5000131 - 消えゆく物語 (――インペリウム・コミッティ C棟 7号委員室――) アイソーポス: 適当にそのあたりにかけてくれ。せっかく来たんだ、お茶くらい出そう フアナ: アイソーポスさんの執務室……緊張するなぁ……! フアナ: すごい量の本。でもきちんと整理整頓されていて……こういうところ、性格が出るよね アイソーポス: 読み返す暇もなく、ただ並んでいるだけの本だ。申し訳ないことにな フアナ: 見たこともないタイトルが並んでる。あ、この壁にかかってる絵って、アイソーポスさんだよね? すごく上手 フアナ: うまく言えないけど……生きてるみたい。いまにも動き出しそうっていうか アイソーポス: そうだな。その絵を描いたやつは、人体についても研究していたから、自然と絵にも表れているのかもしれない アイソーポス: さあ、お茶だ。とっておきの茶葉でね フアナ: あ、美味しい。ちょっと甘い香りなんだね アイソーポス: ちょうど……この茶葉を教えてくれたのが、この絵で私の隣にいる彼女なんだ フアナ: この絵に描かれてるのって、アイソーポスさんと…… アイソーポス: かつての同志、だな (背景切換...) アイソーポス: しっかりしろ。もう大丈夫だ 森の住民: う、うう……いやだ……まだ消えたくない…… (オトギノクニで蒐集家として存在して以降、) (アイソーポスは長く旅を続けていた。) (世界中を巡る、あてもない旅。) (その道中で彼女は『消えゆく物語』に光を当てていた。) アイソーポス: 私が来たからには、このまま消させはしない。さあ、受け取るんだ 森の住民: ……ぁっ、う、あああ……!? なんだ、これ、熱いっ……!? アイソーポス: 落ち着け。恐れる必要はない。これが……イマジュマイトだ。きみがこれからも存在するための、大切な糧だ プース: アイソーポスさん! また『例のヤツ』が来てる! ミダース: ふん、王たるワラワがここは通さんぞ! ぬぁーはっはっは! (……ゥゥ……ルル……) (木々の影から姿を現したのは虎のような四肢と、) (長い鼻と牙を持つ魔物だった。) アイソーポス: 出たか、獏…… 森の住民: ひいっ……あ、あいつだ……! 食われる……! アイソーポス: ふたりとも、援護を頼む。あとは私が片付けよう プース: りょーかいっ! アイソーポス: 失われる魂を喰らう邪悪な魔物め……。この世界は私が守る。決して消させはしない……っ! (クァァァアッ……!!) (武器を構えたアイソーポスは、魔物に果敢に立ち向かい――) (森に魔物の断末魔が響いた。) (…………。) (背景切換...) 森の住民: 本当にありがとうございました。このご恩、どう返せば良いのやら アイソーポス: 礼など要らない。ただ、存在し続けられることに対して日々感謝して、無為に過ごさないでほしい。消えてしまった者たちのためにも 森の住民: は、はい……! 心得ました……! (背景切換...) ミダース: アイソーポスさんは本当にお人好しだな。ここまで並の苦労じゃなかったのに、そういうの感じさせずにタダ働きなんて アイソーポス: タダではないだろう。ほら、ミダースも食べるといい ミダース: いやあ、ぶどうだよ? 美味しいけど、でも、ぶどうだよ? アイソーポス: あの森で育ててるんだそうだ。彼が存在し続ける限り、この美味いぶどうも世界に残り続ける。好きなときにいつでも食べられるんだ。十分、見返りは受け取ったよ プース: アイソーポスさんは欲がないからね~。あたしにはちょっと真似できないけど ミダース: プースは欲望の塊だからな プース: ミダースだって煩悩の塊だよね ミダース: なんだとーっ!? アイソーポス: ふふっ。今日も賑やかな旅路で何よりだな ミダース: この人、本気でそう思ってるから困るんだよな……。ワラワたちケンカしてるんだけど プース: アイソーポスさんのペースに、つい乗せられちゃうんだよなぁ アイソーポス: さてと、次の目的地は……次の大きな街道を東に入るんだったな アイソーポス: 手元の情報だと、すぐには消えないとは思うが……早いに越したことはない。さっそく行こう プース: 遊ぶ時間も休む暇もなしに次って……ほんと、真面目だよね ミダース: けど、そこがカッコいいんだ! ワラワもこうありたいものだな プース: 絶対無理でしょ ミダース: ぐぬぬ……! アイソーポス: ああ、もし苦しくなったらいつでも言ってくれていいからな。『消えゆく物語』を救うのは本来、私ひとりの旅なんだ。ふたりを無理に付き合わせるつもりはない プース: いまさら、でしょ。そんな水臭いこと言わないでよ ミダース: そうだぞ。だいたい、右腕たるワラワなしでは、この先大変だろう アイソーポス: そうか。なら、いいんだ。ふたりとも、ありがとう プース: そ、そんな正面からお礼言われると、さすがのあたしも照れちゃうんだけど ミダース: まあ、なんだ。他人事じゃないからな。ワラワたちだって、アイソーポスさんが拾ってくれたからこうしていられるんだしな アイソーポス: 昔の話だよ。だが、こうして立派になってくれたのを見ると、私がしてきたことは間違いじゃなかったと、少し自分を信じられる 5000132 - アイソーポスの旅路 住民: ああ、その爺さんなら知ってるわよ。隣町のはずれに赤い屋根の小屋があるから、そこを訪ねてみたらいいわ 住民: でもここのところ、顔を見てないわね アイソーポス: ……そうか。ありがとう、助かった (消えゆく物語の特徴、それは著しい衰弱だ。) (同時に、周囲との関係が希薄になっていく。) (アイソーポスはそうした手がかりを頼りに、) (独自に消えかけた存在を探し続けていた。) プース: 隣町なら、ちょっと行けばすぐ着きそうだけど……どうする? アイソーポス: じき日も暮れるが……なんとか今日のうちに到着できそうだな。少し足を伸ばしてみるか ミダース: ねえねえ、あの馬車を借りちゃうのはどうだ? プース: ミダースはまたそうやって楽しようとして! ミダース: ワ、ワラワはあれだぞ、一刻も早く到着したほうがいいかなって アイソーポス: そうだな、ミダースの意見ももっともだ。しかし、申し訳ないが私たちは路銀に余裕があるわけではないんだ ミダース: だ、だよな。わかってたよ。言ってみただけ! プース: こいつ…… ジャコヴァ: 馬車がいい ミダース: ん? ヴィルヘルミナ: 姉さんったら。あまり路銀の無駄遣いはしないほうがいいわよ ジャコヴァ: 宿代を切り詰めればいい。私は汚い宿でもいいぞ ヴィルヘルミナ: それはワタシが嫌なのよ ジャコヴァ: むう…… プース: なんか似たようなこと言ってる人たちがいるね アイソーポス: 旅人なんて、みんな似たりよったりの悩みを抱えてるものだな ミダース: でも、あいつらどこかで…… ジャコヴァ: でも馬車がいい ヴィルヘルミナ: もう……姉さんは言い出したら聞かないんだから ジャコヴァ: 私をわがままみたいに言うな。合理的理由があるんだ。説明が長くなるから省いてるだけだ ヴィルヘルミナ: はいはい。じゃあ馬車にしましょうね ミダース: お、馬車にしたみたいだぞ プース: よそはよそ、うちはうち ミダース: わ。わかってる! アイソーポス: はは、すまないな。今回の物語を救ったら、その町で少し仕事を探そうか。やはり現金は確保しておきたいからな (――翌日――) (背景切換...) アイソーポス: 町の人に聞いたところだと、どうやらこのあたりらしいんだが…… プース: もしかして、あれかな? もう塗装がほとんど剥がれちゃっててわかりにくいけど、一応あれも赤い屋根だよね アイソーポス: よし、行ってみるか (彼女たちが歩みを進めると間もなく、ひとりの老人が悲鳴を上げながら転がり出てくる。) 老人: ひああああっ、た、助けてくれぇっ! (……ルルゥゥ……) アイソーポス: くっ、もう獏がわいていたか……! ふたりとも、援護を頼む ジャコヴァ: 必要ない アイソーポス: !? (ふいに聞こえた声。同時に、魔物の足元には紫色の魔法陣が展開されていた。) ジャコヴァ: こいつはとっくに私が捕捉している。これで、終わりだ (――――――ゥッッ!!) (指で合図した瞬間、魔物は弾け飛び、そこには闇の残滓とも言うべき黒い靄だけが漂っていた。) ヴィルヘルミナ: 姉さん、勝手に飛び出していかないでよ ジャコヴァ: 横取りされるところだった アイソーポス: あ、いや……すまない。きみの獲物だとは知らなかったんだ。事情はわからないが助かったよ。ありがとう ジャコヴァ: 別にいい。ヴィル、話をつけておけ。任せる ヴィルヘルミナ: はいはい。それじゃあ、アナタ……ちょっと話をさせて。このままだとアナタは消えてしまうわ ヴィルヘルミナ: イマジュマイトが弱まって消えかけた存在は、やがて孤独に陥り、そしてさっき現れた魔物に喰われてしまう プース: え……アイソーポスさん、この人たちって アイソーポス: 事態を理解している……? もしかして、作家か ジャコヴァ: なんだ、貴様も作家か アイソーポス: ああ、しかもどうやら同じ志を持っているようだね。私も、イマジュマイトが不足して消えかけた物語を救う旅をしているんだ ジャコヴァ: ほう。では競合か アイソーポス: えっ、競合? ヴィルヘルミナ: ワタシたちは『作家』なの。オトギノクニにおける『作家』とは何かは、あなたも知ってる? ヴィルヘルミナ: 世界から与えられるイマジュマイトで生きていることは、アナタたちと何も変わらないわ。違うのは…… ジャコヴァ: イマジュマイトの配分ができることだ。自作品に限らず、自分のイマジュマイトを分け与えることができる ヴィルヘルミナ: そこでこの契約書よ。ワタシたちと契約関係になって、有事の際に協力すると約束するなら……見返りに、ワタシたちのイマジュマイトをアナタに供給する アイソーポス: な……っ、見返り、だと……!? 5000133 - グリムの契約 ヴィルヘルミナ: ええ、そこにサインを 老人: こう、ですかな…… (救出された老人の自宅に場所を移すと、彼女たちは契約書に署名を求めた。) (他ならぬ命の恩人ということもあってか、老人は迷うことなくサインする。) ヴィルヘルミナ: ありがとう。これで契約成立よ ジャコヴァ: では、ここへ プース: アイソーポスさんと同じやり方……。『作家』によるイマジュマイトの付与だね。本当に作家なんだ、この人たち ミダース: あ……もしかしてソナタたち、グリム姉妹じゃないのか……!? ジャコヴァ: む、知っているのか。いかにも、私がジャコヴァ・グリムだ ヴィルヘルミナ: あら、有名人なのね、ワタシたちって ミダース: 噂で聞いたんだよ。イマジュマイトをばらまく旅人がいるって。聞いてた外見の特徴と似てるし、もしかしたら……って アイソーポス: グリム姉妹、か……。きみたちは、どういうつもりなんだ。自分のイマジュマイトを引き換えに見返りを要求するなんて ジャコヴァ: ギブ・アンド・テイクだ。文句を言われるほど悪い行いか? アイソーポス: 悪事だとあげつらうつもりはない。だが、狙いはどこにある 老人: それはワシも気になっておりましたのじゃ 老人: こうして生きながらえることができた恩、決して忘れません。身を粉にして恩返しをするつもりです。しかし…… ヴィルヘルミナ: 自分に何ができるのか、と言いたいのかしら 老人: はい。この通りの老体、戦おうにも足を引っ張ってしまいます ジャコヴァ: 数が必要になるときもある アイソーポス: イマジュマイトを盾に、この人の自由を奪う……。きみたちは、善意でこれをやっているわけではないんだな アイソーポス: さっき、きみは競合だと言った。つまりビジネスだと…… ジャコヴァ: 互いに利益を得られる、意味のある取引だと思うが アイソーポス: ……普通の状況なら、それは自由だ。だが、自分自身が消えかけているという状況で取引を持ちかけるのは、果たして公正なのか? アイソーポス: 私には、弱みにつけこんで自由を奪っているように見える。都合のいいように扱うのは、相手の尊厳を傷つけてはいないか ヴィルヘルミナ: ワタシたちは強制していないわよ。もちろん、アナタが見返りなくイマジュマイトをばらまくことも、邪魔するつもりはないわ ヴィルヘルミナ: ときには競合することもあるでしょうけどね。どっちが先にイマジュマイトを与えて、主導権を握るかという局面とか ジャコヴァ: うんうん アイソーポス: ……考え方が根本的に違うようだね ジャコヴァ: だろうな。さっき尊厳がどうのとか言っていたが……私に言わせれば、無償の奉仕ほど尊厳を奪うものはない アイソーポス: ……! ジャコヴァ: では、行くぞ ヴィルヘルミナ: いざというときは連絡するわ。よろしくね 老人: は、はい。ありがとうございました (背景切換...) アイソーポス: あれが、グリム姉妹か…… プース: あたしも名前だけはなんか聞き覚えあるし、たぶんいますごく有名なんだよね ミダース: すごく勢力を拡大してる! って聞いたぞ。たぶんいまやったようなやつを、どんどん増やしてるんじゃないか アイソーポス: イマジュマイトを元手に取引か……。確かにそれも、ひとつの考え方なのかもしれない。理解できないわけではないが アイソーポス: そうやってどんどん拡大していった先に、彼女たちはどんな世界を見ているのだろうな プース: でもさ、あたしはアイソーポスさんのやり方が間違ってるわけでもないと思うよ。実際にあたしみたいに助けられた人は大勢いるし ミダース: そうだな。契約書なんか書かなくても、アイソーポスさんのピンチに駆けつけるやつも多いだろ。もちろんワラワもだけどな アイソーポス: ん……ありがとう、ふたりとも 5000134 - お騒がせミダース (先日の一件の後、アイソーポスたち3人は立ち寄った町で路銀稼ぎのために働いていた。) (その仕事も、契約期間をようやく満了しようとしていた。) (背景切換...) プース: ふへぇ~。つっかれたー アイソーポス: ふう……。私も体力には自信があるほうなのだが、さすがにこう毎日休みなしに働くと疲労が溜まってくるな プース: アイソーポスさんは体が動くもんね。あたしなんか、ずーっと芋に傷がないかチェックして選り分ける仕事してたんだけど。目がおかしくなっちゃう アイソーポス: 私はその後の、野菜の詰まった木箱を船に乗せる仕事だった。さすがに筋肉痛だよ プース: ミダースは事務所で帳面をつける作業だっけ? アイソーポス: ああ、そうらしいな。ミダースは読み書きも得意だし、計算も早い プース: そこ、納得いかないよね~。あたしら3人の中で一番バカっぽいくせに、そういうとこはしっかり持ってるって プース: しかも体は動かさないのに給金も一番いいしさ アイソーポス: 体を動かす仕事も、私は別に嫌いではないが……給金の差があるのは事実だな。そういう意味では、私も帳面など触れたらと思うが プース: アイソーポスさん、頭良さそうなイメージなのに アイソーポス: 学校というものに通ったことがないからな 同僚: あっ、アイソーポス! プースも! プース: あ、おつかれ~。なに、飲みに行っちゃう? おつかれ会しようよ~ 同僚: バカ、それどころじゃないって。ミダースがしょっぴかれたんだ! プース: はああ!? 何やってんの、あのバカ! アイソーポス: 仕事をしていただけじゃないのか。何の罪で連行されたというんだ 同僚: それがあいつ……散々、メシ屋とかで『ワラワは王だぞ』とか言って回ってて…… プース: あー、いつものやつね 同僚: みんな笑ってスルーしてたんだけど、聞いてた役人が『王族を騙る不届き者』なんて通報したらしくてさ アイソーポス: まったく……自分の国以外で王族を名乗れば、不敬だなんだと面倒になると、あれほど言っておいたのに…… プース: バッカじゃないの。勉強できるくせにこういうとこ、ほんっとバカ プース: どうする? アイソーポスさん アイソーポス: どうするも何も、不穏な意図などないと誤解を解くしかないだろう プース: 信じてくれればいいけど…… (背景切換...) (ふたりは、囚われているという領主の砦に向かった。) (しかし事情の説明を試みても信用されることはなく――) アイソーポス: まいったな……このままではミダースが…… プース: アイソーポスさん! なんかね、町で聞いてきた情報だと、ここの領主は賄賂とかでめちゃくちゃ私腹を肥やしてるんだって アイソーポス: ほう。王族に敏感だったのは、悪事が上にバレることを恐れているためか プース: だから、あたしらの作戦としては2パターンだね。賄賂を渡して解放してもらうか、賄賂の証拠をつかんでクビにさせるか アイソーポス: むう……それは難しいな。前者は倫理的な問題もさることながら、そもそも私たちはお金を持っていない アイソーポス: 後者は住民たちも幸せになって理想的だが、時間の猶予がなさすぎる プース: うーん、そうだよねぇ……。めっちゃ仕事して賄賂のお金作るしかないかな? アイソーポス: まともに働いても得られない金額だから賄賂として成立するんだ。とても満足させられる金額は用意できないぞ プース: だよねぇ……。どうしよう……。けどさ、なんだかんだ言って、あたしはあいつのこと仲間だと思ってるの。だから見捨てたりはしたくない アイソーポス: 当然だ。消えゆく物語を救う旅をしていて、自分の作品を救えないのでは本末転倒どころではない レオナ: ねえねえ、もしかして……お困り? アイソーポス: む……きみは? レオナ: わたし、レオナ。で、こっちはフルダ フルダ: はじめまして。ごめんなさい、盗み聞きするつもりはなかったんだけど レオナ: 聞こえてきちゃったからさ。よかったら……手伝おうか? アイソーポス: 協力してもらえるのはありがたいが……私たちはお金もないし、これといった地位にあるわけでもないぞ レオナ: あ、見返りを求めてるんじゃないかってこと? 別にいいよ、面白そうってだけだから。それに、無実なんでしょ? かわいそうじゃん アイソーポス: そ、そうか…… アイソーポス: 無意識に、誰かが人を助けるのに見返りがあるのが自然だと考えていたな……。これではグリムに何も言えない…… プース: けど、どういう作戦にするの? フルダ: ふふっ、実はあたし、魔法使いなの。いろいろ使えるけど、一番得意なのは…… (背景切換...) ミダース: あうう……ヤバい、これはとってもヤバいぞ。