10412 - 白の夜明け団 参上! (それは、とある町の穏やかな午後のことだった。) 青果店のおばちゃん: 安いよ、安いよ!見て行っておくれ! 子連れのママさん: あらー、今日の晩ごはんはどうしようかしら 子連れのお子さん: ねえねえ、ママー。あっちにお人形さんいたー! 子連れのママさん: はいはい、後でね お散歩じいちゃん: ふー、どっこらしょ。今日もきれいに晴れたのう 介護のお兄さん: 良かったですね、おじいさん (背景切換...) 介護のお兄さん: 本当に、雲ひとつない青空で―― 介護のお兄さん: !? (背景切換...) 子連れのママさん: カードだわ!カードが空から降って来た! (突如として空からひらひらと何十枚ものカードが舞い落ちてくる。 その光景に人々は顔色を変えた。) お散歩じいちゃん: た、大変じゃあ……!これは『ヤツら』が来るぞ……!! 青果店のおばちゃん: 早く逃げるのよ!特にそこのあなたたち! 子連れのママさん: は、はいっ 子連れのお子さん: ママーっ、どうしようー! ???: 逃げても無駄だ!覚悟しろ! (響き渡る声。 質の悪い拡声器によって音割れしていて、その音質も含め、 人々は相手をよく知っていた。) 介護のお兄さん: この声は『ヤツら』だ……! ???: 我ら『白の夜明け団』の標的は……この町の全員だ。 ひとり残らず我らの餌食となるのだ。はーっはっはっは! (背景切換...) 人間さん: なんか……のどかな景色になってきたなぁ (リベルタリブロのターミナルを出発し、まもなく丸2日になろうとしていた。 長距離夜行馬車に揺られ、身体がバキバキになったところで 地元の馬車に乗り換えてーー疲労はピークに達していた。) 人間さん: 飛空艇で来れれば3時間くらいなのにな (思わずぼやいてから、自分がすっかりコミッティの特権に慣れ、 贅沢な身体になってしまったことに気付かされる。) (ほどなくして馬車は街道に停止する。 少し離れたところに小さな町と、特徴的な尖塔が見えた。目的地の停留所だ。) フィフティーン: お待ちしておりました。私はコードネーム『フィフティーン』。 あなたをお迎えするよう指示されています 人間さん: ああ……ありがとう (今回、この小さな田舎町にやってきたのには理由がある。 原因不明の奇妙な事件が起きており、その解決にあたれ―― というのが俺に与えられた使命だ。) (ただし事態をあまり大きくすると住民が不安に思う可能性がある。 そのため秘密裏に事を進めなくてはならない。 飛空艇を使わず地道に馬車で来た理由も、そこにあった。) 人間さん: (それにしても……) フィフティーン: 何か? 人間さん: ああ、いや。それじゃあ早速、拠点に案内してもらえるか フィフティーン: かしこまりました 人間さん: (このエージェントのお姉さん、めちゃくちゃ胸がでかいな……) フィフティーン: あの……? 先ほどから私を気にされているようですが、何か不手際がありましたか? 人間さん: い、いや 人間さん: (ここは話題を変えて冷静さを取り戻さなくては) 人間さん: 今朝から何も食べてないんだ。 時間も時間だから軽くでいいんだけど、どこか案内してもらえないか フィフティーン: かしこまりました (背景切換...) (町は小さいが、それなりに発展しているようだ。 この近隣にも、似たような規模の町がいくつもあるらしい。 しかし、ここが最近では最も栄えているという。) (その理由は――) 人間さん: 窓から見えるんだな フィフティーン: ああ、あの尖塔ですか。フローレアカデミーですね フィフティーン: あれができてから、この町の経済はかなり潤っているそうです。 実際、町のメイン通りなどの整備が進んでいるようですよ (町の郊外に位置する広大な敷地に建てられた、真新しい建物。 多くの天才を輩出した名門、フローレ・アカデミーの新キャンパスだ。) フィフティーン: 誘致前後には反対運動も少しあったらしいですが、 今では誰もが、その恩恵に感謝していることでしょう (新キャンパス落成からしばらく経ってはいるが、町にとってはまだまだ新参者。 そんな中での今回の事件だ。) 人間さん: それで……事件の概要について教えてもらえるか フィフティーン: かしこまりました フィフティーン: ここ最近、秘密結社『白の夜明け団』を名乗る何者かが、 この近隣の町で暗躍しています フィフティーン: 目的は不明、構成員も不明。 名称からして、おそらく複数名いるものとは推察されます 人間さん: 犯行の内容は? フィフティーン: …… (一瞬、言葉を詰まらせるフィフティーン。よほど大胆な犯行なのだろうか。 俺は固唾を飲んで言葉を待った。) フィフティーン: 奴らが狙うのは、町の人々の―― フィフティーン: パンツです 人間さん: (……やっぱり帰ろうかな) 10413 - 下心満載の捜査体制 フィフティーン: 人間さん、どうしましたか? 人間さん: いや…… 人間さん: (パンツを狙うって……すごく、くだらなさそうな予感がする……。 ダンテの頼みではあるけど、別に俺じゃなくても……。 よし、やっぱり帰ろう) フィフティーン: なお、当面の捜査についてですが、私がバディとなります。 よろしくお願いいたします 人間さん: えっ?ごめん、聞き逃したような気がするけど…… バディ、だって?フィフティーンが? フィフティーン: はい。私が受けている指示は人間さんのお出迎えだけではなく 当面の捜査活動全般を補佐する、というものです フィフティーン: そのため、しばらくは私と行動を共にすることになります 人間さん: そうなのか……! 人間さん: (この爆乳お姉さんと朝から晩まで一緒、だと……!?) 人間さん: (こんな役得ないだろ。帰ってたまるか) フィフティーン: 早速ですが、宿のお部屋をご案内しても良いでしょうか。 滞在中は、そちらを使っていただくことになります 人間さん: ああ。頼むよ フィフティーン: ではまいりましょう。ああ、食器は私が片づけますね 人間さん: (おお、谷間が……) フィフティーン: あっ、ああっ (ガチャンガチャン) (片づけようとして、空いたグラスを倒してしまうフィフティーン。 中身は空だったので大事には至らなかった。 すぐに店員が飛んできてくれたので、丁寧に詫びて店を出る。) (背景切換...) (こんな爆乳美女とふたりきりで捜査――俺の心はもう既に踊り出していた。) (背景切換...) (ガチャンガチャン) 店員: あっ、こちらで片づけておきますよ ???: すみませんでした (何やら誰か他の客がグラスを倒してしまったらしい。 そんな小さな騒ぎを聞きながら、彼女は読んでいた資料から顔を上げた。) ???: マジシャン!お待たせー! マジシャン: いま来たところよ。変わりないみたいで安心…… というか、むしろ心配というか……。 いずれにしても元気そうね ハイプリーステス: このボク、ハイプリーステスが環境で主義主張を曲げると思う? (マジシャンと呼ばれた彼女の向かい側の席に、笑顔で座ったのは ハイプリーステスと名乗る細身の人物だった。) マジシャン: だけど……リース、あなた公務員でしょ。それも町役場じゃなくて、カウンティの ハイプリーステス: 環境に左右されないボクが、規模で態度を変えるなんてますますあり得ないじゃん マジシャン: リースがそんなお堅い仕事をしてるなんて、想像できないわ ハイプリーステス: そのギャップはボクが一番、感じてるよ……。 ほんと、二言目には『前例がない』って尻込みするし、 『責任の所在』をすぐ気にするし ハイプリーステス: お役所仕事、なんてよく言ったもんだよね マジシャン: あなた自身、受け入れられてるの? ハイプリーステス: 理解してくれる人もいるにはいるけど……基本、腫れものかな。 郡長が言う『多様化するオトギノクニとの共存政策』なんて、 ただの看板なんでしょ ハイプリーステス: そっちこそどうなの?マジシャンは確か、魔道具製造業の大手、 『ムラビト製作所』に就職したんだよね? マジシャン: ええ、まあ…… ハイプリーステス: どう?仕事、楽しい? マジシャン: おおよそ予想はついているくせに、わざわざ聞くのね ハイプリーステス: 口に出したほうがいいこともあるでしょ。 そのために、わざわざ待ち合わせてこうして会ってるんだし マジシャン: ふっ……そうね マジシャン: 学生だった頃は、それなりに私も優秀なんだと自負していたわ。 でも……学生のときに求められる能力と、仕事をする上での能力はまるで違う マジシャン: 優秀であることは大したことじゃないのよ。 それよりも、いかに人に取り入ることができるか ハイプリーステス: 民間も一緒かぁ マジシャン: フローレ卒の肩書がありがたかったのは、就活のときまで。 いまじゃ重荷になるばかりよ ハイプリーステス: あー、わかる ふたり: フローレ卒も大したことないな (ふたりの声が重なる。互いに顔を見合わせ、そして声を上げて笑った。) ハイプリーステス: あははははっ、もうこれお約束なのかな? マジシャン: ふふふっ、本当に嫌になるわね。 フローレって言ったって、ボッチャーテだっていうのに (ひとしきり笑ったところで、マジシャンは切なげに目を細める。) マジシャン: 学生時代は……楽しかったのにな ハイプリーステス: ね。バカなことばっかりしてたけど、でも毎日が充実してた マジシャン: ……あの子たち、元気かしら ハイプリーステス: ちょっと寄ってみる? 10414 - ボッチャーテ・キャンパス 人間さん: ……そう言えば (宿に案内される道中、俺はふと気になっていたことを口にした。) 人間さん: 現地で合流するエージェントなんだけど、 別のコードネームの人が来る予定になっていたような気がして フィフティーン: 担当の変更は、この業界ではよくあることです 人間さん: そういうものか フィフティーン: もちろん人間さんが希望されるのであれば、 私からまた別の担当に引き継ぐことも可能ですが 人間さん: い、いやいや!ぜひフィフティーンにお願いしたい! フィフティーン: そうですか?ご不満がなければいいのですが 人間さん: ないない。あるとしたら欲求不満っていうか…… フィフティーン: はい? 人間さん: なんでもない。それより…… 時間を見つけて、フローレ・アカデミーのキャンパスに行ってみたいな フィフティーン: 立派なキャンパスですからね。 広い芝生でお弁当を食べる子連れの方や散歩のご老人なども多いです (フローレ・アカデミー。 それはオトギノクニでも最高の知性を持った選りすぐりの者たちが集結し、 その叡智を磨くため日夜、勉学や研究に勤しむ場だ。) (いわゆる最高学府と呼んで差し支えないだろう。) フィフティーン: 本校舎では、かなり優秀な方々を輩出していますから、この田舎町でも当然、 その知名度は高く、知らない人はまずいないでしょう (レオナ、ダンテ、パラケルススにノストラダムス。 活躍する卒業生は枚挙に暇がない。) (ただし――それはいわゆる本校舎の話だ。 この町近くにあるのはボッチャーテ・キャンパスと呼ばれる別校舎で、 これは比較的歴史が浅い。) 人間さん: 人間界の大学でも、都心にあると思いきや学部によっては 東京の外れの方にキャンパスがあったりするからな フィフティーン: お話がよく分かりませんが 人間さん: あ、いや。とにかく……ボッチャーテは、試験もそんなに難しくないんだろ? フィフティーン: そうですね。一握りの天才だけが入れる本校舎と異なり、 ボッチャーテはごく普通の学生も数多く受け入れている……と聞きます フィフティーン: なんでも理事長の肝いりで、 学問とは広く多くの人に知られるべきもの、という理念があるそうです (そのあたりは、理事長であるダンテからそれとなく聞いた。 正確には、彼女は無口なので文書で読んだのだが。) (建設にあたりコミッティも投資を持ちかけられ、 その際の検討資料に俺も目を通している。 メインスポンサーであるメディチは、あまりいい顔をしなかったらしい。) 人間さん: 理事長っているのかな フィフティーン: ボッチャーテにはいらっしゃらないかと。 ここには副学長が常駐されて意思決定されていますね 人間さん: まあ、そうか。挨拶していこうかと思ったけど フィフティーン: 挨拶……?理事長とお知り合いなんですか!? (背景切換...) (――フローレ・アカデミーボッチャーテ・キャンパス――) (この小さな部屋は、そのキャンパス内の一角にある 占いサークルアルカナムの部室として使用されていた。) ???: どうしましょう~?やっぱり地道にビラ配りするのがいいかも~? ???: 新人が必要 ???: やっぱり後輩が欲しいからな! ???: フール様は後輩をいじめそうですね~ フール: そんなことないぞ、ムー!なっ、タワー タワー: 偉そうなだけ フール: ほら! ムーン: ほら、って…… ムーン: 他のサークルから、移籍金払ってスカウトするとか~ タワー: 危ない橋 フール: ビラ配りどこ行った? ムーン: もう飲みサーにするのがいいかも~?人は集まりますよ~ タワー: 陽キャ怖い フール: だからビラ配りは? ???: お、相変わらずっすね? フール: おっ、ハイエロにハング!どうしたんだ、急に ハイエロファント: やー、ちょっと上司に 『ハイエロファントくん、お茶買ってきて』 なんて言われたんで、適当にサボりにきたんでして タワー: 説明になってない ハイエロファント: 要は仕事をさせないために、使いっぱにしてるんすよ。 あっしのことをリストラするつもりなんでしょ ムーン: この前、就職したばっかりなのに~?しかも大手銀行ですよね~? ハイエロファント: さっそく社内政治のごたごたに巻き込まれちまいましてね タワー: ハングは? ハングドマン: わたしも似たようなものだ。 『ハングドマンさん、次これやっといて』 などと意味のなさそうな作業を押し付けられて…… フール: 確かハングが入ったのって、超絶ブラックで有名な…… ハングドマン: ああ、その通りだ。毎日、同じことの繰り返しで…… 最初は過酷な環境に打ち震えたものだが、物足りなくなってな ハングドマン: 見つかって大激怒されるスリルを味わうためにサボっているんだ フール: それ、ハイエロと似たようなものって言っていいのか? 10415 - 思い出の詰まった場所 ハイエロファント: まあでもほんと、この部室の感じ懐かしいっすね。 ついこの前まで、ここにあっしもいたのに ハングドマン: ああ。あの頃は刺激に満ちていたものだがな フール: 何人も卒業して、ちょっと寂しいのだ ハイエロファント: フールさん…… ハングドマン: いや、しんみりしていい雰囲気みたいになっているが、 フールは今年こそ単位を落とさずに卒業できそうなのか? フール: えっ、いや、まあ、なんだ。いいじゃないか タワー: 良くはない ムーン: フール様はさぼらず真面目に授業に出席してますし、課題も出してます。 けど、課題の評価が低すぎるんですよね~ ハイエロファント: フールさんのレポート、1回読んだけど本当に何言ってるか分かんなかったっす フール: 大丈夫だ!なんとかなる! タワー: 根拠のない自信 フール: だってあたしは、フローレに入るのだって絶対無理だって言われてたんだぞ。 でもなんとかなった! ハイエロファント: やー、本当に謎なんすよね。この人どうやって入学できたんだろ ハングドマン: そんな、不可能を可能にする奇跡を起こしてまで入った、 オトギノクニ屈指の学び舎で、やっていることが形ばかりの占いサークル…… なかなか面白い経歴だ フール: そうだろ、そうだろ。稀に見る逸材なんだぞ タワー: たぶん褒められてはない ハイプリーステス: あれっ、なになに?なんか人がいっぱいいる! マジシャン: ハイエロと、ハングまで……あなたたち、仕事は? ハイエロファント: へへ、サボりっす。あれ、マジシャンさんもですかい? マジシャン: 私はちゃんと有給とってるわよ! ハングドマン: ふふ……有給か……。私にもそんなものがあったはずなんだがな。 先輩は『休み?消した!』と謎の発言をしていたが…… ムーン: 社会、怖すぎます~ ハイプリーステス: でもさ、休みにしても、サボりにしても…… 結局、なんやかんやでここに来ちゃうあたり、 ボクたちめんどくさい先輩だよね ハイエロファント: 確かにそうですねぇ。 フールさんたちがエンジョイしてるのに先輩ヅラして邪魔しに来て…… どうもすみません タワー: ううん マジシャン: すみませんなんて1ミリも思ってないくせに言うもんじゃないわよ フール: それだけ、フール様の人望があるってことだな! タワー: いつそんな話が出た? ハングドマン: 楽しかったな。みんなで合宿もして…… ハイプリーステス: あー、夏休みのやつ? ハングがロケット花火にうっかり座ってお尻が大変なことになっちゃったときの ハングドマン: はぁんっ!いま思い出してもお尻が疼くっ……! わたしの恥辱に塗れた素晴らしい記憶……ッ! ハイエロファント: そこ喜ぶとこなんですかい ムーン: あれ~?合宿は秋じゃなかった~? フール: 合宿は夏休みだぞ。秋は旅行だ! マジシャン: どう違うかと言われると誰も説明できないでしょうけどね タワー: 温泉 ハイプリーステス: そうそう。ボクが行きたいって言いだしてさ。 みんながボクのために、わざわざ条件の合う宿を選んでくれて ハイエロファント: そりゃもう、なんでもやりますよ ムーン: あのときはスター姉様とサンちゃんも一緒だったっけ~ ハングドマン: そう言えばデビルは? ムーン: ん~?デビル様はバイトがあるとかなんとか ハイプリーステス: ねえねえ、せっかく来たんだしアカデミーの中をうろうろしようよ。 学生に戻った感じでさ ハイエロファント: いいですねぇ ハングドマン: 関係者に見つかったらお仕置きされるかもしれないしな……! マジシャン: シンプルに逮捕なんじゃないかしら フール: よーし!じゃあみんな、あたしについてくるんだ! タワー: なんで急にリーダーヅラ? (背景切換...) ハイプリーステス: いやー、なっつかしー! もう毎日通るだけで思い出なんか1個もないはずの、 こんな中庭の通路ですらなつかしい! ハイエロファント: まったくもって、その通りですねぇ ハングドマン: ああ……ここはわたしが芝生に家の鍵を落として探していたとき、 知らない学生から『あの女、四つん這いだぞ。えっろ』なんて 心ない卑猥な言葉を投げかけられた場所…… タワー: ろくでもない思い出 ムーン: そうだ~。あっちの別棟に池がありますよね~? あそこ、鯉が飼われるようになったんですよ~ マジシャン: へえ、そうなの? タワー: そうなの? フール: そうなのか マジシャン: 現役のふたりも知らないみたいだけど……大丈夫? 10416 - 学園の空気 ホメーロス: わああ……!人間さん、来てくれたんですか 人間さん: ああ、いろいろあって、しばらくこのあたりに滞在することになったんだ。 せっかく近くまで来たからと思って (このボッチャーテ・キャンパスの責任者であり、フローレ・アカデミーの 副学長を務めるのは、ダンテたっての希望を受けたホメーロスだ。 彼女はここが開設したときから常駐しているという。) ホメーロス: ふふ、ありがとうございます。 人間さんはこのボッチャーテ・キャンパスは初めてですか? 人間さん: うん、話には聞いてたけど ホメーロス: で、では……せっかくですから、ご案内しましょう♪ (背景切換...) ホメーロス: あ、あの、このキャンパスでは、いわゆる、その、 一般学生を多く受け入れてるんですけど ホメーロス: わ、わりと入るのは、入りやすくしてるんです…… 人間さん: (って言っても本校舎よりは、だよな。 試験問題見たけど、あれ人間界でも偏差値60以上くらいの レベルじゃないか……?) ホメーロス: でも、卒業するためにはしっかり単位を取らないといけない、 っていう仕組みに、し、していまして 人間さん: ダンテの理念だもんな。 広く門戸を開いて、多くの学生に学びを提供したい、って。 でもフローレの名前を安易に与えるわけにもいかない。だから―― ホメーロス: は、はい、そうなんです。入るは易し、出るは難し、と。 なので出席率はもちろん、か、課題もきちんと、提出するようにって 人間さん: なるほどなぁ。じゃあみんなキャンパスライフを謳歌して毎晩、 飲みサーで大騒ぎってわけにもいかないのかな ホメーロス: の、のみ?なんですか? 人間さん: いやいや、こっちの話 ホメーロス: あ、そ、そうだ。あのカフェで少し休みませんか? 新作ドリンクが出ているんですよ (背景切換...) ホメーロス: わ、私、あの、人間さんの分も、飲み物を持ってきますね……! 人間さん: ありがとう。じゃあ俺は席を確保しておくから 人間さん: ふう……大学かぁ (オープンテラスのカフェは真新しく、 午後のこの時間でも数名の学生が本を読むなどして過ごしていた。) (厳密には大学という名称は使われていないのだが、 人間界の感覚からすると、目の前の風景はまさにそれだ。) フール: やっぱりムーは適当なのだ! ムーン: 鯉はC棟の方だったかも~ タワー: さっきA棟って言った ムーン: そうだっけ~。だって聞いたときはCかDって聞いたから~ ハイプリーステス: Dの可能性もあるんじゃん! マジシャン: もう鯉はいいんじゃない? ムーン: マジシャン様、失恋でもしたんですか~?もう恋はいいだなんて…… マジシャン: 鯉よ、鯉!魚の!文脈でわかるでしょ! ハングドマン: ふふっ……そんな心境になるとは、一体どんなひどい目に遭わされたのか、 聞かせてほしいね…… ハイプリーステス: こっちはこっちで聞いてないし (ぼんやりと外を眺めていると、何やら騒がしい一団が通り過ぎていく。 いかにも学生、という感じのテンションに俺は目を細めた。) 人間さん: (若いっていいなぁ) 人間さん: ………… 人間さん: ……ハッ!?待て、俺も若いんだぞ。学生なんだぞ。 たぶんもう休学だか退学になってる気がするけど 人間さん: ……でも、オトギノクニに来てだいぶ経つ気がするし、実はもう俺って…… ホメーロス: や、やめてくださいぃ……私はそんなつもりじゃ…… ハイエロファント: いいんですよ、これくらい何でもありませんから。 あっし、ハイエロファントというケチなもんです。 どうか覚えておいてくださいね ホメーロス: お、覚えますっ、覚えますからっ、そのトレイは返してくださいぃ…… ハイエロファント: そうですか?あ、いけないっ、靴が汚れていますっ。いまお拭きしますっ ホメーロス: い、いいですっ、大丈夫です……っ (何やら誰かと押し問答をしていたようだったホメーロスだったが、 やがて飲み物を乗せたトレイを手に戻って来た。) ホメーロス: お、お待たせしました……っ。ちょっと知り合いに捕まってしまって 人間さん: ちらっと何か聞こえたよ。大変そうだな ホメーロス: い、いえっ……私なんて、そんな大したことは…… (席に着いたホメーロスと向かい合い、それからしばらく他愛もない会話をする。 主に、ホメーロスの近況、特に苦労していることなど――) 人間さん: なんか……こういう学園のカフェでお茶してるとか、 オーソドックスなデートって感じするなぁ ホメーロス: ほええええぇぇ!?で、で、でっ (ガシャァアアアン) (赤面するホメーロスを遮るように、金属のような音が響く。 驚いて視線を向けると、少し離れた場所で 学生らしき誰かが頭を抱えうずくまっていた。) (そしてそばには金ダライが……。) 人間さん: なんだ?何があったんだ…… ホメーロス: あ、あの、アカデミーの学生たちがつくった 『金ダライ研究部』というサークルがありまして…… たまに事故が起きてるんです 人間さん: 何を研究してるっていうんだ…… 10417 - タワーの不幸体質 ハイエロファント: いやあ、どうもどうも。お待たせしました、皆さん ハイプリーステス: あれ、どこ行ってたの? ハイエロファント: いやね、ホメーロス副学長をお見掛けしたもんですからね。 ここはちょっとご挨拶をと マジシャン: 聞こえてたわよ。ご挨拶どころじゃなかったじゃない。 お茶持ちましょうか、靴拭きましょうか、肩揉みましょうか、って フール: 相変わらずハイエロは謙虚だな! タワー: こういうの謙虚とは違う ムーン: そうですねぇ。なんていうんでしたっけ。卑猥、だったかも~ ハイエロファント: それじゃ、あっしがただのムッツリになっちまいますよ。卑屈でしょう、卑屈 ムーン: え~?わたくし、今そう言いませんでした~?前屈って ハイプリーステス: 変わっちゃってるって。しかも前屈じゃストレッチだよ ハイエロファント: あっし、身体固いですし ハングドマン: ふふ、甘いな。 わたしなんて縛られたり、そのまま転がされたりして経験していくうちに、 肩を自分で外せるようになったぞ ハイプリーステス: それもう身体の柔軟性の問題じゃないからね? マジシャン: 目上の人に媚び売るのはいいけど、ハイエロはもう卒業したんだから 副学長に気に入られてもメリットはないんじゃない? ハイエロファント: 何を言うんですか、マジシャンさん。 コネはどこに転がってるか、分からないものです フール: ネコもどこに潜んでるかわかんないもんな! ムーン: ネコなら今、そこの茂みにいたかも~ フール: えっ、どこどこ! ムーン: ハトだったかも~ フール: 全然違うじゃないか! (ガシャァアアアン) (会話を遮って派手な金属のような音が響く。 はっと全員が視線を向けると、ひとり少し遅れて後ろを歩いていたタワーが、 頭を抱えてうずくまっていた。) (そばには金ダライが地面でぐわんぐわん、と回転していた。) タワー: 痛い…… 研究部員: すみませーん!大丈夫ですか!? ハイプリーステス: キミたち、金ダライ研究部か。まーたやってんの? タワー: 大丈夫 研究部員: 本当にすみませんでした! フール: 本当に大丈夫か? タワー: ちょっと痛かった タワー: でも音のわりに平気 マジシャン: ならいいけど……。でも今のってもしかして フール: うん。タワーは……まだ、『治ってない』んだ タワー: 治るものでもない フール: わかんないだろ!だってあたしたちは…… ハイプリーステス: ん?何? フール: いや。こんなとこで話すことじゃなかった マジシャン: いずれにしてもタワーの不幸体質は変わってない、ってわけね ハングドマン: くうう……!代わってやりたいくらいだが……! こればかりはどうにもならないか……! ハイプリーステス: 声だけ聞いてると友情に厚いやつかと思うけど、顔見ると台無しだね ハングドマン: まるで、わたしが趣味のために代わろうとしているかのような言いぐさだな。 あくまでもタワーの身を案じてのことだぞ ハイプリーステス: 本当かよ ハングドマン: わたしは打撃系より拘束が好きなんだ! ハイプリーステス: やかましいわ! (背景切換...) マジシャン: こんなところまで来てしまったわね ムーン: ここに鮒がいるんですよ~ フール: 鯉はどこいったんだ!! タワー: あっ フール: どうしたタワー! タワー: 犬のウ○コ踏んだ フール: こんな水辺に!!持ち帰らないならせめて水の中に放り込め!! ハイエロファント: ごもっともですねぇ マジシャン: ここって、ギリギリ敷地内にある生物研究用の湖でしょ? なんだかんだ、端まで散歩しちゃったわね フール: もう鯉はいい!帰るぞ! ハイエロファント: 失恋ですかい、フールさん マジシャン: そのネタは何度もやるようなもんじゃないのよ! (背景切換...) (キャンパスを後にして、俺は適当に町をぶらついたのち宿屋へと戻って来た。) 人間さん: ふう……久々にホメーロスに会えてよかったな (しかし、そろそろ例の『白の夜明け団』の捜査を始めなくてはならない。 日当が出るかは怪しいが、移動経費はコミッティ持ちなのだし。) 人間さん: …… (改めて、フィフティーンから渡されている捜査資料を広げる。) 人間さん: おびただしい枚数のパンツが失われている、か…… (真剣な顔を作って、それっぽくつぶやいてはみたが。) 人間さん: やっぱりくだらない気配がするんだよなぁ 10418 - 事件のあらまし (コンコン) 人間さん: 誰だ? (ふいに聞こえたノックの音に腰を上げる。扉を開けると――) フィフティーン: すみません、こんな夜に。 もしかしてお食事がまだかと思ってテイクアウトしてきたのですが 人間さん: えっ…… フィフティーン: 遅くまで資料を読み込まれているのではと思いまして、少しでもお力になれればと 人間さん: (こんな爆乳なのに気遣いもできる……なんていい子なんだ) 人間さん: (やっぱり帰ろうかなとか思ってた俺を殴ってやりたい) フィフティーン: あ、あの? 人間さん: あ、ああ。ありがとう。遠慮なくいただくよ。 ちょうど腹が減っていたところなんだ 人間さん: 良かったら一緒にどうかな。話も聞きたいし フィフティーン: あ、はい。ぜひ (俺は彼女を部屋に招き入れ、応接用のソファを勧める。 そして差し入れをテーブルに置き、俺は向かい側に丸椅子を置いて 向き合う形で座った。) (本当はソファに横並びになりたかったが、まだ早い。 というか、やましい気持ちは無い。 本当に詳しい話を聞きたかっただけだ。本当だ。) フィフティーン: 事件が最初に起きたのは2ヵ月ほど前のことです フィフティーン: そのときは声明も何もなく、 突如として町の一区画にいた人たち全員のパンツが消失しました 人間さん: パンツが消失……? フィフティーン: ……ええ。前触れもなく、気が付くとスースーしていたのです 人間さん: なんだと…… (町の一区画にいた人たち全員、つまり老若男女問わずだ。 俺は自分にそう言い聞かせた。) (何せ目の前にフィフティーンがいるので、 つい彼女のパンツが消えた状況を想像してしまって、大変股間に悪いのだ。 宿屋の主人であるおじいさんの顔を必死に思い浮かべて気持ちを静める。) フィフティーン: ふふっ……♪ 人間さん: え? フィフティーン: いえ。その後、同様の事件が3回ほど続いたところで、 現場にカードがばらまかれるようになりました 人間さん: カード? フィフティーン: これです (彼女がビニール袋に入ったカードをテーブルに置く。 証拠品なのだろうそれは、見覚えがあった。) 人間さん: これが現場に? フィフティーン: 消失が発生する直前にばらまかれ、そして消失直後に犯行声明がなされる。 現在ではフォーマットとして定着したこの流れは、 4件目の事件から始まっています 人間さん: それまでは実験だったわけか……? (幾度かの実験を重ね、そして確立されたタイミングで声明を出す。 そこから犯人たちが得られるものはなんだろう。) (第一に、パンツそのもの。第二に、承認欲求。第三に、人々の慌てふためく様。) 人間さん: 愉快犯だろうなぁ フィフティーン: 動機については不明ですが、当局もそのように見ています。 これだけ繰り返していて、何も要求をしてこない フィフティーン: 分かっているのは『白の夜明け団』という名前だけです 人間さん: 犯人はパンツをどうしてるんだろうな (老若男女問わずという時点で性的な目的は感じられない。 性的対象だけに絞り込む技術がない、という可能性もあるが……。) 人間さん: ま、現場を見てみないことには分からないか。 一応、ディマイト探知機とかは持ってきたし フィフティーン: 探知機、ですか。その小さな機械が? 人間さん: エルマイトもディマイトも探知できるんだ。 レオナっていう天才が持たせてくれたんだよ 人間さん: そう言えば、その子はフローレ・アカデミーの卒業生だぞ フィフティーン: 昼間、キャンパスに行かれたんですよね。どうでした? 人間さん: いいな、ああいう雰囲気。 ちょっと人間界が恋しく――って、フィフティーンはそのへん知らないか。 とにかく、楽しかったよ フィフティーン: リフレッシュできたのなら、何よりです。 ここへ来られる前もお忙しかったでしょうから 人間さん: そうだな……ホメーロスとも話して、事件を内々に解決する必要は感じたよ。 ここでボッチャーテ・キャンパスに変な噂が流れると いろいろ不都合があるだろうし フィフティーン: ではまた、明日からよろしくお願いします (席を立つフィフティーン。 名残惜しいが、いまの関係値ならこのくらいで席を立つのがごく普通だとも思う。) 人間さん: よろしくな、フィフティーン。 なに、どうせくだらない連中だろ。すぐ捕まえるよ フィフティーン: でも―― (フィフティーンは物憂げな瞳でこちらを振り返る。) フィフティーン: 元から町に根を張っていた怪盗団 『怪盗シニア』も話題をかっさらわれて面白くないようで…… 何やら不穏な動きをしている、という噂もあります 人間さん: シニア……? フィフティーン: 私の杞憂かもしれませんが、ね 10419 - 衝撃の事実 ハイプリーステス: ふー、やっと戻って来れた。なんだかんだ、キャンパスの敷地って広いよね。 ボクのこの細い足じゃ耐え切れないよ マジシャン: あなたが言うと嫌味にしか聞こえないわね ハイエロファント: あっ、皆さん。お茶飲まれます?いま淹れますね フール: こうしてみんな集まると、卒業前のことを思い出すな!楽しかっただろ ハングドマン: ああ、本当に……あの頃は輝いていた気がするよ マジシャン: 切なそうな顔して手に取ってるのが麻縄なんだけど。 ハングはまともな思い出はないわけ? ハングドマン: わたしにとってはどれも、キラキラした美しい思い出なのだが ハイプリーステス: こんな部室にちゃんとテキスト持ち込んでる人がいるじゃん。真面目でえらいなぁ ハイプリーステス: まあ、そんなのタワーしかいないだろうけど タワー: 単位、危なくて マジシャン: え、今年も!? フール: うん……。タワーはまた単位を落としそうなのだ…… ムーン: わたくしも何とか協力しようとしているのですが…… ハイプリーステス: 去年は、授業に出てるのに手違いで全部欠席になってたんだっけ マジシャン: 異議申し立てをしたのはいいけど、申し開きの日に事故で行けなくなっちゃったり ハイエロファント: 提出した課題がタワーさんのだけ風で飛ばされたり ハングドマン: 報われないというのは辛いものだな。 わたしも苦痛は歓迎だが、そういった虚無感を伴う不幸は耐えられそうにない フール: あたしよりタワーのほうががんばってるのだ! なのに、あたしの方が単位が多いのだ ハイプリーステス: あ、じゃあフールは卒業できそうなの? フール: だいぶ危ないのだ ハイプリーステス: 人の心配してる場合じゃなくない!? マジシャン: とはいえ、タワーの不幸体質が解決していない以上、このままだと ハイエロファント: 危ないでしょうねぇ フール: でもあたしもバカじゃないのだ ハイプリーステス: え、そうかな フール: ふっふっふ…… マジシャン: 今さらっとひどいこと言われたから、ちゃんと気づいて突っ込んだほうがいいわよ フール: 何もしなかったわけじゃないのだ。