているはずだから、先回りして人員を配置してる可能性は高いだろうけど エミリー: うん。だからこそ、この道とかまったく検問もしてないんだよねぇ フアナ: ずいぶん余裕みたいだけど、何か隠してる? エミリー: 隠してるってわけじゃないけど……準備はしてあるから フアナ: 誰か協力者がいるんだね。この先のルートのこと話してたとき『下調べしてもらってる』とか、さらっと口走ったようだったけど エミリー: さっすがフアナ。コミッティの一員だけあるねぇ エミリー: 夜が明けてきたねぇ。そろそろかなぁ? フアナ: ようやく種明かしか。ん、伝書鳩……? エミリー: こういう伝書鳩みたいな方法が、意外と傍受もされないし、安全だったりするんだよねぇ フアナ: コミッティに入る前はよく使ってたけど、久しぶりに見たよ エミリー: この先の漁港から海に抜ければ、コミッティの関連施設も近いの。ちょっと荒い海域だし、船も漁船だから揺れると思うけど……人間さん、我慢してね フアナ: あたしにも気遣ってよ。けど、これでますます協力者がいるのが濃厚になってきたね。いつの間に船なんか…… エミリー: あ、いたいた。ほら、あそこに フアナ: え……ははぁ、なるほど フェルディナ: エミリー! ああ、無事だったのね。連絡が途絶え始めてから、レグルス教国内で何か起きてるって聞いて……気が気じゃなかったのよ エミリー: あー、はいはい。ちょっと色々あったんだけど、それは歩きながら説明するから シャルロッテ: エミリー姉さま、よかったですわ。もう、これからこの、うるさくて面倒なのと、ふたりきりじゃなくなることに心底ホッとしますわ フェルディナ: なんですって! フアナ: ……やあ、久しぶり。みんなから経緯を聞いてはいたけど、本当に無事だったんだね。シャルロッテ シャルロッテ: あなたがここにいるということは、フアナ……あなた、アイソーポス副議長の命令に背いた、ということかしら フアナ: あたしがいるだけで、そこまでわかっちゃう? シャルロッテ: レグルス教国の騒動は、以前から進められていたGR2計画の一環でしょう。結果として、見事に人間さんが阻止されたのだと思いますが シャルロッテ: あれは、我がグリム家以上に、アイソーポス副議長が推進していた計画。フアナが人間さんと行動を共にされているということは…… フェルディナ: ということは? なんなのよ。私にもわかるように説明しなさいよ シャルロッテ: ああもう、これだから嫌なんですわ! 1から10まで全部言わないとわからないんですから エミリー: まあまあ、シャル。落ち着いて フアナ: シャルロッテ。あたしは、自分の道を選ぶことにした。だから…… シャルロッテ: 今は、私たちの個人的な話をしている場合ではありませんわ。先を急ぎましょう フアナ: へえ、郊外の漁港だなんていうから、もっと辺鄙な場所だと思ってたよ エミリー: ふっふーん、それには秘密があるんだよぅ。ここは漁港じゃないんだよねぇ フェルディナ: 漁港は警戒されているわ。けど、この町の金持ちだけが使う、クルーザー用の波止場があるのよ シャルロッテ: そこに漁船を隠しているのですわ エミリー: 漁港からここまでは船で1時間くらい。目的地までの航路はほぼいっしょ。盲点を突いてるはずだよぅ フアナ: あ……そっか。そうだね、みんな、ここにいるのってコミッティなんだね。人間さんくん以外は フェルディナ: なによ急に シャルロッテ: ああ、1時間、ですわね。人間さんにも、そのあたりのことはおいおい―― 子供: ふああああああん! エミリー: あれ、大丈夫かなぁ、ぼく? ずいぶん派手に転んじゃったねぇ フアナ: 膝をすりむいてるね。えーと、何か手当てするものがあったかな エミリー: え、人間さんのエルマイトで? でもピュルテみたいに媒介できないから シャルロッテ: なら、私に触れてください。回復魔法を使えばいいのですわ フアナ: ああ、まあそうか。普通に魔法で…… 子供: わあ……なんか、あったかい。傷も、治ってく! シャルロッテ: これが人間さんのエルマイト……。普通のそれよりも、すごく強い波動を感じるのですね 母親: ちょっと! 何してるんですか! フアナ: あ、いや、怪しいものじゃないんだ。この子が転んでしまったから 母親: 放して、触らないでください! フェルディナ: ちょっと、何よその態度。失礼にもほどがあるでしょう 母親: 余計なことを……! それ、今のエルマイトでしょう シャルロッテ: え……? エルマイトだったら、なんだというのです 母親: ……では、これで フェルディナ: な、なにあれ! 御礼も言わない、謝りもしない、最低な母親ね! 241 - エルマイトの価値 フアナ: なんだか、妙な雰囲気の町じゃないか? フェルディナ: ええ、そうね! あんな非常識がうろついてるなんて、ろくな教育を受けてないのよ、きっと エミリー: 確かにさっきのお母さんはカンジ悪かったけど、あの人がどうこうっていうより、なんだろう……ちょっと空気が淀んでるというか シャルロッテ: エミリー姉さま。あれ、ご覧になって 商人: さあ、お手にとって見て下さい。この質感、わかります? 高級感が感じられますよね。なんとこれが自動で設定されるという最新の技術が使われていましてですね フェルディナ: なによ、最近見るようになった映像スフィアでしょ。目新しくもないわ シャルロッテ: いえ、そこではなくて、あの動力装置の部分です 商人: そしてこれ、なんとスフィア単独で稼働できましてですね、まる1日つけっぱなしにできちゃうんです。その秘密を特別にお教えしますと、こちらの動力装置! 商人: 最新鋭のディマイト電源を使用しているんです! この最新ディマイト式の映像スフィアが、ラックと記録スフィアをセットにして99800ゴールド! フェルディナ: 安いわね! シャルロッテ: そこでもありませんわ! 本当に頭がすっからかんなんですの!? エミリー: ディマイト式の、電源装置……? シャルロッテ: そう、それですわ。闇では相当量が流通しています。それは当然、私たちグリム家が意図的に流しているものですが…… フェルディナ: そ、そうよ! 天空神殿が支配しているのに、こんなに堂々とディマイト式を販売できるはずがないわ フアナ: 寂れた町の裏路地ならともかく、こんな都会の広場でそんなこと…… 通行人1: いいなあ、買おうかなぁ 通行人2: だってディマイトだもん。今の、うちにあるのってエルマイト式でしょ 商人: あ、エルマイト式でしたら下取りで更に5000ゴールドお得になりますよ フアナ: なんだ……? エルマイトより、ディマイトが……評価されている……? フェルディナ: ちょ、ちょっと、あんたたち。その動力装置、ディマイトなのよ! 通行人1: ええ、だからいいなって フェルディナ: ディマイトよ!? 私が言うのもなんだけど、いいわけないでしょう? 通行人2: あ、もしかして田舎の人なんじゃない? 通行人1: 情報が少ない田舎だと知られてないかもだけど、実はディマイトの方が安全で優秀な動力だって言われてるんですよ フェルディナ: はああ? エミリー: シャル、これってもしかして シャルロッテ: ええ、おそらくは フェルディナ: 何よ、エミリーってば! なんで私とは目を合わせてくれないわけ!? エミリー: え、だって分かんないかなって フアナ: あたしも分かんないよ エミリー: ごめんね、フアナ。ちゃんと説明しないとね シャルロッテ: これはグリム家の計画ですわ。ディマイトが排除されているのが、あたかも陰謀だったかのように風説を流布する…… エミリー: 既得権益を守るために、一部の権力者が情報操作していた……っていう、情報操作をしてるんだよぅ フェルディナ: え、なに、操作の、操作で、わかんなくなってきたわ 衛兵: ……ん? おい、そこの。なんか見た顔だな…… フアナ: しまった……! え、えっとね、その、なんていうか 衛兵: その男……まさか、手配中の…… エミリー: ダメだぁ! 気づかれちゃったよぅ! フェルディナ: ったく、しょうがないわね! 波止場まで一気に走るわよ! 衛兵: 不審者が逃げたぞ! ???: なにーっ!? 不審者だとっ! あたしがとっ捕まえてやる! シャルロッテ: え、あ、あれは フェルディナ: シャル! 振り向いてる余裕なんてないわよ! ほら、みんな、あそこに留めてある船よ。飛び乗って! ???: あれはシャル!? そうか、人質になってるんだな! くそっ、絶対に逃さないぞっ! おまえたち、追えっ、魔物を使ってもいい! フアナ: 早く、船を出して! もう来ちゃうよ! フェルディナ: いまやってるんだってば! くっ、早く、動きなさいってば! よし、動いたわ! エミリー: よかったぁ、この距離なら逃げ切れるよねぇ ???: させるかぁあああぁぁぁっ!! フアナ: ええええっ、この距離をジャンプして……!? (背景切換...) シャルロッテ: 船はなんとか出せましたけど……ひとりだけ、乗ってきちゃいましたわね ???: よかった、シャル。無事だったんだな。可愛いシャルを人質に取るとは、卑怯なクソ野郎! 覚悟しやがれ! エミリー: ま、待って。よく周りを見てよぅ ???: は? あ、エミリー。と、フェルディナと、フアナ……あ? なんだこれ。どうなってんだ フアナ: えっと、人間さんくんに改めて紹介しようか エミリー: エミリーたちのお姉ちゃんで、インペリウム・コミッティ第3号委員、カロラ・グリムだよ カロラ: え、おい。なんでおまえたちが、この人間の男と一緒にいるんだよ。まあいい、とにかく全員しょっぴいてやる! エミリー: どうやって? シャルロッテ: カロラ姉さま。ここは海のど真ん中ですのよ。船には、驚きのジャンプ力で飛び乗ったカロラ姉さまだけ。配下は港に置いていかれてますわ カロラ: お、おお、おおお……? こ、これってもしかして、完全アウェイってやつじゃねーか? フェルディナ: もしかしなくても、そのとおりよ カロラ: ……しょっぴかれてんのは、あたしか。え、この船、どこに向かってんだ シャルロッテ: そう言えば、私も行き先についてお伺いしてませんでしたわ フェルディナ: エミリー、どこに向かえばいいの? エミリー: 行き先は、エイヴォン研究所 フアナ: シェイクスピアの作品が並ぶ、魔窟―― 242 - ”魔窟”エイヴォン研究所 フアナ: さて、と。だいぶ沖合に出たし、いよいよ援軍は期待できない状況だけど、どうする? カロラ カロラ: こうなっちまったら、しょうがないだろ。おとなしく人質になってやるよ。全然、状況が見えないんだけどな エミリー: ま、そのへんはおいおいね。とりあえず……カロラ、久しぶり カロラ: ったく、何やってんだよ。いつもどおりサボりだと思ってたのに、まさかこの男に味方してるとはな。なんだ、惚れたのか? エミリー: ううん、全然そういうんじゃないよ。ただ、友達が……いっぱい、できたんだよねぇ フェルディナ: この機会だから、そのあたりじっくり聞きたいわ。私のこと裏切って! カロラ: それはこっちのセリフだろ。勝手に行動して、コミッティの資材まで使い込んで フェルディナ: うっ、だって……! カロラ: それよりシャルだよ~!! うーっ、よかったぁ! 本当にもう、生きてはいないんだって覚悟してたんだから! シャルロッテ: な、ちょっと、カロラ姉さま! スキンシップが過ぎますわ! ここは家族だけの場じゃありませんわよ! カロラ: もう、人間さんに加担してるとか、どこに向かってんだとか、言いたいことは色々あるけど、シャルが無事って分かっただけで、あたしは満足だよ シャルロッテ: カロラ姉さま…… カロラ: シャルだけじゃないよ。エミリーは指名手配リストに載りかけたし、フェルディナもどこかで野垂れ死んでるんじゃないかって、心配だったんだ フアナ: なんだかんだ、カロラはいいお姉ちゃんしてるよね。こんなに心配してくれる家族がいるって、幸せなことだよ エミリー: あれ、待って。載りかけたって……エミリーは指名手配されてないのぉ? カロラ: そりゃ姉ちゃんたちが握りつぶしたに決まってんじゃん フェルディナ: ほんっと、エミリーはいっつもヴィル姉さんに可愛がられてたものね エミリー: 実際、可愛いからしょうがないねぇ フアナ: はー、よく言うなあ。え、なに、人間さんくんはカロラのことをよく知らない? エミリー: 純粋な意味での『作家』じゃないし、人間界では知られてないのかなぁ カロラ: だと思うよ。固有エルマイトは、フェルディナ以下だからね、あたし フアナ: っと、そろそろ目的地が見えてきたよ。それじゃ、行こうか。魔窟へ―― フェルディナ: 森の草木が生い茂って、天然の迷彩って感じね エミリー: しばらく使われてないのかなぁ。桟橋からの道も荒れ放題だけど フアナ: ここしばらくはずっと、シェイクスピアがひとりで使ってたはずだよ。清掃する職員もいなければ、こうなるよ カロラ: あのシェイクスピアが、自分で草刈りなんかするわけないもんなぁ シャルロッテ: こんなところにひとりぼっちだなんて、どうにかなりそうですわね エミリー: 実際、どうにかなった感じの人だからねぇ シャルロッテ: それで、エイヴォン研究所で何を探すつもりなんです? まだ、詳しいところはお聞きしてませんでしたわ エミリー: 情報、つまり資料探しがメインだよ。ターゲットは、GR2、それに新たなディマイト拡散計画も進めてるはずだから カロラ: おーおー、あたしの前で堂々と言ってくれちゃって フアナ: 絶対に逃さないっていう意志の表れ、と思ってくれればいいんじゃないかな フェルディナ: そもそも現役のコミッティに聞くのが一番早いんじゃないの? シャル、あなたからお願いしてみなさいよ シャルロッテ: カロラ姉さまが、コミッティの政策なんか把握してるわけ、ないじゃありませんか カロラ: そのとおりだよ! GR2とかもちょくちょく耳にはするけど、なんのことだかさっぱりだもん! フェルディナ: 胸張って言うことじゃないでしょうが フアナ: やっぱりここは、地道に資料探しをするしかなさそうだね エミリー: それじゃ施設の中に入るよぅ。気をつけてねぇ フェルディナ: ここがエイヴォン研究所……なかなかな建物じゃないの フアナ: 中にも、やっぱり誰もいないみたいだね シャルロッテ: なんだか不気味な雰囲気ですわね……きゃっ!? シャルロッテ: あ、失礼しました、人間さん。あんなところに魔物が容器に入っていたので、つい驚いてしまって エミリー: うわぁ、悪趣味だねぇ フェルディナ: 魔物を捕獲して実験材料にしていたのね。なんか、透明な入れ物に入ってるけど……あれってまだ動くのかしら フアナ: フラグ立てるのやめてよ! フェルディナ: 何がよ!? シャルロッテ: あら……この先はセキュリティレベルが上がりますわよ フアナ: このセキュリティ装置はね、人間さんくん。特定のIDをタッチしないと開かない設計なんだ。もちろんあたしたちはコミッティ、最高権限が与えられてるけど エミリー: うかつにそんなの使ったら、すぐ居場所がばれちゃうんだよねぇ フアナ: 誰が、何時に、っていう情報がすぐ記録されて、コミッティ本部に届く仕組みになってるんだよ。だから、戦死扱いになってるシャルが通ったら大騒ぎになる カロラ: フェルディナも行方不明扱い、エミリーとフアナは敵方についてる。みんな、記録が飛べば、その時点でおかしいと思われるんだよ カロラ: ほら、もう詰んでるんじゃない? みんな、変な探検は諦めて……って、え、なんだよ。なんでみんなしてあたしのこと見てるんだよ エミリー: 予定では、フアナはまだ大丈夫じゃないか、って思ってたんだけど フェルディナ: 適任がここにいたわね カロラ: あ、ちょ、あたしのID使うのかよっ!? こんなとこにあたしが来るのもおかしいって、姉ちゃんたち絶対気付くぞ! シャルロッテ: 一次情報に接するのは末端の職員ですわ。死んだはずの私ならともかく、現役コミッティがアクセスしたところで、誰も気に留めませんわよ エミリー: ね、タッチすると扉の横のモニターに、入退室の記録が表示されるんだよぅ。これがいまの時刻 フアナ: ふう……これで最初のセキュリティは突破できたね。あとは、たぶんこの先の情報アクセスとかにも…… エミリー: フアナ、危ない! フアナ: ……っ!? こ、こいつ、さっき容器に入って浮いてた魔物!? シャルロッテ: 動き出してしまったのですわ。フラグを立てた誰かさんが、責任持って処理するべきですわね フェルディナ: 私のせいだっていうの!? 243 - 恨みつらみ カロラ: 人間さん、おまえには無理だ。ここはあたしに、まかせときな カロラ: はあああぁぁっ!! フェルディナ: 一撃……さすが腕力には定評のあるカロラ姉さん…… カロラ: 見りゃなんとなくわかるだろ。今の魔物はディマイトじゃない、エルマイトで暴走してんだ。おまえがしゃしゃり出たところで、かえって手こずるだけだ フアナ: どうしたの、人間さんくん。ん? まあ、エルマイトだってディマイトと同じエネルギーなんだからね。過剰摂取して暴走することはあると思うよ エミリー: 暴走するのはディマイトだけかと思ってたのぅ? まあ、いまのオトギノクニはそっちが多いからねぇ カロラ: 表裏一体、バランスを崩したことが暴走の原因。どっちもあり得る話だろ エミリー: あ……人間さん……? フェルディナ: それで? 情報とか資料とか……なんだっけ、GR2? シャルロッテ: あら、珍しくちゃんと話を聞いていたようですわね エミリー: 直近の動向とか全然わかんないんだけどさ、GR2って誰が進めてる施策なの? フアナ: 急先鋒はアイソーポスさんだよね。グリムのトップ2人は正直、前ほど意欲的とは思えない エミリー: 損得勘定で言えば、新しいディマイト拡散作戦の方にシフトしてるんだろうねぇ。あの人達、思想とかで動かないから フェルディナ: コミッティのメンバーと言えばあいつよ! ペロー! まだ、のうのうと議場に顔出してるわけ!? カロラ: え、なんだよ。ペローがどうかしたのか? フェルディナ: 私を陥れたのはあいつなのよ! 口先で、あたしがコミッティのトップを張れるなんて言いくるめて、いいように使って! エミリー: どう言われたか知らないけど、フェルディナがトップになる可能性なんて0%だって自覚しておいてほしいなぁ シャルロッテ: フェル姉さまが迂闊なのは事実ですけど、ペローが私たちを謀っているのも、また事実ですわ! カロラ: 本当か!? じゃあ、まさかシャルの墜落も シャルロッテ: ペローの仕業ですわ! あの女は、まだ何か企んでいるはずです……! カロラ: そうか……なんとなく調子ばかり良くて信用ならないとは思ってたけど、まさかそこまでのことを…… フアナ: あたしも、ペローがそこまで動いてたとは思わなかったね エミリー: 前から嫌いだったけど、この話を聞いたらもう、再会した瞬間に手が出ちゃいそうだよぅ! (背景切換...) シャルロッテ: どうやらここが資料室のようですわ フェルディナ: なんなのよ、このだだっ広い施設は。ちょっと研究するだけで、こんなにスペース必要? フアナ: つまり、ちょっとじゃないんだろう。研究の規模がね エミリー: にしても、この資料室もまたおっきいねぇ。図書館みたいだよぅ フアナ: もう結構いい時間になってるし、今日は休んで明日からまた切り替えてがんばって資料探しをしようか シャルロッテ: そうですわね。私が持ってきた袋の中に携行食が入ってますから、夕食といたしましょう フアナ: 何もそんなの食べなくても、何か作れるんじゃないかな カロラ: おー、ほんとか? なんか作ってくれるんなら嬉しいな。やっぱりメシはちゃんとあったかいの食べたいんだよな エミリー: 今後、何があるかわかんないし……そういう意味でも、携行食が節約できるなら、そっちのがいいもんねぇ フアナ: 少し前まで、寝泊まりして働いていた職員がそこそこいたはずだからね。まだいくらか食料はあると思うんだ エミリー: その言い方、もしかしてフアナって料理できる感じ? フアナ: ヴェルみたいにしっかりした本格的なものじゃないけど、簡単なものならできるよ エミリー: 助かるぅ。エミリーはそういうの、あんまりだから カロラ: 同じく! シャルロッテ: お菓子なら得意なんですのよ。マフィンとか、スコーンとか フェルディナ: しょうがないわね。じゃあ、私が手伝ってあげるわ エミリー: 人間さんがすっごい意外そうな反応してるけど フェルディナ: 失礼ね! じゃあ、あなたも来なさいよ。ちゃんとそばで私の腕を見届けておきなさい! フアナ: 思った以上に食材が残ってたね フェルディナ: そうね。これなら結構ちゃんとしたものが作れるわ フアナ: ん? なんだい、人間さんくん。手際がいい? フェルディナ: 当たり前でしょ。だらだらやってると光熱費がかかるのよ フアナ: それ、すごくシンパシーを感じるんだけどさ、フェルディナはあのグリム家の一員じゃないか。経済的な苦労なんかしてないんじゃないの フェルディナ: 私の割り当てなんて少なかったもの。姉妹のなかで実績も低いし、可愛がられてもなかったから フアナ: そっか。ああ、人間さんくんに分かるように言うとね。エルマイトの割り当て、ってことだよ フェルディナ: あなた、意外と知らないことが多いのね。実際は、エルマイトだけじゃなくて現金も分配されて……まあ、いいわ。とりあえず今は、ほら、味見 フェルディナ: ああ、熱いから冷ましてからね。ふーっ、ふーっ。はい、味見して フェルディナ: なに顔赤くして硬直してんのよ。冷ましたんだから大丈夫よ フアナ: 目の前でふーふーする破壊力、自覚しないでやってんだ、この人 フェルディナ: もう少し塩気がほしい? わかった、じゃあ、このくらいね……このまま弱火で30分…… フアナ: ああ、フェルディナのそれはコミッティに入ったときに支給される、専用の懐中時計だよ フアナ: 名前の刻印入りで、改選後も返還義務がないから歴代のコミッティは記念に持ってると思うよ フェルディナ: へー、そうなの。改選とは縁がないから知らなかったわ フアナ: 人間さんくんも、うすうす気付いてると思うんだけど……一部の例外を除いて、このオトギノクニでは時間という概念がないんだ フェルディナ: そう。だから時計もないわ。あるとしたらシンデレラの魔法の国にある大時計とか、ああいう『意味のある』場所にしかないの フェルディナ: この『時間』はコミッティにだけ与えられた特権――ひいては、グランド・リヴィジョンに繋がるものだと言われてるわ フアナ: 人間界にはあるんだよね。ずっと不便だっただろうけど……え、時間に縛られずに済むから逆に良かった? フェルディナ: ふうん、そういう感覚なのね。さてと、ほら、そろそろ食器出しなさいよ 244 - カロラの代表作 シャルロッテ: フェル姉さまのエルマイトの割り当てが少ない理由? そんなもの、聞くまでもないと思いますけど。能力に応じてですわ フェルディナ: 身も蓋もない言い方しないでよ! 私だっていろいろ貢献してるはずよ シャルロッテ: これといって実績もないと思いますけど フェルディナ: そ、それはシャルだって同じじゃない! フアナ: あーあ、食後すぐにケンカし始めちゃったよ エミリー: あ、人間さん。ほっといていいからね。でも実際シャルの言ってることの半分は本当だよ エミリー: 実績以外に、シャルとかエミリーはお姉ちゃんたちに可愛がられてたから優遇されたりとかはあるけど フアナ: というと、配分はジャコヴァが全部決めてたの? グリム家内部のことはあたしも知らないからさ カロラ: ジャー姉ちゃんは『いい』か『だめ』しか言わないから、具体的な数値はヴィル姉ちゃんが決めてたな フアナ: ふーん……ねえ、これ気に障ったら悪いんだけどさ エミリー: んー? なぁに、急に改まって フアナ: エミリーは挿絵担当として作品が多いのは知ってるけど、フェルディナもシャルロッテも、一応ちゃんと作品がある作家だよね フアナ: 姉二人に比べたら差があるのは分かるけど、6人で一番実績が無いのってカロラなんじゃないの? なんかわりと優遇されてるイメージなんだけど カロラ: おっ、そういうこと言っちゃうのか! まあ、あたしはコミッティでは昼寝してるだけだもんな シャルロッテ: そういうことを堂々と言うもんじゃありませんわ フェルディナ: カロラ姉さんの代表作を知らないのね。びっくりするわよ フアナ: え? でも作家じゃないって…… カロラ: あたしの代表作は『複式簿記入門』……こう見えても、数字には強いんだ カロラ: そして、グランド・リヴィジョン前のグリム家を支えた、『エルマイト・トレード』を開発したのも、このあたし フアナ: エルマイト・トレード……! カロラ: どうだ、まいったか! エミリー: エルマイトってね、世界からみんなに自然と供給されるだけじゃないの。『作家』だけは自分のエルマイトを、配分することができるんだよねぇ シャルロッテ: 『作品』から『作品』への受け渡しはできない、必ず『作家』を通す必要がある。ルールはそれだけ、いたってシンプルですわ フアナ: だからあたしは、自分の『作品』の子たちでも貧しい子たちには、自分のエルマイトを分けてあげてたんだ。手元にあってもどうしようもないと思ってたから カロラ: みんな親心でね、そうやってフアナみたいに、世界からの割り当てが少ない子をフォローしてたんだ。でも、そこであたしは気付いた カロラ: 『作家』から『作品』へエルマイトを受け渡すことができる。ただしこれは、自作に限らない フアナ: そんなことして何になるんだ、って思うよね エミリー: 思い浮かべてみて。貧しい子が、グリムからエルマイトをプレゼントされて普通の生活ができるようになるんだよぅ フェルディナ: そしてある日、何か決断が必要なとき、グリムに従わないなら供給停止すると言われるの カロラ: 帳簿上は元に戻るだけ、一時的なプラスがあったんだから、ポジティブに捉えられるものだよね。けど、精神的には違う シャルロッテ: 一度味わった『普通』を手放す勇気を持つことは、とても難しいものですわ フェルディナ: 本当にこれは、上の姉さんたちも思いつかなかった悪魔のような発想よ カロラ: なんか悪口に聞こえるぞ エミリー: カロラは数字に強いって言っても、見た目どおり理屈で考えるのは苦手なの。直感的に数字的なところを言い当てる才能があるんだよねぇ カロラ: それもちょっと悪口に聞こえるぞ シャルロッテ: でも、金庫番らしく、締めるべきところは本当に冷たくシビアですわ カロラ: 妹には甘いつもりなんだけどなー フアナ: あたしもコミッティに入るまでは知らなかった……それが、グランド・リヴィジョンまで続いた、グリム家の一強支配の仕組みってわけ カロラ: で、その『エルマイト・トレード』をあたしが考案した手柄で、前までは本当にけっこうエルマイトもらってたんだ フェルディナ: 言うことを聞かせるっていうのは政治的な意味だけじゃないわ。物々交換の原資にすることもできる。間接的に現金資産にも変えられるの エミリー: あの後、ヴィルとかがいっぱい『編纂』したのも、トレードが理由でしょ? カロラ: さあ、そのへんはあたしもよく知らないけど フアナ: 昔、シャルロッテに『もったいない』って言われたっけ シャルロッテ: 私? 何か言いましたっけ? フアナ: エルマイトなんて手元にあっても仕方ないと思ってたから、みんな『作品』の子たちに分けちゃったって話したら シャルロッテ: ああ、言ったかもしれませんわね。だってフアナは、自分も貧しかったのでしょう? フアナ: どうしてこんなに、それこそアイソーポスさんが気にするぐらい、グリム一強なんだろうって思ってたけど、そういうことだったんだよね フアナ: でも、その仕組をカロラが作ったなんてことは、初耳だよ カロラ: な、すごいだろ? 特にそこの人間さん。あたしのこと、最初バカだと思ってたよな。見直したか? エミリー: 天才だけど、どっちかっていうとおバカなのは本当だよ カロラ: そこ、聞こえてるからな! シャルロッテ: ただ、それも……グランド・リヴィジョンが起きるまで、でしたわ カロラ: ああ、そうだな フアナ: グランド・リヴィジョンって結局、何があったの? エミリー: それを調べるためにここに来たんだよぅ カロラ: ひとつ確かなことは、あれを機に変わっちまったんだ。エルマイトが、世界から供給される経路がね シャルロッテ: どういう理屈だったのかは私には分かりませんが、グランド・リヴィジョン以前は確かにエルマイトの供給量に差がありましたわ エミリー: たぶんその差が少なくなるように均されたんじゃないかと思うんだよねぇ フアナ: あ、そうかも……! 少なかった子も、いまは最低限なんとかしていけるくらいには入ってきてたはず…… エミリー: それがいいことなのかは、まだわかんないけどねぇ 245 - 自身の価値 フアナ: このあたりの資料は……うん、オトギノクニの歴史に関しての考察、か。グランド・リヴィジョンのことが載ってるかもしれないな エミリー: エミリーたちもさ、コミッティなんて偉そうにしてるけど、こういうお勉強とかしてきたわけじゃないからねぇ フアナ: 知る権利があっても、必要なければ使わないからね。この施設だって、別に前から出入り自由だったのに、こうして追い込まれなきゃ調べに来なかったわけで エミリー: ちゃんと勉強しとけばよかった~! って思う瞬間だよね フアナ: そうだよね。朝からずっと漁ってるけど、なかなかこれっていうのは見つからないし……はぁ、疲れた フアナ: 気分転換に、フェルディナたちのオフィスのほう、見てくるよ エミリー: 新しい拡散作戦のほうが見つかりやすそうだもんねぇ。もう少ししたらエミリーたちも行くから、ちょっと休憩してお茶しようって伝えといてよぅ フアナ: ほーい、了解 エミリー: ……。……ね、人間さん。ふたりになったから聞くんだけどさ エミリー: はぁ!? エミリーはまじめなお話をしようと思って……。もうっ、エミリーも、いつもそんなことばっかり考えてるわけじゃないんだからねぇ! エミリー: だからほら、昨日の夜からちょっと元気ないかなって思ってたから。エルマイト・トレードの話あたり……何か気になった? エミリー: あ……そっか。エルマイト目当てで近づいてくる子の見え方、だねぇ エミリー: いままでは、まだ何か戦う理由があるんだろうとか思えたけど、変な風に見えちゃうもんね。大丈夫だよ、そんなに広く知られてるものでもないし エミリー: それに話を聞いてわかったと思うけど、定期的に安定供給できてこそ価値があるんだよぅ。人間さんのエルマイトは、そうじゃないでしょ。良くも悪くも エミリー: だから元気だして……っと シャルロッテ: あ……その、ちょうどお茶の用意をしてたところだったので、その エミリー: じゃあエミリーは先に行ってるねぇ。あとは、ごゆっくり♪ シャルロッテ: エミリー姉さまとは、その……何のお話を……。い、いえ、なんでもありませんわ シャルロッテ: その……私も、少しだけお話というか。率直なご意見をお聞かせいただきたくて シャルロッテ: 昨日の話を聞いて、どう思われましたか? もしかするとグリムの所業に、人間さんも呆れるというか、その、距離を取るというか…… シャルロッテ: え、ええ。平たく言うとそうです。引いてしまったのではないかと思って シャルロッテ: ほ、本当ですか!? 私のこと、あ、いえ、グリム家に対して、嫌悪感はお持ちでないのですね。正直……安心致しました シャルロッテ: 思うんです。グリムのあまりの横暴ぶりに、天空神殿はグランド・リヴィジョンを決断したのではないかと。それくらい、好き放題やってましたから シャルロッテ: ……私、これでも作家なんですのよ シャルロッテ: それこそ本来のエルマイト量で言えば、吹けば飛ぶような作家と作品ですけど、一応……ですわ シャルロッテ: 最初は、そんな可愛い自分の作品を守りたい、その一心でしたわ シャルロッテ: なのに……気がつけば、私は名門グリムで実績を作ることに固執していました。初心を忘れてしまっていたのです シャルロッテ: 気づかせてくれたのは……。あなたですわ、人間さん シャルロッテ: 私が逮捕、監禁したあのとき……あなたのその、仲間を売らずに貫き通す姿勢に触れて、私は…… シャルロッテ: 私は、あのとき、変われたのだと思います シャルロッテ: ふふっ、すみません。なんだか重い話をしてしまいました。さあ、お茶にいたしましょう。安物の茶葉でしたけど、いくらか気持ちもやすらぎますから シャルロッテ: ……あの、人間さん。ひとつだけ、お伝えしたいことがあるのです シャルロッテ: ……っ シャルロッテ: ……好きです。愛しています。心より、お慕いしています シャルロッテ: どうしても、お伝えするだけ、したくて。聞いていただいて、ありがとうございました。さあ、参りましょう フアナ: こんなところまで用意されてるなんて、やっぱりコミッティの関連施設って立派だよね カロラ: 特にここは重要施設だから予算もたくさん持ってんだろ。覚えてないけど エミリー: 金庫番のくせに カロラ: 会計やってるからって、いちいち額面まで覚えてるわけねぇだろ。んな、細かいこと考えてたら数字の仕事は進まないの フェルディナ: ……ぁっ、はぁっ、はぁっ! エミリー: フェルディナ、うるさいよぅ フアナ: どしたの、いきなり駆け込んできて。お茶飲めば? カロラ: トイレ行くっつって出てってから遅かったな。大きい方か? フェルディナ: はぁっ、はぁっ、ち、違うわよ! レディになんてこと言うのよ! フェルディナ: ちょっと、あの、すごいとこ見ちゃって、慌てて逃げてきたのよ……っ、はぁ、ふぅっ カロラ: なに、ゴキブリでもいた? シャルロッテ: お待たせしましたわ。さ、人間さん。お茶にしましょう フェルディナ: ……! お、おおお、お先にいただいてるわよ シャルロッテ: え、ええ。それじゃあ…… カロラ: なんだよ、ふたりして遅かったな。シャルと人間さんでイチャついてたのか シャルロッテ: ごほっ!? フェルディナ: げふっ!? シャルロッテ: こほっ、けほけほっ、そ、そんなんじゃありませんわ! フアナ: シャルロッテと人間さんくんはわかるとして、なんでフェルディナまで吹くんだ。汚いな フェルディナ: ……っ、ごほっ、けほっ。ちょっと気管に詰まったのよ、しょうがないでしょ カロラ: あはは、冗談なのに、ふたりともピュアなんだな エミリー: 人間さんはピュアかどうかは怪しいかなぁ カロラ: 妹のことは大事にしてもらわないと。傷物にしたら許さないからな。ちゃんと責任とってもらうぞ シャルロッテ: なんで急に小姑みたいなこと言い出すんです! もう、やめてください、カロラ姉さま 246 - あざといいたずら フェルディナ: ここが、どうやらシェイクスピアの実験場だったみたいなのよ シャルロッテ: 見覚えのあるディマイトアイテムも転がってますわ。どうも試作品のようですけど カロラ: この部屋でたくさん開発してたんだね。いろんな状況に対応できるように、とか言って、種類がとにかく多かったのは覚えてる フアナ: これ、試作品だからか、ちょっと形は違うけど…… エミリー: あ、それ。レグルス教国で使われてたのと同じようなやつだね フェルディナ: なに、人間さん。あ、それ…… シャルロッテ: この小さい粒のようなものは、なんですの? フアナ: ずっと前の定例報告で、開発稟議として資料が回ってきた記憶があるな。これ、確か食べ物なんじゃなかったっけ エミリー: うん、お菓子だね。砂糖を煮詰めたお菓子。エミリーも、シェイクスピアが作ったものでしか見たこと無いんだけど フェルディナ: そうなのよね。オトギノクニであまり見かけないものだから、油断して食べてくれるのか疑問だったの エミリー: あ、そうそう。人間さんも知ってるよね。最初にリルにばらまかせた、あれだよ フェルディナ: そう。あのとき、私はこれを研究所から盗み出して、リルに渡して……あの子のことも騙してしまったわ エミリー: そう言えば人間さんって、リルと付き合ってるんだっけ? シャルロッテ: えっ!? 人間さん、こ、恋人がいらして……!? フアナ: きっ、聞いてないぞ、人間さんくん! そういうこともなんでも話せるのが友達じゃないのか フェルディナ: えっ、そ、そそ、そうなんだ。ふーん、ど、どうでもいいけどね カロラ: お、なんだ、なんだ? 人間さんに恋人がいると、みんなちょっと心穏やかじゃないのか カロラ: なんだよ、人間さん。モテモテじゃんかよ。え、普段まったくそんなことない? カロラ: どうでもいいけど、妹を泣かせたら殺すからな。フェルディナもシャルもあたしの可愛い妹なんだからな エミリー: えー? 違ったっけ。エミリー、勘違いしてたなぁ~。人間さん、ごめーん エミリー: なーんてね。最近ちょっとモテすぎだから、ちょっとだけ意地悪しちゃった♪ べーっだ シャルロッテ: まったくエミリー姉さまったら、そういう天真爛漫を装うあざといところ、本当に変わってませんわね エミリー: うん、あざといってよく言われるねぇ フェルディナ: くっ……本当にあざとい、でもそこが可愛いのよ…… カロラ: フェルディナにないところだしな フアナ: まあ、恋人は嘘にしても……リルが実際にこれを配ってたのは本当だからね フェルディナ: ペローにそそのかされたのよ。真に受けて行動に移した私も、我ながらバカだったと思うけど シャルロッテ: ペローは、何が目的なのかしら……私なんて、明確に殺意を向けられたのですから、何か恨みがあるのでしょうね フアナ: 恨みとは限らないよ。ただ、邪魔なだけかもしれない カロラ: そっちのが冷酷だよなあ エミリー: え? 人間さん、このお菓子知ってるの? うん、カラフルでキレイだよねぇ。そうなんだ、人間界にはあるんだね フアナ: そうだね、このコンベアにのって、ほら、あそこにある装置、あれがディマイト散布装置だと思うよ。あそこでお菓子にディマイトを付けてるんだ フェルディナ: じゃあここにあるお菓子は安全ってことね。もらっていこうかしら シャルロッテ: もう、フェル姉さまは本当に貧乏性……って、人間さんも持っていきたいのですか? 懐かしいから、ですか エミリー: まあ、いいんじゃない? お腹壊すようなものでもないだろうし フアナ: ちなみにこれ、人間界ではなんて…… フアナ: ――っ!? 人間さんくん、うしろ! フェルディナ: くっ、暴走してる魔物が、まだいたなんて! シェイクスピアのやつ、施設管理がなってないのよ! シャルロッテ: 人間さん、下がっていてくださいませ。ここは私たちが カロラ: でも今度はディマイトで暴走してる魔物みたいだぞ。せっかくだから、人間さんのお手並みも見せてくれよ フアナ: よし、じゃあ一気に片付けるよ! フアナ: ふう、みんなのおかげで、さっさと片付いたね。この5人の友情の証、って感じかな カロラ: あたしまで友達だっていうのかよ フアナ: ん? あ、そうか! ごめん、あたしとしたことが。はいこれ カロラ: なんだこれ。ずしっとくるな。武器か? シャルロッテ: 自叙伝ですわ。武器かどうかと言えば、武器ですわ カロラ: いらねーよ! フアナ: 気が付かなくてごめんね。コミッティは友達に数えないようにしてたから。でももう、いいよね シャルロッテ: フアナ…… フアナ: ちょうど昨日の出来事を追記し終わったとこなんだ カロラ: 自叙伝ってそんなペースで更新するものじゃないだろ! いや、だから、要らないって! 押し付けんな! フェルディナ: 押しが強すぎるでしょ…… カロラ: そうじゃなくて、馴れ合うつもりはないって言ってんの カロラ: 行きがかり上、協力してるだけだからな。それも、妹たちが可愛いから許してるだけで フェルディナ: ねえ、ちょっと! ここ見て。これ、隠し扉じゃない? シャルロッテ: 本当ですわ! こんなところに……。開けてみましょう エミリー: 機密資料持ち出し禁止……うん、怪しくてそれっぽい張り紙まで出てきたよ。 フェルディナ: ふふん、私のお手柄ね。溢れ出る才能よ シャルロッテ: そうやってすぐ調子に乗る フアナ: とにかく前に進もう。っと、またIDでロックされてる。カロラ、来て カロラ: ったく、たったいま仕方なく協力してるって話したところなのに、人使いが荒いな エミリー: え、待って! フアナ: なんだ、どうしたの、エミリー カロラ: あ、いや、いまの仕方なくってのはフアナと人間さんに言っただけで、エミリーは気にしなくていいんだからな エミリー: そうじゃなくて……そこ、見て フェルディナ: 入退室記録の表示? それがどうかしたの? フアナ: え……これ、どうして!? そんなバカな シャルロッテ: 『入室 8号委員 シェイクスピア』――…… エミリー: 入室時間は、だいたい1時間くらい前…… フアナ: 退室記録は、ないね 247 - 流入する技術 フアナ: 中は……真っ暗だね。 フェルディナ: シェイクスピアは? 中にいるの? シャルロッテ: フアナがいま真っ暗だと言ったでしょう。見えるわけありませんわ エミリー: えっと、照明のスイッチがあるはずだけど…… カロラ: あっ、おい、あたしの変なとこさわったの誰だ! エミリー: あれぇ? あ、これがスイッチかなぁ? (背景切換...) フアナ: あ、ついた……って、うわあ、すごいなこれ フェルディナ: 何なのこれ。鉄の塊がずっと壁一面に並んでるわ カロラ: あたしも詳しくは知らないけど、研究用の機材だって聞いたな エミリー: 人間界でも見たことない? 人間さんが言うなら、そうなんだねぇ フアナ: いろいろと技術革新は進んでいるとは言え、これはまだオトギノクニに存在するはずのない技術なんじゃないかな カロラ: グランド・リヴィジョンより後になると、人間界の知識だの技術だの、これでもかってほど流れ込んでるけどな エミリー: それにしたって、そんなのとは比べ物にならないよぉ。見たことないもん。え、でも触れそう? 本当? シャルロッテ: さすがですわ。人間さんがいてくれて助かります フアナ: 人間さんくんはこういうの得意なの? え、普通? でも、あたしたちよりはきっとうまくやれそうな気がするね カロラ: こういう技術を管理してるのはジャー姉ちゃんか、天空神殿かのどっちかだろ? あたしらコミッティでも見当もつかないもんな エミリー: あっ、一応なんか動いてるよぅ! やるじゃん、人間さん フアナ: これを操作すると、どうなるんだろ シャルロッテ: おそらく、得られるのは情報ですわ。こういった機材のほとんどは、研究した記録を保管するためのもの、とシェイクスピアから聞いた覚えがありますから フェルディナ: うっかり違う操作をしたら魔物が出てきた、なんてことにならないでしょうね シャルロッテ: だからフェル姉さまは……どうしてそう、不吉なことばかり言うんです。何も学んでいないのですか? フェルディナ: えっ、いまの私の発言って、そんなに問題だった!? フアナ: どうだい、人間さんくん。うん、探せそう? よかった、じゃああたしたちは……待つしかないか。なんとも歯がゆいけどね エミリー: ん、どうしたの、人間さん。天空神殿のこと? カロラ: ああ、さっきの人間界の知識とか技術とかの話か。なんだ、天空神殿からいろいろ聞かされてるんだと思ってたのに、そうでもないのか? フアナ: 人間さんくんの推理どおりだよ。天空神殿はあたしたちとは次元の違う特殊な存在だからね。人間界の知識や技術を持ち込むこともあるだろうね シャルロッテ: え……ディマイト側、ですか? ええ、確かにディマイトに関連して、技術が流入することもあると思いますわ エミリー: 天空神殿の対になる存在? っていうと、うん、やっぱりジャコヴァかなぁ フアナ: ジャコヴァはいち作家じゃないのかって、いや、人間さんくんの認識で合ってると思うよ。彼女は作家の一人で、それ以上でも以下でもない フェルディナ: そうね。あなたの言いたいことはわかるわ。いち作家でしかないはずのジャコヴァ姉さんが、どうしてディマイトの流入に関わっているのか カロラ: つーか、グリム家っていうのは、自分に与えられたエルマイトだのを有効活用しただけで、直で供給を受けてるわけじゃないもんな シャルロッテ: 天空神殿は違うのですか? カロラ: それこそ、そこはシェイクスピアが研究してんじゃないのかな。ただ、奴らはこっちの出方に柔軟に対応してる感じはするんだよね フェルディナ: ……オトギノクニ全体のエルマイトを、天空神殿が管理していると見るべき、ということね カロラ: 考えたらヤバイよね。奴らの腹ひとつでオトギノクニ全員が干上がっちまうんだからさ フアナ: ははっ、大丈夫だよ人間さんくん。カロラの話は、あくまでも例えだよ。第一、そんなことをするメリット、天空神殿にないだろう? カロラ: ん、なに? ディマイトの話? うん、じゃあ、あたしが知ってる程度のことは、ちょっと話してやってもいいけど カロラ: グランド・リヴィジョンが起きた後、グリム家は大ピンチでさ。手持ちのエルマイトがまだまだたくさんあったから、なんとかやってこれたけど フェルディナ: そうよね。表向きは、あまり変わってなかった気がするもの エミリー: そのへんも、エミリーはずっとぶらぶらしてたから、あんまりよくわかんないんだよねぇ カロラ: でも赤字の垂れ流しには違いないから、いつかヤバくなるよねって話で シャルロッテ: その頃ですわよね。いつだったか、ジャコヴァ姉さまが供給経路を確保した、とおっしゃって…… フアナ: そんな話、あったっけ シャルロッテ: コミッティの議場ではありませんわ。私たちグリムのなかでの話題です エミリー: それでグリム家は、それにコミッティは、今でもそれなりに発言力があるんだねぇ。うーん、でもさぁ エミリー: いまにして思うと、その供給経路ってなんなんだろね シャルロッテ: わかりませんわ。あの頃はみんな、衰退する不安から開放されたことで、それが何であるか気にしてませんでしたもの カロラ: 知ってるのはジャー姉ちゃんだけか……知ってたとしてもヴィル姉ちゃんまでだろうな カロラ: あのふたりは、いつも自分らだけで決めるからな。エルマイト・トレードのこと考えたのはあたしだってのに フアナ: なんだい、人間さんくん。バランスが、なんだって? シャルロッテ: その指摘は正しいですわね。もしジャコヴァ姉さまが、ディマイトだけじゃなくエルマイトもバランス良く供給できていれば…… カロラ: この世界のエルマイトとディマイトのバランスは崩れてなかっただろうな フェルディナ: でも、あれは……危険なものよ フェルディナ: 家族をどうにか見返したい、そういう気持ちも原因だったとは思うけど……でも、ディマイトに触れ続けた私の心は……どこか歪んでいたわ フェルディナ: 自分の過ちの言い訳にするわけじゃないけど、この……砂糖の塊みたいなお菓子をばらまいてたあのとき、私の心は確かに……ディマイトに侵食されていたと思う エミリー: フェルディナ…… 248 - 世論操作 エミリー: フェルディナのことは、エミリーにも責任の一端はあるからね フェルディナ: エミリー……ううん、私が巻き込んじゃったのよ。今は、後悔してる フアナ: そうだよね。かつては戦った相手なんだろ? 人間さんくんはエミリーはともかく、フェルディナに対して……。うん、そうか。もう気にしてないんだね シャルロッテ: 過去には、私とも戦ったのに、やはり同じように受け入れてくださいました。本当に、心の広いお方…… カロラ: ふーん。甘ちゃんなだけなんじゃないの。ん、リラのこと? 誰だよ、リラって フェルディナ: 前にも言ってたわね。やっちゃいけないラインがどうこうって フアナ: どうした、人間さんくん。えっ、何か見つけた? わかった、モニターに画像を映し出せるかい フアナ: これは……シェイクスピアが作っていた、例の針だ! ピュルテとクレアが使ったあれだよ エミリー: でも色が微妙に違うみたいだよぅ フェルディナ: 聖装<ヘブンズ・コントロール>……見たところ、対極にあるものなんじゃないかしら カロラ: あいつ、放っておくと本当にいくらでも造りやがるからな フェルディナ: そっちの画像は何? フアナ: うん、拡大してくれるかい、人間さんくん。……って、これ カロラ: 健康器具の広告じゃねーか! 1日1回、装着するだけで腹筋が割れる!? そんなことあるわけないだろ! シャルロッテ: 割れなくてもいいですけど、でも……え、どうしよう…… フェルディナ: なに迷ってんのよ! 頭すっからかんなの? シャルロッテ: なんですって!? フェルディナ: あんたが私に言ったんだからね。ほら、ここ エミリー: ディマイト電源!? それが、売りにされてる…… フアナ: もう1つ何かあった、これ作戦指示書だよ! シャルロッテ: ディマイトが高品質であるというブランディング戦略……? なんですの、これは カロラ: 情報戦、ってやつだな カロラ: 本来、エネルギーとしての価値は同じくらいなんだよ。エルマイトも、ディマイトも。ただ、魔物とか出ちゃったり、暴走しちゃったり、扱いが難しいから敬遠されてきたんだ フェルディナ: これが実現できれば、ディマイトに偏って大量に保有するグリム家は…… フアナ: 天空神殿からオトギノクニの支配を奪うことも不可能じゃない、ってことだね エミリー: デメリットは伏せちゃって、いいものみたいに宣伝すれば、みんな欲しくなっちゃうってことだねぇ フアナ: 流通量が増えれば影響力は必然的に増していく。出どころはともかく、グリム家のディマイト供給量は将来に渡って安定できる算段がついてるのかな フェルディナ: いずれにしても、こんなことを考えつくのはヴィル姉さんしかいないわね。さすが、あの人は本当に頭が回るのよ シャルロッテ: ですが……これが、こういうところがグリムの悪いところなのですわ。こんなことをしてディマイトを増やして…… シャルロッテ: そんなことをすれば、オトギノクニに悪い影響が出ることくらい予想できているはず。でも、それは二の次で権力拡大を目論んでいるのです エミリー: グランド・リヴィジョンの前からそういうことやってきて、だからアイソーポスもコミッティを作ったんだろうね フアナ: ん? 待って、それってあたしは…… フェルディナ: 待って! いま、何か変な音がしたわ カロラ: フェルディナは怖がりなの、まだ直ってないのか? シャルロッテ: あ、いえ、あれをご覧になって。壁の換気扇が動いたようですわ。たぶん、その音ではないかと フアナ: い、いや、違う! 動いたんじゃない、蓋が……閉まったよ! フェルディナ: 待ちなさいよ! ただでさえ窓もない部屋で、扉も閉まって換気扇も閉じたら、これって、ここが密閉されてるってことじゃないの! カロラ: なんだ、フェルディナは閉所恐怖症でもあったのか? フェルディナ: そういう問題じゃないでしょ! カロラ姉さんも、もうちょっと考えなさいよ! カロラ: なんだとーっ! エミリー: ねえ、足元からなんか白いのが出てきてるよぅ!? フアナ: これ……見覚えがある。レグルス教国で使われた、あのディマイト散布装置が発していた、あの煙だよ! ゲーテ: それでは本日の定例会議、最終議案となります。GR2計画について アイソーポス: ………… キャロル: あっちゃー、だよね。ウィラが失敗して捕まっちゃったからね。アイソーポスも無理に計画を進めるのはきついよねー ペロー: 計画は、中止……ですね。やむを得ないでしょう。また第8号シェイクスピア委員が不在である以上、各種開発計画も進められないでしょうね キャロル: ……今日はずいぶん喋るんだねー? ダンテの無口を見習ったら? ダンテ: ………… ペロー: もはやグリム家で出席しているのは2名、コミッティ全体で欠員は6名です。相対的に私の発言が増えるのも致し方ないでしょう キャロル: 5名でしょ。フアナはちゃんと手続き踏んで辞職してんだから。存在無視するとか、感じ悪いよねー、マロリー マロリー: え、えっと、えっと ペロー: 今日はやけに突っかかるじゃありませんか。お仲間が捕まったことでイライラされているのでしょうか? キャロル: 作家気取りのハゲタカが、知ったようなこと言うんじゃないよ アイソーポス: よさないか、キャロル キャロル: 別にアイソーポスのことじゃないよ。あんたのおかげで生き延びた連中はいっぱいいるんだから ゲーテ: では、本議案は不採決ということで…… ジャコヴァ: 待て ジャコヴァ: 決は採る。仮にシェイクスピアがこの場にいてもだ ヴィルヘルミナ: 計画が失敗しているのは事実。それを踏まえて、おのおの方の判断をいただきたいわ アイソーポス: ……計画の実施は、既に議決されていると思うが ヴィルヘルミナ: そのとおりね。だから今回、判断を仰ぐのは……追加の予算案について ペロー: ははあ……トップ会談は物別れに終わったか…… ジャコヴァ: それでは決を採る 249 - 劇作家の哄笑 フアナ: くっ! レグルス教国のときに比べて、ガスの濃度が桁違い……っ!? いや、これはガスの濃度じゃない、空間の密度か……っ! フェルディナ: 待ちなさいよ、こんなこといったい誰が…… エミリー: 決まってるじゃん。記録がちゃんとあったんだから…… シェイクスピア: ふふ、ふふふ……っ、あははははは……! 混沌! そう、まさに私が欲しているモノよ! シェイクスピア: 悲喜こもごも、色とりどりの感情がないまぜになってこそ、世界は美しく輝くのよ! もっと、大きな声で悲鳴を聞かせて……! フェルディナ: この声……シェイクスピア!? 本当にこの施設にいたのね カロラ: おいっ、待て! この部屋ん中にはあたしもいるんだぞ! 現役コミッティを手にかけるとか、正気か! シェイクスピア: 混沌の前には、肩書なんてほんの些末なことよ。だってそうでしょう? 幾重にも混ざり合う色のひとつに過ぎないのだから カロラ: なに言ってんだ! ジャー姉ちゃんが知ったら、ただじゃすまないぞ! シャルのことだって……! シェイクスピア: まさかシャルロッテが生きてるとは、私も思わなかったわ。本当に、何が起きるかはわからないものね…… シェイクスピア: だからやめられないのよ。運命に身を任せる、って遊び…… フアナ: くっ、どうすれば……って、シャル!? しっかりして! シャルロッテ: あ、あふぁ……人間さん、さん……っ、くっ、はぁ……っ エミリー: 人間さん、いまそんな資料の入った機械、触ってる場合じゃないよぅ! エミリー: え? その端末を操作したら、扉が開くかもしれない? そうなの? カロラ: はぁ、はぁ、さっきから体当りしても、扉は金属でできてるしびくともしないんだ。そんなもんいじってて開くかよ シャルロッテ: はあ、くっ、ああ、人間さん……ごめん、なさい……私、足手まといに…… フェルディナ: 人間さん、なんて顔してんのよ フェルディナ: いま、私たちが頼れるのはあんたしかいないのよ。そんな焦った顔されたら、不安になるでしょうが フェルディナ: 手が震えるなら、私がこうして添えておいてあげるわ。だから、落ち着いて――好きだって言ってくれた相手、死なせんじゃないわよ シェイクスピア: あははは、無駄よ。その端末は私が独自に、人間界の技術をベースに組み立てた装置、短時間で操作できるものじゃないわ シェイクスピア: でも……無駄だとわかっていても挑むその行動こそ、混沌に花を添えてくれるものよね。そして折れたときの心の散り方は、より一層、美しく……ふふ、あははははっ カロラ: ……っ、おい、どうなってんだ、人間さん! やれるんだろうな!? フアナ: え……何か表示が変わった! セキュリティ解除インターフェース……これだよ! たぶんこれで扉が開くはず! エミリー: 本当に見つけたの! すごいよ、人間さん! 早く開けて……って、え、パスワード!? カロラ: マスが8個……うん、8桁の数字を入れろってことか。何の数字だ? はあ!? シェイクスピア本人しかわからないだと!? フアナ: このメッセージはなんだろう。『ALL is TRUE 混沌の業火』――だめだ、あんなおかしなやつの思考なんてわかるはずない シャルロッテ: あ、あぁう……!? フェルディナ: シャル!? 急激にディマイトを摂取したことで、拒否反応が出てるんだわ。この子、前にも薬物で強制的にディマイト汚染してるから、何か症状が残ってるのかも カロラ: ふざけんなよ! せっかく助かってたのに、そんなことって…… エミリー: え……わかったの? 1、6、1、3、0、6、2、9……あっ、表示が切り替わった! フアナ: 扉が開いた! 早く、シャルロッテを外に運び出さないと! (背景切換...) カロラ: げほげほっ、はぁっ、はぁっ、ひ、ひどい目にあったぞ エミリー: 空気が……おいしいねぇ…… シャルロッテ: …… フェルディナ: くっ、気を失ってるわ。目を覚まして! シャル! フアナ: 何か応急処置できるものを……って、人間さんくん!? シャルロッテ: んん……ん、ちゅっ、ちゅ……ぷは、ぁ……っ、あ、人間さん、さん……? フェルディナ: 迷いなくディープキスかますなんて、なかなか見せつけてくれるじゃないの、人間さん シャルロッテ: ……人間さん、私……全部、聞こえてましたのよ……。ディマイト落ちするときと同じように、意識はあって記憶も残っていますから…… シャルロッテ: 失いたくない、だなんて……あんなに情熱的に言われてしまったら、私……勘違い、してしまいますわ シャルロッテ: 唐突に告白なんてして、嫌われても仕方ないとさえ思いますのに…… シャルロッテ: もう、好きだと言ってくれた相手を失いたくない……そう、叫んでらしたのが、しっかりと耳に残っています……本当に、ありがとうございます エミリー: シャル……うん、よかったよぉ。みんな、無事に出られて本当によかったぁ シェイクスピア: あははは……あは、あはは、あはははは! 構成が……甘い! カロラ: くっ!? っのやろ、おい、シェイクスピア! おまえは、あたしを怒らせたからな! シェイクスピア: 私としたことが、ずいぶんダラダラした物語を書いてしまったわ。ここでまだ、あなたたちが混沌に抗うとは シェイクスピア: しかし哀れね。混沌を受け入れてしまえばいっそ楽になれるものを、敢えて茨の道を行くのね、シャルロッテ フアナ: あ、ちょっと、人間さんくん! 落ち着いて! エミリー: 人間さんからすごくエルマイトが溢れてるのが伝わってくるよぅ! この感じ……前に、砂の国でも、女の子がケガしたときに……!? フアナ: うん……人間さんくんが怒るのもわかるよ。あたしだって、許せない……許さないよ、シェイクスピア! シェイクスピア: 許すとか、許さないとか、あなたたち……思い上がるのもいい加減にしなさい。混沌に裁きを下せるものなど、誰一人としていないのだから フェルディナ: 思い上がっているのは、あなたよ、シェイクスピア フアナ: 自然に生まれる混沌ならまだしも、意図的に引き起こした混沌に、そんな特権はないよ! シェイクスピア: なら、あなたたちが守るべきとしている、いまのこの世界も裁かれるべきね。かつて起きたグランド・リヴィジョン……あのときも混沌たる悲劇は数多く起こったわ シェイクスピア: スカルロックの呪い、トラジェディ砦の悲劇、それに不思議の森の挺身……いずれもグランド・リヴィジョンが生んだ副産物よ エミリー: いま問題にしてるのは歴史じゃないよ。シェイクスピアが起こそうとしている、混沌を止めるって言ってるの! カロラ: あたしだって、ひっさびさに怒ってんだからな! 250 - 時計の針は止まらない エミリー: でも、その言い方だと……シェイクスピアはグランド・リヴィジョンに詳しいってことぉ? シェイクスピア: んー? どうだろねぇ? 詳しいかもしれないし、詳しくないかもしれない フェルディナ: エミリー……? どういうつもりで……もしかして、シェイクスピアから何か聞き出そうとしてるの……? エミリー: グランド・リヴィジョンは、混沌を生む方法なのぉ? シェイクスピア: オトギノクニを形作っているのが何か知ってる……? あれはね、時計なのよ エミリー: 時計……? フアナ: そうだね。人間さんくんからすれば、また時計か、ってなるよね。でもこの場合の時計って、一体どこの……? シェイクスピア: みんな知ってるはずだわ。あの時計よ。エメラルドに黄金の装飾を施した文字盤の、あの時計…… シェイクスピア: 私を捕まえたことで、計画は失敗に終わったと思っているようだけど……計画は順調に進んでいるのよ。時刻は現在、1時 エミリー: ……っ!? 針は、進んでるってこと……? シェイクスピア: そう、中止ではなく、中断―― (背景切換...) ????: 中止ではなく、中断。現場にはそう伝えておけ ????: ええ、わかったわ。ふふっ、すべては計画通りね。予算案に対し賛成はカロラの委任を含め5、欠席が3、欠員が1。そして反対が4…… ????: ようやく虫が燻り出されたな ????: ええ。それに大局にばかり固執し足元がおろそかになった、哀れなペテン師…… ????: あの顔、良かったな ????: 何故このタイミングでカロラを長期出張させているのか、まるで思い当たらないとは……無能の極みね ????: とは言え、あの女はこのまま終わりはしない。ヴィル、準備は ヴィルヘルミナ: もちろんできてるわ。ジャコヴァ ジャコヴァ: ふん。最後に笑うのはこの私、それを間抜けどもに、理解させる フアナ: くうっ!? 人間さんくん、またエルマイトが強くなって……すごい、衝撃波みたいな、強い波動を感じる……! フェルディナ: 人間さん……あなた、シャルロッテのことで、そんなに……? シェイクスピア: あははは、私が憎いのね。花の妖精に引き続いて、グリムの末妹さえも、と……そういった怒りなのよね シェイクスピア: 滑稽だわ。要するにそれって、あなたに恋しているかどうか、それが基準なんでしょう? ふふっ、安い正義ね エミリー: シェイクスピア……人間さんが怒ってるのはね、自分のこと好きって言ってくれた子だからじゃないよ。その気持ちを受け止めたから、余計に怒ってるだけで シェイクスピア: そーれーが、安いっていうの。あなたは恋を告白されなくては相手の感情が理解できない、まさに悲劇…… シェイクスピア: そもそもね。あなた見てみたらいいわ、自分の顔を。その恐ろしい形相で正義を語るだなんて フアナ: 人間さんくん、だめだよ。あいつの言うことに耳を貸しちゃいけない シェイクスピア: そもそも、エルマイトは本当に正義の力なの? 誰が決めたの? それは信頼できる相手なのかしら? シェイクスピア: シャルロッテがかつてサミットで主張したとおり、あなたは兵器なのよ。強大なエネルギーを正義だと誤認したままの、危険な兵器…… シャルロッテ: 違い、ますわ…… カロラ: あっ、おい、シャルロッテ!? まだ立ち上がっちゃだめだろ! シャルロッテ: あなたは正義でもないし、悪でもありません……そんなこと、あなたは考えなくていいのです シャルロッテ: 私を助けてくださったときの、あの熱い思い……私はあれが見たいのです。私の、大好きな……あなたの姿を見せてくださいませんか…… シャルロッテ: 私の、お願いです。正義か悪か、そんなものは後付け……ですわ…… シェイクスピア: あはは、なんて凶悪な目つきなのかしら。己を過信することの愚かさを、この方たちに教えてもらうといいわ……! フアナ: えっ、ディトルパ……? いや、これは!? ジャコヴァ: おまえたちを、殲滅する ヴィルヘルミナ: 覚悟しなさい。あっという間に片付けてあげるわ カロラ: な……!? 姉ちゃんたち……!? エミリー: くっ……強い……!? フェルディナ: 落ち着いて、エミリー。シェイクスピアの作り出したディマイトアイテムに、『幻影マペット』っていうのがあるのよ フアナ: 姿かたちを、術者の思うように変えられるっていうアイテムなんだけど、ジャコヴァとヴィルヘルミナに化けさせるなんて、趣味が悪すぎるよ…… ジャコヴァ: この私に、楯突くの ヴィルヘルミナ: 身の程知らずね。その性根、叩き直してあげるわ カロラ: うう……姉ちゃんたちの顔してるだけで、別もんなんだよな?わかってても、この顔で睨まれると反射的に謝っちゃうよ フアナ: けど、人間さんくんから出てくるエルマイトは止まらないね。シャルに気合を入れ直してもらった成果かな? シャルロッテ: そ、そんな……私はただ、率直な気持ちを伝えただけで……、本当に、正義とか悪とか、どうだってよくて、ただただ人間さんが、いてくれさえすれば…… ジャコヴァ: 私の前でよそ見? ヴィルヘルミナ: 甘いのよ。いつもそう。肝心なところで詰めが甘いのよね、フェルディナは フェルディナ: くっ……!? このっ、マペット風情が、知ったような口をきくんじゃないわよっ! カロラ: おおっ、やる気だな! あたしもいっくぞー!! (…………。) エミリー: ふう、なんとか片付いたね。結局はただのマペット、ふたりの能力を完全にコピーしてきたわけでもなかったし カロラ: けど、シェイクスピアはもう消えた後、ってわけか フェルディナ: そうね。ったく、マペットのくせに、ヴィル姉さん気取りなんて、ほんっと腹立つわ カロラ: あ、シャルロッテ。もう具合は大丈夫なのか シャルロッテ: ええ……名門グリムの一員ですもの。いつまでも寝てるわけにはいきませんわ フェルディナ: シャル…… シャルロッテ: え……人間さん。そんな、お礼だなんて。私は率直な気持ちをお伝えしただけで…… シャルロッテ: でも、お力になれるのでしたら私、これからもおそばでお支えします エミリー: おーおー、にくいねぇ、人間さん♪ エミリー: え、なに? さっきのガスが出た部屋に戻る? なんで!? 251 - 捜索の覚悟 フアナ: 人間さんくんのいうとおりだね。何か武器を作ったら、必ず製作者は対抗策を同時に作るはずだよ フェルディナ: 矛を作ったら、盾も作るのが定石……シェイクスピアが、そんな普通の感覚を持ち合わせてるかしら エミリー: 見て、これ! フェルディナ: ガスマスク……! どうやら、そこについては普通だったみたいね エミリー: そもそも、人間さんが戻ろうとしてる理由が、そういう対抗策で作ったものだろうしねぇ フアナ: 人間さんくんがひとりで戻る!? 確かにきみはエルマイトが高いし、ディマイト耐性があるとは思うけど エミリー: 魔物もいないだろうし、大丈夫そうだけど…… カロラ: へー、本当にひとりで行きやがったな、あの男。なかなか根性あんじゃん。で、なに取りにいったんだ? 財布でも落としたのか? フアナ: さっき見ただろ。聖装<ヘブンズ・コントロール>の針だよ。おそらく、あれを使えばピュルテは元に戻れるはずだよ シャルロッテ: ……人間さん…… フェルディナ: シャル……し、仕方ないわよ。だってほら、それがそもそも、目的なわけで シャルロッテ: わかってますわ。人間さんの、大切なひとですもの。そういう人のために危険を顧みずに飛び込む姿……、素敵ですわ カロラ: くっそ! 思い出したらまた腹立ってきた! なんだよあいつは! フアナ: お、あったかい。案外、すぐ見つかったみたいだね エミリー: よかったぁ。これでピュルテも戻るね。早くみんなのとこに合流しようねぇ カロラ: 残念だけど、そう簡単にはいかない。あたしは、コミッティを、姉ちゃんたちを裏切る理由なんてないからね フェルディナ: カロラ姉さん!? カロラ: あたしはコミッティの一員として、起きたことは全部報告しなきゃなんない。だから、こいつを使え フェルディナ: はあ……? ロープ? なんなのよ、これ シャルロッテ: カロラ姉さま……わかりましたわ エミリー: カッコつけちゃって、カロラってば フェルディナ: えっ、はっ? な、なによ、わかってないの、私だけ!? フアナ: このロープで縛って、適当な町にでも捨てていけって言ってんの。そうすれば、カロラがコミッティを裏切らなくても、報告を遅らせることはできる エミリー: じゃあほら、船に戻ろう! フェルディナ: よかった、船はちゃんとあったわ。シェイクスピアのやつが、壊していったかと心配だったのよ フアナ: たぶん、あたしたちが来たのはシェイクスピアにとっても想定外だったんじゃないかな。手持ちの装置で罠を仕掛けてきたりはしたけど シャルロッテ: ……私は、ここに残ります エミリー: うん、それじゃみんな船に……って、え、なんて言ったの!? シャル、残るって、いま シャルロッテ: シェイクスピアは何をしに来たんでしょう。私たちを追ってきたのでないなら、何かを取りに来たんじゃないでしょうか フアナ: ……だとしたら、おそらくグランド・リヴィジョンに関するもの……? シャルロッテ: グランド・リヴィジョンはまだ続いているんです。阻止するためには、シェイクスピアが持っていったのが何か調べる必要があります フェルディナ: シャル、あなた…… フアナ: じゃあ、あたしも一緒に残るよ シャルロッテ: えっ、フアナ? フアナ: ひとりで残るなんて危険すぎると思うよ。あたしなら、そこそこ役に立つと思うんだけど エミリー: ……。うん、フアナ。シャルのこと、お願いするねぇ シャルロッテ: エミリー姉さまも、勝手にお願いしないでください! (…………。) フアナ: ふー、行っちゃったね シャルロッテ: フアナ……あなた、どういうつもりなんです フアナ: どうって、そっちこそ。言ってることはもっともだけど、あのタイミングで言い出したのは確信犯だよね? シャルロッテ: ……私は、弱いんです。口では立派なことを言ってるのに、勇気が……出ないから フアナ: ピュルテのことだね シャルロッテ: 人間さんの大事なひとだから、そう思うのに……目の前で見て、耐えきる自信がなかったんです シャルロッテ: 目の前で……再会を喜び、抱きしめ合うふたりを、純粋によかったねと言える……そんな自信が、なくて……っ シャルロッテ: 今回のことで、私はますます……本気で……。だからこそ、耐えられる自信がなくて……。わかってます。人間さんと一緒に旅をしている皆さんは全員、これに耐えてるんだってことは シャルロッテ: でも、私はまだ……無理です……っ フアナ: それでいいと思うよ。嘘をつく必要はないんだから シャルロッテ: ごめんなさい、フアナ。あなたまで巻き込むつもりはなかったのに フアナ: あたしもシャルロッテに言いたいこと……っていうか、渡したいものがあったから フアナ: はい、これ。自叙伝だよ。あたし、今度こそ……シャルロッテと友達になりたいんだ シャルロッテ: ……バカですわね。こんなの、要りませんわ フアナ: ええっ、そんな!? シャルロッテ: だって、もう私たち既に友達なんですから。出会った、あの日から……ですわよ カロラ: って感じだったよ。GR2、アイソーポスはまったく諦めてないと思うね。どう思う、ヴィル姉ちゃん ヴィルヘルミナ: 気に入らないわね。カロラごと攻撃するなんて、それもアイソーポスの指示かしら。追求したところで言い逃れするだけでしょうけど カロラ: でもね、実際に会ってみて思ったんだ。ジャー姉ちゃん、あの人間界の男、なかなか使えると思うよ ジャコヴァ: 使える? 私にとって価値はある? カロラ: あいつは……ちゃんと、自分ってもんを持ってる ジャコヴァ: ふうん? 自分、ね カロラ: 盲目的に従う天空神殿の犬じゃない。交渉次第で敵にも味方にもなると思うけどね ジャコヴァ: じゃあ味方にして連れてきて。カロラの役割 カロラ: 相変わらずジャー姉ちゃんは無茶いうなぁ ヴィルヘルミナ: 自分をきちんと持ってる相手を、どうやって引き込もうっていうわけ? カロラ: あいつ……モノを知らないんだ。GR1で何が起きたかも、なにも把握してない ヴィルヘルミナ: なるほど。そこに付け入るスキがあるか…… ヴィルヘルミナ: ――っ! そこ、誰かいるの!? ジャコヴァ: 誰か、いたの ヴィルヘルミナ: ……と思ったんだけど、気のせいだったみたいね……。おかしいわね…… ????: ………… 252 - 花の妖精 ドロシー: もう少しでメリーの住んでいる街に着くわね シンデレラ: そこで全てが解決すればいいけど…… ティンカー・ベル: うまくいくかどうかは半々ってカンジ? メリーも、別にお花に詳しいだけで、妖精が花になっちゃったのを治せるかっていうと ヴェルメリオ: ……そんなのまったく別物だもんね ドロシー: せめて、枯れないように持ち歩く方法だけでも聞いておきたいわね クレア: そうだよね。太陽に当てたほうがいいのかとか、お水とか ドロシー: 私、植物を育てたりするの苦手なのよね。すぐ枯らしちゃったりするの ティンカー・ベル: 三つ編み、不器用そうだもんね ドロシー: それって器用とか不器用、関係ある? クレア: ねえ、ピュルテは……どうしてお花になっちゃったの ティンカー・ベル: それを調べなきゃいけないんだよ ヴェルメリオ: ……シェイクスピアと戦ったときなんだよね。その邪装っていうのを使ったから? シンデレラ: 今までと違う、あのときだけ起きたことって言うと、それくらいだから……確定ではないけど、可能性は高いわ クレア: ねえねえ、そうじゃなくて ティンカー・ベル: ん? 何が気になるの? クレア: あれを使っておかしくなっちゃったのはわかるけど、どうして花なの? クレア: たとえば、石になっちゃうとか、ドラゴンになっちゃうとかでもいいよね。でもみんな、そこは話し合わないから ドロシー: あ、そっか……。クレアにちゃんと話したことなかったかもしれないわね ティンカー・ベル: ピュルテは花の妖精なの。だから、何かあったときに花になっちゃうってこと自体は、そんなにすごく違和感があるわけじゃなくて シンデレラ: もちろん、これまでにこんなことは一度もなかったのよ。でも、ドラゴンになるよりは自然というか、説得力というか クレア: そっか……花の妖精なんだ。じゃあ、花の国から来たんだね シンデレラ: それは……私も詳しくはないんだけど シンデレラ: たぶん、ピュルテちゃんの故郷に行ったことがあるのは、リルだけね ティンカー・ベル: ……もしかして、その生まれ故郷に行ってみたら、何かわかるかな ドロシー: 可能性は高いわね! 行ってみましょうよ ヴェルメリオ: ……場所はわかんないから、リルに聞くしかないね ティンカー・ベル: あー……ネコはいま、どこにいるんだろ。まだキッドとかと一緒にいるかな? シンデレラ: だいぶ日が経ってしまったものね…… クレア: ほかにピュルテのこと、詳しい人いないの? シンデレラ: 考えてみたら、意外とそういう出身地の話とか、過去のこと……聞いたことなかったわね ティンカー・ベル: なんとなくはイメージあるんだけどね。ピュルテも別に、隠してるカンジじゃなかったし クレア: ……うん。故郷では、花の蜜で作ったジュースが美味しいとか、ケーキにも使われてるとか、そういう話はよく聞いた ドロシー: 食べ物ばっかりじゃないの ヴェルメリオ: ……普通、わざわざそんな込み入った話とか、しないもんね シンデレラ: ……天空神殿 ティンカー・ベル: え、姐さん、なんて? シンデレラ: そもそも、ピュルテちゃんがこのエルマイトのバランスを守るための旅を始めたのは、天空神殿に言われたからのはずよ ドロシー: なんとなく、聞き覚えがあるわ。そうよね、花の国の妖精ひとりが、突然思い立って旅を始めるわけないもんね シンデレラ: 里の長老に言われたんだっけ……? 詳しいところは覚えてないけど、とにかく指示があったのよ。それでピュルテちゃんは旅を始めた ティンカー・ベル: で、姐さんところに相談に来たんだっけ シンデレラ: ええ。そしてディマイトが増えているっていう、オトギノクニで起きている事態を説明してくれて、協力をお願いされたの ヴェルメリオ: ……それから、人間界に行ったりして ドロシー: ディマイト汚染した子や魔物と戦ったりもしてたのよね ティンカー・ベル: んで、人間さんが見つかった……って流れだよね クレア: どうしてシンデレラのとこだったんだろうね ティンカー・ベル: え? どうして姐さんだったか……? ドロシー: シンデレラの魔法の国は、サミットでも常任理事の超大国だからじゃない? エルマイトの保有量も段違いでしょ クレア: ふーん。強いんだ シンデレラ: マルガレータのりんごの国は、創造期が明けてもユーベルシェーンとの不仲が続いていたし、ヴィルデ・ローゼはあの通りの性格…… ティンカー・ベル: そもそも、どこの国が強いとか、ティンカもよく知らないんだけど ドロシー: いつ誰が決めたのかはよく知らないけど、魔法の国、りんごの国、いばらの国……それにエルザの不思議の国と、スラーの海底の国が常任理事よ ヴェルメリオ: ……エルザのところにも、進んで行こうとは思わないよね ティンカー・ベル: 海底か、姐さんかって言ったら、場所的にも行きやすいし、じゃあそんな感じの理由なのかな クレア: チョロそうだったから、とかじゃないんだね シンデレラ: チョロそうって! 失礼ね! シンデレラ: まあでも、あのタイミング……ちょうどよかったと言えばそうだけど クレア: 何かあったの? シンデレラ: あ、ううん。いろいろ、落ち着いたところだったのよ。ほら、私もこれでも新米プリンセスだったから ヴェルメリオ: ……もしかしたら、姐さんのところに行こうっていうのも、ピュルテが考えたんじゃなくて、天空神殿からの指示だったのかも シンデレラ: ありえるかもしれないわね ドロシー: じゃあメリーと会った後は、天空神殿を目指すことにするわよ。そこで情報を集めるの ティンカー・ベル: だね。メリーが解決してくれる可能性もゼロじゃないけど…… 253 - 水耕栽培 シンデレラ: うん、わかったわ。ありがとう、メリー ドロシー: 助かったわ! また何かあったら相談させて ドロシー: ふう……とりあえず、少しは前進した、って感じね ティンカー・ベル: ピュルテを枯らさない方法っていうの、前進って言える? いや、メリーにはすごくお世話になったし、ありがとうなんだけどさ ヴェルメリオ: ……鉢植え、中だけうまく改造してもらえてよかったね。やっぱりメリー、こういうの慣れてるんだね クレア: 土捨てて、お水入れたの、これなんて言ってたっけ ドロシー: 水耕栽培、って言うらしいわね。私は馴染みがないし、初めて見たけど シンデレラ: 土に根付かせちゃいけない、か…… ヴェルメリオ: ……メリーの話だと、ピュルテが変身した姿なら土に根付かせたら戻れないかもしれないって シンデレラ: なんとなく説得力はあるわ。土に完全に根付いたら、それはもう植物。元には戻れない…… クレア: だから、土を捨てても枯れないように、お水につけたんでしょ ティンカー・ベル: まだそんなに経ってはなかったけどさ、根付いちゃう前に話が聞けて良かったけどね ドロシー: それで? この後だけど……天空神殿、行くのよね シンデレラ: ええ。やっぱり、情報はそこにあると思うの クレア: ねえその天空神殿っていうの、私はよくわかってない ティンカー・ベル: あれ、クレアはちゃんと説明受けたことなかったっけ クレア: 聞いたけど、忘れたのかも ドロシー: このオトギノクニのすべてを司ると言われているわ。神殿はその名のとおり、空高くに浮かんでるの ヴェルメリオ: ……ディマイトが増えてるのを知って、バランスを取ろうとしてるのも天空神殿 ティンカー・ベル: ピュルテに旅をさせたのも天空神殿の指示らしいし、今でもディマイトで何かあったら、解決するようにティンカたちに頼んできたりもするよ クレア: ふうん。すごい人なの? シンデレラ: すごいの基準にもよるけど、まあ、オトギノクニを全部見てるんだから、すごいんじゃないのかしらね クレア: なら、ディマイトどうにかするのなんか、自分でやればいいのにね ティンカー・ベル: あははは、辛辣だなー! 偉い人なんて、そんなもんなんだって ドロシー: 今日はこの山小屋で一泊ね。ヴェル、悪いけど ヴェルメリオ: ……うん、もうごはんの準備始めちゃうね ティンカー・ベル: ティンカも手伝うよ。こんな山道で、ずきんだって疲れてるでしょ ヴェルメリオ: ……ありがとう。じゃあ、野菜切るの手伝って シンデレラ: ふう……このあたり、『死の峡谷』なんて呼ばれてるんでしょ。名前通り、殺風景だし道も険しいし、ぐったりしちゃうわね ドロシー: でも、天空神殿の入口に向かうには一番の近道だったんだもんね クレア: 入り口、いくつかあるんでしょ。やっぱりすごいんだね ドロシー: すごいって? クレア: 私は入り口が1つしかない家にしか、住んだことないから ドロシー: あー、なるほど。でもカンザスの実家も裏口くらいはあったから……私もそれなりにすごいってことね クレア: ねえ。みんなは何で旅を始めたの シンデレラ: なんで、って……? クレア: 私は記憶もなかったし、エミリーにくっついてただけ。でも、みんなはちゃんと考えて始めたんでしょ。これ、けっこう辛い旅だよね ドロシー: あー……私は、人間さんやみんなにピンチを助けてもらったし、だから人間さんを元の世界に戻してあげたい、っていうのが最初かな シンデレラ: ヴェルはドロシーのことを心配してたわね。ティンカちゃんは……何かしら。その場の勢い? ティンカー・ベル: おぉい! 聞こえてるからね! ヴェルメリオ: ……はい、ごはんだよ。ちょっとしたスープとかだけど クレア: 美味しそう ドロシー: ヴェルの料理が上手じゃなかったら、旅なんて続けられなかったわ。こう、限られた食材で美味しく仕上げるのが、さすがなのよね ヴェルメリオ: ……うん、喜んでもらえて嬉しいな ティンカー・ベル: 三つ編みはコメントはいっちょまえなのに、どうして作るものはあんななんだろうね クレア: シンデレラは? 旅のきっかけ シンデレラ: 私……私は、そうね。タイミングというか、うん……納得したから、かしら ドロシー: タイミングって、もしかしてそれ…… クレア: タイミング? 昼間も何かそんなこと言ってたね ドロシー: クレア、もうその話題はやめましょ クレア: 私、良くないことを言っちゃった? ごめん シンデレラ: 大丈夫よ、クレア。それにドロシーも、気遣ってくれたのは嬉しいけど、クレアだって知ってる話なんだし シンデレラ: みんなも知ってるでしょ。『トラジェディ砦の悲劇』――私の夫が、戦死したって話 ティンカー・ベル: うん。魔物に襲われて、助けも間に合わなくて、その砦で必死に戦って…… ヴェルメリオ: ……わたしのおばあちゃんの家より、もっとずっと北のほうだよね シンデレラ: あの事件からずっと、私は倒れた先王陛下に代わって国を守ってきた……それがちょうど落ち着いたタイミングだったのよ クレア: 辛い話なのに、ごめん。私、記憶は戻ったけど……そういう、辛いことって、よくわからなくて シンデレラ: ううん。大丈夫 ドロシー: そうね。事件直後だったら、シンデレラはピュルテの手伝いどころじゃなかったわよね シンデレラ: ええ。気持ちの面でもね。やっと事件を振り返る余裕ができて、それで……だからチャンスだと思ったのよ ヴェルメリオ: ……チャンスって? シンデレラ: 私から大切な人を奪ったディマイトに、復讐するチャンスよ ティンカー・ベル: 姐さん……! シンデレラ: 大丈夫よ。ちゃんとバランスを取るんだって、それは分かってるから。ディマイトを根絶やしにすれば復讐が達成かっていうと、そうじゃない気がするし ヴェルメリオ: ……それだけ、大事だったんだよね。王子様のこと クレア: 王子様も、シンデレラのこと、大好きだもんね ティンカー・ベル: クレアってば、見てきたみたいな言い方して クレア: だって見たよ。砦に、ワインがあったの。ね、ドロシー ドロシー: 日付ごとに、2人の記念というか……結婚記念日はもちろん、初デートの日とか、なかにはシンデレラが王子様の手料理を褒めた日、とか ティンカー・ベル: へえ……完全にあれだね、バカップルだね シンデレラ: ふふっ、そうね。いま思えば彼も……舞い上がってたのかな。だったら、ちょっと嬉しい クレア: そのワイン、365本あるんだよ。毎日が、記念日 ドロシー: 素敵よね。そういうロマンティックな演出 ヴェルメリオ: ……でも、その事件がなければ、もっと増えてたのかもしれないよね ティンカー・ベル: ずきん……そうだよね。365本なんて、半端で終わって……くやしかったよね。王子様もさ シンデレラ: …………? 254 - 正しさの証明 シンデレラ: ……もしかしたら、私は何か思い違いをしているの? あれは……本当に……? 結局、現場には私は入っていない……だから…… シンデレラ: ううん、だめ。いまは目の前のことに集中しなくちゃ。ピュルテちゃんは大切な友達で、元に戻すの。それと過去は関係ないんだから…… ドロシー: シンデレラ。このあたり、夜は冷えるわよ シンデレラ: ドロシー! ごめんなさい、心配かけちゃったかしら ドロシー: 大丈夫、まだ食事の片付けとかバタバタしてて、みんなはそこまで気づいてなかったわ シンデレラ: やっぱり、彼の話題になると……いつもの私じゃいられないのよね。どうしても ドロシー: それだけ? シンデレラ: ……お見通しね。もちろんそれだけじゃないわ シンデレラ: ピュルテちゃんのことも、そう。先が見えないし。それに……人間さんのこともね。やっぱり心配だから ドロシー: 助けなくていい、なんて言ってたのに シンデレラ: もう、ドロシーだってわかってるくせに。あれは立場っていうものもあるからでしょ ドロシー: たまにはそういうの忘れて、思いっきり甘えちゃってもいいのに。あ、違うわよ、人間さんにじゃなくて、私たちにってことよ シンデレラ: そうね……。じゃあ、ドロシーにだけちょっと言っちゃおうかな ドロシー: どんときなさい! シンデレラ: 人間さんが言ってたじゃない。ピュルテちゃんは、本当はもう、戻りたくないんじゃないかって ドロシー: ああ……花になったのはピュルテの意志かもしれないっていう、あれね シンデレラ: そのこと自体は、私たちがピュルテちゃんに会いたいから戻す、っていうのが一つの結論なわけだけど……同じことが言えるなって思って ドロシー: 同じこと? 何か似たようなことあったっけ シンデレラ: この旅のこと ドロシー: え……!? この旅って、それ、どういう意味よ シンデレラ: 私たちのこの旅は、正しいことをしているのかな、って ティンカー・ベル: おー、久しぶりの人里だね! ヴェルメリオ: ……でも気をつけないと、ここでも指名手配されてるかも ドロシー: こんな山間の村にまで、届いてるかしら。まあでも、注意して損することはないわ クレア: あれ、なんだろ シンデレラ: ああ、これは何か新商品のチラシよ。空気が乾きすぎないように調節する装置みたいね ティンカー・ベル: 確かに、このあたりって湿気が足んないよね ヴェルメリオ: ……山の、高いところにあるからかな クレア: ねえ、これ。ディマイト動力完備、って書いてある ドロシー: ディマイト動力? まさか、また変な連中がばらまいてるんじゃないでしょうね ティンカー・ベル: シェイクスピアみたいなやつってこと? ずっと前は、お菓子をばらまいたりもしてたよね! シンデレラ: ……待って。ちょっと、このチラシ…… ヴェルメリオ: ……なにか他にも書いてあった? ドロシー: そうか、普通に連絡先とか書いてあるし、ここに殴りに行けばいいってことね! よーっし、腕が鳴るわ! クレア: って言いながら、本当に指鳴らしてるし シンデレラ: 違うのよ。これはチラシ、広告なのよ ティンカー・ベル: そんなことはわかってるよ、姐さん。飲んでるの? シンデレラ: 飲んでるけど、そうじゃなくて クレア: 飲んでたんだ。いつのまに シンデレラ: ディマイト動力の装置を売ったり、仕掛けたり……そういうのは今までもあったわ。でも広告にディマイトの文字を載せて……まるでこれ、売り文句よ ヴェルメリオ: ……そうだよね。勝手に設置するんじゃないもん。売るってことは、買う人が、買いたいから、買うんだよね ティンカー・ベル: あー、うん、確かに……。えっ、ディマイトって書いたら売れるの? クレア: 私もそれが言いたかった。ほんとだよ。後出しじゃないよ ドロシー: …………。でも、シンデレラ。昨日も話したじゃない。エルマイトとディマイト、どちらが正義って話じゃない。バランスを取ることが正義よ シンデレラ: そうだったわね。ディマイトだから悪、ではないわ。でも、ディマイトは危険だという風潮は、確かにあったはずよ ティンカー・ベル: 知らない間に、こんなふうにもてはやされちゃってる……うん、これは今までにはなかったし、変化だよね クレア: でも、とりあえず今は安心ってこと? ティンカー・ベル: 安心って、いまの流れで安心材料なんてあった!? クレア: この村の人たちはディマイト汚染してるわけじゃない、ってことでしょ? ただ考え方が違うだけ ティンカー・ベル: ……っ!! そ、それは、確かに…… ヴェルメリオ: ……問答無用で襲ってきたりはしないってことだもんね ドロシー: まったく、頭がどうにかなりそうね。これがまかり通るなら、ディマイト汚染っていうのは、結局なんなのよ シンデレラ: この村から、神殿の入り口になってる塔までは日帰りで往復できるわ。今夜はこのまま泊まって、明日の夜明けと同時に出発よ ヴェルメリオ: ……うかつに外に出ないほうがいいよね ティンカー・ベル: だね。必要な買い物とか終わったら、宿屋にこもってたほうがいいね (背景切換...) ヴェルメリオ: ……はい、ごはん。キッチン付きの宿屋でよかったね クレア: 本当に良かったのは、ヴェルがお料理上手なことだよ。昨日もその話が出たけど ヴェルメリオ: ……今日は食材はを村で調達できたから、品数も増やせたし、いつもより満足してもらえると思う ティンカー・ベル: んん! 美味しい! ずきんはもう、あれだね。ペトラのお嫁さんになってほしい! ヴェルメリオ: ……えっ、ティンカが姑ってこと? ティンカー・ベル: なんだ、その嫌な顔は! せめて人間さんを理由に断ってよ! 255 - 世論の形成 クレア: じゃあ私が代わりにペトラのお嫁さんになればいい? ティンカー・ベル: いや、クレアはいい子だけど、食べる専門じゃん…… ヴェルメリオ: ……お料理マシーンとしてお嫁に来いってことだね。これはひどい嫁姑戦争の予感 ティンカー・ベル: ぐぬぬ! 痛いところを突かれた! (背景切換...) ドロシー: ……ねえ、どう思う。この村のこと シンデレラ: このディマイトの扱い? かなり広い範囲に広まってると思うわ ドロシー: 根拠は シンデレラ: 町を歩いた感じ、私たちの指名手配書はなかった。この辺境の村は、そういう情報速度なのよ。にもかかわらず……でしょ ドロシー: この村だけが実験場になってる可能性もあるんじゃない シンデレラ: 私の立場で言うのもなんだけど、世論は自然発生なんてしない。誰かの意図にリードされて起こるものよ シンデレラ: これはシェイクスピアのディマイト散布装置とはわけが違う。失敗すれば、仕切り直せばいいだけのこと。わざわざ実験段階をやる意味がないわ ドロシー: そうね。ディマイトってかっこいい。それを宣伝することは、犯罪じゃないし、後ろ指をさされるものでもないものね ドロシー: この件、黒幕も目星がついてるんでしょう シンデレラ: 十中八九――インペリウム・コミッティ。奴らの仕業よ ドロシー: でも、フアナとかから聞く感じ、どうも一枚岩ってわけじゃなさそうなのよね シンデレラ: そうね。フアナやシェイクスピアに指示していたアイソーポス、あるいはエミリーのお姉ちゃんたち…… ドロシー: それにペロー……どいつもこいつも、ヤバそうなのばっかりだけどね ティンカー・ベル: ちょっと姐さん! そんなとこで三つ編みとしっぽり飲んでないで、聞いてよ! ふたりがティンカのこと、鬼姑だっていうんだよ! シンデレラ: ええ? なにそれ、違うの? だってペトラのことになると、ねえ ティンカー・ベル: うっ、ちょっとティンカも自分が揺らいできたよ……! ドロシー: それにしても、こういう塔ってオトギノクニに何本立ってるのかしらね ヴェルメリオ: ……数えたことないけど、わりと見かけるよね ティンカー・ベル: おっ、扉があったよ! はぁー、ここからながーい階段が待ってるんだよね クレア: 飛べるんだからいいじゃん、ティンカは ティンカー・ベル: いや、天井が低かったりすると、高さの調節で神経使うんだよ。歩いて昇るのと、どっちが疲れるかって言うと、わりといい勝負なんだって シンデレラ: 文句言っても始まらないわよ。これもピュルテちゃんにもう一度……って、えっ? ちょっと、んんっ!? ドロシー: なにこれ、扉にカギがかかってるわ ティンカー・ベル: はああ? なにそれ、どういうこと!? 今まで、カギなんてかかってたことないじゃん! クレア: ドロシー先生。お願いします ドロシー: いつもなら、そのノリでぶち壊すんだけど……これは無理よ クレア: ドロシー先生にも壊せないものが ドロシー: わりとあるけどね!? でもこれはマジメに……ほら、わかる? 物理的に施錠されてるわけじゃないの ヴェルメリオ: ……魔法印。これ、魔法でカギがかかってるんだ クレア: え、でも、ドロシーはオトギノクニ屈指の大魔法使いなのでは ドロシー: 私の魔法、そういうんじゃないから ティンカー・ベル: 方向性の違いみたいに言うな! や、でも、これキッツくない? 他の塔まで、いまから移動するの? っていうか、こうなってくると、どこの塔ならカギかかってないかわかんないよね シンデレラ: 明確なリミットがあるわけじゃないけど、時間に余裕があるわけでもない……この状況で、仕切り直しは厳しいわね ヴェルメリオ: ……でも、魔法のカギなんて誰が開けられるんだろ シンデレラ: 人間さんのエルマイトなら、或いは……くっ、やっぱり行かせたのは判断ミスだったのかもしれないわね…… ティンカー・ベル: あっ!? ちょっと待って、ひそピが反応してる クレア: ひそピってなんだっけ ドロシー: あおいからもらった遠隔通信用のアイテムよ。エミリーたちからの連絡ね ティンカー・ベル: なんかよくわかんないけど、ピュルテを戻せるかもしれないって……! ヴェルメリオ: ……シェイクスピアが作ったっていうのが、ちょっと気になるけど ドロシー: それは大丈夫だと思うわ。向こうのチームなら、ある程度は魔物とかで実験した上でのことだと思うし クレア: じゃあ、人間さんのところに行く? シンデレラ: そうね。こっちが何か可能性があるならまだしも、これ以上は進めないのが現状だから、一旦合流すべきでしょうね クレア: この魔法の鍵、開けるの大変そうだし ティンカー・ベル: 姐さんは、なんか納得いってない感じ? シンデレラ: そりゃそうよ。別に合流することも、こちらからも出向くことも、それは別にいいんだけど…… シンデレラ: どうして今回のこのピュルテちゃんのことについて、天空神殿はだんまりを決め込んでるの? 把握してないとは言わせないわ ヴェルメリオ: ……スティヴァーリ・シティにいたときも、何もこっちから言ってないのに目の前に天使が来たりしたもんね ティンカー・ベル: 勝手な人たちだよね、ほんと (背景切換...) ドロシー: このまま順調に行けば、明日には別働隊と合流できるはずよ ヴェルメリオ: ……考えてみたら、人間さんと会うのすごく久しぶりだ ティンカー・ベル: なんか不思議な感じ。結局、コミッティの施設なんて入って、人間さんは大丈夫だったのかな クレア: いろいろあって、見つけたんだ……って言ってたけど ティンカー・ベル: ひそピで話した限りでは元気そうだったよ シンデレラ: それにしても天空神殿……肝心なときに、結局何もしてくれなかったわね ドロシー: 今回の一件で、シンデレラの中の天空神殿に対する評価はだいぶ落ちたみたいね シンデレラ: うっかりカギをかけたままにしていた、とかならまだいいけど……今回のはちょっとね クレア: 通りたければ、このカギを破ってみせよ、みたいなメッセージだったのかもしれない ドロシー: それ、なかなか悪くない展開だけど、今回の天空神殿に限っては、たぶん違うでしょうね 256 - ヘブンズ・コントロール ヴェルメリオ: ……人間さん! ティンカー・ベル: おーおー、一番に抱きついちゃったりして エミリー: 心配だったんだよねぇ。みんなもそうだろうけど、ヴェルはこういう感情表現が、どんどんストレートになっていくねぇ ヴェルメリオ: ……あっ、ご、ごめん。みんなの人間さんなのに、わたしばっかり エミリー: あ、エミリーこそ。そういう意味で言ったんじゃないよ。嫌味っぽく聞こえたらごめん。ストレートになっていくのはいいことだよぅ クレア: あれ……ねえ、フアナは? エミリー: そのことも含めて、今後のことを話し合いたいんだ。けど、とりあえずフアナは無事、元気だよ。別行動をしてるだけ クレア: ん……そっか、よかった ドロシー: 今後を話し合う前に、まずピュルテのことよね エミリー: ええっ? なんか水にひたひたになってるけど、これ、わざとだよねぇ? ティンカー・ベル: メリーに聞いてさ、土に根付かせちゃいけないって言われたから シンデレラ: 改めて見ると、最初のときに比べて、けっこう根も伸びてきてるわね。あのまま土に植えていたら危なかったのかしら ティンカー・ベル: 人間さん。いい方法があるんだよね エミリー: うん。人間さん、例のアレ、もう出しちゃおう クレア: それ、針? あ、あのときの…… ドロシー: フアナがシェイクスピアからくすねて、クレアとピュルテが使ったやつね ヴェルメリオ: ……あれ、でもちょっと色違いみたいに見える エミリー: これは聖装って言って……ピュルテたちが使ったアレとは真逆の、エルマイトをエネルギーの原資とする武器なんだよ シンデレラ: もしフアナがこっちを持ち出していたら……人間さんひとりのエルマイトに頼らざるを得なかった私たちは、シェイクスピアに負けていたかもしれないわね…… クレア: で、その針をどうするの? 花に刺しちゃう? ティンカー・ベル: 人間さん……考えてなかったって、思いっきり顔に出てるからね……? ドロシー: 茎の一番、根元のところ……? そ、そうね。そこが効果的だっていうのは私も感覚的にはわかるんだけど ヴェルメリオ: ……失敗したらと思うと手が震える シンデレラ: 人間さんも震えがひどいけど……それでも、自分でやるのね? わかったわ、なら私はここで見守ってるから (背景切換...) クレア: あっ、うわっ (背景切換...) ピュルテ: あ……えっと……あれ……私…… ヴェルメリオ: ……ピュルテ ドロシー: や……やったわ……! ピュルテ: あれ、人間さん? みなさん? これ、どういう状況ですか? クレア: めでたい状況だよ ティンカー・ベル: ぃやあぁぁーったぁっ! もー、心配させないでよねー! シンデレラ: 本当に、よかったわ……。成功率は高いとは思ってたけど エミリー: 同じシェイクスピアが作った、反作用するアイテム……まあ、普通に大本命なものだったからねぇ シンデレラ: それでも、こうしてまた顔を見られると……ほんと、ピュルテちゃんがいる世界が、当たり前になってたんだって気がする ドロシー: っていう感じで、まあ、シェイクスピアとの戦いには勝ったけど……っていう状況だったわけ ピュルテ: それって、その……私、すごく、すーっごく、皆さんにご迷惑をおかけしてしまいましたよね ティンカー・ベル: 迷惑なんかかけられてないよ。心配はしたけど ヴェルメリオ: ……そのときの状況からしたら、仕方ないよ。無理したわけでもないんだし、他に方法はなかったんだから クレア: そうそう。私はなんともなかったし。ピュルテにはどうしようもない シンデレラ: まあ、次に使うかどうかは、ちょっと状況を見定めないといけないけどね エミリー: そうだねぇ。聖装も手元にあるけど、次も同じことの繰り返しになるかは未知数だし ピュルテ: わかりました……本当にすみません、ありがとうございました。人間さんも……きゃっ!? ティンカー・ベル: おおっ、人間さんてばみんなの前なのに思いっきりハグなんかしちゃって、いろんな意味で大胆だね! ヴェルメリオ: 妬けちゃうけど……ピュルテが命がけで人間さんのために戦ったことが発端だから。わたしは今回は勝てない ピュルテ: 人間さん……はい、私も……人間さんにまた会えて、嬉しいです……! ピュルテ: ええ、なので花のときの記憶とか意識は全然…… ドロシー: へえ、そういうものなのね。でも意識があるのに自由に身動きできないって、考えたらけっこう怖いわよね。そういう意味では、意識なくて良かったかも ティンカー・ベル: じゃあ人間さんが、肥料と水分を一気に与えるとか言って、おしっこ引っ掛けたのも覚えてないんだ? ピュルテ: 人間さん、ひどいです! ピュルテ: なんて、ふふっ。さすがにいまのは嘘だってわかりますよ♪ クレア: ピュルテはね、ピンクっぽいガーベラだったよ ピュルテ: そうなんですね。ガーベラの花言葉とか、何か関係あるんでしょうか クレア: 黒い部分は特に花には出てなかった ピュルテ: くっ、黒い部分なんて、ありませんよっ ヴェルメリオ: ……はい、お待たせ。お腹すいてるのかどうか、わかんないけど ピュルテ: いえ、それがペコペコなんです。わあ、ポトフですね ヴェルメリオ: ……ひさしぶりに胃に入れることになるのかな、って思って、食感とか味付けは優しい感じにしておいたよ エミリー: さっすがヴェル。そういう気遣いも含めてお料理なんだねぇ シンデレラ: ピュルテちゃん……すごく楽しそうだけど、そのまま受け取っていいのかしら…… ピュルテ: シンデレラさん? シンデレラ: あ、いえ。それじゃあピュルテちゃんも戻ったことだし、今後の方針を話し合いましょ ピュルテ: フアナさんはシェイクスピアの研究所に残られたんですよね エミリー: シャルといっしょにね。で、フェルディナにも別で動いてもらってるの ティンカー・ベル: あ、ちゃんと役割がある感じ? フェルディナのことだから、また『私が行ってもどうせ空気が悪くなるんでしょ』とか、めんどくさい被害妄想出してんのかと思ったよ ドロシー: さて、そろそろ今後の方針、話し合っとく? クレア: あれ? シンデレラは? トイレかな (背景切換...) シンデレラ: ……ピュルテちゃんは元に戻れた。だとすると、次の課題は……私たちが戦ってる相手は誰なのか、ってこと…… シンデレラ: もしもに備えるなら、いまの私たちはあまりにも後ろ盾が弱い……。なら、私にできることは…… シンデレラ: あなたは、こんな私を、許してくれるかしら…… 257 - 3つの脅威 シンデレラ: ごめんね、お待たせ クレア: トイレ長かったけど、大丈夫? 体調、悪いの? さっきからお酒も飲んでないし シンデレラ: ちょっと夜風に当たってたの。大丈夫、お酒はこれから飲むわ ドロシー: いや、別に飲んで欲しいわけじゃないのよ シンデレラ: えーと。人間さんとエミリーの話を合わせて考えて、私たちの目下の脅威は大きく3つ ティンカー・ベル: まず、例のGR2計画ってやつだよね ヴェルメリオ: ……シェイクスピアが脱獄しちゃったことも、ここに入るかな ピュルテ: 次に、ディマイト拡散計画ってものですよね クレア: でもそれ、どう対抗すればいいのか、私にはよくわからない ドロシー: それで……3つ目ってなに? シンデレラ: ピュルテちゃんのことよ ピュルテ: えっ、わ、私……ですか シンデレラ: 元に戻ったとはいえ、すべてが解決したわけじゃないわ。クレアと何が違ったのか、それはおそらく…… エミリー: 声、だよね。聞こえてきてたっていう ティンカー・ベル: ネコががんばってくれたおかげで、抑え込めてはいたけど……うん、無かったことにはなってないもんね ヴェルメリオ: ……うう、相変わらず問題がいろいろ起こってるんだね ドロシー: それじゃどうする? また手分けする? ヴェルメリオ: ……人間さん。きっぱり言ったね エミリー: まあ実際はねぇ、フアナとシャルが研究所にもう残っちゃってるし、フェルディナも別行動してるけど…… ティンカー・ベル: このメンツは一緒に、ってことだね。人間さんがそこまでハッキリ言うなんて珍しい シンデレラ: そうね。ただでさえ私たちは大きな組織じゃない。複数のタスクにリソースを分割できる余裕はないわ。だとしたら、イシューは1つに絞るべき ドロシー: シンデレラが悪酔いしてるわ シンデレラ: まだ飲んでないってば! むしろ飲んでないからマジメなんでしょ! クレア: 私が知ってるシンデレラは、わりと一日中陽気だよ。それってつまり ピュルテ: しっ、クレアさん。そこは察してください シンデレラ: とにかく、私も人間さんの意見に賛成ってこと! ドロシー: それで? 分散しないで集中、それはわかったけど、どうするのよ エミリー: 正直、グランド・リヴィジョンは後回しだねぇ ピュルテ: 今回の、エイヴォン研究所、でしたっけ。調査しても、グランド・リヴィジョンに関してはあまり成果が無かったんですよね クレア: むしろシェイクスピア登場で悪化な感じ? ティンカー・ベル: うーん、良くはなってない気がする ピュルテ: ただ、『時計』というキーワードや、レグルス教国で聞いた『1時』という言葉からすると、儀式は12回あると考えていいと思います シンデレラ: そうね。そして、1回で、あれだけ大規模なものになるなら、次の『2時』が発生したときも、何か情報は入ってくるはずよ エミリー: やってる向こうも、簡単じゃないし、まあ目立つよねぇ ヴェルメリオ: ……そうだね。起きることは大変だけど、いますぐじゃなくてもいいのかも ドロシー: ならやっぱり、私はヴェルザーム集めを続けることを推すわ ピュルテ: そうですね。せっかく4つ集まってるわけですし ヴェルメリオ: ……それに残り3つのうち、2つは場所もわかってるもんね シンデレラ: そうね。ディマイト拡散計画も、情報戦。聞く限り、いまの私たちでは止める方法が浮かばないわ エミリー: だよねぇ。何か装置があって止めるとかならいいけどぉ クレア: えっ、じゃあ、そっちはどうするの ドロシー: 拡散させとけばいいのよ。ヴェルザームが揃ったとき、その大きくなったディマイトを打ち消せば、それで解決 クレア: 情報戦にパワーで押し切るんだね ピュルテ: 私たちがいまできることって、それくらいなんですよね ヴェルメリオ: ……ピュルテの声のことは? エミリー: あれは……フェルディナにちょっと動いてもらってる ドロシー: 犯人はペロー、なのよね エミリー: フェルディナは、前に組んでた相手だからね。たぶん、エミリーたちのなかで一番、ペローのことを知ってるはずだから…… シンデレラ: こんなにキレイに晴れてるのに肌寒いわね ティンカー・ベル: やっぱり寒いと草とか木とかも枯れちゃいやすいし、それで『死』なんて言葉が地名に入ってるのかな ヴェルメリオ: ……由来としては、ありえそうだよね ドロシー: ジズが『死の峡谷』近くに住んでてくれたおかげで、移動が短縮できたのは良かったけど……この道、この前も通ったのよね ピュルテ: そうなんですか? ティンカー・ベル: ほら、向こうにある塔。あれ通って、天空神殿にピュルテのこと相談しに行こうと思ってたんだよ ピュルテ: ああ、なるほど。じゃあ私も、ある意味では一緒に通った道ですね エミリー: じゃあ、向かう途中でエミリーたちから連絡があった感じ? もうちょっと早く伝えてあげられればよかったねぇ シンデレラ: それはしょうがないでしょ。タイミングの問題よ ドロシー: そうね。それより腹が立つのは、カギをかけて開けようともしないあいつらよ ティンカー・ベル: まあまあ、わざと締め出したわけじゃないんだし ピュルテ: カギ? それって、塔の入り口ですか? クレア: うん。ピュルテは何か知ってる? ピュルテ: いえ……塔から入るのなんて、皆さんと一緒のときだけでしたし シンデレラ: あ、そっか。ピュルテちゃんがひとりで行ったときは、レグルス教国から上がっていったのよね (背景切換...) ティンカー・ベル: このへんはまだ植物がいるけど、もうちょっと進むとほんと寂しくなるんだよ ピュルテ: そうなんですね。なんか……一度でも自分が花になると、こうして過酷な環境で咲いてる花を見ると、複雑な気持ちになります ドロシー: ああ、そうね。みんな、人間さんがあそこに町を見つけたわ。今日はあそこに泊まって、明日の朝から移動しましょう ヴェルメリオ: ……もうちょっと進んで野営できなくもないけど、体力は温存しとくべきだよね シンデレラ: あら、私と一緒に飲もうってメッセージかしら、人間さん♪ クレア: なんか気になって仕方なかった? なにそれ、直感? 第六感? ピュルテ: じゃあさっそく、いきましょう! 258 - 出会い ピュルテ: え、えっと、そろそろ宿屋に戻らないと、明日がきつくなりますよ シンデレラ: そうね! じゃあお部屋で飲みましょ♪ だって今夜は、ピュルテちゃんの復帰祝いなんだからぁ~ ピュルテ: あ、あはは……ありがとうございます……。もう3日連続それ言ってますけどね…… ティンカー・ベル: 人間さん、どうしたの? まさか姐さんの魔の手から逃げる気か! ドロシー: 手分けするかどうかって言ったとき、みんないっしょがいいって言ったの、あなたでしょ! 責任持って、シンデレラと一緒に朝まで飲みなさいよ クレア: あ、買い出し? シンデレラ: あー、そうよねー! お酒、買い足しておかないとよね~。人間さんてば、優しい~ ヴェルメリオ: ……人間さん、まさかあのまま時間を稼ぐつもりなんじゃ…… ティンカー・ベル: うん、疑わしいな! クレア、ちょっと尾行してきて! どっか寄り道したら連れ戻すの クレア: がってんだ (背景切換...) ???: ない……ここにもない……。どうしよう。私、どこに…… 村人1: どうしたのかなー、お嬢ちゃん。こんな路地裏で捜し物かい? 村人2: きれーな顔したお嬢ちゃんがひとりで、危ないぜ? 俺たちが送っていってやるよ ???: や、やめてください。私、知ってるんですから。あなたたちは、私にひどいことをする人たちでしょう……! 村人1: そーんな、つれねえこと言うなよ。楽しませちゃうぜぇ? ???: ……っ、どうしてなの……私はまた、こんな悲劇に巻き込まれて……。いつになったら私の運命の…… 村人1: なにブツブツ言ってんだよ。おっ、なかなかいい身体してそうな予感だな? んん? ???: この人たちは何も考えずに、ただ欲望にだけ忠実な……魔物と何も変わらない…… ???: こんな汚らしい人が世界に存在するなんて許せない……この世界に不要な存在よ……今すぐ消し去りたい、ううん、消すの…… 村人2: ふぉげえええっ!? ???: えっ!? な、なに? 誰? 村人1: んだ、てめぇは! ふざけたことすると、ごはぁっ!? ぐっ、ぐふっ! 村人2: やべぇ、なんだこいつ! 強ぇぞ! ちっ、ずらかれ! ???: ……あ、あの、ありがとうございます。お怪我はありませんか ???: その……助かりました。本当に怖かったので、あなたが飛び込んで助けにきてくれて、ほっとしました ???: ……えっ、あっ、帰るんですか? いえ、私もケガはありませんけど、その……こういうとき、お礼がわりにお食事を一緒にとか、そういうことを言われるのかと思って ???: 助けるのに見返りを要求するのは、好きじゃない……? そ、そうですか ???: そんなふうに考える人が、本当にいるなんて……まるで、王子様みたい…… ???: え、これ……ナイフ? ???: 護身用ナイフ、ですか。はい、私は一人旅ですが……。そうですね、こういう武器を持って、自分の身は自分で守ることが必要ですよね ???: ありがとうございます。私、どうしても世間知らずというか……こういう旅にも、未だに慣れなくて。そろそろ慣れなきゃいけないとは思っているんですけど ???: それに、私のことを利用しようとする人ばかりで。私だけじゃない、みんな、周りにあるものをどう利用するか、考えていることはそれだけですから ???: なのにあなたは見返りを何一つ求めずに……そんな精神を持っている人がいるなんて ???: ……はっ、ここまできて、やっぱり身体目当てだとか!? ???: そ、そうですよね。そのつもりなら、とっくに……ですよね ???: あなたは私の名前も聞かない、自分でも名乗らない、ただ助けて、ナイフをくれて、行ってしまうだけ…… ???: 運命を予感させるような出会い……? ううん、違うわ。そんなふうに、簡単に信じてはだめ……そう、だめなの、だめ…… ???: あの、もしまた会えたら……お互いの名前も、素性も、何も知らずにまた会えたら……そのときは、もう少しだけあなたと話す時間がほしい、です…… ???: すみません、引き止めちゃって。ありがとうございました ???: 運命、かな……? ううん、焦っちゃだめ……私、それでどれだけ今まで……。でも、もしあれが本当にあの人のありのままだとしたら…… ???: 私の運命の王子様、って思っていいよね……? シンデレラ: あーっ、人間さんだぁ♪ おかえり~ エミリー: 遅かったねぇ。クレアってば、ちゃんと人間さんのこと、監視してたの? 寄り道してたんじゃないの クレア: 許してあげて。人間さんはね、路地裏で悪いやつを倒してたらしいから ピュルテ: えっ、そんな、危ないですよ! ヴェルメリオ: ……ケガとかしてない? 救急箱、持ってくる? 上級傷薬とか入ってるよ クレア: 悲鳴を上げる女の子と悪人の間に割って入って、立ちはだかったの。そして2人の悪者をばったばったと……私も、その現場を見たかった ティンカー・ベル: しかも2対1だったの!? 人間さん、やるなぁ ドロシー: 私のことも混ぜなさいよ! なんだかすごく楽しそうじゃない クレア: えっ、言わなくていい? どうして? 恥ずかしいことじゃないよ クレア: それに、口止めされてないよ。言っちゃいけないのは、その後のストリップ劇場のことだけだよ クレア: あっ ピュルテ: 人間さん……そんなエッチなお店に寄ってたんですか……ふうん……? ヴェルメリオ: ……さっきの心配したわたしの気持ち、返してほしい シンデレラ: 私がお酒を我慢して待っている間、あなたはお楽しみだったわけ……なるほどね。ちょっとアビス化しちゃうかもしれないわね…… ティンカー・ベル: みんな、落ち着いて! ドロシー: クレアも、なんで最初にそれを言わないのよ クレア: 肉まん3個も買ってくれて エミリー: 買収されてるぅ! ドロシー: 町を歩いてると、どうもガラの悪い連中が目立つ気がするし、治安が悪い街なのかもね。人間さん、あまり無茶しないでよ ヴェルメリオ: ……人助けするところ、人間さんのいいところだと思うけど。でもわたしも、心配するんだからね、ほんとに シンデレラ: じゃあ私を待たせたペナルティとして朝まで……って、やんっ、私のお酒とらないでー! ピュルテ: もう、ダメに決まってるじゃないですか! 明日も朝から出発ですよ! クレア: うん、ピュルテが戻ってきたって実感する ピュルテ: もうちょっといい場面で実感してください~! 259 - 不穏な来客 クレア: 『死の峡谷』って雰囲気になってきたね エミリー: だねぇ。なんか風景の色味も、灰色が多くなってきたし ティンカー・ベル: しかも足元がなんか不安定だよね。ティンカ、飛んでなかったら絶対、脚踏み外して滑落しちゃいそうなんだけど……! シンデレラ: この山を超えたあたりにジズが住んでるのね ヴェルメリオ: ……ジズも、ベヒモスみたいに家が何個もあるのかな ドロシー: そう言えば、ベヒモスはそんなこと言ってたっけ。相方のどうぶつが気に入ったから、いまはあの家だけど、常にそこにいるとは限らない、みたいな ティンカー・ベル: そんなんだと、連絡取りづらいじゃんね ピュルテ: 住所に関係なく連絡がつく方法があるんじゃないですか? 実際、人間界でも、友達の家の住所を正確に知っていることって、意外と少ないんですよ シンデレラ: そういうものなのね。まあ、原初の三獣がまさか人間界にかぶれてるとは思えないけど クレア: ん……? みんな、静かに。ちょっと隠れて ピュルテ: どうしたんですか、クレアさん。この先に何が……あっ 盗賊1: ったく、お頭のやつ、朝から何を探せっていうのかと思ったら、鳥の巣だとぉ? 盗賊2: しょうがねえだろ。ただの鳥じゃねえ。めちゃくちゃ強いらしいぞ 盗賊1: だから正面切ってやりあわねえで、巣を探し出せってか。はー、めんどくせーな ドロシー: あいつらも……ジズを探してる……? シンデレラ: うかつに接触すればただじゃ済まない相手よ。何の目的で……まさか……? 盗賊1: しっかし、そのヴェルザームとかって石はよ、そんなに価値があんのかね。俺も盗賊稼業は長いが、初めて聞いたぞ 盗賊2: おかしらもよく知らねえらしいが、買い手がもうついてるんだとよ ピュルテ: やっぱりヴェルザーム狙いですよ、あの盗賊たち…… エミリー: もう行っちゃったぁ? クレア: ……。……うん、もう大丈夫みたい ピュルテ: まさかあの盗賊たちもヴェルザームを狙ってるなんて ドロシー: 正確には、盗賊に依頼しているやつが、ってことね エミリー: そこなんだよねぇ。あの盗賊たちをやっつけるのはわけないけど、それじゃ何の意味もない クレア: 悪が消えるんじゃないの エミリー: それはもちろんそうなんだけどぉ シンデレラ: 依頼主が分かれば、そこから何かわかるかもしれないわ クレア: ってことは敵は ドロシー: 生け捕りにするのが理想的、ってことね ピュルテ: ヴェルザームのこと自体、知っているひとは少ないはずですからね ティンカー・ベル: 確かに! 捕まえる前のいまでも、なんとなくわかることってあるよね ヴェルメリオ: ……ヴェルザームの価値を知ってることと、あとは…… エミリー: たぶん相手は、エミリーたちの動きに気づいてない、とかもあるかなぁ ヴェルメリオ: ……そっか。あんな無名の盗賊なんかに依頼するってことは、私たちにやっつけられる心配をしてない クレア: だいたい、自分で来いって話だから……忙しい人なのかな ピュルテ: そうですね! 暇がないのか、他の理由かはなんとも言えませんけど、自分では来れない…… シンデレラ: 本人も現場に入った上で、雇った盗賊を指揮している……というパターンもなくはないけど、さっきの言い方だと依頼主本人はいなさそうね ドロシー: そうね。とにかくまずは、あの盗賊連中の―― ドロシー: って、うわっ!? なによ、すごい風! それに急に空も陰ってきて…… ピュルテ: 違います。陰ってるんじゃなくて、これは……! ジズ: そんなところで何してるの? 気になって来ちゃったんだもん エミリー: 『原初の三獣』ジズ……!! ジズ: ふうん。ヴェルザームって石を探して……じゃあ、ちょうどよかったんだもん ドロシー: ちょうどよかった? ジズ: これがヴェルザームなんだもん ティンカー・ベル: まさかの持ち歩き!? ヴェルメリオ: ……話が早すぎる。けど、目の前にあるのは、間違いなくヴェルザームだよね ピュルテ: 鑑定する方法はありませんが、少なくとも見た目は私たちが持ってるものの色違いで、間違いありません ジズ: わりと価値があるってママが言ってたから、引っ越したときも持ってきて、ちゃんと持ち歩いてるんだもん シンデレラ: 引っ越し? やっぱり家がいくつかあるのね ジズ: ううん、違うんだもん。ジズね、実家を出て一人暮らし始めたんだもん! クレア: おお、成長の第一歩 ティンカー・ベル: うわあ……こうやって娘は、母の手元を離れていくんだ……! なんかもう泣けてきた。ジズママと語り合いたい! ジズ: ねえねえ、遊びに来てほしいんだもん! ジズの新しいおうちにご案内するんだもん シンデレラ: あー……うん、そうね。お邪魔しようかしら ドロシー: そうよね。ヴェルザームだけもらってさよなら、なんて味気ないし クレア: どんなおうちなのか、興味もあるし ジズ: じゃあこっち! ついてくるんだもん ジズ: ママからはちょくちょく差し入れがくるんだもん。だから別に、困ることもないんだもん ティンカー・ベル: わかるー! 何かにつけて連絡したいし、心配すぎて物資を送ってしまう!猛烈にネバーランドに帰りたくなってきたぞ ドロシー: 少し落ち着いたら、一旦戻って顔を出す時間を作るのもいいかもしれないわね ヴェルメリオ: ……ママからは何が送られてくるの? ごはんとか? ジズ: むう! ジズはちゃんとごはんも作れる子なんだもん。ママからは……このまえ、お布団が送られてきたんだもん クレア: お布団? ジズ: 寒くなってきたから使いなさい、って羽毛布団だったんだもん ピュルテ: えっ、ジズさんのママさんから羽毛布団って、それって ジズ: たぶん手作りなんだもん。ママの匂いがして、幸せなんだもん 260 - 和解 シャルロッテ: 思うところというか、お伝えしたいこともたくさんのあるのですけど……一番に申し上げたいのは、やはりこれですわね フアナ: へえ、何かな? シャルロッテ: ごちそうさまでした! 今日も美味しいごはんが食べられるのはフアナのおかげですわ! フアナ: だよね! よく言えました! フアナ: 実際、あたしが残るって言わなかったらどうするつもりだったの シャルロッテ: それなりに非常食が備蓄されていることは予想できていましたわ。そもそもシェイクスピアが独りでこもって研究していたんですから フアナ: 確かに。あのシェイクスピアがキッチンで何か作るとしたら、それは料理じゃなくて毒薬だろうね シャルロッテ: けど、充実するに越したことはありませんから……感謝してますわ フアナ: うんうん、そうだろう、そうだろう シャルロッテ: けど、まだ納得いっていないのも事実ですわ。フアナ、何故あなたは私と一緒にこのエイヴォン研究所に残ったのです フアナ: 言ったとおりだよ。言葉に裏なんて何もない。シャルロッテは友達で、あの状況で色々な意味で一人にしたくなかったんだ。心配で シャルロッテ: あなたは恨んでいませんの? フアナ: 恨む?シャルロッテを恨むようなこと、何かあったかな シャルロッテ: エルマイト・トレードのこと……あなたはグリム家に強い怒りを感じて、当然の立場でしょう フアナ: 客観的に見るとそうなのかもね。いや、実際あのやり方は許せないし、不愉快だよ。でも、少なくとも現在進行系の話じゃない フアナ: それにシャルロッテは直接の関係者というわけでもないし シャルロッテ: それはそうですけど…… フアナ: かと言って、カロラのことも怒りが向くことはなかった。罪を憎んで人を憎まず、ってやつじゃない? シャルロッテ: フアナ……感謝しますわ フアナ: やめてよ。感謝されるようなことじゃない フアナ: むしろ、あたしはこうしてシャルロッテに受け入れてもらえてるってことに感謝したいんだけど フアナ: あたしを友達だって認めてくれてる、そう思っていいのかなって シャルロッテ: 認める、だなんて上から目線で語るつもりはありませんけど、友達だとは……思ってますわ フアナ: ははっ、よかった。そう言ってもらえるのが、何よりホッとするよ シャルロッテ: 言っておきますけど、私は最初から友達だと思ってましたわ。勝手に政治を気にして距離を取ったのはフアナですわ フアナ: ええっ、そんなことないよ。だってコミッティに向いてないとか言われてさ、それから一緒にごはん食べてくれなくなったり シャルロッテ: フアナが誘ってきてくれないからです フアナ: シャルロッテから誘ったっていいじゃないか シャルロッテ: だいたい、ちょっと私の立場がまずくなるからって、そんなことで友達を切り捨てる狭量な私じゃありませんことよ フアナ: 態度に出てるの。フアナのせいでー、フアナひどいー、って顔に書いてあるんだもん シャルロッテ: 言葉にしてないのに勝手に想像しないでください フアナ: って言うくせに、してほしいけど言えないことは察してとか言うんだから! シャルロッテ: むうう! フアナ: くうう! シャルロッテ: ふふ、うふふっ……こんなふうに話せる相手、姉さまたち以外ではフアナと秘書くらいですわ フアナ: なんか、友達……って感じがした シャルロッテ: でも自叙伝は読みませんから フアナ: ええっ、どうして! ただダラダラ書いてるわけじゃなくて、ちゃんと面白くなるように工夫してるんだよ シャルロッテ: はいはい、おしゃべりはここまで。あのイカれた劇作家が何を取りに来たのか、早く調べなくてはいけませんわ フアナ: そうだね。何を取りにきたのか、あるいは何をしに来たのか…… フアナ: シャルロッテ、これ見て シャルロッテ: シェイクスピアの研究レポートですわね。ん……『発動した術式を継続するための簡便的措置に関する魔術道具の開発……』……なるほど シャルロッテ: 意味がさっぱりわかりませんわ…… フアナ: 次の資料なんかも見て。図解されてるから。要するにこれは、発動から完了まで長い時間を要する場合に楽をしようってものなんだ シャルロッテ: A地とB地の距離、魔力波に変換して送信……まさかこれって、遠隔操作!? フアナ: 具体的に書いてはいないけど、これは明らかにGR2を想定している。あの術式、あれだけ準備していたとはいえ、まだ『1時』だったんだ シャルロッテ: 相当な時間がかかる術式であることは確かですわね。そのためにシェイクスピアが張り付くのは現実的ではありませんわ シャルロッテ: あれ? でもお待ちになって。だとしたらGR2って フアナ: そう。術式そのものはレグルス教国内に仕掛けられ、そこから動かせるものじゃないんだ シャルロッテ: だからこその遠隔操作……ということは、操作するための装置を持ち出したということですわね フアナ: だとしたら、GR2は止まってなんかいない。この瞬間は一時的に進行していないかもしれないけど、いまなお動いている術式なんだ シャルロッテ: あれだけの術式です。最初から術者をシェイクスピア固定にはしていないでしょう。誰でも引き継げるように構築しているはず フアナ: 固定することにデメリットしかないからね。だとしたら、シェイクスピアを倒すことそのものは、直接的な解決にならない フアナ: かと言ってあれだけの術式を破壊するには……可能性があるかも未知数だし、おそらく『上に乗っている』形のレグルス教国の町がもたない シャルロッテ: なら、方法はひとつ。遠隔装置をシェイクスピアから奪い、できれば破壊することですわ フアナ: でも、この資料を見る限り小型化には成功できていないはずなんだ。最終報告が先月の日付、このときの図解ではサイズは幅50メートルと記載されてる シャルロッテ: そんなものは持ち歩けませんわね。とすると、装置はどこかの施設に固定されている…… フアナ: シェイクスピアはその施設のカギ、あるいは場所を書いたメモなんかを取りに来たんじゃないのかな シャルロッテ: わかりましたわ。そういったものがないか、引き続き探しましょう 261 - 火災発生 ジズ: ママからいろんなもの送ってもらってるから、ジズもお返しがしたいんだもん ヴェルメリオ: ……それがこの木の実? ママが好きなのかな ジズ: ううん、わかんないもん ドロシー: そ、そうなの。まあ、自分が好きだから食べてみて! っていうプレゼントの形もあるわよね ジズ: ジズも食べたことないもん! クレア: えっ、なんでそれをママにあげようと思ったの ジズ: 色がキレイだからなんだもん! ピュルテ: それ食べ物で一番、評価しないほうがいいポイントだと思うんですけど シンデレラ: うん……特に自然界で見つけたもので、色鮮やかなものっていうのは…… ティンカー・ベル: あれ? ジズんちって、あっちの山の途中らへんだよね エミリー: 煙が出てるぅ! 火事だよぅ! ジズ: ええっ!? 火事!? ジズんちが!? シンデレラ: まだ距離があるからなんとも言えないけど……近いなら、いずれ延焼するかもしれないわ。早く火を消さなくちゃ ドロシー: よし、急ぐわよ! (背景切換...) 盗賊1: げほげほげほっ、煙いんスけど、おかしら! 盗賊首領: 我慢しろ、バカ。バケモンとマトモに戦うより、はるかにマシだろうが 盗賊2: ほんとに『原初の三獣』相手に、こんな煙でいぶすなんて攻撃が効くんすか? 盗賊首領: ネズミだろうと魔物だろうと、原初のナントカだろうと、肺で息してんのは変わらねえだろうが ドロシー: あ、あんたたち……! 何やってんのよ! 盗賊2: あ? なんだ? 田舎くせぇ女だな 盗賊首領: ……っ!? その女にうかつに近づ…… ドロシー: 人んち燃やして偉そうにしてんじゃないわよっ! はあああっ! 盗賊2: ぐぶううううっ!? シンデレラ: はあっ、はあっ、ドロシーっ、一人で出過ぎよっ ピュルテ: 大丈夫でしたか!? ドロシー: 私はなんともないわ。けど……ジズの家が……っ! 盗賊首領: なんだ、こいつら……? おい、一旦引くぞ! ドロシー: あ、ちょ、待ちなさいよ! ヴェルメリオ: ……ドロシー、いまは消火が先だよ ドロシー: くっ……そうよね、ごめん。いくわよっ、青のレクイエムっ! シンデレラ: 火は消えたけど……ジズの部屋は、もう中はひどい状態ね ピュルテ: 燃えてしまったり、灰だらけになったり……で、でも、順番に洗っていけば、まだ使えるものもあるかもしれませんよ ティンカー・ベル: あ、これ……黄色い鳥のもようの、布……? 何かのカバーかな。せっかく可愛いデザインなのに…… ジズ: あ……それ……! エミリー: それってお布団なんじゃない? あっ、もしかして ジズ: ママの……ママの羽毛布団なんだもん……! クレア: かわいそう、ジズ ジズ: ママがジズのために、一生懸命手作りしてくれたって言ってたんだもん! ジズ: 中に入ってる羽、全部ママが自分の身体からむしって……ジズのためにって、ぶちぶちむしった羽がいっぱい詰まってるんだもん……! シンデレラ: そ、それはたぶん、そんな作り方してないと思うわよ……? 慰めようとか、そういうの別にして、普通に…… ティンカー・ベル: う、うん……それ製作風景がだいぶホラーなことになっちゃうし…… ジズ: だって手作りって言ってたもん! ヴェルメリオ: ……たぶんカバーのことじゃないかな ジズ: ママの、ママの、おふっ、おふっ ピュルテ: あ……こ、これ、久しぶりに私、すごく嫌な予感がします! クレア: え、ディマイト汚染? エミリー: ジズは原初の三獣だからディマイトしか持ってないんだよぅ。だから汚染っていより、これは…… ピュルテ: ディマイト暴走! ジズ: おふとぅぅううう――ん!! ドロシー: くううううっ!? な、なにこの衝撃波! 大気が、揺れてるっ! シンデレラ: 原因はさておき、相手は原初の三獣よ。やれる? これ、抑え込める? ヴェルメリオ: ……人間さん。エルマイトの量なら任せとけって、三獣が相手なんだよ エミリー: 逃げてどうにかなる状況でもないからねぇ。人間さんがそう言うなら、信じて……覚悟決めるしかないかなぁ ドロシー: 覚悟なら、とっくにできてるわよ! さっさと決めるわよ! ジズ: あたたた……みんな、ひどいんだもん……ちょっと悲しくなっただけなのに、ぼこぼこにするんだもん ドロシー: そっちこそ、止めようとした私たちに攻撃しまくってたじゃないの! ジズ: あれはちょっと腕とか振っただけだもん ジズ: でも……止めてくれてありがとうなんだもん。気持ちがコントロールできなくなって、暴走しちゃうことがあるんだもん ティンカー・ベル: 落ち着いたんなら良かったよ。まあ、暴走するのは当然、って状況だったしさ ジズ: うん……ママのおふとん……ううっ ヴェルメリオ: ……だ、大丈夫だよね? もう1回、暴走おかわりとか、しないよね? ピュルテ: 悲しい気持ちはいっぱいですが、ディマイトは安定しているようですよ クレア: かわいそう。ジズ、何も悪いことしてないのにね ヴェルメリオ: ……あれは動物や魔物の巣穴によく仕掛ける狩りの方法だよ。焼け死ぬんじゃなくて、煙で窒息するのを狙ってるの シンデレラ: つまり、中に何かいることは分かってたわけね。たぶん、さっきも見た……ヴェルザームを狙ってる連中だわ ジズ: またこれ……? どうしてこんな石のために エミリー: その石は、特別な力が宿ってるんだよぅ。あの盗賊たちは、お金のために動いてるんだけどね ジズ: お金……はっ、そうだ、お金! あう……ダメになってる…… ティンカー・ベル: お金もいまの火事でなくなっちゃったの。辛いなぁ。……ってジズ、あんたお金持ってんだ!? ジズ: おうちもおふとんも、ごはんもダメになっちゃった。どうしよう クレア: ママのおうちには帰らないの? ジズ: ちゃんとひとりでできる! って言ったのに、すぐ助けてもらいに行ったらうそになっちゃうもん ティンカー・ベル: 大丈夫、そんなことないって。だってこれ、ジズが悪いわけじゃないじゃん ジズ: そうだけど、でも ティンカー・ベル: ここで助けて、って言いに来てくれたらママは喜ぶと思うよ。知らないうちに、ジズが寒い思いしてるほうが悲しいって ジズ: そっか……うん、じゃあママのところにいく ピュルテ: ふふっ、人間さんてば優しいんですね。わかりました、みんなでジズさんと一緒にご実家についていきましょう ドロシー: まあ、そりゃそうよね。この状況でヴェルザームだけもらってさよなら、って冷たすぎるわよ ティンカー・ベル: じゃあ、ジズママんちに向けて、しゅっぱーつ! 262 - ジズのくらし ジズ: ふんふんふーん♪ たくさん友達連れておうちに帰ったら、ママびっくりしちゃうんだもん ヴェルメリオ: ……そうだね。事情を全部説明したら、倒れちゃうかもしれないけど…… ティンカー・ベル: そうだよね。娘の家に強盗が入って燃やされたなんて聞いたら、普通じゃいられないよ。いくら本人が無事だからって ドロシー: そう言えばジズ、さっきお金もダメになったとか言ってたけど、あなたこんな山奥に住んでて、お金が必要だったの? ジズ: うん。だってお肉食べたいもん クレア: えっ、山の動物を捕まえたりとかするんじゃないんだ ジズ: ママは上手なんだけど、ジズはうまくいかないんだもん。力加減がすごく難しくて、一瞬で消し炭になっちゃうんだもん シンデレラ: なるほど……さすが原初の三獣……。その攻撃力じゃ、確かにそうなるかもしれないわね ピュルテ: じゃあお肉を買うためにお金が必要だったんですね。でも、稼ぐ方はどうやって? ジズ: 卵を売ってたんだもん ヴェルメリオ: ……卵? え、待って。それって ジズ: うん、ジズが産んだやつ ドロシー: そ、そう…… ジズ: 毎日、産んでるよ。勝手に出てきちゃうんだもん。それが高く売れるってママが教えてくれたんだもん エミリー: 人間さん、顔がなんかいやらしくなってるよ。そういう話題じゃないんだからやめてよね ジズ: 勝手に出てくる卵が、お金になって、お肉に変わるんだもん。うまくできてるんだもん シンデレラ: そ、そうね。いろいろと思うところはあるけど、ジズだけじゃなく卵を買った人たちも喜んでるんだし、まあ、いいのかしらね ティンカー・ベル: そだね……文化の違いってやつかな…… ジズ: すごく美味しいって褒めてもらってるもん。新鮮なやつなら、生卵のままごはんにかけるだけでも十分なんだって。今度、人間さんたちにも食べさせてあげるんだもん ピュルテ: あ、ありがとうございます…… ティンカー・ベル: ふー、この山道はみんな大変でしょ。大丈夫? ジズ: どういうことなんだもん? ティンカー・ベル: ジズとティンカは飛べるから、道がどんなのでもあんまり関係なくて、単純に近いか遠いかでしょ ジズ: うん。あ、山を歩くのは大変なんだっけ。ママから聞いたことあるんだもん ジズ: 2本足で歩く人たちはこのあたりまで来るの大変だから、卵は麓まで運んであげると、それだけでも高く値段付けてもらえるって ピュルテ: それって送料の発想ですよね ティンカー・ベル: さすがジズママ、めっちゃしっかりしてるなぁ ドロシー: まあでも、逆に言えば飛べない私たちにジズや妖精さんを付き合わせてるとも言えるわよね ジズ: つきあってもらってるのは、ジズなんだもん ヴェルメリオ: ……自由そうに見えて、そういうところジズもしっかりしてる。ママがちゃんとした人だからかな シンデレラ: ……ねえ、ジズのママは、原初の創造期も詳しいわよね、きっと ジズ: んー? たぶん。ママは、原初の創造期からママだから エミリー: 何か原初で気になることでもあるのぉ? シンデレラ: ちょっとね。聞いてみたいことがあって シンデレラ: そういう事情もあるから、ジズは私たちを付き合わせてるなんて思わなくていいのよ。ついでなんだから クレア: シンデレラ、優しい ドロシー: ……っ、みんな気をつけて。何か妙な気配がするわよ ヴェルメリオ: ……まさか、魔物? ティンカー・ベル: こういう道だからね、何か出てもおかしくないとは思ってたけど ピュルテ: あっ、クレアさん!後ろ、危ない! クレア: ピュルテ!? ピュルテ: う、うう……無事ですか、クレアさん クレア: ……こんな不意打ちで私たちを倒せると思ったの クレア: 全員、やっつける エミリー: クレアってば! その力、そんなに簡単に使っちゃダメだってばぁ! ジズ: この先の峠を越えたら、もうジズんち……じゃない、ママんちなんだもん ジズ: でも、こっちの道を行けば人の住んでる町があるんだもん。山の間にあるわりに、けっこう大きな町なんだもん シンデレラ: ちょうどよかったわ。そこで少し休んだほうがいいわね ピュルテ: あ、あの、私なら大丈夫ですから先を急いだほうが……! それに人間さん、歩けますから。おんぶ、恥ずかしいです ドロシー: 無理しないの。ううん、本当にピュルテは平気かもしれないけど、私たちが心配なのよ。だから、安全策を取らせて ティンカー・ベル: ついこないだまで花だったんだからね? そりゃ心配もするって クレア: なのに、私を庇って……ごめん…… ピュルテ: ただのかすり傷と軽い捻挫ですから……。で、でも、はい……お言葉に甘えさせていただきますね ヴェルメリオ: ……町についたら、何か栄養のあるもの作ってあげるからね (背景切換...) ティンカー・ベル: さーてと、ピュルテは宿屋に寝かせてきたし。ジズとエミリーが看ててくれるし……ティンカたちは買い出しかな ヴェルメリオ: ……ピュルテ、ああは言ってるけど傷が思ったよりは深いの。念のために、化膿しないようにお薬も買いたい クレア: ピュルテ……よくなるよね……? ドロシー: ほら、クレア。そんな暗い顔してるくらいなら、走って薬でも食べ物でも買ってくればいいのよ! 衛兵1: おい、いたぞ 衛兵2: 君たち、ちょっといいかな ドロシー: なに、こっちは忙しいんだけど 衛兵1: 間違いない、手配書の奴らだ! ティンカー・ベル: げっ、今さらそれ!? ちょっと待って、ティンカたちはいま、忙しいんだから! はーなーしーてー! 263 - 生活の変化 領主: いやはや、とんだ失礼を。どうぞ、お許しくだされ シンデレラ: いいえ、そんな。みなさんは職務に忠実だっただけ。こちらこそ、お騒がせして申し訳なかったわ 領主: おお、そんな陛下!どうか頭を上げてください、畏れ多い! クレア: もう何度も見てるけど、この流れわりと好き。人間さんも? ティンカー・ベル: いやー、でも誤解があっさり解けてよかったね ドロシー: ここがシンデレラの帝国に所属する国だったのも大きかったわよね。シンデレラの発言力が段違いみたいだし シンデレラ: 私自身、別に拘束されてたわけでもないし、聞く耳さえ持ってもらえれば事情は説明できたっていうのもあるわ 領主: このような田舎の小国、陛下のお力なくしては存続も危うい。日頃のご恩をお返しする良い機会です。なんなりとお申し付けください シンデレラ: そんなふうに言われるとくすぐったいわ。いいのよ、助け合いなんだから シンデレラ: 面倒見の良さは、エラのいいところだな……って、言われたりもしたっけ…… ティンカー・ベル: 姐さん? なに、ぶつぶつ言って シンデレラ: な、なんでもないわ。それよりこの国、この町も、ディマイトは進出してきてるの? 領主: さすがよくご存知で。いまや、庶民の間にはすっかり浸透しております。ビジネス、あるいはライフスタイルのひとつとして、ですな ドロシー: そんなの、わかってるなら対策しないと! ディマイトに乗っ取られちゃうわよ 領主: ごもっともではございますが、しかし……申し上げたとおり、あくまでもライフスタイル。民の生き方、暮らし方の選択でしかありません シンデレラ: それを公権力で規制するべきかどうか……ってことよね ドロシー: 確かに、そうなのよね。少なくとも今の時点では、誰のことも傷つけてないし シンデレラ: 今は、それで良いわ。あなたの考え、よく分かるし、間違ってないと思う 領主: もったいないお言葉……光栄の極みにございます…… クレア: そういうのも全部、計算してやってるのかな。向こうは 領主: 畏れながら陛下……。陛下ほどのお方が、このような小規模で対応すべき問題ではないのでは ヴェルメリオ: ……確かに。なんかもう、サミットとか、コミッティとか、すごいことになってるのに、わたしたち数人でいつも何かしてる シンデレラ: そうね……それについては、私も少し、考えていることがあるの 領主: さて、それでは歓迎パーティーの準備をしないといけませんな シンデレラ: いえ、それは辞退させていただくわ。実は、他にも仲間がいて、ちょっとケガをして休んでいるの クレア: だから、ご馳走はいりません。お薬をください ヴェルメリオ: ……それに、キッチンを貸してもらえたら 領主: なんと……。もちろんです。すぐに薬師と、それに料理人も助手として付けさせます ヴェルメリオ: ……できる限りで大丈夫です。ありがとうございます (背景切換...) ティンカー・ベル: てなことがあったから、ちょっと遅くなっちゃったんだ。でも、おかげで質のいい薬が手に入ったし エミリー: うん、ちょっとお熱が出ちゃったんだけど、薬を飲んでからはピュルテもだいぶ良さそうだよぉ クレア: ぐーぐー寝てた ジズ: 美味しいもの食べてぐっすり寝るのが一番元気になるんだもん。ママが言ってたんだもん ドロシー: そのとおりね。傷は見たけど、たぶんあの魔物の爪に、弱い毒性があったんだと思うわ。少し腫れてたけど、そこに薬を塗っておいたから シンデレラ: 私たちなら平気だったかもしれないけど、まだピュルテちゃんはきっと、本調子じゃないはずだから ジズ: あう、それなのにジズが連れ回しちゃったから…… クレア: 私のこと庇って……って、え、人間さん? ティンカー・ベル: ふたりとも、人間さんの言うとおりだよ。過ぎたこと引きずってもしょうがないんだから ヴェルメリオ: ……そうだ、飲み薬もあったんだ。ピュルテ、もし起きてたら飲んでもらった方がいいよね ドロシー: 様子、見てきたら? そっとね ティンカー・ベル: お薬飲んで、ばっちり寝たし、明日には良くなってるといいね ティンカー・ベル: まーったくもう。姐さんってば恥ずかしいよ。お店の人から連れ帰ってくれなんて、呼び出し連絡受けるとか、ほんっと…… シンデレラ: はうぅ……だってぇ、いろいろなやんでたらー、いつも以上に悪酔いしちゃったんだもーん……んんー、人間さん、ちゅーしてぇ、ちゅー ティンカー・ベル: 姐さん、それ人んちの窓だから!朝起きて知らない女の唇の跡が窓についてたら気持ち悪いでしょ!かわいそうだからやめなさい! シンデレラ: なによぉー、んー、すうう…… ティンカー・ベル: 人間さん、大丈夫? 昼間もほら、ピュルテのことおんぶしてたし、しんどくないかなって。姐さんのこれは慣れっこ?あはは、確かにそれもそうか ティンカー・ベル: ほんと、泥酔しちゃってどうしようもないんだから……あれ? ???: え……あなたたちは…… ティンカー・ベル: え、なに人間さん、前にも会ったの? あー! クレアが言ってた、人間さんが張り切ってチンピラ撃退したときの美少女!? ダメだよ、こんなところで。また絡まれちゃうよ ???: あ、えっと、その、ちょっと用事があって……どうして、あなたたちまで ティンカー・ベル: あー、えっとね。友達んちに遊びに行って、そのまま実家にも顔を出すことになったの ???: こんな偶然……これって、運命……? ティンカー・ベル: ん? どしたん、美少女 ???: い、いえっ、なんでもないの。それより、そっちの人は大丈夫? ティンカー・ベル: 大丈夫、大丈夫!いつものことだから。ただの酔っ払いだよ ???: 酔っぱらい……。……お酒は、人を変えてしまうから…… ティンカー・ベル: そこまで悪酔いはしないよ。ちょっと同じ話を何度もしたりとか、ボディタッチがしつこくなるくらい ???: あ、ご、ごめんなさい。何言ってるんだろう ???: え……危ないって、私のこと、心配してくれてるの……? ううん、大丈夫。もうすぐ迎えが来るから ???: 私のこと……心配してくれたんだ……あ、あのっ ???: きょ、今日は、ゆっくり話す時間がとれないけど……私、確信しました。二度あることは三度ある、じゃありませんけど……きっとまた、会えると思います ???: だってあなたはきっと、私の……い、いえっ、それじゃあ……また ティンカー・ベル: なんだろ、嵐みたいな子だったね 264 - 発覚 ティンカー・ベル: ちょっとー。人間さん、なにぼんやりしてんの ティンカー・ベル: 当ててあげよっか。さっきの子のこと、ちょっと気になっちゃってんでしょ ティンカー・ベル: なになに、一目惚れ? モテるくせに、罪作りなやつだね、ほんと! ティンカー・ベル: 別に惚れてはない? あー、ちょっと気になってるくらいってことね。ふーん、それでもさ、会って間もないのにすごい発展じゃん ティンカー・ベル: ほんっと……どうしようもないんだから……ほら、さっさと帰るよ。もう姐さん支えてる手、ぷるぷるしてるし (背景切換...) ヴェルメリオ: ……ピュルテ……どうかな…… ピュルテ: んん……人間さん、さん……ごめん……なさ…… ヴェルメリオ: ……ピュルテ、起きてるの? ピュルテ: すう……すう…… ヴェルメリオ: ……寝てる。さっきのは寝言かな ヴェルメリオ: ……もし起きたとき気がつくかもしれないし、お薬とお水は置いておくのがいいかな ヴェルメリオ: ……えーと……あ、ベッドの脇のここでいいかな……。ふう…… ヴェルメリオ: ……ピュルテは本当にすごいね。体を張って命がけで戦って……お花にまでなっちゃったんだもんね ヴェルメリオ: ……わたしも、人間さんのためならなんでもする。そういう覚悟でいるはずなのに、どこでこんなに差がついちゃったんだろ…… ヴェルメリオ: ……ううん。これからだよね。まだ、わたしだって……。友達としても、ピュルテにばかり負担かけちゃいけないし ヴェルメリオ: ……ごめんね、ピュルテ。もう、行くね。ゆっくり休んで ヴェルメリオ: ……あっ、いけない。なにか落としちゃった ヴェルメリオ: ……これ、ピュルテの首飾り? 寝るから外して、置いといたのかな。ううん、首飾りって言うより指輪に紐を通して…… ヴェルメリオ: ……この指輪、刻印がある。『…to P』って……え、うそ、結婚……指輪……!? ピュルテ: 本当に皆さん、ご迷惑をおかけしました! ドロシー: よかったわ、すっかり元気になったみたいで エミリー: 心配はしてたけど、でもピュルテならきっと大丈夫、とも思ってたよねぇ クレア: 花から戻ってきた人だもんね ピュルテ: あはは……それは私がすごいんじゃなくて、みなさんがすごいんだと思いますよ。でも、本当に気をつけないとですよね…… ピュルテ: あの、ヴェルちゃんも……ありがとうございました! 私のために栄養つけられるように色々工夫してくれたって聞いて ヴェルメリオ: ……えっ!? あ、えっと、うん。ど、どういたしまして ピュルテ: ヴェルちゃん? どうしたんですか、顔色があまり良くないような。まさか私の看病で疲れて体調を崩したんじゃ ヴェルメリオ: ……だ、大丈夫。そういうのじゃないから。平気だよ ピュルテ: そ、そうですか? ティンカー・ベル: ピュルテは人の心配より自分の体を大事にしなさい! ほんと、もっと休ませてあげたいくらいなんだから シンデレラ: そうよ。もちろん。みんなにも無茶はしてほしくないけど、特にピュルテちゃんは、いまちょっと微妙な時期だと思うし クレア: いま微妙な時期って、なんか妊婦さんに言ってるみたい ティンカー・ベル: あはは、確かに ヴェルメリオ: ………… ドロシー: ヴェル? どしたの? 何かあったの ヴェルメリオ: ……ううん、なんでもないよ ジズ: それじゃみんな、あとちょっとなんだもん。ここを超えたら、あとはジズんちなんだもん。ママに美味しいごはん、いっぱい作ってもらうんだもん シンデレラ: そんな、急に押しかけて申し訳ないから、気にしなくていいわよ クレア: えっ、ごちそう食べたいのに エミリー: しーっ。ジズのごちそうが、みんなにとってもごちそうかはわからないでしょ。何が出てくるかわかんないのに クレア: それを敢えていただくのが文化交流だって聞いた ピュルテ: 間違ってはいませんけど、クレアさんの勇気がすごいです…… ジズママ: キーキキー、キキーッ。(ようこそいらっしゃいました。今回は娘が大変お世話になったようで、お礼申し上げます) ティンカー・ベル: あ、どうもどうもー。まあ、ジズも色々大変だったんで、ね。ママに優しくされたら喜ぶかなって。ねっ クレア: ティンカ、すごい。ジズママの言葉がわかるの。さすが妖精 ティンカー・ベル: あ、いやいや、わかんないんだけど、雰囲気とか社会的なご挨拶として、こんな感じかなって クレア: なんだ、適当だったんだ。がっかり。妖精じゃなかった ティンカー・ベル: そこまで否定しなくても良くない!? ていうか妖精なのは間違いないってば! ジズ: ちゃんとジズが翻訳するから安心するんだもん ドロシー: うわ、なにこれ、すごい光! ここって、洞窟の……というか、家の中よね? ジズ: ここはしょーにゅーどーっていう場所でね、岩が長い時間をかけて、てろんってなるの。昔からのエルマイトがぎゅーってなって、それでキラキラしてるんだって ピュルテ: 鍾乳洞、ってことですね。なるほど、じゃあこの鍾乳石にエルマイトが染みているんですか ジズ: 昔はこのあたりが海だったのかも……って、えっ ジズママ: キキッ、キーキキー ジズ: ディマイトを暴走させがちなジズのために、普段から微弱なエルマイトで囲んでおいたんだって…… シンデレラ: へえ、それでこの洞窟を家に選んだのね。って、ジズもいま、それ初めて聞いたの? ジズ: うん……うう、ママ……! ジズママ: キキッ、キーキキー(だからもう、暴走なんてさせないで。