このままでは処刑されてしまいかねない…… ミダース: まったく世の中は理不尽すぎる! ワラワが王様なのは本当なのに、ちょっとそれを口にしただけで捕まるなんて ミダース: ……やっぱりイキって、VIP席に通させたのがいけなかったのかな 番兵: おい、出ろ ミダース: え……ま、まさかそれって……処刑ってことか!? 5000135 - 新たな出会い アイソーポス: あっ……来たぞ! レオナ: よしよし、手筈どおりだね (街道で馬車に乗り待機していたアイソーポスたち。) (そこにミダースと、番兵の姿があった。) ミダース: え、あれ……? ワラワ、処刑場に連れてこられたんじゃないのか? あっ、アイソーポスさん! プースも!? アイソーポス: 急いで馬車に乗るんだ。すぐに気付かれて追手が来るぞ ミダース: え、追手? だって…… 番兵: よいしょっと (戸惑うミダースの視線の先で、番兵は取り出した杖を振るう。) (そして描かれた魔法陣が妖しく光り――) フルダ: これでよしっと ミダース: えええええええ!? プース: うるさいっての。さっさと乗りなよ。馬車乗りたいって、前からぐだぐだ騒いでたじゃん レオナ: みんな、乗った? じゃあ急いでここから離れるよ! (レオナは手綱をとり、馬車を走らせる。) (時刻は深夜。気付かれるにはまだ時間敵猶予はあるはずだ。) (馬車を走らせながら、彼らは互いに改めて自己紹介をする。) レオナ: へえ、それじゃあ失われた物語を求めて、世界中を旅してるんだ。すごいなぁ アイソーポス: すごいのか? レオナ: わたし、自分の興味があることに対してしか行動できないんだよね。誰かを助けるためにがんばるなんて、ちょっと考えられないかな アイソーポス: 今回、私たちを助けてくれたじゃないか レオナ: それは、きみたちに興味があったからだよ。おもしろそうな子たちだなって フルダ: レオナはずっとこの調子なのよ プース: ふたりはずっと一緒に旅してるの? レオナ: ううん、最近知り合ったばかりだよ。たまたま、行き先が同じだったから、じゃあ一緒に行こうってことになって フルダ: この先のフローレっていう町にアカデミーっていう学校があるのよ。ふたりともそこに行くところで アイソーポス: 学校……か レオナ: あ、なになに? 興味あるんなら、ちょっと見学しに来たらいいよ アイソーポス: いや、でも私は プース: いいんじゃないかな。だってアイソーポスさん、ちょっと勉強してみたいんでしょ? ミダース: そうだな。これまでいろんな人を救いまくってきただろ。たまには自分のやりたいこともやってみれば? アイソーポス: 私の、やりたいこと……か レオナ: まあ、行ったところで入れてもらえるかはわかんないよ? わたしたちも含めてね フルダ: それなりに選別されて、誰でも入れるわけじゃないって聞くから レオナ: なんせ、このあたりじゃ学問の頂点だって言われてるアカデミーだからね レオナ: ってことで、そこのおバカちゃんを助けた見返りに、フローレの町までわたしたちを護衛するってのはどう? アイソーポス: む……そう言われると、私としても断ることはできないな…… プース: いいんじゃない? 町についてどうするかは、そのとき考えても。きっと路銀も尽きてまた働かなきゃいけないかもしれないし ミダース: うん、そうだな ミダース: っていうか! いましれっとワラワのことおバカちゃんって呼んだだろ! こんなに賢いワラワをつかまえて! プース: ところで、そのアカデミーって何の勉強をするの? 魔法? フルダ: あたしは自分の魔法を極めたい。けど、それだけじゃないわ。レオナだって魔法は使わないし レオナ: わたしはなんでもいいから、色々やってみたいんだよね。別に魔法もやりたくないわけじゃないけど、才能あるかわかんないし レオナ: アカデミーは魔法使いだけじゃなくて、学者も、芸術家もいるから。いろんなやつがいて、面白くなりそうなんだよね プース: へー。なんか勉強だけじゃなくて、誰かと知り合いになるだけでも刺激になりそう アイソーポス: そうだな…… アイソーポス: レオナもフルダも面白い連中だ。もっといろんな方面で知り合っていければ、私の志に共感してくれる人もきっと……増えてくるかもしれないな…… アイソーポス: 私も、そのアカデミーとやらに行ってみたい。町に到着したら、方法を教えてもらえないか レオナ: もちろん! うん、おもしろくなりそうだね♪ (こうしてアイソーポスはレオナたちと共に、一路フローレの町へ向かった。) (グランド・リヴィジョンよりも遥か前の世界。) (これはアイソーポスがインペリウム・コミッティを設立する以前の、名もなき旅人だった頃の物語――) 5000136 - フローレ・アカデミー プース: それじゃ、ふたりの門出を祝って~! ミダース: かんぱーい! レオナ: いやあ、なんか悪いね。こんなふうにお祝いまでしてもらっちゃって フルダ: でもこれで、やっと落ち着いた気がする アイソーポス: レオナもフルダも、町に着いてからずっとフローレ・アカデミーに入るための手続きや試験の連続だったな。ろくに観光もしてないんだろう? レオナ: いいの、いいの。合格すればこの町に住むことになるんだから。観光なんて、その後でいくらでもできるし プース: 結果は来週わかるんだっけ? 楽しみだね! フルダ: ドキドキするわ。無事に合格できてるといいんだけど レオナ: 大丈夫でしょ! 私たち優秀だもん アイソーポス: あとは、私だな。一般入試の受験資格は満たせなかったが、特別入試を突破できれば晴れてアカデミーの一員だ プース: 特別入試って何するんだろ アイソーポス: さあな。だが受験資格は一定の学問を修了することだった。そこで弾かれた者への救済ということなら、学問とは別の何かを問われるのではないだろうか プース: 学校に行く機会がなかったんだもんね。ちゃんと勉強すればアイソーポスさんは頭いいと思うんだけどな レオナ: 特別入試制度って、本来は試験に落ちちゃった人の救済みたいなものらしいからね。一芸あれば合格できる、なんて言われてるけど フルダ: 私たちの試験も終わったし、何か手伝えることがあれば遠慮なく言ってね! アイソーポス: うん……。そうだね、お言葉に甘えてしまってもいいかな。実は、少々不安なんだ。なにせ、試験というもの自体、受けたことがないからね ミダース: やっぱり試験は難しいのかな フルダ: 狭き門とは言われてるけどね レオナ: いやいや、噂だけだって。過去の一般入試問題を見たけど、あんなので落ちるわけないよ! ってことは特別入試だって、推して知るべしってやつでしょ アイソーポス: そうなのか? どっちにしても、全力を尽くすしかないな。プースとミダースもしばらく付き合わせてしまうことになるが、構わないだろうか ミダース: もちろん! ワラワはアイソーポスさんの箔がつくほうがいいと思うぞ プース: それを悪用してミダースが何か余計なことする未来が見える…… (背景切換...) (数日後) (背景切換...) フルダ: え……えっと…… アイソーポス: なんと言っていいか……その、レオナはがんばっていたと思うよ ミダース: この結果はワラワも予想外すぎて……うん…… レオナ: あ、あああ、私が不合格~っ!? なんなの、これ! 試験管はどこに目をつけてるわけ? この天才レオナ様を不合格なんて、どうかしてるわ! パラケルスス: 自分で天才なんていうヤツが、優秀だった試しはないんだけどね レオナ: はあ!? 誰、あんた! パラケルスス: このフローレ・アカデミーの入試を、歴代トップクラスの成績で突破した、天才錬金術師、パラケルススとはぼくのことだよ アイソーポス: アカデミーの……トップクラス……!? プース: うわ、すごい人が出てきたね レオナ: ふん、自分で天才なんていうヤツが、ってあんた自分で言ったばかりなんだけど? パラケルスス: これは自称じゃなくて他称だからね レオナ: な、なんなのこいつ、腹立つ……! ライブラ: ちょっとパラケルスス? あまり煽るようなこと言わないの。私たちは特別入試の内容を伝えに来たんでしょ。本来の役割を忘れちゃだめよ アイソーポス: 特別入試……! ライブラ: 私はライブラ。同じく、このアカデミーの一員よ。今回、申請してくれたアイソーポスさんって人は……あなたかしら? アイソーポス: あ、ああ。よろしく ライブラ: そんなに緊張しなくても大丈夫よ。死んじゃったりするような、過激な試験じゃないから プース: 死……っ!? あ、当たり前でしょ、試験なんかで死にたくないよ ライブラ: 試験日は2日後。内容は、この近くにある『呪いの森の獏を殲滅する』こと アイソーポス: 獏の、殲滅……! それが試験内容なのか? ミダース: ツイてるな! これはアイソーポスさんの得意分野だぞ パラケルスス: というわりに怖気づいているようだが アイソーポス: ……試験内容はいつも、同じなのか パラケルスス: へえ……! レオナ: ん? なんでそんなこと気にするの? ライブラ: いいえ、そもそも特別入試の受験者自体が珍しいものだから、試験内容は毎回その時の状況に合わせて決められるわ アイソーポス: そうか……。いや、ならよかった。わかった、2日後だな ライブラ: 準備を整えて、またこの場所に来て。場所を案内するわ レオナ: ねえ、アイソーポスってば。どういうことなの? パラケルスス: 昨今の研究で、『獏』は『消えゆく物語』の気配を感じて出現する、という説が有力とされているんだ。勉強になったかな、天才レオナくん? レオナ: むぐっ……で、でも、それは知らなかった…… パラケルスス: 一般入試に見事に落ちたレオナくんも、恥をしのんで特別入試を受けるのかな?どうするのか、決めておいたほうがいいよ ライブラ: パラケルススってば、やめなさいよ、もー。あんまり気にしないでね、レオナ。あなたが落ちたのは試験の点数じゃなくて面接だから レオナ: え、そうなの? ライブラ: うん。面接の内容が人としてヤバいって判断されて レオナ: それはそれで不本意なんだけど!! 5000137 - アカデミーの風景 プース: 無事に試験も通過して、いよいよ今日からアカデミーだね アイソーポス: ああ。ここまでついてきてくれて、本当にありがとう ミダース: ん、なんだ。お別れみたいなこと言うんだな アイソーポス: だって、そうじゃないか。私はアカデミーに通い始める……つまり、旅はここで中断するんだ。ふたりを引き止めるわけにはいかない ミダース: そういうことか。別にワラワたちのことは気にしなくていいんだぞ プース: そうそう。別にどこかに向かって旅してたわけでもないし。アイソーポスさんが楽しんでる間、あたしたちも適当に好き勝手やっちゃうからさ♪ アイソーポス: そうか……いや、でもこれでひと区切りなのは事実だからな。いままで、ありがとう ミダース: 泣いちゃうからやめろっ、またどうせ夜には会うんだぞっ (背景切換...) レオナ: じゃあ一応、相棒たちとはお別れしてきたんだ。アイソーポスは愛されてるなぁ フルダ: それで、アイソーポスは何をするつもりなの? アイソーポス: 何って? レオナ: ここは学校とは言われてるけど、いわゆる先生がいて授業する、っていう受け身の場所じゃないからね フルダ: 膨大な書籍、豊富な設備、そしてレベルの高い仲間……環境は整えられてるから、あとは自分がここで成果を出すだけ レオナ: 私はやりたいことがいっぱいで困っちゃうんだよなー。絵を描きたいと想ったけど、そのためにはまず人の身体の構造を研究したいし アイソーポス: 私は……そうだな。やはり、いままで私が積み上げてきたことを突き詰めていきたい。つまり、失われた物語を救う方法……だな (背景切換...) アイソーポス: これは……すごい蔵書量だ ライブラ: ようこそ、フローレ・アカデミーへ。これでも、世界に散逸している書物の、ほんの一部でしかないらしいわ アイソーポス: これだけあって、ほんの一部……? ライブラ: 最初に図書館に来るなんて変わってるわね アイソーポス: 知識を探究するなら本を読めと、旅先のいろいろな人に教えられたからな。コツコツ、読み書きも勉強してきたんだ。ミダースにはかなわないが アイソーポス: それにしても……一部なのか……。世界の書物すべてが一箇所に揃ったら、それはものすごい力になるだろうな ライブラ: そんなことが可能になるならね ライブラ: ああ、そうそう。パラケルススが探してたよ。たぶんあの人も、本当は歓迎したいのよ。素直じゃないだけで パラケルスス: 誰がなんだって? アイソーポス: パラケルスス、きみも来てくれたのか パラケルスス: ただの伝言だよ。メディチさんから。今日の19時からホールで歓迎会。ちゃんと伝えたからね。遅れないように アイソーポス: うーん……歓迎されてるのかな、本当に ライブラ: あいつは、ああいうやつなの。あまり気にしなくていいわよ。それより読みたい本があれば言って。だいたいの棚は覚えてるから案内してあげられるわ アイソーポス: やはり……『消えゆく物語』のことを知りたい。彼らを救うために ライブラ: そんなにこだわるのは、これまでやってきた実績を活かしたいから? それとも…… アイソーポス: 私が初めて獏を見たのは、どれくらい前だっただろうか……。長い間、親しくしていた相手だった。気のいいヤツで、冗談が好きで アイソーポス: 会ったばかりで分からないかもしれないが、私は変に頭が固くて、冗談を言うタイプではないんだ。だから……ふたりでいると、いいバランスだったんだ ライブラ: うん……そういう相手っているよね。自分にないものを持っていて、それが妬みや嫉みにならずに純粋にリスペクトになるような…… アイソーポス: そいつが、獏に『喰われて』しまった。お互いに何かと忙しくて、疎遠になっていたときだった。私は偶然、そいつのことを思い出して訪ねていったんだ アイソーポス: 私の目の前で、ヤツは『喰われ』た。外傷もなく、きれいな顔だったが……全てのイマジュマイトを奪われていた。当時はそんな概念も知らなかったが ライブラ: 目の前で……そう、辛かったわね。たぶん、この世界で獏に『喰われる』瞬間を見た人は、数えるほどしかいないでしょうね アイソーポス: ……そうか。じゃあ、ヤツには貴重な経験をさせてもらったんだな ライブラ: それ以来、同じ悲劇を繰り返さないために――? アイソーポス: 何が起こったのかを知りたかった。そして調べるうちに『消えゆく物語』のことを知ったんだ ライブラ: そうだったのね…… ライブラ: ねえ、ひとつ提案があるの。私と共同研究してみない? アイソーポス: え? 共同研究、というのは…… ライブラ: もちろん、まだ先の話でいいわよ。入ったばかりなんだし。ただ……私の研究に、あなたの意見も参考にさせてほしいと想ったの ライブラ: あなたも旅をしてきて実感してると思う。この世界の住民は、等しくイマジュマイトを必要としている。でも世界から与えられる量は等しくない ライブラ: この世界のみんな、全てのひとが生きていくのに困らないイマジュマイト……これが保証されたら、みんな――すべての『作品』がずっと安心して暮らせるはずなのよ アイソーポス: みんなが安心して…… アイソーポス: ……うん。いずれ、私がきみの邪魔にならないレベルにまで成長できたら、そのときには手伝わせてほしい ライブラ: ええ。きっと亡くなったお友達も喜ぶわ アイソーポス: そうだな……。もっとも、アイツは『作品』ではなかったが…… 5000138 - 『同志』を得て (その夜――) (背景切換...) レオナ: おぉ~、こいつは効くねぇ~。うぃ~、ひっく フルダ: レオナってば、そんなに強くないくせに飲みすぎよ レオナ: いやー、こうして酔っ払ってるときほど、変なアイディアが浮かんだりするもんなんだって パラケルスス: まったく……。きみたちの歓迎会なんだよ? 主役が酔いつぶれるなんて レオナ: なんだよ、偉そうに パラケルスス: あげくに絡み酒かい。みっともないな フルダ: ちょっと、レオナ。やめなさいよ アイソーポス: 相手は先輩なんだぞ レオナ: フローレ・アカデミーでは、先輩とか後輩って関係はないって聞いたけどね。ちょっと早く入って、ちょっと成績がいいからって、なんでそんなに偉そうなわけ パラケルスス: きみの言うとおりだ。先輩とか上下関係なんてものはない。ただ、ひとつ訂正しておくが、ちょっと成績がいいわけじゃない。“かなり”成績がいい アイソーポス: レオナは入試に一度落ちてるしな…… レオナ: アイソーポスは冷静にそういうこと言わないでよ! パラケルスス: それに、ぼくがきみに親切にする合理的理由があるかな? レオナ: ぬううう……! ライブラ: はいはい、そこまで。それよりレオナ、あなたと話したがってる人たちがいるのよ。向こうのテーブルに行きましょ レオナ: え、私と? レオナ: ふっふーん、やっぱり見る目がある人はいるんだよね~。さーてと、ハイセンスなお話をしてこようーっと パラケルスス: なんだ、あいつは。タチの悪さでいえば、ミシェルのバカといい勝負だな アイソーポス: あの人たちは? フルダ: フローレ・アカデミーでも名だたる画家の人たちなんだって。けっこうレオナって、芸術関係の人から注目されてたみたい アイソーポス: へえ……すごいんだな。私なんて、1日中図書館で本を読み続けていただけだよ フルダ: 初日だもの。目立った研究成果なんて出なくて当然でしょ アイソーポス: 研究成果? フルダ: 知識を吸収するだけなら誰でもできる……だから、ちゃんと成果に繋げないと、アカデミー所属でいられないわよ。それがこのアカデミーの存在意義でもあるんだから アイソーポス: な、なるほど……入って終わりではないのか アイソーポス: それもそうか、何のために環境が提供されているかを考えれば当然だな。しかし、私は何を成果とするべきなのか…… ライブラ: そんなものは後からついてくるでしょ。いまは興味が向くのにまかせておけばいいの アイソーポス: ライブラ……きみは立派だな。自身の研究だけでなく、後進を導くことも忘れない ライブラ: え、ほんと? やだ、立派なんて言われたことないんだけど パラケルスス: 騙されるなよ。