ふふん ハイプリーステス: はあ、そうなんだ フール: ふふん ハイプリーステス: …… フール: ふふん!ふんふんふん! ハイプリーステス: なんだよ、さっきから。指輪をこれ見よがしに見せつけてきて。 なに、イジってほしいなら素直にそう言いなよ フール: ふふん ハイプリーステス: はあ……。それ、何?どうしたの? フール: よくぞ聞いてくれたのだ! マジシャン: ほんと、よく聞いてくれたわリース。一生このままなんじゃないかと思ったわよ フール: これはすごい指輪なのだ! ハイエロファント: いやあ、そりゃもうさぞかしお高いんでしょうねぇ。 こんな素敵な指輪を付けこなすとは、さすがフール様、 気品が違いますなぁ フール: そういうことじゃないのだ ハイエロファント: ありゃ ハイプリーステス: フールのおだてに失敗してどうすんの ムーン: これはただの指輪ではなく魔法の指輪なのですよ~ ハングドマン: 魔法の指輪、だと?薔薇を模した装飾は、確かに見事な細工…… 値段が張るのは予想できるが……魔法……? フール: そうなのだ。これがキシ……ニシ?二回生? マジシャン: ……起死回生? フール: それなのだ!そのキシナントカのアイテムなのだ。 資格がちゃんとあるやつ、つまりあたしが使えばすごいことが起きちゃうのだ! ハイエロファント: はあ。すごいことですか ムーン: フール様の大発見なんですよ~ タワー: 本当に魔法の指輪 マジシャン: ……正直、フールがまた何か言ってるな、くらいにしか捉えてなかったんだけど、 ムーンとタワーまで言うなら本当に何かあるのね? フール: そう、これはあたしが生み出した超絶魔法 『逆位置の魔法』を発動する大事な仕掛けなのだ!! ハイプリーステス: 逆位置の……魔法……? フール: 見るのだ! マジシャン: その引き出しに何があるっていう―― マジシャン: !? ハングドマン: こ、これは! ハイエロファント: ……!?ぱ、パンツ!? ムーン: これが答えなのかも~ ハイプリーステス: 引き出しぎっしりのパンツ……ねえ、これってまさか フール: そう。ここは占いサークル『アルカナム』の部室であり、そして フール: 『白の夜明け団』のアジトなのだ 10420 - 「白の夜明け団」の正体 ハイプリーステス: 白の夜明け団って……ここ最近、世間で話題になってる、 パンツを一斉に盗んじゃうっていう…… フール: そうなのだ。あれはあたしが生み出した超絶魔法なのだ ムーン: わたくしたちも参加してるんですよ?主にパンツを畳んだりとかで タワー: あったかい ハングドマン: 誰が履いていたかも分からない脱ぎたてパンツを素手で……!? ムーン: そうですよ~。脱ぎたてほかほかです~ ハイプリーステス: ハングが気にしてるのはそういうことじゃないと思うよ マジシャン: いろいろ聞きたいことはあるけど……まず、あれは魔法なのね? ムーン: はぁい、そうなんですよ~ ハイエロファント: い、いやぁ、まさかあの、話題沸騰中の 『白の夜明け団』がこんな身近なところにいたなんてねぇ! マジシャン: パンツなのはともかく、あれだけ大量の対象物を一斉に転移させる、 魔法として考えたときにかなりの大技だわ。 フールにそんな魔力や魔法技術があるとは思えないのだけど ムーン: 魔法じゃないのかも~ ハイプリーステス: いや、どっち!? フール: あたしの隠れた才能が大開花した、ってことしかわかんないんだ ハングドマン: フール自身も、よくわかっていないのか フール: 一生懸命、うんうんいって研究してたら、なんかできちゃって…… 自分の才能が怖いのだ ハイプリーステス: そんなあやふやな状態のまま、よくあんなに実践で使ったね!? タワー: そう。危ない マジシャン: 偶然の産物だとして、もうひとつ聞かなくちゃいけないのは…… 何のために、ってことね ハイエロファント: お金ですか?それとも名誉? いずれにしても、あっしはもう皆さんについていきますからね ムーン: えっと……お金にはらならないと思います~。 名誉も、匿名での活動ですから…… 承認欲求がちょっと満たされるとかその程度でしょうね~ ハイエロファント: ええ~……? ハイプリーステス: だとは思ったよ。 戦利品であるパンツを、売るわけでもなく丁寧に畳んで引き出しに入れてある…… これっていつか返すつもりなんじゃないの? ムーン: 4人で話し合って、パンツはいつか返そうってことにしたんです~ マジシャン: それでもリスクをとって行動に移してる……見つかればただじゃすまないわ。 返すつもりがあったとしても、パンツを剥ぎ取ってるんだから タワー: 私のせい ムーン: タワー様、そんなことないです。 恩恵なら他のメンバーだってみんな受けてるんですから~ ハイプリーステス: 恩恵……? フール: さて……おまえたちは秘密を知ってしまったわけだが ハイプリーステス: えっ。待って待って、 聞きたくもないのに一方的に聞かされて何かされちゃうわけ!? ハイエロファント: あっしら、消されるんですかい!? ハイエロファント: いやあ、フール様。 あっしは前からあなた様がすごい才能に満ち溢れてると確信してたんですよぉ! フール: そうだろう、そうだろう ハイプリーステス: よく、ここまで見え見えのお世辞に乗っかれるね ハイエロファント: あっしを置いとくと、とってもいいことが起きますよ! 何が起きるかは今から考えますけど マジシャン: 消すとかじゃないでしょ。……もう、だいたい何を言われるかは予想できてるわ マジシャン: 協力しろ、っていうんでしょ。『白の夜明け団』に。 なんなら一員になれっていうんじゃないかしら フール: ……!? フール: さすがマジシャンなのだ!おまえ、相変わらず予知能力が冴え渡ってるのだ マジシャン: いや、ただの簡単な予測だから フール: 分かってるなら話が早いのだ。みんな……ここまで聞いたからには一年畜生なのだ 全員: ……? ハイエロファント: ちくしょ……? ハイエロファント: チクショー!! ハイプリーステス: 急に奇声あげるのやめて!? マジシャン: それをいうなら一蓮托生ね フール: それそれ ハイプリーステス: まさかとは思うけど、『白の夜明け団』のリーダーって…… フール: もちろんこのあたし、フール様……あらため、謎の大怪盗、ゼロ様なのだ!! 卒業生たち: ゼロ……!? 全員: ………… ハングドマン: いや、団の名前は聞き及んでいたが、リーダーの名前は初めて聞いたな フール: うん、いま考えたからな マジシャン: 計画性……っ!! 10421 - Tバック フィフティーン: すみません、こんな深夜に (この町に着任して数日が経った。捜査に進展はないままだ。 というのも、白の夜明け団側に動きがないのだ。) (それなりに現場検証をしたりと捜査活動はしているのだが 目立った成果は上がっていない。 そんな焦りを紛らわせようと――俺は日課をこなそうとしていた。) フィフティーン: 少し気になる情報を得たので共有をと思いまして 人間さん: そ、そうか (日課に着手する直前だったので事なきを得たが…… 心臓にも股間にも悪いタイミングだ。) フィフティーン: 黄金のTバックに関する情報です 人間さん: 黄金の……なんて? フィフティーン: Tバック、です (聞き間違いではなかったようだ。しかもフィフティーンの目は笑っていない。) (ガチなのか。ガチで言ってるのか、この人。 いやでもオトギノクニのトンチキアイテムは今に始まったことではない。) フィフティーン: 情報筋によると、黄金のTバックが現在、 この近隣の町に入ってきているようなのです フィフティーン: 先日もお話した『怪盗シニア』も狙っているという噂もあります。 あくまで噂ではありますが、もし本当に黄金のTバックが近くにあるなら 怪盗を名乗る以上、狙うのは当然です (黄金のTバックとは何なのか。それが気になって話があまり頭に入ってこない。) (しかし、フィフティーンはそのことについてまったく説明せず、 こちらが知っているテイで話をどんどん進めていく。 もしかして、知らないと恥ずかしいレベルの常識なんだろうか。) フィフティーン: となると『白の夜明け団』の本当の狙いも、まさにそこにあるのでは、 と考えられます。 これまでの犯行は目くらまし、陽動、あるいは実験―― (犯行前に、規模の小さい犯罪を発生させることで、警察の到着時刻や 逃走経路についてシミュレーションする、という話を聞いたことがある。 白の夜明け団が起こした事件もそうだというのか。) (実験にしてはずいぶんと大規模だが、 彼らの狙いがわからない以上、否定する材料もない。) (それより……。これ以上は耐えられず、俺は手を挙げてフィフティーンを遮り、 意を決して聞いた。知らぬは一生の恥だ。) 人間さん: すまない、フィフティーン。そのアイテムのことだけど―― フィフティーン: これは失礼。そうですね、実体はあまり知られていませんから…… フィフティーン: こういう形状をしています (いうなり、フィフティーンはこちらに背を向けると衣服をまくりあげた。 そこには、黄金ではなく深紅のTバックがあった。 俺は思わず目を奪われる。) フィフティーン: ご覧いただけましたか? 人間さん: う、うん…… フィフティーン: ひとまず報告は以上となります。 また動きがあり次第、共有させていただきますので 人間さん: わかった フィフティーン: ふふっ…… (フィフティーンが部屋を出た後、大急ぎで日課に取り掛かった。 目に焼き付いてしまったフィフティーンのお尻。 一度では煩悩は取り払われない。) (結局、一度終わっても寝付けず、二度目に着手。 それでも寝付けず……を繰り返し……。) (気が付けば窓の外は白み始め、夜明けを迎えていたのだった。) (背景切換...) マジシャン: …… (彼女はひとり、考えを巡らせながら家路についていた。 頭にあるのはもちろん、かつてのサークル仲間から告げられたあの一言だった。) マジシャン: ……『いずれ連絡する』か…… マジシャン: ……このままでいいはずないわ。ろくな結末にならないことは分かってるのに (背景切換...) ???: 何ちんたらやってんだよ!遊んでんのか!? ???: 頭でっかちのフローレ卒は、本当に使えないな! ???: 優秀なんじゃないのかよ。話が違うぞ、こんなの (背景切換...) マジシャン: 私は…… (背景切換...) フール: だってマジシャン、お前はこの『アルカナム』の元部長なのだ フール: いつも頼りになるやつだったのだ。だから―― (背景切換...) マジシャン: ………… マジシャン: 私なんて…… (ふいにスホマが鳴る。手に取るとメッセージが届いていた。) マジシャン: ……『水曜夜、決行する』 マジシャン: ………… (迷いの滲む表情で、マジシャンは画面をスクロールする。) マジシャン: 『なお参加者は白い下着で統一すること』 マジシャン: …… マジシャン: ……え、なんで? 10442 - 新体制での初陣 (オトギノクニにおける魔道具製造のシェア15%を誇る、大手メーカー ムラビト製作所。) (マジシャンは勤め先である、その第八倉庫内でピッキング作業をしていた。 学歴に見合わない単純作業に彼女は少なからず不満があったが、 今日ばかりは助けられていた。考え事をしながら働くにはうってつけだ。) マジシャン: (いよいよ……今日、決行ね……) マジシャン: (本当なら……私はみんなを止めるべきなのよね。 わかってる……わかってるけど……) マジシャン: (どこかで私も楽しんでる……?) 先輩: おー、新入り。商品の数が合ってねえぞ。計算もできねえのか。 フローレ卒なんだろ? マジシャン: あっ……?いえ、ちゃんと数えたはずなんですが 先輩: 毎日何かしらミスってんじゃねえか マジシャン: (こんなんじゃいけない……私が、こんなところでつまづいてたら…… これまで頑張って来たことが無かったことになってしまうわ……) (背景切換...) フール: お、来たな。あとはハングか マジシャン: みんな揃ってるみたいね ハイエロファント: あっしは出先から直帰しますって嘘ぶっこいてきました ハイプリーステス: ボクも適当に切り抜けて来たよ ムーン: リース様は公務員なので時間通りに帰れるのかと思ってました ハイプリーステス: いやいや、官庁街にくれば分かるよ。夜中まで明かりついてるから タワー: ハングのところはブラック フール: 現地合流って連絡あったぞ マジシャン: そうよね、仕方ないわ マジシャン: ――と言いたいところだけど、 そんな飲み会みたいなテンションで本当に大丈夫なの……!?だって、今日は フール: 8人体制になった『白の夜明け団』のウイ……ウィー? タワー: 初陣 フール: それだからな!作戦も考えてあるっ! ハイプリーステス: フールが考えた作戦……? フール: あたしが編み出した超絶魔法は、なんか魔力を仲間に渡す感じなんだ。 その仲間で囲った場所がパンツを盗める場所になる マジシャン: ああ、分かったわ。それぞれが術式範囲のポイントになるのね ハイプリーステス: ただし距離には限界がある。だから人数が多ければ範囲が広くなるんだね ハイエロファント: さすがですねぇ。おふたりとも、1を聞いて10を知る…… あっさり仕組みを理解するなんて フール: あたしの説明が上手だからな タワー: 根拠のない自信 ハイプリーステス: なるほどね。でも範囲を広くするだけのことを作戦っていう? フール: 違うのか? ハイプリーステス: まあ、どっちでもいいんだけどさ フール: さあ、それじゃあ出発するぞっ!『白の夜明け団』出動! (背景切換...) (夜も更け、町に明かりが灯る。 その光の隙間を縫うように、路地から路地へと移動する集団。 そう、『白の夜明け団』たちだ。) フール: やっぱり夜はこっそり動くのにぴったりだな タワー: 問題は数 (昼間は賑やかな通りも、夜になれば通行量が減る。 とは言え、飲み屋街も近くにあるので人が皆無ということはなかった。) ムーン: でもやっぱり昼間に比べるとパンツが少ないので、効率は良くないかもしれませんね ハイプリーステス: 人数って言おうよ、そこは。パンツが少ないって、なんかやだよ マジシャン: そう言えばこれまでは昼間に事件が起きることがほとんどだったわ。 夜に指定したのって、もしかして フール: みんな仕事だろ ハイプリーステス: ボクたち社会人組に配慮して……?いや、それでいいの?部活じゃないんだから ムーン: サークルですもんね ハイプリーステス: そういうことじゃなくて タワー: サークルの延長線上にあるし ハイプリーステス: それはそうだけど…… マジシャン: いいんじゃないの? 範囲を広げたことと、人口密度が減ったこと、差し引きどれくらい影響があるかは 綿密なデータがないと断言できないし ハイプリーステス: あー、確かにそうかも ハイエロファント: いやあ、さすがリース様とシャン様の知性溢れる会話は、 わたくしの脳にビンビン来ますねぇ。カッコいいですよぉ ムーン: わたくしも前から素敵だと思ってましたよ ハイプリーステス: まあ、やってみるしかないかぁ。 それに、こういう微妙な状況だとフールの判断って意外と光るからなぁ フール: えっへん! ハイプリーステス: 完全にまぐれなんだけどね ハイエロファント: あ、あれハングさんじゃありませんかね ハングドマン: すまない、待たせてしまったな。 散々嫌味を言われたが、なんとか抜け出すことができた ハイエロファント: 相変わらず真っ黒ですねぇ フール: よし……それじゃ配置につくぞ。えーと、まずリースが……どこだっけ ムーン: 南東の郵便局裏ですね ハイプリーステス: 了解 フール: それで、ハングが……どこだっけ ハングドマン: ひとつも覚えられてないじゃないか。大丈夫か? ムーン: 南東の郵便局裏ですね タワー: そこ、さっきもリースに伝えてたけど ムーン: リース様は南西の金物屋ですね ハイプリーステス: え、さっきと違わない? フール: わかんなくなってきたぞ……!もういいや、みんな好きにしろ! タワー: そんな適当なの、絶対だめ マジシャン: 大丈夫かしら…… 10443 - 白の夜明け団との邂逅 (この町は学園都市に選ばれただけあって治安も良い方だし、 それでいて夜も栄えていて、過ごしやすい。 かといって、仕事は仕事だ。いたずらに長居はできない。) (できないのだが……。) 人間さん: いやあ、まさかあんなにエロ本が充実している店があるなんてなぁ。 エッチなお店もあったし、これは変帝に共有しなきゃ (今日の戦利品を堪能しながら日課に勤しむ。 そして気分もいよいよ高揚して、その瞬間へと――) (バァアアアアァァァン!!) フィフティーン: 人間さん、大変です! 人間さん: なんだ、どうした。とりあえずノックはした方がいいぞ 人間さん: (あっぶな……僅かな気配を感じ取ったおかげで、 とっさに中断してズボンを上げることができた……。 スカーサハに稽古をつけてもらったおかげだな……) フィフティーン: なんか、匂いますね 人間さん: えっ フィフティーン: こう……海産物のような……なんだかぞくぞくするというか、 決していい匂いではないのに嗅ぎたくなるというか 人間さん: (寸止めだったんだ……バレるはずは……だ、大丈夫かな) フィフティーン: あっ。そんなことより!大変です、例の……『白の夜明け団』が動いたんです! 急ぎましょう! 人間さん: わ、わかった フィフティーン: ……早くしてください。何で前かがみなんですか 人間さん: 気にしないでくれ フィフティーン: ふふっ……♪ (背景切換...) (フィフティーンが用意してくれた緊急馬車に乗り、俺は現場へと急いだ。 着任してから初の事件発生だ。おのずと緊張感が高まる。) フィフティーン: 現場は西19丁目の繁華街です。 この時間でも比較的、人の往来は多いエリアと言えます 人間さん: 19丁目って 人間さん: (なんか札幌みたいだな。どういう区画になってるんだ、この町) フィフティーン: 例の、カードがばらまかれたという通報がありました。 発生から3分、なんとか犯行前に――あっ、あの角です (俺は転がり出るようにして馬車を降り、現場とされる一帯へ走る。 フィフティーンの報告通り、地面にはカードが無数に散っていて 人々は混乱を極めていた。) (落ち着かせようと、周囲の人々に声をかけようとしたそのとき――) ???: はーはっはっは!逃げ惑え、愚かな愚民ども! 人間さん: !? 人間さん: この声……魔法じゃなく拡声器を使ってるのか?音割れがひどいな。 それより『愚か』な『愚民』って。頭痛が痛いみたいになってるぞ ???: 我が名は『白の夜明け団』を率いる稀代の天才、ゼロであるっ! 人間さん: そこまでだ! ???: ――っ!? (拡声器を通じて息を飲む気配が伝わって来た。そこで俺は確信した。 ゼロとやらは、この様子をリアルタイムで見ている。 音声が録音の可能性は消えた。) 人間さん: 俺は特別捜査官の人間さんだ! 連邦法修正十三条違反の疑いで、お前たちを逮捕する!! ???: と……特別捜査官……? (はっきり言おう。俺は別にオトギノクニの法律に詳しくない。 連邦ってどこ?十三条って何?) (ただただ、雰囲気を味わいたくて言ってみた。実際、すごく気持ちがいい。 人間界で見たアメリカドラマを演じているような錯覚に陥る。) フィフティーン: 人間さん、逮捕するにしても相手の姿が見えなくては 人間さん: うっ、それはそう ???: ふん……このゼロ様と仲間たちを逮捕だとっ?やれるもんならやってみろ! こっちは大怪盗なんだからな! ???: お前も、他のやつらも全員……パンツを脱げ!! 人間さん: あっ…… お兄さん: パンツが!なくなった! お姉さん: やあああっ!今日デートだから勝負下着だったのにぃ! 少女: うわああああん!スースーするよう! おじいさん: た、大変じゃ……わしのオムツがパンツと判定されてしまった。 このままでは社会的に死ぬ……早く帰宅せねば! 人間さん: みんな落ち着くんだ! 特に後半、聞きたくもない情報が入って来たから本当に静かにしてほしい!! 人間さん: とは言え、俺も……寸止めで刺激に敏感だというのに、 直接ズボンの固い布地に当たると……うっ フィフティーン: 人間さん!大丈夫ですか! 人間さん: け、検問だ、フィフティーン!周囲に非常線を張れっ! フィフティーン: でも犯人の特徴がまるで分からないですよ 人間さん: そうだった……。くそっ、してやられたか! (背景切換...) (地団太を踏んで悔しがる人間さん。 その様子を物陰から見届けていたフールは、にやりと笑みを浮かべた。) フール: くっくっく……大成功なのだ。これは本当にあたし、天才なのでは? 10444 - 成功の宴 フール: よしっ、全員無事に揃ったな ハイエロファント: フール様の名采配のおかげですよぉ ハイプリーステス: いやあ、無事も何もこの魔石を持って突っ立ってるだけだし。 そんな危ないことじゃないからなぁ フール: その石っころが食パンになって超絶魔法を発動するんだ。大事な役割なんだぞ マジシャン: 食パン……? タワー: 触媒 フール: それだ マジシャン: ああ…… ムーン: それに、ここからが本番ですよね ハングドマン: 逆位置の魔法……というやつだな? フール: いくぞ。なんかよくわかんないけど、すごいからな フール: この指輪をかざして―― ハイプリーステス: うわっ!? ハイエロファント: まずいですって! こんな強い光を発したら、さっきのナントカってやつに見つかっちまいます! フール: 大丈夫、もう終わったぞ マジシャン: え、もう? ハングドマン: これで何が起きたんだ? フール: 触媒を通じて、持っていたやつには逆位置の魔法の効果が及んでいるはずだ。 それより、この場を離れて……打ち上げにでもいくぞ タワー: …… (背景切換...) 全員: かんぱーい! ハイエロファント: 犯行直後にこんな現場近くで飲んでるなんて思わないでしょうねぇ ハングドマン: ふふっ……逮捕されたらされたで、拘束されてひどい拷問を受けるに違いない。 わたしはそれで一向にかまわないのだが ハイエロファント: やめてくださいよ。わたくしまで巻き込まれたら、たまったもんじゃないんですから マジシャン: 逆位置の魔法、ねぇ……。今のところ効果を感じないんだけど フール: 効果の感じ方は人それぞれだからな。明日、仕事に行ったら実感するかもしれないぞ マジシャン: ……そうなのかしら ハイエロファント: それより、ちんたらしてないで注文しましょうよ。 お通しだけで何時間も飲んだりできませんって ムーン: わたくし、砂肝が食べたいです ハイプリーステス: こっちのメニューにお刺身もあるよ ムーン: さっき、まぐろのブツを頼んだので一旦待ちましょう。 先に焼き物を頼んだほうがいいと思います ハイプリーステス: ……? フール: ムーは分かりやすいんだ ハイプリーステス: ……これ、逆位置の魔法の効果? マジシャン: ムーンがそんなにサクサク決めてくれるなら、私は任せるわ ムーン: すみませーん。この串焼きの盛り合わせ、大きい方と…… あと単品で砂肝。それからモツ焼きを…… フール: さて、次の計画を立てておかないとな ハングドマン: 曲がりなりにも怪盗団、となればもっと大物を狙うのはどうだろうか タワー: おおもの? ハングドマン: 例えば……郡領主の屋敷に侵入するとか ハイプリーステス: 当り前だけど、あそこの警備はすごいんだよ? ハングドマン: そうだろうな。だからわたしは捕まってしまい、 そして地下牢に連れて行かれるんだ。仲間のことを吐けと言われて縛り上げられ、 変態領主にこの身体を弄ばれ……あぁっ!! ハイエロファント: いやほんと、捕まるならひとりでお願いしますよ ハイプリーステス: 相変わらずだなぁ、ハングは ハングドマン: リースだって、もう成功することが分かっているミッションより そういう壁がある方が昂るんじゃないのか ハイプリーステス: それはまあ、分かるけどさ…… フール: 確かに大物を狙うのはアリかもしれないな。まだまだ逆位置の魔法も不完全だし、 大物を狙うことでより補完されるのかもしれない マジシャン: フール、あなたさっきから…… ムーン: そういうことなんですよ、マジシャン様 マジシャン: えっ? フール: そんな有名どころを狙うなら、まず予告状を出すか。 いよいよ怪盗団ぽくなってきたぞ ハイエロファント: 予告状~?そんなリスクしかないようなもん、なんで出したいんですかねぇ マジシャン: 予告状と言えば、カードをばらまく意味ってなんなの? フール: 雰囲気だ。かっこいいだろ マジシャン: そんな理由で……? 店員: お待たせしました、串とモツ焼きの盛り合わせ、それに単品で砂肝です ハイプリーステス: レモン絞っていい? ムーン: どうぞ。わたくしの砂肝にはかけないでくださいね ハイプリーステス: うん、美味しい~ ハングドマン: こうして気を許せる相手との酒席は久しぶりだな。 家に帰ってベッドに倒れると気を失うので、酒を飲むこともなくなってしまった ハイエロファント: 本当に怖すぎるんですけど、ブラック ハイプリーステス: ねえねえ、後で生牡蠣も頼まない?ボク、なんだかんだでナマが一番好きなんだよね マジシャン: リースが言うと、なんだか卑猥な意味に聞こえるのよね ハイプリーステス: なんでだよー!ボク、別に下ネタ大魔神じゃないじゃん。デビルじゃないんだからさ ムーン: デビル様ほどじゃないにせよ、リース様からもなんとなく ちょっとエッチな雰囲気が出てるんですよね タワー: うっ! フール: ん?どうした、タワー タワー: レバーが…… ハイエロファント: あっ、まだ全然赤いじゃないですか。生焼けですよ!? ハングドマン: わたしの方は問題ないのだが…… フール: あたしもだ。ってことは…… タワー: うん、私だけだね マジシャン: タワーの不幸体質……ってことね ハイプリーステス: ……タワーは生牡蠣、やめといた方が良さそうだね 10445 - ニアミス ハイプリーステス: ふう、久しぶりにたくさんお酒飲んだからかな。おしっこ近くなっちゃった ムーン: トイレならそこ右に曲がった奥ですよ ハイプリーステス: はーい、いってきまーす フール: しかし、今日は驚いたな。ついにあんな特別捜査官なんてやつが出て来るとは…… ハングドマン: あの肩書や雰囲気からすると、どうやら都会の方から来たやり手なんじゃないか? ハイエロファント: でもまあ、わたくしたちは捕まりませんでしたけどね フール: あたしたち『白の夜明け団』もいよいよ有名になってきた、ってことだな! マジシャン: そうなんだろうけど……大丈夫なの? あんな人まで出て来たのにまだ続けるつもりなんでしょ フール: だって、目的を達成できてないんだぞ。それはさっき分かったところじゃないか タワー: …… (背景切換...) (ピロンポロン♪ピロンポロン♪) 店員: らっしゃーせー!2名様で? フィフティーン: ええ、できれば半個室の―― マジシャン: !? ハイエロファント: やばっ、あの男……! ムーン: さっきの、特別捜査官とか言ってた人ですよ……!? フール: みんな、顔を伏せるんだ フィフティーン: ……。人間さん、こっちの席だそうです。奥へどうぞ 人間さん: ああ、ありがとう。それにしても、勝利の美酒になる予定が…… 結局、宿に戻ってパンツを履き直すことになるとはな 人間さん: ………… フィフティーン: 人間さん、どうしました?どうぞ、座っていただいて 人間さん: いや、ちょっとトイレ。ノーパンでずっと過ごしてたらなんか冷えちゃったのかも。 とりあえず生ビール頼んどいて フィフティーン: かしこまりました。トイレはそこの奥です 人間さん: ほーい フィフティーン: …… タワー: …… (背景切換...) (トイレと案内された扉を開くと、無駄に広い廊下に出る。 左右を確認すると、奥にそれらしき表示が見つかった。) 人間さん: うう……おしっこ漏れそう (本当なら俺の勇姿を見せつけてフィフティーンの好感度は 高止まりしているはずだったのだが……。 そうそう、うまくいくものではない。) 人間さん: まあ、初回だしな。これで色々情報も集まったわけだし、ここからが本番…… って、うぁ、先客がいるっ (トイレのドアノブ近くにある表示は赤になっていた。 隣のドアに目をやるが故障中の張り紙がある。) 人間さん: くう……そこそこのハコなのにトイレ1個ってなんだよっ…… (思わず毒づいてしまったが、早々に扉の向こうで水の流れる音が聞こえ、 赤いサインが青へと切り替わる。助かった。 中でスホマいじったりしてたら、どうしてやろうかと。) ハイプリーステス: あっ、すみません。待たせちゃって 人間さん: いえいえ ハイプリーステス: あっ……!? 人間さん: え? ハイプリーステス: いえ、なんでも。それじゃあ 人間さん: (あー……男女共用だもんな。ドアの前に男が立ってたら気まずいか。 というか怖いのかもな、ここはオトギノクニだし何があるか分からないよな) (先客と入れ違い、トイレの中に入り扉を閉める。 そしてズボンを下ろし、限界に近づいていた尿意を解放し――) 人間さん: あ、いけね (便座を下げて座る。) 人間さん: (立ったまますると飛び散るからって、 家でよくヴェルメリオに怒られたからな……。 さすがに俺も最近は学習したんだ) 人間さん: ふう……それにしても、我慢を重ねた末の放尿って、 アレよりも快感だったりするよなぁ…… (背景切換...) ハイプリーステス: ただいま。ねえ、ちょっと今トイレで マジシャン: あの男に会った? ハイプリーステス: あ、みんなも気付いてた? フール: 店を変えよう。もったいないから残ってるのはあたしが全部急いで食べる ムーン: すみません、お会計で 店員: え、もう?何か不手際がありましたか……? ハイエロファント: レバー串が生焼けだったんすよ ハングドマン: いま、それを言ったらクレームになって話が大きくなるだろうっ…… マジシャン: あの、大丈夫です。急用があって タワー: まとめて払う。後でみんなの分ちょうだい 店員: あ、あの、すみませんでした ムーン: 大丈夫ですから。また来ますね、それじゃあ フィフティーン: ………… フール: ………… タワー: さあ、もう行こう 10446 - 次なる標的 人間さん: ふう、お待たせ フィフティーン: もう生ビールが届いていますよ。 あとお通しだけだと寂しいので適当にスピードメニューだけ頼んでしまいました 人間さん: ああ、もろきゅうね。ありがとう フィフティーン: 人間さん、今日はその…… 人間さん: 失敗しちゃったなぁ。さすがに初手で華麗に逮捕とはいかなかったよ フィフティーン: そうですね 人間さん: まあでも、完全敗北って感じじゃないかな フィフティーン: そうなんですか……? (席に腰を下ろし、ひとまずジョッキを握る。 勝利の美酒でないのは残念だが、今後の打ち合わせも兼ねてと 食事に誘えたのは僥倖だ。) 人間さん: まあまあ、とりあえず乾杯 フィフティーン: あ、乾杯…… 人間さん: …… (でかい。ジョッキの話ではない。いやジョッキも普通サイズで良かったのに 気を利かせたつもりなのかメガジョッキが注文されてはいるが。) (目の前の谷間に視線が自然と吸い寄せられてしまう。 おっぱい星人でなかったとしても、 これだけの存在感があれば自然と見てしまうのではないだろうか。) 人間さん: ところでフィフティーン フィフティーン: あの、谷間を見ながらお話するのはちょっと 人間さん: あっ、いや、ごめん。ちょっと酔いが回ったのかな フィフティーン: 一口で? 人間さん: それより!例の……黄金のTバックとやらは、所在は分かったのか? フィフティーン: ……鋭意捜査中です。 販売ルートまでは特定できましたので近日中には判明すると思われます 人間さん: そうか。分かったらまた教えてくれ フィフティーン: はい フィフティーン: ……あの、今後の方針を話し合うというのはその件ですか? 人間さん: まだ今日、情報が色々と集まったところだからなぁ。考えを固めるには時間がほしい (資料や聞いた話では分からないことも、実際に対面すると分かることは少なくない。 もっとも対面はかなわず、声だけなのだが。) (しかし、考えをまとめるにはもう少し時間がほしい。) フィフティーン: では、この打ち合わせは何のために…… 人間さん: あっ (……しまった。 爆乳美女と一緒に食事したいだけだった、などとはさすがに言えない。 俺は目を泳がせ、しどろもどろになってしまうのだった。) (背景切換...) ムーン: さすがに、あれだけだとまだお腹もすいていますね ハイエロファント: 次のお店、適当に探しましょうか ハイプリーステス: ねえ、みんな。本当に次の計画、やるつもり? フール: うん。さっき決まっただろ。領主の屋敷に突撃するんだ ハングドマン: ああ……!ついに、変態領主に捕まって辱められる、 というわたしの妄想が現実に……! ハイプリーステス: いまの領主ってものすごく良識的って評判なんだけどね…… マジシャン: ……大丈夫なのかしら フール: 見ただろ。今日のあたしたちの活躍を ハイプリーステス: ボクはなんとかなるよ。 でもフールが捕まったりしたら、それこそもう一生卒業できなくなっちゃうよ フール: 違うぞ。このままやめたら、それこそ卒業できなくなる。 逆位置の魔法を完成させてこそだぞ タワー: 勉強はがんばらないことに決めたんだね フール: そのへんの話もしたいし、そろそろ店を決めるぞ。ムー、見つかった? ムーン: はい、この先にちょうどいい感じのお店があるみたいです マジシャン: ……ごめん。私は今日はここで帰るわ ハイエロファント: あれ、そうなんですかい。残念ですねぇ マジシャン: 明日も、朝早いから ハングドマン: わたしはもう、寝たら終わりだと思うので夜通し起きていようかと! ハイプリーステス: ハングはタフだなぁ マジシャン: それじゃあ、また連絡ちょうだい。お疲れ様 フール: おー!また遊ぼうなー! マジシャン: ………… マジシャン: 止めるなら、私しかいない……のよね…… (背景切換...) マジシャン: ……いろいろ考えて眠れなかったのに、仕事は容赦なく朝から忙しい……。 当たり前のことだけど…… (マジシャンは今日もムラビト製作所の第八倉庫でピッキング作業をしていた。) 先輩: おい、新入り!なんだこりゃ、伝票と全然違うじゃねえか! フローレ卒の肩書が泣いてるぞ! マジシャン: ……っ! マジシャン: (また……!私はずっと優秀な成績を収めてきたのに……っ) マジシャン: ……!? 先輩: あ?なんだ、怒られてるのにぼんやりしやがって マジシャン: (光った気がしたけど……私しか気づいていない……?