おふとんなんてね、いつでも作ってあげるんだから) ジズ: ママぁっ……ううっ…… エミリー: いいシーンなんだろうって想像はできるんだけど ドロシー: 肝心の話の中身が、1つもわからないわ…… ティンカー・ベル: ううっ、そうだよねえ! よくわかんないけど、母と娘の愛情って深い、すごく深いんだよねぇっ! クレア: 適当な想像で感動までしちゃうの。鼻水も垂れてるし。やっぱり妖精じゃないでしょ ティンカー・ベル: だから妖精だって! 鼻もいまかんだから! 265 - ヴェルザームの行方 ジズ: あっ、そうだ。このまま忘れちゃうとこだった。ねえねえ、ママ。みんなにヴェルザームあげちゃってもいい? ジズママ: キー? キキ……キッキッ(ヴェルザーム? ああその石……ジズがあげたければ、いいんじゃない) ジズ: だって! ドロシー: ずいぶん軽いノリでくれるのね…… ピュルテ: 全部で7つあるらしいんです。私たちがこれで5つ持っていることになるんですが、残り2つのうち1つの在り処が分からなくて……ご存知ありませんか ティンカー・ベル: ちなみに、分かってるほうの1つは、レヴィアが持ってるんだよ。ベヒモスからはもう、もらったの ジズママ: キィ……キッ、キキィキッ、キキキ(さぁ……でもレヴィアからは、その石の話は聞きましたね。高く売れたらしいです) ジズ: らしいよ。ねえ、ジズもやっぱりお金ちょっとほしいんだもん シンデレラ: ちょ、ちょっと待って! どういうこと!? ジズ: あ、あう、ごめん……後から言うのは反則だもん。タダでいいもん……お肉いっぱい食べられるかなって、ちょっと欲張っただけだもん シンデレラ: お金もお肉も、あとでお礼は用意してあげるわよ! そうじゃなくて エミリー: ヴェルザームを……売った……? な、なんで? ジズ: ママが言うには、ちょうどユッドとメムを塾に行かせようと思ってたらしいんだもん。そしたら買いたいって人が来たらしいんだもん ドロシー: 世界を救うための貴重なアイテムが、子供の塾代に消えたですって……!? ジズ: 貴重とかって、ジズとママもだけど、レヴィアもよく知らなかったんだと思うんだもん シンデレラ: そうよね……本人たちからすれば、別にどうってことない物なのよね、たぶん ピュルテ: それで、誰が買って行ったかは分かるんですか? ジズ: コミッティの人、って言ってたらしいもん。ママも、レヴィアもそれ以上は別に、聞かなかったらしいもん ドロシー: コミッティが……ヴェルザームを!? ジズ: 一応、変な相手だと困ったことになるかなって思ったけど、ちゃんと身分がしっかりしてたから、レヴィアも安心したんだもん シンデレラ: ちょっと、事情が変わってきたわね…… シンデレラ: そもそもコミッティ側がヴェルザームの存在をどこまで認識していて、どこまで脅威と捉えているかが未知数だったわ ドロシー: けど、今回の動きでハッキリしたわね。少なくとも相手は、私たちが揃えるのを妨害しようとしている エミリー: 場合によっては、所在不明の残り1つも、既に相手に確保されている可能性もあるよねぇ ピュルテ: すべて揃えなければ意味がありません。数が多い方が勝ちというわけではありませんから、7つ無ければまた雪の国のときのように…… ピュルテ: ええ、分かってます、人間さん。あんなことはもう、繰り返すわけにはいきませんよね クレア: なんか頭の良さそうな会話になっちゃったね。ふたりは私と話そう ヴェルメリオ: ……えっ、やだよ。わたしも頭良さそうな方に行きたい ティンカー・ベル: ねえ、こうなったらもうコミッティに殴り込むしかないんじゃないの? ドロシー: ちょっと妖精さん、いきなり暴論を投げ込まないでよ! まるで鏡を見ているようだわ! シンデレラ: ぼちぼち自覚はあったのね、ドロシー エミリー: でも、エミリーも案外、それがいいかもって思ってるよぅ。だって唯一の対抗手段が封じられちゃったんだもんねぇ ピュルテ: 殴り込んで解決するんでしょうか エミリー: ヴェルザームが大量のディマイトを打ち消すことができれば、拡大計画とか、そもそものオトギノクニのアンバランスなことは解決すると思うけどねぇ ティンカー・ベル: 問題は、そのヴェルザームをどうやって手に入れるかってことでしょ クレア: 忍び込んで失敬するしかないね ドロシー: 邪魔するやつは全員ぶっ飛ばせばいいのよ ヴェルメリオ: ……ふたりの意見が真っ二つに クレア: 師匠から巣立つときが来た ジズ: そんなに危ないのに、やらなきゃいけないことなの? みんな、やりたくなさそうな顔してるもん ピュルテ: え、ええ……リスクの高い戦いなのは明らかですから、でも、世界を救うためにはそれしかありません シンデレラ: ……ねえ、ママさん。天空神殿について、何か知ってることはないかしら ジズママ: キキ……キキキ…… ジズ: 原初の創造期の頃は天空神殿なんてなかったし、よく知らないって言ってるもん ドロシー: え、意外と新しいものなの、あれって ジズママ: キーキキー! キキー! ジズ: 世界をどうこうしようなんてやつは、偉そうで腹立つってママ、怒ってるんだもん ティンカー・ベル: 偉くなったから変わったのか、そういう人だから偉くなったのか、これはなかなか難しい問題だけど、あんまり謙虚な人はいないよね ジズ: グリム家からして我が物顔だったし、コミッティができても変わんないし、天空神殿だって結局偉そうなんだって。困っちゃうんだもん シンデレラ: ……そう、ね……。うん、ありがとう (背景切換...) ドロシー: ひとまず、この前ピュルテを休ませた町まで戻るわよ。今後の方針はそこで決めるってことでいいわね エミリー: うん。それでいいと思うよぉ。にしても…… シンデレラ: ……結局、グランド・リヴィジョンのこと、ジズママも知らなかった。何があったというの…… ヴェルメリオ: ……まさかほんとに……ううん、でも……わたし、どうしたら…… ティンカー・ベル: はぁ……こんなときこそティンカが盛り上げなきゃのに、元気が出ないや…… ピュルテ: 私ずっと……足手まといなんじゃ……大事な戦いが目の前なのに…… クレア: なんという重苦しい空気 ドロシー: ったく、みんなして何やってんのよもう。とりあえず、すぐ対応できそうなヴェルのフォローでもしようかしら エミリー: 人間さんはピュルテを励ましてあげるのぉ? うん、よろしくねぇ (背景切換...) ヴェルメリオ: ……ドロシー、どうしたの。町に着いたらすぐ、お店になんて連れてきて ドロシー: 何を悩んでるのか、聞かせなさいよ ヴェルメリオ: ……なんでわかったの ドロシー: わかるわよ! 私とヴェルの仲……って言いたいとこだけど、今日のあんたは、誰が見ても変だったわよ ヴェルメリオ: ……えっ、人間さんも、気付いてた? ドロシー: やっぱり人間さん絡みね。っとに、恋する乙女は可愛いけどめんどくさいわ ヴェルメリオ: ……ピュルテは、気付いてたかな ドロシー: ピュルテ? 何よ、私はまだるっこしいのはダメなの。さくっと本題に入って ヴェルメリオ: ……う、うん、あのね。ピュルテと人間さんが結婚してるみたいなの ドロシー: はあああああ!? 266 - ティンカの苦悩 ティンカー・ベル: はぁーあ……こんなのティンカらしくないのにな。やだやだ、みんなと楽しく旅するって決めたじゃん ティンカー・ベル: けど……やっぱ、つらいなぁ…… エミリー: ティーンカ♪ ティンカー・ベル: ふええっ、エミリー!? な、なに、なんでここに エミリー: 狭い町なんだから探そうと思ったらすぐだよぉ? それよりどうしたの、元気ないみたいだけど ティンカー・ベル: いやー、あはは……こんな話、笑われちゃうと思うんだけどさ。前にこの町に来た時にね、泥酔した姐さんを人間さんと介抱してたの エミリー: ほうほう。見慣れた光景だねぇ ティンカー・ベル: そこで……美少女と遭遇してさ。なんていうのかな、儚げっつーか、守ってあげたくなるっつーか、みんなの中でいうと誰が近いかなー。ヴェルかな? エミリー: エミリーではない? ティンカー・ベル: 真逆 エミリー: 失礼だねぇ。それで、その子が? ティンカー・ベル: 人間さんが、ちょっと気になってるっぽい。いや、それは別にいいんだけどさ。そういう話を……ティンカにね、何のためらいもなく話すんだよ ティンカー・ベル: 可愛いよね、って言われてもさ。ティンカも可愛いとは思うよ。でもそれ、言わなくていいし……って、思っちゃったんだよね ティンカー・ベル: あー、この人ティンカのこと恋愛対象として見てないじゃん、男友達と一緒じゃん、ティンカの勝ち目ゼロなんじゃん、って エミリー: ……本当に勝ち目ないかは一旦おいといて。確かにそれが辛いのはわかる。ティンカが明るく振る舞ってたって、本心では嫉妬してるのは当然だし エミリー: でもさ、それティンカが自分で仕向けてるよねぇ? ティンカー・ベル: ……それは……うん、そうだね……。そっか、自分でやっといて、ティンカって実はすっごいめんどくさい女になってんじゃん エミリー: それを人間さんにぶつけちゃったら、だけどねぇ ティンカー・ベル: ……それやっちゃったら、もうティンカがみんなのこと、盛り上げられなくなっちゃうかもだよね。それは、絶対だめ…… エミリー: 好きなんだもん。辛いよね。そう感じること自体は、悪いことじゃないよぉ? エミリー: 泣きたいときはエミリーが聞いてあげる。よしよし、ってしてあげるから。ね? ティンカー・ベル: なんか……ごめん。自分で答え見えてるくせに、ぐちぐち言って エミリー: だってエミリー、いっぱいお世話になってるよぅ? 恩返し、ってやつなんじゃないかなぁ ティンカー・ベル: ん……ありがと……。じゃあさ、お言葉に甘えて……いまだけ……っ、泣いても、いいかなぁ……? ドロシー: な、なるほどね……指輪…… ヴェルメリオ: ……間違いないの。イニシャルが入ってたから ドロシー: トゥ・ピュルテ……逆ならまだ、ピュルテの妄想が重症ってくらいで済むけど、この場合はやっぱり……人間さんから、ってことよね ヴェルメリオ: ……ドロシー、わたしはどうしたらいい? 頭の中が、もうぐちゃぐちゃになっちゃってるの ドロシー: それは……うん、当然だと思うわ。混乱しないなんて無理よ。でもね、ヴェル。何もなかったわけじゃないだろうけど、決めつけるのも早いわ ヴェルメリオ: ……どういうこと? ドロシー: もし決定的なことになってるなら――例えば、本当にもう結婚していたら、ピュルテが何も言わないと思う? ドロシー: 人間さんだってそう。ふたりとも私たちみんなを大切な仲間だと思ってるはず。私、それは信じてるわ ヴェルメリオ: ……仲間なら、内緒のままになんて、しない? ドロシー: 当然よ。私だったら全部、言うわ。ピュルテも人間さんも、同じだと信じてる ヴェルメリオ: ……そう、だよね。きっと何かあったはず。でも言わないのは……確定してないから、ってこと? ドロシー: 例えば、そうね。人間さんがピュルテと結婚しようと思ってて、指輪を買った。でも、こんな事態だから渡せなくて持ったまま……落としちゃった ヴェルメリオ: ……それをピュルテが拾った? ドロシー: 例えばの話よ。でも、そういう状況ならふたりとも私たちに何も言えないでしょ ヴェルメリオ: ……でも、確定はしてなくても、何かあったんだよね。人間さんが、ピュルテのことを、お嫁さんにする可能性が……すごく高い、ってことでしょ ドロシー: ひとりで悩んでだってしょうがないわよ。気になるなら面と向かって聞けばいいの。だって、仲間なんだから ヴェルメリオ: ……う、うん。そうだよね。悩んでも、何も解決しないもんね。そうする、ピュルテに思い切って聞く ドロシー: 私も一緒に行くわ。だって、こんな話を聞いたら気になって何も手に付かないわよ ヴェルメリオ: ……じゃあ、行こっか。ピュルテだけうまく呼び出せるかな ピュルテ: ありがとうございます、人間さん。そうですよね。悩んでいても仕方ありませんよね。私にできることから、コツコツと……ですね クレア: 人間さんが優しくすると、ピュルテはすぐ元気になるね ピュルテ: そ、そんなチョロい子みたいに言わないでください……! ヴェルメリオ: ……あ、ピュルテ。後でちょっと話したいことがあるんだけど、いいかな ドロシー: そんな、大した話じゃないのよ。ちょっと気になることがあるってだけ ピュルテ: は、はい……わかりました ティンカー・ベル: ごめーん、ちょっと散歩してたら道に迷って……って、あれ? 姐さんは? エミリー: まさか、方針を決めるって話を忘れて、どこかに飲みに行ったとか ピュルテ: い、いえ、ここの領主さんと何かお話されてるみたいで…… シンデレラ: あっ、みんな揃ったのね。ちょうどよかったわ ティンカー・ベル: ちょうどいま、全員が揃ったところだよ。今後どうするか、話すんだっけ シンデレラ: ええ、そうね。そういう話をする前に、ちょっと……聞いてもらいたいことがあるの。私の、個人的なことなんだけどね エミリー: なあに、改まっちゃって シンデレラ: みんなも知っての通り、私は夫と死に別れたわ。それからずっと、私なりにがんばってきた。もちろんひとりじゃなかったわ シンデレラ: マザー・ティターニアやスーリエさんはもちろん、メリンダやシトルーチ、シャトーにバレもそう。お義母様やお義姉様だって、みんな、私を支えてくれて…… シンデレラ: でも……王家は私ひとり。先王陛下も隠居されてるし。やっぱりどこか孤独感はあって……そんなとき、人間さんと出会ったの ピュルテ: シンデレラさん……? あの、お話がよくわからないのですが…… シンデレラ: こんな状況だからこそ、敢えてみんなの前で伝えたいの。人間さん……私と、結婚して 267 - 婚礼の儀 司祭: 新婦、シンデレラ。あなたは傍らの者だけを夫とし、健やかなるときも、病めるときも、富めるときも、貧しいときも、愛し敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか? シンデレラ: ……誓います ピュルテ: ……シンデレラさん、本当に……キレイですね…… ヴェルメリオ: ……うん。化粧した姐さんも、それなりに見慣れてるつもりだったけど……それでも、なんか違って見える ドロシー: 俗に言う幸せオーラってやつ? でも、ちょっと事情は特殊よね…… 司祭: 新郎、人間さん。あなたは傍らの者だけを妻とし、健やかなるときも シンデレラ: 司祭様 司祭: おお、失礼致しました 司祭: 新郎、人間さん。あなたは傍らの者を妻とし、健やかなるときも…… シンデレラ: 人間さん……後悔、してる? シンデレラ: そんなにムキになって否定しなくていいわよ。うん……そうね。こんなことになるなんて、私も考えてなかった シンデレラ: けど……こうして夫婦の誓いを交わしたからには、私は人間さんを必ず幸せにするから、安心して シンデレラ: 必ず、幸せにするわ。それが私の責任…… シンデレラ: いいのよ。だってこうして式場に来てくれたことに、もう感謝しかないんだから シンデレラ: 人間さんだって難しい立ち位置だったわよね。唐突なことだったし、人間さんもびっくりしただろうし…… シンデレラ: それでも来てくれたんだから。私の夫になる以上……全力で守るわ (――挙式の数日前に遡る――) シンデレラ: こんな状況だからこそ、敢えてみんなの前で伝えたいの。人間さん……私と、結婚して ピュルテ: え……? け、結婚って…… シンデレラ: 私の夫になってほしい、ってこと ピュルテ: い、いえ、それは分かりますが ドロシー: いきなりどうしたのよ、シンデレラ! そりゃあ、人間さんと結婚したいのは分かるけど、いま言うことじゃないでしょ!? エミリー: 人間さん、モテモテだからねぇ。焦ってツバ付けときたくなる気持ちは分からないでもないけど、シンデレラらしくないよぅ? ティンカー・ベル: そうだよ、姐さん! 抜け駆けはよくないと思いまーす! クレア: ぬけがけってなに? 反則? エミリー: 仲間を出し抜いて自分だけ得しちゃうことだよぉ。みんな人間さん好きなのに、ひとりでこっそりデートしちゃうとか クレア: いま、シンデレラ、こっそりじゃない気がするけど ティンカー・ベル: うっ、そ、それはその…… ピュルテ: ……ま、まあ、それはいいんじゃないでしょうか。出し抜くつもりはないのに結果的に……ってこともありますし ヴェルメリオ: ……姐さん、人間さんと結婚するとか、そこまで具体的に考えてたんだね シンデレラ: そうね。いつからだったかな……ハッキリ覚えてないけど、やっぱり雪の国の後、離れ離れになったあたりで、意識するようになったと思うわ ヴェルメリオ: ……わ、わたしだって、考えてるよ ドロシー: ヴェル? ちょっと待って、どうするつもり エミリー: あのおとなしいヴェルが前に出て、シンデレラの正面に立ったよぉ…… クレア: 人間さんとの間、塞ぐみたいに……それって、そういうこと? 私を倒してから行け、みたいな ヴェルメリオ: ……いくら姐さんでも、譲れないこともあるから シンデレラ: ……。ヴェルにここまでさせるなんて、人間さんは本当に愛されてるわね。でも、少し落ち着いて聞いて シンデレラ: もちろん人間さんのことは好きよ。でも、この結婚は……それだけじゃないの シンデレラ: 私が結婚したいと思ったのは、離れ離れだった時期だけど……。気持ちじゃなくて手段として意識したのは、サミットのときね ヴェルメリオ: ……手段って? シンデレラ: いま、人間さんが置かれてる社会的な立場って、すごく微妙だと思うの ピュルテ: そもそも、この世界の人じゃありませんからね ドロシー: サミットのときにシャルロッテが言ってた、あの話ね。人間さんは、危険な兵器になるとかなんとか ティンカー・ベル: ひっどいよね! 要するに、人間さんがエルマイト使って好き勝手暴れたりするとか、そういう疑いかけられてるわけでしょ? ヴェルメリオ: ……そんなこと、人間さんがするはずない エミリー: でも客観的には、シャルのあの主張は正しいと思うんだよねぇ。シャルが自分で考えたわけないから、誰かの入れ知恵なんだろうけど エミリー: 人間さんがいい人で、みんなもいい子たちで、なんていうのは外からじゃわかんないことだからねぇ シンデレラ: それにまず、個人の人柄を前提にルールを決めるなんていうのは論外よ。公正さを欠くわ ドロシー: んー……それはそうね。エルマイトが大量にあると、何ができるのかも完全に分かってるわけじゃないし ティンカー・ベル: あのとき捕まらなければ、強引に取り返すこともなかったし、指名手配になることもなかった……って考えるとね ヴェルメリオ: ……いま、事情を説明しようと表に出ても、何か話す前に牢屋に入れられちゃうよね クレア: それは指名手配されてるからでしょ? ならシャルに、やっぱりなし、って言ってもらえばいいんじゃない? ドロシー: 指名手配されてるのは私や妖精さんよ。シンデレラや人間さんは、建前上はさらわれたことになってるはず ティンカー・ベル: けど、人間さんのことはサミットで共同管理するんだとか言って、リベルタリブロの牢屋に入れられてたよね? ヴェルメリオ: ……どっちにしても、人間さんは捕まっちゃうってこと? 268 - 身柄の行方 エミリー: サミットで共同管理とかって、シャルが言い出したんだっけ クレア: シャルに、やっぱなし、って言ってもらえばいいんじゃない? シンデレラ: 一応あれは、ただの飲み会じゃないのよ。議題に上がって、人間さんも収容されたという実績があるもの。簡単には引き下げられない ピュルテ: シンデレラさんと結婚すれば、そういう問題を全部、権力で吹き飛ばせるってことですか? シンデレラ: いくらなんでも、それは無理よ。けど人間さんのことなら、共同管理してるサミットが魔法の国へ管理を委託することはできるわ ヴェルメリオ: ……どういうこと? 人間さんを、委託する? ドロシー: 理由はなんとでもなるんでしょ。すぐ出動できるように、とか。魔法の国の判断と責任でいろいろやるけど、あくまで管理はサミットにあるとか、そういう ティンカー・ベル: おおー、なんか大人の建前って感じがするね シンデレラ: となれば、委託先が何故、魔法の国なのか。その正当性を担保する必要がある ピュルテ: だから結婚……! 奥さんがいるなら、その国に住むのは当然ですし、住んでいる国が管理を委託されるのは自然ですね…… エミリー: 結婚は本人の自由だもんねぇ。いくらサミットでも、そこまで人間さんから奪っちゃうのは、まあ、聞こえも悪いし ドロシー: だったら、オズの国で私と結婚してもよかったんじゃないの? シンデレラ: んー……サミット内での発言力とかあるし、やっぱり王族の権威ってこの世界じゃ大きいし……ねえ? ドロシー: ……ふうん。まあいいわ。私はとりあえず納得した シンデレラ: ただ、みんな……人間さんも勘違いしないで。これはあくまでも、私からのプロポーズよ。人間さんには選ぶ権利がある ティンカー・ベル: いやいや姐さん、こんな事情聞いたらそりゃ断れないでしょ シンデレラ: いいのよ、断って。この作戦はあくまでもマストではなくベター、絶対に避けて通れないわけじゃない シンデレラ: 私は選択肢を提示しただけ。他にもいい方法はいくらでもあるだろうし、それを考えるのも私たちの役目だと思う ピュルテ: シンデレラさん…… シンデレラ: 簡単な決断じゃないと思うし、今すぐでなくていいわ。ゆっくり考えてみて クレア: ピュルテ、あった? こっちはない ピュルテ: うーん……私もまだ見つけられません。人間さんはどうですか? ピュルテ: そうですか……仕方ありません、根気よく続けていきましょう クレア: 大変だけど、魔物は危ないから私たちがやるのが一番だよね ピュルテ: 領主さんから急に、頼みがあるなんて言われたときはどんな大事件かと思いましたけど クレア: 魔物討伐の依頼だったね ピュルテ: このあたりじゃ兵隊さんも少ないですし、ちょっと魔物が増えるだけでも一大事なんでしょうね クレア: でも、この魔物の足跡を探すって、すごく地味 ピュルテ: 巣穴を見つけて一気に叩いておけば、私たちが出発した後も、この町の人たちは安心できますからね。大変ですけど、仕方ありません クレア: 魔物が増えてるのって、ディマイトアイテム使ってるから? ピュルテ: あまり憶測でものを言ってはいけないとは思いますが、可能性はそれなりにある気がします ピュルテ: この町でも、それなりに普及してるみたいですからね……ディマイトアイテム クレア: 人間さんは危険物扱いされちゃってるのにね ピュルテ: エルマイトを大量に持つ人間さんが危険……そういう見方が、ディマイトアイテムを推進する後ろ盾にもなりそうですよね クレア: エルマイトが危ないもの扱いになってるってこと? ピュルテ: まだ人間さんのこととかは、一般の人に広く知られているわけじゃありませんが、場合によっては敵はそういう作戦に出るかもしれませんよ クレア: だから結婚かぁ…… ピュルテ: ……そう、ですね。世の中への牽制の意味もあるんでしょうね。だから、やっぱり…… クレア: あ、思い出した ピュルテ: えっ? どうしたんですか? クレア: この魔物の足跡探し、何か前にもあったような気がすると思ってたんだけど、あれだ。ピュルテが大事なものを夜の森にぽいってしたとき クレア: ふたりで一生懸命探したよね。あのときに似てる ピュルテ: あっ、あのときは……本当にご迷惑をおかけしました……! ピュルテ: あ、ええ、人間さんは知らないですよね。クレアさんが、助けてくれたことがあって…… クレア: ピュルテが子供みたいに泣いてたの ピュルテ: や、ちょ、恥ずかしいですよ、クレアさんったら…… ピュルテ: あはは……ほんと、いま思い返しても恥ずかしいです……でも、なんだろう、すごく懐かしい…… ピュルテ: そうですね、ほんと……そんなことも、ありましたよね…… ピュルテ: あっ、ご、ごめんなさいっ、なんで私、泣いて……あっ、びっくりしちゃいますよね、人間さん クレア: 慌てぶりがすごい。男は女の涙に弱いって本当なんだね ピュルテ: さ、さあ、気を取り直して進みましょう! (背景切換...) ピュルテ: 開けた場所に出ましたね。魔物だって水を飲むでしょうし、こういうところに出てくるかもしれませんよ クレア: えっ、トイレ? 人間さん、なんで出かける前に行っとかないの ピュルテ: ふふっ、仕方ありませんね。離れすぎないように気をつけてくださいね クレア: 今日の人間さん、なんかやけにテンション高いね。どうしたんだろ ピュルテ: きっと人間さん……いろいろ悩んでるんだと思います。けど、それを悟られたくないから、敢えてあんなふうに…… クレア: だからピュルテの涙にも過剰反応しちゃう? ピュルテ: それは……分かりませんけど、そうなのかもしれません クレア: ねえ、ピュルテ。いいの、言わなくて ピュルテ: ……何を、ですか? クレア: 人間さんに。指輪、実は拾ったよって ピュルテ: それ言っちゃうのは、人間さんを苦しめるだけだと思うんです ピュルテ: 今は、人間さんのプロポーズを私が断った形ですけど、指輪を持ち出したらまるで……結婚したいって言いましたよね、って迫ってるみたいじゃないですか クレア: 脅しみたい? ピュルテ: 少なくとも、いまのこの状況では言えませんよ クレア: だって、いま言わないと結婚しちゃうよ ピュルテ: そう、ですけど…… 269 - ピュルテの矜持 ピュルテ: それでいいんだと思います。シンデレラさんはああいう言い方でしたけど、限りなくマストに近いんだと思います ピュルテ: もう選択肢は決まったようなもの……なのに、そこに波紋を呼ぶのは、人間さんを苦しめるだけです クレア: そっか……。でも、終わったら戻ってきて、ってお願いするのは? ピュルテ: それって、シンデレラさんと人間さんの結婚が形式だけですよね、ってわざわざ口に出してるのと同じになっちゃうかなって ピュルテ: シンデレラさんだって、すごく辛いはずなんです。例え好きな人でも、こんな形で結婚するなんて……それに追い打ちをかけるみたいで…… クレア: そっか。うん、みんな……辛いんだね。難しいな、こういうの。私にはまだ、よくわからない。友達より、ずっと複雑 ピュルテ: だからクレアさんも、内緒にしておいてくれますか? クレア: ピュルテがそう言うなら……あ、人間さん。おかえり。遅かったね。あ、そっちだったの ピュルテ: ちょっと、人間さんっ! そんなことわざわざ言わなくていいですから! (背景切換...) ドロシー: あーあ、これはひどいわ ヴェルメリオ: ……このあたりみんな、最近増えた魔物にやられたの? 住民: そうなのよ。まあ、人の被害が出なかったのが、不幸中の幸いね ドロシー: じゃあさっそく、仕事に取り掛かるわよ! 今回の私とヴェルは、この村の復興のお手伝い兼警備だからね ヴェルメリオ: ……お腹すいてるよね。いま、炊き出しの準備するから 子供: わぁーっ! もうお腹ぺこぺこだよ! ヴェルメリオ: ……わたしは食材の準備するから、ドロシーは火をかける準備をお願い ドロシー: まずは薪割りからね! ほら、見てなさいっ、はああぁぁあぁぁっ! 子供: うわ、姉ちゃん、すげえっ! 父ちゃんだって、こんなキレイに割れないよ ドロシー: ふふんっ、こういうのは得意なの。周りからもよく、薪を割ったような性格って言われるし! ヴェルメリオ: ……それ、薪じゃなくて、竹じゃないかな ドロシー: それよりヴェル、大丈夫? ピュルテに確かめる前に、まさかこんなことになるなんてね ドロシー: まあこれで、ピュルテが既に人間さんと結婚してる可能性はゼロになったわね。さすがに、してたらピュルテがあの場で黙ってるはずないし ヴェルメリオ: ……そんなの、もう意味ないよ。結局、結婚しちゃうんだもん ヴェルメリオ: ……正直、すごく混乱して、もう頭の中ぐちゃぐちゃになってる ドロシー: 無理もないわ。私だって、ショックだったし……頭の中も整理できてないもの ヴェルメリオ: ……いきさつはわからないけど、ピュルテに指輪を渡すような何かがあって、今度は姐さんと結婚して…… ヴェルメリオ: ……わたし、人間さんにとって何なんだろう。ときどき、そう思っちゃう ドロシー: なに言ってるのよ、人間さんはちゃんとヴェルのことだって大事に考えてるわよ。決まってるじゃない! ドロシー: だって……私が好きになった人でもあるのよ。そんな薄情なはず、ないんだから…… ヴェルメリオ: ……ドロシー……。うん、人間さんが優しいのはわかってる。そうじゃなくて、わたしが人間さんに、何をあげられるんだろうってこと ヴェルメリオ: ……人間さんにとって、どんな意味のある存在になれるんだろうって、そう考えちゃったの。やっぱり自信、持てないから ドロシー: わりとヤキモチ妬くのも不安の裏返しなのよね。ヴェルはもうちょっと自信持っていいと思うけど ヴェルメリオ: ……もう、ふたりでデートしても、それって不倫になるってことだよね ドロシー: えっ? ま、まあ、そうなるわよね……シンデレラは何も言わないでしょうけど、第三者から見れば……うん…… ヴェルメリオ: ……でも、好きならいいかな。不倫でも、わたしのこと好きって、必要だって言ってくれるなら…… ドロシー: ちょっと、ちょっと! ヴェルはそういうところ、本当に危なっかしいんだから! しっかりしなさいよ、その先に幸せはないわよ! ヴェルメリオ: ……はい、よく噛んで食べてね 子供: 姉ちゃんたち、ありがとーっ! ヴェルメリオ: ……ふふっ、村を魔物にこんなにされたのに、元気でいいなぁ ドロシー: 子供が元気でいてくれると、村の大人もがんばらなくちゃってやる気が出るわよね ヴェルメリオ: ……子供かぁ。不倫で子供ができたら、わたしひとりで育てることになるんだよね。大丈夫かな ドロシー: だから不倫前提で話を進めるのはやめなさいってば! ドロシー: それに……これは今だけよ。あくまでも敵に対抗するため、人間さんの身分を確保するための措置よ ヴェルメリオ: ……そう思ってて、いいのかな。このまま既成事実化しちゃわない? ドロシー: んー。さっき私も意地悪な質問したけど、実際のところ適任なのはシンデレラしかいないのよ ドロシー: オズの国もエルマイト量は多いほうだけど、魔法の国にはかなわないし。それにやっぱり、王族の権威が無視できないのも本当 ヴェルメリオ: ……うん。それは、なんとなくわかってる ドロシー: 今までだって、この方法のメリットはずっとあったのよ。でもシンデレラはそうしなかった。大義名分は十分にあるんだから、押し通すことはできたのに ヴェルメリオ: ……強引に、結婚しちゃおうと思えばできたんだ ドロシー: たぶん、シンデレラ自身も、この形を望んでないと思う。だからきっと、悪いようにはしないわ。シンデレラがチームを壊すはずないわよ ヴェルメリオ: ……うん、そうだよね。姐さんだもんね。急に権力で人間さんを独り占めなんて、そんな人じゃないもんね ドロシー: そうよ。シンデレラだって、本当に、本気の恋愛をして結婚するんなら、もうちょっとムードあるプロポーズにしたかったと思うし シンデレラ: ほんっと、そうよねぇ……ムードもへったくれもありゃしないわ エミリー: そもそも自分で結婚してって迫っちゃったわけだしねぇ シンデレラ: 別に私から言うのはいいのよ。こういうことがなくたって、人間さんからは言いづらいだろうし。ほら、夫の……元夫の件があるから エミリー: あー、確かに。言い方によっては無神経に見えちゃうかもだもんねぇ シンデレラ: だけどほら、もうちょっと可愛い感じというか……さっきのは、あまりにも事務的すぎるわ エミリー: シンデレラって、意外とそのへん、こだわりありそうだよねぇ シンデレラ: 初婚のときのプロポーズも結構、特殊だったし……なんか普通じゃ物足りない感じはあるかもね 270 - 乙女心が割り込む余地 シンデレラ: でもねえ、さっきの場面であまりにも盛り上げすぎちゃうのも、みんなは嫌な気持ちになるのは目に見えてたから…… シンデレラ: 今だって、たぶんヴェルとか傷ついてるんだろうなぁ……あーあ、祝福されない結婚なんて辛いぃ…… エミリー: ねえねえ、そのへんエミリーも気になってたんだけどさ。みんなとの関係とかって、どうするつもりなのぉ? シンデレラ: 今までと何も変わらなくていいと思ってるわ。エルマイトの件もあるし、王族なんだから妾のひとりやふたり持っても、糾弾されることはないでしょ エミリー: まあでも、みんなのほうはそう割り切れないかもねぇ…… シンデレラ: あくまでも書類上の手続き、ってところは改めて強調しようとは思ってるけどね エミリー: でもさぁ、だったらわざわざ人間さんに一回預けなくても、さっさと進めちゃえばよかったんじゃないのぉ? シンデレラ: そ、それは……だって、あまりにも強権的すぎると、その、チームとして良くないかなって思うし、ねえ? シンデレラ: そもそもが、サミットでモノ扱いされてるのがひどいから、って始まった作戦なのに、本人の意志を無視して進めちゃうのは本末転倒というか エミリー: ふむふむ。……で? シンデレラ: だ、だからっ、ちゃんと意見を聞きましたよっていう形をね、実際断られたとしても、また案は考えるしっ…… エミリー: ……まあ、それもあるよね。嘘じゃないとおもうよぉ シンデレラ: エミリー…… エミリー: なぁに? シンデレラ: 恋愛経験豊富なエミリーのことだから、どうせ私の気持ちなんか、わかってるんでしょ……! わかってていじめるのね……! エミリー: なんのことかなぁ? エミリー、ピュアだからそういうの、よくわかんないなぁ シンデレラ: どの口が言うか……! エミリー: えっへへっ、ちょっと意地悪しすぎちゃったかなぁ? あれだよね、言ってほしかったんでしょ? シンデレラってば可愛いよねぇ シンデレラ: くっ……笑いたければ、笑いなさいよっ! ここまで進めておいて『結婚しよう』って言葉だけほしいとか、自分でもどうかしてると思うわよ! エミリー: ううん、いじめてはみたけど、どうかしてるとは思わないなぁ。やっぱり、言われたいものだもんねぇ シンデレラ: まーた、結婚願望なんか微塵もなさそうな人が、よく言うわ…… エミリー: あっ、そんな言い方、ひどいよぅ! エミリーだって恋する乙女の気持ちは持ってるんだよぅ? エミリー: いまはちょっとお休みしてるだけなの。ねっ? シンデレラ: 私に愛想振りまいてどうするのよ。イケメンにやってきなさい エミリー: でも、よく考えたよねぇ。一旦答えを保留させれば、引き受けるときは必ず『結婚しよう』に近い言葉は言うもんねぇ エミリー: 民主的な進め方と見せかけて、欲しい言葉をもらっちゃうと…… シンデレラ: エミリーなら、わかってるんでしょ。そんな言葉だけ聞いたって、それこそ形だけ、虚しくなるんじゃないのって エミリー: んー、まあねぇ シンデレラ: 大義名分と、本音の間でフラフラして……私の立ち位置も、結局どっちつかずなのよ シンデレラ: 本当にみんなのことを考えるなら、もっと淡々と、本当に手続きだって雰囲気にするべきなのにね シンデレラ: これで傷つく人もいるってわかってるのに、私……何やってるんだろって エミリー: 誰のことも傷つけない恋愛なんて存在しないでしょ シンデレラ: エミリー…… エミリー: 大義名分があるだけマシなんじゃない? エミリーはいつだって、自分の気持ちのためだけに傷つけてるし、傷ついてる エミリー: でも、それでいいんだと思ってる エミリー: ところでさ、断られたときの代替案って、どんなの考えてるのぉ? シンデレラ: 考えてない…… エミリー: えっ、だって用意してるって シンデレラ: 用意するつもりがある、って言い方しかしてないはずよ! 私だって人前に出る仕事だから、言葉尻には気を遣ってるわ! エミリー: いやいや、そういうことじゃなくて……え、だって、えっ? シンデレラ: たとえ作戦でも、プロポーズしてフラれるって相当よ……? そんなの事前に想定しておくなんて、辛すぎるじゃない…… シンデレラ: だから、そのときはみんなが考えてよ。私はもう、何もする気力が起きないと思うから…… エミリー: うん、まあ……気持ちはわかるし、シンデレラひとりに任せるのも違うとは思うけど……そっか、ノープランだったんだぁ…… シンデレラ: ねえ、エミリー。やっぱり私、フラれちゃうと思う? エミリー: そんなの、わかんないよぅ! (背景切換...) ティンカー・ベル: おーっ、みんな、お疲れー。そっちの魔物討伐はどうだった? ピュルテ: ええ、なんとか巣穴を見つけることができました。見つけた後はもう、あっという間でしたね クレア: 暴れたくてうずうずしてたの クレア: きっと私の中の闇の力がいろいろどうにかなってるんだ ティンカー・ベル: いやいや、邪装使ってもないのに、なに言ってんの。どうせ、地道な探索に飽きてて、身体を動かしたかっただけでしょ クレア: うん。そういう気持ちを、闇の力って名付けたら良くない? ティンカー・ベル: 良くないだろ ピュルテ: ドロシーさんたちは、もう戻って来られました? ティンカー・ベル: あ、うん。ずきんと三つ編みも、さっき戻ってきたよ。炊き出し、大好評だったみたい。お風呂に行くって言ってたけど クレア: 私も入りたい ピュルテ: そうですね。人間さんも汗かきましたよね ティンカー・ベル: あー、人間さん。その前に、ちょっと時間いい? 話したいことがあってさ 271 - ティンカのお叱り ティンカー・ベル: ねえ、人間さん。まさかとは思うけど、断らないよね。姐さんとの結婚 ティンカー・ベル: 人間さんのことだからさ、いろいろみんなのこととか考えちゃって、何がベストなのかわかんなくなってんでしょ ティンカー・ベル: あー、その顔。やっぱり、図星だな! 言っとくけど、これでもティンカはちゃんと見てるんだからね ティンカー・ベル: はいはい、いいからここ座って。ふーん、なんだかんだ緊張しちゃってるわけ? 結婚するの初めて……って、うん、それはティンカも経験ないけど ティンカー・ベル: まあね、形だけとは言え、人生の大イベントではあるもんね。ティンカだってペトラが結婚するって言い出したら、もうどうしていいか…… ティンカー・ベル: 自分の結婚じゃないのか? 人間さんさぁ、いまそれ言う? ほんっと、わかってないんだから…… ティンカー・ベル: まあとにかく、このくらいでバラバラになるようなみんなじゃないよ。姐さんだって、それがわかってるから言い出したんでしょ ティンカー・ベル: これでダメになるようだったら、それこそ本末転倒ってやつだもん。みんなでこれからもディマイト垂れ流してるやつと戦うぞ、っていうための作戦なんだからさ ティンカー・ベル: だいたい、決まった相手がいるわけでもないんだし、あの場で即答すればよかっ……え、待って、はあ!? ピュルテにプロポーズしたぁ!? ティンカー・ベル: いや、ちょ、待って。もう聞いちゃったから。失言だったとか言われても、今さら聞かなかったことにはできないから。はい、ちゃんと言って ティンカー・ベル: え、いつ? あー、みんなが離れ離れになったときか。エミリーとクレアと4人旅だったときね。うわ、マジかぁ…… ティンカー・ベル: 心が弱ってて、逃げ道みたいに使っちゃったと。まあわからんでもないけど、敢えて言っとくね。あんた、サイテーだからね ティンカー・ベル: いや、だってそうでしょ。自分で自覚あるよね。人間さんも辛かったとは思うから、これ以上は責めないけども ティンカー・ベル: まあでも、わかった。そういうのもあって、即答するのはためらっちゃったわけね。ったく、もう、しょうがないなぁ ティンカー・ベル: だいたいさぁ、勢い余った失言だったとは言え、そういう話をティンカにさらっとしちゃうところからして、腹立つんだよね ティンカー・ベル: さっきも、自分の結婚はー?とか言っちゃうし。ティンカも人間さんのこと好きだって、忘れてるでしょ。いーや、忘れてる ティンカー・ベル: 今までの自分の行動を、目を閉じて胸に手を当てて考えて。ほら、言われたとおりにして! (背景切換...) ティンカー・ベル: まあ、でも……ティンカがね、あんまりアピールしてないのは事実だからね。あんまり人間さんばっかり責めらんないよね ティンカー・ベル: だから、ん……ちゅっ…… (背景切換...) ティンカー・ベル: あ、びっくりしてる。そりゃそっか ティンカー・ベル: ね……少しはドキドキした……? ティンカー・ベル: ん、ならよしっ。結婚しても、ティンカのことは忘れちゃダメなんだからね ティンカー・ベル: じゃあ、そろそろ行くよ。答え、言いに行かないと、でしょ? (背景切換...) ティンカー・ベル: あ、姐さん、ちょっと。人間さんが話したいことがあるって シンデレラ: なに? え、人間さん? え、もしかして……答え、決まったの? ピュルテ: ……っ!! ヴェルメリオ: ……決めたんだね、人間さん クレア: なんか私まで緊張してきた シンデレラ: それじゃあ……人間さん。あなたの答え、聞かせてくれるかしら 司祭: ふたりの門出に幸あらんことを! 会場の皆様も、若いふたりの旅立ちを祝い、大きな拍手でお見送りください! 領主: おお、陛下……おめでとうございます。急ごしらえの簡易的なものとは言え、まさか陛下のご婚礼を我が領内で行うことになるとは、身に余る栄誉……! シンデレラ: こちらこそ、急に無理を言って申し訳なかったわ。色々とありがとう エミリー: 事情は色々あるけど、とりあえずおめでとう! クレア: 結婚って、決まると意外とすぐなんだね ティンカー・ベル: まあ、今回は事情があって突貫だったからねー。とにかく、ふたりとも一応おめでとって言っとく ドロシー: 仮にも夫婦なんだから、人間さんはシンデレラを泣かせるんじゃないわよ ヴェルメリオ: ……っ、ふたりとも……おめでとう ピュルテ: おめでとうございます。これでおふたりは正式に……ご夫婦なんですね シンデレラ: さて、と。この後、何人か新聞記者を呼んであるから、取材を受けるわよ。大丈夫。人間さんは黙って隣に座っててくれればいいから (背景切換...) シンデレラ: あーっ、つっかれたー。久しぶりのプリンセスモードだったから、なんだか肩凝っちゃったわ シンデレラ: 人間さんもお疲れ様。取材応対なんて慣れないし大変だったわよね シンデレラ: 本国のマザー・ティターニアとも連絡をとりあって、明日には政府から公式な通達が各国になされるわ。今日の取材を受けて報道にも乗るし…… シンデレラ: いよいよ明日から、色々と動かなきゃいけなくなるわ。だから、せめて今日くらいはゆっくり休んでね シンデレラ: え……? 結婚したんだって実感する……? そ、そうね。確かに、こうしてふたりきりで部屋にいると、ちょっと……なんていうか シンデレラ: う、うん……照れるわよね……。今までも、部屋にふたりきりなんて状況、あったはずなのに……おかしいわね シンデレラ: 初夜って! やだ、そういう言い方しないでよ! 確かにそうなんだけども! もうっ、ま、まともに顔見れなくなっちゃう…… シンデレラ: ……で、でもね。その……そばには、いて、ほしい……かな。政略結婚みたいなものだって、わかってはいるんだけどね。それでも…… シンデレラ: 寝る前に、キスして。私に魔法、かけてほしいの 272 - シンデレラの選択 住民1: な、なんだ……!? 何事だ!? 住民2: あれはプリンセス・シンデレラ……!? 生きているうちに直接、目にする機会があるとは……! ピュルテ: すごく注目を浴びてしまって、皆さんの視線が痛いくらいですね ドロシー: そりゃそうよ。ガラスの騎士団の大軍が、堂々と行進してるんだから ヴェルメリオ: ……魔法の国から呼び寄せたんでしょ。でも、なんのために? ドロシー: 示威行動、ってやつよ。今回は、こっちがいつまでもお尋ね者じゃないって、相手に見せつけてやんなきゃいけないのよ ティンカー・ベル: お尋ね者にしてやろうっていうのも、相手の策略だもんね。そううまくはいかないんだぞ、ってね クレア: すごい人数だね。こんなに大勢で旅したことない エミリー: 明確なメッセージになるよね。世間にも、お姉ちゃんたちにも…… クレア: あーあーあー ティンカー・ベル: いきなりどうした、クレア クレア: この馬車、全然揺れないと思って ヴェルメリオ: ……言われてみれば、たしかに。やっぱり高級品なのかな シンデレラ: クレアはいつも通りね。私も見習わなくちゃ。どうしても、こういうことをすると落ち着かなくて ピュルテ: シンデレラさん……結婚宣言も驚きましたが、まさかここまでするとは思っていませんでした シンデレラ: 公的な立場を確保できたら、残されてるのはコミッティとの駆け引きだけよ。これを相手がどう見るかだけど エミリー: 特務機関とかもあるけど、コミッティって基本的に意思決定機関なの。だから直接、すぐに動かせる部隊は町の治安部隊しかないんだよねぇ ヴェルメリオ: ……町があるんだね (背景切換...) 住民3: ほら、見て! プリンセス・シンデレラの行軍よ! 秘書官: ……あれは…… 秘書官: お嬢の心を惑わせ、死に追いやっておきながら、のうのうと……っ! あの男だけは……許さない……! マスター: ギムレットです 秘書官: あ?俺は注文してないが マスター: あちらのお客様からです ???: …… ドロシー: コミッティ本部がある場所にも、当然だけど町があるのよね ヴェルメリオ: ……どんな場所なんだろ エミリー: 面白みも何もないよ。石造りでガラスをはめ込んだ、背の高い建物がぽんぽんできててさ。便利ではあるんだけどね ドロシー: 便利ならいいじゃない エミリー: でも絵に描きたいとは思えない、そんな街だよ ティンカー・ベル: ふーん。ま、姐さんはいい飲み屋があればそれで満足だもんね! シンデレラ: え? あ、そ、そうね ティンカー・ベル: なになに、姐さん。いつもの感じじゃないじゃーん ピュルテ: 一大事ですから、普段どおりってわけにはいかないんじゃないでしょうか ティンカー・ベル: そりゃそうだよ。でも、そういうときに普段どおりにできる人が強いんだって、ティンカは思うんだけどなぁ クレア: もしかして、エミリー以外で、コミッティ本部に行ったことある人って、いない? ヴェルメリオ: ……ごめん、わたし田舎者だから ピュルテ: い、いえ、たぶん誰もいないんじゃないでしょうか シンデレラ: そうね。私も実際に行くのは初めてだわ ガラスの騎士: 申し上げます。まもなくインペリウム・コミッティ直轄領内に進入します シンデレラ: 周辺の警戒は怠らないように。もう、ここは敵地よ ガラスの騎士: 心得ましてございます。……っと、人間さん陛下! 馬車の窓は開けてはなりませぬ! ピュルテ: 人間さん、怒られてますよ ガラスの騎士: い、いえっ! 怒るなどと、そんな、恐れ多い……!! ドロシー: 窓をうかつに開けると暗殺されるリスクが上がるとか、聞いたことがあるわ。こういうの見ると、シンデレラが本当に王族なんだって実感するわね エミリー: 偉い人扱いに慣れないのは分かるけど、今の人間さんはそういう立場なんだよぅ シンデレラ: そういうこと。陛下って敬称にも慣れてちょうだい。これからずっと、それは変わらないんだから ヴェルメリオ: ……そんな顔しないで、人間さん。たとえ、騎士さんから陛下って呼ばれても、わたしたちは変わらないんだから シンデレラ: ふー、今日も疲れたわね。一応、ここはコミッティ直轄領の手前だから、中立地よ クレア: 安心して寝ていられる場所ってことだね エミリー: 魔法の国の精鋭、ガラスの騎士団5万の軍勢……改めてこうして眺めてると、圧巻だねぇ シンデレラ: まあねー。一時期まではオトギノクニ最強の軍隊とか言われてたらしいわ ヴェルメリオ: ……そうなんだね。一時期って、今は違うの? シンデレラ: トラジェディ砦の事件からこっちは、評判を落としちゃったみたいね ヴェルメリオ: ……トラジェディ砦……ごめん、わたし、配慮が足りなくて シンデレラ: 大丈夫よ、ヴェル。気にしないで。さてと、私はそろそろ休ませてもらうわね。明日はいよいよ大一番だから、しっかり寝ておかないと エミリー: いよいよ、明日だねぇ。お姉ちゃんたちと、シンデレラ……どんな話になるんだろ ティンカー・ベル: ティンカたちが行くって、エミリーのお姉ちゃんたちには伝わってんの? エミリー: だと思うよぉ。一応、確かめとく? あ、ちょっと、渉外担当者を呼んで ガラスの騎士: はっ、かしこまりました! ティンカー・ベル: いやいや、いいよ! 明日行けば分かることだし、姐さんが把握してればそれで十分だから! ピュルテ: エミリーさんも、なんだかんだ人を使うことに慣れてるところ、ありますよね…… (背景切換...) シンデレラ: ふう……ああ、人間さん。ちょうど今、お化粧落としたところ シンデレラ: え……? そうね、人間さんの言うとおり私、ちょっと緊張してるかもしれないわ。ピリピリしてるっていうか シンデレラ: ピリピリしたって結果に繋がるわけじゃないんだけどね。それでも国を背負ってるんだって自覚しちゃうと、どうしてもね シンデレラ: 俺には甘えていいんだぞって……なによ、それ。人間さんったら、そんなこと言ったら本当に甘えちゃうってば シンデレラ: 形だけでも夫婦だなんて、そんなこと言われたら私だって冷静でいられなくなるじゃないの シンデレラ: もう……ドキドキが、止まらなくなっちゃったじゃないの。ちゃんと責任、とってよね……? 273 - グリムの姉たち ヴィルヘルミナ: 8号ゲート方面からコミッティ直轄領内に進軍、現在はレオナ街道沿いの平原で野営しているわ カロラ: おー、やっばいよな、あの大軍 ヴィルヘルミナ: 明日の日没までには、この本部近くに到達する見込みよ。明後日には、予定通り会談を開くことになりそうね ジャコヴァ: この私と、交渉するつもりか。笑わせる カロラ: なあ、どうすんだよ、姉ちゃんたち。どうやってあの大軍をぶっ潰すんだ? 作戦立ててくれたら、あたしがめいっぱい暴れてやるからさ ジャコヴァ: バカか。いますぐ動くわけないだろう カロラ: え、そうなのか? ヴィルヘルミナ: 外交ルートを通じて正式に申し入れのあった首脳会談よ。いきなり襲いかかるわけにはいかないでしょう ジャコヴァ: だいたい、味方に引き込めるとか言ったのは誰だ。率先して潰そうとするな カロラ: 人間さんは潰さないようにするってば ヴィルヘルミナ: たぶんシンデレラ周辺に、人間さんもエミリーもいるんだろうし、慎重に動くべきなのよ カロラ: んじゃ、すぐには動かないとして、どうすんの? ジャコヴァ: 準備はしておく。ヴィル ヴィルヘルミナ: 分かってるわ。もうコミッティ臨時集会の連絡は入れてある。あと1時間もすれば全員揃うはずよ ジャコヴァ: シェイクスピアは欠席だろうな ヴィルヘルミナ: ええ。ウィラはGR2対応で遠征中ね。それにペローも遠方にいるから欠席 カロラ: なんだあいつ。忙しいのか? ジャコヴァ: 別にいい。8人いれば議決できる カロラ: 例のアレ、動かすのか? ジャコヴァ: あくまでも準備だけどな。まずは相手の出方を見たい ヴィルヘルミナ: あの人間さんとかシンデレラなんかに、エミリーがひどいことされてなければいいけど カロラ: そういう感じじゃなかったぞ。フェルディナとシャルロッテも向こうに協力してるし、外道な連中じゃないと思うけどな ジャコヴァ: 外道かどうかは、どうでもいい。利用価値があるかどうかだ ゲーテ: 第1号委員、ジャコヴァ議長より緊急動議のあった、本日の緊急1号議案『防衛計画KHM55の発動』について採決を行います アイソーポス: 異論はない キャロル: ま、たまには派手にバカスカやるのもいいかもね。本当はもっと、ぐちょぐちょなのがいいけど ダンテ: ………… マロリー: あ、あう、ここは、安全ですか? ジャコヴァ: 自分の身が心配なら逃げたほうがいい カロラ: マジでこんな計画が全力でスタートしたら、ヤバいからな。怖いなら逃げたほうがいいと思うぞ ヴィルヘルミナ: ただし、そのIDとペンは置いていってもらうけど マロリー: う、うう……だ、大丈夫です、残ります……! (背景切換...) カロラ: ティーミアのやつ、大丈夫か? あんな調子だと、いざ本当にドンパチ始まったらおしっこ漏らしちゃうぞ ジャコヴァ: 戦わない可能性の方が高い ヴィルヘルミナ: 友好的な関係になれるかも知れないし、物別れに終わったとしてもいきなり戦闘することにはならないわ。可能性があるとすれば ジャコヴァ: うん、あれだな ヴィルヘルミナ: 向こうが問答無用で先制攻撃を仕掛けてきたときだけよ ジャコヴァ: そう、それだな カロラ: ……ジャー姉ちゃん、なんか適当に言ってないか? ジャコヴァ: それより、アレの様子をちゃんと確認しておけよ ヴィルヘルミナ: 担当者からは問題ないと報告を受けてるわ カロラ: もう確認済みなのか! さっすがヴィル姉ちゃんは仕事ができるなー カロラ: でも、アレ使うのはちょっとなー。やるならやっぱり自分の手でガツンといかないとさ、戦った感じしないだろ ジャコヴァ: カロラは戦いたいのか、戦いたくないのか、どっちだ カロラ: どっちもだよ ヴィルヘルミナ: 首脳会談の会場も用意してあるわ。警備体制も万全よ。話の流れもシミュレーション済み、すべて任せておいて ジャコヴァ: ん……じゃあ私は部屋に戻る。後は頼む ヴィルヘルミナ: 姉さん。いま、いいかしら ジャコヴァ: 構わない。ただし手短に カロラ: じゃあ最初にお願いごと。あたしも参加していい? ジャコヴァ: なんのために? カロラ: うっ……傷つく言い方するなぁ、ほんと。だってもうコミッティ側のグリムってあたしたちだけなんだよ ジャコヴァ: それは理由になるのか? 私が得をする話か? カロラ: 冷たいなぁ。そこが、ジャー姉ちゃんらしいけど カロラ: 明日、会談の中で場合によっては条件交渉が発生する。そのとき、数字絡みならあたしがいた方が強いんじゃないかって話だよ ジャコヴァ: なるほど。分かった、許可する カロラ: やった! こんな大一番、見逃す手はないもんなー ジャコヴァ: やっぱり許可したくない気持ちになってきた カロラ: 冗談だってば! ヴィルヘルミナ: 私からはこれを。明日の会談、シミュレーションを台本に起こしておいたわ。姉さんもざっと読んでおいてほしいの ジャコヴァ: もう目が疲れた ヴィルヘルミナ: そう言わずに ジャコヴァ: ヴィルが全部仕切るんだろ。それで間違いないだろうし、私は黙って聞いておく カロラ: なんだよ、ヴィル姉ちゃんとあたしの扱いに差がありすぎないかー? めっちゃ信頼してんじゃん ヴィルヘルミナ: 私が喋りすぎても場がまとまらないのよ。姉さんが発言する重みっていうのは、やっぱり無視できないわ ジャコヴァ: ん……仕方ないな。じゃあ読んでおく ジャコヴァ: うっ、文字がいっぱいだな カロラ: 文字以外が書かれてると思ったのか? ヴィルヘルミナ: 暗記しろっていうわけじゃないわ。流れだけ把握しておいてほしいの ヴィルヘルミナ: 出来損ないのフェルディナはともかくとして、シャルロッテや、あのエミリーまで抱き込んでいる相手よ。慎重すぎることはないわ ジャコヴァ: 誰が味方していようと関係ない。私に従うか、刃向かうか、それだけだ ジャコヴァ: 用件はそれだけか? なら、私はそろそろ行く カロラ: あん? どこ行くの ジャコヴァ: 散歩だ。カロラも手伝え 274 - 冒険の果ての非冒険 ピュルテ: ふう……なんだか疲れましたね ティンカー・ベル: だよね。全然揺れない高級馬車に乗ってただけなのに、なんでこんなに疲れてんだろ エミリー: 気疲れってやつだねぇ、たぶん クレア: なんか、冒険の旅って感じがしなくてやだな ドロシー: わかるわ。やっぱり自分の足で歩いて、邪魔する魔物をばったばったなぎ倒してこそ、冒険の旅なのよ ヴェルメリオ: ……それはちょっと、ドロシーの好みに偏ってるとこはあるけどね ピュルテ: 人間さんは、あの建物の中ですか ドロシー: シンデレラと一緒にね。そりゃそうよ。プリンセスとそのダンナなんだもん ヴェルメリオ: ……うっ。そうなんだよね……だんなさん…… ティンカー・ベル: 細かい単語でいちいち反応して傷つかないの。めんどくさいから ヴェルメリオ: ……ティンカが手厳しい ピュルテ: 明日にはいよいよコミッティのトップ、エミリーさんのお姉さんとご対面ですね エミリー: みんな、ジャコヴァに何か言われてもあんまり気にしないでねぇ ティンカー・ベル: どういうこと? エミリー: ジャコヴァは傷つくようなこと平気で言うし、威圧感もすごいんだよねぇ ドロシー: 一番上のお姉さんよね。怖い人なの? エミリー: そうだねぇ。何を考えてるのか分からないって感じが強いけど……でも、ちょっと怖いかな エミリー: フェルディナとかボロカスに言われてたからね。ヴィルもフェルディナには当たりが強かったし ティンカー・ベル: なるほどねー。そういうのでいろいろ、性格も捻じ曲がっちゃったのかな ドロシー: フェルディナと、それにフアナとシャルロッテはどうしてるかしら クレア: 人間さんが結婚したことも、こうしてコミッティ本部に行くことも伝えられてないね ピュルテ: 連絡手段がありませんでしたからね。きっと知ったらびっくりしちゃいます エミリー: どっちの目的にも、今回のことは直接は影響しないし、大丈夫だとは思うんだけど ドロシー: GR2の手がかりがないか、研究所に残ったんだったわね ティンカー・ベル: そうそう。ん、あれ、フェルディナは、なにしてるんだっけ? ガラスの騎士: ああ、皆様。こちらにいらしたのですか。両陛下がお呼びです ティンカー・ベル: お、作戦会議かな。んじゃ行こっか ヴェルメリオ: ……両陛下……りょう…… ティンカー・ベル: だからそれ、めんどくさいっていってんの! シンデレラ: ごめんね、呼びつけるようなことして。どうしても立場上、好き勝手動くわけにはいかなくて ピュルテ: いえ、仕方ないですよ。気にしないで下さい ヴェルメリオ: ……作戦会議? シンデレラ: ええ。明日の会談のポイントというか、論点のまとめと、それぞれの方向性を決めておかないといけないと思うの ドロシー: ふふっ、シンデレラってば張り切ってるわね。人間さんが隣で見てるから、ちょっといいところ見せようと思ってる? シンデレラ: そ、そんなんじゃないわよ! お酒飲んでないからよ、きっと ティンカー・ベル: いやそれ、本気で言ってるならマジで断酒したほうがいいやつだからね エミリー: はいはい、人間さんの言うとおり、話がまとまらなくなって、朝までかかっちゃうよ。先に進めようねぇ ピュルテ: とりあえず、最近のディマイト推しと言いますか、それをどうにかしてもらいたいですよね クレア: そうだね。それがまずいってとこから始まって、今に至るんだもんね シンデレラ: それをコミッティが主導しているという証拠はないのよ ドロシー: やったかどうかを問いただすんじゃなくて、やってる前提で話しちゃってもいいんじゃない? ティンカー・ベル: 何のためにそんなことしてんのか、って目的とかも、ちゃんと聞きたいよね ピュルテ: それはやっぱりディマイトを大量に持ってるからですよね。価値が上がれば、得をするんですから。人間界の先物取引の相場と同じです エミリー: そこなんだよね。エミリーはおサボりしてるせいもあるけど、どこから持ってきてるのかわかんないの クレア: 人間界からじゃないの? エルマイトといっしょ エミリー: もちろん大元はそうなんだけど、普通のルートは天空神殿が押さえてるはずなんだよねぇ。じゃあ、どこから手に入れてるんだろって シンデレラ: 確かに興味深いわね。まず教えてくれないでしょうけど ティンカー・ベル: まあでも、一番はやっぱりアレだよね ヴェルメリオ: ……GR2だね ヴェルメリオ: ……これまでの思い出が、全部消えちゃうかもしれない。そんなの、わたし耐えられないよ クレア: 人間さんも、そこは譲れないんだね。すごく熱い主張 ドロシー: 私も同感だわ。でも、GR2で何が起きるのか、真相はまだわからないのよ ティンカー・ベル: じゃあ試しにちょっと……ってわけにもいかないし クレア: コミッティはわかってやってるんだよね? エミリー: どうだろ……さすがにジャコヴァは知ってるような気がするけど、全員じゃないかもねぇ シンデレラ: 私たちとしては最大の目標は、GR2の阻止ね。けど、教えてくれって言うばかりじゃ交渉にならないわ ピュルテ: そうですよね。向こうにもメリットがないと交渉になんて乗れませんよね ドロシー: 私たちはエルマイトとディマイトのバランスが保たれていればいいのよ。だから、バランスが取れるように共同管理しましょう、っていうことじゃない? エミリー: 天空神殿の説得は後から、ってこと? んー、エミリーたちがエルマイトを管理できていれば話は早いんだけどねぇ シンデレラ: でも、ドロシーの意見は1つの切り口だと思うわ。天空神殿の言いなりじゃない、というところは見せたほうがいいと思うの ティンカー・ベル: 確かにね。なんか、神殿と仲悪そうな感じだもんね クレア: 交渉、うまくいくかな ピュルテ: 今回の最大の目的は、コミッティのトップと顔を合わせることだと思います。どんな人で、何を考えているのか…… ヴェルメリオ: ……エミリーにとってはお姉ちゃんだけど、わたしたちは分からないもんね ピュルテ: 同時に、私たちのことも知ってもらいたいです。それだけでも、少しは違う気がするんです シンデレラ: うん……そうね。ピュルテちゃんが言ったこと、重要かもしれないわ。成果を焦りすぎないようにしましょう ドロシー: じゃあ、えっと……みんな、自分の部屋に戻りましょうか ヴェルメリオ: ……あ、うん。それじゃおやすみ エミリー: ……人間さん、どしたの? あっさりって何が? ああ……みんなの態度だね 275 - 避けられない変化 エミリー: はい、紅茶が入ったよ。お酒じゃなくていい? シンデレラ: 願掛けじゃないけどね。やめておくわ。明日に響いてもいけないし エミリー: クレアはココアね。はい クレア: あったかい シンデレラ: ほんと、ごめんね。人間さん。こうなることは予想できてたんだけど シンデレラ: みんな、大人だから理解はしてくれてるわ。でも、だからこそ……どうしても、遠慮というか距離感ができちゃうのよね エミリー: 形だけっていくら言われても、やっぱり既婚者だと思っちゃうとねぇ クレア: 結婚って難しいね エミリー: まあでも、慣れもあると思うよ。結婚したこともそうだけど、旅の仕方なんかもガラッと変わっちゃったし シンデレラ: そうよね。環境の変化が一気に起きちゃったから、みんなが戸惑うのも無理ないわよね シンデレラ: え……? なによ、人間さんが謝る必要ないでしょ。感謝してるし、力不足だなんて思ってないわよ クレア: 人間さんも、気にしてたんだね。よしよし (背景切換...) フアナ: んんーっ、やっぱりお金にものを言わせて、誰かにごはん作ってもらうのって快適だなぁ シャルロッテ: フアナ、言い方 フアナ: あはは、ほら作家だから。表現方法はいろいろ考えないと シャルロッテ: でも確かに、こうして町の中で食事をするなんて、本当に久々ですわね フアナ: エイヴォン研究所をうろうろしてたときは、備蓄された食材でやりくりするしかなかったし、その後は山とか森の中をずっと調査する旅だったからね フアナ: 旅の相棒は料理がからっきしだったし シャルロッテ: うぐ……そ、それについては確かに、フアナにはお世話になりっぱなしでしたわ…… フアナ: もっと大きい声でありがとう、って言ってもいいんだよ シャルロッテ: くっ……調子に乗らないでいただけます……!? フアナ: えっ、なに、立ち上がったりしてどこ行くの。本気で怒ったの? シャルロッテ: お手洗いですわ。そんなに気にするなら最初から言わなきゃいいのですわ、まったくもう フアナ: あ、なーんだ…… 住民1: なあなあ、あれ聞いたか? 住民2: おお、オトギノクニじゅうがひっくり返っただろ フアナ: ん……? 住民1: プリンセス・シンデレラが人間界から来た男と再婚、なんてなあ フアナ: ぶっふぉおおおっ!? フアナ: げほげほ、げほっ……え、ま、待って。いま、なんて シャルロッテ: お待たせしました。戻りましたわ……って、なんですのこれ! きったなっ! フアナ: いや、違うんだよ。いま大変なことを聞いて シャルロッテ: 大変なのはテーブルの上ですわ! なんで飲み物を吹き出したりしたんです。すみません、何か拭くものをいただけませんか おかみさん: あらあら、飲みすぎちゃったの? シャルロッテ: いえ、そうではなくて、むせたみたいなんですけども フアナ: 違う、違う。そんなのはどうでもよくて シャルロッテ: どうでもよくありませんわ。私のバッグまでちょっと濡れてますし! フアナ: いいから聞いて! シンデレラが結婚したんだ! シャルロッテ: え? シンデレラ……って…… フアナ: 人間さんくんと! シャルロッテ: え…… シャルロッテ: えええええ!? ど、どういうことなんですの!? フアナ: あたしだってわかんないよ! ねえ、あんたたち、さっき話してたの、本当なんだよね? 住民1: え? ああ……プリンセス・シンデレラの結婚のことだろ。本当だよ シャルロッテ: そ、そんな……けっ、こんっ……! おかみさん: みんな知ってるよ。号外も配られたしねえ フアナ: 今日、僻地から町に戻ってきたところなんだ。そのニュースはいつ? 住民2: 昨日だよ。魔法の国って言えば、ちょっと前までクーデター騒ぎなんかあって、わりと政情不安ってイメージだったんだけど 住民1: この明るいニュースで、あの国もいい雰囲気になりそうだな シャルロッテ: 明るいニュースですって……? 私はもう、泣きそうですわ…… フアナ: シンデレラのことだから、何か考えがあってのことだよ、きっと。そうじゃなきゃ、いきなり結婚なんてしないから シャルロッテ: だからって……はあ……おかみさん。この店で一番強いお酒をください フアナ: 落ち着いて! その流れ、あたしが完全に被害者になるやつだから! シンデレラ: この度は突然の申し出にも関わらず、このような席を設けていただいたことに感謝致します ジャコヴァ: そういう前置きはいらない。早く私の利益になる話をして シンデレラ: ……! ドロシー: 先制パンチをかましたつもり? ずいぶんなご挨拶ね ヴィルヘルミナ: いいえ、姉はもともと気が短い人なの。気にしないで シンデレラ: いいわ。私もプリンセスなんてやってるから、一応それっぽく振る舞ってはいるけど……こういうの、得意じゃないのよ エミリー: 得意じゃない人の所作じゃないけどねぇ ヴィルヘルミナ: エミリー……ああ、よかった。元気そうね カロラ: おい、ヴィル姉ちゃん。いまは家族の再会とかやってるテンションじゃないんだからな ヴィルヘルミナ: わ、わかってるわよ。それではお互い堅苦しい挨拶は抜きにして、本題に入りましょう シンデレラ: まず、立ち位置をはっきりさせておきたいの。私たちは、あなたたちと正面切って争うのが目的じゃない シンデレラ: オトギノクニの『地上の』住民を代表して、協力していける道筋を探りたいと思ってるの シンデレラ: あなたたちも知っているサミット、あの会議体を通じて他の大国の足並みを揃えることも不可能じゃない ヴィルヘルミナ: クーデターを鎮圧したように? ドロシー: あれは……やっぱりあんたたちの仕業だったわけ? ヴェルメリオ: ……ドロシー。いまはその話はやめとこう? ヴィルヘルミナ: あのときのお手並みは見事だったと聞いているわ ジャコヴァ: うんうん カロラ: 協力したいんなら、さっさとあたしたちに従えばいいだろ ドロシー: そんな理屈、乱暴すぎるわよ! こっちだって事情があるの カロラ: 従わないなら、敵認定されちゃうんだぞ。いいから、ごめんなさいしとけって ジャコヴァ: カロラ、黙って カロラ: うっ……わ、わかったよ ジャコヴァ: それは、『全部知った上での答えなのか』? ドロシー: え……? ピュルテ: えっと……? シンデレラ: ええ、そうよ。あなたたちの本当の狙いも含めて、すべて把握しているわ 276 - 駆け引き ヴィルヘルミナ: すべて……知っている……? なるほど…… シンデレラ: ええ。情報はすべて集めて把握した上で、この場に臨んでいるの ドロシー: (ちょ、ちょっとぉ!? それ、ブラフよね!?) ピュルテ: (知っているフリをして、情報を引き出しやすくしようとしてるんでしょうか……。この局面でこんな勝負を仕掛けるなんて……!) ティンカー・ベル: (みんなの顔が引きつってる! やっぱり姐さんが動いたんだ。ティンカにはさっぱりわかんないけど……) ヴェルメリオ: (……わたし、もう胃が痛いよ) クレア: (おなかすいた) ジャコヴァ: ふうん。すべて知った上で、それでも私に刃向かうというのか ジャコヴァ: 私に共感はしなかったのか? こちら側につくという選択肢はなかった? ヴィルヘルミナ: 姉さん、ちょっと。ここは私が ジャコヴァ: あの仕打ちを許容できるというのか ヴィルヘルミナ: ……はあ。もう、姉さん…… シンデレラ: あの仕打ち…… シンデレラ: (天空神殿が何かしたということよね。私、あるいは私たち、魔法の国……) シンデレラ: 許容できたわけではないわ。でも、物事は多面的よ。考えるべきことはたくさんある。だからこうして、ここにいるのよ ジャコヴァ: なるほど。そういうことか ピュルテ: (――っ!! いま、ジャコヴァさんが人間さんをチラッと見た……! ドロシーさんにアイコンタクトを……!) ドロシー: (ピュルテも気付いたようね……! どういう意味かしら……) シンデレラ: あなたの怒りも理解できるわ。でも、感情だけで動くべきじゃない ジャコヴァ: 私は怒ってない。ただ相手を選ぶだけだ ジャコヴァ: 結論は出た。貴様らと協力することはない ジャコヴァ: 自分が正義の味方だとはまったく思っていない。だが、自分たち以上に卑劣な手法で目的を達成する連中に加担するようになったら、おしまいだ ジャコヴァ: 結論は出たな。では、帰れ ドロシー: え……? ちょ、ちょっと、なに勝手に終わらせてるのよ! いろいろな交渉はこれからでしょ!? ピュルテ: そうですよ! それに卑劣ってどういう意味なんですか!? ティンカー・ベル: ちゃんと話は聞いた方がいいんじゃないの!? これからお得情報がもりもり出てくるかもしんないのに! エミリー: 決裂だよ ピュルテ: エミリーさん……? エミリー: 利益じゃないんでしょ、ジャコヴァ。ジャコヴァが損得以外で物事を決めたら、それは絶対曲げない。もう交渉の余地はないよ ヴェルメリオ: ……そんな。ここまできて、これで終わりなの? ヴィルヘルミナ: では、入り口までお見送りするわね……きゃっ!? カロラ: お、おい、人間さん!いきなりテーブルぶっ叩いて、どうしたんだよ! ジャコヴァ: 貴様が人間界から来たとかいうヤツか。構わない、言いたいことがあるなら聞いてやろう カロラ: 卑劣とは誰のことだ、って……えっと、誰のこと? ジャー姉ちゃん エミリー: 人間さん…… ティンカー・ベル: 仲間のこと、卑劣だなんて言われて熱くなっちゃったんだ……そっか、うん ヴェルメリオ: ……人間さん、わたしたちのこと、そんなに大事に思ってくれてたんだ シンデレラ: 人間さんの言うとおりだわ。私たちの仲間の誰のことを卑劣だなんて言ってるのよ ドロシー: 仲間のことは、みんなお互いに誇りに思ってるわ。それは人間さんだけじゃなくて、私もだし……この場の全員よ クレア: バカにするのは許さないよ ピュルテ: そうです! それこそ、リルちゃんはフェルディナさんに乗せられて、いろいろ悪いこともしてしまったけど…… ピュルテ: それも故郷を思えばこそです! 卑劣なんて言われるようなことじゃありません! ジャコヴァ: おもしろい男だな。それで? ヴィルヘルミナ: 私たちこそ卑劣、ですって? それはそれで、聞き捨てならないわね カロラ: 心に傷を負ったヤツに、傷を塗り込むようなマネ? なんのことだよ、それ ヴェルメリオ: ……それ、ワンダーランドで起きたリラのディマイト暴走のことだよね ドロシー: 人間さんは、あのときすごく怒ってたものね カロラ: あー、ペンでディマイト文字を書いたのか。でもそれ、時期的にフェルディナじゃないか? クレア: フェルディナは違うって言ってた ティンカー・ベル: あれは嘘じゃないと思うけどね カロラ: んー? だってフェルディナ以外に誰が…… ヴィルヘルミナ: 誰でもいいわ。彼は、組織としての責任を追及したいんでしょうから ジャコヴァ: 現場の判断に、いちいち介入してられない ドロシー: トップっていうのは、そんなのも含めて責任をかぶるものでしょ ジャコヴァ: だいたい、そいつを狙って『文字』を書いたとも限らない ヴィルヘルミナ: 確かに心の傷があった方が、ディマイトの影響は最大化されるでしょうけどね。そんな大きな傷、持ってる人は少ないわよ エミリー: でもヴィル、それがいたんだよ。たぶん、その傷のせいで、普段から言動がちょっと普通じゃない子がね クレア: ワンダーランドでぴょんぴょんしてるリラって言えば、地元じゃ有名だよ ジャコヴァ: ん……リラ…… ジャコヴァ: ふっ、くくっ…… エミリー: ジャコヴァが笑った!? ドロシー: 何がおかしいのよ! ジャコヴァ: なんだ、やはり全てを知ってるなんていうのはブラフだったんだな シンデレラ: ……っ!? ど、どうしてそんな ヴィルヘルミナ: 姉さんも、気付いてたのね ジャコヴァ: 最初の質問の意味を、そもそも理解してないってことだからな ヴィルヘルミナ: あなたたち、GR1が引き起こした三大悲劇を知らないんでしょう? スカルロックの呪い、トラジェディ砦の悲劇、そして不思議の森の挺身…… シンデレラ: トラジェディ、砦……っ!? ティンカー・ベル: ん? スカルロック? エミリー: その話、エミリーも聞いたことある。けど、まさか ヴェルメリオ: ……いまの流れだと『不思議の森の挺身』っていうの、リラのこと? ピュルテ: リラさんに、何があったんですか……!? 277 - 足跡を追って フェルディナ: ……妙だわ フェルディナ: まさか、ここで原初の三獣に行き着くなんて……しかもヴェルザームを…… 漁師: よぉ、嬢ちゃん。どうだ、友達には会えたかい フェルディナ: えっ? あ、昨日の…… フェルディナ: ええ、ありがとう。あなたの道案内のおかげで、目的の洞窟にはたどり着けたわ。本当に会いたい人には会えなかったけど 漁師: ん? 友達はいなかったのか? フェルディナ: ええ、残念ながらね。でも、別の知り合いとは会えたし、話もできたから 漁師: そうかい。お嬢ちゃんみたいなキレイな子なら、友達も美人なのか? ちょっと紹介してくれよ フェルディナ: 身に余る相手よ。なんせ、相手は特級管理なんだから 漁師: はあ? フェルディナ: そう、特級管理ディマイト、原初の三獣のひとり、レヴィア……あんな大物相手から、ヴェルザームを口先で掠め取るなんて芸当…… フェルディナ: あいつしかできないわ……! 私をハメた、あの女…… (背景切換...) フェルディナ: ……うーん、B定食だと800ゴールドで、お肉が4枚……お得よね。でも野菜が足りないのよね。野菜セットがプラス150ゴールドだから…… 店員: お客さん、まだご注文は決まらないですかね…… フェルディナ: え、じゃあ……A定食で。この550ゴールドのやつ 店員: 結局、一番安い定食にしてんじゃねーか…… フェルディナ: それよりちょっと聞きたいんだけど、この女を見なかった? 店員: あぁ……この人なら店に来ましたよ フェルディナ: ……いつ頃? 10日以上前なら別に…… 店員: いえ、5日前ですね。私が休み明けのシフトだったので覚えてます フェルディナ: 本当に!? ねえ、この後どこに行こうとしてたか、聞いてない? 店員: 確か、長距離馬車のチケットを買ってたよ フェルディナ: 馬車……どこへ行くつもりかしら 店員: 彼氏と一緒みたいだったけど、なんだかこそこそしていたし……私のカンでは、あれはきっと不倫よ フェルディナ: ……彼氏? 誰かと一緒だったの……!? シンデレラ: トラジェディ砦……その事件が、GR1に関わってるの……? ドロシー: ちょっとシンデレラ……。まあいっか、もうブラフはバレちゃったわよね。これ以上、虚勢を張っても仕方ないわ ヴェルメリオ: ……GR1のことなんて、わたしたち分かるはずもないし クレア: ねえ、エミリー…シェイクスピアも悲劇って、レグルス教国で言ってた気がする エミリー: ウィラの悲劇なんていうのは、深い意味はないよ。ここで言われてるのは……GR1の副産物だって、そう聞いてる ティンカー・ベル: 副産物……っていうのは、オマケってことだよね ピュルテ: まあ、広い意味ではそうですね……。そんなつもりはなかったのに、気がついたらあった、みたいな…… カロラ: おおー、マジでおまえら何も知らないのか。え、つーか、エミリーも知らないのか? エミリー: 詳しくは知らないんだよねぇ。会議、サボってたからかなぁ? カロラ: あたしはヴィル姉ちゃんから教えてもらったけど ヴィルヘルミナ: カロラは、フェルディナに教えたの? カロラ: ううん。教えてやるって言ったら、なんか嫌そうな顔したからムカついてそのまま ヴィルヘルミナ: じゃあ、そこで途絶えたのね エミリー: ええっ!? なにそのいい加減な伝達! ちゃんとしてよねぇ! ピュルテ: けど、GR1って言ったら、今のオトギノクニが成立した重要な出来事ですよ。そんな大きな出来事に、リラさんが関わってたなんて ティンカー・ベル: それも、ぴょんぴょんし始めた原因なわけでしょ? クレア: 心もぴょんぴょんしてるよね ジャコヴァ: 心か。ふむ……やつの行動は私には理解できなかったな ヴィルヘルミナ: 姉さんが他人のために何かするなんて、見たこと無いものね ピュルテ: リラさんは、誰かのために……? ヴィルヘルミナ: 本来、標的になったのはあの子じゃないの。けど、あの子は友達を守りたい一心で、すべての辛い出来事を引き受けたのよ。だから、挺身 ヴェルメリオ: ……友達? 誰のこと? ジャコヴァ: ルース。キャロルのところの、時計ウサギだ ティンカー・ベル: ん、待って。じゃあ残り2つの悲劇っていうのは…… シンデレラ: もう、いいわ ヴェルメリオ: ……姐さん、大丈夫? 手が震えてるけど クレア: お酒が切れちゃったんじゃない? 昨日の夜も飲んでないでしょ エミリー: クレア。今はそういう場面じゃないから ピュルテ: シンデレラさん……旦那さんのこと、ですよね。あ、いえ、前の旦那さんの……亡くなられた王子様の…… シンデレラ: もう、いいって言ってるでしょう。これ以上、聞く必要はないわ シンデレラ: それよりも、こちらの話を聞くつもりはあるの? ドロシー: そ、そうだわ。エルマイトとディマイトを、バランスを取りながら共同管理しましょうって提案なんだけど…… ヴィルヘルミナ: そんな提案にこちらが乗る理由が、あると思うの? ジャコヴァ: うんうん ヴェルメリオ: ……やっぱり、そうなっちゃうの ティンカー・ベル: でもさ、こっちのエルマイトもバカになんないよ? 足りなくなっちゃったら、困るのはそっちだよ カロラ: おっ、なかなか強気な揺さぶり仕掛けてくるじゃん。こっちの手も知らないのに、よく言うよな ヴィルヘルミナ: そちらのエルマイトを上回るだけのディマイトを確保できている。だからこその現状でしょう ジャコヴァ: そうそう ピュルテ: 協力するつもりはない、ということなんですね…… ヴィルヘルミナ: メリットが感じられないわ。交渉にすらなっていない ジャコヴァ: うんうん ジャコヴァ: 答えは出たようだ。なら、答えはひとつ。徹底して潰す カロラ: い、いややや、待てって姉ちゃん! 協力しないのはいいけど、潰しちゃだめだろ! あっちには妹が3人も人質になってるんだぞ ヴェルメリオ: ……人質にしたつもりはないんだけど カロラ: エミリーもだし、フェルディナもシャルもいるのに ヴィルヘルミナ: そうよ、姉さん。かわいいエミリーに手を上げるなんて、私にはできないわ! ティンカー・ベル: さっきから思ってたけど、エミリーって甘やかされてた? エミリー: あ、うん、昔からこんな感じ…… ジャコヴァ: なら、ヴィルやカロラが救出すればいい。私は知らない カロラ: んな無茶な! フェルディナとシャルなんか、いまどこにいるかもわかんないんだぞ! 278 - 辿り着いた森 運転手: この乗合馬車は鉄鎖の塔、ワンダー森林経由、ハートの城行き。まもなく出発します フェルディナ: はぁっ、はぁっ、すみません、乗ります! フェルディナ: ふう、はぁ、ふぅ……えっと、鉄鎖の塔に行く馬車に乗ったって言ってたから……ねえ、運転手さん。この馬車、鉄鎖の塔にも行くのよね 運転手: さっきそうアナウンスしただろ フェルディナ: …………。そう、ありがとう フェルディナ: な、なに今の……っ! 感じ悪っ!! いいじゃない、答えてくれたって! 走りながらだから、聞き間違えたかもって思ってただけなのに! フェルディナ: でも怒り出さないで黙ってスルーしたわ……私ってばすごく大人になったわね…… フェルディナ: あの頃に比べたら可愛くなった、って人間さんもたぶん思ってるし……言われたことないけど…… フェルディナ: ……ペローに踊らされていた頃の私って、どんなふうに見えてたんだろ 運転手: 次はー、アクアシティ西門~、アクアシティ西門~。お降りのお客様はお手元のベルでお知らせください~ フェルディナ: いま考えるべきは、ペローの狙い……レヴィアのおばさんからヴェルザームを回収したのは、ペローで間違いないわ フェルディナ: 7つ必要だけど、1つでも確保すれば集めたがっている相手との交渉材料になる。おそらく確保の目的はそこだわ フェルディナ: 問題は、それがヴィル姉さんの指示なのか、それともペローの独断なのか……どっちもあり得る…… 運転手: 次はー、アクアシティ東門~ フェルディナ: ふわあああぁぁ……ぁぁ…… フェルディナ: やだ、大口あけてあくびなんかしちゃった。でも、最近疲れてたし……なんか、馬車のリズムって眠くなって…… フェルディナ: すう……くう…… 運転手: 次は~、鉄鎖の塔~、鉄鎖の塔~ 運転手: お降りのお客様はいませんか~ フェルディナ: すう……くかぁ……ぐう…… 運転手: ………… 運転手: 通過しまーす フェルディナ: ……ほんっと最っ低!! 起こしてくれればいいじゃないの、私が降りるって分かってたんだから! フェルディナ: なのに、ベルを鳴らさないのが悪いって……! そりゃ、爆睡した私にも非はあるけどっ! もうっ! フェルディナ: ……で、ここ、どこなのかしら リラ: ぴょんぴょんぴょーん! おねえさん、どうしたの? 迷子? 人生に迷ってるの? フェルディナ: ひっ!? び、びっくりした、いきなり出てこないでよ! って、あなた、確か…… リラ: はい。リラはリラです。時と場合によります フェルディナ: いや、いつもリラはリラでしょうが。でも……ってことは、不思議の森、ワンダー大森林まで来ちゃったのね リラ: ひとりじゃあぶないから、リラがおねえさんを送り狼するね! フェルディナ: ……言っとくけど、私はいちいち突っ込まないわよ (背景切換...) フェルディナ: ふう……やっと落ち着いたわ。馬車でたっぷり居眠りしたのに、なんだか身体はまだ疲れてるし リラ: おつかれモードなの? じゃあリラがマッサージで癒してあげるね。すぐに昇天しちゃうって評判だよ フェルディナ: 変な意味じゃないでしょうね リラ: 昇天するから絶対に人にやっちゃだめ、って森番のおばあちゃんが言ってた フェルディナ: 昇天ってそっち!? リラ: 他にどんなのがあると思ったの? フェルディナ: うっ!? な、なんでも……ないわよ…… リラ: お姉さんはむっつりなんだね フェルディナ: 意味わかってて聞いてたわけ!? も、もういいから、寝なさいよ! リラ: はーい、おやすみなさい フェルディナ: って、それ私のベッド! リラ: リラのベッドでもあるんだよ フェルディナ: なんで同室なのよ! 自分の部屋は!? リラ: 家に居場所がないお父さんの気持ちになってみています フェルディナ: な、なんでこの子とダブルベッドで一緒に寝るハメになってんのよ……って、ちょっと、それ何!? リラ: リラのおパジャマだよ? スケスケネグリジェ~♪ フェルディナ: ……身体にラクガキ……話には聞いていたけど、本当にあなた、まだ一部のトランプ兵にいじめられてるのね フェルディナ: はあ……。ここから鉄鎖の塔に戻るのに、どれくらいかかるかしら。馬車の本数も限られるし、そもそもペローはまだいるのかどうか…… フェルディナ: ペローか……そう言えばリラには、ディマイトペンでも文字を書いたわね。人間さんが怒ってたっけ フェルディナ: ペローが勝手にやったことだけど……どうしてリラだったのかしら リラ: おねえさん! リラを呼んだ? フェルディナ: ……っ、だ、だからいきなり声かけるなって言ってるでしょ、もう。なんなのよ リラ: お部屋のベランダで何してるの? あっ、星を見てたの? うん、10点満点のお星さまだね。キンコンカーン リラ: おねえさん、寝ないの? あっ、お茶会? 深夜のお茶会なんだね? じゃあリラもいただきます! フェルディナ: あ、こらっ、それお茶じゃなくて……! リラ: かーっ! すごいよ、これ! 燃えるお茶! 紅茶! かーってする! フェルディナ: ウィスキーのミニボトルよ。こういう宿屋に、よく置かれてるでしょ。寝付けなかったからちょっと、いただいてたのよ リラ: こんなカッカしたら眠れないよ! 熱冷ましにぴょんぴょんしてくるね! フェルディナ: やめなさいよ、何時だと思ってんの。こんな夜中に騒がないの リラ: なんじ? フェルディナ: あ、そっか……。とにかく、ちょっと静かにしなさい リラ: 私は時計を持ってないから、今が何時なのかは分からないけど、2時くらい? フェルディナ: え? そうね、それくらいよ。だから静かに…… リラ: きっとペローは、私のことを知っていたから、文字を書いたんだと思う フェルディナ: ……!? リラ、急にどうして……もしかして、このお酒のせい? 毒と言えば、毒かもしれないし……? リラ: 私みたいに、ディマイトを溜めすぎて麻痺したような存在は、ペンの効力を最大化できるから。だから、性能の限界を試したかったのね フェルディナ: ペローのこと、知ってるの……? あなた、いったい何なのよ リラ: おねえさんのことも、知ってるよ。フェルディナ・グリム 279 - 文字 リラ: お話はしてないわ。一方的に何か言いながら、私の身体を傷つけた フェルディナ: ……何を言っていたか、覚えてる? リラ: 私に会いたかったみたい。不思議の森の挺身、その当事者だから フェルディナ: それって、確かGR1の……!? リラ、あなたのことなの!? フェルディナ: あの出来事は、なんなの? リラの身に何が起きたの? リラ: ふにゃ……はにゃあ……足元が、ふらふらするねぇ…… フェルディナ: え、ちょ、たった一口でお酒が回ってきちゃったんじゃないでしょうね。寝る前にまだ聞きたいことがあるのよ リラ: はにゃにゃにゃ……ぐるぐるするよ、ぐるぐるっ、時計の針が、ぐるぐるっ…… フェルディナ: もう、肝心なときに……っ リラ: おねえさん、時計だよ、時計の針がぐるぐるするの……でも、ひみつ……私のことは、言えないの、秘密なの…… フェルディナ: 時計……? このワンダーランドで時計といえば……! そうか、挺身って、まさか、じゃあ、あなた…… フェルディナ: あなたは、ルースのためにすべてを……? リラ: しーっ。夜中に騒いじゃいけません。では、おやすみなさい フェルディナ: ……え、寝ちゃったの。……でも、少しわかったわ。リラのこと、それに……ペローの狙いも、もしかしたら…… フェルディナ: 毒やお酒で会話が可能になるなら、きっと文字を書いたディマイト状態も似た状況だったはず。ペローは、この状態を作り出して、そしてGR1の情報を聞き出そうと……? リラ: すう……くう…… フェルディナ: 可愛い寝顔して、思った以上に腹の据わった子だったのね……。あなたにとってルースが何かは知らないけど、私にとってのエミリーみたいなものかしら フェルディナ: ……。どうでもいいけど、こんなとこで寝て……まさか私がベッドまで運ぶわけ……?はぁ……腰、痛めそうなんですけど…… ピュルテ: 結局、交渉は決裂したまま……シンデレラさん、本当にこれで終わりなんですか? ティンカー・ベル: そうだよ。このままじゃ戦争になっちゃうかもしれないんでしょ。なんか、うまいこと協力して…… エミリー: ティンカは優しいねぇ。エミリーのこと、気遣って言ってくれてるんでしょ ティンカー・ベル: えっ、いやっ、そういうわけじゃないけど エミリー: 気持ちは嬉しい。でも、エミリーはもうとっくに覚悟なんてできてるんだってば。みんなして、お子様扱いするんだもんなぁ ヴェルメリオ: ……相手があんな感じじゃ、どうにもならないよね。結局、聞きたいことも引き出せなかったし ドロシー: 大丈夫よ。こういう会談っていうのは、一回こっきりしかやらないわけじゃないの。何度も粘り強く交渉するものなんだから クレア: ドロシーまで、頭いいふり始めたの? ティンカー・ベル: 同感だよ、クレア ドロシー: 待ちなさいよ! 私もオズの国では、そこそこ実績あるんだから! シンデレラ: 実績はともかく、ドロシーのいうことは正しいわ。私も、これっきりにするつもりはない。まだ肝心なことも話せてないんだから ピュルテ: GR2のことですよね ドロシー: そうね。向こうも、すぐに発動できるものじゃないから、とりあえず今回は見送りにしたんでしょ? シンデレラ: それもあるわ。けど……私の知ったかぶり作戦が裏目に出ちゃったから ピュルテ: い、いえ、あれはすごいと思いましたよ。たまたまうまくハマらなかっただけです。相手が一枚上手だったというか…… クレア: さすが賭博師のピュルテがいうと、フォローの重みが違う ピュルテ: 私、そんなんじゃありませんよ! ドロシー: ……大丈夫なの、シンデレラ。作戦もだけど、だいぶ動揺してたじゃない。手も震えてたし クレア: どうしてお酒飲まないの? エミリー: ねえ、シンデレラ。もしかしてさっきの…… ティンカー・ベル: う、うわっ、なに!? なんか急に、地面が揺れ始めたんだけど! ピュルテ: 地震でしょうか!? いえ、これは……濃密なディマイトの気配! ヴェルメリオ: ……みんな、あれ見て! ティンカー・ベル: 地面が割れて、なんか出てきた!? ドロシー: な、何よあれ! ピュルテ: 分かりませんけど、でも、すごく強いディマイトを感じます! ティンカー・ベル: なんか顔みたいの付いてるけど、生き物じゃないのかな? ほら、目とかもあって……って、あ、あれ クレア: こっちみてる シンデレラ: 危険だわ! みんな、伏せて! ティンカー・ベル: どわあああっ!? なんか撃ち込んできたーっ!! ドロシー: もしかしなくても、これってコミッティの差し金よね! 出口近くでいきなり待ち伏せなんて! エミリー: 待ち伏せ……うそ、こんなことまでするとは思えない、けど……っ ピュルテ: いくら町の入り口まで大軍で来ていても、平和会談である以上は、会場には限られたメンバーしか来れない……そこを狙われたってことですね ドロシー: ええ……! 手薄になる瞬間を狙ったのよ。もしかしたら会談を受けたこと自体も罠だったのかも エミリー: ジャコヴァ……ヴィル……こんなことまでして、グリムを守りたいの……!? エミリー: それに……守りたいグリムの中に、少なくともエミリーは入ってない……グリム家の誇りなんて、ひとつも残ってないんだね……! クレア: エミリー、危ないよ。私の後ろに ティンカー・ベル: 爆撃のあとは、魔物!? あの、地面から出てきたでっかいの、魔物を積み込んでるの!? ピュルテ: 溢れるディマイトが具現化してるんです! たぶん、魔物を生み出す装置か何かと組み合わせてるんだと思います シンデレラ: 本隊に連絡をとるわ。到着までみんな、なんとか持ちこたえて! ドロシー: 待ちなさいよ。ここでガラスの騎士団に連絡をとったら、あの人達は確実にここまで救出に来るわよ! ヴェルメリオ: ……それってダメなの? 助けてもらえるんじゃないの? ドロシー: これが本当にコミッティの意図だって保証がないわ ティンカー・ベル: いや、だって、この状況だよ!? ピュルテ: つまり、状況証拠なんです。確実な証拠もないのに、動けないってことですね ドロシー: 騎士団を……魔法の国の正規軍を都市部に入れたら、それは宣戦布告として捉えられるわ。こっちから仕掛けるっていう、その覚悟はできてる? シンデレラ: ……それは…… ドロシー: そう、人間さんは分かってるみたいね。私たちなら、このくらい今までも切り抜けてきたわ。騎士団は最後の手段、いいわね! クレア: ん、わかった 280 - 標的は誰か ティンカー・ベル: うわっ、また撃ち込んできたよ! 気をつけて! エミリー: すごい暴れっぷりだよぉ……このままじゃ、町までボロボロになっちゃう ヴェルメリオ: ……もしかしたら、本当にコミッティの攻撃じゃないのかも シンデレラ: どうやら、そうみたいね。珍しく、ドロシーが賭けに勝った、ってところかしら ドロシー: なによ、私が賭け事に弱いみたいな言い方じゃないの ヴェルメリオ: ……事実、弱いよね? ドロシー: 今は負け越してるだけよ。最終的には取り返す予定なんだから ティンカー・ベル: っと、わけわかんない夢物語を披露してる場合じゃないよ、三つ編み。こっち、魔物に回り込まれてる ドロシー: ふん……ちょうどいいわ。私が有能だってところ、証明してあげる ピュルテ: 戦闘能力の有無は疑われてませんけどね。ドロシーさん、援護します! クレア: あっちの方でも爆音が聞こえる。私たちだけを攻撃してるわけじゃないのかな エミリー: ガラスの騎士団がいる方向でもないし……もしかしたら、コミッティを狙った誰かの攻撃なのかも ピュルテ: コミッティを、ですか!? そんな勢力が、私たち以外にもいるんでしょうか シンデレラ: 天空神殿が、私たちの交渉決裂を知って、しびれを切らしたのかもしれないわよ ヴェルメリオ: ……神殿ってそんなに過激なの エミリー: ねえ、あそこ……町の出口じゃない? ティンカー・ベル: ほんとだ! あそこまで自力で行けば、ガラスの騎士団も堂々と行動できるんだよね!? ピュルテ: もう少しです! 人間さんも、足元に気をつけて! 一気に走りますよ! (背景切換...) フアナ: うーん……なんだか歩いてるだけで気持ち悪くなりそうな気配があるね シャルロッテ: まだ、蓄積されたディマイトが完全に浄化されていないのですわ。通常は、時間が経てば薄まっていくものなのですけど フアナ: 薄まってこのレベルなのか、薄まらないままなのか……どっちにしても闇が深いね。これが……フェルディナの書斎かぁ…… フアナ: 見てよ、シャル。これって6姉妹が集合したときの肖像画でしょ。フェルディナとエミリー以外、顔がずたずたにされてる シャルロッテ: フェル姉さまがグリム家のはみ出し者だったのは分かってましたけど、こんなにも私たちのことを憎んで…… フアナ: 本当に心から憎んでいたわけじゃないんだよ。これもディマイトのせいなんだ シャルロッテ: ディマイトは増幅装置でしょう? ゼロに何を掛け算しても100にはなりませんわ フアナ: オレンジ色の100を真っ赤な100だと見間違えることはあると思うよ。これは憎しみじゃない、ただのコンプレックスだよ フアナ: 作家として何も実績を出せない、名門と言われるグリム家に在籍しているだけ、貢献できずに、ただ恩恵だけを受け続けて…… シャルロッテ: 耳が痛いですわ フアナ: そう、シャルも同じなんだよ。フェルディナのこと、誰よりも分かってあげられるのはシャルじゃないかな シャルロッテ: ええ、分かりますとも。私は、誰かのせいにして逃げたりしないですけど フアナ: それがフェルディナの弱さだったんだ。シャルは強かったから、グリム家に残ってがんばった。でも、それは結果でしかないから シャルロッテ: 何か、掛け違いが起きていたら私も……こうなっていたかもしれないのですわね。こんな、おぞましいほどのディマイトをまとって…… フアナ: 決定的な違いは愛情の差かな。コンプレックスはあっても、シャルはお姉ちゃんたちから優しくはされたでしょ シャルロッテ: ひっ!? こ、この日記みたいなの…… フアナ: 自叙伝? じゃ、なさそうだね。うわあ、恨み言が細かい字で、紙が黒く見えるほどびっしり……触っただけでディマイト落ちしそうだね シャルロッテ: 私、素手で触ってしまいましたわ フアナ: 比喩ってやつだよ シャルロッテ: わかってますわ。それでも嫌な感じですわ。こんな部屋に、ずっとフェル姉さまはひとりぼっちだったのですわね…… フェルディナ: あんたたち、人の部屋で何やってんのよ フアナ: フェルディナ!? フアナ: いやあ、ごめんね。たまたま見つけちゃったんだ。人間さんくんから、ああいう部屋があったって話は聞いてたし、すぐピンときて フェルディナ: 信っじらんない! 人の日記まで読んで! シャルロッテ: 改めて実感しましたわ。フェル姉さまって、本当にネクラなのですわね フアナ: シャルも、煽っちゃだめだよ! ……それで、フェルディナも目的があってワンダーランドに来たんじゃなかったの フェルディナ: ペローの後を追ってきたはずだったんだけどね。いろいろあって、リラと一緒になって……それで森に妙なものがあるってうるさいから、見に来たのよ シャルロッテ: 妙なもの? この部屋のことではなくて、他にですか? フアナ: あたしたちはシェイクスピアが設置した、GR2発動装置みたいなものがこの近くにある、っていう資料を元に動いてたんだ。もしかしたら関係あるかもしれないね シャルロッテ: じゃあ、もう少しこの森を調べてみましょう。この部屋は燃やしといたほうが良いのではなくって? フェルディナ: うるさいわね。いいのよ、このままで。何かあったらここへ来て……教訓にするわ。私の最大の過ちだと思うから フアナ: へぇー、そんな言葉が出てくるなんてびっくりだなぁ。変わったんだね、フェルディナも フアナ: 人間さんくんもエイヴォン研究所で、『フェルディナの笑顔が柔らかくて可愛くなった』って言ってたし フェルディナ: え……? そ、そうなの……? ふうん、そ、そっかぁ…… シャルロッテ: むう……! フアナ: さてと、そろそろ行こうか。この森で夜営は嫌だし、この部屋に泊まりたくもないし (背景切換...) シャルロッテ: はあ、ふう……本当にこっちで合ってるんですの、フアナ フアナ: たぶん、このあたりの位置を示しているはずなんだけど…… シャルロッテ: ……!! ふたりとも、どうやら当たりを引いたみたいですわ ペロー: おやおや……これは皆様、お揃いで。どうやら今日も、占いはよく当たるようですねぇ 281 - 嘲笑する”策士” フェルディナ: ペロー……! ようやく見つけたわ。探してたのよ ペロー: これはこれは。そうまで私を求めてくださっていたとは光栄ですねぇ。もっとも、私はあなたなどに、まったく会いたくもないし興味もありませんが フアナ: シャル、あれ見て。ペローの後ろにある、あのでっかい装置……たぶん、あれだよ シャルロッテ: あれがGR2発生装置なのですね。じゃあ、シェイクスピアではなくペローが装置を動かそうと……!? ペロー: 私ではなく、この装置をお探しだったのですか? なら、ちょうどよかった。いままさに、装置を動かしたところですよ フアナ: 動かした!? もうそれ、動いてるっていうの!? ペロー: ええ。つまり、端的に言ってあなた方の行動は手遅れ、あるいは無駄骨、ということですねぇ。残念ながら シャルロッテ: ペロー、どこまでも……私にしたこと、忘れたとは言わせませんわよ! ペロー: もちろん覚えていますとも。どこまでいっても、あなたはお姫様でしたねぇ。お姫様の幼稚なお遊び、楽しく拝見させていただきましたよ ペロー: そもそも、シャルロッテ。あなたには感謝してほしいくらいですねぇ。私のおかげで、成長できたと言っても過言じゃないでしょう? シャルロッテ: 成長ですって!? あんなことをしておいて!私がこうして無事なのは奇跡に近いのですわ。それも、人間さんや、みんな、フェル姉さまのおかげで…… フェルディナ: シャル……私のことも…… ペロー: ふふっ、前言撤回ですねぇ。成長したとは言っても、まだまだあなたは乳臭いベビーちゃんのようです フアナ: ペロー、あんたがアイソーポスさんに心からしたがってるとも思えない。GR2計画にも本気で賛同なんかしてないでしょ。何が狙いなの!? ペロー: おっと、そうでした。だいぶお喋りがすぎましたねぇ。私はそろそろお暇しなくては フアナ: 逃がすと思ってるの!? おしゃべりはまだ終わらない、洗いざらい吐いてもらおうじゃないか! フェルディナ: 気をつけて、フアナ。ペローのあの、厭味ったらしい顔……まだ、カードを隠し持ってるわよ……! ペロー: なるほど、グリムの落ちこぼれと言っても、多少の学習能力はあるようですねぇ。それとも、ただの臆病風か……ふ、ふふふっ ペロー: いいでしょう。では悪い予感が現実になる瞬間をご覧にいれましょうか。まずは、これを フアナ: あれは……あの形、まさか、ヴェルザーム……!? フェルディナ: っ!! レヴィアから回収した、アレね! なんだか知らないけど、させるもんですか! はあああっ!! シャルロッテ: なっ、フェル姉さまの魔法が弾かれましたわ! これは、結界!? ペロー: 無策のまま棒立ちでおしゃべりしていると思っていたのですか? あなたたちと同列のオツムだと思わないでいただきたいですねぇ フアナ: ヴェルザームからペローに、エルマイトが流れ込んでる……? いや、違う、あれは…… ペロー: ヴェルザームというのは、増幅装置ですから。単体でも使いようでは有効ですよ。さて、それでは種明かしといきましょうか ペロー: このシェイクスピアの装置は、設置場所のディマイトを吸い上げて、目的の場所に送るものです。このように、ね フアナ: うあああっ!? す、すごい勢いで装置からビームみたいなのが……! ペロー: この装置に、ヴェルザームをセットすればどうなるか……後は皆様、お好きにあがいて、どうぞ シャルロッテ: 今度こそペローが逃げますわ! 追いかけますわよ! フアナ: ダメだよ、ビームは出続けてる! ディマイトがレグルス教国に、こんなペースで供給されたら、GR2がどうなるか……! フェルディナ: 逃げる時間も確保してるってわけね! 本当にしたたかな……ん? 待って。太陽の方向は、あっち…… シャルロッテ: フェル姉さま? どうされたんですの? フェルディナ: これ、本当にレグルス教国に向けられてるの? ビームみたいなこれ、方向がおかしくないかしら フアナ: 待って、いま装置を調べてみる! 研究所の資料どおりの構造なら、きっとどこかに供給先の座標情報が…… シャルロッテ: どうなんですの、フアナ! フアナ: あった……フェルディナの言うとおりだよ。送信先は、レグルス教国じゃない フアナ: インペリウム・コミッティ本部だ ティンカー・ベル: ふいー、とりあえず一息つけたね クレア: でも騎士団の皆さんも魔物とは戦えるけど、あんなでっかいのは無理そう ピュルテ: 魔法の国の最先端の装備でも、あの大きな敵の爆撃を防ぐので精一杯みたいです シンデレラ: これが一方的な攻撃なのかどうか、まずそれを確かめるわ ドロシー: どうやってよ シンデレラ: 直接、聞くしかないでしょう。あれを ガラスの騎士: はっ、陛下。こちらに エミリー: 通信スフィア……? えっ、ジャコヴァに? 応答してくれるかな? シンデレラ: これが意図したものかどうかに関係なく、応答はすると思うわ ヴェルメリオ: ……少なくとも、グリムの意図がわかれば動きようもあるよね ティンカー・ベル: いやあ、でも正面からケンカ売ってますって言われたところで、あんなの、なんとかなるかな……? ジャコヴァ: ……交渉は終わったという認識だが エミリー: 応答した! シンデレラ: 確認したいことがあったのよ。今のこの状況、交渉が決裂したと言っても、まだ折り合いをつける機会もあったと思っていたんだけど エミリー: ジャコヴァ! ヴィル! こんなやり方、ひどすぎるよぅ! ヴィルヘルミナ: エミリー、無事だったのね! あのね、これは ジャコヴァ: 宣戦布告だ シンデレラ: なんですって? ヴィルヘルミナ: ジャコヴァ姉さん、ダメよ ジャコヴァ: これは貴様らを殲滅するための最新兵器だ。二度と故郷の土は踏めないと思え。通信はこれで終わりだ ドロシー: あ、ちょ、待ちなさいよ! ヴェルメリオ: ……切られちゃった。これってやっぱり ピュルテ: もうコミッティと戦争状態になっちゃう、ってことですか……!? ガラスの騎士: 陛下、いかがなさいますか シンデレラ: ……宣戦布告されたのよ。もう、答えは出ているわ ティンカー・ベル: 姐さん! 待ってよ……あ、えっ、人間さん? シンデレラ: 人間さんの気持ちも分かるけど、もうこれは魔法の国としての…… シンデレラ: ……! そ、そうね、あなたも王家の一員だったわ…… クレア: 大事な場面でハグとかしちゃうんだ。これが夫婦愛なの? ピュルテ: ……そう、なのかもしれませんね…… シンデレラ: ん……ありがとう。落ち着いたわ。あなたの意見も聞いて、改めて、ちゃんと決断しなきゃね シンデレラ: そう……人間界の軍隊は、そういう……ええ、わかった。それでいきましょう シンデレラ: 全軍に告ぐ! これより我が軍は境界線を超え、敵拠点を制圧する! 目標、インペリウム・コミッティ本部! 282 - 直轄領への進軍 シンデレラ: 前線部隊が切り込んで道筋をつけなさい! 間をおかず、即座に道を作って! ティンカー・ベル: もうプリンセスじゃなくていいの? シンデレラ: 現場に出るのにドレスなんか着てられないでしょ ドロシー: すごい……あっという間に拠点を確保していってるわ ピュルテ: これが……オトギノクニでも1、2を争う最強の軍隊『ガラスの騎士団』なんですね……! ドロシー: 帝国は支配下の国の安全保障を一手に引き受けてる。相応の軍事力を持っていることは、頭ではわかっていたけど…… ヴェルメリオ: ……姐さんも、慣れてる。魔物討伐とか、普通に行ったりしてたんだもんね エミリー: うん……王子様の後を継いでね…… 騎士団: 陛下、南西エリア5区を確保したとの報告が シンデレラ: ……わかった。ここで一旦ペースダウンして、現状の支配区域の確保を優先しましょう。むやみに突出しないこと 騎士団: はっ クレア: シンデレラはえらいふりしてるってことでいいの? エミリー: 実際、えらいんだよぅ シンデレラ: 偉くなんかないわよ。国民から預かった部隊を適切に配置しているだけ ティンカー・ベル: こういうときの姐さんはカッコいいからなぁ。ティンカが男なら惚れちゃうよ シンデレラ: ふふっ、ティンカちゃんたら。女の子でも惚れてくれていいのよ? ヴェルメリオ: ……でもちょっと、違和感がある クレア: 違和感? ヴェルメリオ: ……ガラスの騎士団は強いんだろうけど、でも……なんていうか、戦ってる感じがしなくない? シンデレラ: ヴェルの言うとおりよ。あの大型兵器のせいで無傷とはいかないけど、逆に言えばコミッティ側の兵力はあの兵器だけだわ ピュルテ: 町の衛兵さんはいますが、住民の皆さんを避難させることに専念してますもんね ドロシー: どういうこと? コミッティ側に戦う意志がないってこと? シンデレラ: あるいは、あの大型兵器で十分だと思っているか…… ピュルテ: かもしれませんね! あの大きいの、あのてっぺんからディマイトを撒き散らしています……! ティンカー・ベル: ディマイトを? 撒き散らしてるって、シェイクスピアがレグルス教国で使ったようなやつ? ヴェルメリオ: ……あっ、見て。てっぺんから、ほら エミリー: 黒い煙……? うわぁ……。あの中身がディマイトなら、町は汚染されちゃうねぇ…… シンデレラ: 時間がないわね……。あの大型兵器、ターゲット・アルファまでのルートを確保することが最優先よ。討伐は私たちが引き受けるわ 騎士団: はっ! 畏まりました! ヴィルヘルミナ: 住民の避難は90%が完了。まだ避難していない住民の大半は、このコミッティ本部施設内にいるわ カロラ: おー、早くね? 避難命令から1時間弱ってとこだぞ。日頃から避難訓練しといたアレだな、たま……なんだっけ。下ネタしか出てこないや ヴィルヘルミナ: 賜物? 使い慣れない言葉、無理して使わなくていいのよ カロラ: あたし、文才はねーんだ ヴィルヘルミナ: それで姉さん、どうするつもり? 何か考えがあるんでしょうね ジャコヴァ: んー? まあ、一応 カロラ: 珍しくヴィル姉ちゃんがジャー姉ちゃんにキレかけてんな。無理もねーけど ヴィルヘルミナ: 頼みの綱の新兵器が、完全に私たちの支配下から外れて暴走してる現在、宣戦布告なんてしたら軍事的に対抗する手段はないわ ヴィルヘルミナ: もちろん、当面はガラスの騎士団も様子見でしょうから、領内にすぐに入ってくるとは思えないけど……でも、それは時間の問題よ カロラ: 特務機関に、あの暴走兵器を止めさせりゃいいんじゃね? 全員でがんばれば、なんとかなるだろ ヴィルヘルミナ: コミッティ特務機関は、各委員に割り振られた専有の部隊よ。私たち3人に加えて、フェルディナとシャルロッテの部隊は代理運用できるけど ジャコヴァ: 他の委員の理解なんか、得られるわけないからな ヴィルヘルミナ: わかってるなら、どうしてあんなこと言ったのよ! どう聞いてもあれは宣戦布告でしょう!? ジャコヴァ: なら、ヴィルヘルミナ。私に謝れというのか? ヴィルヘルミナ: え……? ジャコヴァ: 間違いでした、ごめんなさい……。謝るから許して下さい ジャコヴァ: この私が、そんなこと言えるか ヴィルヘルミナ: ……っ! カロラ: コミッティとグリムの看板背負ってんだから、簡単に頭下げて立場悪くするわけにはいかねーか…… カロラ: そういう政治的なナントカよりも、ジャー姉の個人的な性格って気がしないでもないけど…… ジャコヴァ: さっきからブツブツうるさいぞ。文句あるのか、カロラ カロラ: ないから睨むな! ジャコヴァ: ……でも、タイミングが良すぎる。私の性格も含めて作戦のうち……? ジャコヴァ: まあいい。誰であれ、私を利用しようなどという身の程知らずは、策略ごとねじ伏せてやる…… シャルロッテ: コミッティ本部に、この光線が向けられてるんですの? どうして、そんなこと……! フェルディナ: 知らないわよ、そんなこと。でもペローがやったことなら、悪意しかないと思ったほうがいいでしょ シャルロッテ: そもそもがおかしいんですわ。フェル姉さまはともかく私の顔を見てもペローはまったく動揺していませんでした シャルロッテ: 罠にはめて、死に追いやったはずの相手が地獄から蘇ったというのに……ですわ フアナ: シャル……無理もないけど、ペローのことはやっぱり許せないんだね シャルロッテ: 当然ですわ! フェルディナ: カロラ姉さんが報告したんじゃないの? シャルロッテ: 勝手に長期離脱しているのと、殉職したのでは扱いが違います。どちらが有利か、ヴィル姉さまがわからないはずがありませんわ フェルディナ: だとしたら、ペロー独自の情報リソースがある……? フアナ: その話は後だよ。今はこっち。この周辺の土地からディマイトを吸い上げて、特定の場所に送る……装置自体は、そういう性質のものなんだけど シャルロッテ: だけど? 何があるんですの フアナ: ヴェルザームが触媒として間にはめこまれてる。これのせいで増幅してるんだ フェルディナ: はあ? なんでヴェルザームが入ってたらディマイトを増幅するのよ。ディマイトを打ち消す効果があるんじゃないわけ? シャルロッテ: 確かにペローも言ってましたわ。これは、ブースターなんだって……。話が合わないですわ フアナ: あたしたちコミッティが把握している情報が間違ってるのか? ヴェルザームに関する調査報告、あたしは過去の資料でしか見たことないけど フェルディナ: 私はそんな資料すら、見たことないわ シャルロッテ: 威張ることじゃありませんわ! 定例会議で報告があったはずですわ。でも、結局は何もしないことになって…… シャルロッテ: そう、原初の三獣が持っていたからですわ フアナ: ベヒモス、ジズ、レヴィア……その強大すぎるディマイトを警戒して封印をかけた、コミッティ特級管理ディマイトに指定されてるくらいだからね フェルディナ: それもおかしな話じゃない。打ち消すようなアイテムを、三獣は自分で持ってたわけ? 封印に使ったのならともかく シャルロッテ: その場にいなかったくせに、後から文句だけ言わないでくださる!? フェルディナ: な、何よ、怒らないでよ。シャルを責めたわけじゃないわよ フアナ: とにかく、こいつを引き剥がすには、いまのあたしたちの力じゃ無理だと思う。ブーストされた、強力なディマイトが流れてるからね シャルロッテ: そんな……このままにはしておけませんわ。姉さまたちに良くないことが起きているに決まってますわ フアナ: あたしに考えがある。ふたりはペローを探してきて。そう遠くには行ってないはずだから シャルロッテ: でも……フアナひとりで、大丈夫なんですの……? フアナ: 大丈夫。心配要らないよ フアナ: ……さあ、持ってくれよ……あたしの、左目……っ! 283 - 人間界の建前 クレア: なんか、町の中はガラスの騎士団でいっぱいだね エミリー: このあたりはもう、安全そうだね ティンカー・ベル: ティンカ、ちょっと周りを偵察してくるよ ピュルテ: あの……これ、大丈夫なんでしょうか シンデレラ: ピュルテちゃんは、何が心配? ピュルテ: 住民のみなさんが避難して無人になっている間に、町に兵隊さんを入れてしまうっていうのは……戦争になってしまいませんか? シンデレラ: 人間さんがね、ヒントをくれたのよ ピュルテ: 人間さんが? シンデレラ: 人間界の軍隊は、戦争だけが出番じゃないんですってね ヴェルメリオ: ……そうなの? 戦うのが目的じゃないの? シンデレラ: 川の氾濫や火山の噴火、天変地異だけじゃなくて大火事のときとか……住民を助けたり、被害の拡大を防いだりするそうよ ピュルテ: 災害派遣……! そっか、その手がありましたね! ドロシー: 困った人を助けるんだから、兵隊を町に入れてもいいでしょってこと? それが人間さんの故郷では普通なわけね ピュルテ: でも、頼まれてもないのに好き勝手に入るのは、いくら善意でもダメなんです。まして今回、私たちはそれを半分、言い訳に使ってるわけで エミリー: もう! みんなエミリーがコミッティの一員だって忘れちゃってるでしょぉ クレア: うん、ごめん エミリー: 本当に忘れてたの、クレア…… ヴェルメリオ: ……コミッティのエミリーが、助けてって姐さんに頼んだ……っていう、建前なんだね シンデレラ: そういうこと。緊急事態だから助けてほしいって、『偶然にも』近くに駐屯していた私たちに連絡があった……ってわけ クレア: 本当にえらいんだね、エミリー ドロシー: 大丈夫なの、エミリー。コミッティって確か13人で会議して決めるんだったわよね。エミリーひとりが勝手にやっていいものなの? ヴェルメリオ: ……そっか。勝手にしていいなら、フェルディナとかもっと無茶してそう エミリー: ちゃんと決まりがあるの。緊急事態において、独断で動く裁量権がユース……グリム家にはあるんだよぅ。第何条だったか忘れたけど ヴェルメリオ: ……あれ? グリム家? じゃあやっぱりフェルディナは エミリー: いろいろ落ち着いた後、正しかったかどうかは検証されるからねぇ。場合によっては後で訴追されるまでが付帯決議にあるから、怒られるの怖かったんじゃない? ヴェルメリオ: ……フェルディナがいろいろ動いてた時期は、別に緊急事態じゃないしね クレア: エミリーは怒られない? エミリー: それくらいの覚悟はできてるよぉ ドロシー: なるほどね。けど、ガラスの騎士団じゃ、バックアップはできても、あのデカブツを倒すまでは無理でしょ ピュルテ: そうですよね。あれは……人間さんのエルマイトが頼りです ドロシー: でも、人間さんからエルマイトもらったところで、あんなの大変よ。弱点とかないの、エミリー エミリー: う……正直、あんなのが眠ってること自体、エミリーも知らなかったんだよぅ クレア: サボってばっかりだから エミリー: 言い返せません シンデレラ: エミリーをフォローするわけじゃないけど、きっと最近のものじゃないかしら。エミリーが私たちと旅するようになってから開発したのかも ティンカー・ベル: ねえねえ、みんなこっち来て! なんか変な倉庫みたいなのがあったんだけど、中にちょっと気になるものがあるの ピュルテ: 気になるもの? 皆さん、行ってみましょう! (背景切換...) ティンカー・ベル: 入り口が壊れてたから、ちょっと中を覗いたの。そしたら…… シンデレラ: これ、あの外にいる大型兵器の……仲間? ヴェルメリオ: ……サイズはずっと小さいけど、似てるよね クレア: かっこいい ドロシー: これを動かせれば、かなり助けになりそうね! ピュルテ: でも、何台かありますが、どれも見た目から明らかに壊れてしまってます ティンカー・ベル: たぶん、あいつの攻撃の流れ弾が当たったんだよ。入り口の扉も、それで壊れたんだろうし エミリー: 外の、おっきいのもそうだけど……これ、誰が作ったんだろう。こんな技術力…… ティンカー・ベル: や、普通にシェイクスピアじゃないの? エミリー: ウィラはそんな子じゃないはずなんだよねぇ……。でも、あの研究所……ううん、あれはこういう機械じゃなくて錬金術に近いし…… エミリー: たぶん外部からの技術供与を受けてるんだろうけど、どこから……? レオナが戻ってるはずないし…… ドロシー: 見て! これなら動きそうよ! シンデレラ: 奇跡の1台ね。でも、これでだいぶ戦力が……え、なにこれ。中に人が乗るの? ピュルテ: 複座式っていうんでしょうか。縦にふたり並んで座るタイプの操縦席ですね ヴェルメリオ: ……誰かが乗って操作するの? え、じゃあ外のあれも? シンデレラ: 明らかに暴走してるわ。もし人が乗ってるとしても、操縦者はもう……無事ではないでしょうね ティンカー・ベル: で、これ誰が乗る? 姐さんはさすがにダメだとして ドロシー: 私が乗るわ ヴェルメリオ: ……待って、ドロシー。どんなものかもわからないのに、危ないよ ドロシー: でも誰かが乗らなきゃいけないのよ。仲間のうちの誰かが ヴェルメリオ: ……それは、そうだけど ドロシー: 人それぞれ、役割っていうのがあるのよ。シンデレラも、エミリーもそれを果たした。次は私の番だわ ドロシー: 確かに詳しいことは何もわからない乗り物だわ。けど、これしか打つ手がないのも確かでしょ ティンカー・ベル: 三つ編み…… ピュルテ: えっ、人間さんがもう1つの座席に? ドロシー: 人間さん……! ドロシー: ……うん、気持ちはすごく嬉しいわ。こんな危険に、私の一番そばにいるって、迷わずに言ってくれるなんて、思ってもなかったから ドロシー: でもこれは総力戦よ。一騎打ちなら歓迎するけどね。残ったみんなに誰がエルマイトを供給するの? シンデレラ: ドロシー……。やってくれる? ドロシー: まっかせなさい! ガツンと一発、食らわせてやるわよ。操作方法もよくわかんないけど、フィーリングでなんとかなるわ ピュルテ: え、あっ、そうですよね。ドロシーさん、手をつないで下さい。私を通じて人間さんのエルマイトをできるだけ渡しますから ドロシー: ありがとう。すごく身体が熱くなってきたわ。きっと、大丈夫よ エミリー: あっ、人間さんが ドロシー: あ、ちょ、何よ。もうエルマイトは十分だからっ。いきなり抱きしめたりなんて、そんな、んっ、んぅ……!? ヴェルメリオ: ……うっ、す、すごくラブラブなキス ドロシー: ん、ちゅっ、ぷは……な、なによもう…… ドロシー: みっ、みんなが見てる前でっ、バカなんじゃないの!? ドロシー: 必ず生きて戻れ……? ふん、誰に向かって言ってんのよ! あったりまえでしょ! エミリー: ねぇ、もう1つ席があるんだけど…… クレア: 私が乗る ドロシー: えっ、クレア!? やめなさい、危ないわ。私ひとりで十分よ クレア: 平気だよ。私も成長してる。ドロシーのこと、助けられる ドロシー: け、けどっ…… クレア: あ、人間さん。私はドロシーみたいに喜ばないから、ちゅーはいらないよ ドロシー: だ、誰がっ! 別に喜んでないし! 284 - 紛糾する議場 ゲーテ: いまなお、遠隔地から大量のディマイトが届いています。これが『KHM55:ルンペルシュティルツヒェン』に影響しているのは間違いありません ヴィルヘルミナ: おそらく受信装置が『ルンペル』に取り付けられているのでしょうね キャロル: きゃっはははっ! いいんじゃないの? 昨日まで普通に暮らしてた人とか町が、ぼっこぼこになるところなんて、めったに見られないんだからさぁ♪ ジャコヴァ: その気色の悪い趣味は貴様の自由だが、私に害が及ぶとなれば話は別だ マロリー: あ、あのっ、その装置って、グランド・リヴィジョンの……? ヴィルヘルミナ: そうよ。GR2計画のため、各地にシェイクスピアが設置したディマイト遠隔送信装置 ヴィルヘルミナ: 本来なら、レグルス教国の地下に設置した大時計『リブロ・リベル・クロノス』2型に注ぎ込まれるはずだったわ ゲーテ: それがコミッティ本部に設置された『ルンペル』に注ぎ込まれてしまった カロラ: 明らかにキャパオーバーだよな。んで、暴走しちまったと アイソーポス: 無人機だったことが仇になったな…… カロラ: おいおい、アイソーポス。他人事みたいに言ってくれちゃってるけどよ、GR2計画の責任者は誰なんだよ。ジャー姉が1回やめようって言ったときも、ぶち通したのはあんただろ カロラ: あたし、そーいう責任とかハッキリしないの、イライラすんだよ マロリー: えっ、でもでも、シェイクスピアさんがやったんですか、これ キャロル: 現時点で連絡取れないから、疑われちゃうのはしょうがないよね。ま、ウィラらしくてあたしは好きだけどな。さすがウィラ、もっとやれーっ、ってカンジ ヴィルヘルミナ: 予想に反して、ガラスの騎士団は早々にコミッティ直轄領内に進入しているわ。こちらは兵力を出していないから、制圧はあっという間ね ゲーテ: 現在、南西部の8区にわたり制圧されています カロラ: ケンカ売った相手がケンカしないんだもんな。そりゃそうなるよ ゲーテ: しかし特務機関の出動に関しては一考の余地がありますね。そもそも委員が全員揃っているわけでもない ダンテ: ペローもいない…… カロラ: うおっ!? ダンテがしゃべった!? ヴィルヘルミナ: 確かに。連絡がつかないのはシェイクスピアだけではないわ。ペローもしかり、元11号委員フアナも、そしてもちろん、フェルディナも同じね ジャコヴァ: この件の真相を探るのは後だ。目の前の危機にどう対処するかが肝要 カロラ: ジャー姉ちゃん……どうするつもりだよ……? ジャコヴァ: アイソーポス。いまの貴様の立場を考えれば、答えはわかっているな。NOとは言わせないぞ アイソーポス: ………… フェルディナ: くっ……どこに消えたの、あのクソ女 シャルロッテ: お気持はわかりますけど、口が悪いですわ、フェル姉さま フェルディナ: この森の中、馬車で走り出すには向いてないわ。必ず近くに…… フェルディナ: きゃぁっ!? な、なにっ、なんの音!? シャルロッテ: 機械音……! これは、飛空艇ですわ! 姉さまっ、あれをご覧になって! フェルディナ: あれは……ペロー専用飛空艇『グリゼリディス』! ディマイトエンジンを8機も積んだ重量級っ、時価100億ゴールドは超えるっていう代物よ! 腹立つわね! シャルロッテ: フェル姉さま、いまはお金の話はどうでもいいのですわ! フェルディナ: 重量級だけに起動までに時間がかかる……隠れて、その時間を稼いでいたわけね。逃がすもんですか……! シャルロッテ: どうするつもりです!? 動きは鈍いですが、もう空中に浮き上がってますわ。飛びつくのは無理です! フェルディナ: あれを見なさい、シャル シャルロッテ: あれは、ハシゴ? 非常用の縄梯子ですわ! フェルディナ: あれに飛びつけば、船体内部に侵入できるはずよ シャルロッテ: フェル姉さま、耳かっぽじって聞いてくださる? 飛びつくのは無理と申し上げましたわよね!? フェルディナ: かっぽじるって、あんたこそ品のない言い方ね シャルロッテ: 人間さんが聞いてないなら、どうでもいいのですわ フェルディナ: いいから、シャル。私のこと、ぎゅってして シャルロッテ: ……はぁ? フェルディナ: いいから早く、ぎゅって抱っこしなさいって言ってるの! シャルロッテ: こんな大事な場面で姉妹でイチャイチャなんて、気持ち悪いことやってる場合じゃありませんわ! フェルディナ: そういうことじゃなくて! 私の身体にしっかりつかまってなさいって意味よ! シャルロッテ: ぎゅーとか抱っことかじゃなくて、そうハッキリ言ってくださいません!? で、つかまってどうするつもりなんです フェルディナ: 飛空艇に背を向けた状態で、全力で魔法を地面に打ち込むわ。その反動を利用して、飛空艇に飛び移るのよ フェルディナ: 推力は私がつくる。シャル、あんたはしっかりハシゴをつかみなさい シャルロッテ: 私がつかめなかったら、ふたりして墜落ですわよ フェルディナ: だから! ……信じてるって、言ってんのよ シャルロッテ: フェル姉さま…… フアナ: く、はぁっ、くぅっ……はぁっ……! ふたりとも、何を……? シャルロッテ: フアナ!? しっかりしてください! シャルロッテ: フアナはしっかり私たちにつかまっていてくださいね。手を離さないように フアナ: はぁっ、くっ、はぁ……わ、わかった……それにしても、なかなか大胆な作戦だね……。フェルディナらしいよ……くっ、くぅっ シャルロッテ: 無理して喋らなくて大丈夫ですわ。その様子……かなり無理をしたのでしょう フアナ: ちょっとね……っ、でも、ちゃんとヴェルザームは回収してきた。装置も破壊して、ディマイトがこれ以上、送られることはないよ……っ フェルディナ: なら、あとはあのクソ女をとっちめるだけね。でも、3人……い、いけるかしら フェルディナ: いいえ、もう迷ってる時間はないわ! 急がないと、どんどん距離が開いちゃう……! シャルロッテ: おまかせしますわ、フェル姉さま! フェルディナ: いっっけええええぇぇっ、フェルディナバースト――っ!! シャルロッテ: くううっ、届いて……とどけえええぇぇぇっ!! (背景切換...) シャルロッテ: や、やりましたわ……! 届きました、つかめましたわ! フェルディナ: やったわね……! 離すんじゃないわよ、シャル フアナ: はは……本当に成功させたよ。すごいね、ふたりとも……さすが、グリムだよ…… フェルディナ: フアナ、ハシゴ上がっていける? フアナ: ああ。すぐ昇って…… フアナ: ……。……ふたりとも、足元見て フェルディナ: いやよ、怖いもん! フアナ: あ、うん。上がってからでもいいんだけど シャルロッテ: さっきの装置と同じような光線が、いくつも……? まさか、さっきのディマイト送信装置は、ひとつじゃない……!? フアナ: ヴェルザームはこれだけだから、さっきほど強くはないけど…… シャルロッテ: 光線が向かう先もひとつ。コミッティ本部の方向ですわ。そして、この飛空艇が向かっているのも…… フェルディナ: いいから上がりなさいよ! 私は絶対に下なんか見ないからね! 285 - ドロシー&クレア出動 ドロシー: えーっと、このペダルを踏むのね。よいしょっと ティンカー・ベル: うわ、動き出した! クレア: ここを握って動かせばいいのかな ティンカー・ベル: 危ないってー! ティンカのこと殴ろうとしてるでしょ! ドロシー: 妖精さんたら被害妄想ね。ちょっと当たっちゃうかなって思ってはいたけど ティンカー・ベル: 思ってんじゃん! 妄想じゃないじゃん! ひどい! ドロシー: え、なに? 声、聞こえてるの? ピュルテ: ええ。そんなに大きな音ではないですが、このくらいの距離なら普通に聞こえます クレア: もうティンカの悪口言えないね ティンカー・ベル: 言うなよ! 急に何の恨みがあってそんなこと! ドロシー: よーっし、じゃあ練習がてら外に出て、あのデカブツと絡みにいくわよ。準備はいい、クレア! クレア: がってんだ (背景切換...) ピュルテ: さすがドロシーさんです。もう、あんなに自在に動き回ってます ヴェルメリオ: ……それにあの腕、クレアが動かしてるんだよね。すごく自然な動き シンデレラ: 確かに互角以上に戦えてるわ。それでも……相手の装甲が分厚すぎる。このまま戦っても決定打にはなりそうにないわね ティンカー・ベル: そんな! それじゃ三つ編みたちのスタミナが切れたら、その後はどうしたらいいの!? エミリー: 時間稼ぎ、ってこと? シンデレラ: ええ。必ずグリム側に何らかの動きがあるはずよ。ジャコヴァはあんなふうに言ってたけど、あの大型兵器の稼働はグリムにとって計算外のはず エミリー: エミリーもそう思う。正面からケンカ売るなら、もっと全力でくると思うし。中途半端なんだよねぇ ピュルテ: じゃあ、あの大型兵器を動かしているのは、グリム以外の誰か……ってことになりますよね。もちろん偶然の事故という可能性もありますが ヴェルメリオ: ……それは都合良すぎ。誰かが狙ったって考えるべきだよね ティンカー・ベル: ティンカたちとグリムが戦って、誰か得する人がいるってこと? エミリー: アイソーポスとか……? でも、もともとグリムの好き放題を抑え込むためにコミッティ作った人だし、こんな無茶するとは思えないんだよねぇ シンデレラ: 黒幕の存在も気になるけど……ジャコヴァは、どう出るかしらね ゲーテ: 16時現在、ディマイト供給過多の状態は解消されていません。12ルートある供給ルートのうち、最も供給量の多かった1ルートは消滅しましたが、その他は依然として供給が続いています カロラ: 町のみんなの避難は終わったんだろ? ゲーテ: はい。本部施設の職員を除き、すべて避難完了しています。本部職員についても、東部のカロラ街道からゲーテ街道を経由する避難経路を確保 カロラ: こん中の奴らも、巻き込みたくはねーしなぁ マロリー: 職員もですけど、あのっ カロラ: あ? まさか自分の身の安全とか言わねえよな? 手下置いて逃げられるかよ、あたしらコミッティだぞ。作家の中の最高峰なんだ マロリー: ひっ!? は、はいっ、すみませんっ ゲーテ: カロラ委員。マロリー委員は新人ですから、お手柔らかに カロラ: ちっ、フアナは新人のときから結構ふてぶてしかったぞ キャロル: ねえねえ、ゲーテ。あいつらの誰かが、ディ・マキナに乗ってるんでしょ? ちゃんと乗りこなせてるの? ゲーテ: はい。初めて搭乗するとは思えない乗りこなしです ヴィルヘルミナ: まだ機体を購入して技術解析を開始したところよ。特務機関の連中も、まだ誰も乗れやしないっていうのに…… キャロル: きゃははっ、パイロットはバケモノだよね。どういう才能持ってんだろ ジャコヴァ: いずれにしてもだ。これはコミッティ内部の反乱だ キャロル: ウィラのこと? ジャコヴァ: この場にいる者が糸を引いている可能性もある。いる、いないに関わらず、全員が疑わしい ヴィルヘルミナ: 新兵器の納入からまだ3ヶ月、GR2計画のための装置配備完了から2週間、そしてシンデレラ帝国との会談当日……あまりにもタイミングができすぎているわ カロラ: コミッティ関係者なら関わってる可能性高いし、委員の誰かなら情報に全部アクセスできるよな ゲーテ: だとして、この事態をどう打開するのですか アイソーポス: …………っ ジャコヴァ: もちろん手立てはある ジャコヴァ: 議長権限のもと、副議長両名の承認を得て、ここに宣言する。インペリウム・コミッティはいま、このときを以って――解散する!! ゲーテ: え……? か、解散……!? キャロル: きゃっはははははっ、ゲーテの顔! いつも冷静なゲーテがこんな顔するなんて、最高なんだけど キャロル: で? 顔芸はいいとして、なんつった? はあ? 解散? ジャコヴァ: その通り。インペリウム・コミッティ規定96条『解散権』というのがある。ちゃんとコミッティに入ったときに分厚い冊子を渡されただろう マロリー: こ、これですよね。ほんとだ、書いてある……! ヴィルヘルミナ: 議長たる第1号委員は解散動議を議会に提出することができる。解散は副議長両名の承認を以って成立する キャロル: は……? ってことは、アイソーポス、あんたも賛成なわけ? アイソーポス: この事態を打開する手段はほかにない。こうなったのは、私の責任も少なくないからな。ジャコヴァの提案は飲まざるを得ない…… ジャコヴァ: その通り。貴様らは全員、コミッティではなくなる。ただの作家だ ジャコヴァ: あらゆる特権は消滅する。特務機関の指揮権、コミッティ所有施設および設備の使用権、そして本部から供給される潤沢なディマイト マロリー: そ、そんな、まだそんなに蓄えもないんですけどっ ジャコヴァ: それが狙いだ。では解散宣誓書にサインする ダンテ: ……っ!? ゲーテ: くっ、かはっ……!? サインした途端、い、いきなり、身体から力がっ……!? まさか、こんなに急激に…… ヴィルヘルミナ: 身体が慣れちゃってるから、最初は辛いでしょうね カロラ: でも加入前はそれで生きてたんだからさ。ま、初心に帰るっつーかな キャロル: なんで、あんたたちは平気なわけ……? ヴィルヘルミナ: 名門グリム家を見くびらないことね。コミッティなんてなくても、充分にエネルギーを持っているの アイソーポス: そういうことだ。本部は捨てる、みんな撤収の準備をするんだ ジャコヴァ: 逃げるがいい。力なき者共め。私は逃げないぞ ヴィルヘルミナ: もちろん、私も姉さんにお供するわよ カロラ: あ、あたしもだよ。逃げたって行くとこねーしな ジャコヴァ: なら、行くぞ。ついてこい 286 - 拡がる影響 エミリー: ……っ!? う、ううっ、これっ……! ピュルテ: エミリーさん? どうしたんですか、顔色が悪いですよ エミリー: だ、大丈夫。ちょっと立ちくらみしただけだから…… エミリー: なにこれ、どういうこと……? (背景切換...) シャルロッテ: っくうう……っ! こんなときに、いったい何が……!? やっと飛空艇に乗り込んで、これからというときに…… フェルディナ: 嘘でしょ、ん、はぁ、くっ……なんでこんな、力が減るわけ……!? フアナ: まいったね、3人とも立ち上がる気力もないって感じか シャルロッテ: 私たちはともかく、フアナはさっきのヴェルザームを外すのに、かなり消耗しているはずですわ。ゆっくり休んでらして フアナ: ふたりも、だいぶ辛そうだよ。もしかしたらだけど、それ……ジャコヴァの仕業かもしれないね フェルディナ: ジャコヴァ姉さんが? どういうことよ フアナ: たぶん、コミッティを解散したんだ シャルロッテ: か、解散……? フアナ: コミッティ本部で何が起きてるかわからないけど、あれだけ各地からディマイトの光線が本部に向けられてる。平和であるはずはないよ フアナ: 異常は察知した。そして、その原因がコミッティの誰か、とまでは突き止めたんだろう。けど、誰なのかまでは特定できなかった フアナ: 解散権を行使すれば、全員のディマイト供給を停止できるだけじゃなくて、設備の使用も止められる。窓の外、見られる? フェルディナ: さっきまで本部に向かって伸びてた光線が……! 次々に消えていくわ! フアナ: 改善はしなくても悪化は食い止められる。理屈の上ではそうだけど、その決断ができるっていうのは……さすが、ジャコヴァって感じかな フェルディナ: けど、なんで私まで…… シャルロッテ: そういうことですわ。死んだことになっている私はともかく、フェル姉さまのことも、除名などせずコミッティのひとりとして、姉さまたちは帰りを待っているのですわ フアナ: 今回はちょっと裏目に出ちゃったかもだけどね フェルディナ: 姉さんたちが……私を……? ふん、そんなの信じられるわけないでしょ。それより、ペローも力を失ってるのよね。いまがチャンス、ボッコボコにしてあげるわ シャルロッテ: お待ちなさい、フェル姉さま。力を失ったのは私たちも同じですわ。誰がいるかもわからないのに、迂闊にブリッジに上がるのは危険です フアナ: それにこの飛空艇、安定飛行を続けてる。普通ならペロー弱体化で大きく高度を下げたりするはず フェルディナ: まだまだ様子見、ってわけ。おもしろくないわね フアナ: あたしが動けりゃ良かったんだけどね シャルロッテ: 仕方ありませんわ、フアナ……って、あなた、その目……!? フアナ: あ……見られちゃったか…… ドロシー: はぁっ、くっ、さっさと倒れなさいよ、デカブツ……! クレア: DMT-003だって ドロシー: え、何が? クレア: でっかいの。ほら、そこの画面に出てるよ ドロシー: 識別番号……? あっと、いけないっ、くううっ!? ドロシー: ちょっとでも気をそらしたらつかまるわ。いまはやりあえてるけど、こっちのスタミナが尽きたら終わりね……! シンデレラ: そろそろつかまり始めたわ。動くなら動きなさいよ、ジャコヴァ エミリー: で、でも……あの兵器も、動きが鈍ってきたと思わない? ティンカー・ベル: 確かに! ロボも疲れたりするのかな? って、エミリー、大丈夫? さっきからほんと、辛そうだよ エミリー: うん、これくらいなんでもないよぅ ティンカー・ベル: ん……? なんか遠くの空に浮かんでる……あれって、なんだろ。飛空艇……? ジャコヴァ: ふん、我がコミッティの技術の前に、手も足も出ないようだな シンデレラ: ジャコヴァ!? それに妹ふたりも! 自ら姿をみせるとは思ってなかったわ エミリー: ねえ、本当は戦いなんてしたくないんだよねぇ? もうやめようよ、協力した方がいいよぅ! ヴィルヘルミナ: ああ、エミリー! 身体は平気!? エミリー: え……これ、ヴィルたちが何かしたの……? カロラ: ほら、やっぱり冊子が分厚すぎるんだよ。みんな読まないんだ。あたしもだけど ヴィルヘルミナ: コミッティ本部からのディマイト供給を完全停止しちゃったの。ごめんね、エミリー。こっちに来てくれれば私が抱っこしてあげるから エミリー: そ、そういうこと……。悪いけど、ヴィルのお世話になるつもりは、ないから……っ ピュルテ: 望んでいない戦いならやめましょう! あの兵器が暴走してるんじゃないんですか? なら協力して止めれば ジャコヴァ: 黙れ ピュルテ: ……っ!? ジャコヴァ: 貴様、誰に口を利いている。最も重要なことは何か、教えてやれ ヴィルヘルミナ: ジャコヴァ姉さんが何より重視すること。それは、姉さんらしくあることよ。アナタたちには理解できないでしょうけど ジャコヴァ: 私は支配者だ。欺瞞に満ちた偽善者どもの言いなりになどなるか。天空神殿と手を組む? ふん、反吐が出る ジャコヴァ: 大義のために、人の愛すら踏みにじる。そんな輩に手を貸すなどと……そこまで誇りを捨てるのなら、私は潔く死を選ぼう! ティンカー・ベル: うわぁっ!? な、なに、この気配……!? ドロシー: クレア、みんなのフォローにいくわよ! シンデレラ: 待って! ドロシーとクレアは、その巨大兵器をできるだけ抑えこんでて。対抗できるのはあなたたちだけなんだから ドロシー: うっ……そ、そうね ティンカー・ベル: ってことは、お姉ちゃんたちは、こっちでなんとかするってことだよね。よ、よーし、やってやろうじゃん! ピュルテ: きゃあああああっ!? ヴェルメリオ: ……くっ、はぁっ、つ、強すぎるよ エミリー: 本部からのディマイト供給、止めたのって……ジャコヴァたちも同じ、じゃないのぉ……? ジャコヴァ: 同じだ ヴィルヘルミナ: ただね、忘れないでちょうだい。私たちは名門グリム家よ カロラ: ちゃーんと家に帰って来ないのが悪いんだぞ、エミリー シンデレラ: これが、グリム家の実力……!? ヴィルヘルミナ: 全盛期にはオトギノクニのエルマイトのうち半数近くを掌握していたのよ。忌々しいグランド・リヴィジョンまではね ピュルテ: それは嘘です! シンデレラ: ピュルテちゃん? ピュルテ: これはディマイトです! 攻撃を直接受ければ、私の感知能力でわかります! エルマイトをたくさんもっていたのは事実かもしれませんが、いま使っているのはディマイトです ジャコヴァ: 神殿の手先にしては、なかなか鋭いな。その通り、私はディマイトの供給ルートを個人として確保している。それをこれまでコミッティに譲渡し、いまは妹に融通しているんだ ジャコヴァ: で? 得意げな顔をして手の内を見破ったとでも思ったか。こんなこと、この局面で知って何になる ティンカー・ベル: ……悔しいけど、あいつの言うとおりだね。力負けしてるのは事実だし ヴェルメリオ: ……人間さんっ。人間さんのせいじゃない、力不足なんかじゃないから! ピュルテ: そうです。充分な量を供給してくれています。媒介である私がうまく機能していないのかも……こうなったらまた、邪装を使うしか…… エミリー: だめ! それはだめだよぅ! また戻れる保証はないんだよ! ピュルテ: そ、そうですよね……。んっ、うううっ!? あ、頭が!? ティンカー・ベル: ピュルテ!? どした!! (――力が欲しいか。) ピュルテ: あ、ああう……ほしい、ほしいですけど、でも……あなたは…… (――力は目の前だ。) (――望め。すべてはそれで終わる。) ピュルテ: あ……あぁ……っ!? 人間さん、さんっ…… ピュルテ: ああ……! 人間さん……私……あなたのためなら…… ジャコヴァ: ふん。勝負は決したか。なら、次で決めてやろう ドロシー: ――っ、いけないっ、クレア、戻るわよ! クレア: わかった! ヴィルヘルミナ: 邪魔はさせないわ。あなたたちのことは カロラ: あたしらが足止めさせてもらう ジャコヴァ: まずは人間さんとやら。貴様を仕留めさせてもらう。終わりだ! シンデレラ: 人間さん!! ヴェルメリオ: ……!! あ、あれ、人間さん? 無事? ジャコヴァ: このタイミングで私の攻撃を弾き返したか。相当な手練れ……何者だ ティンカー・ベル: あ、あんたは……! リル: やれやれ。本当に貴君らは世話が焼けるな 287 - 駆け付けた騎士 ティンカー・ベル: ネコ! やっぱりこういうとき、来てくれるって思ってたよ! リル: ふん……小生ありきで行動されても責任は取れないぞ シンデレラ: 身体は、平気なの? リル: ふん。のんびりリゾートで羽根を伸ばしたかっただけだ。ピュルテのディマイトを引き受けたくらいで、この小生がどうにかなるとでも? ヴェルメリオ: ……リルがいれば、なんとかなるかも ジャコヴァ: こいつ……ペローのところの……。なるほど、面白い ヴィルヘルミナ: 姉さん、ゲーテから連絡が入ったわ。本部職員の避難が完了したそうよ ジャコヴァ: そうか。ならもう、時間稼ぎをする必要はないわけだな ヴィルヘルミナ: 姉さん……!? どうして、前に ジャコヴァ: いい機会だ。白黒はっきりすれば、あの方も少しは前向きになる リル: しかし……貴君らは本当に、毎日退屈せずに過ごしているようだな。こんなバケモノを相手にしているとは ヴェルメリオ: ……おかげさまでね ティンカー・ベル: あのでっかいのは、三つ編みとクレアがなんとか止めてくれてる。けど、それもずっとってわけにはいかなさそうなの エミリー: それまでに、ジャコヴァをなんとかしないと リル: それくらいタフな状況だと、助太刀のしがいもあるというものだ。……それで、ピュルテ。身体は平気なのか? ピュルテ: わたし……ほしい……つよい、ちから…… リル: ――っ!? ま、まさかピュルテ……! (――さあ、存分に使え。) (――その身に余るほどのエネルギーを授けよう。望め。力を手にした自分を思い描け。) ピュルテ: あぁ……人間さん、さん……っ! 私っ、どうしても……こんな状況でも、抑えられないんです……っ、私は、人間さんが……好き……! ピュルテ: だから……離しません。あなたを手に入れるためなら、なんでもしますよ。人間さん? ティンカー・ベル: ちょっと、ピュルテ!? なんか雰囲気違うけど、どうしたの!? リル: 下がれ! 不用意に近づくな。いまのピュルテは……ディマイトの塊だぞ! フェルディナ: ね、ねえ……飛空艇、着陸したわよね シャルロッテ: たぶん、さっきの衝撃が着陸時の衝撃だと思いますわ。不時着という感じでもありませんでしたし、おそらく目的地に着いたのではないかと フェルディナ: 目的地……。つまり、コミッティ本部? シャルロッテ: フアナ、しっかりしてください。目的地に着きましたわ フアナ: ん……くっ、はぁ……っ。消耗が、激しくて……っ、はぁっ シャルロッテ: その目……。ディマイト送信装置を相手に、何をなさったのです フアナ: 大丈夫、大したことじゃない。それに、消耗したとは言え、力が消滅したわけじゃない。ふたりに比べれば、これくらい……! フェルディナ: ふん、気づいたのね。私たちは今、一般人と何ひとつ変わらないレベルの力しか持ち合わせてないわ シャルロッテ: 人間さんを救いに行けるのは、フアナ……あなただけですわ。お願いです、私の分まで人間さんを守ってくださいませ ペロー: 残念だけど、そうはいかないねぇ フェルディナ: ペロー……っ!! ペロー: まさか、あなたたちが私の飛空艇に乗り込んだことに、気づいていないとでも思っていたのですか? フェルディナ: 私たちを泳がせてたってわけ…… ペロー: 消耗しきった愚鈍な方々に、どれほど警戒する価値があると? ペロー: この者共を縛り上げておきなさい シャルロッテ: コミッティ特務機関……!? 勝手なことを。特務機関は私兵ではありません、このような目的に使う部隊ではありませんわ! ペロー: 私兵ですよ。公的には特務機関ですが、日頃から個人的に報酬を支払っていますからね フェルディナ: 癒着……! いえ、最初からこの解散になる流れを知っていた……? フアナ: だから、だよ……っ! 解散した瞬間も、飛空艇はまったく影響を受けなかった。ペローはもう、コミッティからの供給に頼ってない……? ペロー: 補給ルートは複数用意する。戦略の基本ですよ。さぁて、私はこれから待ち合わせですから……。皆さんはここでゆっくりしていってくださいねぇ? ピュルテ: はぁ、はぁっ……あはぁ……人間さんさぁん……♪もう離れない……ずっと、一緒なんですよ…… シンデレラ: ピュルテちゃん!? くっ、まさかこれ、ディマイト汚染されているの? エミリー: 近いけど、たぶん邪装<アビス・コントロール>に近い状態だと想うよぉ…… ドロシー: ちょっと、みんな!? これに乗ったままだとよくわかんないんだけど、ピュルテはどうしちゃったのよ ティンカー・ベル: ちょっと問題発生……でも、三つ編みたちは心配しないで。ティンカたちでなんとかするから ピュルテ: 私はもう、力を手に入れました。これ以上は好きにさせません。人間さんに逆らうのなら……消滅するだけのこと。この私の手でね ティンカー・ベル: でも、ピュルテらしくないだけで、味方してくれてるんじゃないの、これ リル: ならいいんだがな……。ピュルテ、目を覚ませ。力に溺れるのは危険だ! ピュルテ: リルちゃんったら。私がいつまでもリルちゃんに守られるか弱い存在だと思わないでね。グリムを叩き潰すなんて、簡単なんだから……♪ カロラ: おうおう、そいつは聞き捨てならねーな。ちょっと実力、見せてもらおうじゃねーの! ピュルテ: ふん……容赦は、しませんよ カロラ: んぐぁあああああっ!? ヴィルヘルミナ: カロラ! 姉さん、もういいでしょう。あの子、ルンペルと同じ状態だわ。生身の私たちが敵うわけないわよ ジャコヴァ: だからこそだ。あまりにも哀れではないか ピュルテ: ほら、グリムなんていっても、所詮はこの程度です。私の前では手も足も出ないんですよ カロラ: んぎいぃぃっ!? く、くっそ、こいつ……バケモンかよ……! エミリー: カロラ! シンデレラ: ピュルテちゃん、やりすぎよ! 敵対してはいるけど、その子はエミリーのお姉ちゃんなんだから。踏みつけたりしちゃダメ! ヴェルメリオ: ……本当に、ピュルテじゃないみたい カロラ: んぐ……ぐっ、はぁっ、このまま殺るつもりか……。いいぜ、覚悟はできてる……! ジャコヴァ: シェイクスピアなのか、それともアイソーポスのような本部にいた者の差し金か……判断しかねていたが、私はもう確信した ヴィルヘルミナ: 黒幕の見当がついたのね。まあ、私も薄々わかったけど ジャコヴァ: この薄汚いやり口……ひとりしかいないだろう ペロー: うふふ……どうやら、頃合いのようですね 288 - 叛旗 ペロー: ふふっ、素晴らしい眺めですねぇ。名門グリムが滅びゆく瞬間……しっかりこの目で見届けさせていただきましょう…… カロラ: てめ、ペロー!? んぐふぅぅっ! ピュルテ: 黙りなさい。雑魚が シンデレラ: ペロー……? それって確か、コミッティの ペロー: おおっと、そうでしたねぇ。皆さんにはお初にお目にかかります ペロー: インペリウム・コミッティ第13号委員、ペローと申します ティンカー・ベル: あいつが……シャルロッテを騙したり、フェルディナを操ったりしてた、あの…… ペロー: あっはははは、おふたりともグリム家の名に恥じない最期をご用意したんですがねぇ。無様にも生き延びてしまいまして ヴィルヘルミナ: 顛末はカロラ経由で聞いてるわ。ずいぶんグリム家の名を貶めてくれたようね ジャコヴァ: ……シャルロッテは殉職した。生き残ったことを知っている者は少ない ヴィルヘルミナ: ……そうだったわね。あなた、どこでその情報を ペロー: さあ? ひとつ言えるのは、私は何の後ろ盾もなしに反乱を起こすような無能ではない、ということですよ ジャコヴァ: つまり、ひとりで何もできない ジャコヴァ: こうして表に出てきたのも、勝利を確信したから。リスクがあるうちは、こそこそ隠れている ペロー: どうぞ、お好きなように仰ってくださいねぇ。所詮は、負け犬の遠吠え…… ジャコヴァ: ち……クズめ ペロー: では、総仕上げといきましょうか。