こいつほど適当で、いい加減で、怠惰なやつはいないんだから ライブラ: よーし、気分がいいからみんなに新しく作った魔道具を披露しちゃおうっと! アイソーポス: 魔道具を? ライブラ: 近くの相手の服が透明に透けちゃう『えちえちスケルトン』~! アイソーポス: え……な、なんだって? パラケルスス: ね、こういうやつなんだよ。この手の変なセンスが、このアカデミーに変に根付かなきゃいいけど ライブラ: こういうときはハメを外すものなんだよ! ほら、踊って、踊って~! 服を着たままなのに裸踊りができるよ~! フルダ: あはは……ど、どうしよう…… (背景切換...) ライブラ: んぁ~……あったまいたぁい…… レオナ: うぅ~……からだがだるぅい…… フルダ: ダメな大人ばっかりになってる…… パラケルスス: このアカデミーに入るようなヤツはね、普通じゃないんだよ。悪い意味で フルダ: そこいくとアイソーポスは真面目ね。今日も朝から調べ物して パラケルスス: どう、成果は。それなりに何かわかってきたかい? アイソーポス: ああ……はっきり確信したよ。私がやってきたことは決して無駄ではなかった。でもクリティカルでもなかったんだとね アイソーポス: 本気で誰かを救いたいなら、手を差し伸べるだけじゃ足りない。世界のありかたを考えなくちゃいけないのかもしれない 5000139 - グリムの覇道 カロラ: んじゃ、いっただっきまーす ジャコヴァ: 久しぶりに帰ってきたな ヴィルヘルミナ: そうね。かなり長い間、ずっと旅をして家を空けたものね。カロラ、留守中は変わりなかった? カロラ: あー、まあ、普通じゃね ヴィルヘルミナ: エミリーは? 元気にしてたの? 風邪なんて引いてない? エミリー: 大丈夫だよぅ。ヴィルは心配しすぎ シャルロッテ: ジャコヴァ姉さま、ヴィル姉さま、ぜひ旅先のお話を聞かせてくださいませ フェルディナ: ……ふん。なんで私まで呼ぶのよ。どうせ大した話もしないくせに カロラ: ちっ、んだよ、ブツブツうるせーな。言いたいことがあるなら言えよ フェルディナ: 別に…… ジャコヴァ: 話を進めろ ヴィルヘルミナ: ワタシたちグリム家は、イマジュマイトを管理し、取引の材料にすることで意のままに動く勢力を確保できるようになった カロラ: ひとりひとりは弱くても、数が集まるとバカにできねーんだよ。誰かひとりの意見より、これだけたくさん賛成してる……っていうほうが説得力増すだろ シャルロッテ: 私たちの発信力を高めていくのですわね。でも、何を発信していくのです? ジャコヴァ: 考えてない エミリー: ええっ、なにそれ? だって、そのためにジャコヴァとヴィルは旅してきたんじゃないのぉ? ヴィルヘルミナ: 目的が出来てから手段を探していたのでは遅すぎるのよ。そのときが来ることを見越して動いておかないといけないの ジャコヴァ: うんうん ヴィルヘルミナ: いま揃っている数を集めるのにも、相応の時間がかかっているわけだし……あなたたちの手を借りたとしても簡単じゃないわ ジャコヴァ: それに、旅は楽しいからな カロラ: 理由の8割、ジャー姉ちゃんの気分で決まってるだろ…… フェルディナ: そんなふうに『作品』を増やして、それは『作家』と言えるのかしらね ヴィルヘルミナ: ワタシたちが『作家』たりえるか、決めるのはあなたじゃないわ。この世界よ フェルディナ: …… カロラ: それに、姉ちゃんたちが旅してる途中であることがわかった。だから、既にこれは意味のあるものになってる シャルロッテ: なんですの? ヴィルヘルミナ: ワタシもカロラから報告を受けて驚いたけど……イマジュマイトの供給量に個人差があるのは知っての通りでしょう。でもそれは、一定じゃないの カロラ: 上下動するんだよ。けど、契約した連中は姉ちゃんたちの『作品』だ。どう分配するかは姉ちゃんたち次第…… カロラ: つまり、『作品』は安定して受け取れる代わりに、実は大幅に上昇していても、その差分は姉ちゃんたちのものにできるわけだ エミリー: それって……いわゆる搾取ってやつじゃないのぉ? ヴィルヘルミナ: ああん、エミリーったら優しいのね。心が純粋なままなんだわ。でもね、エミリー。これは契約、お互いに合意した結果なの。誰も不幸になってないのよ シャルロッテ: 大幅に上がる可能性もありますが、途絶える可能性もありますものね カロラ: そういうこと。リスクを失くすんだから、リターンもねぇだろ ヴィルヘルミナ: それに大幅に下落した子は、いまのところいないわ。あくまでも現時点だけど、ワタシたちが損するリスクも低い ジャコヴァ: でも、私の知らないところで私のことを決められるのは気に食わない エミリー: なんのこと? 誰か勝手なことをしてる人なんている? ヴィルヘルミナ: いまあるものは、世界の理に従った結果でしかないの。誰かが決めた世界のルールに則って、その範囲内で勢力を伸ばしているにすぎない シャルロッテ: 問題点がよくわかりませんわ ヴィルヘルミナ: そもそもイマジュマイトはどこから来ているのかしら。これを突き止めれば、ワタシたちは一手に掌握することができるでしょう ヴィルヘルミナ: そのときこそ、我がグリム家がこの世界の覇権を握るときよ シャルロッテ: 世界の……覇権、ですか…… フェルディナ: ……っ。そ、そんなことが……? ジャコヴァ: 私のことは私が決める。そのために、お前たちにも動いてもらう カロラ: まずはこいつだ。とにかく契約をもっと増やす。地力をつけるためだ。損するリスクもあるが、数でカバーする エミリー: プレゼン資料? カロラみたいに上手にできるかなぁ ヴィルヘルミナ: それから、イマジュマイトの出どころよ。研究者を大量に雇って調べさせてる ジャコヴァ: 食べ終わったらさっそく、出かける準備だ シャルロッテ: 私たちグリム家の覇道への旅、ですわね……! ジャコヴァ: ……それに、みんなで旅すると、馬車に乗る理由ができるからな 5000140 - 現在地の記録 アイソーポス: なるほど……。この世界とは別に、人間界という世界があるわけか……。そこから流れ込んでくるエネルギーがイマジュマイトだと…… アイソーポス: 目に見えないものだから実感しづらいが、海に川の水が流れ込むように、どこからか入ってきているのだろうか…… アイソーポス: ライブラ、イマジュマイトの可視化という考え方は過去にあったのだろうか ライブラ: ふあああぁぁ……。え、なに? アイソーポス: ……昨日も宴会だったのか? ひどい顔だが。サンダル履きでうろうろして、しかもそのズボン、部屋着じゃないのか。穴が開いているし…… アイソーポス: 最初はデキる女という雰囲気を出していたのに、どんどんひどくなっているような…… ライブラ: 失礼ねー。二日酔いなんかじゃないわよ。研究がノッてきちゃって徹夜しただけ。アイソーポス、コーヒー淹れて~ アイソーポス: やれやれ……。少し待ってろ。あと、何か腹に入れたほうがいい。私のサンドイッチを分けてやるから ライブラ: え、いいのー? やったぁ! いただきまーす アイソーポス: 手を洗ってからにするんだ。さっき、その手で尻をかいてただろ レオナ: お、いい匂い。コーヒー? アイソーポス: ああ、レオナか。ついでにきみも飲んでいくか? レオナ: いいね、もらっていくわ レオナ: にしても、すっかりライブラのお世話係になっちゃったねぇ アイソーポス: そんな役割を引き受けたつもりはないんだがな ライブラ: いいじゃん、いいじゃん。こういうのも嫌いじゃないくせに。それに、研究はちゃんと真面目にやってるのよ? アイソーポス: こう見えて、錬金術師としてはやはり超一流だからな レオナ: こう見えて……。最初はデキる女ふうだったのにね ライブラ: アイソーポスと同じこと言うのね。最初だけちょっと気を使ってたのよ レオナ: フルダは? アイソーポス: 彼女は魔術師としての修練を積んでいるようだな。ほら、コーヒー レオナ: ありがと。そうね、錬金術師と魔術師は似てるようで違うもんね。油絵と版画くらい違う……ん、美味しいねこれ アイソーポス: コーヒー豆にはそこそこ詳しいんだ。フルダは紅茶に詳しいし、レオナも何か研究以外の趣味を見つけてはどうだ レオナ: 飲み物系だと、あとはヤマトの国のほうにある緑色のやつとか? わかんないけど ライブラ: レオナは研究自体が幅広すぎて、趣味にできる余白がないんじゃないの レオナ: 言えてる フルダ: あれ、レオナも来てたんだ アイソーポス: やあ、フルダ。それにパラケルススも? パラケルスス: ぼくはちょっと図書館に用事があるだけ。馴れ合いに来たと思ってもらっちゃ困る ライブラ: まだ何も言ってないのに自分からそうやって……。ちょっと可愛いわよね、パラケルススって パラケルスス: はあ? 気持ち悪いこと言うな フルダ: それでアイソーポスは、どうなの? 研究は進んでる? アイソーポス: ああ。実はちょっとした手がかりがあってね。いま、ライブラと計画しているところなんだ ライブラ: ディープフォレスト自治区の南部に『旧き森の賢者』と呼ばれる術師がいるらしいの。その人に話を聞きに行ってみようってことになって アイソーポス: もしかしたらイマジュマイトの格差を是正できるかもしれない フルダ: アイソーポスの目標が一気に近くなるかもしれないのね! うん、応援してるから! パラケルスス: ふうん……なかなか、面白そうなことをしてるんだね。まあ、ぼくには関係ないけど レオナ: 久しぶりの旅だからって、ちょっと浮かれてるんじゃないの? なんだか表情が弛んでる気がするわ アイソーポス: そうかもしれないな。図書館で過ごす日々は素晴らしかったけど、でも……私はフィールドワークも好きみたいだ レオナ: お、その表情いただき フルダ: レオナはさっきから何してるの? レオナ: もちろん絵を描いてるのよ。絵はさ、芸術作品として何かを表現することも重要だけど……瞬間を切り取って残しておく意義も大きいと思ってる レオナ: 人は忘れていく生き物だから。でも、こうして形にして残しておけば、後から思い返せるでしょ? アイソーポス: なるほどね。あれ、でもこのデッサン……5人いるような レオナ: 私も想像して足してみたの。だって仲間外れなんて悲しいじゃない フルダ: ちょっと! 私の顔、適当すぎない!? もっと可愛く描いてよ! レオナ: うるさいな、これは下書き! 清書はちゃんとするから! パラケルスス: やれやれ、図書館だというのに騒がしいことだね ライブラ: これくらいでいいのよ。信頼しあえる仲間がいるから、研究にも励むことができる……それがフローレ・アカデミーの存在意義なんだから パラケルスス: ふん、どうやらきみも、いい仲間を見つけられたみたいだね。アイソーポスにずいぶん入れ込んでるじゃないか ライブラ: うん……あの子とならきっと、理想の世界を実現できる気がするの。まだ輪郭すらおぼろげだけど、でもきっと…… 5000141 - ディープフォレストでの邂逅 レオナ: いったぁっ!? もー、木の根っこにスネぶつけたんだけどー! アイソーポス: このあたりは特に木々が生い茂っているからな。足元には充分注意したほうがいい レオナ: んー、そうだよね。それにしたって、歩きづら…… レオナ: あっだああぁっ!? 足元見てたら枝に頭ぶつけた!! ライブラ: レオナってば大丈夫~? 3人しかいないんだからね。魔物が出てきたときに、もうひとりやられてます、なんてことになったらシャレになんないよ? レオナ: 私の体力、どれだけ低いと思ってるのよ。枝にぶつけたくらいで戦闘からリタイアなんてしないから レオナ: あーでも、勝手についてきたくせに、こんなザマじゃさすがに肩身が狭いわ。ちょっと頼りになるところ見せなくちゃね アイソーポス: はは、そんなこと気にしなくていいぞ。レオナがいてくれるおかげで、この陰鬱な静かすぎる森も楽しく過ごせるんだからな レオナ: アイソーポスは優しいなぁ…… ライブラ: なんか相対的に私が優しくないみたいに聞こえるんですけど レオナ: そんなこと言ってないのに~ アイソーポス: むしろ私も久しぶりに学院を飛び出して旅をするとあって、少々浮かれて早足になっていたかもしれない。どうする、このあたりで少し休む―― アイソーポス: ――というわけには、どうやらいかないようだな (アイソーポスの視線の先には、複数の魔物の影があった。) (すぐにライブラとレオナも状況を把握し、武器を構える。) ライブラ: 思ったより数が多いね…… レオナ: 後ろからも別口が来てるわ。撤退もさせてもらえないみたい アイソーポス: なに、この3人なら突破できるはずだ。いくぞ! (言うやいなや敵に向かって突進するアイソーポス。) (攻撃が来ると予測したのか、魔物は鋭い爪で身を守ろうとする。) アイソーポス: はああっ! (アイソーポスは直前で深く踏み込んで、方向転換する。) (そして斜め後ろに控えていた別の魔物へ切りかかった。) (虚を突かれた魔物を、一撃で屠った。) レオナ: おおっ、やるーっ♪ なんなの、いまのそのステップ アイソーポス: 人も魔物も、自分に正面から突っ込んでくる相手を見たら、自分への攻撃だと思い防御するものだろう? アイソーポス: 身を守った時点で、そいつからの攻撃は心配しなくていい。ちょっとした踏み込みひとつで、敵のカウンターが防げるんだ ライブラ: さすが、積んできた経験が違うよね。ここに関しては、私も絶対アイソーポスにかなわないもん。所詮は机上の空論っていうか アイソーポス: 持ち上げてくれるのは結構だが、ふたりも戦ってくれないとこの数はさばききれないぞ? レオナ: もっちろん。わかってるって (結局、その場はなんとかしのぐことができた。) (だが森を進むごとに魔物が行く手を阻む。) (さすがに何度目かの戦闘では全員が疲弊していた。) レオナ: ちょっと進むごとにこんなに魔物が出てきたんじゃ、さすがにスタミナがもたないわよ…… ライブラ: それにイマジュマイトもね……! とにかく、こいつらを倒したら少し休まないと アイソーポス: くっ、私も足元が怪しくなってきたな……。体力不足かっ…… ジャコヴァ: なんだ、楽しそうだな アイソーポス: お前は……ジャコヴァ……っ!? ジャコヴァ: こんな陰気な森で魔物相手に何を遊んでいる カロラ: おい、ジャー姉ちゃん。どうするんだ、助太刀するのか? やっていいのか? ジャコヴァ: ……ああ。やれ カロラ: よしきたーっ、全員ぼっこぼこにしてやるぞ! みんな、あたしについてこいっ! エミリー: もう、カロラってばノリノリなんだからぁ ヴィルヘルミナ: 一瞬で片付けるわよ。我がグリムの威光を見せつけてやりなさい! フェルディナ: はあ……これでまた、私だけ落ちこぼれ扱いなんでしょ…… シャルロッテ: グリムの恐ろしさ、思い知らせてさしあげますわ! レオナ: うわ、これがグリムってやつら? 6人もいたのね ライブラ: 圧倒的な戦力……どれだけのイマジュマイトを抱えてたら、こんなことができるの……? カロラ: ジャー姉ちゃん、終わったぞ ジャコヴァ: うん。わかったからもう一歩離れろ。昼にニンニク食べただろう カロラ: 姉ちゃんもじゃん! あたしだけ臭いみたいな言い方すんな! シャルロッテ: おふたりとも、すりおろしたニンニク、もりもり載せてましたもの。信じられませんわ…… フェルディナ: で? ラッキーな旅人さんたち、私たちグリム家の実力、よーく理解したかしら? エミリー: なんかジャコヴァの知り合いみたいだったけど ジャコヴァ: このアイソーポスは、私のライバルだ ヴィルヘルミナ: えっ!? ね、姉さんがライバル認定……!? シャルロッテ: なんですって!? あなた、何者なんですの!? アイソーポス: い、いや、しがない旅人……あ、違うか、いまはフローレ・アカデミーの院生だ エミリー: え~っ、そこすっごい有名なとこだよぉ レオナ: いやあ、それにしても助かっちゃった。ありがとね~ フェルディナ: な、なんか調子狂うわね…… ライブラ: これが、グリム…… ジャコヴァ: それで、お前たちはどこへ行く アイソーポス: この先に住む、『旧き森の賢者』に会いにね ジャコヴァ: ああ……では、別方向か アイソーポス: それなのに、こんなところで出くわすとは世界は狭いな。ありがとう、助かった ジャコヴァ: 気が向いただけ (そっけなく答えて森の奥へと進み始めるジャコヴァ。) (妹たちも慌ててその後を追うのだった。) 5000142 - 賢者に残された時間 レオナ: こーんにーちはー! レオナ: んむむ……? なんか、留守っぽくない? 人がいる気配が全然ないんだけど アイソーポス: 約束していたわけでもないからな。出かけているのかもしれない ライブラ: 薪割りの道具がそのままになってるし、ドアの鍵もかかってない……たぶん、ちょっとそこまで、って感じじゃないかな アイソーポス: そうだな。計画的に遠出をするなら、このあたりは片付けておいても良さそうなものだが……むっ? レオナ: え、なに、また魔物? アイソーポス: いや、あれは…… ライブラ: 獏!? アイソーポス: 向こうに駆けていくぞ! まさか……ふたりとも、追いかけよう! (背景切換...) アイソーポス: あそこだ! いま助ける! ライブラ: もしかして、あなたが旧き森の賢者? 賢者: わしを知ってるのか ライブラ: あなたに会いに来たの アイソーポス: そこだっ! はあああっ!! レオナ: やった、獏が逃げてくわ。さっすがアイソーポス アイソーポス: 倒しきれなかったか。いや、それよりも賢者殿、私の身体に触れてくれ。だいぶイマジュマイトを『喰われ』てしまったのではないか 賢者: いいや、気持ちだけいただいておくのじゃ。わしは受け取れないからのう レオナ: え、なんで? 変な意地とか張らないほうがいいと思うんだけど 賢者: そんなつまらない事情じゃない。わしはのう、『作家』なのじゃ (背景切換...) ライブラ: それじゃ、イマジュマイトは作家から作家には渡せないのね 賢者: ああ、そうさ。つまり、わしはエルマイトを補充する方法を持ってない。今日は追い返してもらったけど、獏に『喰われ』るのも時間の問題じゃな レオナ: そんな……。なんとかならないの? 賢者: わしはもう悟ってるがね アイソーポス: やはり、獏は作家のところにも現れるのか。いったい、あれは何者なんだ 賢者: わしに聞きたかったのは、そのことかい? あれが何者かは、わしにもわからない。