いえ、それよりも……) マジシャン: すみません。何か気が急いてしまって。なかなか商品が探せなくて、 どんどん遅くなってしまうので…… 先輩: …… マジシャン: なんだか私、要領が悪いみたいなんです。気を付けます 先輩: ……慌てなくていいんだって。落ち着いてやれば大丈夫だから。 入れ直すより、ゆっくり正確にやった方が早いぞ マジシャン: え……あ、はい…… 先輩: それとな、ここの商品コードの上2桁で棚の場所が大体わかるから―― マジシャン: は、はい……! マジシャン: (あれ……?いつも当たりの強い先輩が優しい……ような……?それに私も……) マジシャン: (別に、がんばらなくていい……そう思えてるような気がする……) 10457 - 特別捜査本部設置 人間さん: ……よし (昨晩、フィフティーンに頼んで縦長の用紙、 そして筆と墨汁を用意してもらったおかげで、見事に完成した。) (正確には、絵筆と黒の絵の具なのだが、ここはヤマトの国ではないので仕方ないだろう。) ???: 『白の夜明け団事件特別捜査本部』…… 人間さん: ――っ!? (隣から、書き上げた看板を読み上げる声が聞こえて、思わず飛び上がりそうになった。) 人間さん: えーと……? マジシャン: あ、すみません。通りすがりの者です (見知らぬ町で美女からまさかの逆ナンパ。と思いたいところだが、 捜査本部の看板を見かけて声をかけてきたのは間違いない。事件の関係者だろうか。) (住民の多くがパンツを盗まれているので、被害者はかなりの数だ。 ほぼ町のすべてが関係者と言えなくもない。) 人間さん: (こんな美女もパンツを盗まれて、ノーパンで家に帰ったわけか。 そう考えたらムラムラし……じゃない、犯人を許せなくなってきた) マジシャン: 少々お聞きしたいことがあります マジシャン: もし……この白の夜明け団が捕まったら、どれくらいの罪になるんでしょうか 人間さん: ううむ、そうだな…… (難しい顔をしてもったいつけてみたが、頭の中はフル回転だ。 オトギノクニの司法制度なんてまったく把握していない。) 人間さん: どうしてそんなことを聞くんだ? マジシャン: その……知り合いが被害に遭ったので 人間さん: そうだな……あくまでもパンツを盗んでいること以外は、法に触れるようなことは…… い、今のところは、確認できていないからなぁ マジシャン: では、罪は軽い……ということでしょうか? 人間さん: (ん……?) 人間さん: (心なしか、どこか安堵したような雰囲気…… いや、気のせいか。知り合いが被害者なんだしな……) マジシャン: でも1つ1つは罪が軽くても、数が多いですよね 人間さん: (えっと何だっけ……なんかちょっと勉強した気がするんだけど…… 併合罪?みたいなのあったよな。あれって結局、どうなるんだっけ……) マジシャン: やっぱり数が多い分、重くなるんでしょうか? 人間さん: 1つだけのときよりは、まあその、重くなるのは間違いない…… どれくらい変わるかは、えーと、時と場合によるというか、裁判所の判断になるかな マジシャン: そうですか…… 人間さん: その知り合いは、厳罰を望んでいるってことか? マジシャン: あ、いえ、単純な興味のようです。 下着を盗まれたくらいで、いちいち騒ぐつもりもないとのことで マジシャン: 自分だけが盗まれた場合は、何者かに標的にされたという恐怖や嫌悪感があるので 話は変わりますが……町中の人が標的なら、そういった要素はありませんし マジシャン: なので風に1枚飛ばされたのと大差ない、と言っていました 人間さん: あー、なるほど。確かに、自分を標的にしている場合は 犯罪がより悪質に発展する可能性はあるからな マジシャン: き、きっと町の人みんながそういう気持ちなんじゃないでしょうか。 何度か繰り返されていますから、複数枚取られたり、 まあまあ高い下着を失った人もいるかもしれませんが 人間さん: ……?君は…… フィフティーン: 人間さんっ!大変です!! 人間さん: どうした!? フィフティーン: それが……領主の屋敷に、よ、予告状が……!! 人間さん: 予告状だと!?それは……白の夜明け団からか フィフティーン: はい……!今朝早く、屋敷の門に挟んであるのを、使用人が発見したとのことで…… 人間さん: 予告状か……これまでにない、初のパターンだ……。 これが一体、何を意味するのか…… マジシャン: …… 人間さん: すまない、現場に行かなくてはならないので、これで失礼する マジシャン: は、はい…… マジシャン: 予告状の意味…… (背景切換...) フール: そんなの、カッコいいからに決まってるだろ! ハイプリーステス: ええ?そ、それだけ!? ムーン: いいと思いますよ、カッコいいのは大事です ハイエロファント: 予告状を出すのにそれなりにリスクあると思うんですがね ハングドマン: リスク……ふふっ、望むところではないか ハイエロファント: いや、あっしもリターンがあるなら考える余地はあるんですがね フール: 怪盗シニアとかいうのも予告状を出してるらしいじゃないか。 そいつだけ目立ってるのはずるいだろ タワー: ずるいとか、そういう話? ハイプリーステス: むしろ棲み分けしてたのを荒らしに行く感じにならない? ムーン: そうですよね。出す意味がないです ハイプリーステス: いや、だからどっちなんだよ フール: ほら、みんな逆位置の魔法の効果が切れ始めてるだろ。 ここは一発、ガツンといくべきなんだ ハイエロファント: そのガツンが、魔法の効果に結び付くって保証は…… フール: そんな気がする! ハイエロファント: いやね、乗りかかった船ですからついていくしかないんですけど、 めちゃくちゃ怖いですよ? フール: なんとかなるなる! 10458 - 警備計画 (現場にフィフティーンと共に到着すると、領主だという男が出迎えてくれた。) 領主: 庭師が見つけたんだ。門の格子部分に挟まっていたのだとか 人間さん: 『今夜0時領主の宝を頂きにあがります』これは……タロットカード……? 領主: 念のために言い添えておくが、庭師は父の代から仕えてくれている信用できる者だ。 彼の自作自演ではない 人間さん: なるほど。しかし、何故いきなり予告状なんて フィフティーン: 先日もお話した、地元で長く活動している『怪盗シニア』ですが、 奴は予告状を出すスタイルです フィフティーン: おそらくは、その向こうを張ったのではないかと 人間さん: いちいちお子様っぽい思考なんだよな。 実際に声を聞いたときも話し方なんかがちょっとオバカというか フィフティーン: 言いすぎでは 人間さん: えっ? フィフティーン: あまり敵を侮っていると足元をすくわれる、という意味で 人間さん: ああ……別に侮ってはいない。知性がなくても、 これだけの犯行を成功させるということは、おそらく直感的な天才型なんだ フィフティーン: なるほど…… 領主: 我が屋敷に予告状まで出されて、堂々と盗まれたとあってはさすがに立場がない。 市民のためにも確実に捕まえてくれたまえ 人間さん: ……フィフティーン。頼んでおいた現場の調査はどうだった フィフティーン: 犯人たちのものと断定はできないものの、いくつかの残留物が検出されました。 そこからイマジュマイトパターンを割り出していますが 前科データには該当しませんでした (最近、シェイクスピア率いるエイヴォン研究所のとあるチームが発見した イマジュマイトパターン。) (その人が持つイマジュマイトの波形には個体差があり、 特定の個人を示すものだとされている。) 人間さん: (絶対に同じ人間がいない、なんてことは証明できていないが それ言ったら人間界の指紋やDNAだってそうだしな) フィフティーン: 今後の捜査には役立つ可能性がありますが、 いまのところ特に手がかりになりそうにはありませんね フィフティーン: ……ひとまず、衛兵の応援を呼びます。 さすがにこの屋敷を私と人間さんのふたりで守るのは無理がありますから 人間さん: ああ、頼む。それが済んだら少し仮眠するといい。深夜が勝負だからな (背景切換...) (それからは大忙しだった。到着した応援部隊を屋敷の各所に配置し、 連絡系統を確立して。) (これまでの冒険の経緯からなんとなく祭り上げられているが、 こちとらずぶの素人だ。警備計画なんぞ立てられるはずもない。) (そんなとき、補佐役であるフィフティーンが支えてくれ――) フィフティーン: たぶん、このへんに3人くらいいればいいんじゃないですか (――たと言えるのだろうか。 なんだかフィーリングで適当に決めているように見えなくもない。) (いや、ここは彼女の経験と知識を信じよう。 衛兵たちは若干、戸惑っているようにも見えるがきっと気のせいだ。) ホメーロス: こ、こんにちは~ (そんなとき現場をホメーロスが訪ねて来た。) ホメーロス: なんだか、ものものしいですね。これならきっと、白の夜明け団も逮捕できそうです 人間さん: そう祈ってるよ。ホメーロスはどうして、ここに? ホメーロス: 領主さんと元々会食の予定だったんです。先ほど事件のことを入口で知りましたが…… 人間さん: なるほど……。ところで道中、何かあったのか……? ホメーロス: 何かって? 人間さん: 背中が、なんだか茶色く汚れているんだが……それも結構な広範囲で ホメーロス: ほええええええっ!? ホメーロス: ほ、本当です!鏡を見たらこんなにべったり……これ、何?泥? 人間さん: ぬかるみでひっくり返らないと、泥にしたってこうはならな……ふぐぉっ!? フィフティーン: 失礼します、人間さん。衛兵の配置が完了しました。 これで守りは万ぜ――うッ!?くっさ!! 人間さん: フィフティーン、空き部屋を貸してもらえるように領主に連絡を。 ホメーロスはいますぐに着替えるんだ……! ホメーロス: ほえええええ!? (背景切換...) ホメーロス: お騒がせしました…… うう、アカデミーの門を出てここまで馬車に乗ってきただけなのに…… フィフティーン: ということは、その前からついていたんでしょうか ホメーロス: えっ……? 人間さん: ホメーロスの言ってることが正しいなら、その可能性が高いだろ。 馬車だからって、その……馬の……な?背中にべっとり付いたりはしないだろ ホメーロス: だとしたら、わたし……嫌われてるのかもしれません……! 人間さん: おわっ、ど、どうした!?泣くんじゃない!! 10459 - 厳戒態勢 (唐突に涙をぽろりとこぼしたホメーロス。 その頬を取り出したハンカチで拭ってやり、事情を聞く。) ホメーロス: 門に向かう前に……学長室で副学長とお話をしていたんです。 いま思えば、あのとき勧められて座ったとき、変な感触がした気がします 人間さん: まさか副学長を疑ってるのか……? キャンパスに『イタズラ研究部』とかあるんじゃなくて? ホメーロス: そんなバカみたいなサークル、あるわけないじゃないですか 人間さん: 『金ダライ研究部』がバカじゃないとでも? ホメーロス: 他にも心当たりがあるんです。集合時間が15時なのに17時って教えられて 2時間遅刻して17時に行ってしまったり ホメーロス: みんなで食事に行ったら私だけ激辛だったり、置いてあったガムを食べようとしたら パッチン!ってなったり、引き出しを開けたらゲジゲジのおもちゃが入ってたり 人間さん: 副学長なんていう立場の人がそんな小学生みたいな……え、おいくつの方? ホメーロス: 年齢は知らないですけど、だいぶご年配です 人間さん: うーん……小学生なら、実はホメーロスのことが好きな男子、 としか思えないが……ご年配…… ホメーロス: 理由があるんです。本当なら学長は、わたしではなく彼がなるはずで…… 何かにつけて嫌味も言われますし……ううっ…… 人間さん: ああっ、泣かないでくれ!きっと大丈夫だから! (背景切換...) (その後、夜までは屋敷の部屋で待機することになった。 しかしプレッシャーをかけてくる割には、使用人の空き部屋を用意されるなど 高待遇とは言い難い。まあ、いいけど。) フィフティーン: しかし人間さん……この事件、未だに分からないことだらけですね (今回はフィフティーンの方から俺のもとを訪ねて来た。 俺の考えを聞きたい、とのことだ。) (予告状の時間までに日課をこなして、邪念を振り払い清らかな心で 集中力を研ぎ澄ませておきたい、と思っていたのだが……。) フィフティーン: そもそも連中はなぜパンツを剥ぐのでしょうか 人間さん: さあ……何せ老若男女を問わず、ひとまとめに魔法で盗むからな。 性犯罪ではなさそうだ フィフティーン: 盗んだパンツはどうしているのでしょうね。分類しているのでしょうか。 男性もの、女性もの、ユニなやつ、おむつ、などには 見た目だけでも分けられそうですが 人間さん: ふむ…… フィフティーン: せっかく集めたのですから無造作に積み上げているとは思えないんです。 きっときれいに畳んでコレクションしているはず フィフティーン: しかしサイズも形も異なるパンツを全て畳んで、 いい感じに収納するのは意外と難しいものですからね 人間さん: そうなのか?別にサイズと言っても服と違って、 そこまで極端にサイズの差があるとは思えないが フィフティーン: 例えば私はいま、紐パンを履いているのですが…… 形が取りづらいので畳んでもどうも収まりが良くなかったりします 人間さん: ああ、なるほど 人間さん: (紐パン……!?フィフティーンは、いま紐パンなのか……!? くっそぉ、絶対に盗ませないぞ…) フィフティーン: 実際、事件が続くようになってから、いつ盗まれるか分からないので 勝負下着の着用率が上がっているという統計もあります フィフティーン: 今日は特に何の予定もないしと、よれよれの古いパンツを履く日もあるわけですが、 もしそこで白の夜明け団に遭遇したら……と市民も警戒しているわけですね 人間さん: 確かにそのタイミングで盗まれたら……なぁ フィフティーン: いつ来るか分かりませんからね。 うっかりエッチな書物を読んで反応してしまった日には…… 人間さん: えっ?フィフティーンがエッチな本を読むのか? フィフティーン: もちろん、そういう日もありますよ 人間さん: (くっ、まずい……さっきからフィフティーンと密室で二人きりな上、 想像をかきたてられる話題ばかり……ううっ……) フィフティーン: ふふっ……♪ (コンコン。) 人間さん: おっと……?誰だ、開いてるぞ 衛兵: 失礼します!特別捜査官殿。例のブツが届きました フィフティーン: え?なんですか? 人間さん: ふふ……俺の奥の手だ 衛兵: 入口に納入業者が待機していますので (背景切換...) マジシャン: ムラビト製作所のマジシャンと申します。ご注文の品をお持ちして―― 人間さん: えっ、きみは確か…… マジシャン: またお会いしましたね、人間さん 10460 - 特別捜査官の奥の手? (少し時をさかのぼって――) (ムラビト製作所・第八倉庫) 先輩: おーい、マジシャン マジシャン: はい、なんでしょうか 先輩: 急ぎの納品があるんで、行ってきてくれないか。 人間さんって人のところで、この住所だ マジシャン: 工場から直送ですか? 先輩: ああ。なんか今夜使うらしいんだ。じゃあ頼むぞ マジシャン: これって……うわ、今夜使うって、そういうこと……? パーティーでもするのかしら……ちょっと引く…… マジシャン: あの、すぐ行った方がいいですか? 先輩: 今日、出荷する分のピッキングが終わり次第、出てくれるか マジシャン: あっ、はい……!分かりました! (背景切換...) マジシャン: はあ……工場直送なんて言えばそれっぽくなるけど、 よくよく考えたらこんなの子供の使いじゃない…… マジシャン: やっぱり私、あの会社で戦力になってないのかな……しかもこんなアホの道楽…… マジシャン: 本当はもっと研究職でバリバリ仕事をするはずだったのに…… どうしてこんなことになってるんだろう…… マジシャン: ……ハッ。いけない、またネガティブになってしまったわ。 この前はポジティブでいられたのに…… 衛兵: そこで止まれ。ここに何の用だ マジシャン: え?あの、お届け物で…… マジシャン: (ってここ、領主の屋敷!?スホマの地図ばかり見てたから気が付かなかった……!!) (背景切換...) (――そして現在。) マジシャン: あの……ここって、領主様のお屋敷ですよね。この場所と、特別捜査官のあなたと、 この道具が何ひとつとして結びつかないんですが…… 人間さん: その通り。そしてこれを使って、やつらを一網打尽にするんだ マジシャン: これを、一体どうやって使うつもりなんですか……? 人間さん: それは言えないな。捜査上の機密事項だ フィフティーン: 私も気になりますが 人間さん: 後でこっそり教えるよ フィフティーン: はあ マジシャン: 後でこっそりって、なんだかセクハラの匂いが…… マジシャン: (大丈夫かしら、みんな……) (背景切換...) フール: むううううう! タワー: 何むくれてるの フール: おかしいだろ!領主の屋敷に、今をときめく白の夜明け団から予告状が届いたんだぞ! もうどこのニュースもその話題で持ちきりになるべきだろ! ハイプリーステス: 普通に捜査機関しか知らないんでしょ。記者どもが大挙して押し寄せたら、 その中に犯人が紛れて入り込んでくるかもしれない ハングドマン: カメラが回っていれば、犯人側―― つまり私達も周辺の様子を近づかずに把握できてしまうしな ムーン: そうですねぇ。報じられないのは仕方ありません フール: でもでも!目立ちたくてやったのに、目立たないんじゃ意味ないだろ ムーン: そうですねぇ。大々的に目立ちたかったですね フール: ムーンもこの通り、逆位置の魔法の効果がまた切れてきたし! ハイエロファント: ……逆位置の魔法って、なんなんすか?いや、いまさらなんですけど フール: 知らないってば。なんか、いい感じになるんだよ ハングドマン: 体感としては、それぞれの欠点を補うことができるもの……だろうか ハイプリーステス: たぶん、それで合ってると思うよ。ボクも職場でうまくいくようになってきてるし。 ちょっと前まではオッサンの決めつけとか聞くと殺意が芽生えてたけど、 最近は心穏やかなんだ ハングドマン: ああ、私もだ。快楽に繋がる理不尽と、ただ腹の立つ理不尽、 それらをちゃんと切り分けて対応を変えられるようになってきた ハイエロファント: 皆さんもですか……!あっしも、最近は自分の意見を言えるようになりましたからね。 ぺこぺこしなくてもいいんだって ハイプリーステス: 大体さ、職場の同僚や先輩なんて仕事の話だけしてればいいじゃん。 恋人がいるかどうか聞くのはセクハラだよ。挙句の果てには、 ちょっと屈んだだけで胸元が見えそうだからその服をやめろとか ハイエロファント: リースさん、落ち着いてください。ヒスってますよ ハングドマン: あの日か? ハイプリーステス: 嫌味かこら ハングドマン: あぁん!躊躇のない喉輪!もっと本気で絞めていいんだぞ♪ ちょっと頭に酸素が行き渡らないくらいがイイ……♪ ハイプリーステス: 友達に本気で喉輪して絞めるやついないでしょ タワー: リースも魔法がやっぱり切れてる ムーン: でもリース様の服、確かにいろいろこぼれちゃいそうですからね ハイプリーステス: だってこういう服、可愛いじゃん。 可愛いボクが可愛い服を着る、世の中にも幸せを与えてると思うけどな タワー: うん、似合ってる フール: よし、作戦会議はこんなもんか タワー: 作戦、ひとつも決まってないけど 10461 - もうひとつの予告 タワー: ねえ、結局本当に作戦決まってないけど フール: 大丈夫だ!あたしの頭の中に入ってる ハイプリーステス: その何も入ってなさそうな頭に? フール: リースっ、失礼だぞ! ハイエロファント: いや、頭の中に入ってても困るんですよ。 作戦っていうのはみんなに共有していただかないと ハングドマン: 言いづらいかもしれないが遠慮する必要はないぞ。 私を囮にして突破する作戦なんだろう? フール: ちがーう! フール: じゃあ言うけど、デビルから連絡があったんだ。あいつと連携する ムーン: それはいいですね ハイプリーステス: 連携って具体的に? フール: ……だから、あいつと連携して、こう、いい感じにするんだ ムーン: それ作戦って言えます? ハイエロファント: あの特別捜査官とかいう男……どうやら、なかなかの切れ者らしいですし…… そんなヤツに通用しますかね ハイプリーステス: へえ……知性派なんだ。頭のいい男、嫌いじゃないけど タワー: 変な気、起こさないでね ハイプリーステス: ボクをなんだと思ってんの ムーン: 自分で可愛いっていうわりに浮いた話がありませんからね ハイプリーステス: ぐぬぬ……言ってくれるじゃないか!言っとくけどモテるから! ボクに釣り合う人がいないから厳選してるだけ! ムーン: モテはするんですけどね ハイエロファント: ムーンさん、いつものように手のひらを返したように見せかけて、 実は似たようなこと言ってますが ハングドマン: 安心しろ。私も結局、未だにご主じ……恋人を見つけられずにいるからな! タワー: ご主人様って言っちゃってる…… フール: お、屋敷が見えてきたぞ。みんな気合いを入れるぞ タワー: 町のど真ん中だから、小さい声でね フール: よーし、じゃ行くぞっ 全員: おーっ……! (背景切換...) 人間さん: 機密事項とか生意気いってすみませんでした…… マジシャン: あ、いえ、気になさらないでください。 それでは、こちらの部屋も対象でよろしかったでしょうか 人間さん: お願いします…… (届けてもらったアイテムを操作に活用する――までは良かったのだが、 開封すると重大な事実が発覚したのだった。) 人間さん: (うう……使い方も取り付け方も分からないとは……盲点だった…… 大見栄切っておいて恥ずかしすぎる……) マジシャン: こういうものって、取扱説明書を読んだだけでは分からないですから。 これに限らず、メーカー担当者に施工を依頼するお客様は多いです (フィフティーンは取り付けが始まってすぐ、他の持ち場を見回ると言って 姿を消してしまった。幻滅されていないといいが……。) マジシャン: ……あの、これ機密事項とのことでしたが 人間さん: くっ、抉らないで…… マジシャン: 抉る?よく分かりませんが、これ……取り付けていても、 結局どう使うつもりなのか分からないなと思いまして マジシャン: なので機密は守られていると思います 人間さん: そ、そう?ならよかった…… フィフティーン: 人間さんっ!すぐ来てください、大変です! 人間さん: !? (背景切換...) 領主: これだ 人間さん: 予告状……!?白の夜明け団以外に!? フィフティーン: しかも白の夜明け団よりも具体的ですね フィフティーン: 『今夜、領主殿の大切なものを頂戴する怪盗シニア』…… 人間さん: 怪盗シニアだと……なんでこんなタイミングで…… 人間さん: いや、意図的なものか。白の夜明け団に対抗してぶつけてきたんだろう 領主: 冗談ではないぞ。絶対に死守するのだ! 人間さん: 安心してください。いくら相手が凄腕の魔法使いだとしてもパンツはまだしも、 中身のXXXXなんて盗めるわけありませんよ フィフティーン: ……え 人間さん: え? フィフティーン: あの……予告状の『領主殿の大切なもの』というのは、 おそらくそういう意味ではないかと…… 領主: ……っ。この男、本当に大丈夫なんだろうな!?偽物なんじゃないか!? 人間さん: (失礼な奴だな!大切な物でXXXXは連想するだろ普通!) 領主: いいか、絶対に死守せよ。おそらくシニアが狙っているのは 私がやっとの思いで手に入れたアレに違いない フィフティーン: アレとは? 領主: 言えるか。あれは極秘に入手したものだ。私が肌身離さず持っておくから、 お前たちは私を守っておけばいい 人間さん: そんな。ある程度は情報をもらえないと、対策のしようが 領主: ええい、黙れ黙れ!いいか、失敗したらお前のクビは飛ぶと思え! 人間さん: わ、分かりましたぁ! 人間さん: (いやでもクビって、コミッティをクビにできるやつなんかいないけどな) フィフティーン: ど、どうするんですか、人間さん 人間さん: なに、手はもう打ってある。 白の夜明け団だろうと、怪盗シニアだろうと必ず捕まえてみせる 10478 - 迎撃態勢 (パンツを一斉に盗むことで一躍有名になった怪盗『白の夜明け団』。 俺は事件解決のため、特別捜査官としてこの町に派遣されてきた。) (しかし目の前で取り逃す失態を演じ、果ては領主邸に予告状まで送られてしまう。 しかも古くから暗躍している怪盗シニアまでもが予告状を出してきた。) (警察(っぽい一般人)の威信をかけて、俺は万全の対策をとり まだ見ぬ好敵手を待ち構えていたのだった――) フィフティーン: 人間さん?窓際で何をやってるんですか? 窓際で険しい顔をして空を眺めていましたが…… マジシャン: 眩しいなら窓から離れた方が良いのでは 人間さん: 気にしないでくれ。雰囲気づくりだ。それよりも マジシャン: いま、フィフティーンさんから説明を受けました。私はこのまま、ここで残業だと フィフティーン: すみません。私達は納品いただいた装置の扱いについて素人なもので、 何かあったときはメーカーさんにいてもらわないと マジシャン: 上司も了承していますし、私も給料が発生するなら問題ありません。 深夜手当も出ますし、明日は休暇でいいとのことでしたから 人間さん: なんかこう、もうちょっと怪盗を捕まえるぞー!的な盛り上がりが欲しいけど…… 一般の人だし仕方ないか…… マジシャン: 人間さんはすごく気合いが入っているんですか? フィフティーン: 失敗するとクビですからね マジシャン: 無職……明日から不安になりますよね 人間さん: 生活のために頑張ってるみたいな目線やめて!ちゃんと正義感で動いてるから! 人間さん: (……とは言うものの『白の夜明け団』の連中は、 すごく悪質ってわけでもないというか…… たぶん、正義感というよりは意地なのかもしれない) フィフティーン: シニアの予告状の時間まで、まだ2時間くらいあります。 気合いを入れるのが早すぎるのでは 人間さん: だって白の夜明け団は予告状に時間を書いてないんだぞ。 不安で落ち着かないじゃないか マジシャン: 怖いんですか……? 人間さん: そういう不安じゃなくて。 ほら、宅配便の再配達で時間指定したとき2時間くらいの幅があるだろ。 その間にトイレに行きたくなったらどうしよう、みたいな マジシャン: ごめんなさい。例えがまったく分からないんですけど…… 人間さん: いや、そうだな。俺も自分でよく分かってない。反省する マジシャン: ……本当に優秀な方なんですよね? フィフティーン: たぶん…… 人間さん: たぶんって!自信もってほしい! (背景切換...) フール: それにしてもマジシャンが、まさか捜査本部に呼ばれちゃうとはな ハイプリーステス: 連絡によれば、職場で作ってるものを捜査本部から発注されたらしいよ。 何に使うかはよく分からないみたいだけど…… ムーン: それで、これですね。念のために、そのアイテムを無効化できるシロモノ…… ハングドマン: せっかくだから、直撃をくらって動けなくなったところを 脂ぎった領主にあんなことやこんなことを…… ハイエロファント: 別に領主さん脂ぎってないですって タワー: 屋敷にはどうやって入る? フール: 正面から堂々と突破するぞ!あたしたちは目立ってなんぼだ! ハイプリーステス: いやいや、もうちょっとスマートに行こうよ。 人知れずパンツを盗むのはボクも違うと思うけど、 ギリギリまで見つからないように、とかさ フール: んー?じゃあ静かに、おしゃべり無しで入るのはどうだ ムーン: それなら見つかりませんね~ ハイエロファント: いや、おしゃべりしながら入るつもりだったのがびっくりですが ハングドマン: なに、見つかったら私を囮にすればいい ムーン: 見つかるのも覚悟の上ってことですね~ ハイプリーステス: しょうがないなぁ。 なんとなく見取り図を見てルートを考えてきたからボクについてきてよ ハイエロファント: さすがリース様っ!いよっ、アルカナムの頭脳! ハイプリーステス: いやボク、もうOBだからね? (背景切換...) マジシャン: (みんな無効化アイテムは受け取ったみたい。よかった、会社の倉庫に人数分あって。 これでひとまず大丈夫なはず……) フィフティーン: そんなところで何をしているんです? マジシャン: ――っ!? マジシャン: なんだ、あなたですか。驚かせないでください フィフティーン: そろそろ予告状の時間も近いので、準備をお願いします マジシャン: あ、はい フィフティーン: 彼氏に卑猥なメッセージを送るときは、 もう少し目立たない場所を選ぶことをお勧めします マジシャン: そんなの送りませんから! 10479 - いざ潜入 (けたたましく鳴り響く警報に、俺は飛び起きた。) (いや、正確には飛び上がった。 飛び起きたというと、まるで眠っていたみたいじゃないか。 うたた寝なんてしてない。していないぞ。) フィフティーン: 人間さん!あれを! 人間さん: タロットカード……!! (背景切換...) (領主邸の中庭に多数のカードがひらひらと落ちてくる。 これはまぎれもなく白の夜明け団がとる犯行直前の行動だ。) マジシャン: 警報をものともせず正面から突っ込んで来るとは……いくらなんでも大胆すぎる…… 人間さん: マジシャンの言う通りだな。 てっきり警戒の網をかいくぐって近づいてくるものとばかり思い込んでいた。 『怪盗』という先入観を持ちすぎたか (いかに警報を鳴らさずに侵入するか、それが怪盗の腕の見せ所だと思っていたが…… よく考えたら怪盗を掲げるのはシニアだけで、白の夜明け団は厳密には 怪盗とか盗賊団などと名乗っていない気がする。) (仕方あるまい。俺の怪盗の知識は有名な3+1人組のあいつらと、 白いシルクハットのあいつくらいしかないし。) フィフティーン: 各所に配置した衛兵が、すぐにカードをまいていると思しき場所に急行しています 人間さん: ふん……こちらは数で勝る。どう切り抜けるつもりかお手並み拝見―― (言いかけたそのとき、まばゆい光が周囲を包む。 正確には、おそらくどこかの室内が光源のはずだが、 その光量が強いため俺達の視界にさえ及んだのだ。) マジシャン: これは、閃光魔法! フィフティーン: 目つぶしで逃げる……古典的ですが、これほどの威力ならバカにはできませんね 人間さん: ちっ……なら、例のあれを起動させるまで!マジシャン! マジシャン: は……はいっ!EDG起動、全口噴霧開始! (背景切換...) フール: EDG? ハイプリーステス: ムラビト製作所が開発したガス噴霧機器だよ。 エロティック・デザイア・ガスシステム――通称『エロい気持ちでドキドキガス』 略して『エロドキガス』だ ハイエロファント: なんかもう色々むちゃくちゃですね ハイプリーステス: 元は医療用に開発されたガスで、昨今では濃度を低くしたものを 室内で適切に使うことで倦怠期の恋人やレス気味の夫婦なんかに…… タワー: それは分かったけど、なんでそんなものを ハイプリーステス: さあ。ボクたちを足止めするつもりなんじゃないかな―― (背景切換...) ハイプリーステス: どういうつもりか知らないけど、マジシャンが用意してくれたこの防護フィルムを 鼻と口に仕込んでおけば、ガス効果を受けることはほとんどない…… ハイプリーステス: あとはボクが自由に動き回って…… 衛兵: いたぞ!あそこに不審者が! ハイプリーステス: 敵を引き付ける!閃光魔法『デコイ・ライト』! 衛兵: ぐあっ!! ハイプリーステス: よしっ……。さあ今のうちに、頼むよフール……! (背景切換...) フール: はーっはっはっは!我が名はゼロ!『白の夜明け団』の首領である! 人間さん: 出たな、白の夜明け団……っ!ようやくご対面というわけか。待ち望んでいたぞ フール: この姿と名前は、おまえの記憶に永遠に刻みつけてやる! ハングドマン: ふふ……そして、この屋敷にあるすべてのパンツは、わたしたちが頂く! マジシャン: えっ マジシャン: (前に出るのはフールだけで、って言ってたはずなのに…… ハングドマンってば、絶対ドMシチュになると期待してでてきたんだわ) フール: 残念だったな!人間さん特別捜査官! なんかガスだかなんだか仕掛けてゼロ様の動きを鈍らせる作戦だったようだが、 そんなものぬるっとお見通しだ! 人間さん: ぬるっと見通されるのはなんか嫌だな…… フール: ん?ちゅるっと? フィフティーン: 麺類? フール: とにかくだ!すべてのパンツはゼロ様のもの! ???: それはどうかな フール: えっ、おまえは…… フール: 誰? 怪盗シニア: 我が名は怪盗シニア。この道50年の大ベテランだ! 人間さん: まさかシニアまでここに!?ていうか、ごっ、50年!?いろいろ大丈夫か!? 怪盗シニア: いや、雰囲気じゃよ。GR2以前は時間の感覚ないから、正確なところ全然わからんし マジシャン: 適当だった…… フィフティーン: というか、シニアにもガスが効いていない……? 怪盗シニア: だって見ての通り、もう年じゃから。ちょっとガス吸ったくらいでは、元気出ない 人間さん: そ、そうか……どんまい…… 10480 - 破綻する罠 怪盗シニア: それよりも、すべてのパンツというが……そうはいかん。例のアレだけはわしが頂く! フール: えっ、例のアレ? 怪盗シニア: 知らんの? フール: しらん 怪盗シニア: 木を隠すなら森の中、例のアレをスムーズに手に入れるために、 大量にパンツを盗むというコンセプトでカモフラージュしてるとか、そういう…… フール: しらん 人間さん: なんだ……?何を言っているんだ……?ええい、とにかく捕まえろ!衛兵! 衛兵: はっ! ハングドマン: あああああ!たくさんの男たちが私を取り押さえ、拘束し、 己の欲望を任務を口実に発散しようと……! 衛兵: そ、そんなつもりはない! ハングドマン: 分かっている。分かっているとも。 逃がさないためなら手首を縛ればいいものを、 敢えて胸元が強調されるような縛り方をして私の羞恥を 衛兵: だから違うって! ハングドマン: 見苦しい嘘などつかなくていい!欲望に正直になれ! 明らかに興奮した顔をしておいて、何をいまさら! 衛兵: うっ……いや、これはその…… マジシャン: あっ……?もしかしてあれはガスの効果……? 人間さん、衛兵の皆さんには防護フィルムを渡していないんですか? 人間さん: 渡していない。もっと言えば、俺も使ってない マジシャン: 何故!?それでは、みんな…… 人間さん: それが狙いなんだよ マジシャン: え……意図的に、なんですか……? 人間さん: 各自のパンツにはエルマイトに反応して熱を発する薬剤を塗布している。 マジシャンがガス以外に持って来てくれた、アレだ。 アツアツになった下着を無事に持って帰れるかな、白の夜明けだ――あっつ! 