外道のグリム家に引導を渡し、用済みの連中も始末する、最も効率的な方法でねぇ…… ヴィルヘルミナ: ディマイトを更に増幅させるつもりね。でも、ルンペルの自動制御システムは、とっくに限界のはずよ ペロー: さすがはヴィルヘルミナ。お気づきでしたか ヴィルヘルミナ: こんな高濃度のディマイトで稼働する前提で設計されてはいない。いずれ止まるのは明白だわ。そのとき、町が残っているかはわからないけど ペロー: だから、制御する頭脳はアウトソーシングするんですよ。近距離で、同種のディマイトが増幅すればどうなるか…… ジャコヴァ: どうなるんだ ヴィルヘルミナ: ――っ、共鳴……! まさか、あのピンク髪の妖精を使うつもり!? ピュルテ: あ……あああああぁぁぁ!? これ……流れ込んでくる……!? ティンカー・ベル: どうしたの、ピュルテ! 今度はなに!? ピュルテ: っはああああっ! そこぉっ! ドロシー: きゃあああっ! な、なに!? 目の前のデカブツ、急に動きが鋭くなったわ クレア: ドロシー、見て。でっかいやつの後ろ ドロシー: ピュルテ!? ちょっとみんな、これどうなってるのよ。あれじゃ私たちの攻撃、ピュルテに当たっちゃうわ! ピュルテ: お気遣いどうも……けど、遠慮なく攻撃していいんですよ、ドロシーさん ドロシー: ピュルテ! なに言ってんのよ、そこをどいて! ティンカー・ベル: ちょっと、あれってもしかしなくても、もしかするよね!? ヴェルメリオ: ……ピュルテが、でっかいのに取り込まれた? リル: 正確にはもっと強いもの……おそらくペローの術に取り込まれたんだ。その結果、あの兵器はピュルテの意のままに動くようになった ペロー: ペアリング、完了 カロラ: なんつー手を使いやがる……。システムが耐えられないからって、あんなもん生身のヤツにだって無理だぞ。そんなこと、おまえなら分かってるよな ペロー: さて、なんのことでしょうねぇ? ヴィルヘルミナ: あの妖精の子も、使い捨てにするつもり? ワタシもそれなりに非情なタイプだと思っていたけど、アナタには負けるわ ペロー: なんとでも言ってください。さて、私は特等席で観覧するとしましょうか。グリムの滅亡をね カロラ: あんのやろ……! 屋根の上で優雅に座って……芝居でも見てるつもりかよ エミリー: みんな、ごめんね……これは全部、グリムが引き受けるべきことなのに、みんなを巻き込んじゃってる エミリー: 本当はもう、エミリーのこと置いて逃げて、って言いたいとこだけど……ピュルテがこうなっちゃったから、そういうわけにもいかないよね ティンカー・ベル: なに言ってんの。どっちにしろ、ティンカたちは逃げないよ クレア: ねえ、よく聞こえなかったんだけど、いまエミリーがしおらしいフリした? エミリー: んもう、クレアってば。絶対、聞こえてたよねぇ? ドロシー: 何が原因かなんて、どうでもいいでしょ。そういうのは負けたときの言い訳にしか使わないんだから ドロシー: 相手をぶっ倒せば、原因だの責任だの、関係ないわ。つまり……殴ればいいのよ!! ティンカー・ベル: うああああっ!? カロラ: ちっ、何やってる、こっちだ! ティンカー・ベル: あ……ありがと。助けてくれたの? カロラ: この場は手を組むしかないだろーが。対抗できるやつなんて、そうそういねーんだからよ。ジャー姉ちゃん、ヴィル姉ちゃん、それでいいよな!? ジャコヴァ: 事後承諾? 不愉快 カロラ: んなこと言ってる場合じゃないだろーが! ジャコヴァ: まあいい。緊急事態だからな。カロラの口の利き方については後で話す リル: しかし……あの巨大兵器は、ドロシー殿とクレア殿が抑えてくれているというのに、ピュルテひとりにこれでは…… シンデレラ: ピュルテちゃん、聞いて! あなたは操られてるだけなのよ! ピュルテ: 勝手なこと言わないでくださいよ。そうやって私から人間さんを奪うつもりなんですよね? シンデレラ: そんなことしないわ! ピュルテ: 嘘……したじゃないですか。政略だっていって、結婚までして……! もう、私はガマンしません……だって、力を手に入れたから……! エミリー: 気にしちゃだめだよ、シンデレラ。あれはディマイトに汚染されてるからだよぅ シンデレラ: 分かってる。分かってるけど……こたえるわね クレア: ドロシー、なんか操縦席の画面、赤いの点滅してるよ ドロシー: くっ……機体のほうが持たないみたいね……! ピュルテ: みんな、みんな、消し飛ばしてあげます……! 暗黒の……カデンツァ!! カロラ: どぅああああああ!? リル: こんな広範囲に攻撃だとっ……! くっ、うああああっ!? ヴェルメリオ: ……くっ、はぁっ、みんな大丈夫? 人間さん……。あっ、人間さん!! ピュルテ: うふふふふ、人間さん♪ つーかまえた カロラ: おい、人間さんのやつ、ピュルテに馬乗りで抑え込まれてるぞ! やばいんじゃねーか!? ドロシー: 人間さんのエルマイトでも、かなわないっていうの……? ピュルテ: 離さないって言いましたよね。ずーっと、一緒です……♪ んっ、ん……ちゅ……っ、んちゅ…… ヴェルメリオ: ……あんな、無理やりキスするなんて、本当に、ピュルテじゃないみたい…… ジャコヴァ: 人間さん! 貴様その程度か!? もっと、思い描くんだ リル: ……思い描く……? 289 - 託された希望 シャルロッテ: サボってないで、もっとしっかり手を動かすのですわ フェルディナ: やってるわよ! こんなの慣れてないんだから仕方ないでしょ フアナ: ん……? ちょっと、ふたりとも何してるの フェルディナ: 見ればわかるでしょう フアナ: 縛られてて、後ろはよく見えないんだよ シャルロッテ: 拾った金属のカケラと、ガラスのカケラを使って、フアナの拘束を解いてるところですわ フェルディナ: 全員、後ろ手に縛られてるもんだから、やりにくくて仕方ないけど……ふたりがかりなら、なんとかなるはずよ シャルロッテ: フェル姉さまがサボらなければ、ですわ フェルディナ: だから一生懸命やってるって言ってんじゃないのよ! フアナ: え……っ、な、なんで、そんなこと……。……っ、はぁっ、うっ シャルロッテ: まだフアナが本調子でないのは承知していますわ。それでも、完全に力を失った私たちより、戦力になると思います フェルディナ: 船の外、明らかにヤバい気配がビンビン伝わってくるの、わかるでしょう? そのヴェルザームを持って、みんなを助けてあげて フェルディナ: フアナがヴェルザームを持ってることに、あのクソ女が気づかなかったのはラッキーだったわ。まだ、逆転の目はあるはず シャルロッテ: 本当なら私が人間さんをお救いしたい……。でも、そんなエゴで大切な人を失うわけにはいきません。だから、フアナ フアナ: ……わかった。必ず人間さんくんを守り抜く。その結果、あたしのカッコ良さに人間さんくんが惚れる可能性はあるけど、そこは恨みっこなしだよ シャルロッテ: ふふっ……そう簡単ではありませんわよ フェルディナ: な、なによっ、シャルもサボってんじゃないわよ! 手、動かしなさい! シャルロッテ: わかってますわ! あと、少しなんですから……! ジャコヴァ: 言動から察するに、その女は貴様に惚れてるんだろ ヴィルヘルミナ: なんですって……!? エミリー: 嘘でしょぉ!? カロラ: まさか、そんな ティンカー・ベル: え? いや、わりとわかりやすいほうでしょ、ピュルテは。それにいまはディマイトのせいか、言動もストレートだし カロラ: ジャー姉ちゃんが、他人の言動から察した……? しかも色恋の話で…… ティンカー・ベル: そこかい! ジャコヴァ: 人間さん、その女が何故そこまで思い詰めるか、考えたことはあるか。それは、おまえを愛しているからだろ ジャコヴァ: 自分のせいで追い詰めたのか、などと考えるなよ。こんなに狂おしいほど、おまえを愛している、そのことを喜べ シンデレラ: そ、そうね……。人間さんが戸惑うのも無理ないわ。いきなり言われても困るでしょ リル: だが、それを思い描くことがこの場の打開策だというのか? エルマイトとは……そしてディマイトとは何なんだ リル: 人間界から流れ込むエネルギー、それはわかっている。だがかつては格差も生んだ。いまも恣意的に操作できるという…… ジャコヴァ: ふん、そんなことも知らないのか ヴィルヘルミナ: そんな知識レベルで、よくここまで戦ってきたわね。ある意味、尊敬するわ ヴェルメリオ: ……なんなの? エルマイトって ジャコヴァ: 一言で表すなら…… ジャコヴァ: ――知名度だ ティンカー・ベル: え、は……? 知名度……? ヴィルヘルミナ: 創造期の頃、人間界でいかに存在が浸透しているか、それがエルマイト獲得量の決め手となっていたの ヴィルヘルミナ: このオトギノクニを形成するのは人間界から得られる2つのエネルギー。いずれも人間の想像力に支えられている ヴィルヘルミナ: 知りもしない存在に、想像を巡らせることはない――人間さん、あなたならわかるわね エミリー: それがグリム家の繁栄の礎にもなった……そういうことだよねぇ ヴィルヘルミナ: そのとおりよ、エミリー! さすが、賢い子ね ジャコヴァ: この場で人間さんだけはわかるはずだ。サミットで発言権の強い超大国、すなわちエルマイトを大量に保有する国家 ヴィルヘルミナ: マルガレータのりんごの国、ヴィルデ・ローゼのいばらの国……そして、そこにいるシンデレラの魔法の国 ヴィルヘルミナ: 一方で、ナードやオール、ベクたちが治める国は総じて小規模で、決して裕福とは言えない……そういうことよ ヴェルメリオ: ……ほんとに、人間さんはわかってる顔してる ジャコヴァ: だから、思いを馳せろ。目の前の女が、いかに自分を愛したかについて ピュルテ: あっ……人間さん、さん……っ!? そんな、急に抱きしめたりなんて……! リル: ピュルテのディマイト化が和らいだ!? エミリー: 人間さんの気持ち……エルマイトが、ピュルテに流れ込んでるんだねぇ ドロシー: 動きが鈍ったわ。今がチャンスよ、クレア クレア: がってん ドロシー: それに……ピュルテやデカブツもそうだけど、人間さんのエルマイトの波動、感じるでしょう? クレア: うん。あったかくなる。ここまで届いてる ドロシー: 流れは来てる。でもチャンスは多くないわ。次で決めるわよ クレア: どうするの? ドロシー: 体当たりよ。このディ・マキナの機体をぶつけて、あのデカブツの動きを封じる。ついでにピュルテもどうにかしたいわね クレア: ピュルテも? どうやって ドロシー: デカブツの足元を狙って体当たりする。そのとき、ピュルテを間に挟むのよ クレア: つぶれちゃわない? ドロシー: ケガしない程度に挟むのよ クレア: 難しそう ドロシー: そうね。それにとても危険……。だからねクレア、無理しなくていいわ クレア: 無理ってなに? ドロシー: この作戦、私ひとりでもできる。危険を冒してクレアまで参加しなくても クレア: やだよ。私はドロシーといっしょ ドロシー: クレア…… クレア: それに、ここまで来て逃げるとか、それってすごく…… クレア: かっこ悪いと思う。だから私は、しない ドロシー: ふふ……そうよね。クレアは、そういう子よね。なら、最後までつきあってもらうわよ ピュルテ: 放して、ください……っ、こんなのまやかしなんだって、わかってるんですから! ピュルテ: え……感謝、してる……って、私にですか……。私が人間さんのこと、好きでいること……嬉しいって、言ってくれるんですか……? リル: あの言葉に嘘はないんだろう。それはわかる。だが、だからといってピュルテを選べるわけでもない…… リル: この場を切り抜けるためとはいえ、残酷な言葉だな シンデレラ: そんなの、人間さんも痛いほどわかってるでしょうね。だって、あの顔 ヴェルメリオ: ……今にも泣き出しそう ドロシー: 人間さん! 今よ、どいて!! 290 - せめぎあい ドロシー: だあああああああっ!! ピュルテ: んぅあああああぁぁぁぁっ!? クレア: やった ヴィルヘルミナ: ディ・マキナとルンペルの間に仲間を挟み込んだ!? カロラ: なかなか思い切った作戦だな。あたしは嫌いじゃないけど シンデレラ: 相変わらず無茶するわね、ドロシーってば! ピュルテちゃんは無事なの!? ドロシー: 当たり前でしょ! 私がそんな失敗すると思った? ティンカー・ベル: 心配するでしょ、そりゃ ピュルテ: 人間さん……っ、やっぱり、騙したんですね……! 私を、くっ、罠にかける、ために……っ! ピュルテ: 言い訳なんて聞きたくありません! 私は、私は……っ!! カロラ: 動きは封じた。あとはエルマイトで力押しするしかないか ジャコヴァ: あの男は、例外だからな シンデレラ: 例外? ヴィルヘルミナ: 知名度に左右された創造期を経て、グランド・リヴィジョンの後は天空神殿が一手にエルマイトとディマイトを管理するようになったわ ヴィルヘルミナ: 全員が一律にエルマイトを受け取る。どう、気持ち悪いでしょう ジャコヴァ: 平等とは、不公平だ シンデレラ: 天空神殿の管理……ええ、そうよね。そうなのよね…… ヴェルメリオ: ……でも人間さんは、一律じゃないってことだね ヴィルヘルミナ: 受け取る側ではなく、自ら生産するわけだから当然ね ピュルテ: はぁっ、くっ、こんなもの……私の力で、くっ、ああああっ! ドロシー: 嘘でしょ!? ディ・マキナの機体をディマイトのエネルギーだけでどかそうとしてるの!? クレア: こういうの、脳筋っていうんだよね。私、知ってるよ ジャコヴァ: ふうん……あれだけのエルマイトを浴びながら、正気に戻らないのか ヴィルヘルミナ: 持久戦になりそうね。でも、さっきまでよりずっと勝機は見えてきたわ フアナ: ……ぁっ、はぁっ、みんな、無事……!? エミリー: フアナ!? どうしたの、大丈夫!? フアナ: これを……届けに、来たんだ…… エミリー: これは……ヴェルザーム!? これ、どうしたのぉ!? ペロー: おやおや、新たな展開ですねぇ? ということは、フェルディナとシャルロッテもいずれ、合流するということでしょうか…… ペロー: ふふっ、これはもしかすると形勢逆転、という状況かもしれません。追い詰められてしまいましたねぇ カロラ: ちっ……余裕ぶりやがって…… ペロー: そろそろ本気で働いてもらわないと困りますねぇ。ほら、スイッチを入れて ピュルテ: んんぐううううっ!? リル: ピュルテ! くそっ、ピュルテに何をしているんだ! フアナ: このヴェルザーム……使うときには注意して。ペローがディマイトを増幅するのに使ってたから ティンカー・ベル: ディマイトを!? え、でも、ディマイト打ち消すのが、そのキラキラストーンなんじゃなかったの? ジャコヴァ: ……なるほどな。貴様ら、ヴェルザームのこともよく知らなかったのか エミリー: ジャコヴァは知ってるの!? ヴィルヘルミナ: もちろんよ。だってこの石こそが、グランド・リヴィジョンという秘術を考案するヒントになったんだもの エミリー: グランド・リヴィジョン……! ヴィルヘルミナ: 正直、その構造のすべては私たちも解き明かしきれていない。稀代の術士、天才の名を欲しいままにしたライブラの研究あってこそ カロラ: アイソーポスだって、ライブラのやつのトレースをしてたにすぎないからな シンデレラ: なんですって……。それじゃあ、7つ揃えればディマイトを打ち消せるなんて、嘘だっていうの!? ピュルテ: ああ……はぁっ、皆さん……離れて下さい……っ! リル: くっ、ピュルテから発せられるディマイトの波動が、また強くなってるぞ! ドロシー: クレア! この機体はもうもたないわ。脱出するわよ! クレア: わかった! ドロシー: っっくううううぅぅぅっ!? あ、危なかったわ。ディ・マキナの機体が木っ端微塵……。あのまま乗ってたら、さすがに無傷じゃ済まなかったわね クレア: あれ壊したの、ピュルテの力ってこと? ドロシー: どれだけのディマイトが流れ込んでいるのか、考えたくないわね ピュルテ: はぁ――……っ、はぁ――……っ、誰にも……私の邪魔は、させませんから……っ リル: せっかくフアナが持ってきてくれたんだ。今こそヴェルザームとかいう石の使いどころなんじゃないのか ヴェルメリオ: ……ううん、ダメなの。フアナが持ってきてくれたのを入れても、6個。7個揃わなきゃダメだって ヴィルヘルミナ: それ、誰が言ってたの。7つ揃えなきゃダメって ヴェルメリオ: ……えっ? それは…… ドロシー: ちょっと、あれ見て! 空が光ってる! クレア: この感じ、知ってる。お肉のときのやつ デュプリ・ライブラ: …… ヴィルヘルミナ: この存在感……まさか、あのライブラが!? いえ、ライブラはGRⅠで地中深くに『宙の釘』で繋ぎ止められているはず…… ドロシー: くっ!? 頭の中に……デュプリ・ライブラの声が…… デュプリ・ライブラ: …… シンデレラ: よくぞ6つ揃えた。残る1つは神殿で探し出しておいた。存分に役立ててくれ―― ヴェルメリオ: ……それが、神官長からの伝言……? ドロシー: なんで普通にしゃべんないのよ! でも、やったわ! これで一気に形勢逆転! ティンカー・ベル: 天空神殿も、普段は人使いが荒いけど、やるときはやるじゃーん! ジャコヴァ: なるほど……。レグルスはもう、狂っているのかもな…… クレア: これでピュルテを止められる? エミリー: そうだよぅ! でも、どうやって使えばいいのかな ヴェルメリオ: ……あっ、7つを近づけたら勝手に光り始めたよ リル: ……ああ。誰よりも、貴君がピュルテを止めたいのだな。分かっている。小生も、同じ思いだ。これ以上、ピュルテの思いを踏みにじらせてなるものか シンデレラ: ……あまりにも、できすぎてる ティンカー・ベル: 姐さん!? どしたの!? シンデレラ: あ、いえ……なんでもないわ フアナ: えっ? 人間さんくん!? なに言ってるの、ヴェルザームは使わないって!? ティンカー・ベル: なに言ってんの!? ここで形勢逆転の必殺技なんだよ!? フアナ: あたしたちにエルマイトを、全て出し尽くして渡す? それで戦ってくれっていうの? シンデレラ: ……いいわ。私は人間さんに協力する ティンカー・ベル: 姐さんまで!? シンデレラ: 7つ揃えればディマイトを封じられるの? 本当に? それ信用できる情報だった? シンデレラ: 今さらだとは思う。でも人間さんが警戒するのもわかるのよ ドロシー: じゃあ、私も賛成するわよ。だって、しょうがないじゃない! エミリー: エミリーも、それでいいよ。やれるところまで、やっちゃお。それでいいんだよね、姐さん ヴェルメリオ: ……人間さんが言うなら クレア: 私も。がんばって戦うよ ティンカー・ベル: ううっ……わかったよ、もうしょうがないなぁ! リル: いい目だ。少しは男らしくなったようだな。では……いくぞ! 291 - 解放されて ピュルテ: あ……私、なにを……? ヴェルメリオ: ……よかった、気がついた ピュルテ: はっ!? 人間さんの膝枕で私……!? すみません、重いですよね、すぐどきます! ピュルテ: え……い、いいんですか? あっ、んんっ……ちゅっ、ん、はぁ……っ、ど、どうして……人間さん、キスなんて……んっ、んむっ、ちゅっ…… クレア: ラブラブだね ティンカー・ベル: まー、ディマイトに操られかけてた仲間が元に戻ったんだからー? 安心したって、そういうことなんでしょー? ドロシー: そうそう。そういう気持ちの表れで、別に深い意味なんてないのよ エミリー: ふたりとも、動揺が隠しきれてないよぉ? リル: ペローは!? カロラ: 見てのとおり、姿を消しちまったよ。あのやろ、ほんっと腹立つな ピュルテ: 私……どうしても、この状況をなんとかしたくて、それで……。ごめんなさい、何も学んでないですよね……。いつも足を引っ張って…… シンデレラ: いいの。ピュルテちゃんが責められることじゃないわ。あの状況で、何が正しかったかなんて、結果論でしかないんだから ドロシー: そうよ。私だってディ・マキナでだいぶ暴れまわったけど、誰かを傷つけたり、裏目に出たりしていた可能性は充分あるんだから クレア: なんとかしようと一生懸命だったんだよ。ピュルテと同じ ティンカー・ベル: それで、このでっかいのはもう動かないのかな ヴェルメリオ: ……すごくボロボロになったし、もう大丈夫なんじゃないかな フアナ: ヴェルの言うとおりだね。おそらくまだディマイトの供給自体は途切れてないけど、この機体自体が損傷して動かなくなってる フアナ: これは……ルンペル? コミッティ直轄領の防衛構想で見た記憶がある。ここまで実現してたなんて シンデレラ: それで……詳しい状況を聞かせてもらえるかしら。ジャコヴァ議長 ジャコヴァ: ……いいだろう。ただ、1点訂正しておく。私は議長ではない ジャコヴァ: コミッティは本日を以って解散した シャルロッテ: フェル姉さま、しっかりなさって。あと少しで直轄領内ですわ フェルディナ: ……この道。ふふっ、皮肉ね シャルロッテ: この道がどうかしましたの フェルディナ: 直轄領内の道路は通常『ルート1』のように番号で管理されているけど、主要な街道には歴代のコミッティメンバーの名前が付けられる シャルロッテ: あ……ここ、ルート12……フェルディナ街道…… フェルディナ: 皮肉ね。一度は出たあの町を、『私の道』を歩いて戻る……。踏み外した道に、ようやく戻って来られた、っていうことかしらね シャルロッテ: フェル姉さま……。私、ジャコヴァ姉さまに申し上げようと思いますの。フェル姉さまは、不器用で、小心者で、姑息で、頼りなくて フェルディナ: そんなこと。シャルが言わなくてもわかってるでしょ シャルロッテ: でも、一生懸命なんだって。精一杯、あがいてる人なんだって……お伝えしますわ フェルディナ: ……シャル シャルロッテ: 家を出てからこっち、フェル姉さまとこんなに関わるなんて思っていませんでしたけど……そばで見ていて、思い知らされましたから シャルロッテ: なんでこんな人が自分の姉なんだろう、イライラするし、恥ずかしいし、嫌になるって思ってました シャルロッテ: その気持ちは今でも変わりませんけど―― フェルディナ: いや、変わんなさいよ。そういう流れだったでしょ、いま シャルロッテ: けど、ちょっとだけ、好きになりましたわ フェルディナ: ――っ!? フェルディナ: そ、そう? そうよね。わかってたわよ。隠しきれない、私の、そうね、なんていうの、姉力? みたいな シャルロッテ: ぐだぐだ言ってないで急ぎますわよ。人間さんが心配ですから フェルディナ: ……私のこと、好きなのよね? シャルロッテ: ちょっとですわ シャルロッテ: !? あれは…… フェルディナ: ペローの飛空艇が離陸していく……。どうやら戦いは終わったみたいね フェルディナ: 戦いに勝ったのか、それとも…… (背景切換...) ペロー: いやぁ、なかなか面白い見世物でしたねぇ。本当はグリムを全員、亡き者にするのが理想でしたが……まあ、ヴェルザームで解決する流れがある以上、やむを得ないでしょう ペロー: 私の個人的な目的はさておき、お約束した展開は確保できました。私の読みどおり、コミッティは解散。Op7の連中も散り散り ペロー: おそらくグリムは動きますよ。そのときがチャンスというわけですね ペロー: 他にも策は用意していますよ。どうぞ今後とも、ご贔屓に…… シンデレラ: なるほどね。首都機能を防衛するための兵器が、乗っ取られてしまったわけ。そしてその実行犯は、フアナの証言も併せて考えると ヴィルヘルミナ: ペローで間違いないでしょうね。ただし共犯がいるかどうかはわからないわ フアナ: 確かにそうだね。ペローの単独犯なら、説明がつかない。ディマイト自体は各地から、あの装置でかき集めていたとしても、ピュルテを操ったりできる余裕はないはずなんだ フアナ: 解散の瞬間も、飛空艇はぴくりとも揺れなかった ティンカー・ベル: あんな嫌なヤツにも、仲間がいるってこと!? ドロシー: しかも、話を聞く限りじゃ、そいつがペローにディマイトを渡してるってことよね ヴェルメリオ: ……ディマイトじゃなくて、エルマイトかもしれないけど ドロシー: えー? まあ、そうね。もう悪者だからディマイト、なんて決めつけられないか ヴェルメリオ: ……さっき飛空艇が飛んでいくの見えた。逃げられちゃったね フアナ: いまは対決する余裕もないよ。フェルディナとシャルも、飛空艇からは逃げ出せたのは確認したし クレア: じゃあそのうち合流するかな リル: それより小生は、改めて落ち着いたところで、貴君に確かめたいのだが……ヴェルザーム、なぜ使わなかったんだ ヴェルメリオ: ……暴発が、怖かったんでしょ? わかるよ、わたしも考えた ジャコヴァ: 暴発? カロラ: 前に暴発したから、大事な場面でリハーサルなしでぶっこむのが怖かったと……まあ、結果オーライかもな ヴィルヘルミナ: 呆れた。もっと戦略的な理由だと思ったのに。実際、あの場で『正しい3つ』を選び出す余裕はなかったし…… 秘書官: 見つけた……! やっと、見つけた…… ティンカー・ベル: うわ、まだ避難してなかった人がいたよ! あっぶな リル: ……!? いや待て、様子がおかしい 秘書官: この日のために……俺は泥をすすって生きてきたんだ…… カロラ: おまえ、シャルの……って、銃!? おいバカ、何やってんだ! 秘書官: お嬢の……仇っ! 死ね、人間さん!! シャルロッテ: 人間さん!! 伏せて――っ!! シャルロッテ: 人間さん……さん……。よかっ……た……無事、で…… (のしかかる、無力感。) 292 - はじまりのひ ピュルテ: 昔々、あるところに、小さな小さな国がありました (背景切換...) ピュルテ: 小さな国の小さな王様は、ある晩、夢を見ます。それは神様からのお告げでした ピュルテ: 『世界に災厄が迫っている。おまえの国で最も強く、最も優しく、そして最も純粋な者を我が元へ』――翌朝から王様は、国中から候補者を集めました ピュルテ: そしてひとりの少女が代表に選ばれたのです (背景切換...) ピュルテ: みんなは盛大に、彼女の門出を祝いました。それはもう、こんな騒ぎは見たことがない、というほどに ピュルテ: だって、こんなに小さな国が、こんなに注目されることなんて、なかったのですから (背景切換...) ピュルテ: その後、少女もそれを痛感します。だって、誰も彼女の故郷のことを知らなかったのです。それほど小さな国でした ピュルテ: 期待を一身に背負った彼女は、険しい旅路を進み、そして (背景切換...) ピュルテ: ふと、思ったのです。私は、もしかして―― (背景切換...) フアナ: あああぁ~~、肩が痛い! 背中が痛い、首が痛い! クレア: フアナがうるさい フアナ: クレア、知ってる? 人っていうのは座りっぱなしだと死ぬんだよ クレア: それは誰に頼まれたの フアナ: いや、自分でやろうと思って…… クレア: じゃあ文句言われてもね フアナ: そんなぁ、正論で終わらせないでよ~! フアナ: ここのところ色々ありすぎたからね、たまにはこうして自叙伝を更新しようと思ったんだよ。それに…… クレア: それに? フアナ: 自叙伝だけじゃなくて、新しい物語も書いてみたいって思ってる。だってあたし、作家だし クレア: ん、いいんじゃない ティンカー・ベル: あー、いたいた、ふたりとも! そろそろ出発らしいから、見送りに行こうよ シャルロッテ: …… ドロシー: 人間さん、またここにいたの ドロシー: ……あなたね、気持ちは分かるけど、そんなふうに四六時中ついてたってシャルロッテが目を覚ますわけじゃないのよ ヴェルメリオ: ……人間さん。倒れちゃうよ。グリムのお屋敷に運んできてから、もう何日も経つけど……ずっとつきっきりでしょ ピュルテ: 人間さん…… リル: つきっきりだからすぐ回復するわけじゃないんだぞ。根を詰め過ぎだ ドロシー: 私もそう言ったんだけどね シンデレラ: そう言われても、気持ちは割り切れないんでしょ。何かしなくちゃって、焦りだけが先行しちゃうのよ エミリー: 自分を庇って撃たれたんだもんねぇ…… ヴィルヘルミナ: 理論上、あながち的外れでもないけどね エミリー: ヴィル…… ヴィルヘルミナ: あなたのその膨大なエルマイトを、そばで手を取って少しずつ継続的に流すだけでも、効果がないとはいえないでしょうからね ヴィルヘルミナ: ただ、根本的な解決とは言えないわ ピュルテ: あの銃撃に使われた弾丸……特殊なものだそうですね ヴィルヘルミナ: ええ、複雑な術式が組み込まれてる。これを解き明かすのは至難の業よ。そんなことができるのは、よほど詳しい人か、もしくは シンデレラ: 術者本人、ってことね ヴェルメリオ: ……呪いみたいなもの、ってことだよね リル: 術の位置づけとしては、そうなるだろうな。命が助かっても、意識を失い眠り続ける…… シンデレラ: ええ。人間さんの言うとおり、眠り続けるという効果はオトギノクニでは比較的ポピュラーな効果ね ヴェルメリオ: ……ヴィルデ・ローゼも、マルガレータも、そういう経験したことあるって、聞いたことある ヴィルヘルミナ: そこで個性を出すと足がつくとでも考えたのかしらね エミリー: シャルの秘書官は、銃も弾丸もペローに渡されたって言ってるんでしょ? ヴィルヘルミナ: ええ、でもペローにあんな術式は組めないわ。誰か協力者がいるのよ ジャコヴァ: なんだ、おまえたち。ここにいたのか エミリー: あ、もう出発の時間? ジャコヴァ: さっさと行くぞ。見送りが少ないと、あいつらうるさいからな エミリー: 行っちゃったねぇ。カロラとフェルディナ、うまくやってくれるといいんだけど ドロシー: ペローの後を追いかけるって、口では簡単に言えるけど大変な旅よね (背景切換...) エミリー: いつになくフェルディナがやる気だったからねぇ。シャルとはあんまり仲良くなかったはずだけど、でもまあ、妹だもんねぇ ドロシー: そもそもフェルディナはエミリーとしか仲良くなかったんじゃないの? エミリー: まあ……それはねぇ ドロシー: 人間さん、いつまでも落ち込んでいても仕方ないわ。前向きに、いい方法を考えましょうよ ドロシー: え、落ち込んでるわけじゃなくて、疲れてるだけ? エミリー: あ、そっか。カロラとフェルディナにエルマイトを分けてあげたんだっけ ドロシー: そんなことしかできない、なんて言うもんじゃないわよ。あなたしかできない、大きな役割なんだから エミリー: 特にピュルテの前では言っちゃダメだよぅ。あの子、未だに無力感っていうか、自分が何もできないって思ってるから ドロシー: 今回もまた、利用されちゃったし。ああ、体調はだいぶ戻ってきたみたいよ。しっかり歩けるようにもなってきたみたい ドロシー: それにしても、ペローってやつ……いろんな人のいろんな気持ち、利用するだけしといて、さっさと逃げるとか……1発殴らないと気が済まないわ! エミリー: シャルの秘書官もね、やっぱり利用されてたんだよね。シャルが死んだと思ってた秘書官に、復讐だってそそのかして…… エミリー: エミリーも、ペローだけはほんっとキライ ドロシー: そう言えばあの人、大丈夫なの? エミリー: まだ尋問は続けてるみたいだけど、新しい情報はもう出ないんじゃないかなぁ。言葉は悪いけど、捨て駒にされてるだろうし ドロシー: そうじゃなくて、ほら……結果的には、かたきを討つはずだったのに自分でシャルを撃っちゃったでしょ エミリー: あぁ、うん。監視はつけてるみたい。目を離すと自殺しちゃうかもしれないからねぇ ドロシー: ひどいわね。ペローに全部、狂わされちゃったのね…… 293 - リハビリ ピュルテ: んしょ、んっ、ふぅ……どうですか、人間さん、ヴェルちゃん。だいぶ歩けるようになりましたよ ヴェルメリオ: ……よかった。一時はどうなるかと思ったよ ピュルテ: 人間さんや皆さんが応援してくれたおかげです ヴェルメリオ: ……それに、このお屋敷はすごいもんね。どこ見ても立派な設備だから ピュルテ: そうですよね。広いし、立派だし、エミリーさんもこの家の人なんですよね。完全にお嬢様です ピュルテ: そんな最新設備と技術でも、シャルロッテさんはまだ…… ヴェルメリオ: ……人間さんだけじゃなくて、ピュルテまで暗い顔しちゃだめだよ ピュルテ: ごめんなさい。でも……やっぱり、私がディマイト堕ちなんてしていなければ、あんなことにはならなかったかもって思えて ヴェルメリオ: ……関係ないでしょ。気に病み過ぎだよ ヴェルメリオ: ……あれはたぶん、最初から狙ってたんだと思う。保険っていうか ピュルテ: 保険、ですか ヴェルメリオ: ……あの変な大きいのを動かしたり、ピュルテを操ったり……それでもわたしたちがやられなかったときのために、って ピュルテ: そうかもしれませんね ヴェルメリオ: ……わかんないけどね。わたし、みんなみたいに難しいこと考えられないし ピュルテ: いえ、きっとそうなんですよ。でも、シャルロッテさんが撃たれたのは本当に偶然というか、たぶんペローも狙ってない結果ですよね ヴェルメリオ: ……そうだね。あれを予想するのは無理。っていうことは ピュルテ: 人間さんを、あの昏睡状態にしようとしてた、ってことですよね ヴェルメリオ: ……姐さんでもなく、ドロシーでもなく、人間さんが狙い。それってやっぱりエルマイトが関係するんだよね ジャコヴァ: 正解だな ヴェルメリオ: ……ジャコヴァ ジャコヴァ: 夕食を用意した。そこで今後のことを話す ヴェルメリオ: ……ごちそうさまでした ティンカー・ベル: いやあ、ずきんのごはんで舌は肥えてるつもりだったけど、ここのごはんは本当に美味しいよね ヴェルメリオ: ……食材のレベルが違う。でも調理もプロだよね。勉強になる エミリー: シェフは逃げないで残ってくれてたの? ヴィルヘルミナ: 騒動のあったコミッティ本部からすると、このグリム邸は少し距離があるから、それほど危険は感じてなかったそうよ ヴィルヘルミナ: ふふっ、シェフの心配までするなんて、エミリーは本当に優しい子ね エミリー: いやもう、そういうのいいから フアナ: 歩いて15分くらいあるもんね クレア: ねえ、作戦会議、まだしてないよね ジャコヴァ: 食事のときは、食事に集中するのがマナーだろ。まあいい、私からの提案を説明しろ ヴィルヘルミナ: シャルの意識が戻らない理由は、弾丸に込められた術式にあるとみて間違いないわ。これを解明できるだけの実力ある術者に、心当たりがあるの ドロシー: やったじゃない! その人ならシャルロッテを回復できるってわけね リル: だが、事態はそう簡単じゃない、ということだな? ヴィルヘルミナ: その人に会いに行くにあたって、強大なエルマイトを持つあなたの存在は不可欠になるはず。それに、過酷な旅にもなるわ ジャコヴァ: お前に、その覚悟はあるか? ピュルテ: 人間さん、即答ですね! ティンカー・ベル: まあ、それだけシャルロッテのことは負い目に感じてるってことだよね ヴィルヘルミナ: 姉さんは試すような言い方をしてしまうけど、これは私たちからのお願いでもあるの。なんせ、妹の命がかかってることだから シンデレラ: その人は、どこにいるの? ヴィルヘルミナ: アンダーフォールの先、悪魔の森と呼ばれる場所よ。この世界の裏側とも呼ぶべき、ディマイトに満ちた危険な世界…… ジャコヴァ: そういうことだ ドロシー: 裏側の、世界……!? なんなのよ、それ。どこにあるの ジャコヴァ: 地下だ。すごく深い場所 クレア: え……地下って、地面の下? 誰かが私の足の下に住んでるの? フアナ: アイソーポスさんから聞いたことがあるよ。このオトギノクニの奥深くに、もう1つ世界があるって シンデレラ: 待って。そんな場所に、私と人間さんが揃って行くの? いいえ、さすがにそれは受け入れられないわ ティンカー・ベル: え、ちょっと、姐さん!? リル: ティンカ殿はともかく、貴君まで熱くなってどうする。忘れたのか、貴君はシンデレラ殿の王配だぞ エミリー: 自分のお姉ちゃんに言うことじゃないけど、もしこれが罠だったら危険すぎるよねぇ ジャコヴァ: そう言うと思った。ヴィル、ペンを ピュルテ: ペン? あっ、それは エミリー: コミッティの、ペン……? ジャコヴァ: このペンで書いたことは絶対だ。嘘は許されない クレア: エミリー、あれでたまにお絵かきしてるよね エミリー: クレア、しーっ ジャコヴァ: シンデレラ。和平協定を結ぼう。私はこれにサインする ヴィルヘルミナ: もともと戦争状態にあるわけじゃないけど ドロシー: 確かにグリム家が公式に協力関係になれば、安心かもしれないわね フアナ: 罠じゃないからといってリスクがゼロになるわけじゃないけど、マザー・ティタ―ニアに任せられる状況になるかも シンデレラ: ……条件を1つだけ出させて ジャコヴァ: いいだろう。この協定の存在は、この場だけの秘密だ シンデレラ: え……なんで、私が言おうとしたことを…… ジャコヴァ: 誰を相手にしてると思ってる。年季が違う ティンカー・ベル: ネンキ? シンデレラ: とにかく、その条件も飲んでくれるのなら、私もその悪魔の森だとかいう場所に行くのに、反対はしないわ ヴィルヘルミナ: 協定の詳しい内容は、私と別室で取り決めましょう。あなたの母国へ引き継ぐこともあるでしょうし シンデレラ: そうね。お願いできるかしら ピュルテ: ………… 294 - 深夜の密談 ティンカー・ベル: ほっかほかのポトフのできあがりー! ヴェルメリオ: ……ティンカも結構お料理できるんだね ティンカー・ベル: そりゃあペトラをこの細腕一本で育てたんだから ヴェルメリオ: ……じゃあ普段、もっと手伝ってほしい ティンカー・ベル: ぎくっ! そ、それはほら、ずきんにはかなわないっていうか……ね、人間さん? ヴェルメリオ: ……人間さんは、よく手伝ってくれるよ。皮むきとか ティンカー・ベル: まあまあ。さてと、じゃあ姐さんたちに差し入れしてあげよう! ヴェルメリオ: ……夜遅くまで大変だよね。ドロシーも手伝ってるみたいだけど ティンカー・ベル: あれで三つ編みはデキる子なんだよね。姐さんの手伝いなんか三つ編みしかできないもん ヴェルメリオ: ……あ、あそこの部屋だね。扉の隙間から明かりが漏れてる シンデレラ: どうして夫が死んだのか、あなたは知ってるのよね ヴェルメリオ: ……!? ティンカー・ベル: え、な、なに……? なんの話してるの……? (背景切換...) ヴィルヘルミナ: あの会談のときの態度からして、聞きたくないんだと思ってたわ シンデレラ: ……今でも迷ってる。聞いてしまったら、戻れない気がしているから ヴィルヘルミナ: その時点であなたは結末をある程度、予想しているし……そしておそらく、そう間違ってはいないでしょうね シンデレラ: 怖くて、向き合う勇気が出なかったの。バカね。あの場で聞いていれば交渉になったかもしれないのに ヴィルヘルミナ: 無意味な仮定ね。どのみちルンペルがすべてを台無しにしたわ ドロシー: シンデレラ……また、手が震えてるわ シンデレラ: ピュルテちゃんと出会ってからずっと……私はこの世界を救うために戦ってきた。でもそれは、ピュルテちゃんが……いえ、天空神殿が提示した、世界の状況が前提 ドロシー: ねえ、シンデレラ。まさか……本当に? シンデレラ: 私の元・夫が死んだ事件――原因は、天空神殿にあるのね? ヴィルヘルミナ: グランド・リヴィジョン――『十二神官』筆頭にしてオトギノクニきっての術者、ライブラが開発した世界の理を変える秘術 ヴィルヘルミナ: これによって、原初の創造期より人間界から流れ込んでいたエルマイト、あるいはディマイトの供給を断ち切り、時間の流れを封じ、人々のあり方も変わった ヴィルヘルミナ: 何もかもが再構築されたの ドロシー: エルマイトは、エルマイトであることに変わりはないんでしょ? 何が変わったっていうの ヴィルヘルミナ: 分配方法よ。あの戦いの場でも姉さんが少し言ってたけど、人間界で発生したエルマイトは誰かに紐づくものがほとんどなの シンデレラ: 人間さんが言ってた。オトギノクニのみんなのことは、伝承として人間界に伝わってるって。それと関係があるのね ヴィルヘルミナ: 伝承が廃れてしまえば、エルマイトは得られない。そうなれば、遠からず消滅する……それが本来の私たちの運命よ ドロシー: 知らないものに思いを馳せることはない……そういうことね ヴィルヘルミナ: ただし私たち『作家』はエルマイトを分配する能力を持っている。それを利用して、消えかけた作品たちを傘下におさめていったのが私たちグリムよ ヴィルヘルミナ: 紳士的な手法だったとは思わない。でも、傘下にいる子たちは口を揃えて言うはずよ。『あのまま消えてしまうよりは良かった』――ってね シンデレラ: ……それで、トラジェディ砦に、どうつながるの…… ヴィルヘルミナ: グランド・リヴィジョンは完璧ではなかったの。例外的に手がかりが残されてしまった。それが『時の残滓』―― ドロシー: 時間の概念、ってやつね シンデレラ: 三大悲劇とかっていう、あれね。ワンダーランド、スカルロック、そして…… ヴィルヘルミナ: 『十二神官』のうち、残されたレグルスにとって封印を守ることが至上命題だった。彼女にとって、3人は邪魔になってしまったの。『時の残滓』に興味を持ってしまったから シンデレラ: 時に、興味……? ヴィルヘルミナ: 太陽がある限り朝、昼、夜の概念は残る。したがって1日という単位もあるし、だから明日や昨日という概念もあるわ ヴィルヘルミナ: でも、7日間が1週間で、30日が1ヶ月、365日が1年……それは『時』が明確に存在しないと、ありえない概念でしょう? ドロシー: 感覚的にはわかるんだけど、そうね……なんとなく頭にモヤがかかったような気分だわ シンデレラ: 365日、ですって……? あの人、言ったのよ…… シンデレラ: 毎日が、君との記念日だから……毎日、その日の日付でラベルを作ってボトリングするんだって……。そして翌年にはふたりで開けて、別のラベルで、記念日を作って、またボトルを作ろう…… シンデレラ: 365日で1年が巡る、この国ならではの文化だから、って。君と、いつまでも、毎日……いろんな発見が、したい、から……って……っ ヴィルヘルミナ: それが、彼の命を奪う原因だったのね ドロシー: シンデレラ……私、なんて言っていいか シンデレラ: ……じゃあ、私はずっと、夫の仇に指示されて動いてきた、っていうの……? ヴィルヘルミナ: でも、理にかなってはいるわ。いまある、この世界を肯定して守ろうと思うのなら、レグルスに味方してGR2を防ぐべきよ ヴィルヘルミナ: 特にアイソーポスは、強くGR2を推進してるわ。あの人にとって、それが悲願みたいだから ドロシー: ……グリムは違うの? ヴィルヘルミナ: 正直、何が起きるのか不確定要素が多すぎる。私たちはあくまで天空神殿との交渉カードとして、実現可能な状態にしたかっただけ ドロシー: 不確定って、え、あなたたちもよく分かってないってこと!? ヴィルヘルミナ: 準備はしても、発動するつもりは最初から無かったわ。今の支配体制は壊そうとしているけど、世界そのものを壊そうとまでは思ってないのよ シンデレラ: ……よく分かったわ。聞けて良かった ドロシー: シンデレラ……。もう遅いし、続きは明日にしましょう? (背景切換...) ティンカー・ベル: ……ずきん、人間さん。行こう。差し入れどころじゃなくなっちゃったよ ヴェルメリオ: ……うん、そうだね (背景切換...) ティンカー・ベル: ポトフ、冷めちゃったね ヴェルメリオ: ……あっため直して、わたしたちで食べちゃおう ティンカー・ベル: 姐さんはさ、ずっと抱えてたんだよね。ああいう感情 ヴェルメリオ: ……うん。情けないけど、わたし、なんて声かけていいのか、わかんない ティンカー・ベル: 大丈夫だよ。そんなの、ずきんだけじゃないから ティンカー・ベル: それに、ティンカ、ふと思ったんだけど…… ティンカー・ベル: スカルロックのナントカってあったよね。ネバーランドで時計っていえばチクタルだけど、何か犠牲になったとしたら…… ティンカー・ベル: フックにも、何かあったのかな…… 295 - 地下への入口 ジャコヴァ: さあ、それじゃあ出発だぞ フアナ: え、ここってコミッティ本部だよ? こんなところに秘密の入り口があるの? エミリー: あっ、見て。あそこが5号、エミリーの席なんだよぅ フアナ: あたしはあそこだよ! 現役じゃないけど クレア: 秘密の扉、わくわくする ジャコヴァ: こっちだ、ついてこい 自動応答: この扉から左記の区画は管理範囲S2です。権限認証コードもしくは臨時通行許可コードのご提示をお願いします ジャコヴァ: 誰だと思ってる ヴィルヘルミナ: ああ、はいはい。私の認証コードで開けるから 自動応答: 権限コードを確認しました。いってらっしゃい、ヴィルヘルミナ リル: いよいよだな。ピュルテ、足元に気をつけろ。手を ピュルテ: あ、リルちゃん、ありがとう ティンカー・ベル: なんかネコってばイケメンだなぁ。人間さんもそう思うでしょ? え、自分のポジションを奪うな? リル: 貴君はどこで対抗してるんだ (背景切換...) シンデレラ: ここが……アンダーフォール……? ジャコヴァ: その通り ヴィルヘルミナ: 正確にはここからずっと、森までの長い道をアンダーフォールと呼ぶの ジャコヴァ: うんうん ヴェルメリオ: ……ピュルテ、足元に気をつけてね ピュルテ: ありがとうございます。大丈夫です、普通に旅できるくらい回復してるはずですから リル: くれぐれも無理はするなよ。そんなに慌てて進むような旅でもない ピュルテ: なんか……リルちゃんとこうして普通に旅できるの、嬉しいな リル: んなっ、べ、別にたまたま、なんだ、目的というかだな……一致したから一緒にいるのであって ティンカー・ベル: ネコはすぐそうやってツンツンしてごまかすんだから~ ドロシー: ずっとこんな地下道を進むの? 気が滅入りそうね ジャコヴァ: 今からそんなに音を上げてもらっては困る。ここからまだ、数日はかかるぞ フアナ: えっ、そんなに!? エミリー: うわぁ、なんか不思議な洞窟だねぇ。どこかで休憩になったら、スケッチしたいなぁ ヴィルヘルミナ: ふふっ、エミリーはお絵かき大好きだものね。いいわ、ここで一旦休憩にしましょう? エミリー: だ、大丈夫だって。まだ歩き始めたところだし、自然なタイミングで休憩するのでいいから! クレア: 前から思ってたけど、エミリーは大人気だね ドロシー: そうね。ヴィルヘルミナにはこのとおり愛されてるし ピュルテ: 確かフェルディナさんも、エミリーさんだけが姉妹で味方だとか言ってました フアナ: シャルもエミリーのことはリスペクトしてる気がするし エミリー: えへへ、エミリーは可愛いから仕方ないよねぇ クレア: よってたかって甘やかした結果がこれなんだね エミリー: これって! エミリー、別にワガママじゃないでしょぉ!? ジャコヴァ: やれやれ。こんな薄暗い場所だというのに、賑やかな旅になりそうだ シンデレラ: この道は、グリムが作ったの? ジャコヴァ: まさか。元から自然にあったものだ フアナ: じゃあ、天然の出入り口の上にコミッティ本部を作ったってこと? ジャコヴァ: そうだな ヴィルヘルミナ: 正確には、本来の入り口から本部地下へ引き込む工事をしたの。最初、人工的な通路が続いたでしょ。あそこはコミッティ予算で整備したのよ ジャコヴァ: そうそう ティンカー・ベル: 薄々感じてはいたんだけどさ、ジャコヴァって結構テキトーに返事してない? ジャコヴァ: そんなことない! ヴェルメリオ: ……あ、見て。道が今度はぐるぐるになってる。なんて言うんだっけ、こういうの リル: 螺旋状、だな。複雑な道だ クレア: 道の脇も、真っ暗だったりするし ジャコヴァ: 手すりでも作っておけばよかったな。道からそれたら、落ちて死ぬぞ。どこまで落ちるか検討もつかない深さだからな フアナ: えぇっ! そんな危険な道なの!? み、みんな、一列! 一列になって進もうね! シンデレラ: こんな世界があるなんて、いまのいままでまったく知らなかったわ。これが、この先、どんな世界につながってるのかも想像がつかないけど クレア: やっぱり暗いのかな ピュルテ: というか、雰囲気自体がディマイトがたくさんありそうな感じですよね ジャコヴァ: 表があれば、必ず裏がある。お前たちがよく知る世界がある以上、必ずこういう裏の世界もあるんだ リル: ディマイトもエルマイトと同じ、エネルギーには違いない……ということは、これから向かう世界では、ディマイトが主なエネルギーとされているのか? ジャコヴァ: 悪くない推理だ ヴィルヘルミナ: 正確には、どちらもあまり意識されてないみたいね。種類が違うだけで、どっちが正しいとか悪いとか、そういう使われ方はしていないわ ジャコヴァ: 場所柄、ディマイトの方が入手が簡単だけどな リル: 意識されてない、か……。もし、ここでエネルギーの鉱脈が……いや…… クレア: リル? どうしたの リル: ああ、いや。なんでもない ヴィルヘルミナ: さて、今度こそ本当に休憩にしましょうか。まだ先は長いからゆっくり休むといいわ ティンカー・ベル: と言いつつ、わりと開けた場所で、スケッチしやすそうな場所のような…… クレア: 甘やかされてる エミリー: もう! でもせっかくだから、後でちょっとお絵かきしよっと (……………………………。) ピュルテ: ……ふう…… ピュルテ: あ、人間さん。いえ、大丈夫です。本当ですよ、もう元気いっぱいです! ピュルテ: あはは……人間さんにはお見通しですね。隠し事なんて、できないなぁ ピュルテ: いろいろ考えちゃってるんです。この旅のこともそうだし、私がペローに操られて迷惑をかけてしまったことも…… ピュルテ: 人間さんにも、申し訳ない気持ちがいっぱいで…… リル: そんなこと、気にする必要はないんだぞ ピュルテ: リルちゃん…… 296 - 本来の使命 リル: ピュルテは考えすぎだ。もう少し図太くていいんだぞ。特に、この男を相手にするときはな ピュルテ: 図太くだなんて…… リル: ピュルテは気を使いすぎる。それはいい所でもあるが、自分が潰れてしまっては意味がない ピュルテ: う、うん……分かってるつもり リル: 自分の、本来の役割を思い出せ。オトギノクニを救う、それが最大にして本来の目的だろう? この男に好かれることが目的ではないはずだ ピュルテ: 本来の、目的…… リル: そうだ。オトギノクニを救うために、この男を利用してやる、それくらいの意気込みでちょうどいいんだ リル: それこそ、惚れさせて都合のいいように利用してやればいい。もっとも、いまそれを実行しているのは貴君のほうだがな リル: だってそうだろう! 多くの女性の心を惑わせて……しょ、小生は惑わされてなんかいないけどな! ピュルテ: そう、だよね……本来の目的……。ずっと、気になってはいたけど…… リル: ん? 何か言ったか? ピュルテ: ううん、なんでも。ありがとうね、リルちゃん ピュルテ: なんか……今回の旅に出発する前に、思い出したんです。私の長い旅が始まった、あの日のこと…… ピュルテ: いま、リルちゃんが言ってくれたことで、私が持ってた気持ちが固まってきた気がします。私は、使命感にあふれてました リル: そうだったな。目を輝かせて、私が世界を救うんだ、って……あんなにはしゃいでいたピュルテも珍しいかもな ピュルテ: リルちゃんの故郷が大変なのもディマイトのせいだとしたら、私ががんばれば救えると思ってたの。だから、それも嬉しくて リル: ピュルテ……。ほら、よくわかっただろう。貴君がたぶらかしていいような子じゃないんだぞ ピュルテ: たぶらかすだなんて、そんな…… ティンカー・ベル: おおっ、すごい! もうなんかそれっぽくなってるじゃーん! エミリー: 後ろから覗き見しないでくださーい。ティンカのエッチ ティンカー・ベル: なんでエッチ!? エミリーのそのスケッチブックはパンツと同じなわけ? エミリー: 覗き見する人はみんなエッチなんですよーだ ティンカー・ベル: なーんかさ。エミリーもやっと吹っ切れた感じ? エミリー: え? 吹っ切れたって? ティンカー・ベル: 付き合い長すぎて忘れるけどさ、エミリーだってグリムだもん。なんかこう、グリムと対決! みたいな空気、どうなんだろって思ってたんだ エミリー: エミリーはもう、割り切ってたつもりだけど……そうでもなかった? ティンカー・ベル: にじみ出てた エミリー: そっかぁ。へへ、ティンカにはお見通し? ティンカー・ベル: そのとーりっ エミリー: えへへっ ティンカー・ベル: あははっ (…………………………。) クレア: フアナ、ヴェルがチョコくれた。食べる? フアナ: ああ、ありがとう クレア: また自叙伝? フアナ: そう。気持ちの変化は、できるだけ間を置かずに書き留めておくんだ。まるで生き物みたいに変わるからね クレア: 女心は移ろいやすい フアナ: はは、どこでそんなこと…… フアナ: むぐううっ!? に、苦っ!? なにこのチョコ、すっごい苦い! クレア: でも元気が出て目が覚めるらしいよ。人間さんにいろいろ聞いて、ヴェルが試作してみたんだって フアナ: 人間界って、けっこう地獄なのかな…… クレア: 人間さんも、これは違う、って言いながら悶絶してたけど フアナ: そうなんだ。試作だもんね。って、そこまで知っててなんで食べさせたの!? クレア: 元気が出るのは本当だから。あとおもしろいかなって フアナ: クレアはだんだん悪い子になってきたね…… クレア: フアナは最近、元気ないのは本当でしょ? フアナ: えっ? そ、そんなことないと思うけど クレア: 元気ないっていうか、ガマンしてる。みんなのこと気にしてる感じ フアナ: ……っ! や、やっぱりクレアは鋭いなぁ……。でもまあ、それを辛いと思ってるわけじゃないから、気にしないで フアナ: いまさら人間さんくんを……なんて、言えるわけないんだから…… ティンカー・ベル: 考えたんだけどさ、悪魔の森なんて怖い場所に住んでる、すごい術者……って、なんとなく偏屈そうなイメージなんだけど。頼んで、すぐ協力してくれる? ジャコヴァ: ほう、鋭いな ヴェルメリオ: ……えっ、ていうことは ジャコヴァ: めちゃくちゃ偏屈だし、変人だし、話も通じない シンデレラ: どんな人なのよ、それ…… ドロシー: そもそも、なんていう人に会いに行くのかも聞かされてないんだけど ジャコヴァ: そうだっけ。じゃあ、ヴィル ヴィルヘルミナ: これから会いに行くのは、オトギノクニでも1、2を争う最強の錬金術師。インペリウム・コミッティ、先代の第8号委員、パラケルスス ヴィルヘルミナ: 協力してもらえるかどうか、どうすれば協力してもらえるかも、正直わからないけど ヴェルメリオ: ……え、待って。コミッティのメンバーなの? こんな地下深くにいて、会議に参加できてたの? リル: いや、『先代の』と言った。現役じゃないんだな エミリー: コミッティのうち、グリムじゃない7人……Op7は、改選があるの。だから、メンバーが入れ替わるんだよぅ ジャコヴァ: そうだな。けっこう入れ替わってるし ピュルテ: そういうものなんですね ジャコヴァ: 設立当初から残ってるのは、アイソーポスとダンテくらいか。まあ、それもいまは解散したけど ヴィルヘルミナ: エミリーは会ったことは、あまりないかしら。直接、会話しすぎないようにね フアナ: どういう注意事項なの…… クレア: フアナは会ったことある? フアナ: ううん、あたしが入ったときの8号は、もうシェイクスピアだったし、加入前の付き合いも特になかった エミリー: 8号……そっか、もしかしていまのウィラのあの状態って、パラケルススに影響受けてるのぉ? ジャコヴァ: だろうな。妙に波長が合ったみたいで、師弟関係みたいになってた。それもあったから後継に推薦したんだろ ドロシー: シェイクスピアと波長が合う人なのね…… シンデレラ: 誰が相手でも行くしかないでしょ。それで、あと何日くらいかかるのかしら ジャコヴァ: そうだ、忘れるところだった。ヴィル ヴィルヘルミナ: そうだったわね。全員、渡すものがあるの ヴェルメリオ: ……これは、懐中時計? 神殿からの通信: 皆さん…… ピュルテ: この声は! ティンカー・ベル: 頭の中に、直接語りかけてくる感じ、これいつもの…… ヴェルメリオ: ……天空神殿だ ジャコヴァ: ようやく来たか 神殿からの通信: それ以上、進むのは危険です。今すぐ戻りなさい。これはあなたたち全員の安全のために言っています。今すぐ、戻りなさい シンデレラ: ……っ!! ドロシー: ここまで来て、戻るですって……? 神殿からの通信: 身に危険が及びます。それ以上、進んではいけません ピュルテ: や、やっぱり皆さん、これ以上は……えっ、人間さん? フアナ: 命令には従わない、って……人間さんくん、それは ジャコヴァ: 始まったな。神殿への叛乱だ 297 - 叛乱 リル: 貴君、いったいどういうつもりだ フアナ: 天空神殿に、従わない……? ヴェルメリオ: ……わたしたち、話し合って決めたの シンデレラ: ヴェル……? 『わたしたち』って誰のこと ヴェルメリオ: ……わたしと、人間さん (背景切換...) (……もう、ポトフ全部なくなっちゃったよ。ティンカも寝ちゃったし……人間さん、まだ眠れない?) (……さっきの、姐さんのことが……頭から離れないんでしょ。わかるよ。わたしも同じだから) (……ずっと、考えてる。頭の中ぐるぐるして……) (……こんなこといま言ったら、余計に人間さんのこと悩ませちゃうと思うけど、でも……いましかないから、言うね) (……わたし、次に天空神殿から指令が来たら、もう従わない) (……もし人間さんが言うこと聞くとしても。それでも……っ) (……本当はあなたと別々なんて嫌。でもっ、これ以上はわたし……) (……えっ、人間さん……同じって、それ、ほんとに……?) (背景切換...) ピュルテ: 人間さんもヴェルちゃんも、どうしちゃったんですか!? 落ち着いて下さい リル: 貴君らに何があったんだ。つい先日まで天空神殿の指示で動いていただろう? 小生はともかく、貴君らはずっと…… ヴェルメリオ: ……それでも、決めたの ティンカー・ベル: ずきん……ねえ、それって ドロシー: ヴェル……。この子が、こんなに強く意思表示するなんて クレア: なに? 何の話なの? ヴェルメリオ: ……わたしたち、聞いちゃったの。グランド・リヴィジョン……2じゃなくて、最初の、1のほうのこと シンデレラ: ――っ!? ヴィルヘルミナ: あぁ、もしかしてあの夜……盗み聞きしたのかしら? ヴェルメリオ: ……天空神殿は、ひどいことをしてる クレア: ひどいこと? 誰かがぶたれたり、無視されたり? ヴェルメリオ: ……それは、えっと シンデレラ: 私の、死に別れた夫のことよね? ヴェルメリオ: ……姐さん フアナ: 例のあの悲劇のことか。それに天空神殿が関わっているってこと? エミリー: ジャコヴァが……ううん、ヴィルが話したの? ヴィルヘルミナ: 聞かれたから、私は知っていることを伝えたの。誰でも事実を知る権利はあるし、シンデレラなら尚更でしょう? ヴィルヘルミナ: 盗み聞きされてるとは思ってなかったけど ピュルテ: そんな……でも…… ティンカー・ベル: それ、ティンカも聞いちゃったんだ。だから、人間さんやずきんが言いたいことはわかる 神殿からの通信: 耳を貸してはいけません。それは皆さんを惑わせるための話です クレア: えっ、嘘ってこと? フアナ: この場合、天空神殿は当事者だ。頭から信用していいかはわからないよ ピュルテ: ……それはどちらも同じだと思います シンデレラ: ピュルテちゃん…… ピュルテ: そもそもグリム家とは、ついこの前まで対立していたんですよ。その相手が言うことを簡単に信用していいんですか? シンデレラ: 簡単じゃないわ。私はずっと神殿に不信感を持ってた ピュルテ: ディマイトを撒き散らしていた相手なんですよ!? ピュルテ: シャルロッテさんのことで人間さんが責任を感じるのは分かります。でも、私はいまのこの状況だって本当は間違ってるかもしれないと思ってたんです ジャコヴァ: 間違いだと? ピュルテ: シャルロッテさんのことは助けたいです。見捨てていいだなんて思いません。だからここまで一緒に来ました ピュルテ: でも! 私たちの目的は増えすぎたディマイトを抑えて、オトギノクニのバランスを保つことです。助けたい気持ちを利用されていたら本末転倒じゃないですか! リル: ピュルテ……おまえ…… ジャコヴァ: 私がお前たちを騙していると、そう言いたいわけだな? ピュルテ: ……そうです ピュルテ: 神殿に敵対しているグリムが、神殿にとって不利な情報を流してるんですよ。正面から受け止められるはずありません エミリー: そうだねぇ。エミリーは身内だから無条件で信じちゃうとこあるけどねぇ ピュルテ: あ……いえ、あの、私が言うグリムっていうのは、エミリーさんのこととは エミリー: 分かってるよぅ。それに客観的に、ジャコヴァやヴィルには嘘をつく理由があるからねぇ。シンデレラの王子様に、何かした……って ドロシー: だったら天空神殿が、ハッキリ言いなさいよ! 何もやってない、それはグリムの嘘だって 神殿からの通信: 現在、神官長に確認中です ジャコヴァ: 最初からレグルスが出てくるべきだろう。通信担当の微精霊に押し付けるようなことか ヴェルメリオ: ……同じだよ。神官長が何を言っても、信用できる? シンデレラ: もう少し様子を見るつもりだったけど、いい機会だわ。私もこれ以上、天空神殿の指示には従わない ピュルテ: ディマイト側につくって言うんですか!? これまで世界を守るために、一緒に戦ってきたじゃないですか ヴェルメリオ: ……それなの。視野が狭いとか、物事の重要度が理解できてないとか言われちゃうかもしれないけど、でもわたし ヴェルメリオ: ……仲間が傷ついて泣いてるのは、見逃せない。たとえ世界を救えなくても ティンカー・ベル: ずきん…… フアナ: と、とりあえず一旦ここでストップしよう。それで一晩考えてみるっていうのはどうかな フアナ: 突然のことだし、みんなも状況が飲み込めてないと思うんだ。まずクールダウンして、それぞれの考えを落ち着いてまとめて、それから決めない? ドロシー: そうね、私もフアナの意見に賛成。神官長からのアクセスも待ちたいところだし リル: ……そうだな。ピュルテも、それでいいな エミリー: クレア、大丈夫? 泣いてるのぅ? クレア: 泣いてない エミリー: でも…… クレア: みんなバラバラになっちゃう感じ、すごく悲しい。悲しいけど、でも、泣いてない (背景切換...) デュプリ・ライブラ: って感じで、なんか拒否ってるみたいなんスよ。どうします? レグルス: ……仕方ありませんね。場合によっては全て仕切り直しです。デュプリ・ライブラ、準備はしておきなさい デュプリ・ライブラ: 了解ッス。でも神官長、仕切り直しって…… レグルス: ここまで来るのに、払った代償は少なくない……ワタシはもう、退けないのです 298 - グランド・リヴィジョン レグルス: ライブラ、います? 一応、報告しておこうと思いまして ライブラ: グリムに動きがあった? レグルス: ええ。ポルタ島の観測施設が完成したようです。北部の灯台にはエネルギー転送装置も確認できました レグルス: まだ供給ルートを発見したわけではないようですが、見つけたらすぐに根こそぎ搾り取るつもりでしょう。そうなったら、いよいよ手がつけられません ライブラ: そうね。インペリウム・コミッティの存在も、グリムを完全に止めるには至っていない……この世界は、完全にグリム家に掌握されるわ レグルス: どうしたらいいんでしょう。ワタシたち13人だけで、何かできることなんてあるんでしょうか レグルス: ワタシたちはコミッティに楯突く者として警戒されています。もしエネルギーを全て握られて供給路を断たれたら、存在が消えてしまう……! ライブラ: そこまでするかしらね。ジャコヴァならやりかねないかもしれないけど レグルス: もしライブラが消えてしまったら、ワタシ……どうしたら、いいか……っ ライブラ: 泣かないで。私のレグルス。あなたにそんな顔は似合わないわ ライブラ: ……実は、もう少しでグランド・リヴィジョンの術式が組み上がりそうなの レグルス: えっ……!? ほ、本当ですか!? だって、あの術式はあまりにも難解で、実現はできないって…… ライブラ: 興味深い論文を手に入れたおかげで、一気に進められたのよ。エネルギーには実は2種類あって、ディマ……いえ、専門的な話はやめておくわ ライブラ: とにかく、グランド・リヴィジョンは完成間近よ。実現すれば、私たちが目指した世界へと変えられる レグルス: すごい……さすがライブラです! 稀代の天才術士と呼ばれているのはダテじゃありませんね ライブラ: ただし、リスクはあるわ。エネルギーの供給構造を変える以上、世界そのものが変わってしまうかもしれない ライブラ: 私があなたとこうして過ごしてきた時間も、形を変えてしまう……跡形も残らないかもしれないの。レグルスは、それでもいい……? レグルス: ……変化を恐れてはいけないと思うんです。過ごしてきたものが失われるのは悲しいけど、新しい世界にまたライブラと一緒にいられるなら…… ライブラ: ……そうね……ふたりが一緒にいられるのなら……ね…… ライブラ: ……以上が、私が開発したグランド・リヴィジョンの術式展開よ ライブラ: こうして展開した魔法陣には、多量のエネルギーを必要とするわ。それを補うための手段として……私たちの犠牲が必要になる ライブラ: 私たちは人身御供として、魔法陣に『宙の釘』で繋ぎ止められたまま永遠の眠りにつく…… レグルス: それって、私たち12人が全員、死ぬって……ことでしょう……? ライブラ: 命を奪われるわけではないわ。その時点でエネルギーは途絶えてしまうから。でも、死んだも同然という意味では、そうね。私たちはただのエネルギー体 レグルス: 死んだも……同然…… ライブラ: グリムの支配体制を打ち壊すには、この手段しかないわ。平等な世界のために、犠牲は必ず必要になる…… レグルス: ……誰も反対意見を出さない。みんな、覚悟はできてるってこと……? ライブラ: 消えかけた小さな存在に、エネルギーの交換を条件に従わせる……グリムのエルマイト・トレードは、富めるものがますます栄える悪魔の契約よ ライブラ: 自由や尊厳を奪い、自らの権力をほしいままにする。インペリウム・コミッティもグリムの暴走を止めるには至っていない ライブラ: この世界の全ての住民が等しくエネルギーを手にして、恵まれない人たちも安心して暮らせる社会の実現、それが私たち『星の革命戦線』……改め、『天空神殿』の目的よ アスクレピオス: ライブラ様、その名称変更にはどのような意図があるのでしょうか ライブラ: グリムだけでなく、善良な富裕層も存在する。その人達はグランド・リヴィジョンに不満を持つ可能性があるわ。そのために名称を変更し、より説得力を持たせるの ライブラ: これは『革命』ではない、『天の意志』なのだと―― レグルス: 今夜は私たちがそろっての最後の晩餐よ。たっぷり用意したから……楽しみましょう (背景切換...) レグルス: 理想とする世界を実現するために……ワタシたちは礎にならなくてはいけない……? ううん、それが正しいことなんだって、それは分かってる。でも…… アスクレピオス: ああ、レグルスさん。こちらにいらしたんですか レグルス: ……アスクレピオス。な、なんです……? アスクレピオス: 顔色が悪かったようなので、心配したのです。一応、私は医者ですから レグルス: ……アナタは、どう思います? この作戦…… アスクレピオス: 尊い犠牲ですね。私たちは皆、十二宮の方々の高潔な精神に魂を揺さぶられる思いです アスクレピオス: もともと12人で行う秘術とはいえ、私だけが残されるのも複雑ですね…… レグルス: な、なら、私と……! アスクレピオス: え? レグルス: ……い、いえ。なんでもありません…… レグルス: 結局……本番当日になってしまった……ワタシ、このまま……? ライブラ: レグルス。……大丈夫? レグルス: あ……ライブラ。あ、あの、ワタシ…… ライブラ: 少し、いいかしら。耳を貸して (背景切換...) アスクレピオス: あっ、おふたりとも。どちらにいらしたんですか。探しましたよ ライブラ: ごめんなさいね。最後にちょっと、伝えたいことがあって レグルス: ……え、ええ アスクレピオス: レグルスさん、顔色がまた優れないようですが大丈夫ですか? レグルス: はい……だ、大丈夫、です…… アスクレピオス: それでは、お時間ですので台座に固定しますね レグルス: あ……ありがとう…… レグルス: 他のみんなは? アスクレピオス: 皆さんもう固定されているはずですよ レグルス: ……全員、把握してるんですか アスクレピオス: 魔法陣内で自由に動けるのは、最終的には私だけですからね レグルス: ……。……ちょっと台座がガタガタして安定しないんです。見てもらえませんか アスクレピオス: もちろん。どのあたりですか? ここはちゃんと固定されているようですが…… レグルス: うあああああっ!! アスクレピオス: ぐううっ!? な、何をするんです、レグルスさん! 離して下さい! くっ、や、やめっ レグルス: 私は生きる……生き延びる……っ! アスクレピオス: な、何を言ってるんですかっ! やめてくださ……むぐううっ!? アスクレピオス: 台座の固定装置を、私に……っ!? まさか、レグルスさん……! レグルス: たまたま術式の定数が12だっただけのこと……あなたも十分に力はある。ワタシの代わりは立派に果たせるわ アスクレピオス: 口に布を……これでは、助けが呼べない……っ!? レグルス: あなたを台座に固定した……! まもなくグランド・リヴィジョンが始まる……安心して、あなたの勇気はワタシが語り継いであげます アスクレピオス: よくも……よくも、こんな卑劣な真似を……っ、レグルスぅううぅぅっ! レグルス: さようなら、アスクレピオス 299 - ジャコヴァの哲学 ヴィルヘルミナ: 情報によれば、例の過激派組織『星の革命戦線』は『グランド・リヴィジョン』なる秘術を完成させたらしいわ ジャコヴァ: くだらん。まだ何か仕掛けるつもりか ヴィルヘルミナ: 各地での破壊行為、住民の扇動などを繰り返してきたけど、今回は過去最大規模だという触れ込みよ ヴィルヘルミナ: 全体集会でも、グリムを名指しで批判したらしいわ ジャコヴァ: どうせエルマイト・トレードのことだろう。奴らの恰好の標的だ シャルロッテ: ジャコヴァ姉さま、エルマイト・トレードは恵まれない人を奴隷にすると聞きましたわ。でも、事実ではないのでしょう? ジャコヴァ: シャルロッテは気にしなくていい シャルロッテ: でも私もグリムの一員です。ちゃんと世の中のことは知っておくべきですわ ヴィルヘルミナ: あの連中はグリムが気に入らないだけ。後の主張は、グリムを貶めるための理由付けにすぎないわ シャルロッテ: では、私たちグリムは誰かを虐げたりなどしていないのですね ジャコヴァ: 私がしているのは契約だから、虐げてもいいんだ シャルロッテ: え……? やはり誰かを傷つけているのですか? ヴィルヘルミナ: 契約は自由意志なの。だから例え、グリムのために命を捨てることになっても、それは本人の意志で強制じゃないわ ヴィルヘルミナ: このまま消滅するより幸せだと、本人が判断したのだから外野から責められるような筋合いはないのよ ジャコヴァ: うんうん ヴィルヘルミナ: つい先月にもあったわ。本人は迷っていたのに、あの連中が権利を守るとか騒ぎ立てて……そうこうするうちに、本人が消滅してしまったことがね シャルロッテ: そんな……! ひどすぎますわ ジャコヴァ: いいか、シャルロッテ。目先のきれいごとに惑わされるな。世界は選択の連続だ。他人をどうこうする余裕など、誰にもない。本来ならな シャルロッテ: ジャコヴァ姉さま、先日いただいた課題をお持ちしましたわ ジャコヴァ: うん。どう、難しかった? シャルロッテ: はい……まだまだ力不足だと思い知りましたわ ジャコヴァ: うん。ああでも、悪くないな シャルロッテ: 本当ですの!? よかったですわ、ヴィル姉さまの課題は私、ボロボロで……自信喪失しておりましたわ ジャコヴァ: 知識とか学力よりも、大事なのはセンスだから。そういう意味でも、もっとシャルロッテは自信を持ったほうがいい シャルロッテ: 自信、ですか ジャコヴァ: 私もシャルロッテと同じだ。ヴィルのようにはなれない。だが、ヴィルも私のようにはなれない シャルロッテ: どちらも伸ばしていくべきなのかと、そう思っておりましたわ ジャコヴァ: オールラウンダーとは器用貧乏であり、ゼネラリストとは無個性だ。おまえは私を見ていればいい シャルロッテ: は、はい……心得ましたわ ジャコヴァ: この前も言ったが、目先のきれいごとに惑わされるな。弱いものが敗れるのは弱いからだ。手を差し伸べるなら、永遠に責任を持て ジャコヴァ: 一時的な自己満足で救うくらいなら、見捨てろ。それは罪ではない ジャコヴァ: 他人はどうか知らない。けど、私の支配とは、そういうものだ ヴィルヘルミナ: 持続可能な支配、ということね シャルロッテ: ヴィル姉さま! ヴィルヘルミナ: 姉さんはずいぶんシャルロッテに期待してるのね ジャコヴァ: カロラは後方支援タイプだ。エミリーは自由にさせている。私に何かあったとき、代わりが必要だろう シャルロッテ: わ、私がジャコヴァ姉さまの代わりだなんて、そんな。それに、あの、フェル姉さまは…… 衛兵: も、申し上げます! ポルタ島にて大規模な地震が発生、観測施設に重大なダメージが生じています ヴィルヘルミナ: ポルタ島ですって? ジャコヴァ: まさか、奴らか ヴィルヘルミナ: 円柱状の物体が12本、遥か上空からポルタ島に落下。その直後から異変が起きているわ。まだパラケルススの鑑定中だけど、十中八九…… ジャコヴァ: グランド・リヴィジョンか シャルロッテ: ジャコヴァ姉さま、ヴィル姉さま。世界はどうなってしまうんですか? ヴィルヘルミナ: エネルギーの流れという世界の理を覆す禁術……もはや、この世界はまったくの別物になってしまうのかも ジャコヴァ: 密偵からの情報では、レグルスが最終局面で臆病風に吹かれているとあったが……ライブラが、うまく説得したか ジャコヴァ: そして、あの建物の正体……まだ情報は入ってこないか ヴィルヘルミナ: 円柱状の物体の上に設置された建物は、青い光を放っているというだけで、詳しいことはまだ分かっていないわ (この世界……オトギノクニに住むすべての人へ……ワタシからお伝えすることがあります) ジャコヴァ: ……!? なんだこの声、窓の外からか (背景切換...) (つい先ほど起きたことに関して、きっと戸惑う方も多いでしょう) ヴィルヘルミナ: この声、魔力が乗せられているわ……! 魔法で、世界中に音を伝達しようとしているの!? ジャコヴァ: くっ、すぐにジャミングをかけろ! 急げ! 衛兵: はっ! (ワタシの名はレグルス……オトギノクニを管理する天空神殿の、神官長を務めています) ヴィルヘルミナ: レグルス、ですって……? なぜ……12人揃わなければ、グランド・リヴィジョンは…… ジャコヴァ: アスクレピオス、ということか……酷いことを…… (世界は、偉大なる神によって再生の道を歩み始めました。これからは、争いのない、誰もが平等な世界へと変化していくのです) ジャコヴァ: ……不遜だな。存在などしない神を担いで、大義を得たつもりか……。いかにも、奴らのやりそうな姑息な手だ……! 300 - 道の模索 ヴィルヘルミナ: 姉さん、どうしたの。ぼんやりして ジャコヴァ: ああ……少し、昔を思い出していたんだ ジャコヴァ: グランド・リヴィジョンが成った、あの日のことだ ヴィルヘルミナ: 何度思い返しても、忌々しい出来事だわ ジャコヴァ: その記憶が本物なのか、私でさえ曖昧だがな ヴィルヘルミナ: グランド・リヴィジョンを経た影響ね。……けど、出来事に記憶違いはないはずよ ヴィルヘルミナ: それで? あの子たちをどうするつもり? ジャコヴァ: ここで口出しは本意ではない。エミリー含め、それぞれに考えさせるべきことだ (…………………………。) シンデレラ: ヴェル。その……ありがとう。さっきの議論の流れで、ちゃんと言えてなかったと思って ヴェルメリオ: ……ううん、お礼を言うことじゃないよ。わたしは、わたしの思ったように行動しただけ シンデレラ: それでも……当事者の私じゃなくて、王子様とは直接は無関係なヴェルが声をあげてくれたの、すごく……勇気づけられたから ヴェルメリオ: ……そうなの? わたし、姐さんの力になれた? シンデレラ: ええ。妻だった私だからじゃなく、客観的に見ても不信感を持つことなんだって、裏付けられたわけでしょう ヴェルメリオ: ……わたしも反省したの。思い返したらね、旅の始まりからわたしは勢いに流されっぱなしだった ヴェルメリオ: ……ちゃんと自分の意志で決めたい。そうじゃないと、わたしにとって、この旅がどんなものなのか、分からなくなっちゃうと思って (…………………………。) ティンカー・ベル: エーミリーっ♪ セクハラしちゃうぞーっ、うりうりーっ エミリー: ん……ティンカってば、またそうやって。えいっ ティンカー・ベル: あだっ! なんでデコピン!? エミリー: 悲しいときに無理してはしゃぐの、ティンカの悪いクセだよぅ? ティンカー・ベル: ……お見通しかぁ ティンカー・ベル: だってさ、こんなふうにみんなバラバラになるなんてさ……やっぱり、辛いよ エミリー: でも、ピュルテが言ってくれてエミリーは少し救われたんだよねぇ エミリー: エミリーがグリムだから、って無理にみんなが付き合ってるわけじゃないんだなって ティンカー・ベル: ……エミリーも難しい立場だよね リル: ピュルテ。大丈夫か、顔色が良くない ピュルテ: あ、リルちゃん……うん、大丈夫だよ。ちょっと緊張しすぎて疲れちゃっただけ リル: 決意は、変わらないんだな ピュルテ: リルちゃんまで……やっぱり私は間違ってると思うの? リル: ピュルテが決めたことだ。小生はそれを最大限、尊重する ピュルテ: えへへ、ありがとう、リルちゃん。ちょっと元気が出るなぁ ピュルテ: ただの妖精だったはずの私がね、こんな大きな使命を受けたのは……天空神殿から選ばれたからなんだ ピュルテ: もし天空神殿が間違っているなら、私ってなんだろうって……だから私は、信じるしかないの リル: ピュルテ……。使命だけが、おまえの存在意義じゃないんだぞ。それは忘れないでくれ ピュルテ: わかってるよ。でもリルちゃんも言ってくれたでしょ。旅の目的は世界を救うこと……その初心を、忘れちゃいけないよね リル: あれはそんなつもりでは……いや、今さらだな。ピュルテは既に覚悟を決めている。なら、小生が取るべき行動はひとつだ リル: ここに誓おう。ピュルテがどんな決断を下しても、小生がずっとそばで見守る。だから無理だけはするな リル: 辛ければ、小生の胸で泣け。苦しければ小生の肩を借りろ。ひとりじゃないことを、忘れないでくれ ピュルテ: リルちゃん…… ピュルテ: ふふっ、なんだかプロポーズされちゃった気分 リル: 似たようなものだ。なんなら誓いのキスでもするか? ピュルテ: 私が相手だとリルちゃんも余裕たっぷりだね♪ ピュルテ: プロポーズ、かぁ…… リル: なんだ? 自分で言っておいて、何をしみじみしてるんだ ピュルテ: ううん、なんでもない クレア: どうなっちゃうの、みんな フアナ: ひとまず冷静になってもらうのが目的だったから……この先のことは正直、あたしも予測はついてないんだ ドロシー: ピュルテの決意が相当、固そうなのよね。何があったのかしら フアナ: 人間さんくんと別方向に行こうとしてるんだもんね。エミリーやあたしは、どうしても神殿に気を許せないところあるけど、ピュルテってどうなんだろう ドロシー: 最近、何かあったのかしら クレア: 私にできることって、あるのかな ドロシー: クレアだけじゃないわよ。私だって、どうしていいかわからないんだから、見守るしかないのよ フアナ: おっと……もう2時間か。そろそろ頃合いかな クレア: その懐中時計、私たちもジャコヴァからもらえるんだよね ドロシー: もらったところで、使い方がよくわからないけど フアナ: それはあたしやエミリーが分かってるから大丈夫だよ。さて、じゃあみんなをもう一度呼んで…… クレア: ねえ、何か来たよ ドロシー: あ、あれは……! また微妙なタイミングね……! デュプリ・ライブラ: みんな、どうしたんスか。ちゃんと指示に従ってほしいんスけど シンデレラ: デュプリ・ライブラ……ここに何をしに来たの デュプリ・ライブラ: そんなの決まってるじゃないスか。ここでワガママ言ってる人たちを連れ戻してこいって、神官長様に言われたんスよ ティンカー・ベル: ……それ、ほんとに……? ヴェルメリオ: ……姐さんのことに、神殿が関わってるかどうか質問したんだけど フアナ: その答えが、強制的に連れ戻すためにデュプリ・ライブラを送り込むことってわけ? デュプリ・ライブラ: ボクは連れ戻せとしか言われてないッス シンデレラ: なるほど。つまり、説得すら放棄したってわけね。力ずくで連れ戻そうだなんて、ずいぶん物騒だわ……! ヴェルメリオ: ……簡単に思い通りになると思わないで 301 - 決別のとき デュプリ・ライブラ: ま、待ってほしいんスけど! 別に、本気でやり合うつもりなんかないッスよ! シンデレラ: なら、戻って伝えるのね。あなたたちの思い通りにはならないって デュプリ・ライブラ: 今まで仲良くやってきたじゃないスか。それってもう、完全にお別れってことッスよね ピュルテ: ま……待ってください! フアナ: ピュルテ!? ピュルテ: 私は天空神殿に行きます シンデレラ: ピュルテちゃん……! 本気で言ってるの!? リル: なら、小生の行き先も決まったな。小生はピュルテと共に行くと決めている ティンカー・ベル: ちょっと、ネコまで!? クレア: 人間さん、落ち着いて。声、大きいよ ピュルテ: 人間さん……。私の使命は、世界を救うことなんです。増えすぎたディマイトを抑制して、バランスを取ることなんです ピュルテ: その使命があったからこそ、私は人間さんとも、皆さんとも出会って、一緒に旅をすることができたんです…… ピュルテ: 当然のことですけど、私は皆さんを恨んだり憎んだりするつもりはありません。ただ、違う道を歩くことになっただけ…… エミリー: 正直、エミリーにはその感覚、理解できないんだよねぇ。でも、理解できないからって否定するつもりもないよ ティンカー・ベル: いつからそんなふうに使命に燃えてたの? 人間さんのこと大好きだったじゃん! なのに、別々でいいなんて、そんなの急に、おかしいよ! ピュルテ: 本当の最初は、そんなことなかったはずなんです。けど、気がついたら人間さんのそばにいられるのが幸せ、皆さんと旅をするのが楽しい……そんなふうになってました ピュルテ: 結果、私はどうなりましたか。何の役にも立たずに足を引っ張ってしまった。悔やむ前に、私は本来の目的を思い出すべきだったんです クレア: 操られたのは、目的を忘れてたから? そんなことないと思うよ ピュルテ: ……ごめんなさい。私はもう、決めたんです……っ ドロシー: ……ピュルテ。本当に、心からそう決めたのね ピュルテ: はい。分かってくれとは言いません。でも…… ドロシー: いいわ。なら、私もピュルテについていく ティンカー・ベル: え、ちょ、三つ編み!? な、なに言ってんの!? ドロシー: 私もピュルテと一緒に神殿側につくわ。元々、私も気になってはいたのよ。あまりにもジャコヴァたちに近すぎないかって ヴェルメリオ: ……ドロシー、本気なの。ドロシーだって、姐さんのこと…… ドロシー: ええ、ヴィルヘルミナの話なら、シンデレラの隣で一緒に聞いてたわ。たぶんヴェルは、それを立ち聞きしてしまったんでしょう? ヴェルメリオ: ……そうだよ。あれを聞いて、それでもドロシーは神殿の味方なの ドロシー: エミリーには悪いけど、ジャコヴァもヴィルヘルミナも、ついこないだまで敵対してた相手なのよ。そこから出た情報に左右されすぎ……ピュルテの言った通りね ピュルテ: ドロシーさん…… ドロシー: そもそもの旅の目的を考えれば、ピュルテの判断は十分、支持できると思うわ クレア: ドロシーが行くなら、私も一緒に行く ドロシー: ええっ!? フアナ: えっ!? クレア、待って! 何を言い出してるの!? クレア: 私も、バラバラはやだよ。でも、みんないっしょが無理なら、私はどうするか……考えなくちゃいけないから フアナ: ちゃ、ちゃんと考えた結果なの!? クレアは記憶喪失とは言え人間さんくんたちへの刺客だったし、何よりフェルディナのところの子なんだ。そっちに行って何をされるか…… クレア: ドロシーもいるし エミリー: クレア……。本気なの? クレア: 本気だよ エミリー: ……そっか。なら、エミリーはもう何も言わないね ドロシー: 私がいるから来た……ってこと、よね……。クレアまで巻き込むつもりはないのよ、私は クレア: 私が決めたんだよ ドロシー: クレア…… ドロシー: そう、わかったわ。それに、これで4人……うん…… ドロシー: いい、クレア。こっちに来る以上、何があってもピュルテの味方でいること。それは、忘れないで クレア: がってんだ ジャコヴァ: 結論は出たようだな シンデレラ: ピュルテちゃん……。初めてあなたが私の城を訪ねてから、ずいぶん経ったわね ピュルテ: 本当にシンデレラさんには感謝しています。突然、現れた私なんかの話を真剣に聞いて下さって…… シンデレラ: 私もよ。ずっと疑問だった夫の死に、ディマイトが関連しているんじゃないか……その可能性に気付けたことで、私は変われたわ ピュルテ: 私はオトギノクニを救いたいです。でもきっと、シンデレラさんも シンデレラ: ええ、同じよ。何を信じるか、それが違うだけ ピュルテ: ……それから、人間さん ピュルテ: 本当に、出会えて良かったです。あなただったから、私は…… ピュルテ: 元の世界に戻してあげることができなかった、それは心残りですし……お詫びするしかないです ティンカー・ベル: ねえ、本当に? ピュルテも、ネコも、三つ編みも、クレアも! これでいいの? リル: 同じ言葉を、小生はそちら側の全員に投げかけることになる。結局は、平行線なんだよ、ティンカ殿 デュプリ・ライブラ: それじゃ、ボクは神官長様にこのことを報告するッス。ピュルテさんたちは、ボクに触れてくださいッス。転移しますんで ピュルテ: それじゃあ皆さん…… ヴェルメリオ: ……あっ。ピュルテ。左手、それ……!? ピュルテ: さようなら、人間さん フアナ: 本当に、行っちゃった…… エミリー: あのピュルテが、人間さんへの気持ちもすっぱり断ち切っちゃうとは思ってなかったよ…… ヴェルメリオ: ……すっぱり、ってわけじゃ……ないと思う…… シンデレラ: こうなった以上、後戻りはできないわ。先を急ぎましょう。悪魔の森にね 302 - 失われたモノ フアナ: ……行っちゃったね ティンカー・ベル: うん……なんか、4人もいなくなると、さすがに静かになっちゃう感じするかも…… エミリー: 人間さん……? ヴェルメリオ: ……うん、そうだよね。人間さんの言うとおりだよ。今さらここでしょんぼりしても、何も生まれない シンデレラ: そうね。起きてしまったことを考えていても仕方がないわ。ここは切り替えていかないと フアナ: うん……そうだよね。まず、シャルを助けることを考えなきゃ ヴィルヘルミナ: あなた、アジテーターもできるのね。人間界でもリーダー的ポジションを務めていたのかしら? そうでもない? あら、そう エミリー: 人間さんはねぇ、ここぞというときはみんなを引っ張ってくれるからねぇ ヴィルヘルミナ: エミリーがそこまで言うなら、間違いないでしょうね エミリー: エミリーを基準にするのやめてよぅ ティンカー・ベル: んじゃ、先に進もっか。シャルロッテのこと待たせてるし、ここから先もまだまだ遠いんでしょ? ジャコヴァ: ……そうだな。ただ、少し寄り道をしてもいいかもしれない ヴェルメリオ: ……寄り道って? ジャコヴァ: 道中に、破損した記憶結晶がある。それを修復すれば、何か手がかりが得られるかもしれない フアナ: 記憶結晶って……確か、自然に存在する、過去の出来事を映す水晶…… ヴェルメリオ: ……なんか、映像スフィアみたい ヴィルヘルミナ: その通りよ ジャコヴァ: いま出回っているスフィアの類は、この記憶結晶を研究して汎用的に開発されたものだ ジャコヴァ: さて、どうする。寄り道するか? シンデレラ: ここまできて、あなたを疑うつもりはないわよ、ジャコヴァ。全面的に信頼しないまでもね ヴィルヘルミナ: あら、信頼は完全じゃないのね ヴェルメリオ: ……見てみよう、記憶結晶 ヴェルメリオ: ……これが、欠片? ジャコヴァ: ああ、そうだ ヴィルヘルミナ: 実は、細かな破片は世界各地にあるのよ。ただ、大きなもの……つまり、容量の大きい情報を記憶できるのは、この先の地下エリアに多いわね エミリー: 映像スフィアの元になったって言ってたけど、これってどう記録するのぉ? ヴィルヘルミナ: 意図的な操作は難しいわ。エルマイト、あるいはディマイトの強い変動――つまり誰かが感情的になったとき、それを感知して記録するの ジャコヴァ: うんうん フアナ: 道具としてはまるで使い道がないけど、思わぬ映像が撮れてしまうこともありそうだね ティンカー・ベル: それを集めたら何かのヒントになるの? ジャコヴァ: さあな、知らん。でも大きいから情報がいっぱいあるかもな ヴェルメリオ: ……急にアバウトになった フアナ: 大きいっていうわりに、破片の量はあまり多くないようだけど ジャコヴァ: ああ、それは…… シンデレラ: ちょっと、あれ見て! 結晶を、変なモンスターが抱えて持っていくわ! メモリアルイーター: ………。 エミリー: もしかして、あのモンスターが巣穴とかに持ち出してるんじゃないのぉ!? フアナ: ってことは、あいつが持っていく先に、もっと大量に記憶結晶の破片があるかもしれないわけだね! ティンカー・ベル: よし、追いかけよう! ジャコヴァ: 私がいま、それを説明しようとしてたのに ヴェルメリオ: ……ジャコヴァ? なにか言った? ジャコヴァ: なんでもない。さっさと追いかけろ (背景切換...) シンデレラ: この洞窟が、あのモンスターの巣穴なのかしら。なんだかジメジメしてるけど エミリー: うーん、洞窟がだいぶ入り組んでるせいで見失っちゃったねぇ ヴェルメリオ: ……なんで、記憶結晶なんて持って行っちゃうんだろ ティンカー・ベル: 食べちゃうとか? フアナ: そしたらもう、修復できないかもしれないじゃないか! ヴェルメリオ: ……えっ、じゃあ無駄足? ヴィルヘルミナ: それは安心していいわ。あのモンスター……『メモリアルイーター』は、記憶結晶を食べたりしない。ただ持ち込んで集めているだけなの ティンカー・ベル: そうなんだ、じゃあ修復できそうだね。って、でも何で集めてんの? ヴィルヘルミナ: 詳しい生態はまだ分かってない、謎の多いモンスターなのよ。だから、彼らの目的もさっぱりだわ フアナ: いやでも、『イーター』って言っちゃってるよね。なのに、食べないの? ジャコヴァ: ああ、それは別の由来があって エミリー: あっ、あそこに1匹いた! ついていこう メモリアルイーター: ………。 フアナ: どうせジャコヴァはよく知らないんだろうけど ジャコヴァ: ………….。 フアナ: えっ、ちがっ、あ、あたしじゃないっ、あたし何も言ってないよ!? ジャコヴァ: もうフアナには何も教えない ヴィルヘルミナ: 姉さん、そんな大人げないこと言わないで エミリー: まさか、あのモンスターって ジャコヴァ: そう、こちらの思考を読み取り、音声として再生する能力を持つ ヴィルヘルミナ: 何のためにそんな能力があるか、そして使うのか……謎が多いのだけど、調査は難航して進んでいないの ティンカー・ベル: まさかとは思うけど、調査が進まないのって調査隊でケンカが起きるからなんじゃ…… エミリー: あっ、逃げちゃう。急いで追いかけるよ! メモリアルイーター: ……………………………………。 フアナ: はあ、はあ、すばしっこいね、あいつ…… ヴェルメリオ: ……人間さんは、あんまり、息が乱れて、ないんだね シンデレラ: 日頃から鍛えてるものね……偉いわ……う、うぷっ ティンカー・ベル: ねえ、そう言えばさ。ジャコヴァはなんで記憶結晶のこと教えてくれたの? ジャコヴァ: ん? ああ、それは…… エミリー: ジャコヴァ? 人間さんがどうかした? ジャコヴァ: いや。妹を助けてもらうだけではアンフェアだからな。私が借りを作るわけにもいかない メモリアルイーター: ………。 ジャコヴァ: 落ち込む仲間を鼓舞する姿に、なかなか立派なものだと思って……少し助けてやりたくなったんだ シンデレラ: あそこ! メモリアルイーターだわ! ティンカー・ベル: ってことは、今の声…… ジャコヴァ: なっ……う、うるさい、いいから早く追いかけろっ! ヴェルメリオ: ……意外と、怖くない、いい人なのかな 303 - 天空神殿の任務 デュプリ・ライブラ: 前に何度か来たことあるッスよね? ピュルテ: あ、はい。でも受付とか、神官長様が謁見される祭壇とかだけで、あまり内部までは詳しくありませんけど デュプリ・ライブラ: あっちに見えるのが事務方のオフィス棟ッス。その隣にあるのが微精霊の教練施設。学校みたいなもんスね リル: そんなものまであるのか。微精霊に何を訓練させてるんだ デュプリ・ライブラ: 正式に精霊化するためッスよ。才能があれば引き出す、それもエルマイト拡大の手段ッスから クレア: 精霊がどんどん増えたら、いいことあるってこと? ドロシー: で、私たちはどこへ行けばいいわけ? デュプリ・ライブラ: 反対側にある、こっちが宿舎ッス。普段は来客用の場所なんスけど、しばらくはここで寝泊まりしてください (背景切換...) デュプリ・ライブラ: じゃあ、この部屋でちょっと打ち合わせするッス。皆さんに、今後がんばってもらうことなんスけど リル: そうだな。当面の目的は聞いておきたいな デュプリ・ライブラ: 大きな目的はGR2の阻止。そのために、シェイクスピアの身柄を確保してほしいッス ドロシー: この前の、あのでっかいのが暴走したのも、シェイクスピアがGR2のために仕掛けていたのが発端だもんね ピュルテ: それをペローが利用して、コミッティ本部に大量のディマイトを送信したんでしたね リル: ペローは追わなくていいのか? デュプリ・ライブラ: あー……あの人は、とりあえず一旦、忘れてもらって大丈夫ッス クレア: ふうん。そうなんだ デュプリ・ライブラ: 現状、GR2を実行するにあたって、一番可能性が高いのはシェイクスピア……コミッティが解散したとは言え、余力を残しているはずッス ピュルテ: 解散してディマイトの供給は止まったでしょうけど、シェイクスピアには元々、いろんなものを作る能力がありますからね リル: 錬金術、というやつだな。エミリー殿の話では、大規模な研究施設があったらしいからな デュプリ・ライブラ: シェイクスピアの行方を追いつつも、あとはグリムのディマイト供給ルートの特定が必要ッス。それを押さえて叩けば、世界のバランスはかなり整うはずなんで ピュルテ: ディマイト、供給ルート…… ドロシー: 私たちが人間さんからエルマイトをもらっていたように、ってことよね……確かに、どこからディマイトを確保していたのかしら シンデレラ: 静かに。あそこにいるわ ヴェルメリオ: ……何匹かいる。あそこが巣かな フアナ: いや、結晶が見当たらない。まだ違う場所みたいだね ジャコヴァ: 様子見だな ティンカー・ベル: 警戒されちゃったら巣に行かないかもしれないもんね ヴィルヘルミナ: ふふっ……♪ エミリー: なに、ヴィルってば。急に笑いだしたりして ヴィルヘルミナ: なんだか懐かしいわ。そうでしょう、姉さん ジャコヴァ: ああ。たまには現場に出るのもいいな エミリー: そう言えば、いつも椅子でふんぞり返ってるイメージしかないけど、ふたりもこういう冒険の旅とか、したことあるの? ジャコヴァ: 当たり前だろ ヴィルヘルミナ: エルマイトを分け与えるのは作家の権限。でも、それを行使するためには直接、相手と接触しなくてはいけないの フアナ: え? あたし、直接会わなくても定期的にエルマイトを送ってたよ ヴィルヘルミナ: 自分の作品は最初から紐付いてるのよ ジャコヴァ: うんうん ヴィルヘルミナ: その紐付けをするために、会わなきゃいけないの。一度、契約すれば、後は作家側でコントロールできるわ ティンカー・ベル: へー。だって、なんかいろんな人たちにエルマイトあげてたんじゃないの? ってことは、オトギノクニじゅう回ってたってこと? ジャコヴァ: 私たちは創作者じゃない。編纂者だから。足で稼ぐのが本来の姿だ ヴィルヘルミナ: でも、これが終わったら、そろそろ地上に戻らないとね エミリー: あれっ、ずっとついてくるわけじゃないのぉ? ヴィルヘルミナ: あぁんっ、ついてきてほしかったの? 甘えん坊さんね、エミリー エミリー: いや、近いってば。ただの疑問だよぅ ジャコヴァ: シンデレラとの約束を果たすためにも、私たちまで冒険に出るわけにはいかないからな シンデレラ: 確かに、そうだったわね。ずっと案内をさせるわけにはいかないわ ヴィルヘルミナ: 姉さん、わたしだけでもエミリーについて行っちゃだめかしら ジャコヴァ: だめ。ヴィルがいないと実務が回らない ティンカー・ベル: ……ってことは。ジャコヴァは何する人なの? エミリー: しーっ シンデレラ: あそこが巣穴だわ! 何匹かいるけど、一気に畳み掛けるわよ! エミリー: おっけー♪ いっくよぉー! メモリアルイーター: ………。 (あぁ、たくさん走ったら喉乾いちゃった。エール酒できゅーっとやりたいなぁ……) ティンカー・ベル: ちょっと姐さん!? シンデレラ: わ、私じゃないってば! ヴェルメリオ: ……でも頭の中では考えてたってことだよね ジャコヴァ: そういうモンスターだからな シンデレラ: お、思うくらい、いいじゃない! 本当に飲んでるわけじゃないし! フアナ: そこでフォローしてあげるんだ。人間さんくん、優しいなあ メモリアルイーター: ………。 (……そうだよ、人間さんは優しいの。大好き……♪) ヴェルメリオ: ……はっ!? や、やだ、こんなの、みんなに聞かれるなんて ティンカー・ベル: いや、みんな知ってることだし エミリー: ものすごい今さら感あるよぅ? メモリアルイーター: ………。 (……どうしよう。お洗濯しとくからって受け取った人間さんのシャツ、ひとりですごい嗅いでることまでバレたら) ヴェルメリオ: ……あっ、あっ、ああああああ エミリー: こ、これは……うん、アウトかな…… シンデレラ: ヴェル、人間さんのこと大好きなのはいいけど、ほどほどにね……? メモリアルイーター: ………。 (……受け取ってすぐ、1回着てみてることだけは知られちゃだめ……!) ヴェルメリオ: ……みんな。あのモンスター全滅させるよ ティンカー・ベル: ずきんの気合の乗り方が別次元だ! フアナ: あはは……あまりやりすぎないようにね…… フアナ: はっ!? 待って、これであたしがまた心を読まれたら……!? 人間さんくんのこと、最近すごく気になってるとかバレたら、パーティーの空気がおかしなことに……! フアナ: いや、ヴェルに賛成。根絶やしにしよう ティンカー・ベル: フアナは何があったの!? 304 - 蘇る記憶 シンデレラ: とまあ、色々あったわけだけど……ひっく ティンカー・ベル: もう飲んでる! シンデレラ: いいじゃない、バトルが終わるまでガマンしたんだから! ヴェルメリオ: ……人間さん、嫌わないでくれてありがとう。でも……しばらく立ち直れそうにないかも…… エミリー: もういっそ、振り切っちゃえばいいんじゃないかなぁ? フアナ: ふう……なんとか隠し通せたぞ。久々に本気で戦ったな…… ジャコヴァ: ん、記憶結晶は揃ったな ティンカー・ベル: 何が映ってるんだろ? ヴィルヘルミナ: あまり期待しないほうがいいとは思うわ。おもしろくもない他人の日常風景が記録されてるだけかもしれないんだから シンデレラ: なんかトゲがあるわね……。嫌な思い出でもあるのかしら ヴェルメリオ: ……これが映像スフィアの元になったんだよね ヴィルヘルミナ: ええ、そうよ。この結晶を元に、スフィアを通じて映像を記録したり、再生するだけじゃなく、他人と共有する仕組みまで作ったのよ シンデレラ: それもグリムがやったってわけ? ジャコヴァ: いや、レオナだ ティンカー・ベル: レオナ? ヴィルヘルミナ: 元コミッティよ。作家だけど創作系ではなく、カロラみたいに実用系作家と言われているわ ジャコヴァ: あいつもパラケルススとは違うタイプの天才だな ティンカー・ベル: へぇー、いろんなやつがいるんだね、コミッティって フアナ: 正直、あたしはどっちかっていうと新参だから、そのあたりの古株の人たちとは面識もないんだよね。できれば、会ってみたかったなぁ ジャコヴァ: そんなことはいい。さっさと見るぞ ティンカー・ベル: なんだかんだ、ジャコヴァは中身が気になっちゃってるの? ジャコヴァ: うるさい シンデレラ: 何が映ってるのかしらね シンデレラ: あっ、始まったわ。これって……見覚えがある風景のような ナーガ: これでも食らいなさい! はあああぁぁぁっ!! アシュラ: よし、退散していくぞ。これでなんとか全部だな ガルダ: しかし、不甲斐ない限りじゃな ディーバ: なんでよー? しっかり守りきったじゃん ナーガ: ワタシたちの使命は星の魔獣を追い返すことじゃない、倒すことよ。ガルダが言いたいのはそういうことよね ガルダ: その通りじゃ ガルダ: グランド・リヴィジョンの後、このポルタ島にある迷宮から出現するようになった、謎の魔物――通称『星の魔獣』は、この地域にとってまさに脅威 アシュラ: そいつらをぶちのめすために、主要な8部族からそれぞれ代表してこの島に来てんのが、オレたち8人。八武衆なわけだ アシュラ: なのに、追い返すばっかりで倒せねぇんじゃ、役割を果たしたとは言えねぇだろ? ディーバ: まーねー。だいたい、倒せなかったらうちら、ずーっとここにいることになっちゃう。ここで戦いながらお婆ちゃんになるとか、考えただけで泣きそうだよ ナーガ: あっちの甘ちゃんたちに任せてたら、それも現実になりかねないわね アシュラ: あんまり噛み付いてやるなよ。オレもあんな悠長なことは言ってらんねぇとは思ってるけど、あいつらは仲間じゃねぇか ナーガ: ……わかってるわよ ディーバ: ナーガは素直じゃないからねー。悪く言ったりしてみせるけど、結局は仲間のことは大事にするから、大丈夫だよ ナーガ: なっ……! べ、別にワタシはそういうんじゃなくて! ヤシャたちの行動も、まったく賛同してないし! ディーバ: ムキになっちゃって、かーわいいー♪ ナーガ: もう……! ガルダ: ま、いずれにしても、何らか対策は考えないといかんな ディーバ: やった、また釣れたよー! アシュラ: ディーバ、絶好調だな。見てろ、オレも大物を釣り上げてやるからな ナーガ: はあ……のんびり川釣りなんてやってていいのかしらね ガルダ: なにはなくとも腹は減る。食料調達は避けて通れんじゃろ。肉がいい、という話なら今日は我慢せい ナーガ: 魚は好きよ。そういうことじゃなくて ガルダ: 焦っても仕方あるまい。正面から星の魔獣とやりあっても勝てる見込みは薄い。修行してどうこう、などという生易しいレベルではない ナーガ: それは……わかってるけど ガルダ: ま。追い返すのが関の山、という防戦一方の現状が辛い、というのは分かる。わらわとて、辛くないわけではないのじゃ ディーバ: それも辛いけどさぁ ガルダ: 他にも何かあるのか? ディーバ: ずっと8人でさ、八武衆なんて言われて一緒にやってきたのにさ、こうして2つに分かれちゃってることが辛いんだよね ガルダ: ディーバは、みんな揃って何かするのが前から好きだったな ナーガ: 仕方ないわ。ヤシャたちは、星の魔獣と対話ができるんじゃないか……なんて甘っちょろいこと言ってるんだもの ナーガ: 私たち八武衆は星の魔獣から人々を守るのが使命。その使命に関わることで意見が割れてしまったら、行動をともにすることはできないわ ディーバ: ううー! わかってるけど! ナーガ: なによ、ワタシを責めてるわけ? ガルダ: もうよさんか。これ以上、分裂でもしたらいよいよ何もできなくなるぞ。単独で星の魔獣を撃退は無理じゃからな ナーガ: ……わかってる。ワタシもちょっと過敏になりすぎたわ、ディーバ ディーバ: ううん、うちもしつこく言い過ぎた。ナーガが譲れない理由も、知ってるのに ナーガ: そうね。特に、姉のことは……いえ、もうやめましょう ガルダ: それにしてもアシュラは、こうしたときも泰然自若じゃのう アシュラ: え、なに? わりぃ、聞いてなかった ディーバ: 会話に参加してなかった!? 305 - 八武衆だって女の子 ディーバ: あぁー! アシュラ: なんだよ、ディーバ。うるさいな ディーバ: いや、こうやってアシュラとふたりで無心になって武器の手入れしてたら、ふと不安になっちゃって アシュラ: 不安? 星の魔獣のことでか? ディーバ: んーと、まあ、そうなるかな アシュラ: オレでいいなら話を聞いてやるぞ ディーバ: うちらさ、こうやって魔獣と戦う毎日なわけじゃん? この島には、うちら八武衆と星の魔獣しかいないわけで アシュラ: 危険だからな。普通の住民が暮らすのは無理だろ ディーバ: そこだよ! 戦う日々も、それはそれでいいよ。けどさ、圧倒的に足りないものがあるでしょ! アシュラ: ……なんだ? 足りないもの? ディーバ: 男の子だよ、男の子! アシュラ: はあ? ディーバ: 恋愛しないうちに世界が終わっちゃうなんてシャレにならないよ! 一緒に戦う王子様風味のイケメンがいてくれたら、うちは別に戦い続けるのでもいい! アシュラ: 無茶苦茶なこと言ってるな ディーバ: だってさ、このまま恋愛とか何も知らないままなんて辛すぎるよ! せっかく可愛く生まれたのに! アシュラだって可愛いのに、もったいないじゃん! アシュラ: オレはそういう恋愛とか男とか、よく分からないな ディーバ: 男の子と遊んだりとか、したことない? アシュラ: あるぞ。よくチャンバラやって遊んでた ディーバ: そういうんじゃない~! アシュラ: 恋愛とかいうやつか。何をしたら恋愛なんだ? ディーバ: なかなか哲学的な質問だね……。それはうちもよくわかんないけど アシュラ: ディーバは前から、よく恋愛しなきゃだめ、って言ってたよな。経験豊富なんだろ ディーバ: ぜんっぜん アシュラ: えっ? そうなのか? ディーバ: だから焦ってんじゃん! 豊富だったら、そろそろうちも引退か……なんて、落ち着きまくってるっつーの ディーバ: 気になる人はいたんだけどねー。今回のこれで離れちゃったからなぁ。はぁ……とにかく恋愛は潤いなんだよ アシュラ: 潤い……。あっ、オレ乾燥肌だ。そういうことか ディーバ: 違うから! 関係ありません! ディーバ: そうだ、男と言えばさ、あのひとって何者なんだろ アシュラ: 男なんかいたか? ディーバ: ナーガが話してたじゃん。ヤシャたちのチームに、男の人が混じってたって。なんか、人間さん? って呼ばれてるとか、なんとか アシュラ: ああ、エルマイトが強いやつだろ。手合わせしてみてぇな ディーバ: アシュラはまた、そういう腕試し的な方向でしか考えないんだから…… アシュラ: でもさ、オレ本当に恋愛とか疎いから間違ってるかもしれないけど、普通に考えてその人間さんってヤツは、ヤシャたちの誰かと恋愛するんじゃないか? ディーバ: たまに的確なとこ突いてくるね……。うん、それが定石だよ、確かに…… ナーガ: あら、武器の手入れ? お疲れ様 ディーバ: あっ、ナーガ! いいところに! 人間さんとかいう男の人、紹介してよ! ナーガ: はあ? なに言ってるのよ ディーバ: 恋愛がしたいんだよぉー。こう、素敵な星空が見える場所でデートしたり、海辺で優しい言葉をかけられて、それで夕日が沈む頃に見つめ合って……きゃーっ! アシュラ: 星空なのに夕日が沈むのか? ディーバ: いいの、細かいことは! ナーガ: 恋愛ね……そういう感覚、忘れかけてたわ ディーバ: ふと思ったんだけどさ、星の魔獣ってこういう恋愛感情とかあるのかな アシュラ: 意思疎通できる、っていうのがキンナラの主張だからな。それがマジなら、感情もあるんじゃねぇか? ディーバ: 生まれたときから魔獣なのかなー、とかいろいろ考えちゃうよね ナーガ: そうね……個人的には気に入らないけど、でも……もしかしたら、あるのかもしれないわね ナーガ: 封印、ですって……? ガルダ: 迷宮内でプリオルという巫女に出会ったのじゃが、魔獣に関する情報を聞くことができてな ディーバ: うちらの身体と魂を迷宮に釘付けにすることが、封印を達成するための代償……ってことだよね ガルダ: ……これには8人揃わねば意味がない。ディーバはもちろんじゃが、ヤシャたちもどう反応するか、未知数じゃ アシュラ: オレは構わねぇよ。これで終わりにできるなら、安いもんだ ディーバ: うちも……うちも、それでいい ナーガ: ワタシも、もちろん賛成よ。いま、倒せないならそれが最善……姉のような被害者を出さずに済むわ ナーガ: 姉の復讐というだけで突き進んできたけどね。こんなもの長く続けられやしないのよ ナーガ: 怒りってね、瞬発力はあるけど持続力のあるエネルギーじゃないのよ。長く続ければ、続けるほど、自分の身体や心も蝕んでいく諸刃の剣なの ガルダ: ナーガ…… ディーバ: もう、いいんだよ、ナーガ…… ナーガ: な、ちょ、ディーバ、いきなり抱きしめるなんて、なにして…… ディーバ: もう、無理するのやめようね。これで終わりにできるんだから、復讐とか考えるのも、やめよう……? アシュラ: ……向こうの4人がなんていうかだな。つーか、合流しようってことだろ? 素直に受け入れてくれるか? ガルダ: どうじゃろうな。そこも賭けではあるが ディーバ: 大丈夫だよ。みんな、元は仲間なんだから アシュラ: ん、そうだな…… ナーガ: それで、その術式っていうのはどういう理屈なのよ ガルダ: そもそもグランド・リヴィジョンという大秘術が、この星の魔獣という現象を引き起こしておる。これは間違いないはずじゃ ガルダ: 実は手段は2種類ある。ひとつは、今回のように術式を上塗りして、魔獣を封印する方法。しかし、これは問題の先送りに過ぎん アシュラ: 上塗りが剥がれれば、下から出てくるのは同じもの、ってことだな ガルダ: さよう。もうひとつの方法とは、グランド・リヴィジョンという術式を反転させるというものじゃ ナーガ: 術式を反転……? ガルダ: 限りなくグランド・リヴィジョンに近いものを再現し、反転させることでグランド・リヴィジョンを無効化する…… ガルダ: しかし、術式が複雑すぎて、わらわには到底扱いきれん アシュラ: 無効化すれば、そもそもグランド・リヴィジョンで生まれた星の魔獣は、消滅する可能性が高い……ってわけか ガルダ: わらわの腕が足りぬばかりに、犠牲を強いる結果になって申し訳ないが…… ナーガ: なに言ってるの。封印する手段が見つかっただけでも御の字だわ ディーバ: さっ、ヤシャたちのとこに行こうよ! 306 - 難解な術式 ヴェルメリオ: ……これって シンデレラ: かつてオトギノクニの危機を救ったという伝説の英雄、八武神……。いまの映像の中でお互いに呼んでいた名前は、そのメンバーのものだったわ ティンカー・ベル: 確かに、なんか魔獣とか封印とか言ってたよね! それが危機を救うってことだったの? エミリー: 他にも仲間がいるみたいだったし、この記憶結晶にあったのは封印前の日常、っていう感じだったけど…… フアナ: ただ、気になるフレーズはいくつもあったね ヴェルメリオ: ……たとえば、星の魔獣っていうのが、グランド・リヴィジョンと関係ありそうとか フアナ: それに、無効化もできる――って言ってた ジャコヴァ: 思った以上に成果があったな ヴィルヘルミナ: オズの国と魔法の国に浮かぶ小さな島――ポルタ島の迷宮、その奥底にグランド・リヴィジョンの形跡があるの ヴェルメリオ: ……わたしたち、その迷宮を天空神殿に調査しろって言われた ヴィルヘルミナ: おそらく当時、グランド・リヴィジョンの術式に何か不備があったのね。それで星の魔獣という存在が出現してしまった フアナ: グランド・リヴィジョンの副産物だから、無効化すれば消滅できるはず……っていう考え方だったんだね。でも、無効化は困難で、仕方なく蓋をする形で封印を作った シンデレラ: 神殿が私たちに調査をさせたのは、その封印が解けてないかどうかという目的だったのかしら フアナ: でもこれで、ひとつの可能性が出てきたんじゃない? エミリー: 可能性って? フアナ: GR2は創造期以降の出来事が消えてしまうという大きなデメリットがあった。でも、無効化するなんて方法も実際にあるわけだよね ヴェルメリオ: ……術を、もっとコントロールできるものになるかもしれない? シンデレラ: それに何の意味があるのよ フアナ: それはグリム家次第だけど ジャコヴァ: ……なるほど ヴィルヘルミナ: わたしたちはディマイトにこだわっているわけじゃない。天空神殿の支配を壊せればいいだけ。それが成功すれば、過度なディマイト偏重を推し進める意味はないわね シンデレラ: つまり、本来の目的である、オトギノクニのエルマイトとディマイトのバランスをとることが、実現できる…… ティンカー・ベル: めっちゃいいじゃん! それでいこう! ヴェルメリオ: ……人間さんとの思い出が守れるなら、わたしはそれ、すごくいい案だと思う ジャコヴァ: 可能性の話でしかないがな。やった側として言っておくが、GR2のコントロールだなどと、言うのは簡単だが難しいと思うぞ フアナ: 例えば、パラケルススなら……? ジャコヴァ: ……! ヴィルヘルミナ: ここがアンダーフォールの終着点よ。このロックを外すために、ここまでついてきたってわけ ジャコヴァ: 変なのが上に来ないように、ゲートだけ作っといたんだ (この扉から左記の区画は管理範囲S3です。権限認証コードもしくは臨時通行許可コードのご提示をお願いします) エミリー: え、じゃあエミリーがいたから平気だったんじゃないのぉ? ヴィルヘルミナ: この権限はわたしと姉さん、それにアイソーポスしか持っていないわ (権限コードを確認しました。いってらっしゃい、ヴィルヘルミナ) ジャコヴァ: というわけで、私たちはここまでだ ティンカー・ベル: でもさ、権限はわかったけど、ジャコヴァは留守番で良かったんだよね。きっと、寂しかったんだよ ヴェルメリオ: ……そう考えると、ちょっと可愛いね ジャコヴァ: 何か言ったか? ティンカー・ベル: う、ううんっ、なんにもー? ヴィルヘルミナ: 気をつけてね、エミリー。危ないと思ったら無理しちゃだめ。他の連中を肉の盾にしなさい。あと甘いものばかり食べすぎないように、ちゃんと夜10時には寝て―― エミリー: もう、ヴィルってばうるさいよぅ! 子供じゃないんだからぁ シンデレラ: 夜10時……ねえ、そう言えば、これ ジャコヴァ: コミッティ支給品の懐中時計だな。もう持ってしばらく経つから、時間の概念は取り戻せているはずだ ヴィルヘルミナ: ちゃんとエミリーのお誕生日は盛大にお祝いしなさいね エミリー: やめてってばぁ ジャコヴァ: では、期待しているぞ、人間さん。シャルを救い、ついでにグランド・リヴィジョンもコントロールできれば大成功だ (背景切換...) ドロシー: これからまた、世界中を旅するのね リル: オトギノクニ全土に展開された、シェイクスピアのディマイト送信設備……これを順に破壊していくわけだな クレア: それを続ければ、シェイクスピアのほうから出てくるかも ドロシー: っていうのを期待してるんだけど、うまくいくかしらね デュプリ・ライブラ: ま、出てこなくてもGR2の妨害にはなるんで、目的から逸れてはないッスね ピュルテ: あの……その設備は、GR2のためのものなんですよね。GR2ってディマイトを増幅させる術なんですか? デュプリ・ライブラ: 必ずしも、そうじゃないんスけどね。でも世界の平和を乱しちゃうんで、良くないッスよね ピュルテ: ………………わかりました カカシ: おお、良かった! まだ出発されておられませんでしたか デュプリ・ライブラ: カカシさん? どうしたんスか、そんなに慌てて カカシ: 神官長から緊急連絡です。ディーテ大瀑布に行き先を変更せよ、と ドロシー: 出発が延期だなんて、肩透かしを食らった気分だわ ピュルテ: 延期といっても、明日には出発だそうですから クレア: だいばくふ、ってなに? リル: 大きな滝のことだ。しかし、小生もそれなりに世界を見て回ってきたつもりだが、ディーテ大瀑布とは、聞いたことがないな ドロシー: そこに、絶対に誰かに奪われちゃいけない、秘宝があるとか言ってたわね。ずっと行方不明だったらしいけど クレア: 悪い人が、神殿から盗んじゃったのかな ドロシー: そうなんじゃない? ねえ、ピュルテは知ってるの? そのナントカ大瀑布って ピュルテ: ………… ドロシー: ピュルテ? 大丈夫? ピュルテ: はっ! え、ええ、私もそう思います! リル: 明らかに聞いてなかったな ピュルテ: うう、ごめんなさい、ちょっとぼーっとしちゃってて リル: そんなに夢中になって、何を見ていたんだ? クレア: 絵を見てたの? 肖像画? リル: これは……デュプリ・ライブラか? ドロシー: ……ピュルテのあの左手の薬指……。あれって、もしかしなくてもヴェルが騒いでた、例の人間さんからの……? ドロシー: そうよね……。考えが違ったからって、嫌いになるわけじゃないんだから……。でも、ていうことは、本当に人間さんはピュルテに……? ピュルテ: あの、ドロシーさん ドロシー: えっ!? な、なに? ピュルテ: この顔、見覚えありませんか? ドロシー: だからデュプリ・ライブラでしょ? ピュルテ: いえ、そうじゃなくて……小さな島の地下迷宮を探索したこと、ありましたよね。あのとき見つけた絵のこと……覚えてますか ドロシー: あー、あれよね。飲み会の様子を描いた、古い絵よね ピュルテ: あのとき、描かれていた絵にこんな人がいたような気がして…… ドロシー: ……言われてみれば、いた気がするわ。ど真ん中にいた人よね ピュルテ: たぶん、いま思えば神官長様もいたような気がします リル: じゃあ神殿のイベントか何かを描いたんだろう。それがどうかしたのか? クレア: ピュルテは何が気になるの? ピュルテ: 確か13人、描かれていたと思うんです。十二迷宮なんて呼ばれてるのに12人じゃないんだ、なんて思ったので覚えてて ピュルテ: それで、ふと思いついたんです。じゃあ神官長様とデュプリ・ライブラさん以外の人たちは、どこにいるんだろうなって…… 307 - 森の気配 フアナ: ここが悪魔の森か……。悪魔だなんていうから、どんな強力な魔物が出てくるかと警戒していたけど、そこまでではないね ヴェルメリオ: ……でも、悪魔っぽい雰囲気はあちこちあるよ ティンカー・ベル: 見てよ、これ。絶対、毒持ってるよねって感じの草が生えてるよ。こっちはたぶん、虫とか食べちゃうタイプのやつ エミリー: なんか紫色の霧とか立ち込めてるし、少なくともピクニックしたくなる場所ではないよねぇ シンデレラ: あれは、何かしら フアナ: ……城、かな ヴェルメリオ: ……その城に、パラケルススがいるのかな フアナ: かもしれないね。ああでも、城は1つじゃないみたいだけど。向こうにもほら、シルエットが見える ティンカー・ベル: 一番近い城でも、かなり遠そうだね。こんな陰気な森を延々進むのかぁ…… ヴェルメリオ: ……う、うん。そうだよね、人間さんが言うとおり、これはシャルロッテのためだもんね。泣き言なんて言ってる場合じゃない ティンカー・ベル: あんまり気負いすぎちゃダメなんだからね、人間さん シンデレラ: 城に近づくにしても、慎重にいきましょうね。どんな罠が仕掛けられてるか分からないんだから エミリー: ヴィルたちが、パラケルススの居所を知ってれば話は早かったんだけどね ヴェルメリオ: ……この森のどこかにいることしかわからないんだもんね フアナ: もうずっと長いこと交流してなかったんでしょ シンデレラ: 城みたいな場所に住んでるなら、そうそう引っ越したりしないと思うのよね ヴェルメリオ: ……確かに、そうかも。ってことは城は関係ない? フアナ: 確証もないうちに近づくのはやめた方がいいかもね。誰が城主でも、城なんて周りに罠がいっぱいありそうだし。ね、人間さんくん―― フアナ: って、ちょっと、大丈夫!? 顔、真っ青だよ!? ヴェルメリオ: ……人間さん、しっかりして。足元もふらついてる。肩、貸すよ ティンカー・ベル: 急にどうしたの!? シンデレラ: どうしたの、もしかして病気? エミリー: 違う? 疲れが出ただけって、それほんとぉ? フアナ: とりあえず止まって休もう。いまここで無理に歩いたところで、大した進展は得られないんだし ヴェルメリオ: ……はい、人間さん。チョコだよ。こんなのしかないけど……少しは元気が出ると思うから シンデレラ: 記憶結晶を探してたときなんかは、わりと元気そうに見えたのに……やっぱり無理してたの? ティンカー・ベル: アンダーフォールは坂道だったけど足元は平坦だったもんね。ここは木の根っことかいっぱいあるし、歩きづらいから ヴェルメリオ: ……それに、すごく嫌な雰囲気の森。気分が悪くなるのもわかるよ シンデレラ: ちょっと、休める場所を探しながら進みましょう。どこかに小屋くらいあるはずだから (………………………。) フアナ: ふう……結構、歩いてきたつもりだけど…… ティンカー・ベル: 誰にも会わないし、なーんもないね エミリー: 魔物は嫌ってほど出てくるんだけどねぇ ヴェルメリオ: ……ジャコヴァからもらった懐中時計によると、かれこれ1時間は歩いてるね ティンカー・ベル: えっ! ずきんってば、いつのまにその時計の見方なんて覚えたの? ヴェルメリオ: ……姐さんに教わったの。覚えてみたら、意外と簡単だし便利だよ シンデレラ: 魔法の国では、時計は普通に使われてるから、見方を教えるくらいできるわ ヴェルメリオ: ……人間界にもあるんだもんね。覚えておかないと不便かなって エミリー: 圧が強いなぁ ヴェルメリオ: ……それにしても、わたしの故郷の森でも、もうちょっと人と会うけど エミリー: そもそも誰も住んでない森なのかもしれないねぇ フアナ: そんなところに住んでるパラケルススって……どう考えてもマトモじゃないよね……。偏屈とは聞いてるけど、それなりに話が通じる人だといいなあ…… ヴェルメリオ: ……ちょっと、待って。もう、ここで一旦休んだほうがいいと思う シンデレラ: 人間さん……。かなりふらついてるわね。ティンカちゃん、荷物から寝袋だけ出してもらえる? ティンカー・ベル: うん! とりあえず、横になって休むだけでもね エミリー: 人間さん、いいから。今はみんなの気持ち、もらっとこ? フアナ: ……ずっと薄暗い森だから気づきにくいけど、もう夕方だし……このまま野営してもいいかもしれないね ティンカー・ベル: んじゃ、そのままテントとかも出しちゃおっか (………………………。) フアナ: この変な霧……どんどん濃くなっていく気がするね ヴェルメリオ: ……人間さん、お水飲んで。ちゃんと飲み水、まだたくさんあるから シンデレラ: ……熱が下がらないのね ヴェルメリオ: ……うん。ちょっと触っても熱っぽいのすぐわかるくらい。汗もすごくかいてるし フアナ: 本当なら野営じゃなくて、宿屋で休ませてあげたいところだけど…… ティンカー・ベル: 町どころか家の一軒も見当たらないもんね フアナ: ……? 待って、誰か近づいてくる気配がする サラマンダー: あなたたち、何してるの。こんなところで ティンカー・ベル: や、やっと人に会えたー! サラマンダー: ……何か光が見えると思って来てみれば、こんなところで焚き火なんてして。魔物に食い殺されても知らないわよ エミリー: えっと……お姉さんは、この森に詳しいの? サラマンダー: このあたりにまで来るようになってから、そんなに長くはないけど……まあ、それなりには知ってるつもりよ シンデレラ: 実は、私たちの仲間が病気になってしまったの。どこか落ち着いて休める場所はないかしら。炭焼小屋とか ヴェルメリオ: ……あと、できれば川とか、水を補給できる場所を教えてほしいの。お願いします サラマンダー: ……ふうん。まあ、いいわ。ついてきて。それから、私のことは……サラって呼んで 308 - 管理小屋の休息 サラマンダー: ここは物置だから、特に誰かが来るわけじゃないし、気兼ねなく使ってもらって問題ないわ ヴェルメリオ: ……ありがとう。すごく、助かった。人間さん、ほらこっちに来て ティンカー・ベル: この作業台、ベッド代わりになりそうだよ。ほら、こっちのクッション使わせてもらってさ サラマンダー: それじゃあ、私はこれで フアナ: こんな夜に森に戻るなんて、サラは何をしている人なの? サラマンダー: ……強いて言うなら管理人……? みたいなものかしらね。別に仕事でもなく、勝手にやってるんだけど サラマンダー: じゃあ、あとはうまくやって。小屋の中の道具も自由にしてもらっていいわ。役に立つものはあまりないと思うけど エミリー: よかったねぇ、やっと誰かに会えて、その最初の人が親切な人で。人間さん、ラッキーだよぅ? シンデレラ: 答える気力もない、って感じね……。考えたら、人間界からオトギノクニに来てずっと、旅をし続けて……ずっと元気でいてくれたんだもの。普通、病気の1回くらいするわよ フアナ: そうだよね。慣れない環境だし、とんでもないことに巻き込まれて、ストレスもすごかったはずだから ヴェルメリオ: ……疲れとか、いろんなものが、一気に出ちゃったのかもしれないね エミリー: とりあえず、もう夜も遅いしエミリーたちも休もう? ヴェル、最初に言っとくけど、ひとりで看病しようなんて思わないこと。いい? ティンカー・ベル: うんうん、ずきんはすぐ無理しようとするからなぁ ヴェルメリオ: ……うっ、わ、わかった シンデレラ: 急ぎじゃないわけでもないけど、ここはゆっくり休んで体調を整えたほうがいいわ。あれこれ考えずに休んでね、人間さん エミリー: うーん……困ったねぇ。さすがにこれはヤバいかもだよねぇ ティンカー・ベル: あれから3日も経つのに、ちっとも良くならないなんて…… シンデレラ: さすがに3日も高熱を出し続けてたら、体力的にも危ないわ。なんとか対策を考えないと ヴェルメリオ: ……ただの疲れとかストレスじゃないってことだよね フアナ: うん、ここまで続くなら何か別のことが起きてるんだ。それが病気なのか、はたまた違うものなのかは分からないけど…… ヴェルメリオ: ……この森の、なんか嫌な感じの空気、これが関係してるのかな エミリー: かもしれないねぇ。本当は、この森で採取した食べ物とか水も、本当に大丈夫ぅ? って思っちゃうけど シンデレラ: 森で採った食材の安全性は、少なくとも人間さんの不調とは関係ないわよ。私たちはなんともないんだし フアナ: ……でも、森に入ってから不調になったのも事実だよ。足を踏み入れてすぐだったから、食べ物とかではないと思うけど サラマンダー: なに、まだいたの ティンカー・ベル: あっ、サラ! よかった、ちょっと相談したいことがあって サラマンダー: 彼の体調、戻らないのね ヴェルメリオ: ……あ、うん。そうなの サラマンダー: シルフィードも入って。やっぱり私の予想した通りみたいよ シルフィード: ああ、これは強いエルマイトですね シンデレラ: あなたは……サラの仲間? シルフィード: 申し遅れました、シルフィードといいます。観察したところ、皆さんのお仲間はかなりエルマイト量が多いようです。おそらく、それが原因でしょう フアナ: エルマイトが原因なの!? ヴェルメリオ: ……でも、わたしたちは平気だよ。ディマイト堕ちしてるわけでもないのに サラマンダー: ディマイト『堕ち』、ねぇ…… シンデレラ: え……? なに、どういう意味……? シルフィード: 彼は、そもそもの保有量が皆さんとは桁違いですし、それに純度も高いようですから サラマンダー: 彼が回復することはないわ。何しに来たのかしらないけど、諦めたほうがいいんじゃないかしら ティンカー・ベル: そんな……! シルフィード: サラ、あまり意地の悪い言い方をするものではありませんよ サラマンダー: 別に、そんなつもりないけど ヴェルメリオ: ……わかった。人間さんには地上に戻ってもらおう ティンカー・ベル: え、ちょっと、ずきん!? 本気で言ってるの? ヴェルメリオ: ……これ以上、苦しんでるところなんて、わたし、見てられない ティンカー・ベル: それは……うん、そうだよね…… シンデレラ: やむを得ないわね。人間さんなしで、私たちがどこまでやれるかわからないけど、このまま強行突破はできないわ シルフィード: ……可能性でしかありませんが、1つ方法があります サラマンダー: はあ? なにそれ? シルフィード、どういうつもり? シルフィード: おそらくですが、中和剤を使えば症状はかなり軽減できると思います フアナ: 中和って、エルマイトと、ディマイトを、ってこと? ヴェルメリオ: ……それ、使った人に副作用とかあるの? シルフィード: まったく同じ症例がないので、そもそも中和剤が作れるかどうかもわかりません。先生に相談してみないことには サラマンダー: ちょっと、中和剤って……。あの子と同じだっていうの? シルフィード: 同じではありませんが、応用できるのではないかと考えています ヴェルメリオ: ……そんなリスク、無理だよ。戻って静養してもらうほうが……あっ、人間さん!? だ、だめ、寝てなきゃ フアナ: ……人間さんくんは、やる気なんだね エミリー: 人間さんなら、そういうと思ってたけどねぇ…… ヴェルメリオ: ……本当に、いいの? 絶対にやらなきゃいけないことじゃないと思う。それでも試すの? シンデレラ: まだ中和剤ができるとも限らないのは、確かにそうね。まずは話を詳しく聞いてみるべき…… シルフィード: 話は決まったようですね。では、ご案内しましょう。私たちの拠点に 309 - 転移装置 クレア: あ、きたきた ドロシー: ……っ! ドロシー: ふうっ……。えーと、着いたのよね? この転移装置ってやつ、慣れるまでに時間がかかりそうね ピュルテ: すごい装置ですけど、到着直後はなんだかふわふわして浮いてるような気分ですね リル: そうか? 小生はもう、胃がムカムカして……はぁ、できるだけ最小限の使用にとどめたいものだな クレア: 私はなんともないけど カカシ: 副作用は個人差がありますから。感じ方は人それぞれです ドロシー: それで? なんだか陰気な森ね カカシ: かなり広い森林地帯の、ここはほぼ縁の部分です。少し歩けばディーテ大瀑布に出られます リル: そこに失われた秘宝がある、という話だったな カカシ: 今後のディマイトとの戦いをも左右する可能性がある、と聞いています。心して任務に臨まれますよう カカシ: 強力なディマイトで世界を危機に陥れてしまうかもしれないとか ピュルテ: そんなディマイトアイテムがあるんですか……! それを壊せばいい、ということですね カカシ: あ、いえ、破壊ではなく回収するようにとのご命令ですね ドロシー: そんなもの回収してどうするのよ カカシ: 解析して、エルマイトに転用できないか、などを調べるのではないでしょうか。私もそのあたり、詳しくないのですが リル: ふん、なるほどな。しかし、ディマイト側は何故それを利用しないんだ? カカシ: 単純に、今は誰もその存在に気付いていないのでしょう。だからこそ、今のうちに回収する必要があるのです ピュルテ: 使われてしまったら大変ですからね! わかりました、皆さん頑張りましょう クレア: おーっ リル: ……ああ、必ず任務は達成してみせよう。ピュルテがそう言うなら リル: 甘い……っ、小生は常に3手先を読んでいる! はあっ! クレア: おぉー、一撃だ。お見事。さすがリル、かっこいいね ピュルテ: そうですね、クレアさん。リルちゃんの剣さばき、すごく様になるし実際に強いし、頼りになります! ドロシー: けど、このあたりの魔物、ちょっと今までよりも手強いわね。それに森全体が、なんていうか、こう…… ピュルテ: ディマイトに満ちている……ですよね。カカシさん、ここはどういう場所なんですか カカシ: うむ、ピュルテの言うとおり。ここはディマイト濃度がかなり高いエリアだ リル: なあ、カカシ殿。以前から少し気になっていたことがあるんだが カカシ: なんでしょう リル: GR2のためにシェイクスピアがディマイト送信装置を作ったりしているだろう。ああいった装置は、天空神殿にはないのか? ドロシー: そうよね。同じようなものがあるなら、戦い方も変わってくるわね カカシ: …………そうですね カカシ: 残念ながら、そういったものは開発できていないというのが実情です カカシ: 奴らは資源であるディマイトを独占している。一方、天空神殿はオトギノクニの全員に平等に分配しています。研究開発に回す余力などないのですよ クレア: じゃあ地道にがんばるしかないんだね。大丈夫、私は地道にコツコツやるの、嫌いじゃないよ ピュルテ: あ、そうなんですね。一気にババーンといくのが好きなのかと思ってました クレア: そういうのもカッコいいけど、地道なのも大事って知った。筋トレとかで ピュルテ: 筋トレって万能ですね…… ドロシー: そろそろ日も暮れてきたし、ちょっと早いけどここで野営するわよ。みんな、準備して リル: なんだ、テントなんて持ってきてるのか クレア: えっ、リルも世界中を旅してきたんじゃないの リル: 小生は一人旅だしな。焚き火したり、石でかまどを作ったりはするが、テントは張らないな クレア: どうやって寝るの? リル: 木に寄りかかって、こう…… クレア: 座って寝るんだ。なんか達人っぽくていいね。でもお尻痛そう ピュルテ: リルちゃん……大変だったんだね。でも、もう大丈夫だよ。テントとか備品もわりと充実してるし、それになんといっても食生活が充実してるの! リル: あー……それ、ヴェル殿が作るから、だろう……? ピュルテ: あっ……。そ、そう、だった……。ごめん…… クレア: え、じゃあ誰が作るの? ドロシーはだめだよ ドロシー: なんで即座に却下するのよ! まだ立候補すらしてないじゃない! クレア: リルは作れるんでしょ? ずっと一人旅だったんだし リル: いや、まあ、できなくはないが。正直、クレア殿の期待しているようなものは出せないぞ クレア: 代表作は? リル: 野生動物の丸焼き クレア: ピュルテ、お願いします リル: だ、だから言ったじゃないか! それにあれだ、材料さえあればナヴァランだって作れるんだぞ。殿下みたいに美味しくならないが…… ピュルテ: じゃ、じゃあ私、がんばってみます! いつも、すっごく時間かかっちゃうんだけど…… ドロシー: ピュルテだって人間界では一人で暮らしてたんでしょ? 慣れてるんじゃないの? ピュルテ: あうう……ここぞっていうときのために練習はしてたんですけど、レシピサイト見ながらめちゃくちゃ時間かけてじゃないとダメで…… クレア: サイトってなんだろ。でも、毎日やってたら慣れそうなのに ピュルテ: うっ……すみません、週4でデパ地下のお惣菜を買って帰ってました……。あとの2日はデリバリー、残り1日は合コンとかで…… ドロシー: よく分からないけど、戦力になるのは私しかいないようね クレア: だめだってば カカシ: あの……良ければ、僭越ながら私が…… 310 - ピュルテの後悔 クレア: ごちそうさま。普通に美味しかった カカシ: 今後が心配ですな……。私も毎回、同行するとは限りませんよ ピュルテ: 精霊なのにお料理できちゃうんですね。ううっ、私も、もっと練習しておけばよかった……。ヴェルちゃんは偉大だったんだなぁ…… クレア: 手元にある素材でなんとかしちゃうもんね。ある意味、お店よりすごいと思う ドロシー: クレアは食べるの好きなくせに、なんで作らないのよ クレア: 役割分担だと思ってた。私は食べる人って リル: それは役割とは言わないだろ…… ドロシー: シンデレラも結構、手際よくパパッと作っちゃうもんね。ちょっと味付けが濃いけど ピュルテ: ……皆さん、すみません ドロシー: まあ、しょうがないわよ。当番制にして、みんなで少しずつ慣れていけばいいじゃない クレア: だからドロシーはだめなの ピュルテ: そうじゃなくて……! こうして別々になってしまったのは、私の責任でもあるじゃないですか……。本当はみんな、一緒にいられたかもしれないのに ドロシー: 元はと言えばヴェルが、神殿に反発したのが始まりでしょ。それに追随した人がいた。ピュルテは関係ないじゃない ピュルテ: ……状況は、そうなんですけど。でも、もっとうまくできたんじゃないか、って考えてしまうんです ピュルテ: あのとき、私は自分が正しいと信じて、思ったことをストレートにぶつけてしまいました。もちろん今でも、正しいとは思ってますけど リル: やりようがあったんじゃないか、もっと反発せずに穏便にまとめる方法があったんじゃないか……ということか ピュルテ: うん…… リル: あの時点での対立は方法論で避けられる類のものじゃなかっただろう。ピュルテの責任じゃない リル: それに、少なくとも小生は言ったはずだぞ。ピュルテが行く場所が、小生の行く場所だ。必ずお前を守ってみせる リル: だから仮に、分裂したことがピュルテの責任だとしてもだ、小生には関係のないこと ピュルテ: リルちゃん…… リル: ………… リル: こそこそ隠れているのはらしくないんじゃないか、ドロシー殿 ドロシー: 隠れてるつもりなんてなかったわよ。リルに気付かれないで後ろに立てるはずないでしょ。みんなを起こしたくなかっただけよ ドロシー: リルこそ、ひとりでキャンプからこんなところまで抜け出してきて、どうしたのよ リル: 少し……気持ちを落ち着けたかっただけだ。今夜は、寝付きが良くない ドロシー: 心配事があるからじゃないかしら リル: かもな ドロシー: ……リルは、今回の別行動はどう考えてる? というか、リルはそもそも私たちに合流したのは最近だけど リル: 合流というのは、コミッティ本部前での戦いのことを言っているのか? であれば……小生はその頃から一貫しているつもりだが リル: さっきピュルテ本人に言っただろう。あれがすべてだ ドロシー: ピュルテが行く場所が、小生の行く場所だ――っていう、あれのこと? ドロシー: つまりリルは、ピュルテを守るためだけにこっち側にいるってことね。天空神殿のことを信用してるわけじゃない…… リル: ああ、そうだ。ドロシー殿と同じくな ドロシー: ………… リル: この際だ。腹を割って話さないか。そのほうが、いろいろと有益だと思うが ドロシー: ……ええ、望むところだわ リル: もっとも、100%建前というわけでもないんだろう。おそらく、ディマイト推進派のグリムにやすやすと協力していいのか、という疑問自体は感じているんだな? ドロシー: まあね。エミリーは好きだけど、ほかはどこまで信用していいのか微妙だわ リル: ジャコヴァとヴィルヘルミナ、あのふたりは相当な食わせ者だと思うぞ。目的のためなら、おそらく妹でも利用する リル: だが、逆に言えば味方につける方法も明確ではあるがな ドロシー: ええ。信用できないけど、少なくとも今の時点で決定的なものはないわ リル: ……ドロシー殿は、何を気にしている ドロシー: ヴェルザームよ ドロシー: 3つあると言って場所を教えてくれたクラーケン様、実は7つあるって書かれた本を収蔵するビブリオ・アンティーク、そして…… リル: あの局面で7つ目を持って現れたデュプリ・ライブラ……つまり、天空神殿だな ドロシー: 当初はクラーケン様がもうろくしたんだと思っていたわ。ご高齢みたいだし、仕方ない……。うん、まあ死にかけたんだから、仕方ないじゃ済まないんだけど リル: 3つだけの使用で暴走したという、雪の国の出来事だな ドロシー: 私はそれも疑ってるわ。7つあると書かれた図書館の資料、そしてあの事故から導き出された推測にすぎないでしょ リル: 事故は事実だろう ドロシー: 事故そのものはね。でも、原因は? 『3つだから暴走した』のか、それとも……『3つの属性が一致しないから暴走した』のか…… リル: なんだと? ドロシー: フアナの話、覚えてる?シェイクスピアがヴェルザームをディマイトの増幅に使ってたって。つまり、ヴェルザームはエルマイト、ディマイトそれぞれ属性があるんじゃないかしら リル: ……! なるほど、興味深い推理だ ドロシー: 7つ揃わないと不完全だと、フェルディナはハッキリ言ったらしいわ。でも、あの時点のあの人が真実を把握してると思う? ドロシー: 7つのうち、いくつがエルマイトなのか事実は分からない。でも、もし3つだとしたら……クラーケン様は『エルマイト属性の』ヴェルザームの場所を教えてくれたのかもしれない リル: なるほど。ディマイトに対抗するという趣旨で質問したのなら、その回答はむしろ的確……いや、待て。それでは理屈が合わない。みんなが集めたのは、その3つだろう ドロシー: つまり、すり替えられた可能性が―― デュプリ・ライブラ: あれー? こんな夜中にお散歩ッスか? ドロシー: ――っ!? リル: デュプリ・ライブラ……! どうして、ここに デュプリ・ライブラ: 陣中見舞いッスよ。それにしてもいけないなぁ、こんなところで魔物に襲われて万一のことがあっちゃいけないのに デュプリ・ライブラ: カカシにはよく言っておかないと。監督責任があるんスよ、って…… 311 - めんどくさそうな先生 サラマンダー: 先生! ちょっと相談があるんだけど シルフィード: お留守かな。いや、そんなはずはないか ティンカー・ベル: なんか、また変な場所に来ちゃったね……。その先生ってひとがマトモだといいんだけど…… エミリー: これ絶対、めんどくさい人が出てくるパターンだよぉ ???: 他人の領域に踏み込んでおいて、その言いぐさはどうかと思うけどね ティンカー・ベル: うわぁっ!? で、出た! サラマンダー: あっ、先生。ちょっと相談があって ???: あー、いい、いい。どうせその、死にかけた男を救ってくれとか、そういう話なんだろ。もう予想はつくんだよ、こういうのは シルフィード: さすがは先生です ヴェルメリオ: ……あ、あなたが先生? お願い、人間さんを助けてほしいの ???: そんなことより、ここが悪魔の森って呼ばれてるの知ってる? わざわざこんなところに入るなんて、死にに来たの? フアナ: あたしたちはパラケルススって人に会いにきたんだ。お願いしたいことがあって ???: その男を治してやってくれって? ヴェルメリオ: ……ううん。人間さんのことは別だよ。途中で急に具合が悪くなったの ???: じゃあきみたちは、オトギノクニ最高の錬金術師と言われたパラケルススを相手に、2つもお願いごとをしようっていうの? シンデレラ: え、2つって……まさか パラケルスス: そう、ぼくがパラケルススだよ フアナ: そ、それなら話が早い。実は仲間が妙な銃で撃たれて意識が戻らないんだ パラケルスス: いや、そんなことより ヴェルメリオ: ……また『そんなこと』って言った……! エミリー: ちょっとヴェル、ここは冷静にならないとダメだよぅ パラケルスス: サラ、森の様子はどうだった サラマンダー: この人たち以外は、特に変わったことはなかったよ。あと、これっ。先生が好きって言ってたベリーをたくさん摘んできたの パラケルスス: ふーん。ま、あとで食べるか サラマンダー: やったぁ! 先生に褒められたわ ティンカー・ベル: 今の会話で褒められたことになるのか……? シンデレラ: ごめんなさい、あなたにとって優先順位が低いことは重々承知しているわ。突然お邪魔して頼み事というのも不躾だと思う。改めてお詫びします シンデレラ: その上で、聞いてください。私たちにはおそらく、あまり時間が残されていないんです。少なくとも目の前の問題については…… パラケルスス: その男のことだね? そんな身体で、よくこの森に来ようと思ったよ。自殺願望があるとしか思えない パラケルスス: ん? どこかで見た顔だと思ったら、きみは魔法の国の未亡人かい? シンデレラ: 私を知ってるの? ティンカー・ベル: 姐さんのこと知ってるなら、もっと言うこときいたほうがいいよ! なんせ、あのシンデレラ帝国のトップなんだから! シンデレラ: ちょっとティンカちゃん、下手に出ないとダメよ! パラケルスス: へぇ、あの泣き暮らしてた未亡人がね。シンデレラ、くだらない駆け引きは気にしなくていい。ぼくは、ぼくの好きなようにするから フアナ: お願いだよ、見るだけでも見てほしい。彼の身体で何が起きているのか…… パラケルスス: 簡単なことだよ。エルマイトが過剰なんだ パラケルスス: これを解決しようと思ったら……そうだね、中和剤を使うのが良さそうかな シルフィード: やった。私が最初に出した意見、先生とまったく同じだ。聞いてた? サラ サラマンダー: 聞こえたわよ。鬱陶しいわね パラケルスス: これはエルマイトが強すぎるがために、ディマイト濃度の高いこの地域に対して拒否反応が起きてるんだ。つまり、エルマイトを中和すればいい ヴェルメリオ: ……うまくいくの? パラケルスス: ぼくを誰だと思ってるの。こんなの、見れば分かるから ティンカー・ベル: じゃあ……! パラケルスス: たださぁ、ぼくが彼を助ける必要性ってなに? フアナ: えっ……必要性って、えっと パラケルスス: ぼくはきみたちに何の義理もないよね? どうして助けなくちゃいけないのかな? ヴェルメリオ: ……お願い。なんでもするから パラケルスス: あーあー、軽いな。なんでもする、という言葉のなんて軽いことか ヴェルメリオ: ……軽くなんかない。人間さんのためなら、わたし……っ パラケルスス: そこまで言うならチャンスをやろう。文字通り、命を賭けてもらう。それだけの覚悟があるんだよね? ヴェルメリオ: ……あるよ。それで人間さんを助けられるなら パラケルスス: ふふんっ……いい顔だね。わかった、それじゃ課題をあげよう。至極、まっとうな要求だよ。その中和剤を作るために必要な材料の収集……それがぼくからの課題だ パラケルスス: 問題はただ1点のみ……死ぬ可能性があるってことだけだ 312 - 目指すは滝の向こう ピュルテ: はあああああっ!! クレア: おー、今日のピュルテは気合いが入ってる ピュルテ: 皆さんに頼り切りってわけにはいきませんから! がんばります! カカシ: このまま、西にまっすぐ向かえば森を抜けられます。皆さん、くれぐれもはぐれたりしないように。いいですね クレア: ちびっこじゃないんだから、迷子になんかならないよ カカシ: あくまでも念のために申し上げてるんですよ。念のために……ね ドロシー: ……リル。私たち、ずいぶん警戒されちゃったみたいね リル: なに、カカシ殿はデュプリ・ライブラにあれこれ言われてナーバスになっているだけだろう。深く考えてるわけじゃない ドロシー: 神殿を信頼してますって顔、もう少し続けるつもりだったのに誤算だったわ。あんなところにデュプリ・ライブラが来るなんて リル: そうだったのか? 小生は、神殿の信頼を得ることは最初から諦めていたからな。この現状も、痛くも痒くもない ドロシー: まあね。リルは、あの変なお菓子を配って歩いてたくらいだから…… カカシ: おふたり、遅れないようにお願いしますよ! ピュルテ: どうしたの、リルちゃん。ドロシーさんも。もしかして足を痛めてしまったんですか? リル: ああ、大丈夫だ。問題ない。確かに道は悪いが、この程度でどうにかなるほど、小生は弱くないぞ ドロシー: 私だって。ピュルテこそ、まだまだ病み上がりなんだから無理しちゃだめよ クレア: そうだね。たぶん、変な場所なんだろうし ドロシー: 変な場所? クレア: だって、転移装置で飛んできてからここまで、誰とも会わないよ。それって、誰も住んでないってことでしょ ドロシー: 誰も住まない森……確かに、変な場所かもね リル: まあ、森も広いようだからな。会わないからといって住民がいないと断定するには早いと思うが クレア: 町がないのが悲しい。新しいごはん屋さんを開拓したかった ドロシー: この峠から、ディーテ大瀑布の近くに出る道があるのよね? なんだか、あまりにも森が深くて、抜け出せる気がしないけど リル: ……この濃密な気配。おそらくディマイトだな。そうだろう、ピュルテ ピュルテ: うん。こんなに強いディマイト、久しぶりに感じる。レグルス教国でシェイクスピアと対決したときよりは、いくらかマシだと思うけど リル: ピュルテは感知能力を持っているだろう。強いディマイトにさらされて、辛くはないのか? クレア: そっか。感じられるってことは、嫌なこともいっぱい入ってきちゃうんだよね。お休みする? ピュルテ: あ、いえ、大丈夫ですよ。感知できるといっても、身体の中に取り入れるわけではないですから。すごく不快ではありますけど ドロシー: 旅するのに弊害になるほどではない、ってことね。本当でしょうね。嘘だったら殴ってでも休ませるんだから リル: ドロシー殿、殴ったらダメージが上乗せされるだけだぞ ピュルテ: あはは、大丈夫ですって。それに、すごく体調もいいんです ピュルテ: もう、あの変な声もまったく聞こえなくなりました。コミッティ本部で操られたとき、皆さんが浄化してくださったおかげです リル: ……もう、声は聞こえないのか? ピュルテ: うん、全然。やっとペローに勝てたんだよ。リルちゃんも、私のためにあんな……あっ。ご、ごめん。思い出したらちょっと恥ずかしくなっちゃった クレア: なになに、どういうこと? リル: な、なんでもないから、クレア殿は掘り返さないでくれ! リル: そうか……声は聞こえない、か…… リル: そう言えば……作家の能力というのは未だに不明瞭なままだな……。