ただ、なんとなく世界からの使者のような気がしとるよ レオナ: 使者? 迎えに来ました、みたいなやつ? 賢者: あんたたちアカデミー生だってね。それじゃあ、イマジュマイトがどこから来てるかくらいは知ってるのじゃな ライブラ: ええ。人間界から流れ込んできてるって 賢者: わしらの存在は、人間界でも認識されてるのじゃ。けど、それが消えたとき……世界から流れてくるイマジュマイトは途絶える アイソーポス: 認識? それはどういう状態なんだ。誰かがこっちを覗き込んでいるのか? 賢者: 生き様がね、伝承になってるのじゃよ。そして、それが語り継がれていく。でも、いつしかそれが廃れ、そして忘れ去られる日が来る レオナ: じゃあ、『消えゆく物語』って、忘れられちゃったってこと? そんな、それで消えちゃうなんて、なんか…… ライブラ: そんなの、ひどいよ。私たちはこうして、ここにいるのに (背景切換...) シャペロン: じゃあ、わざわざあたしを訪ねてきたのかい ヴィルヘルミナ: ええ、お茶でもどうかと思って シャペロン: 変わった人たちだね。こんな森の深いところまで来て、あたしなんかとお茶しようだなんて カロラ: お? なんかキラキラしたのが飛んでんな。ここらへんじゃ多いのか? シャペロン: それは森に住む精霊だよ。微精霊ってやつだね カロラ: ふーん。なんか不思議な力とかあるのか シャペロン: 何も。だってそいつらは、あたしらと同じなんだから カロラ: 同じって、どういうことだよ。これ、明らかにあたしと同じじゃねーだろ シャペロン: 肉体を失えば、こうなっちまうのさ。まあ、失ったところで存在が消えるわけじゃない。時間をかけて力を溜めていけば、またもとに戻るって言われてるけどね カロラ: マジか……。んじゃ、大怪我とかすげー病気してほっとくと、こうなっちまうってことか? 肉体を失うって、そういうことだもんな ヴィルヘルミナ: 『失われゆく物語』とは、ある意味では真逆、なのかもしれないわね シャペロン: そんなことまで知ってるのかい。じゃあ、あんたたちが訪ねてきたっていうのも、ここいらの住民が獏に喰われ始めてることを知ってて来たんだね ヴィルヘルミナ: なかなかカンがいいわね。話が早くて助かるわ ヴィルヘルミナ: ぜひ、あなたにも契約してもらいたいの 5000143 - リヴィジョン シャペロン: そら、ハーブティーだよ カロラ: お……ちょっとクセあるけど、でも嫌いじゃないな、この香り シャペロン: そいつはよかった カロラ: なんてハーブなんだ? シャペロン: さあね。家の裏手に気がついたら生えてたんだよ カロラ: おぉい!? それハーブっていうか雑草だろ!? シャペロン: ちゃんと自分で試してから出してるから安心おし ヴィルヘルミナ: それで……本題だけど。獏が増えていることは気づいているんでしょう? シャペロン: ああ……。以前から言われてたことではあるからね、驚きはしないんだけど ヴィルヘルミナ: 言われてた? シャペロン: 森に住んでいる、『賢者』って呼ばれてる人がいてね。はて、名前はなんだったか……みんなして『賢者』って呼ぶもんだから、忘れてしまったけど ヴィルヘルミナ: 忘れてしまった……。ふうん、なるほどね カロラ: んで、そいつが言ってたのか? 獏が増えるぞ、って シャペロン: この森に住んでいる連中はね、賢者に言わせりゃ土台の固まっていない家と同じなんだってさ。ずっとグラグラして、不安定なんだと シャペロン: 例えば山脈の向こうに、大きな国があるだろう? 魔法の国、だったかね。それに海を超えた向こうにも、新しい国ができつつあるって聞いた シャペロン: そういうのに比べたら、あたしらはやっぱり不安定だそうだよ カロラ: 国家の枠組みってことか? 獏相手に、そんなの関係あんのかな ヴィルヘルミナ: ……別の基準があるのよね、きっと シャペロン: あたしも、いつ獏に喰われちまうかわかんないね。いや、あたしはいいんだ。けど……孫がね、心配なんだよ ヴィルヘルミナ: お孫さんがいるのね シャペロン: しらばっくれるんじゃないよ。全部、調べて来てるんだろう? カロラ: ヴィル姉ちゃん、このひとはお見通しみたいだな。全部ぶちまけたほうがすんなりいきそうだ ヴィルヘルミナ: そうね。じゃあ単刀直入に。私たちと契約をしてみない? 本来なら『消えゆく物語』になってから話すんだけど…… シャペロン: ……聞かせてもらうよ。孫の未来のためになるならね (背景切換...) 賢者: わしもこれまで、多くの住民たちを見送ってきた…… アイソーポス: ああ。私もだ。その誰もが、忘れられてしまった、というんだな アイソーポス: 言われてみれば、それは納得できる。なぜなら私も、かつて獏に喰われた友人がいたのだが、その事実だけをかろうじて覚えているだけだからだ レオナ: んん? つまり、名前は覚えてないってこと? アイソーポス: ああ。とても世話になった相手だったはずなんだがな。そして、旅先で知り合った、惜しくも救えなかった人々に至っては…… ライブラ: 救えなかった事実くらいしか覚えていない? アイソーポス: 人間界で忘れられるということは、この世界でも失われるということなんだろうな ライブラ: そんなの……ひどすぎるよ! だって、いまこうして存在している私たちが、何も間違ったことをしていないのに、自分たちの預かり知らぬところで消されるなんて 賢者: 消される、というと語弊があるのじゃ。誰か特定の個人が恣意的に消すわけではない。大多数の無意識が自然と……時間の流れにまかせて、風化していくのじゃよ ライブラ: 消える側からしたら同じだよ……。ねえ、賢者さん。私はそんな悲しいこと、どうにかして止めたいの。何か方法を知らない? ライブラ: ううん、知ってたらやってるよね。なんでもいいの、ヒントになることがあれば…… アイソーポス: ライブラ…… レオナ: ライブラは本気で、どうにかしたいって気持ちがあるんだね。現場に立ち会ったアイソーポスよりも強いかも 賢者: わしが長くこの世界を眺めていて、ひとつだけ気づいたことがある。もしかすると、それがヒントになるかもしれんのう ライブラ: ど、どんなことっ? 賢者: 実は、この世界は存在してから現在に至るまで、まったく不変ではないらしいのじゃ レオナ: ん? 不変じゃない、っていうのはどういうこと? みんな毎日生きてたら、ちょっとくらい変化はあるでしょ? 賢者: そんな次元ではない。自覚しないうちに、何かが変わっている。例えば、住んでいる環境。あるいは職業、場合によっては家族構成 アイソーポス: なんだって!? そんなものが勝手に変わるはずがないだろう!? 賢者: わしもそう思う。だが、これは作家も住民も自覚できないらしい。変わっても、最初からそうだったように認識してしまうのじゃよ 賢者: 大抵は些細なことらしいがのう。わしはこれを『リヴィジョン』と呼んでおる ライブラ: リヴィジョン…… 賢者: これもおそらくは、人間界の影響じゃろう。じゃが、この変化の力は利用できるように思っておる アイソーポス: そうなのか? レオナ: まあ、確かに。結果的に些細なことだとしても世界が変わってるわけでしょ。なら、世界の理ってやつだって変えられないわけじゃない……っていう発想は出てくるよね レオナ: 人間界で忘れられても獏に喰われない、っていう新しい仕組みが作れればいいわけで アイソーポス: 口でいうのは簡単だが、そんなことが可能なのだろうか ライブラ: 簡単じゃないよ。でも、可能性はある…… 賢者: わしは、そうまでして存在を残そうという意欲がなかった。じゃが、おまえさんのような熱意があるなら、試してみる価値はあるかもしれんのう アイソーポス: あいにく私は頭があまり冴えていないし、話の内容がだいぶ難解だったので、すぐに理解は難しかったが……ひとつだけ聞かせてくれないか 賢者: なんじゃ? アイソーポス: 住民が自覚できないリヴィジョンを、あなたはどうやって観測したんだ レオナ: お、たしかに アイソーポス: そして人間界との因果関係や、その話し方からして……もしかしてあなたは人間界に行ったことがある、あるいは人間界から来た誰かと接触したのでは? 賢者: ……昔の話じゃよ 5000144 - グリムの計画 レオナ: きっとあの旧き森の賢者のところには、もうすぐ獏がまた来るんだろうね。そして、あの人は甘んじて喰われる…… アイソーポス: すべてを知った上で喰われるのだから、他の『消えゆく物語』よりも覚悟を決めた、尊厳ある最期だと言えるかもしれないな レオナ: まあねー。わけわかんないうちに喰われるのは、やっぱ怖いもんだろうし アイソーポス: あれもまた、彼女の生き方なのだろう ライブラ: あの人の選択は否定しない。そもそも『作家』なんだから打つ手もないし ライブラ: けど、これで希望が出てきたよね。リヴィジョン、これをヒントにすればきっと世界を変えられる! アイソーポス: 険しい道であることは疑いようがない。が、これまでは道があるかどうかすら不明瞭だったのだから、希望が出てきたと言っても差し支えないか アイソーポス: しかし、貴重な情報ではあるが、たったこれだけで何か前に進めるものなのか? レオナ: まあ、なんか発明しちゃうやつって、ちょっとしたことから一気に進めたりするもんだけどね レオナ: それにライブラのその顔、何かイメージはできてるんでしょ ライブラ: うん。錬金術とか魔法ってイメージが大事だからね、わけわかんないままじゃ、何もできない ライブラ: きっと成功するよ! 誰も消えなくて済む、みんなが楽しく平等に生活していける世界を作るの! アイソーポス: ああ。実現できるといいな。私もできることがあるなら手伝おう レオナ: んー……そうだね ライブラ: 私は理想の世界を実現するよ!! ジャコヴァ: ふん、勇ましいことだな レオナ: あっ、グリム姉妹! また出た! アイソーポス: よく会うな。本当に世界は狭い フェルディナ: 森が深すぎて、人が通れるところは案外限られるのよ ヴィルヘルミナ: そんなことはどうでもいいけど、ずいぶん楽しそうじゃない。こんな森のど真ん中で、理想の世界とはずいぶん大きく出たわね ヴィルヘルミナ: ワタシたちグリムを差し置いて、世界をどうにかできると思っているの? 本気で? ライブラ: ……っ! アイソーポス: 信じて始めなければ、何も変わらないからな。そっちは6人揃って、どこへ行く。もう用事は終わったのか ジャコヴァ: 終わった。契約も取れたからな カロラ: 森の連中、みんな不安がってたからな。シャルの噛み噛みな下手くそプレゼンでも取れたくらいだ シャルロッテ: あうう……カロラ姉さまったら、ひどいですわ ジャコヴァ: ふん、いい結果が出たか アイソーポス: こうして足を運んだかいはあったよ ジャコヴァ: 即効性は薄いか ライブラ: それでも希望には違いないから。後はどれだけ広げるか ジャコヴァ: ……理想の世界か。ふん、おまえは私のライバルではないな ライブラ: そりゃどうも フェルディナ: ふん、いまや名門とまで呼ばれているグリム家よ。それにたてつこうなんて、余計なことを考えるんじゃないわよ エミリー: もう、フェルディナってば、やめなよぅ レオナ: なんだ、あれ。前に会ったときもだったけど、ちょっとなんか勘違いしてて痛い子だな…… ジャコヴァ: 行くぞ アイソーポス: どこに行くんだ? そんなに『消えゆく物語』が多いっていうのか ジャコヴァ: ……ん? いや、違うな アイソーポス: もしかして、旧き森の賢者に会うつもりか? ジャコヴァ: ほう、お前らはそいつに会ってきたのか レオナ: ちょっとアイソーポスっ、あっさり見破られてるんですけど アイソーポス: え? 別に隠すことでもないだろう? ジャコヴァ: ふっ ヴィルヘルミナ: えっ、姉さんが他人に笑いかけた? ジャコヴァ: なに、ちょっと計画があるんだ。楽しいやつだぞ。それの進捗をちょっと見てくるんだ アイソーポス: ふふっ、楽しそうだな ジャコヴァ: ……縁があれば、また会うだろう。じゃあな 5000145 - すれ違うベクトル レオナ: ふい~。つっかれたー パラケルスス: やあ、お疲れ様。大した長旅でもなかったはずだけど、疲労困憊みたいじゃないか レオナ: やったら魔物が多かったのよ。パラケルススにも来てもらえばよかった パラケルスス: ぼくを魔物退治の人工としてカウントするの、やめてくれないかな。まさに宝の持ち腐れだと思うよ ライブラ: そうやっていっつも研究室にこもりきりだけど、たまには外に出たほうがいいよ? パラケルスス: 大きなお世話だよ。ぼくは汗をかくのだって嫌なんだ レオナ: んじゃ、レバーひとつで車輪が動く仕組みとか作ってあげようか。そしたら楽に移動できるんじゃない? パラケルスス: へえ、それは悪くないな レオナ: じゃあ、いくら出す? パラケルスス: きみは俗っぽいなぁ。ぼくが新技術のテストをしてあげようっていうのに レオナ: あなたは、どこまでいっても偉そうよね アイソーポス: まあまあ。それよりフルダはどうしたんだ? 彼女も研究に没頭してるのかな パラケルスス: え? フルダ? ライブラ: ん? レオナ: 絶対そうだよ、研究に夢中になっちゃってるんでしょ パラケルスス: ああ、そういえばさっき研究室の前ですれ違ったな。きっと研究室だ。行ってみるといい アイソーポス: そうだな。後でミダースとプースも呼んで、食事にでも行くか パラケルスス: あのふたり、町でなにかの移動販売を始めていたのを見かけたよ。なかなか、たくましい手下がいるね アイソーポス: はは、頼りになる連中だよ。でもパラケルスス、彼らは手下じゃない。仲間だ パラケルスス: それは失礼したね。ぼくも四大精霊を手下だと思ったことはないのに、ついついそういう言い方をしてしまう レオナ: あれ、パラケルススも作家なんだっけ ライブラ: これで意外と作品のことは大切にしてるんだよ レオナ: 私のことはこんなに邪険に扱うくせに? パラケルスス: 心血注いだ作品と、アカデミーで顔を合わせただけのきみとで、対応に差がないほうが問題だと思うけどね ライブラ: 素直に、四大精霊が一番大切、とか言えばいいのに…… アイソーポス: ん? あっ、フルダじゃないか。こっち、こっち フルダ: あっ、アイソーポス! それにレオナも! 帰ってきてたのね レオナ: 思ったより元気そうね。もっとやつれて目の下にクマ作るくらい魔術研究に夢中かと思ってた フルダ: こないだまで、本当にそんな感じだったのよ。けど、さすがに体調も悪くなってきちゃったし、ちゃんと節度をもってやろうと思って アイソーポス: おいおい、心配だな。この言い方だと、来週あたりには喉元過ぎてまた無茶してそうだ ライブラ: さて、じゃあさっそく私は研究に取り掛かろうかな。実は、この旅でかなり大きなヒントを得られたの。だからもう、意欲が高まってすごいことになってて パラケルスス: やれやれ、こっちも倒れるまでやるパターンだぞ フルダ: ライブラが本気でやったら、私の研究なんかかすんじゃうよ ライブラ: 魔術に大小は関係ないよ。自信持って! フルダ: うんっ! ライブラ: あ、そうだ。アイソーポス、ちょっと頼まれてほしいんだよね アイソーポス: ああ、手伝うと約束したからな ライブラ: というか、ちょっと調べてほしいことがあるの ライブラ: グリムが何をしようとしているのか――それが知りたい (背景切換...) シャペロン: あんたがここに来るのも久々だねぇ。どうだい、元気にしてたかい ペロー: ええ、おかげさまで。ちょっと足が遠のいてしまいましたが、自分の作品のことはいつも気にかけていますよ ペロー: それよりシャペロン、魔法で若さを保っているとはいっても、もう孫もいる身なんですからね。あまり無理しないでくださいよ シャペロン: 年寄り扱いするんじゃないよ、まったく ペロー: 心配してるんですよ。魔法だってなんでもかんでも万能じゃないんですから ペロー: そういえば、今日はヴェルメリオは? シャペロン: 森にベリーを摘みに行ってるよ。また迷子になってるかもしれないけどね ペロー: ふふっ、いつまでたっても方向音痴ですね。まあ、魔物に遭遇しても、あなたが鍛えているから問題ないでしょうけど ヴェルメリオ: ……ただいま。あれっ、ペロー ペロー: お邪魔していますよ シャペロン: 思ったより早かったね。ほら、ヴェルも手を洗ってテーブルにつきな。いま、ハーブティーを淹れてあげるよ ペロー: そうそう、ヴェルメリオはパイ作りに興味を持っていましたね。ちょうど、こんなものを見つけたんですよ ヴェルメリオ: ……これ、レシピ? アップルパイだ シャペロン: こんなの、ヴェルに作れるかねぇ ペロー: 大丈夫。私が一緒に作りながら教えますから。ね、ヴェルメリオ ヴェルメリオ: ……うん。ペロー、いつもありがとう ペロー: いいえ。じゃあ、後で作るということで、一旦これは……っと ペロー: 失礼、なにか書類を落としてしまいましたね。これは? シャペロン: ああ、何日か前にお客が来てね。万一に備えて安心できる契約をしましょうって言われたのさ。それは、契約書の控えだよ シャペロン: あたしったらちゃんとしまってなかったんだね。どっこらしょ、っと ペロー: ……? 契約、ですか……。なんでしょうね、いったい…… 5000146 - 地道な調査 レグルス: あ、あの…… レオナ: およ? きみは何者かな? レグルス: そ、そのっ、ライブラに会いにきたんです。えっと……と、友だち、です…… レオナ: へー、地元の? あ、もしかして道に迷っちゃった的な? レグルス: は、はい……お恥ずかしいのですが…… レオナ: いやいや、アカデミーの建物はとにかく分かりづらいからしょうがないわよ! コレは迷っちゃうって レオナ: 迷いやすい理由は、最初は小ぢんまりしたサロンだったのに、人が増えたからってガンガン増設していった歴史があるからなんだって レグルス: は、はあ…… レオナ: 別にわたしも迷ったことがあるから言ってるわけじゃないからね アイソーポス: ん、レオナじゃないか。見慣れないお客人を連れているな レオナ: ライブラを訪ねてきたんだって。