人間さん: んおおおお!股間が熱い!焼けるように熱い! マジシャン: そりゃそうなりますよね……? 衛兵たち: んおおおお! フール: なんかわからんけど、さっさと魔法を発動するぞ!みんな、用意はいいかっ! フール: 逆位置の魔法、発動!! 衛兵1: あっ……パンツが消えたら……熱が収まった…… 衛兵2: ふう、涼しい……。でもまだ熱がこもってるせいでムレるな…… 人間さん: ふう、助かった…… 領主: 助かった……では、なぁいっ! 人間さん: ひっ 領主: まんまとパンツを盗まれてしまったではないか! フィフティーン: 盗まれましたねぇ マジシャン: (……この魔法は無差別に、範囲にいる者すべてに適用され、 いまのところ防ぐ手立てもない……) マジシャン: (仲間の私も持って行かれた…… 覚悟はしていたけど、公共の場でパンツを履いていないことが、 こんなにも心細いなんて) フール: ふふん、ゼロ様の恐ろしさ、思い知ったか!では、さらばだ! 人間さん: お、追えっ、追えーっ! フィフティーン: ……?怪盗シニアの姿も見当たりませんね マジシャン: 確かに。あの人はまだ何もしていないのに、逃げてしまったんでしょうか? (背景切換...) 衛兵: 領主様、宝箱は無事ですか? 領主: む……大丈夫なはずだ。何重にも魔法結界を張り巡らせた箱に入っている。 履いているだけのパンツとはセキュリティレベルが違う 衛兵: なるほど。しかし本当に大丈夫なのでしょうか 領主: むむ……? (背景切換...) 人間さん: シニアはまだ何もしていないし、二の次だ。白の夜明け団の捕獲に全力を注げ! フィフティーン: しかし夜闇に姿を隠されては…… 人間さん: まだだ……あのガスの効果があるだろう マジシャン: さっき股間がめちゃくちゃ熱くなって苦しんで、終わったのでは? 人間さん: 高まったエルマイトというのは、普通の人はずっと人体に抑え込んで 蓄積できるものじゃないんだ。少しずつでも漏れてしまう。 漏れたエルマイトは衣服が吸収するわけだが…… 人間さん: さて、そこでこのエルマイトレーダーだ。 エイヴォン研究所で作られた高性能機種、これを衛兵に配布している マジシャン: ああっ!大量のエルマイトが移動しています! フィフティーン: パンツそのものが発信機になっているのですか! 人間さん: そういうことだ。二段構えの作戦というわけだ……くくっ…… フィフティーン: ちょっと前から思っていたのですが、人間さん今回の作戦で ちょいちょい小悪党の親玉みたいな言動をしてません? 人間さん: うん……ちょっと自覚ある…… (背景切換...) フール: よーし、やったぞ!パンツ、ゲットだ! ムーン: あれだけの人が集まっている中での犯行、きっと話題になりますよ タワー: 作戦は成功? ムーン: でも、領主のプライドもあるので報道規制が敷かれて誰にも知られないかも ハイエロファント: ええ?どっちなんですかい ハングドマン: いずれにしても、後は逃げるだけだな ハイプリーステス: ふふん、特別捜査官なんて大したこと―― ハイプリーステス: 待って。足音が近づいて来る……!? 10481 - 奪取してダッシュ フール: 足音って、まさか追手か!? ハイプリーステス: この甲冑の音、間違いない。早くここから逃げるよ! タワー: わかった……! フール: みんなっ、パンツは分担して持っていくぞ。 誰かひとりがうっかり落としても、全部失くすことにならないようにだ! ハイエロファント: フールさんにしては理性的な判断ですね フール: そうだろ、そうだろ!あたしは賢いからな! タワー: 普通って言われただけみたいなものなのに ムーン: まあまあ。それより早く逃げましょう 衛兵1: いたぞー!こっちだ!! 衛兵2: 東門から周りこめ! ハングドマン: くっ……屋敷の周りに植えられた木々は、かなり生い茂っている。 視界がそうそう効いているとは思えないが…… 奴ら、ピンポイントで追いかけてくるぞ ハイエロファント: 暗視ゴーグルでも持ってるんじゃないですかい!? ハイプリーステス: だったら……これでどうだ!『デコイ・ライト』! 衛兵1: うわっ! ハイプリーステス: 視界を物理的に奪っておいてからの、これ!『ウォーム・ウィンド』! ハイエロファント: そいつはいったい……うわっ、なんか生温かい湿った風が! ハイプリーステス: 暗視ゴーグルの類なら、いまの光と、そして放った熱源で惑わされるはず。 だいたい、そういうので追跡することが多いからね ムーン: さすがリース様。炎を放ったら木に燃え移りますからね。 生温かい風だけで、温度センサーを惑わすには十分です ハイエロファント: あんな微妙な温度の魔法なんて、逆に調整が難しそうですねぇ ハイプリーステス: そうでもないよ。あれは自分の体温を空気中の水分に移動させる魔法なんだ。 あれより少し高くしろって言われると、それは確かに調整が大変だけど ハングドマン: あれがリースの体温?結構、高いんだな。 私なんて血圧も低いからか、いつも体温が低いぞ ハイプリーステス: まあ一般的に、ボクはみんなよりも―― 衛兵1: くそっ、生温かくて気持ち悪いな! 衛兵2: だが、いたぞ!くそっ、不快にする魔法を使ってくるとは! ハイプリーステス: 追ってきてる!?な、なんで…… フール: やばーいっ!逃げろ、逃げろっ! ハイプリーステス: ……ボクの体温なのに、不快とか気持ち悪いとか言われると、ちょっと傷つくな…… ハイエロファント: いや、リースさんの体温って知れば、あいつらも喜ぶはずですって タワー: みんな、こっち。細い、普段使ってない通路がある フール: おお!ツイてるな! タワー: 事前に調べておいた ムーン: 運ではなく、タワーさんが真面目に下調べをしていた成果ということですね。 さすがタワーさん、素晴らしいです ハングドマン: よし、急ぐぞ (背景切換...) マジシャン: (人間さんたちはフールたちを追って行ってしまった…… パンツを持っている限り追われてしまう…… なんとか連絡を取りたいけど、この状況じゃ通話は無理だわ……) 領主: ……やはり確かめた方がいいのか? 衛兵: と、思いますが マジシャン: (メッセージを見る余裕はあるかしら……。 一応、パンツにセンサーが付いてる、とは送ったけど…… ちゃんと伝わるかどうか……) 衛兵: シュレディンガーの猫、という話をご存じですかな。 開けて見ないことには、あるかどうかは分からないのです 領主: そうだな……万一、盗まれていたら…… 領主: よし、オープン!! マジシャン: ん……?領主様、その箱は確か大切な宝…… マジシャン: ええっ!?中身のそれ、まさか噂の『黄金のTバック』では 領主: しーっ、シニアに聞かれたらどうする!だが、よかった。無事なようだな 衛兵: 残念ですが領主様。既にシニアには聞かれていますよ 領主: えっ? 衛兵: 私が―― 怪盗シニア: シニアなのですからね! 領主: あっ!?ま、待て!箱を返せ! マジシャン: 怪盗シニア!?いないと思ったら衛兵に化けていたなんて! だ、誰か!誰か来てください!! (背景切換...) フール: はぁ、はぁ……ここまで来れば大丈夫だろ…… 人間さん: くっくっく…… フィフティーン: 人間さん、だから悪役すぎますって フール: 人間さん特別捜査官!?ど、どうしてここに タワー: 先回りされていた……?まさか、私の不幸体質のせいで…… 人間さん: 残念だったな。俺が用意したこの装置があれば、 お前たちの居場所は手に取るように分かる。さあ、神妙にお縄につけ! 10482 - 明らかになる秘密 フール: くぅっ、ま、まずい……! あたしだけじゃなくて、みんなまで捜査班に顔を見られて……! ハイプリーステス: (……どうやって追跡したんだ。ボクたちが現れたときは 明らかに捕捉できていなかった。ということは、その後に何かあった……) ハイプリーステス: (違いがあるとすればひとつしかない……!) ハイプリーステス: みんな!パンツを捨てて、全員バラバラに逃げるよ! タワー: !! ハイエロファント: そ、そういうことですね!?わっかりましたぁ! 人間さん: くっ、見破られたか!?逃がすな、追えっ! ここで全員……いや、誰かひとりでもいい、必ず捕まえろ! 衛兵: はっ!! フール: よく分かんないけど、リースが言うなら……もったいないけど、パンツは捨てるっ! タワー: 私の不幸とは別、ってこと……?だからって良くはないけど…… ムーン: みんなバラバラに逃げたら、その後は……? フール: あたし達が集まるのは一か所しかないだろ! ハイプリーステス: そういうこと!でもしっかり追手をまいてからね! (パンツを捨て、白の夜明け団と思しき連中は一斉に別方向へと逃走を図る。 なるほど、統率はかなり取れているようだ。 互いの信頼も強く感じられ、一朝一夕の組織ではないことが窺える。) 人間さん: 見たところ、あの細っこいのがリーダーか……的確に指示も出していたしな…… (俺はリーダーと思しき、青い髪の少女を追いかけ始めた。 リーダーと見込んだこともそうだが、彼女はもうひとりの仲間と並走している。 うまくやれば二人とも逮捕できるか――という思惑もあった。) (背景切換...) ハイプリーステス: ハングのことだから、盾になるつもりなんじゃないの? ハングドマン: ふっ……私のことなどお見通しか。そうだ、私達は先輩だからな。 フールやムーン、タワーは必ず逃がしてやらなくてはならない ハイプリーステス: で、拷問を受けてみたいと思ってるんでしょ? ハングドマン: ま、まさか。私は崇高な精神で後輩たちを庇おうとしているだけだ ハイプリーステス: 動機はともかく、ボクも同じ気持ちだよ。たぶんハイエロもね ハングドマン: ……そうだな。私達に大した未来などない。だが、あいつらにはまだ希望がある ハイプリーステス: そう悲観するほどキミに未来がないとは思わないけど……言いたいことはよく分かるよ ハングドマン: そうだな。パンツを失っても、そのプライドだけは……失いたくない (背景切換...) フール: はぁ、はぁ……なんとか追手をまけたみたいだな……。みんなは、無事かな…… ムーン: あっ、フール様!よかった、無事だったんですね タワー: 私も……戻って来れた。不幸体質が発揮されずに済んだみたい フール: おおーっ、よかった!でも、後の3人は……まだ……? (背景切換...) 人間さん: くぅっ、ちょこまかと……!なかなかスタミナもあるようだな。 毎日リルやドロシーに付き合って走り込みをしていなかったら、 俺もどうなっていたことやら…… (二人で並走していた相手だったが、途中でまた二手に分かれてしまった。 もう片方をフィフティーンに任せ、俺は青髪を追い続けている。) (屋根伝いに逃走するその行動は、いかにも盗賊っぽい。とは言え、 逃げるには目立ちすぎているようにも思う。) 人間さん: (もしかすると、仲間のために敵を引き付けているのかもな……) (いや、もしかするとではないだろう。センサーに未だに彼女だけが反応する。 おそらくパンツを数枚、持っているに違いない。) ハイプリーステス: ほーら、捕まえられるものなら捕まえてみなよ! 人間さん: んぎぎ…… (彼女が煽って来た、そのときだった。) ハイプリーステス: うわっ!? (持っていた紐パンが、屋根の上にあった風見鶏に引っかかる。 走っていたところを急に引っ張られればバランスを崩すのは当然で――) ハイプリーステス: しまった……っ!うわああぁぁぁっ!! 人間さん: まずいっ! (背景切換...) (屋根から転落する青髪。もともと極悪人だとは思っていなかったし、 何よりも考えるより先に身体が、彼女を受け止めるべく動いていた。) ハイプリーステス: うわぁっ!! ハイプリーステス: いったた…… (ふたり、もんどり打って地面に落下する。背中が痛いが、大怪我はしていない。 一方の彼女も、どうやら意識もあるし無事のようだ。) (背景切換...) 人間さん: (おっと……!?) (庇いにいったので、俺の身体は彼女の下敷きになっているのだが…… 顔の上に何か乗っている。お互いの体勢をよく確認すると、 彼女は俺の顔に座るような格好になっていた。) 人間さん: ということは、目の前にあるのはこの子のパンツ……! (俄然、エルマイトが高まってきてしまう。が、すぐに違和感に気が付いた。) ハイプリーステス: なに……ボクのこと、庇ったの……?どうして…… 人間さん: そんなことはいい。それより、お前…… (顔の上に乗っている彼女は、温かく柔らかな感触だった。だが、その形は…… 二つの丸い感触と、細長い何か。とてもよく、慣れ親しんだ形状。) 人間さん: お前、まさか……男っ!? ハイプリーステス: あれ、もしかして気づいちゃった? 10503 - 次の捜査 ハイプリーステス: ねえ、まだ?ボク、もう眠くなってきちゃうんだけど。 言っておくと寝かせずに長時間の尋問をして得られた供述は 証拠能力ないからね 人間さん: ……すまないな。もろもろの調査もあって時間がかかっていた ハイプリーステス: へえ。じゃあボクのことはもう全部、お見通しってこと? (もちろんお見通しだ。身分証には性別欄もある。そこにはハッキリと書かれていた。) 人間さん: まさか……この見た目で『付いてる』とはな…… ハイプリーステス: 別に見た目なんか関係ないでしょ。ボクみたいに可愛くても付いてることもあれば、 ゴリラなんじゃないかと思う人でも付いてないことはあるよ ハイプリーステス: 付いてる方がお得だし。付いてるって、付き合うと同じ字なんだよ 人間さん: よく喋る口だな ハイプリーステス: じゃ、キスで塞ぐ? 人間さん: ……っ!? ハイプリーステス: 何ドキドキしてんの。きんもー 人間さん: くっ、冷静になれ俺……こいつは男なんだ…… ハイプリーステス: 違うよ? 人間さん: えっ ハイプリーステス: ボクは男じゃなくて、『男の娘』だから 人間さん: ええい、屁理屈をこねるな! 男だろうが男の娘だろうが、他人のパンツを盗んだのは事実なんだからな! ハイプリーステス: ……わかってるよ。ボクだって、いろいろあったんだ 人間さん: ふうん?その様子だと、性的な目的ではないのか? ハイプリーステス: そりゃそうでしょ。老若男女を問わず、全員から盗むんだから。 ボクがいうのもなんだけど、多様性にも限度があるって 人間さん: ……ストレスが溜まって、つい発散したくなったか ハイプリーステス: ボクはボクらしくいたい。それだけなのにさ。仕事だって優秀なんだ。 何も迷惑をかけちゃいない。それなのに…… ハイプリーステス: ううん、なんでもない。もう、弁護士が来るまでボクは喋らないよ 人間さん: ……そうか。ひとまず護送するまで待っててもらう。仮眠したければ構わないから ハイプリーステス: って言って、寝込みを襲うんだね。ボクは詳しいんだ 人間さん: するかぁっ! (背景切換...) 人間さん: ふう……さて、どうやって事態を打開するかだな マジシャン: 人間さんっ! 人間さん: マジシャン?どうしたんだ マジシャン: さっき捕まった人はどうなったんでしょうか 人間さん: とりあえず部屋にいてもらってる。 これから本格的に取り調べをする予定だけど……何か? マジシャン: ……っ。じ、実は……私がアカデミーにいた頃の同級生なんです フィフティーン: ――と、急に言い出しまして 人間さん: 間違いないのか?あの仮面を付けていても分かるものなのか? あれじゃ素顔なんてまるで分からないだろ フィフティーン: あの簡素な仮面に影響を受け過ぎでは…… マジシャン: 間違いありません。同じサークルでずっと過ごしてきた仲ですから マジシャン: こんな大それたことをする子じゃないんです。何か事情があったんだと思います。 どうか、刑はできるだけ軽くしてあげられませんか 人間さん: いやそういうわけには―― フィフティーン: 何を言ってるの!多くの人を羞恥の底に叩きこんだ大犯罪者よ! 厳罰をもって臨む以外の選択肢はないわ!! フィフティーン: あんなことをやらかしておいて!根はいい奴なんて理由にならない! 分かっているの!?犯罪なのよ、犯罪!! 人間さん: そ、そんなに言わなくてもいいじゃないか。人を傷つけたわけでもないんだし、 まあそこまで厳しくならないようにはできるよ……うん フィフティーン: …… マジシャン: (狙い通りの反応だわ……) マジシャン: (とは言え、まさかリースが捕まってしまうなんて……この後どうしたら……) 人間さん: それに『白の夜明け団』よりも優先しなくちゃいけない相手がいる。怪盗シニア…… あいつには『黄金のTバック』を盗まれたからな フィフティーン: 領主がおかんむりでしたからね 人間さん: さっさと捕まえないと立場がまずくなる……すぐに準備するぞ! 10504 - 新たな予告 ハイエロファント: あっ、皆さんご無事ですかね? ムーン: ハイエロ様! タワー: うん……ハングがさっき合流したとこ ハングドマン: まだリースが来ていないのだが、じきに到着するだろう フール: おっと、スホマにメッセージが届いたぞ。リースかな?いや、デビルから…… フール: えっ!? タワー: どうしたの フール: リースが……捕まった、だと……! ムーン: ええっ!? フール: もうすぐ何か開くらしい。これ、なんて読むんだ? タワー: 記者会見 ハングドマン: すぐスフィアをつけるんだ! (背景切換...) (カシャカシャカシャカシャ) (※フラッシュの点滅にご注意ください) 人間さん: 捜査本部では『白の夜明け団』メンバーと思われる、だ……男性?1名を逮捕し、 現在取り調べを行っています 記者: 容疑者の素性はまだ分からないんですか? 人間さん: 取り調べ中ですので、まだ詳しい情報はお話できません リチェンダ: 怪盗シニアも出現したという情報がありますが 人間さん: 事実です。こちらも並行して捜査を進めています リチェンダ: 怪盗シニアには領主の所有する秘宝を盗まれ、 また白の夜明け団にもパンツをまんまと盗まれたそうですが、 この状況をどのように捉えていらっしゃいますかっ 人間さん: うぐっ…… リチェンダ: 被疑者1名を逮捕したとのことですが、 末端の構成員の尻尾切りなら捜査の発展に寄与するとも言い難いですっ。 被害をまるで食い止められなかった捜査機関としては敗北なのでは 人間さん: ぬう……! フィフティーン: 捜査は着実に進展しています 人間さん: そ、捜査は着実に進展しています! リチェンダ: 隣のお姉さんの囁き、思いっきりマイクが拾ってますからね!! (背景切換...) フール: なんてこった…… ハングドマン: 半信半疑で男性と発表していた…… あの様子からして、捕まったのはリースで間違いないだろう タワー: しかも怪盗シニアも、目的のものを盗んだって フール: ぬうう……そんなの泥棒じゃないか! ハイエロファント: どの口が言ってんすか。あっしらも怪盗団ですからね? ハングドマン: どうする……リースを助け出さないと ハイエロファント: 今のところ黙秘してるんだと思いますが、 いくら聡明なリースさんでも限界があるでしょうからね。早い方がいいです フール: まあまあ。そう焦らなくても、本当にやばいことにはならないだろ タワー: まあね ムーン: ならないかもしれませんし、なるかもしれません ハイエロファント: いや、どっち!? ハイエロファント: ムーンさんがあやふやなのは通常運転だとして、 なんでフールさんたちも余裕ぶっこいてるんすか フール: その気になればいつでも助けられるからだぞ ハングドマン: だから、その根拠が分からないのだが……お気楽極楽なフールはともかく、 タワーも冷静なところからして何か理由はあるんだな? タワー: 大丈夫。なんとかしてくれる (ピロリンピロリン) ハングドマン: ん?スフィアに何か文字が…… スフィア音声: 速報です。怪盗シニアが新たな予告状を送りつけてきました! フール: なにーっ!さんざん人の邪魔をしておいて、まだ目立とうっていうのか! タワー: 言うほどあの人、私達の邪魔はしてない フール: してるだろ!あたしたちの知名度に便所して、思いっきり目立ってたじゃないか! 本来あたしたちが注目される場面だったのに! ハングドマン: すまない。便所が何か分からなくて話がまったく入ってこなかった ハイエロファント: たぶん『便乗』って言いたいんじゃないかと ムーン: あら、でも予告状ってどこにでしょうね スフィア音声: シニアの次なる標的は……人間さん特別捜査官の、ぱ、パンツだそうです! フール: なんだとおおおぉぉおぉぉっ!ぱ、ぱ、パンツ!?破廉恥な! ハイエロファント: だから、どの口が以下同文 ハングドマン: ふむ……これを見ろ。オトギッターのトレンドだ ムーン: 『結局パンツは盗まないのかよ』『ただの怪盗で草』『空気の読めない老害www』 ……ひどい誹謗中傷ですね タワー: フールは書き込んでないよね? フール: 当たり前だろ!あたしアカウント持ってないし!使い方わかんないから! ハイエロファント: 使い始めたらすごく危険な気配がするので、皆さんやり方を教えないでくださいね タワー: つまり、誹謗中傷に対して意地になって、自分もパンツを盗もうってこと? ハングドマン: いい大人が何をやってるんだか…… フール: でも、これはチャンスだぞ!ここで混乱してるうちに、リースを助け出す! 10505 - 備えあれば フィフティーン: ――という事情のようですね 人間さん: 俺のパンツをシニアが…… 人間さん: でも怪盗シニアって、普通の怪盗だよな。 パンツを消失させる魔法なんて使ってこないんだろ……? 力ずくで引っぺがすつもりなのかな。やだ、怖い マジシャン: 普通にタンスから盗むのでは? フィフティーン: シニアが動いた理由は、おそらく世論の声です。 それを鑑みると、タンスから盗んでもまた炎上することでしょう マジシャン: 脱ぎたてじゃないと意味がない……ってことね 人間さん: 不特定多数から盗むからまだ許容できていたのに、 公に名指しされてパンツを盗まれるとか、俺もさすがに恥ずかしいぞ フィフティーン: 対策はどうしますか 人間さん: とりあえず……より密着度が高いものに履き替える。 相手が物理でくる以上、こちらも物理で対策しないとな 人間さん: つまり、ブリーフだ!! マジシャン: …… フィフティーン: …… 人間さん: え、だめ? (背景切換...) ハイエロファント: ……決戦は3日後、っすね ハングドマン: 普通に出勤している日だな ハイエロファント: そうなんすよ。 週末にやってもらわないと、あっしらは仕事があるんで大変なんすよね ハングドマン: フールたちは一応、考慮してくれるが……怪盗シニアはお構いなしだからな ハイエロファント: 絶対ニートっすよ。週中に予告するなんて ハングドマン: というか、怪盗一本で食べていってるのでは? ハイエロファント: あ……じゃあニートではないんすね……。いや、それよりハングさん ハングドマン: 分かっている。もとより……そのつもりだ (背景切換...) ホメーロス: ほええええっ!?人間さんっ、当日はそのパンツでいくんですかぁ!? 人間さん: 相手は物理的に脱がせにくるはずだ。 それなら密着度が高く、布面積が少ない方が脱がせにくく、時間も稼げる フィフティーン: ――といって、この極細ブーメランパンツをわざわざ購入されたそうで 人間さん: ブリーフよりも更に防御力が高いだろう ホメーロス: なんというか、その……だ、大丈夫なんですか……? 盗まれるどうこうという以前に、パンツとして…… 人間さん: こんにちは、ってしないかどうかだろ?意外と大丈夫なんだ。履いてみせようか? ホメーロス: け、結構ですっ! ホメーロス: それにしても人間さんも大変そうですね……。 あの怪盗シニアに狙われるなんて フィフティーン: 顔出し記者会見なんてするから、標的にされたんですよ。 まったく、顔出しは白いのだけにしないと 人間さん: いや、あそこで俺が表に出なければ、別の誰かが―― 人間さん: え?いま、なんて? フィフティーン: 何か? 人間さん: いや、なんでもない……聞き間違いだと思うし…… 人間さん: とにかく、俺がいなければ、俺以外の誰かが標的になっただけのことだろう。 なら、こっちに来てくれた方がやりやすいまである ホメーロス: それでご用件って、なんでしょうか 人間さん: 用件も何もホメーロスの顔を見たかっただけだよ ホメーロス: ほえええええっ!? 人間さん: ――というのは冗談で、前期の卒業生の名簿と顔写真を見せてほしい。 もしかすると、その中に一味がいるかもしれない ホメーロス: な、なるほど。わかりました ホメーロス: ……あの、当日わたしも人間さんに付いていてもいいでしょうか……? 人間さん: え!?いや、流石に一般人を捜査本部に入れるわけには…… ホメーロス: うちの卒業生が関わっているのなら、わたしが直接現場を見られればより多くの手がかりが得られると思うんです ホメーロス: ……それに、学長として……この目で確かめたいんです…… 人間さん: …… ホメーロス: ……だめ……でしょうか……? 人間さん: ……仕方ないな。捜査協力をお願いする、という形ならなんとか…… ホメーロス: ……あ……ありがとうございます! (背景切換...) (……そして予告状当日――) (背景切換...) フール: よし、それじゃあ行くぞ ハイエロファント: いよいよっすね ムーン: かならずリース様を助け出しましょう! (背景切換...) ハングドマン: ところで、みんな。ひとつ聞きたいのだが タワー: なに? ハングドマン: 一体どこに向かえばいいんだ?人間さん特別捜査官の家なんて知らないぞ 全員: …… フール: ほんとだ…… ムーン: わたくし、なんとなく領主の屋敷に足が向いていましたが、 考えたらいるわけないですよね ムーン: いえ、いるかもしれませんけど ハイエロファント: 捜査本部的なところでしょう!リースさんだってそこに捕まってるはずですから タワー: それはどこ? ハイエロファント: さあ…… マジシャン: まったく……そんなことだろうと思ったわ フール: マジシャン!? マジシャン: 場所なら分かる。人間さん特別捜査官もリースも、そこにいるのを確認済みよ ハイエロファント: おおっ、心強いっす! マジシャン: だいたい……分からなくても聞けばよかったんじゃないの? ハイエロファント: 聞くって? フール: あ、そっか マジシャン: とにかく急ぐわよ。シニアが仕掛けるタイミングと同時に、私達も動き出さないと 10506 - 怪盗たちの邂逅 タワー: なんとか、間に合った……? マジシャン: みんな、あれを 怪盗シニア: はーっはっはっは!人間さん特別捜査官のパンツはいただいた! フール: あんな屋根の上の目立つところで調子に乗って……! ハングドマン: しかし、もう盗み出しているとは手際がいいな……!悔しいが腕はいいようだ ハイエロファント: 水色と白の縦じまトランクス……思ってたより普通のパンツっすね…… フール: でも魔法は使ってなくないか?あいつどうやって盗んだ? タワー: ……盗んでないのかも ハングドマン: まさか、狂言? マジシャン: どっちにしても衛兵に囲まれているわ。あそこから逃げおおせるのかしら 怪盗シニア: これまで私も沈黙を守ってきたが…… 過去のパンツ事件もすべて私が手掛けた事件なのだ! フール: はあ!? 怪盗シニア: 白の夜明け団などと名乗っている連中は偽物! 私こそが、この町を代表する大怪盗なのだ!! フール: あ、あいつぅ……!あたしらを偽物呼ばわりだと!! ハイエロファント: しーっ!見つかりますって、フールさん! ハングドマン: しかし、考えてみると……やつがすべての罪を被ってくれているなら 必然的にリースも無実ということになって、釈放されるのでは? タワー: 確かに…… フール: ううっ、今までのも全部あいつってことになるのは悔しいーっ! でも、リースを助けるためなら……っ、くうっ タワー: じゃあこの、ばらまくはずだったカードも、もうしまって―― (ビュウウウウウゥゥゥゥゥウウウウウゥゥゥゥ!!) ハイエロファント: うわ、すごい風っす! タワー: あっ!カードが!? ハングドマン: まずい、シニアたちの方にカードをばらまいてしまったぞ!これでは―― 人間さん: いたぞ!白の夜明け団だ! マジシャン: やっぱり!位置がバレたわ! タワー: ごめん……! フール: 仕方ないだろ! ムーン: そうです、あんな突風がいきなり吹いたら誰だって―― タワー: ううん。それも含めて私のせい。きっと不幸体質が突風を呼んだ フール: だとしても!仕方ないだろ!こうなったら、あたしたちも言うことは言うんだ! ハイエロファント: フールさん、何をっ…… フール: はーっはっはっは!我こそは白の夜明け団首領、怪盗ゼロ様だ! 盗んでもいないパンツを盗んだなどと!恥を知れ、シニア! 怪盗シニア: うぉおおぉのれぇっ、ゼロめ! 後から出てきておいしいところを持って行こうとするな! フール: 無能な捜査機関諸君っ!ゼロ様を捕まえられるものなら、捕まえてみろ! ムーン: 全力で煽り倒しちゃいましたよ!? マジシャン: ここは仕切り直すわ!逃げるのよ! 人間さん: 逃がすなーっ、追えっ!! 怪盗シニア: な、なにーっ!?どこへ行く!!私を無視するんじゃなーいっ!! ホメーロス: ほえぇぇっ!?わ、わたしはどうすれば……!? とりあえず人間さんについていきますっ……! (背景切換...) (怪盗シニアによる予告状通りの犯行……という場面だったが、 彼の小物ぶりに俺も少々落胆していたところだった。 つまり、シニアの狙いはこういうことだろう。) (魔法を持たない彼は最初から盗むつもりはなかった。 目的は名誉回復なのだから予告状で耳目を集めた上で、 あらかじめ用意した市販のパンツを盗品だと言い張る。それで十分だったのだ。) (俺が盗んでいないと言い張っても負け惜しみにしか聞こえないし、 本当に盗んだかどうかは俺とシニアしか分からない。 確かに賢いのだろうが、面白みに欠ける。) 人間さん: 名前の雰囲気からして、グライダーで登場するかと思ったら別にそうでもないし…… フィフティーン: 人間さん、奴らを追うということで良かったのですか? 一応、シニアは黄金のTバックを盗んだ容疑もありますが 人間さん: SNSの炎上から犯行まで数日だ。 やつが持っていたパンツの購入ルートを潰していけば行き着くだろう。 それよりも……世間の関心事は白の夜明け団にある フィフティーン: なるほど (衛兵に続いて追跡する俺の視界には、夜の町を駆けていく怪盗たちの姿があった。 思ったよりも人数が多い。夜闇の中、路地をくねくねと曲がりながら逃げるので 数えにくいが……おそらく4~5名か。) 人間さん: 絶対に逃がすなよ! (背景切換...) フール: はぁっ、はぁっ、まだ追ってくるのか…… やっぱりあたしたちが注目の的ってことだな! ハイエロファント: 喜んでる場合じゃないっすよ! ハングドマン: ハイエロ ハイエロファント: ……!了解っす ハングドマン: ここで二手に分かれよう。マジシャンたちはフールを連れて逃げてくれ。 わたしたちがここは引き付ける マジシャン: ハングはまたそんなこと言って―― ハングドマン: これはおふざけではない。本気で提案している作戦だ マジシャン: ハング……!? 10507 - 後輩のために、友のために マジシャン: ハングたち、大丈夫かしら…… フール: 二手に分かれて逃げただけだ。絶対、大丈夫! マジシャン: あなたのその根拠のない自信、いまは少しありがたいわ。 余計なことをできるだけ考えずに済む…… ムーン: あの……思ったんですけど…… タワー: なに? ムーン: いえ、別に何も思わなかったかも…… フール: いいから言えって! ムーン: あの……いまって、捜査本部はがら空きなのでは? マジシャン: !! フール: 確かに!じゃあ助けに行こう! マジシャン: 待って。全員で行くのはリスクが高いわ タワー: 私がまた何か起こしてしまうかもしれない マジシャン: もちろんそれもあるけど、フールの逆位置の魔法は私達にとって唯一無二のものよ。 だから、フールとタワーは二人で部室に戻って フール: なんであたしたちだけなんだ! マジシャン: タワーは自分で言ったように危険な場所に向かうにはリスキーだわ。 かと言って、そんなタワーをひとりで逃がすわけにもいかない。 けど……フール、あなたは逆に運がいいと思うの フール: え、そうか? マジシャン: 失礼なことを言うけど、ごめんね。 あなたがアカデミーに入学したのも、ここまで留年もしなかったのも 幸運という要素は確実にあると思う フール: 言われてみるとそうかもしれない…… マジシャン: ごめんね フール: ……え?どこが失礼だったんだ?よく分かんなかったぞ マジシャン: ええ……? ムーン: で、では、マジシャン様とわたくしでリース様を助けるのですね マジシャン: ええ。内部はある程度、私も案内できるから (背景切換...) ハイエロファント: ついてきてます? ハングドマン: ああ、しっかりと ハイエロファント: 思った通りっすね。リースさんを逮捕したときから薄々感じてたんですけど、 とりあえず誰か捕まえて芋づるを狙ってるんすよ ハングドマン: 最初から全員を一度に捕まえるつもりはないわけだな ハイエロファント: だから『あとちょっとで捕まりそうな奴がいる』って餌があれば、 ほぼ全力でこちらを追いかけてくる ハングドマン: あとはわたしたちがうまくやるだけだな……あのとき話したように…… (背景切換...) ハイエロファント: ……決戦は3日後、っすね ハングドマン: 普通に出勤している日だな ハイエロファント: そうなんすよ。週末にやってもらわないと、あっしらは仕事があるんで大変なんすよね ハングドマン: フールたちは一応、考慮してくれるが……怪盗シニアはお構いなしだからな ハイエロファント: 絶対ニートっすよ。週中に予告するなんて ハングドマン: というか、怪盗一本で食べていってるのでは? ハイエロファント: あ……じゃあニートではないんすね……。いや、それよりハングさん ハングドマン: 分かっている。もとより……そのつもりだ ハイエロファント: リースさんは面が割れました。報道はまだされてませんが、捜査側にはバレてます ハングドマン: 仮に今回、逃げおおせたとしても……指名手配でもされたら、リースは公務員だ。 もう人生は終了すると言っていい ハイエロファント: だから、リースさんは『無罪』じゃなきゃいけない。それなら、まだやり直せますんで ハングドマン: ……わたしは、所詮しがないブラック企業の末端 ハイエロファント: あっしだって、社内の派閥争いをふらふらとすり抜けて生き抜くだけ ハングドマン: リースやマジシャンが持つ未来とは、重みが違う ハイエロファント: あっしら、実は失うものなんてないんすよね ハングドマン: ああ。