ペローは、どうやってピュルテを操ることができたんだろう…… ドロシー: やっと森を抜けたと思ったら、今度は山登り? 私はこれくらいなら平気だけど、みんな大丈夫? ピュルテ: ええ、大丈夫です! 他の皆さんも大丈夫ですよね。たぶん、この中だと私が一番、体力がないと思うので…… カカシ: ひぃ、はぁ、はひぃ……あ、あの、休憩にしませんか クレア: カカシがへばっちゃった ドロシー: しょうがないわね、もう カカシ: あ、ほら、あれを見て下さい。ここから大瀑布の一画が見えますよ クレア: うわ、すごい。水が空からどばどば落ちてきてるみたい カカシ: 私はこの景色を皆さんに見せるために休憩しようと…… リル: 嘘をつくんじゃない ドロシー: すごいわね。このちょっと湿気がある感じ、水しぶきの一部がここまで飛んできてるってこと? ピュルテ: 相当な高さですからね。落ちる途中でいろいろなところに当たって、しぶきが跳ねてるんだと思います リル: ……なあ、カカシ殿。ひとつ教えてもらえないか カカシ: はあ、なんでしょう リル: 作家はどうやって小生たちを操ることができる? カカシ: ……何故、そんなことを リル: そう警戒するな。元はと言えばカカシ殿は、小生があのディマイト入りの菓子をチューチラ殿に食べさせたからこそ生まれたディトルパ……間接的には生みの親のようなものじゃないか カカシ: 確かに、あなたの行動なくして私は生まれなかったかもしれませんが…… リル: 小生はただ、ピュルテが心配なんだ。本当に安心していいのかどうか カカシ: ………… リル: 悪いようにはしない カカシ: 私とて、ただの下っ端精霊に過ぎません。皆さんに倒されてチューチラから離れて以降、さまよっていたところを天空神殿に拾われただけ…… カカシ: 知識も技術もなければ、信頼も言うほど得ていませんのでね リル: だが、何か知ってるんだろう? カカシ: 業務中にたまたま聞いた程度ですが…… カカシ: 作家が人物を操るのは『作品理解』という概念が重要だそうです。自らに紐付いた関係なら、理解が高いので操ることができるのだと リル: ……『作品理解』か……。ということは、ペローにとってピュルテは、自らに紐づく存在、ということか……? リル: 人間さん殿がいれば、人間界の知識と突き合わせることもできたのだがな…… 313 - ヴェルの覚悟 ヴェルメリオ: ……フアナ、ここまでの道って把握できてる? フアナ: あ、うん。大丈夫だよ。今のところ順調だと思う ヴェルメリオ: ……ありがとう。助かる。わたし、方向音痴だから…… フアナ: あたしはこれでもトレジャーハンターでもあるからね。これくらいはお安いご用だよ。けど…… フアナ: ヴェル。あまり、思いつめすぎないようにね ヴェルメリオ: ……わたし? 思いつめてなんかないよ。ただ、気合が入ってるだけ。わたしが……人間さんを助けるんだから (背景切換...) (――数時間前――) エミリー: えっ……死ぬ、可能性……!? ティンカー・ベル: だ、だって、その中和剤とかいうやつの材料を集めてくるだけなんでしょ!? なのに、なんでそんな危ないことになるわけ? シルフィード: 皆さんは中和剤の材料をご存じないですよね? なのに、どうしてそんな発言になるんです? ティンカー・ベル: うっ……そりゃ、そうだ……。そんなヤバい材料なわけね シンデレラ: 仕方ないわ。今の私たちには手段を選ぶ余裕なんてないもの。リスクは承知で、行くしかないでしょうね フアナ: それがスジってもんだろうね。そんな危険な材料集めなら余計に、あたしたちが行くしかない。人に行ってきてくれ、なんて頼めるものじゃないよ ヴェルメリオ: ……大丈夫。わたしは覚悟、できてるから パラケルスス: なるほど、強い目をしている。覚悟とやらは口だけじゃなさそうだ。サラ、地図を サラマンダー: はーい。先生、これでいい? パラケルスス: うん、そうそう。いいかい、これが今いる場所。ぼくの研究所だ。問題の洞窟はここにある エミリー: 思ったより近いねぇ パラケルスス: 素材リストとアイテム図鑑は貸し出してあげよう。はっきり言うけど、洞窟の中にはヤバい魔物がうじゃうじゃいる サラマンダー: 行ったことあるけど、この私でさえ苦戦したからね ティンカー・ベル: へっへーん、ティンカたちみんな揃えば最強なんだから。まっかせなさーい パラケルスス: あ、だめだめ。全員でぞろぞろ行くのはナシだよ エミリー: えっ、ど、どういうことぉ? パラケルスス: 洞窟に入れるのはここにある、この腕輪を装備した人だけなんだ。そして、腕は2つ。つまり……きみたちの中の、ふたりだけでやり遂げてもらうことになるね ヴェルメリオ: ……ストップ。この先、気配がする。移動してるみたい ヴェルメリオ: ……こっちの戦力は充分じゃないし、できるならやり過ごしたほうがいいよね フアナ: あ、ああ、そうだね。……いやあ、すごいなぁ ヴェルメリオ: ……え? 何が? フアナ: 普段のヴェルじゃないみたいだなと思って。それだけ人間さんくんのことに一生懸命なんだな、ってすごく実感しちゃって ヴェルメリオ: ……なんか、照れる ヴェルメリオ: ……フアナも、付いてきてくれてありがとう フアナ: えっ、い、いやぁ、あたしが行くべきかなって。だってシンデレラとエミリーは立場的に、万一があっちゃだめだし ヴェルメリオ: ……それでも、嬉しかったの。背中、預けるからよろしくね フアナ: う、うん…… フアナ: やばい、不覚にもちょっとドキドキしてしまった……。女の子は恋すると可愛くなるっていうけど、いまのヴェルってその状態なのかもね ヴェルメリオ: ……こっち、進めるみたい。合図するから、一気に入るよ フアナ: 1、2……3! いた、魔物だ! はああっ!! ヴェルメリオ: ……奥にいるのは、任せて! 一撃で……射抜くっ! (…………………………………。) ヴェルメリオ: ……だいぶ進んだ気がするんだけど、まだまだなの? フアナ: えーと、さっきの横穴がここだから……うん、まだ結構あるよ。かなり広い洞窟みたいだね。素材があるのも、ほぼ最深部に近い場所だし ヴェルメリオ: ……ねえ、フアナ。わたし、大丈夫? 足手まといになってない? フアナ: え? いやいや、全然そんなことないよ ヴェルメリオ: ……なら、いいんだけど。こんな少人数で行動するの、久しぶりだから。ううん、初めてかも。最初に合流したとき、もう姐さんとピュルテはいたから フアナ: むしろ前のめりすぎてちょっと心配になるくらい。もっと気楽でいいんだよ。って、人間さんくんのこと考えたら、そうもいかないのは当然だけど ヴェルメリオ: ……助け合うのが夫婦、でしょ? いま、わたしが体を張らなかったら、嘘だと思う フアナ: 確かに夫婦なら、パートナーのピンチには全力出さなきゃね ヴェルメリオ: ……みんなを出し抜こうとか、そういうことじゃないの。別に、誰が採りに行ったかなんて、人間さんに言わなくてもいいと思うし フアナ: アピールするのが目的じゃないのは、わかるけど、どうしてそこまでして? ヴェルメリオ: ……わたし、貢献できてないって思うから。人間さんだけじゃなくて、みんなに対して フアナ: そんなことないでしょ。みんな、ヴェルのこと頼りにしてると思うよ ヴェルメリオ: ……ほんとに? わたし、そういうところで自信が持てないの。人間さんからも、どう思われてるんだろうって ヴェルメリオ: ……もしかしたら被害妄想なのかもしれない。それはきっと、みんなの創造期のことを知ってしまったから フアナ: 創造期を? どういうこと? ヴェルメリオ: ……ビブリオ・アンティークって場所があるの。すごく大きな図書館で、いろんな本や資料があって フアナ: ビブリオ・アンティークなら、あたしも行ったことあるよ。アイソーポスさんに連れて行ってもらって……自叙伝を収蔵してもらえないか聞いたこともある ヴェルメリオ: ……そこに、みんなの創造期のことも書かれてた。ドロシーはちらっと聞いたことあったけど フアナ: それの何が問題なの? ヴェルメリオ: ……ドロシーはピンチを自分で解決してた。リルも、クレアも自分から踏み出して立ち向かってた。姐さんやティンカも、誰かのサポートはあっても、ちゃんと自分で行動してた ヴェルメリオ: ……誰かに助けてもらうのを待っていただけのわたしとは、大違い フアナ: ヴェル…… ヴェルメリオ: ……過ぎたことだから、振り返って悔やんでも仕方ないでしょ。だから、今からでもいい、わたしもみんなみたいに自分で行動する、強いひとになりたいの フアナ: 充分、ヴェルは強いと思うよ。バトルや冒険もそうだけど、ここがね ヴェルメリオ: ……おっぱい? フアナ: 違うよ! おっさんか、あたしは! フアナ: そうじゃなくて……心がね。そうやって自分を客観視して、変わっていこうとするのって、勇気がいることだから 314 - 創造期の立ち位置 フアナ: それにしても、みんなの創造期かぁ。言われて見ると、あたしも詳しく知らない子は結構いるんだよね フアナ: 自分の『作品』の子たちはもちろん、把握してるんだけど……そういう意味では、誰よりも把握してるのは人間さんくんなのかも ヴェルメリオ: ……創造期のこと、人間界にも伝承として伝わってるからね。だから人間さんはみんなのこと詳しいし、だからこそ……わたしはがんばらないと ヴェルメリオ: ……たぶん、人間さんは創造期のイメージがあると思う。わたしと接するとき フアナ: 言われてみれば、人間さんくんはヴェルにはちょっと甘いというか、遠慮があるかも……。助けられるだけの子だと思ってたら、無理もないのかな ヴェルメリオ: ……好きだから甘やかしちゃうとかなら嬉しいけど、でも……そうじゃないと思うから ヴェルメリオ: ……だから、わたしは自分から行動しなきゃって。最近、すごく思ってた フアナ: ここのところ、冒険の旅っていうだけじゃなくて、シンデレラの帝国やコミッティ、天空神殿とか絡んできて……個人でどうこうできる感じじゃなかったのもあるよね フアナ: それはあたしも同じだよ。何もできないんじゃないか、どうしてこんなに自分は無力なんだろうって。ううん、たぶんみんなも多かれ少なかれ感じてたんじゃないかな ヴェルメリオ: ……そっか。うん、そうだよね。わたしだけ、って焦っちゃうのは、気負いすぎ、ってやつなのかも フアナ: そっか、ヴェルはそんなふうに考えてたんだね。意外と、創造期のことって積極的に話さないよね。別にシンデレラみたいに辛い思いしてなかったとしても ヴェルメリオ: ……過去は過去、だからじゃないかな。わたしの場合だと、あまりいろいろ話すことで、アドルファを悲しませたくないなって思うし フアナ: そうだよね。当時とは関係性が違うわけだからね ヴェルメリオ: ……なんか、そう考えるとグランド・リヴィジョンって、やっぱり起きて良かったのかな フアナ: 結果的に、良かった人は多いかもね。この結果を意図してたかっていうと、微妙かもしれないけど ヴェルメリオ: ……そういうのも、もっと勉強しなくちゃ、って思ってる。ねえ、これからも色々教えてくれる? フアナ: も、もちろん……! フアナ: そろそろだよ。パラケルススから預かってきたメモによると、このあたりに思念体と呼ばれるものがあるらしい ヴェルメリオ: ……しねんたい? フアナ: 普通の意味だと、強い執念とか感情が実体を伴うようになった存在のことなんだけど……そいつから、必要な成分のひとつを抽出できるらしいんだ フアナ: 思念体に、このフィルタ・デバイスってやつを使うらしいよ。これ見る限り、そこそこの大きさなのかな ヴェルメリオ: ……ヤマトの国のうちわってやつみたい ???: ……ォォ……ァァ…… ヴェルメリオ: ……? いま、なにか言った? フアナ: え? あたしは何も…… ???: ……ォアアアアア! フアナ: !? ヴェルメリオ: ……フアナ、伏せて! 乱れ打ちっ! ???: ァァァアアアアッ…… フアナ: な、なんだこいつ……まるで黒い霧か、影みたいだ。ヴェルの攻撃は多少は効いたみたいだけど…… ???: ……ォオオァアアアァ……! ヴェルメリオ: ……っ!? は、早いっ……!? くっ、はぁっ、あっ……な、なにこれ……う、ううっ フアナ: ヴェルが捕まった!? 待って、いま剥がすから! ヴェルメリオ: ……ううん、だめ。これ、手で剥がせるようなものじゃない……たぶん、これが思念体…… フアナ: えっ!? ま、まさか、思念体って襲ってくる存在だったわけ!? ヴェルメリオ: ……はぁっ、くっ、これに捕まった瞬間から、わたしのなかに感情がいっぱいこみあげてきてる……っ。きっと、ディマイト思念体だよ…… ヴェルメリオ: ……はぁ、はぁっ、もう、いやだよ……わたし、なんて……っ、死にたい、終わりにしたい……っ フアナ: ヴェル!? ディマイト汚染が始まってる……? 死ぬかもしれないっていうパラケルススの脅しは、これのことか……! フアナ: 待ってて、このなんとかデバイスで対抗してみるから! フアナ: くっ、このっ……! 思念体: ……ァアアア! フアナ: 大丈夫、間違ってはいないはず。デバイスが通過するごとに思念体は小さくなって、デバイスに成分が溜まってる。弱体化してるんだ フアナ: さっきヴェルの乱れ打ちが効いたのは、矢がヴェルのエルマイトをまとっていたからだと思う。なら、あたしの攻撃も、通じなくはないだろうけど ヴェルメリオ: ……はぁ、はぁ、もうわたしなんて誰にも必要とされてない……っ、消えたほうがマシなの……! フアナ: このままだとヴェルが汚染されきっちゃう。攻撃よりデバイスで削ったほうが早いはず……! お願い、間に合って! もう少しだからっ…… ヴェルメリオ: ……あ、ああ、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。わたし、やくにたたない、ひっかきまわすだけの、いらないこ…… フアナ: 必要だよ! ヴェル、聞いてっ! あたしには、必要なの。大事な、友達じゃないか……っ (背景切換...) ティンカー・ベル: はい、こっちにもあったー。なんか、禍々しい色したキノコだね エミリー: はあ……キノコと、木の実と、あとなんだっけ? シンデレラ: カタツムリよ……。はぁ……ヴェルとフアナが命がけで戦ってるかもしれないのに、私たちはこんな雑用だなんて エミリー: 大丈夫かなぁ、ふたりとも ティンカー・ベル: なんだかんだフアナはコミッティだったわけだし、ずきんだってロゼッタゲートくぐってすごくなったんだし エミリー: 心配はしてない? ティンカー・ベル: 心配はしてるよ。でもそれ以上に信頼してる、ってカンジ シンデレラ: そうね。できることをやって、待つしかないわよね パラケルスス: どう、調子は。あ、だいぶ素材集まってきたね ティンカー・ベル: これも人間さんの中和剤に使うわけ? なんか、すっごく怪しい色したキノコとかあったけど、毒じゃないの? パラケルスス: 猛毒だよ エミリー: ええっ、危ないよぅ! パラケルスス: あと中和剤の材料じゃないよ シンデレラ: ええ? じゃあ、なんで私たちこんなことしてるの……? パラケルスス: 仲間が危険を顧みないでがんばってるときに、ぼーっとして待ってるのって心にクルものがあると思って。あと労働力手に入って嬉しかったし エミリー: 最後に本音が凝縮されてるんだけどぉ!? 315 - 求められる対価 パラケルスス: ま、とにかく……ぼくがきみたちを助けてあげる理由なんて、まったくないんだからね。それは忘れないで エミリー: シャルのことも……まだ、助けてくれるわけじゃないってことぉ? パラケルスス: 理由がないって言ってるんだ。ぼくは無駄なことはしたくない ティンカー・ベル: ぐぬぬ……これだけ働いても、お願いを聞いてくれないなんて パラケルスス: この労働は、あの人間界から来た彼を救うための対価だよ。もっとも、まだ全然足りてないんだけど パラケルスス: ということで、採取が終わったら次は物置小屋の掃除、実験器具の洗浄、ぼくたちの服の洗濯を頼むね シンデレラ: ……うう、久しぶりにこんなに家事労働をしてるわ (背景切換...) パラケルスス: さーてと、とりあえずこのチャンスに家事は全部押し付けて、生活環境を改善させよう サラマンダー: 身の回りのことは私がするのに シルフィード: つまり先生は、森の巡回にもっと注力してほしいって言ってるんだよ、サラ。そうですよね、先生 パラケルスス: まあ、どっちでもいいよ シルフィード: ほら サラマンダー: 先生はどっちでもいいって言ったのよ!? 何が『ほら』なのよ。ドヤ顔しちゃって シルフィード: そんなことより例の彼、とりあえず発熱は少し落ち着きましたね。でもまだ、症状は進行したままです パラケルスス: ふむ、ちょっと見に行ってみよう (背景切換...) パラケルスス: うん、落ち着いたといっても、かなりの発熱には違いないね。うっかり嘔吐なんかすると窒息するから、注意して見てあげてくれる? シルフィード: わかりました。注意しておきます サラマンダー: ねえ、先生。彼、人間界から来たって言ってたけど、それって本当かしら? だとしたら パラケルスス: さあね。まだなんの実験も検査もしていないからね。さすがのぼくも結論づけるには情報が足りないな パラケルスス: ただ、彼のこの常識はずれのエルマイト保有量には、それくらいぶっ飛んだ背景があって、おかしくないと思うけど (ビーッ。) サラマンダー: ん、いま玄関からブザーが聞こえたわね。誰かしら ???: パラケルスス、いるんでしょう? 私よ パラケルスス: え……? まさか、こんなことがあるなんて……。まったく、これだから世の中っていうのは何があるか分からないんだよねぇ…… パラケルスス: やあ。久しぶりだね、雨依。今日はどういう用件かな 雨依: まるで用事がなかったら来ちゃいけないみたいね パラケルスス: そんなことはない、いつだって大歓迎だよ。ほら、新しい茶葉を用意しておいたんだ。雨依はこの、緑色に濁ったやつが好きだろう 雨依: 好きっていうより……たぶん身体に馴染んでいるのよ。ずっと、長いこと……そう、あの日まで私の身体の一部みたいなものだったから パラケルスス: あの日っていうのは、前に聞かせてくれた、きみの家族のこと? 雨依: 相変わらず、ひどい場所ね。パラケルスス、あなたはここに住んでるんでしょう? とても人が住む場所とは思えないわよ パラケルスス: ぼくの自慢の城だよ。いきなり訪ねてきてずいぶんじゃないか 雨依: だって、飾り気もなくてなんだかわからない装置の駆動音がずっと響いていて、薬品の匂いが立ち込めてる場所なんて…… パラケルスス: そりゃあ、きみが生まれ育った家とは違うだろうけどね 雨依: ……床の間の掛け軸とお庭、お店の話し声に鹿威しの音、そして朝から立ち込めているあんこの匂い…… 雨依: そうね、あれに比べたらここのほうが心安らげるかもしれないわ。ごめんなさい、パラケルスス。私がいけなかったの パラケルスス: いや……別に気にしてないけどね。ぼくは、ぼくさえ良ければいいから パラケルスス: それより体調はどうなの? あいつは、どこに行ったわけ? 雨依: これから訪ねるところよ。体調なら、安心して。最近はとてもいいの パラケルスス: ならいいけど。でも、これから訪ねるってことは、いまひとり旅ってこと? 危ないんじゃないの? 雨依: 人でなしの錬金術師・パラケルススに心配されるなんて、光栄ね パラケルスス: まったくだよ。ぼくに心配されるなんて貴重な体験なんだから、ちゃんと真摯に受け止めてほしいな 雨依: 大丈夫よ。このあたりは魔物ばかりだから 雨依: そうだ、せっかく来たんだし、アレの補充をもらってもいい? パラケルスス: ああ、構わないよ。ちょっと待ってて パラケルスス: ……でも、そんなに『上』に行くこと、あるの? 雨依: 実はね、最近ちょっといいことがあったのよ。だから……また、行くかもしれないと思って パラケルスス: へえ? いいことねぇ 雨依: 行ったからって、またいいことが起きるとは限らないんだけど……でも、もし何かあったとき、薬を切らしてたりしたら、大変でしょう? パラケルスス: まあ、備えておくに越したことはない、っていうのは至極まっとうな考え方だと思うよ。はい、どうぞ 雨依: ありがとう。それにね、上に行かなくても、これを飲むと気持ちがすーっと落ち着くのよ。なんていうのかな、自分が少しはマシな存在に思えてくるっていうか パラケルスス: まだそんな自己評価なの? きみは、かなりすごい存在になってるんだけどね 雨依: 実感、ないのよ パラケルスス: だろうね。じゃなきゃ、ひとりで出歩くなんて考えられない 雨依: 自由がなくなるのは嫌だけどね。……んっ、っく…… パラケルスス: さっそく1錠飲んだのか。ここで飲む意味なんてないんだから、飲みすぎないほうがいいよ 雨依: いいのよ。普通に『下』にいたって、唐突に死にたくなったりすることはあるんだから パラケルスス: ぼくと初めて出会った頃に比べれば、だいぶマシになったと思うけどね。髪だってきれいなんだから。まるで、ぬばた…… 雨依: やめて。そんなの私の勝手でしょ。いいのよ、私の話なんて パラケルスス: これは失礼……。相変わらず、雨依は気難しいね 316 - ターゲットは花 リル: あの洞窟が、天空神殿から指示のあった秘宝とやらの在り処なんだな カカシ: ええ、間違いありません。ですが…… クレア: なに? なにを調べてるの? カカシ: 最近、誰かが通過した形跡がないか調べていたのです クレア: そんなの、見たらわかるの? ピュルテ: 重要なアイテムを保管している場所であれば、侵入者を察知したり、迎え撃つための罠があったりするはずです。その痕跡を調べているんじゃないですか? カカシ: そのとおり。ということは、アイテムはまだ中に眠っているだろうな ドロシー: その罠、解除できるの? カカシ: 難しいでしょうね。つまり、強行突破です リル: なるほど。これはドロシー殿の得意とする分野だな ドロシー: どういう意味よ! まるで、私が力任せになんでも解決してきたみたいじゃないの クレア: 違うの? カカシ: となれば、作戦決行は深夜のほうが良いでしょう。少しでも時間を稼ぎたい (背景切換...) (…………………………………。) カカシ: 罠は厳重だと思います。しかし、そのぶん…… リル: 内部構造は複雑ではなさそう、という読みなわけだな ドロシー: 罠がたくさんあるから、っていうんでしょう? そう簡単にいけばいいけど ピュルテ: 中で道に迷うようなことがあったら……時間との勝負だとしたら大幅なロスになってしまいますもんね。入ってみないとわかりませんが…… ドロシー: それで? そろそろ目的のものが何なのか、教えてもらわないと作戦にも支障が出るわよ ピュルテ: そうですよね。強いディマイトアイテムだとは聞いていますが、具体的にどういう性質のものなのか…… クレア: 間違って、全然違うの持ってきちゃったら、大変だもんね カカシ: ごもっともです。今回、持ち出していただくのは―― デュプリ・ライブラ: 花ッスね ピュルテ: デュプリ・ライブラさん! どうしてここへ? デュプリ・ライブラ: いや、大事な場面かなと思ったんでこっそり手伝いに来たんスよ クレア: もうすぐ作戦決行だよ。いま、いろいろ説明聞いてたの リル: やはり来たか……。だとすると、今回の任務そのものが、もしかしたら…… ドロシー: リルもどうやら気付いたみたいね……。これは私やリルへの牽制だわ デュプリ・ライブラ: それで回収するアイテムのことなんスけど ピュルテ: そうでした。あの、花ってどういうことですか? まさか、私に何か関係があるんですか? デュプリ・ライブラ: や、そういうわけじゃないんで カカシ: 皆さんに回収してもらう際はこれを使っていただきます クレア: 植木鉢? えいって抜いちゃうの? カカシ: それはできませんな デュプリ・ライブラ: 触ろうとすると火花が散って、めちゃくちゃ痛いんスよ。なんで、周りの地面ごと掘り出して、この植木鉢に植え替えてもらうッス クレア: スコップが必要だね。うまくできるかな ピュルテ: 花がディマイトアイテムなんですか? カカシ: そういうことだ。一見するとただの花に見えるが、かなりレベルの高いディマイトを発しており、危険な代物だ リル: ……それで、相手は何者なんだ クレア: 相手? 罠があるだけじゃないの? ドロシー: 罠があるってことは、誰か罠を仕掛けた人がいるってことよ クレア: あ、そっか。花だから自然のものだと思ってたけど ピュルテ: 持ち主がいるってことですよね。その人と戦わなくていいんですか? デュプリ・ライブラ: 戦いはできるだけ避けたいッスね。あくまでも目的はアイテム。回収したらすぐに撤収する、ってことを忘れないでほしいッス リル: つまり、それだけ手強い相手ということだな デュプリ・ライブラ: そうッスね。世界の脅威になる可能性がある、そんな相手ッス ドロシー: カカシも言ってたわね。できるだけ時間を稼ぎたいって。見つかる前に……ううん、たぶん見つかる覚悟はしていて、それでも逃げ切るために時間が必要なんでしょ? ピュルテ: じゃあ、その持ち主の人はここにはいないんですね リル: 侵入を感知するタイプの罠があるんだろう。その罠によって侵入に気付かれてから、相手がここに駆けつけるまでの間に回収と撤退を完了させる……そういう算段だな? カカシ: まさにそのとおりです ドロシー: 電撃作戦ね リル: おそらく転移装置から歩かされたのも、気付かれないように配慮したのだろう クレア: そうだよね。あんな便利なものがあるんだから、ここに転移すればいいのになって、ずっと思ってた ピュルテ: 転移装置で発生するエルマイトの衝撃波で気付かれてしまうということですね。確かに、かなり強い衝撃ですから気付かれちゃいますね ドロシー: 結構な距離を歩いたわ。つまり、それだけ広範囲の異状を感じ取ることができる……。確かに、かなり能力が高い相手のようね クレア: 気付かれてから、どれくらいしたら来ちゃうんだろ? デュプリ・ライブラ: あの大精霊だから……時間にして猶予はあったとしても10分ッスね。安全圏は5分だと思っといてほしいッス リル: あー、その5分というのはどれくらいの長さなんだ? デュプリ・ライブラ: えーと、とにかく『短い』『あっという間』って覚えておいてくださいッス クレア: なんか雑 カカシ: では、夜も更けてまいりました。そろそろ作戦開始といきましょう 317 - 大精霊の枷 雨依: それじゃあ、そろそろ行くわ パラケルスス: ま、なんだか知らないけど楽しみも見つかったみたいだし……もう少し、気楽にやるといいよ 雨依: そうね。みんなもいてくれるんだし サラマンダー: あ、雨依。もう帰るの? シルフィード: 久しぶりにお会いしたんですから、もっとゆっくりしていけばいいと思います 雨依: そうしたいところだけど、なんだか予定外のお客さんがいるって言うから。邪魔にならないように帰るわ パラケルスス: ぼくが追い出したような言い方はやめてもらいたいものだね 雨依: あら、そう言えばシルフィード……あなた、どうしてここにいるの? 確か、移動制限がかかってるんじゃなかった? サラマンダー: 天空神殿のがつけたアレでしょ。それなら、私が少しずつ範囲を広げるように術式をいじってるの サラマンダー: でも本当は、ノームが一番心配なのよね。ウンディーネはともかく、あの子は危なっかしいし、それに寂しがりだから…… 雨依: 残酷ね……。お互いに支え合ってきた大切な仲間なのに、離れ離れにするなんて。家族も同然なのよね? 雨依: 家族は……一緒にいなくちゃ……。そうでしょう……? パラケルスス: 雨依、きみが怒ることじゃないだろう? シルフィード: もしかすると神官長は、私たちが苦しんでいるところを見て、楽しんでいるのかもしれませんよね パラケルスス: さすがにそれはないと思うけどね。あの小心者が、そんな大それたことを考えるようになってたら、ぼくもびっくりだよ 雨依: あなたたちは、封印で移動範囲を制限されているのよね。なら、私が今度、ノームの様子も見てきてあげるわ サラマンダー: 雨依が? 雨依: 私だって、子供じゃないのよ。ひとりでお出かけくらいできるわ パラケルスス: ならいいんだけどね。あまり無理しないでくれよ。きみは自分で思っているよりも、ずっと重要な存在なんだからね 雨依: ありがとう。そんなこと言ってくれるのはパラケルススくらいよ サラマンダー: 雨依、お茶のおかわりは? 雨依: うん、ありがとう。もらうわ 雨依: このパラケルススの家……久しぶりに来たけど、やっぱり落ち着くわね パラケルスス: さっきは、ぼくのこの部屋の佇まいにケチをつけてたと思ったんだけどね 雨依: 快適な住環境だとは思ってないわよ。ただね、心が落ち着くの。ううん、今日はいつもよりも落ち着く気がするわ パラケルスス: ……そういうものなんだね。実に興味深いよ パラケルスス: 本当なら泊まっていってくれても構わないんだけどね。間の悪いことに、ちょっとわけありのお客が来てるんだ 雨依: 奥の部屋、誰か寝てるみたいだったわ。すぐドアを閉めたけど パラケルスス: ……体調は、どうなのかな 雨依: けっこう、調子いいのよ。『上』に行ったときも、ひとりで散歩したりもして……そう、そのときよ。いいことがあったの パラケルスス: ああ、言ってたね。そんなにうれしいこと? 雨依: うん……。怪しい男に絡まれたの サラマンダー: えっ、それが嬉しいことなの!? 雨依、さすがにそれは歪みすぎじゃない? 雨依: 違うのよ。それをね、助けてくれたの。彼は私にとっての運命の王子様なのよ。間違いないわ 雨依: 誰も私を見てくれない、だけど彼は見つけてくれたのよ。きっと見えない糸で結ばれてるんだと思う パラケルスス: やれやれ……。雨依は夢見がちなところがあるからなぁ。だいたい、そんな偶然会っただけの男なんて、『上』に行ったところで会えるとは限らないんだよ。むしろ確率は低いと思う 雨依: すぐ後に、もう一度再会したのよ。そんな偶然、あると思う? 雨依: だからきっと……また『上』に行けば会えると思うの シルフィード: じゃあ、これからまた行くんですか? 雨依: そうしたいところだけど、先に王都に行かなくちゃ。約束してるから パラケルスス: あいつを待たせてるんだもんね。そうだね、約束は守らないといけないよ パラケルスス: やれやれ……雨依は思い込んだら突っ走っちゃうからな…… 雨依: それじゃあ、そろそろ出発しようかしら シルフィード: 私たちがお送りしましょうか 雨依: シルフィードまで、私を子供扱いするの? こんな魔物だらけの森で、私がどうにかなるわけないじゃない シルフィード: いえ、そういうつもりではなかったのですが……失礼しました。それでは、またお会いできることを楽しみにしております 雨依: そうだ、これ パラケルスス: それは確か…… 雨依: まだ上手に作れないんだけどね。でも、だいぶ上達したと思うわ。薬のお礼ってことで、みんなで食べて サラマンダー: 私、雨依のこれ好きよ。甘くて美味しいし、それに色とりどりできれいよね 雨依: 手作りする人は少ないかもね。はい、シルフィードにも シルフィード: ありがとうございます。珍しいものですが、どこで作り方を? 雨依: お父さんが、昔ね……。教えてもらったっていうより、見様見真似っていうほうが近いけど。はい、パラケルススも パラケルスス: ありがとう。ディマイト入りだったりするのかな? 雨依: なにそれ、どういう冗談? パラケルスス: や、なんでもないよ。きみに言うことでもない。本当にカラフルで見た目に楽しいね。名前、なんていうんだっけ? 雨依: 金平糖よ 318 - 人間の価値 ティンカー・ベル: ずきん、ちょっと寝たら? シャルロッテのときの人間さんと、まったく一緒じゃん。あのときは人間さんのこと止めてたのに ヴェルメリオ: ……そうだよね。ごめん、心配かけて ティンカー・ベル: みんなで交代しよ。そしたら人間さんがいつ起きても、ひとりぼっちじゃないから フアナ: ヴェルは本当に人間さんくんのこと……あ、ま、待って? いま、動かなかった? ティンカー・ベル: 人間さん!? 起きた、起きたよ! みんなのこと呼んできて! (………………………………。) パラケルスス: うん、表面濃度は基準値を大幅に下回ってる。完全に順応できたみたいだね。人間さんくん、具合はどう? これ、何色に見える? パラケルスス: 呂律もしっかりしてるようだし、副作用は出ていないかな。頭痛があまりにひどいようだったら、普通の薬草を併用してもらって構わないから シンデレラ: 人間さん……よかった、ほんとに……。なんだか力が抜けちゃったわ ヴェルメリオ: ……うん、わかる。なんか、張り詰めてたから エミリー: これでもう、人間さんは元気になるのぅ? パラケルスス: ぼくは医者じゃないからね。倒れた原因、ディマイトへの過剰反応には対応したけど、彼の健康までは保証しないよ パラケルスス: でもまあ、中和剤へのアレルギーが出なければ、普通の生活が送れるはずだとは思うけど フアナ: とりあえず、ひと安心ってところかな シンデレラ: 人間さん、どうしたの? 何が心配? ティンカー・ベル: 中和しちゃったから、エルマイトをみんなにあげられないんじゃないか、って……そんなの、いいんだってば ヴェルメリオ: ……そうだよ。人間さんが元気でいてくれることが最優先だから。エルマイトなんて、どうにでもできるよ シンデレラ: みんなの言うとおりよ。エルマイトは人間さんの強みのひとつかもしれないけど、それがなかったら役立たずだなんて……そんなふうに言わないで エミリー: 人間さん、まだ分かってないんだもんなぁ。いてくれるだけで、みんなは戦えるんだからねぇ? パラケルスス: なんだかいい雰囲気のところ悪いけど、エルマイトがどうこうっていうのは、クロスのことを言ってるのかな? フアナ: あ、うん。人間さんくんはエルマイトをすごく持ってるから、クロスとかでみんなに分けてくれてたんだ。それが間接的な戦力にもなってて…… パラケルスス: それなら今までどおりだよ。中和剤は内部のエネルギーを中和するわけじゃなくて、外的環境に順応するために表面のエネルギー構造を調整してるだけだから ティンカー・ベル: なーんだ。早く言ってよね。人間さんが泣きそうな顔して心配しちゃったじゃん ヴェルメリオ: ……よかったね。でも、さっき言ったみんなの気持ちは変わらないよ。もし何かあっても、そんなふうに自分を責めないでね パラケルスス: 逆に言うと、表面しか調整してないってこと。放っておくとまた同じことになっちゃう。だから、この中和剤は必ず1日1回は服用すること エミリー: えっ、毎日飲むの? 忘れたら、また最初みたいに倒れちゃうってことだよねぇ? パラケルスス: 効き始めるまでまた地獄を見るだけのことだから、忘れたら早めに飲めば大丈夫だけど エミリー: それは大丈夫とは言わないような気がするけど……みんなで忘れないように気をつけてあげなきゃね パラケルスス: 1日1錠。これだけあればしばらく大丈夫だと思うけど シンデレラ: こんなにたくさん作れるものなのね パラケルスス: これ自体は初めて作ったけど、過去の経験も応用すれば量産はそんなに難しくなかったよ。まあ、ぼくは大賢者って呼ばれてるくらいだし ティンカー・ベル: それ、自分で言っちゃうかな…… フアナ: 人間さんくん、自分の次はこれって……あっ、それ エミリー: シャルロッテの……弾丸……! パラケルスス: ぼくがきみのために中和剤を作ったのだって、特例中の特例なんだけどね。なんで、そんなことまで協力しなくちゃいけないのかな パラケルスス: 交換条件……? シンデレラ: ちょっと、人間さん!? 自分の身体を好きに研究に使っていいなんて、そんなことダメよ! ヴェルメリオ: ……人間さん、そこまでしてシャルロッテのこと…… パラケルスス: それじゃ、弾丸を預かろうか エミリー: パラケルスス、わかってるよねぇ? 人間さんは約束したけど、いますぐ実験したりは困るよぅ パラケルスス: 本格的な実験は、この旅が落ち着いてから……ってことだね。旅に支障がない程度には、協力してもらうけど フアナ: シャルロッテが庇わなかったら、人間さんくんが生きていた保証もない。それは分かるけど、人体実験してもいいからなんて……やっぱり過激すぎるよ シンデレラ: それくらい、人間さんはシャルロッテに負い目があるってことなのよね パラケルスス: それじゃ、この台に載せて……ふむ、なるほど ティンカー・ベル: えっ、もう分かっちゃうの!? 早くない!? パラケルスス: はいはい、そういうことか……。決して、難しいことをしてるわけじゃないけど……ふうん パラケルスス: うん、解析おわり。これはとてもオーソドックスな呪いだね ティンカー・ベル: 一瞬じゃん! 人間さんが自分のこと犠牲にしてお願いしてるのに、こんな一瞬で終わっちゃうとか、なんか納得いかない! フアナ: ま、まあ確かにあまりにもあっさりだとは思ったけど パラケルスス: まったく、エルマイトで戦おうって連中のくせに、あまりにも想像力が貧弱すぎやしないかい? パラケルスス: 確かにいま解析に要した時間はとても短かった。でも、それを可能にした、この解析装置の開発にどれほどの時間と労力を割いたのか、そのことは頭から考えないってわけ? ヴェルメリオ: ……下ごしらえが大事、ってこと? パラケルスス: それも含めて、人間さんくんの条件と釣り合わないと考えるのかな? それとも、目に見える範囲でしか判断できないほど愚かなのかい? ティンカー・ベル: う、うう……なんか小難しくてよくわかんないけど、ティンカが悪かったってば! 肝心のところ、早く聞かせてよ シンデレラ: 相談ひとつするにしても、話す順番を考えないと失敗しそうね…… パラケルスス: 取引条件にお互い納得したってことでいいかな。それじゃあ、続きだ。こいつは難易度が高いわけじゃないが、いやらしいくらい複雑な構造を持ってる。これを解除するのに必要なのは…… パラケルスス: ――王子様のキス、だね 319 - 救う方法 フアナ: えっ? い、いま、なんて? パラケルスス: 要するに、強烈なエルマイト補充が実現できれば解除は可能ってこと エミリー: 解析にかかった時間も短かったけど、答えもずいぶんシンプルだったねぇ シンデレラ: でも、それは試しているはずよ。もともとディマイト由来の呪いじゃないかっていう話は出ていたし、グリム家の医療設備でエルマイトの補充だってしてるわ パラケルスス: 別にそれが間違ってるわけじゃない。ただ、圧倒的に量が足りないんだよ ヴェルメリオ: ……量が、足りない? パラケルスス: この呪いの効果は、対象のエルマイトあるいはディマイトを定期的に一定量、体外に放出してしまうという効果を持っているんだ。結果、肉体の活動もかなり制限されてしまってる フアナ: え、でも待って。人間さんくんをターゲットにしてたじゃないか。ってことは、かなり大量のエルマイトを放出するはずなんじゃないのかな シンデレラ: もしそうなら、シャルロッテは生きられなかったかもしれない……? パラケルスス: それがおそらく、不幸中の幸いだろうね。人間さんくんとシャルロッテでは、根本的に身体の構造が違う。それが幸いして、呪いの効果は不完全なものになったんじゃないかな ティンカー・ベル: ってことは、人間さんはいますぐ帰ってシャルロッテにクロスでエルマイトをあげるべきってこと? ヴェルメリオ: ……それが一番いいってことだよね パラケルスス: 理屈はそういうことだけど、現実的じゃないだろうね。さっきぼくが言った強烈なエルマイト補充っていうのは……1度や2度のクロスでは実現できない シンデレラ: 毎日がんばるって人間さんが意気込んでるけど パラケルスス: きみは確かに誰よりも多くのエルマイトを持っているかもしれない。でも上限はあるはずだ パラケルスス: 昼夜を問わず1日中、供給し続ける日々。それを何百日、何千日と繰り返してやっと救えるって計算なんだけど……現実的じゃないと思うね ヴェルメリオ: ……そんなの、人間さんがエルマイトを作る機械みたいになっちゃう。そんなの、だめだよ エミリー: けど、他に方法があるんじゃないの? だって、パラケルススは大賢者なんでしょぉ? パラケルスス: ……ふん、やっとぼくの実力を理解してきたようだね パラケルスス: この問題は、呪いのほうも定期的にエネルギーを放出する動きをすることなんだ。つまり、期間が長くなればなるほど効率は悪くなる フアナ: 毎日ちょっとずつ足しても、すぐ放出されちゃうってことだね エミリー: 呪いの、放出する能力も限界があるってことぉ? 1日に、これしか放出できないよ、っていう パラケルスス: そういうこと。つまり1回の補充で必要量を供給すれば問題は解決する シンデレラ: でも人間さんのエルマイトにも上限があるって言ったじゃない。どうやってそんな大量の供給ができるっていうのよ パラケルスス: 圧縮するんだよ ヴェルメリオ: ……圧縮、って……エルマイトを? パラケルスス: 毎日少しずつ溜めるんだ。それを物理的には最小限度の質量で蓄積する ティンカー・ベル: なんとなく理屈はわかるけどさ、そんなのどうやったらできるわけ? シンデレラ: あなたはその技術を持ってる、ってことね。だから、そんなに自信たっぷりなんだわ フアナ: シェイクスピアの師匠なんだから、当然そういう技術も持ってるってわけか…… エミリー: それ、使わせてくれるの……? それともまた、変な条件を出すつもり? パラケルスス: 何度も言うけどね、ぼくにはきみたちを救う義務なんかひとつもないってこと、忘れないでほしいね。そのうえで聞くけど、もう一度、冒険に出るつもりはある? ヴェルメリオ: ……もちろん。どこにだって行く シンデレラ: ヴェル……。ええ、それはこの場の全員が、そのつもりよ パラケルスス: いいだろう。じゃあ、これを渡すよ ティンカー・ベル: これ……なに? なんか、汚くて古いカギ…… パラケルスス: とある洞窟に、この大賢者パラケルススの最高傑作が保管されている。それを使えばエルマイトを圧縮できるよ ヴェルメリオ: ……取ってくれば、使わせてくれるってこと? パラケルスス: 条件はひとつ。天空神殿内にあると思われる、とある術式の無効化。方法はもちろん、任せるよ フアナ: 天空神殿の!? そんなの、できるわけ…… シンデレラ: いいわ、やるしかないでしょ。後払いにしてくれるだけ、まだ優しいわよ フアナ: そ、それはそうかもだけど…… エミリー: 迷ってるヒマはない、ってことだよね。その交渉はジャコヴァたちも協力してくれると思うし、やるしかないんじゃないかな フアナ: う、うん。そうだよね、それでシャルロッテが助けられるんなら……! サラマンダー: 先生の言いつけどおり、あいつらに地図を渡したわ。道に迷いさえしなければ、数日で到着すると思う パラケルスス: ご苦労さま。シルフィード、サラにもお茶を淹れてあげて シルフィード: はい、先生。でも……本当に良かったんですか? あんな、信用できるかも分からない人たちに、先生の大切なものを……本当に渡すなんて パラケルスス: 本当に? ぼくが偽の地図でも渡すと思ってたの? シルフィード: それでお茶を濁すこともできたはずですから サラマンダー: それにあの条件……! 天空神殿の術式って、私たち四大精霊の制限解除よね。私たちのために先生の傑作を他人に渡すなんて、私……! パラケルスス: 誤解しないでね。条件に制限無効化を指定したのは、確かにきみたちのためだよ。でもアレを渡すのは……それだけじゃない パラケルスス: 道具っていうのはね、使って初めて価値があるんだよ。大事に押し込めておいても、仕方ないと思わない? サラマンダー: それは、そうかもしれないけど……。でも、悪用すれば、とんでもないことになるんですよ パラケルスス: あくまでも今回の用途に関することしか伝えてないし、それに……彼らはライブラとは違う、と感じたんだ。ハッキリ言ってそれは、ただの勘だけどね シルフィード: 先生…… 警告音声: 警報、禁止区域S-1に侵入者あり。繰り返す、禁止区域S-1に侵入者あり サラマンダー: アラーム!? この区域番号って、まさか シルフィード: おかしいですね。あの人たちがカギを使うのを失敗したとか? サラマンダー: 早すぎるわ! さっき出発したところなのよ パラケルスス: どうやら、他にお客さんが来たみたいだね……。サラ、シルフィード、お出迎えをお願いしていいかな 320 - ピュルテたちの探索任務 ドロシー: こっちはクリアよ クレア: こっちも大丈夫 ピュルテ: では、進みましょう。慎重に、でも急がないといけません ドロシー: 洞窟内の見取り図がない中で、目的のものをそんなにすぐ見つけられるかしらね。深くはないとは聞いてるけど リル: 危険だと思ったらすぐ退避する。だが、限界までは任務をまっとうするしかない。小生たちに選択肢はほぼ無いと思っていいだろう ピュルテ: こっちに通路があります。罠がないか確認しましょう クレア: うん……大丈夫そうだよ ピュルテ: ……っ! この気配……っ クレア: どうしたの、ピュルテ。何か感じるの? ピュルテ: はい……。これは、なんでしょうか。エルマイトでもなく、ディマイトでもない……けど、すごく強い圧力を感じるんです リル: それが目標物の、ディマイトアイテムである可能性は高いな。ピュルテ、位置を探り当てられそうか? ピュルテ: うん、やってみる……! リル: 無理はするなよ ドロシー: ねえ、制限時間はあとどれくらいなの? カカシ: 洞窟に入って1分半……掘り出す時間も考えれば、あと2分以内には探し出したいところですな…… クレア: デュプリ・ライブラも、外で見張ってくれてるんでしょ? カカシ: ええ、必ず5分で到着するとも限りませんし、実際の敵襲はデュプリ・ライブラ様がお知らせくださるとは思います ドロシー: そんな奴らの拠点に乗り込んでるって、なかなかわくわくする話ね リル: それはドロシー殿特有の感覚だと思うが ピュルテ: あっ、こっち……? だと思う リル: よし。小生たちで護衛するから、ピュルテは感覚を頼りに進んでみてくれ クレア: 罠も見逃さないからね ピュルテ: はっ……あ、あれでしょうか カカシ: 間違いありません。あそこに咲いている花が例のディマイトアイテムです ドロシー: ……きれいね リル: 珍しい反応だな。ドロシー殿が花の美しさに見惚れるとは予想外だ ドロシー: なっ、し、失礼ね! 私のことをなんだと思ってるのよ。お花を見たら普通にきれいだとか言うでしょ クレア: でもいま、うっとりしてたよね ドロシー: 思ってたよりずっときれいだったのよ。こんなふうに七色に輝く花なんて……っと、いけない。こんなことしてる場合じゃなかったわね ピュルテ: そうでした! ここから掘り出して植木鉢に移さなきゃいけないんですもんね クレア: 傷つけないようにしないとね リル: む、そうだな。敵から奪うだけではなく、これを研究材料にするかもしれないからな。なにより、これだけ美しい花だ ドロシー: リルだってきれいだと思ってるんじゃない。でもほんと、これがディマイトアイテムだなんて信じられないわね (背景切換...) デュプリ・ライブラ: ……4分経過。そろそろ限界ッスけど、みんなは…… ピュルテ: デュプリ・ライブラさん! 花、見つけましたよ! カカシ: この通り、皆さんやり遂げられましたぞ デュプリ・ライブラ: よかったッス。これで今回の仕事は無事に達成ッスね。それじゃあ皆さん、この場からできるだけ早く…… デュプリ・ライブラ: ――っ!? カカシ: どうされましたかな? リル: 顔色が良くないようだが……まさか、例の管理者とやらか デュプリ・ライブラ: ものすごい勢いでこっちに向かってきてるッス。転移魔法を展開するんで、すぐ脱出するッス! ピュルテ: 戦わないんですか? そんな、こそこそ逃げ帰るようなこと…… デュプリ・ライブラ: 相手が悪すぎるッス。いまは、とにかく犠牲を減らすこと。分かったら、すぐに転移魔法を展開して! ピュルテ: 相手が悪すぎるって……そんなに強い相手なんですか。でも、ディマイトアイテムを悪用するような人たちなんですよね? いつかは戦わなきゃいけないんじゃないですか リル: ピュルテ……? らしくないぞ、どうしてそんなに好戦的なんだ。小生じゃあるまいし ピュルテ: だって……そういう人たちがいるせいで、私や、皆さん、人間さんも……戦わなきゃいけなくなってるっていうのに……! デュプリ・ライブラ: 相手は特級管理エルマイトの四大精霊ッス、ボクとかピュルテがかなう相手じゃないんスよ! カカシ、早く転移魔法を カカシ: い、いま準備しておりますっ! クレア: エルマイト? エルマイトのひとが、ディマイトアイテム使ってるの? デュプリ・ライブラ: ああっ、だからそれは、便宜上そう呼ばれてるだけで、主体がエルマイトだけどディマイト勢力に加担してるんス ドロシー: よくわからない説明ね。誰が相手でも、私は真っ向勝負なら負ける気がしないんだけど カカシ: 転移魔法、展開完了しました! さあ皆さん、急いでこちらに! デュプリ・ライブラ: 急いでくださいッス。皆さん、目の前の戦いじゃなくて大局を見極めてほしいッス リル: 大局か…… (背景切換...) シルフィード: 魔法術式の波動を確認しました。これはおそらく、転移魔法ではないでしょうか サラマンダー: つまり、まんまと逃げられたってわけ……!? シルフィード: 転移魔法は1度に大量に転移することは難しい。急げば間に合うかもしれません (背景切換...) デュプリ・ライブラ: おっと……ギリギリ間に合ったんスね。さすが四大精霊、本気の移動速度は並じゃないってことッスか サラマンダー: デュプリ・ライブラ……! あんただったのね。先生の傑作をどうするつもり!? デュプリ・ライブラ: どうもこうも、丁重に保管するだけッスよ。こういうものは神殿の管理下に置いておかないといけない決まりなんスから シルフィード: 転移魔法が展開されている……。他にも仲間がいたようですね。もう逃した後ということですか。あなただけ残っていたのは、私たちを待っていた……? デュプリ・ライブラ: いやいや、ただのアイドルタイム待ちッスよ 321 - まがい物のココロ シルフィード: どうやって、この場所を割り出したんです。この場所はどんな記録にも残していません。先生と私たちの頭の中にしかないんですよ。情報管理は完璧だったはず デュプリ・ライブラ: 簡単なことッスよ。あんたたちの移動制限を、敢えて解除させてやったんス。自由を得たサラマンダーやシルフィードが、どこに向かうのか……それを観察すれば簡単ッスね サラマンダー: 私を、泳がせていたっていうの……!? デュプリ・ライブラ: 自分の能力で制限解除できたと思ってました? 残念だったッスね シルフィード: 全部、あなたの手のひらの上だったというわけですね デュプリ・ライブラ: ボクは管理者ッスからね サラマンダー: まがい物が、偉そうに……!! デュプリ・ライブラ: ……そうッスね。まがい物だから、せめて存在に気付いてもらえないと意味ないんスよ。ボクが働くのは、そのため……ッスかね シルフィード: ……それは、なんの話ですか デュプリ・ライブラ: まがい物なりの信念はあるってお話ッス。ま、そんなところで、楽しいお話もタイムリミットみたいッスけど デュプリ・ライブラ: 転移魔法の準備、できたみたいなんで……失礼するッス。先生に、よろしくお伝えくださいッス サラマンダー: くっ、待ちなさいよ! このっ…… シルフィード: サラ! 落ち着いてください! もう相手は消えてしまいました。いま攻撃しても、魔法痕を消し飛ばすだけです シルフィード: 落ち着きましょう。今は、先生に一刻も早くご報告して、判断を仰ぐほかありません…… シャルロッテ: ……姉さま、フェルディナ姉さま。どうしたんですの、ぼーっとして フェルディナ: え……えっ? シャル? あなた、どうして シャルロッテ: 変な姉さま。それよりほら、会場のお花はこんな色合いでいかがですか? フェル姉さまの可愛らしさを引き立てるなら、こっちだと思うのですけど フェルディナ: か、かわっ……!? な、なんの話をしてるのよ シャルロッテ: フェル姉さまのお誕生日パーティーですわ。ごちそうもたくさん用意したんですのよ フェルディナ: なに言ってるの、私の誕生日パーティーなんて、誰も来るわけないでしょ シャルロッテ: そんなことありませんわ! 私の大好きなフェル姉さまは、人気者ですもの。私の自慢の姉さまをバカにするのは、姉さまご自身でも許しませんわよ フェルディナ: ちょ、ちょっとシャルロッテ? シャルロッテ: それより姉さまっ、私はとっても準備をがんばったんですから、もっと褒めてほしいですわ。ぎゅーってして、なでなでしてくださいませ フェルディナ: え、えっと、こ、こう……かしら……? 撫でたことなんてないから、よく分からないんだけど…… シャルロッテ: えへへぇ……。もっとですわ、姉さまっ。私からも姉さまにぎゅーっ…… フェルディナ: ば、バカな子ね、姉妹でこんなにベタベタくっつくなんて、おかしいと思われるわよ シャルロッテ: 他の人の目なんて関係ありませんわ。姉さまは私の目標で、あこがれの人で……大好きなんですの。だからいっぱいいっぱい、甘えちゃうのですわ フェルディナ: も、もうしょうがないわね、シャルったら…… (背景切換...) カロラ: おはよーっ! うわ、ひっどい寝相だな フェルディナ: ふあっ!? あ、あれ、シャル? ぎゅーってして……んぅ? カロラ、姉さん……? カロラ: 掛け布団を抱きしめたままベッドから転がり落ちるって、どんな夢見てたんだよ。いい大人なのに半ケツだし……風邪引いても知らないからな フェルディナ: なっ、ちょ、カロラ姉さん! ノックぐらいしなさいよ! カロラ: しても起きなかっただろ、どうせ。だからしなかったんだよ カロラ: だらだらしてるヒマなんて、あたしらにはねーんだからさ。さっさと準備するぞ。シャルを助けなきゃいけないんだからな フェルディナ: シャル……そう、そうだわ。シャルはまだ眠ったまま……。今の夢も、もしかしたらシャルの意識と繋がって……? フェルディナ: そうよね。あれを夢で終わらせちゃいけないわ。カロラ姉さん、待ってて。すぐ支度するわ カロラ: うん、とりあえずヨダレ拭け。きたねえ顔だな フェルディナ: なんてこと言うのよ! カロラ: 飛空艇の目撃情報は、このあたりで途絶えてる。ま、あんな目立つもんでいつまでもウロウロするのも効率悪いからな フェルディナ: そうね。ペロー専用飛空艇『グリゼリディス』って、100億以上するっていう話だし、撃墜してやりたかったけど カロラ: 『アマーリエ』の仇討ちにもなるしな フェルディナ: そうよ、あいつ……。シャルを罠にかけて、本気で殺そうとしたのよ…… カロラ: そのイラつく気持ちは、本人を見つけてからぶつけてやれって。いま燃えてもしょうがないだろ フェルディナ: ……そうね。それで、目撃情報が途絶えたってことは、ここから徒歩移動に切り替えたってことね カロラ: さすがに徒歩ってことはないだろうから、馬とか馬車を調達したはずだ。となると、この町が最寄りなんだよな フェルディナ: 町で聞き込みすれば情報を得られるかもしれない? カロラ: そんなことは向こうも織り込み済みだろうけどな フェルディナ: でも、わざわざ飛空艇を降り立ったってことは、何かこの近くに目的があるってことよね カロラ: それならたぶん、これだろうな カロラ: 地図のこの場所、分かるか? つーか、フェルディナって地図読めるのか? フェルディナ: 失礼ね、そうやって人のことバカにして! ちょっと苦手だけど、ちゃんと読めるわよ フェルディナ: ほら、ここが私たちのいる場所でしょ。えーと、こっちから来たから、こう…… カロラ: うわ、地図を回し始めちゃったぞ。読めないやつのお約束じゃねーか カロラ: ほら、ここだって。この森あたりのポイントが、ペローの目的地なんじゃねーかな フェルディナ: なによ、ここ。ただの森みたいだけど……この赤いバツ付けたのって、カロラ姉さんでしょ? 何があるのよ カロラ: ここはレグルス教国でのGR2計画を進めたときに、シェイクスピアが構築したディマイト送信装置の設置場所だ フェルディナ: GR2計画……。ペローは、シェイクスピアと繋がってるっていうの!? カロラ: さあな、それはまだわかんねーや。ただ、間違いないのはペローは単独じゃない。後ろにでかいのがいるはずってことだな 322 - ペローの供給源 カロラ: さーて……裏は取れた。予想通りペローは馬車を調達してた。しかもチャーターだ。目的地は簡単に割り出せたな フェルディナ: やっぱり、例のディマイト送信装置の近くね カロラ: 向こうも隠すつもりがないってことだろうな、これは。痕跡を消すつもりがあるとは思えねーし フェルディナ: シェイクスピアと繋がってるのかどうかは分からないって言ってたけど、でも単独じゃないのは間違いないんでしょ。根拠はあるの? カロラ: お前が言ってたんだろ。フアナとシャルの3人で『グリゼリディス』に乗り込んでたときのこと フェルディナ: 3人で飛空艇に忍び込んで、それで……あっ、解散した瞬間のこと? カロラ: そう。ジャー姉ちゃんが解散した瞬間、コミッティの連中はあたしも含め一時的に、めたくそパワーをなくしたんだ カロラ: もちろんジャー姉ちゃんは自分が解散するんだから、切り替える準備はしてたんだろうし、たぶんヴィル姉ちゃんも察知してたんだとは思うけど フェルディナ: カロラ姉さんは聞かされてなかったわけ? カロラ: あのジャー姉ちゃんだぞ。教えてくれるわけねーじゃん。どうせ文句言ったって、死にはしないんだからいいだろ、みたいな感じで逆に怒られるし フェルディナ: そうね……。ジャコヴァ姉さんらしいわ。でも、それが何よ カロラ: 飛空艇はびくともしなかったんだろ。まったく揺れも何もなかった。つまり、ペローは代わりのエネルギーを用意してたってことだ フェルディナ: そうよね……。あの後、私たちが駆けつける前にも戦ってたっていうし カロラ: ピュルテを完璧に操ってたからな。あたしらとやり合ったのはピュルテだし、そのエネルギーはディマイト送信装置を利用してたけど…… フェルディナ: 操ったり、その場から逃げるためのエネルギーは持っていたわけよね カロラ: さて、ぼちぼちあるはずだぞ。送信装置の近くに、なんかおもしろいもんでも残ってるといいけどな フェルディナ: 石造りの台座に、これは真鍮かしら。まるで砲台のようなデザインだわ カロラ: その砲身の先が、コミッティ本部に向けられてるってわけだな。んー、でもこれといった痕跡は見当たらないか……。ペローは何しにここに寄ったんだろうな フェルディナ: いまカロラ姉さんが言ったじゃない。その、バックについてる誰かに言われて行動してるんじゃないの カロラ: だーかーら。そいつに何を言われたのかってことが大事なんじゃねーか。ま、ペローのことだから、勝手に何かしてる可能性もあるけどよ フェルディナ: ペローは誰の手先なのよ、それで カロラ: んなもん、消去法で考えたらひとつしかないだろうがよ フェルディナ: え……シェイクスピアかどうかは、わかんないのよね? じゃあ、えっと…… カロラ: このオトギノクニでエルマイトもディマイトも掌握してんのは誰だよ。あれだけ惜しみなく供給できるってことは『源流』にいるやつしか考えらんねーだろ? フェルディナ: 源流っていうと天空神殿ってこと……!? カロラ: あたしが知る限り、オトギノクニで『源流』って言えるのはギリギリ4箇所だ。コミッティ……っていうか、グリム家がひとつ。もちろんペローと組んでるわけじゃない フェルディナ: グリム家は源流って言えるの? カロラ: 正確には元・源流だな カロラ: んで、人間さんだってピュルテとの様子じゃ裏があるとはとても思えない フェルディナ: 消去法で天空神殿しかありえない、ってわけね。あのクソ女、コミッティにいながらにして神殿とも通じてただなんて、恥知らず……っ! カロラ: あいつの行動原理は一貫してんだよ。あたしらグリムが憎くて仕方ないんだろ。ジャー姉ちゃんもヴィル姉ちゃんも分かっちゃいたんだろうけど、まさかここまで行動するとは思ってなかったんだろな フェルディナ: なるほどね。神殿としてはコミッティ、つまり敵組織の情報を筒抜けにしてくれる……。でも、今のペローって、神殿にとって利用価値ってあるのかしら カロラ: いま分かってる情報だけだと、もう用済みだな。でも、あのペローがそれを分かってないとは思えない。たぶん、何かしらとっくに手を打ってんだろ カロラ: よくあるのは、自分なしじゃ分からない作戦だとか、成立しない術式だとか、そうじゃなきゃ情報とか…… フェルディナ: ――っ!! 姉さん、伏せて!! カロラ: うお、あっぶねー……。なんだこりゃ フェルディナ: 触れると魔物が召喚される仕組みのようね。ううん、ここにあらかじめ封印しておいたのかも カロラ: どっちにしろ、ペローからのあたしらへの置き土産ってわけだな。あいつ、相変わらず挨拶はしっかりしてやがんな フェルディナ: わけわかんないこと言ってないで、さっさと構えるわよ。私が引きつけるから、チャンスを見つけて一撃で決めてちょうだい カロラ: んだよ、動くの得意じゃないのに引きつけるとかできんのかよ フェルディナ: いまの姉さんよりマシよ。いいから、行くわよ! (背景切換...) フェルディナ: はい、濡れタオル カロラ: お、サンキュ。つーか、あたしが足ひねったのよく気付いたな フェルディナ: これでも姉妹なのよ。そんな変化、すぐわかるわよ。魔物の奇襲をかわしたときに、でしょ? カロラ: フェルディナもさ、なんだかんだアレだよなー。アレなのに、アレなもんだから、結局アレだけどさ フェルディナ: なんなのよ、アレばっかりで意味わかんないわよ。ま、どうせバカにしてるんでしょうけど カロラ: んなことねーって。つか、久々に屋敷でジャー姉ちゃんとかヴィル姉ちゃんとも会ったじゃん。どうだったんだよ フェルディナ: ……ひとことも会話してないわよ。ふたりとも、私のことなんて目に入ってないみたいだった。たぶん、どうでもいいのよ カロラ: そっかあ? まあ、シャルのことでバタバタしてたとは思うけど。あ、だからペローを早く追いかけようって言い出したのか フェルディナ: 急がなきゃいけなかったのは事実でしょ。誰かが行くなら私だろうとも思ったわ。でも……あの場の空気に耐えられなかったのも事実ね フェルディナ: 胸張って戻ろうって、そう思ったんだけどね。シャルがいてくれたから、前を向けた部分もあるのかな…… 323 - アレ カロラ: あたしはエイヴォンでちょっと話したりもしたけど、姉ちゃんたちはまだ昔のまま評価変わってないかもだしなぁ フェルディナ: そんなに昔の私ってダメだったの……? カロラ: だってみんなのこと、敵だと思ってたろ? いくら妹でも、家族にひどいことするんなら、あたしだって許さないし カロラ: だから、最初はあたしもおまえのことは排除しようと思ってた。他のみんなを守るために。おまえなんか、妹じゃないって フェルディナ: それって、私が暴走した頃のことよね。カロラ姉さんにまで、そんなふうに思われてたなんて……。ううん、当然よね。あのときの私、ディマイトの塊だったから…… カロラ: それがまあ、変わるもんだよな。やっぱ、アレのせい? フェルディナ: なっ……! わ、私は別に、人間さんのことなんて、どうだっていいのよ! ただ、シャルのこともあるし、いろいろ利害の一致とかあったし、それで カロラ: なんだよ。『アレ』だけで通じんじゃん フェルディナ: ……う、うるさいわね。それより捻挫、濡れタオル程度で治りそう? カロラ: へーき、へーき。休んでる場合でもないしな。それに……せっかくあたしの足首を犠牲にして手がかりもつかんだんだ フェルディナ: ペロー個人の目的なのか、天空神殿の意向なのかはわからないけど……送信装置は封印されていたわ。大して強い術式ではなかったけど カロラ: 元が遠隔操作するための装置だからな。いちいち封印を解きにいくなんてやってらんねーし、まあ、嫌がらせだよな カロラ: どういうつもりかしんねーけど、たぶん送信装置をたどれば追いつくはずだ。罠っぽい匂いがプンプンするけど、放置もできないもんな フェルディナ: そうよね。やっぱり罠よね。姉さんが嬉しそうに話すから錯覚しそうになってたけど カロラ: だってさ、敵の罠をばばーんと突破したらカッコいいだろ? 見せ場って感じするじゃん フェルディナ: 一緒に旅するパートナーとして、不安しか感じない発言どうもありがとう…… パラケルスス: くっ……まさに文字通り、根こそぎ持っていかれたというわけか…… シルフィード: 申し訳ありません、私たちが管理していながらこのようなことになるとは……どうお詫びしても足りないことは承知しています サラマンダー: シルフィードじゃないわ、私がいけなかったのよ。泳がされてるとも気付かないで、封印を解除できた気になって……! サラマンダー: 先生っ、私どんな罰でも…… パラケルスス: 必要ない。どうしてもというなら、封印の完全解除が遠のいた事実がきみたちへの罰になるだろうし シルフィード: 先生…… パラケルスス: きみたちの目論見は、確かに結果的に裏目に出てしまった。でもそれは、独断じゃない。ぼくの判断だ パラケルスス: まさか、この大賢者を相手に正面からケンカを売るとはね……。なりふり構っていられないというわけか……? サラマンダー: 私たちで責任をもって取り返すわ。アレを追いかけるのは簡単よ。この洞窟の外に持ち出せば、波動は隠しきれないはず パラケルスス: いや……それはまず、彼らにやってもらおう シルフィード: 彼らって、人間さんたちのことですか? パラケルスス: あのイミテーションが、次に何を仕掛けているか分かったものじゃない。万一のことがあってきみたちを失うわけにはいかないからね シルフィード: 捨て石、ですか パラケルスス: ひどいやつだと思うかい? でもね、ぼくは充分に義務を果たしているし、危機も確定していないんだから パラケルスス: それに、そもそも移動制限範囲を超えられたら、それ以上は追えなくなってしまうだろう? サラマンダー: 私は先生に従うわ。そもそも反論する立場でもないし シルフィード: 同じくです。ただ、探査能力と移動能力に劣りますから、ある程度のサポートは必要かと パラケルスス: もちろん。それに関しては、ぼくが同行する シルフィード: 先生自らが? それは危険すぎませんか パラケルスス: なに、彼らの道案内をするだけだよ。いざとなれば彼らを盾に逃げればいいんだし。ああ、それと……彼らに、盗み出した犯人の素性は伏せておいて。どこに罠があるとも分からないからね シンデレラ: えっ……? 盗まれた、ですって……!? ティンカー・ベル: このタイミングで? なんか、嘘くさくない? フアナ: いや、だったらこの場に姿を見せる必要はないはずだよ。あたしたちが盗んだことにしたっていい ヴェルメリオ: ……地面に何か跡がついてるね。魔法陣? パラケルスス: 転移魔法らしい。サラマンダーとシルフィードが到着したときに、賊の最後のひとりが転移魔法を使って逃げるところを目撃してる エミリー: 犯人を目撃したのぉ? サラマンダー: あ、えっと…… シルフィード: いいえ。事件当時は夜だったから周囲は暗かったし、後ろ姿だったから ヴェルメリオ: ……そっか。そうだよね…… パラケルスス: 正直、ぼくとしても憤慨してるんだ。なんせこの大賢者の最高傑作、代名詞とも呼ぶべき貴重な発明品を、堂々と盗み出されてしまったんだからね シンデレラ: ……犯人に心当たりはないの? パラケルスス: その性能はきみたちに話したとおり。シンプルが故に使い方は幅広い。正しく理解さえすれば、欲しがる相手は星の数ほどいるだろうね ヴェルメリオ: ……わたしたちで犯人を捕まえよう。このまま逃がしたら、シャルロッテは救えないんだから ティンカー・ベル: うん! ずきんのいうとおりだよ! そんな盗むような悪いやつはティンカたちでとっ捕まえて、ギッタンギッタンにしてやんなきゃ! シンデレラ: ヴェル…… パラケルスス: そう言ってくれると助かるよ。ぼくからもお願いしようと思っていたところでね。なんせ精霊たちは移動制限をかけられてるものだから エミリー: でもさぁ、手がかりもなしにどうやって犯人を捕まえればいいのぉ? サラマンダー: それなら心配いらないわ。例のアレからは、強烈な魔力の波動が定期的に発信されるの。先生が作った受信機が使えるはずよ シルフィード: 強い魔法には全部反応するけど、マーカーが紫になるほど強い波動はターゲットしかありえないから安心して フアナ: ふうん、なるほどね……ここが現在地なのかな? って、うわっ! ティンカー・ベル: なに、どしたの、フアナ! フアナ: すっごい強い反応が出てる! 紫色の……これって、え、ここ!? 324 - 大賢者とともに パラケルスス: ああ……それはたぶん、彼から出てる波動じゃないかな? ちょっと気持ちを落ち着けてくれる? ヴェルメリオ: ……もしかして、いま人間さんも盗んだ犯人を絶対に捕まえるって燃えてたから? フアナ: あ、ちょっと弱くなった…… シンデレラ: まあ、現在地ぴったりに波動があるなんて、人間さん以外に考えられないわよね……。でもややこしいから、探索のときは人間さんも冷静でいてちょうだい ティンカー・ベル: あはは、どんまい、どんまい。やる気があるのはいいことじゃーん。ていうか、やっぱそれだけ人間さんのエルマイトも強いってことなんだね エミリー: 確かに……。改めてこういう装置とかで見ると、すごいんだって再確認しちゃうよねぇ。それで、他に反応はあるのぉ? フアナ: ここから西にだいぶ行ったところに反応がある。たぶん、これだよね。遠いは遠いけど、思ったほどでもないね シンデレラ: そうね。転移魔法を使ったなんて聞いてたから、ちょっと覚悟してたんだけど、その割には近いわね ヴェルメリオ: ……急いで逃げたんだろうし、魔法も不完全だったんじゃない? シルフィード: これは……ディーテ大瀑布の向こう側、でしょうか ティンカー・ベル: だいばくふ? サラマンダー: ここからまっすぐ西に向かうと、ものすごく大きな滝があるの。そのあたりに犯人が隠れているんじゃないかしら ヴェルメリオ: ……急ごう。今度また転移魔法を使われたら大変だよ パラケルスス: そのとおりだね。じゃあシルフィード、サラマンダー、あとの調査は頼んだよ シンデレラ: え? あとは頼んだよって、まさか パラケルスス: ここからはぼくが道案内をしようじゃないか。何故かって、ぼくにも行動する合理的な理由が生まれたからだよ フアナ: 自分の傑作を盗まれたから…… パラケルスス: 絶対に取り返す。手段は選ばないよ シンデレラ: なかなか頼りがいのあるサポートがついたわね シンデレラ: それで結局、盗まれたその傑作って、どんな見た目なのよ ティンカー・ベル: あ、確かに。それがわかんないと取り返しようがないよね パラケルスス: なるほど。そうだね、現時点での形状は……七色に輝く花だよ シンデレラ: えっ、花……? パラケルスス: そう。もちろん茎があって、葉もついている。地面を掘り返した跡があったから、根から掘り出して運んでるようだね ティンカー・ベル: あ、いや、ごめん。花って聞くとちょっと、いろいろ考えちゃって ヴェルメリオ: ……わたしたちの仲間が、前に花になっちゃったことがあったの パラケルスス: へえ……? 花になる? ずいぶん変わった能力を持ってるんだね フアナ: 能力ってわけじゃないと思うんだ。本人も自覚はまったくなかったみたいだし。ただ、普段はエルマイトで戦ってるのに無理にディマイトを使ったりして、それで…… エミリー: あれは、しょうがなかったんだよ、フアナ。誰かのせいとかじゃないから パラケルスス: ……とても興味深い事象だね。ディマイトを主力として使ううちに、急に……ってことか。でも、バランスが崩れたくらいで普通は……いや、もしかして ヴェルメリオ: ……えっ、なに? パラケルスス: ああ、いや、ちょっと色々と考えが膨らんでしまってね。職業病みたいなものだよ。ところで、そのお仲間……今の言い方だと、この中にいるメンバーじゃないみたいだけど パラケルスス: ……ご存命、なのかな? シンデレラ: え……? エミリー: ……それってどういう ティンカー・ベル: あ、あったりまえじゃーん! 超元気だよ。元気すぎて困っちゃうくらい。ねっ? ちょっと今は別行動してるだけで パラケルスス: ならよかった。変なことを聞いてしまって悪かったね。とにかく、今回の私の傑作は、花びらが透明で、虹色に反射するから、見ればすぐにわかると思うよ ヴェルメリオ: ……う、うん。わかった ピュルテ: はぁ、はぁ……み、皆さん、無事ですか……? ドロシー: ええ、なんとかね。空中から地面に放り出されて、全身を打ったけど クレア: 同じく。岩でごつごつしてるし、すごく痛い…… リル: 神殿から森に来たときは、きちんと地面に立った状態で転移できたのに、どういうわけなんだ、これは デュプリ・ライブラ: おそらく魔力干渉が発生してしまってるんスね。その花を持ってるだけで、影響が大きすぎるんスよ…… ピュルテ: そんな強烈なディマイトアイテムなんですね ドロシー: 転移魔法にも干渉しちゃって、だから変な場所に出てきちゃったってわけ? クレア: ここ、どこなんだろ デュプリ・ライブラ: ここはおそらくディーテ大瀑布の反対側ッスね。ほら、滝の音、聞こえません? クレア: ほんとだ。どどどどど……って聞こえる。すごい リル: 待て。それほど影響するのだとしたら、こいつをどうやって神殿まで持ち帰ればいいんだ デュプリ・ライブラ: それなんスよね。しょうがないんで、魔法は使わないで徒歩移動でお願いするッス カカシ: 神殿に通じる物理的なルートがあります。少々距離はありますが、そこまでアイテムを守りきっていただければ ピュルテ: 守りきって……? そっか、追手がくる可能性があるんですね デュプリ・ライブラ: これ、地図を渡しておくッス。みなさんなら旅慣れてるし、案外さくっと着くんじゃないかと ドロシー: 軽く言ってくれるわね…… リル: む、地図を渡して後はよろしく、ということは…… デュプリ・ライブラ: はい。ボクもカカシも、お付き合いできるのはここまでッス。そろそろ戻らないと神官長様に怒られちゃうんで ピュルテ: えっ、そ、そうなんですか? でも、ううっ、そうですよね。いつまでも頼ってばかりというわけにはいきませんよね リル: ……相手はかなり脅威なんだろう? 追いつかれる可能性も、戦闘に突入する可能性も決して小さくないと思うが デュプリ・ライブラ: つまり? リル: 確実に運んでほしいのなら、相応のバックアップが必要じゃないかと言ってるんだ。まして、自分たちが撤退して高みの見物を決め込むならな 325 - 逃走ルート クレア: うわ、水の勢いがすごいね。こっちにまでしぶきが飛んできてる気がする リル: ふたりとも、行ってしまったな。ある程度『花』から距離を取れば転移魔法も使えるわけか…… ピュルテ: うん。デュプリ・ライブラさんも、カカシさんも、いっぱいお役目もあるだろうし、仕方ないよ リル: なに、もともとこの4人でなんとかするつもりだっただろう。それが、本来のミッションの形だからな ピュルテ: そうだよね! デュプリ・ライブラさんがこれも渡してくれたし リル: 小生が粘って、ようやくこれひとつだからな…… クレア: 魔法の宝珠だね。いざというときは、叩きつけて割れって言ってた ドロシー: つまり、それなりの力で割れる素材ってことだからね。うっかり、いざというときじゃないのに割っちゃわないように注意しましょう クレア: 割っちゃうとしたらドロシーじゃない? ドロシー: そ、そんなことないわよ! 人をなんだと思ってんのよ ピュルテ: あはは、みんなで気をつけましょうね ピュルテ: えーと、それで地図によると、こっちの道をずーっと道なりで大丈夫みたいですね リル: 滝に沿った道を通っていくことになるな。そして、やがて川となり、海に通じていく……。そこから船に乗るわけか ドロシー: 地図で見るだけでも、なかなか過酷な旅になりそうね。私としては、追手から逃げるのも性分じゃないから、迎え撃ってボコボコにしたほうが早い気がするけど リル: あのデュプリ・ライブラが迷わず撤退を決めたほどの相手だ。甘く見るべきじゃあないだろう ピュルテ: この目的地に何があるんだろうね。そこで追われてる私たちだけを、神殿に連れて行ってくれるんでしょ? リル: 各地にあるタワーのようなものじゃないか? あれも昇っていくと神殿の入口に通じていただろう ピュルテ: あ、そっか、タワーかぁ。ってことは、階段がすごそう…… クレア: 確かに。苦労して到着するのに、辛いね ドロシー: ピュルテったら今から階段の心配してるわけ? ま、見えない追手におびえるより、よっぽどいいと思うけど クレア: この滝の上は、どうなってるんだろ リル: 不思議な場所だな。上を見上げても、落ちてくる水流以外に何も見えない。水しぶきの量が多すぎるんだろう ドロシー: 確かにそうね。滝ってことは、落ちてくる前の水の流れがあるはずだけど ピュルテ: ここだけ見ると、大雨だって言われてもわからないですよね ドロシー: 逆に、下の方もまったく見えないし。でも近くに海があるってことは、きっとそこに流れ込んでるのよね ピュルテ: ……この水…… リル: どうした、ピュルテ。まさか、もう追手か ピュルテ: ううん、そうじゃなくて。この滝の水から、ディマイトを感じる気がするの ドロシー: 水から? クレア、飲んじゃだめよ クレア: ドロシーこそ、私のことをなんだと思ってるの。滝の水なんか、いきなり飲んだりしないよ ピュルテ: あ、でも……もし飲んでしまっても、そんなに体に大きな影響があるほどの濃度じゃないと思いますよ ドロシー: だとしても、不気味な話ね。普通、川の水なんかには何も含まれていないはずなのに…… (………………………。) エミリー: へぇ……水にディマイトが含まれてるんだぁ……。クレアがいたら危なかったね。飲んじゃってたかも パラケルスス: 人体にすぐさま影響が出るほどではないよ。なんでもない水と入り混じって落ちてくるからね シンデレラ: これがディーテ大瀑布……圧倒される風景ね。ただひたすら、大量の水が落ちているだけなのに ヴェルメリオ: ……森を少し抜けたら、こんな場所になってたんだね パラケルスス: 普通の人にとって、悪魔の森は気が滅入る場所らしいからね。ただ、鬱屈と木々が生い茂ってるだけなのは不人気らしい。ぼくは気に入ってるんだけど ティンカー・ベル: まあ人間さんからすれば、ぶっ倒れちゃった場所でもあるし、あんまりいい思い出はないよね パラケルスス: ひたすら落ちてくる水が岩を叩いている光景が快適かっていうと、ぼくには何とも言えないんだけどねぇ フアナ: でも、どうしてディマイトが含まれてるの? パラケルスス: いい質問だ。何故ならここは……『世界の排水口』だからだよ フアナ: 世界の、は、排水口? ヴェルメリオ: ……それって、お台所に残ったスープとか、お皿洗った水を流したりするときの、あの排水口のことであってる? パラケルスス: そのとおり。いい例えだね、そこのずきんのきみ ヴェルメリオ: ……ヴェルって呼んで パラケルスス: つまり、キッチンはきれいにするだろう? 料理をしたら汚れるし、食後の皿を洗っても汚れは出る。それを水で洗い流して、水と一緒に汚れはどこに行く? ティンカー・ベル: え、いや、待って。ティンカたちの住んでる国ってさ、たぶん位置的に『上』にあるよね? あんだけアンダーフォールの長い下り坂を通ってきたんだし エミリー: そうだよねぇ。じゃあ、ここの水はみんなの住んでる国から落ちてきた水……ってこと? シンデレラ: そんな……ちょっと禍々しい雰囲気はあるけど、でも、すごくきれいな場所なのに。それが、排水口だなんて パラケルスス: あれ、いい例えだと思ったけど適切じゃなかったかな。キッチンの汚れと違って、ディマイトは汚い、忌むべきものってわけじゃないからね パラケルスス: ただ、『上』の世界じゃ、エルマイトが正しくてディマイトは悪いものだと思われてるんだよね。だから、これは必然だよ パラケルスス: 生きている以上、ディマイトは必ず生まれる。共存を許容できないなら、まとめてどこかへ排除するしかないからね フアナ: あたしは別に、ディマイトを極端に避けてきたつもりはないけど、それでも……この眼の前の風景がおかしいことくらいはわかるよ フアナ: こんなに美しい自然があって、きっと誰かが住んでいて、そんな場所に大量のディマイトをこうして垂れ流すことが正しいはずがない…… エミリー: 悪魔の森が、人間さんが倒れちゃうほどディマイトが濃い理由って、そういうこと……? パラケルスス: さて……受信機の信号だと、この滝を挟んだ向かい側の地点に敵はいるようだけど、さすがのぼくも自然には逆らえない。滝を突っ切るのは無理だ ティンカー・ベル: んじゃ、回り道するしかないってわけ? かったるいけど、しょうがないね シンデレラ: 幸い、向こうも動きが鈍いようね。あまり大きく移動していないようだし、焦らずじっくり追い詰めるわよ フアナ: たぶん、敵はまだ追われていることにも気付いていないだろうし 326 - 幸福のバランス ティンカー・ベル: ……すごいなぁ、これ…… エミリー: ティンカ、どしたの? ティンカー・ベル: あ、エミリー……や、ちょっと滝をね。なんか見とれちゃってた エミリー: うっかり落ちちゃわないでよ? 上もすごい高いところから降ってきてるけど、下も全然見えないんだから ティンカー・ベル: ティンカに限って、それはないでしょ。一応、飛べるんだから エミリー: それもそっか。ティンカが妖精だってこと、すっかり忘れてたよぉ ティンカー・ベル: いや、最大の特徴でしょ。普通、忘れないからね? エミリーがグリム家っていうのと同じレベルだよ エミリー: そんなに普段、エミリーがグリムだって意識してる? ティンカー・ベル: や……してないわ エミリー: ほらぁ ティンカー・ベル: そんなもんか エミリー: なんかさぁ、ディマイトが入ってるって聞いても、やっぱりこうして水が落ちてきてる光景って、エミリーは惹きつけられちゃうし、癒やされるんだよねぇ ティンカー・ベル: でもさ、フクザツだったりもするよね…… ティンカー・ベル: ティンカたちの世界がなんだかんだ平和なのってさ、こうやって下にディマイト全部ぽいってしちゃってたからかなって、そう思ったらさ エミリー: 世界はプラマイゼロなんだっていう理論、ときどきあるでしょ? ティンカー・ベル: いや、知らんけど エミリー: 誰かが10幸せだったら、他の誰かが10不幸ってやつ ティンカー・ベル: あー……うん、なんかわかる エミリー: あれ、嘘だと思うんだよね。だって例えば、エミリーはティンカが幸せそうにしてると、エミリーも幸せな気持ちになるの。その途中で、誰か不幸になる余地あるのかなぁって エミリー: 結局それって、物質的な幸せのことしか考えてないじゃん。幸せって心と心がぶつかることで生まれることもいっぱいあるのに ティンカー・ベル: 頭いいふりするなっ エミリー: あたっ!? でこぴん、ひどいよぅ ティンカー・ベル: ……でも、ちょっと言いたいことはわかったかも。そうだよね、ティンカの考えすぎだよね エミリー: ティンカは意外と繊細だもんねぇ。エミリーなんか、あんまり気にしないタイプなんだけど ティンカー・ベル: 意外とってなんだ! シンデレラ: あら、人間さん。もう寝るの? そうね、明日からはこんなふうに都合のいい洞窟が見つかるかもわからないし、雨露がしのげる場所で寝られるうちにゆっくり休んだほうがいいわね シンデレラ: ……私も、寝酒をちょっといただいたら休むわ。ただちょっと、こうして夜にひとりになると色々考えちゃって シンデレラ: いかに自分が狭い世界にいたのか、思い知らされるでしょう? 結局、過去の自分の決断も正しかったのか……迷いが生まれちゃうの シンデレラ: そこへいくとヴェルはいま、すごく真っ直ぐよね。あなたの支えになることだけを考えて…… シンデレラ: あなたが救いたいっていうから、だからシャルロッテのことも嫉妬も何も考えないで全力で……ちょっとうらやましくなっちゃう シンデレラ: 嫌味じゃないのよ? 本当に、そうやってまっすぐでいられたら……ううん、そうあるべきなんだなぁって、思っちゃうのよ シンデレラ: ええ、あなたの言うとおり、社会的立場っていうのはあるけどね。私は、これでもやっぱりプリンセスなわけだから シンデレラ: 重荷は半分こ? どういうこと? シンデレラ: あ……そっか、そうだったわね。なんだかずっと慌ただしくて、忘れてたわ。あなたは、私の王配だったわね シンデレラ: ……もう、いいのよ? この『下』の世界じゃ、私の国のことだってきっと、誰も知らないかもしれないし。やめてしまったほうが…… シンデレラ: 夫婦らしいこと、って……。やだ、もう、バカね。でも、あなたが望むなら、私はそれでも…… (背景切換...) エミリー: ところでさぁ、ティンカ。花のこと、どう思った? ティンカー・ベル: 盗まれたのも花って話? いや、さすがにピュルテのこととは関係ないでしょ。ただの偶然なんじゃないの? エミリー: そうだとは思うんだけどさ ティンカー・ベル: ピュルテは花の妖精だから、花になった。それだけのことだよ エミリー: 花の妖精なんだっけ ティンカー・ベル: それも忘れてたんかい! エミリー: 記憶力には限りがあるんだよぅ? 新しいこと覚えたら、古いことは忘れちゃうの。しょうがないよねぇ ピュルテ: あ……毛布 リル: 水が近いからな。夜になると少し冷える ピュルテ: うん、ありがとう。リルちゃんも寒いよ? いっしょに入ろ? リル: ……そうだな。じゃあ、失礼させてもらうか リル: ……こうしてふたりで毛布にくるまっていると、思い出さないか ピュルテ: あっ、タローネの洞窟! あったね、懐かしい~。ふたりで冒険に行こうってどんどん奥まで入っちゃって リル: 小生は冷静だったんだぞ。うかつに戻るより、夜明けまで奥で過ごしたほうが安全だって ピュルテ: そしたら戻ってこないってお城で大騒ぎになっちゃったんだよね。テルツォさんが先頭に立って、探索隊を出しちゃって リル: 殿下は心配しすぎなんだ。まあ、迷惑をかけたのは事実だけどな。それで結局、城に戻ったあとはみっちりお説教だ リル: ピュルテも戻った後、だいぶ怒られたんじゃないのか? ピュルテ: えー、どうだったかなぁ? リルちゃんと探検したことはすごく覚えてるのに、他のことは覚えてないや リル: ずいぶん都合がいい記憶だな、まったく リル: それで? また何か悩んでるんだろ。小生はあの頃から変わらずそばにいるのに、ピュルテはすぐにひとりで抱え込もうとする ピュルテ: ……悩みじゃないよ。ちょっと気になってるだけ ピュルテ: あのお花、転移魔法も使えなくなっちゃうくらい強いでしょ。敵は、それをどう使うつもりだったんだろうって リル: 正直、魔力が強いこと以外は、どんな機能があるのかは分かっていないからな ピュルテ: 無事に持ってこれたけど、これも敵の罠なんじゃないか、なんて考えてるの リル: ……可能性がないわけではないが ピュルテ: あの洞窟に入るまで、お花のことは気付かなかったの。でもいまは、ちょっと離れていても気配を背中ですごく感じてる…… ピュルテ: たぶんあの洞窟は結界だった。場所を敵に察知されないための……。私たちは結界から強力なアイテムを持ち出しちゃったんだよね リル: 万一があれば大事故になるかもしれない、か……。不安はわかる。何かの思惑が働いている可能性もある。でも リル: ピュルテが神経をすり減らしても、解決する問題じゃない。こういうときは、なるようになる。流れに身を任せてもいいんだ ピュルテ: そう、なのかな……。うん、あまり考えすぎても良くないよね リル: ああ。小生を誰だと思ってるんだ。オトギノクニきっての策略家だぞ ピュルテ: うん……ありがと…… リル: 確かに……神殿の意図もさることながら、持ち主の素姓や意図するところは気になるな…… リル: なにより、ピュルテのいう気配……ん? リル: 強力な気配……。ピュルテが感じられるなら、他の方法でも探知できる可能性も……? まさか、小生たちは追跡されているのでは……!? 327 - 追跡劇 ヴェルメリオ: ……みんな、足元に気をつけてね ティンカー・ベル: こんな朝早くから移動しないと、追いつけなさそうなの? シンデレラ: 向こうもそれほどペースは早くないけど、移動を続けているわ。どこかでペースを上げないと、このまま逃げられてしまうかも フアナ: でも、向こうはまだこっちに気付いている感じではなさそうなんだよね エミリー: レーダーで見てるだけだからねぇ。本当のところはわかんないけど シンデレラ: 距離さえ詰めれば、あとは一気に攻撃を仕掛けるだけよ。おそらくだけど、それほど大所帯じゃないだろうし フアナ: だろうね。パラケルススの精霊たちが警戒してたみたいだし、何十人もいたら目立ってすぐに見つかったはず ティンカー・ベル: もともとこっそり盗もうって作戦なんだし、多くても10人くらいかな ヴェルメリオ: ……この大瀑布のあたりを抜けたら、その後ってどうなってるんだっけ。海に出るって言ってた? パラケルスス: そうだね。この滝の水は川になって、やがて海に流れ込むからね シンデレラ: なんとか海に出る前に捕まえたいわね。広い海に出られたら追跡は難しいわ ティンカー・ベル: その先ってどうなってんの? ティンカたちみんな、このあたりの地形とか知らないんだよね パラケルスス: この先の海は『黎い海』と呼ばれる、大海原が広がってる。おそらく、相手の目的地は、海を超えた先にある『黒鉄の国』じゃないかな ティンカー・ベル: なんかクロクロしてて、頭に入ってこなかったぞ シンデレラ: 『黒鉄の国』……聞いたこともないわね パラケルスス: この下層にあって、かろうじて国家らしき形を保っている、文明的な場所だよ。そこは人も多いし、紛れやすい フアナ: そこにたどり着くまでになんとか、『花』は取り戻したいところだね ヴェルメリオ: ……ねえ、パラケルスス。その、花のことなんだけど ヴェルメリオ: ……もしかして、それを使えばGR2をコントロールすることができるの? パラケルスス: なんだって? グランド・リヴィジョンのことを言ってるのかい、それは ヴェルメリオ: ……グランド・リヴィジョンはコントロールできるのかもしれない、っていう話を聞いたの。簡単じゃないけど、パラケルススくらいの大賢者ならできるかも、とも聞いた フアナ: ああ、そうなんだよ。かつて、無効化しようという試みもあったらしいんだ。パラケルススほどの大賢者ならって パラケルスス: 成り行きで、ぼくにそんなことまで頼もうっていうの? シンデレラ: 今すぐそれをやってほしいって話じゃないのよ。ただ、可能性についてまず聞いておきたいだけで ヴェルメリオ: ……追いかけてる花って、すごいんでしょ。もしかして、コントロールに使えるんじゃないかと思って パラケルスス: やれやれ。実にカンがいいね、ずきんちゃん ヴェルメリオ: ……そう呼ぶのはティンカだけだから パラケルスス: 術式を適正に操作するための要素は、めちゃくちゃ大雑把に言うと2つある。術者の知識と、力だ フアナ: 大賢者なら知識は申し分ない。となると、力は花を使えばいいってことか。エルマイトを圧縮できるんだもんね パラケルスス: あの賢者の石は大抵のことは可能にできるシロモノだからね。無から何かを生み出す、それこそ人体錬成なんて禁忌も可能になるだろうね ティンカー・ベル: ん? 待って、石って言った? いまティンカたちは花の話をしてるんだけど パラケルスス: 姿かたちなんて、物事の本質じゃないんだって エミリー: ってことは、それを盗まれてるこの状況って、本当にめちゃくちゃヤバいってことだよねぇ パラケルスス: そう伝えてきたつもりだったんだけど? フアナ: 賢者の石、か……。そんな大それたアイテム、パラケルススくらいしか作れないだろうし、盗む動機は誰にでもあるって感じなのかな パラケルスス: まあねえ。ぼく以外っていうと、ライブラくらいかな。そもそも、アレがある時点で……っと、話がそれるとこだったね。結論はつまり、コントロールは可能ってこと ヴェルメリオ: ……協力、お願いできないかな。なんでもするから ティンカー・ベル: ずきん…… パラケルスス: ま、条件次第だね。まずは賢者の石を取り返さないと パラケルスス: で、可能かどうかは別にして……グランド・リヴィジョンをコントロールしたいの? なにかメリットがあるのかな ヴェルメリオ: ……オトギノクニに、必要なことだと思う。エルマイトとディマイトのバランスが取れるようになるはずだから フアナ: ヴェル……すごいな。あのパラケルススあてに、怖がる素振りもなく、ちゃんと言い切って話してる ヴェルメリオ: ……天空神殿に対抗できる方法なの。いまのところ、他に対抗できそうなことが見つかってない パラケルスス: 本当に対抗できる? なんでそう思うのかな ヴェルメリオ: ……コミッティが本気で計画してたから。すごく規模も大きかった。根拠もなにか行動するような人たちじゃない。そうでしょ? パラケルスス: なるほど。でもコントロールする必要性は? ヴェルメリオ: ……一番の理由は、わたしが人間さんとの過ごしてきた時間を失くしたくないから パラケルスス: 極めて個人的だ エミリー: でも、いろんな駆け引きとか争いって、ぎゅーって圧縮していったら、最後は個人的な感情じゃないかなぁ? ティンカー・ベル: たとえばさ、パラケルススだってサラマンダーとシルフィードと仲良くしてたじゃん。ふたりとの時間が失くなっちゃったら悲しいでしょ? パラケルスス: ふたりとも、グランド・リヴィジョン前から面識があるんだけどね ティンカー・ベル: 面識はあっても、交わした会話とか過ごした時間って、代えがきかなくない? シンデレラ: それに、いまはGR2をやるか、やらないか、2択でしかないわ。でもコントロールできるなら、適度な妥協点に着地できる可能性もあると思う シンデレラ: 何も、天空神殿と全面戦争をする必要はないわ。交渉で解決を目指すためには、コントロールできないと武器にはならないでしょう パラケルスス: なるほど。納得性と共感性、それなりに兼ね備えているわけか フアナ: にしても、ヴェルがあんなにいろいろ考えてたなんて、知らなかったよ ヴェルメリオ: ……ううん。わたしはただ、人間さんとのこと、大切にしたかっただけ エミリー: ねえ、みんな。なんか地面が揺れてない……? フアナ: これは、地響き!? 向こうから、なにか来て……あ、あれは! パラケルスス: ふん、ゴーレムとはね。小賢しいアイテムを使ってくるなあ 328 - 献身 デュプリ・ライブラ: 結局、パラケルススのところにはサラマンダーとシルフィードのふたりがいたッス。なんとかかわして、賢者の石を持ち出すことはできたんスけど…… レグルス: ……っ、肝心なときに邪魔をする、というわけですね。何のためにまとめて精霊に…… レグルス: とにかく、状況は分かりました。なんとしてもピュルテたちを神殿に導くように デュプリ・ライブラ: 一応ちゃんとアイテムも渡したんで、大丈夫だとおもうッス。それより神官長、顔色が良くないみたいッス レグルス: ……そうですね。ここのところストレスもかなり感じていましたし、疲れが顔に出ているのかもしれません デュプリ・ライブラ: そうだ! ボク、元気が出るレシピを知ってるんで、すっごく美味しいごはん作るッス。美味しいものを食べると、元気が出るって言いますし デュプリ・ライブラ: それと、悩みは誰かに聞いてもらうだけでも楽になるって話ッス。ボクでよかったら、神官長のお悩み聞いちゃうッス! レグルス: ……はあ。結構です。そんなことより、自分の任務をきちんとまっとうしてください レグルス: ワタシはもう休みます。賢者の石もですが、それぞれの情報収集も怠らないように。いいですね。では デュプリ・ライブラ: 神官長…… (背景切換...) (…………………。) レグルス: ライブラ……。大丈夫です、安心してください。ワタシはあなたとの役割は必ず守ります レグルス: ワタシはあなたが遺してくれたこの世界を、必ず守ってみせます。ええ、必ずです レグルス: でも……たまに、辛くなってしまいます。あなたに会えたら、そばにいてくれたら、どんなにいいか……。こうして、あなたを描いた絵に話しかけるだけでは、ワタシはもう…… レグルス: ワタシは、うまくやれているのでしょうか。ライブラが、みんなが遺してくれた世界を、守るために……なんでもしてきたけど…… レグルス: ライブラ……会いたいです……! ライブラ……っ、ワタシのそばに、いてほしい……。ライブラ…… デュプリ・ライブラ: うん! これは美味しい!! デュプリ・ライブラ: ちょっと立ち寄った町で1回食べただけで、ここまで再現できるなんて……ボクは自分の才能が怖いッスよ! おかわりしちゃおっかな。神官長の分、余ってるし デュプリ・ライブラ: あ、でも明日くらいなら傷まないだろうし、温め直して食べられるかな。神官長の気が変わって食べたくなるかもしれないッスからね ペロー: おや、これはこれは、デュプリさん。おひとりですか? デュプリ・ライブラ: うん。神官長と一緒に食べてもらうつもりだったんだけど……気分が良くないみたいッス デュプリ・ライブラ: あ、よかったらペローも食べてほしいッス。かなりの自信作なんで ペロー: そうですか。せっかくのお誘いですし、ではいただきましょうか ペロー: それにしてもデュプリさんは、健気ですねぇ。報われないでしょう、あの神官長に仕えていても デュプリ・ライブラ: なに言ってんスか。ボクは神官長のお世話ができるだけで充分で…… ペロー: なら、何故泣いているんです デュプリ・ライブラ: え? あっ、こ、これ……なんで…… ペロー: ここには私しかいませんよ デュプリ・ライブラ: ボクは……っ、ただ、孤独っていうか……それが辛いだけなんスよ……。神官長がどうとかじゃなくて……。やっぱり5人に分かれておけばよかったのかもしれないッス…… ペロー: 5人? なんのことです デュプリ・ライブラ: 前に、ボクがこの姿でいたとき、神官長に言われたんスよ。精霊を5部門に分けて管轄するから、ボクも5つに魂を分割するって ペロー: 魂を、分割……? そんなことがあり得るんですか。いえ、疑っているわけではありませんが デュプリ・ライブラ: 難しいことはわかんないッスけど、特別なことだったとは思うッス。神官長もそんなこと言ってましたし ペロー: じゃあ、もとはひとりだったのを5人に分割して、でもまたひとりに統合したということですか デュプリ・ライブラ: そうッスね。いろいろ情勢も不安定になったんで、戦力としてひとりの方が強いからっていうんで ペロー: やれやれ……ずいぶん身勝手な話じゃないですか デュプリ・ライブラ: そんなことないッスよ! 神官長だって、それはやむを得ない事情があったからッスよ! ペロー: そこまでされても庇うんですか。本当に健気ですねぇ ペロー: 技術的な部分は少々驚きというか……そう簡単に、魂を分割したり結合したり、できるものではないでしょう デュプリ・ライブラ: ボクは特別みたいッス。神官長が言ってました。お前じゃなかったら、こうはいかないって。たぶん、信頼してくれてるんスね ペロー: はあ……そうかもしれませんねぇ…… デュプリ・ライブラ: それより、ここにいて大丈夫なんスか? こっちは賢者の石を運ぶので手一杯なんで、フォローできないッスよ ペロー: ええ、大丈夫。ちゃんと手は打ってあります。GR2は当分、発動できません。と言っても、鍵をかけただけですから、存在が消えたわけではありませんが ペロー: 時間と技術と根気さえあれば、原状復帰は不可能ではありませんから、その点はご留意くださいね デュプリ・ライブラ: ペローがいれば、対抗できるんスよね? ペロー: ええ……もちろんです。それより、賢者の石って……もしかして、あの大賢者パラケルススの? デュプリ・ライブラ: そうッス。すっごいアイテムだって聞いてるッス ペロー: 手に入れて、それをどう使うかまでは……デュプリさんは、聞かされていないんですよね? デュプリ・ライブラ: 使うというよりは、奪っておくって感じかと思ってんスけどね。ほっといたら相手の戦力になっちゃうかもしれませんし ペロー: 戦力って……パラケルススはここまで、我関せずのスタンスだったと思いますが。いきなり戦いを仕掛けてくる素振りでもあったんですか デュプリ・ライブラ: わかんないッス。でも神官長が、そんな感じで言ってたので。使いこなせなくても、最悪壊せば相手への妨害にはなりますからね ペロー: ……賢者の石、ね……。到着を楽しみに待つとしましょうか デュプリ・ライブラ: そッスね! 神官長もきっと喜んでくれるでしょうし 329 - 石人形の襲撃 ティンカー・ベル: ふぃ~! なんとかまいたけどさぁ、あれヤバくない!? エミリー: ゴーレムだからねぇ。パワーとかすごかったよねぇ ヴェルメリオ: ……あんなのが4体も出てくるなんて、危なすぎる フアナ: でも、あまり目が良くないみたいだね。何度もこっちの姿を見失ってたみたいだった シンデレラ: そのおかげで、こうして逃げられたわけだけど エミリー: ゴーレムってどういう特徴だったか覚えてないんだけど、そういうものなんだっけ? フアナ: あたしも詳しくないけど、そうなんじゃない? とにかく、見つからないように隠れながら進もう ティンカー・ベル: ちょっと遅くなるけど、あんなのと正面からやり合うわけにはいかないもんね ヴェルメリオ: ……わたしだけじゃないんだね。ちょっと安心した エミリー: ん? なにがぁ? ヴェルメリオ: ……ゴーレムのこと、よく知らないのってわたしだけなのかと思ってたから。わたし、世間知らずだし フアナ: そんなに引け目に感じなくていいと思うよ。ヴェルだって、いっぱい勉強したんでしょ? ヴェルメリオ: ……ありがとう、フアナ。やっぱりちょっと気になっちゃって シンデレラ: そうね。知識は武器だというけれど、正直言って私も足りてないと思うわ。ろくな教育も受けずにプリンセスなんかになっちゃったし ティンカー・ベル: そだね。それはティンカも同じだよ。オトギノクニとか、天空神殿のことなんかも、全然わかってなかったし シンデレラ: それこそ、コミッティだったパラケルススなら詳しいんじゃないの パラケルスス: え、ぼく? まあ、大賢者を名乗ってるからには、知識で誰かに負けるわけにはいかないけど ティンカー・ベル: 後輩のコミッティメンバーが、頼りにならないからさぁ フアナ: うっ……面目ない…… エミリー: エミリーも、真面目にがんばらなかったからねぇ パラケルスス: なるほどね。まあ、天空神殿のことで言えばアレかな。神殿っていうけど、あそこに神なんて存在しない、ってこととか ティンカー・ベル: あ……それはティンカ、前から気になってたんだよね。神様っていうか、お祈りする場所がないなーって ヴェルメリオ: ……言われてみれば、そうかも シンデレラ: じゃあ……どうして神殿なんて作ったのかしら パラケルスス: あれはただの、正当性の主張なんだ フアナ: 正当性……? パラケルスス: かつて『星の革命軍』というレジスタンス組織が存在した。そのメンバーだったのが、稀代の錬金術師と呼ばれたライブラだったんだ ヴェルメリオ: ……パラケルススと同じ錬金術師……え、まって、ライブラ? パラケルスス: そう。そのライブラがグランド・リヴィジョンを編み出したところで、オトギノクニは劇的に変化してしまったんだ パラケルスス: きみたちも知ってるのかな? かつては個人それぞれにエネルギーは供給されていた。それが、天空神殿の一括管理になって、均一に分配されるようになったんだ シンデレラ: そのレジスタンス組織が、天空神殿ってこと……!? パラケルスス: グランド・リヴィジョンは、確かに誰かを救った。でも、誰かの利益を損ねたのも事実だ。革命軍なんてものに社会正義を見出す人は、ごく一部だっただろうし…… エミリー: 見栄えが悪かったんだろうねぇ ティンカー・ベル: え、じゃあ、神様のすることならしょうがない、ってみんなが思ってくれるかなって思って、それで神殿って名乗ったわけ? シンデレラ: 以前から気になっていたけど、本当に胡散臭いところなのね フアナ: ねえ、ライブラが稀代の錬金術師って、それ本当に? レグルスじゃないの? パラケルスス: ふん、くだらない。レグルスには、何もできやしないよ。あれはただ、ライブラの影を1ミリの差もなく踏んで辿っているだけ ヴェルメリオ: ……レグルス神官長がすごいんだと思ってた シンデレラ: でも意外ね。見た目や口調からは、わりとポンコツっぽい印象だったのに ティンカー・ベル: 見かけによらないってやつ? パラケルスス: ん? ああ……もしかして、きみたちが言っているのはデュプリのほうのライブラかな。だとしたら違うよ、あれは偉大なライブラを模しただけ パラケルスス: 出来損ないのイミテーションだよ (背景切換...) フェルディナ: どうせ出来損ないだって言われるのよ カロラ: おまえ、ほんっとネガティブだな フェルディナ: 私だって、姉さんたちに比べたら自分が及ばないところがあるくらい、自覚してるのよ。だからって、そんな言い方あんまりだと思わない? カロラ: え、なに、実際に言われたのかよ。そういうの本人に直接言うなって注意してんのになぁ フェルディナ: ……ってことは、裏では言ってるわけね。カロラ姉さんも カロラ: いや、あたしは……って、もう、そういう言葉尻つかまえんのがめんどくせーんだってば カロラ: それにさ、昔の話じゃん。あたしのおまえの評価が変わってるんだから、姉ちゃんたちだって……な? フェルディナ: 成果もなしに手ぶらで帰ってきたのに? カロラ: 成果ならゼロじゃないだろ。天空神殿特有の転移魔法の痕跡を見つけて、ペローが神殿側にいることは確定させたし フェルディナ: それだけじゃない。大丈夫かしら…… フェルディナ: ………… フェルディナ: ごめんね、シャル……。また助けてあげられない、だめなお姉ちゃんで……。でも、必ず助けるから…… ジャコヴァ: 手ぶらで帰ってきたそうだな カロラ: ね、姉ちゃん! 違うんだって、手ぶらじゃないんだって ヴィルヘルミナ: なら何が成果なの? 話してみなさい フェルディナ: 叱責するときでさえ、カロラ姉さんのことだけ……私のことは見ようともしない……。まるで存在していないみたいに……! (………………………。) カロラ: ってわけで、ペローは天空神殿サイドにいるってことで間違いないんだ ジャコヴァ: バカバカしい。そんなこと、頭を使えばサルでも分かる カロラ: 推測じゃなくて限りなく事実に近づいたわけだろ。しかも、GR2のための送信装置を封印してあったんだ ジャコヴァ: それがなんだ? ヴィルヘルミナ: ……! アイソーポスもしくはレグルスとの交渉に使える可能性があるわけね カロラ: そういうこと! ジャコヴァ: ……うん、なるほど ヴィルヘルミナ: 封印の事実は、アイソーポスの神殿側への離反を防げるわね。もしペローの独断なら、レグルスを揺さぶる材料になるかもしれないし ジャコヴァ: ああ……。その程度のことで成果をうたうな ジャコヴァ: それよりもだ。情報が入った。おまえたちには行ってもらいたい場所がある カロラ: 戻ってきたばっかなのに、人使いが荒いな、マジで。んで、どこよ ジャコヴァ: 怨棄諸島だ 330 - 小さな叛乱 カロラ: 何だそこ。聞いたことねーんだけど、何があんの? ヴィルヘルミナ: パラケルススから連絡があったの。どうやら人間さんたちは彼女に会えたみたいなんだけど、そのタイミングで貴重なアイテムが盗まれたそうよ フェルディナ: 人間さんたちは無事なのね……! ヴィルヘルミナ: タイミングが良すぎるから、私たちのせいで盗まれたんじゃないか……なんて言いがかりをつけてきて、取り返す協力をするように言われてるの カロラ: マジで言いがかりだろ、そんなん! 知るかよ! つーか、連絡取れたんなら、わざわざあいつらが旅する必要あったのか? ジャコヴァ: 一方通行だ。こっちから連絡を取る手段はない ヴィルヘルミナ: どのみちシャルの弾丸を直接見てもらわないことには始まらなかったでしょう? カロラ: え? で、まさか、あたしらに取り返してこいって言ってんのか ヴィルヘルミナ: その、まさかよ。仕方ないわ、盗まれたアイテムこそが、シャル復活のためのカギだっていうんだから フェルディナ: そのアイテムがあれば、シャルが復活できるのね! なら、行くしかないじゃない カロラ: しゃあねえなぁ…… ヴィルヘルミナ: アンダーフォールから追いかける時間の猶予はないわ。パラケルススが言うには黎い海に向かっているらしいから、もうひとつの『穴』から落ちてもらうことになるわね ジャコヴァ: 頼めるか、カロラ フェルディナ: ……っ!? カロラ: ま、可愛い妹のためなら、行く以外の選択肢はねーけど…… フェルディナ: なんで無視するのよ!! カロラ: うおっ!? なんでいきなりキレてんだよ! フェルディナ: なんで……ジャコヴァ姉さんも、ヴィル姉さんも、私のことを無視するの!? ここにいるのに、顔も見ようとしない! 話を聞こうともしない! フェルディナ: 私、ここにいるんだから! あなたたちにとって、どんなに出来損ないでも! ここに存在してるの!! ジャコヴァ: 別に、無視したつもりもないが フェルディナ: してるわよ。簡単なことじゃない。頼めるか、って言ったときに私の名前も付け加えてくれればいい、それだけなのよ ジャコヴァ: ああ。カロラは強制だが、おまえは自由だから フェルディナ: はあ? 何よ、自由って ジャコヴァ: 行きたいなら止めないし、行きたくないならそれも別に止めない フェルディナ: それが無視してるってことでしょ! いい加減にしなさいよ! カロラ: や、やめろ、フェルディナ。ジャー姉ちゃんの襟首ひっつかむとか正気か!? ヴィルヘルミナ: まったくもう……なんてことするの、この子は ジャコヴァ: 離せ フェルディナ: え、あ…… フェルディナ: ど、どどどどうしよう!? 勢いで、私ってばとんでもないことしちゃってない……!? ジャコヴァ姉さんにケンカ売るなんて……! ジャコヴァ: 離せ フェルディナ: あっ、はい ヴィルヘルミナ: 本当にあなた、何も学んでないのね。いろいろ旅して少しはマシになったかと思ったのに、相変わらずだわ フェルディナ: ……相変わらず、出来損ないってことね ヴィルヘルミナ: そうね。出来が良かった試しがないでしょ フェルディナ: くっ…… ヴィルヘルミナ: もうちょっと頭を使って立ち回ってちょうだい。見ていて痛々しいし恥ずかしいのよ。もう少し、私の妹だっていう自覚を持ってほしいわ カロラ: へえ……♪ ジャコヴァ: ひとつ聞くが、フェルディナ。おまえが怨棄諸島に行こうが行くまいが本当にどっちでもいいんだが、おまえは何のために行動してるんだ フェルディナ: 何のためにって、そんなのシャルを救うために決まってるでしょ ジャコヴァ: 本当か? フェルディナ: 他に何があるのよ! ジャコヴァ: なら自由にしていい。さっきのお前の態度には承認欲求が感じられた。もしそういう気持ちがあるなら、それは今回の作戦において不純物だ。判断を鈍らせる要素にしかならない ジャコヴァ: 不純物なら、取り除くまでだが? フェルディナ: ……っ!? カロラ: まあまあ、待てって。いきなりキレたフェルディナも悪いけど、姉ちゃんたちが冷たいから、こうやってひん曲がっちまうんだって。悪循環つーかさ ジャコヴァ: 私が悪いということか カロラ: うぐっ……変な圧かけんなよ。まあ、フェルディナのことはあたしに任せてくれ。あたしの判断で連れてくから クレア: ピュルテ、周りの気配とか、どう? だいじょうぶ? ピュルテ: ええ。いまのところ近くに強いエルマイトやディマイトは感じられません。と言っても、追手がそんな気配を出しているかどうかも分かりませんが…… ドロシー: あくまでも保険よ。ピュルテにすべて頼りきりにするつもりはないわ リル: 小生やドロシー殿も、ある程度は敵の気配を察知する素養はある。そして、小生も同じく何も感じない ドロシー: 敵がどこにいるのか分かれば、もう少し手の打ちようもあるんだけどね クレア: 本当に私たちは追いかけられてる? リル: おそらくはな。デュプリ・ライブラの転移魔法を阻害するほどの影響力なんだ。ピュルテのような感知能力を相手が持っていたら、確実に見つかる ドロシー: ピュルテほど範囲が広くなくても、この花をピンポイントで探す能力はある可能性が高いと思うわ。だって、これを作った本人なわけだし ピュルテ: 最悪、私たちの気配でさえも捉えているかもしれませんよね クレア: これ、持って帰ったら天空神殿は話を聞いてくれるかな リル: ん? 話とは? ドロシー: ごちそうならきっと用意してくれるわよ クレア: ううん、そうじゃなくて。私たちがもっと、神殿にとって大事になればいいなって ピュルテ: 大事になるって……役職を与えられたり、っていうことですか? クレア: よくわからないけど、たぶんそう。私たちが『やっぱりグリムと話し合いをしましょう』っていうの。そしたら『しょうがないなあ』ってなればいい リル: ああ、つまり……発言権を得るということか。和平交渉のテーブルに引っ張り出せるくらいの…… 331 - ピュルテの使命? ドロシー: クレアったら、そんなこと考えてたのね。そうね、きっと大丈夫。私たちの話も、聞いてくれるわよ クレア: うん……それならいいな。ちょっとしんどくても、がんばれるよ ピュルテ: クレアさん…… リル: クレア殿なりに、やはり分断されていることは気にかけていたんだな ドロシー: そうよね。ピュルテだって、このままでいいなんて思ってないわよね? ピュルテ: もちろんです! 皆さんが仲間だっていうのは変わりありませんから! ピュルテ: どちらを信じるかの二択になってしまいましたが、そのふたつが歩み寄って争わなくなれば、私たちも合流できますし リル: もちろん、小生たちもピュルテの思いは分かってるつもりだ。ひとりになどしないからな ピュルテ: ありがとう、リルちゃん。それに私だって、本当は人間さんと―― ピュルテ: ……っ!? ドロシー: ピュルテ? どうしたのよ ピュルテ: くっ、ううっ…… リル: まさか『声』じゃないだろうな……!? ピュルテ: う、ううん、大丈夫……ちょっと立ちくらみしただけ ピュルテ: えっと、何の話でしたっけ ドロシー: え? えっと、ピュルテも人間さんと……って言いかけてたわね。ラブラブしたいってことかしら ピュルテ: あ……いえ、違います。人間さんのことよりも、大事なのは……この世界を救うという使命なんです…… ドロシー: ……それ、本気? だとしても、人間さんがいなかったら世界だって救えないと思うんだけど ピュルテ: ……いいえ、手段はひとつだけじゃないと思います デュプリ・ライブラ: んー、なるほど……。こういう調整の仕方で術式が変わるんスね。うーん、深すぎてボクの頭じゃ、まだすぐには理解できないッスね…… デュプリ・ライブラ: ここの部分は、この前試してうまくいったやつッス。赤丸つけとこ……や、花丸にしちゃおっかな ペロー: おや、お忙しそうですね デュプリ・ライブラ: や、急ぎじゃないんスけどね。こうやって日頃から研究するようにしてんスよ。神殿には、こういう魔導書の類がいっぱいあるんで ペロー: はあ、なるほど……。そういうものがお好きなんですか デュプリ・ライブラ: 楽しいッスよ。ペローは魔術とか錬金術とかは好きじゃないんスか? ペロー: 私は、何を作るかよりも、どう使うかのほうが興味がありますねぇ デュプリ・ライブラ: なるほどー。ま、使うために作ってるんだし、そういう人もいないといけないッスね ペロー: 適材適所、というやつでしょうか。しかし、毎日こんな地道な作業を、飽きもせずよく続けていられますねぇ デュプリ・ライブラ: ……この書物を遺したのは、ライブラさんって人なんスよ ペロー: ライブラ……? それは、かつての…… デュプリ・ライブラ: 有名だったんスよね? すごい錬金術師がいるぞって デュプリ・ライブラ: ボクはその人の一部を使って錬成された存在なんスよ ペロー: ……っ!? あなた、それ、知って……? デュプリ・ライブラ: あ、やっぱりそうなんスね。しかも、元は神殿関係者じゃないペローも知ってるってことは、わりと有名な話なんスか ペロー: この私にカマをかけるとは……。なかなかやりますね デュプリ・ライブラ: ただの確認作業だからできたんスよ。魔導書を読んでれば、そういうことが技術的にできるってのは分かりましたし、記録に目を通せばライブラって人がいたこともすぐ分かるッス デュプリ・ライブラ: なのに、ボクのこの名前ッスからね。別に神官長も、隠すつもりはなかったんだと思ってます。わざわざ話題にはしてないッスけど ペロー: ……確かに、隠し通せるものでもないでしょうね。こうして、私のように当時を知る者と接触させる以上は ペロー: 当時のライブラを知っていて、あのグランド・リヴィジョンで起きたことを知っていれば、あなたの存在が異質に見えるのは避けられませんから デュプリ・ライブラ: ライブラさんはすごい人だし、神官長もすごく頼りにしてたってことは分かってんスよ。ボクはそんな人の代わりに、神官長のお手伝いをしてる…… デュプリ・ライブラ: だから、ボクも期待されてるんスよね。いまはまだ至らない点も多い……至らない方が多いかもしんないッスけど デュプリ・ライブラ: この名前に恥じないように、ボクも立派になって……神官長に頼りにされる、代えのきかない存在になれたらいいな……なんて。それが今の、ボクの目標ッスね ペロー: だから日夜の研究も苦じゃないということですか。ふふっ、涙ぐましい努力ですねぇ……。しかし、あなたに自覚があったとは デュプリ・ライブラ: 神官長もたぶん、ボクの気持ちとか考えてくれて、敢えて言わないようにしてくれてるのかもしれないッス。でも、気にしてないッスよ。神官長は大事にしてくれてると思うんで ペロー: はあ、あなたがそういうのなら、私からは特に申し上げることもありませんが……。ちなみに、いま作っているそれは? デュプリ・ライブラ: ピュルテたちに持たせた宝珠の改良版を作ろうと思ってんスよ ペロー: これは……まさか、あなた デュプリ・ライブラ: あの子たち、根が優しいんで戦うべきときに戦いきれなかったりすると思うんで、それをサポートしてあげたいなって ペロー: 私も人のことはあまり言えませんが、なかなかイカれてますねぇ。ああ、いえ、褒め言葉ですよ レグルス: デュプリ・ライブラ、いますか デュプリ・ライブラ: あっ、神官長! 見てくださいッス。これ、いまボクが作ってる魔道具なんスけど レグルス: ん? ええ、引き続きお願いします。ペロー、来ていたのですね ペロー: ちょうど、作業も一段落したところでしたから デュプリ・ライブラ: あっ、それで神官長はボクに何かご用事ッスか? レグルス: そうでした。ピュルテが戻ってくるまで、どれくらいかかりそうですか デュプリ・ライブラ: んー、まだ大瀑布を抜けるところくらいなんで、もうちょっとかかるかもしれないッスね レグルス: あまり足止めされるようならサポートを デュプリ・ライブラ: はいッス! レグルス: そろそろ、次の手を考える局面かもしれませんから、準備をしておかないと……有効な駒を惜しんでいては戦局を見誤りますからね デュプリ・ライブラ: ……? そうッスね! レグルス: 有効でも、使いこなせなければ意味がない。いくらでも代えがきくのですから、切り替えていかないといけません ペロー: ……私のことではない。が、敢えて聞かせているのでしょう……。ふん、あなたごときにいいようにされる私だと思わないことですね…… 332 - 背中を預ける意味 フェルディナ: エミリーや人間さんも、こんなところを通ったの? カロラ: アンダーフォールから降りたって言ってただろ。もうちょっとマシなルートのはずだぞ フェルディナ: ふうん。ところで、持たされたこのリュックはなんなのよ カロラ: パラシュートだ フェルディナ: パラシュート!? まさか、高いところから飛び降りるとか言わないわよね!? カロラ: 他にパラシュートの使い道があるんなら教えてくれ フェルディナ: 無理! 無理よっ、無理! 私、そういうの苦手なの! 景色を見るとかなら好きだけど、自分が飛び降りるのは無理! カロラ: 大抵のやつがそうなんじゃねーかな フェルディナ: やだ……どれくらいの高さなのよ。城の3階くらい? カロラ: そんな甘いもんじゃないと思うぞ。正直、あたしも初めて行くから想像もできねーけど カロラ: でも、シャルのためなんだろ? ぐだぐだ言ってんじゃねーって フェルディナ: ……っ! そ、そうよね、あの子はもっと辛い思いをしてるんだから……! こんなところで弱音なんて カロラ: そうそう、その意気だ。姉ちゃんたちには、どうせ承認欲求の自己アピールで、シャルのことなんか考えてねーんだろって言われてたけど フェルディナ: んぐっ……その話、蒸し返すわけ? カロラ: でもあたしは、おまえがシャルのために本気で戦う覚悟ができてるって、知ってるから フェルディナ: カロラ姉さん…… カロラ: だからあたしは、おまえを相棒だと思って背中預ける。その重み、ちゃんと受け止めろよな フェルディナ: うん……。あの、ありがと……カロラ姉さんが、ふたりに言ってくれたとき、嬉しかった…… カロラ: ……。こっち来い。んで、しゃがめ。でかいんだから フェルディナ: 姉さんが小さいんでしょ。なによ、もう カロラ: ほら、姉ちゃんが抱っこしてやるからよ。もう、めそめそするなよ フェルディナ: ……ば、バカね。子供じゃないんだから、こんなこと…… カロラ: あたしはさ、シャルはもちろんだけど、おまえのことだって大事な妹だと思ってるからな。この世にひとりぼっち、みたいな顔してんじゃねーよ カロラ: だいたいさ、本当に孤独なやつってのは泣かないんだよ。誰も見てくれない涙なんて意味ないって、分かっちゃってるからな カロラ: ま、よーするにおまえは、あたしらに甘えてんの フェルディナ: そ、それは…… カロラ: ま、そこが可愛いとこだけどな (…………。) カロラ: よーっし、あったぞ。この扉の先がたぶん、なんか穴になってるはずだ 自動応答: この扉から左記の区画は管理範囲S3です。権限認証コードもしくは臨時通行許可コードのご提示をお願いします カロラ: 開けちゃうけど、平気か? フェルディナ: ……っ、い、いいわよ、心の準備はもうできてるから 自動応答: 権限コードを確認しました。いってらっしゃい、ゲストコード003 カロラ: よっしゃ、開いた。あー、あの真ん中にあるのが入り口か。なんか井戸みてーだな フェルディナ: ゲストコード003? カロラ: 本来、あたしも通る権限はないんだよ。出る前にヴィル姉ちゃんが臨時で権限を変更してくれたから、名前が入ってないんだろ フェルディナ: ジャコヴァ姉さんとヴィル姉さんだけが通れるってわけ? やっぱりあのふたりは特別なのね カロラ: あとアイソーポスもかな。アンダーフォールと違って一方通行だからな。忘れ物しないようにしろよ フェルディナ: その下層世界っていうのかしら、そこへの出入り口って、この2つなの? カロラ: ここと、アンダーフォールと、あとナントカって滝に乗っかるルートもあるらしいぞ。そっちは天空神殿が管理してるみたいだけどな カロラ: まあ、こっちは飛び降りるのこえーし、普通に戻れなくて不便だから、ほとんど使われてないけどな フェルディナ: やっぱりカロラ姉さんも怖いんじゃないの カロラ: うるさい、先に突き落とすぞ エミリー: なんか……こうして見てると、すごくきれいな風景なんだけどねぇ ティンカー・ベル: そうなんだよ。緑も結構あるし、なんかピクニックでもしたくなっちゃうよね エミリー: そんな時間の余裕があればよかったのに ヴェルメリオ: ……おまたせ。昼ごはんにしよう ティンカー・ベル: 待ってましたーっ! もう、夜明け前からあるき続けてたから、お腹ぺっこぺこだよ~ フアナ: 隠れながらとはいえ、かなり敵に迫ってきてるはずなんだけど パラケルスス: お、これは……。なかなか美味しいじゃないか シンデレラ: ヴェルの本気はこんなもんじゃないわよ。私のところにお嫁に来てもらう予定なんだから ヴェルメリオ: ……今日は、あまり凝ったものにはしてないの。のんびりしてる場合じゃないかな、と思ったから。手早く作れて、さっと食べられて、元気が出るといいかなって パラケルスス: あー、これは本当に上手な人の料理だね。時間と食材をつぎ込んで豪勢な料理を作るより、ずっと難しいし価値がある ヴェルメリオ: ……え。思った以上に褒められた パラケルスス: うちのサラも料理は上手いと思うけど、きみはなんていうか……。うん、旅慣れてる感じがする ティンカー・ベル: 考えてみたら、ずっとティンカたちの旅はずきんの料理があってこそだもんね フアナ: 美味しいものって心を柔らかくしてくれるから、何かあっても元気が出たり シンデレラ: ちょっとケンカしても、一緒にごはん食べたら仲直りできたりね パラケルスス: へえ、ケンカなんてあるのかい エミリー: まあ、たまにはねぇ。四六時中ずっと一緒なんだもん。ケンカの1つや2つ、あるのが普通だと思うなぁ フアナ: それでも……すごく居心地がいいと思う。コミッティのギスギスした空気とは比べ物にならないよ パラケルスス: え、そう? そんなにギスギスしてたっけ。今はちょっと空気が悪いのかな 333 - 在りし日のコミッティ ティンカー・ベル: 今は、ってことは、昔はそうでもなかったってこと? フアナ: そっか、グリム家は別として、残りのOp7はメンバーが入れ替わるんだよね。顔ぶれが違えば、空気も違うのは当然か エミリー: そのときって、誰がいたんだっけ? パラケルスス: えーと……ぼくと、レオナでしょ。アイソーポスは当然として、ダンテ、紫式部、ペロー。あと……あいつね。クソミシェル ヴェルメリオ: ……ちょ、ちょっと、クソって シンデレラ: その時点で、いい雰囲気だったとはとても思えないんだけど パラケルスス: いや、違うんだよ。あいつの方が、ぼくにいちいち突っかかってきて空気を悪くしてただけ。ペローは昔から何考えてるかよくわかんなかったけど、みんな結構仲良かったよ フアナ: へえ……。そうだったんだ。今だと、シェイクスピアとキャロルが、変な会話で盛り上がってるくらいかな…… エミリー: 昔のウィラはあんなんじゃなかったのにねぇ パラケルスス: あー……ウィラのことは、ぼくの影響かもしれないから、あんまりいろいろ言えないけど パラケルスス: グリムとも、言うほど険悪じゃなかったよ。発足当初はアイソーポスとジャコヴァの間でちょっとバチバチしてたけど、カロラとかいいやつだったし エミリー: あの人のコミュ力はすごいって、エミリーでも感心しちゃうもんなぁ ティンカー・ベル: けど、いまだともう結構メンバーって入れ替わってるんでしょ? フアナ: アイソーポスさんと、ペロー、あとダンテが残ってるから……7人のうち4人が入れ替わってることになるね ティンカー・ベル: やめちゃった人たちは、どうしたの? パラケルスス: それぞれ自分のやりたいことやってるんじゃないかな。ぼくは正直、あんまり連絡もとってないから、よく知らないんだけど パラケルスス: レオナは共通の知人がいるから、ちょこちょこ消息は聞いてるけど フアナ: 意外と接点が消えると、連絡ってとらなくなるものなのかな。あたし、コミッティ辞めちゃったけど、繋がってたいと思ってるんだけど…… パラケルスス: 大丈夫なんじゃない? ぼくが関わるの面倒くさがっただけだし シンデレラ: そうよ。連絡先交換するくらい、事態が落ち着けばできると思うわよ フアナ: そっか……みんなとも、旅が終わったら連絡先交換させてね ヴェルメリオ: ……もちろん。わたしも友だち少ないし、寂しいから フアナ: そうなんだぁ……って、あ、あたしは少なくないよ? パラケルスス: そんな話をしてたら、ちょっと懐かしくなってきたな。ぼくが懐かしんだりするなんて、思わなかったよ パラケルスス: アイソーポスとか、けっこうお世話になったけど、どうしてるんだか シェイクスピア: ふふふ……混沌とは、光と影が混ざり生まれるせめぎあい……。強烈な光があればこそ、影もまた生まれ、そして混沌もより深くなる…… シェイクスピア: パラケルスス先生の最高傑作ともなれば、光であるにせよ影であるにせよ、強烈なエネルギーを持っていることは間違いない……。最高の混沌が見られそうだわ…… シェイクスピア: ああ……その渦の中に我が身を置いて、訪れる悲劇を目撃したいわ……。きっとここから必ず、大きな悲劇が生み出されるはずよ……! 見ていてちょうだい、アイソーポス……! アイソーポス: まったく…… アイソーポス: シェイクスピア。おまえの趣味に口出しするつもりはないが、役割はまっとうしてもらわないと困る シェイクスピア: あぁ……アイソーポス。もちろん分かっているわ。役割は混沌とした運命を楽しむことではないのよね アイソーポス: そのとおり。もっとも、役割も時間の経過とともに変化しているのだがな。そもそもグリムの専横を許さないことが、我々Op7の役割だった アイソーポス: なのにいまは、天空神殿などという新興勢力と戦うことになっている……。いくらグランド・リヴィジョンをかけようとも、世界は何らかの形で常に動き続けているという証左だな シェイクスピア: それは違うでしょう、アイソーポス。目の前の相手だとか、あるいは手段が変わろうとも、本質は何も変わっていないのよ。本質とはつまり、あなたが譲れない信念のこと…… シェイクスピア: 確固たる信念が、妥協を許さずにぶつかり合うからこそ、濃密な混沌が生じるのだと思うけど アイソーポス: む……確かにそうだな。おまえの言うとおり、私の信念は身勝手な行いを許さずに民に還元されること……。その意味で、私の戦いは何も変わっていなかったな シェイクスピア: そして私も何も変わっていないのよ。求めているものはいつだって同じ。くふふっ……みんな、いい声を聞かせてくれるかしら アイソーポス: しかし……今回の計画は、おまえのその賢者の石に関する情報がすべての大元になっている。間違いは、ないんだな? シェイクスピア: もちろんよ。情報ソースは天空神殿だもの、疑う余地もないでしょう? シェイクスピア: 現在、神殿の手先となっている連中が、パラケルスス先生のところから賢者の石を盗み出して移動中。ディーテ大瀑布から黎い海に出ようとしているところよ アイソーポス: まったく、呆れた連中だな。パラケルススにどんな問題があったとしても、盗みを正当化する理由にはなりえない シェイクスピア: とは言え、私たちの計画はそれをさらに強奪するという計画よ? アイソーポス: ある程度、利用させてもらった後になるが、最終的にはパラケルススに返却するつもりでいる。そのまま自分の懐に入れるつもりはない アイソーポス: ……詭弁だというのは、百も承知だが シェイクスピア: いいわね、あなたの困った顔。分かりやすく苦悩が刻まれていて、とても味わい深いわ アイソーポス: よしてくれ。大義のためとはいえ、汚い手を使っている自覚はある。そんな私の顔など、醜いに決まっている アイソーポス: 私のことはいい。とにかく……これは困難な試練になるはずだ。持ち運んでいる連中の実力も侮れないが、それを追っているのはグリムの配下になった者たちだ アイソーポス: その中には例の、人間界から来たという男も含まれる シェイクスピア: ふっ……彼とまた会えるのも楽しみね。もっとも、今回は正面から戦うことは避けなければいけないけど アイソーポス: ……コミッティは解散するに至ったが、このままにはできない。神殿はもちろん、グリムも警戒対象であることは変わりないからな アイソーポス: 賢者の石をなんとしても手に入れ、交渉を有利に運ぶ。それが私たちのミッションだ。今も病床にあるシャルロッテには可愛そうなことをするが…… シェイクスピア: ふふっ、相変わらず非情になりきれないのね シェイクスピア: アイソーポスはこういう策略めいたものは、本当に向いてないわねえ。それを無理してやろうとするところが、なんとも言えない葛藤を感じさせてくれるのだけれど……♪ 334 - ゴーレムとの戦闘 ティンカー・ベル: くっ……また出たっ、ゴーレム! ここで、捕まっちゃうなんて……! シンデレラ: 1、2、3……4体いるわ。さっきも確か4体だったから、おそらくこれ以上の伏兵はいないはず フアナ: さっきは逃げられた……けどっ、さっきよりも動きがスムーズになってる気がしない? ヴェルメリオ: ……うん。やっぱり、目が見えてない感じはするけど、ひとつひとつの動きからぎこちなさが消えてる エミリー: それって、どういうことぉ!? フアナ: わかんないけど……っ、くっ、はぁっ、さっきよりも格段に強敵になってるってことは、間違いないよね ヴェルメリオ: ……姐さん、足元に気をつけて シンデレラ: ……っと、ありがとう、ヴェル。みんなも気をつけて。かわし続けてると、うっかり崖から足を踏み外しそうになるわよ エミリー: ティンカは、いいよね……っと、うわわっ、すっごい力任せに突っ込んでくる! パラケルスス: みんな、死なない程度にがんばって戦ってね~ フアナ: ちょっと、パラケルスス! そんな離れたところで見物って、どういうつもりなの!? 一緒に戦ってよ! パラケルスス: うーん、戦闘を手伝うことまで約束した覚えはないんだよなぁ エミリー: また、そうやってひねくれたことばっかり言って! シンデレラ: 私たちが全滅したら、あなただって無傷じゃすまないし賢者の石だって戻ってこないのよ パラケルスス: やー、意地悪で言ってるわけじゃなくてさ、戦闘とかあんまり得意じゃないんだって。いや、ほんとに エミリー: ティンカ! 大丈夫!? ティンカー・ベル: いっだぁ……モロに入ったんだけど。くっそぉ……好き放題してくれるじゃん……っ! シンデレラ: かなり強いわよ、この敵……。動きにまだ鈍さがあるから、なんとかかわしてるけど……攻撃を受けたときのダメージが、重すぎる…… フアナ: それに加えて、こっちの攻撃がまるで通らない……! ゴーレムなんだから当然と言われればそれまでだけど、何なのこの固さっ ヴェルメリオ: ……後ろに引くなら、なんとかなりそう。相変わらず、向こうはわたしたちのこと、しょっちゅう見失ってるから エミリー: でもそれじゃ……ずっとここに釘付けにされちゃう シンデレラ: 相手の狙いもそこかもね。理由はわからないけど、操作性が悪すぎて仕留めるには至らないんだとしても……足止めならできる ティンカー・ベル: 足止めしてる間に、海に出ちゃうつもりなわけ? そんなこと、やらせないよっ! エミリー: だめ、ティンカ! うかつに仕掛けたら ティンカー・ベル: うああぁぁっ!? く、くううっ、かわしたと思ったのに、意外と早い……!? シンデレラ: 見た目がまったく同じだから分かりづらいけど、よく観察してると4体がまったく同じ能力じゃないみたいなのよね フアナ: 確かに。何か特徴があるね。スピードと判断力に優れている個体、圧倒的なパワーと迷いのない一撃をくらわせてくる個体…… ヴェルメリオ: ……ひとつ言えるのは、攻撃に容赦がないってこと。ゴーレムだから、心がないとか、そういう理由なのかな パラケルスス: ……ふうん、なんかちょっと、分かっちゃったなぁ。しかし、これはまた趣味が悪い…… パラケルスス: 人間さんくん。ここはきみの出番かもね ドロシー: ああっ、またわからなくなったわ! もうっ、使いづらいわね! リル: かなり慣れが必要だな。まだ、馴染んでいるとは言い難いが ピュルテ: デュプリ・ライブラさんの置いていった宝珠……割ってみたら、まさか中からゴーレムが出てくるなんて、思いもしませんでしたね クレア: しかも、遠隔操作できちゃうスグレモノだよ リル: そうだな。そもそも、ゴーレムなんてものを離れた場所から動かせるだけで、なかなかのアイテムだ。操作性は良くないが、贅沢は言えない ドロシー: けどっ、こんなのだったら直接殴ったほうが早いじゃないの ピュルテ: でも、向こうの攻撃はこちらに一切関係ありませんから。これは便利だと思いますよ リル: 向こうの攻撃はゴーレムが受け止め、こちらの攻撃はゴーレムを通じて相手に直接与えられる。多少の無理をしても、壊れるのはゴーレムでしかない ドロシー: それはそうだけど……あっ、よしっ、捕まえたわ! ここで一気に勝負を決めるわよ! せええぇぇぇいっ!! クレア: 私も負けてられない。そこだっ、えいっ! ドロシー: 相手を目で捉えられないのが、また難しいのよね……。ゴーレムを操作しようとすると、視界が急に靄がかかったみたいになって…… リル: だが、慣れてくると、現場の気配を感じ取ることもできる。小生やドロシー殿なら、それを頼りに戦うこともできよう ピュルテ: だいぶ馴染んできましたから、ここで一気に畳み掛けましょう! (背景切換...) (……………………。) ヴェルメリオ: ……え、人間さんが、何するの? パラケルスス: もっと気合を入れてエルマイトを出力してごらん エミリー: エルマイト? エネルギーの差だっていうのぉ? そんなに単純かなぁ パラケルスス: まあ、騙されたと思って 335 - ジャミング ティンカー・ベル: よーっし、人間さんからのエルマイト、受け取ったよ! 気合満点、いっくぞー! フアナ: あ、あれっ? なんか思った以上に調子がいい……っていうか ヴェルメリオ: ……相手の動きが鈍い? パラケルスス: やっぱりね。このゴーレムは、遠隔操作されてるんだ。本体はどこか離れた場所にいる。おそらくは、レーダーに表示されている賢者の石があるところだろうね パラケルスス: だからもともと動きも鈍いんだよ。ゴーレムと術者を結ぶのは、魔力の線だけだ。不安定なのは明らかだよね シンデレラ: じゃあ、人間さんのエルマイトは私たちをバックアップするためじゃなくて、もしかして パラケルスス: そう。相手のゴーレム捜査を妨害するためだよ ティンカー・ベル: ゴーレム、一丁上がり! ヴェルメリオ: ……ゴーレムが、ただの岩になってく フアナ: 本来ならあたしたちに直接触れてエルマイトを送るほうが効率的だけど、敢えて空気中に放出することで、遠隔操作の妨害になったわけか エミリー: 全部動きが鈍くなった今なら……って、そこのゴーレムなんて、うずくまって動かなくなってるよぉ? ヴェルメリオ: ……よし、チャンス。ここはわたしが (背景切換...) (……………………………。) ピュルテ: ……っ!? ま、待って、ください……っ、きゃああっ!? リル: 大丈夫か、ピュルテ! ピュルテ: 私のゴーレムがやられちゃったみたい……。それより、皆さん、ちょっとまってください! 私、感じたんです ドロシー: どうしたのよ ピュルテ: いま……衝撃波のような感覚がありました リル: それは小生も感じた。途端にゴーレムの動きが鈍くなったから、おそらく敵の妨害魔法なんじゃないか ピュルテ: それだけじゃないの! 強い、エルマイトを感じた…… クレア: エルマイト? ディマイトじゃないんだ ピュルテ: 私、いまのこのエルマイトを知ってます……。これは、人間さんの気配です……! ドロシー: なんですって……!? そ、それじゃあ、いま私たちが戦っているのは、まさか……!? ピュルテ: 分かりませんっ、なんでこんなところに人間さんがいるのか、どうして戦っているのか……でも、すぐやめなきゃ、だめです……っ! ピュルテ: もし人間さんだとしたら、私たちがゴーレムを使って戦っていたのは…… クレア: エミリーとか、フアナとか……ってこと? リル: ……真偽を確かめる術はない。だが、いずれにしても2体を撃破されたいま、ここで戦闘を継続するのは困難だ。精神的にもな ドロシー: どうするの? リル: 海岸線まで、あと少しだ。ゴーレムを切り離して、一気にここから走ろう ドロシー: ゴーレムを捨てて、大丈夫なの? 私たちの最大の武器ではあるのよ。もし相手が人間さんたちじゃなかったら ピュルテ: いえ、あの気配は間違いなく人間さんでした。ここはリルちゃんの作戦に従いましょう クレア: ピュルテがそこまで言うなら、きっとそうなんだよ ドロシー: 追いつかれないかしら リル: 心配ない。さっきまで戦っていた相手が、急に微動だにしなくなるんだ。不気味で、警戒を解くまでに相応の時間を使うだろう (背景切換...) (………………………。) ヴェルメリオ: ……急に、動かなくなったね フアナ: 何か企んでるのかと思ったんだけど、そういうことじゃないのかな パラケルスス: ふうん、どうやらこれは囮みたいだね エミリー: どういうことぉ? パラケルスス: レーダーを見てみろ。急に移動を始めている。これはおそらく、海岸線に向かってるな フアナ: なんか移動速度が速くない!? ティンカー・ベル: もしかしてダッシュしてるんじゃ!? 急ぐよ、とにかく追いつかなくちゃ! シンデレラ: ねえ、パラケルスス。正直、まだ正確に事態を把握できていないんだけど、いったい何が起きてるわけ? パラケルスス: ん? うーん、そうだなぁ……。しばらくは、知らないほうがいいんじゃないかな? ジャコヴァ: 久しぶりだな アイソーポス: 解散以来だからな ヴィルヘルミナ: アイソーポスは、この屋敷には来たことあったかしら。2階の中庭に面したバルコニーから見る景色は素敵なのよ アイソーポス: ここには何度か来たとは思うが、その話は初耳だな ジャコヴァ: アイソーポスは用件が終わったらすぐ帰るからな アイソーポス: そうだったか ジャコヴァ: …… アイソーポス: …… ヴィルヘルミナ: 紅茶、おかわりする? アイソーポス: 私の性格はふたりとも知っているだろう。駆け引きや探り合い得意じゃないんだ。ここは腹を割って話さないか ジャコヴァ: いいだろう ヴィルヘルミナ: そもそも……少し不躾な言い方になってしまうのだけど、ここへ来た目的を聞かせてもらわないといけないわね アイソーポス: そうだな。単刀直入に言おう。コミッティの再招集を考えて欲しい ジャコヴァ: ふむ…… アイソーポス: 解散の目的は、コミッティ内部にいる内通者を炙り出すことだった。それは既に達成できたはずだ。解散したままにする理由もない ヴィルヘルミナ: 逆に言えば、再招集する理由もないんじゃない? アイソーポス: それについては、コミッティを作ったときと同じ話をすることになる。グリム単独よりも、我々の力を借りたほうが都合がいいはずだ……とね ジャコヴァ: そんなに私たちに首輪を付けたいのか アイソーポス: それもある。だがいまは、天空神殿のことだ アイソーポス: 私はおまえたちグリムが憎いわけではない。力を持ちすぎる者には監視役が必要だと考えているだけだ。そしていまこの局面、持ちすぎているのはグリムというよりも天空神殿だろう ジャコヴァ: ……おまえの場合、もはや損得ではないんだろうな アイソーポス: そのとおりだ。これは私の信念だ 336 - 再招集 ヴィルヘルミナ: とはいっても、あなたひとりではどうしようもないのよ。再招集したとき、最低でもペローの除名を直ちにやらなくちゃいけないわ ヴィルヘルミナ: 妹を全員呼び戻したとしても、シャルは投票できない。あなたを入れて6票よ。委員の除名処分は重要議案に相当するから、最低9票が必要になるわ アイソーポス: わかっている。ジャコヴァが気に入らないからと勝手にクビにしたりしないように、私が作ったルールだからな ジャコヴァ: そんなことしない アイソーポス: 既にOp7とは話がついている。キャロルも、シェイクスピアも、ダンテ、ゲーテ、マロリー、全員が私に賛同してくれている ヴィルヘルミナ: 根回しは終わってるってわけね。キャロルとシェイクスピアは土壇場でどう動くかわからないけど、それでも9票は固そうだわ アイソーポス: 準備はできている。後は実行までの情報共有、それに保有しているディマイトの供給を頼みたい ジャコヴァ: 考えておこう アイソーポス: ……それで。シャルロッテは大丈夫なのか ヴィルヘルミナ: 回復のめどなら立ってるわ。まだ少し時間がかかりそうってだけよ アイソーポス: なるほど…… ジャコヴァ: シャルロッテの病状を利用するつもりか アイソーポス: 利用とは人聞きが悪い。信頼を得るひとつの方法だと思ったまでだ ヴィルヘルミナ: Op7のみんなは、事態の重さを知ってるのかしら。グリムと神殿の対立において、グリムに手を貸すと公言することになるのだけど ジャコヴァ: エネルギーが目当てなら、天空神殿のエルマイトを受け取るほうが、安定もしているし量も多いだろう ヴィルヘルミナ: それでも、こっち側につくと? アイソーポス: もちろん。コミッティは、仲間で作り上げてきたものだ。目先の損得だけじゃない。そもそもペローは、動機はグリム家への怨みだとしても、結果的に我々にも刃を向けたも同然 ジャコヴァ: 並んで食事する気にはなれない、というわけか アイソーポス: 再招集に関しては、今すぐに動けるものでもなく、タイミングも重要になるとは思っているから、ゆっくり考えておいてくれ アイソーポス: それでは、そろそろ失礼させてもらう (背景切換...) アイソーポス: ふう…… デュプリ・ライブラ: おつかれッス! アイソーポス: ……! 神殿の使いか デュプリ・ライブラ: 交渉、どうッスか? うまくいきました? 頼りにしてるんスから、お願いしますよ ヴィルヘルミナ: どうするつもり、姉さん。普通に考えると、再招集の動機は私たちの監視ってことだけど、頭からそれを信じていいかしら ジャコヴァ: ヴィルは疑ってるみたいだな ヴィルヘルミナ: もともと思想的に天空神殿寄りでしょう? エネルギー不足で消えてしまいそうな子たちを集めて、自分のエルマイトを分け与えたりして…… ヴィルヘルミナ: 世界から供給されるエルマイトやディマイトに格差があることを、あの人はよく思ってなかったわ。そういう意味では、天空神殿のグランド・リヴィジョンを誰よりも歓迎する立場のはず ジャコヴァ: だが、実際は歓迎してなかった ヴィルヘルミナ: それは……ええ、そうだけど。歓迎してるなら、GR2なんて計画するのはおかしいし…… ジャコヴァ: ただ、頭から信用するのも危険だな。情報は漏れる可能性がある ヴィルヘルミナ: 漏れるって、私たちの情報を天空神殿に? 姉さんの話を聞いてると、ずいぶんどっちつかずに聞こえるわ ジャコヴァ: 聞こえるんじゃない、事実そうなんだろう。コミッティだって本気で再招集するつもりはないかもしれない。状況を見定めてるんだ ヴィルヘルミナ: なるほどね。私たちと神殿、勝ったほうをうまくコントロールするのが目的ってわけ。正直、Op7の戦力は味方につけておきたいところだけど、仕方ないわね ジャコヴァ: 心配はいらない。どうせアイソーポスはこっちにつく ヴィルヘルミナ: 自信満々ね ジャコヴァ: ライブラが健在なら話は別だ。適切な妥協点を見つけることもできただろう ジャコヴァ: だが、あの無能なレグルスはライブラの遺産を食いつぶしているだけに過ぎない。特にグランド・リヴィジョンは絶対に譲らないだろう ヴィルヘルミナ: 決裂して物別れに終わるわけね。その点、私たちは柔軟に対応できる可能性がある。政策面で折り合えば、抱き込めるわけね ジャコヴァ: 言うほど悲観する状況ではない。エルマイトも、ディマイトも、私の手の中にあるのだから (背景切換...) ペロー: ペローです。ええ、そうですか。動くとは思っていましたが、予想よりも早いですね ペロー: では、引き続きお願いしますよ ペロー: ふう……ここが勝負どころのようですね。行きますか、怨棄諸島へ…… ヴェルメリオ: ……見て。このロープ、たぶん フアナ: うん、船を係留していたものだろうね。つまり、もう犯人たちは船に乗って、海に出てしまったということ…… ティンカー・ベル: くっそー! 変なゴーレムなんか使って時間稼ぎしてー! エミリー: レーダーは一応まだ効いてるんだよね? そしたら、それを頼りに追いかけるしかないよねぇ シンデレラ: それしかないでしょうね。幸い、船はまだ何隻か残ってるし、壊していった様子もないわ フアナ: というか、急いでいて他に船があることに気づかなかったのかもね。ほら、カバーがかけられてたりしたし 船着き場の管理人: あんたたち、さっきの人たちの知り合いかい ヴェルメリオ: ……え、いえ、別に知り合いとかではないんですけど シンデレラ: どうせ、船も盗んでいったんでしょうけど、私たちとは関係がないから、お代を払ったりはしないわよ! おじさんは気の毒だけど…… 船着き場の管理人: あ、いえ、お金はもらったんですよ。金貨を投げられて……お釣りはいらない、なんて エミリー: え、意外。賢者の石を盗んじゃう泥棒なのに、船はお金払うんだぁ 船着き場の管理人: ただ、燃料を渡しそびれたんで、知り合いなら持っていってもらおうかと思ったもんで フアナ: 燃料……? パラケルスス: このあたりは風がほとんど吹かないからね。帆船じゃあまりにも効率が悪い。だから、ディマイト燃料で動かしてるんだよ ティンカー・ベル: えーっ! 犯人、間抜けすぎない? パラケルスス: まあ、地元なら常識だけど、土地勘がなければ致し方ないだろうね。海に風がないなんて、上から来たら思いもしないだろうし パラケルスス: でも、これでおもしろくなったね。燃料切れを起こしたら、補給に立ち寄るしかない。それが分かってるぼくらは、先回りができるよ シンデレラ: 補給できる場所は限られるってことね パラケルスス: そういうこと。この海で黒鉄の国に行く前に補給するとしたら、あそこしかないよ パラケルスス: 打ち捨てられたディマイトが流れ着く場所――怨棄諸島だ 337 - カロラの戦略 フェルディナ: なんだか不気味な雰囲気ね……。夜だからか知らないけど、なんだか肌寒くてぞくぞくするし。え、私が風邪引いてるんじゃないわよね カロラ: そりゃお前、この島がディマイトの塊だからじゃないのか フェルディナ: ディマイトの!? ていうか、姉さんは知ってるのかもしれないけど、私は何も知らないんだからちゃんと教えてよ カロラ: あたしだってそんなに詳しいわけじゃないっつーの。