レグルスっていうらしいわ レグルス: こ、こんにちは……え、えっと、あの、ワタシやっぱり帰ります……! レオナ: なんでよっ!? もう、そこの部屋がライブラの研究室だから アイソーポス: まさか私の顔が怖かったのか!? すまない、ちょっと疲れが出ているだけなんだ アイソーポス: ほら見てくれ、涼しげな笑顔だろう レオナ: 涼しげとか自分で言うもんじゃないわよ レグルス: だ、だって……ライブラはきっといまも、ここですごい研究をしてるんですよね。それを、ちょっと会いたいからってワタシが邪魔するなんて…… アイソーポス: ずいぶんライブラを評価してるんだな レグルス: はい! だって本当に天才なんですよ、ライブラは。ワタシの憧れ、なんです……っ! ライブラ: んんぁああぁ……やっば、ねむ……。なんで夜中に急にダンゴムシの効率的な繁殖方法とか気になっちゃったんだろ…… レグルス: え、この声は…… レオナ: す、すとーっぷ!! ライブラ、あんたはわたしと部屋に一旦引っ込むわよ! ライブラ: え、ちょ、なにぃ? レオナ: あんたなんかに憧れてるっていう純粋無垢な子が来てんの! そんな髪ぼさぼさで片乳放り出したような格好で表を歩かないで! アイソーポス: い、いいか。まだ何も見ちゃいけないよ レグルス: え? えっと、あの…… (背景切換...) ライブラ: なーんだ、何事かと思ったらレグルスが来てたんだね。別に平気なのに、この子は何を見ても私のことを天才錬金術師としてしか見てないから パラケルスス: へえ。世界は広いってことをぼくが教えてあげたくなっちゃうな ライブラ: やーめーてー。私のことだけ盲目的に信じてくれるのなんて、レグルスくらいなんだから~! アイソーポス: 聞きようによっては危なく聞こえるな…… レオナ: だからって、あんな姿見たらさすがに幻滅するわよ。ほんと、ライブラって女の子としてのスペックを全部、錬金術に振っちゃってるわよね ライブラ: それは褒め言葉として受け取っておくね。で、アイソーポスが来た理由は、何かしらわかったことがあったってことでいいの? アイソーポス: ああ、そのとおりだ。ライブラさえ構わないなら、この資料をもとに話しておきたい パラケルスス: ははあ、例のグリム家の動きってやつだね。連中がいったい、何をしようとしているのか…… アイソーポス: ひとことで言えば……グリムが何か動いているのは、カーズ島の先端にあるポルタ半島だ。ここに建築計画の写しがある ライブラ: へえ、すごい。よくそんなもの見つけたね。私は学術的な側面からの調査を頼んだつもりだったけど、期待以上の成果だよ レグルス: ………… アイソーポス: カーズ大陸の東端にあるポルタ半島、この北側の海岸沿いに細長い建築物を計画しているようだね。まるで、灯台だ レオナ: まるで? 灯台ではないわけ? パラケルスス: あのグリムが何でわざわざ僻地の灯台なんか作るんだよ アイソーポス: しかも、とんでもない費用がかかっている。おかげで、未だに完成していないんだ ライブラ: あのグリム家をもってしても……普通の灯台なはずないね。でも、いったい何をしてるんだろう アイソーポス: そのヒントが、これだと思っている。こちらはアカデミーの書庫から見つけたものだが パラケルスス: これは……世界各地のイマジュマイト濃度を調査したデータか。さすがはフローレ・アカデミー、こんなものまで保管されているんだな アイソーポス: 少々古い資料ではあるが、ポルタ島に注目してほしい レオナ: 他より数字が高い……? パラケルスス: いや、でも数字だけなら他にも高い場所がいくつもあるぞ アイソーポス: それは調査上の不備なんだ。中間値以上の地点について全部、裏付け調査をしていった。周辺地域で何らか変動が起きる要素があった レオナ: 変動? そんなことあるの? アイソーポス: 例えばこのスティヴァーリ・シティというところは、地元の祭りがあった パラケルスス: おいおい……まさか、そんなローカルな情報をいちいち調べていったっていうのか アイソーポス: 私はどこまで行っても、お前たちのように頭が良いわけではないからな。できることは、地道に積み上げることくらいだ ライブラ: あはは……恐れ入ったよ、アイソーポス。さすが私が見込んだだけはある レグルス: ……! ライブラ: よし、それじゃあ行ってみようよ。アイソーポスが調べてくれた、この謎の土地――ポルタ半島にね 5000147 - 額に汗して カロラ: まあ、一応ガワはできてんだけどな ヴィルヘルミナ: それだけでは意味を成さないわ エミリー: このあたりにたくさん出てるイマジュマイトを集めて、溜め込んじゃおうとしてるんでしょ? 本当にそんなことできるのぉ? ヴィルヘルミナ: ええ、そうよね。エミリーは賢いから、この計画がいかに困難かもよく理解しているのよね ヴィルヘルミナ: けど、イマジュマイトを蓄積させる技術は、不完全だけど一応はできているの。どちらかというと問題は、どう集めるか…… シャルロッテ: 目に見えないものを集めたりできるものなのかしら? フェルディナ: そんなの、研究者にやらせておけばいいじゃない。なんで私までこんなところに…… ジャコヴァ: これは姉妹で見届けるべき計画だ。姉妹でない者は自由に帰っていい フェルディナ: ……っ、べ、別に帰るなんて言ってないのに……っ、くっ…… カロラ: とは言ってもよ、あたしらにはどうしようもないだろ。フェルディナの言うとおりで、あたしらみんな技術研究者じゃないんだし カロラ: それに、資金的にも厳しくなっちゃってるからな ヴィルヘルミナ: そうね。どうするか、考えなくちゃいけないわね フェルディナ: 考えるも何も、成果が出ていない事業は撤退すべきなんじゃないの ジャコヴァ: ……視野が狭い フェルディナ: ……はあ、そうですか ジャコヴァ: 大元を握らなくてはならない ヴィルヘルミナ: ええ。カロラの考えたトレードは画期的だったわ。けど、ワタシたちの手元を通る流通量など、世界全体からみれば知れているものね エミリー: それって、世界からみんなに行き渡る前に堰き止めちゃうってことぉ? シャルロッテ: もし実現できたとして、危険じゃありませんこと? 支配力は増すかもしれませんが、敵も増えてしまいますわ ジャコヴァ: 安心しろ。堰き止めはしない エミリー: そうなのぉ? ジャコヴァ: 堰き止めるとは全て、ということだろう。私たちが狙うのは……横流しだ カロラ: イマジュマイトを見つければ、後は必要なだけ頂けばいいってわけだな ヴィルヘルミナ: ただ、費用はもうほぼ底をついているわ。そこで、この土地調査にかんしては、ワタシたちでやろうっていうわけ エミリー: え~、できるかなぁ? (グリム家の調査は当然、難航した。) (ポルタ島で高いイマジュマイトが観測された、というだけの情報。) (ポイントを探るだけでもままならない。) フェルディナ: ああもう! 足がぱんぱんよ シャルロッテ: ……普段、何もされていないのですから、これくらいは協力されても良いのではなくって? フェルディナ: は……? 甘やかされまくってるあんたに言われたくないわ エミリー: んもう、ふたりとも。ケンカはだめだよぅ。ただでさえ疲れてるのに、余計な体力を使わないの フェルディナ: そういうエミリーも珍しいじゃない。こんな地道な肉体労働、普段なら絶対やらないでしょ エミリー: まあねぇ。でもなんか、今回だけは真面目にやらないとだめかなぁって、そんな気がしちゃって フェルディナ: ……重要なのは私だってわかってるわ。けど、このイマジュマイト測定装置、本当に正確なの? そこらじゅう歩きまわってもちっとも反応しないわ エミリー: そうだよねぇ。みんなで歩いても見つからない……なにか考え方を変えなきゃいけない気がするよねぇ…… ヴィルヘルミナ: ちょっと、アナタたち! 手を貸してちょうだい! エミリー: ヴィル? どうしたのぉ? フェルディナ: まさかイマジュマイトの鉱脈的なものが見つかったとか!? カロラ: おおぉぉい、やべーって、これ! 早くーっ シャルロッテ: カロラ姉さま? 片足が地面に埋もれてますけど…… カロラ: なんかいきなり足元が崩れたんだよ! おまえらも気をつけろよ。気をつけながら、あたしを救出してくれ ジャコヴァ: ……足元…… カロラ: ジャー姉も見てないで手を貸してくれてもよくねーか!? 5000148 - ぼやけていく足跡 ペロー: ふう……こんなところでしょうか (穏やかな小麦畑に温かな陽の光が差し込む。) (輝きに目を細めながら、ペローは針を通した。) 御者: よお、ねえちゃん。さっきからちまちま、何やってんだい。揺れる馬車の中でそんなことしてたら気持ち悪くなっちまうよ ペロー: あはは、お気遣いありがとう。でも大丈夫ですよ、ほんの少し気になったところを手直ししただけだから。ほら、ここ 御者: なんだい、ぬいぐるみ? ペロー: ええ……。気に入ってくれるといいのですが (背景切換...) ブルーバルバ: ああ、ペロー。よく来てくれた。こんな辺境の城にひとりでいると、退屈でどうにかなりそうだと思っていたんだ ペロー: ふふっ、元気そうで良かったです。きっとあなたはそう言うと思ったので、用意をしてきたんですよ ブルーバルバ: 用意? ペロー: ええ、この子です♪ (ペローが差し出したのは、つい先ほども馬車で直していたぬいぐるみだった。) (それは子馬を象ったもので、愛くるしい表情でブルーバルバを見つめる。だが――) ブルーバルバ: ……は? なんだ、これは ペロー: え……ブルーバルバ……? ブルーバルバ: 急にこんな子供扱いをして……わたくしをバカにしているのか? ペロー: えっと……気に入ってもらえなかったかしら。今回は力作のつもりだったんだけど ブルーバルバ: こんなもの! ペロー: あっ!? (ブルーバルバは無造作にぬいぐるみを掴み、怒りに任せて壁に叩きつけた。) ペロー: どうして、こんなこと…… ブルーバルバ: うっ……うぐっ……あ、頭が……!? ペロー: ブルーバルバ!? しっかりしてください、どうしたんです ブルーバルバ: う、ううっ……ペロー……? ブルーバルバ: はっ!? わ、わたくし、なんてことを……! あなたがせっかくくれた可愛い子馬ちゃんを、こんな…‥! ああっ、どうかしていた、すまない…… ペロー: い、いえ……いいんですよ。喜んでいただけたらなら、私は大丈夫ですから ブルーバルバ: ここのところ、時々自分が自分でないような、不思議な感覚になるときがある。言い訳にもならないが、これは本心ではない…… ペロー: ええ、わかっています。安心してください。辛いのなら少し休みますか? ほら、肩を貸しますよ ブルーバルバ: あ、ああ……ありがたい (ソファで横になれば楽になるだろう。) (そんなふうに考えて、肩を貸して移動するペロー。) (その途中、テーブルに出された印璽にふと気づく。) ペロー: 印璽が出しっぱなしですよ。あなたらしくもない ブルーバルバ: え……? わたくしとしたことが、そんな大事なものを出しっぱなしに……この前、使った後にしまわなかったのか……本当にどうかしているな、最近のわたくしは ペロー: ……使ったんですね? ブルーバルバ: ああ。最近、この城までわざわざやってきた連中がいたんだ。もしものために契約をしてはどうかと言ってね ペロー: 契約を……したのですか……? ブルーバルバ: 損はなさそうだったからな。相手は確か…… (背景切換...) レオナ: 行ってみたら何してるかわかるかな? ライブラ: それはなんとも言えません。実際に見たところで、何のヒントも残されていない可能性がありますから アイソーポス: と言いつつ、ライブラならおおよその予測はしているんじゃないか? なに、この4人しかいないんだ。少々突拍子もないことを言い出しても問題ない パラケルスス: 問題って意味では、どうしてぼくまで参加させられてれるのか、それも問題提起しておきたいね レオナ: もー。ぶつぶつうるさいなぁ。仲間はずれにするのもなんだし、一緒に来るってことでパラケルススも納得したんじゃないの? パラケルスス: 誰も納得したなんて言ってないぞ ライブラ: そうね……あくまでも仮説なんだけど…… ライブラ: 彼らは世界のイマジュマイトを横取りしようとしてるんじゃないかな 5000149 - 平行線 カロラ: はぁ、ふぅ、マジかよ……穴ぼこに足がはまって大変だと思ったら、今度はその穴を掘れって…… シャルロッテ: もう~。どろどろになっちゃいますわ。帰ったら絶対シャワーを浴びますのよ フェルディナ: すきに、しなさい、よっ…… エミリー: フェルディナ、だんだん掘り出す1回の量が少なくなってるよぅ。ずるい~ ヴィルヘルミナ: なんですって? エミリーに負担をかけて楽しようなんて、許さないわよ フェルディナ: ちゃん、とっ……やってる、でしょうがっ ジャコヴァ: どうだ ヴィルヘルミナ: ええ、やっぱり掘り進めていくと測定器の反応が強くなってるわ。つまり…… ジャコヴァ: イマジュマイトは地下にある…… ライブラ: そこまでだよ!! ジャコヴァ: む? フェルディナ: あれは、この前の妙な連中…… ライブラ: 止まりなさい、グリム! イマジュマイトを不当に占有しようというその企み、私たちが許しません! レオナ: おおっ、なんか正義の味方みたい アイソーポス: そういうものなのか? パラケルスス: ずいぶん危うい正義だけどねぇ ヴィルヘルミナ: 勝手に乗り込んできて、どういうつもりなのかしら? 厚顔無恥もいいところね カロラ: このあたり一帯、あたしらグリムが土地を買ってんだ。何しようが文句言われる筋合いはねーよ。そっちこそ出てけ! ライブラ: ふん、土地の権利は持っていたとしても、そこから生まれるイマジュマイトまでは権利書に書いていないはずだよ フェルディナ: どうするのよ、カロラ姉さん。面倒なことになってきたわ カロラ: ちっ、しょーがねーな。実力行使といくか。こっちは穴ばっかり掘ってていい加減飽きてたとこだ。穴掘りなんざ、夜だけでごぶどぅるふっ!? カロラ: いってーな! ジャー姉ちゃん、なんでいきなり殴ったんだよ! ジャコヴァ: シャルの前で下ネタはやめろ エミリー: うん、それはエミリーも擁護できないよ、カロラ…… パラケルスス: なんだか緊張感のない連中だけど、どうする? やるなら手伝ってあげてもいいけど アイソーポス: 正直、あまり気乗りしないが……だが、イマジュマイトのこととなれば、簡単には捨て置けないからな カロラ: いい度胸だ! んじゃ、フェル。おまえあたしと一緒に突撃する係な フェルディナ: いやよ、そんな係! ヴィルヘルミナ: どうするの、姉さん。ここで本当に争う? ジャコヴァ: いや、撤退だ カロラ: はあ!? なんで…… ジャコヴァ: なんだ カロラ: あ、いや…… ジャコヴァ: どうせ、ここで粘ったところで大きな成果は得られない。そして、この場所を明け渡したとしても ヴィルヘルミナ: この連中に、どうにかできるわけでもない…… ライブラ: 待ちなさいっ! あなたたちは本当に、イマジュマイトを自分たちだけのものにしようとしてるの!? ジャコヴァ: これは心外だ。ヴィル ヴィルヘルミナ: ワタシたちは管理者になろうとしているだけよ。この世界にとってイマジュマイトは間違いなく最優先されるべきリソースでしょう ヴィルヘルミナ: その供給量をできるだけ波が生じないように安定させる必要があるわ。だから、直接この世界に流れ込むイマジュマイトを確保しようとしているの ライブラ: 方法論は限りなく近い……なのに、この人達とはやっぱり…… レオナ: ん? ライブラ、どした? なんかもごもご言ってるけど ライブラ: あなたたちは結局、自分が契約している相手だけに供給する……。立場の弱い人から搾取するんでしょう!? ヴィルヘルミナ: 搾取とは聞こえが良くないわね。ワタシたちは対価を提供しているだけよ ジャコヴァ: 与えるのみで、受け取るなと……そう言いたいのだろう? ライブラ: そうよ。だって、困ってる人たちから何かを取ろうなんて ジャコヴァ: すべては有限だ。与えてばかりいると……いつか何も残らなくなるぞ ライブラ: それまで助けた人が手を差し伸べてくれるんだよ。ちゃんと、そういうふうに助け合えるはずなんだから ジャコヴァ: ふん……幸せそうで、なによりだ ジャコヴァ: 行くぞ ライブラ: あっ、待って! まだ話は…… ジャコヴァ: 終わりだ。私が終わりと言ったらな レオナ: 行っちゃったね…… パラケルスス: ま、向こうの言わんとすることも理解できるけどね。ライブラだって、錬金術師なんだ。どちらか一方が与え続けるのがアンバランスだってのはわかるだろ? ライブラ: それは短期的に見たときよ。必ず世界はバランスを取るために、自然に調整してくるはずなの。左右の秤が常に同じ重さで、水平に保たれるように…… アイソーポス: それで、どうする。調査していくかい? 大した情報は得られないからこそ、捨て置いて撤退したのだろうが…… ライブラ: 成果は充分にあったわ。グリムが何をしようとしているのか、半分カマかけだったけど、引っかかってくれた アイソーポス: ああ、確かに。一番欲しい情報はもう手に入れたというわけか ライブラ: でも。じっくり調査すれば何かわかるかも…… パラケルスス: ま、せっかく来たんだ。ちょっと腰据えて調べてみるか 5000150 - 紅く染まる空 ジャコヴァ: ふう…… カロラ: 動いて疲れたよな。わかるよ カロラ: でも、あたしも疲れてんだよね ジャコヴァ: そうか。ご苦労。あと、もう少し強く カロラ: だーかーら! なんであたしがジャー姉ちゃんの足をマッサージしてやんなきゃいけねーんだよ! ジャコヴァ: ……? カロラ: いや、きょとんとした顔してんじゃねーよ! なに言われてるか絶対わかってるだろ! あと自分でその顔可愛いとか思ってそうだけど別にかわいってええええぇぇ!? カロラ: ってぇ……スネ蹴りやがった…… ヴィルヘルミナ: 姉さん、ちょっといいかし……もう、何やってるの? いくらワタシたちしかいない宿屋だからって、下だけパンツ1枚って ジャコヴァ: カロラがマッサージするって言って カロラ: あたしが脱がしたみたいに聞こえるだろ! いくらあたしでも姉には手を出さね―っつーの! ヴィルヘルミナ: いいから姉さん、履いて。ちょっと様子がおかしいのよ ジャコヴァ: なんだ。双眼鏡? ヴィルヘルミナ: 向こうの空……見える? ジャコヴァ: ん? 