だから……覚悟できたんだ。主犯はわたしたちだということにしようと ハイエロファント: リースさんはあっしらに脅されていただけ、ですね ハングドマン: これならリースも、完全に無罪ではないかもしれないが、社会復帰はできるだろう (背景切換...) ハイエロファント: 来たみたいっすね……ここいらで迎え撃ちましょうか ハングドマン: 主犯らしく、派手に暴れようじゃないか ホメーロス: あ……い、いました! 人間さん: む……もう観念した、というところか ハイエロファント: あんたが人間さん特別捜査官ですかい 人間さん: そうだが ハイエロファント: いやぁー!凛々しいお顔!さぞかしおモテになるんでしょう? これでシゴデキときちゃ、女の子が放っておきませんぜダンナ! 人間さん: え ハングドマン: お、おい。どうした ハイエロファント: あ、すみません。つい習慣で ハイエロファント: いやでもワンチャン乗せられて、うまいこと便宜を図ってくれたりなんかして 人間さん: するかーっ!逮捕だっ!! ホメーロス: ほえぇぇっ!?お、大人しくお縄についてください……! ハイエロファント: ですよね!! ハングドマン: ふふ……やはりこうなるようだな。さあ、ぶってくれ!! 10518 - 真の盗賊団は誰だ ホメーロス: か、確保しましたぁ! 人間さん: よしっ、このまま捜査本部に連行するぞ (ついてきてくれていたホメーロスの協力もあって、 無事に一味ふたりの身柄を確保することに成功した。) ハイエロファント: いやあ、さすがっすね。 あっしらを取り押さえるなんざ、なかなかできる芸当じゃありませんぜ ハングドマン: さあ、潔くお縄につこう。 どう逃げるか分からないから、縄できつく縛っておくことをお勧めする 人間さん: なんなんだ、こいつら…… ハングドマン: なに、目的は達した。なら、後は趣味を楽しんでもいいだろう ハイエロファント: 覚悟はできてますが、罪が軽いに越したことはないですし ホメーロス: 目的……? ハイエロファント: へえ、あっしらは…… フール: そこまでだ!! 人間さん: !? (突如響く声にはっと上を見上げると、屋根の上に人影が。 影はそのまま地面に着地する。) ハイエロファント: フ……じゃない、ゼロ!?どうしてここに! フール: 仲間を見捨てるわけにはいかないからな! ハングドマン: 捕まることも予見していたのか……? フール: よけん? ハイエロファント: 二手に分かれたでしょう……?あっしらは別で逃げ切るとは思わなかったんで? フール: んん?そういう話だったっけ?あ、あいつは置いてきたぞ。 不幸にしそうで心配だっていうから ハングドマン: なんとなくで来てしまったのか……。 だがお前ひとり増えたところで、この人数で抵抗は…… (何やら仲間内でもめているのか、よく分からない会話を繰り広げている3人。 だが、最後の言葉通り2人は既に無力化している。) 人間さん: ゼロ……お前もここに来たからには捕まってもらうぞ フール: なんだと!? 怪盗シニア: 待てぇい! 人間さん: 今度はなんだ!? 怪盗シニア: この私を完全に無視しおって!パンツを盗んだのは、私だと言ってい…… げぇほっ、げほげほげぼぉっ! ホメーロス: ほえええぇぇっ!?だ、大丈夫ですかっ 怪盗シニア: すごい走ったから身体がもうちょっと フィフティーン: すみません、人間さん。 こちらはこちらで確保しておこうと思ったのですが、突然走り出してしまって 人間さん: それはいいんだけど……。 走るおじいちゃんを捕まえられない衛兵部隊ってシンプルに心配になるな…… フール: まだ言ってるのか!パンツはあたしたちの犯行だぞ! ハイエロファント: あぁっ、そんな明言しちゃわない方がいいですぜ!? シニアになすりつけるパターンもまだ生きてるんですから フール: なんのことだ? ハングドマン: 諦めろ。ゼロがそんなことまで頭が回るはずがない フール: とにかく!お前は偽物だ! 怪盗シニア: お前こそ偽物だ! (これでは収拾がつかない。ここは俺が、シニアは偽物だと改めて指摘して、 退場してもらうしかないだろうか。) (話しの運び方次第ではただの負け惜しみと言われそうだが、 ずっとゼロたちを追走していたのだから、 パンツを履く暇などなかったことは衛兵たちも理解してくれるだろう。) 人間さん: 待て。それについては俺も言っておきたい。俺はシニアにパンツを盗まれてはいない 怪盗シニア: ……っ! フール: そもそもどうやって盗んだのかだ!あたしが使う魔法、お前には真似できないはずだぞ 怪盗シニア: 魔法、だと? フール: 今ここで証明してやる! 人間さん: まあ落ち着け。まず、さっきシニアはトランクスを振りかざしていたが俺は今日は―― フィフティーン: そうです!人間さんは今日はこの通り、ブーメランパンツです! 人間さん: えっ (フィフティーンが背後から、俺のズボンをずり下ろす。それと同時に――) フール: これが人間さん捜査官のパンツだ!! (ゼロの魔法が発動した。) 人間さん: あっ!? (ブーメランパンツはフールの手の中に収まっている。脱ぎたてほやほやだ。 そしてフィフティーンは俺のズボンをずり下ろしている。つまり。) ホメーロス: ほええええぇぇぇっ!?人間さんっ、あ、あのっ、ふ、ふ、フルチ…… ハイエロファント: フルチン御開帳ですぜ!? 人間さん: うああああああ!? マジシャン: いたわ! ハイプリーステス: マジシャンとムーン!?助けに来てくれたの!? ムーン: いまちょっと見張りの人には眠っていただいています~。 起きて来るかもしれませんけど~ ハイプリーステス: 細かいことは後で共有するから、とりあえず逃げろってことだね マジシャン: この捜査本部は最低限の見張りだけでガラ空きなんです。今ならきっと逃げられます ハイプリーステス: ……分かった。ありがとう、ふたりとも 10519 - 裏切り (ヒュウウウウウゥゥゥ……) 白の夜明け団たち: ……………… 他の人々: ……………… 人間さん: ……………… 怪盗シニア: ●●●●出ちゃってるよ? 人間さん: うわああああああ!? フィフティーン: くすくす ハイエロファント: い、いやあ、さすがダンナ!立派なモノをお持ちですねぇ! フール: そうなのか? ハイエロファント: あっしだって知りませんよ。ただ、実家の父よりは立派なんでまあそうなのかなと フール: へー!良かったな、人間さん 人間さん: まあ粗末なモノとか言われるよりは…… 人間さん: って、そうじゃない!と、とにかく逮捕だ! ホメーロス: ほえぇ……でもこれで、白の夜明け団が一連の、 パンツを盗んだ事件の犯人ということは、確定ですねぇ 怪盗シニア: くっ……長年盗みを働いて来た私が、最後の最後に他人の功績を盗み損ねるとは…… フール: はーっはっはっは!恐れ入ったか! これがあたしたち『白の夜明け団』のしん……しんちょっこ?なのだ! ハイエロファント: 真骨頂っす フール: そう、それ。しんちょっこだな ハイエロファント: 直ってないっす 衛兵: え、えと、じゃあ逮捕します ハングドマン: 結局こうなってしまうのか……ふふ、きつく頼むぞ…… 人間さん: フィフティーン、そろそろズボンから手を放してもらえないかな。 うちの息子は寒がりなんだ フィフティーン: そうはいかないわ 人間さん: え? (カチリ。) (背中に突き付けられる固い感触。おそらく金属だろう。 同時に響いた、これまた金属質の音。) 人間さん: (銃、か……!?銃をつきつけられている…… まさか、どうしてフィフティーンが……?) フィフティーン: 動かないで (俺は反射的に両手を挙げる。思わず喉を鳴らした。 衛兵たちも、俺の不可解な挙動に気付いて、 3人の逮捕を中断し様子を窺っている。) 人間さん: ……ど、どういうつもりだ フィフティーン: 引き延ばしには乗らないわ。あなたには、一緒に来てもらう フィフティーン: まず、衛兵を引かせて 衛兵: 特別捜査官?どうしましたか? 人間さん: ……撤退だ。その3人を解放してくれ 衛兵: 武器を突き付けられているのですか……!? エージェント・フィフティーン、どうしてそんなことを! フィフティーン: 短い間だったけど、みんな色々とありがと♪ 真面目でお固い仕事なんて何をどうすればいいかさっぱりだったけど みんなのおかげで、それっぽく立ち回れたわ (フィフティーンは口調さえも急変し、衛兵たちにそう告げた。 俺と同じく衛兵たちも言葉を失っている。) フィフティーン: そろそろ時間ね ホメーロス: あれっ、馬車が近づいてきますよ。貸切って表示が出てますが…… 御者: どうどう~。お待たせしました、ご予約のデビル様。いらっしゃいますか? フィフティーン: さあ、乗って。あなたたちも フール: う、うん! ハイエロファント: いやあ……何が何やらですから、後でちゃんと説明してくださいよぉ? ハングドマン: 私は馬車に乗らずに引きずってもらってもいいのだが ホメーロス: に、逃げられちゃいますよっ? 衛兵: し、しかし人間さん特別捜査官が人質に…… ホメーロス: うっ…… フィフティーン: じゃあね。もう会うこともないかもしれないけど (こうして俺はどこかへ下半身丸出しのまま連れて行かれてしまったのだった。) (――と思ったのだが、連れて来られたのは俺が寝泊まりしている宿屋の部屋だった。) (そしてゼロたち3人は、フィフティーンの指示で、 俺より先に別の場所で下ろされていた。 おそらく行方を把握させないためだろうとは思う。) フィフティーン: そんなに緊張しなくていいのよ。縮こまっちゃって、可愛い♪ 人間さん: というか、もう履いてもいいよな? フィフティーン: だーめ♡ 人間さん: うおっ!?お、おい、よせフィフティーン デビル: アタシの名前はデビル。フィフティーンは潜入するための偽名よ~? 教えることにリスクはあるけど……やっぱり、ひとつになるのに 本当の名前で呼んでほしいじゃない? 人間さん: 潜入……つまり、お前は捜査状況を探るために送り込まれた、 白の夜明け団メンバー、ということか……! 片腕として信頼していたが、まんまと一杯食わされたな 人間さん: ん?ひとつになる、って……? デビル: もう限界なのよ。あなたのその引き締まった身体を見ていたら お腹の奥が疼いちゃって…… デビル: あなたが言ったとおり、アタシは白の夜明け団のスパイ…… でも、そのことについて話す前より先に、まず……この疼きを解消したいのよ……! 人間さん: え、あ、ま、待って……!! 10520 - 逆位置の魔法 (チュンチュン) 人間さん: …… デビル: ふふっ……期待通りだったわ。 朝までアタシの相手をして、満足させてくれるなんて……♡ 人間さん: (つい流されて……こんなことになってしまった……。 絶対これ手を出しちゃいけない状況だったよな……) デビル: こんな美女を一晩独占できたっていうのに、浮かない顔ね? (ベッドの上で呆然としたまま朝日を浴びている俺とは対照的に、 デビルは手早く服を着て、メイク直しも完了していた。) 人間さん: さすがに自分の立場を振り返って、これはまずいと思ってるんだよ…… デビル: え~?だって、良かったでしょ?アタシ 人間さん: それは、まあその……。いやっ、そういう問題じゃなくて! デビル: どうしてアタシが、こんなもので脅してまであなたを連れてきたと思う? (デビルは微笑みながら、小さなバッグから銃を取り出す―― と思いきや、出てきたのは着火用の道具だった。 彼女がカチッとスイッチを入れるが、先端からは何も出ない。) デビル: エルマイト切れのライターよ。 こんなもので騙せるなんて、やっぱり人生ハッタリかましてなんぼよね 人間さん: マジかよ…… デビル: アタシの身体の疼きをなんとかしたかったのは本音だけど…… 本当はちゃんと話したかったのよ。 補佐役をやっていて、あなたは話が通じる気がしてたから 人間さん: どういうことだ? デビル: パンツはね……アタシたちに必要なものなのよ デビル: 例えばアタシ。もう分かってはいると思うけど、性欲がすごいの。 ずっとムラムラして……何も手につかなくなっちゃう デビル: 性欲が解消されないと眠れないし、強すぎて一晩中こうして楽しんじゃう。 でも、だからって睡眠を取らなくていいわけじゃない。 何より、社会で生きていけないでしょ、こんなの 人間さん: たまのお楽しみじゃなく、さっきまでのが通常運転だっていうのか? (貪欲だったデビルの姿を思い返し、あれが本人の理性とは別に 本能的に発露するのだとすれば確かに厄介かもしれない、と思う。) デビル: でも、フ……ゼロのおかげで、この欲求を抑え込むことができたのよ。 だからエージェントとしてちゃんと仕事もできたでしょ。 じゃなきゃ潜入なんて最初から無理だし 人間さん: どうして、そんなことが…… デビル: 難しい理屈はアタシも分からない。 これはゼロの見つけた『逆位置の魔法』の効果なのよ デビル: アタシは性欲を制御できる程度に抑え込めるようになったし、 言動が二転三転する子が、発言に一貫性を持てるようになったり…… 本人の悩んでることや欠点が解消されるみたい 人間さん: 逆位置の魔法…… デビル: その魔法を発動するために必要なのが―― 人間さん: パンツ、なのか デビル: アタシたちはみんな、問題を抱えてるの。 優秀に見える子も、心の内側ではいろいろな葛藤があるのよ。 それを解消してくれるのが、逆位置の魔法 デビル: パンツはいつか返すために全て保管しているわ。 もちろん盗みは悪いことよ。 でも……アタシたちのことも少し、あなたには知っておいてもらいたかったの 人間さん: お前が言ってるのは、自分の問題を解決するために 何の罪もない第三者に迷惑をかけてもいい、っていうことだぞ デビル: ……分かってる。悪いことをしてる自覚はある。 だけど、そうしないと生きていけないの。綺麗事だけじゃ生きられないのよ 人間さん: …… デビル: それじゃあ、これで。楽しかったわ。 今夜のことだけじゃなくて……あなたと一緒に仕事したこともね。 ま、いろいろ忘れてお楽しみだけなら、また付き合ってもいいわよ~? 人間さん: え?このまま帰るのか? デビル: だって眠いし~。ここのところの疲れが一気にきちゃったわ~ 人間さん: いやいや。一緒に朝飯食おうとか、そういう話じゃなくて。 俺は人質だったんじゃないのか? デビル: あなたの身体を好きにすることと、アタシたちの事情を知ってもらうこと。 どっちも目的は果たしたわ。ずっと拘束するのもめんどくさそうだし~ デビル: この後どうするかは、あなた次第だし別に恨んだりしないわ。 じゃ、今度こそ。ばいば~い 人間さん: ………… (デビルが部屋から出て行った後も、 俺はベッドに転がったまま彼女の残していった言葉を反芻する。) (法の下の正義に照らすなら、彼女たちには罪がある。そして、それは糺されるべきだ。) 人間さん: (でも……悪いと分かっていても、そうしないと生きられない……か) (つい雰囲気に流されてテンションも上がってしまい、 特別捜査官などと名乗って調子に乗っていたが……俺は警察ではない。 本当の意味で、自分の立場を改めて振り返った。) 人間さん: ……もう少し、逆位置の魔法について知らないといけないな (ただ……いまは、とりあえず寝たい。疲れた……。) 10521 - 未来への可能性 フール: おはよう!! タワー: 朝から元気 フール: 寝たら疲れが回復するから、朝が一番元気なの当たり前じゃないのか? ハイプリーステス: ボクみたいに朝とか苦手な人もいるんだよ…… マジシャン: 低血圧女子みたいなこと言ってますけど ハイプリーステス: 血圧だって低いよ!いいじゃん、別に!男が低くても! ムーン: そうですよね~。人それぞれの体質ですもんね~ ハイプリーステス: そうだよ。食だって細いのに、付いてるだけで食べさせようとする上司もいるし ムーン: でも敢えてなんか女子っぽくしようとしてる気も~ ハイプリーステス: いつもの手のひら返し……とみせかけて、痛いところ突いてくる……。 確かに血圧はガチだけど、食細いのは頭のどこかで 『いっぱい食べると筋肉付きすぎて男っぽくなるの嫌だな』とか思ってる…… ハイエロファント: 確かにリースさん、何ならあっしより細いですからね。うらやまっす ハングドマン: だが縛ったときに肉が少しはみ出るくらいが卑猥だとも思うぞ マジシャン: なんで縛られる前提なのよ デビル: みんな、お待たせ。おはよ~ フール: おっ、デビル!お疲れ様だぞ! ハイエロファント: 昨日は助かりましたよ。危うくまとめて御用でしたからね デビル: その代わり、もう潜入はできないけど~。 まあ毎日、決まった時間に出勤するのもいい加減きつかったし~ マジシャン: 情報が入ってこないのは痛手だけど…… でも、大体あっちの傾向も分かって来た気がするわ ハイプリーステス: ワンチャン、まだマジシャンは近づけなくもないし マジシャン: それは厳しいわね ムーン: あれ~?でも見張りは背後から気絶させましたよ マジシャン: 見張りは私達を見てないでしょうけど、監視カメラが動いてたわ。 もちろんマスクは付けていったけど……さすがにバレるでしょう タワー: 仕方ない。背に腹は代えられないから ハイプリーステス: ボクが下手打ったせいでごめんね ハングドマン: リースの責任ではない。なるべくしてなった事態だろう ハイエロファント: 問題は……今後っすよね ハイプリーステス: マジシャンたちのおかげで自由にはなったけど……脱走だからね。 ボクはきっと指名手配される。もう仕事には戻れないなぁ デビル: アタシも正体を明かしてしまったからね~。人間さんの出方にもよるけど…… ハイエロファント: デビルさんのことは、あっしも責任の一端がありますからねぇ…… ハングドマン: そう言えば、あの後どうしたんだ?私達は途中で馬車を降りたが ハイエロファント: まだ無傷のメンバーもいますからね。 アルカナムのことまで知られるわけにはいきませんでしたから フール: 二人で何か話したのか? ハングドマン: もしかして拷問を受けたのか!? 仲間のことを白状しろ、さもなくば……と卑猥な木馬に座らされたり デビル: あの状況でアタシが拷問されるわけないでしょ。主導権はこっちだったじゃない ハングドマン: なるほど。デビルが人間さんを拷問したんだな。 アレをロープでギリギリと縛り上げたり マジシャン: 拷問から離れなさいよ デビル: 当たらずとも遠からずだけど タワー: そうなの!? デビル: アタシたちの事情は話したわ。逆位置の魔法のことも、ざっくりと タワー: 信用できる、ってこと……? デビル: 正直、これは賭けみたいなもの。半々だと思ってる。 でも理解してもらえなかったとしても、 アタシたちはもう失うものは特にないし…… デビル: ああ、みんなの名前や身元は明かしてないわよ。 あくまでも事情があるって言っただけ ハイプリーステス: 聞いたところで、あの人には何もできないんだし。 パンツを見過ごすこともできないでしょ タワー: ……もう、やめよう? フール: タワー……? タワー: 私がいけなかった ムーン: そんなことないですよ~?タワー様、悪いことしてませんから~ タワー: みんなは優しい。フールは、私のために白の夜明け団を始めた。 それを知って、みんなも参加した タワー: 私の不幸をなんとかする、そのために……みんなを巻き込んでる マジシャン: 逆位置の魔法に魅せられたのは、みんなそれぞれの事情からよ。 タワーひとりが責任を感じる必要はないわ タワー: でも…… 客1: ねえねえ、聞いた?例の事件 フール: ん……? 客2: 聞いた!なんか被害者はみんな元気がなくなっちゃうんだって フール: 元気が……? 10522 - 新たな事件の芽 客1: そうそう!すごく憂鬱になって、暗くなっちゃうんだって 客2: なんでだろ?確かにキモいけど……そんなに落ち込むことかなぁ? ハングドマン: ……どうした、フール。ぼんやりして フール: あ、うん。 なんか、あそこの席の人が変な事件の話をしていて、ちょっと気になったんだ ハイプリーステス: じゃあ聞いてみようよ ハイエロファント: うお、声かけちゃうんすか。 こういうとこリースさん、本当にコミュ強の陽キャ感すごいっすね ハイプリーステス: ねえねえ、いま話してた事件のこと、気になるんだけどさ。 聞かせてもらってもいーい? 客1: えっ……? ハイプリーステス: ボクたちもさぁ、白の夜明け団にこの前パンツ盗まれちゃって。 また変な事件に遭遇したらやってらんないし 客2: わー、そうなんだ。でも確かにちょっと近いかも? 客1: えーそう? 客2: パンツも露出狂も、性的といえばそうじゃない? マジシャン: 露出狂……!? ムーン: むーん…… タワー: え、ここでダジャレ? ムーン: 違いますよ~。本当に真剣に悩んでるんです~ ハングドマン: さっきカフェで聞いた話を整理すると、こうだな。 最近、この近隣で露出狂が出没している マジシャン: それに遭遇して、その……裸を見てしまった被害者は、 何故か気分が陰鬱になってしまい、覇気もなくなると ハイプリーステス: 場合によっては、自暴自棄になって酒に溺れたり、 引きこもったりする人もいるらしいね マジシャン: 感じ方は人それぞれだけど……実際に襲われたわけでもなく、 ただ裸を見せられただけで、そんなことになるのか、ってことよね ハイエロファント: 中にはそういう人もいるでしょうけど、 ほとんどの被害者はそうやってふさぎ込んだりしてしまうとか フール: あたしたちなんか、この前人間さんの裸をしっかり見たけどみんな元気だしな ハイエロファント: あれは、あっちがトラウマになってそうですけどね ムーン: そして問題は…… フール: 逆位置の魔法…… マジシャン: 犯人がその言葉を口走ったということでしたね ハイエロファント: 正直、あっしらは逆位置の魔法が何なのか、 本質的には理解してないんで実はヤバいものなのかもしれませんよね フール: そうなんだよな。あたしが偶然、なんかうまいことやっただけで、 何でみんながうまくいくのかも、よくわかってないし ハイプリーステス: ……検証が必要かもしれないね ハングドマン: だが、私達には差し迫った問題が別にある デビル: なによ~?追手のことなら一旦忘れていいんじゃない~? ハングドマン: 違う。今日は平日だということだ。間もなく朝8時を迎える ホメーロス: ほえぇ…… 副学長: 学長自ら熱心に研究とはすばらしいですな。 実務よりも学びを優先させる、学生にも見習わせなければ ホメーロス: あっ、副学長……ご、ごめんなさい……。ちゃんと私の仕事はしますから…… 副学長: いえいえ、いいのですよ。副学長たる私がいるのですから。 学長の仕事は私が代わっておきましょう。ほっほっほ ???: あ、あの…… ホメーロス: ほええええぇぇぇっ!? リュラ: ご、ごめんなさい……驚かせて……。リュラです…… ホメーロス: び、びっくりしました。リュラさんでしたか。 でも、本体の竪琴は部屋に置いてきたはずなのに、どうしてここに? リュラ: 精霊の行動範囲内ですよ……。 お部屋から図書館くらいまでは、本体が動いてなくても来れますから…… リュラ: そ、それより……あの…… ホメーロス: あっ……そ、そうですよね……。 最近、ちっともあなたの本体を演奏していませんでしたね……。 ご、ごめんなさい……忙しくて…… リュラ: あっ、ち、違うんです……ごめんなさい、誤解させて……。別件で…… ホメーロス: そ、そうでしたか……ごめんなさい…… リュラ: ごめんなさい…… ホメーロス: はっ……いけない、また私達こんな感じになってしまってますね…… リュラ: そうでした…… リュラ: さ、さっきの副学長さん、イヤミじゃなかったですか……? ホメーロス: でもお仕事で迷惑をかけてしまってるかもしれないので…… リュラ: そうですよね、ごめんなさい……出過ぎたことを言って…… ホメーロス: いえ……リュラはフォローしてくれたんですよね。ごめんなさい…… リュラ: はっ……いけない、また話が進んでいません…… ホメーロス: 似た者どうしなので、ついつい……こうなってしまいますね…… リュラ: 実はあの、最近噂になってることで気になることが…… ホメーロス: なんでしょう? リュラ: ろ、露出狂の話で…… ホメーロス: 人間さんのことをそんなふうに言ってはいけませんよ……! リュラ: ち、違います。キャンパスの近くで露出狂が増えているそうで…… ホメーロス: えっ……? 10553 - 情と法の狭間で 人間さん: ふう…… (ひとまずパンツだけは履いて、備え付けの魔道具でコーヒーを淹れる。 そして窓際で仁王立ちしながら、朝日に目を細めた。) 人間さん: (考えたら……特別捜査官という雰囲気にも乗せられたが、 発端はフィフティーンが……いや、デビルが美人だったから いいところを見せようとがんばっていたんだよな) 人間さん: (そして、ある意味でその点は目的を達成した……) (まだ部屋にはデビルの残り香が漂っている。彼女との一晩の思い出を反芻すれば、 簡単に下腹部が熱を持ち始める。控えめにいっても最高の時間ではあった。) (立場を横に置けば、だが。) (俺はスホマを取り出す。 既に、部下の衛兵たちには、デビルが出て行ってすぐに無事を知らせた。 ひとまず隙を見て逃げ出したと伝えてある。) (それとは別にいま、メッセージを送った。その相手は――) ホメーロス: よかったです、人間さんが無事で 人間さん: 心配かけてすまなかった。ところで、そちらは? リュラ: は、はじめまして……ホメーロスさんの、竪琴の精霊、リュラです 人間さん: へえ、竪琴の。グリッサンドあたりと仲良くなれそうだな ホメーロス: 人間さんが落ち込んでいるかもしれないので、 わたしが竪琴を演奏して元気づけようと思いまして。行きますよ、リュラ 人間さん: え、いや、この部屋って防音―― ホメーロス: ~~~~♪~~~~♪ リュラ: ~~~~♪~~~~♪ 壁: ドォン!! ホメーロス&リュラ: ほえええぇぇぇ!? 人間さん: 言わんこっちゃない 人間さん: まあ、気持ちだけありがたくもらっておくよ ホメーロス: すみません…… 人間さん: それより、ホメーロスを呼んだのは今後の捜査方針のことなんだ ホメーロス: え? 人間さん: いろいろ考えたんだが……原点に立ち戻ろうと思う (俺は奥にしまいこんでいた、コミッティの指示書を見せる。) ホメーロス: 『かかる事態を解決し、当地の治安を回復せよ』 ……特に変わった内容ではありませんよね? 人間さん: ここでは『被疑者の拘束、処罰』という文言が入っていないんだ ホメーロス: え…… (コミッティの指示書は、議会での採決を経て発出される通常指示と、 議長権限で出される緊急指示など、いくつか種類がある。 これは採決を経た、最も重い種類のものだ。) (いかにエルマイトが大量にあろうとも、どれだけみんなと仲良くしていようとも、 これに逆らうことは反逆者として見なされる。) 人間さん: だからホメーロスの意見を聞きたい ホメーロス: わ、わわ、わたしのですか? 人間さん: ひとつは、白の夜明け団の身元特定、逮捕、拘束、処罰…… 一切を行わず犯行を止めさせれば、指示書に従っていると 解釈できるかどうか、という学者としての意見 人間さん: もうひとつは、いま言った解決策で地元住民が納得するか、 という地域事情を考慮した、この土地に詳しい学長としての意見 リュラ: た、大変なところに居合わせてしまいました…… ホメーロス: ……つ、つまり人間さんは……白の夜明け団を、捕まえない ……捕まえたくない、ということですか? 人間さん: その通りだ ホメーロス: ど、どうして……? 人間さん: あいつらと接していく中で……本当にそれが正しい行いなのか、 俺の中でも迷いが生じてる ホメーロス: ほえぇ…… 人間さん: 正直に言って、肉欲がないわけではない ホメーロス: な、なんのお話ですか? 人間さん: でも……デビルだけじゃない。仲間のためにリスクを冒したゼロ、 拘束されても仲間を売らず頑なに黙秘を貫いた男の娘、 逃がすために犠牲になったドMとゴマスリ…… リュラ: 名前が分からないからでしょうけど、だんだん代名詞がひどくなっていってますね 人間さん: あいつらが根っからの悪人だとは思えないんだ。だから、別の道を模索したい ホメーロス: ……分かりました ホメーロス: まず地元住民ですが……白の夜明け団に対する悪感情は、さほど強くありません。 ただ、捜査機関への信頼という意味で何かの結果は必要です 人間さん: なるほど ホメーロス: そして議決についてですが……引っかかるのは『治安の回復』です。 仮に犯行が止まったからといって、違法事実は既にあります。 犯罪者が野放しになっていて治安を回復とは言えないです 人間さん: ……なるほど。そう、だよな (さすがはホメーロスだな、と納得する。大人しく気が弱いが、 すぐにこの答えが出せる頭の冴えはさすがアカデミー学長だ。) ホメーロス: ただ……その上で、気になっていることがあります 人間さん: ……? ホメーロス: 露出狂のことです 人間さん: 許してくれよ!あれは事故なんだって! いや確かに事実だけ見ればあれも違法なんだろうけど! ホメーロス: 衝撃的でしたけど、あれは確かに事故ですから! どちらかというとフィフティーンさんが違法というか ホメーロス: ではなくて、その……別にいるんです。露出狂が 人間さん: ……!? 10554 - 罪は善行で上塗り ハングドマン: 結局、午前休にしてしまったな……。初めてだ、平日の朝に出勤しないだなんて ハイエロファント: いやあ、ここは正念場ですからね。さすがに仕事してる場合じゃないっすよ マジシャン: これが、フールが『逆位置の魔法』を発見したときの魔導書ね フール: うん。何が書いてあるのかさっぱり分からないんだ タワー: それでよく試そうと思ったよね ハイプリーステス: うわ、これ本当に難解なやつだよ。 ボクでも、なんか雰囲気が伝わるかな……くらいの。マジシャン、どう? マジシャン: 同じくです。アカデミーでもかなり上位じゃないと無理でしょう。 たぶんこのボッチャーテで理解できる人なんて、 学生じゃなくて教授クラスじゃないと ムーン: でもそれを使いこなせちゃったのって、フールさんは本当に運がいいんですね~ フール: まあな。もっと褒めてもいいんだぞ タワー: 褒められたかな、今 ムーン: でも運だけなんですよね~ フール: なんだと。愛嬌もあるだろ デビル: 頭の出来は問題にしないのね フール: でも、露出狂はこの『逆位置の魔法』を使ってるんだろ? 魔法を悪用するなんて、悪いやつだ! ハイエロファント: いや、だからどの口が言うんだって話で ハングドマン: だが、悪質性という意味では私達より上だろう。 きちんと理解した上で使い、そして実際に被害者は苦しんでいる ハイプリーステス: それな。ボクたちはパンツを盗んだけど、 盗まれた人たちは別にふさぎ込んだりしてない。正当化するつもりもないけどさ フール: 逆にもう、こういうヘンタイにはパンツを履かせてやりたいな! ムーン: あ……それですよ、フールさま フール: んぁ? ムーン: パンツを履かせましょう ハイエロファント: 露出狂にパンツを履かせる? ハングドマン: ふむ……どうしてふさぎこんでいるのか、そのロジックが分からないが…… ハングドマン: 露出することが魔法のカギなのだとしたら、 犯人は男性だというしパンツの中身が重要である可能性は高い タワー: あの部分以外は、男性が脱いでいてもそこまで騒ぎにならない マジシャン: 確かに……上裸では魔法の効力がないとするなら、 パンツを履かせれば無効化できるのかも ハイプリーステス: ボクは絶対に上も見せたくないけどね フール: そうなのか?合宿で温泉に行ったときは素っ裸だったぞ ハイプリーステス: そりゃ温泉なんだから脱ぐのは普通でしょ!それにこのメンバーは仲間なんだし ムーン: むしろリースさまは、浴槽に浸かるまではタオルで上下をちゃんと隠してましたよ ハングドマン: 一切隠す様子がなかったのはフールの方だったな ハイプリーステス: いや、みんなもそんな細かいこと覚えてなくていいから ムーン: えっと、とにかくですね……露出狂にはいま、みんな困ってます。 そんな悪い人を退治したら……白の夜明け団の評判は上がりますよね マジシャン: そうですね。ちょっとした社会問題になりつつあるし ハイエロファント: そうなったら、これまでの罪もうまいこと帳消しになるとか……!? ムーン: はい、そんなようなことを言いたかったんです~ ハイエロファント: これ、アリかもしれませんぜ ムーン: まあ、罪は罪だと思いますけどね~ 全員: いや自分で言ったよね!? ムーン: そんなに大合唱しなくても~ ハングドマン: しかし、そうか……悪いことをいいことで塗り替える、か フール: どうせ怒られるんなら、ちょっとでもいいことをした方がいいんじゃないか? フール: それに困ってる人がいるんだろ。 あたしたちがなんとかできるなら、がんばってみてもいいと思うぞ タワー: フール…… ハイエロファント: 打算を考えられないからこそ、フールさんは素直ですよねぇ フール: 褒められたな?えっへん! マジシャン: ひとまず魔法の詳細は後でもう一度、考えましょう。 さすがにみんな、一日休むわけにはいきませんよね ハイプリーステス: そうだね。ボクも面が割れたとはいっても、 職場の特定まではされてないだろうし……馬車で出勤することにするよ ハングドマン: ……では、また夜に集合するか。私はだいぶ遅くなるとは思うが ハイエロファント: じゃ、それまで皆さんどうかご無事で デビル: 社会人組は特に気をつけて。彼がどういう出方をするかは分からないから…… 10555 - フールの功罪 フール: みんな仕事か……やっぱり社会人は大変だな タワー: フールがまともなこと言ってる デビル: リスっちは大丈夫かしら。職場は割れてない、なんて言って堂々としてたけど ムーン: 当初はこんな大ごとになるはずなかったんですけどね~ フール: あたしの責任だな フール: あたしがみんなを巻き込んだ。 ちゃんと社会人として普通に仕事もして頑張ってたのに…… ムーン: それは違うと思いますよ~ フール: ん……? ムーン: いえ、巻き込んだのは事実ですし~。 これまでの皆様の生活が崩れそうなのも事実ですけど~ フール: うぐ……相変わらずだなムーンは…… ムーン: でも、皆さま息苦しかったみたいですから~。 そこから解放したのは、まぎれもなくフール様ですし、 たぶんそれは幸せにしたってことじゃないかな~って フール: ……! デビル: アタシもムーンちゃんに賛成。 実際、アタシもムーンちゃんも自分の特性に困ってたし。 