ひとつ言えるのは、ここはマジでヤバい場所だってこと カロラ: なんか、家とかもぶっ壊されたみたいになってんだろ? でもあれ、普通だから。何があったとかじゃなくて、こういう場所なんだよ フェルディナ: ……これ、廃墟じゃないのね? カロラ: やめろって、聞こえるぞ。治安もくっそ悪いんだから、挑発するようなこと言うと囲まれてボコられんぞ 住民: ………… 住民: ………… フェルディナ: ひっ……!? なんか、こっち見てる……! カロラ: 島の北側に岩場になってるところがあるはずだから、そこにあたしたちの拠点を作るぞ。いわゆる秘密基地ってやつだ! フェルディナ: 秘密基地って……子供みたいにはしゃがないでよ、カロラ姉さん カロラ: だってわくわくするだろ フェルディナ: 拠点を作ったら、その後はどうする? いきなりこんな知らない島に来て、盗まれたアイテムを探す方法なんてあるのかしら フェルディナ: この雰囲気じゃ、聞き込みなんかしても素直に情報をもらえるとは思えないんだけど カロラ: 確かにな。でも、情報によるとアイテムを持ってるやつは、必ずここを通るらしい。ってことは、島から出さなければそのうち尻尾を出すんじゃないか? カロラ: ってことで、港に行くぞ フェルディナ: そこに標的が来るってこと? カロラ: いずれは来るだろうけど、直接やり合うのが目的じゃないぞ。いきなり正面から切り込むのはバカのすることだからな フェルディナ: それじゃ、まるでカロラ姉さんが……あ、いえ、なんでもないわ カロラ: おい! さてはお前、あたしのことバカだと思ってんだろ! こんのやろ! フェルディナ: ち、違うってば! シェイクスピア: うふふ……この、打ち込む楔のひとつひとつが、この島を混沌で染めてくれるのね……。そう考えれば、これくらいの労力、なんでもないわ シェイクスピア: アイソーポスの読みが全て当たるとすれば、神殿からの増援、グリムの干渉もあり得る……そうなれば、三つ巴どころか、もっと多くのプレイヤーが関わるわ シェイクスピア: これこそ、まさに私が望んだ混沌……楽しくなりそうね。こういう地道な作業も、この後のドラマティックな展開に繋がるのよ。うふふふふっ…… (背景切換...) レグルス: では、アイソーポス副議長は本格的に関与する可能性が高いのですね ペロー: ええ、その公算が高いですね。今回の賢者の石をめぐる動きは、各陣営の出方を見定めるにあたり、とても有用だと言えます ペロー: このタイミングでパラケルススから賢者の石を奪ったのは、そういった目的もあったのですね、さすがはレグルス神官長、恐れ入りました レグルス: いえ、この状況は結果論でしかありませんよ ペロー: また、ご謙遜を。もしそれが事実なら、何が目的だったというんです? 大賢者から賢者の石を奪うなどという、高いリスクを負ってまで レグルス: それは……いえ、今は語るべきときではありません ペロー: おや、残念ですね デュプリ・ライブラ: 神官長様! ご報告ッス! レグルス: 報告? 何か有用な新情報があるのでしょうね? デュプリ・ライブラ: アイソーポスはグリムに、コミッティ再招集の交渉をしてるところッス。それが実現する前にアイソーポスをこちらに取り込めれば レグルス: ……そんなことは知っています デュプリ・ライブラ: えっ…… レグルス: そして、シェイクスピアに怨棄諸島に向かい、賢者の石をピュルテたちから奪うよう指示したそうです。ペローがすべて、教えてくれました デュプリ・ライブラ: え……ど、どうしてそんな ペロー: 私は私で、独自に情報網を持っているのですよ レグルス: アイソーポスを取り込むように私が指示したのは、あなたなのですよ。デュプリ・ライブラ。なのに、戦うことになってしまった上、それを把握すらしていないとは レグルス: さっさと現地に向かい、ピュルテのサポートをしなさい。ワタシをあまり失望させないでください デュプリ・ライブラ: は、はい……。すぐ行くッス。ちゃんと、仕事するッス……! ペロー: ふふっ、ずいぶん厳しいですねぇ。かわいそうに、すっかりしょげていたではないですか レグルス: そんなことより、ペロー。あなたに依頼したいことがあります ペロー: 私に? どんなご依頼でしょうか。ぜひお聞かせください レグルス: デュプリ・ライブラを使ってコミッティ再招集をけしかけた狙い、あなたならもうわかっているでしょう? ペロー: さあ、なんでしょうか。私がコミッティに復帰できる可能性は、万に一つもないと思いますが レグルス: 連中の、ディマイト供給ルートの特定、そして破壊です ペロー: はあ、なるほど…… レグルス: グランド・リヴィジョン以降、何度も……そう、何度も、何度も潰しているのに! ディマイトを使う連中が止められない……! レグルス: 原初の連中を片付けたと思えば、次はグリムがどこからか仕入れてきて……終わりがないのです レグルス: その供給さえ止まれば、ワタシたち天空神殿もエルマイトだけに偏る必要はない。ようやくグランド・リヴィジョンが完成するのです ペロー: ……? 天空神殿の目的は、世界をエルマイトで染めることではないのですか レグルス: ディマイトで対抗する者がいる限り、こちらがディマイトを取り入れ、使うことはできません。バランスが崩れますからね レグルス: 供給ルートはあるのに、バランスを保つために意図的に止めている状態なのですよ レグルス: 誰も力を持たなければ当然、ディマイトも含めすべての力を天空神殿で管理できる。そうすれば誰にも、あの方の理想を邪魔されない…… ペロー: なるほど……。そういうことですか レグルス: 頼みましたよ、ペロー。あなたなら、ディマイト供給ルートについても調べられるはずです ペロー: ふふっ、さすがはいい目をお持ちですね、神官長。確かに少々、心当たりがなくもない……。あたってみましょう 338 - 棄てられた島 ティンカー・ベル: うっわ……なんか、すっごくアングラな感じがしない? フアナ: あたし、それなりにヤバい場所に出入りもしてきたけど、ここは別格だよ。町の裏通りとかスラムとか、そういうレベルじゃない パラケルスス: そりゃあ、ここに住んでたら普通じゃいられないだろうね ヴェルメリオ: ……怨棄諸島、だっけ。ここって、なんなの? パラケルスス: 棄てられた島だよ ヴェルメリオ: ……それは、世界から、ってこと? パラケルスス: 忘れられた、と言ってもいい。諸島というからには複数の島で成り立っている地域なんだけど、島のひとつひとつに名前が付いているわけじゃない パラケルスス: 厳密には、おそらく地元住民の間では何らかの名前で呼ばれている可能性はあるんだけど、ぼくたち島の外の人間は、誰もそれを知らないんだ パラケルスス: 誰も興味を持たない、視界にも入らず意識もされない土地、それがこの場所なんだ シンデレラ: ひどい有様だけど、それでも一応は町の形をしているわ。それでも、名前がないっていうの? パラケルスス: ディーテ大瀑布を『世界の排水口』だとすれば、ここはまさに『世界の最終処分場』だよ エミリー: 大瀑布の水流も、ここに流れ着くようになってるってことぉ? パラケルスス: そのとおり。それに、上からもね ティンカー・ベル: 上? なんか月も出ない真っ暗な空だけど パラケルスス: きみたちが住む世界とのタッチポイントは3つ。アンダーフォールと、大瀑布と、そして……ここの真上に開いた『穴』だ ティンカー・ベル: ……なんか、壊れた道具とかがそこら中に転がってるのってもしかして、全部『上』から捨てられたもの、ってこと……? パラケルスス: そのとおり。ああ、人間さんくん。薬はちゃんと飲んでる? 気分は? ヴェルメリオ: ……そっか、ディマイト濃度が高すぎるから、また危ないかもしれないんだね。平気? 無理しないでね、人間さん シンデレラ: レーダーを見る限り、まだ敵は島についていないみたい フアナ: 最初からここを目指した分、アドバンテージがあったかな。それに、敵側は燃料切れを起こしている可能性も高いよね ヴェルメリオ: ……けど、さっきレーダーの反応が急に消えちゃった パラケルスス: おそらく、レーダーの存在に気づいたんじゃないかな。だから何かしらの対応をとったんだろう シンデレラ: でも、前後の状況からいって、この島に燃料を求めて立ち寄るのは間違いないはずよ。逆に言えば、この島から出してしまったら追跡が難しくなるわ フアナ: 最後に反応があった地点から計算すると、あと1、2時間程度で到着しそうだ。早めに動こう エミリー: じゃあちょっと手分けしたほうがいいかなぁ? ヴェルメリオ: ……わかった。燃料が手に入りそうなところをあたっていけばいいよね シンデレラ: それなら、各班の連絡はこれを使いましょう パラケルスス: なんだい、それは ティンカー・ベル: あ、ひそひそピアスだ! 忍の里のあおいがくれた、忍者の道具だよ エミリー: 遠いところの人ともお話できちゃうんだよねぇ。忍者の道具だから、傍受もされにくいらしいし パラケルスス: へえ、なるほどね。なかなかおもしろいものを持ってるじゃないか。でもこれ、エルマイトを原動力にしてる? ティンカー・ベル: あー、たぶん パラケルスス: ここのディマイト濃度が高すぎて、ノイズが入るかもね。でもまあ、使えなくはなさそうだ。時間があればぼくが改造しちゃうんだけど フアナ: それじゃあ、行こうか。時間を決めて、またこの場所に集合しよう。懐中時計の見方は、みんな大丈夫だよね シンデレラ: ええ。いまの時刻が11時だから……って、え? これ、お昼前の11時ってこと? こんなに暗いのに パラケルスス: この島に蓄積されたディマイトは、空気中にも侵蝕してるからね。光を通さず、昼間でも島は暗いんだよ ヴェルメリオ: ……早く終わらせて、帰りたいね。病気になりそう パラケルスス: 安心して、これで病気になるのは人間さんくんだけだよ フアナ: 早く終わらせたいっていうのには、あたしも賛成だけどね。それじゃあ……13時に、この場所に集合しよう。みんな、くれぐれも無理しないようにね (…………………………………。) エミリー: それにしてもさぁ、どうみても廃墟みたいな家ばっかりなんだけど パラケルスス: そりゃあ、流れ着いたゴミで家を作ってるんだから、そうなるよ エミリー: ゴミで……? エミリーは、誰かに攻撃でもされたのかと思っちゃったよぅ エミリー: うん、そうだよねぇ、人間さん。他の4人が心配だねぇ パラケルスス: 生きるのに精一杯な連中だから、それを脅かすようなことがなければ、攻撃されることはないと思うけどね エミリー: そうだといいけどねぇ。みんな、目がバッキバキで危ないんだもん パラケルスス: まあ、こんなところに住むくらいだから、大なり小なり何かやらかして流れ着いたようなやつらだけど パラケルスス: それより、そこの店。店頭では焼きりんごなんか売ってるけど、看板にディマイト液体燃料を売ってるって書いてある エミリー: ほんとだ。じゃあ、話を聞きに行ってみよっかぁ パラケルスス: じゃあ、頼んだよ 店主: へぇ、燃料を買いに来たよそ者ですね。必ず連絡しやすよ。へっへっへ…… パラケルスス: じゃあ次の店に行こうか エミリー: 連絡くれるかなぁ、あのおじさん パラケルスス: そのためのお金だよ。1万ゴールドって言えば、この島じゃなかなかの大金だからね (…………。) 店主: へへ、儲かったぞ。これで本当に見つけられりゃ追加の褒美も…… レオナ: おじさーん。焼きりんご2本もらえる? 店主: ああ、ちょっと待ちな。そら、50ゴールドだ レオナ: どうも。ほら、雨依 雨依: ありがとう、レオナ 雨依: 相変わらず、この島は……来るだけで憂鬱になるわ。暗くて、どんよりしていて。住民も覇気が感じられない 雨依: けど、落ち着くのよね。どうしてかしら。ずっといると浮上してこれなくなりそうなのに、定期的に来たくなるの レオナ: さあ……。不思議な感覚ね。私には共感できないし、その正体が何なのか割り出すのは難しそうだけど 雨依: いいのよ。私の感情に説明がつけられるなら、とっくにできてるわ。優秀なレオナがいるなら、なおさらね レオナ: 優秀だなんて、口ばっかり 雨依: わりと私、あなたのことは褒めてるつもりだけど。あなたに会えたことは、私が生きていく上で本当に大きなラッキーだったと思ってるし 雨依: レオナがいなかったら私はどうなってたか、分からないわ レオナ: 私に会ったからこそ、面倒なことになった……とも言えると思うけど 雨依: ううん。会えて嬉しかったのよ。それに、わかってはいたことだけど、目の当たりにすると本当に天才だと思ったわ レオナ: ずいぶん褒めると思ったら、それ。 雨依: え? ああ、おくすり? レオナ: それの影響でしょ。パラケルススに補充してもらったんだっけ? 一応は薬なんだから、そんなふうに何個もボリボリ食べるものじゃないわよ 雨依: ……いいのよ。これ飲むと、落ち着くの。なんだか、ラムネみたいだし レオナ: ラムネ? まあ、雨依のそういう自虐的な感じは、私も嫌いじゃないけど……でも、心配はしてるのよ 雨依: うん……わかってる レオナ: 雨依のその髪だって、すごくきれいなのに…… 雨依: いいの。それ以上は言わないで 339 - ヴェルメリオの変化 シンデレラ: これで、燃料を扱うお店に話したのは……何軒目だったかしら。もう10万ゴールドは使ったわよね シンデレラ: ここが使いどころだっていうのは分かってるけど、こんなにお金をばらまくのはなんだか怖くもあるわね ヴェルメリオ: ……姐さん、元は質素な生活してたんだもんね シンデレラ: そうなのよね。創造期の頃は100ゴールドのパンを朝昼晩で3回に分けて食べてたから シンデレラ: プリンセスになってからも、仕事では何億って単位も当たり前みたいに見てるけど、個人的に使うお金はつい怖くなっちゃって ヴェルメリオ: ……安い酒場、大好きだもんね シンデレラ: そうなのよ。前の夫のおかげで舌も鍛えられたから、いいものは分かるようになったけど……それでもチープなのが落ち着くのよね シンデレラ: あ……! 前の夫って、その、死別したからってことよ? 今の夫がいるからどうこうってことじゃなくて ヴェルメリオ: ……そんなに気を使わなくても平気だよ。わたし、気にしてないから シンデレラ: ヴェル…… ヴェルメリオ: ……気にしてない、っていうのは嘘かな。気にしないようにしてる。だって仕方ないことだし ヴェルメリオ: ……それにね、結婚したからって、まだ政略結婚みたいなものだから。わたし、最後は姐さんから奪うつもりだよ シンデレラ: ……ほんと、強くなったわね。遠慮がちだった頃のヴェルが嘘みたい ヴェルメリオ: ……自分では、違いとか、よくわかんない シンデレラ: 人間さんのことが好きすぎて暴走してた頃とも違うわよね。ちゃんと落ち着いて周りも見えていて、けど自信とか余裕もあって…… ヴェルメリオ: ……成長できてるなら、嬉しいな。もし人間さんに選ばれなくても、ちゃんと意味があったんだって思えるし。好きになってよかった、って シンデレラ: うん、そうね。それは私も自信あるかな。人間さんと会って変われたのは間違いないから ヴェルメリオ: ……でも、悲しい。選ばれないなんて……やっぱり成長なんかしてないかも。自分で言った言葉に傷つくとか、バカみたい シンデレラ: ううん。気持ち、すごく分かるわ。私だって、恋愛なんて大した経験ないし、ヴェルと似たようなものよ ヴェルメリオ: ……それでも、姐さんはまだ…… ヴェルメリオ: ……って、待って。ねえ、これ何? シンデレラ: 地面に何か刺さってるわね。なんだか、大きな画鋲みたいな シンデレラ: 画鋲みたいなものに、何か紋章が刻まれてるわ。もしかすると、何かの術式かもしれないわね。パラケルススに見せれば何か分かるかも ヴェルメリオ: ……だめ、抜けない。ドロシーならできるかもしれないけど、すごく固くて、びくともしない シンデレラ: パラケルススを、こっちに連れてくるしかないわね。マッピングしておいて…… ヴェルメリオ: ……っ!? ならず者: おおっと、そこまでだぜ シンデレラ: あなたたちは……!? ヴェルメリオ: ……10人はいる。姐さん、いける? シンデレラ: やるしかないでしょうね (背景切換...) ティンカー・ベル: な、なにこれ!? どうなってんの!? フアナ: 船が全部、壊されてる……。いったい、誰がこんなことを!? ティンカー・ベル: え、待って。ティンカたちが乗ってきた船も壊されてるんだけど! これ、やばくない? ティンカー・ベル: このタイミングで、盗んだやつが島の外に出てくところ見ても、ティンカたち追いかけようがないんだけど。ってことは、犯人の仕業かな!? フアナ: いや、あまりにも手際が良すぎるよ。レーダーで最後に捉えた場所から計算しても、最速でも到着して間もないくらいだよ フアナ: これだけの数の船を壊すには、あまりにも時間が足りなすぎる ティンカー・ベル: でも、じゃあ誰が、なんのために? フアナ: 仲間がいるのかもね。そいつが船を壊して、犯人たちを迎えるための自分の船だけをどこかに隠してるとか ティンカー・ベル: じゃあやっぱりヤバいじゃん! フアナ: けど、これが犯人の仲間だとするなら、この島に犯人たちが来ることをわかってたことになるよね ティンカー・ベル: ティンカたちのひそピみたいに、なんか連絡とれるようにしてるんじゃん? フアナ: だとしたら、島に上陸させずに、海上で燃料補給したほうがいいと思わない? あたしたちが待ち伏せしてることも、予想できるんだからさ ティンカー・ベル: あ、確かに……。でもじゃあ、これ誰が壊したわけ? フアナ: 犯人とあたしたち以外にも、この島で何かしようとしてるやつらがいるのかもしれないね…… シンデレラ: ふう……。なんとか片付いたわね ヴェルメリオ: ……どういうつもり? 話を聞かせて ならず者: か、勘弁してくれ! 俺らはただ金で雇われただけなんだ シンデレラ: 誰に? ならず者: 知らねえよぉ! なんかイッちまってるアブないヤツだよ! ここに近づくやつは追い返せって、金握らされたんだ ヴェルメリオ: ……いっそのこと、お金を島じゅうに配って全員で犯人を探させたほうがいいかもね シンデレラ: 山狩りならぬ島狩りね。ヴェルったら、ずいぶん過激なことを言うようになったわね ヴェルメリオ: ……でも、誰なんだろう。このピンに、なんの意味があるかだけど…… シンデレラ: 賢者の石を盗んだ犯人とは仲間じゃない気がするわ。燃料が足りないのはアクシデントのはずでしょ ヴェルメリオ: ……船以外の手段で移動しようとしてるのかも。転移魔法みたいなやつとか シンデレラ: だとしたら余計に、いまのうちに壊しておきたいところだけど……びくともしないわね。たぶん、壊し方がちゃんと決まってるパターンだわ ヴェルメリオ: ……パラケルススに見てもらうしかないね。ちょっと来てもらいたいけど、でも…… シンデレラ: エミリーから応答がないわね。繋がりにくいかも、ってパラケルススが言ってたけど ヴェルメリオ: ……連絡なしに戻ってもまだ、他のみんなは集合場所にいないだろうし ヴェルメリオ: ……そうだ。ねえ、ちょっと ならず者: ひゃ、ひゃいっ!? ヴェルメリオ: ……あなたたちが持ってたこれ、どうやって作ったの。これ、魔法じゃないよね ならず者: は、はあ。火薬を調合すれば作れるもんだが シンデレラ: ヴェル、それどうするつもり? ヴェルメリオ: ……これはわたしのカンだけど、これから戦いが激しくなってくる気がするの。だから備えておきたいなって シンデレラ: そうね。敵の援軍、もしくは第3勢力が出てきたかもしれないなら……備えはあったほうがいいかもしれないわ シンデレラ: けど、ヴェルが武器に興味を持つなんて ヴェルメリオ: ……わたし、戦いなんて得意じゃないし、興味もないよ。けど、少しでも早く戦いを終わらせて、シャルロッテを助けたいから ヴェルメリオ: ……人間さんが、早く気持ちが楽になれたらいいなって思うから シンデレラ: そうね。いいわ、ピアスで連絡を取りながら、繋がるまでは材料集めもしましょうよ ヴェルメリオ: ……うん。ありがとう、姐さん 340 - プレイヤーの数 アイソーポス: マスター。同じものを シェイクスピア: ……お隣、いいかしら? アイソーポス: ……どうだ、順調か? シェイクスピア: ええ、いまのところ何もトラブルは起きていないわね。ちょっと退屈なくらいよ アイソーポス: これから盛り上がるところだ。変な気を起こして台無しにするんじゃないぞ シェイクスピア: 分かってるわよ。これでも私、作家なのよ。見せ場は心得ているつもり アイソーポス: こっちはトラブルというほどではないが……少し動きがあった シェイクスピア: あら、聞かせて? 楽しくなりそう? アイソーポス: 港の船がすべて打ち壊されていた。誰がやったのかは分からないが、島を封鎖したいのは我々だけではなかったようだ シェイクスピア: ふうん。混沌は歓迎したいけど、似たような発想になっているのはおもしろくないわね アイソーポス: 混沌という視点で言うなら、今回の一連の流れでもっとも事態をややこしくしているのは、テーブルについたプレイヤーの数だ アイソーポス: 我々のほか、パラケルススと組んだ人間界の男、それにグリムも独自に動いているだろう。そしてまもなく、賢者の石を持った盗人が到着する シェイクスピア: 当然、天空神殿も介入するでしょうね アイソーポス: お互いに、存在すら把握していない陣営もある。戦う上で、大きく不利になるのは間違いないだろう シェイクスピア: 情報では、私たちが大きくリードしているわね。でも、戦力という意味で、そのメンツを出し抜いて賢者の石を奪う計算はできてるの? アイソーポス: 私としては自分で賢者の石を手にできればベストだが、最低限の『負けではない』結果が得られればいい シェイクスピア: あら、つまらないことを言うのね。もっと大胆に楽しみましょうよ アイソーポス: 私はもともとギャンブルを好まない。それでも、私なりには博打を打っているつもりだが アイソーポス: なに、しばらく様子見といこうじゃないか ドロシー: はあ、はあ、や、やっと着いたわ……。さすがの私も、今回ばっかりは体中がバキバキよ クレア: 船をオールで漕ぐのって、腕の筋肉だけじゃないんだね……。私も、ぐったり ドロシー: そうよ、これは意外と全身の筋肉を使うの。とりあえず私とクレアはクールダウンするから、ピュルテとリルは周辺を警戒してくれる? リル: ああ、任せておけ。しかし、交代しながらでいいと言ったのに、ドロシー殿もクレア殿も無理をしすぎだ ドロシー: 私たち4人しかいないのよ。そして誰も手漕ぎボートの達人なんていなかった。なら、当然の戦略だわ クレア: あっ、戦略とかあったんだ ドロシー: 4人が均等に疲れているより、動けない人と元気な人がふたりずつの方が、いざというときに対処しやすいはずだから リル: なるほどな。確かに一理ある ピュルテ: おふたりとも、ありがとうございます……! 宿を見つけたら、マッサージしますから クレア: ありがとう、ピュルテ。でも宿屋なんか、あるのかな ドロシー: さあ、どうかしらね。とにかく必死で漕いできただけだから、ここがどんな場所なのかもわからないわ リル: まさか燃料切れを起こしてしまうとはな……。このあたりの海域に、まったく風が吹かないというのも予想外だったが ピュルテ: 港を出るとき、すごく慌ててましたからね。そう言えば、おじさんが何か言っていたような気もします ドロシー: 今にして思えばそうよね。あのときはまったく耳に入らなかったけど ピュルテ: でも、これで人間さんたちを撒けたんじゃないかと思います リル: ピュルテ……。疑うわけではないのだが、本当に彼らだったのか? ドロシー: そうよね。深く考える余裕もなかったけど……どうして人間さんは、私たちを追って来てるのかしらね クレア: 追いかけてる相手が私たちとは気づいてないんじゃない? リル: だとしても、何か事情があるはずだからな。まあ、考えて分かることでもないだろうが クレア: うん。それにお腹がすいて、頭が回らないんだ リル: 海から見ている限り、煙が上がったり明かりが見えてはいたから、人はいるはずだが……果たして、どれくらいの規模の町があるだろうな デュプリ・ライブラ: お疲れ様ッス、みんな。ここまで、よくがんばったッスね ピュルテ: えっ……!? デュプリ・ライブラさん!? ドロシー: 来るのが遅すぎるのよ! どれくらい苦労したかわかってる? デュプリ・ライブラ: だから、それについては謝ってるじゃないスか~。忙しくてどんな状況になってるか見てなかったんスよ デュプリ・ライブラ: ちゃんと新しい船を用意してるんで、勘弁してほしいッス。今度はしっかり燃料も積んだカッコいいやつッスよ クレア: やった。快適な船の旅が約束された リル: それにしても暗い町だな。陽の光がまるで届かないとは……陰鬱な気分になってくる ピュルテ: リルちゃん、すごく日当たりとか気にするもんね ドロシー: へー。野宿とか平気でするわりには、そういうところは繊細なのね リル: 小生がガサツみたいなイメージ、どこから出てきたんだ。それに、野宿なら日当たりを気にしなくても勝手に野営場所を決められるからな ピュルテ: テルツォさんのお城でも、一番日当たりのいい部屋をもらってるんだよね リル: ところで、デュプリ・ライブラ殿。言っておくがすぐには出航しないぞ。今日くらいベッドで休ませてもらいたい クレア: 追いかけ回されて大変だったし、私とドロシーはもっと大変だった デュプリ・ライブラ: あー、場所だけ確認してもらえたら、出発は明日でもいいッスよ。もう、レーダー対策もしたんで ドロシー: レーダー対策? なんのことよ リル: もしかして、とは思っていたが……追手は、小生たちの動きを何らかの魔法か道具で把握していたのか デュプリ・ライブラ: ボクも知らなかったんスよ! 気づいたんで、慌てて対策したんスから。この島の海岸から、えいって術を発動させて ピュルテ: そうだったんですか……。でも、だとしたら、もしかするとこの島に来ることは知られているんでしょうか デュプリ・ライブラ: あれ、追手はゴーレムで撃退できたんスよね? ドロシー: !! ドロシー: 例のこと……デュプリ・ライブラに聞く……? リル: ドロシー殿が目で合図している……。うん、このタイミングで聞くべきだろう ドロシー: あくまでも自然に、落ち着いて聞くのよ…… リル: ああ、そのことなんだが…… ピュルテ: デュプリ・ライブラさんはどこまで知ってるんですか デュプリ・ライブラ: なんスか? リル: ピュルテ! ピュルテ: 追手は人間さんでした! 私にはわかるんです! デュプリ・ライブラさんは、そのことを知っていたんですか!? 341 - デュプリ・ライブラの答え ピュルテ: 知っていて、私たちにあんな任務を与えたんですか! どうして、そんなこと……! リル: ピュルテ、落ち着いて話すんだ リル: だが、思いがけずストレートな勝負になった。どう反応する? デュプリ・ライブラ: ええっ? 人間さんが追手だったって、それ本当ッスか? ピュルテ: あの気配は間違いありません デュプリ・ライブラ: いやあ、まずボクはそんなこと全然知らなかったんスけど。でも気配ってことは、顔を見たわけじゃないんスね? ピュルテ: それは……ええ、見てないです。そもそもゴーレムが遠隔操作できたんで、追手に近づく必要もありませんでしたし デュプリ・ライブラ: じゃあ、気配を似せる能力を持った別の相手、とか。魔物の中には、姿だって似せてくる相手もいるんスよ。気配だけじゃ、なんとも言えないッスよ ピュルテ: でも、あれは―― デュプリ・ライブラ: ボクも調べとくんで、なんかわかったらお知らせするッス。でも、勘違いだと思うんスけどねぇ ピュルテ: 勘違い……。そう、なんでしょうか…… デュプリ・ライブラ: それよりほら、もうすぐ港ッスよ (背景切換...) エミリー: お兄さん、こんにちはぁ。ここってディマイト燃料って売ってるのぉ? 住民: ああ、売ってるよ。いくつ必要なん……って、かわいい! エミリー: ううん、エミリーは要らないんだけどねぇ。買いに来る人たちがいたら、教えてほしいんだぁ。4人以上の団体っぽいんだけど、別行動で買いに来るかもだから注意してほしいの 住民: な、なんでそんなこと……あ、いや、でもきみのためならいいかな…… エミリー: はい、これ手数料。教えてくれたらもっとあげるからねぇ 住民: 1万……!? あ、いや、それより俺とデートしてくれたら…… エミリー: ごめんねぇ。エミリーは誰のものでもないんだよねぇ パラケルスス: 相変わらずモテてるねぇ、エミリー エミリー: エミリーは可愛いからねぇ。って、人間さん? 顔色が悪いよぉ。もしかして、ディマイト濃すぎて、また? パラケルスス: いや、ただの生理現象だよ。悪いけど、トイレを借りれるかな 住民: エミリーちゃんの彼氏かい……? ならそこいらで適当に漏らせとしか エミリー: ただの友達だよぅ。恋愛感情はゼロなの 住民: 右入って奥だから好きなだけ使ってくれ。あ、腹痛いなら薬草とかいる? パラケルスス: エミリーは彼についてて。ぼくはそろそろ広場に戻るよ エミリー: あれ? 集合時間にはまだ早いよねぇ? パラケルスス: 住民たちへの連絡先に、集合場所の広場を指定しただろう。そろそろ犯人が上陸してくる時間だ。あそこに誰かいないとまずい エミリー: あ、そっか。じゃあ、後からエミリーたちも追いかけるねぇ パラケルスス: ああ、頼んだよ ドロシー: ちょ、ちょっと、なにこの港…… クレア: 船がいっぱい壊されてるけど、そういうもの? リル: 道中の建物も半壊状態で普通に使われていたからな。よほど治安の悪い…… デュプリ・ライブラ: そん……なっ……!? どうして……! リル: ん……? デュプリ・ライブラ: そんな……ボクが用意した船まで……!? クレア: カッコいい船も、ここにあったの? デュプリ・ライブラ: そ、そうなんスよ……。ここに係留しておいたんス。ああっ、この破片……ボクが用意しておいた船の塗装とそっくりッス! ドロシー: 待ちなさいよ、それじゃあ船はなくなったってわけ? クレア: 船だったっぽいけど、ただのゴミにしか見えないよね ピュルテ: ここまで粉々になるというのは、誰かが意図的に壊したということでしょうか。だとしたら ドロシー: まさか、追手が? でも、なんでそんな回りくどいことするのかしら リル: だな。先に上陸していたのであれば、単純にここを見張っておいて、小生たちを待ち伏せすれば済むことだ。そもそも燃料切れの事実を把握できているのかどうか ピュルテ: じゃあ、他にも私たちの邪魔をする人がいるってこと? ドロシー: 見えない敵のことより、まずは目の前の移動手段の問題よ クレア: 燃料は補給できるかな ドロシー: そうね、それしかないわ。乗ってきた船は、燃料さえ補給すれば使える リル: 港まで来たが、無駄足になってしまったな デュプリ・ライブラ: ……っ!! デュプリ・ライブラ: ご、ごめんなさいッス……。こんなことになると思わなくて……。ちゃ、ちゃんとするッス……! 次は、本当にちゃんと……! デュプリ・ライブラ: 本当にちゃんと、仕事するんでっ……! リル: 落ち着け。何も責めてはいない。これはデュプリ・ライブラ殿の過失ではないだろう ドロシー: んー……使えないわね デュプリ・ライブラ: ……っ!? つ、使えない……? 役立たず…… ドロシー: 魔法かしら。壊され具合がひどくて、直してなんとかなるレベルを超えてるわね クレア: 燃料を補給したほうが早いよ、絶対 デュプリ・ライブラ: ごめんなさいッス……。本当に、ちゃんとするんで、本当に…… ピュルテ: もう大丈夫ですよ、デュプリ・ライブラさん。ほら、燃料を売ってるっぽいお店、見つけましたから デュプリ・ライブラ: う、うん……。そッスね…… ドロシー: ねえ、ちょっと。この、ディマイト燃料ってのもらえる? 店主: ……ディマイト燃料を? お客さんがた、見慣れない顔だね クレア: 旅の者です ピュルテ: 乗ってきた船が燃料切れになってしまって、それで困ってここに立ち寄ったんですよ 店主: なるほどね。ちょっと奥から出してくるから待っててくれるかい ドロシー: ええ、お願い クレア: おやつも買っていい? お腹が限界 ピュルテ: ふふっ、確かに小腹がすいちゃいましたよね。私も何か食べようかな 店主: ほれ、おつかい頼むよ。急ぐんだ 子供: うん、わかった リル: ……? クレア: 見て、これ。美味しそう。ドーナツみたいな感じかな 店主: おお、お目が高いねぇ。これはうちの特製なんだよ。味には何種類かあるんだが、お好みはどんなかな クレア: えっ、種類があるの。迷う、決められない リル: それより、燃料はどうしたんだ 店主: ああ、実は燃料にも種類があるんだがね。一番安いのは変な匂いがするんだが、高いのだと1本3,000ゴールドもする ドロシー: 1本でどれくらい進めるのよ 店主: お客さんがた、目的地はどこですかい ピュルテ: 一応、黒鉄の国ってところを目指しているんですが……。それでいいんですよね、デュプリ・ライブラさん デュプリ・ライブラ: そッスね…… リル: ……妙な胸騒ぎがする。なんだ、この違和感は…… リル: 燃料切れ、破壊された船……小生たちの行動は誘導されていないか? あるいは先読みされている……? クレア: 決めた。チョコ味にする 店主: 本当に? ごまも香ばしくて美味いですよ クレア: だよね。待って、もうちょっと考える リル: ……おい、みんな行くぞ ピュルテ: え? でもまだ燃料を…… 店主: そうですよ、お買い物しに来たんじゃないんですか。冷やかしは困りますよ リル: 悪いが、これで失礼させてもらう。いいな? さあ、早く! 行くぞ (背景切換...) ドロシー: ちょっと、リル。どうしちゃったのよ、いきなり ピュルテ: 店を出たと思ったら、こんなところに隠れて……あのお店を見てるの? なんで? リル: しっ。誰か来たぞ 店主: ああっ、お姉さん。あとちょっと早く来てくださってれば、間に合いましたのに! パラケルスス: もう行ってしまったんだね。引き止めておいてほしかったんだけど 店主: いえ、それがまだ何も買わないうちにそそくさと出ていって…… パラケルスス: ……感づいたか。なるほど、カンのいいやつがいるみたいだね。ということは、まだ燃料は買えていないわけか パラケルスス: おそらく、おじさんが会った連中がビンゴだ。ひとまず、この1万は情報料ね。今度また見かけたらすぐ教えてくれる? お礼はするから 店主: まいど! ドロシー: あ……あれ、私たちを追いかけてるってこと……? リル: そのようだな。少し動き方も考える必要がありそうだ リル: しかし……あの女はいったい、何者だ……? 342 - 導かれた再会 シンデレラ: 見て、ヴェル。これがたぶん、さっき聞いた火薬だと思うわ ヴェルメリオ: ……普通っぽい見た目のお店なのに、こんなの売ってるんだね シンデレラ: 町全体……というか島そのものが治安良くないみたいね。それで、あの爆薬を作る方法、覚えてる? ヴェルメリオ: ……うん。ちゃんと必要な材料はここにメモしてある。作り方もちゃんとまとめてあるから シンデレラ: さすがしっかりしてるわね ヴェルメリオ: ……なんか、火薬の配合とかって、お料理と似てる。これを何グラム、とか ヴェルメリオ: ……だからたぶん、すぐ覚えられそう。基本をマスターすれば、アレンジもいろいろ試せるんじゃないかな シンデレラ: ヴェル…… シンデレラ: これは成長じゃないわ……。争いも知らずに森で育った純粋なこの子を、これ以上変えてしまうわけにはいかない…… シンデレラ: 早く、こんな戦いは終わらせなくちゃ ヴェルメリオ: ……姐さん? なんか考え事? シンデレラ: あ、いえ、なんでもないわ。それより素材を買っていきましょ (背景切換...) レオナ: これは困ったわね。私たちが乗ってきた船だけじゃなくて、全部やられてるみたい。一隻でも残ってれば買い上げちゃえばよかったんだけど 雨依: このままだと黒鉄の国には戻れないわね。この島にあまり長くいると、こっちまで気持ちが滅入ってくるのに…… レオナ: 雨依ってば、また薬……。まあ、この状況じゃ薬飲んでエルマイト上げてかなきゃやってられないけど レオナ: 雨依はちょっと、ここで待ってて。他に船がないのか、一応聞いてくるわ 雨依: ……閉じ込められてしまった、ってことよね。こんな陰気な島に。でも狭いところに閉じ込められるよりは、ずっとましだわ 雨依: この世界の底辺みたいな場所が、私の運命の行き着く先……ってことなのかもしれないわね エミリー: 人間さん、もう大丈夫? あー、体調が悪いとかじゃなくて、急にトイレ行きたくなっただけかぁ。ならエミリーの荷物も持てるよねぇ エミリー: 可愛い女の子に荷物持たせるなんて、紳士がすることじゃないよぅ? 雨依: あ、あれは……あの人は……! 雨依: これが、私の運命……!? 雨依: あ、あの、また会えましたね。覚えていますか、私のこと…… 雨依: よかった! あ、あの、実は船が壊されてしまって足留めされていたんです。けど、こうしてあなたに会えるなんて…… 雨依: これって、やっぱり運命だと思うんです。だってこんな広い世界で、こんな偶然で3度も会うなんて、おとぎ話みたいだと思いませんか? エミリー: え、えっと、人間さんの友達? あ、前に何回か会ったことあるんだ。へぇ…… 雨依: ……もしかして、彼女さん……ですか? エミリー: ううん、違うよぅ。ただのお友達だから 雨依: じゃあ、先日のツインテールの方が、もしかして…… 雨依: あっ、特定の恋人はいらっしゃらないんですね。そうですよね。こうして出会えたんですから、そうだと思っていました エミリー: エミリーでもここまではしないレベルの押しの強さだよぅ……!? 雨依: あっ、そうだ。甘いものはお好きですか? よかったら、これ。お友達の方もどうぞ エミリー: あ、ありがと…… エミリー: あっ、なにこれキレイ! カラフルでかわいいねぇ 雨依: それは金平糖、というお菓子なんです。手作りなんですよ。父に教わったレシピをできるだけ再現してます エミリー: 手作りなんだぁ。すごいねぇ。こんぺい、とう? だっけ。普通にお店で売れそう 雨依: お店……。そうですね、実家では看板商品でしたけど エミリー: そ、そうだ。そろそろ行かないといけない時間じゃない? 雨依: え、そうなんですか……。あの、そしたら、これ 雨依: ここまで運命が引き合わせてくれたのに、次もまた偶然の再会に頼るなんてもったいないと思うんです。だから エミリー: メモ……? 雨依: それ、私がいま住んでいる場所です。もちろん、この船の問題が解決しないと帰れないんですけど 雨依: また会えるときを、楽しみにしてますね! リル: ……どこまで相手の網が広げられているかは分からないが、まともに燃料を入手するのは難しいと思ったほうがいい クレア: さっきみたいに、追いかけてきてる人が来ちゃう? ドロシー: そういうことね。かと言って、まさか盗めっていうんじゃないでしょうね リル: 小生もそこまで落ちぶれたくはない。とにかく、すぐに動くのは危険だ。一旦、腰を落ち着けて考えよう ピュルテ: それなら来る途中に物置小屋みたいなところがあったよ。そこで作戦会議するのはどう? リル: 良さそうだな。案内してくれ、ピュルテ ピュルテ: ドロシーさんとクレアさんも、少し身体を休めないときついですよね ドロシー: これくらいなんてことないわ! ドロシー: ……と言いたいところだけど、この後何があるかわからないし、休めるうちに休むべきね デュプリ・ライブラ: ボ、ボクも、いい作戦をちゃんと考えるッス (背景切換...) (………………………。) リル: ここなら落ち着けそうだな。まずは食事にするか ドロシー: それなら私が…… デュプリ・ライブラ: あ、ボクが作るッス。こんなに迷惑かけてるんで、ごはんくらい作らないと本当に……っ ドロシー: あ、うん……わかったわ、それじゃあお願いね ピュルテ: ……ねえ、リルちゃん。ちょっとお話できる? リル: ん……? (背景切換...) リル: それで? 人間さん殿のことだろう? ピュルテ: え……なんでわかっちゃうの。すごいね、リルちゃん リル: 長い付き合いだからな。おそらく、人間さん殿を前にして戦う自信がない、といったところか ピュルテ: うん……。本当にお見通しなんだね。でも本当に、戦うなんて無理だよ。大好きな人間さんに攻撃なんて…… リル: その場で迷うのが一番危険だ。あらかじめ、人間さん殿だったときのことを考えて決めておくべきだな リル: 何もピュルテだけの問題じゃない。ドロシー殿もクレア殿も、きっと動揺してしまうに違いない ピュルテ: ……そうだね。覚悟しておかなくちゃ、いけないんだよね リル: 小生はピュルテに従うぞ ピュルテ: えっ? リル: 戦いたくないんだろ? 世界の平和より、お前の幸せが大事だからな ピュルテ: リルちゃん……。うん、ありがとう。でも、世界を守らなかったら、私は存在してる価値がない……そんなふうに思えて…… (ガシャン) リル: ――っ!? 今の音は!? 343 - 闇の中の急襲 フェルディナ: ねえ、なんでこんな森の中に入ってるのよ。変な虫にでも刺されたら嫌なんだけど カロラ: 虫刺されなんか気にしてる場合かよ フェルディナ: だってさっき店の人に聞き込みしたら、浜辺の小屋だって言ってたじゃない。なんでまっすぐ向かわないのよ カロラ: あのなあ。人数は4~5人って話だっただろ。正面から乗り込んで、簡単にお宝奪えると思ってんのか? フェルディナ: それはそうだけど……そもそも、本当に賢者の石を持ってる連中なのかもわからないじゃない カロラ: この島で船とか燃料を探してるやつなんて、そいつらくらいだろ。姉ちゃんたちの情報だと、船は燃料切れ起こしてるらしいから、間違いないって フェルディナ: って言って、さっき空振ったじゃない カロラ: あれは例外だろ! あいつら、こんなとこで何やって……いや、そんなことより、これ使うぞ フェルディナ: なにこれ。ゴーグル? きゃっ!? カロラ姉さんが赤くなった!? カロラ: こいつは温度を感知する装置だ。寒けりゃ青いし、熱いと赤くなる。こいつを付けてるとどうなるか分かるか? フェルディナ: はあ? こんなものどうするのよ。熱が出てるかわかったところで、病院なんてこの島にないわよ、きっと カロラ: じゃなくてだな。暗闇でも相手の居場所がわかるってことだよ フェルディナ: ああ、なるほど。って、賢者の石の場所はわかるわけ? カロラ: 相当な強さのエルマイトらしいから、たぶん多少はあったかくなってるはずだ。よし、いくぞ。あそこが例の小屋だ フェルディナ: あ……本当だわ。小屋の中がなんとなくわかる。1、2……中にいるのは5人ね カロラ: 賢者の石は、テーブルの上に置かれてるアレだな……。上にある熱は、たぶんランプだ。照明を壊したら一気に突入するぞ フェルディナ: ど、どうやって!? カロラ: このスリングショットでぶち抜く。あたしが外すとでも思ってんのか? 百発百中だぞ フェルディナ: 別にそこは疑ってないわよ! その後のことを聞いてるの! カロラ: んなもん適当に、人に向かって軽く攻撃しつつ、テーブルの上の荷物持ってダッシュだろ。とにかく、あたしについてくりゃいいから フェルディナ: わ、わかったわ…… カロラ: んじゃ、いくぞ。せーのっ (ガシャン) ドロシー: くっ……脚を、やられたわ……! クレア、気をつけて! クレア: だめ、ドロシー。私も脚にケガした……っ リル: 大丈夫か、何が……うっ、なんで真っ暗なんだ!? デュプリ・ライブラ: いま明かりをつけるッス! (背景切換...) デュプリ・ライブラ: ふう……ボクの光魔法なら、そう簡単には消されないッスよ ピュルテ: ドロシーさん! クレアさんも! 脚にケガをされているんですか!? ドロシー: ただのかすり傷よ。それより、いま何があったのかピュルテたちはわかる? ピュルテ: いえ、物音がしたので駆けつけたところで…… クレア: ねえ、待って。テーブルの上にあった袋がなくなってる デュプリ・ライブラ: ――!? リル: やはり賢者の石が目的か! これは、襲撃してきた犯人に盗まれたと思って間違いないだろう…… デュプリ・ライブラ: 賢者の石が、盗まれた……!? リル: まだ、そう遠くへは行っていないはずだ。しかし、こちらも機動力に難があるが…… デュプリ・ライブラ: そんな……アイソーポスのことも失敗して……なのにボク、賢者の石もなんて……! ボクは、ボクは、ボクは…… リル: どうした、大丈夫か? デュプリ・ライブラ: 全員、全力でおいかけてくださいッス。いますぐに! ピュルテ: え……!? 待ってください、ここは私たちだけで行きます。ドロシーさんたちはケガされて デュプリ・ライブラ: ケガしてる? だからなんスか。関係ないッスよ、大切な宝が盗まれたんですから、いますぐ全員で取り返しに行くんスよ! ピュルテ: そんな……! デュプリ・ライブラ: 与えられた役割をまっとうできてないんスよ? もっと危機感があって当然なんじゃないスか。だって存在価値がもう、危ういんスよ! ピュルテ: ……っ、存在、価値……っ! クレア: やるよ、大丈夫だよ デュプリ・ライブラ: わかってくれるならよかったッス。それじゃあ、これを使っていくッス。本当は切り札だったんスけど、出し惜しみしてる場合じゃないんで ドロシー: これって……十字架? リル: なんだこれは デュプリ・ライブラ: 前に渡した宝珠の改良版ッス。追手に捕まったらつかってもらおうと思ってたんスけど……こいつで、取り返してほしいッス エミリー: ねえ、人間さん。さっきの子にはまだ、手を出したりはしてないんだよねぇ? エミリー: うーん、ちょっと危ない気配を感じない? あ、言っとくけど嫉妬とかじゃないからねぇ エミリー: え、その金平糖っていうの、食べちゃうのぉ? よく知らない人の手作りなんて…… エミリー: まあ、確かに……人間さんなら、ディマイト入りのお菓子でも平気だろうけど…… フアナ: あ、人間さんくんとエミリーが戻ってきたよ ティンカー・ベル: おかえり。どうだった? 何かわかった? エミリー: ううん。これといって別にかなぁ パラケルスス: ぼくからひとつ、フアナからも報告がある。それにさっきピアスの通信でシンデレラからも報告があった ティンカー・ベル: 姐さんたちも、もうすぐ戻ってくるって エミリー: あれっ、それじゃ成果がないの人間さんとエミリーだけだよぅ。おサボりしてたと思われちゃう エミリー: ていうか、姐さんから連絡なんてあったのぉ? ピアス、反応しなかったけどなぁ パラケルスス: 強いディマイトが近くにあると妨害される可能性があるからね。この島なら、そういうスポットがあっても不思議じゃない フアナ: それじゃ、先にあたしたちが見た様子を報告するよ。この島にひとつしかないらしい、港でのことなんだけど…… (背景切換...) (………………………。) シンデレラ: ヴェル、どこ行くの? みんな待ってるし、早く戻らないと ヴェルメリオ: ……ちょっと待って。あの岩場の影に船があるの シンデレラ: 釣り船かなにかでしょ? それがどうしたっていうのよ ヴェルメリオ: ……フアナがさっき言ってた。港で船が全部壊されてたって。港から離れてはいるけど、船が残ってるってなんかおかしいよ シンデレラ: 言われてみれば、確かに…… ヴェルメリオ: ……見て。あそこに洞窟がある。真っ暗だけど、何か動いてるのは見えるよ シンデレラ: いま、ピアスで連絡を入れるわ ヴェルメリオ: ……どこかに行こうとしてる。止めなきゃ……! シンデレラ: ちょっと、ヴェル!? (背景切換...) カロラ: よし、んじゃ賢者の石はこのケースに入れとくぞ。こいつはエルマイトを遮断するから、あたしらと同じ手は通用しない フェルディナ: これでシャルが助かるのよね。私だって、妹を助けることはできる……もう、何やってもうまくいかない私じゃないのよ……! カロラ: おい、気抜くなよ。この島を脱出して屋敷に戻るまで油断できな…… カロラ: 気をつけろ。何か来る! 344 - 作家たちの腹の探りあい シェイクスピア: 遅かったわね ペロー: そちらが早かっただけだと思いますよ。それで、状況はいかがです? シェイクスピア: 特にまだ大きな動きはないみたいね ペロー: アイソーポスのほうの動向はどうなっていますか? シェイクスピア: 賢者の石にかなりご執心みたいね。手段は選ばなくていいから、なんとしても奪えと言われたわ ペロー: ふうん、そこまでの価値があるものなのですね シェイクスピア: 入手後に、グリムに接近する可能性は低いわ。かすめ取るなら、もう少し警戒が緩んでからのほうがいいかもしれないわねぇ ペロー: ……なるほど。参考にさせていただきましょう シェイクスピア: あら、もう行くの? 1杯しか飲んでないじゃない ペロー: 少々、やることがありましてね (背景切換...) ペロー: ……シェイクスピアとも、そろそろ潮時ですね。あの人の言葉をまともに聞いていたら踊らされてしまうでしょう ペロー: シェイクスピアはああ言っていますが、あのアイソーポスがそこまで強硬手段に出るはずはありません。基本は静観の構えか…… ペロー: 今後の動き方で気になるのは天空神殿……。賢者の石を失えば、いよいよピュルテの出番。となれば、私にも相応の権限が…… 雨依: だから掃除を手伝ってほしいのよ。しばらく帰ってないから大変なことになってるわ レオナ: はいはい、わかったわよ ペロー: ――っ!? ペロー: いまの声……まさか……? くっ、どこから聞こえたのです……。聞こえ方からすると、向こうの路地か……!? ペロー: ……っ、見当たらない……。だが、確かにあれは……。あれが、この島に……? (背景切換...) フェルディナ: な、なんだったの、さっきのは! いきなり襲ってくるなんて カロラ: あたしらが奪ったやつの仲間か、それとも別口か……なんにしても、問答無用で襲ってくるなんて、頭いかれてるぞ フェルディナ: さっきの私たちがそうだったと思うんだけど カロラ: それはそれだろ! くっそ、この船は手漕ぎだからおっせーんだよな。隠れて行動するのにちょうどいいと思ったのに裏目に出たか フェルディナ: 私も手伝うから! 急ぎましょう! フアナ: ヴェル、シンデレラ、大丈夫!? シンデレラ: ええ、問題ないわ。ヴェルがちょっとつついたら、すぐに逃げ出したみたいだし ティンカー・ベル: ちょっとずきん、あんまり危ないことしちゃだめだよ? 人間さんだって、ここに来るまでものすごく心配してたんだから ヴェルメリオ: ……え、そうなの、人間さん。わたしのこと、心配してくれたんだ エミリー: そこはラブラブするところじゃなくて、謝るところだからねぇ? ヴェルメリオ: ……あ、うん。ごめん、人間さん。みんなも、心配かけちゃったね。でも、むやみに突っ込んだわけじゃないから パラケルスス: あくまでも動揺させて動かすための行動だったわけだね ヴェルメリオ: ……どこかに行こうとしてたの。だからその前に、慌てさせなきゃと思って シンデレラ: 深追いはせずにすぐに引いたから、大丈夫。ケガも何もしてないわ。といっても、それは結果であって、私はびっくりしたのよ? ヴェルメリオ: ……説明してる時間がないと思って パラケルスス: いい判断だったと思うよ。足跡もしっかり残ってるし。もちろんそいつらが賢者の石を持っている確証はないけどね フアナ: いまは状況証拠でも動いておくべきだと思うね。懐中時計によれば時刻はもう夜、燃料を買いに現れる可能性も低いから ティンカー・ベル: もう夜なんだ。じゃあお店も閉まっちゃうもんね。ていうか、ずっと真っ暗だから昼とか夜とかわかんなすぎておかしくなっちゃうよ シンデレラ: さて、みんな揃ったことだし、追いかけるわよ! (背景切換...) (………………………。) ピュルテ: このあたりでもう1回、感知能力を使わせてください。細かい場所を特定します ドロシー: ねえ、どうして感知できないのかしら。だって私たちを追っていた誰かは、ピンポイントで追いかけてきたんでしょう? クレア: きっとエルマイトだよね リル: おそらくエルマイトを遮断できる能力、あるいは道具があるんだろう デュプリ・ライブラ: たぶんそうっス。でも、あれだけのエルマイトを完璧にシャットアウトなんて無理なんで、探せば見つかるッスよ ピュルテ: でも、それらしい気配が見つからないんです。かなり強めに能力を使っているんですけど ドロシー: 強く主張してるものならともかく、漏れ出てるものを探すなんて簡単じゃないわよ。他の方法を考えたほうがいいんじゃない? クレア: もう時間も結構経っちゃってるもんね デュプリ・ライブラ: ピュルテ、最大出力ッス。もっと感知レベルを上げられるはずッス。怖がってるから制限かかってるんスよ。まだいけるッス、そうなってんスから ピュルテ: 最大出力、ですか……? デュプリ・ライブラ: もっと集中を高めるんスよ。これ以上やったら危ない、って感覚あるッスよね。それ、超えてみるんス ピュルテ: く……うっ、ううっ、くううっ……! エルマイトが、ディマイトが、頭の奥に、びりびりって……ぐっ、ああっ! デュプリ・ライブラ: もっと! まだいけるッス ピュルテ: ああああぁぁぁっ! くっ、はぁっ、んぐうぅうっ! 頭が、しびれるっ、あたまの、なか……っ、くううっ! リル: ピュルテ! もうよせ! ピュルテ: 大丈夫! やらせて! ピュルテ: くっ、はぁっ、もう、少し……っ、くううっ、ぐっ、ああああっ! ドロシー: ピュルテ! しっかり! いきなり倒れるなんて…… ピュルテ: 場所……わかり、ました…… リル: ピュルテ……! クレア: ピュルテ、鼻血出てる。拭いてあげるからじっとして デュプリ・ライブラ: 目標地点がわかれば、後は向かうだけッスね。急ぐッスよ ドロシー: ……ねえ、もうちょっとピュルテに何かあるんじゃないの デュプリ・ライブラ: 何かってなんスか? それよりほら、こいつの出番ッス クレア: さっきの十字架、それどうなるの デュプリ・ライブラ: ゴーレムッスよ。今度はリモートじゃなくて搭乗型にしたんで、動かしやすさは格段に良くなってるはずッス 345 - 退路を断て フアナ: いた! あそこに船があるよ。人影も動いてる! ティンカー・ベル: よしっ、絶対逃さないよ! ティンカが飛んでいって捕まえる! ヴェルメリオ: ……ねえ、パラケルスス。賢者の石って、どれくらい頑丈なの? パラケルスス: 愚問だね。この大賢者パラケルススが作ったものが、ちょっとやそっとで壊れるわけないよ ヴェルメリオ: ……よかった。じゃあ安心だね シンデレラ: えっ、ちょっとヴェル!? その矢ってさっき作った…… カロラ: うおっ!? やべぇっ、海に飛び込め! フェルディナ: な、なんなのっ、いきなり! フアナ: 船が爆発したーっ!? ヴェルメリオ: ……矢に火薬をつけておいたの。逃げられちゃったみたいだけど……これで島の外に逃げられる心配はなさそうだね ティンカー・ベル: ずきん、なんか過激になってない? エミリー: あ、見て。あっちに逃げていく人影が見えるよぅ! 追いかけなくちゃ カロラ: な、なんだ、追手にマジで頭おかしいやつがいるな フェルディナ: 本当よね! でも、ここまできたんだもの。絶対に手放さないわ。これでシャルも救われるし、私だって……! カロラ: おい、こっち! なんかペダルで漕ぐタイプの荷車があるぞ。おまえ、後ろに乗って追手を見てろ フェルディナ: わかったわ! 絶対に逃げ切るわよ! ティンカー・ベル: なんか変な乗り物に乗ってっちゃったよ! シンデレラ: 大した速さじゃないけど、走って追いつけそうにはないわね…… ヴェルメリオ: ……もう1台あった! これで追いつける ティンカー・ベル: あ、ちょ、ずきん、ひとりじゃダメだって……って、人間さんまで!? ヴェルメリオ: ……一緒にきてくれるの? うん、じゃあ漕ぐのはまかせる。わたしは後ろに乗って矢で狙ってみるから ティンカー・ベル: あーもうっ、ティンカも行くからっ、待ちなってば! エミリー: ヴェルと人間さんで行っちゃった……。ティンカもついていったし、大丈夫かとは思うけど…… シンデレラ: ねえ、暗くてよく見えなかったけど、声に聞き覚えなかった? フアナ: さあ……? いずれにしても、あたしたちには足がないから、先回りするしかないね。どこに向かってるんだと思う? パラケルスス: そうだね。無目的に逃げ回ってる感じではないからね…… カロラ: んぬぉおおおおぉぉっ、めっちゃ漕いでんのに、あんまりスピード出ねーんだけど!? くそっ、追手はどうだ、フェルディナ! フェルディナ: 向こうも似たような台車で追いかけてきてるみたい! でも、スピードはどっちもどっちって感じね カロラ: やっべぇ、これ絶対明日になったら筋肉痛なんだけど! フェルディナにやらせればよかった! フェルディナ: 聞こえてるんですけど!? だいたい、私よりカロラ姉さんのほうが身体を動かすのは得意でしょ カロラ: そうだけどっ、くっ、はぁっ、このペダルを漕ぐって動作が、普段やらない動きだから……っ、使ってない筋肉がやべーことになってんだって フェルディナ: 姉さん、どこに向かってるの? 意味もなく走り回ってるわけじゃないわよね カロラ: 沖合に特務部隊が控えてるはずなんだよ。あたしらんちに連絡とれれば、ヴィル姉ちゃんが迎えよこしてくれることになってんだ フェルディナ: いつの間にそんなこと…… カロラ: ヴィル姉ちゃんが普通に用意してくれて……って、おい、またウジウジ言うなよ! いまそんな場合じゃないからな!? フェルディナ: わかってるわよ! また私だけのけ者にされてたのは腹立つけど! フェルディナ: ちょっとっ、向こうが追いついてきたわよ! やだ、こっちに向かってくる! カロラ: ぬぁあああっ!? な、なんだ、いまの! めっちゃ揺れたんだけど! フェルディナ: 向こうが台車をぶつけてきたのよ! 後ろに弓矢構えてるやつもいるわ! 止まると例の爆発する矢で攻撃されるわよ! カロラ: ってことは、まっすぐ走ってても狙い撃ちされるじゃねーか! くっそ、揺れるけどつかまってろよ! フェルディナ: きゃああっ!? 蛇行運転っ!? 危ないじゃないの、姉さん! ひっ、またぶつけてきたっ カロラ: 弓矢のやつも頭おかしいけど、ぶつけてくんのも大概だろ……! うぉっ、これ以上やられたら横転するって! カロラ: あとちょっとで、通信できるポイントに届くってのに……! シンデレラ: あの人たちがどこに向かったかだけど……船はもう、ないわよね フアナ: だと思うよ。おそらく、あいつらが船を壊した犯人だと思う。軒並み壊されている中で、一隻だけ確保しているのは不自然だからね エミリー: じゃあ、どこかに隠れてヴェルたちをやり過ごしたら、後で船を修理するのかなぁ? じゃないと島から出られないもんねぇ シンデレラ: それは無理があるんじゃないかしら。ヴェルの火薬で、粉々になったのよ。他の船も、徹底的に壊されていたし フアナ: 島じゅう探せば一隻くらい見つかるかもしれないけど、地元でもないのにそこまではできないよね シンデレラ: それよ。当然、島の外に逃げようとしている時点で、この島の住民じゃないわよね。だとしたら、島の外に仲間がいてもおかしくないわ エミリー: そしたら、助けてって連絡するよねぇ。どうやって? フアナ: あたしたちのピアスみたいに、魔道具を使って連絡するんじゃないかな。だとしたら、それをなんとか傍受する方法があれば…… フアナ: ねえ、パラケルスス。ここまで無言だけど、何かいい方法を知ってるんじゃないの? パラケルスス: ……うーん。そう言われてもね フアナ: これは賢者の石を取り戻す一環だよ。まさか、見返りを要求しようっていうんじゃないよね パラケルスス: いや、そうじゃないよ。ただ、相手が何者かもわからないのに、通信魔法を傍受するのはかなり難易度が高いよ パラケルスス: そもそも、ぼくは錬金術師だからね。魔道士じゃないんだ。魔法を使いこなすのは得意じゃないし フアナ: 傍受までいかなくても、通信させなければ逃げられる心配はないんだけどなぁ パラケルスス: そうだね。通信妨害のほうが、傍受するよりも何倍も簡単だし エミリー: でも、そんなのどうやってやるの? パラケルスス: 妨害するなら、オーソドックスなのは範囲の外縁部に、魔力の拠点を置く方法かな。ピンみたいなものを設置して、結界を張るんだ フアナ: なるほどね。でも、その方法だと今から島じゅうをぐるっと一周してピンを埋め込むことになるよね。ピン自体も手元にないし、さすがに無理か シンデレラ: ……待って。それ、なんか引っかかるわ シンデレラ: そうよ、私とヴェルでピンを見つけたのよ。報告したでしょ パラケルスス: ……ということは 346 - 閉ざされたステージ シェイクスピア: 通信魔法を探知。封鎖結界を発動するわ アイソーポス: この手の範囲魔法はシェイクスピアの得意とするところだからな。実際、レグルス教国でのGR2発動も、おまえがほぼ組み立てていた シェイクスピア: ふふっ、先生が残してくれた本の最初の方に載っていただけよ シェイクスピア: ……分析完了。魔法を探知したポイントも割り出せたわ。もちろん行くのよね、アイソーポス? アイソーポス: もちろんだ。それでは賢者の石とやらを拝みにいくとしよう (背景切換...) カロラ: くっそ、どうなってんだ! 全然、通信できねーじゃん! フェルディナ: 一瞬にして島の気配が変わったわ! 何か魔法を使われたのかも! カロラ: んなこと、誰ができるんだよ……。あの追手の連中か? フェルディナ: それはわからないけど……これで通信はできないってことよ! 私たち、実はかなり追い込まれてるんじゃないの!? カロラ: あーもう、うるせーな。落ち着けって。あたしがなんとかしてやるから、ぎゃーすか騒ぐんじゃねーよ フェルディナ: だって! カロラ: ほら、姉ちゃんが手つないでてやるから。なるようにしかなんねーよ フェルディナ: こ、子ども扱いしないでよね……! (背景切換...) ペロー: これは……結界ですね。誰かが、何らかの目的で結界を張った…… ペロー: うかつに動けば、何かを気取られる可能性もある。ここは大人しくしておきますか ペロー: 賢者の石にも多少興味があったのですが、大事の前の小事。ここは敢えて見逃して、この後の展開に備えるべきでしょうね ペロー: しかし、その争奪戦はぜひ、この目で見ておきたいところ…… ペロー: 参加しているプレイヤーの顔だけでも確かめにいくとしますか ドロシー: 方向はこっちで合ってるのよね!? ピュルテ: は、はいっ! そ、それにしても、すごく揺れますね、これ…… リル: まさかゴーレムの中に4人まとめて乗り込むことになるとはな。くっ、狭い…… クレア: なんか蒸し暑い デュプリ・ライブラ: その搭乗型ゴーレムは、乗員のエルマイトを動力にしてるんスよ。操作はひとりでもできるんですけど、エルマイトは4人分あったほうがいいんで リル: 理屈はわかるんだが、だったらもう少し快適さを考えてもいいんじゃないか……! クレア: これ誰かがおならしたら終了だね ピュルテ: ちょ、ちょっとクレアさん!? まさか……やめてくださいね!? クレア: 私は可愛い女の子だから、そんなものしないよ ピュルテ: それ自体にはツッコミませんけど、本当にナシでお願いしますよ! ドロシー: それで? デュプリ・ライブラはなんで乗らないのよ。自分だけ特別扱いなわけ? デュプリ・ライブラ: ボクはボクで役割があるんスよ。だいたい、その中にボク入ったら本当に身動きできないッスよ ドロシー: うっ、確かに…… デュプリ・ライブラ: それに……このゴーレムが破られる可能性は十分にあるんスから……そのときは、ボクが切り札を使うしかないッス…… デュプリ・ライブラ: ううっ……こんなとき、神官長様のご指示があれば安心できるのに……。でも、いまは通信妨害が発生してるし、それに…… デュプリ・ライブラ: こんな失態を報告なんてできないッス。嫌われちゃうし……。だから、ここはボクの判断で、最後の手段を使うしか…… デュプリ・ライブラ: 神官長様に喜んでもらえるなら、ボクは『獣』にだってなる―― ヴェルメリオ: ……なんかやってる。何してるんだろ ティンカー・ベル: んー。ほんっと暗くて、よくわかんないんだよね。内輪もめっぽくも見えるけど ヴェルメリオ: ……油断しないようにね。いきなり襲ってくるかもしれないし ティンカー・ベル: ずきんは人間さんのこと守ってて。ティンカが様子見るから ヴェルメリオ: ……気をつけてね ティンカー・ベル: わかってるって。でも、なんでこんなところで止まったんだろ ヴェルメリオ: ……っ!? な、なに、この地響き ティンカー・ベル: う、うわ、森のほうから何か出てきたんだけど! あれって、大瀑布で見たゴーレム!? ヴェルメリオ: ……あのときのより、大きい気がする。これ、あの人たちが呼んだの? だとしたら、やっぱりあの人たちが盗んだ犯人なんだ ティンカー・ベル: や、うん。人間さんが言うとおりだね。あの人たちもなんか慌ててるっぽくない? 暗くてよく見えないけど…… シェイクスピア: なら、そろそろすべてを明るみに出そうかしらね ヴェルメリオ: ……っ!? シェイクスピア!? ティンカー・ベル: いつの間に!? シェイクスピア: 闇はすべてを覆い隠してしまう……。でも隠したままでは、自分たちの運命を楽しめないでしょう……? ティンカー・ベル: 運命って、なんのこと!? シェイクスピア: 文字通り、白日の下に晒そうじゃないの……ふふっ ティンカー・ベル: うあっ、まぶしっ!? ヴェルメリオ: ……え? あ、あれ、あそこにいるの、あれって…… カロラ: はあ!? 追いかけてたのって、お前らかよ!? フェルディナ: あっちは後よ、姉さん! でかいのが、こっちに来るわ! ヴェルメリオ: ……うん、わかってるよ、人間さん。あのゴーレムを止めなきゃ……! 347 - 引き寄せられて カロラ: 追っかけてきたの、お前らだったのかよ……! なんつー追っかけ方してんだよ。マジでやべーやつだと思ってたんだぞ ティンカー・ベル: しょうがないじゃん。このままにはできなかったんだもん フェルディナ: あんたたちがいるってことは、シャルを助けるのが目的でしょ。だったら、結果的に同じことだからいいんじゃないの。問題はそれよりも ヴェルメリオ: ……あのゴーレムだね。シェイクスピアが操ってるの? シェイクスピア: うふふふっ、聞こえるかしら。絶望という名の天使があなたの耳許で囁いているのよ―― カロラ: やっべぇ、突っ込んでくる! フェルディナ: 私が引き付ける! あんたたちで攻撃が通るか試すのよ! ヴェルメリオ: ……わかった、こっちから狙う! ティンカー・ベル: まかせといて! フェルディナ: くうううぅぅっ! 攻撃が、やっぱり重い……っ! 見た目通りって言えば、それまでだけど……っ、くっ、こんの……! カロラ: くっ、ダメか……弓矢の攻撃も、魔法攻撃もまともに通ってねーな ヴェルメリオ: ……これ、単にゴーレムの防御が高いってだけじゃないと思う ティンカー・ベル: だね。たぶん、なんか魔法障壁みたいなのが張られてる感じ。まったく効いてないって、おかしいでしょ フェルディナ: だとしたら、どうやって剥がせばいい……? カロラ: よくあるのは、魔法障壁の耐用回数が決まってるパターンだ。とにかく手数で削りきれれば、本体にダメージが通る フェルディナ: だったら……私が引き付け続けてあげるから、みんなで攻撃しなさいよ カロラ: んぉ……なんだよ、フェルディナ。お前、すげーカッコつけんじゃん フェルディナ: ここでいいところ見せなくてどうするのよ カロラ: ん? ははぁ、人間さんにいいカッコしたいってことか? フェルディナ: そ、そういう、特定の誰かに向けてとか、そういうことじゃないわよ! シェイクスピア: この悲運に対抗する手段は持っていないようね。疲弊したところで、私が『それ』を頂く……完璧な流れだわ 雨依: ……なにこれ。何が起きてるの? 雨依: 誰か説明して。これ、どういうこと? 何やってるの? レオナ: あら、なんだか見覚えのある顔がちらほら…… カロラ: んげぇっ!? お、おい、嘘だろ。あれって確か シェイクスピア: ……っ!? レオナ……! それに……っ 雨依: ……そっちの森になってるとこにもいるし ペロー: ……っ!? フェルディナ: ペロー!! そんなところに隠れていたのね。というか、この島に来ていたなんて 雨依: あなたたち、どうして何も言わないの シェイクスピア: ……っ、くっ、うぅ…… ペロー: そ、それは…… カロラ: やべぇ、ガチだぞこれ…… レオナ: 声が小さくて聞こえないね ヴェルメリオ: ……あれ、誰? ティンカー・ベル: あっ、前にどっかで会った可愛い子じゃん。なんで、こんなところに…… ティンカー・ベル: って、人間さん!? ちょっと、なに突っ込んでってんの!? 助けなきゃって!? 雨依: あっ、あなたは……! 雨依: え? 逃げろって、私に言ってるんですか? レオナ: ここは危ないから、って……ん、まあ確かに、普通なら危ない状況だよね 雨依: 私のことを、そんなふうに心配してくれるなんて……! 大切にしてくれてるんですね……! 雨依: 自分のほうが絶対に危ないのに、私のことを身を挺して守ってくださるなんて、素敵です…… ティンカー・ベル: そうだよね、普通の女の子がこんなところに紛れ込んだら、ヤバすぎるもんね ヴェルメリオ: ……人間さんは、優しいから。でも、その子って普通の女の子なの? 雨依: は、はい……! わかりました、あなたの言うとおりにここから離れますね レオナ: 雨依、それでいいの? 雨依: だって、私……。こんなふうに大切に、守ってもらったことなんてないから……! ほら、レオナ。早く行きましょう 雨依: あ、あのっ、待ってますから。必ず、来てくださいね 雨依: ああ、その前に…… ピュルテ: きゃああああっ!? リル: くっ、この衝撃……こちらの魔法障壁が破られた……っ! ドロシー: 一体、何が起きたのよ! いいえ、それよりコントロールはできた!? クレア: 無理。このゴーレム、言うこと聞かない リル: やはり小生たちは、このゴーレムのエルマイト供給源として養分扱いされているだけのようだな ピュルテ: そんな……! だって、あそこにいるの人間さんなのに ドロシー: それにヴェルと妖精さん、あっちにいるのはカロラとフェルディナよ ピュルテ: 意見は違いますけど、でもっ……仲間なのに! 仲間同士で戦うなんて、こんなの望んでません! ドロシー: デュプリ・ライブラはこれ、わかってやってるわよね…… クレア: うわっ、揺れてるっ。なんか、動きが安定しない ドロシー: なんとか外に出るわよ! このままじゃ本当に、みんなを傷つけちゃうわ リル: ドロシー殿! どうするつもりだ ドロシー: 決まってるでしょ。出口を……っ、くっ、こじ開けるのよ……! くっ、ああああっ! クレア: 手伝う。んっ、んんんっ……! ピュルテ: 隙間が開きました! ここから出られます! リル: よし、まずピュルテから行け ピュルテ: いきますっ リル: 小生も続くぞ。ドロシー殿、大丈夫か ドロシー: 大丈夫、行って クレア: ドロシーも、早く ドロシー: クレア……。あなた、さっきからどうして動かないの クレア: 動いてるよ。こじ開けるのも手伝った ドロシー: 違うわ。さっきから軸足は動かしていないもの。あなた、もしかして…… クレア: これ、なんかくっついちゃった ドロシー: 癒着してる……!? デュプリ・ライブラのやつ、なんてものを使わせて…… クレア: でも、それはそれだから。ドロシーは早く逃げて ドロシー: クレアを置いていけるわけないでしょ!! クレア: ドロシー、ごめん ドロシー: ぐぅ……っ!? 348 - 漁夫の利 ヴェルメリオ: ……ピュルテ! ティンカー・ベル: ネコも出てきた!? なに、あのゴーレムの中身ってまさか ピュルテ: あの中に取り込まれていたんです。コントロールができなくて、皆さんに攻撃してしまって…… カロラ: 魔法障壁が壊されたから、外に出てこれたってとこか? フェルディナ: でも、あれだけ攻撃してもびくともしなかったのに、どうして障壁が壊れたのかしら カロラ: それだけあいつはやべーってことだよ ヴェルメリオ: ……待って。このゴーレムがピュルテたちと関係あったってことは ティンカー・ベル: あっ! 大瀑布で出てきたゴーレムって リル: ああ、小生たちが遠隔操作していたんだ。貴君たちが相手だとは知らずにな ドロシー: うあああっ! ティンカー・ベル: 三つ編み! だ、大丈夫? ドロシー: クレアに蹴り出されたわ……。あの子、ゴーレムとの癒着が始まっていて、自力じゃ出られないのよ! ピュルテ: そんな! どうすればいいんですか カロラ: ゴーレムを破壊するしかねーだろ。活動が止まれば、癒着だって消えんじゃねーの ティンカー・ベル: それしかないよね。人間さん、みんなにエルマイトあげられる!? ヴェルメリオ: ……クレアを、助けなくちゃ ドロシー: ええ。神殿だのコミッティだのは、一旦忘れるわよ。クレアを助けるのに、そんなの関係ないんだから! ピュルテ: はい、わかってます。行きましょう、クレアさんのために! リル: くっ、気をつけろ! クレア殿の意思とは関係なく、力まかせに攻撃してくるぞ! ピュルテ: くううううっ! こ、このくらい、なんでもありませんっ カロラ: 大丈夫だ、魔法障壁は消えてるし、確実にこっちの攻撃は入ってるぞ! このまま削りきればいける! ティンカー・ベル: クレア、待っててよね! シェイクスピア: ……素晴らしい友情ね。感動したわ。なんていっても、こんな重要なアイテムをほったらかしにしてまでも、助けようとしてるんだから カロラ: あ、おい、ウィラ!? ヴェルメリオ: ……シェイクスピアが持ってるケースの中身って フェルディナ: ええ、賢者の石よ……! こんな状況でかすめとっていくなんて、ずいぶん行儀がいいのね シェイクスピア: 戦わずして利を得るのが、スマートな手口よね。それじゃあ、私はこれで失礼するわ デュプリ・ライブラ: ……逃さないッス シェイクスピア: ……!? シェイクスピア: あなた、私に対抗しようっていうの? やりあえる自信があるのかしら デュプリ・ライブラ: 腐ってもコミッティの一員ッスからね。生半可な戦い方じゃ太刀打ちできないってわかってるッス デュプリ・ライブラ: でも、これを使えば…… シェイクスピア: それは……!? ドロシー: ちょっと、デュプリ・ライブラ! ゴーレムにクレアが取り込まれたままなのよ! なんとかしなさいよ デュプリ・ライブラ: うるさいッス。そのゴーレムで戦えってことで乗せたのに、なに勝手に降りてんスか ピュルテ: だって、私たちの考えとは関係なく攻撃してしまうんですよ! あんなの、乗っていられません! デュプリ・ライブラ: はあ? だからッスよ? かつてのお仲間相手じゃ決心が鈍ると思って、それで自動操縦モードにしといてあげたんスけど リル: デュプリ・ライブラ殿……何がそこまでさせるんだ デュプリ・ライブラ: 出来損ないにはもう、用はないッス……! これでボクが自分の手で、賢者の石を取り返してみせるんスよ……! シェイクスピア: アイテム召喚……!? いったい、なにを デュプリ・ライブラ: 鉄のナントカって連中から取り上げた、ディ・マキナってやつッス……! これで全部、叩き潰してやるッス! ピュルテ: なっ……こ、これは……! ティンカー・ベル: なんかデュプリ・ライブラがおかしなことになっちゃった……! ヴェルメリオ: ……手足に、ゴーレムとも違う変なのがくっついて…… リル: 気をつけろ、みんな。ゴーレムもまだ動いている! ドロシー: くうううっ!? このゴーレム、こんな重い攻撃をぶちかましてたのね フェルディナ: カロラ姉さん、これって……どうするべき? 狙うのはシェイクスピアか、それとも カロラ: んなもん、決まってんだろ。賢者の石をシャルのところに持って帰るのがあたしらの役目だ フェルディナ: じゃあ、シェイクスピアを倒して賢者の石を取り返すのね カロラ: バカ、そういうことじゃねーって。ウィラは誰に動かされてると思ってんだよ。もうどっか逃げちまったけど、さっきペローがいただろ フェルディナ: え? ペローとシェイクスピアが繋がって…… カロラ: ないんだよ。繋がってたらここに顔出す必要ないだろ。ってことは逆に、あれだけのメンツがいて、顔を出してない大物って言えば フェルディナ: アイソーポス……! カロラ: シェイクスピアに逃げられても、最悪アイソーポスと交渉すりゃいい。ジャー姉ちゃんはブチギレるだろうけど、シャルが助かるのは確実だと思う フェルディナ: 天空神殿に持っていかれたら、絶対にこっちには戻ってこない…… カロラ: そういうこと! デュプリ・ライブラ: ちっ……ボクの邪魔はしないでほしいんスけど……っ! ゴーレム、ボクを援護するッス リル: デュプリ・ライブラ殿の動き……尋常ではない速さだ。これがディ・マキナの影響か…… ドロシー: ゴーレムが動きだしたわ! くっ、中にはクレアがいるっていうのに……カロラ! フェルディナ! ゴーレムには攻撃しないでっ! フェルディナ: そんなこと言われたってっ……! 相手から突っ込んでくるのは、どうしたらいいわけっ!? ピュルテ: デュプリ・ライブラさん! 落ち着いてください! ここで実力行使する前に、お互いにちゃんと話し合いませんか! デュプリ・ライブラ: ……ピュルテは何を言ってるんスか。誰と誰が、なんのために話し合うっていうんスか ピュルテ: いま、シェイクスピアさんが持ってるあのケース……あの中に入ってるお花を取り返したいんですよね? ヴェルメリオ: ……あのケースの中身が、例の花……賢者の石なの? リル: 賢者の、石だと……? 小生たちが持ち出した花が? ティンカー・ベル: ってことは、え? ピュルテたちが持ち出して、それをカロラたちがとっちゃって、そこでまたずきんが見つけて追いかけて…… カロラ: そういうこと。んで、シェイクスピアが持ってんだ ピュルテ: じゃあ、デュプリ・ライブラさんだけじゃなくて、シェイクスピアさんも、カロラさんも……どうしてあの花が必要なのか、ちゃんと話し合いましょうよ! ピュルテ: もしかしたら順番に使えば解決するかもしれないじゃないですか リル: この場面で、そんな提案をするとは……腹が据わってるというか、無謀というか パラケルスス: いや、そんな議論は必要ないね 349 - 賢者の石の行方 ティンカー・ベル: パラケルスス! カロラ: よぉ、久しぶりじゃん ティンカー・ベル: あ、あれ? 姐さんたちは? パラケルスス: しーっ、今はそれはいいから リル: あれはさっき町で小生たちを追っていた……パラケルスス? 何者だ ヴェルメリオ: ……大賢者で、悪魔の森で人間さんのことを助けてくれた ティンカー・ベル: 条件付きだけどね ピュルテ: 人間さんのことを……? パラケルスス: それぞれ使い道を主張して話し合いで決める、という提案だったね。実に平和的で、かつ合理的な提案だと思うよ。でも、それを聞くわけにはいかないね ピュルテ: ど、どうしてですか! パラケルスス: もともとそれはぼくの支配下で管理されていた、ぼくの持ち物だ。それを、きみたちが盗み出したんだろう? ピュルテ: 私たちが、盗み出した……!? ドロシー: 危険なものを作り出しているから、って聞いたのよ! だから私たちは、持ち出そうとしたの ピュルテ: そ、そうです。私たちが何かお金を儲けようだとか、そういう目的で持ち出したんじゃありません パラケルスス: それこそ思い上がりだと思わないのかな。ぼくが、何をどんな目的で作ろうと、きみたちには関係ないことだ パラケルスス: 盗んでいい理由にはならないだろう? まして、賢者の石が完成したのはもうずっと前のことだ。今さら騒ぐってどうなんだろうね ピュルテ: それは…… デュプリ・ライブラ: 耳を貸す必要はないッス。神官長様がやるべきだと判断された、それでもう理由にはなるんスよ ドロシー: デュプリ・ライブラ……!? カロラ: やべぇ、手足にくっついてる変なのが、どんどん広がってんぞ! これ、変身しようとしてんのか!? シェイクスピア: 楽しくなってきたわねぇ。全員でぶつかり合って最後に立っていた者が勝者……分かりやすくていいじゃない シェイクスピア: 願わくば、あなたがそこまで追い詰められている事情なんかも聞かせてほしいところだけど……♪ デュプリ・ライブラ: うるさいッス……話すことはもう、何もないッス! 雨依: どう? うまくいきそう? レオナ: もちろん。私を誰だと思ってるの? 船くらい簡単よ レオナ: 船を壊されたなら、作ればいい……ってね。あと少し調整すれば、漕がなくても自動で進む船になるから 雨依: 大丈夫かしら レオナ: 疑ってるの? ばっちりよ。黒鉄の国どころか、もっと先にだっていけるわ 雨依: そうじゃなくて レオナ: ああ、彼? そうね、確かに危険な場所ではあるわ。でも…… レオナ: 最大の脅威であるイミテーションの子、あのままだともう―― (背景切換...) ヴェルメリオ: ……人間さん、危ない! ティンカー・ベル: 任せて! こんな攻撃、ティンカが……っ、くっ、ううっ! ヴェルメリオ: ……なんで人間さんのことまで攻撃するの? 賢者の石を持ってるのは、シェイクスピアなんだよ デュプリ・ライブラ: ずっと追っかけてきたのは人間さんたちッスよ。取り返した後に邪魔されないためにも、隙があれば戦力を削いでおくべきじゃないスか ドロシー: ちょ、ちょっと何言ってんのよ……! シェイクスピア: うふふふっ、楽しそうなことを始めてるじゃない。そういうことなら、私も……♪ リル: ピュルテ、下がれ! ピュルテ: きゃああっ!? あ、危なかった……ありがとう、リルちゃん リル: シェイクスピアが小生たちにも攻撃してきただと……! ドロシー: クレアを載せたゴーレムだって暴れてるっていうのに、ぐちゃぐちゃだわ フェルディナ: 姉さん、これ私はデュプリ・ライブラを狙うのでいいのよね!? カロラ: 惑わされてんじゃねーよ! それでいいんだって! シェイクスピア: ああ……これこそ、まさに混沌……。素晴らしい空気感だわ。これで、あなたたちどうしが刃を交えれば、最高なのだけれど ドロシー: なっ……バカ言ってんじゃないわよ! デュプリ・ライブラ: いや……これに関してはその通りッスね。なんでピュルテたちは、そっち側の連中を攻撃しないんスか? リル: デュプリ・ライブラ殿、正気か!? リル: ……いや、その顔、既に正気ではないな。その手足に付けたディ・マキナとやら、いったいどこから…… デュプリ・ライブラ: 早く……やるんスよ。それがピュルテの役割なんスよ。役割を果たせないなら、存在価値は…… デュプリ・ライブラ: 目の前にいるそいつらは敵ッスよね? なんで敵と戦わないんスか? そんなことじゃ存在価値なんてなくなっちゃうッスよ……? ピュルテ: そんざい……かち……! わたし……わた、しは…… ピュルテ: ……っ!! 人間さん! ドロシー: そうよ、人間さんがあなたのこと呼んでる。しっかりしなさい、ピュルテ。惑わされるんじゃないわよ ドロシー: 一旦、分かれはしたけど、それでも仲間なんだって……ピュルテが自分で言っていたじゃない! ピュルテ: そ、そうです! 私たちがお互いに攻撃しあうなんて、そんなの……できません! デュプリ・ライブラ: ああ……思う通りに動かなくてイラつくって、こういう感じなんスね、神官長様……。ボク、本当にひどい手下だったんだ…… デュプリ・ライブラ: 本当に、使えないコマばっかりで……いいッス、もう全部ボクが始末してあげるんで……! パラケルスス: ちっ……攻撃範囲が広い……。これじゃあ、ぼくも巻き込まれるじゃないか……! ティンカー・ベル: のわあああぁぁっ!! なんかっ、ずっと攻撃してくるんだけどっ!? やばいって、かわしきれないっ ピュルテ: デュプリ・ライブラさんの『五身一騎』が発動してるんです! 皆さん気をつけて下さい! ヴェルメリオ: ……パラケルススは大賢者なんでしょ? なんとかならないの パラケルスス: 都合よく頼らないでほしいな。道案内はするけど、賢者の石が必要で取り返したいのはきみたちなんだから、ちゃんとリスクを背負ってよ ティンカー・ベル: とかいって、本当は戦うのが苦手なだけなんじゃないの? パラケルスス: そうやって挑発して乗せようっていうんだろ。仕方ないから少し乗って上げるけど……慌てる必要はないよ。時間の問題だから。待ってればいい カロラ: おい、パラケルスス。いまのそれ、ホントか? パラケルスス: 手足に付けたパーツ、あれが彼女を強化してるんだけど……さっきより彼女の身体を覆う範囲が広くなっている カロラ: ……まさかあれ、侵蝕してんのか パラケルスス: 彼女自身との境界線が赤く発光しているのがわかるよね。あれは拒否反応だ。馴染んでないのに無理やり使ってるんだよ デュプリ・ライブラ: これで終わりッスよ、みんな……。神官長に代わって、鉄槌を下す!! 350 - 戦いの果て デュプリ・ライブラ: なっ……ボクの攻撃を、鉄槌を…… ティンカー・ベル: あ、あれ……? みんな無傷? いまの攻撃、どこいっちゃったの? ドロシー: クレア!! リル: クレア殿が乗ったゴーレムが、盾に……! ピュルテ: そんな、クレアさんっ! ドロシー: ばか……! バカ、バカっ、なにやってんのよ、クレア! 操られてたんでしょ! どうしてこんなときに動けるようになってんのよ! ドロシー: 大人しく待ってれば、私が助けてあげられたのに! リル: ドロシー殿……。いや、嘆くのは後だ。いまのダメージでゴーレムはもはや使い物にならないはず。ボディを壊して、中のクレア殿を助けるんだ ドロシー: ……! そうね、私としたことが取り乱したりなんかして ヴェルメリオ: ……わたしたちも手伝う! デュプリ・ライブラ: くっ……、なに終わった気になってんスか。一発かわしただけッスよね。もう一発食らわすまでッス。今度はもうゴーレムも動けないんスから デュプリ・ライブラ: はああっ! ラスト・ディザス…… デュプリ・ライブラ: んぐううっ!? な、なんで……っ、身体が、動かない……っ? カロラ: そこまでだ。じたばたすんなよ デュプリ・ライブラ: ……!? フェルディナ: 人間さんたちに夢中になりすぎて、周りがまったく見えていなかったみたいね。私たちが周り込んでたのにも カロラ: もう、お前のその変なパーツ、とっくに活動限界迎えちゃってんだよ。これ以上は戦えねーって デュプリ・ライブラ: ……この場は引き下がるしかないッスね…… フェルディナ: 消えた!? パラケルスス: 転移魔法だね。賢者の石のすぐそばだから、中途半端な場所にしか飛べなかっただろうけど フェルディナ: じゃあ、そう遠くない場所にいるかもしれないのね カロラ: いや、深追いするとこじゃねーな。それよりか シェイクスピア: ふふっ……。賢者の石がほしい、ってところかしら? シェイクスピア: 残念だけど、この場で強引に私から奪ったところで、島からは決して逃げられないのよ。持って逃げたところで島全体が…… パラケルスス: それなんだけど、ちょうどさっき連絡が来たところでね (背景切換...) シンデレラ: パラケルスス、聞こえる? いまちょうど解除し終わったところなんだけど フアナ: ふい~、つっかれたー エミリー: お疲れ様、フアナ。島じゅう歩き回って大変だったねぇ フアナ: パラケルススがくれた探知機があったから、無駄なく真っ直ぐ進めたけど……それにしたって、島まるまる1周だし エミリー: フアナはピンの無効化もしなきゃだったもんねぇ (背景切換...) シェイクスピア: ……っ!? いつの間に解除なんてしてたの…… パラケルスス: そういうわけだからそれ、置いていってくれないかな? クレア: んん……? クレア: あれ、みんな……? そうだ、ゴーレムと、あと、ライブラと…… ドロシー: 大丈夫。全部終わったわ リル: クレア殿の勇気ある行動のおかげでな エミリー: みんなから聞いたよぅ。もう、無理したらみんな心配するんだからねぇ クレア: ぜんぶ、って……? どうなったの。ううん、私が何したのかも、あんまり覚えてない シンデレラ: 暴走してたデュプリ・ライブラは逃げたし、乱入してきたシェイクスピアもいなくなったわ ティンカー・ベル: クレアたちが運んでたお花は、ちゃんとここにあるよ フアナ: これがシャルを助けるためのカギなんだ。だからもう、ほとんど解決した ヴェルメリオ: ……それと、久しぶりに全員揃ってる クレア: ピュルテ…… ピュルテ: はい。みんないっしょです クレア: よかった……。うん、すごくよかった クレア: ……。よくなったら、おなかすいてきた ヴェルメリオ: ……うん。ごちそう作っちゃうからね。こんな場所だから食材はあんまりないけど クレア: 助かる。ピュルテはてんでダメだったよ。人間界では『デパ地下』ってところに通い詰めてたんだって ピュルテ: ク、クレアさん、それは内緒です! 人間さん、忘れてくださいね! たまにはおうちでお料理もしてたんですから! フアナ: あ、クレアが起きたって、パラケルススやフェルディナたちにも伝えてくるよ シンデレラ: そうね、ありがとう。ついでに安いのでいいから、この宿屋にワイン置いてないか聞いてきてくれない? ティンカー・ベル: もう飲むんかい! シンデレラ: いいじゃない! やることやって、解決して、クレアが起きて心配事もなくなって。いま飲まなくていつ飲むのよ エミリー: ……なんか、しみじみしちゃうねぇ リル: どうした、エミリー殿 エミリー: すっごく久々に会ったのにさ、そんなの感じさせないくらい自然にするっと一緒になって……。あー、仲間なんだなぁって実感しちゃう リル: それは、エミリー殿もだぞ エミリー: えへへ、そうだねぇ。リルもだよぅ? リル: しょ、小生は別に……! リル: …………いや、そうだな。この仲間の一員にであることが、素直に嬉しい エミリー: うん…… エミリー: ねえねえ、みんな聞いてー。リルがいまデレたよぅ! リル: おぉいっ! いまちょっといい空気だっただろ! フェルディナ: 人間さん、あなたまた賢者の石にエルマイトを注いでるの? カロラ: あんまり無理すんなよ。あたしらだって協力してんだしさ フアナ: といっても、放出量の桁が違うからね。人間さんくんにがんばってもらうのが最短ルートなのは事実だけど ピュルテ: でも、ここで無理して人間さんが倒れでもしたら本末転倒なんですから ティンカー・ベル: 慌てなくても賢者の石はここにあるんだしさ。ね、人間さん シンデレラ: そう言えばパラケルススは? ヴェルメリオ: ……出かけたみたい。ふらっといなくなっちゃうんだよね ドロシー: ずっと宿にいても気が滅入るし、別にいいんじゃない? それより リル: 今後の小生たちの身の振り方、というやつだな エミリー: 人間さんがシャルのことは、これで一旦は解決したわけだからねぇ クレア: でも、ペローとかデュプリ・ライブラとか、どうなるかな ヴェルメリオ: ……ピュルテは、天空神殿とかグリムのことは、どう考えてる? ピュルテ: 正直に言えば、いまでもまだグリム側に完全につくのはどうかなと思ってます。あくまでも今回は人命優先だと思ってるだけです カロラ: へー、あたしらの前でそれ言い切るって、おもしれーやつだな フェルディナ: シャルのことが解決したら、また天空神殿に戻ろうっていうわけ? さすがにそれは無理だと思うけど ピュルテ: もちろんです。それに、賢者の石がパラケルススさんが悪意なく作ったものなのに、勝手な理屈で私たちに盗ませたのも事実です リル: 思ったより冷静に見ていたんだな…… ドロシー: 本当はもうちょっと、内部に入り込んで真意を探りたかったんだけどね クレア: ほとんどおつかいさせられてたし リル: 時間の問題ではなかっただろう。根本的に信頼されていないのだろうな シンデレラ: そうね。私もピュルテちゃんの意見にたぶん近いんだと思うわ シンデレラ: 天空神殿でも、グリムでもなく、私達が決めた道を進む……。難しいかもしれないけど、理想はそこにあるんじゃないかしら ティンカー・ベル: それって必要なら、両方と仲良くもするし、両方とケンカもするってこと? シンデレラ: ええ、その通りよ。もちろん、個人的には神殿が過去にしたことの調査は譲れないけど……それは個別の話だわ カロラ: ふーん。おもしれーじゃん エミリー: エミリーもだけど、カロラがそれいう? カロラ: 別にさ、みんなジャー姉ちゃんの思い通りになるのも、なんか微妙じゃん。こういうのはバランスだろ カロラ: って、おい、フェルディナ。姉ちゃんに言ったらマジで殴るからな フェルディナ: 言えないわよ、そんなこと! 351 - GR2の軌道修正 シェイクスピア: 結局、賢者の石は手に入らなかったわね。結構、がんばったつもりだったけど、最後の最後でやられたわ アイソーポス: パラケルススか。手強かったか シェイクスピア: そりゃあ、私の師匠にあたる人だもの。一枚も二枚も上手だったわよ アイソーポス: だそうだぞ パラケルスス: 眼の前で褒められるというのは、なんとも居心地の悪いものだね シェイクスピア: パラケルスス先生……!? どうしてここに。アイソーポス、まさか繋がってたっていうの? アイソーポス: まさか。すべてが終わった後、連絡を受けたんだよ。話したいことがあるってね パラケルスス: ヴィルヘルミナ経由でね。ぼくから今回の一件は何も報告してないから安心して アイソーポス: ヴィルヘルミナ相手では、薄々気づかれていそうだがな シェイクスピア: 先生、今回のこと……恐れ入りました。様々な条件が複合的に重なった結果とはいえ、直接の敗因は結界を破られたことです シェイクスピア: あの短時間ですべての結界を解除するなんて……それも、他人に方法を授けて先生は現場にいたという…… パラケルスス: なかなかおもしろい術式だったけどね アイソーポス: まあ、これで良かったんだろう。私の交渉カードが増えるかどうかの違いでしかない。あるべきところに落ち着いたように思う アイソーポス: それで? シェイクスピアに褒められるのが居心地が悪いと言いつつ、わざわざ姿を見せたのはどういう理由だ パラケルスス: きみの悲願とも言うべき、GR2についてだよ アイソーポス: ……なに? パラケルスス: 彼らはぼくに聞いてきたよ。GR2を改変することはできないのかとね シェイクスピア: 改変……? 確かに、いかに規模が大きくても術式であることには変わりないのだから、実現する内容を調整することは不可能ではないわ。でも アイソーポス: どのように、というところが争点になるだろうな パラケルスス: ぼくも少し協力してもいいと思ってるんだ。なかなか人間さんくんも、面白い存在のようだからね アイソーポス: 彼らの狙いはなんだ パラケルスス: 落としどころを探るつもりなんだろう。天空神殿もコミッティも、妥協できる方法のひとつってことだね シェイクスピア: GR2はレグルス教国に仕掛けようと思って妨害され、そのままになっているわ。やり方次第では、まだ動かせるでしょうけど……もし改変するつもりなら パラケルスス: うん。『カギ』を取りに行かなくちゃならないね シャルロッテ: ………… フェルディナ: シャル、ただいま カロラ: 起きたら起きたで、きーきーうるせーぞ フェルディナ: そうね。でも、今はそれが聞きたいの カロラ: ……相当なエルマイトをぶちこんだし、大丈夫だよな フェルディナ: あの大賢者パラケルススが保証してるのよ。きっと……いえ、絶対に大丈夫。決まってるわ シャルロッテ: ………… カロラ: そうだよな。なんか見た目が頼りないから不安になるんだよ フェルディナ: 賢者の石と呼ばれるあの花からとれる、たった一粒の種……こんなものに、すごいエルマイトが詰まってるなんて、私だって信じられないわよ カロラ: 戻ってくるまでの間に、失くしそうでめちゃくちゃ怖かったし フェルディナ: これ、口移しで……って言ってたけど。手じゃダメなのかしら カロラ: ここまで来て手順すっ飛ばして失敗したくねーだろ。人間さんのやつも『鉄板だな!』とかわけわかんねーこと言ってたし フェルディナ: そ、そうよね。緊張するわ……うっかり自分で飲んじゃったらどうしよう カロラ: 代わるか? あたし上手いぞ フェルディナ: ううん……。大丈夫よ フェルディナ: んっ…… カロラ: ど、どうだ? フェルディナ: そう言えば、どれくらいで効果が出るのか聞いてなかったわ シャルロッテ: ……っ、くっ、はぁっ、けほっ…… フェルディナ: シャル!! シャルロッテ: フェル……姉さま……? カロラ姉さまも……おふたり、何をなさって…… フェルディナ: シャル……本当に、起きたのね……! よかった、ほんとに……! シャルロッテ: あ……私、そうでした、確か撃たれてそれで…… カロラ: ずっと眠ってたんだよ。……ん、マジで目ぇ覚めてよかったよ…… カロラ: あ、あたし……っ、姉ちゃんたち呼んでくるから フェルディナ: シャル……もう、このまま目が覚めないんじゃないかって、ほんとに心配だったのよ……! フェルディナ: よかった……! ほんとにっ、よかったぁ……っ シャルロッテ: ……もう。鏡を見たほうがいいですわ。涙でぐしゃぐしゃになって、きったない顔 フェルディナ: しょ、しょうがないじゃない……っ! 嬉しいのと、ホッとしたのと、感情がいっぱいごちゃごちゃになって、いろいろ止まんないのよ……っ シャルロッテ: 姉さまにそんなに泣かれたら、私は変に冷静になってしまいますわ。やっと起きたところだっていうのに フェルディナ: うっ、そ、そうよね……っ シャルロッテ: でも、私のためにそんな顔してくれる…… シャルロッテ: そんなフェル姉さまが、大好きですわ ティンカー・ベル: あのエルマイトの種で、シャルも無事に復活! だもんね。まーたフェルディナとケンカしちゃうのかな エミリー: たぶんねぇ。でもこれで、人間さんも少し肩の荷が下りたでしょぉ? クレア: 直接、会ってお礼が言いたかった? ん、そうだよね ドロシー: そうよね。大丈夫よ、すぐにまた会えると思うわ リル: さて、そろそろ船の支度もできそうだ。この陰鬱な島ともお別れなわけだが ヴェルメリオ: ……わたしたちの旅をどうするか、だよね シンデレラ: どっちにも肩入れせず、第3の道を進む……っていう方向性は決まったんだけど フアナ: 具体的なものが何も決まってないからね ヴェルメリオ: ……やっぱり、グランドリヴィジョンをコントロールするべきだと思うの ピュルテ: コントロール!? そんなことができるんですか シンデレラ: ええ、パラケルススによれば、賢者の石さえ使えば可能だって パラケルスス: やっぱり、そういう話になったんだね。条件次第だけど、協力してあげなくもないよ ティンカー・ベル: やっぱりまた条件出してきた! リル: だが、可能ではある、ということだな ピュルテ: 前に進める可能性があるなら、試すべきだと思います ドロシー: ずいぶん大きな話になってたみたいね。いいじゃない、やってやりましょうよ クレア: そしたら、次はどこに行くの? できれば手漕ぎじゃない船で行きたい パラケルスス: そう遠くない場所だよ。目的地は海を渡った、この地下世界の唯一の国家、黒鉄の国―― シンデレラ: 黒鉄の国…… ティンカー・ベル: んじゃ、ちゃちゃっと行ってうまいことパラケルススにがんばってもらおう! パラケルスス: 条件は……まあ、黒鉄の国に着くまでには考えておこうかな フアナ: ううっ、これ絶対ムリなやつ言ってくるパターンなんじゃ クレア: 身体を張るやつならがんばれると思う エミリー: クレアってば、まーた無理しようとするぅ ヴェルメリオ: ……ピュルテ? どうしたの、ぼんやりして ピュルテ: えっ? あ、いえ、なんでもありません! こうしてみんな揃ったんですし、次もがんばっていきましょうね! クレア: じゃあとりあえず美味しいもの食べて元気だそうよ エミリー: この島じゃ美味しいものは期待できそうにないねぇ…… ピュルテ: …… ピュルテ: …………すべては、深淵の闇のために 352 - 餡のように甘い物語 雨依: おとぎ話なんて、所詮は作り物 雨依: 辛いことがあっても、耐え抜いた先に幸せがある――そんなの嘘だって、私は知ってる (背景切換...) 雨依: なんかさ、マキとは結局いつも一緒だよね マキ: そうだね、雨依とはもうずっといるよね。この界隈に雨依が来て知り合ってからずっと…… 雨依: 私が家出て、ここに来たのが半年くらい前だっけ。マキがいろいろ教えてくれたから、なんとか生きていけてる マキ: なんか一緒にいて波長が合うんだよねー。全然、育ちとかも違うのに 雨依: そんなこと久々に言われたかも。親が死んでからこの何年か、周りみんな敵みたいな感じになってたし マキ: たぶんそれかな。雨依とあたしの共通点。こういうとき、東京にいて良かったって思う 雨依: あー、わかる。田舎だとこういう逃げ場がなさそう 雨依: 治安の悪い繁華街。その片隅で、居場所を失くした私たちは肩を寄せ合うようにしてその日をしのいでた マキ: あ、そうだ、雨依ってさ、甘いの平気? 雨依: 平気。なに、どうしたのこれ マキ: 昨日一緒だった人からお菓子もらったの。なんか出張先で買ってきたとか言ってた 雨依: 一緒だった人って、パパ? なんか今日、ごはんも高いの頼むと思ったらお小遣いもらった感じ? マキ: せいかーい。これで5日は界隈で生きていけるし、助かる 雨依: もぐ……ん、んむっ……これ、めっちゃ高いやつだよね。あんこがそのへんのと全然違う マキ: ガチ? 雨依、そんなのわかるの? あ、実家が和菓子屋さんなんだっけ 雨依: そ。朝から家の中、小豆炊いた匂いでいっぱいになってるからね マキ: それこそ、なんか有名なお店なんでしょ? 雨依ってお嬢様っぽいもんね 雨依: そう? マキ: あたしと違って頭もいいし 雨依: でもメンヘラだよ? マキ: 間違いない 雨依: まあ途中までは人生順調だったし。お父さんともお母さんとも仲良くて マキ: それな。羨ましすぎるんだけど。一瞬でもまともな親に育てられたら、雨依みたいになれるもんなんだね 雨依: けど、崩れたときに落差がヤバすぎて病むんだよ? どっちがいい? マキ: うあー、雨依がボリボリ眠剤食ってるとこ見ると、ヤバいって思うもんなぁ 雨依: そういうこと言わないでよねっ、このっ マキ: あはは、痛い痛い! でも最近はあいつとうまくいってんでしょ? 彼氏いると安定するよね 雨依: んー……そうなんだけど、ね マキ: なに、なんかあったん? 雨依: ううん。今度こそ運命だと思ってるし、彼のことしか考えらんない。けど……なんかちょっと、最近すれ違いっていうか 雨依: でも、前の人とは違うから……。きっと、気のせいだよね…… 雨依: 久しぶりに彼氏から連絡が来たと思ったら、少し値段の張るホテルに呼び出された 雨依: その夜のことが、この後の私の人生を大きく変えた分岐点なんだと思う 雨依: ねえ、急に呼び出してどうしたの? 久しぶりだっていうのに、いきなりすぎるって 彼氏: まあ、いいじゃん。付き合ってんだからさ、会ったらやっぱ部屋でスキンシップとりたいっつーか 雨依: ん……それは別に、嫌じゃないけど (背景切換...) 彼氏: ほら、入れって! 雨依: なに、ちょっと、押さないで……って、えっ、なにこれ……? 男1: お、きたきた。なに、可愛いじゃん! こっちもお前の彼女? 男2: おせーぞ、バカ 雨依: な、なに……なんなの、この人たち……! マキ: 雨依……っ 雨依: 事態はすぐに把握できた。半裸の男たち、涙目で髪も服も乱れたマキ。この町では、珍しくない 雨依: マキ……! ねえ、あんたたち、マキに何したわけ? これ、どうなって…… 彼氏: うるせえ! もう喋んな! 雨依: ……!? 彼氏: 借金がでかくなりすぎてやべーんだよ。彼女だろ、協力しろよ 雨依: ……っ。何よ、それっ……。騙すならさぁ、もっと上手にやってよ!! 雨依: これも運命の人のためなんだって……私に言わせてくれなくちゃ!! 彼氏: っでえええぇぇっ!? うわ、なっ、血が! 血出てるって、うああっ 雨依: 熱くなっていた私は、持っていた小型のナイフで彼に切りつけた 雨依: マキ! こっち! 男1: おいこら、なに勝手やってん……ぐうううっ!? て、てめ、刺しやがっ…… 雨依: 夢中で振り回すうちに、ナイフは男の太ももに刺さる。私は、手近な家具を手にとって男たちに投げ、マキの手を引いて外に走り出していた 雨依: 来るなっ、死ねっ、みんな死んでよ!! 死ねっ、死ねっ!! 男2: くっ、おい、女が逃げたぞ!! (背景切換...) 雨依: はぁはぁ……もう、追いかけてきてないよね? マキ: う、うん……雨依、すごいね 雨依: あいつらみんな、下脱いでたでしょ。だから外に逃げちゃえばこっちのもんだと思って マキ: ……ねえ、雨依。怒らないの? 雨依: ……。あいつと繋がってたこと? マキ: うん…… 雨依: そうだよね。あの場にいたってことは、あいつに騙されたってことだもんね。ただの友達だったら、あそこに行くわけないよね 雨依: あいつは二股で、マキも被ってるの知ってて、私とずっとそばにいた…… マキ: ……ごめん 雨依: 別にいいよ。あいつともこれで終わりだし。運命でもなんでもなかったってこと。そんな男より、マキのほうが大事だから 雨依: お金なくて、あんまりきれいな部屋はとれなかったけど……とりあえず、ここで休んでて 雨依: ……私、クスリ買ってくるから。マキがあの部屋に呼ばれてから2~3時間くらいでしょ? まだ間に合うと思う マキ: 雨依……。ありがと…… 雨依: ついでにコンビニ寄る。食べたいものあったら買ってくるからね (背景切換...) 雨依: マキ、大丈夫かな……。とりあえずこれ飲ませて、あとは少し休んで…… 通行人: お、おいきみ! 危ないことはやめるんだ! 雨依: なに……? なんの騒ぎ……? 通行人: いや、そこの屋上から女の子が飛ぼうとしてるんだよ 雨依: え……まさか、マキ!? どうして……! 雨依: 待ってて! いま上に上がってそっち行くから…… 雨依: 頭上の影がゆらめいた。私の声はマキに届いてたのだろうか 通行人: うあああああああ!? 雨依: 次の瞬間、私を待たずにマキのほうから降りてきた 通行人: だ、だれか救急車っ!! 雨依: マキ…… 雨依: 理由はいまでも、わからない。被害を受けたことを苦にして? 信じていた男に裏切られたから? それとも…… 雨依: 私への罪悪感? (背景切換...) 雨依: そこからの記憶は、あまりない。ただあてもなくふらふらと歩き続けたんだろう、としかわからなかった 雨依: 口の中の嫌な感じから、何度か吐いたんだろうとは思う。そして、気がつくとよく知らない駅近くの……ゴミ捨て場にいた 雨依: いい場所。私らしくて 雨依: でも、ここにあるものも前は必要とされてた。もしかしたら大事にされてたかもしれない 雨依: でも、私は…… 雨依: 引き取ってくれた叔父夫婦に疎まれ、彼氏になった男には簡単に捨てられ、あるいは裏切られ。唯一、心を許せたマキには…… 雨依: マキは私のこと、どう思ってたんだろ 雨依: ふと、冷蔵庫が目に入った。このなかに入って冷たくなって眠ってしまえたら……そんなことを考えた 雨依: 電気通ってないんだから、冷たくなるわけないのに 雨依: 次の瞬間。何気なく開いた冷蔵庫の扉の奥から、まばゆい光が漏れて周囲を照らし、そして―― 雨依: 私の人生はターニングポイントを迎えた 353 - レオナの買い物 アイソーポス: もう、行くのか レオナ: うん。荷物もまとめたし、事務方のみんなにも挨拶はすませたし アイソーポス: 長きに渡り、私の無理を聞いてコミッティなんてものを務めてくれて……本当にありがとう レオナ: そんなに改まらなくていいってば。同じ釜の飯を食べた仲、ってやつじゃん アイソーポス: だからこそ、感謝は忘れてはいけないだろう。お前は本来、作家というよりも研究者だ。私のように『作品』を従えているわけでもない レオナ: だからこそ、グリムに影響されにくいっていうんでコミッティにスカウトしたのよね アイソーポス: それも理由のひとつだが、単純に私はお前を信頼していたんだよ レオナ: ん……ありがと。なんか困ったらまた呼んで。力になるわ (背景切換...) レオナ: んんーっ、これで晴れて無職かぁ。とりあえず何しようかなぁ。絵でも描こうかな 奴隷商: そら、とっとと歩け レオナ: ん? おじさん、何してるの? 奴隷商: え……? いや、奴隷だよ。姉ちゃんが見て面白いもんでもないだろ レオナ: いやいや、私の好奇心を満たしてくれそうな予感がしてるわよ。どうしてかしら、この荷台の奥に…… 雨依: ………… レオナ: え……。この子…… 奴隷商: あー。そいつはどこでも売れ残ってなぁ。反抗的な態度のわりに、世の中のことを知らなさすぎて、奴隷として使いづらいんだよ 奴隷商: この後、チカトリーチェに見せて買ってくれりゃラッキーなんだが、それもダメならもうなぁ…… レオナ: あなた、どこから来たの? 雨依: 東京……って言っても、ここの人たちは分からないだろうけど。もう、このやり取り何度もやってるし レオナ: なに、この感じ……。待って、測定器で測ってみたら……? (ビーッ、ビーッ) レオナ: なに、このディマイト反応……。普通じゃ考えられない数値だわ。……この子、面白いかもしれない レオナ: ねえ、おじさん。この子、いくらなの? 奴隷商: うぇっ? まさか姉ちゃん、買ってくれるのか。それなら500……いや、400万でいいぜ レオナ: 定価は? 奴隷商: そりゃあ1000万はするがな。そんな値段で売りつけるほど悪徳じゃないって レオナ: いいわ、500万で。このまま連れて行って構わないわよね? (背景切換...) 雨依: ……私をどうするつもり? あなたは、女の子が好きとか、そういう人? レオナ: 私は研究者なの。あなたはちょっと変わった体質を持ってるみたいだから、調べさせてほしいのよ 雨依: ああ、そういうこと。実験材料にするつもりなのね。でも、何年も眠剤とか抗不安薬飲んでるから、使えるかは知らないけど レオナ: 実験材料なんて、そんな物騒なことはしないわよ。ちょっと観察してみたいだけ。だから、そんなに身構えないで レオナ: 私はレオナ。ヴィンチ村ってところの生まれなの。手元にお金はあるけど無職! よろしくね 雨依: ねえ、レオナ! 見て、海に渦ができてるでしょ。あそこ、虹みたいになってる レオナ: あれから、どれくらい経ったんだっけ。すっかり、打ち解けてくれたわね。よく笑うようにもなった気がするし レオナ: 海に流れ込んでるヘドロに油分が混ざってるからね。汚い虹よ 雨依: もう……レオナってば、こういうときリアリストなんだから 雨依: ……って、なに? じーっと見ちゃって、気持ち悪いんだけど レオナ: 最初に雨依と会ったときのことを思い出してたの。すっごい警戒されてたなぁって 雨依: だって、あからさまに怪しかったじゃない 雨依: けど……あのとき、信じてもいいかなって思ったんだよね。最初に町について、500万ゴールドくれたでしょ レオナ: そうだっけ? なに、雨依はお小遣いもらったからなついてくれたの? 雨依: そうじゃなくて! 『私はあなたに定価どおりの価値を見出してる。だから、値引きされた額は、そのままあなたが受け取るべき』って レオナ: そんなこと言った? 雨依: これだもんなぁ 雨依: さあ、帰ったらあのひとをお迎えできるように部屋を片付けなくちゃ。レオナも手伝ってよね レオナ: と、その前にディマイトだけもらっていい? コミッティ本部に送っとかなきゃいけないから 雨依: ん……わかってる。そういう『契約』だもんね 雨依: コミッティなんて、顔と名前が一致するくらいだけど……今回、あそこで何人か見かけて、ちょっと懐かしくなっちゃった レオナ: いたね。カロラとか、フェルディナとか。ペローもいたし 雨依: そう言えば、レオナがなんか心配してた子は平気だったのかな レオナ: 心配してた子って? 誰だっけ 雨依: 言ってたじゃない。『イミテーション』の子のこと。その子って、何なの? レオナ: ああ……『イミテーション』はね、デュプリ・ライブラって呼ばれてる。天才術師と呼ばれたライブラをコピーしたのよ 雨依: コピーって? そんなことできるわけ? レオナ: 身体の一部から複製を作るっていう術は、ずっと研究はされてるのよ。倫理的にあまり表に出てこないけど 雨依: あぁ、クローンってことね。でも、だとしたら本人そっくりなんじゃないの? レオナ: そっくりだよ。気味が悪いくらいにね 雨依: そうなの? 見た目は知らないからなんとも言えないけど、レオナの話を聞いてると天才術師って感じじゃないんだけど レオナ: 昔から、ライブラはあんな感じだったよ。少なくとも、アカデミーで一緒だったときはね レオナ: どこか抜けてるしお調子者だし愛嬌があって可愛がられるタイプっていうのかな。錬金術は天才だったけど日常生活はてんでダメ。料理なんて錬金術に近い部分もあるのにひどいもんだったわ 雨依: へえ……。まあでも、天才ってそういうイメージあるかも レオナ: だからあれは、かなり完成度の高い術式だよ。ライブラ本人を完璧にコピーしてると思うわ レオナ: 術者であるレグルス本人がどう思ってるかは知らないけどね…… (背景切換...) (怨棄諸島での作戦が始まるよりも前――) デュプリ・ライブラ: うああああ! ストップ、ストップ! ああもう、お鍋が焦げちゃったッスよ―! デュプリ・ライブラ: はあ……どうしてボクってこう、要領が悪いんスかね……。せっかく神官長にあつあつのシチューをごちそうして『デュプリはワタシのママみたいです』って言わせるはずだったのに レグルス: 言いませんよ、そんなこと デュプリ・ライブラ: ほあああっ!? い、いつからいたんスか、神官長 レグルス: ストップ、ストップ! のところからですね デュプリ・ライブラ: 最初からだぁー! うう……こんな失敗してるところ、見られたくなかったのに~! レグルス: まあ、仕方ありません。ここはワタシが作ってあげますから、次は焦がさないようによく見ておくんですよ デュプリ・ライブラ: はいッス……! デュプリ・ライブラ: 神官長、やっぱり優しいなぁ…… 354 - あのひとの記憶 レグルス: さあ、できましたよ デュプリ・ライブラ: わぁっ、やったー! いっただきまーす! デュプリ・ライブラ: うん、美味しいッス。神官長はなんでもできちゃうんですね レグルス: いいえ、ワタシは何もできませんよ…… デュプリ・ライブラ: んん? 神官長、食べないんスか? ボクが食べてるところ見ててもお腹はいっぱいにならないッスよ レグルス: ああ、いえ。いただきますよ。ちょっと見入ってしまっただけです レグルス: 食べているときの食べ方とか、ちょっとした仕草で……まるで、あの人が目の前にいるように錯覚してしまって デュプリ・ライブラ: …… レグルス: あ、いえ。なんでもありません デュプリ・ライブラ: えと……この味付けも絶妙ッスよね! 刺激が少なくて優しい味付けなんスけど、ただ薄いわけじゃなくてベースがしっかりしてる感じっていうか レグルス: お口に合ったようで何よりです。おかわりもありますからね レグルス: 下界に降りれば、安定してまともな食事がとれるかは未知数ですから。せめてここにいる間はしっかり食べていきなさい デュプリ・ライブラ: いただくッス! (………………………。) レグルス: そろそろ任務に出る時間ですね。あまり無理しないで デュプリ・ライブラ: なに言ってんスか。ボクは神官長の片腕なんスから。なんとしてでも成果をあげてくるッス レグルス: ……ええ。そうなのですが。見送る側になるといろいろ不安になってしまうものなんですよ デュプリ・ライブラ: ずっと神殿にいるのも、良くないかもしれないッスよ。そうだ、たまには神官長も実体を戻して、一緒に下界に遊びに行きましょうよ デュプリ・ライブラ: このゴタゴタが終わったら、ですけど…… レグルス: やれやれ、あなたって本当に能天気で、見た目以外は何もかも違うのですね…… デュプリ・ライブラ: 違うって、何と……ッスか? レグルス: 唯一で絶対だった大切な人……でも、それはあなたの責任ではありませんから、気にしないでください。あなたは何も悪くありません デュプリ・ライブラ: ………… デュプリ・ライブラ: そッスね! じゃあ、任務がんばってくるッス! (地上でシャルロッテが目覚めてから、数日後――) アイソーポス: 久しぶりだね、フアナ フアナ: アイソーポスさんがこの島にいることはわかってたけど、まさか直接こうして呼び出されるとは思ってなかったよ アイソーポス: 賢者の石は、無事に運び出せたか フアナ: フェルディナたちも、そろそろグリムの屋敷に着いた頃じゃないかな アイソーポス: そうか。なら、良かったな フアナ: やっぱりアイソーポスさんはいい人だね。本来の目的は達成できなかったのに、そうやって本心から『良かった』なんて言えるんだから アイソーポス: 本来の目的はシャルロッテが目覚めることだ。その過程で少し自分に利益を誘導したかったが、それに失敗しただけ。枝葉にすぎない フアナ: アイソーポスさんはこれからどうするの アイソーポス: 今日はその話をしに来たんだ アイソーポス: 私はこのグランド・リヴィジョンに作られた世界に、否定的な立場をとっている アイソーポス: 創造期から大きく逸脱する現状は、もはやこれはオトギノクニではないのではないか。あるべき姿に戻すGR2こそが正義なのだと フアナ: ……アイソーポスさん。あたしは、そうは思わないよ アイソーポス: 知っているよ。フアナが現在のこの世界を愛していることは。それにしても、すっかり人間さんたちと打ち解けて、仲間として溶け込んでしまうのは、私にとって誤算だった フアナ: ……ごめんなさい。裏切り行為だっていうのはわかってる。でも、みんな本当にいい子たちばっかりで アイソーポス: 責めるつもりはない。むしろ、喜ばしいことだ。フアナが自分や、あるいは自作以外で大切にできるものを見つけられた……これは幸せの形のひとつじゃないか? フアナ: うん。そうだと思う。あたしは、みんなのおかげで一歩前に進めたんだ。だからアイソーポスさんがGR2で世界を書き換えるっていうなら、あたしは……! アイソーポス: いや。フアナのその姿を見て、私も気づかされた。フアナに限らない、多くの住民が現状に幸せをちゃんと見出しているのではないかとね フアナ: アイソーポスさん…… アイソーポス: 私自身の思想を押し付けることは目的ではない。それはただのエゴだ。問題の本質を忘れてはならない アイソーポス: だから私は、改めて定義したい。あるべき世界の形をね フアナ: ……わざわざ呼び出したってことは、あたしにそれに協力しろって話? アイソーポス: 話が早くていい。そのとおりだ アイソーポス: フアナ、お前にコミッティ13号委員の椅子を用意したい フアナ: あたしが、コミッティに出戻り……!? アイソーポス: 規定上、辞職した委員の再任は可能だ フアナ: そりゃルール上はそうなのかもしれないけど アイソーポス: 現在、コミッティはジャコヴァが解散権を行使して、その機能を止めている。だが永遠にそのままにはできない アイソーポス: 真に問題なのは、天空神殿の一極集中支配だ。かつてのグリム家が神殿に置き換わっただけで、何も解決はしていない アイソーポス: むしろ、グリムのエルマイト・トレードは形式上は自由で公正な取引だった。神殿のように、問答無用ですべての生殺与奪権を握ったわけではない フアナ: それにアイソーポスさんがコミッティを作ったから、ちゃんとOp7っていう監視体制もあるわけだし アイソーポス: その通り。だから第一には、神殿にOp7のようなより民主的なプロセスを受け入れさせることが目的になる。ただ…… フアナ: 現実的じゃないよね。そんな要求、神殿が飲むわけがない アイソーポス: となれば、実力行使――つまりGR2を使うしかないわけだが、これには余地があるとパラケルススから聞いている フアナ: うん。そういう話が出てるよ。まるごと世界を書き換えるんじゃなくて、いいとこどりする術式の改変ができないかって アイソーポス: その実現は、パラケルススと人間さんがカギになるだろう。それを実現させないことには話は進まないが、しかし私はその次を見ておかなくてはいけない フアナ: GR2が成功した後のこと…… アイソーポス: 改変GR2とでも言うべきものだな。それが実現したとき、パワーバランスを見定めてあるべき姿にコントロールしなくてはいけない フアナ: そのためのコミッティ……。だからあたしに戻ってこいってこと? アイソーポス: ペローは確実に除名だ。その後に、私が信頼できる者を据えたいんだ フアナ: ……それって、エミリーみたいに名前だけ貸すんじゃないよね アイソーポス: 私と一緒に仕事をしてもらいたい。先ほど、フアナが幸せを見出したことに触れておきながら心苦しいが フアナ: 旅の、終わり…… フアナ: 少し、保留してもいいかな。仲間とも話したいから アイソーポス: もちろん。即決させるつもりはない。ゆっくり考えてほしい フアナ: うん…… 355 - 術式 アイソーポス: では、ゆっくり考えておいてくれ。そのうちまた、答えを聞きに来るつもりだ フアナ: うん、わかった。今日はごちそうさま アイソーポス: ああ……ひとつ言い忘れたが、フアナの答えがどうであれ協力はするつもりだ。改変GR2の方向性は私も納得しているからな フアナ: ありがとう。それも、みんなに伝えておくよ アイソーポス: 改変するためのベースとなる、現状のGR2はレグルス教国の地下にいまも術式が展開されている。最終目的地はそこになるだろう アイソーポス: だが、改変するためには、やらなくてはいけないことがある フアナ: その手順もアイソーポスさんはわかってるの? アイソーポス: 術式の具体的なことはさっぱりだが、誰に聞けばいいかはわかっている。黒鉄の国に住んでいる、コミッティ最強の天才、レオナだ フアナ: 確かキャロルの前の9号委員…… アイソーポス: 作家ではないという批判を黙らせ、無理に私がメンバーに据えたんだ。実に優秀なやつだったよ フアナ: ……黒鉄の国の、どこにいるかはわからないんだよね? アイソーポス: 安否は確認できている。定期的にいまも仕事をしてもらっているからな。ただ、居場所まではわからない フアナ: でも黒鉄の国にいることはわかってるんでしょ。それなら、草の根分けて探し出すしかないよね アイソーポス: 慎重に行動するんだな フアナ: ……そんなに危険な場所なの? アイソーポス: いや、黒鉄の国は問題じゃない。治安は決して良くないが、ここと大差ないからお前たちなら問題ないだろう アイソーポス: 強いて言うなら、黒鉄の国では魔法が罪とされているから、その点だけは注意が必要になるが フアナ: 魔法が? なにそれ、不便なんじゃないの? アイソーポス: 本来なら魔法が担う機能は、すべて機械でまかなっているんだ。だが、慎重にといったのはそうではなく……仲間のことだ フアナ: え……? それは、どういう意味? アイソーポス: 仲間の中に、妙な気配を持っているやつがいる。仲間を疑うのは心苦しいだろうが、無条件で信じすぎないようにな フアナ: 妙な気配!? なにそれ、まさかあたしの仲間たちの誰かが裏切ってるってこと? そんなの、ありえないよ アイソーポス: 私はパラケルススやシェイクスピアのように、術に明るいわけではないが……その代わり、歴戦の経験で培った感覚には自信があるつもりだ アイソーポス: 嗅覚と言うべきかな。ただの勘と言われればそれまでだが…… アイソーポス: あの、花の妖精。気をつけろ レグルス: ライブラが……失敗した…… レグルス: 現地に行かせていた微精霊たちの報告は、大枠ではほぼ正しいはず……。つまり、デュプリは自らコミッティ側の連中と戦闘し、そして敗れた…… (『ペローより魔力通信 受電あり、つなぎますか?』) レグルス: ――っ! ペロー、現場の状況はどうなってるんです!? ペロー: っと、神官長? どうしました、落ち着いて下さい レグルス: ……失礼。怨棄諸島で何が起きたのか、詳しく聞かせてください ペロー: 現場はかなり混乱していましてね。私もやむを得ず撤退したのですが レグルス: 大枠では微精霊からの報告を聞いています ペロー: 現場にはシェイクスピア、グリム姉妹、そして人間さんたちが集まって賢者の石を巡る乱戦となりました ペロー: そこにピュルテたちがゴーレムを駆って殴り込み……のはずでしたが、うまくいっていませんでしたね。それもあって、デュプリ・ライブラさんが戦闘参加した、という経緯です レグルス: 花の妖精たちは何をしていたのです ペロー: 申し上げにくいのですが…… レグルス: 裏切ったわけですか……。それで、デュプリは ペロー: 申し訳ありません。その前後はかなり混乱しておりまして、私も安否を確認するには至っておりません レグルス: そうですか…… レグルス: 下界で任務を行うにあたり、あの子は実体化していた……。もし、戦闘の結果によって肉体を失っていたとしたら…… レグルス: 肉体を失ったとき微精霊となるのは物語があるからこそ。人間界で物語が語り継がれる限り、完全に消滅はしない レグルス: でも、デュプリは……私が創り出した存在……。肉体を失えば、それは…… レグルス: 完全な消滅を意味する……! ペロー: 神官長、私はこれからお預かりした転送魔法の魔符を使って神殿に戻ります。直接向かうと厄介なので、何箇所か経由しながら戻る形になりますが レグルス: ええ、分かりました。待っていますよ (『ペローとの魔力通信、終了しました』) レグルス: デュプリ・ライブラ…… レグルス: ああ……実体化なんて許さなければ良かった……! 下界になんて、行かせなければ良かった……!! レグルス: 一度ならずニ度までも、あの人を失うことになるなんて……っ! う、ううっ、うああああぁぁぁ……っ!! ペロー: さて……なんとか私の責任を問われる事態は避けられたようですね。実際、私は居合わせただけですし、早々に撤退したにすぎない ペロー: ただ、レグルスはときどき理屈が通じない言動をするときがありますからね。身は守っておかないと おじいさん: お嬢ちゃん、用事は済んだのかい ペロー: ええ。それではチェスの続きでもしましょうか、おじいさん ペロー: にしても、ずいぶん長くお世話になってしまっていますね おじいさん: 気にすんな。こんな世界の終わりみたいな島で、あんたみたいな美人とチェスを打てるなんて奇跡なんだからな。気が済むまでいてくれ おじいさん: もっとも……そろそろ出ていくんだろうが ペロー: さすが、チェスのときと同じくよく観察されていますね ペロー: 近海ではグリムが差し向けた艦船がうろうろしている。うかつに転送魔法を仕えば必ず察知されるでしょう。そろそろ警戒が緩む頃合いだとは思いますが…… おじいさん: ほい、ビショップいただくよ、と ペロー: おやおや……ずいぶん駒を取られてしまいましたね ペロー: デュプリ・ライブラさんの安否は不明。ただ、いずれにしても早期復帰は難しいでしょう。もともと駒の少ない天空神殿は、これから不利かもしれません ペロー: ではひとまずクイーンを逃がすとしますか おじいさん: そんな弱腰じゃ勝てる勝負も勝てないぞ ペロー: 神殿体制が崩壊する可能性は十分にある。そのとき、どう立ち回るか……。Op7を調略するか? いや…… ペロー: 泳がせてはみましたが、シェイクスピアは結局こちらにつかなかった。思ったよりアイソーポスに近いようです ペロー: では、ルークをここに おじいさん: ほうほう、そう来たか。ふむ…… ペロー: マロリーはアイソーポスの推薦、まず無理です。キャロル、ゲーテ、ダンテは読めませんが…… ペロー: パラケルススは人間さん側についた。初代の実力者ということなら、紫式部やノストラダムスも使えるでしょうか。あとはレオナとそれに…… ペロー: ――……っ おじいさん: んん? そんなに青い顔をしてどうした。わしのこの一手、それほど脅威じゃったかの? ペロー: い、いえ……ちょっと背中に悪寒がしたもので おじいさん: そいつはいけないな。しょうが湯でも飲むかい ペロー: あ、ありがとうございます…… ペロー: あの女の存在を神殿に報告したところで、討伐命令は私に出てしまう。あの化け物を相手にするのは他の誰かにやらせないと…… ペロー: 私のアドバンテージは神殿の莫大なエルマイト。これを使えるうちに、なんとか土台を固めなくては…… おじいさん: ほれ、あったまるよ。さて、お嬢ちゃんの番じゃったな ペロー: では……チェック おじいさん: おお、なるほど……これはこれは。しかし、まだ抜け道はあるんじゃよ ペロー: ええ、そうですね……まだ、詰めが甘い…… 356 - 代替手段 レグルス: ペロー、よく戻りましたね。お疲れ様でした ペロー: デュプリ・ライブラさんのことは申し訳ありませんでした。私もたまたま居合わせたにすぎず、何も準備できていなかったので…… レグルス: わかっています。あなたを責めるつもりはありません ペロー: 結局、賢者の石は奪還されました。その上、ピュルテたちも寝返って向こうに合流した様子 ペロー: 今後、どのように動くおつもりですか? レグルス: そんなの……わかりません…… ペロー: え? いま、なんと? レグルス: いえ、それよりグリム家のディマイト供給源は発見できたのですか? ペロー: ………… ペロー: いえ、残念ながら。いまだ経路の特定には至っておりません。申し訳ありません レグルス: 経路の特定すらも? 場所を見つけろとか、壊せとかいう以前の問題ですよ。創設当初からコミッティにいて、何も手がかりを得られないのですか? ペロー: ……! いえ、目星はつけております。ただ、確証が得られないため、もう少しお時間をいただきたく レグルス: まあ、いいでしょう。ですが、急いでください。彼らの狙いは間違いなくGR2の稼働です。賢者の石を使ってくる可能性もある レグルス: 前回のGR2発動計画は、人間さんたちが止めてくれましたが……いまや、彼らも敵に取り込まれてしまった。止められる者は限られます レグルス: 人間さんが向こうの手に落ちたということはつまり、現場でのエルマイト供給経路も抑えられたということです。イマジュマイト量でコミッティに負けたら終わりです ペロー: 神殿内には大量にエルマイトのストックが保管されていますが、それを現場まで運ぶ手段が限られてしまう…… ペロー: しかし、コミッティのディマイト供給源を叩いたところで、不利は変わりないのではありませんか? レグルス: もちろん手は考えています。もはや敵の手に落ちた人間さんは用済み、ならば レグルス: 新たに人間界から後釜を探し出すのです ペロー: 後釜、ですか レグルス: 彼だけが唯一絶対ではありません。人間界にいる以上、強弱の差はあれどイマジュマイトは生み出せるはずなのです レグルス: 前回は漠然と『エルマイトが強いもの』という条件でしたが、今回は明確に比較対象がある。つまり、いま来ている人間さんを上回れば良しとなります ペロー: 確かに、それが実現できれば単純に物量で上回ることができるでしょうね ペロー: しかし、人間界に探しに行くとなると、さすがに私では無理ですよ レグルス: わかっています。ですから、ピュルテを使うのです。そのための存在なのですから ペロー: ピュルテを……? いえ、あれも寝返っていたようですよ レグルス: 問題ありません。創造主には逆らえませんから ペロー: 創造主、ですか……? レグルス: あれに物語はありません。他の住民たちとは根本的に違います。ライブラの秘儀をもとにして構成したに過ぎない…… レグルス: ワタシが創り出した存在、それがピュルテなのです ペロー: 人体錬成……っ!? レグルス: そういう言い方をする場合もあるようですね ペロー: で、では、花の国というのは…… レグルス: ありませんよ、そんなもの。それらはワタシが構築する際に植え付けた作り物の記憶です。彼女は、近くの花畑で咲いていた、名前も知らない花なのですから ペロー: は、はは……あははは……さすがは稀代の術師ライブラ…… レグルス: もはや手段を選んでいられませんからね ペロー: それだけショックだったということですね。デュプリ・ライブラさんを失ったことが レグルス: それは…… レグルス: ここで弱みは見せられませんね…… レグルス: ショックだとか、そのような感情で動いているわけではありません ペロー: どうでしょうか。オリジナルのライブラさんの姿を忘れられないのでしょう? そのコピーを失えば、ショックなのは当然では…… レグルス: 関係ありません! あれはただの駒のひとつにすぎません。もちろん駒を失うことのダメージはありますが、それだけです レグルス: 失ったものをあれこれ言っても始まりません。あれはもう、用済みだということです (ガタンッ) レグルス: ……? いま、なにか聞こえたような ペロー: 気のせいでは? しかし、その覚悟がおありなら、私も応えねばなりませんね。ディマイト供給路、必ずや情報を得てまいります 盗賊1: うわ、びっくりした! なんだあんた、いきなり現れて デュプリ・ライブラ: ここ、どこッスか? 盗賊1: は? どこって、こんなちっぽけな島に名前なんてねぇよ デュプリ・ライブラ: ああ……小さな島って呼ばれてるとこ、ッスよね デュプリ・ライブラ: ……良かった。最後の転移魔法、成功したんスね 盗賊2: あなた、大丈夫? 顔色が悪いみたいだけど デュプリ・ライブラ: あ、はい。大丈夫ッス。ちょっといろいろあって…… 盗賊2: あら。病気してるの? それともメンタルのほうかしら デュプリ・ライブラ: 両方、ッスかね デュプリ・ライブラ: ただの駒……用済み…… デュプリ・ライブラ: そう言わせたのは、不甲斐ないボク自身なんスよね……。このままじゃ、ボクは神官長のお役に立てない…… 盗賊1: おい、どこ行くんだ。そっちの遺跡は危険だぞ! 得体の知れない魔物が現れるっていうんで、もう何人も盗掘しに来た同業者がやられて…… デュプリ・ライブラ: 大丈夫ッス。それに会いに来たんで (背景切換...) (………………………。) デュプリ・ライブラ: あった……探索を中止してから、ずっとこのままだったッスけど…… デュプリ・ライブラ: 八武神の封印も解けて、星の魔獣が次々に現れてる……。GR1を維持し続ける限り、この魔獣の脅威はなくならないッス…… デュプリ・ライブラ: 本当にいいんスか……。神官長に黙ってこんなこと…… デュプリ・ライブラ: これしかないッス! ボクじゃもう、ダメなんスから……神官長のために、力になるには……ボクじゃ足りないんスから……! デュプリ・ライブラ: だから、封印を解いて……本当のライブラさんを、呼び出すんスよ……! デュプリ・ライブラ: 本物のライブラさん、お願いッス……! 神官長様を助けてあげてください! ライブラ: ……私を呼ぶ声……あなたは、誰? デュプリ・ライブラ: ボクは、あなたです 357 - フアナの迷い フアナ: アイソーポスさん……。花の妖精に気をつけろって、それ、ピュルテのことだよね……? どうしてそんなことを アイソーポス: ふふっ、そうだな。大切な仲間のひとりなんだ、根拠なくそんな言われ方をされては許せないか フアナ: え、えっと……そういうこと、なのかな アイソーポス: 私は、彼女の出自が気になるんだよ。創造期にどこにいたのか、いったい何者だったのか…… フアナ: ピュルテの創造期…… アイソーポス: 私も長く蒐集を続けてきて、いろんな人に会ってきたが……創造期が判然としない人というのは、会ったことがないんだ フアナ: …… アイソーポス: なに、私の取り越し苦労の可能性も十分にある。別に何か行動を起こせというわけでもない。ただ気をつけていてくれ、というだけだ フアナ: うん……わかったよ…… (背景切換...) フアナ: ……ピュルテのことも気になるけど、いまはあたしのことだよね……。この旅をどうするべきか…… シンデレラ: おかえりなさい フアナ: わっ!? あ、なんだ、起きてたんだね、シンデレラ シンデレラ: 飲みに行くのに私を誘わないなんて水臭いじゃない フアナ: あ、いや…… シンデレラ: じゃあ飲み直しに行きましょうか。飲み足りないってフアナの顔に書いてあるもの。ねっ? フアナ: はは、まいったなぁ…… (背景切換...) シンデレラ: それじゃ……乾杯♪ フアナ: 何に? シンデレラ: フアナが、お悩み相談の相手に私を選んでくれたことを記念して、かな フアナ: どうして悩んでるって…… シンデレラ: それこそ顔に書いてあるわよ。それに、ただ飲み食いして帰ってくるような会食じゃないだろうとも思ってたし フアナ: え……シンデレラ、あたしがアイソーポスさんと会うの、知ってて……? シンデレラ: ああ、アイソーポスとだったの。そういえば恩人なんだもんね。この前はまともに挨拶もできない状況だったし フアナ: えっ、あれっ、もしかしてあたし、カマかけられた!? シンデレラ: 素直なフアナ、かわいいわよ♪ シンデレラ: なるほど。それじゃあ一旦、このパーティーから抜けなきゃいけないってわけね フアナ: ただ、選択権はあたしにある。断ることもできる シンデレラ: けど、保留して持ち帰ってきたのよね。その時点で、フアナの頭脳はもう自分の行動をある程度、決めてるんじゃないかしら フアナ: う……シンデレラは、ほんとなんかそういうの見透かしてくるなぁ シンデレラ: 単純に策略として、全員が1箇所に集まって同じ行動するよりも、別行動するメンバーがいたほうが行動の幅は広がるわよね シンデレラ: ただ別行動してもあまり意味はないけど、コミッティっていうアドバンテージがあるなら状況は大きく変わるわ フアナ: それ……あたしに行ってこいってこと? シンデレラ: 冷たく聞こえる? でも客観的に見ると、そういう結論になるんじゃないかしら。それに……フアナも、同じこと考えてるでしょ? フアナ: ……さすが。そうやって周りが見えてたり、判断できちゃうところがシンデレラがプリンセスたる所以だよね シンデレラ: ただの酔っ払いじゃないのよ♪ シンデレラ: けど……フアナの中では、頭脳の判断に対して心が反論しちゃってるんだよね? フアナ: だって……すごく楽しかったんだよ。こんなに毎日、笑顔でいられたことなんて、あたし…… シンデレラ: 世界最高の意思決定機関でしょ、コミッティって フアナ: え? まあ、うん、そうじゃないかな シンデレラ: そこが出戻りを許してるんだもの。私たちだって戻ってくるならいつでも歓迎するわ フアナ: あ……う、うん……そうだよね。二度と戻れないわけじゃないんだ シンデレラ: もうフアナの覚悟はできてたんでしょ? その上で、背中を押してもらいに来た……のかなって、思ってるんだけど シンデレラ: クレアには丁寧にフォローしてあげて。一番、寂しがるわ フアナ: ん……そうだね。ちゃんと……みんなにも話すし、クレアにも…… フアナ: ……これが、あたしが昨日、アイソーポスさんと話してきたこと フアナ: 花の妖精……ピュルテのことは当然言えないけど…… エミリー: コミッティに……戻る……? そんなことできるんだ フアナ: クビになったわけじゃなくて、自分から辞めたから大丈夫みたいだね リル: しかし、ここまでともに旅をしてきたフアナ殿が離脱というのは……。いや、まだ決まったわけではないか。答えは保留しているんだったな ピュルテ: 私たちと一緒にいるのではダメなんですか? ドロシー: そうよ。エミリーだって一応こう見えてもコミッティなのよ。良くも悪くも、まったくそんな感じしないけど エミリー: 悪いほうは、いまは触れないでほしいかなぁ フアナ: うん……アイソーポスさんはあたしに、何か別で動いてもらいたいことがあるんだと思う ピュルテ: そうなんですか…… フアナ: ピュルテ……何も変わった様子はないけどなぁ…… ティンカー・ベル: そのアイソーポスって人さぁ、ちょっと勝手すぎない? フアナが辞めてティンカたちに合流したのだって、最初はその人の命令じゃん ヴェルメリオ: ……確かに。命令で辞めたのに、また戻ってこいだなんて フアナ: いや、あたしは納得してたし、必要なことなら仕方ないとは思ってたから クレア: じゃあ今回も、仕方ないの? フアナ: え…… クレア: 必要なことなわけでしょ。だから私たちと離れ離れも仕方ない。フアナはそう思ってるんだよね フアナ: クレア……。も、もしかして、ちょっと怒ってる? クレア: 仕方ないって言われるのは嫌だった クレア: でも……一緒にいるだけが仲間じゃないとは思う。フアナが決めたなら、私は応援するよ クレア: ただちょっと、寂しくて……拗ねただけ フアナ: ……あたしも正直、迷ってたんだ。でも、いまはもうコミッティは敵対組織じゃない ドロシー: それは大きいわよね。レグルス教国であーだこーだやってたときは、敵だと思ってたもの。あのときとは、コミッティに戻るっていう意味が、全然違うわ フアナ: だから、離れた場所から別行動することで、みんなを支えられる……そういう可能性も考えてもいいのかなって シンデレラ: ……。寂しくなるのは事実だけど、こうして気心しれたフアナが、コミッティにいてくれることは心強いわ ティンカー・ベル: そっかぁ……。ん、しょうがない、のかな…… ヴェルメリオ: ……ずっと会えなくなるわけじゃないもんね。また会えるし、今度はみんなで遊ぼうよ フアナ: うん……! そうだね、そんな世界になってればいいよね クレア: ん……フアナ。またね。ばいばいじゃなくて、またね、だよ 358 - あのヒロインのように 雨依: ふう……帰ってきたわね。久しぶりに遠出したわ レオナ: 雨依は放っておくとずっと引きこもってるわよね 雨依: 研究室にこもりきりの人に言われたくないんだけど レオナ: わたしはそれが仕事なんだから当然でしょ。仕事に一生懸命なんだから、いいことなの 雨依: 趣味を仕事にしてる人は最強ね レオナ: この家だって……自動ほこり取りマシーンが機能してれば、きっとピカピカなはず……。さ、入るよ! (…………。) (背景切換...) レオナ: やっぱりわたしって天才なんだよね~。まいっちゃうなぁ、これ以上褒められても困るよ~ 雨依: わかりやすく調子に乗るんだから……。ま、自動ナントカがうまく動いてたのはさすがだけど 雨依: はい、お茶が入ったわよ レオナ: ありがとー♪ 雨依の入れるこの緑色のお茶、すごく好きなんだよね 雨依: ……上手くなんかないわ。お母さんはもっと上手に淹れてたし レオナ: 雨依、寂しい顔してるよ。もしかして戻りたい、とか? 雨依: まさか。戻っても何もないのよ。このオトギノクニが一番だわ。それに、この国にいれば魔法が封印されるから、それも快適だし レオナ: 勝手にディマイト吸い取られたりしないもんね 雨依: それに……街全体を覆う屋根はちょっと憂鬱だけど、朝日はすごくきれいに見えるでしょう? レオナ: この国の自慢できる数少ないポイントかな 雨依: あの人は……来てくれるかしら。一緒に朝日を眺められたら、すごく素敵だけど…… レオナ: まーた、『運命の人』のことを考えてるの? そう都合よくいく保証はないんだからね 雨依: 運命……そうね、運命なのよ。この本棚に並んだ本には、たくさんの物語が書き記されてる。そのどれもが、運命の人と出会ってるわ 雨依: お母さんが昔、読み聞かせてくれた物語も……運命の恋のお話だったわ 雨依: 優しくて、世間知らずで、いかにも箱入り娘で、周囲にもちやほやされて……そんなだから? 雨依: だからお母さんは……殺されちゃったのかな シンデレラ: すっかり長居しちゃったわね。最初に来たときは、こんなに長く滞在することになるなんて思わなかったけど ピュルテ: 仕方ありませんよ。船をいちから作り直すなんて、大変なことですから パラケルスス: その通り。これだけの船を数日で作るなんていうのは、本当の天才にしか不可能だよ シンデレラ: それはもちろんわかってるけど ドロシー: どうせシンデレラは、お酒がまずかったのが不満なだけでしょ シンデレラ: どうせって! まあ、ほぼ正解だけど リル: まがりなりにもお世話になった場所だから文句は言いたくないが、住むのに適してるとは言えなかったからな…… ヴェルメリオ: ……普通に過ごしてるだけで、なんか身体がベトベトしてくるし クレア: 食べ物も、パッサパサだったね パラケルスス: みんな、贅沢を言っちゃいけないよ。怨棄諸島は世界の掃き溜めだって話したよね。生きていられるだけで感謝すべきだよ ピュルテ: わ、わかってはいるのですが…… ティンカー・ベル: 旅慣れてるティンカたちでも、なかなかしんどい場所だったもんね ドロシー: ああ、早くきれいな水でシャワーを浴びたいわ! エミリー: 人間さんも限界だよねぇ? みんなが揃って、触らないでほしい、なんていうから エミリー: でも、男の子といちゃいちゃするとき、自分が汚かったらヤダっていうの、当然の女心だよぅ? しょうがないよねぇ ヴェルメリオ: ……ごめんね、人間さん。好きでいればいるほど、それは耐えられなくて リル: 貴君にとっては、たまにはストイックに自分を見つめ直す時間も必要だったんじゃないか? クレア: それで、黒鉄の国ってどんなとこ? ごはんは美味しい? ドロシー: 清潔なんでしょうね? パラケルスス: 食事はどうか知らないけど、少なくとも衛生面は間違いなく完璧だよ。なにせ、ほとんどが機械で動いている場所だから ティンカー・ベル: へー、機械かぁ。そういえばフアナもそんなこと言ってたっけ。なんかイメージつかないけど、どんなところなんだろ パラケルスス: そうだねぇ……研究者としては、非常に興味深い場所、ではあるね ピュルテ: その黒鉄の国に行けば、GR2をコントロールできるんですよね。あの、具体的にはどうすればいいんでしょう シンデレラ: そうね。どこに行くのかとか、何を手に入れるのかとか…… パラケルスス: そんなことまでぼくが面倒を見るのかい? 自分たちで情報収集してもらわないと困るな ティンカー・ベル: いやでも、術式に必要なものが何かは教えてもらわないとさぁ パラケルスス: まあ、それは正論か。必要になるのは――『針』だよ ドロシー: 針? それってヴィルデ・ローゼが創造期に指を差したような? ヴェルメリオ: ……詳しいね、ドロシー ドロシー: 人間さんが教えてくれたのよ。結構おもしろいのよ、人間界に伝わってる創造期の話って パラケルスス: いや、正確には『時計の針』だね ピュルテ: 時計の…… パラケルスス: ただ、形状や色なんかはわからない。というか、以前ぼくは見ているんだけど、そこから変わってしまっている可能性がある シンデレラ: そんなこと、ありえるの!? パラケルスス: だって金属だよ。場合によっては見た目は『時計の針』じゃないかもしれない。そのことは忘れないでいてほしい パラケルスス: ちょうど直近でもあったよね。賢者の石は、果たして石だったかどうか ドロシー: 確かに……。もし運んでいる途中で賢者の石の話を聞いても、自分たちが持っている花がその石だなんて、思いもしなかったでしょうね リル: ふむ……。しかも金属であれば、特殊なアイテムでなくても熱して溶かせば再構成は容易だからな エミリー: でもそんなの、どうやって探すのぉ? 町で聞き込みしてわかるレベルのことじゃないよねぇ パラケルスス: 別にぼくも意地悪で教えないわけじゃないよ。本当にわからないんだ ピュルテ: 確かフアナさんが、レオナさんって人に聞けばいいってお話をされてましたよね パラケルスス: ああ、アイソーポスから聞いたのかな。確かにレオナなら知ってるだろうね ドロシー: でも、それが誰なのかわかってないのよ? ヴェルメリオ: ……ううん。そのことなんだけど、確かあのとき パラケルスス: そう、怨棄諸島で戦うときに居合わせた、あいつだよ。あの場で確保しておけばよかったんだけど、誰かさんが逃しちゃったからね ヴェルメリオ: ……人間さん、気にしないで。あれは人間さんが優しかっただけ。悪くないよ ティンカー・ベル: そうそう。だってあの子たち……って、えっ!? 住所を知ってる!? 359 - 黒鉄の流儀 ピュルテ: 確か、フアナさんがアイソーポスさんから聞いたお話では、魔法が禁止されているんでしたね ドロシー: 戦力的に大打撃よね。ここに来て私の能力が制限されるなんて思わなかったわよ ティンカー・ベル: どこから突っ込めばいいんだろ ヴェルメリオ: ……大丈夫だよ、ドロシー。みんなで戦ってきたんだから。ドロシーひとりに頼り切ってたチームじゃないもん ドロシー: ヴェル……。そうよね、みんなのことを信じるわ。私もできる限りのことはやるから ティンカー・ベル: ずきんは、そういう切り口でいったか…… エミリー: ティンカってば、ぶつぶつ言ってどうしたの? 衛兵: ここから先は黒鉄の国の領土となります。ご用向は? ピュルテ: えっ、えーっと、あの シンデレラ: オトギノクニで、関所がしっかり機能してるなんて珍しいわね クレア: 知り合いに会いにきたんだよ 衛兵: ふむ、なるほど。えーと、合わせて10名ですね。ではいま、書類を作りますから パラケルスス: この国の内部には、高度な技術や情報も詰まってるからね。出入りのチェックはとても厳しいんだよ (ピーッ、ピーッ) 衛兵: ん……? ピュルテ: 変な警告音が鳴ってますが……うう、嫌な予感がしますね 衛兵: 魔力探知システムが既定値を超える異常な魔力を検知した。失礼する シンデレラ: え、な、なによ。ちょっとベタベタ触らないでよ! ティンカー・ベル: なんだなんだ、急にセクハラか!? 衛兵: セクハラ? 私にセクシャルな欲求は存在しません リル: そんな言い方があるか。別に欲求をなくせとまでは誰も言っていないだろう 衛兵: いえ、私は……むっ。異常値確認。魔力探査反応、M-6を検出。大魔道士級とみなし、魔導制御法7条にもとづき、あなたの身柄を拘束します ドロシー: え……? ドロシー: え、ちょ、手錠!? ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 確かに私は大魔法使いだけど、何も悪いことしてないし、魔法だって使ってないじゃない! 衛兵: 規定ですので ドロシー: そ、そんな……! ティンカー・ベル: うっそおおおおぉ!? シンデレラ: えっと……それじゃあ、このままドロシーは黒鉄の国に入れないってこと? 衛兵: はい、こちらでお預かりします。出国時にお返し致しますのでご安心ください ヴェルメリオ: ……ドロシーのこと、モノみたいに言わないでほしい ピュルテ: そうですよ! ちゃんと意志を持ってるんですからね! 捕まえてる間も、そのへんきちんとしていただかないと 衛兵: 待遇には基準がありますので、過度に負担を強いることはないかと シンデレラ: ……仕方ないわ。危害を加えそうな雰囲気ではないし、ここは退いて対策を考えましょう クレア: えっ、置いていっちゃうの? だめだよ、そんなの リル: 目の前の彼は末端の兵士にすぎない。小生たちがあれこれ主張したところで、相手に権限がなければ意味がないだろう クレア: う……そっか。大丈夫かな、ドロシー ティンカー・ベル: 三つ編みのことだから、そのへんはタフだとは思うけどね エミリー: うんうん。ドロシーなら多少は大丈夫だよぅ。だから心配しすぎないの、クレア (背景切換...) ピュルテ: どんな国なのか不安でしたが、ひとまず宿屋は普通に存在していてよかったですね クレア: 部屋だけみれば、怨棄諸島の宿よりずっといいし パラケルスス: しかし、まいったね。まさか魔法使いを拘束するなんて。予想以上の厳しさだな。さすがにぼくも予想してなかったよ ティンカー・ベル: ティンカたちは、三つ編みが魔法使いとして扱われてることに驚きだよ…… ヴェルメリオ: ……兵隊の言葉を信じるなら、捕まえておくだけってことだよね ピュルテ: ええ、罰を与えるとかではなさそうでした。出国の際には解放されるみたいですし ヴェルメリオ: ……じゃあ、なんのために捕まえておくんだろ エミリー: 捕まえて魔力を吸い取っちゃう……ってわけじゃないよねぇ リル: 入国させたくない、ということじゃないか パラケルスス: いい着眼点だ。この国は一切の魔法を排除し、そして遮断している。外界との通信も不可能だ パラケルスス: 魔法使いが侵入すれば、治安が乱れる……ということなのかもしれない ティンカー・ベル: えっ、通信も不可能って……ひそピも使えない感じ? パラケルスス: 忍びの里でもらったアイテムだっけ。忍具も広義の魔道具として扱われるんじゃないかな。念のためしまっておいたほうがいい。押収されるかも シンデレラ: それで、これからどうする? まずはドロシーを助けたいところだけど リル: いや……いまの小生たちには、その手立てがない。この国の事情も知っているであろう、彼女を訪ねるほうが良いのでは? パラケルスス: 賛成だね。では明朝、そのメモの住所を訪ねるとしようか ピュルテ: ええ、そうですね……。それでは今日は休みましょうか ティンカー・ベル: ……ピュルテ? 大丈夫? なんか顔色が悪いけど ピュルテ: いえ、ちょっと疲れが出ただけですから ティンカー・ベル: へぇーっ、なんかすっごい町だね。雰囲気がいろいろ違う エミリー: これが黒鉄の国……なんか、建物も金属でできてる? パラケルスス: 金属を骨組みに使って、表面は石と金属を複合的に使っている、という感じじゃないかな。驚きなのは、足元だよ クレア: なんかピカピカして、ツルツルしてる パラケルスス: 道路の舗装、というやつだ。道が整備されているおかげで、ああした荷車もスムーズに走ることができる ピュルテ: え……荷車というか、あれは……車です! 人間界の自動車そのままじゃありませんか!? シンデレラ: 確かにそうだわ! 人間さんが教えてくれたり見せてくれたもの、そのままよね! ヴェルメリオ: ……ドライブデート、したいな。ドロシーを助けた後はデートしよう エミリー: すごいスピードだねぇ。こっちに来ないかなぁ? 大丈夫、これ リル: ふむ……その他にも、町の至るところに何らかの機械の装置が取り付けられている。まさに機械に囲まれている印象だな リル: なに、人間界はだいたいこんな感じだと……!? ピュルテ: そうですよね、人間さん。人間界とひとくちに言っても色々ですけど、東京都心部はこんな雰囲気ですよね ヴェルメリオ: ……そういえば人間さんは、体調とか平気? 魔法が封じられてる国ってことは、また何か影響するかもしれないよ パラケルスス: それはおそらく大丈夫だよ。人間さんくんも、特に問題ないよね? エミリー: そうなのぉ? エルマイトいっぱい持ってることとは別なのかなぁ パラケルスス: 魔力を持っているだけでは魔法は使えないからね。生まれ持っての資質だから、なくすこともできないし ヴェルメリオ: ……よかった。でも気分が悪くなったりしたらすぐ言ってね クレア: ねえ。気分といえば、あそこ。誰かうずくまってるよ。大丈夫かな シンデレラ: あら、ほんとね。飲みすぎたのかしら。ちょっとそこのひとーっ、いい薬あるからわけてあげましょうかー? ティンカー・ベル: 持ち歩いてるんだ…… よんよん: い、いえ、大丈夫です……。って、あっ、あなたたちは!? 360 - 報恩の4号機 パラケルスス: なるほど、Ho-on!プロジェクトねぇ。初めて聞いたけど、つまり受けた恩を必ず返すようにプログラムされたアンドロイドたち、ってことだね よんよん: は、はいっ。い、一応、この黒鉄の国が自分たちの拠点になってますのでっ。メンテナンスのときなどはこうして里帰りします パラケルスス: で、人間さんくんたちは彼女の姉妹にも会ったことがあるわけだ シンデレラ: ええ、1番目のウーヌムと、7番目のセプテムとはヤマトにある極北島で会ったのよ クレア: ねえ、早くメンテナンスしてもらったほうがいいよ。連れて行ってあげようか よんよん: えっ、どういうことですか? メンテナンスはもう完了してるのですが クレア: あれ? さっきうずくまってたのって、故障して動けなかったとかじゃなくて? よんよん: ああ、違うんです……。実は悩んでいまして。ご恩を受けたので返したいのですが、どの恩返しもお相手のご迷惑になる気がして よんよん: お相手は男性なのですが、たとえば手作り料理に飢えているようなので作ってさしあげようと思いまして ヴェルメリオ: ……いいんじゃない? 喜んでくれるなら よんよん: でも! たまたま遊びに来た女性の同僚が料理の痕跡を見て『あー彼女いるんだ』などと誤解し、本来なら芽生えるはずだった恋愛の可能性を摘み取ってしまう気がしますし リル: なんだそのフィクションくさい展開は よんよん: あるいは部屋が汚いのでお掃除してあげようと思うのですが、そこでうっかり昔のアルバムなどを発掘して、彼が昔の片思いを美化しながら思い出してしまったら エミリー: 大掃除あるあるだねぇ よんよん: 身近な職場の女性の良さに気づく機会を失ってしまって、本来なら芽生えるはずだった恋愛の可能性を摘み取ってしまう気がします ピュルテ: 恋愛未満の微妙に好意を寄せる女性が、その方の身近にいらっしゃるんですね よんよん: いえ、知りません。そういう可能性があるというお話です シンデレラ: むちゃくちゃだわ…… よんよん: はあ……どうしたものやら……。しかもその後には、更に重たい恩返しがあるんです…… クレア: 大忙しだね よんよん: そっちはご希望を伺っているので、何をするかは悩まなくていいのですが……果たして本当にそれが、その方のためになるのかと悩ましくて…… ティンカー・ベル: もー! 考え過ぎだって。よんよんが正しいって思ったことを信じればいいの。結果は結果だよ よんよん: ティンカさま……! そうですね、自分自身を信じてみます。ありがとうございます。このご恩は必ず ティンカー・ベル: いや、いいって。じゃあさ、このメモの住所、ここへの行き方を教えてよ。それで恩返し、チャラってことで よんよん: お安い御用です! アイソーポス: さっそく呼び出してしまって悪かったな。まだ正式にコミッティに戻ったわけでもないというのに フアナ: 気にしないで。あたしはアイソーポスさんに協力する、って決めただけ。コミッティになるのが目的なわけじゃない フアナ: それに……みんなと離れ離れになってしまってから、落ち着かないんだよ。だから何かすることがあったほうがいい アイソーポス: そう言ってくれると助かる。ただ、今日は何かをしてもらうというよりは、見届けてもらうだけなんだが フアナ: それなんだよね。これからどこへ行くつもり? アイソーポス: 目的地は、あっちだ フアナ: ……上? (背景切換...) レグルス: ようこそ、いらっしゃいました。アイソーポス副議長 アイソーポス: 快く迎え入れてくれたことに感謝するよ、レグルス神官長。それと……解散したのでね。元、副議長だ フアナ: て、天空神殿~っ!? う、嘘でしょ、いきなりこんな本丸に アイソーポス: こうしてふたりでじっくり話すのは初めてだな。ライブラとはよく他愛もない話をしたものだが…… レグルス: ええ。ライブラからも、あなたの名前は聞いたことがありますよ。それで、ご用件は。まさか世間話をしに来たわけでもないでしょう アイソーポス: そう焦らなくてもいいだろう。私は実際、世間話をしに来たつもりでいるよ レグルス: ……なら、お茶の用意でもしましょうか。少々お待ちを フアナ: ア、アイソーポスさん……! いきなり神殿に乗り込んで、どうするつもりなの? どういう作戦でいくかくらい、事前に教えといてよ! アイソーポス: 作戦? 言っただろう、私は世間話をしに来たんだ フアナ: ええー? それ本気で言ってるの!? アイソーポス: ただまあ、そうだな。多少、汚いこともするが、幻滅しないでもらえると嬉しい フアナ: え……幻滅って…… レグルス: お待たせしました。大したおもてなしもできませんが アイソーポス: いや、急に押しかけて申し訳ない。そういえば神官長自らお茶を用意とは……例の天使は不在かな レグルス: ……ええ。所用で出ております アイソーポス: ではいろいろと大変そうだな。何を進めるにしても レグルス: ……ワタシのために働いてくれる人材は複数おります。デュプリ・ライブラだけではありません フアナ: それ、ペローのこと……だよね…… アイソーポス: 例の、エルマイトを持つ人間さんくん……彼も明確にグリム側についた。折れて和解するなら、このタイミングではないかな フアナ: な、なにが世間話だよっ!? これ、和平交渉なんじゃないの!? レグルス: ……彼は所詮、事故で紛れ込んだにすぎません。しっかり吟味した優秀な保有者を、改めて手元に呼べばいいだけの話です アイソーポス: ……! 人間界から、更に召喚……だと……? フアナ: に、人間界から、また召喚……!? それってつまり、人間さんくんは用済みだっていうの……!? アイソーポス: フアナ レグルス: 手懐けられないなら、切るまで……。合理的な判断だと思いますが フアナ: そんな……っ、どうしよう、みんなに伝えなくちゃ……! レグルス: どうやって? フアナ: え……? レグルス: 黒鉄の国は完全に魔法を途絶する国家。声を届けるすべはなく、直接赴く以外に方法はありません アイソーポス: そのとおりだ。まずは落ち着いて座れ、フアナ フアナ: あ、うん……ごめんなさい……。でも、このままじゃ…… アイソーポス: なるほど。その切り札がある以上は、折れるつもりはないわけだな レグルス: ええ。ワタシはライブラの描いた理想をあきらめるつもりはありません アイソーポス: ……ライブラか アイソーポス: そう言えば、ひとつ確かめておきたいと思っていたんだ レグルス: なんでしょう アイソーポス: もう一度、ライブラに会いたくはないか? レグルス: なっ……!? 361 - 天才と少女 雨依: どうぞ、入って。ちょっと散らかってるけど レオナ: 帰ってきてから毎日のように大掃除してたくせに 雨依: どうしてそんな余計なこと言うのよ。信じられない レオナ: わたしがちょっと服を脱ぎっぱなしにしただけで雨依がキーキー怒ったりするからでしょ 雨依: なによもう、レオナなんて嫌い! パラケルスス: やれやれ。まーた始まった シンデレラ: あ、これいつものことなのね? ならよかったけど……いきなりケンカされると気まずいわ…… 雨依: どうぞ、こっちのソファに座って。いまお茶を淹れるから。コーヒー、紅茶、緑茶とあるんだけどお好みは? ティンカー・ベル: ティンカは優雅に紅茶がいいかなー 雨依: 緑茶ね。わかったわ ティンカー・ベル: ガン無視なんですけど……。人間さんのことしか見えてないんじゃないだろうな 雨依: ……ずいぶん女の子の友達がたくさんいるのね。別に、私がどうこう言うことじゃないんだけど エミリー: 怨棄諸島でちらっと会ったときになんとなく感じてたけど、この子ちょっと重めの感じだねぇ リル: ああ、ヴェル殿よりも重そうだ ヴェルメリオ: ……な、なんの話? 最近ダイエットだってしてるんだから ピュルテ: あ、それよりあの、おふたりにご相談したいことがあって…… (…………。) レオナ: ふむふむ、なるほどね 雨依: レオナ、たぶんセキュリティ・ガード・リサーチで、対応レベルを上げてるんじゃないかな レオナ: 即拘束は過敏すぎるから、たぶんそうじゃない? ティンカー・ベル: せ、せきゅ? なんて? レオナ: セキュリティ・ガード・リサーチ。この国の防衛を担う超高度警備システムよ。拘束された仲間のことは、直接かけあってみれば、たぶん大丈夫じゃないかな パラケルスス: 助かるよ。こっちも人数が限られるからさ 雨依: けど、その『時計の針』ってやつは、私はさっぱりだわ。レオナはわかるの? レオナ: 存在はもちろん把握してるわ。でも、現在ある場所は……それもセキュリティ・ガード・リサーチの本部に情報があるんじゃないかな シンデレラ: すべては、そこに詰まってるってわけね。お願い、力を貸して レオナ: まあ、連れて行って掛け合うくらいならかまわないわ ピュルテ: 良かったですね、人間さん! 雨依: 『人間さん』さん……? ふうん、そんなふうに呼ばれてるのね レオナ: じゃあちょっと待ってて ピュルテ: あ、はい……! ヴェルメリオ: ……快諾してもらえて良かったね。難しい人だったらどうしようかと思ったけど パラケルスス: ふうん? その『難しい人』っていうのは、ぼくのことを言ってるのかな? ヴェルメリオ: ……あ、えっと、そういうわけじゃなくて リル: クレア殿はさっきから何を見ているんだ? ん、これは書棚? 雨依: ええ、私の本よ。たくさんあるでしょう ヴェルメリオ: ……ビブリオ・アンティークみたい 雨依: そこまでの蔵書量じゃないわよ。個人の家のレベルなんだから 雨依: ……あなたも褒めてくれるの? ふふっ、そうね。みんなの本もあると思うわ。たとえばあなたのお名前は? シンデレラ: え? シンデレラだけど…… 雨依: ああ、もちろんあるわよ。ほら、あなたの創造期のことが書かれた本 シンデレラ: あ、これ……本当だわ、私のことが ヴェルメリオ: ……ビブリオ・アンティークにもそういうの、たくさんあったよ 雨依: あなたは? ヴェルメリオ: ……ヴェルメリオ 雨依: ヴェルメリオ……? うーんと、他になにかヒントがほしいわね ヴェルメリオ: ……えっと、森に住んでて、おばあちゃんがいて、アドルファがおばあちゃんに変装してて…… 雨依: ああ、わかった。赤ずきんね。はい、これ ヴェルメリオ: ……わ、すごい。こうやって記録されてるのって、不思議だよね 雨依: じゃあ、あなたは? ピュルテ: えっ、私ですか? 私は……えっと、花の妖精、で…… 雨依: 花の妖精? うーん、もう少しなにかないかしら ピュルテ: 私は……わ、私は……っ、くうっ リル: おい、ピュルテ!? 大丈夫か! ピュルテ: ん……あ、あれ、ここは…… リル: ああ、気がついたか。レオナ殿に寝室を貸してもらったんだ。覚えてるか、ピュルテ。急に倒れたんだぞ ピュルテ: え……そ、そうだったんだ。ごめん、リルちゃん リル: 小生に謝る必要はない。だが、体調が悪いなら無理せずに早めに言ってくれ ピュルテ: うん……。別に、なんともないと思ってたんだけど…… レオナ: ああ、気が付いた? よかった、よかった パラケルスス: 雨依は普通の子だからね。気がついていてやったわけじゃないんだ レオナ: 悪気はないから、許してあげて ピュルテ: え? ええ、もちろん雨依さんを責めるつもりなんてありませんが ピュルテ: そうだ、皆さんは? セキュリティ・ガード・リサーチの本部に行こうって話してたのに パラケルスス: 人間さんくんも他のみんなも、隣の部屋で待ってるよ。なに、倒れていたといっても30分程度だ。気に病むようなものじゃない レオナ: それよりパラケルスス、持ってるんでしょ パラケルスス: ああ、そうそう。ちょうどぼくが薬を持ち合わせていたから、渡しておこうと思って ピュルテ: 薬、ですか パラケルスス: お仲間から少しだけ話は聞いたんだけど、きみが例の花になった子だったんだね リル: ああ、そのことを知っているのか。しかし、何故その話を? もうピュルテは元に戻ったのだろう? パラケルスス: いまはね。でも今後のこともあるから。あまりにもいろいろな強い力の影響を受けすぎていると思うよ、きみは レオナ: このままだと消滅しちゃうわ。だから、魂の形がほつれてしまいそうなときは、その薬を使って。元の形につなぎとめてくれる効果があるらしいから パラケルスス: たまたま持っていた分だから、そんなに何錠も入ってないんだ。ここぞというときに使ってくれ リル: ま、待て、レオナ殿もパラケルスス殿もなんの話をしているんだ。消滅する、だと? どうしてそんなことになる レオナ: 仕方ないのよ。人工生命体は、魂の形成がとっても繊細だから リル: え……? ピュルテ: 人工……生命体……? 362 - ピュルテの出自 ピュルテ: ま、待ってください。人工生命体って、それ、どういう意味ですか? レオナ: そのままの意味よ。本来オトギノクニに存在しないのに、誰かの手で意図的に作られた存在、ってこと パラケルスス: ……! もしかしてピュルテ、きみは……知らなかったのか? リル: 知ってるとか知らないとかではなくて、何故そんなわけのわからないことを言うんだ。こうしてオトギノクニに存在してるじゃないか レオナ: 誰かに作られたからね。でも不用意に触れてしまって申し訳なかったね。ごめん ピュルテ: だ、だって、私は普通に花の国に暮らす普通の妖精ですよ。故郷のみんながいて、長老はちょっぴりエッチで、パン屋のおばさんはいつも必ずパンを焦がして パラケルスス: いいかい、ピュルテ。これは辛いことかもしれないが、早めに受け入れたほうがいい。敵側がこれを利用して攻撃してきたとき、本当に耐えられなくなるかもしれない リル: ふたりとも、本気で言っているのか……!? 小生は昔からピュルテとは友人だ! 間違いなく証言できる パラケルスス: では、きみは花の国に行ったことがあるのか? リル: え……い、いや、花の国……? そうだ、ピュルテの家には何度か行ったぞ ピュルテ: あれは花の国じゃなくて、下宿だよ…… ピュルテ: 旅をしているときも、誰も知らなかったんです。花の国、聞いたことないね、って。小さな国だから知られてないんだと思ってました。でも……それって レオナ: そうね。誰も知らなかった理由、それは存在していないからよ ピュルテ: 存在、していない……? レオナ: 自分の出自をしっかり認識することは、魂の形成を強化することに繋がるの。大事な場面で突きつけられるより、いましっかり認識したほうがいいよ ピュルテ: そんなこと……突然言われても困ります……! だって私、そんなの、わかんない……! ピュルテ: 私っ、こうしてここにいるのに、人工物なんて、そんなの……! パラケルスス: ピュルテ…… リル: 小生もにわかに信じがたいが、ふたりが言うことがすべて事実だと仮定しよう。ピュルテの出自も、そしてそれを受け入れるメリットについても リル: だが、そうだとしても時間が必要だ。こんなこと、一朝一夕で受け入れられるものではない。それはわかってほしい レオナ: ん……それはごもっともだね。ちょっとわたしたちも急ぎすぎたよ パラケルスス: ひとつ言い添えておくと、完全な無から生命を作るのは不可能だ。おそらく、何らかの生物をベースにしている。つまりきみの命そのものは、決して作り物ではない パラケルスス: 慰めになるかはわからないが、覚えていてくれ レオナ: わたしたちは向こうで待ってるから。無理そうなら言って。ここに残っていても構わないよ リル: ……ああ、わかった ピュルテ: ……っ。私が……作り物……? じゃあ私って、なんなの……? もしかして本当に花、だったり……? リル: ……っ ピュルテ: じゃあ、みんなと一緒に旅して楽しかった気持ちとか、これからもがんばっていきたい気持ちとか、……人間さんのこと好きって気持ちとか ピュルテ: そういうの、全部ニセモノなの!? 作り物!? だってそうだよね? 人工物って、こういうベッドとか、ふとんとか、目覚まし時計とか……こういうのが人工物でしょ!? リル: あ、いや、でも生物がベースだと…… ピュルテ: じゃあそのへんの野生動物みたいなもの? みんなのペット? ねえ、そんなの対等な関係じゃ……仲間になんか、なれないっ……! リル: ピュルテ! ピュルテ: リル、ちゃ…… リル: ……そんなことを言うな。言うんじゃない ピュルテ: リルちゃん…… リル: こうして抱きしめれば、小生の体温を感じるだろう? それはベッドや時計にはできないことだ リル: それにお前はいつも、仲間のピンチに本気で心配して、仲間のために体を張って戦ってきただろう。それは、ペットにはできないことじゃないか? ピュルテ: リル、ちゃんっ……うっ、うあああっ、リルちゃん、わた、し……っ! うっ、あああっ……!! ピュルテ: っく……ぐすっ……うっ、ううっ……。ごめん、リルちゃん……頭のなか、ぐちゃぐちゃになっちゃって リル: 当然のことだ。だいたい、ふたりが言うことが本当だとも限らないしな リル: とは言うものの……これだけ付き合いがある小生が、家族にも故郷にも行ったことがない…… リル: 下宿先だという家にいた頃に、急にレグルス教国に行くと言い出したが……いったい、いつ長老に使命を告げられたのか…… リル: だとするとやはり、本当にピュルテは…… ピュルテ: あっ リル: な、なんだ? どうした ピュルテ: ごめん、リルちゃん。鼻水つけちゃった リル: そんなこと、構うものか ピュルテ: リルちゃん、優しいね。長靴をはいた猫じゃなくて、鼻水をつけた猫になっちゃうのに リル: なんだそれ ピュルテ: ほんと……もっと早く気づくべきだったよね。私には創造期がないんだもん。故郷の記憶、日常の記憶はあるけど、みんなみたいな『物語』がないんだから…… リル: 物語……。そうか、確かに聞く限り創造期には、ある種の物語性があるのだな…… ピュルテ: ………… リル: ピュルテ、少し待っていてくれ。みんなを待たせてしまっているからな。レオナ殿の言葉に甘えて、置いていってもらうように伝えてくる ピュルテ: ううん、もう大丈夫 リル: え……? いや、無理しなくていいんだぞ。警備に話をしに行くだけなんだし、無理して行かなくても ピュルテ: 私なんていなくても変わらない? リル: あ、いや…… ピュルテ: ごめん、嫌なこと言うつもりじゃなくて。リルちゃんを責めたいんじゃないよ ピュルテ: でも、ここで泣いてたら、そうなっちゃうって思って ピュルテ: 大丈夫、もう私、笑えるから。ねっ! リル: ピュルテ……。……わかった。だがくれぐれも無理はするなよ 363 - タワーの異変 レオナ: じゃあ行こうか。車で行けばSGRタワーまで30分もかからないから ティンカー・ベル: って言われても、時間の概念が戻ったばっかりだから、いまいちピンとこないや ヴェルメリオ: ……こんなふうに、全員乗れる車っていうのもあるんだね 雨依: レオナが作ったの。パラケルススとかみんなでお出かけできたらいいね、って何気なく私が言ったら、翌週にはもう レオナ: こんなの、ちゃちゃっとすぐできちゃうからね シンデレラ: う、うん……ちゃちゃっと作った手作りの乗り物……って聞くと、ちょっと安全面で不安になってくるわね ピュルテ: まあ、この世界のものは全部、誰かしらが作ったことになりますから。手作りだからって不安っていうのは錯覚ですよ♪ シンデレラ: まあ、それもそうよね。レオナにも失礼だったし。ごめんね レオナ: いや、それは全然いいんだけど…… リル: ピュルテ……。あ、あまり無理するなよ。まだ本調子じゃないんだろ クレア: ん? リルとレオナの顔が引きつってる気がする パラケルスス: そんなことよりもだ。ドロシーが落ち着いて待っていてくれるかどうかが心配だね エミリー: それ、ドロシーのほうが暴れてるんじゃないかってことぉ? さすがに大丈夫だと思うけど…… (…………。) レオナ: ん……もうタワーは目の前なんだけど、なんか様子がおかしいね 雨依: この音、侵入者アラームじゃない? レオナ: ここからは歩きで、隠れながら近づくよ。何が起きているかわかるまでは、うかつに姿を見せないようにね ティンカー・ベル: ぬお……アラーム、めっちゃ鳴ってる……! クレア: 外に出るとよくわかるね。なんか意味もなく緊張する 賊1: ――っ!? ピュルテ: きゃっ!? い、いきなり人が リル: くっ! まずい、みんな伏せろ!! 賊1: くぅっ、死ねぇっ!! ティンカー・ベル: どわああああっ!? なんか変なピカピカしたの出てるんだけど! レオナ: 光線銃よ! 物陰に身を隠して。そのうち警備が来るはずだから ヴェルメリオ: ……わ、わかった。ううっ、すごい勢いで撃ってくるよ 賊2: ちっ、ここにも警備がいるのか 賊3: くそ、逃げ場がないぞ 賊1: いや、こっちは丸腰みたいだ。突破するぞ! エミリー: ねえちょっと、増えたよぉ!? クレア: しかも突破するとか言ってる シンデレラ: けど、魔法は使えないわ。かといって、あんな飛び道具を使ってくる相手に正面から立ち向かうのは危険すぎる 雨依: ねえ、レオナ。もう撃っちゃえば? レオナ: しょうがないか。雨依、ケガしないようにね 雨依: もちろん ピュルテ: え……雨依さん、それ。相手の人と同じような…… 雨依: はっ!! 賊1: ぐぁっ!? 賊2: え、おい 雨依: よそ見してる場合? 賊2: うぐっ! 賊3: おい、なにが丸腰だよっ!? 雨依: 終わりよ 賊3: ぐあっ シンデレラ: す、すごい……あっという間に片付けたわ SGR司令官: お待たせしました。セキュリティ・ガード・リサーチの司令官をしております SGR司令官: 困りますね。ああいった事態では適切な避難をして、対応はシステムに任せていただかないと 雨依: 対応が遅いのがいけないんじゃないの SGR司令官: 17秒後にガードが7名到着予定でした。避難すれば、その程度の時間は身を守れるかと 雨依: むっ……。レオナ! レオナ: しょうがないって。システムラーニングの阻害、ってことになっちゃうのよ、こういうのは リル: なにを言ってるのかさっぱりだが……あそこは倒さずに待っておけ、ということなのだろうな シンデレラ: あんなに強かったのにね。雨依、すごかったわ 雨依: ……それはどうも ヴェルメリオ: ……やっぱりなんか、トゲがある気がする SGR司令官: それで、ドロシーさん……でしたか。大変申し訳ありませんが、現在セキュリティレベルは4に設定されています。魔法使いに相当する方を国内で自由にはできません シンデレラ: どういうことよ! ドロシーは何もしてないじゃない SGR司令官: 現在、この本部は再三に渡り外部からの襲撃を受けています。それは先程みなさんもご覧になった通りです SGR司令官: 一連の襲撃はこの国の要である『黒鉄の歯車』を狙ったものです。これを流出させることは絶対にできません。そのためには万全の対策を敷かなくては ピュルテ: なにか大事なものが狙われて警戒しているのはわかります。でも、どうしてドロシーさんだけ特別扱いなんですか クレア: 確かに。私たち全員、入れさせないとかならわかる エミリー: それはそれで困るけどねぇ パラケルスス: それはここが黒鉄の国だから……だよね SGR司令官: ええ、ご賢察の通りです シンデレラ: どういうこと……? パラケルスス: 見てわかると思うけど、この国はほぼすべてがオトギノクニにおいて、本来なら存在しなかったはずのものが詰め込まれている パラケルスス: いわば、国家単位のオーバーテクノロジーなわけだね レオナ: というか、オーバーテクノロジーをかき集めたら国みたいになっちゃった、っていうのが正解かもしれないけど パラケルスス: 経緯は知らないけど、機械文明だけがここに集まり進化を遂げた。その技術を外に出さず、反対に魔法文明も一切取り入れずに…… シンデレラ: つまり……魔法との相性が良くない、ということ……? SGR司令官: 練度が著しく低い、ということに尽きます。我々の防衛は鉄壁ですが、こと魔法相手となると極端に弱点をさらしてしまう シンデレラ: だから水際で止めているってわけね。事情はなんとなくわかったけど…… SGR司令官: 通常であれば監視は付けさせていただきますが、基本的に自由に行動していただいております。しかし有事の際は監視も行き届かなくなるため、このような対応を ヴェルメリオ: ……こっちの人も大変なんだよね。でもドロシーだって……うう、どうしたらいいんだろう エミリー: ねえ、有事とかセキュリティレベルが4だからとか言ってたけど、それが下がったらドロシーのこと解放してくれるのぉ? SGR司令官: その通りです。ただし、レベルを下げるためには脅威が取り除かれる必要があります エミリー: ってことはさ、そのナントカの歯車を狙うやつをやっつけちゃえば、ドロシーは自由になるってことだよねぇ ティンカー・ベル: そっか! エミリー、冴えてんじゃーん! エミリー: えへへ、まあね~ クレア: 私たちも戦うよ、司令官 雨依: 呆れた……。正体もろくにわからないテロリストまがいの連中とやりあうのよ。もう少し考えてから決めたらどう? ピュルテ: 仲間のため、ですから リル: ピュルテ……。ああ、そうだな。迷う理由などない レオナ: この人たち、なんだかんだ経験も豊富だし、使えるとは思うよ。ちょっと考えてみて? SGR司令官: ……確かに、現在は異例の攻撃を受けている状況です。レオナさんが身元を保証されるのであれば、検討の余地はありますね リル: む……? ティンカー・ベル: とにかくさ、面会くらいはさせてくれない? 三つ編みに会いたいよ! 364 - 交渉材料 アイソーポス: さて……戻ったら少し休むといい。フアナはずっと旅を続けてきたんだしな。その後は、またいろいろ頼みたいことがある フアナ: う、うん……それはいいんだけど、さっきのレグルスとのやり取り…… アイソーポス: ああ。やはりライブラの名前には平常心でいられなかったようだな。さすがに、すぐにはボロを出さず交渉にも応じる気配はなかったが…… アイソーポス: だが、もう少し揺さぶれば譲歩を引き出せるかもしれない フアナ: アイソーポスさん、どうしてあんなことを? ライブラを復活させることなんて、本当にできるの? アイソーポス: まさか。あんなものハッタリに決まってるだろう フアナ: ええっ!? アイソーポス: それに私は、復活させるなんて一言も言ってないぞ。声を聞かせるとだけ言ったんだ フアナ: あ、そっか。え、でも声を聞かせることも結局は…… アイソーポス: ハッタリだな フアナ: ええ……そ、そうなんだ……。よく、あの局面でそんなハッタリ言えるね アイソーポス: このまままともにぶつかれば、双方に犠牲が大きく出てしまうからな。できるだけ譲歩で解決できたほうがいい アイソーポス: レグルスはライブラの言いなりだった。自分で判断して決めるなんて、できるやつじゃない。もうずっと、不安でたまらないはずだ フアナ: じゃあライブラのいうことなら、何でも聞く? というか、レグルスがライブラの声だと思えば、実際には誰の意志であっても…… アイソーポス: なかなかカンがいいな。そのとおり フアナ: アイソーポスさん…… アイソーポス: こんな私のやり方を、軽蔑するか? 好意につけこみ、心を利用して自分の利になるように立ち回る…… フアナ: ううん。さすがアイソーポスさんだと思うよ。だって、どんな方法だとしても、それはアイソーポスさんが自分の欲のためにやってることじゃないんだから アイソーポス: そう言ってもらえて安心しているよ。私自身は、ずっと罪の意識が引っかかっていたんだが、フアナの言葉で少しばかり心が軽くなった フアナ: うん……やっぱり、さすがアイソーポスさんだね ティンカー・ベル: 三つ編み! ドロシー: みんな! 来てくれたのね。これでやっとこの部屋からも出られるのね ピュルテ: いえ、実はそれが…… (…………。) ピュルテ: なので、私たちでその、黒鉄の国のお宝を狙う犯人をやっつけることになったんです ドロシー: なるほどね。私がこんな目にあってるのも、間接的にはそいつらのせいってことでしょ。腕がなるわ! ヴェルメリオ: ……もしかしてドロシー、自分で捕まえようとか思ってる? ドロシー: 何よ、危ないからダメ、なんて言うつもり? いまさらでしょ、危険な橋はいままで何度も乗り越えてきたじゃない ティンカー・ベル: いや、じゃなくてさ、あの…… クレア: 私たちが捕まえてくる。ドロシーは待ってて ドロシー: はあ!? なんでよ!! パラケルスス: やれやれ、血の気の多いことだな 雨依: 私はこういうさっぱりした感じの子、嫌いじゃないけど シンデレラ: なんにしても、元気そうで良かったわ。悪いけど、もうちょっと待っててちょうだい。ここの人に聞いて問題なさそうならダンベルでも差し入れするわ ティンカー・ベル: いや姐さん、ダンベルは普通に武器になるからダメだと思うよ? 三つ編みはスクワットでもしてて ドロシー: でも、犯人を捕まえるなんて言って、心当たりはあるわけ? 侵入者を撃退するなら簡単だけど、元から断つって結構難しそうよ ピュルテ: それは……そうなんですよね。まずいろいろ調べ物から始めないといけませんし ドロシー: それこそ、私を頼ってくれてもいいのよ。1日中することないんだから、資料を差し入れしてくれれば全部読み込んでおいてあげる ティンカー・ベル: あ、それいいじゃーん! そうしよ、そうしよ エミリー: ティンカってば、自分で資料読みたくないからって ティンカー・ベル: ぎくっ エミリー: 情報といえば、雨依が倒した3人からは何か聞けたのかなぁ? 雨依: ん? それは無理よ。的確に急所を撃ったから、もう動かなくなってたわよ ヴェルメリオ: ……えっ、そ、そうなんだ……。悪い人だし、仕方ない……のかな。でも、まさか殺しちゃってたなんて…… レオナ: あ、違うわよ。あれ、人じゃないから シンデレラ: 人じゃない? 雨依: あれはロボットなの。機械よ ティンカー・ベル: あ、なーんだ。そうだったんだ シンデレラ: あまりに人っぽいからわからなかったわ。 ピュルテ: ………… ピュルテ: あっ、司令官さん。ありがとうございました。おかげでドロシーさんと顔を合わせることができて、みんな安心できました SGR司令官: それは何よりです シンデレラ: ところでひとつ聞かせてほしいんだけど、司令官は『時計の針』について知ってる? どこにあるかもそうだし、形や大きさなんかも知ってたら聞かせてほしいわ SGR司令官: 『時計の針』……ですか レオナ: ああ、そうそう。この人たちは『時計の針』を探してるらしいの。SGRで場所は管理してるんじゃないかと思って SGR司令官: さあ……SGRでは管理していませんね。誰が持ち込んだものなのですか? レオナ: いやあ、わたしも実際のところ詳しくはわかんないんだけど ティンカー・ベル: え、レオナが一番詳しいんじゃないかって聞いてきたんだけど レオナ: そりゃあ作ったのはわたしだからね エミリー: あ……もしかして、アイソーポスがレオナに聞けばいい、みたいなこと言ったのって、場所を知ってるからじゃなくて、もう1個作ってもらえば、って意味かな パラケルスス: いくらレオナが天才でも、そう簡単に作れるものじゃないよ。普通に場所を知ってると思ったんだろ。ぼくだってそう思ってたんだから レオナ: 使いもしない道具の場所なんか、覚えてるはずないじゃないか クレア: 堂々と言わないで シンデレラ: でも司令官でも把握してないんでしょ。どうやって見つけるのよ レオナ: むう……しょうがないなぁ。なんとなく責任を感じるし、みんながわたしのこと責めるような目で見るから仕方ない ピュルテ: そ、そんなつもりは パラケルスス: いいの、いいの。気にしないで。これくらいのプレッシャーを与えておかないとダメなの、この人は レオナ: 時計の針を作ったときの成分は覚えてるから、それを検知できる装置を作っちゃおう ヴェルメリオ: ……えっ、そんなことできるの!? リル: なるほど。検知する装置があれば、場所がわからなくても汗をかけば見つけられるというわけか レオナ: そのかわり、完成するまでの間、毎日ごはんと届けに来てくれたらうれしいな ヴェルメリオ: ……仕方ないから、届けてあげる 365 - 把握と制御 シンデレラ: ふう……昨日チェックインしたところなのに、なんだか『帰ってきた~』って気持ちになっちゃうわね ヴェルメリオ: ……いろいろあったからね エミリー: とりあえずドロシーが元気そうなことは確かめられたし、解決する方向性もなんとなく見えたよねぇ ピュルテ: 問題は『黒鉄の歯車』を狙う犯人をどうやって特定し捕まえるか、ですね リル: そもそも『黒鉄の歯車』とは何なのか、だな。パラケルスス殿、そのあたりの知識は持っているのか パラケルスス: はっ、言うに事欠いて、仮にも大賢者と呼ばれているぼくに向かって知識は持っているのか、だって? 当たり前じゃないか クレア: 時計の針の情報は持ってないのに パラケルスス: 情報と知識は違うだろう? 情報は蓄えて活用できるものじゃないんだから ピュルテ: クレアさん、パラケルススさんを煽っちゃだめですよ パラケルスス: そもそもこの国全体がオーバーテクノロジーなんだけど、それらすべてをコントロールできる制御チップが『黒鉄の歯車』だよ ヴェルメリオ: ……なにそれ、国を支配できるみたいなこと? パラケルスス: まあ、ニュアンスはそんな感じ。正しくは、この国の機械の構造すべてを知るヒントが詰まってる パラケルスス: 制御できるということは構造を把握してるってことだからね シンデレラ: この町に来て、まだちょっと見ただけだけど……機械技術はかなり高いわ。魔法が一切なくても遜色ない生活ができる時点で、それを証明してるけど エミリー: その技術、欲しい人は多いよねぇ ヴェルメリオ: ……でも、敵もあんな、人にしか見えないロボットを作れちゃうんだから、充分技術はあるんじゃないの パラケルスス: 力を持っているからこそ更に力が欲しくなるんだろうね。好意的にいうなら向上心、ってことになるんだろうけど リル: では明日から、そういった技術を持っている者を洗っていくことになるか ティンカー・ベル: そうだねー。ディマイトみたくわかりやすければいいんだけど ピュルテ: あの……そのことで少しお話したいことがあるんです ピュルテ: 実は、この国に来てから……強力なディマイトを感知しているんです ヴェルメリオ: ……ふう。よく人間さんが、『捜査は足で稼ぐ』ものなんだよって言ってたけど、本当だね エミリー: 本当だねぇ。あんなの真に受けてなくて聞き流してたけど リル: 直近3ヶ月で、高度制御機械の素材を輸入した者のリスト……パラケルススが言う『力を欲する技術者』に該当する者たちが、こんなにいるとはな エミリー: こんなリストを司令官が持ってるなら、セキュリティ・ガード・リサーチがなんとかすればいいじゃんって最初思ったけど…… ヴェルメリオ: ……本部を守りながら、この数を調査するって手がまわらないよね リル: 他の2班はどうだろうな。すぐに成果が上がるとも思えないが エミリー: ところでさ……ピュルテは大丈夫なのぉ? リル、なにか知ってるんでしょ リル: む……。そうだな。小生は嘘が下手だから、敢えてこれは言っておく。何かあったのかどうか、という質問の答えはイエスだ リル: ただ、具体的に何があったのかについては、小生の口からは控えさせてもらう。口止めされてはいないが、本人以外が言っていいことではないからな エミリー: って言われちゃうと、もう詮索しづらくなっちゃうなぁ リル: しづらくなるように言ってるんだ ヴェルメリオ: ……昨日、倒れたのって貧血とかじゃなかったの? エミリー: 倒れた後、戻ってきてからのほうが様子がおかしかったんだよねぇ ヴェルメリオ: ……そういうのって、どうやって気付けるの? わたし、全然わかってなかった。なんか……恥ずかしい。仲間のことなのに リル: 気づかないでいてくれる人、というのも必要だぞ。少なくともピュルテ本人からすればな ヴェルメリオ: ……上手に気づかないフリができる人に進化したい ティンカー・ベル: そろそ引き上げる~? あと1件くらい行く? パラケルスス: まったく、ぼくまで捜査に付き合わせるなんてね。高く付くと覚悟しておいてもらわないと シンデレラ: 成果がないから、っていうのもあるんだけど……このまま技術者を探していていいのかしら パラケルスス: それはぼくにもわからないな。もしかすると根本的になにか間違えてるのかもしれない ティンカー・ベル: ティンカが気になってるのは、なんでいまなのかってことかな シンデレラ: そうね。そんなに貴重なものなら欲しい人は絶えずいるはずよ。どうして最近になって急に襲撃が増えたのかしらね パラケルスス: 本来、例の歯車っていうのは存在自体があまりオープンになってるものじゃないんだ。それと、あれは誰しもが全能になれるアイテムじゃない ティンカー・ベル: どゆこと? 人を選ぶ的な? パラケルスス: そのとおり。ただ、エクスカリバーみたいな、資格を持つ者を道具側が選ぶとか、そういう話じゃなくて……単に知識の問題だね ティンカー・ベル: 出た、知識。パラケルススってば、ドヤ顔しちゃってさ シンデレラ: ということは、そのへんの盗賊が奪っても宝の持ち腐れってことね パラケルスス: そういう意味でも、輸入履歴からある程度のレベルの技術者を絞り込んだのは、あながち間違いではないだろうけど……確かに、ティンカのいうとおり、なぜいまなのか……だよね よんよん: あ……皆さん、またお会いしましたね ティンカー・ベル: よんよんじゃーん。どう、恩返しはできた? よんよん: あ、はい。例の男性には全身脱毛を……。ただ次の、ご依頼をリクエスト頂いた方は、まだ少し迷っていて…… ティンカー・ベル: もう、よんよんってば。自信持ってどーんといっちゃいな! 迷ってたら前に進めないよ。思い切って、どーんって よんよん: は、はい。そうですよね。どーん……ですよね シンデレラ: そういえば他の姉妹には会えたの? よんよん: ええ、6番目のセクスと7番目のセプテムに……。そうそう、面白いことがあったんです。なんとセクスと自分、同じ人に恩があって ティンカー・ベル: へー、世の中狭いね パラケルスス: 単にそいつが人格者ってだけなんじゃないか 366 - 召喚明けの人間 ピュルテ: 人間さん? なんだか気分が悪そうですが、大丈夫ですか? クレア: 昨日の夜、あんまり眠れなかったんだって ピュルテ: 無理しないで、どこかカフェで休んでいても大丈夫ですよ。私たちふたりで調べてもいいんですから クレア: 黒鉄の国って、犯罪すごく少ないんでしょ? ピュルテ: ええ。セキュリティ・ガード・リサーチのみなさんが、すごく優秀なんでしょうね クレア: 人間さんひとりでも安心だね ピュルテ: ふふっ、そうでした。人間さん鍛えてるから、魔物じゃなければそこそこ戦えるんですよね クレア: 油断は禁物 (…………。) ???: 見つけました ???: ほんで? この後どうするつもりなん? ???: まずは目の前の事態が重要です。でも私がみた未来の通りなら ???: せやな……。まず、目の前の問題を解決せんことには、その後の展開を考えてもしゃーないわな ???: ええ。未来を見通すことも、いまの時点では意味がありません ???: それはわかったけど、仮面までつけてコソコソ見てる意味ってあるの? ???: ええ、そうですわよ。堂々と会いに行ってはだめなんですの? ???: アホやな、自分ら。こういうときは、念には念を入れるもんや。こっちの身元がバレて、あれこれ対策されたらかなわんやろ ???: なんのために今日まで、こんなところを選んでひっそり過ごしとったんかっちゅう話や ???: ええ、そのとおりです。それに……どんな顔して会えばいいか、わからないですし……! ???: アホはこっちやったわ エミリー: ふぃ~、つっかれたー ヴェルメリオ: ……足がパンパンになっちゃった。お風呂でマッサージしないと……あっ、人間さん? リル: なんだ、せかせかして出て行ってしまったが……こんな時間からどこに行ったんだ? クレア: あ、みんなおかえり。人間さんならいま出かけたよ エミリー: あ、うん。入り口ですれ違ったけど。ひとりで大丈夫かなぁ クレア: デートだよ。だから大丈夫 ヴェルメリオ: ……えっ? そ、それ、どういうこと クレア: あのね、町外れに海が見える素敵な桟橋があるの。まあ、海は黎い海なんだけど。そこにピュルテに呼び出されて ヴェルメリオ: ……気になる。けど、ピュルテもなんかいろいろあったんだもんね。ここは我慢して譲ってあげなきゃ…… リル: ピュルテ、もしかしてあいつ……言うつもりか……? (背景切換...) ピュルテ: ごめんなさい、人間さん。疲れてるのに、わざわざ呼び出したりして ピュルテ: ……捜査中に通りかかって、ここきれいだなぁって人間さんが言ってたの思い出したんです。本当は朝が一番きれいみたいですよ。朝日がすごいんですって ピュルテ: ………… ピュルテ: 人間さん…… ピュルテ: ごめんなさい、急にこんなふうに抱きついたりして……困っちゃいますよね……。私、どうしていいかわからなくなってしまって。もう頭の中がぐちゃぐちゃで…… ピュルテ: 人間さん。もし……仮の話、なんですけど……。私が私じゃなかったら、嫌いになっちゃいますか……? いまみたいに大事にしてもらえなくなっちゃいますか……? ピュルテ: ……私がもし……その…… 賊1: 動くな ピュルテ: !? 賊2: よし、女を押さえた! ずらかるぞ! ピュルテ: なっ、ちょ、やめてくださいっ、人間さんっ! 賊1: 人間界から来たなら、この銃がどういう意味かわかるよな? 下手に動くんじゃねえぞ。女、お前もだぞ。彼氏が死ぬことになる ピュルテ: 人間さんっ……私は大丈夫ですから、抵抗しちゃだめです……っ。みんなに伝えて、それから追いかけて…… 賊2: ガタガタうるせぇぞ! ピュルテ: きゃっ!? いっ……たぁ……っ 賊1: とっとと車に乗せろ! 時間をかけるな! セクス: 人間さんくん! セクス: そうだよ、セクスだよ! ほら、しゃんとして。早くピュルテを追いかけなくちゃ! セクス: たまたま、いまの場面を見ちゃったの。悲鳴が聞こえたから来てみたら、人間さんくんとピュルテだったからびっくりしちゃった セクス: 相手は車? 平気、こっちも車があるから。ほら、こっちの黒い車だよ。乗って、乗って! 急ぐよ! ピュルテ: くっ、ううっ……なんなんですか、あなたたちは…… ペロー: なんなんですか、とはご挨拶ですね。知らない仲ではないでしょう ピュルテ: ペロー……っ!? あなたもここにいたんですか!? 賊1: ペローさん、車を出しますんでつかまっててください ペロー: ええ……ただ、飛ばさないでゆっくりお願いしますね。せっかくのショーですから、じっくり見てもらわないと ピュルテ: ショーって……なんですか、それ ペロー: 後ろを見てみなさい。白馬の王子様の勇姿ですよ。いままさに、馬に乗って姫を助けようと出発するところです ピュルテ: え……? あっ、人間さん!? 車に乗り込んで……私を助けるために……!? ピュルテ: けど、あの黒のSUVはどこから……? 誰かと一緒だったみたいですけど、一瞬でよく見えな…… (背景切換...) (ドォンッ……!!) (背景切換...) ピュルテ: え……? ピュルテ: 車が……爆破……されて……? ペロー: ふふっ……あはっ、あはははは……っ! かわいそうですね。あの男も、グリムなんかと手を組まなければ、こんなことにはならなかったのに……! ペロー: あはははは……! ピュルテ: う、そ……そんな…… ペロー: 出せ 賊1: はい! ピュルテ: そんなっ、いやあああっ、人間さんさあぁぁぁんっ!! 367 - タワーへの敵襲 シンデレラ: ――っ!? いまの爆音……! ヴェルメリオ: ……窓の外、見て! リル: SGRタワーから煙が出ている。まさか、また例の襲撃があったのか!? パラケルスス: 行ってみるしかないかもね クレア: でもまだ、ピュルテと人間さんがいないよ ティンカー・ベル: でも、いつ帰ってくるかわかんないのに待ってらんないよ エミリー: お部屋に書き置きのこしてこ。下手に合流しようとするのも危ないかもしれないから、ここで待っててねって シンデレラ: ええ、そうね。犯人を押さえるのも、たぶん私たちだけで大丈夫なはずだから…… パラケルスス: ……そうだね。しかし、なんだろう。胸騒ぎがするね…… (背景切換...) SGR司令官: 来てくれたんですね。実は、かなり由々しき事態となってしまいました シンデレラ: いったい何が起きているの? SGR司令官: タワー内部に敵の侵入を許してしまいました。15階付近で爆発が発生、セキュリティゲートの16階が突破されたことを確認していますので、おそらく賊はここかと パラケルスス: 歯車は、どこに? SGR司令官: 管理領域の最上階、つまり30階です ティンカー・ベル: え……ここって確か2階だよね……。いまから大急ぎでそんなとこまで上がらなきゃいけないってこと……? SGR司令官: 緊急事態ですから、天空のエレベーターを起動します。皆さんもそちらを使ってください ヴェルメリオ: ……え? なにそれ レオナ: このタワーはね、天空神殿に繋がってるんだよ。まあいまは100階まで上がったところで神殿への通路は開いてないけど ティンカー・ベル: レオナ!? それに雨依も 雨依: 騒ぎになってるって聞いたから、来てみたの リル: とにかく、そのエレベーターとやらで一気に上まで行こうというわけだな。よし、急ぐぞ ティンカー・ベル: ここが15階? すごい一瞬すぎて疑わしいんだけど ヴェルメリオ: ……なんか、耳に綿が詰まってるみたいな感じがする クレア: そういえば、他にも神殿に繋がってる塔が、オトギノクニのあちこちにあったよね シンデレラ: ええ。死の峡谷でも入り口は封鎖されてたけどね リル: よし、手分けしよう。小生とシンデレラ殿は20階あたりから索敵しつつ降りていく。ティンカ殿とヴェル殿、クレア殿はこの15階から上がってくれ クレア: 挟み撃ちってことだね。がってん エミリー: エミリーはどうするぅ? リル: パラケルスス殿とともに30階を死守してほしい。何せ通信手段がないからな。万一にもすり抜けられたら危険だ SGR司令官: ガードロボット同士であれば電力による通信システムを備えているのですが、皆さんは生身でいらっしゃるので クレア: 脳に直接語りかけられてもやだもんね SGR司令官: それと、厄介な情報が追加されました。敵方の襲撃ロボットは、こちらのガードに擬態しているようです ヴェルメリオ: ……え、それじゃ敵か味方かわからない SGR司令官: かなりリスキーですが……味方であれば、皆さんを襲撃するようなプログラムにはなっていません。攻撃されたら敵、と判断するほかないかと リル: 先制攻撃を封じられるわけか……くっ、やむを得ないな レオナ: わたしたちはどうする、雨依 雨依: ……そういえば、人間さんはいないのね シンデレラ: 合流が遅れてしまったから、別で待機してもらってるわ 雨依: そう……。なら、私たちも15階にいきましょうか。おもしろそうじゃない レオナ: やれやれ、遊びじゃないって怒られちゃうよ? エミリー: ここが30階? 静かだねぇ。誰もいないんだ SGR司令官: 普段から警備というよりも、そもそも立ち入り自体を制限していますから パラケルスス: ふむ……このゲートの先に、その歯車とやらが隠されてるのかな SGR司令官: いえ、そこは最後の手段を格納している場所です エミリー: なにそれ、こわいよぅ SGR司令官: 防衛用追跡特化グラン・マキナⅡ型『フォルクス・ゲヘナ』……我がセキュリティ・ガード・リサーチの切り札です パラケルスス: ふむ……なるほど。切り札というからにはめったなことでは使えないんだろうか SGR司令官: この起動トリガーは、司令官である私のIDのほか、複数のパスコード、そして……『歯車』保管装置の破壊ないしは停止が条件です エミリー: 歯車を守るためにあるってことなんだねぇ (…………。) ティンカー・ベル: くっ、な、なにこれ、思った以上に敵の数が多いんだけどっ! ヴェルメリオ: ……こんなに侵入されてるなんて。いままでとは比べ物にならないよ ドロシー: 妖精さん! ヴェルとクレアも! それと……えっと、誰だっけ レオナ: レオナよ。あなた、捕まってたんじゃなかった? ドロシー: ああ、そうなんだけど……いきなり爆音は聞こえるわ、なにか壊れる音が続くわで、さすがにやばいと思ったのよ 雨依: え……その鉄くず、もしかして…… ドロシー: ああ、私を閉じ込めてた部屋に付いてた警備装置ね。手錠を壊したときに破片が引っかかってたのね ティンカー・ベル: いや、三つ編み……? その金属の手錠とかいろんな装置で捕まってたんでしょ……? ドロシー: ええ。でも緊急事態だからしょうがないじゃない。黙って部屋でおとなしくしてて火事にでも巻き込まれたら最悪だもの ヴェルメリオ: ……そういうことじゃなくて。壊せるものなの、っていう ドロシー: 魔法に弱いみたいな話があったじゃない。あれは本当みたいよ。私がちょっと本気を出して拳でやってみたら、簡単に壊れたわ 雨依: それ……魔法っていうか……え、私が間違ってるの……? レオナ: 大丈夫、雨依は正しいよ…… ドロシー: で、何が起きてるのか、誰か説明しなさいよね! 368 - 陥落する本丸 シンデレラ: くっ、嘘でしょ……! まさか20階もこんなに侵食されてるなんて…… リル: シンデレラ殿、作戦変更だ。このまま下に向かってみんなと合流するよりも、上に向かって敵を追撃するほうを優先する シンデレラ: ええ、そうね。このままじゃ30階なんてすぐよ……! リル: ……? 何かいま、聞こえなかったか? ???: ……たぁっ、やぁっ、はああああぁぁっ! シンデレラ: え? この声、まさか…… ドロシー: 逃さないわよ! とりゃあああっ!! ロボット: ふぁ5q@84うqへ@9sj★ ドロシー: ふう……あら、リルとシンデレラもいたのね! リル: えげつない蹴りでロボットを吹き飛ばしていたが……ドロシー殿、捕まっていたのでは…… ティンカー・ベル: はぁ、はぁ、待ってよ三つ編み、ペースが早すぎるって シンデレラ: みんな、追いついてきたのね! ヴェルメリオ: ……ドロシーの勢いがすごくて (…………。) エミリー: なんか外が騒がしいような……? パラケルスス: まさか、もう敵がここまで来たのか? みんながいるのに、そう簡単に突破されるとは思えな…… (背景切換...) エミリー: うわっ!? ちょっとぉ、照明が消えたんだけど! ドロシー: どりゃあああっ! あ、あらっ、真っ暗だわ! エミリー: え、その声、ドロシー? 捕まってたんじゃなかったの? ドロシー: そのくだり、もう3回目よ! パラケルスス: 待て、ということは、このフロアに既に敵が侵入しているのか シンデレラ: いったぁっ!? 足元がまったく見えないわ! エミリー: あ、光魔法は使えないんだっけ……。不発になっちゃう SGR司令官: 待ってください、いま非常電源を入れます (背景切換...) クレア: いたた……。ねえ、歯車は無事? SGR司令官: あ……ほ、保管装置が破壊されている……! ティンカー・ベル: マジで!? じゃあ盗まれちゃったってこと!? ロボット: ~~~~!! ドロシー: あぶない!! ロボット: ――っ!! SGR司令官: す、すみません。いきなり襲われるとは……。と、とにかく、犯人はまだ施設の中です。一旦、作戦指令室に戻りましょう。そこで建物を封鎖します! ピュルテ: 人間さん…… 賊1: この廃屋に連れてきてから、ずっとあの調子です。まあ、逃げられる心配はなくていいんですが ペロー: だいぶショーが効いたみたいですね。この分なら下準備もラクで良さそうだわ ピュルテ: ペロー……!? ペロー: おや。抜け殻になっていると聞きましたが、まだそんな反抗的な目をする気力があったのですね ピュルテ: どうして……! 何が狙いなんですか!! ピュルテ: 私をどうするつもりなんですか!? それに……それにっ、どうしてっ、人間さんをあんな目にあわせなきゃいけなかったんですか……! ペロー: というと? ピュルテ: あんなところに急に車が停まっていたこと自体が、まずおかしいんです。それに迷いなく人間さんが乗り込んで、直後に…… ピュルテ: 全部あなたが仕組んだことなんでしょう!? けど、なんのために……人間さんはもう追いつけませんでした。どうしてわざわざ、あんなことを! ピュルテ: 人間界に帰す約束どころか……死なせてしまうなんて、私っ……私はっ……ああああぁぁっ……!! ペロー: そうですねぇ。もうどのみちリセットするのですし、全部伝えて絶望した顔でも見せてもらいましょうか ペロー: ふふっ……私もシェイクスピアの悪趣味が伝染ってしまったかもしれません ピュルテ: リセットって、なんの……? ペロー: 神官長様は、あの男に見切りをつけたのです。そして、人間界から再召喚することを決断した ピュルテ: 別の人を、人間界から……? ペロー: そして、人間界から再び、今度こそ従順な駒になる対象者を連れてくる……それがあなたの仕事です ピュルテ: そのために私を誘拐したんですか!? ふん、でも残念でしたね。私はもう人間界に行く能力は失ってしまったんです ペロー: ええ。知ってますよ。誰よりもね ペロー: 私もそれは気がかりでした。ですがね、神官長はこう言われたのです ペロー: 全ては等しくあること、それが条件。戦う能力と引き換えに人間界に行けなくなったのであれば、また戦えなくすればいいだけのことだと…… ピュルテ: ……っ!? そ、そんなの、むちゃくちゃです! ペロー: ええ、ごもっともです。私もそう思いましたよ。だったら、都合よく出したり引っ込めたりできてしまう。そんな反則技がありますか、とね ペロー: ただ、あなたに関しては特別なんですよね ピュルテ: そ、それは……私が、人工生命体だから、ですか…… ペロー: ……! 驚きましたね ペロー: まさかその事実を知っていたとは……。ならば、話は早い。あなたはオトギノクニにおける普通の住人ではない。だから、そんな無理筋も可能になる ピュルテ: そんな……じゃあ、あのとき私が、あんなに悩んで、苦しんで、出した答えは……なんだったんですか! ピュルテ: 皆さんに心配をかけて、人間さんは笑って『戻れなくてもいい』って言ってくれて……そういうのも、全部無意味だったんですか!! ペロー: ですねぇ。ま、結果論ですけども ペロー: もちろん制約はあります。この場合、その離れ業を実現できるのは神官長……つまり、あなたの創造主だけなのです ピュルテ: 神官長が……私の……? ペロー: ええ。ですから、あなたは絶対に神官長には逆らえない。どれだけ自我を持って反抗しようとも、最後にはあの人は『無かったこと』にできる ペロー: 作家と作品の関係どころではないのですよ。作品あっての作家ですし、存在した時点でエルマイトの対象となる ペロー: だが、あなたは本来、存在しない。つまりグランド・リヴィジョン以前の世界では生きることすらままらならないのです ピュルテ: それで、私をさらって……そして、邪魔になったから人間さんを……!? そんなの、許せません! みんなを、なんだと思ってるんですか! ピュルテ: 私、絶対に神官長の言いなりになんて……。……ぁっ……!? ペロー: 絶望よりも怒りが勝りましたか。それもまた興味深いですが……注射の時間です ピュルテ: ……ぁっ、くっ、身体の、力が、抜けて…… 369 - セカンドハンド シンデレラ: 建物を封鎖した、ってことは犯人はまだ中にいるのよね SGR司令官: ええ、外に出さなければまだチャンスがあります。ですが、万一に備えて『フォルクス・ゲヘナ』の起動準備はしておくべきかもしれません ドロシー: 何よ、それ エミリー: 歯車を取り戻すための、すっごいやつなんだって。なんだっけ、武器なの? SGR司令官: 巨大な人型機械兵、というのが適切な表現でしょうか。かなり破壊力を持っています。その長剣『セカンド・ハンド』にかかればすべて真っ二つになるとか リル: 第二の手、ということか。その名の通り、身体の一部がごとく扱えるということだろうな ヴェルメリオ: ……ねえ、そろそろ人間さんとピュルテも合流してもらったほうがいいんじゃ エミリー: そうだよねぇ。もう宿に戻ってるかなぁ 雨依: それなら、だいたいの場所がわかるなら監視カメラで追えるわよ ティンカー・ベル: え、どういうこと? レオナ: 機能や構造はスフィアと同じなんだけどね。町の至るところに監視カメラが設置されてて、このタワーに情報が集まるようになってるの クレア: じゃあ、探してみよう。場所はわかるよ SGR司令官: わかりました。いま部下を呼びますので、お待ち下さい 衛兵1: 司令官、およびですか。カメラの映像を? ええ、座標はここで……承知しました。少々お待ち下さい ティンカー・ベル: すっごいなぁ。これを魔力に頼らないでやってるんだもんね レオナ: 人間界から持ち込んだ技術を、この国で独自に発展させてるんだよ。おかげで、天空神殿からはものすごく睨まれてるけど ヴェルメリオ: ……神殿はそういうの嫌がるの? エミリー: 脅かされちゃうからねぇ。ジャコヴァとかは面白がって、こういうのどんどん使って世の中に出しちゃうから、神殿もある程度は対抗しなきゃいけなかったみたいだけど シンデレラ: 言われてみれば、創造期の頃は映像スフィアなんてものもなかったわ。エルマイト動力の船なんてものもなくて、手漕ぎか帆船だったし レオナ: ディマイト側が勝手に技術革新しちゃうとね、世の中がそっちに傾いちゃうでしょ。ディマイト動力で出た技術は、エルマイト動力でも出して対抗しないといけなかったわけ ドロシー: ふうん……。じゃあ、神殿がいくらあれこれしたところで、もう昔のオトギノクニとは違うってわけね…… 衛兵2: 司令官、報告します。確認しましたところ、15階以上に配置されたロボットは全滅しています SGR司令官: やはり被害は甚大だったようですね 衛兵2: 低層階は我々生身のガードと合わせて、通常戦力の80%を維持していますが……。……? SGR司令官: なにか 衛兵2: あ、いえ、なんでもありません SGR司令官: やむを得ません。私はもう一度30階に向かい、万一の事態に備えます。ひとまずタワー内をガードが探索していますから、皆さんは犯人が発見され次第、現場に向かってください シンデレラ: ええ、わかったわ ドロシー: あの司令官って人はロボットじゃないのよね? ティンカー・ベル: 変なこというと怒られるよ! ただでさえ拘束ぶっ壊したんだから。緊急事態ってことでスルーしてもらえたけど 衛兵1: 皆さん、これを! エミリー: どうしたのぉ? あ、さっきのカメラ? 衛兵1: ご指定の座標の映像なのですが シンデレラ: ピュルテちゃん!? 大変、ピュルテちゃんが誘拐されて……自動車に乗せられてるわ! ヴェルメリオ: ……なにこれ、大変だよ。すぐ行かなきゃ 衛兵1: お待ち下さい。これは録画で、一時間以上前です。最後までご覧を ティンカー・ベル: 誰か人間さんに近づいてきたよ。え、なんか黒い車に乗せようとしてる? リル: なるほど、車で連れ去られたからこっちも対抗しようと…… クレア: ……!! シンデレラ: え……? 衛兵1: 市街巡回班に問い合わせたところ、確かに爆発事故があったそうです。ただ、まだ現場検証が済んでおらず…… ドロシー: これは何なのよ! 何がどうしてこうなったわけ!? シンデレラ: 嘘でしょ……人間さん、そんな…… 衛兵1: 爆発の規模からして、燃料に引火したのは間違いありません。となるとかなりの高温ですから、おそらくは…… エミリー: 燃料って……どういうこと……? パラケルスス: ……この国では魔法が使えない。エルマイトやディマイトを動力にする仕組みがないんだ。その代わり、可燃性液体を燃やす熱エネルギーで動かしている クレア: この国だから、こうなった……? 雨依: 私の大切な人は……やっぱり先に逝ってしまう……。今度こそ、運命を変えられると思ったのに…… 雨依: 映像を巻き戻してっ! すぐに! さっき彼を車に乗せたやつがいたわ! そいつはどうなったのよ! レオナ: 雨依、落ち着いて 衛兵1: は、はいっ、こちらですね エミリー: え……これって、セクス……!? ドロシー: どうしてセクスがいるのよ ティンカー・ベル: メンテナンスで来てるって言ってた……。姉妹の、よんよんとセプテムも 雨依: そいつが犯人よ! 今すぐ捕まえて、八つ裂きにしてやる! レオナ: 雨依。早まっちゃだめよ ヴェルメリオ: ……なにかの間違いだよ。だって、セクスはいい子だもん。ちょっといたずらもするけど、生意気だったりもするけど、人間さんにこんなこと エミリー: そうだよ。ただ恩返しをするためにがんばってるだけで 雨依: 恩返し……もしかして、Ho-on!プロジェクトのひとり……? クレア: 知ってるの? なら話が早いね 雨依: うん、そうね。簡単な話よ。この子、セクスだっけ? 確かに悪い子じゃないのよ。それに映像を見る限り……この子も巻き込まれてる リル: 確かに……脱出している様子はないな 雨依: 利用されたのよ。恩返しだからって、無理やりやらされたの ティンカー・ベル: ……!? ヴェルメリオ: ……そんな、自分を犠牲にしてまで恩返しって……そういう子もいるかもだけど、セクスはそこまでじゃ 雨依: 捨て駒なんだもの。どうなるか聞かされてなかったんじゃないの。顔見知りだからって油断させて、車に乗せる。そこまでがオーダー シンデレラ: ……ありえるわ。誰かがHo-on!の仕組みを理解していれば、悪用するかもしれない パラケルスス: その車、いつから止まってるんだ。もう少し戻せるかい シンデレラ: 映像が明るくなっていく……時間が戻ってるのね ドロシー: 待って! 誰か近づいてるわ ヴェルメリオ: ……車に何か積み込んでる。これ……よんよんだ パラケルスス: その前は……ああ、車が止められた。運転手はこの男だな。すべて分業にしてるとすれば、男は車を運んだだけ、そして途中の彼女が爆薬を積み込み、最後の彼女が…… ティンカー・ベル: ティンカの……せいだ…… 370 - 引いてしまったトリガー ティンカー・ベル: ティンカ、言ったんだよ。よんよんにさ……迷う必要ないじゃん、って リル: あのときの……そうか、要望をもらったと言っていた。それが、この…… パラケルスス: そうか、あの子か。実行すべきか迷っていたが、それはこういうことだったのか シンデレラ: よんよんはネガティブな子だから、どんなときも、自分で考えた恩返しでもためらっちゃうような子なのよ。だから、あのときも普段通りだと思って ティンカー・ベル: ティンカのせいじゃん……! だってこの明るさ、夕方でしょ? ティンカが会ったのも夕方だもん……! ティンカー・ベル: あのときも迷ってた! 止められたかもしれない! なのに、なのにっ……ティンカが、背中を押しちゃった……! ティンカー・ベル: なんにも知らないで、バカみたいに……そうだよ、言ったの。どーんとやっちゃえ、って……。そしたら、どーんって…… シンデレラ: 違うわ、ティンカちゃん。違うのよ。誰にもそんなことわからないの ティンカー・ベル: 知らなかった、なんてことで無かったことになんてできないよ! 最後の最後に、ティンカが、バカなこと言ったから……っ! それで人間さんを殺しちゃったんだよ!! エミリー: ティンカ! エミリー: だめ。もうやめよう? ティンカが自分を責めちゃうのは、わかるよ。でもそれ、みんな同じことしたし、その可能性あったじゃん。よんよんとは、みんな友達なんだから ティンカー・ベル: だって……だって…… エミリー: もう責めないで。ティンカの言葉はいま、みんなに刺さってる ティンカー・ベル: う……うぁ……うあああぁぁぁぁ! 衛兵2: あ、あの……歯車の位置が捕捉できたの、ですが……えっと……? シンデレラ: ……ごめんなさい。少し時間をちょうだい。この後、向かうから ドロシー: そうよね、歯車……。正直、もうなんのためにやってるのか、わからなくなってきたわ 衛兵2: 18階南西エリアにて発見、かなり素早いようで現地で追跡活動中です。ではその……私もそっちに向かいますね……? シンデレラ: だめよ 衛兵2: えっ? す、すみません シンデレラ: あ、ごめんなさい。あなたに言ったんじゃないの シンデレラ: みんな、このままじゃだめよ! ピュルテちゃんはまださらわれたままなのよ! ドロシー: そうよね……! 落ち込んでる暇なんてないんだったわ。映像をもう一度見られる? 衛兵1: あ、はい。別のカメラから映像を繋いで追いかけていました リル: 言われる前にやっていたのか。優秀だな 雨依: そうよね。さらわれた子が行き着いた先はきっと、あの人を殺した犯人にも繋がってるはず 衛兵1: まもなく解析が終わるところです。……ん、あれ? クレア: どうしたの? 衛兵1: 座標が、このSGRタワーを指しているんです。画像を表示します レオナ: これ……タワーの地下にある搬入口みたいね パラケルスス: そうか、エレベーターか……! 犯人は神殿だ! 地下から100階の神殿まで一気にエレベーターで運ぶつもりなんだ リル: いや待て。エレベーターは歯車を狙った賊が侵入したから、司令官が解放したんだぞ。ということは、賊も天空神殿の差金ということか? ドロシー: ねえ、さっき歯車持った犯人が見つかったの、何階だって言ってた? 衛兵2: 18階の南西エリアですが ドロシー: ……もしかしたら 雨依: また天空神殿……。ろくなことしないわね リル: すぐにエレベーターを止めるんだ! 小生たちもエレベーターへ向かうぞ! セクス: 大丈夫? 人間さんくん、まだ顔から汗が止まらないみたいだけど。まあ、当然だよね。死ぬかと思ったもんね セクス: ぼくにいきなり、車の床に穴が開いてるから入れとしか言われなかったのに、いきなりあの爆音だもん。ぼくだって爆発の規模はあそこまでだと思わなかったけど ヴィネ: セクスさん、こちらです。お待ちしてました。約束通り、任務を果たしてくれたんですね ベリアル: 兄ちゃん、えらい顔しとんなぁ バエル: まあ、急に私たちが目の前に出てきたら驚きもするよね バラーム: 積もる話もありますけど、まずは現場から離れることが先決ですわ。どうぞこちらへ セクス: ぼくもいろいろ突然すぎて何も把握できてないんだけどさ、とりあえず人間さんくんとこの人たちは知り合いなの? ベリアル: 話せば長いあれやこれや……せやけどまあ、一言で言うたら知り合いやな ヴィネ: 私たちのピンチを人間さんに助けてもらったんです バエル: わけのわかんない強敵が突然出てきて、いろんな町がひどいことになって……絶望しかなかった時代ね バラーム: わたくしたちは、その悲劇を防ぐために立ち上がり強敵と戦ってきたんですわ。でも、うまくいかなくて……それを、ポチがうまくフォローしてくれたのですわ ベリアル: 兄ちゃんのこと、最初は顎でこき使っとったもんなぁ バエル: 最初? ずっとそうじゃなかった? バラーム: そ、そんなことはありませんわ! セクス: いや待って? まずそのポチって呼び方がこき使ってる感満載なんだけど バラーム: だって最初はそういう扱いだったんですもの ベリアル: まあ、そういうわけで古くて長い付き合いなんや セクス: 人間さんくんとの関係はそれでわかったけど……あの大掛かりな作戦はなんだったの? ヴィネ: マンホールの真上に車を止めさせ、事前にマンホール側から車体に穴を開け……さすがに手間がかかりましたが、おかげで作戦成功ですね ベリアル: あったりまえや。誰の作戦やと思てんねん バエル: なんでベリアルがドヤ顔してるのよ。考えたのはパイモンでしょ ベリアル: あれ、せやった? 371 - 回避された未来 ベリアル: よいしょっと……このあたりまで来れば、黒幕にもバレへんやろ パイモン: ポチ。久しぶり。ということは、作戦成功? ヴィネ: うん、ばっちりでした! セクス: なんかまた新しい子が出てきたんだけど ヴィネ: 私たちは9人のチームなんです セクス: 9人! ぼくらHo-on!プロジェクトより多いの!? セクス: って、そういえば忘れてたけど、よんよんのフォローしとかないと。あの子、結局爆弾置くのやめたのに爆発したなんて、後で知ったら泣いちゃうかも ヴィネ: そうですね。何が起こったのか、人間さんにもちゃんと説明しないといけませんね パイモン: 隠れ家を用意してる。こっちに来て (背景切換...) プルソン: ポチちゃん! ひさしぶり♪ ベレト: いろいろ苦労してたみたいね。あたしたちのところに呼んだときは、ポチのこと何も知らなかったけど ザガン: 怖かったでしょ? いっぱい甘えていいんだよ♪ ザガン: え、そんなことより、自分に何が起きたか知りたい? アスモデウス: それはそうだよな。じゃあ、どこから話せばいい? ヴィネ: きっかけはもちろん、私の未来視でした ベリアル: ほんまはな、ヴィネには別れ際にもう見えとったらしいで。ウチらにもダマやってんけど セクス: ヴィネは未来が見えちゃうの? それ最強じゃない? ヴィネ: 見ようと思って見られるわけじゃないんです。突然割り込んでくる感じというか……ないよりは有利になると思いますけど セクス: それなかったら、いまごろ人間さんとぼくはあのまま……いやー、よんよんと被ってる時点で変だなとは思ってたんだけど、まさかあんなことになってるとはね ヴィネ: だからまず、私たちの拠点をこの国にしたんです。ここで来たるべき瞬間を待つために バラーム: 言っておきますけど、ここは臨時の隠れ家ですわ。拠点はもっと立派で素敵なわたくしたちにふさわしいものを用意しています プルソン: もしかしたら、黒幕にぷるたちのことバレて、見つかっちゃうかもしれないから ヴィネ: そう。黒幕です。さっきのあれはもちろん、事故なんかではありません。結果的にわざと爆発させましたが……私が見た未来は、あの場所で車ごと爆発に巻き込まれる人間さんの姿でした ベレト: 当たり前だけど、犯人はポチを消そうとしてあれを計画したの。だから、死んだと思わせたほうが有利なはずよ アスモデウス: お? どうした、ポチ。衝撃で混乱してたのはわかってるぞ。なに、思い出したってなんのことだ ベリアル: 一緒におったねーちゃんのことやろ。ザガン、どやった ザガン: 見失ったわ。尾行に気づかれたというよりは、最初から計画していたみたいね。車を乗り換えたりなんて、突然できることじゃないもの バエル: そうだよね。あの子、いまのポチの仲間なんでしょ。大丈夫、私たちも助けるの手伝うから パイモン: そのためにも情報が必要。あなたは、依頼されたんだよね セクス: あ、うん。人間さんくんをあの車に誘導してくれって頼まれたんだ。恩返しとして セクス: 相手? 普通のおじさんだよ。でも、あのおじさんも多分、誰かに雇われてぼくらに依頼してたと思う パイモン: そのあたりもかなり周到な犯人だね セクス: ぼくも、よんよんと同じおじさんから頼まれたってわかった時点で、なんか怪しいなとは思ってたんだ。だからぼくは降りようと思ってた ベリアル: けど、そこでウチらが依頼したんや。酔っぱらいに絡まれとるんを助けた恩を返してもらうっちゅうことで セクス: いま思えば、あれもきみたちの策略だった? バエル: まあまあ。毒を食らわば皿までっていうじゃない バラーム: 言いますけど、いまそれ関係ないんじゃありません? 無理なさらないほうがよろしくてよ バエル: うるさいな、もう! パイモン: そういうわけで、セクスにはあえて同じような依頼を別にかけたの ヴィネ: この人間さんの件とは別に、この黒鉄の国で何か起きているみたいなの。あの中央にそびえるSGRタワーで…… ベレト: ポチのお友達も、あそこに関係しているかもしれないし、違ったとしてもコントロールタワーには何か情報が入っている可能性が高いわ アスモデウス: ポチのことだから黙って待ってることなんてできないだろ? だから、生きてることがバレないように、アスモ様たちと一緒にそーっといくんだ。いいなっ ヴィネ: 心配しないでください。大丈夫です。必ず助かります。いえ、助け出しますから SGR司令官: さて、と……。これでパスコードもOK、 『歯車』保管装置の解除もされてる。あとは私のIDだけ…… ドロシー: そうすれば目的は達成される、っていうわけね SGR司令官: ――っ!? ドロシー: 私もね、いろいろ考えたのよ。なんせ暇だったから ドロシー: 聞いたところによると、みんなは聞き込み捜査とかなんだとか楽しそうだったみたいだけど……私はひとりで部屋でゴロゴロするしかなかったの ドロシー: 狭い部屋で筋トレも限界があるわ。必然的に、いろいろ考えることになるってわけ。魔法使いを拘束するっていう規則が裏目に出たわね SGR司令官: なんの話をしているんです? ドロシー: 最初からとっても違和感はあったわ。そうよね、リル リル: ああ、そうだな SGR司令官: ………… リル: ふたり1組。人間さん殿によれば捜査の基本というやつらしい。悪く思わないでくれ リル: 最初に気になったのは、小生たちの協力の申し出をいともあっさりと受け入れたことだ ドロシー: いくらレオナが仲介に入ったとはいっても、この国に数日前に初めて来たような連中を信用できるはずないわ SGR司令官: 猫の手も借りたいほど切迫していたのかもしれないでしょう? リル: それは小生に言ってるのか? この状況で、なかなか度胸のあるいいジョークだ SGR司令官: ……それなりに修羅場をくぐってきてるんでね ドロシー: 歯車を持った犯人が見つかったのが18階というのもまずかったわ。15階より上は全滅しているのに、そんな半端なフロアにとどまっているのは不自然だし リル: そもそも侵入者などいなかったんだ。味方に擬態した敵がいる……その情報は司令官からしか受けていない。あれは擬態ではない、本当に味方のロボットだったんだな ドロシー: 防衛するように命令されているなか、私たち外部のやつが突っ込んでくれば当然、ロボットは迎撃する。私たちは擬態した敵だと思って全滅させる。結果、セキュリティは一気に甘くなるわね ドロシー: そうとも知らないで思いっきり壊して……かわいそうなことをしたわ SGR司令官: そこまでわかってたとはね ドロシー: 最上階……最後に残った1台のロボットはあなたを攻撃しようとした。よく考えれば不自然なのよ。もう目的は達して歯車は持ち出しているのに、なぜ攻撃したのか リル: それは、暗闇の中で歯車を持ち去ったのがあなただからだ、司令官 SGR司令官: ふふっ……さすがオトギノクニきっての策略家、そして大魔法使い……というわけか。ここまで私を追い込むなんてね リル: やはり小生たちを知っているか……! 何が目的だ! なぜ、ピュルテと人間さん殿を襲った……っ! ドロシー: 許せない……! 人間さんを、私たちに返しなさいよ!! SGR司令官: えっ? 人間さん? 待って、それは知らないんだけど!? ドロシー: は……? っていうか『人間さん』って、あなた…… SGR司令官: 仕方ないわね。ここまで追い込まれたら、もう変装している意味もないし…… 怪人二十面相: 遊びはここまで、みたいね 372 - 怪盗の狙い リル: 怪人二十面相……! ドロシー: 遠藤、あなたどうして リル: 遠藤? ドロシー: ええ、トゥエンティ遠藤よ 怪人二十面相: 本名で呼ぶのやめてくれる!? ドロシー: なんであなたが……ううん、それは問題じゃないわ。だって遠藤はプロの怪盗だもの。盗むと決めたら、どんな手を使ってもやりきるんだから ドロシー: 肝心なのは『どうして』あなたが盗むのか……。黒鉄の歯車は、この国にとってはとても重要なアイテムだけど…… リル: 無関係な遠藤殿にとって盗むメリットは何なのか、ということだな 怪人二十面相: どうせ、ここまで来たらどうしようもないだろうから、少しだけ教えてあげるけど……わたしはドロシーが言ったとおり、プロの怪盗。それはつまり…… リル: 誰かの依頼を請け負っている、ということか……!? 怪人二十面相: けど、人間さんがどうこうって話は……わたしも初耳よ。何があったっていうの? ドロシー: しらばっくれるつもり……? 人間さんは、人間さんは……っ! 怪人二十面相: え……? な、なんだっていうのよ…… ドロシー: 歯車がほしいなら勝手に盗めばよかったじゃない! 好きにしなさいよ! どうして人間さんのことを殺したのよ!! 怪人二十面相: ――っ!? こ、殺した、って…… ドロシー: それも、あんな……っ、酷い殺し方を…… ドロシー: あんなのきっと……身体も残らないわ。お別れも言えなかった……私、彼にまだ何も伝えてないのに……っ! ドロシー: 好きだってことなんて、どうでもいいわ。ありがとうの一言だけでも、あなたに会えて良かったって、それだけでも伝えたかったのに……! リル: 落ち着くんだ、ドロシー殿。ここで感情的になっても、何も有利にはならないぞ ドロシー: わかってるわよ……っ、けどっ、あんなことになるなんて……人間さんが……どうして……っ 怪人二十面相: う、嘘でしょ……? 本当に人間さんが死んだっていうの……? (防衛装置の異常を確認。セキュリティレベルを自動的に5段階に引き上げます) リル: む、この音は……? (『フォルクス・ゲヘナ』の稼働を開始。総員、追跡体勢に入って下さい) 怪人二十面相: 動き出したようね……『コイツ』が……。状況はよくわからないけど、私は自分の仕事をまっとうするまでよ! シンデレラ: 急ぐわよ! シンデレラ: 歯車を盗んだ犯人が、さっきの人間さんのことと繋がるかはわからないけど……いま、私たちができることは、これしかないんだから…… パラケルスス: さすがは魔法の国のプリンセス、といったところかな。とても冷静な判断だ エミリー: やめて、パラケルスス エミリー: 姐さんがどれだけ辛い気持ちで、あんなふうに言ってるか……わかってないくせに、変な言い方しないでほしい パラケルスス: ……それは失礼したね。あのエミリーが、他人にそんなふうに肩入れするとは思わなかったよ エミリー: エミリーだって、みんなの仲間なんだよ。もう、グリム家の一部なんかじゃないんだからねぇ パラケルスス: なるほど。居場所の問題か クレア: 18階までどうやっていけばいい? レオナ: エレベーターは緊急停止させてるけど、また動かせば…… (『フォルクス・ゲヘナ』の稼働を開始。総員、追跡体勢に入って下さい) ヴェルメリオ: ……!? いまの、どういうこと? レオナ: 防衛用追跡特化グラン・マキナⅡ型『フォルクス・ゲヘナ』――セキュリティ・ガード・リサーチの最終兵器だよ (カタパルト開放、空挺部隊の出撃を許可します。西側外周付近での作業はただちに中断してください) シンデレラ: 空ですって? そんなことができるの? 雨依: この黒鉄の国では魔法を使わなくても空を飛ぶ方法があるのよ。私たちもそっちに行ったほうが良さそうね エミリー: ティンカ……無理しないで、ここで待っててもいいんだからね ティンカー・ベル: ううん。ここで逃げちゃダメだって、ティンカの中の何かが言ってる気がする。ここで戦うことが……ティンカの償いなんだよ エミリー: ティンカ…… セプテム: ……ふぅっ。なにこれ、重い……。早く、しないとっ、ふうっ…… セプテム: やっと積み終わった。あとは、操作方法……これ、できるかな…… セプテム: ううん、できるかどうかじゃない。やらなくちゃ。恩返しなんだから シンデレラ: 待ちなさい、犯人! ヴェルメリオ: ……って、あれ? そこにいるのは、セプテム? セプテム: ……っ!? ティンカー・ベル: 待って、どこ行くの!? なんでセプテムがここに……うわぁっ!? エミリー: な、なにあれ!? 飛空艇よりずっと小さいのに、すごいスピードで空に飛んでいったよ! レオナ: 飛空艇とは比べ物にならないくらい強力な空中飛行型の乗り物だよ。SGRに数十機だけ配備されてる垂直離着陸機…… 雨依: なに他人事みたいに言ってるの。作ったのレオナでしょ レオナ: このタイミングで言うと自慢っぽく聞こえるかと思って ティンカー・ベル: ってことは、操作方法とかわかるってことだよね!? レオナ: えっ……うん、わかるけど……まさか、これを操作しようっていうの!? 動かすには数十時間の訓練が必要で…… クレア: セプテムはそんな訓練、絶対してないよ。私たちも急がないと 雨依: そうね。いいんじゃないの。レオナもいるし、私はこういうの得意だし レオナ: 雨依の得意っていうのは、人間界のゲームってやつじゃん……。まあいいわ、なんとかなるでしょ。それじゃあみんな、準備して エミリー: ティンカ、あんまり無理しちゃだめなんだからね。人間さんのことはみんなの問題なの ティンカー・ベル: ……わかってる エミリー: わかってない顔してるから言ってるんでしょぉ? エミリーから、大切な人をまたとっちゃうつもり? ティンカー・ベル: え……? 大切って エミリー: ほら、ささやか同盟でしょ。貴重な同志なんだから ティンカー・ベル: この場面でデカパイネタ!? もう、エミリーってば緊張感なさすぎでしょ! ティンカー・ベル: ……ありがと。大丈夫だから。ちゃんと無事に帰ってくる。それが大前提 エミリー: ん。約束だよぅ。破ったら、ごく僅かなティンカの膨らみもエミリーがとっちゃうんだから ティンカー・ベル: 焼け石に水って言葉、知ってる? 373 - スクランブル 雨依: みんな、聞こえる? シンデレラ: ええ、聞こえるわ クレア: 大丈夫だよ エミリー: これ、本来はひとり乗りな感じ? すっごい狭いんだけど レオナ: 普通はそうね。新人が教官と一緒に乗るときくらいじゃないかしら。みんなは慣れてないから、ふたり1組になってお互いにフォローしてあげて ティンカー・ベル: じゃあティンカがやるから、エミリーは後ろに乗って ヴェルメリオ: ……わたし、操縦してみるね クレア: 私もやってみたい レオナ: 雨依はこれ上手いからね。わたしはクレアをフォローしとこっか シンデレラ: いいわ、じゃあ私はヴェルの後ろに乗るわね ヴェルメリオ: ……早く追いかけなくていいの? レオナ: みんなの証言通り、相手の子も慣れてないみたいで、まだそんなに遠くには行ってないみたいだね パラケルスス: 中央にレーダーが表示されてるだろう? その赤い明滅する点が彼女の操縦する機体だ。しかし……あれにピュルテが乗せられてるっていうのは本当かい? ヴェルメリオ: ……わからない。一瞬だったし ティンカー・ベル: けど、箱を運び込んでるところは見たよ。人が入っててもおかしくないくらいの大きさだった シンデレラ: 可能性がある以上、無視できないわ。ここを完全に空けるわけにはいかないけど……ドロシーとリルはタワー内にいるはずだから エミリー: ふたりはどこに行ったんだろ…… (『フォルクス・ゲヘナ』緊急発進します。タワー周辺の航空機は回避してください。5秒前。4、3……) クレア: っ!? なにあれ! レオナ: あのディ・マキナが『フォルクス・ゲヘナ』よ。あれが発動するってことは、黒鉄の歯車を守るシステムが破壊されたってこと パラケルスス: 向かう先は、例の航空機……ということは エミリー: ピュルテがいるかは半々だけど、歯車は確実に持っていかれちゃってるってことだよねぇ? 雨依: 後を追うわよ。しっかり捕まっててね、パラケルスス パラケルスス: やれやれ……乗り物はあまり得意じゃないんだけどなぁ ピュルテ: わ、たし……どう、なって…… ピュルテ: なんだか頭がふわふわする……そっか、何か薬を打たれたんだっけ……ペローに連れ去られて…… ピュルテ: 連れ去られた後、どうなっちゃうんだっけ……ペローが何か言ってた気がするけど、でも……。なんだか考えがまとまらない…… ピュルテ: こういうとき、誰かが助けてくれるはず……私は誰を待ってるんだろう……? そうだ、あの人……あれは、えっと…… ピュルテ: 人間さん……っ。たす、けて…… (背景切換...) ヴィネ: 人間さん? どうしたんですか ザガン: ポチちゃん、SGRタワーはあっちよ バエル: 声が聞こえたって……ポチ、なに言ってるの。何も聞こえなかったけど ヴィネ: ピュルテさんの声が、聞こえたっていうんですか……? ヴィネ: ……わかりました バエル: ちょっとヴィネ!? どういうつもり? ベリアル: 兄ちゃんのカンを信じるんかいな。まあ、ええんちゃう。タワーに行く根拠も、そない強いわけやないし ザガン: パイモンちゃんたちには連絡を入れておくわね。たぶん問題ないと思うけど ヴィネ: 私の未来視でもパイモンの作戦でも、一番の不確定要素はピュルテさんの行方です。きっと……人間さんとピュルテさんの間には、見えない絆みたいなものもあるでしょうし ベリアル: 妬けるやんなぁ ヴィネ: い、いまはそんなことを言ってる場合じゃないでしょう! それで人間さん、方角とかはわかるんですか? バエル: 町外れの、港の方向ね……敵が裏をかこうとしてるとすれば、可能性はあるかもね ベリアル: ほな、急ぐで! (背景切換...) ペロー: ……『フォルクス・ゲヘナ』が動きましたか。予定通りですね 男: ペローさん、あと30分くらいで船が来ます ペロー: すべては私の計略通り……ふふっ、うまくいきすぎて怖いくらいです。ねえ、そう思いませんか? ピュルテ ピュルテ: …………はい 怪人二十面相: よし、動いたわね。あとはこれに乗って…… ドロシー: 待ちなさいよ! 逃さないんだから! 怪人二十面相: 悪いけど、私は戦うのは好きじゃないのよ。華麗に盗んで、颯爽と立ち去る。怪盗ってそういうものでしょ リル: 遠藤殿はいったい、何が目的なんだ……! 怪人二十面相: さあね リル: それでいいのか? 本来なら予告状のひとつも出して盗むのが怪盗じゃないのか? これでは火事場泥棒と同じだぞ 怪人二十面相: 挑発のつもり? ずいぶん安っぽいわね リル: …… 怪人二十面相: まあいいわ。乗ってあげる。怪人二十面相が狙ったのは……『時計の針』よ リル: ……っ!? なんだとっ!? ドロシー: 時計の針って、え、だって……まさか黒鉄の歯車が、時計の針だったわけ!? 怪人二十面相: それより人間さんに何があったのよ。身体も残らないなんて、いったい…… ドロシー: しらばっくれるんじゃないわよ! リル: いや、ドロシー殿……嘘を言っているようには思えない…… ドロシー: 人間さんが乗った自動車が、爆発したのよ! あの金属の塊が粉々になるくらい、激しい爆発だったわ! 怪人二十面相: 人間さんが……! 怪人二十面相: ……。つまり、人間さんの遺体を、まだ誰も確認してないのね ドロシー: え……それは、そうだけど…… リル: 現場を確認する暇もなく、この事態だからな。……その言い方だと、遠藤殿はまるで彼が死んでいないとでも言いたそうだが 怪人二十面相: 人間さんは普通の人だから、どうだかわからないわ。ただ、私だったら……爆破はよく使う手よ。死んだと思わせるとき、便利だから ドロシー: 人間さんが……生きてる……? でも、遠藤の言うとおりなら、人間さんはわざと……ううん、あの状況でそんな余裕はなかったはず…… 怪人二十面相: あなたたちもいろいろ事情があるのはわかったわ。けど、私もプロである以上、仕事はまっとうさせてもらう。じゃあね リル: 待てっ……うあっ!? リル: 『フォルクス・ゲヘナ』とかいったか……あのディ・マキナ、あれだけの巨体でなんて加速力だ……。もう、あんな遠くにいるとは ドロシー: 人間さん……本当に、生きてるの……? 374 - 「断絶の海」へ クレア: うわ、ほんとに空飛んでる。どうして? レオナ: 理屈はいろいろあるんだけど、説明はちょっと難しいかな。とにかく、強力なエネルギーがあれば空を飛ぶのも可能なのよ シンデレラ: セプテムはどこに向かってるのかしら 雨依: SGRから予測航路のデータが届いたわ。このままだと断絶の海に向かうわね ティンカー・ベル: なにそれ。なんか怖そうなんだけど パラケルスス: 黒鉄の国から西に進んだ海域にある、不思議な場所だよ。海の水が、重力に逆らって激しい流れとなって上空に吸い込まれていくんだ ヴェルメリオ: ……え? 水が、空に? レオナ: まるでそこだけ重力が逆転してるみたいにね。だから、巨大な水柱が塞いでいるように見えるのよ パラケルスス: 一応、そこまでが黒鉄の国が支配する地域となっている。天空神殿の結界も、そこが境界線だ クレア: じゃあ、水の流れに乗って上の世界に行こうとしてるのかな 雨依: それは無理よ。水の勢いが強すぎて、航空機なんて簡単にバラバラに壊されちゃうわ シンデレラ: 水でしょ? 鉄でできたこの乗り物が、そんな簡単に壊れるの? レオナ: 水の力を侮っちゃダメよ。どんなに頑丈に見えるものでも、簡単に壊すエネルギーを持ってるんだから ヴェルメリオ: ……じゃあセプテムは、どうするつもりなんだろ エミリー: 絶対に間違いないのは、セプテムも恩返しをしてるってことだよねぇ。あの子が、自分の意志で歯車を盗んだりピュルテを連れ去るはずないもん シンデレラ: つまり、必ず依頼主と会って、受け渡しをするはずよね パラケルスス: どちらも海の真ん中に捨ててくる、っていうミッションの可能性もあるけど レオナ: それならとっくにやっていてもいい気がするけどね クレア: 『フォルクス・ゲヘナ』はやっつけてくれる? レオナ: たぶんね。けど、あれは歯車を取り返すために自動制御されたプログラムで動いてる。セプテムって子に容赦はしないと思うよ パラケルスス: そしてピュルテのことも考慮しないだろうね シンデレラ: そういうことね……。だとしたら、あっちより先に私たちが捕まえないといけないけど…… ヴェルメリオ: ……速すぎる。追いつけそうにないよ ティンカー・ベル: あれっ、なんか周りに飛んでる機械が増えてない? 雨依: SGRからの援軍ね。まあ、向こうも歯車は絶対に奪還しなきゃいけないし、『フォルクス・ゲヘナ』にまかせっきりにもできないんでしょ エミリー: これだけの数がいたら、みんなで協力すればうまくいく気がするけどなぁ ザガン: まあ、すごい数の飛行機が飛んでいくわね。黒鉄の国に住んでだいぶ長いけど、あんなにたくさん飛ぶところ、おねえさん初めて見たわ バエル: タワーのほうも、かなり大きな騒ぎになってるみたいね ヴィネ: うまくやってくれているといいのですが…… ベリアル: 大丈夫やろ。それより兄ちゃん、どうや。ピュルテは近いんか? バエル: はあ!? 途切れたって、どうすんの。こんなところまで来て ヴィネ: でも、かなりエリアとしては絞られてます。ほら、向こうはもう海ですよ ザガン: こっちは東海岸ね。朝日がすごくきれいなの。ポチちゃんに見せてあげたいわ ヴィネ: ピュルテさんがさらわれたのも東海岸でした。確かに、遠くに逃げたいだろうという読みを逆手に取って、こちら側に潜伏しているのかも ベリアル: いまパイモンに連絡したさかい、そのうち情報が……お、きたきた ヴィネ: 港がある……? ああ、なるほどね。いま、SGRは西側空域に全力を傾けているわ。東海岸の警備はかなり手薄…… ベリアル: 黒鉄の国を出た後、どうするつもりなんかしらんけど……まあ、なんや考えてるんやろな ザガン: じゃあ港の周りで怪しいところを探せばいいのかしら バエル: わかった。片っ端から当たるよ! ザガン: あら……噂をすれば。あの車、なんだか怪しいと思わない? ヴィネ: トラック……確かに、後ろに荷物を積み込めますから、怪しいですね ベリアル: 気取られんように、慎重にいくで (背景切換...) アイソーポス: さてと……ひとまずレグルスの反応も見たことだし、次の手を打とうか アイソーポス: ……ん? フアナ、どうした? フアナ: さっきレグルスが言っていたとおり……黒鉄の国は連絡をとりあえないでしょ。だから、ちょっと心配で…… アイソーポス: ああ、人間さんくんたちのことか。無理もないな、仲間なのだから。心配して当然だ フアナ: それだけじゃなくて、なんだか胸騒ぎがして……あたしが心配性なだけだったらいいんだけど アイソーポス: どうしても国内で起きていることをリアルタイムで知ることができない。不安に思う気持ちはよくわかる アイソーポス: しかし、可視化されていたからといって、その情報がすべてだと思い込んで油断することもある。結局、何が起こるかは誰にもわからないんだよ フアナ: アイソーポスさんみたいに、あたしも余裕を持てればいいのにな アイソーポス: どこまでいっても、私は彼らに何の思い入れもないからな。フアナと同じではないよ フアナ: でも、パラケルススも一緒だよ。かつての仲間なんでしょ アイソーポス: あいつは何があっても平気な顔をしているからな。昔から、心配したことがあまりない フアナ: 信頼感、なんだよね。あたしも見習わなくちゃ アイソーポス: いや、パラケルススはああいうヤツだからだよ。私だって心配する相手はいるぞ。例えば……そうだな、ライブラとか フアナ: ライブラ……? アイソーポス: 不安定な子だったからね。ただまあ、私が今回これだけ余裕を持っていられるのは、手を打っているからでもある フアナ: え? 何かしてるの? アイソーポス: もちろん。時計の針を手に入れたいのは私も同じだ。しかし、全面的に信頼するほど、私は彼らを知らない フアナ: みんなは裏切ったりしないよ! アイソーポス: そっちの信頼じゃないよ。ヘマをするんじゃないか、ということだ。だから……私は腕利きに依頼したんだ アイソーポス: 彼らが失敗しても、確実に時計の針が手に入るようにね フアナ: じゃあ、アイソーポスさんが依頼した人も、黒鉄の国に……? アイソーポス: さあ、私たちはその後のことを考えておかないとな。時計の針を手に入れた後、どう立ち回るべきか…… フアナ: 改変したGR2を発動させるんだよね? 他に何かあるの? アイソーポス: ただ単に術式を展開するなら、後はウィラにまかせておけばいい。が、しかし……いろいろと仕込みが必要でね アイソーポス: フアナ、もう少し付き合ってもらうよ。行きたいところがあるんだが、ひとりでは骨が折れそうなんだ フアナ: も、もちろん! そのためにあたしは……。でも、どこに行くの? アイソーポス: フローレ・アカデミー。私の母校、と言うべき場所だ 375 - セプテムの恩返し計画 怪人二十面相: よし……ちょっと予想外のこともあったけど、一応ここまでは順調、計画通りに進んでるね 怪人二十面相: セプテム、聞こえる? セプテム: こちらセプテム 怪人二十面相: 完璧だよ。さすが、いい仕事をするね。十分すぎるほど恩を返してもらってる セプテム: まだ終わってない 怪人二十面相: ええ、もちろんよ。ここからが肝心なんだから。とにかくまず、断絶の海に到着するまでは、絶対にSGRに追いつかれちゃだめよ セプテム: わかってる 怪人二十面相: こっちはこっちで大変だったけど……操縦とか、大丈夫だった? 一応、教本だけコクピットに置いといたけど セプテム: うん、あれを読んだおかげで墜落せずに順調に進んでる。恩返ししないと 怪人二十面相: いやいや! 私の計画を進めるためにやったことなんだから、もう恩返しなんてしなくていいって 怪人二十面相: だいたい、いつも恩返ししまくって忙しいんでしょ セプテム: ……でも、今回で少し余裕が生まれたから 怪人二十面相: ん? そうなの? セプテム: じゃあ、また後で 怪人二十面相: あ、うん…… セプテム: ……もしもし。聞こえる? こちらセプテム、西側の沖合50キロの地点まで到着した ペロー: ……ご苦労さまです。十分がんばってくれました。合図するまで、もうしばらく粘っておいてください セプテム: 了解 セプテム: ふう……歯車を持ち出すっていう遠藤さんへの恩返しも、荷物を持って西側に飛んでいくっていうペローさんへの恩返しも一気に恩返しできてよかった。あとは…… セプテム: うわっ!? セプテム: 攻撃してきた……ってことは、プランBだね。ペローさんの読み通り…… セプテム: 落ち着いてやらなくちゃ。まだ恩返しは終わってないんだから…… ジャコヴァ: ……それで『時計の針』は手に入りそうなのか ヴィルヘルミナ: ええ、順調みたいよ。今回はワタシたちはノータッチって決めてるから、詳しいこともわからないんだけど ジャコヴァ: 放っておいても人間さんは全力で探し出すだろうからな ヴィルヘルミナ: ええ。それにアイソーポスも保険をかけているみたい ジャコヴァ: アイソーポスが? なるほど、あいつなりに本気というわけか ヴィルヘルミナ: GR2は元々あの人の施策だから……何か思い入れがあるんじゃないかしらね ジャコヴァ: ……そうだな。思想的には、あいつはライブラにむしろ近かったからな。グランド・リヴィジョンそのものは否定していない ヴィルヘルミナ: 天空神殿……というか、レグルスが好き勝手に独占していることに不満があるだけで、エルマイトを集中管理したり、再分配することはむしろ賛成の立場よね ジャコヴァ: まあ、私も人間界に過度に依存するべきでないという主張は、大いにわかるがな ヴィルヘルミナ: 姉さんがそんなふうに、自分と違う立場の人を認めるなんて珍しいわね ジャコヴァ: なんだ。まるで私が偏屈者みたいじゃないか ヴィルヘルミナ: みたいというか……でも、姉さんのいいところよ ヴィルヘルミナ: 姉さんはアイソーポスにだけは敬意を持ってるというか、あんまりバカにした態度はとらないわよね ジャコヴァ: そうか? 解散のときなんか、退路を断って追い込んだりしたが ヴィルヘルミナ: あれは、他の委員からの見え方に気を配った結果でしょ。アイソーポスが解散に応じやすいように ジャコヴァ: ……さあな ジャコヴァ: ただ、あいつとは何かあるんだ。考え方もまったく違うが、それでも何かが根底にある感じがする ヴィルヘルミナ: ……? 姉さんにしては、ずいぶん曖昧な言い方ね。奥歯に何か挟まったような感じだわ ジャコヴァ: そうだな。私もそう思う。実際、私も気持ち悪い ジャコヴァ: 実際、コミッティの創設も、私が受け入れたのには理由があるんだ。だが……それが何だったのか、思い出せない ヴィルヘルミナ: え? 何よ、それ。受け入れたのは、Op7からの支援をとりつけるためでしょう? ポルタ島の開発のために…… ジャコヴァ: もちろん、それが主体だ。だが、他にも何かあったはずなんだ。……まあ、思い出したところで、どうということのない記憶なのだろうが ヴィルヘルミナ: それで姉さん、いい機会だから確認しておきたいんだけど ジャコヴァ: 私じゃないぞ ヴィルヘルミナ: 何の話よ ジャコヴァ: あのティラミスを食べたことを責めようというんだろう。あれを食べたのは私じゃない ヴィルヘルミナ: ……。あれ、ちょっと洋酒が強めだったのよね ジャコヴァ: そうだな。利かせすぎるのは私の好みじゃない ジャコヴァ: 食べてないけどな ヴィルヘルミナ: もらったティラミスが見当たらないと思ったら……ほんとにもう…… ヴィルヘルミナ: そんなことはどうでもいいのよ。ワタシが聞きたいのは、GR2のこと ジャコヴァ: なっ……なんだ、そうならそうと言え ヴィルヘルミナ: 姉さんが勝手に自白したんでしょ…… ジャコヴァ: 私は食べてない ヴィルヘルミナ: ティラミスのことはいいから。ワタシが聞きたいのはGR2が実施された後の世界のことよ ジャコヴァ: ん? ヴィルヘルミナ: 思い通りに改変できるということは、極端に振り切らずに折衷案を出せるということでしょう。ワタシたちは何を主張するつもり? ジャコヴァ: グリムが独占……というのは現実的じゃない。まあ、何十%かの権利を手に入れる程度だろうな ジャコヴァ: ただ、私はアイソーポスが持ってくる案をまずは見たいと思っている。やつはバランス感覚に優れている。そう悪い提案はしないはずだ ヴィルヘルミナ: ずいぶん評価しているのね ジャコヴァ: この私をコミッティなどに縛り付けた女だぞ。私とヴィルの次に優秀だといって間違いないだろう ヴィルヘルミナ: そんなふうに褒めるなんて、本当に珍しいわ。何かいいことでもあった? ジャコヴァ: まあな ヴィルヘルミナ: ああ、そうか。ティラミスを食べてご機嫌なのね ジャコヴァ: ……私は食べてない 376 - 空中戦 衛兵1: 所属不明機を多数確認。気をつけろ、撃ってくる……っ! レオナ: げっ……!? クレア、かわしてっ! クレア: まかせといて ティンカー・ベル: あれ何っ? なんか撃ってきたんだけど、攻撃ってことだよね!? 雨依: 相手は無人機みたいね。たぶん、タワーを襲撃したのと同じ連中じゃないかしら ヴェルメリオ: ……撃ってきたやつ、当たったら危ないんだよね? 雨依: ミサイルだからね。こっちも同じようなの持ってるよ。さっき説明したでしょ ティンカー・ベル: よーっし。こちとら、空を飛ぶのは慣れてるんだからね! エミリー、しっかりつかまってて! エミリー: ひいいぃぃっ、ぐるぐる回ってる~っ。ティンカ、ゆっくり操縦してぇっ ヴェルメリオ: ……ここを操作して狙いをつけるんだね。うん、いける シンデレラ: ちょっと、ヴェル。そのミサイルとかいうの、撃つつもりなの!? ヴェルメリオ: ……わたし、遠くにあるものを射抜くのは得意にしてるから。狙って……撃つ! シンデレラ: すごい! 命中したわ! クレア: すごい……当たったら、あんなふうに爆発するんだ レオナ: 爆薬が中に入ってるからね。命中すれば、機体はほぼ動けなくなるよ。で、そういうのが引くほど上手いのが…… 雨依: クレア、後ろ! クレア: うわっ!? すごい、雨依はミサイルじゃないやつで攻撃した……! 雨依: ミサイルもいいんだけど発射までのタイムラグがあるから、急ぐときは機銃で撃つほうが早いのよ。私、エイム得意だし クレア: 雨依がなに言ってるかわかんない レオナ: 大丈夫、わからなくてもなんとかなるわ パラケルスス: うう……あまり派手な操縦はしないでほしいんだが……気分が悪い…… 雨依: 恨むなら相手を恨んでよね! ヴェルメリオ: ……爆発……っ。こんなものじゃない、もっとたくさん撃ち抜かなきゃ……っ シンデレラ: ヴェル……? ヴェルメリオ: ……この人達なんでしょ シンデレラ: 何の話? ヴェルメリオ: ……セプテムに恩返しさせて、こうやって無人機いっぱい出して、ロボットにタワーを襲わせて…… ヴェルメリオ: ……そういうことしてる人が、人間さんを殺したんでしょ シンデレラ: ……っ ヴェルメリオ: ……相手の飛んでるやつ、全部撃ち落としたいの。そんなことしても人間さんが戻ってくるわけじゃない。そんなのわかってる ヴェルメリオ: ……けど、理屈じゃないの。わたしの大切なひとを奪った相手を許せない シンデレラ: ヴェル…… 雨依: 同感だわ ヴェルメリオ: ……雨依? 聞いてたの? 雨依: 機体の通信機は常にオンになってるからね ティンカー・ベル: いいじゃん、ずきん……! それくらい前がかりなの、ティンカは嫌いじゃないよ クレア: いた、あれがセプテムだよね エミリー: え……水の、壁……? これが断絶の海ってやつぅ? クレア: ほんとに水が空に吸い込まれてるみたい パラケルスス: その通り。これを通過することは並大抵じゃない。この水圧を目の当たりにすれば、水の威力ってものがよくわかるだろ? シンデレラ: 確かに……でも、それじゃあセプテムはどこに行こうとしてるのかしら パラケルスス: だよね。さっきから、このあたりをぐるぐる回っているだけのような…… ティンカー・ベル: うあっ!? すごい風……ってあれ、『フォルクス・ゲヘナ』じゃんっ!? エミリー: あれだけ大きい人型の機械って、すごく威圧感あるねぇ シンデレラ: 手にしている武器……あれは剣? 『セカンドハンド』だったわね、確か ティンカー・ベル: あんなの振り回して当たったらやばいよ! セプテムをなんとか説得して、降りるように言わないと…… ヴェルメリオ: ……セプテムも、ただじゃすまない 衛兵1: コントロールより各機へ! レオナ様から提供されたレーダーに強い反応あり! 作戦展開中の海域に目標ベータが存在する可能性が高い レオナ: おっ、マジで? 雨依: いまの連絡って、もしかして……レオナが作ってたやつ? レオナ: 言ったでしょ。時計の針を探す装置くらいは作れるって。つまり…… パラケルスス: 時計の針も、この海域にあるってことか ペロー: 無人機も動かしておいたのでしょう? それなら当分、連中は向こうに釘付けです。さあ、急ぎますよ 男: ペローさん、船が到着しました! ペロー: ふふっ……それでは行きましょうか、ピュルテ ピュルテ: はい…… ペロー: まだ自分の足で立つこともままならないのに、返事はきちんとできるのですね。どうやらうまくいっているようで、何よりですが…… ペロー: 再構成するにはもう少し時間がかかりそうですね。本質的に私の作品でない以上、根本から『作品理解』をすることは難しい ペロー: それでも、『声』を届け続けてきた積み重ねが、ここに活きてくるわけですから……何が起こるかわからないものですね ピュルテ: 声…… ペロー: ええ。聞いたでしょう? 『人間さんとふたりきりで話すべき』と…… ピュルテ: ――っ!? ペロー: 『朝日が美しい、あの場所で……』 ピュルテ: あ、あぁっ…… ペロー: この国に来て間もないあなたが、あの場所の朝日が美しいなど知るはずもないのですがね。あなたは私の声に導かれた。まるでそれが自分の意志であるかのように ペロー: 黒鉄の歯車を狙う勢力がいたことは好都合でした。今回の作戦の最大の山場だった誘拐も、うまく手薄になりましたし…… ペロー: おかげで人間さんを消すことにも成功した。これ以上ない成果です ピュルテ: あ、あぁっ、う、うぁ、人間さん、さ、んっ…… ペロー: おっと……まだ『侵食中』の不安定な状態で、刺激的なワードは控えないといけませんね。大丈夫、もうすぐ心安らかに生きられますよ ペロー: レグルスの能力で人間界に行き、エルマイト保持者を発見し……私のところに連れてくる。その任務さえ果たせば、あなたは自由です 男: それ、運びますか ペロー: ええ、お願いします。ストレッチャーの台車が不安定なので注意して…… (ドゥウンッ) 男: な、何だ!? 船から火が……! ペロー: これは、魔法攻撃!? バカな、ここは黒鉄の国ですよ!? まさか奴らの仲間が…… バエル: その子を放しなさい ヴィネ: 大切な人を、奪わせはしません! そうですよね、人間さん! ペロー: な……人間さんっ!? あなた、どうして…… 377 - ペローの疑念 ペロー: 人間さん、どうして生きているんです……!? あなたは確かに車とともに吹き飛んだはず……! ベリアル: さー、悪巧みもここまでやで。観念してもらおか ペロー: いったい誰なんです……? いつもの連中の仲間ではない……歯車を狙っていた第3勢力と手を組んだのか? ペロー: まさか、レグルスが私を切り捨てにかかった……? ザガン: ちなみに―― (ドゥウンッ!) 男1: うおっ、また船のどこかが爆発したぞ! ザガン: これは魔法じゃないわよ。錬金術っていうものなの ペロー: 錬金術ですって? ザガン: とっても大きなお船だったから、こうするのが一番かなって。錬金術は組み合わせて新しいものを作るだけじゃないんだよ~ 男1: ペローさん、船の機関部が……なんというか、バラバラに…… 男2: 船底に穴がっ! どんどん浸水してます! ペロー: なんですって!? いつの間に…… ザガン: おねえさん、分解するほうが得意だったりして。ふふっ ペロー: なるほど、錬金術…… ペロー: 理屈は彼女の言うとおりだが、何の詠唱や儀式もなしに簡単にはできない。しかも距離もある…… ペロー: かなりの術者だ。ライブラの直弟子か……? レグルスめ、こんなカードを隠し持っていたとは ベリアル: もう姉ちゃんはどう見てもおしまいやろ。おとなしゅう、その子を渡さんかい ペロー: ちっ……このままでは……。仕方ありません、イチかバチか……! バエル: あっ、逃げるつもり!? この期に及んで見苦しいね! ベリアル: ちっ、ピュルテを乗っけた台車みたいなアレ、車輪がついとるんかっ…… バエル: でも、あんなもん転がしながら逃げ切れるはず……きゃっ!? (背景切換...) ザガン: けほっ、けほっ。煙幕だわっ、こんなものまで持ち歩いてるなんて ヴィネ: ここまで来て逃がすわけには……! ザガン: あらっ、この音は……エンジン音!? (背景切換...) ベリアル: 車や! まだ隠しとったんかいな! ザガン、はよ! ヴィネ: きゃっ、ぶつかるっ! 人間さん、危ないっ!! バエル: あいつ、ポチを轢き殺す勢いで突っ込んできたんだけど! ザガン: ダメだわ……スピードが速すぎて、捉えきれないっ…… ベリアル: いらんこと考えんと、素直に吐いたほうが身のためやで 男1: ほ、ほんとに、俺たちは金で雇われただけで、詳しいことは知らないんですよ! 男2: この船で怨棄諸島まで行くってことだけで…… ヴィネ: 怨棄諸島? なんで、あんなところに行くんでしょう ザガン: ペローちゃんだって、黒鉄の国が本拠地ってわけじゃないんだもの。隠れ場所も、そんなにたくさん用意してるとは思えないわ バエル: じゃあ隠れてやり過ごすよりも、勝負に出るかもね。ピュルテを連れて行くのが目的なんだから、別の方法でなんとかやりきるとか ベリアル: せやけど、船は東西どっちかの港からしか出せへんで。西側の港はいま大騒ぎしとるとこや。ペローかて近づきたくないんちゃう バエル: そのリスクをとってでも、っていう覚悟を決めて勝負するんじゃないの? ヴィネ: いえ……そもそも目的地は怨棄諸島なんでしょうか。あんなところにピュルテさんを連れて行っても何もなりません ザガン: それもそうね。なーんにもない場所だもの。けど、目的地は怨棄諸島だったんでしょう? 男1: あ、ああ。本当だ、信じてくれ ベリアル: ペローに言わされとるんちゃうか? バエル: 私たちが飛び込んできたのは偶然だよ。そんなことまで準備してないんじゃないの ヴィネ: 上の世界に行くつもりなんじゃないでしょうか。もっと言えば、さらに上……天空神殿が目的地とか ベリアル: 兄ちゃんもそう思うんか? ウチら、それぞれの目的とか状況はよう知らんからな。兄ちゃんがそう言うんなら、まあそうなんやろ ヴィネ: ルートは限られますよね。アンダーフォール、ディーテ大瀑布、そして…… ザガン: 怨棄諸島の上空にある『穴』ね。でも、あんなところどうやって行くのかしら ヴィネ: もしかすると、SGRの航空機を手に入れていたのかもしれません。あの機体なら垂直に上下移動ができますし ベリアル: ほな別ルートで上に行くんやったら…… バエル: ディーテ大瀑布の水流に逆らうのは無理でしょ。アンダーフォールは封鎖されているし…… ヴィネ: ええ。SGRタワーの直通エレベーターを狙うつもりです! ヴェルメリオ: ……攻撃の勢いはすごいけど、セプテムの機体を壊そうとはしてないみたい……? エミリー: そうだねぇ。なんとなく手加減してるよねぇ クレア: 打ち込むミサイルも、なんか爆発しないし パラケルスス: 当然だよ、言っただろう。『フォルクス・ゲヘナ』は黒鉄の歯車を自動追尾するようにできてるんだ パラケルスス: 歯車ごと吹き飛ばしてしまっては本末転倒だからね。相手を無力化するだけで、殲滅することは目的じゃないんだ シンデレラ: 周りの無人機は容赦なく壊してるけど、それってつまり、セプテムのところに歯車があるってわかってるわけ? レオナ: 特殊な構造物は、必ず特殊なエネルギーの波形を持ってるからね。感知することは難しくないのよ 雨依: あ、みんな、誤解しないでね。めちゃくちゃ難しいから。レオナだから簡単そうに言うだけ ティンカー・ベル: いやまあ、簡単だからって試してみようとは思わないけど…… クレア: じゃあ、セプテムが歯車を持ってるのは確実だね クレア: けど、ピュルテもさらったの? 歯車もピュルテもなんて、欲張りだね パラケルスス: ……確かに 雨依: 何か気になることでもある? パラケルスス: クレアの言う通り、欲張りすぎだ。もし同じ人物――たとえばぼくが、ピュルテと歯車の両方を手に入れたいとして、この展開は避けたい シンデレラ: そうね……セプテムひとりが捕まれば、すべて台無しになってしまうわ エミリー: リスク分散、ってやつだねぇ パラケルスス: 運ばせるのも別の人物に、そして場所もここから離れたルートを選択するべきだろう。とすると…… ヴェルメリオ: ……ピュルテは、あそこにいない? パラケルスス: あくまで可能性だけどね 雨依: 捕まえてみればわかることでしょ。さっさと撃墜するわよ! ヴェルメリオ: ……そうだね。セプテム以外は全部、片付けちゃおう ティンカー・ベル: 雨依もずきんも過激だなぁ…… ドロシー: みんな! 聞こえる!? ティンカー・ベル: えっ、その声……三つ編み!? 378 - 歯車と針 シンデレラ: ドロシー! いままで何してたの? リルは? ドロシー: リルも無事よ。いま、残ったSGRの人たちと一緒にタワーの中を巡回しているところ ヴェルメリオ: ……巡回? 何があったの ドロシー: 『本物の』SGR司令官が更衣室のロッカーから簀巻きで見つかったわ。私たちが話していた司令官は偽物……怪人二十面相、遠藤だったの シンデレラ: 遠藤さんが!? ドロシー: ええ。私とリルで正体を見破ったまでは良かったんだけど、『フォルクス・ゲヘナ』に乗って逃げられちゃったのよ ティンカー・ベル: えっ……うそ、だってそれ…… ドロシー: そう、あれは歯車を自動的に追いかけるんですってね。けど、こうも言ってたわ。狙いは『時計の針』だって―― シンデレラ: それじゃあまさか、時計の針って ドロシー: ええ、時計の針は、黒鉄の歯車だったのよ レオナ: いやいや、それはありえないって。だってそれ、両方とも私が作ったのよ? ドロシー: ええっ!? 歯車もレオナが? 雨依: だってこの国の技術って、レオナが憂さ晴らしでいろいろ作ったものがほとんどなのよ クレア: 憂さ晴らしで国を作っちゃったの パラケルスス: オーバーテクノロジーについては、天空神殿がかなり厳しく規制をしてきたからね。上の世界では自由にやらせてもらえなかったんだよ レオナ: いまの時計の針が、どんな形をしてるかは知らないけど……それぞれ別に作ったんだもん。合体してひとつになる、なんてありえないわ ドロシー: でも、それじゃあ……遠藤は何のために歯車を盗んだりしたのかしら ヴェルメリオ: ……しかも『フォルクス・ゲヘナ』を使って奪い返そうとしてる、のかな……? エミリー: ってことはセプテムは、遠藤さんの指示で動いてるってことだよねぇ? パラケルスス: ねえ、レオナ。もしかしてだけど……『フォルクス・ゲヘナ』が時計の針、という可能性はないかな レオナ: んー、可能性はあるかも。こいつ自体は歯車ができてしばらくしてからSGRが作ったけど…… レオナ: 細かいパーツの交換とかはしてると思うし、それが時計の針だった……ってことはあり得るかもね ドロシー: そっか、そうだったのよ! 『フォルクス・ゲヘナ』が起動する条件のひとつ、歯車が奪われること……。それを達成するために盗んだのよ! 怪人二十面相: セプテム、聞こえる? そろそろ頃合いだからいくよ 怪人二十面相: 段取り、覚えてるよね。私がこいつの波念砲で水柱を吹き飛ばす。その一瞬の間に、セプテムは向こう側へ行く セプテム: 少し経ったらもう1回、波念砲で吹き飛ばす。そのとき、怪人二十面相は武器『セカンドハンド』を投げて私に攻撃する。私はそれをかわして戻ってくる 怪人二十面相: ねえ、本当にこれでいいの? 水柱をかいくぐるなんて、かなり危険な賭けよ。セプテム自身が通り抜けなくても、歯車を射出すれば済むのに セプテム: いいの。他との兼ね合いがあるから、歯車を失うわけにはいかない 怪人二十面相: あなた、この状況で恩返しを掛け持ちしてるの!? セプテム: スケジュールが厳しくて セプテム: それより、怪人二十面相の恩返しはそれで完了だよね。そしたら、私はこの機体でそのまま遠くに逃げるけど 怪人二十面相: ええ、私はこれで十分よ。でも、これだけの追手を相手にして、まだ逃げるつもりなの? セプテム: 他との兼ね合いがあるから 怪人二十面相: 別にいいんだけど……私の依頼はしくじらないようにしてよね。それじゃあ、いまから波念砲のエネルギーをチャージするから、また合図する セプテム: 了解 セプテム: ……もう、現地に向かっていいのかな。後で連絡しなくちゃ (背景切換...) ペロー: ふぅ……なんとかここまでは来れましたね。後はエレベーターを操作して、ピュルテを天空まで運ぶだけですが…… ペロー: セプテムが惹きつけてくれているおかげで、タワーの警備はかなり薄いですね。それは好都合ですが、しかし……エレベーターを動かせるでしょうか ピュルテ: ん……こ、ここは……? ペロー: もう少し眠っていなさい。いまあなたに動かれると面倒です ピュルテ: うっ……!? ペロー: この注射薬もあまり濫用したくはないのですが、仕方ありませんね。さて……ああ、コントロールパネルがアンロックされていますね ペロー: ん……? こんなときに通信機が……? セプテム: こちらセプテム。もう怨棄諸島に向かっていい? ペロー: ああ……いえ、少し事情が変わりまして。もう恩返しは完了で構いませんよ セプテム: そう? わかった ペロー: 部外者でも操作できる状態に……何故でしょう。まあ、好都合ですし、考えている余裕はありませんね。さっさとピュルテを積み込んで…… ヴィネ: そこまでです! ベリアル: 見つけたで、姉ちゃん ペロー: なっ……こんなに早く……っ!? ベリアル: 見つからんようにこそこそ移動しとったんやろ? ウチらはまっすぐ全速力でここまで来たんや。さすがに先回りはできんかったけどな ペロー: 行き先を読まれていましたか……。もともと選択肢も少ない、読まれてしまうのも仕方ありませんね ペロー: ですが、もうエレベーターは起動しています! 後は行き先指定するだけ……! バエル: そこから離れなさいっ! ペロー: くっ、ピュルテだけでもエレベーターに……! バエル: 離れろって言ってんのよ! ペロー: ぐふぅっ!? か、はぁっ……なんて、馬鹿力なんですか……。でも、残念でしたね ザガン: ああっ、エレベーターが! ペロー: 動き出してしまったら止まりませんよ ヴィネ: くっ……仕方ありません。少々乱暴な手ですが、あれを使うしかありませんね ベリアル: しゃーないわな。ほな、連絡入れるで ペロー: ふん、無駄なあがきを…… ベリアル: あー、あー。聞こえるか? 歯車、まだ持っとるやんな? セプテム: うん、持ってる ペロー: ……? その声は…… ベリアル: 操作方法はわかるな セプテム: うん、調べておいた。ベリアルさんの恩返しだったから ベリアル: ほな、最後はヴィネからのお願いや ヴィネ: 速やかに、歯車のスイッチを切ってください 379 - 止められた歯車 怪人二十面相: よし……波念砲のエネルギーチャージ80%……あとちょっとね クレア: なにあれ、なんかすごい光ってるけど レオナ: 波念砲……高濃度のエルマイトを圧縮したエネルギーを蓄積してるのよ。あれを瞬間的にはじき出すことで、周囲にすさまじい衝撃を与えられる レオナ: 射程はそんなに長くないけど、かなりの威力を持っている武器よ。でも、あんなところで、なんでいきなり使おうとしてるのかな ヴェルメリオ: ……止めなくていいの? あれ、セプテムを狙ってるんじゃ シンデレラ: けど、うかつに飛び込めば私たちも危険よ セプテム: こちらセプテム。オープン回線で、この海域のみんなに連絡してる エミリー: えっ!? セプテム!? ティンカー・ベル: ちょっとあんた、何やってんの! 早くそこから降りてごめんなさいして! セプテム: いまから10秒後、私は歯車の稼働を止める。みんな、準備して。以上 ティンカー・ベル: いや以上じゃないって! エミリー: ティンカ、いまのはセプテムにはこっちの声が届かない通信なんだよぉ? 雨依: それより歯車を止めるですって! まずいわ、みんな緊急脱出の準備して! ヴェルメリオ: ……な、なんで? レオナ: 歯車を止めるってことは黒鉄の国のシステムがすべてダウンするのよ! 航空機もコントロールされてる。このままじゃ墜落しちゃうわ! シンデレラ: ええっ!? ちょ、ちょっと、緊急脱出ってどうやるんだっけ!? クレア: これはピンチ (背景切換...) 衛兵1: 全システムがダウン、非常用電源に切り替わります! 衛兵2: ………… 衛兵1: ああ、くそっ。こいつはアンドロイドだったっけ ドロシー: なにこれ、どうなってるのよ!? 現場の映像も、全部途絶えちゃったけど 衛兵1: マスターシステムがダウンしたんです。システム制御されているすべてのものは稼働を停止しています ドロシー: 換気してた穴も空気の動きが止まったけど、これもシステムだったの? 衛兵1: 照明は一応、非常用が稼働します。しかし自動ドア1枚とっても、システムでコントロールされてますから…… ドロシー: これが歯車を盗まれたときに起こること、ってわけね。そりゃ必死になって取り返そうとするのも当然だわ ドロシー: ねえ、みんなは大丈夫なの? 衛兵1: 何せ通信システムも復旧していないのでわかりません。脱出できていればいいのですが、そうでなければ航空機もコントロールを失って墜落します ドロシー: そんな……! リル: いったい何が起こった……!? くそっ、状況がまるでわからない。通信機も使えなくなるし、ドアも開かないし、どういうことだ リル: エレベーターも当然、使えないだろうな……ん? リル: エレベーターの扉が開いている……? ちょうどこのフロアにカゴがあったのか? リル: なんだ、台車のようなものがあるな。上に載せられているのは……まさか、人か? おい、大丈夫か…… ピュルテ: んん…… リル: ピュルテ!? どうしてこんなところに……いや、それより早くこっちに…… (ガコン) リル: ――っ! カゴが!! (…………。) ペロー: バカな……まさかシステムをすべてダウンさせてエレベーターを止めるなんて…… ザガン: うちのヴィネちゃん、こういうときすごく思い切りがいい子なのよ~ バエル: 普段まじめなやつのクソ度胸って恐ろしいよね ヴィネ: たぶん途中でカゴが止まっているはずなんですが、そこまでは非常階段で上がっていくしかありませんね ベリアル: めっちゃ速いらしいから、あの一瞬でもだいぶ上に行ってもうたやろなぁ。これ上がるのしんどいで ヴィネ: え? 人間さん、何か聞こえないかって……風切り音? バエル: ちょ、ちょっと! ワイヤーが動いてる! それ、まさかカゴが落ちてきてるんじゃ!? ヴィネ: そんな、システムを切っただけでどうして……っ!? ベリアル: このままやと……ピュルテはカゴごと地面に叩きつけられて……えらいことになるで! ペロー: なんですって!? ふざけないでください、ピュルテを奪われるだけならまだしも、死なせてしまうわけにはいきません! ペロー: どれだけ苦労してきたと思ってるんですか……! ベリアル: 兄ちゃん、どうするつもりや!? システムダウンしとるんや、コントロールパネルなんか触ってもどうもならんて! バエル: エルマイトを直接流し込む……? ポチにそんなことができるわけ? ヴィネ: ……わかりました。やってみましょう。止め続けることは無理でしょうが、落ちる速度をゆっくりにはできるかもしれません ヴィネ: 私はこのパネルでカゴを操作します。人間さんはありったけのエルマイトをお願いします! ベリアル: アカン、風切り音が近なってきたで! はよ止めんと! アイソーポス: ふう……だいぶ資料がまとめられたよ。フアナが手伝ってくれたおかげだ、助かった フアナ: ううん、これくらいお安い御用だよ。とは言うものの、かなり大変な作業だったけどね アイソーポス: そうだろう。とてもひとりでは無理だ。量もそうだが、心が折れてしまうからな。そばに誰かがいるだけで励まされるものだ アイソーポス: 紅茶で良ければどうだ。少し休憩しようじゃないか フアナ: うん、ありがとう。……ここで、アイソーポスさんは研究してたんだね アイソーポス: ああ。まったく学のなかった私が数々の知識を身につけた場所であり、友と呼べる存在ができた場所だ アイソーポス: それまでの私は、作品以外の誰かと深く関わる機会はなかったからな アイソーポス: 消えゆく物語を追いかけるばかりで、自分が幸せを感じるものとは何か、十分に考えていなかった フアナ: それだけ献身的に誰かを救ってことでしょ。すごいことだよね アイソーポス: いや、どこか取り憑かれていたんだよ。当時の私はね アイソーポス: もし誰かの幸せを望んで行動するのなら、まず私自身が幸福でなくてはいけない。幸福を知らない者に、他者を幸福にはできないのだから フアナ: ……それは、ここで得た知識? アイソーポス: ここで得た学びだが、知識ではないかな。さて、どうぞ フアナ: ありがとう、いただきます。そう言えばティーカップの場所もしっかり把握してるんだね。やっぱりここの出身なんだ、って変に感心しちゃった フアナ: あれ? でもアイソーポスさんって確か、紅茶よりコーヒー派じゃなかったっけ アイソーポス: ああ、そうだな。ただ、ここに来ると紅茶が無性に欲しくなるんだ アイソーポス: それは私にとって大切な何かなんだ。私がここで過ごした時間のなかで、ある一箇所だけがぽっかりと空いていて……紅茶もその一部なんだよ フアナ: それって…… アイソーポス: 大切な、きっと友人だったはずだ。その人を私は永遠に失ってしまったんだよ アイソーポス: 失ったという事実だけは胸に深く刻まれている。それが、いまの私の原動力だ。もう、悲劇は繰り返させてはいけない フアナ: アイソーポスさん……そんなことが…… アイソーポス: さて、もう少し具体的に調べる必要はあるが、おおよその方向性は見えてきたな フアナ: 改変GR2をやりきった後のこと、だよね アイソーポス: ああ。どうカスタマイズするにせよ、GR2が完了すれば……元のグランド・リヴィジョンは不要なものになる。これが最大の交渉の鍵だ 380 - GR移行プロセス アイソーポス: 創造期の状態から現在のあり方に変えたのがグランド・リヴィジョンだ。しかしGR2が始まるなら、役割が重複することになる フアナ: でも、術式の資料を見た感じだと、GR2は元のグランド・リヴィジョン――GR1と同じものではないんでしょ? そんなに簡単にスライドできる? アイソーポス: ウィラに確認は必要だが、おそらくGR1をすべて解除することは難しいはずだ。GR1の効力をベースにしているのがGR2、ということらしいからな アイソーポス: ただ……十二神官を犠牲にする方式は、あくまでも強力なエネルギーを調達するための手段だ。GRを維持しながら封印を解除することも不可能じゃない フアナ: エネルギーを調達する、代替の方法が見つかれば……だよね アイソーポス: ただし、これについては現時点で、私とフアナのふたりだけの胸にとどめておこう。予想はできても、確実に可能だとは言い切らないほうがいい フアナ: わかった。秘密は守るよ。けど、ここの資料を読めばわかることなんじゃないの? アイソーポス: だから、すべて持ち出すんだ。そしてビブリオ・アンティークの禁書庫に保管する。それをフアナに頼みたい フアナ: ……! わかった アイソーポス: 本当のところは、資料をこの場で燃やしてしまうのが確実かつ簡単な方法なんだが……どうにも私は、本を燃やすという行為に強い抵抗があってね フアナ: それはそうだよ。あたしだって嫌だ アイソーポス: ふふっ……作家だから、だろうな。そういうわけだから、少々嵩張るし重いんだが、頼まれてくれ フアナ: 大丈夫。本を持ち歩くのには慣れてるんだ。あたし、自叙伝っていうのを大量にいつも持ってて アイソーポス: ああ、あれか。なかなか興味深い内容だったな フアナ: えっ? 読んでくれたの!? アイソーポス: え? そりゃあ、もちろん。せっかくもらった本だ、読まない理由はないだろう フアナ: そ、そうなんだ……! アイソーポス: さて、慎重に進めなくてはな。ライブラ復活となれば、どの陣営も黙っていないだろうから…… (ガタン) アイソーポス: ん? 何かいま物音が聞こえなかったか? フアナ: え? あたしは気づかなかったけど アイソーポス: ……そうか。気のせい、だろうな…… デュプリ・ライブラ: ………… ティンカー・ベル: ぷはぁーっ! やばい、死んだかと思ったよ! シンデレラ: はぁ、はぁ、今回ばかりは本当にいよいよダメかと思ったわ パラケルスス: みんな、無事なようだね。脱出訓練もしていないのに優秀だ エミリー: セプテム、なんでいきなりあんなことしたんだろ……って、ちょっと! あそこに浮いてるのセプテムじゃない!? ティンカー・ベル: ティンカ、ひとっ飛びして助けてくる! ヴェルメリオ: ……SGRの人たちが、空からだけじゃなくて船も出動させてくれてて、ほんとに助かったね 雨依: ええ、本当にね。その巡視艇もシステムが落ちちゃってるから、海の上に浮かぶ葉っぱみたいな機能しかないけど ティンカー・ベル: セプテムは無事だよーっ シンデレラ: 良かったわ、無事で。ねえ、あなたに何があったのか聞かせてくれない? きっと恩返しのせいなんでしょ? セプテム: うん……怪人二十面相と、ペローと、それからヴィネに恩があったの ヴェルメリオ: ……ヴィネ? って、誰? シンデレラ: いえ、それより遠藤さんとペロー!? なにそれ、どうなってるのよ! クレア: うあっ エミリー: クレア、いま大事なところだから、変な声とか出してふざけちゃだめだよぅ クレア: そうじゃないよ。みんな、あれ 雨依: きゃああっ!? この衝撃波、まさか『フォルクス・ゲヘナ』の波念砲っ!? システムダウンしたんじゃないの? レオナ: あいつだけは対象外なのよ。当たり前でしょ、歯車を追いかけるための装置なんだから、コントロールできちゃったら盗まれ放題で存在価値ないでしょ パラケルスス: ということは……この海にいるやつらのうち、まともに動く機械というのは、あのデカブツだけってことかい レオナ: そう! だから盗んだ犯人も、スイッチを切ったりは絶対しないの。生身の自分とアレがやり合うことになるわけだから ティンカー・ベル: マジか! え、セプテム。歯車はどうしたの? セプテム: 放り捨てた ティンカー・ベル: なんでそんなことしちゃうかなーっ!? エミリー: でも待って、おかしいよぅ! 歯車はセプテムが放り捨てたなら、なんであのでっかいのはこっちを狙ってるっぽいのぉ!? クレア: やっぱりあれ、そうだよね。私たちのこと狙ってるよね? セプテム: 中には怪人二十面相が乗ってる シンデレラ: じゃあ遠藤さんの意志ってこと!? ちょっと! いますぐ攻撃をやめなさいよ! 時計の針が狙いなんじゃないの!? 怪人二十面相: 私だって止めたいのよ!! ティンカー・ベル: お、声が聞こえた! スピーカーみたいなのが付いてるのかな 怪人二十面相: けど、全然いうこときいてくれないの! 雨依: レオナ、これなに? 暴走? レオナ: うーん、たぶんそうだろうねぇ。要因は複合的なものだとは思うけど パラケルスス: ぼくは専門外だからさっぱりだけど、こういうものって繊細だって聞くからね。想定した通りに動かすには、何度もテストをしなくちゃいけない パラケルスス: でもこいつは、その特殊な役割のせいで、実践形式でのテスト機会がなかなか少なかったんだろうね ティンカー・ベル: そんなこと淡々と説明してる場合じゃないでしょ! 怪人二十面相: もう、なんで……っ! 途中までいい感じに進んでたのにっ。セプテム、どうしていきなりシステムダウンなんてさせたのよっ セプテム: 他の恩返しがあったから。ダウンさせても怪人二十面相の恩返しはできるし セプテム: 武器を投げ捨てて、緊急脱出すればいいのに 怪人二十面相: だーかーら! 操作ができないんだってば! 武器もリジェクトしてくれないのよっ 雨依: なんか方法はないの? レオナ レオナ: 緊急システムを起動すれば、多少は制限あるけどSGRの設備の半分くらいは稼働するんだけど ヴェルメリオ: ……だけど? 何か問題があるの? レオナ: システムの起動方法が複雑なんだよね。正直、私でもよくわかんない エミリー: ええっ、レオナが作ったんじゃないの!? レオナ: システムとかは私だって専門外よ。友達にまかせっきりだったから…… クレア: 万事休す……? 381 - ペローの撤退 ヴィネ: 止ま……った……? ベリアル: やったで! 兄ちゃん、さすがや! やるやないか! バエル: また動き出したら大変だからね。ザガン、早くこの子を外に運び出すよ ザガン: ええ。かわいそうに、頭とか打ってないかしら ペロー: くっ……今回は私の負けを認めなくてはいけないようですね。しかし、これで終わりとは思わないことですよ、人間さん ペロー: まさか奇跡の生還を果たすとは思っていませんでしたが……いいでしょう。布石は打ってありますし、この場はこれで ベリアル: おい姉ちゃん、なに逃げる気まんまんになっとんねん。このまま逃がすわけないやろ…… ベリアル: うぉっ!? な、なんや、身体が動かんっ…… ヴィネ: これは麻痺魔法っ!? でも、ここは黒鉄の国……あっ! バエル: システムダウンさせたから、魔法を無効化する結界も一緒に……? ペロー: そういうことです。なあに、数分程度しか効きませんよ。私が撤退するには十分な時間ですが ザガン: ううっ……逃げちゃうわ……! (背景切換...) リル: ふうっ、やっとここまでたどり着いたか……。ドロシー殿、状況はどうなっている ドロシー: どうもこうもないわ。メインシステムっていうのがやられちゃって、情報も何も入ってこないし、手も足も出ないのよ リル: ということは、タワーの中で異変が起きていないか確認することもできないのか ドロシー: だから、そう言ってんじゃない! リル: わかった。実はエレベーターでピュルテを見つけたんだ。しかし、小生が到着する前に、エレベーターのカゴが落下した ドロシー: え……落下って!? リル、あなた何階で見たのよ、それ! リル: 15階だ。異変を察知してSGRが対応しているかと思ったが……この様子では絶望的か…… ドロシー: 人間さんに続いてピュルテまで……? どうして、こんなことになったのよ…… ドロシー: 普段、オトギノクニきっての大魔法使いだなんて偉そうなこと言っておいて、こうして魔法を封じられたら私は何もできない……っ! リル: 自分を責めるな。無力感は小生も同じだ…… リル: とにかく、地下に行ってくる。ピュルテのそばにいると約束したんだ、迎えに行かなくてはな。どんな状況であれ…… ドロシー: リル……ええ、わかったわ リル: システムの打開策はないのか? これ以上、仲間を失うわけにはいかないだろう ドロシー: 緊急システムっていうのを起動しようとしてるところよ。それがうまくいけば、連絡くらいはとれるはず リル: わかった。そっちは続けてくれ 怪人二十面相: ま、また大きいのぶっ放しちゃうっ! みんな、伏せて!! 雨依: こんなの、生身で戦うのとか無理すぎるでしょ。どうすればいいのよ、レオナ レオナ: 結局、拠点から離れて行動してるわけで、電力が不足すれば稼働できなくなると思うわ パラケルスス: 緊急用の装置なんだろ。そう簡単に電力切れになるのかい レオナ: 12時間くらいで停止すると思うわ。だいぶ暴れてるから、もうちょっと短いかも シンデレラ: そんな長時間、耐えきれるわけないでしょ!? クレア: 私たちが逃げても追いかけてくるもんね エミリー: 遠藤さんを見捨てるわけにもいかないし セプテム: なんか、ごめんなさい ティンカー・ベル: いやあ、セプテムが悪いとも言い切れないし。でも、なんで投げ捨てちゃったの? セプテム: 緊急脱出するとき、波念砲のせいで水柱が消えてたから ヴェルメリオ: ……それ、理由になってる? セプテム: 怪人二十面相とは、そういう約束だった。最初は、ヴィネとの約束があるから、私が持ち運ぶことになってたけど シンデレラ: それ、どういう意味があるのかしら……? ちょっと遠藤さん! そろそろ知ってること、全部話してくれてもいいんじゃないの!? ティンカー・ベル: じゃないと、見捨てて行くからね! 怪人二十面相: わ、わかってるってば! 私の狙いは時計の針、つまり……『フォルクス・ゲヘナ』の持ってる、この剣だったのよ! ヴェルメリオ: ……剣が、針? パラケルスス: なるほど。思ったより形状は変わっていなかったのかな 怪人二十面相: 時計の針を盗み出すために、コイツを起動して……そして武器を水柱の向こうに投げれば、後からゆっくり回収できる、っていう計算だったのよ 怪人二十面相: けど、コイツは歯車を取り返すためにしか行動できないようになってる。だから、歯車が水柱の向こうにあれば、剣を投げる理由付けができると思って…… ヴェルメリオ: ……そのために、波念砲で水柱を吹き飛ばしてたんだね 怪人二十面相: けど、武器も手放そうとしないし、勝手に暴れまわるしで、手がつけられないのよ! シンデレラ: ……仕方ないわ。相手が大きかろうが、機械だろうが、やるしかないのよ。私たち全員で協力して、こいつの暴走を止めるわよ! ドロシー: それにしても……なんなのよ、これ! たかがシステムを起動させるだけで、なんでこんな複雑なことやらせるのよ ドロシー: こんなの素人の私がわかるわけないじゃない! 作ったヤツ、頭おかしいんじゃないの! SGR司令官: すみません、我々もお役に立てなくて……。ただの腕自慢なので、こういった頭を使うものはちょっと ドロシー: あなたたちは別に悪くないわよ。この操作マニュアルに名前があるバベッジっていうのが作ったやつかしら。こいつ本人にやらせたほうがいいんじゃない? SGR司令官: それが……バベッジさんがいまどちらにお住まいなのか、記憶している者はいないんです 衛兵: いつでもデータを取り出せるので、覚えておく必要がなくて…… ドロシー: そのデータが、この状況じゃ見られないって……こういうの、なんていうのかしらね。因果応報? それは違うか ドロシー: 早くしないと……ヴェルやクレアは海で、まだ戦ってるかもしれないんだから…… ドロシー: ねえ、システムが復帰すれば船は動かせるのよね? SGR司令官: SGRの高速巡視艇なら、現場までは15分ちょっとで着きます ドロシー: 人を揃えて準備しておいて。復帰次第、すぐに出るわよ 衛兵: 了解です! ドロシー: えーと……このときの数式の解が、ここのポイントを示して……はあ? じゃあこっちが……あ、違うか…… ドロシー: ……。……人間さんも、ピュルテも、どうして死んじゃうのよ……っ。う、ううっ……どうして、私は助けられないのよ!! ドロシー: どうして! どうしてなのよ!! ドロシー: ……情けないわね。こんなふうにモノに当たっても何も解決しないのに。再起動する前に叩き壊しちゃうところだったわ (緊急システム、起動確認。セキュリティ通信システム、起動。データ送受信開始。交通管制システム起動……) ドロシー: えっ? な、なに? SGR司令官: システムが起動したんですよ! すごい、複雑なパスコードをあえて突破せずに、あっさりと……まるで、魔法です! ドロシー: そ……そうよ! 私は大魔法使いなんだから! 早く、みんなと合流するわ、船の準備はできてる!? 382 - 勝つための仄暗いエネルギー ティンカー・ベル: はぁ、はぁ……と、止まった……? レオナ: あの『フォルクス・ゲヘナ』を無力化できるなんて、大したものね。できると思ってなかったわ 雨依: 思ってないって、それここで全員心中するつもりだったって聞こえるんだけど。レオナ、勘弁してちょうだい ヴェルメリオ: ……なんか、人間さんがいなかったけど、普段とは違う力が出せた気がする クレア: それ、なんかわかるかも エミリー: そうだねぇ。人間さんからエルマイトもらうときとは別の、なんか……覚悟が決まってる感じっていうか ヴェルメリオ: ……わたし、人間さんが死んじゃったところを見て……すごく気持ちがざわざわしてた シンデレラ: ええ、そうね。みんなもそうだったでしょうけど、ヴェルは特に……空を飛び始めたところから、かなり攻撃的だったわ ティンカー・ベル: ミサイル、バンバン撃ち込んでたもんね ヴェルメリオ: ……いままで、ずっと森の中でのんびり生きてきたからかな。わたし、こんなに誰かのことを憎いって思ったの、初めてだったんだ ヴェルメリオ: ……許せない、って。人間さんを殺した人を、わたしが殺してやりたい、って……そういう気持ちがすごく強くなって ヴェルメリオ: ……自分でも怖くなるときがあった。自分が自分じゃなくなるみたいで。でもね、そういう気持ちがいまは力になったのも……本当だと思うの ティンカー・ベル: うん……それ、ティンカもわかるよ。ていうか、ちょっとした違いはあっても、みんな同じだったんじゃない? パラケルスス: なるほどねぇ……。実際に目の当たりにしたことはなかったけど、こういうことになるわけか…… 雨依: なに? パラケルスス、ニヤニヤして気持ち悪いわよ パラケルスス: いやいや、本当に偉大だなと思ってね。それより、中に乗ってた怪盗の彼女は大丈夫なのかな クレア: あ、そうだった ティンカー・ベル: あれっ? 遠藤がコクピットにいないんだけど! シンデレラ: ちょっと、これ見て! 予告状? いえ、ただの私達への手紙みたいだけど…… ヴェルメリオ: ……『時計の針は頂いた』。えっ? ヴェルメリオ: 時計の針は頂いた。さすがに持って帰るのは無理だけど、あなたたちが取り返せない場所にあるんだから、実質は盗んだも同然でしょ ヴェルメリオ: ていうことで、今回も怪人二十面相の仕事は鮮やかに成功したってわけ。追伸:セプテムにはなんか無茶させちゃってごめんね エミリー: あっ、あれ! 見えるかな? 水柱の向こう! うっすら水の向こうに影が見えるよね ティンカー・ベル: あーっ! でっかい剣! 名前、なんだっけ シンデレラ: してやられたわね…… ドロシー: あっ、いたわ! おーい、みんなーっ! 無事なの!? ティンカー・ベル: 三つ編み!! あれ、船が動いてる! ドロシー: 緊急システムを再起動させたのよ。あなたたちが乗ってるその巡視艇も、もう動かそうと思えばできるはずよ シンデレラ: ええっ、いつの間に? リル: やれやれ、慌てて駆けつけたが……どうやらなんとかなったようだな ヴィネ: セプテムさん、ご迷惑をおかけしてすみません。ありがとうございました セプテム: あっ、ヴィネ。なんか、私が失敗した? 大丈夫? ヴィネ: いえ、セプテムさんは悪くありません。システムダウンの影響が想像以上に大きかっただけで リル: だが、それも話を聞いたところ仕方ないことだった。ヴィネ殿の判断がなければ、ピュルテは死んでいたのだからな エミリー: ピュルテが? ヴェルメリオ: ……このひとがヴィネ……って、えっ、あっ……!? シンデレラ: 人間さん!? 生きてたの!? ドロシー: ほら、人間さん。みんなのところに行ってあげなさいよ。みんながどれだけ心配してたか 雨依: よかった……っ! レオナ: あっ、こら、雨依っ。仲間を差し置いて抱きついちゃだめでしょ! 雨依: だって……私、もう二度とあなたに会えないと思ったの。これが片付いたら、私もあなたのところに行こうって、もう気持ちを決めてたくらい…… 雨依: だから……こうしてあなたの温もりを確かめられて、本当に幸せ…… レオナ: ほら、仲間に少しは遠慮しなさいっての 雨依: あ、うん……ごめんなさい、つい感情が高ぶっちゃって…… シンデレラ: え、ええ、そうよね。気持ちはわかるわ ティンカー・ベル: う、ううっ、よかったぁ~! 人間さんっ、生きてたんだね! ほんと、もう、ティンカどうしようって思って、頭パニックだったんだから…… ヴェルメリオ: ……人間さんっ。わたし、わたしっ、ほんとに……もう、無理だったよ…… クレア: どうやって生き返ったの? 死んじゃったわけでもないの? リル: 積もる話もあるだろうが、まずは撤収準備をしようじゃないか。そっちの状況を聞かせてくれるか ヴィネ: そうですね。落ち着いたら私たちからも自己紹介させてくださいね シンデレラ: ええ、もちろん。全員、初対面よね ベリアル: まあ、兄ちゃんから話は聞いとったけどな ヴェルメリオ: ……そうなの? そっか、ちゃんとわたしのことも話してくれてたんだね エミリー: でも、エミリーたちはヴィネたちのこと聞いたことないよねぇ ザガン: ふふっ、それはしょうがないわねぇ。だって、そんな時間の余裕、なかったでしょ? クレア: どういうことだろ (…………。) (背景切換...) ドロシー: ふう……一応、一件落着ね。黒鉄の歯車は取り戻せたし ティンカー・ベル: 時計の針も、水柱の向こうにあるどこかにぶっ刺さってるのは見えてるし リル: あの剣が時計の針だったとはな。