何か赤くなっているな。あれは、火事……とも違うか。確かに妙だ ジャコヴァ: ……なにか、不吉な色だな。あの方向には何があるんだったか……おい、地図 カロラ: はいよ。あっちのほうっていうと、カーズ島の、いま宿屋がここだから…… ジャコヴァ: ……なるほど。カロラ、様子を見てこい。誰か……そうだな、フェルディナを連れて行け カロラ: りょーかい。フェルでいいのか? シャルじゃなくて? ヴィルヘルミナ: そうよ。あんなコンプレックスのカタマリみたいな出来損ない、連れて行ったって役に立つかしら ジャコヴァ: シャルには経験を積ませてやりたいが、もう少し安全そうな場面がいいだろう。エミリーを危険なとこに連れて行くとヴィルがうるさいし ヴィルヘルミナ: 当然よ! 可愛いエミリーは大事にしまっておかなくちゃ カロラ: 消去法ね、りょーかい ジャコヴァ: ……それだけでもない。フェルディナは、ぐちぐち鬱陶しくて目障りで、何も成し遂げられないくせにプライドが高いが…… カロラ: ボロカスじゃねーか ジャコヴァ: 案外、踏ん張りはきくぞ カロラ: 足腰の話? 肉体労働要員ってか。まあいいや、んじゃいってくる ヴィルヘルミナ: ……姉さんは、意外とフェルディナを買ってるのね。ワタシ、だめだわ。いつもワタシの顔色をちらちら伺って、ああいうのイライラするのよね ジャコヴァ: ……嫌いなら、嫌いでいい。そのうち、なんとかなるだろう (背景切換...) アイソーポス: ふう…… レオナ: お、アイソーポス! なにたそがれてんの。あの、変な色の空でも眺めてた? アイソーポス: ああ……なんだろうな、あれは。不思議な色だ レオナ: それよりさ、どう、今回の旅は? 何か得るものあった? アイソーポス: そうだな。旅に出ればいつも何かしら収穫はあるものだ。だから今回も…… アイソーポス: と言いたいところだが、収穫よりも手前にいる、というのが正直なところだな レオナ: ライブラはなんか一生懸命、調査とかしてたけどね アイソーポス: こうして野営してまで、だからな。熱が入っているのは間違いない。彼女の、誰かを救いたいという信念には、頭が下がるよ レオナ: ……けど、本音は? アイソーポス: ん? レオナ: 何か思うところ、あるんでしょ アイソーポス: ……顔に出ていたか? レオナ: あなたとそれなりに付き合ってきてるつもりだけど? アイソーポス: まいったな レオナ: なーんて、嘘よ。顔見てもぜんっぜんわかんない。ただ、アイソーポスならきっとこう考えるかなぁ、って予測してるだけ アイソーポス: そっちのほうが、表情を読み取るよりも高度に思えるんだが レオナ: だってアイソーポスって、本当に穏やかっていうか……争うの、好きじゃないでしょ? アイソーポス: ん……お見通しのようだな。そう、ライブラの信念の強さや慈愛の心は素晴らしいものだ。でも、あまりにも他者に攻撃的すぎる アイソーポス: そしてグリムは……あのジャコヴァは、進んで攻撃はしないようだが、刃を向けられたら容赦はしないだろう レオナ: ん……それ、わかる アイソーポス: このままいけば、いつか両者は争うことになる。それで私は悩んでいるんだ。本当にそれでいいのか、とね アイソーポス: 実は少し、考えていることがある。もしかしたら、レオナにも協力を頼むかもしれない レオナ: へー、もうなんか案があるんだ。いいよ、いいよ。なんでも言って アイソーポス: ありがとう、助かる。簡単に言うと、私はこの世界に…… レオナ: ん? ねえ、こんな夜中なのに馬車がすっ飛んでくるんだけど アイソーポス: ん、あれは……? ミダース: アイソーポスーっ! た、た、大変だぞーっ!! プース: 早くみんな、アカデミーに戻ってきて!! ライブラ: んんぅ……なに、さっき寝たとこなのにぃ…… パラケルスス: ぼくの眠りを妨げるくらいだから、よっぽどなんだろうね? ミダース: そ、それが……獏が……すんごいでかい、獏が、アカデミーに……っ! アイソーポス: 獏、だと? いったい、何故……!? 5000151 - 失ったもの ペロー: 久しぶりですね。元気にしていましたか? ヴェルメリオ: ……うん、久しぶり。中に入って、寒いでしょ (背景切換...) シャペロン: こんな森のはずれまでわざわざ来てくれてありがとうね ペロー: 自分の作品を気にかけるのは当たり前のことですよ ヴェルメリオ: ……作品っていっても、わたしたちはペローが本当に執筆した作品じゃないんでしょ? ペロー: 以前に話したこと、よく覚えていましたね。そのとおりです。私はあなたたちの元の作家から託されたのです シャペロン: けど、それでもこうして来てくれるんだものねぇ。はいよ、スープでもどうだい ペロー: ああ……ホッとする味ですね。シャペロンのスープはこう、身体に染み渡る感じがします ヴェルメリオ: ……わたしも森でベリーを摘んできたから。後でお菓子にするから食べてよ ペロー: それは楽しみですね。しかしヴェルメリオ、森でベリーを摘むなんて、また迷子になったりはしていないのですか? ヴェルメリオ: ……なったけど ペロー: 気をつけないといけませんよ。もちろん、家に閉じこもったままというのも良くないですが、もしあなたに万一のことがあったら私は…… ヴェルメリオ: ……うん、わかってる。ペローは本当にいつも、わたしたちのこと大事にしてくれてるから。だからわたしも、ちゃんと注意するよ ペロー: いい子ですね、ヴェルメリオ ヴェルメリオ: ……ねえ、ペローはお菓子作りとか得意でしょ? いろいろ教えてほしいの。おばあちゃんに食べてもらいたくて シャペロン: おやおや、本音はそれだけじゃないだろう? ペロー: どういうことです? シャペロン: 将来、好きな人ができたときのために準備しておきたいんだってさ ヴェルメリオ: ……ちょ、ちょっと、やめてよおばあちゃん ペロー: ヴェルメリオがそんなことを……ふふっ、いいですよ。それじゃあ、今度ちゃんとレシピを用意してきますからね。一緒にアップルパイを作ってみましょう (背景切換...) (でもそれは、もう過去の話――) (背景切換...) ヴェルメリオ: ……アップルパイだよ。おばあちゃんに教わったの アドルファ: これは……! うん、すごく美味しい……! シャペロン: よかったねぇ、練習したかいがあったね ペロー: ……間違いない (ペローはそっと小屋を離れる。) (既に調べはついていた。) ペロー: グリムの『契約』は拡大している……私の作品だけじゃない、すべての住民たちを相手に無差別に…… ペロー: 私の作品すべてが奪われたわけではないけど、でも……数の問題ではありません。みんな、私の大切な作品たち…… ペロー: 後から契約しただけで私から奪うなんて、そんなことは……! (背景切換...) アゾール: こうして食事会に参加しているだけでも、感謝してほしいくらいですわ キトーネ: まあ、アゾールったら。こんな態度ですけど本当は毎晩あなたのことを想って…… アゾール: お母様!? 根も葉もない噂話はやめてくださいまし! テルツォ: いやいや、本気になんかしちゃいねえからさ。とにかくまずは落ち着いてメシを食おうぜ リル: やれやれ……とんだ食事会だ。貴族が聞いて呆れるな アゾール: なぁんですってぇ!? キトーネ: およしなさいな、アゾール アゾール: だってお母様、こんな従者風情が貴族のわたくしに不敬きわまりない発言を…… テルツォ: お嬢さん、俺に何を言ってもいいが、そいつは勘弁してくれないか。従者風情なんかじゃない。こいつは俺にとって家族なんだよ リル: 殿下…… アゾール: ……少々口が過ぎたことは認めますわ……。け、けどっ テルツォ: ああ。リルも言葉を選ばないとダメだぞ。いつまでも子猫じゃないんだ リル: ……っ、そ、それは……。し、失礼した、アゾール殿…… キトーネ: いいわねぇ、こうしてぶつかって分かり合って家族になっていくのね テルツォ: い、いや、キトーネさんは飛躍しすぎなんじゃ…… ペロー: …… リル: ん……? テルツォ: どうした、リル リル: いや、そこにペローがいた気がしたんだが……気のせいだったか アゾール: あら、ペローが? あの方は本当に頻繁に顔を出して下さるわね。聞くところによると、作家だからといって、あんなに気にかけるものでもないらしいですわ キトーネ: 来ていたらちょうどよかったのだけど。たまたま先日、契約にサインしたので一応、報告しておこうと想って テルツォ: 契約ぅ? なんだそりゃ (背景切換...) ペロー: もう……私の居場所なんてないのでしょうか……? ペロー: どれだけ愛しても、そんなものは最初からなかったかのように消えてしまう。どれほど強力な契約であっても、こんなに簡単に消えるなんて…… ペロー: では、誰が私のことを覚えていてくれるというんです。誰が私を作家だと認めてくれるんですか…… ペロー: 作家として忘れ去られたとき、私自身もどうなるのかわからない‥…… ペロー: いいえ、大好きな作品たちがすべて奪われてなお存在し続けることのほうが辛いのかも知れません。誰も私のもとに残らないのであれば、いっそこのまま消えてしまっても…… ペロー: ただし、奪った相手のことだけは許せませんが……! 5000152 - ペローの悲劇 (――現在――) フアナ: そんな……それじゃあペローはグリム家の契約で作品たちを奪われたまま……!? アイソーポス: グリム家の契約――のちに『エルマイト・トレード』と呼ばれるようになったものだが、当初の拡大路線の際に不用意に作家の枠を踏み越えてしまったケースが多々あった アイソーポス: 当時のペローがどのように作品たちに向き合っていたのかはわからないし、この契約に対してどういった感情を抱いていたのかもわからない アイソーポス: ただ、もし自分がペローの立場だったら……と思うと、とても冷静ではいられないだろうな フアナ: それは……すごくわかるよ。あたしだって、トリルもアンナマリアも、誰ひとり欠かせない大切な存在だもん アイソーポス: ああ。特に自ら生み出したフアナにとっては、まさに『我が子』と呼ぶにふさわしい存在だろうしな フアナ: 自らって……あ、そうか。アイソーポスさんは厳密には…… アイソーポス: 蒐集家だからね。ジャコヴァも、ペローも、その点では私と共通していたが フアナ: グリムは……ジャコヴァは、どうしてそんな乱暴な方針に? アイソーポス: そもそも、契約によって起こり得る事態……つまり、本来の作家と共有していた記憶の一部が改変されるという、事実そのものを認識していなかったんだろう アイソーポス: 彼らの目的は契約数を増やし、影響力を強めることだった。誰かの作品を奪い取ろうとまでは想っていなかったはずだ フアナ: じゃあ事故みたいなもの、ってこと……? アイソーポス: そういう言い方もできるだろうな フアナ: でもさ、作品のみんなはともかく、あたしたち『作家』側は知ってるじゃん。作家がいなければ作品は存在しない、作品があるってことは必ず誰かが作家でしょ!? フアナ: それで契約なんかして、奪っているつもりなんてなかったとか…… アイソーポス: フアナは少し誤解をしているな。作家なくして作品が生まれないのは確かだが、永遠に共存しているとは限らないんだ フアナ: どういうこと……? アイソーポス: いま話したとおり、人間界の知名度に影響されて『失われゆく物語』として獏に食われてしまうケースは話したね。そして、それは作家にも起こると フアナ: 森の大賢者って人の話だよね アイソーポス: 作家が先に食われてしまうこともあり得るんだ。だから私たち蒐集家が力を持ったとも言えるのだが フアナ: 作家が消滅して、作品だけが残る可能性がある……ってこと? アイソーポス: いわゆる『作家不在』状態の住民は想っている以上に多いんだ。その状況を整理したのはグリム家の功績のひとつだと言っていい フアナ: そんな……功績って、だってペローは…… アイソーポス: 慎重に時間をかければ見極められたのだろうとは思う。だが当時、まだ彼女たちも事態の重さを理解しておらず、また契約拡大に躍起だった フアナ: グリム家の功罪はともかくとしてだよ……ペローは今回、インペリウム・コミッティ本部のお膝元であんな騒ぎを起こして、明らかにグリム家に反旗を翻してた フアナ: 原因はそのこと……なんだよね? アイソーポス: ああ、可能性はかなり高いだろう アイソーポス: ただ……ペローは確かに頭がいい。策士な部分というのもあったと思う。だが……グリムに復讐するためにすべて彼女ひとりで準備していたのかというと…… フアナ: ペローはひとりじゃない、誰か味方がいるかもしれないってこと? アイソーポス: ……あくまでもこれも、可能性の話だがね 5000153 - アカデミーの異変 アイソーポス: アカデミーまで、あとどれくらいだ? プース: めっちゃ急いでるけど、まだあと1時間くらいはかかるかな……! レオナ: それにしてもアカデミーに獏なんて……どういう状況なのかしら? パラケルスス: 普通に考えれば、アカデミー生の誰かが『消えゆく物語』に該当する、ということなのだろうが…… ライブラ: そんなの絶対だめよ! 早くなんとかしないと……! レオナ: 本当はもうちょっとポルタ半島で調査したいところだったんじゃないの? ライブラ: 当然、気持ちはそうだけど……でも、見過ごせないじゃない。だってアカデミーで獏が出たなんて パラケルスス: 当然の判断じゃないかな。グリムがポルタ半島でイマジュマイトについて何かしている、それは間違いない。でも、数日で事態が動くものでもないだろう レオナ: でもさあ、ただの獏じゃなくて、見たことないくらい変な獏だっていうんでしょ? そんなの普通にあるのかな? ミダース: な、なんだっ? わらわたちが嘘ついてるとか、テキトーなこと言ってるとか、そういうことか!? レオナ: い、いや、そんな悪く言うつもりはないけど、勘違いとか目の錯覚みたいなことだってありえるわよね? アイソーポス: それはない。このふたりは私と何度も獏と遭遇し戦ってきた。そのふたりが言うんだ、普通じゃないのは確かだ プース: アイソーポスさん…… パラケルスス: 信頼関係、というやつだね。なかなか美しいじゃないか ライブラ: そもそも、獏って今までそこまで大きな個体差はなかったのよね? アイソーポス: ああ、目視で確認する限り、どの個体もほぼ同じような大きさだった。だが、プースとミダースによれば、そうではないらしいからな プース: だってアカデミーの建物とかも壊しちゃってるんだよ! 普段の獏のサイズだったら、そんなこと絶対できないでしょ! ミダース: あれは獏に似た何か別の化け物なのかもしれないぞ…… パラケルスス: それが事実なら、アカデミーはひとたまりもないだろう。あそこは学問の場だ。そんな脅威に対抗するような武器など、何も備えていないからね レオナ: 私の作品が有効活用できれば一番良かったんだけど……使い方のレクチャーもしてないのに、活用できるわけないわよね アイソーポス: とにかく、アカデミーのみんなが無事でいてくれることを、今は祈るしかないな……! (背景切換...) アイソーポス: これは……確かに外壁や建物の一部が損傷している……! フルダ: ああっ、みんな! よかった、戻ってきたのね レグルス: ライブラ……! すごく怖かったんです、見たこともない魔物が大暴れして、それて ライブラ: 被害状況は? フルダ: 建物はひどいことになってるけど、人はみんな軽傷よ。直接攻撃されたりもなくて、崩れた瓦礫が当たったりとか アイソーポス: 人を狙わなかった……? レグルス: それに、みんなでシェルターに隠れてやり過ごしたんです。ワタシも部外者でしたが、入れてもらえました レグルス: それよりライブラっ、ワタシ……っ ライブラ: うん、わかったから、レグルス。落ち着いて パラケルスス: しかし、妙だね。誰かを狙っていたのかと思ったんだが アイソーポス: もしかするとシェルターに隠れたのが功を奏したのかもしれないな レオナ: 隠れちゃったから標的を探せなくなった、ってこと? ライブラ: そんなことあるのかな? フルダ: ああ、でも……確かに獏は、何かを探してたみたいだったわ パラケルスス: 何かを、か……。普通の獏なら『失われゆく物語』を探していたに違いないんだが レオナ: まあ、いなくなったのなら一安心、ってところかしら フルダ: いいえ……またいつ戻ってくるかわからないわ。さっきは研究者ばかりだったから隠れるしかなかったけど フルダ: みんなが戻ってきてくれた今は、十分に戦えると思うの パラケルスス: 戦う? 獏とかい? フルダ: それこそアイソーポスなんて歴戦の猛者でしょう? いつ来るかわからないのを怯えて待つより、打って出たほうがいいんじゃないかしら アイソーポス: うん……私が歴戦の猛者かどうかは別として、受け身になるのはあまり得策ではないな ライブラ: そうだね。普通なら、獏の目的や特性から考えると、いまはいなくてもまた現れる可能性は高いからね パラケルスス: 獏を倒すよりも、まず誰が『失われゆく物語』なのかを特定したほうがいいんじゃないか? そいつにアイソーポスがイマジュマイトを渡せば解決だろう? アイソーポス: もちろん、それも手段のひとつだ。ただ、いずれにしても獏を表に引っ張り出さないといけないだろう? パラケルスス: 戦う以外の選択肢はないっていうのかい? やれやれ、好戦的な連中だな…… ライブラ: それじゃあ手分けして、近くを捜索してみようか。まだ姿を消してからそれほど時間は経っていないのよね? フルダ: うん。ほんの30分くらいじゃないかしら。近くにはいるはずよ! 5000154 - 「獏」が狙うもの アイソーポス: 静かだな…… レオナ: 獏の気配はないってこと? アイソーポス: それに魔物もな フルダ: どこに行っちゃったんだろう……もう諦めたとか? プース: いやー、あいつの執念深さは相当だよ。まあ、あたしが飽きっぽくて執着しないタイプだから、余計にそう見えちゃうのもあるけど アイソーポス: いや、プースの言うとおりだ。あいつらは必ず仕留めようとする。それで言うと気になるのは標的の存在だ ミダース: 『失われゆく物語』に該当しそうなヤツがいないってことか? アイソーポス: この私が何も感じられない。