逆位置の魔法で解消されて、救われた部分はあるわ タワー: 潜入なんてすることになっても? デビル: 自信にはなったわよ。だって、逆位置の魔法さえ使えば、 アタシって公務員としても働けるって証明できたんだから フール: そっか…… デビル: まあ、だいぶ周りに助けてもらったとは思うけどね~ ムーン: だから、そんなに気に病まなくていいと思うんですよ~。フール様らしくないですし フール: ん……そうだな!あたしはすごいからな!みんなのことも救っちゃうんだよな! ムーン: 反省はした方がいいですけどね~ タワー: どっちなの ハイプリーステス: 課長、明日の資料を先ほどお送りしておきましたので 課長: 明日さ、会議後の会食も参加してくれる?君がいると華やぐからね。 付いてるかどうかは相手には分からないし ハイプリーステス: (……は?) ハイプリーステス: (いや、でも……ボクがいると華やかになるとは思ってるんだ。 別に性接待しろって言われてるわけじゃないし……) ハイプリーステス: 分かりました。終馬車では帰りますよ マジシャン: ピッキング作業、終わりました 先輩: おう、早くなったな マジシャン: 氷属性関連の在庫が薄くなっているようです。 製造部門に連絡を入れたほうがいいかもしれません 先輩: ん、そういうところに気が付くようになったか。じゃあお前から連絡しておいてくれ マジシャン: どれくらいの量を入庫させますか? 先輩: 任せる。なんとなく肌感で分かってるだろ? マジシャン: あ……はい、そうですね。ではやっておきます マジシャン: (確かに……単純作業の繰り返しだと思っていたけど、 在庫状況にも気がつくし、適正在庫もおおよそ見当がつく……) モンスターカスタマー: ふざけないでよ、聞いてないわよ! ハングドマン: 申し訳ございませぇん……! モンスターカスタマー: もう訴えてやるんだから!こんな怪しい情報商材なんて! ハングドマン: ああっ!お願いします! モンスターカスタマー: は? ハングドマン: そんなことになったら私、上司からきっとまた執拗に暴行や暴言を受けて……! 想像するだけで身体が……ぁっ! モンスターカスタマー: ちょ、ちょっとハングちゃん。胸に洗濯ばさみなんて付けてちゃだめよ! カスタマー: もう……ハングちゃんには負けるわ。あまり無理しないでね ハングドマン: え?あれ…… ハングドマン: (ドMであることには変わりないが……黙って耐えるだけではなくなっている……。 私も少しずつ変わっているのだろうか……) 専務派ベテラン: ハイエロちゃんね、そのときによって専務派についたり、常務派についたり、 フラフラしてるでしょ? ハイエロファント: ぎくぅっ!い、いやぁ、そ、そうですかねぇ 専務派ベテラン: 例の、うちが出資するプロジェクトの件、上が揉めちゃって。収拾つかないのよ ハイエロファント: は、はぁ…… 専務派ベテラン: 常務派にもパイプがあるでしょ?落としどころを探ってほしくて ハイエロファント: は、はい、わっかりましたぁ! ハイエロファント: (あっしは強い者になびくコウモリだと自分で思ってましたが…… 『パイプがある』か……そういう立ち位置も、ありなのかもしれませんねぇ…… ハイエロファント: ふう……なんとか常務派との接触もうまくいったし…… なんだかんだ、あっしもうまくいって…… ハイエロファント: 『逆位置の魔法』も最近は使っていませんが…… まだ魔法の効果は残ってるんですかねぇ…… ハイエロファント: さて、持ち帰った仕事を片付けたら今日はもう寝て…… ハイエロファント: ん……?このデータ……これって…… 10556 - ホメーロスの覚悟 (俺は一通り、ホメーロスから報告を聞いた。 この近隣で、露出狂事件が頻発しているというのだ。) ホメーロス: そこで気になる証言が得られたそうです 人間さん: ??? ホメーロス: 犯人が『逆位置の魔法』という言葉を口走ったとか 人間さん: 『逆位置の魔法』……それって ホメーロス: 正確には『逆位置の魔法ってやつがあるから、 こいつらは俺達のことを後からうだうだ証言したりしないんだぜ』です リュラ: 字面だけを見ると、口封じのようにも見えますね ホメーロス: 実際、被害者の方は完全にふさぎ込んでしまい家からも出ず、 当然ながら捜査当局の取り調べにもなかなか応じてくれない…… 人間さん: 妙だな ホメーロス: ええ。白の夜明け団も同じフレーズを使っていますが、 被害者が直接、そんな状態になってしまうことはありません リュラ: 直接? ホメーロス: 間接的には多少の事例がありますから リュラ: そうなんですか……? ホメーロス: 下着が押しとどめていた尿漏れがズボンに浸食した結果、 パートナーにドン引きされ、自暴自棄になった男性ですとか 人間さん: 気の毒に…… リュラ: 愛なんてもろいものですね ホメーロス: 最初は同じ『逆位置の魔法』に関連すると知って、 ついに白の夜明け団が露出狂になったものと思いました。 しかし、このことから―― 人間さん: 別口の犯行、か 人間さん: ……逆位置の魔法とは、何なのか。それを知る必要があるな…… ホメーロス: わたしもそう考えて…… じ、実は、詳しい人にも声をかけて調べているところなんですが…… 人間さん: おお、さすが仕事が早いな ホメーロス: 逆位置の魔法と思しき魔法について書かれた魔導書は、特定できています。 希少なもので、オトギノクニに数冊しかありません ホメーロス: そのうちの一冊が、紛失し行方が分からなくなっていました 人間さん: 紛失……!?まさか犯人グループが盗んだのか……? ホメーロス: そして……その行方の分からない一冊は、フローレ・アカデミー、 それもボッチャーテ・キャンパスの蔵書なのです 人間さん: ……っ!そ、それって ホメーロス: 犯人は、アカデミー関係者の可能性が高くなりました 人間さん: (じゃあ、白の夜明け団もアカデミー関係者なのか……?) ホメーロス: わたしとしては、この事実を公表して……学生にも名乗り出てもらい、 そしてわたしが責任を取って辞任する……と考えています 人間さん: えっ!?い、いや、ちょっと待て。 まだ学生の犯行と決まったわけじゃないんだから、早まるな ホメーロス: で、でもっ、でもでもっ……蔵書が紛失したのは事実ですし、 それが世に出て犯行に使われているなら、それだけでも責任問題というか……! 人間さん: その場合、アカデミーは被害者だろ! 人間さん: (責任感が強すぎるのか、自責思考が強すぎるのか…… それともやんわり学長をやめたいのか、どれなんだろう……) リュラ: メーちゃん、落ち着いてくださいっ……。 とりあえず最後に借りた学生さんと、この後会うんですよね? ホメーロス: あぅ……そうですね……。そろそろ行かなくては…… 人間さん: よければ、それに俺も同席させてもらえないか? (白の夜明け団の処遇についてはまだ答えが出ていない。 だが、この露出狂事件の調査も自分の仕事の一環と言えるだろうし、 もしかすると悩みの解決に繋がるかも――) (何故かそんな予感も抱きながら、俺はホメーロスに同行を申し出たのだった。) 学生: がくがくぶるぶるがくがくぶるぶる 人間さん: だ、大丈夫か……? (くだんの学生と会うというので、アカデミーの中庭で落ち合った。 ホメーロスいわく、どうも緊張している様子だったので、 学長室に呼び出さない方がいいという判断だったのだが。) ホメーロス: あ、あの、リラックスしてくださいね……? 人間さん: (これ緊張ってレベルじゃないだろ……) (3対1という構図はどうか、という判断でリュラには帰ってもらったのだが…… 結果的に良い判断だっただろう。) 学生: ぼくは退学ですか ホメーロス: ほえええぇぇぇっ!?そ、そんなことしませんよ 学生: はっ……!あなた見たことあると思ったら特別捜査官の……そ、そうですか。 退学じゃなくて死刑ですか 人間さん: いやいやいや 人間さん: (俺にも責任の一端があったか……) ホメーロス: わ、わたしたちは……ただ、あの魔導書の行方を知りたいと思って その、な、失くした経緯を聞きたいだけなんです ホメーロス: むしろ学長権限で、一切のペナルティを課さないことを約束しますっ 学生: そ、そうなんですか……? いえ実は、装丁がカッコいいな、くらいのノリで借りたんですけど 学生: その夜、サークル飲みで泥酔しちゃって…… 気が付いたら魔導書どころか、荷物全部なくしちゃってて…… ホメーロス: ほえぇ……それは飲みすぎですよぉ…… 10557 - 新たな犯行 フール: うーん、気持ちのいい天気だな。 講義の内容はさっぱりだったが、がんばって勉強したから気分がいいぞ ムーン: 大丈夫なんですか……? タワー: 私も今日は特に不運なことは起きていないし デビル: あっ、あの中庭の植え込みあたりでお弁当にしましょうよ。 こういう天気のいい日はやっぱり外がいいわよね デビル: 天気のいい日は……外で……ごくり…… ムーン: そんな爽やかなフレーズでムラムラしないでください~ デビル: はっ、ご、ごめんね。つい、昔の楽しかった思い出が頭をよぎっただけなのよ フール: ふうん?ピクニックの思い出か?あれ、アルカナムでピクニックはしてないよな タワー: フールって純粋で可愛いね フール: 褒めてるのか?ふふん 学生1: ねえねえ、聞いた? 学生2: 例の露出狂でしょう? フール: む タワー: やっぱり学内でも露出狂の噂でもちきりだね フール: なんだ急に。確かにのどに詰まらせると危ないけど デビル: もちきりってそういう意味じゃないのよ 学生1: なんか、ひとりじゃないんでしょ? 学生2: そうみたい。バ先の友達はすっごい太ってる人だって言ってたけど、 弟の彼女はガリガリのハゲだったって言ってたし 学生1: 一晩で激太りしてフサった……わけないもんね。 そんな変態がゴロゴロいるとか治安終わってない? タワー: 複数犯……? ムーン: ここはリースさまを見習って、あの子たちに話しかけてみませんか~? フール: お、いいな。いっとけいっとけ ムーン: いえ、わたくしは無理ですけど~ フール: なんだよ! 学生1: あれ タワー: 大きい声出すから見つかった 学生1: この前、パンツ事件のとき見かけたような…… 確かあなた、特別捜査官補佐のフィフティーンさんじゃ デビル: えっ 学生2: ほんとだ。私も記者会見の映像で見ましたよ。 すっごい美人だ!ってインパクトすごかったんで デビル: ふ、ふふっ……美人は苦労が多いわ…… フール: 蹴ってやりたいな デビル: そ、そうよ。私はフィフティーン。詳しい話を聞かせてくれない? 学生1: なんか露出狂の数が増えてるらしいんです!犯人の外見とか、バラバラみたいで タワー: でも、ふさぎ込んで家から出ないって聞いた。どこからその話があったの? 学生2: 衛兵さんとかには話しづらいけど、 落ち込んでいても友達には言えることってあるじゃないですか 学生1: 衛兵さんは男の人だから……友達なんかは、 『その状況でよく相手のそんなところまで見てたね』 なんてセクハラまがいのこと言われたり デビル: 由々しき事態ね……元部下たちに、きっちり指導しなくちゃ 学生1: 元? デビル: いえ、こっちの話よ。ちなみにやっぱり、いわゆる露出狂のテンプレみたいに、 トレンチコートの下が全裸、みたいな感じなのかしら 学生2: 最初はそんな感じでしたね。 でもいまは、いきなり茂みから全裸で飛び出してくる人もいるとか ムーン: 犯人の数が増えて、犯行も大胆になっているんでしょうか……? 課長: ということで、郡内では破廉恥な事件が頻発している。 特に今回の露出狂事件は被害者の心のケアも重要だ ハイプリーステス: なんだこれ…… ハイプリーステス: (こんなに大胆な犯行を……まさか、ボクたちがパンツを剥ぎ取ったせいで みんなが開放的になっちゃった、とかじゃないよね……) 課長: 場合によっては、この課からも出向となる可能性があるのでそのつもりで ハイプリーステス: 出向って、衛兵詰所にですか……? 課長: 白の夜明け団で有名になっただろ。人間さん特別捜査官付けになるかもしれない ハイプリーステス: ……! ハイプリーステス: (そ、それはさすがにまずい……もしボクが指名されたら……!) 学生: あ、あの、本当におとがめなしでいいんですよね……? ホメーロス: だ、大丈夫ですよ。ただ、飲みすぎには注意しましょうね……? 学生: は、はいっ。では失礼します! ホメーロス: どう思いました?人間さん 人間さん: 彼が嘘を言っているとは思えない。 たぶん本当に偶然、図書室から借りて、偶然飲みすぎて置き忘れたんだ ホメーロス: ということは、この犯行も白の夜明け団も偶然起きたこと…… そんな都合のいいことがあるんでしょうか 人間さん: どうだろうな。ひとつなら、ものすごく運がいいやつがいれば そういうこともあるだろうが…… ホメーロス: あ、あの、まだ付き合ってもらってもいいですか? 人間さん: もちろん。次はなんだ? ホメーロス: 逆位置の魔法というもの自体に、理解が必要だと思うんです。 なので、詳しそうな人に解説をお願いしようと思いまして 人間さん: 分かった。ぜひ同席させてくれ 10588 - 『白の夜明け団』の正義 ハングドマン: 遅くなってすまない フール: おお、来たか。お疲れ様だぞ ハイプリーステス: もっと遅くなるかと思ってたよ。ハングのところは本当に大変そうだからね ハングドマン: 話し合いが終わったらオフィスに戻る予定だ。 ジャケットを椅子にかけて、夜食を買いに出ただけ、 という状態をアピールしている タワー: 帰れないんだ……大変…… マジシャン: じゃあ、できるだけ手短に済ませましょう。 もう、大まかな方向性は確認できていると思いますが フール: 露出狂のやつを見つけ出して、ぶらぶらさせる前にパンツを履かせるってことだな! ムーン: それでわたくしたちの罪がどうにかなるかはさておき~。 正義感で行動するってことですね~ ハイプリーステス: さっき話したけど……あまり事態が長期化すると、 ぼくは人間さんのところに出向させられるかもしれない ハイエロファント: さすがにそれは、いろいろ終わっちゃいますからねぇ デビル: アタシも思っていた以上に顔バレしちゃってるみたいだし…… みんな補佐官のことなんてよく覚えてるもんだわ マジシャン: 問題は、具体的にパンツを履かせる方法ですね。 逆位置の魔法はあくまでも脱がせる魔法ですが フール: それなんだけど、さっき試したらいけたぞ ハイエロファント: ええ!? タワー: 履かされた ハイエロファント: タワーさんが実験台にされたんですかい…… タワー: もちろん重ね着。裸だったわけじゃない ハイプリーステス: いや、フールとタワーの間で裸を見せ合ってたとしても別になんとも思わないけど…… タワー: 私が露出狂だと思われるかと心配して ムーン: いまの会話の流れでそんなこと誰も思いませんよ~ タワー: そう?ならいうけど裸でも試した。重ね着じゃないと発動しないなんてこともない。 だから本物の露出狂にもちゃんと通用するはず ムーン: え~?フール様の前で脱いだんですか~?露出狂なんじゃないですか~? タワー: くっ…… フール: 誤解だぞ、ムー。タワーはちゃんと恥ずかしがってた タワー: それフォローにあんまりなってないし言わないで ハングドマン: しかし……露出狂対策はそれでいいとして、結局タワーのためには、 また時間をおいてパンツを脱がせないと解決していないのでは タワー: ……それは、もういい。これ以上、みんなに迷惑かけられない。 リースもデビルも、日常に支障が出ちゃう デビル: アタシは……! デビル: いえ、そうよね……これ以上はさすがに、まずいわよね…… マジシャン: ひとまず後のことは、考えるのも後回しにしましょう。 先送りというと聞こえは悪いですが、 この段階で決められるものでもありませんから フール: そうだな。まずはやれることをやるか マジシャン: では、明日から町を巡回することにしましょう。また、夜に集合ということで ハイプリーステス: りょーかい。じゃ、帰って寝るかぁ。睡眠不足は肌の治安に影響するし ハイエロファント: あ……ハングさん、ちょっと ハングドマン: なんだ? ハイエロファント: ハングさんの勤め先って、情報商材の会社でしたよね。 何か大きな投資とか、されるんです? ハングドマン: いや?うちは特に裏付け調査などもせず、 思いついたそれっぽい資料を見栄え良くして売りつけているから、 投資が必要になることは、あまりないと思うのだが ハイエロファント: 就労環境だけじゃなくて、事業内容も真っ黒だったんですかい…… ハングドマン: 何故そんなことを? ハイエロファント: 本当はあっしの立場でこんなこと漏らすのはいけないんですが、 どうも不自然なお金の動きがありまして…… (ホメーロスに請われて専門家のアドバイスを受ける場に 俺も同席することになったのだが――) ホメーロス: よ、よろしくお願いします…… パラケルスス: やあ、よく来たね 人間さん: 専門家ってパラケルススのことだったのか パラケルスス: ぼくは大賢者だからね。知識が必要なら頼るのも当然だよ。 とは言え、今回の相談内容はぼくの専門分野とは少し違うから 専門家という紹介のされかたは不本意だけど ホメーロス: す、すみません……。パラケルススさんなら何でも知ってるかと パラケルスス: もちろんぼくに分からないことなんてないよ。任せておいて 人間さん: (ホメーロスはこれ、無意識で煽ってるのかな) パラケルスス: さて、さっそく本題といこうか。相談してくれた例の『逆位置の魔法』だけどね…… パラケルスス: 結論から言おう。あれはただのイマジュマイト移転魔法だよ ホメーロス: イマジュマイトの……移転……? 10589 - 逆位置の真相 パラケルスス: 魔導書を読み解くと……自らの持つエルマイト、 あるいはディマイトを相手に移転させることが魔法の骨子だね ホメーロス: ほええぇぇ……そんな内容が書かれているんですね パラケルスス: これは実用な魔法というよりは、いわゆる基礎研究の理論なんだ。 だから魔導書も、研究者向けで一般使用者を想定していない。 それでやたらと難解な書き方をされてるんだよ 人間さん: 実用的ではないのか?結構すごいことをやってる気がするけど パラケルスス: その通り。本来、イマジュマイトの授受は作家の権限だ。 それを魔法でなんとかしようってものだから、なかなかに挑戦的な研究だよ パラケルスス: ただ、保有量の2%程度が限度みたいだ。微々たる量だよ ホメーロス: 今回の被害者さんは、じゃあ…… パラケルスス: 見せつけて嫌がらせをしたいという犯人のディマイトが移転したことで、 ふさぎ込んでしまったんじゃないかな パラケルスス: 言ったように大した量じゃないから、1週間もすれば元の生活に戻れると思うよ ホメーロス: ほっ……よかったです 人間さん: でもそうなると、犯人の狙いがよく分からないな。 見せたいだけなら魔法なんて要らないし、口止めが狙いなら効果は中途半端だ ホメーロス: 確かに…… 人間さん: 見せつけたい、なんて性癖なんだから、期間限定で満足できるものでもないはずだ パラケルスス: 興味深いね。ぼくも、犯人の狙いについてはちょっとピンとこない ホメーロス: ……実験、でしょうか 人間さん: 研究目的か。アカデミー関係者だっていうから、 確かにそのセンはありそうだけど……あまりにも大っぴらにやりすぎだ。 普通に治験者を募れば集まりそうだし 人間さん: そして、白の夜明け団の方はますます分からないんだよな。 被害者は特に何の変化もないんだ パラケルスス: ふうん……?そんなはずはないけど…… 人間さん: それにパラケルススの話だと、パンツを盗む必要性がよく分からない パラケルスス: ……もしかして、だけど ホメーロス: な、なにか…… パラケルスス: そうか……露出狂の事案に囚われ過ぎていたな。ぼくとしたことが 人間さん: なんだ……?急に、手元の紙にいろんな記号を書き殴り始めて…… 実におもしろいとか言わないよな? ホメーロス: なんですか?それ パラケルスス: わかったよ……そうか。白の夜明け団は、ディマイトを押し付けたんじゃない。 エルマイトを回収したんだ 人間さん: え?でも特に元気がなくなったという報告は パラケルスス: パンツだ ホメーロス: ほえ? パラケルスス: パンツは魔法によって突如失われる。 誰かに強引に剥ぎ取られれば恐怖でディマイトが増加するが、そうじゃない パラケルスス: むしろ一時的に僅かな解放感があったんじゃないか? 少なからず身体を圧迫する存在ではあるからね 人間さん: 確かに俺もちょっと……い、いや、仮にそうだとすると、 パンツを盗むことが目的じゃなくて パラケルスス: 一時的にエルマイトを増加させ、それを回収している。 パンツはそのための引き金でしかない。 おそらく犯人たちは持て余しているんじゃないかな 人間さん: 確かにそれなら老若男女を問わないのも納得だな…… 人間さん: (そして……デビルたちが抱える諸問題に対応できているのも、 エルマイトのおかげということか……?だとしたら、他に方法はある…… 俺にならできる方法が) マジシャン: じゃあ、ここで一旦分かれて、手分けして犯人を捜しましょう フール: わかった!絶対見つけ出してパンツを履かせるのだ ムーン: うん、がんばりましょう~ ハイエロファント: パンツはフールさんしか履かせられないんで、 見つけたらすぐにみんなにグループチャットで連絡するってことですな ハイエロファント: いやあ、やっぱりフール様あっての白の夜明け団ですからねぇ ムーン: やっぱり帰りたいかも~ ハングドマン: いざとなればわたしが犠牲になって、 あんなことやこんなことをされながら時間を稼げばいいんだな? タワー: ……ねえ、これ マジシャン: ええ……みんなの、悩んでいた部分が元に戻りつつあるわ。 やっぱり、ここ最近パンツを盗んでいないから……? ハイエロファント: はうっ……?あっし、やばい感じっすか? フール: そんな……。でもいま盗むのはまずいのだ。それは、あたしでも分かる ハイエロファント: あっしのことなんか気にしなくていいんですよ ハイエロファント: でも、そうですか……戻ってきちゃうもんなんすかね ハングドマン: だとしたら……わたし達はこれからずっと誰かのパンツを 盗み続けなくてはいけないのか…… ムーン: …… 10590 - それぞれのパトロール 衛兵長: それでは、これより巡回を開始する。必ず犯人を見つけ出すのだ! 衛兵たち: はっ!! 衛兵長: 人間さんもご協力感謝します 人間さん: いや、当然のことだから 人間さん: (白の夜明け団たちのことも分かってきたところだけど…… まずは目の前のこれをなんとかしないとな) ホメーロス: あの、人間さん 人間さん: ああ、ホメーロスは無理に付き合わなくていいんだぞ。 本来はボッチャーテの学長の仕事なんだから ホメーロス: その、少し耳に入れておきたいことが 人間さん: ん? ホメーロス: 先日、うちの学生がフィフティーン捜査官を名乗る、 よく似た女性から露出狂事件のことを聞かれたそうです 人間さん: ……!? ホメーロス: 声をかけられたのは一般にも開かれたエリアではありますが、 情報収集ならわざわざ学内に来る必要はありません ホメーロス: やはり……白の夜明け団はアカデミー関係者なのかも…… 人間さん: ……そうか 人間さん: もし余裕があるならだけど、フィフティーンに該当しそうな者が 関係者にいないか洗ってみてくれないか ホメーロス: も、もちろんです…… 人間さん: でも見つかったからって、いきなり辞任とか言わないでくれよ。 とりあえず俺に相談してくれればいいから ホメーロス: は、はいぃ……! 人間さん: (ホメーロスはすぐ責任を感じて辞任とか言うからな…… ちょっと心配だけど、俺の言葉を無視することもないだろう……) 人間さん: (ん……?辞任……騒ぎの責任をとって……。 この事件が起きたから、ってことで……つまり……?) 衛兵長: 人間さん! それでは恐れ入りますが、地図のこのあたりをご担当いただけますかな 人間さん: あっ?え、あ、うん、わかった 人間さん: (いや……とりあえずいまは巡回に集中しよう) ホメーロス: (……辞任、ではない責任の取り方……) ホメーロス: (精一杯、わたしも捜査に協力しなくちゃ……! 街に出て聞き込みから始めようかな……) (巡回に出発してから一時間ほど経っただろうか。) (町は平和そのもの。たまに酔っ払いがふらふらしているが、 特に罪を犯しているわけでもない。) 人間さん: うーん……これといって騒ぎは起きてないな。もう1周したら詰所に一旦――ん? ムーン: …… (おっぱい。) (いや、そうじゃない。そこまで深い時間ではないものの、 露出狂事件も起きている昨今、夜間に女性の一人歩きは危険だ。) 人間さん: あの、お嬢さん。おひとりですか? ムーン: えっ、ナンパですか~?困ります~ 人間さん: (そうなるよな。こういうとき、どう声をかけるのが正解なんだっけ) ムーン: でも、ちょっと気になるかも~ 人間さん: えっ、マジで? 人間さん: じゃない、じゃない。えーと、こんな夜に歩いているのは危ないですよ。 私は人間さん特別捜査官です (こんなとき、心強い身分証。提示するだけで俺の信頼がぐっと上がるはずだ。) ムーン: ……!? ムーン: そ、そうですか~。そう言えばなんか見たことあるかも~。 ほら、パンツとられちゃった人ですよね~? (ちょっと不本意な覚えられ方だが、ひとまず不審者の疑いは晴らすことができただろう。) 人間さん: 露出狂が出没するという話もありますから、不要不急の夜間の外出は避けてください ムーン: ん~。でも不要不急じゃない場合は仕方ないですよね~? 人間さん: それはまあ……。では何かあったら大声を出してくださいね ムーン: でも早く帰った方がいいかもしれませんね~ 人間さん: (いや、あんたが不要不急じゃないって言って――) 人間さん: ん? デビル: 難しい理屈はアタシも分からない。 これはゼロの見つけた『逆位置の魔法』の効果なのよ デビル: アタシは性欲を制御できる程度に抑え込めるようになったし、 言動が二転三転する子が、発言に一貫性を持てるようになったり…… 本人の悩んでることや欠点が解消されるみたい 人間さん: 逆位置の魔法…… 人間さん: (言動が二転三転……?) ムーン: それじゃあおやすみなさい~ 人間さん: 念のため身分証を拝見できますか? ムーン: えっ 人間さん: 規則でして ムーン: えっと~。教室に忘れてきちゃったかも~ 人間さん: ……学生さん? ムーン: あ、えっと、そうです~ 人間さん: この辺りだと、フローレ・アカデミーですか? ムーン: えっと、そうかもしれないです~ 人間さん: なるほど…… ハイプリーステス: 今頃、みんなパトロール中かぁ デビル: そうねぇ。うまく見つけられるといいけど ハイプリーステス: 面が割れてるぼくたちは留守番……巡回してる衛兵も多いから 当然の判断なんだけど、なんだかもどかしいよね デビル: そうね。思うようにならない……なんだかムラムラするわね ハイプリーステス: いやムラムラはしないけど 10591 - 裏で引かれる糸 ハイプリーステス: そうだ、これ デビル: それ、映像スフィア? ハイプリーステス: 大丈夫、職員みんなに配布されて持ち帰りOKの資料だから。 無断で持ち出したわけじゃない デビル: ああ、仕事の資料なのね。てっきりエッチな映像でも流れるのかと思ったわ ハイプリーステス: キミとそんなものふたりきりで観てどうするんだよ デビル: お互いにムラムラして間違いが起きちゃう? デビル: ううん、さすがにアルカナムのメンツでそれはないわね…… ハイプリーステス: まあね。家族同然だし。いやでも他人ともエロスフィア見て盛り上がった勢いで いたすのはどうかと思うよ? デビル: ええ……?リスっちは性欲とかないわけ? ハイプリーステス: ないわけじゃないよ。というか、ボクにそんなこと突っ込んで聞いて来るのって 本当にキミくらいなんだけどね ハイプリーステス: 変な遠慮されるよりは全然いいんだけど デビル: じゃあもっと深い猥談しちゃう? ハイプリーステス: 別にエロい話がしたいわけじゃないよ!ていうか、これ!見てよ デビル: これって…… 被害者: あー仕事で遅くなっちゃったなー。 最近、露出狂の噂もあるのに、こんなとこで会ったらどうしよう 露出狂: 脱がなきゃ……見せなきゃ…… 被害者: なんか様子のおかしい人がいるわ。怖いけどちょっと話しかけてみるかー 被害者: あのー大丈夫ですか? 露出狂: 脱がなきゃ!見せなきゃ!うわあああ! 被害者: きゃあああああ! ハイプリーステス: ――という犯行の一部始終を収めた監視スフィアの映像なんだけど デビル: 被害者の女性が、なんか一人コントの導入なの? っていうくらいめっちゃ独り言多かったけど ハイプリーステス: それはボクも気になったけども!今そこじゃないから! なんなら他の映像もあるから見て!続き流すから! 映像の音声: 脱がなきゃ…… 映像の音声: きゃあああああ! 映像の音声: 見せなきゃ…… 映像の音声: うわあああああ! ハイプリーステス: ほら、こんな感じ デビル: 本当に犯人は複数いるのね。しかも女性の犯人まで…… ハイプリーステス: そうなんだよ。変な事件だよね デビル: そして男女問わず、他人様にお見せしていい身体じゃないし。 もうちょっと引き締めてからにしなさいよ ハイプリーステス: どんな身体でも人前で脱いだらアウトだからね? デビルもスタイルいいけど、変な性癖に目覚めないでよ。 パンツ盗んで露出癖もあるなんて数え役満だから デビル: 分かってるわよ。でも、これ気になるわね……みんな目の焦点が合っていないみたい ハイプリーステス: 確かに…… デビル: 性癖として見せつけてるんじゃなくて、 何かヤバいものを身体に入れておかしくなっちゃった結果なんじゃないの? ハイプリーステス: あり得るね。だとしたら、そっちの方が問題は根深いけど デビル: ……でも、みんなが同じ行動をするのは不自然よね。 暴れたり、倒れたり、大声を上げたり…… 考えられるパターンはいくつもあるのに ハイプリーステス: 脱ぐ、しかも他人に見せるってそんなによくある異常行動ではない気がするもんなぁ デビル: 誰かに操られてる、とか ハイプリーステス: 何のために、っていう疑問はさておくとして、それなら浮かんだ疑問が解決しそうだね デビル: みんなに連絡を入れたほうがいいんじゃないかしら。 うまく捕まえられたとき、対応も変わるかもしれないし ハイプリーステス: そうだね。えーと、簡潔に全員に伝えるには…… デビル: ●んち●大魔王がいます、と。送信 ハイプリーステス: 分かるかぁ! マジシャン: ん、デビルからメッセージ……え、魔王……? マジシャン: あ、リースからも…… マジシャン: 黒幕がいる……!? 10592 - ムーンへの尋問 (フローレ・アカデミーの学生など何百人もいると聞く。 中には言動がブレる人だっているだろう。) (それだけで疑うのはあまりに根拠がない……のだが、何故か俺は直感していた。 彼女は『白の夜明け団』と何らかの関係があるのではないか。) ムーン: えっと、あのぅ……? 人間さん: ……もう少しお話を聞かせてもらえますか? ムーン: やっぱりナンパ……? 人間さん: そ、そうじゃなくて。あの……ひとまずお名前をお願いします ムーン: あ、えっと……ムーンと、申します 人間さん: ムーンさん。実は、事件の事情を知っている人が、 フローレ・アカデミーにいるかもしれないんですよ ムーン: えっ……?そ、そうなんですね~。アカデミーの人が…… 人間さん: ムーンさんの周辺で、何か変わったことはありませんでしたか? ムーン: 変わったこと……い、いえ、ないですね~ 人間さん: 本当に? ムーン: いえ、あったかもしれません~ 人間さん: ……。例えばパンツを盗まれた人などはいませんでしたか? ムーン: いたかもしれませんね~ 人間さん: ああ、そう言えば……私の仲間のエージェント、フィフティーンという者も そちらで聞き込みをしているようでして ムーン: ……! 人間さん: フィフティーンに会いましたか? ムーン: いいえ、会ってませんよ~ 人間さん: 本当に? ムーン: 本当ですよ~。嘘つく必要はないじゃないですか~ 人間さん: (……ビンゴ) (曖昧な回答に終始し、言っていることがブレやすいことは この短時間でも既に伝わっている。 そんな彼女だがフィフティーンのことだけは明確に否定し、聞き返してもブレない。) (少なくとも彼女はフィフティーン、つまりデビルを知っている。 そして関係を知られたくないと強い意志があるはずだ。 ならばと俺は、更に揺さぶりをかける。) 人間さん: まあフィフティーンのことはいいんですが。 もう追跡装置で居場所は特定できていて、私の部下が向かっているところですし ムーン: ……!そ、そうなんですね~。知らない人ですけど~ (そわそわし始めるムーン。きっとデビルに危機を知らせたいはずだ。) 人間さん: どうしました?落ち着かない様子ですが ムーン: そ、そんなことないですよ~? 人間さん: そう言えばお友達とこれから待ち合わせだったりしませんか? 連絡を入れたほうがいいかもしれませんよ ムーン: …… 人間さん: ただ、連絡先だけ少し拝見したいのですが。 もしかするとデビルと繋がりがあるかもしれませんからね ムーン: し、知らないって言ってるじゃないですか、そんな人……! 人間さん: ほう (思ったよりも早く釣り針に引っかかってくれた。 俺はデビルという名前は今ここで初めて出している。 この場合の正しい反応は誰ですかそれはとなるはずだ。) (彼女はフィフティーン=デビルという図式を把握している。間違いない。 程度は不明だが、彼女は白の夜明け団へ関与している。) 振動音: ブブッブブッ ムーン: あう…… 人間さん: スホマにメッセージが届いたみたいですね。音が聞こえましたよ ムーン: い、いえ……きっと気のせい…… 振動音: ブブッブブッ 人間さん: また……。早く返信した方がいいんじゃないですか? きっと白の夜明け団の仲間が心配しているんですよ ムーン: えっ……!な、なんですか、それ。わたくし、知りません……! 人間さん: 私がこうして声をかけたのは偶然だと? (実際、偶然なのだが、ここはハッタリで勝負する。) 人間さん: ムーン……きみのことはデビルからも聞いているんだ。 言動が二転三転する子っていうのは、きみだろう? ムーン: あ……あぁう…… 人間さん: 仲間はどこにいる?一度、全員と話をしたいんだ。 ……信用できないかもしれないが、逮捕するつもりはない (これは本音だった。いまのやり取りだけでムーンを逮捕することは難しいだろう。) (拘束できない相手と個別に話をしても協力体制は作れない。 