『セカンドハンド』という名前、てっきり『第二の手』という意味だと思っていたが…… ヴェルメリオ: ……『フォルクス・ゲヘナ』は壊れちゃったけど SGR司令官: どっちにしろシステムに不具合もありましたし、メンテナンスの必要がありましたから クレア: むう…… SGR司令官: な、なんでしょう? クレア: 偽物と区別が全くつかない シンデレラ: そこは遠藤さん、さすがプロの技術だったわよね リル: 貴君も無事に生還し、そしてピュルテも戻ってきた ヴェルメリオ: ……まだ目を覚まさないことだけが心配だけど リル: かなり強い薬物を打たれていたようだからな……まだしばらく目を覚まさないかもしれない エミリー: で、そういういろんなことを、裏からサポートしてくれてたのが……ヴィネたち、ってことだよねぇ ヴィネ: ええ。本当に皆さんが無事で良かったです。一時はどうなることかと想いましたけど 383 - 休息を求めて レグルス: ……ライブラ。ワタシはあまりにも弱いのです。もう、耐えきれないかもしれません レグルス: でもきっと、ライブラ……アナタだって、現状がベストだと思っているわけではないはず……きっと何か手立てがあるなら、そのほうがいいって思ってますよね……? レグルス: ワタシなんかより、アナタが必要なんです。この世界には、アナタが…… レグルス: ……ペロー。戻ってきたのですか ペロー: ええ。結論から申し上げますと、ピュルテを連れ帰ることはかないませんでした レグルス: ……そうですか ペロー: しかし、布石は打っておきました。後から効いてくるはずです。引き続きチャンスがあれば、狙っていけるかと レグルス: ……ええ。わかりました。ご苦労さまです ペロー: ……ん? レグルス: 引き続き、お願いします ペロー: ええ……。できるだけ、急ぐようにしますので、もうしばらくお時間をいただけますか レグルス: ええ、そうですね。できるだけ早く、お願いします…… ペロー: 覇気がない……最後に会ったときとくらべて、ずいぶんと感情の振れ幅が大きいですね。かなり精神的に不安定なのでしょうか ペロー: こういう状態になった人は……ときに合理的な判断を下せなくなる ペロー: 私を味方につける理由は提示してあげているつもりですが、理屈ではなく私を切り捨てる可能性もありますね……注意しておかなくては ペロー: それでは、私はこれで レグルス: ええ……ご苦労様でした…… (背景切換...) ペロー: さてと……レグルスはさておくとして、下準備はできました。次に会うときこそ必ず、ピュルテを私の手に…… ペロー: それにしても、あの見たことのない連中はいったい、なんだったのか……油断なりませんね…… ペロー: レグルスが私を裏切った場合の、プランBも用意しておかないといけませんし…… ペロー: ふう……疲れた状態で考えても仕方ありません。今日のところは荷ほどきをして身体を休めなくては……ん? ペロー: 荷物の隙間から、これは……古いノートだと思ったら、昔の蒐集メモですか。懐かしいですね ペロー: 私も……作家だったときがありました。多くを望まず、ただ自分の作品と穏やかに過ごせればいい……そのはずだったのに ペロー: いつから、道を間違えてしまったんでしょうね…… ヴィルヘルミナ: コーヒーのほうがお好みだったわよね。いま、用意させるわ アイソーポス: ああ、ありがとう ヴィルヘルミナ: ワタシたちの屋敷にまたあなたが来るなんてね。もっと頻繁に来てもらってもいいのよ ジャコヴァ: 釣りでも行くか? アイソーポス: そうだね。この一連のゴタゴタが終わったら、そういうのもいいかもしれないな ジャコヴァ: ふん、おもしろい。ゴタゴタを終わらせるつもりがあるのか? いまのところ、私の目にはお前が引っ掻き回しているように見えるのだが アイソーポス: 怨棄諸島のことを言ってるのなら、心外だな。私は賢者の石を手に入れる手伝いをしていたつもりだが ヴィルヘルミナ: あわよくば、主導権を握ろうとしていたんでしょ。まあ、別に責めるつもりはないわ。ワタシがその立場なら、同じように行動していたでしょうし ヴィルヘルミナ: ああ、いいわ。そこに置いてちょうだい。テーブルにはワタシが運ぶから アイソーポス: ありがとう、ヴィル。お茶請けは、これはティラミスかな ジャコヴァ: あっ アイソーポス: ん? どうした ジャコヴァ: なんでもない…… ヴィルヘルミナ: じゃあ、そろそろ本題に入りましょうか。まさか世間話をしにここまで来たわけじゃないでしょう? アイソーポス: GR2に関することだ。一歩ずつだが、実現に向けて前進している ヴィルヘルミナ: 時計の針は手に入ったのかしら アイソーポス: ああ。腕利きの怪盗に依頼してね。無事、在り処を発見し、断絶の海の向こう側に移動させてくれたと報告を受けている ヴィルヘルミナ: へえ、やるじゃない アイソーポス: ただ、それは実務的な部分の話だ アイソーポス: 術式を展開させるために必要な道具、あるいは知識や技術、こうしたものは準備が着々と進んでいる。進んでいないのは―― ジャコヴァ: 政治的な部分だな アイソーポス: そのとおり。GR2のカスタマイズが可能になったとして、では、どのような世界を作るのか、そのグランドデザインがまだできていない アイソーポス: 正確には、私の素案はあるが、コンセンサスが取れていない ヴィルヘルミナ: 論点は3つでしょう? エルマイトおよびディマイトの分配方式、管理権限の所在や構造、そして記憶の保持…… ジャコヴァ: うんうん ヴィルヘルミナ: このうち、人間さんたちが強く主張している3つ目、記憶の保持については、おそらく誰も反対しないわ。私たちも、天空神殿も アイソーポス: 私もそう思う。3つ目に関して最も反対していたのは、この私だからな ジャコヴァ: だが、曲げる気になったわけだ アイソーポス: 私の考えがまるっきり間違っているとは、いまでも思っていない。だが、あまりにも時間が経ちすぎてしまった アイソーポス: もはやここまで定着した現状をひっくり返すのは、GR1のときに起きた改変の強要と同じことになってしまうからな ジャコヴァ: しかし、ここで私たちと合意ができたとして、その後はどうするつもりだ。レグルスは交渉のテーブルにすらつかないぞ アイソーポス: ……わかってる アイソーポス: だからこそ仕掛けを用意してある。幸い、というべきか……天空神殿側で意思決定できる者はレグルスだけだ ヴィルヘルミナ: そうね。ペローがそこまで口出しできる立場ではないわよね。隣でこそこそ耳打ちして、いいように誘導することはありそうだけど アイソーポス: だから、交渉に引っ張り出すために条件を出したい。ふたりには、それを飲んでもらいたい ジャコヴァ: なるほど。もう読めたが、言ってみろ アイソーポス: ライブラを、復活させる ヴィルヘルミナ: な、なんですって!? そんなもの、許容できるわけないでしょう。あの役立たずのレグルスだから、エルマイトを握られても対抗できているのよ ヴィルヘルミナ: しかも交渉の場に引っ張り出すためのエサですって? あまりにも不釣り合いだわ。こちらの条件を丸呑みさせるくらいじゃなきゃ ジャコヴァ: うんうん アイソーポス: 約束するだけでいい。実際、私も交渉の場にライブラが同席するのは避けたいからね アイソーポス: 復活の可能性をちらつかせて、まずはその気にさせるんだ。GR2の素案にライブラ復活を盛り込んで提示すれば、交渉を無視はしないだろう ジャコヴァ: うんうん ヴィルヘルミナ: 先に復活させろと言ってくるに決まってるじゃない。レグルスは無能だけど、それは決断力がないだけ。それくらいは警戒するわよ ジャコヴァ: そもそも、復活できるのか? アイソーポス: そう、そこだ。GR2を発動するからこそ、GR1に猶予が生まれるんだ。GR2無しにライブラは復活できない ヴィルヘルミナ: 術式の効果ってこと? 副作用とも言うべきかしらね。でもそれって、確実とは言えないじゃない。こちらに悪意がなくても、思い通りにならないこともあるわ アイソーポス: その通り。これはレグルスにとっても賭けだ。だが、あいつはライブラ復活の可能性から逃げられない。逃せば必ず後悔するからだ アイソーポス: 彼女は必ず賭けに乗る ジャコヴァ: という賭けをお前がして、私たちはその賭けに乗るかどうかというわけか。ふふん、不確かなことばかりだな ジャコヴァ: だが、面白い。いいだろう、ライブラがいない世界というのも、どうにも刺激が足りないと思っていたところだ ヴィルヘルミナ: 姉さん……そんなこと言って、知らないわよ アイソーポス: もちろん他のメンバーは封印を継続する。その上で、ライブラとレグルスは管理組織に組み込むんだ ジャコヴァ: ふむ ヴィルヘルミナ: 信じられない……アイソーポス、アナタ正気? アイソーポス: もちろん。レジスタンスなんて立場だから好き放題やられるんだ。権力側に置けば彼女は身動きできなくなるだろう ジャコヴァ: ……いいだろう。賭けに乗ってやる 384 - 錯綜した恩返し よんよん: う、ううっ、皆さんにたくさんご迷惑をおかけしてしまいました……! ぐすんっ ティンカー・ベル: いやいや、泣かなくていいって。よんよんは何も悪くないんだからさ ドロシー: そうよ。そもそも、騙されてたとか以前に、よんよんは車に爆薬を置かなかったんでしょう? よんよん: う、うっかり爆発したらどうしようって思って……それに、やっぱり自分からの恩返しなんて要らないんじゃって不安になったし…… よんよん: けど、あの車のドアを開けたとこまでは本当なんですっ……。そのせいで、皆さんを不安にさせてしまいました……っ セクス: いやいや、そこでそんなに落ち込まれちゃうとさ。ぼくなんか車に乗せちゃったわけだから セプテム: セクスはすごいね。演技だったんでしょ セクス: おじさんの恩返しは車に乗せるところまでだから、別に嘘ついたわけでもないけどね ドロシー: セクスの機転……っていうか、ヴィネたちの動きがなかったら、人間さんは本当に…… ティンカー・ベル: それだよね。考えたらぞくって寒気がするよ セプテム: 結局、セクスはヴィネからも依頼されてたんだね セクス: そういうこと。セプテムもでしょ? セプテム: 怪人二十面相からは歯車を持って断絶の海まで行ってほしいって言われた。ペローからも、変な棺桶みたいな箱を積んで、西に行ってくれって言われて セクス: それで、いっぺんに片付けちゃおうってなったわけだね よんよん: うわぁ……セプテムはすごい……! 自分はひとつだけでもなかなか恩返しできないのに、ふたついっぺんになんて セクス: いや、3つでしょ。ヴィネからも恩返しの依頼があったんだもんね セプテム: うん。ヴィネからは、歯車を持ったら連絡したときにスイッチを切ってほしいって言われてて ドロシー: ピュルテの状況を聞いたけど、あんなことになるなんて予想つかないわよ、普通は ティンカー・ベル: 未来が見えるらしいから、それでじゃない? さすがに予測ってレベルじゃないと思うし よんよん: ううっ……次こそ、ちゃんと恩返ししなくちゃ……っ セクス: でも、なんでセプテムにだけペローは直接依頼したんだろ。ぼくたちみたいに、おじさんを経由させなかった理由はあるのかな セプテム: 恩返しはたぶん、セクスたちと同じ人だよ。連絡先にペローを指定されただけ ティンカー・ベル: だとしても、直接連絡をとってたってことは、バレる心配はしてなかったってことか セプテム: 自分は本来なら、あのまま航空機を操縦して怨棄諸島で落ち合う予定だった。そして上空の穴を通過してくれって ドロシー: レオナたちが言っていたとおりだったわけね ティンカー・ベル: 西側に惹きつけて、その間に東の港から海を通っていく作戦かぁ。ペロー的にはかなり練った作戦だったよね ドロシー: 今回はたまたまうまくクリアできたけど、次もそうとは限らないわよね ティンカー・ベル: 確かに。ピュルテのことも、きっとまた狙って来そうだし セクス: また利用されても嫌だし、しばらく黒鉄の国でゆっくりしようかな。ね、セプテム セプテム: うん……予定は詰まってるんだけど、しばらくは怖いし よんよん: ああ……今回のことで、ますます恩返しするのが不安になってしまいました…… ティンカー・ベル: ティンカたちもしばらくゆっくりかな。ピュルテが起きないことにはね ドロシー: ええ、そうね……ピュルテ、大丈夫かしら…… (背景切換...) シンデレラ: あら、人間さん。また来たの? 今日これで3回目じゃないの。ああ、出かけるからその前に……ってことね ヴェルメリオ: ……ピュルテ。人間さんが来てくれたよ シンデレラ: 今回は原因がハッキリしてるから、それほど心配しなくても大丈夫らしいわよ パラケルスス: ああ。投与された鎮静剤の成分が徐々に薄まってきているのは間違いない。文字通り、時間の問題だよ ヴェルメリオ: ……なかなか体内から抜けにくいから、時間がかかるんだって パラケルスス: つまりペローは、ピュルテをさらった後もすぐには目覚めなくていいと思っていたわけだ。何をするつもりだったのか……考えたくないね エミリー: あっ、人間さん。え、お出かけするところ? クレア: それでどうして、ごはんのお店に来たの? テイクアウトしておみやげにするんだ、いいね リル: というと、出かける先は雨依殿のところか? ああ、そうではなくてヴィネ殿たちのほうか クレア: ここは美味しいの多いからね。たくさん買っていったほうがいいよ。あ、お泊りなの? じゃあもっとたくさん必要だね エミリー: 雨依のこともちゃんとフォローしてあげてね。あの子、悪い子じゃないんだけど……気をつけないと危ないって、エミリーのカンが言ってるんだよねぇ リル: そうなのか? 確かにこの男に好意があるのは確かだが、ヴェル殿と大差ないようにも思うぞ クレア: ヴェルがそもそも、なかなかなんじゃないの エミリー: うん、クレアの言うとおりだけどぉ……それだけじゃなくてさ、不安定な感じというか、なんかわかるんだよねぇ リル: それはさておきだ。爆発に巻き込まれたところまではわかるが、合流が遅すぎたんじゃないのか? みんな、心配していたんだぞ クレア: ピュルテ救出が最優先だったんだ。そっか、しょうがないよね エミリー: みんなが自分が死んだと思いこんでるのも予想外? まあ、カメラで撮られてるなんて、普通は考えないもんねぇ リル: ま、まあ……責めるつもりはないんだがな。こうして戻って来てくれたのだし……しょ、小生は別に、さほど心配もしていなかったが クレア: リルのいつものやつだ リル: い、いつものとはなんだっ、クレア殿っ エミリー: はいはい、早くお土産もって行ったほうがいいよぉ。雨依のところにも行くことにするの? うん、いいと思う 385 - きっとまた会うはず 雨依: 来てくれたの!? どうぞ、入って! 泊まっていくでしょう? レオナ: いやいや、お世話になったみんなにお礼をして回ってるだけでしょ。いちいち泊まってたら人間さんくんも大変だって 雨依: そう……。そうね、仕方ないわよね 雨依: いま、お茶を淹れるわ。緑茶がいいのよね? 雨依: ねえ、これからどうするの? また、どこか遠いところに行くの? レオナ: GR2を発動させようとしてるんだっけ。まあね、私もエルマイトを一律分配っていうのは、ちょっといびつだなあって思ってたわ レオナ: それで本当に平等になるなら、ひとつの考え方ではあるけど……実際には、そんなことしても全員が平等にはならないし レオナ: ちょっとライブラも行き過ぎた感じはあったからね。たぶん、あの子こそディマイトを溜めちゃったんじゃないかな。特に最後らへん レオナ: 手段と目的がごっちゃになっちゃったのよ。本来は、みんなが幸せになりますように、っていうのが目的だったわけでしょ レオナ: そのために平等にしようって思ってたのに……いつの間にか、目的になっちゃって、それで困る人の声も聞かなくなっちゃって…… 雨依: レオナ。喋りすぎよ レオナ: なによ 雨依: そういう難しい話だと私が入れないってわかってるくせに 雨依: ねえ、次はどこに行くの? あ、そっか。水柱の向こうに刺さってる剣を取りに行くのね。あ、もうそろそろ出発するの? 雨依: でも回収したら、また戻ってきてくれるのよね レオナ: いや、そのまま行くんじゃないの? だってGR2ってレグルス教国の地下で展開されてるんだよね。方角的には断絶の海の先だから…… 雨依: ほんと、レオナは余計なことばっかり言う レオナ: 私が言わなくてもそういう話に絶対なってたって! もう、めんどくさわいね、この子は 雨依: でも、いいの。またすぐに会えると思うから。だって、今回みたいな大事件まで一緒に解決したんだもの。絶対に運命なのよ 雨依: あなたは運命の人って信じない? 確かにおとぎ話みたいかもしれないけど、でも……ここはオトギノクニなのよ? ヴィネ: 人間さん……昨日はありがとうございました。みんな、とっても喜んでましたよ バエル: 来たときも言ったけど、あそこは私たちの拠点であると同時に、ポチの居場所でもあるの。いつ帰ってきてもいいんだからね バラーム: あらぁー? バエルさんったら、ずいぶんデレデレしてますのねぇ? おかわいいこと♪ バエル: はあ? だーれがデレデレしたって? バラーム: あら、ほっぺのお肉が垂れているのは元からでしたわね バエル: 失礼ね! そんなわけないでしょ!! ヴィネ: もう、ふたりとも……せっかく人間さんが遊びに来てくれて、お見送りしようっていうところなのに バラーム: 今回はポチ、かなり大変でしたわね。こんな旅をずっと続けているなんて……疲れませんこと? バラーム: 休みたいと思ったら無理してはいけませんわ。いくらポチが責任感が強くても、体力は……いいえ、それに精神力も、有限だということは忘れないでくださいましね バエル: 腹立つけど、この女の言うとおりだよ。あんたが倒れたら元も子もないんだから ヴィネ: でも、素敵なお仲間がいることも、この目で確認できました。私たちと同じように、あなたのことを大切にしてくれる素敵な方々ですもんね バエル: 余裕ぶってるけど、心のなかでは嫉妬が渦巻いてるんじゃないの ヴィネ: そ、そんなこと! それは、まあ、行っちゃうのは寂しいなって思いますし……旅先でも私のことを思い出したり、とか…… ヴィネ: な、なんでもないですっ! と、とにかく元気でいてくださいね! バエル: ヴィネってからかいがいがあるんだよね バラーム: クソみたいな性格ですわね バエル: 言い過ぎでしょ! あんたこそ育ちがいいとか言ってるくせに、単純に口が悪すぎ! ヴィネ: ほんと、騒がしくてすみません。え、そ、そうですか? 人間さんが楽しんでくれてるなら、それが何よりです! ヴィネ: あ……もう、SGRタワー…… バエル: ポチの宿まで、あとちょっとね。……次はいつ会えるんだろ。ヴィネじゃないけど、なんだか寂しくなる ヴィネ: わ、私のことは引き合いに出さないでください……っ バラーム: わたくしたちの力が必要になったら、いつでも呼んで下されば駆けつけますわ。離れていても、わたくしたちは……ね? ティンカー・ベル: あっ、人間さんだ! シンデレラ: ちょっとティンカちゃん……大きい声はやめて…… ヴィネ: あれっ、ティンカさん。それにシンデレラさんとヴェルさんも。どうしたんですか、こんなところで ヴェルメリオ: ……姐さんが久々に酔っ払って帰ってこなくて。SGRタワーの監視カメラで探してもらったら、そこの植え込みに埋もれてるのが分かったところなの バラーム: 最悪な朝ですわね…… シンデレラ: いいじゃない、ほっといて…… ヴェルメリオ: ……ヴィネたちは、人間さんのこと見送ってくれたの? バエル: そう。道に迷いそうだったし ヴィネ: それに、あんなことがあったばかりですから、心配ですし ヴェルメリオ: ……そうだよね。ありがとう ティンカー・ベル: いや、そこでずきんがお礼を言うと変な感じにならない? ヴェルメリオ: ……えっ、そ、そうなの? あんまり意識しないで言っちゃってた ヴィネ: 私たちは、人間さんにとても助けられました。人間さんがいてくれたから、いまの私たちがあるんです シンデレラ: 何があったかわからないけど……そこまで言わせるってすごいわね ヴィネ: そしてまた、誰かを助けてるし、これからも助けていくんですよね。人間さんは本当に、すごいです ヴィネ: ……ヴェルメリオさん。これからまた、大変な道のりになると思いますけど……人間さんのこと、お願いしますね ヴェルメリオ: ……ヴィネ。うん、わかった。まかせて。人間さんのことは必ず守るから。またヴィネが会えるように ヴィネ: ありがとうございます シンデレラ: なんだかヴェルとヴィネの間で、目と目で分かり合う雰囲気が出てない? バラーム: 何か通じるものがあったのかもしれませんわね バエル: とにかく、しっかりがんばってきなさいよね、ポチ。今回みたいに、罠にかからないように、慎重に行動すること。いい? ティンカー・ベル: 人間さんがバエルに未だに敬語なの、笑っちゃうんだけど 386 - 十二迷宮へ フアナ: ここがポルタ島……この地下に例のアレがあるってわけか フアナ: ひとりで来るのはさすがに心細いけど……アイソーポスさんが信頼してくれたんだから、しっかり役目を果たさなくちゃ フアナ: タイミングが来たらアイソーポスさんが合図をくれる。そのとき、あたしが封印を解除する術式を展開する フアナ: 術式そのものは、そのうちシェイクスピアが来て準備してくれる、と……ふう、緊張するなぁ フアナ: ……念のために、地下迷宮の下見はしておいたほうがいいよね (背景切換...) フアナ: うわぁ……地下に入ったら入ったで、すっごく不気味なんだけど……。シェイクスピアも一緒に残ってくれたりしないかな デュプリ・ライブラ: ………… フアナ: ん? いま、角に誰かいたような……? フアナ: って怖っ!! こんなところに誰かいるわけないのに! もう、あたしってばなんで怖い方向に想像力を発揮しちゃうかな! ???: こっちだ…… フアナ: え? こ、今度は声が聞こえたような…… ???: こっちへ……来い…… フアナ: ……いや、聞き間違いじゃない。誰かが呼んでる……。え、どうする……? フアナ: ……怖いけど、確かめておかなくちゃ。万一、計画に支障があったら大変だし…… ???: そのまま、まっすぐだ…… ポステリオル: 接触 フアナ: ひぁあああぁぁぁあああぁぁっ!? フアナ: って、あ、あれ、女の子……? きみ、こんなところで何してるの……? ポステリオル: ようこそ。十二迷宮へ シンデレラ: それじゃあ今後の方針を再確認するわよ。私たちの目的はGR2の実現。ただし、人間さんとの思い出まで失わないように、条件を調整しなくちゃいけない ドロシー: そのために必要な『時計の針』こと武器セカンドハンドは、この地点にある。今朝の無人機からの映像で、動いていないことを確認したわ エミリー: 遠藤さんも、本当に持っていったりはしてないんだねぇ リル: この黒鉄の国から見て遠く西側がちょうど、レグルス教国の地下になっている。おそらくGR2の術式もこちらに展開されているはずだ。そうだったな? パラケルスス: ああ。みんなの証言を併せて考えても、間違いないと思うよ ドロシー: ただし、断絶の海をもう一度、超えなきゃいけないわ。これについてはSGRが同行してくれて、もう一度、水柱を吹き飛ばしてくれることになってる シンデレラ: 高速巡視艇を一隻、借りられることになっているわ。それを使って、一瞬の空白期間で断絶の海を超える。その後、セカンドハンドを回収する。ここまではいいわね ヴェルメリオ: ……うん。問題はそこからの道のりなんだよね リル: 断絶の海を超えた先に広がるのは、永久凍土ジェロドラシル――ただひたすら氷の陸地が続く、厳しい環境の道のりだと聞く クレア: 寒いのは、ちょっとやだな ティンカー・ベル: あんまり寒いと羽が凍ったりするんだよねー ドロシー: もちろん迂回する方法もあるわ。たとえばペローが計画していたみたいに、怨棄諸島の上空から上に戻って、レグルス教国の表から乗り込むパターン シンデレラ: けど、これは危険だわ。レグルスたちに私たちの動きを完全に察知される。GR2そのものを潰されてしまう可能性が高い リル: 時間的にもかなりのロスが生じるな ティンカー・ベル: はいはい、わかってるってば。寒いの我慢して進めばいいんでしょっ。ちょっと文句言ってみたかっただけ! エミリー: もう、ティンカってば変なところでお子ちゃまだよねぇ クレア: 地下は、レグルスたちに監視されてないの? ドロシー: 正直、その保証はないわ。元は監視がなかったんだろうって言われてるけど パラケルスス: そうじゃなければ、ウィラがGR2を準備する猶予なんてないからね。あれだけの大型の術式は、かなりの日数がかかってる ヴェルメリオ: ……監視があったら、さすがに気づかれるよね クレア: また誰か捕まったりするのは嫌だよ シンデレラ: ええ、捕まらないようにするのは大前提よ。ただ、あんなことがあったんだから、あれ以降は警備がついているのが普通よね パラケルスス: そうだね。ただ、地上よりはマシだと思うよ。あんなことがあったと言っても、かなり時間も経ってるわけだし ドロシー: ただ、私たちは行くっていう選択肢しかないのよ。どう行くか、それだけでしょ。だったらまず、現場に行ってみてそこで判断するのでもいいんじゃないかしら シンデレラ: ええ、私もドロシーに賛成よ。そもそも術式がうまく発動するかもわからないし パラケルスス: バカにしてもらっちゃ困るな。ぼくは大賢者だよ。ライブラにできたことが、ぼくにできないはずはない リル: ふん、大した自信だ。が……頼りにしてるぞ 衛兵: 失礼します! あ、あの……ピュルテさんが リル: ――っ! (背景切換...) ピュルテ: あ……えっと…… リル: ピュルテ! よかった、目を覚ましたか! シンデレラ: 良かったわ……! これでほっと一息つけるわね リル: 気分が悪かったりはしないか? まだ無理に動かなくていいんだからな。そうだ、何か口にするか。最初は温かい飲み物から…… ピュルテ: あ、あの ドロシー: リルってば、落ち着きなさいよ。まだ起きたばかりなのよ? ティンカー・ベル: それにほら、飲み物はいいけどさ、食べ物はやっぱりずきんの手料理が一番でしょ ヴェルメリオ: ……うん、もう考えてあるよ。最初は胃が動いてないから、急に食べると身体がびっくりしちゃうからね。消化にいいものから食べてもらう クレア: さすが。もうただのお料理ってレベルじゃなくなってる エミリー: ほら、人間さん。ピュルテのこと、よくがんばったねって褒めてあげなきゃ ピュルテ: え、あ、あの……ま、待ってください。急に抱きしめるなんて、そんな、困ります ヴェルメリオ: ……いいんだよ、ピュルテ。わたし、ここは譲るから ティンカー・ベル: 顔が悔しそうなんだよなぁ ヴェルメリオ: ……そ、そんなことないもん シンデレラ: ティンカちゃんったら、からかわないの リル: やれやれ。どうだ、相変わらずだろう、みんな。ピュルテ……おかえり ピュルテ: あの……す、すみません。あなたは、というか皆さんは…… ピュルテ: どなたですか? 387 - 破られつつある封印 フアナ: アイソーポスさん! 来てたんだ アイソーポス: ああ、どうなっているのか気になっていたからね。少なからず危険も考えられる場所だ。フアナひとりで行かせてしまって大丈夫だったかな フアナ: それは問題なかったよ。前にピュルテたちが来たときもそうだったみたいだけど、内部に多少の魔物はうろついてたけど アイソーポス: 例の、星の魔獣とやらの存在だな フアナ: おそらく、そいつが放つディマイトに吸い寄せられて集まってきてるんだろうね。魔獣自体はあたしは遭遇しなかった フアナ: ただ……まったく別の予想しない相手に会ったけどね アイソーポス: というと? フアナ: ポステリオル、って名乗ってた……。『星の革命軍』のメンバーだって アイソーポス: というと、ライブラたちの……まさか、封印が破られているというのか……? フアナ: この地下迷宮の内部を案内してくれたよ。『十二迷宮』っていう場所なんだってね アイソーポス: ……戦闘になったわけではないのか フアナ: 彼女からあたしに向けて敵意はなかった。はっきり事情を説明してはくれなかったけど、たぶんレグルス神官長のことを憎んでる雰囲気だったね フアナ: ねえ、アイソーポスさん……レグルスも当然『星の革命軍』のメンバーだったんだよね? アイソーポス: ああ、そのとおりだ。『星の革命軍』とは天空神殿の、グランド・リヴィジョン以前の呼称……レグルスにとって彼女は同胞のはずだ アイソーポス: 一枚岩ではなかった、ということなのだろうか。彼女が言っていたことがすべて事実だとすれば、だが アイソーポス: その場合、気がかりなのは内部事情よりも封印が破られているということだ。GR2が完成していない現時点で、既に術式は不完全になっているのか…… アイソーポス: あるいは、私たちが考えているほど、グランド・リヴィジョンは堅牢な術式ではなかったか……? ヴェルメリオ: ……え、ピュルテ? どなたですか、って…… ティンカー・ベル: ちょっとー! ピュルテ、そういうの面白くないからね!? 鉄板なのはわかるけどさぁ、ちゃんと空気読んでやらないとさ ピュルテ: え、いえ、あの、別に私、ふざけているとかではなくて、本当に言ってるんです。皆さん、私と初対面ですよね? ティンカー・ベル: ぐぬぬ……なかなか強情というか、設定に忠実というか。こうなったら、思わず踊りだしたくなっちゃうダンスで本性を暴いちゃうぞ! エミリー: や、別にその踊り、誰もつられて踊ったりしたことないし ティンカー・ベル: まだ踊ってもないのに決めつけるな! ドロシー: 妖精さん……これ、マジなんじゃないのかしら……。普段のピュルテなら、的確に突っ込んで妖精さんを止めてる場面よ クレア: それか、ちょっと呆れて冷たい目で見てる シンデレラ: だとしたら本当にピュルテちゃん、記憶がないってこと? なんでそんなことになってるのよ リル: ピュルテ、これは真剣に答えてほしい。名前はわかるんだな? ピュルテ: あ、はい。私の名前はピュルテです。花の国から来ました。私は花の妖精なんです リル: 他に何か覚えていることはあるか? 例えば、やらなくてはいけないことなど ピュルテ: 長老に呼び出されて、天空神殿の神官長に会いに行くことになっています。でも、しばらくスティヴァーリ公国という国の近くで一人暮らしをすることになっています クレア: え、それって……リルんちがある国? リル: ……初期状態ということか…… ドロシー: ……? エミリー: え…… リル: 理由はわからないが、どうやらピュルテは本当に記憶がなくなっているようだ。おそらくエルマイトについてもわかっていないんじゃないか ティンカー・ベル: わかる? エルマイトとディマイトがあって、そのバランスが崩れてるからティンカたちは旅してて…… ピュルテ: ごめんなさい、なんのことかわかりません シンデレラ: 神官長からその説明を受けた記憶は失われているわけね ドロシー: 本当に記憶がないとしても、黒鉄の国にこのまま置いていくわけにもいかないでしょう? レグルス教国に向かうっていうのは変わらないわ ヴェルメリオ: ……そうだね。ピュルテの記憶喪失のことは、向かいながら考えるしかないかな ピュルテ: レグルス教国……? あ、私もそこに行く予定なんです! リル: この先が不安ではあるな…… ドロシー: よし、忘れ物はないわね? 荷物は全部積み込んだわよね クレア: それじゃ、出航っ リル: 黒鉄の国のSGRから借りた、この高速巡視艇なら断絶の海までおよそ15分程度ということだったな ティンカー・ベル: うおっ、もう加速が始まった! 本当にこの船、速いよね! ピュルテ: わああ……! すごいです、これが海なんですね! ヴェルメリオ: ……う、うん。そうだよ ピュルテ: 大きいなあ、広いなあ……! ヴェルメリオ: ……わたしよりも世間知らずになっちゃってるみたい。記憶喪失だから当然なのかもしれないけど リル: ……なんだ。貴君は、何を涙ぐんでいる。ピュルテがこんなことになったのを見ていられないのは小生も共感するが、泣くのは早いぞ リル: ピュルテの記憶がどうやったら戻るか……根拠のある分析はできないが、小生は貴君が鍵になると思っている ドロシー: リル、ちょっといい? エミリー: 人間さんも来てくれる? リル: 一体なんだ、こんな甲板の隅に連れてきて ドロシー: リル、何か知っているんでしょう。ピュルテのことで エミリー: この期に及んで隠し事なんて、やめてよねぇ? ドロシー: その反応だと人間さんも心当たりはないみたいね……。リルひとりが知ってるってわけ? リル: 何の話だ ドロシー: ピュルテの記憶がどこまであるのか確認しているとき、あなた言ったわよね。『初期状態ということか』って エミリー: この状況下で普通、あまり使わない言い回しだと思うんだよねぇ。だからリルは、何か知ってるんじゃないかなって リル: ……それは ドロシー: ビンゴね。リルってば、自分はカンがいいわりに嘘をつくのが下手だわ リル: ……本来、これは本人の許可なく言うべきことではないんだ。口止めされているわけではないが エミリー: やっぱりピュルテに何かあったんだねぇ? リル: 何かあったというか……あったのだが、それははるか昔というか…… ドロシー: なによ、はっきり言いなさいよ リル: ピュルテは小生たちとは根本的に違う存在なんだ。彼女は……オトギノクニにおける作品でも、作家でもない。レグルス神官長によって人工的に作られた存在なんだ ドロシー: えっ……!? エミリー: 人工的に……って……? 388 - 苦難の道程 (では、続いてのニュースです) 店主: おお、この事件な。えらい大爆発だったんだろ? 常連客: 東の第三埠頭のあたりだよな。車が粉々に吹き飛んだらしい ペロー: …… ペロー: こうして潜伏して情報収集をするのも、もう慣れたものです……。ずっとこんな汚れ仕事を引き受けて…… ペロー: でももう、そんな屈辱の日々もあと少し……。必ず、支配する側に回ってみせる……! 店主: 姉ちゃん、おかわりするかい? ペロー: えっ? あ、ええ、そうね。お願いしましょうか 店主: ずいぶん怖い顔してたけど、なんかあったのかい ペロー: あ……そんなに顔に出ていましたか。いえ、少し昔の嫌なことを思い出していただけですよ 店主: そうかい、ならいいんだがね ペロー: いけませんね、私としたことが感情的になってしまいました…… 店主: 仕事かい? あまりストレス溜めちゃいけないよ ペロー: ふふっ、大丈夫ですよ。長い間、準備してきた大きな仕事が、ようやく日の目を見そうなんです。それで、つい 店主: ああ、なるほど。緊張からそんな顔になってたんだな ペロー: ええ。あと少しですから、失敗できないと思いまして ペロー: ピュルテを使って人間界から新たなエルマイト保有者を探す……それがレグルスの狙いでしょう。ならば、その人間界の相手にアプローチしなくては…… ペロー: それに……深淵の闇は近い ペロー: ……まあ、あのひとにかかれば余計な気遣いかもしれませんが 女性: ちょっと、これ ペロー: あなたは……? それにこれは、記録用スフィア……? 女性: あなたが欲しい、新しい情報よ。10万でどうかしら ペロー: な、10万……? ペロー: 普段なら相手にしないところですが、このタイミング…… ペロー: いいでしょう、買います 女性: どうも。それじゃあ、うまく使ってみて。中身は音声よ ペロー: 音声……? フアナ: ポステリオルって子が言っていることが本当なら、もうグランド・リヴィジョンそのものが崩れかかっているのかな フアナ: だとしたら、本当にライブラを復活させられるんじゃないかな! 嘘をつく必要ないよね アイソーポス: 確かにそうだな…… フアナ: え? あんまり良いことじゃなかった? アイソーポス: まず、この事実は決してレグルスに知られてはいけない。放っておいても復活できるとなれば、彼女は交渉に応じずに力技に出るかもしれないぞ フアナ: あ、そっか……交渉材料として成立しなくなっちゃうもんね。そうだよね…… フアナ: というか、アイソーポスさんはこれを見返りに、レグルスに何をさせようとしてるの アイソーポス: ……レグルスの退陣、だな フアナ: 退陣…… アイソーポス: 神官長の職を辞し、一切の権限を放棄することだ。彼女は権力欲など最初からない。ただライブラの理想を実現したいという責任感だけなんだ アイソーポス: ライブラが復活するなら、彼女はそれが最優先のはず。退陣させ、その後で復活させ……ライブラの遺志を断ち切る フアナ: レグルスなら、それを飲む? アイソーポス: 本来、少し考えればわかることだ。復活後、何もかも手放したレグルスを、ライブラがどう評価するか。しかし彼女は、そんな判断力すら失いつつある フアナ: 人間さんくんたちやグリム家、それにアイソーポスさんも動いてるのがプレッシャーになってるんだよね、きっと アイソーポス: どの勢力とも違うのは、彼女はひとりだということだ。孤独なんだよ。だから目の前の安らぎにすがってしまう フアナ: 気が付いたときには、何も持たないライブラとレグルスのふたりになってるってことだね アイソーポス: また何か活動をするかもしれないが、今度こそしっかり監視をつければいい フアナ: でもさ、GR2が成功したら天空神殿の権限はどっちにしろなくなっちゃうんじゃないの? アイソーポス: いや……これは保険だよ フアナ: 保険? アイソーポス: もし万一GR2が失敗に終わっても、天空神殿を無効化するための手だ。こちらの意に沿う誰かをレグルスの後釜に据えればいい。マロリーあたりが妥当か アイソーポス: 神官長にどの程度の権限があるのか未知数ではあるが、やらないよりやっておいたほうがいいだろう フアナ: 解体するって言ったら拒否しそうだけど、誰かがちゃんと継ぐなら、って思う……のかな アイソーポス: どこまで乗ってくるかは賭けだったが、この時点で私たちはコストを払ってないからね。言ってみるだけタダだ アイソーポス: もっとも、ここまで反応してくれるとは誤算だったが…… (背景切換...) ペロー: ……音声はここで終わっていますね。アイソーポスは、ライブラを餌にレグルスをたらしこむつもりでしたか ペロー: こんな手に引っかかるとは、どれだけ愚かなのか……いえ、わかっていても抗えないのかもしれませんね ペロー: しかし、さすがにこれを聞けば思いとどまるでしょう。しかし、この記録スフィアはいったい誰が…… 女性: あの、さっきのスフィア、売れました デュプリ・ライブラ: ども。これで仕事は完了ッス。ああ、売ったときのそのお金は全額あげるんで 女性: えっ、だって10万も……いいんですか? デュプリ・ライブラ: お金なんて……どうでもいいし…… 女性: えっ? デュプリ・ライブラ: あ、ううん。なんでもない、お疲れ様ッス。ありがと デュプリ・ライブラ: ……きっとペローはこれを神官長に報告するはず。そしたら神官長だって、復活なんて考えずに、このままでいいって思ってくれる……そうッスよね……? 389 - 永久凍土ジェロドラシル シンデレラ: あったわ。これがフォルクス・ゲヘナに乗ってた遠藤さんが投げつけた剣ね クレア: セカンドハンド、って名前なんだっけ リル: そう。秒針を意味するらしい ティンカー・ベル: 秒針……時計ってやつにくっついてる、細っこいやつのことなんでしょ? シンデレラ: ええ。一番よく動き回る針ね ドロシー: また時間……。時間の概念が封印されてたり、グランド・リヴィジョンはどうして時間が関係するのかしら…… クレア: で、これどうするんだっけ パラケルスス: 貸して。レオナに扱い方は聞いてるから。ここのパーツを引っ張って……と ヴェルメリオ: ……なんか出てきた。すごく小さい部品だね シンデレラ: これが私たちが必要としてる『時計の針』ってこと? パラケルスス: その通り。木を隠すなら森の中、この剣自体が針の隠し場所になっていたわけだね ピュルテ: よくわかりませんが、この後はどこに向かうんでしょう。レグルス教国の前に寄り道されるんですか? ヴェルメリオ: ……ここからはもう、レグルス教国を目指すよ ティンカー・ベル: うう……このくっそ寒そうな道のりをがんばって旅しなくちゃいけないんだね…… ドロシー: 妖精さんったら、弱音を吐くのが早すぎない? ティンカー・ベル: 吐いてないでしょ別に! ちょっと予想してやる気が萎んだだけ! ヴェルメリオ: ……ここはどんな場所なの? パラケルスス: 永久凍土ジェロドラシル。ここは厳密には陸地ではない。超巨大な氷の塊なんだ クレア: えっ、氷? じゃあ土とかないってこと? ドロシー: 足元は普通に、雪が積もってるだけに見えるんだけど……この雪を取り払ったら、氷になってるのね パラケルスス: そういうこと。まあ、見た目は雪山と変わらないし、氷だからっていきなりとけたりもしないし ピュルテ: 本当ですか……!? もしうっかり氷が割れて海の中に落ちちゃったら終わりですよ! シンデレラ: そう簡単に割れないでしょ。……割れないわよね? エミリー: 大丈夫、いざというときは全員がティンカにつかまればいいんだよぅ ティンカー・ベル: いや、ちょっと、ティンカの負担大きすぎない!? ドロシー: うう、さっむ! 予想はしてたけど夜になるとめちゃくちゃ冷えるわね! シンデレラ: 昼間でもあんな寒さだったんだもの。ああ、飲まなきゃ凍死しちゃうわ リル: だとしたら、酒を飲んでいない小生らはとっくに凍りついていることになるんだが クレア: ここって誰も住んでないの? パラケルスス: そうだね。管理小屋なんかはあるかもしれないけど、定住している人はさすがにいないんじゃないかな ピュルテ: 当たり前ですよ。こんな寒い場所で、しかも下が氷でいつとけちゃうかわかんないんですよ。住めるはずありません クレア: 氷がとける話、まだしてる…… シンデレラ: 逆に言えば、これだけ寒くて氷がとけるとは思えないのに ヴェルメリオ: ……みんな、お待たせ ティンカー・ベル: 出たーっ!! 旅の楽しみ、ずきんのごはん! ああ、あったかそう……! ドロシー: ヴェルのことだから、体があったまるような工夫もしてくれてるんでしょ ヴェルメリオ: ……うん、正解。こういう気遣いができる子、お嫁さんにしたくなるんじゃないかなって エミリー: おぉー、最近はほんとヴェルも積極的にアピールするようになったねぇ シンデレラ: え、なに、私に言ってる? そうね、ヴェルがお嫁さんなら考えてもいいかも…… ヴェルメリオ: ……違うから。わたしと人間さんの間にふらふら入ってきて、変なこと言わないで エミリー: もうだいぶ酔ってるからねぇ パラケルスス: やれやれ、酔うのが早すぎるな シンデレラ: パラケルススはなんで平気なのよ……ひっく。あなただって道中、ずっとスキットルからお酒飲んでたくせにっ リル: そうだったのか? こちらはこちらで、まったく酔っている気配がないな パラケルスス: 体を温める目的で飲んでるのに、ここまで酔っ払うほうがおかしいだろ クレア: それはそう シンデレラ: だって美味しいから、ついついぐびぐびいっちゃうんだもん ティンカー・ベル: もう姐さんはしょうがないなぁ ピュルテ: あはは、シンデレラさんってば、そんなこと言いながらもさっきから飲み続けてるじゃないですか ピュルテ: あははは……はは…… ピュルテ: …… クレア: ピュルテ? ピュルテ: う、うう……ぐすっ…… リル: お、おい、ピュルテ!? どうした、何故泣く? エミリー: 人間さんもリルも落ち着きなよ。……きっと、楽しくて泣いちゃったんだよね? ピュルテ: はい……記憶がないせいで、皆さんとはほとんど初対面なのに……。でもこうして何気ない会話とかしてる時間が楽しくて、それで…… リル: それが泣く理由なのか? ピュルテ: こんな楽しい空間に、私はずっといたんだって実感して……。きっとすごく良い思い出もたくさんあったはずなんです ピュルテ: なのにそれを私は覚えてない…… シンデレラ: 大丈夫よ ピュルテ: あっ……シンデレラさん……? シンデレラ: そうよね。悲しいわよね。でも、大丈夫 ピュルテ: シンデレラさんの胸の中……あったかいです…… シンデレラ: 思い出はね、完全に消え去ったわけじゃないのよ。ピュルテちゃんが忘れてしまっても、私たちは優しいピュルテちゃんのことを知ってるから ピュルテ: シンデレラさん…… シンデレラ: だから、これからも続いていくわ。ね、だから泣かないで エミリー: ねえ……リル、ドロシー、人間さん。エミリーはもう、言うべきなんじゃないかと思ってる ドロシー: 奇遇ね。私もよ ヴェルメリオ: ……え、なんの話? リル: そうだな……。わかった、小生から話そう。ピュルテにはショッキングだと思うが、後から聞くよりマシだろうから一緒に聞いてほしい ピュルテ: リルさん……? な、なんのお話ですか…… リル: 実は、ピュルテは――…… (背景切換...) シンデレラ: ピュルテちゃんが…… ヴェルメリオ: ……うそでしょ……? (背景切換...) リル: 小生も知ったのは黒鉄の国、レオナ殿の家に行ったときのことだ。もちろんピュルテ自身もな パラケルスス: てっきりぼくは、みんなも知ってるものだとばかり勘違いしていてね。悪いことをしたよ ヴェルメリオ: ……そういえばピュルテが倒れたときがあったよね ピュルテ: 私が人工的に作られた……? 神官長に、ですか……!? だってまだ、お会いもしてない……ああ、そっか。それも作られた記憶ってこと…… リル: おそらくは、そうなんだろう。花の国から旅をして天空神殿に到着した……という前提となる記憶を埋め込まれたんだ ドロシー: 実際にはそのとき、神殿で目覚めたってことね ティンカー・ベル: そんなの……ひどすぎるよ……! ティンカー・ベル: どう生まれたって関係ない、ピュルテはピュルテだもん。だからそれは百歩譲っていいよ。けどさぁ…… ティンカー・ベル: 作った人が大事に愛情かけてくれてるから、そういうのもアリだなって思うの。でも神官長なんて、きっと道具みたいな扱いなんだ! だから、ティンカは許せない! エミリー: ティンカ。それは、だめ ティンカー・ベル: あ…… ピュルテ: ………… ティンカー・ベル: ごめん、ピュルテ…… ピュルテ: いいえ。私は詳しい状況とか、神官長がどんな人かも知りませんから。ティンカさんがそういうなら、きっとそうなんだと思いますし…… ピュルテ: それにね、記憶がないからでしょうか。さほどショックじゃないんですよ リル: これだけは言っておく。お前の出自がなんであれ、小生たちはピュルテの味方だ。それは、忘れないでくれ 390 - 忘れるということ レグルス: はあ……ライブラ……。もうすぐ……会えるのでしょうか…… レグルス: あなたのいない世界がこんなにも灰色だなんて、思いもしませんでした。でも、私はあなたの言葉に従ったこと、後悔はしていませんよ…… レグルス: あなたが復活したら、まず何をしましょうか……ふふっ。まずはあなたでないと開かない部屋に入れてほしいです。網膜認証なんて、何がある部屋なんです? レグルス: それからリゾートでのんびりしましょう。あなたはこんなにも長く眠っていたんですから…… ペロー: 神官長、少々お話が……っと、お邪魔でしたでしょうか レグルス: ……ペローですか。いいえ、何かありましたか ペロー: ええ、少々気になる情報を入手しました。ところで、ここのところ彼女を見かけないようですが レグルス: というと? ペロー: え……? デュプリ・ライブラのことですよ。怨棄諸島の一件から顔を見ていないように思いましたので レグルス: ああ……そう言えば、確かにしばらく戻ってきていませんね。まあ、失敗したので戻りづらくなっているだけでしょう レグルス: もともと、ふらふらと遊び歩くことも多かったですから。ワタシもすっかり忘れていました ペロー: 忘れていたって……いわば、あなたの作品のような存在なのでは? レグルス: ふっ、そういう言い方もできるでしょうか。ピュルテもそうですが…… レグルス: それより情報とは? ペロー: ええ……この記録スフィアに入っている音声です。とある情報筋から入手しました レグルス: ……? (背景切換...) フアナ: ……美味しい ウェイター: お口に合ったようで何よりでございます、フアナ様 フアナ: 美味しい、けど…… ウェイター: お飲み物はいかがされますか? よろしければ、こちらのお勧めのワインなど フアナ: えっ、いえ、お水で…… フアナ: やっぱり、せっかくなんで、そのお勧めワインをいただきます ウェイター: かしこまりました フアナ: 美味しいけど、ひとりぼっちのごはんはやっぱり寂しいな…… フアナ: ええっ!? あ、あんな店、絶対に高いって! 無理しなくていいよ! アイソーポス: なんだ、フアナ。私のことを貧乏だと思っているのか? そりゃあ旅をしていた頃は、路銀が足りなくて働いたこともあったが…… フアナ: そ、そんな失礼な意味じゃなくて……だ、だって、ご褒美ってそんな アイソーポス: なに、ここまで地下のあの十二迷宮を調査してもらい、この後も引き続き地下にこもってもらわなきゃいけないんだ アイソーポス: これくらいはさせてもらわないと、私も申し訳が立たないだろう。こういう贅沢な食事で英気を養ってもらいたい フアナ: うう……そ、そこまで言うなら、せっかくだしいただくことにするね。でもドレスコードとかない? あたしのこの服装で平気かな アイソーポス: む……それは考えていなかったな。大丈夫だとは思うが フアナ: アイソーポスさんも、レストランに行くにはわりと武装してるしね アイソーポス: はは、そうだな。いや、ただ私はこれから天空神殿にレグルスとの最終交渉に行くつもりだ。早めに話をつけてしまいたい フアナ: え、今から? じゃ、じゃあ、あたしも行くよ! アイソーポス: いやいや、フアナは十分に自分の仕事をがんばってくれたじゃないか。ここからは私の仕事だからな。さあ、好きなだけ食べてくれ (背景切換...) フアナ: そんなこと言われたって……こうしてひとりで食べてても、なんだか味がよくわからなくなってくるよ…… フアナ: 本当はアイソーポスさんと一緒に食べたかった……けど、忙しいんだから仕方ないよね……役割分担だもんね…… ウェイター: こちらが本日のおすすめワインです フアナ: あ、はい…… アイソーポス: フアナ!! フアナ: えっ……!? アイソーポスさん!? アイソーポス: すまない、事態が変わった。一緒に来てくれないか フアナ: も、もちろん! アイソーポス: コースの途中になってしまって大変申し訳ない。お代は全額払う ウェイター: は、はい……! (背景切換...) アイソーポス: あっちに飛空艇を待たせている。急ごう。詳しい話は船内で フアナ: わかった。けど、よっぽどのことだよね アイソーポス: ああ。せっかくの食事だったのに途中になってしまってすまないな。たぶん船内に軽食くらいは用意があるはずだ アイソーポス: 私と一緒に、そんなのを簡単につまむ程度になってしまうが……許してくれ フアナ: 一緒に……。うん、よろこんで! フアナ: それで行き先は? アイソーポス: 永久凍土、ジェロドラシルだ レグルス: なんですか、この音声は……! このワタシをよくも……っ! ああ、やはり簡単に封印解除などできなかったんですね。ワタシが間違っていたっ!! ペロー: ええ、どうやら罠だったようですね。あなたの気持ちを利用して……かくなる上は、天空神殿として徹底抗戦するしかないでしょう レグルス: ……そもそも! 黒鉄の国でペロー、あなたがピュルテを確保した上で、人間さんを抹殺できていれば問題なかったのですよ! ペロー: 仰るとおりです。申し訳ありません ペロー: この前はまったく気にもとめていなかったくせに……事態が変わると急に怒り始めるこの一貫性のなさ、視野の狭さ……呆れますねぇ ペロー: しかし、ピュルテ確保だけでなく人間さん抹殺も任務のうち、ですか レグルス: ……当然です。でないと、次の手に進めませんから ペロー: ……? お話が見えないのですが レグルス: ワタシはずっと研究を進めてきました。ピュルテなしでも人間界から直接召喚できないかと。しかし、この召喚術式は未完成のままです レグルス: その過程でわかったことがひとつ……。人間界から召喚できるのは、どのような手段であれ、それぞれ1体ずつのようなのです ペロー: なんですって? ということは、人間さんが存在している現在、たとえピュルテの身柄を確保しても…… レグルス: 次のエルマイトを呼ぶことはできません。だからこそ、ワタシはライブラ復活に望みをかけたのです。決して個人的感情で決断したわけではない ペロー: この期に及んで見苦しい……。しかし、これが事実なら、あそこで人間さん抹殺を失敗したのは痛手でしたね……。あの妙な連中が邪魔をしなければ…… レグルス: もう……我慢なりません。ワタシが直接、手を下してやります ペロー: 直接……そうですか、神官長自ら…… レグルス: 侮らないことです。ワタシにはライブラが遺してくれた秘術があるのですから! (背景切換...) ヴェルメリオ: ……そろそろ、あのあたりに丘が見えてくるはず ドロシー: ああ、あれね。あったわ。ってことは…… シンデレラ: それを越えれば、そこから先はレグルス教国ってことね…… ピュルテ: あ、はい。大丈夫ですよ。人間さんも、気を使ってくださって本当にありがとうございます ピュルテ: 優しい人ですよね、人間さんは。私、本当に皆さんと出会えて幸せです エミリー: んもー、改まってそんなこと言われたら照れちゃうよぅ ドロシー: ……ん? 上から何か落ちてくるわ。あれは……人? クレア: ううん、あれは……! 391 - 神官長と相まみえて レグルス: やっと会えましたね、皆さん。ここまで出向いてきてくださって助かりますよ シンデレラ: レグルス神官長……っ!! パラケルスス: へえ。ようやくお出ましか レグルス: 本当にあなたたちは……ワタシをイライラさせてくれますね……! 特にそこの。当たり前のようにそちら側にいますが ドロシー: だ、だって! そっちが無茶させたんじゃない! あんなゴーレムなんて使って……ついていけるはずないわ レグルス: 息を吸うように人を裏切る外道が何を言い訳しても、ワタシの耳には届きません……。特にピュルテ、あなたがここまで使い物にならないとは思いませんでした ピュルテ: えっ、あ、あの……私が何かしたんでしょうか? レグルス: ……? ああ、ペローがフォーマットしたんですね ティンカー・ベル: ちょっと! さっきから黙って聞いてれば、外道だの使い物にならないだの……みんなはいろいろ悩みながら、答えを探してたんだよ! ティンカー・ベル: それを、自分の道具みたいな言い方して……ティンカはほんとにっ、あんたのこと許さないから!! クレア: うん……。私はもう、怒ったよ シンデレラ: レグルス神官長。私はいつか、あなたとはじっくり話したいと思っていたのよ シンデレラ: 地上の王のひとりとして、あなたが思い描く世界を聞いて、どう手を取りあっていけるのか……模索しなきゃいけない。私情は一旦捨ててでも シンデレラ: けど……あなたに話し合おうという意図は感じられないわね レグルス: 話し合い? まさか自分がワタシと対等だとでも? ワタシが来たのはそんな生易しいもののためではありません レグルス: こちらから出すのは命令です。ピュルテと、そして人間さんの身柄を引き渡しなさい ヴェルメリオ: ……ほんと、勝手なことばっかり言う パラケルスス: ライブラの金魚のフンが、ずいぶんな口を利くようになったじゃないか レグルス: パラケルスス……あなたのことは昔から気に入らなかった。何かとライブラの向こうを張るような真似を…… パラケルスス: ただ意見を言ったまでなんだがねぇ。そもそもぼくはリアリストだから、ライブラみたいな夢子ちゃんとは相性が悪いんだ エミリー: だいたい、この人数にケンカ売るつもりなのぉ? どれだけ自信あるのか知らないけど、無理なんじゃないかなぁ エミリー: もう……この不毛な戦い、終わらせちゃお? (背景切換...) アイソーポス: くっ……まだ着かないか フアナ: レグルスが永久凍土に向かった……それは間違いないの? 人間さんくんたちのところに? アイソーポス: 天空神殿に行ったが不在だった。そして周辺にいた微精霊たちの証言によれば、かなりの勢いで下界に飛び出して行ったと アイソーポス: あいつが感情的になるのはライブラのことだけだ。私のアポを飛ばしたことからも、おそらく私のブラフがバレたんだ フアナ: そんな……。で、でも、なんかジャコヴァとかアイソーポスさんの昔話を聞いてると、レグルスって大したことないんじゃ…… アイソーポス: 確かにあいつは小心者で、保身ばかり考え志も低く、判断も決断も先送りでライブラの影を踏むことしかできない…… アイソーポス: だが、戦闘能力だけは本物だぞ リル: なっ!? は、早い……っ! ヴェルメリオ: ……こっちも、狙いがつけられないよ……! シンデレラ: 剣や弓だけじゃないわ! 魔法の照準も定まらないっ…… レグルス: たかが地上の民の身分で、このワタシに楯突こうなどというのが間違いなのです。身の程を……知りなさいっ! ティンカー・ベル: うあっ!! や、やったな……っ、このぉっ…… エミリー: ティンカ、冷静になって。焦って飛び込んだら思うツボだよ クレア: いま、人間さんが準備してるから ドロシー: ――っ!? こ、この気配……! 人間さんのエルマイト!? ピュルテ: な、なんですか、これ!? すごいエネルギーを感じます!! リル: 感知能力だ。ピュルテはそうやって、エルマイトとディマイトを敏感に感じ取ることができるんだ ティンカー・ベル: でもこれ、ピュルテじゃなくても伝わってくる! 人間さんも、レグルスに怒ってるんだね パラケルスス: なるほど、本気になった人間さんくんの底力ってところか ヴェルメリオ: ……人間さんのエルマイトがわたしの中に流れ込んでくる……! この力があれば、もっと…… クレア: うん、いける! レグルス: ……っ、これが人間さんのエルマイト……。なるほど、確かに少々厄介な代物のようですね レグルス: 返す返すも、ワタシの思うように動かせていれば……惜しいものです。が、いまは少し黙っていてもらいましょうか! ドロシー: 人間さんっ!? どうしちゃったのよ、急にしゃがみこんで パラケルスス: 効いているのは人間さんくんだけ……? レグルス: どんな存在とも分からない異世界からの侵入者に、ワタシが何も対策をしていないと思ったのですか? パラケルスス: オトギノクニの住民以外に適用される術式、ということか……。まさかこれもライブラの入れ知恵…… パラケルスス: どうだ、立てるかい。痺れて身動きできないか。仕方ないな…… ティンカー・ベル: だいじょーぶ! 人間さんだって動けなくても、エルマイトは出してくれてるんだもん。ティンカたちが戦えば問題ないでしょ! シンデレラ: 人間さんはあなたの道具じゃないのよ! 好き勝手させるもんですか!! ドロシー: みんな! ここで畳み掛けるわよ!! レグルス: やれやれ……少しばかりエルマイトを増やしたからといって、ワタシに勝てるとでも? エミリー: 余裕もそこまでだよぅ! そこっ!! レグルス: 一秒の狂いも許しません。 『時流の審判』 リル: プロテクト!? いや、攻撃が……無効化されている……! まるで、最初から存在しなかったかのように……!? パラケルスス: なるほど、金魚のフンなだけあってライブラのコピーはずいぶん上手みたいだね レグルス: では、今度はこちらからいきましょうか。すべての物語を停止させる…… シンデレラ: なっ……か、体が、動かない……っ!? レグルス: 神聖魔法『エクス・ティンクト』――すべての物語はその進みを止める ピュルテ: そ、そんな……自分の体が石にでもなったみたいに…… パラケルスス: なんだって? みんな、動けないのか!? ぼくだけが例外……? レグルス: そのとおり。そしてパラケルスス……あなたは優れた錬金術師ですが、実戦には向かない。ほぼ戦闘能力はないと言っていいでしょう パラケルスス: ちっ……ずいぶん生意気な口をきくね。だが確かに、きみの戦闘能力と比べれば役者不足は否めない…… レグルス: これでわかったでしょう? あなたたちが敵う相手ではないのです。本当ならピュルテと人間さん以外は見逃しても良かったのですが…… ( ) クレア: ぐっ!? エミリー: クレア!! ドロシー: ク……クレア……? ちょ、ちょっと、返事しなさいよ! シンデレラ: クレアに何をしたの!! いまの光線は……っ ( ) シンデレラ: く、ぁっ……! ティンカー・ベル: 姐さぁんっ!! ヴェルメリオ: ……あんな、細い光線ひとつで、ふたりとも……? ねえこれ、本当に? 気を失ってるとかじゃなくて……!? パラケルスス: ……みんな、完全に止まっている。何もかも。急速に温もりが失われている。これは……本当に『死んで』いる……! レグルス: あなたたち、うるさいんですよ。さあ、人間さん。場合によってはあなたに働いてもらわないといけない可能性もありますからね。立場をよく理解してもらいましょう ( ) リル: ぐっ!? く、ふぅ……っ ( ) ドロシー: あっ……!! エミリー: 最低……ひとりずつ攻撃して、処刑でもしてるつもり……? レグルス: ああ、それです。何かに似ていると思ったが、そう、これは処刑ですよ ( ) エミリー: うっ……!? ティンカー・ベル: エミリーーーーっ!! ヴェルメリオ: ……こ、こんな、あっけないの? わたしたち、ずっと旅してきたのに……こんなあっけない幕切れなの……? ティンカー・ベル: う、うあっ、ああああっ! どうしてこんなこと、するんだよぉっ!! ( ) ティンカー・ベル: あ……く、はぁっ…… ヴェルメリオ: ……人間さんっ、わ、わたし……っ。あ、あなたと本当に会えて幸せだった……。こんな結末でも、わたしは後悔し……っ ( ) レグルス: そういうの、結構です。長くなるので ピュルテ: 私、記憶がないんです レグルス: ん? ピュルテ: だから皆さんと違って、あなたに何の感情もなかったですし、何か言われてもピンとこなくて腹も立ちませんでした ピュルテ: でも……いま、私の中にマグマみたいに熱い気持ちがわきあがってます……! 記憶もない、何も知らない私でもこれだけは断言できる! ピュルテ: あなたは! その力だけが頼りの、臆病者です! だからこんなことができるんです! あなたは、クズですっ!! レグルス: うるさいですね ( ) ピュルテ: う……ぁっ…… パラケルスス: ……。良かったのかい、ピュルテまで殺してしまって レグルス: 代わりはいくらでも作れますから。人間さんさえ連れ帰ってしまえば、後はどうとでも パラケルスス: ふん、きみは確かに戦闘能力は高いんだろう。でも、いかんせん場数というものが足りないな レグルス: まだ何か仕掛けるつもりですか? 確かにあなたたちふたりは『作品』ではないから『エクス・ティンクト』の対象外です……しかし パラケルスス: 人間さんくん、きみとの旅はなかなか楽しかったよ。でも、こうなった以上、もう旅は終わりだ パラケルスス: あとは、自由に生きるんだ。きみの行き先はぼく含め、誰も知らない。だから安心して平和に暮らすといい…… パラケルスス: 万物の精霊よ、時空の理を紐解き以下略! 『強制転移魔法』<ダイクシス・プレイス>!! (背景切換...) (次の瞬間、視界が暗転した。) (わかったのは、自分の身体が超高速で飛んでいく感覚だけで――) 392 - 一矢報いて レグルス: な……っ!? 人間さんの姿が、消えた……!? いや、強制転移魔法か! いったい、どこに飛ばしたんです! パラケルスス: はは……どうせぼくは、大した戦闘能力を持ってない。きみになぶり殺されるのが確定なら、少しは意地を見せたいじゃないか パラケルスス: これでも大賢者と呼ばれてる存在だからね レグルス: どこに飛ばしたのか、答えろと言っているんです!! パラケルスス: さあ、ぼくにもわからないよ。術式そのものが、行き先の場所をイメージしないで構築したものだからね パラケルスス: 拷問にかけようともぼくは知らないし、術式の痕跡を分析しても何も出ない レグルス: なんということを……! パラケルスス: 甘いんだよ。きみの狙いは人間界干渉なんじゃないのかい? なのに媒介となるピュルテをうっかり殺してしまった。迂闊過ぎる パラケルスス: そしてぼくが大錬金術師だと知っているくせに、勝利を確信して余裕ぶってしまった。こういうのは、戦闘能力が高くても場数を踏まないとね レグルス: ……まさか、あなたは私がピュルテを始末するのを待っていた……? パラケルスス: さあ、それはどうかな レグルス: ちっ……アルデバランのようなつまらないことを、あなたも言うのですね……! 何が場数ですか、ワタシの力を目の当たりにしたでしょう! パラケルスス: まあね。でも結果はどうかな。ぼくは果たして負けたのかな。ま、あとは好きにしてくれ。一矢報いてやったんだ、これでみんなにも顔向けできる パラケルスス: なんだかんだ言って、ぼくは彼女たちのことを結構気に入っていたみたいでね。本当に、なかなか楽しい経験だったよ…… レグルス: お望み通り、殺してあげますよ……! パラケルスス: ぼくも、これまでか―― (身体が重い。) (それに関節も軋んでいるようだった。) (いったい、何がどうなったのだったか――) (前後の記憶が判然としない……。) 少年: おーい、生きてる? (背景切換...) (ふいに聞こえた声に、はっと顔を上げる。) (自分が砂浜に突っ伏していたことさえ、ようやく知る。) 少年: 大丈夫か~? どしたの、船でも座礁したとか 青年: どうした、何やってんだ 少年: あ、兄貴。なんか人が倒れてたんだよ (徐々に記憶が鮮明になってくる。) (迸る光線、そして――倒れる仲間。) 少年: 大丈夫か、兄ちゃん。なんか顔色悪いけど 青年: 病気で倒れてたんじゃないのか? あんた、よかったらうちに来なよ。温かいスープくらいなら出してやれるから 少年: 変な遠慮なんかするなよな 青年: え、オトギノクニ? そりゃそうだろ。ここがオトギノクニじゃなかったら、なんだっていうんだ 少年: 兄貴、この人もしかして異世界から来たんじゃねーの!? (あまりにものどかな空気に、先程まで見ていた光景は幻だったのではないか――) (そんな淡い期待さえ抱いてしまう。) (だが、そんな都合のいい話はなかった。) (背景切換...) パラケルスス: あとは、自由に生きるんだ。きみの行き先はぼく含め、誰も知らない。だから安心して平和に暮らすといい…… (背景切換...) (確かに誰も自分を知らないこの場所なら、平和に暮らせるのかもしれない……。) (問題があるとすれば、それは……) (こんな結末を自分自身が望んでいないこと、だろう。) 青年: お、おい、あんたどうした。泣いてるのか? 少年: どっかケガしてるとか (気がついたら声を上げて泣いていた。) (己の無力さを痛いほど感じる。) (仲間たちに合わせる顔がない。) (目の前であんなふうに次々と処刑されて――) (仇を取るどころか、一矢報いるどころか、遠く離れた地で平和に暮らせだなんて。) 少年: 俺……大人がこんなに泣いてるの、初めて見た…… 青年: なんかあったんだよ。自分が痛めつけられるより、ずっと辛くて苦しいことなんだろうな 青年: なあ、あんた。きっと行き場がないんだろ? うち、来るか 少年: うん、そうだよ。うち、親父と3人暮らしだからちょっと狭いけど 青年: じきに日も暮れる。この島じゃ魔物も出ないが、一応な 少年: 兄貴は島の外に行ったことあるんだもんな。いいなぁー 青年: 対岸まで行っただけだって。親父みたいに旅したわけじゃないし 少年: それでも……うらやましいんだよ (背景切換...) (行き場がなかったのは事実なので、兄弟の好意をありがたく受け取った。) 父親: 何か事情がおありのようですな。まあ、ゆっくりしていってくだされ 青年: 男所帯だって? いや、この島全体が男しか住んでないからな 少年: 一人前になった男は、島を飛び出して旅をする習わしなんだ。それで、ここだと思う土地に住み着くんだよ 父親: 私も昔はそうして旅をしていたのですがね。住み着いた場所がなくなってしまいまして、仕方なく故郷の島に戻ってきたのです (父親の言葉に首をかしげる。) (例え人間界に伝わっている存在でなくとも、すべての人は物語に属しているのだとばかり思っていた。) 父親: あなたは島の外をよくご存じのようですな。おっしゃる通りなのですが、住むところを失った者は野に放り出されてしまう 父親: 獏が『喰』うのも基準があるようでしてな。我々などは無視されます。もちろん『喰』われないに越したことはありませんが (いわゆるモブは食われないまま、放り出されるのかもしれない。) (そして、旅をして定住地を見つける……) (つまり別作品に使いまわされている、ということだろうか。) 青年: 何もない島だけど、自然だけはあるからさ。しばらくゆっくりしていきなよ。あんた、ずいぶん疲れてるみたいだから (ここがもし、物語のモブ候補の島なら――) (この島にいる限り自分はどの物語にも属しない。) (本当の名もなきモブとして生涯を終えるのだろうか。) (そして自分の物語も終わる。) (それがパラケルススがくれた選択肢なのか……。) 393 - 横槍 パラケルスス: ……! パラケルスス: ……? 攻撃が、来ない……? ジャコヴァ: ふん、パラケルススともあろう者が、諦めていたのか? パラケルスス: ジャコヴァ!? ヴィルヘルミナ: ちょっと姉さんったら、無茶よ! いきなりパラケルススの前に飛び出していくなんて! レグルス: ぬぅ……ジャコヴァ……! またあなたですか。ワタシの邪魔ばかりして……っ ジャコヴァ: よく攻撃を止めたな。私にヒットさせていたら、カウンターが入る予定だったんだが レグルス: ……どうやら形勢逆転、といったところですか ヴィルヘルミナ: エミリー? エミリーは無事なの!? 返事してちょうだ…… ヴィルヘルミナ: ……え? ど、どういうことなの、これ……嘘でしょ……? 気を失ってるだけ、よね……? ジャコヴァ: お前……何をした レグルス: ライブラが遺してくれた秘術のうちのひとつですよ。あらゆる作品の活動を停止させるんです……ふふっ ヴィルヘルミナ: 笑っ……た……? ヴィルヘルミナ: アナタ、いま笑ったの!? ワタシのエミリーにこんなことをしておいて、笑ったの!? レグルス: ――っ!? は、速いっ……! ヴィルヘルミナ: 殺してやる……殺してやる殺してやる殺してやるっ!! 髪の毛一本も残らないくらいバラバラに切り裂いてやるわ!! レグルス: くぅっ、あのヴィルヘルミナが……ここまで……っ!? でも、ワタシには、そんな攻撃は届きませんよ!! ヴィルヘルミナ: ぐううっ!? う、ぐぅっ……この程度、エミリーの受けた痛みに、比べれば……っ パラケルスス: 噂には聞いていたけど、本当に溺愛していたんだね。もっとも、妹が犠牲になったんだ、誰だってこんな反応をするだろうけど ジャコヴァ: ああ。エミリーを奪い、ヴィルヘルミナを傷つけた。この罪は、重い レグルス: とは言え、怒り狂った相手は何をするかわからない……。ここは一度、退くのが賢いやり方でしょうね ヴィルヘルミナ: 逃さないわ……! 死ねぇっ! レグルス: ワタシはね、忙しいんですよ……っ パラケルスス: 転移魔法か……。でも、どうして逃げたんだ……。さっきのあの術をもう一度使おうとはしなかった…… ジャコヴァ: これはおそらく、作品にしか効力がない。作家が揃った時点で、やつはやり合うつもりはなかったんだろう パラケルスス: ん? 待ってくれ。錯覚があったといっても、攻撃を受けたら反射的にかわそうとはするだろう? でもエミリーは一歩も動けなかったような ジャコヴァ: ……それは、そうだろうな パラケルスス: は? だって―― ヴィルヘルミナ: う、うう……っ、ああああああっ! エミリーっ!! ジャコヴァ: ヴィル。私がなんとかする。絶対にだ ヴィルヘルミナ: あああっ、だって、こんなのって、ないわ……! こんなところに寂しく倒れて、ワタシのエミリーが……っ! ああああっ ジャコヴァ: ごめん。もう、泣かせないと誓ったのに パラケルスス: ……ところで、ふたりはどうしてここに ジャコヴァ: アイソーポスから連絡をもらって、すぐに動いたんだ。私たちのほうが近かったのか、使っている乗り物がボロなのか…… パラケルスス: あ……あのプロペラ式の簡易飛空艇、あれかな フアナ: 人間さんくんっ、みんなっ!! アイソーポス: これは……ひどいことをする。いったい、何があった? パラケルスス: 実は…… フアナ: そんな、全滅……って……! パラケルスス: ぼくもいながら、不甲斐ない結果で申し訳ないと思ってる アイソーポス: 素直に詫びるとは珍しい。まあ、この状況ではな…… アイソーポス: とはいえ、パラケルススの責任ではないだろう。それよりも、ここからどう事態を打開するかだ ジャコヴァ: 人間さんは強制転移魔法で飛ばしたんだったな パラケルスス: ああ。行方はぼくも知らない ジャコヴァ: ふむ…… アイソーポス: それでパラケルスス。この術についてどう分析している? パラケルスス: ぼくもさっき襲撃されたところなんだよ。少しはいたわってほしいね アイソーポス: 大賢者なんだろう? パラケルスス: ……まあ、軽口はこのへんにしておくか。ぼくも彼女たちを救えなかったことに、少なからず自責の念を持っているからね パラケルスス: 通常、作品は獏に喰われる以外の物理的な損傷で肉体を失うと、微精霊へと変化する。そしてまたエルマイトを蓄積し、復活のときを待つ パラケルスス: だが、既に倒されてからだいぶ時間が経っているにもかかわらず、微精霊が現れない……。つまり通常のサイクルが止まってしまっているんだ フアナ: なっ……微精霊って、そ、そうなの? アイソーポス: かつて獣聖騎兵という天空神殿の兵器によって、多くの作品が微精霊となった。人間界とは関係のない、この世界だけの変化だ ジャコヴァ: 何故、天空神殿が精霊管理をやっていると思う。自分たちが滅ぼした相手を監視するためだぞ フアナ: ……考えたことなかった。なんとなく、精霊とつながりがあるのかなって パラケルスス: おそらくだが、このまま放置しても肉体が滅ぶことはない。しかしその魂は微精霊にならずに肉体の中に入ったまま……つまり、永遠の蝋人形だ ヴィルヘルミナ: あ……ああっ、ひどいわ……それじゃあエミリーは……もう…… フアナ: ヴィルヘルミナ……。あんなに可愛がっていたエミリーがこんなことになったら、当然だよね…… ヴィルヘルミナ: 微精霊でもいい、ワタシのところに戻ってくれたら、いくらでもエルマイトをあげられたのに……!! ヴィルヘルミナ: どうしてよ!? ジャコヴァ: んうっ!? ヴィル、やめろ、苦しい フアナ: ちょっとヴィルヘルミナ! 落ち着いて! どうしたの、急にジャコヴァの襟首をつかむなんて ヴィルヘルミナ: どうしてあいつを逃したのよ! なんで殺さなかったのよ! ジャコヴァ: いやだって、転移魔法で ヴィルヘルミナ: う、うう……ワタシのエミリーが…… パラケルスス: ……。あのさ、ひとつだけ聞いてもいいかな ジャコヴァ: 私にか? パラケルスス: どうしてエミリーまでこんなことになったんだ? 394 - エミリー・グリム パラケルスス: さっきのジャコヴァの言い方だと、レグルスが使った術は『作品』に影響するってことだったよね。だからぼくも人間さんくんも動けた フアナ: 動けても、人間さんくんは戦えないもんね……。あれ、でも魔物はだめでも神官長ならいけるのかな アイソーポス: おそらく難しいだろうな。結局はイマジュマイト……現在で言うエルマイトあるいはディマイトを使った戦闘になる アイソーポス: 彼はエルマイトを保有しているが行使できない。そのへんのチンピラ相手なら物理的な肉弾戦が通用するだろうが…… パラケルスス: そう、ぼくと人間さんくんは作品じゃない。作家と、異世界の存在だ。だが……エミリーは? 何故、彼女まで動けなかった フアナ: あ……そう言えば…… ヴィルヘルミナ: ……作家じゃないからよ アイソーポス: ………… フアナ: 作家じゃ、ない? ジャコヴァ: 厳密に言えば、作家としての色が薄いんだ ジャコヴァ: この世界における作家の条件はおそらく『文字によって描かれた作品を生んだこと』ではないかと、私は予想している ヴィルヘルミナ: あの子は画家なの。作家の資格をうっすらとは持っているから何かあるのかもしれないけど ジャコヴァ: 世界中を旅したが、エミリーの作品に出会ったことはない。そもそも作家本人はある程度、探し当てられる場合が多いしな ヴィルヘルミナ: だからエミリーは、作家であると同時に、ワタシの作品でもあるの ジャコヴァ: そしてカロラもな パラケルスス: なるほどね……『作家性』と『作品性』の比率ってやつか。今まであまり気にしたことはなかったけど フアナ: ど、どういうこと? アイソーポス: いまのエミリーの話は我々にも当てはまる。私は作家であると同時に、作品としての要素も備えている。フアナ、お前もな フアナ: あたしの、作家がいるってこと……? アイソーポス: そういうことだ。ほとんどの作家は、作品としての側面も持っている アイソーポス: もっとも、私の作家などはおそらく尖墨獏――作家を捕食する獏に、既に喰われているんだろう。これだけ旅して一度も会ったことがないからね ヴィルヘルミナ: ここにいる他の子は、作家性はゼロ、作品性が100。これが通常の比率よ。でも作家性が一定率を超えると、ワタシたちのように作家としての力を持つの パラケルスス: 元々コミッティの加入条件に、作家というのは絶対じゃなかった。だからレオナとかも参加していたわけだ アイソーポス: 先にジャコヴァが無理を言ったから私もそれに合わせただけなんだが ジャコヴァ: ……とにかく、いつまでもここにいても仕方ない。寒いしな ヴィルヘルミナ: エミリーを屋敷に連れ帰ってもいいわよね? パラケルスス: ああ。そうしてあげよう。問題はない アイソーポス: 運び出すのはいいが、この後どう手を打つかだな パラケルスス: ……ちょっと、考えていることがあるんだ ペロー: お戻りですか。レグルス神官長 レグルス: ……っ! ペロー: おや? 手ぶらのようですが…… レグルス: 人間さんを探し出しなさい! 今すぐに! ペロー: といいますと? どういう状況なのでしょう レグルス: 人間さんはこの世界のどこかに飛ばされました。パラケルススの強制転移魔法によって。行き先はわかりません ペロー: わかりませんって、全世界からノーヒントで探せというんですか? レグルス: 元はと言えばあなたが! ピュルテをしっかり持ち帰らないからこういうことになったんですよ!! ペロー: それについては、確かに落ち度ではありますが レグルス: 人間さんも始末できない、ピュルテも逃がす、それでよくおめおめとワタシの前に顔を出せますね!? レグルス: だいたい……あなた、ピュルテをフォーマットしていましたね。そんな指示は出していませんが、何をするつもりだったんです ペロー: いえいえ、あれはただ、そのほうが持ち帰った後に使いやすいかと思ったまでですよ レグルス: ……っ、とにかくすぐに、探し出すのです! ペロー: やれやれ…… (背景切換...) レグルス: ああ……ライブラ……。ワタシはまたしくじったのでしょうか…… レグルス: どうしてこんなことになってしまったんでしょう。ライブラ、あなたはどうしてワタシのことを残したんです…… レグルス: あのグランド・リヴィジョンのとき、どうして……! (背景切換...) ライブラ: レグルス。大丈夫? レグルス: あ……ライブラ。あ、あの、ワタシ…… ライブラ: 心配する気持ちは分かるわ。私も同じだから レグルス: ライブラも……? ライブラ: ええ。この秘術が達成したあと、アスクレピオスたちサポートメンバーがうまく立ち回れるのかどうか…… レグルス: えっ……? ライブラ: グリムからエネルギーを奪ったその後が大事なのよ。団体名も『天空神殿』に改称したでしょう。少しでも説得力を持たせるために ライブラ: 神殿には神官がいるべきで、それらを束ねる神官長が必要だわ。私の意図を深く理解できる誰かが、神官長を務めてくれれば安心なのだけど…… レグルス: え……今の話って…… ライブラ: いま、この魔法陣には私たち12人のほかには、最終チェックをしてくれているアスクレピオスだけ レグルス: そ、それが何です……? ライブラ: もし……仮に『誰かが入れ替わった』としても、それを『指摘できる者はいない』わね レグルス: ……!? ライブラ: 私が作る未来は、あなたに導いてほしい。――決断して レグルス: え…… ライブラ: それじゃあ私も自分の封印台座に戻るわ。最後にお別れが言えてよかった レグルス: ライブラ…… (背景切換...) レグルス: そう……あのとき、ワタシはライブラに選ばれた……! だから、やらなくちゃいけない……最後まで……っ! レグルス: 大丈夫、人間さんが見つからなくても、グリム側も把握できていないのだから。グランド・リヴィジョンさえ守り抜けば ペロー: まったく……八つ当たりには困ったものですね。そして、言うだけ言って部屋にこもりきり……。つくづく上に立つ器ではありません ペロー: さて……これからどうしますか。やはり、術式の状態を確かめておきたいところですね。GR2が本当に成功してしまうのかどうか…… ペロー: グランド・リヴィジョンはひとつでいい……あの方が目指す理想を実現させるために、私は…… (背景切換...) ライブラ: えーと、ペローさん ペロー: 呼び捨てで構いませんよ ライブラ: じゃあ、ペロー。考えたことある? どうしてイマジュマイトは人間界から流れ込んでくるだけなんだろうって。なんだか、おかしいと思わない? ペロー: イマジュマイトの流れ自体も私はそう詳しくありませんから、おかしな点に気づける目を持ち合わせていませんね ライブラ: んー、なんていうかな。この世界って独立したひとつの世界でしょ。なんで別の世界にエネルギー量を左右されなきゃいけないわけ? ペロー: それは確かに……。というか、量は上下するんですか? ライブラ: そうなの。多いときもあれば少ないときもあるし、エルマイト寄りだったりディマイト寄りだったり。そこに規則性はないみたい ライブラ: こっちから人間界に影響できれば、向こうのイマジュマイトを搾り取ってやるのに ペロー: 人間界にこちらから……なるほど。そういう考え方もあるのですね ライブラ: そうすれば、もうペローみたいにあんな思いをすることもないのよ ペロー: ………… (…………。) ペロー: いよいよ、ですか ライブラ: うん。12の高位の魂をもってイマジュマイトの入り口を制圧してコントロールする。ただこれは、第1段階だけどね ペロー: しかし、あなたはもう…… ライブラ: だって私の魂がないと術式が完成しないんだもん。でもさ、復活しちゃえばいいんだよ。封印されたからって、それで全部終わりってことないでしょ ペロー: ……そう都合よく事が運ぶでしょうか ライブラ: うーん、ちょっと不安ではあるんだけどね。でもコミッティの13号委員様は、私をこうして見送りに来てくれるし ペロー: ……私の権限など、たかが知れてますよ ライブラ: もうこっち来ちゃえば? アスクレピオスはしっかりしてるけど、ペローがいてくれたら心強いよ ペロー: そのことですが……もっといい手がありますよ ライブラ: ん? どんなの? (背景切換...) ペロー: あのとき、私は覚悟を決めた。もうすべて始まってしまっている……引き返せる道ではない。わかっていたことなのに、まだ私の中には迷いがあるのでしょうか ペロー: いえ。私はもう何も失わない。すべては……深淵の闇のために 395 - 白羽の矢 ノストラダムス: なんだかんだで普通に暮らしてるみたいで良かったよね ダンテ: ……エルマイトもあった ラヴクラフト: だよねっ♪ 順調に増えてたから、きっと毎日メルヴィルさんは、えちちちなこと考えてるんだよっ ホメーロス: ほえぇっ!? そ、そうなんですかっ? た、たとえばどんな ノストラダムス: テキトー言うなよ、ラヴクラフト~。ホメーロスも前のめりにならないっ ダンテ: ……でも、もう安心 ノストラダムス: まあね~。あの感じならもしかしたらコミッティのメンバーになっちゃったりして ダンテ: ……推薦してもいい ホメーロス: そ、それ、すごいですねっ。わ、わたしなんかとは、全然違います…… ラヴクラフト: ホメーロスさんはコミッティに憧れてるんだもんねっ♪ ノストラダムス: あんな集まりの何がいいんだか。なんかアイソーポスとグリムがバチバチやってる、気まずい空間ってだけだよ? ノストラダムス: あとエセ錬金術師のテオウンコとかね ダンテ: パラケルススなら、退任した ノストラダムス: あ、そーなんだっけ? 興味ないから知らないけど。じゃああいつ、ニートじゃん。うける (ピーピーピー) ホメーロス: ほえっ、何の音でしょう? ダンテ: ……私だ。これは……コミッティ非常回線? ラヴクラフト: あれ? ダンテさん、コミッティは解散したって言ってませんでした? ダンテ: そのはず。……もしもし アイソーポス: ああ、久しぶりだな、ダンテ。どうだ、元気にしていたか ダンテ: 用件を アイソーポス: ……。相変わらずだな…… アイソーポス: まあいい。のんびり世間話をしている場合ではないしな。これからコミッティ本部まで来れるか? ダンテ: コミッティは解散したはず アイソーポス: そうなんだが、ちょっと訳ありなんだ ノストラダムス: おーっ、アイソーポスだ! ひっさしぶり~。貸したままだった3万ゴールドそろそろ返してよ アイソーポス: そんなもの借りてないぞ! その声は、ノストラダムスだな ラヴクラフト: わあっ、これが噂のアイソーポスさんっ? ホメーロス: ひいいっ、お、恐れ多い! アイソーポス: 何人いるんだ ダンテ: 私も入れて4人 アイソーポス: 作家か? ダンテ: そうだけど……ねえ、アイソーポス。話が見えない アイソーポス: ちょうどいい、助かる。それでは現在位置の座標を送ってくれ。そこに飛空艇を回すから、全員連れてこい アイソーポス: 詳しい事情は飛空艇でまた デュプリ・ライブラ: ……やっぱり デュプリ・ライブラ: 術式がほころび始めてる。さっき会ったあの子……ポステリオルとか言ったっけ。この封印から出てきたって話、本当なのかも デュプリ・ライブラ: ボクがGR1を調査したいって言ったら、あっさりOKしてくれたけど……何者なんだろ…… デュプリ・ライブラ: しかもボクのこと、知ってるみたいだった。いきなり、『哀れ』なんて言うんだもん。失礼しちゃうよ デュプリ・ライブラ: ……でも、自覚はすごくある。ボクは、とっても哀れで、惨めだ デュプリ・ライブラ: だからこそ、逆にもうボクは、何も怖くない。ボクが望むのはひとつだけ…… (背景切換...) レオナ: いきなりアイソーポスが呼びつけるから何かと思ったら……これまた、えらいことになってんのね アイソーポス: すまないな。私もこれで、少々動転していたようだ レオナ: まあいいわよ。雨依も今日は安定してたし、しかも延々つまんない話をしてくるから、ちょっと離れられてちょうどよかった パラケルスス: あんまりな言い方じゃないか レオナ: 毎日一緒にいると、こういう感じにもなるわ ジャコヴァ: 元気なのか、雨依は レオナ: ハマってんのか何なのか知らないけど、いちごサンドばっかり食べてるわ。っていうくらい不健康な生活だけど、元気ではいるかな ヴィルヘルミナ: それで肝心の、身体のことだけど……このままで本当に大丈夫なのね? パラケルスス: ああ。サイクルが止まっているから、肉体が外部環境が原因で腐敗することはないよ パラケルスス: ただ、この状態で激しく損傷を受けた場合は、当然肉体は損壊するし、魂が微精霊にはなれないから、永遠に存在が失われるおそれがある ヴィルヘルミナ: あのとき姉さんが割って入ったのは正解だったのね レオナ: みんな……。つい最近まで、黒鉄の国で一緒にいたのに……こういうの見るのは、さすがに胸が痛いね (背景切換...) デュプリ・ライブラ: 思ったとおり、やっぱりこの術式には穴がある……。もしかしたら、神官長は本物のライブラさんとボクをすり替えるために……? デュプリ・ライブラ: そのためにボクを……? 神官長…… デュプリ・ライブラ: 神官長、ボクのこと……見てくれてましたか……? デュプリ・ライブラ: あなたにとって、ボクってなんだったんですか……神官長…… ヴィルヘルミナ: それで、復活はさせられるんでしょうね パラケルスス: どんなことも、まずは試して見ないことには答えはわからないんだよ。とは言え、ぼくはオトギノクニを代表する大錬金術師だからね レオナ: そうやってふかすのやめたらー? ミシェルにまた嫌味言われるわよ? パラケルスス: あいつは脳みその代わりにスポンジでも詰まってるような、どうしようもないバカだから アイソーポス: そう悪く言うものじゃない。じきに、ノストラダムスたちも到着するんだ。揉めてる場合じゃないのはわかってるだろう? パラケルスス: ……ぼくがわかっていても、クソミシェルのスカスカ脳みそはわかってないかもよ フアナ: な、なんかバチバチな雰囲気であたし、緊張しちゃうんだけど……。み、みんな、仲良くしようよ アイソーポス: 大丈夫だ、フアナ。これで案外、仲が良いのかもしれないし パラケルスス: 誰が! レオナ: んで、役割分担はどうすんの。ここから人数を集めるってことは、ある程度は分担するつもりなんでしょ? アイソーポス: ああ。フアナは引き続きGR1の監視を頼みたい。紫式部については、そっちに向かってもらっている アイソーポス: それからレオナは、人間さんがもし見つかったらサポートを頼みたい。彼の性格上、このままでは終わらないはずだ パラケルスス: どうかな。ぼくは安息をプレゼントするつもりで強制転移したんだ。彼ももう、戦意喪失してるんじゃないか フアナ: ううん……人間さんくんは、時間がかかったとしても必ず戦うはずだよ。だってみんなの犠牲の上に今があるって、人間さんくんならわかってるはずだから アイソーポス: ………… フアナ: アイソーポスさん? アイソーポス: ああ、いや……こんなメンツでこうして一緒にいると、アカデミー時代を思い出すな、と思ってな レオナ: 懐かしがってる場合じゃないんですけど? 396 - 無人の本拠地 アイソーポス: もちろん、過去を懐かしむ余裕がある状況ではないのだが……それでも、この雰囲気はかつて存在した時間を思い起こさせてくれる ジャコヴァ: あの頃は良かった、というやつか? ふん、くだらない アイソーポス: そんなことを言うつもりはないよ。いまのほうがいいことも、たくさんあるからね アイソーポス: ただ、同じアカデミーの仲間だったはずなのに、様々な争いや利害関係が生まれていて、そんなふうに変化したことが少し寂しくてね ジャコヴァ: ふん、甘ちゃんだな アイソーポス: そうだね、自覚はあるよ。でも初代コミッティメンバーって、ちょっと不思議な絆がある気がするんだ ジャコヴァ: アカデミーではなく、コミッティ……私も含めているというわけか ジャコヴァ: ふん、そういう甘ちゃんなところ、私は嫌いじゃない フアナ: あっ……飛空艇が到着したみたいだよ。窓の外、ほらあれ パラケルスス: やれやれ、お出迎えに行ってやるとするか (背景切換...) ノストラダムス: おぉ~っ。懐かしいなー。あたし、12号委員だったから……席は、あっちだ ホメーロス: こ、これがオトギノクニの最高峰……インぺリウム・コミッティの本拠地……っ ノストラダムス: ちょっとみんな、はぐれたりしないようにね。あんたたちのせいで、あたしが怒られるとか気持ちが萎えるんだから ジャコヴァ: ふん、ようやく着いたか ダンテ: 事情はアイソーポスから聞いた アイソーポス: 久しぶりだな、ノストラダムス ダンテ: つまり、神殿が暴走してる? ノストラダムス: まさかあいつら、そこまで展開を読んで準備してたってわけ? ジャコヴァ: それで、何か質問は ノストラダムス: あ、はい。ちょっと聞きたいことがあってさ ホメーロス: この流れで、あんな怖そうなジャコヴァさんに質問するなんて強すぎる……さすがノストラダムスさんです……! ノストラダムス: なんであたしたちだったわけ? コミッティが揃えば、変な連中が間に挟まるリスクはほぼゼロになるとは思うけど ジャコヴァ: そのとおりだ。このタイミングで、現役コミッティのダンテが合流したことはとても心強い ジャコヴァ: だが、それぞれに役割分担する中で、相応の格を持った作家には参加してもらうべきだと考えた。お前たちは、その資格がある ラヴクラフト: やったねっ。でも……ちょっと気になっちゃうなっ。この子たちに無理させなくても、アイソーポスさんとかが表に出て戦えばいいんじゃないの? ヴィルヘルミナ: ……そうね。エミリーをまた危険に晒すくらいなら、ってワタシは思っちゃうけど ジャコヴァ: これは我々の物語ではない。だから我々の出番はない。ここまで紡がれてきたのは、彼女たちの物語なんだ ホメーロス: ほえぇ......! そういう背景があるんですね……! アイソーポス: この8人だからこそ成立している関係性、あるいは互いを結ぶ絆……こうしたものは彼女たちでなくてはだめだ。私たちでは代えがきかない…… ジャコヴァ: それに政治的なメッセージ性もある。私たちがここで表に出れば、場合によっては天空神殿発足直後のようなことが起きてしまう可能性もある パラケルスス: 獣聖騎兵とか、三大悲劇とかね ジャコヴァ: 作品自らが声を上げた、そのことを私は大事にしたい ラヴクラフト: そっか~。そういう熱い気持ちがあったほうが、身体も熱くなるってことかなぁ? ノストラダムス: まあ、大体そういう解釈でいいんじゃないの ホメーロス: で、でもわたしなんて作家ではありますけど、なんの肩書もありませんよ……? 本当にお役に立てるんでしょうか…… ノストラダムス: それはあたしも気になった。言っても、あたしは現役のコミッティじゃないし、ラヴクラフトとホメーロスに至ってはもう アイソーポス: ジャコヴァが言ったように、みんなは作家としての格も高いし、初期メンバーは私が純粋に実力で声掛けをさせてもらった相手だからね アイソーポス: ただ、初期メンバーの中でも紫式部は現地で術式展開の準備をしてもらっているし、レオナは作家ではなく、ペローに至ってはこちらに反旗を翻している ホメーロス: 現行メンバーを差し置いて、なんて後からいじめられるんじゃ…… パラケルスス: なるほど、なかなかネガティブな子のようだが……それでも作家の質は高いと、ぼくは見ているよ。安心してほしい パラケルスス: そもそも、きみたちも当初アイソーポスがスカウトに動いてたと聞いている。そういう意味でもふさわしいんじゃないかな アイソーポス: ああ。いずれも見劣りしない作家だと思っている ラヴクラフト: おお……あのアイソーポスさんに、そんなこと言われたら……モチベーションが高まって、びちょびちょになっちゃうよ~! パラケルスス: びちょびちょって、何の話なんだ…… ジャコヴァ: 復活についてはパラケルススが準備を進めている。止まった歯車を動かしてやることも、そう難しくはないらしい アイソーポス: ただ問題は、復活したところで無策のままならまたやられるだけだ ヴィルヘルミナ: ……単に訓練したところで、相手は腐っても神官長、この世界のエルマイトのほとんどを牛耳っている存在よ レオナ: しかも人間さんくんもいなくなっちゃったしね フアナ: それでも何か強化するんだよね? だからこその、ダンテたちの招集なんだよね アイソーポス: 別働隊のレオナ、紫式部、裏切ったペローを除外すればOp7は4名 ジャコヴァ: 私は最強だが、その基準についてこられるのはヴィルだけだ ヴィルヘルミナ: 妹たちはこういう場でインパクトを与えられるわけじゃないわ レオナ: つまり、グリムからは2名。合計6名だね ラヴクラフト: そこにあたしとホメーロスさんが追加されるってことね! ジャコヴァ: それで、具体的には何をするかが問題だ。実力ある作家を揃えて、この8人に何を望むか……。パラケルスス、何か考えがあるということだったな? フアナ: みんな、ロゼッタゲートだって行ったし、もう限界まで強化してるはずだよ。これ以上、何ができるっていうの……? パラケルスス: 彼女たちには……『リメイク』をしてもらうよ 397 - 新たな枠組み ジャコヴァ: それでは改めて方針と役割分担について確認する。最大の課題は8人に対して我々がどういった支援をするかだが、パラケルスス ヴィルヘルミナ: リメイク、ってことだったけど パラケルスス: 作品としての再構築をするんだ。レグルスのエクス・ティンクトの影響範囲から逸脱するような、新たな枠組みの作品に仕上げる アイソーポス: それは具体的なイメージはできているのか パラケルスス: ダンテたちが合流するまでの間に、2種類の錠剤を作った。ひとつはレグルスに止められたサイクルを再開させるためのもの パラケルスス: もうひとつは……作家のイメージを自身の内側に取り込むためのもの。これは作家と作品、双方が飲む ノストラダムス: そんなもん飲んで死んだりしないでしょーね? アホが作った薬で苦しんだりしたくないんだけど パラケルスス: 脳みそのかわりにプリン詰めてるようなやつにアホ呼ばわりされたくないな。そういう言いがかり、自分の無能を証明してるからやめたほうがいいよ ノストラダムス: はあ? 人の悪口言うときだけイキイキしてるとか根性腐ってるよね。普段は部屋でひとりウジウジしてるだけのくせに パラケルスス: それを言うならそっちだって ホメーロス: ほえぇっ、ケンカが始まっちゃいましたよぅ~! アイソーポス: ああもう、やめないか。くだらない言い合いをしている場合じゃないだろう ラヴクラフト: ねえねえ、手順はわかったけど、イメージを共有ってどんな感じになるの? パラケルスス: まず、ある程度の作品理解をすること。これは、本来の担当作家ではないから、本人と面談して擬似的に作品理解に繋げる必要がある ヴィルヘルミナ: 本来、自分の作品なら最初から理解しているわけだものね パラケルスス: そうだね。でもこれは、担当じゃないからこそ新しい解釈を生み出すことができるんだと、ぼくは考えている ダンテ: どんな要素が必要か、作家が考える? パラケルスス: そうだね。もちろん本人の希望もある程度は聞いていいけど、最終判断は作家側。あとはそのイメージを実際に経験値にするため、作品側が疑似体験する ホメーロス: ううっ……とっても難しそうです。本当にわたしにもできるでしょうか…… シンデレラ: ……っ! あ、私っ…… パラケルスス: よし、これで全員が目覚めたね フアナ: よかったぁ……。みんなが倒れているところ見て、あたしもう、どうしようかと思って ピュルテ: いったい何が起こったんでしょうか……? アイソーポス: 詳しい事情はこれから説明する。落ち着いて聞いてくれ (…………。) ヴェルメリオ: ……じゃあ人間さんは行方不明ってこと? 早く探しに行かなくちゃ フアナ: ヴェル、落ち着いて! 人間さんくんならきっと大丈夫だよ ヴェルメリオ: ……だって、あの人は魔物と戦えないのに。死んじゃうかもしれない ジャコヴァ: 騒ぐな。レオナに行方を追わせている。お前たちは、自分ができることに専念しろ ヴェルメリオ: ……だって! ジャコヴァ: 二度言わせるな ヴェルメリオ: ……っ エミリー: ヴェル、心配なのはわかるけど、レオナならきっと大丈夫だよぅ。ね? ピュルテ: それで、そのリメイクっていうことをするんですよね? フアナ: あたしはみんなに近すぎるし、他に役割もあるから……でも、この人たちに任せておけばきっと大丈夫だよ パラケルスス: 面談後、作家のイメージを共有してもらう。あくまでもイメージではあるけど、そこで起きることは現実の経験となる パラケルスス: 作家の個別の方針や能力にも左右されるけど、そこはきちんと話し合って自分の考えも伝えてくれればいいから ドロシー: そんなこと言われても、まだイメージがわかないんだけど…… ヴィルヘルミナ: 実際にやってみるしかないんじゃないかと思うわ。それじゃあ後は、自分の担当と個別に進めていきましょ リル: 実践しなければわからないというのは、その通りだろうな。わかった、どのみち小生たちにはもはや選択肢などないだろうしな クレア: だね。無視して出ていったら、またレグルスにやられちゃう ティンカー・ベル: ……あんな辛い思い、もうしたくないもんね フアナ: あたしは先に現地に向かってる。みんながパワーアップしたところ、楽しみにしてるから ヴェルメリオ: ……うん。ありがとう、フアナ (迫りくる魔物の爪。) (動きはすべて見えていた。) 冒険者1: おおっ、すげえ! なんだあの男 冒険者2: 魔物に囲まれても、攻撃を全部いなしてる! (しかし、反転攻勢しようとしても――) 冒険者1: 圧倒的な手数で押し込んでる……けど 冒険者2: 魔物は、まったくダメージを受けてないっぽいぞ……? (やはり――どれだけ鍛えても、) (この壁だけは超えられない。) 冒険者1: ま、待ってろ! いま助太刀するからな! (…………。) (背景切換...) 冒険者1: 出身地のせいで魔物と戦えない? よくわからんが呪いみたいなものか? (討伐クエストを共にこなした冒険者と酒を酌み交わす。) (戦えないが、役には立ったらしく喜ばれた。) 冒険者2: かなり鍛えてるよな。もうただものじゃない太刀筋だぞ 冒険者1: その呪いが消えれば、お前なかなかの冒険者になれそうなのに (もう鍛錬の問題ではないのだろう。) (問われているのは努力ではない。覚悟だ。) (いつだったか、ロゼッタ・ゲートの精霊であるロゼッタに言われたことがある。) (作家は通過できない。) (エルマイトの少ない作品も難しい。) (人間界から来た自分も難しいが、可能性はある、と……。) 冒険者1: なんだよ、人間さん。難しい顔して……あん? ロゼッタ・ゲート? 冒険者2: どこだそりゃ。初耳だな 冒険者1: 砂の国? それならだいたいの行き方は分かるが……結構、遠いぞ? 冒険者2: なんだか知らねえが、お前にとって大事なことなんだな。応援してるぞ! 398 - あの日のこと ヴィルヘルミナ: うん、そうね。資料をもとにして構築すればいいと思うわ。アナタも知ってること、それなりにあるんでしょう? ラヴクラフト: うん、心当たりもあるし。ほら、海関係はあたし、わりと繋がりみたいなのあるんだよねっ ヴィルヘルミナ: そのあたりの裁量は姉さんも任せるって言ってたし、自由にやりなさいよ。もちろん、担当とはよく話して ラヴクラフト: はーいっ。相談にのってくれてありがとねっ、ヴィルヘルミナさんっ ヴィルヘルミナ: さて……待たせたわね。これで、この部屋にはワタシとアナタのふたりよ シンデレラ: ……ええ。それで、何をすればいいのかしら ヴィルヘルミナ: アナタが大きく変わるために必要なことは何か、聞かせてほしいわ。たぶん、ワタシと意見はそう大きく違わないと思うけど シンデレラ: ……トラジェディ砦の悲劇。あなたが知っていること、全部を共有してほしいの ヴィルヘルミナ: そう来ると思ってたわ。資料はだいぶ読み込んだし、アナタ本人からも創造期のことは聞かせてもらったから……きっと、良いアレンジができると思う ヴィルヘルミナ: それじゃあ、パラケルススの錠剤を。用意はいい? シンデレラ: ええ、いつでも ヴィルヘルミナ: では――このペンに誓って。<執筆開始> (背景切換...) 侍従: 殿下、殿下っ、お待ちくだされ~! 王子: なんだ、騒々しい シンデレラ: え……王子……? 侍従: そんな頼りない兵卒ひとりではなく、もっと護衛をたくさん連れて行っていただかないと! 王子: 大げさな。砦の周りを少し見回るだけじゃないか 侍従: まったく、相変わらずですな……。おい、お前。命に変えても殿下をお守りするのだぞ! シンデレラ: ……。……えっ、私に言ってる!? シンデレラ: って、あ、あれ、この格好……? ちょっと待って、どういうこと? 侍従: 何をわけのわからないことを……とにかく、しっかりお守りするのだ。いいな! シンデレラ: えっ、あ、はい シンデレラ: もしかして……私、トラジェディ砦の場面に兵士として入り込んでるの!? ヴィルヘルミナ: もう気づいたわね。そういうことよ シンデレラ: ヴィルヘルミナ! ヴィルヘルミナ: ワタシのことは誰も認識できていないわ。あなた以外はね シンデレラ: これを通じて、あなたは私に何を見せたいのよ ヴィルヘルミナ: 真実、かしらね 王子: 俺は……この砦から見る風景が気に入っているんだ。北を見ればあの小さな島を挟んで、陸地がうっすらと見える。あれはオズの国だ シンデレラ: ええ、見えるわ……じゃない、見えますね。あれがオズの国なんですね 王子: こっちはディープフォレスト自治区。我が国との境目に続くこの壁を、いつか越えることができたらなぁ…… ヴィルヘルミナ: これはあなたが王位を継いでから引き継いだのよね。壁を取り払い、自治区を保護下においた…… シンデレラ: よく知ってるわね 王子: 実は、俺が最初にエラと遠出をしたのは、この砦なんだ。いわばハネムーンだっていうのに、色気も何もない場所で呆れるだろう? 王子: きっとエラも、さすがに呆れただろうな。王子様と結婚なんて、もっとロマンチックなものだと期待してたにちがいない シンデレラ: そんなことない……っていうと思います 王子: はは、気を遣わせてしまったな シンデレラ: ……本心よ。私はあなたといられるならどこだって良かった。欲しかったのは贅沢じゃない、楽しい思い出を作りたかっただけなの ヴィルヘルミナ: 久しぶりの雑談を楽しみたい気持ちはわかるけど、あなたが本当に知りたいことに切り込むべきなんじゃないのかしら シンデレラ: わ、わかってるわよ…… 王子: ん、どうした? シンデレラ: ……この場所で報告のあった、不審な魔物のことを調べているんですよね? いったい、何が起きているんでしょうか 王子: もちろん、そのことも気がかりだが、俺が気になっているのは……森のとある地方で起きている奇病のことだ シンデレラ: 奇病……? そんなの記録の中になかったわ。なんのこと……? 王子: ディープフォレスト自治区に隣接する森林地帯、この砦から馬で15分ほどで行ける場所だが……2日に1回、意識を失ってしまう人たちがいるらしい シンデレラ: 意識を失うって、それはもう何かしらの病気が進行して……え、2日に1回? 翌日には元通りってこと?  ……ですか? 王子: 何かがおかしい。僻地だが我が国の領内のことだ。調査する必要がある (背景切換...) シンデレラ: この先ですか 王子: そう報告を受けている (背景切換...) 王子: それではやはり、2日に1回のペースで意識を? 森の住民: ええ……最初は気づかなかったんです。夜に寝て、朝に目が覚めるもんですから。けどね、王様から頂いたこれを見たらおかしいなって シンデレラ: 日付表示のある壁掛時計……。それにこれは、卓上カレンダーですね 王子: 俺とエラの結婚を記念して毎年、国民に配布されるようになったものだな 王子: 俺たちの出会いに、12時で解ける魔法が関わっていたから、それを記念して作ったものだ。俺は恥ずかしいからやめろと言ったんだが、父上がな…… シンデレラ: 確かにこんなの作ってたわね。お義父さまは王子のことずいぶん可愛がっておられたから、他にもいろいろ記念グッズを作っていた気がするわ シンデレラ: そういえば、カレンダーの配布はいつやめたんだったかしら……。やっぱり王子が亡くなってから……? 王子: ここに住んでから長いのか? 森の住民: いえ、最近になってこちらに。すぐ近くのディープフォレスト自治区に住んでいたんですが、獣聖騎兵が出ましたでしょう 王子: ああ……だいぶ森が荒らされたんだったな。それで移住してきたのか ヴィルヘルミナ: だいぶ見えてきたでしょう? あなたの夫は本当に優秀な人だったのよ シンデレラ: 王子…… 王子: どう思う シンデレラ: 話していることに嘘はないと思います。メリットもありませんし。ただ、体調が悪いようにも見えませんでした シンデレラ: もちろん、あまり活気がないなとは思いましたが、お年寄りですからね。あんなものかとは思います 王子: ……実は、類似のケースが他に3件ある シンデレラ: そんなに!? この近くですか? 王子: いや。ひとりは高山地区で、もうひとりは南部の漁村に住んでいる。いずれも最近、事情があって移住してきた者だ 王子: そして最後は、ディープフォレスト自治区のケースだ。領土外なので、直接話を聞けてはいないが、情報通りならほぼ同じような状況だ 王子: 俺はひとつの仮説を考えている シンデレラ: というと……? 王子: 彼らに共通しているのはエルマイトの不足……つまり、天空神殿がいう大改革によって救われたものたちなんじゃないか…… シンデレラ: エルマイトが少なくて困っていた人たちですよね。それを、どんな人も最低限の生活ができるようにってエルマイトが支給されて 王子: その功績を讃えられ、天空神殿はオトギノクニじゅうから崇敬されることになったわけだが……いや、考えすぎか…… シンデレラ: 王子、まさか…… ヴィルヘルミナ: 彼は……気付き始めていたのよ。だから、消された (背景切換...) 侍従: 王子! 大変ですじゃ、魔物が! 王子: 例の詳細不明の個体だな。総員、迎撃準備! シンデレラ: あ……あれは、何……? ヴィルヘルミナ: 三大悲劇の原因となった存在よ。天空神殿が投下した自動追跡型の人工的な魔物。ワタシたちはこれを……『時の破壊者』と呼んでいるわ シンデレラ: 神殿が、こんなものを……!? 王子: 来る! みんな伏せろ!! (背景切換...) シンデレラ: う、うう……私、どうなって……? シンデレラ: ……っ、王子!? 王子: ぐ……うぅ…… シンデレラ: ひどい傷……! 待って、すぐに治療を 王子: いや、俺はもう、助からない……。お前はすぐにここを離れ、王都に戻るんだ…… 王子: そしてエラに伝えてくれ……この国を頼む、と…… シンデレラ: ……王子 ヴィルヘルミナ: 彼の言葉は事実よ。もうもたないわ。何か聞くなら、最後のチャンスだけど シンデレラ: ……っ、どうしてなんです。あの方は庶民出身で政治も素人。彼女に権限を与えたりせず、もっと確実な他の方法もあったのではないですか シンデレラ: どうしてあんな遺言を書いたの? あなたは、私に何をさせたかったの……? 王子: 愛されてる自信があるから、かな…… シンデレラ: え? 王子: 大事な人を亡くした後は、時間なんて無いほうがいい……。あいつを自由になんか、させちゃダメなんだ…… シンデレラ: そ、そんなことのために国を…… 王子: いいや、エラなら……素人でもすぐ、に…… シンデレラ: 王子……? 王子っ、待って、私はまだ、あなたと話したいことがたくさん……っ 王子: ………… 399 - 家族 クレア: えっと、それでどうしたらいい? ホメーロス: い、いろんな方法があります。過去の一場面に飛んで行って、疑似体験する……なんていうのが、結構多かったりしますね ホメーロス: あとは幻の世界で戦ってみたりとか。作家によってほんと、いろいろあるので…… クレア: ホメーロスはどんな感じ? ホメーロス: ほえっ!? わわわ、わたしは特に……。なんでもやりますので…… クレア: え、こっち任せなの ホメーロス: あ、ありませんか? いままで避けていたこととか、考えないようにしていたこと クレア: 私、最近まで記憶喪失だったからなぁ ホメーロス: それ、完全に戻ってますか? クレア: と思うよ。創造期のことも言える。お兄ちゃんがカラスになったりして、助けるためにフォーゲルバインさんのところに行って…… ホメーロス: どうして貧しかったんでしょうね。お兄さんたちはみんな優しかったんでしょうか クレア: え……それは、えっと、わかんない…… ホメーロス: その記憶がすべてでしょうか? どうして記憶喪失になったんでしょうか? クレアさんは真実と嘘を見分けられますか? クレア: え、えっと……わかん、ない…… ホメーロス: ほええぇぇっ!? わ、わたしったらつい勢いでいろいろと失礼なことを……! ごめんなさい、ごめんなさい クレア: ううん。ホメーロスが言ってること、間違ってないと思う。そういうの、私はちゃんと向き合ってこなかった気がする ホメーロス: そうですか……? で、では (背景切換...) クレア: ……っ! ここ、部屋の中だったはずじゃ クレア: あれ……ホメーロス? 長男: クレア? 何やってるんだ、こんなところで クレア: お兄ちゃん……。あ、あのね、私っ…… クレア: あれ……なんだろう。声が、出ない……。何か話そうと思うのに、のどに何か詰まってるみたいな……? 長男: 何やってるんだって言ってるんだ!! 家の仕事を放り出して、ぷらぷら遊び歩いて……誰の金でメシが食えてると思う!? クレア: ……!? 次男: またふらふらしていたのか。お前は家督を継ぐんだ。もう少し自覚を持て 三男: くっそ、オヤジが余計なことさえしなきゃな…… クレア: え、えっと私……何しちゃったの……? 三男: はあ? おめーは別に何もしてないっちゃしてないけどよ 長男: クソオヤジが俺らをたたき出して、お前に全部継がせるとか言い出したんだよ! 四男: そのくせ勝手に病気でぶっ倒れるし 三男: だからさっさと、オヤジから財産の隠し場所を聞き出せって言ってんだろ! 何ちんたらやってんだよ!! クレア: 痛っ……や、やめて…… クレア: お兄ちゃんたち……どうして……? 六男: うるせーな! いいからオヤジの面倒見て来いよ (背景切換...) クレア: お父さん……? 入るよ…… 父親: ごほげほごほっ クレア: 大丈夫? お水、持ってきたからね 父親: ……クレア。さっきの歩き方はなんだ、品のない クレア: 歩き方? え、普通だと思ったけど…… 父親: 口答えをするなっ!! クレア: !? 父親: つまらない口答えをするんじゃない! お前がこの家を管理しなくてはいけないんだぞ クレア: ……それなら、財産をどこに隠してあるのか教えてよ。管理しなくちゃいけないんでしょ 父親: そうやって、私から財産を奪うつもりか! 用済みになったら捨てるつもりだ、わかっているんだぞ!! クレア: そんなことしない……私のお父さんなんだから、ちゃんと病気が治るように看病もする 父親: 騙されない、ワシは騙されないっ、絶対にだ! クレア: お父さん…… (背景切換...) クレア: ………… ホメーロス: あ、あの、クレアさん クレア: あ……ホメーロス。私、全然覚えてなかった……私の実家って、こんなだったの……? ホメーロス: クレアさんの記憶は外から意図的に封印されただけではなかったんです。思い出したくない、忘れてしまいたい、そんな気持ちがあったんでしょう ホメーロス: すみません……。やっぱりつらかったですよね。こんな思いをさせてしまうなんて、わたしは作家失格なのかも…… クレア: ううん。これは、私が成長するために必要なことなんだね。だったら……乗り越えなきゃ クレア: 私のことを信じてくれないお父さん、八つ当たりしてくる怖いお兄ちゃん、そういうのを我慢できたら強くなれる? ホメーロス: 違うんですよ。自分の出自や記憶って、必ず力になるので大事にしてほしいんです ホメーロス: オトギノクニの住民の中には、そういうものが不確かな人も大勢いるんです クレア: だから我慢しろってことじゃないの? 不確かな人より恵まれてるからって ホメーロス: いいえ、そうではありません。恵まれているとも言い難いですからね ホメーロス: ただ、エネルギーに変換することはできると思うんです。もう一度、よく思い起こしてください。実家で経験してきた、理不尽な出来事を…… クレア: ……っ クレア: え、あ……なにこれ、大きなカラスが出てきた……!? これ、どこから来たの? ホメーロス: このカラスは、クレアさんがもっていた理不尽への不満が具現化したものなんです。これに打ち勝つことができれば、クレアさんはきっともっと強くなります クレア: ……わかった。やってみる (…………。) クレア: はぁ、はぁ……全然、消えてくれない…… ホメーロス: あ、あの……打ち消すイメージを持ってください……。ただやみくもに攻撃しても、だ、だめなんです…… ホメーロス: ああっ、ごめんなさいっ、もっと早く言えって感じですよね!? 申し訳ありませんっ…… クレア: ううん。そうだよね、イメージだよね クレア: ……うん。昔の私は、お父さんにもお兄ちゃんにも、何も言い返せなかった。でもいまは、そんなことない クレア: もっとひどい理不尽なことも、いっぱい経験してきた。私はもう、強くなってる ホメーロス: ほぇっ、い、イメージが固まってきてます……! その調子ですよっ、クレアさんっ クレア: 今度こそ、過去のイメージを打ち消す……! いくよ! 400 - ネバーランドへ ティンカー・ベル: え、あれ? ここってネバーランド!? どうなってんのこれ ラヴクラフト: やっぱりティンカさんといえば、ペトラさん大好き、フックさん大嫌い……ここに大事な性癖が詰まってるかなって♪ ティンカー・ベル: え、いや、大事な要素ではあるけど、性癖ではないでしょ ラヴクラフト: えー、そっかなぁ? あたしの性癖センサーにビンビン伝わってくるよ ティンカー・ベル: んで、ティンカはここで何すればいいわけ? ラヴクラフト: なんでそんなにフックさんが嫌いなんだっけ。何かされたの? ティンカー・ベル: なんかムカつくってだけ。創造期のときはがっつりやりあったけどね ラヴクラフト: んじゃ、ちょっと覗きに行っちゃわない? ティンカー・ベル: はあ!? 覗き!? ラヴクラフト: 実はここ、ちょっと前の時系列なんだよね。あのとき、何があったか知ってみたらどうかなってことで来たんだけど ティンカー・ベル: あー、なるほどね! フックのこの悪事を暴いて、ペトラにチクっちゃうのか。んで好感度ダウン、絶交、ペトラはまっとうな道に進むと ラヴクラフト: ていうか、着替えとか見たいよねっ ティンカー・ベル: いや、聞いてた? ラヴクラフト: だってスタイルいいんでしょ? ティンカー・ベル: そこもムカつくポイントなんだよなぁ! ティンカの前で、なんか敢えて強調してる気がするんだよね! (背景切換...) ティンカー・ベル: いた、あれだよ! きっとなんか悪だくみしてるはず! ティンカー・ベル: つーかあんた、なんかすっごい作家なんじゃないの? こんな手漕ぎボートで近づかなくても、瞬間移動とかでびゅーんって移動したいんだけど ラヴクラフト: ちょっと隠れながら近づくのが興奮するんだよっ ティンカー・ベル: ティンカ、興奮するためにこれやってるんじゃないんだけど! フック: そうですか……となると、この海域だけの問題ではないのかもしれませんね フック: 手がかりは決して多くありませんが、しかし何かが起きていることは間違いないでしょう ティンカー・ベル: なに喋ってんだろ……もうちょっとこっそり近づけるかな……。って、ラヴクラフト? ちょっと押さないでよ ラヴクラフト: 押すつもりじゃないの。ただもっと密着したくなってきちゃって……はぁ、はぁ……かぷり ティンカー・ベル: ほぁ……! み、耳を噛むな……見つかるでしょっ……! フック: とにかく、これを有効活用するしかありませんね。おそらく最大の手がかりになるでしょうから ティンカー・ベル: あっ!? あれ、ティンカが拾って大事にしてた懐中時計……! フックのやつ、盗んだんだ ペトラ: ティンカには何も言わなくていいの? ティンカー・ベル: ああっ、ペトラ~っ!? ティンカー・ベル: はっ! やばっ、大声出しちゃった!! フック: ティンカ嬢には黙っておきましょう。下手に興味を持たれてしまうと、危険が及ぶかもしれない ペトラ: そっか。それもそうだよね ティンカー・ベル: あれ? なんで無視? ラヴクラフト: 言い忘れてたけど、これは過去の出来事を覗きに来たっていう設定だから、あたしも現代のティンカさんも、何しても認識されないよ ティンカー・ベル: それ早く言ってよ! 何のためにこっそり近づいたんだよ! ラヴクラフト: 覗いてる感がないと、ドキドキしないかと思って…… ティンカー・ベル: そんなドキドキは要らな~いっ!! ラヴクラフト: あ、なるほど。認識されないならいっそ裸になっちゃおうっていう提案だねっ。うん、それいい、興奮するっ、らびゅー♪ ティンカー・ベル: いつティンカがそんなこと言ったんだよ。頭痛がしてきた…… ラヴクラフト: あの懐中時計ってティンカさんのだったんだ? ティンカー・ベル: 急にまじめになるし……。うん、そうだよ。ティンカが拾って大事にしてたのに、ある日見当たらなくなって…… ティンカー・ベル: てっきり失くしたと思ってたのに、フックが盗んでたなんて……やっぱり悪いやつだよ。悪すぎる! ラヴクラフト: あっ、フックさんたちがどこかに行くみたいだよ。追いかけるでしょ? (背景切換...) ペトラ: その懐中時計は、どこから流れてきたんだろ。ティンカは浜辺で拾ったって言ってたけど フック: 少し、心当たりがあるんですよ ペトラ: なんか、危ないこと? フック: 船旅をしているときに噂を少々。どうやら2日に1回は昏睡状態になる奇病が、ごく一部で流行しているようです ペトラ: なにそれ……怖いなぁ ティンカー・ベル: 何の話? フックのでまかせ……にしては、意味がよくわかんないし フック: つまり、毎日活動できないんですよ。エルマイト不足が原因です ラヴクラフト: フックさんは、いろいろ知ってたみたいだね~。きっと頭いいんだよ フック: 誰もが人並みの生活を送れるように、エルマイトを平等に配布する……という建前のはずだったんですがねぇ ペトラ: それって天空神殿とかいうところが、みんなに宣言したっていうやつ……? ティンカー・ベル: ていうか、それ要するに ラヴクラフト: そう、グランド・リヴィジョンのことだよ ティンカー・ベル: んー、あれから何日かフックのこと見張ってるけど、何も起きないなぁ ティンカー・ベル: しかも懐中時計はいちいちペトラに渡して返してるみたいだし。なんなんだ ラヴクラフト: 何って、盗んだのバレたらうるさいからでは? ティンカー・ベル: 盗んどいて、バレないようにしようっていう根性がもう…… 海賊: 船長! 海から妙な魔物が出たって報告が! フック: 妙な魔物? なんです、それは 海賊: それが、ちゃんと確かめる前に陸に上がっちまったもんで フック: 海からきて、陸に……? ペトラ: フック!! た、大変なんだ、変な魔物が……ティンカのことを……! ティンカー・ベル: えっ? ティンカ!? (背景切換...) ラヴクラフト: いよいよクライマックスみたいだねっ。ティンカさん、興奮してきた? ティンカー・ベル: しないから! どういう性癖持ってると思ってんの!? ペトラ: ああっ、魔物にティンカが捕まってる!! ねえ、ティンカがもう動かなくなってるよ!? フック: 落ち着いて。おそらく何らかの術で眠らされているのでしょう。だが、ティンカ嬢を好きにはさせません……! ティンカー・ベル: ………… ティンカー・ベル: え、あれっ? ティンカがあっちにもいる! ラヴクラフト: 当時のティンカさんだよっ。これから、あの魔物にあんなことやこんなことされちゃうのかもねっ♪ ティンカー・ベル: 楽しそうに言うな! ていうか、あんな魔物は見たことない……何、あいつ ラヴクラフト: 調べたところだと、あれは『時の破壊者』って言われてる特殊な魔物だよ フック: あの魔物……ティンカ嬢の持っている懐中時計に反応している……。まさか、この魔物は……! ペトラ: うわああっ!? フック: ペトラ! 無理は禁物です、こいつはあなたには荷が重い ペトラ: ぼくだってティンカを助けたいんだ! これくらい……! フック: 大丈夫、必ず助け出します。この身にかえても……! 大切な友人の親代わりですからね…… ティンカー・ベル: フック……? え、なんでそんなに頑張ろうとしてんの……? フック: それに、私はこれで案外と彼女が好きなもので……。こんな魔物に奪わせるつもりはないっ! ティンカー・ベル: フック……なんだよ、それ……。カッコつけてんじゃないよ……。いつもバカにしてくるくせに、なんでそんなに…… ラヴクラフト: さーて、それじゃ……背景がわかったところで、あの魔物と戦ってみる? ティンカー・ベル: えっ……戦えるの? ラヴクラフト: フックさんへの気持ちがどう変わったのかも見せてね♪ ティンカー・ベル: 変わんないよ。こんな場面見たからって、フックのこと好きになったりなんてしないもん。しないけど……ティンカも意地を見せたくなったから! 401 - 剣を交わして リル: みんなは部屋に入っていったようだったが……小生たちは屋外か アイソーポス: うん。面談とかいろいろするのが手順なんだけど、私たちはこれで語るほうが良いかと思ってね リル: 剣で、というわけか アイソーポス: そのほうが、早いだろう アイソーポス: では……先に私から、行くぞっ!! リル: くうっ、これは……! アイソーポス殿は旅人であり、作家であるとは聞いていたが……これほどの腕前を持っていたとは…… アイソーポス: 旅人が弱かったら、そのへんの魔物に襲われて旅が終わってしまうだろう。これは必然だよ、リル リル: なに、勝負はここからだ。やあっ! アイソーポス: いい打ち込みだ。さすがはペロー、よく仕込んでいるな リル: え……? ペロー? どうして奴の名前がそこで出てくる アイソーポス: 自分の作家がペローだと知らないのか? それとも剣を教わったことを記憶していないのか? アイソーポス: きみの場合は、契約書き換えの影響はないはずだが……グランド・リヴィジョンの副作用かもしれないな リル: 小生に、あの女が剣を教えた……? アイソーポス: 見た目に反して剣の使い手なんだ、あいつは アイソーポス: よく思い起こしてみろ。お前は策略家で、知将タイプだ。創造期、剣の腕で事態を打開したことなどあったか? アイソーポス: 知略があるのだから、無理に鍛錬する必要もなかった。それでもきみが剣を仕込まれているのは、ペローの趣味なのかな リル: ペロー……そうだ、あいつは小生に…… (背景切換...) リル: 小生は策略家だ、剣の腕を磨く必要があるだろうか ペロー: 策略家が聞いて呆れますね。これはあなたの選択肢ですよ。選択肢が多いということは戦術にも幅が出るというもの……はっ! リル: ぐっ!? ペロー: さてと、少し休憩にしましょうか。今日はドラジェを用意してきたんですよ アイソーポス: ほう、手作りのお菓子を? 想像もつかないな リル: うっすらと記憶に残っている……いや、アイソーポス殿のほうが、同じコミッティのメンバーとして付き合いも深いのではないのか? アイソーポス: 彼女とは、コミッティが発足したときが初対面なんだ。それ以前は交流がないので、人となりがわからない アイソーポス: 私が会ったときは既に現在の彼女だったよ。とても差し入れのお菓子を手作りするような印象は持てなかったな リル: では、小生のこの記憶は…… アイソーポス: もっと、ずっと前のものだろう。彼女がグリムへの復讐を誓うよりもな リル: グリムへの……復讐…… アイソーポス: かつてグリムが蒐集という形で、大量に契約を拡大したことがあった。それはエルマイト供給を保証するかわりに、グリム傘下に入ることを誓うものだったが アイソーポス: 当のグリムですら、その契約がもたらす影響について把握しないまま、拡大を進めてしまったことがある。ペローの作品も、もちろん含まれていた リル: 他人の作品と契約? そんなことが可能なのか? アイソーポス: そのようだ。可能なのか、だとしたらどう影響するのか、そういった検証はされていなかった リル: 無茶苦茶だ、そんなこともわからずに拡大しようなどと アイソーポス: 作品を奪われたペローは激怒した。グリム邸に単身乗り込んだという話も聞いている リル: それだけ怒りが強かったわけか アイソーポス: その結果、一部の作品を返還し、それ以外の作品もエルマイトの分配方法や作家としての影響度合いも細かく取り決めたらしい リル: だが、ペローはそれでも納得しなかったのか アイソーポス: 納得していれば、現在こんなことにはなっていないかもしれないな リル: ……その問題について、どちらが正しいのかは小生には判断がつかない。だが、仮に全面的にグリムが悪いとしても、ペローがしたことは…… アイソーポス: もちろんだ。発端がなんであれ、もう彼女の行動を擁護することはできない リル: だが……ペローの心情を、小生くらいは知っておいても良いだろうな…… ペロー: リルは料理はしないのですか? リル: 小生は騎士で軍師だからな。そういうのは専門外だ ペロー: ふふっ、そうですね。それを言ったからには、しっかり剣は極めてもらわないといけませんが リル: ペローは、他の作品のところにもこうして顔を出しているのか? ペロー: あら、それはやきもちでしょうか。自分だけが特別でいたい、とか リル: そっ、そんなんじゃないっ! 小生は子供じゃないんだぞ ペロー: 冗談ですよ。そうですね、他の作品の子も同じように気にかけています。おやつだって、みんなに作っていますし リル: そうなんだな。小生は、他の作品にも会ってみたい。だが、難しいのか? ペロー: そんなに興味がありますか? では、集まってみるのも面白いかもしれませんね…… ペロー: 集まるとしたら、このスティヴァーリ公国がいいかもしれませんね。緑も多く豊かな土地は、見ているだけで楽しいものです (背景切換...) アイソーポス: どうした、ぼんやりして。手元ががら空きだぞ! リル: はっ……!? くっ、しまっ…… (キィン) アイソーポス: ……何を考えていた? リル: ペローとの会話をまた少し思い出していたんだ。アイソーポス殿は小生の故郷に旅をしに来たことはあるか? アイソーポス: いや、おそらく行ったことはないはずだが リル: 現在、故郷であるスティヴァーリ公国はとても貧しい。その主たる原因は、ひどく痩せた土地にある リル: 作物もろくに育たず、殿下みずから鍬を振って耕している。だが……思い出されたペローとの会話で一致しない箇所があって…… リル: 環境が変わることなどあるのだろうか アイソーポス: 環境とは結局、エルマイトに左右される。だから、その供給状況によって変化することもあるだろう リル: ではグランド・リヴィジョンに影響されて……それで土地がやせてしまったのか……? アイソーポス: もちろんその可能性はある。しかし、私は個人的に疑わしいのはもっと別……その作品に供給するエルマイトに干渉できる存在ではないかと リル: ペローか……!? 402 - 試練の予言 ヴェルメリオ: ……わたしは、どうすれば強くなれるのかな ノストラダムス: いろいろ資料は読んだけど、ヴェルメリオはほぼ人間さんへの愛情だけで成長してきたところあるよね ノストラダムス: そういう意味で、依存度はぶっちぎりのナンバーワンなんじゃないかって気がするけど ヴェルメリオ: ……えへへ。人間さんの一番ってこと? うれしい ノストラダムス: や、そんなリアクションするところじゃないから ヴェルメリオ: ……えっ、違った? ノストラダムス: リアクションはさておき、強みと弱みっていうのは表裏一体ってやつだからね。そこをやられないようにしないとダメかも ヴェルメリオ: ……弱みって、たとえば? 人間さんを人質にとられちゃうとか? ノストラダムス: そういう物理的なやつというか、メンタルに干渉しちゃうやつだよ。気持ちはモロにエルマイトに影響しちゃうだろうし ノストラダムス: 例えばさ、人間さんが自分のことを裏切ってるんじゃないかとか ヴェルメリオ: ……そ、そんなことありえないし ノストラダムス: 自分のことを好きじゃない、大切にしてくれない……それでも変わらない愛情を向けられる? ヴェルメリオ: ……そ、それが愛ってものでしょ ノストラダムス: 言いおる…… ノストラダムス: じゃあそこんとこ、実際に試してみよっか ヴェルメリオ: ……試すって、どういうこと? ノストラダムス: あたしの代表作、知ってる? 『予言集』だよ ヴェルメリオ: ……怖くなんかないもん ノストラダムス: OK。じゃあ実際、試してみようか (背景切換...) 人間?: そういえば、もうすぐヴェルメリオの誕生日だったな。プレゼント、何かほしいものとかある? ヴェルメリオ: ……えっ、人間さん? あ、何、なんでいきなり周りが町に……? 人間?: どうしたんだ? ヴェルメリオ: ……ううん、なんでもないの。えっとね、プレゼント……人間さんがくれるものだったら、なんでもうれしいんだけど…… ヴェルメリオ: ……リボンとかいいなぁ。髪も伸びてきたし、ちょっとアレンジできるかなって。ね、ちょっと上でツインテールにしたらどう思う? 人間?: いいね。じゃあ似合いそうなの見つけてくるから ヴェルメリオ: ……うんっ、楽しみ ヴェルメリオ: ……人間さん、遅いなぁ。どうしたんだろ ご近所さん: 大変よ、ヴェルちゃん! 人間さんが! ヴェルメリオ: ……えっ (背景切換...) 衛兵: こりゃひどい…… ヴェルメリオ: ……人間さんっ、何があったの!? 衛兵: あっ、見ちゃだめだ! ヴェルメリオ: ……うっ!? な、なに、これ…… 衛兵: 強盗だったらしい。抵抗したのか、メッタ刺しにされて……犯人はまだ捕まっていないんだが…… 衛兵: なぜかこれだけずっと抱えてたみたいなんだが ヴェルメリオ: ……これ、リボン……わたしのための…… ヴェルメリオ: ……許さない。絶対にわたしが見つけ出す。そして必ず後悔させるんだから……! ノストラダムス: はいはい、ストップ ヴェルメリオ: ……ノストラダムス? あ、え、そっか、いまのこれって…… ノストラダムス: コントロールどころか、もう少しでディマイト落ちするところだったじゃん。それはだめでしょ ヴェルメリオ: ……だって、こんなの ノストラダムス: 多少は怒ってもいいんだけど、いまのはやばいって ヴェルメリオ: ……う、わかってる ノストラダムス: こういう未来をどんどん体験して慣らしていこう。それでエルマイトもディマイトもコントロールできるようになるはずだからね ノストラダムス: じゃあ次のシチュエーション、やってみようか ヴェルメリオ: ……人間さんがひどい目にあうのは、もうやだよ ノストラダムス: 大丈夫、次は信じて送り出した人間さんがお色気お姉さんの誘惑に完堕ちして映像スフィアを送ってくるっていう設定だよ ヴェルメリオ: ……む、無理だよ。脳が壊れそう ノストラダムス: よし、こんなところかな。一通りこなしたと思うけど ヴェルメリオ: ……辛すぎる ノストラダムス: でも、ちゃんとクリアできたじゃん。まあ、人間さんがDV野郎になる未来を見せたときは、適性が高すぎて逆に心配になったけど ヴェルメリオ: ……大丈夫。人間さんはそんなこと絶対しないから ノストラダムス: そのさ、彼への信頼感というか愛情の強さってどこから出てきてるの? ヴェルメリオ: ……わかんない。ただもう、息をするのと同じようにあの人のことが好きなの ノストラダムス: そこまで思われて、おにーさんも幸せだね ヴェルメリオ: ……でもね、ここ最近はちょっと攻撃的になりすぎてた、ってわたしも反省してたんだ。だからこうやってトレーニングできてよかったかな ノストラダムス: 今日、こうしてヴェルメリオに見せたものっていうのは、完全にあたしの創作……ってわけじゃないからね ノストラダムス: いまある要素が掛け合わさったら実現する可能性があるものだから。慣らしておけば、いざというときに落ち着いて行動できるかも ヴェルメリオ: ……そ、そっか。少しは覚悟できたかな。ううん、でもやっぱり現実になったら動揺しちゃうかも ノストラダムス: いいの、いいの。まったく心が動かないわけないし、そんなの怖いから。ちょっとだけ落ち着きを持てたらいいんだからさ ヴェルメリオ: ……他のみんなはどうしてるんだろ ノストラダムス: 作家によってやり方も違うだろうからね。ちょっと過激になりそうなのもいるし…… ヴェルメリオ: ……そうなの? ジャコヴァとか? あ、意外とアイソーポスかな ノストラダムス: いやあ……実はね…… 403 - 地獄の入口 ドロシー: ここは……? ダンテ: 考えたけど、ここがふさわしいと思う ドロシー: 私は、自分の強みを生かしたいって話しただけよね……? なんでこんな変なところに連れてこられたのかしら…… ダンテ: ドロシーの強み、それは肉体と魔法の融合 ドロシー: そのフレーズ、いいわね! 今度から使わせてもらうわ ドロシー: 肉体と魔法の融合……うん、いかにも大魔法使いって感じで、私にぴったりだわ ダンテ: それに過酷な修行も歓迎だと ドロシー: ええ、どんとこいよ! ダンテ: では、案内する。今回は私が案内役を務める ドロシー: 案内って、そんなに道が複雑なの? ドロシー: って、うわっ、大きな門……! 何か書いてあるわ。『この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ』……? ダンテ: ここから先は、地獄 (背景切換...) ドロシー: ……何よ、ここ。過酷な場所だって聞いていたわりに、ずいぶん人がたくさんいるのね。そんなに危険ではないってこと? ドロシー: ただ気になるのは、みんな表情が虚ろだわ。つらくもないけど、何も楽しいことがないって感じで……ダンテ? ドロシー: それ、身体に何を塗ってるの? ダンテ: ハッカ油。このあたりは虫が多い。虻とか蜂に刺されないように ドロシー: へぇ。え、なんでしまうのよ。私にも貸してよ ダンテ: 修行だから ドロシー: そこもなの!? なるほど……刺される前に倒せってことね ドロシー: はあっ! やっ、たぁっ、とうっ! ダンテ: ……飛んでいる虫を全部、拳で撃ち落とした……。そういう修行じゃないんだけど……まあ、すごいからいいか…… ドロシー: なるほどね。地獄の修行、面白くなってきたじゃない! ドロシー: ふおおおおおおお!? す、すごい風だわ! 何これ、飛ばされそう……! ダンテ: 肉欲に溺れていると飛ばされる ドロシー: 溺れてなんかないわよっ! 失礼ね! ダンテ: 少しも卑猥なことを考えていない? 人間さんとふたりきりでも? ドロシー: …………。……じょ、常識の範囲内だわ ドロシー: えっ、待って。ダンテはさっきからぴくりとも動いてないけど、もしかして風を感じてないの? 肉欲に溺れてないから!? ダンテ: そういうこと ドロシー: そ、そんな……私って、そんなに変態だったの……? 人並みだと思ってたのに、ちょっとショックだわ…… ダンテ: 本当は作者権限で影響受けないようにしているんだけど ドロシー: く……ううっ、でもっ、いまさらそんなのコントロールできっこないわ! 鍛えぬいた体幹でしっかり踏ん張って進めば、これくらい……! ダンテ: え。これは煩悩をコントロールする修行で…… ドロシー: 風になんて負けないわよ、私の大腿四頭筋! 一歩ずつでも進んでやるわ! (背景切換...) ドロシー: ふう……ここは普通の場所みたいね。変な魔物もいないし…… ダンテ: では、これを腰につけて ドロシー: 金貨袋? あっ、中身もちょっと入ってるわ♪ これ、クリアしたらご褒美にもらえたりすっ……お、重っ!? 急に袋の中の金貨が重くなった!? ドロシー: ち、違うわ、重くなったというか……金貨が増えてるっ! 嬉しいけど、でも、なんなのよ……!? ダンテ: 金貨の重みに耐えながら進んで。浪費癖があるとハンデが重くなる ドロシー: うぐっ! ろ、浪費……それを言われると反論できないわ…… 案内者: やあ、お客さん。どうだ、張っていかないか ドロシー: え、なによ、博打? 案内者: 大当たりが出ると、袋の中の金貨が軽くなるんだ ダンテ: 楽して通過できる、という誘惑に打ち勝てるかどうか……これは、そういう試練 ドロシー: ふうん。でもこれくらいの重さ、私の女子力を使えば大したことないし、別に魅力じゃないわね ダンテ: へえ、さすが ドロシー: ただ! それとこれとは話が別! ここで勝負から逃げたら大魔法使いの名が廃るわ! その勝負、乗った! ダンテ: え……なんで…… ドロシー: うああああっ!? 重すぎるっ!? で、でも、私の大臀筋ならこのくらい突破できるはず!! ドロシー: はぁ……はぁ……さ、さすがに疲労が蓄積してきたわ。乳酸がやばい…… ダンテ: 本来そうはならない想定だった…… ドロシー: さあ、次はなに? やってやろうじゃない ダンテ: 次はこの川を進んでもらう ドロシー: ああ、水中を進むのって良い運動になるのよね……って、くううっ!? あっつ! なにこれ!? ダンテ: この川は、他者に対する暴力を振るった者にとっては、煮えたぎる血の川となる ドロシー: ……殴ればいいのよ、ってしてたのがいけなかったってこと……? ドロシー: いいわ、やってやろうじゃない。とりあえず靴と靴下は脱いで……っと。そんなに深くなさそうだし、これで大丈夫ね ダンテ: これまでの、自らの暴力を悔い改めれば温度が…… ドロシー: いいえ、大丈夫よ。私ね、温泉なんかもちょっと熱いくらいが好きなのよ。だから、ほら……っ、くうっ…… ドロシー: ……っつうぅぅっ……ふうっ……! ほら見てっ、膝までしか浸からない……これくらいの深さなら、なんとかなるわ……! ダンテ: え……入った……!? ドロシー: このまま先に行けばいいんでしょう? 行ってやるわよっ、はあああっ!! ダンテ: うそ……そのまま行った…… (背景切換...) ドロシー: これで、終わり……っ!? ダンテ: この先は煉獄篇。でも、十分だと思う ドロシー: 地獄は終わりってわけね。この先もあるなんてわくわくするけど……時間は有限だから仕方ないわ。また次の機会に挑戦させて ダンテ: 地獄を味わって、煉獄も望む人……初めて見た ドロシー: そう? まあ、それも私の女子力だから。向上心を忘れないようにしてるの ダンテ: あ、うん ドロシー: でも久しぶりに歯ごたえのあるトレーニングだったわ。さすがはコミッティね。ありがとう、ダンテ ダンテ: ううん……どういたしまして…… ダンテ: どんな困難も自分を曲げることなく貫いてやりきる……それは立派な強さのあり方だと思う ダンテ: これがリメイクと言えるかは賛否あるだろうけど……私は、このドロシーが戦うところを見たいと思えたから ドロシー: よくわからないけどダンテの期待には応えてみせるわ! 404 - エミリーの秘密 エミリー: こうしてジャコヴァとふたりっきりでお話するのって、実はちょっと珍しいよねぇ ジャコヴァ: ん……そうかもな エミリー: 普段はヴィルがべったりだからねぇ。ジャコヴァはちょっと離れたところで、知らん顔してぼーっとしてたりするし エミリー: 思索にふけってるんだって言うけど、あれ絶対、今日の晩ごはん何かなぁとか、わんわん撫でたいとか考えてるだけなんでしょぉ? ジャコヴァ: そこに座れ エミリー: ……なんか、真面目な感じ? エミリー、いまから怒られちゃうのかなぁ ジャコヴァ: まず、お前に話しておかなくてはいけないことがある。家族の間で隠し事を続けてきたことについては申し訳ない エミリー: ジャコヴァが……謝った…… ジャコヴァ: エミリー。お前は作家ではない エミリー: ………… ジャコヴァ: 正確に言うと、純粋な作品ではないから、お前の仲間たちのような純度100%の作品とも違うが、作家と呼ぶにはあまりにも足りない ジャコヴァ: こういった者は、お前たちの仲間にも比較的ちらほらといる。例えばショパン、諸葛亮……コミッティで言えばレオナも該当するな ジャコヴァ: もっともレオナは最初から、自分が作家ではないと自覚をしていて、その上でアイソーポスがスカウトしてきたわけだが エミリー: ジャコヴァ ジャコヴァ: ん…… エミリー: なんとなく、わかってたよ ジャコヴァ: ……そうか エミリー: だからいま、傷ついてるわけでもない エミリー: ジャコヴァが珍しくいっぱいおしゃべりしてるの、エミリーが傷ついて思いつめないように、いろいろ気を紛らわせようとしてくれてるんだよね? ジャコヴァ: 私だって喋るときは喋る エミリー: 優しいお姉ちゃんだね ジャコヴァ: 自覚があるなら本題に入る ジャコヴァ: レグルスが使った『エクス・ティンクト』。あれは作品すべてに影響する技だ。そこから逃れるため、仲間たちは作品としての『枠』を塗り替えようとしている ジャコヴァ: ただ、お前はもう少しシンプルだ。作家としての格を上げれば、あの技の対象にはならない エミリー: 作家になれ、ってこと? ジャコヴァ: ただの作家では物足りない。私の妹として、ふさわしい振る舞いというものがある エミリー: 素行ってことぉ? やだやだぁ、エミリーは自由気ままに生きていたいよぉ ジャコヴァ: 何かを為すには常に代償が必要で、それらは表裏一体だ。お前が自由に生きるのは構わないが、その場合…… ジャコヴァ: 仲間たちを救えなくなる エミリー: そんなこと言われたらやるしかないじゃん ジャコヴァ: 正確には時間配分だ。お前がこれまで楽しんできたことを禁止するつもりはない ジャコヴァ: ただ、他にもやってもらうことがある、というだけだな エミリー: 忙しくて遊んでる暇がない、ってこと? ジャコヴァ: そうだ。これから向こう1年、24本の著作を仕上げてもらう エミリー: 月2!? エミリー: ジャコヴァたち、そんなことしてないじゃん! ジャコヴァ: 既に、した後だからだ ジャコヴァ: 本来ならそれをやってから作家と呼ばれるものなんだぞ。だが、それを待っている時間はない。言わば、肩書の前借りだ エミリー: ……ま、仕方ないよねぇ。何が大切なのか、優先順位付けしなくちゃいけないんなら……答えは出てるもん ジャコヴァ: 変わったな エミリー: そうかなぁ? ジャコヴァ: コミッティ発足当初も、私は同じようなことを言った。ヴィルも、寂しがって旅に出るのを引き止めた ジャコヴァ: でもお前は聞かなかった。だがいまは……違う エミリー: みんなのこと……大好きになっちゃったからねぇ ジャコヴァ: その理屈だと、私のことは大好きじゃないみたいだな エミリー: 変なところで対抗しないでよぅ ジャコヴァ: それだけお前も成長していたわけか エミリー: お姉ちゃんっていうより、お母さんみたい。ううん、ヴィルがお母さんでジャコヴァはお父さんかな ジャコヴァ: こんなに可愛い親父がいるか エミリー: それで、これからどうするの? ジャコヴァ: 仲間たちが修行から戻るまでの間に、先程言った24本のうちの1本を仕上げるんだ。できるな? エミリー: やるしかないよねぇ エミリー: でもエミリー、お話なんて書いたことないよぅ? ジャコヴァ: 知ってる。書いていたら作家扱いになるだろうが エミリー: んん~。どこから手をつけていいかわかんないなぁ ジャコヴァ: こういうときは身近なものから手を付けると書きやすいと言われている。一番は自分自身のことだ エミリー: そっか。じゃあ、エミリーのこととか、ジャコヴァとかヴィルと一緒に過ごしたことを書けばいいんだねぇ ジャコヴァ: ただし エミリー: ええー? 何かだめなのぉ? ジャコヴァ: 今回は効率的に『作家性』を高めなくてはいけない。その点で、いわゆる『自伝』というのは極めて効率が悪い エミリー: なにそれー!? ジャコヴァ: 端的に言えば、自伝など作品とは呼べないということだ エミリー: そんなぁ……。フアナにはセルヴィもいるのに? ジャコヴァ: あれは厳密には、フアナの自叙伝に対する思い入れが本体みたいなものだ。だから精霊扱いになっている エミリー: ぶう……。じゃあ、エミリーのことモデルにして、実際に起きたことからちょっとだけ大げさにして……とか ジャコヴァ: 悪くないセンだな エミリー: 純情可憐な名家のお嬢様で、超かわいくてモテモテなの。それで超絶イケメンが次々に恋しちゃったりして大騒ぎで…… エミリー: けど、友達がいっぱいできるの。そしたら、イケメンと恋するより友達と遊ぶのが楽しくなって、んーと、それで…… ジャコヴァ: なるほどな。私も最初はこうだったのだろうか エミリー: 何が? ジャコヴァ: エミリー。ひとつ言っておこう ジャコヴァ: いま出た大筋の設定だが……とてつもなくイタい エミリー: えっ、うそぉ!? ジャコヴァ: 自分がベースになってると思うとさらにイタい。だが、これが最初の創作というものか エミリー: いきなり心が折れそうだよぅ…… ジャコヴァ: やっぱり旅になんか行かせるんじゃなかったな。お前は何も成長していないし、学んでいない。無駄に時間を浪費しただけだ エミリー: そ……そんなことないから! 無駄な時間もたくさんあったけど、でもっ……いろんな場所を知って、風景も、町も、エミリーを作ったものなの エミリー: それに、みんなと出会えたことはエミリーの財産なの。ティンカとか、クレアとか、すごく仲良くなって一緒に旅して……いまのエミリーの土台だもん エミリー: 最初はただ旅に出たかっただけかもしれない。でもね、みんなと知り合えたから、エミリーは前よりずっと成長できたと思う ジャコヴァ: ――なら、それを書け エミリー: あ…… ジャコヴァ: 私にバカにされて反論する、それがお前の伝えたいことだ。作品のテーマになりうる部分だ。そこから軸はブレさせるな エミリー: エミリーの、伝えたいこと…… 405 - ピュルテのアップデート パラケルスス: ああ、適当にそのあたりにかけてくれ ピュルテ: は、はい。失礼します。