それに、普通は人と疎遠になっていくものなんだが レオナ: アカデミーに入ってる時点で疎遠ではないもんねぇ フルダ: 獏じゃない、って可能性は? ミダース: いいや、あれはサイズこそデカかったが、獏で間違いない フルダ: そっか……。ねえ、アイソーポスは大丈夫なの? ポルタ半島から戻ってきて、そのまま捜索してるけど…… レオナ: ん、そろそろ休んどく? アイソーポス: もう少し付き合ってもらえないか レオナ: え……私はいいけど アイソーポス: せっかくアカデミーに入って研究を重ねてきたんだ。ここでみすみす取り逃したくはない レオナ: あ、そっか。アイソーポスは『失われゆく物語』を解決するためにアカデミーに入ったんだもんね…… プース: アイソーポスさんの入学試験かぁ……もう何ヶ月も経っちゃって、なんだかすごく昔のことみたいに感じる アイソーポス: そうだな。思えばずいぶん、私の人生も変わったような気がする。レオナとフルダには、本当に感謝しているよ フルダ: え、別に何もしてないのに レオナ: そうそう。私たちはただアカデミーに自分が入ろうとしてただけで アイソーポス: お前たちはそうなんだろうが、私にとっては大きなきっかけだったんだ。変えたい、このままじゃいけない、そう思っていてもあと一歩を踏み出せなかった私にとってはね アイソーポス: 本当にありがとう。出会えて良かった レオナ: や、やめなって~。そういうの死亡フラグっていうんだよ!? アイソーポス: はは、最後の言葉にならないよう気をつけるよ (捜索隊はいくつか編成されていた。) (別班となったライブラ、そしてパラケルススは――) パラケルスス: どうだい、見つかったかい アカデミー生1: いや、全然だなぁ レグルス: どっちに逃げたのか見当もつかないんでしょう? パラケルスス: まあねぇ。森の中に入ったのは確からしいんだが ライブラ: ……普通のものよりも巨大化しているんだったよね レグルス: そ、そう聞きました! パラケルスス: 通常の生物ならサイズは個体差があるし、突然変異で大きめのものがいても何らおかしくないんだが ライブラ: 私の研究では、獏もまたイマジュマイトをエネルギー源にしている可能性がある。巨大化するということは、これが強くなっていると考えるべきなのかしら パラケルスス: だとして、何が要因で? ライブラ: そこが問題なんだよね……。もし質の悪いイマジュマイトが流れ込んでいたら、獏にどんな影響が出るか…… (ひとしきり森を見て回ったがめぼしい成果は得られなかった。) (プースやミダースたちにも疲労が見える。) アイソーポス: 頃合いだな……。仕方ない、そろそろアカデミーに戻るか レオナ: 本当? もうちょっと手分けしたりする? 4人いるからちょうど2人ずつで組めるよ アイソーポス: いや、さすがにみんなも疲れ…… アイソーポス: え? レオナ、いま何て言ったんだ。4人だって? 私たちは“5人いるんだぞ”? ミダース: なに言ってるんだ、4人だっただろ アイソーポス: ――っ!? まさか……おい、フルダは、彼女はどこだ!? 魔法使いがいたはずだろう! プース: え? えっと、あれ、なんだっけその人…… レオナ: フルダ!? そうだ、フルダがいない! いつから!? レオナ: アイソーポス! ま、まさかフルダが『失われゆく物語』なの!? アイソーポス: おそらくは……! 急いで探すぞ、まだそれほど離れてはいないはずだ! (一斉に周辺を探ると、彼女は案外と早く見つかった。) アイソーポス: フルダ! フルダ: え? あ、ごめん。ちょっとお花摘みに……プースには伝えたはずだけど レオナ: なんだ……。いやでも、記憶から消えかかってた。フルダが危ないことには変わりな…… (不思議そうに首をかしげるフルダ。) (その背後に巨大な影が現れる。) (フルダの身長を軽々と越すその体躯は、) (明らかに“通常”とは異なっていた。) アイソーポス: 獏……っ!? フルダっ、離れるんだ! フルダ: え? (次の瞬間、獏が大きく口を開いたかと思うと――) (ごりゅっ。) アイソーポス: あ…… (誰もが硬直した。) ミダース: そ、そんな…… (獏が口元を動かす。) (そのたび、赤黒い液体が草むらを濡らし、) (硬いものが軋み、割れるような音が響く。) (そして、獏の口元からぶら下がるフルダの身体が、) (ゆらゆらと揺れ動いた。) アイソーポス: うああああああぁぁぁぁあああああぁぁぁっ!! 5000155 - 変異型 (アイソーポスは剣を手に動き出していた。) (もはやフルダが助かるとは思えなかった。) (ただ、理屈ではなかった。) アイソーポス: このっ……化け物め!! フルダを、私の友を、離せぇええぇっ!! レオナ: アイソーポス! くっ……ふたりは援護を! 私もアイソーポスと一緒に前に出る! プース: わ、わかった! ミダース: う、あう…… プース: ミダース、しゃんとして! ミダース: だって……あ、あんなっ、あんなこと……『獏』が『喰う』とき、あんなふうにはしないじゃないか…… レオナ: ……ふたりは『獏』が『喰う』ところを見たことがあるのね。あれは、普通じゃない? ミダース: だって……『喰う』ってのは比喩なんだぞ。残る僅かなイマジュマイトを吸い取っていくんだから プース: 相手は少しずつ姿が薄くなって、そして消えてしまうの。とても穏やかな顔で―― ミダース: けど、今のこれは……っ、本当に“喰って”たじゃないか……っ!? 咀嚼して、飲み込んで……人の、身体をっ……! レオナ: 変異型……? いったい、なぜ…… (一方、アイソーポスの叫びは、) (周囲の別班にも届いていた。) ライブラ: はぁっ、はぁっ、こっちから聞こえたよね……!? 早く、行かなくちゃ……たぶん、あの声、アイソーポスよ……っ レグルス: ええ、たぶん……! 悲鳴のようでした! パラケルスス: ぜえ、はぁ、げほっ……! も、もう少しゆっくり……! ライブラ: そんな悠長なこと言ってられないよ。アイソーポスの……私の友だちのピンチなんだから……っ レグルス: ……! とも、だち……あの パラケルスス: それはわかっているが、ぜぇ、はぁ、肺が痛くて、もうっ…… ライブラ: あっ……!? いたっ、アイソーポスたちだよ! パラケルスス: なんだ……? あれは、小型の獏? 大量発生しているじゃないか ライブラ: ちょっと! 何が起きてるの……? レオナ: ライブラ! 来てくれたのね。あのでっかい変異型の獏が……『消えゆく物語』を飲み込んでしまったの。その後、小型の獏が次々に現れて…… アイソーポス: うああああっ!! やああっ、ああああぁぁっ!! レグルス: アイソーポスの攻撃があまり通っていないような……? ライブラ: いつものアイソーポスらしくないわ。あんな力任せに攻撃したってうまくいきっこない レオナ: 感情的になってしまってるのよ。あの変異型の頭部からぶら下がってるの、見えるでしょう。あれ、フルダなのよ……! パラケルスス: おおっと……こいつはずいぶん残虐なショーだね。ところで、フルダっていうのは誰だい? ライブラ: 不幸な『消えゆく物語』の名前でしょう? あんなふうに身体を弄ばれるなんて、許せない…… レグルス: ええ、どこのどなたかは存じ上げませんが、あんなことは許されません レオナ: ……そうか、みんなもうフルダのことを…… レオナ: ううん、今はそのことはいいわ。とにかくアイソーポスがあのままだと危ないから、みんなで援護するわよ パラケルスス: まずは周りにわいている、通常の獏を倒さないと近づくこともできないな レオナ: 気をつけて。アイソーポスが苦戦しているのは、冷静さを失っていることも一因だけど……そもそもこいつらのイマジュマイト、かなり多いわ ライブラ: 普通に強敵ってわけね。いいわ、やってやろうじゃない! レグルス、サポートして レグルス: はいっ! (突如、出現した獏の軍勢。) (アイソーポスたちは必死に応戦する。) (だが、強行軍でアカデミーに戻り、) (その後の探索までしていた彼女たちには疲れが見えた。) (数で上回る相手に、徐々に押し込まれていく。) パラケルスス: ちっ……これはなかなかまずい展開じゃないか…… レオナ: もともとアカデミー生で戦える人なんて限られるのに、その私たちが思うように動けなくなってきちゃうと…… レグルス: ライブラ、危ないっ!! ライブラ: ――っ!? まさか、攻撃でイマジュマイトを持っていかれてるっ……!? (獏の攻撃がかするたびに、) (彼女たちのイマジュマイトが減少していた。) (戦局を覆すには、あまりにもリソースが足りない。) アイソーポス: このままだと……ジリ貧になるか…… アイソーポス: 獏の狙いはフルダ、おそらくもう目的は達しているはず。このまま撤退しても、被害が拡大することはないかもしれない。ならば、ここは退くべき…… アイソーポス: だがっ……! 友の仇を前にしてっ、私には逃げることなど……っ! (アイソーポスの頬を、一筋の雫が伝う。) (その瞬間。) アイソーポス: ――っ!! (上空から飛来した魔法弾が着弾し、周囲を凄まじい爆風に巻き込む。) レオナ: えっ、いまの魔法攻撃、何っ、誰!? (全員の視線が上空に向く。) (そこには――) ジャコヴァ: ふん、つまらない戦いをしているな ヴィルヘルミナ: 姉さん、なかなか厄介な相手みたいよ (魔力で宙に浮く、グリム姉妹6人の姿。) アイソーポス: ジャコヴァ……!? ジャコヴァ: さて……フローレ・アカデミーの諸君。ここで会ったのも何かの縁だ。私の実力を見せてやろうじゃないか ジャコヴァ: 楽しいショーの始まりだ 5000156 - 友との別れ アイソーポス: ジャコヴァ……!? どうしてアカデミーにいるんだ ジャコヴァ: 何やら賑やかだったので顔を出しただけだ。しかし……ずいぶん派手に遊んでいるな。これがアカデミー流というわけか アイソーポス: 悪いが……軽口を叩く気分じゃない ジャコヴァ: そうだな。この戦況ではな……わかった ヴィルヘルミナ: 姉さん? 何をするつもり? ジャコヴァ: 面識のない者も多い。この場で私の力を見せつけてやろう。私な親切だからな ヴィルヘルミナ: 姉さん、まさかあれを……!? ジャコヴァ: 解鎖断呪<アンチェインド>――! ジャコヴァ: ふん…… パラケルスス: 見た目が変わった……? この一瞬で、一体どういう理屈で……? ジャコヴァ: さて、お前たちの1分は、私にとっての1秒だと証明してやろう レオナ: うぉわっ!? (ジャコヴァが手にしたペンを一振りすれば、) (数体の獏が一瞬にして光の粒となり消滅した。) ジャコヴァ: 少しは愉しませてもらえると思ったが……大したことはなさそうだ、な……っ! (続いてジャコヴァが手を叩くと、無数の魔法弾が出現する。) (そして間髪入れずに獏の群れ目掛けて飛んでいく。) レオナ: うわっ!? す、すごい威力なんだけど パラケルスス: これがグリム家筆頭、ジャコヴァ・グリムの実力ってわけかい (彼女たちを取り囲んでいた獏の群れは、) (ジャコヴァの連続攻撃によって一気に数を減らす。) ヴィルヘルミナ: 今日の姉さんはちょっと本気出しちゃってるからね ジャコヴァ: ふん。たまには身体を動かさないとなまってしまうからな アイソーポス: ジャコヴァ……すまない、助かる ジャコヴァ: それで? いつも穏やかで冷静なお前が、らしくないじゃないか アイソーポス: ジャコヴァ…… ジャコヴァ: なんだ、泣いてるのか。みっともない アイソーポス: え……あ、いや、自分で拭くからっ…… ジャコヴァ: 拭いてやったのに、嫌がるとは失礼なやつだな アイソーポス: 指で乱暴に擦ったら痛いだろうっ…… ジャコヴァ: 拭いてやったんだから聞かせろ。何がお前をそこまで感情的にさせた アイソーポス: ……あの大型の獏は、私の友を“喰った”んだ ジャコヴァ: ああ、あのぶら下がっている身体か。あれはもう、助からないぞ アイソーポス: わかってる! ジャコヴァ: ………… (背景切換...) ???: なるほど。消滅の危機…… ???: その相談をホメーロスが受けたと ホメーロス: は、はいっ。そうなんです。イマジュマイトで苦労した作家ということで、わたしの経験が活かせると思ったのかと…… ホメーロス: ただ、わたしよりダンテさんのほうが、その…… ???: 経験豊富、ってこと? ホメーロス: は、はいっ。ダンテさんはこのフローレ・アカデミーの理事をしてらっしゃるくらいですから ダンテ: 理事の職は、知識量に比例しない。が……協力はしよう ホメーロス: 本当ですかっ ダンテ: ノストラダムスはこの状況をどう見る ノストラダムス: 普通に考えると『消えゆく物語』に似た状況だけど……作家となると、救う手立てがいまんところあんまりないよね ホメーロス: そんな…… ノストラダムス: でもなんか方法はあるかもしれないし。調べてみよっか ダンテ: そうだな。ラヴクラフトも手伝え ラヴクラフト: やった、ダンテさんとお出かけだねっ (会話を遮るようにして、轟音が窓ガラスを震わせる。) (室内にいた4人がハッと外を見ると、煌々と炎が燃え盛っていた。) ラヴクラフト: なにあれ…… ダンテ: あれはアイソーポス? ノストラダムス: あ、テオじゃん。ウンコ頭のテオ ホメーロス: ほええっ!? そ、それって誰のこと……っていうか、どういうことなんですか? 特殊な髪型とか? ダンテ: 深く考えなくていい ノストラダムス: なんか派手なことやってんね。中心にいるのって、あれ…… ダンテ: ああ。グリムだな (背景切換...) ジャコヴァ: ……もう、お前の友人はいない。苦しませず、辱めることなく終わらせたいのなら……私が手伝ってやる アイソーポス: どうしてなんだ……。何故フルダはこんなことに、ならなくてはいけなかったんだ……! ジャコヴァ: 理不尽だと思うか アイソーポス: 決まってるだろう ジャコヴァ: そうだな。だから世界を知らなくてはいけない。だが、怒りに飲まれるな アイソーポス: ……怒りに……? レオナ: アイソーポス! 獏がまた動き出した! ジャコヴァ: 時間切れだ。今のお前に剣は握れまい アイソーポス: ……くっ、ううっ……頼む……! フルダを、眠らせてやってくれ……! ジャコヴァ: 承知した ジャコヴァ: すべての想念よ、我が前から散れ……ダムナート・レイ 5000157 - 世界のこの後 (翌日――) アイソーポス: ………… レオナ: なーにシケた顔してんの。そんな顔してるの見たら、フルダに怒られちゃうわよ アイソーポス: ん……そうだな。私はこうして世界に存在し続けているのだから、彼女の分まで謳歌するのが責務……とは分かっているんだが レオナ: ま、すぐには切り替えられないってのはわかるけどね。私だって……こんなの、空元気だから アイソーポス: 私よりもレオナのほうが辛いだろう。少なくとも付き合いは長かった レオナ: そうね……。それに、旅に誘ったのも私。何が原因なのかはわからないけど…… ライブラ: ああ、ここにいたのね。ふたりとも、大丈夫? レオナ: ええ、なんとかね ライブラ: 消えてしまったあの子と一番近かったのは、あなたたちだったでしょう? アカデミーのみんなも心配してたわ ライブラ: 絶対に傷ついているはずなのに、瓦礫の撤去作業なんかも率先してやっていたと効いたけど。あまり無理しないのよ アイソーポス: 身体を動かしていたほうが気が紛れるんだ。もともと私は、机に向かって勉強するより、力仕事を得意としていたタイプだからね アイソーポス: ただ……そんな作業も、もう終わってしまったからな。別の気の紛らわし方をするべきだろうか ライブラ: その心配は要らないわよ、きっと。『消えゆく物語』の対象を記憶し続けるのは困難だから。……もっとも、そっちのほうが心は痛いけどね レオナ: 大切な友達なのに……忘れちゃうなんてね ライブラ: でもこれで世界は変わっていくかもしれないわ。なにせ、この世界の知性の中心、フローレ・アカデミーで起きた事件だもの。みんな研究対象にするに決まってる ライブラ: 世界中の優秀な頭脳が、この世界のあり方を考え直すのよ。きっと、今とは違う世界に書き換えることができるはず アイソーポス: ……うん。そうかもしれないな ライブラ: あ、もちろん私だって負けてられないからね。さっそく研究に取り掛かるわ。もともと扱っていたテーマでもあるし レオナ: もう、研究を始めるの? ライブラ: 結局、いまは世界の形すらつかめていない。そんな中で、グリム家のようなイマジュマイトを悪用して世界を牛耳ろうとする勢力まで現れた…… ライブラ: ここで止めなかったら、本当に世界がグリムのものになってしまうわ。そうなる前に、一刻も早く阻止しなくちゃ レオナ: ライブラ…… ライブラ: この前、アカデミーに来たレグルスって子がいるでしょ。実は、他にも私の意見に賛同してくれる人が集まっていて、今度集まろうって話をしてるの ライブラ: ふたりも、ぜひ来て。今月最後の土曜日、夜の7時よ。場所はアカデミー近くの『サブマリン』ってお店 アイソーポス: ……お誘い、ありがとう。もし予定がつくようなら、行こうと思う ライブラ: ええ、ぜひ。きっとこれから世界は大きく変わっていくわよ……! じゃあ、私は研究もあるからこれで。元気、出してね アイソーポス: ああ、ライブラも無理しすぎないように レオナ: …… アイソーポス: …… レオナ: …………ライブラは、一生懸命なんだよね アイソーポス: ああ、そうだ。弱いものたちのために懸命に、身を粉にして貢献しようとしている。それだけなんだ レオナ: うん…… (背景切換...) ヴィルヘルミナ: 例のフローレ・アカデミーでの獏発生事件後、妙な連中の動きが活発みたいね……。姉さんは放っておけ、なんていうけど……何かあってからじゃ遅いわ 執事: あの、ヴィルヘルミナ様。ジャコヴァ様にご来客なのですが……お約束されていないそうでして ヴィルヘルミナ: 姉さんに客? 誰よ 執事: 作家で、ペロー様と仰っしゃっています。緊急の用件だとかで…… ヴィルヘルミナ: 姉さんはお昼寝中よ。邪魔したらどうなるか、あなたも知ってるでしょう? 事前のアポもないっていうのに…… ヴィルヘルミナ: いいわ。ワタシが話を聞く (背景切換...) ペロー: ……! あなたが、ジャコヴァ・グリムですか ヴィルヘルミナ: ジャコヴァは外しているわ。