全員とちゃんと話がしたいと思っていた。だが――) ムーン: そ、それはできません! わたくしはどうなってもいいですが、他のみんなのことは絶対に言えません! 人間さん: 本当に捕まえるつもりはないんだよ。 事情を聞かせてくれれば協力できることもあると思う ムーン: わ、わたくしのことは逮捕でもなんでもしてください…… でもっ、みんなのことは……! 人間さん: ……逆位置の魔法を使わなくても済む方法だってある。俺はきみたちを救いたいんだ ムーン: う、うう…… 人間さん: ずっとこのまま逃げ続けられるとは、思ってないんじゃないか? ムーン: そ、それは…… ???: ピッ 人間さん: (ん……?いま、何か音がしたような……) 10593 - おたがいさま フール: うーん、何人もいるっていうから、いっぱいうろうろしてて すぐに見つかると思ったんだけどな タワー: 何その地獄みたいな風景。そんなの想像してたの? フール: ま、そのうち見つかるはずなのだ。あたしは運もいいからな タワー: …… フール: タワーはどうしたのだ。 手分けするってみんなで決めたのに、あたしと一緒がいいのか? タワー: 話したくて フール: ん? タワー: フールは一応、白の夜明け団のリーダーだから フール: そうだぞ。ゼロ様だぞ。かっこいいんだ タワー: もうやめようって、みんなを止めてほしい フール: タワー…… タワー: 私は、不運なままでいい フール: だって卒業できなくなったりするじゃないか タワー: それでいい。留年し続けて、いずれ退学になってもいい フール: 大丈夫だ タワー: 何が……? フール: なんかよく分かんないけど、困ったことは大体、 気が付いたらなんとかなってるものだからな タワー: フールは運がいいから タワー: でも私と一緒にいたらフールだって……私の不運で相殺されて、どう転ぶか分からない フール: じゃあ、どっちの運が勝つか勝負だな! フール: あたしはすっごいからな。なんかすごいんだ。だから負けないぞー! タワー: いや勝ち負けとかの話じゃなくて フール: じゃあ何か?タワーは、あたしに自分を見捨てろって言ってるのか? タワー: ……簡単に言うと、そう フール: できるわけないだろ、そんなこと タワー: なんで フール: まだ恩返しできてないからだ タワー: え……? フール: あたし……入試の成績がダントツでビリだっただろ フール: よーっし!試験の問題はちんぷんかんぷんだったけど、なんかうまいこと合格できたぞ フール: ここから、あたしの伝説が始まるんだな。おはよう、みんな! 学生1: うわ、こいつ確かアレだぜ。入試で史上最低点を叩き出した筋金入りのバカだろ フール: え…… 学生2: バカがうつるから話しかけんなよ 学生3: せめて自分の名前くらい書けるようになってから来てよねーきゃははっ フール: なっ、なんだとー!名前はちゃんと書けるのだ! フール: なんだ……あいつら……。あたしだって…… タワー: おはよう フール: え?あ、うん、おはよう タワー: 何? フール: 話しかけられたと思って…… タワー: 同じゼミだし。え、違った? フール: あたし、入試の成績がダントツ最下位で…… タワー: でも合格したんでしょ? フール: う、うん……なんやかんやあって タワー: なら、同じアカデミーの学生。トップでも最下位でも関係ない フール: おまえ…… タワー: 私、タワー。あなたは? フール: フールだ! フール: って、タワー!?確かそれ、急性胃腸炎で15分しか試験を受けられなかったのに 入試成績がほぼ満点でトップ合格したっていう…… タワー: 関係ない。トップとかどうでもいい。合格できたのは、安心したけど フール: タワー……か…… タワー: 初対面のときの…… フール: あたしはこんなだし、いつも元気にしてるけど……でも心はあるからな。 ひどいことを言われたら普通に傷つくんだ フール: あのときタワーが話しかけてくれなかったら、 どうなってたかわかんない。救われたんだ タワー: ん…… フール: だから今度こそ、あたしがタワーを救う番なんだぞ タワー: でも…… フール: 他のみんなもきっと同じだ。タワーのことが好きだから協力してるんだぞ タワー: みんなも……? フール: 好きだから、助けてあげたいと思うから、ちょっと危ないことでもがんばれるんだ フール: それって……タワーがすごいからなんだぞ。 いいやつだから、そんなふうに思われるんだ フール: だからその不幸体質も、なんとか治して……普通に生きていけるようにしたいんだ。 そしたらタワーは十分すごいやつなんだから タワー: ん……そっか……。じゃあ、あんまりやめてほしいとか言っちゃだめか…… フール: それもタワーの優しさだって、みんな知ってるけどな。 いつも我慢してるんだから、こういうときくらい、遠慮しなくていいのだ タワー: ありがと…… (ピッ) ふたり: !! フール: マジシャンが持って来てくれた装置の緊急信号だ。誰か露出狂を見つけたぞ タワー: これ、ムーンの……! フール: 行くぞ!あ、でもタワーはどこかに隠れてるんだ。危ないかもしれないからな! タワー: う、うん…… 10594 - 守秘義務 ハイエロファント: (うーん……勇んで出てはきましたが、町をぶらつくだけで 露出狂を見つけられるかというと怪しいような) ハイエロファント: (とりあえずもう一周しますか……) ハングドマン: ハイエロ ハイエロファント: あひぃああああぁぁぁ!? ハングドマン: しーっ、しーっ! ハイエロファント: な、なんだハングさんですかい。 暗闇から急に現れてぼそっと声をかけてくるの、やめてもらえます? ハングドマン: じゃあどうすればよかったんだ ハイエロファント: なんかもっと明るく陽気に、『ちゅーす』みたいなテンションで来てほしいっすね ハングドマン: ちゅ、ちゅーす? ハイエロファント: はいはい、あっしが悪ぅございましたよ。 ハングさんにそんな陽キャみたいなことできませんよね ハングドマン: な、何やら罵倒されている……? ハイエロファント: わくわくしないでくださいよ。それより何の用です? ハングドマン: この前、ハイエロが話していた不審な金の件…… 調べてみたので、話しておこうかと思ってな ハイエロファント: 何も見回りの最中に来なくても…… まあでも、周りに誰もいないしちょうどいいかもしれませんね ハングドマン: 少し前から急に、わたしの勤務先に多額の資金が流入していた…… とのことだったので観察してみたのだが、 大幅な設備投資は、やはりされていなかった ハングドマン: オフィスには紙コップに注ぐタイプの自販機があるが、 あそこのコーヒーはずっと出がらしだ ハイエロファント: 最悪っすね…… ハングドマン: いい暮らしをしているのはトップの幹部だけだ。 しかし彼らも特に、このところの生活ぶりに変わったところは見られないようだな ハイエロファント: 私腹を肥やしているのではないと…… ハングドマン: その資金はいったいどこから来たんだ ハイエロファント: とある団体っす。金額しか分からないんで料金の支払いなのか、 寄付なのか、投資なのか…… ハングドマン: どんな団体なんだ ハイエロファント: え、聞きます? ハイエロファント: 『良質な魔法で子供たちを守る行動する魔法使いの会』です ハングドマン: 長いな! ハングドマン: あと、なんとなく思想が強そうで、どきどきするな。 会合でアンチ発言とかしたら袋叩きにあうだろうか……♪ ハイエロファント: やめてくださいね?ちなみに代表理事はアカデミーの人みたいっす ハングドマン: アカデミーの……?ホメーロス学長か? ハイエロファント: 知らない名前だったんで検索したんですけど、副学長みたいっすね ハングドマン: ふうむ。ホメーロス学長の印象が強すぎるからな。 他の関係者なんて担当教授しか知らないぞ ハイエロファント: まあ思想はさておき、活動内容は名称の通りだと思うんです。 関係する心当たりはあります? ハングドマン: 子供関係の活動はしていないな。 教育熱心な大人に、教育関連の情報商材を売りつけることはあるが ハングドマン: ただわたしもすべての分野を網羅していないからな。他部署も含めてあたってみよう ハイエロファント: お願いします。なーんとなく匂うんですよね ハングドマン: また罵倒されてしまった……♡ ハイエロファント: ハングさんがじゃありませんって! 信号音: ピッ ハイエロファント: いまのは……! ハングドマン: 緊急信号。ムーンからか。これはどうやら例の露出狂を見つけたか……? ハイエロファント: 急ぎましょう! ホメーロス: (……あれ?あれは人間さん……?) ホメーロス: (話してるのは……うちの学生……!?) ムーン: あ、あう……わ、わたくしは…… 人間さん: ムーン…… フール: ムー! 人間さん: !? フール: 緊急信号が出たから何事かと思ったら……人間さんにいじめられてたのか! 人間さん: ゼロ……! (先ほど聞こえたような気がした信号音は、どうやら彼女たちの間で使われている 連絡手段だったらしい。) (だがこれは好都合だ。全員がこの場に揃うなら、俺の意図を伝えることも――) フール: ムーをいじめるやつは、このゼロ様が許さない! 人間さん: えっ フール: でやあああああ! 人間さん: まてまてまてまて! (ゼロはカードを手に飛びかかってくる。 何をするつもりなのかと身構えていると、カードは瞬時に剣へと姿を変えた。) 人間さん: うおっ! フール: ちっ、かわされたか! 人間さん: 魔法剣か! ホメーロス: ほえぇぇぇ!?ぶ、無事ですか人間さん!? 人間さん: ホメーロス!?どうしてここに? ホメーロス: 例のフィフティーン捜査官の関係者を見つけようと街を調べていて…… フール: ふぃふ……?お前らデビルまでいじめたのか!? ホメーロス: ほえぇぇぇ!? 人間さん: 彼女は関係なっ……!ていうか聞いてくれ!俺は彼女をいじめたりなんか フール: だって涙目じゃないか!かわいそうに! 人間さん: 話をしてただけだよ! フール: あれ?でも緊急信号は露出狂を見つけたら、って話してたような。 どうして押したんだろう? ムーン: 別件だけど緊急だと思って―― フール: あ、わかった!つまり人間さん、お前が露出狂なんだな!早くパンツを履け! 人間さん: 履いてるよ!! 10595 - 取引成立 フール: はぁ、はぁ……お、お前、なかなかやるな…… 人間さん: 無茶苦茶するじゃないかお前…… ホメーロス: ほえぇぇぇ!もうやめてください……! マジシャン: ゼロ! フール: おお、みんな来てくれたか ハイエロファント: 人間さん特別捜査官!?一体これはどういう状況なんです? 人間さん: まずは落ち着いて話を聞いてほしい ハングドマン: 落ち着けと言われても…… マジシャン: ゼロはいま、この人と戦ってたの? フール: そうだ!こいつがムーンのことをいじめて…… 人間さん: だから違うと言ってるだろ! よし、じゃあちゃんとパンツを履いているということを証明してみせる マジシャン: きゃあああ!? ハイエロファント: いきなりズボンを脱ごうとしてますぜ!こいつが露出狂ですか! ハングドマン: あんなことや、こんなことまでされてしまう! 人間さん: わあああああ!違うってー!! 人間さん: お、落ち着いてくれたか……? フール: うん、とりあえずおまえはパンツを履いてるし、ムーをいじめてもないのがわかった マジシャン: ……そして私達を捕まえるつもりがないことも ハイエロファント: 本当なんですかい?信じていいんですかねぇ? ハングドマン: まあデビルから事情を聞いたとも言っているからな…… フール: よし フール: 腹を割って話そう。あたしのほんとの名前はフールだ マジシャン: マスクを……!? ハイエロファント: そうですね。ムーンさんはもう素顔を見せちゃってますし 人間さん: ゼロ……いや、フール。お前…… フール: なんだ 人間さん: 可愛いじゃないか!素顔はそんなに可愛かったんだな! フール: おい、こいつすっごくいいヤツだぞ!いますぐ満腹の信頼でいこう! ムーン: チョロすぎますよ…… マジシャン: あと全幅の信頼ね? フール: 待ってろ。もうすぐ他のメンバーも来るからな マジシャン: まあ覚悟を決めますか。他に私達も希望があるわけではありませんし 人間さん: えっ、マジシャンさん!? ハイエロファント: いや、このマスクってそんなに顔が分からないもんですかね? 前から疑問だったんですけど…… マジシャン: いろいろ騙していてすみません。でもデビルから聞いたと思いますが事情があるんです 人間さん: うん……まず、今後のことを話そうか―― 女性: きゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!! ハングドマン: 悲鳴!? ムーン: み、みなさま、いまのはもしかして―― フール: うん、たぶん露出狂が出たんだ!みんな行くぞ! ハイプリーステス: とりあえずみんなが帰ってきたら黒幕の話をしよっか デビル: そうね。もうすぐ帰ってくるかも――え、ちょっとこれ ハイプリーステス: オトギッター?ハッシュタグ『フラッシャー』……? あっ、なんだこれ、露出狂が出ただって!? デビル: みんなも向かったかしら ハイプリーステス: さっき緊急信号が鳴ったし、いち早く見つけたのかもね デビル: もどかしいわね……やっぱりムラムラするわ…… ハイプリーステス: ねえデビル、ふと思ったんだけど ハイプリーステス: これ付けて行けば大丈夫なんじゃない? デビル: 名案だわ!大して面積が隠れているわけでもないのに、 何故かみんな素顔に気付かない、魔道具じゃないのに魔法みたいなアイテム! ハイプリーステス: よし、行くよ! 女性: こ、こないで…… 露出狂1: ぬがなきゃ、ぬがなきゃ……見せなきゃ…… 露出狂1: 脱いだー!! 女性: いやあああぁぁ!? フール: そこまでだ!! マジシャン: か弱い市民の恐怖を煽るなど言語道断! ハングドマン: 愛すべき無垢な魂をこんな卑劣な手で、貶め、辱め、 あ、ああっ!いたぶるならわたしにしてくれ! ハイエロファント: かっこよく口上を決めるって話だったのに、 さっそくハングさんでつまずいちゃいましたね ムーン: と、とにかくフール……じゃないゼロ様を援護しましょう。 ゼロ様、準備はいいですか? フール: 任せておけ!いくぞっ、『逆・逆位置の魔法』!! ハイエロファント: おおっ……!? 露出狂1: あ、あれっ?お、おれはいったい…… マジシャン: すごい、本当にパンツを履かせた…… ムーン: なんかサイズの合っていない、みっちみちのボクサーパンツですけど 履いてることには変わりありませんよね~ 露出狂2: 脱がなきゃ…… タワー: !? 露出狂3: 見せなきゃ…… タワー: ふ、増えた!どうする? フール: くぅっ、まずいのだ……。こんなに一度にたくさん来るなんて思ってなかったから もうパンツがないのだ……! 人間さん: なんだってー!? 人間さん: (まさかこれ……俺のパンツを奪われて、 あいつらに履かせようとかそんな流れにならないよな……?) 10596 - トレンド1位 露出狂2: い、いくぞ…… 露出狂2: ぬいだー! 露出狂3: みせたー! マジシャン: きゃっ!?や、やだ、視界に入ってしまいました…… ハイエロファント: あっしは鉄の意志で目を背けてますぜ フール: や、やばいぞ、パンツが足りなくなるなんて…… デビル: パンツよ!受け取って!! フール: おおっ!?ふたりとも、どうしてここに…… フール: いや、話は後だ!もらったこのパンツで……『逆・逆位置の魔法』! 露出狂2: はっ!?な、何をしていたんだ…… 露出狂3: 俺はなんてことを……!? ムーン: やっぱり皆さん、パンツを履くと正気に戻るみたいですね~ マジシャン: ということは、露出しようとしている時点では、自分の意識がない…… 催眠状態ということですか? ハングドマン: あっちの人、履かされたのがフリル付きの紐パンなんだが…… パンツであれば、どんなものでも効果は出るんだな…… ムーン: 履いたことによって、脱いでるとき以上に変態度が増してますが ご本人はいたって正気みたいですし…… フール: 助かったぞ、ふたりとも! ハイプリーステス: もしかして、と思って箱で持ってきてよかったよ 女性: あ、ありがとうございます! フール: なんの、なんの 人々: ざわ……なんだあいつら……解決したみたいだぞ…… フール: おっと、そうだった! フール: みんな、もう安心だぞ! あたしたち『白の夜明け団』が町のみんなを露出狂から守ってやるからな! 人々: 『白の夜明け団』が……!? フール: よーし、カードをばらまいてアピールするぞ! ムーン: ばらまくのはご迷惑かもしれませんから、おひとりずつ手渡しにしましょう マジシャン: それもうアイドルのファンサみたいになってますが デビル: それより……人間さんが混じっているのはどういうことかしら? 人間さん: 改めて説明しなくちゃいけないところだが、 まずは……そこの3人。悪いが衛兵詰所まで来てもらおう 露出狂だった人たち: そ、そんな…… 人間さん: 安心してくれ。悪いようにはしない。 ただ、みんな見てる中でこのまま帰すわけにもいかないし、 それに……詳しい話を聞かせてほしいんだ ハングドマン: はい、はい……もちろんです、はい。這ってでも、ええ、はい。あと少しで、はい フール: ハングはスホマで誰と喋ってるんだ? タワー: 勤務先でしょ。どう見ても フール: 辛そうだなぁ デビル: 人間さんは露出狂になっちゃった男の人たちの事情聴取中ね? マジシャン: ええ。全員すぐに取調室に入ってしまったから詳しいことは分からないけど…… 別人みたいに大人しくて、まともに見えたわ ハイプリーステス: パンツを履かせたことで正気に戻った、ってことだね デビル: そうそう、リスっちと話していて……ちょっと気になることがあったのよ ハイプリーステス: これまでの犯行映像を見ていて、操られてる可能性を疑ったんだけど…… 実際にパンツを履かせた後の反応からしても間違いなさそうなんだよね マジシャン: ええ。複数犯がいるのもうなずけます。 誰かが不特定多数に何らかの催眠系魔法で操っているのかも ハイエロファント: ってことは、まだまだ出てくる可能性があるわけですな。 今日、3人も捕まえたっていうのに…… フール: 今度からこのパンツ入れた箱、常に持ち歩いておかないとな ムーン: いつか返すから、ってちゃんと処分せずに保管しておいてよかったですね~ ハイプリーステス: フールのアレ、別にパンツを生成するわけじゃなくて 手持ちのパンツを強制的に股間に転移させる魔法なんだよね。 気が付かなかったら危なかったよ タワー: 何がどこで役に立つかわからない ムーン: まあ履かせたことで、本当に二度と持ち主に返却できなくなりましたけど~ ハイエロファント: 確かに……変態ではなく、悪い人でもなかったとはいえ、 知らないおっさんですからね……。ガッツリ履いちゃったパンツは もう要らないっすよねぇ…… タワー: その理論でいうと、操られてた人はかわいそう。 強制的に知らない人のパンツ履かされて マジシャン: 操られてるだけの、あの人たちも一種の被害者ですからね フール: まあ操られる隙を見せた自分が悪いってことだな デビル: ちょっと気の毒だけど、他人のパンツを履かされるくらいの被害は 甘んじて受け入れてもらうしかないわね ハイエロファント: ん?あ、皆さん!これ見てください! ムーン: オトギッターのトレンド? タワー: 『パンツの怪盗が露出狂にパンツ履かせてて草』 『一瞬で履かせてすげえ俺でなきゃ見逃しちゃうね』 『盗んでいた理由がこれだったとはこの諸葛亮の目をもってしても』 デビル: これ……アタシたちのことだわ! ムーン: 最後、実名アカウントですね~ 10597 - トレード ハングドマン: ふう…… フール: おっ。終わったのか? ハングドマン: なんとかなったが……後で出社しなくては…… タワー: こんな夜なのに ハングドマン: これまで縁のなかった新規プロジェクトが大変らしくてな。 手伝いに来いと厳命されてしまった ハイプリーステス: 勤務形態がブラックなのはともかく、期待はされてんじゃない? ハングドマン: そうなのだろうか…… 人間さん: 待たせたな、みんな ムーン: 人間さん様……あの方々は? 人間さん: もう帰ってもらったよ。もちろん身元はしっかり確認したけど マジシャン: 何か分かったのですか? 人間さん: 3人に共通していたのは、2日前くらいからの記憶がないそうだ。 多少の時間のズレはあるが、おとといの夜あたりから消失している デビル: ……やっぱり操られていたのね 人間さん: その線が濃厚だな。直前の行動については 衛兵の担当者に調書を取ってもらってるから、それを待つことになりそうだ デビル: ……それで?アタシたちの処遇はどうするつもりなの? 人間さん: それなんだが…… フール: 見ろ人間さん!オトギッターでトレンドにも入ってるぞ! あたしたちはもう、町のヒーローだ! ムーン: ここで捕まえちゃうのは世論に反しちゃうんじゃないでしょうか~? 人間さん: おお……こんなことになってるのか…… ムーン: まあ、これを理由に見逃すのも規則的にまずそうですけど~ ハイプリーステス: いま絶対ブレちゃだめな場面だからね? デビル: さあ、人間さん。あんたの答えは? 人間さん: 取引をしたいと思ってる マジシャン: どういうことです? 人間さん: 露出狂にされてしまった人たちを正気に戻す方法…… それは現状、フールの『逆・逆位置の魔法』しかない 人間さん: 本件は、罪のない市民を洗脳し犯罪に至らせ、被害者も生み出す…… かなり悪質なものだ。これを治安当局としては最優先で解決しなくてはいけない 人間さん: この事件の全容解明にはフールの魔法は不可欠だ。 協力してくれれば、デビルやそこの男の娘の件は不問にしよう フール: おおっ!やったぞ!完全に名誉回復だな! タワー: 狙い通り? ムーン: よかったですね~。解決できなければダメともとれますけど~ ハイプリーステス: うん、それはそう。だから全力で解決しないとだね 人間さん: (こんなに沸き立って……やっぱり重圧だったんだろうな。 ただの学生とか、新社会人だったんだもんなぁ) デビル: ふふっ、いい答えだったわ。お礼を言っておく。ありがとう 人間さん: いや、まあ デビル: さっきのお堅い回答…… あれ、そのままコミッティ本部に報告書として出す文章なんじゃない? 人間さん: ……見透かすなよ、そんなことまで デビル: 見透かすなんて、今更でしょ。アタシ、あんたの裸だって全部見てるのよ? 人間さん: う…… 人間さん: (気まずいなぁ、この状況……) 人間さん: (だが……同時に、とてもエロい……) 衛兵: 人間さん、調書がまとまりました 人間さん: ありがとう。どれどれ…… ハイエロファント: 調書で初めて知るんすか?てっきり取り調べに立ち会ってるもんだと 人間さん: いや、言うて俺、素人なもんで……ん? タワー: 何かあった? 人間さん: ……『より良い魔法で元気イキイキ推進講座』 ハイプリーステス: 何その気持ち悪いフレーズ 人間さん: 2日前の昼、3人全員がこのセミナーに参加している。 この会場に何か仕掛けられていたのかもしれないぞ マジシャン: えっ、それじゃあ…… ハングドマン: 待ってくれ。元気イキイキ、だと? ハイエロファント: いま、下ネタ言っていい場面じゃありませんよ ハングドマン: そうじゃない。それは、わたしの勤務先で資料を作成しているものだ。 さっき、業務を手伝うように言われて…… マジシャン: なんですって……? フール: ということは―― タワー: うん フール: どういうことだ? ハイエロファント: フールさん…… ハイプリーステス: 会場がどこだったのか、講座の内容はどんなものか、 ハングドマンに探ってもらえれば分かるかもしれない フール: なるほど!ハングやるな! ハングドマン: いや、まだ何もやってないが デビル: でも、その3人の共通点だっていうだけで、まさか家宅捜索なんてできないでしょ? 人間さん: その通りだ。もう少し周辺から固めて行かないと…… タワー: なら、私がセミナーに参加する ハングドマン: なっ……弊社のセミナーなんて、 何の価値もないのに2万ゴールドの参加費がかかるんだぞ! ハイプリーステス: 問題はそこじゃないって ムーン: タワー様……それは危険すぎませんか? タワー: でも証拠を押さえられるかも タワー: ハング、セミナーは何人くらい参加するの? ハングドマン: このセミナーがどうかは分からないが、平均して200人くらいだろうな タワー: そのセミナーに原因があると仮定して、 200人もの人が全員露出狂になったとは思えない ハイプリーステス: 発生件数からしても、そうだろうね マジシャン: 規則性があるのか、無作為なのか……まだなんとも言えないわね タワー: でも、私はたぶん被害に遭う タワー: みんな知ってるでしょ。私の体質 デビル: 不幸だから洗脳もされるはず、って言いたいの? タワー: 私自身が証拠になる ハイエロファント: そんな、無茶ですぜ! フール: …… フール: ……分かった。タワーに頼もう 10618 - 元気イキイキ潜入計画 受付: いらっしゃいませ。『元気イキイキ推進講座』へのご参加でよろしいでしょうか? タワー: はい。予約していますタワーと申します 受付: お待ちしておりました。では116番の席へお進みください。 よろしければテキストブックなども販売しておりますので 開始時刻までに御手に取ってみてくださいね タワー: あ……じゃあ、もらいます 受付: 1冊2,000ゴールドです ハイエロファント: たっか!あれで2,000ゴールドって!映画のパンフみたいな薄さなのに! デビル: 映画のパンフはあれで情報量が結構多いし マジシャン: いや、何の話…… タワー: どう?画像、見えてる? フール: ばっちりだぞ! (普通の人を露出狂に変えてしまう、恐るべき犯罪。その温床になっているのが、 ハングドマンの勤務先で開催する自己啓発セミナーにあるかもしれない――) (その情報をもとに、不運体質だというタワーが手を挙げ会場に潜入しているのだった。) ハイエロファント: さっすが、マジシャンさんが用意しただけあって画像もきれいですな ホメーロス: 最近の魔道具はすごいですねぇ (マジシャンの勤務先ムラビト製作所で作られている魔道具で 少し離れた場所で待機する俺達のもとに、映像と音声が届いている。 もちろん記録もされていた。) ハイプリーステス: これだけ鮮明なら証拠にも十分使えそうだね。タワー、いま見えてるそれは? タワー: さっき買ったテキスト。異常はない タワー: この教室の席が……180人分くらいあるけど、いまのところ半分は埋まってるっぽい ハイプリーステス: どうせあのテキストも、中身はスッカスカなんでしょ? ハングドマン: ああ。大体、マンガの名言とかを繋ぎ合わせた言葉で雰囲気を保っているだけだからな ホメーロス: なんて適当な…… 人間さん: 人間界でもそういう微妙なセミナーって多かったみたいだけど ハングは本当に転職したほうがいいんじゃないか デビル: あら。ハング呼びなんて、ずいぶん親しげね。妬けちゃうわ 人間さん: からかうなって (捜査協力をするにあたり、俺は白の夜明け団メンバーから改めて自己紹介を受けた。 もちろん本名だ。) フール: しかし、ライバルだと思ってた人間さんとこうして協力することになるとはな フール: こういうのをアレだな、昨日の夕飯の残りを今日の弁当に入れるって言うんだよな マジシャン: 言わないですね…… ハイエロファント: もうちょっとヒントがほしいですねぇ ムーン: でも本当に人間さん様の言う通り、ハング様は転職を考えないと、 この一件に関わってるような会社はちょっと…… ホメーロス: アカデミーの卒業生から逮捕者が出るのは悲しいです ハイプリーステス: いやボクたちも、たまたま人間さんと取引をしただけで……まあ、いいか…… ハングドマン: ……というか、この事件が解決するということは 会社としてのかかわりが明るみに出るわけだからな…… マジシャン: 企業としてもたない可能性もありますね ムーン: 明るみに出なければ幹部を脅して甘い汁を吸うのもひとつの方法かもしれませんね ハイプリーステス: 嫌なブレ方するなぁ…… ムーン: 冗談ですよ? マジシャン: でもムーンの言う通り、ハングの会社にとってもリスクはあるのよね…… ハイエロファント: そりゃあ悪いことする以上、捕まるリスクはありますねぇ マジシャン: つまり、そのリスクに見合うだけのメリットがあるはずでしょう? 参加者が露出狂になって、一体何の得があるのかしら ハイプリーステス: 個人なら愉快犯って可能性もあるけど、 会社ぐるみなんだとしたら、よく分かんないかもね ムーン: 分かりやすいところだと、お金ですけどね~ ムーン: あっ、でもやりがい搾取という言葉もありますけど~ ハイエロファント: あっ……お金……! 人間さん: どうした。財布でも忘れたのか? ハイエロファント: 違いますよ! ハイエロファント: いえ、お金で思い出したんですよ。 そう言えばまとまったお金が動いてるのを見つけたんだって…… ハングドマン: そうだったな。確か……妙に長い団体名の…… ハイエロファント: 『良質な魔法で子供たちを守る行動する魔法使いの会』です 10619 - セミナーの効果 ハングドマン: ああ、そんな名前だったな。怪しそうな団体だ 人間さん: それ、もしかすると……今回のこの件に関わってるかもな ハイエロファント: やっぱりそう思います? 人間さん: 金の動きもそうだが、その団体名だ。 このセミナーに何か通じるところがあると思わないか? ハイプリーステス: 確かにどっちも偽善くさくて、気持ち悪い感じだよね。胡散臭い感じ マジシャン: 多額の資金はセミナーの開催費用?だとすると、 その団体が露出狂を増やそうとしてる……? ムーン: 犯罪に繋がるセミナーなら、お金もたくさん払うかもですね~ ハングドマン: だが結局、何のためにこんなことを? という疑問は弊社からその団体に置き換わっただけだぞ 人間さん: どんな団体なのか分かってるのか? ハイエロファント: 詳しいことは……ただトップは、アカデミーの副学長が務めてますね ホメーロス: 副学長が……!? 人間さん: 繋がってきたな…… (ピーッ、ピーッ) マジシャン: !? フール: 何の音だ? マジシャン: タワーの身体に付けた魔力検知器です。 これが反応するということは、あの子の近くで 何かしらの術が発動しているということ……! ハングドマン: なんだと!?ということはタワーは……!? ホメーロス: た、大変です フール: タワー!大丈夫か! 講師: ではまずこの映像をご覧ください タワー: (きれいごとや、当たり前の言葉の羅列…… それを張り付いたような笑顔の若者が大声で叫んでる) タワー: (こんなことで気持ちが切り替わるなら、私だってとっくにこの不運体質が――) タワー: ……? タワー: (何、これ……身体の奥がむずむずするような感じ…… なんか暑くなってきた……?脱ぎたい……) タワー: (ああ、違う……脱ぎたいんじゃなくて、見せたい……) フール: タワー!大丈夫か! タワー: !? タワー: (危ない……!インカムを付けてなかったら…… フールが声をかけてくれなかったら、私……意識が……) タワー: (メッセージを打たなくちゃ。えーと……『何か様子がおかしい。術を』) 講師: もしもし タワー: !! 講師: 申し上げたはずですよ。セミナー中は、スホマの操作はご遠慮ください、と…… ハングドマン: まずい、タワーが講師に目を付けられたようだぞ! 人間さん: もう証拠は十分だろう!これ以上はタワーの身が危ない。全員、突入する! タワー: あの、これは 講師: 端末は没収させていただきます タワー: (見つかるなんて……これも私の不運……?) 講師: あなたには特別講義が必要かもしれませんね タワー: け、結構です 講師: いいえ、必要です。個室に来なさい。私の特別な教鞭で分からせてあげましょう タワー: や、やめて。触らないで……! 講師: 抵抗するのはやめなさい。他の受講者さんに迷惑です タワー: 離して…… フール: そこまでだ!! 講師: !? タワー: フ……ゼロ!! (俺達が突入したとき、既に半裸の受講者が数名いた。 タワーも衣服が多少乱れていたが、それが自ら脱ぎかけたのか 彼女の手首をつかむ講師の仕業なのかは判断がつかない。) (ただ、いずれにせよ講師がタワーの意に反して、 何かを強制しようとしていることは明らかだ。) 講師: な、なんですか。あなたたちは フール: ふっ……あたしたちは『白の夜明け団』!お前らの悪事もそこまでだ!! ハイプリーステス: ボクたちが突入したことで、脱ぎかけの人たちも我に返ってくれたみたいだね マジシャン: つまり……ある程度、対象者の集中力を必要とする、 認識操作のような術ということでしょうか…… 講師: ちょっと!いきなり入ってきてワケの分からないことを 人間さん: 俺は特別捜査官、人間さんだ。セミナーの内容はともかく、 嫌がる彼女の手首をつかんでいるのは事実じゃないのか? 講師: これは……! 人間さん: 暴行の現行犯で逮捕することもできるぞ。 大人しく事情を話すなら、会社のせいにしてやれるが……? 講師: ……っ! デビル: 逃げたわ! 人間さん: 今の流れで逃げるのかよ! ハイエロファント: 裏口に向かったみたいっす! フール: 追いかけるぞ!! 10620 - パンツを履いて フール: そっちに行ったぞ! ムーン: ここを左に折れると先回りできるかも~ デビル: ムーンはこのあたり詳しいの?助かるわ! デビル: ……って、やっぱり違うとか言わないわよね? ムーン: 大丈夫ですよ~。わたくしのおうち、すぐそこなので~ マジシャン: じゃあ二手に分かれましょう! (逃げた男を追って、俺達は追跡劇を繰り広げていた。) (とは言え相手は特段、走りに自信があるわけでもなさそうで地の利もこちらにある。 早々に追いつめることに成功したのだが――) フール: もう逃げ場はないぞ! 講師: くっ……このままじゃ、俺は『特別研修』に…… ハングドマン: 特別研修……? ハングドマン: ああっ!よく見たらあなたは、営業一課のディック主任! ディック主任: ど、どうして俺の名前を!? ハングドマン: はっ!しまった…… ハングドマン: えっと、あの、優秀だと社外でも評判なんですよ、うん マジシャン: とにかく……もう観念することですね。 たとえこの場を切り抜けても早晩、あなたがたの罪は露見します ディック主任: う、うう…… ???: それはどうかな フール: ――っ!