あの……いまから何を始めるんでしょうか パラケルスス: ぼくも錬金術師として、ホムンクルスは研究していてね。実際に生体を作り出したこともある パラケルスス: きみの構造はぼくのやり方とは少しだけ違うようだけど……まあ、花の妖精という建前だからかな ピュルテ: すみません、話が見えないのですが…… パラケルスス: 他のみんなは『作品』としてリメイクされているところだろうけど……きみだけは違う パラケルスス: ぼくはきみをホムンクルスとして、アップデートさせる ピュルテ: な、なんだかわからないですが、その言い方はあまり好きじゃありません。ホムンクルスってこと、そんなに強調しなきゃいけないんですか パラケルスス: ……ライブラは素晴らしい仕事をしているね。知性だけでなく芯の強さまで兼ね備えているとは パラケルスス: いいかい。みんなも基本は同じだが、特にきみの場合……肉体と魂、両輪で考えるべきなんだ パラケルスス: ときに、きみが喪っているという記憶……これは肉体に宿るものかな。それとも魂に宿るものかな ピュルテ: え……記憶って、脳に保管されるものですよね。だから、肉体なんじゃないでしょうか パラケルスス: うん、50点だね。正しくは……両方それぞれに宿るもの、だとぼくは思っている ピュルテ: 両方? そんなの当たらないです、ずるいですよ パラケルスス: まあまあ。当たったからって何がもらえるわけでもないんだから パラケルスス: 起きた出来事、相手から言われたりされたこと、そういった過去の記録は脳に保管される。これが肉体の部分 パラケルスス: 一方で……様々な経験を通じて、自我を持っている存在なら必ず『自分の感情』を抱くはずだ。これが魂の部分 ピュルテ: 昨日の晩御飯がシチューだった、というのは肉体に記録されて、それが美味しかった、という感想は魂ってことですか? パラケルスス: なかなかカンがいいね。そういうことだ パラケルスス: そういうことだから、ピュルテ。きみにはたった今から肉体を捨ててもらう ピュルテ: ええっ!? 肉体を捨てる!? ピュルテ: そんなことしたら、その、死んでしまうのでは パラケルスス: 代わりのボディはいくらでも用意できる。人体錬成において最も困難なのは、その魂の形成なんだ ピュルテ: だ、だからって、捨てなくても パラケルスス: ペローが使用した薬剤成分が判明した。これはホムンクルスをフォーマット……つまり初期化するための成分だ パラケルスス: 身体に残された記録はすべて破壊され、新たな経験を記録するしかない。ここから記憶の復旧は無理だ パラケルスス: 魂は手つかずだが、そのため肉体と魂の不均衡が発生する可能性が高い。運用上、とても不安定だ パラケルスス: このことからも、ライブラないしペローは、きみを使い捨てるつもりだったと予想できる ピュルテ: 本当に道具扱いされてるんですね……。ティンカさんが怒ってくれましたけど、私もなんだかムカムカしてきました パラケルスス: なので魂から記憶を復旧させ、薬剤の影響を受けていない肉体を用意して記録しなおす。これが今回の治療方針だ ピュルテ: ……危険は、あるんですよね パラケルスス: もちろん。肉体を失って魂が維持される保証もなければ、新たな肉体と適合不全を起こす可能性もある ピュルテ: それでも……前に進まないといけない。このままだと私、何者にもなれない気がするんです ピュルテ: それに、知りたいです。魂に刻まれている記憶を感じたい。仲間の皆さんへの、大切に思う気持ちを理解したい……だから、お願いします パラケルスス: では、服を脱いでその診療台に横になって ピュルテ: はい……えっと、全部? パラケルスス: もちろん。衣類は異物だからね パラケルスス: それでは、このペンに誓って。<執筆開始> ピュルテ: ここは…… ???: うぅ……ぐすっ…… ピュルテ: そこにいるのは、誰ですか……? ???: どうしよう……ううっ、ぐしゅ……もうだめだよ…… ピュルテ: あなたは……もしかして……私、ですか……? ピュルテ?: 人間さんに嫌われちゃう……。もう無理なの、続けられないよ…… ピュルテ?: ちょうどよかったんだよ。もうここで終わりにしちゃおう…… ピュルテ: ま、待ってください! 何を終わらせるつもりか知りませんけど、そんな後ろ向きな雰囲気で終わらせるのは良くないです! ピュルテ?: だって戦えないんだもん! 人間さんの役に立てない! みんなの足を引っ張ってる! こんなのっ…… ピュルテ: ああ……もしかして、あなたは…… ピュルテ?: 戦うためには人間界に行けなくなっちゃう……人間さんのこと、帰してあげられなくなっちゃう…… ピュルテ?: 人間さんに……嫌われちゃう…… ピュルテ: 違うよ……! 人間さんは……大丈夫って……言ってた、はず…… ピュルテ: 嫌ったりしないって、戻れなくてもいいって…… ピュルテ?: そんなの、嘘だもん……人間さんが無理してるだけだよ…… ピュルテ: ううん……。私は、人間さんの言葉を信じるって決めたから……深読みしたり、裏を考えたりしない。人間さんがくれた言葉を私は―― ピュルテ?: じゃあどうして指輪を捨てたの!? ピュルテ: ……っ ピュルテ?: 私と結婚したいって、好きだって、言ってくれたのに! 信じてないくせに! ピュルテ: 信じたいよ……! いまでも、疑ってるわけじゃないよ! 本当にそう思ってくれたんだって……信じたい…… ピュルテ: でも! あの場で私が受け入れたら、みんなともう一度会うことはできなかったんだから! 前に進むために必要だったの…… ピュルテ?: シンデレラさんと結婚しちゃったのに ピュルテ: あれは別だよ、仕方ないんだよ。ヴェルちゃんだってドロシーさんだって、みんな納得してたんだから ピュルテ?: そうやって言い訳ばかり ピュルテ: 違う。言い訳じゃない ピュルテ?: 逃げ続けてるだけ。怖いんだよ。自分が拒絶されるのが ピュルテ?: 作り物の私なんて嫌に決まってる。それがわかりきってるから ピュルテ: 違う!! ピュルテ: 私、決めてたんだから。今度こそちゃんと、伝えたいって。なのに、何故かグリムと天空神殿のことで離れ離れになっちゃって…… ピュルテ?: なにを伝えるの? ピュルテ: 人間さんのことが好き、って……。そして、一緒に旅した仲間のみんなのことが、何より大切な……宝物なんだって…… ピュルテ?: それが、刻まれていたもの? ピュルテ: そう……これが…… (背景切換...) ピュルテ: 私の、魂っ…… ピュルテ: え……あ、あれ……? パラケルスス: どうやら、魂を取り戻すことに成功したようだね。再錬成は成功かな ピュルテ: パラケルススさん…… パラケルスス: ひとまず服を着て ピュルテ: あっ、はいっ……。あの、夢を見ていた感じで……そこで過去の、悩んでいた私と話したんです ピュルテ: それでもう、ごまかしてちゃダメだなって。だって……いつまた、こうして私の存在自体が消えてしまうかもしれないのに、後回しになんてできませんから パラケルスス: ん、上出来だな。念のため確認をしておこうか。人間界できみが欲しいものは ピュルテ: も、もう、物欲とかじゃないんですよ。ほら、気持ちで繋がっていれば…… パラケルスス: 飾るな。ありのままでいい ピュルテ: 港区のタワマンに住みたい、です…… パラケルスス: ん、よろしい 406 - フアナの英断 紫式部: どうにも腑に落ちませんね フアナ: え? 紫式部、どういうこと? フアナ: あたしは術式についてあまり詳しくなくて……一応、詳しい人をいま呼んでいるところなんだけどね 紫式部: いいえ、私もあまり詳しくありませんよ。あくまでも書物で見聞きしたことを把握している程度です フアナ: あたし、そこまでも達してないんだよね……。監督役があたしで大丈夫かな 紫式部: 私が気になるのは術式部分ではなく……あまりにも静かだと思うのです。この場所が フアナ: いやでも……何回か来てるけど、このポルタ島の地下迷宮って、ほぼ誰もいないんだよ。天空神殿側が守っている気配もないし 紫式部: それがおかしいのです。この場所、この術式は、天空神殿の支配体制の根幹となるものです 紫式部: 封印を解除などできないという過信があるかもしれませんが、それにしてもあまりにも…… フアナ: 罠かもしれない? 紫式部: GR2改変版が施行されたとして、その後に本当にGR1を解除していいのかどうか。私は疑問です フアナ: ……1を解除せずに封印だけを継続する方法を考える? 紫式部: ええ、私はそちらを推奨したいですね フアナ: ……そうだね。解除することによるメリットよりも、デメリットのほうが大きい気がする…… 紫式部: アイソーポスたちに相談しますか? フアナ: ううん。みんなリメイクに忙しいんだから。ここの責任者として任されたんだから、あたしが責任持って判断する フアナ: できるだけグランド・リヴィジョンとしての効果を排除しつつ、封印は継続できる方法を検討しよう 紫式部: 可能ですか? シェイクスピアさんはおそらく、レグルス教国地下にこもりきりになっていると思いますが フアナ: 大丈夫。あたしに心当たりがある デュプリ・ライブラ: ただいま…… デュプリ・ライブラ: 神官長は……? レグルス: すぅ……ん……くぅ…… デュプリ・ライブラ: よくお休みッスね。きっと疲れてるんスね、かわいそうに デュプリ・ライブラ: もうすぐ、ボクが全部終わらせて楽させてあげますからね…… デュプリ・ライブラ: よし、それじゃさっさと済ませちゃいましょう。えーっと、確かこっちの部屋に…… デュプリ・ライブラ: 鍵を開けて……うん、思ってたとおりッスね。これならボクが用意してきたこれに乗せて…… デュプリ・ライブラ: うあっと……! (ガタン) デュプリ・ライブラ: ……! レグルス: ………… デュプリ・ライブラ: 大丈夫だったかな……。もたもたしないで、急いで出ていかないと…… 微精霊: あっ……? デュプリ・ライブラさん……? デュプリ・ライブラ: ありゃ、見つかっちゃったッスね 微精霊: 何してるんですか、そこは立入禁止ですよ。その台車に載せてるのは……いったい、何を持ち出したんですか デュプリ・ライブラ: しーっ。ここは黙っておいてほしいッス 微精霊: デュプリ・ライブラさん…… 微精霊: わかりました……すごくお世話になりましたし……いつも優しくしてくれたご恩もありますから……。私は何も見なかった デュプリ・ライブラ: ありがとッス。じゃあ……元気で。さよなら 司書: こんにちは、ようこそビブリオ・アンティークへ。こちらの図書館は3つの棟から成り立ち……え? (砂の国を目指し、長い旅路を経て着いたのは) (以前にヴェルメリオから聞いた図書館だった。) 司書: あなたが……人間さん、ですか……。ええ、もちろん存じ上げています。ヴェルメリオさんやシェヘラザードさんから話を聞いていましたから 司書: 今日はおひとりなんですね。ヴェルメリオさんは……お元気ですか? (彼の何気ない言葉に胸が詰まる。) (ヴェルメリオは言葉を濁してはいたが、この司書は彼女に恋愛感情を抱いていたはずだ。) 司書: え……死ん、だ……? (嘘をつくこともできた。) (だが、これが彼への誠意のような気がした。) 司書: 殺された、って……あなたもそこに……? 司書: ……っ、ふざけるなぁっ!! (拳が顔に飛んできた。) (避けず、受け止める。口の中に血の味が満ちた。) 司書: そばにいたくせに……っ、どうしてっ、彼女を守らなかった……! 司書: 彼女はあなたのためならなんでもすると……覚悟をしていたのに! どうしてみすみす死なせるようなことを! 司書: 何をやってたんだ!! 何を……っ (その場で崩れ落ちる司書。) (きっと初めて人を殴ったのだろう。彼の拳も血が滲んでいた。) (彼に、ここを訪ねた目的を告げる。) 司書: ロゼッタ……ゲート……? (かつてロゼッタゲートに入った仲間4人で、) (もっとも移動経路が明確だったのがヴェルメリオだった。) (ビブリオ・アンティークという絶好の目印もあり、) (そのルートを辿ろうと考えたのだ。) 司書: ヴェルメリオさんの仇を取るために……? そう、ですか……。あの場所がどんな場所かもご存知なのですね 司書: それだけの覚悟をして……。……わかりました。ご案内しましょう (精霊ロゼッタは、何も聞かずに扉を開けてくれた。) (もうこちらの事情も覚悟も理解しているようだった。) (人間界から来た存在だから。作品ではないから。) (それが戦えない要因なら答えはひとつ。) (この世界の、オトギノクニに数多存在する物語。) (自分がそのひとつになればいい。) (かつてゲートに入る資格はあると言われたとき――) (その意味は既に察していた。今、それを使うときが来たのだ。) (背景切換...) (身を引き裂かれるような苦痛。) (内蔵に手を突っ込まれかき回されるような不快感。) (そして、自分が自分でなくなるような不安。) (たぶん、何度か嘔吐したと思う。) (物質が形を成さないゲート内ではどうでもいいことだが。) (やがて、感覚が麻痺し始めてきた頃。) (ゲートが再び開いた。) (これまで紡いできた軌跡は、いま物語となった――) 407 - 人間の変化 (気がつくと、ロゼッタ・ゲートの前で倒れていた。) 司書: ……大丈夫ですか (司書の言葉にうなずき返すのが精一杯だった。) (全身の痛みに、立ち上がるどころか声も出せない。) 司書: 大丈夫ではなさそうですね。ひとまず少し休んだほうがいいでしょう。空き部屋がありますから、一度ビブリオ・アンティークに…… (かぶりを振る。) (休んでいる暇なんてない。) 司書: このまま行くつもりですか……? 人間: もう天空神殿を止められるのは自分だけだから―― 司書: ……! 人間さん、あなた…… 司書: ……わかりました。そう仰るのであれば、せめて馬車くらい手配させてください。目的地はどこなんです? 人間: レグルス教国。だから……馬車より船を頼めるとありがたいかな 司書: わかりました。責任持って手配します 司書: ヴェルメリオさんのこと、まだ完全に消化できたわけではありませんが……それでも、彼女の意志を継げるのはあなただけでしょうから 人間: ……必ず、ヴェルの……いや、みんなの意志を引き継ぐ 司書: 人間さんの言葉が、何か変わった気がする……重みというか、こちらに伝わってくる雰囲気が…… 司書: これがロゼッタ・ゲートを通過した効果なのか…… (司書と話しながら、徐々に自分の変化を感じ始める。) (言葉にはできないが、今までと何かが違う。) 人間: 俺は……ようやく…… (司書が手配してくれた客船に揺られながら、一路レグルス教国を目指す。) (レグルス教国は政治的にも重要な場所ということもあってか、就航する便数はかなり多いらしい。) 海の男: よう、兄ちゃん。なに黄昏れてるんだよ 人間: いや……ちょっと考えることが色々あって 海の男: どうせ長くなる船旅だ。一緒に酒でも飲もうや (彼の言うとおり、焦ったところで船は早く着いたりはしない。) (考えてみればずっと緊張が続いていた。) 人間: そうだな。たまには飲むか…… (ふいにシンデレラの顔が浮かび、思わず感情がこみ上げてしまう。) 海の男: おう、兄ちゃんも一緒に飲むってよ 陽気な男: そうこなくっちゃ! (こちらの動揺には気づかずにいてくれたらしい。) (俺は盃を受け取り、そして一気に飲み干した。) 陽気な男: いい飲みっぷりだねぇ! 人間: 仲間に鍛えられたんだ。昔は合コンでもカシスウーロン1杯をちびちびやってたんだけど 海の男: あ? なんだって? 人間: いや、なんでもない。それよりみんな、レグルス教国には仕事で? 陽気な男: まあな。俺は薬問屋なんだ。薬草の類を納品しに行くところってわけよ 陽気な男: はぁー、うらやましいな。仕事で通るたびに思うけど、俺もあんなリゾートでゆっくりしてえよ (彼の視線の先には陸地があった。) 陽気な男: あれはヌルズブ島だよ。一度は行ってみてーんだよなぁ。あ、もちろん美女とセットでな! 人間: あれが…… (みんなと過ごした思い出が脳裏に蘇る。) (楽しかったあの時間――) (それが今の俺の原動力だ。) ジャコヴァ: それで進捗は アイソーポス: 現場には既にフアナや紫式部が入って、備えてくれている ジャコヴァ: そっちは、GR1の解除だな アイソーポス: ああ。簡単に解除はできそうだという所感は聞いている ヴィルヘルミナ: これまでは星の魔獣が出現したり、それらを封印した術式があったりして、内部の詳しい調査はできていなかったけど…… ヴィルヘルミナ: こうして情報が集まってくると、なんだか違和感があるわね パラケルスス: そうだね。作ったのがあのライブラだと知っているからこそ、なおのこと……こんなに簡単に突破できるはずがない、と考えてしまう アイソーポス: 何かの罠、という可能性は? ヴィルヘルミナ: それは無理があるわ。いくらライブラでも、現在のこの状況を正確に予測することは難しいでしょう パラケルスス: 仮に予測できたとしても、罠を張るメリットも少ない。わざわざ作ったグランド・リヴィジョンをいじくり回されたいはずがない アイソーポス: ふむ……とはいえ、単純なミスとも考えづらい。何らかの意図があるのだろうが…… ジャコヴァ: なに、そういう問題も含めて専門家が解決してくれるはずだ ジャコヴァ: そうだな? 八武神がひとり、キンナラ キンナラ: ふぁっ!? あぅ……う、うん、がんばって、みる…… ジャコヴァ: 見通しは立ちそうか キンナラ: うん……た、たぶんだけど……最初からグランド・リヴィジョンは不完全だったのかもしれない、って思ってて…… キンナラ: だ、だから……星の魔獣も、で、出てきちゃったんだと……思う…… パラケルスス: ……星の魔獣を意図的に出現させたとでも? ライブラにメリットがあるとは思えないが キンナラ: く、詳しいことは、調べ、ないと……でも、わざと隙間を作ったら、うっかり魔獣が出ちゃった、とか……いろいろ、ありそう…… アイソーポス: そうだな。あまり時間の猶予はないが、調査しつつ術式の解除もお願いしたい アイソーポス: しかし、八武神の一員だと聞いたが……よく協力してくれたな キンナラ: お、お話聞いて……星の魔獣を、ふ、封印できるかもって……それがぼくたちの、目標……だったから キンナラ: それに……人間さんの、お、お手伝いもしたいし…… パラケルスス: ん? 何だって? よく聞こえなかったんだが キンナラ: な、なんでもないよ! 408 - 虚飾と欺瞞 ヴィルヘルミナ: 飛空艇の準備ができたわ。キンナラ、お願いね キンナラ: う、うん……! が、がんばって、みるっ…… アイソーポス: よく見つけてきたね。ポルタ島でかつて猛威を振るった星の魔獣、それを封印した伝説の八武神なら確かに適任だ ヴィルヘルミナ: 人間さんの身辺調査をしている途中で知ったの。これまで活かす場所もなかった情報だったけど…… ジャコヴァ: 残りの八武神もポルタ島に向かわせている。万一、星の魔獣が暴走した場合には協力してもらう手筈だ ジャコヴァ: さて……8人といえば、だが ヴィルヘルミナ: 準備は整ったようね シンデレラ: ……改めてこうやって見ると、ずいぶん立派なものね。ここが、インペリウム・コミッティの議場…… ドロシー: 私たちは修行も終えて、生まれ変わったみたいに強くなったわ。今度こそ、レグルスなんかに負けない! ティンカー・ベル: ねえ……リメイク中に見たものが何だったのか、まだティンカはよくわかってないんだけど……あれってレグルスが何かしたの? パラケルスス: 状況はいたってシンプルだ。秘密を知られては困る者が、知ってしまった、あるいは知られる可能性のある者を消したんだよ アイソーポス: 天空神殿はグランド・リヴィジョンが成立したあの日、エルマイトの平等な分配をうたい、大改革を宣言した。だが、彼らには誤算があったんだ。それが―― ジャコヴァ: 人間界から入ってくる量だ ヴィルヘルミナ: 本来、消滅するはずの『消えゆく物語』にも分配した結果、総量が不足。かえって生活を維持できない人々が増えてしまった ジャコヴァ: 当たり前の結果だがな アイソーポス: ライブラが本来どう考えていたかはわからない。だがレグルスは嘘で固める選択をした。そして、嘘を暴かれる原因を取り除いたんだ ヴィルヘルミナ: ある者は暗殺され、ある者は脅しを受け入れ、ある者は正気を失い―― ティンカー・ベル: 待ってよ、じゃあフックはえっと……脅しを受け入れた人、ってこと? なんで! ティンカー・ベル: なんで……って、ティンカのため……だったの、かな…… パラケルスス: おっと、残りのメンバーも来たようだね リル: 状況を説明してもらおうか。リメイクを施した以上、小生らもまた戦う機会があるということだろう アイソーポス: そうだね。それぞれ思うところもあるだろうが、時間もない。さっそく向かってもらおう ドロシー: 向かうってどこによ アイソーポス: 決戦の地だよ レグルス: ああっ……どうしましょう……! このタイミングでグランド・リヴィジョンを解除しようだなんて…… レグルス: どうする……ワタシはどうすればいい……? いえ、ワタシは神官長、このライブラが思い描いた世界を維持するのが至上命題 レグルス: 直接、乗り込んで解除しようとしている連中を捻り潰すのは、さほど難しくもないことです…… レグルス: ああでも、それをしてしまったら…… 火の微精霊: 神官長様。ポルタ島からの報告です。飛空艇が到着し、八武神のキンナラが現地に入ったことが確認されました! 水の微精霊: 神官長様、グランド・リヴィジョンからのエルマイト供給が不安定になっています。このままですと分配を停止しないと…… レグルス: ああっ、わかっています! わかっていますから!! 火の微精霊: ひっ! す、すみません…… レグルス: 八武神まで来ているとなれば、グランド・リヴィジョンの解除は避けられない……。ああもう、どうしてこのタイミングでデュプリがいないのです!? 闇の微精霊: デュプリさん、ですか…… レグルス: ワタシではグランド・リヴィジョンを操作できない……。奴らの手で封印が緩まった瞬間こそがチャンスなのに…… レグルス: 封印が緩まれば、ライブラを復活させられる……! それまでは泳がせるつもりでしたが、このままでは……代わりになるデュプリがいなければ…… 火の微精霊: 神官長、それってまさか…… レグルス: ええ、そうですよ。そのためのデュプリではありませんか。緩んだ瞬間にライブラと入れ替えるんです レグルス: 肉体的な機能は完全に複製していますから……デュプリと入れ替えてもグランド・リヴィジョンの機能は維持できる…… 闇の微精霊: ……!? レグルス: ……ペローにはGR2防衛を依頼していました。手は空かないでしょう……仕方ありません、あなたたち 水の微精霊: はいっ レグルス: 全力でデュプリを探し出しなさい。ワタシが呼んでいると伝えればすぐに来るはずですから レグルス: ワタシは……ポルタ島に向かいます デュプリ・ライブラ: ……ふう、重いッスね。なんて言ったら、神官長に怒られちゃいますね デュプリ・ライブラ: お店……そう言えばお腹すいたッス。こんなときでも、肉体があればお腹は減るんスね…… (背景切換...) 店主: へい、らっしゃい デュプリ・ライブラ: うわ、激混みッスね。席、空いてないッスか? 店主: カウンターでも良けりゃ入れるけど、いいかい? デュプリ・ライブラ: この荷物、手元に置いといてもいいッスか? でかくて迷惑かもしれないんスけど 店主: なんだこりゃ。まあいいよ、隅の席なら邪魔にもならんさ デュプリ・ライブラ: すんません、助かるッス デュプリ・ライブラ: えーと……メニューはっと。あ、餃子いいッスね。神官長が一緒だと臭いとか怒られるけど、今日は別に平気だし…… デュプリ・ライブラ: あ、やばっ、醤油! 雨依: きゃっ! ちょっと、醤油かかったんだけど……! デュプリ・ライブラ: うわ、ごめんなさいッス。ほんとにボク、いっつもこんな調子で……ごめんなさい、ごめんなさい 雨依: ……そんなに謝らなくていいわよ。変な子 デュプリ・ライブラ: 一人旅ッスか? 雨依: うん……なんかね、思うところあって、って感じ デュプリ・ライブラ: ボクもそんなところッスね。ていうか、わりと重めの決心とかしたところなんスけど 雨依: さっきの、束縛強めの彼氏さん? デュプリ・ライブラ: えっ、彼氏さんって? 雨依: なんか言ってたじゃん。一緒にいるとき餃子食べると怒られるって デュプリ・ライブラ: いやー、その。彼氏とかじゃなくて、大好きな先輩っていうか……恋愛っていうわけじゃないんスよ デュプリ・ライブラ: 前は、本当にただ好きでいるだけで幸せで、どうやってお役に立とうかな、って考えてたんスけど……最近はちょっとしんどくなっちゃって 店主: はい、お待ち。餃子とビールね デュプリ・ライブラ: あ、ども……。……あの、せっかくなんで乾杯とかしときます? 雨依: うん。それじゃ、かんぱーい 409 - 理解者 デュプリ・ライブラ: ……てなカンジで、ちょっといろいろ迷走しちゃってるんスよね 雨依: は? いや、なにそいつ、腹立つんだけど。なに、代わりって。寂しいときに利用してるだけだし デュプリ・ライブラ: ほんとそうなんスよ。都合いいだけなのかなー、ってちょっとわかっちゃったりするじゃないスか。でもね……それでも必要とされてるわけで 雨依: わかる……わかりすぎる……。いてほしいって言われたら、離れられなくなっちゃうもんね デュプリ・ライブラ: もともと対等な関係から始まってないのもありますけど、ボクが神か……相手の人を拒絶するとか、できる自信ないッス 雨依: 本当はね、そういうときは無理しないで距離とったほうがいいんだって デュプリ・ライブラ: そういう意見もわかるッス。でも怖いんスよ 雨依: わかる……。変な余裕見せて距離とったら、そんな都合のいいポジションすら誰かに取られかねないもんね デュプリ・ライブラ: そうなんスよ! 店主: お嬢さんたち、ずいぶん盛り上がってるねぇ。初対面なんだろ? 雨依: そうなんだけどね。こうして話してると、すごく共感しちゃうの 雨依: わりと前いたところでも、友達に『話し聞いて~』って言われるタイプだったけどね デュプリ・ライブラ: 雨依さんは聞き上手なんスよ、きっと 雨依: ま、でも聞いてるだけだよ。気の利いたことなんて何も言えないし。それでも界隈に居場所はあったのかな…… 雨依: あんな町でも、家よりは居心地よかったんだよね……私にとっては…… デュプリ・ライブラ: 雨依さん? 大丈夫ッスか? 雨依: ごめんごめん。とにかくさ、デュプリはせっかく決心したんでしょ? その人との関係を一歩進めるために デュプリ・ライブラ: うん……でもまだ揺らいじゃってんスよ。だって、たぶん頭おかしいって思われてみんなが嫌な顔するだろうし 雨依: 関係なくない? 自分の気持ちじゃん。常識とか周りの目とか、そんなのに縛られるから息苦しいんだよ デュプリ・ライブラ: ん……そッスね……。よーし、元気出てきたッス 店主: んじゃ、なんだか知らないが、俺から前祝いってことで、ほれ 雨依: わーっ! ケーキ! マスター、いいの? デュプリ・ライブラ: ありがとッス! いっただきまーす! (久しぶりに降り立ったレグルス教国。) (警戒していたが、あっさりと入国できた。) 人間: ……俺がひとりで乗り込んでくるなんて、天空神殿も予想してないってことか (この町の地下全体にGR2の魔法陣が広がっている。) (どうやって地下に行くべきか。) (俺は時計の針を握りしめ、) (過去の記憶を辿りながら町を探索する。) 人間: ここか……? いや、違うな…… 衛兵1: おい、そこの怪しいやつ! 何をしている! 衛兵2: 応援を呼んだほうがいいかもな 人間: くっ……面倒な…… 衛兵2: ぐあっ!? (どう対応するか俺が迷った僅かな時間に、ふたりの衛兵は次々に倒れた。) 人間: お前は…… 秘書官: よう、久しぶりだな (かつてシャルロッテの秘書官を務めていた男だ。) (サミットや飛空艇アマーリエとの空戦、そしてあの不幸な呪いの弾丸を撃った男――) 秘書官: 地下への道は、こっちだ 人間: どうして…… 秘書官: お嬢が目覚めたとき、大体の事情は聞いた。ここが目的地だと聞いたから、何か役に立てると思って待ってたんだ 人間: いや、そうじゃなくて 秘書官: なんで助けるのか、ってことか? 簡単な話だ。落とし前だよ 秘書官: お嬢からも、行くからには命がけでお前さんを守れと言われてる 秘書官: ……っと、この先が地下への入り口なんだが……見張りの数が多いな。少し様子を見て手薄になるのを待つか…… 人間: いや、行こう。あの程度ならなんとかなる フアナ: どうかな、キンナラ キンナラ: う、うん……思った、通り、だね……。きちんと分析すれば、ふ、封印は解除できる、はず…… 紫式部: ある程度の術式構成はここに記録してあります。これ、使えるでしょうか キンナラ: うわ、これ……す、すごく助かる…… フアナ: あたしの出番はないなぁ。素人が下手に口を挟めないし 紫式部: フアナさんは監督役なんだから、何が起きているかを把握できていればいいんですよ。それはわかってるでしょ? フアナ: うん、GR1を解除しようとしている、だよね 紫式部: ええ、そうです。その理由は? フアナ: 世界にグランド・リヴィジョンが複数あると共鳴しあって何がおきるかわからないから。たぶん、良くないことが起きる キンナラ: そ、そうだね……。起きないかもしれないけど、ね、念のため…… フアナ: GR2も、当初の理念は引き継ぐんだもんね。つまり……人間界から入ってくるエルマイトやディマイトは、一旦集約するってこと 紫式部: ええ、その通りです。世界の法則通りに知名度に比例させる方法はとらない。私たちオトギノクニの住民が分配方法を決めるんです フアナ: それがこれから始まる新しいオトギノクニ、ってことか……。それで、GR1は解除できそう? キンナラ: それが……ラ、ライブラ、って人は……天才だと思います……。ちょ、ちょっと時間、かかるかも…… 紫式部: 大きな術式ですし仕方ありませんよ。それよりキンナラさん、封印は緩かったですよね。気になりませんか? キンナラ: う、うん……封印だけが緩くて、肝心のグランド・リヴィジョンの部分はすごく、きょ、強固、なんだ……。まるで、そ、そういう設計、みたいな…… 紫式部: それもおかしな話です。グランド・リヴィジョンは十二神官のパワーをもって実現しているはずなのでしょう? 封印が緩いようでは術式が外れてしまう可能性もあります フアナ: ……まさか、あたしたちは踊らされている? 410 - 十二の犠牲 キンナラ: お、踊らされているかは、わかりません、けど……封印は、か、解除する前提じゃないかな、って思ったり……します…… フアナ: ……ねえ、紫式部。グランド・リヴィジョンをやるにあたって、十二神官の封印って具体的にどんな感じだったのか知ってる? 紫式部: 当時、私が現役のコミッティだったときに入ってきた情報では、という前置き付きですが…… 紫式部: ポルタ島付近に12の塔が落下したことは観測されています。その後の、塔に関する追加調査でも、これが術式に使われたことは明らかです フアナ: 塔が……落下? 紫式部: 魔法陣に、塔の先端で、十二神官をつなぎとめ、固定したのです フアナ: は……!? キンナラ: 先端って、そんな、じゃあ……!? 紫式部: 天空から古来よりイマジュマイトを蓄積し続けた塔によって、その身を貫かせたのです。それがグランド・リヴィジョン フアナ: それを自分の意志で……? 狂ってるよ…… 紫式部: 十二神官の全員が、術式の内容を把握していたのかは不明ですが……想像を絶する苦痛だと思われます キンナラ: ひどい……そんなにまでして、グランド・リヴィジョン、し、したかったの……? 紫式部: それほどまでの覚悟が何故生まれたのかはわかりませんが…… キンナラ: そ、それなら……封印、解除しちゃ、だめ、かな……。だって、いまもまだ、く、苦しい、よね…… フアナ: キンナラが優しいのはすごくいいところだけど、たぶんこれはやめたほうがいいと思う。そんな苦痛を長い期間受けていたら……ディマイトが暴走する 紫式部: フアナさんの言うとおりです。まともな精神状態でいるはずがありませんから キンナラ: そ、そっか……そうだよね…… フアナ: でもいつか、何かいい方法がないかは考えようよ キンナラ: う、うん……! フアナ: っと、着信! これ、アイソーポスさんから……? もしもし フアナ: えっ……人間さんくんが、単独行動!? レグルス教国に行ったって、それ本当に!? アイソーポス: ああ。黙って泣き寝入りする男ではないと思っていたが、想像以上だね。レオナに追跡してもらっていたんだが、砂の国あたりで見失ったらしい アイソーポス: そっちにも至急、飛空艇を回す。私たちも向かうが、そちらのほうが早いだろう。とは言っても、時間はかかるから事態がどうなっているかはわからないが アイソーポス: ああ、そうだね。よろしく頼むよ、フアナ パラケルスス: さて、こっちも向かってもらわなくてはね。きみたちの出番だ。準備はできているね? ピュルテ: もちろんです! 人間さんは、無事なんですよね!? アイソーポス: 入っている情報によれば、だがね。なにせ敵地にひとりだ、いつ何が起こるかわからない シンデレラ: こうしてる場合じゃないわ。早く行かなくちゃ パラケルスス: いま飛空艇を準備させてる。きみたちが焦って走りだしたところで、大した距離は稼げないよ ヴェルメリオ: ……わかってるけど、でも……落ち着かないの ヴィルヘルミナ: ひとまず用意はできたわ。あなたたちだけで先発してちょうだい クレア: がってん ジャコヴァ: ここからは決戦だ。そのつもりで準備しておけ。力を出し惜しみできる展開はないぞ ドロシー: ええ。わかってる。みんな、やれることは全部やるわよ! パラケルスス: ……ま、やれるだけのことはやったし、いまの彼女たちならなんとかしてくれる、って気がするね アイソーポス: ああ。それにしても……戦闘能力はないんだろう? なのに、たったひとりで乗り込んで、何をするつもりなんだ パラケルスス: 遠くへ飛ばした瞬間の彼の顔はよく覚えてる。確かに、それくらい思い切ったことはやりそうだったよ アイソーポス: レオナがロストしている空白の時間に何かあったのか……。いや、しかしあまりにも短時間だ パラケルスス: どこで何をしていたかによるだろうけどね。あのレオナがどうしてロストしたんだろう。あいつの発明品で追えないような、特殊な場所……? アイソーポス: とにかく……彼はまだ、仲間の無事を知らない。自暴自棄になって無茶をしなければいいのだが (背景切換...) レグルス: 久しぶりに、この町に来ましたね。自分の名前を冠しているというのに、なかなか来る機会もありませんでしたが レグルス: さて……出かける前にネズミ退治といきますか 秘書官: よし、突破した! このまま行くぞ! 人間: ……っ、待て、何か来る! (高速でこちらに飛来したそれは、忘れようもない顔だった。) 人間: レグルス……っ!! レグルス: 何かネズミが入り込んでいるようだと思えば、本当にこんなチンケな侵入者だとは……ワタシがわざわざ出るまでもありませんでしたね レグルス: こんなところで何をしているんです? あなたにはもう守るべき仲間など、残っていないのでは? 人間: 例えこの世にいないとしても……俺に大切な仲間がいた事実は変わらない…… 人間: 約束したんだ。俺には彼女たちとの約束を守る義務がある。改変版GR2を、必ず実現させるんだ レグルス: 相手のいない約束を守ることに、どれほどの意味があるんです 人間: ライブラだって、もういないんじゃないのか!? レグルス: ――っ!? 人間: もう存在しない相手に義理立てしてるのは、お前のほうだろう!! レグルス: この……神官長たるワタシに向かって、そのような口を利くとは……! 秘書官: 神官長!? さっきから変だと思ってたが、まさかこいつ、天空神殿のトップ、レグルス神官長か!? 秘書官: こんな大物相手に啖呵を切るとは恐れ入ったぜ…… 人間: 相手が誰だろうと関係ない。やるべきことをやるだけだ (剣を構え、その切っ先をレグルスへと向ける。) (彼女は蔑んだ笑みを浮かべる。) レグルス: バカな男ですね。あなたはワタシに絶対にかなわない。それはもうジェロドラシルで思い知ったはずでしょう? レグルス: このようにね!! 秘書官: うおっ!? な、なんだ、身体が動かない……? レグルス: ふん……そちらのあなたも正式な『物語』ではないのですね。その程度の存在が、ワタシのこの圧力に耐えられるはずはありません レグルス: まして、人間界から来たあなたなど…… 人間: はあああぁぁぁっ!! レグルス: ――っ!? (渾身の斬撃だったが、寸前のところでかわされる。) (レグルスの顔には驚嘆が浮かんでいた。) レグルス: バカな……どういうことです。この技は『物語』として確立していなければ耐えられるようなものではない……っ! まして、人間界から来たあなたが対抗できるはずが…… 人間: 人は、きっかけさえあればいくらでも変われる。経験も、才能も、生まれも育ちも関係ない。変わりたいという気持ちがあれば、変われる 人間: みんなを失ったあのときから、『自分がどこかの物語の主人公だったら』と考え続けていた。そしたら『みんなを救えていたかもしれない』って―― 人間: もう、遅すぎることはわかってる。いくらあがいても、みんなは戻ってこない。それでも……俺はみんなの気持ちを受け継ぎたいんだ 人間: だから俺は……ようやく…… 人間: 俺の物語の、主人公になったんだ 411 - 地下へ レグルス: まさかあなた、自らを物語に書き換えたというのですか……? そんなことをすれば、あなたは永遠に人間界には戻れないのですよ 人間: ……わかってる 秘書官: なっ……おい、あんた、そりゃ本気で言ってんのか……? どうかしてるぜ レグルス: ええ、本当に。狂っているとしか言いようがありませんが……なるほど、確かにオトギノクニの住人として骨を埋めるつもりなら、この術は使えない…… レグルス: しかし、たったそれだけのことです。それだけで勝ち誇るなど愚かなこと……このワタシが直々に相手してあげましょう……! 人間: ……! レグルス: ……と言いたいところですが、ワタシもあいにく行かなくてはなりません。ここは、彼女に任せるとしましょう。どうぞ、地下へお行きなさい レグルス: では、ワタシはこれで―― 人間: ……っ、待てっ! 逃がすか……っ 秘書官: 行っちまった……命拾いしたけど、お前は神官長相手にやりきるつもりだったのかよ 人間: 仲間たちの仇だからな。けど、それよりまずGR2が優先だ。あいつを追いかけるより先に地下に……! 秘書官: ……悪いが、どうやら俺はここまでらしい。さっきの神官長の圧力だけで、身体が言うことを聞かねえ……。この期に及んでお荷物にはなりたくねえんだ 人間: 十分だよ。道案内してくれて、助かった (背景切換...) (地下に降りてひとり、奥にあるはずの魔法陣を目指す。) 人間: ……っ! (次々と襲い来る魔物。) (だが怯んでいる暇などない。) (なんのために魔物と戦う力を得たのか。) (いまここで前に進むためだ。) (やがて――) 人間: ここは……見覚えがある……。間違いない、シェイクスピアがGR2を発動したときの…… ペロー: 驚きましたね。本当にあなたひとりで、ここまでたどり着くとは 人間: ……! ペロー! ペロー: 本当に驚きですよ。人間界から来た存在が、ここまでの実力を見せてくれるなんてね。でも……魔物相手に通用したからといって勘違いしないで下さい ペロー: 私相手に同じ手が通用すると思ったら、大間違いですからね 人間: そんなことは、やってみなければ……っ! ペロー: わかるんです。戦う前からもうわかりきっている。でも、あなたの理解力が追いつかないというなら、実践してご覧にいれましょうか (強烈な衝撃波。) (簡単に自分の身体が吹っ飛ぶ。) ペロー: 私はこの魔法陣を守るという役目があります。簡単にここを突破されるわけにはいきません ペロー: 私自身としても……グランド・リヴィジョンの主導権をグリム側に渡すわけにはいかないのですよ (次々に繰り出される攻撃。) (為す術もなく身を削られる。) (ここまでなのか。) (そんな考えが頭をよぎる。) ペロー: 冷静に考えたらわかることです。あなたはようやく物語の一部として、この世界の市民権を得たにすぎない ペロー: あまねく物語たちが、私にどれだけ通用すると思っているんです? 有数の作家であり、コミッティの一員として名を連ねるほどの存在ですよ ペロー: あなたも神殿の欺瞞には気づいているのでしょう? エルマイトの分配なんてもので、世界の格差は縮まっていない。強者たる私は変わらず強者なのです 人間: 欺瞞……? なんの、話だ……? 人間: いや……そんなことは関係ない。どれだけ差があっても、絶望的な戦いでも……俺は後には引けないんだ ペロー: そこまであなたに戦う理由がありましたか? 人間: ピュルテを操り、さらって記憶まで奪い、フェルディナのことも後ろで糸を引いて、都合が悪くなれば切り捨てた…… (背景切換...) フェルディナ: 何かあったかですって? 散々よ……。完璧だったはずの私の計画がっ…… フェルディナ: 誰の合意も得ていない? 冗談じゃない、元はといえばあなたが フェルディナ: ちょ、まっ……くっ、通信切ったわね……。あの女、自分は高みの見物ってわけ (背景切換...) 人間: シャルロッテの飛空艇、あれもお前が罠を仕掛けたんだろう (背景切換...) 秘書官: シャルロッテ様、本当によろしいんですか。まだこれは試作段階のもの、うかつに服用しては…… シャルロッテ: 今! ここで使わなくてどうするの。それにこれは、ペローのアドバイスよ シャルロッテ: 私の失敗で、名門グリム家の名を汚すわけにはいかないのよ! これ以上、これ以上っ……お荷物扱いなんてごめんだわ! 秘書官: シャルロッテ様! 当機はアンコントローラブルです! このままでは……! ペロー: いやーぁ、シャルロッテ。薬の効果はてきめん、というところでしょうか シャルロッテ: ……っ!? ペロー!? これはどういうことなの!? 私はどうすれば…… ペロー: 恨むなら、グリムの名を恨みなさい! アハハハハハハハ………! シャルロッテ: なっ……ペローっ!? くっ、まさか……この私が、謀られたっ……!? (背景切換...) 人間: それに……リラのこともだ (背景切換...) リラ: トランプ……トランプの兵隊さん……あ、あぐうっ、うあああっ! リラ: 私、私は嫌だって……あ、ああっ、大事な、私の、ああっ! (背景切換...) 人間: ……ディマイトの濃度が高いからだろう、その程度の理由だろう? それだけのことで、リラの心の傷を抉るような真似を…… 人間: あれはフェルディナじゃなかった。ペンで文字を書いたのは……お前なんだろう、ペロー ペロー: ふふっ……だとしたら、どうします? もう、あなたも今にも倒れそうですが? (ペローの言葉は真実だった。) (もう足が思うように動かない。) (作品として生きる覚悟をもってしても、付け焼き刃ではこの程度なのか。) 人間: だとしても……俺は……っ (リルを作家権限でそそのかし、フェルディナをたきつけ、リラを弄び――) (挙げ句にはコミッティも裏切り、レグルスに対しても真の味方ではない。) 人間: お前は……何が目的なんだ…… ペロー: 目的……そうですね。すべては深淵の闇のために――…… ペロー: しかし、あなたはもう限界でしょう。そして色々と知りすぎてしまった。気の毒ですが、もはや私もあなたを見逃せない ペロー: ここで……死んでいただきましょう 人間: ……っ! (仲間たちの顔が、共に過ごした時間が、走馬灯のように駆け巡る。) 人間: う、動けっ……動けよっ、俺の足っ……! (せめて最後に一矢報いたい。) (だが、そんな微かな希望も打ち砕かれ、俺はその場に倒れ伏した。) ペロー: これで終わりです……さようなら、『人間さん』 60001 - 涙の再会 : これまで共に旅をしてきた仲間たち。 : しかし、天空神殿のレグルス神官長の前に無惨にも倒れた。 : 唯一残された自分に課せられた使命は、仲間と誓った目標を達成すること―― : そう信じて、独り戦い続けてきた。 : そして。 : 天空神殿に与して、世界の理を塗り替える魔法陣、GR2を守護していた大作家ペローとの決戦。 人間: う、動けっ……動けよっ、俺の足っ……! : せめて最後に一矢報いたい。 : そんな微かな希望も打ち砕かれ、俺はその場に倒れ伏した。 ペロー: これで終わりです……さようなら、『人間さん』 ヴェルメリオ: ……させないっ! ペロー: ……っ!? シンデレラ: どうやら間に合ったようね ドロシー: これ以上、あんたの好きにはさせないわ! 人間: みん、な……? クレア: 人間さん、こんなになるまでがんばったんだね エミリー: んもぅ、らしくないことしちゃって ティンカー・ベル: でも……カッコいいよ、人間さん。覚悟、伝わってきた リル: あくまでも貴君は小生に言わせたいわけだ。『まったく貴君は本当に世話が焼けるな』と ヴェルメリオ: ……もう大丈夫だよ。人間さんを、ひとりになんてしないからね ピュルテ: 私たちはいつでも一緒に戦ってきたじゃないですか。これからも、それは同じですよ ドロシー: まったく、人間さんってば。ひとりでカッコつけようなんてずるいわよ。ちゃんと私たちの見せ場も残しておきなさいよね エミリー: ほんと、ほんと。そうやってモテポイント稼いで、まーた美少女をいっぱいナンパしちゃおうとか考えてるんでしょ 人間: 何が、どうなってるんだ…… クレア: 私たち、あの後コミッティに拾われたの。人間さんが飛ばされた後ね リル: そこで蘇生され、そして……同じ轍を踏まないようにと、修行を積んできたんだ シンデレラ: コミッティたちはそれを『リメイク』って呼んだわ。同じようでいて、まったく違う『作品』にするんだって : もう二度と顔を見ることもかなわないと思っていた仲間との再会。 : 不覚にも、目から涙が溢れていた。 ピュルテ: 泣くのは早いですよ、人間さん。ここからが本番なんですから 人間: ピュルテも……記憶が戻ったのか ピュルテ: ええ。皆さんの言うところの修行です。そこでなんとか見つけられました ペロー: ふん……お涙頂戴の再会、というわけですか。安っぽい筋書きですね ペロー: いいでしょう。ならば、こちらも相応の対応をしてあげましょう ヴェルメリオ: ……みんな、気をつけて。魔物が大量に湧き出てきた ドロシー: それにあれ! ペローのディトルパだわ……! シンデレラ: 望むところよ。私たちの新しい力、見せつけてやりましょう! 60002 - リメイクの成果 ペロー: ふん……数で上回ったつもりでしょうが、残念でしたね。私も数は用意できるのですよ ドロシー: 魔物……っ!? なんでペローが魔物を……? ペロー: エルマイトとディマイトの使い分けですよ。エルマイトを求める魔物を集めるために、私のディトルパからエルマイトを拡散しているのです ペロー: この場に集まりさえすれば、よりエルマイト成分の濃いあなた方に襲いかかる、という寸法ですよ。実にシンプルでしょう エミリー: ペロー……落ちたね。魔物を使うなんて、もうペローはコミッティどころか…… ペロー: 黙りなさい ペロー: このまま負けるわけにはいかないのですよ ヴェルメリオ: ……それはこっちだって同じ。これがわたしの、集大成だから! : これまで以上に気合の入ったヴェルメリオの攻撃に、彼女たちとの空白の時間に思いを馳せる。 人間: 修行を積んできた、って言ってたな。それに、その姿 ヴェルメリオ: ……うん、どんな修行なのかは、たぶんみんなそれぞれ違うだろうけど 人間: みんなのこの姿は、新しく手に入れた力を象徴してるのか……! ティンカー・ベル: 気をつけて! ずきん、魔物がそっちに行った! 人間さんを守って! ヴェルメリオ: ……うん、わかった 人間: いや……これくらいなら大丈夫だ シンデレラ: ちょっと人間さん!? 何やって…… : 飛びかかってきた魔物を余裕をもって一閃、あっけなく倒す。 : みんなの驚いた視線は、正直ちょっと心地良い。 シンデレラ: どうして……? だって、あなたが戦えない理由って ピュルテ: 人間さん、まさか……! 人間: うん、俺は『物語』になったんだ。ロゼッタ・ゲートを通って リル: なん、だと…… クレア: そんなこと、できるの……? 人間: だから俺のことは無理に守らなくても大丈夫だ。みんな、ペローに集中してくれ エミリー: 覚悟、決まっちゃったんだねぇ…… 60003 - 人間の覚悟 ペロー: ふん……足手まといがひとり減った程度で、勝てるなどと思わないことですね ドロシー: 足手まといですって!? この人はただ、世界が違うから戦えなかっただけよ。それを超えたいま、人間さんは立派に戦えるわ! ドロシー: 陰で努力してたことくらい、みんなわかってるんだから……! ピュルテ: そ、それじゃあ人間さん、もう人間界には…… 人間: そうだな。きっともう、戻れない。タワマン、住まわせてあげられなくてごめんな ピュルテ: そんなの、どうだっていいです……! でも、私は約束していたから! 必ず戻しますって……なのにっ 人間: みんなも、相談もせずに決めてごめん。決めたとき、もう……全員ダメなんだと思ってたから ティンカー・ベル: そんなこと責めたりしないよ! しないけどさぁ……! クレア: ……っ? なんか、何もしてないのに私の中にエルマイトがいっぱいになってきてる……! ドロシー: 私もよ! これって、人間さんから……? 人間: 相変わらず、ペローみたいなレベルになると太刀打ちできないけどさ、みんなをこうしてバックアップはできるから シンデレラ: なに言ってるのよ、人間さん……。ここまでしてくれたら、充分よ リル: みんな、ここで一気に勝負をかけるぞ。ペローを狙い撃ちにするんだ! ヴェルメリオ: ……そうだね。ペローのディトルパがいる限り、魔物がずっと出続けちゃう ペロー: 再会の感傷に浸るのは結構ですが、実力を見誤ってしまっているようですねぇ……。この私が、こんな正面から肉弾戦をすると思ったのですか? ピュルテ: 気をつけてください。ペローは、何か狙っているみたいです…… ペロー: 私の前にあなたたちは無力……さあ、踊りなさい。すべては深淵の闇のために―― ピュルテ: ――っ!! う、ああっ……! 頭の中に、声が……っ!? 60004 - ピュルテを縛るもの ピュルテ: う……ああっ!? く、ううっ、くふぅっ……! わ、私の頭の中に、はぁっ、あっ、変なモヤがかかるみたいに……!? リル: ピュルテ!? くっ……また仕掛けてきたのか……! コミッティ本部で戦ったときから、改善できたかと思ったのに…… ペロー: まったく性懲りもなく……私の『作品理解』の範疇にある以上、逃れようがないのですよ ピュルテ: そ、そういうことですか……『作品理解』……だから、私を操れる…… エミリー: その子が、どんな作品なのかを本質的に理解している……だから、作家の好きなように改変できるってことだねぇ ドロシー: でもどうしてよ。ピュルテはレグルスが作り出した存在なんでしょ? ペローなんて、他人じゃないの ペロー: レグルスは術式を実行しただけ。組み上げていたライブラが本来の、彼女の作家というべき存在ですよ。そして私は彼女から情報を得ていた…… ペロー: 実に簡単なロジックです。さあ、どうします? ピュルテ: ええ、よくわかりました……。だから、苦しくはあるけど、でも……っ ピュルテ: あなたのその呪縛から、私は完全に解き放たれました……! ペロー: なっ……!? リル: ピュルテ! 大丈夫なのか!? ピュルテ: うん、ちょっと辛かったけど、でもはっきりとわかったんだ。この声に、私は打ち勝てるんだって クレア: もしかして、これが奥の手? だとしたら、もう終わりかな ドロシー: いまならパンチ1発で勘弁してあげなくもないわよ。私たちは、まず何よりもグランド・リヴィジョンを……GR2を優先したいから エミリー: うん……そうだねぇ。邪魔しないでくれるなら、エミリーたちだって戦いたいわけじゃないからねぇ ペロー: この……調子に乗るなよ……! 誰に向かって情けをかけているつもりだ……っ!! ペロー: 私の『作品理解』の真骨頂は、ピュルテなどではない……人間さん、あなたならその意味がわかるでしょう……? シンデレラ: それはどういう……うぐっ!? ヴェルメリオ: ……なに、この感覚 ペロー: 我が声に答えよ……隣人を疑え、来た道を疑え、おまえという存在が何者なのか……疑うのだ…… リル: く……あぁっ、やめ、ろ……っ! 60005 - 「作品理解」の範囲 ティンカー・ベル: な、なになに、どうなってんの!? 姐さんと、ずきんと、ネコ……? クレア: 一気に3人も……! でも、なんで……? 人間: ペローが『担当作家』だからだ……。だから、作品理解が深いんだ ピュルテ: そんな、リルちゃん! リル: ちっ、触るな! ピュルテ: きゃああっ!? シンデレラ: だめ……こんなの、だめ、なのにっ、ディマイトが溢れて……っ。あなたたちへの攻撃衝動が止まらないのよ……! ヴェルメリオ: ……う、ううっ、みんな、離れて……っ、武器から手が、離せない……っ。勝手に、狙いをつけちゃうの……! エミリー: ちょっと待ってよ、ヴェル……っ、うわぁっ!? あ、危ないっ ヴェルメリオ: ……ま、まだわたしの意識がある、からっ、当たらない、けど……っ。次は、わからない……っ エミリー: そんな……本当に操られちゃったの!? まだ意識があるからって、消えそうってこと……!? ヴェルメリオ: ……わか、らないっ。でも、暗い気持ちが湧き上がってきちゃう……っ。わたしの人間さんにベタベタ触って……まとわりついて……目障りだって……っ! ドロシー: これって……! ペロー: ゼロベースから再構築するのは、いくら担当作家と言えども負荷が大きいですからね。これまでの記憶や経験をベースに、ほんの少し価値観や方向性をいじりました ペロー: たったこれだけのことで、充分にあなたたちに攻撃的になるんです。どうです、友情なんてものは、ほんのわずかなさじ加減ひとつ……脆いものです ティンカー・ベル: 操られてるんだから友情もへったくれもないじゃん! ティンカたちが積み上げてきたものまでバカにしないで! ペロー: ……しかし、妙ですね。一向に元の意識が消える気配がない……。完全に操られていないのか……? シンデレラ: この戦いから始まるんだって、このまま私の帝国が、このオトギノクニを支配するんだって……そんな考えがずっと頭の中をぐるぐるして…… リル: 貴君らのエルマイトを、まるごといただいて……っ、我が故郷を発展させる礎にしてやろう、などと……もうひとりの小生がそそのかすんだ…… リル: クレア殿っ、かわしてくれ! クレア: うああっ!? く、ううっ、強い……っ! さすが、リル……こんなに速いんだ エミリー: 3人とも強すぎるよぅ! シンデレラの魔法も……あっ、ドロシー! くるよっ! ドロシー: わかってるわよ! でも私は地獄から戻ってきた魔法使い! こんな魔法攻撃、効かないってところ見せてあげるわ! ドロシー: ううああああっ!! ティンカー・ベル: 三つ編みっ!! 60006 - ペローの結界 フアナ: シェイクスピア! いったい、何が起きてるの!? シェイクスピア: ああ……これはすべて悲しい運命の歯車が招いたことなのよ。風に吹かれる木の葉のように、わたしには抗う術はなくて…… フアナ: そういうのいいから! ちゃっちゃと説明して シェイクスピア: フアナ……あなた、ずいぶんわたしに対する当たりがキツくなったんじゃないの フアナ: そんなことないってば シェイクスピア: はあ……焦ったところで事態はあまり変わらないわよ。わたしが術式の状態を維持しながら待機していたら、いきなり魔物の群れに襲われたの シェイクスピア: 大した相手ではなかったけど、とにかく数が多くて……乱戦になるうちに、術式のあるエリアから出てしまった…… シェイクスピア: その瞬間よ。わたしを弾き出して結界を張ったのよ、あの女 フアナ: あの女って シェイクスピア: ペローよ。まあ、彼女にはわたしも貸しがひとつあったから、きっちり返された格好なわけだけど フアナ: 待って、それじゃ結界の中にはいま、誰が……? シェイクスピア: 人間さん、ペロー、それにいつもの連中は入り込めたみたいね フアナ: どうしてみんなは入れたわけ? でも、人間さんくんがひとりじゃないなら、とりあえず安心か…… シェイクスピア: 時間をかけて準備するならともかく、インスタントに作った結界は、特定の個人を弾くことしかできないのよ シェイクスピア: 現場にいたわたしや、動きを知られているフアナ、アイソーポスやグリムあたりは対処してるでしょうけど……あの子たちについては、ペローも死んだと思ってたんじゃないかしら フアナ: そういうことか……でもとにかく、早く助けに行かないと。結界、破れるんだよね? シェイクスピア: まったく……人使いが荒いところ、アイソーポスに似てきたんじゃないの? フアナ: ほんと? それ、光栄だな シェイクスピア: 褒めてないわよ。……待ってなさい、ちゃんとやってるところだから 60007 - 光明 アイソーポス: もうフアナが着いた頃だ。なんとか彼女とシェイクスピアで人間さんくんをサポートできるといいんだが パラケルスス: ピュルテたちだって到着した頃だろ。ペローにだって対抗できると思うけどね アイソーポス: そう思うが……不安は尽きないな。もっとスピードは出ないのか? 操舵手: いやあ、これ大型の飛空艇なもんで パラケルスス: あんまり無理を言うもんじゃないよ。きみは自分が献身的なものだから、他人にもそれを求めがちなところあるけど アイソーポス: む……そうだろうか。いや、すまない。不快な思いをさせるつもりはなかったんだ 操舵手: いえいえ。最短航路でぶっちぎってはいるんで、もうちょっと待っておいてくださいね パラケルスス: っと、レオナから通信だよ。あいつ、どこほっつき歩いてるんだ アイソーポス: もしもし、私だ。レオナか? レオナ: 人間さんくんってば、ちょっと行動が早すぎるよ! 砂の国で見失ったと思ったら、今度はレグルス教国に休みもしないで移動しちゃうし パラケルスス: 要するに捕まえそこなってるんだろ。まったく、なにやってるんだか レオナ: いや、それはまあそうなんだけど! でも人間さんくんはみんなと合流できそうなんでしょ アイソーポス: おそらくもう、リルたちは到着しているはずだ レオナ: 人間さんくんにはどうせ追いつけないからと思って、いろいろ調べたんだけど……面白いことがわかったよ パラケルスス: そういう言い方するやつで、面白かったことなんてほどんとないんだけどね レオナ: ほんとだってば。どうやら人間さんくん、私が見失ってる間に……ロゼッタ・ゲートに行っていたみたい アイソーポス: なんだって……? じゃあ、彼はもう……なるほど、それで単身レグルス教国に乗り込んだのか レオナ: ね、びっくりでしょ? で、まあ私も合流するつもりだったんだけどさ……気になるやつを見かけたから、いま追いかけてるとこなのよ パラケルスス: え? じゃあきみは、レグルス教国に向かってないのか? レオナ: ……うん。なんかさ、いたんだよ。デュプリ・ライブラが アイソーポス: デュプリ・ライブラ……!? ------(Background changed)------ ペロー: ふふっ……結局、あなたたちは詰めが甘いんですよ。例え共に旅した同朋だろうと、自分に剣を向けた時点で容赦なく始末できなくては、戦いには勝てません ティンカー・ベル: そんなこと……できるわけないじゃん。本気でなんてやりあえないよ! そんなことができるんなら、アンダーフォールだって苦労しなかったんだから! ピュルテ: あのときの……私のために、皆さんを巻き込んでしまったときのことですよね…… ペロー: あれだって、まさかピュルテの自由意志だとでも思ってるのですか? あなたはただ、創造主に逆らえなかっただけなのに……滑稽ですねぇ ペロー: さあ、そろそろ終わらせてあげなさい ヴェルメリオ: ……お願い。みんな逃げて。わたし、人間さんの周りにいる女の子は、ひとり残らず消したいみたい……。そして最後に、人間さんを動けなくしちゃうの シンデレラ: このままじゃ、私たち……仲間を……っ リル: ピュルテ……もうだめだ。せめてお前の手で、小生を斬って捨てるんだ……早くっ……! 人間: ……もう、大丈夫だ。そんなことをする必要はない リル: う……ぐっ!? な、なんだ……小生の身体、が…… ペロー: ……? どうしたっていうのよ 人間: ふう……なんとかなったみたいだな リル: ……っ! シンデレラ: ……!? ヴェルメリオ: ……。そこを動かないで。動けば撃つよ……ペロー ペロー: なっ……!? 60008 - 理解度の差異 ペロー: 3人とも……いったい、どういうつもりです……!? ヴェルメリオ: ……もう、あなたの言いなりにはならない ヴェルメリオ: ……きっと、さっきみたいなわたしも、心のどこかにいるんだと思う。解釈の余地、ってやつなのかな。でも…… ヴェルメリオ: ……でも、人間さんのことが大好きなのと同じくらい、みんなのこと大切だから。あんなふうには、絶対ならないよ……! ペロー: ぐううっ!? 本当に射掛けてきたっ……!? くっ、ディトルパっ、私を守りなさいっ シンデレラ: 逃さないわよ! はああああぁぁっ!! リル: みんな、このチャンスを逃がすな! 畳み掛ける! ティンカー・ベル: え、あ、うんっ、おっけー、ネコ! いっくよー! エミリー: 人間さんもエルマイト、いっぱい出してくれてるよぅ! ペロー: バカな……!? どうして私の管理下から外れたのです!? 作品が自力でここから脱することなど…… 人間: 自力じゃないからだよ ドロシー: え……!? ちょっと、人間さん? あなたが何かしたの? 人間: さっきみんなから聞いた。修行を通じて『リメイク』したんだって ペロー: リメイク……! そうか、コミッティの連中が書き換えたせいで、私が把握している特性から微妙なズレが生じていた…… ペロー: しかし本質から大幅に書き換えるようなことはしていないはず! 多少のほころび程度で、完全に打ち破ることなど…… ペロー: ……まさか 人間: 『作品理解』って、自分の作品だから作家が一番よく知ってる、って理屈だろ 人間: そもそもこの世界で、他人の作品を知る機会自体かなり限られるし、この点で担当作家を上回る存在は普通いない ピュルテ: あっ……! でも、人間さんなら……! 人間界に伝わっている皆さんの創造期を知っています! 作品を理解することができますよね! 人間: 俺がオトギノクニの住人になった段階で、作家ではないにしても、作品理解に干渉できるようになったんじゃないか。そう考えて、試したんだ 人間: 作品理解度は、ベースでは当然ペローが優勢だ。けど、リメイク部分でペローを上回るチャンスがあった クレア: でも、人間さんはリメイクしたところにいなかったのに ドロシー: そうよ! 軽く雰囲気は伝えたかもしれないけど、のんびり話しているヒマなんてなかったじゃない 人間: 何に問題意識を持って、どうやって解決するか……なんとなくはわかるよ。少なくともペローよりは 人間: だってここまで、ずっと一緒に旅してきた仲間なんだから ヴェルメリオ: ……人間さん シンデレラ: つまり……ペローより人間さんのほうが、私たちのことを理解してくれている、ってことね リル: まったく、貴君というやつは…… クレア: じゃあもう、怖いものはないよね ペロー: くっ……だとしても……っ、地力で私にかなうと思っているのですか……! 本気を出そうじゃありませんか! 覚悟しなさい!! 60008 - ストーリー用 Ⅰ 60009 - GR2の改変 ペロー: ば、かな……っ、この私がこんなところで……負ける、ですって……? 人間: よし、今だ。ドロシー、押さえつけてくれ! ドロシー: 了解っ! ほら、動くんじゃないわよ! 人間: いくぞ……! おおおおおぉぉぉおおぉっ!! ペロー: 何をするつもり……うああああっ!? : ティンカー・ベル: 人間さん、それって……エルマイトを流し込んでるの? ピュルテ: ものすごい量です! というか、人間さん、前よりもエルマイトが増えてませんか? 気のせいでしょうか ペロー: くぁああああっ……!? あ、あああ……う、うぐっ…… ヴェルメリオ: ……ペローのディトルパが消えていく ピュルテ: やりました! これでGR2もできますよね! 人間: 『時計の針』は持ってる。あとはこれを魔法陣に突き刺せばいいのかな シェイクスピア: 待ちなさいっ! クレア: あっ、シェイクスピア。今までどこにいたの? 隠れて見てたとか? シェイクスピア: ああ、またそうやってわたしの評価を不当に貶める言説が……これもまた、妬みを身に受ける立場として致し方ない運命なのかしら…… フアナ: じゃなくて! あたしたちはペローの結界ではじき出されてたんだよ。でも、それが解けたから、急いで入ってきたんだ クレア: フアナだ! フアナ: 見たところ、解けたのはペローを無力化したから、かな? さすが人間さんくんたちだよ。ペローを相手に勝っちゃうなんて クレア: すごいでしょ。ね、フアナ。もっと褒めてもいいよ ティンカー・ベル: んで? どうすりゃいいの? エミリー: あとはプロに任せちゃえばいいんじゃない? 人間: ああ、そうだな。頼む、シェイクスピア シェイクスピア: これで、あなたたちの望む改変版に調整できるわ シェイクスピア: カスタマイズする内容は……現在の記憶を保持したまま、グランド・リヴィジョンの管理権限を天空神殿から付け替えること、だったわね フアナ: うん。それで間違いないよ シェイクスピア: 分配方式は? フアナ: それはこれから、かな。コミッティが再召集されるはずだから…… 人間: でもまだ、終わりじゃない。レグルスが、どこかへ行ったんだ 60010 - 決戦の地へ ピュルテ: 神官長が!? どこへ行ったんです? 人間: わからない。俺を例の術で封じられないとわかると、さっさと行ってしまったんだ。そのときは俺も、まずはGR2が優先だと思っていて…… エミリー: それは当然の判断だから仕方ないねぇ。けど、行くとしたら…… ドロシー: ポルタ島。それしか考えられないんじゃない? シンデレラ: ええ。すべてが始まった場所…… ピュルテ: グランド・リヴィジョン、星の魔獣、三大悲劇……そして私たちの冒険の旅も、全部あの小さな島から始まったんですよね ヴェルメリオ: ……そして、終わらせる場所でもある、ってことだね シェイクスピア: GR2はGR1が稼働している間は発動できないわ。ふたつを同時には動かせないから フアナ: そのために、紫式部とキンナラが十二迷宮の地下で待ってくれてる。もし、レグルスが彼女たちを標的にしているんだとしたらーー 人間: 行こう。そこが決戦の場所だ ------(Background changed)------ ティンカー・ベル: ふう……! やっぱり地下は落ち着かないよね。空気がおいしい! エミリー: ティンカってば、そんなのんきなこと言ってる場合じゃないんだけどなぁ クレア: しかも、結局向こうについたらまた地下に入るし フアナ: あたしの乗ってきた飛空艇が、こっちに止めてあるから。ちょっと狭いかもしれないけど パラケルスス: おいおい、フアナが乗ってきたのは5人乗りだよ。さすがに定員オーバーじゃないかな ヴェルメリオ: ……パラケルスス! それに……アイソーポスに、ジャコヴァたちも アイソーポス: コミッティも当事者だからね。最大限の支援はしよう。輸送機でここまで来たから、乗ってくれ ピュルテ: 助かります! ここで移動手段がないと困ってしまうところでした シンデレラ: グリム家も現場に入ってくれるわけ? ずいぶんな大所帯になるわね ヴィルヘルミナ: 輸送機の手配と体力の回復くらいはサポートするわ。けど、現場についたら、ワタシたちは見守るだけよ クレア: え、なんで? みんなで戦わないの? ヴィルヘルミナ: 姉さんの方針なのよ。いざとなったらどうするかはわからないけど ジャコヴァ: これは、お前たちが紡ぐべきストーリーだからな。そうだな? エミリー: ……ん、ありがと。ジャコヴァ ジャコヴァ: のんびりしている時間はないぞ。レオナを向かわせてはいるが、レグルスがどんな手に出るか、私にも予想できない リル: わかっている。急ごう ------(Background changed)------ デュプリ・ライブラ: ……ども。来ちゃいました ポステリオル: 歓迎 60011 - 十二迷宮への上陸 アイソーポス: まもなく――あと15分もすればポルタ島、通称『小さな島』上空に到着する。十二迷宮付近に着陸するので、君たちにはすぐに現場に向かってもらいたい ピュルテ: 以前、私たちが天空神殿の命令で調査した遺跡……グランド・リヴィジョンの魔法陣がある場所ですね ドロシー: あのときは、神殿の命令で未知の遺跡を調査してるんだと信じ込んでたわ。けど、あれは……魔法陣の状態を確認するためだったのね ジャコヴァ: だろうな フアナ: キンナラの調査でも、封印部分は緩く作られているって話だった。これって、何を表してるんだろう シェイクスピア: おそらくだけど。ライブラにとって星の魔獣の出現は誤算だったのだと思うわ。ひいては、八武神による封印も パラケルスス: いわば封印の重ねがけをしているわけだから、ほころびが出るのは予定よりも遅かったはずだ。本質を理解していないレグルスにとってはさぞかし焦らされる時間だったろうね ヴェルメリオ: ……わたしたちの役割は、GR1が無効化されるまでレグルスを抑え込むこと、だよね シンデレラ: 術式の無効化はキンナラと紫式部が対応してくれる。私たちの役割の本質は時間稼ぎ、ってことかしら ジャコヴァ: そのとおりだ。無理にレグルスを倒す必要はない……が、そんな手加減をしていて戦える相手ではない シェイクスピア: わたしも術式解除は手伝えるわ。少しでも時間短縮ができるはずよ パラケルスス: じゃあ、お手並拝見といくかな。シェイクスピアがどれくらい腕を上げたか…… ヴィルヘルミナ: 偉そうにしてないで、アナタも手伝いなさいよ パラケルスス: 彼女たちのストーリーなんだろ。ねえ、ジャコヴァ ジャコヴァ: その通りだ。作家陣はあくまでサポートに徹しろ。ああ、エミリーは別だが エミリー: うん、もちろん。それにエミリー、作家じゃないし クレア: え? どういうこと? エミリー: んー、ちょっと複雑な事情があるんだけどぉ……また今度ね クレア: あ……もしかして、もう着く? リル: 着陸体制に入ったようだな ティンカー・ベル: なんか、緊張してきた。これでほんと、いよいよ……ってことだもんね 人間: ……行こう。みんな、気をつけて 60012 - 迎え撃つ闇 リル: くっ……禍々しい気配が満ちているな。この先、何が出るかわからない。みんな、注意しろ ヴェルメリオ: ……わからないの? たぶん、あれが出てくる気がするけど リル: あれ、とは? ヴェルメリオ: ……星の魔獣 クレア: ………! ドロシー: もともと甘めだった封印から漏れでた存在でしょ。もっと緩んできてるだろうし、ヴェルの言う通り星の魔獣が出てくるセンが一番ありそうよ ティンカー・ベル: だってさぁ……八武神が束になっても、倒せなくて封印するのがやっとだったんでしょ? ティンカたちになんとかできるわけ? アイソーポス: 道は信じたものにしか開かれないよ。なに、人間さんくんのエルマイトはきみたちが思う以上に桁違いだ。しっかり戦えるはずだ ピュルテ: ――っ、このディマイト……! 来ます! : 通路の奥から姿を表したそれは、まさに異形と呼ぶに相応しい姿だった。 : その禍々しさと迫力に言葉を失う。 : だが同時に、戦えなくはない、という自信めいたものが生まれていた。 シンデレラ: この雰囲気……っ、いかにもディマイトのカタマリって感じね エミリー: 人間さん、みんなへのエルマイト、準備できてるぅ? 人間: ああ。どんどん使ってくれ ドロシー: はああああああぁぁっ!! 修行して、また一段と女子力に磨きをかけた私の技を見せてあげるわ!! ドロシー: 地獄パーンチ!! ティンカー・ベル: うぉわ、三つ編みってばすごい迫力なんだけど! シンデレラ: で、でも……いまの攻撃、魔力をまとっていたわ ヴェルメリオ: ……ついにドロシーは、その路線のままで魔法を使うようになったんだね シンデレラ: 負けてられないわね。私たちだって生まれ変わったところ、人間さんに見てもらわなくちゃ ピュルテ: はいっ! いままでずっと……いっぱい悩んで、迷って、ご迷惑をおかけしてきましたけど……もう迷いませんから! ピュルテ: しっかりした私を、見てもらうんです! はああぁぁっ!! 60013 - 封印のほころび ドロシー: 久しぶりに来たわね……十二迷宮、最深部 キンナラ: あっ……! に、人間さんっ、みんなもっ。き、来て、くれたん、だねっ…… 紫式部: お待ちしていましたよ。人間さんたちもですが、シェイクスピアさん、パラケルスス……本職のあなたたちが来てくれて、正直私はホッとしています パラケルスス: いろいろと無理をさせてしまったね。助かるよ、紫式部 シェイクスピア: パラケルスス先生。さっそく取り掛かりましょうか パラケルスス: そうだね。ぼくが用意しておいた追加の解除術式があるから、元のグランド・リヴィジョンに差し込んで繋いでおいてくれる? シェイクスピア: ええ、すぐに ティンカー・ベル: なんかさぁ、パラケルススの前だとシェイクスピアがまともな人みたいで、気持ち悪いんだけど シェイクスピア: ずいぶんな言いぐさね……。おとなしくするのは当たり前でしょう。わたしの錬金術の師匠なのよ フアナ: 見通しはどんな感じ? なんとかなりそう? キンナラ: た、たぶん……。ぼ、ぼくも、だいたい、解析……できたんだ。こ、こんな、感じ…… パラケルスス: これは見事なものだな。ほぼ丸裸にできている。助かるよ ジャコヴァ: うんうん エミリー: ジャコヴァ、いい加減その適当にわかったフリするのやめたほうがいいよぉ? ジャコヴァ: フリじゃない キンナラ: ここまで調べて、や、やっぱり……間違いなく、その……封印は、と、とける、前提だったと、思う シェイクスピア: それが星の魔獣を生む原因にもなってしまったんでしょう? なんのために…… キンナラ: たぶん……入れ替える、つもり、だと思う キンナラ: 封印は、か、解除しやすい、だけじゃなくて……も、戻しやすくも、なってるんだ…… シンデレラ: でも天空神殿の十二神官って人たちを……いわゆる、生贄にして成り立っている術式なんじゃないの? ヴェルメリオ: ……入れ替えるって、誰と誰を? ティンカー・ベル: あ、じゃあレグルスが交代するのか! 神官長も代替わり、みたいな ポステリオル: ……違う クレア: 誰! ……って、ポステリオル!? ピュルテ: ポステリオルさん、何かご存知なんですね!? リル: 実際にこの封印から抜け出した十二神官のひとりだ。事情を知っていて当然ではあるが…… ポステリオル: 私は、十二神官ではない。本来、神官補佐として、グランド・リヴィジョンの神殿運営を取り仕切る予定だった ピュルテ: でも封印されてましたよね……? ポステリオル: レグルスの身代わりにされた。でもそれもすべて……ライブラの目論見どおり キンナラ: や、やっぱり……。ラ、ライブラさんは、しばらくしてから、自分が復活するつもりで……? ポステリオル: そう。最初から復活する前提だった 60014 - 底力 リル: なんだと……? では、レグルスと入れ替わる形で……いや待て、違うな。まさかデュプリ・ライブラを…… レグルス: そう。アレは、ライブラの代用品ですから ポステリオル: レグルス……っ!! : 背後に唐突に現れたレグルス。 : その姿にいち早く反応したのはポステリオルだった。 ポステリオル: ……抹殺。復讐。天誅っ!! レグルス: ……っ、いきなり攻撃してくるとは、ずいぶんですね……! しかし、あなたの手にかかるワタシだと思いますか? ポステリオル: ぐううっ……!? ぐ、ふぅっ……! ヴェルメリオ: ……ポステリオル! シンデレラ: 無茶よ! あなたはガルダに力を封印されてるんだから! リル: やむを得ないな。のんびり眺めている事態でもないだろう、加勢するぞ! ピュルテ: 援護します! ティンカー・ベル: おっけー! ポステリオルっ、いま行くよっ ポステリオル: くっ……本来の力が、出せなくても……私はお前を……っ レグルス: 勘違いしないでくださいね。封印されてなかったとしても、あなたなどワタシの足元にも及ばないのですよ。十二神官ですらないあなたに、後れを取るとでも? ポステリオル: ぐ……! ぐあぁああぁっ! ピュルテ: ポステリオルさん! ひどい、ボロ雑巾みたいに……! ジャコヴァ: レグルスは、強い……。あれの戦闘能力だけは本物だ。が、しかし…… アイソーポス: ああ。強すぎる。レグルス、きみはまさか…… レグルス: 獅子はウサギを狩るのも全力といいます。そう、ワタシはまさに獅子なのですから……万にひとつの可能性も許さない態勢で望むのは当然ではありませんか ドロシー: なに、どういうこと!? アイソーポス: 自分に強化魔法を極限までかけているんだ……。あれほどのエルマイトを纏っているということは、本当に肉体の限界まで…… レグルス: 勘違いしないでくださいね。ワタシはあくまで天空神殿の長、精霊なのです。肉体ではなく、精神さえ耐えられればいくらでも強化できます ティンカー・ベル: ねえ、ポステリオルだって結構強かったよね!? それが、あんな……本当に倒せるのかな エミリー: なーに弱気になってんの。らしくないじゃん。ティンカがいれば余裕、余裕♪ でしょっ! レグルス: ふふん……空元気など虚しいだけですよ。いますぐ、全員この場ですり潰してさしあげましょう! 60015 - ライブラの声 フアナ: 人間さんくんたちが時間を稼いでくれている間に、早くGR1を解除するんだ!解除さえできれば、この場を捨てて離脱する選択もある! パラケルスス: わかっているとも……いま、やってるんだ。構造が複雑なのはキンナラのおかげでなんとかなってるんだが…… キンナラ: あっ……? あ、あっちの隅、な、何か、光ってる……? パラケルスス: くっ……封印の緩みがここまで拡がっているとは……! シェイクスピア: ということは、あれは……本物の……? ライブラ: ………… パラケルスス: ライブラ……! パラケルスス: みんな気をつけろ、ライブラが部分的に復活し始めている! まだ完全体じゃないが、何かを仕掛けてくるかもしれない シンデレラ: ――っ!? な、なんですって……! ヴェルメリオ: ……あれがライブラ。デュプリと本当にそっくりなんだね レグルス: あ……! あ、ああ……ライブラ……っ! ワタシ、ずっと、ずっと、あなたに会いたくて……っ ライブラ: レグ……ス……よくがんばっ…… レグルス: ああっ……ライブラぁ……っ。不安でした、ワタシひとりで何ができるんだろうって、本当に…… ライブラ: ……だ、……全じゃ……の…… レグルス: ええっ、わかっています……すぐに奴らを片づけて、あなたをお迎えできるように準備しますから……! ライブラ: ホムン……ス……うい……? レグルス: もちろん用意しましたっ、いまはちょっと、コントロールから外れてしまってますが、でもっ……人間界との接続はうまくいきましたし ライブラ: ……しの代用……? レグルス: それも作りましたっ。ちょっと、行方がわからなくなっているだけで…… ライブラ: はぁ………… レグルス: ライブラ……!? ライブラ: ううん……とっても……がんばって…………がとう レグルス: あり、がとう……ですか……!? よ、よかった……! その一言で報われます…… ライブラ: …ローは……? レグルス: こことは別の場所を守っていたのですが、彼らがここに来たということはおそらく ライブラ: ……。わた……ちか……あげ…… レグルス: ああああっ、ライブラ……! あなたの力がワタシのナカに……! ええ、やってみせますとも…… ピュルテ: まだ強化をかけるつもりですか……! レグルス: 見ていてください、ライブラ。あなたの期待に応えてみせます 60016 - 極めた姿 アイソーポス: レグルスの全身から強いエルマイトが……! すさまじい圧力だ。いったい、どうしてこれほどまでの力をライブラが…… ジャコヴァ: くすねておいたんだろ ヴィルヘルミナ: 何を言ってるの、姉さん。ライブラは封印されていたのよ? どうやってエルマイトを…… ヴィルヘルミナ: まさか、封印されたまま、術式を通過するエルマイトを……? ジャコヴァ: それしかないだろう。平等な分配が聞いて呆れる。最初の川上の時点で抜かれていたとはな アイソーポス: この事態を見てもなお、手を出すなというのか、ジャコヴァ。私はもう限界だぞ ジャコヴァ: 自分たちの作品を信じたらどうだ。リメイクを担当した可愛い作品だろうが アイソーポス: しかし…… ジャコヴァ: 見てみろ 人間: みんな、こっちも強化をかける。だから躊躇しないで、思いっきりやってくれないか 人間: リメイクを受けて新しい力を手に入れたみんななら、ありったけのエルマイトを渡してもきっと有効活用できるはずだ ピュルテ: わ、わかりました……! では、まずは誰から行きますか!? ドロシー: そうね、ここは私がやってやろうじゃない 人間: いや、せっかく8人もいるんだ。同時に戦ったほうがいい リル: しかし力が分散してしまうだろう 人間: ライブラがレグルスにやったのと同じレベルの強化を、全員に向ければいい。そうすれば戦力は……単純に8倍とまではいかなくても、圧倒できるはずだ シンデレラ: そんな、それは無茶よ! 人間さんが持たないでしょ!? 人間: ……信じてくれ。俺は絶対にやれるから クレア: 人間さん……本気なの? なら、私はやるよ エミリー: でも、やばいと思ったらすぐやめてよぅ!? 人間: 行くぞ……っ、おおおおおおぉぉぉぉっっ!! : パラケルスス: 彼女たちの姿がさらに変化した、だとっ……!? ピュルテ: 人間さんのエルマイトが全身に…… ティンカー・ベル: いける……戦えるよ!! ヴェルメリオ: ……これが、正真正銘っ……最後の戦いになるなら、わたしは負けるわけにはいかないの……っ! ドロシー: ヴェルっ、援護して! ヴェルメリオ: ……うんっ! すべてのコースを遮断するっ……! レグルス: ……っ!? どれだけの矢を同時にっ……! しかも、連射っ……!? ドロシー: ナイスよ、ヴェル! 最後に動けるコースを限定できれば、あとは渾身の一撃を食らわせるっ!! レグルス: っぐうううっ!? 精霊のワタシを殴って、何故こんなにもダメージが……っ!? ドロシー: 人間さんからたっぷりエルマイトもらってるからよ。ね、クレア クレア: だよね レグルス: 背後に、もうひとり……っ!? クレア: 刈り取る……!! ピュルテ: さすがです、皆さん! 素晴らしい連携ですよ! シンデレラ: いまのドロシーたちの動きを参考にして、私たちも行きましょう! かならず単独で追わず、仲間と連動すること! リル: 先に動いた仲間がカウンターで反撃を食らいそうならサポートに入るんだ。攻撃が通れば追い打ち、このパターンで削り切るぞ! エミリー: 行こっ、ティンカ。ここ、がんばりどころだよぅ? ティンカー・ベル: もっちろん! かっこいいとこ、人間さんに見せてあげなきゃね! ティンカー・ベル: ……それに、フックの仇討ちみたいなもんだし 人間: これがきっと最後だ。俺も出し惜しみはしないから、みんな全力で叩き込んでくれ! ピュルテ: はい……! 人間さんの気持ち、そのまま攻撃にのせて……戦いますっ!! 60016 - ストーリー用 Ⅰ 60017 - かけ違い レグルス: う、あぁう……っ! なに、どうして、身体が、動かない……っ!? ティンカー・ベル: なんか、急にレグルスの動きが鈍くなってない? リル: 確かに……こちらの攻撃に対する回避行動も、明らかにワンテンポ遅くなっているような…… ヴェルメリオ: ……わたしたちの攻撃が効いてきてるってこと? ピュルテ: もちろん、それもありますが……私のこの感知能力がまだ機能してるとしたら、たぶん……エルマイトの適合不全、です…… シンデレラ: そんなことがあるの!? ピュルテ: ちょっとしたズレなんです。だから普段は問題になることはありません。でも今のレグルス神官長は、莫大な量を取り扱っていますから…… ドロシー: でもそれだと、私たちにも起こるかもしれないってこと!? ジャコヴァ: 安心しろ。お前たちの出どころは人間さんだ。人間さんが、お前たちのためにと思いを込めて出力している。適合率は極めて高い リル: では、レグルスは…… ジャコヴァ: あれはライブラが生み出したものではないからな。どこの馬の骨の、どんな目的で出力したかもわからないエルマイトの澱だ ジャコヴァ: もっとも、ライブラがどこまでレグルスを思っているかは別だが…… レグルス: どうして、身体が動かないのですか……っ、くううっ、あああああっ!! クレア: まだまだ、止めないよ エミリー: クレア、右に避けて! クレア: がってん レグルス: うああああっ! く、この、ちょこまかと……っ、ワタシはライブラから信任を得た、神官長ですよ……! そのワタシに、ここまで傷をつけるなど、許されません……! レオナ: 人間さんくん! みんな! やっと合流できた! アイソーポス: レオナ? いままでどこに行ってたんだ レオナ: あれ、ここにはいない……? っていうか、それ、本物のライブラ!? 復活してんの!? レオナ: 私はデュプリのことを追いかけて来たんだけど…… レグルス: っ!? デュプリが、この場所に来ているのですか!? ど、どこにっ、早く本物と差し替えないと! パラケルスス: 残念だが、そうはさせない パラケルスス: GR1の停止は弟子たちにまかせて、ぼくは封印をかけ直していたんだよ。悪いけどライブラ、現代のこの世界にきみの居場所はない。もう少し眠っていてくれ ライブラ: そん……、私は……っ、くううああああっ!? レグ……っ、……やくっ、だいよ…………っ! レグルス: あぁっ、そんなっ、ライブラ!! くっ……どうして、肝心なときにいないっ、デュプリ……! キンナラ: や、やりましたっ……! シェイクスピア: GR1の停止を確認。これよりGR2の稼働を開始するわ レグルス: な、なんですって……ライブラっ、あああっ! ライブラ: まだ……じきしょ…………った………? すべては……しん、えんの…… ピュルテ: も、もう稼働するんですか!? 心の準備が…… ティンカー・ベル: これで改変がうまくいかなかったら、この瞬間からティンカたちは人間さんのこととかも忘れちゃうってこと? ヴェルメリオ: ……そんなのやだ。けど、きっと忘れないよ エミリー: ヴェルってば、どさくさにまぎれて人間さんに抱きついちゃうとか、なかなかあざとくなってきたねぇ クレア: 誰かさんの悪影響 紫式部: 皆さん、できるだけ安静に心静かにその瞬間を待っていてください。来ますよっ、3……2……1…… パラケルスス: インパクト ------(Background changed)------ : …………。 : ……………………。 : ………………………………。 60018 - GR2の成立 ピュルテ: あっ……!? え、えっと、あれ…… シンデレラ: GR2は……稼働したの……? パラケルスス: ……うん、すべて問題なく動いているようだ。やるね、ウィラ。ベースの術式はきみが作ったんだろ シェイクスピア: はいっ、先生……! お褒めいただけて光栄です ドロシー: 記憶はちゃんとそのままだし……認識もたぶん、飛んでないわ ヴェルメリオ: ……うん、人間さんに抱きついたまま、連続してる ティンカー・ベル: わかったから、そこはいい加減離れなさいっ フアナ: やった……! GR2、大成功だよ! みんなと友達のまま、天空神殿から取り返した! クレア: じゃあ、レグルスとライブラも……? ライブラ: ………… レグルス: そんな……また封印されてしまった、なんて……! 千載一遇のチャンスだったのに……! レグルス: ワタシは……また、役に……たてなかった…… : すべての決着がつき、気が抜けてしまったのか。 : レグルスはその場でへたりこんでしまった。 人間: 終わった、か…… ヴェルメリオ: ……人間さんっ、大丈夫? 人間: ああ、なんとか…… : こちらはこちらで、安堵のあまりやはり気が抜けてしまう。 : 力を使い果たしたこともあって、足に力が入らず座りこんだ。 レオナ: なんか途中からしか見れなかったけど、すごいね! GR2をやり遂げちゃうなんて パラケルスス: 一時はどうなるかと思ったけどね。終わりよければ……ってやつだ エミリー: これで、本当に終わったんだねぇ ピュルテ: そっか……私たちの旅の目的も、これで…… シンデレラ: 当初の目的、エルマイトとディマイトのバランスが崩れてることは、これでもう解決できるんだっけ ティンカー・ベル: ねえ、シェイクスピア。これは単純に興味本位で聞くんだけどさ ティンカー・ベル: 十二神官を封印して、そのパワーで術式を動かしてたわけでしょ? それとは切り離されたってことは、どこからパワーもらってんの パラケルスス: へえ、思ったよりずっと考えてるんだね ティンカー・ベル: どういう意味だ! シェイクスピア: 中心にあるのは、いまでも十二神官よ。GR2計画が始まった段階で、神官の封印を解こうなんて話は出てなかったから クレア: あ、そうなんだ。じゃあどっちみちライブラは復活できなかったんだね シェイクスピア: いいえ。確かに十二神官の封印を利用してはいるけどね、十二人誰も欠けてはいけない、というほどでもないの ピュルテ: ひとりくらい抜けても大丈夫、ってことですか…… シンデレラ: そのあたりも、最初から自分が復活する前提で組んでいたのかもしれないわね…… 人間: きっとそうなん……ぐぅっ!? ヴェルメリオ: ……痛っ!? : 誰もが気を緩めてしまっていた。 : 何しろ世界の理を塗り替える大仕事をやり遂げたのだ。 : だから彼女が、静かに近づいていたことに気づけなかった。 レグルス: どいつもこいつもワタシをバカにして……許しませんよ ピュルテ: 人間さん! : レグルスは、ヴェルメリオを突き飛ばしたのだろう。 : その腕で俺の背後から、首に腕をかけていた。 : こめかみに何か当てられている。 : 何かしらの魔道具に違いない。 レグルス: いいですか、この男の頭が吹っ飛ぶところを見たくなかったら、術式を元に戻すのです : 迂闊だった。 : レグルスは精神的にまいって座り込んだだけだ。 : GR2によって新規供給は停止したが、手持ちのエルマイトは未だ莫大なものだろう。 : 魔道具にエルマイトを込めてこちらの頭を撃ち抜くくらい、何度だってできるに違いない。 レグルス: どうしたの、できないの? やらないの? この男がどうなっても―― : が、ふいにレグルスが俺を拘束する腕が緩んだ。 : 訝しく思い、その場で彼女の顔を見やると……。 レグルス: ぐ………ぁっ、くふぅ……っ!? な、なに、が……おき、て……? ピュルテ: え……どうして急に苦しみ始めたんでしょう……? デュプリ・ライブラ: 神官長 人間: ――!? レオナ: あぁっ! デュプリ! レグルス: デュプリ、ですって……? 60019 - デュプリ・ライブラの選択 レグルス: あなた……肝心なときにふらふらほっつき歩いて、何をしていたんです! もう、ライブラの封印はより強固にされてしまったんですよ! レグルス: まさに、あの僅かなチャンスのために、今まであなたを……! ぐふっ、ごほっ…… デュプリ・ライブラ: 神官長はいっつもひとりぼっちでしたね : 魔法陣の隅に、デュプリ・ライブラはぽつんと立っていた。 レグルス: あなた、なに……を……? デュプリ・ライブラ: でも、もうひとりになんてしません。ボクが、しません : デュプリ・ライブラは足元に置かれた細長い箱の傍らにかがむ。 : 箱の中からは、ほのかな輝きが放たれていた。 レグルス: ごふっ……その、箱は、なに……? デュプリ・ライブラ: 一生懸命だったじゃないですか。がんばったじゃないですか。褒めてもらいたくて、褒めてもらえなくて、必要とされたくて、されなくて デュプリ・ライブラ: きっと神官長、お疲れなんスよ。ね、ちょっとお休みしましょう : その場にひざまずいたデュプリ・ライブラは、箱に手を伸ばす。 : そして誰かを抱き起こした。 : どうやら箱の中に人物が眠っていたらしい。 レグルス: なっ……それは……ワタ、シ……? ワタシの肉体っ……! : レグルスの声に誰もがハッとする。 : 彼女が抱いていたのは確かに『レグルス』本人だった。 : 外敵を警戒し、肉体を失うことをおそれ、自ら精霊となったレグルス神官長。 : 彼女が残した肉体が、そこにあった。 レグルス: そ、その短剣は……あなた、いったい何をするつもりで……!? デュプリ・ライブラ: がんばった先にあるものが……天国じゃなかったら、どうしますか、神官長 : レグルスの肉体、その胸部には輝く何かが刺さっていた。 : 刺されている本人の言葉によれば、それは短剣らしい。 : 白く淡い光を放つそれが。箱の中から光を放っていた正体のようだ。 : デュプリ・ライブラはその柄をそっと握る。 : 不思議なことにその刺さっている場所から、血液が流れることはなかった。 レグルス: 待ちなさい、その短剣はエルマイトを解放するための…… デュプリ・ライブラ: 怖くないですよ。ボク、ずっといますから。寂しくなんかないですよ。毎日、話しかけてあげますからね レグルス: ワタシの肉体は神殿の最奥に厳重に保管されて……い、いえ、あなたは入ることができますが、しかし何故……っ デュプリ・ライブラ: 迷ってたんスよ、どうしようかなって デュプリ・ライブラ: もしかしたら、ひょっとすると……って考えたんスよ デュプリ・ライブラ: でも、さっきぜーんぶ見てて……たぶん、がんばっちゃだめです。神官長も、ボクも デュプリ・ライブラ: 神官長……もうずっといっしょですよ…… レグルス: デュ……プリ……う、ぐふっ……。ワタシは、くっ、どこで間違えて……う、ぐっ…… デュプリ・ライブラ: 神官長は本当は、真面目で優しくてちょっと慎重派で……。本当はこんなこと、できる人じゃないんスよ……。自分でもきっと、気づいてるでしょうけど レグルス: が、はぁっ……も、もう……やめっ……離し、て……っ デュプリ・ライブラ: でももう、大丈夫ッス。ボクがそばにいますから……大好きですよ、神官長 : デュプリ・ライブラは握っていた柄に力を込めたようだった。 : 同時に、光がより強くなる。 レグルス: きえたく、ない……あ……ああ…… デュプリ・ライブラ: 目を閉じてください。見たくないものが視界に入ってこないように。こうすれば、楽しかった思い出だけが浮かんでくるんスよ デュプリ・ライブラ: いまでも覚えてんスよ。神官長と過ごした日のことは、全部―― デュプリ・ライブラ: お休みしましょう。もう全部、終わりにするんです。がんばるのやめて、のんびり好き勝手しましょう。ボクと、いっしょに レグルス: ――っ!? ぐ、ふっ…… : 輝く短剣が肉体に沈んだ。 : 俺たちはただ呆然と見守ることしかできなかった。 レグルス: デュ……プリ…… : レグルスが倒れ、その輪郭が輝き始めたかと思うと、 : やがて小さな玉へと姿を変える。 : もう名前を呼ぶことさえできなくなったとき、彼女は短剣から手を離した。 リル: ……っ、動くな。このまま拘束させてもらうぞ ドロシー: ……デュプリ、あなたの行き着いた答えは、これだったの? デュプリ・ライブラ: 神官長。もう、大丈夫ッスよ 神官長?: …… : ふよふよと漂う光の玉は、ゆっくりとデュプリ・ライブラに近づき、寄り添った。 60020 - 始まりの島で終えて ティンカー・ベル: んんーっ! やっぱ地下にずっといるとだめだね! 新鮮な空気を吸わなくちゃ エミリー: わあ、こんなにきれいに晴れてたんだねぇ。飛空艇から慌てて地下迷宮に入っちゃったから、空を見てる余裕もなかったみたい ジャコヴァ: おまえたち、よくやった ヴィルヘルミナ: 姉さんが……!? エミリー: 素直に褒めた……!? ティンカー・ベル: 前から思ってたんだけど、妹が揃ってそういうリアクションするジャコヴァって、人として大丈夫? アイソーポス: まずはゆっくり疲れをとるといい。まだ大仕事を成し遂げた実感もないだろうが、少し休んだほうがいい。身体はだいぶガタが来ているはずだ レオナ: 飛空艇でどこでも連れて行ってあげるよ。北国でも南国でも、海でも山でも ピュルテ: 素敵なご提案ですね! ぜひ、お願いしたいです。でも…… リル: そうだな。今は少し、この島で余韻を味わうとするか クレア: 人間さんの旅の始まりなんだっけ シンデレラ: ええ。懐かしいわね。灯台も、あの頃のまま ヴィルヘルミナ: 学術調査のために、グリム家が建てたものなのよ ドロシー: あっ!? あれ……あっちの空! 何が起きてるの!? ヴェルメリオ: ……建物? 何かが崩れてる…… フアナ: あれってもしかして レオナ: うん、天空神殿だね。維持する力を失って、崩壊が始まってるんだよ パラケルスス: やがてすべて崩れ去り、怨棄の海に沈む運命だね アイソーポス: ……どのような結末を迎えても、つい考えてしまう。本当にこの選択が正しかったのか、他に道は無かったのか、とね フアナ: アイソーポスさん……。ううん、色々あったけど全部ひっくるめて、これが一番いい結末だったんだよ。あたしはそう思う : レグルスのことは悲劇だったが、俺たちにもはや選択肢はなかった。 : それも踏まえれば、これがきっと一番いい結末じゃないだろうか。 : なにより、憂えたところで時間は戻らない。 ドロシー: 反省は必要だけど、過去の選択肢を気にしても仕方ないわ。もう『現在』はとっくに始まってるんだもの エミリー: 大好きなみんながこうして揃って笑いあえてる。エミリーはそれでもう、お腹いっぱい、かなぁ ヴェルメリオ: ……お疲れ様、人間さん 412 - 見慣れた時間 ティンカー・ベル: ドキドキ! 第1回人間さんバカンスデート争奪! ぬるぬるスライムレスリング~! ドロシー: ふっふっふ……。まさか初戦の相手が私だなんてツイてなかったわね、ヴェル。友達でも勝負は勝負、ぎったんぎったんにしてあげるわ ヴェルメリオ: ……ぎったんぎったんは悪役が使う擬音なんだよね ティンカー・ベル: それでは~~~! ファイッ!! ドロシー: どぉりゃああああっ! 女子力投げっ! ヴェルメリオ: ……なにそれ、なんでそんな名前の技!? ドロシー: 人間さんが見ている前で水着の紐を外したら大惨事でしょ。恥ずかしくて身動きできなくなるという恐ろしい技よ! 人間: けしからん、もっとやれ! ピュルテ: ドロシーさんが珍しく、女子力を正しく解釈しています!! クレア: え、正しいのかな シンデレラ: 正しいとしても最低な使い方だけどね…… リル: 最低と言えば貴君もだぞ。スライムまみれのあられもない姿に、にやにやしっぱなしじゃないか 人間: ダメなの? だってあんな……ねえ エミリー: ほんと、人間さんもだけどさぁ、みんなも格差がひどすぎるよねぇ。ついこの前まで、世界の仕組みを書き換えるような超すごい戦いしてたのに ヴェルメリオ: ……えいっ! 必殺・パイプル固め! ティンカー・ベル: おっとぉ! ずきん選手、謎の必殺技です! どう考えても妹の入れ知恵! ドロシー: ぬぁあああぁぁ! ぎ、ギブなんて、言わないんだから……うぅ…… クレア: あれはあれで、人間さんの性癖を書き換えるような超すごい戦いだよ 人間: うん……スライムレスリングがこんなにグッとくるものだと思わなかった。ぜひ世界大会とか開いてほしい エミリー: う、うん……そうかもねぇ…… シンデレラ: こんな穏やかな時間……ほんと、久しぶりよね。こうしてのんびり、ビーチでカクテルを飲むなんて……いつ以来かしら リル: そうだな…… リル: それはそれとして、空いた容器でタワーができているんだが、大丈夫か? シンデレラ: だいじょーぶよ★ 人間さんも一緒に飲んでるし。ピュルテちゃんもエミリーもちょっと参加してくれてるし ピュルテ: なんか、港区でも飲まれてそうだなって思ってトライしたんですけど、意外と回ってきちゃいましたぁ…… 人間: ジュースみたいな味と見た目に騙されるけど、度数高いからなこれ エミリー: コカボム、だっけ? 見た目がきれいだし、飲み口も爽やかで美味しいからついつい飲んじゃうよね リル: というか、飲み方が……それ、一気に飲み干すものなのか? シンデレラ: このお酒と割り物が混ざっちゃ美味しくないのよ。丁寧に注げば分離して混ざらないから、その間にくいっと♪ あーっ、美味しい~っ! クレア: 私、ジュースのとこだけでいいかな…… ピュルテ: えへへぇ、こんなところにアイソーポスさんたちから連絡きちゃったら、どうしますぅ? やばいですよねぇ~ クレア: 今のピュルテなら誰から連絡きてもわりとやばいよ。ブランディング的にも ヴェルメリオ: ……人間さん。わたし、優勝したよ! スライムレスリング、女子の部 ティンカー・ベル: ふたりだけの大会だったけどね ヴェルメリオ: ……あとでリゾートデートしてね。約束だよ 人間: うんうん、すりゅ、すりゅぉ、なんらら、りぞーろれーろ、いまひても (ガシャーン) ティンカー・ベル: あああーっ!? 人間さんが椅子から転げ落ちた!? ヴェルメリオ: うなずいてくれたんだと思ったら、そのまま1回転しちゃった…… ドロシー: 人間さん、しっかりしなさいよ! あと私は準優勝なんだから、半日デートくらいはしなさいよ! ティンカー・ベル: ふたりだけの大会だって言ってんのに準優勝て リル: やれやれ……相変わらずどうしようもない……が、愉快な連中だな。まったく、世話の焼ける アイソーポス: 今日は、紅茶でいいかな ジャコヴァ: なんでも ヴィルヘルミナ: あら、珍しいわね アイソーポス: ちょっとばかり、そんな気分でね。さて……わざわざそちらから出向いてくれるということは、そろそろ決めようということかな ジャコヴァ: ああ。こういうのは時間をあけすぎないほうがいい アイソーポス: ジャコヴァのそれは、センスだよね。理屈じゃないんだろう ジャコヴァ: そうだな。ロジカルではない。はっきり言えば、なんとなく、だな ヴィルヘルミナ: 姉さんのなんとなく、っていうのはバカにできないのよ ジャコヴァ: 私のことは、どんなことでもバカにするな ヴィルヘルミナ: いびきがひどいことも? ジャコヴァ: 鼻が詰まってたんだ。生理現象だから仕方ない アイソーポス: 相変わらず姉妹の仲は良さそうだね。はい、紅茶 ジャコヴァ: ………… ヴィルヘルミナ: 露骨に物欲しそうにしないでよ アイソーポス: ああ、お茶請けか。じゃあ、貰い物だがクッキーでも開けようか ジャコヴァ: ……!! ヴィルヘルミナ: まずはコミッティの体制ね。誰をアサインするか、そしてスケジュールを決めて……最初の議題はもちろん、イマジュマイトの分配方法ね アイソーポス: どう考えてもそこが争点だからね。現状は、GRの中に蓄積され続けてるんだっけ? ヴィルヘルミナ: ええ。数日分だけど、もう既にかなりの量になってるわ ヴィルヘルミナ: キャパシティオーバーになることは、少なくとも当面はなさそうだけど……早く撒いてしまったほうが安全でしょうね アイソーポス: あるいは、保管するならするで、しかるべき方法で備蓄しておくか、だな ヴィルヘルミナ: でも、もう決まってるんでしょう? ペローの後釜はフアナに決めてるって、そう聞いたと思ったけど アイソーポス: それなんだが……少し私も思うところがあってね。たぶん、ジャコヴァもだろう? ジャコヴァ: うん。たぶん、同じようなことを考えてる ヴィルヘルミナ: あら、ワタシ以外の誰かと姉さんがツーカーだなんて奇跡ね。妬けちゃうわ ジャコヴァ: じゃあ、誰で考えてるか、お互いに紙に書き出していくか アイソーポス: うん、いいね ジャコヴァ: まず……現在のメンバー表がこれ。このへんは、ナシ アイソーポス: ……そこは任せるけど、大丈夫なのかい? だって彼女は、それこそ最初―― ジャコヴァ: 話はする ヴィルヘルミナ: 大丈夫かしら。姉さん、口下手なのに…… テルツォ: おっ!? リルじゃねえか。それに人間さん、久しぶりだな 人間: お久しぶりです、テルツォ殿下 テルツォ: よせよせ、そんな水くせーな。前みたいにテッつぁんって呼んでくれよ リル: な、なんだその呼び名は……小生も初耳だぞ……。いつの間に、そんな仲に…… ティンカー・ベル: まあまあ、こういうところから兄離れしないと。ね、ブラコンネコさん? リル: だ、誰がブラコンだ! ピュルテ: んもう、リルちゃんってば。そんなこと言いに来たんじゃないでしょ リル: あー……えーと、だな。実はその、我が国には特殊な事情があって…… テルツォ: あん? なんのことだ? テルツォ: なるほど……作家権限、ってやつか。そいつで俺たちの国は操作されてた……聞けば聞くほどやるせねえな シンデレラ: コミッティに詳しく聞いたところだと、おそらく供給エルマイト量が決まっていたの。だから……すべてが無駄じゃないのよ シンデレラ: 耕された土地に何も実らない。でも、耕されてはいるから。みんなでがんばったから、こうして制限がなくなったとき、すぐに発展できるの テルツォ: あんた、フォローが上手いな。まあ、状況はわかった。とにかく、これからはがんばればなんとかなる、ってことだな リル: こちらでペローを拘束している。近々、彼女をこちらに連れてきて、実際に制限を解除させる予定だ テルツォ: するってぇと……リル、お前の旅は一旦これで終わりってわけか ヴェルメリオ: ……そっか。リルは故郷をなんとかしたくて、それで旅してたんだもんね エミリー: そっかぁ。じゃあリルはもう、このスティヴァーリ公国でのんびりするのかなぁ? リル: ……そうだな。それもまた、いいかも―― テルツォ: なに言ってんだ。そりゃあ、ちょっと休憩したいんなら構わねえよ。けど、一区切りついたんだ。好きなことすりゃあいい テルツォ: もう……故郷のために、なんて考えなくていいんだよ。もう充分、尽くしてくれたじゃねえか。だから、自由になっていいんだ リル: 殿下…… ティンカー・ベル: 兄離れだね! リル: だ、だから小生はブラコンじゃないと…… リル: ……いや、そうだな ティンカー・ベル: そうそう。自由は別に、怖くないんだから 人間: 旅の目的か……。そういえば、最初にリルに会ったときって、実はディマイトばらまく旅をしてたんだよな ドロシー: そういえばそうだったわね。最初はフェルディナに騙されてたんだっけ クレア: なんか、意外 ピュルテ: そうだったよね。魔法の国で急にそれが表に出てきて……私、すっごくびっくりしたんだから リル: 故郷のことで頭がいっぱいだったとはいえ……浅はかだったな。振り返ると、さすがに恥ずかしい ドロシー: 気にする必要ないわ。みんな、それぞれ旅の途中でいろんな失敗してるんだし エミリー: それに、フェルディナに変なこと吹き込まれちゃったんでしょぉ? もう、本当にあの人は困ったちゃんだよねぇ…… 413 - 公認の妹 フェルディナ: ……な、何よ。急に呼び出したりなんかして ジャコヴァ: お前に話しておきたいことがある フェルディナ: ジャコヴァ姉さんが、私に……? ジャコヴァ: 私は、お前自身が自分をどう評価しているか知らない。興味もない フェルディナ: でしょうね…… ジャコヴァ: ただ、お前はグリム家の一員だ。そして、私の妹だ。私はそれを隠すつもりもない フェルディナ: え…… ジャコヴァ: そりゃあ、ヴィルに比べればだいぶ出来損ないかもしれない。カロラに比べれば気も利かないし、うじうじして鬱陶しい ジャコヴァ: エミリーみたいに人に取り入る才能もないし、シャルロッテのように可愛くもない。こうして挙げてみると、お前は何もないな フェルディナ: んなっ……な、何よ! そんなことを言うために呼んだわけ!? ジャコヴァ: でも、変わった フェルディナ: ……? 私が? ジャコヴァ: 少し前のお前なら、小声でぼそぼそと文句を言うだけだった。だが今は、こうして私に面と向かって文句が言えるようになった ジャコヴァ: 『ダメな妹』が『ちょっとダメな妹』になっただけかもしれないが、変化はしている フェルディナ: ねえ……それ、まさか褒めてるつもりなの? ジャコヴァ: 私は褒めも、貶しもしない。ただ事実を言っているだけだ ジャコヴァ: でも……あのときは怒っていた。お前が勝手に暴走してコミッティ関連施設を使い込んだり、雪の国で暴れたり…… ジャコヴァ: 本当に縁を切ってやるつもりだった フェルディナ: あのときは……そうね。自分でもどうかしていたと思うわ。あの後、間違いに気付いて……それも、少しずつだけど フェルディナ: ひとりで思い込んで、暴走して、それをペローにいいように利用されて……しかも、シャルのことまで危険にさらしたわ……本当に、後悔してる ジャコヴァ: その言葉が聞ければ、私はいい フェルディナ: 姉さん…… ジャコヴァ: ああ、忘れるところだった。本題があったんだ フェルディナ: まだ何かあるの? ジャコヴァ: 辞令だ。正式には会期中に発令するが、まあいわゆる内示というやつだ フェルディナ: え…… ジャコヴァ: インペリウム・コミッティ、第4号委員フェルディナ・グリム。お前を次期コミッティ開催日を以って―― フェルディナ: …… ジャコヴァ: 任期満了につき退任扱いとする フェルディナ: …… ジャコヴァ: …… フェルディナ: なんて? ジャコヴァ: 分かりづらかったか。まあ、一言でいうとクビだ フェルディナ: なんっっっでそうなるのよ!? いまどう考えても、もっとなんか副議長とか要職につきそうな雰囲気だったじゃない!! ジャコヴァ: だって議長は私がやるから。副議長はヴィルがいい。フェルディナが副議長とか嫌だ フェルディナ: ひどくない!? ジャコヴァ: ……ポストはさておきだ ジャコヴァ: お前をこれ以上、組織に縛り付けても成長しない。心を入れ替えたんだ、もう1回自由に、好きな世界を見てくればいい フェルディナ: ジャコヴァ姉さん…… ジャコヴァ: 私の妹だと名乗っていい。それくらいは、お前のことは認めている。自分のことを見てないだの聞いてないだのぴーちくわめくな。うるさい フェルディナ: わ……わかったわよ! じゃあもう、これからしばらく好きにさせてもらうから! 静かになるからいいでしょ! フェルディナ: ……ありがとう ジャコヴァ: ん シェイクスピア: こんなところにわざわざパラケルスス先生がおいでになるなんて……どうしたんです パラケルスス: こんなところとはご挨拶だな。このエイヴォン研究所はもともと、ぼくが作った研究施設をきみが改修したんだろう シェイクスピア: そうでしたね……。あなたのおかげで、すっかりこうして錬金術や魔術の類に夢中になってしまいました パラケルスス: 今回のGR2成功の立役者は間違いなくきみだ。その功績は今後も語り継がれることだろう シェイクスピア: うふふふっ、光栄です。わたしもより一層、研究に精進してまいります パラケルスス: ただし、きみの罪もまた消えるものではない シェイクスピア: 罪、ですか……? パラケルスス: アイソーポスのGR2計画推進にかこつけて、きみはかなり悪どい実験も繰り返してきたよね。ぼくが知らないとでも? パラケルスス: 特に、モリアーティ・レポートを利用して実験を繰り返して、ディマイト暴走事件を引き起こしたはずだ シェイクスピア: な、なんのことでしょう…… パラケルスス: レグルス教国でのGR2始動にあたっても、独断でかなり暴走していたはずだ。まあ、それについては人間さんくんが一応の禊を済ませたみたいだが シェイクスピア: ……何がおっしゃりたいのでしょう パラケルスス: 単純なことだ。きみは功罪それぞれの側面を持っていることを、きみ自身が忘れないこと。それを胸に、きみのその頭脳とセンスを世の中に還元してくれ シェイクスピア: ……承知しました シェイクスピア: それにしても、先生らしからぬ正義感あふれるお言葉、少々驚きました パラケルスス: ぼくだって、こんなこというキャラじゃないって自覚はあるよ パラケルスス: ま、こんなに長く一緒に旅したのは久しぶりだったからね。誰かさんたちの影響をちょっと強く受けちゃったかな ペロー: 投獄されて何日が経っただろうか……。その間、ずっと考え続けている。私はどこで間違えてしまったのか、と ペロー: 当初は敗因を振り返るつもりの思考だった。要因はいくつか見つかったが、やはりレグルスを信じ過ぎてしまったことだろう ペロー: あそこまで彼女が精神的に不安定だと知っていれば、もう少し対応を変えていた。それに、予測が難しいとは言え黒鉄の国での失敗は響いた ペロー: だが……そんなことよりも、いつしか思考は私自身の行動に向けられるようになっている。私が目指した道は、果たして正しかったのか? ペロー: 道を進むことに失敗したのか、それとも道を選ぶことに失敗したのか 獄吏: おい、面会だ ペロー: ……私にですか? 獄吏: そうだ。早くしろ (背景切換...) ヴェルメリオ: ……ひどい顔。眠れてる? ペロー: あなた…… ヴェルメリオ: ……座ったら? ペロー: どうして、ここへ ヴェルメリオ: ……わたし、あなたのことはやっぱり許せない ヴェルメリオ: ……ピュルテを操ったことも。リルの故郷に好き勝手したことも。そして、人間さんを本気で殺そうとしたことも ペロー: ああ……怒りがどうにも収まらないので、私にぶつけに来たのですね。勝者と敗者になった時点で、こんなことは予測の範疇ですが ヴェルメリオ: ……わたしの大切な人を殺すなんて、許せるはずない。しかも、あんな……ひどい…… ペロー: それが私の目的を達成するのに最も有効な手段だったからです。それ以上でも、以下でもありません ヴェルメリオ: ……でも、許せないけど、それでも……変えられないものがある ペロー: ……? ヴェルメリオ: ……あなたはわたしの作家なんだよ。どんなに契約とかで縛っても、リメイクで理解度が落ちても、それでも……あなたはわたしの作家 ヴェルメリオ: ……こんなわたしを、あの人は素敵だねって言ってくれる。可愛いね、いいところだよ、魅力的、そんなふうに言ってくれる ヴェルメリオ: ……彼が褒めてくれる要素は、あなたが紡ぎ出したものなんだよ。だから、わたしはあなたを……憎みきれない ペロー: ふっ……。不器用なことですね。そういった不器用さは、いずれ生きづらさに変わるかもしれませんよ。もっと器用に世の中を渡ったほうがいい ペロー: 正直とか素直は美徳とされますが、自らを傷つけてしまう要素にもなりえます。あまりおすすめしませんねぇ ヴェルメリオ: ……あなたもでしょ ペロー: はい? ヴェルメリオ: ……不器用なのは ペロー: ………… ヴェルメリオ: ……もっと器用に世渡りできれば、こんなことにならなかったでしょ ペロー: そうかもしれませんね ヴェルメリオ: ……それだけ、言っておきたかったの。じゃあ、帰るから ペロー: そうですか。では、お元気で ヴェルメリオ: ……そうだ。これ、係の人に許可はもらってるから。食べて ペロー: これは…… ヴェルメリオ: ……アップルパイ。焼いてきたの。あなたの味にちゃんと近づけられてるかは、今度聞かせて。じゃあ ペロー: ………… ペロー: …………。……っ……。ふっ、ふふっ…… ペロー: ……ちょっと塩味が強め、ですかね…… 414 - 誰のために ピュルテ: せっかくですからお土産も覗いて行きましょうか! リル: ふむ……土産物か。これなんか貴君が買って行ったらいいんじゃないか 人間: え、似合うかな? まあ、せっかくだしこういうのがリルの好みなら エミリー: あっ、リル好みの男になろうとしてるぅ~。妬けちゃうんですけどぉ リル: なっ……! き、貴君は本当に、そういう思わせぶりな言動をやめろ! いつか勘違いした女に刺されるぞ ティンカー・ベル: あ…… リル: あっ……。い、いや、デュプリ殿のあのことを言ったわけではなくてだな…… ヴェルメリオ: ……この中で人間さんのこと刺すとしたらわたしだと思うんだけど ドロシー: いやな自覚持たないでよ ヴェルメリオ: ……どうせみんな、そういうイメージ持ってるでしょ ティンカー・ベル: いやまあ、愛が重いって意味ではね? ヴェルメリオ: ……でも、わたしはあんまり理解できないんだよね。どんな感情になったら好きな人を傷つけられるんだろう ヴェルメリオ: ……わたしは人間さんが浮気しても、わたしのこと嫌いになっても、どんなに裏切られても……傷つけるなんて、できないもん クレア: 仮の話なんでしょ? 自分の言葉にダメージ受けてない? 大丈夫だよ、人間さんはひどいことなんてしないから シンデレラ: まあでも、ヴェルが言いたいことはわかるわ 人間: デュプリもさ……いろいろあったんだよ。あいつなりに、レグルスを大事に思った結果なんだ ピュルテ: 人間さんは何か聞いてるんですか? 人間: え? あ、いや、別に。それよりほら、買い物、買い物 エミリー: ジャコヴァたちに、このへん買っていこうかなぁ。気軽に使える食器、家にあんまりないからねぇ シンデレラ: お姉さんたち、好みがうるさそうだけど平気? うちはまあ、お義母さまやプリシラはゴテゴテした派手なものならなんでも喜ぶけど クレア: ………… ドロシー: クレア? どうしたの? クレア: 家族におみやげか、と思って ピュルテ: クレアさんはお兄さんがたくさんいるんですよね クレア: まあね。でも、おみやげか…… エミリー: ……。無理に買わなくてもいいんじゃない? それよりほら、フォーゲルバインさんに買ってあげなよ クレア: ん、そうする シンデレラ: そうそう、こういうバカンスでのおみやげって、義務になったらつまんないからね。帰ったあとの自分のお楽しみでもいいのよ ティンカー・ベル: 姐さんは加減しなさい。瓶なんか持って帰るの重いでしょ! ドロシー: 食事も豪勢だったわね! ピュルテ: 今回はいろんな方々からお小遣いをいただいてますから、存分に楽しんじゃいましょう! ティンカー・ベル: そうなんだよね。ティンカたちの周りにいる人ってさ、お金持ちが多いんだよね ヴェルメリオ: ……エルマイトいっぱいある人たちだし ドロシー: なのにどうして私たちは…… クレア: ドロシーは本当はそこそこお金ある側でしょ。全部使っちゃうだけで ドロシー: ぜ、全部とか言わないでよ! ちゃんと月々決まった中から捻出してるのよ シンデレラ: ということで! 高級ワインを空けちゃうわよっ! (しゅぽんっ。) シンデレラ: んん-! いい音ね! リル: やれやれ、相変わらずシンデレラ殿は酒となると目がないな。まあ、今回は祝い事だから小生もいただくとするか ヴェルメリオ: ……お酒、あんまり飲み慣れてない。飲めるようになりたいな エミリー: いいのに。飲めないのぉ~。ってやってたほうがウケいいらしいから 人間: そうか? 意外と一緒に飲める子だと嬉しいって人も多いぞ ヴェルメリオ: ……がんばって練習する 人間: いや俺がそうだという話じゃなくて ティンカー・ベル: ティンカもお酒よりごはんに興味がいっちゃうんだよね。このチキンの照り焼き、めちゃウマだよ クレア: こういうリゾートって気取ってるだけのところも多いけど、本当に美味しいお店だね ピュルテ: 振り返ってみると、私たちの旅ってあまりごはんに恵まれてない気がしますね シンデレラ: 野宿が多かったわよね。せっかくいろんな国に行ったんだから、いろんな地元の名産とか飲み食いしたかったわ ドロシー: 観光じゃないんだから、しょうがないわよ。でも、これからはそういう気軽な旅をするのもいいかもね ティンカー・ベル: エミリーはしっかり、地元の名産イケメンをいただきますしてたんでしょ? エミリー: あー、ティンカはまたそういうこと言う。事実だけど ティンカー・ベル: 事実なんかい! ヴェルメリオ: ……わたしは、ちょこちょこ地元の料理を覚えたりしたよ。楽しかった リル: 野営の際に還元してくれていたからな。過酷な旅の楽しみは食事くらいだ。ヴェル殿の料理には助けられたことも多いな クレア: 天空神殿とコミッティでまっぷたつに分かれたとき、本当にそれが辛かった 人間: あー……神殿側に行ったメンバーって……そうだよなぁ ドロシー: 私は作るって言ったのよ。でもみんなが止めるから 人間: お、おう…… シンデレラ: ……ねえ、人間さん。この後、ちょっといい? 人間: え? あ、いいけど シンデレラ: ありがと。……さあっ、みんなどんどん飲むわよ! 次のボトルいきましょ! ティンカー・ベル: え、さっき開けたやつは? うわ、空になってる~!? シンデレラ: ごめんね、わざわざ来てもらっちゃって 人間: いや、大丈夫。って、まだ飲んでるの? シンデレラ: お酒の力を借りないとね……。私、そこまで強くないの 人間: …… シンデレラ: ……別れましょう、私たち (なんとなく予想はしていた。) (俺は小さくうなずく。) 人間: わかった シンデレラ: 最初からこういう結末になるってわかってたのに、やっぱりこんなこと切り出すのって辛いのよね シンデレラ: 正直に言うと、何度も迷っちゃった。流れでこのまま……なんて。けど、この世界の住民にまでなったあなたに、それはダメよねって…… 人間: 今回みたいな流れじゃなくて、本当によく考えてそれで結婚したいと思ったときは……今度は、俺からプロポーズさせてほしい シンデレラ: うん……ありがとう、人間さん (部屋に沈黙が落ちる。) シンデレラ: わざわざありがとう。後の手続きはしておくわ。……今夜は、ひとりにしてもらってもいい? シンデレラ: 呼び出しておいて勝手でごめんね。けど……一緒にいると、いろいろ甘えすぎちゃいそうだから (背景切換...) (部屋を出て、夜風に当たる。) (まだ少し酔いは回っていた。) エミリー: あれー? こんなところにイケメンかなぁ? お誘いしちゃってもいーい? 人間: エミリー……ちょっと付き合ってくれる? (背景切換...) エミリー: シンデレラに呼び出されてたのは見かけたから、たぶんそうかなとは思ったけど……。やっぱり結婚の話だったんだねぇ 人間: 最初から形式だけって約束なのに、やっぱりちょっとダメージ負うもんだな エミリー: そりゃまあ、お互いに感情がなければ別だけど……ふたりはそうじゃないからねぇ エミリー: 特にシンデレラとは付き合いも長いだろうし 人間: まあ、ピュルテとシンデレラは最初から一緒だったからな。でも、もうみんな付き合いは長いって言える範疇じゃないかな エミリー: でもいよいよ、人間さん争奪戦が激しくなっちゃうねぇ。独身になって、旅も終わって落ち着いて…… 人間: いずれ考えなきゃいけないんだろうけどな。いまはまだ結婚なんかもイメージできないし エミリー: 結婚、かぁ……。ほんと、イメージできないんだよねぇ、エミリーもそういうタイプじゃないのにさぁ…… エミリー: ま、急いで答えを出す必要はないけど、みんなのことは大切にね 人間: わかってる。とりあえず明日もまた、ふざけて過ごしたいけど エミリー: いつものメンバーで遊ぶの、楽しすぎるもんねぇ。エミリーもわかるよぅ 415 - 自由な朝の風景 ティンカー・ベル: おっ、人間さん。めっちゃ朝早いじゃん。ちゃんと寝たの~? ティンカー・ベル: ティンカはさ……ちょっとだけ緊張しちゃって、目が覚めちゃったんだよね。地元に戻るだけなのに、変なの 人間: 大丈夫だよ。ティンカなら、うまく話せる ティンカー・ベル: だと、いいんだけど。なに、人間さんはティンカのこと気になって追いかけてきてくれたの? 人間: えっ。ウン、ソウダヨ ティンカー・ベル: 嘘つくなーっ! ティンカだって、そういうのは気づくんだからねっ! リル: おはよう。ああ、ティンカ殿も一緒か。珍しいな ドロシー: あっ、人間さんにもリルにも先越されたわ! 悔しいんだけど ティンカー・ベル: ネコに三つ編みまで。何してんの? ドロシー: いつも3人で朝は走り込みしてるのよ。やっぱり基礎体力っていうか、心肺機能って重要でしょ リル: 長期戦になることもあるからな。スタミナ切れでは困るだろう ティンカー・ベル: もう戦うこともないんじゃないのー? 人間: たぶん、魔物はちょっとは残ると思うんだ。いまより減るとしても ティンカー・ベル: えっ、だってディマイトが増えすぎてるから魔物が出てくるんでしょ。もうGR2を管理する人がちょちょいってやれば ドロシー: たぶんね、ゼロにはしちゃだめなのよ。そういう極端なことをすると、何かおかしくなる ティンカー・ベル: あー……バランス、ってやつかぁ リル: だから小生のような騎士は、腕を錆びつかせるわけにはいかないんだ。ただ、ドロシー殿は今後どうするつもりなのか疑問だが ドロシー: 今後どうするかって話、みんなともまだあまりしてなかったわね 人間: そうだな。ネバーランド行く途中の機内で、そんな話もしてみるか リル: そういえば今日はネバーランドに行く日だったか ティンカー・ベル: そうなんだよ~。あーまた思い出しちゃった。なんか背中がむずむずする ドロシー: 妖精さんらしくないじゃない。もっとしゃきっとしなさいよ! ティンカー・ベル: いでぁあっ!? 三つ編み、背中たたく力、強すぎっ! ドロシー: あはは、ごめんごめん。さ、それじゃさっさと走りましょ (背景切換...) ドロシー: ふーっ、やっぱり朝から身体を動かすと気持ちいいわね! 人間: 朝って、なんか空気の感じが違うんだよな リル: ああ、それはわかるな。同じ場所でも、空気の匂いが違う ティンカー・ベル: はぁ、はぁ、な、なんなのあんたたち……。朝からこんなにいっぱい走ったら、疲れ切って二度寝コースなんですけど…… ドロシー: 途中から飛んでたのに何言ってるのよ ティンカー・ベル: う、うう、絶対おかしいって……でも、余計なこと考える余裕もなくなって、それは良かったのかも フアナ: うわーっ、みんな久しぶり~! クレア: フアナ、遅いよ。もうヌルズブのターンは終わっちゃったのに フアナ: うう……あたしも行きたかったよ。友達みんなでリゾートでキャッキャするなんて、めちゃくちゃ憧れてたもん…… アイソーポス: すまないな、フアナ。私の仕事に付き合わせてしまって アイソーポス: 今度、ジャコヴァやパラケルススとも息抜きをしようと話している。フアナも来ればいい 人間: アイソーポスが100%善意なのはわかるけど、それ友達とキャッキャじゃなくて完全に会社の接待みたいな役回りになるんじゃないかな…… ピュルテ: フアナさんだけじゃなくて、アイソーポスさんも一緒だったんですね! わざわざ飛空艇を用意していただいて、ありがとうございます ティンカー・ベル: そ、そのお礼はティンカが言わないとでしょ。ネバーランド行きはほぼティンカの用事なんだし シンデレラ: 南国リゾートの次は静かな森もいいよね、っていうだけよ。そんなふうに気にしなくていいの エミリー: フアナも、コミッティ復帰するんでしょぉ? それで忙しかったのぉ? フアナ: あーうん、結構そのメンバーとかのことで大変で…… クレア: あれ? ペローがいなくなって、代わりにフアナでしょ? アイソーポス: 私とジャコヴァで話し合ってね。珍しくふたりの意見が一致したんだ ドロシー: フアナだけじゃなくて入れ替わる予定があるってこと? 人間: こういう人事の話ってなんかわくわくするよな。バイト先でも、どこの店長がどこと変わって……とか、エリアマネージャーに昇格とか ピュルテ: その話わかってあげられるの私だけですからね? ヴェルメリオ: ……わたしも人間さんとバイトしたい リル: で、どうなったんだ? ネバーランドまで時間もあるし、聞かせてもらえるんだろう? フアナ: もちろん。って、えっとあたしから話すのも変だよね。アイソーポスさん、みんなに説明を…… アイソーポス: 何を言っている。もはや私が口を出す立場でもない。そうだろう、フアナ副議長殿 クレア: は!? フアナ: や、やめっ、やめめめっ、そういう変な感じ、無理だからぁ……っ! アイソーポス: 仕方ない、フアナが限界のようなので概要だけ私から話させてもらうか エミリー: もー、真面目そうに見えてたまにこうやって人で遊ぶからなぁ、アイソーポスは アイソーポス: おっと、バレていたか アイソーポス: さて……今回の人事案、最大のポイントは枠組みだ。先日の一件も踏まえ、私とジャコヴァは『作品』も迎え入れるべきだと結論づけた ドロシー: 作品も……!? アイソーポス: そこで、シンデレラ、ドロシー。きみたちを新コミッティに指名させてもらいたいんだ シンデレラ: 私たちが……コミッティ……!? リル: 『作品』から選ぶことが決まった時点で、このふたりは順当ではあるな アイソーポス: 勘違いしないでもらいたいのだが、これは先日の一件の論功行賞ではない。あくまでも個人の資質を鑑みた結果だ アイソーポス: オトギノクニにおける地位、保有するエルマイトあるいはディマイト、それらを使いこなす個人の力量…… アイソーポス: また、政治的な意味合いで作家のバランスが偏重しないようにという配慮もした結果だ ドロシー: ちょっと予想してなかったわ……。ちょうど、ネバーランド行きながら、みんなの今後のことなんかも話そうって言ってた矢先なのに…… エミリー: わぁ、ふたりともおめでとう♪ がんばってねぇ クレア: エミリーがごきげん エミリー: だってふたり増えるならエミリーはクビかなって アイソーポス: はは、驚いたな。ジャコヴァが言ってたとおりの反応だ エミリー: これでエミリーは本当に気ままなお絵描きの旅ができるんだもん クレア: 今までだってサボり倒してたのに フアナ: 言いづらいんだけど、エミリーは留任だよ エミリー: えー!? うっそぉ、なんでぇ!? やだぁ! アイソーポス: 作家としての責務を果たせ、だそうだ。心当たりはあるかな エミリー: うっ……月2本書かなきゃだもんねぇ……。首輪つけられちゃったぁ…… フアナ: ま、まあ……お絵描きしにお出かけくらいは大丈夫じゃないかな……? ティンカー・ベル: じゃあエミリーはしばらく実家でがんばるとして、姐さんはプリンセスやりながらコミッティ、三つ編みも似たような感じだよね ドロシー: みんなは今後、どうするの? ピュルテ: 今後、ですか…… リル: 小生は修行の旅にでも出るつもりだ。まだまだ剣技を磨いておきたい ティンカー・ベル: ティンカはしばらくは、ペトラと一緒にネバーランドで過ごそうかなぁ。今日、顔見たら余計に一緒にいたくなるだろうし クレア: 私も、修行の旅に出ようと思う エミリー: えっ、そうなのぉ!? クレア: なんか、まだちゃんと決めてなかったから、誰にも言ってなかったけど シンデレラ: 実家に戻るのかと思ってたわ クレア: ん……実家は、いいや。それより世界の美味しいものをたくさん知りたい ドロシー: 修行ってグルメのほうなのね。痛風にだけは気をつけなさいよ ヴェルメリオ: ……わ、わたしっ ティンカー・ベル: お、公開プロポーズが始まる? ヴェルメリオ: ……ちゃ、茶化さないでっ、本気なの。そんな、いきなり困らせること、言わないから ティンカー・ベル: はいはい、ごめんって ヴェルメリオ: ……わたし、まずはおばあちゃんに会いに行こうと思うの。それでね、人間さんも一緒にどうかなって。そ、それだけ誘いたかった 人間: 喜んで。俺もノープランだったし。ちょっと森でのんびりもいいかもなって思ったから ヴェルメリオ: ……ほんとっ? よ、よかったぁ シンデレラ: なんでまた、そんな改まって誘ったのよ ヴェルメリオ: ……あ、あの、結婚とか変な意味じゃないってことだけ分かっておいてほしいんだけど ヴェルメリオ: ……うち、おばあちゃんも、お姉ちゃんも妹もいるでしょ。精霊だけど。だから……家族っぽい雰囲気を味わえるかなって ヴェルメリオ: ……人間さんは、仲間はいっぱいいるけど……この世界に家族、いないんだって思って……だから、そういう感じ、味わってもらえたらって 人間: ヴェル…… リル: 言われてみればそうだな……。もう戻れないんだからな 人間: ありがとう。俺自身、そのことに気づいてすらなかったよ。たぶん、直近でいろいろありすぎたから 人間: でもきっと、みんながそれぞれの道を歩き始めたとき、急にのしかかっただろうなって思う。気づいてくれてありがとう、ヴェル ヴェルメリオ: ……ううん。わたしはただ、力になりたいだけ ピュルテ: そうですよね……。約束を守れなかった私が率先して考えなくちゃいけなかったのに、ごめんなさい シンデレラ: そんなふうに自分を責める必要はないわ。これは人間さんの決断。ありがとうは言っても、ごめんなさいは要らないの ピュルテ: は、はい。そうですよね フアナ: あ、あと、それで……もうひとつお知らせがあって。人間さんくん、いいかな? 人間: え、俺? 416 - フックはやっぱり悪い奴 フック: ずいぶん大勢でお出ましだと思えば、ティンカ嬢が私に何の用です? ティンカー・ベル: ティンカは今日、フックに……謝らなくちゃいけないと思ってる。それと、感謝も伝えなくちゃいけない! フック: おやおや、また唐突に何を言い出すんです。部下に帆を畳ませなくては。きっとひどい嵐が来るに違いありませんからね ティンカー・ベル: そうやって……余計なことばっかり言うくせにさ、なんで……ティンカのこと、庇ったの フック: 庇った? 話が見えませんね ティンカー・ベル: 天空神殿がよこした、『時の破壊者』……ティンカがあれに捕まって、助けてくれたよね フック: ……そうか、天空神殿と対決していたのでしたね。その過程で情報を見聞きした、というところでしょうか ティンカー・ベル: フックは何かおかしいと思ったんだよね。ううん、あんた悪知恵だけは働くから、結構いろいろ具体的に気づいてたんじゃない? ティンカー・ベル: フックでも『時の破壊者』は倒せなかった。追い払うので精一杯。だからあんたは……そいつが何を目的にして襲ってきたか気づいて…… ティンカー・ベル: 『時計』を壊して……手を切り落とした フック: ………… ティンカー・ベル: 創造期と同じことが起きたんだと見せかけるため、だよね。ピンポイントで時計を壊したら、何か感づいてると思われちゃうかもだから フック: ……一度は失った手です。グランド・リヴィジョンの効果で元通りになったにすぎません ティンカー・ベル: だからって、どうして……! フック: とにかく『時計』を破壊するなりして機能を止め、無害を装う必要がありました。そして一連の行動に疑いを持たれないように…… フック: ほかに方法はあったかもしれませんが、当時の差し迫った状況で私が下した判断は、そんなところです ティンカー・ベル: だって時計を拾ったのはティンカなのに! なんで海賊のあんたが、いつも仲悪くてケンカばっかりのティンカを…… フック: ティンカ嬢 フック: それを、私に言わせるんですか? ティンカー・ベル: え……フック……? ちょ、顔、近っ…… (カシャッ。) ティンカー・ベル: はあ!? 何してんのあんた!? それ、スホマ!? フック: あはは、見てください。ティンカ嬢が私にこんな顔を向けるなんて傑作ですね。ペトラにも見せてあげましょう ティンカー・ベル: のわあああぁぁ!? や、やめっ……もうっ! やっぱりフックは悪い奴だ! フック: ふふっ……やはり、そうこなくてはね フアナ: おーい、大事な話はもう終わったの? なんか騒いでるみたいだけど フック: ええ、終わりましたよ ティンカー・ベル: 覚えてろーっ、今度こそフックにぎゃふんと言わせてやるっ エミリー: ぎゃふんって、なかなか言わないと思うけどなぁ。それで、ちゃんと話せたのぉ? ティンカー・ベル: う……。それはその……ああもうっ、フックっ! フック: なんでしょうか、ティンカ嬢 ティンカー・ベル: ありがとう! ごめんなさい! 以上! んで、次に会うときには本当にそのクールぶった顔、大慌てさせる! フック: あっはは、ははは……本当に愉快な人だ、ティンカ嬢は。どうぞ、やるだけやってみてください。ただ、次に会うといっても…… フアナ: フックも飛空艇に乗ることになってるんだけどね フック: 私、コミッティにご指名いただきましたので ティンカー・ベル: はあ!? もう何なの、身近な人がどんどん! ピュルテ: いいお家が見つかってよかったですね、人間さん 人間: ああ、ここなら通いやすいし、それに周りも便利なわりには静かだし ピュルテ: そうですね。例えるなら……うーん、西永福って感じですかね 人間: 俺でさえピンとこないたとえを…… ヴェルメリオ: ……人間さん、こっちは片付いたよ。ちょっと軽く拭き掃除もしておいたから シンデレラ: 飲み屋街からだとちょっと歩くかしらね。平気? ドロシー: シンデレラみたいに毎日飲み歩くわけじゃないんだから ヴェルメリオ: ……それにしても、おうちかぁ。住民になったんだから当たり前だけど、人間さんの家ってなんか、変な感じ 人間: 俺もだよ。ずっと旅が続いてたから、定住するなんて……砂の国のあのとき以来かもな ピュルテ: あ……! そ、そうですよね。あのときも、でしたね…… エミリー: 女の子を連れ込むには、もうちょっとおしゃれなインテリアとか増やしたほうがよくない? ティンカー・ベル: 思ったより広くてびっくりした! 屋根裏にもなんか部屋があったよ クレア: みんなで泊まるときは、ティンカはそこが定位置かな ティンカー・ベル: なんで!? クレア: えっ、妖精って屋根裏にいるものなんだと思ってた リル: キッチンには鍋なんかも買いそろえてあったが、貴君は自炊なんかできるのか? 人間: まあ一応、人間界でも一人暮らしはしてたし ピュルテ: 人間界に比べたら、このお値段でこの広さは破格ですよね ドロシー: よく家が狭いとは聞いていたけど、そんなに切実なのね。人間界の住宅事情って 人間: いや、都内が異常なだけで、全部がそういうわけでもないんだけどな クレア: その話を聞くたびに、港区のタワマンが無謀すぎるのがよくわかった ピュルテ: い、いいじゃないですか! 夢なんですから! ピュルテ: それにもう、港区タワマンに代わる新しい夢を見つけようって考えてるんですから ティンカー・ベル: いいじゃん、前向きで ピュルテ: ……なんて言って、まだ何も決まってません。帰る故郷もないですし、極めるべきスキルもない……。もちろん役割も持っていませんし ピュルテ: 皆さんがどんどんご自分の道を見つけていくなかで、私だけが取り残されている気がして エミリー: ピュルテ……。焦らなくていいと思うなぁ、エミリーは クレア: 私だって、ごはん食べることしか決まってないんだよ。羨ましがられるような道でもない 人間: 俺も、何も決まってない。降ってわいた話はあるけど……それだけだし 人間: 骨を埋める覚悟をしただけだ。夢とか目標なんて、そんなに簡単に見つからないよ ピュルテ: 人間さん……うん、そうですよね。ありがとうございます 人間: ピュルテは他の人と違って特殊な出身だからこそ、何か見つかるような気もする。別に特殊なことをしなくてもいいと思うけどな 人間: それにさ、それぞれの道に行くって言っても会えないわけじゃない。いつでも集まればいい。そうだろ、みんな シンデレラ: 当たり前じゃないの。いつでも飲み会に来てもらうわよ リル: 最近のオトギノクニは交通網も発達しているからな。すぐに会える ピュルテ: うん……そうだよね。ごめんなさい、なんか私ちょっと感傷的になっちゃって ドロシー: じゃあ、そろそろ行く? 遅刻しちゃうわ ヴェルメリオ: ……またいつでも会える。けど、これが一応、節目だよね エミリー: うん……みんなで行く道…… (そして――) (家からコミッティ議場までの10分程度の道のり。) (それが俺たちが歩んできた旅路の、締めくくりとなった。) ジャコヴァ: なんだ、初めての場所でもないだろうに表情が硬いぞ? 緊張してるのか、ん? シンデレラ: な、なによ。別にいいでしょ…… ジャコヴァ: 乗り込んできたときの威勢はどこに行ったんだ シンデレラ: もうっ、絶対からかってるでしょう! ヴィルヘルミナ: 姉さんったら、やめなさいよ。一応そんな飲んだくれでも一国の王よ フアナ: でっ、ではっ ジャコヴァ: こっちもガチガチだな エミリー: これから先、胃に穴が空かなければいいけど……心配だねぇ フアナ: 開会に先立ちましてっ、今回のインぺリウム・コミッティ再招集におけるブリーフィングを行います! フアナ: まず改めて今回の人事について、趣旨などを議長および副議長よりお願いします ジャコヴァ: 単純なことだ。この世界は誰のためにある。この組織は誰のためにある。そして、現在のこの世界は誰の手で守られたのか ジャコヴァ: すべての問いの答え、それが今回の発令だ ヴィルヘルミナ: 具体的には現行体制の人数枠を合計6と縮小。3号委員カロラ、4号委員フェルディナ、6号委員シャルロッテは退任とする アイソーポス: また、9号委員キャロル、11号委員マロリー、12号委員ゲーテも退任。13号委員ペローは除名処分とした ダンテ: …… ジャコヴァ: また、正式には開会後に改選議案として処理するが……辞職願を受け取っており、同時に後任の推薦も受けている者がいる アイソーポス: 次代にバトンを託したい。そういう思いでの決断だ。どうか、理解してもらいたい フアナ: う……ううっ、アイソーポスさん…… ヴィルヘルミナ: 第7号あらため第4号、アイソーポス委員よりフアナを推薦。第10号改め第6号、ダンテ委員よりラヴクラフトを推薦 ダンテ: …… フアナ: よ、よろしくお願いしますっ! ラヴクラフト: もう緊張と興奮でびっちょびちょだよ フアナ: 汗が、だよね……? ラヴクラフト: びっちょびちょだよ ジャコヴァ: 続いて『作品』について。これは私とアイソーポスの独断で決めさせてもらった ヴィルヘルミナ: 第7号委員シンデレラ、第8号委員ドロシー、第9号委員フック アイソーポス: 第10号委員クラース、第11号委員ジョカ、第12号委員トリル ジャコヴァ: そして第13号委員――おまえだ、人間さん ヴィルヘルミナ: なお、公平性の観点からワタシ、ヴィルヘルミナは副議長の任を解かれ、フアナ、そしてシンデレラに引き継ぐわ アイソーポス: フック、ジョカについてはディトルパをコントロールできる実力者だ。クラースについても、その実力は折り紙つきだろう ヴィルヘルミナ: それに……サミットに加盟する超大国として、魔法の国だけが選出されるのはバランスが悪いわ。そういった観点から海底の国からトリルを選んでいるの ジャコヴァ: なに、グリムも含めて非改選制度は撤廃するつもりだ。気に入らなければ、蹴落とせ ドロシー: 初日からなんて物騒な会議なのよ…… クラース: 思った以上に楽しそうなメンツじゃない。バカンスが短くなったのだけは不満だけど トリル: 知っている人が多くて安心しました~。怖い人ばっかりだったらどうしようって、ちょっと心配だったんです ジョカ: おい……なんでそんな落ち着いていられるんだ……。さっきからずっと挙動不審な我がバカみたいではないか トリル: 一応、王族なのでこういう雰囲気にはなれていますので…… クラース: 人見知りのヴィルデ・ローゼは候補に挙がったけど辞退したっていう噂もあるわね ジョカ: ま、まあ、なんだ。我も生まれついての支配者だから、これくらいなんてことないけどな……。おい人間さん、なんだその顔は。本当だぞ 人間: 飛空艇でフアナに言われたときは、俺がコミッティ入りなんて、どうなることかと思ったけど……なんかいつも通りな雰囲気だなぁ アイソーポス: それでは全員、起立 (会場が鎮まる一瞬の隙をつくように、アイソーポスの声が響いた。) アイソーポス: 開会に先立ち、新委員にて誓いの唱和を (沈黙が落ちる議場。) (場の空気が一気に厳かになる。) ジャコヴァ: 大地を飲み込む闇がいかに昏くとも ヴィルヘルミナ: 空に飛び立つ羽根を喪おうとも エミリー: 答えを求めて彷徨う民がある限り フアナ: 生まれし作品たちの息遣いが聴こえる限り シェイクスピア: 我ら、知性と先見性と創造性を以て世界の番人たらんとす ラヴクラフト: 明日の歌声を風に乗せて未来に届けるため シンデレラ: 紡いだ言葉で錆びついた扉を開き ドロシー: 亡くした物語に救いの祈りを捧げん フック: 奪われた日をこの手に取り戻し クラース: 絶望を照らす灯りとなるべく ジョカ: 変わらぬ刻の音を奏で続けよう トリル: 正義と自由を備えた唯一無二の世界に忠誠を 人間: 高潔なる魂の証たる翠霊のペンに誓おう―― ジャコヴァ: いまここに、インペリウム・コミッティの開催を宣言する (背景切換...) シンデレラ: ふー、疲れた。まあ、執務自体は普段とそんなに変わらないんだけど、やっぱりちょっと緊張してたせいかしらね ドロシー: 初回だから仕事が多いって言ってたけど本当かしら エミリー: みんなの人事に関係する書類だけでも、もりもりあったもんねぇ。手首が痛くて今日はお絵描きもお休みだよぅ 人間: なんか緊張感あって、まだふわふわしてるよ。俺も改選を繰り返したら居眠りとかするようになるのかな…… ドロシー: 何よそれ 人間: いや人間界でこういう仕事の人が……まあ、いいや ティンカー・ベル: あっ、きたきた! えらい人たちだ! ヴェルメリオ: ……なんか気持ち、偉そうに歩いてない? ドロシー: 変なイジりするんじゃないわよっ! 別に、ただ書類書いてただけなんだから ピュルテ: 今日が初登庁ってことなので、お疲れ会&お祝いも兼ねてごはんでも行こうと思って、ここで待ってたんですよ! クレア: えらいひとたち、ごはんおごってください シンデレラ: エミリーとフアナに今までたかってなかったくせに…… リル: やれやれ……至極当たり前ではあるが、肩書がどうなっても貴君らは何も変わらないな 人間: じゃあ、行くか。実はアイソーポスからおすすめの店を教えてもらってるんだ シンデレラ: ……ねえ、人間さん。本当にいままでありがとう ヴェルメリオ: ……うん。人間さんが来てくれたおかげで、全部始まったんだよ ティンカー・ベル: 一緒に旅して、すっごい楽しかった! また、遊びに行こうね ドロシー: あなたは逃げも隠れもしなかった。最高にカッコよかったわよ リル: 小生が認める男など、ほぼいないものと思え エミリー: 人間さんが、みんなのことをつないでくれたんだよ クレア: だから私たちも仲間になれたの。……ありがとね、人間さん 人間: お礼を言うのはこっちだよ。こんなに充実した時間を過ごせたのは、みんなのおかげだから ピュルテ: それじゃ……行きましょうか、人間さん! 417 - 闇 雨依: ………… 雨依: これが私の人生、なのかな (人間さんが暮らす家から遠く離れたとある町。) (夜更けに、雨依は星空を眺めながらひとりごちた。) (吐く息は、白い。) (儚く消える蒸気に雨依は思いを乗せる。) 雨依: どんなにがんばったって……全部、無駄なんだよね 雨依: せめて明るくしなくちゃってがんばったら、元気じゃんって言われる 雨依: たまに気分転換すれば、余裕があるじゃんって言われる 雨依: がんばっても、がんばっても……結局、全部無駄になっちゃう。だったらもう……こんな人生、おしまいでいいじゃん…… (座り込んでいた路地裏から、腰を上げる雨依。) (少し前まで賑わっていた繁華街も、いまは閑散としている。) 雨依: 私って、なんなんだろう (その問いに、答えは返ってこない。) (陰気な老婆が座る、古びた宿の受付を通り過ぎ、わずかながら安息できる空間に身を投じる。) (背景切換...) 雨依: ……化粧、落とさなくちゃ。ウィッグも……はあ、めんどくさいな…… (言いながら、固いベッドに横たわる雨依。) (雑に拭えば前腕内側に無数についた痕が露わになる。) 雨依: 私……終わらせる勇気はないの……。だから、誰か終わらせてよ…… (嗚咽にも似たつぶやきを漏らしながら、雨依は意識を手放した――) (背景切換...) 雨依: ……? ここって……? (そこはひどく静かだった。) (一切の音が断たれたような。) (だからなのか、僅かな嗚咽が雨依の耳に届く。) 雨依: 誰……? 誰か、そこにいるの? (物陰には、倒れ伏している人物があった。) (そのシルエットに、雨依は胸騒ぎを覚える。) 雨依: 人間さん……!? 雨依: 嘘でしょ、なんで……っ!? 人間さん、しっかりして……! 人間: ……っ、う……い…… 雨依: そうだよ、雨依だよ! どうしたの、なんでこんなことに……!? レオナ: 雨依…… 雨依: え……? レオナ!? (背後から聞こえた声に反応して振り返る雨依。) (そこには見慣れた顔が、地面を這って必死に彼女に何か訴えかけようとしていた。) レオナ: 雨依……っ、ごめん……ごめんね…… 雨依: ふたりともっ、何があったの!? 人間: どう、して……? 雨依: え、なに……? 人間さん……っ 人間: どうして、俺を…… 雨依: ……っ!? レオナ: 守れなくて……ごめん……。雨依は、私が、止めなくちゃいけなかった、のに……っ 雨依: レオナ……っ、私を止めるって…!? レオナ: ごめ、ん……でも、私は……雨依が、好きだよ…… 雨依: やだっ、レオナっ!! 人間さんっ!! 人間: ………… 雨依: 息、止まって……る…… (ふと自分の両手を見つめる雨依。) (先ほどまで綺麗だったはずの掌は血にまみれていた。) 雨依: なにこれ……!? まさか、私がふたりを……? レオナ: 雨依………… レオナ: ゆるし、て…… 人間: ………… (イマジュマイトに対する感知能力を、雨依は持っていない。) (それでも彼らから生命力が失われていくのははっきりとわかった。) (背景切換...) (ああ……あああああぁぁぁっ! いやあああぁぁぁぁっ!!)