代わりにワタシが話を聞くわね。ヴィルヘルミナよ ペロー: ジャコヴァは不在、ですか…… ヴィルヘルミナ: ……! ヴィルヘルミナ: このワタシを前に、よくもそんな言い方ができるわね。名門グリム家のナンバー2よ……? 実務はワタシが仕切っているっていうのに ペロー: 用件はひとつだけです。あなたたちグリムが交わした契約を破棄してください ヴィルヘルミナ: なんですって? ヴィルヘルミナ: ……まさか例の妙な連中かしら。ライブラが声をかけて回っているという話だけど…… ペロー: 私の大事な作品を、返してください ヴィルヘルミナ: ……それはできない相談ね 5000158 - 交渉結果 ペロー: どうして……! そ、そもそも、どうしてあなた方は私の作品と契約などしたのですか。この私がイマジュマイトの管理を怠るとでも!? ヴィルヘルミナ: ワタシたちの契約対象は『消えゆく物語』か、それに準じる者よ。そのときに、誰の作品かまではチェックしないわ ペロー: ありえない……! 私の作品たちが『消えゆく物語』になるはずはありません ヴィルヘルミナ: まず、誰のことを言っているのかわからないのよ。作品リストでも見せてもらえるかしら ペロー: これです。すべてグリムと契約済みだと確認しています ヴィルヘルミナ: ……ふうん。確かにこれは消えそうにないわ。何かの手違いかしら……。けど、いま前例を作ってしまったら、契約解除ドミノが起きるかもしれないわね ヴィルヘルミナ: 彼女の主張は妥当。でも、ライブラに付け入る隙を与えたくはないし、そもそもこの契約は解除を前提としていない…… ヴィルヘルミナ: きちんと解除できる保証もないわ。だったら……それ以外の方法で交渉するしかないわね ペロー: わかっていただけましたか。あなたたちの契約を否定はしません。しかし、する必要のない者にまで対象を広げてしまっている ヴィルヘルミナ: ええ、よくわかったわ。では、これらについては共同管理としましょう ペロー: ……なんですって? ヴィルヘルミナ: こちらとしても一旦、契約を結んでしまったのよ。理由なく破棄はできないわ ペロー: 理由って……『消えゆく物語』じゃなかったんですよ ヴィルヘルミナ: それは契約を行う、ワタシたちの理念にすぎない。契約上の違反条項ではないわ。ああ、誤解しないで。共同管理と言っても折半するつもりじゃないの ヴィルヘルミナ: もとより作品が持つイマジュマイトは、一連の契約における目的ではない……。頭数を揃えることが何より優先…… ヴィルヘルミナ: 作品から流入するイマジュマイトはすべてそちらに渡すわ。ワタシたちは契約が続行できさえすればいい ペロー: そんな、私が求めているのはイマジュマイトだとか、そんな目先の利益なんかじゃなくて……! (コンコン) 執事: 失礼します。あの、ヴィルヘルミナ様。ジャコヴァ様が…… ヴィルヘルミナ: もう起きたの……!? まずいわね、ええと…… ペロー: 私は、作品を返してもらえればそれで ヴィルヘルミナ: 悪いわね、もう時間がないの。とにかくイマジュマイトはすべて渡すから ペロー: 待って下さい、話はまだ ヴィルヘルミナ: ああ……後日また話しましょう。今日はもうこれで (背景切換...) ペロー: なんだったんですか、あれは……。誤解や手違いがあるかもしれないと思って、できるだけ低姿勢でいようと心がけていましたが…… ペロー: 罪悪感どころか、こちらをまるでタカりのような……。あれがグリム家…… ペロー: 権力を握った者とは、かくも醜いものなのですね……! このままでは済ませませんよ……! (背景切換...) アイソーポス: …… アイソーポス: いまだに考えてしまう。私にできることは他になかったのだろうか。もっと早く気づいて動けていれば違ったのではないか アイソーポス: 『消えゆく物語』を救いたいと活動してきた私に、アカデミーへ入るキッカケをくれた友人がこんなことになるとは、皮肉なものだな…… パラケルスス: ここにいたか、アイソーポス。どうせまた自分を責めてるんだろう? アイソーポス: パラケルスス……。わかっている、これ以上考えたところで何も生まれやしない。それでも頭から離れないんだ パラケルスス: なら、何か動いたほうがいい アイソーポス: 第2のフルダを生まないために、か…… パラケルスス: 高尚な目的なんて意識しなくてもいい。余計なことを考えるのなら身体を動かして忘れる、それだけのことだ アイソーポス: 私は忘れたくないんだ! なのにフルダの面影は日に日に…… パラケルスス: だから動けって言ってるんだ。その子を記憶し続けることはできない。それは世界の理だからね パラケルスス: でも、犠牲者を出さないために行動すれば、それは彼女が存在した証にほかならない アイソーポス: ……そうだな ラヴクラフト: あっ、アイソーポスさん! それにパラケルススさんも! ホメーロス: うわあ……アカデミーの皆さんにお会いできるなんて パラケルスス: ん? きみは確かダンテが可愛がっていた…… ラヴクラフト: ラヴクラフトだよっ。会えてうれしいなぁ。ふたりとも、最近アカデミーの注目株だもんねっ、らびゅー♪ アイソーポス: ど、どうも…… ラヴクラフト: えへへっ、なんだかすっごい研究してるんだよね。ダンテさんも気になるって言ってた! どんなの、どんなの? アイソーポス: 研究と言うか、『消えゆく物語』について救うための手がかりを探していて、書物を読み漁ったりあちこちに旅に出たり…… ホメーロス: ほえぇっ、そんな活動をされているんですか? ぜ、ぜひ完成したら聞かせてくださいっ。わ、わたしの知り合いもそれで困っていますので…… ラヴクラフト: テケリ・リ……テケリ・リ……。気になるねぇ……♪ アイソーポス: あ、ああ……もちろん…… ノストラダムス: あ、こんなとこにいた。ふたりとも、ダンテが呼んでるよ ラヴクラフト: はーいっ♪ パラケルスス: 出たな、クソミシェル。ぼくの目が腐るから早く視界から消えてくれ ノストラダムス: 酒臭いと思ったらアホのテオじゃん。アル中がアカデミーをうろうろしないでよね パラケルスス: その名前で呼ぶなと言ってるだろ…… アイソーポス: ま、まあまあ、ふたりとも落ち着いて ラヴクラフト: ダンテさん、呼んでるんでしょー? いこっ ホメーロス: あ、あの、すみません、これで失礼します パラケルスス: くっそ、今度会ったらただじゃおかないぞ アイソーポス: やれやれ…… パラケルスス: ただ、これでわかっただろ、アイソーポス。彼女たちも言っていた。困っている人はまだ世界にたくさんいる アイソーポス: 世界……。うん、そうだな…… アイソーポス: そうだ、世界のどこにでもこういった問題はある。私ひとりが活動しているだけでは、とても追いつかない…… アイソーポス: これ以上の犠牲者を出さないとするならば、私が取るべき行動は…… 5000159 - アイソーポスの決意 ライブラ: 私たちは、彼女の犠牲を忘れてはいけないのです! ライブラ: 世界の仕組みを変える、それは容易なことではありません! ですが、まずは身近な改善から進めるだけでも救われる存在がある! ライブラ: 例えばグリム家のような『持てる者』から、『持たざる者』への分配――誰もが平等にイマジュマイトを使えば、当座の犠牲は防げるのです アイソーポス: …… レオナ: 街頭演説ねぇ。あれはもう、研究者としての活動ではないかなぁ アイソーポス: なあ、レオナ。悪いがつきあってもらえないだろうか レオナ: んー? 今更、改まっちゃって水臭いわね。どこだってつきあうわよ (背景切換...) ジャコヴァ: ふわぁ……んむぅ……。こう見えても私は忙しいんだ。次から、来るときはアポをとれ レオナ: なんか眠そうだし、めっちゃ暇そうに見えるけど…… ヴィルヘルミナ: アナタたち、姉さんの昼寝を邪魔して無事でいるなんて奇跡よ? ジャコヴァ: それで? 何の用件だ アイソーポス: 聞きたいことがあった。お前たちの目的はいったい何だ。何を最終目標にしている ヴィルヘルミナ: 当然、我がグリム家の繁栄よ。契約を拡大し影響力を強め、そしてやがて世界の仕組みも掌握し変えていく―― ジャコヴァ: うんうん アイソーポス: お前たちが目標を達成すれば、『消えゆく物語』も救ってくれるか ジャコヴァ: 結果的にな ヴィルヘルミナ: むざむざ消えるのを待つよりも、手を差し伸べて傘下に収めたほうがプラスになるわ アイソーポス: ……何故そうまでして契約を広げ、影響力を重視する? ジャコヴァ: 私は偉いから、偉そうにしたい レオナ: 子供か ジャコヴァ: それに、全体利益にもなる ヴィルヘルミナ: ワタシたちは、この世界に流入するイマジュマイトは一定ではないと考えているわ。では変動する要素は何か。それは個人の分配法則にあるの アイソーポス: 人間界における、その存在の知名度に比例する――という研究論文を読んだことがある。だがあれは分配法則であって総量のことでは…… ヴィルヘルミナ: 総量にも影響する、とワタシたちは考えているわ。だから、ワタシたちが強い存在でいることで、全体量の押し上げに貢献できているはず ジャコヴァ: うんうん レオナ: 強い存在がいたほうが有利、ってことね。でも、もしその知名度で配分が決まるっていうのが本当なら、筋は通るかもしれないわ レオナ: 総量が一定なら、知名度に応じて分配されている可能性が高いと思うけど、一定じゃないというのなら積み上げ方式なんだと思う ヴィルヘルミナ: そう。個々人の知名度によって物量が決定したイマジュマイト、その積み上げが世界に流入するのだとすれば、強い存在が世界を牽引できるはず ジャコヴァ: 平等とは、不公平だ ジャコヴァ: そして不公平は、歪みを生む。歪みは成長を阻害する。待ち受ける未来は決して明るくない アイソーポス: そうか……。話を聞けて助かった。これで私も心を決めることができたよ ジャコヴァ: ほう? レオナ: アイソーポス? 何をするつもり? アイソーポス: お前たちに足りないものは、3つある。力と、権威と、公平感だ ヴィルヘルミナ: なんですって!? 言うに事欠いて、アナタ……! ジャコヴァ: ヴィル。まあ聞こう アイソーポス: 私がそれらを用意する。その代わり、もう好きにはさせない 5000160 - インペリウム・コミッティ レオナ: いやもう、びっくりしたんだけど!? さっきの絶対、アドリブじゃないよね? なんで前もって私に共有しといてくれないかな!? アイソーポス: い、いや、すまない。イメージはしていたんだが、本当に提案するかどうかはギリギリまで迷ってて レオナ: だとしても! アイソーポス: う……イメージくらい共有しておくべきだったな……ごめん…… レオナ: それでよし。まあ、内容は納得というか……びっくりしたけどね レオナ: この世界の最高意思決定機関の創設、か……。つまり、グリムを潰そうとしてるライブラに対し、アイソーポスはグリムと共存することに決めたわけだ アイソーポス: 好き放題させなければいい。そのために何ができるか、そして彼らにもメリットを提供しなくてはいけなかった アイソーポス: ポルタ半島の開発研究は莫大なリソースを必要とする。グリム家だけでは相当な時間がかかるだろう。だが、他の有力者が出資すれば話は別だ レオナ: それが『力』ね。でもって、意思決定機関を合議制にすることで『納得性』を得られる アイソーポス: グリムだけ、ではなくなるわけだからな レオナ: んで、あとは『権威』だっけ。メンバーどうすんの? アイソーポス: 私がこれまでアカデミーで知り合った優秀な仲間がいるだろう? パラケルススはもちろん、ダンテ、ノストラダムス……もちろんレオナ、きみもだ レオナ: 私たちに権威ってあるのかな アイソーポス: 先日出会ったホメーロスにも入ってもらいたいところだが、彼女は何か事情を抱えているようだから難しいかもしれないな アイソーポス: だが、アカデミーの仲間とは別に、どうしても入ってもらいたい相手がいるんだ。面識はあまりないが、権威を語るなら、彼女は欠かせない (背景切換...) ペロー: あの……さっきの演説、聞いてました ライブラ: えっ、本当ですか? ありがとう! ペロー: あなたも……グリムに何か、されたんですか……? ライブラ: いえ、会って話したことは1度だけなので、直接何かされたりとかってことは…… ライブラ: ……待って。『も』ということは、あなたは何かされたんですか……? ペロー: ………… (ペローは一部始終を語った。) (知り合ったばかりのライブラに何故明かしたのか。) (誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。) ライブラ: ……横暴すぎますね ペロー: そうでしょう!? 結局、私にはイマジュマイトが入ってくるだけ、あとはいばらの国の割譲……それだけなんです。我が子同然の作品は奪われたまま…… ライブラ: しかし、そもそもの原因は世界の仕組みにあると思いませんか。グリムの横暴だって、もとを正せばイマジュマイトの不均衡が発端です ペロー: それは確かに…… ライブラ: えーと、ペローさん ペロー: 呼び捨てで構いませんよ ライブラ: じゃあ、ペロー。考えたことある? どうしてイマジュマイトは人間界から流れ込んでくるだけなんだろうって。なんだか、おかしいと思わない? ライブラ: こっちから人間界に影響できれば、向こうのイマジュマイトを搾り取ってやるのに ペロー: 人間界にこちらから……なるほど。そういう考え方もあるのですね ライブラ: そうすれば、もうペローみたいにあんな思いをすることもないのよ ペロー: ………… (背景切換...) アイソーポス: という計画です。そしてぜひ、あなたにご参加いただきたい アイソーポス: お忙しいことも重々承知しておりますが、この機関にあなたが在籍していなくては始まらないのです。どうか、お力添えを 紫式部: ……顔を上げてください。お話は理解しました レオナ: これが……『原初の作家』とも言われる紫式部……。やば、緊張で手汗が……あと足痺れた…… 紫式部: こちらから条件を申し上げても良いでしょうか アイソーポス: はい、ぜひ 紫式部: 任期を決めるなど、退任する道を作っておいてください。私は現在も作家、創作活動に専念したいのが本音です 紫式部: 特段、政治力が高くもない私を呼ぶのは、この『原初の作家』という肩書のためでしょう? 未来永劫、務め続ける必要はないはず アイソーポス: そのような失礼な意図ではありません。しかし、いずれ創作に戻りたいというご意思は承知しました。そのようにいたしましょう 紫式部: それが担保されるのであれば、お力添えしましょう。政治的な場は苦手ではありますが、これも取材と思って参加させていただきます アイソーポス: 感謝します。それでは早速ですが、顔合わせの後に発足式、そして形式上ですが第1回定例議会を開催しますので、何卒ご来場ください アイソーポス: 日程ですが―― (背景切換...) ライブラ: 今月最後の土曜……ですって? アイソーポス: ああ。そしてライブラにも参加してほしいんだ。グリムの6姉妹に対して、こちらは7名で過半数を握るよう設計している。その13番目の席にライブラ、きみを迎えたい ライブラ: その日程……私の集会を中止しろって言ってるのね アイソーポス: こちらに参加してくれれば、その集会は不要なはずだ ライブラ: 私、作家じゃないけど アイソーポス: 構わない。絶対に作家だけと決めているわけでもないからな ライブラ: ………… (背景切換...) ジャコヴァ: まさか、本当にこれを実現するとはな アイソーポス: さあ、約束だ。今後はグリム家だけではなくこの機関を通じて動いてもらう ジャコヴァ: わかってる パラケルスス: ったく……なんでお前がいるんだよ、クソミシェル。アイソーポスのやつ、当日まで黙ってるなんて…… ノストラダムス: あたしにビビって逃げると思われたんでしょ。よっわ! ダンテ: ………… カロラ: なんか思ったより賑やかな会になりそうじゃん フェルディナ: それで? わざわざ集まって、自己紹介して終わりなわけ? 子供じゃないんだから…… シャルロッテ: あら、ジャコヴァ姉さまが議案を用意してるとおっしゃってましたわ エミリー: 意外とやる気まんまんだねぇ。どんなお話するつもりなのぉ? ジャコヴァ: 世界の名だ カロラ: あん? なんだそりゃ ジャコヴァ: こうして世界を統治する機関も生まれた。ならば、『この世界』を指す名称があるべきだと思う エミリー: なるほどねぇ。で、なんて呼ぶの? ジャコヴァ: ……『オトギノクニ』と提案するつもりだが シャルロッテ: ええ……! とってもいいと思いますわ エミリー: いいんじゃないのぉ ジャコヴァ: ふふん ヴィルヘルミナ: それにしても、13号委員にあの人がいるなんてねぇ……。もうワタシたちに何の感情もないならいいけど、そうはいかないわよね…… ペロー: ライブラの紹介で参りました、ペローです。よろしくお願いしますね、アイソーポス アイソーポス: ああ、よろしく アイソーポス: ……ライブラは、来てくれなかったな。つまり、自分たちの活動は続けていくというメッセージか 紫式部: それでは自己紹介も終わりましたし、はじめましょうか アイソーポス: お願いします 紫式部: では――ただいまより、インペリウム・コミッティ第1回定例議会を開催します ジャコヴァ: 大地を飲み込む闇がいかに昏くとも ヴィルヘルミナ: 空に飛び立つ羽根を喪おうとも カロラ: 答えを求めて彷徨う民がある限り フェルディナ: 生まれし作品たちの息遣いが聴こえる限り エミリー: 我ら、知性と先見性と創造性を以て世界の番人たらんとす シャルロッテ: 明日の歌声を風に乗せて未来に届けるため アイソーポス: 紡いだ言葉で錆びついた扉を開き パラケルスス: 亡くした物語に救いの祈りを捧げん レオナ: 奪われた日をこの手に取り戻し ダンテ: 絶望を照らす灯りとなるべく 紫式部: 変わらぬ刻の音を奏で続けよう ノストラダムス: 正義と自由を備えた唯一無二の世界に忠誠を ペロー: 高潔なる魂の証たる翠霊のペンに誓おう―― ジャコヴァ: いまここに、インペリウム・コミッティの開催を宣言する