誰だ!! ???: 事実にたどり着いたのは君達だけだ。 つまり、この場で口を封じれば露見することはあるまい 人間さん: そうはいくか。俺は―― ???: 特別捜査官、それにホメーロス学長。ふたりのような社会的立場のある者が 白の夜明け団のような連中と単独で行動を共にしている…… ???: むしろこれは、そちらのスキャンダルでは? ホメーロス: そ、そんな……! ディック主任: た、助かりました、コック社長! フール: ふん……社長だろうがなんだろうが、どうやってあたしたちを黙らせるつもりなんだ? フール: 言っておくがあたしたちは、いくら金を積まれてもこのことは表砂糖にするぞ! ハイエロファント: そんな角砂糖みたいに言わないでください。表沙汰です、表沙汰 フール: そう、それだ! コック社長: ふむ……どうやら君たちは私が札束で頬を叩くと予想しているようだが…… 実はもう少し荒っぽい男でね (コック社長と呼ばれた男が指を鳴らすと、大勢の男たちが現れた。 手下を用意していたらしい。) ハイプリーステス: なるほどね。数に物を言わせて捕まえようってわけか。でもそう簡単にいくかな マジシャン: 検知器が……!リース、気を付けてください。この人たちは―― 男たち: そうれ!オープン!! マジシャン: きゃあああぁぁぁ!? ムーン: いやですううぅぅぅ! (※しばらくお待ちください) ハイプリーステス: くっ……!よくもそんな貧相なものをっ……!ゼロ、頼んだっ! フール: わ、わかったのだ!逆・逆位置の魔法っ!! 男: あっ 男: あれ……俺はいったい……? ハングドマン: やはり操られているのか。しかし、こんなに大勢を引き連れて来るとは マジシャン: これが社会的地位だということですか ハイプリーステス: いやでも魔術じゃん。本人の人望とかまったく関係ないし コック社長: ふん……この規模の洗脳を完了させるために、 どれほどのヒト・カネ・モノが必要になると思う コック社長: それを動かせるのが社長というものなのだよ ハイエロファント: いや、それは分かったんですけど、あの……なんであの人まで脱いでるんですかね? ハングドマン: さあ……?それにしてもさすが社長 ムーン: ご立派ですね~ 人間さん: 何だあいつ……! デビル: 妬かない、妬かない。アタシはあんたのこと好きよ 人間さん: それは微妙にフォローになってなくないか? フール: とにかく数を減らすのだ!みんな、あたしのこと援護してくれ! タワー: わかった ハイプリーステス: そうだね。魔法の発動中はさすがに無防備になるし (フールが逆・逆位置の魔法を発動し、 押し寄せる半裸の男たちへ次々にパンツを履かせていく。) (効果のIQの低さを横に置けば、これほど連続して魔法を放つのは かなりの技量なのではないか。勉学はさっぱりらしいが、 フールの才能は確かなのかもしれない。) マジシャン: あと少しです! ハングドマン: ふふっ……我に返った人数の方が増えてきたな。 『何やってんだこいつら』という視線が……痛気持ちいい……♡ ムーン: マッサージで凝ってるところ押されたみたいな感想ですね~? デビル: 痛いと気持ちいいは紙一重よね。 でも、それも後少し……視線の痛さを感じるのは、あいつの方よ! (確かに、全員にパンツを履かせきったら、丸出しの男はコック社長のみだ。 そのいたたまれなさは、俺もよく知っている。) (だが社長は未だ平然と構えていた――) 10621 - 窓から見える社会の荒波 フール: これで――終わりなのだ!! 男: はうっ!? マジシャン: 終わった……のですか……? ハイプリーステス: うん。最後のひとりに履かせたパンツが 極小ビキニだから見た目に分かりづらいだけだよ タワー: 終わった。全員、パンツを履いてる デビル: いいえ、あとひとり―― コック社長: これは驚いたな。あれだけの人数に、これほどの速さでパンツを履かせるとは フール: お前もその粗末……立派なモノをしまえ!逆・逆位置の魔法! 全員: ……? コック社長: どうした、もう終わりか? フール: な、なんでだ!?もう1回……! フール: 逆・逆位置の魔法っ!! (だが何も変化はない。 まさか、社長だけは逆・逆位置の魔法を防ぐ手立てを持っているというのか……?) (だとすれば、これは脅威だ。 唯一の対抗手段ですら防がれてしまうならもう、お手上げ。 今は社長ひとりでも、いずれ技術は水平展開される。) フール: どうなってるんだ……! マジシャン: まずいですね。 ゼロをはじめ私達は、誰ひとりとしてこの魔法の原理を理解していません。 通用しなかったときに、どう工夫すればいいのかが分からない…… コック社長: どうした、終わりか?なら、こちらから行くぞ タワー: みんな、構えて! ハングドマン: ど、どんな攻撃がくるんだ……♡ コック社長: 見たところ、君たちは学生さんかな? あるいは社会に出たばかり、長くても3年目くらいじゃないかな マジシャン: ……? ハイプリーステス: だとしたら、何?いま、関係ないでしょ コック社長: 君たちは今、社会の厳しさを痛感しているんじゃないか デビル: なんですって? コック社長: 夢のようだった学生生活が終わりを告げ、待ち受けるのは厳しい就活。 紙きれ1枚で判断され、切り捨てられ……自己肯定感はズタズタにされていく ハングドマン: …… コック社長: 努力と妥協の結果、やっとの思いで入社した勤め先では、 大して面白くもない仕事を押し付けられて、こんなはずじゃなかったと思う日々 マジシャン: …… コック社長: そのくせ上司や先輩は無能なくせに好き放題、 言いたいことばかりでストレスばかりが募っていく ハイエロファント: …… コック社長: それでも収入があれば金のためと割り切れるが、 雀の涙ほどの手取りではモチベーションなど上がるはずもなく ハイプリーステス: …… コック社長: そこで私から提案だ。実は新たに事業を立ち上げる予定でね。 スタートアップなら先輩もいないし、 待遇も満足のいくものを提示しよう。それに何より―― コック社長: これは君たちが必死で入ろうとする案件ではない。求められているんだよ ホメーロス: 皆さん…… ハイエロファント: 確かに……そうかもしれませんね デビル: イエロっち!? ハイエロファント: 社長さんの言うとおりっすよ。 これが学生なら数年も我慢すれば、いずれ卒業して終わりにできる。でも―― ハイエロファント: この虚無を、この先ずっと続けていくんだと思ったら…… せめて、自分を求めてくれる相手とパートナーになりたいっすよね タワー: 言う通り、なんだ…… ムーン: 卒業しても、更に厳しいんですね…… ハイエロファント: 社長さんの言うような条件で働けるなら、あっしは今の職場に未練はないっす コック社長: そうだろう、そうだろう (ハイエロファントは社長に歩み寄る。社長は歓迎の意志を表すように、両手を広げた。) コック社長: では―― ハイエロファント: 社長さん コック社長: ん? ハイエロファント: お断りっす コック社長: なにぃ!? ハイエロファント: そんな美味しい条件なんてそもそも存在しないことくらい、 さすがに分かってるんすよ。 あったとしても何か裏があるか、デメリットがある ハイエロファント: あっしも社会人なんで、そこまで甘くないっすよ。 それに……先輩がいなくてもクライアントがクソかもしれないし 仕事なんて9割つまんないもんです フール: ハイエロ……! ハイプリーステス: うん。ボクもハイエロに賛成だな。そりゃあ現状は良くないかもしれない。 でもそれを少しでも良くしようとあがくべきなんじゃないかな マジシャン: 楽な方に逃げることは悪いことではありません。 でも、逃げた先が本当に楽なのかは考えるべきでしょうね ハングドマン: それに虐げられるほうが好きな者もいるということを、あなたは学ぶべきだ デビル: いや、最後はだいぶ例外だけど コック社長: ぐぬ…… 10622 - 虚仮のモノ (社長が見せた反撃の気配は、どうやらメンバーの調略だったようで ハイエロたちが跳ねのけた後は、歯ぎしりしたまま、こちらの様子を窺っている。) (しかしこちらもパンツを履かせる手立てはない。 事態は膠着状態に陥るのではないか――) デビル: ねえ (そう危惧した矢先だった。 デビルは相手を睨みつけたまま小声でこちらに呼びかけてきた。) デビル: 人間さん。それとリスっち。アタシより詳しいと思うから意見を聞きたいの。 あいつの……丸出しになっているもの、何かおかしくない? ハイプリーステス: ええ?いや別に、デカすぎることくらいで他は―― ハイプリーステス: ……ん? 人間さん: 何か違和感があるな…… ハイプリーステス: そもそもずっと上を向いてるのもおかしいと思うけど…… ああなったら、多少はぴくぴく動いたりしないかな 人間さん: 大きさに目を奪われがちだが、そっちじゃなくて、 下の方のぶら下がっている部分…… あれもよく見ると、なんだかのっぺりしているな ハイプリーステス: そうなんだよ。普通はちょっと収縮したりするんだ。だって生き物なんだから…… デビル: やっぱりそうよね。もしかして、あれ…… マジシャン: どうかしたんですか? デビル: いえ……XXXXがずっとXXしてるのが変だと思ったの。 でもそれ以上にXXXXにも違和感があるってふたりが マジシャン: な……ななな、なんて話をしてるんですかっ。 デビルは女の子なのに、平然とそんなこと言って…… ハイプリーステス: むっ。傷つくなぁ。ボクだってこんな事態じゃなかったらXXXXとか口に出さないよ デビル: マーちゃんは初心だからぁ フール: XXXXがどうかしたのか? ハイエロファント: いやあ、XXXXの大きさの割にXXXXがあんまり マジシャン: みんな!ストップです!! ホメーロス: ほえええぇぇ……最近の学生さんは大胆です……! コック社長: 何をぐだぐだやってる……?何か企んでるのか? くそっ、仕方ない。こうなったら俺も反撃するしかない…… コック社長: エレクション・キャノン、発射準備! ムーン: な、何か始めようとしてますよぉ……? タワー: 今のみんなの話をまとめると…… デビル: タワー嬢は冷静ねぇ タワー: フール!逆位置の魔法をかけて フール: わかった!え、でも効かないぞ? タワー: 違う。逆・逆位置の魔法じゃなくて フール: んん? タワー: パンツを履かせるんじゃない。その逆をやるのよ フール: なるほど! フール: わかったぞ、それじゃあいくぞっ! フール: 逆・逆・逆位置の魔法!! ハイエロファント: わけわかりませんが……!? (魔法が発動したと思った瞬間、フールの手には――) フール: なんだこれ。トランクスに……XXXXが生えてる……!? タワー: やっぱり ハングドマン: これは精巧に表面を加工されているが、手に取ると分かる。 わたしが普段から使い慣れているアレだ デビル: つまり、あいつは……ハリボテのモノを用意していたのね マジシャン: 既に履いている相手に重ね着はさせられない……ということだったわけね ハイプリーステス: みんなが覚悟を決めて脱いでるっていうのに、 キミだけ安全なところから命令してたんだね。最低だよ ハイエロファント: あっしもびっくりな卑怯者ですな コック社長: く、ううっ…… デビル: バカな男。小さかろうが、包まれてようが、いざというときに使い物になるなら、 アタシは気にしないのに…… デビル: そんなハリボテを使ってた男なんて、 どんな正体であってもアタシはまったく惹かれないわね コック社長: く、くそっ!でも俺のエレクション・キャノンはまだ使える!こうなりゃヤケだ!! フール: まだやるつもりなのか?なら……このゼロ様がとどめを刺してやる! コック社長: いでよ!ワン・ミニットマンたち! タワー: 援軍……!? ムーン: ここが勝負どころです。わたくしたちもがんばりましょう~ ハイプリーステス: だね! ムーン: でも逃げるなら今のうちとも言えますね~ デビル: 士気を削ぐんじゃないわよ! マジシャン: 私達の意地を見せてあげます! ホメーロス: み、皆さん……気を付けてくださいね……!! 10623 - 罪と贖い (露出狂一味はフールたちの活躍で、無事に取り押さえることができた。 これにて事件も一件落着……なのだが。) 衛兵: はい、列を乱さないで。広がって歩くと一般の方の迷惑になりまーす 男: そうか……俺はもう一般の方ではなくなってしまったのか…… デビル: 落ち込むのは後にしてちょうだい。今は黙ってキリキリ歩いて! ホメーロス: すごい光景ですね……。こんなにたくさんの人がぞろぞろと…… (操られていただけとは言え、事件関係者には違いない。 全員に型通りの取り調べをする必要があり、 首謀者の社長を拘束してすぐに、俺は衛兵詰所に連絡を入れた。) マジシャン: こんなにたくさん詰所に入れるんですか? 人間さん: 廊下の長椅子とかフル活用すればなんとか……トイレは大混雑しそうだけどな (連絡を入れてすぐ応援に来た衛兵の誘導で、 色とりどりの他人のパンツを履いた男たちが 列をなして夜の町を行進する――異様な光景ではある。) ハイプリーステス: トイレか…… 人間さん: リースは女性用を使っていいぞ。たぶん多目的も埋まるから ハイプリーステス: え、うん。ありがと (そして、この事情聴取はもちろん彼女たち白の夜明け団も例外ではない。 というか関与度でいえば、行列を作る男たちより遥かに高いのだから。) タワー: パンツを盗んだのは事実だし、返却もしてない ムーン: 一応そこは取引ってことになってるんですが…… 着いた瞬間に逮捕かもしれませんよね~ 人間さん: そんなことしないって ハングドマン: 先のことは、まだ何も考えられないが…… ハイエロファント: ハングさんは職もどうなるか分かりませんからねぇ ハングドマン: ただ……やるべきことをやりきった。そんな実感はある ムーン: そうですねぇ……わたくしは、うまく立ち回れば 何事もなかったように振る舞うこともできましたけど……。 そんなことをしたらきっと、一生後悔した気がします フール: うん。この仲間で、正しいことをやりきったんだ。つまり、あたしたちは最強なんだぞ タワー: …… マジシャン: 仲間、か…… ハングドマン: 職場では味わえなかった高揚感と、達成感だ。 だから、例え職を失ってもわたしは後悔しないだろう ハイプリーステス: たぶん、それは全員同じだよ。 このメンバーと一緒にここまで来れて、ボクは幸せだと思ってる デビル: ……リスっち、カッコつけすぎよ。 あんたが目指してるのは『カワイイ』なんじゃないの? ハイプリーステス: ここでみんな相手にぶりっこしてどうすんの フール: ……そうだな。でもやっぱり悪いことはしたよな タワー: フール…… フール: みんなからパンツをたくさん盗んだ。恥ずかしい思いをさせた。 それって露出狂の奴らと何が違うんだろうな マジシャン: ……そうね。胸を張って言えることじゃないのは確かだわ フール: パンツも、もう返せない。 やっぱりそういうのも償いってやつをしなきゃいけないんだ フール: そして、やるとしたらそれは、あたしだ。みんなを巻き込んで、 先頭に立って盗んだ、あたしが……償わなきゃいけない 人間さん: (フール……) (俺は詰所に戻ると、たくさんの男たちの取り調べは衛兵たちに任せ、 別口で手配を頼んでおいた資料に視線を走らせる。) ホメーロス: ハイエロファントさんの話どおり、やはり高額の資金移動がありました。 副学長が持っている団体から、依頼料として振り込まれています ホメーロス: そして……アカデミーの権限で、例の魔導書の取り寄せも行っていたことが…… パラケルスス: なるほどね。やっぱりその副学長っていうのが事件の黒幕かな ホメーロス: おそらく…… (悲しそうに目を伏せるホメーロス。ボッチャーテ・キャンパスの学長である 彼女にとって、副学長は右腕のような存在だったに違いない。) (それがあろうことか、アカデミーの権限で貴重な魔導書を取り寄せ、 あまつさえ悪用したとあっては、心痛も少なくないだろう。) パラケルスス: ちなみに僕もいろいろ試してみたんだけど…… フールが使う『逆位置の魔法』は再現できなかった 人間さん: じゃあ、本当に偶然の産物なのか? あのフールが、まさかパラケルススを超える知識を持っているとは思えないしな パラケルスス: おそらく、幾重にも折り重なった幸運の結果だろうね。 そして彼女は本能的にそれをモノにした ホメーロス: すごい才能なんですよねぇ パラケルスス: さて、それじゃ行こうか ホメーロス: え、行くってどこへ パラケルスス: 決まってるだろ。落とし前だよ 10624 - 事件の背景 (コンコン) 副学長: どうぞ。……おや、ホメーロス学長ではありませんか ホメーロス: お、お邪魔します…… 副学長: そちらのお連れの方々も、見覚えがあるような…… パラケルスス: オルマジックシール 副学長: うぁっ!?な、何をしたんです パラケルスス: すべての魔法について一時的に封印させてもらった。話は早く済ませたいからね ホメーロス: あ、あの……この魔導書、覚えがありますよね? 副学長: それは……! ホメーロス: 副学長が本学に取り寄せたことは記録で分かっています 副学長: そ、それがどうかしましたかな? ホメーロス: 先日から町を賑わせていた露出狂事件、ご存じですよね……? パラケルスス: まどろっこしいのはナシだよ、ホメーロス。いいかい、おじさん 副学長: 私のことですか? パラケルスス: 露出狂事件に、この魔導書に記載された術式が悪用されていた。 きみに疑いがかかっている 副学長: 実は、それは紛失してしまっていたのです。よかった、見つかって 副学長: 貴重な魔導書を紛失したことへの処分はもちろん受け入れます。 ですが、事件との関係は―― パラケルスス: 実行犯と、君が管理する団体との資金的繋がりは既に証拠がある。 それについ先ほど……コック社長は洗いざらい白状したよ 副学長: ……っ! ホメーロス: ど、どうしてなんですか……?なんでこんなことを 副学長: …… パラケルスス: 言い逃れはできないと思ってもらって 副学長: ……妬ましかったのです 人間さん: 誰に対してだ。ホメーロスか? 副学長: 私はずっと副学長でした。でもいつかは必ず、と待ち続けた。 そしてようやく人事が動くといったとき、私はかなり期待していたのです。 しかし…… パラケルスス: ホメーロスが就任してしまった……ということか 副学長: 私はスキャンダルを起こして、失脚させようと目論んだのです。 ホメーロスに近い関係者を犯人に仕立てあげれば…… パラケルスス: 責任を追及して退職を迫る狙いだったんだね 副学長: ところが、コックのやつが魔導書を紛失してしまった。 そんな折に例のパンツ事件が起きました。私はすぐに気付きましたとも 副学長: あれが魔導書由来の犯行であることも…… そして、魔力の流れがアカデミー内にあることも ホメーロス: アカデミーの関係者だとは気づいていたのですね……! 副学長: これは好機だと思いましたね。しかし途中でメンバーが捕まるなどしたので、 やはり自力でなんとかしなくてはとコックを焚き付け…… 人間さん: 露出狂事件に至ったわけか 副学長: だ、だが!私は魔導書の解説をコックにしたまでだ。 何もやましいことはしていない……っ パラケルスス: この期に及んでそんなこと言う? ホメーロス: …… ホメーロス: 刑事罰に問わない代わりに、 依願退職という形でアカデミーを去っていただけますか?それが、条件です 副学長: ……! パラケルスス: 異論はないよね、もちろん。というか本来、きみに選択肢はないんだよ 人間さん: コック社長は供述に素直に応じている。露出狂事件を起こした企業に、 その引き金となるセミナーを高額の料金で依頼していた…… これは事実だ パラケルスス: 事態が明るみに出れば当然、きみは引責辞任することになる。 でもアカデミーの看板にも傷がつく。だからその前に、 きみひとりで、ひっそりと消えてほしいんだ 副学長: わ、わかりました…… (がっくりとうなだれる副学長。彼も本来はこのアカデミーが好きで、 学生たちに貢献したいと職員になったはずなのに…… どこで道を誤ったのだろう。) (俺は彼の小さくなった姿を眺めながら、そんなことを考えていた。) (そして同時に、まだ明るい未来があるはずの彼女たちのことも――) ムーン: そんなことが起きていたんですか~ (事の顛末を簡単にかいつまんで説明すると、 白の夜明け団たちは感心したように大きくうなずいていた。) (さすがに、副学長との先ほどの取引までは明かさなかったが、 魔導書のでどころや露出狂事件の真の狙いが分かって、 多少なりともすっきりした様子だった。) ハイエロファント: それじゃあ、あのう…… もしかして、あっしらはお咎めなし、なんてことになったりは 人間さん: しないな ハイエロファント: ですよねぇ!? 10625 - 幸か不幸か ホメーロス: ただ事件を表沙汰にするつもりはありません…… ハイプリーステス: じゃあ……逮捕とかではないってこと……? ホメーロス: 隠ぺい体質だと批判されても仕方ありませんが…… 他の卒業生や在学生を思うと、公表することが必ずしも正しいとは…… フール: だって盗みは盗みじゃないか……? 人間さん: 被害者とは話がついている。盗まれた下着分の被害額の弁済を条件に 和解ということで、全員に納得してもらった (何せ人数の規模も大きい。が、地元衛兵が事件発生から 丁寧に被害者全員から調書を取っておいてくれたおかげで、 思いのほかスムーズに話が進んだ。) (何よりも、白の夜明け団に対して被害者たちの感情が、 とてもポジティブに傾いていたことも大きい。 彼女たちが露出狂対策に尽力したことは既に広く知られていた。) ホメーロス: な、なので……いわゆる、前科はつかないことになります…… 人間さん: 不起訴処分ってやつだな フール: 臭くなったからか? 人間さん: 何が フール: え、ふきんが 人間さん: ……。まあとにかく、捕まることも牢屋に入ることもないんだ ムーン: まあ……!それはありがたいですわ ホメーロス: 職場に知られることもありません……!安心してください マジシャン: 弁済……ということは、盗んだ下着はお金で返す、ということですね ハイプリーステス: 露出狂に使ってない下着もまだあるけど、 被害者からしたら何に使われたか分かんないし、返されても……ってなるよね 人間さん: 正直、これはなかなかに莫大な金額になっている。 とはいえ、みんなで均等に割れば返せる額だろう。 一生を棒に振るようなレベルじゃない 人間さん: これがリストだ タワー: 分厚い…… フール: こんなにたくさんの人から盗んじゃったのか…… 人間さん: 何回も盗まれた運の悪い人もいるけど、延べ人数では、これだけの規模になるな デビル: これは、アタシたちの責任の証ね。 罪に問われず、元通りの生活を送る代わりに課された、償いの形だわ マジシャン: コツコツ働いて、弁済していくしかないわね。そのためにも…… たとえ不満が多少あっても、私達は仕事を続けていかなくちゃいけない (彼女たちに言ったことは9割が事実だ。 ただ、被害者をずっと何年も待たせるわけにはいかない。 そこで俺がまず一括で支払っていた。) (後は少しずつ彼女たちが返してくれればいい。 正直、返ってこなくてもいいと思っているが、これはケジメだ。 彼女たちもきっと納得しないことだろう。) タワー: みんな、ごめん…… ハイプリーステス: 謝るのはボクたちの方だよ。 勝手に首を突っ込んでおいて、結局成果はあげられなかった ハングドマン: そうだな。タワーは不幸なままか……。それだけは悔いが残る ホメーロス: 人間さん…… 人間さん: うん…… (顔を見合わせる俺とホメーロス。 タワーの問題はまた、彼女たちの罪とは別に対応が必要だろう。) (しかし、俺が提案するより早く、タワーは小さくかぶりを振った。) タワー: ううん、違う ハングドマン: ん? タワー: 私も、最近まで曖昧だったけど……気が付いた タワー: ――私は、不幸じゃないよ マジシャン: ……? タワー: 運が悪い。だから不運だとは思う。でも不幸せなんかじゃない タワー: だって……私のために、それこそ人生をかけて、動いてくれる仲間がここにいる フール: ……! (ハッとして、そしてそれぞれ顔を見合わせる仲間たち。 俺はタワーの言葉を噛み締めた。) 人間さん: (そうなんだよな……辛いことがあっても、支えてくれる仲間がいれば 前を向くことができる。未来に希望を持つだけの気力がわく) 人間さん: (仮に宝くじが当たっても、孤独だったらそれは幸せではないもんな) タワー: だから私は幸せ。恵まれてる。きっと、このことで運を使い果たしただけ タワー: 何回留年しても、最終学歴が中退になってもいい。私には、みんながいる マジシャン: そう……ですよね。タワーに限らず、きっと私にも当てはまります デビル: この場の全員に、じゃないかしら タワー: 本当はもっと早く気が付いて、 ここまでみんなの人生を狂わせる前に止めるべきだったけど ハイエロファント: まあ、あっしらも逆位置の魔法の効果は実感しちまって、 手放せなくなってましたからねぇ フール: タワーは……それで幸せなんだな? タワー: 卒業することがすべてじゃないし フール: なら、あたしはずっとタワーのそばにいる。あたし、運だけはいいからな。 きっとなんか、うまくバランス取れてプラズマゼロになる フール: そばにいても、いい? タワー: うん……!私でいいなら、ずっと、仲良くして (そんな二人のやり取りを俺達はじっと見つめる。その表情のどれもが温かい。) (しかし、きっと全員が頭の中では考えていたことだろう。) 人間さん: (プラズマじゃなくてプラマイゼロだろ……) 10626 - 真実は心に留めて (――それから数週間が経って――) 人間さん: 久しぶり、ホメーロス ホメーロス: ほええ、ご無沙汰してます。あの、その節は本当にお世話になりまして 人間さん: そんな、改まってお礼なんていいって。 そう言えば無事に副学長も退職してくれたと聞いたけど ホメーロス: 事を荒立てることなく、無事に終わりました。 で、でもこれが後々になって、隠ぺい体質とか騒がれるのかも…… 人間さん: 事情を詳しく知っているのは、副学長以外に俺とパラケルススくらいだ。 コック社長も、そこまで突っ込んだ話は聞いてないみたいだしな 人間さん: 白の夜明け団たちはどうしてる? ホメーロス: もともと、占いサークル『アルカナム』のメンバーだったそうで、 在学生たちは今でもよく部室に集まってるみたいです ホメーロス: それで今は……卒業試験に向けて、 卒業生たちも集まっていろいろ対策しているみたいですね 人間さん: そうか。じゃあ、そろそろ……だな ホメーロス: ええ (逆位置の魔法が、つまるところエルマイトの移転だというなら、 タワーを除く彼女たちの生活が好転したのは、 単純にエルマイトが充実しただけに他ならない。) (ただ、この事象はたぶんにプラシーボ効果も含まれるのでは、 と思われるのですべてを明らかにするのは躊躇われた。 せっかくうまくいっている卒業生たちにも影響しかねない。) (そこで、できるだけ自然に、卒業試験直前に俺がタワーに触れて エルマイトを送り込む……という対策を考えたのだ。) ホメーロス: 部室の場所はここです。ぜひ行ってあげてください マジシャン: ああ、その公式はここで使うのよ ハイプリーステス: さっきやった問題の応用だよ フール: むぐぐぐぐ ハイエロファント: うんじゃらぱっぱー! ハングドマン: ほんじょろげー! タワー: や、やっぱりやめない? ムーン: あれ、人間さんさま? デビル: あらー♡久しぶり。アタシの身体が忘れられないの? 人間さん: うん 人間さん: ――じゃないっ、そうじゃなくて!なんだ、このカオスな空間は マジシャン: 私とリースで、フールに勉強を教えてるのよ ハイプリーステス: よくアカデミーに入学できたね、ってびっくりしてるとこ フール: リースは辛口なのだ ハイエロファント: あっしらは不運を追い払うための祈祷をしてるとこです ハングドマン: これが効くというので実践しているんだ。 今のところ、仲間の蔑みの視線が心地いいくらいしか効果は出ていないんだが タワー: 蔑んでないよ。申し訳なさすぎて小さくなってるだけ ムーン: わたくしとデビル様は普通にひとりで勉強してるんですけど~ デビル: 正直この空間で集中できるわけないからね。 後でいいやと思って、今夜の相手をスホマで物色してたとこ 人間さん: じゃあ俺とメシでも―― 人間さん: ――って、そうじゃない!しっかりしろ俺 ムーン: うるさいのがまたひとり増えましたね~ フール: ムーも辛口だな 人間さん: とりあえず、タワーの不運はまだ続いてるんだな。よし、手相を見てやろう ハイエロファント: あ、間に合ってます。うち占いサークルっすよ ハイプリーステス: 大体、全体の運勢を見通すだけだからね、手相って。 運を引き寄せる効果なんてないでしょ 人間さん: そ、それもそうか。よし、じゃあ勉強をがんばったから肩が凝ったんじゃないか? ちょっとマッサージを タワー: そこまで根詰めて勉強してない フール: どう見てもあたしの方が肩凝ってそうだろ!少しはいたわるのだ 人間さん: え、うん……じゃあとりあえずフールを揉んでおくか フール: なんか扱いが雑なのだ 人間さん: じゃあ俺をタワーがマッサージするっていうのは デビル: ねえ、さっきからキモいんだけど。何でやたらとタワーに絡もうとするのよ フール: もしかして好きになっちゃったのか? ハイプリーステス: どうせおっぱいに目がくらんだんでしょ。最低だね タワー: あ、あの……こっち見ないで…… 人間さん: ああああっ!だめだ、うまくいかない!しょうがないから説明するとだな―― (俺は逆位置の魔法のことは伏せ、自分が大量のエルマイト保有者で エルマイトを送ることで少なからず不運が改善するのでは、 という意図なのだと説明した。) マジシャン: 最初からそう言えばいいじゃないですか。 どう見ても、なんとかして触ってやろうという、気持ち悪い感じでしたよ 人間さん: うぐ…… タワー: じゃあ、指先だけでもいい? ハイエロファント: 完全に警戒されてますな 10627 - 進む未来 ハイプリーステス: あ、こっちこっち マジシャン: ごめんなさい、遅くなってしまって ハイプリーステス: いやいや、トラブル起きたって一報もらってたし。先にのんびりやってるよ マジシャン: 急に起票データがおかしくなっちゃって……あ、先に飲み物。 すみませーん、レモンサワーひとつ ハイプリーステス: うん、調子良さそう マジシャン: そうですか?まだ会って数十秒ですけど ハイプリーステス: トラブルがあっても、その愚痴を言わないし、表情も明るい。 前向きに解決したんだなって感じ マジシャン: それはリースも同じですよ ハイプリーステス: そう?あれかな、人間さんにエルマイトもらったから? マジシャン: ああ……あのとき、タワーだけじゃ不公平だと全員で寄ってたかって エルマイトをもらったんでしたね マジシャン: でも、あれからもう1ヵ月ですよ ハイプリーステス: 早いなぁ。学生のときの数倍は時間の流れが早い マジシャン: タワーは……無事に卒業試験を受けられたそうですね ハイプリーステス: 受けさえすれば、余裕で合格だろうからね デビル: 合格どころかトップ成績だったらしいわよ ハイプリーステス: おー、デビルも来た デビル: 部室に行くまでに飲んでからって、どういうことなのよ。 あ、アタシ、ジャスハイ1つお願いしまーす マジシャン: 言ってるそばからデビルも飲む気じゃないですか デビル: フールちゃんも、なんとかなったみたいよ。 でもあとは、卒論があるらしくて、泣きながらやってるわ マジシャン: 教授たちにも可愛がられてるし、よほどの出来じゃなければ 『可』くらいの判定はしてもらえるでしょう ハイプリーステス: そそ。あの子、運もいいけど単純に人に好かれるところあるからね デビル: いい子だもの。一生懸命だし。から回ってるだけで 店員: おまたせしましたー デビル: あ、きたきた。乾杯しましょ ハイプリーステス: ほーい。じゃ、久々~ってことで (カチン) デビル: アタシとムーンちゃんは、まあ順調に卒業できそうだわ マジシャン: よかったです。就活は? デビル: そっちが問題なのよね。ムーンちゃんが苦戦してて…… 二次面接のときに、一次面接と真逆のこと言っちゃうみたい ハイプリーステス: この時期に就職決まってないの結構やばくない? マジシャン: 心配ですね デビル: まあ実家が太いし ハイプリーステス: ハングは調子どう? デビル: それが―― ハングドマン: 会社は売却されて社名も変わったんだが……ファンドから出向してきた役員が、 ものすごくネチネチしていて ハイエロファント: ええ?それは嫌ですねぇ。でもわりとネチネチした人が多い気がしますからねぇ ハングドマン: そうなんだよ。どうせならお尻のひとつでも叩いてくれればいいのに ムーン: そしたら訴えられますもんね~ ハングドマン: いや、気持ちがいいからだが ムーン: あっ ハイプリーステス: 相変わらずな会話してんなぁ タワー: あ……リースたちも来てくれたの。久しぶり ハイエロファント: 遅かったですね。仕事で? デビル: 軽く飲んできちゃった ハングドマン: ちょうどわたしの苦労話をしていたところだ ハイエロファント: 上司がネチネチして嫌なやつだけど、叩いたりしてこないらしいです マジシャン: それが普通というか、なんというか ムーン: サービス残業も休日出勤もオフィスに泊り込みもなくて、 とても平和らしいんですけどね~ ハイプリーステス: 絶対ヤダ、そんな環境。よかったじゃん、ハングもさ ハングドマン: ああ。なんだか物足りなくは感じるのだが、 何もこの欲求をすべて仕事で解消する必要もないのだと気付いてな ハングドマン: 最近はもっぱら、空いた時間でバーに通っている タワー: どういうバーなのかは聞かないでおく フール: か、か、書けたぁ! ムーン: いまの時刻は……うん、受付締め切りまであと2時間あります。余裕ですね ハイエロファント: お疲れさんです。じゃ、出しに行きますか フール: 忙しいな。でもタワーを待たせてるから、ちんたらしてる暇はないのだ タワー: うん……大丈夫。私もフールと一緒だと安心だから フール: あたしと同時に提出しに行けば、途中で風に飛ばされたり ドブに落ちたりすることもないからな フール: なのに、みんなまで揃って……ただ卒論を出すだけなのに、 メンバー勢ぞろいなの意味不明なのだ マジシャン: それだけみんな、気にかかってるんですよ タワー: じゃあ、行こっか フール: うん!きっと今度こそ……この道が未来に繋がるはずなのだ!